中小企業が知っておくべき「令和5年度税制改正大綱」のポイント

書いてあること

  • 主な読者:最新の税制動向をアップデートしたい中小企業の経営者、税務担当者など
  • 課題:中小企業に関係のある税制改正大綱のポイントだけ教えてほしい
  • 解決策:令和5年度税制改正大綱の中で中小企業に関係の深い項目を把握する

1 オープンイノベーション促進税制の拡充

スタートアップ企業に対する出資で所得控除が受けられる制度(オープンイノベーション促進税制)の対象の拡充や、限度額の変更があります。

オープンイノベーション促進税制とは、企業がスタートアップ企業の株式に出資した場合に、その株式の取得価額の25%を課税所得から控除できる制度です。

現行制度では、この所得控除の対象となる株式(以下「特定株式」)は、新規に発行される株式に限られていましたが、改正により、

すでに発行されている株式(既存株主から購入する株式)も対象

になります。

オープンイノベーション促進税制の対象拡充

なお、新規に発行される株式、既に発行されている株式いずれの株式に出資するかで、対象となる投資額の限度額が異なります。

対象となる投資金額の上限額と下限額

2 中小企業に関する特例の延長

1)中小企業者等の法人税率の特例

中小企業者等(期末資本金の額が1億円以下の一定の企業)の所得800万円以下の部分に適用される法人税の軽減税率15%(本来は19%)が、2年間延長され、2025年3月31日までに開始する事業年度に適用されます。

2)中小企業経営強化税制

経営向上計画の認定を受けた企業が、一定の設備投資に対して、即時償却か、取得価額の10%の税額控除(納税額から控除すること)を選択できる中小企業経営強化税制が、2年間延長され、2025年3月31日までに事業に使用し始めた資産に適用されます。

本税制の対象資産は、

  • 機械装置(1台160万円以上)
  • ソフトウエア(1台70万円以上)
  • 器具備品(1台30万円以上)
  • 建物附属設備(1台60万円以上)
  • 工具(1台30万円以上)

です。また、一部の資産(コインランドリー業や暗号資産マイニング業に使われている一定の設備)が対象設備から除かれることになりました。

3)中小企業投資促進税制

一定の設備投資に対して、取得価額(内航船舶については取得価額に75%を乗じた価額)の30%の特別償却(通常の減価償却に加えて、別枠で償却費を計上すること)か、7%(一定の中小企業者等は10%)の税額控除を選択できる中小企業投資促進税制が、2年間延長され、2025年3月31日までに事業に使用し始めた資産に適用されます。

本税制の対象資産は、

  • 機械装置(1台160万円以上)
  • ソフトウエア(1台70万円以上)
  • 工具(1台30万円以上、かつ合計120万円以上)
  • 普通貨物自動車(車両総重量3.5トン以上)
  • 内航船舶

です。また、一部の資産(コインランドリー業に使われている一定の設備)が対象から除かれることになりました。

3 少額取引に係るインボイス保存の期限付き措置

インボイス制度が導入される2023年10月1日以降、仕入税額控除(消費税の計算上、控除できる仕入れにかかる消費税額)をするためには、原則、取引の相手方からインボイス(適格請求書)を取得し、保存しなければなりません。

しかし、次のいずれかの事業者(以下「中小事業者」という)

  • 基準期間(前々事業年度)における課税売上高が1億円以下である事業者
  • 特定期間(前事業年度開始の日以後6カ月の期間。一般的には前事業年度の上半期)における課税売上高が5000万円以下である事業者

が行う一定の取引(税込1万円未満の取引)については、インボイスの取得・保存がなくても、帳簿に記載があれば、仕入税額控除を受けられるようになります。

なお、この取り扱いは、

2023年10月1日から2029年9月30日までの期限付き

となっています。

4 小規模事業者の消費税計算の期限付き措置

現在消費税が免除されている事業者(以下「免税事業者」。一定の売上以下である小規模事業者)が、インボイスを発行するために、課税事業者(消費税の申告・納税をしなければならない事業者)となった場合の消費税の納税額は、売上にかかる消費税額の2割になります。

なお、この取り扱いは、

2023年10月1日から2026年9月30日までの期限付き

となっています。

免税事業者は、インボイスを発行することができません。免税事業者がインボイスを発行するためには、課税事業者を自ら選択しなければなりません。

しかし、消費税の納税負担や、複雑な納税計算といった事務負担の急増が問題視されています。そのため、現行制度で計算するよりも簡単で、かつ納税額が少なくすむ改正が行われました。

現行制度(原則課税、簡易課税)改正による課税方法による比較(事例)

5 電子取引データの電子保存に関する新たな猶予措置

電子取引データ(メールやシステム上で発行される請求書など)の電子保存(会社のサーバーや請求書システム上で保存すること)に関して、さらなる猶予措置が設けられます。

現行では、原則、電子取引データについては、電子保存をしなければならず、紙保存は認められません。ただし、多くの企業でシステム導入や改修が進んでいないことから、2023年12月31日までは、電子取引データの紙保存が認められています。

今回の改正により、2024年1月以降に関しても、軽めの要件のもと電子保存をした上で紙保存することが認められます。具体的には、今まで行っていた紙保存に加え、データのダウンロードができるようにしておけば、検索機能(取引年月日や金額、取引先で検索できることなど)の確保の要件などを不要とした電子保存で認められることになります。

以上(2023年1月)
(監修 南青山税理士法人 税理士 窪田博行)

pj30161
画像:Bacho-shutterstock

【朝礼】「バイアス」は百害あって一利なし

今日は私の失敗談をお話しします。若い頃、大きなプロジェクトを任されたときのことです。

新規ビジネス立ち上げのプロジェクトだったので、さまざまな苦労がありましたが、一番難航したのは、社内外の関係者との調整でした。特に、社外のあるベンダーとは仲がこじれてしまったのです。

