全社員が持てる“経営的視点”(6)~【存在意義】の共有は採用から~/武田斉紀の『誰もが身に付けておきたい“経営的視点”』(10)

書いてあること

  • 主な読者:会社経営者・役員、管理職、一般社員の皆さん
  • 課題:経営幹部や管理職の方はもちろん、若手社員の方でも「経営的視点で見るように」と社長や上司から求められた経験がないでしょうか。その場でうなずきはするものの、「経営的視点とは何か?」「それは社長以外の社員に必要なのか?」「会社員として働く上で、人生において価値があるのか?」「そもそもどのように身に付けていけばいいのか?」といった疑問をお持ちではないでしょうか
  • 解決策:課題で挙げたさまざまな質問に対して、『“経営的視点”の身に付け方』というテーマで、全国で多くの講演を行っている筆者が明快に回答します。“経営的視点”はこれからの時代において新入社員から求められる視点であって、より早く身に付けられれば、その分、仕事においても人生においてもプラスであると分かるはずです

1 【存在意義】の共有浸透=“経営的視点”の共有浸透

シリーズ『武田斉紀の「誰もが身に付けておきたい“経営的視点”」』の第10回です。

“経営的視点”をより早く身に付けられれば、誰にとってもその分、仕事においても人生においてもプラスになります。では「どうすれば身に付けられるのか」について、今回もさらに掘り下げてお話ししていきましょう。

全社員が持てる“経営的視点”の観点として、ご提示している3点
1)会社の【成長】
2)会社の【組織力】
3)会社の【存在意義】

前々回の第8回からは、「3)会社の【存在意義】」についてお話ししています。

会社の【存在意義】を社内に共有浸透させていければ、全社員が“経営的視点”を持てるようになるのです。その結果は、次の2つのように表れます。
(1)社員一人ひとりが実行した存在意義に共感するお客様は利用し続けてくださり、社会にも認められて、会社は永続し、発展していく。
(2)逆に社員の一人でも存在意義を見失った行動を取ってしまうと、お客様や社会から必要とされなくなる。

前回第9回では、世界的に見て創業100年、200年を超える「老舗企業」が日本になぜ多いのかについて触れました。それは永続させることを目的としてきたというより、会社の【存在意義】を定めて社内で共有浸透させ、全社員が(1)を信じて実現してきた企業が多かった“結果”でした。

そうした日本企業の姿勢が間違っていなかったことは、昨今の世界的な「持続的成長」を意図したESGやSDGsの流れ、米国資本主義を体現してきた企業家たちの修正宣言からも見てとれます。

会社の【存在意義】についての3回目となる今回は、いかにして企業の【存在意義】を定めて社内で共有浸透していけばいいかについてご紹介していきます。

2 【存在意義】が似ていれば、「採用するべき人材」も同じか

前回も触れましたが、会社の【存在意義】は各社で異なります。

例えば「社会に貢献する」と定めている会社はあまたありますが、社会といっても対象はどこまでか、顧客は誰か。その対象に対して「何をどのようにすることで貢献する」のかは各社さまざまです。

業種が違えば取扱商品やサービスも違うでしょうし、仮に同じでも特に重視している、こだわっている部分は違っています。またなぜそこにこだわるようになったかの背景まで遡れば、実に1社、1社、抱えている思いが違うと分かります。

同じエンターテインメントの世界で、A社はジェットコースターのようなアトラクションも抱えたテーマパークを運営しています。【存在意義】としてのこだわりは、「お客様に安心してその場の全てを楽しんで笑顔で帰っていただく」こと。最も重んじているのは「安心安全」です。

特別な1日にしたいと全国から多くのお客様が訪れるのに、たとえ小さな怪我であっても施設側の問題で起きてしまったら、楽しい思い出にはならないだろうと考えているのです。「安心安全」が徹底されているがゆえに、訪れたお客様のほとんどはそれに気付きません。それでもA社は「安心安全」の上で、「お客様全員に笑顔になって帰っていただく」ことにこだわっています。

一方B社は自社運営の劇場やテレビなどのメディアを通して、【存在意義】として「お客様全員に笑顔になって帰っていただく」ことを目指し、「笑い」にこだわっています。

B社も自社の劇場で火事を起こしてはいけないので、専門のスタッフが常に安全確認をしています。しかしながら、舞台の演者や彼らを支えるマネジャーに求められるのは一にも二にも笑いであり、お客様を笑顔にすることに人生をかけて日々切磋琢磨しているのです。

A社とB社は同じエンターテインメント業界にあって、「お客様に笑顔になって帰っていただく」ことにこだわっている点も同じです。ならば、採用するべき人材も同じでしょうか。

3 【存在意義】の共有浸透、その全ての始まりは「採用」から

A社は掲げる【存在意義】を実現するための行動規準として、優先順位の1番に「安全」を明記し、接客における「礼儀正しさ」などを示した後に「楽しませる」を置いています。「楽しませる」は【存在意義】の一部ですから重要なのは間違いないのですが、敢えてそうしているのです。

A社の採用面接にXさんがやってきました。Xさんはお客様を「楽しませる」にかけて天賦の才能があり、そのことで日本一、世界一を目指したいとの揺るぎない情熱も併せ持っているようです。

A社の採用担当者は質問します。「当社では『楽しませる』の前に、『安心安全』を最も重視するべき価値観に置いていますがどう思いますか?」

Xさんは答えます。「『安心安全』も大切だとは思いますが、私は多くの人を前に『楽しませる』のが大好きで、そこに集中したいです。この会社なら人を『楽しませる』ことで日本一、世界一を目指せると思って選びました」

そこで質問です。あなたがA社の採用担当者なら、Xさんを採用しますか。

仮に採用したとしましょう。A社がお客様を「楽しませる」現場の主役はテーマパーク内のアトラクションです。それを支える従業員のほとんどは高校生や大学生を中心としたアルバイトの人たち。Xさんには正社員として入社後早いうちに彼らを数十人単位で束ねながら、自らも接客を行うことが期待されています。

入社直後の研修でも、A社が掲げる【存在意義】を実現するための優先すべき行動の1番目は「安全」であるとしつこく教えられます。Xさんとしては自分が発想した、もっとお客様を「楽しませる」ための仕掛けや提案を聞いてもらえるのではと期待していたのですが。

「『安全』が大事なのはわかるけれど、『安全』でない、危険なんてそうそう起こらないでしょう。自分はそれよりお客様をもっと『楽しませる』ためにここにいるのだ」と心の中でつぶやいていました。

現場に出て間もなく、恐れていたことが起きました。ライド(乗り物)に乗ってコース内を回るアトラクションの乗り場を任された日。Xさんは乗車するお客様にオリジナルの冗談を言って笑わせながら誘導していました。若いお客様などは大喜びで、一緒の写真を求められてXさんもご機嫌です。

そこに少し足の不自由なお客様が来られたのですが、乗車に時間がかかって転んでしまったのです。離れて見ていたXさんは陽気に声をかけ、強く手を引っ張って次の車両に乗せようとしましたが、お客様はよろけてしまい、動いているライドに接触しそうになりました。

一連の行動を近くで見ていたベテランアルバイトのYさんが駆け寄ってきました。最初に取った行動はライドを一旦停止させることでした。次に転んだお客様を近くの椅子に連れて行って座らせ、並んでいるお客様に「安全のために、運転を一時停止しました。確認中ですのでしばらくお待ちください」と説明して頭を下げると、他のスタッフにライドの安全確認を指示し、自らは先ほどのお客様のもとに戻って怪我の状態を確認したのです。

Xさんは上司に呼ばれました。最初にA社の行動規準の1番目が何で、なぜそうなのかを説明するように求められ、研修で聞いた通りを答えました。「だとすれば、Xさんはどう判断してどう行動するべきだったと思いますか?」

「お客様が転んだのは確かですが、本人は大丈夫ですって言っていましたよ。何より行列がすごく長くなってきていましたから、ライドを停めてこれ以上後ろのお客様を待たせるなんてよくないですよね」

上司は改めて、A社が掲げる【存在意義】と、その実現のために優先すべき行動について分かりやすく例をあげて説明しました。

パーク内の他の従業員も、その日のXさんの行動を知りました。正社員として現場をリードしていく存在として、Yさん以外のアルバイトからも不安の声が上がりました。Xさんと働き始めた新人は、接客のたびに「もっと面白いことを言ってお客様を楽しませて」と要望されて辛いとこぼしています。

4 採用で【存在意義】を共有できるかは、「実績」よりも大事?

採用するべき人材の優先順位

さて、図のように、人材の採用において重視するべきポイントを「【存在意義】の共有度」と「実績」でクロスした場合、あなたは採用するべき人材の優先順位はA~Dのどの順だと考えますか。

AやBの「実績が高い」人材に対しては、厚待遇を用意できる大手企業や人気企業、他の競合も含めて熾烈な争いとなるでしょう。

特にAの人材は一番採用したいものの、かなりハードルが高そうです。

反対に最も採用したくない人材がDであることにも異論はないでしょう。となると残るはBとCです。

あなたが採用担当者なら、「【存在意義】の共有度」と「実績」のどちらが高いことを優先して採用しますか?

