【債権回収(6)】債権回収が有利になる契約書の定め方

書いてあること

  • 主な読者:必要な事項を契約書に定めて、債権回収のリスクを低減したい経営者
  • 課題:具体的にどのような条項を定めたらよいのか分からない
  • 解決策:「期限の利益喪失」「約定解除」は必ず、「担保権」はできれば定める

1 信用できる相手でも契約書を交わしましょう

「信用できる相手だから」といって、契約書を交わさずに取引していないですか? これはビジネスを進める上でとても危険なことです。口約束だけの状態でお金のトラブルになってしまったら、双方が「言った、言わない」を主張してもめてしまいます。裁判に発展した場合も、債権回収の根拠を立証するのが難しく、敗訴してしまうことさえあります。そのため、

必ず契約書を交わす

ことが不可欠で、さらに、

  1. 支払条件(弁済条件):定められた期日に確実に支払いをしてもらえるようにしておく
  2. 期限の利益喪失:支払期日前でも債務履行(支払い)を促せるようにしておく
  3. 約定解除:一定の事態が生じた場合に契約を解除できるようにしておく
  4. 担保権:回収不能となった売掛債権を担保で回収できるようにする

の4つについて定めたいところです。

この記事をお読みになっていただければ分かりますが、お金を払わない相手が悪いのに、それを取り返すまでには「もどかしい」ともいえる手続が必要です。そして、債権回収を進める上で契約書が重要な役割を果たします。

2 基本的だが重要な「支払条件(弁済条件)」

基本的ですが、支払条件(弁済条件)の記載はとても大切なことです。例えば、契約書に取引代金の総額が記載されていたとしても、

  • 支払期日がいつなのか
  • 取引代金は一括して支払われるのか
  • 取引代金の支払いには条件があるのか(物を先に提供することが条件であるなど)

といったことが明記されていないと、債権者の想定通りに債務者が代金を支払わないことがあります。こうしたことがないように、支払条件について明確に契約書に定めておきましょう。

3 「期限の利益喪失」と「約定解除」

1)「期限の利益喪失」と「約定解除」の考え方

例えば、業界関係者などの情報で取引先が支払期日前に不渡りを出すことが分かっていたら、こちらとしては納品した商品だけでも回収したいと考えます。ところが、原則としてそれはできません。なぜなら、

債務者が不渡りを出しても、支払期日まで弁済する義務がない(期限の利益)

からです。なんとも納得できない状況なわけで、そうならないためには、

契約書で先手を打つ

必要があります。具体的には、不渡りなど一定の事態が生じた場合、

債務者に支払期日前であっても債務を弁済する義務を生じさせ(期限の利益喪失条項)、債権者が直ちに契約の解除権を行使できる(約定解除条項)

ようにしておくのです。

ここで約定解除という言葉が出てきたので説明します。契約の解除には、

  • 約定解除:契約書に定められた条件に該当する場合の解除
  • 法定解除:債務者に法律で定められている「債務不履行」などがあった場合の解除

があります。約定解除とは、「不渡りを出したとき」など、契約書で定める条件に該当した場合に契約を解除できるものです。また、法定解除の条件の一つである債務不履行には、

  1. 履行遅延:支払いが遅れているなど
  2. 履行不能:支払うことができないなど
  3. 不完全履行:一部しか支払われていないなど

の3つがあります。

法定解除の場合は、債務不履行があっただけでは、解除権の行使はできず、履行の催告などの手続きを経なければならないので、約定解除条項を定めておく方が、有利となります。

2)契約書における「期限の利益喪失」と「約定解除」の規定例

期限の利益喪失と約定解除は、契約書には次のように定めます。

第○条(期限の利益喪失)

乙(買主)に次の各号のいずれかの事由が生じた場合、乙は甲(売主)の通知催告がなくても、本契約上の甲に対する債務につき当然に期限の利益を失い、本債務の全額を直ちに弁済する。

  1. 1度でも支払いを怠ったとき
  2. 手形、小切手不渡りの事実のあったとき
  3. 破産、民事再生、会社更生、特別清算などの申立てをし、または申立てがなされたとき
  4. 差押え、仮差押え、仮処分、担保権の実行としての競売申立て、租税滞納処分その他これらに準じる手続の開始がなされたとき
  5. 監督官庁より事業停止命令を受け、または事業に必要な許認可の取消処分を受けたとき
  6. その他本契約に定める条項に違反したとき
  7. 資産、信用または支払能力に重大な変更が生じたとき
  8. その他前各号に準じる事由が生じたとき

第◯条(約定解除)

乙に第○条各号(上の第○条(期限の利益喪失)条項の各号を指します)のいずれかの事由が生じた場合には、甲は催告なくして、直ちに本契約を解除できる。

なお、期限の利益喪失には、上の例のように「請求しなくても当然に期限の利益を喪失させる」定め方と、「一定の事実が発生した場合に、自社からの請求により期限の利益を喪失させる」定め方があります。後者の場合、通常、自社から「内容証明郵便」でその旨を通知し、期限の利益を喪失させます。

3)「倒産解除特約」の有効性

前述した期限の利益喪失の条項において、「3.破産、民事再生、会社更生、特別清算などの申立てをし、または申立てがなされたとき」と示しましたが、こうした定めを「倒産解除特約」と呼びます。

倒産解除特約については、会社更生手続の場合に無効とする最高裁判例(最判昭和57年3月30日)や、民事再生手続の場合に無効とする最高裁判例(最判平成20年12月16日)があります。また、破産手続については、無効とする地裁判例(東京地判平成21年1月16日)もあります。

そのため、「倒産解除特約を定めれば安心」というわけではなく、その有効性については議論の余地があることを認識しておきましょう。実際には、

倒産解除条項ではない解除条項で解除をする、あるいは当該条項を交渉材料にして合意解約する

ことが、無用な争いを避ける上で望ましいといえます。

4)約定解除の効果

約定解除をすると、売主(債権者)には次の行為が認められます。

  1. 納入済み商品(継続的契約の場合は代金未払い分のみ)の引き揚げ要求
  2. 未納品の出荷停止

「回収できるうちに、回収できるものを回収する」というのが債権回収の基本ですから、商品の引き揚げができる約定解除は効果的です。ただし、

約定解除をしても、返還請求権が売主に発生するだけで、強引に商品を引き揚げることまでは許されない

ことに注意が必要です。「自力救済の禁止」といって、債権者が裁判などによらず強制的に力を行使することは禁止されているからです。場合によっては、窃盗罪、恐喝罪の刑事事件にもなりかねません。そのため、商品の引き揚げは、買主(債務者)の同意を得た上で行うほうが無難です。具体的には、

  • 甲(売主)が本契約を解除したとき、甲は未納品の商品については引渡義務を免れ、納入済みの商品については返還を求めることができる
  • 乙(買主)が甲より商品返還を求められた場合、乙は速やかにこれに協力しなければならない

といった具合です。

こうすると、買主に対して、商品の引き揚げの承諾を取り付けやすくなりますし、買主の明示の承諾がなくても、黙認していれば引き揚げはできますが、後に同意の有無に争いが生じた場合、窃盗罪などに問われる恐れがあります。そのため、

同意が得られない場合は商品の返還請求訴訟を起こす必要がありますが、判決が下されるまで商品を執行官に保管してもらうために、占有移転禁止の仮処分を申し出る

などの保全策を講じなければなりません。

5)契約書に「解約条項」も定める

解約とは、

当事者の一方の意思表示により、将来に向かって解約するというもので、「3カ月前に通知すれば解約できる」

といったように定めるものです。約定解除に該当する状態に至らなくても、取引先の倒産を察知した場合などに行使することができます。

4 「担保権」の効果と定め方

1)担保権とは

担保権には、

  • 約定担保:抵当権や連帯保証のように契約書によって発生するもの
  • 法定担保:先取特権のように当然に発生するもの

があります。

約定担保についてもう少し説明します。例えば、初めての取引や、少し不安を感じる相手(実績がないなど)との取引の場合、将来、売掛金などの回収ができなくなるかもしれないと心配なものです。そうしたときは、

不動産を差し押さえたり、経営者個人から債権を回収したりできるようにする

ことが、担保の設定となります。

2)物的担保と人的担保

担保権には、物的担保と人的担保とがあります。

物的担保とは、

債務者や債務者以外の第三者が持つ特定の財産から、優先的に弁済を受けられるもの

です。物的担保の対象になるのは、主に不動産と債権です。その他、機械、商品、有価証券、ゴルフクラブ会員権、船舶、自動車、工場財団なども対象になります。不動産を担保にする場合、登記と実態の両方をチェックすることが重要です。登記のチェックは不動産鑑定士や司法書士、土地家屋調査士などに依頼できます。また、実態のチェックは、どのような不動産なのかを実際に目で確かめる必要があります。

人的担保とは、

債務者以外の第三者から、債務者に代わって弁済を受けることができるもの

です。人的担保の代表的な制度が「保証」です。保証とは、

主債務者が債務の弁済ができない場合に、主債務者に代わって保証人が債権者に弁済すること

であり、代表者個人の連帯保証などがあります。

3)契約書における「担保権」の規定例

担保権は、契約書には次のように定めます。

第◯条(担保権の設定)

担保権を次の通り設定する。

  1. 乙(買主)は、甲(売主)のために、甲に対する売買代金支払債務を担保するため、乙の所有する土地(〇〇県〇〇市〇〇町〇―〇―〇所在)に抵当権を設定するものとし、甲乙間において別途抵当権設定契約書を締結する
  2. 丙(連帯保証人)は、乙(買主)の連帯保証人として、本契約に基づく甲(売主)の乙に対する一切の債務を極度額◯◯円の範囲で連帯して保証する

