令和7年10月1日に施行される育児・介護休業法の改正と関連した両立支援指針の内容を解説し、中小企業が両立支援を経営施策として取り入れる際の実践的なポイントをご紹介します。
2025年9月「日経ビジネス電子版」過去30日間の人気記事ベスト10
日経ビジネス電子版では、働き方の変化やDX(デジタルトランスフォーメーション)への対応、SDGs(持続可能な開発目標)対策など、旬なテーマの課題解決に役立つさまざまなコンテンツを提供しています。
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アイデアと技術が化学反応! 中小企業×大学の最強タッグ術②
1 企業事例から「産学連携」のイメージをつかもう!
産学連携とは、
企業が大学や研究機関と協力し、研究者の知見や最新技術を取り入れる取り組み
です。
「産学連携とはどんなものか」というイメージをつかんでいただくため、
産学連携により、こどもたちの世界観を広げる教育プログラムを開発した企業「シンクアロット」
にインタビューを実施しました。研究者との連携をどのように始め、どんな成果を得たのかを以降で詳しくご紹介します。また、巻末では産学連携を検討する際の基本的な流れと、利用可能な支援制度についても記載しているので、興味がある人はぜひご確認ください。
なお、この記事は後編です。前編では産学連携により、今までにない美味しいデカフェコーヒーを生み出した企業の事例を紹介しています。
2 「こどもたちに、世界観を広げるための平等な機会を与えたい」シンクアロット

「こどもたちの世界観を広げる」をビジョンとして掲げるシンクアロット。代表の漆間康介(うるま こうすけ)さん。
同社は2018年の設立以来、保育園・幼稚園(以下、園)の未就学児向け教育プログラム「せかいタッチ」を中心に事業を展開しています。「せかいタッチ」は、教材を通じて海外の自然や文化、言葉に触れ、さらに現地園児とのオンライン交流を組み合わせ、こどもたちの心の育ちを支援するサービス。未就学児教育の現場に科学的な体験と学びを届けています。
1)産学連携に至った経緯
漆間さんは、自身の海外赴任経験から「新しい世界に触れる体験が人の視野を広げる」と確信。海外・異文化と交流することで、異なる人や文化に関心を持つ機会を、その環境にかかわらず与えたいと考え、サービスを立ち上げます。しかし、
教育サービスの効果を客観的に示すのは容易ではなく、科学的裏付けが不可欠
でした。
そこで、当時参加していた多摩イノベーションエコシステムを通じて、効果検証に協力してくれる大学の研究者を探すことに。数人の先生と面談を重ねた結果、国際基督教大学で発達心理学を研究している直井望(なおい のぞみ)上級准教授と出会います。
直井上級准教授が「多様性や文化がこどもたちに与える影響」に関心を示したこともあり、両者のニーズが一致して「せかいタッチ」の共同研究を行うことになりました。
2)産学連携だからこそできたこと
研究開始時、最大の課題は「こどもたちの世界観や好奇心をどう測るのか?」でした。当時はまだ効果を測るノウハウもなく、何もかも手探りの状態だったのです。
当初、シンクアロットは「こどもたちに手をあげてもらう」ことで効果を測る予定でしたが、直井上級准教授から「未就学児は肯定バイアス(『はい』か『いいえ』の質問をされたら『はい』と答えてしまう現象)が強く、単純な質問形式では正確な評価は困難である」との指摘が……。
そこで、シンクアロットと直井上級准教授は相談の上、
文字が読めないこどもたちでも視覚的に理解できる、イラストなどを多用したワークシート形式を採用しつつ、肯定バイアスがかからないよう、少人数グループにして効果を測る
という方法で、実験を行うことになりました。海外園との交流前後での変化を測定し、主体性や探究心、世界観の広がりを科学的に評価できる体制を構築したのです。

また、共同研究の過程で、サービス運営の仕組み自体を見直す契機も生まれました。当初は日本と海外、それぞれの園が1:1の交流を単発で行う想定でしたが、実験の結果、少ない回数の交流では、こどもたちはすぐに「海外のこどもたちと遊んだこと」自体を忘れてしまうことが分かりました。加えて、本サービスが「(海外・異文化に対する)バイアスを減らすことにつながっている」と科学的に実証するには、交流の回数が不十分であることも判明しました。
そこで、シンクロアットは
サービスの価格などを鑑みて複数園同時の交流に切り替え、年間の実施回数を増やす形
にサービスを再設計したのです。分析に基づいてサービスを見直した結果、現在では多くの園への「せかいタッチ」の導入が実現しています。