私は講演や研修で受講者の皆さんに同じ質問をするのですが、多くの方は悩みながらもCの人材を優先するとおっしゃいます。でも毎回数人はBを優先すると手をあげます。

「実績」はこれまでの会社や業界では通用しても自社では発揮できないかもしれません。採用されたいがために本人が多少盛っている場合もあります。また今の時代、イノベーションが常に求められる業界では、過去の「実績」がかえって足かせとなる場合もあるでしょう。

とはいえ「実績」が事実であるなら、採用する側としては安心感がありますし、採用決定に当たっては上司も説得しやすそうです。とりわけすぐにでも結果を出して業績を回復させたいといった短期的ニーズがあれば、CよりBを優先したい気持ちは分かります。

けれど長期的な視点で見ればどうでしょう。先ほど登場したXさんは、お客様を「楽しませる」にかけて天賦の才能と「実績」、さらには熱い情熱も持っていたのでしょうが、A社の【存在意義】実現のための価値観への共有度は高いとは言えません。本人だけでなく、他の従業員のモチベーションさえも下げかねない状態でした。

長期的な視点で人材を採用するのであれば、BよりCの人材を優先するべきだと私は思います。

「実績」はもちろん「スキル」も備わっていなければ、Cの人材が結果に結びつくまでには時間がかかるかもしれません。それでもCの人材には【存在意義】を共有している強さがあります。【存在意義】を実現していくことに日々努力を惜しまないでしょう。早晩、「実績」や「スキル」を超える結果を導き出してくれる可能性が高いのです。

すでに皆さんもお気付きでしょう。お客様を「楽しませる」のが得意なXさんは、B社を選んだほうが、会社にとっても本人にとっても幸せになれるはずです。

A社の採用担当者は、あえてXさんを採用しないことが全社で【存在意義】を共有浸透させていくことに繋がります。【存在意義】を共有できる人材を採用することは、入社時点ですでにA社における“経営的視点”を持っていると言えるのですから。

第10回も最後までお読みいただきありがとうございました。シリーズも残すところあと2回です。さらに“経営的視点”について実践的に掘り下げてまいります。

<ご質問を承ります>
最後まで読んでいただきありがとうございます。ご質問や疑問点などあれば以下までメールください。※個別のお問合せもこちらまで

Mail to: brightinfo@brightside.co.jp

以上(2023年4月)
(著作 ブライトサイド株式会社 代表取締役社長 武田斉紀)
https://www.brightside.co.jp/

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画像:NicoElNino-shutterstock

PR活動を始めませんか? コストも手間も人員も最小限で大きな宣伝効果を得る方法

書いてあること

  • 主な読者:「PR活動は大企業のやるもの。中小企業には関係ない」と考え、PR活動をしたことのない中小企業
  • 課題:PR=大掛かりで素人には難しいという先入観がありハードルが高いと誤解している
  • 解決策:コスト、手間、人員を最小限に抑えて始められる。適切な記者と掲載媒体に、適切な情報を適切な方法で伝えれば、大きな宣伝効果が得られ、営業もしやすくなる

1 PR活動は営業が「売りやすく」なる後押しをしてくれる!

皆さんの会社では、PR活動をしていますか? PR活動をしたことのない中小企業の方々は、「PR活動は大企業のやること」などと考えていないでしょうか。中小企業がPR活動に抱きがちな、下記の先入観。実は、これらは全て誤解です。

  • PR活動は大企業のやること。中小企業には関係ない
     →中小企業もPRに成功すれば大きな効果を得て、営業がしやすくなる
  • 良い商品・サービスを作っているから、PRなんて必要ない
     →良い商品・サービスでも、情報発信をしないと伝わらない。だからこそ、PRすべき
  • 自分で「すごい」と吹聴するなんて恥ずかしい
     →「すごい」と評価するのは記者や顧客であって、会社は情報を伝えるだけ
  • 芸能人を呼んで、大きな会場で発表会? うちにはムリ
     →PRは規模の大きさではなく、情報の届け方を工夫することによって成果につながる

中小企業に適したPR活動のやり方がありますし、良い商品・サービスだからこそ、効果的なPR活動によって話題になれば、より高い効果が見込めるのです。

「せっかくの良い商品・サービスを提供する会社が消えていき、情報発信の巧みな会社が生き残るのを見てきました」と語るのは、企業のPR・マーケティング支援をするビーコミの代表取締役の加藤恭子さん。『話題にしてもらう技術』(技術評論社)の著書もある加藤さんは、中小企業の経営者の皆さんに、

「まずは小さく始めてみませんか?」

と提言します。小さく始めても、

話題になれば、「あの商品ですね」で話が通じ、営業もしやすくなる

と言います。

この記事では、中小企業が成果を得られるPR活動について、記者と企業広報の双方の経験を持つ加藤さんにお話しいただきます。皆さんの会社がPR活動を始めるきっかけになれば幸いです。

2 小さく始めるPR活動とは?

1)まずは他社の情報発信を参考にする

PRというと、大企業が行い、テレビなどでも放送される、ゲストに芸能人が登場するようなイベントをイメージするかもしれません。しかし、商品・サービスの取材を目的に訪れた記者たちの本音はというと、「芸能人に食いつくのは芸能記者だけ」「商品やサービスの情報が欲しいのに」という声が聞かれます。商品・サービスについて書きたい記者にとって、欲しい情報でなければ、いくら旬の芸能人を呼んだところで記事などに取り上げられにくいでしょう。それならばエンジニアが、商品の裏側やスペックについて、詳しく技術説明をするほうが望ましいのです。大切なのは、

「発信する内容が、自社の商品・サービスを届けたいユーザーにマッチしているのか?」という視点

です。

自社の商品・サービスでハッピーになるのはどんな人たちなのか。そして、まずは、

顧客(や販売代理店)となり得る人たちが、どこで情報を得ているのかを見ること

から始めましょう。業界紙かもしれませんし、特定のウェブ媒体かもしれません。

また、うまく情報発信をしている他社が、いつ、どこで、どのように情報発信しているのかを見るのも第一歩です。Twitterのアカウントを作って、つぶやかずに、まずは他社のアカウントの発信を見るだけでもよいでしょう。

2)きらびやかな記者発表会ではなく、地道な勉強会・説明会を積み重ねる

1.新商品がなくても開催できるメディア向け勉強会

発表会という形式にこだわる必要はありません。また発表できる新商品が頻繁にあるとも限らないでしょう。そこで、新商品を主役として押し出すのではなく、業界動向や周辺知識など、記事を書くのに役立つ情報を学べる勉強会や説明会という形式を取るのです。ポイントは、

前提となる知識がなくても参加できることを記者に伝え、参加のハードルを下げること

です。例えば、IT関連のサービスを提供する会社であれば、セキュリティーの勉強会としてランサムウェアをテーマに、近年の被害状況や対策などを学んでもらいます。少人数の技術説明会という形式を取ることもあります。こうした勉強会に参加する記者は、情報感度が高く熱心な人が多いものです。その分、良い記事につながりやすいでしょう。

参加した記者たちからは、「発表会だと、主催した会社からも、また社内からも、記事執筆を期待されてしまうプレッシャーがある。勉強会ならば、聞いてみて、内容が良ければ記事にしようという気軽さで参加できるからよかった」という声もあるそうです。

発表会・説明会・勉強会の比較

2.副業ライター・フリーライターの力を借りる

開催時間や曜日も工夫しましょう。昨今は副業やフリーランスのライターも増えているので、平日の夜間や週末に行うことで参加しやすくなります。メディア単位でPR対象者を考えることも大切ですが、

「人」単位を対象に考えると、意外にPR先が広がる

ものです。なぜなら、副業やフリーランスのライターは、複数のメディアに寄稿していることが多く、1人へのアプローチが多くのメディア掲載につながり得るからです。

このような勉強会を地道に積み重ねることで、「もっと掘り下げたい」と大きなインタビュー記事につながった事例もあれば、1回の勉強会ですぐに記事になった事例もあります。後者は、業界では当たり前のこととして言及してこなかった商品の機能について説明したところ、記者は「目新しい情報」と判断して記事になりました。このように、業界の常識として「言うまでもないことだ」と思い込んでいる事柄でも、受け手が変われば、全く新しい情報となり得るのです。例えば、このメディア向け勉強会・説明会も、PR活動をしている人には当たり前で、今更説明する必要はないのかもしれません。しかし、初めて聞く人にとっては、新鮮でニュース性のある情報ではないでしょうか。

3)「出したい」情報と「欲しい」情報の距離を縮める

会社の「出したい」情報と、ユーザーの「欲しい」情報が乖離(かいり)していることが、かなりの頻度で見られます。記者は読者の欲しい情報を提供したいのですから、もちろんユーザーの目線で情報の価値を判断します。会社と記者(ユーザー)の「情報に対する価値」のギャップを縮めることが必要です。

会社の「出したい」情報・ユーザーが「欲しい」情報

また、昨今は過剰なターゲティング広告やステルスマーケティングに対して厳しい目が向けられています。それは「欲しい」情報が適切に届いていないからともいえるのではないでしょうか。届け方を間違うと「しつこい」情報として嫌われてしまいますが、欲しい情報が、欲しいときに、欲しい形で提示されれば、途端に「うれしい」情報に変わるものです。

そもそもPRとはpublic relationsの略で、メディアなどを介して情報を適切な相手に届けることで、公衆との関係を構築することを指します。PR活動を始めると、自社の商品・サービスをより欲しているユーザーへ情報が届きやすくなります。