なお、物的担保や人的担保の差し入れについて了承が得られても、優先する物的担保が設定されていたり、保証人に全く資産がなかったりする状況では債権が回収できないため、事前の調査は不可欠です。

4)民法改正による保証ルールの変更

2020年4月1日施行の改正民法によって、保証に関する民法のルールが大きく変わりました。まず、個人(法人は含まれません)が保証人になる根保証契約(将来発生する不特定の債務まで保証する契約 )については、

保証人が支払責任を負う上限額である「極度額」を定めなければ、保証契約は無効

となります。また、個人が事業用融資の保証人になろうとする場合、公証人による保証意思の確認を行わなければならないことになりました。かかる意思確認の手続を経ずに保証契約を締結しても、その契約は無効となります。

その他、個人が保証人になる根保証契約について、保証人が破産したり、主債務者または保証人が亡くなったりすると、元本が確定し、その後に発生する主債務は保証の対象外となることが定められました。

さらに、保証人になることを主債務者が依頼する際の情報提供義務や主債務の履行状況に関する情報提供義務、主債務者が期限の利益を喪失した場合の情報提供義務が定められました。

きちんとした手続きを経ないと無効になる場合もありますので、保証のルールを把握しておきましょう。

以上(2023年9月更新)
(監修 有村総合法律事務所 弁護士 有村佳人)

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画像:Mariko Mitsuda

【朝礼】今の頑張りは、過去の自分さえ輝かせる

おはようございます。この会社を退職していく社員がいます。残念なことですが、新天地でのさらなる飛躍を期待しています。忘れないでほしいのは、退職してもこの会社にいた事実は変わらないこと、そして、新天地でもこの会社の元社員という肩書を背負い続けるということです。

これは、今この会社で働いている皆さんにとっても同じことがいえます。皆さんもまた、この会社の社員という肩書だけでなく、過去に勤めていた会社や、出身校に所属していたという歴史を背負い続けるのです。

そのことをよく理解してもらうために、少し昔の話ですが、サッカー元日本代表のゴールキーパー・楢﨑正剛(ならざきせいごう)さんのエピソードを紹介します。楢﨑さんは1999年に、所属していた横浜フリューゲルス(以下「横浜F」)というチームが消滅してしまったため、当時の名古屋グランパスエイト(以下「名古屋」)への移籍を余儀なくされました。楢﨑さんはその後の約20年間、他チームからのオファーを断り続け、引退するまで名古屋でプレーし続けました。

楢﨑さんが移籍をしなかった大きな理由が、かつて所属した「横浜F」の存在でした。サッカー選手は、選手紹介などの際に、前の所属チームも記載されることが少なくありません。楢﨑さんは、なるべく長い間、前の所属チームの欄に「横浜F」の名前を残したいという思いで、移籍を断り続けたといいます。

実際に、楢﨑さんが日本代表や名古屋で活躍するたびに、すでに消滅した「横浜F」の名前が登場しました。そのことで、横浜Fの存在を忘れていた人や、存在自体を知らなかった人に、かつて日本代表ゴールキーパーを育てた強豪チームがあったことを認識してもらえたはずです。そして、「あの楢﨑さんが所属したチーム」として横浜Fは語り継がれ、かつての所属選手やファンが誇りを持ち続けることにもつながったでしょう。

楢﨑さんのように、私は皆さんにも、今この会社で頑張って評価を高めることが、前の会社や出身校の評価を高めることにつながるのだということを意識してもらいたいです。そして、前の会社や出身校の評価が高まれば、今度は逆に、皆さんが「あんなすごい会社や学校にいたんだ」と評価されるケースも出てきます。皆さんは過去を書き換えることはできませんが、その過去の評価は、今の頑張りによって変えられます。つまり、今の頑張りは、過去の自分さえ輝かせることができるのです。逆に、皆さんが何か問題を起こせば、今だけでなく、過去の自分の評価まで下がってしまうこともありますから、そこは注意が必要です。

「今の自分だけが自分だ。過去は関係ない」という考えの人もいるでしょう。ですが、どんな人も過去が積み重なって今の自分があります。過去に縛られる必要はありませんが、楢﨑さんのように、過去を誇りに思うからこそ湧いてくる力があるというのもまた事実なのです。

以上(2023年9月)

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画像:Mariko Mitsuda

やらないと損! 経費精算で必要なインボイスの基礎を今すぐ社員に伝えよう

書いてあること

  • 主な読者:経理担当者と経費精算をしている全ての社員
  • 課題:インボイスの開始で、新たに経費立て替え時のチェック項目が増える
  • 解決策:登録番号、適用税率、税率ごとの消費税、宛先の記載の有無を立て替えた社員が立て替え時に確認する

1 全社員に関わるインボイス

2023年10月1日に始まるインボイス制度は、経理部門はもちろん、会社で働くすべての人に関わってきます。見落としてはいけないのが、

  • 外出や出張にかかる「旅費交通費」
  • 消耗品や書籍の「購入費」

などです。これらを立て替える際に受け取った領収書や請求書がインボイス(インボイス登録事業者が発行できる請求書など)でないと、

会社が納税する「消費税」の負担増

につながります。厳しいのは、支払先がインボイス登録事業者であっても、

記載事項に不備があるとインボイスとは認められない

ことです。もし、インボイスの記載項目に不備があり、それが経費精算時に判明した場合、その対処(発行先に再発行を求めること)は実務上現実的ではありません。ですから、社員が立て替えた時に、インボイスであるかどうかをチェックする必要があるのです。

具体的な注意点をこの記事で分かりやすくまとめますので、社員の方に回覧するなどして、周知徹底することをおすすめします。

2 従業員がすべき4つのチェック項目

経費を立て替えた際のチェック項目は、次の4つです。

□登録番号(T0000000000000_業者ごとに異なる)の記載があること

□適用税率の記載があること

□税率ごと(8% or 10%)に区分した消費税の記載があること

□宛先は、事業者名であること(事業者名でなく、個人名の場合には経費精算書が必要になります)

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ただし、最後の宛先は、

不特定多数が利用する飲食店やタクシー、小売業(コンビニやスーパーなど)などについては、省略されていてもインボイス(適格簡易請求書)として認められる

ことになっています。

3 インボイスをもらわなくても良いケース

次の取引はインボイスをもらわなくても大丈夫です。

  • 3万円未満の公共交通機関(バス、鉄道または船舶)による旅費交通費
  • ※飛行機はこの対象から除かれるため、インボイスが必要。

  • 3万円未満の自動販売機や自動サービス機(コインロッカーやコインランドリー、ATM手数料など)による商品購入費

上記の取引以外は、原則として、どんなに少額でもインボイスの保存が必要です。

4 どういうときに注意が必要か

基本的に大手百貨店や法人タクシーなどは、インボイス対応が徹底されているので心配ないかもしれません。逆に、注意が必要なのは、

支払先が飲食店、個人商店、個人タクシーなどのケース

です。インボイス登録事業者であっても、記載事項に不備がある場合(お店によっては、印鑑で対応している事業者もある)も想定されますので、インボイス受領時にチェックしましょう。なお、コンビニなどフランチャイズ展開しているチェーン店などは、店舗ごとにインボイス登録が必要です。大手コンビニの店舗であってもインボイス発行事業者でないケースもある点は知っておきましょう。

また、

クレジットカードで決済した経費

については、請求明細ではなく、決済先ごとのインボイスが必要になります。特にクレジットカードを利用してオンライン決済した場合、インボイスのダウンロードは忘れずに行うようにしましょう。

以上(2023年9月作成)
(監修 辻・本郷税理士法人 税理士 安積健)

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仕事はできるが態度が悪い問題社員。辞めさせたくなければ解雇する前に手を打つべし!

書いてあること

  • 主な読者:仕事はできるが、勤務態度が悪い社員に困っている経営者や人事労務担当者
  • 課題:解雇もやむを得ないが、仕事はできるのでいなくなった後の影響が大きい?
  • 解決策:「服務規律違反」には毅然と対処しつつ、「解雇する前」の段階で手を打つ

1 優秀だけど問題が多い社員。残すかどうか?

仕事はできるが、短気で口が悪い、上司の命令に従わない、遅刻が多いといった問題の対応は難しいものです。ただの問題社員なら、場合によっては辞めてもらう(解雇する)という選択肢がありますが、相手が会社の中核を担う優秀な社員だと、辞めた後の影響が心配です。とはいえ、優秀だからといって問題社員を放置するわけにはいきません。

このようなケースにどのように対応すべきかについて、次の2つを紹介します。

  • 誰が相手でも「服務規律違反」には毅然と対処する
  • 辞めさせたくないなら「解雇する前」の段階で手を打つ

2 誰が相手でも「服務規律違反」には毅然と対処する

就業規則には「服務規律(社員が守るべき基本的な行動規範)」があります。誰が相手でも「服務規律」を厳格に適用することが基本です。その上で、勤務態度が悪い社員には次のような流れで対処します。

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図表のうち、2)については労働条件通知書、雇用契約書や就業規則への定めが、3)から5)については就業規則への定めが必須です(ただし、1)については特に定めは不要)。

また、5)の「普通解雇」とは、

社員としての適性がない(能力、健康状態、勤務態度などに問題がある)ことを理由とする解雇

です。問題社員に対処する場合、「懲戒解雇」をイメージする人も多いでしょうが、懲戒解雇は原則、横領やハラスメントなど重大な問題行為を対象とした処分なので、単に勤務態度が悪い社員に対して行っても無効となる可能性が高いです。

