「この会社、ゆるいな」ストイックな若手が去る職場の落とし穴

1 「優しすぎる会社」は、ストイックな若手からすると不安?

若手にはたくさん経験を積ませ、いずれは会社の中核を担ってほしい。なのに、成長する前に若手が辞めてしまう……。こうした問題に頭を悩ませる経営者は少なくないでしょう。若手が辞めてしまう理由はさまざまですが、今どきのケースとして押さえておきたいのが、

会社が優しすぎるために、「この会社、ゆるいな……」と感じて転職してしまう

というものです。

昨今は、働き方改革やハラスメント関連の法規制などの影響で、若手にあまり残業をさせない、ミスがあっても叱らないなど、良くも悪くも「優しい会社」が増えました。一方で、若手のほうは、終身雇用などかつての日本的な雇用が当たり前でなくなりつつある中で、経営者や上司が考えている以上に「早くどこでも通用する人材に成長しなければ……」と焦っています。

ですから、会社の優しさが行きすぎると、若手はかえって「このまま今の会社で働いていても、自分は成長できないんじゃないか……」と不安に感じ、転職してしまうのです。実際、

20代の正社員191人に、「今の会社で成長を実感できているか」などをアンケートで聞いたところ、26.7%が「成長を実感できない」でいて、うち27.5%が「転職を考えている」

ということが分かりました(アンケート結果の詳細は後述)。

自分で何の努力もせず、会社が成長させてくれるのを待っているだけの若手ならともかく、勉強をしたり、社外の人に会ったりと本人なりに努力をしている「ストイックな若手」が、その努力を活かせないまま辞めてしまうのはもったいないことです。これを防ぐには、

  • 若手がなぜ「この会社はゆるい(成長できない)」と感じるのかを分析すること
  • 分析を基に、若手が成長を実感できる機会を与えること(挑戦できる環境を整えるなど)

が肝心です。まずは、前述したアンケート結果の詳細から見ていきましょう。

2 今の会社はゆるい? 20代の正社員191人に聞きました

20代の正社員191人に対し、「今の会社と自分の成長」に関するアンケート調査を実施しました(実施期間は2025年3月4日から3月5日まで)。その結果を紹介します。

1)あなたは、今の会社に勤めていて「成長している」と実感できますか?

まず、191人全員に「今の会社での成長の実感」について聞きました。「全く実感できない」が7.9%、「あまり実感できない」が18.8%、計26.7%が成長を実感できずにいるようです。

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さらに、成長を「全く(あまり)実感できない」と回答した51人に、「転職の意向」について聞きました。「既に転職活動をしている」が5.9%、「1年以内に転職活動を始めようとしている」が21.6%、計27.5%が転職を考えているようです。

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2)今の会社で成長を実感できない(できる)と回答した理由は何ですか?

図表1で成長を「全く(あまり)実感できない」と回答した51人、「少し(大いに)実感できる」と回答した131人に、それぞれ理由を聞きました。結果を上位順に並べたのが図表3です。

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成長を実感できない理由の1位は「やりがいのない仕事ばかりさせられている(単純作業など)」の17.6%、2位は同率で「事業のレベルが低い(技術や社会への貢献度など)」「『事業を大きくしよう、新しくしよう』という気概が感じられない」「間違いがあっても、どこが悪いのかを指摘してくれないの11.8%でした。

成長を実感できる理由の1位は「やりがいのある仕事を任されている(創意工夫が必要など)」の38.9%、2位は「『事業を大きくしよう、新しくしよう』という気概が感じられる」の36.6%、3位は「成長に応じて新しい仕事を任せてくれる」の32.8%でした。

アンケート結果を見る限り、「事業の意義」「若手に任せる仕事の内容」「上司の接し方」に、若手が成長を実感できるか否かのカギがあるようです。これを踏まえた上で、若手を成長させるために会社は何ができるのかを考えていきましょう。

3 若手に「ゆるい」と思われないために会社は何ができるか?

