【有利な契約】「秘密保持契約書」で確認すべきポイントとひな型

書いてあること

  • 主な読者:自社の秘密情報をしっかりと守りたい経営者
  • 課題:秘密保持契約を軽視しがちで、相手から提供されるひな型を使うことも多い
  • 解決策:秘密情報をきちんと定義し、保護の仕組みが定められているかを確認する

1 秘密保持契約を軽視してはいけない

秘密保持契約(NDA(Non-Disclosure Agreement))とは、

取引や交渉の過程で、広く知られていない情報を相手に開示する場合に、その情報を秘密として保持する義務を定めた契約

です。秘密保持契約は「本契約前のお決まりの作法」のように軽視されることもあり、相手から提供されるひな型をそのまま利用しがちですが、これは危険です。そもそも秘密保持契約は、

自社の営業上、技術上の重要情報を守るためのものであり、それが実現できなければ本契約はあり得ない

わけですから、本契約と同じように慎重に取り組む必要があります。

この記事では、秘密保持契約の確認ポイントを説明した上で、弁護士が監修した秘密保持契約書のひな型を紹介します。

2 秘密保持契約で必ず確認すべきポイント

1)秘密情報の定義

最も大切なのは何を守るのか、つまり「秘密情報の定義」です。しかし、多くの場合はこの点に注力せず、単に「書面、電磁的記録、口頭、視覚的方法その他の方法を問わず、相手方から開示を受けた、当該相手方の営業上、技術上その他業務上の一切の情報」などと定めます。この場合、当事者間でやり取りする情報を包括的に契約の対象にできる良さはありますが、具体的でないため、自社と相手とで重視する秘密に対する認識が一致されていないとトラブルになりかねません。

そこで、次のように秘密情報をより具体的に定めることが重要です。秘密情報の表示・明示等、実務が煩雑になりますが、秘密情報を守るためには必要なことです。

【具体的に定める場合の条項例】

本契約における秘密情報とは、営業上、技術上その他業務の一切の情報であって、次の各号に該当するものをいう。

  1. 秘密である旨の表示がなされている書面および電磁的方法によって記録された情報。
  2. 口頭または視覚的方法により開示された情報であって、開示の時点で秘密である旨が明示され、開示後○日以内に、その内容が秘密情報である旨を明示した書面により相手方に対して通知されたもの。

2)秘密情報を守る取り決め

秘密情報が定義できたら、それを守るための具体的な取り決めがあるかを確認します。最低でも次の5つがしっかりと定められている必要があります。

  1. 秘密情報にアクセスできる役職員が限定されているか
  2. 秘密情報の利用目的が明示されているか
  3. 秘密情報の目的外利用が禁止されているか
  4. 秘密情報を複製する場合の「事前承諾」などが定められているか
  5. 秘密情報の廃棄や返還の手続が定められているか

3)損害賠償請求

秘密情報の漏洩などによって生じた損害に対する賠償請求について定めます。秘密情報の漏洩などによる損害額は算定しにくく、争いになることがあります。

そこで、事前に賠償額を定めておくことも一案です(賠償額の予定、または違約金)。注意が必要なのは、実際の損害額に関係なく、事前に定めた賠償額が原則となることです。そのため、「○○○万円以下」といったように、当事者が負担可能な賠償額の上限金額を定めておくことも一策です。

4)残存条項

契約期間が終了すれば、その契約は効力を失います。一方、秘密情報は契約期間が終了したからといって、その重要性が失われるものではありません。そのため、契約期間終了後も一定の義務を課す必要があります(残存条項)。

残存条項は、秘密保持義務や損害賠償義務などを対象にすることが一般的です。とはいえ、契約期間終了後もずっと義務を課し続けるのは妥当ではないため、併せて残存条項が効力を持つ期間を定める必要があります。

なお、1回だけの業務委託など、取引関係の終了後も秘密保持義務を長期間課し続けるのが適切ではないケースもあるので、取引内容に合わせて存続期間を定めることも考えられます。存続期間の長さは、秘密情報の性質(時間の経過によって重要性が変わる情報か、保管コストはどの程度かなど)や取引内容を検討しながら決めることになります。

3 秘密保持契約書のひな型

以降で紹介するひな型は一般的な事項をまとめたものであり、個々の企業によって定めるべき内容が異なってきます。実際にこうした契約書を作成する際は、必要に応じて専門家のアドバイスを受けることをお勧めします。

 

【秘密保持契約書のひな型】

 

○○(以下「甲」という)と□□(以下「乙」という)は、甲および乙間において開示される秘密情報について、次の通り秘密保持に関する契約書(以下、「本契約」という)を締結する。

第1条(目的)

1)甲および乙は、△△を目的として、相手方に対して秘密情報を開示する。

2)甲および乙は、相手方から開示された秘密情報を前項の目的以外に使用してはならない。

第2条(秘密情報)

1)本契約における秘密情報とは、営業上、技術上その他業務の一切の情報であって、次の各号に該当するものをいう。

  1. 秘密である旨の表示がなされている書面および電磁的方法によって記録された情報。
  2. 口頭または視覚的方法により開示された情報であって、開示の時点で秘密である旨が明示され、開示後○日以内に、その内容が秘密情報である旨を明示した書面により相手方に対して通知されたもの。

2)前項にかかわらず、次の各号に該当するものは秘密情報に当たらないものとする。

  1. 相手方から開示される前に既に公知となっている情報。
  2. 相手方から開示される前に被開示者が保有していた情報。
  3. 相手方から開示された後に、被開示者の責によらず公知となった情報。
  4. 正当な権限を有する第三者から、秘密保持義務を負わず適法に入手した情報。
  5. 開示者から開示された秘密情報に基づかず、被開示者が独自に開発をした情報。

第3条(秘密保持義務)

1)甲および乙は、相手方から開示された秘密情報を厳重に保管・管理し、相手方の書面による承諾なく、秘密情報を開示、漏洩してはならない。

2)前項にかかわらず、甲および乙は、以下の関係者に対し、本契約の目的(以下「本件業務」という)遂行の範囲内で、事前に相手方の書面による承諾を得ることなく秘密情報を開示することができる。ただし、甲および乙は、秘密情報の開示を受ける者に対し、本契約に定める秘密保持義務と同等の秘密保持義務を遵守させなければならない。

  1. 甲および乙の役職員で、本件業務の遂行に従事し、かつ秘密情報の開示を受けることが必要な者。
  2. 本件業務について相談する必要がある弁護士、公認会計士、税理士等の専門家。

3)第1項にかかわらず、甲および乙は、裁判所からの命令、その他の法令に基づき開示が義務付けられる場合は、秘密情報を開示・提供することができる。

第4条(複製の禁止)

甲および乙は、事前に相手方からの書面による承諾を得た場合を除き、秘密情報の一部または全部を書類または電磁的記録媒体に複写または複製してはならない。

第5条(立入調査)

1)甲および乙は、相手方における秘密情報の管理状況等を調査するため、相手方に事前に通知した上で、相手方の営業時間内に、相手方の事業所に立ち入ることができるものとする。

2)前項に基づき、立入調査の通知を受けた当事者は、相手方による立入調査を承諾し、当該調査について協力をしなければならない。

第6条(秘密情報の破棄等)

甲および乙は、本契約が終了したときは、秘密情報(複写または複製された秘密情報がある場合はそれらを含む)を、相手方の指示に従い破棄または返還しなければならない。

第7条(事故報告)

甲および乙は、秘密情報の漏洩等の事故が発生し、または発生する恐れのある事態が生じたときは、直ちに相手方に報告をし、その指示を仰がなければならない。

第8条(損害賠償義務)

甲および乙は、本契約に違反することにより、相手方に損害を与えた場合、相手方に対し、損害の賠償をしなければならない。

第9条(反社会的勢力排除)

1)甲および乙は、次の各号の事項を表明し、保証する。

  1. 自らまたは自らの役職員が暴力団、暴力団員、暴力団準構成員、暴力団関係企業、総会屋、社会運動等標榜ゴロ、特殊知能暴力集団若しくはこれらに準ずる者またはその構成員(以下「反社会的勢力」という)ではないこと。
  2. 自らまたは自らの役職員が反社会的勢力に対し、資金等の提供、便宜の提供等反社会的勢力と何ら取引をしていないこと。
  3. 自らまたは第三者を利用して、次の行為をしないこと。
    • 相手方に対する脅迫的な言動または暴力を用いる行為。
    • 法的な責任を超えた不当な要求行為。
    • 偽計または威力を用いて相手方の業務を妨害し、または信用を毀損する行為。

