【自社株(2)】自社株の評価方式は会社規模と株主区分で決まる

書いてあること

  • 主な読者:自社に適用される自社株の評価方式を知りたい経営者
  • 課題:自社に適用される自社株の評価方式が、どのように決まるのか分からない
  • 解決策:税務上の評価は「会社規模」と「株主区分」で決まる。ただし、M&Aの場合は事業の成長性など別の視点でも評価する

1 自社に有利な自社株評価

自社株は「売買(売った側に、所得税などが課税される)」「相続(受け取る側に、相続税が課税される)」「贈与(受け取る側に、贈与税が課税される)」によって引き渡されます。自社株の評価が高ければ税金は高く、逆の場合もしかりです。

自社にとって有利な評価方式を選びたいところですが、採用される評価方式は、

  1. 会社規模:株式の発行会社(以下「評価会社」)の従業員数など
  2. 株主区分:評価会社の経営支配力を有しているか否かなど

によって決まります。この記事で、相続・贈与における具体的な考え方を説明します。なお、評価方式の詳細な内容(計算式など)や評価方式ごとの評価額の引き下げ方法については、以下の記事でまとめています。

80145 【自社株(1)】自社株の評価方式とそれぞれの計算式

80093 【自社株(3)】自社株の評価額を引き下げる方法

2 会社規模の判定

会社規模は、

  • 第1次判定:従業員数
  • 第2次判定:総資産価額(帳簿価額)
  • 第3次判定:取引金額

の3つで判定します。分かりやすいポイントは、従業員数70人以上だと大会社、従業員数70人未満だと第2次判定と第3次判定で決まるということです。従業員数は、

  1. 週30時間以上の勤務時間で、直前期1年間継続して勤務していた者を「1人」
  2. 直前期末以前1年間の労働時間の合計を1800時間で除した数

を足して求めます。使用人兼務役員は従業員として含めますが、使用人兼務役員以外の役員は含めません。なお、第2次判定の従業員数に端数が生じた場合、例えば5.1人なら「5人超」、4.9人なら「5人以下」となります。

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以下では、従業員数70人未満の判定を紹介します。なお、表中の「L値」とは、

純資産価額方式と類似業種比準方式を併用する場合の類似業種比準方式の割合

です。

1.卸売業の会社規模

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2.小売・サービス業の会社規模

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3.卸売・小売・サービス業以外の業種の会社規模

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3 株主区分の判定

1)株主のグループ化

株主区分の判定では、まず株主を同一株主グループに分けます。同一株主グループとは、

親兄弟などの親族をはじめ、一定の関係にある者を含めたグループ

のことで、具体的には次のようになります。

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さまざまな同一株主グループがある場合、議決権割合(持株状況)の合計が最も高いグループを筆頭株主グループといいます。こうして各グループの議決権割合を把握します。議決権割合は、

常に株主の異動後の状態で判定

します。例えば、売買によって株主が異動した場合は、売買後の状態で判定します。

2)株主区分の判定図

同一株主グループごとの議決権割合が分かったら、次のチャートで株主区分を判定します。なお、図表の中に出てくる用語の説明は次の通りです。

1.同族株主

まず、法人税法施行令第4条に定める「特殊の関係にある個人または法人」を同族関係者といいます。同族株主とは、

議決権割合の50%超を保有する同一株主グループに属する株主とその同族関係者

のことです。

なお、どの株主グループも議決権総数の50%超を持っていない場合は、

議決権割合の30%以上を保有する同一株主グループに属する株主とその同族関係者

が同族株主となります。

2.同族株主等

同族株主等とは、

同族株主のいない会社の株主で、議決権割合の15%以上(取得したことに伴って15%以上となった場合を含む)を保有する同一株主グループに属する株主

のことです。

3.中心的な同族株主

中心的な同族株主とは、

同族株主の1人並びにその株主の配偶者、直系血族、兄弟姉妹および1親等の姻族の有する議決権の合計が、議決権総数の25%以上である当該株主およびその同族株主

のことです。

4.中心的な株主

中心的な株主とは、

株主の1人とその同族関係者の有する議決権の合計が、議決権総数の15%以上である同一株主グループで、なおかつ1人で議決権総数の10%以上を有している株主

のことです。

5.役員

社長や理事長の他、次の者です。

【法人税法施行令第71条第1項(抜粋)】

第1号 代表取締役、代表執行役、代表理事及び清算人

第2号 副社長、専務、常務、その他これらに準ずる職制上の地位を有する者

第4号 取締役(指名委員会等設置会社の取締役及び監査等委員である取締役に限る)、会計参与及び監査役並びに監事

6.原則的評価方式

原則的評価方式とは、類似業種比準方式、純資産価額方式、両者の併用方式のいずれかのことです。

7.特例的評価方式

特例的評価方式とは、配当還元方式のことです。

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4 取引相場のない株式等の評価方式

以上の結果を踏まえ、いよいよ評価方式が決まります。繰り返しますが、取引相場のない株式等の評価方式は会社規模と株主区分の組み合わせで決まり、その結果は次の通りです。

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前述した通り、原則的評価方式には、

  1. 類似業種比準方式
  2. 純資産価額方式
  3. 両者の併用方式

の3種類があります。会社規模に応じた評価方式と同族株主の評価方式は、原則的評価方式となります。一方、同族株主以外の株主は「配当還元方式」となります。

また、株主区分について補足しておきます。同族株主は経営支配の中心にあり、会社の財産はそのまま個人の財産であると言えるほど密接かつ重要な地位にあります。そのため、同族株主の持株は、会社の大きさに応じた原則的評価方式を適用します。一方の同族株主以外の株主には配当還元方式が適用されますが、その評価額が原則的評価方式を適用した場合を超えると、原則的評価方式が適用されます。

この記事はこれで終わりです。評価方式の詳細な内容(計算式など)については、以下の記事でまとめています。

80145 【自社株(1)】自社株の評価方式とそれぞれの計算式

以上(2023年6月更新)
(監修 税理士 谷澤佳彦)

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画像:pixabay

【自社株(1)】自社株の評価方式とそれぞれの計算式

書いてあること

  • 主な読者:自社に適用される自社株の評価方式の計算内容を知りたい経営者
  • 課題:評価方式が幾つもあり、それぞれ計算式が複雑で分かりにくい
  • 解決策:評価方式は4種類。専門家に相談して自社に適用される評価方式の基本を把握する

1 評価方式は株主区分や会社規模で異なる

上場していない会社の株式は「取引相場のない株式等」といわれ、財産評価基本通達(以下「評価通達」)に基づいて税務上の評価をします。具体的な評価方式は次の通りです。

  • 原則的評価方式:類似業種比準方式、純資産価額方式、両者の併用方式
  • 特例的評価方式:配当還元方式

どの評価方式が適用されるかは株主区分(少数株主または同族株主でない株主であるか)や会社規模(従業員数、総資産価額、取引金額)で決まりますが、いずれにしても、

親族内承継ならば評価を低くしたいし、M&Aなら評価は高くしたい

ものです。実際、さまざまな方法で評価額の調整が行われますが、そのためには評価方式の内容を知っておく必要があります。

そこで、この記事では、それぞれの評価方式の計算式などを紹介します。なお、自社に適用される評価方式の決定方法や評価方式ごとの評価額の引き下げ方法については、以下の記事でまとめています。

30097 【自社株(2)】自社株の評価方式は会社規模と株主区分で決まる

80093 【自社株(3)】自社株の評価額を引き下げる方法

なお、以降で記述のある「大会社」「中会社」「小会社」は、評価通達に定められている会社規模の判定に基づいた会社区分です。例えば、ここでいう大会社は従業員70人以上の会社、または従業員数35人超で業種ごとに定められている一定以上の取引金額と総資産価額を有している会社をいいます。

2 類似業種比準方式(原則的評価方式)

1)類似業種比準方式の基本

類似業種比準方式は、大会社に適用される方式です。基本的な考え方は、

大会社を上場会社に準ずる規模とみなし、事業内容が類似している上場会社の株価を参考に算出した株価に比準して株式の評価額を求める方式

となります。具体的には、

国税庁が公表する業種目別株価に、評価する会社の1株当たりの「配当金額」「利益金額」「純資産価額」の3つの要素を比準して評価

します。なお、納税者の選択により大会社でも後述の純資産価額方式を選択することもできます。

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2)計算式の「A~D」の解説

A~Dの数値は、国税庁から発表されています。類似業種は、その業種目が小分類に区分されていたら小分類の業種目、そうでなければ中分類の業種目を選択します。ただし、納税義務者の選択により、小分類にある業種目については、その業種目が属する中分類を類似業種として選択できます。また、中分類にある業種目については、その業種目が属する大分類を類似業種として選択することができます。

3)計算式の「b」の解説

直前期末以前2年間の剰余金の配当金額(特別配当、記念配当等は除く)の合計額の2分の1に相当する金額を、直前期末における発行済株式総数(1株当たりの資本金等の額を50円とした場合の発行済株式総数。以下の「c」「d」についても同じ)で除した金額です。

4)計算式の「c」の解説

次のいずれか低い金額です。

  • 直前期末以前1年間の法人税の課税所得(固定資産売却益などの非経常的な利益を除く)に、その所得の計算の際に益金に算入されなかった剰余金の配当等の金額(所得税額に相当する金額を除く)および損金に算入された繰越欠損金の控除額を加算した金額(その金額がマイナスならゼロ)を、直前期末における発行済株式総数で除した金額
  • ただし、納税者の選択により、直前期末以前2年間の各事業年度について、それぞれ法人税の課税所得を基に、上記に準じて計算した金額の合計額(その合計額がマイナスならゼロ)の2分の1に相当する金額を、直前期末における発行済株式総数で除した金額

5)計算式の「d」の解説

直前期末における資本金等の額と利益積立金額(法人税申告書別表五(一)の「差引翌期首現在利益積立金額」)の合計額を発行済株式総数で除した金額です(マイナスならゼロ)。

3 純資産価額方式(原則的評価方式)

