春の全国交通安全運動(2023/4号)【交通安全ニュース】

活用する機会の例

  • 月次や週次などの定例ミーティング時の事故防止勉強会
  • 毎日の朝礼や点呼の際の安全運転意識向上のためのスピーチ
  • マイカー通勤者、新入社員、事故発生者への安全運転指導 など

4月になり新入学児童の通学が始まります。また新型コロナウイルスの感染状況が落ち着きをみせており、買い物や観光などで外出する人も増えています。一方で通勤・通学、配達、趣味などで自転車の利用を始める人も多いと思われます。

この時期は、このように地理に不案内な歩行者や慣れない自転車利用者が増えるため、交通事故のリスクが高まります。

「春の全国交通安全運動」が実施されますので、これを機会に歩行者や自転車との事故防止について考えてみましょう。

春の全国交通安全運動

1.春の全国交通安全運動

「春の全国交通安全運動」が以下のとおり実施されます。
(内閣府・警察庁等主催)

◆運動期間:令和5年5月11日(木)から20日(土)まで
◆交通事故死ゼロを目指す日:令和5年5月20日(土)
◆重点テーマ(運動重点)

<全国重点>
①こどもを始めとする歩行者の安全の確保
②横断歩行者事故等の防止と安全運転意識の向上
③自転車のヘルメット着用と交通ルール遵守の徹底

<地域重点>
都道府県の交通対策協議会等は、全国重点のほか、地域の交通事故実態等に即し、必要に応じて、地域の重点を定めています。

春の全国交通安全運動ポスター

詳しくは、内閣府「令和5年春の全国交通安全運動推進要綱」をご参照ください。
https://www8.cao.go.jp/koutu/keihatsu/undou/r05_haru/youkou.html

2.自転車安全利用五則の改定

自転車の通行方法等を定めた「自転車安全利用五則」が令和4年11月に改定されました。

<自転車安全利用五則>
①車道が原則、左側を通行
 歩道は例外、歩行者を優先
②交差点では信号と一時停止を守って、安全確認
③夜間はライトを点灯
④飲酒運転は禁止
ヘルメットを着用

令和5年4月から、道路交通法の一部改正により、自転車乗用中のヘルメット着用が努力義務となりました。

※自転車乗用中の交通事故で亡くなった人の6割近くが頭部を損傷しています。また、ヘルメット非着用時の致死率は着用時と比べ約2.2倍高くなっています。

ヘルメット非着用時の致死率

※自転車の交通事故は1年間で約7万件発生しており、自動車との出会い頭事故の場合は重大事故となる傾向があります。また自転車事故で亡くなった人の8割近くに何らかの法令違反が認められています。

出典:警察庁HP「自転車は車のなかま~自転車はルールを守って安全運転~」より弊社作成
https://www.npa.go.jp/bureau/traffic/bicycle/info.html

3.事故防止に向けて

歩行者や自転車の利用者の中には、交通ルールを知らない、あるいは知っていても遵守する意識が低い人がいます。これを踏まえ歩行者や自転車との交通事故を防止するために、自動車の運転者が守るべきポイントを紹介します。

  • 交通ルールを遵守し、歩行者優先を徹底する。
  • 施設等への出入りのため歩道や路側帯を横断するときは、横断する直前で一時停止する。
  • 交差点を右左折するときは、自転車の有無を確認する。
  • 歩行者や自転車の側方を通過するときは、安全な間隔をとる、または徐行する。
  • 歩行者や自転車の多い、ゾーン30などの生活道路の通行を避ける。 など

都道府県の警察が公開している「交通事故発生マップ」を活用して事業所周辺や自宅周辺の危険箇所を確認し、通行時の注意点を話し合ったり、ヒヤリ・ハット体験を情報共有したりするなど、職場や家庭で交通安全について考えてみましょう。

<交通事故発生マップの一例>
警視庁HP「交通事故発生マップ」
https://www2.wagmap.jp/jikomap/Portal

以上(2023年4月)

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画像:amanaimages

異能の集団“プロデューサー公務員”を育てた村役場の職員の意識改革/1400人の山村のキセキ(後)

書いてあること

  • 主な読者:地方創生に関心のある経営者や町おこし担当者、地方創生を支援する金融機関
  • 課題:過疎化によって人材、資源、資金の全てが不足し、活力を取り戻す方策がない
  • 解決策:森林資源の価値の最大化を目標に、村内起業やSDGs、DXなどに挑戦し続けている岡山県西粟倉村の取り組みを参考にする

1 村役場の職員の意識は、こうして変わっていった!

このシリーズでは、西粟倉村の約15年間の軌跡と、地方創生の成功モデルと言われるまでの“奇跡”を遂げた理由について、西粟倉村役場の上山隆浩・地方創生特任参事へのインタビューを、前後編の2回にわたって紹介します。

前編では、西粟倉村が森林資源の価値最大化を目指した「百年の森林(もり)構想」に取り組んだ約15年の軌跡についてお聞きしました。

西粟倉村が約15年間でここまでの変貌を遂げる原動力となったのは、何といっても取り組みの中心的な役割を担った村役場の職員たちの存在です。後編では、西粟倉村を変えた村役場の職員たちが、どのような意識改革によって育成されていったのか聞いています。

2 “プロデューサー公務員”だから村を動かせる

1)村役場の職員の役割は、事業のプロデュース

百年の森林構想が始まってから、職員の働き方が大きく変わりました。構想を進めるために、民間の方とお話しする機会が増えたことが、業務の合理化につながったのです。

現在、村役場の職員(行政職)は38人です。それぞれが専門的な知見を持っているわけではありませんので、事業を進める場合、職員ができることは限られています。民間の方たちとお話しし、共に事業を進める中で、村役場の職員がやらないといけないことと、民間の方たちにやってもらったほうがよいことを、明確に意識することが重要だと感じるようになりました。

実際に事業を進めるために必要な議論は、民間の方たちにも参加してもらわなければなりません。ですから、職員がやることは、事業をプロデュースすることでリソース(ヒト)とファイナンス(カネ)を獲得しながら事業を進める体制をつくることです。そのためにバックキャスティング(目標を設定し、その実現のために逆算して計画を立てること)しますが、タイムスケジュールやアジェンダも民間の方たちに任せることもあります。村役場の職員はこうした作業に慣れていませんので、実践で訓練しながら覚えていきました。

百年の森林構想によって安定的に進んでいる森林整備

2)民間の「プレーヤー」が自走できる仕組みをつくった後は手を離す

最初の事業のテーマは、ローカルベンチャーを育成して「稼げる村」にすることでしたので、私がいた産業観光課と民間の方たちとで事業を進めていきました。そこで経験したのは、最初の段階から、実際にローカルベンチャーとして事業を行う「プレーヤー」になってくれる人たちにも入ってもらっていたことで、事業が進めやすくなったということです。

事業が採択され、走り始めると、そのプレーヤーが自らの事業として取り組むので、職員の手を離れてくれます。職員は、民間のプレーヤーが自立して事業を進められるような仕組みさえつくれば、いつまでも抱え込んだり関与し続けたりせずに済むので、事業を進めるのに合理的な手法だということが分かりました。そもそも、自治体が関与し過ぎると、概して良いことにはならないものです。

つまり、事業を進めていく上で、職員が行うべき重要な役割は、ディレクションだということです。一般的に、行政が事業を進める際に最も困るのは、事業の担い手(ヒト)がいないことと、事業を行う資金(カネ)がないという2つだけです。この2つさえ解決すれば、大体「やってみたら」という話になります。ですので、ディレクションする職員が、リソース(ヒト)とファイナンス(カネ)を調整することが大事です。ファイナンスに関しては、今は地方創生にかかわる交付金や国の補助制度の他、ふるさと納税など多くの方法があるので、可能な限りそれを活用する必要があります。

そこまで職員が行えば、後はリソースとなる民間の方たちが自己責任で考え、必要な人を集めて、実行してもらえます。

こうした役割を行う村役場の職員を、私たちは“プロデューサー公務員”と呼んでいます。

3)ローカルベンチャー育成で培った成功体験を全庁横断組織で横展開

「稼げる村」にするための事業を通じて分かった、プロジェクトを成功させる秘訣は、ビジョンとプロジェクトを一体化させることです。百年の森林構想では、2058年には、村を百年の森林で囲まれた「上質な田舎にする」という旗を掲げ、そのための森林資源の価値の最大化というビジョンを示し、そのシンボルプロジェクトとして具体的に百年の森林事業に取り組み、共感・共有を得ることができて人材も集まりました。

