いよいよカスハラ防止措置が義務化! 悪質クレームを退ける4つのポイント

1 理不尽なカスハラには毅然と対応する

カスハラ(カスタマーハラスメント)とは、

顧客などが、社員に悪質な嫌がらせ(土下座の強要など)をすること

です。「お客様は神様です」などというように、日本の会社は昔から、顧客を大切にする傾向がありますか、「土下座などを強要されそれに応じることが、本当に顧客を大切にすることなの?」という当然の疑問があり、実際にカスハラが社会問題化する中、

2025年6月11日公布の改正労働施策総合推進法において、「1.カスハラの定義」を明確化する旨、「2.一定のカスハラ防止措置の実施」を会社に義務付ける旨

が定められました(公布日から1年6カ月以内に施行)。

1.カスハラの定義

次の3つを全て満たす場合、カスハラになることが定められました。

  • 顧客、取引先、施設利用者その他の利害関係者が行う
  • 社会通念上許容される範囲を超えた言動により、
  • 社員の就業環境を害すること

2.一定のカスハラ防止措置の実施

通常のパワハラやセクハラと同様に、カスハラについても次のような防止措置が義務付けられることになりました。

  • カスハラを許さない旨の方針等の明確化、周知・啓発
  • カスハラに関する社員からの相談体制の整備・周知
  • カスハラ事案が発生した後の迅速かつ適切な対応・抑止のための措置

国が法律による規制に踏み切ったことで、会社においてもこれまで以上のカスハラ対策が求められることになるでしょう。大切なのは、

正当なクレームには真摯に、理不尽なカスハラには毅然と対応すること

です。とはいえ、上記のカスハラ防止措置などについては、これから指針で詳細が定められるという段階なので、現状では厚生労働省が公表している「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」などを参考にしながら、会社としての対応方針を決めておくのが妥当です。

■厚生労働省「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」■
https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000915233.pdf

この記事では同マニュアルをもとに、カスハラ対応のポイントとして、次の4つを紹介します。

  • どのような言動がカスハラになるのかを押さえる
  • 類型別に大まかな対応方針を決める
  • 社員は事実を正確に会社に報告する
  • 上司または経営者が具体的な対応を決める

2 どのような言動がカスハラになるのかを押さえる

また、これとは別に厚生労働省「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」では、

顧客などからのクレームのうち、要求の内容が妥当でない、または要求の実現方法が社会通念上相当でない言動で、就業の妨げになるものがカスハラになり得る

とされています。

同マニュアルによると、カスハラになる可能性がある言動の例は次の通りです。

カスハラになる可能性がある言動の例

法的には、カスハラは

民法の「不法行為」(故意・過失によって他人の権利や法律上の利益を侵害する行為)

に該当する可能性があります。また、言動の内容によっては、刑法(傷害罪、脅迫罪、強要罪、名誉毀損罪、不退去罪など)や軽犯罪法が適用されることもあります。逆に図表1のような言動に当たらない(要求の内容・実現方法に問題がない)場合、カスハラではなく正当なクレームということになります。より詳細なカスハラの具体例を知りたい場合、こちらもご参照ください。

■厚生労働省「第9回雇用の分野における女性活躍推進に関する検討会」(参考資料1「カスタマーハラスメント事例集」を参照)■
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_40906.html

3 類型別に大まかな対応方針を決める

正当なクレームならば誠実に対応を検討する必要がありますが、カスハラの場合、要求には応じず、法的措置なども含めて厳正に対処します。前述した通り、カスハラは幾つかの類型に分類できるので、大まかな対応方針は事前に決めておくことができます。

カスハラの類型に応じた対応方針の例は次の通りです。

対応方針

これらは大枠の方針なので、実際にどのように対応すべきかは、

  • カスハラが初めて行われたのか、繰り返し行われているのか(初めての場合、内容によっては注意だけで済ませることも検討)
  • 対応した社員に落ち度はなかったのか(正当なクレームだったのに、社員の対応不十分でカスハラに発展した場合、社員の対応については謝罪が必要)

なども考慮して慎重に判断します。そのためには、カスハラ対応における社内の役割分担を明確にする必要があります。次章以降で見ていきましょう。

4 社員は事実を正確に会社に報告する

顧客などから電話や対面などで会社に対してクレームがあった場合、まずは窓口の社員が初期対応に当たります。ここで社員に求められるのは、

顧客などを不用意に刺激しないよう注意しつつ、会社が顧客などへの対応を検討するために必要な情報を集めること

です。ポイントは次の2つです。

  • 限定的な謝罪:不快感を与えたことについてだけ謝罪する
  • 事実の把握:顧客などの要求の内容や問題が発生した経緯を正確に把握する

1.では、顧客などに対し、「このたびは不快な思いをさせてしまい、誠に申し訳ありません」など、不快感を与えたことだけを謝ります。正確に状況が把握できていない段階では、不用意に会社の非を認めたり、相手の要求に応じたりするべきではありません。

2.では、顧客などの住所・名前・連絡先などを確認した上で、話を一通り聞き、要求の内容や問題が発生した経緯を確認します。事実を正確に把握するため、必要に応じて会話を録音するなどして証拠に残します。また、現場対応は1人で行わず、可能な限り複数名で対応するのがよいでしょう。

1.と2.が完了したら、社員は顧客などから確認した情報を上司に報告し、今後の対応について相談します。ただし、身体的な攻撃や性的な言動を受けたなど緊急性が高いときは、1.と2.の状況に関係なく、即座に上司に報告します。

5 上司または経営者が具体的な対応を決める

カスハラに関する社内対応の流れは次の通りです。

社内対応の流れ

上司は社員から、顧客などの要求の内容や問題が発生した経緯について話を聞き、

カスハラであれば、その内容に基づいて顧客などへの具体的な対応を決定

します。ただし、

  • 顧客などが重要な取引先である
  • 弁護士、警察などに相談すべき案件である(訴訟手続が必要、犯罪行為に当たるなど)

などといった場合は、必要に応じて経営者が判断します。詳細が決まったら、状況に応じて適切な人が対応します。顧客などが取引先(会社)の場合は、社内にハラスメント相談窓口があるでしょうから、必要に応じて窓口担当者とも連携しましょう。

なお、社員がすでにカスハラによって精神的ショックを受けている場合、顧客などから引き離す、医師による面談を実施するといった措置も併せて検討します。

この他、上司または経営者が具体的な対応を決定したり、社員が前述の初期対応を行ったりする上で支障がないよう、定期的に社内で対応ルールの教育・研修を実施するとよいでしょう。

以上(2025年11月更新)
(監修 みらい総合法律事務所 弁護士 田畠宏一)

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画像:Maki_Japan-Adobe Stock

【規程・文例集】カスハラ対策にもなる「苦情対応マニュアル」のひな型

1 重要なのは、苦情対応の方針を共有しておくこと

会社が商品・サービスを提供する上で、お客様からの不平・不満(以下「苦情」)は避けられないものですが、苦情の内容は様々であり、その対応に絶対の正解はありません。とはいえ、

臨機応変な対応は大切ですが、まずは会社としての対応方針や対応例を定めておく

ことが望ましいです。そこで必要になるのが「苦情対応マニュアル」です。

昨今は、暴力、暴言、土下座の要求など、いわゆる「カスハラ(カスタマーハラスメント、お客様による著しい迷惑行為)」が問題になっています。直近では、

2025年6月11日公布の改正労働施策総合推進法により、カスハラの定義が明確化され、防止措置についても実施が義務化(公布日から1年6か月以内に施行予定)

