1 会社の健康診断ツール「ローカルベンチマーク」とは
会社の幹部の中には、「会社を改善・成長させるために経営者と対話したい。けれど、情報を整理したり対策を考えたりすることがうまくできなくて、話し合いの場を設けてもなかなか実りあるものにならない」という悩みをお持ちの方が多いかと思います。そんなときは、経済産業省が提供している「ローカルベンチマーク」を活用してみてはいかがでしょうか。
ローカルベンチマークとは、
自社の現状について多角的に分析できる「会社の健康診断ツール」
です。
特長としては、
- ガイドブックがあって分かりやすいこと
- 財務分析が点数化・チャート表示されて見やすいこと
- 一般的な経営診断ツールと違って、定性的な非財務分析もできること
- 金融機関・支援機関・各種団体での認知度が高く、共通言語になってくれること
- 補助金申請の推奨ツールになっているほか、添付資料としても役立つこと
が挙げられます。
さらに、ガイドブックが「SDGs/DX対応版」にアップデート(2023年4月改訂)され、実はSDGs施策にすでに取り組んでいたことを認識したり、DXの進め方などを学んだりできるようになりました。対話例や簡単な説明もあって分かりやすくなっているので、まずはガイドブックだけでもぜひチェックしてみてください。
また、中小企業庁が運営する「ミラサポplus」では、その活用セミナーの資料と動画を公開しています。分析を始める前に見ていただくと、よりスムーズに進められるでしょう。動画は前後編(各30分程度)に分かれており、前編ではローカルベンチマークの全体像や記入内容、シート同士を対応させる方法について、後編では、具体的な事例を基に、記入のポイントや、分析結果から分かった強み・課題対応策、事業展望と強みの結びつけ方などを説明しています。
2 ローカルベンチマークで財務・非財務を分析しよう
この章では、「ローカルベンチマークシート(2022年度版)」(ファイル名:tool2022r4.xlsm、2024年6月時点で最新版)と、前述の「ローカルベンチマーク・ガイドブックSDGs/DX対応版(企業編)」を基に、使い方と記入例を簡単に解説していきます。ローカルベンチマークは、下記のウェブサイトからダウンロードしてください。
また、第4章にて詳しく紹介しますが、外部連携サービスを通じてローカルベンチマークを作成することも可能です。例えば、事業再構築補助金の申請では、中小企業庁「ミラサポplus」で作成したローカルベンチマークの提出が必須となっています。同補助金を活用する予定がある方は、ミラサポplus上で作成することをお勧めします。
1)ローカルベンチマークの概要
ローカルベンチマークは、
- 財務分析シート
- 【入力】財務分析
- 【入力】商流・業務フロー
- 【入力】4つの視点
という4枚のシートと、データ表示に利用する【参照】のシートに分かれています。分析を始めるときは、どのシートから入力しても大丈夫です。ただ、どれも大切な項目なので、できるだけ空欄は残さないようにしましょう。
2)財務分析の入力方法と、6つの指標の紹介
財務面の分析においては、シート2枚目「【入力】財務分析」の黄色の部分に、損益計算書(PL)と貸借対照表(BS)の該当する数字を入力するだけです。

すると、1枚目「財務分析シート」に下記の6つの指標が算出され、財務分析結果がレーダーチャートで示されます。
- 売上持続性(売上増加率)
- 収益性(営業利益率)
- 生産性(労働生産性)
- 健全性(EBITDA有利子負債倍率)
- 効率性(営業運転資本回転期間)
- 安全性(自己資本比率)

3)非財務分析:商流・業務フロー
次に、「商流・業務フロー」シートでは、業務の流れや、取引先、顧客などについて“棚卸し”をしていきます。この分析では、次のようなことを明らかにできます。
- 自社の強み
- 顧客から選ばれる理由
- 仕入れ先、協力先を選ぶ理由
1.業務フローの記入方法
業務フローを5段階に分け、最後は商品・サービスを顧客に提供するところで終えるようにします。どうしても5段階に絞れない場合は、シートを加工して業務の枠を増やしましょう。

A:業務名を記載します。
B:それぞれの業務で実施していることを具体的に記載します。
C:各業務において、工夫している点、こだわっている点、他社と異なる点について、差別化ポイントとして記載します。そして、その差別化ポイントが出てくる理由をさらに「なぜ?」と深掘りしていきます。活用しているIT技術やSDGsにつながる取り組みも記載します。
D:業務プロセスを経て生み出された製品・商品・サービスの内容を記載します。
E:提供している付加価値、自社が選ばれている理由などを記載します。
客観的な視点に立ってみると、日頃から当たり前に行っていることの中にも、他社にはない優位性や強み、特徴、差別化ポイントが必ずあるものです。「うちの会社にそんな優位性はない」という先入観を捨て、「フローの中で一番重要な業務は何か」「こだわっている部分はどこか」「お客さまが自社を利用されるのはなぜか」と視点を変えながら掘り下げていきましょう。
2.商流の記入方法
次に、自社を取り巻く環境を見ていきましょう。仕入れ先・協力先・得意先・エンドユーザーについて整理していきます。仕入れ先と協力先には「選んでいる理由」、得意先とエンドユーザーには「選ばれる理由」を記入します。

A:仕入れ先や協力先について、社名・取引金額・取引内容・取引頻度・受け取り方法などの情報を記載します。
B:仕入れ先や協力先を選んでいる理由を記載します。活用しているIT技術やSDGsにつながる取り組みも記載します。
C:得意先やエンドユーザーについて、社名・取引金額・取引内容・取引頻度・提供方法・販売チャネルなどの情報を記載します。
D:得意先やエンドユーザーから選ばれている理由を記載します。活用しているIT技術やSDGsにつながる取り組みも記載します。
商流については、何をどのように書けばいいのか分かりにくいかもしれないので、記入例をご紹介します。下図のように具体的な取引金額やシェアなどを記入するとよいでしょう。

