育児休業を取る男性が増えています。中小企業でもここ数年、男性の育児休業があたりまえになりつつあり、育児休業がとりづらい職場環境は、人材の採用・定着の面でもマイナスになりかねません。本稿では、厚生労働省が今年7月30日に公表した「令和6年度雇用均等基本調査」の結果から、男性の育児休業の現状をお伝えするとともに、その背景や、育児休業取得のための支援制度を紹介します。
生活道路での子供との事故防止(2025/10号)【交通安全ニュース】
活用する機会の例
- 月次や週次などの定例ミーティング時の事故防止勉強会
- 毎日の朝礼や点呼の際の安全運転意識向上のためのスピーチ
- マイカー通勤者、新入社員、事故発生者への安全運転指導 など
生活道路※1は、地域住民が日常生活で利用しており、子供たちも登下校時や遊びに出かけるときなどに利用しています。警察庁の発表※2によると、歩行中の小学生の死者・重傷者数は10月が一番多くなっており、道幅が狭い生活道路を車で走行する際は、子供との接触に対するより一層の注意が必要です。
今回は、生活道路で子供との事故を起こさないためのポイントについて考えます。

※1 国土交通省の統計資料では「車道幅員5.5m未満の道路」を生活道路としています。
※2 警察庁「令和7年秋の全国交通安全運動の実施について」https://www.npa.go.jp/news/release/2025/R7akinoundou_koutuujikobunseki.pdf(2025.9.11閲覧)
生活道路事故の発生状況
生活道路の人口10万人あたりの死傷者数では、小学生が一番多くなっています(図1)。歩行中の小学生の法令違反別では、「違反あり」が約6割を占めており、その中でも「飛び出し」が3割以上を占めています(図2)。

出典:国土交通省「道路交通安全対策」より当社作成

出典:内閣府「令和7年版交通安全白書」より当社作成
生活道路で子供との事故が発生する理由として、以下の要因が考えられます。
【環境】
- 狭い道が交っている場所が多く、歩道と車道が区別されていない。
- 建物の壁や電柱などによる死角が多く、見通しが悪い。
【歩行者(子供)】
- 登下校時、友達と話しながら道路に広がって通行する。
- 遊びに夢中で、周囲の安全確認をせずに道路へ飛び出す。
【ドライバー】
- 交通参加者が少ないため、つい安全確認を省略してしまう。
- 「自車の存在に気付いているだろう」と思い込み、油断や過信が生じる。
生活道路走行時の危険
このような生活道路で、子供と接触する危険について考えてみます。


天候や時間帯など、状況によって潜む危険は異なります。常に子供の存在を意識しましょう。
事故防止のポイント
生活道路で子供との事故を防ぐために、以下の点に留意して、安全運転を心がけましょう。
- 建物や電柱などで見通しが悪い場所では、「この先で子供が遊んでいるかもしれない」などと思って徐行運転をしましょう。
- 見通しの悪い交差点に進入する際は、必ず一時停止を行い、目視とカーブミラーなどで周囲の状況をしっかり確認しましょう。
- 子供の急な飛び出しを予測した際は、いつでも停止できるようブレーキに足を乗せた「構え運転」を行いましょう。
令和8年9月1日より、生活道路における自動車の法定速度が時速60Kmから時速30Kmに引き下げられます。自動車等の速度が30kmを超えると、歩行者の致死率が急激に上昇するというデータもあり、すでに実施されている「ゾーン30・ゾーン30プラス」以外でも、対象の生活道路全般で引き下げられます。詳細は、警察庁・各都道府県の広報啓発ポスターをご参照ください。

https://www.keishicho.metro.tokyo.lg.jp/kotsu/doro/Residential_roads.files/residential_roads.pdf
※「ゾーン30・ゾーン30プラス」については、マンスリーレポート2022年1月号で取り上げています。
以上(2025年10月)
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画像:amanaimages
【中小企業のためのM&A】 図解で明解。M&Aの主なスキーム
1 M&Aの成否を左右するスキーム(手法)の策定
M&Aをする際は、その目的、取得する対象、税負担などを考えながら最も有利なスキームを策定します。また、M&Aのスキームは1つだけを利用するとは限らず、複数を組み合わせることも珍しくありません。M&Aのスキームはさまざまですが、次のように整理できます。
- 1.ハコ(会社)を譲り受ける:株式譲渡、株式交換、株式移転
- 2.モノ(事業)を譲り受ける:事業譲渡、会社分割
- 3.ハコやモノを買う取引:株式譲渡、事業譲渡
- 4.ハコやモノを包括的に承継する企業再編:合併、会社分割、株式交換、株式移転
この記事では、上記の「3.ハコやモノを買う取引」「4.ハコやモノを包括的に承継する企業再編」の視点から各スキームの概要を説明します。

2 ハコやモノを買う取引
ハコやモノを買う取引によってM&Aをするスキームには、株式譲渡と事業譲渡とがあります。中小企業のM&Aでは、このいずれかのスキームを策定するケースがほとんどです。
1)株式譲渡
株式譲渡とは、
会社の株式の全部または一部を他の会社や個人に売り渡すこと
です。対象会社の法人格や取引先との契約関係、財務状況には一切変更はなく、会社を支配するオーナーが変わります。

株式譲渡についてさらに知りたい場合は、次のコンテンツをご確認ください。
2)事業譲渡
事業譲渡とは、
事業用財産、無形財産、人的財産など、会社の事業の全部または一部を譲渡すること
です。ウェブサイトの売買のように、特定の資産の売買か事業譲渡かの区別が難しい場合は専門家に相談する必要があります。ただ、明確な動産売買のような場合を除き、事業の譲渡と評価される可能性があれば、事業譲渡の手続きをしたほうが無難といえます。

事業譲渡についてさらに知りたい場合は、次のコンテンツをご確認ください。
3 ハコやモノを包括的に承継する企業再編
ハコやモノを包括的に承継する企業再編によってM&Aをするスキームには、会社分割、合併、株式交換、株式移転があります。中小企業のM&Aでは、たまに会社分割が利用される程度ですが、M&Aに関する基本的な知識として合併、株式交換、株式移転についても説明します。また、他の会社を子会社化する方法として、株式交付という方法があります。株式交換、株式移転とは異なり、100%親子会社化するわけではありませんので、厳密には包括的な承継をしているわけではありませんが、子会社化する方法として、株式交付についても説明をします。
1)会社分割
会社分割とは、
ある会社の事業に関する権利義務の全部または一部を分割して、他の会社に包括的に承継させること
です。会社分割には、
- 吸収分割:事業を承継させる会社が既存の会社
- 新設分割:事業を承継させる会社が新設した会社
の種類があります。いずれの場合も、分割する事業に関する権利義務を取引先の個別承諾を得ることなく包括的に移転できるので、取引先が多く、それらと契約書を締結し直すことが煩雑な場合などに利用されます。

