仕事に人工知能(AI)を活用する職場が増えつつあります。AIは生産性の向上や人手不足の緩和などにつながるため、少子高齢化が進む日本では、今後も企業が積極的に導入していくと考えられます。本稿では、独立行政法人労働政策研究・研修機構が公表した「AIの職場導入による働き方への影響等に関する調査」の結果から、AIと働き方に関する最新事情をお知らせします。
AI導入による働き方への影響
仕事に人工知能(AI)を活用する職場が増えつつあります。AIは生産性の向上や人手不足の緩和などにつながるため、少子高齢化が進む日本では、今後も企業が積極的に導入していくと考えられます。本稿では、独立行政法人労働政策研究・研修機構が公表した「AIの職場導入による働き方への影響等に関する調査」の結果から、AIと働き方に関する最新事情をお知らせします。
1 残業時間が減少
調査は、同機構が2024年5~6月、全国の労働者を対象に実施し、22,000人から有効回答を得ました。22,000人のうち、勤務先の企業でAIが使われていると答えた労働者は2,833人(有効回答数に占める割合12.9%)。2,833人のうち、自身がAIを利用していると答えた労働者は1,854人(同8.4%)でした。この1,854人に、AIを利用する前後で仕事の質や働き方がどう変わったかを尋ねたところ、次のようにAIの効果を感じさせる回答が得られました。
(単位=%。端数処理の関係で合計が100%にならない場合がある)


※独立行政法人労働政策研究・研修機構「AIの職場導入による働き方への影響等に関する調査」の結果より
「仕事のパフォーマンス」については、「かなり改善した」「少し改善した」が計60.6%で、改善効果が表れています。
「上司や管理者による従業員へのマネジメントの公平性」「メンタルヘルスとウェルビーイング(生活満足度や幸福度等)」「職場における安全性と身体の健康」の変化については、いずれも「わからない」が4割強。それでも、「改善した」が「悪化した」よりも多く、一定の効果が見て取れます。
「月間の総残業時間」の変化については、「わからない」が44.8%でしたが、「減少した」も計28.5%で、「増加した」を上回りました。
「年次有給休暇の取得日数」「平均的な賃金総額(税金と社会保険料を差し引く前の額面)」「職場で上司・同僚・部下と話す機会」の変化については、「増加した」が「減少した」を上回ったもの、「わからない」が5割前後を占めています。「仕事で新しい事を学ぶ機会」については、「増加した」が計40.5%に達し、効果が出ているようです。
2 仕事が失われる不安
一方、AI導入に伴う不安もみられました。AI によって今後2年以内に自身の仕事が失われる不安について尋ねたところ、全有効回答22,000人のうち、「極めて心配」「かなり心配」「ある程度、心配」「わずかながら心配」が計 43.7%、「(2年を超えて)今後10年以内」では計 50.7%でした。
また、今後10年間を見据え、自身の産業分野の賃金にAIが影響を与えるかについても質問しました。全有効回答22,000人のうち、「わからない」が44.6%、「賃金に影響を与えないと思う」が24.1%でしたが、AIは「賃金を減少させると思う」も22.6%を占め、「賃金を増加させると思う」の8.7%を大幅に上回っています。
さらに、AIの利用に伴い勤務先が訓練の提供や資金の援助をしてきたかを聞いたところ、勤務先の企業でAIが使われている労働者2,833人の62.8%が「いいえ」と答えました。企業の支援が十分とは言えないようです。
3 さいごに
AIは企業活動に大きなプラス効果を及ぼします。その反面、ChatGPTなどの生成AIについては、機密情報の誤入力や意図しない情報漏洩などのリスクもあります。セキュリティインシデントが発生してしまうと、企業に甚大な損害を与えるので、回避しなければなりません。
そのためには、社内規定やガイドラインを定め、生成AIを利用できる対象従業員、入力可能な情報の範囲、生成された結果の活用方法などを明確にしておく必要があります。適切なAI活用に向け、従業員に学習やリスキリングの機会を提供することも欠かせません。ご対応につきましては注意して進めてみてください。
※本内容は2025年10月10日時点での内容です。
(監修 社会保険労務士法人 中企団総研)
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高齢社員の人事考課 「期待する役割」を明確に示そう!
目次
1 なぜ、再雇用した高齢社員がやる気を失ってしまうのか?
