【交渉術】主張が入り乱れる「製販調整会議」から学ぶ交渉に強い組織

書いてあること

  • 主な読者:同じ会社なのに製造部と販売部など、部門間が協力せずに困っている経営者
  • 課題:部門の力関係や妥協によって方針が決められていて、建設的な議論にならない
  • 解決策:相手が本当に望んでくることを把握して交渉し、最善策を検討するようにする

1 なれ合いでもけんかでもない。交渉術を身に付ける

ビジネスは利害の異なる人が意見調整しながら進めるものですが、これは社外に限ったことではありません。例えば、製造業が生産/販売計画のズレを補正する「製販調整会議」(以下「会議」)では、社内の関係者の利害が次のように衝突します。

  • 生産部門:増産よりも製造ラインの安定稼働
  • 販売部門:製造ラインの安定稼働よりも増産による収益の確保

このようなとき、単純なパワーバランスで決まったり、なれ合い(交互に主張を通す)で決まったりするようでは駄目でしょう。かといって、調整が子供のけんかのように対決になるのも論外です。経営者は、

社員がきちんと交渉術を身に付け、会社にとって好ましいと信じる方向に進むために議論してほしい

と考えるでしょう。

そこでこの記事では、鉄鋼メーカーA社の会議を例に、交渉術を使って組織を同じ方向に導く方法を紹介します。社員教育の一環としてご活用ください。

2 鉄鋼メーカーA社の会議

鉄鋼メーカーA社は、国内外に鋼材を販売しています。国内向けが中心ですが、ここ数年は低迷しており、海外市場のさらなる開拓が必須となっています。ただし、海外市場は大量受注が見込めるものの単価は安く、生産ラインの安定稼働によるコストコントロールが課題です。

そのような折、販売部門が海外の顧客から新規受注を獲得しようとしています。なにやら、「海外のコンテナメーカーが、ステンレス製コンテナの製造工場を新設するため、ステンレスの取引量をこれまでの2万トンから3万トンに引き上げたい」というのです。

今回、販売部門が持ち込んだのは計画外の1万トンです。販売部門にとっては大手柄になる可能性があるビッグディール。一方、生産部門は計画外の生産によるリスクを何とか回避しようとします。すると、次のように両部門の主張は衝突します。

  • 販売部門長:「3カ月後の納品予定で、ステンレスを1万トン増産してほしい。国内市場が低迷する昨今、海外市場の開拓は経営目標でもある。これは千載一遇のチャンスなのだ!」
  • 生産部門長:「おいおい、いきなり1万トンの増産はむちゃだ。そんなことしたら他のラインに影響が出かねない。それに、そもそも採算は合うのか。海外向けは利益率が低いから無理する必要はない」
  • 販売部門長:「“いつもの”慎重すぎて『石橋をたたいて渡らない』って考えか。多くのコンテナはさびやすい鉄製だが、ステンレスならさびにくい。このビジネスで成功すれば海外展開の可能性が広がると思わないのか?」
  • 生産部門長:「生産体制を見直すのはリスクだと言っている。既存顧客に悪影響が及べば本末転倒だ! それに、今後の需要は“いつもの”『捕らぬ狸(たぬき)の皮算用』ってやつか? 需要予測はデータで示してほしい」

3 心理的バイアスの軽減

同じ事象に遭遇しても、個人の心理的な状態によって捉え方は異なります。例えば、次のようなシーンの場合、瞬時にどのような印象を抱きますか?

  • アラスカの住民に冷蔵庫を営業する → 売れる/売れない
  • コップに水が半分入っている → まだ半分もある/もう半分しかない
  • 計画外でステンレスを1万トン生産する → チャンス/リスク

例えば、「アラスカの住民に冷蔵庫が売れるわけがない」と瞬時に判断することを、心理学では「フレーミング」(枠付け)と呼びます。フレーミングには、所属する組織の文化や個人の経験が強く影響しており、これを完全に排除することはできません。先の鉄鋼メーカーA社の会議で、販売部門長と生産部門長が双方とも「いつもの」という言葉を使っていたことに気付きましたでしょうか。これが典型的なフレーミングで、お互いが相手に対して固定化されたイメージを持っている証拠です。

フレーミングは誰にでもあります。相手が「こちらの考えを理解しない」と腹を立てるのではなく、少しでも多く売りたい販売部門と、常に生産ラインを安定稼働させたい生産部門とでは、常識が違うことを認識する努力が必要です。

その上で、フレーミングから抜け出す「リフレーミング」(再枠付け)を試みます。その方法には「人や場所を変える」「第三者に同席してもらう」などがあります。「相手が知らない情報を提供し、気付きを与える」こともビジネスでは有効です。

先のアラスカの例では、「アラスカの住民は、食品を解凍する時間と手間を嫌っている。冷凍のニーズはないが、『食品を適温に保つ箱』のニーズは高い」といった情報を提供し、冷蔵庫の売り方の気付きを与えるのです。

フレーミングの他にも心理的バイアスは数多くあるので、一覧にまとめます。フレーミングと同様にこれらを完全に排除することはできませんが、少なくとも「双方に心理的なバイアスがある」ことを知るだけでも効果があります。

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4 論点の整理

交渉を「駆け引き」だと思っている人がいます。駆け引きとは、もともと「戦争における兵隊の押し引き」という意味ですから、交渉は相手との勝負ということになります。しかし、これでは片方が得をすると、もう一方は損をすることになります。例えば、販売部門が担当役員などを巻き込んで、無理やり1万トンの増産を生産部門に受けさせれば、生産ラインは混乱しますし、遺恨となります。

そうならないように心理的バイアスを軽減し、人と問題を切り離した上で状況を整理します。そうすると、表面的な主張は激しく対立しても、根本的なところで大切にしていることは一致しているケースがよくあります。例えば、次のようにです。

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上図のような整理ができると、交渉の突破口が見えてきます。販売部門は「海外市場の開拓」、生産部門は「生産ラインの安定」を重視しており、このポイントを満たす合意案を考えることが、「Win-Win(ウィンウィン)」の関係構築です。

相手が本当に望んでいることは、相手が譲れないことともいえます。これを知らないままでWin-Winを目指せば、表面的な妥協を繰り返すことになりかねません。この辺りの違いを次章で確認していきましょう。

5 交渉で必ず押さえたい3つのこと

1)留保価値

交渉は駆け引きではありませんが、良い人同士の譲り合いでもありません。合意のために自分の要求レベルを下げ続ける人もいますが、これでは交渉をする意味がありません。そこで登場するのが、交渉で必ず押さえることの1つ目、「留保価値」です。

留保価値とは、

「それ以下の条件では合意しない」という交渉の最低ライン

です。例えば、販売部門が1万トンにこだわれば、1万トンが留保価値となります。一方、生産部門はどんなに頑張っても7000トンしか増産できなければ、これが留保価値となります。

2)ZOPA

交渉で必ず押さえることの2つ目が、「ZOPA(ゾーパ:Zone of Possible Agreement)」です。

ZOPAとは、

双方の留保価値の間、つまり交渉余地

です。「交渉の余地はあるのか?」とのフレーズをよく聞きますが、これは「双方の留保価値はクロスしているのか」と同義です。

先の例で言えば、販売部門の留保価値が1万トン、生産部門の留保価値が7000トンの場合、次のような関係になります。「絶対に1万トンが必要だ」と販売部門が主張したとしても、「ない袖は振れない」と生産部門が主張する状態では、ZOPAがつくれません。

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これが、相手が本当に望んでいることを知らずに、表面的な妥協を繰り返すというありがちなパターンです。しかし、双方が本当に望んでいることは、販売部門は「海外市場の開拓」、生産部門は「生産ラインの安定」です。これを図にすると次のようになります。

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販売部門が持ち込んだ案件で、顧客が「3カ月後に3万トン(もともとの2万トンと新たな1万トン)を納品できないなら他社に切り替える」と要求してきているとしたら、何とか1万トンを確保しないと「海外市場の開拓」が達成できません。

一方、生産部門は7000トンならば確保できると言っているので、残りの3000トンをどのように調達するのかを双方で検討することになります。その際に大切なことは、生産ラインの安定を損ねないことです。

3)BATNA

交渉で必ず押さえることの3つ目が、「BATNA(バトナ:Best Alternative to Negotiated Agreement)」です。

BATNAとは、

足元の交渉が決裂した場合、次に取るべき最も好ましい代替案

です。

当初、販売部門が想定していたのは1万トンの「増産」です。しかし、生産部門が増産できるのは7000トンまでなので、増産以外の方法で3000トンを確保するBATNA(最善の代替案)を検討する必要があります。