この成功体験によって、民間の方たちとプロジェクトを進めるノウハウが積み上がりました。そして、「稼げる村」になるためのローカルベンチャーが育成されるうちに、森林に関する事業の他にも、介護や助産婦、幼児教育など社会資本系のローカルベンチャーが徐々に立ち上がるようになってきました。このため、私がいた産業観光課だけなく、全庁的に対応する必要が出てきました。そこで2017年に、全庁横断的な組織である「地方創生推進班(現在は地方創生推進室)」を設置しました。

地方創生推進室を設置した後の西粟倉村役場の組織体系

3)プロジェクトを動かすのは提案者と賛同者

地方創生推進班は当初、役場内の各部署から2人ずつ参加してもらい、12人で構成しました。

百年の森林構想のときと同様に、まずはメンバーの思いや価値観を集約した旗を立てることから始めました。皆で1年かけて話し合い、「brighten our forests, brighten our life, brighten our future!! 生きるを楽しむ」というキャッチコピーを作りました。

次に、その旗を実現させるためのシンボルプロジェクトを決めることにしました。まず12人のメンバーが1人1つずつプロジェクトを提案して、12のプロジェクトの中から、皆で話し合って4つを選びました。そこから生まれたのが、企業や研究機関と協働して地域課題を解決する「一般財団法人西粟倉村まるごと研究所」や、教育コーディネーター事業を行う「一般社団法人Nest」です。

選んだプロジェクトは、提案したメンバーがリーダーになり、その提案に「いいね」と票を入れたメンバーが参加します。自ら提案、賛同したプロジェクトですから、「受け身」で臨む職員はいません。プロジェクトには、必要な知見を持っている外部の方にも参加してもらいます。

プロジェクトは、2年もしくは3年以内にスタートアップさせるという目標からバックキャスティングして、その1年でやるべきマイルストーンを設定し、それに向けて実行していきます。3年というのは、交付金が3年のものが多いからです。

4)職員がやることと民間に委託することを明確に分ける

ただし、職員は自分の通常の業務もありますので、外部の民間の方に手伝っていただくことになります。ですから、会議では職員が3~4人に対して、民間の方が7人といった感じになります。職員が自分たちでやることと、民間の方に委託することの線引きをしっかりとやっておくことが大事です。どちらかというと、実務を行っていただくのは民間の方なので、職員は、どうありたいか、そのために何をやるのか、というアイデア出しと、その実施が役割になります。

職員がやるのは、とにかくブレインストーミング(メンバーで議論してアイデアを出し合う)をして、事業を進めていくことです。会議の議事録の作成や、アジェンダ(会議の議題)の整備などは、民間の方にやってもらいます。また、専門家の方にも随時入っていただき、議論の方向性が間違っていないかを指摘してもらいます。最終的には、地方創生推進班を統括する私のところに上がってきて、事業が決まるという流れになっています。

地方創生推進班のメンバーは後に16人に増やしましたが、メンバーたちは、4年間でそのような訓練をしてもらいました。現在では、当時のメンバーたちが、実際にスタートアップした事業を展開させる役割を担ってくれています。

5)リソースの活かし方

事業を進めていくためには、必要なリソースの選択が求められます。例えば地元の金融機関は、脱炭素に関する新電力事業会社の株主として参加してもらっています。村民にとっては、都市部の民間企業でなく地元の企業が出資しているという安心感があります。また、地元の金融機関は地域の電力事業者とのつながりもありますので、電力事業者に業務面のお願いをしやすくなるという点でも、村にとってメリットがあると思います。

地元の金融機関にとっても、地域の脱炭素などの事業に携わっているというバリューを得られていると思いますので、Win-Winの関係ができていると思います。

3 「怪しい人たち」を受け入れた村民の意識改革

1)「村役場は移住者には優しいけど、村民には冷たい」

百年の森林構想がスタートして、木材加工事業などのローカルベンチャーが起業していった頃は、村民の中には、「50年かけて育ててきた森林がお金になるようになったときに来て、おいしいところだけ持っていくのではないか」「どうせ2年、3年で村から出ていってしまうのでは」といった声があったのも事実です。

また、移住者に対して、「怪しい人たち」「負け組が来た」という感覚を持つ村民もいたようです。そもそも、村民の中には、「田舎ではダメだ」と、自分の子供たちを都会に送り出している人もいますので、西粟倉村の百年の森林構想に共感して移住していただいた人と、価値観が全く相いれないわけです。

移住を支援する国などの制度によるサポートが手厚いこともあり、村民の中には、「村役場は外からの移住者には優しいけれど、村民には冷たい」「村の施策が村民に向いていない」と批判する人もいました。

若者の流入で村民の約16%が移住者に

2)移住者が10年以上住み続けるうちに、徐々に村民の見方が変化

村民の移住者に対する見方は、大きなきっかけがあったわけではなく、徐々に変わっていきました。ローカルベンチャーが残っているという状態が続いているということが、村民の見方を変えている最も大きな要因だと思います。ローカルベンチャーの起業が始まって10年以上たちますが、ローカルベンチャーは52社のうち50社が今でも村に残っていますので、「昔はすぐに村から出ていくだろうと思っていたけど、まだ残ってくれている」と、認識を変えていかれたと思います。

ですが、もし、ローカルベンチャーが2年や3年で潰れるケースが増えていたら、「それみたことか。村はお金を使ったのに、成果を出せていない」と、批判を受けるようになったかもしれません。もしそうなっていたら、村も萎縮してしまい、成果が出るまで事業を継続的に進められなかったかもしれません。

地域のコミュニティーの拠点となっている「あわくら会館」

3)移住者が地域コミュニティーを支える存在に

ローカルベンチャー育成の取り組みによって、西粟倉村ではそのようなケースがなく、逆にローカルベンチャーが事業を拡大し、村民を雇用するケースも増えています。それだけでなく、今や移住者の方たちが、消防団や介護施設など、人口が減っていくとできなくなる住民サービスの担い手になって動いてくれています。また、移住されてきた人たちは20代から40代で子育て世代であり、地域コミュニティーやレジリエンスの中心的な位置にいますし、保育園の園児の4割を移住者の家族が占めています。

もはや、移住者抜きには村の将来を語れなくなってしまっていて、村民も移住者の価値を認めるようになってきたということだと思います。もちろん、今でも移住者に厳しい目で見る方がいるのも事実ですが、多くの村民は移住者と一緒に地域コミュニティーを維持するようになっています。

以上(2023年3月)

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画像:岡山県西粟倉村役場

サービスロボットはここまで進化した! お茶くみする警備ロボ、同時に4品つくる調理ロボなどが登場

書いてあること

  • 主な読者:人手不足に悩むサービス業や流通業などの労働集約型産業の経営者
  • 課題:従業員の業務負担の軽減や、省人化を図るためにロボットを導入したい
  • 解決策:警備、物流・倉庫、飲食、接客の4種類の業務の現場で働くサービスロボットの事例と実際に導入した企業の生の声を参考に、自社で導入可能なロボットを検討する

1 あなたの隣にサービスロボット

今やロボットは、工場などで稼働する産業用ロボットだけでなく、サービス業や流通業など労働集約型産業にまで裾野を広げています。このような「サービスロボット」と呼ばれるロボットは、警備や接客といった対人業務までこなすようになっており、従業員の業務負担の軽減に役立っています。

この記事では、警備、物流・倉庫、飲食、接客という4種類の業務の現場で働くサービスロボットの事例と、実際に導入した企業の声を紹介します。従業員の業務負担を軽減させることができるか、ぜひご検討ください。

2 警備

1)「ugo(ユーゴー)」(ugo 東京都千代田区)

1.特徴

「ugo」は、施設内を巡回・点検するロボットです。

  • SLAM(自己位置推定)技術による自律移動
  • 2本の7軸アーム
  • 上半身を上下移動できるリフター
  • 360度カメラや深度カメラ、衝突防止機能、音声機能など

の機能を持ち、

遠隔操作も可能で、複数体を同時に制御することもできる

そうです。立哨(りっしょう)、巡回、点検をして、人の警備業務を補完します。急な業務内容の変化や不測の事態が発生した場合には、遠隔操作に切り替えて対応することが可能です。

また、警備業務の他にも、映像データの記録、報告書の作成などの事務作業も任せることができます。同社広報担当の荒木祥子さんは、

「ビルの警備では、ugo2台の導入で、 警備員4名分の労働力の補完につながりました。また、データセンターでは、メーターの読み取り、記録、PCヘのデータ入力といった事務作業を代替することで、人が行う作業時間を約50分削減できました」

と言います。

なお、ugoのアームはあらかじめ動作登録をすることで、エレベーターのボタンを押したり、ものをつかんだり、お茶くみをしたりすることもできます。そのため、警備やデータセンター、火力発電所などでの巡回・点検などだけでなく、工場での部材・製品などの運搬、遠隔操作を利用した来客案内やお茶出し、老人ホームでの介護業務のサポートといった、さまざまな現場で導入されています。

