指揮命令はNG。法令違反にならない外注契約のルール

書いてあること

  • 主な読者:フリーランスなどに業務委託をしている企業の経営者
  • 課題:請負と準委任の違い、労働者とフリーランスの違いなどが分からない
  • 解決策:準委任は請負と違い、仕事の完成の義務を負わないため、履行された仕事の内容に応じて報酬を支払わなければならない。労働者と違い、フリーランスには指揮命令を下すことができないため、これを守らないと偽装請負になる恐れがある

1 請負と委任の違い

「業務委託」をしていても、契約内容である「請負」と「委任」との違いを明確に理解していない企業は意外と多いです。今後、フリーランスの権利保護がますます進むことは間違いないので、業務委託をするこちら側も、きちんとした知識を持っておくべきです。

この記事では、請負と委任の違いを明らかにした上で、相手(フリーランスを想定)と契約を交わす際のポイントをまとめます。

まず知っておくべきことは請負と委任との違いです。両方とも民法で定義されていますが、内容は次のように全く異なります。

  • 請負:相手は仕事を完成させる義務を負い、自社は仕事が完成しなければ報酬を支払う必要がない
  • 委任:相手は事務処理を遂行する義務を負い(仕事を完成させる義務は負わない)、自社は履行された仕事の割合で報酬を支払う

また、委任については「準委任」のほうが聞き慣れているかもしれませんので補足します。「準」がつかない委任は法律行為を対象とするもので、弁護士などが相手になります。一方、準委任は法律行為以外の事実行為が対象となります。この記事では準委任を前提に説明します。

準委任の報酬ですが、これは履行割合型と成果完成型に分かれます。履行割合型の例は、一般的な学習指導の契約です。学習塾は生徒が志望校に合格できるように教育しますが、仮に志望校に合格できなくても報酬は支払われます。一方、成果完成型の例は、経営コンサルティングの契約です(契約の定めにもよります)。自社が資金調達を目的にコンサルティングを依頼した場合、コンサルタントには交通費などの経費に加えて、資金調達に成功した際には成功報酬が支払われます。

2 契約全般で注意すべきポイント

1)契約書は実態で判断する

請負と準委任のいずれの場合でも、契約内容を明らかにしておくために契約書を作成しましょう。契約時、業務内容をできるだけ細分化し、何をもって業務が終了するかなどを明確にします。実務上、請負と準委任の双方の性質を持つ業務も考えられるので、そうした場合は弁護士などに相談するのが無難です。

また、下請法の規制を受ける取引の場合、下請事業者(ここではフリーランス)の成果物の内容や、下請代金の額などを記載した書面の交付が義務付けられています。

こうした親事業者(ここでは自社)の義務は、当事者間の合意に優先して適用される強行法規であり、契約で変更することはできません。そのため、自社の取引が下請法の規制対象となっているかどうかを確認しましょう。下請法に関しては、公正取引委員会ウェブサイトをご参照ください。

■公正取引委員会「下請法」■

https://www.jftc.go.jp/shitauke/

2)請負、準委任とも重い責任を負っている

請負ではフリーランスが仕事の完成義務を負っているのに対し、準委任ではそれがないので、請負のほうが準委任よりも責任が重いように思えますが、それは正しくありません。

準委任では、自社はフリーランスが持つ専門的な能力や知見に期待して契約しています。そのため、業務内容に問題があった場合、フリーランスに対して善管注意義務違反としての債務不履行責任を問い、問題箇所をやり直させることなどができます。このように、一概に準委任は請負よりも責任が軽いわけではありません。また、準委任であっても、

自社が業務内容の検査後や確認後に業務が終了する旨を定めることで、実質的に請負における仕事の完成と同等の契約内容にする

こともできます。

3 指揮命令などで注意すべきポイント

1)偽装請負になっていないか確認する

フリーランスが社員と大きく違うのは、フリーランスには企業が指揮命令を下して、業務を遂行させることができないことです。これを守らないと、偽装請負として問題になる恐れがあります。

偽装請負に該当するとして労働関係法令違反を指摘されると、罰則を受けたり、社会的な信用を失ったりする恐れがあります。また、フリーランスの労働者性が認められる場合は、自社が社会保険料や時間外手当を後日支給する必要があります。

2)業務の遂行方法の指示や、自社の名刺を持たせるのは避ける

実務では、偽装請負か否か(労働者性)について、次の要素を基に総合的に判断されます。

  • 仕事の依頼への拒否の自由
  • 業務遂行上の指揮監督の有無
  • 時間的・場所的拘束性の有無、代替性の有無
  • 報酬の算定・支払方法
  • 機械・器具の負担や報酬の額等に表れた事業者性
  • 専属性の程度等

例えば、フリーランスが自社のオフィスなどで業務を行う場合、フリーランスに対して業務の遂行方法を細かく指示したり、出退勤や休憩時間、休日や休暇などに関して指示したりすることは、偽装請負と見なされる恐れがあります。

また、自社の名刺を持たせる際にも気を付けなければなりません。取引先などが、フリーランスが従業員としての責任や権限を持っていると勘違いする可能性があります。フリーランスには自社の名刺を持たせないのが無難です。仮に持たせる場合は、細心の注意が必要です。

3)再委託・再委任の禁止や報告を義務付ける

自社はフリーランスに対して、業務の遂行方法を指示することはできませんが、再委託・再委任を禁止したり、業務の状況等に関する報告を求めたりすることはできます。ただし、請負と準委任では、再委託・再委任の禁止や報告の義務に関する法令上の取り決めが異なります。

請負では、再委託が原則可能であり、報告の義務は原則なしとされています。そのため、再委託の禁止や報告を求める場合、契約書でその旨を定めておくことが求められます。

一方、準委任では、フリーランスの専門的な能力や知見を見込んで業務を委任していることから、再委任は原則不可とされています。また、報告の義務についても民法で定められています。

請負、準委任のいずれの場合も、契約締結時にフリーランスに対して、契約書で再委託・再委任を禁止する旨や、報告を義務付ける旨を規定しておくとトラブルが避けられます。

4)行き過ぎた競業避止義務を避ける

自社はフリーランスに対して、営業上重要な情報などを漏洩しないよう、秘密保持義務に加えて、競業避止義務を課すことができます。競業避止義務とは、社員が自社と競合する企業などに所属したり、自ら会社を設立したりといった行為をしない義務のことです。

とはいえ、競業避止義務期間が5年を超えるなど、フリーランスに対して行き過ぎた義務を課すことは、市場の自由競争やフリーランスの取引の自由を侵害することになりかねないため、独占禁止法(独禁法)や民法で規制される場合があります。

具体的には、期間、業務範囲、場所的範囲、競業避止を定めることに対する対価の有無などの要素を考慮して判断されます。

4 報酬の支払いなどで注意すべきポイント

1)報酬の支払期日や減額に注意する

下請法の規制対象である取引では、業務の終了日から60日以内の、できる限り短い期間内を報酬支払いの期日として定め、報酬を支払わなければなりません。従って、毎月特定の日に締切日を設けている場合は、締切日の翌月末日までに支払う必要があります。

また、フリーランスの責任ではない理由から報酬を減額したり、通常支払われる対価(市場価格など)に比べて著しく低い報酬を定めたりすることは、下請法だけでなく、独禁法でも規制されます。

2)知的財産権の帰属を決めておく

請負、準委任とも、フリーランスが業務を遂行する中で生まれた発明や著作物、それらの知的財産権はフリーランスに帰属します。

そのため、競合他社が知的財産権を利用できないようにしたいなどの場合、契約時に自社が知的財産権を承継できるように定めておく必要があります。

権利を承継する際は、適切な対価を支払わなければなりません。特に、企業がフリーランスに対して、無償や低廉な価格で著作権などの知的財産権を譲渡させているという問題が指摘されていることから、十分な配慮が求められます。

3)報酬の請求は慎重に確認する

税務上で注意しなければならないのが、消費税や源泉所得税の扱いです。

フリーランスへの報酬は外注費として消費税の対象ですが、社員への給与は消費税の対象とはなりません。問題は偽装請負です。中には偽装請負であるにもかかわらず、外注費とすることで、消費税の納税額の負担を減らす悪質なケースがあるようで、外注費が多い企業は税務調査で指摘されることがあります。

また、フリーランスへの報酬は、一律に源泉徴収が必要になるわけではありません。源泉徴収の対象となるのは、原稿料やデザイン料などの一部の報酬です。自社が支払う報酬が源泉徴収の対象であるのかを確認しておく必要があります。

特に、フリーランスの中には、源泉所得税の知識に乏しい人もいて、源泉所得税を天引きしない金額で自社に報酬を請求してくることがあります。

そのため、フリーランスからの請求が正しい金額であることを自社で確認し、誤った金額を支払わないように注意しましょう。仮に源泉徴収漏れを指摘された場合、フリーランスではなく自社が追徴支払いをすることもあり得ます。

5 外注契約の形態と特徴のまとめ

最後に、外注契約の形態と特徴をまとめた表を紹介します。業務委託をする前に各項目を確認してみてください。

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以上(2023年10月更新)
(監修 弁護士 田淵博雅)

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あなたの会社にも起こり得る不正会計~その検知と対策

書いてあること

  • 主な読者:適切な会計処理を徹底したい経営者や経理担当者
  • 課題:自身の何気ない一言が不正会計につながったり、思いもよらない従業員の不正が生じたりすることもあり、意外にも身近なもの
  • 解決策:不正会計の兆しや防止策、もし不正を見つけたときに経営者が取るべき行動など、現場を知る公認会計士が教える

身近にある? 不正会計

不正会計と聞くと、ニュースをにぎわすような巨額な不正をイメージし、自社には関係ないと思っていませんか?