どのような代替案が考えられるでしょうか。例えば、顧客にお願いして納期を延ばしてもらう、協力会社の生産ラインを借りる、別の既存顧客にお願いして納期を遅らせ、その分の生産能力を割り当てるなどの方法が考えられます。これらの中で最善のもの、つまりBATNAを決定します。対外的な交渉だと当事者がそれぞれのBATNAを持ちますが、社内の会議では、双方が本当に望んでいることの共有を前提に、協力して1つのBATNAを決められる強みがあります。

仮に、別の既存顧客にお願いして納期を遅らせ、その分の生産能力を割り当てる方法を選択した場合のイメージは次の通りです。表面的に妥協しただけではほぼ導き出せないZOPAがつくられたことが分かります。

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BATNAについて1つ補足をします。BATNAとは、事前に具体的に想定するものです。「A社が駄目なら“別の会社”に売る」の別の会社は、BATNAではありません。「A社が駄目なら“B社”に売る。ニーズもリサーチ済み」といったレベルのB社がBATNAです。

6 社内交渉で強い企業になる

なぜ、社内では事業部門や役職者同士の意地の張り合いのような衝突が起きるのか。その理由の1つは、当事者が表面的なやり取りに終始してしまうからです。改善するには、本当に望んでいることを知るための訓練をしなければなりません。

会議は、そうした訓練をするための貴重な場です。会議では必要な資料が全てそろい、双方の本音も知ることができます。対外的な交渉ではあり得ません。そこで「衝突、確認、合意」のプロセスを繰り返すことで、社員の交渉力は確実に高まるでしょう。

以上(2023年5月)

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【交渉術】 なぜ、流ちょうに正論を話す人ほど交渉相手に嫌われてしまうのか?

書いてあること

  • 主な読者:理路整然と伝えているつもりなのに、交渉がうまくいかない担当者
  • 課題:誠実に接しているのに、なぜか相手に嫌われてしまう
  • 解決策:相手の自由は奪わない。情報は提供するが、判断は交渉相手がする局面をつくる

1 交渉に勝つ秘訣は相手に選ばせること

ビジネスに交渉はつきものですが、なかなかうまくいかないことが多いです。冷静に双方の利益を考えられたらいいのですが、なぜか相手の意見には反発したくなります。心理学では、これを「心理的リアクタンス(抵抗)」と呼びます。厄介なのは、心理的リアクタンスは相手が自分と同じ意見を言っていても生じることです。「わざわざあなたに言われなくても分かっているよ」といった具合ですが、皆さんも心当たりはありませんか。

とにかく、この心理的リアクタンスを突破することが交渉に勝つためには必要です。そのために大切なポイントは、

相手に自己の自由が脅かされていると感じさせないように、自らの意思で意見を選択できる環境をつくること

です。以降で具体的に説明しますので、参考にしてみてください。

2 交渉相手の心理的な抵抗を和らげる方法

1)こちらが情報提供して、交渉相手が結論を出す

1つのケーキを争うことなく2人で分ける方法に、1人が半分にカットし、もう1人が選ぶというものがあります。これと同じ考え方は交渉にも応用できます。

当社が交渉相手に情報(選択肢など)を提示し、交渉相手が自ら選択できるように導きます。交渉相手は「提示された情報を基に、自らの意思で選択した」と感じるため、心理的リアクタンスが発生しにくくなります。

交渉に慣れていないと、「早くまとめよう」と思うあまり結論を急ぎがちです。しかし、こちらが落としどころを提示していくと、交渉相手は結論を押し付けられたと感じます。あくまでも結論は交渉相手が導いたという状況が必要なので、例えば、

御社の競合はこのサービスを導入して成果を上げていますが、御社は導入しないですか?

などと言って交渉相手に考えてもらい、実際に選択してもらいます。

2)ネガティブ情報をうまく伝える

問題はどのような情報を提示するかですが、具体的な方法には、

  • 一面提示:自社の主張に合うこと(または合わないこと)だけを伝える
  • 両面提示:自社の主張に合うことも、合わないことも伝える

があります。先の例で示すと次のようになります。

  • 一面提示:御社の競合はこのサービスを導入していますが、御社は導入しないのですか? 競合は大きな成果を上げていますよ
  • 両面提示:御社の競合はこのサービスを導入していますが、御社は導入しないのですか? 競合は大きな成果を上げていますよ。ただし、年間コストが高いですが……

一面提示は論点を絞り込みやすいので、交渉がシンプルになるメリットがあります。ただ、交渉相手もネガティブ情報をある程度は知っているはずですから、実際は両面提示をすることになるでしょう。ここで大切になるのが、

ネガティブ情報を提示する順番とタイミング

です。

例えば、最初にネガティブ情報を提示する場合、直後に「今、お話ししたデメリットをカバーする十分なメリットがあるので、お伝えします」といったように話を進めます。先にネガティブ情報を提示して誠実さをアピールしつつ、デメリットを打ち消していきます。

逆に、最後にネガティブ情報を提示する場合、「ここまでは良い話ばかりしてきましたが、実は、○○というデメリットもあります」といったような話の進め方です。交渉相手がこちらの提案に十分なメリットを感じている場合、「デメリットよりもメリットのほうが大きい」など、前向きな姿勢で検討してもらえるでしょう。

3)ユーモアを交える、同調する

多くの心理学者によって、

ユーモアには心理的リアクタンスの発生を抑制する効果がある

と認められています。交渉だからといっていきなり堅苦しい話をせずに、雑談から入ることも無駄ではないのです。

また、

交渉相手の意見を否定せずに、同調すること

も有効です。人は自分の意見を肯定してくれる相手には好意を抱きやすく、反対もしかりです。とはいえ、交渉相手の主張と反対の方向に導きたいシーンだと交渉相手に同調できません。このような場合は、趣味やファッションなど交渉とは関係のない別の部分で同調します。

3 自社の製品を売り込む際の話法

ここまでの流れを踏まえ、交渉の流れをシミュレーションしてみましょう。ここでは、自社の「ペーパーレス化の支援サービス」を取引先の社長にお勧めするシーンを想定します。

  • 自社:御社のDX(デジタルトランスフォーメーション)は進んでいますか?
  • 相手:いや、どこから手をつけるべきか悩んでいるよ。
  • 自社:中小企業はペーパーレス化から始めるケースが多いですよ(情報提示)。
  • 相手:ペーパーレス化ね~。それはDXといえるの?
  • 自社:確かに、そういう意見も多いです(同調)。ペーパーレス化は昭和な感じで、我々世代にはなじみ深いですが(笑)(ユーモア)。
  • 相手:ははは。そうだね、イメージが湧きやすい。
  • 自社:実際、多くの中小企業がペーパーレス化をDXの足掛かりにしています。この動きはますます活発になるでしょう。
  • 相手:うちの同業も始めたらしい。古臭い会社と思われるのも心外だし。
  • 自社:会議の議事録のデータ化や電子契約から始めるケースが多いです(情報提示)。
  • 相手:なるほど。確かにうちも会議は多いな。
  • 自社:当社の取引先は、この取り組みで80%も紙を削減しました(情報提示)。
  • 相手:80%も削減したのか。すごいな!
  • 自社:当社のサービスをご利用いただければ、セキュアに議事録を保管できます。そこから始めて、少しずつペーパーレス化の範囲を広げ、DXにつなげていくのはどうでしょうか?
  • 相手:まずは始めてみることが大切ということだね。
  • 自社:はい。ペーパーレス化自体にそれほど大きな効果はないかもしれませんが、DXの一歩を踏み出すという意味ではとても有意義です(両面提示)。
  • 相手:そうだな。よし、やってみよう!

以上(2023年5月)

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画像:photo-ac

業界分析・競合分析に使える「有価証券報告書」の読み方

書いてあること

  • 主な読者:「有価証券報告書」を使って業界分析や競合分析をしたい人
  • 課題:有価証券報告書の内容は専門的かつボリュームもあるので読みにくい
  • 解決策:有価証券報告書は最初から順番に読む必要はなく、興味のある部分から読んでみる

1 サステナビリティや人的資本などの記載が義務化!

