郵船クルーズ34年ぶりの新造船 豪華客船「飛鳥Ⅲ」乗船レポート!

■2025年7月8日、中突堤旅客ターミナル(兵庫県神戸市)にて撮影■

飛鳥III

当行は、郵船クルーズ株式会社およびアンカー・シップ・パートナーズ株式会社と連携し、令和7年7月20日に就航したクルーズ客船「飛鳥Ⅲ」の新企画「ASUKAⅢ meets 47 都道府県」に参画いたしました。
今回は、普段なかなか乗船する事が出来ない豪華客船の船内を見学させていただきました!

「ASUKAⅢ meets 47都道府県」

クルーズ客船「飛鳥Ⅲ」のミッドシップスイート 47 室を対象とし、各都道府県 の地域金融機関等が 47 都道府県それぞれの特色を生かした空間をプロデュースするもの。
当行は「徳島県部屋」の空間プロデュースとして徳島県内取引先事業者等と連携し、徳島県の伝統工芸品や特産品を設え、富裕層を中心としたクルーズ乗船者に徳島県の魅力を発信し、飛鳥ⅢのECサイト等での販路拡大も図ってまいります。

いざ乗船! 新築の建物のような香りに緊張しつつも、クルーの方々の温かなお出迎えに心がほどけました。

乗船の様子

船内に一歩足を踏みいれた瞬間、ふかふかのカーペットと高級ホテルのような雰囲気に包まれました。

■アスカプラザ■
飛鳥Ⅲのメインアトリウム。3層吹き抜けで自然をモチーフにして落ち着いた空間が特徴

メインアトリウム

■アンカーバー■
「アスカプラザ」に隣接するバー。日本国内から厳選した銘酒が取り揃えられている。船内には、他にも多種多様なコンセプトのバー&ラウンジがそろっている。

アンカーバー

船内のお風呂。併設のサウナからの眺望も格別。出航すれば、壮大な海の景色を見ながら心も身体もスッキリすることが出来そうでした。

■グランドスパ■
12デッキ船主に位置。浴槽から前面展望を楽しむことが出来る

グランドスパ

■露天風呂■

露天風呂

いよいよ徳島部屋です! ひときわ目をひくのは、大谷焼の立派な器。馴染みのウェルカムスイーツやドリンクからも、船上にいながら徳島の風情を感じることができました。

■徳島部屋■
(部屋のテーマ)藍のふるさと~阿波藍の魅力
(設置場所)ミッドシップスイート(客室番号 1044)

徳島部屋

今回の貴重な乗船体験は、日常からほんの少し離れ、心を潤す贅沢な時間でした!もし、飛鳥Ⅲを見かけることがあれば、ただ通りすぎる景色ではなく、ぜひ、「次の旅のはじまり」として目を留めてみてください。
次は、皆さまご自身がこの感動を味わっていただけますよう、心よりおすすめ申し上げます。

■本件の担当者 宮本 波太郎さんにコメントをもらいました!■

宮本さんコメント

部屋内画像

飛鳥Ⅲ 船舶データ

■船籍港・・・・・・・・日本/横浜
■全長・全幅・・・・・・230m×29.8m
■総トン数・・・・・・・52,265GT
■喫水・・・・・・・・・6.7m
■航海速力・・・・・・・最高20ノット
■横揺れ減揺装置・・・・フィン・スタビライザー
■乗客数・・・・・・・・740名
■乗り組員数・・・・・・約470名
■客室数・・・・・・・・381室(全室バルコニー付き)

以上(2025年7月作成)

画像:徳島大正銀行 泉 はる香

徳島総合流通センター(徳島県徳島市川内町)にて「夕暮市場IN徳島総合流通センター」が開催されました!

5/28(水)徳島総合流通センター(徳島県徳島市川内町)にて「夕暮市場IN徳島総合流通センター」が開催されました。
当行も同センターの組合員であることから協力企業に参画し、ブース出店を行いました。本イベントは、同センターのPRを目的に開催されましたが、想像を上回るお客さまが来場され、イベント中は終始会場内が笑顔であふれていました。

夕暮市場写真1

夕暮市場写真2

夕暮市場写真3

夕暮市場が2023年にスタートした際のビジョンの一つ、「移動可能な商店街」は、阿南市役所での毎月開催の他、各地で展開されています。ぜひ、夕暮市場のinstagramをフォローし、最新情報をキャッチしてください!

以上(2025年7月作成)

【オーナー企業の事業承継(1)】 事業承継の検討手順と経営の承継

1 すぐにでも手を付くべき事業承継対策

多くの中小企業では、オーナーの高齢化と後継者不在から事業承継が進んでいません。しかし、だからといって何も事業承継対策を講じずにいると、人生を懸けて築き上げた自分の会社の存続が危うくなってしまいます。そうならないためにも、なるべく早く事業承継について考え、対策を実行していかなければなりません。まずは、

中小企業のオーナーが事業承継について検討する際の手順と、後継者の選定など「経営の承継」

について注意すべきポイントを押さえておきましょう。

2 事業承継の検討手順

1)事業承継のスタートラインに立つ

事業承継ニーズの発生要因はさまざまですが、昨今の経営環境を考えると、まず事業自体の継続ができるかを判断しなければなりません。現オーナーが事業を継続できると考えても、後継者の目から見るとその考えに疑問を感じる場合もあるでしょう。

つまり、事業自体の継続性が安定していること、それに同意する後継者が存在することが事業承継を検討するスタートラインです。

2)現状分析と問題点の把握

事業承継の悩みを抱えるオーナーは非常に多いのですが、そのような人でも自分の会社の価値を知らない人がたくさんいます。検討に着手する場合の第一手として、自社そしてオーナー自身の現状を把握することから始めましょう。具体的なチェックポイントは

  • 自社の現状:「自社株式」の評価、「株主構成」の問題点、金融機関との取引状況など
  • オーナーの資産状況:「概算相続税額」の把握、「法定相続人」の把握など
  • 後継者:「後継者候補」のリストアップ、「後継者の有無」の確認など

です。

3)後継者の選定と対策の検討開始時期

事業承継で大切なのは、「時間を味方につける」ことです。検討の着手は早ければ早いほど対策の選択肢を広げられますし、時間をかけて対策を実行することで、事業承継に関わる人的、金銭的コストを節約できるケースが少なくありません。「着眼大局、着手小局」の心構えで、まずできることから、なるべく早く取り組みましょう。

3 誰に事業を引き継がせるか

次世代のオーナーとなる後継者を決めるためには、会社の内部・外部を問わず、「誰が最もふさわしいか」という最高レベルの経営判断が必要です。その判断に関わる人は社内でもごく限られた範囲にならざるを得ないでしょう。

事業承継のパターンとしては次の3つが考えられます。

1)オーナー自身の子供などへの親族内承継

オーナーが後継者の候補として真っ先に考え、また、比較的周囲の納得も得られやすいのは親族、中でも子供です。この場合にポイントとなるのは、

本人が「本気で経営を引き継ぐ気持ちがあるか」と「オーナーに向いているか」

です。そのため、近くて遠い親子関係の中で、後継者として適任かどうかの冷静な判断が求められます。

2)従業員などへの親族外承継(MBO、LBOなど)

親族内に候補がいない場合は、従業員の中から、例えば番頭格のような人に事業を承継させるのも1つの方法です。今まで共に会社の運営をしてきた実績があり、会社の事情に明るくスムーズに業務を進められるため安心感があります。この場合にポイントとなるのは、

  • 本人の意向に加えて「他の役員・従業員、取引先など利害関係者の同意が得られるか」
  • MBO、LBOなどの方法で会社の所有権を譲るため、「経営権の確保のために自社株を引き受けるだけの資力をつくれるか」

です。

なお、MBOとは経営陣が自ら会社の株式・事業などをその所有者から買収することをいい、LBOとは借入金を活用した企業・事業買収のことをいいます。

3)第三者への承継

上記のような適任者がいないからといって、従業員の雇用維持や取引先関係を考えると、簡単に事業を停止するわけにはいきません。このような場合はM&A(合併、買収など)の方法によって会社を第三者に売却して経営を任せることも選択肢の1つです。その際にポイントとなるのは、