BとDは「付き合いが長いから」が理由だったとしても、それだけで終わらせず、「なぜ付き合いが続いているのか」を考えてみます。漫然と続いているだけなのか、選ぶ・選ばれるだけの理由があるのかを明らかにしましょう。例えば「10年ほど前に、もっと安く請け負ってくれる業者が営業してきたけど品質を保つために断った」などの情報が出てくるかもしれません。
4)非財務分析:4つの視点
非財務面を分析するには、もうひとつ「4つの視点」シートがあります。

4つの視点とは、
- 経営者
- 事業
- 企業を取り巻く環境・関係者
- 内部管理体制
です。それぞれ具体的にどのようなことを記載していくのか、次の図表に示しました。

なお、ガイドブックには各欄を考えるための主な質問が記載してあります。ぜひ参考にしてください。
また、「1.経営者」については、会社の幹部の視点で記入するのが難しいかもしれません。例えば、「自分たちからはこう見えている」「経営者はこう考えているのではないか」というように視点を変えて記入してみるといいでしょう。
そして、最後に「4つの視点」から見えてきたことを「対話内容の総括」にまとめ、現状認識・将来目標・課題・対応策を導き出します。

- 現状認識:対話内容を踏まえ、好調・不調の要因や特に注目すべき点
- 将来目標:現状認識を踏まえ、企業として考えている将来目標
- 課題:将来目標を達成するにあたって、取り組むべき課題
- 対応策:課題への対応策。金融機関などの支援機関と対話することで、さまざまな提案を受けられる可能性も視野に入れる
3 ローカルベンチマークを経営にどう役立てたか
ローカルベンチマークで分析した後、その会社は社内外でどのような対話をして、どのように行動しているのでしょうか。経済産業省のウェブサイトでは、資金調達・補助金採択・生産性向上・販路開拓などで成果のあった活用事例を紹介しています。
また、中小企業庁「ミラサポplus」でも、ローカルベンチマークを他のツールと連携させながら課題を解決していく様子をインタビューやストーリー形式で分かりやすく紹介しています。ぜひ参考にしてください。