されることになりました。防止措置の詳細はこれから指針で定められる予定ですが、いずれにせよ対策は必須となります。苦情はお客様からの貴重な意見であり、尊重すべきものですが、

カスハラは決して許容せず、会社として毅然とした対応をし、従業員を守る姿勢を示す

ことも必要です。

カスハラに対する姿勢も含め、会社としての苦情対応の方針をマニュアルに示しておくことは、苦情対応に当たる従業員にとって安心材料になります。

2 苦情対応マニュアルのひな型

以下で紹介するひな型は、苦情対応に関する一般的な事項をまとめたものであり、個々の企業の業務内容や形態、対応方針などによって定めるべき内容は異なってきます。実際にこうした規程を作成する際には、必要に応じて専門家のアドバイスを受けることをお勧めします。

【苦情対応マニュアルのひな型】

第1章(はじめに)

第1条(目的)

本マニュアルは、当社が提供する商品・サービスなどへの苦情に対する対応手順および留意点について定め、苦情への適切な対応および円滑かつ円満な解決を図ることを目的とする。

第2条(定義)

1)苦情とは、当社が提供する商品・サービスやそれらの提供に伴う諸活動などに対してお客様から寄せられる不平・不満の表明のことをいう。

2)カスタマーハラスメントとは、1)の苦情のうち、次のいずれかに該当する言動であって、従業員の就業環境を害するものをいう。

  1. 要求の内容が妥当性を欠く言動(当社が提供する商品・サービスに瑕疵・過失が認められない要求、当社が提供する商品・サービスの内容とは無関係の要求など)
  2. 要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当な言動(暴力、脅迫、誹謗中傷、暴言、土下座の要求、セクシュアルハラスメントなど)

第3条(苦情対応の基本方針)

1)苦情は、お客様からの貴重な意見であり、前向きに捉え、尊重する。

2)苦情を受領した際には、公正・真摯な態度で、丁寧に話を聞く。

3)苦情がカスタマーハラスメントに当たる場合には、毅然とした態度で対応する。当社は、カスタマーハラスメントを許容せず、従業員の安全確保および心身の健康への配慮のため、次の通り対応する。

  1. カスタマーハラスメントの発生時には、対応した従業員の安全確保および心身の健康への配慮を最優先に行動する。
  2. カスタマーハラスメントへの対応を現場任せにすることなく、会社全体の問題として組織的に対応する。責任者は、カスタマーハラスメントの報告を受けた場合、対応した従業員を一人にせず、必要に応じてその従業員を一時的に顧客対応業務から外すなどの措置を講じる。
  3. 当社は、対応した従業員にメンタル不調の兆候がある場合、産業医やカウンセラーとの面談機会を提供するなど、精神的ケアのための支援を行う。
  4. 従業員の身体に危害が加えられる、またはその危険性が高いと判断される場合には、躊躇なく警察に通報する。

4)プライバシーや人権の尊重に努め、知り得た情報(個人情報等)の管理を徹底する。

第2章(苦情対応の手順)

苦情対応は次の手順で行う。

苦情対応の手順

第3章(担当者等の職務)

苦情の受付を担当する従業員(以下「担当者」)、苦情解決に責任を有する従業員(以下「責任者」)をあらかじめ定め、担当者以外の従業員に苦情があった場合には、速やかに担当者に引き継ぐ。担当者・責任者が行う職務は、次のとおりとする。

1)苦情の受理

  1. 苦情受理時、担当者は、お客様の話を十分に聞き、苦情内容とお客様の要求の把握に努める。その際、お客様の話を否定するような発言はしない。
  2. 担当者は、お客様に不愉快な思いをさせたこと、手間を取らせたことについて謝罪する。ただし、問題の発生原因など、責任の所在が不明なことについては、不用意に謝罪することは避ける。
  3. 担当者は、お客様のプライバシーや名誉に配慮し、別室で話を聞くことができる。その際は、責任者などを交え、必ず複数名で話を聞くこととする。また、必要に応じてお客様との会話を録音する。
  4. 担当者は、苦情の内容を責任者に報告する。
  5. 苦情の申出が、電子メールや手紙など、直接の対話を伴わない手段で行われた場合には、担当者は受理した旨をお客様に通知し、責任者に報告する。
  6. 担当者は、苦情の受理に当たってカスタマーハラスメントやそれに類似する言動があった場合、本章第6項の「苦情対応の中断および終了」に従う。

2)苦情内容の評価・調査

  1. 責任者は、受理した苦情について、妥当性、重大性、複雑性、即時処置の必要性などの点から評価する。
  2. 責任者は、必要に応じて担当者などに事情聴取を行い、苦情の内容、原因およびお客様の状況などの客観的な事実の調査を行う。

3)苦情対応方法の検討

  1. 責任者は、必要に応じて担当者などを交え、適切な苦情対応方法(解決策)の検討を行う。
  2. 当社のみで対応することが困難な場合には、関係機関や専門家などへ苦情内容を報告し、協力を求めることができる。
  3. 検討や対応に時間がかかる場合には、お客様に回答期日の目安を伝える。

4)苦情対応の実施

  1. 担当者または責任者は、検討された苦情対応方法をお客様に提案する。
  2. 上記対応でお客様の了承を得られれば、迅速かつ確実にその対応を行う。お客様の了承を得られない場合には、必要に応じてお客様と話し合いながら、再度対応方法の検討を行う。
  3. 問題の発生原因などに関するお客様への報告は、文書を用いて行う。

5)苦情情報の記録

  1. 担当者は、苦情の内容、対応経過などを別途定める「苦情対応報告書」にまとめ、責任者に提出する。
  2. 責任者は、苦情対応報告書を受領し、保管する。
  3. 責任者は、苦情対応についてお客様に改善を約束した事項がある場合には、その実施状況について記録するとともに、必要に応じて当社の商品・サービスなどにも反映し、再発防止に努める。

6)苦情対応の中断および終了

  1. 担当者は、お客様の言動がカスタマーハラスメントに該当すると判断し、中止を求めたにもかかわらず、改善がなされない場合には、お客様にその旨を伝えた上で、対応を中断または終了することができる。
  2. 対応を終了した後もお客様が退去しない場合、または電話を繰り返し行う場合には、速やかに責任者に報告し、警察への通報を含めた対応を検討する。

第4章(マニュアルの見直し)

本マニュアルは、当社への苦情の状況や社会の情勢などに応じ、定期的に見直しを行う。

■苦情対応報告書■

苦情対応報告書

以上(2025年11月更新)
(監修 のぞみ総合法律事務所 弁護士 坪井諒介)

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画像:ESB Professional-shutterstock

AI導入による働き方への影響

仕事に人工知能(AI)を活用する職場が増えつつあります。AIは生産性の向上や人手不足の緩和などにつながるため、少子高齢化が進む日本では、今後も企業が積極的に導入していくと考えられます。本稿では、独立行政法人労働政策研究・研修機構が公表した「AIの職場導入による働き方への影響等に関する調査」の結果から、AIと働き方に関する最新事情をお知らせします。

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AI導入による働き方への影響

仕事に人工知能(AI)を活用する職場が増えつつあります。AIは生産性の向上や人手不足の緩和などにつながるため、少子高齢化が進む日本では、今後も企業が積極的に導入していくと考えられます。本稿では、独立行政法人労働政策研究・研修機構が公表した「AIの職場導入による働き方への影響等に関する調査」の結果から、AIと働き方に関する最新事情をお知らせします。