2)甲および乙は、相手方が前項に違反した場合、何らの催告なしに直ちに本契約を解除することができる。この場合、相手方は他方当事者に発生した全ての損害を賠償するものとする。

第10条(有効期間)

本契約の有効期間は○年○月○日から○年○月○日までとする。ただし、有効期間満了日の○カ月前までに、いずれの当事者からも解約の申し出がない場合には、更に1年間本契約を延長し、以後も同様とする。

第11条(残存条項)

第3条および第8条に定める義務は、本契約終了後○年間存続するものとする。

第12条(協議解決)

本契約に定めのない事項、または本契約の解釈について疑義が生じたときは、甲および乙は誠意をもって協議の上解決する。

第13条(合意管轄)

甲および乙は、本契約に関し裁判上の紛争が生じたときには、訴額等に応じ、○○簡易裁判所または○○地方裁判所を専属的合意管轄裁判所とすることに合意する。

以上(2024年5月更新)
(監修 弁護士 田島直明)

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画像:pixabay

最低限知っておきたい 中小企業における若者の早期離職防止のポイント

厚生労働省が令和5年10月に発表した、最新の新規学卒就職者の就職後3年以内の離職率は、新規高卒就職者が37.0%(前年度と比較して1.1ポイント上昇)、新規短大等卒就職者が42.6%(同0.7ポイント上昇)、新規大学卒就職者が32.3%(同0.8ポイント上昇)となりました。3年以内の離職率が高い状況が続いています。

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【産業医監修】ウチの社員は「6月病」? 主な症状や医療機関の受診のポイントを紹介

書いてあること

  • 主な読者:6月病(≒適応障害)による社員の離職などが心配な経営者、管理職
  • 課題:6月病になりやすい社員のタイプや、6月病が疑われる場合の対応を知りたい
  • 解決策:真面目な社員、抱え込みやすい社員などが6月病になりやすい。いつもと様子が違ったら上司などが話を聞く。不調が1~2週間続くなら、医療機関での受診を勧める

1 6月病の社員にご用心

6月病(5月病ともいわれます)とは、

4月に入社や異動をした社員が、環境の変化に適応できずにストレスを抱え過ぎて心身の不調や体調不良を起こすこと

です。医学的には環境因によるストレスで引き起こされる「適応障害」と診断される状態の一部として考えられます。6月病(≒適応障害)の主な症状は次の通りです。最初は情緒面の症状が多く、やがて行動面、身体面でも症状が表れます。

  • 情緒面:抑うつ、不安、焦り、緊張、イライラ、突然泣き出すなど
  • 行動面:暴飲暴食、無断欠勤、危険運転、虚偽の発言、けんかや口論の頻発など
  • 身体面:疲労感、不眠、頭痛、胃痛、動悸(どうき)、めまい、手の震えなど

6月病が重症化すると業務に支障を来し、最悪の場合、離職につながることもあります。そうならないためには「早期の発見、早期の対処」が肝心です。この記事では、産業医監修のもと、6月病対応のポイントを次の3つにまとめました。

  1. 6月病になりやすい社員を早期に発見する
  2. 不調が1、2週間続くなら、医療機関での受診を勧める
  3. 医師の意見を参考に、休職や職場復帰について判断する

2 6月病になりやすい社員を早期に発見する

一般的に次のような性格の人は6月病になりやすいといわれます。

真面目、責任感が強い、心配性、完璧主義、頼まれると断れない、気が小さい、周りの意見を気にする、失敗や苦悩を引きずりやすい

特に若手の社員は、仕事上のストレスとまだうまく付き合うことができず、ささいなことでもストレスをためて6月病になってしまうことがあります。思い当たる社員がいる場合、試しに次の視点で観察してみると、何らかの変化が起きているかもしれません。

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該当項目が多い場合、上司のほうから、

「いつもと様子が違うようだけど、何かあった?」

などと声を掛け、話を聞いてみます。その際、上司が一方的にアドバイスをするだけでは、悩んでいる社員にそれを受け入れる余裕はありません。そのため、

「それは大変だね」「つらかったね」

など、社員の話に「共感を示す」ことがまずは大切です。「自分のことを分かってもらえる」という安心感があれば、社員は自分のことをもっと話してくれます。また、ストレスによって離職を考えていたとしても、こちらの対応によって離職を思いとどまるかもしれません。

社員が話しやすい環境を整えるポイントとしては、

  • 対面:個室など他人の目のない場所で話す、飲み物を飲みながらなど、緊張しない空気づくりを意識する
  • オンライン:個別のミーティングルームを設定する、「顔出し」を強要しない

などが考えられます。また、日ごろから「いつでも相談してほしい」など、次につながる声掛けをするのも大切です。

3 不調が1~2週間続くなら、医療機関での受診を勧める

6月病の場合、受診のタイミングは

症状が表れてから1、2週間以上続いている状態が目安

といわれています。社員に「いつごろからつらいの?」と症状が表れた時期を確かめ、1、2週間以上つらい状態が続いている様子であれば、医療機関での受診を勧めることを検討します。ただし、

  • 「君はきっと病気だよ! 受診してきなさい」などと決めつけるのはNG
  • 「最近遅刻やミスが多くて、どうも疲れているように見えるよ。だから一度体調を診てもらったほうがいいんじゃない?」など、理由を提示して受診を勧めることが大切

です。

それでも社員が受診を拒むなら、その家族に相談するのも1つの手です。ただし、社員を責めるような言い方をすると、家族が会社に反感を持ったり、逆に本人に詰め寄ったりしてトラブルになる恐れがあります。そうではなく、

「○○さんのご家庭での様子はどうですか? 会社としても心配しています」など、社員を気遣う伝え方

を心がけましょう。

4 医師の意見を参考に、休職や職場復帰について判断する

1)通院しながら働いてもらうか、休職させるか

社員が6月病(適応障害)と診断された場合、会社は通院しながら働いてもらうか、休職させるかを検討します。その際は、会社の産業医や社員の主治医の意見を参考にしつつ、就業規則の休職規定と照らし合わせて決めます。

通院しながら働いてもらう場合、今の業務が治療に影響を与えないかを十分検討し、場合によっては軽度な業務などに転換します。

2)職場復帰させるか

休職期間の終了後(または、休職期間途上で休職事由が解消した場合)、会社は産業医などの意見を参考に職場復帰させるか否かを判断します。職場復帰後に再び症状が出るケースもあるので、職場復帰の時期や復帰後の配置などについては慎重に検討します。

職場復帰の手続きや条件、復帰後の配置などについては、あらかじめ休職規定に定めておきます。また、「長い休職の後でいきなり通常勤務に戻すのは不安……」ということであれば、

同じく就業規則にリワーク規定やリハビリ勤務規定などを定めておく

ようにしましょう。そうすれば、社員は徐々に体を慣らしながら復職することができます。

職場復帰の具体的な手順は、厚生労働省「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」が参考になります。職場復帰の可否を判断する基準の例は次の通りです。

  • 労働者が十分な意欲を示している
  • 通勤時間帯に1人で安全に通勤ができる
  • 決まった勤務日、時間に就労が継続して可能である
  • 業務に必要な作業ができる
  • 作業による疲労が翌日までに十分回復する
  • 適切な睡眠覚醒リズムが整っている、昼間に眠気がない
  • 業務遂行に必要な注意力・集中力が回復している など

診断上は職場復帰が可能でも、社員が離職の意思を固めていることもあります。その場合、面談などを通じて丁寧に話し合い、後にトラブルが生じないようにします。

■厚生労働省「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」■

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000055195_00005.html

5 6月病にならないためには?