4 外部連携しているサービス
ローカルベンチマークは、金融機関・支援機関との対話ツールとしても機能してくれます。社内で話し合った後は、金融機関の担当者や中小企業診断士、税理士など、経営課題の解決に向けて連携できる協力先との相談に活用するのもよいでしょう。
活用に当たっては、外部連携しているサービスを利用するのも手です。すでに利用しているサービスの追加機能にローカルベンチマーク作成支援ツールが搭載されている場合は、そちらを活用したほうが、各機関との共有がスムーズになります。
1)中小企業庁「ミラサポplus」
補助金情報の提供を中心とする中小企業向けの総合支援サイト「ミラサポplus」では、会員限定の機能としてローカルベンチマーク作成ツールを提供しています。事業再構築補助金の申請では、ミラサポplus上でのローカルベンチマーク作成・添付が必須となっています(非財務情報は任意)。
なお、事業財務情報とBIレポート(財務分析)の閲覧・編集には「GビズID」でのログインが必要です。詳しくは以下のウェブサイトをご確認の上、記載の手順に従ってご登録ください。
2)TKC「ローカルベンチマーク・クラウド」
TKC(栃木県宇都宮市)会員の会計事務所が利用する会計サービスの機能の1つとして提供されているサービスです。データセンターに蓄積された財務情報と、会員事務所によるヒアリングを通じて引き出された非財務情報を基に、ローカルベンチマークを作成します。
なお、TKC会員には認定経営革新等支援機関として登録されている事務所が多くあります。該当会員の事務所に支援を依頼した場合、中小企業庁「早期経営改善計画策定支援事業」の補助を受けながら、ローカルベンチマークに基づいた経営改善に取り組むこともできます。
詳しくは、お近くのTKC会員事務所にお問い合わせください。認定経営革新等支援機関については、以下のウェブサイトから検索できます。
CRD協会(東京都中央区)では、協会会員の銀行・信用保証協会に提供している与信管理ツール「CRD統合ツール」において入力した財務情報を基に、ローカルベンチマークのフォーマットに合わせた帳票を出力できる「ローカルベンチマーク連携ツール」を提供しています。
また、非財務情報についても、ローカルベンチマークをベースとして、1枚で事業性評価項目を入力できるように調整した「事業性評価結果入力用シート」を同ツール内で提供しています。
4)マネーフォワード「MFクラウド会計」
マネーフォワード(東京都港区)では、中小企業向けクラウド型会計ソフト「MFクラウド会計」において、ローカルベンチマークの「6つの財務指標」のチャート・点数などを表示するレポート機能を提供しています。
この機能は、上記「2」「3」のような支援事業者向けではなく、分析対象となる事業者が自ら確認できます。画面の詳細については、次のウェブサイトからご確認ください。
■マネーフォワード クラウド会計使い方ガイド「『レポート』機能の使い方」■
https://biz.moneyforward.com/support/account/guide/report02/re01.html#ttl06
以上(2024年8月更新)
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1 新株予約権とは?
新株予約権とは、
株式会社(以下「会社」)に行使することで、当該会社の株式の交付が受けられる権利
です。会社としては、役員や社員にストックオプションとして付与したり、資金調達の手段として発行したりします。
新株予約権の発行等の形態は次の3つです。
- 第三者割当:特定の者に募集をかけ、応募者に新株予約権を発行する
- 株主割当:既存株主に株式割当の権利を与え、応募者に新株予約権を発行する
- 公募:不特定多数に募集をかけ、応募者に新株予約権を発行する
以降では、第三者割当に注目し、手続きの概要を紹介します。
2 第三者割当による新株予約権の発行手続き
1)募集事項の決定
会社が第三者割当、株主割当、公募の方法によって新株予約権(以下「募集新株予約権」)を発行する場合、次の募集事項を決定します。
- 募集新株予約権の内容および数
- 募集新株予約権と引き換えに金銭の払込みがない「無償発行」の場合は、その旨
- 無償発行ではない場合は払込金額またはその算定方法
- 募集新株予約権を割り当てる日(割当日)
- 募集新株予約権と引き換えにする金銭の払い込みの期日を定めるときは、その期日
- 募集新株予約権が新株予約権付社債に付されている場合は、募集社債に関する事項
- 募集新株予約権が新株予約権付社債に付されている場合で、その募集新株に譲渡制限が設けられた場合などの請求の方法について別段の定めをするときは、その定め
募集事項は、原則として、株主総会の特別決議で決定します。また、有利な価格で株式を発行する「有利発行」の場合、取締役は、その株主総会で有利発行が必要な理由を説明しなければなりません。
また、次のような場合、募集事項の決定について例外が認められています。
1.公開会社の場合
公開会社では、有利発行の場合を除き、新株予約権の募集事項を取締役会で決定できます。
2.取締役会等へ委任する場合
株主総会の特別決議により、募集事項の決定を取締役会(取締役会設置会社でない場合は、取締役)に委任できます。この場合、株主総会で次の事項を定めます。なお、この特別決議は、新株予約権の割当日が、当該決議の日から1年以内である募集新株予約権の募集についてのみ効力があります。
- その委任に基づいて募集事項を決定できる募集新株予約権の内容および上限数
- 無償で募集新株予約権を発行する場合は、その旨
- 無償発行でない場合には、募集新株予約権の払込金額の下限
2)募集事項の公示
1.公示の手続き
公開会社が取締役会で募集事項を決定した場合、割当日の2週間前までに、募集事項を株主に通知または公告しなければなりません。一方、非公開会社は、株主総会の特別決議によって決定した募集事項を株主に通知などする必要はありません。
2.公開会社における手続規制の新設
募集新株予約権の割当によって、新たに議決権の2分の1を超えて株式を所有することになる者(以下「特定引受人」)が出る場合、原則として、会社は払込期日の2週間前までに、既存株主に特定引受人の氏名等を通知するか、公告しなければなりません。ただし、会社法第244条の2第4項により、株主の保護に欠ける恐れがないと認められるもの(金融商品取引法に基づく一定の届け出をする場合など)については、通知義務はありません。
そして、この通知等から2週間以内に、全ての株主の議決権の10分の1以上の議決権を有する株主が反対の旨を会社に通知した場合、事業継続のために緊急の必要があると認められるときを除き、会社は割当日の前日までに株主総会の普通決議による承認を受けなければなりません。
3)申し込み、割当
募集新株予約権を引き受ける者が1人の場合(総数引受契約)を除き、原則として、会社は引き受けの申し込みをしようとする者に対して次の事項を通知します。ただし、会社法第244条の2第4項により、株主の保護に欠ける恐れがないと認められるもの(金融商品取引法に基づく一定の届け出をする場合など)については、通知義務はありません。
- 会社の商号
- 募集事項
- 新株予約権の行使に際して金銭の払い込みをすべきときは払い込みの取り扱いの場所
- その他法務省令で定める事項
申し込みをする者は、氏名または名称、住所、引き受けようとする募集新株予約権の数を記載した書面などで会社に申し込みます。会社は申込者の中から割当を行います。募集新株予約権の割当がなされると、申込者は払い込みを待たず、割当日に新株予約権者になります。
なお、募集新株予約権の目的である株式の全部または一部が譲渡制限株式である場合、または募集新株予約権が譲渡制限新株予約権(新株予約権であって、譲渡による当該新株予約権の取得について会社の承認を必要とするもの)である場合、定款で特に定めていない限り、取締役会(取締役会設置会社でない場合は、株主総会)の普通決議で割当先を決定します。
4)新株予約権に関する登記
新株予約権の発行日から2週間以内に、本店所在地を管轄する法務局で登記をします。
5)払い込み
募集新株予約権を割り当てられた者は、行使期間の初日の前日(払込期日が別で決まっている場合はその日)までに、会社が定めた銀行などで全額を払い込みます。会社の承諾があれば、金銭ではない財産の給付で変えることもできます。払い込みや給付がなされない場合、当該新株予約権は行使できず、権利も消滅します。
以上(2024年7月更新)
(監修 有村総合法律事務所 弁護士 小出雄輝)
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1 宝くじ販売業のビジネスモデル
この記事では、宝くじ販売業における業界の仕組みや動向、開業方法、さらに収支シミュレーションを紹介します。なお、シミュレーションにあたっては、都内一部などの人気売場による売上高の偏りを鑑みて、全国平均ではなく、地方都市での一例として静岡市での開業を想定します。
1)宝くじ販売業とは、どんなビジネスか?
宝くじ販売業は、統計局の産業分類表によると、正式には「宝くじ売りさばき業」と呼ばれています。なお、この記事では便宜上「宝くじ販売業」としています。
この宝くじ販売業は、
銀行から受託した「販売(売りさばき)」と「当せん金の支払い」の業務のほか、購入者への当せん調べや宝くじに関する各種情報の提供の業務を行う事業
です。
まず大前提として、個人や一般の会社などが宝くじを発売することは禁止(刑法第187条)されており、宝くじの発売元は、総務大臣の許可を受けた地方自治体(都道府県・政令指定都市)に限られます(当せん金付証票法第4条)。この地方自治体は、発売などの事務を銀行に委託することができます。
2)宝くじ発売の仕組み
委託を受けた銀行(以下、受託銀行)は、宣伝広告や宝くじ券の作成・発送、抽せん・当せんの発表、当せん券と売れ残り券の回収・整理をはじめ、宝くじ券の販売と当せん金の支払い業務を行っています。このうち、宝くじ券の販売と当せん金の支払い業務は、一般事業者への再委託が可能で、これを担うのが宝くじ販売業です。ちなみに、受託銀行は多くの場合でみずほ銀行が担っています。
宝くじ発売の仕組みは、図表1の通りです。

