前回は、AI(Artificial Intelligence : 人工知能)を活用した中小企業の事例をお話しさせていただきました。今回は、中小企業がAIを利用するに当たって考えるべきことをまとめます。AIを単なる道具として利用するだけではなく、AIを使った新たなビジネス展開についても考えていきましょう。
1 AIの発展と普及に伴う可能性
これまでのAIの具体的な活用事例を見ると、Webブラウザやスマートフォンの中で使われる便利な機能という領域を超え、乗用車の自動運転や介護用のロボットなど、現実の世界での動的な機能の裏側でAIが活用されるようになっていくということです。
このことは、AIが単なるソフトウェアの域を超え、ハードウェアも含めた世界に広がることを意味します。現実の世界における動的な機能の利用では、ハードウェアとしての安全性が求められ、品質の高いハードウェアとAIが組み合わされる必要があります。こうなると、モノづくりに定評がある日本の製造業は、AIの普及とともに大きな役割を期待されるようになるでしょう。
製造業だけではありません。現実の世界でAIを活用したサービスが増えていくと、サービスそのものの内容や質が問われるようになります。そうなると、日本のサービス業における「おもてなし」の考え方や、ある業務に特化したベテラン社員の知見を生かした、横並びではない部分が差別化のポイントとなります。
日本の中小企業が抱える人手不足をAIで補いつつ、自社が持つ独自の強みをAIで増幅させることで、これまでとは異なる立ち位置を築くことができます。そういう意味で、AIの発展と普及は、日本の中小企業にも大きなチャンスをもたらす可能性があります。
2 AIを利用する目的の明確化
一方で、AIは決して万能ではありません。AIを使った数々のソリューションが提供されつつある今でも、どのようなことでも処理し、解決してくれるAIはありません。また、AIと呼ばれる範囲も広く、人間が与えたルールにのっとって動きや判断を行うレベルもあれば、機械学習や深層学習(ディープラーニング)など大量のデータの分析に基づいて振る舞うレベルもあります。
つまり、AIというのは、あたかも人間と同様の知能を持っているかのように振る舞う道具の総称でしかありません。AIを利用したら、ビジネスが必ずうまくいくというような代物ではないのです。時折、社長から「うちもAIを使って新しいことをやるぞ!」と指示された方が、「何をやればいいでしょうか?」と相談をしにくることがあります。しかし、これはちょっと的が外れています。
本を整理したいから、本棚を作りたい。本棚を作りたいから、大工道具を使う。棚を固定したいから、金づちでクギを打つ。これと同じことがAIの活用でも成り立ちます。ビジネス上の課題解決やアイデア実現という目的があってこそ、何のためにAIを活用するのかが明確になるわけです。
3 良質な大量のデータが必要
最近、ニュースなどで話題になっているAIは、機械学習や深層学習(ディープラーニング)といった技術・手法が用いられており、これには大量のデータが必要です。いわゆるビッグデータがこうした技術・手法を支えています。優れたアルゴリズムを備えていても、データがなければ何もできません。少ないデータだと、判断にバラつきが生じ、頼りになりません。AIは、かなりしつこく教え込まないと使い物になりません。つまり、目的に応じた良質なデータを大量に与えなければなりません。
既に良質なデータを大量に保有しているという企業は少ないでしょう。そのため、目的を明確化した上で、その目的を実現するのに必要なデータを定め、徐々にデータを蓄積していくところから始めましょう。少々時間を要しますが、データがなければ始まりません。ここで重要なのは、取れるデータを闇雲に蓄積するのではなく、有効なデータを取る方法を考えることです。顧客や社員に負荷をかけずにデータを取ることができるオペレーションの実現は、とても難しいですが、欠かせない検討です。
また、できる限り正しいデータを取れる仕組み、そして正しいデータを選ぶ仕組みも必要です。誤ったデータが入っていると、AIも誤ったことを覚える恐れがあります。昨年、Microsoftの人工知能チャットボットTayが、一部のユーザーから意図的に人種差別や性差別、陰謀論などを教え込まれ、暴言を繰り返すようになり、ニュースとなりました。誤ったデータで学習してしまうと、サービスや業務で正しく判断することが難しくなります。そのため、データについては、恣意性や主観が入りにくい客観性のあるデジタルデータをいかにして取るかが大事ですし、誤りやノイズを取り除く仕組みも不可欠です。
なお、機械学習や深層学習(ディープラーニング)をエンジンとして提供しているサービスには、既にたくさんの利用者のデータが蓄積されています。それを利用することができるため、自社で地道にデータを蓄積する必要はありません。実現したい目的が比較的一般的な内容であれば、こうしたサービスを利用するほうが、簡単かつ速やかに成果を出すことができるので、世の中に提供されているAIサービスをこまめにチェックしましょう。
4 注意点:ブラックボックス問題
機械学習や深層学習(ディープラーニング)を活用する際、一点、留意しておくことがあります。通常のITシステムは、人間がロジックを考え、コードを書き、それに沿って動いているので、処理の結果の理由が分かります。仮に、間違った処理の結果が出た場合でも、なぜそうなったのか、どこを直せば正しくなるのかが分かります。
しかし、機械学習や深層学習(ディープラーニング)の判断結果の場合、なぜそういう判断をしたのか、理由が分からないことがあります。そのため、間違った判断結果が出た場合、簡単に直せないことがあり、さらに正しいデータを渡して学習させていく必要があります。
つまり、機械学習や深層学習(ディープラーニング)によって導かれた判断をうのみにすることはとても危険ということです。業務やサービスで利用する際も、精度を上げていく努力と、一定程度誤りがあるかもしれないという許容が必要です。クリティカルな判断を要する場面では使わない、あるいはあくまでも参考情報として扱うのが妥当でしょう。こうした話に失望してしまうかもしれませんが、人間自体、完璧な判断などできないわけなので、こうした点を理解した上で、ビジネス上の効果を引き出すことを考えるのが現実的です。
5 中小企業のAI戦略の方向性
中小企業が、機械学習や深層学習(ディープラーニング)などのAIを活用し、目的を実現するためにはどうしていくべきでしょうか。目的が一般的であれば、AIサービスとして提供されている可能性があるため、そういったサービスがないか確認してみましょう。
例えば、前回ご紹介した通り、営業、宣伝、会計などは、多くの企業が共通的に抱えるテーマなので、続々とAIサービスが登場しています。まずはそういったサービスの利用を考えるべきでしょう。
独特の目的であれば、AWS、Microsoft、Googleなどが提供するプラットフォームを使って取り組みを進めていく価値があるかもしれません。一つ考えておきたいのは、取引先や関係会社と共同で取り組む意味があるか、その可能性はないか、ということです。
ある目的を実現するためにデータを蓄積しようとする際、取引先や関係会社が取得・保有できるデータが自社にとっても有効な場合があります。相手も、こちらが取得・保有できるデータに魅力を感じるかもしれません。垂直統合型の大企業などであれば、自社のみでバリューチェーン上の各種データを蓄積できますが、中小企業の場合、それは困難です。目的の実現のために他社のデータが有効であれば、それを検討・調整してみるとよいでしょう。
「あったらいいな」を想像し、実現する。大勢の社員を抱える大企業では発想し得ない、中小企業ならではのアイデアをAIの活用が実現に導くかもしれません。AIを身近な道具として捉え、AIが皆さまのビジネスの成長を加速させるエンジンとなることを願います。
以上
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