6月病にならないために、日ごろからストレスをため過ぎないようにしましょう。趣味を楽しむ時間を確保したり、生活リズムを整えたりすることはストレス対策の基本ですから、そのことを積極的に社員に伝えしましょう。

また、真面目でミスを引きずる人が6月病になりやすいといわれますので、経営者が率先して

「失敗を許容する雰囲気」をつくることも大切です。甘やかすということではなく、失敗から学び、次にチャレンジする文化を育むという意味

です。

また、テレワークだとコミュニケーションが取りにくく、社員がストレスを抱え込みやすくなります。さじ加減が難しいところですが、個別チャットなどで上司がこまめに簡単な連絡を入れたり、定期的に社員と個別に面談する機会を設けたりして、通常よりも意識的にコミュニケーションを取るようにしましょう。

以上(2024年4月更新)
(監修 株式会社フェアワーク 吉田健一)

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【有利な契約】自社が不利にならない「契約期間」の定め方

書いてあること

  • 主な読者:相手の提示またはひな型通りの契約期間にしている経営者
  • 課題:例えば、契約期間が必要以上に長いと、不要な契約上の義務を負う恐れがある
  • 解決策:権利付与の側面が大きいなら契約期間は長く、義務負担の側面が大きいなら契約期間は短くするのが基本

1 契約期間を長くしたほうがよい場合と短いほうがよい場合

契約書を確認する際、金額や知的財産の帰属もそうですが、契約期間についてもしっかり確認しなければなりません。なぜなら、契約期間が適切でないと、

  • 契約期間が短く、想定よりも自社の権利から得られる収益が小さくなった
  • 契約期間が長く、必要以上に契約上の義務を負うことになった

などの問題が起こるからです。契約期間は、契約相手との力関係、契約内容、契約依存度などによって異なりますが、基本的な考え方は次の通りです。

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契約内容が自社に権利を付与する面が大きく、契約依存度が高い(契約が自社ビジネスに与える影響が大きい)場合、契約期間は長いほうがよいです。逆に、契約内容が自社に義務を負わせる面が大きく、契約依存度が低い(契約が自社ビジネスに与える影響が小さい)場合、契約期間は短いほうがよいです。

この記事では、自社の不利にならない契約期間の考え方、定め方を紹介します。また、秘密保持契約、取引基本契約、ライセンス契約の契約期間を決める際の注意点も説明します。

2 契約書における契約期間の3つの定め方

1)契約期間(有効期間)に関する定め

契約期間(有効期間)は、

本契約書の有効期間は○年○月○日から△年△月△日までとする

などの定めです。物品やサービスを販売・提供するだけで即時に完結する、いわゆる「一回的契約」などを除き、契約期間を定める必要があります。「本契約書の有効期間は本契約締結日から○年間とする」といったように、契約期間だけを定めるケースもありますが、「初日不算入の原則」(民法第140条)や期間満了日が休日である場合、翌営業日を期間満了日とするなどのルールや慣習がトラブルにつながる恐れがあります。そのため、明確に始期と終期を特定しましょう。

2)契約更新に関する定め

契約更新は、

契約当事者から書面による解約の申し出がないときは、本契約書と同一条件でさらに○年間延長し、以後も同様とする

などの定めで、これは契約期間を長くしたい場合の定め方です。一方、契約を短くしたい場合は、更新拒絶ができる条項にします。具体的には、

本契約は契約満了により終了するものとする。ただし、甲乙が同一条件での更新に合意した場合はさらに1年間延長する

といった具合です。

契約更新は双方の利害が一致しにくい部分なので、慎重に検討しましょう。なお、契約更新に関する定めは、契約期間(有効期間)に関する定めと同じ条項に記載されることが多いです。

3)中途解約に関する定め

中途解約は、

契約当事者は、相手方当事者に対して○カ月以上の予告期間を置いて書面で通知することにより、本契約を中途解約することができる

などの定めです。これは契約期間を長くしたい場合の定め方ですが、さらに強化する場合は、

中途解約に違約金を設けたり、中途解約の定めを置かなかったりする

ことが考えられます。一方、短くしたい場合は、できるだけ制限なく中途解約ができるようにすることがポイントで、

中途解約の通知をすれば、通知をした月の末日に契約を終了できる

といったように定めます。

なお、中途解約に関する定めがなくても、相手方に債務不履行があれば契約は解除できます。逆に言うと、債務不履行ではない理由で解約することは難しいです。契約期間中、契約に拘束されることがリスクになるか否かを考えた上で、中途解約について検討しましょう。

3 契約期間はどれくらいが適切なのか?

1)秘密保持契約

秘密保持契約は、主たる契約の前段階や、付随する契約として締結することが多いです。秘密保持契約の契約期間は、主たる契約を実現するのに必要な範囲で設定するのが基本です。つまり、主たる契約が長期にわたる場合は秘密保持契約も長期となります。また通常は、秘密保持契約は主たる契約が終了した後も「一定期間」は有効です。この一定期間についてですが、

秘密保持契約で開示される情報の重要性によって異なりますが、一般的には2~3年

が適切でしょう。

2)取引基本契約

ビジネスでは、取引基本契約を締結して取引の大枠を決めた上で、発注書や請求書と請書などのやり取りによって個別契約を成立させる方法で取引を進めることがよくあります。その際、個別契約の終了期間が明確ならば、取引基本契約の契約期間は「契約締結日から○年間」と定めても問題ないといえます。

しかし、個別契約の終了期間が不明確な場合、

取引基本契約は終了しているのに、個別契約は継続しているといったおかしなことになり、その結果、取引基本契約で定めたことが個別契約に適用されない

といった事態に陥りかねません。

そのため、前述した「契約期間(有効期間)に関する定め」と矛盾しますが、取引基本契約の契約期間をあえて明確にせず、

全ての個別契約が終了してから○カ月後

といったように定めることも検討しましょう。

3)ライセンス契約

通常、ライセンス契約は長期にわたることが多いため、

契約期間を長く設定する、もしくは契約更新(自動更新)の定めを置いて、知らない間にライセンスが失効してしまう事態を防ぐ

ことが大切です。

また、ライセンスを受けて物品を製作・販売している場合、ライセンス期間が終了した時点(契約終了時点)で物品を完売できずに、在庫が残っていることがあります。こうしたケースに備えて、

契約終了後も当該物品の販売を可能にする、あるいは適正価格で買い取ってもらう

などの条項を定めておくことが重要です。

以上(2024年5月更新)
(監修 Earth&法律事務所 弁護士 岡部健一)

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【中堅社員のスピーチ例】マルハラを「面倒くさい」と言う前に……

おはようございます。さて、皆さんは「マルハラ」という言葉をご存じですか? 正しい名称は「マルハラスメント」。SNSなどでやり取りする際、上司や先輩から来るメッセージの文末が句点、つまり「。(まる)」で終わっていると、句点を使うのに慣れていない最近の若い人が距離感や冷たさを感じてしまう、という最近話題になっているハラスメントの一種だそうです。

私は、ネットで最初にこのマルハラの記事を読んだとき、正直「面倒くさい」と思いました。セクハラやパワハラのように明らかに人を傷付けるハラスメントはともかく、会話の文末が「。(まる)」で終わるのはただの文法で、これまでの仕事場でも当たり前にやってきたことを「ハラスメント」呼ばわりされる筋合いはないと思ったのです。何でも「何とかハラスメント」と呼ぶ世間の風潮にも辟易(へきえき)していたのですが、最近こうした考えを反省する出来事がありました。

それは、ある取引先の方々と会食をしたときのことです。私の隣に座ったのは、私の上司や先輩がとてもお世話になった方。私自身は初対面でしたが、その方がとても話しやすく、若干の酔いも手伝って、私はふいに、「最近、話題になっているらしいんですが」とマルハラの話を切り出しました。正直、私のマルハラに対する不満を聞いてほしいという気持ちも半分あってこの話を切り出したのですが、その方が口にしたのは意外な言葉でした。

「若い人の中には句点を嫌がる人もいるらしいですね。私も若い人たちとSNSで会話することがあるんですが、例えば、文末の『。(まる)』を『!(ビックリマーク)』に変えてみるとか、今までと文章の打ち方を変えてみるだけで会話が弾むこともあって、これが面白いんですよ!」

