男性の育休取得は、2022年10月の新制度、出生時育児休業(産後パパ育休)の創設でより注目されることとなりました。さらに、2023年4月から「常時雇用する労働者」が1,000人を超える企業は、男性労働者の育児休業等の取得状況を年1回公表することが義務付けられました。
本稿では、一連の法改正により関心が高まっている男性の育児休業について、取得の現状や企業に課せられる法律上の義務などをご紹介します。
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男性の育休取得は、2022年10月の新制度、出生時育児休業(産後パパ育休)の創設でより注目されることとなりました。さらに、2023年4月から「常時雇用する労働者」が1,000人を超える企業は、男性労働者の育児休業等の取得状況を年1回公表することが義務付けられました。
本稿では、一連の法改正により関心が高まっている男性の育児休業について、取得の現状や企業に課せられる法律上の義務などをご紹介します。
皆さんの会社でも、いくつもの会議が行われていると思います。経理部内、事業部門や経営者が相手、あるいは顧問税理士など社外の専門家との会議という場合もあるでしょう。
そこで、今回は
会議をテーマに取り上げて、経理部はどのように会議を活用したらいいのか、人材育成も含めた観点
から見ていきたいと思います。
以前新聞で見たアンケート結果によると、一般社員でも平均すると、毎日1時間程度の会議があるという話でした。そして、役職が上がっていくにつれ、2倍、3倍に増えていくとのこと。おそらく管理職の皆さんは、一日に2~3つの会議があり、準備も入れると半日程度費やしているという方が多いのではないでしょうか。意思決定のハブとして機能するためには、これぐらい必要になってしまうのではないかという印象が、自分の管理職経験からしてもあります。
また、経理の非管理職の方でも、昼はずっと会議で埋まっているという話を聞いたことがあります。その結果、作業時間がとれるのは夕方以降だそうで、毎日残業続きで大変そうでした。
社歴が長い会社であればあるほど、慣習的に行われている会議や、何年もやり方を変えていない会議もあると思います。業務改善の取り組みの一環として、自身の周りの会議のあり方・進め方を見直してみましょう。
会議が多ければ、その分、作業時間が減るのは当然です。私たち経理は、伝票処理などの一定程度の作業時間をとらなければ、業務が遅れてしまいます。ゆえに、この一定程度の作業時間の存在を前提として、会議の量をコントロールする必要があるのです。これが経理にとっての会議を考える上で、1つ目のポイントになります。
2つ目のポイントは、会議は問題を解決する場として活用すべきという点です。私たち経理の業務は定型のものや、決算のように定期的に行われる業務が多くあります。そのため、大抵の業務は問題なく進むものの、時折、何らかの理由で遅れたり、トラブルが生じたりすることがあります。まさに会議は、このような担当者個人では解決が難しい問題(遅れやトラブル)を、上司やチームの力を借りて解決するためにこそ活用されるべきです。定例会議の場では、進捗報告が行われることがありますが、進捗を共有すること自体は手段にすぎません。本当の目的は問題を発見し、その上で解決することにあるのです。現場担当者に比べて豊富な知識や経験、人脈や権限を使って解決に近づけるケースも多いはずです。
ここで大切になるのが、部下が上司に対して今起きている問題をスムーズに報告できる会議の雰囲気づくりです。
「会議では問題を扱うべき」という話をすると、メンバーからは「問題を報告するとうちの上司は機嫌が悪くなる」という声がしばしばあがります。確かに、自分がスタッフだった頃を考えると、やはり上司に悪い報告をするのは勇気が必要でした。そのことを見越して、私の日本マクドナルド時代の上司は「Bad News First」という標語を作り、ことあるごとにこの言葉を口にして、部内に浸透させていました。
課題や問題といった悪いニュースを伝えてくれるメンバーは、管理職自らそれを発見する手間と時間を省略させてくれる、部の運営上とても助かる存在のはずです。また、このような問題提起ができるメンバーは、リスク把握力が高いことが多く、今後の人材育成や部内の人材配置においても考慮に入れると効果的です。
近年、効果的に働くためには「心理的安全性」が大事と言われますが、私は
「悪いことでもメンバーが口に出せる状態かどうか」
ということだと捉えています。特に、複数のメンバーが参加する会議の場では、他人の目が気になるはずです。どのような意見に対しても即否定せずに、まずは発言してくれたことに感謝しつつ、なぜそう思うのかを穏やかに質問します。また、何か悪い報告があった場合は、個人を責めるのではなく、まずは事実の確認に徹しましょう。その上で、よく言われることですが、本人に反省を促す必要がある場合には、他の人がいないところに行き、1対1で話すのがベストな方法です。
ただ、すべての会議で同じやり方が通用するわけではありません。会議の種類(定例会議・臨時会議・1on1)ごとに、目的と進め方にポイントがありますので、次章で解説していきます。
定例会議の最大のポイントは、
「意味がある」議題を用意すること
です。もし皆さん管理職からみて、トラブルが無さそうなことがあらかじめ分かっていたり、そもそも重要な作業・イベントがない期間だったりすれば、会議自体をキャンセルしてもいいのです。この判断をできるのは主催者である管理職だけなので、定例だからと惰性で開催するのではなく、辞める勇気を持ってください。逆に、何か話し合った方がいい話題があれば、慣習的に行われている進捗報告に代わって、それを議題にしましょう。
そうすることで、必要なことを話せる場ができ、かつメンバーにとっても会議の重要性が伝わるため、結果として会議が活性化します。
ちなみに、多くの会社では、開始時刻は比較的守られるものの、終了時刻がうやむやになるケースが多いようです。終了時刻を守れるように、管理職の方は会議の進行管理に気を付けましょう。例えば、議題ごとに予定時間を設定したり、一人当たりの発表時間をあらかじめ定めたりするのも役に立ちます。また、1時間の会議を設定するケースが一般的ですが、スタートアップ企業でよく取り入れられているように、あえて30分間や45分間といった従来よりも短い時間枠で設定することで、緊張感が生まれることもあります。
