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1 質問:ラーメン店はいくらの売り上げが必要か?
突然ですが、友人のAさんが独立して念願の夢であるラーメン店を開業することになりました。自己資金1000万円と銀行借入350万円で開業するとのこと。その他の条件は次の通りです(ここでは借入金の使途は考慮しません)。
- 年間固定費:600万円(借入金の支払利息を含む)
- 年間の元本返済額:70万円
- 限界利益率:30%
Aさんからの質問は、
いくらの売上を上げれば利益がでるか?
ということです。単純に固定費の600万円と返済額の70万円だけに注目し、「670万円(600万円+70万円)を超えれば大丈夫」とアドバイスしたら大問題で、限界利益率(限界利益/売上高)に注目する必要があります。
まず、元本返済額は、キャッシュ・フローとして捉えます。元本返済は費用ではなく、税引き後の手元資金から行うものです。そのため、70万円の元本を返済するためには、税引後利益として70万円を確保する必要があります。法人税等の税率を30%とした場合、税引後利益を70万円確保するために必要な税引前利益は次の通りです。
税引前利益 100万円=税引後利益 70万円 ÷(1-0.3)
従って、Aさんに必要な売上高は次の通りです。
Aさんに必要な売上高
={固定費600万円+目標の税引前利益100万円}÷限界利益率30%
=2333万円
ラーメン店の年間売上高が2333万円以上になれば、Aさんは借入金の元本返済に充てる資金を事業から得ることができます。
このように、一定の目標利益を達成するために必要な売上高を管理会計では「目標利益達成売上高」といいます。なお、利益をゼロ(損益トントン)にする売上高は「損益分岐点売上高」といい、先ほどの例だと「固定費÷限界利益率=600万円÷30%=2000万円」になります。企業としては損益分岐点を上回るだけでは不十分であり、さらなる利益アップを図っていかなければなりません。この記事では、基本的な利益アップ戦略や応用事例を通じて、管理会計的な考え方を紹介します。
2 利益アップ戦略の管理会計的考え方
1)利益の仕組みから考えられる利益アップ戦略とは
利益(もうけ)とは、
限界利益(売上高-変動費)が固定費を上回ること
です。変動費と固定費とは、
- 変動費:販売数量などに応じて増える材料費など
- 固定費:販売数量に関係なく生じる人件費など
といったものです。

利益アップのためには、限界利益アップ、固定費ダウンの2つの戦略が考えられます。限界利益アップ戦略は、さらに売上単価アップ戦略、売上数量アップ戦略、限界利益率アップ戦略の3つに分けられます。
2)限界利益アップ戦略
1.売上単価アップ戦略
Aさんの例で、売上単価アップ戦略について考えます。初年度の売上高は次の通りで、目標売上高には達しませんでした。

そこで、平均単価を1割アップする売上単価アップ戦略を採用したとします。変動費率(70%)、売上数量(1万9500杯)に変化なしとして、売上高は次の通りとなります。売上単価1割アップにより、利益はマイナス15万円から43万5000円に増えます。

2.売上数量アップ戦略
次に売上数量アップ戦略を採用して、売上数量が約15%アップの2万2425杯になった場合の売上高は次の通りとなり、借入金の元本が返済可能な利益72万7000円が確保できます。なお、ここでは法人税等を考慮しません。

3.限界利益率アップ戦略
限界利益率アップ戦略を採用したら、売上高はどのようになるでしょうか。限界利益率アップは変動単価ダウン(低価格の原材料へ変更など)に他なりません。変動単価1割ダウンの場合は次の通りとなり、利益はマイナス15万円から121万5000円にアップします。

3)固定費ダウン戦略
固定費ダウン戦略(人件費や減価償却費、賃借料などの削減)を採用して、固定費が1割ダウンした場合、売上高は次の通りとなり、利益はマイナス15万円から45万円にアップします。

3 応用事例1:どの商品がもうかるか
B社では、X、Y、Zの3種類の商品を販売しており、前年度の実績は次の通りです。どの商品が最ももうかり、重点を置いて販売したらよいかを考えてみましょう。

多品種の商品を仕入れ、あるいは製造している会社では、どれが最ももうかる商品であり、重点を置いて販売すべきであるかを決定する場合、それぞれの商品に固定費を何らかの基準で配賦した後の、利益の大きさを基準にしていることが多いようです。
図表を見てみると、利益はX商品が60万円、Y商品がマイナス10万円、Z商品が30万円となり、これらの商品のうち最も利益がある商品はX商品ということになります。
しかし、固定費は期間に対応して発生するもので、商品をどれだけ販売しても変わらないものです。従って、売上高から変動費を差し引いた限界利益の大きいY商品がもうかるということになります。
次に限界利益率に注目して、限界利益が同じならば限界利益率の大きい商品に力を入れます。B社では、X商品にまず重点を置き、次にY商品に力を入れて販売することになります。
4 応用事例2:赤字商品は中止すべきか
C社では、Y、Zの2種類の商品を製造販売しています。Y商品は常に赤字で、今後も現状のように推移すると予想されています。そこでC社の社長は、Y商品の製造を中止すべきか検討中です。中止すべきか否かを考えてみましょう。

Y商品の製造を中止した場合の採算は次の通りで、利益がマイナス160万円と悪化しています。

これはY商品が負担していた固定費320万円が、Y商品の製造を中止しても発生するからです。Y商品の製造を中止しても固定費は変わらないのに、Y商品の限界利益300万円がなくなったため、300万円の利益減になります。従って、限界利益がプラスならば、製造を中止すべきではありません。この判断は「固定費が変わらない(削減できない)」という前提が成立する場合に限られます。もしY商品に紐づく固定費(専用設備や専任スタッフなど)を削減できるのであれば、それを考慮したうえで判断する必要があります。
5 応用事例3:赤字受注をするかどうか
D社は、次の原価資料にある通り、すでにY、Z商品を1台ずつ販売しているとき、新たにZ商品について1台190万円で追加注文がありました。
Z商品の原価は210万円(変動費175万円+固定費35万円)なので、追加のZ商品単体でみると、赤字になります。しかし、自社の人員・設備に余力があり、受注しても値崩れの心配がない場合、この注文を受けるべきかどうかを考えてみましょう。

Z商品を1個追加受注しても会社全体の固定費の合計は85万円で同じです。Z商品1個を190万円で追加受注しても、増加する費用は変動費の175万円だけです。そのため、会社全体では利益が15万円増加します。従って、受注したほうが有利となります。

赤字受注に対する考え方は一様ではありません。赤字受注はその商品単体で製造の継続か中止かを判断するのではなく、会社全体の損益を考慮して決定すべきでしょう。
また、赤字商品でも生産量が増加すれば固定費が分散されて黒字転換できるものもあります。ただし、見込み通りに受注が伸びない場合には、生産を継続すれば赤字が積み上がるだけです。大切なのは、状況の変化を見ながら生産を中止する時期を適切に見極めることです。
以上(2026年9月更新)
(監修 税理士 石田和也)
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