【上手な話の聞き方】人間関係と聞く力

1 人との距離を近づける「聞く力」

「人間の悩みは、すべて対人関係の悩みである」といわれるほど、私たちは周囲とよい関係を築きたいと望んでいます。周囲からの評価を気にして身だしなみを整えたり、伝え方を工夫した経験はきっと誰にでもあるでしょう。

それでも人の人とすれ違いはなくなりません。人間関係にはよく「話し方」「伝え方」が大事だといわれますが、自分の考えを相手に知ってもらうだけでは、相手に「私の立場を理解し、尊重してほしい」と言っているようなものです。ボタンの掛け違いをなくすには、自分が相手の話を聞いて、相手の感情、考えを受け止める努力も必要になります。

「話す」が自分の気持ちや意見を描写して伝える行為だとすると、「聞く」は反対に自分が相手を受け止め、共感し、新しい気づきを得る行為です。つまり、相手に興味を持ち、自分から近づくことといえます。

聞く力がなければ相手の気持ちのほとんどを取りこぼしてしまいますが、意識しているうちに段々とうまくなっていきます。聞く力を伸ばすことで、良い人間関係をつくりやすくなるでしょう。

2 それでも「聞く」のはつらい?

人類学者のロビン・ダンバーによると、人間にとっての会話(雑談やおしゃべり)は、霊長類が行うグルーミングに当たるといいます。

グルーミングとは、お互いをなでて身づくろいすることです。グルーミングによって、霊長類はお互いを知って好感を育み、エサを分け合ったり、敵から守り合ったりする関係性をつくっています。一方で、人間はグルーミングの代わりに雑談やおしゃべりをして、相手との距離を縮めています。「雑談には意味がない」という意見を聞くことがありますが、雑談自体が目的なのです。

グルーミング

しかし、雑談があまり好きではないという人は少なくありません。人を笑わせる「鉄板ネタ」を持っていれば、最初は楽しく過ごせますが、自分の話はいつか尽きるので、途中からは相手の話を聞くことになります。相手によっては、自分に興味がない話や悩みごとばかり話してくるかもしれません。お互いが何に興味があるかを知り、心地よいと感じる関係性を築けなければ、「この人の話を聞いてもつまらない」「話すと疲れる」と感じ、次第に疎遠になってしまうのです。

3 「聞く力」で自分も相手も楽にする

他人と無理して付き合う必要はありませんが、人には嫌な面も良い面もあります。会話はお互いにつくりあげていくものなので、聞き方しだいで相手の話し方、内容も変化します。自分で相手の良い面、おもしろい面を引き出せると、人の話を聞くのが楽しくなるのです。

イギリスの哲学者であるポール・グライスによると、人と人とが会話をするときに、話し手と聞き手がお互いに守ることを期待している4つのルールがあるそうです。

  • 質 真実と思うことを伝え、受け取る。真実でないと分かっていることや確信していないことを正しいと誤解させない、しないようにする。
  • 量 必要な情報を過小でも過剰でもない量だけ交換する。新しい情報は聞き手が圧倒されない程度の量だけにする。
  • 関係 会話の内容に関係がある情報を伝達する。
  • 様式 曖昧で不明瞭な表現は好まず、適度に簡潔で順序立った話を望む。

つまり、聞き手は話し手が会話の目的や話の流れを無視した発言をすると会話に集中しにくくなり、話し手は聞き手が自分の発言を曲解したり、必要な情報を聞き漏らしていると感じたりするとイライラしやすいのです。

聞く力を伸ばしたいなら、話し手が自分の望む話し方をしてくれないときでも、意識して聞き続ける努力が必要です。また、話し手は自分の話が誤解されていると感じると、正しく伝えようと同じ話を何度も繰り返したり、途中で理解してもらうことを諦めたりすることがあります。よい会話ができなかったからといって、自分を責める必要はありませんが、自分の話し方や聞き方が相手にネガティブな影響を与えていないか、自問自答してみるとよいでしょう。

【参考文献】

  • 「LISTEN――知性豊かで創造力がある人になれる」(ケイト・マーフィ (著)、篠田真貴子(監訳)、松丸さとみ(訳)、日経BP、2021年8月)
  • 「やっぱり、それでいい。: 人の話を聞くストレスが自分の癒しに変わる方法」(細川貂々 (著)水島広子(著)、創元社、2018年11月)
  • 「元コミュ障アナウンサーが考案した 会話がしんどい人のための話し方・聞き方の教科書」(吉田尚記(著)、アスコム、2020年8月)
  • 「観察力の鍛え方 一流のクリエイターは世界をどう見ているのか」(佐渡島庸平(著)、SB新書、2021年9月)
  • 「聞く力―心をひらく35のヒント」(阿川佐和子(著)、文春新書、2012年1月)

以上(2023年8月)

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「白ナンバー車の飲酒チェック」 もう待ったなし!アルコール検知器の使用義務化がスタート

書いてあること

  • 主な読者:業務で白ナンバー車を使用している会社の経営者、安全運転管理者
  • 課題:飲酒チェック時のアルコール検知器の使用義務化に対応したい
  • 解決策:アルコール検知器の運用に注意。検知器を入手していない場合、早急に購入する

1 2023年12月からアルコール検知器の使用義務化がスタート

2021年6月、千葉県八街(やちまた)市で下校中の小学生の列に飲酒運転の自家用トラックが突っ込み、5人が死傷する痛ましい交通事故が発生しました。この事故を受けて道路交通法が改正され、2022年4月から、業務で一定の台数以上の白ナンバー車を使用する事業者に対して、ドライバーへの運転前後の酒気帯び確認(飲酒チェック)が義務付けられました。そして、

2023年12月から、飲酒チェック時のアルコール検知器の使用義務化がスタート

します。

この影響を受けるのは、安全運転管理者の選任義務がある事業所(自動車5台以上、または定員11人以上の車両1台以上を使用している事業所。自動二輪車は0.5台として計算)です。その数は全国約35万事業所、管理下にある運転者数は約808万人に上ります(2022年3月末時点)。