有価証券報告書は、金融商品取引法に基づいて公開されるもので、投資家の判断材料として企業情報や決算書類などが開示されます。有価証券報告書は、決算日後3カ月以内(3月末決算の企業の場合は、6月末日まで)に開示され、企業のウェブサイトやEDINETに公開されます。

2023年3月期決算からは、

サステナビリティ(持続可能性)や人的資本(人材の多様性を含む)に関する情報

などの開示も義務付けられることになりました。サステナビリティや人的資本についての取組状況を開示するということは、

その企業が環境問題に対してどう取り組むのか、人材をどのように育成するかといった姿勢が問われる

ことになります。有価証券報告書を使った業界分析や競合分析をしていく際には、それを踏まえる必要があります。

有価証券報告書の構成は図表1の通りです。

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この記事では、ビジネスで活用できる有価証券報告書「第一部 企業情報」の「第1 企業の概況」~「第5 経理の状況」で記載されている内容のポイントを解説します。

なお、有価証券報告書と似た資料に「決算短信」があります。決算短信は、法律ではなく証券取引所の要請に基づいて作成されます。簡単にいうと、

  • 決算短信は「速報」
  • 有価証券報告書は「確報」

です。速報である決算短信は、決算日から45日以内と有価証券報告書よりも早いタイミングで開示されます。その分、決算短信は有価証券報告書よりも情報量が少なく、数値の正確性も低くなります。あくまでもスピード重視ということです。

2 「企業の概況」に記載されていること

企業の概況では、

主要な経営指標等の推移、沿革、事業の内容、関係会社の状況、従業員の状況

といった、基本情報が記載されています。企業の概況から、企業の主な事業内容や実績、規模、従業員の状況などが読み取れます。

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3 「事業の状況」に記載されていること

事業の状況には、

経営方針・経営環境及び対処すべき課題等、サステナビリティに関する考え方及び取組、事業等のリスク、経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析、経営上の重要な契約等、研究開発活動

が記載されています。事業の状況から、企業の経営状況や今後の事業方針、リスクや問題点などが読み取れます。

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4 「設備の状況」に記載されていること

設備の状況には、

設備投資等の概要、主要な設備の状況、設備の新設・除却等の計画

が記載されています。設備と聞くと、製造業が思い浮かびますが、IT企業などにおけるソフトウエア投資も含まれます。設備の状況から、この企業がどのような分野に重きを置いているのかが読み取れます。

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5 「提出会社の状況」に記載されていること

提出会社の状況では、

株式等の状況、自己株式の取得等の状況、配当政策、コーポレート・ガバナンスの状況等

が記載されています。「提出会社の状況」から、企業の株主構成(株主に国内企業が多いか、国外企業が多いかなど)や、その企業の意思決定に与える影響度の大きい株主が読み取れます。

投資家が投資を検討する際の情報としては重宝しますが、一般的なビジネスシーンではあまり活用されないかもしれません。

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6 「経理の状況」に記載されていること

経理の状況では、

連結財務諸表とその注記事項(子会社等のない会社においては作成されません)、個別財務諸表とその注記事項など

が記載されています。「経理の状況」は財務情報の肝となる章で、企業の財務状況や業績に関する情報が読み取れます。

連結財務諸表は、子会社なども含めた企業グループの財務諸表で、企業の実態を知る上では個別財務諸表よりも重要視されています。例えば、「企業の概況-主要な経営指標等の推移」からざっくりとした変化を読み取り、詳細をそれぞれの連結財務諸表から分析することができます。なお、この記事では、連結財務諸表および個別財務諸表の見方についての詳細な説明は割愛します。

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連結(個別)貸借対照表からは、企業グループ(企業)の財政状態が分かり、

企業に十分な資金があるか、過大な借金を抱えていないかなど、財務的な健全性などを確認する

ことができます。

連結(個別)損益計算書からは、企業グループ(企業)の経営成績が分かり、

売上高、営業利益、経常利益、当期純利益などの指標から、特に前期と比べて当期に増加したか、減少したかなど、財務的な成長性などを確認する

ことができます。

連結(個別)損益計算書上は黒字の企業グループ(企業)であっても、資金収支はマイナスで資金繰りが厳しい場合もあるので、連結(個別)キャッシュ・フロー計算書から、

企業グループ(企業)の資金収入、資金支出を把握し、企業グループ(企業)の実態を読み取る

必要があります。

また、連結(個別)財務諸表等に関する注記が充実している点は、有価証券報告書の特徴の1つです。会計になじみのない人にはハードルが高いかもしれませんが、連結(個別)財務諸表についてより詳細な内容を知りたい場合は、注記を読むことで非常に詳細な情報を得ることができます。

財務会計を勉強し自信がついたら注記を読んでみてください。もし、書いてある意味が分からない項目があれば、その項目に関する分野を勉強すると知識が豊富になっていきます。

財務諸表を読む際のポイントは、

前期との比較で見ること(改善しているか否か)、同業他社との比較で見ること(業種によって財務諸表の数値の意味がかなり異なります)

です。

以上(2023年5月)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 公認会計士 仁田順哉)

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【健康経営】 ストレスチェック制度をやりっ放しにせず、職場改善に活かすには?

書いてあること

  • 主な読者:ストレスチェックの集団分析を実施して、職場改善につなげたい経営者
  • 課題:具体的にどうやって分析すればいいのか分からない。何だか手間がかかりそう……
  • 解決策:厚生労働省のツールなどを使えば、分析は簡単。また、外部のストレスチェックサービスを利用すれば、自社で実施するより詳細な分析ができる

1 ストレスチェックの結果を活かせていますか?

ストレスチェック制度とは、

社員がストレスに関する所定の質問に答える「ストレスチェック」、高ストレス者(ストレスの高い社員)に対する「医師による面接指導」などの一連の取り組み

です。社員数が常時50人以上の会社は、労働安全衛生法に基づいて、このストレスチェック制度を年1回以上実施する義務があります(未実施は50万円以下の罰金)。

問題は、ストレスチェック制度自体は実施しているものの、

ストレスチェックの結果から職場のストレス傾向を把握し改善に役立てる「集団分析」

をおろそかにしている会社が少なくないことです。集団分析の実施は努力義務で、未実施でも罰則はないのですが、「ストレスチェック制度を実施して終わり」にしてしまうと、「職場にどのような問題があって、社員がストレスを感じているのか」があいまいになってしまいます。「分析は何だか手間がかかりそう……」と思う人もいるでしょうが、ご安心ください。実は

集団分析は、特定のツールを使えば誰でも簡単に実施できる

のです。この記事では、ストレスチェック制度が法制化された当初から、各社の制度実施のサポートや職場改善コンサルティングに取り組んできた産業医が、集団分析の方法や、集団分析を踏まえた職場改善のポイントを紹介します。

2 そもそもストレスチェックの結果から何が分かる?

1)「社員が何に、どの程度ストレスを感じているのか」が分かる

ストレスチェックは通常、厚生労働省推奨の「職業性ストレス簡易調査票(57項目版)」で実施します。この57項目版では、「心身のストレス反応」「仕事のストレス要因」「周囲のサポート」の3つのカテゴリの質問に答えることで、「社員が何に、どの程度ストレスを感じているのか」が分かります。

紙の調査票を社員に配って回答させてもよいですが、時間や手間を考えるのであれば、

社員が「高ストレス者か否か」を自動で判定してくれるストレスチェックシステムを使って、PCやスマホ上でストレスチェックを受検させる

のがよいでしょう。外部のストレスチェック委託業者に依頼すれば、ストレスチェックの実施に加え、集団分析などもワンストップで行えます。また、厚生労働省でも無料で使える実施プログラムを提供しています(下記URLからダウンロード可能)。

■「厚生労働省版ストレスチェック実施プログラム」ダウンロードサイト■
https://stresscheck.mhlw.go.jp/

ストレスチェックシステムによって細かい仕様は異なりますが、例えば、図表1は、57項目版で高ストレス者と判定される場合のイメージです。レーダーが小さく中心に近いほど、ストレスの状況が悪いことを表します。

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図表1の場合、A:「職場環境によるストレス」が特に高く、B:「活気がない、イライラする」などのストレス反応があり、C:「同僚からのサポート」が不十分であることが分かります。

2)80項目版なら「社員の会社に対する満足度」も分かる

ストレスチェックは57項目版の調査票で実施するのが基本ですが、実は厚生労働省から、より詳細な「80項目版」が公表されています。80項目版では、

社員が感じる自身の役割の明確さ、成長の機会、職場の一体感などのポジティブな側面に関する質問(23項目)

が追加されていて、社員のストレスだけでなく、会社に対する満足度も知ることができます。つまり、会社が改善すべき課題だけでなく、伸ばすべき強みも分かるということです。

なお、厚生労働省の実施プログラムでは、80項目版のストレスチェックは実施できないので、興味がある場合、ストレスチェック委託業者を活用するのがよいでしょう。

3 実は簡単! 集団分析の方法

ストレスチェックの結果は社員個人ごとに作成されますが、集団分析では個人の結果を部や課など一定の集団ごとに分析して、職場のストレス傾向をつかみます。

1)分析は自動化できる! 職場のストレス傾向をつかもう

通常、集団分析では厚生労働省推奨の「仕事のストレス判定図」を使用します。これは、ストレスチェックの個人結果を集団ごとに測定し、その集団の社員がメンタルヘルス不調などになるリスク(健康リスク)を判定する分析ツールです。判定図は男女別に用意されています。