4)タイミングよく情報を届けるコツ

情報を届けるタイミングは、

  • ユーザーが欲しいとき
  • 会社が出したいとき

の両方を考慮する必要があります。両者が合致するタイミングがあれば、なおよいでしょう。また、1回出して終わりではなく、継続的な情報発信をこまめに続けていくことが大切です。ニュース記事には、よほど季節外れといったもの以外は、特に時期を問わないことが多いです。なお、お盆やお正月の少し前など、他社の情報提供が減る時期にあえて情報提供を行うと、ライバルが少なく取り上げてもらいやすくなります。

また、タイムリーにメディアへ情報を届けるコツとして、

例年繰り返されている特集に着目する

方法があります。雑誌や業界紙では、例年同じ時期に似たテーマの特集が組まれる傾向があります。バックナンバーを見て、例えば「3カ月後に半導体特集が組まれそうだな」というものがあれば、それに合致した情報をメディアへ提供してみるとよいでしょう。

3 会社や経営者のメッセージ・ストーリーを伝えてみよう

ユーザーや記者が知りたい情報はさまざまで、会社側が思うよりも幅広いものです。例えば、次のような情報は、会社が思っている以上に、ユーザーや記者にとって価値があるものです。

  • 商品・サービスの誕生秘話
  • 工場の従業員がどんな思いで作っているか
  • 商品の仕組み
  • ユーザーの声
  • 経営者の方針や理念

会社や経営者のメッセージやストーリーを伝えていきましょう。「うちの会社にストーリーなんてないよ」と思う経営者がいるかもしれませんが、

どんな会社や経営者、商品・サービスにもストーリーはあります。

また、

商品・サービスには必ずある、誰かの困り事を解決したり、豊かさにつながったりしている部分を伝えていく

のも、PRの大きな役割です。

ストーリーを「棚卸し」するには、社内でも社外でも構いませんので、客観的に聞き手になってくれる人との対話を通していくと、思わぬ気付きを得られたり、言語化されていったりするでしょう。メッセージやストーリーに引かれて、商品・サービス、ひいては会社を好きになってもらえれば、ユーザーは「少し値が張るとしても買おう」という気になるものです。

4 ユーザーとの架け橋に 中小企業に無理のない体制

1)PRの業務は兼務からでもOK。ただし「評価される仕組み」は必要

商品・サービスについて、問い合わせ窓口として、総務担当者を配置している会社は少なくありません。しかし、その場合、2つの問題があります。

  • 「問い合わせがあったときの対応」という受け身になっていること
  • 業務外の役割を兼務する形になっていること

2つ目については、隙間時間に片手間にやる雑務としてではなく、きちんとその人の業務として与え、評価にもつながる仕組みにすべきです。またその分、他の業務量を減らす工夫も必要です。そうでなければ、「本来の業務ではないのに」と不満が募りかねません。

最初は兼務でよいですが、PRの効果が出てきて、取材依頼など業務量が増えたところで、専任者を考えましょう。ただ、昨今のスタートアップやベンチャー企業では、早い段階で専任のPR担当者を置く流れになってきています。それだけPRの重要性を感じているのだといえます。

2)秘書がPR担当を兼務すると失敗するワケ

秘書がPR担当を兼務して失敗するケースも見受けられます。その原因は、

秘書兼PRが、会社・経営者のほうばかりを向いてしまい、客観的な視点を持てないから

です。会社・経営者のことを大好きな秘書がPR担当になること自体は問題ありません。ただし、経営者に対して、「今、会社・経営者は、世間からこう見えていますよ」と客観的に言える人でなくてはなりません。そうでないと、例えば時代にそぐわない発言をしてしまうといった経営者の行動を事前に止めることができなかったり、お詫び文書をタイムリーに出すことができなかったりと、リスクにつながりかねないからです。

加藤恭子(かとう きょうこ)
株式会社ビーコミ 代表取締役加藤恭子
IT系月刊誌、ウェブメディアでの記者・編集者を経て、外資系テクノロジー企業の日本法人立ち上げに参画。マーケティングマネージャーを経て、現職。記者として取材する側、企業の広報として取材される側、両方の経験を活かし、スタートアップから多国籍企業まで企業のPR/マーケティングを支援。テクノロジー企業の広報の実務支援やアドバイス、コミュニケーション活動のサポートを多く手掛ける。著書に『話題にしてもらう技術』(技術評論社)がある。
ホームページ:https://www.b-comi.jp/

以上(2023年2月)

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画像:Tierney-Adobe Stock

戦国時代に活躍した武将・立花道雪。多くの優秀な部下を育て慕われた彼の教育方針が分かる一言とは?

他の家に仕えておくれを取った士卒がいれば、わしの方にきて仕えるがよい。うって変わって逸物にしてやろう

立花道雪は戦国時代、九州の大名である大友家の柱石として、73歳で病死するまでこれを支え続けた武将です。若い頃に落雷に遭って下半身不随になるも、士卒に輿(こし)を担がせて戦場で指揮を執ったほどの勇猛な人物で、戦場で味方が劣勢のときにも「わしを敵のただ中にかつぎ入れろ。もし命が惜しくば、そのあとで逃げろ」と号令して士卒たちを奮起させ、常勝を誇ったといいます。

道雪は常々、「本来弱い士卒というものはいないものなのだ。もし弱い者がおれば、その人が悪いのではなく、その大将が本人を励まさないことに罪がある」と語り、冒頭の言葉を述べました。

道雪は部下を逸物(すぐれた者)に育てるため、何より部下を大切に扱い、愛情を注ぐという方法を採りました。戦場で活躍できていない部下には、「あなたが弱い人間でないことは分かっているから、焦らなくていい」と励まし、武具などを与えます。また、客を招いた席で若い部下が粗相をした際は、「(この者は)ただいま不調法いたしましたが、軍に臨めば火花を散らして戦います。槍(やり)は家中随一の腕です」とフォローします。道雪からこうした扱いを受けた部下たちは、道雪のために何とか役に立ちたい、命も惜しくないと思い、逸物に育っていったのです。道雪が育てた部下の支えを得て、道雪の養子である立花宗茂は、江戸時代に九州・柳河藩の藩祖となりました。

現代でも、会社に貢献できない社員は、本人の能力や努力不足といわれがちです。ですが、道雪のようなリーダーは、異なった見方をします。

社員を活躍させてあげられないのは、社員自身よりも、トップや上司、さらには会社そのものに問題があるのではないかと考えるのです。そのような視点に立っていれば、上司が部下に、「どうしてパフォーマンスが悪いのか」と責める前に、まずは「どうして自分は部下のパフォーマンスを上げられないのか」を問うはずです。

社員が組織になじめなかったり、仕事の内容が入社当初の想定と違っていたりして、会社を去っていくというのは、ビジネスではよくあるケースです。しかし、それを当たり前と捉えて「たまたま辞めた社員が会社に合わなかっただけ」と結論づけるよりも、「この会社には、その社員を活躍させられるだけのキャパシティーがなかった」と考えて社内体制を見直していったほうが、次の採用に活かせますし、会社の成長にもつながります。

むしろ、自分たちに都合の良い人材しか活かせない会社には、今後人が集まらなくなる恐れがあります。国内では人口減で労働人口が減る上に、国際化の進展によって海外で働くハードルが下がりつつあるからです。

SDGsの原則である「誰一人取り残さない」という言葉も、道雪の視点と重なる部分があるといえます。世界の流れは、取り残された側ではなく、取り残した側が“しっぺ返し”を受ける方向に進んでいるといえるかもしれません。

出典:「名将言行録:現代語訳」(岡谷繁実原著、北小路健、中澤恵子訳、講談社、2013年6月)

以上(2023年3月)

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画像:freehand-Adobe Stock

【朝礼】小さな時間を縮めて大きな仕事をしよう

皆さん、毎日お仕事お疲れ様です。仕事をしていると、「もっと時間があったらいいのに」と思うことも多いでしょう。日々の仕事をこなすための時間もそうですし、何か新しいことに取り組もうと思うと、そのための時間を作り出すのはさらに大変です。

1日は、みな平等に24時間です。それを26時間に増やすような魔法はありません。毎日の時間が決まっている以上、時間の使い方を変えていくしかありません。同じ時間でより多くの仕事をこなすためには、一つひとつの仕事にかかる時間を短縮するのが一番です。例えば、仕事にかかる時間を1割減らすことができれば、その積み重ねは大きな違いになるはずです。

「今でも目いっぱい仕事をしているのに、そんなことは無理だ」と思う人もいるかもしれません。けれども、考えてみてください。いつも10分かけて歩いている道を9分で歩くことは不可能だと思いますか? それくらいなら、少し早歩きすればできると思いませんか? では仕事ではどうでしょう。10分かけてする作業を9分で仕上げることはできませんか? 1割と考えると難しいように思えますが、10分の作業を9分で仕上げると考えると、少し動作を速くすればできることだと思います。

10分でやっている作業を9分でできるようにすれば、1時間で6分の余裕が生まれ、8時間の就業時間で48分にもなります。

時間に余裕を持つことで、ゆったりと行動できます。それで今までよりも一段深く考えをめぐらせ、仕事に一工夫を加えてよりよいものができれば最高でしょう。また、仕事が早く終われば、その分自分の時間を持つこともできます。

では仕事にかかる時間を1割減らすにはどうしたらよいでしょうか。もちろん、手抜きで時間を短縮するのはいけません。

私は、難しく考えず、簡単にできることから始めればいいと思います。例えば、整理整頓を心がけ、よく使う資料は目立つ場所に保管したり、ファイルに見やすく名前を付けたりといったことです。また、同じような作業はできるだけまとめて行うことや、仕事にとりかかる前に終了時間を決めておくことも時間短縮に効果的です。

今言ったようなことは、基本的なことで誰もが知っているといえばそれまでですが、十分に実践できていないことも多いのではないでしょうか。こうした小さな努力の積み重ねで、仕事の質を落とさずに時間を短縮することができるはずです。

皆さんには今日これから、自分の仕事時間を1割短縮する努力をしてほしいと思います。最初は意識しないとできないかもしれませんが、習慣づければ自然と時間短縮ができるようになります。そうして一つひとつの行動でちょっとずつ時間を短縮していけば、貴重な時間を生み出し、よりよい仕事ができるようになるでしょう。

以上(2023年4月)

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画像:Mariko Mitsuda

法人税が安くなるお得な制度4選~賃上げ、DX、設備投資をした会社は読まないと損をする?