「良い買い手が見つかるか」と「売却価格に折り合いがつくか」、さらには「従業員の雇用が継続されるか」

です。

4 後継者を育てる

1)後継者をどこで育てるか

1.社内で育てる

一般的に、社内で後継者を育てるのは難しいようです。例えば、身内であるが故に甘やかしてしまったり、逆に厳しくしてしまったりします。また、将来オーナーになる予定の人に対して厳しく指導できる従業員は少ないでしょう。こうしたこともあり、社内で後継者を育てることは、社内が混乱する原因にもなりかねません。

ただし、社外で人に使われる立場では習得できない知識、経験を積むことができるという利点もあります。自社内でオーナーの背中を見ながらマネジメントを覚える時間も必要です。この場合、オーナーは経営者としてのつらい側面ばかりではなく、やりがいや楽しみといった側面を見せることが、後継者教育の第一歩かもしれません。

2.社外で育てる

大企業と中小企業では、組織における個人がもたらす影響のウエートが大きく異なります。社外で育てるのであれば、自社と同規模の会社、それもなるべく厳しいとの定評がある会社が望ましいでしょう。例えば、社歴があり、統制(ガバナンス)が取れていると考えられる会社などです。ただ、このような条件の会社でも、関連会社や取引先などでは、ちやほやされて十分な教育を受けられない可能性もあるため、慎重に検討する必要があります。

2)オーナーの役割

1.時間をかけて育てる

オーナーは仕入・製造・販売といった業務以外にも、人事労務、税務会計などの管理業務まで幅広く、それが正しいかどうかを判断する力が要求されます。また、会社の全体像を把握するためには、会社のいろいろな部署を経験することも必要かもしれません。この時間を確保するためにも、後継者をできるだけ早く決めて、時間をかけて後継者教育を行うことが重要です。

2.教育係(メンター)を付ける

後継者の教育には、従業員が遠慮して十分な経験が積めないといった事態を避けるため、教育係を明確に指名し、早い時期から経営者としての仕事の考え方を学ばせることが重要です。よく事業承継後では、後継者と先代からの幹部社員との人間関係を良好に保つことが難しいといわれます。そのため、幹部社員を後継者の教育係にすることで、人間関係がうまくいくこともあるようです。

3)後継者の心構え

1.総合的な「人間力」を磨く

経営には高校、大学などで身に付ける一般教養に加えて、何よりも経営者としての「人間力」が要求されます。この「人間力」には、思いやり、包容力、行動力、統率力、忍耐力、決断力、バイタリティーなどさまざまな要素が含まれ、人間的魅力と言い換えることもできるでしょう。

2.先代オーナーの苦労を知る

先代オーナーの存在、また、苦労があったからこそ、現在の自分があるという謙虚さを持ち、先代オーナーと苦労を共にしてきた従業員を尊敬する気持ちを忘れないようにしましょう。

3.オーナー仲間をつくる

オーナーは責任も重く、社内では孤独になりがちです。できれば同じ立場の(2代目)オーナー仲間をつくり、悩みを相談したり、社長としての心得などについてのアドバイスをもらえたりするような環境をつくりましょう。たとえ問題が解決されなくても、同じように経営に悩む仲間の存在自体が孤独感を和らげてくれます。そのためには、オーナー仲間の勉強会や懇親会などの集まりに積極的に参加するとよいでしょう。

5 後継者へ引き継ぎが必要な2つの移転

1)「代表の座(仕事)の移転」

「代表の座(仕事)の移転」とは、代表取締役としての地位を譲ることです。とかく後継者は独自色を出そうと、先代とは違う新しい施策を実施したがる傾向があります。これが社内外に混乱を生む要因となってしまいます。こうした混乱を避けるためには先代オーナーと後継者が経営者として並走できる期間を設けることが必要です。後継者を先代オーナーがフォローすることにより、従業員も安心して働けて、取引先との付き合いもうまく引き継ぐことができます。このためには、やはりなるべく早く事業承継に着手することが必要です。先代オーナーが高齢になり機動的に動けなくなってからでは、しっかりしたフォローができません。ましてや事業承継に着手する前にオーナーが突然の事故で亡くなってしまったり、認知症を発症してしまったりすると、社内の重要な意思決定が行われなくなり、最悪の場合は事業を継続することができなくなる可能性もあります。

2)「経営権(自社株など)の移転」

安定した経営のためには後継者が単独で会社の重要事項を決定できるよう2分の1以上、できれば3分の2以上の議決権(自社株)を集約しておくことが大切です。また、オーナーの土地、建物などの個人資産を会社の事業で利用している場合は、こういった事業用資産も後継者に承継しておきたいところです。加えて、子供が複数いる場合には、いわゆる「争続」対策のために、自社株や事業用資産以外の財産を相続することとなる「後継者以外の子供」と「後継者」との間で、相続時の分割バランスを取る配慮も必要になります。後継者への資産の移転には主に次の3つの方法があり、それぞれのケースで課される税金の種類も異なります。

  • 生前贈与→贈与税
  • 売買→譲渡所得税・住民税
  • 相続→相続税

そのため、事業承継を検討する際には、そのコストともいえる税金のことも知っておかなくてはいけません。相続税の最高税率は55%であり、優良な中小企業の株式の評価額は思っている以上に高額となっていることも多いため、何の対策も取らずに相続すると相続税の負担が重くなってしまいます。

「相続が3代続くと財産がなくなる」とまでいわれていますが、早めの対策を行うことで、より多くの財産を次世代に残すことも可能になります。相続税が会社や後継者の活動の制約にならないように、専門家と相談しながら早めの対策を行いましょう。自社株などの移転の検討に当たっての留意点は次の通りです。

1.自社株の評価が低いときに経営権を移転する

自社株の評価額は、その時々の会社の業績や過去からの利益の蓄積により大きく左右されます。そのため、

評価額がなるべく低い時期に経営権を移転すること

がポイントとなります。

例えば、オーナーの引退に伴い退職金を支給する場合には退職金相当額の利益が圧縮されるため、通常、株価は低くなり、自社株を後継者に移す良い機会といえます。

2.相続で経営権を移転する場合には納税資金を確保する

もう1つの留意点は、将来オーナーに相続が発生した場合の納税資金の問題です。相続税は原則として現金で一括納付する必要がありますが、中小企業の自社株については原則として換金性がないことから、

相続税の納税資金をどのように確保するか

がポイントです。納税資金が不足する場合、会社が自社株を買い取ることや、物納、延納なども検討する必要があります。

6 事業承継がうまく進まないときのためのアドバイス

1)立場の違いからくるギャップ「オーナーの思い」と「後継者の考え」

実際に、事業承継に着手しても、ささいなことでオーナーと後継者との意見がぶつかってしまい、承継がうまく進まないケースもあるようです。

オーナーの思いには、

  • 自分が築き上げた会社の経営を、経営者としては未熟な後継者に任せるのはまだまだ不安!
  • 自分と同じような苦労を経験していないのに、口だけ達者で生意気!

といったものが、一方、後継者の考えには、

  • 今までの環境で安定した仕事をしており、あえてオーナーのような苦労をしたくない!
  • 初めての経験であり、オーナーとして会社を経営していく自信がない!
  • 経営を任すとは言っても、いろいろな場面で先代オーナーが口出ししそうで面倒!

といったものがギャップの原因になるようです。両者のさまざまなギャップを解消するためには、それぞれの役割の違いを認識して、お互いに尊重し合うことが重要です。

2)ギャップを解消するためには?