正直なところ、私はそのベンダーの窓口担当者が苦手でした。初めのうちは意見を積極的に出してくれる頼れる存在と思っていましたが、途中からは、自己主張が強過ぎて、プロジェクトの進行を妨げる“厄介なやつ”だと感じていました。

当時、とにかくプロジェクトを前に進めたかった私は、その窓口担当者の言うことに耳を傾けなくなり、提示された懸念もあまり考慮しませんでした。結果的にその懸念が現実のものとなってトラブルが発生し、プロジェクトの進行が大幅に遅れてしまったのです。そのときになって初めて「ああ、あの人の言う通りだった。私が間違っていた」と思いましたが、後の祭りでした。今でも、とても苦い思い出として心に残っています。

この失敗に関する反省点はさまざまありますが、最も良くなかったのは、私の中で、ベンダーの窓口担当者に対して大きなバイアスがかかっていたことです。「あの人は進行の邪魔ばかりする。進めたくないに違いない」と強く思い込んでいた私は、何を言われても素直に聞けず、意見の内容を真剣に考えることができませんでした。

皆さんも似たような経験がないでしょうか。「きっとあの人なら反対するだろう」「あの人のことだから、何か裏があるに違いない」。日ごろ、皆さんが社内外の人についてそう言っているのを耳にすると、私は心配になります。ネガティブな思い込みが強過ぎて、バイアスがかかった状態で相手を見ているのではないかと思うからです。

ビジネスにおいてバイアスはとても危険です。物事を客観的に捉えられなくなり、大きなトラブルを招いてしまうかもしれません。そこで、できるだけバイアスを取り除くために、私が心掛けていることを2つお伝えしますので、皆さんも参考にしてください。

1つ目は「誰が言っているか」ではなく、「何を言っているか」に注目することです。本当にその意見は正しいのか、あるいは間違っているか。「何を」という、内容にだけ集中して考えるのです。

とはいえ、私も感情的になり、どうしても「誰が言っているか」が引っ掛かるときがあります。そこで2つ目として実践しているのは、周りの意見を聞いてみることです。できるだけ私の主観を交えずに周りに状況を伝え、どのように感じるか聞いてみると、意外と私自身のバイアスに気付かされることが少なくありません。

こちらにバイアスがかかっていると、相手もそうなります。互いの理解なくして、ビジネスは前に進めません。バイアスは百害あって一利なし。今日から肝に銘じてください。

以上(2023年2月)

pj16914
画像:Mariko Mitsuda

【朝礼】「教えてください」から始まります

皆さんは、何か決めなければならないことがあるとき、何を基準に、どのような理由で判断していますか。ごくごく日常的なことでかまいませんから、ちょっと考えてみてください。

例えば、レンタルビデオ店に行って、面白そうな映画を選ぶとき。スーパーに並んでいるたくさんのキャベツやキュウリからどれかを選ぶときなど、何かを決めるとき、その判断基準はどこにあるのでしょうか。

「私はいつも自分の物差しを持って物事を判断している」という人もいるでしょう。けれども、もう一度考えてみてください。皆さんは、本当に、すべてのことに対して、自分の物差しをしっかりと持っていますか。いろいろと考えているうちによく分からなくなってしまって、最後には「カン」で物事を決めていることも少なからずあるはずです。「カンで物事を判断するな」ということではありません。むしろ、私としては「カン」の持つ力は積極的に利用すべきだと考えています。けれども、その前にしておいたほうがよいことがあるのです。

そもそも、すべての物事に精通した人などいるはずがありません。もちろん、仕事にかかわる知識はあって当然ですし、皆さんが学生時代に勉強した専門分野についてならば、それなりに知識は持っていることでしょう。ですから、誰でも得意な分野というのはあるはずです。けれども、一人の人間が世の中のすべての知識を自分のものにすることはできません。

一人の人間が得られる知識などたかが知れています。人は持っている知識よりも、よく分からない、聞いたことがないもののほうが多いのは当たり前なのです。とはいえ、自分の知らないことについて考え、判断しなければならないことも出てきます。

そうしたときに、カンに頼る前にすべきことは「勉強」です。ただし、やみくもに勉強をするのはあまり効率のよい話ではありません。実は、効率よく必要な知識だけを身につけるのに、とてもよい方法というのがあります。

それは、謙虚になってよく分かっている人に話を聞き、教えてもらうことです。これを聞いて今、「当たり前じゃないか」と思った人がいるかもしれません。けれども考えてみてください。皆さんは本当に、知らないことを知らないと認めて、謙虚に人に教えを請うという姿勢を貫くことができていますか。趣味や遊びの話なら教えてもらうことができても、仕事の話になると、知らないことを「知らない」と言えないことが多いのではありませんか。「自分は上司だ、先輩だ」というプライドが邪魔をして、部下や後輩に「教えてほしい」の一言が言えなかったことはありませんか。

知らないことを知らないままで終わらせてしまっては、成長の芽を摘み取っているのと同じです。

皆さんには、自分の専門分野や好きな分野についてはしっかり勉強をしてほしいと思います。それに加えて、謙虚に人に教えを請う姿勢を持つことも実行してください。知らないことについては素直に教えを請うことが、けっして万能ではない私たち人間が少しでも賢くなれる方法なのです。

仕事ができるビジネスパーソンは、ビジネス経験を重ねるとともに、教えを請う相手を増やしていきます。こうした人脈は、さらなる人脈につながります。

すべては、「お時間をください。勉強しましたが分からないことがあります。教えてください」という、謙虚に人に教えを請う姿勢から始まるのです。

以上(2023年2月)

op16499
画像:Mariko Mitsuda

          

損益計算書を使えばコスト削減の打ち手が見えてくる

書いてあること

  • 主な読者:コスト削減を検討している経営者
  • 課題:どの分野からコスト削減に着手すべきかを知りたい
  • 解決策:損益計算書を使う。それぞれの利益を売上高で割り、段階的に利益率を出すことで収益性が分析できるので、自社3期分の推移や同業他社との比較で着手すべき分野を決める

