全国各地に広がる「子ども食堂」に企業はどんな支援ができる?

書いてあること

  • 主な読者:子ども食堂の支援を通して地域貢献などを検討している経営者
  • 課題:企業ができる支援策や、支援をする際の相談先を知りたい
  • 解決策:物品の寄付以外にも、場所の貸し出しや学習体験の提供といった支援策がある。子ども食堂を支援するNPO法人や地方自治体が相談先となる

1 全国各地で広がる子ども食堂 その役割は?

子どもが1人でも行けて、無料あるいは低価格でご飯が食べられる「子ども食堂」。発祥は、2012年に東京都大田区で「気まぐれ八百屋だんだん」を経営していた近藤博子氏が、家庭の事情で食事が作れない家の子どもに対して、「だんだんワンコインこども食堂」として低価格で夕食を提供したことだとされます。この活動が東京都豊島区で子どもを支援する「豊島子どもWAKUWAKUネットワーク」の栗林知絵子氏の目に留まり、子ども食堂を知ってもらうための講演会やシンポジウムの全国ツアーが行われました。

加えて、子どもの孤食問題の認知拡大、コロナ禍で経済的に困窮する家庭が増えたことなども背景に、子ども食堂は全国各地に広まっていきました。全国こども食堂支援センター・むすびえの「こども?堂全国箇所数調査2022結果」によると、2018年には2286カ所だった子ども食堂は、2022年に7363カ所となっています。

子ども食堂の箇所数の推移"

昨今は国や地方自治体が予算を投入したり、地域の子ども食堂をリストアップしたりして、寄付先を募るといった支援の動きもあります。しかし、元々は民間発の取り組みなので、費用や食材などの調達、開催場所の確保が課題であり、企業の支援が求められています。

一方、別の視点では、

子ども食堂を「食事の提供だけでなく、地域の大人と子どもが交流し、お互いに経験を広げることができる場所」

と捉え、子ども食堂と共同してイベントを開催し、地域貢献や企業の人材育成につなげるなどの新しい支援の形に取り組む企業も出てきています。

この記事では、子ども食堂への支援に取り組む企業の事例や、企業が子ども食堂への支援を検討する際に相談、問い合わせ先となる窓口団体などを紹介していきます。

2 子ども食堂の課題・企業による子ども食堂への支援事例

1)子ども食堂の課題

「こども食堂の現状&困りごとアンケートvol.8 結果報告」によると、子ども食堂での困りごと(上位10回答)は次の通りです。このアンケートは、全国こども食堂支援センター・むすびえが、全国各地の「子ども食堂の地域ネットワーク」および「子ども食堂ネットワーク」とつながる子ども食堂を対象に行ったものです。

子ども食堂での困りごと

子ども食堂の課題はさまざまですが、例えば、運営資金やスタッフ、会場の不足などは企業による支援の余地があるといえます。企業による具体的な支援策としては、次のようなものが挙げられます。

企業による子ども食堂への支援策の例

以降で実際の企業事例を見ていきましょう。

2)子ども食堂で出前授業を実施:エナリス(東京都千代田区)

電力の需給管理や電力卸取引などを手掛ける同社では、東京都港区にある「みなと子ども食堂」の中で開催している学習会で出前授業を開催しました。

授業は電力の需要予測をテーマに、電気に関する基礎知識を説明した後、自宅、コンビニ、学校で一日の中でいつ、どのようなときに電気を使うかのワークを行いました。

出前授業によって子どもに新しい興味が生まれ、子どもの未来や電力業界の成長の芽につなげることが狙いとしています。

3)自販機の設置、売上で子ども食堂を支援:ダイドードリンコ(大阪府大阪市)

同社では、売上金の一部を地域の子ども食堂に寄付できる寄付型の自動販売機を展開しています。同社の自販機設置について解説するウェブサイトでは自治体や企業での自販機導入事例を紹介しています。導入した企業によると、地域貢献の方法として寄付型の自販機の設置が検討しやすいことや、飲料を購入するだけで気軽に地域貢献につながるため、社員に意識付けができることがメリットといいます。

また、自治体によっては同社と協定を締結している場所もあります。例えば、愛媛県新居浜市では「こども食堂等子どもの居場所を支援するための協働に関する協定書」を締結し、地元企業に自販機を設置してもらうことで子ども食堂への支援に取り組んでいます。

4)飲食店と連携して子ども食堂を推進:テンポイノベーション(東京都新宿区)

飲食店物件に特化した不動産業を手掛ける同社では、東京都内の飲食店で子ども食堂を開催する取り組みである「お店のこども食堂『みせしょく』」を、2019年から取引先の飲食店と共同で展開しています。

子ども食堂は、地域のボランティアが運営するケースが一般的なため、食材の調達、開催場所の確保、開催の告知などの負担が大きく、継続して開催することが難しくなる場合があります。一方で、飲食店で子ども食堂を開催することによって、食材の調達や開催場所の確保といった課題を解決でき、いつ、どこでも子どもがおなかと心を満たせる環境が整うといったメリットがあります。

なお、子ども食堂の活動資金は同社の企業利益から充てられており、2023年8月末時点で57店舗の参加実績があります。

5)居酒屋でチャリティーメニューを展開:ファイブグループ(東京都武蔵野市)

居酒屋・ダイニング経営を手掛ける同社では、吉祥寺で子ども食堂を定期開催しています。

店舗に来店した顧客が「子ども食事券」を購入して店舗に置き、その食事券を使って子どもは無料で食事を摂ることができるという仕組みになっています。

また、活動費は顧客が購入する食事券以外にも、グループ店舗で展開しているチャリティーメニューの売上金額を充てています。

子ども食堂の活動を通じて、リピーターの来客が増えて店舗の売上に貢献したり、社会貢献の取り組みに共感したとして、入社を希望する学生が増えて人材確保につながったりするなど、地域貢献に限らず企業にとってもメリットが大きい事例といえるでしょう。

6)社員寮を子ども食堂の会場として提供:西松建設(東京都港区)

同社では、福岡県大野城市にある社員寮の食堂を子ども食堂の「おおのじょうこども食堂みずほ町」の会場として提供しています。

この子ども食堂はNPO法人チャイルドケアセンターが開催している子ども食堂で、子ども食堂を定期的に開催できる会場が確保できなかったり、食材や備品を保管する場所が無かったりしたという課題をきっかけに、西松建設がチャイルドケアセンターに支援を申し出たことで実現したそうです。

社員寮に外部の団体が入ることのリスク管理は、次のような対応を取っているといいます。

  • 施設のセキュリティ:建物の解錠・施錠は寮の管理人のみが行う
  • 食中毒、ケガなどのトラブル対策:保健所主催の食品衛生管理・食中毒予防関連の研修の受講、参加するスタッフや子どものNPO活動総合保険への加入
  • 運営団体の信頼確保:チャイルドケアセンターが子ども支援や子育て支援に取り組んできた実績を示す資料の確認

7)自社の運営施設で子ども食堂を開催:ラグジュアリー(福岡県福岡市)

賃貸管理や保育園の運営などを手掛ける同社では、同社が運営する「コワーキングサロン&カフェラウンジ 四季のいろ」で子ども食堂を開催しています。子ども食堂では、カレーなどの食事提供と併せて、書道や英会話、プログラミング教室も催しています。

学校の授業では教わらない体験を通じて子どもに学ぶ楽しさを知ってもらうとともに、施設に集まった子ども同士で一緒に学ぶことで、学校外でのコミュニティ作りや友達づくりを支援する狙いがあります。

3 子ども食堂を支援するときの相談、問い合わせ先となる団体

1)全国こども食堂支援センター・むすびえ

全国各地の子ども食堂を支える団体への支援、子ども食堂を応援したい企業・団体との協働事業、こども食堂が全国にどのくらいあるか調べるなどの調査研究を手掛けています。企業・団体が子ども食堂を支援するに当たり、次のような例があります。

  • 社内や施設内への寄付付き自動販売機の設置、古本の寄付
  • 寄付付き商品の企画や、イベントでの売り上げなどを寄付するための支援
  • 食材や備品などの物資、商品を子ども食堂に提供するための仲介
  • 子ども向けの食育、健康教育、アート体験など企業が手掛ける体験プログラムを子ども食堂に提供するための仲介
■全国こども食堂支援センターむすびえ■
https://musubie.org/

2)全国食支援活動協力会

「こども食堂サポートセンター」の運営や、子ども食堂への支援マッチングなどを手掛けています。同団体のウェブサイトでは、企業連携の事例を紹介しており、王将フードサービスによる商品売上代金の寄付や、アサヒ飲料による飲料と絵本の寄付といった事例があります。

■全国食支援活動協力会■
https://mow.jp/

3)地方自治体による子ども食堂の開設・寄付に関する相談窓口

市区町村によっては、ウェブサイト上で子ども食堂の開設や寄付に関する相談窓口をはじめ、その地域内にある子ども食堂の一覧や、どのような支援を必要としているかの情報を公開している場合があります。また、自社で子ども食堂を開設する場合の手続きや開設に伴う助成金制度がある場合もあるので、最寄りの自治体のウェブサイトを確認してみるとよいでしょう。

以上(2024年1月)

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画像:hasegawa risa-Adobe Stock

「解雇」の種類と基本ルール

書いてあること

  • 主な読者:「解雇」の基本的なルールを知りたい経営者
  • 課題:解雇にはさまざまな種類があり、また基準も曖昧なので分かりにくい
  • 解決策:就業規則に定める。会社や社員の状況から解雇が本当に妥当かを検討する