オーナーに求められることは、

  • 後継者がひとまず経営に専念できるよう社内外の環境を整備する
  • すでに認識している会社の未解決問題をそのままにして引き継がない
  • 特にオーナーと同世代の兄弟姉妹との親族争いの火種を消し切る
  • うるさく口は出さないが、目は離さず必要なときは助言する

ことです。一方、後継者に求められることには、

  • 独自色を出すことに固執せず、先代・先々代オーナーの苦労を知り、これまでつくり上げてきたものに敬意を表する
  • 1人で突っ走らず、重要な問題、迷った問題は先代オーナー・幹部社員に相談する

ことが必要になってきます。

以上(2025年8月更新)
(監修 辻・本郷税理士法人 税理士 安積健)

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画像:soo hee kim-shutterstock

ヒント1[採用1]:自社を大きく見せていませんか?/武田斉紀の『人が辞めない会社、10のヒント』(2)

1 10のヒントは、自社を「辞める理由」または「辞めない理由」

今回から、「社員を採ってもすぐに辞めてしまう上に、そもそも採れない」という経営者、人事担当者、現場のお悩みを解決するためのヒントを、毎回1つずつご紹介していきます。

第1回でお話ししたように、

解決策は会社や職場によってさまざまだと思います。が、簡潔に言えば退職する一人ひとりの「辞める理由」を解消し、働いている一人ひとりの「辞めない理由」を高めていくことです。

毎回ご紹介していく10のヒントは、裏返せば多くの場合、「辞める理由」あるいは「辞めない理由」になっています。それぞれが自社にとっては採用や早期退職問題を解決するための“課題”なのか“強み”なのかを見極めていきましょう。

さて、『人が辞めない会社、10のヒント』を、どの順番でお話ししていくといいでしょうか。「多くの会社が抱えていそうな原因」を優先するか、「比較的取り組みやすそうな原因」から始めるべきか。

ここは「時系列」でお話ししていくことにします。つまり、人材が会社の門をたたき、出て行くまでの流れに沿ってという意味です。入社してからは、退職につながるいろいろな原因が同時に発生することも多いので、項目を整理しながら取り上げるようにします。

あらかじめご注意いただきたい点があります。時系列で毎回1つずつお話ししていくので、当初のヒントが皆さんの会社の抱える問題の原因に当てはまらない可能性もあります。

ですが、そこで「役に立たない」と読むのをやめないでください。ヒントの1~9までが該当しなくても、10が当てはまるかもしれません。

原因が1つだけというケースは少ないので、何回分か読んでいただければ「これはうちにも当てはまるな」というものが見つかるだろうと思います。

逆に「今回は該当しないようだ」ということでしたら、それはそれで1つの気付きです。その回は途中で読み飛ばしていただいて構いません。

10のヒントの初回となるヒント1は、会社と人材との出会いの場面から始めます。それは、“出会いがそもそも間違っているかもしれませんよ”というお話です。

2 本当に「採用したい人」が応募してくれていますか?

会社と人材との出会い、すなわち「採用活動」は、「応募者を集める」、そこから「候補者を絞り込む」、最終的に「採用予定者に内定を出して入社してもらう」という流れになります。

ここで会社や人事が意外に見落としがちなことがあります。それは「そもそも応募者が、会社にとって本当に採用したい人なのか」という点です。

各社の採用を支援していると、例えば新卒では「今年は去年よりたくさん応募者が集まった」とか「今年はいい大学からたくさん応募があった」と喜んでいる採用担当者の声を聞きます。

私からすればちょっと心配になります。人数が多かろうと、東大生が10人応募してこようと、彼らが自社の採用したい人かどうかは分からないからです。

最悪の場合、人数も有名大学からの学生も多いのに、採用したい人が一人もいなかったなんてこともあり得ます。

担当者は心の中では「ちっとも採用したい人がいないなあ」と思いながらも内定を出して、上司や会社に「今年はたくさん採れました」「今年は〇〇大と〇〇大が〇人もいます」と報告するのでしょうか。

採用したい人ではないけれど採用するのは、例えて言えば「好きじゃない相手と結婚する」のに似ています。こちらが好きじゃないのは相手にすぐに伝わります。一緒になったとて、相手はこの人と末永く一緒にいたいと思ってくれるでしょうか。

会社にとっての「採用したい人か」と同じように、応募者にとっても本当に「入りたい会社か(やりたい仕事か)」という問題があります。

「本当は入りたい会社(やりたい仕事)ではなかったけれど、いろいろな理由で決めてしまった」とすればどうでしょう。それはいずれ会社にも伝わりますし、仕事にも表れてくるでしょう。

新卒採用の場合は、応募者である学生がまだ社会との接点が少ないため「入ってみたら自分に合っていた」というケースはあります。また、社内の教育制度を通して「慣れたし、この会社(仕事)でよかった」というケースもありますが、かなり偶然の世界です。

このようにお話しすると、「では採用したい人が含まれているかどうかを、どうやって判断すればいいのだ」と質問されそうです。私に言わせれば、それは募集の仕方でも分かりますし、応募者と会って少し話せばすぐに分かります。

はたして応募者に「採用したい人」がたくさん含まれるようにするにはどうすればいいのでしょうか。

3 自社を必要以上に大きく見せない

自社が「採用したい人」が応募者にたくさん含まれるようにするには、2つのポイントがあります。1つは「自社の魅力と、どんな人を求めているか(求める人物像)を明確に示すこと」。これについては次回以降で詳しくお話しします。

もう1つは「自社を必要以上に大きく見せないこと」です。“必要以上に大きく見せているかどうか”の分かりやすい判断方法をお教えしましょう。社員に自社の募集広告を見せて、忖度なしの感想を聞けばいいのです。

そこで「自社を大きく見せすぎている」という声が上がれば、恐らく採用で失敗しています。

本当に「採用したい人」が集まっていない、あるいは応募者にとって本当に「入りたい会社(やりたい仕事)」ではない可能性が高いでしょう。

すると、ご支援している会社の採用担当者はこう言います。「だって、うちのような中小企業だと(あるいは不人気の業種だと)少しくらい大きく見せないと、だれも応募してくれないじゃないですか」と。

本当にそうでしょうか。

中小や不人気業種の企業であっても、自社を必要以上に大きく見せずに欲しい人材をしっかりと獲得できた例は、私が関わったケース、そうでないケースも含めていくつも存在します。

自社を必要以上に大きく見せて採用できたとしても、数年以内に退職してしまうのでは、互いにとって不幸でしかありません。応募者からすれば「話が違う」わけで、辞めた会社に対して感謝どころか恨んでさえいる可能性が高いのです。

時間と手間をかけて取り組んできた採用担当者としても、虚しいばかりでしょう。

かといって「うちは中小企業(不人気な業界)ですけれど、よかったらきてください」と訴えかければ、「採用したい人」が応募してくれるのかというと、そうではありません。

応募者に「自分は100社応募しても1社も声がかからなかったのですが、よかったら採用してください」と正直に言われても、採用側が「分かりました、採用です」とはならないのと同じです。

現状は中小企業であることや、一般に不人気業界といわれる業界の1社であることは認めた上で、「ただ、うちにはこんな事実(歴史・社風・仕事の魅力・制度など)があります」あるいは「うちはこういうことを大事にしています、こんなことを本気で目指しています」という情報があればどうでしょうか。

「それがないから困っているんだよ」と言われるでしょうか。私からすれば「自社の魅力やアピールポイントを見つけられていない」だけだと思います。原因は見つける努力が足りないのか、見つける努力はしているけれど正しい努力の仕方が分からないだけなのか。

4 理想を信じて脱サラ起業したスタートアップ、初めて新卒募集した結果は……

以前採用に関わるシリーズでもお話したことがありますが、都内某所に私が採用をご支援した従業員10名足らずの土木コンサルティングの会社がありました。

都内といってもターミナル駅から各駅停車でいくつも行った町はずれの駅、そこから10分以上歩いた古いマンションの1階の1室がオフィスでした。丸の内や新宿のきれいなオフィスに入る企業を回ってきた学生なら、道の途中で引き返すか、ドアの前にたどり着いても入るのをためらうような佇(ただず)まいです。

初回訪問でドアを開けると、寒い時期で中央にストーブが置かれ、雑然とした中、デスクが壁際に並んでいました。社長が待ってくれていて、さっそく募集の背景を伺いました。

「仕事はあるけど人がいない。思い切って初めて新卒採用にチャレンジしてみようと思ってね。採用は1名程度、できれば土木系がいいけれど、入ってから教えるから理系の学生ならいい、一人でも多く集めてほしい」

私は正直に言いました。「現時点では残念ながら、この売り手市場で応募してくれる理系学生はたぶんいないと思います」。ただ、その後にこう続けました。「なので、もっと詳しいお話を聞かせてください」