1 損益計算書からコスト削減する分野を決める

コスト削減は企業経営において重要な課題のひとつです。ただし、コストの中には必要なコストもあるため、必要なコストとそうでないコストの見極めが肝心です。

その際に活用したいのが、「損益計算書」です。損益計算書は一番上の「売上高」から費用を引いていき、「売上総利益」「営業利益」「経常利益」「税引前当期純利益」「当期純利益」の5つの利益を求める構造になっているため、

それぞれの利益を売上高で割り、段階的に利益率を出すことで収益性が分析できる

ことが特徴です。

また、損益計算書は単年度のものだけでは良しあしを判断できません。当期、前期、前々期の3期分や、同業他社の損益計算書と比較をして、具体的なコストダウン計画を検討するのがよいでしょう。

この記事では、損益計算書で財務分析をする際に必要な指標や、コストダウンの側面から経営計画を考える手順について説明します。

損益計算書のイメージ

2 損益計算書で財務分析をする際に必要な指標

次に紹介する指標を用いて、3期分の推移や同業他社と比べて数値が高い、低いといった比較をすることで、客観的なデータを得ることができます。

1)売上高総利益率(%):売上総利益÷売上高×100

売上高総利益率が低い場合は、仕入れ価格や製造原価が高いことが考えられます。

2)売上高販売管理費率(%):販売費及び一般管理費÷売上高×100

売上高販売管理費率が高い場合は、無駄なコストが発生していることが考えられます。

3)棚卸資産回転率(回転):売上高÷棚卸資産(期首と期末の平均値)

棚卸資産回転率が低い場合は、在庫過多か、不良在庫があることが考えられます。

4)従業員1人当たりの売上高(百万円):売上高÷従業員数

従業員1人当たりの売上高が低い場合は、生産性が低い可能性があります。

5)従業員1人当たりの経常利益(百万円):経常利益÷従業員数

従業員1人当たりの経常利益が低い場合は、人件費を上昇させる余力が少ないことになります。

3 損益計算書の事業所単位化と月次単位化

1)事業所単位化

損益計算書でコスト削減をするべき分野の目星が付いたら、まずは「細分化」を進めていきましょう。企業ごとに、「事業計画(予算計画)」と「資金計画」で構成される「経営計画」を策定しているはずです。このうち「事業計画」の策定を事業所単位(以下「部や課」)で実施するとともに、コストダウンに関わる数値を部や課でくくり直します。

2)月次単位化

コストダウンに必要な分野を「細分化」「指標化」「事業所単位化」し、部や課でコストダウンを実施しても、1年間・半期・四半期といった期間でしか成果を確認できないのでは、チェック機能が発揮されません。月次単位での進捗確認が理想です。

3)「いつ」「どこで」「何に」「何のために」「いくら」

「細分化」「指標化」「事業所単位化」「月次単位化」を行うのは、費用が「いつ」「どこで」「何に」「何のために」「いくら」使われたのかを詳細に把握し、無駄なコストをあぶり出すためです。

費用の集計精度を上げるには、勘定科目レベルの細分化では十分とはいえません。事業所・部門・部署別にまで落とし込んで、どの部や課で、どのような形で費用が発生しているかを把握します。

4 甘えのない費用計画の策定

1)コストダウンの側面から経営計画を考える

「事業計画」と「資金計画」でコストダウンに関わりの深い計画は次の通りです。

  • 事業計画:費用計画・人員計画・設備投資計画など
  • 資金計画:資金調達計画・借入金返済計画・リストラ計画・資産売却計画など

「事業計画」は部や課で策定し、それを経営者がチェックして承認します。一方で、「資金計画」は資金調達や借入金返済のための資産売却などが含まれるため、最初から経営者が行う業務になります。

「事業計画」と「資金計画」は切り離せませんが、各計画の責任の所在を明確にすることは重要です。「事業計画」の遂行は部や課の責任に、「資金計画」の遂行と、双方にまたがる計画は最終的に経営者の責任とします。

2)費用計画を練る

部や課は、「事業計画」の1つである「費用計画の原案」を策定します。経営者からコストダウンの指示があったとしても、原案の段階で部や課がギリギリまでコストダウンした数値を提示しているとは限りません。

そこで経営者は、原案の勘定科目一つひとつについて中身をしっかりと分析・検討します。その際、自社の3期分との比較や同業他社との比較によって算定した、自社の適正コストを基準とします。

適正なコスト基準を上回る勘定科目は厳しく精査し、問題点を共有します。適正コストの範囲で収まる場合は、なぜ収まっているのかを検証し、良い点を共有します。

3)責任者と話し合う

経営者は勘定科目ごとにコストダウンの適否を判断し、さらにコストダウンの余地があれば、部や課の責任者と話し合います。

その際、まず事業方針でコストダウンの指示があったことを確認します。その上で、部や課が原案で示したコストダウンの根拠について説明を求めます。次に経営者の判断基準の根拠を開示するとともに、コストダウンを盛り込んだ計画値を提示します。

もちろん、部や課の原案と経営者が提示した計画値には乖離(かいり)があります。話し合いの目的は、経営者と部や課の責任者とで目標値を一致させることです。さらに、費用計画の目標値が安易なものであってはいけないことを部や課に示すとともに、企業活動に本当に不可欠な費用なのか否かを、部や課で真剣に検討させる契機とします。

4)費用計画で注意すべきポイント

月次単位で作成されている原案で、例えば販売促進費が毎月同じ金額である費用計画については、経営者は厳しく追及しなければなりません。毎月同じ金額の費用を提示している部や課は、計画がいいかげんであったり、予算を使い切ろうと考えたりしている可能性があります。

こうした安易な予算の使い切りの考え方は、コストダウンの対極にあるものであり、排除しなければなりません。そのためにも、甘えのない「費用計画」の策定が求められるのです。