1 残業時間が減少

調査は、同機構が2024年5~6月、全国の労働者を対象に実施し、22,000人から有効回答を得ました。22,000人のうち、勤務先の企業でAIが使われていると答えた労働者は2,833人(有効回答数に占める割合12.9%)。2,833人のうち、自身がAIを利用していると答えた労働者は1,854人(同8.4%)でした。この1,854人に、AIを利用する前後で仕事の質や働き方がどう変わったかを尋ねたところ、次のようにAIの効果を感じさせる回答が得られました。

(単位=%。端数処理の関係で合計が100%にならない場合がある)

AIを利用する前後で仕事の質がどう変わったか

AIを利用する前後で働き方がどう変わったか

※独立行政法人労働政策研究・研修機構「AIの職場導入による働き方への影響等に関する調査」の結果より

「仕事のパフォーマンス」については、「かなり改善した」「少し改善した」が計60.6%で、改善効果が表れています。

「上司や管理者による従業員へのマネジメントの公平性」「メンタルヘルスとウェルビーイング(生活満足度や幸福度等)」「職場における安全性と身体の健康」の変化については、いずれも「わからない」が4割強。それでも、「改善した」が「悪化した」よりも多く、一定の効果が見て取れます。

「月間の総残業時間」の変化については、「わからない」が44.8%でしたが、「減少した」も計28.5%で、「増加した」を上回りました。

「年次有給休暇の取得日数」「平均的な賃金総額(税金と社会保険料を差し引く前の額面)」「職場で上司・同僚・部下と話す機会」の変化については、「増加した」が「減少した」を上回ったもの、「わからない」が5割前後を占めています。「仕事で新しい事を学ぶ機会」については、「増加した」が計40.5%に達し、効果が出ているようです。

2 仕事が失われる不安

一方、AI導入に伴う不安もみられました。AI によって今後2年以内に自身の仕事が失われる不安について尋ねたところ、全有効回答22,000人のうち、「極めて心配」「かなり心配」「ある程度、心配」「わずかながら心配」が計 43.7%、「(2年を超えて)今後10年以内」では計 50.7%でした。

また、今後10年間を見据え、自身の産業分野の賃金にAIが影響を与えるかについても質問しました。全有効回答22,000人のうち、「わからない」が44.6%、「賃金に影響を与えないと思う」が24.1%でしたが、AIは「賃金を減少させると思う」も22.6%を占め、「賃金を増加させると思う」の8.7%を大幅に上回っています。

さらに、AIの利用に伴い勤務先が訓練の提供や資金の援助をしてきたかを聞いたところ、勤務先の企業でAIが使われている労働者2,833人の62.8%が「いいえ」と答えました。企業の支援が十分とは言えないようです。

3 さいごに

AIは企業活動に大きなプラス効果を及ぼします。その反面、ChatGPTなどの生成AIについては、機密情報の誤入力や意図しない情報漏洩などのリスクもあります。セキュリティインシデントが発生してしまうと、企業に甚大な損害を与えるので、回避しなければなりません。

そのためには、社内規定やガイドラインを定め、生成AIを利用できる対象従業員、入力可能な情報の範囲、生成された結果の活用方法などを明確にしておく必要があります。適切なAI活用に向け、従業員に学習やリスキリングの機会を提供することも欠かせません。ご対応につきましては注意して進めてみてください。

※本内容は2025年10月10日時点での内容です。

(監修 社会保険労務士法人 中企団総研)

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高齢社員の人事考課 「期待する役割」を明確に示そう!

1 なぜ、再雇用した高齢社員がやる気を失ってしまうのか?

日本人の健康寿命は、2023年時点で男性が81.09歳、女性が87.14歳とされています。2022年時点で、日本企業の72.3%は定年を「60歳」としており、数字だけ見れば、多くの高齢社員は定年後も元気に働ける状態だといえます(厚生労働省「令和7年厚生労働白書」「令和4年就労条件総合調査」)。

一方、体は健康でも、会社から求められる働き方と高齢社員の希望がかみ合わず、本人がやる気をなくしてしまうケースも珍しくありません。日本では定年後も働いてもらう場合、

再雇用制度(定年時に一度雇用契約関係を終了させ、再び雇用する)

により、「嘱託」などの非正規社員として雇い直すのが一般的です。ただ、一部の会社では次のような理由から、高齢社員が仕事に手ごたえを感じにくくなることがあります。

  • 契約が1年単位など有期契約になりがちで、それゆえ重要な仕事を任せにくい
  • 社会保険や雇用保険の給付があるからと、賃金を引き下げるのが当たり前になりやすい
  • 再雇用後、かつての部下が上司になり、関係がギクシャクしてしまう

きちんと戦力として活躍できるはずの高齢社員がやる気を失ってしまうのは、もったいないことです。そこで、この記事では「人事考課」の観点から、高齢社員にやる気を持って仕事をしてもらうためのポイントを3つ紹介します。

  • 会社と高齢社員の認識のギャップを埋める
  • 期待する役割などに応じて人事考課表を作る
  • 経営者が考課者になるなど、評価に納得感を持たせる

2 会社と高齢社員の認識のギャップを埋める

高齢社員の雇用形態が正社員から非正規社員になると、労務管理の方針や期待する役割は定年前と変わってきます。

もちろん、高齢社員も自分のポジションが定年前と違うことはある程度分かっていますが、会社の方針や期待を100%理解しているとは限りません。ですから、何の説明もないと、図表1のような認識のギャップが生まれ、やる気を失ってしまいます。

認識のギャップ

こうしたギャップを埋めるには、再雇用のタイミングで

会社が期待する役割、賃金の支給額の根拠、再雇用後の指揮系統などを丁寧に説明

する必要があります。例えば、期待する役割であれば、「定年前と同じ業務を担当してもらうけど、ベテランとしての経験を活かし、若手に仕事のノウハウを継承していってほしい」といった具合に、会社側の要望を明確に伝えます。

同時に、高齢社員の希望する働き方もヒアリングし、必要に応じて見直しを検討します。例えば、本人が「定年前と同じように、バリバリ働きたい」と希望していて、それに見合った実力を十分発揮できるなら、後進の指導は他のメンバーに任せ、定年前と同じように働いてもらう選択も考えられます。

3 期待する役割などに応じて人事考課表を作る

高齢社員の人事考課を行う際、「正社員と同じ人事考課表を使っている」という会社は少なくないかもしれません。ですが、定年前後で会社の期待する役割などが変わってくるのであれば、人事考課表もそれに応じたものを用意しないと、評価がちぐはぐになってしまいます。

例えば、「後進指導」という役割を重視する場合、図表2のように「指導・動機づけ」「統率・監督」などの項目で、その働きを評価できる人事考課表にしておきます。また、「成果」の扱いは、定年後にノルマなどの責任がなくなる場合、必要に応じて項目の削除や見直しを行います。

人事考課表

逆に、定年前と同じように働く高齢社員の場合であれば、正社員と同じ人事考課表を用いても差し支えないでしょう。

4 経営者が考課者になるなど、評価に納得感を持たせる

再雇用制度では、1年ごとなど一定のサイクルで契約を更新するのが一般的です。更新の可否は、本人の体調や意欲なども見ながら判断しますが、人事考課の結果も大切な要素になります。高齢社員もこのことを分かっているので、自身の評価にはかなり敏感になります。