集団分析の流れは、次の通りです。

  • 男女別に仕事のストレス判定図を用意する(集団が少人数の場合、全員男性用を使う)
  • 個人のストレスチェックの結果(57項目版、80項目版の回答)を集団ごとに集計する
  • 集計結果を「仕事の量的負担」「仕事のコントロール」「上司支援」「同僚支援」の4つのカテゴリに分けて、集団の平均点を算出する
  • 集団の平均点を判定図上にプロットする
  • 全国平均と比較し、健康リスクを算出する

一見複雑そうですが、前述した実施プログラムを使えば、1.から5.のプロセスは全て、プログラムが自動でやってくれます。なお、集団の人数が10人を下回ると個人が特定される恐れがあるため、その場合は集団の分け方などを工夫しましょう。

図表2は、集団の平均点を判定図上にプロットする場合のイメージです。集団が全国平均(◇)から遠く色の濃いエリアに近いほど、ストレスの状況が良くないことを表します。

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例えば、図表2の赤丸で囲んだ部署(I部)は、仕事の量的負担が大きい上に、仕事のコントロールも利きにくい状況にあり、健康リスクが他の部署よりも高いため、優先的に職場改善に取り組む必要があります。

なお、多くのストレスチェックシステムは、図表3のように判定図の内容を表形式でも示してくれるので、「判定図は何だか分かりにくい」という場合はそちらを確認しましょう。

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2)外部に依頼して、より詳細な分析をすることもできる

ストレスチェック委託業者によっては、分析結果の算出方法を独自に工夫しているケースもあります。例えば、フェアワーク(東京都中央区)では、ストレスチェックの結果を性別・年代別に集計し、全国平均と比較した「ウェルネス偏差値」を算出しています。

図表4は、57項目版でウェルネス偏差値を算出する場合のイメージです。青は全国平均と比較して良好、赤は注意が必要という意味です。

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例えば、性別に注目した場合、女性は「身体的負担度」は良好ですが、「仕事の適性」や「仕事の意義」に関するストレスが高く、「活気がない」ことが分かります。もしかしたら、会社が働き方改革で時短などを図ったものの、それが行き過ぎて「もっとバリバリ働きたい」という女性がやりがいを失ってしまっているのかもしれません。

また、年代に注目した場合、20代は「仕事の適性」に関するストレスが高く、「抑うつ感」があるようです。同僚や家族友人のサポートもあまり受けられず、1人で「今の仕事は自分に合っているのだろうか」と悩んでいる人が多いのかもしれません。

4 集団分析の結果に表れる職場のストレス傾向と改善策

集団分析の結果が得られたら、その結果をもとに職場改善に取り組みましょう。ここでは、厚生労働省が運営するウェブサイト「こころの耳」を基に、集団分析でよく見られるストレス傾向のタイプを3つ取り上げ、改善策などを紹介します。

■厚生労働省 こころの耳「職場のメンタルヘルス対策の取組事例」■
https://kokoro.mhlw.go.jp/case/company-search/

1)孤軍奮闘タイプ(業務量が多い、裁量が高い、上司や同僚の支援が少ない)

1人での作業が多いため、個人の裁量は高い半面、業務量が多くなってしまっているタイプの職場です。上司や同僚は、お互いの仕事内容や量を把握できていません。

【改善策】

  • 各人の業務量、業務内容を洗い出し、割り振りを見直す
  • 作業ミス防止のため、チームを作って相互チェックを実施する
  • 部署内で情報共有のための定例ミーティングを実施する など

【改善事例】(運輸業、社員数80人)

この会社では、長距離の運送業務が入ると、社員が休憩を取得しそびれることがあり、解決のため、休憩の取得が困難な場合に理由書の提出を求める仕組みを作りました。理由書の提出を義務付けることで、かえって社員の「休憩を取得しよう」という意識が高まり、逆に業務上どうしても休憩の取得が難しい社員を洗い出すことができるようになりました。

2)コントロール制限タイプ(裁量が低い、上司や同僚の支援が少ない)

上司の決裁を得てからでないと次の仕事に移れない、チームで動いていて個人で意思決定しにくいなどで、仕事のコントロールがしにくいタイプの職場です。上司や同僚も主張が強い場合、ますます仕事が進みにくくなり、ストレスがたまります。

【改善策】

  • 中間の管理層を少なくする
  • 部下に裁量を持たせ、細かい点は逐一指摘しない
  • 何か指示する際には、複数の選択肢を持たせ、部下に選んでもらう など

【改善事例】(消防設備業、社員数90人)

この会社では、多くの社員がチームメンバーと24時間共に過ごすストレスと、災害現場の過酷な状況で業務を行うストレスの両方を抱えており、解決のため、社内の相談窓口として総務課人事係を置きました。総務課人事係では、社員全員に対して定期的な面談を行うようにしており、メンタルヘルス不調のリスクがある社員などを早期に発見できるようになりました。

3)モチベーション低下タイプ(上司の支援が少ない)

業務量、裁量は問題ないものの、上司からのフィードバックなどがあまり受けられないため、承認欲求が満たされず、業務を続けていくモチベーションが低下しているタイプの職場です。

【改善策】

  • 昇進、昇格、資格取得の機会を明確にし、チャンスを公平に確保する
  • 上司を積極的に部下と関わらせる、話を傾聴する姿勢を身に付けさせる など

【改善事例】(金融業、社員数90人)

この会社では、社員の仕事に対するフィードバックが十分でなく、解決のため、新サービスや業務改善に関する「提案制度」を設けました。提案は記名式で、社内に設置されたポストに投函する仕組みです。提案された内容は月に1回、役員会で検討され、提案の内容が採用でも不採用でも必ず回答を付けて社内に公開し、現場の声が社内全体に届く環境を整えています。

5 まとめ

集団分析はツールを活用することで、簡単に実施することができます。しかも、その分析結果には、職場改善のための貴重なヒントが隠されています。職場改善は一朝一夕で達成されるものではありませんが、まずは「課題を明確にし、改善に着手する」ということが最初の一歩です。ストレスチェックと集団分析を活用し、社員がいきいきと働ける会社を目指しましょう。

以上(2023年5月)
(執筆 株式会社フェアワーク 吉田健一)

https://fairwork.jp/fair-lead/

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画像:琢也 栂-Adobe Stock

領収書をなくしたら精算できない? ~経費精算で知っておきたい基本情報

書いてあること

  • 主な読者:経費精算に慣れていない新入社員や若手社員
  • 課題:経費精算に必要な領収書を無くしたり、締め切りの後に領収書が見つかったりすると困ってしまう
  • 解決策:経費精算に領収書は必須だが、必要事項を記載し、かつ社内ルールに沿った手続きを踏めば経費精算できるなど、さまざまな取り扱いやルールを事前に知っておく

1 なぜ、経費精算はしないといけないのか?

経費精算は仕事で立て替えたお金を請求する行為ですが、この他にも、会社の利益を正しく計算するための手続きという側面があります。

会社の利益は、売上から費用を差し引いて計算します。つまり、経費精算によって費用を把握して利益を求めているのです。また、経費精算は期限内に行わないといけません。法人税の申告は、原則として、決算日から2カ月以内に行うので、それに間に合うように経費精算をする必要があるのです。

いかがでしょうか。経費精算の役割が理解できたと思います。経費精算という行為はシンプルですが、領収書を無くしてしまったり、締切後に未精算の請求書が見つかったりと判断に迷うこともあります。そこで、この記事でよくある請求書の迷いポイントと対応を紹介します。

大切なポイントは、

会社のルールを確認すること

です。効率性やシステム上の作業工程の違いなどから、会社独自のルールを定めていることも多くあります。

2 領収書を無くしたら請求できる?

領収書を無くしたら、まず領収書の発行先に再発行をお願いします。それに応じてくれない場合は、会社に確認をしてから、支払ったことが確認できる書類で代替します。例えば、

  • クレジットカードの利用明細書
  • IC乗車券の利用履歴
  • 振込の場合は通帳のコピー
  • などがあります。支払ったことが確認できる書類もない場合は、

    • 支払いをした日付
    • 支払いをした相手先
    • 支払った金額
    • 支払いの内容(支払いの目的や、購入した商品名など)
    • 請求書が添付できない理由

を書いた書類を作成して経費精算することができます。まずは領収書を失くさないことが重要で、万が一失くしてしまった場合は、会社のルールに沿って精算するようにしましょう。

3 締め切りが過ぎた未精算の領収書は請求できる?

経費精算の締め切り後に領収書が見つかったら、すぐに経理担当に報告しましょう。その後は、経理担当の指示に従って、精算手続きをします。ただし、

決算期をまたぐ精算は難しくなることが多い

です。また、どんなことがあっても、領収書の日付を修正するなどして、ごまかしてはいけません。税務調査(税務署などが会社の税金の申告内容をチェックしにくること)などでは、日付は金額同様、厳重にチェックされます。

4 電子データの請求書しか発行されない場合はどうする?