甘えのない「費用計画」の策定は言葉で言うほど簡単ではありません。事業方針が増収増益であれば、「販売計画」や「利益計画」は甘めに策定しがちです。これと同じ感覚で「費用計画」を策定すれば、計画値が甘いものとなってしまいます。経営者が本気でコストダウンの成果を求めるのならば、計画の時点での妥協は決してしないことです。

5 管理の徹底

1)コストダウンの管理

コストダウンの成果は必ず数値となって表れます。販売費及び一般管理費や人件費、その他経費などの費用や在庫などが、月次単位で費用計画の範囲内で収まっているか否かについての管理は経営者が行います。

2)費用計画の範囲内で収まっている場合

費用計画の範囲内で収まっている場合は、計画そのものが甘かった可能性について検討します。仮に甘かった場合は、計画そのものを修正します。

部や課が実施したコストダウンへの取り組みを確認し、その取り組みが今後も継続できるものか否かを検討します。当月はコストダウンできたが、次月以降コストダウンの反動が見込まれる恐れがありそうなものは、他の施策で対応できるかを確認します。

コストダウンの成果が上がった取り組みが、「節約であったのか」「代替であったのか」「廃止であったのか」のうち、どれに該当するのかは重要なポイントです。部や課が実施した取り組みでコストダウンの成果が上がったものは、他の部や課にフィードバックします。

3)費用計画の範囲内で収まっていない場合

費用計画の範囲内で収まっていない場合は、そもそも実現性が乏しい計画であった可能性について検討します。実現性が乏しい計画であると判明した場合は、計画そのものを修正します。

部や課が実施したコストダウンへの取り組みを確認した上で、コストダウンの成果が上がらなかった原因を突き止めます。場合によっては、コストダウンに関わる施策そのものを経営者が指示します。

また、売上高に応じて変動する変動費については、売上高との相関性を十分に確認しましょう。たとえコストダウンできていたとしても、売上高の減少分に達していないケースが少なくないためです。

仮に、数カ月にわたり費用計画の範囲内で収まっていない場合は、経営者が週次で確認します。また、費用計画の範囲を超えた金額については、別の勘定科目で計画された費用を削減する施策も必要となります。

6 まとめ:成果を上げるための処方箋

コストダウンで成果を上げるための施策を復習しましょう。次の施策を行うことによって、企業がコストダウンを意識する組織となり、ひいてはコストダウンにより利益を上げることも可能になるでしょう。

  • 現状を正しく把握するために、信頼度の高い損益計算書を作成する
  • 損益計算書から、コストダウンすべき分野に当たりをつける
  • 損益計算書を細分化し、コストダウンすべき事項を勘定科目にまで落とし込む
  • 損益計算書を指標化し、コストダウンすべき事項をさらに検討する
  • 細分化したコストダウンすべき事項を部や課単位でくくり直す
  • 部や課単位でくくり直した数値を月次単位で確認する
  • 部や課単位でくくり直した数値を基に、月次ベースで事業計画を策定する
  • 費用計画は甘えのない精密なものを策定する
  • 経営者は実績値と計画値を月次でチェックする
  • 実績値と計画値に乖離(かいり)がある場合は、原因を突き止める
  • 適切な取り組みが実施されている場合は、他の部や課にフィードバックする
  • 費用計画の範囲内で収まっていない場合は、経営者が直接、管理・監督する

コストダウンは「現状把握を正確に行った上で、甘えのない計画を策定し、徹底管理する」ことがポイントです。また、具体的な取り組みについては、節約や代替で成果が上がらない場合は、コストダウン計画の中止も念頭に置いておく必要があるでしょう。

以上(2023年2月)

pj35036
画像:photo-ac

【コスト削減の教科書(1)】より一層の経費削減の鍵 従業員の「自分ごと」にする5つのステップ

書いてあること

  • 主な読者:資金繰りに不安があり、もう一段のコスト削減を図りたい経営者や財務担当者
  • 課題:コスト削減の中でも、手始めに経費削減を行う際のポイントを確認したい
  • 解決策:経費削減を従業員の「自分ごと」にするために、難易度の低い取り組みから始め、効果を「見える化」して成功体験を積み重ね、取り組みの成果を従業員に還元する

1 より一層の経費削減は、トップダウン方式からの脱却で実現

コロナ禍、急激な円安、物価高と、不確実性が高まっている経営環境で重要なのが、無駄な支出を抑え、少しでも資金繰りに余裕を持たせることです。コスト削減で真っ先に思い浮かぶのは経費削減でしょうが、

経費削減は、もうやり尽くした

と考えている企業が多いのではないでしょうか。ですが、これまでトップダウン方式での経費削減を進めてきた企業は、トップダウン方式から脱却し、従業員の自発的な協力を得ることで、より一層の経費削減を実現できる可能性があります。なぜなら、

  • リモートワークなど働き方の多様化で、経費削減の細かい取り組み方法まで全従業員に声を届けることが難しくなっている
  • DXや新たな調達ルートの開拓など、従業員に新たな技術や方式に対応してもらうことで実現する経費削減の手法が増えている
  • 経営者や幹部クラスには発想できないような経費削減のアイデアが必要になっている

からです。この記事では、従業員に経費削減に自発的に協力してもらうために、経費削減を「自分ごと」にするための5つのステップについて紹介します。5つのステップとは、

  • 経費削減のルールをフラット化する(幹部クラスなどの特別待遇を排除する)
  • 環境保全など、経費削減だけでない取り組みのメリットを示す
  • 難易度の低い取り組みから始めて成功体験を積み重ねる
  • 経費削減の取り組みの効果を「見える化」する
  • 経費削減の取り組みの成果を従業員に還元する仕組みをつくる

