リスクマネジメントの進め方とビジネスに関するリスク一覧

「新規事業にどれだけ資金投入するか?」「社員を採用すべきか、業務委託にすべきか?」「運転資金をどう工面するか?」など経営はこうした判断の連続で、その結果には常に「リスク(不確実性)」が伴います。リスクに備えるうえで重要となるのが「リスクマネジメント」です。

リスクマネジメントとは、リスクを組織的に管理し、損失などの回避や低減を図るプロセスです。

コロナ禍、不安定な国際情勢、物価高、円安、人材不足などが同時に押し寄せる不確実な時代にあって、リスクマネジメントはますます重要になりました。この記事では、一般的なリスクマネジメントの流れやビジネスに関するリスク一覧を紹介していきます。

1 リスクマネジメントとクライシスマネジメントの違い

まずは、リスクマネジメントとクライシスマネジメントの違いを確認しましょう。下の図で分かりやすく示してみました。

リスクマネジメントの流れ

「事業を脅かす危機の発生」を挟んでリスクマネジメントとクライシスマネジメントがあることから分かるように、両者には次のような違いがあります。

  • リスクマネジメントは「事前の策」で、リスクを組織的に管理し、損失などの回避や低減を図るプロセスです。
  • クライシスマネジメントは「事後の策」で、会社が危機的な状況に直面したときの対応です。

では、この記事のテーマであるリスクマネジメントに注目し、その進め方を説明していきます。基本的な進め方は、「リスクの特定」から「モニタリングと改善」にいたる、5つのステップに分けられます。

  • リスクの特定:リスクを洗い出す
  • リスクの分析:リスクの大きさを分析する
  • リスクの評価:対応の優先順位をつける
  • リスクの対応:具体的な対策を講じる
  • モニタリングと改善:効果を検証し、改善する

2 「リスクの特定」とは

リスクの特定とは、自社に悪影響を及ぼす恐れがあるリスクを網羅的に洗い出すことです。

経営者はさまざまなリスクを想定しているはずですが、加えて他の取締役や現場の担当者も交えたディスカッションによって、抜け漏れなくリスクを洗い出しましょう。リスクは純粋リスクと投機的リスクに大別されるので、これを意識すると整理しやすくなります。

  • 純粋リスクとは、企業に損だけをもたらすリスクで、地震や火災、感染症などがあります。
  • 投機的リスクとは、企業に益や損をもたらすリスクで、新規取引や設備投資、為替変動などがあります。

ビジネスに関わる一般的なリスクは次の通りです。純粋リスクと投機的リスクの違いも意識しながら確認してみてください。

(図表2)【ビジネスに関わる一般的なリスク】

戦略リスク
競争状態の変化 予期せぬ競合の出現と顧客喪失など
技術の進化 新技術の出現や研究開発の失敗など
トレンドの変化 消費者ニーズの変化や価格決定の失敗など
人材 採用難、離職、社員の高齢化など
サプライチェーン 自然災害によるサプライチェーンの寸断など
規制強化 法令や新たな規制によるビジネスの停滞など
風評被害 スキャンダルによる企業イメージの失墜など
M&A 敵対的買収、M&A後のPMIの失敗など
持続可能性 環境や社会的責任への不適切な対応など
反社会的勢力 ずさんな信用調査による反社会勢力との取引など
財務リスク
金利 金利変動による貸付コストや投資収益の変化など
為替 為替変動が収益に与える影響など
調達価格 原材料、原油価格の高騰など
流動性 金融商品の売買不能など
資金繰り 資金調達難、運転資金の不足、黒字倒産など
与信 取引相手の倒産による貸し倒れなど
株価の変動 株価の変動による投資損失など
不動産価値の変動 不動産価格の変動による影響など
投資活動 投資活動の失敗による損失など
ハザードリスク
自然災害 地震、洪水、台風、異常気象による被害など
火災 火事による損失など
サイバーセキュリティ サイバー攻撃やデータ漏洩など
地政学 不安定な国際情勢による戦争やテロなど
事故、故障 交通事故や設備交渉など
感染症 新型ウイルスのパンデミックなど
オペレーショナルリスク
製造物責任 製品の瑕疵(かし)、リコールなど
ヒューマンエラー 誤操作や不適切な判断など
業務プロセスの問題 納期遅延、納品ミスなど
情報漏洩 機密情報などの漏洩
コンプライアンス 独禁法や下請法などの違反など
知的財産の侵害 特許や著作権などの不正利用
労務管理 過重労働、ハラスメントなど
労働組合関連 団体交渉やストライキの長期化など
不正会計など 粉飾決算、横領など
環境問題 工場排水の不適切な処理など

