【オーナー企業の事業承継(9)】 MBO・ファンド・M&Aを活用した 事業承継対策

書いてあること

  • 主な読者:事業承継を検討している中小企業の経営者
  • 課題:親族内に後継者がいないケースが多い
  • 解決策:親族外の後継者に事業承継を行う手法として、MBO、ファンド、M&Aの活用方法を活用する

1 親族内に後継者がいない場合はどうするのか

オーナーの事業承継を検討するに当たって、親族内に後継者として適当な人材がいない、あるいは、いても当人の承諾が得られないケースも見受けられます。また、親族内での承継にこだわり過ぎて強引に事業承継を行い、かえって後継者にも会社にも悪影響を与えてしまうこともあります。

親族内に適当な後継者がいない場合に考える選択肢として、MBO、ファンド、M&Aの手法を用いた対策があります。それぞれの効果や留意点を認識し、自社に合った対策案として検討してみてください。

2 MBOを活用した事業承継対策

1)MBOとは

MBOとは、

Management Buyoutの略称で、経営陣(役員)が事業の継続性を前提に自社株式を買い取り、オーナー経営者などとして独立する行為

をいいます。また、従業員が自社株式を買い取る場合はEBO(Employee Buyout)といいます。なお、この記事では一般的に用いられているMBOについて説明します。MBOは、親族内に適当な後継者はいないけれど、社内に有能な役員がいる場合などの事業承継対策として活用することができます。

MBOを活用した事業承継の流れ(一般的なスキーム例)は次の通りです。

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2)対策のポイント

通常は自社株式購入のための自己資金が不足するため、金融機関などから不足資金を調達する必要があります。しかし、後継役員などの個人では借り入れの返済原資が乏しいことから、新たに設立する受け皿会社が金融機関などから借り入れを受けて、株式を取得するケースが多く見られます。

MBOでは、後継役員自身が株式購入資金の準備手続きを行わなければなりません。特に金融機関などからの借り入れで資金を賄う場合は、事業の継続や成長の源泉となる商品、技術、販売力、人材などに関して十二分に説明し、借り入れ条件などを綿密に調整・確認することが重要となります。

また、子会社化される事業会社と受け皿会社との資本関係を100%とするなど一定の要件を満たすことで、受け皿会社が事業会社から受け取る配当金には課税されません。そのため、配当を生み出す事業会社の事業収益を借入金の返済原資として有効に利用することができます。

3)対策のメリット

MBOを活用した事業承継対策のメリットは次の通りです。

  • 親族内に後継者がいない場合でも、第三者によるM&A(詳細は後述)の手法を用いることなく、事業を承継することができる。
  • 事業の承継者が会社の事業実態を熟知している現経営陣(役員など)であることから、円滑に事業を承継することができる
  • 現経営陣(役員など)がオーナー経営者となることで、一層の責任感を持って会社の経営に取り組むこととなり、また、従業員の雇用も確保され、経営陣と従業員の一体感や企業風土といった会社の独自性も維持していくことができる
  • 現オーナーにとっては換金性の乏しい非上場株式を換金することができ、オーナーの親族は、その現金を将来の相続における相続税の納税資金に充当することができる

4)対策のデメリットと留意点

MBOを活用した事業承継対策のデメリットと留意点は次の通りです。

  • 受け皿会社が金融機関などからの借り入れで資金調達をする場合、事業性の評価次第では、後継役員などが個人の連帯保証や担保提供を要求されることある
  • 承継する事業会社は多くの場合、既に金融機関からの借り入れがあり、通常はオーナーがその債務を連帯保証しているため、後継役員などはその債務についても承継しなければならないことがある。そのため、後継役員などの理解を得たり、金融機関との調整で、多くの時間を費やしたりすることともある
  • 後継者候補が複数いる場合に誰を後継者に選択するかによって、その後の経営幹部内での争いのもととなる恐れがある

3 事業承継を目的としたファンドを活用した対策

1)ファンドとは

ファンドとは、

投資家から資金を集めて株式などに投資して運用を行う仕組み

をいいます。

ファンドにはさまざまなタイプがありますが、その投資スタンスの決め手となるのが資金の出し手となる投資家です。

一般に地域の金融機関や国内の年金基金などから資金を集めているような場合は、中長期的に経営者と二人三脚で企業の成長を支援するというスタンスのファンドが多いようです。ファンドを活用した株式承継の流れ(一般的なスキーム例)は次の通りです。

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なお、「普通株」とは一般的に通常売買、保有されるような株式で議決権があり、また、配当がもらえる権利があるような株式をいいます。これに対して

「優先株」は普通株よりも配当を優先的に受けることができたり、倒産などの際に残余財産を優先的に受け取ることができたりする一方で、議決権がないような株式

をいいます。現在、株式の内容は配当、議決権、償還、普通株への転換、残余財産分配に関して自由に設計することができるため、名称は同じ「優先株」であっても全く内容が異なっている場合もあるので、活用においては株式の内容をよく確認する必要があります。

なお、種類株式の詳細については、下記のリポートをご参照ください。

2)対策のポイント

株式を譲渡する際の株価は、後継者が中心となって策定する事業計画を根拠としてDCF(ディスカウント・キャッシュフロー)法などにより算定されます。DCF法とは、会社が将来生み出すフリー・キャッシュフロー(純現金収支)を、一定の割引率で割り引いた現在価値に基づき株式の価値を評価する方法です。従って、調達した資金について、一定期間で無理なく返済ができるような事業計画を策定することが重要です。

また、一口に「ファンド」といっても、事業承継をサポートするファンドは世の中に多く存在します。これらのファンドの性格はファンドマネジャーやその出資者の属性によって大きく異なっており、どのようなファンドと付き合うのかは対策を行う上での重要なポイントです。

そのため、入り口の段階において、高い価格で株式を買い取ってもらえたとしても、その後、後継者には不本意な形で経営権を取られてしまったということがないように、次のポイントなどを確認し、ファンドの性格を理解する必要があります。

  • 投資に対する方針
  • ファンドマネジャーの信頼性
  • 出資者の属性

3)対策のメリット

事業承継を目的としたファンドの活用による対策のメリットは次の通りです。

  • 換金性の乏しい非上場株式を換金することで、オーナーの自由に使える資金が増え、将来の相続税などの納税資金としての活用も可能となる
  • 買収目的会社を設立する際の普通株への出資は少額でも可能なため、会社の将来を担う人材を中心に、新しい世代へと株式保有者を再構成することができる

4)対策のデメリットと留意点

事業承継を目的としたファンドの活用による対策のデメリットと留意点は次の通りです。

  • 通常は、事業計画の達成状況についてファンド運営者によるモニタリング(定期的な事業計画の実行状況の確認)が行われる。実際のモニタリングの内容は会社の状況によって異なるが、モニタリングを通して、経営管理面の強化と成長企業への脱皮を求められる
  • 事業計画を下回るような状況が継続するような場合には、後継者による経営に一定の制限が加えられることがある。そのため、事前に作成する事業計画は、後継者が確実に遂行できる内容にする必要がある

4 M&Aを活用した事業承継対策

1)M&Aとは

M&Aとは、

Mergers and Acquisitionsの略称で、企業の合併・買収を総称し、事業承継においては、外部資本(第三者)がおおむねの株式を買い取り、事業を継続する行為

をいいます。M&Aを活用した事業承継対策の流れ(一般的なスキーム例)は次の通りです。

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2)対策のポイント

M&Aにより会社を売却する場合、次のような状況にある会社が売却しやすい(売却しにくい)とされています。売却しやすい会社と売却しにくい会社は次の通りです。

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なお、業績が好調な時期に譲渡する経営者が意外に多いようです。事業で成功している経営者は決断力があるといえるのかもしれません。

中には、いざとなって最後の決断ができず自ら交渉を破談にしながら、後々になって業績が悪化し、再度、売却を検討したが当初の条件からは大きく後退してしまい、悔やむオーナーもいます。そのため、M&Aの決断には経営者の資質が問われるのです。

3)対策のメリット

M&Aを活用した事業承継対策のメリットは次の通りです。

  • 廃業や会社清算と比べると税金の面で有利で(後述)、従業員の雇用、顧客を守ることができる
  • オーナーは会社の借り入れに対する連帯保証や担保提供が必要なくなる
  • 一般的には株式の売却や退職金の受領、会社に対する貸付金の回収といった形で、株主や役員は大きな現金収入を得ることができる

4)対策のデメリットと留意点

M&Aを活用した事業承継対策のデメリットと留意点は次の通りです。

  • 情報の漏洩など、不適切な形でM&Aに関する情報が開示されると、従業員の不安感の増大と、退社のリスクや経営不安などの噂の流布による営業面でのリスクなどに直面する可能性がある
  • M&Aの前後において、売却先との企業文化の相違により、社内のモチベーションが低下してしまうリスクがある

5)M&Aと清算の比較

M&Aは、会社を清算した場合と比べて税金面などで有利になります。M&Aの場合と清算の場合の株主の手取り額の比較は次の通りです。

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M&Aの場合は清算の場合と比べると、株式の譲渡益に対する20.315%の課税だけで済むため、税金面では有利といえます。清算の場合は法人の含み益に対して法人税が課税され、さらに個人の手取り金に対して配当所得として他の所得と合算して総合課税されるため、金額が大きい場合は49%程度の高税率で課税されることが多くなります。

また、清算の場合には、実際の資産処分価額はM&Aの場合の評価額を大きく下回ります。清算手続きに入り、資産を実際に処分する際には機械装置などの移設ができないものはスクラップ価格となってしまいます。

逆に業績の良い非上場企業のM&Aの場合は営業権が資産額に加算されるため、通常は、

時価純資産評価額+営業権

で株価が評価され、清算の場合よりも圧倒的に有利となります。時価純資産評価額と営業権は次のように計算します。

  • 時価純資産評価額=会社の資産(時価評価)-負債(時価評価)
  • 営業権=税引き後利益(過去3~5年の平均)×年数(目安:3~5年)