会社分割についてさらに知りたい場合は、次のコンテンツをご確認ください。
2)合併
合併とは、
ある会社を解散して清算手続きを経ることなく、包括的に他の会社に権利義務を全て承継させること
です。合併には、
- 吸収合併:事業を承継させる会社が既存の会社
- 新設合併:事業を承継させる会社が新設した会社
の種類があります。いずれの場合も、対象会社の権利義務を包括的に承継します。そのため、対象会社に不採算事業や不良資産がある、簿外債務がありそうななどの場合、合併は望ましくなく、会社分割や事業譲渡を選択するのが通常です。

合併についてさらに知りたい場合は、次のコンテンツをご確認ください。
3)株式交換、株式移転、株式交付
1.株式交換
株式交換とは、
ある会社の発行済株式の全部を他の会社に取得させること
です。これにより、完全親子会社関係になります。株式交換は、グループ会社において持株会社を創設するなど、ホールディングス化する場合や他社と経営統合する場合に利用されます。

2.株式移転
株式移転とは、
株式交換と同様に、完全親子会社関係を創設するための方法
です。株式交換との違いは、
発行済み株式の全部を取得させる会社が、新たに設立する株式会社であること
です。この方法を用いて、事業を行わずに子会社の管理を行う純粋持株会社を設立するホールディングス化(純粋持株会社体制)を実施するケースがあります。

3.株式交付
株式交付とは、
自社の株式を対価として対象会社を買収し、親子会社関係を創設する方法
です。株式交換とよく似ていますが、
- 株式交換:すべてのB社株主がB社株式を交換する
- 株式交付:すべてのB社株主が株式交付に応じる必要はない。応じない株主は引き続き、B社の株主であり続ける
という点で異なります。そのため、「部分的な株式交換」といわれる場合があります。