私はこれを聞いて自分が恥ずかしくなりました。その方は私よりも一回り年上で、とても失礼なことですが、おそらく年代からして、私のマルハラに対する不満に共感してくれるのではないかと期待していました。しかし、その方は自分のコミュニケーションのやり方を今の時代に合わせてアップデートし、なおかつその過程を心から楽しんでいる。年齢を感じさせない若さがあり、逆にマルハラを表面的に捉えて辟易していた自分のほうが、年下なのに「固定観念にとらわれた古い人間」のように思えてしまいました。

皆さんは、新しい文化に出会ったとき、それに正面から向き合うことができていますか。もちろん、できている人もたくさんいるでしょうが、冒頭の私のように、「面倒くさい」「昔は良かった」などと難癖を付けて向き合えないでいる人も少なくないと思います。ですが、どれだけ文句を言っても昔には戻れません。それなら時代に合わせて自分をアップデートし、その変化の過程を楽しんでみるのもよいのではないでしょうか。「笑う門には福来る」ではないですが、いつの時代も人生は「楽しんだ者勝ち」なのですから。

以上(2024年4月作成)

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画像:Mariko Mitsuda

2024年4月から始まる! 変わる! 注目制度10選

書いてあること

  • 主な読者:2024年度の法改正について知りたい経営者や実務担当者
  • 課題:法改正の内容が多くてキャッチアップできていない。どれを押さえておけばいい?
  • 解決策:まずは2024年4月施行のものを押さえる(主な法改正は10件)

1 2024年度の法改正を一覧表でチェック!

いわゆる「2024年問題」や「相続登記の義務化」など、2024年度もさまざまな分野で法改正が行われます。内容をキャッチアップしきれず困っているという人向けに、2024年度の主な法改正を一覧にまとめました。

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以降で、それぞれの法改正の簡単な概要と各省庁のURLを紹介します。まずは2024年4月の法改正を確実に押さえましょう。

2 2024年4月の主な法改正(10件)

1)労働条件通知書、大丈夫? 社員に明示する労働条件が増えます!

労働契約の締結・更新時に、労働条件として明示すべき事項が増えました。具体的には「就業場所・業務の変更範囲」「契約上限の有無とその内容」「無期転換の申込機会と転換後の労働条件」がそうです。これらは原則書面で明示しなければならないので、労働条件通知書などのアップデートが必要です。

■厚生労働省「令和6年4月から労働条件明示のルールが改正されます」■
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_32105.html

2)社員数40人以上なら障害者雇用は義務です! 顧客などにも配慮して!

常時雇用する社員数が一定数以上の会社は、社員数に一定の割合(障害者雇用率)を掛けた人数以上の障害者を雇用しなければなりません。この常時雇用する社員数が「43.5人以上」から「40人以上」に引き下げられ、障害者雇用率は「2.3%」から「2.5%」に引き上げられました。また、雇用面だけでなく、障害のある顧客などと接する際にも、障害の特性などに応じた「合理的配慮」をすることが義務化されました(従前は努力義務)。

■厚生労働省「障害者雇用対策」■
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/shougaishakoyou/index.html
■内閣府「令和6年4月1日から合理的配慮の提供が義務化されます!」■
https://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/sabekai_leaflet-r05.html

3)ついに来た、2024年問題! 建設業なども残業規制の対象です!

建設業、自動車運転業務、医師、砂糖製造業(鹿児島県・沖縄県)にも「時間外労働の上限規制」が適用されました。時間外労働の上限規制は、36協定に記載する時間外労働(残業)の時間数に上限を設けるというルールで、2019年4月1日から始まりました。上記の事業・業務については長らく適用が猶予されていましたが、その猶予措置が終了しました。なお、自動車運転業務の場合、拘束時間や休息時間について定めた「改善基準告示」の改正にも注意が必要です。

■厚生労働省「建設業・ドライバー・医師等の時間外労働の上限規制 (旧時間外労働の上限規制の適用猶予事業・業務)」■
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/gyosyu/topics/01.html
■厚生労働省「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準(改善基準告示)」■
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/gyosyu/roudoujouken05/index.html

4)裁量労働制の濫用防止! 導入などの手続きが厳しくなります!

「専門業務型裁量労働制」「企画業務型裁量労働制」について、導入・運用の手続きが厳格化されました。専門業務型裁量労働制については、労使協定に記載すべき事項が追加。企画業務型裁量労働制については、労使委員会で決議すべき事項が増えた他、制度の対象となる社員の賃金・評価制度を変更する場合、労使委員会に変更内容を説明することが義務付けられました。

■厚生労働省「裁量労働制の概要」■
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/roudouzikan/sairyo.html

5)化学物質、アスベスト、一側足場……。社員の安全衛生管理は大丈夫?

「リスクアセスメント対象物」に該当する化学物質を扱う場合、化学物質管理者や保護具着用管理責任者の選任や、関連事項についての衛生委員会での調査審議が義務付けられました。この他、石綿(アスベスト)の切断作業をする際に除じん性能のある電動工具の使用などが義務付けられたり、建設現場における一側足場の使用範囲が明確化されたりしています。

■厚生労働省「化学物質による労働災害防止のための新たな規制について」■
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000099121_00005.html
■厚生労働省「労働安全衛生法関係の法令等(石綿)」(令和5年8月29日厚生労働省令第105号を参照)■
https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/sekimen/hourei/index.html
■厚生労働省「安全衛生関係リーフレット等一覧」(「足場からの墜落防止措置が強化されます(令和5年6月)」を参照)■
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/gyousei/anzen/index.html

6)交際費の5000円ルールが「1万円ルール」に!

社外飲食費(専ら自社の役員や従業員との接待などのために支出する費を除く)に該当する交際費は、金額が一定以下であれば、原則損金に算入できない交際費の範囲から除かれ、会議費などとして損金に算入できます。この額が、2024年4月1日以降の支払いについては1人当たり5千円から「1万円」に引き上げられます。ただ、中小企業(資本金1万円以下)の場合、社外飲食費の50%までの額(飲食費の額を問わない)、もしくは年間800万円までの交際費のどちらかを選択して損金に算入できる特例があるので、そこまで気にする必要はないかもしれません。

■財務省「令和6年度税制改正の大綱の概要」■
https://www.mof.go.jp/tax_policy/tax_reform/outline/fy2024/06taikou_gaiyou.htm

7)相続登記が義務化。放置した場合は罰金も!

相続した不動産を3年以内(相続の開始を知った日から)に登記することが義務化されました。もし、期限内に所有権移転の登記をしない場合には、10万円以下の過料(行政上の罰金)となります。2024年3月31日以前に相続した不動産も、登記義務の対象になるので注意が必要です。

■法務省「所有者不明土地の解消に向けた民事基本法制の見直し(民法・不動産登記法等一部改正法・相続土地国庫帰属法)」■
https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00343.html?_fsi=h8mmuWaB
■法務省「相続登記の申請義務化特設ページ」■
https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00590.html

8)中小企業の商機拡大! 商標登録などがしやすくなりました!

知的財産に関する複数の法律が改正されました。商標の登録要件が緩和され、デジタル空間における模倣行為の差止めも認められるようになるなど、リソースの少ない中小企業も知的財産をビジネスに活用しやすくなりました。

■特許庁「不正競争防止法等の一部を改正する法律(令和5年6月14日法律第51号)」■
https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/hokaisei/sangyozaisan/fuseikyousou_2306.html

9)「白タク」が合法に? ライドシェアが一部解禁!

ライドシェアは、配車アプリで乗客とドライバーをマッチングし、乗客がドライバーに対価を支払って目的地まで車で運んでもらうサービスです。従前はいわゆる「白タク」行為として禁止されていましたが、タクシー事業者の運行管理の下で一部認められるようになりました。

■国土交通省「自家用車活用事業の制度を創設し、今後の方針を公表します。」■
https://www.mlit.go.jp/report/press/jidosha03_hh_000416.html

10)子どもは誰の子? 離婚後に生まれた子の「嫡出推定」に例外規定!