3)取り扱う宝くじの金額と種類
総務省「当せん金付証票発売許可基準」によると、宝くじ券の証票金額は、原則として100円・200円・300円・500円のいずれかと定められています。発売主体による宝くじの分類は図表2の通りです。

なお、これら宝くじ券の種類・売場ごとの割当枚数について、発売団体の自治体、日本宝くじ協会、みずほ銀行宝くじ部にヒアリングをしましたが、回答が得られませんでした。
4)宝くじ販売業の収益構造
宝くじ販売業の収入源は、
- 宝くじ券を売ったときの「販売手数料」
- 当せん金の支払額に応じて受け取る「支払手数料」
です。
販売手数料は、総務省「当せん金付証票発売許可基準」の第一条第11項第1号に従って決められています。少し古い資料になりますが、総務省「宝くじ受託業務について(2010年7月)」によると、2008年実績の販売手数料は、100円くじが9.45%、200円くじが8.4%、300円くじが6.3%、500円くじが4.725%でした(この記事の執筆時点で、これ以外に公表されている新しい資料は確認できませんでした)。
支払手数料は、当せん金額が10万円以上の場合、10万円未満かつ1000円以上の場合、1000円以下の場合、ATM購入の場合で分かれています。また、それぞれに上限額も定められています。 詳しくは、次の図表3と図表4の通りです。


2 宝くじ業界の動向
1)宝くじ販売店数について
全国市町村振興協会会報(2020年度1月号)に寄稿された「宝くじ売上増加のための緊急対策の実施について」(総務省自治財政局地方債課長・坂越健一氏)によると、2018年度の宝くじ販売店数は、金融機関ATM・郵便局を除くと6679件(図表5の網掛け部分の合計)で、2006年以降減少を続けています。これは店舗販売員の高齢化、売上減少等に伴う販売収益の減少などが要因とみられます(この記事の執筆時点で、これ以外に公表されている新しい資料は確認できませんでした)。

2)宝くじの販売金額の推移について
宝くじ公式ウェブサイトによると、2022年の宝くじ販売総額は8324億円となっています。推移としては、1990年には6333億円だったのが、2005年にピークを迎えて1兆1047億円となりました。その後、一度右肩下がりになりましたが、2017年以降はゆっくりと回復してきています。
全体的な傾向として、大型くじ(ジャンボ)の販売が低迷する一方、数字選択式くじ(ロト、ナンバーズ)の販売が堅調のようです。また、2022年4月にはインターネット専用宝くじ「クイックワン(Quick One)」が発売され、売れ行きが好調のようです。

3)宝くじの購入者について
宝くじ公式ウェブサイトによると、購入者数については、宝くじ人口(最近1年間に1回以上購入した人)の推計は5005万人、宝くじファン(宝くじ人口の内、月1回以上購入した人)の推計は1112万人となっています。宝くじの購入経験者は、8572万人(全国18歳以上人口の81.4%)、宝くじ潜在人口(今後の購入意向ありの人)は、2849万人と推計されています。