日本人の健康寿命は、2023年時点で男性が81.09歳、女性が87.14歳とされています。2022年時点で、日本企業の72.3%は定年を「60歳」としており、数字だけ見れば、多くの高齢社員は定年後も元気に働ける状態だといえます(厚生労働省「令和7年厚生労働白書」「令和4年就労条件総合調査」)。
一方、体は健康でも、会社から求められる働き方と高齢社員の希望がかみ合わず、本人がやる気をなくしてしまうケースも珍しくありません。日本では定年後も働いてもらう場合、
再雇用制度(定年時に一度雇用契約関係を終了させ、再び雇用する)
により、「嘱託」などの非正規社員として雇い直すのが一般的です。ただ、一部の会社では次のような理由から、高齢社員が仕事に手ごたえを感じにくくなることがあります。
- 契約が1年単位など有期契約になりがちで、それゆえ重要な仕事を任せにくい
- 社会保険や雇用保険の給付があるからと、賃金を引き下げるのが当たり前になりやすい
- 再雇用後、かつての部下が上司になり、関係がギクシャクしてしまう
きちんと戦力として活躍できるはずの高齢社員がやる気を失ってしまうのは、もったいないことです。そこで、この記事では「人事考課」の観点から、高齢社員にやる気を持って仕事をしてもらうためのポイントを3つ紹介します。
- 会社と高齢社員の認識のギャップを埋める
- 期待する役割などに応じて人事考課表を作る
- 経営者が考課者になるなど、評価に納得感を持たせる
2 会社と高齢社員の認識のギャップを埋める
高齢社員の雇用形態が正社員から非正規社員になると、労務管理の方針や期待する役割は定年前と変わってきます。
もちろん、高齢社員も自分のポジションが定年前と違うことはある程度分かっていますが、会社の方針や期待を100%理解しているとは限りません。ですから、何の説明もないと、図表1のような認識のギャップが生まれ、やる気を失ってしまいます。

こうしたギャップを埋めるには、再雇用のタイミングで
会社が期待する役割、賃金の支給額の根拠、再雇用後の指揮系統などを丁寧に説明
する必要があります。例えば、期待する役割であれば、「定年前と同じ業務を担当してもらうけど、ベテランとしての経験を活かし、若手に仕事のノウハウを継承していってほしい」といった具合に、会社側の要望を明確に伝えます。
同時に、高齢社員の希望する働き方もヒアリングし、必要に応じて見直しを検討します。例えば、本人が「定年前と同じように、バリバリ働きたい」と希望していて、それに見合った実力を十分発揮できるなら、後進の指導は他のメンバーに任せ、定年前と同じように働いてもらう選択も考えられます。
3 期待する役割などに応じて人事考課表を作る
高齢社員の人事考課を行う際、「正社員と同じ人事考課表を使っている」という会社は少なくないかもしれません。ですが、定年前後で会社の期待する役割などが変わってくるのであれば、人事考課表もそれに応じたものを用意しないと、評価がちぐはぐになってしまいます。
例えば、「後進指導」という役割を重視する場合、図表2のように「指導・動機づけ」「統率・監督」などの項目で、その働きを評価できる人事考課表にしておきます。また、「成果」の扱いは、定年後にノルマなどの責任がなくなる場合、必要に応じて項目の削除や見直しを行います。

逆に、定年前と同じように働く高齢社員の場合であれば、正社員と同じ人事考課表を用いても差し支えないでしょう。
4 経営者が考課者になるなど、評価に納得感を持たせる
再雇用制度では、1年ごとなど一定のサイクルで契約を更新するのが一般的です。更新の可否は、本人の体調や意欲なども見ながら判断しますが、人事考課の結果も大切な要素になります。高齢社員もこのことを分かっているので、自身の評価にはかなり敏感になります。
そういった意味で、高齢社員の人事考課は、
決して甘くは付けないが、ある程度の納得感を与えられるものである
が重要です。例えば、年下の上司が考課者になると、考課結果によっては、高齢社員が「自分よりも経験が浅いくせに、何を言っているんだ!」と反抗してくるかもしれません。もちろん、上司が安易に考課結果を覆すのはNGですので、評価に納得感を持たせたいのであれば、
一次考課者は年下の上司にしつつ、二次考課者については経営者など、高齢社員が話を受け入れやすい人物を配置する
などの形で対応するとよいでしょう。
また、第2章の図表1で紹介したような、期待する役割などについての認識のギャップが労使間で解消できていないために、人事考課が納得のいくものになっていないケースもあります。これは改善する必要がありますので、図表3の「評価フォローシート」などを使って、高齢社員本人に、人事考課にどの程度納得できているかをコメントしてもらうとよいでしょう。

以上(2025年10月更新)
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日没前後の運転は要注意!(2025/11号)【交通安全ニュース】
活用する機会の例
- 月次や週次などの定例ミーティング時の事故防止勉強会
- 毎日の朝礼や点呼の際の安全運転意識向上のためのスピーチ
- マイカー通勤者、新入社員、事故発生者への安全運転指導 など
日没前後の時間帯は薄暮時間帯※と言われ、視界が刻々と変化していきます。
特に、秋から冬にかけては、帰宅や夕食の買い物などで自動車や人の動きが活発になる時間帯と重なるため、交通事故のリスクが高まります。
今号では、薄暮時間帯の事故防止について考えます。

※警察庁では、日没前後1時間を「薄暮時間帯」としています。
(日の入り時刻は、月日や都道府県により異なります。)
https://www.npa.go.jp/bureau/traffic/anzen/hakubo.html
薄暮時の事故発生状況
令和2年~6年の5年間における時間帯別死亡事故件数(図1)は、日没時刻と重なる17時台~19時台に多く発生しています。

さらに、薄暮時間帯の当事者別死亡事故(図2)を見てみると、「自動車対歩行者」が半数を占めています。
薄暮時間帯に事故が増加する要因の1つとして、視界の急激な変化と目の働きの低下による「見落とし」が考えられます。

※図1、図2ともに 出典:警察庁交通局「薄暮時間帯における交通時事故」より当社作成
https://www.npa.go.jp/bureau/traffic/anzen/hakubo.html
薄暮時間帯の視界の変化
秋から冬にかけての薄暮時間帯は、刻々と視界が変化していきます。

- 目が暗い状態に慣れるまでには時間がかかるため、自動車や自転車、歩行者などお互いの発見が遅れる。
- 暗くなるにつれて、明るい場所と暗い場所との差(コントラスト)が大きくなり、物の色や形がはっきりと見えにくくなる。
特に、黒やグレーなど暗い色の服装の歩行者は、路面や背景の色に溶け込んでしまい、ほとんど見分けがつかない状態になるため「見落とし」に注意が必要です。
事故防止のポイント
下記を実践して薄暮時間帯の事故を回避しましょう。
①早めのライト点灯
日没30分前を目安に、意識してヘッドライトを点灯しましょう。薄暗くなったなと感じたら、即点灯が基本です。ライトの目的は、「自分がよく見るため」だけではなく、「自分の車の存在を周囲に知らせるため」です。歩行者や自転車に早く気付いてもらうことも重要です。
②ハイビームを積極的に活用する
基本はハイビームで走行します。遠くまで見通せることで危険をいち早く発見できます。見える距離はハイビームでは約100m、ロービームでは約40mです。なお対向車や先行車がある場合は、ロービームにして、こまめな切り替えを行いましょう。
③歩行者や自転車を意識して見に行く
暗がりや物陰、電柱の影など、見えにくい場所に注意深く目を配り、 意識して見にいくようにしましょう。特に住宅街や交差点など歩行者や自転車が多い場所では、認知が遅れてもすぐに対応ができるように、速度を抑えて走行しましょう。
以上(2025年11月)
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【参加無料】中小企業向け「省エネ推進セミナー2025」を開催します(オンライン)
令和7年11月5日(水)、一般社団法人環境共創イニシアチブが経済産業省資源エネルギー庁の補助事業の一環として中小企業等を対象とした「省エネ推進セミナー2025」を開催します。
本セミナーでは、経済産業省が補助事業として実施している「令和6年度補正 中小企業等エネルギー利用最適化推進事業費(地域エネルギー利用最適化・省エネルギー診断拡充事業)」の活用方法を、事例を交えてわかりやすく紹介します!
