書いてあること
- 主な読者:資金繰りに不安があり、もう一段のコスト削減を図りたい経営者や財務担当者
- 課題:コスト削減の中でも、手始めに経費削減を行う際のポイントを確認したい
- 解決策:まずは基本的な考え方や進め方に立ち返り、不動産の賃料の削減を検討する。賃料が相場と比べて割高でないか、事業内容と拠点の規模や立地が合致しているかチェックすることから始め、拠点の縮小移転・廃止や賃料の減額交渉に踏み込む
1 難易度別・コスト削減のヒント
難易度B(実行するための作業や準備が必要)
- 周辺の類似物件の賃料相場、トレンドを確認する
- 適正規模を把握する
- 事業内容と拠点の立地の整合性を検討する
難易度A(事業全体への影響の考慮が必要、対外的な交渉が必要)
- タイミングやコストに留意しながら移転・縮小・廃止を検討する
- 不動産オーナーと賃料の減額を交渉する
2 不動産の賃料を削減する際の考え方
不動産の賃料は、
企業活動のために借りているオフィス・店舗や駐車場などの不動産の賃借などの費用
が該当します。こうしたオフィス・店舗や駐車場などの不動産(以下「拠点」)は、基本的に事業の遂行に不可欠なものであり、長期的な事業戦略に基づいているため、いったん結んだ賃貸借契約を見直す機会はあまりなかったかもしれません。とはいえ、固定費として資金繰りに重くのしかかっている賃貸費の削減に取り組むことは、重要な施策となるでしょう。
企業が不動産の賃料の削減に取り組もうとする場合、自社の事業内容や不動産オーナーとの関係性を踏まえ、それに合致した方策を取ることがポイントです。
3 不動産の賃料を削減する際の具体的な手法
1)難易度B:周辺の類似物件の賃料相場、トレンドを確認する
まず、現在支払っている賃料が、周辺の類似物件の賃料相場と比べて割高ではないかチェックしましょう。
例えば、オフィスであれば、仲介大手の三鬼商事、三幸エステート、シービーアールイーなどが、主要都市のオフィス市況データを公表しています。
また、国土交通省が四半期ごと(毎年1月・4月・7月・10月)に公表する「地価LOOKレポート」では、主要都市の高度利用地などの地区ごとに、地価に与える要因を鑑定評価員が判断し、「△上昇・増加」「□横ばい」「▽下落・減少」の3区分で、土地または土地・建物の取引価格、オフィス賃料、店舗賃料などを評価しています。定性的な評価のため価格は表示されませんが、地価だけでなく不動産市場全般の動きも捉えることができます。
■国土交通省「主要都市の高度利用地地価動向報告~地価LOOKレポート~」■
https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/totikensangyo_fr4_000045.html
2)難易度B:適正規模を把握する
不動産の賃料は、建物の築年数・立地・設備・広さなどによって異なります。事業内容や従業員数、業績などに照らして、現在の拠点が適正規模かどうかを再検討しましょう。
例えば、「現在の拠点は、従業員が全員出社することを基本に必要な面積を算出し、賃借しているが、在宅勤務やテレワークを推奨しているため従業員の勤務実態と照らして広すぎる」といったケースでは、拠点の縮小や、オフィスを廃止してレンタルオフィス・コワーキングスペースの利用などを検討してもよいかもしれません。
また、複数の拠点がある場合、拠点の利用頻度や費用対効果を勘案して、閉鎖・統合を検討してもよいでしょう。
3)難易度B:事業内容と拠点の立地の整合性を検討する
事業内容と、賃借している拠点の立地の整合性を検討します。例えば、取引先との面談や、事業に関係する現地での情報収集などを頻繁に行う場合など、拠点の立地が業績に大きく影響するのであれば、こうした業務がしやすい場所に拠点を借りておくことは整合性があるといえます。
その一方で、賃料が高い都市部に拠点を借りておく必要がない事業もあります。また、これまでは実際に足を運ぶ必要があった取引先との面談が、オンライン面談で代替できるようになったのであれば、取引先に近い立地を確保する必要性も薄まります。
4)難易度A:タイミングやコストに留意しながら移転・縮小・廃止を検討する
検討の結果、拠点を移転や縮小、廃止すべきと判断をしても、早急に決断すべきではありません。賃貸借契約に定められた解約予告期間外に解約する場合、不動産オーナーに違約金を支払わなければなりません。契約の更新時期や、解約予告期間を確認した上で、移転などのタイミングを決めましょう。
また、移転に掛かる費用は、新しい拠点の敷金・保証金、礼金、仲介手数料、前家賃、前共益費、火災保険料、内装工事費、設備工事費、家具・備品購入代、引っ越し代、名刺や封筒などの印刷代、現在の拠点の原状回復費など、多岐にわたります。
拠点の規模や立地によって異なりますが、初期費用だけで数百万円から数千万円になることも珍しくありません。退去時の原状回復費、新拠点の内装工事費を削減するため、居抜き(設備や器具、道具、日用家具などがついたままでの売買または賃貸借)で契約という方法もあります。ただし、不動産オーナーの許可が必要なため、希望通りには契約できなかったり、設備や器具、道具、日用家具に見えない瑕疵(かし)があったりして、後々、想定外の費用が掛かるリスクがあります。
不動産の賃料の削減は事業活動にとって重要な施策ですが、金額が高額になる分、慎重に検討する必要があります。
5)難易度A:不動産オーナーと賃料の減額を交渉する
不動産の賃貸借契約書には、借地借家法に基づいて、次のような場合には、不動産オーナー(賃貸人)と賃借人が協議の上、賃料を改定することができる旨が定められています。
- 土地または建物に対する租税その他の負担の増減により賃料が不相当となった場合
- 土地または建物の価格の上昇または低下その他の経済事情の変動により賃料が不相当となった場合
- 近傍同種の建物の賃料に比較して賃料が不相当となった場合
現在支払っている賃料が、周辺の類似物件の賃料相場と比べてあまりに割高である場合、不動産オーナーに対し、賃料の減額を交渉してみるべきでしょう。また、賃料の改定は、一般的に賃貸借契約の更新のタイミング(2年か3年)で行われることが多いようですが、不動産オーナーと賃借人の合意があれば契約期間中の見直しも可能です。
以上(2023年2月)
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画像:pexels