1 解雇のハードルは高い、ルールを押さえて慎重に

「解雇」とは、使用者(会社)が労働契約を一方的に解約することです。多くの会社にとって解雇は身近なものではないですが、雇用の考え方やルールが変化する中で、今後は解雇の在り方も変わっていくのではないかという声があります。例えば、「ジョブ型雇用が浸透していくと、能力が仕事に追いつかない社員を解雇する会社が増えるのではないか」といった具合です。

ただ、注意しておかなければならないのは、

少なくとも今の日本の法制度では、解雇が認められるハードルは高く、慎重に手続きを進めないと、社員と訴訟などのトラブルになるリスクがあること

です。トラブルを防ぐには、次のような解雇に関する基本ルールを押さえる必要があります。

  1. 解雇の種類(普通解雇、整理解雇、懲戒解雇の3種類)
  2. 解雇全般に共通する基本的なルール(解雇権濫用法理など)

2 普通解雇、整理解雇、懲戒解雇の違い

1)普通解雇

普通解雇とは、

病気やけが、能力不足などを理由に、社員を解雇すること

をいいます。「社員が会社に対し、労務を提供できなくなった場合に行われる」というのがポイントです。普通解雇が行われる主なケースは次の通りです。

  • 社員が病気やけがで就業不能になった
  • 社員の勤務成績が会社の求める水準に達しない状態が続いた

2)整理解雇

整理解雇とは、

経営危機の状態にある会社が、余剰人員の削減を目的として社員を解雇すること

です。「社員の能力不足などに関係なく、経営上の理由で実施される」というのがポイントです。整理解雇が行われる主なケースは次の通りです。

  • 会社の収益が不況による販売不振で著しく悪化した
  • 会社の設備などが災害で大きく損傷し、事業の縮小を余儀なくされた

3)懲戒解雇

懲戒解雇とは、

極めて悪質な規律違反や非行があったときに、就業規則にのっとり、懲戒処分として社員を解雇すること

です。「重大な問題行為をした社員を罰する目的で行われる」というのがポイントです。懲戒解雇が行われる主なケースは次の通りです。

  • 社員が会社の名誉を害する犯罪行為や重大なハラスメント行為をした
  • 社員が重要な経歴を詐称して入社した
  • 社員が正当な理由なく、無断で遅刻、早退、欠勤を繰り返した

3 解雇の基本的なルール

1)解雇権濫用法理

解雇権濫用法理とは、

「客観的に合理的な理由」を欠き、「社会通念上相当」であると認められない場合、解雇は不当解雇として無効になるというルール

です。この解雇権濫用法理は労働契約法第16条に明文化されています。

1.客観的に合理的な理由

客観的に合理的な理由とは、

客観的に見て解雇はやむを得ないといえるだけの具体的理由のこと

です。例えば、社員の著しい能力不足、契約義務違反、経営上の必要性などがそうです。なお、多くの裁判例では、「就業規則の解雇事由に該当するかどうか」が、解雇の客観性・合理性を肯定する重要な基準になっています。つまり、就業規則に解雇事由に関する規定がないと、不当解雇と判断されるリスクが高いということです。

2.社会通念上相当

社会通念上相当とは、

社員の行為や状況に照らして、解雇が妥当であるかということ

です。例えば、「たった1回の少額な納品ミスで能力不足と判断し、解雇する」というのは厳し過ぎて、社会通念上相当とはいえません。

2)解雇ができない期間

会社は次の期間中、社員を解雇することができません。

  1. 業務上の病気やけがで療養するために休業する期間と、休業終了後30日間
  2. 産前産後休業の期間と、休業終了後30日間(女性社員のみ)

ただし、1.の場合、療養開始後3年を経過しても治癒しなければ、平均賃金の1200日分の「打切補償」を支払うことで、解雇制限が解除されます。また、天災事変などによって事業の継続が不可能となった場合も同様です。なお、平均賃金とは、算定事由発生日(けがをした日や病気が判明した日など)以前の直近3カ月間の賃金総額(賞与等を除く)を、算定事由発生日以前の直近3カ月間の総日数で除した金額です。

3)解雇予告と解雇予告手当

原則として、解雇は事前に予告して行わなければなりません。これを「解雇予告」といいます。解雇予告は少なくとも30日前にしなければなりませんが、「解雇予告手当(平均賃金)」を支払えば、その日数分、解雇予告期間を短縮できます。

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また、例外として、懲戒解雇など社員に帰責性があって解雇する場合や、天災事変により事業の継続が不可能となった場合、解雇予告なしに解雇することが可能ですが、その際は会社を管轄する労働基準監督署の事後認定を受けなければなりません。

4)即時解雇が認められている社員(例外あり)

次の社員は、解雇予告や解雇予告手当の支払いを経ずに解雇することができます。ただし、一定の条件を満たすようになると、解雇予告などが必要となります。

  1. 日雇いの社員(1カ月を超えて使用された場合を除く)
  2. 2カ月以内の期間を定めて使用される社員(定めた期間を超えて使用された場合を除く)
  3. 4カ月以内の期間を定めて季節的業務に従事する社員(定めた期間を超えて使用された場合を除く)
  4. 試用期間中の社員(14日を超えて使用された場合を除く)

5)原則として契約期間中の解雇は認められない

パート等の有期契約社員を契約期間の中途で解雇することは、やむを得ない事由(天変地異や会社の倒産、パート等の重大な非違行為など)がある場合を除いて認められません。解雇する場合も、会社に過失があれば、損害賠償責任を負う恐れがあります。

6)その他

この他、労働基準法や育児・介護休業法、男女雇用機会均等法により、

  • 国籍、信条、社会的身分を理由とした解雇
  • 妊娠や出産などを理由とする解雇
  • 育児休業・介護休業などを取得したことを理由とする解雇

が禁止されています。

以上(2023年12月更新)
(監修 弁護士 田島直明)

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画像:Maxx-Studio-shutterstock

経営危機でもハードルが高い整理解雇を成立させるために必要な4つの要素

書いてあること

  • 主な読者:経営状態が厳しく、社員の整理解雇を検討する経営者
  • 課題:整理解雇は有効性の判断が厳しい。対象となる社員のためにしっかりと対応したい
  • 解決策:整理解雇の成立を左右する「4要素」を押さえつつ、適法に行った証拠を残す

1 経営危機下に行う「整理解雇」

整理解雇とは、

「会社が経営危機に陥った」「特定の事業部門を廃止することになった」など、経営上の理由から、余剰人員を削減するために行う解雇(リストラ)

です。整理解雇で注意しなければならないのは、

社員側に落ち度がない解雇なので、普通解雇(能力不足などを理由とした解雇)よりも、「有効」と認められるハードルが高い

という点です。裁判などで整理解雇が「無効」になったケースは少なくなく、会社が敗訴した場合、解雇した社員から係争中の賃金の支払いや損害賠償を求められることもあります。

こうしたトラブルを防止する上でのカギとなるのが、

「整理解雇の4要素」と呼ばれる、整理解雇の成立を左右する4つの要素

です。経営者にとっても経営危機による整理解雇は無念であり、だからこそ実施する際は適法に進めなければなりません。以降で4要素の考え方を詳しく紹介するので、確認してみましょう。

なお、4要素を押さえることは大切ですが、実務では訴訟になった場合などに備え、「適法に整理解雇を行った」といえる証拠を残しておくことも重要です。次のような証拠がないと、裁判で「整理解雇ついて十分に検討していない」と判断される恐れがあるので注意しましょう。

  • 人員削減の必要性があると判断した経営会議の議事録、整理解雇の計画書
  • 解雇を回避するための措置(経費削減、人件費削減、配置転換・出向、希望退職の提案等)に関する検討や実施の記録
  • 被解雇者の選定基準が分かる資料、人事考課表
  • 対象社員、労働組合への説明に用いた資料、協議の議事録

2 整理解雇の成立を左右する「4要素」

前述した通り、整理解雇は社員側に落ち度のない解雇であるため、裁判では次の4要素を考慮し、普通解雇(能力不足などを理由とした解雇)よりも、解雇が有効かを厳しく判断します。

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過去には、これらを「4要件」として「どれか1つでも欠ければ整理解雇は無効になる」と判断した裁判例がありますが、最近は「4要素を総合的に考慮して妥当といえなければ無効になる」という考え方にシフトしています。

3 要素1:人員削減の必要性

人員削減措置が経営上の必要性に基づいているかを判断します。人員削減の必要性がどの程度あるかがポイントです。レベルは次の4つに分けられ、1.が最も必要性が高く、4.が最も低くなります。

  1. 「倒産必至」の状態
  2. 「客観的に高度の経営危機」下にある状態
  3. 「会社の合理的運営上やむを得ない必要性」がある状態
  4. 「経営方針の変更等により余剰人員が生じる」状態

過去には、1.の「倒産必至」の状態でなければ、人員削減の必要性は認められないとした裁判例がありますが、最近は認められる範囲が広がっています。その代わり、人員削減の必要性のレベルに応じて、「要素2:解雇回避努力義務の履行」のレベルが変わってきます(詳細は後述)。

人員削減の必要性が否定される典型例は、(特に1.の「倒産必至」、2.の「客観的に高度の経営危機」にある状態で)人員削減を行いながら、次のような矛盾する行為をした場合です。