既にアルコール検知器の使用が義務化されている事業用自動車(緑ナンバー車)を使用する運送事業者だけに限ったことではなく、

一般の事業会社でも、業務で一定の台数以上の白ナンバー車を使用する場合、アルコール検知器を整備し、実際に運用しなければならない

ことになります。

2 安全運転管理者の業務としてアルコール検知器が必要

安全運転管理者の業務は、従来の7つの業務に加え、2022年4月1日から、白ナンバー車の運転者に対する「運転前後の酒気帯び確認」「酒気帯び確認の記録の保存(1年)」が義務付けられました。

そして、2023年12月1日からは、白ナンバー車の運転者に対する「アルコール検知器を用いた運転前後の酒気帯び確認」が義務付けられます(図表の網掛け部分参照)。

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新たに加わる業務(図表の網掛け部分)について、もう少し詳しく見ていきましょう。

改正後は「運転しようとする運転者及び運転を終了した運転者に対し、酒気帯びの有無について、当該運転者の状態を目視等で確認するほか、アルコール検知器(呼気に含まれるアルコールを検知する機器であって、国家公安委員会が定めるものをいう)を用いて確認を行うこと」とされています。

ポイントは、

安全運転管理者が、運転者に対して、酒気帯び確認を運転前後の2回、目視等で行うことに加え、アルコール検知器を使わなければならない

ということです。

警察庁によると、酒気帯び確認は対面での目視で行うのが原則です。ただし、運転者が直行直帰する場合など対面での確認が困難なときは、運転者に携帯型アルコール検知器を携行させた上で、次のような方法も認められます。

  • カメラ、モニター等によって、安全運転管理者が運転者の顔色、応答の声の調子等とともに、アルコール検知器による測定結果を確認する
  • 携帯電話、業務無線その他の運転者と直接対話できる方法によって、安全運転管理者が運転者の応答の声の調子等を確認するとともに、アルコール検知器による測定結果を報告させる

この他、改正府令の解釈・運用については「道路交通法施行規則の一部を改正する内閣府令の施行に伴うアルコール検知器を用いた酒気帯びの有無の確認等について(通達)」(令和5年8月15日警察庁丁交企発第201号、丁交指発第93号)に示されています。

■警察庁「警察庁の施策を示す通達(交通局) 交通企画課」■

https://www.npa.go.jp/laws/notification/koutuu.html#kouki

3 アルコール検知器の性能要件

アルコール検知器として国家公安委員会が定めるものは、「呼気中のアルコールを検知し、その有無又はその濃度を警告音、警告灯、数値等により示す機能を有する機器」とされています。

呼気検査でアルコールが検出されたときに、何らかを表示する機能があればよいわけですが、

酒気帯び確認の記録を1年間保存しなければならないことを踏まえると、検査結果を記録する機能を持つアルコール検知器を選ぶほうが運用上の手間を減らせる

といえるでしょう。

アルコール検知器の有効性は、安全運転管理者が自ら確認することになります。「アルコール検知器」や「アルコールチェッカー」といったキーワードで検索すると、500円台のものから30万円超のものまでさまざまな製品があります。

検知器メーカー等で構成する業界団体のアルコール検知器協議会では、「アルコール検知器機器認定制度」を設け、検定に合格した製品を認定し、認定機器の使用を推奨しています(2023年9月1日時点で認定機器として合格しているのは22団体、55機種)。

なお、国民生活センターが2014年8月~2015年1月に実施したテストによると、アルコール検知器のセンサーには寿命があり、見かけ上の動作に問題がなくても、感度が変わっていたり、アルコールを検知しなくなっていたりする場合があるため注意が必要です。

また、飲酒していなくてもアルコール検知器が反応することもあります。アルコール検知器協議会では、「飲食物や体調により反応する場合がある他、薬の服用、喫煙、洗口剤使用や歯磨き後等でも反応する場合があります。また、ノンアルコールビール等、アルコール成分を含まないと思われがちな食品類にも微量のアルコールを含んでいる場合がありますのでご注意ください。アルコール検知器の使用環境や保管環境が機器に影響を及ぼす場合がありますので、メーカーが定めた環境での使用や保管をお願いします」と、ウェブサイトで呼び掛けています。

4 参考ウェブサイト

1)アルコール検知器メーカーを調べたい

検知器メーカー等で構成する業界団体「アルコール検知器協議会」のウェブサイトです。会員各社の紹介の他、同協議会が検定に合格した製品を認定する「アルコール検知器機器認定制度」などについて掲載されています(認定機器の多くは検査結果を記録する機能があるものです)。

■アルコール検知器協議会■

https://j-bac.org/

2)飲酒運転ゼロに向けて情報を収集したい

飲酒運転根絶に向けた警察庁のウェブサイトです。飲酒運転による交通事故の発生状況などが紹介されています。

■警察庁「みんなで守る『飲酒運転を絶対にしない、させない』」■

https://www.npa.go.jp/bureau/traffic/insyu/info.html

アルコール検知器協議会の会員企業、東海電子が管理運営するオウンドメディアです。運輸安全、運行管理、点呼などに関する記事や、各種セミナー情報が掲載されています。

■東海電子「運輸安全Journal」■

https://transport-safety.jp/

アルコール・薬物・その他の依存問題を予防し、回復を応援するNPO法人「ASK(アスク)」の情報発信サイトです。飲酒運転防止のために欠かせない知識などが紹介されています。

■ASK「飲酒運転防止」■

https://www.ask.or.jp/article/8683

以上(2023年12月更新)