社長は大学で土木系を専攻し、日本を代表する大手土木コンサルの会社に就職して第一線で活躍していたそうです。主に河川事業を担当したものの、治水のためとはいえ自然の草が生い茂り、虫や動物が生息していた場所をコンクリートで固めてしまうことに疑問を感じるようになったといいます。

社長は元々東京の郊外のご出身。「昔はあの辺りにも、夏は普通にホタルが飛んでてさあ、それはきれいだったんだよ。そういう川を東京にも蘇(よみがえ)らせたいなって思ったら会社を辞めて、今の会社を始めてたんです」

大雨や洪水に備えて、河川周辺住民の命と暮らしを守らなければいけない。そのためにはコンクリートの護岸は必要だけれど、子どもたちが安全に遊べる自然の水場を少しでも残すような設計ができないか。お金が余計にかかる提案にはなるけれど、それが社長の目指す理想でした。

河川事業は国や自治体の管轄、中小企業が直接請けられる可能性は低く、大手からの下請けとなればそんな理想は言っていられないのも分かっています。「それでも10件に1件でもいいから、自然を残せる提案をしたいんだよね」

「そしていつかは東京にホタルのすむ川を蘇らせたいんですね」と、私は続けました。社長ははにかんだ優しい笑顔を返しました。「じゃあ、その思いを募集に書きましょう。きっと共感してくれる理系学生が現れるはずです!」

確信はありませんでしたが、自信はありました。理系学生は全国に十万人単位で存在する。その中で社長の思いに共感してくれる人は必ずいるはずだと。

大手にはできないこととして、初回訪問から社長に直接会ってもらうことにしました。応募者数が少ない中小だからできることです。もちろん最寄り駅までのアクセスや、駅からの詳しい道順も添えました。「もし道に迷ったら電話ください、迎えに行きます」

結果は数名の応募があり、社長は全員と直接会って話をしてくれました。皆が自分の思いに興味を持って来てくれたと知って本当にうれしかったそうです。わずか数名とはいえ、全員が「採用したい人」だったと聞きました。

最終的には1名を内定としました。決めた理由は、その人が社長の思いに強く共感してくれて「いつかホタルの川を作りましょう!」と言ってくれたからだと。彼はたまたまですが東大の大学院生でした。

社長は「うちみたいな小さい会社に入ると言ったら、ご両親に反対されない?」と心配しましたが、本人が説得し理解してもらえたそうです。彼の専攻は土木ではなく、会社としては新たな専門分野に広がる可能性も感じられたと聞きました。

5 働き続けている人がいる以上、全ての会社に“他社にない魅力”がある

中小企業での成功事例をご紹介しましたが、この会社が特別なわけではありません。働き続けている人がいる全ての会社に、必ず何かの“魅力”があるのです。

人手不足の日本は、働く側にとって売り手市場です。にもかかわらず皆さんの会社で働き続けている人がいるのです。なぜだと思いますか?

中には「今さら転職するのも面倒くさいから」とか、「そこそこ働いていれば、そこそこの給料をもらえるから」という人もいるかもしれません。でも全員がそうでしょうか。

経営者や採用担当の皆さんは、改めて「他社にない魅力って何だろう」と自問自答してみてください。どうしても思いつかなかったら、仕事への意欲が高くて自社で働き続けてくれている社員を一人ひとり呼んで、本音を聞いてみてください。

人間は正直です。今の会社に魅力を感じなくなったら誰もが去ることを考えるでしょう。けれども他社にない何らかの魅力を感じていて、待遇などの諸条件を含めても自分にとってプラスだと判断するから転職しないのです。

その魅力が何かを見つけてみてください。少なくともその“他社にない魅力”は、人をひきつける力があるのです。

今後もその“他社にない魅力”を大事にしたいのであれば、それを募集時に誇張せず分かりやすく提示するだけで、自社が「採用したい人」が集まります。

同時に、自社を必要以上に大きく見せることが、いかに無駄で虚しい行為か分かるはずです。

第2回を最後までお読みいただきありがとうございました。次回は『人が辞めない会社、10のヒント』のヒント2として、“自社ならではの魅力”の見つけ方もご紹介します。

このコラムをヒントに、自社を退職する一人ひとりの「辞める理由」と、働いている一人ひとりの「辞めない理由」の2つを丁寧に拾っていきながら、自社ならではの“課題”を解消し、“強み”を活かしていきましょう。

<ご質問を承ります>

ご質問や疑問点などあれば以下までメールください。※個別のお問合せもこちらまで

Mailto:brightinfo@brightside.co.jp
https://www.brightside.co.jp/

※武田が以前上梓した書籍『新スペシャリストになろう!』および『なぜ社長の話はわかりにくいのか』(いずれもPHP研究所)が、ディスカヴァー・トゥエンティワンより電子書籍として復刻出版されました。前者はキャリア選択でお悩みの方に、後者はリーダーやトップをめざしている方にお薦めです。

『新スペシャリストになろう!』
https://amzn.asia/d/e8GZwTB
『なぜ社長の話はわかりにくいのか』
https://amzn.asia/d/8YUKdlx

以上(2025年8月作成)
(著作 ブライトサイド株式会社 代表取締役社長 武田斉紀)
https://www.brightside.co.jp/

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画像:VectorMine-Adobe Stock

【事業承継】これだけ押さえて! 中小企業の事業承継

1 なぜ、事業承継が必要なのか?

事業承継とは、

事業を後継者に承継して会社を存続させること

です。日本ではかつてないほど事業承継の話題が盛んですが、それは、

経営者の高齢化と後継者不足が進んでいるから

に他なりません。帝国データバンクが毎年公表している「全国社長年齢分析」によると、2024年時点の社長の平均年齢は60.7歳となりました。人は必ず年をとるので、平均年齢が上がるのは当然です。となると、事業承継で社長の若返りを図るしかありません。しかし、社長の交代率は3.75%にとどまります。この主な要因は後継者不足です。

経営者の平均年齢と交代率の推移

統計によって異なりますが、日本にあるとされる約340万社の会社のうち99%以上は中小企業です。日本経済を支える中小企業が、経営者の高齢化と後継者不足で廃業を余儀なくされれば、日本経済に与える影響は計り知れません。

今、一社一社の取り組みが重要な局面にきています。「事業承継」という多分野の取り組みで、経営者は何を意識すればよいのかをご紹介します。

2 事業承継するものは3つ

事業承継するものは「人(経営)、資産、知的資産」の3つです。

事業承継するもの

1)人(経営)の承継

後継者を決定し、教育して経営権を承継します。誰を後継者にするかについては、「1.子どもなどへの親族内承継」「2.役員や従業員への親族外承継」「3.M&Aによる第三者への親族外承継」があります。これらは次章で紹介します。

2)資産の承継

自社株、土地などの不動産、設備などの動産などを後継者に引き継ぎます。このうち、自社株については評価が重要です。事業承継時は評価を下げたいはずですから、そうした方法を専門家に相談します。ここでは後継者の資力も問題になります。後継者に自社株の買い取り資金がないケースや、贈与や相続の問題が出てくることもあります。とはいえ、後継者の持株比率を薄めることは得策ではありません。この点は十分に認識すべきです。

また、承継されるのは資産だけではないことにも注意が必要です。例えば、会社が金融機関などからの借り入れ、つまり借金をしていれば、それも承継されます。つまり、貸借対照表(BS。Balance Sheet)が承継されるイメージを持っておくとよいでしょう。

3)知的資産の承継

知的資産は、自社の価値の源泉を承継することです。最上位の概念としては経営理念を承継することになります。経営者の中には「経営理念の承継こそが事業承継である」という人がいるくらい重要なものです。また事業承継を手伝う支援機関も、現経営者へのインタビューを通じて「思い」を言語化し、後継者候補などに伝えたりします。

この他、取引先、さまざまな人脈、技能、知的財産権、許認可など会社経営をするために不可欠なものを承継します。

3 後継者選びの選択肢

事業承継において、最も重要なのは「人(経営)の承継」だといえるでしょう。前述した通り、誰に承継するかの選択肢は、

  • 子供などへの親族内承継
  • 役員や従業員への親族外承継
  • M&Aによる第三者への親族外承継

の3つに大別されます。かつては子供などへの親族内承継が圧倒的に多かったですが、時代とともに役員・従業員への親族外承継が増えてきています。

後継者選びの選択肢

子どもなどに承継する親族内承継でも、これまでの事業をそのまま続けるのではなく、後継者の新しい発想でベンチャー企業のように新規事業にチャレンジするケースも増えています。

また、親族や役員・従業員に適した後継者候補がいない会社などでは、社外からの登用(第三者への承継)も増えています。昨今は「後継者を求める会社」と「経営者になりたい人」をマッチングさせるサービスも多く、多様な候補の中から後継者を選べることができます。とはいえ、実際に事業承継をした経営者の中には、「安易なM&Aをすべきではない」と警鐘を鳴らす人もいます。特にオーナー企業の経営者にとって、会社は自分自身と一体であり、さまざまな思いが込められています。第三者に承継する場合は、本当に慎重な判断が必要です。

4 事業承継を誰に相談するか?