しかし、それは間違いかもしれません。なぜなら、経営者自身の何気ない一言が不正会計につながったり、思いもよらない従業員の不正が生じたりすることがあるなど、想像できない

不正会計は意外と身近にある

からなのです。また、コロナ禍や国際情勢の不安定化など、経済環境が悪化する時期は、不正会計が生まれやすい時期でもあります。昨今のテレワークの浸透により内部統制が脆弱化している会社は少なくないと思われます。

では、経営者が不正会計の兆しをキャッチしたり、防止したりするために、どのような知識が必要なのか、現場を知る公認会計士に不正会計の実態やその防止策などを聞きました。

Q1 代表的な不正会計とは?

不正会計とは、

決算書(貸借対照表や損益計算書など)に虚偽の表示をすること

です。代表的な不正会計は、「粉飾決算」「資産の流用」によるものです。

粉飾決算とは、

意図的に決算書(貸借対照表や損益計算書など)を操作して、会社の財務状況や損益状況を実際よりも良く見せること

です。詳細はQ2で解説しますが、「売上の水増し計上」や「売上の前倒し計上」による方法があります。粉飾決算によって赤字を黒字に見せる極端なケースもあります。

資産の流用とは、

会社の資産を盗み取ること

です。詳細はQ3で解説しますが、現金預金の「横領」、物的資産の「窃盗」などが挙げられます。多くは従業員の犯行で、この場合の被害は比較的少額です。しかし、資産の流用を容易に偽装できる経営者層が関与すると、被害が多額になることもあります。

Q2 粉飾決算の具体的な方法とは?

売上の水増し計上とは、

本来の取引金額に架空の取引金額を水増しして、売上を計上すること

です。売上の水増し計上では、その計上した売上の相手勘定として「売掛金」を用いることが一般的です。そのため、貸借対照表には架空の売掛金も計上されます。

売上の前倒し計上とは、

本来は決算日後(将来)に計上されるべき売上を、決算日前(現在)に計上すること

です。売上の前倒し計上では、決算日をまたいで売上の計上が前後するだけであるため、全体(年度で区切らず全ての期間)としては損益計算や代金の入金額は変わりません。しかし、決算日後(将来)の売上を取り込んでしまうため、当年度の決算と翌年度の決算のいずれの決算書も虚偽の表示となります。

売上の水増し計上、売上の前倒し計上ともに、会社の利益をよく見せることが目的で行われる不正会計です。例えば、決算時点で赤字が明らかである場合、既存取引の売上の水増し計上をすることでその原価を差し引いた利益が本来の利益に上乗せされ、赤字決算を黒字決算へと変えてしまうことができます。

中小企業の場合、融資元の金融機関や、入札審査を受ける際の官公庁に対して、会社の業績を少しでも良く見せようとして、粉飾決算に手を染めるケースがあります。

Q3 資産の流用(横領や窃盗)の具体的な方法とは?

横領とは、

自らの職位を利用して会社の資産を盗み取ること

です。例えば、出納業務と記帳業務を兼務する経理担当者が、無断で預金を解約してそれを盗み取るなどの行為です。業務によっては、同一人物が担当することで横領の発生リスクが高まります。

窃盗とは、会社の物品を盗み取ることです。例えば、会社の収入印紙や切手などを盗み取ることなどの行為です。なお、総務部の鍵のないロッカーに収入印紙や切手を保管している状況の中で、誰でも自由に取り出せるような場合には、窃盗の発生リスクが高まります。

これらの動機はさまざまで、個人的な事情(多額の借金を抱えている、遊ぶお金が不足しているなど)から実行されることが多いようです。

Q4 不正会計の基本的な防止策とは?

不正会計の防止策を考える上で重要な概念は「不正のトライアングル」です。不正のトライアングルとは、

不正を引き起こす3つの要素(動機・機会・正当化)のこと

です。これらを考慮した不正防止の仕組みをつくることが有効です。

1.動機

「従業員が行動を起こす、または行動を方向付ける」ことです。不正の防止策として、例えば従業員個人や部署に対して過度な目標が課されている場合、この目標が過大なプレッシャーになっていないかを見直します。

2.機会

「不正会計を起こせる立場にあり、それを実行できる能力がある」ことです。不正の防止策として、例えば職務分掌を明確にして、重要な決定についてはチェック・承認制度を社内ルール化することや業務相互チェックを掛けるなどのけん制機能を設けるようにします。

3.正当化

「不正会計をすることは悪くない≒仕方がない」と思うことです。不正の防止策として、例えば従業員に対して定期的に社内研修などを行い、不正会計の影響(個人・会社のダメージ)を啓蒙するようにします。

Q5 経営者が粉飾決算を防止するためにすべきことは?

売上の水増し計上は、

貸借対照表の「売掛金」に発見の糸口

があります。なぜなら、

その売掛金は架空のものであり、何もしなければ、現金回収されることなくいつまでも貸借対照表に計上し続けることになるから

です。仮に、本来の回収期間が過ぎて長期間滞留しているような売掛金が存在する場合には、売上の水増し計上が疑われます。また、

売上の前倒し計上を行った場合にも、上記同様「売掛金」がポイント

です。売上を前倒し計上すると、その分の売掛金残高が増えます。しかし、この増加は、当年度及び前年度の各月末の売掛金残高と比べることで異常な増加として発見することができます。

Q6 経営者が資産の流用を防止するためにすべきことは?

横領では、やはり、

担当者間のチェック体制が重要なポイント

です。経理担当者が出納業務と記帳業務の双方を兼務しているような場合、お金を取り扱う担当者(出納係)と、帳簿をつける担当者(記帳係)を分ける必要があるでしょう(職務分掌)。なお、人員が不足し、どうしても兼務しなければ業務が回らないような場合は、他者が定期的にチェック・照合することによって代替することもできます。

窃盗は、

適切な現物(切手や収入印紙など)の管理を行うことが最も重要

です。具体的には、現物を鍵の掛かる場所に保管し、現物を取り出した者が都度、日付・数量・氏名などを管理簿に記入し、総務担当者などが日々管理簿に照らして在庫数量を確認する体制が必要です。また、他者が定期的に管理簿を閲覧して異常な記録がないか確認しましょう。

Q7 不正会計の疑いがある場合、経営者がとるべき対処は?

「社内に不正会計の疑いがあるかもしれない」という情報を耳にしたら、経営者は、まずこの情報が正しいものであるかどうかを確かめましょう。相手の言うことをうのみにしてしまったり、逆に聞き流してしまったりしては後々大きな問題になりかねません。また、場合によっては刑事事件に発展する可能性もあるため、早めに顧問弁護士などに相談することが賢明です。

不正が事実だった場合は、被害が大きくならないうちに早めの対処が必要です(初動が大切)。また、不正は意図的に仕組まれ、見つからないように巧妙かつ複雑な手口で隠されていることがあるため、外部の専門家を交えてその対処方法(対象者へのヒアリング方法や被害額の算定方法など)を検討するのが望ましいでしょう。

Q8 専門家の立場から、中小企業の経営者にアドバイスを!

コンプライアンスとは、法令遵守を意味し、コーポレートガバナンス(企業統治)の基本原理の1つになります。

会社が企業活動を続けていくためには、会社の業績を維持・拡大していくことが必要で、基本的に会社は利益を追求していくことになります。しかし、利己的な利益追求をしていくと、法令すれすれ(グレーゾーン)の行動を取らざるを得ないこともあります。

さらに、目先の利益追求のために倫理観を失った行動を取れば、社会的な信用を大きく損ねてしまい、極端なケースでは会社の存続が危うくなることもあります。そうならないために、経営者が先頭に立ってコンプライアンスの重要性を社内に認識させることが求められます。

また、コンプライアンスの強化に励むことは、会社の存続に関わる重大問題の発展を事前に防止することのみならず、対外的にも社会的信用の認知度を高める積極的な取り組みと考えることもできます。

以上(2023年10月更新)

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その会計処理にピンときたら!不適切な会計処理の兆候と防止手段

書いてあること

  • 主な読者:適切な会計処理を社内に徹底したい中小企業の経営者・経理担当者
  • 課題:不適切会計は普段は目につきにくく、発覚する頃には手がつけられない金額になっていることも有り
  • 解決策:不適切会計の典型例を紹介し、会計上の兆候や防止策を解説

1 不正会計は「嘘つき会計」

決算書は、

  • 社内や社外の関係者に業績を示す資料
  • 経営者が経営判断をする材料

になる重要な情報です。決算書は正直に作成されなければなりませんが、中には「嘘つき」な決算書もあります。これを「不正会計」(不適切な会計処理)といいます。意図的な不正会計は論外ですが、意図せず結果として不正会計になってしまっていることもあります。

しかし、関係者はそうした背景に関係なく、不適切な会計処理をした会社を信用しなくなります。そうならないためにも、経営者は典型的な方法とその兆候を知り、具体的な防止手段を取っておかなければなりません。この記事では、そのためのポイントを紹介します。

2 起こりやすい不適切な会計処理

1)売上高を大きく見せる方法

1.売上高の前倒し計上

売上高計上のタイミングは、

対象となる物品やサービスが受け渡された日

です。そのため、このタイミングより早く売上高を計上することで売上高を大きく見せることができます。これは、実際の販売取引に対して、売上高計上のタイミングのみを操作することが特色です。例えば、売買契約締結日や手付金受取日に売上高を計上することが考えられます。

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2.売上高の架空計上

売上高の架空計上は、実際の販売取引がないにもかかわらず決算書でのみ売上高があったかのように会計処理するものです。売上高の前倒し計上と異なり、実際の販売取引自体を仮装していることが特色です。