図表のケースであれば、1)から4)までの行程を経ても社員の勤務態度が改善されなければ、5)の普通解雇は免れないという考え方です。逆に言えば、

1)から4)までの行程で社員が問題行為を起こさない状況をつくれば、解雇する必要はなくなる

ということになります。次章では、「『解雇する前』の段階で手を打って社員を会社に残す」という観点から、図表の各行程のポイントを紹介していきます。

3 辞めさせたくないなら「解雇する前」の段階で手を打つ

1)注意:問題行為は必ず注意する。ただし、社員の言い分も聞く

社員の勤務態度に問題があれば、まずはその上司が「君の言動は間違っている。改めなさい」などと注意します。大切なのは、「問題行為を発見したら必ず注意する」という姿勢です。時によって対応がまちまちになると、せっかく注意をしても社員から「今日は、上司の機嫌が悪いから注意されたのかな」などと、軽く受け取られる恐れがあります。

また、注意する際は社員の言い分も聞きます。例えば、仕事の進め方について上司の命令を聞かない社員は、もしかしたら自分のやり方のほうが合理的だと思っているかもしれません。実際にそうならば、

「君のやり方のほうが良さそうだ、今回はそれでやってみよう。ただし、次回から自分の考えを試したい場合は事前に相談してくれ」

と社員の意見を取り入れつつ、相談を怠ったことを注意します。

繰り返し注意しても改善が見られない場合、

「注意書」「指導書」などの形で、どのような注意をしたかを書面で残しておく

と、「言った、言わない」のトラブルになるのを防げます。

2)配置転換など:問題行為を起こしにくく、能力を発揮できる状況をつくる

注意しても社員の勤務態度が改善しなければ、

  • 短気で口が悪い社員は、他の社員と関わらずに1人でできる業務を与える
  • 上司の命令に従わない社員には、思い切って権限を移譲してみる
  • 遅刻が多い社員は、「9時始業、18時終業」などの均一的な労働時間管理が適していない可能性を考え、働く時間を自分で決められる「フレックスタイム制」を適用する

といった具合に、配置転換や労働条件の変更を検討します。社員の勤務態度を改めさせるというよりも、社員が問題行為を起こしにくい状況をつくるイメージです。

ただし、例えば「問題行為は起きにくいが、単純作業しか行わないポジションに就ける」といった配置転換は、場合によってはパワーハラスメントになる恐れがありますし、優秀な社員を活用し続けたいという会社側の意図にも反します。ですから、

社員が「どうすれば問題行為を起こしにくいか」だけでなく、「どうすれば能力を発揮しやすいか」も考慮した上で、配置転換などを実施することが大切

です。

3)懲戒処分:貢献度に応じて処分を軽減しつつ、警告を忘れない

配置転換などをしても効果がなければ、就業規則の懲戒事由に基づいて懲戒処分を検討します。懲戒処分は、一般的に次の7種類に分けられます。なお、社員の問題行為に対して重すぎる懲戒処分や、弁明の機会を与えずに行った懲戒処分は無効になり得ますので注意が必要です。

  • 戒告:厳重注意を言い渡す(懲戒処分として行うので、前述した「注意」とは異なる)
  • けん責:始末書を提出させ、将来を戒める
  • 減給:一定期間、賃金額を下げる
  • 出勤停止:数日間、出勤することを禁じ、その間は無給とする
  • 降格:役職の罷免・引き下げ、または資格等級の引き下げを行う
  • 諭旨解雇:退職届の提出を勧告した上で、退職届の提出がなければ解雇とする
  • 懲戒解雇:即時に解雇する

一概には言えませんが、単に勤務態度が悪い社員に対して懲戒処分を行う場合、

一般的には「1.戒告」から「3.減給」あたりが妥当(「口が悪い」が行き過ぎてパワハラに当たる指導を繰り返した場合などは、「4.出勤停止」「5.降格」もあり得る)

です。実際は、「当該行為の動機、目的、方法、頻度等の行為態様」「会社に与えた損害や周囲への影響」「社員の過去の処分歴・指導歴や反省態度」「会社側の落ち度」「社員の会社への貢献度」などを考慮して慎重に判断します。例えば、社員が過去に新サービスを立ち上げたなど、客観的に評価できる実績がある場合、

その貢献度を考慮して、処分を引き下げること

が可能です。とはいえ、単に処分を軽くするだけだと社員が増長する恐れもあるので、

「今回は、君のこれまでの会社への貢献度を考えて軽い懲戒処分とする。ただ、今後勤務態度に改善が見られなければ、次はより重い処分を科す用意がある」

といった具合に、社員が反省しない場合の警告もします。

4)退職勧奨:退職を促しつつ、社員に反省の意思があれば雇用継続を検討する

懲戒処分後も状況が変わらなければ、「退職勧奨」の実施を検討します。退職勧奨とは、

会社から社員に自主退職を促し、社員が同意した場合に退職させること

で、一般的な流れは次の通りです。

  • 「注意」「配置転換など」「懲戒処分」を実施したが状況が改善しなかったため、会社としては社員に自主退職してもらいたいと考えている旨を伝える
  • 退職勧奨に応じる場合の条件(退職金の支払い、年次有給休暇の消化など)について説明する
  • 社員に退職勧奨に応じるかを確認し、応じた場合に退職が成立する

退職勧奨は、会社が一方的に労働契約を解除する解雇と違い、社員に退職を強制するものではありません。ですから、

仮に社員がこの時点で「退職したくありません、これまでの勤務態度を改めます」などと言ってくるようであれば、反省の様子によっては雇用を継続する

という選択肢もあります。逆に、ここでも社員が反省せず退職勧奨にも応じない、あるいは「勤務態度を改める」というのが口だけで、その後も改善が見られないといった場合、解雇せざるを得ないという判断になります。

5)普通解雇:この行程まで来たら雇用継続は諦める

退職勧奨後も改善が見られなければ、「普通解雇」の行程に移ります。労働基準法では、

普通解雇に限らず、解雇はその30日前に解雇予告をして実施しますが(解雇予告手当を支払えば日数を短縮可)、一度解雇予告をしたら会社の意思で撤回することは不可

です。つまり、普通解雇を決定したら、社員の雇用を継続するのは諦めなければなりません。繰り返しになりますが、どれだけ優秀であっても、この行程まで来て勤務態度に改善が見られないような社員を雇用し続けることは、企業秩序を危うくします。企業秩序と社員の定着、両立できればそれが一番ですが、

いざ両立が難しくなったときは、企業秩序を優先するという姿勢を貫くこと

が大切です。

以上(2023年10月)
(監修 弁護士 田島直明)

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追突事故防止の徹底~車間距離の確保~(2023/9号)【交通安全ニュース】

活用する機会の例

  • 月次や週次などの定例ミーティング時の事故防止勉強会
  • 毎日の朝礼や点呼の際の安全運転意識向上のためのスピーチ
  • マイカー通勤者、新入社員、事故発生者への安全運転指導 など

交通事故で最も多いのが追突事故です。ご自身や身近な人で追突事故を経験されたという方もいらっしゃるのではないでしょうか。

ちょっとした追突でもその衝撃力は人体にとって大きなものです。追突されて頸椎捻挫やその後遺症などで辛い思いをしている人も多くいます。

今回は、追突事故を起こさない、巻き込まれないために気を付けたいことについて考えます。

追突事故防止の徹底

1.追突事故の件数と発生要因

◆交通事故の3割が追突事故

下図の類型別交通事故件数では、追突事故が9.2万件と最も多く、全体の31%を占めています。つまり追突事故は交通事故の中で身近に起きる事故と言えます。

類型別交通事故件数

出典:警察庁「令和4年中の交通事故の発生状況について」から当社作成

◆追突事故の三大要因

追突事故発生の人的要因では、 「脇見運転」「判断の誤り等」「漫然運転」の3つの要因で全体の78%を占めています。

追突事故の三大要因

出典:公益財団法人交通事故総合分析センター「令和4年版交通統計」から当社作成

運転中に「周りの風景などに気を取られてしまった」「前車が急減速しないと思い込んでいる」「運転以外のことを考えたり、ぼんやりとしてしまう」といったことに覚えはないでしょうか。この3つの要因は運転者の誰にでも起こり得ることです。

上記要因を考えると、追突事故は運転への集中力が低下してしまったときに起こると言えます。

従って、追突事故を防止するには、体調に気を配り、ハンドルを握ったら運転に集中できるように日頃から準備しておくことが大切です。

2.車間距離の確保

追突事故を防止するためには運転に集中していることが大切ですが、いくら気を付けていても時には集中が途切れてしまうこともあります。

そこで重要なのが、十分な車間距離を確保して運転することです。前車の急減速、急停車に気が付くのが少し遅れたとしても、十分な車間距離を確保して運転していれば、追突するリスクが軽減できます。

車間距離の確保

しかし、車間距離が重要だといっても走行中に車間距離を適切に保つことは意外と難しいものです。いつの間にか車間距離を詰めてしまっていることもあるのではないでしょうか。

参考に、車間距離の取り方の一例を紹介します。

<車間距離の取り方~時間をカウントする方法~>

道路沿いの標識や電柱などを目印とし、前車が目印を通過した時点から自車が通過するまでの時間を数えます。

一般道路であれば2秒以上、高速道路であれば3秒以上が車間距離の目安です。早く数え過ぎないよう「ゼロイチ、ゼロニ、ゼロサン」とゼロを付けて数えることがポイントです。

車間距離の取り方

昨今、前車との車間距離を詰めて運転しているとあおり運転を疑われることも多くなっています。

またそれがトラブルに発展することもあるので車間距離を意識することが大切です。

3.追突されない心がけ

追突される要因の一つとして前車との十分な車間距離を確保していない点があげられます。車間距離を詰めすぎると、加速・減速の速度変化が多くなり、運転操作等の余裕もなくなります。

十分な車間距離を確保して、次の運転を実践しましょう。

追突されない心がけ

  • ブレーキを踏む前に後方確認する。
  • 減速や停止の合図を早めに送る。
  • 車線変更するときは周りの交通状況に配慮する。

以上(2023年9月)

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【業務効率化】営業担当者の内勤業務を軽減する取引関連書類のペーパーレス化

書いてあること

  • 主な読者:営業担当者が社内にいることが多いと思っている経営者
  • 課題:営業担当者の内勤業務を効率化させたい
  • 解決策:まずは見積書・請求書・発注書などの取引関連書類のペーパーレス化を行う

1 御社の営業担当者、書類の処理に忙殺されていませんか?