以上(2023年6月)
(監修 辻・本郷税理士法人 税理士 安積健)

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画像:soo hee kim-shutterstock

【オーナー企業の事業承継(4)】自社株式の承継方法「譲渡」と「贈与」

書いてあること

  • 主な読者:事業承継を検討している中小企業の経営者
  • 課題:自社株式を後継者などに移転する際にかかる税金が分からない
  • 解決策:法人税、所得税、贈与税、相続税といった複数の税金の視点から、最適な承継方法を選択しなければならない

1 自社株式の承継方法

事業承継では、自社株式の後継者への承継(移転)が大きなポイントとなります。

相続以外で自社株式を後継者に承継する方法は、大きく「譲渡」と「贈与」に分かれます。なお、相続による承継はオーナーの死亡が伴うため、「時期を選べない」「他の相続人との調整が必要となる」などの問題があります。よって、適宜の時期に円滑に自社株式を移転するためには、後継者に対して株式を有償で承継するか(譲渡)、無償で承継するか(贈与)を検討する必要があります。

この記事では、自社株式の「譲渡」および「贈与」による承継方法に関する検討ポイントを紹介します。

2 譲渡による承継と贈与による承継

1)譲渡による承継

譲渡による承継とは、後継者がオーナーから有償で自社株式を買い取ることをいいます。譲渡による承継(イメージ)は次の通りです。

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オーナーは通常、換金しにくい自社株式を現金化することができるため、その資金を老後資金や相続税の納税資金の備えとすることができます。しかし、通常オーナーの保有する自社株式の取得価額は低いため、売却価額との差額(売却益)に譲渡所得として税金が課されます。

一方、後継者としては、取得資金の調達が問題となります。通常、業歴が長く内部留保の多い会社は株価も高く購入資金が多額となります。そのため、銀行借り入れなどを活用することとなりますが、担保、返済資金の確保などを検討する必要があります。また、本稿では詳細の説明は省略しますが、後継者個人で自社株式を購入するのではなく、後継者を株主とする持株会社を設立して取得する方法もあります。

2)贈与による承継

贈与による承継とは、贈与者(オーナー)と受贈者(後継者)がお互いに合意の上、株式を無償で与えることをいいます。贈与による承継(イメージ)は次の通りです。

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譲渡による承継と比較すると、オーナーは資金を一切受け取ることはできませんが、オーナーが所有する資産が減少し、後の相続時の相続財産の圧縮につなげることができます。また、後継者は取得資金ほど多額の資金を調達する必要はありませんが、納税資金の確保を検討する必要があります。

このため保険や金庫株(自己株式)を活用した納税資金の確保や納税猶予制度の活用に加えて、次の贈与税の実効税率表を参考にして、暦年贈与により基礎控除をフル活用しながら時間をかけて贈与することで、贈与税額の負担を軽減させることも一法です。

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例えば、5000万円を一括して子(成人)に贈与した場合と、500万円ずつ10年間かけて子(成人)に贈与した場合の贈与税の負担は次のような差が生じます。

  • 5000万円を一括して子に贈与した場合の贈与税額:2049.5万円
  • 500万円ずつ10年間かけて子に贈与した場合の贈与税の合計額:48.5万円×10年=485万円
  • 差額:2049.5万円-485万円=1564.5万円

3)「譲渡」と「贈与」による承継の検討ポイント

1.譲渡か? 贈与か?

上記の通り自社株式の承継については、その方法ごとに承継側(後継者)、被承継側(オーナー)それぞれにメリット・デメリットがあることから、双方の財産保有状況、資金力と税負担額などのコストを比較して検討することとなります。

自社株式移転方法の比較(相続を含む)は次の通りです。なお、これらの判断には専門的な知識などが必要になるため、税理士や公認会計士などの専門家の意見を参考に検討するようにしましょう。

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2.株価対策

譲渡した場合の譲渡所得や贈与した場合の贈与税は、株式の評価額(株価)に応じて算出されるため、株価が下がれば課税負担が軽減されます。また、本稿では詳細の説明は省略しますが、役員退職金の支払いや中小企業投資育成株式会社引き受けによる増資などの株価対策も参考にして、承継の時期などを検討してください。

3.経営権の移転対応

自社株式の承継が行われると財産権とともに会社の経営権も移転します。自社株式の承継時点では、後継者に全ての経営判断を任せることが難しい場合などには、種類株式や信託などを活用して、経営権の移転を一定期間留保することで、経営の安定化を図ることも重要です。

3 譲渡における株価について

1)株価算定上の留意点

自社株式の譲渡においては、利益が相反する純然たる第三者間の取引では、お互いに合意した価格が「時価」とみなされるため、価格の算定に関する課税上の問題が生じる可能性は低いといえます。

一方、第三者間の取引に該当しない場合(同族関係者間の取引の場合)は、お互いに合意した価格には客観性が乏しく、適正な価格で取引されないこともあり得ます。そのため、後述する低額譲渡や高額譲渡と認定されると、売り主・買い主の双方、あるいは当事者のいずれかが法人の場合には、その法人の個人株主に対しても「みなし贈与」などの課税が生じる可能性があります。

2)自社株式(非上場株式)の適正価格

一般的に非上場株式の同族関係者間の取引の場合は、次の方法により計算した価格をもって取引を行うこととされています。実際の取引に当たっては、それぞれの取引と適正価格を整理して低額譲渡や高額譲渡の問題も考慮した上で、具体的な取引価格を決定します。

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1.財産評価基本通達に基づく適正価格の算定

同族株主は原則的評価方式により評価します。原則的評価方式では会社規模に応じて類似業種比準方式または純資産価額方式を基礎として計算します。

また、同族株主以外の株主は、例外的評価方式により評価します。例外的評価方式は配当還元方式により計算します。

なお、自社株式の評価方式に関する詳細については、以下のコンテンツをご参照ください。

30046 【オーナー企業の事業承継(3)】自社株式の評価と相続税額の把握

2.法人税基本通達に基づく適正価格の算定

課税上の弊害がない限り、上記の財産評価基本通達による計算に次の制限を加えて計算します。

  • 当事者が中心的な同族株主(注)に該当するときは「小会社」として計算する。
  • 純資産価額方式の計算上、土地または上場有価証券については時価による。
  • 純資産価額方式の計算上、37%控除はしない。

(注)中心的な同族株主とは、同族株主のうち1人並びにその株主の配偶者、直系血族、兄弟姉妹および1親等の姻族(特殊関係会社を含む)の有する議決権の合計数が、その会社の議決権総数の25%以上である場合の当該株主をいいます。

3.所得税基本通達に基づく適正価格の算定

課税上の弊害がない限り、上記の財産評価基本通達による計算に次の制限を加えて計算します。

  • 同族株主の判定は当該譲渡または贈与直前の議決権の数による。
  • 当事者が中心的な同族株主に該当するときは「小会社」として計算する。
  • 純資産価額方式の計算上、土地または上場有価証券については時価による。
  • 純資産価額方式の計算上、37%控除はしない。

3)低額で譲渡した場合の課税関係

適正時価に比べて低額で譲渡した場合の売り主・買い主双方の課税関係は、当事者が個人か法人かに応じて次の通りとなります。

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4)高額で譲渡した場合の課税関係

適正時価に比べて高額で譲渡した場合の売り主・買い主双方の課税関係は、当事者が個人か法人かに応じて次の通りとなります。

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4 名義株について

1)名義株の問題点

名義株とは、名義が本来の所有者とは異なっている株式で、将来、本来の所有者が株主であるとみなされる株式のことをいいます。

名義株の問題点としては、名義株の処理がされないまま名義人が死亡し、その法定相続人によって株式が相続された場合、会社経営に全く関係のない第三者に議決権が渡ることになります。もし、その第三者の議決権比率が高い場合には経営上重大なリスクとなることがあります。

2)名義株を集約するための2つの対処法

1.資金負担を伴わない処理

名義株主と本来の所有者が「名義株式である旨の確認書」を作成し、株式の名義を本来の所有者名義に変更します。

2.資金負担を伴う処理

名義株主を本来の所有者と考えて次のような対応を取ります。

  • 「株式贈与契約書」または「株式売買契約書」を作成し、株式の名義を本来の所有者名義に変更する。
  • 金庫株(自己株式)として株式を買い取る。
  • 後継者あるいは後継者の出資する持株会社で株式を買い取る。

3)対応のポイント

名義株の対応は各株主の収入や保有財産の状況が異なることから、買い取りの時期や金額などの具体的な交渉には注意が必要です。

また、各株主とのコミュニケーションを考えると、問題を先送りせず、現オーナーが健在なうちに早期に対処することが必要です。

以上(2023年6月更新)
(監修 辻・本郷税理士法人 税理士 安積健)

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画像:soo hee kim-shutterstock

【オーナー企業の事業承継(1)】 事業承継の検討手順と経営の承継

書いてあること

  • 主な読者:事業承継を検討しているオーナー企業の経営者
  • 課題:事業承継対策として、何から手を付けなければいけないのか分からない
  • 解決策:まずは、後継者の候補の選定が事業承継を検討するスタートラインとなる

1 すぐにでも手を付くべき事業承継対策

多くの中小企業では、オーナーの高齢化と後継者不在から事業承継が進んでいません。しかし、だからといって何も事業承継対策を講じずにいると、人生を懸けて築き上げた自分の会社の存続が危うくなってしまいます。そうならないためにも、なるべく早く事業承継について考え、対策を実行していかなければなりません。まずは、