1)純資産価額方式の基本

純資産価額方式は、小会社に適用される方式です。基本的な考え方は、

評価する会社を個人企業に近いものと捉えて、原則として1株当たりの純資産価額によって評価する方式

となります。ただし、納税者の選択により中会社に適用される併用方式を選択することもできます。

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2)総資産価額

課税時期における会社所有の資産を、相続税評価額で評価した価額の合計額です。

3)負債の金額

課税時期における会社の負債の合計額です。貸倒引当金、退職給与引当金(旧法人税法第54条第2項に規定する取崩残高を除く)、納税引当金その他の準備金および引当金に相当する金額は含めませんが、次のものは含めます。

  • 課税時期が属する事業年度の法人税額、消費税、事業税額、都道府県民税および市町村税のうち、その事業年度開始の日から課税時期までの期間に対応する未払金額
  • 課税時期以前に賦課期日のあった固定資産税の未払税額
  • 被相続人の死亡により、相続人その他の者に支給することが確定した退職手当金、功労金、その他これに準ずる給与の金額

4)評価差額に対する法人税等に相当する金額

評価差額は資産の含み益で、これに「37%」を乗じて法人税額等を算出します。この37%は、清算所得に対する法人税等の税率の合計に相当する割合です。小会社であっても、株式である以上は会社の資産を所有することに変わりはなく、評価の均衡を図っています。

なお、含み損の場合は考慮しません。

5)発行済株式数

課税時期における発行済株式数(自己株式を除く)です。

4 併用方式(原則的評価方式)

1)併用方式の基本

併用方式は、中会社に適用される方式です。基本的な考え方は、

大会社と小会社の中間にある中会社に合わせ、類似業種比準方式と純資産価額方式を併用する方式

となります。下の計算式にある「L」の割合を見ると分かるように、中会社の大は類似業種比準方式の部分が多く、中会社の小は純資産価額方式の部分が多くなっています。

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議決権割合が50%以下の同族株主が取得した株式を評価する場合、算式中の純資産価額は20%の評価減が適用されます。

また、類似業種比準価額が1株当たりの純資産価額を超える場合の併用方式は、

純資産価額×Lの割合+純資産価額×(1-Lの割合)

となります。この場合、議決権割合が50%以下の同族株主が取得した株式については、上記算式の前半部分「純資産価額×Lの割合」の純資産価額に対する20%の評価減は適用されません。ただし、上記算式の後半部分「純資産価額×(1-Lの割合)」の純資産価額に対する20%の評価減は適用されます)。

2)小会社の併用方式の計算式

原則として、小会社は純資産価額方式が適用されますが、納税者の選択により併用方式を選ぶこともできます。この場合、次の1と2のいずれか低い方が評価額となります。

  1. 類似業種比準価額×0.5+純資産価額×0.5
  2. 純資産価額

なお、議決権割合が50%以下の同族株主が取得した株式を評価する場合、算式中の純資産価額は20%の評価減が適用されます。

5 配当還元方式(特例的評価方式)

同族株主以外の株主の株式の評価は「配当還元方式」で行います。ただし、その評価額が原則的評価方式を適用した場合よりも高いと、原則的評価方式が適用されます。つまり、

配当還元方式と原則的評価方式のいずれか低い方

ということです。

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  1. 1株当たりの年配当金額は、1株当たりの資本金等の額を50円として計算する
  2. 1株当たりの年配当金額は、直前期末以前2年間の平均値による
  3. 特別配当、記念配当等の臨時的に支払われた配当は除外する
  4. 1株当たりの年配当金額が2円50銭未満の場合、及び無配の場合は2円50銭とする

6 その他の留意点

1)株式保有特定会社の株式の評価

総資産価額に占める株式、出資、新株予約権付社債(株式等)の合計額が50%以上の場合、株式は純資産価額方式で評価します。なお、納税者の選択で、株式等は純資産価額方式で評価し、それ以外の財産は会社規模に応じた原則的評価方式により評価することもできます。

2)土地保有特定会社または開業後3年未満の会社の株式の評価

土地保有割合が一定以上の会社(土地保有特定会社)については、原則として純資産価額方式で評価します。なお、土地保有割合は会社の区分ごとに決められています。

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また、開業後3年未満の会社の株式は、純資産価額方式により評価します。

3)比準要素数1の会社や比準要素数0の会社の株式の評価

直前期末を基準に判定した「1株当たり配当金額」「1株当たり利益金額」「1株当たり純資産価額」のうち2つの要素の金額がゼロで、なおかつ直前々期末を基準に判定した場合も2つ以上の金額がゼロの場合、原則として、純資産価額方式で評価します。ただし、納税義務者の選択により、類似業種比準方式を25%、純資産価額方式を75%の割合で併用することもできます。

ちなみに、3つの要素ともゼロの場合は純資産価額方式により評価します。

この記事はこれで終わりです。評価額の引き下げ方法については、以下の記事でまとめています。

80093 【自社株(3)】自社株の評価額を引き下げる方法

以上(2023年6月更新)
(監修 南青山税理士法人 税理士 中田真希子)

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画像:Africa Studio-Adobe Stock

【朝礼】気が進まないときは「形」から入ってみよう

「最近、太ってきたので、ウオーキングをはじめようと思っています。ただし、運動は大の苦手。三日坊主にならないか不安です。せっかくはじめるのだから、長く続けたいのですが…」

どこにでもあるような話ですが、もし、これが皆さん自身のことだったら、どのようにウオーキングを続ける工夫をするでしょうか。

例えば、「コースやスケジュールなど、事前にしっかりとした計画を立てる」とか、「『目指せ!体重マイナス5キログラム』など明確な目標を立てる」という人もいるでしょう。また、中には、「1カ月続けることができたら、『自分へのご褒美』として欲しい物を買う」というやり方でモチベーションを高める方法を考える人もいるかもしれません。このほかにもいろいろな方法がありますが、意外と見落とされがちなのが「形から入る」ということです。ウオーキングであれば、まずはスポーツウエアとウオーキングシューズなど、ひと通りの道具を買いそろえることからはじめてみるのです。

「『形』なんて、うわべだけのことじゃないか」と思う人もいるでしょう。しかし、「形から入る」ということは意外と効果があるものです。ウオーキングの例でいえば、道具を新調するだけで「これからウオーキングをはじめるんだ」と、気持ちが盛り上がってくるものです。また、「せっかく買ったウエアとシューズを使いたいから、ウオーキングを続けよう」という思いが湧いてくるかもしれません。

些細なきっかけですが、こうして少しずつ続けていくうちに、やがて、自分なりのウオーキングの楽しみを発見したり、次第にウオーキングが生活の一部として習慣化したりしてウオーキングを続けることができるようになるものです。

これは仕事でも同じです。例えば、企画書を作成するときです。「取り掛かる前に、まずはアイデアを整理しよう」「よいアイデアが浮かんでから企画書を作ろう」などと考えているうちに、時間だけが過ぎてしまったという経験は誰にもあると思います。

そんなときは、とにかくパソコンのスイッチを入れて、最初に「企画書」という文字を打ってみるのです。そして、今の時点で思い付いたことを何でもいいから書き出してみましょう。いわば、企画書を作成するために「形から入る」のです。

最初はまとまりがなくても、とにかく体裁を整えていくうちに、ふっと湧いたアイデアが次のアイデアを呼び起こしたり、それまではバラバラだった考え方が少しずつ整理されてきて、次第に「企画書」として形になっていくものです。

仕事でも、私生活でも、苦手なことや何となく気が進まないことに取り組むときには、「形から入る」ということを試してみてください。時としてそれがきっかけとなって、物事が順調に進むこともあると思います。

以上(2023年6月)

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画像:Mariko Mitsuda

【自社株(3)】自社株の評価額を引き下げる方法

書いてあること

  • 主な読者:自社株の評価額の引き下げ方法を知りたい経営者
  • 課題:評価方式によって評価額の引き下げ方法が違うので分かりにくい
  • 解決策:基本は収益や資産を減らすこと。会社規模の変更が有効な場合もある

1 自社株の評価をコントロールしたい

この記事で取り扱うのは、上場していない会社の株式は「取引相場のない株式等」(以下「自社株」)です。自社株の評価は収益や資産を増減させることで、ある程度はコントロールできますが、評価方式によって方法が違います。

なお、自社に適用される評価方式の決定方法や評価方式の詳細な内容(計算式など)については、以下の記事でまとめています。

30097 【自社株(2)】自社株の評価方式は会社規模と株主区分で決まる

80145 【自社株(1)】自社株の評価方式とそれぞれの計算式

2 類似業種比準方式による評価額を下げる

1)利益を減らす

1.含み損を実現させる

含み損を実現して利益を減少させます。例えば、時価が簿価を下回る棚卸資産を売却して売却損を計上します。また、回収の見込みのない売掛金や未収金のうち、損金計上ができるものを損金計上します。

2.役員の報酬・従業員の賞与を増やす

役員報酬などを増やして利益を減少させます。税務上の否認のリスクを低減するため、役員報酬規程等を整備し、それに基づいて運用します。同様に、従業員の賞与を増やすことでも利益を減らせます。

2)配当金額を減らす

配当金額を減らせば、類似業種比準方式による評価額を引き下げることができます。ただし、内部留保が厚くなると純資産価額が増えて評価額が上がる要因になるので、

普通配当を減らし、記念配当(創立10周年記念など)を行う

ようにします。類似業種比準方式で認識するのは普通配当だけなので、記念配当などは評価額の引き下げに有効なのです。

普通配当を減らす方法はオーナー会社でよく行われます。ただし、

2年間無配・1株当たりの配当をゼロにした場合で、他の比準要素である所得の金額もゼロになると類似業種比準方式が使えない

ことになります。この場合、純資産価額方式が適用されるので、逆に評価が上がる恐れがあります。

3)純資産価額を減らす

簿価を大きく下回った不動産などの資産を売却すると、利益金額の減少と併せて純資産価額を引き下げる効果が期待できます。

4)第三者割当増資をする

株式数を増やして、

1株当たり利益、1株当たり配当、1株当たり純資産価額の引き下げ

をします。ただし、株式数を増やしても持分が同じでは意味がないので、第三者割当増資をして第三者の持分を増やします。この場合、会社の支配権に影響するので、従業員持株会などを活用します。