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【朝礼】大リーグのルール変更、2つの賛成理由

けさは、私が好きな野球の大リーグ(メジャーリーグ)の話をします。ご存じの方も多いでしょうが、大リーグでは、2023年シーズンから「ピッチクロック」というルールが導入されました。簡単に言うと、一定の動作を行うための時間に制限を設けるというものです。例えば、投手は、ボールを受け取った後、ランナーがいない場合は15秒以内、いる場合は20秒以内に投球動作を始めることとされ、ランナーへの牽制球は実質2回までに制限されました。一方、打者は、投手が投球動作を始めるまでの制限時間の残り8秒の時点までに、投手に注意を向けなければなりません。

このルール変更により、投球間隔の長い投手などは、今までの自分のペースではプレーできなくなり、少なからぬ影響を受けました。実際に、“二刀流”の大谷翔平選手は、投手としても打者としてもペナルティーを科された最初の選手になってしまいました。

もちろん、こうした影響はルール変更前から予想できていましたので、当初、選手会はこのルール変更に反対したのですが、運営側の強い意向によってルール変更が決まったのです。私も最初は、選手のプレーに悪い影響が出るのを懸念して、ルール変更には否定的な考えを持っていました。

ですが、今ではむしろルールを変更してよかったと思っています。理由は2つあるのですが、いずれも、仕事をする上で自分たちへの戒めにしなければいけないことと重なるように思います。

1つ目の理由は、大リーグ全体の将来のためです。そもそも、ルール変更の目的は、試合時間の長さによるファン離れを防ぐことでした。野球は他の多くのスポーツと違って時間制限がなく、一試合の平均時間が相対的に長いことから、若い世代を中心に飽きられやすいと以前から指摘されていました。実際にピッチクロックの導入によって試合時間の「時短」に効果が出ているようです。私も、会社の将来のために必要な変更であれば、自分の都合は二の次に考えて、むしろ変更を後押しするぐらいになりたいと思いました。

2つ目の理由は、たとえ自分に不利な変更であったとしても、変更されたルールの下で結果を出すことこそ、プロとしてあるべき姿だと思うからです。突然の条件や仕様の変更は、仕事の上でもよくあることです。こうした変更への対応力も、プロとしての大事な能力なのだと思いました。特に、ルール変更にしっかりと対応して活躍している大谷選手は、良いお手本になると思います。

そもそも世の中に、自分のペースでできる仕事というものは、ほとんどありません。仕事というものは、常にお客さまや取引先、同僚など、さまざまな人がいて成り立っているものですから、自分の都合だけ考えていては、とても回りません。

自分の仕事に関係する人の都合を考える。そして、変更があってもそれに負けず、プロとして結果を出す。どちらもこなせるビジネスパーソンを目指して頑張りたいと思います。

以上(2023年8月)

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地球温暖化で深刻化する水害リスクへの対応~水害リスクのアセスメントと具体的対応策~

1 水害リスクの増加について

水害とは、洪水、高潮など水による災害の総称であり、水災とも言います。毎年、梅雨の季節や台風シーズンには全国で多くの被害が出ていますが、近年は積乱雲が列をなし、線状に伸びた地域に大雨を降らせる線状降水帯による被害も増加しており、今後も地球温暖化の影響を受けて、水害を伴う自然災害が多発することが想定されています。そのような中、国も気候変動適応型の水災害対策への転換が必要との認識を持ち、施設能力を超過する洪水が発生することを前提に、社会全体で洪水に備える水防災意識社会の再構築を進め、気候変動の影響や社会状況の変化などを踏まえ、あらゆる関係者が協働して流域全体で行う、流域治水への転換を推進し、防災・減災が主流となる社会を目指しています。また、災害等に対する最後の砦である保険についても、火災保険が自然災害の増加により高騰している現状があり、益々企業の水災対策が重要性を増してきています。水害の発生はある程度予測が可能であることから、今後は台風や大雨による対策が不十分で損害を拡大し、ステークホルダーにマイナス影響を与えた場合には、経営者が責任を問われるケースも考えられるため注意が必要です。

国土交通書「水害レポート」

https://www.mlit.go.jp/river/pamphlet_jirei/suigai_report/index.html

2 水害の特徴と種類について

日本列島は、山地の多い地形に加え、台風・豪雨が発生しやすいアジア・モンスーン地域に位置し、風水災による被害を受けやすく、近年は宅地開発等によって山林の保水力が低下し、土砂崩れ等も発生しやすい状態になっています。さらに都市化の進展によって、人口や資産が洪水・集中豪雨の被害を受けやすい地域に集中しており、多くの企業・個人が大きな損失を被る可能性があります。尚、水害は大きく高潮・洪水・土砂災害の3つに分類されますが、高潮は台風や発達した低気圧が海岸部を通過する際に生じる海面の高まりを言い、特に太平洋沿岸が被害を受けやすいと言われています。また、洪水には内水氾濫と外水氾濫がありますが、外水氾濫とは、河川の水量の急激な増加によって堤防が決壊・破損し、水が提内地に流出する事で発生します。中小河川は流域面積が小さく、治水整備が遅れているため、被害に繋がりやすいと言われています。一方、内水氾濫とは、大雨時の増水により大河川の水位が高くなり、都市部の中小河川から本川に雨水を流す事が出来ず、市街地の水が排水出来ないため地表に水が溢れ出る事を言います。最後の土砂災害とは、地すべり・崖崩れ・土石流による災害であり、土砂の移動が強大なエネルギーを持ち、突発的に発生するため、家屋等に壊滅的な被害を与えるほか、人的被害をもたらす可能性があります。このように同じ水害であっても様々な形態があり、どの水害を想定するかによって対策も変わってきます。

1時間降水量50mm以上の年間発生回数

1時間に50ミリの雨ってどんな雨?