  • 大幅な賃上げを実施した場合
  • 多数の新規採用を実施した場合
  • 高額な配当を実施した場合

4 要素2:解雇回避努力義務の履行

整理解雇を回避する努力を尽くしているかを判断します。整理解雇前に次の3つを検討・実施しているかがポイントです。

  1. 経費の削減(広告費、交際費などの削減)」
  2. 人件費の削減(役員報酬の削減、残業削減、昇給停止など)
  3. 解雇回避措置(新規、中途採用の停止・縮小、配置転換・出向・転籍の実施、提案、希望退職者の募集など)

こうした手段を講じずに、いきなり整理解雇に踏み切っても、基本的には無効となります。ただし、前述した通り、「要素1:人員削減の必要性」のレベルに応じて、会社に求められる解雇回避努力義務の履行のレベルは変わってきます。

例えば、1.の「経費の削減」や2.の「人件費の削減」をしても経営危機から立ち直れない場合、3.の「解雇回避措置」は必ずしも求められません。逆に会社が経営危機の状態になければ、3.の措置は強く求められます。

5 要素3:人選の合理性

被解雇者を選定するための合理的な基準を設定し、公正に適用しているかを判断します。被解雇者の選定基準が、次の3つを満たしているかがポイントです。

  1. 明示的な基準設定(選定基準が社員に明示されているか)
  2. 基準自体の合理性(整理解雇がやむを得ないといえる選定基準になっているか)
  3. 基準適用の相当性(選定基準が公正に適用されているか)

1.の「明示的な基準設定」については、選定基準が社員に明示されている場合、人選は合理的だと判断されやすくなります。

2.の「基準自体の合理性」については、勤務成績(欠勤日数、遅刻回数など)、会社への貢献度(勤続年数など)、再就職の可能性を踏まえた経済的打撃の低さ(例:対象年齢が30歳以下)などを基準にすると、人選は合理的だと判断されやすくなります。

3.の「基準適用の相当性」については、合理的な選定基準があるのに、気に入らない社員を整理解雇の対象にするなど恣意的な運用をした場合、整理解雇は無効と判断されやすくなります。

6 要素4:手続きの妥当性

被解雇者などに十分な時間をかけて丁寧な説明を行ったかを判断します。整理解雇の前に、次の2つを実施しているかがポイントです(2.は労働組合がある場合のみ)。

  1. 被解雇者に対する整理解雇の必要性と時期、希望、方法についての説明、協議
  2. 労働組合に対する整理解雇の必要性と時期、希望、方法についての説明、協議

1.も2.も、整理解雇の有効性に与える影響が小さいとされています。ですが、整理解雇の有効性の判断は分かりにくいですし、訴訟などのトラブルを事前に回避するという意味でも実施しておいたほうがよいでしょう。

特に「要素3:人選の合理性」については、「合理的な基準」の判断が難しいので、そこで社員の納得が得られなくても、説明、協議によって会社の誠意を見せるようにします。また、「要素1:人員削減の必要性」が低いような場合、配置転換の意向も確認しておくことも重要です。

なお、労働組合との労働協約の中に「整理解雇についての協議条項」が定められている場合、協議事項に反する整理解雇は認められないので、労働組合がある会社は注意が必要です。

以上(2023年12月更新)
(執筆 日比谷タックス&ロー弁護士法人 弁護士 堀田陽平)

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画像:Halfpoint-Adobe Stock

うつ病やハラスメントなどケース別 トラブルになりにくい「解雇」の進め方

書いてあること

  • 主な読者:解雇についてトラブルになりがちなポイントを知っておきたい経営者
  • 課題:解雇の基本的なルールは理解しているが、具体的に何が危険なのかが分からない
  • 解決策:解雇のシチュエーション別にトラブル回避のポイントを押さえる

1 解雇の種類ごとにトラブル回避のポイントがある

「解雇」は、使用者(会社)が労働契約を一方的に解約するという特性上、労使トラブルが起きやすい分野です。解雇の基本的なルールは労働契約法や労働基準法に定められていますが、実際にトラブルを回避するためのポイントは、

  1. 普通解雇:病気やけが、能力不足などを理由とした解雇
  2. 整理解雇:経営危機の状態にある会社が、余剰人員を削減するために行う解雇
  3. 懲戒解雇:極めて悪質な規律違反や非行があったときに行う、懲戒処分としての解雇

のそれぞれで異なります。以降で解雇の種類別に、トラブル回避のポイントを紹介します。

2 普通解雇をめぐるトラブルを回避するには?

1)社員が病気やけがで働けなくなり、休職期間が終わっても復職できなかった場合

多くの会社は、社員が私傷病(プライベートの病気やけが)で働けなくなった場合、一定期間労働を免除する「休職制度」を設けています。就業規則で定める休職期間を超えても社員が復職できない場合、解雇を検討するのが一般的です(就業規則に「復職できない場合、自然退職となる(自動的に労働契約が終了する)」などの定めがある場合を除く)。ただし、その際、

  1. 復職が可能なのに、休職期間満了を理由に解雇する
  2. 長時間労働やハラスメントでうつ病になった社員を、休職期間満了を理由に解雇する

などの対応をすると、不当解雇になる恐れがあります。

1.については、医師が復職できると言っているのに、会社が復職を認めない場合などに不当解雇になる恐れがあります。医師の意見を尊重し、慎重に復職の可否を判断する必要があります。

2.については、うつ病が労災認定されると、業務上の事由による病気ということで解雇制限(休業期間中とその後30日間は解雇が認められない)が掛かります。うつ病の社員に休職制度を適用する場合、長時間労働やハラスメントでうつ病になった可能性も考慮して休職させ、労災認定を受けたときは、「休職」扱いから「業務上の事由による休業」扱いに変更します。

2)社員の勤務成績が会社の求める水準に達しない状態が続いた場合

能力不足から勤務成績が著しく低い社員を普通解雇にする場合、

  1. 特定の能力を期待したわけではない社員を、いきなり解雇する
  2. 期待していた能力の不足と関係のない事情で解雇する

などの対応をすると、不当解雇になる恐れがあります。

1.については、専門職でない一般社員や新入社員の場合、普通解雇が難しくなります。まずは能力を発揮できる業務に配置換えしたり、教育して能力を引き上げたりするよう努めます。それでも改善の見込みがない場合、初めて普通解雇が認められる余地が出てきます。

2.については、専門職のように一定の能力があることを条件に採用した社員でも、雇用した後で業務内容が変わったなど、能力以外に勤務成績が下がった理由がある場合、普通解雇が難しくなります。ですから、勤務成績が下がったタイミングに着目し、それと近い時期に就業環境の変化がなかったかなどを確認してから、普通解雇を検討します。なお、

2024年4月1日からは、雇用した後で業務内容が変わる可能性がある場合、社員を雇用する時点でその変更の範囲を明示しなければならなくなる

ので注意してください。

3 整理解雇をめぐるトラブルを回避するには?

1)不況による経営不振で、会社の収益が著しく悪化した場合

整理解雇は社員に明確な落ち度がなくても行うことがあるため、裁判では次の「整理解雇の4要素」に照らして、解雇が妥当かを厳しく判断します。

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4要素を全て満たさなければいけないわけではありませんが、整理解雇の4要素を総合的に考慮して整理解雇が妥当といえないと、不当解雇になる恐れがあります。

2)会社の設備などが災害で大きく損傷し、事業の縮小を余儀なくされた場合

1)と同じく、整理解雇の4要素を考慮して、解雇が妥当かを判断します。なお、災害による整理解雇では、労働基準監督署の事後認定を受けることで、解雇予告(または解雇予告手当の支払い)がなくても解雇が認められる場合があります。ただし、認められるのは、

  • 会社の施設・設備に直接的な被害があり、事業を継続できなくなった場合
  • 取引先や鉄道・道路に被害があり、原材料の仕入れや製品の納入などが不可能になり、取引先への依存度、輸送経路の状況、他の代替手段の可能性、災害発生からの期間などを考慮しても、事業を継続できなくなったといえる場合

などに限定されます。

4 懲戒解雇をめぐるトラブルを回避するには?

1)社員が会社の名誉を害する犯罪行為や重大なハラスメント行為をした場合

懲戒解雇については、懲戒処分の程度(処分として重過ぎないか)や有効性をめぐって、会社と社員がトラブルになることが少なくありません。そのため、懲戒解雇は社員が何をしたかに関係なく、次の5点を満たした上で検討する必要があります。

  1. 就業規則に懲戒解雇の事由について明記している
  2. 懲戒解雇がやむを得ないほどの合理性を有している
  3. 解雇の妥当性を証明する証拠がある
  4. 処分前に対象者に弁解の機会を与えるなど、適正な手続きを経ている
  5. これまでに同種の事案があった場合、懲戒解雇より軽い処分が行われていない

特に2.については

社員の問題行為が刑法に抵触するレベルでないのに懲戒解雇すると、不当解雇になる恐れ

があるので、注意が必要です。懲戒解雇が妥当かどうかは個別の事案ごとに判断されるので一概には言えませんが、イメージは、

  • 横領や窃盗、強制わいせつ罪に当たるレベルのセクハラなどの場合、懲戒解雇が認められる余地がある
  • 性的な冗談やしつこく食事に誘うレベルのセクハラなどの場合、懲戒解雇は処分として重過ぎるので基本的に認められない

です。

なお、社員がプライベートで犯罪行為やハラスメント行為をした場合、原則として懲戒解雇は認められません。ただし、会社に著しい損害が出た場合(会社名が公表されて会社の信用を傷付けた、免停で業務を行えなくなったなど)、懲戒解雇が認められる余地が出てきます。