漆間さんは、
「産学連携があったからこそ、科学的根拠に基づいたサービス改善が可能になった」
と振り返ります。大学側の専門知識と研究手法を借りることで、単なる権威付けに留まらず、サービス内容の本質的改善につながることになりました。研究者との対話やデータ分析の結果、プログラムの構造や運用方法を見直すきっかけも得られ、事業の成長につながっています。
「権威付けだけに留めず、自社サービスの本質的価値を見直す機会として活用してほしいと思います。事業内容に共感してくださる先生と出会えれば、ハードルは決して高くなく、両者にメリットがあるのです」(漆間さん)
4 産学連携へのステップ
産学連携は想像よりも現実的な選択肢です。また、両者の取り組みを振り返ると、「教育機関側も、研究を社会に活かしたいと考えている」という見落としがちな観点もはっきりと見えてきます。
しかし、実際に一歩を踏み出そうとすると、「何から始めればいいのか」「費用はどうなるのか」といった疑問が出てきます。そこで最後に、産学連携を検討する際の基本的な流れと、利用可能な支援制度について整理します。
産学連携の一般的なステップは次の通りです。
- ニーズの整理:自社が解決したい課題や強化したい分野を明確にする
- 大学・研究機関とのマッチング:自治体や商工会議所、産業支援機関が窓口となる場合が多い
- 共同研究・試作開発の検討:技術的な可能性や知的財産の扱いを含め、協議を重ねる
- 契約・実施:契約締結後、研究や開発をスタート。進行管理や成果物の確認も重要
また、いざ共同研究先が見つかったとしても、資金面で不安を抱える企業も多いでしょう。そんなときに取り組みを後押しするのが、
国や自治体による補助金・助成金制度
です。代表的なものとしては、次の制度が挙げられます。
■中小機構「ものづくり補助金」■
https://seisansei.smrj.go.jp/subsidy_guide/subsidy_info/manufacturing_subsidy.html
■経済産業省「産学融合拠点創出事業」■
https://www.meti.go.jp/information/publicoffer/kobo/2025/k250219001.html
各自治体や金融機関でも、産学連携プロジェクトに対して独自の支援を行っている場合がありますので、自社のニーズがはっきりとしたらまずは相談してみるのも一手です。
以上(2025年10月作成)
pj50567
画像:シンクアロット
アイデアと技術が化学反応! 中小企業×大学の最強タッグ術①
1 未来を拓く「産学連携」という選択肢
「アイデアはある。でも、それを実現するための人材も技術も足りない……」。ビジネスにおける理想と現実とのギャップ、経営者なら誰しも一度はそんな歯がゆい思いをした経験があるのではないでしょうか。そこで検討したいのが大学や公的研究機関との「産学連携」です。
産学連携とは、
企業が大学や研究機関と協力し、研究者の知見や最新技術を取り入れる取り組み
です。基礎研究の成果を事業化につなげたり、若手人材との交流から新しい発想が生まれたりと、企業単独では実現できないことが実現できるようになるのです。産学連携と聞いて、何だか専門的で取っつきにくそうだというイメージがあるかもしれませんが、実は中小企業でも産学連携に取り組むところが増えています。
「産学連携とはどんなものか」というイメージをつかんでいただくため、
産学連携により、今までにない美味しいデカフェコーヒーを生み出した企業「ストーリーライン」
にインタビューを実施しました。研究者との連携をどのように始め、どんな成果を得たのかを以降で詳しくご紹介します。
なお、この記事は前編です。後編では産学連携により、こどもたちの世界観を広げる教育プログラムを開発した企業の事例を紹介しています。
2 「美味しいデカフェコーヒーで世界を変える」ストーリーライン

「ディープテックで持続可能な未来をデザインする」をビジョンとして掲げるストーリーライン代表の岩井順子(いわい じゅんこ)さん。2018年に同社を設立し、デカフェコーヒー(カフェインを抜いたコーヒー)の開発・製造を中心に事業を展開、現在、東京・神奈川・宮城の3カ所に拠点を置いています。
同社の代表的な事業が、大学との共同研究から生まれた「ZEN Craft Decaf Process™」。
従来のデカフェ製造では失われやすかったコーヒー豆本来の旨み成分を保ちながら、豆の破損を抑え、水の使用量も削減できる革新的な製法
です。
岩井さんが妊娠した娘さんのためにデカフェコーヒーを購入しようとした際、美味しいデカフェコーヒーがなかなか見つからずショックを受けたことが、起業のきっかけだったそうです。「美味しいデカフェコーヒーがない」問題の背景には、
- アフリカやアジアなどの生産国から、直接デカフェコーヒーを輸入することができず(デカフェ加工の工場がドイツ、カナダ、メキシコなどにしかない)、時間・コストがかかるため、安価で低品質な原料が使われている
- コーヒー豆本来の成分を保持する画期的な抽出技術が開発されていない
といった問題が潜んでいました。
この問題を解決するには、「生産国で高品質なデカフェコーヒーを製造し、直接輸出できる仕組み」が必要……。そう考えた岩井さんはストーリーラインを設立し、高品質デカフェコーヒー生産のための技術開発に取り組み始めます。
1)産学連携に至った経緯
岩井さん曰く、事業を起こした当初、カフェイン除去技術については教育機関との共同研究ではなく、民間企業との技術連携による協業を想定していました。しかし、相手企業の事情により、計画は頓挫することに……。
当時は廃業さえ考えていましたが、そんなときに人づてに出会ったのが、東北大学で「超臨界流体技術」を研究している渡邉賢(わたなべ まさる)教授でした。
そもそも、「超臨界流体」とは、対象物に圧力と熱を加え臨界点を超えることで、液体と気体両方の特性を併せ持った状態のことを指します。カフェインレスコーヒーの製造において、超臨界二酸化炭素を利用したカフェイン抽出法は既に存在はしており、一定の評価を得ていましたが、
従来の超臨界二酸化炭素抽出では、それまでの他の製法と同じように豆を水水(溶媒)に浸しながらカフェインを抽出するため、その過程で風味も同時に抜け落ち、飲みごたえ品質保持に欠けることが課題
でした。
そこで、ストーリーラインと東北大学はタッグを組み、
「水に頼らずにカフェインを取り除く」という独自製法を確立。これにより、超臨界二酸化炭素を溶媒に用いた全く新しい手法で、豆本来の風味を極力損なわない、高品質デカフェコーヒーの生産に成功
したのです。

