1 通勤費・出張費を削減せよ!
このシリーズでは、架空のサクゲン株式会社を舞台としたコスト削減の取り組みをシミュレーション付きで紹介しています。今回のテーマは「通勤費・出張費」で、コスト全般の削減シミュレーションは以下からエクセルをダウンロードしてください(ウェブで閲覧の場合に限ります)。ダウンロードしたエクセルに、御社の数字を入力して使うことができます。
通勤費の削減は、社員の居住地や通勤手段を会社が一方的に変えられない都合上、支給方法の変更が中心となります。また、自転車や徒歩による「エコ通勤」を推奨する場合、通勤手段に対する社員の意向、体力の消耗が業務効率に及ぼす影響などを考慮しましょう。
出張費の削減は、対面が必要となる状況や効果を見直し、慎重に判断しましょう。新幹線の座席や宿泊施設のグレードなどを変える場合、出張者の体力、ひいては営業活動に及ぼす影響などを考慮する必要があります。ただ削減するのではなく、出張の実態に合わせて調整していくことが望ましいでしょう。
2 通勤費・出張費の削減方針
営業部長と管理部長が、通勤費・出張費の削減方針について話し合っています。
営業部長:通勤費・出張費の削減方針をまとめよう。
管理部長:通勤費は、定期代を1カ月単位から6カ月単位に変えるのと、テレワーク社員の通勤費を実費支給にしましょう。加えて、最近は自転車や徒歩によるエコ通勤が推奨されているようなので、当社でも取り入れてみたらどうでしょうか?
営業部長:エコ通勤で疲れてしまい、業務に支障が出ることが心配だな。それに、エコ通勤をする社員の通勤手当をなくしたら反発がすごそうだ……。
管理部長:でしたら、エコ通勤できる距離に上限を設けましょう。それと、エコ通勤をするか否かは本人に任せ、エコ通勤手当も支給しましょう。
営業部長:なるほど、それならできそうだ!
管理部長:次は、出張費ですね。
営業部長:新幹線の座席グレードを下げるのはどうだろう?
管理部長:もっと抜本的に、出張の回数を減らしたり、やめたりできないですか?
営業部長:やめるのは難しい。対面のコミュニケーションがあって取引継続している先もあるから。
管理部長:そうですか。今は、オンライン会議が当たり前ですから、サンプルを持参するなど対面の必要がある出張以外は、オンライン会議に切り替えるのはどうですか?
営業部長:なるほど……。ただ、コロナ禍も収まり、出張を復活させている競合も多いようだし、遅れるわけには……。
管理部長:観光庁のデータを見ると、出張人数はコロナ禍前ほどではないようですよ。
営業部長:そうか。検討してみるか。
この会話を受けて、削減方針を次のようにまとめました。
通勤費
- 定 義:通勤のために社員に支給する支出
- 支出内容:電車・バスの定期代、マイカー通勤のガソリン代など
- 削減方針:支給方法を変える、通勤方法を変えてもらう
- 削減目標:250万円
出張費
- 定 義:業務に関連して遠隔地へ行くときにかかる支出
- 支出内容:取引先を訪問するときの電車運賃やタクシー代、出張時の交通費や宿泊費など
- 削減方針:予約方法・交通手段・宿泊施設などを変える、出張をやめる・減らす
- 削減目標:200万円
さらに、提案があった削減方法のアイデアの取り組み難易度を決め、1年間の削減効果と削減に必要となる追加支出をシミュレーションして、取り組みの優先順位を決めました。具体的には次の通りです。
なお、図表中の削減効果は、サクゲン株式会社のシミュレーション条件によるものです。実際の効果は会社ごとに異なります。
3 通勤費の削減シミュレーション
1)テレワーク社員の通勤費は実費で支給する(難易度:低)
社員の出社日数によっては、定期代を支給するのではなく、出社にかかった実費を支給することで、コスト削減につながります。
サクゲン株式会社は、東京都八王子市に本社工場、東京都中央区日本橋に日本橋オフィスを構えています。同オフィスでは、社員全員を対象にテレワークを実施しており、該当社員は月8日(週2回)だけ出社しています。
そのうち6人を対象に、1カ月定期券の料金分(平均1万4000円)を支給していたところを、出社ごとに運賃(往復・平均800円)を実費で支給するように変えた場合、1年間の削減効果は次のようになります。
55万円≒[1万4000円-(800円×8回)]×6人×12カ月
2)定期代を6カ月単位で支給する(難易度:低)
電車やバスの定期券は、1カ月単位ではなく、6カ月単位で購入することで、コスト削減につながります。
サクゲン株式会社では、本社工場勤務のうち33人が電車通勤をしており、それぞれに1カ月定期券の料金分(平均6000円)を通勤手当として支給しています。
6カ月定期券の料金分(平均3万1000円)を支給するように変えた場合、1年間の削減効果は次のようになります。
33万円=[(6000円×12回)-(3万1000円×2回)]×33人
見落としがちなのが、パート・アルバイトなどの通勤手当です。短期雇用の場合は1カ月単位の支給でも差し支えないですが、長期雇用が見込まれる場合や無期雇用に転換した場合などには、6カ月単位の支給への変更を検討してみるとよいでしょう。
3)通勤手段を自転車通勤などに切り替えてもらう(難易度:低)
社員がオフィス近くに住んでいるなど、条件は限られますが、マイカーや公共交通機関による通勤から、自転車・徒歩による通勤に切り替えてもらうことで、コスト削減につながります。
サクゲン株式会社では、ある社員が日本橋オフィスから2キロメートルの場所に住んでおり、2駅分を電車で通勤しています(6カ月定期代3万7000円)。
これを自転車通勤に切り替えてもらい、通勤手当として、3000円を毎月支給するように変えた場合、1年間の削減効果は次のようになります。