なお、2022年調査は前回の2019年調査と比較して大部分の項目において数値が伸びていますが、調査方法が調査員の個別訪問による「直接面接法」から、調査票を郵送して回答を郵送またはインターネットで回答してもらう「自記式」に変わっているため、一部数値に連続性がないことをご承知おきください。
3 どうやったら事業者になれる? 再委託の申請について
宝くじ販売業を始めるための方法について説明していきます。まず、「(図表1)宝くじ発売の仕組み」に記載の通り、販売を希望する事業者が受託銀行の窓口もしくは担当部門に申請することになります。さらに受託銀行は、この申請について発売団体の地方自治体から承認してもらう必要があり、地方自治体は、当せん金付証票法の第6条第6項に基づいて事前に公表している「再委託承認基準」に従って判断します。
なお、再委託承認基準の公表は、官報を通じて発売主体すべての連名によって行われており、すべての自治体のウェブサイトで掲載されているわけではありません。今回のシミュレーション地域である静岡市ではウェブサイト上に公表しておらず、詳しくは受託銀行にお問い合わせくださいとのことでした。
ここでは一例として、和歌山県のウェブサイトに掲載されているものを紹介します。
■和歌山県「宝くじ売り場開設の案内」■
https://www.pref.wakayama.lg.jp/prefg/010400/kuji/uribakaisetsu.html
再委託承認基準に記載されている準備金や継続の見込み、立地要件、売場間の距離などの目安、また承認後から販売までの流れについては、自治体(静岡県・静岡市・浜松市)とみずほ銀行宝くじ部にヒアリングしたものの、回答が得られませんでした。
なお、みずほ銀行静岡支店へのヒアリングによると、準備金はかなりの高額になるとのこと。他にも以下の回答が得られました。
「新規の売場は出店可能ですし、多くの方からお申し込みいただいています。しかし、準備金が用意できなかったり、審査が厳しかったりで辞退される方も多く、なかなか売場数が増えないという状況です。準備金や立地条件の詳細については、窓口でないとお伝えしにくいので、ご希望の方は、お近くのみずほ銀行の支店窓口もしくは、みずほ銀行宝くじ部までお問い合わせください」(みずほ銀行静岡支店)
4 開業収支シミュレーション
1)前提条件
ここでは、総務省の公表資料や地方財政状況調査などを基に、宝くじ販売業の開業収支をシミュレーションします。
前提条件として、ショッピングセンター内にある3坪の区画にて、宝くじ売場1件を開業すると想定します。なお、売場の施工費や当せん番号自動照合機のリース料・購入費などについては情報が得られなかったため、このシミュレーションから除外していることをご承知おきください。
1.売上高
売上高は年間8282万円とします。算出式は次の通りです。
(宝くじ消化額36億3256万円+支払手数料1162万円)÷市内売場数44件≒8282万円
総務省「地方財政状況調査(2023年)」によると、2022年度における静岡市の宝くじ消化額は、36億3256万円でした。消化額とは、発売した金額(発売額)に対して、実際に販売した金額です。
次に、支払手数料について。総務省「宝くじ受託業務について(2010年7月)」によると、2004年度~2008年度(総務相によると最新データ)における支払手数料の売上比率(消化額比率)の平均は、0.32%となっています。これに前述の宝くじ消化額36億3256万円を掛けて、おおよそ1162万円と設定します。
なお、支払手数料率は該当の5年間において0.30%~0.35%という差の少ない数値に収まっていることから、大きく変動する可能性が少ないと考え、前述の平均値をそのまま採用しています。
2.原価率
次に原価率ですが、92.3%とします。算出式は次の通りです。
1売場あたりの宝くじ消化額8256万円×(100%-売りさばき手数料7.376%)÷売上高8282万円≒原価率92.3%
宝くじ販売業は受託事業ではあるものの、宝くじ券を受託銀行から仕入れる形態となっています。このときの仕入原価は、宝くじ券の証票金額から販売手数料を差し引いた額です。ちなみに、売れ残ったくじは受託銀行が仕入値と同額ですべて買い取ってくれます。
次に、販売手数料について。総務省「宝くじ受託業務について(2010年7月)」によると、2004年度~2008年度(総務相によると最新データ)の売りさばき手数料の売上比率(消化額比率)の平均は、7.376%となっています。
なお、販売手数料率は該当の5年間において7.33%~7.41%という差の少ない数値に収まっているため、大きく変動する可能性が少ないと考え、前述の平均値をそのまま採用しています。
以上から、宝くじ販売業における売上原価は、1売場あたりの宝くじ消化額(36億3256万円÷44売場≒8256万円)から受託手数料を差し引いた額(≒7647万円)で、原価率は92.3%となります。
また、宝くじ販売業においては、人件費(パート社員の給与)や賃借料、水道光熱費(店舗の電気代)も売上原価に含まれますが、これらは必ずしも売上と連動するものではないため、シミュレーション上の原価率には含めず計算します。
3.人件費
人件費は、年間408万円とします。算出式は次の通りです。
時給1130円×実働5時間×2名×年間営業361日≒408万円
令和5年度賃金構造基本統計調査を基に、店頭で雇用するパート社員の時給を1130円と設定します。勤務形態は、1日1人当たり実働5時間、一部の時間帯以外は1名体制かつ早番・遅番の2交代シフト制とします。また、年間の営業日数は12月31日~翌年1月3日を除く361日とします。
4.賃借料
賃借料は、年間324万円とします。算出式は次の通りです。
1坪あたりの賃料1万830円/月×区画3坪×12か月≒39万円
日本ショッピングセンター協会「SC白書2023」によると、サービス業の1坪あたりの総合賃料(賃料+共益費)は1万830円/月となっているため、今回は1万円/月と設定します。なお坪数は、今回のシミュレーションの前提としている3坪です。
5.原価、営業費用のその他
水道光熱費(店舗の照明や当せん番号自動照合機にかかる電気代)や、通信費(当せん番号の更新のため)、事務消耗品費(レシート用紙・筆記用具・紙・受け渡し用トレー)、店頭での販促費(当せん店舗PR用の張り紙・看板・旗や、置物などの店舗装飾品)を想定します。これらをまとめて、ここでは25万円と仮定します。
6.差引保証金
差引保証金は、家賃の10カ月分となる270万円とします。
7.支払準備金
当せん金支払い業務においては、受託銀行に代わって一時的に当せん金分の支払いをする必要があります。
第3章で記載の通り、再受託審査において確保しておくべき資金の目安が確認できなかったため、今回のシミュレーションには含めませんが、開業後には相応の支払準備金が必要になることにご留意ください。
8.損害保険料
今回のシミュレーションには含めていませんが、宝くじ券や支払準備金の盗難リスクに備えて、損害保険に加入することも検討するとよいでしょう。ご興味のある方は「動産総合保険」でお調べください。保管中・輸送中を問わず補償してくれます(保険事業関係者への取材による)。
ちなみに、保険料率については、建物内店舗か移動型店舗かなど、店舗のセキュリティ状況によって変動するそうです。また、同保険商品がない場合は、「企業財産保険」にて補償する保険会社もあります。こちらも詳しくは、損害保険会社にお問い合わせください。
2)収支シミュレーション