株式交換、株式移転、株式交付についてさらに知りたい場合は、次のコンテンツをご確認ください。
4 自社におけるM&Aを進める目的・メリットを考える
スキームの策定はM&Aの成否を左右する重要事項なので、M&Aの目的・メリットに基づいた検討しましょう。ここが疎かになると、M&Aの実行が目的となり、どうにかクロージングしてみたものの統合実務で失敗し、シナジー効果もなかったという事態に陥ります。
以降で、検討していただきたい事項をまとめてみましたので、参考にしてください。
1)買い手側の検討事項
- M&Aによってどのような利益やメリット、シナジーを期待しているのか(買収目的)
- M&Aの対象はどういった特徴のある企業か、どのような点に魅力を感じたのか(対象選定とアプローチ)
- M&Aの対象の価値はどの程度か、経済的価値に現れない価値はあるか(買収対象の価値評価)
- どのような方法でM&Aを実行するか(買収方法)
- 資金をどのように調達するか(資金調達)
- 仲介者や専門家として誰をいつ起用するか(仲介者や専門家の選定起用)
- 「法的規制」や「税法上の問題」はあるか、それを克服する方法はあるか
- クロージング後における統合実務として、どのように事業運営をしていけば、当初の買収目的を実現できるか(買収後の事業計画)
2)売り手側の検討事項
- M&Aによって得られるメリット、あるいはデメリットは何か(売却目的)
- 誰に売却するか、売却先によるメリット、デメリットはあるか(買い手選定)
- 売却によって得るものは何か、また失うものは何か(販売価格見込設定)
- 特に「税制」などの問題で、現在享受しているメリットが害されないか(利益確保)
- 仲介者や専門家として誰をいつ起用するか(仲介者や専門家の選定起用)
- クロージング後に経営に関与するのか、関与する場合どの程度か(クロージング後の関与)
以上(2025年9月作成)
(執筆 弁護士 松下翔)
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ヒント3[採用3]:「好きな人は好き」を 分かりやすい一行で打ち出せ!/武田斉紀の『人が辞めない会社、10のヒント』(4)
目次
1 会社が“目指すこと”、“大切にしたいこと”は明確になりましたか
今シリーズの狙いは、経営者、人事担当者、現場の皆さんのお悩みである「社員を採ってもすぐに辞めてしまう上に、そもそも採れない」という課題を解決すること。『人が辞めない会社、10のヒント』と題して、毎回1つずつご紹介していきます。
この課題の原因と解決策は会社によってさまざまです。
今回ご提示するヒントが皆さんの抱える原因に明らかに当てはまらない場合は、読み飛ばしてくださって結構です。ですが、ヒントの1~9までが該当しなくても、10が当てはまるかもしれません。
全社共通の原因もあれば、部署ごとの固有の原因も存在することでしょう。原因が1つだけというケースは少ないので、何回分か読んでいただければ「これはうちにも当てはまるな」というものを見つけていただけるのではと思います。
さて、これまでヒント1「自社を大きく見せていませんか?」、2「会社が“目指すこと”、“大切にしたいこと”を明示する」と、社員の入り口となる採用について触れてきました。今回のヒント3も引き続き採用時におけるヒントです。
人材獲得の入り口である採用においては、自社を「必要以上に大きく見せることなく」、求める人材像として「会社が“目指すこと”、“大切にしたいこと”を明示」してみましょう。ネットやSNSの力で、あなたの会社が本当に“採用したい人材”にアプローチすることができます。
問題はあまたの情報があふれる中で、「会社が“目指すこと”、“大切にしたいこと”を明示」するだけで、 “採用したい人材”に十分にアプローチできるかどうかです。
今回は、会社が“目指すこと”、“大切にしたいこと”に対して強く共感してくれる“採用したい人材”への具体的なアプローチ方法を、事例と併せてご紹介します。
2 自社ならではの「好きな人は好き」を、一行キャッチフレーズにする
前回、A社の事例を紹介しました。上場後に幹部が一斉退職するというピンチを乗り切ることができたのは、B社長の“目指すこと”=目的と“大切にしたいこと”=価値観に共感して入社した若手社員の存在でした。
その際は、募集時に同社B社長の考え方を冊子にまとめたわけですが、それらをネットやSNSにどんと上げたところで、内容がよほどとんがっていないと目立たないし、本当に“採用したい人材”にアプローチするのは難しいでしょう。
目立たせるためには、伝えたい情報の中で“エッジを立てる”必要があります。そこで取り組むべきは、自社が“目指すこと”=目的と“大切にしたいこと”=価値観に密接につながる象徴的な内容を、一行キャッチフレーズにする作業です。
具体的には、“目指すこと”&“大切にしたいこと”を象徴する一言、あるいは象徴する事実を提示するのです。
前回紹介したA社の“目指すこと”&“大切にしたいこと”を再掲すると、
・目的/誰もが楽しめて感動できるレストランを作る
・価値観/結果次第で社長の給料さえ超えられるが、降格もある
価値観/自分で手を挙げない限り昇給も昇格もできない
価値観/会議では社長も店長も同じ1票
価値観/上司を見るより、お客様を見ろ
これらをまとめた一行キャッチフレーズは、例えばこんな感じでしょうか。
「言いたいことを言ってくれ! 世界中に感動できるレストランを作ろう!(社長)」
この一行からは「言いたいことが言える」風通しの良さと同時に、世界中に~という壮大な目的を前に、発言や行動への強い責任が感じられます。
大事なのは、この一行の後に上記4つの価値観を説明すると、違和感なく、全てがつながって見えるということ。「求める人材像」が応募者にとってリアルかつ立体的にイメージできるということです。
3 会社の目的や価値観を表す事実を、挙げるだけでもよい
A社はかなり個性的な会社でしたが、「うちはそこまでとんがっていない」という声もあるでしょう。
そこまで個性的ではない、とんがっていないという会社でも、目的や価値観を表す事実を挙げるだけで十分にアピールできます。
C社の事例を紹介しましょう。
一行キャッチフレーズ
「創業以来20年、毎年社員全員で海外旅行に行く理由をお話しします」
C社は数百人規模の商社。コロナ禍前まで毎年必ず社員全員で海外旅行に行くことにこだわり、実際に続けてきました(コロナ収束後に再開しているようです)。
旅行資金は会社も補助して積み立て、日ごろ社員を支えてくれているご家族の参加もウェルカム。時代とともに個々の希望を活かすなど、負担感のないよう配慮してきました。
20年の間には、世の中の不景気もあれば、会社の業績の上下もあります。厳しい年は近場の韓国や香港で、良い年は欧州など遠方へ。この制度を続けてきた背景には、創業者の強い思いがあったのです。C社のD社長が“目指すこと”&“大切にしたいこと”の根幹でした。
採用募集では、この一行キャッチフレーズを前面に掲げつつ、“目指すこと”&“大切にしたいこと”に関わる社内の情報を添えて説明していきます。
・D社長の創業のきっかけは、自分が何をしたいのか分からず悩んでいた頃に世界を旅行で巡って、日本に生まれて恵まれてきたことを強く感じ、「自分にはもっとできることがあるのでは」と一念発起したことだった。
・現在の事業はまだ国内中心だが、将来的には海外進出して広く世界の人々に貢献することを目指している。だから社員にも海外を常に意識していてほしいし、世界に出たとき、この会社と自分に何ができるかを意識してほしいという思いがある。
・「新事業提案制度」「海外ボランティア休暇制度」を用意したのも同じ理由。毎年の海外旅行で世界を見て刺激を受け、事業として利益を上げて継続性を担保しつつ、世界の人々に貢献できる提案をどんどんしてほしい。
一連の話には創業者の一貫した思いが流れています。こんな会社を「好きな人には好き」でたまらないメッセージでしょう。
いかがでしょう。皆さんの会社にも“目指すこと”&“大切にしたいこと”を象徴するような、創業以来のこだわりや企業文化があるのではないでしょうか。
普段は当たり前すぎて気付かないのですが、私のような外部のコンサルタントに指摘されて気付くケースも少なくないようです。次にご紹介するE社もそうした事例です。
4 “目指すこと”、“大切にしたいこと”の事実が、人を強く引き寄せる!
私の採用セミナーに参加したE社の事例です。各社の人事担当者に「皆さんの会社の、他社にない特徴は何ですか?」と質問したところ、「うちはこれといった特徴もない、普通の会社ですから」と自信なさげな反応ばかりでした。
私は質問を変え、「例えば、皆さんの会社で何年も長く続いているこだわりの事実や制度はありませんか?」と聞きます。するとE社の担当者が答えました。
「あえて言うとすればそうですね。うちは創業30年くらいなのですが、これまで出産を理由に退職した女性社員はいません。こんなのでいいのでしょうか?」
それを聞いた他のセミナー参加者がざわつきます。すかさず私は会場全体に向けて質問します。「皆さんの会社の中に、“創業以来、出産を理由に退職した女性社員が一人もいない”会社はありますか? 挙手してください」
周囲を見渡すも、誰も手を挙げません。私はE社の担当者に言いました。「ほらね、それは当たり前じゃなくて特別なことなのですよ。ではなぜ“創業以来、出産を理由に退職した女性社員がいない”のか教えていただけますか?」
事実の裏には、創業者の強い思いが隠れていました。
「創業者の考えなのですが、採用して頑張ってくれている社員は会社にとって宝だ。結婚や出産は喜ばしいことであって、それを理由に辞めてほしくない。家庭の事情でしばらく離れることがあっても、本人が希望すればいつでも戻って来られる会社でありたい、と常々言っています」。
私は会場にもう一度質問しました。「今の話を聞いて、この会社に興味が湧いてちょっと好きだなと思った人、手を挙げてください!」すると、過半数を大きく上回る人がすっと手を挙げたのです。女性だけでなく、男性からも多くの賛同がありました。
一番驚いていたのはE社の担当者でした。私が挙手した人に理由を聞くと、「トップの社員を思う気持ちが伝わりました」。男性からは「そういう会社なら、男女関係なく社員を大切に思ってくれると信じることができました」