1)事業の将来ビジョンは、経営者自ら若手に伝えよう(経営者)

アンケート結果からは、「事業のレベルが低い(技術や社会への貢献度など)」「『事業を大きくしよう、新しくしよう』という気概が感じられない会社では若手が成長を実感しにくく、逆の場合は成長を実感しやすいことが分かりました。

事業のレベルについては、もちろん会社の状況によって現時点で実現できること、できないことがありますが、少なくとも現状を変えていこうという気概が感じられないと、若手は離れていきます。特にもったいないのは、

経営者の頭の中には事業の将来ビジョンがあるのに、それが若手に伝わっていないケース

です。例えば、経営者は、3年から5年先の「会社のあるべき姿」、それを実現するための課題ややるべきことを中期経営計画に落とし込みますが、その計画も社内に周知されていなければ、若手に伝わりません。仮にイントラネットなどで計画を閲覧できる状態にしていたとしても、経営者が事業に懸ける思いというのは、文字だけではなかなか伝わらないものです。

ですから、

会社のこれからの事業の在り方などについて、経営者が自ら若手にプレゼンする

など、若手に事業の将来ビジョンを語る機会を設けるようにしましょう。まだビジネスの知識や経験が少ない若手でも、経営者が「今から10年後の203X年に、我が社は○○のような姿になっている」などの理想を語れば胸をおどらせるでしょうし、経営者の話に突っ込んだ質問をしてくることもあるはずです。

2)あえて新しい仕事にチャレンジさせてみよう(経営者、上司)

「やりがいのない仕事ばかりさせられている(単純作業など)」会社では若手が成長を実感しにくく、逆の場合は成長を実感しやすいという結果も出ていました。

若手の仕事を管理するのは上司の役目です。上司は、若手の成長に合わせて任せる仕事の内容を調整しますが、例えば、

  • 上司は「若手が成長してきた、もう少ししたら別の仕事を任せてみよう」と考えている
  • 若手は「上司は自分の成長を認めてくれていない、だから、いつまでたっても同じ仕事しか任せてもらえないんだ」と考えている

など、仕事について両者の認識がかみ合っていないケースがあります。

ですから、まずは1on1ミーティングなどで両者の認識のすり合わせをすることが大切です。上司は、今の仕事をあとどのぐらいの期間若手に任せるつもりなのか、次に何の仕事を任せる用意があるのかなどを明らかにしつつ、若手にも今の仕事に対する不満などを聞いてみます。

若手が「新しい仕事に挑戦したい」と考えているなら、その仕事について何を勉強しているのか、今任せている仕事に支障が出ないかなどを確認した上で挑戦させてみる

のも1つの手です。

また、別のアプローチとして、

経営者から若手に働きかけて、新しい事業などを提案させてみる

という方法もあります。例えば、会社が新しいツール(AIなど)を導入した際に、それを使ってどんな事業ができそうかを幅広く募集します。事業にできそうな提案を若手が上げてきたら、そのプロジェクトに参画させて事業の立ち上げを経験させてみるのもよいですし、事業にならない場合でも、考えが足りない部分をフィードバックすることで若手の成長に役立つでしょう。

3)教えるべきことはしっかり教えよう(上司)

「間違いがあっても、どこが悪いのかを指摘してくれない」というのも、若手が成長を実感しにくい会社の特徴でした。

昨今は、ハラスメントに対する法規制が進んだり、パワハラやセクハラの他にもさまざまなハラスメントが出てきたりして、「若手に何か言ったらハラスメントと言われるのでは……」と指導に臆病になっている上司が少なくないようです。ただ、これでは部下を管理するという上司の本来の仕事に支障を来しますし、アンケート結果を見る限り、若手は上司に対し、腫れ物に触るような接し方ではなく、必要な指導をしてほしいと思っているようです。

ですから、上司は

若手に知らないことやできていないことがあれば、恐れず自信を持って教えるよう徹底

しましょう。暴言などを吐かないよう注意する必要はありますが、若手に「何が足りないのか」を事実として指摘するのは、ハラスメントではなく正当な指導です。単にできていないことを指摘するだけでなく、「どう軌道修正すればいいのか」をヒントだけでもいいので教えてあげると、若手も「上司は自分を成長させようとしてくれている」と実感できるでしょう。

逆に、若手が上司の期待通りかそれ以上の働きをした場合は評価すべきですが、その際は

「褒めて伸ばそう」として、若手を持ち上げすぎることがないよう注意

する必要があります。あまり簡単なことで褒められると、若手は「上司からなめられている」と感じます。「仕事で何を評価するのか」の軸をしっかり持っておきましょう。

以上(2025年5月更新)

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【熱中症対策】「暑熱順化」で暑さに強い体づくりにチャレンジ

1 暑さに体を慣らす「暑熱順化」に取り組んでみませんか?