5 資料一覧
この記事の作成に当たって参考にした資料を以下にご紹介します。
書籍一覧
- 日本宝くじ協会「宝くじ事典 令和3年」(2021年5月)
- 日本宝くじ協会「『宝くじ』に関する世論調査報告書 16巻」(2022年11月)
ウェブサイト一覧
■総務省「宝くじ問題検討会 第2回(資料4-1:宝くじ受託業務について)」■
https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/kenkyu/takarakuji/32900.html
■総務省「宝くじ活性化検討会報告書(参考資料:宝くじ、いま新展開のとき)」■
https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/kenkyu/takarakuji_kaseika/houkokusyo.html
■日本宝くじ協会「宝くじ世論調査(最新版)」■
https://jla-takarakuji.or.jp/cyousa/yoron.html
■全国市町村振興協会「会報(令和2年度:1月号No.108)」■
https://www.jmdc.jp/kaihou/#block580
■日本ショッピングセンター協会「SC白書/全国のSC数・概況」■
https://www.jcsc.or.jp/sc_data/data/overview
■和歌山県「宝くじ売り場開設の案内」■
https://www.pref.wakayama.lg.jp/prefg/010400/kuji/uribakaisetsu.html
■静岡市「宝くじ」■
https://www.city.shizuoka.lg.jp/s3627/s008170.html
■総務省「地方財政状況調査関係資料」■
https://www.soumu.go.jp/iken/jokyo_chousa_shiryo.html
法令・通知など一覧
■e-Gov法令検索「当せん金付証票法」■
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=323AC0000000144
■e-Gov法令検索「当せん金付証票法第六条第一項の金融機関を定める政令」■
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=411CO0000000065
■総務省「当せん金付証票発売許可基準の一部改正について(通知)」(2022年12月)■
https://www.soumu.go.jp/main_content/000882074.pdf
■e-Gov法令検索「刑法(第二編第二十三章第百八十七条:富くじ発売等)」■
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=140AC0000000045
■総務省「日本標準産業分類(令和5年7月告示)」■
https://www.soumu.go.jp/toukei_toukatsu/index/seido/sangyo/R05index.htm
関連団体リンク一覧
■総務省「宝くじ」■
https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/c-zaisei/takarakuji.html
■宝くじ公式サイト■
https://www.takarakuji-official.jp/
■日本宝くじ協会■
https://jla-takarakuji.or.jp/
■関東・中部・東北 自治宝くじ公式サイト■
http://www.kanchuto-takarakuji.jp/
■近畿宝くじ公式サイト■
http://www.kinki-takarakuji.jp/
■西日本宝くじ公式サイト■
http://nishinihon-takarakuji.jp/
以上(2024年7月作成)
pj50539
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1 この記事は「ナンバー2」へのエールです
いわゆる「ナンバー2」は経営者にとって頼もしい存在です。実際、「経営者の次に影響力のある人」「トップの意図を理解している頼れる人」であり、精力的に活動しています。
ただ、ナンバー2には悩みあります。ナンバー2であることは誇りですが、重圧や不安を感じます。立場的にナンバー2は、自社や他社の経営者と接する機会が多くなります。そうすると、「経営者」という存在と自分との差を目の当たりにし、「自分の判断、選択は本当に正しいのか」「自分の実力が乏しいので周りの皆に申し訳ない」などと思ったりして不安を覚えるかもしれません。
この記事は、そうしたナンバー2へのエールです。ナンバー2の方には下記のような心構えなどをご提案しますので、ぜひ実践してみてください。
- 進化する経営者にいち早くついていく
- 経営者と社員、両方の「代弁者」となる
- 経営者が不在のときこそ声を出す
- 会社の「広告塔」になる
- 新しい可能性を創り出す
2 進化する経営者にいち早くついていく
ナンバー2のタイプはさまざまですが、ナンバー2に求められるのは、「経営者の思いや意図を理解し、とにかく素早く実行すること」です。そのため、まず、経営者の思いや意図を正しく理解しなければなりませんが、それが難しいと感じているナンバー2もいるかもしれません。
そこで、四半期ごとなどに会社の今後を、経営者とじっくり話すのです。ナンバー2であれば、ある程度経営者の思いや意図は分かっているでしょうが、日々ビジネスは動き、経営者の考えも進化します。ナンバー2は、その進化に早くついていくことが必要です。
3 経営者と社員、両方の「代弁者」となる
経営者の思いを形にしてくれるのは一人ひとりの社員です。ですから、直接、経営者が社員に説明し、指導するのが理想かもしれませんが、それは現実的ではありません。トップセールスや次のビジネス創出など経営者には経営者にしかできない仕事があり多忙です。また、経営者の発するメッセージは社員にとって理解しにくい面もあります。
そこで、ナンバー2が経営者の「代弁者」となって経営者の言葉を伝えます。例えば、経営者が「今後のためにこの仕事を遂行してほしい」と社員に伝えたら、ナンバー2は「今後のため」の部分をかみ砕いて「なぜ必要か」を説明するといった具合です。
一方、社員の思いやメッセージなどを代弁して経営者に伝えるのもナンバー2の役割です。経営者に対しては言いにくくても、ナンバー2にだったらある程度話してくれる社員もいます。また、「代弁者」とは少し意味が異なりますが、経営者の判断や考えが正しいと思えない場合は、率直に意見・指摘・進言することもナンバー2として重要です。
4 経営者が不在のときこそ声を出す
ナンバー2が経営者の「代弁者」としての役割を強く求められるのは、経営者が不在のときです。このとき、ナンバー2は、その場における最終的な判断を下し、組織全体をまとめ、動かしていかなければなりません。経営者という「重し」がないと、社員は好き勝手に誤った判断をしたり、バラバラの方向を見たりしがちです。そこで、ナンバー2は、経営者のいないときこそ、経営者の意図や会社として大切にしていることなどを、改めて社員に伝えなければなりません。
例えば、ミーティングなどで、「経営者が不在だが、今、会社としてやるべきことは何か。それは何のためか」「そのときに注意すべき点や難所は何か」などを全社員に伝えます。このとき、社員に現状で困っていることを挙げてもらうのも大切です。
経営者の留守を預かる際に重要なのは、経営者がいないことを社員が不安に感じないようにすることです。ナンバー2は、「何かあれば自分が必ずなんとかする」「皆で力を合わせればできないことはない」といった、強く前向きな姿勢を見せることが肝要です。
5 会社の「広告塔」になる
ナンバー2は、対外的にも重要な役割を担います。経営者に次ぐポジションであるナンバー2がどのような立ち居振る舞いをするのか、どのような考え方、進め方で仕事をするのかといったことに会社のレベルが表れるからです。
また、ナンバー2は、経営者の代わりに人に会う、会合や会食などに参加することもあります。そのときは、会社の代表としてこの場にいることに加え、自分たちの会社は何を実現したいと思っているか、何を大切にしているかなどを伝えるようにしましょう。
対外的には言動にも注意が必要です。経営者や社員を軽んじる発言はやめましょう。それとは逆に、ナンバー2が生き生きしていれば、会社や経営者、社員に魅力があると分かってもらえます。ナンバー2は、自分が重要な広告塔であることを忘れてはなりません。
6 新しい可能性を創り出す
経営者の思いや意図を理解し、素早く実行するためには、ナンバー2自身が常に情報収集し、人脈を広げるなどを実践し続ける必要があります。ナンバー2だからこそ、その立場や権力におごることなく自分自身を磨き続けなければなりません。
経営者の思いや意図を実行に移すとき、特に重要になってくるのは数字です。売り上げや利益の計画、実績などの数字は、「何を、いつ、どこまで実現するのか」を考えるよりどころになります。ナンバー2は、数字で話ができるようになりましょう。
また、会社の方針は最終的には経営者が決めますが、ナンバー2は、経営者が迷ったとき、頼れる相談相手でなければなりません。経営者よりも「背負っているものが少ない」ナンバー2のほうが自由に動ける面もあるでしょう。ナンバー2は、新しいことなども積極的に学び、情報収集した上で自分の頭で考え、経営者に進言することが大切です。
今後、会社がどのように進化するのがよいか、どのような可能性があるのか。ナンバー2は常に、こうしたことを考えておかなければなりません。会社が新しい可能性を創り出せるか否かは、ナンバー2に懸かっているといっても過言ではないのです。
以上(2024年8月更新)
pj10014
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ビジネスは常に、意思決定(目標を達成するために必要な行動を選択すること)の連続です。ただ、この意思決定が勘や経験だけに基づくものだったり、単なる前例踏襲だったりすると、周囲から「なぜ、その選択をしたの?」と尋ねられたときに論理的な説明ができません。そこで紹介したいのが、「樹形図(決定木)」を作って考え得る行動の選択肢を洗い出し、最良のものを選び出すフレームワーク「ディシジョンツリー」です。
1 ディシジョンツリーとは
ディシジョンツリー(Decision Tree)とは、「決定木」や「決定木分析」と訳されるもので、
何かの意思決定をする際、考え得る選択肢の中から最良のものを選び出すフレームワーク
です。決定木と呼ばれる理由は、
木の形をした「樹形図(決定木)」を作って、欲しい答え(目標変数)にたどり着くための条件(説明変数)を見つけるから
です。
ディシジョンツリーを使うことで、勘や経験だけでなく、定量的な分析に基づいた判断がしやすくなります。この記事では、ディシジョンツリーにおいて必要な知識とその作り方、そして書き込みシートを紹介します。
2 ディシジョンツリーで大切な分類木と回帰木
1)分類木とは?
分類木とは、
顧客の購買データなどを、年齢や年収などで区分しながら作成する樹形図
です。例えば、図表1では、ECサイトで商品Aという高額商品を購入した顧客データから見込み客を選定しています。
図表1では、「年齢40代以上、年収600万円以上」の人が最も有力な見込み客となっています。分類木には、
早めに出てくる分岐ほど力が強くなる(重要度が高い)
という特徴があります。例えば、年代で別々の広告手法を模索しているなら「年齢」、地域なら「居住地」などが分岐の条件になります。
2)回帰木とは?
回帰木とは、
取り得る行動を「結果の数値」「発生する確率」に応じて分岐させ、各分岐の期待値(結果の数値×発生する確率)を算出するための樹形図
です。例えば、図表2では、見込み客に商品をPRするために、Web広告を「出す」「出さない」を判断するのに回帰木を使っています。ここでは、
- Web広告を「出す(出さない)」場合の収益を「結果の数値」
- Web広告が「好調(不調)」となる確率を「発生する確率」
としています。
なお、樹形図の「□」「○」「◁」の意味は次の通りです。
□(意思決定ノード、決定ノード):自分で分岐を選べる(意思決定によって決まる)
○(確率ノード、イベントノード):自分で分岐を選べない(確率によって決まる)
◁(終点ノード):これ以上は行動を起こさないので、分岐しない(終点である)