第三者割当増資における税務上の留意点は、株式が有利な価額で発行されたと認定される場合です。通常よりも有利な金額で取得した有価証券の価額は、取得時における通常要する価額となります。通常よりも有利な金額の目安は10%以上の乖離(かいり)です。また、第三者割当増資によって既存株主から新株主に利益が移転したと判断されると、個人なら贈与税または所得税が、法人なら法人税が課税されることがあります。

5)従業員持株会の活用

社長一族の株式を従業員持株会に売却します。株価対策や節税対策になるだけではなく、従業員の財産形成のモチベーション向上につながります。

6)類似業種平均株価の低い業種への移行

複数の事業を営んでいる場合、類似業種比準方式では、取引金額の割合が50%超の主たる事業の業種を選択します。もし、各事業の売上が近ければ、売上構成を変更して評価が下がる業種に移行できます。

また、事業を別会社にできる場合、評価が高い事業を100%出資子会社として分離独立させたり、後継者が設立した会社に事業譲渡したりする方法もあります。

3 純資産価額方式による評価額を下げる

1)オーナーへ早期の退職金を支給する

純資産価額方式は、課税時期における資産、負債を相続税評価額により評価する方式です。

純資産価額=相続税評価額による資産額-負債の合計額-含み益(評価差額)×37%

株価を下げれば評価額も下がります。具体的な方法としては、役員退職金を支給して大きな赤字を計上し、自己資本を減らすことがあります。通常、役員退職金は最終の役員給与を基準に算定されるため、事前に役員給与の見直しも必要です。

役員退職金=退職時の役員給与月額×勤続年数×功績倍率等

なお、退任する代表取締役が、代表権を持たずに従前の報酬の2分の1以下にするなど一定の条件を満たした場合、「みなし退職」として、その後も非常勤役員(代表権のない会長や相談役)として会社に残れることがあります。

2)保有資産の見直し

含み益を減らすことでも評価額が下がります。具体的な方法としては、不動産投資があります。会社が所有する土地に賃貸用のビルやマンションなどを建設して賃貸すると、土地と建物の評価が下がり、含み益が減ります。なお、建設資金は自己資金でも借入金でも、同様の効果が期待できます。

3)赤字会社と合併する

赤字会社と合併すれば株価が下がります。ただし、自社の収益が大きく圧迫されることは避けなければならず、慎重な判断が必要です。

4 土地・株式保有割合を見直して評価額を下げる

総資産額のうち、

  • 土地の占める割合が大会社では70%以上(中会社では90%以上)
  • 株式の占める割合が50%以上

の場合は、原則として、純資産価額方式による評価となります。

なお、土地の占める割合が高い企業の場合、建物や設備を取得すれば割合を下げることができます。また、株式の占める割合が高い企業の場合、株式を売却すれば割合を下げることができます。

5 会社規模の変更

この記事で紹介してきたのは、上場していない会社の株式は「取引相場のない株式等」ですが、その税務上の評価方式は会社規模と株主区分で決まります。組織再編によって会社規模を変更することで評価方式が変わり、評価額を引き下げられる場合があります。組織再編には、会社組織の形態を変える会社法上の法律行為で、合併、会社分割、株式交換、株式移転、現物出資、現物分配といったものがあります。

以上(2023年6月更新)
(監修 南青山税理士法人 税理士 窪田 博行)

pj80093
画像:pixabay

【朝礼】新しい発想を得たければ、多くの人から話を聞きなさい

6月も半ばを過ぎ、暑さが本格化してきました。夏バテしないように体調管理に気を付けてください。さて、「夏バテ解消」というと、7月の土用の丑(うし)の日のウナギを思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。実は、今ではそれが“常識”のようにいわれますが、その習慣は江戸時代からで、それまでウナギの旬は脂の乗った冬で、夏にウナギはあまり食べられていませんでした。

諸説ありますが、冬が旬だったウナギを夏の風物詩に変えたのは、たった1人の天才の発想だったといわれています。その人こそ、江戸時代中期の発明家で、エレキテルの復元などで知られる平賀源内です。きっかけは、夏の売り上げが少ないことに困ったウナギ屋が、友人の源内に相談したことです。源内は、「本日、土用の丑の日」の看板を掲げ、暑さを乗り切るために精のつくウナギを食べたほうがいいとお客に伝えるようアドバイスしたところ、そのウナギ屋は大繁盛。多くのウナギ屋がまねをしたことで、土用の丑の日にウナギを食べる習慣が広がったというのです。旬ではない食材を大ヒットさせ、現代に至るまでその習慣が廃れていないのですから、源内の発想は、まさに天才的といえます。

ヒット商品を生み出したり、会社の新たな道を開拓したりするには、源内のような新しい発想で、従来なかった価値観を生み出すことが重要です。とはいえ、「言うはやすし」で、実際に新しい発想でビジネスを成功させるのは至難の業です。

私自身も含め、源内のような発想力がある人は、そうはいないでしょう。ですから、私たちが目指すべきは、源内ではなく、源内にウナギの売り上げに関する相談をしたウナギ屋です。もちろん、「ただ相談する」のではなく、「発想力のある人から学んで、新しい発想のヒントを得る」という姿勢が大切です。

実は私は、新しい発想のヒントを得るために、買い物の際に、新商品や珍しいお菓子を見つけると、なるべく購入するようにしています。そのお菓子は自分だけでなく、発想力があると思っている方々にも食べてもらうのです。お菓子は差し入れとしても喜ばれますし、その場で食べてもらえ、感想を聞きやすいメリットがあります。

お菓子に対する率直な感想や評価を聞いてみると、私には思い浮かばなかったような着眼点や評価基準を知り、「そういうものの見方があるのか」という気付きを得られます。そして、こうした気付きを自分の中にためておくと、後で物事を判断するときなどに、思わぬ助けになるのです。

皆さんも日ごろから、同僚、家族、知人など、多くの人の「ものの見方」を学ぶ癖を付けてください。今ならAIチャットに質問してもいいでしょう。質問のテーマは、ささいなことでも構いません。そして、自分になかった「ものの見方」があれば、自分の中にためておくようにしてください。その積み重ねが、いざというときの新しい発想につながるはずです。

以上(2023年6月)

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画像:Mariko Mitsuda

仕事中の事故で障害が残ってしまったら、保険でどこまで保障される?

書いてあること

  • 主な読者:社員が傷病や障害によって働けなくなった場合の生活保障や、死亡した場合の遺族保障の内容を見直したい経営者、労務担当者
  • 課題:まずは法律で定められた保険給付について知りたいが、制度が複雑で分かりにくい
  • 解決策:どのような場合にどのような給付が受けられるかを、チャート形式で整理する

1 業務中や通勤中の事故などに対応する保険給付は?

会社は日ごろから、社員が労働災害(業務上の事由または通勤により発生した事故など)に遭わないよう、目を光らせています。それでも怪我や病気のリスクをゼロにすることはできませんから、「万が一」に備え、社員が働けなくなった場合の生活保障や、亡くなってしまった場合の遺族に対する保障などについて、しっかり考えておく必要があります。

会社の制度(見舞金や弔慰金)や民間の保険などの「備え」をする会社もありますが、その前に押さえておきたいのが、法律で定められた保険給付(社会・労働保険の給付)です。

この記事では、労働災害(業務上の事由または通勤により発生した事故など)が起きた場合に支給されるものとして、

労災保険と国民年金・厚生年金保険の給付(傷病、障害、死亡に対するもの)

を紹介します。

なお、この記事の社員は、65歳未満で国民年金・厚生年金保険の加入要件を満たしていて(保険料の未納もなし)、労災保険の適用事業の会社に勤務しているものとします。

また、プライベートで起こした事故など(労災認定されなかった業務中や通勤中の事故などを含む)による傷病、障害、死亡に対する給付については、次の記事をご確認ください。

2 傷病に対する主な給付(労働災害編)

1)給付の種類を整理しよう

社員が労働災害により傷病を負った場合、労災保険の給付を受けられます。社員が受けられる主な給付は図表1の通りです。なお、傷病がもとで障害を負った場合の給付については第3章を、死亡した場合の給付については第4章をご参照ください。

画像1

なお、労災保険の給付は、業務災害(業務上の事由によって発生した事故など)の場合と通勤災害(通勤によって発生した事故など)の場合とで名称が変わります。

  • 業務災害:療養補償給付、傷病補償年金、介護補償給付
  • 通勤災害:療養給付、傷病年金、介護給付

また、以降では「治癒」という言葉が頻繁に出てきますが、

「治癒」という言葉には、「傷病が完治した」という意味の他に、「症状が固定された(症状の回復・改善が期待できなくなった)」という意味もあります

ので、ご注意ください。

2)給付の支給要件、支給額、支給期間を知ろう

1.療養(補償)給付

社員が診察、薬剤等の支給、治療などを受けた場合に支給されます。

通常は現物給付なので、支給額という概念はありません。社員は労災病院や労災保険指定医療機関・薬局等(以下「指定医療機関等」)にて、

療養の給付(無料の診察、薬剤等の支給、治療など)

を受けられます。ただし、やむを得ない事情により指定医療機関等以外で療養を受けた場合は、

療養費(療養にかかった費用)

が支給されます。

支給期間という概念はなく、傷病が治癒するまで、診察、薬剤等の支給、治療などを受けるたびに支給されます。

2.休業(補償)給付

社員が療養のために働けず、3日以上(連続しなくても可。公休日等を含む)休んだ場合、4日目以降から支給されます。なお、業務災害の場合、最初の3日間については、会社が補償しなければなりません。

休業(補償)給付をはじめ、労災保険の給付の多くは、支給額の算定に「給付基礎日額」を用います。給付基礎日額は、原則として次のように算定されます(実際は、賃金水準の変動などによって金額が調整されることがあります)。

給付基礎日額=算定事由発生日(注)以前の直近3カ月間の賃金総額(賞与等を除く)÷算定事由発生日以前の直近3カ月間の総日数 ※最低保障額は3970円

(注)算定事由発生日とは、事故が発生した日や診断によって疾病の発生が確定した日のことです。賃金締切日が定められいている場合は、その直前の賃金締切日を起算日とします。