2024年に熱中症で救急搬送された人数は9万7578人(消防庁「令和6年(5月から9月)の熱中症による救急搬送状況」)にのぼり、2025年も引き続き注意が必要です。

熱中症のピークは7月下旬から8月上旬ごろですが、一般的に、体が暑さに慣れるには数日から2週間程度が必要とされています(個人差があります)。そのため、夏本番を迎えてから急に水分・塩分の補給などをしても対策としては不十分なところがあります。

そこで、この記事でご提案するのが、

暑熱順化:時間をかけながら暑さへの耐性を身に付けていくアプローチ

です。暑熱順化とは、「ジョギングやウォーキングなどによって汗をかき、体を暑さに慣れさせていく」というもので、厚生労働省や環境省も推奨しています。夏の熱中症対策として取り入れてみてはいかがでしょうか。

暑熱順化のスタートは、夏本番を迎えるより少し前の6月ごろが最適です。早速、ポイントを確認していきましょう!

2 なぜ、暑熱順化が推奨されるのか?

熱中症を引き起こす要素は、下図のように大きく分類すれば環境・体・行動の3つに分類されます。

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そして、暑熱順化の仕組みを理解するにあたり注目したいのが、

「体」に分類される「暑さに慣れていない」状態

です。

体温が上がると、ヒトの体はその機能によって、次のように体温を調節します。

  • 皮膚への血流を増やして体の表面から熱を逃がす(熱放散)
  • 汗が蒸発することで熱を逃がす(気化熱)

しかし、体が暑さに慣れていない状態で気温が上昇すると、この体温調節がうまくできず、結果的に熱中症につながってしまうことがあります。

仕組みとしては、体内の熱を逃がそうとして皮膚の血流量が増える「熱放散」は、暑熱順化ができていないと機能しにくくなります。すると、気化熱による体温調節で汗をたくさんかきますが、今度は水分・塩分が多く失われ、血液の流れが悪くなります。その結果、体内に熱がどんどんたまり、熱中症になってしまうということです。

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一方で、早いうちから暑熱順化に取り組んでいると、皮膚の血流量が増加しやすくなり、汗に含まれる塩分量も減るので、血液の流れが悪くなるリスクを低減できます。つまり、

夏本番を迎えて気温が上昇しても、熱を逃がしやすくなり、体温調節がうまく機能する

のです。

3 暑熱順化のポイント3つと具体的なやり方4選

1)暑熱順化のポイント3つ

暑熱順化のポイントは、

  • 本格的に暑くなりそうな時期の2週間前から始める
  • トレーニングを持続する
  • 無理はしない

の3つです。

前述した通り、体が暑さに慣れるまでには数日から2週間程度の時間がかかります。そこで、気象庁の「2週間気温予報」などを確認しながら本格的に暑くなりそうな時期の2週間前からトレーニングを開始しましょう。

また、暑熱順化の効果はあまり続かないことも、注意しておきましょう。個人差はありますが、トレーニングを中断すると数日で元の状態に戻るといわれます。梅雨寒の日が続いたり、夏休み中に涼しいところで過ごしたりした後は暑さへの耐性が弱まりますが、そんなタイミングで一気に気温が上昇すると、熱中症になるリスクも高まります。

2)暑熱順化の具体的なやり方4選

暑熱順化において大切なのは、「脳と体を夏モードに切り替えさせること」です。そして暑さに備えた体をつくるためには、夏の暑さを再現して汗をかくことが最重要。環境省による熱中症対策では、暑熱順化として

「やや暑い環境」で「ややきついと感じるくらいの運動」をすること

を推奨しています。

また、厚生労働省「働く人の今すぐ使える熱中症ガイド」では、暑熱順化に有効な対策として次の4つの取り組みが紹介されています。なお、時間や頻度は全て目安なので、自身の年齢や体力、気温や室内の環境を考慮しながら取り組んでみましょう。