現在は高品質デカフェコーヒーの量産に向けた研究を進めると同時に、カフェインレス市場拡大のために、企業独自の取り組みとして、体調に合わせてカフェイン量をコントロールする「カフェインコントロール」の実証店舗も運営しています。

2)産学連携だからこそできたこと
「ほぼ普通のコーヒーと変わらない味わいを持つデカフェコーヒー」――これこそが、研究者との連携によって実現した大きな成果。岩井さんは、「産学連携がなければ到達できなかった領域」と振り返ります。
もっとも、創業当時は研究者が社内にいなかったストーリーラインにとって、資金調達や技術理解は大きなハードルでした。さらにコロナ禍で機材導入も遅れ、思うように開発が進まない時期も続きました。それでも「生産国で高品質なデカフェコーヒーを作りたい」という軸を守り抜き、2026年からは国内での量産フェーズへ入ります。ゆくゆくは、生産地のインフラを担い、持続可能なコーヒー生産を実現する存在になること目指しているそうです。
「産学連携の最大の魅力は、技術を通じて人とのつながりが広がること」
と岩井さんは語ります。超臨界技術の研究者から機械分野の専門家を紹介されるなど、大学を起点にネットワークが次々と拡大しました。単独の企業活動では得られなかった知識や人材にアクセスできたことが、研究を大きく前進させています。
「まずは相談してみればいいじゃない、と思っています。研究者の先生方も、自分の研究が社会でどう役立つかを試したいと考えている。良い相手と出会えれば、お互いに大きなメリットになるはずです」(岩井さん)
以上(2025年10月作成)
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画像:ストーリーライン
投資のキャッシュ・フローを見積もる/設備投資の成果チェック(2)
1 実務の手順のキモは、予測数値の洗い出し
実際に現場で投資評価を行うときには、投資によって生じるキャッシュ・フローの見込みが重要になります。投資評価の作業フローは、
- 投資額を見積もる
- 「変化する収入」と「変化する費用」の金額を洗い出す
- 損益(PL)の予測、キャッシュ・フローを計算する
- 投資評価のための指標を計算する
- 計算結果をもとに経営者と検討
となります。
今回説明するのは、キャッシュ・フローの見込み作業に位置付けられる1.から3.の手順です。4.および5.で用いる「投資評価の指標」には、代表的なものが4つあり、本シリーズの次回以降で詳しく解説します。
2 キャッシュ・フローの見込みの作業とポイント
1)投資額を見積もる
まずは、業者に設備の見積もりを依頼するなどして投資額を見積もります。新しい機械の導入であれば、高額なものほどA社、B社と複数の見積もりをとることが多いでしょう。新しい店舗の出店であれば、不動産の賃貸や内装工事といったさまざまな支出の見積もりをとる必要があります。
2)「変化する収入」と「変化する費用」の金額を洗い出す
次に、投資によって「変化する収入」を予測し、それに伴って「変化する費用」を洗い出します。
- 変化する収入 … 製品の増産や新店舗での販売によって増える売上
- 変化する費用 … それに伴って増加する仕入代、人件費など
ここで重要なのは「投資によって変化するものだけを考える」という点です。投資の有無にかかわらず発生する費用は、投資の判断には影響しないため計算対象外とします。実務では、担当者の方が「せっかくの機会だから」と思って、関連しそうな支出を広く拾いすぎてしまうケースも見られます。
ただし、投資してもしなくても変わらない支出まで入れてしまうと、正確な指標(回収期間など)が計算できず、経営判断を誤らせるリスクを高めてしまいます。しっかり対象を絞り込むためにも「変化するもの」に集中して項目を収集することが大切です。
3)損益(PL)の予測、キャッシュ・フローを計算する
損益を予測し、キャッシュ・フローを計算するポイントは2つあります。
1つ目のポイントは、費用の分け方です。注目するのは、「売上と連動するかどうか」という点です。これは、ある支出が「変化する費用」にあたるかどうかを判断する基準にもなります。売上と一緒に増えたり減ったりする費用を「変動費」といい、反対に売上に関係なく、毎月決まった金額だけかかる費用を「固定費」といいます。
- 変動費 … 売上や仕事の量によって増減する費用(例:材料費、仕入代など)
- 固定費 … 売上の増減に関係なく一定額発生する費用(例:家賃、人件費など)
なお、すでに社内で管理会計を取り入れており、普段から変動費と固定費の区分に慣れている会社は注意が必要です。投資は、課題解決や収益拡大を目的に行うため、通常の費用と発生状況が変わってくることが多くあります。普段は固定費と考えていたものが、この投資に関しては変動費になるというケース(その逆のケース)もあり得るので、気を付けてください。改めて、この投資では「変動費なのか、固定費なのか」をゼロから考える心構えで臨みましょう。
2つ目のポイントは、シナリオを複数パターン作ることです。例えば、5000万円の売上が期待できるとします。その場合、5000万円だけでなく、4000万円(下振れ)と、6000万円(上振れ)のケースも含めた3つのシナリオを試算しておくと安心です。このとき、3つのシナリオをゼロから作るのは大変ですが、変動費・固定費を分けておけば作業が楽になります。
- 5000万円の売上を前提とした場合の変動費は「売上の〇%」、固定費は「一定額」と予測する
- そこから、売上4000万円のシナリオを作るときは、変動費の金額だけを売上に応じて再計算する
- 同じように、売上6000万円の場合のシナリオの場合も、変動費の金額だけを売上に応じて再計算する
このように、ある条件を変えて、複数のパターンを試算することを「シミュレーション」と呼びます。
3 事例演習:店舗の新規開設シミュレーション
【前提条件】
- 年間売上:初年度3000万円、2年目から3年目の成長率2%、4年目・5年目は横置き
- 売上原価率(変動費):売上の40%
- 人件費(固定費):300万円
- 賃借料(固定費):200万円
- 交通費(変動費):売上の5%
- 初期投資額(固定費):2000万円、減価償却方法は5年償却・定額法・残存価額ゼロ
- 実効税率(変動費):30%
- 割引キャッシュ・フロー(注)で用いる割引率:10%