支給額は、休業(補償)給付の場合、次のように算定されます。

支給額(日額)=給付基礎日額×0.6

なお、会社が社員の生活を考え、休業中も賃金の一部を支払う場合などは、賃金が給付基礎日額の60%未満であれば、休業(補償)給付は全額支給されます(60%以上の場合は不支給)。

ただし、社員が所定労働時間の一部の時間だけ働き(午前だけ勤務するなど)、その時間について賃金を支払う場合は、次のように算定されます(賃金が給付基礎日額以上の場合は不支給)。

支給額(日額)=(給付基礎日額-賃金の金額)×0.6

支給期間の制限はありません。傷病が治癒するなど、支給要件を満たさなくなるまで支給されます。ただし、社員が療養を開始してから1年6カ月が経過し、後述の傷病(補償)年金の支給を受けるようになった場合は、休業(補償)給付は支給されなくなります。

3.傷病(補償)年金

社員が療養を開始してから1年6カ月が経過し、傷病が治癒しておらず、障害の程度が労災保険の傷病等級1~3級に該当する場合に支給されます。

支給額(1年当たりの額)は、労災保険の傷病等級に応じて、給付基礎日額を基に、次のように算定されます。

(1級)支給額(年額)=給付基礎日額×313日分
(2級)支給額(年額)=給付基礎日額×277日分
(3級)支給額(年額)=給付基礎日額×245日分

支給期間の制限はありません。支給開始日から傷病が治癒する、あるいは社員の傷病の程度が労災保険の傷病等級3級に満たなくなるなど、支給要件を満たさなくなるまで支給されます。

4.介護(補償)給付

社員が傷病(補償)年金または後述の「障害(補償)年金」の受給権者で、一定程度の障害に該当し、常時または随時介護が必要な場合に支給されます。ただし、病院や障害者支援施設に入院・入所している場合は支給されません。

支給額は、親族等に介護を受けているか、介護サービスを利用しているかなどによって、次のように算定されます。

親族等による介護なし、介護サービスの利用あり
(常時介護が必要)支給額(月額)=介護サービスの費用 ※上限は17万2550円
(随時介護が必要)支給額(月額)=介護サービスの費用 ※上限は8万6280円

親族等による介護あり、介護サービスの利用なし
(常時介護が必要)支給額(月額)=7万7890円
(随時介護が必要)支給額(月額)=3万8900円

親族等による介護あり、介護サービスの利用あり
(常時介護が必要)支給額(月額)=7万7890円(注)
(随時介護が必要)支給額(月額)=3万8900円(注)

(注)介護サービスの費用が7万7890円(3万8900円)を超える場合は、その費用が支給されます。ただし、常時介護を要する場合は17万2550円、随時介護を要する場合は8万6280円が上限です。

支給期間の制限はありません。ただし、社員が傷病(補償)年金または障害(補償)年金の受給権者でなくなった場合や、常時または随時介護が必要な状態でなくなった場合、病院や障害者支援施設に入院・入所した場合は、支給されません。

3 障害に対する主な給付(労働災害編)

1)給付の種類を整理しよう

社員が労働災害により障害を負った場合、労災保険、国民年金・厚生年金保険の給付を受けられます。主な給付は図表2の通りです。

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なお、労災保険の給付は、業務災害の場合と通勤災害の場合とで名称が変わります。

  • 業務災害:障害補償年金、障害補償一時金、介護補償給付
  • 通勤災害:障害年金、障害一時金、介護給付

2)給付の支給要件、支給額、支給期間を知ろう

1.障害(補償)年金

社員の傷病が治癒し、労災保険の障害等級1~7級に該当する場合に支給されます。

支給額は、労災保険の障害等級に応じて、給付基礎日額を基に、次のように算定されます。

(1級)支給額(年額)=給付基礎日額×313日分
(2級)支給額(年額)=給付基礎日額×277日分
(3級)支給額(年額)=給付基礎日額×245日分
(4級)支給額(年額)=給付基礎日額×213日分
(5級)支給額(年額)=給付基礎日額×184日分
(6級)支給額(年額)=給付基礎日額×156日分
(7級)支給額(年額)=給付基礎日額×131日分

ただし、社員が障害(補償)年金の他に、後述の障害厚生年金、障害基礎年金のいずれかまたは両方の支給を受ける場合は、障害(補償)年金の支給額が次のように調整されます。

(障害厚生年金のみ)支給額(年額)=本来の障害(補償)年金の支給額×0.83
(障害基礎年金のみ)支給額(年額)=本来の障害(補償)年金の支給額×0.88
(障害厚生年金と障害基礎年金)支給額(年額)=本来の障害(補償)年金の支給額×0.73

支給期間の制限はありません。ただし、社員が労災保険の障害等級7級に満たなくなった場合は支給が停止されます。

2.障害(補償)一時金

社員の傷病が治癒し、労災保険の障害等級8~14級に該当する場合に支給されます。

支給額は、労災保険の障害等級に応じて、給付基礎日額を基に、次のように算定されます。

(8級)支給額(一時金)=給付基礎日額×503日分
(9級)支給額(一時金)=給付基礎日額×391日分
(10級)支給額(一時金)=給付基礎日額×302日分
(11級)支給額(一時金)=給付基礎日額×223日分
(12級)支給額(一時金)=給付基礎日額×156日分
(13級)支給額(一時金)=給付基礎日額×101日分
(14級)支給額(一時金)=給付基礎日額×56日分

支給期間という概念はなく、1回のみ支給されます。

3.介護(補償)給付

第2章をご参照ください。

4.障害厚生年金

社員が初診日から1年6カ月が経過した日(それまでに傷病が治癒した場合はその日)の時点で、厚生年金保険の障害等級1~3級に該当する場合に支給されます。ただし、初診日の時点で、社員が厚生年金保険に加入していて、保険料納付要件を満たしている必要があります。

支給額は、厚生年金保険の障害等級に応じて、報酬比例部分の年金額と配偶者加給年金額(生計を維持されている65歳未満の配偶者がいる場合に加算)を基に、次のように算定されます。

(1級)支給額(年額)=報酬比例部分の年金額×1.25+配偶者加給年金額(22万8700円)
(2級)支給額(年額)=報酬比例部分の年金額+配偶者加給年金額(22万8700円)
(3級)支給額(年額)=報酬比例部分の年金額 ※最低保障額は59万6300円

支給期間の制限はありません。ただし、社員が死亡した場合や、障害の程度が厚生年金保険の障害等級3級に満たなくなった場合は支給が停止されます。また、障害厚生年金の支給を受ける社員が、「老齢厚生年金」など他の年金の支給を受けられるようになった場合は、社員がどちらの年金を受け取るかを選択しなければならないことがあります。

5.障害基礎年金

社員が初診日から1年6カ月が経過した日(それまでに傷病が治癒した場合はその日)の時点で、国民年金の障害等級1~2級に該当する場合に支給されます。ただし、原則として初診日の時点で、社員が国民年金に加入していて、保険料納付要件を満たしている必要があります。

支給額は、国民年金の障害等級に応じて、子の数を基に、次のように算定されます。ただし、子は、社員に生計を維持されていて、年齢が18歳到達年度の末日(3月31日)を経過していない、または20歳未満で、かつ国民年金の障害等級1~2級に該当している必要があります。

(1級)支給額(年額)=99万3750円+子の加算(注)
(2級)支給額(年額)=79万5000円+子の加算(注)

(注)第2子までは子1人につき22万8700円、第3子以降は子1人につき7万6200円が加算されます。

支給期間の制限はありません。ただし、社員が死亡した場合や、障害の程度が国民年金の障害等級2級に満たなくなった場合は支給が停止されます。また、障害基礎年金の支給を受ける社員が、「老齢基礎年金」など他の年金の支給を受けられるようになった場合は、社員がどちらの年金を受け取るかを選択しなければならないことがあります。

6.障害手当金

社員が初診日から5年以内に傷病が治り、障害手当金の障害の状態になったときに支給されます。障害手当金の障害の状態は「労働が制限を受けるか労働に制限を加えることを必要とする程度」とされています。ただし、初診日の時点で、社員が厚生年金保険に加入していて、保険料納付要件を満たしている必要があります。

障害手当金は、報酬比例部分の年金額を基に、次のように算定されます。

支給額(一時金)=報酬比例部分の年金額×2 ※最低保障額は119万2600円

支給期間という概念はなく、1回のみ支給されます。

4 死亡に対する主な給付(労働災害編)

1)給付の種類を整理しよう

社員が労働災害により死亡した場合、労災保険・国民年金・厚生年金保険の給付を受けられます。社員が受けられる主な給付は図表3の通りです。

画像3

なお、労災保険の給付は、業務災害の場合と通勤災害の場合とで名称が変わります。

  • 業務災害:葬祭料、遺族補償年金、遺族補償一時金
  • 通勤災害:葬祭給付、遺族年金、遺族一時金

2)給付の支給要件、支給額、支給期間を知ろう

1.葬祭料(葬祭給付)

社員が死亡した際、葬儀を執り行う者に支給されます。一般的には、葬儀を執り行う遺族に支給されますが、遺族がなく会社が社葬を行った場合には会社に支給されることもあります。

支給額は、死亡した社員の給付基礎日額を基に、次の2つの方法で算定され、高いほうの額が支給されます。

支給額(一時金)=給付基礎日額×30日分+31万5000円
支給額(一時金)=給付基礎日額×60日分

支給期間という概念はなく、1回のみ支給されます。

2.遺族(補償)年金

社員が死亡した際、社員により生計を維持されていた配偶者・子・父母・孫・祖父母・兄弟姉妹に支給されます。妻以外については、原則として次の要件を満たす必要があります。

  • 子・孫:18歳到達年度の末日(3月31日)を経過していないこと、または一定の障害の状態にあること
  • 夫・父母・祖父母:60歳以上であること、または一定の障害の状態にあること
  • 兄弟姉妹:18歳到達年度の末日(3月31日)を経過していないか、60歳以上であること、または一定の障害の状態にあること