出典:国土交通省「水害レポート2022」、気象庁 リーフレット「雨と風(雨と風の階級表)」

3 水害のリスクアセスメント

水害の起こりやすさの場所的な特徴としては、九州・沖縄等は台風襲来の可能性が高く、同じ地域でも物件の所在する場所・地形によってリスク状況が大きく異なります。沿岸地域は高潮、河川の流れが屈曲する場所や支流の合流地点は外水氾濫、都市部の低地では集中豪雨による内水氾濫、山地の凹地や傾斜地では土砂災害が起きやすいと言われています。また、海の最高潮位や河川の氾濫推移よりも地盤髙・床高の低い建物は水災による被害を受けやすいので注意が必要です。損失の大きさについては、建物等の資産や水に弱い商品・製品の有無、事業中断が発生した場合の影響などを考慮する必要がありますが、水害の特徴として、被害を受けた場合は復旧に時間が掛かる可能性があり、電気・ガス・水道・交通網等のライフラインが寸断されると直接被害を受けていない企業も大きな影響を受ける可能性があるため注意が必要です。近年においては、国が準備したハザードマップや水害リスクマップがあるため、それらを参考にしながら自社のリスクについて正しく認識した上で対策を検討することが求められます。

ハザードマップの例(東京都江東区)

出典:「ハザードマップポータルサイト」を加工して作成

https://disaportal.gsi.go.jp/

4 水害リスクのコントロール対策について

水害対策については、国や地域で河川の改修やダムの事前放流による治水対策や洪水情報のプッシュ型配信等による防災・減災の取り組みが数多く行われておりますが、それだけでは十分ではないため、自社を守るために自社のリスクに応じた対策を検討することが求められます。基本的には一企業が水害の発生を防ぐことは困難であることから、被害を受けないためには、事業所を危険な地域から移転したり、被害に遭う財物等をなくす回避対策を行う事が求められます。また、被害を小さくするための対策としては、設備等の分散や建物や設備の高所への設置、排水設備の充実や土嚢・砂袋・防水版の準備や設置等が考えられます。また、実際に水害が発生した場合に備えて、事業継続力強化計画(ジギョケイ)やBCPを策定し、リスクを最小限に抑える取組が求められます。水害リスクは、ハザードマップや水害リスクマップ、台風情報や気象情報によりある程度は事前に予測が可能であるため、自然災害が状態化する中、対策をしていないこと自体が企業としての姿勢を問われ、信頼を失う事に繋がるため注意が必要です。

5 水害リスクのファイナンス対策について

水害は企業に致命的なダメージを与える可能性が高いため、基本的には保険を活用するケースが多いですが、その保険料が自然災害の増加によって高騰しています。具体的には、損害保険料率算出機構は住宅向け火災保険料の目安となる「参考純率」を全国平均で13%引き上げ、損保各社は24年度から保険料に反映させる予定であり、参考純率は2000年に比べ5割程度上がる計算になります。また、料率改定のほか、全国一律の水災保険の保険料も24年度以降は水災が起きる危険度に応じて市区町村別に5段階に分ける予定であり、高リスク地域の保険料の急上昇を抑えるため、緩和策を導入しても料率差は1.50倍に拡大する予定です。そのため、今後はリスクコントロール対策を強化したり、財務力を付けることよって免責金額を設定し、保険の効率化を図ることが求められるでしょう。また、水害時の事業中断が想定される場合には、営業継続費用保険や利益保険等も必要となりますし、危険な状況下で従業員が被災した場合、安全配慮義務違反を問われて、高額な賠償責任が発生する可能性もありますので、注意が必要です。

以上(2023年8月)

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提供:ARICEホールディングスグループ( HP:https://www.ariceservice.co.jp/
ARICEホールディングス株式会社(グループ会社の管理・マーケティング・戦略立案等)
株式会社A.I.P(損保13社、生保15社、少額短期3社を扱う全国展開型乗合代理店)
株式会社日本リスク総研(リスクマネジメントコンサルティング、教育・研修等)
トラスト社会保険労務士法人(社会保険労務士業、人事労務リスクマネジメント等)
株式会社アリスヘルプライン(内部通報制度構築支援・ガバナンス態勢の構築支援等)

歩行者等との安全な間隔(2023/8号)【交通安全ニュース】

活用する機会の例

  • 月次や週次などの定例ミーティング時の事故防止勉強会
  • 毎日の朝礼や点呼の際の安全運転意識向上のためのスピーチ
  • マイカー通勤者、新入社員、事故発生者への安全運転指導 など

夏休みシーズンになると、子供の行動範囲が広がるとともに帰省や旅行などで人の往来が増えるため、道路の状況が普段と異なります。これに伴い懸念されるのが歩行者等との交通事故の増加です。

歩行者等との交通事故を防ぐには、ドライバーは歩行者等の動きに十分注意を払い、歩行者等の側方を通過するときは、安全な間隔をとることが大切です。

歩行者等との安全な間隔

1.歩行者の交通死亡事故

◆交通事故死者数は歩行中が最も多い

令和4年の交通事故の状態別死者数の割合をみると、歩行中の死者数が自動車乗車中の死者数を上回り、一番多くなっています。歩行中と自転車乗用中を合わせた割合は約50%となっています。

状態別死者数

状態別死者数

◆歩行者の死亡事故は横断歩道以外でも多い

歩行者について、事故類型別死亡事故件数の割合をみると、道路の横断中が合算して約68%と多い状況ですが、発生場所では、横断歩道以外の場所が約74%を占めており、様々なところで死亡事故が発生しています。

歩行者の事故類型別死亡事故件数

歩行者の事故類型別死亡事故件数

◆事故発生要因はドライバーの不注意が多い

歩行者との交通死亡事故において、ドライバー側に多い法令違反は、「安全不確認」、「漫然運転」、「脇見運転」の3つです。いずれも運転に集中できていないことが原因といえます。

原付以上運転者の法令違反別死亡事故件数(第二当事者:歩行者)