左はugoの全身。右上はアームを使いエレベーターのボタンを押す様子。右下はペットボトルをつかむ様子。

2.導入企業の声

2023年3月時点で「ugo」が導入されているのは、データセンター、火力発電所、オフィスビル、工場、介護施設、研究機関などです。導入先の施設からは、次のように評価されているそうです。

  • エレベーターの操作ボタンが押せるので、ロボットに連動するエレベーターに改装する必要がなくなった(商業ビル)
  • 自動巡回/点検、自動運搬、自動棚卸しなどに加え、遠隔操作もできるので力が必要な単純作業や事務的なルーティンワークが減った(工場)
  • お客さまへの簡単な声掛けや食事の誘導、レクリエーションの体操などでも活用でき、作業の軽減につながった(介護施設)
■ugo■
https://ugo.plus/

2)「PATOROR (パトロR)」(ZMP 東京都文京区)

1.特徴

「PATOROR」は、歩行程度の速度で自動運転し、表情と声で人に働きかける警備ロボットです。高さ約109センチ幅約65センチのボディーに、

  • 自律移動機能
  • 360度カメラ
  • 消毒液散布機能
  • パトランプ(青色回転灯)
  • 液晶パネル、スピーカー

が搭載されています。これらの機能を使い、

カメラで周辺の障害物を避けて走行し、事前入力したマップ情報に従って適切な場所に消毒液を散布する

などの働きをします。また、液晶パネルで表示される目の表情は、状況に合わせて変化するとともに、スピーカーから「右に曲がります」「道を譲ってください」などの声掛けをします。同社ロボセールス&ソリューション事業部の池田さんは、

「営業中の商業施設やオフィスビル、オフィス内などでも人に威圧感を与えずに、親しみを感じていただいています」

と言います。

左上は怒り顔で走るPATORO®。右上は消毒液をドアノブに吹きかけている様子。下は人に混じって屋外を走行している様子。

2.実証実験での声

2023年3月時点で警備ロボットとしての導入実績はありませんが、実証実験は行われています。実証実験を行った機関からは、次のように評価されているそうです。

  • 危険度の高い場所や人が行きにくい場所、夜間の公園などの巡回に期待できる(警察)
  • 人通りの多い地下街空間でも、人に代わって消毒作業ができるので助かる(商業施設)
  • 手すりやベンチ、床面などの消毒も自動で行うので消毒作業が軽減できそう(鉄道)
■ZMP■
https://www.zmp.co.jp/

3 物流・倉庫

ご紹介するのは、物流支援ロボット「CarriRoR(キャリロR)」(ZMP)です。

1.特徴

「CarriRoR」は、物流施設で荷物などを搬送するロボットです。タイプとしては、

  • ハンドルが搭載された「台車タイプ」
  • ハンドルを取り外してパレット台車の下に潜り込んで搬送する「パレット積載タイプ」

があります。

決められたラインに沿って走る無人搬送車(AGV)と違い、カメラで施設内の標識を読み取り、自律走行します。具体的には、

  • 路面に貼られた標識を識別しながら、自動で荷物などを搬送する「自律移動モード」
  • ジョイスティックで操作ができる「ドライブモード」
  • ビーコン(発信機)に反応し、自動追従する「カルガモモード」

という3つの機能があります。

さらに、同社のロボット管理システム「ROBO-HI(ロボハイ)」を導入すれば、

ロボットと自動ドアなどの設備が連携し、CarriRoRの移動に従ってエレベーターが自動開閉するなど、人手を介さないロボットの運用が可能

になります。同社ロボセールス&ソリューション事業部の塚田さんは、

「費用対効果が一番に求められる倉庫や物流センターでは、自律移動モードが一番活用されています。直近では、ROBO-HIを使用して自動ドアやエレベーターなどの施設設備と連携して活用するケースが増えています」

と言います。また、CarriRoRは、物流拠点や工場、小売店の搬送などの他、ホテルなどでも導入されているそうです。

左上はカルガモモードで牽引中の様子。右上は台車タイプの「CarriRo®」。下は自律移動モードで牽引している様子。

2.導入企業の声

2022年6月の販売開始より「CarriRoR」は累計300社以上の導入実績があります(2023年2月時点)。導入先の企業からは、次のように評価されているそうです。

  • 自社のロールボックスパレットの改造などをせずに搬送できる(運送)
  • カルガモモードを使うと1人のスタッフで多くの配膳ができるので助かる(旅館)
  • 声も出るため、なじみやすい、かわいい(小売)
■ZMP■
https://www.zmp.co.jp/

4 飲食

ご紹介するのは、4品同時に調理できるパスタ調理ロボット「P-Robo」(TechMagic 東京都江東区)です。

1.特徴

「P-Robo」は、パスタの調理ロボットです。幅約4メートルのボディーには、

  • 高出力・高回転するIH(電磁調理器)
  • 4つのフライパンを状況に合わせてハンドリングするアーム
  • P-Roboが何を調理しているか、一目で分かるモニター

などが搭載されています。これらの機能を使い、注文が入ると、

  • ソース・食材の投入
  • 麺のゆで上げ
  • かき混ぜながらの加熱調理(炒め調理)
  • 調理後のフライパンの洗浄

の4工程を自動で行います。このため、人が行うのは盛り付けだけです。また、独自開発した4つのフライパンを同時に稼働させることで、メニューによっては、1食目は約75秒、2食目以降は約45秒間隔で調理が可能だそうです。

同社広報担当の杉山さんは、

「P-Robo1台で1~2人の省人化が見込めます。ただ、ロボットが調理するという物珍しさだけでは、お店は続きません。熟練のシェフの味を再現し、ロボットなのにおいしい、と思ってもらうことにこだわって開発しました」

と言います。使いやすさにもこだわり、モニターで食材やソースの残量の確認もできるそうです。

左上はフライパンで同時調理する様子。右上はP-Roboが何を調理しているかが一目で分かる情報が表示されているモニター。下は「P-Robo」の全体像で、調理は左から右へ進んでいく。

2.導入企業の声

2023年3月時点で「P-Robo」が導入されているのは4店舗です。導入先の企業からは、次のように評価されているそうです。

  • レシピの暗記や調理方法を教える時間が減り、接客の指導に集中できるようになった
  • 注文から提供まで、通常店は約5分かかるところが1分強にまで短縮した
  • 通常の厨房が常時2~3人に対し、導入店は1~2人でまかなえるようになった
  • 人間の調理と比べて、味付けにブレがない
■TechMagic■
https://techmagic.co.jp/

5 接客

ご紹介するのは、1人で最大5体のロボットを操作できる「いつでも・どこでも・誰でも働ける、遠隔操作ロボット(以下「遠隔操作ロボット」)」(サイバーエージェント 東京都渋谷区)です。

1.特徴

「遠隔操作ロボット」は、遠隔操作によって1人で最大5体までの接客ロボットを操れるロボットです。このロボットには、

  • オペレーターの声をリアルタイムでロボットらしい音声に変換する
  • オペレーターの声に合わせてロボットが自動で動く
  • 細かい動作はパソコンを通じて操作できる

といった特徴があり、来場者は実際にロボットと話をしているような気分になるそうです。これまで商業施設、スーパーマーケット、アミューズメント施設、空港、保育園、行政施設などさまざまな現場で実証実験を行ってきた結果、

人が直接接客を行うよりも、ロボットを介してコミュニケーションを取るほうが、通常よりも高い立ち止まり率を実現

したといいます。また、通常の対面接客にはない顧客体験を生み出す可能性が発見されているそうです。

同社AI Lab(エーアイ ラボ)の馬場惇(ばば じゅん)主任研究員は、

「実証実験を行った商業施設からは、ロボットを介した質問対応を非常に多く遂行できたことから導入意向をいただきました。行政施設などからも、導入を検討したい意向をいただいています」

と言います。課題は、オペレーターの人件費を大きく上回る接客効果やコスト削減を実現できるかどうかとのことです。

左上・右上はスーパーマーケット、下は商業施設での様子。

2. 実証実験の声

遠隔操作ロボットの実証実験では、次のような結果が得られたそうです。

  • ロボットを通して園児や来場者の人気者になれるので、孤独感の解消や自尊心の向上といったやりがいにつながる可能性がある(オペレーター)
  • チラシ配布では通常の約5倍の受け取りに、声掛けの立ち止まり率は1.4倍になった(スーパーマーケット)
  • 利用客の約67%がロボットと会話し、また会話の8回に1回は笑いが起きるなど、対面接客にはない新たな『顧客体験』を提供できる可能性を感じた(アミューズメント施設)
■サイバーエージェント■
https://www.cyberagent.co.jp/

以上(2023年4月)

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若手社員の定着のために

入社した新卒社員や若手社員が「定着しない」「離職が目立つ」という企業経営者・人事担当者の声は非常に多くなっています。それを裏付けるように、最新の厚生労働省の調査でも、新卒社員の3割が入社後3年以内に退職しています。