「うちの営業担当者は、社内でデスクワークをしている時間が長いな」と感じている経営者の皆さん。その大きな要因として、

内勤業務における書類のペーパーレス化が進んでいない

ことが考えられます。紙文化から脱却しない限り、営業担当者は

会社に戻って取引関連の書類を作成したり、顧客情報を確認したりすることに忙殺される

ことになります。この状況を改善し、ペーパーレス化を推進すれば、次のようなメリットもあります。

  1. 業務の効率化
  2. 好事例のノウハウ共有化とアップデート
  3. コストの削減
  4. 上司や経理とのリアルタイムでの情報共有
  5. 社内スペースの有効活用
  6. 環境負荷の低減

この記事では、営業担当者の業務効率化に焦点を当て、ペーパーレス化によって得られる6つのメリットと、ペーパーレス化を行う4つの方法についてご説明します。

2 ペーパーレス化で得られる6つのメリット

1)業務の効率化

情報が場所に縛られなくなるメリットは絶大です。リモートワーク中でも情報の確認ができるようになるなど、業務の大幅な効率化が期待できます。

外出先でも閲覧や情報入力ができるようになることはもちろん、紙の書類を1ページずつめくらなくても、検索すれば結果がすぐ見つけられるのでとても便利です。さらに、情報の抜け漏れについても、紙での管理と比べ「見える化」しやすくなります。

2)好事例のノウハウ共有化とアップデート

営業に関する提案書などは、書き手によって成果に差が出やすいものです。また、請求書や発注書を送付する際にちょっとした文章を添えられる営業担当者は、取引先から良い印象を得ることができます。

こうした営業に関連する書類は、好事例を基に書式をテンプレート化すれば、全ての営業担当者の書類作成能力をレベルアップできますし、省力化にもつながります。テンプレート化は紙ベースでもできますが、ペーパーレス化すればテンプレートを日々改良できるメリットも得られます。

3)コストの削減

紙に印刷するコストをはじめ、印刷物や封筒の印刷費・郵送費などを削減できます。また、個人情報が含まれた紙の資料を廃棄する場合はただ捨てるわけにはいかず、シュレッダーで裁断したり、溶解処理を依頼したりする必要があります。こうしたコストも、ペーパーレス化を進めることで削減できます。

4)上司や経理とのリアルタイムでの情報共有

見積もりや請求といった営業事務を紙ベースで行う場合、こうした書類は営業担当者それぞれの管理となります。営業担当者は作成した書類を持って、

  1. 上司の承認を得る(場合によっては上司の上司からの承認も得る)
  2. 経理に回す

といった作業が発生します。この点、見積書や請求書をペーパーレス化すれば、上司や経理担当者とも手軽に共有して「見える化」でき、不正の防止にもつながります。

5)社内スペースの有効活用

営業関連の過去の書類をペーパーレス化すれば、紙の書類の置き場所をなくすことができます。空いたスペースは福利厚生などに活用することができるかもしれませんし、オフィス全体のスペースを縮小できればコスト削減につながります。キャビネットなどに溜まった書類整理の作業も削減できます。

6)環境負荷の低減

紙の印刷物が不要となることで紙の消費量が減り、環境負荷の低減につながります。ペーパーレス化はSDGsにもつながる取り組みであり、実際に使用する紙の削減率といった数値化目標や実績を掲げ、社会貢献をアピールしている会社や団体もあります。

3 ペーパーレス化を行う4つの方法

実際にペーパーレス化を進める方法について、取り組みやすい順に説明します。

1)データスキャンによるPDF化

最もシンプルなのがこの方法です。既存の紙の書類をスキャナや複合機などでスキャニングし、PDFの形でデータ化していきます。紙の書類をPDF化した場合の利便性を高めるポイントが2つあります。

1.ファイル名の付け方の統一

この場合に重要なのはファイル名の命名規則です。どのような情報が含まれているのかファイル名から分かれば、検索性が飛躍的に高まります。ファイル名に含める情報の例としては、ファイル作成日、顧客名、書類種別、バージョン(改版がある場合)などが挙げられます。例えば、2023年9月20日に作成したA社の見積書の、2度目の修正データであれば「20230920_A社_見積書_C.pdf」といった命名を行うとよいでしょう。

こうした命名規則を採用する場合は、データ作成者によって入力のブレが生じないよう、明確にルールを規定し、運用していく必要があります。

2.PDFの中身の文書を検索可能にする

ファイルの中身まで検索対象にする場合、「OCR」を活用するとよいでしょう。OCRはOptical Character Recognition(光学的文字認識)の略で、スキャンした文字を認識してデータ化する手法、またデータ化された情報のことを指します。OCR処理を行うことで、完全ではありませんが、内容についても検索対象とすることができます。

Adobeが提供するAdobe Acrobatを使用すると、画像から作成されたPDFファイルに対してOCR処理を行い、文章の文字認識およびAcrobat上での文字列コピーが行えるようになります。自動処理のため、特に手書きの認識精度についてはあまり期待できませんが、検索のヒントにはなるでしょう。より高い精度を求める場合は、専用のOCRソフトが必要になります。

2)WordやExcelなどのオフィスソフトの活用

新規の書類やデータのペーパーレス化を行う場合は、Word(ワード)やExcel(エクセル)などのオフィスソフトを使うことを検討してもよいでしょう。

ビジネス用途ではMicrosoft Officeの普及率が圧倒的なので、これらのソフトで作成されたデータは汎用性も高く、取引先も使用している可能性が高いです。取引先に対して、WordやExcelに入力した情報をメールやメッセージングソフトで送付し、取引先から内容を追記して送り返してもらう、というワークフローを構築することも可能です。

ただし、これらのソフトが苦手とするのが、複数人が1つのファイルを扱う場合です。各人が同じファイルに同時に書き込みを行った結果、他の人が入力したデータを上書きして消してしまうことは珍しくありません。

3)クラウドの活用

複数人が1つのファイルを扱う問題の解消のために、DropboxやGoogleドライブなどのクラウドストレージにファイルをアップし、履歴データを残して修正する方法があります。

また、Word/Excelの代わりに、Googleが提供するビジネスツールGoogle Workspaceの1機能であるGoogle ドキュメント/Google スプレッドシートを使うことも一策です。複数人が同時にデータにアクセスして情報を書き込むことができます。

Google ドキュメント/Google スプレッドシートは、それぞれWord/Excelと互換性がありますので、これまでWord/Excelを使っていた会社も、容易に移行できます。

4)専用ソフト(システム)・会計ソフトの活用

より専門性の高いデータの場合、専用のソフトやシステムを導入する方法が考えられます。専用のアプリケーションが多数存在するので選択肢は豊富ですが、自社のデジタル化が不十分な段階で高度なソフトを導入しても使いこなすことは難しいので、段階的に導入を図っていきましょう。

この他、営業に関する情報に関しては、営業管理ツールであるSFA(Sales Force Automation)や、顧客管理ツールであるCRM(Customer Relationship Management)の活用により、顧客情報や案件情報、事例共有などのデータを見える化し、効率的な企業活動、営業活動を行うことができます。

4 ペーパーレス化のための課題とデメリットにも留意を

ここまでペーパーレス化によるメリットを挙げてきましたが、デメリットもあります。よく聞かれるデメリットについて述べていきます。

1)情報が見づらい

B4判やA3判いっぱいに印刷された数値資料など、大判の印刷を前提としたデータは、ディスプレイ上での確認では可読性が大幅に落ちてしまいます。こうしたデータはA4判に収まるようにフォーマットを調整するなど、ペーパーレス化を前提として情報の見せ方を変更しましょう。

2)データ消去のリスク

紙の書類の場合は現物が存在するため、きちんと管理を行っていれば紛失のリスクは低いです(盗難や紛失のリスクはゼロではありません)。

一方、データはうっかり消去してしまうリスクが高まります。また、社内サーバに保管していた情報が落雷によって全て消えてしまうというケースを目にしたこともあります。こうしたリスクは、情報のバックアップ体制を整えることである程度回避できますが、運用コストの増大を招くケースもあります。

3)運用コストの増大

ペーパーレス化を進めれば削減できるコストがありますが、逆に増えるコストもあります。例えば、バックアップやストレージのコストは、データの増加に伴って年々増大していきます。書類データは基本的に画像になるため、テキストデータに比べるとデータ量も増えがちです。また、セキュリティー対策にもコストがかかります。

4)避けて通れない印鑑の電子化

見積書や請求書についてまわる「印鑑」の問題も見逃せません。ペーパーレス化を図っても、承認の段階で一度印刷、捺印(なついん)を受けて、紙になった書類を再度データ化するというのは、多大なムダであることはお分かりいただけるでしょう。

電子印鑑のサービスも増えてきており、紙を経由しない完全ペーパーレスのワークフローも現実のものとなりつつあります。こちらは顧客とのやり取りが発生する事柄のため、自社だけでは解決しにくい面はありますが、社会的にも脱ハンコの流れは進んでいます。

5)電子書類の保持義務

ここまで実運用の話に絞ってお話ししてきましたが、電子データの保存・保持についても配慮が必要です。すでに国では電子帳簿保存法やe-文書法といった法律が整備され、ペーパーレス化の推進に向けた法的な整備も進みつつあります。