いざ事業承継を進めるとして、誰に相談すればよいのか迷います。これには幾つかの候補があるので紹介します。

なお、中小企業庁では、中小企業が安心してM&Aに取り組める基盤を構築するために、M&A支援機関(フィナンシャル・アドバイザー(FA)やM&A仲介会社)に係る登録制度を実施しています。中小企業にとってのメリットは、

登録を受けたM&A支援機関を利用すると、必要な手数料の一部が補助され、金銭的な負担が軽減される

ことです。

1)事業承継・引継ぎ支援センター、商工会議所

中小機構が設置している事業承継を相談できる公的な窓口として、

事業承継・引継ぎ支援センター

があります。各都道府県に設置され、事業承継に関する専門的なアドバイスが受けられます。

公的な窓口なので安心感があり、相談も無料です。ただし、具体的な取り組みを支援してくれるわけではなく、話が進むと弁護士などの専門家に有料で相談することになります。以上から、検討初期の相談に適しているといえるでしょう。

商工会議所でも、独自に事業承継のサポートを行っています。商工会議所の会員になっていることが前提ですが、一度、相談してみるのもよいでしょう。

2)銀行、生命保険会社、損害保険会社など

取引のある銀行や生命保険会社、損害保険会社なども事業承継の相談先となります。特に銀行は経営計画などの提出を受けていることもあり、会社の状況をよく知っているはずなので、良い相談相手になってくれる可能性があります。また、事業承継をする場合は銀行に相談することになるので、この手間も省けます。

ただし、銀行が事業承継の全てに対応するわけではなく、話が進むと専門家に相談することになります。M&Aを検討している場合、銀行が提携するM&A仲介業者などを紹介してくれますが、客観的に自社に適しているM&A仲介業者かどうかは分かりません。そのため、独自に探してみるべきでしょう。

銀行ほど会社の経営に踏み入ってはいませんが、基本的な考え方は生命保険会社や損害保険会社についても同じです。生命保険会社は税制に強い(税理士などと連携している)ため、贈与や相続などについても相談できるでしょう。

銀行などの金融機関は、間接的なビジネスとして事業承継のサポートを行っており、最近は特に力を入れています。ただし、自ら事業承継に関わる各分野に専門的な知識を有しているとは限らず、どちらかといえば専門機関への引き継ぎを担うイメージかもしれません。

3)税理士、弁護士など

税理士は中小企業にとって最も身近な専門家です。日ごろの付き合いの中で会社のこともよく分かっています。税制に関する相談相手としては最適ですが、クオリティーのバラツキが大きいということと、自身の関与先の事例しか持ち合わせていないことが問題です。

弁護士は法的な見地からアドバイスを受けることができます。ただし、中小企業の事業承継で関わるのは税理士などが多く、弁護士の出番はあまりないのが実情ですが、資本政策が複雑になりそうなケースなどでは頼れる相談相手となります。

4)M&A仲介業者など

事業承継でM&Aを選択する場合に相談できます。M&A仲介業者やM&Aアドバイザー、M&Aコンサルティングなどの名称となりますが、基本的な違いはないでしょう。対象とするM&Aの規模によってはサポート対象外となることもあります。まずは銀行などからM&A仲介業者を紹介してもらい、そこで聞いた話を一つの基準に他の業者にも話を聞いてみるとよいかもしれません。

また最近は、

  • 後継者を求める会社と経営者になりたい人のマッチングプラットフォームの登場
  • 中小企業に幅広いネットワークを有する経営者が、知り合い同士をつなげる
  • 元ベンチャーキャピタリストなどが、知り合い同士をつなげる

などの動きもあり、相談先は多様化しています。

以上(2025年8月更新)

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画像:Mariko Mitsuda

運転姿勢と疲労(2025/8号)【交通安全ニュース】

活用する機会の例

  • 月次や週次などの定例ミーティング時の事故防止勉強会
  • 毎日の朝礼や点呼の際の安全運転意識向上のためのスピーチ
  • マイカー通勤者、新入社員、事故発生者への安全運転指導 など

夏、特に8月のお盆やその前後は、帰省や休暇をとって長距離ドライブに出かける方も多いのではないでしょうか。

一方、この時期は各地で交通集中による渋滞予測が出されるなど長時間運転になりがちです。

長時間の運転時はドライバーに肉体的・精神的な負担がかかりますので、努めて休憩を取ることはもちろん重要ですが、今号では安全で疲れにくい、快適な運転姿勢について考えます。

運転姿勢と疲労

1 長時間運転による疲労

ドライバーは運転時間が長いほど疲労を感じます。疲労の原因には、「認知・判断・操作」といった運転操作の繰り返しや、緊張状態の継続による肉体的・精神的負担、単調な運転が続くことによる意識の低下や車の振動など様々なものが考えられます。

疲労の影響は「目」に最も強くあらわれるといわれており※1、疲労により運転中の危険の見落としや判断の遅れが生じるおそれがあります。また、直進時にはハンドル操作に筋肉疲労などが影響することにより、酒気帯び運転の際に起こる蛇行運転と似た傾向が現れるとの報告もあります(図1)。

図1.高速道路での長時間運転中の横方向位置ズレの変化とアルコール誘発性障害との関係

長時間運転による疲労

出典: Prolonged nocturnal driving can be as dangerous as severe alcohol-impaired driving JORIS C. VERSTER et al, Journal of Sleep Research (2011) 20, 585-588 より当社作成

疲労を軽減するためにドライブ計画においては適切なタイミング・場所で休憩を入れることが大切ですが、もし疲労の溜まりやすい運転姿勢になっている場合は、それを見直すことも対策になりえます。例えば背中や足の一部に力が入り続けるような姿勢やシートが身体の一部を圧迫し続けるような状態は、筋肉疲労、血行不良などを起こしやすいと考えられ、改善の余地がありそうです。

※1 交通の方法に関する教則第4章第5節1-(2),
https://www.npa.go.jp/bureau/traffic/20241113kyousoku.pdf
閲覧日:2025年7月7日

2 疲れにくい運転姿勢とは

疲れにくくする(=体にかかる負担を軽くし、快適さを保ち続ける)ために、まずは正しい姿勢で運転することが重要です。シート調整方法の一例(図2)を紹介します。

図2.シート調整の一例

シート調整の一例

  • シートに深く座り、座面の高さを前方死角が小さくなるように調整します
  • シートの前後位置を、ブレーキペダルを強く踏み込んだときに足が伸び切らず余裕がでるような位置に調整します
  • 背もたれの角度を、ハンドルの頂点を握ったときでも肘が伸び切らないような角度に調整します

調整後、シートは身体の一部だけではなく全体を優しく支えていますか。また太ももが座面に当たらず、安定して座れていますか。もしそうなっていない場合は、一部の筋肉が緊張しやすい、またはシートにより体の一部が圧迫されて疲れやすい状態かも知れません。座り直したり、シート高さや前後位置を微調整したりしてみましょう。ランバーサポート(腰当て)クッションの利用も考えられます。第三腰椎(図3)付近にクッションをあてることで疲労軽減効果が高いとする報告※2もあります。

図3.第三腰椎の位置

第三腰椎の位置

ご自身のベストな運転姿勢・シート位置を探してみてはいかがでしょうか。

※2 A Study on Fatigue Reduction of Driver by Changing Back Support Position During Long Time Driving T. Yamakawa et al 2020 J. Phys.: Conf. Ser. 1532 012025

コラム 「噛む」ことの効用

「噛む」ことの効用

単調な運転が続くと、ボーっとする、集中力が続かない、となった経験をお持ちではないでしょうか。このような場合にガムなどを「噛む」と、注意力が改善し反応時間が短くなる効果があるそうです。ガムを噛んでいるドライバーは「速度超過時間」や「車線逸脱距離」が大幅に減少したとする実験結果も報告※3されています。適度な利用に留めることに留意しつつも、気分をリフレッシュする手段の選択肢の一つとしていかがでしょうか。

※3 Effects of chewing gum on driving performance as evaluated by the STISIM driving simulator Ingyu Yoo et al. J Phys Ther Sci. 2015 Jun.