本稿では、新卒入社1年目から3年目の若手新卒社員を対象にした「仕事や会社についての満足度」の調査を参考に、早期退職に至る若手社員の仕事のモチベーションや勤続意欲に関する考えを明らかにしていきたいと思います。

1 新入社員の入社理由

リスクモンスター(株)が、新卒入社1~3年目の男女600名を対象にした調査において、「現在の勤務先を就職先として選択した際の選択理由」(上位)は次のようになっております。

現在の勤務先を就職先として選択した際の選択理由

(リスクモンスター(株)「若手社員の仕事・会社に対する満足度」)

福利厚生がトップということは、意外のように思われますが、昨今の新入社員は、福利厚生を含めた労働環境の良い企業を選択し、入社後も採用時に期待したイメージが現状においても満たされていることが勤続意欲の維持に寄与しているものと考えられます。

2 入社後3年間に対する勤続意欲

また、「当面3年間に対する仕事・会社に対する勤続意欲」では、次のような結果となり、若手社員のおよそ2人に1人が3年以内での退職を考えていることが明らかになっています。

当面3年間に対する仕事・会社に対する勤続意欲

※背景色付きは、回答率が半数を超える数値

(リスクモンスター(株)「若手社員の仕事・会社に対する満足度」)

新卒入社2年目では「3年以内に退職」が前回調査より12ポイント増加しています。この世代は、就職活動においてコロナ禍の影響により就職活動がままならず、就職先の選定が不十分であったことが原因であると考えられます。

3 さいごに

また、本調査の別の項目では、「サービス残業」「業務効率が悪い」「有給休暇が取得しにくい」などは、時代遅れな働き方と認識されています。

このような調査結果を見るに、まずはワークライフバランスを重視した労働環境をつくること、タイムパフォーマンスを高めること、そして自社のことを知ってもらう機会を作るということが重要といえましょう。

企業にとって、若手社員の採用は、大きなコストをかけて実施する投資であって、早期離職は大きな損失となります。コロナ禍を経て変化してゆく社会環境を捉えて対応していくとともに、引き続き働き方改革の推進を図っていくことが、早期離職防止のための有効策となるのではないでしょうか。

※本内容は2023年3月13日時点での内容です

(監修 社会保険労務士法人 中企団総研)

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画像:photo-ac

若手社員の定着のために

入社した新卒社員や若手社員が「定着しない」「離職が目立つ」という企業経営者・人事担当者の声は非常に多くなっています。それを裏付けるように、最新の厚生労働省の調査でも、新卒社員の3割が入社後3年以内に退職しています。

本稿では、新卒入社1年目から3年目の若手新卒社員を対象にした「仕事や会社についての満足度」の調査を参考に、早期退職に至る若手社員の仕事のモチベーションや勤続意欲に関する考えを明らかにしていきたいと思います。

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ベストセラーを連発する編集者に聞く、どんな相手ともプロジェクトを成功させるコミュニケーション術とは?

書いてあること

  • 主な読者:取引先や上司、複数の関係者とのプロジェクトを成功させたいビジネスパーソン
  • 課題: 相手が目上だったり、大勢の意見が寄せられたりすると萎縮してしまい、思い通りの方向にプロジェクトを進められない
  • 解決策:「自分が下」といった上下関係を意識から外し、プロフェッショナルとして相手に見合う仕事をするという意識を持つ。その上で「譲っていい部分は譲る」「ビジネスマナーではなく相手に合わせる」といった柔軟な気遣いを心掛ける

1 ビジネス書年間トップ5に3冊を送り込んだ編集者の仕事術

2018年のビジネス書ランキング・トップ5(日販)のうち3冊は、実は1人の女性編集者が手がけたということをご存じでしょうか。

堀江貴文さん、落合陽一さんの共著「10年後の仕事図鑑」(30万部)、齋藤孝さん著「大人の語彙力ノート」(45万部)、伊藤羊一さん著「1分で話せ」(60万部)、この3つのベストセラーを生み出したのが、SBクリエイティブの学芸書籍編集部・副編集長(当時)だった多根由希絵さんです。

他にも堀江貴文さん著「本音で生きる」(37万部)、成田悠輔さん著「22世紀の民主主義」(24万部)など、数え出したらキリがありません。

これほどのヒット作を連発する辣腕でありながら、彼女を知る人は「謙虚で奥ゆかしく、たおやかで腰が低い」と口をそろえます。

名前を聞くだけでも圧倒されそうな著名人たちを相手に、どのようにしてリーダーシップを発揮し、著書出版というプロジェクトを成功に導いてきたのでしょうか。多根さんへのインタビューで見えてきたのは、

  • 勝ち負け・上下・強者弱者の関係から降り、フラットな姿勢で接することで対等に意見を言い合える関係をつくる
  • 譲ってもいいところは譲り、ビジネスマナーよりも相手に合わせることで最後には思い通りの結果を得る

という、多根さんならではのコミュニケーション術でした。

これは、立場や肩書に縛られがちなビジネスシーンにおいても、コミュニケーションを円滑にし、取引先や上司、部下との間で利益を最大化させるポイントともいえるでしょう。

実際、多根さんがどのようにそうそうたる面々と接し、プロジェクトを成功させてきたのかを詳しく紹介していきます。

2 勝ち負け・上下・強者弱者の関係から降りる

1)フラットな目線が「優しい堀江さん」を見出した

堀江貴文さん著「本音で生きる」は、読者から「堀江さんが優しい感じがする」と評され、堀江さんのことを好きな人からも嫌いな人からも手に取られているのが特徴だといいます。結果的に、同書の読者は半分を女性が占めています。

堀江さんからも「オンラインサロンの女性会員が増えた」と言われたそうです。一見、バサバサと世相や人を斬り捨てているかのように見える堀江さんの「優しい一面」は、なぜ引き出されたのでしょうか。

多根さんは、

「私からは、堀江さんがそう見えたのだと思います」

と振り返ります。

多くの著者をサポートして成果を上げてきた多根さん

多根さんによると、堀江さんは書籍の制作中、多根さんやライターへダメ出しをしたとしても、決して言いっ放しで捨て置くことはなかったといいます。取材がうまくいかなくて落ち込んでいると、「なんとでもなる」と声をかけてくれました。その後、マネージャーを通して「原稿作成で困ったときには、ネットの記事などを参考にしてもらってよい」と伝えてくれ、実際に「なんとでもなる」ようにしてくれたのだそうです。

多根さんがフラットな目線で堀江さんを見ていたからこそ、こうした一面に気づき、深掘りすることができたといえます。萎縮してしまいそうな相手でも立場や肩書を取り払い、人となりを見る。そうして相手の魅力を引き出し好きになることができれば、互いの余計な心の壁が消え、フラットな関係を築くことができます。

多根さんも、

「こちらをフラットに見てくれる著者さんとのお仕事のほうが、売り上げといった結果につながっている気がします」

と語ります。

2)勝ち負け・上下・強者弱者の関係から降り、プロフェッショナルな仕事をする

「相手をフラットに見る」というのは言うは易しで、思ってもなかなかできることではないかもしれません。多根さんはフラットな関係を築くコツとして、

勝ち負け・上下・強者弱者の関係から一度降りてみる

ことが重要だと語ります。

「ある強面の著者の方が、取材中、ライターさんへ『俺のこと怖いと思っているだろう。だからダメなんだよ』とおっしゃっていたことがありました。『怖い』と身構えていれば、相手には伝わります。また怯えることが、相手に警戒心を抱かせ、かえって攻撃性を増してしまうこともあるでしょう。その時点でフラットな人間関係ではなく、上下関係、あるいは強者と弱者の関係になってしまっています。そのまま役割が固定化してしまえば、プロジェクトが建設的に進むのは難しいでしょう」(多根さん)

余計な恐怖心や萎縮を取り除くことで、相手を無用に忖度(そんたく)することがなくなり、よりプロフェッショナルな仕事をすることができます。

多根さんと仕事をしたある著者は、「多根さんは謙虚で奥ゆかしく腰も低いけれど、私と意見が異なるときには“先生は、そうお考えなのですね。私は……”と、はっきりおっしゃるのですよ」と語ります。

フラットな人間関係をつくることで、目の前のプロジェクトのために率直な意見を出し合えるようになるのです。

勝ち負けや上下関係を意識しないために、多根さんが大事にしている言葉が、ホテルグループのリッツ・カールトンのモットー

「We are Ladies and Gentlemen serving Ladies and Gentlemen」
((お客様である)紳士淑女をおもてなしする私たちもまた紳士淑女です)