1)売上の考え方
売上は客単価×客数といった具体的な数字から各月の見込みを出していきます。このような見込みであれば、実績との差異が発生した際に、原因は客単価、または客数なのか、あるいはその両方なのかを把握できます。
売上の構成要素である客単価・客数は、よくKPI(重要業績評価指標)としても使われています。業績を改善するために必要な行動を考える指標として、この切り口が適しているからです。その上で、2年目以降の売上がどれくらい成長するのか、その成長がどれくらい続くのかといったことを考えに入れます。
新しいものは、おおむね3年くらいで軌道に乗り、その後は横置きか減少傾向になる…といった具合に、事業計画上の成長率をシミュレーションにも取り入れていきます。
2)費用の考え方(売上原価、交通費)
変動費の売上原価や交通費などは、売上と連動します。それぞれの売上に対する比率を見積もり、売上の金額とあわせて年度ごとの金額を出していきましょう。特に売上原価は、投資の利益を最も左右する可能性のある変動費です。そのため、
主要なものについて個別に数字を作るようにし、内訳として明記しておきましょう
。これは実績が乖離(かいり)した場合や、売上が想定より下がった場合、問題点を明確にし、利益維持・回復する対策を早期に練る上でも大切になります。
3)人件費の考え方
人件費は、人員計画などに基づいて数字を出します。人件費というのは繁忙期の残業代を除くと、営業活動に連動しない固定的な部分が大半と考えられます。なお、社員については「平均月給×人数」、パート・アルバイトについては「平均時給×労働時間数」といった具合に、雇用形態ごとに明確に分けておきましょう。
4)その他の費用の考え方
金額が大きくない、重要度の低い費用の場合は、数字の根拠について、必ずしも積み上げである必要はありません。大体このぐらいという数字でもよいことも多くあります。また、重要度の低い費用について、細かすぎるのも問題です。細かすぎる情報は管理も大変で、経営陣にとってもノイズ(雑音)となってしまうからです。
ここで大事なのは、「変化する費用」でないものは考慮しないことです。例えば、新店舗の開設をしても、本社管理部門の費用が増えないのであれば、本社の管理費はシミュレーションに入れません。もちろん、管理部門の負担は増えるかもしれませんが、業務効率化で十分対応できたり、閉める店舗もあったりなど、人を増やす必要がなく支出に影響がなければ「変化する費用」にはなりません。
5)特殊な費用である減価償却費の考え方
減価償却費とは、機械や建物など将来にわたって使い続けられる一定額以上の資産を購入したとき、その支出を一度に費用化せずに固定資産として計上し、使用期間に応じて毎年少しずつ費用に振り分けていく会計処理のことです。つまり、「過去に支払ったお金を、時間で分けて費用化しているもの」です。この費用は、損益計算書に費用として計上され、製造現場にあるものであれば原価の一部にもなります。しかし、費用として計上されるタイミングでは支払いは発生しないため、非資金費用と呼ばれます。
投資評価でキャッシュ・フローを計算する際、「実際の支出は過去に済んでいるので無視してもよいのでは?」と思うかもしれません。しかし、減価償却にはもう一つ大切な効果があり、それは税金を減らす働きです。具体的には、費用を計上した年には「減価償却費×実効税率」の分だけ税金が少なくなります。これを、タックスシールドと呼びます。
減価償却費が400万円、実効税率が30%であれば、その年に支出はありませんが、400万円×30%(実効税率)=120万円だけの税金の支払いが減るということです。
シミュレーション例では、減価償却費を引いた利益に税率をかけて税金を計算します。その後にキャッシュ・フローの計算において、税引後利益に減価償却費を足し戻すことで当期キャッシュ・フローの見込みを計算しています。
以上(2025年10月作成)
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画像:apinan-Adobe Stock
【10月25日】公益社団法人徳島県産業国際化支援機構主催!第2回 商談会出展スタートアップセミナー
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徳島県では、県内の6次産業化事業者や農商工連携事業者の皆さまを対象に、商談会を活用した販路拡大や商品力強化を支援するセミナーを開催いたします。
ぜひこの機会にご参加ください。
なお、このセミナーは徳島県が10月25日、26日に開催する「食の宝島とくしまフェス」のイベントの一部として実施されます。
【募集概要】
- 日時 令和7年10月25日(金)10:30~12:30(講演:90分、質疑応答:30分)
- テーマ 「販路拡大に活かす商談会戦略と市場ニーズ対応の商品開発」
- 講師 本山 喜之 氏(「資源賛美プロジェクト」代表・6次産業化地域プランナー)
- 会場(現地) アスティとくしま 第3会議室(「食の宝島とくしまフェス」会場) 定員20名ほど
- 会場(オンライン) ZOOM
- 参加対象 商談会出展予定事業者、6次産業化・農商工連携事業者、関心のある県内事業者
- 申込方法 機構または徳島県ホームページに掲載の申込書に必要事項をご記入の上、FAXまたはE-mailにて申込
- 参加費 無料
- 申込締切 令和7年10月24日(金)
公益社団法人徳島県産業国際化支援機構 販路開拓・海外進出課(担当:市川)
TEL:088-676-3001
FAX:088-676-3040
E-mail:ichikawas@tokushima-bussan.com
以上(2025年9月作成)
東京(有楽町駅)にあるんじょ! 「徳島・香川トモニ市場~ふるさと物産館」
JR有楽町駅前の東京交通会館1階に、徳島・香川のアンテナショップ「徳島・香川トモニ市場~ふるさと物産館」があるのをご存知でしょうか。
こちらはトモニホールディングス設立に伴う共同施策の一環として、トモニグループのお取引先および徳島県・香川県を中心とした地域の優れた特産品のPRを目的として、開設しております。
また、徳島県より「阿波とくしまアンテナショップ」第1号として認定されています。
お近くへ来られた際はぜひお立ち寄りください!