離婚後300日以内に生まれた子を前夫の子とみなす「嫡出推定」について、女性が出産時に再婚していれば「現夫の子」とみなすこととする例外規定が設けられました。嫡出推定見直しに関連し、女性にのみ設けられている「離婚後100日間は再婚できない」との規定も撤廃されます。

■法務省「民法等の一部を改正する法律について」■
https://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00315.html

3 2024年5月以降の主な法改正(3件)

1)50人超の会社に勤めるパート等は社会保険に加入!(2024年10月1日)

2024年10月1日より、社会保険(健康保険と厚生年金保険)の適用対象となるパート等の範囲が拡大されます。パート等は本来、社会保険の適用対象外ですが、厚生年金保険の被保険者数が一定数いる会社に勤め、労働時間や賃金などの要件を満たすと社会保険に加入します。この厚生年金保険の被保険者数の要件が「100人超」から「50人超」へと引き下げられます。

■日本年金機構「短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用の拡大」■
https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/tekiyo/jigyosho/tanjikan.html
■厚生労働省「社会保険適用拡大 特設サイト」■
https://www.mhlw.go.jp/tekiyoukakudai/

2)フリーランスとの曖昧な契約や支払い遅延はNG!(2024年秋ごろまでに)

2024年秋ごろまでに、下請法とは別に、業務委託で働くフリーランスを保護するための法律「フリーランス保護新法」が施行予定です。給付の内容や報酬の額、支払い期日等を書面やメールで明示、フリーランスから給付を受けた日から60日以内に報酬を支払ったりすることなどが義務付けられます。

■厚生労働省「フリーランスとして業務を行う方・フリーランスの方に業務を委託する事業者の方等へ■
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/zaitaku/index_00002.html

3)不当表示等に関する取り締まりが強化!(2024年秋ごろまでに)

2024年秋ごろまでに、商品・サービスの品質・内容・価格等を実際よりも良く見せる「不当表示」等に関する取り締まりが強化される予定です。悪質な不当表示等を行った会社に対し、行政処分を経ずに直罰(100万円以下の罰金)を科すことができるようになるなどの法改正があります。

■消費者庁「国会提出法案」(「第211回国会(常会)提出法案」を参照)■
https://www.caa.go.jp/law/bills/

以上(2024年4月作成)

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【契約書の実務(3)】契約内容の変更・訂正時のルールを確認

書いてあること

  • 主な読者:契約実務に慣れてない経営者、担当者
  • 課題:印紙を貼るタイミングや、契約書を訂正する際の進め方が分からない
  • 解決策:基本を知っておく必要があるが、大事なのは相手に確認しながら進めること

1 混乱しがち? 郵送による契約締結の手順

1)手順を整理することが大切

契約書を郵送でやり取りする場合、無駄なやり取りがないようにしたいものです。X社とY社が契約書を締結するとして、2社とも印紙に消印する場合の流れは次の通りです。

1.X社の手続き

  • 契約書(A):X社の署名等。契印と割印。印紙にX社の消印
  • 契約書(B):X社の署名等。契印と割印
  • 契約書(A)と(B)を、簡易書留等、Y社が受領した記録が残る方法で郵送

2.Y社の手続き

  • 契約書(A):Y社の署名等。契印と割印。印紙にY社の消印(X社とY社の署名等、契印と割印、消印がそろうので、Y社が保管)
  • 契約書(B):Y社の署名等。契印と割印。印紙にY社の消印
  • 契約書(B)を、簡易書留等、X社が受領した記録が残る方法で郵送

3.X社の手続き

  • 契約書(B):印紙、X社の消印(X社とY社の署名等、契印と割印、消印がそろうので、X社が保管)

2)契約書の保管

締結後の契約書は紛失しないように保管します。保管方法については、「文書管理規程」などの社内規程で定められているときは、それに従います。

一般的には、「契約当事者>契約書の内容>時系列」の順番に整理するとよいでしょう。また、複数のファイルごとに保管しているときは、契約当事者名などを一覧にした目次を作成してファイルにとじておくと、契約書を探しやすくなるので便利です。

3)締結済みの契約書をペーパーレス化したい場合

紙ベースで締結した契約書は、保管場所が必要なことや、テレワークの際などに確認できないため、スキャンし、データとして保管しておきたいと考えるかもしれません。この場合、法的に次のような保存要件が定められています。

  • 真実性の確保:認定タイムスタンプ(日本データ通信協会の認定を受けた事業者が発行するタイムスタンプ)または適切に訂正・削除の履歴が残るか、できなくするためのシステムの利用か、方法を定めた社内規程があること
  • 関係書類の備付:どのように電子化するのかを定めたマニュアルが備え付けられていること
  • 見読性の確保:納税地で画面とプリンターで契約内容が確認できること
  • 検索性の確保:主要項目を範囲指定および組み合わせで検索できること

上記を満たした上で、納税地でデータを7年間(欠損金の繰越控除をする法人は、最長で10年間)保存する義務が定められています。データさえあれば問題ないということではないので、契約書をスキャンして保存する場合は注意が必要です。

2 締結済みの契約書の内容を変更するには?

1)重要な条項の変更や変更箇所の多いとき

締結済みの契約(以下「原契約」)の内容を変更することはよくあります。その際には、次のような方法で行うのが一般的です。

  • 原契約を失効させて、新たな契約の内容を記載した契約書を締結する
  • 原契約は有効としたままで、変更する部分を記載した「覚書」等を締結する

契約書は契約当事者の合意内容を記載した重要な書面です。契約内容の読み間違いや、書面の紛失等があってはならないので、重要な条項の変更や変更箇所が多岐にわたるときは、新たな契約書を締結することが多くなります。

これ以外にも、原契約の内容を変更する方法を決めるときには、次の点を考慮します。

2)変更の回数

何度も契約書を締結すると、書面の数が多くなるので、契約内容の読み間違いや、書面の紛失といったことが起こりやすくなります。こうしたときは、今回の変更箇所だけでなく、過去の変更箇所全てを反映させた新たな契約書を交わしたほうがよいでしょう。

3)契約書の確認に伴う手間

法務の担当者が契約書の内容を確認するときは、新たな契約書であれば、変更しない点も含め全ての条項を確認することになるので、手間がかかることがあります。こうしたときは、変更する条項のみを記載した契約書を交わしたほうがよいでしょう。

4)印紙税の納付

契約を変更して新たに契約書を作成した場合に、その契約書が、印紙税が課税される課税文書であるときは、改めて印紙税を納付しなければなりません。ただし、契約内容の一部を変更した場合、その変更部分のみを記載した契約書を作成すれば課税文書に該当せず、印紙税が不要になることがあります。こうしたときは、税負担を軽減するために、変更した契約内容のみを記載した文書を交わしたほうがよいでしょう。

なお、原契約に定めている事項のうち、「重要な事項」の変更のために作成した文書は課税文書となり、印紙税の納付が必要です。一方、原契約に定めている事項のうち、「重要な事項」を含まない変更のために作成した文書は課税文書に該当せず、印紙税の納付は必要ありません。「重要な事項」は、印紙税法基本通達別表第2「重要な事項の一覧表」において、課税文書の種類ごとに定められています。

3 締結済みの契約書の内容を変更するときの注意点

1)新たな契約書を締結するときのポイント

新たな契約書を締結するときは、新旧の契約が併存し矛盾することのないように、原契約を失効させます。具体的には、原契約が失効する旨を新たな契約書の前文などで定めたり、その旨を定めた「合意解約書」などを別途交わしたりします。実務的には書面作成などの手間を軽減できる前者のほうが多いようです。新たな契約書の前文に定めるときの文例は次の通りです。

本契約の成立により、甲乙間で○年○月○日に締結した「□□に関する契約書」は失効するものとする

また、契約の一部を変更し、変更部分のみを記載した契約書を作成する場合には、「覚書」や「念書」等の標題が用いられることが多いようです。このような文書を締結するときには、どの原契約に対するものなのかを特定する必要があります。具体的には、覚書等の前文に定めることが多いようです。

覚書等の前文に定めるときの文例は次の通りです。

甲と乙とは、甲乙間で○年○月○日に締結した「□□に関する契約書」について、以下の通り、その内容を変更することを目的として覚書を締結する

2)新旧対照表の作成

締結済みの契約書の内容を変更するときには、変更した条項が一目で分かるように「新旧対照表」を作成することがあります。新旧対照表は、新たな契約書や覚書等の別紙とすることもありますが、実務担当者等の参考資料として作成することもあります。