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図表3のように、暑熱順化に有効な対策としては、次の4つのやり方を推奨しています。

1.歩く・走る

ウォーキングであれば30分、ジョギングであれば15分の運動を、週5回行うことを目安として推奨されています。移動の際にできるだけ階段を利用するのも、汗をかくのに効果的です。

2.自転車

サイクリングであれば、30分の運動を週3回行うことを目安として推奨されています。時速20キロメートルで走れば10キロメートルの距離です。

3.適度な運動(筋トレ・ストレッチなど適度に汗をかくもの)

室内でできる取り組みとしては、筋トレやストレッチなどがあります。この場合、30分の運動を週5回から毎日実施することが推奨されています。

4.入浴・サウナ(お風呂はシャワーだけでなく、湯船につかる)

入浴であれば、2日に1回以上はしっかりと湯船に入ることが推奨されています。なお、サウナが暑熱順化に有効という意見もありますが、水分補給の状況によっては脱水症状を引き起こす恐れもあるので注意が必要です。

暑熱順化の基本は「やや暑い環境」で「ややきついと感じるくらいの運動」をすることです。あくまで暑さに慣れることが目的ですから、無理をしすぎて熱中症になっては本末転倒なのでご用心。

また、2025年6月1日から労働安全衛生規則が改正され、会社に対し、

  • 作業者に熱中症の自覚症状があるときや、作業者が熱中症の疑いがある同僚などを発見したときは、会社にその旨を報告させるよう体制を整え、周知すること
  • 熱中症のリスクがある作業を行う場合、あらかじめ作業場ごとに、症状の悪化を防ぐための措置やその手順を定め、周知すること(体を冷やす、医師の診察を受けさせるなど)

が義務付けられます。違反した場合、労働安全衛生法により、

6カ月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金

の対象になります。暑熱順化も大切ですが、今一度職場の熱中症対策も見直し、万全の体制で夏本番を迎えましょう。

以上(2025年6月更新)

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【熱中症対策】熱中症予防の工夫9選〜チェックリスト付き

1 「熱中症」予防の基本は体づくりと外部環境の整備

熱中症になりやすいケースとして挙げられるのは、「高温多湿な場所に長時間いる」という典型的なものに限ったことではありません。例えば、寝不足や食欲不振などで体調が優れない、下痢や二日酔いなどで脱水症状気味といった体調不良の場合も、熱中症になるリスクが高いとされています。

そのため、熱中症の予防には、

  • 熱中症になりにくい体づくりをすること
  • 外部環境を整えること

の両方に気を使うことが重要です。この2つに分類して熱中症対策のポイントを整理すると、図表1のようになります。

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2025年6月1日から労働安全衛生規則が改正され、会社に対し、

  • 作業者に熱中症の自覚症状があるときや、作業者が熱中症の疑いがある同僚などを発見したときは、会社にその旨を報告させるよう体制を整え、周知すること
  • 熱中症のリスクがある作業を行う場合、あらかじめ作業場ごとに、症状の悪化を防ぐための措置やその手順を定め、周知すること(体を冷やす、医師の診察を受けさせるなど)

が義務付けられるようになります。違反した場合、労働安全衛生法により、

6カ月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金

の対象になります。今年からは例年以上に熱中症対策を徹底して、夏場の業務に取り掛かりましょう!

2 体づくりの工夫(1)水分・塩分をこまめに補給する

熱中症の予防において最も基本的な対策は、水分・塩分の補給です。

そもそも熱中症とは、「体内の水分や塩分(ナトリウムなど)の減少や血液の流れが滞るなどして、体温が上昇して重要な臓器が高温にさらされたりすることにより発症する障害の総称(環境省「熱中症環境保健マニュアル」)」のこと。気温が高くなり汗を大量にかくと、水分とともに塩分やミネラルも失われてしまうため、

ただ水分を補給するのではなく、スポーツドリンクや食塩水などで塩分も一緒に補給することが重要

になってきます。もちろんこれは、熱中症の症状が疑われるときの対処法としても重要です。

また、状況(マスクをしているなど)によっては喉の渇きを感じにくく、気付かないうちに脱水症状になってしまう恐れもあります。そのため、夏はたとえ喉が渇いていないとしてもこまめに水分補給をし、同時に塩分も摂取することが大切です。屋外でたくさんの汗をかく作業に従事する社員には、塩あめや塩分タブレットなどを携行させることを促してもよいでしょう。