2)社員が重要な経歴を詐称して入社した場合

業務に必要な資格や免許など、重要な経歴を詐称して入社した社員を懲戒解雇にする場合も、

他の業務への配置換えなどを検討せずに、いきなり解雇すると、不当解雇になる恐れ

があります。ただし、会社に著しい損害が出た場合(配置転換をしても社員が能力を発揮できず、代わりの人材を新たに採用しなければならないなど)、懲戒解雇が認められる余地が出てきます。配置転換しても能力が発揮できなければ、懲戒処分よりもハードルの低い普通解雇にするのも1つの方法です。

3)社員が正当な理由なく、無断で遅刻、早退、欠勤を繰り返した場合

無断での遅刻、早退、欠勤は本来許されない行為ですが、

一度仕事をさぼっただけで懲戒解雇にするなどの行き過ぎた対応は、不当解雇になる恐れ

があります。けん責(始末書を提出させ、将来を戒める)や減給などの懲戒処分を行っても、依然として社員が遅刻や早退を繰り返す場合、初めて懲戒解雇が認められる余地が出てきます。

ただし、懲戒解雇が認められるのは遅刻、早退、欠勤に正当な理由がない場合です。例えば、社員が長時間労働やハラスメントでうつ病になってしまい、遅刻、早退、欠勤の連絡ができないといったケースでは、懲戒解雇は認められません。

5 その他の労使トラブル回避のポイント

1)解雇について説明を求められた際は、発言に注意する

解雇の通告後、改めて「解雇に至った経緯や理由を教えてほしい」と説明を求めてくる社員がいます。その際に、会社の手続き漏れや失言を誘うような質問をしてくることがあります。また、社員が弁護士や労働組合に相談している場合、交渉の内容をICレコーダーなどで録音しながら、会社側の落ち度について言質を取ろうとすることもあります。

会社側の対応としては、

  • 経営者1人だけで対応するのではなく、人事担当者なども交え最低2人以上で交渉に臨む
  • 相手の質問に明確に答えられない場合、曖昧な回答をしたり、臆測で発言したりせず、後日書面で回答するなど機会を改めて回答する旨を伝える

などが重要になります。

2)退職する社員の秘密情報の持ち出しを制限する

退職する社員が秘密情報の記載された資料などを外部に持ち出した場合、解雇をめぐってトラブルになった際、その社員が、会社への報復のために秘密情報を利用するリスクがあります。

会社側の対応としては、

  • 就業規則に資料の持ち出しを禁止する規定を設ける
  • 「退職に際しての情報保護に関する誓約書」などを事前に社員に提出させる

などして、資料の持ち出しを制限することが重要になります。

3)解雇予告通知書を渡す際は、社員の受け取り拒否に備える

解雇は、社員に解雇予告の通知をしてから30日後に成立します(解雇予告手当を支払った場合は、その分日数を短縮可)。通常は、「解雇予告通知書」などの書面で通知します。社員が通知書の受け取りを拒否した場合の対応が気になりますが、口頭またはメールで解雇予告通知である旨を伝達すれば、その時点で通知書を受け取った扱いになります。

もし、相手が解雇予告通知書の受け取りを拒否した場合、

通知書に、解雇予告をした日時と受け取り拒否に至る経過をメモ書きし、メモ書きした当人の署名押印をした上で保管

します。なお、メモ書きの内容に客観性を持たせるために、解雇予告通知書を渡す際は最低2人が同席するようにします。

4)解雇の場合の退職金の扱いに注意する

解雇の場合も、就業規則で退職金の支給対象になっている社員には、退職金を支払う必要があります。普通解雇や整理解雇の場合、退職金を支払うのが一般的ですが、懲戒解雇の場合、退職金の全額または一部を支給しないケースが多く見受けられます。ただし、

退職金には賃金の後払い的な意味合いもあり、長年の勤続の功を打ち消す重大な背信行為がなければ全額不支給は認められないとした裁判例もある

ため、この辺りは慎重な判断が求められます。

退職金のトラブルを回避したい場合、処分を懲戒解雇から諭旨解雇に引き下げるという方法があります。諭旨解雇とは、

本来なら懲戒解雇となる社員に、会社が退職を勧告し、退職願を提出させて解雇または退職扱いにする、会社の温情的な措置(退職扱いの場合は「諭旨退職」と呼ぶことが多い)

です。なお、社員が退職願の提出勧告に応じなければ、通常は懲戒解雇になります。一般的に、

  • 懲戒解雇は、退職金を全く支払わない
  • 諭旨解雇は、退職金の全部または一部を支払う

という対応になります。なお、諭旨解雇を行うには、諭旨解雇に関する規定などを就業規則に定める必要があります。

以上(2023年12月更新)
(監修 弁護士 田島直明)

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画像:fizkes-shutterstock

お尻を触るセクハラ社員は解雇できるか?

書いてあること

  • 主な読者:セクハラをするような「問題社員」を厳しく罰したい経営者
  • 課題:必要以上に重い処分を与えると、逆に訴訟などのトラブルに発展しそう
  • 解決策:裁判例なども参考にしつつ、妥当な懲戒処分をする

1 トラブルになりにくい懲戒処分のポイント

セクハラをするような「問題社員」は厳しく罰したいところですが、感情的になるのはトラブルのもとです。ここは冷静になり、次のポイントを確認しながら懲戒処分を検討しましょう。

  • 問題社員の行動が、就業規則の懲戒事由に該当するか
  • 客観的に見て、処分はやむを得ないといえるだけの具体的理由があるか
  • 問題社員の行動に照らして、処分の重さが妥当といえるか
  • 社員の問題行動、会社による注意や処分の内容を記録しているか
  • 処分の前に、弁明や挽回の機会を与えているか

注目すべきは、「問題社員の行動に照らして、処分の重さが妥当といえるか」です。例えば、服の上からお尻を触る社員を問題ですが、たった1回の行為なら、いきなり懲戒解雇にするのは厳しすぎます。

また、社員のプライベートにも注意が必要です。原則として、プライベートの行動は、会社の信用を失墜させた場合などでなければ懲戒処分にはできません。

以上を踏まえ、この記事では、ありがちな問題社員の行動と妥当と思われる懲戒処分を紹介します。一般的な懲戒処分の内容は次の通りで、1.の戒告が最も軽い処分、7.の懲戒解雇が最も重い処分になります。

  1. 戒告:厳重注意を言い渡す
  2. けん責:始末書を提出させ、将来を戒める
  3. 減給:一定期間、賃金支給額を減額する
  4. 出勤停止:数日間、出勤することを禁じ、その間は無給とする
  5. 降格:役職の罷免・引き下げ、または資格等級の引き下げを行う
  6. 諭旨解雇:退職届の提出を勧告した上で、退職届の提出がなければ解雇とする
  7. 懲戒解雇:即時に解雇する

2 就業時間内の問題行動への対応

1)業務命令に違反した、業務命令を無視した

社員が業務命令に従わなかったり、無視したりした場合、まずは口頭で注意して様子を見ます。その後も勤務態度を改めなければ、けん責や戒告などの軽い懲戒処分から始め、その後も改善が見られなければ、より重い処分に切り替えます。

指示された業務を放棄したり、業務はしていても職場環境や人間関係に大きな悪影響を及ぼしたりするようなら、場合によっては懲戒解雇や諭旨解雇も検討し得るかもしれません。

ただ、勤務態度の悪さを理由に懲戒解雇や諭旨解雇を課すのはハードルが高く、実務では解雇がやむを得ないケースであっても

普通解雇(社員としての適性がないことを理由とする解雇、懲戒処分ではない)で対応

するのが一般的です。

2)無断欠勤を繰り返した

社員が1~2日の無断欠勤をした場合、まずはけん責や戒告とし、改善されなければ重い処分とします。一方、2週間連続して無断欠勤した場合はレベルが違います。就業規則で「2週間連続の無断欠勤の場合は懲戒解雇とする」と定めている会社は多く、実際、それを認めた裁判例もあります(開隆堂出版事件 東京地裁平成12年10月27日判決)。

ただし、無断欠勤している社員がメンタルヘルス不調を抱えている場合などは、慎重に対応を判断しましょう。休職制度がある場合は、それを適用して様子を見ます。休職期間が終わっても復職が難しければ、就業規則に従って退職となります。

3)隠れて休憩した、居眠りをした、パソコンを私的利用した(怠業)

社員が隠れて休憩や居眠りをした場合、まずはけん責や戒告とし、改善されなければ重い処分に切り替えます。ただ、長時間労働が常態化しているなら、懲戒処分よりも就業環境の改善が先です。

パソコンの私的利用については、例えば、私的なメールを送るのに使っている場合などは、まずは懲戒処分ではない口頭注意などとし、改善されなければけん責や戒告とします。

ただし、回数が異常だったり、内容が会社の信用に関わる事案であったりする場合は重い処分を検討します。1日300回以上のチャットを行い、チャットを使って顧客情報を持ち出した社員の懲戒解雇を有効と判断した裁判例もあります(ドリームエクスチェンジ事件 東京地裁平成28年12月28日判決)。

4)ハラスメント行為をした

ハラスメントの判断は難しいので、大まかな基準を設けておくとよいです。例えば、セクハラ(セクシュアルハラスメント、性的嫌がらせ)の場合の目安は次の通りです。

  1. 刑法に抵触(強制性交等(準強制性交等)、強制わいせつ(準強制わいせつ)など):懲戒解雇、諭旨解雇
  2. 迷惑防止条例に抵触(服の上からお尻を触るなど):降格、出勤停止、減給、けん責、戒告
  3. 男女雇用機会均等法に抵触(性的な言動など):降格、出勤停止、減給、けん責、戒告
  4. 法令には抵触しない(「おばさん」と呼ぶなど):口頭で注意、けん責、戒告