なお、全くの架空販売取引として売上高を計上することの他に、実際の販売取引の金額に上乗せして架空の売上高を計上するケースも見られます。

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2)費用を小さく見せる方法

1.棚卸資産の過大計上

対象となる物品の購入対価は販売されるまでの間、棚卸資産として資産に計上され、販売されたときに売上原価(費用)に振り替えられます。

棚卸資産の過大計上とは、販売されたものの、棚卸資産から売上原価への振り替えを過小とすることで、売上原価を減少させて差引としての利益を大きく見せるものです。売上原価への振り替えが過小であるため、振り替え後の棚卸資産は過大計上される結果となります。

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2.架空資産の計上

会社運営に必要な諸費用は、その費用が発生した期の損益計算書に計上する必要があります。架空資産の計上とは、費用として計上すべきものを資産勘定として貸借対照表に計上することで、費用を減少させて差引としての利益を大きく見せるものです。資産勘定には計上されているものの実際の資産は存在しないため、架空資産となります。

例えば、本来は損益計算書の費用に計上される交際費を仮払金(資産)で、修繕費(費用)を固定資産(資産)で計上することが考えられます。

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3 不適切な会計処理の兆候

1)売上高を大きく見せる場合

1.売上高の前倒し計上の兆候

売上高計上のタイミングが本来のタイミングより早いため、

売上高の相手勘定である売掛金が回収されるまでの期間が徐々に長期化

します。例えば、決済条件が月末締め翌月末払いのケースの場合、本来は翌月末には入金があり売掛金残高はなくなりますが、前倒しで売掛金が計上されると、取引先は本来の決済条件で支払うため入金は翌月末より後になり、回収までの期間が本来の決済条件よりも長期化します。回収までの期間が長期化している売掛金がある場合は、その原因を慎重に究明する必要があります。

2.売上高の架空計上の兆候

実際の販売取引がなく決算書のみで計上された売上高のため、取引先からの代金の支払いはありません。

架空売上高に対応する売掛金は回収できないことから、滞留債権となり長期間にわたって残高が減少しない

こととなります。残高が長期間にわたって減少しない売掛金がある場合は、その原因を慎重に究明する必要があります。

なお、架空売上の事実を隠蔽するため、正当な取引による回収代金を架空売上高の売掛金回収に充当することで、滞留債権化を回避することも考えられますが、この場合、正当な取引により発生した売掛金の回収までの期間が長期化するという影響が表れます。

2)費用を小さく見せる場合

1.棚卸資産の過大計上の兆候

売上原価に振り替えることなく棚卸資産として計上され続けるため、

滞留棚卸資産となり長期間にわたって残高が減少しない

こととなります。滞留している期間と、通常の販売までの期間とを比較して、不合理に長期化している棚卸資産がある場合は、その原因を慎重に究明する必要があります。

なお、棚卸資産の過大計上を隠蔽するため、過大な棚卸資産残高を棚卸減耗損や棚卸評価損によってなくすことが考えられます。不合理な棚卸減耗損や棚卸評価損が計上されている場合には、その原因を慎重に究明する必要があります。

2.架空資産の計上の兆候

現物が確認できない仮払金勘定が利用されることが多く、相手先や支出内容が不明な残高が徐々に増加します。

仮払金勘定は、一時的な支出を仮に処理する勘定科目のため、長期間にわたって多額な残高がある場合

には、その原因を慎重に究明する必要があります。

また、架空資産として固定資産勘定を利用する場合、不自然な金額が不自然なタイミングで計上されることが多くなります。

固定資産としては少額な金額が定期的に計上されている場合や決済されていない固定資産支出が計上されている場合

には、その原因を慎重に究明する必要があります。

4 不適切な会計処理の防止手段

不適切な会計処理の防止のためには、適切な内部統制を構築することが有効です。特に

職務分掌(仕事の役割分担や権限を明確にすること)の徹底

は、シンプルではありますが効果的と考えられます。例えば、伝票起票者と伝票承認者が区分されていれば、相互けん制によって不適切な会計処理は実行しにくくなります。また、資金担当者と記帳担当者が区分されていれば、入金内容を意図的に変更させて経理処理することは難しくなります。さらに、担当者の変更により後任者が前任者の不適切な会計処理に気付くことがありますので、人事異動を定期的に実施することも、不適切な会計処理の防止に効果的です。

特定の1人に任せきりにしないことが最も重要なポイントとなりますが、中小企業のように限られた人員で管理業務を実施している場合、複数名での対応が難しいことも考えられます。その場合、十分とはいえないまでも、例えば、

監査役などが既述の事項を重点的にヒアリングする

ことによって一定のけん制効果が期待できます。

以上(2023年10月更新)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 公認会計士 米山泰弘)

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【SDGs】実は環境負荷が大きい音楽業界で本格化するSDGsへの挑戦

書いてあること

  • 主な読者:音楽フェスなどイベントの主催企業、協賛企業、後援する地方自治体
  • 課題:環境への負荷が大きいとされる音楽イベント業界で、少しでも環境負荷を軽減するための取り組みを進めたい
  • 解決策:飲食物の提供にプラスチック容器を使わない、電力を電気自動車で供給するなどの取り組みで環境負荷の軽減につなげることができる

1 知っていますか? 実は環境への負荷が大きい音楽業界

かつてはCDやレコード製造で消費されるプラスチックの量が問題とされてきた音楽業界でしたが、今はストリーミングやダウンロードによる視聴が主流になり、プラスチックの消費量は減りつつあります。

ただし、デジタル化が進んだから環境への負荷が減ったとは言い切れません。特に環境への負荷が大きいとされているのは、

  • 音楽のストリーミング、ダウンロードにかかる電力消費
  • 音楽フェスでの二酸化炭素排出
  • 音楽フェスでの飲食物の食べ残し、ごみの放置

です。

こうした問題を解決するため、音楽フェスでは再生可能エネルギーの導入やごみのリサイクルに取り組む事例も増えており、海外では「家で寝て過ごすよりもサステナブル」といわれるくらいに環境への負荷を減らすことが考えられた音楽フェスもあります。

そこでこの記事では、環境への負荷が高いとされている音楽イベント業界で、環境負荷を軽減するために実際に行われている先進事例について紹介します。

2 環境への負荷を軽減するための取り組み事例

環境への負荷を軽減するための取り組み事例には、目的に応じて次のようなものが挙げられます。

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1)電力を再生可能エネルギーなどで賄う

音楽フェスでは、照明やスピーカーなどによる膨大な電力消費がつきものです。そうした電力消費を再生可能エネルギーなどで賄う取り組みがあります。

例えば、中津川THE SOLAR BUDOKAN 実行委員会などが主催する音楽フェスの「中津川 THE SOLAR BUDOKAN」では、コンサートの運営にかかる電力のすべてを太陽光発電で賄っています。同イベントでは、会期中の来場者の移動で発生したCO2排出量のカーボン・オフセット(削減しきれないCO2排出量を、カーボンクレジットを購入することで相殺すること)にも取り組んでおり、2022年の実績で、119万6000円(1トン当たり2000円)分を購入しています。購入代金はクラウドファンディング、リユースカップ、オリジナルグッズ、募金の収益で賄っているといいます。

他にも、電力を賄う方法として、サンライズプロモーション東京(東京都港区)などが主催となって2022年10月に開催した「BLUE EARTH MUSIC FEST 2022 in MITO supported by 茨城日産グループ」では、音楽ライブのメインステージの一部と会場外の無料エリアの電力を電気自動車で賄う取り組みを行った他、飲食物をプラスチック容器ではなく、紙の包装紙を使って提供するといった取り組みを実践しています。

2)飲食物の食べ残しをリサイクルする

音楽フェスでの飲食物の食べ残しの処理も問題の1つです。この問題の解決策として、食べ残しを堆肥に変える取り組みがあります。

ロックバンドの「くるり」が主催する音楽フェス「京都音楽博覧会」では、2022年に環境に配慮した新しい取り組みとして、コンポストの設置を行いました。これは、フードエリアで出た飲食物の食べ残しや食材の使い残しを微生物によって発酵・分解して堆肥としてリサイクルするものです。出来上がった堆肥はフェス会場の梅小路公園の指定管理者である京都市都市緑化協会に寄贈し、公園の樹木の肥料に使われました。

また、同イベントでは飲食物を提供する際の食器を使い捨てでないリユース容器を導入したり、フライヤー、チラシを配布したりしないことでごみの削減につなげています。

他にも、生ごみの堆肥化はウエス(北海道札幌市)が主催する音楽フェス「RISING SUN ROCK FESTIVAL in EZO」でも行われています。これは、NPO法人のezorock(北海道札幌市)が「RSRオーガニックファーム」という名称で取り組んでいる企画で、同イベントで回収された生ごみの一部を堆肥に変え、栽培したじゃがいもを翌年の会場で食材として無償で配布しています。

3)CDパッケージの脱プラスチックを進める

これまで、CDパッケージはプラスチック素材がメインとなっており、環境への負荷が問題となっていましたが、近年では植物を原材料にしたリサイクル可能なものが出ています。

その例として、ソニーグループ(東京都港区)が手掛ける「オリジナルブレンドマテリアル」があります。竹やさとうきび繊維を原料にしたパッケージで、外箱や内箱だけに限らず、クッションや商品保護シートも同素材で作ることができます。リサイクルが前提の素材のため、廃棄の際にも他の紙類と一緒に回収に出すことが可能です。これによって、既存のプラスチック製のCDトレイと比較して、約97%の石油系プラスチックの削減ができたとしています。

4)ごみのリサイクルを図る

会場内で出たごみを回収し、リサイクルを図るイベント内資源循環リサイクルに取り組んでいるイベントの1つに「フジロックフェスティバル」があります。

同イベントでは、「ごみゼロナビゲーション」活動として、ボランティアスタッフがごみの分別を呼びかけるだけでなく、食用に適さない古米、米菓メーカーなどで発生する破砕米などを材料にしたごみ袋を来場者に配布し、ごみの放置やポイ捨てを防いでいます。