該当する遺族が複数いる場合、受給権者となる順位が決められており、上の要件を満たす遺族同士の場合、妻の優先順位が最も高くなります。

支給額は、支給を受ける遺族と、その遺族と生計を同じくする遺族(上の要件を満たす者)の合計人数に応じて、次のように算定されます。

(1人)支給額(年額)=給付基礎日額×153日分(注)
(2人)支給額(年額)=給付基礎日額×201日分
(3人)支給額(年額)=給付基礎日額×223日分
(4人以上)支給額(年額)=給付基礎日額×245日分

(注)遺族が、55歳以上の妻または一定の障害の状態にある妻の場合は175日分となります。

ただし、遺族が遺族(補償)年金の他に、後述の遺族厚生年金、遺族基礎年金のいずれかまたは両方の支給を受ける場合は、遺族(補償)年金の支給額が次のように調整されます。

(遺族厚生年金のみ)支給額(年額)=本来の遺族(補償)年金の支給額×0.84
(遺族基礎年金のみ)支給額(年額)=本来の遺族(補償)年金の支給額×0.88
(遺族厚生年金と遺族基礎年金)支給額(年額)=本来の遺族(補償)年金の支給額×0.80

支給期間の制限はありません。支給を受ける遺族が死亡した場合や、一定の年齢または一定の障害の状態に該当しなくなった場合など、受給権者に該当しなくなったときは、その者に対する支給はされなくなりますが、次順位の受給資格者が受給権者となります(これを「転給」といいます)。

3.遺族(補償)一時金

社員の死亡当時、遺族(補償)年金を受ける遺族がいない場合、配偶者・子・父母・孫・祖父母・兄弟姉妹に対して支給されます。

該当する遺族が複数いる場合、優先順位が決められており、配偶者の優先順位が最も高くなります。

支給額は、社員の給付基礎日額を基に、次のように算定されます。

支給額(一時金)=給付基礎日額×1000日分

社員の死亡当時、遺族(補償)年金の支給を受ける遺族がいたが、その遺族が遺族(補償)年金の受給権を失い(死亡した場合など)、その後支給を受ける遺族がいなかった場合は、社員の給付基礎日額を基に、次のように算定されます。

支給額(一時金)=給付基礎日額×1000日分-すでに支給された遺族(補償)年金の総額

支給期間という概念はなく、1回のみ支給されます。

4.遺族厚生年金

社員が死亡した際、社員により生計を維持されていた配偶者・子・父母・孫・祖父母に支給されます。妻以外については、原則として次の要件を満たす必要があります。

  • 子・孫:18歳到達年度の末日(3月31日)を経過していないこと、または20歳未満で国民年金の障害等級1~2級に該当すること
  • 夫・父母・祖父母:死亡当時に55歳以上であること

上の要件を満たす遺族同士の場合、配偶者または子の優先順位が最も高くなります。

支給額は、報酬比例部分の年金額を基に、次のように算定されます。

支給額(年額)=報酬比例部分の年金額×3/4

なお、社員の妻に関しては、次の要件を満たす場合、妻が40歳から65歳になるまでの間、年額59万6300円が加算されます。

  • 夫の死亡時、妻が40歳以上65歳未満で、生計を同じくしている子(前述の遺族厚生年金の支給要件を満たす子)がいない場合
  • 遺族厚生年金と遺族基礎年金を受けていた子のある妻が、子が18歳到達年度の末日(3月31日)に達した(障害の状態にある場合は20歳に達した)等のため、遺族基礎年金を受給できなくなった場合(40歳に達した当時、遺族基礎年金を受給していた場合に限る)

支給期間の制限は原則としてありません。ただし、子のない30歳未満の妻は5年間のみの受給です。加えて、夫・父母・祖父母の受給開始は60歳からとなります。ただ、夫の場合については遺族基礎年金を受給できる場合に限り、60歳未満であっても受給することができます。

なお、支給を受ける遺族が死亡した場合は、支給されなくなります。また、遺族厚生年金の支給を受ける社員が、「障害厚生年金」など他の年金の支給を受けられるようになった場合は、社員がどちらの年金を受け取るかを選択しなければならないことがあります。

5.遺族基礎年金

社員が死亡した場合、死亡した社員の収入によって生計を維持していた子のある配偶者・子に支給されます。なお、「子」とは、18歳到達年度の末日(3月31日)を経過していない子、または20歳未満で国民年金の障害等級1~2級に該当する子を指します。

支給額は、子の数を基に、次のように算定されます。

支給額(年額)=79万5000円+子の加算

第1子・第2子は子1人につき22万8700円、第3子以降は子1人につき7万6200円が加算されます。子が支給を受ける場合は、第2子以降の数を基に加算されます。

支給期間の制限は原則としてありません。ただし、遺族基礎年金を受け取る配偶者または子が死亡した場合や、子が18歳になった年度の3月31日に到達した場合や子の障害の程度が国民年金の障害等級2級に満たなくなった場合などは支給が停止されます。

また、遺族基礎年金の支給を受ける社員が、「障害基礎年金」など他の年金の支給を受けられるようになった場合は、社員がどちらの年金を受け取るかを選択しなければならないことがあります。

以上(2023年6月更新)
(監修 シンシア総合労務事務所 特定社会保険労務士 白石和之)

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画像:pixabay

【朝礼】卓球界の世代交代に見る「格好いい背中」

今日は、日本の卓球界を題材に、「世代交代」というテーマで話をしたいと思います。

2023年5月には、卓球界において注目すべきニュースが2つありました。1つは、過去オリンピックに3大会連続で出場し、メダル3つを獲得した石川佳純(いしかわかすみ)さんが、現役引退を表明したこと。もう1つは、世界卓球2023南アフリカ大会の女子シングルスで、早田ひな(はやたひな)さんが、実に58年ぶりに中国人選手に勝利してのメダル獲得を成し遂げたことです。私は卓球に関しては素人ですが、それでもお二人のこれまでの試合や会見の様子を見ていて、「あぁ、なんて格好いい世代交代なんだろう……」という思いに駆られました。

石川さんの引退会見の印象は、一言で言うなら「爽やか」でした。「自分自身、やりきったと思えた」というポジティブな引退理由もそうですし、会見中に彼女が言った「結果が出なかった時、そこからがスタート」というメッセージには、長い現役生活の中で数々の挫折を経験し、それでも前を向いて進み続けた彼女の卓球人生が集約されているようで、胸が熱くなりました。

次は、早田さんです。小学生の頃から石川さんに憧れ、共に団体戦に出場した経験もある早田さんは、石川さんが引退を表明した際、「自分が卓球界を受け継げるようになる」という思いをコメントし、2023南アフリカ大会にて、銅メダル獲得という形でその思いを結実させました。

早田さんが石川さんから受け継いだのは、卓球界をけん引する立場だけではありません。早田さんは準決勝で惜しくも世界ランキング1位の選手に敗れましたが、彼女は試合後、悔し涙を浮かべながら、「努力しか私はできない。努力がいつか報われるように、最後の最後まで努力し続けたい」と語りました。私はこの言葉を聞いて、石川さんの「挫折をバネに再スタートを切る」という思いに重なるものがあるように感じました。きっと、憧れの対象であった石川さんの「格好いい背中」を見てきた早田さんには、石川さんの「イズム」がしっかりと受け継がれているのでしょう。

さて、皆さん。皆さんは「世代交代」という言葉を聞いて何を連想しますか。会社に勤めていると、仕事の引き継ぎなど事務的なものを連想するかもしれませんが、私はそれ以上に引き継ぐべきものがあると思っています。それが、まさに石川さんのような「格好いい背中」です。

先達が長い時間をかけて後進に見せてきた、仕事に取り組む姿。その背中には、先達が大事にしてきたこだわりや信念、つまり「イズム」が表れます。これらは言葉で教えられるものではなく、先達の背中から、後進が感じ取ることでしか継承できません。

今、会社にいる年配の人たちは、若い人たちに誇れる背中がありますか。そして、若い人たちは、彼らのイズムを引き継ぐ準備はできていますか。ぜひ考えてみてください。

以上(2023年6月)

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画像:Mariko Mitsuda

プライベートの事故で入院したら、保険でどこまで保障される?

書いてあること

  • 主な読者:社員が傷病や障害によって働けなくなった場合の生活保障や、死亡した場合の遺族に対する保障の内容を見直したい経営者、労務担当者
  • 課題:まずは法律で定められた保険給付について知りたいが、制度が複雑で分かりにくい
  • 解決策:どのような場合にどのような給付が受けられるかを、チャート形式で整理する

1 プライベートでの事故などに対応する保険給付は?

社員が怪我や病気をすると、医療費や仕事を休んでいる間の生活費など、さまざまな出費がかさみます。怪我や病気が重く障害が残った場合は、一層の生活保障が求められますし、死亡した場合は、社員の遺族に対する保障も必要です。

会社の制度(見舞金や弔慰金)や民間の保険などの「備え」をする会社もありますが、その前に押さえておきたいのが、法律で定められた保険給付(社会・労働保険の給付)です。

この記事では、プライベートでの事故など(労災認定されなかった業務中や通勤中の事故などを含む)が起きた場合に支給されるものとして、

健康保険と国民年金・厚生年金保険の給付(傷病、障害、死亡に対するもの)

を紹介します。「療養が必要か」「休業が必要か」など、給付の特徴に注目したチャート図も載せているので、「保険給付って何だか種類が多くて苦手……」という人もぜひご一読ください。

なお、この記事の社員は、65歳未満で健康保険、国民年金・厚生年金保険の加入要件を満たしています(保険料の未納もなし)。健康保険の保険者は全国健康保険協会(以下「協会けんぽ」)とします。

また、労働災害(業務上の事由または通勤により発生した事故など)による傷病、障害、死亡に対する給付については、こちらをご確認ください。

2 傷病に対する主な給付(プライベート編)

1)給付の種類を整理しよう

社員がプライベートの事故などで傷病を負った場合、健康保険の給付を受けられます。主な給付は図表1の通りです。なお、傷病がもとで障害を負った場合の給付については第3章を、死亡した場合の給付については第4章をご参照ください。