一行キャッチフレーズはどうなるでしょうか。例えばこんな感じでしょうか。
「当社の自慢は、創業以来30年、出産を理由に退職した女性社員が一人もいないことです」
ストレートですが、事実より強いメッセージはありません。「社員を大切にするトップの下で働きたい」と思っている人にとっては、大手企業の「当社の年収はいくらです」というメッセージよりも、時に強く刺さるのです。
5 「好きな人は好き」を大切にしよう
A社、C社、E社の事例のように、
あなたの会社が“目指すこと”=目的と“大切にしたいこと”=価値観に密接につながる象徴的な内容を、分かりやすい一行キャッチフレーズにしてみてください。
その内容に対して「好きな人は好き」と、強く共感した人が全国から(あるいは世界から)集まってくれます。
さすればあとは、その中からあなたの会社が「求める人材像」に定めた「資質・性格」や「経験・スキル(知識・能力)」で絞り込んでいけばいいのです。
「うちは小さな部品工場で、大層な目的も価値観も掲げていません。あえて言えば数ミクロンレベルの職人技にこだわって設計、製造しています。技術的にまねできるところがないようで、世界の大手企業からも依頼をいただいています。でも、それくらいしかないです」
皆さん、もうお分かりですね。一行キャッチフレーズは例えばこうです。
「数ミクロンの職人技が、世界の大手企業からも認められています」
自社が気付いていない、あるいは気付いているけれどちょっとした自慢くらいに思っていた事実を並べただけです。
世の中には歴史に残る大建造物を造りたいという人もいれば、片やミリ単位、ミクロン単位の細かな作業に価値を見出す人もそれなりにたくさんいるのです。「好きな人は好き」が集まってくれるイメージが湧きましたか。
会社が“目指すこと”、“大切にしたいこと”に対して「好きな人は好き」と共感して入社してきた人材は、簡単には辞めません。
さて、最後に「好きな人は好き」を集めて、その中から人材を採用する際にご注意いただきたい点があります。それは「不採用になった人も大切に扱う」ということです。
彼らは数ある会社の中から、あなたの会社が提示したメッセージに対して「好きな人は好き」と共感してくれた人たち、すなわちあなたの会社のファンなのです。
日本マクドナルドや東京ディズニーリゾート(運営はオリエンタルランド)では毎年大量の従業員を採用しますが、当然ながら多くの不採用者も発生します。でも彼らはほぼ全員、会社のファンでもあり、顧客でもあるのです。
不採用だったからと大切に扱われなければ、「好きな人は好き」の思いが裏切られて、とても残念に思うでしょう。それがよく分かっているので、各社は採用、不採用にかかわらず応募者一人ひとりを大切にしながら採用活動をしていると聞いています。
顧客は個人でなく法人だからという会社でも、その応募者は今の取引先かも、あるいは将来の取引先になるかもしれません。SNSの時代には、採用でひどい扱いを受けたという悪い噂はすぐに広まります。
でも、それ以前に「好きな人は好き」と思ってくれたファンは、損得など抜きに大切にしたいものですね。
第4回を最後までお読みいただきありがとうございました。
ご紹介するヒントを参考にしながら、自社を退職する一人ひとりの「辞める理由」と、働いている一人ひとりの「辞めない理由」を丁寧に拾ってみましょう。見えてきた自社ならではの“課題”を解消し“強み”を活かせれば、『人が辞めない会社』へと変われるはずです。
次回も引き続き『人が辞めない会社、10のヒント』をご紹介していきます。
<ご質問を承ります>
ご質問や疑問点などあれば以下までメールください。※個別のお問合せもこちらまで
Mailto:brightinfo@brightside.co.jp
https://www.brightside.co.jp/
※武田が以前上梓した書籍『新スペシャリストになろう!』および『なぜ社長の話はわかりにくいのか』(いずれもPHP研究所)が、ディスカヴァー・トゥエンティワンより電子書籍として復刻出版されました。前者はキャリア選択でお悩みの方に、後者はリーダーやトップをめざしている方にお薦めです。
『新スペシャリストになろう!』
https://amzn.asia/d/e8GZwTB
『なぜ社長の話はわかりにくいのか』
https://amzn.asia/d/8YUKdlx
以上(2025年10月作成)
(著作 ブライトサイド株式会社 代表取締役社長 武田斉紀)
https://www.brightside.co.jp/
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外国人問題に揺れる埼玉県川口市 地域に愛される企業の秘訣は○○!
1 ウチの会社で、本当に外国人は働けるのか……?
日本で働く外国人の数は増え続けています。ただ、「外国人雇用に興味はあるけど、実際に雇ったことはない」という会社が、最初の一歩を踏み出すのにはなかなか勇気がいります。在留資格などの法律的な問題もそうですが、
多くの経営者が気にしているのは、やはり「外国人が会社になじめるか、どうか」ではないでしょうか。
言葉も文化も違う外国人が、日本人の社員や顧客とうまくコミュニケーションが取れるのか、これは誰しもが考える問題です。また、少々意地悪な見方ですが、いわゆるクルド人問題が注目を集める中で、「外国人を雇ったら、社員や顧客から変な目で見られないか」と不安な経営者もいるかもしれません。
外国人を戦力化し、そして人々から愛される社員に育てるためには、何が必要なのか。この記事では、そのヒントとして
- 埼玉県川口市で、15年以上外国人を雇用し続けている会社へのインタビュー内容
- 外国人を雇用している(または過去に雇用していた)経営者73人へのアンケート結果
を紹介します。
2 小泉アルミ「根気強く話しかければ、外国人は育つ」
埼玉県川口市で、伝統産業「鋳物の製造」を30年以上続けている小泉アルミ。15年以上前から外国人を雇用していますが、2018年ごろから技能実習生などの受け入れを本格化。2025年9月現在、社員16人のうち12人は外国人だそうです(国籍はインドネシア、ベトナムなど。永住者を含む)。
クルド人問題の渦中にある川口市で、地域から愛される外国人を育てるために会社としてどのような取り組みをしているのか、小泉アルミ代表の内田英嗣さんに話を聞きました。
■小泉アルミ■
https://www.koizumialumi.com/
1)経営者自ら「とことん外国人に話しかけること」が大切
外国人を雇用する多くの会社が直面するのが、「言語と文化の壁」。小泉アルミでも、同じ課題を抱えていたそうです。
「もちろん、日本語や日本の文化をしっかり勉強している外国人は多いです。一方で、なかなか自分から学ぼうとせず、『日常会話すらままならないし、挨拶もできない』という人が、いつの時代も必ずいるのです」(内田さん)
製造業は、ただでさえ事故の起きやすい業種。社員とコミュニケーションが取れないことは生命に関わります。内田さんが考えた対応策はシンプル、「自分から、とことん外国人に話しかけること」でした。
「終業時は、私が外国人の社員一人ひとりに、日本語で『お疲れ様』と声掛けをしています。すると、最初は全然挨拶を返してくれなかった人も、次第に日本語で受け答えをしてくれるようになるのです。私から社員に『何か日本語で質問してみて』と言って、質問させることもありますね。とにかく毎日根気強く話しかけることが大切です」(内田さん)
2)「挨拶」がしっかりしている外国人は、地域の人々から愛される
川口市では、一部の外国人による犯罪行為やごみの不法投棄などが問題視され、2023年には市が国に対し、不法行為への厳正な対処などを求めた要望書を提出しています。日本で働く外国人と地域の関わり方について、内田さんの考えを聞きました。
「最近はあまり気になりませんが、以前、当社の近くでも一部の外国人による夜間の騒音などが問題になったことがありました。幸い、当社の社員がトラブルを起こしたり、巻き込まれたりしたことはないですが、近隣住民の中に外国人を怖がる人がいても、それは無理からぬことだと思います」(内田さん)
そんな中にあって、内田さんが特に大切にしていることは「挨拶」だそうです。
「社員には、外で誰かに会ったら、必ず『こんにちは』と日本語で挨拶するように伝えています。これができないと、『外国人は、何を考えているか分からなくて怖い』という印象を相手に与えてしまう。逆に、たどたどしい言葉でも、『話したい』『仲良くしたい』という気持ちが見える人には、心を開きたくなりますよね。外国人に限った話ではないですが、誰かに愛されたいなら、まずは挨拶からだと思います」(内田さん)
3)外国人を孤立させず、日本を大いに楽しんでもらう
外国人を雇用する上で、内田さんが大切にしている心構えを聞きました。
「どんな外国人も、日本語や日本の文化に慣れていないうちは、うまく仲間の輪に入れず、独りで行動しがちです。ポイントは、こちらから積極的に話しかけ、『孤立させないこと』。先ほどお伝えした終業時の『お疲れ様』もそうですし、一生懸命働いてくれている社員に『ありがとう』と感謝を伝えるのも大切。とにかく、一人の人間として、日本人と同じように接することを意識しています」(内田さん)
また、日本で働く外国人へのメッセージもいただきました。
「当社では、外国人の社員と定期的に食事会をする他、年に1回、社員旅行を実施しています。そうしたイベントを通して日本の文化に触れるうちに、興味が出てきて日本語などが上達していく人もいます。時折、『休みの日は部屋にこもりっぱなし』という外国人の話を聞きますが、それはもったいない。せっかく日本にいるのだから、さまざまな文化に触れて、大いに日本を楽しんでほしいと思います」(内田さん)
3 経営者73人にアンケート! 外国人への教育の課題は?
インターネット上で、外国人を雇用している(または過去に雇用していた)という中小企業の経営者73人に対し、「外国人の社員教育」に関するアンケートを実施しましたので、その結果を紹介します(実施期間は2025年9月9日から9月16日まで)。
1)外国人の社員教育で、課題と感じること(感じていたこと)は?(複数回答)
まずは経営者全員に対し、社員教育の課題について聞きました。