スポットで生じた議題を話し合う臨時会議の最大のポイントは、
参加者選び
です。何か問題が生じると、念のためあの人も呼んでおこうと会議が大きくなりがちです。参加者が増えるとスケジュールの調整が難しくなり、開催が先延ばしになることもしばしばです。しかし、目的が問題解決ということであれば、会議を開催するスピードも大事です。
なるべく早く開催するためにも、関係が薄い人は参加者から外しましょう。内容が分かる人とその場で決定できる人の2種類がいれば十分です。回数も可能な限り一度で済ませましょう。
まとめると、臨時の会議は、小さく・早く・少なく開催できると、当初の課題が解決しやすいと私の経験から感じます。臨時で会議を開く目的はまさに問題の解決ですが、会議のあり方が問題解決に少なからず影響するということです。
次に、近年増えてきた1対1で行う面談(1on1。ワンオンワン)です。主に、日々の業務目的というよりは、各人の人材育成の観点から開催されることが多く、頻度も月次あるいは四半期に一度程度というケースが多いようです。つまり、短期ではなく中長期のスパン、業務ではなくメンバー個人の話をする場として一般に使われています。
1on1の最大のポイントは、
相手に話題を委ねること
です。この会議では、皆さんが議案を決めたり、進行したりしてはいけません。ひたすら相手の話を聞くことに徹します。これまで皆さんが経験してきた会議とは性質が大きく異なるため、はじめは慣れずに居心地が悪いかもしれません。あるいは、上司部下の関係において、心理的安全性が低い場合には、なかなか口を開いてもらえないかもしれません。その場合には、この場の趣旨に何度も触れたり、皆さん自身の他愛もない話をしたりするのもいいでしょう。日頃は業務の話しかしない上司が自分の話をすると、メンバーにとっては意外性が高いため親近感をもってもらうきっかけになりやすく、効果は高いものです。なお、もしメンバーが口を開いた内容が、業務の話だった場合には、注意しましょう。なぜなら、業務自体に関するコミュニケーションの量や質が不足していることのシグナルと考えられるためです。
1on1は、個人の思いや考えなど、人材育成のベースとなる情報を得る場として最適かつきわめて重要だと私は考えています。会議として設定することで、多忙でも時間がきちんと確保されやすいこと、継続して定点観測できること、個別に向き合うことができることなど、数多くのメリットがあります。
3つのタイプの会議を見てきましたが、それぞれの会議の特徴や進め方を理解した上で、議題を絞り込んだ会議を、何重にも活用することが大事です。
複数人いる会議であれば緊張感を活用できますし、1対1であれば限りなく相手に合わせた内容にすることができます。会議を問題解決の場だけに使うのでなく、ぜひ人材育成の場として活用してみてください。管理職の日々はあまりに忙しく、最近様子が気になるメンバーがいたとしても「時間があるときに個別に話そう」となりがちです。しかし、そう思いつつも気が付いたときには、そのメンバーから退職届が出てくるかもしれません。手遅れにならないように、ぜひ会議という身近な手段を上手に活用してみていただけると幸いです。
以上(2023年8月作成)
pj35153
画像:Shutter z-kittiphan-shutterstock
少し先の話ですが、皆さんは、2024年に開催されるパリ五輪の新たな種目に、「ブレイキン」という競技が加わることをご存じでしょうか? まだ「マイナースポーツ」の位置付けでしょうが、国内の競技人口は600万人という推測もあり、特に若者には人気があります
私もブレイキンのことをよく知らなかったのですが、テレビで大会の様子や選手のプロフィールなどを知って、とても興味を持ちました。もちろん、ダンスのパフォーマンス自体の動きの激しさやテクニックもすごいと思ったのですが、それと同じくらい興味を持ったのが、ブレイキン特有の「ダンサーネーム」です
ブレイキンでは、各選手が本名とは別にダンサーとしての名前を持っており、観戦者も選手のことをダンサーネームで呼んでいます。ダンサーネームの付け方は選手によって異なるのですが、アルファベット3文字、ひらがな1文字、アルファベットとひらがなをミックスさせた名前など、奇抜なものもあります。ですので、名前を見てもどんな意味があるのか分からなかったり、「そんな名前でいいの?」と思ったりすることもあります
そこで、私は、一部の選手のプロフィールをインターネットで検索して、ダンサーネームの由来を調べてみました。調べてみると、本名や自分の理想とする言葉をもじったり、あるいは過去の思い出などを表す言葉を入れたりしたダンサーネームなどもあるようでした
私が感銘を受けたのは、彼らの中に、自分がダンスで表現したいこと、ダンスを通じて伝えたいことを、ダンサーネームに込めている選手がいたことです。こうしたダンサーネームは、自分の進むべき道の「旗印」としての存在だといえるかもしれません。
また、自分の思いを込めたダンサーネームがあることで、つらいときに、その名前が自分の背中を押してくれる、という選手もいるそうです。選手にもよるでしょうが、ダンサーネームには、それだけの「重み」があり、敬意を持って呼ぶべき名前なのだということを知りました
ダンサーネームのことを知って、私は、果たして自分には、自分の「旗印」のような指針となり、つらいときに自分の背中を押してくれるような言葉を持っているのか、思い巡らすようになりました。座右の銘や、好きな言葉はありますが、「これが、自分の進む道だ」「自分が最も大切にしている、この言葉に恥じないように頑張ろう」とまで思えるほどの言葉は、明確に持っていなかったと思います
そこで、私も、ダンサーネームではありませんが、自分の「旗印」となるような、広い意味で自分の「キャッチフレーズ」といえる言葉を考えてみることにしました。ここでは明かしませんが、いくつか候補を考えています。皆さんも、キャッチフレーズを付けることで自らの「旗印」を掲げてみませんか?