そういった意味で、高齢社員の人事考課は、

決して甘くは付けないが、ある程度の納得感を与えられるものである

が重要です。例えば、年下の上司が考課者になると、考課結果によっては、高齢社員が「自分よりも経験が浅いくせに、何を言っているんだ!」と反抗してくるかもしれません。もちろん、上司が安易に考課結果を覆すのはNGですので、評価に納得感を持たせたいのであれば、

一次考課者は年下の上司にしつつ、二次考課者については経営者など、高齢社員が話を受け入れやすい人物を配置する

などの形で対応するとよいでしょう。

また、第2章の図表1で紹介したような、期待する役割などについての認識のギャップが労使間で解消できていないために、人事考課が納得のいくものになっていないケースもあります。これは改善する必要がありますので、図表3の「評価フォローシート」などを使って、高齢社員本人に、人事考課にどの程度納得できているかをコメントしてもらうとよいでしょう。

評価フォローシート

以上(2025年10月更新)
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画像:pixabay

日没前後の運転は要注意!(2025/11号)【交通安全ニュース】

活用する機会の例

  • 月次や週次などの定例ミーティング時の事故防止勉強会
  • 毎日の朝礼や点呼の際の安全運転意識向上のためのスピーチ
  • マイカー通勤者、新入社員、事故発生者への安全運転指導 など

日没前後の時間帯は薄暮時間帯※と言われ、視界が刻々と変化していきます。

特に、秋から冬にかけては、帰宅や夕食の買い物などで自動車や人の動きが活発になる時間帯と重なるため、交通事故のリスクが高まります。

今号では、薄暮時間帯の事故防止について考えます。

日没前後の運転は要注意

※警察庁では、日没前後1時間を「薄暮時間帯」としています。
(日の入り時刻は、月日や都道府県により異なります。)
https://www.npa.go.jp/bureau/traffic/anzen/hakubo.html

薄暮時の事故発生状況

令和2年~6年の5年間における時間帯別死亡事故件数(図1)は、日没時刻と重なる17時台~19時台に多く発生しています。

時間帯別死亡事故件数(令和2年~6年)

さらに、薄暮時間帯の当事者別死亡事故(図2)を見てみると、「自動車対歩行者」が半数を占めています。

薄暮時間帯に事故が増加する要因の1つとして、視界の急激な変化と目の働きの低下による「見落とし」が考えられます。

薄暮時間帯 当事者別死亡事故件数(令和2年~6年)

※図1、図2ともに 出典:警察庁交通局「薄暮時間帯における交通時事故」より当社作成
https://www.npa.go.jp/bureau/traffic/anzen/hakubo.html

薄暮時間帯の視界の変化

秋から冬にかけての薄暮時間帯は、刻々と視界が変化していきます。

薄暮時間帯の視界の変化

  • 目が暗い状態に慣れるまでには時間がかかるため、自動車や自転車、歩行者などお互いの発見が遅れる。
  • 暗くなるにつれて、明るい場所と暗い場所との差(コントラスト)が大きくなり、物の色や形がはっきりと見えにくくなる。

特に、黒やグレーなど暗い色の服装の歩行者は、路面や背景の色に溶け込んでしまい、ほとんど見分けがつかない状態になるため「見落とし」に注意が必要です。

事故防止のポイント

下記を実践して薄暮時間帯の事故を回避しましょう。

①早めのライト点灯

日没30分前を目安に、意識してヘッドライトを点灯しましょう。薄暗くなったなと感じたら、即点灯が基本です。ライトの目的は、「自分がよく見るため」だけではなく、「自分の車の存在を周囲に知らせるため」です。歩行者や自転車に早く気付いてもらうことも重要です。

②ハイビームを積極的に活用する

基本はハイビームで走行します。遠くまで見通せることで危険をいち早く発見できます。見える距離はハイビームでは約100m、ロービームでは約40mです。なお対向車や先行車がある場合は、ロービームにして、こまめな切り替えを行いましょう。

③歩行者や自転車を意識して見に行く

暗がりや物陰、電柱の影など、見えにくい場所に注意深く目を配り、 意識して見にいくようにしましょう。特に住宅街や交差点など歩行者や自転車が多い場所では、認知が遅れてもすぐに対応ができるように、速度を抑えて走行しましょう。

以上(2025年11月)

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画像:amanaimages

【参加無料】中小企業向け「省エネ推進セミナー2025」を開催します(オンライン)

令和7年11月5日(水)、一般社団法人環境共創イニシアチブが経済産業省資源エネルギー庁の補助事業の一環として中小企業等を対象とした「省エネ推進セミナー2025」を開催します。

本セミナーでは、経済産業省が補助事業として実施している「令和6年度補正 中小企業等エネルギー利用最適化推進事業費(地域エネルギー利用最適化・省エネルギー診断拡充事業)」の活用方法を、事例を交えてわかりやすく紹介します!

詳細はチラシ、もしくはWEBページをご参照ください。


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以上(2025年10月作成)

【朝礼】なぜ、あなたの「話し方」では伝わらないのか

【ポイント】

  • 独り善がりで、一方的に話していたら、お客さまは聞く耳を持ってくれない
  • 大きな声でハッキリとした口調で話すことをおろそかにしない
  • まともな話し方ができなければ、営業のスタートラインにも立てない

先日、「お客様に私の話を真剣に聞いていただけなくて、悩んでいます……」という相談を若手社員から受けました。そこで、私がお客様役になり、彼にいつもやっているように話してもらったのですが、「お客様が話を聞かない気持ちが分かる」というのが率直な感想でした。彼の話には、2つの問題があったのです。

1つ目は、独り善がりで、一方的に話していたことです。営業担当者は「売りたい!!」という気持ちを強く持っています。売るために、お客様に自分の考えや知識を伝えたいと強く思うほど、独り善がりで、一方的に話しがちです。しかし、お客様の立場になってみてください。「営業」と聞けば、多くのお客様は「売り込まれそう……」と身構えます。その上、一方的に話しては、お客様は一歩引いてしまい、聞く耳を持ってくれません。皆さんの周囲にいる優秀な営業担当者を観察すれば、一方的に話すのではなく、お客様との会話を大切にし、お客様の求める情報を提供していることが分かるはずです。

2つ目の問題は話し方です。くだんの若手社員は、小さな声で語尾も曖昧な話し方でした。皆さんは大きな声で、ハッキリとした口調で話していますか? たとえ営業担当者が有益な情報を話していても、小さな声で「ボソボソ……」と自信なさげでは、熱意を感じられません。内容以前に、聞く気が半減します。一方、同じ内容でも、大きな声でハッキリとした口調で話されれば、気持ち良く、より真剣に聞こうという気になります。まず耳を傾けてもらうために、大きな声でハッキリとした口調で話すことをおろそかにしてはいけません。

私たちがお客さまから選ばれるためには、商品のスペック、価格、対応の迅速さなど、私たちの優れた点をお客様に認めてもらうことです。そのために一役買うのが、話し方だといえます。

もちろん、話し方が優れているだけでは、ビジネスで成功を収めることはできません。しかし、まともな話し方ができなければ、スタートラインに立つことさえかなわないのです。その点を強く認識しておいてください。

以上(2025年10月作成)

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画像:Mariko Mitsuda

【2025年版】 年末調整の改正点と書き方の解説

1 2025年末の年末調整の作業に係る改正は4点

年末調整は、役員、従業員・パート社員(以下「従業員」)の源泉所得税の最終調整を行うものです。年に1度の作業である上、改正も頻繁に行われるため、毎年よく分からず、前年と同じような作業を繰り返すだけという方も多いのではないでしょうか。