画像1

2)給付の支給要件、支給額、支給期間を知ろう

1.療養の給付

社員が診察、薬剤等の支給、治療などを受けた場合に支給されます。

現物給付なので、本来、支給額という概念はありません。通常、社員は保険医療機関や保険薬局に対し、

一部負担金(原則として療養に要した費用の3割)

を支払います。ただし、やむを得ない事情により自費で受診した場合などは、

療養費(健康保険の基準で計算した金額から一部負担金に当たる額を引いた額)

が支給(申請に基づき後日還付)されます。

支給期間という概念はなく、診察、薬剤等の支給、治療などを受けるたびに支給されます。

2.傷病手当金

社員が療養のために働けず、連続3日(公休日等を含む)以上休んだ場合、4日目以降から支給されます。

支給額は、標準報酬月額(月例賃金などの「報酬月額」を区切りの良い幅で区分したもの)を基に、原則として次のように算定されます。

支給額(日額)=支給開始日以前直近12カ月間の各月の標準報酬月額の平均÷30日×2/3

ただし、会社が社員の生活を考え、休業中も賃金の一部を支払う場合などは、傷病手当金が賃金よりも多ければ、その差額が支給されます(傷病手当金が賃金よりも少ない場合は不支給)。

支給期間は、最大で支給開始日から通算1年6カ月です。「通算」なので、出勤などで傷病手当金が不支給となる期間があっても、その期間を除いて1年6カ月間支給されます。1年6カ月を超えた場合は、支給が停止されます。また、社員が後述の「障害厚生年金」や「障害手当金」の支給を受けるようになったときは、傷病手当金の全部または一部が支給停止となります。

3.入院時食事療養費

社員が保険医療機関に入院した場合、入院中の食費について支給されます。

支給額は、厚生労働大臣の算出基準による食事療養費と、「標準負担額」(原則として1食につき460円)を基に、次の計算式で算定されます。この給付は入院先の保険医療機関に支給されるので、社員は標準負担額のみを入院先に支払います。

支給額(1食につき)=厚生労働大臣の算出基準による食事療養費−標準負担額

支給期間は、入院し食事の提供を受ける期間です。

4.入院時生活療養費

65歳以上の社員が医療療養病床(長期療養が必要な患者のための病床)に入院した場合、入院中の食費、居住費について支給されます。

支給額は、厚生労働大臣の算出基準による生活療養費と、「標準負担額」(原則として食費は1食につき460円、居住費は1日につき370円)を基に、次の計算式で算定されます。この給付は入院先の保険医療機関に支給されるので、社員は標準負担額のみを入院先に支払います。

支給額(1食または1日につき)=厚生労働大臣の算出基準による生活療養費−標準負担額

支給期間は、入院し食事の提供などを受ける期間です。

5.保険外併用療養費

社員が健康保険の対象外となる診療のうち、厚生労働大臣の定める「評価療養」(先進医療など)または「選定療養」(特別の療養環境など)を受けた場合に、「評価療養」または「選定療養」のうち、通常の治療と共通する部分(診察、薬剤等の支給など)の医療費については、一般の保険診療と同様に扱われ、保険給付として支給されます。

支給額は、次のように算定されます。

支給額(1回の支払いにつき)=通常の治療と共通する部分の医療費−通常の治療と共通する部分の医療費の一部負担金(原則として医療費の3割)

評価療養または選定療養のうち、通常の治療と共通しない部分の医療費(先進医療、特別の療養環境など)については給付の対象とならず、全額自己負担となります。

支給期間という概念はなく、評価療養または選定療養を受けるたびに支給されます。

6.高額療養費

社員が同じ月(1日から月末まで)に支払った医療費の自己負担額が、一定の額(自己負担限度額)を超えた場合に支給されます。なお、自己負担額は世帯で合算することができます(70歳未満の場合は2万1000円以上のものに限る)。

支給額は、次のように算定されます。

支給額(月額)=同じ月に支払った医療費の自己負担額−自己負担限度額

自己負担限度額は、年齢(70歳未満か70歳以上75歳未満か)と所得(標準報酬月額または報酬月額がいくらかなど)によって、細かく区分されています。例えば、70歳未満で標準報酬月額が28万〜50万円の場合、自己負担限度額は「総医療費」(保険適用される診察費用の総額)を基に次のように計算されます。

自己負担限度額(月額)=8万100円+(総医療費−26万7000円)×0.01

なお、診療を受けた月以前の1年間に、3カ月以上の高額療養費の支給を受けたことがある場合、「多数該当」といって4カ月目から自己負担限度額が軽減されます。標準報酬月額が28万〜50万円の場合、多数該当の自己負担限度額は「4万4400円」です。

自己負担限度額は年齢、所得に応じて変わりますが、協会けんぽのウェブサイト(下記参照)でその一覧を確認できます。

支給期間という概念はなく、同一月に支払った医療費の自己負担額が自己負担限度額を超えるたびに支給されます。

■協会けんぽ「高額な医療費を支払ったとき」■

https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g3/sb3030/r150/

高額療養費は、医療機関などの窓口で支払った医療費が高額となった場合に、後から申請することで自己負担限度額を超えた額が還付される制度です。例えば、長期入院や手術など、医療費が高額になることが分かっている場合には、事前に申請しておくことで医療機関などでの支払いを自己負担限度額に抑えることができる制度(限度額適用認定)があります。

この制度を利用すれば窓口での支払い額を抑えることができ、後から高額療養費の申請をする必要もなくなります。

3 障害に対する主な給付(プライベート編)

1)給付の種類を整理しよう

社員がプライベートで起こした事故などにより障害を負った場合、国民年金・厚生年金保険の給付を受けられます。主な給付は図表2の通りです。

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なお、以降では「治癒」という言葉が頻繁に出てきますが、

「治癒」という言葉には、「傷病が完治した」という意味の他に、「症状が固定された(症状の回復・改善が期待できなくなった)」という意味もあります

ので、ご注意ください。

2)給付の支給要件、支給額、支給期間を知ろう

1.障害厚生年金

社員が初診日から1年6カ月が経過した日(それまでに傷病が治癒した場合はその日)の時点で、厚生年金保険の障害等級1〜3級に該当する場合に支給されます。ただし、初診日の時点で、社員が厚生年金保険に加入していて、保険料納付要件を満たしている必要があります。

支給額は、厚生年金保険の障害等級に応じて、報酬比例部分の年金額と配偶者加給年金額(生計を維持されている65歳未満の配偶者がいる場合に加算)を基に、次のように算定されます。


(1級)支給額(年額)=報酬比例部分の年金額×1.25+配偶者加給年金額(22万8700円)
(2級)支給額(年額)=報酬比例部分の年金額+配偶者加給年金額(22万8700円)
(3級)支給額(年額)=報酬比例部分の年金額 ※最低保障額は59万6300円

支給期間の制限はありません。ただし、社員が死亡した場合や、障害の程度が厚生年金保険の障害等級3級に満たなくなった場合は支給が停止されます。また、障害厚生年金の支給を受ける社員が、「老齢厚生年金」など他の年金の支給を受けられるようになった場合は、社員がどちらの年金を受け取るかを選択しなければならないことがあります。

2.障害基礎年金

社員が初診日から1年6カ月が経過した日(それまでに傷病が治癒した場合はその日)の時点で、国民年金の障害等級1〜2級に該当する場合に支給されます。ただし、原則として初診日の時点で、社員が国民年金に加入していて、保険料納付要件を満たしている必要があります。

支給額は、国民年金の障害等級に応じて、子の数を基に、次のように算定されます。ただし、子は、社員に生計を維持されていて、年齢が18歳到達年度の末日(3月31日)を経過していない、または20歳未満で、かつ国民年金の障害等級1〜2級に該当している必要があります。


(1級)支給額(年額)=99万3750円+子の加算(注)
(2級)支給額(年額)=79万5000円+子の加算(注)

(注)第2子までは子1人につき22万8700円、第3子以降は子1人につき7万6200円が加算されます。

支給期間の制限はありません。ただし、社員が死亡した場合や、障害の程度が国民年金の障害等級2級に満たなくなった場合は支給が停止されます。また、障害基礎年金の支給を受ける社員が、「老齢基礎年金」など他の年金の支給を受けられるようになった場合は、社員がどちらの年金を受け取るかを選択しなければならないことがあります。

3.障害手当金

社員が初診日から5年以内に傷病が治癒し、障害手当金の障害の状態になったときに支給されます。障害手当金の障害の状態は「労働が制限を受けるか労働に制限を加えることを必要とする程度」とされています。ただし、初診日の時点で、社員が厚生年金保険に加入していて、保険料納付要件を満たしている必要があります。

障害手当金は、報酬比例部分の年金額を基に、次のように算定されます。

支給額(一時金)=報酬比例部分の年金額×2 ※最低保障額は119万2600円

支給期間という概念はなく、1回のみ支給されます。

4 死亡に対する主な給付(プライベート編)

1)給付の種類を整理しよう

社員がプライベートで起こした事故などにより死亡した場合、健康保険、国民年金・厚生年金保険の給付を受けられます。主な給付は図表3の通りです。

画像3

2)給付の支給要件、支給額、支給期間を知ろう

1.埋葬料

社員が死亡した際、社員により生計を維持されていた者(親族関係になくても可)で埋葬を行う者に支給されます。埋葬料の支給を受ける者がなく、会社などが埋葬を行った場合には、埋葬を行った者に「埋葬費」が支給されます。

埋葬料は5万円、埋葬費は埋葬に要した費用(上限5万円)が支給されます。

2.遺族厚生年金

社員が死亡した際、社員により生計を維持されていた配偶者・子・父母・孫・祖父母に支給されます。妻以外については、原則として次の要件を満たす必要があります。

  • 子・孫:18歳到達年度の末日(3月31日)を経過していないこと、または20歳未満で国民年金の障害等級1〜2級に該当すること
  • 夫・父母・祖父母:死亡当時に55歳以上であること