以上(2023年8月)
pj17142
画像:Mariko Mitsuda
繰延資産とは、創立費、開業費、開発費、株式交付費、社債発行費、新株予約権発行費などです。他の資産である流動資産や固定資産などは譲渡換金できますが、繰延資産は創立費などの「費」が表すように譲渡換金できる資産ではありません。つまり、
繰延資産は、本来費用であるものを便宜上資産に計上し、一定期間内に償却しながら費用化するもの
です。
一方、会社法では繰延資産とその償却方法が定められていません。そのため、企業は会計慣行に従って繰延資産の処理を行うことになります。次の章で紹介する償却期間は、中小企業の会計に関する指針によるものです。
創立費とは、設立事務費用、登録免許税、発起人の報酬など会社設立のために要した費用です。定款諸規則作成のための費用、株式募集のための広告費、株券などの印刷費、設立事務所の賃借料、証券会社の取扱手数料、創立総会に要する費用、設立登記の登録免許税などがこれに該当します。創立費の償却期間は5年以内です。
開業費は、会社設立後から営業開始までに支出された費用です。開業準備期間中に要した土地・建物の賃借料、広告宣伝費、通信費、交通費、支払利子、給料、保険料、電気・ガス・水道料などがこれに該当します。開業費は開業後5年以内で償却します。
開発費は、新技術・新組織の採用、資源の開発、市場の開拓などに特別に支出した費用です。特別に支出した費用であるかどうかは、現に生産している製品や採用している技術、現在の販路などに照らして、過去の事例などから判断します。開発費は支出後5年以内で償却します。
社債発行費は、社債募集のための広告費、証券会社の取扱手数料、社債券の印刷費、社債登記の登録免許税など、社債発行のために直接に要した費用です。社債発行費は社債償還期間で償却します。
株式交付費は、増資など新規に株式を発行する場合、株主募集のための広告費、証券会社の取扱手数料、株券や目論見書の印刷費など、株式発行のために直接に要した費用です。また、自己株式の処分費用もこれに含まれます。株式交付費は発行後3年以内で償却します。
企業の一定期間の経営成績を明らかにするためには、会計期間を定めて、これに属する収益とこれに対応する費用を計上する必要があります。また、将来の企業の財政に不利な影響を及ぼす可能性がある場合は、これに備えて健全な会計処理をしなければなりません。
引当金とは、当期以前の事象に起因し、将来の特定の費用または損失で発生の可能性が高く、金額を合理的に見積もることができるもので、その金額が確定していないものについて計上します。以降では、引当金として貸倒引当金について説明します。
受取手形、売掛金、貸付金などの債権は回収を予定したものですが、その全てが回収できるとは限りません。このため、適正な期間損益を表す決算書の作成に当たっては、この貸し倒れによる損失の危険を、当期の費用として認識する必要があります。
貸倒引当金は、決算期末の金銭債権について、次期以降に発生する貸し倒れによる損失額を見積もって費用計上するものです。
貸倒引当金は、資産勘定内の債権額控除科目として表示されます。このことから「貸倒引当金」は「評価性引当金」と呼ばれています。貸倒引当金は、期末の金銭債権の貸倒損失の見込み額を算定し、その期の経費に計上するものです。
税務上、貸倒引当金勘定の繰り入れ対象となる金銭債権には、売掛金、受取手形、貸付金、未収譲渡代金、未収加工料、未収手数料、未収保管料、未収地代家賃、貸付金の未収利子、保証債務を履行した場合の求償権などがあります。
税務上、金銭債権に該当しないものには、次のようなものがあります。
なお、貸倒引当金を設定する場合、合理的な方法によって取り立て不能見込み額を算定する必要があります。
貸借対照表上で、貸倒引当金は次のように表示されます。
以上(2023年7月更新)
(監修 税理士 谷澤佳彦)
pj35068
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建物、構築物、機械装置、器具備品、車両運搬具などの固定資産は数年以上にわたって使用できるので、購入時の一時の費用とせず、減価償却によって数年以上にわたり費用計上します。一方、土地は固定資産として資産計上するものの、減価(使うほどに価値が減少)するものではないので減価償却はしません。
減価償却費は営業費用の一部として損益計算書に費用計上されます。減価償却累計額は、土地を除く固定資産の減価償却費の累計額です。固定資産(償却資産)取得価額から減価償却累計額を差し引いた価額が、償却資産の未償却残高(帳簿価額)となります。
この記事では「定額法償却」について簡単に説明します。
機械装置を100万円で取得し、耐用年数10年で償却するものとします。定額法による減価償却費は次のように求めます。
この場合、各年度の減価償却費は10万(100万円/10年)で一定です。また、減価償却費、減価償却累計額、未償却残高は次のように推移します。資産は備忘価額1円を残して、10年間で99万9999円を償却します。
減価償却累計額は、原則的には貸借対照表の有形固定資産を間接的に減額する評価勘定として表示されます。また、減価償却費は損益計算において営業費用として処理されます。
各年度の仕訳は次の通りです。
有形固定資産は、減価償却累計額を科目別間接控除方式で記載します。ただし、それを資産勘定から直接減額する直接控除方式で記載することもできます。この場合は、減価償却累計額を注記しなければなりません。減価償却累計額は、2以上の科目につき一括して記載することもできます。