しかし、確定申告を自分でしない場合、自身が源泉所得税の還付を受けられる唯一の作業になるため、改正点を踏まえた上で、正確な書類を作成するようにしましょう。

今回(2025年末)の年末調整の作業に係る改正は、次の4点です。

1.基礎控除の引き上げ

基礎控除額が所得額に応じて16万~95万円(改正前は16万~48万円)に引き上げられ、所得区分が見直されます。

2.給与所得控除の引き上げ(給与の収入金額190万円以下の場合)

給与所得控除額が一律65万円(改正前は所得に応じて55万~65万円)に引き上げられます。

3.扶養親族控除・配偶者控除・勤労学生控除の所得要件の緩和

それぞれ所得要件が、扶養親族控除は58万円以下(改正前は48万円以下)、配偶者控除は58万円超133万円以下(改正前は48万円超133万円以下)、勤労学生控除は85万円以下(改正前は75万円以下)に緩和されます。

4.特定親族特別控除の新設

19歳以上23歳未満の子供がいる世帯を対象に、新たに「特定親族特別控除」が設けられ、本人の所得に応じて、控除額が3万~63万円に設定されます。なお、特定親族とは19歳以上23歳未満の親族(配偶者、青色事業専従者として給与の支払いを受ける人および白色事業専従者を除く)で、合計所得金額が58万円超123万円以下の人をいいます。

これらの改正は、原則として2025年12月1日に施行され、2025年分以降の所得税について適用されます。このため今年(2025年)12月に行う年末調整などの源泉徴収事務に変更が生じます。

以降では、2025年の年末調整でほとんどの従業員が記入しなければならない主な申告書である、

  • 令和7年分 給与所得者の基礎控除申告書 兼 給与所得者の配偶者控除等申告書 兼  給与所得者の特定親族特別控除申告書 兼 所得金額調整控除申告書 
  • 令和7年分 給与所得者の保険料控除申告書
  • 令和8年分 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書(扶養控除等申告書)

の書き方について、項目ごとに詳しく解説していきます。

2 給与所得者の基礎控除申告書 兼 給与所得者の配偶者控除等申告書 兼 給与所得者の特定親族特別控除申告書 兼 所得金額調整控除申告書

給与所得者の基礎控除申告書 兼 給与所得者の配偶者控除等申告書 兼 給与所得者の特定親族特別控除申告書 兼 所得金額調整控除申告書

1)給与所得者の基礎控除申告書【対象:従業員全員】

「あなたの本年中の合計所得金額の見積額の計算」の欄には、給与明細書などを参考に、2025年中の給与所得の「収入金額」を記載します。所得金額については、申告書の裏面に掲載されている「各申告書の合計所得金額について」で紹介されている国税庁のウェブサイトを参考に計算します。また、給与所得以外に所得がある場合は、2025年中の合計所得金額の見積額を記載します。

次に、控除額の計算の判定欄のA~Cのいずれかを「区分Ⅰ」に転記し(合計所得金額の見積額が1000万円超の人は空欄)、かつ合計所得金額の見積額を、左の「控除額の計算」の表に当てはめ、該当する控除額を「基礎控除の額」に転記します。

昨年から変更された主な箇所は、下記の2点です。

  • 所得区分が昨年に比べ細かく区分され、基礎控除額が変更されている
  • 定額減税対象の記載項目が削除(昨年限定の措置であったため)されている

2)給与所得者の配偶者控除等申告書【対象:年間合計所得が133万円以下の配偶者がいる人】

配偶者に関する事項を記載し、「配偶者の本年中の合計所得金額の見積額の計算」の欄には、上記1)と同様に配偶者の給与明細書などを参考に、2025年中の給与所得の「収入金額」を記載します。所得金額については、申告書の裏面に掲載されている「各申告書の合計所得金額について」で紹介されている国税庁のウェブサイトを参考に計算します。また、給与所得以外に所得がある場合は、2025年中の合計所得金額の見積額を記載します。

次に、「配偶者の本年中の合計所得金額の見積額の計算」の判定欄の①~④のいずれかを区分Ⅱに転記します。区分Ⅰ・Ⅱに記載したアルファベットと数字を下の「控除額の計算」の表に当てはめ、該当する控除額を配偶者控除の額または配偶者特別控除の額の欄にそれぞれ転記します。

なお、区分Ⅱの欄が①または②の場合は配偶者控除の額の欄に、③または④の場合は配偶者特別控除の額の欄に金額を転記します。

昨年から変更された主な箇所は、下記の2点です。

  • 区分Ⅱの判定欄における所得要件の下限金額が変更されている
  • 配偶者定額減税対象の記載項目が削除(昨年限定の措置であったため)されている

3)給与所得者の特定親族特別控除申告書【対象:合計所得が58万円超123万円以下(所得が給与所得だけの場合は収入金額が123万円超188万円以下)の19歳以上23歳未満の子供がいる人】

特定親族に関する事項を記載し、「特定親族の本年中の合計所得金額の見積額」の欄には、特定親族の給与所得のみだけでなく、全ての所得の合計金額を記載します。それぞれの所得金額については、申告書の裏面に掲載されている「各申告書の合計所得金額について」で紹介されている国税庁のウェブサイトを参考に計算します。

次に、合計所得金額の見積額を下の「控除額の計算」の表に当てはめ、該当する控除額を「特定親族特別控除の額」に転記します。

この項目は、

今年新設された項目

になります。

4)所得金額調整控除申告書【対象:給与等の収入金額が850万円を超える人】

給与等の収入金額が850万円を超え、かつ扶養親族が特別障害者であること、または23歳未満(2003年1月2日以後生まれ)などに該当する場合は、要件欄のいずれか該当する項目にチェックを付けます。要件欄の指示に沿って「☆扶養親族等」の欄に該当する扶養親族等に関する事項と、「★特別障害者」の欄に障害の状態や交付を受けている手帳の種類などを記載します。

3 給与所得者の保険料控除申告書

給与所得者の保険料控除申告書

1)生命保険料控除【対象:生命保険に加入している人】

生命保険料控除の欄には、2025年中に支払った一般の生命保険料、介護医療保険料、個人年金保険料に関する事項を記載します。

それぞれの区分ごとに、保険会社から郵送される「保険料控除証明書」の内容を転記します。なお、保険料控除証明書をインターネット上で電子発行できるサービスもあるため、各社のウェブサイトなどから電子発行を受けることもできます(ID取得のため、証券番号などの登録が必要)。

一般の生命保険料と個人年金保険料については、保険の契約時により、取り扱い(所得控除額)が異なります。2011年12月31日以前に契約したものは旧保険契約として、2012年1月1日以後に契約したものは新保険契約として取り扱われます。

それぞれ旧保険契約に係る所得控除額は最高5万円、新保険契約に係る所得控除額は最高4万円となります。

実務上は、保険会社から郵送される「保険料控除証明書」に記載されている内容を、申告書に転記してもらうことになります。月払いにより保険料を払い込んでいる場合は、控除証明書の発行日までの保険料の他、年間(12月31日まで)の見積払込保険料が記載されていることが多くあります。12月31日まで保険を継続しているのであれば、年間払込保険料を申告書に転記すれば問題はありません(後述の地震保険・社会保険・小規模企業共済も同様)。

もし、発行日から12月31日までの間に解約し、実際の年間払込保険料と、保険料控除証明書に記載してある見積払込保険料に相違がある場合は、実際の年間払込保険料を申告するようにしましょう。