セクハラと言われる行為は,刑法犯に該当する行為から性的発言まで幅広く存在します。これまでは、性的発言のみでは懲戒解雇、諭旨解雇は難しいとされていましたが、最近はセクハラについて厳しく判断される傾向にあり、行為態様、頻度によっては懲戒解雇や諭旨解雇を有効とする事例が出てくると思われます。セクハラを理由に懲戒処分を検討する場合には、上記のポイントを踏まえて慎重に判断するようしましょう。

3 プライベートでの問題行動への対応

1)飲酒運転などの犯罪行為をした

会社の信用を失墜させた場合などでなければ、プライベートの問題行動で懲戒処分にするのは難しいです。例えば、飲酒運転の場合、次の項目を確認してみましょう。

  1. 会社がトラックやタクシーなどの運送業を営んでいるか
  2. 問題社員が運転業務に従事しているか
  3. 刑事処分を受けたか
  4. 事故(人身事故など)を発生させたか
  5. 報道などで社名が出るなどし、会社の社会的信用が毀損されたか

1.から5.までの要素を検討し、仮にこれらに該当する場合、懲戒解雇などの重い処分が認められる可能性があるでしょう。

2)近隣住民とトラブルを起こした

犯罪に該当しない近隣住民とのトラブルは、基本的に懲戒処分の対象になりません。会社が管理する社宅でのトラブルについても、社員のプライベートな時間であるため、基本的に会社が介入することはできません。

例外として、社宅の利用や施設に影響を及ぼすトラブルであれば、事前に社宅利用規程などに決めておくことで、その範囲内で対応できますが、懲戒処分は限定的になるでしょう。

以上(2023年12月更新)
(監修 弁護士 田島直明)

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画像:M-Production-shutterstock

優秀な社員を慰留しただけでトラブルになる?

書いてあること

  • 主な読者:退職や解雇の際のトラブルに備えておきたい経営者
  • 課題:どうすればトラブルを回避できるのかが分からない
  • 解決策:退職にトラブルはつきものと割り切り、法令や裁判例をベースに行動する

1 退職にトラブルはつきもの?

皆さんは、退職した社員や解雇した社員とトラブルになったことはありませんか? 例えば、次のようなケースです。

  • 社員を慰留したら、「会社が退職させてくれない」と外部の労働組合に駆け込まれた
  • 自己都合退職で合意したはずなのに、退職後に会社都合退職を主張してきた
  • 懲戒解雇した社員の退職金を不支給にしたら、「不当だ」と訴えられた

よほど円満でなければ、社員は会社に恨みを持っていることがあり、会社を去って関係がなくなる機会に、それが爆発するわけです。世知辛い話ですが、こうしたトラブルはある程度は仕方がないと割り切り、

トラブルになっても「会社は正しい対応をした」と主張できる行動をすることが大切

です。以降で、法令や裁判例に基づく対応のポイントを紹介するので、確認していきましょう。

2 退職の慰留交渉はどこまで大丈夫?

会社が社員の退職を止める権利はありません。民法や労働基準法では、

  • 無期労働契約の場合、退職の申し入れをしてから2週間が経過したとき
  • 有期労働契約(一定の事業完了に必要な期間を定めるものを除く)の場合、契約期間が1年を超えた後に退職の申し入れをしたとき

に社員はいつでも退職できるとされています。一方、会社からすれば優秀な社員が退職するのは痛手なので慰留交渉をします。その際、

最終的に社員が自由に決定できるなら、慰留しても問題ない

ことになります。ただし、

社員の意思決定を不当に妨げるのは違法

です。具体的には、

  • 暴行、脅迫、監禁などの不当な手段を用いて、社員を強制的に働かせる(強制労働)
  • 暴言を浴びせたり、無視したりして心理的に追い詰める(ハラスメントなどの不法行為)
  • 「退職するなら賃金や退職金は支払わないし、年次有給休暇の消化も認めない」などと迫る(労働基準法における労働者の権利の行使を不当に妨げる行為)

などをしてはいけません。

3 社員以外の者と退職交渉をしても大丈夫?

社員の退職届を受理しないなど、問題を先送りするような対応をしてはいけません。業を煮やした社員が、労働組合や弁護士に会社との交渉を依頼することがあるからです。

労働組合、弁護士、法定代理人など法令に定めのある者は、社員の代わりに退職交渉をする権限

を持っており、交渉を申し込まれたら必ず対応しなければなりません。そうなると、当事者だけなら折り合えた問題が複雑になることもあります。

なお、最近は会社に「退職したい」と言えない社員などが、弁護士や労働組合に当たらない民間の退職代行サービスを使って退職を申し出てくることがあります。ですが、こうしたサービス業者には、退職交渉をする権限はありません。あくまで社員と交渉する必要があります。

4 退職届があれば、退職理由は「自己都合退職」でいい?

社員が離職票の交付を希望する場合、会社は管轄のハローワークに離職証明書を提出します。離職証明書には、会社都合退職か自己都合退職かを記載します。ただ、退職理由は、

  • 会社都合退職:雇用保険給付が増えるなど、社員にとって好ましい
  • 自己都合退職:会社に落ち度がないことを示せるなど、会社にとって好ましい

といったように双方の思いが交錯します。とはいえ、これを偽るのは問題で、たとえ「社員の雇用保険給付を増やしてあげたい」と自己都合退職を会社都合退職にした場合でも、雇用保険給付の不正受給、刑法上の詐欺罪などに当たる恐れがあります。

つまり、ありのままの状態で判断しなければならないのですが、判断が難しいケースもあります。例えば、社員が「一身上の都合により退職します」と退職届を会社に提出した場合は一般的には自己都合退職ですが、

社員が退職勧奨を受け、退職届を提出するよう促された場合などは会社都合退職

になります。また、有期労働契約が社員の希望に反して更新されない場合、

「契約を更新する」ことを示していれば会社都合退職、そうでなければ自己都合退職

になります。

ここでは、参考として会社都合退職と自己都合退職の基本的なケースを紹介します。

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5 退職金の不支給・減額は認められる?

退職金の不支給・減額を行うには、合理的で社会的に相当な理由が必要です。この点、就業規則に定めがあれば、懲戒解雇する社員の退職金を不支給にしても問題ないように思えます。

ですが、過去の裁判例では、

懲戒解雇であっても、退職金を不支給とすることは、長年の勤続の功を打ち消す重大な背信行為がなければ合理的とはいえないので、減額などにとどめるべき

としたもの(東京高裁平成15年12月11日判決)もあり、注意が必要です。ちなみに、この裁判では、痴漢行為が原因で懲戒解雇された社員の退職金を不支給としたことで会社と社員が争いになり、最終的に70%の減額が妥当と判断されました。

また、会社都合退職よりも自己都合退職の場合の退職金を低くすることはよくありますが、これは、社員の定着率を高める上で合理性があると考えられており、問題となるケースは少ないようです。

6 賞与の不支給・減額は認められる?

賞与の不支給・減額を行う場合も、合理的で社会的に相当な理由が必要です。例えば、賞与支給日に在籍していない社員には賞与を支給しない「支給日在籍要件」は、合理的かつ社会的に相当であるとされています。なお、就業規則等の定めは必要です。

悩ましいのは、賞与支給日には在籍しているが、その後間もなく退職する社員です。この点について、過去の裁判例では、

  • 賞与は、社員の将来への期待を込めて支給するものなので、減額自体は違法ではない
  • ただ、社員の実績評価に基づいて支給するものでもあるので、大幅な減額は公序良俗に反する

としたもの(東京地裁平成8年6月28日判決)があります。ちなみに、この裁判例では、賞与を通常の82%以上減額したことで会社と社員が争いになり、最終的に減額は通常の20%までが相当と判断されました。

7 退職する社員に研修費用の返還を請求してもいい?