書いてあること

  • 主な読者:2023年度に賃上げや新たな投資を考えている経営者
  • 課題:税制改正は毎年行われるが、改正年度の翌年度から実施されるものもあり、今期(2024年3月期)に適用できる税制かどうか分かりづらい
  • 解決策:税制改正により要件が緩和された「所得拡大促進税制」、適用期限の延長された「DX投資促進税制」「中小企業投資促進税制」「中小企業経営強化税制」について、適用対象や手続きの確認をする

1 税制改正大綱の内容はいつから実行される?

年末年始に税制改正大綱が公表されると、その内容が今すぐに実行されそうに思えます。しかし実際はそのようなことはありません。税制改正大綱の内容を実行するための法令はその後に審議されますし、そもそも税制改正大綱には、

その翌年度の改正だけでなく、翌々年度の改正

も含まれているからです。

となると、経営者や実務担当者は税制改正大綱の内容がいつから実行されるのかを意識しておく必要があります。そういう意味でいえば、直近の税制改正大綱の内容はどうなのでしょうか。皆さんが注目している税制改正が実はまだ先のことだったら困りますよね。

そこで、この記事では、近年話題になっているさまざまな税制の中から、

中小企業が得をする法人税の税制

について紹介していきます。具体的には、

賃上げをした、DXを進めた、設備投資をした

という中小企業の経営者や実務担当者は確認してみてください。

2 賃上げをしたら「所得拡大促進税制」

所得拡大促進税制は、中小企業が前年度よりも給与などを増やした場合に、その増加額の一部が控除できる制度です。通常要件に加え、上乗せ要件AとBがあり、それぞれの要件を満たすごとに、一定の税額控除率が加算されます(最大の税額控除率40%)。

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例えば、給与の合計額を前年度から500万円増やした場合、75万円(=500万円×15%)を法人税額から控除できます(通常要件のみを満たした場合のケースです)。税額控除なので、75万円分、納税額が少なくなります。ただ、上限金額が決まっており、税額控除前の法人税額の20%までしか控除できません。

この税制の適用を受けるためには、法人税の申告の際に、確定申告書に、税額控除の対象となる雇用者給与等支給増加額、控除を受ける金額と、その金額の計算に関する明細書を添付する必要があります。

3 DX投資をしたら「DX投資促進税制」

DX投資促進税制は、クラウド化やシステム導入などデジタル環境の設備投資をした場合に、その投資額の一部を税額控除か、特別償却(通常の減価償却費のかさ増し)の選択適用ができる制度です。要件は投資内容の要件(デジタル要件)と投資の効果等に関する要件(企業変革要件)の2要件を満たす必要があります。

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例えば、1000万円のDX投資をして税額控除を選択した場合、30万円(1000万円×3%)を法人税額から控除できます(法人税額の20%限度内である場合)。

なお、投資額の上限(300億円)と下限(国内売上高の0.1%以上)が決められているため、注意が必要です。

この税制を受けるためには、事前に計画申請と適合確認(この課税の特例に適合するかどうかの確認)申請し、国から認定を受けなければなりません。申請準備から認定までおおよそ6カ月はかかるといわれているので、早めの相談が必要です。法人税の申告の際には、確定申告書に、確認書の写し、認定書の写し、認定計画の写しを添付する必要があります。申告後も、毎事業年度終了後3カ月以内に事業実施の報告書を提出しなければなりません。

4 一定の設備投資をしたら「中小企業投資促進・経営強化税制」

1)中小企業投資促進税制

中小企業投資促進税制は、生産性の向上を目的に一定の設備投資やソフトウェアを購入した場合に、その投資額の一部を税額控除か、特別償却のいずれかを選択して適用できる制度です。ただし、資本金3000万円超の中小企業については特別償却しか適用できません。

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例えば、生産性の向上を目的に200万円の機械装置を購入して、税額控除を選択した場合、14万円(200万円×7%)を法人税額から控除できます(法人税額の20%限度内である場合)。

なお、購入した設備ごとに購入金額や重量などの下限が決められています。また、一部の業種(電気業、水道業、鉄道業、航空運輸業、銀行業、映画業を除く娯楽業など)は、対象外とされているため、自社の業種が指定事業に含まれているか確認してみましょう。

この税制の適用を受けるためには、事前の申請などは必要なく、法人税の申告の際に、確定申告書に一定の書類を添付することで適用を受けることができます。

1.特別償却の場合

  • 中小企業者等または中小連結法人が取得した機械等の特別償却の償却限度額の計算に関する付表
  • 適用額明細書

2.税額控除の場合

  • 中小企業者等が機械等を取得した場合の法人税額の特別控除に関する明細書
  • 適用額明細書

2)中小企業経営強化税制

中小企業経営強化税制は、中小企業等経営強化法の認定を受けた経営力向上計画に基づいて新たな設備投資をした場合に、税額控除か即時償却のいずれかを選択して適用できる制度です。要件は4つのタイプに分かれており、それぞれに定められた要件を満たす必要があります。また、法人税の申告の際に、確定申告書に一定の書類(別表や適用額明細書)を添付することで適用を受けることができます。

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 例えば、150万円のシステム投資を行って税額控除を選択した場合、15万円(150万円×10%)を法人税額から控除できます(法人税額の20%限度内である場合)。

なお、中小企業投資促進税制と同様、購入した設備ごとに購入金額に下限が決められているため、注意が必要です。また、一部の業種(電気業、水道業、鉄道業、航空運輸業、銀行業、映画業を除く娯楽業など)は、対象外とされているため、自社の業種が指定事業に含まれているか確認するようにしましょう。

この税制を受けるためには、事前に経営力向上計画を作成し、国から認定を受けなければなりません。申請準備から認定までおおよそ3カ月はかかるといわれているので、早めの相談が必要です。また、法人税の申告の際に、確定申告書に一定の書類(認定計画の申請書および認定書の写しや、別表、適用額明細書)を添付しなければなりません。

以上(2023年4月)
(執筆 南青山税理士法人 税理士 窪田博行)

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経営者の学び直し~「株主の権利」を知れば会社経営が安定する

書いてあること

  • 主な読者:株主総会などを前に、株主の権利を改めて確認しておきたい経営者
  • 課題:「自益権」と「共益権」というが、具体的な内容が分からない
  • 解決策:基本を確認し、必要に応じて会社法を確認したり、専門家に相談したりする

1 主な株主の権利

1)自益権と共益権

株主の権利は自益権と共益権とに大別されます。

自益権とは、

剰余金の配当を受ける権利、残余財産の分配を受ける権利など、会社から直接経済的な利益を受ける権利

です。全ての自益権は1株の株主でも行使できる単独株主権です。

共益権とは、

株主総会の議決権を行使する権利、取締役等の違法な行為の差止めを請求する権利など、会社の経営に参与し、あるいは会社の経営を監督是正する権利

です。共益権は他の株主の利益にも影響するため、単元未満株主を除き1株の株主でも行使できるもの(単独株主権)と、一定の議決権数または総株主の議決権の一定割合の議決権もしくは、発行済株式の一定割合の株式を有する株主のみが行使できるもの(少数株主権)とに分かれます。

以降で、主な単独株主権を見ていきましょう。

2)株主の投下資本回収に関する権利

  • 剰余金の配当を受ける権利(会社法第105条第1項第1号)
  • 譲渡制限株式の譲渡を承認しない場合の譲渡制限株式の買取を請求することができる権利(会社法第138条第1号ハ、第2号ハ)
  • 残余財産の分配を受ける権利(会社法第105条第1項第2号)

3)株主総会に関する権利

  • 株主総会において株主総会の目的である事項につき議案を提出することができる権利(会社法第304条)
  • 株主総会において特定の事項について質問をすることができる権利(会社法第314条)
  • 株主総会における議決権(会社法第105条第1項第3号、第308条第1項)