詳細はチラシ、もしくはWEBページをご参照ください。
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以上(2025年10月作成)
【朝礼】なぜ、あなたの「話し方」では伝わらないのか
【ポイント】
- 独り善がりで、一方的に話していたら、お客さまは聞く耳を持ってくれない
- 大きな声でハッキリとした口調で話すことをおろそかにしない
- まともな話し方ができなければ、営業のスタートラインにも立てない
先日、「お客様に私の話を真剣に聞いていただけなくて、悩んでいます……」という相談を若手社員から受けました。そこで、私がお客様役になり、彼にいつもやっているように話してもらったのですが、「お客様が話を聞かない気持ちが分かる」というのが率直な感想でした。彼の話には、2つの問題があったのです。
1つ目は、独り善がりで、一方的に話していたことです。営業担当者は「売りたい!!」という気持ちを強く持っています。売るために、お客様に自分の考えや知識を伝えたいと強く思うほど、独り善がりで、一方的に話しがちです。しかし、お客様の立場になってみてください。「営業」と聞けば、多くのお客様は「売り込まれそう……」と身構えます。その上、一方的に話しては、お客様は一歩引いてしまい、聞く耳を持ってくれません。皆さんの周囲にいる優秀な営業担当者を観察すれば、一方的に話すのではなく、お客様との会話を大切にし、お客様の求める情報を提供していることが分かるはずです。
2つ目の問題は話し方です。くだんの若手社員は、小さな声で語尾も曖昧な話し方でした。皆さんは大きな声で、ハッキリとした口調で話していますか? たとえ営業担当者が有益な情報を話していても、小さな声で「ボソボソ……」と自信なさげでは、熱意を感じられません。内容以前に、聞く気が半減します。一方、同じ内容でも、大きな声でハッキリとした口調で話されれば、気持ち良く、より真剣に聞こうという気になります。まず耳を傾けてもらうために、大きな声でハッキリとした口調で話すことをおろそかにしてはいけません。
私たちがお客さまから選ばれるためには、商品のスペック、価格、対応の迅速さなど、私たちの優れた点をお客様に認めてもらうことです。そのために一役買うのが、話し方だといえます。
もちろん、話し方が優れているだけでは、ビジネスで成功を収めることはできません。しかし、まともな話し方ができなければ、スタートラインに立つことさえかなわないのです。その点を強く認識しておいてください。
以上(2025年10月作成)
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画像:Mariko Mitsuda
【2025年版】 年末調整の改正点と書き方の解説
目次
1 2025年末の年末調整の作業に係る改正は4点
年末調整は、役員、従業員・パート社員(以下「従業員」)の源泉所得税の最終調整を行うものです。年に1度の作業である上、改正も頻繁に行われるため、毎年よく分からず、前年と同じような作業を繰り返すだけという方も多いのではないでしょうか。
しかし、確定申告を自分でしない場合、自身が源泉所得税の還付を受けられる唯一の作業になるため、改正点を踏まえた上で、正確な書類を作成するようにしましょう。
今回(2025年末)の年末調整の作業に係る改正は、次の4点です。
1.基礎控除の引き上げ
基礎控除額が所得額に応じて16万~95万円(改正前は16万~48万円)に引き上げられ、所得区分が見直されます。
2.給与所得控除の引き上げ(給与の収入金額190万円以下の場合)
給与所得控除額が一律65万円(改正前は所得に応じて55万~65万円)に引き上げられます。
3.扶養親族控除・配偶者控除・勤労学生控除の所得要件の緩和
それぞれ所得要件が、扶養親族控除は58万円以下(改正前は48万円以下)、配偶者控除は58万円超133万円以下(改正前は48万円超133万円以下)、勤労学生控除は85万円以下(改正前は75万円以下)に緩和されます。
4.特定親族特別控除の新設
19歳以上23歳未満の子供がいる世帯を対象に、新たに「特定親族特別控除」が設けられ、本人の所得に応じて、控除額が3万~63万円に設定されます。なお、特定親族とは19歳以上23歳未満の親族(配偶者、青色事業専従者として給与の支払いを受ける人および白色事業専従者を除く)で、合計所得金額が58万円超123万円以下の人をいいます。
これらの改正は、原則として2025年12月1日に施行され、2025年分以降の所得税について適用されます。このため今年(2025年)12月に行う年末調整などの源泉徴収事務に変更が生じます。
以降では、2025年の年末調整でほとんどの従業員が記入しなければならない主な申告書である、
- 令和7年分 給与所得者の基礎控除申告書 兼 給与所得者の配偶者控除等申告書 兼 給与所得者の特定親族特別控除申告書 兼 所得金額調整控除申告書
- 令和7年分 給与所得者の保険料控除申告書
- 令和8年分 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書(扶養控除等申告書)
の書き方について、項目ごとに詳しく解説していきます。
2 給与所得者の基礎控除申告書 兼 給与所得者の配偶者控除等申告書 兼 給与所得者の特定親族特別控除申告書 兼 所得金額調整控除申告書

1)給与所得者の基礎控除申告書【対象:従業員全員】
「あなたの本年中の合計所得金額の見積額の計算」の欄には、給与明細書などを参考に、2025年中の給与所得の「収入金額」を記載します。所得金額については、申告書の裏面に掲載されている「各申告書の合計所得金額について」で紹介されている国税庁のウェブサイトを参考に計算します。また、給与所得以外に所得がある場合は、2025年中の合計所得金額の見積額を記載します。