中小企業のオーナーが事業承継について検討する際の手順と、後継者の選定など「経営の承継」

について注意すべきポイントを押さえておきましょう。

2 事業承継の検討手順

1)事業承継のスタートラインに立つ

事業承継ニーズの発生要因はさまざまですが、昨今の経営環境を考えると、まず事業自体の継続ができるかを判断しなければなりません。現オーナーが事業を継続できると考えても、後継者の目から見るとその考えに疑問を感じる場合もあるでしょう。

つまり、事業自体の継続性が安定していること、それに同意する後継者が存在することが事業承継を検討するスタートラインです。

2)現状分析と問題点の把握

事業承継の悩みを抱えるオーナーは非常に多いのですが、そのような人でも自分の会社の価値を知らない人がたくさんいます。検討に着手する場合の第一手として、自社そしてオーナー自身の現状を把握することから始めましょう。具体的なチェックポイントは

  • 自社の現状:「自社株式」の評価、「株主構成」の問題点、金融機関との取引状況など
  • オーナーの資産状況:「概算相続税額」の把握、「法定相続人」の把握など
  • 後継者:「後継者候補」のリストアップ、「後継者の有無」の確認など

です。

3)後継者の選定と対策の検討開始時期

事業承継で大切なのは、「時間を味方につける」ことです。検討の着手は早ければ早いほど対策の選択肢を広げられますし、時間をかけて対策を実行することで、事業承継に関わる人的、金銭的コストを節約できるケースが少なくありません。「着眼大局、着手小局」の心構えで、まずできることから、なるべく早く取り組みましょう。

3 誰に事業を引き継がせるか

次世代のオーナーとなる後継者を決めるためには、会社の内部・外部を問わず、「誰が最もふさわしいか」という最高レベルの経営判断が必要です。その判断に関わる人は社内でもごく限られた範囲にならざるを得ないでしょう。

事業承継のパターンとしては次の3つのケースが考えられます。

1)オーナー自身の子供などへの親族内承継

オーナーが後継者の候補として真っ先に考え、また、比較的周囲の納得も得られやすいのは親族、中でも子供です。この場合にポイントとなるのは、

本人が「本気で経営を引き継ぐ気持ちがあるか」と「オーナーに向いているか」

です。そのため、近くて遠い親子関係の中で、後継者として適任かどうかの冷静な判断が求められます。

2)従業員などへの親族外承継(MBO、LBOなど)

親族内に候補がいない場合は、従業員の中から、例えば番頭格のような人に事業を承継させるのも1つの方法です。今まで共に会社の運営をしてきた実績があり、会社の事情に明るくスムーズに業務を進められるため安心感があります。この場合にポイントとなるのは、

  • 本人の意向に加えて「他の役員・従業員、取引先など利害関係者の同意が得られるか」
  • MBO、LBOなどの方法で会社の所有権を譲るため、「経営権の確保のために自社株を引き受けるだけの資力をつくれるか」

です。

なお、MBOとは経営陣が自ら会社の株式・事業などをその所有者から買収することをいい、LBOとは借入金を活用した企業・事業買収のことをいいます。

3)第三者への承継

上記のような適任者がいないからといって、従業員の雇用維持や取引先関係を考えると、簡単に事業を停止するわけにはいきません。このような場合はM&A(合併、買収など)の方法によって会社を第三者に売却して経営を任せることも選択肢の1つです。その際にポイントとなるのは、

「良い買い手が見つかるか」と「売却価格に折り合いがつくか」、さらには「従業員の雇用が継続されるか」

です。

4 後継者を育てる

1)後継者をどこで育てるか

1.社内で育てる

一般的に、社内で後継者を育てるのは難しいようです。例えば、身内であるが故に甘やかしてしまったり、逆に厳しくしてしまったりします。また、将来オーナーになる予定の人に対して厳しく指導できる従業員は少ないでしょう。こうしたこともあり、社内で後継者を育てることは、社内が混乱する原因にもなりかねません。

ただし、社外で人に使われる立場では習得できない知識、経験を積むことができるという利点もあります。自社内でオーナーの背中を見ながらマネジメントを覚える時間も必要です。この場合、オーナーは経営者としてのつらい側面ばかりではなく、やりがいや楽しみといった側面を見せることが、後継者教育の第一歩かもしれません。

2.社外で育てる

大企業と中小企業では、組織における個人がもたらす影響のウエートが大きく異なります。社外で育てるのであれば、自社と同規模の会社、それもなるべく厳しいとの定評がある会社が望ましいでしょう。例えば、社歴があり、統制(ガバナンス)が取れていると考えられる会社などです。ただ、このような条件の会社でも、関連会社や取引先などでは、ちやほやされて十分な教育を受けられない可能性もあるため、慎重に検討する必要があります。

2)オーナーの役割

1.時間をかけて育てる

オーナーは仕入・製造・販売といった業務以外にも、人事労務、税務会計などの管理業務まで幅広く、それが正しいかどうかを判断する力が要求されます。また、会社の全体像を把握するためには、会社のいろいろな部署を経験することも必要かもしれません。この時間を確保するためにも、後継者をできるだけ早く決めて、時間をかけて後継者教育を行うことが重要です。

2.教育係(メンター)を付ける

後継者の教育には、従業員が遠慮して十分な経験が積めないといった事態を避けるため、教育係を明確に指名し、早い時期から経営者としての仕事の考え方を学ばせることが重要です。よく事業承継後では、後継者と先代からの幹部社員との人間関係を良好に保つことが難しいといわれます。そのため、幹部社員を後継者の教育係にすることで、人間関係がうまくいくこともあるようです。

3)後継者の心構え

1.総合的な「人間力」を磨く

経営には高校、大学などで身に付ける一般教養に加えて、何よりも経営者としての「人間力」が要求されます。この「人間力」には、思いやり、包容力、行動力、統率力、忍耐力、決断力、バイタリティーなどさまざまな要素が含まれ、人間的魅力と言い換えることもできるでしょう。

2.先代オーナーの苦労を知る

先代オーナーの存在、また、苦労があったからこそ、現在の自分があるという謙虚さを持ち、先代オーナーと苦労を共にしてきた従業員を尊敬する気持ちを忘れないようにしましょう。

3.オーナー仲間をつくる

オーナーは責任も重く、社内では孤独になりがちです。できれば同じ立場の(2代目)オーナー仲間をつくり、悩みを相談したり、社長としての心得などについてのアドバイスをもらえたりするような環境をつくりましょう。たとえ問題が解決されなくても、同じように経営に悩む仲間の存在自体が孤独感を和らげてくれます。そのためには、オーナー仲間の勉強会や懇親会などの集まりに積極的に参加するとよいでしょう。

5 後継者への引き継ぎ

1)「代表の座(仕事)の移転」

「代表の座(仕事)の移転」とは、代表取締役としての地位を譲ることです。とかく後継者は独自色を出そうと、先代とは違う新しい施策を実施したがる傾向があります。これが社内外に混乱を生む要因となってしまいます。こうした混乱を避けるためには先代オーナーと後継者が経営者として並走できる期間を設けることが必要です。後継者を先代オーナーがフォローすることにより、従業員も安心して働けて、取引先との付き合いもうまく引き継ぐことができます。

このためには、やはりなるべく早く事業承継に着手することが必要です。先代オーナーが高齢になり機動的に動けなくなってからでは、しっかりしたフォローができません。ましてや事業承継に着手する前にオーナーが突然の事故で亡くなってしまったり、認知症を発症してしまったりすると、社内の重要な意思決定が行われなくなり、最悪の場合は事業を継続することができなくなる可能性もあります。

2)経営権(自社株など)の移転

安定した経営のためには後継者が単独で会社の重要事項を決定できるよう2分の1以上、できれば3分の2以上の議決権(自社株)を集約しておくことが大切です。また、オーナーの土地、建物などの個人資産を会社の事業で利用している場合は、こういった事業用資産も後継者に承継しておきたいところです。加えて、子供が複数いる場合には、いわゆる「争続」対策のために、自社株や事業用資産以外の財産を相続することとなる「後継者以外の子供」と「後継者」との間で、相続時の分割バランスを取る配慮も必要になります。

後継者への資産の移転には主に次の3つの方法があり、それぞれのケースで課される税金の種類も異なります。

  • 生前贈与→贈与税
  • 売買→譲渡所得税・住民税
  • 相続→相続税

そのため、事業承継を検討する際には、そのコストともいえる税金のことも知っておかなくてはいけません。相続税の最高税率は55%であり、優良な中小企業の株式の評価額は思っている以上に高額となっていることも多いため、何の対策も取らずに相続すると相続税の負担が重くなってしまいます。

「相続が3代続くと財産がなくなる」とまでいわれていますが、早めの対策を行うことで、より多くの財産を次世代に残すことも可能になります。相続税が会社や後継者の活動の制約にならないように、専門家と相談しながら早めの対策を行いましょう。

自社株などの移転の検討に当たっての留意点は次の通りです。

1.自社株の評価が低いときに経営権を移転する

自社株の評価額は、その時々の会社の業績や過去からの利益の蓄積により大きく左右されます。そのため、

評価額がなるべく低い時期に経営権を移転すること

がポイントとなります。

例えば、オーナーの引退に伴い退職金を支給する場合には退職金相当額の利益が圧縮されるため、通常、株価は低くなり、自社株を後継者に移す良い機会といえます。

2.相続で経営権を移転する場合には納税資金を確保する

もう1つの留意点は、将来オーナーに相続が発生した場合の納税資金の問題です。相続税は原則として現金で一括納付する必要がありますが、中小企業の自社株については原則として換金性がないことから、

相続税の納税資金をどのように確保するか

がポイントです。納税資金が不足する場合、会社が自社株を買い取ることや、物納、延納なども検討する必要があります。

6 事業承継がうまく進まないときのためのアドバイス

1)立場の違いからくるギャップ「オーナーの思い」と「後継者の考え」

実際に、事業承継に着手しても、ささいなことでオーナーと後継者との意見がぶつかってしまい、承継がうまく進まないケースもあるようです。

  • 自分が築き上げた会社の経営を、経営者としては未熟な後継者に任せるのはまだまだ不安!
  • 自分と同じような苦労を経験していないのに、口だけ達者で生意気!