アクセスについては以下の案内図、または東京交通会館公式ウェブサイトをご覧ください。


TEL/03-6269-9333 FAX/03-6269-9355
営業時間/10:30~19:00 定休日/交通会館 休館日

以上(2025年10月作成)
【外国人雇用】 外国人雇用Q&A~雇用の手順や住居の手続き
1 在留資格を押さえれば、他は基本的に日本人雇用と同じ
外国人雇用を検討する会社は多いですが、一方で「日本人と同じように雇用して大丈夫なの?」と不安に思っている経営者も多いはずです。そこで、外国人雇用と日本人雇用の違いを簡単にまとめてみました。

「日本人雇用と異なる点が多い」と思うかもしれませんが、これらの違いは
外国人が日本に滞在し、活動するための資格「在留資格」に関するもの
です。在留資格とは、
外国人の住所地を管轄する地方出入国在留管理局(出入国在留管理庁の地方支分部局、以下「入管」)に申請すると取得できる資格で、日本で行える活動と在留期間を示したもの
です。在留資格で認められていない仕事に就いたり、在留期間を超えて働いたりするのは違法です(ただし、在留期間が無期限のものもある)。逆に言えば、
在留資格にさえ注意しておけば、外国人雇用と日本人雇用は基本的に同じ
ということになります。
以降では、ここまでの内容をもう少し掘り下げ、外国人を雇用する際の手続きや、在留資格の確認のポイント、雇用した後の注意点などを紹介していきます。なお、在留資格の種類や在留期間については、出入国在留管理庁のウェブサイトなどをご確認ください。
出入国在留管理庁「在留資格一覧表」
https://www.moj.go.jp/isa/applications/guide/qaq5.html
2 外国人を雇用する際はどんな手続きが必要?
1)海外から国内に外国人を呼び寄せて雇用する場合
外国人を国内に呼び寄せる場合、「在留資格認定証明書」という書類の交付を申請します。これは、外国人の国内での活動内容が、在留資格の条件に適合していることを証明する書類です。
会社は入管に交付を申請後、交付された証明書を海外にいる外国人本人に送付します。外国人が在外日本大使館や領事館での査証(ビザ)申請を行う際や、入国審査官による上陸審査を受ける際に、この証明書を提出すると審査がスムーズに行われます。