電子データの請求書しか発行されない場合の対応は、会社が領収書を電子化するための経費精算システムを導入しているか、していないかによって対応が違います。

1)経費精算システムを導入している場合

経費精算システムを導入している会社では、請求書を電子データで入手して、システムの手順に従ってクラウドなどにアップロードします。そのため、システムの使用方法についてしっかり理解するようにしましょう。

2)経費精算システムを導入していない場合(紙の経費精算書で精算する場合)

法律により、電子データによる請求書は、電子データの状態で保存することが原則です(システムなどの準備ができていない企業については、2024年1月1日以降義務化)。そのため、電子データを印刷した紙の請求書だけでは不十分です。

電子データによる請求書は、会社に提出して保存する方法や、従業員のパソコンで保存する方法などがあります。紙による経費精算書を提出したあとでも、電子データによる請求書は削除せず、会社のルールに沿って必ず保存するようにしましょう。

5 仕事の本を自分のスマホにダウンロードしたら請求できる?

経費精算できる「経費」とは、

事業に必要で、かつ会社の所有物となるものに限られる

ため、私的な目的で発生した経費は精算できません。

これを本のケースで考えると、経費精算の対象となるのは、会社が所有する業務用の電子書籍デバイスやアカウントで業務に関連する本を購入した場合に限られます。たとえ、仕事に必要な本であっても、自分のスマホなどにダウンロードしたら、原則として、経費精算の対象とはなりません。ただし、会社によって別のルールが定められている場合もあるので、確認してみましょう。

6 外出中に私用で寄り道をした交通費は請求できる?

外出先から自宅に直帰する場合、外出先から通常のルート(最短・最安のルートで検索されたものなど)で帰宅をした部分が精算の対象となります。私用で寄り道をして帰宅した場合には、寄り道分を含めて請求してはいけません。ただし、会社によって別のルールが定められている場合もあるので、確認してみましょう。

7 激混みの新幹線でグリーン車に乗ったら請求できる?

多くの会社は、役員や一定以上の役職者に限ってグリーン車に乗ることを認めています。それ以外の従業員がグリーン車に乗ったら、普通車料金しか精算できません。しかし、「普通席が満席でグリーン車しか空いていない」など特別な事情がある場合は、経費精算が認められる場合があるので、会社のルールを確認してみましょう。

8 インボイス制度が始まったら経費精算で何に注意する?

2023年10月1日にインボイス制度が始まった後は、法律で決まっている事項が請求書(インボイス)に記載されているかどうかを確認しましょう。再発行に手間がかかることから、請求書(インボイス)を受け取る従業員自身も、受取時に要件を満たしたインボイスかどうかをチェックするよう気をつけなければなりません。

インボイス制度の導入により、新たに記載が必要になる項目は、

  • 軽減税率の対象品目である旨
  • 税率ごとに区分して合計した対価の額
  • 税率ごとに区分して合計した消費税額等
  • 請求書発行者の登録番号

の4項目(下図表の赤字部分)です。

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また、請求書受領者の宛名欄には、「従業員の氏名」や「上様」といった表記ではなく、できる限り会社名で記載してもらうようにしてください。

その他に、少額であることや取引の特徴からインボイスの受領が必要ないケースがあります。一般的な経費精算として出てくる項目でインボイスが不要となるものには次のようなものがありますので、チェックしておきましょう。

●3万円未満の公共交通料金

 例:鉄道、バス、船舶に限る(航空機やタクシーはインボイスが必要)

●3万円以上の公共交通料金で乗車券が回収されてしまうもの

 例:特急料金込みだと3万円以上となるが、切符がJR等に回収されてしまうケース

●3万円未満の自動販売機および自動サービス機からの商品の購入等

 例:自動販売機でのジュースの購入、コインロッカーの使用等

以上(2023年5月)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 税理士 森浩之)

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画像:Andrey Popov
-Adobe Stock

徳川四天王の一人・榊原康政。国の最善を優先し行動し続けた彼の一言に学ぶ、不毛な争いを避ける経営とは?

大臣権を争ふは、国家の利にあらず

榊原康政は、幼少の頃から徳川家康に仕えた戦国武将で、江戸幕府260年の礎を築いた人物の一人です。数々の戦場で活躍し、「徳川四天王」にも数えられただけでなく、行政面でも手腕を発揮し、江戸幕府の老中として2代将軍徳川秀忠の補佐役にもなりました。

康政の生き方は、戦場で掲げる旗印に選んだ「無」の一文字が象徴しているといえます。康政は、徳川家や国のためであれば、自ら正しいと思ったことは、たとえ自分が犠牲になるかもしれないことであっても、躊躇(ちゅうちょ)せずに実行し続ける硬骨漢でした。

例えば、家康の長男である松平信康に対しては、粗暴な言動があるたびにこれをいさめました。あるとき、諫言(かんげん)に激怒した信康が康政を弓で射る構えを見せましたが、康政は「あなたのためなのです」と平然としており、信康のほうが折れざるを得なくなったそうです。また、三男の秀忠が関ヶ原の戦いに遅参した際は、怒りで秀忠に会おうとしない家康に対し、自らの監督責任を謝罪した上で、涙を流しながら秀忠に会うよう諫言しました。この行為は、徳川四天王の井伊直政からも、国家のためだけでなく、天下(世の中)のためにもなったと高く評価されました。

秀忠政権となり、幕府が安定したと考えた康政は、冒頭の言葉を語り、領地である群馬県・館林で隠棲(いんせい)したといいます。国家や天下の安定のためには、功臣であっても自らが退くことが最善だと考えた結果なのでしょう。

幹部が争って組織を機能不全にしてしまうことの危険は、会社組織にも当てはまることです。例えば、製造業が生産・販売計画のズレを補正する「製販調整会議」では、生産部門と販売部門の部門長などが、利害の不一致から激しく衝突することがあります。建設的な議論なら歓迎すべきですが、会社の成長を考えず、ただ自分の利のためにけんかするだけなら意味がありませんし、そのような幹部同士の争いが続く会社に明るい未来はやってこないでしょう。

幹部が不毛な争いをしないためには、まず経営者が康政のような硬骨漢を高く評価し、耳の痛い意見であっても、正しいと思えば受け入れることが大切です。康政のような人物がどう扱われるかは、他の幹部の行動指針にも影響するからです。

一方、幹部は、「自分にとって、何が一番大切なのか」をしっかりと認識することが大切です。社内で他の幹部と争うことが、本当に自分のためになるのか、考えてみましょう。同じ会社に属する人間は、運命共同体です。不毛な争いをして会社が傾くようなことになれば、自分や闘争相手はもちろん、取引先や顧客を含めた会社の関係者全員にとって不幸なことです。

一歩下がって、視野を広げてみれば、康政のような「無」の境地までには至らないまでも、私心を少し抑えられそうではありませんか?

出典:「定本名将言行録 下」(岡谷繁実、新人物往来社、1978年7月)

以上(2023年8月)

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EVシフトを先取りした自動車部品 メーカーの事業転換事例

書いてあること

  • 主な読者:自動車部品製造業の経営者
  • 課題:電気自動車(EV)へのシフトで既存事業の継続が困難になりかねないため、新事業への参入や業態転換によって新たな収益確保を検討したい
  • 解決策:他企業の先進事例や、国による自動車部品産業への支援策を参考に自社で取り組める新事業への参入、業態転換を検討する

1 自動車のEVシフト、待ったなしです

2050年のカーボンニュートラル(温暖化ガスの排出量実質ゼロ)の達成に向けて、既存のガソリン車から電気自動車(EV)にシフトする動きが世界的に進みつつあります。

一般的に、ガソリン車に必要な部品が車両全体で約3万点必要なのに対して、EVシフトによってエンジンを中心に1万~2万点程度の部品が不要になり、次のような部品に影響が及ぶとされています。

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日本政府では、2035年までに乗用車新車販売における電動車の比率を100%とする目標を掲げており、各自動車メーカーがEVの生産に注力することで新車販売におけるEVの販売比率が上がりつつあります。

一方、欧州では「2035年EV化法案」の可決が延期されたこともあり、2035年までにEVシフトが100%達成されるとは言い難いものの、中長期的にEVシフトが進むことで既存の自動車部品製造だけで事業を続けるのが厳しくなることが想定されます。そのため、今のうちに自動車部品製造以外の新事業、業態転換を検討して収益確保を図ることが必要です。

そこでこの記事では、自動車部品の製造技術を応用して新事業を始めたり、業態転換に取り組んだりする先進企業の事例を紹介します。併せて、国による支援策もご紹介しますので、新事業への参入、業態転換を検討する際の参考としてご活用ください。