他にも、同イベントでは来場者と一緒に森林保全活動を図る取り組みもあります。イベント内で使われる割り箸やフライヤーなどは会場周辺で伐採した間伐材を材料に用いることで、森林整備や保全活動につなげています。

5)カーボン・オフセットでCO2排出を相殺する

前述した、削減しきれないCO2排出量を、カーボンクレジットを購入することで相殺するカーボンオフセットも環境に配慮した取り組みの1つです。

例えば、滋賀ふるさと観光大使を務める西川貴教氏が発起人の「イナズマロック フェス」では、2022年の9月に開催された「イナズマロック フェス 2022」でカーボン・オフセットによる開催を実現しています。

これは、イベント期間中に来場者の移動や会場での電力使用に伴って排出される30トン分のCO2を、提携する滋賀銀行がカーボンクレジットを購入・提供することで埋め合わせをする仕組みです。購入したカーボンクレジットは、滋賀県の森林資源の整備に利用されます。

3 参考:海外での先進事例

1)観客の熱気をエネルギーに変換:SWG3

スコットランドにあるナイトクラブの「SWG3」では、観客の体温をエネルギーに変換するシステムの「BODYHEAT」を導入しています。このシステムは、ヒートポンプシステムを用いて観客から発生する熱を地下に開けた穴に保存し、冷暖房に使用するという仕組みです。

このシステムによって、年間で70トン分のCO2排出を抑えることができるとしています。

2)オーディオファイルの環境負荷軽減:MQA

レーベルやDSP向けデジタル配信業者である英国のMQAでは、ハイレゾ音源データのCO2排出量を従来から80%削減することを実現しています。環境への負荷で置き換えると、MQA形式の音楽ファイルの場合で日6時間、365日再生した場合に19本の木を植えることと同様の効果があるとしています。

以上(2023年10月作成)

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ガバナンスの根幹「子会社の不祥事防止」

書いてあること

  • 主な読者:グループ経営を行う上場企業の子会社の役員、グループ経営を行う非上場企業の役員
  • 課題:子会社の役員として注意すべきポイントが知りたい
  • 解決策:「グループガイドライン」で示されている子会社の管理体制のポイントを理解する

1 今、グループ企業のガバナンスが注目されている

急速な産業構造の変化や少子高齢化に伴う国内市場の縮小などを背景に、日本企業のグローバル化や事業再編が進んでいます。その際、グループ経営を選択する企業も多いのですが、

  • 「攻め」のガバナンス:収益向上のための、機動的な事業ポートフォリオマネジメント
  • 「守り」のガバナンス:子会社不祥事問題を背景とした、子会社管理の実効性確保

が課題となります。

経済産業省は、2019年6月28日に主として単体の企業経営を念頭に作成されたコーポレートガバナンス・コードの趣旨を補完するものとして、グループ経営を行う企業におけるガバナンスの在り方を示す、「グループ・ガバナンス・システムに関する実務指針(グループガイドライン)」(以下「グループガイドライン」)を公表しました。

グループガイドラインの主たる対象は、グループ経営を行う上場企業とその子会社からなる企業集団ですが、グループ経営を行う非上場企業やこれからグループ経営に取り組もうとする企業にとっても参考になる部分があります。

■経済産業省「グループ・ガバナンス・システムに関する実務指針(グループガイドライン)(下記URL中段)」■

https://www.meti.go.jp/policy/economy/keiei_innovation/keizaihousei/corporategovernance/guideline.html

グループガイドラインは、あくまで一般的なベストプラクティスを示すものですが、これに沿った対応をすれば、「通常は(取締役等の)善管注意義務を十分に果たしていると評価されるであろうと考えられる」と解説されており、特に一般株主を有するグループ企業の親会社・子会社それぞれの取締役等にとっては、グループガバナンスに関する取締役等としての善管注意義務を果たす上で重要な指標となるでしょう。

そこでこの記事では、グループガイドラインを子会社側から見た場合に子会社に求められる取り組みや特に確認しておくべきポイントなどを紹介します。なお、この記事においては、主に親子上場ではないケースを想定します。

2 グループ本社による子会社の管理・監督

グループガイドライン中の2.3.3では、グループ本社による子会社の管理・監督について、特に実効的な方法として以下の4つの取り組みを提示しています。また、これらの取り組みを実践する上では、グループ全体での「ITシステムの統合」が有効とも指摘しています。

そこで、子会社側においては、これらの共通プラットフォームの整備やグループ管理規程の策定と子会社における社内規程化、グループ会社とのITシステムの統合などの取り組みが求められます。

1)グループとしての共通プラットフォームの整備・浸透

グループ子会社の管理・監督のためには、まず、親子間の意思決定権限の配分などに関するルールなど、グループ全体の基本的な枠組みを共通プラットフォームとして整備することが基本となります。また、ソフト面の対応として、グループ全体の経営理念・価値観・行動規範をグループ会社間で共有し、現場レベルに浸透させることが重要であり、経営トップが繰り返し、社内報やイントラなどの社内メディアを通じて直接メッセージを発信することが有効です。なお、海外子会社の場合には、共通プラットフォームを適用した上で、所在国の関係法令を踏まえた個別の調整を行う必要が考えられます。

2)リスクベースの子会社管理

子会社管理の具体的な運用においては、事業セグメントや子会社ごとのリスク(規模・特性)に応じて親会社の関与の強弱・方法を決定する、リスクベースアプローチが合理的であるとされています。

3)グループ管理規程の策定・周知

多数の子会社を実効的に管理するためには、明確な「グループ管理規程」(親会社の決裁・事前承認事項、報告事項、承認・報告ルートなどを具体的に定めたもの)を策定・周知すること、その子会社における遵守を担保する措置として、子会社において社内規程として導入する、親子間で管理契約を締結するなどの措置を講じることが必要であると指摘されています。

4)M&A後の海外子会社の管理・監督

異なる制度・言語・文化・商習慣を有する海外企業を適切に管理・監督することは特に難易度が高く、PMI(Post merger integration)はグループガバナンスの中でも特に重要課題であるといえます。そこで、M&A後の海外子会社の管理・監督においては、グループ本社が主導して、グローバルな経営体制の整備や海外子会社経営陣に適格な人材の配置などを通じて、適切な経営統合の在り方が検討されるべきであると指摘されています。

3 実効的な内部統制システムの構築・運用

昨今、企業不祥事の多くが子会社において発生していることから子会社管理の重要性が再認識されていますが、グループとしてのリスク管理を適切に行うためには、内部統制システムの構築・運用が重要課題となります。

グループガイドラインの中の4.6では、実効的な内部統制システムの構築・運用の在り方として、内部統制システム構築・運用のグローバルスタンダードの考え方である「3線ディフェンス」の導入、整備および適切な運用の検討の重要性が指摘されています。3線ディフェンスとは、

事業部門(第1線)、管理(本社)部門(第2線)、内部監査部門(第3線)という3つのグループ(防衛線)によって組織のコントロールとリスク管理を十分に機能させる体制

のことです。3線ディフェンスの運用例は下記の図をご参照ください。

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特に、過去の子会社不祥事事案において、子会社のトップに管理部門の人事権限が集中していたために第2線によるけん制機能が発揮されなかったことを踏まえると、第2線のけん制機能の確保が重要であるといえます。管理部門と事業部門との間でレポートラインや人事評価権者などをできる限り分離して、親会社の管理部門と子会社の管理部門を直接のラインとして通貫させ「タテ串」を通すことを検討すべき、と指摘されています。

また、子会社業務に関する第3線の内部監査は、子会社の状況に応じて、子会社において実施して親会社の内部監査部門等が実施状況を監視・監督するか、親会社の内部監査部門が一元的に実施するかを適切に判断することが必要であり、子会社監査の実効性を高めるためには、親会社の監査役等や会計監査人が、子会社の監査役等や内部監査部門等とも連携して子会社に対する監査を行う「縦の連携」が重要であると指摘されています。

従って、内部統制システムの構築・運用に関して、子会社としては、第2線については親会社の管理部門と子会社の管理部門の連携を、第3線については親会社の監査役等や会計監査人と子会社の監査役等や内部監査部門等との縦のレポートラインの確保と連携を行うことが求められます。

4 不祥事等が発生したときの親会社との連携

いかに内部統制システムを適切に構築・運用しても不祥事等の発生を完全に回避することはできません。では、いざ不祥事等が発生またはその疑いを察知した場合、どのような対応が必要でしょうか。

この点、グループガイドラインの中の4.10では、有事対応の目的は「速やかに事実関係の調査、根本原因の究明、再発防止策の検討を行い、十分な説明責任を果たすことにより、ステークホルダーからの信頼回復とそれを通じた企業価値の維持・向上を図ることである」と説明しています。初動の対応として、被害の大きさ(人の身体の安全や健康に関わるものか)や影響範囲(不特定多数に及ぶか、継続しているか)などを踏まえて公表の要否を検討し、公表が必要と判断した場合には、迅速かつ適切に行うことが必要と指摘されています(上場会社の場合は、公表の要否やタイミングについて、金融商品取引所の適時開示ルールに従う必要があります)。

そして、不祥事等が子会社で発生した場合は、「子会社における不祥事等は、親会社の直接の関与があったような特殊な場合を除き、第一次的には子会社の取締役等の責任」としつつも、

  • 事案の態様(子会社トップの関与など、組織ぐるみかどうか)や重大性(ステークホルダーへの影響の程度)
  • 子会社における対応可能性(子会社自身によるガバナンスが有効に機能することが期待できるか、体制・リソースが十分か)