です。

2 経費削減を従業員の「自分ごと」にする5つのステップ

1)経費削減のルールをフラット化する

従業員の自発的な協力を得るには、まずは幹部クラスなどに与えられていた「例外的な特別待遇」がないことが大前提となります。今の若い世代には、「お前も出世すれば、こんなにいいことが待っているぞ」という論理は通用しません。まずは社内の「不公平感」を是正し、経費削減の取り組みに対する「不満分子」を一掃しておきましょう。

例えば、出張費(タクシーや新幹線のグリーン車の利用、飛行機の座席クラスの指定、宿泊料金の上限など)について、原則として全社員を一律のルールにフラット化することは、より一層の経費削減の「一丁目一番地」といえます。

ただし、交際費のような、対外的な付き合い上、役職に応じた支出額が求められる場合など、企業活動に必要なものであれば、一定の格差を残しておいてよいでしょう。

2)環境保全など、経費削減だけでない取り組みのメリットを示す

社会貢献に対する意識の高まりにより、社会課題の解決を働くモチベーションにしている従業員もいるでしょう。こうした従業員に自発的に経費削減に協力してもらうには、経費削減の取り組みが、社会貢献につながることも伝えると効果的です。

例えば、水道光熱費を削減することは、地球環境の保全も目的であることを伝えましょう。 社会貢献につながる経費削減の取り組みであれば、対外的にも堂々とPRでき、企業のイメージアップにもつながります。

3)難易度の低い取り組みから始めて成功体験を積み重ねる

従業員を巻き込んでいくには、小さな成功体験を積み重ねていくことが大切です。経費削減に関しても、難易度別に分類し、難易度の低いことから取り組むようにしましょう。

難易度別の経費削減の事例

図表の「難易度C」は、いわばトップダウン方式でも取り組めるものです。やり残していることがあれば、まず着手すべきでしょう。「難易度B」は、経営者を含めた幹部クラスや一部の従業員による「特別チーム」でも方向付けができる取り組みといえます。

重要なのは、「難易度A」に該当する取り組みです。事業全体に影響するような、経営判断が必要な取り組みの他、外部との交渉が必要な取り組み、さらに従業員の自発的な協力なしには実現しない取り組みが該当します。いずれも容易に実現できるものではないので、まずは難易度C、難易度Bの取り組みによって成功体験を積み重ね、従業員に自信をつけさせてから着手するとよいでしょう。

4)経費削減の取り組みの効果を「見える化」する

経費削減の取り組みの成功体験を積み重ねるためには、取り組みが成功したことが分かるように、「見える化」する必要があります。最も分かりやすいのが、数値化することです。例えば、通信費であれば、あらかじめ受取人の住所・居所を指定する郵便区番号ごとに区分して出す「区分郵便物」を利用したことで、どれくらい経費を削減できたか、明確に算出できます。

取り組みの効果を数値化することで、経費削減の年間目標を設定したり、部署ごとに取り組みを競わせたりすることもできます。また、経費削減のアイデアを出した人が、どれくらい企業に貢献したかも明らかになります。「見える化」は、経費削減への取り組みやアイデアを提案するモチベーションにつながるでしょう。

ただし、「数値だけを改善すればよい」という意識が強くなりすぎると、本来の業務にまで支障が出ることも懸念されます。取り組みが行き過ぎないための一定の配慮も欠かせません。

5)経費削減の取り組みの成果を従業員に還元する仕組みをつくる

経費削減の取り組みの効果が数値で見えれば、やはり成果を還元してもらいたいと考えるのが人の常といえるでしょう。

削減できた経費のうち、一定の割合を従業員に還元することも考えられます。ただ、金銭的なもので報いるだけでなく、最も成果を上げた従業員や部署、経費削減のアイデアを提案した従業員を表彰するなど、承認欲求を満たす形で成果を還元するという方法も考えられます。

以上(2023年2月)

pj40004
画像:pexels

経営者が知っておきたい従業員退職金の相場と税務

いざ退職金を支払うことを考えると、金額はいくらにしたらよいか、どうやって決めたらよいか等、悩ましい問題が発生します。支払う資金の問題や、税金の手続きも必要になってきます。
退職金における具体的な金額についての若干の考察と、支給する際の税金上の手続き、そして、その支払準備の手法について解説します。

この記事は、こちらからお読みいただけます。pdf

「同僚はお客さま」の意識が会社を変えた! 顧客体験の視点でバックオフィスの生産性を高める

書いてあること

  • 主な読者:社内の部署間やメンバー間の連携を統括する経営者やマネジメントクラス
  • 課題:社内の部署間やメンバー間の連携がスムーズにいっていない
  • 解決策:営業担当だけでなく、全ての社員が顧客体験の視点を持つことで、自分の業務の先にある同僚の立場を考えて仕事をするようになり、社内の連携がスムーズになる

1 「社内の人だから分かっているはず」が連携ミスを招く

マネジメントクラスの方々とお話をさせていただく中で、

「現場の生産性が上がらない」

「チームのスタッフ間の連携ミスが多い」

「スタッフ同士のコミュニケーションが少ない気がする」

というお悩みをよく聞きます。

そんなとき、当社グローカルマーケティングでは、バックオフィス業務を含めた全ての社員に、顧客体験(カスタマーエクスペリエンス、以下「CX」)の視点を持っていただくことの大切さをお伝えしています。

CXと聞くと、「マーケティングや営業部門など、顧客と取引を行う社員にのみ必要な視点」と思われがちですが、

全社員がCXの視点を持つことで、あらゆる業務の生産性・効率性の向上が期待できる

のです。社内業務は複数の人間や部署を横断して進めることが多く、コミュニケーションや相互理解の不足によって連携ミスが発生し、業務に「待ち」が生じたり、「前工程に後戻り」したりすることも珍しくありません。特に、リモートワークを導入している会社や、新入・中途社員が入った会社にはありがちな問題といえるでしょう。こうした連携ミスを防ぐために、全社員が、「社内の人だから分かっているはず」ではなく、顧客と接するように、