次に、控除額の計算の判定欄のA~Cのいずれかを「区分Ⅰ」に転記し(合計所得金額の見積額が1000万円超の人は空欄)、かつ合計所得金額の見積額を、左の「控除額の計算」の表に当てはめ、該当する控除額を「基礎控除の額」に転記します。
昨年から変更された主な箇所は、下記の2点です。
- 所得区分が昨年に比べ細かく区分され、基礎控除額が変更されている
- 定額減税対象の記載項目が削除(昨年限定の措置であったため)されている
2)給与所得者の配偶者控除等申告書【対象:年間合計所得が133万円以下の配偶者がいる人】
配偶者に関する事項を記載し、「配偶者の本年中の合計所得金額の見積額の計算」の欄には、上記1)と同様に配偶者の給与明細書などを参考に、2025年中の給与所得の「収入金額」を記載します。所得金額については、申告書の裏面に掲載されている「各申告書の合計所得金額について」で紹介されている国税庁のウェブサイトを参考に計算します。また、給与所得以外に所得がある場合は、2025年中の合計所得金額の見積額を記載します。
次に、「配偶者の本年中の合計所得金額の見積額の計算」の判定欄の①~④のいずれかを区分Ⅱに転記します。区分Ⅰ・Ⅱに記載したアルファベットと数字を下の「控除額の計算」の表に当てはめ、該当する控除額を配偶者控除の額または配偶者特別控除の額の欄にそれぞれ転記します。
なお、区分Ⅱの欄が①または②の場合は配偶者控除の額の欄に、③または④の場合は配偶者特別控除の額の欄に金額を転記します。
昨年から変更された主な箇所は、下記の2点です。
- 区分Ⅱの判定欄における所得要件の下限金額が変更されている
- 配偶者定額減税対象の記載項目が削除(昨年限定の措置であったため)されている
3)給与所得者の特定親族特別控除申告書【対象:合計所得が58万円超123万円以下(所得が給与所得だけの場合は収入金額が123万円超188万円以下)の19歳以上23歳未満の子供がいる人】
特定親族に関する事項を記載し、「特定親族の本年中の合計所得金額の見積額」の欄には、特定親族の給与所得のみだけでなく、全ての所得の合計金額を記載します。それぞれの所得金額については、申告書の裏面に掲載されている「各申告書の合計所得金額について」で紹介されている国税庁のウェブサイトを参考に計算します。
次に、合計所得金額の見積額を下の「控除額の計算」の表に当てはめ、該当する控除額を「特定親族特別控除の額」に転記します。
この項目は、
今年新設された項目
になります。
4)所得金額調整控除申告書【対象:給与等の収入金額が850万円を超える人】
給与等の収入金額が850万円を超え、かつ扶養親族が特別障害者であること、または23歳未満(2003年1月2日以後生まれ)などに該当する場合は、要件欄のいずれか該当する項目にチェックを付けます。要件欄の指示に沿って「☆扶養親族等」の欄に該当する扶養親族等に関する事項と、「★特別障害者」の欄に障害の状態や交付を受けている手帳の種類などを記載します。
3 給与所得者の保険料控除申告書

1)生命保険料控除【対象:生命保険に加入している人】
生命保険料控除の欄には、2025年中に支払った一般の生命保険料、介護医療保険料、個人年金保険料に関する事項を記載します。
それぞれの区分ごとに、保険会社から郵送される「保険料控除証明書」の内容を転記します。なお、保険料控除証明書をインターネット上で電子発行できるサービスもあるため、各社のウェブサイトなどから電子発行を受けることもできます(ID取得のため、証券番号などの登録が必要)。
一般の生命保険料と個人年金保険料については、保険の契約時により、取り扱い(所得控除額)が異なります。2011年12月31日以前に契約したものは旧保険契約として、2012年1月1日以後に契約したものは新保険契約として取り扱われます。
それぞれ旧保険契約に係る所得控除額は最高5万円、新保険契約に係る所得控除額は最高4万円となります。
実務上は、保険会社から郵送される「保険料控除証明書」に記載されている内容を、申告書に転記してもらうことになります。月払いにより保険料を払い込んでいる場合は、控除証明書の発行日までの保険料の他、年間(12月31日まで)の見積払込保険料が記載されていることが多くあります。12月31日まで保険を継続しているのであれば、年間払込保険料を申告書に転記すれば問題はありません(後述の地震保険・社会保険・小規模企業共済も同様)。
もし、発行日から12月31日までの間に解約し、実際の年間払込保険料と、保険料控除証明書に記載してある見積払込保険料に相違がある場合は、実際の年間払込保険料を申告するようにしましょう。
2)地震保険料控除【対象:地震保険に加入している人】
地震保険料控除の欄には、2025年中に支払った地震保険料に関する事項を記載します。地震保険料と一緒に支払いをしている火災保険料は対象になりません。ただし、2006年12月31日以前に契約した長期損害保険契約等については、一定の金額が控除の対象になります。
3)社会保険料控除【対象:国民健康保険など一定の保険に加入している人】
社会保険料控除の欄には、2025年中に支払った従業員本人または従業員本人と生計を一にしている親族分の、次の保険料に関する事項を記載します。
- 国民健康保険の保険料や国民健康保険税
- 健康保険、厚生年金保険や船員保険の保険料
- 介護保険法の規定による介護保険の保険料
- 国民年金の保険料や国民年金基金の加入員として負担する掛金
- 農業年金の保険料や雇用保険の労働保険料など
4)小規模企業共済等掛金控除【対象:小規模企業共済やiDeCoに加入している人】
小規模企業共済等掛金控除の欄には、2025年中に支払った小規模企業共済と確定拠出年金の掛金の金額を記載します。なお、個人型確定拠出年金(iDeCo)の掛金は、この欄の「個人型」に記載することになります。
4 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書(扶養控除等申告書)