などを勘案し、グループ全体の企業価値を維持するために特に必要な場合には、グループとしての信頼回復に向けて、親会社が不祥事等の原因究明や事態の収束、再発防止策の作成に向けた対応を主導することも期待されています。

つまり、子会社において不祥事等の発生またはその疑いを察知した場合、子会社役員としては、親会社への迅速な報告と連携が求められます。

5 子会社経営陣の指名・報酬

子会社経営陣の指名・報酬について、グループガイドラインでは、グループとしての企業価値を向上させる観点から、グループ本社において統一的な人事・報酬政策を明確に示した上で、各子会社の事情に応じた最適な人事管理・報酬設計を行わせることで適切なガバナンス体制を構築することが期待されています。

6 まとめ

グループ経営の在り方は様々であり、グループガバナンスの在り方も一律ではありません。そこで、各企業グループにおいて、グループガイドラインを参考にして自らのグループ全体の企業価値向上のために最適なガバナンスの在り方を早急に検討・構築することが求められています。そして、子会社役員は、その構築を親会社に完全に委ねることなく、自らが子会社に対して負う善管注意義務を常に意識して積極的に取り組んでいくことが必要なのです。

以上(2023年10月更新)
(執筆 弁護士 鳥居江美)

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中小企業のコンプライアンス経営~信頼の獲得と不正の防止

書いてあること

  • 主な読者:組織全体にコンプライアンスの意識を浸透させ、強化したい経営者
  • 課題:「知らなかった、これくらいよいだろう」では済まされない。問題の芽を摘みたい
  • 解決策:経営者がリーダーシップを発揮して、コンプライアンス経営を実践する

1 中小企業がコンプライアンス経営に取り組む意義

皆さんはコンプライアンス違反が原因で倒産する企業がどれくらいあると思いますか? 帝国データバンク「特別企画:コンプライアンス違反企業の倒産動向調査(2022年度)」によると、2022年度は実に300件の倒産がコンプライアンス違反で発生しています。長年にわたる粉飾決算の他、足元ではコロナ禍における助成金の不正受給も問題となっています。

「やってはいけないことだと知らなかった」「これくらいならいいだろうと思っていた」など、ちょっとした油断もあるでしょう。しかし、悪気がないといっても、不正は知らなかったでは済まされません。「不名誉な敗者」にならないためには、コンプライアンス経営が必要です。コンプライアンス経営とは、

法令や規則を遵守することはもちろん、社会規範に照らして企業としての倫理を遵守していくことで、広義には法令遵守などのために企業内の体制を整備することまで含む経営

であり、攻守の効果があります。

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企業の不祥事が後を絶たない中、消費者は不誠実な企業に厳しい目を向けています。同時に、「ステークホルダー(利害関係者)や環境に配慮しながら持続可能な成長を目指す企業」を評価する傾向はますます強まっています。

この記事では、中小企業が想定すべきコンプライアンス違反のリスクにはどのようなものがあるかを押さえた上で、コンプライアンス経営を具体的にどのように進めていけばよいのか紹介します。最も大切なのは、経営者の強いリーダーシップです。経営者が社員の模範になるとともに、朝礼などの場を利用して企業(自社)が社会の一員として果たすべき役割を伝えましょう。

なお、会社法は、大企業(資本金5億円以上または負債200億円以上の株式会社)には法令遵守などのために企業内のコンプライアンス体制を整備することを義務付けています。事故や不祥事を防止するために経営者が組織の全ての活動を直接把握するのは現実的でないため、経営者が間接的に組織を監督するための体制の整備を求めるという趣旨です。

一方、中小企業にはこの義務はありません。しかし、中小企業であっても、コンプライアンス体制が機能した際には、業務品質や顧客対応の向上、事故や不祥事の防止が期待できますから、企業規模を問わず、体制を整備するのが望ましいといえるでしょう。

2 中小企業におけるコンプライアンス経営の進め方

1)リスクの想定と事例研究

コンプライアンス経営を行うにあたり、まずは自社の経営に関連する主な法令とリスクを想定しましょう。これにより、対策すべきリスクが明確になります。

加えて、過去に不祥事を起こした企業の「調査報告書」(不祥事の発生原因や状況が克明に記載された報告書)を研究すれば、コンプライアンス経営の参考になります。調査報告書では、「ワンマンな経営者」「利益至上主義」などさまざまな問題が指摘されています。これらの企業と同じ問題点があるとすれば、不祥事が起こる前に対策を取る必要があるかもしれません。

2)「内部通報窓口」設置の効果

経営者が独断で判断せず、現場の社員の声を聞く必要があります。そのために有効なものとして「内部通報窓口」があります。これは、社内でコンプライアンス違反などを発見した社員が通報をするための仕組みです。内部通報窓口については、改正「公益通報者保護法」により、2022年6月1日から社員301人以上の企業に設定が義務付けられています。

内部通報窓口や通報に適正に対応する体制が整っていない場合、社員が事故や不祥事などのコンプライアンス違反を突然社外に通報・公表する可能性があります。その場合には、自社による事実調査や、通報が事実であった場合の社内外への対応をどうするかなどといった必要な検討を行う妨げとなる上、企業の社会的信用が著しく低下するなどの事態もあり得ます。

また、社員300人以下の企業にとって内部通報窓口の設置は努力義務ですが、実際は設置する企業が増えています。

3)社内規程やマニュアルの整備

コンプライアンス経営のよりどころとなる書類(規程)を整備します。整備する書類はさまざまですが、「コンプライアンスガイドライン(企業倫理規程)」などと呼ばれる、コンプライアンス経営の目的や行動規範を定めたものが中心となります。この他、業務ごとに「業務遂行マニュアル」が作成されることもあります。こうした規程やマニュアルは、社員の日ごろの活動のよりどころにもなります。

4)社員教育

コンプライアンスガイドライン(企業倫理規程)などの書類は、整備するだけでは不十分です。そこで明らかにされている企業のコンプライアンス経営の考え方が、日々の活動に活かされなければなりません。企業は社員がコンプライアンスに対する高い意識を持つことができるよう、コンプライアンス教育を行う必要があります。

5)モニタリング

モニタリングとは、実際にコンプライアンス経営が行われているかを確認・改善する行為です。顧問弁護士に一任するとよいでしょう。なお、社内に法務部門のある企業では、法務がコンプライアンス部門を兼務する場合もありますし、コンプライアンスを別部門とする企業もあります。自社で無理なく機能できる手段を取りましょう。

3 ISO26000に基づくコンプライアンスへの対応

「ISO26000」は、ISO(国際標準化機構)が発行する国際規格です。規格の認証は不要で、民間・公的・非営利のさまざまな組織を対象とした「社会的責任に関する手引」として利用できます。組織の規模を問わず活用できるように作成されており、中小企業でもISO26000を参考としながら、自社に合わせた柔軟な対応が可能です。なお、ISO26000を基にした日本産業規格(JIS)「JIS Z 26000」も制定されています。

ISO26000では、社会的責任にまつわる課題とその説明、課題の解決に向けた行動や組織に期待されること、組織が社会的責任を遂行するための具体的な行動などが規定されています。組織が果たすべき社会的責任のうち、特に重要性が高い7項目は「社会的責任の中核主題」として、主題の解説・実践に当たってのポイント・具体的な取り組み方法がまとめられています。

ISO26000の中核主題ごとに、中小企業の留意すべき点と取り組み例は次の通りです。

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4 コーポレートガバナンス

ここまで説明してきたコンプライアンスと同じく耳にする言葉として、コーポレートガバナンス(企業統治)というものがあります。定義は人によってさまざまですが、一般的には経営者の暴走を未然に防ぐため、経営者を監視・監督する体制をいいます。

経営者がコーポレートガバナンスの下で適正な経営を行っても、社員が経営者の意向を無視してコンプライアンスに反する不正を行えば企業に損失が出ます。コンプライアンス体制が構築されていても、経営者が暴走し不適切な事業を行えば同じことです。従って、コーポレートガバナンスは、コンプライアンスと併せて、企業の健全な運営・中長期的な成長のための両輪といえます。

日本取引所グループは、このコーポレートガバナンスの指針として「コーポレートガバナンス・コード」というものを発表しており、企業が上場する際にはガバナンスの構築・整備状況が審査対象になります。

他方、コーポレートガバナンス体制の構築・実施や、コーポレートガバナンス・コードの実施は、法的な義務ではありませんし、短期的に売上・利益の向上に直結するものでもないため、比較的小規模な企業がはじめから大企業のような重厚な体制を構築する必要はありません。中小企業が、コーポレートガバナンスにどの程度の手間やコストをかけるかは、企業の中長期的成長に不可欠なものだという観点から、規模・成長ステージに応じて、構築・整備していくことが重要です。

以上(2023年10月更新)
(監修 のぞみ総合法律事務所 弁護士 鈴木章太郎)

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【朝礼】自分の悪いイメージを払拭するたった1つの方法

私たちは、仕事やプライベートで関わる人に対し、無意識のうちに「〇〇な人」というイメージを持つことがあります。優しい人、怖い人、面白い人、退屈な人、いろいろありますね。ただ、それらのイメージはあくまで自分がつくり上げたもので、実態とかけ離れていることも少なくありません。歴史上の人物を例に一つ話をします。

皆さんは、「パンがなければお菓子を食べればいいじゃない」という言葉を聞いて、誰を思い浮かべますか。おそらく、多くの人が「マリー・アントワネット」と答えるでしょう。18世紀にフランス王妃となるも、フランス革命により処刑台に追いやられた悲劇の女性です。大変な浪費家だったとされ、「パンがなければお菓子を食べればいいじゃない」は、王妃としてぜいたくな日々を送る彼女が「民衆がパンを食べられずに苦しんでいる」と告げられた際に発した言葉として有名です。

