書いてあること
- 主な読者:工程管理を徹底して生産性を向上させたい経営者
- 課題:工程管理のどの部分を生産性の向上につなげられるのか分からない
- 解決策:適切な生産計画でムダ・ムラ・ムリをなくし、「見える化」した生産統制によって進捗や余力を把握するとともに、課題を発見してさらなる生産性の向上につなげる
1 工程管理を生産性の向上につなげる
国内製造業が海外勢と渡り合いながら利益を得ていくには生産性の向上が不可欠ですが、そのための柱の1つが工程管理です。特に顧客のニーズの多様化に伴い多種少量生産にシフトしている製造業者にとって、工程管理の徹底で顧客が求めるQCD(Quality:品質、Cost:価格、Delivery:納期)を実現することは、生産性に大きく影響します。
工程管理は
顧客の注文などに応じて生産計画を立案し、計画通りに生産できるよう現場で加工や組み立てなどの各プロセスを管理する活動
です。
工程管理を徹底すると、次のような形で生産性の向上につながります
- 作業者の残業を削減する
- 生産能力が拡大する
- 納期の遅れによる機会ロスを減らす
- 過剰在庫を抑える
- 製品の品質向上に役立ち、歩留まり率を上げる
この記事では、工程管理を実施するプロセスを紹介した上で、生産性の向上につながる工程管理の基本的な考え方を紹介します。
2 適切な生産計画でムダ・ムラ・ムリをなくす
製造現場の生産性を向上させるための第一歩は、適切な生産計画の立案です。需要や生産能力にそぐわない生産計画は、製品や資材、作業員などの資源配分にムダ・ムラ・ムリを生じてしまいます。生産計画には、「大日程計画」「中日程計画」「小日程計画」があります。これらは計画期間の長さによって分類され、大日程計画→中日程計画→小日程計画の順に立案するのが一般的です。
1)大日程計画
大日程計画は3カ月から1年という長期の計画です。過去の実績などを基に、経営者が経営計画で設定した売り上げ目標に従って、ある期間の生産活動を計画します。
長期の資材購入計画・在庫計画・外注計画・作業者計画・設備計画などを策定するときに用います。資材や外注品を調達するのに多くの時間を要する場合、大日程計画に基づき先行して手配しておくことが重要です。
2)中日程計画
中日程計画は翌月1カ月間の計画で、月次生産計画とも呼びます。営業部門と工場責任者が協力し、大日程計画に基づいて月間の生産活動を計画します。日割りや週割りに細分化し、原材料や部品の調達計画、加工や組み立ての生産計画などを具体的に決定します。
さらに、職場ごとの仕事の振り分け、作業者や製造設備の手配、必要に応じて外注の委託なども生産計画に落とし込みます。
3)小日程計画
小日程計画は週次や日次といった短期の計画です。工場責任者が、各作業者の日々の作業内容や製造設備の稼働時間などを計画します。作業者や製造設備の生産能力を把握し、仕事の負荷とのバランスの取れた計画が求められます。
生産能力の負荷が小さい場合は生産の遅れが生じますが、負荷が大きい場合でも余力が生じ作業者の手待ちや製造設備の遊休といった無駄が生じてしまいます。
また、小日程計画は、急に発生した追加注文やトラブルに対応できるように、日々、計画の修正や見直しが必要となります。
3 「見える化」した生産統制の実施
生産計画を立案した後、計画通りに生産できるよう生産統制を実施します。生産統制は「作業手配」「作業統制」「事後処理」の3段階で実施します。それぞれの段階を「見える化」することで、進捗の把握はもちろんのこと、各作業の課題の発見や改善などにもつなげることができます。生産統制に関しては、IoTを活用した管理システムが広く市販されていますので、導入を検討するのも一策です。
1)作業手配
生産統制でまず実施するのが作業手配です。作業手配とは製造指示に基づき、各作業に必要な図面や材料、治工具類を準備し、「誰が、どの作業を、どの製造設備で、どれだけ、いつまでにやるか」を割り当てることをいいます。
作業手配は、「作業票」によって管理されます。作業票を電子化したり、バーコードやQRコード(二次元バーコード)付きのものを採用したりすることで、作業者の作業票記入を省くだけでなく、各工程の進捗状況を把握できるようになります。工程ごとの実績や停滞時間などのデータを分析しやすくなるため、課題の発見も容易となり、さらなる生産性の向上に結び付けることができます。
2)作業統制
次に実施するのが作業統制です。作業統制とは、作業手配通りに生産できているのかを管理することをいいます。作業統制には「進捗管理」「現品管理」「余力管理」があります。
1.進捗管理
進捗管理とは、生産の進捗状況を把握し、調整することをいいます。生産が計画より遅れれば納期を守れなくなる半面、計画より早すぎても仕掛品や過剰在庫が発生するといった問題を抱えてしまいます。そのため、できるだけ計画通りに生産できるよう進捗を管理します。
進捗管理では、現場担当者が随時見回りし、作業者の進捗を目で見て確認するのが基本ですが、作業票の電子化などにより、遠隔でも把握することが可能となります。作業票が停滞していれば、担当作業者の作業に遅れなどの問題が生じていると早期に気付けます。
こうした進捗管理は、現場単位ではなく工場全体で実施することが重要です。これにより、工場責任者は工場全体の進捗状況を把握できるようになります。
2.現品管理
現品管理とは、資材や仕掛品、製品などの運搬・移動・停滞・保管の状態を管理することをいいます。計画通りに生産が進んでも、不良品が多ければ意味がありません。現品管理によって、納品可能な製品を管理するとともに、生産に必要な資材や仕掛品もしっかり管理することが重要です。
現場担当者は、現品の加工状態や数量、所在、どこに何が何個あるのかを管理し、あるべき数量と実際数量で過不足が生じないようにします。
3.余力管理
余力管理とは、各工程と各作業者の仕事量と能力を把握し、余力や不足があるのかを管理することをいいます。能力に対して仕事量が少なければ余力が生じ、作業者の手待ちや製造設備の遊休を招いてコストが増加します。一方、能力に対して仕事量が多ければ不足が生じ、計画通りの日程で生産を進められなくなります。そのため、余力管理によって仕事量と能力のバランスを調整できるようにします。
余力管理も進捗管理や現品管理と同様、情報共有で工場全体を最適化できるよう、「見える化」を進めましょう。
3)事後処理
事後処理とは、作業統制によって把握した実績と計画の差異を埋め、計画通りの生産を実施できるようにする活動をいいます。そのためには、差異を埋める対策が必要ですが、差異が発生した原因を追及し、根本的な対策を講じることも大切です。
作業の割り当てが不適切だったのか、作業者の作業方法に非効率な点があったのかなどの原因を明確にし、同様の原因による遅延などが以後発生しないよう改善しましょう。
以上(2021年10月)
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画像:unsplash