2)地震保険料控除【対象:地震保険に加入している人】

地震保険料控除の欄には、2025年中に支払った地震保険料に関する事項を記載します。地震保険料と一緒に支払いをしている火災保険料は対象になりません。ただし、2006年12月31日以前に契約した長期損害保険契約等については、一定の金額が控除の対象になります。

3)社会保険料控除【対象:国民健康保険など一定の保険に加入している人】

社会保険料控除の欄には、2025年中に支払った従業員本人または従業員本人と生計を一にしている親族分の、次の保険料に関する事項を記載します。

  • 国民健康保険の保険料や国民健康保険税
  • 健康保険、厚生年金保険や船員保険の保険料
  • 介護保険法の規定による介護保険の保険料
  • 国民年金の保険料や国民年金基金の加入員として負担する掛金
  • 農業年金の保険料や雇用保険の労働保険料など

4)小規模企業共済等掛金控除【対象:小規模企業共済やiDeCoに加入している人】

小規模企業共済等掛金控除の欄には、2025年中に支払った小規模企業共済と確定拠出年金の掛金の金額を記載します。なお、個人型確定拠出年金(iDeCo)の掛金は、この欄の「個人型」に記載することになります。

4 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書(扶養控除等申告書)

給与所得者の扶養控除等(異動)申告書(扶養控除等申告書)

1)氏名・個人番号(マイナンバー)・生年月日等【対象:従業員全員】

従業員の氏名、個人番号(マイナンバー)、住所又は居所、生年月日、世帯主の氏名と続柄、配偶者の有無を記載します。マイナンバーについては記述を省略する会社もあります。

2)源泉控除対象配偶者【対象:翌年の合計所得金額(見積額)が95万円以下の配偶者がいる人】

源泉控除対象配偶者の欄には、次の要件を満たした配偶者がいる場合に記載します。

  • 従業員(合計所得金額の見積額が900万円以下の人に限る)と生計を一にする配偶者
  • その配偶者が青色事業専従者として給与の支払いを受ける人及び白色事業専従者でないこと
  • その配偶者の2025年中の合計所得金額(見積額)が95万円以下(給与所得だけの場合は給与等の収入金額が160万円以下)であること

なお、非居住者である親族(国外に住んでいる親族)の項目については、該当する親族がいる場合に、該当チェック欄にチェックマークを記入し、チェック欄の区分に応じた添付書類(パスポートやビザなど)も併せて提出することになります(下記「3)源泉控除対象親族(16歳以上)」の欄についても同様)。

3)源泉控除対象親族(16歳以上)【対象:16歳以上の扶養親族がいる人】

源泉控除対象親族(16歳以上)の欄には、扶養控除の対象である次の親族がいる場合に記載します。

  • 16歳以上(2011年1月1日以前生まれ)の親族
  • 上記の親族が従業員と生計を一にしていること
  • 上記の親族の年間の合計所得金額が58万円以下(給与所得だけの場合は給与等の収入金額が123万円以下)であること

なお、19歳以上23歳未満(2004年1月2日~2008年1月1月生まれ)の親族を「特定扶養親族」といい、70歳以上(1957年1月1日以前生まれ)の親族を「老人扶養親族」といいます。これらに加えて、冒頭で解説した「特定親族」に該当する親族がいる場合は、チェックマークを付す箇所があるので忘れないようにしましょう。

また、非居住扶養親族がいる場合は、生計を一にする事実として、1年間に実際に送金した金額を記載する欄があります。この欄には、2025年末に見積額ではなく実際の送金額を追加で記載すると同時に、送金関係書類を提出しなければならない点に注意しましょう。

昨年から変更された主な箇所は、下記の2点です。

  • 源泉控除対象親族に項目名が変更(昨年は控除対象扶養親族)
  • 特定親族のチェック項目が追加

4)障害者、寡婦、ひとり親又は勤労学生【対象:左のいずれかに該当する人】

障害者、寡婦、ひとり親又は勤労学生の欄には、従業員本人が障害者である場合(生計を一にする配偶者や扶養親族が障害者の場合を含む)や、寡婦、ひとり親である場合、学校に通いながら働いている場合に記載します。

障害者とは、身体障害者手帳に身体上の障害がある者として記載されている人など、一定の障害者をいいます。なお、特定親族は障害者控除の対象外となります。

寡婦とは、合計所得金額の見積額が500万円以下で、夫と死別または離婚した後に再婚をしていない人などをいいます。

ひとり親とは、合計所得金額の見積額が500万円以下で、現在婚姻しておらず(未婚や配偶者の生死が明らかでない場合で、かつ事実上婚姻関係にあるパートナーなどがいない状況)、生計を一にする子供がいる人をいいます。なお、2019年までの年末調整項目であった「寡夫」はひとり親に含まれます。

勤労学生とは、合計所得金額の見積額が85万円以下(給与所得だけの場合は給与等の収入金額が150万円以下)で、大学などの学生や一定の要件を備えた専修学校の生徒などをいいます。ただし、給与所得等以外の所得が10万円を超える人を除きます。

5)他の所得者が控除を受ける扶養親族等【対象:夫または妻が、子供の扶養控除の適用を受けている人】

他の所得者が控除を受ける扶養親族等の欄には、夫婦が共働きなど、この申告書を提出する人以外の人が、家族を扶養親族としている場合に記載します。例えば、子供(控除対象親族)がいる共働きの夫婦のうち、夫が扶養控除を受ける場合に、その妻はこの欄に夫と子供の氏名等を記載します。

6)16歳未満の扶養親族【対象:16歳未満の扶養親族がいる人】

16歳未満の扶養親族の欄には、16歳未満(2011年1月2日以後生まれ)の扶養親族がいる場合に記載します。

7)退職手当等を有する配偶者・扶養親族・特定親族【対象:2026年中に左に該当する配偶者・扶養親族・特定親族がいる人】

退職手当等を有する配偶者・扶養親族・特定親族の欄には、2026年中に退職所得をもらう予定のある配偶者・扶養親族・特定親族がいる場合に記載します。この欄については、2026年末に記載してもらう欄となりますので、2025年末においては空欄で提出することになります。

なお、扶養控除等(異動)申告書は、その年、最初に給与をもらう日の前日(中途採用の場合は、就職後最初の給与の支払いを受ける日の前日)までに提出してもらいます。そのため、実務上は、年末調整の際に配布される申告書は翌年分(令和7年分の場合は令和8年分)であるのが一般的です。

もし、年の中途で扶養親族の状況などに変化があった場合には、その都度、異動申告をしてもらう必要があります(2025年中のものは、2024年末に提出してもらった令和7年分を修正)。この場合、年末調整の対象となる年分の扶養控除等(異動)申告書に訂正する部分を二重線で消し、余白に新しい情報を記載し、「異動月日及び事由」の欄にもその旨を記載します。

以上(2025年10月作成)
(監修 税理士 石田和也)

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ヒント4[採用4]:入社日までに「入社後のギャップを最小化する」/武田斉紀の『人が辞めない会社、10のヒント』(5)

1 「好きな人は好き」にさせる事実の一行は見つかりましたか?