当社の会計期間は4月1日~3月31日、XX01年4月1日に建物6000万円を取得し、小切手で支払いました。建物の耐用年数は20年、償却方法は定額法とします。
当社の会計期間は4月1日~3月31日、XX01年4月1日に機械装置200万円を購入し、小切手で支払いました。機械装置の耐用年数は5年、償却方法は定率法、償却率は0.4とします。
以上(2023年7月更新)
(監修 税理士 谷澤佳彦)
pj35067
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種類株式とは、
一般的な株式と権利が異なる株式
のことで、次の9種類があります。
これらをうまく活用することで安定して事業承継を進めることができます。中小企業の事業承継でよく活用されるのは、
です。具体的な効果は次の通りです。
将来の株価上昇が予想される場合、早い時期に株式を後継者に渡した方が税務上有利です。とはいえ、後継者がまだ若いなどの理由で、株式は渡せても、経営は任せられないケースがあります。
このようなケースで場合に活用できるのが議決権制限株式です。例えば、社長が100%の株式を保有している状態から後継者に90%の株式を渡すと、通常、会社の支配権を渡すことになります。
これでは困るので、議決権制限株式を活用し、後継者に渡す全株式を無議決権株式にすれば、
後継者は90%の株式を所有するが、株主総会で議決権は行使できない
状態になります。後継者は議決権を行使できないので、X社の株主総会を開催する際に後継者を招集する必要もありません。
また、拒否権付株式を活用して、完全には経営権を渡さずに後継者に株式を渡すこともできます。後継者に渡す株式ではなく、社長が保有する株式を拒否権付株式に変更すると、
事前に取り決めた重要項目については、株主総会だけでは決定できない
状態にすることができます。
後継者候補の役員に、「社長の立場から経営に関与して欲しい」という思いから株式を保有させるケースがあります。しかし、何も対策をしていないと、役員が退任・退職したときに株式を会社に戻してもらえない事態に陥ります。
例えば、資本金が1000万円、純資産が1億円の会社が、役員に10%の株式を100万円で保有させたとします。10年後、その会社の純資産が10億円に増加したら、役員が保有している株式の価値も1億円(純資産が10億円の会社の10%の権利)に増加します。そして、役員が退任・退職する際、100万円で保有させた株式を1億円で買い戻すことになります。これでは資金繰りが大変ですし、買い戻しができなければ株式が分散してしまいます。
このようなケースで活用できるのが取得条項付株式です。取得条項付株式であれば、
一定の事由が生じた場合には、会社が強制的に株主から株式を買い戻す
ことができます。
例えば、役員が退任・退職する場合には、X社が株式を一定の金額で強制的に買い戻すことができるように定めます。こうして買い戻した株式を、次の世代の役員に保有させることで、株式を循環して保有する仕組みを作ることもできます。
非上場会社における事業承継の課題は、
社長が死亡(急逝)したときに、その遺族が納税資金の確保に苦労する
ことです。通常、非上場会社の株式の買い手はいません。遺族が相続した株式を会社に買い取って欲しいと要望しても、会社も社長の死亡で混乱していたり、買取資金が確保できなかったりという理由から、これに応じられないケースがあります。
このようなケースで活用できるのが取得請求権付株式です。この株式は、
株主が会社に株式の買い取りを請求する
ことができるので、遺族は相続税の納税資金を確保しやすくなります。
なお、会社から株式の買取資金を受け取った遺族には譲渡所得税が課税されます。ただし、相続により株式を取得した場合、相続後3年10カ月の期間内に会社に株式を買い取らせると、
みなし配当の特例(会社から受け取る譲渡代金を20%の譲渡所得税で精算できる)
が活用できます。生前に会社に株式を買い取らせると、譲渡代金が配当金とみなされて総合課税となり、50%の課税となるケースが多いです。さらに、納税した相続税については株式の譲渡所得を計算する際に経費にできます。その結果、株式を会社に買い取らせる際に家族にかかる所得税の実効税率は10%半ばほどになるケースも多く、非常に有利です。
種類株式の発行については、
といったケースがあるので以下で説明します。なお、いずれの場合も、種類株式の種類や会社の組織形態によって定款の変更内容や決議項目などの詳細が異なります。そのため、実施の際は弁護士など専門家に相談しながら進めましょう。
新たに種類株式を発行する場合は、定款の変更(種類株式の発行に関する一定の項目を追加・変更する)に関する株主総会での特別決議が必要です。株主総会の特別決議とは、株主の議決権の50%超(3分の1以上の割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)を保有する株主が出席し、出席株主の議決権の3分の2以上の賛成が必要な決議です。
種類株式を発行するための基本的な手続きは次の通りです。
既存の株式を種類株式に変更する場合も定款の変更に関する株主総会での特別決議が必要です。
既存の株式を種類株式に変更するための基本的な手続きは次の通りです。