4)取締役等の不正行為に対応するための株主の権利

  • 取締役が会社の目的の範囲外の行為その他法令もしくは定款に違反する行為をし、またはするおそれがある場合において、当該行為によって当該会社に著しい損害が生じるおそれがあるときに、当該取締役に対して当該行為をやめることを請求することができる権利(違法行為の差止請求・会社法第360条)
  • 取締役が会社の目的の範囲外の行為その他法令もしくは定款に違反する行為をし、またはするおそれがあると認めるときに、取締役会の招集を請求することができる権利(取締役会招集請求・会社法第367条第1項)
  • 募集株式の発行もしくは自己株式の処分が法令もしくは定款に違反する場合、または募集株式の発行もしくは自己株式の処分が著しく不公正な方法により行われる場合において、株主が不利益を受けるおそれがあるときに、募集株式の発行または自己株式の処分をやめることを請求することができる権利(募集株式発行差止、自己株式処分差止請求・会社法第210条)
  • 募集新株予約権の発行が法令もしくは定款に違反する場合、または募集新株予約権の発行が著しく不公正な方法により行われる場合において、株主が不利益を受けるおそれがあるときに、募集新株予約権の発行をやめることを請求することができる権利(新株予約権発行差止請求・会社法第247条)
  • 会社の設立、株式(会社成立後)の発行、自己株式の処分、会社の合併・分割など、会社の組織に関する行為の無効を、訴えをもって主張することができる権利(組織に関する行為の無効の訴え・会社法第828条各号)

5)会社の有する情報を取得するための権利

  • 株主総会議事録等の閲覧または謄写を請求することができる権利(会社法第318条第4項、第319条第3項)
  • 株主の権利を行使するために必要があるときに、取締役会議事録等の閲覧または謄写を請求することができる権利(会社法第371条第2項)
  • 計算書類等の閲覧、謄本または抄本などの交付を請求することができる権利(会社法第442条第3項)
  • 株主名簿、新株予約権原簿の閲覧または謄写を請求することができる権利(会社法第125条第2項、第252条第2項)

2 主な少数株主権

1)少数株主権とは

少数株主権とは、一定の議決権数、総株主の議決権の一定割合の議決権または発行済株式の一定割合の株式を有する株主に認められる権利です。ここでは、非公開会社における主な少数株主権とその内容を見ていきます。便宜上、取締役会設置会社を前提とします。

なお、以下の議決権割合や株式数を下回る割合や数を定款で定めた場合には、それに従うことになります。また、次の株主の権利は、それぞれ原則の規定を紹介するものであり、法令や定款の定めにより、その権利に制限がなされている場合があります。

主な少数株主権とその割合

2)株主総会検査役の選任申立権(会社法第306条)

総株主(完全無議決権株式の株主を除く)の議決権の100分の1以上の議決権を有する株主は、株主総会に係る招集の手続きおよび決議の方法を調査させるため、当該株主総会に先立ち、裁判所に対して、検査役の選任の申し立てをすることができます。

3)議題提案権(会社法第303条)および議案の要領の通知請求権(会社法第305条)

取締役会非設置会社では、株主総会の議題提案権は単独株主権とされますが、取締役会設置会社における株主の議題提案権は少数株主権となります。次のどちらかに該当する株主は、取締役に対し、一定の事項を株主総会の目的とすることを請求することができます。

  • 総株主の議決権の100分の1以上の議決権を有する株主
  • 300個以上の議決権を有する株主

また、取締役会設置会社における議案の要領の通知請求権(株主総会の目的である事項につき自らが提出しようとする議案の要領を株主に通知することを請求することができる権利)も少数株主権です(会社法第305条)。

なお、株主の「議案提出権(会社法第305条)」は単独株主権のため、株主であればその権利行使が可能です。

4)株主総会の招集請求権(会社法第297条)

総株主の議決権の100分の3以上の議決権を有する株主は、取締役に対し、株主総会の目的である事項および招集の理由を示して、株主総会の招集を請求することができます。

5)取締役等による責任の一部免除への異議(会社法第426条第7項)

取締役が2人以上あり、かつ監査役設置会社である会社などにおいては、定款に定めをおくことにより、責任を負う役員等である者を除いた取締役会決議(取締役非設置会社であれば責任を負う役員等である者を除いた取締役の過半数の同意)によって一定の額を限度として、役員等の会社に対する損害賠償責任を免除することができます(会社法第426条)。

取締役会が定款の定めに基づき、役員等の責任の一部免除の決議をしたときでも、総株主(責任を負う役員等である者を除く)の議決権の100分の3以上の議決権を有する株主は、異議を述べることができ、その場合、会社は定款の定めに基づく役員等の責任の一部免除をすることはできません(会社法第426条第7項)。

なお、最終完全親会社等(会社法第847条の3第1項、第2項)のある会社においては、取締役等の特定責任(会社法第847条の3第4項)の追及について、別個の定めが設けられています。

6)業務および財産調査のための検査役の選任申立権(会社法第358条)

株式会社の業務の執行に関し、不正の行為または法令・定款に違反する重大な事実があることを疑うに足りる事由があるとき、以下のどちらかに該当する株主は、当該会社の業務および財産の状況を調査させるため、裁判所に対し、検査役の選任の申し立てをすることができます。

  • 総株主(完全無議決権株式の株主を除く)の議決権の100分の3以上の議決権を有する株主
  • 発行済株式(自己株式を除く)の100分の3以上の数の株式を有する株主

7)会計帳簿の閲覧請求権(会社法第433条)

次のどちらかに該当する株主は、当該請求の理由を明らかにすることにより、会社の営業時間内はいつでも会計帳簿またはこれに関する資料の閲覧、もしくは謄写を請求することができます。

  • 総株主(完全無議決権株式の株主を除く)の議決権の100分の3以上の議決権を有する株主
  • 発行済株式(自己株式を除く)の100分の3以上の数の株式を有する株主

会社は、会社法第433条第2項の閲覧拒否事由に該当すると認められる場合を除き、これを拒むことができません。

8)会社の役員の解任の訴え(会社法第854条)

役員の職務の執行に関し不正の行為または法令もしくは定款に違反する重大な事実があったにもかかわらず、当該役員を解任する旨の議案が株主総会において否決されたときなどにおいて、次のどちらかに該当する株主は、当該株主総会の日から30日以内に、訴えをもって当該役員の解任を請求することができます。

  • 総株主(当該請求に係る役員である株主などを除く)の議決権の100分の3以上の議決権を有する株主
  • 発行済株式(当該請求に係る役員である株主などが有する株式を除く)の100分の3以上の数の株式を有する株主

なお、この場合、株主総会における解任議案の否決等が訴訟要件であるため、訴えを提起しようとする株主は、当該議案を株主総会に付議することなどが必要となります。

9)会社の解散の訴え(会社法第833条)

会社が業務の執行において著しく困難な状況に至り、当該会社に回復することができない損害が生じもしくは生じるおそれがある場合、または会社の財産の管理もしくは処分が著しく失当で、当該会社の存立を危うくする場合において、それぞれやむを得ない事由があるときは、次のどちらかに該当する株主は、訴えをもって会社の解散を請求することができます。

  • 総株主(完全無議決権株式の株主を除く)の議決権の10分の1以上の議決権を有する株主
  • 発行済株式(自己株式を除く)の10分の1以上の数の株式を有する株主

業務の執行において著しく困難な状況とは、それぞれが議決権の50%ずつを保有する株主派閥の対立により、新たな取締役の選任も不能となったケースなどがあります。会社の財産の管理または処分が著しく失当とは、取締役に会社の存立に関わる非行があるにもかかわらず、同人が過半数の議決権を保有するため、その是正が期待できないようなケースなどがあります。

この制度は、主に非公開会社等、株式に流通性のない会社の少数株主が損害を防止するための最後の手段として位置付けられています。

以上(2023年4月)
(監修 リアークト法律事務所 弁護士 松下翔)

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ものづくり中小企業の夢! 「開放特許」を使ってコスパよく自社製品を開発した2社の事例

書いてあること

  • 主な読者:自社製品を作るという夢をかなえたい、ものづくり中小企業の経営者
  • 課題:自社だけでは、新しい技術を開発する時間、人、技術がない
  • 解決策:大企業や大学、研究機関などが公開している未活用の「開放特許」を利用する

1 「開放特許」を使って自社製品を開発しよう!

多くのものづくり中小企業にとって、自社製品の開発は1つの夢といっても過言ではないでしょう。時間やコストを掛け、失敗を乗り越えた先に広がる世界には、新たな可能性が広がっています。この夢をお手伝いする手段として紹介したいのが「開放特許」です。開放特許とは、

大企業や大学、研究機関などの特許権者が公開している未活用の特許

です。特許権者は、未活用の特許を第三者に使用してもらうことでライセンス収入を得ることなどを目的としているため、前向きにこちらの提案を聞いてくれる可能性があります。

この記事では、

  • 開放特許を活用するメリット
  • 売れる特許技術の見つけ方
  • 佐々木工機の「真空吸着ツールスタンド」
  • マイスの部品定数供給装置「パーツカウンター」
  • 事業化するまでの流れ

について紹介していきます。

2 開放特許を活用するメリット

特許庁「特許行政年次報告書 2022年版」によると、国内特許約166万件の半数に当たる約80万件が未活用特許です。これらのうち、「市場規模が合わない」「経営方針が変わった」などの理由で未活用になっている特許が、開放特許として公開されることがあります。こうした開放特許をうまく活用することができれば、中小企業は次のようなメリットを享受できるかもしれません。

  • 開発期間の短縮や費用の削減ができる
  • 大企業の技術者から特許技術を直接学べる
  • 大企業の特許技術を活用することで製品の信用・ブランド力が向上する
  • 大企業との協業関係が深まり、新しい事業展開の可能性も広がる