上の要件を満たす遺族同士の場合、配偶者または子の優先順位が最も高くなります。

支給額は、報酬比例部分の年金額を基に、次のように算定されます。

支給額(年額)=報酬比例部分の年金額×3/4

なお、社員の妻に関しては、次の要件を満たす場合、妻が40歳から65歳になるまでの間、年額59万6300円が加算されます。

  • 夫の死亡時、妻が40歳以上65歳未満で、生計を同じくしている子(前述の遺族厚生年金の支給要件を満たす子)がいない場合
  • 遺族厚生年金と遺族基礎年金を受けていた子のある妻が、子が18歳到達年度の末日(3月31日)に達した(障害の状態にあゴ合は20歳に達した)等のため、遺族基礎年金を受給できなくなった場合(40歳に達した当時、遺族基礎年金を受給していた場合に限る)

支給期間の制限は原則としてありません。ただし、子のない30歳未満の妻は5年間のみの受給です。加えて、夫・父母・祖父母の受給開始は60歳からとなります。ただ、夫の場合については遺族基礎年金を受給できる場合に限り、60歳未満であっても受給することができます。

なお、支給を受ける遺族が死亡した場合は、支給されなくなります。また、遺族厚生年金の支給を受ける社員が、「障害厚生年金」など他の年金の支給を受けられるようになった場合は、社員がどちらの年金を受け取るかを選択しなければならないことがあります。

3.遺族基礎年金

社員が死亡した場合、死亡した社員の収入によって生計を維持していた子のある配偶者・子に支給されます。なお、「子」とは、18歳到達年度の末日(3月31日)を経過していない子、または20歳未満で国民年金の障害等級1〜2級に該当する子を指します。

支給額は、子の数を基に、次のように算定されます。

支給額(年額)=79万5000円+子の加算

第1子・第2子は子1人につき22万8700円、第3子以降は子1人につき7万6200円が加算されます。子が支給を受ける場合は、第2子以降の数を基に加算されます。

支給期間の制限は原則としてありません。ただし、遺族基礎年金を受け取る配偶者または子が死亡した場合や、子が18歳になった年度の3月31日に到達した場合や子の障害の程度が国民年金の障害等級2級に満たなくなった場合などは支給が停止されます。

また、遺族基礎年金の支給を受ける社員が、「障害基礎年金」など他の年金の支給を受けられるようになった場合は、社員がどちらの年金を受け取るかを選択しなければならないことがあります。

以上(2023年6月更新)
(監修 人事労務すず木オフィス 特定社会保険労務士 鈴木快昌)

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画像:pixabay

Z世代に買ってもらうには“共感”と “寄り添う姿勢“が重要! 若い世代を顧客にするための ブランド・マーケティングのポイント

書いてあること

  • 主な読者:若い世代の顧客を獲得して商品・サービスの寿命を延ばしたい事業者
  • 課題:Z世代の人たちを顧客に取り込む方法が分からない
  • 解決策:Z世代との接点としてSNSは不可欠。自社の商品・サービスが、誰の、生活上のどんな問題を解決し続けるのかという存在意義を問い直し、裏側の情報も含めて伝えることで透明性を高めることが、Z世代からの共感を得ることにつながり、継続的な利用や購入につながる

1 Z世代を顧客にすることで、商品やサービスの“高齢化問題”を打開する

どのような商品・サービスにも寿命はあるものですが、ニーズはあるはずなのに、

客層を若い世代に広げられず、既存の顧客の高齢化とともに寿命を迎えつつある

としたら、それは由々しき事態です。

同じような危機感を抱いている企業が今、ターゲットにしているのが、「Z世代」と呼ばれる10代から25歳くらいまでの若者たちの取り込みです。Z世代は、

これから長期的に消費し、消費額が増えていくことも期待できる世代

であることに加えて、可処分所得が少ない半面、SNSを通じた情報収集力が高いため、

全世代の中で、消費者として最も厳しい目を持っている世代

とみられています。ですから、Z世代に商品・サービスが受け入れられれば、全世代から支持を得られる可能性が高いともいえます。

そこでこの記事では、Z世代を取り込むためのマーケティングのポイントについて、Z世代専門のリサーチ機関「Z世代インサイト研究所」所長で同志社大学商学部教授の髙橋広行さんへのインタビューを紹介します。同研究所を運営するエンリッション(京都府京都市)は、大学生向けキャリア支援カフェ「知るカフェ」「BiZCAFE」21店舗を通じ、月間約3万人のZ世代とのコネクションを持っています。Z世代を取り込むための最大のポイントは、

商品・サービスの存在価値が認められ、共感されること

です。そのための手順を髙橋さんにお聞きしていますので、御社の商品・サービスの顧客層の若返りの参考にしてください。次章から髙橋さんのインタビューを紹介します。

2 まずはZ世代の価値観と消費傾向を押さえよう

1)Z世代にとってはSNSも「リアル」な世界

物心ついたときからスマートフォンが普及していたZ世代は、常にSNSで人とつながっている環境で育ってきました。ですから、彼らにとっては、

SNSも対面と同じような「リアル」な世界

なのです。彼らにとって、SNSはあらゆるコミュニケーションの場であり、自己表現・自己PRから趣味が共通する友だち探し、商品・サービスを含めた情報の入手など、生活上のさまざまな接点になっています。

彼らはそれぞれの目的に応じて、SNSの媒体ごとの特徴に合わせた使い方と、複数のアカウントを駆使しており、SNSだけでコミュニケーションを完結させることもできます。この傾向は、コロナ禍によって対面で会えない状態が続いたことで加速したようにみえます。

ですから、Z世代との接点を構築する上で、SNSを外すわけにはいきません。SNSの使い方を理解することは不可欠です。特にZ世代が最初の接点にする媒体として使われることが多いInstagram(インスタグラム)のアカウントを、開設することをお勧めします。

2)Z世代の価値観と消費傾向

Z世代の価値観と消費傾向は、背景にある次の2つの要素から説明することができます。

  1. SNSを通じた情報収集力が高く、さまざまなインフルエンサーの影響を強く受けている
  2. 子供のときからリーマンショック、東日本大震災、コロナ禍などを経験しており、世の中をシビアに捉えて、リスク回避をする傾向がある

「学生が授業に出ない」というのは昔の話で、Z世代は真面目な学生が多く、7割ほどの学生はきちんと授業に出てくるなど、成長意欲が非常に強いのが特徴です。成長意欲の対象は、自分の将来のキャリアもありますが、自分の見た目やファッションといったものも該当します。

Z世代の強い成長意欲は、インフルエンサーの影響を受けているものだと思われます。自分の世界観をSNSで表現しながら、常に自分探しをしているのも、さまざまなインフルエンサーの影響でしょう。さらに、自分の成長過程では回り道やムダなことをしたくないという思いが強く、コスパ(費用対効果)やタイパ(時間対効果)を重視しています。

Z世代がお金を掛けて購入するのは、自分の世界観に合ったモノです。彼らが購入するための基準は、企業の考え方や過去の行為、製造過程など、商品・サービスの「ストーリー」にとどまらない、世界観と自分の価値観との一致に基づいています。

ただし、Z世代は可処分所得が少ないということもあって、買った後に後悔するのを嫌がり、買うまでの比較検討時間が長いのも特徴です。ネットで調べてリアルな店頭で見て、さらにネットで確認してから買うといった行動をしています。ネットでの購入に不安を感じ、リアルの店舗で購入することも少なくありません。そして、1回買ったものは、愛着を持って使い続けます。「大事に使い続けるもの」と「必要なときに使うだけのもの」を使い分け、二極化させる傾向があります。

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3 「共感」がZ世代の“購入スイッチ”

1)Z世代へのアプローチの条件は中小企業も大企業も同じ

ブランドにこだわらず、SNSが接点として有効なZ世代の特徴を踏まえると、大企業だけでなく中小企業も、Z世代を顧客に取り込むことに注力すべきともいえます。

なぜなら、Z世代にアプローチするには、テレビCMなどの既存メディアに多額の宣伝費を掛ける方法以外にも、自分たちでSNSなどのメディアを作って地道に訴えていけばいい関係が構築されていくからです。しかもZ世代は企業や商品・サービスの知名度だけを重視しませんので、戦う条件は中小企業も大企業も対等だといえます。さらに、後ほど詳しくお話しますが、一度、Z世代に受け入れられると、長く愛用してもらえるだけでなく、SNSを活用した共有(シェア)やオススメによって、「宣伝」もしてくれる可能性がありますので、接点を持つべき顧客であるといえます。

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2)認知度アップに即効性の高い「刺さる」メッセージ

他の世代へのマーケティングと同様に、Z世代に購入してもらうためには、商品・サービスを認知してもらうことから始まります。Z世代の心に「刺さる」メッセージを伝え、共感してもらえると、即効性のある認知度の向上が期待できます。

Z世代に刺さったマーケティングの事例として一つ紹介するのが、出会い系アプリの「Tinder(ティンダー)」です。決して出会い系アプリをお勧めしているわけではなく、あくまでも刺さるマーケティングの事例として参考にしてください。

Tinderが活用したのは、実はSNSではなく、リアルな屋外広告でした。2021年9月、渋谷というまさに「若者の街」のいたるところに、ピンク地に白文字でさまざまな「刺さる」メッセージ広告を掲載し、Z世代の心を射止めたのです。メッセージの内容は、

  • 自然な出会いって、今ムリじゃない? こちらは、週150万件のデートが成立。
  • 人を肩書で判断しちゃいけないって、おばあちゃんが言ってました。スペックよりも直感で、人とマッチするアプリ。
  • どこかにいい人いないかなーって、一生言ってな。

といった、少しドキッとするようなものが多くありました。こうした、Z世代の気持ちに寄り添ったストレートなメッセージが、彼らの心に刺さったのでしょう。とはいえ、「こうすれば、必ず刺さる」という法則があるわけでなく、過激ならいいわけでもありません。

一つ言えるのは、文字によるメッセージも含めて、ビジュアル(見た目のインパクト)がとても大事だということです。Z世代は、目に入ったものに対して、その瞬間ごとに「ある(自分の世界観に合う)」「ない(自分の世界観に合わない)」を判断しています。SNS上であってもリアルであっても、文字を文章としてではなく、写真や映像として伝えるようなイメージを持つとよいと思います。