「文化・習慣の違い(63.0%)」「言語の壁(52.1%)」がやはり大きな課題のようです。
「その他」の課題として、「取引先の理解」を挙げていた人
もいました。
2)外国人にどのような教育を実施していますか?(いましたか?)(複数回答)
次に外国人の教育方法について聞きました。

「OJT(現場での実務を通じた指導)(54.8%)」が最も多くなっています。言語の壁を乗り越えるために「社内での日本語研修や勉強会(21.9%)」「多言語対応のマニュアルやツールの整備(20.5%)」に取り組む会社もいました。また、
「その他」の教育内容として、「日本人社員への多様性教育」を挙げていた人
もいました。
3)外国人の社員教育で、特に意識していること(していたこと)は?
さらに、「外国人の社員教育で、特に意識していること(していたこと)はありますか?」と聞いたところ、58.2%が「ある」と回答しました。

「ある」と回答した経営者32人に、「具体的に何を意識している(していた)のか」を聞いたところ、次のような回答が寄せられました(明らかな誤字などは修正しています)。
- 文化の違いや宗教的な問題。日本では問題ないことでも海外ではタブー視されることもあるので、本人とその都度話し合いながら少しずつお互いに歩み寄った
- こちらの意図することをいかに伝えるか。翻訳アプリや身振りなどで根気強く伝えるようにしている
- 相手がこちらの指示を正しく理解しているか、確認するようにしている
- やって見せて、やらせて、訂正して、褒める
- 根気強く教育する
- 誠意と思いやりを実感させてあげること。だからこそ本気で叱れる
- 怒らない
- キレて刃物を持ち出すなどの危険性の防止
- 期待しすぎない
- 日本人スタッフと同じように接する
- 日本はいい所だと感じてもらえるよう対応する
4)外国人の社員教育について、専門家などに相談したいこと(相談したこと)は?
「外国人の社員教育について、専門家などに相談したいこと(相談したこと)はありますか?」と聞いたところ、37.1%が「ある」と回答しました。