大企業にとっても、放っておけば何も生み出さない開放特許で、ライセンス収入が得られます。

3 売れる特許技術の見つけ方

1)開放特許データベースから探す

開放特許は、独立行政法人工業所有権情報・研修館(INPIT)が運営している「開放特許データベース(以下「データベース」)」から探すことができます。データベースの登録件数は約2万3000件です(2023年2月時点)。

膨大な開放特許から自社が活用できそうな情報を見つけるのは大変ですが、データベースでは、複数の開放特許を組み合わせてパッケージ化したアイデアを含めて紹介していたり、開放特許の活用事例集を紹介していたりします。

■独立行政法人工業所有権情報・研修館(INPIT)「開放特許データベース」■
https://plidb.inpit.go.jp/

2)地元の産業振興団体に相談する

データベースから探す以外に、地元の産業振興団体に相談する方法もあります。東京都知的財産総合センターの製品化コーディネーターである木村勝己さんは、

「各都道府県にある発明協会や自治体の産業振興課、産業振興団体、商工会・商工会議所、地元の金融機関などの産業支援機関に『特許技術を活用した新製品を開発したい』と相談するほうが、データベースから探すより近道になる場合が多い。なお、各支援団体の専門職員の一部は、自治体特許流通コーディネーターとして特許庁の認定を受け、相互の情報交換や新規開放特許情報などを得ながら活動しています」

と言います。また、各都道府県の産業振興に関わる部署には、特許庁から専門の職員が派遣されているケースもあるので、その人につなげてもらうことも有効だそうです

同センターは東京都内の中小企業と大企業とのマッチング支援をしています。マッチング支援では、数十社参加から数社参加のセミナー・マッチング会の開催や、特許技術を使えそうな技術を持った中小企業を大企業にピンポイントで引き合わせる活動などをしています。

こうしたマッチング会・セミナーは、多くの産業支援機関が自治体ごとに開催しています。新しい自社製品を開発するためにも、このような場を交流活動の一環として考え、定期的に参加することも一策です。

ピンポイントでの引き合わせは、担当者の知識と経験による目利き力だと木村さんは言います。

「まず特許を見て、その技術を使って製品化できそうな中小企業を探し、コンタクトしていきます。あの会社なら製品化できそうだと判断するのは、製品化コーディネーターの目利き力によります」

日頃から交流している企業であれば、「あの企業ならこの技術を活用できそうだ」と思いつくこともあるそうです。

次章からは、開放特許を活用して、自社製品を開発し、事業化に成功した2社を紹介します。

4 佐々木工機の「真空吸着ツールスタンド」

1)会社と開放特許の概要

1.会社名:佐々木工機(神奈川県川崎市、従業員6人)

アルミやステンレス、プラスチックなどの素材を取り扱い、各種機械装置の設計から製作・組み立て・調整・据付などを取り扱っています。特に、空気を動力とした機器の制御(空圧制御)を得意としています。

■佐々木工機■
https://www.sasaki-koki.co.jp/index.htm

2.開発製品:「真空吸着ツールスタンド」(2015年発売)

佐々木工機は、ミツトヨの特許「真空吸着ツールスタンド」を活用し、さまざまな素材の定盤(じょうばん)に固定できる測定用ツールスタンド(以下「ツールスタンド」)を製品化しました。

従来の定盤は鉄製のものが多く、マグネットで固定して測定していましたが、鉄製はさびや温度によって体積が変化するなどの欠点があり、これらの欠点のない石やセラミックの定盤が増えてきています。そのため、マグネットに代わる、固定できる測定器が求められていました。

製品化したツールスタンドは、空気圧で吸着するため、鉄製以外の定盤にも固定することができ、測定の効率を向上させました。

左はミツトヨの特許「真空吸着ツールスタンド」を活用した佐々木工機の製品。右は真空吸着ツールスタンドに比べ排気音を静音化し、固定器具として用途を広げた新製品「Air-fix(画像中央~画像下部)」 (写真提供:佐々木工機)

2)インタビュー(代表:佐々木政仁さん)

1.マッチングに至る経緯

2013年に川崎市の職員と川崎市産業振興財団の知的財産コーディネーターから「ミツトヨさんの真空吸着技術は、空圧技術を持つ御社なら活かせるのではないか」と紹介されたのがきっかけです。

資料を見て、技術的には作れると思いましたが、売れるのかどうかは、分かりませんでした。それでも、ミツトヨさんと協業できることは宣伝になるし、技術交流にもつながるので、当社として大きなメリットになると思い、契約を締結しました。

2.試作の繰り返し

契約後はひたすら試作品作りです。試作品を作り、実験し、それを特許の発明者に見ていただきました。そこで、さまざまな指摘を受けて、修正していくことで、製品をブラッシュアップしていくコツを学びました。

3.大企業と組むメリット

完成に至るまで、ミツトヨさんとは、さまざまな意見交換をしました。そうしたやり取りのなかで信頼関係が深まり、ツールスタンドをミツトヨさんの展示会に一緒に展示してもらったり、ミツトヨさん側から新しく取得した特許を使った製品開発の相談をいただいたりして、ついには佐々木工機・ミツトヨの両社でアイデアを出して作った技術を共同で出願するまでになりました。

また、川崎市内でのミツトヨさん初の開放特許活用事例ということで、川崎市長の記者会見で発表してもらったことでマスコミにも取り上げられ、大企業と組むメリットは予想以上に大きいと実感しました。

4.開放特許を活用したメリット

ものづくりをしている中小企業の共通の夢は、自社製品の開発だと思います。当社はもともと図面通りに金属を加工する会社でした。図面通りには加工できるけれど、図面あっての事業です。そうではなく、自社でコンセプトから製品開発、販売価格まで決め、収益を得ていくのは、中小企業にとってなかなか難しい。開放特許はものづくり中小企業の夢をかなえる1つのツールなのだと思います。

5 マイスの部品定数供給装置「パーツカウンター」

1)会社と開放特許の概要

1.会社名:マイス(神奈川県川崎市、従業員6人)

工業製品の生産に使用される組立機、検査装置、部品供給装置などの自動化装置を作成しています。特に、顧客の要望に応じて開発、設計から組立、配線、制御、据付までを、オーダーメイドで対応する高い技術力が強みです。

■マイス■
https://www.mice1991.co.jp/

2.開発製品:部品定数供給装置「パーツカウンター」(2015年発売)

マイスは、日産自動車追浜工場(神奈川県横須賀市)で試作された特許技術である小型部品定数供給装置の原理を活用して、金属ボルトの部品定数供給装置「パーツカウンター」を製品化しました。

自動車メーカーの生産ラインでは、従来から作業員が車種に応じて必要な数のボルトやナットを取り出していたため、作業の滞りやボルトの締め忘れなどが発生していました。しかし、同製品を導入することで、取りこぼしがなくなり、部品を数える手間などが削減でき、ある自動車メーカーでは、約20%の生産性向上につながったそうです。

同製品は日産自動車に限らず、トヨタ自動車、SUBARU、いすゞ自動車などの自動車会社にも多数導入されています。2017年には、樹脂(プラスチックファスナー)用のパーツカウンターも発売しました。

日産の部品定数供給装置を活用して開発したパーツカウンター。左が「金属ボルト用」、右が「樹脂 (プラスチックファスナー) 用」(写真提供:川崎市産業振興財団)

2)インタビュー(代表:秋山昌宏さん)

1.マッチングに至る経緯

川崎市の知財マッチングイベントで知的財産コーディネーターに紹介され、日産自動車さんと個別面談を行いました。その後、日産自動車追浜工場の自動車生産ラインで部品供給装置の試作品を見たところ、改良も製品化もできると思いました。製品は日産自動車さんに購入してもらえば販路も確保できると思い、契約を締結しました。

2.試作の繰り返し

当社にとって自動車業界との取引は、今回が初めてだったので、原理通りには作れるけれど、自動車ラインがどういうもので、製品はどの場所に設置し、どれくらいの大きさであると一番いいのかも分かりませんでした。そこでヒアリング、試作品開発、テストを何度も繰り返しました。

3.大企業と組むメリット

10人に満たない中小企業は、市場調査もできないので、技術はあっても製品をどう売っていいか分かりません。そのため、大企業の知名度と信用力を活用できるのは、販売面では大きなメリットを感じました。「日産自動車の特許を使った技術」と伝えると話を聞いてくれるケースがよくありました。

6 事業化するまでの流れ

開放特許を活用して、事業化していくために必要なのは「販売ルートを考えること」だと、川崎市産業振興財団の知的財産コーディネーターである西谷亨さんは強調します。

「開放特許を活用するとしても、製品化を目標にするのではなく、どういうルートで売るのかを考えないと、せっかく作ったものが売れないということになりかねません。必ず、販路や客層を確保してから、ライセンス契約を結ぶようにしてください」

また、「自社の事業を洗い出し、強みを見つけることが重要」だそうです。

「自社の強みや本業を活かす技術を探すほうが、実現する可能性は高いと思います。残念ながら大企業とマッチングまで成立しても、製品化や販売にたどり着かないケースもあります。そうならないためにも、まずは自社の強みを見つけてください」

なお、川崎市産業振興財団は下記図表のような流れでサポートしているといいます。これは一例ですが、参考にしてください。

川崎市産業振興財団の中小企業サポートの一例

以上(2023年4月)