ですが、実はこれは誤りとされています。先ほどの言葉は、フランスの思想家ルソーの自伝に記されたものですが、それが出版された頃のマリー・アントワネットは、まだフランス王妃になる前の10歳ぐらいの少女なのです。にもかかわらず、彼女の「浪費家」というイメージが強すぎるせいで、本当は他の誰かが口にした言葉が、彼女が言ったものと200年以上誤解されているのです。ちなみに、彼女が本当に浪費家だったのかも実は定かではなく、飢饉の際、彼女が宮廷費を削って寄付をしたという話もあるのです。

このように、「〇〇な人」というイメージは、大きな誤解を生むことがあります。ビジネスでも、意図せずに相手から悪いイメージを持たれてしまうケースというのはよくあります。

例えば、若手社員が上司に同行して、取引先との商談に臨む場面を想像してみてください。商談は上司メインで話が進むため、若手社員は「上司の邪魔にならないように」と、口を挟まず黙っています。しかし、相手は、若手社員が全く話に入ってこないのを見て、「この人は全く発言しないけど、何しに来たのかな」「話に入ってこないということは、半人前なんだな」と、ネガティブなイメージを持つかもしれません。

こうしたネガティブなイメージを払拭するための方法は、たった1つ。相手と積極的に話して、相手が自分に対して抱いている「○◯な人」というイメージを塗り替えるのです。「怖いと思っていた人が、話してみたら意外と優しかった」というのはよくある話です。

先ほどの商談であれば、事前に上司に相談して自分がメインで話をするパートをつくってもらったり、気になる点を相手に質問してみたりするとよいでしょう。多少拙い部分があっても、一生懸命話そう、話を聞こうとしてくる人には、相手も好意的なイメージを持つものです。「もしも嫌われたら……」と何もしないでいるのが一番よくありません。自分のイメージは自分から相手にアタックしてつくるのです。

以上(2023年10月)

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フリーランスともめたらどうする? トラブル事例と解決のポイントを弁護士が解説

書いてあること

  • 主な読者:フリーランスとトラブルなく取引したい経営者
  • 課題:曖昧な条件でフリーランスに依頼してしまう。社員のように指揮することもある
  • 解決策:フリーランスは社員ではない。良い意味で一線を引いて真摯に付き合う

1 フリーランスとの取引増加、トラブル対応は大丈夫?

近年は、雇用にとらわれず、フリーランスなどに業務委託をしてリソースを確保するケースが増えてきました。新しい組織のあり方としてますます進みそうですが、条件面などでのトラブルが多いので注意が必要です。フリーランスはあくまでも外部の人材なので、取引先の会社と契約するように細かく条件を決める必要があるのです。

フリーランスとの取引については環境整備も進んでいて、2021年3月26日には「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」(以下「ガイドライン」)が策定されました。そこでは、フリーランスとの取引における労働関係法令(労働基準法、労働組合法など)、独占禁止法、下請法上のルール適用の在り方を詳細に定めています。

ガイドラインは、労働関係法令、独占禁止法、下請法といった既存の法律の適用の在り方の明確化でしたが、新たな規制として、2023年4月28日には「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」(通称:フリーランス・事業者間取引適正化等法)が成立し、5月12日に公布されました。施行は2024年11月までに開始の予定ですが、フリーランスを活用する会社は意識しなければならない法令です。

この記事では、ガイドラインなども意識しつつ、フリーランスと取引する際に特に重要なポイントを解説していきます。

■内閣官房「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」■

https://www.cas.go.jp/jp/houdou/20210326guideline.html

■e-GOV「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」■

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=505AC0000000025_20241111_000000000000000

2 フリーランスが社員みたいな扱いになることもある

業務委託契約であっても、就労実態などから次の2つが認められる場合、フリーランスであっても「労働者」とみなされます。これを「使用従属性」といいます。

  1. 指揮監督下の労働である(仕事の依頼、業務従事の指示等に対する諾否の自由の有無、業務遂行上の指揮監督の有無、拘束性の有無、代替性の有無を基に判断)
  2. 報酬の労務対償性がある(報酬が、発注者等の指揮監督の下で一定時間労務を提供していることに対する対価と認められるかを基に判断)

加えて、事業者性の有無(機械、器具、衣裳等の負担関係、報酬の額、商号使用などを基に判断)や専属性の程度(特定の発注者等への専属性が高いと認められるかを基に判断)も、フリーランスの「労働者性」を補強する要素になります。

労働基準法上の「労働者性」を確認する場合、次の図表を見ると分かりやすいです。

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フリーランスが労働者とみなされて労働関係法令が適用されると、次のようなリスクが生じます。

  • 稼働時間に応じて割増賃金を支払わなければならなくなる
  • 業務委託契約の解消について、フリーランスから不当解雇を主張される

フリーランス・事業者間取引適正化等法は、フリーランスを「事業者」として扱う法律ですが、この労働者性の解釈については、フリーランス・事業者間取引適正化等法の成立によっても変わるものではないでしょう。

3 悪気はなくても「上から目線」で依頼していることがある?

フリーランスとの取引では、会社の規模や業種を問わず独占禁止法が適用されます。発注者側である会社は受注者側であるフリーランスよりも優越的な立場にあることが多く、そうした地位を利用してフリーランスに不利益を強いると、独占禁止法の「優越的地位の濫用」に違反する恐れがあります。具体的には、ガイドラインで次の12の行為類型が挙げられています。なお、一部の行為類型は下請法の適用も受けます。

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独占禁止法との関係では、「優越的地位の濫用」の規定に違反した場合、次のような制裁を受けるリスクがあります。

  • 排除措置命令(違反行為をやめさせ、正常な状態に戻すための措置を命じること)
  • 課徴金納付命令(継続的に優越的地位の濫用行為を行った場合)
  • 損害賠償請求、差止請求

また、資本金が1000万円超で、フリーランスとの取引内容が「製造委託」「修理委託」「情報成果物作成委託」「役務提供委託」に該当する会社は、下請法も適用されます。その場合、所定の取引事項を記載した書面を交付することが義務付けられます。これを怠ると50万円以下の罰金に処される恐れがある他、勧告や会社名の公表などのペナルティーが課されます。

なお、フリーランス・事業者間取引適正化等法は、下請法よりも適用範囲が広く設定されているため、同法の施行後は、ガイドラインよりもフリーランス・事業者間取引適正化等法への対応を優先すべきでしょう。

4 決めることは双方のため。業務効率化にもつながる

独占禁止法、下請法の関係もありますが、フリーランスに発注する際は必ず書面の契約書を交わしましょう。特に、フリーランス・事業者間取引適正化等法では、書面に限りませんがフリーランスへの発注には広く取引条件の明示が義務付けられています。

フリーランスが条件を細かく確認してくることについて、「私を信用していないのか?」と気分を害する経営者がいるかもしれません。しかし、フリーランスには社員のような手厚い補償がありませんし、自身が体調を崩すなどして働くことができなくなれば収入もありません。身一つで仕事をしており、契約にないことをサービスで行うような余裕はないのです。そのため、フリーランスに依頼するときは発注する業務を明確に切り出し、契約書に落とし込むことが礼儀でもあるのです。

また、意外なことですが、フリーランスと取引をすることで業務効率化が実現することがあります。フリーランスはさまざまなITツールを使ってクライアント(この場合は自社)とコミュニケーションを取ったり、請求業務を効率化したりしています。フリーランスが利用しているITツールを自社も導入したり、日ごろのコミュニケーションの方法や時間に対する考え方を吸収したりすることは、自社にとってプラスになります。

以上(2023年10月更新)
(執筆 日比谷タックス&ロー弁護士法人 弁護士 堀田陽平)

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【債権回収(22)】判決に従わない債務者から強制的に債権回収する「強制執行」

書いてあること

  • 主な読者:裁判に勝訴したのに、相手が債務を履行せずに困っている経営者
  • 課題:強制的に債務を履行させる方法がないのか知りたい
  • 解決策:「強制執行」による債権回収が可能だが、相応の時間とコストがかかる

1 判決を得ても債権回収できない場合の強制執行

裁判で勝訴をしても、相手が判決に従って弁済するとは限りません。そのような場合、「強制執行」を行う必要があります。強制執行とは、

判決内容に基づいて債務の履行をすべきなのに相手がそれを行わない場合、改めて裁判所に「強制執行の申立」をして、国家が強制的に判決で命じられた債務の履行を債務者に行わせること

です。強制執行は、民事執行法で定められた「民事執行」の1つで、

  • 金銭執行:金銭の支払いを目的とする
  • 非金銭執行:物の引渡しを目的とする等、金銭の支払い以外を目的とする

に分類され、対象となる財産や目的などによって細分化されます。

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この記事では、比較的事例の多い不動産執行(強制競売)と債権執行を紹介します。なお、強制執行には相応の時間とコストがかかります。そのため、担保を設定するなど、訴訟や強制執行によらずに債権回収ができる準備をしておくことも大切です。

2 強制執行をするための3点セット

強制執行には、

  1. 債務名義
  2. 執行文
  3. 送達証明書

の3点セットが必要です。

まず、債務名義とは、

強制執行によって実現されるべき請求権の存在・範囲、債権者、債務者を示す公の文書

です。債務名義には、確定判決の他、執行証書(公正証書)や和解調書などがあります。

この債務名義とセットになるのが執行文です。執行文とは、

債務名義の執行力を公的に証明する文書

です。なお、債務名義のうち、「少額訴訟の確定判決」「仮執行宣言付少額訴訟の判決」「仮執行宣言付支払督促」については、執行文がなくても強制執行ができます。

最後は送達証明書です。強制執行をするには、債務名義が債務者に送達されている必要があります。そこで、確かに送達されていることを証明する送達証明書が必要なのです。

3 不動産執行(強制競売)の概要

1)強制競売と強制管理とは

不動産執行には、

  • 強制競売:不動産の売却によって金銭を得るもの
  • 強制管理:不動産から得られる収益(家賃収入等)によって金銭を得るもの

があります。債権者は強制競売と強制管理のいずれか、もしくは併用を選択します。実務では、強制競売が選択されるケースが多いため、裁判所のウェブサイトを基に強制競売の手続きを紹介します。