今回取り上げた営業関連の書類に関して、見積書や契約書、納品書等は電子帳簿保存法の対象となり、7年間の保存が義務付けられています。専用ソフト・会計ソフトの中には、電子帳簿保存法に対応したものもあります。

なお、電子帳簿保存法について詳しくは国税庁の特設サイトをご参照ください。

■国税庁「電子帳簿等保存制度特設サイト」■

https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/sonota/jirei/tokusetsu/

以上(2023年9月更新)

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画像:pixabay

【業務効率化】営業のDXに効果を発揮する「名刺のデジタル化」

書いてあること

  • 主な読者:非対面営業の推進や顧客管理のデジタル化など、営業のDXを進めたい経営者
  • 課題:紙の名刺に代わる手段として、デジタル化した名刺を活用したい
  • 解決策:名刺をデジタル化する3つの手法と、デジタル化した名刺の効果を高めるための作法を押さえる

1 「名刺のデジタル化」で営業のDXを

コロナ禍をきっかけに中小企業にも広がった、オンラインでの営業活動。コロナ対応として始まりましたが、先駆的な企業は、オンライン営業を営業のDX(デジタルトランスフォーメーション)、ひいては「働き方改革」にまで結びつけています。

そのための重要な手法の1つが、

従来の紙の名刺をデジタルに置き換える「名刺のデジタル化」

です。名刺のデジタル化が営業のDXと働き方改革に結びつく理由は、名刺をデジタル化することに、次のようなメリットがあるからです。

  1. 名刺そのものや名刺の情報の検索が容易になる
  2. 社内での顧客情報の共有が容易になる
  3. 紙の名刺の作成・補充にかかる手間やコストを削減できる
  4. 事前に、動画を含む多くの情報を交換できる

この記事では、営業のDXと働き方改革に効果を発揮する、名刺のデジタル化の手法と活用方法をご紹介します。ぜひ活用されるきっかけにしていただければと思います。

2 名刺をデジタル化する3つの手法

名刺のデジタル化の手法は、おおむね3種類に分けられますので、それぞれについて見ていきましょう。1つはツールを使わなくてもできる手法、2つは専用のツールを使う手法です。

専用のツールを使う場合、実際にどういったツールを使うかは、最終的な目的によってさまざまな種類があります。ただし、いずれも交換相手にURLをリンクまたはQRコードを提供することで、閲覧してもらう手法になります。

1)データ化した名刺情報をオンラインで送信する

専用のツールを使わず、簡易的に名刺をデジタル化する手法として、自社の紙の名刺をデータ化する方法があります。紙の名刺をスキャンなどして画像データ(PDF、JPG、PNGなど)に変換します。デジタル化した名刺のデータは、オンライン会議上で共有または送信したり、メールで送信したりできます。

利用率の高いオンライン会議ツールである「Zoom」や「Microsoft Teams」などは、チャット機能やデータ送信機能を備えています。こうした機能を活用することで、データ化した名刺を交換する、つまり

「オンライン名刺交換」をする

ことができます。

また、こうしたオンライン会議ツールで提供されている「バーチャル背景」機能を活用し、背景内に紙の名刺に相当する情報を表示させることも、よく見られます。

2)名刺管理ツール・アプリの一機能として組み込まれたもの

市販の名刺管理ツールに、デジタル化した名刺を使ったオンライン名刺交換の機能も組み込まれているサービスが増えてきています。交換相手にメールなどでURLをリンクまたはQRコードを提供することで、デジタル化した名刺を閲覧してもらう手法でオンライン名刺交換ができます。

オンライン会議の相手であれば、バーチャル背景にQRコードを表示することで、閲覧してもらうことが可能です。会議の参加者に対して簡単にオンライン名刺に誘導することができますので、閲覧頻度を高めるための一手法として有効です。

また、

名刺管理ツールを通じて名刺交換を行うことも可能

です。この手法を活用すると、

名刺交換した人のデータが自動的に集積される

ため、簡易的なCRM(顧客管理システム)機能も使えることになります。

画像1

また、SNSのように、同じ名刺管理ツールの利用者同士のつながりを「見える化」することも可能です。つまり、

名刺交換をしていない人であっても、同じ名刺管理ツールの利用者であれば情報を共有できる

のです。

さらに、同じ名刺管理ツールの利用者に対して、移籍や異動の状況を通知できるものもあります。アップデートが随時可能であるという、デジタルならではのメリットを活かすことができます。

オンライン名刺交換ができる名刺管理ツールの一例として、「Sansan」「Eight」「myBridge」などがあります。

名刺管理ツールは、近年では中小企業でも導入するケースが増えています。以前は名刺データの登録が手間でしたが、最近ではスマートフォンで撮影するだけでデータ化を行い、文字認識(OCR)機能によって自動で文字起こしまでしてくれる便利なアプリも増えています。

3)営業支援のシステムの一機能として組み込まれたもの

営業支援のシステムの一機能として、デジタル化した名刺を使ってオンライン名刺交換が行える機能が組み込まれているものがあります。この場合、単にデジタル化した名刺として名刺に記載している情報を見てもらうだけではなく、システムと連携することで、

名刺を誰が見てくれたか追跡

できます。これにより、

自社の商品やサービスへの興味や関心の度合いを測ることができ、見込み客に対するインサイドセールス(内勤型の営業活動)を行う上での有効な入り口として機能させる

ことが可能となります。

営業支援のシステムには、主に営業管理ツールのSFA(Sales Force Automation)、顧客管理ツールのCRM(Customer Relationship Management)、顧客獲得を目的としたツールのMA(Marketing Automation)があります。前述の「Sansan」は名刺管理ツールとして始まったサービスですが、現在ではCRMとしての機能も盛り込まれており、より発展的な使い方も可能です。

すでにこうしたツールを導入されている企業で、名刺のデジタル化機能を使用していない場合は、ぜひご活用されることをお勧めします。

ただし、こうしたツールは、豊富な機能が提供されている一方で、料金面や運用のための人材面など、導入においてのハードルがかなり高いのも事実です。手始めとしてオンライン名刺の導入を検討される場合は、前述の紙の名刺情報のデータ化や名刺管理ツールの活用を検討したほうがよいでしょう。

3 名刺のデジタル化の効果を高める方法

ツールを導入しても、しっかりと活用できなければ宝の持ち腐れとなり、DXや働き方改革の効果を十分に得ることができません。ここでは、デジタル化した名刺を有効に活用するために必要なことをお伝えします。

1)名刺交換で集積したデータを活かすシステムを整備する

デジタル化した名刺を使ってデータを集められたとしても、それを活かすことができなければ意味がありません。実際、今回紹介したようなツールを使っていても、ただ顧客のリストが積み上がるだけで、日々の営業活動に活かすことができていないケースは非常に多く見られます。こうした状況を打破するためには、データを活かすためのシステムの整備が必須です。

集積された名刺データはさまざまな情報が詰まった非常に有効な営業ツールで、“宝の山”とでもいうべき自社の大きな財産です。一度名刺を交換した間柄であれば、完全に見ず知らずの会社や人に営業活動を行うよりも、はるかに低いハードルでアプローチすることが可能となります。

名刺管理や営業関連のツールなども活用し、宝の山を掘り起こすためのシステムを整備すれば、これまで名刺交換だけにとどまっていた顧客との関係の強化にも役立ちます。自社に合ったシステムを整備し、社内での活用を徐々に浸透させていくことが成功の近道となるでしょう。

2)デジタル化した名刺にはできるだけ多くの情報を盛り込んでおく

オンライン名刺交換ツールには、紙の名刺のような名前や肩書、所在地、電話番号などの基礎的な情報に加えて、業務内容や商品・サービスなどの仕事に関する情報、趣味や特技などのよりパーソナルな情報も含めることができます。

デジタル化した名刺に、商品・サービスなどに関する、事前に相手に知っておいてほしい情報の閲覧先を盛り込んでおけば、オンラインでの営業の際に話をしやすくなります。営業先の相手にとっても、商品やサービスを検索して調べる必要がなくなりますので、「顧客サービス」になります。

3)極力、事前にデジタル化した名刺のURLを伝えておく

商談など事前にメールなどでのやり取りが可能である場合は、前もってデジタル化した名刺の交換を済ませておく工夫は必要だと考えます。ただし、フリー参加のセミナーなど、事前にこちらから情報発信ができないケースは例外となります。補助的な役割を果たすものとしては、前述のバーチャル背景を活用してデジタル化した名刺への誘導を行うことが挙げられます。

4)デジタルだけではないやり取りも重要

デジタル化した名刺を活用することにより、情報交換という点では大きな利便性が生まれますが、その一方で、コミュニケーションが無味乾燥なものになりがちになるデメリットも想定されます。

オンライン名刺交換を行った場合は、最低限、改めてメールで挨拶はしておきたいものです。アナログな手紙を送るなど、気持ちがより伝わるようなやり取りも併せて行えば、さらに好印象を与えることも可能でしょう。

5)データ管理には万全の配慮を行う

名刺のデジタル化で懸念されるのが、名刺データの管理です。デジタル化した名刺に記された個人情報はデータ化され、データベースとして蓄積されるため、外部にデータが漏洩しないようセキュリティーシステムを強化することが必要となります。

しかし、前述の名刺管理サービスを活用する場合は、ほとんどがクラウドサービスで、自社ではデータを持たない形式となっています。このため、デジタル化した名刺に限らない一般論ではありますが、次の3点の対策を講じておくことは必須です。

  1. データを閲覧できる端末のセキュリティーを高めておく(ウイルスソフトをきちんと導入・更新できる状態にしておく、パスワードを定期的に変更する等)
  2. サービスにアクセスできる人員を把握し、正しい権限管理を行う(退職者が発生した場合は遅滞なくアクセス権限を削除する等)
  3. 運用ルールを正しく定める(使い方・手順などを定め、例外的な運用を防ぐ)