2 魚の養殖からマスクまで さまざまな新事業・業態転換事例

以降で紹介する事例について、縦軸を「対企業向けへの展開を想定/対消費者向けへの展開を想定」、横軸を「消費者の生活を豊かにする/社会問題の解消にもつなげる」に分けると、次の通りになります。事例を見る際の参考にしてください。

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1)BtoB(対企業向け)を想定した新事業・業態転換事例

1.ミニトマト栽培に取り組む:JSテック(群馬県伊勢崎市)

自動車エンジンやサスペンションなどの部品製造を手掛ける同社では、IT管理によるミニトマト栽培に取り組んでいます。

農業人口減少を踏まえた自給率維持への貢献や保有する遊休地の有効活用を目的に始めた事業です。栽培に当たっては、農業事業として関連会社の農業法人「夢ファームいせさき」を立ち上げており、JSテックで開発した環境制御装置によって、ガラスハウスの天窓開閉や暖房を自動制御して最適な生育環境を維持しています。

2.スマート農業に貢献:日進工業(愛知県碧南市)

自動車用精密樹脂部品の製造などを手掛ける同社では、子会社のチュプチニカ(北海道由仁町)でスマート農業に貢献するツールを取り扱っています。

取り扱うツールには、農薬散布ドローンや、トラクター・田植え機に後付けできる「農機自動操舵システム」、酪農用スマートアプリ「スマートネックタグ」があります。

同社では、これらのツールを活用して農業の「見える化」を進めることで地域貢献を図りたいとしています。

3.農作物のハウス栽培用CO2貯留・供給装置を製造・販売:フタバ産業(愛知県幸田町)

自動車の車体、内装、排気系部品の製造などを手掛ける同社では、農作物のハウス栽培で発生する排気ガスを浄化、CO2を貯留・供給する装置の「agleaf®」を製造・販売しています。

自動車部品製造で培った排ガス浄化、ガス吸着、熱マネジメントを活かして製造された製品です。農作物のハウス栽培で冬場の夜間時に暖房を稼働させることで発生する排ガスを浄化、CO2のみを貯留し、日中に局所施用(純度の高いCO2を葉の近くに供給し、光合成を活性化させること)が可能です。

4.自動車運転シミュレーターを製造:杉浦(愛知県岡崎市)

自動車部品を中心とした金属製品加工などを手掛ける同社では、自動車運転シミュレーターの「DRiVe-X」を製造、販売しています。このシミュレーターはあおり運転など、自動車の運転中に起こりうる問題を体験できる運転教育やプロレーサーがドライビングテクニックを磨くためのシステムに対応しています。

同製品は愛知県西尾市で行われたeスポーツイベントに導入されたり、蒲郡市のホテルに導入して、宿泊に付加価値を付けたりするといった形で使われています。

5.食品用の防カビシートを開発:小島プレス工業(愛知県豊田市)

自動車内外装部品の開発・設計・製造などを手掛ける同社では、カビの成長を抑制することで腐敗を防ぎ、農作物の長期保存ができる防カビシートの「Ma’mold(マモルド)」を開発しました。

同社が持つ成膜技術を応用して開発された製品で、実証実験では、シャインマスカットにこのシートを被せることで、4カ月間の冷蔵保存を可能にしたとしています。

同製品は2022年11月に行われた日本能率協会主催の「九州アグロ・イノベーション2022」に出展しており、今後は2023年上半期を目標に市場に投入するとしています。

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6.魚の陸上養殖へ参入:山田製作所(群馬県伊勢崎市)

自動車用オイルポンプなどの製造を手掛ける同社では、自社の研究開発拠点でヒラメ、シマアジ、クエタマの陸上養殖に2019年から着手しており、2024年度の事業化を目指して進めています。

既存事業のエンジン部品の需要減少を見越して、社内ベンチャー事業を募集したところ、魚の陸上養殖が挙がったといいます。自動車のウォーターポンプを製造する技術を活かして自社で水のろ過システムの構築、人工海水の循環や温度管理に取り組んでいます。

2)BtoC(消費者向け)を想定した新事業・業態転換事例

1.キャンプ用のペグを製造:長野鍛工(長野県長野市)

自動車用エンジンバルブなどの製造を手掛ける同社では、エンジンバルブの製造工程で発生した不具合品や不良品を原料としたキャンプ用のペグ「バルブステーク」を製造しています。この製品はプラスチック製の使い捨てペグよりも丈夫で永く利用できるため、廃プラスチックの削減にもつながるとしています。

また、同社では航空機エンジン部品の試作にも取り組んでおり、経済産業省の「戦略的基盤技術高度化支援事業」や、長野県の「航空機産業中核支援事業加工トライアル」などの採択を受けて、航空機のエンジン部品や部品製造用の治具(部品の固定や、作業のガイドになるもの)を試作しています。

2.高級樹脂製ビアグラスを製造販売:IBUKI(山形県河北町)

自動車内外装部品の金型製造を手掛ける同社では、樹脂製ビアグラスの「IBUKIビアグラス」を製造しています。この製品は、ガラス製のビアグラスと比較して割れにくいだけでなく、飲み口が薄い、樹脂の熱伝導の悪さを逆手にとり、屋外でも中の飲み物が温くなりにくいといった特徴があります。

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3.テント型サウナや健康器具を開発:エイケン工業(静岡県御前崎市)

自動車用オイルフィルターやエアコンフィルターなどの製造を手掛ける同社では、テント型サウナの「ガレージサウナ」や体幹を鍛えられる健康器具「GETTAストーン(ゲッタストーン)」を開発しています。

同社では、2019年に新規事業を担う開発部を静岡県掛川市に設置しています。ガレージサウナは静岡県内の企業や地域の森林組合と連携して開発・製造したり、GETTAストーンの素材に使うウレタンを取引のある材料メーカーから調達したりと、他企業や団体と連携して新事業に取り組んでいます。

4.高性能不織布マスクを製造:ROKI(静岡県浜松市)

自動車用ろ過機器の製造などを手掛ける同社では、衛生用品として高性能不織布マスクの「纏(まとい)」と、医療機関向けの「ROKIサージカルマスク」を製造・販売しています。

自動車・二輪車用フィルターの製造で培ったろ過技術を活かして製造された製品で、新型コロナウイルスの感染拡大によって、マスクの供給や性能・品質に関する問題が顕在化したことがきっかけで始まった事業です。

製造に当たっては、マスクの形や不織布の仕様を自社で決めて、材料となる不織布や耳ひもについても自社工場で一貫して生産しています。

5.昆虫食スナックを製造:ファインシンター(愛知県春日井市)

自動車用エンジン部品やボディ部品などの製造を手掛ける同社では、粉末加工技術を活用して昆虫食の「コオロギスナック」を製造しています。

2019年に若手社員で構成される「未来創成 タスクフォース」で新規事業のアイデアとしてコオロギ食が挙がったことがきっかけで、同社の粉末冶金技術(金属の粉末を金型に入れて圧縮して固め、高温で焼結して部品をつくる技術)が昆虫を焙煎(ばいせん)したり粉末化したりするといった作業工程に活かされています。

同社のコオロギスナックは愛知県春日井市のふるさと納税の返礼品に登録された実績があります。

6.釣具を製造:テラダイ(埼玉県入間市)

自動車エンジン部品の製造を手掛ける同社は、釣具の「アンフックリリーサー」(魚から釣り針を外すための道具)や「ウッドハンドルノブ」(釣りざおのリールを巻く道具)を製造・販売しています。

溶けた金属を加圧しながら鋳型に注入するダイカストの技術を活かして製造された製品で、アンフックリリーサーは木のグリップにワイヤーが付いた製品で、魚に触らず素早く釣り針を外すことができるため、釣った魚への負担が小さくなります。ハンドルノブはリールの巻き手に取り付けて使う製品で、屋久杉、花梨瘤、黒檀(こくたん)の3種類があります。

製品はCamping&Fishing用品を販売する専用サイトの「Pletry(プレトリー)」で取り扱っています。

7.家庭用燻製(くんせい)器などを製造・販売:タキオン(愛知県安城市)

自動車関連部品などの試作プレスを手掛ける同社では、家庭用燻製器の「smoke-pod」を製造しています。

精密プレス加工をコア技術とした金属加工による試作品製造の技術を活かして製造された製品で、容器の底に燻製チップを敷き詰めたうえで網の上に食材を置き、家庭用コンロに10~20分ほどかけることで燻製を作ったり、水を張ることで食材を蒸したりすることができます。

2022年にクラウドファンディングサービスのMakuakeで同製品を販売した際には、目標金額の20万円に対して、応募購入総額が485万円を達成した実績があります。