2)不動産執行の申立

不動産執行の申立は書面で行います。書式例は、東京地方裁判所や大阪地方裁判所のウェブサイトに掲載されています。申立先は、目的不動産の所在地を管轄する地方裁判所となり、その裁判所を「執行裁判所」といいます。

3)開始決定・差押え

申立が適法なものと認められたら、執行裁判所は不動産執行を開始する旨および目的不動産を差押さえる旨を宣言します。

開始決定がされると、裁判所書記官が管轄法務局に目的不動産の登記簿に差押えの登記をするように嘱託します。また、債務者および所有者に開始決定正本が送達されます。差押えの効力は、強制競売の開始決定正本が債務者に送達されたとき、もしくは送達前に差押えの登記がされたときに生じます。

なお、差押えをされると、債務者は目的不動産を処分できなくなります。ただし、競売の手続きを経て買受人が決まり、買受人がその代金を納付して不動産を取得するまでは、通常の用法に従って目的不動産を使用することができます。

4)売却の準備

裁判所は執行官や評価人に命じて、目的不動産の詳細を調査します。この結果に基づき、裁判所は不動産の売却基準価額を定めます。また、物件明細、現況調査報告書、評価書を作成して一般の閲覧に供します。

5)売却実施

裁判所書記官が、売却の日時、場所、売却方法などを定めます。売却方法はさまざまですが、1回目の売却方法は定められた期間内に入札をする期間入札で行われます。裁判所書記官は、売却すべき不動産の表示、売却基準価額、売却の日時、場所を公告します。

6)入札から所有権移転まで

入札は、公告書に記載された保証金を納付し、売却基準価額からその20%相当額を差し引いた価額(買受可能価額)以上の金額でしなければなりません。最高価額で落札して売却許可がされた者(買受人)は、裁判所が通知する期限までに代金を納付します。納付代金は、入札金額から保証金額を引いた額であり、代金の納付をもって買受人は目的不動産を取得します。

なお、所有権移転等の登記の手続きは裁判所が行いますが、手続きに要する登録免許税等の費用は買受人の負担となります。

7)不動産の引渡し

不動産の引渡しが行われます。引き続き居住する権利のない人が居住している場合、その人に明渡しを求めることができます。この求めに応じないときは、代金納付後、6カ月以内であれば、裁判所に申立てて明渡しを命じる引渡命令を出してもらえます。引渡命令があれば、執行官に強制的な明渡しの手続きを取るように申立てることができます。

8)配当

裁判所が、申立てをした債権者や配当を要求した他の債権者に売却代金を配ります。原則として、抵当権を有している債権と、債務名義しか有していない債権とでは、抵当権を有している債権が優先されます。また、抵当権を有している債権の間では、抵当権が設定された日の早い順に優先されます。債務名義しか有していない債権の間では優先順位はありません。

4 債権執行の概要

1)債権執行とは

債権執行とは、

金銭の支払いまたは船舶もしくは動産の引渡しを目的とする債権(動産執行の目的となる有価証券が発行されている債権を除く)に対する強制執行

のことです。例えば、債務者の銀行預金を差押さえて債権回収を図る場合などです。ここでは裁判所のウェブサイトを基に債権執行の手続きを紹介します。

2)債権執行の申立て

債権執行の申立ては書面で行います。申立先は、債務者の住所地を管轄する地方裁判所ですが、住所地が分からないときは、差押さえたい債権の所在地となります。その裁判所を「執行裁判所」といい、「銀行」のように差押さえたい債権の債務者を「第三債務者」といいます。

3)差押命令

裁判所は、債権差押命令申立てに理由があると認めるときは、債務者に対して債権の取立てその他の処分を禁止し、かつ第三債務者に対し債務者への弁済を禁止すること等を内容とした差押命令を発し、債務者と第三債務者に送達します。差押えの効力は、差押命令が第三債務者に送達されたときに生じます。

4)差押え

執行裁判所は、差押さえるべき債権の全部について差押命令を発することができます。例えば、請求債権が250万円で、被差押債権が300万円の場合、差押えの効力は300万円全額に及びます。

また、給料その他継続的給付に係る債権の差押え効力は、差押債権者の債権および執行費用を限度に、差押え後に受けるべき給付に及びます。なお、給料などについては「差押禁止債権」として、債権額の一部の差押えが禁止されています。「差押禁止債権」の概要は次の通りです。この他、国民年金・厚生年金、児童手当給付金、生活保護給付金等については、個別法により差押え自体が禁止されています。

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5)取立て(または配当)

債権差押命令が債務者に送達された日から1週間(給料等の差押えの場合については4週間)を経過したときは、債権者はその債権を自ら取り立てることができます。ただし、第三債務者が供託をした場合、裁判所が配当を行うので直接取り立てることはできません。

5 財産開示手続の概要

財産開示手続とは、

債権者が債務者の財産に関する情報を取得し、強制執行の実効性を高めるための制度

です。債務者が裁判所の指定する財産開示期日に出頭し、自らの財産状況を陳述する手続になります。

これまでの財産開示手続は、債務者が出頭しなくても30万円以下の過料の制裁を科されるリスクしかなかったことから、債務者が財産開示手続に出頭しないことが少なくなく、実効性に疑問がありました。そのため、なかなか利用される制度ではありませんでした。

このような問題点を踏まえて、民事執行法が2020年4月1日に改正(施行)され、

財産開示手続に出頭しなかったり、債務者が財産状況について虚偽の陳述をしたりした場合、6カ月以下の懲役または50万円以下の罰金が科される

ようなりました。そして、法改正後、

裁判所の財産開示の呼び出しに応じなかった債務者が民事執行法違反で書類送検される

ケースも出てきました。

このように、財産開示手続に出頭しなかったり、虚偽の陳述をしたりすることによる刑事罰の定めが心理的なプレッシャーになり、今まではあまり利用されていなかった財産開示手続が今後、強制執行を実効化するために利用される機会が増えるのではといわれています。そのため、強制執行を検討するにあたって、このような手続きをきちんと知っておきたい場合には、弁護士に相談してみるとよいでしょう。

以上(2023年9月更新)
(監修 有村総合法律事務所 弁護士 平田圭)

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画像:Mariko Mitsuda

飲食店の東京進出はリスキー?まずは地域ナンバーワンシェアを目指そう!

書いてあること

  • 主な読者:事業が軌道に乗ってきて、今後の方向性を検討している地方の飲食店経営者
  • 課題:東京進出したいが、競争率や家賃が不安。でも、今の地域にいたまま成功できる?
  • 解決策:ランチェスター戦略の「局地戦」に注目し、地域ナンバーワンシェアを目指す

1 東京進出はリスクだらけ?

事業が軌道に乗ってきたら東京に進出して、ウチの店の味がどこまで通じるか試したい! このように東京進出を夢見る飲食店経営者は少なくないでしょう。店舗が大きな売り上げや利益を上げている場合、マーケットの大きい都会に進出して会社を飛躍的に成長させたいというのは当然の考えです。

ですがご用心。安易な東京進出には、さまざまなリスクが付いて回ります。例えば、

  • 飲食店で言えば、現在の東京は店舗数が飽和状態に近く競争が激しい
  • 好立地物件の家賃相場が地方に比べて高い
  • 地元ならではの食文化や慣習、地産地消などを名物にしている店の場合、東京や全国区で通用するかは不透明
  • 地元ならではの食材を売りにしている場合、原材料の確保や物流コストが掛かる
  • 激化する競争環境の中で、各社がSNSなどを使った熾烈なマーケティング合戦をしており、対抗するには多くの手間とマーケティング費用が必要になる

といった具合です。

こうしたリスクに対して、十分な準備が整わないのであれば、

現在店舗のある地域でナンバーワンを取る

ことをお勧めします。これはビジネス用語の「ランチェスター戦略」における「局地戦」を基本とした考え方です。局地戦とは、地域や限定的な市場にあえて戦力を集中投下し、その市場におけるシェア拡大を図り、東京など大都市圏に進出するよりも高い収益性を上げるというものです。

実際に、この局地戦を制して成功した会社の事例は数多くあります。この記事ではそうした事例を挙げつつ、「今の時代に地域ナンバーワンシェアを取るには」という観点で具体的な手法を紹介していきます。

2 「局地戦」を制して成功した会社の事例

1)北海道でコンビニシェアナンバーワンの地位を確立した「セイコーマート」

セイコーマートは、北海道内で1090店(2023年7月時点)を誇るコンビニエンスストアです。日本におけるコンビニの3強であるセブンイレブン、ローソン、ファミリーマートをしのぐ店舗数で、北海道ではシェアナンバーワンです。

セイコーマートは北海道でのシェア拡大を徹底し、地域特化のうまみを生かした戦略によって差異化を図っています。これこそランチェスター戦略における「局地戦」の好事例といえるでしょう。

セイコーマートが行っている差異化戦略は次のようなものです。

  • 店内で調理を行うイートインコーナー「HOT CHEF (ホットシェフ)」を提供
  • 大手が出店しないようなへき地や離島にも出店
  • 安価で多種多様な総菜を含めた豊富な商品ラインアップ