4万円≒(3万7000円×2回)-(3000円×12カ月)
4 出張費の削減シミュレーション
1)グリーン車などの利用を制限し、早期予約割引を利用する(難易度:低)
タクシーの利用や新幹線、航空機の座席グレードの指定、高額なホテルの利用を制限することや、早期予約割引を利用することで、コスト削減につながります。
利用の制限には、次のような例があります。
- グリーン車やビジネスクラス以上の利用を禁止する
- タクシーの利用は事前申請制にする
- 格安航空会社(LCC)を利用する
- 格安ビジネスホテルチェーンを利用する
サクゲン株式会社では、営業部長が年12回、大阪の心斎橋駅周辺にある会社へ出張をしています。交通手段と宿泊施設は次のようになっています。
- 東京駅から新大阪駅まで:新幹線・グリーン車(往復3万9000円)
- 新大阪駅から訪問先まで:タクシー(往復5000円)
- 宿泊先:1泊2万5000円のホテル
出張6回をオンライン会議に切り替え(オンライン会議への切り替えにかかるコスト削減効果の解説は後述)、残り6回の出張について、交通手段と宿泊先を次のように変えました。
- 東京駅から新大阪駅まで:新幹線・普通車指定席(早期予約、往復2万4000円)
- 新大阪駅から心斎橋駅まで:電車(大阪メトロ御堂筋線、往復480円)
- 宿泊先:1泊9000円のホテル
1年間の削減効果は次のようになります。
21万円≒[(3万9000円+5000円+2万5000円)-(2万4000円+480円+9000円)]×6回
出張時で利用する交通手段や宿泊施設について、部長・課長クラスなどとそれ以外の社員の間に格差がある場合、その格差が大きすぎないかも併せて確認してみましょう。
2)長期宿泊には短期賃貸マンションを利用する(難易度:中)
長期宿泊の出張は、日数に応じて短期賃貸マンションを利用することで、コスト削減につながります。
サクゲン株式会社では、社員2人が研修に参加するべく、大阪に1週間滞在(7泊)することが決まりました。新大阪駅周辺のホテルのシングルルーム(1泊1万2000円)に宿泊する予定です。短期賃貸マンションの検索サイトで見つけた同エリアのマンション(1週間で総額3万7000円)に変えた場合、1年間の削減効果は次のようになります。
9万円≒(1万2000円×7泊×2部屋)-(3万7000円×2部屋)
3)長距離の車移動はレンタカー・カーシェアリングなどを利用する(難易度:中)
地方への出張先で広範囲にわたる取引先を訪問する場合、公共交通機関やタクシーよりも、レンタカーやカーシェアリングなどを利用することで、コスト削減につながります。
サクゲン株式会社では、年2回、地方へ出張をしています。今回は徳島県徳島市と香川県高松市にある取引先(それぞれ徳島駅・高松駅から10キロメートル)を訪問し、空港から徳島駅・高松駅への移動は公共交通機関、各駅から訪問先へはタクシーを利用します(合計1万7000円)。
レンタカー(大手レンタカー会社・12時間以内に返却、ガソリン代・高速代などを含め1万2600円)を利用するように変えた場合、1年間の削減効果は次のようになります。
1万円≒(1万7000円-1万2600円)×2回
4)出張ではなく、オンライン会議で対応する(難易度:高)
商談・打ち合わせにおける対面の実施効果を見直し、できるだけ出張はせず、オンライン会議で対応することで、コスト削減につながります。
サクゲン株式会社では、営業部長の年12回の大阪出張について、出張1回当たりの交通費として、東京駅から新大阪駅までの新幹線代(グリーン車、往復)3万9000円、新大阪駅から訪問先までのタクシー代(往復)5000円、宿泊費として、2万5000円(ホテル1泊)がかかっていました。このうち6回をオンライン会議に変えた場合、1年間の削減効果は次のようになります。
41万円≒(3万9000円+5000円+2万5000円)×6回
社員の出張は事前承認制とし、出張の理由が適正かを判断するフローを設けることで、効果の低い出張を減らせるでしょう。また、あらかじめ対面による商談や打ち合わせが必要なケースをまとめて社内で共有しておくと、判断の揺れを少なくできます。
5 通勤費・出張費を削減するときのポイント
1)適正な通勤手段はコスト面だけで判断しない
通勤費のコスト削減では、社員の通勤経路の最適化を検討することもあるでしょう。しかし、社員の通勤手段や居住地を会社側の都合で勝手に変えることはできません。
例えば、電車通勤から徒歩通勤に切り替えてもらうなど通勤手段の変更を打診する場合も、「睡眠時間が減る」「通勤時間が延びる」「乗り換えが多くなる」など、社員の負担が増えないかを考慮しましょう。
2)出張費のコスト削減は、体調への影響も考慮する
出張費のコスト削減においても、コスト面だけで判断するのは危険です。例えば、長時間の移動はそれだけで体力が必要です。交通手段や座席グレードを変更したために、仕事のパフォーマンスが落ちてしまっては本末転倒です。
3)通勤費・出張費のコスト削減は、規則や規程にも注意する
多くの会社では、通勤費は「就業規則」、出張費は「旅費交通費規程(出張旅費規程)」などで支給の基準・ルールを定めています。これまで費用の全額を支給していたところを、「上限3万円/1カ月」などのように変更する場合、これらの規則・規程も変える必要があります。
なお、通勤費・出張費以外のコストの削減アイデアは、それぞれのリンクから見ることができます。
以上(2025年2月更新)
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画像:Mariko Mitsuda