種類株式を発行する際、とても重要になるのが定款の変更内容です。例えば、拒否権付株式を発行する場合、拒否権付株式を保有する株主による「種類株主総会」で決定が必要な事項を定めなければなりません。もし、すべての決議についで拒否権を持つようにしたいなら、
株主総会および取締役会の決議事項については、すべて種類株主総会の決議を要する
などと定めます。こうした文言がないと、ただ手続きをしただけで、本来持たせたかった権利を行使することができなくなります。
実際の交付手続きも複雑なケースが多いので、弁護士などの専門家とこまめに連携しながら進めるようにしましょう。
以上(2023年7月作成)
(執筆 日比谷タックス&ロー弁護士法人 代表弁護士 福崎剛志)
pj30203
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手形には、約束手形と為替手形とがありますが、現在利用されている手形のほとんどは約束手形です。
会計上はこれとは異なり、手形は受取手形と支払手形に分類されますが、要するにこちらが振出人か受取人かの違いなので、それほど意識する必要はありません。この記事では、それよりも混乱しがちな手形の種類ごとに会計処理の概要を説明します。
手形は、企業の商取引に伴う債権債務の決済方法として用いられます。手形は、手形法の規定に基づいて発行される有価証券です。手形には流通性があり、金銭支払いの期日まで受取人が手元に保管する他、早期に資金化するための割引や裏書によって流通させることができます。
受取手形は満期日以前でも金融機関などで割り引いて現金化できます。手形割引によって、割引実行日から満期日までの期間の利息と手数料に相当する割引料を差し引いた現金にするということです。
手形割引とは、手形の所持人が満期日前に第三者に手形を譲渡し、その対価として譲渡の日以後満期日に至るまでの金利相当額(割引料)を手形額面金額から差し引いた金額を受け取る取引です。
手形を譲り受けた金融機関は、満期日まで保持し手形債務者から手形代金を取り立てることもできますし、また、満期日前に当該手形を他の金融機関に譲渡(再割引)して資金を回収することもできます。この場合、手形行為そのものとしては、通常、裏書譲渡が行われます。
ただし、手形満期日に当該手形が決済されない場合、裏書人は振出人に代わって手形金額を支払わなければなりません。この二次的な責任を保証債務として計上します。保証債務は手形の決済により消滅します。
手形を早期に資金化するために、裏書譲渡することがあります。ただし、手形の割引と同様に、手形満期日に当該手形が決済されない場合、裏書人は振出人に代わって手形金額を支払わなければなりません。この二次的な責任を保証債務として計上します。保証債務は手形の決済により消滅します。
手持ちの手形や裏書譲渡した手形並びに金融機関で割り引いた手形が支払期日に支払われないことを手形の不渡りといいます。不渡りになった手形を不渡り手形といい、受取手形勘定とは別に処理します。
手形が不渡りになったとき、不渡り手形の所持人は、その手形の振出人または裏書人に対し償還請求ができます。この場合、手形所持人が償還請求できる金額には、手形金額だけでなく支払拒絶証書作成費用、支払期日以後の法定利息などを加算した金額を含みます。これらの金額が不渡り手形勘定の借方に記入され、償還請求額を示すことになります。
支払手形は、流動負債の勘定科目のため貸方残高となります。なお、受取手形に比べて、支払手形の処理は次のように簡潔にまとめられます。
電子手形は従来の紙の手形が電子記録となり、会計科目は受取手形が「電子記録債権」、支払手形が「電子記録債務」という名称になります。会計処理は従来の紙の手形と同じです。
以上(2023年7月更新)
(監修 税理士 谷澤佳彦)
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おはようございます。かつては夏になるとお客さまに暑中見舞いを送っていましたが、最近はその習慣もあまり見られなくなりました。暑中見舞いに限らず、皆さんは大切な相手とマメな連絡を取っているでしょうか。必要なときだけ急に連絡を取って会いたいと伝えても、先方はなかなか会ってくれません。そして連携が進まず、疎遠になってしまうというケースはたくさんあります。
もちろん、私にも経験があります。一度関係がつくれた取引先との連携がなかなか進まず、いつのまにか2年ほど連絡を取らなくなっていました。その後、社内の状況が変わり、改めて連絡を取ってみようと思ったら、先方の担当者はすでに退職していました。私のことについては、何の引き継ぎもされておらず、しかも、その取引先にはすでに他社が食い込んでいて、当社の入る余地はなくなっていたのです。マメな連絡を怠ったために、私はつかめたかもしれないチャンスをみすみす逃してしまいました。
そういうことを防ぐために考えたのが、「月に1度の定期連絡」です。これはどんな内容でもいいので、お客さまと毎月1度は連絡を取るようにしようというものです。過去に納品した商品の使い勝手を聞いてみるのもよし。お客さまの役に立ちそうな耳寄り情報を提供するのもよし。単純に「何か困っていること、お役に立てそうなことはないですか」と聞いてみるのもよし。相手が嫌がることでなければ、ネタは何でもよいのです。
あまり連絡して「しつこい」と思われないか不安だという人もいるかもしれませんが、逆です。お客さまは放っておかれるとかえって「大切にされていない」と感じ、私たちのことも大切にしなくなっていきます。先程お話しした私の失敗談は、まさにその典型です。