新旧対照表の例は次の通りです 。

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4 契約書の訂正に関する注意点

1)契約書を訂正する方法

訂正印は、一般的には、訂正箇所に二重線を引いて押印することをいいます(訂正の方法は法令で定められているわけではありませんので、他にも方法がありますが今回は省略します)。また、捨印により訂正することもあります。捨印は、書面の内容に訂正が生じることを予見して、あらかじめ文書の欄外に押しておくものです。捨印で修正する場合は、正しい字句に訂正し、訂正箇所を明らかにした上で、余白に「加筆○字」「削除○字」などと記載します。

訂正印の例と捨印の例は次の通りです。

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2)捨印の押印は慎重に

捨印には、契約書に誤りがあったときに、すぐに対応できるというメリットがあるものの、知らないところで、契約書の内容を勝手に書き換えられてしまうという重大な危険性があります。そのため、原則として「捨印」は使用しないようにしましょう。もし、相手方から捨印を求められた場合は、安易に応じずに弁護士などに確認しましょう。

以上(2024年5月更新)
(監修 有村総合法律事務所 弁護士 栗原功佑)

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社長から若手社員へ送るメッセージ「新入社員の良いお手本になってください」

書いてあること

  • 主な読者:新入社員を迎え、初めて先輩になる入社2~3年目の若手社員
  • 課題:ビジネス経験が乏しく、新入社員のお手本になれるか不安
  • 解決策:社会人としての自覚と基本を忘れないようにする。まずは元気な挨拶と笑顔とプラスの発言を心がけ、報告・時間厳守など、基本に忠実に真摯に仕事をする

1 「新入社員」を卒業する皆さんの立場は、大きく変わります

新入社員が入社し、これまで後輩がいなかった若手社員の皆さんは、初めて「先輩」になります。先輩になった皆さんは、新入社員の頃と違って、次のようなことが求められます。

  1. 「社会人としての自覚と基本」が身に付いている
  2. 仕事を「自分ごと」として捉え、自ら考え動く
  3. 教えられるだけでなく「教える」

皆さんが先輩社員から直接話を聞き、仕事ぶりや発言を見聞きして学んできたのと同じように、新入社員も皆さんのことをよく観察し、皆さんの影響を強く受けます。良い面も悪い面もです。そして、皆さんには、新入社員への「良いお手本」になることが期待されています。

2 「社会人としての自覚と基本」が身に付いている

1)元気に挨拶し、笑顔を絶やさない

まず皆さんに率先垂範してもらいたいのは、元気に挨拶することです。「何を今さら……」と思うかもしれませんが、皆さんは“常に”実践できていますか? 明るく元気な挨拶は、それだけで周りも明るくします。特にオンラインの場合、画面越しに話をするので、元気な挨拶や分かりやすいリアクションをするのがいいでしょう。

笑顔でいることも、とても大事です。元気な挨拶や笑顔は、社歴、立場、属性などに全く関係なく、心がけ次第で実践できます。どんなにベテランメンバーになっても、どの職種や業種でも使い続けられる、社会人の大きな「武器」と言っていいでしょう。

2)プラスの発言をする

元気な挨拶や笑顔と同じように心がけてほしいのは「プラスの発言をする」ことです。新入社員は、皆さんの発言をよく聞いています。年齢の近い皆さんの発言は、ある意味、新入社員にとって「自分が入ったこの会社がどういう会社か」を大きく印象付けるものです。

ちょっと考えてみてください。新しい環境にワクワクし、「これから頑張ろう!」と期待して入社してきたのに、先輩社員が「仕事が面倒」「顧客の相手が大変」などのマイナス発言を繰り返す、ため息が多い、楽しくなさそう。そんな状態では、新入社員はどう思うでしょうか。

同じ発言でも、「仕事の進め方を効率化したほうが良さそう。工夫のしがいがある!」「顧客の話は、よく聞くと本当のニーズが分かって面白い(^^)」とプラスの発言に言い換えれば印象は全く違います。プラスの発言は伝播しますから、職場のよい雰囲気づくりにもつながります。発言一つでも新入社員に良いお手本になるよう、何より、皆さん自身も新入社員も、ワクワク仕事に向き合えるようにしていきましょう。

3)3S(整理・整頓・清掃)を徹底する

5S(整理・整頓・清掃・清潔・しつけ)の大切さについては、皆さんもよく知っていると思います。特に大事なのは、整理・整頓・清掃の「3S」です。特定の私物を除き、会社は「公の場、公のもの」という感覚を持つことが大切です。

この意識が定着しているかどうかは、床に落ちているゴミを拾えているかどうか、PC内にある資料を誰が見ても分かるように整理・整頓できているかなどを見れば、すぐに分かります。

4)ちゃんと報告をする、コミュニケーションを取る

報告、情報の共有はとても大事です。ピンチやトラブルを防ぐことや、チャンスやアイデアを生み出すことにつながります。皆さんも報連相(報告・連絡・相談)が必要なことは分かっていると思いますので、新入社員のお手本になるよう、報告など、周りとしっかりコミュニケーションを取ることを改めて見直してみましょう。

おそらく、新入社員は、皆さんの真似をします。皆さんが周りとしっかりコミュニケーションを取っている姿を見れば「こういうふうに報告や話をすればいいのだな」と分かります。新入社員の手本となるよう特に心がけてほしいことは2つです。

1つ目は、悪い情報から先に報告することです。トラブルの芽を早い段階で摘み取る必要があるためです。2つ目は、悪い情報でもはっきりと話すことです。「叱られるのではないか……」と小さな声になりがちですが、悪い情報だからこそ正確に伝えなければなりません。また、テレワークの場合は、チーム全体に対してチャットツールやメールで「トラブルです」など、悪い情報であることがすぐに分かるように知らせましょう。

5)時間を意識して仕事に取り組む

ビジネスの世界では、時間を守るのが当たり前です。どのような仕事でも、全くの一人で完結することはほぼないでしょう。遅れれば、誰かの時間をロスさせてしまうかもしれないのです。締め切りを常に意識し、「20日の18時」のように、具体的な日時を設定しましょう。スケジュールを立てたり、人に伝えたりする場合、「今日中」や「早めに」といった曖昧な表現は使わないほうがいいでしょう。

また、「限られた時間で、最も効果的な仕事をする」ことが求められます。計画を立てて、滞りなく進めることを意識してみましょう。経験が足りずに、計画通りにいかないのは仕方のないことです。大切なのは、計画と誤差が生じた理由を明らかにして改善することと、徐々に誤差を小さくしていくことです。

5)仕事を通じて何を実現させたいのかを明確にする

新入社員だったときは、まずは目の前の仕事を覚えるのに精いっぱいだったかもしれません。完全ではないかもしれませんが、仕事についてある程度覚えたこの段階で、改めて、皆さんには、「自分は何のために仕事をしているのか」「自分はこの仕事を通じて何を実現させたいのか」について考えてみてほしいのです。

入社したときに抱いていた「会社に入ってこれがしたいんだ!」という“志”を思い出してみるのもよいでしょう。そうすると、新入社員に、「自分の仕事に対する思い」を「自分の言葉」で話せるようになります。響き方がきっと違うはずです。

3 仕事を「自分ごと」として捉え、自ら考え動く

1)仕事の範囲を広げる

仕事を依頼された場合、皆さんはどこまでを「自分の仕事」として捉えますか? 例えば、ある仕事に1から10までの工程があり、そのうちの2~3の工程を上司に任されたとします。2~3の工程だけしか意識しないと、その仕事を断片的にしか捉えられません。そうではなく、前後の仕事、理想的には全ての仕事を把握しましょう。

仕事の流れを全体的に把握できれば、自分がやっている仕事の意義が分かります。そうなると、「上司に任されたから仕事をする」ではなく、「○○のために仕事をする」という感覚が持てるようになります。

2)継続的に勉強する

自分の知識や能力を高めるための勉強を継続することは、とても大切です。私は全ての社員が自己研さんを積むことを期待しており、特に考え方が柔軟な若手社員のうちにたくさん勉強してもらいたいです。

勉強は仕事に直接関係することだけではなく、趣味なども含まれます。対象を問わず、1つのことをしっかりと学ぶ過程で、自らの考えをブラッシュアップする、情報収集の方法を工夫する、新しい人との出会いがあるなど、さまざまな効果があります。