ホットシェフは、各店舗にある店内調理場で総菜や弁当を作るというサービスです。大手コンビニのように揚げたり温めたりするのではなく、専任担当者が厨房に立ち、出来立てを提供しています。

本来であれば、余分な人員が必要で、売り場スペースも減る店内調理は、効率性やスピードが重視されるコンビニ経営には不都合で、実際、大手コンビニでは店内調理場はほとんど見かけません。

しかし、ここで北海道ならではの事情が関わってきます。例えば、北海道はへき地や離島が多いですが、こうした地域への出店では、長距離輸送によって店に商品が届いてからの販売時間が短くなったり、天候悪化で客足が止まったりすると大量の廃棄食材が出てしまうケースが少なくありません。

ですが、セイコーマートの場合、主軸サービスであるホットシェフが、保存のきく冷凍食材を、その時の客足に応じて調理するスタイルのため、食品ロスが少ないのです。これにより、へき地や離島でも効率的な店舗経営が可能になっています。

また、安価で多種多様な総菜を含めた豊富な商品ラインアップも大きな強みです。大手コンビニは全国、特に大都市圏に多くの店舗を展開しているため、統一された商品は都市型にならざるを得ません。

一方のセイコーマートは北海道に特化することで、北海道の客層に合わせたラインアップを提供できます。前述したように飲食店のように利用する層や、食品スーパーの代わりに使うニーズもあります。そのため同社では、数十種類に及ぶ1人用の総菜を安価で提供しています。また、北海道の原料を使ったカップ麺やお酒のつまみ、アイス、北海道限定ビールなど、北海道ならではの商品も多く陳列されています。これも大手に比べて大きな差異化要因です。しかも、北海道で作られたものを使って自社工場で製造しているので、安さを維持できています。

なお、セイコーマートの出店地域には飲食店が少ないエリアもあります。そうしたエリアでは、セイコーマートのイートインコーナーが、温かい食事を取りながら家族や知り合いと団らんする飲食店の代わりになっているようです。

2)地域一番店を目指す「炭焼きレストランさわやか」

さわやかは、静岡県内で34店舗(2023年8月時点)を経営する、「げんこつ・おにぎりハンバーグ」を主力商品にしたレストランです。

さわやかが行っている差異化戦略は次のようなものです。

  • メニュー数を絞り「げんこつハンバーグ」「おにぎりハンバーグ」に一点集中
  • 出店を静岡県内に限定することで希少性や地域密着性を演出

さわやかは「ハンバーグがおいしい店」として有名で、静岡県に来たら必ず食べる人も多く、食べるために静岡県に来るというケースもあるほどです。

ここまでイメージ戦略に成功している理由の1つが、主要メニューを「げんこつハンバーグ」「おにぎりハンバーグ」に絞り込んだことです。メニューを一点集中させ、その分、味や品質に徹底してこだわることで、他社との差異化を図っているのです。

肉はオーストラリア南東部の指定牧場で育てた牛のみを使用し、静岡県にある自社工場でハンバーグを製造しています。さらに各店舗で、毎日開店前にハンバーグの焼成条件や鉄板加熱条件、利用客に提供するのと同じやり方でハンバーグの提供を行い、試食して問題がないことを確認しています。これも、メニューを絞り込んでいるからこそできることです。

また、調理や提供のオペレーションも簡略化できるため、スタッフの負担も軽減され、丁寧な調理や接客に集中できます。

さらに、静岡県限定で店舗展開することで県外の利用客に「希少性」を印象付け、また静岡県産の食材を使ったサイドメニューを提供するなど「地域ならでは」を押し出すことで、県内の利用客の好感度も上げています。

こうしたイメージ戦略や、前述したメニューの一点集中による味や接客の質向上により、「常に行列ができる店」「休日にはディズニーランドを超える待ち時間」などとして、メディアでも取り上げられるようにもなりました。

3 局地戦の具体的な手法

1)狭い地域に集中展開する「ドミナント出店」

局地戦で打って出る場合に重要な考え方が、

狭いエリアに高い密度で集中出店する「ドミナント出店」

です。これは1店舗目が繁盛している場合、2店舗目、3店舗目をどこに出店するかを検討する際に役立つ考え方です。

ドミナント出店の成功例を見てみましょう。これは、ある美容室の事例です。開業当初から丁寧な接客などで大きな利益を上げていたその店には、駅を挟んで反対側に強力なライバル店がいました。

そこで、この店が取った戦略がドミナント出店です。常日頃、駅の反対側を利用する人が自店を利用するのは考えにくいと判断し、2店舗目も自店がある、駅の手前側に出店したのです。さらにチラシを駅の手前側で集中的に配布しました。地の利の悪い地域ではなく、利用客のニーズや年齢層、行動パターンなどをある程度把握しているエリアに販促費を集中投入したのです。

3店舗目、4店舗目も同じエリアに出店したことで、

  • 予約にあぶれた利用客に近くの別店舗を紹介できる
  • 人員が足りない場合に近くの店舗からヘルプを呼べる
  • 人員や地域を統括するマネージャーの移動時間が抑えられる
  • スタッフ同士が店舗をまたいで円滑にコミュニケーションを取れる

ようになりました。こうした取り組みの結果、この美容室は自分たちのエリアでシェアナンバーワンを取ることができたのです。

このように地域を絞って集中展開することで、集客や採用、マネジメント、さらには販促やマーケティングのコストを安く抑えられるのです。飲食店であれば、仕入れや配送の効率化による影響も大きいでしょう。

ただし、ドミナント出店をする場合、自店舗同士で利用客の「奪い合い」が起きないようにすることが大切です。事例の美容室の場合、「30代以上の男性向け」「髪質向上特化」などといった形で店舗ごとの個性を出し、グループ自体のブランドは維持しながらも自店舗同士が食い合わないようにしました。こうすることで、例えば、主婦の利用客がいたらその夫に「30代以上の男性向け」の店舗を紹介するといった、潜在顧客の掘り起こしや誘導も可能になります。

2)地域に特化したSNSマーケティング

WebやSNSマーケティングの激戦区である大都市圏とは違い、地方の店舗ではこうしたマーケティングに注力できていないケースが多いといわれます。つまり自社が取り組めば、競合他社と差異化を図り、地域シェアナンバーワンを取りやすくなるということです。

地域に根差したSNSマーケティングの一例としては、

インスタグラムを使った認知・集客

があります。インスタグラムは女性や主婦層の利用が多いといわれ、飲食店や美容室、ペットショップなど多くの店舗がその効果を期待できます。

ここ最近、注目を集めている手法が、インスタグラムの「いいね」機能を使った集客です。具体的な方法は次の通りです。

  1. シェアを取りたい地域の他の店舗に訪れた人、コメントをしている人を見つけ、その人の投稿に「いいね」をする。この際、最初はプライベートな投稿よりも、同様に地域の店や話題を紹介している投稿がよい。紹介している店が同業他社でも問題ない
  2. 「いいね」がその人に通知されるので、一定の割合でフォローをしてもらえる(潜在的な利用客の獲得)
  3. 後は店舗の内装や商品・サービスの紹介、開店日のカレンダーなどを定期的に投稿しつつ、24時間で投稿が消えてしまう「ストーリー」という機能を使ってタイムセールや新商品・サービスのキャンペーン情報などを宣伝する

タイムセールでは、地域の競合他社の近似商品・サービスよりも安くしたり、内容の良さをアピールしたりするのが有効です。

この記事では、見映えがする投稿(いわゆる「インスタ映え」)のポイントについては割愛しますが、一般的に投稿をする際は、商品やサービスの写真をメインに据え、商品と同系色の背景や文字を用いて、商品名や価格、セールの日時を記載するのが効果的といわれています。

3)ローカル局のテレビCMを利用してみる

地域に特化した差異化戦略として、テレビCMを打つというのも一策です。テレビCMと聞くとお金が掛かるイメージがありますが、テレビ局を

  • 主に東京にある大手キー局
  • 名古屋や大阪などの準キー局
  • 一定の地域を放送エリアに持つローカル局(地方局)

に分けて見ていくと、実は必ずしも高額というわけではありません。

ローカル局は放送エリアも限定的になるため、地域に密着した広告を打つことができ、さらにキー局や準キー局に比べてCMを流す放映料も安くなります。15秒のCMを1回流すのにキー局が数十万~100万円以上掛かるといわれる一方、ローカル局の場合は大体1万5000~数万円が相場といわれます。なお、CM放映料については地域、時期、季節、放映する期間や時間帯、放送回数などによって変動するため、CMを打ちたい地域のローカル局に問い合わせ、料金や放映期間を決める必要があります。

ここまでの話で、「地方のテレビCMを見る人は少ないのでは?」「テレビCMを見た人への広告効果はあまり期待できないのでは?」と思った人もいるでしょう。その懸念は正しいです。ただ、このローカル局のテレビCMを使った手法は、CMそのものの広告効果を狙うのではなく、

CMを打っているという既成事実を作るためのもの

です。具体的に言うと、CMを打っている期間、店舗の壁や外から見えやすい場所に「テレビCM放映中!」などのポスターやチラシを置くだけでいいのです。

CMで紹介しているというだけで、利用客はその会社に「箔」を感じますから、結果、競合他社の近似商品やサービスとの差異化を図ることができます。「CMで話題になっているらしい」というイメージは、それだけで大きいものです。

この箔付けが主目的なので、実際のCMの内容については凝ったものを製作する必要はありません。有名人などは起用せず社長や店長、社員が出演するのでもいいですし、そういった撮影などをせずに写真や文字、アナウンスだけでも十分です。

そうすることで、CMの製作費も低く抑えることができ、安価でその地域において優位になるマーケティングを展開することができるのです。

以上(2023年10月作成)

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画像:beeboys-Adobe Stock