といったものが、一方、後継者の考えには、

  • 今までの環境で安定した仕事をしており、あえてオーナーのような苦労をしたくない!
  • 初めての経験であり、オーナーとして会社を経営していく自信がない!
  • 経営を任すとは言っても、いろいろな場面で先代オーナーが口出ししそうで面倒!

といったものがギャップの原因になるようです。両者のさまざまなギャップを解消するためには、それぞれの役割の違いを認識して、お互いに尊重し合うことが重要です。

2)ギャップを解消するためには?

オーナーに求められることは、

  • 後継者がひとまず経営に専念できるよう社内外の環境を整備する。
  • すでに認識している会社の未解決問題をそのままにして引き継がない。
  • 特にオーナーと同世代の兄弟姉妹との親族争いの火種を消し切る。
  • うるさく口は出さないが、目は離さず必要なときは助言する。

ことです。一方、後継者に求められることには、

  • 独自色を出すことに固執せず、先代・先々代オーナーの苦労を知り、これまでつくり上げてきたものに敬意を表する。
  • 1人で突っ走らず、重要な問題、迷った問題は先代オーナー・幹部社員に相談する。

ことが必要になってきます。

以上(2023年6月)
(監修 辻・本郷税理士法人 税理士 安積健)

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画像:soo hee kim-shutterstock

10年後の御社は安泰ですか? 今と将来の事業を整理するのに役立つ「経営デザインシート」

書いてあること

  • 主な読者:ビジネス環境が変化する中、自社の強みや向かうべき方向を明確にしたい経営者
  • 課題:自社の置かれている状況や外部環境など整理しないといけない情報が多く、なかなか考えがまとまらない
  • 解決策:「経営デザインシート」で自社の現状を俯瞰(ふかん)した上で、「こうありたい」理想の姿を描き、そこから「今何をすべきか」を明確にしてビジネスモデルの転換を図る

1 社長、御社の今後に自信はありますか?

今、「うちの会社は10年後も安泰!」と自信のある経営者がどれほどいるでしょうか。コロナ禍を経て、それほどまでに経営環境が劇変しています。過去の成功体験も失敗体験も通用しにくくなってきた今、改めて事業環境を整理することが不可欠です。

やり方はいろいろありますが、この記事でお勧めするのは「経営デザインシート」です。これは、2018年5月に内閣府が公表したもので、

5年後、10年後に、自社や事業がどのようなストーリーで価値をつくっていきたいかを考えるためのフレームワーク

です。

■首相官邸 知的財産戦略本部「経営をデザインする」■
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/keiei_design/

経営デザインシートの使い方を、企業の活用事例も交えながら紹介しますので、ぜひ参考にしてみてください。

なお、活用事例で紹介している企業は、先の首相官邸のウェブサイト「企業における活用例」で取り上げられています。この記事で紹介している取り組み内容は、独自の取材などを基づくものです。

2 経営デザインシートで自社の価値を「見える化」

経営デザインシートは、2019年12月にシートの利便性向上のために「経営デザインシートリデザインコンペティション」が開催され、下記のような「描きたくなる」経営デザインシートが新デザインとして採用されました。

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図表の(A)~(D)は下の(A)~(D)に対応しています。下のように思いを巡らしながら空欄を埋めてみてください。

(A)存在意義を意識した上で、
(B)「これまで」どのように価値を生み出してきたかを把握し、
(C)「これから」どうやって価値を生み出していきたいかを構想する。
(D)「これまで」から「これから」への移行のための戦略を策定する。

特に重要なのは(B)と(C)であり、ここでは自社や事業の「価値創造ストーリー」を考えます。価値創造ストーリーとは、どのような「資源」を、どのような「ビジネスモデル」(収益の仕組み)にインプットすると、どのような「価値」を世の中に提供できるのかという一連の仕組みです。

「資源」の欄には、人、設備、知的財産(以下「知財」)など自社の強みである資源、「ビジネスモデル」の欄には、事業の一覧や役割などの事業ポートフォリオ、「価値」の欄には、商品、サービス、それらが社会にもたらす効果など提供する価値を記入します。

(B)の「これまで」の価値創造ストーリーは、自社の現状を分析することで比較的容易に埋めることができますが、重要なのは(C)の「これから」の価値創造ストーリーです。

ポイントは【(B)これまで+(D)移行戦略→(C)これから】という、これまでの延長線で考えるのではなく、

(C)これから-(B)これまで→(D)移行戦略

という、こうありたい姿(未来)から逆算して考えるということです。

資源を基に将来を構想すると、どうしても既存のビジネスの改善・改良にとどまってしまいがちです。そうならないために、提供したい価値を、顧客のニーズや新しい発想を織り交ぜながら考え、それを実現するのに現状では足りないビジネスモデルや資源を逆算して考えていきます。

「これまで」と「これから」の価値創造ストーリーを考えることで、両者のビジネスモデルや資源のギャップが明確になります。そのギャップを埋めるための移行戦略を(D)で考えていきます。

その上で(C)を考える際のポイントは、

「資源」から考えるのではなく、5年後、10年後に提供したい「価値」から先に考え、それを実現するための「ビジネスモデル」、ビジネスモデルに必要な「資源」の順に埋めていくこと

です。

実際の価値創造ストーリーの記入例、経営デザインシートのフォーマット、企業の活用事例などは、前述した首相官邸のウェブサイトに掲載されているので参考にしてみるとよいでしょう。

■首相官邸 知的財産戦略本部「経営をデザインする」■
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/keiei_design/

3 非財務情報の「見える化」

経営デザインシートの「ビジネスモデル」の欄には、知財の果たす役割も記入します。知財とは、特許や商標などの他、技術、データ、組織文化・風土、教育システムなども含めて考えます。技術、データなどは財務諸表には記載されませんが、こうした点も定性的に評価します。

内閣府知的財産戦略推進事務局へのヒアリングによると、

「将来構想を練る際には、財務情報ばかりに目がいき、非財務情報を忘れがちになる。しかし、自社の強みを掘り進めていくと、知財にたどり着くことが多いため、知財を『見える化』することに重点を置いた」

とのことです。

経営デザインシートはシンプルですので、経営者なら1人で簡単に作成できてしまうでしょう。しかし、それでは視点が偏り、抜け漏れも生じるため、信頼する幹部や外部のステークホルダーと議論しながら作成するとよいでしょう。

作成のために第三者と議論や対話を深めることで、経営者の頭の中でただのアイデアとして終わっていたことが具体化されたり、自社や事業に込める思いをキーワードとして抽出したりすることができます。

4 議論・対話を促進し、企業価値を共有した事例

機械設備事業やエレベーターメンテナンスを主な業務とするエレドック沖縄は、ベテラン技術者の高齢化に伴い、これまでの高所作業から地上作業にも事業領域を広げるべく、新たにフィットネス機器分野への進出を検討。沖縄県知財総合支援窓口の支援を受け、経営デザインシートを作成しました。

同社は、「企業等の『健康経営』推進を支える」などを、これから提供する価値に据え、それを実現するビジネスモデルとして「フィットネス機器分野の強化」、必要な資源として、「相談対応力や提案力を備えたベテラン社員」や「エレベーターに限らない機械設備メンテナンス業者としての沖縄県内での知名度」などを設定しました。

その後、事業領域の拡大とそのための移行戦略を効果的に進めるに当たり、作成した経営デザインシートについて、従業員向けの説明会やヒアリングを開催しました。その結果、従業員からは次のような反響を得ることができました。

経営者の長期的なビジョンや方針がストーリーとして理解でき、社長の下で頑張りたいという気持ちを強くすることができた

自社で行っている事業や自分の業務が、何のためのものか理解しやすくなった

事業領域が広がってきても、「仕事が増える」と考えるのではなく、新しい仕事に対する心構えができる

5 事業承継に向けた擦り合わせに活用した事例

事業承継に当たり、現経営者と後継者とのコミュニケーションツールとして活用した事例もあります。

メーカー型総合建設業を営むコプロスは、作業スタッフの高齢化や後継スタッフの不足といった課題を抱えており、そうした課題意識を従業員と共有したり解決策を検討したりするために、経営デザインシートを作成しました。

作成は次期経営者と社内の作業担当者が進め、「安全で効率の良い働き方を実践して、間接的に業界イメージの改善にも寄与する」ことなどを、これから提供する価値に据え、それを実現するビジネスモデルとして、「機器の遠隔・自動操作を実現するためのソフトウエア開発部門」、必要な資源として、「AI/ICT開発技術」などを設定しました。

その上で、移行戦略として、「AI開発企業/研究大学との協力体制の構築」や「新技術の施工を担う人材の教育」などを定めました。こうして明確になった自社が今後目指すべき方向性を、現経営者である実父へ経営デザインシートを用いて説明しました。

これまでは、次期経営者と現経営者が2人で話す際は、良くも悪くも「親子」が出てしまい、意図せず議論が脱線してしまうことがありました。しかし、経営デザインシートを目の前に議論したことで、焦点を絞り込むことができ、自社の現状としては突飛な「機械の自動化」というアイデアも、現経営者に比較的スムーズに受け入れられたといいます。

6 金融機関との相互理解に寄与

金融機関が、取引先企業の事業性を理解し、評価するためのツールとして活用する事例もあります。金融機関がアドバイスをしながら企業が経営デザインシートを作成したり、一緒に作成したり、金融機関が作成したりします。