3)積極的に発言・行動する

上司や先輩の指示・指導を素直に聞くことは大切ですが、上司や先輩が常に正しいことを言っているとは限りません。ただむやみに反抗しろという意味ではなく、常に「それは本当か?」という意識を持っておくのも重要だということです。

例えば、社内で“当たり前”といわれることでも疑ってみましょう。長年携わっている人には気が付かないことでも、フレッシュな視点を持った皆さんなら指摘できることがあるものです。「長年続けてきたようだけど、会社にとって、これは改めたほうがよい」と気付いたことがあれば、遠慮なく発言してください。会社にとって前向きな意見であれば、私は大歓迎です。そしてそうした皆さんの姿は、新入社員にも伝播していきます。

4 教えられるだけでなく「教える」

1)新入社員の相談役になる

皆さんが入社したときのことを思い出してみてください。期待と不安があったはずで、今の新入社員も同じです。テレワークなどでリアルで顔を合わせる機会が少ない場合は、不安のほうが大きいかもしれません。そうした新入社員をフォローできるのは、新入社員の気持ちが分かる、年齢も近い皆さんです。ぜひ、新入社員の良いお手本であると同時に、頼れる相談役となってください。

2)世の中は、与えてもらい、与えることで成り立っている

皆さんはこれまで、上司や先輩社員にさまざまな面でお世話になってきたはずです。おそらく、皆さんが感じている以上に、上司や先輩社員は皆さんのことを気遣い、陰に日向に支えてくれています。

私は、皆さんに「だから今すぐ○○をしろ」と言いたいわけではありません。世の中とはそのように、与えてもらい、与えることで成り立っているということを認識してもらいたいのです。

皆さんは、これからも上司や先輩社員からさまざまなものを与えてもらうはずです。もちろん、何らかの形でお返しすることができれば、素晴らしいことです。ですが、一番の「恩返し」は、自分たちが上司や先輩社員から与えてもらったように、皆さんが持っているものを、惜しみなく新入社員に与える=教える、伝えることです。

皆さんのこれからの活躍に、私は大いに期待しています!

以上(2024年4月更新)

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【契約書の実務(2)】なぜ、印鑑レスでも押印が求められるのか?

書いてあること

  • 主な読者:契約実務に慣れていない経営者、担当者
  • 課題:「印鑑レス」といわれるが、本当に押印は必要ないのだろうか?
  • 解決策:多くの場合、法的に印鑑は不要だが、相手から求められることが多いので基本的なルールを押さえておく

1 署名と記名の違い

署名と記名は似た言葉ですが、明確な違いがあります。

  • 署名:本人が自筆で自分の名前を記すこと
  • 記名:署名以外の方法(ゴム印、パソコンの印字など)で自分の名前を記すこと

署名または押印があると、その文書はその当事者の意思に基づいて真正に作成されたものだと推定されます。「『署名』または『記名+押印』」があればよいので、署名があれば押印は不要ですが、実務上は押印することが多いです。一方、記名の場合、押印がなければ署名と同様の効果はありません。

契約当事者が個人の場合、戸籍上の姓名を記載するのが原則です。ただし、個人を明らかに特定できる場合、俗称やペンネームで署名等とすることができます。また、個人事業主の場合、「○○商店」などの商号や屋号で署名等をすることもできます。ただし、契約内容に関わる主体が明らかであることが求められるので、商号や屋号だけで契約をすることはできません。例えば、「○○商店こと□□□□」(「□□□□」は個人事業主名)などと記載する必要があります。

法人の場合、「商号」「代表資格」「代表者の氏名」を記載する必要があり、通常はそれに続いて「登録印(実印)」を押すことになります。ただし、実務的には「登録印(実印)」とは別に「認印(契約印)」を用意している会社が多いでしょう。

なお、一定の要件に該当する場合、契約当事者が代表者ではなく事業部長等でも、法律上有効なことがあります。例えば、事業部長等が会社法で定められた「支配人」に該当し、当該事業に関する包括的な代理権を有している、あるいは個別の契約締結につき法人から代理権が与えられているような場合です。なお、会社法第10条および第11条で、支配人は会社等から選任された商業使用人で、「その事業に関する一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限を有する」とされています。

2 多くの場合、押印は不要

契約書に押印するのは当たり前と考えられていますが、実は多くのケースで押印が法的に求められているわけでありません。つまり、押印がなくても契約は有効になります(不動産会社が作成する重要事項説明書など、押印が必要な文書もあります)。にもかかわらず押印がされるのは、押印によってその文書が真正であると推定しているからです。

一方、電子契約も浸透しています。電子契約では押印はしませんが、電子署名を利用して契約を締結します。認定を受けた認証機関で手続きを行って電子文書をやり取りすれば、電子署名にも押印と同じ効力が認められます。

このような事情から「印鑑レス」が進んでいるわけですが、契約は相手の意向も大きく関係します。自社が押印不要である旨を説明しても、相手方が希望する場合、それに応じなければ契約が進まないことがあるのも事実です。そこで以降では、契約に伴う印鑑の利用に関する基本的なルールを紹介します。

3 押印に関する基本的なルール

1)押印に使用する印鑑の種類

通常のビジネスの契約書であれば、登録印(実印)でも認印(契約印)でも、契約書の法的効力は同じです。ただし、重要な契約のときは、「第三者が勝手に押印をした」といったトラブルを避けるため印鑑登録されている印を使用し、併せて印鑑登録証明書を提出することもあります。また、法人の場合、登記簿謄本、個人の場合は運転免許証等の身分証明書を確認することも、トラブル防止の観点からは大切です。

2)押印する位置

署名や記名に掛からないように押印されている場合や、掛かるように押印されている場合がありますが、印影がはっきりしていれば、どちらでも問題ありません。

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3)契印と割印に関する注意点

契印と割印は、どちらも契約書の偽造防止等のためにするものです。

契印は、複数ページの契約書を作成したときに、各ページが1つの書面を構成することを示します。また、勝手に差し替えられたりしないようにもしています。

割印は、複数の部数の契約書を作成したときに、各書面が同一または関連したものであることを示すために、各書面にまたがって押印することをいいます。

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契印や割印がなくても、法的な問題はありません。また、押印する印鑑の種類や押印する者についても決まりはありません。ただし、契印や割印の意味を鑑みて、重要な契約の場合は署名等に使った印鑑を用いて、全ての契約当事者が契印や割印をするのがよいともいえます。

4 収入印紙と消印に関する注意点

1)印紙税とは

印紙税は、日常の経済取引に伴って作成する契約書や金銭の受領書などに課税される税金です。印紙税の対象となる文書を「課税文書」と呼びます。ビジネス上の契約書の多くは課税文書なので、印紙税の納付が必要になることが多くなります。課税文書は20種類あり、印紙税額が異なります。契約書がどの種類に該当するかは、契約書のタイトルではなく内容で判断します。

2)電子契約の場合の印紙の扱い

電子契約の場合、現時点では印紙税は課税されません。印紙税は課税文書の作成者が納税者となります。ここでいう「作成」とは、紙の書面にて交付することをいいます。つまり、電子契約は紙の書面ではないので課税文書の「作成」に該当せず、現状では印紙税は課税されない扱いです。

3)印紙税の納付の方法

印紙税は契約書に収入印紙を貼り付けることで納付します。貼り付ける場所は契約書上部の余白部分とするのが通常ですが、特に制限はありません。また、収入印紙は、原則として作成した契約書の全てに貼り付けます。

収入印紙を貼り付けたときは、収入印紙と契約書の双方に掛かるように押印します。これを「消印」と呼びます。消印は、収入印紙の再使用を防止するためのものなので、押印する印鑑は何でもよく、ボールペンなどでチェックを付けることでも問題ありません。

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4)印紙税の負担者

契約書は、契約当事者がそれぞれ1通ずつ保管するのが通常ですが、課税文書を2人以上の者が共同して作成した場合は連帯して印紙税を納める義務を負います。そのため、自己が所持している契約書のみに印紙を貼っても、印紙税の納付義務を完全に履行したことにはならず、他の者が所持している契約書にも印紙を貼る必要があります。

ただし、契約当事者間の関係では、各自が負担する割合を自由に決めることが可能であり、特定の契約当事者が全額負担するといった合意も可能であるので、事前に負担方法を相手方に確認しましょう。