他にも同社では、感染症対策としてドアノブに触らずに足で踏むことでドアを開けることができる「ノータッチ・ノブ」も製造・販売しています。

8.食パンスタンドを製造・販売:林スプリング製作所(愛知県名古屋市)

自動車用のシートリクライニングアジャスタなどのバネ製品製造を手掛ける同社では、食パンスタンドの「パンジャック」を製造しています。

自動車用のバネ製造やワイヤーの曲げ加工を活かして製造された製品で、この製品を皿の縁に取り付けて食パンを立てかけることで、トースターで焼いた食パンが湿気で湿らず、サクサクの状態を保つことができるだけでなく、皿にスペースができるので他の料理も一緒に盛り付けることができるのが特徴です。

2022年にクラウドファンディングサービスのMakuakeで同製品を販売した際には、目標金額の10万円に対して、応募購入総額が168万円以上を達成した実績があります。

9.家庭用小型解凍プレートを製造・販売:ミナミダ(大阪府八尾市)

自動車用金属小物パーツの製造を手掛ける同社では、家庭用小型解凍プレートの「OMRIQ PLATE」(オムリックプレート)を製造しています。

自動車のシャシーパーツやエンジンパーツなどを製造する冷間鍛造技術(金属を常温のまま圧縮、変形させる技術)を活かして製造された製品で、アルミの熱伝導性を活かし、冷凍された食材を常温に戻したり、食材のあら熱を取ったりすることができるプレートです。200グラムの牛肉の場合で、製品を使わない場合と比較して解凍速度を2.5倍にできるとしています。

2023年にクラウドファンディングサービスのMakuakeで同製品を販売した際には、目標金額の10万円に対して、応募購入総額が70万円以上を達成した実績があります。

3 自動車部品産業への支援策

1)経済産業省 自動車産業「ミカタプロジェクト」

自動車の電動化の進展に伴い、需要の減少が見込まれる自動車部品(エンジン、トランスミッションなど)に関わる中堅・中小企業者が、電動車部品の製造に挑戦するといった「攻めの業態転換・事業再構築」を窓口相談や研修・セミナー、専門家派遣などによって支援する事業です。47都道府県全てに支援拠点を設置しているため、最寄りの拠点に気軽に相談できます。

事業者へは次のような内容で支援をしています。

  • 窓口相談による事業者の現状・課題分析
  • 電動化の見通しや基礎知識をレクチャーするセミナー・実地研修
  • 専門家派遣による戦略策定や技術開発、設備投資などの課題の解決
■経済産業省 自動車産業「ミカタプロジェクト」■
https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/mono/automobile/mikata_project.html

2)中小機構 自動車部品サプライヤー事業転換支援事業

政府の成長戦略実行計画やグリーン成長戦略で示されている、自動車のライフサイクル全体でのカーボンニュートラル化や、2035年までに乗用車新車販売で電動車100%を目指すという政策目標の実現に当たって、大きな影響を受ける中堅・中小自動車部品サプライヤーによる事業再構築などを支援する事業です。

対象は資本金10億円未満または従業員300人以下の企業です。事業者へは次のような形で支援をしており、いずれも費用は無料としています。

  • 自動車の電動化に向けた事業再構築等に関するオンライン相談、専門家によるアドバイス
  • 1社当たり5回を上限とした専門家派遣、フォローアップ
  • 自動車産業を取り巻く環境変化や対応策、EVの開発動向に関する実地研修・セミナー
■中小機構 自動車部品サプライヤー事業転換支援事業■
https://www.smrj.go.jp/sme/enhancement/automobile_parts_supplier/index.html

以上(2023年5月)

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画像:Орлов Александр
-Adobe Stock

【朝礼】人に頼れ、上司に頼れ

「人に頼る」と聞くと、自分が本来やるべきことをやらず、人に甘えているという印象を受けるかもしれません。しかし、人が自分ひとりだけの力でできることは限られています。もし、自分ひとりで問題を抱え込んでいる人がいたら、誰かに助けを求めてください。時には人に頼ることも必要です。

かつて、私は自分の力だけで物事を進めようとして、大きな失敗をしたことがあります。それは、私が初めて管理職になったときの話です。管理職ですから、部下の指導を任されることとなりました。しかし、部下の指導は初めてだったため自分自身が手探り状態で、しかも、手取り足取りで教えるため多くの時間を取られました。さらに、自分自身が担当する案件も多く、その一つ一つが複雑なものでした。こうして、いつの間にか、私の仕事量は増えていきました。

しかし、仕事量が増えたにもかかわらず、私は上司や同僚に頼ることができず、「ちょっと手伝ってもらえませんか」という一言がいえませんでした。そうしているうちに、仕事量は自分ひとりでは抱えきれないくらいまで増えていき、その結果、体調を崩してしまいました。

治療のために会社を休んでいる間は、顧客に迷惑をかけないように、上司、同僚、部下が私の代わりに対応してくれました。その後、病気が治って出社したとき、上司からは「なぜ会社のみんなを頼って、仕事を手伝ってもらうようにしなかったのだ」と注意されました。私が「自分の仕事は自分自身で処理しないと不安だった」と答えると、「自分ひとりで抱え込んで、周りに迷惑をかけるのは有能な人のやることではない。時には人に頼るのも大切なことだ」と言われました。

「自分は有能だ」と思っている人ほど、人に頼るのに抵抗があるものです。また、「仕事ができないと思われるのが嫌だ」とか、「人にやってもらうのは申し訳ない」など、見栄や遠慮の気持ちもあるはずです。

しかし、仕事によっては、何人かで行ったほうが効率が上がったり、よい成果が得られたりするものがあります。例えば、単純作業を延々と1人で行うのと、2人で行うのでは、作業時間は半分になるでしょう。また新商品の企画で斬新なアイデアが必要になるとき、自分ひとりで考えていても、煮詰まってうまくいかないものです。しかし、このようなとき、誰かと話し合ったり、アイデアを出し合ったりすると、よい着想が生まれることが少なくありません。

人に頼ることのメリットは、これだけではありません。同じ仕事にかかわる人が増えれば、自然とチェック機能が働き、失敗を防ぐことができます。

仕事で成長するためには、自分ひとりで難題を解決するだけではなく、時には人に頼ることも必要です。人に頼ることで、ほかの人たちの仕事の進め方も分かり、自分に足りない点も見えてくるでしょう。

ここで、皆さんにお願いがあります。誰かに頼るときは、できれば直属の上司に相談をしてもらいたいのです。上司は皆さんが考えている以上に部下のことを分かっています。上司は、部下から頼られるのも仕事の一つですから、皆さんにとって必ずよいアドバイスや具体的な解決方法を教えてくれます。

私は皆さんを心から頼りにしています。特に、多くの部下に頼られる上司の皆さん、部下の指導をよろしくお願いします。

以上(2023年5月)

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画像:Mariko Mitsuda

増大する雇用関連リスクと対応について

1 雇用関連リスクの増加

毎年4月は新たな新入社員を迎え入れる企業が多いかと思いますが、今回は雇用に際してのリスクについて解説させて頂きます。コロナ禍が終焉を迎える中、事業の発展に水を差している一つの理由に雇用の問題が挙げられます。実際に人手不足倒産は毎年増え続けており、東京商工リサーチによると、今年1-2月の「人手不足」関連倒産は合計21件(前年同期比162.5%増)で、前年同期の2.6倍に急増しています。内訳は、「求人難」が10件(同100.0%増)、「従業員退職」が6件(同100.0%増)で、この2要因で全体の76.1%と8割近くに達し、人件費高騰も5件(前年同期ゼロ)発生しています。優秀な人材の採用・確保・育成が企業の発展のカギになるのは明らかですが、そのためにも今後は柔軟な働き方を受け入れる必要があり、働き方改革への対応のみならず、コロナ禍で一般化したテレワークや副業、人権問題への配慮やジョブ型雇用への移行等の新たな雇用体制の確立などが求められます。そして、仮に人材の採用・確保ができたとしても、人材は企業にとって最も重要な経営資源である一方で、実は最大のリスク要因であることも忘れてはいけません。雇用関連リスクというと、多くの方が労働災害をイメージするかもしれませんが、実は雇用に関連するリスクは非常に幅広く、しかも雇用環境の変化の中で増大しつつあります。今回は採用に伴って生じる義務や人事労務管理に基づく3つの雇用関連リスクについて考えたいと思います。