「ある」と回答した経営者23人に、「具体的に何を相談したい(相談した)のか」を聞いたところ、次のような回答が寄せられました(明らかな誤字などは修正しています)。
- 日本との生活風習の違いから日本人社員との軋轢(あつれき)が生じることがあるし、本人も疎外感を感じることもあるよう。いかに日本人社員の中に溶け込み業務を円滑に行えるかを相談し、試行錯誤をしながら行った
- 文化の違いを分かりやすく伝える方法
- 日本語の習得
- ニュアンスの壁の克服
- (コミュニケーションなどの問題は)ルーツのせいなのか、固有の特性なのか
- 入管対応
- 法律的な問題
以上(2025年10月)
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「おもてなし」と「フェス化」周年イベント新常識
1 「参加者も開催側も満足度が高い周年イベント」を目指そう
「今年は創業から○周年。感謝を込めて、社内外の関係者を集めた周年イベントを開催したい」、そうお考えの社長もいるでしょう。帝国データバンクの調査によると、今年(2025年)がアニバーサリーの会社は15万5167社(うち上場企業は404社)、実に多くの会社が節目を迎えます。
会社が周年イベントを開催することで、例えば次のようなメリットがあります。
- 参加者(社員や家族、取引先など)に感謝の気持ちを伝えることで、関係性が深まる
- 会社の歩みや理念・価値観などを共有することで、社内外問わず一体感が高まる
- 過去を振り返るだけでなく、会社の未来を再考する機会にもなる
- 自社をよく知らない人に「面白い」と感じてもらえれば、ビジネスチャンスにつながる
とはいえ、問題は「何をやるか」。できそうな企画案は色々あれど、
「自分(社長)の思いは、ちゃんと参加者に伝わるだろうか……」
「コストだけかかって、イベントが失敗したらどうしよう……」
などと迷ったり考えすぎたりするかもしれません。ならば、「実際に周年イベントを開催した会社」に、何を考えてどんな企画でイベントを開催したか聞いてみましょう!
この記事では、2025年7月に、社内外から参加者を招待して周年イベントを行った、次の2社へのインタビュー内容を紹介します。

2社ともそれぞれのコンセプトを掲げ、メンバーや社外の協力者と力を合わせて企画・開催、しかも、それほど高額な費用はかけず、参加者の満足感が高い周年イベントを行った好事例ですので、きっと参考になると思います。そして2社とも、イベントの内容はまったく違ったものの、同じように、
「開催してよかった、楽しかった!」「今後も実施したい(きっとする)」
とコメントしていました。参加者の記憶に残る、そして開催側も達成感のある周年イベントを、皆さんもぜひ開催してみましょう!
2 「おもてなしの気持ち」を形に(9課)

2025年に設立10周年を迎えた9課。ECサイト制作ツールなど、自社SaaSサービスの開発・提供を行っています。10周年イベントでは、ユーザーやパートナー先への感謝を込めて、
- 小料理屋さんの女将による出張ケータリング
- 会社のことが分かる動画の上映やクイズ大会
など、さまざまな企画を実施。9課の代表取締役、安部さんの周年イベントについてのメッセージは、シンプルで温かいものでした。
「周年イベントは自分たちを祝う場ではなく、来てくださる方に楽しんでもらう場だと思います。大事なのは“おもてなしの気持ち”だと考えています」(安部さん)
1)「いい人が集まる」場の空気
9課のイベントでとにかく印象的なのは、場の雰囲気です。初参加でも圧倒的な居心地の良さ、参加する人がいい人ばかりの空間。この居心地の良さについて、安部さんはこう話します。
「普段から私は、“誠実でいい人”と思える人と付き合いたいと思っています。だから自然と、そういう人が集まってくるのかもしれません」
安部さんのこうした行動原理の結果だと思いますが、設立から10年経った今でも、社員やフリーランスの仲間が一人も辞めていないそうです。「特別な何かをしてきたわけではないが、人とのつながりを大切にしてきた結果かもしれません」と安部さん。

2)一人にしない工夫
10周年イベントに参加したのはおよそ50人。9課のプロダクトのユーザー、パートナー先、そして9課独特の表現でいうところの「部外者」。この「部外者」は、代表の安部さんのつながりで、9課と仲良くしている人たち。ある意味、9課と安部さんのアンバサダーともいえます。
イベントに参加する人同士は初めて顔を合わせるケースもあります。一人で参加していた人も少なくありません。年齢も性別もバラバラでした。そこで、安部さんをはじめ、メンバーや協力者が率先して声をかけたり人とつないだり、ということを実践していました。
「誰も一人にさせないことを意識しました。知り合いがいなくても、自然に会話に入れるようにスタッフが気を配る。交流しやすいレイアウトにする。そうした工夫が、結果として“居心地の良い場”につながったと思います」(安部さん)
3)「ご飯がおいしい」のはシンプルだけど大事
「おもてなし」をモットーにした9課の10周年イベント、「ご飯がとてもおいしい」というのも大きな特徴です。初対面にもかかわらず、「これ、おいしいですよね!」から会話がスタートした参加者もいました。
今回、9課御用達(ごようたし)の小料理屋さんの女将が、なんと出張ケータリング。これを実現するため、「キッチンのあるレンタルスペースにこだわって探した」という安部さん。イベント進行の中でも、「ご飯を楽しんでください」と何回もアナウンスして参加者が食べる時間をしっかりと確保します。イベント途中で「夏野菜のおでんが仕上がった」とアナウンスされたときは、女将のキッチンスペースに行列ができていました。
おいしいご飯の写真の一部を、9課のブログからお借りして掲載します。ブログには他にも素敵な写真が掲載されていますのでご覧ください。

■9課ブログ「祝10周年記念イベントを開催しました!レポート」■
https://section9.co.jp/news/10-anniversary/
4)工夫と仕掛けで「らしさ」を表現
参加者を面白がらせる、驚かせる「余興」もありました。会社の歩みを振り返る「10年振り返りムービー」(代表が自ら制作)、9課のことを知ることができる「9課に関するクイズ大会(景品あり)」など。クイズ大会では「6期目の接待交際費の額は○万円。マルかバツか」など、9課の特徴、代表や社員の人となり、何を大切にしているかなどが分かるように、内容が工夫されていました。
そして思いもよらぬ余興、本格的なフラメンコが! 有志の社外協力者による力強い歌声とフラメンコにびっくりしつつも、参加者は感動していました。
飾らず本音で語った心温まる来賓スピーチもあり、いずれも9課ならではのユニークな企画で、会場は大いに盛り上がりました。
9課らしさが満載の10周年イベント。参加者からは「楽しかった!」「おいしかった!」の他、
「ぜひ、9課のプロダクトのユーザーミートアップもやってほしい」
「(営業目的では全然なかったのに)思いがけず他の参加者と交流もでき、ビジネス的な打ち合わせにもつながった」
といった声が上がったとのこと。そして参加者から特に多かった感想は、やはり、
「とにかく参加者がいい人ばかりで、すごく居心地が良かった」
だそうです。これも9課イベントの特徴といえるでしょう。

