目次
1 常時101人以上の会社では、男女の賃金差異の公表が義務化
2026年4月1日から、女性活躍推進法が改正され、
社員数が常時101人以上の会社では、自社が雇用する「男女の賃金差異」を、事業年度ごとに公表することが義務化(社員数が常時100人以下の場合、公表は任意)
されます。具体的には、新年度の開始からおおむね3カ月以内に、図表の赤字の内容(前年度の実績)を、厚生労働省「女性の活躍推進企業データベース」などで公表する必要があります。
【男女の賃金差異の算出方法】
- まず、雇用形態別に「女性の平均年間賃金(円)」「男性の平均年間賃金(円)」を算出する
平均年間賃金(円)=前年度に支払った賃金の総額÷社員数(各月の在籍者数の平均など) - 雇用形態別に「男女の賃金差異(%)」を算出し、公表する
男女の賃金差異(%)=女性の平均賃金(円)÷男性の平均年間賃金(円)

男女の賃金差異が生じる理由はさまざまで、「男女の平均年齢の違いから、年功給の平均額に差異が出る」など、やむを得ないケースもあります。一方で、確実に対処しなければならないのが、違法な「男女差別」による賃金差異です。主なものは、次の3つです。
- 性別の違いだけを理由に賃金に差を付ける(労働基準法)
- 性別の違いだけを理由に職務に差を付ける(男女雇用機会均等法)
- 産休などを取った女性の賃金を極端に下げる(男女雇用機会均等法、育児・介護休業法)
これらに該当すると、社員とのトラブルに発展し、民法の損害賠償請求を受ける可能性があります。特に1.については、労働基準法違反の罰則(6ヵ月以下の懲役または30万円以下の罰金)もあります。
「令和の時代に、こんな露骨なことをする会社があるのか」と思うかもしれませんが、まだ法整備が進んでいない頃に作られた社内規程が見直されないまま、知らず知らずのうちに「男女差別」に当たる運用をしてしまうケースなどもあります。次章以降でポイントを紹介しますので、念のため確認しておきましょう。
なお、この記事のテーマからは逸れますが、2026年4月1日からは男女の賃金差異と併せて
「女性管理職比率(管理職に占める女性の割合)」を公表することも義務化/strong>
されます。ここでいう管理職とは、「課長級」と「課長級より上位の役職(役員を除く)」の合計です。なお、「課長級」とは、
- 事業所で通常「課長」と呼ばれている者であって、その組織が二係以上からなり、若しくは、その構成員が10人以上(課長を含む)のものの長
- 同一事業所において、課長の他に、呼称、構成員に関係なく、その職務の内容及び責任の程度が「課長級」に相当する者(ただし、一番下の職階ではないこと)
のいずれかに該当する者をいいます。
(注)一般的に「課長代理」や「課長補佐」については、「課長級」に該当しません。
2 ケース1:性別の違いだけを理由に賃金に差を付ける
労働基準法には、「性別の違いだけを理由に賃金に差を付けてはならない」というルールがあります。「賃金に差を付ける」ケースに当たるのは、例えば、
- 男女で基本給の額が異なる
- 特定の手当を男性にだけ支給し、女性に支給しない
- 男女別の賃金表を設けており、勤続年数に応じて昇給額が異なる
などです。
労働基準法では、「性別の違いだけを理由に賃金に差を付けている」の具体的な判断基準が明示されていませんが、過去の裁判(東京地裁平成4年8月27日判決)では、
男女の「職務内容・責任・能力が同じ」で「勤続年数や年齢も比較的近い」場合、賃金に差を付けるのは違法(性別の違いだけを理由に差を付けていると判断できる)
という考えが示されています。つまり、「男女の働き方が同じなら、賃金も男女平等にしなければならない」ということです。
なお、労働基準法では、
賃金について、女性を男性よりも「不利に扱う」だけでなく「有利に扱う」のもNG
です。例えば、「育休期間のうち、最初の○日間は有給とする」という制度を設ける場合、「女性の育休は有給とするが、男性の育休は無給とする」といった運用はできません。女性が働きやすい環境づくりは大切ですが、制度設計は男女平等に行う必要があります。
3 ケース2:性別の違いだけを理由に職務に差を付ける
男女雇用機会均等法には、「性別の違いだけを理由に、次の内容について差を付けてはならない」というルールがあります。
- 配置転換(業務の配分、権限の付与を含む)、昇進、降格、教育訓練
- 住宅資金の貸付けなどの福利厚生の措置
- 職種、雇用形態の変更
- 退職勧奨、定年、解雇、労働契約の更新