1)氏名・個人番号(マイナンバー)・生年月日等【対象:従業員全員】
従業員の氏名、個人番号(マイナンバー)、住所又は居所、生年月日、世帯主の氏名と続柄、配偶者の有無を記載します。マイナンバーについては記述を省略する会社もあります。
2)源泉控除対象配偶者【対象:翌年の合計所得金額(見積額)が95万円以下の配偶者がいる人】
源泉控除対象配偶者の欄には、次の要件を満たした配偶者がいる場合に記載します。
- 従業員(合計所得金額の見積額が900万円以下の人に限る)と生計を一にする配偶者
- その配偶者が青色事業専従者として給与の支払いを受ける人及び白色事業専従者でないこと
- その配偶者の2025年中の合計所得金額(見積額)が95万円以下(給与所得だけの場合は給与等の収入金額が160万円以下)であること
なお、非居住者である親族(国外に住んでいる親族)の項目については、該当する親族がいる場合に、該当チェック欄にチェックマークを記入し、チェック欄の区分に応じた添付書類(パスポートやビザなど)も併せて提出することになります(下記「3)源泉控除対象親族(16歳以上)」の欄についても同様)。
3)源泉控除対象親族(16歳以上)【対象:16歳以上の扶養親族がいる人】
源泉控除対象親族(16歳以上)の欄には、扶養控除の対象である次の親族がいる場合に記載します。
- 16歳以上(2011年1月1日以前生まれ)の親族
- 上記の親族が従業員と生計を一にしていること
- 上記の親族の年間の合計所得金額が58万円以下(給与所得だけの場合は給与等の収入金額が123万円以下)であること
なお、19歳以上23歳未満(2004年1月2日~2008年1月1月生まれ)の親族を「特定扶養親族」といい、70歳以上(1957年1月1日以前生まれ)の親族を「老人扶養親族」といいます。これらに加えて、冒頭で解説した「特定親族」に該当する親族がいる場合は、チェックマークを付す箇所があるので忘れないようにしましょう。
また、非居住扶養親族がいる場合は、生計を一にする事実として、1年間に実際に送金した金額を記載する欄があります。この欄には、2025年末に見積額ではなく実際の送金額を追加で記載すると同時に、送金関係書類を提出しなければならない点に注意しましょう。
昨年から変更された主な箇所は、下記の2点です。
- 源泉控除対象親族に項目名が変更(昨年は控除対象扶養親族)
- 特定親族のチェック項目が追加
4)障害者、寡婦、ひとり親又は勤労学生【対象:左のいずれかに該当する人】
障害者、寡婦、ひとり親又は勤労学生の欄には、従業員本人が障害者である場合(生計を一にする配偶者や扶養親族が障害者の場合を含む)や、寡婦、ひとり親である場合、学校に通いながら働いている場合に記載します。
障害者とは、身体障害者手帳に身体上の障害がある者として記載されている人など、一定の障害者をいいます。なお、特定親族は障害者控除の対象外となります。
寡婦とは、合計所得金額の見積額が500万円以下で、夫と死別または離婚した後に再婚をしていない人などをいいます。
ひとり親とは、合計所得金額の見積額が500万円以下で、現在婚姻しておらず(未婚や配偶者の生死が明らかでない場合で、かつ事実上婚姻関係にあるパートナーなどがいない状況)、生計を一にする子供がいる人をいいます。なお、2019年までの年末調整項目であった「寡夫」はひとり親に含まれます。
勤労学生とは、合計所得金額の見積額が85万円以下(給与所得だけの場合は給与等の収入金額が150万円以下)で、大学などの学生や一定の要件を備えた専修学校の生徒などをいいます。ただし、給与所得等以外の所得が10万円を超える人を除きます。
5)他の所得者が控除を受ける扶養親族等【対象:夫または妻が、子供の扶養控除の適用を受けている人】
他の所得者が控除を受ける扶養親族等の欄には、夫婦が共働きなど、この申告書を提出する人以外の人が、家族を扶養親族としている場合に記載します。例えば、子供(控除対象親族)がいる共働きの夫婦のうち、夫が扶養控除を受ける場合に、その妻はこの欄に夫と子供の氏名等を記載します。
6)16歳未満の扶養親族【対象:16歳未満の扶養親族がいる人】
16歳未満の扶養親族の欄には、16歳未満(2011年1月2日以後生まれ)の扶養親族がいる場合に記載します。
7)退職手当等を有する配偶者・扶養親族・特定親族【対象:2026年中に左に該当する配偶者・扶養親族・特定親族がいる人】
退職手当等を有する配偶者・扶養親族・特定親族の欄には、2026年中に退職所得をもらう予定のある配偶者・扶養親族・特定親族がいる場合に記載します。この欄については、2026年末に記載してもらう欄となりますので、2025年末においては空欄で提出することになります。
なお、扶養控除等(異動)申告書は、その年、最初に給与をもらう日の前日(中途採用の場合は、就職後最初の給与の支払いを受ける日の前日)までに提出してもらいます。そのため、実務上は、年末調整の際に配布される申告書は翌年分(令和7年分の場合は令和8年分)であるのが一般的です。
もし、年の中途で扶養親族の状況などに変化があった場合には、その都度、異動申告をしてもらう必要があります(2025年中のものは、2024年末に提出してもらった令和7年分を修正)。この場合、年末調整の対象となる年分の扶養控除等(異動)申告書に訂正する部分を二重線で消し、余白に新しい情報を記載し、「異動月日及び事由」の欄にもその旨を記載します。
以上(2025年10月作成)
(監修 税理士 石田和也)
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画像:琢也 栂-Adobe Stock
ヒント4[採用4]:入社日までに「入社後のギャップを最小化する」/武田斉紀の『人が辞めない会社、10のヒント』(5)
目次
1 「好きな人は好き」にさせる事実の一行は見つかりましたか?