という言葉です。

これは、日本実業出版社に在職中、リッツ・カールトンの元日本支社長・髙野登さんの著書「リッツ・カールトン 一瞬で心が通う『言葉がけ』の習慣」を制作しているときに知った言葉だといい、多根さんは、

「上下関係で、自分が下だからと意見を言わなかったり動かなったりするのではなく、プロフェッショナルとして、相手に見合う仕事をするという意識や、自分自身の尊厳の大切さを感じました。そういう立ち位置でいたほうが、上下関係や人間関係とは関係なく、純粋に目の前の仕事を成功させるためにはどうするかを軸にできるように思います」

と話します。

3 相手の意見を取り入れ、自分の意見は譲れない2割を通す

1)守るのは大切な枠組みやコンセプトだけ。あとは他の人の意見に譲ってよい

上下関係から降りるといっても、中には上下関係をこそ大事にする人もいます。そういう相手の場合、多根さんは

10のうち8は相手の意見を聞き、最低限の2だけは自分の意見を通すようにする

そうです。

「10のうち8は相手の意見を聞き、最低限の2だけは、自分の意見を通すようにします。自分の考えや、やり方ではなかったとしても、大切なのはプロジェクトであって自分ではありませんから」(多根さん)

複数の人間が関わるプロジェクトの場合、自分の意見が全て通ることなどほとんどありません。

例えば、2018年のビジネス書で2番目に売れた堀江貴文さん、落合陽一さんの共著「10年後の仕事図鑑」は、当初の多根さんの企画とは違う構成になったといいます。ですが多根さんにとって大切だったのは、「10年後の仕事図鑑」というタイトルと、著者として落合陽一さんと堀江貴文さんの2人がいることでした。

「譲れないことは、実は1つくらいしかなく、そこに関わらないところはこだわらずに、手放していいと考えています。売り上げを左右する大切な枠組みやコンセプトは守りますが、それ以外の細かなところは、他の人の意見に譲ってよいのです」(多根さん)

2)相手の意見を取り入れることで、結果的に思い通りになる

他の人の意見を聞くばかりでは、最終的に自分の意見が消えてしまうのではないか、思い通りの結果にならないのではないかと不安に思う人も多いでしょう。

しかし多根さんが手がけた「世界一速く結果を出す人は、なぜ、メールを使わないのか」の著者、Googleの元人事担当であるピョートル・フェリークス・グジバチさんは多根さんについて、

みんなの意見を謙虚に「うんうん」「ありがとう」と聞いて、取り入れながら進めていくのだけれど、最後には自分の思い通りになっている

と語り、「いいリーダーシップがある」と評しています。多根さんがただ意見を聞くのではなく、

相手の意見を取り入れていることを提示しながら進めている

からだといいます。

相手の意見を聞きつつ自分のペースに持ち込むのが「多根流」

編集者の仕事には、著者だけでなく、ライターなどの外部スタッフ、上司、編集部内の他の編集者、営業担当などさまざまな人間が関わってきます。こうした関係者たちからいろいろな意見が寄せられますが、多根さんは全て丁寧に耳を傾け、調整しながら総合的にまとめようと考えているそうです。多根さんは、

「たとえ相手の意見をそのまま取り入れることはできず、多少調整をしたとしても、『Aさんの意見は、データに基づいて、このように(調整して採用)しました』と、丁寧に説明をするようにしています」

と話します。その理由について多根さんは、

「それを繰り返していると、関わる人たちにとって、多少なりとも自分の意見が反映された結論となるため、周囲も納得してくれやすくなる」

と話します。

また多根さんは、自社の営業部へも足しげく意見を聞きに行くといいます。

「制作過程で相談し、意見を取り入れていくと、一緒につくっている感覚を持ってもらえます。それによって、書籍を販売する段階でも『(どうすれば売れるのか)一緒に考えてあげよう』と協力してくださるのだと思います。関わる人が皆ハッピーになれるよう、三方よしを意識しています」(多根さん)

4 「相手が大切にしているもの」を大切にする

人間関係やコミュニケーションで心掛けていることについて、多根さんは、

相手が大切にしているものを大切にすること

と話します。

それはメールの文章やタイトルの付け方、やり取りのテンポといった些細(ささい)なことへも及びます。

例えば、テクノロジーに詳しいある若手研究者のメールには、余計な言葉が一切入らず、1行でも用件のみを簡潔に書かれているそうです。その根底には、その研究者が大切にしている「効率」があります。多根さんも宛名や「お世話になります」なども省いて、用件だけを一言で返信するようにしているそうです。

他方、ある一流ホテルの支社長のメールは、時候の挨拶から始まります。人間関係やホスピタリティを大切に考えている人ならではのメールです。多根さんも同様に時候の挨拶から始めるようにしているそうです。

こうした心掛けは、書籍の編集方針や書店のPOPなどにも至ります。

例えば、『小さく分けて考える』の著者・菅原健一さんには、「自分の著書は、どんな人にも分かりやすいよう、小難しくしたくない」という意向がありました。そこで、書籍はかみ砕いて丁寧な一冊にすることを心掛けたといいます。

他方、研究者はエビデンスを大事にしているため、書店のPOPなどに過剰なあおり文句を付けることは控えたそうです。

相手をフラットに見るということは、相手の肩書や立場だけでなく、時にビジネスマナーを超えて、相手の大事にしているものを見るということです。

ビジネスマナーではなく、相手に合わせる

のです。

フラットな人間関係とは、相手に合わせて柔軟な気遣いができるということでしょう。

(注)記事中の書籍の発行部数は、すべて2023年2月末時点のものです。

多根由希絵

多根由希絵(たね ゆきえ)

新卒時はプログラマーとして勤務。その後、日本実業出版社にてムック、雑誌(月刊「企業実務」)、ウェブ、セミナーなどの担当を経て、SBクリエイティブ学芸書籍編集部 副編集長。2023年3月よりサンマーク出版に勤務。SBクリエイティブでの担当作に「1分で話せ」(伊藤羊一著)、「大人の語彙力ノート」(齋藤孝著)、「本音で生きる」(堀江貴文著)、「10年後の仕事図鑑」(落合陽一・堀江貴文共著)、
「読書する人だけがたどり着ける場所」(齋藤孝著)、「2030年の世界地図帳」(落合陽一著)など。

以上(2023年4月)

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江戸時代の剣術家・宮本武蔵。無敗の剣豪が武器選びについて語った、経営の取捨選択にも通じる一言とは?

あまりたる事はたらぬと同じ事也

宮本武蔵は、巌流島での佐々木小次郎との決闘など、生涯60回以上の勝負で一度も負けなかったとされる、「無敵」の剣術家です。また、後年は剣術を会得した兵法家として大名家に仕えた他、絵画に通じるなど、剣術以外の才にも恵まれた多能な人物だったようです。

冒頭の言葉は、論語を出典とする「過ぎたるは猶(なお)及ばざるが如(ごと)し」ということわざと同じような意味ですが、武蔵の場合はより実践的で、闘いに際して自分が使うべき武器について戒めています。武蔵は、この言葉の前後で、「道具以下にも、かたわけてすく事あるべからず」「人まねをせず共(とも)、我身(わがみ)に随(したが)い、武道具は手にあふやうにあるべし」と記しています。現代語に訳すと、「武器選びは、特定のものだけを好んだり、人のまねをしたりせず、自分の特徴を踏まえながら、自らに合うものにしなければならない」という意味です。

武蔵といえば、大小2本の刀を同時に操る「二刀流」が有名ですが、この剣術についても、武蔵は「片手で刀を持つことに慣れれば、やがては自在に刀を操れるようになる」と言っています。奇をてらったわけではなく、より洗練された剣術を身に付けようとした結果、行き着いた答えが「大小2本の刀」だったというわけです。

武蔵の戒めは、現代人にこそ当てはまる部分が多いのではないでしょうか。私たちがものを選ぶときは、好き嫌いや世間の流行、他人との比較を基準にしがちです。

そのことは決して悪いことではないのですが、一定の歯止めがなければ、際限なくものを欲しがり、結局「持て余す」ことになります。そのための歯止めになるのが、本当にそれが自分にとって最適なのか、という冷静な自己分析です。

これは、自分のものを選ぶときに限らず、会社の売り上げや利益の目標、人事評価、部下に課す仕事量などを決める際にも当てはまることだといえます。自分の好き嫌いに影響されたり、自社の現実を踏まえずに、「多ければ多いほどよい」「競合他社がそうだから、自社もそうでなければならない」といった理由だけで物事を決めたりしていては、地に足の着いた持続性のある経営や業務はできませんし、部下も付いてこられません。

もっと自分を成長させたいと望む人にも、武蔵の言葉は参考になります。成長するために、自分に足りないものを探すことはあっても、自分にとって不要なものを捨てることから成長に結びつけようと考える人は、少ないものです。