3 体づくりの工夫(2)水分・体を上手に冷やす

顧客訪問でスーツの着用が必要なケースなどを除き、

業務内容によっては、暑さをしのぎやすい軽装での勤務を認める

とよいでしょう。具体的には、

  • ノーネクタイ・ノージャケット
  • 半袖シャツ・ポロシャツ
  • スニーカー

などの着用を許可することが考えられます。いわゆる「クールビズ」です。

また、オフィス内では扇子やうちわ、携帯型扇風機などで風を起こして体を冷やすのも効果的です。屋外での作業現場では、送風機が内蔵されているヘルメットや作業着を着用するという手も考えられます。

4 体づくりの工夫(3)栄養バランスの良い食生活を心掛ける

熱中症予防には食生活への配慮も必要です。夏場は食欲が落ちるため、冷たく口当たりの良いものばかりを食べがちです。例えば、そうめんやうどんなどの麺類、アイスクリームやゼリーなどのデザート類、炭酸ジュースなどがそうです。

ただ、これらの食品は、糖質を多く含んでいます。糖質は体にとって重要な栄養素の1つですが、一方で

ビタミンB1を一緒に摂取しないと代謝が上手くいかず、エネルギーを作り出すことができない

という問題があります。エネルギーが不足すると体力が落ちて、いわゆる「夏バテ」状態になり、さらに食欲が落ちて糖質ばかりを摂取するようになるという悪循環に陥る恐れがあります。

食生活の乱れから体調を崩したり、夏バテで体力を失ったりすると、もちろん熱中症になるリスクも高まります。社員にも栄養バランスの良い食生活を促しましょう。

ちなみに、ビタミンB1を多く含んでいる身近な食材としては、

  • 豚肉
  • 大豆
  • 玄米
  • ほうれん草

などが挙げられます。昼食を買うときなどにうまく取り入れると、熱中症対策に効果的です。

5 体づくりの工夫(4)健康状態をこまめに確認する

体調の悪そうな社員には、積極的に声を掛けるよう心掛けましょう。前述した通り、2025年6月1日からは、熱中症の疑いがある社員がいたら会社に報告するよう、社内体制を整えることが義務になります。

熱中症の症状は、

軽度であれば目まいや立ちくらみなど、ちょっとした体調不良と区別が付かない

場合があるので、症状が進行する前に対処することが大切です。

経営者や管理職は、元気がなかったり、顔色が悪かったりする社員に対して、周囲が気遣う職場づくりを心掛けましょう。テレワーク中の社員に対しても、ウェブ会議システムなどを使って積極的に声掛けすることが効果的です。

6 体づくりの工夫(5)暑さに体を慣らす

体を冷やして暑さを感じにくくするだけでなく、「暑熱順化(しょねつじゅんか)」によって暑さに体を慣らすことも、熱中症予防に効果があります。

暑熱順化とは、時間をかけながら暑さへの耐性をつけていくアプローチ

です。ジョギングなどの軽い運動や、湯船に漬かる入浴などによって意識して汗をかくようにすると、本格的に暑くなる前から暑さに強い体づくりにつながります。朝礼などの機会に、経営者が社員に勧めてもよいでしょう。