今シリーズの狙いは、経営者、人事担当者、現場の皆さんのお悩みである「社員を採ってもすぐに辞めてしまう上に、そもそも採れない」という課題を解決すること。『人が辞めない会社、10のヒント』と題して、毎回1つずつご紹介していきます。
『人が辞めない会社』に変わるための課題、その原因と解決策は会社によってさまざまです。
今回ご提示するヒントが皆さんの抱える原因に明らかに当てはまらない場合は、読み飛ばしてくださって結構です。ですが、ヒントの1~9までが該当しなくても、10が当てはまるかもしれません。
全社共通の原因もあれば、部署ごとの固有の原因も存在することでしょう。原因が1つだけというケースは少ないので、何回分か読んでいただければ「これはうちにも当てはまるな」というものを見つけていただけるのではと思います。
第2回から前回の第4回までは、採用は会社の入り口であり、『人が辞めない会社』に変わるための重要な最初の一歩であることをお話ししてきました。
自社を必要以上に大きく見せることなく、会社が“目指すこと”、“大切にしたいこと”を明示する。それを体現している社内の事実を見つけ出し、分かりやすい一行キャッチフレーズにしてアピールする。そうすればSNSの時代、「好きな人は好き」という人が全国、世界から集まってくれます。
「好きな人は好き」で集まってくれた人は、会社が“目指すこと”、“大切にしたいこと”に強く共感してくれた人材です。あとはその中から、自社で予め設定した「求める人材像」の資質・性格、経験やスキルなどの基準に沿って、本当に“採用したい人材”を絞り込んでいけばいいのです。
ただ、本当に“採用したい人材”を絞り込めて相思相愛で内定まで出せたとして、その人材が入社後すぐに辞めてしまう可能性はないでしょうか。
ということで、
今回は採用編の最後となるヒント4:入社日までに「入社後のギャップを最小化する」です。
あなたの会社では、これから入社してくる人材に対して、入社後のギャップが極力ないよう、事前に必要な情報や、入社後のイメージを十分に伝えられていますか。良いことだけでなく、悪いことも全てです。
2 内定者に伝えるべき全ての情報を、入社前に伝えられていますか?
残念なことに、私がこれまで採用をご支援してきた会社で、内定者に対して入社後のギャップが極力ないよう「入社日までに伝えるべき情報」をきちんと整理し、全て伝えきれている所はほぼ皆無でした。
原因は主に2つ。1つは、「マイナス情報を伝えたら、入社してくれなくなるのではないか」という懸念です。
担当者としては苦労して内定までこぎつけた候補者には、辞退せず入社して欲しいと願うもの。「〇名入社させた」という実績を見せたい気持ちもあるでしょう。
でも本当は分かっているはずです。入社後にギャップを感じてすぐに辞めてしまった場合、本人にも会社にもデメリットしかないということを。
本人は何より悔しいでしょう。「なぜ、そういう情報を入社前に教えてくれなかったのだ」と。事前に「〇〇について気になるので教えてください」と質問していたら、なおさらでしょう。履歴書には「〇〇社 4月入社 5月退社」というように“傷”を付けてしまいます。
会社にとっても「入社者がすぐに辞めた」という事実はマイナスでしかありません。事前に分かっていれば、他の適した候補者を採用し入社してもらうこともできたでしょう。二重の損失です。どこかの部署が欠員となり、再募集をかけなければなりません。
もう1つの原因は、採用する側が自社のことをよく知っているつもりで、実はよく分かっていないというものです。
つまり、内定者に対して入社後のギャップが極力ないように「入社日までに伝えるべき情報」をきちんと整理できていないのです。
前者の原因については、採用担当者とその上司に考え直していただくしかありません。何人入社させたかも大事ですが、そこから何人が辞めずに残ったかのほうがより大事なのですから。
3 「入社日までに伝えるべき情報」を、5×3のマトリクスで整理する
後者の原因を解決するポイントは、改めて内定者、あるいは応募者、採用候補者に対して「入社日までに伝えるべき情報」を整理することです。次の5×3のマトリクスで情報を網羅してみることをお勧めします。
【縦軸の項目】
1)企業理念(目的・価値観)・ビジョンなど…各々の内容および社内での共有度
2)会社情報…基本情報(売上・利益・従業員数の推移、拠点など)/歴史沿革のポイント/事業内容と業績・比率、業界でのポジション、強みなど
3)仕事情報…配属可能性/仕事内容/勤務地/勤務日と時間および残業/教育/異動/キャリアステップなど
4)待遇情報…入社時と将来の給与・年収・諸手当・昇給賞与・報償制度/人事評価制度/休日休暇/福利厚生など
5)企業文化、職場環境…特徴キーワード、具体的エピソード、社外・業界でのイメージなど
【横軸の項目】
A.一般に+(プラス)情報…ほぼ万人にとってプラスと思える情報
B. [〇〇な人]に+(プラス)情報…人によってはマイナスだが、〇〇な人ならプラスに感じてくれそうな情報
C.一般に-(マイナス)情報…ほぼ万人にとってマイナスと思える情報
縦軸の5項目は分かりやすいと思いますので、横軸のほうを補足しましょう。少し「社員を採ってもすぐに辞めてしまう」ではなく、「そもそも採れない」の解決策の話になってしまいますが。
A.は、ふだん自社の強みとして前面に打ち出しているものでよいのですが、他にも例えば
例)毎週2回まで当日申請でリモートワークできる制度あり など
小さなことと思えても、できる限りたくさんピックアップしましょう。A.の情報は全て採用時の武器になります。小さくても独自だったり、量があったりすれば勝ちきれるのです。
B.の例を挙げてみましょう。
例)企業相手の仕事(いわゆるto B)で一般に分かりにくい →一般顧客ではなくプロ相手の仕事がしたい人には成長を感じられて楽しい職場
例)休日が土日ではない →平日休みたい人にはプラス(旅行好きなど)。加えて例えば「イベントが土日の際は〇回まで優先的に他の曜日と交替できる制度あり」だとお子様など家族のイベントや推し活時にも対応できてデメリットが軽減される
例)古い業界 →会社としては業界を改革したいと思っていて、同志を探している
B.ではどれだけプラスに感じてくれる「〇〇な人」をイメージできるかが重要です。「こんな事実を伝えたらみんな他社に行ってしまう」と考えないことです。どう伝えようとマイナスに感じる人は他社に行きます。けれどプラスに感じる人にとってはA.以上に「好きな人は好き」と引きつける可能性が高いのがB.の情報です。
最後にC.の例を挙げますが、ほぼ万人にとってマイナスである以上、伝えてプラスに感じてもらうことは無理としても、ゼロに近づける努力をするべきです。以下の→部分のようにできる限りマイナスをひっくり返せるかもしれない事実を拾ってみてください。
例)初任給が安い →平均年齢が若く昇進は早い、課長の年収は悪くない
例)三交替制で生活が不規則 →慣れれば意外と便利、管理職以上は時間固定勤務
例)急対応が多く海外旅行など無理 →複数担当制を試験的に導入中、既に海外旅行経験者もいる
細かすぎると思える内容でも、入社後にギャップを感じて退職につながりそうな項目は丁寧に拾ってみてください。同時にB.やC.に当たる情報については、プラスに感じてくれる「〇〇な人」をイメージしたり、あまりマイナスに感じないですむトークを用意したりしましょう。
なお、過去にすぐに退職した人の理由が分かれば、それに関わる情報も必ず入れておきましょう。同じような人を二度と生まないために。
4 全て伝えるにしても、どの情報をいつ伝えるかのタイミングは重要!