武蔵の言葉は、世界が抱えている問題の解決のヒントにもなります。SDGsで掲げられている目標の中には、例えば貧困や飢餓の解消など、まずは余っている人(地域)と、足りない人(地域)との偏在を是正すべきものも少なくありません。

一度、自分に過分なものはないか、見直してみてはいかがでしょうか。

出典:「五輪書」(宮本武蔵著、鎌田茂雄全訳注、講談社、1986年5月)

以上(2023年3月)

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画像: Eric Akashi-Adobe Stock

外国人労働者に活躍してもらうコツ 現場担当者が定着・戦力化する方法をアドバイス

書いてあること

  • 主な読者:外国人を雇用している、またはこれから雇用の予定がある経営者、人事担当者および現場担当者
  • 課題:外国人労働者の定着率を高めたい、早期に戦力化したい
  • 解決策:実際に外国人労働者を雇用し、戦力として活躍させている現場担当者のエピソードを参考にする

1 外国人労働者に活躍してもらうには

外国人労働者を雇用していたり、これから雇用することを検討したりしている経営者や人事担当者の中には、

「外国人労働者に早く戦力になってもらいたいけれど、どう育てていいか分からない」

と、悩んだり不安に感じたりしている人もいるのではないでしょうか。この記事では、実際に外国人労働者を活用している会社の経営者や現場担当者の方々から、外国人労働者に活躍してもらうコツを伺いました。

実際の現場で培った知見を参考にして、外国人労働者の育成のヒントにつなげてください。

2 外国人労働者が働きやすい社内体制や関係性を構築する

【インタビューした会社:ジンザイベース(東京都千代田区)】

  • 従業員数:28人(外部パートナー含む) ※2023年2月1日現在
  • 業務内容:外国人労働者の就労支援や定着支援、教育支援。自社メディア(オウンドメディア「Jinzai Plus」やYouTube、TikTokをはじめとしたSNS)を活用した、外国人労働者や採用を考えている会社への情報発信
  • 外国人従業員の国籍:ベトナム3人、ミャンマー1人、インドネシア1人(いずれも在留資格は「技術・人文知識・国際業務(注)」)
  • インタビューした人:マネジャーの和須津(わすづ)亮さん

(注)技術・人文知識・国際業務:学歴は国内外の大学の卒業以上か国内の専門学校卒業が要件。理工学などの自然科学や人文科学分野の専門技術職、もしくは母国の知識や経験を活かした国際業務に従事する外国人を受け入れるための在留資格。

ジンザイベースは、顧客に外国人労働者を紹介するだけではなく、自社でも外国人労働者を雇用し、外国人労働者の募集・集客や定着・教育支援、外国人雇用企業のサポートを任せています。和須津さんは、外国人労働者が早期に戦力化し、定着してもらうには、

「外国人労働者が働きやすい社内体制や関係性を構築していくことが大切」

と言います。そのために必要なのが、

  • コミュニケーションが円滑なこと
  • 基準やルールが明確なこと
  • 責任のある仕事を持たせること

だと言います。

1)コミュニケーションが円滑なこと

コミュニケーションを円滑にするために、

入社当初の1カ月は毎日30分ほど、一対一で話を聞く時間を設けています。

その際は、業務やプライベートの悩みも含めて、何でも聞くようにしています。また、話すときには相手の日本語レベルを考慮したスピードや単語で、5W1Hを具体的に細かく伝えることを意識しています。特に、指示を出す際には、どういう成果物を期待し、納期はいつまでなのかという点を意識して伝えています。

あいまいな指示では、外国人には伝わりきらないため、コミュニケーションエラーが多発していきます。

そうなるとお互いにフラストレーションがたまり、関係性も悪化していき、最悪の場合、早期離職へつながってしまいます。

2)基準やルールが明確なこと

外国人を採用すると決めてから、

早期に職務や責任範囲、職務目標、社内の細かいルールを明文化しました。

当たり前ですが、日本人と外国人との間で、評価制度や基準、待遇面で差をつけることはしていません。当社は少数組織ですが、組織図も作成し、

誰が上司で、自分の責任範囲や権限はどこまでなのかという点を明確にし、誰もがしっかりと把握できる体制を構築しています。

また、外国人が一番重視するのは賃金です。そのため賃金については、成果に応じて、しっかりと昇給していく評価制度を運用しています。

3)責任のある仕事を持たせること

責任のある仕事を持たせ、やりがいを持って働いてもらうために、当社のベトナム人女性従業員には、サブマネジャーとして

役職と権限を与えて、実際に3人の部下(ベトナム人・インドネシア人・ミャンマー人)を持たせています。

彼女には、日本で就労を希望する求職者を募集するマーケティングと、キャリアアドバイザー業務を任せています。彼女とは、週に1度のミーティングで状況報告と気になる点を伝えるのみで、部門運営やマネジメントに関して私はノータッチです。実際の業績に関しても、右肩上がりの実績をたたき出していて、想像以上のパフォーマンスを発揮してもらっています。

4)その他:日本になじみのない習慣を持つ宗教や文化について

その他に留意する点としては、日本になじみのない習慣を持つ宗教や現地国の文化への一定の配慮が必要だということです。日常生活の中では、食べ物が関わってくることがあり、

懇親会など、従業員全員で食事に行く場合は、お店のチョイスを工夫しています。

当社のインドネシア人従業員はヒンドゥー教徒のため、牛肉を食べません。また、ベトナム人従業員は生モノが苦手なため、刺し身やすしなどがあまり得意ではありません。他にも、アルコールを摂取されない方もいらっしゃるので、ノリで酒を進めたりすることもしません。やはり、宗教や現地国の文化に対して、一定の配慮は必要だと感じています。

■ジンザイベース運営オウンドメディア「JinzaiPlus」■
https://www.jinzaiplus.jp/

3 業務を通じて、夢をかなえるスキルを磨ける環境を与える

【インタビューした会社:ウィントライアングル(京都府京丹後市)】

  • 従業員数:22人 ※2023年2月1日現在
  • 業務内容:中華料理チェーンのフランチャイズ
  • 外国人従業員の国籍:ベトナム7人、ミャンマー4人、インドネシア1人(いずれも在留資格は「特定技能(注)」)
  • インタビューした人:代表の森戸博さん

(注)特定技能:人手が慢性的に不足とされている14業種で、即戦力となる外国人を受け入れるための在留資格。生活や業務に必要な日本語能力を持っているか、試験などで確認する。在留期間は通算で上限5年。

ウィントライアングルは、京都府最北端の京丹後市と与謝野町に、中華料理チェーンのフランチャイズとして1店舗ずつ運営しています。両自治体は、全域が過疎地域と認定されていて、深刻な労働力不足になっている地域です。日本人の雇用も難しく、同社は2020年から外国人労働者の採用を行っています。

しかし、地方では採用した外国人労働者が数カ月で退職することも多いそうです。森戸さんは、都市部と比べ賃金が低く、生活インフラも十分でない地方に来てもらうために、

「面接で賃金以外のメリットを示している」

と言います。そのために必要なのが、

  • 地方に来る労働者の本心を見抜くこと
  • 定着を図るための仕組みを作ること
  • スキルアップと賃金アップのサイクルを早く回すこと

だと言います。

1)地方に来る労働者の本心を見抜くこと

私は、地方で働く外国人の本音は、

「本当は都市部で働きたいが、在留資格がなくなるのも困るので、一次避難的にどこでもいいから仕事をしたい」というもの

だと思っています。自分が希望する就職先に決まったら、急に辞めたいと言う外国人を何人も見てきました。

そのため、面接では本心をいかに見抜くかが必要です。

しかし、彼らは母国のネットワークや、就職を指導する会社からこう答えたら採用されるというアドバイスを受けています。「飲食店で働いて何を得たいですか?」という質問をすると、「将来的には母国でお店を持ちたい」という答えが金太郎あめ状態で返ってくるときがありました。「本当にそれがしたいの?」と、直球で聞くのもいいかもしれません。

一方、こちらは提示する条件に嘘をつかないことが重要です。過疎化している地方であること、都市部に比べ賃金は少ないことなどは事前に説明しています。その代わり、当社で働けば「飲食店を運営できるようになるまでしっかり指導してあげる」と明確に伝えると、関心を持つ方がいます。本当にそう思っている方を見抜くことが大事です。

2)定着を図るための仕組みを作ること

定着してもらうための仕組み作りとして、

入社後にすぐ、母国語のマニュアルで「やってはいけないこと」をしっかりと説明しています。

経験的に、外国人は自分にデメリットがあればあるほど、行動が慎重になります。ルールがあることで従業員同士のトラブルも減るので、結果的に会社の雰囲気も良くなります。

また、都市部の同業他社に引き抜かれないための体制作りも考えています。特定技能外国人の受け入れ会社は、特定技能ごとの協議会への加入義務があります。外食の場合は「食品産業特定技能協議会」で、加入条件の1つに、外国人の引き抜きの自粛があります。ですから、引き抜き行為が発覚すると、協議会から除名処分を受ける可能性があるのです。