原付以上運転者の法令違反別死亡事故件数

出典:一般社団法人日本自動車連盟(JAF)「ロードサービス救援データ」から当社作成

歩行者の急な道路横断や飛び出しなどによる交通死亡事故を防ぐため、ドライバーは常に運転に集中し、歩行者の動きに十分注意を払い、歩行者の保護に努めなければなりません。

2.歩行者との安全な間隔

歩行者は交通事故に遭うと被害が甚大になりやすく、死亡事故につながるおそれもあります。

このため、自動車側の責任は大きく、歩行者保護の観点が求められており、ドライバーは常に運転に集中し、歩行者の存在やその動きに十分注意を払うことが大切です。

道路交通法は、第38条および第38条の2で横断歩道等における一時停止や横断歩道のない交差点における歩行者優先を定めています。また第18条で歩行者の側方を通過するときの安全な間隔の確保または徐行を定めています。

道路外からの歩行者の急な道路横断や飛び出しなどに備えることはもちろんのこと、視界にいる歩行者に注意を払うことも大切です。歩行者の中には自動車の接近に気が付かない人が多くいることを忘れてはなりません。

歩行者の急な道路横断など不測の危険に対処するには、歩行者の側方を通過するときに安全な間隔が必要です。特に子供、高齢者、前を歩く歩行者、 「歩きスマホ」の歩行者に対しては、自動車の接近に気が付いていない可能性が高いため、間隔を長めにとる必要があります。

歩行者等との安全な間隔

安全な間隔については、歩行者がこちらに気が付いているときは1m以上、気が付いていないときは1.5m以上と言われています。これを参考として歩行者の予期せぬ行動にも対応できるような安全な間隔を意識して運転しましょう。

3.自転車等との安全な間隔

道路交通法で定めはありませんが、 歩行者と同様に自転車に対してもその動きに注意を払い、安全な間隔をとって運転することが大切です。

近年、シニアカー(電動カート)を公道で見かけるようになり、また7月の法改正により電動キックボードの利用が広まっています。タンデム自転車(二人乗り自転車)も東京都で解禁され、全国の公道で走行が可能になりました。道路の様相が少しずつ変化しています。

これに伴い、交通リスクも多様化しています。自転車等が急に進路を変えるなど不測の危険に対応するには安全な間隔をとる必要があります。

電動キックボード

シニアカー

歩行者や自転車等との安全な間隔を意識することは、相手への思いやりでもあります。

以上(2023年8月)

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【朝礼】プレゼンやスピーチで必要な「語彙力」と「表現力」を鍛える方法

皆さんはプレゼンやスピーチをする際、言葉に詰まってしまった、あるいは一生懸命話しているのに、言いたいことがうまく相手に伝わらなかった経験はありませんか? それは「語彙力」と「表現力」が足りていないからかもしれません

語彙力は、知っている言葉の数とそれらを適切に使う力。表現力は、言いたいことを効果的に相手に伝える力です。どちらもビジネスには不可欠ですが、仮に今の段階でこれらの能力が足りていなくても落ち込む必要はありません。どちらもちょっとしたトレーニングで鍛えられるからです

ここで、1つの実験をしてみましょう。今から30秒以内に、「花」の名前を10個思い浮かべてみてください。口に出すと隣の人に聞こえてしまうので、頭の中に思い浮かべるだけで結構です。では、スタート! ……ハイ! 30秒たちました。花の名前は10個浮かんだでしょうか?

実はこの実験、私が最近読んだ広告代理店のスピーチライターの書籍(*)で紹介されていた、語彙力を鍛えるトレーニングなのです。花の名前のように、冷静に考えれば必ず10個出てくるような言葉でも、短い時間の中で思い浮かべろと言われるとなかなか難しいもの。だからこそ、言葉を瞬時に脳から引き出せるトレーニングをして、知っている言葉を適切なタイミングで使う語彙力を身に付けるのです。このトレーニングを継続すれば、プレゼンやスピーチの際に言葉に詰まることもなくなっていくでしょう。

では、もう1つ、今度は表現力のトレーニングを紹介します。それは「形容詞を使わないで話す」というものです。例えば、面白い映画を見たときなどは、「面白かった」「すごかった」といった表現を多用しがちですが、これを我慢し、「ベテランの役者が年齢を感じさせない機敏なアクションをしていた」など面白いと思った理由を掘り下げたり、「髪の毛が逆立つかと思った」などすごさを自分の身体感覚で表したりしてみるのです

ビジネスの場でも、例えば、「この新製品は、旧製品に比べて、とても使いやすいです」と言っても、どこが使いやすくなったのか伝わりません。ですが、「旧製品に比べて重量を10%軽くし、片手でも開閉できる機能を付けましたので、お子さま連れのお客さまにも扱いやすくなりました」と表現すれば、新製品の使いやすさがしっかりと伝わります。

私も昔はプレゼンやスピーチが苦手でしたが、語彙力と表現力を高めることを意識してトレーニングを継続するうちに、人前で話をするのが好きになっていきました。今日紹介したトレーニングは楽しみながらできるものですから、ぜひ継続的に取り組んで「プレゼンやスピーチのマスター」を目指してください!

【参考文献】(*)「博報堂スピーチライターが教える5日間で言葉が『思いつかない』『まとまらない』『伝わらない』がなくなる本」(ひきたよしあき、大和出版、2019年4月)

以上(2023年8月)

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「共感型採用」で、中小企業に人が集まり競争力も上がる

書いてあること

  • 主な読者:採用に悩むすべての経営者。共感型採用に興味のある中小企業の経営者、人事担当者、採用担当者
  • 課題:限られた採用予算で優秀な人材を確保したいがうまくいっていない。待遇や給与面で比較されない、独自の魅力で勝負できる採用ブランディングを実現したい。自分たちの魅力、やっていることを理解し、賛同してくれる人を採用したい
  • 解決策:なぜ中小企業ほど共感型採用が大切なのかを知る。共感型採用の具体的なやり方を知り、自社に活かす方法を考える。自社に隠された魅力を社員インタビューで掘り起こし、言語化する