4 他にもある、名刺のデジタル化のメリット

1)オンラインでも相手との距離感を縮めやすくなる

オンラインによる営業活動の場合、用件のみの話になりがちで、これまでのようなコミュニケーションの部分が抜け落ちがちです。そのため、相手との距離感を縮め、関係性を深める活動がしにくいという印象をお持ちの方も多いのではないかと思います。

デジタル化した名刺では、より多くの情報を提供できますので、自分の特技や趣味などパーソナリティーに関する情報も伝えることができます。あまり軽々しい情報を掲載することはお勧めできませんが、一定の自己開示は、前述したアイスブレークのための格好のネタとなりますので、可能な範囲で掲載しておくとよいでしょう。自分の動画を載せるなど、紙の名刺にはできないメリットを十分に活かしましょう。

2)紙の名刺を廃止もしくは削減できる

紙の名刺をデジタル化することで、紙の名刺の作成・補充にかかる手間やコストを削減できます。

また、結果として環境負荷の軽減にもつながります。名刺のデジタル化に伴う紙の使用量を数値化すれば、企業の「SDGsへの取り組み」としてPRすることも可能です。

いかがですか? 本稿をきっかけに、デジタル化した名刺を、より有効な自社の営業活動に活かしていただければ幸いです。

以上(2023年9月更新)

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画像:冨田 陽子-Adobe Stock

「建物の法令点検」という古いしきたりのある世界で、新しい仕組み「スマート点検」を提供している、その名も「スマート点検=スマテン」。その革命的な事業と、生み出した経営者に迫る/岡目八目リポート

年間1000人以上の経営者と会い、人と人とのご縁をつなぐ代表世話人杉浦佳浩氏。ベンチャーやユニークな中小企業の目利きである杉浦氏が今回紹介するのは、都築 啓一(つづき けいいち)さん(株式会社スマテン 代表取締役CEO)です。

都築さんたちスマテンが行っているのは、ビルや店舗など建物の法令点検の業界に革命をもたらす、「スマート点検=略してスマテン」です。内容は後ほどご紹介しますが、他であまり聞いたことのないサービスです。

競合がほぼなく、むしろ大企業が実現しようとして頓挫してしまったことを、都築さんたちが成し遂げている印象です。最初にビジネスモデルを聞いたときは衝撃的でした。これが本当のDXだ、と。今、スマテンのサービスは引く手あまたで、月に数百物件くらいお客さま(建物)が増えており、これからもニーズはまだまだ広がりそうです。

文章だけでは表しきれないスマテンのサービスの「現場感のすごさ」は、都築さんご自身が消防点検の会社を立ち上げたことがあるからこそです。現在34歳の都築さん、消防点検の会社よりも前に、飲食店や太陽光の会社などでしっかりと売上・利益を上げてきました。以降ではスマテンさんの他に類を見ないサービスと、爽やかでありつつ、根っこの芯が激強な都築さんの事業への取り組み方をご紹介します。

1 「建物の法令点検プラットフォーム」の導入実績は約1万棟を超える

スマテンには、全ての建物を安全なものにしたいというVISION、MISSIONがあります。

スマテンのビジョンの画像です

(出所:スマテン提供資料より抜粋)

一軒家を除く建物、例えば工場・ビル・マンション・アパート・商業施設などは、法令でさまざまな法定点検が義務付けられています。しかし、都築さん曰く、「一軒家を除く建物は400万棟ほどあり、そのうち、法令点検の実施率は50%を下回る」のだそうです。半分も実施されていない現状に驚きます。

この実施率をアップさせて、皆が安全で安心して過ごせる、働ける世界をつくるために都築さんがつくり出した仕組みが、

建物の法令点検の管理や、点検業務を受発注しやすくする総合プラットフォーム

です。このプラットフォーム、「ビルや店舗など建物を管理する側」と「建物の点検をする側」の両方の効率化、DXを実現しているサービスです。2019年以降、すでに1万棟超えの建物で導入されています。驚きなのは、この1万棟超えの建物を、大半が「営業電話1本で」開拓してきているという事実。導入しているのは大手焼肉チェーンや飲食店、カー用品、学習塾など、複数のビルや店舗を管理している企業です。そこに電話1本で導入。都築さんの営業力もさることながら、圧倒的な商品力なので、複数の建物を持っている企業の総務部などの方なら、スマテンの話を聞けば、「効率化でき、管理コストも削減できるメリット」が、すぐに理解できるからだと思います。

スマテンの導入状況の画像です

(出所:スマテン提供資料より抜粋)

2 建物を管理する側と法令点検する側の両方がうれしい「無料」のサービス

スマテンが実施している法令点検の総合プラットフォームの全体像は次の通りです。

  • 建物管理側(ビルオーナーなど)と法令点検する側(点検業者)の両方がDXできる
  • 間に入ったスマテンが点検業者に依頼するなど、しっかりとスマテンが動いている
  • 建物管理側も、法令点検する側も、ツール導入・利用の費用が無料である

スマテンの総合プラットフォームの画像です

(出所:スマテン提供資料より抜粋)

建物に関する法令点検はさまざまです。そのため、複数の地域にビルや店舗を持っている場合は実に管理が大変です。地域ごとに、その地域その地域の点検業者に依頼する形になるからです。この状況を、都築さんの言葉を借りてご紹介します。

「例えばFCなどで全国に数百店舗、数百のビルがある場合、地域ごとに、何十社の点検業者に発注しなければならないので、管理は本当に大変です。北海道の店舗(建物)は北海道の点検業者に、沖縄の場合は沖縄の点検業者に発注するという形です。点検の手配をしている総務部の方などは、例えば年に2回行う消防点検であれば、6月と12月の点検時期に点検業者に発注して、地域ごとの何十社という業者とやり取りして点検日程を調整して、『●月●日に点検業者が来るよ』と店舗ごとにお知らせして……というように、かなり業務が煩雑になってしまっています」

考えただけでも汗が吹き出そうな業務の煩雑さ。点検業者は小規模な企業や職人などが多く、全国的に展開しているケースは稀だそうです。仮に、建物管理側が点検窓口を一本化しようと、全国展開している大手警備会社に一括で依頼したとしても、実際に点検するのは警備会社の下請・孫請の小規模企業や職人です。点検の価格は高くなるし、情報連携に時間がかかるといった問題がある、と都築さん。

この業界的問題を解決するのが、建物管理側向けのツール「スマテンBASE」です。建物管理側が建物ごとの各種点検状況や予算までをWeb上で一括管理できるもので、導入・利用の費用は無料です。

そして、「スマテンBASE」を使っている建物管理側は、点検はスマテンにだけ依頼すればいいので、煩雑になりがちな各地域の点検業者とのやり取りもありません。スマテンは、全国800ほどの点検業者とパートナー企業としてつながっています。建物管理側から来た点検依頼を、スマテンが各地域の点検業者に割り振るという流れです。この、

間に入って点検業者への実際の依頼などのオペレーションをしっかりやっている

のがスマテンの大きな強みでもあります。

一方、小規模な企業や職人が多い点検業者側から見ると、

営業活動をしなくても、スマテンから点検業務の依頼が入ってくる

状態なのでメリットがあります。そしてさらに、点検業者側の大きなメリットが、現場でスマホで点検報告書が作れる「スマテンUP」というアプリケーションです。このアプリも、点検業者の導入・利用の費用は無料。しかも日本初!

「スマテンUP」では、単にスマホで点検報告書が作れるだけではありません。なんと、すごいことに、作成した点検報告書などの書類提出業務はスマテンが代行して郵送業務などを行います。点検業者が点検だけに集中できて、一日に回れる件数が増えるので、点検業務の稼働率は上がります。逆に管理コストは下げられます。

「私たちスマテンが今、パートナーである点検業者さんたちにお願いしているのは、点検作業そのものと、『スマテンUP』で報告書を作ることだけです。営業活動、点検スケジュールの調整、点検報告書を消防署や建物管理側に提出することまで、スマテンが巻き取っています。
大事な本業の点検作業と報告書作成以外のところを全部スマテンが巻き取っていくことで、点検業者の稼働率アップも実現しています」

そう語る都築さん。建物管理側と点検業者側の両方の管理コストを減らし効率化し、そして点検業者の稼働率もアップする……これが本当のDX、スマテン、すごすぎます。何か、人間の知恵というのは、このように工夫して使って進化していくのだということを見せてくれている感じがします。

●スマテンBASE(建物管理側向け:Webで建物の点検状況などを一括管理)

https://sumaten.co/#/

●スマテンUP(点検業者向け:報告書を現場でスマホで作成)

https://sumatenup.co/

●さまざまな種類を実施しなければならない建物の法令点検

建物の法令点検の画像です

(出所:スマテン提供資料より抜粋)

 

●スマテンの総合プラットフォームの説明動画

(出所:スマテン説明動画)

●福祉事業のスマテン導入事例

福祉事業のスマテン導入事例の画像です

(出所:スマテン提供資料より抜粋)

導入企業の事例、導入者の声などは、「スマテンMagazine」にも掲載されています。

https://mag.sumaten.co/

3 「業界ど真ん中」に身を置いていた、でも「よそ者」だから良かった

スマテンのサービスが、建物管理側と点検業者側の両方にとって本当にメリットがあり重宝されているのは、都築さんが消防点検の会社を実際に行っていたからです。

「現場を知っているからここまでいけたというのもあると思います。例えば点検業者さんが『スマテンUP』アプリを使うことで、その場でスマホで報告書が作れて業務効率化できると、1日3件しか回れなかったのが、5件6件と点検に回れるようになります。そうすると工事単価・点検単価が下がったとしても売上は上がる。仮に、その部分をスマテンに支払ったとしても、点検業者さんとしては見えない管理コストがかなり圧縮できていることになります。