引き抜きの自粛は、大都市圏や大企業などに特定技能外国人が過度に集中することを防ぐことが目的です。地方の事業者はルールを活用して身を守る体制を整えていかないといけないと思います。

3)スキルアップと賃金アップのサイクルを早く回すこと

スキルアップと賃金アップのサイクルを早く回すために、

3カ月に一度面談・査定を実施して、時給を上げています。

昇給サイクルが早いと、外国人自身にとって、スキル向上のいい意識付けになります。地方は都市部に比べて給料が低い分、頑張れば給料が上がることを早めに実感してもらわないといけません。

例えば、お客さまに提供できる料理を一品覚えたり、お客さまへの対応が上手になったりしたので、次の3カ月の給料はこう上がりますと伝えます。同時に、掃除がまだ粗いから気をつけるようにとか、努力が必要な点も伝え、次の3カ月で評価されるポイントを共有するようにしています。

■ウィントライアングル■
https://wintriangle.bsj.jp/

4 外国人労働者の生活習慣を学び、働きやすい環境を整備する

【インタビューした会社:セントラルサービスシステム(東京都中央区)】

  • 従業員数:正規社員205人、非正規社員:3706人 ※2023年2月1日現在
  • 業務内容:ホテル、レストランの食器・什器(じゅうき)の総合管理業務、洗浄業務や厨房清掃業務
  • 外国人従業員の国籍:正社員(ネパール2人、ベトナム1人。2023年度学卒入社予定ベトナム3人、中国1人。いずれも在留資格は「技術・人文知識・国際業務」)、非正規社員約270人(約6割がネパール人。在留資格は「留学(注1)」、「家族滞在(注2)」)
  • インタビューした人:上席執行役員の河村俊治さん

(注1)留学:外国人が日本の教育機関へ留学するために必要な在留資格。留学生の労働(アルバイト)は、原則1週間に28時間可能。
(注2)家族滞在:在留外国人が扶養する配偶者と子のこと。「資格外活動許可」を取得している場合のみ、1週28時間以内の就労が可能。

セントラルサービスシステムは、正社員の他に、留学生アルバイトとして多くの外国人を雇用しています。しかし、正社員に比べ留学生アルバイトの定着率は低く、その解消が課題でした。留学生アルバイトは短期の就労が前提ですが、河村さんは定着率を高めるために、

「外国人労働者の生活習慣を学び、働きやすい環境を作ることが大切」

と言います。そのために必要なのが、

  • 尊敬できる外国人のリーダーを育てること
  • 一緒に仕事をする仲間として対応すること
  • 同郷の仲間を紹介していけるような会社にすること

だと言います。

1)尊敬できる外国人のリーダーを育てること

尊敬できるリーダーがいると、留学生アルバイトたちは多少賃金が低くても、その職場で働こうと思ってくれます。そのため、

共通の母語を持つリーダーを早期に育成するようにしています。

食器の洗い方なども、日本人スタッフが教えるより、先輩が教えるほうが丁寧に仕上がります。また、食器を割ってしまったり、ミスを犯したりしてしまったときも、

同国人からの注意のほうが受け入れやすい

ようです。もちろん、皆の前で頭ごなしに注意するのは、誰であっても許されることではありません。叱るときは一対一でということは徹底しています。

2)一緒に仕事をする仲間として対応すること

外国人を受け入れる会社には、一緒に仕事をする仲間として、

彼らが働きやすい環境を整備する役割があると思います。

そのためにも、事前に彼らの宗教や習慣、国民性などを勉強し、無理なく働ける環境を用意することが必要です。

例えば、イスラム教にはウドゥという礼拝の前に体の一部を水で洗う清めの行為があります。清めるのは、手、口、鼻、顔、腕、髪の毛、耳、足です。出向先のホテルの洗面所で足を洗っている外国人がいたら、びっくりします。

そうならないように、会社が従業員の宗教や慣習を事前に確認し、イスラム教に対する理解があったり、実際に礼拝スペースを設けていたりするホテルに出向してもらうようにしています。逆に、本人に就業中の礼拝を簡略化できるかの確認をすることもあります。

もちろん、働く外国人側も学ばないといけません。会社のルールには従ってもらうし、勉強もしてもらう必要もあります。しかし、仲間として認めることで、やりがいを感じ、努力してくれる人もたくさんいます。

3)同郷の仲間を紹介していけるような会社にすること

留学生アルバイトには、留学中ずっと働いてもらいたいところですが、そうはいかない現実もあります。外国人は同郷の仲間が多いので、友人・知人を紹介していけるような会社にするために、

留学生アルバイトも働きやすい環境を整備することが大切です。

例えば、会社のルールを分かりやすく教え、学校や生活上の話を聞くなど、従業員には親身になって話しかけるように促しています。それで安心して働けた、アットホームな雰囲気の会社だったなどの評判が広がれば、仲間を紹介しようとするでしょう。これにより、年間20人から30人ほどを留学生アルバイトからの紹介で採用しています。

■セントラルサービスシステム■
https://css-ltd.co.jp/

5 最初から外国人労働者を中心にしたチーム作りをする

【インタビューした会社:eftax(兵庫尼崎市)】

  • 従業員数:約40人(役員・アルバイト・インターン含む) ※2023年2月1日現在
  • 業務内容:データ分析やアプリ開発、在日外国人のビジネス支援サイトやデータサイエンスに関するコミュニティサイトの運営
  • 外国人従業員の国籍:インドネシア2人、フィリピン1人(いずれも在留資格は「技術・人文知識・国際業務」)、他に在留インターンが6人(ベトナム人2人、ミャンマー1人、アフガニスタン1人、スーダン1人、ナイジェリア1人)。この他に「海外協力人員」が18人(インドネシア人、モロッコ人)
  • インタビューした人:代表の中井友昭さん

eftaxに入社している外国人は、インターンを経て採用しているため、即戦力として活躍しているそうです。また、ほぼ社員と同様にフルタイムで働く海外協力人員がいます。彼らは母国にいながら、リモートワークで同社の事業に参加しているそうです。中井さんは、アプリ開発を行う新事業を始めるにあたり、

「エンジニアは最初から外国人労働者を中心にしたチーム作り」

を行ったそうです。そのために、

  • 日本語力を求めないこと
  • 辞めてからもつながっていける関係を維持すること
  • 仕事をする場所にこだわらないこと

を決めたと言います。

1)日本語力を求めないこと

採用する人材に、日本語力を求めないと決めると、

留学生をはじめとした高度人材を獲得できる可能性が高まります。

情報科学などの修士課程、博士課程を学びに来ている留学生は、授業も英語で、クラスメートの多くも外国人なので、日本語を学ぶインセンティブがありません。逆に言えば、優秀な人材なのに、就職先どころか、インターンの受け入れ先も決まっていない留学生が多いのです。

実は、私は英語の読み書きはできますが、しゃべるのはうまくありません。それでもグーグル翻訳やDeepL翻訳などの翻訳ツールを使えば、なんとかなっているので、あまり日本語力にこだわらないほうがいいと思います。

2)辞めてからもつながっていける関係を維持すること

外国人とも良好な関係が維持できていると、

辞める代わりに別の人材を紹介してくれたり、引き継ぎが終わるまで責任を持ってコミットし続けてくれたりします。

当社が最初に採用したインドネシア人は、インドネシアのバンドン工科大学の卒業生でした。この大学は同国の理系ではトップクラスで、辞めたときにその大学の方を紹介されたことがありました。この大学ネットワークは、今も人材活用ルートになっています。

3)仕事をする場所にこだわらないこと

仕事をする場所にこだわらないと、

世界のさまざまな国の優秀な人材が一緒に働いてくれます。

当社では、コロナ前からフルリモートにして出社は不要とし、顧客との打ち合わせもオンラインにし、定時もなく裁量労働制にしているので、海外の人材を「海外協力人員」として呼び込むこともできました。

世界中とつながると問題になるのは時差くらいです。アフリカだと7時間の時差があるので、打ち合わせの調整が少し大変になります。

■eftax■
https://eftax.co.jp/

6 自分を上司(ボス)だと認めさせ、承認欲求を満たす

【インタビューした会社:非公開(A社)】

  • 業務内容:世界各国を拠点とした商品の製造・販売
  • インタビューした人:イタリア支部の日本人マネジャー(Bさん)

最後は日本ではなく、異国で外国人をマネジメントし、業績を向上させた例をご紹介します。

A社では、日本人が海外の支部に異動して、現地の人たちをまとめることもあります。Bさんは、イタリア支部の営業チームのトップとして赴任し、業績を残しました。Bさんは現地に乗り込んでいった「外国人」マネジャーが、チームをコントロールしていくために重要なのは、