以上(2025年8月)

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画像:amanaimages

新しいSDGs「自然共生サイト」の認定を受けてみよう

1 自然共生サイトの認定を受けてみませんか?

地球上の様々な生物と生息環境を守り、自然の恵みを持続的に利用できるようにすることを「生物多様性の保全」といいます。世界中で生物種の減少や生態系の破壊が問題となる中、民間の力を活かした取り組みとして注目されているのが、「自然共生サイトの認定制度」です。

自然共生サイトの認定制度とは、

企業やNPOなど民間の取り組みによって生物多様性が保全されている区域を、国が評価・認定する仕組み

で、2025年7月現在で328カ所が認定されています。

■環境省「身近な自然も対象に『自然共生サイト』」■
https://policies.env.go.jp/nature/biodiversity/30by30alliance/kyousei/

例えば、自社で管理する社有林や緑地などがある場合、その場所について自然共生サイトの認定を受けることで

生物多様性の保全に貢献している企業であることを分かりやすくPR

できます。また、企業の中には、自然共生サイトの認定を受けることで自社の水源域の保護に努めたり、従業員や地域住民とのレクリエーションの場に活用したりしている事例もあります(第3章で詳しく解説します)。

環境省でも、支援を必要とする自然共生サイトと支援先を探したい企業とのマッチングに取り組んでおり、今後は自然共生サイトに係る取り組みがより活発になることが予想されます。

そこで、この記事では、自然共生サイトの認定を受けるために必要な手続きや、自然共生サイトの認定を受けた場所での取り組み事例などの動向を紹介します。

2 自然共生サイトの概要と認定基準について

1)どのように始まった制度なのか?

自然共生サイトの認定制度は、2022年12月に開催されたCOP15(国連生物多様性条約第15回締約国会議)の中で採択された「ネイチャーポジティブ」がきっかけで始まりました。

ネイチャーポジティブとは、企業・経済活動によって生物多様性を維持するだけでなく、回復させる取り組みで、「2030年までに陸と海の30%以上を保全する」という世界目標

が掲げられています。

日本ではこのネイチャーポジティブの実現に向けて、2023年度から自然共生サイトの認定制度が創設され、2025年度からは生物多様性増進活動促進法に基づき、企業や地方公共団体等が作成する生物多様性の維持・回復・創出に資する計画を認定する制度が開始されました。現在は、「自然共生サイト=認定された計画の実施区域」という位置付けです。

ネイチャーポジティブについては、次のコンテンツで詳しく解説しています。

2)自然共生サイトとして認定される基準は?

自然共生サイトの対象となる区域は、次のような場所が挙げられます。

企業の森、ナショナルトラスト、バードサンクチュアリ、ビオトープ、自然観察の森、里地里山、森林施業地、水源の森、社寺林、文化的・歴史的な価値を有する地域、企業敷地内の緑地、屋敷林、緑道、都市内の緑地、風致保全の樹林、都市内の公園、ゴルフ場、スキー場、研究機関の森林、環境教育に活用されている森林、防災・減災目的の森林、遊水池、河川敷、水源涵養や炭素固定・吸収目的の森林、建物の屋上、試験・訓練のための草原など

このうち、自然共生サイトとして認定されるには、次の4つの基準を満たす必要があります。

  • 境界・名称に関する基準
  • ガバナンスに関する基準
  • 生物多様性の価値に関する基準
  • 活動による保全効果に関する基準

特に、「3.生物多様性の価値に関する基準」については、9項目の具体的な内容が定められています。9項目のうち、いずれかの価値がその場所にあることが認定基準とされています。

生物多様性の価値に関する基準

3)自然共生サイトの申請手順は?

自然共生サイトの申請先は、環境再生保全機構(ERCA)になります。

申請受付から認定までの大きな流れは次の通りです。

  • 申請受付:申請書類一式を事務局(ERCA)に提出
  • 予備審査:事務局で提出された申請書類を確認。必要に応じて、申請内容に関する確認や不足書類の提出が求められる
  • 有識者審査:有識者による、生物多様性の増進に関する専門的な見地から意見を聴くための審査
  • 省庁審査:主務省庁(環境省、農林水産省、国土交通省)による審査
  • 認定:審査の結果を踏まえ、環境大臣・農林水産大臣・国土交通大臣が認定

また、同機構では、自然共生サイト認定制度への申請を考えている人向けの研修・eラーニングも開催しています。申請手順の詳細などはこちらをご確認ください。

■環境再生保全機構「自然共生サイト」■
https://www.erca.go.jp/nature/index.html

3 自然共生サイトに認定された場所の事例

1)東急不動産:東京ポートシティ竹芝・九段会館テラス・日比谷パークフロント

東急不動産が経営するオフィスビルの3棟(東京都千代田区・港区)が、自然共生サイトとして認定されています。

オフィスビルの外構や屋上などに樹木を配置して緑化を図っている他、地域住民やオフィスワーカー向けの参加型プログラムなどを展開しています。

各施設での主な取り組みは次の通りです。

1.東京ポートシティ竹芝

  • 田植え・稲刈り・餅つきといった農体験の参加型プログラム、採蜜体験
  • 近隣小学校の社会科見学、大学生の生物多様性保全の学びの場を提供

2.九段会館テラス

  • オフィスワーカー・地域住民共同のモニタリング調査、生き物の住処づくりイベント
  • 屋上緑地でのフラワーガーデンツアー

3.日比谷パークフロント

  • オフィスワーカー向けの野菜教室や菜園活動を実施
  • 植物に触れ学ぶグリーンツアーなどのイベント開催

2)コカ・コーラボトラーズジャパン:コカ・コーラボトラーズジャパン水源の森えびの

コカ・コーラボトラーズジャパンでは、工場の水源域となる森林を「コカ・コーラボトラーズジャパン水源の森」と名付けて水資源保全活動を推進しており、このうち、えびの工場(宮城県えびの市)の水源域に位置する約203ヘクタールの里山が、自然共生サイトとして認定されています。

2014年に同社と宮崎県、えびの市の麓共有林、西諸地区森林組合の4者で森林保全協定を締結し、水資源の保護に取り組んでいます。さらに、竹林整備や獣害被害防止対策によって、地域住民が市の特産品であるタケノコを収穫できる環境にあります。地域住民や同社の社員・家族が参加し、タケノコ収穫体験や森の散策など、里山を体験できる取り組みも実施しています。

3)麻機遊水地保全活用推進協議会:麻機遊水地

麻機遊水地(静岡県静岡市)の114ヘクタールの区域が、自然共生サイトとして認定されています。この遊水地は、もともと治水施設として整備が進められてきましたが、造成工事をきっかけに土中に眠っていたさまざまな植物が復活したことで、トンボなどの昆虫や野鳥が飛来し、生き物成育・生息の場として注目されています。

管理はNPOや専門家、地域住民、関係地方公共団体などによって構成される麻機遊水地保全活用推進協議会が手掛けており、生物の保全活動や市民を対象とした観察会、シンポジウムなどを開いています。