どうすれば同僚に分かりやすく、やりやすい形で伝えられるか

を考えて業務を行うようになれば、社内業務の生産性も改善するのです。

この記事では、CXの視点がどのようなものかをご説明した上で、CXの視点を経理や労務などの社内業務に取り入れると、どのように会社が変わるのかについて解説します。CXのことは既に理解しているという方は、第3章からお読みください。

2 CXの視点とは、顧客が何を求めているか考え、実行すること

マーケティングや営業活動で使われるCXを簡潔に言うと、

ある商品やサービスの利用において、顧客が体験する購買プロセス全体

と表現できます。特に、認知・関心といった購入前の段階から、アフターフォローのような、購入後の段階も含めた「購買プロセス全体」での体験であることが重要です。

優れたCXを提供して顧客満足度を高めれば、売り上げ増加を実現できます。そのためには、

兎(と)にも角(かく)にも顧客の視点に立って考えること

です。購買プロセスごとにおけるお客さまの行動や感情、潜在的なニーズに注目し、お客さまが求めるものを用意する必要があります。マーケティングや営業部門を例に見てみましょう。

1)ペルソナを設定して理想のお客さま像を明確にする

まずは理想のお客さま像を明確にすることで、CXの視点を持つ第一歩となります。そのための手法の1つとして、「ペルソナ分析」というものがあります。「ペルソナ」とは、商品やサービスの受け手となる代表的なお客さま像を言語化したものです。ペルソナ分析では、特定の1人を思い浮かべてペルソナを設定します。設定したペルソナに関する情報を、図表1のようなペルソナシートにまとめます。

ペルソナシート

ペルソナを設定することで、お客さま視点に立ってニーズを検討することができるだけでなく、商品・サービスの企画に携わるメンバー間での、ターゲットに対するイメージのズレをなくすことが可能になります。

2)カスタマージャーニーマップを作って顧客の購買プロセスを分析する

ペルソナの設定が完了したら、次にそのペルソナがどのような購買プロセスを経て購入に至るのかを整理します。

ここで有効な手法が「カスタマージャーニー」です。お客さまが自社の商品やサービスを購入するまでにたどる体験プロセスを、時系列のストーリーで図示するものです。図表2のように、AISAS(Attention、Interest、Search、Action、Share)などの購買プロセスモデルを設定し、顧客の各購買段階における自社との接点や、その際の行動や心理を洗い出すことで、顧客が抱えるニーズを明らかにし、CXを高めるために真に必要な施策を打ち出せるようになります。

カスタマージャーニーの例

こうしたCXの視点を持つことは、マーケティングや営業部門でのみ活かされるものではありません。複数の人間や部署を横断する日々の社内業務においても有効活用できます。実際に当社グローカルマーケティングが経験した事例とともに、全社員がCXの視点を持つようになるヒントをご紹介します。

3 CXの視点が、こうして会社を変えた!

1)経理・営業部門:「同僚の不便を改善したい」営業部長の思いで書類作成をDX

CXの視点に立った「同僚の不便や苦労を改善したい」という思いは、

会社が抱える真の課題を見つけ出して、その改善に向けて行動する

ための原動力になります。

これまで当社では、見積書や契約書などの押印が必要な媒体は、紙で対応していました。莫大な数の契約書類を作成し、郵送するという事務を各営業担当者が行っており、案件創出などの重要な営業活動を圧迫するほどの事務量となっていました。

また、契約書までは営業担当者が作成しますが、請求書は経理部門で作成するため、紙の書類を作成した後に、営業・経理共通の台帳にデータを入力する必要がありました。営業担当者が台帳への入力を忘れていると、経理部門がずっと請求書を発行できないこともありました。

そこで、かつては自身も営業担当者として同じ苦労を感じていた営業部長が、改善を提案。営業部門と経理部門の双方にヒアリングを行った上で、

  • クラウド上で署名や押印が可能となる電子契約サービスを導入

しました。これにより、見積書や契約書の作成・発送にかかっていた作業時間が一気に短縮されました。特に営業部門では、これまで以上に本来の営業活動に注力できるようになり、案件の受注件数の増加にも寄与しました。

さらに、この電子契約サービスはお客さまも登録不要で承認できる仕組みとなっており、紙の書面に押印することなく、クラウド上で承認して書面データを保管できるようになったため、お客さまの業務効率化にも貢献することができました。

営業部長の行動は、自身の経験から、同僚が不便や苦労に感じている業務を明らかにし、さらにお客さまにとっての業務効率化にも寄与するという、CXの視点を活用した典型例です。

このケースでは電子契約サービスを導入するという大規模な改善に取り組みましたが、営業担当者が経理担当者のことを考えて、

  • 契約書の作成後は、速やかに経理との共通の台帳にデータを入力する
  • データ入力の際には誤りがないか、もう一度チェックを行う
  • データ入力後に、社内コミュニケーションツールなどを使って経理部門に通知する
  • 請求書の作成を依頼する際や受け取る際に、感謝の言葉を添える

ことも、CXの視点といえるでしょう。同様に、経理担当者が営業担当者のことを考えて、請求書を速やかに、誤りなく作成することも、CXの視点に該当します。

2)製造部門:“職人気質”の社員たちが、朝礼の「社員の言葉」で同僚を思いやるように

営業部長のような管理職でない社員もCXの視点を持つようになるためのキーワードが、

社員同士の深いコミュニケーション

です。当社で支援させていただいている製造事業者の事例から、社員が同僚に対してCXの視点を持てるようになった「小さなきっかけ」をご紹介します。

その会社は産業機械の金属部品メーカーで、さまざまな形状の部品を製造しています。社長とお話をした際、「中途で人材を採用したが、やり方が合わずに辞めてしまった」「未経験の方への教育体制に自信がない」など、採用面でのお悩みを打ち明けてくださいました。