採用担当者でC.情報を先に伝える人はいないでしょう。募集時に伝えるべきはA.情報ないしはB.情報です。
A.情報を1つ掲げたくらいでは大手企業、人気企業にはかなわないかもしれませんが、独自色のあるA.情報やたくさんのA.情報なら戦えるかもしれません。腹をくくってB.情報にこだわって伝えれば「好きな人は好き」という人材がSNSなどを通じて集まってくれる可能性があります。
また、仕事内容への悪いイメージが原因でそもそも人が集まらないという業界・業種の会社へのアドバイスとしては、入社までに最終的に仕事内容を見せる前に、仕事の前提となる“高次”の情報提供から入ることをお勧めします。
例えば、1)の掲げている企業理念への熱い思いや、2)の会社情報で社会からいかに強く期待され感謝されている会社であるか、あるいはその歴史といった情報です。それらの情報があるかないかで、仕事内容は同じでも全く違った見え方になるからです。
そろそろ「社員を採ってもすぐに辞めてしまう」話のほうに戻しましょう。
ここで天秤(てんびん)ばかりをイメージしてみてください。就職希望者は候補とした会社ごとにこの天秤ばかりを持っています。片方の皿がプラス情報、反対がマイナス情報です。
本人は候補とした各社を回るたびに、その天秤ばかりの左右に新たに知った情報を乗せていきます。ささいなように見えて本人にとっては重い情報もあれば、重要そうに見えて本人にとっては軽い情報もあります。そして、最終的に自分を選んでくれた会社の中で、プラスのほうに一番傾いた会社を選ぶのです。
ところが最終的に選んだ会社から内定をもらい、入社したところが知らされていなかったマイナス情報が飛び込んできたらどうでしょう。たくさんの天秤ばかりを並べ、迷いながら時間をかけて自分が信じた1つを選んだだけにショックは大きい。
そのショック度とマイナス情報の程度によっては、天秤ばかりはマイナス側に完全に傾いてしまい、彼らは退職を決意するのです。
ではどうすればよいか。簡単に言えば、出会いから入社までの間に「入社日までに伝えるべき情報」を全て伝えつつ、天秤ばかりをなるべくマイナス側に傾かせないようにすることです。プラス情報を先に伝えておいて、マイナス情報を小出しにし、マイナス側に傾き過ぎないようにするのです。
採用プロセスにおいて、候補者一人ひとりの自社用天秤ばかりの現状は、頻繁に声をかけたり、相手の表情を確認したりしながら、次の情報を選んで乗せるしかありません。
本人は就職活動中に自社だけでなく、他社とも日々接触しています。自社の天秤ばかりの状態は、他社で得られた情報と比較されることでも傾きが変わります(マイナス側だけでなく、ラッキーにもプラス側に傾くこともあります)。
候補者一人ひとりの天秤ばかりを頻繁にいちいち確認することなど面倒に思えるかもしれません。が、とりわけ中小企業で採用に成功している会社はそこまで丁寧に対応しているのです。
とはいえ、伝えるべき大きなマイナス情報が残っているときはどうすればいいのでしょうか。まず、対策を考えましょう。現時点でできていないことでも、トップが何とかしたいと真剣に考えているのであれば(できればいつまでにかを約束)、それを説明することで説得できるかもしれません。
そうして、プラス側の傾きを維持しつつ、マイナス情報も丁寧に伝えていくしかないのです。本人のマイナスの傾きが大きくなってしまうようなら、残っているA.やB.の情報を順次投入しましょう。
それでも傾きが戻らず他社に行ってしまうのであれば、最後は諦めるしかありません。残念ながらそれが現在の貴社の採用力です。今後もっと採用力を上げていく努力をすればいいでしょう。
すでにお分かりと思いますが、「入社日までに伝えるべき情報」を全て伝えるにしても、どの情報をいつ伝えるかのタイミングはとても重要!なのです。
5 伝えるべき情報を、全て伝えきれているかチェックする
5×3のマトリクスに整理した情報は、基本的には全てを、内定者全員に入社までに伝えましょう。
採用実務を担当した人なら分かると思いますが、どの内定者や採用候補者にどの情報を伝えているのか、あるいは伝えていないのかを把握しておくことは大変です。ですが、そこは5×3の一覧表を意識しつつ、丁寧にチェックしていくしかありません。
全項目をチェックしていくのは厳しいですが、多くの退職者の退職理由に関係していると思われる重要情報については、伝え漏らしてはいけません。相手の志向や価値観などを見極めながら、個々に適したタイミングを判断して伝えましょう。
「これについて伝えておくね」と話して、仮に本人が他の社員や周囲からすでに同じ情報を得ていたのであれば、「そう、で、どう思った?」と本人の受け止め方を確認すればいいでしょう。「全然気になりません」という人もいれば、「早く聞いていたら他社に変えていました」という人もいます。
互いの貴重な時間を無駄にしないためにも、タイミングとともに全ての伝えるべき情報を伝えきれているかのチェックに努めてください。とりわけ外してはいけない情報については赤字にするなど注意しておきましょう。
6 入社後のギャップが少なければ少ないほど、人は辞めない
入社までにかかる時間は、採用する側にとってもそうですが、採用される側にとっても膨大です。それだけの時間をかけて、実に多くの候補の中から、自分の行きたい会社を絞り込んできたわけです。