1 共感型採用とは

共感型採用。聞き慣れない方も多いかもしれません。共感型採用とは、

待遇や給与面に焦点を当てるのではなく、企業のビジョンや理念への共感を通じて応募者を採用する手法

です。

ここ最近「求人広告に掲載しても、以前のように人が採用できなくなってきた」というお悩みを、企業様からよくお聞きするようになりました。

人材獲得競争が激化し、従来の方法では人材を採用できなくなる時代。長く活躍してくれる人材の採用に大変有効なのが、自社の事業やビジョン、思いへの共感を通じて採用を行う「共感型採用」なのです。

2 中小企業における共感型採用の重要性

中小企業は、大手企業に比べて採用予算を確保しにくく、待遇や福利厚生面でも大手企業を上回ることがなかなか難しい状況にあります。

「では、中小企業は、優秀な人材を確保できないのか」と言うと、決してそうではありません。

中小企業には、独自の技術、ユニークなサービス、経営者や社員の熱い思い、柔軟な働き方といった、その会社ならではの素晴らしい魅力がたくさんあります。そうした魅力を、自信を持って応募者に伝えることで、待遇や福利厚生面などの土俵ではなく、独自の価値で勝負できるようにする。そうすれば、自社本来の魅力や価値を理解した上で入社し、長く活躍してくれる人を採用しやすい状態を作ることができます。

待遇や福利厚生面といった「他社とも比較しやすい土俵」ではなく独自の価値で勝負。これはある意味、自分たちだけの採用スタイル、採用戦略ともいえるでしょう。

結果、中小企業でも、人材紹介や求人広告に頼り過ぎることなく、採用コストを抑え、費用対効果の高い採用手法を確立できるようになるということです。

3 共感型採用を実現するための具体策

では、具体的に「共感型採用」をどのように実現していくか、いくつかポイントを見ていきましょう。

1)自社の採用ページの文面の見直し

もし、自社の採用ページが既にあり、ある程度のアクセスがあるのならば、まずはその文章を見直してみることをオススメします。特に意識したいのは、以下の3点です。

  • どのような事業をしているのか、強みは何かを、その業界ではない人にも分かりやすく伝えること
  • なぜ今の事業をやっているのか、創業の思いやめざす未来を伝えること
  • 実際に働くイメージが湧くように、社風や企業文化を伝えること

このあたりに重点を置いて、現在の採用ページの文章ではそれらが正しく伝わっているのかを見直し、文章を構成してみましょう。

2)採用媒体(プラットフォーム)の活用

共感型採用の実現と相性が良いのが、例えば「Wantedly(ウォンテッドリー)」などの採用媒体の活用です。

Wantedlyには、待遇や給与面は一切書かず、事業内容や思いを発信することで応募者を獲得できるという特徴があります。ユーザーは300万人、やりがいや自己実現に重きを置く、中小企業やベンチャー企業と相性の良い応募者が多い媒体でもあります。

もし、自社の採用ページが今は無かったり、そこまでアクセスが多くなかったりするようであれば、Wantedlyのように、すでにユーザーが多くいる採用プラットフォームを使うことをおすすめします。

当社(筆者の会社)のお客様もこのWantedlyを活用し、スタートアップ企業ながら、募集記事掲載から4カ月で、ベンチャーマインドの高い営業パーソン2名の採用に成功されました。

3)求人広告の内容の見直し

「現在求人広告を出しているのに、うまく採用できない」という場合は、求人広告の冒頭に書く文章の見直しをするのも一つの方法です。

  • どのような事業をしていて(事業内容)
  • なぜその事業をやっていて(ミッション)
  • どのような未来を作りたいか(ビジョン)

を意識し、待遇よりも思いや価値に共感してもらえる文章を整えてみましょう。

4 自社の魅力の発掘は社員インタビューで

「そうは言っても、自社の魅力がなかなか分からない。言語化しにくい」という企業様も多くおられます。

そんな時にはぜひ、社員インタビューの実施をおすすめします。

社員インタビューは、文章にすることで採用ページやホームページに掲載する記事の素材にもなりますので、採用や広報担当者の方に余裕があれば、ぜひ実施してみてください。現場で働く社員の生の声を聞くことで

  • 応募者は自社のどこに魅力を感じて入社するのか
  • 長く活躍している社員にとって、自社のどこが魅力なのか

といった、自社独自の魅力を新たな視点から発掘することができます。インタビューでは、現場で働くからこそ分かる、具体的な仕事内容や職場の雰囲気、企業文化などを聞き出し、応募者の共感を集める採用ブランディングを実現していきましょう。

5 まとめ

人材採用難のこの時代。待遇に焦点を当てるのではなく「共感型採用」を導入することは、

限られた採用予算を効果的に活用し、自社に適した優秀な人材を確保し、企業競争力を向上させるために最も適した採用手法

です。自社独自の魅力を明確にし、他社の成功事例を参考にしながら、ぜひ、共感型採用を実践されてみてはいかがでしょうか。

以上(2023年8月)

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バス、タクシー、トラック業界のDX!業務後自動点呼がスタート

書いてあること

  • 主な読者:バス、タクシー、トラック事業者の運行管理者
  • 課題:目視・対面で点呼をしなくても良くなったらしいが詳しく知りたい
  • 解決策:法令など最新情報を確認し、自社の実情に合った対応を進める

1 「点呼」は目視・対面でなくてもOKに

日本の旅客や物流を支えるバス、タクシー、トラックの運行管理者の皆さん。ドライバーに対して実施しなければならない日々の「点呼」のスタイルが大きく変わりつつあります。

従来は、顔を見て、声を聞き、挙動やにおいも分かる「対面点呼」が当然でした。しかし、いわゆる「新・点呼告示」(2023年3月31日・国土交通省告示第266号。対面による点呼と同等の効果を有するものとして国土交通大臣が定める方法を定める告示)によって、