点検した後に会社にわざわざ戻って報告書を作ったりしないから楽だし、件数も回れるし、近い地域の点検をスマテンが回してくれるから遠いところに行かなくていいし、消防署に書類を持って行かなくてもいい。スマテンが現場感あるサービスを提供して、点検業者さんが見えないコストを削減できているので、こういうところは他社が真似するのは難しいのかもしれません」

都築さんの画像1です

都築さんは謙虚な語り口で爽やかにサラッとこうお話しますが、すごいことを成し遂げています。古くからのしきたりが色々あったり、ITやツールに強くない方が多いイメージの点検業界ですが、そこで「スマホ一つで簡単に」「面倒で時間を取られる書類提出はスマテンが巻き取る」という、とても分かりやすいサービス設計で革命的に効率化しています。

2016年に名古屋で自ら消防点検の職人たちを集めた会社を立ち上げた都築さんは、外から業界に飛び込んでいるので、業界ど真ん中にいつつも、「なんでこんな非効率的なことが当たり前に?」と普通に思えて、改善しようとしたのがスマテンのサービスに生きたのかもしれません。

「よそ者だったから良かったっていう話ですね」と笑顔の都築さんです。

4 自分の命をどこに使うか

都築さんの根底には、強烈に、

自分の使命を果たしたい、自分のやるべきことで世の中や人の役に立ちたい

という思いがあります。これが2016年に立ち上げた消防点検の会社、ひいては、そこで感じた課題を解決する現在のスマテンにつながっています。少し紐解いてみましょう。

もともと、実家が自営業の都築さん。継がないと決めたため、中学生のころから「自分の道は自分で決めないといけない」という気持ちがあったそうです。

理系を選択し、理系の大学に進んだ都築さんですが、入学1週間で大学を辞めようと思います。曰く、「周りが優秀すぎてとても敵わないレベル。入学した時点でこんなにギャップがあるのに、4年間積み重ねたらもっとギャップは広がる」と感じたとのこと。

しかしここで止まる都築さんではありません。そこから行動開始です。バックパッカーとして世界中を旅してアジアなど何十カ国を回りました。「1カ月間バイトして10万円貯めて、翌1カ月で海外に行く、を繰り返してました」という都築さんは、タイでアジアン系カフェアンドバーを見て、そういう店が名古屋にあったらいいなと思うと、思い立ったが吉日、半年くらいで名古屋に共同出資でバーを開業しました。それが19歳のときだそうです。すごい行動力とスピード感!

その名古屋のバー時代の話がまたものすごい。なかなか文章にしにくいところもありますが、最初に3人でバーを始めたものの、色々あって別の地元の友だち2人を呼びまたバーを経営。当時、年中無休で1日20時間くらい働くという生活を3年間くらい続けたそうです……。このバー時代の物語は、ここには書ききれません。バー時代だけで前後編の映画が撮れるくらいのドラマがあり、泣ける、笑える、そして感動します。ですので、映画になることを期待しています!(期待している人は多いと思います)

とにかく常に「自分の使命、やりがいを見つけたい」「自分の道は自分で決めなければ」と感じてきた都築さん。10代後半から20代前半にかけてバーを経営したのも、まだ世の中にどういう仕事があるのか分からないので、色々なお客さんからさまざまな話を聞けるからという理由もあったそうです。

その後、2011年に東日本大震災が起きます。とにかく「自分の使命を見つけ、果たす」という気持ちの都築さんは、震災1週間後、福島県いわき市にボランティアに行きます。当時のいわき市は「今日食べるご飯がない」という状態だったといいます。このボランティアを通じて都築さんは感じたことをこのように語ってくれています。

「当たり前の生活の大切さ、日常の幸せを感じました。そういうものに本当に心から感謝しなければならないな、有り難いことなのだな、と」

「一方、ボランティアは、継続していくのが難しいことなのだなとも感じました」

そこから都築さんは、ボランティアではなく仕事として、「自分の使命、やりがい」「自分はどうやって人の役に立てるのか」を見つけるために、さまざまな事業にチャレンジしていきます。

太陽光の会社を立ち上げたり、福祉の会社を立ち上げたり。それらの事業でちゃんと売上・利益を上げているというところがまたすごいところです。「うまくいかなくて撤退した」のでは全く無い、「本当に自分が一生を捧げたいと思える仕事は本当にこれなのだろうか、まだ見つかっていない。燃えない」感に悩み、事業を変えていったそうです。事業的に成功はしていても。やるべきことはしっかりやった上で、です。何か、ないものねだりでフワフワと青い鳥を探していたりする感じとは全く違います。

悩んでいるとしても、常に行動し、結果を出す。止まらない。こういうところにも、都築さんの底知れぬエネルギー、芯の強さ、ビジネスにフルコミットする力を感じます。

色々なことを考えて行動し続けている中で、2016年に消防点検の会社を立ち上げ、そこから現在のスマテンの立ち上げに至った都築さん。

このスマテンも、最初は点検業者向けアプリ「スマテンUP」を、自分たちの消防点検の会社で使おうと思ったところから始まったのだそうです。自分たちだけで使うには開発費も結構かかったし、実はこのアプリは自分たちだけではなく、業界全体で困っている職人さんたちの役に立つのではないかと考えたことがきっかけで、プラットフォーム事業に転換していったといいます。

そして現在、都築さんは、効率化できる余地が山ほどあるのにできていない法令点検の業界を、革命的に効率化して業界全体に役に立つのと、「法令点検の実施率を上げて、安全で安心な世の中にしたい」という思いで突き進んでいます。

色々と事業を立ち上げて結果を出し続けている都築さんに、「本当に自分が一生を捧げたいと思える仕事は本当にこれなのだろうか、まだ見つかっていない。燃えない」感について聞いてみました。すると、とても印象的なことを語ってくださいました。

ここは、都築さんご自身の言葉で最後にお伝えしたいと思います。

「確かに太陽光の会社をやっているときは調子は良かったです。ただやはり、お金が儲かるからビジネスに本気になれるかっていうとそうではなくてですね。

なんというか、『自分の命をどこに使うか』っていうのを考えていたと思います。結局、今のスマテンをやっていても違う会社をやっていても、生活はできるでしょうし生きていくことはできるとは思うんですけど、ただ、振り返ったときにこの事業をやって本当に社会のためになったなとか、世のためとか人のためになったなって思えないのは残念というか悔しいなっていうところがあって。

なので、自分の使命であったり、自分ができることは何なんだっていうのをずっと考えています。

今、僕は社員とかにも言いますが、本当に自分には能力がない、本当にポンコツな人間だと思っているんです。本当に。普通の社会人としてだったら、どこも雇ってくれないくらいポンコツだと思います。自分は。

ただ、人によって適材適所といいますか、逆に経営者としてリスクを背負うことは全くビビることなく攻めれるっていうのは強みかもしれないです。そういうことを踏まえて、とにかく何か自分の命を、ポテンシャルを最大限発揮できるのはどこなんだろうというのを常に探していました。

正直に言うといい家に住んだりいい車を買ったり、色々やったんですが、僕の場合はそれで幸福度は上がらなかった。やはりそういうところじゃない、ただお金を稼ぐということではなく、自分の命をそこに使うんだっていう、『そこ』をいち早く見つけてフルコミットすることが自分の人生の幸せにつながるんではないか。それを探し求めてたって感じです」

「自分の命をどこに使うか」を探し求めていた。現在34歳、経営者歴14年の都築さん。もう、他に何も言葉はいらない感じです。都築さん、本当に有り難うございます!

都築さんの画像2です

以上(2023年9月作成)

社員が喜ぶ。新しい福利厚生として奨学金の代理返還を考えてみよう

書いてあること

  • 主な読者:若手社員の定着を図りたい、新卒社員を採用したい経営者
  • 課題:社員が学生時代に利用した日本学生支援機構の貸与奨学金の返還(返済)を企業としてサポートしたい
  • 解決策:貸与奨学金の返還分を、企業が社員に代わって日本学生支援機構へ直接送金する「代理返還制度」の活用を検討する

1 社員の奨学金返済を企業がサポートするには?

学生が利用する「奨学金」の中心は、日本学生支援機構の貸与奨学金です。卒業・修了後に貸与奨学金を返還(返済)するのは当然ですが、少し角度を変えて見ると、新入社員は、

300万円超の借金(貸与奨学金)を背負って就職し、20代前半から30代後半になるまで返済を続ける

ということになります。こうした中、2010年代に貸与奨学金の返済に充てる一定金額を手当や一時金の名目で社員の給与に上乗せ支給する「奨学金返済支援制度」を導入する企業が出てきました。その主な狙いは、社員の定着率の向上と採用応募者へのアピールです。奨学金返済の負担が大きい若手社員をサポートすれば定着率の向上が期待できます。また、求職者にとって奨学金返済の支援は魅力的です。

しかし、この方法では、上乗せ支給した奨学金返済分の税務上の取り扱いは「給与」です。社員のためにしたことが、かえって社員の所得税や住民税、社会保険料の負担を増すことになってしまう側面がありました。

そこで、日本学生支援機構が2021年4月から受付を開始したのが、

企業が日本学生支援機構に対し、社員に代わって貸与奨学金の返還分を直接送金する「企業の奨学金返還支援(代理返還)制度」(以下「奨学金の代理返還制度」)

です。奨学金の代理返還制度は、返済分を社員の給与に上乗せ支給する場合と比べて、税金や社会保険料の負担などで社員、企業の双方にメリットがあります。以降で詳しく見ていきましょう。