4)資生堂掛川工場:資生堂掛川自然共生サイト

資生堂掛川工場(静岡県掛川市)敷地内の約3.5ヘクタールの緑地が、自然共生サイトとして認定されています。

シイ・カシニ次林や竹林、スギ植林などが生えており、隣接する保育所の園児が植物の採取や動物の観察を行うなどの自然体験や教育の場としても活用されています。また、敷地内には企業資料館や美術館も併設されており、環境や文化に配慮する同社の企業理念の発信にも寄与しているといいます。

5)関西エアポート:関西国際空港島人工護岸藻場サイト

関西国際空港(大阪府泉佐野市)の護岸に広がる82ヘクタールの藻場が、自然共生サイトとして認定されています。空港島の造成時に緩傾斜石積護岸(傾斜を緩やかにした石積みの護岸)を採用し、藻場を中心に多種多様な生き物が生息しています。

1989年から30年以上にわたり、海藻の分布状況を確認するモニタリング調査を行っています。2010年以降は魚介類の生息状況の調査や間引きなども行い、環境保全に努めています。

事例で紹介した以外にも、自然共生サイトに認定された場所は328カ所あります(2025年7月現在)認定サイトの詳細な内容は、以下のリンクから確認することができます。

■30by30「認定サイト一覧」■
https://policies.env.go.jp/nature/biodiversity/30by30alliance/kyousei/nintei/index.html

4 自然共生サイトの認定を進めるための取り組み

1)自然共生サイトなどへの支援マッチング

環境省では、自然共生サイト(これから認定を目指す場所を含みます)と、それらへの支援(金銭的・人的・技術的支援など)を希望する企業や団体とのマッチングを促進する仕組みを検討しています。

ウェブサイト上でマッチングイベントの案内や、支援を募集している自然共生サイトの情報を掲載しています。そのため、「自社で認定を受ける土地は保有していないが、自然共生サイトへ支援することで生物多様性の保全に貢献したい」という企業はこちらを参考にしてください。

■環境省「自然共生サイトの促進に向けた取組」■
https://policies.env.go.jp/nature/biodiversity/30by30alliance/kyousei/support/

2)経済的インセンティブなどの検討

環境省では、自らが土地を持っていない場合でも、自然共生サイトの質の維持や向上のために必要な支援をした際に「支援証明書」を発行するなどのインセンティブに向けた検討を進めています。

検討状況などを次のウェブサイトから確認することができます。また、緑地や自然環境保全に資する地方公共団体の補助金・免税等制度も掲載しています。

■環境省「30by30に係る経済的インセンティブ等に関する検討状況」■
https://www.env.go.jp/nature/30by30_00001.html

以上(2025年8月作成)

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画像:K.-U. Häßler-Adobe Stock

【朝礼】AI時代だからこそ考えたい野口英世の「泥臭い努力」

【ポイント】

  • 野口英世氏は、同僚から「いつ眠るのか」と言われるほど医学に没頭し、努力を重ねた
  • 自分の「武器」を磨く努力を忘れたら、何もできない人間になってしまうかもしれない
  • 他人から強制される努力は長続きしない。自分の情熱を傾けられるものを原動力にする

おはようございます。本日は、黄熱病の研究などで知られる細菌学者、野口英世(のぐちひでよ)氏についてお話ししたいと思います。細菌学者として偉大な功績を残している野口氏ですが、その功績は、彼の圧倒的な量の「努力」によるものでした。同僚から「いつ眠るのか」と言われるほど研究に打ち込み、「人間発電機(ヒューマンダイナモ)」というあだ名がついたほどです。

野口氏は、幼少期に左手の大やけどという大きな身体的ハンディキャップを背負いながら、左手の手術によりその苦難を克服。医学の素晴らしさを実感し、自らも医学の道を志すようになります。故郷を離れる際に「志を得ざれば再び此(こ)の地を踏まず」と柱に彫りつけるほど、医学には情熱を傾けており、その情熱が常に圧倒的な努力の根底にあったのでしょう。

こうした努力に関する話をすると、なかには「暑苦しい」「古臭い」と苦手意識を持つ人もいるようです。昨今はAIがめざましい進化を遂げ、それらをいかにうまく使って、効率良く仕事をするのかが重視されがちです。睡眠時間を削ってまで研究に打ち込んだ野口氏の話を聞いて、「すごい人なんだろうけど、自分にはちょっと……」と身構えてしまう気持ちも分からなくはありません。

一方で、便利なツールが次々に登場する中で、努力というものが軽視されがちな状況も、私は危険だと考えます。もちろん、効率は大事です。ただ、AIをはじめとする便利なツールの恩恵に甘えて、自分の「武器」を磨くことが疎かになってしまうと、いざというとき何もできない人間になってしまうかもしれない……。その危機感は常に持っておくべきでしょう。野口氏の残した言葉に「誰よりも三倍、四倍、五倍勉強する者、それが天才だ」というものがあります。時代に逆行するように聞こえるかもしれませんが、成功する人物というのは、周囲から天才と呼ばれながらもその陰で尋常ではない努力を重ねているものです。

とはいえ、他人から強制される努力は長続きしません。野口氏が子どもの頃に、自分の左手を治してくれた医学に情熱を傾けたように、皆さんにも自分の心が燃える、何か原動力になるものがあるはずです。自分の心に火を焚(く)べて努力を重ね、少しずつ前に進んでいってください。

以上(2025年8月作成)

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画像:Mariko Mitsuda

【債権回収】当事者間で一定の結論が出ている場合に有効な「即決和解制度」

 

目次

 

1 即決和解を利用する意義

即決和解とは、「裁判上の和解」の一種で、

当事者が民事上の争いについてある程度の合意がある場合に、裁判所へ申立てをして裁判上での和解を行う制度

です。訴訟の提起前に行われるので「訴え提起前の和解」とも呼ばれます。ちなみに、示談など裁判所が関与しないものを「裁判外の和解」といいます。

即決和解の場合、裁判所が作成する和解調書は「債務名義」として、判決などと同様の強い効力があります。債務名義とは、「強制執行」をする根拠となる文書であり、「債権債務の存在を公に認めるもの」です。強制執行とは、「判決等によって債務の履行が決まっているのに相手がそれに応じない場合、国家の強制力によって判決等で定められた内容を実現する」ことです。

これに対して、示談(=裁判外の和解)の場合、それだけで強制執行はできません。相手が、考えを変えて、任意に債務を履行しない場合、訴訟を提起する等して債務名義を取らなければなりません。即決和解の方が一段効力が強い、といえます。

即決和解のメリットとデメリットは次の通りです。

【即決和解のメリット】

  • 判決と同じ効力が認められる
  • 裁判所に支払う費用は低額で済む
  • 金銭請求に限られない

【即決和解のデメリット】

  • 当事者間で合意があることが必要
  • 和解条項(案)の作成や書類の提出、各種目録の作成などの手間がかかる
  • 申立てから和解期日指定まで平均1カ月程度を要する

メリットで紹介した「金銭請求に限られない」について補足をします。当事者の合意を債務名義にする方法の1つに、「強制執行受諾文言付きの公正証書を作成する」がありますが、この方法は金銭債権に関する合意でしか使えません。これに対して、即決和解は金銭債権に限らず、建物の明渡しなどについても使うことができます。

2 即決和解手続の流れ

即決和解の流れは次の通りです。

即決和解手続の流れ

1)当事者間での事前の話し合い

即決和解を申し立てる前提は、「民事上の争いがあり、これを当事者間で話し合って、和解条件に折り合っていること」です。この条件を満たせば、債権者と債務者のどちらからでも申立てができます。

2)即決和解の申立書の提出

即決和解の申立ては、相手の住所か主たる営業所の所在地を管轄する簡易裁判所に対して行います。申立書には、紛争の内容を記載する他、合意に至った内容を和解条項(案)として添付します。その他の書類や、和解調書に添付するための目録(当事者目録や物件目録など)の提出が必要になることもあります。