今シリーズの狙いは、経営者、人事担当者、現場の皆さんのお悩みである「社員を採ってもすぐに辞めてしまう上に、そもそも採れない」という課題を解決すること。『人が辞めない会社、10のヒント』と題して、毎回1つずつご紹介していきます。

『人が辞めない会社』に変わるための課題、その原因と解決策は会社によってさまざまです。

今回ご提示するヒントが皆さんの抱える原因に明らかに当てはまらない場合は、読み飛ばしてくださって結構です。ですが、ヒントの1~9までが該当しなくても、10が当てはまるかもしれません。

全社共通の原因もあれば、部署ごとの固有の原因も存在することでしょう。原因が1つだけというケースは少ないので、何回分か読んでいただければ「これはうちにも当てはまるな」というものを見つけていただけるのではと思います。

第2回から前回の第4回までは、採用は会社の入り口であり、『人が辞めない会社』に変わるための重要な最初の一歩であることをお話ししてきました。

自社を必要以上に大きく見せることなく、会社が“目指すこと”、“大切にしたいこと”を明示する。それを体現している社内の事実を見つけ出し、分かりやすい一行キャッチフレーズにしてアピールする。そうすればSNSの時代、「好きな人は好き」という人が全国、世界から集まってくれます。

「好きな人は好き」で集まってくれた人は、会社が“目指すこと”、“大切にしたいこと”に強く共感してくれた人材です。あとはその中から、自社で予め設定した「求める人材像」の資質・性格、経験やスキルなどの基準に沿って、本当に“採用したい人材”を絞り込んでいけばいいのです。

ただ、本当に“採用したい人材”を絞り込めて相思相愛で内定まで出せたとして、その人材が入社後すぐに辞めてしまう可能性はないでしょうか。

ということで、

今回は採用編の最後となるヒント4:入社日までに「入社後のギャップを最小化する」です。

あなたの会社では、これから入社してくる人材に対して、入社後のギャップが極力ないよう、事前に必要な情報や、入社後のイメージを十分に伝えられていますか。良いことだけでなく、悪いことも全てです。

2 内定者に伝えるべき全ての情報を、入社前に伝えられていますか?

残念なことに、私がこれまで採用をご支援してきた会社で、内定者に対して入社後のギャップが極力ないよう「入社日までに伝えるべき情報」をきちんと整理し、全て伝えきれている所はほぼ皆無でした。

原因は主に2つ。1つは、「マイナス情報を伝えたら、入社してくれなくなるのではないか」という懸念です。

担当者としては苦労して内定までこぎつけた候補者には、辞退せず入社して欲しいと願うもの。「〇名入社させた」という実績を見せたい気持ちもあるでしょう。

でも本当は分かっているはずです。入社後にギャップを感じてすぐに辞めてしまった場合、本人にも会社にもデメリットしかないということを。

本人は何より悔しいでしょう。「なぜ、そういう情報を入社前に教えてくれなかったのだ」と。事前に「〇〇について気になるので教えてください」と質問していたら、なおさらでしょう。履歴書には「〇〇社 4月入社 5月退社」というように“傷”を付けてしまいます。

会社にとっても「入社者がすぐに辞めた」という事実はマイナスでしかありません。事前に分かっていれば、他の適した候補者を採用し入社してもらうこともできたでしょう。二重の損失です。どこかの部署が欠員となり、再募集をかけなければなりません。

もう1つの原因は、採用する側が自社のことをよく知っているつもりで、実はよく分かっていないというものです。

つまり、内定者に対して入社後のギャップが極力ないように「入社日までに伝えるべき情報」をきちんと整理できていないのです。

前者の原因については、採用担当者とその上司に考え直していただくしかありません。何人入社させたかも大事ですが、そこから何人が辞めずに残ったかのほうがより大事なのですから。

3 「入社日までに伝えるべき情報」を、5×3のマトリクスで整理する

後者の原因を解決するポイントは、改めて内定者、あるいは応募者、採用候補者に対して「入社日までに伝えるべき情報」を整理することです。次の5×3のマトリクスで情報を網羅してみることをお勧めします。

【縦軸の項目】
1)企業理念(目的・価値観)・ビジョンなど…各々の内容および社内での共有度
2)会社情報…基本情報(売上・利益・従業員数の推移、拠点など)/歴史沿革のポイント/事業内容と業績・比率、業界でのポジション、強みなど
3)仕事情報…配属可能性/仕事内容/勤務地/勤務日と時間および残業/教育/異動/キャリアステップなど
4)待遇情報…入社時と将来の給与・年収・諸手当・昇給賞与・報償制度/人事評価制度/休日休暇/福利厚生など
5)企業文化、職場環境…特徴キーワード、具体的エピソード、社外・業界でのイメージなど

【横軸の項目】
A.一般に+(プラス)情報…ほぼ万人にとってプラスと思える情報
B. [〇〇な人]に+(プラス)情報…人によってはマイナスだが、〇〇な人ならプラスに感じてくれそうな情報
C.一般に-(マイナス)情報…ほぼ万人にとってマイナスと思える情報

縦軸の5項目は分かりやすいと思いますので、横軸のほうを補足しましょう。少し「社員を採ってもすぐに辞めてしまう」ではなく、「そもそも採れない」の解決策の話になってしまいますが。

A.は、ふだん自社の強みとして前面に打ち出しているものでよいのですが、他にも例えば

 例)毎週2回まで当日申請でリモートワークできる制度あり など

小さなことと思えても、できる限りたくさんピックアップしましょう。A.の情報は全て採用時の武器になります。小さくても独自だったり、量があったりすれば勝ちきれるのです。

B.の例を挙げてみましょう。

例)企業相手の仕事(いわゆるto B)で一般に分かりにくい →一般顧客ではなくプロ相手の仕事がしたい人には成長を感じられて楽しい職場
例)休日が土日ではない →平日休みたい人にはプラス(旅行好きなど)。加えて例えば「イベントが土日の際は〇回まで優先的に他の曜日と交替できる制度あり」だとお子様など家族のイベントや推し活時にも対応できてデメリットが軽減される
例)古い業界 →会社としては業界を改革したいと思っていて、同志を探している

B.ではどれだけプラスに感じてくれる「〇〇な人」をイメージできるかが重要です。「こんな事実を伝えたらみんな他社に行ってしまう」と考えないことです。どう伝えようとマイナスに感じる人は他社に行きます。けれどプラスに感じる人にとってはA.以上に「好きな人は好き」と引きつける可能性が高いのがB.の情報です。

最後にC.の例を挙げますが、ほぼ万人にとってマイナスである以上、伝えてプラスに感じてもらうことは無理としても、ゼロに近づける努力をするべきです。以下の→部分のようにできる限りマイナスをひっくり返せるかもしれない事実を拾ってみてください。

例)初任給が安い →平均年齢が若く昇進は早い、課長の年収は悪くない
例)三交替制で生活が不規則 →慣れれば意外と便利、管理職以上は時間固定勤務
例)急対応が多く海外旅行など無理 →複数担当制を試験的に導入中、既に海外旅行経験者もいる

細かすぎると思える内容でも、入社後にギャップを感じて退職につながりそうな項目は丁寧に拾ってみてください。同時にB.やC.に当たる情報については、プラスに感じてくれる「〇〇な人」をイメージしたり、あまりマイナスに感じないですむトークを用意したりしましょう。

なお、過去にすぐに退職した人の理由が分かれば、それに関わる情報も必ず入れておきましょう。同じような人を二度と生まないために。

4 全て伝えるにしても、どの情報をいつ伝えるかのタイミングは重要!