3)Z世代は「いいこと」だけより、正直な「裏側」まで知りたい

企業が直接メッセージを伝えるのでなく、インフルエンサーを活用することでZ世代に「刺さる」ケースも多くあります。Z世代より前の世代は、有名人に憧れる傾向が強かったように思いますが、Z世代は有名であることよりも、もっと身近に感じる存在で、その人の世界観に共感できる人をフォローする傾向があります。彼らは、「誰が言うか」ではなく、「どのように言うか」「なぜ、そう言うのか」を重視しているのだといえます。

ただし、企業が商品・サービスの購入を促すためにインフルエンサーを活用する場合、人選と活用方法を誤ると、逆に反発され、ネット上で「叩かれる」こともあるので注意が必要です。インフルエンサーの発する言葉に、企業側からの「言わされている感」を感じると、押し付けを嫌うZ世代はそっぽを向いてしまいます。彼らは企業にも倫理観や社会性を求める傾向にあり、うそやステルスマーケティングに対して嫌悪感を抱くことが多いですし、SNSになじんでいるのでそれらを見分けることにも長じています。

Z世代が購入を決める基準となる世界観のことをお話ししましたが、商品・サービスの世界観は、30秒程度のテレビのCMでは伝えられません。Z世代は、CMは「いいこと」しか言わないことを分かっており、CMだけを見て信用して購入することはありません。

むしろ、「いいこと」だけを伝えようとするのではなく、正直に「裏側」まで全部さらけだすほうが、Z世代に信用され、「刺さる」可能性が高くなるといえます。例えば、製造過程の映像をYouTubeなどの動画サイト(SNS)で流して、Z世代に刺さった事例もあります。Z世代はリンクさえ貼っていれば、どこにでも見に来てくれますので、まずはInstagramで接点を持ち、「裏側」まで紹介した自社のウェブサイトに誘導するのもよいでしょう。

4)「生活スタイルの中での存在価値」を示せない企業は生き残れない

購入してもらうための入り口として「刺さる」ことは重要ですが、本当に大切なのは、刺さった後です。一時的に注目されたとしても、ただ「バズった」(SNSで注目され拡散した)だけで終わってしまったなら、継続的な販売と企業の持続的な成長には結びつきません。

これはマーケティングの真髄でもあるのですが、大切なことは、商品・サービスが、

Z世代の生活スタイルの中での存在価値が認められる

ことです。自分の世界観を持っているZ世代は、「自分が中心」という意識を強く持っています。ですから、商品・サービスに対しても、

自分の生活にどう寄り添って、どんな問題を解決し続けてくれるのか

を重視しています。

大企業の事例になってしまいますが、中小企業にも参考になる事例として、大塚製薬の栄養補助食品「カロリーメイト」の宣伝動画「『狭い広い世界で』篇 120秒」があります。YouTubeでアップしていた動画で、5カ月で161万回視聴されました(2023年4月時点、公式チャンネルでの配信は終了)。

受験を控えた高校生の生活を、スマートフォンの裏側から映した動画で、スマートフォンで合否の結果をチェックするまでの日常シーンを走馬灯のように流しています。このCMで伝わるのは、商品の機能、商品を経験する機会(利用シーン)に加えて、

購入者の生活を支えていくという、商品の存在価値

です。受験生活を支える存在として、商品をさりげなく動画に取り込むことで、カロリーメイトが単なる栄養補助食品ではなく、受験生の生活に寄り添っている存在であることを上手に伝えています。動画を視聴したZ世代に存在価値を共感してもらえば、「カロリーメイトは困ったときに自分を助けてくれる栄養補助食品だ」というポジションで居続けることができます。

これは、Z世代に限った話ではありません。商品も含めて「モノのサービス化」が進んだ現代は、自社の商品・サービスを売れば終わり、ではありません。Z世代の取り込みを目指す機会に、「どうしたら売れるのか」という考え方から、

自社の商品・サービスは、誰のために、何のために存在するのか

を見つめ直してみることをお勧めします。これからは、そのことをきちんと考えている企業しか生き残れないと思います。

4 フレームワークと比較データからZ世代の消費傾向を解説

1)共感を得る=コミュニケーションのループに乗る

ここからは、今までご説明した話を、理論的に解説していきます。少しアカデミックな話になりますので、関心のある方だけお聞き(お読み)ください。

Z世代の消費傾向を最も分かりやすく分析できるのが、「Dual AISAS Model」(注)というフレームワークです。

(注)アタラ合同会社の有園雄一氏により考案され、電通プロモーション・デザイン局で有園氏とともに検討・改良を加えたもの

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これまでの消費行動のモデルとされていたAISAS(Attention=注意、Interest=興味、Search=検索、Action=行動、Share=共有)をという消費行動だけでなく、Z世代にはAttentionを取り囲むコミュニケーションのループであるA+ISAS(Activate=起動・活性化、Interest=興味、Share=共有・発信、Accept=受容・共鳴、Spread=拡散)があります。

コミュニケーションのループの主軸は、InstagramやTwitterなどのSNSです。そのコミュニケーションのループに乗ることができた商品・サービスは、Z世代が必要になったときに、スムーズに購入されます。このループに乗っていくために最も効果的なのが「刺さる」ことであり、ループに乗り続けるために必要なことが、Z世代の世界観に共感され、商品・サービスの存在価値が認められ続けることなのです。このループに乗りさえすれば、Z世代自身の力で自然と拡散していくことが可能になります。

2)Z世代とその他の世代の比較データ

最後に、Z世代の価値観の特徴や消費に関する傾向をデータでお示しします。Z世代インサイト研究所所長の髙橋さんがCCCMKホールディングス株式会社と2022年11月に、Tカードを利用している会員に対して、インターネットを用いた量的調査の結果をご紹介します。有効回答数は2794サンプルです。

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Z世代は多様性を認め合う一方で、自らが発信する意見を全ての人に許容してもらおうとしていないことが、複数のアカウントを使い分けるという行動となって表れているのではないかと推察されます。

また、Z世代はモノに対する愛着が他の世代と同じように強い半面、自分にとって必要なものは手に入れつつ、所有することにこだわらない消費志向も明らかになりました。

髙橋広行

髙橋広行(たかはし ひろゆき)

エンリッションが運営するZ世代インサイト研究所所長。
同志社大学商学部教授、同大学院博士課程前期課程教授(兼任)博士(商学)、1級販売士/専門社会調査士、専門は「マーケティング」(特に、消費者行動やブランド論)。
主な著書:『持たない時代のマーケティング:サブスクとシェアリング・サービス』(同文舘出版、2022年)。『消費者視点の小売イノベーション:オムニ・チャネル時代の食品スーパー』(有斐閣、2018年)。『カテゴリーの役割と構造:ブランドとライフスタイルをつなぐもの』(関西学院大学出版会、2011年、日本商業学会および日本広告学会学会賞)。2021年度、日本マーケティング学会にてベストオーラルペーパー賞、2014年度、日本マーケティング学会にてヤングスカラー賞なども受賞。企業との共同研究だけにとどまらず、企業の顧問や専門家アドバイザー、京都市のさまざまな委員としても活動することで、現場や地域に役立つ研究を目指す。

以上(2023年6月作成)

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画像:FAMILY STOCK-Adobe Stock

【中堅社員のスピーチ例】坂本龍一氏に学ぶ「楽しさ」の原点

おはようございます。突然ですが、皆さんは子どもの頃、何か習い事をやっていましたか? 私は、小学1年生から高校2年生までピアノを習っていました。私は今、10年以上もやめていたピアノを、再び習い始めようと思っています

私がそう思うようになったきっかけは、今年の3月に亡くなられた坂本龍一氏の存在です。ピアノを習っていたとき、バッハやベートーベンなどの有名なピアノ曲以外にもいろいろな曲を教わりましたが、特に印象に残っているのが、坂本龍一氏の「Energy Flow(エナジーフロー)」でした

ピアノの旋律が美しく、癒やされつつもどこか物悲しさもあるメロディーが大好きでした。1999年に医薬品のCMで使われ、当時この曲を収録したCDが音楽チャートの週間1位を記録したことでも注目を集めました。坂本氏はこの曲をわずか5分で作曲したという話ですから驚きです。

そんな天才的な音楽家だった坂本氏ですが、意外にも演奏については練習嫌いだったそうです。坂本氏が幼少期にピアノを教わっていた先生がとても厳しい人で、そのため練習が嫌で仕方がなかったそうです。ところが、私は最近、坂本氏が生前、次のように語っていたことを知りました。

「とにかく好きな音楽を弾くのが一番。好きな音楽だったら、うまくなりたいと一生懸命練習するでしょう。それをきちんと弾けるまで練習を積み重ねる。結果が出ないと、おもしろさや楽しさが味わえないので。」(*)

音楽は漢字で「音を楽しむ」と書きますが、坂本氏の場合、「嫌いな練習をしてでも、好きな曲を弾けるようになる」という結果を出すことが、「楽しさ」の原点だったのでしょう。

坂本氏のこの言葉を知ったとき、私はふと「自分は今の仕事やプライベートを楽しめているだろうか」と不安になりました。仕事については、入社からある程度の年月が経ち、ある程度の業務は問題なくこなせるようになりましたが、「会社にこれだけの貢献をした」と言えるだけの結果はまだ出せていません。プライベートでも別に不満はないのですが、「私はこれができる」と言い切れるものはありません。仕事やプライベートでたまに抱く「何かつまらない」という感情は、もしかすると、楽しさを味わうことができるほどの結果を出せていないからなのかもしれないと思ったのです。

話は戻りますが、私が再開したいと思っているのは、ピアノだけではありません。仕事でも坂本氏が味わったような「楽しさ」を感じるために、自分が取得できずにいる資格の勉強に、もう一度トライしてみようと思います。時間をつくるのは簡単ではないかもしれませんが、挑戦して結果が出た先には、きっとこれまでとは違う世界が広がっているはずです。皆さんも結果が出ず諦めていたことに、もう一度挑戦してみませんか?

【参考文献】(*)ヤマハウェブサイト「坂本 龍一へ “5”つの質問」

以上(2023年6月)

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画像:Mariko Mitsuda