2)海外から技能実習生を受け入れて雇用する場合
技能実習制度は、外国人の技能実習生が、日本で実習を行う会社(実習実施者)の下で働き、母国では得がたい技能の修得などを図るための制度です。実習実施者になるには、
技能実習生ごとの「技能実習計画」を作成し、外国人技能実習機構の認定を受ける
必要があります。
なお、技能実習制度については、
2024年6月21日から3年以内に廃止され、新たに「育成就労制度」が開始
される予定です(具体的な施行日については、現時点では未定)。
出入国在留管理庁「育成就労制度」
https://www.moj.go.jp/isa/applications/index_00005.html
3)現在日本に住んでいる外国人を雇用する場合
外国人の在留資格が、雇用後の業務内容に適合していれば、雇用できる可能性があります。ちなみに在留資格は、外国人が保有している「在留カード」に記載されています。
現在の在留資格では働けない場合、入管に在留資格の変更を申請
する必要があります。一方で、「永住者」や「日本人の配偶者等」といった就労制限がない在留資格もあります。なお、
2024年6月21日から2年以内に、在留カードはマイナンバーカードと一体化され、「特定在留カード」という名称になる予定
です。
4)現在日本に住んでいる留学生を雇用する場合
日本の大学や専門学校、日本語学校などに「留学」の在留資格で在留している外国人をアルバイトとして雇用する場合、外国人が「資格外活動」の許可を受けていれば、雇用できます。卒業と同時に正社員などとして雇用する場合、入管に申請し、在留資格を「留学」から業務内容に適合したものに変更します。
ここまで紹介した4つは許可手続きの主なケースです。外国人の滞在場所などによって手続きの詳細が異なる場合があるため、実務では申請取次行政書士などの専門家に相談してください。
3 在留資格の確認など採用時の注意点は?
1)在留資格を確認する際は何に注意すればいい?
在留資格と査証(ビザ)は混同されがちですが、
- 査証(ビザ)は、上陸審査時に必要となるもの
- 在留資格は、日本での滞在・活動時に必要となるもの
といったように全く違うものです。そのため、
報道などで使われる「就労ビザ」という言葉も、本来は「就労可能な在留資格」のことを指します。査証(ビザ)だけ持っていても日本では働けないので、必ず在留資格を確認
しなければなりません。外国人の在留資格を確認する際は、在留資格と雇用後の業務内容に齟齬(そご)がないか、在留期間が終了していないかなどをチェックします。
2)在留資格の判断に迷ったら?
外国人の在留資格が有効か判断しにくい場合、入管に「就労資格証明書」を申請すると、外国人が行える活動について法務大臣の証明が受けられます。また、現在の在留資格では働けないものの、どの在留資格に変更すればよいか分からない場合、入管や厚生労働省の機関である外国人雇用サービスセンターに問い合わせると、アドバイスを受けられます。
在留資格の確認は非常に重要です。この対応をショートカットして後で在留資格と業務内容とが適合していない事が発覚した場合、違法性を問われる事になりますので、充分注意して対応する必要があります。
3)在留資格の確認以外に、採用での注意点は?
求人募集では、外国人のみを対象としたり、外国人が応募できないという条件を出したりすることはできません。
選考では、言語の違いから面接などでの意思疎通がうまくいかないケースがあります。能力等を正確に知りたい場合は、実技をやらせたり、同じ分野の専門家を外国人と面談させて専門分野に関する質問を行ったりして、適性や能力を判断してみるとよいでしょう。
採用が決まったら、労働条件通知書などで労働条件を明示します。労働基準法では昇給、退職金、賞与など、口頭で明示してもよい労働条件がありますが、トラブルを回避するなら書面で明示したほうが無難です。
なお、厚生労働省では、英語、中国語、韓国語、ポルトガル語など13カ国語に対応した「外国人労働者向けモデル労働条件通知書」を公表しています。
厚生労働省「外国人労働者向けモデル労働条件通知書」(下記URL中段)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000056460.html
4 外国人を雇用した後の主な注意点は?
1)外国人を雇用した後に必要な手続きは?
1.外国人雇用状況の届け出
外国人を雇用した場合、所轄の公共職業安定所(ハローワーク)に外国人雇用状況の届け出を行います。届け出の方法は、外国人が雇用保険の被保険者になるかどうかで変わります。
- 被保険者になる:「雇用保険被保険者資格取得届」を入社月の翌月10日までに届け出
- 被保険者にならない:「外国人雇用状況届出書」を入社月の翌月末日までに届け出
なお、雇用保険の資格取得を行う場合、雇用保険被保険者資格取得届の提出をもって外国人雇用状況届出書を提出したものとみなされます。
2.健康保険・厚生年金保険の届け出
外国人が健康保険・厚生年金保険の被保険者になる場合、「健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届」を、入社日から5日以内に所轄の年金事務所に届け出ます。