3)和解期日までの準備

申立てがあると、裁判所において申立内容の審査を行う他、書類の追完を申立人に求めたり、和解条項の修正を依頼したりします。

その後、裁判所は当事者の希望を聞いて和解期日を指定します。その際、相手方が裁判所に出頭できる日は、申立人において確認することが求められます。

4)和解期日

和解期日では、当事者双方が和解条項について合意し、かつ、裁判所が相当と認めれば、和解が成立します。裁判所は「和解調書」を作成して当事者に交付します。

5)和解調書の効力

即決和解の手続により作成された和解調書は、確定判決と同一の効力を有します(債務名義になります)。従って、和解調書に基づいて強制執行が行えます。

6)費用

裁判所に納める費用(申立ての手数料)は、原則1件につき収入印紙2000円です。

その他、送付手数料として、郵便切手が必要になりますが、管轄裁判所や当事者の人数などによって納める金額が異なりますので、事前に裁判所に確認しましょう。

なお、東京簡易裁判所では、郵便切手750円(相手方1名につき(内訳:500円切手1枚,110円切手1枚,50円切手1枚,40円切手1枚,20円切手2枚,10円切手1枚)とされています。

7)速やかに即決和解を得たい場合

即決和解は、簡易裁判所でしか扱わない簡易裁判所の専属管轄となります。一般的には上記2)に記載した通り、相手の住所等を管轄する簡易裁判所に申し立てます。しかし、実務上、簡易裁判所の事件係属が多く、先の期日でなければ裁判期日が入らないこともあります(東京簡易裁判所などは、2~3カ月先になる場合もあります)。速やかに即決和解を得たい場合、相手方と協議して、別の簡易裁判所を探し、そこで即決和解をする管轄の合意を取って申立てをすれば、2~3週間で期日が入り、速やかに即決和解を得ることができます。

以上(2025年7月更新)

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画像:Mariko Mitsuda

お化け屋敷にホラー映像…… 夏の「ゾッとする」コンテンツ市場

1 夏の風物詩……背筋も凍る“恐怖”が生むビジネスの可能性

毎年、夏になると、お化け屋敷やホラー映像などの「ゾッとする」コンテンツが盛り上がりを見せます。日本では納涼の文化と結びつき、「夏季限定ホラーイベント」などのエンターテインメントとして独特の市場を形成しています。

この記事では、この「ゾッとする」コンテンツ市場について、経済規模や事例、成長の兆しをデータに基づいて紐解き、ビジネスとしての可能性を探ります。

2 怖いけど人気。「ゾッとする」コンテンツの集客力

1)代表的な事例は?

日本国内での代表的なゾッとする体験といえば、富士急ハイランド(山梨県富士吉田市)の「戦慄迷宮」が挙げられます。2003年の開業以来、530万人の入館者を恐怖のどん底に落とし入れているホラーアトラクションです。全長は約900メートルあり、世界最長のウォークスルー型ホラーハウス(参加者自らが歩いて回る形の施設)としてギネスブックに登録された実績もあります。

また、東京・お台場のデックス東京ビーチ(東京都港区)内にある常設型施設「台場怪奇学校」は、これまでに累計100万人以上が来場した実績があります。

■戦慄迷宮■
https://www.fujiq.jp/special/senritsu/
■台場怪奇学校■
https://obakeland.net/

こうしたホラーアトラクションだけでなく、心霊スポットを巡る動画やホラーゲーム、都市伝説を題材にしたYouTubeやTikTokのコンテンツも若年層を中心に人気を集めています。

Z世代の15~19歳の年齢層で、55%以上が「ホラー動画(映画・ドラマ・アニメ)を観る」と回答した調査もあり、夏の恐怖コンテンツは「観られる」「体験される」ジャンルとなっています(闇「ホラーエンタテインメントに関するアンケート」)。

2)市場規模はどのくらい?

日本国内の「ゾッとする」コンテンツは、テーマパーク内の施設やイベント、映像コンテンツ、ホラーゲームなどの広範囲なビジネスが展開されており、市場全体としての統計はありません。

参考として、ホラー文化が成熟しているアメリカでは、成人の18%(約4650万人)がお化け屋敷に行ったことがあるとしています(全米小売業協会の調査)。また、営利目的のお化け屋敷も約2100施設あるとされています(スケア・ファクター お化け屋敷のレビュー会社)。

日本でも富士急ハイランドを筆頭に、商業施設やホテルとのコラボ企画、イベント会社による地方型お化け屋敷の展開などが進み、着実にマーケットは広がりを見せています。

3)「怖い体験」需要は増えている?

「ゾッとする」コンテンツへの需要は増加傾向にあります。その背景には、次のような要素があるといいます。

1.SNSで拡散されやすい

ホラーの「刺激的・非日常・スリル」といった要素や、短い時間で恐怖や驚きを与える要素は、SNSの拡散力や情報伝達が速いという特性と相性が良く、プロモーションがしやすいとされています。2023年5月にコロナ禍が明けて以降、イベント回帰の動きが加速したことも、こうした動きに拍車をかけているといえます。

2.最新テクノロジー、体験の導入

近年では、プロジェクションマッピングやAR(拡張現実)、4D演出を取り入れた“ハイテクお化け屋敷”も登場しており、没入感の強い体験が話題を呼んでいます。また、これまでの「一方的に来場者を怖がらせる」スタイルに限らず、謎解き体験を盛り込むことで「参加者が能動的にスリルを楽しむ」スタイルのお化け屋敷なども登場しています。

3.恐怖体験はますます身近に……

お化け屋敷というと大規模な設備が必要になるイメージがあるかもしれませんが、近年は車を活用した移動型のお化け屋敷やオンライン配信型のお化け屋敷など、自宅にいながら恐怖体験ができるものも登場しています。

4)経済効果:収益モデルと事業化の可能性

「ゾッとする」ビジネスは、入場料以外にも複数の収益源を確保しやすいのが特長です。例えば、お化け屋敷の企画、製作、演出、監修などを手掛けるZAUNTED(東京都杉並区)によると、アメリカのホラー施設では、次のような構造でマネタイズをしているといいます。

  • 入場料収入:約70%
  • グッズ・物販:約20%
  • 飲食売上:約10%

このマネタイズは日本でも応用されています。例えば、富士急ハイランドの戦慄迷宮やユニバーサルスタジオジャパンのハロウィンイベントでは、限定グッズやフードを販売しており、入場料と併せて大きな売上を生んでいます。また、前述した通りホラー系イベントはSNS映えしやすく、「広告換算効果」の面でもコストパフォーマンスが高いと評価されています。

イベント主催者にとっては、恐怖体験そのものが「集客装置」となり、来場者の感情を動かすことで、SNS拡散→集客→再訪といった好循環を生み出す設計が可能になります。

3 「ゾッとする」コンテンツ、注目ポイントは?

「ゾッとする」コンテンツ市場は、単なるエンタメではなく、感情設計と顧客体験のデザインが収益に直結する非常にビジネスライクなジャンルです。注目ポイントは、次の通りです。

1)地方創生×ホラー

町の中にお化け屋敷を作ったり、ホラーイベントを開催したりするなどして、地方に人を呼び込む動きがあります。

例えば、お化け屋敷制作やホラーイベント制作を手掛けるHLC(東京都杉並区)では、東京都杉並区で一軒家を丸ごと使用したお化け屋敷の「畏怖 咽び家(いふむせびや)」を運営しています。同社では、テーマパークや自治体と提携したホラーイベントも多数開催しています。

■オバケン■
http://obakensan.com/

2)映像技術やウェアラブルデバイスとの融合

ARやバイタルデータを活用することで、怖さを演出する事例もあります。

例えば、NTT西日本(大阪府大阪市)では、京阪電気鉄道株式会社が運営する「ひらかたパーク」のホラーイベントにバイタルデータ、振動デバイス、AR・位置情報などを活用した技術協力を行った事例があります。

来場者にリストバンドを装着してもらい、恐怖、怯え、平静、硬直、驚愕などの状態を「ビビり度」として見える化したり、位置情報共有サービスを採用し、スマートフォン画面にアイテムやお化けをARで表示したりするといった演出が盛り込まれました。

■NTT西日本「ひらパーお化け屋敷に振動デバイスと位置情報やARを活用した技術協力」
https://www.ntt-west.co.jp/news/1807/180713a.html

以上(2025年7月作成)

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画像:yosei-illustAC