いずれの場合も、金融機関が取引先企業の事業性の理解・評価を行いながら、パートナーとしてコミュニケーションの質を高め、共に課題解決の方策を探っていくことに役立っているようです。内閣府知的財産戦略推進事務局へのヒアリングによると、実際に経営デザインシートを活用した金融機関からは、次のようなメリットが挙がっているといいます。

企業が描く将来像を具現化するために必要な課題解決策を共に考え、具体化していくことができる

自社の強みを考える上で、競合他社との違いを知ることが重要であることを説明するために使える

企業にとっても、自社の強みや将来の構想に重要な非財務情報について、金融機関に分かりやすく説明し、理解を深めてもらうツールとして有用なものだといえるでしょう。

以上(2023年5月)

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【オーナー企業の事業承継(3)】 自社株式の評価と相続税額の把握

書いてあること

  • 主な読者:事業承継を検討している中小企業の経営者
  • 課題:自社株式の評価や、相続税の計算の全体像を知りたい
  • 解決策:それぞれの計算フローに沿って、どのように算定されるのか基本事項を押さえる

1 事業承継や相続における現状分析と問題点の把握

事業承継や相続に関する検討の第一歩は、現状分析と問題点の把握です。ここでいう現状分析とは事業自体が継続できるかどうか、また後継者の有無に加えて、株主構成、経営権の承継に関する問題点、自社株式の評価額、オーナーに万一のことがあった場合の相続税額の把握などが含まれます。

2 自社株式の評価方法

1)評価方法

相続税や贈与税の計算上、自社株式の評価は財産評価基本通達に基づき、次のいずれかの方法で行います。

  • 「同族株主」間の相続や贈与の場合:原則的評価方式
  • 上記以外の少数株主の場合:例外的評価方式

2)同族株主の判定

原則的評価方式が適用される「同族株主」とは、

株主の1人とその同族関係者(詳細は後述)の保有する議決権の合計数が、その会社の議決権総数の30%以上である場合の、その株主とその同族関係者

をいいます。

ただし、株主の1人とその同族関係者の保有する議決権の合計数の最も多いグループが、その会社の議決権の50%超を保有している場合には、その50%超の議決権を保有する同族関係者グループだけが「同族株主」となり、その他の株主グループが30%以上の議決権を保有していたとしても「同族株主」とはなりません。

3)同族関係者とは

「同族関係者」とは株主の1人と特殊な関係のある個人または法人(判定しようとする会社の株主の1人が他の会社を支配している場合における当該他の会社)をいいます。

なお、特殊な関係のある個人とは次に掲げる者などをいいます。

  • 株主などの親族(6親等内の血族、配偶者、3親等内の姻族)
  • 株主などの使用人
  • 株主などと婚姻の届出をしていないが事実上婚姻関係と同様の事情にある者

なお、「原則的評価方式」が適用となる株主は、上記の「同族株主」がいる場合の他、他の「同族関係者」グループの議決権割合に応じて、さまざまな場合に該当する可能性があります(末尾に参考資料を添付)。

実際の評価方法の判定に当たっては税理士、公認会計士などの専門家に助言を求めるようにしてください。

3 原則的評価方式による評価

1)原則的評価方式のフロー原則的評価方式は会社規模などにより、

  • 類似業種比準方式
  • 類似業種比準方式と純資産価額方式の折衷方式
  • 純資産価額方式

で評価する方法をいいます。なお、原則的評価方式による評価は、

  • 会社規模の判定
  • 特定会社の判定
  • 株式の評価方式の決定

の順に行います。原則的評価方式のフローは次の通りです。

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2)会社規模の判定

会社規模は、評価する株式を発行した会社(以下「評価会社」)の「従業員数」「総資産価額」「取引金額(売上高)」により判定し、「大会社」「中会社の大・中・小」「小会社」に区分します。

  • 従業員数が70人以上の評価会社は、「大会社」に該当します。
  • 従業員数が70人未満の評価会社は、次の(図表2)に基づき、「取引金額基準」「従業員数を加味した総資産基準」で、それぞれ会社規模の判定を行い、いずれか大きいほうの会社規模を採用します。

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例えば卸売業で「取引金額」6.5億円、「従業員数」51人、「総資産価額」5億円の会社は「取引金額基準」では「中会社の中」となり、「従業員数を加味した総資産基準」では「中会社の大」となり、会社規模の判定は大きいほうの「中会社の大」に該当します。

3)特定会社の判定

評価会社が次の特定会社に該当する場合は、一般の評価会社とは資産の保有状況や営業の状況が異なるため、後述の評価方式の決定にかかわらず、原則として「純資産価額方式」により株価を計算することとなります。

通常は「純資産価額方式」によって計算すると株価が高くなるケースが多いため、十分な注意が必要です。

1.株式保有特定会社

株式保有特定会社とは、評価会社の相続税評価額による総資産のうち、保有する株式および出資(以下「株式等」)の価額の合計額の占める割合が50%以上の会社をいいます。

2.土地保有特定会社

土地保有特定会社とは、評価会社の相続税評価額による総資産のうち、保有する土地などの価額の合計額の占める割合が次に該当する会社をいいます。

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3.比準要素数1の会社

比準要素数1の会社とは、類似業種比準方式の計算の基となる「配当」「利益」「純資産」の3つの要素の直前期における金額のうち、いずれか2つの要素の金額がゼロまたはマイナスであり、かつ直前々期における2つ以上の要素の金額がゼロまたはマイナスである会社をいいます。

4.開業後3年未満の会社

課税時期において開業後3年未満の会社をいいます。

5.比準要素数0の会社比

準要素数0の会社とは、類似業種比準方式の計算の基となる「配当」「利益」「純資産」の3つの要素の直前期における金額が、いずれもゼロまたはマイナスである会社をいいます。

6.清算中の会社

7.開業前または休業中の会社

4)株式の評価方式の決定

上記の特定会社に該当しない場合は、会社規模に応じて評価方式を決定します。評価方式の決定は次の通りです。

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5)類似業種比準方式

1.類似業種比準方式の計算

類似業種比準方式とは、評価会社の「配当」「利益」「純資産」の3要素を基準にして、類似する業種の上場会社の株価に比準して株価を計算する評価方式です。類似業種比準方式の計算方法は次の通りです。業種および比準する株価等の数値は国税庁が公表する「類似業種比準価額計算上の業種目及び業種目別株価等」から選定します。

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2.類似業種比準方式の計算上の留意点

類似業種比準方式の計算上の留意点は次の通りです。

  • 3つの要素の金額は原則として直前期、直前々期の平均数値を使用します。従って評価額には株式相場の水準に加えて、評価会社の決算での業績が影響を与えます。
  • 比準する類似業種の数値に対して自社の3つの要素が高い場合は、自社株の評価額も高くなります。
  • 業種目は評価会社の主たる業種目により判定します。複数の業種目を兼業している場合は、単独の取引金額が50%を超える業種目により判定します。
  • 計算に用いる「配当」「利益」は経常的なものに限ります。そのため、「配当」については特別配当や記念配当などの将来毎期継続することが予想できない金額は除いて計算します。

また、「利益」については固定資産売却益や保険差益といった非経常的な利益は除いて計算します。この場合、非経常的な利益より非経常的な損失が大きいときは、非経常的な利益はゼロとして計算します。

6)純資産価額方式

1.純資産価額方式の計算

純資産価額方式は、会社の資産の額から負債の額を控除した純資産価額を自社株式の価値とする方式です。これは会社の清算価値に着目した評価方式ともいえます。

純資産価額方式のイメージ図と計算方法は次の通りです。

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2.純資産価額方式の計算上の留意点

純資産価額方式の計算上の留意点は次の通りです。

  • 長期に滞留している不良資産や含み損を抱えた遊休資産について、税法上認められる範囲で除却することにより、評価を引き下げることができます。
  • 相続税評価上、資産内容を時価よりも評価を引き下げられるような不動産などの資産に組み替えることも、評価の引き下げに効果があります。ただし、評価時点から3年以内に取得した不動産については取引価額での評価となるため、組み替え後3年を経過しないと、引き下げの効果は得られないため注意が必要です。

4 例外的評価方式による評価

同族株主以外の株主や同族株主のうち少数の株式を有している株主が取得した株式については、会社の規模にかかわらず、例外的評価方式である配当還元方式により株式評価を行います。

配当還元方式の計算方法と計算例は次の通りです。

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5 相続税の計算

1)相続税の計算フロー

相続による自社株式の承継に係る相続税は、承継のためのコストと捉えることができます。また、相続税の納付は原則金銭による一括納付が原則ですが、これを納付期限である相続発生後10カ月以内に納付することが必要となりますので、相続税の納付資金をあらかじめ用意しておくことは、スムーズな事業承継を進めるための第一歩ともいえます。それには、オーナーに万一のことが発生した場合に必要となる相続税額を、大まかにでも把握しておくことが大切です。

相続が発生した場合の相続税の計算フローは次の通りです。

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1.課税遺産総額の計算

土地、建物、現預金といったプラスの財産の評価額の合計額から、借入金や未払金などのマイナスの財産および葬式費用の合計額を差し引いた正味の遺産額から基礎控除額(3000万円+(600万円×法定相続人の数))を引いた額が課税遺産総額となります。

課税遺産総額の計算(イメージ)は次の通りです。

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法定相続人は、民法で範囲が決められていて、次のような相続人の順番になっています。

第1順位:配偶者と子
第2順位:配偶者と直系尊属(被相続人の父母)
第3順位:配偶者と兄弟姉妹

また、遺言などにより相続分の指定がない場合の共同相続人の順位と相続分は次の通りです。なお、配偶者は常に相続人となります。

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2.相続税総額の計算

算出した課税遺産総額を、いったん法定相続分で分割したものと仮定して、各相続人の相続分を算出し、これに相続税率を乗じて計算した税額の総額が相続税総額となります。なお、相続税総額を計算する際は、次の速算表を参考にするとよいでしょう。