5 契約締結日に関する注意点

契約書に記載する契約締結日は、契約内に特段の定めがない限り、原則として契約の効力発生日となり、全ての契約当事者の署名等が完了した日とするのが通常です。例えば、全ての契約当事者が集まって手続きをするときは、その日が契約締結日となります。また、郵送でやり取りするときは、最後の契約当事者が署名等をした日となります。

なお、契約締結日と効力発生日が違う場合は、契約の効力がいつから発生するかが分かるように記載します。

ただし、実務的には契約締結日を違う日にすることもあります。この場合、特に注意が必要なのが、過去の日付に遡って契約を締結する場合です。「過去の実態と乖離(かいり)している」「過去の法律や制度との整合性が取れていない」など、さまざまな問題が発生する恐れがあります。他にも、契約当事者間で争いが生じた場合に、相手方からだまされて契約を結ばされた、などの主張がなされる恐れもありますし、脱税目的で過去の日付に遡らせたのではないかと税務署に疑われる恐れもあります。

このように契約締結日は法律上重要な意味合いを持っています。いずれにしても、契約締結日については、必要に応じて相手方や上司、法務担当者と相談するようにしましょう。

以上(2024年5月更新)
(監修 有村総合法律事務所 弁護士 小出雄輝)

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「賃上げ」の参考情報! 助成金、社会保険料、賃金規程などさまざまな観点から一挙紹介!

書いてあること

  • 主な読者:2024年に賃上げをするか否かについて悩んでいる経営者
  • 課題:賃上げの判断が難しく、何を基準にすればいいのかよく分からない
  • 解決策:重要な判断基準は自社の業績。社会保険料や賞与・退職金への影響、賃金のどこ(基本給、手当など)を賃上げすべきかなども考慮する

1 「賃上げ」に悩む全ての経営者の方へ

連日のように話題になっている賃上げ(定期昇給やベースアップ)。ただ、次のようなことが気になって、自社はどうすべきか決めあぐねている経営者も少なくないはずです。

  • そもそも、賃上げって本当に必要なのか?
  • 社会保険料や賞与・退職金への影響は大丈夫か?
  • 賃金のどこ(基本給、手当など)を賃上げすべきか?
  • 賃金規程は、今のままで大丈夫か?

以降で、このような悩みや疑問の解決に役立つ記事を多数紹介しますので、御社の賃上げの検討にぜひご活用ください。

2 そもそも、賃上げって本当に必要なのか?

賃上げが必要かを検討する際は、自社の業績はもちろん、物価高など社員の生活、同業他社の状況、春闘の動向など、さまざまな情報に目を通す必要があります。次の記事が参考になります。経営者317人を対象にした、賃上げに関するアンケート結果も紹介しているので、ご確認ください。

2024年「賃上げ」に対する経営者317人の本音。あそこの企業は賃上げするのか?経営者317人に対し、「賃上げを実施するか」「賃上げ率は何%か」「賃金のどこ(基本給、手当など)を上げるか」などを聞いたアンケート結果を紹介します。


「賃上げ」はどこまで必要? 労働分配率や賞与・退職金を基準に考える賃上げを検討する際に知っておきたい、「労働分配率」の考え方、賃上げの影響を回避する「基本給非連動型」の賞与・退職金制度などを紹介します。


3 社会保険料や賞与・退職金への影響は大丈夫か?

賃上げは社員にとっては嬉しいことですが、毎月の賃金額が変われば、社会保険料の負担も増えます。また、会社の制度によっては、賃上げの影響範囲が賞与や退職金に及ぶこともあるので注意が必要です。次の記事が参考になります。賃上げの負担を軽減する助成金なども紹介しているので、ご確認ください。

「賃上げ」で使える助成金! 業務改善助成金など5種類を紹介賃上げに関する中小企業向けの助成金等を5つ取り上げます。それぞれ支給額や要件等の情報に加え、専門家のワンポイントアドバイスも紹介します。


最低賃金の改定で会社の賃金負担はどれだけ重くなる?法律によって定められた最低賃金制度の仕組みを紹介し、最低賃金に基づき賃金を見直した場合、人件費負担などにどのような影響があるのかをシミュレートします。


賃上げの影響を受けにくい「基本給非連動型」の賞与・退職金制度注目される「賃金引き上げ」について、適正水準の見つけ方、賞与との関係、社会・労働保険料などへの影響、経営者が検討すべきポイントを紹介します。


2024年10月スタートの「社会保険の適用拡大」で負担が増える会社とは?2024年10月1日からの「社会保険の適用拡大」に際し、労働時間が流動的なシフト制パートがどのような場合に社会保険に加入するのかをシミュレートします。


4 賃金のどこ(基本給、手当など)を賃上げすべきか?

基本給を賃上げする場合、基本給がどのような要素で構成されているか(年齢、勤続年数、能力、職務のグレードなど)によって、賃上げへの影響が変わってきます。また、基本給は、一度上げると「賃下げ」が難しいという理由で、手当や賞与を増やすことを検討する会社もあります。次の記事が参考になります。

「基本給」の賃上げは属人給と仕事給のウエイトに注意!基本給は、年齢、勤続年数、能力、職務のグレードなど複数の要素で構成されます。各要素が基本給に占めるウエイトが、賃上げにどう影響するのかを掘り下げます。


中小企業に賃上げは必要? 会社負担が少ない「手当」を使ったアプローチ賃上げに踏み切れない経営者向けに、「賃金センサス」を使って自社の賃金水準の確認しつつ、会社負担の少ない「手当」で実質的な賃上げを図る方法を紹介します。


賃金の悪平等をなくす「調整給」はどこまで自由に支給できるか?賃金規程通りに支払うのが妥当でない場合に支給する賃金「調整給」。曖昧な運用でトラブルにならないよう、支給するケースや支給期間の考え方を紹介します。


5 賃金規程は、今のままで大丈夫か?

賃上げをする場合、自社の「賃金規程(就業規則)」の賃金テーブルなどを書き換える必要があります。また、その他にも、労働基準法上、必ず賃金規程に定めなければいけない項目などがあるので、まとめて見直しをしておきましょう。次の記事が参考になります。

「賃金規程」のポイントを理解すれば、賃金の基本ルールは大体分かる賃金規程に記載すべき事項を、絶対的必要記載事項(必ず記載すべき事項)と相対的必要記載事項(定めがある場合に記載すべき事項)とに分けて紹介します。


【規程・文例集】最新法令に対応した「賃金規程」のひな型賃金規程は、労働基準法を始めとする労働関係法令の改正状況を踏まえた内容にする必要があります。最新法令に対応した賃金規程のひな型を紹介します。


6 その他、賃金関係で見落としていることはないか?

賃上げ以外にも、「未払いや過払いなどのトラブル防止」「同一労働同一賃金の問題」など、賃金について押さえておくべきポイントがさまざまあります。次の記事が参考になります。

やらかしがちな賃金トラブルにご用心。未払いや過払いなどへの対処法賃金実務のイレギュラーな事態として「遅刻や早退の賃金控除」「未払い賃金の支払い」「過払い賃金の返還」の3つを取り上げ、法令上のルールを紹介します。


「家族手当」は本当にオワコンなのか? 諸手当のバージョンアップ諸手当の見直しのポイントを「1.経営者が方針を決める」「2.法令のルール(不利益変更や同一労働同一賃金)に注意する」の2つに分けて紹介します。


賃上げ時代に重要な「同一労働同一賃金」でビジネス的平等を実現職務の内容とその変更範囲が同じならば待遇も同じにし、異なる場合も違いに応じた待遇を実現する「均等待遇・均衡待遇」の基本的な考え方を紹介します。


「同一労働同一賃金」チェックリスト 御社の対応は本当に大丈夫?パート等が「均等待遇・均衡待遇」の対象になるか、正社員との間に待遇格差はあるかなど、同一労働同一賃金の状況を確認するためのチェックリストを紹介します。


【規程・文例集】賃金引き下げに関する労働協約と個別の同意書のひな型業績の悪化や社員の勤務成績の低下などに応じて賃金引き下げを行う際、労働組合や社員とトラブルにならないための労働協約と個別の同意書のひな型を紹介します。






以上(2024年4月作成)

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