最後に決めた会社に入社して、思っていたこととのギャップさえなければ辞めたくなるわけがありません。なぜなら自分で描いた中で一番の理想の職場であるはずだからです。
もちろん、いくら伝えるべき情報を、5×3のマトリクスで整理してタイミングよく伝えきれたとしても、本人の入社後のギャップを100%埋めることは不可能です。
理由の1つ目は、情報伝達が完璧なケースはまずないということ。人はそれぞれ背景や個性も異なり、こちらが意図したことと相手の情報の受け取り方がずれることは当たり前にあるからです。
「この点は内定する前に話したよね」「えっ? そうでしたっけ。記憶になくて今びっくりしているのですが……」といった会話は珍しくありません。担当者はできる限り内定者の記憶に残るようなコミュニケーションを心がけましょう。
理由の2つ目は、たとえ本人の入社後のギャップがゼロに近かったとしても、配属された職場の状況は個々に異なるかもしれないということ。
職種別採用ではない場合、配属された仕事内容と本人のイメージにギャップが生まれることもあるでしょう。また制度や社風なども、月日を経て内定時から変わっている場合もあります。
これらについても、入社後に採用担当者や配属された職場のメンバーおよび上司が本人に声をかけ続ければ、理解を得られ、退職防止につなげることができます。
第2回から今回第5回まで、『人が辞めない会社』に変わるためには[採用]という入り口が肝心ということでお話ししてきました。
人材獲得の入り口である採用においては、自社を「必要以上に大きく見せることなく」、求める人材像として「会社が“目指すこと”、“大切にしたいこと”を明示」してみましょう。ネットやSNSの力で、あなたの会社が本当に“採用したい人材”にアプローチすることができます。
そうして内定までこぎつけた人材に、「入社日までに伝えるべき情報」を整理して全て伝え、入社後のギャップが少なければ少ないほど、人は辞めないのです。
第5回を最後までお読みいただきありがとうございました。次回からはしばらく[仕事]についてのヒントをご紹介していきます。
毎回ご紹介するヒントを参考にしながら、自社を退職する一人ひとりの「辞める理由」と、働いている一人ひとりの「辞めない理由」を丁寧に拾ってみましょう。見えてきた自社ならではの“課題”を解消し“強み”を活かせれば、『人が辞めない会社』へと変われるはずです。
<ご質問を承ります>
ご質問や疑問点などあれば以下までメールください。※個別のお問合せもこちらまで
Mailto:brightinfo@brightside.co.jp
https://www.brightside.co.jp/
※武田が以前上梓した書籍『新スペシャリストになろう!』および『なぜ社長の話はわかりにくいのか』(いずれもPHP研究所)が、ディスカヴァー・トゥエンティワンより電子書籍として復刻出版されました。前者はキャリア選択でお悩みの方に、後者はリーダーやトップをめざしている方にお薦めです。
『新スペシャリストになろう!』
https://amzn.asia/d/e8GZwTB
『なぜ社長の話はわかりにくいのか』
https://amzn.asia/d/8YUKdlx
以上(2025年11月作成)
(著作 ブライトサイド株式会社 代表取締役社長 武田斉紀)
https://www.brightside.co.jp/
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「ファシリテーションツール」活用ハンドブック(2025年11月号)
管理職や指導者には、組織の潤滑油として「職場のコミュニケーション活動」を活発にすることが求められます。しかし、現実には「会議で部下の意見を引き出せない」「意見が対立し混乱する」「意見をまとめきれない」といった悩みを抱える人も少なくありません。これらのコミュニケーションの問題点を改善し、円滑に進めていくのが「ファシリテーション」です。ファシリテーションには「コミュニケーションを促進する働き」があり、そのコミュニケーションの促進役を「ファシリテーター」、促進するスキルを「ファシリテーションスキル」と呼びます。
本冊子では、ファシリテーションのスキルを「場づくり・場の構造化スキル」「対話スキル」「整理・誘発・統合スキル」の3つで分け、シーンに応じて職場で活用できる「ファシリテーションツール」を紹介していきます。
11/8(土)、11/9(日)徳島・香川「トモニマルシェ」開催!
11/8(土)、11/9(日)に東京交通会館1Fピロティ(JR有楽町駅前)にて徳島・香川「トモニマルシェ」を開催いたします!
また、11/3(月)~11/9(日)にトモニ市場では、「トモニ市場感謝祭」も行われます!
11/8(土)の13時~と15時~には、徳島県マスコットキャラクター「すだちくん」がトモニ市場店頭に登場予定です。
ご家族・ご友人をお誘い合わせの上、ぜひお越しください!
【開催概要】
- 日時 2025年11月8日(土)11:00~17:30、2025年11月9日(日)11:00~17:30
- 場所 東京交通会館1Fピロティ(JR有楽町駅前)東京都千代田区有楽町2丁目10番1号
- 主催 東京交通会館(交通会館マルシェ事務局)
- 共催 トモニホールディングス、徳島大正銀行、香川銀行