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画像:naum-Adobe Stock

【朝礼】自分の仕事は「ローリスク・ハイリターン」だと思えば何でもできる

新年度が始まりました。今年度は皆さん1人1人が新しいことに挑戦し、会社を盛り上げる1年にしてほしいと思っています。営業先の新規開拓、新たなプロジェクトの立ち上げ、製造ラインの見直しなど、どんなことでも構いません。ぜひ、積極的に手を挙げてチャレンジしてください。

ただ、そうはいっても何かを始めるときというのは、「本当に大丈夫かな」「失敗したら怖いな」といった不安が付いて回るものです。そんな不安を感じたときは、ぜひこう考えてみてください。皆さんの仕事は、「ローリスク・ハイリターン」であると。「いやいや、リスクはあるだろう」と思う人もいるでしょうが、大切なのは気の持ちようです。試しに、経営者である私と比べてみてください。

私の主な仕事は、事業のあらゆる局面で最終的な決定を下す「経営判断」です。もちろん些細(ささい)な決定事項もありますが、重要な事項を決めるときは常に「ハイリスク・ハイリターン」です。正しい判断をすることで得られるものは大きいですが、判断を誤れば、場合によっては会社を潰し、皆さんを路頭に迷わせてしまうことだってあります。かといって、何もリスクを取らず、動かないままでは会社を存続させられません。経営者として、会社のためにリスクを取って勝負しなければならないときもあります。ですから、自分で言うのもなんですが、常に慎重に、不安と戦いながら仕事をしているのです。

もちろん社員の皆さんも、会社の中で成長するにつれて重要な仕事を与えられ、責任が重くなっていきます。とはいえ、仮に皆さんが仕事で失敗をしたからといって、会社を潰すほどの影響を与えるのかといえば、基本的には「ない」でしょう。権限の問題もありますが、皆さんの仕事の中で想定し得る程度の失敗であれば、大抵は私や幹部の人たちでフォローできるからです。ですから、皆さんの仕事は「ゼロリスク」とはいかないまでも、「ローリスク」といえるわけです。

そして、皆さんが失敗を恐れずに挑戦することには「ハイリターン」があります。チャレンジに成功すれば、それは皆さんの自信となり、仕事にも一層張りが出ます。成果を上げて会社の中での立場が変われば、お給料だって変わってくるでしょう。仮にチャレンジに失敗したとしても、新しいことに挑戦するために皆さんが身に付けた知識や技術は、その先も皆さんを助けてくれます。そして、皆さんの挑戦によって会社の事業に新しい可能性が見えれば、私たちや私たちの家族、地域の人々など、多くの人の未来が明るくなります。

いかがでしょうか。自分たちの仕事は「ローリスク・ハイリターン」だと割り切れば、リスクを取って新たなことに挑戦しようという気になりませんか。私は、皆さんが挑戦するための提案を、時間を惜しまずに聞くつもりです。今年度は、皆さんが私に、素晴らしい挑戦を提案してくれることを期待しています。

以上(2023年4月)

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画像:Mariko Mitsuda

自動配送ロボが歩道を行き交う日常は間近!?/2023年4月の道交法改正で加速する自動運転の最前線(前)

書いてあること

  • 主な読者:ラストワンマイルの動向に影響を受ける販売事業者や運送・運輸業者
  • 課題:自動配送ロボットの導入を検討するために、実用化に向けた動きを知りたい
  • 解決策:2023年4月の道路交通法改正の内容と、自動配送ロボットの実用化に向けた最新の動きを把握し、実用化に備えておく

1 遠隔監視の自動配送ロボットが歩道を走れるように!

世界中で自動運転の実用化に向けた動きが進んでいますが、日本でも2023年4月に、大きな前進がありました。改正道路交通法(以下「道交法」)の施行により、

  • 遠隔監視の自動配送ロボット
  • 過疎地などでの自動運転バス

が公道で走行することが認められたのです。

そこで、このシリーズでは、実用化へ大きく前進した自動運転について、道交法改正の内容と、実用化に向けた取り組みの最新事情を、2回にわたって紹介します。

前編となる第1回は、物流のラストワンマイルの新たな担い手として期待されている、自動配送ロボットについてです。

2 自動配送ロボは「歩行者と同様のルール」に

2023年4月に施行された改正道交法および関係法令では、自動配送ロボットが該当する「遠隔操作型小型車」のルールが定められています。

道交法や関係法令が定める「遠隔操作型小型車」のルール

なお、「遠隔操作型小型車」には、標識を付けることが義務付けられています。

「遠隔操作型小型車」に付ける標識

それでは、実用化に向けて進んでいる実証実験などの取り組みについて、実際に携わった担当者の話を紹介します。

3 実証実験1:都市部でのラストワンマイル事業への参入(ENEOSホールディングス)

1)実証実験の概要

実験主体:ENEOSホールディングス(東京都千代田区、エネルギー事業など)、ZMP(東京都文京区、ロボット開発)、エニキャリ(東京都千代田区、ラストワンマイル物流サービス)
実験日:2022年12月~2023年3月(自動配送ロボット4台を稼働。荒天時を除く11時から20時)
実験場所:東京都中央区の佃・月島・勝どきエリア(約1万7000戸)
実験の概要:アプリを通じて注文を受けたエリア内の飲食店やスーパーの商品を、注文者のマンション下まで配送。到着すると注文者の携帯電話に、自動配送ロボットの扉を開けるURLとともに通知
使用した自動配送ロボット:ZMPの「DeliRoR(デリロR)」

2)担当者の話(ENEOSホールディングス)

物流のラストワンマイル問題は社会課題であり、ビジネスチャンスでもあると認識しています。今回の実証実験を踏まえて、2023年度中に、このまま事業として始めるか、事業エリアを変えるなどビジネスモデルを一部変更して始めるか、商用化の時期を延期するか、いずれかの決定をする予定です。

実証実験で使用したDeliRo®(ENEOSホールディングス提供)

実証実験では、お客さまから注文を受けると、自動的に自動配送ロボットにアサインし、ロボットを稼働させるという一連のシステムを機能させることができました。ただ、1人の監視員が複数台のロボットを監視する実験は、走行時間が足りないなどの理由で行えませんでした。

また、自転車などが道を塞いでいて自動運転だけでは対応できず、人による操作が必要になったケースや、注文データとロボットの稼働を連携させるシステムがうまくいかずにロボットが止まってしまうケースなどがありました。歩行者や自転車が進路を遮ってしまった場合でも、ロボットの前面には表情がついており、「道を開けてください」などとしゃべることでコミュニケーションしながら対応することができますので、地域の皆さまに受け入れていただけたように思います。

事業を始める場合、都心部の人口密度の高い地域が対象になると思っています。ロボットは時速6キロメートルが上限ですので、1時間以内で配送できるのは約1キロメートル以内が目安となります。どのような商品を運ぶかにもよりますが、売り上げを確保するには、一定程度の人口密度が必要になります。その他、特定のエリア内の、例えばショッピングセンターやテーマパークでも活用の可能性はあると思います。過疎地にも買い物が困難な高齢者などのニーズは確実にあるのですが、ロボットの運用コストが下がったり、例えば見守り機能など何らかの付加価値を付けたりしなければ、現状では持続可能なサービスにするのは難しいと思っています。

採算性の観点から、現時点では1人の遠隔監視員が、少なくとも8台程度のロボットを同時に遠隔監視することが必要だと分析しています。それを可能にするためには、ロボットが高い安定稼働率で走行することや、画面をポップアップさせるなどして遠隔監視員にアラートするような機能を持つような複数台監視を可能にするモニタリングシステムが必要になると思います。

サービスステーションを基点に配送を実施(ENEOSホールディングス提供)

自動配送ロボットが今後普及していくポイントは、鶏と卵の関係ではありませんが、利用ニーズと、外資を含めたロボット開発会社の参入の両方が増えていくことだと思います。海外にはさまざまな機能やコスト感のロボットがあり、ロボットの運用コストが日本の半額以下のサービスもあります。2023年4月の道交法改正を機に、多くの開発会社が参入して、選択肢が広がることを期待しています。自動配送ロボットが普及すれば、遠隔監視員の担い手も増えていくので、遠隔監視員の人件費も下がるでしょう。

3)担当者の話(ZMP)

今後のDeliRoR(デリロR、以下「デリロ」)販売台数の見込みなどの公表は控えますが、道交法改正によって届け出で公道を使用できるようになるのは、クライアントの拡大につながると思っています。

デリロは、人口が多い都市部はもちろん、過疎化が進む地域での人手不足にも役立ちます。デリロは揺れや傾きが少ないのが特徴で、例えば汁物であっても、しっかりと封をすれば配送が可能だと考えています。段差は5センチメートルまでは超えることができ、坂道は8度までの傾斜が対応可能です。ちなみに、一般的な車いす用のスロープのほうがもっと緩やかです。重量は50キログラムまで対応可能です。電波条件については、スマートフォンの基地局があれば対応できます。

配送物の受け取りなどの操作については、スマートフォンが使える程度のリテラシーがあれば、問題ありません。

東京都中央区での実証実験(ZMP提供)

4 実証実験2:自社の飲食物の配送(関西フーズ)