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3.各人の相続税額の計算

上記で算出した相続税総額に実際の各人の取得割合を乗じて相続税額を算出します。

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2)相続財産について

次の財産については、相続が発生した時点で被相続人が保有していた財産に加算されて相続財産となりますので、注意が必要です。

1.一定の贈与財産

次の一定の贈与財産は、相続財産とみなして相続税が課されます。

  • 相続開始前3年以内(2024年1月1日以降に発生した相続については、7年以内)の暦年課税贈与財産
  • 相続時精算課税制度により贈与された財産(2024年1月1日以降に発生した相続については、相続時精算課税制度を選択した上で行った贈与のうち、毎年110万円までの贈与は相続財産に含まれません)
  • 贈与税の納税猶予制度により贈与された非上場株式

2.みなし相続財産

次の財産は民法上では受取人固有の財産ですが、相続税法上では相続財産とみなして相続税が課されます。

なお、生命保険金と退職手当金については、それぞれ「500万円×法定相続人の数」を非課税財産として控除することができます。

  • 死亡保険金(生命保険・損害保険)
  • 死亡後3年以内に支給が確定した退職手当金
  • 生命保険契約に関する権利

6 (参考資料)同族株主のいない場合の自社株式の評価方法の選定フロー

同族株主のいない場合の評価方法の選定フローは次の通りです。

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7 (参考資料)同族株主のいる場合の自社株式の評価方法の選定フロー

1)筆頭株主グループの議決権割合が30%以上50%以下の場合

同族株主のいる場合の評価方法の選定フロー(筆頭株主グループの議決権割合が30%以上50%以下の場合)は次の通りです。

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2)筆頭株主グループの議決権割合が50%超の場合

同族株主のいる場合の評価方法の選定フロー(筆頭株主グループの議決権割合が50%超の場合)は次の通りです。

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以上(2023年6月)
(監修 辻・本郷税理士法人 税理士 安積健)

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画像:soo hee kim-shutterstock

【事業承継】株式移転で持株会社を設立するスキーム~親族外承継に最適

書いてあること

  • 主な読者:親族内で後継者が見つからず、事業承継が進まない経営者
  • 課題:親族外承継のスキームはさまざまで、どの方法がよいか迷っている
  • 解決策:株式移転で持株会社を新設するスキームで、低コストで事業承継が実現する

1 親族外承継を実現するための「持株会社」の活用

この記事で紹介するのは、

「株式移転」によって持株会社を設立するスキーム

です。株式移転では現金の代わりに株式などを用いて行うため低コストで実施可能です。

株式移転を活用して持株会社を設立するイメージは次の通りです。

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オーナー経営者が所有する事業会社A社(以下「A社」)の株式を、新設する持株会社B社(以下「B社」)に現物出資します。その対価として、持株会社の新株(B社株式)を引き受けます。この一連の手続きが「株式移転」です。その結果、オーナー経営者、A社、B社の関係は次のようになります。

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株主(オーナー経営者)は、B社にA社株式を売却しているわけではないので課税されません。つまり、税金コストをかけることなく、B社にA社株式を保有させることができるのです。

2 持株会社を使った財務改善

設立したB社を有効活用しなければなりません。ここで重要となるのが不動産です。例えば、A社の本社や工場の土地建物をB社に売却すれば、A社の現預金が増加し、財務改善につながります。これを借入金の返済に充てれば、有利子負債も減ります。このように、

A社を財務的に強い会社とした上で、後継者に経営のバトンを渡す

ことができます。

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3 持株会社を使った所有と経営の分離

このような処理をした結果、B社は株式と不動産を所有します。株式と不動産を所有するだけなら、親族に経営を任せやすくなります。そして、事業を行うA社の経営は、従業員の中で一番優秀な者(親族外の者)に委ねることができるでしょう。つまり、

「A社の所有」はB社に、「A社の経営」は事業会社の経営者に分離する

ということです。

なお、A社はB社に対して事業で使用する不動産の賃料を常に支払わなければなりません。逆に言えば、B社には自然と売上(不動産収入)が計上されます。また、A社から配当を受けても、B社はA社株式を100%所有しているので課税されることはありません(配当収入)。詳細は割愛しますが、これは、

受取配当金の益金不算入

という法人税法上の取り扱いです。

4 持株会社を使った経営管理の仕組みづくり

持株会社を活用すると、事業会社の管理も効率化できます。A社株式はB社に100%所有されているので、A社の株主総会はB社が書面のみで決定できます。どういうことかというと、

通常ならば複雑な手続きが必要となるA社の経営者変更や役員報酬の決定なども、B社で書面決議すれば手続きが完了する

ということです。

もちろん、形式的な処理だけで会社の経営ができるわけではありませんが、法的に強い管理を及ぼすことができる組織を作ることは重要です。B社を活用すれば、それが比較的少ない負担で実現するわけです。

5 A社の従業員社長を管理する際の留意点

このように株式移転を活用して持株会社を設立する事業承継には、多くのメリットがあります。とはいえ、将来にわたって事業会社(ここではA社)の経営者となった従業員などを管理し続けるのは難しいでしょう。実際、数十年間も経営を任せていたら、子会社の社長(以下「従業員社長」)が言うことを聞かなくなったという相談を受けることもあります。

こうならないように重要となるのが従業員社長のコントロールであり、そのポイントは「報酬」と「任期」です。

1.報酬

事業会社の経営を任せるのですから、やりがいのある報酬の設定が必要です。毎月の固定報酬、決算時の賞与、そして退職慰労金について、経営者としての職務に見合った一定のルールを作ります。

2.任期

経営者の任期を決めることも重要です。あまりに長期間経営を委ねてしまうと、どうしても自分の会社だという意識が生まれてきます。そこで、実務的には5年程度のローテーションで経営を委任できるような運用が望ましいところです。

6 所有と経営の分離と出口戦略

所有と経営を分離した状態で一時的に親族外に承継しますが、次の世代で親族内から後継者を選べた場合は、親族への承継を実施することになります。あるいは、経営を任せていた従業員社長が独立を希望するならば、MBO(マネージングバイアウト)によって事業を従業員に譲渡することもできます。

持株会社が事業会社の株式を100%所有している場合、事業会社からの配当金には課税されません。現金だけでなく現物資産を配当することもできます。となると、事業に必要な資産だけを残し、それ以外を持株会社に移転すれば、事業会社の価値は押し下げられ、従業員社長が買い取りやすくなります。

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以上(2023年6月更新)
(執筆 日比谷タックス&ロー弁護士法人 弁護士 福崎剛志)

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画像:Mariko Mitsuda

習慣形成のプロセス

 習慣とは、「学習によって後天的に獲得され、反復によって固定化された個人の行動様式」です。

習慣形成のプロセスには「きっかけ・欲求・反応・報酬」の4つがあります。

 この4つのプロセスは習慣全般に共通していますが、一度習慣化された行動を私たちはほとんど認識することができません。そのため、多くの人がこのプロセスをほとんど自覚せず、できてしまった習慣にやみくもに従っています。

 逆に言えば、この習慣のステップを理解すると、自分がその行動をやめられない理由や新しい習慣が身に付かない理由を分析しやすくなります。また、習慣を変えるには同じ行動を繰り返す必要がありますが、習慣形成のプロセスを知ることで、習慣改善のサイクルを今より効率的に回せるようになるでしょう。

1 きっかけ

 習慣のきっかけはわずかな情報です。私たちの脳は絶えず周囲の状況を観察・分析していますが、十分に練習を重ねると少ない情報から将来の結果を予測できるようになります。そうして、脳が結果を予測できるわずかな情報(きっかけ)に気付くと、私たち自身は自覚がないまま、それに適した行動を取るのです。

 また、脳は記憶している膨大な行動のパターンの中から、わずかな情報を頼りに今採用すべき習慣を決定します。習慣はほとんど自動化されており、ささいなきっかけで欲求を刺激され、自覚しないうちに反応するのです。そのため、自分が変えたい習慣のきっかけさえ自覚できれば、それだけでも自動化された習慣の抑止力になります。

お菓子を食べそうになる状況

 習慣のきっかけを見つけるには、まずは丁寧に自分の行動を振り返ります。例えば、仕事中にお菓子を食べ過ぎてしまうことに悩んでいるとして、自分の行動を一つ一つ振り返ってみましょう。お菓子を食べるのは、仕事が一段落ついたときでしょうか? すぐに解決できない問題が起きて、ストレスがたまったときでしょうか? また、食べるお菓子は休憩コーナーに置いてあるお菓子でしょうか? それとも自分で用意したお菓子でしょうか?