もう少し話を伺っていくと、“職人気質”の社員にありがちな、「社員同士でのコミュニケーションが少なく、各部品の製造が1人親方状態になっている」という現状が明らかになりました。このため、誰かが体調不良などで欠けてしまうと製造がストップしたり、新人が質問をしても相手によって答えにバラつきが生じて混乱を招いたり、業務が後戻りしたり、といった弊害も生じていました。

そこで同社では、当社のコンサルタントの提案を受けて、

  • 朝礼を毎日実施し、社員が持ち回り制でプライベートの話をする機会を設けました。

当初、社長は効果に懐疑的だったようですが、蓋を開けてみると、社員たちは意外にも自分の趣味や好きなことを楽しく話してくれたそうです。そして、他の社員との共通の話題を見つけ、社員同士のコミュニケーションが深まったことで、社員たちが同僚のことを思いやる雰囲気が生まれたといいます。朝礼の開始から2週間足らずで、社員たちから、現場での業務に関する改善案も話題に上るようになりました。

朝礼の効果を目の当たりにした社長は、製造業は未経験の新人を採用してみましたが、新人からの質問の答えに対する社員のバラつきがなくなり、業務の後戻りも少なくなったそうです。

3)労務部門:CXの視点で、リモートワーク下でのコミュニケーションを創出

先ほどの事例では、社員同士のコミュニケーションを深めることが、同僚への思いやり、つまりCXの視点を持つきっかけになることをご紹介しました。とはいえ、昨今ではリモートワークも広がっており、さまざまな面で「飲みニケーション」にも頼りにくくなっていることから、社員同士のコミュニケーションを図りづらくなっています。ですが、

社員同士が対面でないことが多い会社ほど、同僚のことを思いやるCXの視点を持つことで生産性が高まる

といえますし、逆にCXの視点を持たなければ連携ミスが増え、生産性が低下しがちです。

当社はリモートワークを積極的に推奨しているのですが、対面でのコミュニケーションも重要ですから、「各自、週に1回は必ず出社する日を設けよう」とルール化しました。ところが、日によっては社員の出社が少なく、対面でのコミュニケーションの創出という効果はそれほど得られませんでした。

そこで、「必ず週に1回の出社」ルールを廃止し、

  • 「各部門の会議は原則対面で実施すること。メンバーの都合が合えば、本社ではなく支社や外出先でもよい」というルールに変更

しました。新たなルールによって、対面でのコミュニケーションの機会を創出できただけでなく、結果として会議の濃度も飛躍的に向上したと感じています。

このルール変更は、本社から離れた場所に住んでいる社員を含め、日々のヒアリングを通じて決めたものです。ルール変更自体がCX(この場合は同僚)の視点に立ったものですし、新ルールによって、社員たちは互いの業務上の移動や居住地などにまで配慮し、融通を付け合いながらスケジューリングするという、CXの視点を実行する機会を得たと思います。

4 究極のCXは、全社員が「経営者の視点」を持つこと

このように、日々の社内業務においてCXの視点を持つことは、業務改善に大きく役立つことになります。ただし、最も重要なのは、

CXの視点を持つだけで終わらせず、行動・発信を続けること

です。そこから議論が生まれ、さらに優れた業務改善策を生み出すことができるのです。経営者やマネジメントクラスの皆さんは、

「あの業務は効率が悪そうだな」

「この部署とあの部署の連携を良くするにはこうすべきでは」

と思い立ったら、すぐに現場の社員に意見を求めてみましょう。きっと前向きな議論が始まり、コミュニケーションが深まるはずです。

会社にとって、

究極のCXは、全社員が「経営者の視点」を持つようになること

です。そのためには、まずは経営者の皆さんが社員のためにCXの視点をフル稼働して、社員の不便や苦労に対して積極的に業務改善を提案しましょう。社員たちは経営者の皆さんの思いに応えて、CX(この場合は経営者)の視点を持つようになっていくことでしょう。

以上(2023年2月)

pj10071
画像:Deemerwha studio-Adobe Stock

逆流性食道炎の対策は「遅い時間に食べるのをやめること」から

遅い夕食

1 「遅い夕食」で胃食道逆流症のリスクが上昇!?

胃食道逆流症(逆流性食道炎)は、胃液や胃の内容物が食道に逆流して起こる病気です。
胃の粘膜には、胃液に含まれる胃酸から胃を守る働きが備わっていますが、食道の粘膜にはそのような働きがありません。そのため、胃酸が食道に上がってくると、粘膜にただれができたり、胸やけや、酸っぱいものが込み上げてくる呑酸(どんさん)も典型的な症状です。

胃食道逆流症(逆流性食道炎)の原因となるのは、「脂肪分の多い物や肉類の食べ過ぎ」「アルコール飲料」「早食い」「食後すぐに横になる」「精神的・身体的ストレス」「遅い夕食時刻」などがあります。

慢性的な胸焼け・せき・副鼻腔炎などの症状を訴えていたあるレストラン経営をしている男性が、毎日午後11時頃に仕事を終え帰宅後に夕食をとってから眠る、という生活スタイルを、夕食を午後7時に食べて、仕事の後は何も食べないようにすることや、寝る前のアルコールを控えるように変えただけで、6週間以内に症状が治まりました。

健康な人なら数時間ほどで胃内の食物が空になりますが、高脂肪の食品を食べ過ぎると、消化がさらに遅くなる傾向があります。就寝前の間食も逆流を促す原因となります。

遅い時間に飲食をする生活スタイルがある方は、生活を見直してみてはいかがでしょうか。

【注意】医師の指示を受けている方は、必ず医師の指示を優先してください。

2 休肝日はアルコール性肝臓病予防にも効果的!