暑熱順化の方法は、こちらの記事をご覧ください。

7 環境を整える工夫(1)日差しや熱が発生する場所を避ける

次に、熱中症対策に有効な「環境を整える工夫」について、ポイントを4つに絞って紹介していきます。

まずは、オフィス内でできる対策として、

日差しをカーテンで遮ったり、背の高い観葉植物を窓際に置いたりして暑さをしのぐ

ことが挙げられます。エアコンの温度を低く設定していても、窓際などは日が当たるため、他の場所より気温が高くなりがちです。

また、

サーバールームなど、熱が発生する業務機器がある場所では、熱を遮る遮蔽物を設置する

のも効果的です。日差しを避けられない屋外での業務が発生する場合は、比較的涼しい午前中や夕方に、作業を集中して行うことも検討しましょう。

8 環境を整える工夫(2)エアコンと扇風機を併用する

空調をエアコンだけに頼ると、冷気が特定の場所に滞留しがちになり、室内の過ごしやすさに差が生まれてしまいます。そんなときは、

扇風機やサーキュレーター(空気を循環させるための機器)を活用して、冷気を循環

させると、冷気が室内に満遍なく行き渡ります。また、窓を開けて換気する際にも、扇風機やサーキュレーターを外に向けて使えば、効率良く換気をすることができます。

なお、エアコンは夏になると購入や修理の依頼が混み合い、暑さが本格化する時期にエアコンが使えない場合があります。そのため、オフィスや自宅のエアコンは早めにクリーニングや試運転を行い、不具合がないか確認しておくようにしましょう。

9 環境を整える工夫(3)温度や湿度を「見える化」する

また、

温度計や湿度計、暑さの指数を調べる測定器などを用意し、熱中症の危険度を把握できるようにする

ことも、対策の1つとして挙げられます。

屋外での業務が発生する場合、熱中症の危険度が高まるとブザーで通知する携帯型熱中症計や、発汗量から熱中症の予兆を検知するウエアラブル端末(身に着けられる端末)などの導入を検討してもよいでしょう。

10 環境を整える工夫(4)「テレワーク手当」で快適な労働環境を実現する

テレワークをする社員の中には、部屋にエアコンがない人もいます。また、光熱費がかさむことから、エアコンの使用を控えている社員もいるでしょう。

しかし、十分な空調設備のない中で作業を続けると、熱中症のリスクが高まります。そこで、

「テレワーク手当」を支給して、熱中症になりにくい環境の実現を支援する

ことも1つの手です。テレワーク手当の金額は職場によって様々ですが、一般的な相場は月額数千円程度です。

自宅から会社までの距離が離れている場合、通勤中に熱中症になってしまう恐れもあります。猛暑が予想される日にはテレワークを推奨して、日割りでテレワーク手当を支給するなど、柔軟な対応を心がけましょう。

11 もし、社員が熱中症になってしまったら……?

社員が熱中症になった場合、適切かつ迅速に対処しなければなりません。必要に応じて救急車の出動を要請、もしくは医療機関へ搬送します。主な流れは図表2の通りです。

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熱中症が疑わしい場合、涼しい場所へ移動させて着衣を緩め、頸(けい)部、わきの下、足の付け根などを中心に体を冷やします。もし、「呼び掛けに答えない」「水分を自力で摂取できない」「症状が一向に改善しない」などの場合、すぐに救急車の出動を要請、もしくは医療機関に搬送します。

いざというときに迅速な対応が取れるよう、上記の対処の流れ、搬送先になる病院の所在地や連絡先をあらかじめ社内に周知しておきましょう。テレワークをする社員には、熱中症になった際に受診できる最寄りの病院を確認するように促し、必要に応じて緊急連絡網(本人および家族の緊急連絡先)を整備しておくことも大切です。

参考:熱中症予防対策に役立つチェックリスト

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図表3は厚生労働省「職場の熱中症予防対策は万全ですか?」を基に、熱中症予防対策として確認しておきたい事項をまとめたものです。オフィスだけではなく、在宅勤務における熱中症対策としても有効です。

以上(2025年6月更新)

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令和7年度に新設・改正された雇用関係助成金のポイントとおすすめの助成金

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5分でわかる! 新リース会計基準のポイント

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地域密着の新規事業を支援!「ローカル10,000プロジェクト」のご紹介

「ローカル10,000プロジェクト(地域経済循環創造事業交付金)」とは、都道府県または市区町村(以下「地方公共団体」といいます。)が地域の金融機関等と連携しながら、地域の人材・資源・資金を活用した新たなビジネスを立ち上げようとする民間事業者等の初期投資費用を支援するものです。
ローカル10,000プロジェクトは、総務省が地方公共団体に交付金を交付し、地方公共団体が民間事業者等に補助を行う仕組みです。そのため、申請は必ず地方公共団体を通じて行う必要があります。

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【熱中症対策】夏本番前に確認しておきたい「熱中症」の基礎