図表2は、おおまかなイメージを示したものなので、収益や確率の具体的な数値を記載していません(Web広告を出さない場合については、収益は「100%」の確率で「0円」となります)。次章でもう少し詳しく説明します。
3 ディシジョンツリーの作り方
1)Web広告を出すか否か
ここまでの流れを確認しましょう。
あなたは商品Aを販売するに当たり、「分類木」を使ったディシジョンツリーで、見込み客を選定しました。見込み客は、40代以上の年収600万円以上の層でした(図表1を参照)。
次に、「回帰木」を使ったディシジョンツリーで、この層に商品Aを効果的にPRする方法としてWeb広告を検討しました。Web広告費は100万円で、Web広告が「好調」なら収益は300万円、「不調」なら収益は30万円と想定しています。そのディシジョンツリーは図表3の通りです。なお、あなたはWeb広告が好調となる確率を20%と推定しています。

図表3の場合、ディシジョンツリーの作成手順とポイントは次の通りです。
1.「決定」の分岐を示す
意思決定の可能性の分岐です。図表3では、Web広告を「出す」「出さない」の2分岐になります。
2.「結果」の分岐を示す
意思決定によって生じる「結果」の可能性であり、その確率は作成者が決めます。図表3では、Web広告を「出す」場合、その「好調」「不調」の2分岐になります。
3.全ての分岐を終点まで洗い出す
「結果」の分岐の先でさらに行動を起こす場合、「決定」の分岐(成功した場合どうするのか、失敗した場合どうするのかなど)を付け足します。何も行動を起こさない場合、そこが分岐の終点となります。図表3では、Web広告を「出す」場合の結果(2分岐)と、「出さない」場合の結果(分岐なし)が終点です。最後に、終点ごとに収益を書き込みます。
2)Web広告を出すか否か、広告調査を実施するか否か
図表3は、Web広告を出すか否かのみを決定するディシジョンツリーですが、実際のビジネスの意思決定はもっと複雑です。例えば、Web広告を検討する際に、リサーチ会社に「広告調査」(ターゲットにリーチしやすい広告媒体やデザインなど)を依頼するか否かも検討するといった具合です。
この広告調査を組み入れて、Web広告を「出す」「出さない」を判断したディシジョンツリーは図表4の通りです。なお、広告調査を「実施しない」場合の分岐は図表3と同じなので、ここでは一旦置いておきます。
図表4の場合、ディシジョンツリーの作成手順とポイントは次の通りです。
1.「決定」の分岐を示す
図表4では、広告調査を「実施する」「実施しない」の2分岐になります。
2.「結果」の分岐を示す
広告調査を「実施する」「実施しない」の分岐の先に、「結果」の分岐を付け足し、発生する結果とその確率を書き込みます。
3.全ての分岐を終点まで洗い出す
「結果」の分岐にWeb広告を「出す」「出さない」という「決定」の分岐を付け足します。図表4では、この意思決定が終点となります。最後に、終点ごとに収益を書き込みます。
そして、図表3(広告調査を実施しない場合の分岐)と図表4(広告調査を実施する場合の分岐)を組み合わせた完成形が図表5であり、A~Gの7つの終点ができています。