2 奨学金の代理返還制度のメリット

1)【社員】所得税や住民税の負担を抑えられる可能性がある

貸与奨学金の返還(返済)に充てる一定金額を社員の給与に上乗せ支給した場合、給与所得として課税対象となります。

一方、企業が代理返還する場合、企業が直接、日本学生支援機構に送金するので、社員の通常の給与と返還分は区分され、かつ奨学金の返還であることも明確です。このため、返還分に係る所得税は非課税となります(貸与奨学金の返還をしなければならないのが役員である場合など、一定の場合には所得税の課税対象となることがあります)。

国税庁「質疑応答事例(所得税)」によると、

奨学金の返済に充てるための給付は、その奨学金が学資に充てられており、かつ、その給付される金品がその奨学金の返済に充てられる限りにおいては、通常の給与に代えて給付されるなど給与課税を潜脱する目的で給付されるものを除き、これを非課税の学資金と取り扱っても、課税の適正性、公平性を損なうものではないと考えられます

との見解が示されています。

住民税は前年の所得に基づいて徴収されますが、貸与奨学金の返済額を社員の給与に上乗せ支給する場合と比べて、企業が代理返還する場合は住民税の負担を抑えられる可能性があります。

2)【社員/企業】健康保険料などの負担を抑えられる可能性がある

企業が代理返還する場合、その返還分は、原則として、標準報酬月額の算定の基となる報酬に含めません(ただし、給与規程などによって、給与に代えて奨学金返還を行う場合には、報酬に含みます)。

このため、標準報酬月額を基に計算する健康保険料、厚生年金保険料の負担を抑えられる可能性があります。なお、介護保険料については、貸与奨学金を返還し終わるであろう40歳以上の社員が対象のため、ここでは考慮していません。

3)【企業】法人税では給与として全額損金算入できる

企業が代理返還する場合、その返還分は、社員(使用人)の奨学金の返済に充てるための給付に当たるので、給与として全額損金算入できます。

4)【企業】一定の要件を満たせば、法人税の税額控除ができる

企業が代理返還する場合、その返還分は、「賃上げ促進税制」の対象となる給与等の支給額にも該当します。そのため、一定の要件を満たす場合には、法人税の税額控除の適用を受けることができます。

5)【企業】支援の取り組みを採用活動でPRできる

奨学金の代理返還制度を導入することは、福利厚生の1つとして求職者へのPR材料となります。

また、奨学金の代理返還制度を導入している(導入予定も含む)企業は、掲載依頼をすれば、日本学生支援機構のウェブサイトにある「各企業の返還支援制度」に社名や支援内容を掲載してもらえます。日本学生支援機構から、大学や学生などに対して就職後に支援が受けられる企業として紹介してもらうことも可能です。

3 奨学金の代理返還制度を導入するには?

1)社内制度を整える

奨学金の代理返還制度は、学生時代に日本学生支援機構の貸与奨学金を利用し、その返済をしている社員を優遇するものです。そのため、対象者と対象でない社員との公平性に留意した上で、社内規程を作成することが求められます。検討すべきポイントは次の通りです。

  • 対象者:雇用形態、勤続年数、選考を行うなど
  • 支援金額:返還額の一部または全額、上限金額を設けるなど
  • 施行期日:いつから施行するか

2)対象者を決める

奨学金の代理返還制度の対象者については慎重に検討しましょう。対象者が、返還が終わったらすぐに退職してしまう場合もあり得ます。そうすると、企業側は、いわば「借金を肩代わりしただけ」になってしまいます。

しかし、「一定期間自社に勤務しなければ、自社が代理返還した金額を返さなければならない」といった契約を結ぶことはできません。労働基準法では、労働契約の不履行について違約金を定め、また損害賠償額を予定する契約を禁止しているからです。

職場や仕事内容への不満などが理由で退職に至らないよう、企業としての魅力を高めつつ、対象者を上手にフォローしていくことも大切です。

3)日本学生支援機構に返還支援申請をして、「スカラKI」に登録する

企業から日本学生支援機構への送金は、日本学生支援機構が提供する、企業の返還支援(代理返還)システム「スカラKI(ケーアイ)」を利用して行います。

詳細は、日本学生支援機構のウェブサイトをご確認ください。

■日本学生支援機構「企業の奨学金返還支援(代理返還)制度」■
https://www.jasso.go.jp/shogakukin/kigyoshien/

4 奨学金の利用実態

1)学生の3.1人に1人が日本学生支援機構の貸与奨学金を利用

2017年度には日本学生支援機構の給付型奨学金も開始されましたが、奨学金制度の中心は同機構の貸与奨学金です。

同機構によると、日本の高等教育機関(大学・短大、大学院、高等専門学校、専修学校専門課程)で学ぶ学生364万人のうち、116万人(31.8%)が、同機構の貸与奨学金を利用しています(日本学生支援機構「令和3事業年度業務実績等(令和4年10月)」)。

2)借入総額は平均310万円、毎月の返済額は1.5万円、返済期間は14.5年

労働者福祉中央協議会(中央労福協)によると、日本学生支援機構の貸与奨学金を利用し、現在返還中(猶予制度利用や滞納中も含む)の人の場合、「借入総額は平均310万円で、毎月の返済額は1.5万円、返済期間は14.5年。時系列でも状況はそれほど変わらない」といいます(中央労福協「奨学金や教育費負担に関するアンケート報告書(2022年9月実施)」)。

3)延滞問題

貸与奨学金の返済が滞り、延滞3カ月になると、延滞情報が個人信用情報機関のいわゆる「ブラックリスト」に登録されます。そうすると、一定期間、クレジットカード利用が制限されたり、住宅ローンを組めなくなったりします。

延滞4カ月になると、債権回収業者による回収が行われます。さらに延滞9カ月になると、多くの場合、支払督促という裁判所を利用した手続きに移行します。一括返済するように督促され、支払いができないとき、自己破産に至るケースがあります。親が連帯保証人や保証人となっていた場合、自己破産をすると親に一括請求がなされることになり、破産が連鎖する恐れもあります。

こうした奨学金の利用実態も踏まえ、新しい福利厚生の一策として奨学金の代理返還制度の導入を検討してみてはいかがでしょうか。

以上(2023年9月)

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画像:Jokiewalker-Adobe Stock

【経理業務の効率化】法人クレジットカードを使って経費精算の手間を軽減

書いてあること

  • 主な読者:経理部門の業務効率化を進めたい経営者、経理担当者
  • 課題:会計処理(仕訳)の方法や、税務上のリスクを確認したい
  • 解決策:不正利用を防ぐために厳格な利用ルールが必要。電子帳簿保存法の適用を受ければ、大幅な業務効率化が可能

1 経費精算の手間は減り、社内の現金も少なくできる

毎月の経費精算が無くなれば…。

会社で働く人であれば、一度は思ったことがあるでしょう。特に外出や出張の多い役員や営業担当者の交通費精算は、多くの手間と時間を要します。また、経理担当者としても、経費精算の提出遅れやミスがあると決算作業が遅れたりして困ります。

そうした中、比較的手ごろに取り組める経費精算の効率化として注目されているのが、

法人クレジットカードを利用

です。主なメリットは次の通りです。

  • 経費申請の時間短縮。ウェブサイト上のカード利用明細から直接会計データを取り込み、経費精算システムが連動できるサービスもある
  • 経費の請求漏れやミスの防止
  • 現金の出し入れ回数の削減
  • 支払いが翌月以降に繰り延べられることで資金繰り改善、ポイント還元される

この他、経営者や経理担当者が気になるのは、

法人クレジットカードを利用したときの会計処理(仕訳)はどうなるのか?

でしょう。そこで、この記事では法人クレジットカードを利用した場合の会計処理を分かりやすく解説しますので、経理業務の効率化を進めるためにご活用ください。なお、以降で紹介する勘定科目は一例なので、貴社の実情に合わせて読み替えてください。

2 会計処理(仕訳)

1)法人クレジットカードの利用時

法人クレジットカードで経費を支払った場合、実際の支払日(会社から出金がある日)と、費用の発生日が異なるため、いったん「未払金」勘定で処理します。

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2)カード利用額が口座からの引き落とし時

カードの利用額が口座から引き落とされたら、「未払金」勘定を解消します。

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3)誤って個人利用をしてしまった場合

誤って法人クレジットカードを個人利用してしまった場合、カード利用時、返金時、引き落とし時にそれぞれ次のように処理します。

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3 税務上の留意点

法人クレジットカードを使って支払った経費を損金算入するには、請求書や領収書など(以下「請求書等」)の書類を保存しておかなければなりません。法人クレジットカードの利用明細書だけでは十分な証憑(しょうひょう)書類として認められないケースがある(商品やサービス内容や購入者の氏名など、一定の事項が記載されているものを除く)ので、法人クレジットカード利用時に受領する請求書等を保管します。

これは、消費税の控除(以下「仕入税額控除」)も同様です。インボイス制度が始まる2023年10月1日以降についても、仕入税額控除を受けるためには、法人クレジットカードの利用明細ではなく、支払った先の店舗やサービス業者から受け取るインボイスの保管が必要になります。

また、電子帳簿保存法により2024年1月以降、紙ではなく、データ(PDFやシステム上の請求書ダウンロードなど)で請求書等を受け取る場合には、一定の要件のもと、データでの保存が義務化されます。経理担当者とデータ上でやり取りできる仕組み作りも必要になります。

4 厳格なルールが必要

法人クレジットカードの不正利用を防ぐために、法人クレジットカードの利用ルールや規程(以下「利用ルール」)の整備が必須です。利用ルールを作成したら、その内容と違反した場合の罰則について役員・社員に周知します。

  • 部長以上など、利用対象者や利用人数を限定する
  • 利用用途を限定する(旅費交通費、交際費の支払いに限定するなど)
  • 役職ごとにカードの利用限度額を設定する
  • 不正利用した場合の罰則を定めておく(最悪の場合は刑事告訴するなど)

以上(2023年9月更新)
(監修 税理士 石田和也)

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画像:photo-ac