所定の要件を満たす機器を使った「業務後自動点呼」や「遠隔点呼」も認められる

ようになったのです。

「2024年問題」が迫る自動車運送業界。運行管理者の業務の1つとして重要な「点呼」ですが、その業務負担は、こうした機器の導入で軽減できる可能性があります。ひいては、業界全体のDXにつながることが期待されます。

この記事では、運行管理者が点呼に立ち会わなくてもよい「業務後自動点呼」に特に注目し、自動点呼に対応するための要件などについて分かりやすく解説します。

2 業務後自動点呼を始めるには

1)対象事業者はバス、タクシー、トラック事業者

業務後自動点呼や遠隔点呼が認められるのは、バス、タクシー、トラックの3業種いずれかの事業者に限られます。

自家用の営業車などを使っている「白ナンバー事業者」にも、ドライバーに対して運転前後の飲酒チェックが義務付けられています(アルコール検知器の使用義務化は2023年12月1日から施行予定)が、「新・点呼告示」では対象外です。

2)業務後自動点呼を行うためには

業務後自動点呼は、運行管理者等の立ち会いなしで、

点呼で実施する確認、指示、判断、記録の一部または全てを、国が定める機器認定要件を備える自動点呼機器に代替させる

ものです。

業務後自動点呼は、営業所または営業所の車庫で、その営業所に所属するドライバーに対して行うことが認められています。業務後自動点呼を行おうとする営業所を管轄する運輸支局に、実施予定日の10日前までに届け出をすることが必要です。

なお、国土交通省「運行管理高度化検討会」のウェブサイトで、運送事業者向けチェックリストや、認定を受けた自動点呼機器が紹介されています。詳細は次のウェブサイトをご確認ください。

■国土交通省「運行管理高度化検討会」■
https://www.mlit.go.jp/jidosha/jidosha_tk2_000082.html

ここでは、業務後自動点呼を行うために満たさなければならない、「自動点呼機器の機能の要件」「自動点呼機器を設置する施設・環境の要件」「自動点呼機器の運用上の遵守事項」について解説します。

1.自動点呼機器の機能の要件

自動点呼機器の機能の要件は、新・点呼告示第9条第1号~第14号にわたって定められています。具体的には次のような機能を備えた機器を導入する必要があります。

  • 業務後自動点呼に必要な事項の確認、判断および記録を実施できる機能
  • 運行管理者等が、ドライバーごとの点呼の実施予定、点呼に責任を持つ運行管理者の氏名を入力し、点呼の実施状況および実施結果を確認できる機能
  • 個人を確実に識別できる生体認証(顔認証、静脈認証、虹彩認証など。以下同じ)でドライバー本人と識別された場合に、点呼を開始する機能
  • 生体認証でドライバー本人と識別された場合に、アルコール検知器が作動する機能
  • アルコール検知器による測定結果(ドライバーの呼気中のアルコールの有無または濃度)や、測定時の静止画または動画を自動的に記録・保存する機能
  • ドライバーの呼気中にアルコールが検知された場合に、運行管理者に警報または通知を発し、業務後自動点呼を完了できなくする機能
  • ドライバーが従事した運行業務に係る自動車、道路、運行状況、交代するドライバーに対する通告について、ドライバーが口頭で報告した内容をデータとして記録し、運行管理者が確認できる機能
  • 運行管理者がドライバーに伝える指示事項を、ドライバーごとに画面表示または音声により伝達できる機能
  • 業務後自動点呼に必要な事項の確認、判断および記録がなされない場合や、機器が故障した場合に、業務後自動点呼を完了できなくする機能
  • ドライバーごとに業務後自動点呼の実施予定時刻を設定でき、予定時刻を過ぎても業務後自動点呼が完了しない場合に、運行管理者等に警報または通知を発する機能
  • 業務後自動点呼を受けたドライバーごとに、業務後自動点呼の実施記録(運行管理者の氏名、当該ドライバーの氏名、実施日時などの項目)をデータとして記録し、その記録を1年間保存する機能
  • 自動点呼機器が故障した場合、故障発生日時や故障内容をデータとして記録し、その記録を1年間保存する機能
  • 業務後自動点呼の実施記録や機器の故障発生の記録は修正・消去ができない、または修正できても変更前の情報が保存され消去できない機能
  • 自動点呼機器に保存された、業務後自動点呼の実施記録や機器の故障発生の記録を、CSV形式で出力できる機能

2.自動点呼機器を設置する施設・環境の要件

自動点呼機器を設置する施設・環境の要件は、新・点呼告示第10条に定められています。

なりすまし、アルコール検知器の不正使用および所定の場所以外で業務後自動点呼が実施されることを防止するため、

業務後自動点呼実施場所の天井などに監視カメラを備え、運行管理者等が、業務後自動点呼を受けるドライバーの全身を常時または業務後自動点呼実施後に、明瞭に確認することができること

が求められます。

3.自動点呼機器の運用上の遵守事項

自動点呼機器の運用上の遵守事項は、新・点呼告示第11条第1号~第11号に定められています。詳細は割愛しますが、

  • 業務後自動点呼の運用に関し必要な事項について、あらかじめ運行管理規程に明記し、関係者(運行管理者等、ドライバー)に周知すること
  • 自動点呼機器の使用方法、故障時の対応などについて、関係者にあらかじめ教育・指導を行うこと
  • ドライバーの呼気からアルコールが検知された場合や、自動点呼機器が故障した場合に、運行管理者が確認できる体制を整えること
  • 業務後自動点呼の対象となるドライバーの識別に必要な生体認証情報は、本人の同意を得て取得すること