 自分の行動を丁寧に振り返れば、自分がお菓子を食べそうになる状況を少しずつ自覚できるようになります。すでに身に付いている習慣のきっかけは、新しい習慣のきっかけとして活用できるので、自分を責めることなく、冷静に自分を観察しましょう。

2 欲求

 欲求は、あらゆる習慣の原動力です。

 欲求の有無が習慣になるかどうかのカギとなります。たとえある行動の結果好ましい報酬が得られても、欲求がなければ習慣にはなりません。例えば、宝くじを買って1万円が1度当たったとしても、ほとんどの人は習慣的に宝くじを買うようにはならないでしょう。

 しかし、もし宝くじ売り場の前を通るだけで当選した興奮を“期待”するようになった人は、そうでない人よりも宝くじを買う可能性はずっと高くなります。

 期待するということは、報酬が実際に得られる前(例えばきっかけに気付いただけの段階)に、報酬を得られたときの喜びを予感し、待ちわびるようになっているからです。期待は欲求が芽生えている証拠なのです。

 期待が満たされないと人はイライラします。イライラにいつまでも耐えるのは難しいので、多くの人はまた前と同じ行動を取ってしまうのです。

 すでに欲求がうまれ、期待するようになっているなら、自分の意思だけで乗り切ろうとせず、周囲の力を借りるとよいかもしれません。禁煙外来のような専門家に相談するだけではなく、タバコを吸わない人と過ごす時間を長くしたり、家族や友人などに禁煙すると約束したりするなど、周囲の目を積極的に活用しましょう。

 また、欲求の優先順位を変えることも有効です。タバコを吸って得られる爽快感より、健康的な生活や節約できたお金の使い道などを大事だと考えてみてください。最初は無理やり思い込んでいる感じがしても、次第に本当にそう思えるようになるはずです。

3 反応

 反応とは、実際に行う習慣のことです。

 反応は、きっかけに対応した固定化された行動や思考として、無意識に起こります。脳は状況に対する反応を固定化することでたくさんの労力を節約し、より重要な問題に意識を集中しやすくしています。

 しかし、脳が取るべき行動をいちいち判断しなくなるのは、良いことばかりではありません。急ぎの仕事の最中に、メールの通知音が聞こえてついスマホを確認してしまったことはありませんか? 脳はメールを開けばつかの間の気晴らしを得られると学習し、通知音が聞こえたら状況に関係なく、反射的にスマホを確認するようになってしまったのです。

 一度固定化された反応を完全に消すことは、ほとんど不可能です。減量に成功して何年もたったのに、どうしようもないストレスを感じて一気に食べて太ってしまうのは、脳が過去のルーティンを記憶しているためです。

 ただし、アルコール依存症やギャンブル依存症のような中毒症状でもなければ、自分でもその反応が出てこないよう工夫できます。具体的には、今のルーティンを新しいルーティンに置き換えることです。きっかけと報酬はそのままにして、取る行動だけを変更します。ストレスで一気に食べてしまう人は、ストレスと歯磨き、ストレッチなど、リラックスできる別の行動を試してみるのです。

 このときのコツは、やめたい習慣は実行しづらいように、身に付けたい習慣は簡単にできるようにすることです。新しい習慣をつくるには何度も同じ行動を繰り返すと効果的なので、歯ブラシを何本か買って、磨きたくなったらすぐに歯を磨ける環境を整えます。反対にクッキーは棚の一番取りにくい場所に移動して、手を伸ばしにくくします。

4 報酬

 習慣の最終目標です。報酬は欲求を満たし、学習を完成させます。

 報酬の最初の目標は、とにかく欲求を満たすことです。ダイエットと筋トレで引き締まった健康的な身体をつくり、昇進して称賛や収入を得ることです。

 しかし、脳はどうやって満足できる報酬をもたらす行動と、もたらさない行動を区別するのでしょうか? これは、報酬が得られるタイミングが重要になります。なぜなら、実際の行動よりもずっと後から報酬がやってきても、脳はその行動は本当に学習する価値があると、なかなか判断しないからです。

 一方、食事のように行動した瞬間に直ちに心地よい報酬を得られるのであれば、脳は優先して記憶しようとします。つまり、脳にとっては食事を我慢してイライラするより、食べたいだけ食べて楽しい気持ちになるほうが合理的なのです。

 努力してから結果が出るまでに時間がかかるダイエットや貯蓄などの行動を定着させたいなら、すぐに得られる報酬(即時報酬)を準備しましょう。ダイエットなら毎日体重計に乗って記録を取ったり、目標となるモデルの写真を飾ったりすることです。自分の努力がどこに向かっているのかはっきりすると、そうではない場合よりも達成感が得られ、脳も報酬だと感じやすくなります。

 ただし、この即時報酬は自分が目指したい方向と矛盾しないように注意してください。例えば、「運動した後にはお菓子を食べる」という報酬は、進もうとしている方向と真逆になるのでふさわしくありません。

5 まとめ

 習慣形成の「きっかけ・欲求・反応・報酬」という4つのプロセスと、それに適した対応策を紹介しました。自分の習慣を自覚するのは簡単ではありませんが、習慣化に対する知識をもつことで、自分の習慣をより良い方向へ変えていく助けとなるでしょう。

<参考書籍>
「ジェームズ・クリアー式複利で伸びる1つの習慣」(ジェームズ・クリアー(著)、牛原眞弓(訳)、パンローリング、2019年11月)
「習慣の力 新版」(チャールズ・デュヒッグ(著)、渡会圭子(訳)、早川書房、 2019年7月)

以上(2023年6月更新)

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習慣とは何か?

1 変えたい習慣

 健康や美容、仕事のために今の生活を変えようとしたことはありませんか? 食べ過ぎや飲み過ぎ、スマートフォンの使い過ぎなど、何らかの習慣が過剰になると、生活全体に悪影響を与えることがあります。しかも、いざやめようとしても、最初何日かは我慢できるものの、数週間後にはたいてい元に戻ってしまうのです。

 習慣を変えるのが難しい理由はいくつもあります。よくある悩みは、気付かないうちにやってしまう、我慢しているのに効果がすぐに出ない、新しい習慣が定着したと思ったのに何かのきっかけで古い習慣が再開してしまったなどです。新しい習慣を身に付けるためには、こうした問題に対処するポイントを知り、長い目で取り組む必要があります。

 この記事では、習慣が身に付く仕組みと、習慣を変える方法を紹介します。習慣化のプロセスを知ることで今より結果を出しやすくなるはずです。

2 習慣とは何か

 習慣という言葉を辞書で見ると「同じ状況のもとで繰り返された行動が、状況に応じて安定化し、自動化されて遂行される」など、いくつかの意味が載っています。

 この記事では主に個人の習慣に焦点を当てるため、「学習によって後天的に獲得され、反復によって固定化された個人の行動様式」という意味で用います。朝目覚めるとほとんど無意識に顔を洗ったり、歯を磨いたりできるのは、習慣のたまものです。最初はいちいち注意してやっていた行動が、習慣化するとほとんど何も考えずに行えるようになります。

 習慣になる行動は、単純な動きだけではなくかなり複雑な行動も含まれます。日ごろから運転する人は、駐車のような神経を使う動作でも、今はほとんど何も考えずにできるでしょう。脳が日常的な行動の一部を自動化してくれるおかげで、私たちはもっと重要な問題に神経を使えるようになるのです。

3 欲求が習慣の原動力

 繰り返し行っているだけで全ての行動が習慣になるというわけではありません。習慣のプロセスについてはさまざまな研究が進み、習慣として繰り返されやすい行動には次のような特徴があることが分かってきました。

繰り返されやすい行動:「欲求が満たされる結果」を導く行動
(繰り返されにくい行動:「不快な結果」を生み出す行動)

 脳は欲求を満たしてくれる行動を優先的に記憶し、望ましい報酬を効率的に得ようとします。しかも、私たちが望んでいると思っているものと、脳が感じる欲求はいつも一致するわけではありません。頭では健康になりたいと思っていても、多くの人にとって、サプリメントよりポテトチップスやチョコレートのほうがずっと魅力的に見えるのです。

欲求が習慣の原動力

 現代は高カロリーな食品があふれており、あえて意識しなくても糖分や脂肪などの必要摂取量をとれます。そのため、本来なら食べ過ぎないよう注意しなければならないのですが、脳の本能的な部分は食料が乏しい時代のことを覚えていて、糖分や脂肪分を効率的にとれる食品を好みます。私たちは今の環境に合った食生活をしたいと考えているつもりでも自分でも気付かないところで、違うことを望んでいるのです。

 自覚している希望と脳が感じている欲求の違いは、古い習慣をやめ、新しい習慣を始める妨げになります。習慣を効率よく変えていくためには、こうした認識のズレを埋め、隠れた欲求をコントロールする方法を学ぶ必要があるのです。

<参考書籍>
「ジェームズ・クリアー式複利で伸びる1つの習慣」(ジェームズ・クリアー(著)、牛原眞弓(訳)、パンローリング、2019年11月)
「習慣の力 新版」(チャールズ・デュヒッグ(著)、渡会圭子(訳)、早川書房、 2019年7月)

以上(2023年6月更新)

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倒産リスクに備える「取引信用保険」のススメ

2023年5月8日より、新型コロナウイルス感染症(以下「コロナ」)の感染症類型が2類相当から5類に引き下げられ、日常生活や観光地・街中の活気も、徐々にコロナ前の状態に戻ってきました。とはいえ、会社を取り巻く状況を見ると、まだまだ安心はできません。
足元では、ウクライナ戦争に端を発した物価上昇、人手不足や最低賃金の引き上げなどによる人件費の高騰。それに加えて、いわゆる「ゼロゼロ融資」(コロナ禍で売り上げが減った会社に、実質無利子・無担保で融資する仕組み)の返済が開始する会社も多く、倒産リスクはまだまだ高いといわれています。

そこで、この記事では、取引先の倒産による貸し倒れリスクに有効な「取引信用保険」についてご紹介します。取引信用保険を活用すると、万が一取引先が倒産した場合も売掛金を補償してもらえるほか、第三者から与信評価を得られるなどのメリットがあります。特に売掛債権を多くお持ちの場合は、債権保全の手法の一つとしてご参考になれば幸いです。

1 取引先倒産による貸倒れリスクは増加傾向

帝国データバンクの調査によると、コロナ関連の倒産件数は、2020年(835件)から2022年(2294件)と約2.75倍に増加しています。コロナの5類引き下げ(2023年5月8日)以降も倒産は続いており、倒産件数は2023年6月2日時点で累計5926件に上ります。

倒産件数の画像です

業種別では、飲食店と建設・工事業が大きなウエイトを占めています。

取引先から倒産の連絡を受けた後に対策を打っても、貸し倒れは食い止められないかもしれません。その影響で、今度は自分たちが、顧客や取引先に迷惑をかけてしまうこともあり得ます。大切な顧客や取引先などのためにも、事前に自社のリスクを認識し、具体的な対策に落とし込むことが大切です。