採用担当者でC.情報を先に伝える人はいないでしょう。募集時に伝えるべきはA.情報ないしはB.情報です。

A.情報を1つ掲げたくらいでは大手企業、人気企業にはかなわないかもしれませんが、独自色のあるA.情報やたくさんのA.情報なら戦えるかもしれません。腹をくくってB.情報にこだわって伝えれば「好きな人は好き」という人材がSNSなどを通じて集まってくれる可能性があります。

また、仕事内容への悪いイメージが原因でそもそも人が集まらないという業界・業種の会社へのアドバイスとしては、入社までに最終的に仕事内容を見せる前に、仕事の前提となる“高次”の情報提供から入ることをお勧めします。

例えば、1)の掲げている企業理念への熱い思いや、2)の会社情報で社会からいかに強く期待され感謝されている会社であるか、あるいはその歴史といった情報です。それらの情報があるかないかで、仕事内容は同じでも全く違った見え方になるからです。

そろそろ「社員を採ってもすぐに辞めてしまう」話のほうに戻しましょう。

ここで天秤(てんびん)ばかりをイメージしてみてください。就職希望者は候補とした会社ごとにこの天秤ばかりを持っています。片方の皿がプラス情報、反対がマイナス情報です。

本人は候補とした各社を回るたびに、その天秤ばかりの左右に新たに知った情報を乗せていきます。ささいなように見えて本人にとっては重い情報もあれば、重要そうに見えて本人にとっては軽い情報もあります。そして、最終的に自分を選んでくれた会社の中で、プラスのほうに一番傾いた会社を選ぶのです。

ところが最終的に選んだ会社から内定をもらい、入社したところが知らされていなかったマイナス情報が飛び込んできたらどうでしょう。たくさんの天秤ばかりを並べ、迷いながら時間をかけて自分が信じた1つを選んだだけにショックは大きい。

そのショック度とマイナス情報の程度によっては、天秤ばかりはマイナス側に完全に傾いてしまい、彼らは退職を決意するのです。

ではどうすればよいか。簡単に言えば、出会いから入社までの間に「入社日までに伝えるべき情報」を全て伝えつつ、天秤ばかりをなるべくマイナス側に傾かせないようにすることです。プラス情報を先に伝えておいて、マイナス情報を小出しにし、マイナス側に傾き過ぎないようにするのです。

採用プロセスにおいて、候補者一人ひとりの自社用天秤ばかりの現状は、頻繁に声をかけたり、相手の表情を確認したりしながら、次の情報を選んで乗せるしかありません。

本人は就職活動中に自社だけでなく、他社とも日々接触しています。自社の天秤ばかりの状態は、他社で得られた情報と比較されることでも傾きが変わります(マイナス側だけでなく、ラッキーにもプラス側に傾くこともあります)。

候補者一人ひとりの天秤ばかりを頻繁にいちいち確認することなど面倒に思えるかもしれません。が、とりわけ中小企業で採用に成功している会社はそこまで丁寧に対応しているのです。

とはいえ、伝えるべき大きなマイナス情報が残っているときはどうすればいいのでしょうか。まず、対策を考えましょう。現時点でできていないことでも、トップが何とかしたいと真剣に考えているのであれば(できればいつまでにかを約束)、それを説明することで説得できるかもしれません。

そうして、プラス側の傾きを維持しつつ、マイナス情報も丁寧に伝えていくしかないのです。本人のマイナスの傾きが大きくなってしまうようなら、残っているA.やB.の情報を順次投入しましょう。

それでも傾きが戻らず他社に行ってしまうのであれば、最後は諦めるしかありません。残念ながらそれが現在の貴社の採用力です。今後もっと採用力を上げていく努力をすればいいでしょう。

すでにお分かりと思いますが、「入社日までに伝えるべき情報」を全て伝えるにしても、どの情報をいつ伝えるかのタイミングはとても重要!なのです。

5  伝えるべき情報を、全て伝えきれているかチェックする

5×3のマトリクスに整理した情報は、基本的には全てを、内定者全員に入社までに伝えましょう。

採用実務を担当した人なら分かると思いますが、どの内定者や採用候補者にどの情報を伝えているのか、あるいは伝えていないのかを把握しておくことは大変です。ですが、そこは5×3の一覧表を意識しつつ、丁寧にチェックしていくしかありません。

全項目をチェックしていくのは厳しいですが、多くの退職者の退職理由に関係していると思われる重要情報については、伝え漏らしてはいけません。相手の志向や価値観などを見極めながら、個々に適したタイミングを判断して伝えましょう。

「これについて伝えておくね」と話して、仮に本人が他の社員や周囲からすでに同じ情報を得ていたのであれば、「そう、で、どう思った?」と本人の受け止め方を確認すればいいでしょう。「全然気になりません」という人もいれば、「早く聞いていたら他社に変えていました」という人もいます。

互いの貴重な時間を無駄にしないためにも、タイミングとともに全ての伝えるべき情報を伝えきれているかのチェックに努めてください。とりわけ外してはいけない情報については赤字にするなど注意しておきましょう。

6 入社後のギャップが少なければ少ないほど、人は辞めない

入社までにかかる時間は、採用する側にとってもそうですが、採用される側にとっても膨大です。それだけの時間をかけて、実に多くの候補の中から、自分の行きたい会社を絞り込んできたわけです。

最後に決めた会社に入社して、思っていたこととのギャップさえなければ辞めたくなるわけがありません。なぜなら自分で描いた中で一番の理想の職場であるはずだからです。

もちろん、いくら伝えるべき情報を、5×3のマトリクスで整理してタイミングよく伝えきれたとしても、本人の入社後のギャップを100%埋めることは不可能です。

理由の1つ目は、情報伝達が完璧なケースはまずないということ。人はそれぞれ背景や個性も異なり、こちらが意図したことと相手の情報の受け取り方がずれることは当たり前にあるからです。

「この点は内定する前に話したよね」「えっ? そうでしたっけ。記憶になくて今びっくりしているのですが……」といった会話は珍しくありません。担当者はできる限り内定者の記憶に残るようなコミュニケーションを心がけましょう。

理由の2つ目は、たとえ本人の入社後のギャップがゼロに近かったとしても、配属された職場の状況は個々に異なるかもしれないということ。

職種別採用ではない場合、配属された仕事内容と本人のイメージにギャップが生まれることもあるでしょう。また制度や社風なども、月日を経て内定時から変わっている場合もあります。

これらについても、入社後に採用担当者や配属された職場のメンバーおよび上司が本人に声をかけ続ければ、理解を得られ、退職防止につなげることができます。

第2回から今回第5回まで、『人が辞めない会社』に変わるためには[採用]という入り口が肝心ということでお話ししてきました。

人材獲得の入り口である採用においては、自社を「必要以上に大きく見せることなく」、求める人材像として「会社が“目指すこと”、“大切にしたいこと”を明示」してみましょう。ネットやSNSの力で、あなたの会社が本当に“採用したい人材”にアプローチすることができます。

そうして内定までこぎつけた人材に、「入社日までに伝えるべき情報」を整理して全て伝え、入社後のギャップが少なければ少ないほど、人は辞めないのです。

第5回を最後までお読みいただきありがとうございました。次回からはしばらく[仕事]についてのヒントをご紹介していきます。

毎回ご紹介するヒントを参考にしながら、自社を退職する一人ひとりの「辞める理由」と、働いている一人ひとりの「辞めない理由」を丁寧に拾ってみましょう。見えてきた自社ならではの“課題”を解消し“強み”を活かせれば、『人が辞めない会社』へと変われるはずです。

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以上(2025年11月作成)
(著作 ブライトサイド株式会社 代表取締役社長 武田斉紀)
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