などが求められます。

業務後自動点呼は、条件付きで認められるもので、

運行管理者等は点呼に立ち会う必要はないものの、非常時に常に対応できる体制

が必要です。非常時には自動点呼は完了しないので、運行管理者等がすぐに駆けつけ対応できるようにしなければならないでしょう。

3)業務後自動点呼の実施に係る届け出の様式

繰り返しになりますが、業務後自動点呼を行おうとする場合、当該の営業所を管轄する運輸支局に、実施予定日の10日前までに届け出ることが必要です。業務後自動点呼の実施に係る届出書は、前述した国土交通省「運行管理高度化検討会」のウェブサイトから入手できます(次のURLから直接Wordファイルをダウンロード可能です)。

■業務後自動点呼の実施に係る届出書(旅客運送用)■
https://www.mlit.go.jp/jidosha/content/001736953.docx
■業務後自動点呼の実施に係る届出書(貨物運送用)■
https://www.mlit.go.jp/jidosha/content/001736956.docx

届出書は1枚ですが、添付書類は多岐にわたって用意する必要があります。届け出自体は、運輸支局の担当宛てにメール送信でも可能です。

3 自動点呼機器の導入費用の補助・助成

業務後自動点呼を行うためには、自動点呼機器や監視カメラの導入が欠かせません。

国土交通省は、「過労運転防止のための先進的な取り組みに対する支援」などとして、自動点呼機器などを導入する自動車運送事業者向けに補助事業を行っています。

2023年6月末時点で対象機器の募集が行われており、その選定が終わった後、支援施策の詳細が公表される予定です。

■国土交通省自動車局「事故防止対策支援推進事業」■
https://www.mlit.go.jp/jidosha/anzen/subcontents/jikoboushi.html

また、全日本トラック協会では、各都道府県トラック協会の会員事業者のうち、中小事業者を対象として、自動点呼機器の導入費用(周辺機器、セットアップ費用および契約期間中のサービス利用料を含む)の一部を助成しています。助成額は、1事業者当たり1台分(上限10万円)で、安全性優良事業所(Gマーク事業所)を有する事業者は2台分(上限20万円)になります。

■全日本トラック協会「令和5年度 自動点呼機器導入促進助成事業について」■
https://jta.or.jp/member/shien/tenko2023.html

4 近い将来、「業務前」自動点呼もOKに?

2023年3月23日に開催された国土交通省「運行管理高度化検討会(令和4年度第4回)」では、業務前自動点呼の導入に向けた実証実験を2023年度前半に開始するとしており、早ければ2023年12月ごろから業務前自動点呼が解禁されるかもしれないという見立てもあります。今後も、政策の動向をウオッチしながら、自社の実情に適した点呼のあり方を探ってみてはいかがでしょうか?

以上(2023年8月)

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中小企業の経営者が知っておきたい 相続トラブルと事前対策

相続トラブル自体は、中小企業の経営者に限らず、ありとあらゆる人について発生する可能性がある比較的一般的な法律問題です。
相続が「争続」などと呼ばれるトラブルステージに至りますと、死んでしまった親族ら(法的には「被相続人」と呼ばれる)の資産について、換価出来るもの・出来ないものを問わず、それこそ1円単位を巡り、血で血を洗うような抗争が長期に亘って繰り広げられます。終了後の親族関係は「まるで核戦争後の荒廃したデストピア」のようになり、復興することはまずありません。
では、このような相続トラブルについて「中小企業の経営者」に発生する特有の現象とはどのようなものか?それは資産の食い合いが、そのまま大波のように「企業統治」に波及する状態です。

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男性の育休取得について

男性の育休取得は、2022年10月の新制度、出生時育児休業(産後パパ育休)の創設でより注目されることとなりました。さらに、2023年4月から「常時雇用する労働者」が1,000人を超える企業は、男性労働者の育児休業等の取得状況を年1回公表することが義務付けられました。

本稿では、一連の法改正により関心が高まっている男性の育児休業について、取得の現状や企業に課せられる法律上の義務などをご紹介します。

1 男性育休の取得率

厚生労働省「イクメンプロジェクト」、株式会社ワーク・ライフバランス、認定NPO法人フローレンスの三者が国内の企業を対象に行った独自の実態調査「男性育休推進企業実態調査2022」によると、回答企業平均の男性育休取得率は76.9%、平均取得日数は40.7日という結果となりました。

■男性育休取得率・平均取得日数の推移

男性育休取得率・平均取得日数の推移

この調査回答企業142社においては、男性の育児休業取得が定着してきたと言えるかもしれません。しかしながら、厚生労働省が発表している男性育休取得率は2020年12.65%、2021年13.97%となっており、また、2021年の育休の取得期間は、5日未満25.0%、5日~2週間未満26.5%と2週間未満が5割を超えるなど、全企業に浸透してきたと言える状況にはありません。

【男女の育児休業の取得期間の状況】

【男女の育児休業の取得期間の状況】

(厚生労働省「雇用均等基本調査」)

2 育児休業に関する企業の義務

日本では少子高齢化と労働力人口の減少が進んでおり、出産・育児を支援して労働者の離職を防ぐことは非常に重要な課題です。このことから、出産や育児に際する労働者を保護するべく法律も整備されてきました。以下に、法律により定められた育児休業に関わる企業の義務をご紹介いたします。

育児休業に関わる企業の義務

3 さいごに

企業が男性の育児休業を推進するメリットは、①労働者のワーク・ライフ・バランスが向上し、定着率がアップする、②「働きやすい企業」のイメージアップにつながり、採用に有利になる、③業務の属人化を低減させ、業務量・バランスの標準化につながる、といったものが考えられます。

また、育児休業を推進することで、両立支援等助成金(出生時両立支援コース、育児休業等支援コース)を活用することもできます。

企業は、育児介護休業規程などの運用規程の整備や、職場からの積極的な働きかけやサポートを行い、ワーク・ライフ・バランスのとれた働き方ができるよう、より良い職場環境の実現につなげていくようにしましょう。

※本内容は2023年7月14日時点での内容です

(監修 社会保険労務士法人 中企団総研)

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