アルコール性肝臓病を予防するために週に3~5日の休肝日が効果的であることが、5万人以上を対象とした調査で明らかになりました。

アルコールを飲み過ぎると、「脂肪肝」という状態になりやすくなります。この段階では自覚症状は乏しく、エコー検査で発見されることが多いです。飲酒が原因の場合は、断酒や節酒で脂肪肝を改善できます。つまりこの段階で気をつければ、元の健康な肝臓に戻れます。しかし、脂肪肝を放置したまま、アルコールを飲み続けると、やがて「肝硬変」に至る可能性があります。肝硬変は治療が困難で糖尿病など様々な合併症を引き起こし、肝がんの原因にもなります。

◆お酒の飲み方がアルコール性肝臓病に影響する?

「休肝日を設けた方が良い」と言われるのは理由があります。
アルコール20gに相当する量(ビールなら500mL、日本酒なら1合)を肝臓で分解するのに、個人差はありますが3~5時間前後かかります。
睡眠中は肝臓がアルコールを代謝する機能が落ちるので、飲んだ後にすぐ眠ると更に時間を要します。お酒を飲んだ後、就寝している間も肝臓は働き続けています。
肝臓を毎日連続して酷使すると障害が出やすくなります。
アルコールを殆ど毎日飲む人では、週に2~4回飲む人に比べ、アルコール性肝障害の発症率が3.7倍に上昇することが明らかになりました。
また、50歳代にアルコールを飲み過ぎた人のアルコール性肝障害のリスクは7.5倍に上昇し、20歳代に飲み過ぎてその後は節酒した人では1.7倍に抑えられていました。
お酒を飲む方は、ぜひ休肝日をつくりながら楽しみましょう。

【注意】医師の指示を受けている方は、必ず医師の指示を優先してください。

休肝日

以上(2023年2月)

sj09064
画像:photo-ac

カーブでの安全運転(2023/2号)【交通安全ニュース】

活用する機会の例

  • 月次や週次などの定例ミーティング時の事故防止勉強会
  • 毎日の朝礼や点呼の際の安全運転意識向上のためのスピーチ
  • マイカー通勤者、新入社員、事故発生者への安全運転指導 など

カーブでの走行は、スピード調整や視線の移動、ハンドル操作など複数の運転操作を適切に行う必要があります。

例えば、十分にスピードを落とさずカーブを曲がろうとすると遠心力が働き、車線を逸脱して対向車やガードレールなどに衝突する危険があります。

今回は、カーブ走行の危険性と安全運転について考えます。

カーブでの安全運転

1.カーブ走行の危険性

警察庁の統計をみると、カーブでの事故発生率は2.7%ですが、死亡事故発生率は14.4%と5倍以上高くなっており、カーブでの事故は重大事故につながりやすいことが分かります(図1)。

カーブでの交通事故発生率

出典:警察庁「令和3年中の交通事故の発生状況」から当社作成

カーブでの死亡事故の事故類型別割合では、車両単独と車両相互が大半を占めており、さらに内訳をみると比較的衝撃力の大きい「工作物衝突」と「正面衝突」が突出しています(図2)、(図3)。

カーブでの死亡事故の事故類型(車両単独)

カーブでの死亡事故の事故類型(車両相互)

出典:警察庁「令和3年中の交通事故の発生状況」から当社作成

カーブ走行では以下の危険性があります。

◆カーブ走行では車に外側へ滑りだそうとする力「遠心力」が働きます。遠心力はカーブの半径が小さいほど大きく、速度の二乗に比例して大きくなります。

◆見通しの悪いカーブでは対向車や歩行者などの発見が遅れがちになります。死角にいる対向車や歩行者などが突然目の前に現れることも想定されます。

従って、十分にスピードを落とさずカーブを曲がると、重大事故を招くおそれがあります。

2.カーブの安全な曲がり方

センターラインを越えないように走行すること(センターラインのない場合は「キープレフト」走行)が基本です。遠心力を考慮して以下の運転をしましょう。

①カーブ手前で十分にスピードを落とす

カーブでは「スローイン・ファストアウト」走行が基本です。道路標識等に注意し、カーブに入る手前で十分にスピードを落とすことがコツです。

※左カーブでは自車の走行車線が広く感じ、スピードを出しがちになります。 スピードを抑えて対向車線にはみ出さないよう注意しましょう。

カーブ手前で十分にスピードを落とす

②視線をカーブの先に置く

カーブでの走行では「曲方指向」という錯覚が起きることがあります。

カーブの曲がる方向に視線が向き、その方向にハンドルを切って走行してしまう(カーブの曲がる方向に車が寄ってしまう)というものです。

※右カーブでは右側に視線が向き、道路の内側へ寄りがちになります。視線をカーブの先に置き、キープレフトを意識して走行するようにしましょう。

視線をカーブの先に置く

③ハンドル操作を緩やかに行う

カーブを曲がるときに急ハンドル・急ブレーキを行うと横滑りする危険があります。カーブに入る手前で十分にスピードを落としていれば、ハンドル操作を緩やかに行うことができます。

3.見通しの悪いカーブの運転

見通しの悪いカーブでは先の状況が把握しにくいため、見通せる範囲内で停止できるスピードで運転することが原則です。

駐車車両などがある場合は、対向車や自転車、歩行者などの存在や動きに注意を払い、危険を予測して運転しなければなりません。

夜間は、カーブに入る手前で前照灯を上向きに切り替えるか点滅させ、対向車などに自車の接近を知らせるようにしましょう。

見通しの悪いカーブの運転

カーブでは対向車がセンターラインを越えてくるかもしれません。

そのような場合でも事故を回避できるよう、カーブに入る手前で十分にスピードを落としましょう!

以上(2023年2月)

sj09063
画像:amanaimages

テレワークのニューノーマル化

いまだ続く新型コロナウイルス感染症の影響を考慮して、アフターコロナにおける新しい仕事のスタイルを見据え検討を進めなければなりません。本稿では、「テレワークという新しい常態」の現状と課題を紹介し、今後どのような取り組みが必要なのかを考えていきます。

この記事は、こちらからお読みいただけます。pdf