樹形図が完成したら期待値を計算します。手順とポイントは次の通りです。
4.終点での期待値を計算する
期待値は、(結果の数値)×(発生する確率)で求められます。上から順に、広告調査を実施する分岐(終点A~D)では、
- 終点A(好調、出す)では、60万円(300万円×20%)
- 終点B(好調、出さない)では、0円(0円×20%)
- 終点C(不調、出す)では、24万円(30万円×80%)
- 終点D(不調、出さない)では、0円(0円×80%)
となります。
次に、広告調査を実施しない分岐(終点E~G)では、
- 終点E(出す、好調)では、60万円(300万円×20%)
- 終点F(出す、不調)では、24万円(30万円×80%)
- 終点G(出さない(好不調は関係ない))では、0円(0円×100%)
となります。
5.不要な選択肢を刈り取る
次に、不要な選択肢を刈り取ります。不要な選択肢とは、簡単に言うと「論理的におかしい選択肢」のことです。図表6のように「☓(バツ)」を付けます。
図表6の場合、
- 「好調」なのに、Web広告を「出さない」
- 「不調」なのに、Web広告を「出す」
という選択肢が刈り取りの対象です。選択肢を刈るときに大事なのが、
- 「やりたい」「やりたくない」といった感情で判断しないこと
- 刈り取った選択肢を削除しないこと
です。ディシジョンツリーはあくまで数値で結果を得るものなので、感覚を交えた判断は結果を出した後に行います。また、「何を刈り取ったのか」を見返したり、「なぜ刈り取ったのか」を社内で話し合ったりすることがあるので、×印を付けるなどにとどめ、後から確認できるようにします。
6.初めの選択肢ごとの期待値を集計する
最後に、初めの選択肢ごとの期待値を求めます。

ここでいう初めの選択肢とは、
- 広告調査を「実施」し、「好調」となる場合、Web広告を「出す」
- 広告調査を「実施」し、「不調」となる場合、Web広告を「出さない」
- 広告調査を「実施しない」
の3つです。具体的には、図表7の緑枠で囲った部分(α群、β群、γ群)ごとの期待値を出します。また、
「結果」の分岐の先では、関わってくる数値全てに割合が影響する
という点に注意が必要です。例えば、20%で分岐している先でかかる費用が100万円なら、期待値から引くべき費用は20万円(100万円×20%)です。
以上を踏まえると、α群、β群、γ群それぞれの期待値は次のようになります。なお、広告調査の費用は20万円とします。
- α群(終点A=広告調査を「実施」し、「好調」となる場合、Web広告を「出す」)
=収益の期待値60万円-Web広告の費用100万円×20%-広告調査の費用20万円
=20万円
- β群(終点D=広告調査を「実施」し、「不調」となる場合、Web広告を「出さない」)
=収益の期待値0円-広告調査の費用20万円
=-20万円
- γ群(終点E+F+G=広告調査を「実施しない」)
=収益の期待値60万円+24万円+0円-Web広告の費用100万円
=-16万円
この場合、最も期待値が高いのはα群です。従って、今回は、
広告調査を「実施」し、「好調」となる場合、Web広告を「出す」
という選択を取ることとなります。
また、今回は広告調査を実施する前の段階でディシジョンツリーを作成していますが、実際に広告調査を行った場合には、その結果を踏まえて数字(収益や確率)を修正し、再度ディシジョンツリーを作り直すと、より精度の高いものになります。
4 ディシジョンツリーで特に陥りやすいポイント
1)過学習になっている(条件を増やし過ぎていないですか?)
過学習になる、つまり分岐が増え過ぎるとディシジョンツリーの良さを潰してしまうことになります。理想としては、図表8のように、
縦に見て4分岐前後が最適
とされます。

もしも分岐が多くなるようであれば、図表3と図表4で実践したように、小さなディシジョンツリーを別々に作って見比べて判断するとよいでしょう。
2)結果に違和感がある
ディシジョンツリーの結果が出たものの、「この結果は本当に妥当なのか?」と違和感を覚えることがあります。期待値の計算結果と勘や経験、どちらが正しいのかを考える前に、
参考となるデータ、設定した数値、想定され得る選択肢の数などの条件が足りているか
を確認してみましょう。また、
「結果」の発生する確率や予測した収益などの見積もりに違和感はないか
も確かめてみましょう。数字を設定するのは作成者自身なので絶対の正解はありませんが、社内の他の人にも意見を聞いてみて納得が得られない場合、数字の見直しが必要かもしれません。
5 書き込みシート
最後に、実際にディシジョンツリーで意思決定を行うための書き込みシートを紹介します。プリントアウトしてお使いください。図表9は、1~3つの意思決定で悩んでいるときにお使いいただけます。
図表10は、2段階の意思決定が発生するときにお使いいただけます。
以上(2022年12月作成)
画像:AVA Bitter-Shutterstock