第2章の労働基準法のルールだけを見ると、「男女で職務が違う場合、賃金差異があっても違法ではない」と考えてしまいそうですが、この男女雇用機会均等法のルールがあるため、
合理的な理由もなく、男女で就くことのできる職務に差を付け、その結果、男女の賃金差異が生じる場合は違法
になります。
過去の裁判(東京地裁平成14年2月20日判決)では、「総合職」「一般職」のコース別人事を設けていた会社が、賃金の高い総合職には男性ばかりを、賃金の低い一般職には女性ばかりを当てはめていて違法と判断されたことがあります。社内規程上は男女双方に開かれたポストであっても、実際にそのポストに就いている社員(過去に就いていた社員を含む)の性別が極端に偏っている場合、配置の見直しが必要かもしれません。
なお、個人の経験や能力の違いによって職務に差を付けることは問題ありませんが、その裏で「会社として、職務に就くために必要な能力を身に付ける教育訓練を実施しているが、教育訓練の対象を男性に限定している」といった運用がされている場合は、違法になります。
4 ケース3:産休などを取った女性の賃金を極端に下げる
男女雇用機会均等法と育児・介護休業法には、「妊娠や出産をしたり、産休や育休を取ったりしたことを理由に、不利益な取扱いをしてはならない」というルールがあります。賃金に関する不利益な取扱いの例としては、
- 基本給を引き下げる
- 賞与支給額や昇給額の一部または全部をカットする
などが挙げられます。不利益な取扱いが禁止されているのは、産休や育休などの制度の利用を妨げないためです。
ただし、賞与支給額や昇給額のカットについては、少し判断が複雑です。例えば、賞与の査定期間中に産休を取った女性がいる場合、
その女性は、休業しなかった他の社員よりも査定期間中の仕事量が少なくなるため、その点を賞与支給額に反映しないと、他の社員にとって不公平になる
という問題があります。
過去の裁判(最高裁第一小法廷平成15年12月4日判決)では、ある学校が「賞与の査定期間の90%以上を勤務しない場合、賞与は支給しない」というルールに基づき、査定期間中に産休を取った女性の職員に賞与を支給せず、トラブルになったケースがあります。裁判では、
- 賞与の査定期間の出勤すべき日数に、産休の日数を算入することは、法令で認められた休業制度の意義を失わせるので違法である
- 賞与支給額を、産休による欠勤日数の分だけ減額すること自体は違法でない
という判断がされています。つまり、
女性が査定期間中に産休や育休を取っていても、出勤した分の仕事については評価して賞与を支給しなければならない
ということです。
5 (補足)違法ではないものの、見直しが必要なケース
ここまで「賃金差異が違法なケース」を紹介してきましたが、これ以外に「違法ではないものの、見直しが必要なケース」というものもあります。
例えば、第1章で紹介した「男女の平均年齢の違いから、年功給の平均額に差異が出る」というケースは、賃金制度の運用と直接関係がなく違法とはいえません。しかし、その裏に「男性に比べて女性の平均勤続年数が明らかに短い」という事情がある場合、見直しが必要です。
女性が定着しない会社によく見られるケースとしては、次のようなものがあります。
- 産休や育休などの制度は整備されているものの、「職場が常に忙しく、妊娠や出産を歓迎する雰囲気がない」などの理由で、制度を利用しにくい
- 女性の管理職が少なく、キャリアアップが見込めない雰囲気がある
対策としては、
- 会社として女性の活躍推進に積極的に取り組みたい旨を、経営者が進んでPRする
- 産休や育休などの制度の存在を、定期的に社内に周知する
- 産休や育休を取る社員には、出産・育児の妨げにならない範囲で、職場の状況などを共有する機会を設け、休業終了後にスムーズに職場復帰できるようにする
- 社員とキャリア形成に関する面談を定期的に実施し、キャリアアップの希望を聞く
などが挙げられます。なお、一番最後の「キャリア形成に関する面談」については、女性自身がキャリアアップを希望しないケースもありますが、それが本人の生活事情や価値観によるものなのか、あるいは「女性は○○職に就けない」などの誤解をしているからなのかは、慎重に確認する必要があります。
上のようなケースは、「賃金差異が違法なケース」に比べると対処の優先度は低く、また是正にもそれなりの時間を要しますが、冒頭でも触れた通り、世間全体が男女の賃金差異に注目している状況ですので、やはり計画的に是正に取り組む必要があります。
以上(2026年3月更新)
pj00654
画像:gugu-Adobe Stock