逆に、私たちがマメに連絡を取れば、お客さまも本音を話してくれるようになります。私が月に1度の定期連絡を始めた後、お客さまの1人にある商品をお勧めしたところ、「いつも連絡をくれてありがとう。でも残念ながらうちは必要ないね」と断られてしまったことがありました。ですが、その人は「もしも、こういう仕様にしてもらえたら、うちでも使えるかもしれないね」とも言ってくれました。そして、会社に話を持ち帰って製造部門と相談し、商品に改良を加えたところ、そのお客さまが購入してくれただけでなく、他からも注文がもらえるようになったのです。
商品を売りたいときだけ愛想良く連絡するなど、「自分の都合にお客さまを付き合わせる」のでは、信頼関係は築けません。マメな連絡は「しつこさ」ではなく「お客さまへの誠意」だと思って、ぜひ積極的にコミュニケーションを取ってください。そして、お客さまが本音を話すようになってくれたら、その人は皆さんにとってかけがえのない人脈です。ますます大切にしてください。くれぐれも人付き合いでマメさを惜しむようなことがないよう注意しましょう。
以上(2023年8月)
pj17149
画像:Mariko Mitsuda
遺言書は本人の生前の意思を死後に実現するための1つの方法です。遺言書が必要な具体的なケースは以下の通りです。
民法は、相続人を一定の親族に限定し、その相続分をあらかじめ規定しています。しかし、遺言書を書く本人に特別な事情があり、民法で規定された法定相続分によらないで遺産相続させたい場合には遺言書が必要です。
具体的には、次のような場合です。
1.の例としては、内縁の妻や認知していない子供、老後の世話をしてくれている法定相続人以外の人に財産を分配したい場合などが考えられます。2.の例としては、関係の冷めきった配偶者に財産を相続させたくない場合などが想定されます。このような事情があったとしても、遺言書がなければ民法の規定通りの相続が開始され、本人の意思は反映されません。
ただし、この場合でも遺留分を侵害することはできません。遺留分とは、法定相続人に最低限保障されている相続分のことです。
遺産相続をめぐる遺族の紛争を避けるために、遺言書が必要なケースがあります。例えば、遺産が「1億円の土地」「1億円の株式」「1億円の預金」であっても、それぞれの遺産にはメリットとデメリットがあり、誰が何をどれだけ相続したかによって争いが起こることもあります。
土地、株式、預金全てを均等に分けることができれば問題ありません。しかし、土地や株式などの場合、「まとまった複数の土地を複数の人に所有させることで、一括処分が難しくなり、全体の資産価値が下がる」「一部の相続人が会社の経営方針に反対したり、株式を他者に譲渡したりすることにより、経営に影響が出てくる場合がある」といった事情があり、全てを同じ比率で分配することが難しい場合があります。このようなとき、遺留分の定めに反しない範囲で、遺言によって誰が何をどれだけ相続するかを明確に決めておけば、円満に相続することができます。
また、内縁の妻や仲の悪い身内がいる場合、異母兄弟が複数いる場合などの相続は、法定相続分に任せず、誰が何をどのような割合で相続するかを内容とする遺言書を作成したほうがよいかもしれません。
民法が定める遺言書の形式を紹介します。
遺言書が法的に効力を持つためには、遺言書が書面化されることが必要です。書面化されていない限り、正式な遺言とは認められません。また、遺言の方式には普通方式と特別方式があり、それぞれさらに細かく分類されます。具体的には次の通りです。なお、特別方式は、特別な事情がある場合に限り適用される方式です。
自筆証書遺言は、次の4つの条件を満たす必要がありますが、これらの要件を満たしていれば、保管場所や使用する紙などに制約はありませんが、書式は法律で決まっており、誤った書式で書かれている場合には無効となる点には注意が必要です。
なお、2019年1月13日以後に作成する財産目録については、パソコンでの作成も可能になりました。また、2020年7月10日からは、自筆証書遺言を法務局に保管できるようになっています(それより前は、自宅や銀行の貸金庫などに自分自身で保管しなければならなかった)。
さらに、遺言書をインターネット上で作成・保管できる新制度(通称、デジタル遺言)の創設に向けた動きも出てきています。今後の動向に注目しておきましょう。
公正証書遺言は、遺言を公正証書で行うもので、遺言書の破棄、改変、隠匿の恐れのない安全で確実な方式といえます。作成の流れは次の通りです。
公証人は全国の公証役場にいます。なお、「未成年者」「推定相続人(相続が発生した時に相続人になると推定される人)及び受遺者(遺言によって財産を受ける人)並びにこれらの配偶者及び直系血族(父母、祖父母、子供、孫など)」「公証人の配偶者、4親等内の親族、公証人の書記・使用人」は証人になることができません。
秘密証書遺言は、遺言の内容を誰にも知られたくない場合に適した方式です。作成の流れは次の通りです。
秘密証書遺言の保管は遺言者の責任で行います。秘密証書遺言では、内容は公証されていないため、内容に不備がある場合に問題が生じる恐れがあるので注意が必要です。
なお、秘密証書遺言としての要件を欠いていても、自筆証書遺言の要件を満たしていれば、自筆証書遺言として有効となります。
特別方式の遺言書は、次のような緊急の場合にのみ認められる方式です。特別方式の基本要件を簡単に紹介していきます。