2 採用に伴うリスクについて

先ず1つ目は、人を採用するという事自体が先行投資であり、そもそもリスクを抱える事だという事です。特に新卒採用の場合は実績もなく、能力も未知数な人材に対して賃金を約束して雇用する訳であり、働きが悪くても一旦雇い入れると簡単に解雇が出来ないため、継続的にお金を払い続ける必要があります。また、中小企業では賃金を決定する際に、賃金以外の必要な費用について正しく理解していないため、結果的に人件費の増大につながり、生産性を落とすケースも多いと考えられます。具体的には、労働社会保険の会社負担分(概ね賃金の15%)や残業が発生する場合は残業代、退職金や福利厚生制度がある場合はその積み立てや費用増加も考えられます。法改正によって、現状ではパート・アルバイトを採用する場合でも企業規模が100名超の場合は社会保険を適用する必要がありますし、年次有給休暇の5日間の取得が義務付けられましたが、100%の消化を前提にすると6か月間で8割以上の日数勤務した場合は10日の年次有給休暇が付与され、勤続年数が6.5年を超えると20日まで増えるため、ほぼ1カ月間が有給に充てられる計算になります。それらの費用や時間を含んで賃金額を決定しなければ、費用対効果が合わなくなります。そのため、採用時の人の見極めも非常に大切ですが、適切な賃金の設定も非常に重要となります。

3 雇用に伴う義務に関するリスク

また、人を採用すると、事業主は必然的に様々な義務を負うことになります。具体的には、人を雇うと労働基準法等の雇用に関する法令を順守すると共に、勤務時間等に応じて労働保険や社会保険、厚生年金保険への加入が求められます。仮に法令違反で社会保険等に入っていない場合、2年前まで遡って保険料の支払いを求められ、会社側に徴収義務があるため従業員負担分まで会社側が負担し、従業員から回収が出来ない可能性も考えられます。また、労働契約法には安全配慮義務が課せられており、安全配慮を怠ったことによって従業員が労災事故に遭った場合には安全配慮義務違反を問われて、巨額の賠償責任を負うケースが考えられます。更に、労働安全衛生法違反等があった場合は民事上の問題だけで終わらず、業務上過失致死傷罪として禁固刑となる可能性もあるので、注意が必要です。つまり、人を雇うことによって生じる様々な義務や責任を果たさなければ、大きな損失に繋がる可能性があるという事です。

4 人事労務管理に関するリスク(ハラスメント等)

しかし、優秀な人材を採用し、労務コンプライアンスを徹底し、安全配慮義務等を果たしていたとしても、企業としての理念やビジョンを共有し、必要な教育・研修を行い、成果に対して適切な評価が出来なければ、従業員は継続的に高いモチベーションを維持し、成長することでレベルの高い仕事を行い、生産性を高める事は出来ません。

逆に言うと、適切な人事労務管理が出来ていなければ、モラルやモチベーションが低下して品質や生産性が低下し、会社への不平不満が高まることで雇用トラブルの増加や定着率の低下等をもたらします。また、会社に対する批判や誹謗中傷、悪意を持った行動が行われるようになると、手抜きや不正、ハラスメントの横行に発展し、メンタルヘルス問題につながる可能性もあります。つまり、適切な人事労務管理を怠ると、品質や生産性の低下のみならず、不正やハラスメント等の様々な雇用トラブルを生み出し、会社に対する損害賠償や風評による売上減少等の様々なリスクの増大につながります。

5 雇用関連リスクへの対応について

様々な雇用関連リスクに対応するためには、先ずは自社の問題点をしっかり把握することが、人材を採用する上でも、雇用リスク対策を実施する上でも非常に重要です。その上で役に立つのが、全国社会保険労務士会連合会が行っている「社労士診断認証制度」です。この認証制度は3段階に分かれていますが、認証を受ける過程で自社の問題点が明確になり、認証取得を目指すことで労務コンプライアンスが徹底され、認証取得によって求職者や取引先への信用力の向上をもたらします。しかし、どれだけ対策を行っても雇用トラブルは発生するため、従業員から不当解雇やパワハラ、セクハラ等を理由に損害賠償請求されたときに備える雇用慣行賠償責任保険や、労働災害による損害賠償請求に備えた使用者賠償責任保険等に入っておくことも非常に重要です。

※人手不足倒産の増加

https://www.tsr-net.co.jp/news/analysis/20230307_03.html

東京商工リサーチ調べ

※社労士診断認証制度

・経営労務診断のひろば
https://www.sr-shindan.jp/

・説明動画
https://www.sr-shindan.jp/assets/img/top/shindan_movie_full_20200907.mp4

社労士診断認証制度

以上(2023年5月)

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画像:TarikVision-Adobe Stock


提供:ARICEホールディングスグループ( HP:https://www.ariceservice.co.jp/
ARICEホールディングス株式会社(グループ会社の管理・マーケティング・戦略立案等)
株式会社A.I.P(損保13社、生保15社、少額短期3社を扱う全国展開型乗合代理店)
株式会社日本リスク総研(リスクマネジメントコンサルティング、教育・研修等)
トラスト社会保険労務士法人(社会保険労務士業、人事労務リスクマネジメント等)
株式会社アリスヘルプライン(内部通報制度構築支援・ガバナンス態勢の構築支援等)

【財務分析】はじめての財務分析でも安心。基本的な流れを解説

書いてあること

  • 主な読者:はじめて財務分析をする社員、あるいは新人を教育したい担当者
  • 課題:財務分析をするといっても、具体的に何から始めるのか分からない
  • 解決策:収益性・安全性・生産性の順に分析。他社との比較、時系列での比較も忘れずに

1 財務分析は意思決定の手助けとなる

ビジネスは意思決定の連続です。定性的な分析や主観的な思いも必要ですが、そこに定量的な分析も加えれば、意思決定の精度が上がります。そのために必要なのが「財務分析」です。財務分析とは、

「上がっている、下がっている」「良くなっている、悪くなっている」など、会社に対する仮説を財務諸表の数値を使って検証する

ことです。自社を分析して問題点を発見することもありますし、他社を分析して今後の取引の参考にすることもあります。「財務分析といっても、何から始めたらよいか分からない」という人も安心してください。基本的には、

収益性・安全性・生産性の順に分析

となるので、この記事でポイントを紹介します。

また、具体的な分析指標や計算式を確認したい人は、こちらのコンテンツをご覧ください。

2 収益性分析:十分な収益を獲得しているか

収益性分析では、最初に総合的な指標である「総資本経常利益率」を確認します。次に利益率と回転率に分解して、それぞれの指標を確認します。

利益率では、売上高総利益率・売上高営業利益率・売上高経常利益率を比較します。その際、例えば売上高営業利益率が低いことが分かれば、給料などの販売費及び一般管理費が膨らんでいないかを確認します。また、売上高経常利益率が低いことが分かれば、支払利息など営業外費用が膨らんでいないかを確認します。

回転率では、まずは総資本回転率を確認します。次に、売上債権回転率・棚卸資産回転率・有形固定資産回転率などで資産の効率性を確認します。例えば、棚卸資産回転率が低いことが分かれば、商品が販売されずに自社が過剰在庫を抱えていないかを確認します。

3 安全性分析:安全に経営を継続していけるか

安全性分析では、最初に流動比率・当座比率を比較します。流動比率・当座比率は1年以内の短期安全性を見る指標です。流動比率が高いにもかかわらず当座比率が低い場合、在庫などの棚卸資産が過剰となっている恐れがあるので確認してみます。また、手元流動性比率を見ることで、より現状に即した短期安全性が確認できます。

次に、固定比率・固定長期適合率を比較してみます。固定比率・固定長期適合率は、1年超の長期安全性を見る指標です。また、自己資本比率か負債比率を見て、負債に依存していないかを確認してみます。

4 生産性分析:効率良く生産できているか

生産性分析では、労働生産性・設備生産性・労働分配率の各指標から、それぞれの経営資源を効率的に利用できているか確認します。生産性とは、経営資源(インプット)に対する付加価値(アウトプット)の比率です。

付加価値を算出する方法はさまざまなものがありますが、中小企業庁方式が代表的です。この方式では、付加価値は売上高から商品仕入れ・原材料仕入れ・外注加工費などの外部購入費用を差し引いて算出します。

5 他社との比較、時系列での比較が大事

財務分析では、自社と他社とを比較してみることも大事です。自社の収益が10%伸びていることだけに注目すれば、自社の収益は好調といえますが、もし、同時期に他社が30%伸びているとしたら、自社の生産性は低いという仮説が立てられます。その仮説を検証するために、日本政策金融公庫「小企業の経営指標」や帝国データバンク、東京商工リサーチの企業調査などを活用してみましょう。

また、単年ではなく最低でも3年程度は時系列で確認しましょう。その結果、例えば、直近1~2年の間に指標が悪化していることが分かれば、最近変更した経営方法に問題がある恐れがあります。また、以前から指標が悪い状態にあることが分かれば、経営方法に問題があったことになります。

以上(2023年5月)
(監修 税理士 谷澤佳彦)

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