5)費用感と準備のリアル
今回のイベントは参加者が50人近くで、気になる費用は、
会場(キッチンありで広めのイベントスペース、場所は東京の渋谷)と料理で約30万円、ノベルティで10万円(計40万円前後)
だそうです。決して安くはありませんが、前述した参加者の満足度を考えれば、大きな価値があったといえるでしょう。ちなみに、参加者は無料で参加しました。
会場はレンタルスペースなどを検索・予約できるプラットフォーム「スペースマーケット」を使って、条件面(キッチンあり、参加者がゆったりと過ごせる広さ、予算など)から探したとのこと。
準備には2カ月くらいかけたそうです。余興の企画から動画の制作、参加者への招待、当日の会場準備、飾りつけなど代表自らとにかく動き、社員や社外協力者と力を合わせて進めました。
最後に、細かい点ではありますが、安部さんは留意事項として次のことを挙げていました。
「振り返りムービーなどを制作しようとしたとき、これまでの写真や動画のデータが全然残っていなくて困りました。周年イベントを意識するなら、日ごろから写真や動画をたくさん撮って、ちゃんとデータとして保存しておくことが大切ですね」(安部さん)

代表の安部さんが参加者一人ひとりの特徴を考え、初対面でもすぐに人となりが理解できるようにと、約50通り(50人分)書いた「人札」も好評でした。
3 「価値創造」を伝える“フェス”としての周年(KANDO)

2025年、設立15周年を迎えたKANDO。企業に対して「価値創造の伴走支援」や「価値創造を実現する“推進役”の育成(推進人材の育成)」などを行っています。設立当初に代表の高橋輝行さんが掲げた「推進人材を日本に1万人育てる」、そうした大きな目標に基づいて、15周年という節目の年に「価値創造フェス」を開催!
- 「価値創造」の実践・取り組みを、産学官民の方々が登壇し語る勉強会
- 登壇者と参加者が一緒に食事をする交流会
などを実施しました。
「周年イベント」という呼び方ではなく「フェス」。ここにKANDOの思いが込められています。この「フェス」という呼び方について、高橋さんは次のようにコメントを寄せています。
「今回、周年イベントではなく価値創造“フェス”にしたのは、共に価値創造できる方々とのエンゲージメントを高めたかったからです。リアルな現場を共有し、参加者がそれぞれの会社に『価値創造(自分たちの顧客にどんな価値を創造し提供するのか、それを考え実践することの大事さ)』を持ち帰り、価値創造の火付け役になってもらいたいという想いから企画しました」(高橋さん)
この想いを共有し、具体的な企画運営から携わった同社の中村靖史さんに、フェスについてのお話を伺いました。
1)15周年を機に点を線に、線を面に
KANDOのフェスの大きな特徴は、先の高橋さんのコメントにもあったように、「なぜこのフェスを行うのか(参加者に何を持ち帰ってほしいのか)」という目的が非常に明確である点です。もちろん15周年を迎えた感謝の気持ちを社内外の人に伝えたいということは根底にありつつも、目的について中村さんは次のように語ります。
「周年は“過去を称える式典”ではなく、“これからを一緒につくる場”。この15年で“価値創造”は広がってきてはいるが、まだ点在している状態。そこで、15年という節目に、点を線、線を面にしていこうと思いました。また、価値創造の機運、そして価値創造を推進する人材を1万人にしていく機運を高めたいとも考えていました」(中村さん)

2)レベルの高い「学び」コンテンツが満載
「価値創造」という共通のキーワード、共感の枠組みが前提にあり、しかも「会社に持ち帰って火付け役になってほしい」という明確な目的があるので、コンテンツの質もかなりハイレベルで深い学び、気づきがありました。
産学官の関係者やKANDOの顧客である経営者などが登壇して「ここだけでしか聞けない」ような生々しくも学びが詰まった「価値創造経営」の実態を語る濃密な勉強会の第一部。登壇者も参加者もごちゃまぜになって食事をしながらの交流会が開催された第二部。
この2部構成で開催され、両方とも超満員でした。第1部の勉強会では80人の会場に100人弱が詰めかけ、75人が参加した第2部に至っては、人数の関係で「来たい」と言ってくれた人もお断りせざるを得なかったそうです。
勉強会の登壇者や登壇内容は、ここに載せることはできませんが、事業承継をする側の心持ちや人生を懸けた振り返りからの「なぜ価値創造が必要だと感じたか」、そして会社を継いだ側の試行錯誤と覚悟による「価値創造の泥臭い実践」など、「いや?今日はすごい話を聞いた、勉強になった」と思わず、後日、「価値創造とはどうするべきか」議論の続きをしたくなるようなコンテンツでした。唸ったり、感動で涙ぐんだりする参加者もいました。

3)「有料制」にすることこそ自分たちへの挑戦
コンテンツの充実度から有料制も納得感があるフェスですが、有料制にしたこと自体も、KANDOならではの意味がありました。
「当然、感謝の気持ちで、参加者の方は無料にするという選択肢もありました。しかし、“価値創造”を掲げる私たち自身(KANDO)が、有料制にして有料制を上回る価値を提供する、という挑戦にしたかったんです。結果として、参加者からは、有料制にもかかわらず『得をした』『学びが深かった』という声を多くいただけました」(中村さん)
本当に有料制でいいのかという議論もあったそうですが、あえて挑戦したことで、フェスのレベルを高く企画・実行することができたと、中村さんは振り返ります。
4)チーム作りと準備のプロセス
フェスの準備は半年ほど前からスタート。企画・運営にも、KANDOは自分たちの理念・信念を貫き、KANDOが提唱する「Roles®(ロールズ)」(理想役・現実役・推進役と役割分担をして、チームで価値を創造していくメソッド)を実践して進めていったそうです。
実際に日ごろから自分たちが顧客に提供しているRoles®を使うのは、自社商品を愛し、誇り、大切にする鏡といえるでしょう。
Roles®にのっとって、代表である高橋さんが「理想役」としてさまざまな「やりたいこと」を出し、中村さんが「現実役」としてキャパシティなどを考え、他のメンバーが「推進役」として実行に落とし込む、といった形で、4~5人のメンバーが意見をぶつけ合い、協力し合いながら進めたそうです。
こうしたプロセスで進めたため、「(チームで)フェスを一緒に作り上げた達成感がとても強く、大きかった」と中村さん。参加者の「楽しかった」という声や、「机上の空論ではなくリアルな学びがあった」という反応も、大きな喜びになりました。
また、フェスにかかった費用感は非公表ながら、行政が運営しているイベントスペース(場所は東京のお茶の水)を上手に利用することで、密度の濃い内容に対して、そこまで費用が高額だったわけではないと中村さんは教えてくれました。コンテンツを充実させるためにも、コスト面を意識して会場探しをするのがポイントになりそうです。