「早く自分を上司(ボス)だと認めてもらえるようにすること、部下の承認欲求を満たすこと」

とコメントしています。そのために必要なのが、

  • 早いうちにチームとしての業績を上げること
  • 「褒める」を見える化すること

だと言います。

1)早いうちにチームとしての業績を上げること

早いうちにチームとしての業績を上げるというのは、

自分を上司だと認めさせるために必要なことです。

欧米の仕事スタイルはジョブ型なので、自分のジョブにかかわる仕事しかしない人もいます。そのため、全体会議などの参加に協力的でないことがあります。

私が現地のマネジャーとして就任した当時、イタリアは欧州の他支部よりも利益率の低い商品を中心に扱っていたので、収益が悪いほうでした。そこで数年先を見据えて、利益率の高い新商品を展開するようにしました。代替商品を求めるニーズもあったので、思い切って商品転換したら、見事に収益が上がるようになりました。

こうして、現地の従業員が、「この人(私)についていけば、もっと成果が上がる」と思ってもらうと、会議にも意欲的に参加するようになり、チームとして動いてくれるようになりました。

2)「褒める」を見える化すること

「褒める」を見える化するために、成果を上げた従業員を、

「君はすごい! 君のアイデアのおかげでここまで回収できた!」と、みんなの前でかなりポジティブに大げさに褒めたことがあります。

これはある故障品の回収キャンペーンで、従業員それぞれの回収率を一目で分かるように壁に張り出したときのことでした。各自に回収方法を聞いた中で、回収率を上げていた従業員を褒めると、その後は他の従業員からもアイデアが次々と出てくるようになりました。雰囲気も良くなり、皆でワイワイ意見交換する感じにもなったと思います。

外国人は日本人より承認欲求が強いと思っているので、周りのみんなにも伝わるように褒めると、それを見ていた他の従業員がいろいろなことを考えるようになります。もちろん、まずは上司として信頼されることが大切です。「【この人】に褒められているから嬉しい」という土壌を作らないといけません。

3)その他:異なる歴史・文化を持つ人と付き合うために

その他、異なる歴史・文化を持つ人と付き合っていくには、

彼らの背景を勉強して知っておかなければいけませんが、「知っておいて触れないこと」が最良だと思います。

欧州では、歴史をひもとくと、国同士のいざこざがいろいろとあります。そのため、歴史認識も国によって違うので、そこには触れないということが暗黙のルールのようになっています。

例えば、イギリスがEU離脱を決めたとき、イタリアの従業員はとても怒りました。しかし、欧州内では、イギリスも含め頻繁にコミュニケーションを取る機会が多いのです。ですから、そういう感情や言動を表に出すのはトラブルの元です。触れないけれど、歴史認識や文化の違いなどはしっかりと勉強しておく。これが大切だと思います。

以上(2023年3月)

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画像:shutterstock-Pressmaster

【朝礼】人の話を聞く。それだけで仕事ができるようになる

初めて人に会った際など、その人と仲良くなろうとしていろいろと話をしようとすることがあると思います。なんとかして自分のことをよく思ってもらおうと “話術”を磨こうとすることもあるでしょう。しかし、人と良好な関係を築いていくためには、「話し上手は聞き上手」とも言われるように、まずはしっかりと相手の話を聞くことが大切です。

人は誰もが「自分の話を聞いてほしい」と思っているものです。友人や家族で集まって話をする際にも、皆が自分の話をしたがっているというのはよくあることではないでしょうか。そして、うんうんとうなずきながら話をしっかり聞いてみたら、その人がとても喜んでくれたという経験は少なくないでしょう。

それでは、上手な話の聞き方とは何なのでしょうか。第一に、相手が話し終わるまで口をはさまずに聞くことがとても大切です。たとえ自分の興味のない話のときでも、ついついひとこと意見が言いたくなってしまったときでも、決して途中で口をはさんではいけません。相手の話をさえぎってしまうと、相手に「この人は自分の話を聞いていない」と不満を感じさせてしまうからです。一見つまらないように感じる話でも、話を聞いていると相手はうれしそうにしてくれますし、相手から新しい知識を学ぶこともできます。そうすれば、話を聞くことが次第に楽しく感じてくるものです。

話を聞いていることを相手に態度でしっかりと示すことも大切です。そのためには、相手の目を見ながら話を聞き、所々で「そうですね」などと言ったり、首を縦に振ってうんうんとあいづちを打ったりすると良いでしょう。また、相手が話してくれたことについて質問をすることで、相手の話に興味を示したり、相手から話を引き出してみるのも良いでしょう。

相手の話をしっかりと聞いていると、相手はどんどん気持ちよく話をしてくれるようになります。こちらはあいづちを打つぐらいしかしていなくても、相手がたくさん話をしているうちに会話が流れていくため、相手はこちらのことを「話し上手」だと思ってくれるかもしれません。

また、相手の話を聞いているうちに、その人の興味や人柄などが理解できてくるため、「どういう話題を選べば相手は喜んでくれるのか」「相手はどういう言葉や行動を望んでいるのか」が分かってきます。相手はこちらに好意を持って心を開いて、話を聞くようにもなってきてくれるでしょう。その結果、お互いに相手のことを理解しながら自然と話ができるようになり、良好な関係を築くことができるのです。

ビジネスは人と人との関係によって成り立つものであり、周囲の人との良好な関係を築いていくことが欠かせません。

上司と部下、他部門の人など社内の人はもちろん、取引先など社外の人とも良好な関係を築いてビジネスを円滑に進めていくためにも、人の話をしっかり聞くことを常に心がけるようにしてみてください。今まで以上に仕事ができるようになります。

以上(2023年4月)

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画像:Mariko Mitsuda

【朝礼】大谷翔平選手に学ぶ「自分に限界を設けない」生き方

今年の3月には、私がかねてより楽しみにしていたイベントがありました。コロナ禍の影響で開催が延期されていた野球の世界一決定戦、第5回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)です。そして、日本チーム「侍ジャパン」の中でも私が特に注目していたのが、投手と打者を両立する「二刀流」で知られる大谷翔平選手です。

大谷選手は私の期待を上回る大活躍で、打っては打率4割3分5厘、1本塁打8打点、投げては2勝1セーブを記録。大会MVPに輝くとともに、日本を3大会ぶりの「世界一」へと導きました。特に、準決勝のメキシコ戦で逆転サヨナラ劇の口火を切った9回裏の2塁打や、決勝の米国戦で1点リードの9回表に登板して空振り三振で優勝を決めた場面は、今後も「大谷伝説」として語り継がれるであろう名シーンになったと思います。

大谷選手の二刀流が生まれたきっかけは、当時の監督であり、今回の侍ジャパンの監督として指揮した栗山英樹さんが、「誰も歩いたことのない道を歩いてほしい」と投打の両方で可能性を追求するよう勧めたことにあるようです。

大谷選手が二刀流でデビューした当初や、メジャーリーグに移籍した当時は、多くのプロ野球関係者が、「二兎(にと)を追う者だ」「プロ野球をなめるな」と、否定的な発言をしていました。投手か野手のどちらか一つでさえ一流になるのが厳しいプロの世界を知っているからこそ、そのように考えたのでしょう。

栗山さんや大谷選手のすごさは、そうした「プロの世界は厳しい」という現実におびえず、「二兎を追う者は一兎をも得ず」になる可能性があっても、大谷選手の将来に限界を設けず突き進んだことにあります。ちなみに、大谷選手自身はこの二刀流という表現を使わないようで、「投手と打者でやることは区別するが、ただ野球を頑張っているという意識でやっている」と語っています。二刀流は、大谷選手の野球に対する飽くなき情熱が、そのまま形になったものともいえるでしょう。

私は、皆さんにも、自分に限界を設けない大谷選手の生き方を学んでもらいたいと思います。日本の人材採用では近年、幅広い業務をこなす「ゼネラリスト」に代わって、1つの分野で専門性を極めた「スペシャリスト」が注目を集めています。限られた時間の中で伸ばせる能力には限界があるかもしれませんし、最短で自分の強みを伸ばしていくという点で、スペシャリストは合理的です。

ただ、皆さんに考えてほしいのは、「自分が伸ばせる道は、これだけだ」と早々に限界を設けて、これから開花するかもしれない別の可能性に蓋をしてしまっていないかということです。もし、皆さんの中に、「自分が今やっている分野の他にも、取り組んでみたいものがある」と思っている人がいたら、ぜひ私に相談してみてください。私は皆さんの前向きな挑戦を積極的に応援しますし、皆さんの中から新たな「二刀流の選手」が誕生することを期待しています。

以上(2023年3月)

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画像:Mariko Mitsuda