有効な遺言書が作成された場合でも、後日、その内容の全部または一部を撤回することができます。遺言者の最終的な意思を尊重すべきだからです。遺言内容を撤回するに当たっては時期の定めはないものの、遺言の方式に従わなければなりません。
公正証書以外の遺言書については、家庭裁判所による検認(遺言書の形式や内容などを明確にし、遺言書の偽造などを防止するための手続き)という制度が設けられています。なお、自筆証書遺言を法務局で保管した場合には、この検認が不要になります(法務局における遺言書の保管等に関する法律第11条)。
具体的には、遺言書の保管者(いない場合は、遺言書を発見した相続人)が、家庭裁判所に遺言書の検認を請求し、裁判官が遺言書を開封します。これによって、特定の相続人が遺言書をすり替えるなどによる紛争を防止することができます。
もっとも、検認の手続きを経たからといって、遺言書の内容自体が法的に有効だと確定することにはならないため注意が必要です。逆に、検認の手続きを経ていないからといって、遺言が無効となるわけでもありません。
なお、封印のある遺言書は、家庭裁判所で相続人等の立ち会いの下でなければ開封することはできません。
遺言書の保管者等が家庭裁判所に提出しなかった場合、検認を経ないで遺言を執行した場合、家庭裁判所外で遺言書を開封した場合、5万円以下の過料に処せられます。
個々の相続人について、相続分を指定することができます。また、相続分指定を第三者に委ねることもできます。ただし、兄弟姉妹以外の法定相続人は遺留分を有しており、遺留分侵害額請求(遺留分が侵害されている場合、その侵害額を請求すること)をすることにより、「親など直系尊属のみが相続人のときは法定相続分の3分の1」「その他の場合は法定相続分の2分の1」まで自分の相続分を取り戻すことができます。
不動産や預金など個々の財産について、それらを誰に与えるか指定することができます。また、その決定を第三者に委託することもできます。
ただし、不動産が唯一の相続財産である場合、相続人として指定しなかった法定相続人から遺留分を主張されるケースもあります。
一定期間、遺産の分割を禁止することができます。宅地や農地などが遺産分割のため売却されることを防ぐ方法の1つといえます。ただし、死後5年間を超えない期間でしか分割を禁止することができません。
遺言による財産の贈与です。これにより、相続人でない人に対しても財産を残すことができます。ただし、相続人の遺留分を侵害することはできません。
遺言により一般財団法人を設立し、遺産を活用することができます。重要なのは、一般財団法人の目的や名称など法定の事項を定め、実際に一般財団法人設立を担当する遺言執行者を選任することです。
財産権を他人に移転し、管理・処分を任せる信託を設定することができます。
相続人が、被相続人から遺贈や生前贈与、あるいはそれに類する財産援助(特別受益)を受けていた場合などには、その合計額は当該相続人の相続分から差し引かれることになります。
しかし、遺言を残しておけば遺留分を害さない範囲内で「差し引かせない」ことができます。
相続人は、その他の相続人に対してそれぞれの相続分に応じた「担保の責任」を負いますが、遺言によってその担保責任を変更することができます。
遺留分の権利を有する相続人は、遺留分保全のために遺贈や贈与の減額を請求することができます。その場合、遺贈については、その目的の価額の割合に応じてこれを負担するとされていますが、遺言によりこれと異なる負担方法を指定することができます。
遺言で特定の相続人の廃除、または廃除の取り消しを請求することができます。
遺言により、嫡出でない子供を認知することができます。これにより、新たな相続人が発生することになります。この場合には遺言執行者が必要です(戸籍法第64条)。
未成年者に対して最後に親権を行う者は、遺言により未成年者の親代わりとなる後見人を指定することができます。さらに、後見人を監督する後見監督人も指定できます。
系譜、祭具及び墳墓の所有権は、相続人が相続する「一切の権利義務」の中には含まれません。誰がその所有権を承継するかが不明なときは、家庭裁判所がこれを定めますが、遺言によっても系譜(歴代の家長を中心に祖先伝来の家計を表示するもの)などの相続人を指定することができます。
遺言で1人または数人の遺言執行者を指定することができます。また、その指定を第三者に委託することもできます。
以上(2023年7月更新)
(監修 Earth&法律事務所 弁護士 岡部健一)
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遺言書は、
いわゆる「争続 (相続時の紛争) 」を防ぎ、親族の円満な関係を維持する
ために重要です。遺言書がない状態で相続が発生すると、残された親族が遺産を把握しにくいことがあります。また、遺産を確認できても、非上場会社の株式や不動産など価値が高額で分割できない資産があると、公平な遺産分割ができず、争続が発生する恐れがあります。こうした問題を回避するために、しっかりと遺言書を作成しておきましょう。
公正証書遺言とは、
公証役場で作成する遺言書
で、最も多く利用されています。過去、裁判官や検察官を務めた法律専門家である公証人が遺言の内容を公正証書にしてくれるので、法的に問題のない遺言書を作成できます。さらに、公証役場が作成した公正証書遺言を数十年間保管してくれるため、紛失、変造の危険がありません。
公正証書遺言の場合、
必要があります。証人には推定相続人(配偶者や子など相続人になることが推定される人)や未成年者など一定の人は選ぶことはできません。