1 夏本番を迎える前に「熱中症」対策を講じよう

例年、熱中症で救急搬送される人数は5月ごろから徐々に増え始め、7月から8月にピークを迎えます。総務省消防庁「救急搬送人員及び死亡者数(年別推移)」によると、2024年7月に救急搬送された人数は4万3195人、5月から9月の累計では9万7578人となっています。

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2025年2月時点の気象庁「全国の季節予報」によると、

2025年の6月から8月の東日本の平均気温は、70%の確率で平年以上、北日本・西日本でも、60%の確率で平年以上になる

予想です。

外の現場で稼働する社員はもちろん、通勤時やオフィスにいる社員にも、熱中症のリスクは付き纏います。また、2024年は10月に入っても東京都心で気温が30度を超える日があり、熱中症対策が必要な期間も、年々長期化しているといえます。

なお、2025年6月1日から労働安全衛生規則が改正され、会社に対し、

  • 作業者に熱中症の自覚症状があるときや、作業者が熱中症の疑いがある同僚などを発見したときは、会社にその旨を報告させるよう体制を整え、周知すること
  • 熱中症のリスクがある作業を行う場合、あらかじめ作業場ごとに、症状の悪化を防ぐための措置やその手順を定め、周知すること(体を冷やす、医師の診察を受けさせるなど)

が義務付けられます。違反した場合、労働安全衛生法により、

6カ月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金

の対象になります。

職場の熱中症対策は、夏本番を迎える前に手を打っておくのが吉です。手始めとして、この記事で具体的な症状と熱中症になりやすい条件を確認していきましょう!

2 熱中症はどのような状態なのか?

熱中症の定義は、次の通りです。

体温を平熱に保つために汗をかき、体内の水分や塩分(ナトリウムなど)の減少や血液の流れが滞るなどして、体温が上昇して重要な臓器が高温にさらされたりすることにより発症する障害の総称(環境省「熱中症環境保健マニュアル」)

暑い場所などで作業をし続けると、体内で熱が発生して体温が上昇します。通常は体温調節機能が働き、汗をかいて熱を体外に逃がすことで体温が下がりますが、体内の水分や塩分のバランスが崩れると、体温調節機能が働きません。その結果、体温が下がらず熱中症になることがあります。

熱中症の主な症状とその程度は、次の通りです。

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熱中症は軽症の場合、目まいや立ちくらみなどの軽度な症状で済むこともあります。しかし、重症化すると意識障害などを引き起こし、最悪のケースでは死に至ることもあります。そのため、いち早く症状に気付き、重症化する前に対処することが重要です。

3 どんな人が熱中症になりやすい?

同じ環境で同じ作業をしていても、個人の体質、普段の生活習慣、その日の体調など、熱中症のなりやすさは人によって違います。

例えば、寝不足や食欲不振などで体調が優れない、下痢や二日酔いなどで脱水症状気味といったときには、特に注意が必要です。また、肥満の人や、運動習慣がなく体力や持久力のない人も、熱中症になりやすいとされています。

その他、高齢者や持病のある人、体に障害のある人、(日焼けを防ぐために)暑い中でも厚手の長袖を着ている人なども、注意が必要です。

普段からマスクを着用している人も注意が必要です。特に高温多湿の状況でマスクを着用していると、皮膚からの熱が逃げにくくなったり、喉が渇いていることに気付かなかったりすることから、体温調節がしづらく、熱中症になるリスクが高いとされています。

4 高温多湿でなくても熱中症になりやすい環境は?

熱中症になりやすい環境としては、

  • 風が弱い
  • 日差しが強い
  • 急に暑くなった日
  • 熱帯夜の翌日
  • 照り返しが強い場所
  • 熱波が襲来するとき

などが挙げられます。

空調が効いたオフィスであっても、熱が発生するサーバーや複合機などの業務機器が近くにある場所で作業するときには、注意が必要です。

また、テレワークの場合、電話やウェブ会議の音声を聞き取りやすくしたり、仕事に集中したりするためにドアや窓を閉め切ることがあります。作業する場所にエアコンがないという人もいますので、長時間作業し続けることを避けて、適度に休憩を取るように促しましょう。

以上(2025年6月更新)

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