社員の資格取得の費用を補助したのに、社員が資格を取得した後に退職してしまうことがあります。会社としては、研修費用を返還してほしいところですが、例えば

就業規則等に「資格取得後○年以内に自己都合により退職する場合、研修費用の全額を返還しなければならない」といった定めをすると、労働基準法の「賠償予定の禁止」に抵触する恐れ

があるので注意が必要です。

もっとも、研修費用の返還について会社と社員が合意していれば、返還請求が認められることもあります。例えば、

研修費用をいったん会社が立て替え、資格取得後、社員が一定期間勤務した場合に、費用の返還を免除する

といった形で合意することがあります。こうした合意が「賠償予定の禁止」に抵触するか否かについては、次の3点を基に判断されます。

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ちなみに、過去の裁判例では、

研修内容が業務上必要なものである場合、その費用は会社が負担すべきで、社員に請求するのは不当である

と判断されたもの(東京地裁平成10年3月17日判決)があります。

以上(2023年12月更新)
(監修 弁護士 坂東利国)

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【朝礼】大谷翔平選手の入団会見に学ぶ「勝つ」ことが一番大事

皆さん、おはようございます。今日が2023年最後の朝礼です。2023年、私から皆さんへの最後のメッセージは「勝つ」ことへのこだわりです。

私たちは営利法人ですから、利益を上げなければ生き残れません。つまり、倒産です。帝国データバンクなどの信用調査会社の発表では、2023年の倒産件数は増加傾向にあるそうです。倒産してしまう理由はさまざまでしょうが、その一つには、コロナ禍の企業延命措置として実施されたゼロゼロ融資の返済があります。コロナは私たちだけで解決できるものではありません。私がマネジメントスクールに通っていたとき、企業を取り巻く環境には、外部環境と内部環境があり、外部環境の変化には抗いにくいと教えられました。コロナはもちろん、不安定な国際情勢や物価高は、私たちだけの力で変えることができない外部環境です。

ただし、「外部環境だから仕方ない」とその変化に流されるだけでは、会社は倒産してしまうでしょう。外部環境が目まぐるしく変化する中でも、私たちは勝つことに執着しなければなりません。

そのことを改めて教えてくれたのは、あの大谷翔平選手です。日本時間で12月15日の朝に大谷選手のドジャース入団会見が行われました。その内容はテレビなどで放送されましたし、あっという間にSNSで拡散され、ネットニュースも数多く出ました。いつも通りの真摯でありつつも、ユーモアを交えた「大谷節」が繰り広げられる中、私が最も心を打たれたのは、大谷選手がドジャースを選んだ理由です。

会見の中で、ドジャースの首脳陣が大谷選手に「この10年間を成功だと思っていない」と伝えたことが明らかになりました。ドジャースは優れた成績を残している名門チームで、ポストシーズンには11年連続で進出しています。ただ、その間にワールドシリーズで優勝したのは、コロナ禍のために試合数の削減などの特別ルールが設けられた2020年の1回だけです。

見方によっては、ドジャースの成績は十分に素晴らしいものです。しかし、首脳陣はさらなる高みを目指していて、その姿勢が大谷選手に響いたのでしょう。大谷選手も「勝つことが今の僕にとって一番大事」と語っており、勝ちにこだわるそれぞれの思いが合致したのだと私は感じました。

ここ数年、「勝つ」ということに対する意識が変わってきたと感じることがあります。勝つ側がいれば負ける側もいるわけで、それを「優劣」に置き換えるのを問題とする意見もあるからです。しかし、大谷選手や私たちの「勝つ」とは、相手をボロボロに打ちのめすことではありません。自身の想いに正直になり、夢を叶えることこそが「勝つ」ことに他なりません。

2023年の成功と失敗を糧として、2024年、私たちは「勝つことに貪欲な組織」になります。その先には、素晴らしい未来が待っていることでしょう。

以上(2023年12月)

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画像:Mariko Mitsuda

経歴詐称や犯罪歴の秘匿をした社員が入社してきたらどうする?

書いてあること

  • 主な読者:経歴詐称や犯罪歴の秘匿をした人を採用してしまった経営者
  • 課題:こうした人でも、一度採用してしまうと簡単には解雇できない
  • 解決策:面接と試用期間中に見破る。本採用してしまった場合は、配置転換など雇用継続の努力をした後であれば、解雇が認められる余地がある

1 経歴詐称で入社してきた社員でも簡単には解雇できない

採用ではミスマッチがつきものですが、

「学歴・職歴」「健康状態」「犯罪歴・処分歴」などについて詐称(嘘をつく)や秘匿(不利な事実を隠す)をして入社してくる社員

については話が別で、会社として看過することはできません。

ただ、理不尽に思えますが一度採用したら、たとえ経歴などを詐称して入社してきた社員であっても簡単には解雇できません。解雇は、客観的に合理的な理由があって、社会通念上相当と認められる場合でないと無効となるからです。

そのため、経歴詐称など「秘密を抱えた社員」については、

  1. 面接の段階で見抜き、採用しない
  2. 試用期間中に見抜き、本採用をしない
  3. 本採用してしまった後は、配置転換などで雇用継続の道を探る
  4. それでもダメなら解雇する

といったように段階を踏んで対応することになります。

この記事では、上の4段階の対応について詳しく説明した後、「学歴・職歴」「健康状態」「犯罪歴・処分歴」といった秘密の内容に応じたポイントを紹介します。

2 秘密を抱えた社員への対応は4段階で考える

1)面接の段階で見抜き、採用しない

採用した後に解雇するのは大変ですが、採用前なら会社には「採用の自由(誰を、どのような条件で採用するかの自由)」があります。ですから、面接時に社員の秘密を見抜き、採用しないことが最も有効な対策です。

面接時の質問によって「秘密を抱えているか」をある程度判断することができる可能性があります。例えば、「はい」か「いいえ」で答えられる質問ではなく、求職者に説明をさせる質問をしてみましょう。「○○の業務に携わった場合、あなたは何ができますか?」と質問し、詳しく答えてもらいます。求職者の受け答えに違和感を覚えたら、その部分を深掘りして求職者の考え方や能力レベルを確認します。

2)試用期間中に見抜き、本採用をしない

採用時に社員の秘密を見抜けなかった場合、次のポイントは「試用期間」です。試用期間中に業務への適性などを確認し、社員として必要な能力が備わっていないと判断できる場合は、本採用をしないという選択肢があります。

「本採用をしない=解雇」ということですが、試用期間は本採用前に適性を判断するための期間なので、本採用後よりも解雇が認められやすい面があります。例えば、実務経験を条件に採用した場合、面接時に担当する業務内容とそれを遂行できるかを確認し、試用期間中に実際にできているかを確認します。その上で適性がなければ、本採用の拒否を検討します。

ちなみに、試用期間における本採用の拒否は退職に関する定めに当たるので、就業規則等に「試用期間中において不適当と認めた者は、解雇することがある」などと定めておきましょう。

3)本採用してしまった後は、配置転換などで雇用継続の道を探る

本採用した後で秘密が見つかった場合、簡単には解雇できません。例えば、ドライバーとして採用したのに、本採用後に運転に支障がある病気が判明し、運転が難しいことが分かったような場合、別の仕事に配置転換するなどして、雇用継続を検討していくのが基本となります。

なお、就業規則等に「業務上の必要がある場合には、配置転換を命ずることができる」といった規定を定めておくことが前提となります。

4)それでもダメなら解雇する

配置転換などをしても社員が能力を発揮できない場合、ようやく解雇が検討できます。解雇には、社員の能力不足などを理由とする「普通解雇」、詐称や秘匿の懲罰としての「諭旨解雇・懲戒解雇」があります。

いずれにしても会社が自由に解雇できるわけではなく、

  • 客観的に合理的な理由がある(客観的に見て解雇はやむを得ないといえる理由がある)
  • 社会通念上相当と認められる(社員の行為や状況に照らして、解雇が妥当である)

という要件を満たさなければ無効になります。前述の3)で雇用継続の道をきちんと探っていれば、解雇後に社員と裁判などのトラブルになっても、会社は解雇の要件を満たしていると認められやすくなります。

3 学歴・職歴に秘密がある社員の対処

1)会社にどのような影響がある?

学歴・職歴の詐称や秘匿に当たるのは、次のようなケースです。

  • 最終学歴が高卒なのに、大卒であると嘘をつく
  • 資格者でないのに、資格者であると嘘をつく
  • 前の会社に在籍していた期間を、実態よりも長く偽る

専門的な知識が必要な業務に就かせる、または将来的にそれらの業務に就くことを期待して採用する場合、学歴・職歴などは重要な判断材料になります。ですから、そこに詐称や秘匿があると、会社の計画が狂ってしまいます。

2)入社前の段階で秘密を見つけ出すには?

求職者に求める能力の水準が明確なのであれば、知識、教養、技術力などを確認できるテストを実施するといいでしょう。例えば、語彙力・読解力・計算力などの基本的な能力を測る「SPI」は多くの会社が採用に活用しています。特定の資格が必要な業務に就かせる予定があれば、その資格試験の過去問などを解かせてみるのもよいでしょう。

また、履歴書と他の書類を突き合わせて、学歴・職歴を判断する方法もあります。例えば、雇用保険被保険者証には前職での被保険者資格取得日、源泉徴収票には前職の会社名や年収などが記載されているので、詐称や秘匿がないかを判断する材料になります。

3)採用してしまったら?

学歴・職歴を詐称した社員を解雇し、会社と社員が争いになった裁判例(大阪地裁平成6年9月16日決定)では、

  • 学歴の詐称については、会社が過去に高卒未満の学歴の者を採用していて、学歴重視で採用活動を行っていたとまではいえないので、就業規則所定の「重要な経歴を偽り採用された場合」に当たらない
  • 職歴の詐称については、社員を採用する際に採否や適性の判断を誤らせるので、就業規則所定の「重要な経歴を偽り採用された場合」に当たる

として、解雇は有効と判断されました。

また、労働者派遣事業を営む会社が、「経営コンサルタント業務の経験がある」と職歴を詐称して入社した社員を解雇し、争いになった裁判例(東京地裁平成22年11月10日判決)では、

職歴の詐称については、仮に社員が本当のことを話していたら、会社は雇用しなかっただろうと認められる場合、会社に具体的な損害がなくても、「重要な経歴を偽り採用された場合」に当たる

として、懲戒解雇は有効と判断されました。

学歴・職歴の詐称や秘匿が解雇事由に当たるかは、会社の過去の採用実績や、詐称や秘匿が業務や会社の秩序にどのぐらい影響を与えるかなどによって判断されるようです。

4 健康状態に秘密がある社員の対処

1)会社にどのような影響があるか?