1)実証実験の概要

実験主体:関西フーズ(兵庫県姫路市、神戸市や姫路市で回転寿司「力丸」14店舗を展開)
実験日:2023年2月(10日間、1時間に1件を上限に、約30件を配送)
実験場所:姫路駅周辺
実験の概要:JR姫路駅前店から指定した姫路駅前エリアの9カ所に寿司を配送。顧客が携帯電話で注文および決済。到着すると注文者の携帯電話に通知
使用した自動配送ロボット:ZMPの「DeliRoR(デリロR)」

2)担当者の話(関西フーズ)

現在、実証実験の課題を精査していますが、できれば2023年夏から、姫路駅周辺で実用化したいと考えています。今後も人件費は上昇していくでしょうし、人手不足の問題もあるので、自動配送ロボットは今後の有力なデリバリー方法になると思っています。

実証実験で、安全性に関してはクリアしました。人が近くに来ると、きちんと停止するプログラムも機能しました。

姫路駅前という人通りの多い場所で実証実験を行ったことから、観光客などもいて、写真を撮りにロボットに近づく人もいました。そのたびに停止するので、配送に時間がかかることもありました。通行人がロボットに見慣れるまでは、このようなことは起こることが想定されます。実用化の際には、その辺も計算しなければならないと思いました。

どれくらいの件数を配送できれば採算的に見合うのか、これから精査します。姫路駅周辺でも、配送には往復で30分はかかるでしょう。導入する台数、1時間で運べる件数や、1回の配送で運べる量なども勘案する必要があります。

件数を多くこなすために、まずは店舗の近くで、需要の多い地域から始めます。とはいっても、売り上げを伸ばすためには、エリアを拡大していく必要もあると思っています。

競合としては、ウーバーイーツや出前館などのフードデリバリー事業者を想定しています。自動配送ロボットは、配送速度では勝てません。ですので、正確性や価格など、他の面で勝つしかないと思っています。このため、お客さまの利便性についても、実証実験の結果を精査していきたいと思っています。

5 実証実験3:山間部を想定した配送(広島県北広島町)

1)実証実験の概要

実験主体:広島県北広島町、Yper(東京都品川区、置き配バッグを製造販売)、コムズ(広島県広島市、中国地方でショッピングセンター8店舗を管理など)
実験日:2021年10月(5日間、規定のコースを18往復して配送)
実験場所:北広島町
実験の概要:北広島町のショッピングセンターの搬入口から、町有地を通って300メートル先の町役場に設置した特設BOXに、宅配物とショッピングセンターのスーパーでの購入品を配送。到着すると注文者の携帯電話に通知され、QRコードでBOXを開ける
使用した自動配送ロボット:Yper(現在はLOMBYが事業を継承)の「LOMBY(ロンビ-)」

実証実験で使用したLOMBY(北広島町役場提供)

2)担当者の話(北広島町)

北広島町は山間部にあり、高齢化が著しく、担い手も不足していますので、ラストワンマイルの課題解決の必要性を感じています。子育て世代の利便性も向上しますので、実証実験は町の課題解決につながる可能性のある取り組みだと考えています。

ただ、実証実験では、課題も感じました。実証実験では公道を使用しませんでしたが、公道の場合、特に中山間地域では、必ずしも路面状況が良いわけではありません。車道と歩道の境など、路上の段差やくぼみもあります。北広島町は冬が寒く、路面の凍結や積雪もあります。

また、実証実験では交通整理をしていたので安全性が確保されていましたが、公道では急に飛び出してくるような人もいるでしょうから、対応ができるのかどうか未知数の部分もありました。

実証実験では数名の町民にモニターになっていただきましたが、若い世代の方が多かったのもあって、配送物の受け取りでの混乱はありませんでした。

現時点では実用化に向けた計画はありませんが、先ほどお話ししたラストワンマイルの課題は認識しているので、機会があれば実用化したいとは思っています。ただし、やはり費用面が一番大きな問題になると思います。他の方法と比較して、費用対効果の高い方法を選択していくことになるでしょう。

広島県北広島町での実証実験(北広島町役場提供)

6 自動配送ロボットの開発会社を紹介

紹介した実証実験以外にも、自動配送ロボットの実用化に向けた取り組みが進んでいます。自動配送ロボットの開発会社と主な取り組みをまとめて紹介します。関心のある方は、開発会社に問い合わせてみてもよいでしょう。

1.パナソニックホールディングス

自動配送ロボット:X – Area Robo
主な取り組み:茨城県つくば市でスーパーの商品を個人宅に配送(2022年5月~7月)
神奈川県藤沢市で医薬品や冷蔵品を個人宅に配送(2021年3月)

■パナソニックホールディングス「エリアモビリティ向けソリューション」■
https://holdings.panasonic/jp/corporate/mobility/solutions/areamobility.html

2.ZMP

自動配送ロボット:デリロ
主な取り組み:東京都中央区で飲食店とスーパーの商品を配送(2022年12月~2023年3月)
兵庫県姫路市で回転寿司店の商品を配送(2023年2月)

■ZMP「宅配ロボットDeliRo (デリロ)」■
https://www.zmp.co.jp/products/lrb/deliro

3.川崎重工業

自動配送ロボット:FORRO(フォーロ)
主な取り組み:東京都新宿区で飲食店やスーパーの商品を配送(2023年1月~2月)
東京都墨田区で介護者向けの日用品や食事を個人宅に配送(2021年11月~12月)

■川崎重工業「屋内用配送サービスロボット『FORRO(フォーロ)』」■
https://forro-service.com/

4.本田技術研究所

自動配送ロボット:本田技術研究所が開発した車台に、楽天グループが開発した商品配送用ボックスを搭載
主な取り組み:茨城県つくば市の筑波大学構内や一部公道の約500メートルを走行(2021年7月~8月)

■本田技研工業「自動配送ロボット 実証実験の取り組み」■
https://www.honda.co.jp/future/EngineerTalk_deliveryrobo/

5.LOMBY

自動配送ロボット:LOMBY
主な取り組み:広島県北広島町で宅配物とスーパーの商品を配送(2021年10月)

■LOMBY■
https://lomby.jp/

以上(2023年4月)

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画像:onlyyouqj-Adobe Stock

【朝礼】上司は魚を与えるのではなく、魚の獲り方を教えましょう

「飢えている人がいたら、魚を与えるのではなく、魚の獲り方を教えてあげなさい」ということわざがあります。魚を与えれば、その人は1日は飢えをしのげるでしょう。しかし、魚の獲り方を教えれば、その人は一生飢えないでいられます。

1900年代前半に活躍したシュヴァイツァー博士は、アフリカの赤道直下の国ガボンにおいて、当地の住民への医療などに生涯を捧げたことで、高く評価されています。ただ、ひとつだけ残念なことに、博士には現地人に医学の知識を与えて、医師に育成し、医療環境を整えるという発想がありませんでした。そのため、現地人の中から医師が生まれることはありませんでした。仮に、現地人の中から医師が育っていく環境を実現できていれば、博士の死後もアフリカにおける医学は大きく進歩したことでしょう。

一方、アフリカの人に井戸の掘り方を教えた日本人がいます。その人は、初めはアフリカに行って自ら井戸を掘ったそうです。しかしあるとき、自分が井戸を掘るのではなく、現地の人に掘り方を教えてあげるべきだと気がついて、日本式の井戸の掘り方を教えたのです。そして、掘り方がうまくいかないときの対処法や井戸の修理方法も教えておいたため、現地の人は自分たちで井戸の管理・維持ができるようになったそうです。

これらのことを、ビジネスに置き換えてみましょう。分かりやすいのは、上司と部下の関係です。

上司が部下に与えなければならないのは「金銭」ではなく「方法」です。金銭は一度使ってしまえばなくなりますが、方法はいくら使ってもなくなりません。手取り足取りして面倒見の良い上司がいますが、先のことわざでいえば、それは「魚」を与えているだけで、部下の成長の機会を奪っているといえます。

魚を直接「与える」よりも「獲る方法」を教えるほうが、真に部下のためになり、部下の将来が開けることになるのです。

ここでいう「魚の獲り方を教える」とは、相手が欲していることに対して、ただ与えるのではなく、「どうすれば求めるものにたどり着くことができるのか」を教えてやることです。

上司が部下の仕事を手伝う場合とそうでない場合を比較してみましょう。部下の仕事を手伝う場合は、部下の仕事を手伝う→部下の仕事は速く進む→上司の仕事が遅れる→必死で上司は仕事を終わらせようとする→部下の仕事がまた遅れる→2人とも仕事が遅れる。結果としては2人とも仕事が遅れてしまいます。

一方、仕事を手伝うのではなく、部下の仕事がなぜ遅いのかを観察し、効率良く仕事ができる方法を教えた場合はどうでしょうか。この場合、上司は部下の仕事をチェックして問題点を把握する→部下にはいったん仕事を止めさせて、上司が問題点を説明する→上司は解決方法を部下に自分で考えさせる→さらに良くなる点があれば上司はアドバイスする→部下は自分で効率良く仕事ができるようになる→そして、その部下が効率良く仕事ができる方法をほかの人に教えることで組織全体の効率が上がる。こんな具合にいけば理想的です。

魚の獲り方を教えるのは、魚を与えるよりはるかに根気が必要で、面倒なことです。しかし、上司の仕事とは、人や組織をよく観察して、そこで働く人たちが高い能力を発揮できる方法を教えることなのです。

上司の皆さんは「やり方」を教えることに徹してください。

以上(2023年4月)

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画像:Mariko Mitsuda