2 突然取引先から「倒産する」と連絡が入るかもしれない……

最近の倒産リスクの要因を改めて整理すると、主に次の3つが挙げられます。

水道光熱費は、電力会社などの値上げ申請によって高騰しています。例えば、東京電力は2023年6月1日から平均29.31%の値上げを経済産業省に申請するなど、大きな料金体系の変更が伺えます。
また、コロナ禍の人手不足や悪天候、ウクライナ戦争の影響もあり、仕入れ原価が高騰しています。食品や金属など、海外からの輸入に頼っている会社は値上げをすることも考えられるでしょう。こうした値上げが取引にマイナスの影響を及ぼすかもしれません。
さらに、コロナ禍でゼロゼロ融資を利用した会社は、3年間の実質無利子期間が終了し、利払い開始となり、その後の元本返済猶予も最長5年となっております。経営体制が整っていない場合、収支が合わなくなることも考えられるでしょう。
この他、運送業が抱える「2024年問題」など、業種別のリスクも見逃してはいけません。それぞれのリスクを認識し、対策を講じながら事業を運営していくことが大切です。

3 取引先倒産のリスク対策として「取引信用保険」の活用

1)取引信用保険

取引信用保険とは、売掛債権の保全を目的とした損害保険の一種です。簡単に言うと、取引先の売掛金を回収できないときに被る損失に対し保険金が支払われます。つまり取引信用保険に加入していて取引先が倒産した場合、契約者(損害を被った会社)は保険会社から契約した分の損害額を補填してもらえます。貸し倒れが生じた会社の債権は保険会社に移転するため、契約者は手間がかかりません。
また、保険加入により取引先の与信管理を強化することができます。同保険の保険金額を算出するとき、引受保険会社が取引先の与信を評価し保険料を算出します。自社と外部の両方で与信を評価すれば、取引先の倒産リスクを客観的に把握しやすくなります。倒産リスクが高い会社だと分かれば、取引を縮小するなどの対策を検討することもできるでしょう。保険料算出には、債権保有リストの提出が必須になります。
また、取引先の貸し倒れ防止で資金繰りが安定することも特徴の1つです。取引信用保険に加入していれば、取引額の大きい会社が倒産しても資金繰りに困らず、貸し倒れが原因で社員に給料を支払えなくなったり、株主からの評価を下げたりすることを防げます。キャッシュフローが安定するので、資金繰りに関するリスクを軽減できるでしょう。
さらに、支払った保険料は会計上費用として認められる(全額損金処理できる)ため、税負担を減らすことができるというメリットもあります。

2)取引信用保険(簡易型)

昨年から今年にかけて前述の取引信用保険の簡易版が発売されております。債権保有リストの提出が不要で与信の評価に関わらず代金未回収損害の一定部分に対し、保険金をお支払いする取引信用保険(簡易型)があります。
支払限度額は保険会社によりますが、一般的には1事故あたり100万~500万円(一部の会社は上限300万円)の範囲内で設定します。
保険を締結するときは、売買契約、請負契約の売掛金がある取引先は原則全て(※一部長期請負契約の債権など除外あり)対象となります。また、取引先数の上限もなく、契約後の追加手続きも不要になります。売上高と業種にて保険料が確定します。契約の手続きができるといった手軽さもあります。

3)まとめ

取引信用保険の特徴の画像です

以上が取引信用保険の大きな特徴です。スタートアップとの取引が多かったり、飲食業や建設業など、コロナの影響が大きかった会社と取引していたりする場合は、加入を検討してみるのもよいでしょう。
取引先の倒産リスクへの対策を講じるのは、自分たちの為だけではありません。大切な自社の顧客や取引先など、周りの関係者に迷惑をかけるのを防ぐことにもつながります。関係者と力を合わせてコロナ後のビジネスを守っていくためにも、取引信用保険の活用を考えてみるのも一策です。

りそな銀行では、企業様における保険全般について、ご相談を受け付けております。

本件お問い合わせ先
りそな銀行コーポレートビジネス部
法人保険グループ
03-6704-2364(担当:徳田・田中)

ご参考 取引信用保険とファクタリングの違い

取引信用保険と似たような金融商品に「ファクタリング」があります。経営者はこれらの商品の違いを押さえておくことが重要です。
結論、取引信用保険とファクタリングの違いはその「目的」にあります。取引信用保険は万が一に備えるためのものですが、ファクタリングは直近の資金調達が主な目的です。
例えば、「万が一取引先が倒産したときのために売掛金の保険を用意したい」と考えている経営者には、取引信用保険が適しています。一方「現金が不足していて今すぐ売掛金を回収したい」と悩んでいる経営者には、ファクタリングがおすすめといえるでしょう。

以上

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2023年6月6日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

※上記内容は、株式会社日本情報マートまたは執筆者が作成したものであり、りそな銀行の見解を示しているものではございません。上記内容に関するお問い合わせなどは、お手数ですが下記の電子メールアドレスあてにご連絡をお願いいたします。

【電子メールでのお問い合わせ先】
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(株式会社日本情報マートが、皆様からのお問い合わせを承ります。なお、株式会社日本情報マートの会社概要は、ウェブサイト https://www.jim.jp/company/をご覧ください)

習慣と意思

1 意思が強くないと習慣は変えられない?

 世の中には、特定の行動を習慣化して望んだ結果を出せる人と、数カ月でサボりがちになってしまう人がいます。あるデータによると、フィットネスクラブの新規入会者は6カ月以内に40%以上が退会するようです。継続していても実際はフィットネスクラブに通っていない人を合わせれば、6カ月以内に半分以上が挫折してしまうといえるでしょう。

 何故そのような結果になるのでしょうか? 決めたことを実行できる意思力が先天的に強い人でなければ、良い習慣を身に付けることはできないのでしょうか?

 もちろん、そんなことはありません。確かに、新しい習慣を身に付けるには誘惑を拒み、前の習慣に戻りたくなる衝動にあらがわなくてはなりません。しかし、その衝動にあらがう力が先天的なもので生涯変わらないとすれば、何度もダイエットに失敗していた人があるとき成功する理由が説明できません。モチベーションなどの影響もゼロではないでしょうが、一定数の人は失敗するうちに要領を覚え、自分に合う方法を見つけられると考えたほうが自然です。

 「自分は意思が弱い」と習慣化を諦めてしまっている人のために、この記事では意思の強さに頼らないでも習慣を変えられるコツを紹介します。

2 意思の強さに自信がない人が習慣化を成功させるには

1)得意なことから始める

 習慣化のために大事なのは何度も繰り返し行うことですが、苦手なことを何度も繰り返し行うのは苦痛を感じやすいものです。習慣化に慣れていない場合は、まずは得意な分野で試して、成功体験をつくりましょう。

 例えば、掃除好きの人なら、どの部屋をどれくらいの頻度で、どのように掃除するか、計画を立てて実行してみてください。得意なことであれば慣れるのも早く、成果も出やすいはずです。もしもうまくいかなくても、試行錯誤しているうちにノウハウがたまってきます。ある程度自信がついたら、自分が本当に変えたい習慣にチャレンジしましょう。

2)事前に誘惑やストレスへの対処法を準備する

 いくら忍耐力や自制心に自信がない人であっても、いつも誘惑やストレスに負けてしまうわけではありません。いつもは我慢できていることができなくなるのは、イレギュラーな出来事や過度なストレスにさらされたときが多いようです。

 例えば、数週間毎日1日1万歩ウォーキングしていても、残業で疲れた日やパートナーとけんかしてイライラしている日に、習慣が中断してしまうことがあります。それで気が抜けて、せっかく身に付きかけたルーティンをやめてしまうのはもったいないことです。

 予想できる誘惑やストレスがある場合は、そういう状況のときにどんな対応をすればいいか、事前に対処法を考えておきましょう。ストレスが実際に起きた瞬間、どうやって耐えるかを詳しくシミュレーションし、誘惑やストレスがあっても平静で居られるよう、心構えをしておくのです。

3)誘惑の少ない環境をつくる

 意思の強い人でも、誘惑が近くにあればなかなか我慢することはできません。ダイエット中に自宅に高カロリーのお菓子が置いてあるとつい手を伸ばしたくなりますし、スマホを近くに置いていると仕事中でも開きたくなってしまいます。

 誘惑に弱い自覚があるならば、それらを意識的に避けるべきです。仕事をするときはスマホをかばんにしまい、休憩時間以外開かないようにします。それが難しければ、メッセージの通知音を消すなど、集中力を乱さない工夫をしましょう。

 誘惑を避ける工夫は、身に付けたい習慣を何度も繰り返すのと同じくらい重要です。環境をコントロールすることで、自分の精神力に頼る必要がなくなります。

4)忍耐力や自制心自体を高める

 意思の強さというと、先天的な性格によって決まっていると思うかもしれませんが、実際には筋肉のように後天的に鍛えられるものだといわれます。

意思の強さは筋肉のように鍛えられる

 ある実験では、筋トレや勉強、金銭管理など、一つの分野で集中的にトレーニングすることで、その分野とは異なる方面(食事や仕事、メンタルなど)でも誘惑や衝動に対するコントロールも上達するという結果が出ています。

 こうしたトレーニングでは、目標の難易度設定の仕方など、習慣化全般に必要な能力の向上が期待できます。本格的に習慣改善をしたい人は、一度筋トレなどに集中的に取り組んでみてもよいかもしれません。

<参考書籍>
「ジェームズ・クリアー式複利で伸びる1つの習慣」(ジェームズ・クリアー(著)、牛原眞弓(訳)、パンローリング、2019年11月)
「習慣の力 新版」(チャールズ・デュヒッグ(著)、渡会圭子(訳)、早川書房、 2019年7月)

以上(2023年6月更新)

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