被扶養者がいる場合、「健康保険被扶養者(異動)届」なども併せて提出します。なお、被扶養者になれるのは、原則「国内居住者」だけです。国内居住者かどうかは、住民票があるか否かで判断します。この他は基本的に日本人雇用と同じです。
なお、マイナンバーと基礎年金番号が結びついていない場合や個人番号制度の対象外である場合については、「ローマ字氏名届」の提出も必要となります。
2)在留資格の管理は会社がするべきか?
在留資格は永住者など一部の例外を除き、在留期間が決まっており、在留期間を1日でも超えたら「不法滞在」となってしまいます。ですから、
外国人の「氏名」「国籍」「在留資格」「在留期限」などは、会社側で管理しておく
のが望ましいでしょう。在留期間の期限が近づいてきたら、満了前に入管に更新を申請する必要があります。6カ月以上の在留期間を有する場合、期限満了の約3カ月前から申請できます。
3)住居をどうするか?
在留資格の取得などを済ませた外国人は、入国後14日以内に住所を定めなくてはなりません。必要な手続きは日本人と同じ(転入届・転出届など)で、手続き後に住民票が作成されます。
住所を定めるには住居を確保する必要がありますが、言語の違いから不動産オーナーとうまくコミュニケーションが取れないケースもあるようです。この辺りは、外国人賃貸専門の不動産会社を利用するなどして対応しましょう。
なお、出入国在留管理庁では、英語、中国語、韓国語、ポルトガル語など15カ国語に対応した「外国人生活支援ポータルサイト」を運営していて、住居の他、日本での生活に必要な知識などを確認できます(ポータルサイト内に掲載の「生活・就労ガイドブック」は16言語に対応)。
出入国在留管理庁「外国人生活支援ポータルサイト」
https://www.moj.go.jp/isa/support/portal/index.html
4)外国人に効果的な教育法は?
外国人を教育する際も、言語の違いから意思疎通がうまくいかないケースがあります。特に安全衛生に関する意思疎通がうまくいかないと、外国人が作業現場などでけがをする恐れがあるので、絵や動画など視覚に訴える方法でポイントを伝えるようにしましょう。
なお、厚生労働省では、建設現場における安全衛生対策のポイントが分かる教材(動画)や働く人の安全と健康について学べる教材(漫画)を公表しています。
厚生労働省「外国人労働者の安全衛生対策について」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000186714.html
5)宗教・文化の違いはどう配慮すべきか?
宗教や文化の違いにもある程度の配慮が必要です。例えば、宗教上決められた時間に礼拝を行う必要がある外国人には就業時間中の礼拝を認めたり、中国の旧正月(毎年2月ごろ)のように、外国人が本国独特の文化で長期にわたって帰国するときは、スムーズに帰国できるよう配慮したりします。
6)外国人に子どもが生まれたときは?
外国人が雇用後に結婚し、子どもが生まれた場合、子どもが日本国籍を持つ場合と持たない場合があります。例えば、父親(労働者)が外国人、母親が日本人の場合、子どもは日本国籍を持ちます。この場合、子どもの在留資格の取得手続きは原則として必要ありません。一方、
父親(労働者)と母親の両方が外国人の場合、子どもは日本国籍を持ちません。この場合、子どもが日本に在留するには、出生日から30日以内に在留資格取得許可の申請が必要
です。
以上(2025年10月更新)
(監修 有村総合法律事務所 弁護士 渡邉和也)
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画像:Luis Molinero-shutterstock
【かんたん消費税(1)】消費税で「損」をしないために押さえておくべき基本とは?
1 経営者が消費税を避けて通れない理由
消費税を払うのは当然で、税率は10%に決まっている!
もし、皆さんがこう思っているとしたら、この記事を読んでいただく価値があります。なぜなら、
消費税が課されない取引や、10%より低い税率が適用される取引もある
からです。それに、経営者は、
消費税は利益に関係なく(赤字でも)課され、資金繰りに大きな影響を及ぼすこと
も認識しなければなりません。
タイトルにも書いていることですが、
消費税の基本を知らないと、御社は損をする
恐れがあります。損をしたくなければ消費税の基礎を勉強する必要があります。そのお手伝いとして、このシリーズで消費税の基礎をまとめます。本を読むよりも楽で、多くのネット記事よりは少し細かい内容です。1回目となる今回のお題は、
- 消費税の計算方法:預かった消費税から支払った消費税を差し引いて計算
- 業務上の注意点:税率やそもそも消費税を支払う必要があるかをチェック
です。
2 消費税を負担する人、納付する人
消費税の対象となる取引は幅広いのですが、例外として、医療や介護サービス、学校の授業料といったものは非課税になります。
また、消費税は、消費税を負担する人(消費者)と消費税を国へ納付する人(納税義務者)が異なる「間接税」です。商品が製造されてから消費者の手に渡るまでの流れに沿って確認してみましょう。