病気などの詐称や秘匿に当たるのは、次のようなケースです。

  • 病気にかかっているのにそれを隠す、治ったと嘘をつく
  • 特定の業務を控えるよう医者から言われているのに、それを隠す

会社は、社員の健康状態を考慮して担当業務に就かせるので、病気などについて詐称や秘匿があると、予定通りに人員を配置できなくなる恐れがあります。

2)入社前の段階で秘密を見つけ出すには?

健康状態が業務に及ぼす影響が大きい場合、面接で求職者に健康状態を確認しますが、質問できるのはあくまでも業務への適性を判断する範囲となります。また、病歴は「要配慮個人情報」という機微な個人情報なので、情報の取り扱いは慎重に行います。

3)採用してしまったら?

ガソリンスタンドなどを経営する会社が、視力障害を秘匿して入社し重機運転手の業務に就いた社員を解雇し、争いになった裁判例(札幌高裁平成18年5月11日判決)では、

視力障害は社員の総合的な健康状態に影響するレベルのものではなく、重機運転手として不適格とまではいえない

として、解雇は無効と判断されました。

病気などについての詐称や秘匿が解雇事由に当たるかは、それが社員の心身の安全や業務にどの程度影響を与えるかによって判断されるようです。

5 犯罪歴・処分歴に秘密がある社員の対処

1)会社にどのような影響があるか?

犯罪歴・処分歴の詐称や秘匿に当たるのは、次のようなケースです。

  • 過去に犯罪を行って刑罰を受けたのに、そのような事実はないと嘘をつく
  • 前職で不祥事による懲戒解雇を受けたことについて、その事実を秘匿する

過去に犯罪を行っていても、更生しているのであれば業務に支障はないでしょう。ただ、他の社員は不安に思うかもしれません。

2)入社前の段階で秘密を見つけ出すには?

犯罪歴の詐称や秘匿を防止するために、求職者に賞罰欄が設けられた履歴書を提出してもらいます。賞罰の「罰」とは、「一般に確定した有罪判決(前科)」のことで、会社から特別に言及されない限り、起訴猶予事案などの犯罪歴(前歴)は含まれません。賞罰欄が設けられた履歴書を指定すれば、求職者は少なくとも前科については会社に告知しなければならなくなります。

ただし、古い前科について告知を求める際は注意が必要です。過去に強盗罪で懲役刑を受けたことなど、前科・前歴を採用時に告知しなかった社員を解雇し、会社と社員が争いになった裁判例(仙台地裁昭和60年9月19日判決)で、次のような判断がされているからです。

  • 履歴書の中に賞罰欄がある場合、求職者は真実を記載しなければならない
  • ただし、刑法第34条の2(注)により刑が消滅した前科については、特段の事情(前科が労働力の評価に重大な影響を及ぼすなど)がない限り、労働者に告知義務はない

(注)刑法第34条の2では、懲役や禁錮の刑の執行を終わるなどしてから10年の間、罰金以下の刑の執行が終わるなどしてから5年の間、再び罰金以上の刑に処せられなければ、刑の言い渡しは効力を失う(法律上は刑を受けたことがないものとして扱われる)とされています。

この他、犯罪歴・処分歴の詐称や秘匿を見つける方法としては、身元保証書や退職証明書を提出させることなどが考えられます。

身元保証書は、求職者が入社後、本人の故意や重大な過失で会社に損害が生じた場合、本人と身元保証人が連帯して責任を負うという書類です。犯罪歴・処分歴に限らず、過去に何らかの問題があった求職者は、身元保証人を見つけにくいので、提出を渋る場合があります。

退職証明書は、前職の会社などを退職したことを証明する書類です。前職の退職理由が記載されているため、懲戒解雇の秘匿などを見つけられる場合があります。

3)採用してしまったら?

2)の裁判例では、履歴書の賞罰欄に犯罪歴を記載しなかったことが争点となりましたが、

社員の犯罪歴は既に刑が消滅したもので、こうした前科について会社が言及することは、労働者の更生の妨げになりかねない

として、解雇は無効と判断されました。

これを踏まえると、会社には犯罪歴・処分歴ではなく、現在の就業態度や能力によって社員を処遇することが求められているといえるでしょう。

なお、犯罪の経歴(前科や犯罪行為をした事実)、本人を被疑者・被告人として刑事事件に関する手続きが行われたことなどは、「要配慮個人情報」に当たるので、前述した病歴などと同じく、取り扱いには細心の注意が必要です。

以上(2023年12月更新)
(監修 みらい総合法律事務所 弁護士 田畠宏一)

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画像:pexels

企業年金や職場つみたてNISAなど、社員自身が運用できる資産形成の制度

書いてあること

  • 主な読者:現在の退職金制度を見直したい経営者、労務担当者
  • 課題:退職一時金だと、社員が退職時まで制度の存在を意識しないので、在職中は制度のありがたみが伝わらず、人材定着につながらない
  • 解決策:社員が「自分で資産を運用できる制度」を導入する。企業年金の他、退職金制度以外の資産形成(iDeCo、財形貯蓄制度、職場つみたてNISAなど)にも着目する

1 社員にとって“身近”な「自分で資産を運用できる制度」

多くの会社の退職金制度は、長く勤めた分だけ支給額が多くなる年功型の制度設計になっています。昔は、こうした制度の存在が人材定着に一役買っていたのですが、最近では「もう社員が定年まで働く時代じゃないから」と、制度自体を廃止する会社が少なくありません。

ただ、もしかしたら、退職金制度が人材定着につながりにくいのは、

そもそも制度自体が、社員にとってあまり“身近”でないから

かもしれません。中小企業の多くは、退職一時金(退職金を一括で支払う制度)を導入していますが、実際に退職するタイミングになって初めて支給額が分かるケースが多く、在職中の社員はなかなか制度の存在を意識しません。逆に言うと、社員が日ごろから存在を意識するような制度設計になっていれば、あるいは今の会社で長く働くモチベーションになるかもしれません。

そこで、この記事では、退職金制度を社員にとってより“身近”なものにするために、

社員が「自分で資産を運用できる制度」を導入すること

をご提案します。「自分で資産を運用できる」とは、一定のルールの範囲内で、拠出を増やしたり、希望する時期に資産を引き出したりできるという意味です。

退職金制度では企業年金(DB、企業型DC)がこれに該当しますが、退職金制度以外にもiDeCo、財形貯蓄、職場つみたてNISAなど、自分で資産を運用できる制度がある

ので、併せて紹介します。

「人生100年時代」といわれるほどの高齢化社会や、先行き不透明な経済情勢の中で、将来の生活に不安を抱えている社員は多いですから、こうした制度のニーズは一定以上あるはずです。特に職場つみたてNISAは、2024年1月の制度改正でより社員が使いやすい制度に変わりますので、この機会にご確認ください。

2 企業年金で資産形成

企業年金は、退職金を年金形式で支払う制度のことで、広く知られているのは「DB(確定給付企業年金)」「企業型DC(企業型確定拠出年金)」です。ちなみに、確定給付は「給付額が決まっている」、確定拠出は「掛金が決まっている」という意味です。なお、この他に「厚生年金基金」という企業年金もありますが、現在は実質廃止されているのでここでは割愛します。

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DBも企業型DCも、会社が掛金を積み立て(社員が追加拠出することも可)、運用に応じて拠出時・運用時・受給時に税制優遇を受けられる制度です。大きな違いは給付額のルールで、

  • DBは、給付額があらかじめ決まっているので、予定通りの運用ができない場合、会社が追加の拠出をしなければならない。社員にとっては安心だが、会社の負担が大きくなるリスクもある
  • 企業型DCは、給付額が社員の運用成績で決まるので、予定通りの運用ができなくても、会社は責任を負わない。社員は運用に成功すれば退職金を増やせるが、失敗すれば元本割れで減るリスクもある

という違いがあります。

どちらも難点なのは、資産を引き出せるのが原則60歳以降で、資産の流動性があまり高くない点です。途中引き出しは認められていますが一定の要件を満たさなければならず、また60歳以降に引き出す場合と違って、受給時の税制優遇が受けられないというデメリットがあります。

3 iDeCoで資産形成

iDeCo(イデコ)は、社員が自分で掛金を拠出して運用し、60歳以降に受け取る個人型の確定拠出年金です。また、iDeCoの中には、

拠出限度額の範囲内(月額5000円以上、2万3000円以下)で、iDeCoに加入する社員の掛金に追加して、会社が掛金を拠出できる「iDeCo+(イデコプラス)」

という制度があります(正式名は「中小事業主掛金納付制度」)。

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iDeCoも企業年金と同じく、拠出時・運用時・受給時に税制優遇が受けられます。これに加えてiDeCo+も利用できる場合、会社が掛金を拠出してくれるので、社員は自身の出費を抑えながら、資産形成を図れます。

また、会社のほうは、iDeCo+で拠出した会社負担分の掛金を全額損金に算入できます。個人の運用をサポートする制度なので、事務負担も通常の退職金制度より軽減できます。ただし、

  • 対象は、社員(厚生年金の被保険者)が300人以下で、企業年金(DB、企業型DC、厚生年金基金)を実施していない中小企業に限定される
  • 導入するには、過半数労働組合(ない場合は過半数代表者)の同意が必要になる
  • 会社が、掛金(社員拠出分と会社拠出分)をまとめて実施機関に納付する必要がある(社員拠出分の掛金は、給与天引き)