第一部の勉強会で登壇した会社のお菓子がお土産で参加者に配布されたことも、「価値創造を会社に持ち帰ってほしい」というメッセージがとても伝わってきます。「このお菓子は、あの価値創造の取り組みの結晶として生まれたのだな」と、もらった参加者も感慨深く味わえていました。
5)これから周年イベントを開催しようとする中小企業へのメッセージ
最後に、ハイレベルな学びコンテンツで、一貫してフェスで「価値創造」を伝え続けたKANDOに、これから周年イベントを開催しようとする中小企業へのメッセージを聞いてみました。周年イベントの価値、意味、そうしたものを、改めて考えさせられる内容となっています。
「これまでの取引で培った知見や、関わる人への価値を“還元する場”が周年イベントだと考えています。ですので、“紋切り型”の周年イベントではなく、“誰を顧客に、どのような価値を提供するのか”をきちんと考えて設計することが重要だと思います」(高橋さん)
「会社のためというより“関わる人のため”に行うのが周年イベントだと思っています。感謝を示す場であると同時に、“未来を次に考えていく場”として設計することで、結果的に組織やスタッフにも“考える機会”が生まれ、成長につながる。そういう場として周年イベントを活用すると、中小企業の皆さんにとって、とてもポジティブなものになるのではないでしょうか」(中村さん)
なお、KANDOが提唱する、チームで価値創造を実践するためのメソッド「Roles®(ロールズ)」は、KANDOのウェブサイトでご確認いただけます。

■KANDO「Roles®で実現できること」■
https://www.kando-inc.com/
以上(2025年10月作成)
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画像:日本情報マート
【事業承継】 自社株の評価を引き下げて有利に事業承継を有利に進める
1 自社株式の評価額の問題
事業承継は、後継者に自社株式を引き継ぐことで行われますが、業績が良いと自社株式の評価額は高くなり、贈与時または相続時の納税額も高額になります。親族内承継の場合、後継者の税負担を減らすために自社株式の評価額を引き下げることが基本となります。
気になるのは自社株式がどのように評価されるかですが、その方法は次の4つです。
- 原則的評価方式:類似業種比準価額方式、純資産価額方式、両者の併用方式
- 特例的評価方式:配当還元方式
詳細は省略しますが、類似業種比準価額方式と純資産価額方式のどちらの場合も、純資産価額を引き下げれば自社株式の評価額が下がりますので、純資産価額を引き下げる方法を確認しましょう。
2 純資産価額を引き下げる方法
1)役員退職金の支払い
役員退職金を支払えば純資産価額を引き下げることができます。ちなみに、事業承継税制を適用する場合は、贈与時または相続時にオーナー経営者が代表権を持っていないことが要件の1つなので、オーナー経営者を退職させて役員退職金を支給すると、「純資産価額の引き下げ」と「事業承継税制の要件の1つを満たす」ことが同時に実現します。
役員退職金の金額には注意しましょう。役員退職金の適正な金額は、
最終報酬月額×役員在任年数×功績倍率
といった功績倍率法で計算するのが通常です。数式にある「功績倍率」は、経営者であれば3倍前後となることが多いですが、あらかじめ功績倍率を定めた役員退職金規程を整備し、役員退職金を支払うときには議事録を作成しておかなければ、税務上否認される恐れがあります。
2)不動産の購入
賃貸物件となるアパートやマンションなどを会社で購入することにより、購入金額とその評価額との差額分だけ会社の純資産価額を引き下げることができます。購入したアパートやマンションなどは「時価」により評価されますが、この場合の「時価」は相続税評価額を用いることができるため、一般的に購入金額よりも低く評価されます。
ただし、事業承継以前3年以内にアパートやマンションなどを会社で購入した場合は、相続税評価額を用いて低い評価額とすることができず、通常の取引価額に相当する金額によって評価することとされるので、計画的に実施する必要があります。
3 自社株式の取り扱いと事業承継税制の問題
自社株式の問題は、事業承継後の経営権にも影響を及ぼします。経営者が持つ自社株式を、事業承継税制を使って後継者に引き継ぐ場合、
贈与や相続により引き継ぎを受けた後継者がその会社の筆頭株主となるなどの要件を満たさなければ、事業承継税制の特典である納税猶予を受けられない
のです。また、納税猶予を受けた後、引き継ぎを受けた自社株式の譲渡を行うなど、納税猶予が認められない事由が生じた場合、納税猶予を受けた贈与税や相続税の一部または全部を納付する必要があります。
4 オーナー経営者と会社との借入金・貸付金の問題
1)オーナー経営者が会社に貸し付けている場合
オーナー経営者が会社に貸し付けているケース、つまり会社の借入金の問題です。オーナー経営者が「返さなくていいですよ」と債権を放棄した場合、会社は債務免除益を計上しなければなりません。借金が減るのはいいことですが、半面、
負債(借入金)が減少して利益が増加し、純資産価額が引き上げられ、自社株式の評価額も上昇する
という問題が生じるので注意しましょう。
また、オーナー経営者が死亡した場合、会社の借入金はオーナー経営者の相続財産となり、オーナー経営者の相続人に引き継がれます。
2)会社がオーナー経営者に貸し付けている場合
先ほどとは逆に、会社がオーナー経営者に貸し付けているケース、つまり会社の貸付金の問題です。病気などオーナー経営者に特別な事情がある場合を除き、適正な利率による受取利息(認定利息)を計上しなければなりません。もし、「相手がオーナー経営者だから利息はいらない」とこの処理をしていない場合、利息相当額との差額がオーナー経営者への役員報酬となって課税されます。
適正な利率とは、その貸付金が他からの借り入れによるものであればその借入金の利率、それ以外の場合には、貸し付けを行った日の属する年ごとに租税特別措置法に定められた利率です。
また、会社が計上しているオーナー経営者に対する貸付金について債務免除した場合、返済能力がないなどの特別な事情がある場合を除き、その免除した金額の全額が給与として課税されます。
以上(2025年8月)
(監修 南青山税理士法人 税理士 窪田博行)
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画像:Mariko Mitsuda