この商品は最終的に消費者が、小売業者から税抜1万円で購入しています。その際、消費税として1000円を負担しています。しかし、消費者が購入する前の段階で、製造業者から卸売業者へ、卸売業者から小売業者へと商品を販売した際もそれぞれ消費税がかかっており、関係者が重複して消費税を負担しているように見えますが、実際はそうではありません。
なぜなら、消費税が二重三重にかかることのないように、
預かった消費税から支払った消費税を差し引く仕組みにあっており、これを「仕入税額控除」
と呼びます。仕入税額控除の詳細はこの後に紹介しますが、まずはイメージが湧くように具体的な金額で見てみましょう。小売業者・卸売業者・製造業者が支払う消費税は合計で1000円となっていることが分かります。

3 納税額の計算
消費税は、
「預かった消費税(仮受消費税)」から「支払った消費税(仮払消費税)」を差し引いて計算
します。とはいえ、日々、取引ごとにこの計算するのはとても大変。そのため、実際は、
課税期間内の取引金額(税込)の合計額を使用して、納付する消費税を一括して計算
します。イメージは次の通りです。

なお、厳密にいうと、消費税申告書上の計算方法はなかなか複雑です。消費税の計算方法の詳細については、以下のコンテンツをご参照ください。
4 日々の業務で気を付けるべきこと
1)適格請求書(インボイス)の保存と記帳
前述した通り、仮受消費税から仮払消費税を差し引くことを「仕入税額控除」と呼びます。仕入税額控除を受けるには、
- 適格請求書(2023年9月末までの取引については請求書等。以下「インボイス等」)の保存(請求書を受け取った年度の確定申告の提出期限翌日から7年間。2025年3月決算会社であれば、2024年度の取引に係るインボイス等は、2032年5月末日まで保存しなければなりません)
- 帳簿への記載
が必要です。ですから、会計ソフトなどで記帳したからといってインボイス等を捨ててはいけません。できれば日付順などに整理して、保存してください。加えて、
相手の名称、取引年月日、取引内容など、消費税法で決められている事項を帳簿に記載
しなければなりません。ここは、税務調査のチェックポイントなので気を付けましょう。
2)取引内容をチェック
消費税は、取引内容によって次のように区分されます。
- 消費税が課されるもの(課税取引)
- 消費税が課されないもの(課税対象外取引)
- 政策上の理由などで消費税が課されないもの(非課税取引)
- 輸出取引(輸出免税取引)
相手からもらったインボイス等や自社が発行するインボイス等を確認し、課税区分に間違いがないかチェックしましょう。取引の区分については、以下のコンテンツをご参照ください。
3)税率をチェック
原則として、消費税の税率は10%です。しかし、
- 飲食料品などの販売・購入については8%(軽減税率)が適用
- 取引(特に古い取引)によっては、旧税率(8%・5%・3%)が適用
される場合があります。取引ごとに税率に間違いがないかチェックしましょう。そのため、帳簿を作成する際には税率の異なるごとに記帳しないといけません。
4)納税義務があるのかをチェック
会社は消費税を納めなければなりませんが、取引の規模などよっては免除されます。これを見逃すと損をするので、しっかりチェックしましょう。インボイス制度が始まった2023年10月1日以後は、相手が免税事業者かどうかで自社の消費税負担が変わってきます。消費税が免除される免税事業者の詳細やインボイス制度の影響については、以下のコンテンツをご参照ください。
以上(2025年10月更新)
(執筆 税理士法人AKJパートナーズ 税理士 森浩之)
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画像:kai-Adobe Stock
2025年度の最低賃金は1121円、全都道府県が1000円超え!
目次
1 最低賃金の改定で会社の賃金負担はどれだけ重くなる?
最低賃金とは、最低賃金法によって会社に支払いが義務付けられている「賃金の最低額」のことで、具体的には
- 都道府県ごとに定められる「地域別最低賃金」
- 特定の産業について定められる「特定最低賃金」
の2種類を指します。
政府は、国民の生活を保障しつつ経済を回していくために、継続的に最低賃金を引き上げています。直近では、2025年度の地域別最低賃金の改定額(多くの都道府県は10月改定)が、
全国加重平均額で1121円(過去最高の額)となり、全都道府県が初めて1000円を超える
こととなりました。
会社と社員が合意していても最低賃金を下回ることはできず、違反の罰則もあるため、会社は最低賃金を必ず守らなければなりません。一方で、一度賃上げをすると簡単には賃金を引き下げられないので、人件費の負担などにも注意しながら金額の上げ幅を決める必要があります。
この記事では、最低賃金に注意しつつ賃上げを実施する際のポイントを3つ紹介します。
- 最低賃金のルール(適用対象者や改定時期)を押さえる
- 今、最低賃金がいくらなのかを押さえる
- 賃金や社会保険料への影響をシミュレートする
2 最低賃金のルール(適用対象者や改定時期)を押さえる
最低賃金は、「地域別最低賃金」「特定最低賃金」の2種類に分けられます。どちらも厚生労働省の最低賃金審議会が定めますが、適用対象者や改定時期のルールが次のように異なります。

地域別最低賃金は、原則としてパート等を含む全社員に適用され、毎年10月に改定されます(2025年度は、一部11~3月の発効となる都道府県があります)。一方、特定最低賃金は、特定の産業に特有のまたは主要な業務に従事する社員にしか適用されず、関係労使からの申し出などがなければ、改定されることもありません。ちなみに、
地域別最低賃金と特定(産業別)最低賃金の両方が同時に適用される社員については、いずれか高いほうの最低賃金が適用
されます。
最低賃金を下回る条件で賃金を設定していた場合、会社と社員が合意していても無効となり、最低賃金以上の額を支払う義務が発生します。なお、違反については、図表1の通り最低賃金法または労働基準法による罰則がありますが、それとは別に
労働基準監督署の臨検などによって最低賃金を守っていないことが発覚した場合、厚生労働省ウェブサイトで会社名などが公表されることがある
ので注意が必要です。
3 今、最低賃金がいくらなのかを押さえる
1)地域別最低賃金
2025年度の地域別最低賃金は、前述した通り全国加重平均で1121円、全ての都道府県が1000円超えとなっています。

また、図表2の順位をベースに地域別最低賃金の推移(沖縄県、全国加重平均、東京都)を見ると、前年度からの引き上げ幅は、2022年度が30円程度、2023年度が40円程度、2024年度が50円程度、2025年度が60~70円程度と、年々大きくなっています。

2)特定最低賃金
特定最低賃金は、地域別最低賃金が実態にそぐわない場合に定められるものなので、通常は地域別最低賃金より高く設定されます。ただし、東京都や神奈川県など、地域別最低賃金が特定最低賃金より高い地域も一部あります(その場合、社員には地域別最低賃金を適用)。
また、特定最低賃金の新設や改定の申し出は、地域ごとに行われるため、同じ産業であっても都道府県によって最低賃金が異なることがあります。
内容が多岐にわたるためこの記事では割愛しますが、特定最低賃金の一覧は、下記から確認できます。
■厚生労働省「特定最低賃金の全国一覧」■
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/chingin/newpage_43846.html
4 賃金や社会保険料への影響をシミュレートする
最低賃金が改定され、万が一自社の賃金が改定後の金額を下回っている場合、これを上回るように賃上げを実施しなければなりません。その場合、賃金や社会保険料の負担はどの程度増えるのでしょうか。具体的な条件を設定して、シミュレートしてみましょう。
仮に、東京都のある会社が、2025年10月からの地域別最低賃金の改定(1163円→1226円)を受けて、賃上げを実施するとします。条件は次の通りです。
- 時給:1200円→1300円に引き上げ
- 1日の所定労働時間:8時間
- 1カ月の所定労働日数:20日(週5日×4週)
- 社員数:30人(全員40歳未満、介護保険の適用なし)
- 健康保険の保険者:全国健康保険協会(協会けんぽ)、東京支部
この場合、会社の人件費負担は次のように変動します(雇用保険料などは考慮していません)。

人件費負担は、社員1人当たりで年間20万8920円、会社全体(30人)で年間626万7600円増えることになります。なお、図表4は通常の賃金だけを基に計算していますが、会社が基本給などをベースに賞与や退職金を計算している場合、それらの人件費負担も増える可能性があります。
以上(2025年10月更新)
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画像:日本情報マート