といった点に注意が必要です。

iDeCo(iDeCo+)も企業年金と同じく、資産の流動性が高くないのが難点です。途中引き出しは原則不可で、基本的に60歳以降にならないと資産を引き出せません。途中引き出しに重点を置くのであれば、この後に紹介する財形貯蓄制度や職場つみたてNISAは、基本的にいつでも資産を引き出せるのでお勧めです。

4 財形貯蓄制度で資産形成

財形貯蓄制度は、毎月一定の額を給与天引きなどで積み立て、社員が目的に応じて、積み立てたお金を任意のタイミングで払い出す制度です。一般財形貯蓄、財形住宅貯蓄、財形年金貯蓄の3種類があります。

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一般財形貯蓄は、使用目的も引き出し時期も自由なので、社員にとっては利用しやすい制度です。一方、税制優遇の面では財形住宅貯蓄、財形年金貯蓄のほうがメリットは大きいですが、この2種類は制度としての柔軟性には欠けます。

なお、社員の転職時などには、積み立てを停止して払い出す必要がありますが、転職先の会社でも同じ財形貯蓄制度を運用していれば、転職先の財形貯蓄制度に資産を引き継げます。

5 職場つみたてNISAで資産形成

NISAは、「NISA口座」と呼ばれる口座を使って個人が株式投資などを行った際、一定の範囲内で得た利益が非課税になる制度です。通常、投資で得た利益には約20%の税金がかかりますが、NISA口座で投資すれば税金はかからなくなり、その分のお金で資産形成ができます。

このNISAの中に、会社が社員のNISA口座の開設や株式などの購入手続きを支援する「職場つみたてNISA」という制度があります。職場つみたてNISAでは、会社と契約したNISA取扱業者が選定する金融商品の中から、社員が投資対象を指定して投資を行います(金融商品は毎月同額購入、投資資金は給与天引きなどで支払い)。2024年1月から投資の非課税限度額(年間)などのルールが大きく変わるので、制度改正前後を比較しながら、概要を確認してみましょう。

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現行の職場つみたてNISAは、上場株式、ETF、投資信託、REIT等を運用対象とする「一般NISA」と金融庁が厳選した一定の投資信託を運用対象とする「つみたてNISA」について、年間160万円の範囲内で、投資の運用益が非課税になります。2024年1月からは、それぞれ名称が「成長投資枠」「つみたて投資枠」と変わり、上限額が年間360万円と大幅に増えます。

運用面では、元々いつでも資産を引き出せるというメリットがありましたが、今回の制度改正で最長20年間とされていた運用期間が「無期限」に変更され、より利用しやすくなります。

以上(2023年12月更新)
(監修 社会保険労務士法人AKJパートナーズ)

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画像:FancyCrave

痴漢で逮捕された問題社員をすぐに解雇できるのか?  

書いてあること

  • 主な読者:逮捕された社員の処分をする経営者
  • 課題:どの程度の処分にするか迷っている
  • 解決策:就業規則に懲戒事由があるかを確認し、犯罪の動機や裁判例などによって処分の内容を決める

1 判断が難しい「犯罪行為」の懲戒処分

懲戒処分とは、

職場規律や企業秩序に違反した社員に対し、会社が行う制裁(戒告、減給、懲戒解雇など)

です。会社があらかじめ就業規則で「懲戒事由」を定めていて、社員がその懲戒事由に該当した場合、就業規則に従って懲戒処分を課すことが認められています。

ただし、労働契約法では

社員が起こした違反行為に比して、重すぎる懲戒処分は課せない

と定められています。特に痴漢や飲酒運転のような犯罪行為の場合は要注意。「犯罪に手を染める社員なんてけしからん! 懲戒解雇だ!」と重い処分に傾きがちですが、裁判ではそうした懲戒処分が「重すぎる」として無効になったケースが少なくないのです。

この記事では、犯罪行為をした社員の懲戒処分を検討する際のポイントとして、

  1. 就業規則の懲戒事由を確認する
  2. 懲戒処分の種類と考慮要素を押さえる
  3. 犯罪行為の懲戒処分に関する裁判例を知る

の3つを紹介します。

2 就業規則の懲戒事由を確認する

大前提として、就業規則や社員との労働契約に懲戒事由に関する定めがない場合、懲戒処分は認められません。また、定めがあっても、社員の違反行為と合致する内容になっていなければ、やはり認められません。これは、労働契約法に「合理的な理由がなく、相当ではない懲戒処分は無効とする」という定めがあるからです。

犯罪行為に対して懲戒処分を課す場合、懲戒事由の書き方の例は次の通りです。

  • 暴行、脅迫、傷害その他犯罪行為によって著しく社内の秩序を乱したとき
  • 不正不義の行為によって会社の名誉・体面を汚したとき
  • 刑罰に触れる行為をしたとき

会社によっては、「刑事裁判において有罪判決を受けたとき」と定めている場合がありますが、この書き方だと、社員が全面的に罪を認めていても、実際に有罪判決を受けるまでは懲戒処分を課すことができないので好ましくありません。

なお、就業規則を確認する際は、懲戒事由と併せて、

「懲戒処分を検討する際、社員に弁明の機会を与える」旨の規定があるか

もチェックしておきましょう。適正な手続きを踏んでいない懲戒処分は、「相当ではない」として無効になる恐れがあるからです。

3 懲戒処分の種類と考慮要素を押さえる

一般的に、懲戒処分には次の7種類があります。1.の戒告が最も軽い処分、7.の懲戒解雇が最も重い処分です。

  1. 戒告:厳重注意を言い渡す
  2. けん責:始末書を提出させ、将来を戒める
  3. 減給:一定期間、賃金支給額を減額する
  4. 出勤停止:数日間、出勤することを禁じ、その間は無給とする
  5. 降格:役職の罷免・引き下げ、または資格等級の引き下げを行う
  6. 諭旨解雇:退職届の提出を勧告した上で、退職届の提出がなければ解雇とする
  7. 懲戒解雇:即時に解雇する

前述した通り、社員の違反行為に対して、重すぎる懲戒処分は課せません。犯罪行為に対する懲戒処分の内容が妥当かどうかは、次のような要素に照らして判断されます。

  • 当該行為の動機、内容、結果(犯罪行為の種類や程度、故意または過失の度合い、被害の重大性など)
  • 業務への影響(免許取り消しで運転業務が行えず、他の社員の負担が増したなど)
  • 社員の勤務歴、過去の処分歴、反省の様子
  • 当該行為に関する会社側の要因の有無 など

犯罪行為の場合、こうした要素に照らして判断しますが、難しいのが「私生活上の犯罪行為」です。会社は本来、社員のプライベートには介入できないため、原則として懲戒処分は行えません。ただし、例外として、

会社の社会的評価に重大な悪影響を与える場合に限り、私生活上の犯罪行為であっても懲戒処分は可能

とされています(最高裁第二小法廷昭和49年3月15日)。社会的評価に重大な評価を与えるかどうかは、次のような要素に照らして判断されます。

  • 会社の事業の種類・態様・規模
  • 会社の経済界に占める地位、経営方針
  • 社員の会社における地位・職種 など

4 犯罪行為の懲戒処分に関する裁判例を知る

1)痴漢行為

1.懲戒解雇(有効)

鉄道会社の職員が、電車内で痴漢行為をして懲戒解雇された事案(東京高裁平成15年12月11日判決)では、次の点などから「懲戒解雇は妥当である(有効)」と判断されました。

  • 職員は本来、電車内の迷惑行為を防止する立場にあった
  • 本事案の半年前にも、痴漢行為で罰金刑に処せられ、昇給停止・降職の処分を受けていながら、再び痴漢行為に及んだ

2.諭旨解雇(無効)

鉄道会社の職員が、電車内で痴漢行為をしたとして諭旨解雇された事案(東京地裁平成27年12月25日判決)では、次の点などから「諭旨解雇は重すぎる(無効)」と判断されました。この裁判例の事案では、自社の電車内で痴漢行為を行った事案であることから、結論に批判もありますが、諭旨解雇が無効になる場合があるという点について参考となります。

  • 職員の勤務態度に問題はなく、過去に懲戒処分を受けたこともなかった
  • 事件の報道や社外からの苦情等の事実が認められず、会社の社会的評価に大きな影響を与えたとはいえない

2)飲酒運転

1.懲戒解雇(有効)

貨物自動車運送業のセールスドライバーが、業務終了後に飲酒運転をして懲戒解雇された事案(東京地裁平成19年8月27日判決)では、次の点などから「懲戒解雇は妥当である(有効)」と判断されました。

  • 会社は大手の貨物自動車運送業者であり、飲酒運転が社会的評価に及ぼす影響は大きい
  • 会社の業種に照らすと、率先して交通事故防止に努力するという企業姿勢を示すために、飲酒運転に懲戒解雇という重い処分を課すことには妥当性がある

2.懲戒免職(無効)

市の職員が、休日に飲酒運転をして懲戒免職された事案(大阪高裁平成21年4月24日判決)では、次の点などから「懲戒免職は重すぎる(無効)」と判断されました。

  • 検知されたアルコールの量が道路交通法違反となる水準としては最下限で、運転時間も走行距離もごく短く、事故なども起こしていないため悪質性が高いとはいえない
  • 100名を超える市民から嘆願書が提出されており、公務員への信頼という観点からして地域社会に与えた悪影響も多大とまではいえない
  • 職員の勤務態度に問題はなく、過去に懲戒処分を受けたこともなかった
  • 飲酒運転の事実を、翌日すぐに職場に報告しているなど、反省が見られる

以上(2023年12月更新)
(監修 三浦法律事務所 弁護士 磯田翔)

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