自筆証書遺言とは、
自筆で作成する遺言書
です。具体的には、遺言書の本文、日付、署名を自筆で作成し、押印する必要があります。財産目録は自筆ではなく、WordやExcelなどパソコンで作成することもできます。
自筆証書遺言は、公証人の手を借りず、自分だけで遺言書を作成したい場合に利用されることが多いです。例えば、生前に自身の財産状況を他者に知られたくない場合などに適しています。公正証書遺言と異なり証人も不要ですし、作成費用もかかりません。しかし、専門家が内容を確認していないため、法的に無効となる遺言書もあるので注意が必要です。
また、自筆証書遺言に関しては、2020年7月から法務局で自筆証書遺言を保管することができるようになっており、紛失や遺言内容の改変を防止できるようになりました。
秘密証書遺言とは、
遺言の内容を誰にも公開せず、秘密にしたまま公証人に遺言の存在のみを証明してもらう遺言書
です。遺言の内容を秘密にしたい場合に利用されます。
まず、財産(資産・負債)の状況を確認して、財産目録を作成します。財産目録とは、相続の対象となる財産の種類と内容、それぞれの評価額や所在地などをまとめた一覧表です。
資産は主に金融資産(現預金、株式、保険など)と不動産とに分けて、次のことを確認します。
不動産の概算評価額を確認するため、不動産の固定資産税課税明細書(毎年4~6月ごろに郵送される)で評価額を確認し、財産目録に記載します。また、絵画や骨董品がある場合には、金融資産と不動産以外の資産になりますので財産目録に追加します。
負債は、借入金や買掛金などの債務を記載します。また、葬儀費用(見積額)も負債として記載します。
財産目録を作成した後は、それぞれの遺産(資産・負債)を誰に相続させるか、遺産分割の内容を検討します。現在の居住状況や非上場会社の株式がある場合は、会社の後継者が誰であるかを前提に検討します。
遺産分割の内容が決まったら、その条件で遺産の相続がなされた場合に納付すべき相続税額を確認します。相続税の計算は、配偶者の税額軽減、小規模宅地の特例など、相続税の算出に大きな影響を与える制度があるので、これらの制度を有効活用しつつ試算します。その上で、遺産を相続する親族に納税資金を支払うだけの現預金の相続ができているかを確認します。
また、遺産分割の内容が決まったら、その分割案で遺留分侵害(法定相続人に対して最低限保証されている相続割合を下回っていること)を起こすことがないかを確認します。仮に、遺留分侵害を起こす場合は、事前に当事者である相続人が遺留分を放棄するなどの対策を取る必要があります。
なお、相続税の試算や遺留分に関しては細かな取り扱いもあるため、弁護士や税理士などの専門家に相談するようにしましょう。
検討した遺産分割案で相続税の支払いに問題がなく、遺留分侵害も起こさないことが確認できたら、その遺産分割案に関する税務および法務の問題はひとまずクリアです。次に、その内容を遺言書の案文に書き起こし、必要な手続きを経て完成させます。
遺言者は、遺言者の有する下記の財産を遺言者の妻 ○田○子(1952年○月○日生)に相続させる。
1.土地
所在地:東京都●●区〇〇1丁目
地番:2番地3
地目:宅地
地積:○○平方メートル
2.建物
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遺言執行者とは、遺言書の内容に従って遺産の名義変更などを行う責任者です。遺言執行者には顧問弁護士や顧問税理士、あるいは長男が指定されることが比較的多いです。
遺言執行者として、下記の者を指定する。
東京都中央区〇〇1丁目2番地
弁護士 ○藤○夫(1965年○月○日生)
祭祀承継者とは、祭具や墳墓といった祭祀財産や遺骨を管理し、祖先の祭祀を主催すべき者です。祭祀承継者には長男が指定されることが比較的多いです。
祭祀承継者として、長男 ○田○彦(1976年○月○日生)を指定する。
付言事項とは、遺言書で自由な記載が許される事項です。一般的には相続財産にならない生命保険金の受取人について記載したり、親族への感謝の気持ちなどを記載したりします。
公正証書遺言の場合は、事前に最寄りの公証役場に連絡し、作成した遺言書ドラフトをメールなどで送信します。公証人が内容を確認した上で、公証役場において公正証書遺言を作成します(体調不良などで直接訪問できない場合は、公証人の出張依頼もできる)。なお、公正証書遺言作成時には、証人2人の立ち会いが必要です。
公正証書遺言作成時に必要な主な書類は次の通りです。なお、相続財産によっては、下記以外の書類も必要になりますので、事前に確認しておきましょう。
自筆証書遺言の場合は、遺言書を自分で書き、押印(実印を用いることが多い)して完成させます。その後は封筒に入れ、封印をして保管します。また繰り返しますが、2020年7月から自筆証書遺言を法務局で保管してもらえるようになりました。
秘密証書遺言の場合は、遺言書ドラフトを自分で作成し、署名押印(実印を用いることが多い)します。それを封筒に入れて封印し、公証役場に持参すると、公証人が遺言書を提出した日時、遺言書の申述(これが自分の遺言書である旨)を記載し、公証人と証人2人が署名します。これで完成です。
以上(2023年7月更新)
(執筆 日比谷タックス&ロー弁護士法人 代表弁護士 福崎剛志)
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