(出所:日本情報マート作成)

3 「リスクの分析」とは

リスクの分析とは、洗い出したリスクの大きさを分析することです。

リスクの大きさを定量的に把握するために、

発生確率、被害規模、対策状況といった指標で点数化

をしてみましょう。

(図表3)【定量化する際の判断基準のイメージ】

発生確率 被害規模 対策状況
5点 6カ月以内の発生確率が高い 全社的に甚大な被害がある 対策が検討されていない
3点 1年以内の発生確率が高い 局所的に大きな被害がある 対策は検討している
1点 発生の可能性がある 被害は限定的である 6カ月以内にメドがつく
0点 ほぼ発生しない ほぼ被害はない ほぼ対策は完了している

(出所:日本情報マート作成)

4 「リスクの評価」とは

リスクの評価とは、特定したリスクについて、対応の優先順位をつけることです。

リスクを評価する際は、前述した発生確率、被害規模、対策状況といった指標で点数化した結果を見ます。この他、製品ライフサイクルの考え方を取り入れることもできます。

製品ライフサイクルとは、プロダクト・ライフサイクルとも呼ばれ、製品の状況を、導入期、成長期、成熟期、衰退期の4つのフェーズで示すものです。

製品ライフサイクルを法人の存在そのものに当てはめて、リスクを評価することもできます。例えば、導入期はまだ市場が小さい状況なので競合はほとんど存在しませんが、そもそも製品自体が不発に終わるリスクがあります。フェーズが進んで成長期に入ると、製品がコモディティー化し、値下げを余儀なくされるリスクがあります。

製品ライフサイクル

5 「リスクの対応」とは

リスクの対応とは、対応すべきリスクに対して、具体的な対策を講じることです。

基本的な考え方は、リスクコントロールとリスクファイナンシングに大別されます。

  • リスクコントロールとは、損失の発生頻度と大きさを削減する手法です。
  • リスクファイナンシングとは、損失を補填するために金銭的な手当てをする手法です。

リスクコントロールとリスクファイナンシングの具体的な手法は次の通りです。

(図表5)【リスク対策の方法】

区分 手段 内容
リスクコントロール 回避 リスクを伴う活動自体を中止し、予想されるリスクを遮断する対策。リターンの放棄を伴う。
損失防止 損失発生を未然に防止するための対策、予防措置を講じて発生頻度を減じる。
損失削減 事故が発生した際の損失の拡大を防止・軽減し、損失規模を抑えるための対策。
分離・分散 リスクの源泉を一箇所に集中させず、分離・分散させる対策。
リスクファイナンシング 移転 保険、契約等により損失発生時に第三者から損失補てんを受ける方法。
保有 リスク潜在を意識しながら対策を講じず、損失発生時に自己負担する方法。

(出所:中小企業庁「2016年版中小企業白書」

(注)この図表は、リスク管理・内部統制に関する研究会「リスク新時代の内部統制」から中小企業庁が作成したものです。

6 「モニタリングと改善」とは

モニタリングと改善とは、リスクマネジメントの効果を検証し、必要に応じて改善することです。

リスクマネジメントは継続的に取り組まなければなりません。半期や年度ごとに、特定したリスクの発生状況や、実際に顕在化したリスクの対応が適切だったかを確認します。その際、他の取締役や現場の担当者も交えて話し合いをするのが好ましいです。

7 他社は何をリスクと捉えているのか

ここまでリスクマネジメントの流れを確認してきましたが、他社が何をリスクと捉えているかも気になるところです。ここでは、デロイトトーマツグループ「企業のリスクマネジメントおよびクライシスマネジメント実態調査2022年版」を紹介します。

(図表6)【優先して着手が必要と思われるリスク】

●日本国内
1位 人材流失、人材獲得の困難による人材不足 39.3% (2)
2位 原材料ならびに原油価格の高騰 29.8% (5)
3位 異常気象(洪水・暴風など)、大規模な自然災害(地震・津波・火山爆発・地磁気嵐) 19.7% (1)
4位 サイバー攻撃・ウイルス感染等による大規模システムダウン 17.8% (6)
5位 サイバー攻撃・ウイルス感染等による情報漏えい 17.0% (3)
6位 事業に影響するテクノロジーの変革 12.8% (12)
7位 サプライチェーン寸断 12.5% (11)
8位 製品/サービスの品質チェック体制の不備 11.0% (7)
9位 長時間労働、過労死、メンタルヘルス、ハラスメント等労務問題の発生 10.7% (10)
10位 市場における価格競争 10.4% (7)
10位 中国・ロシアにおけるテロ、政治情勢 10.4% (27)
●海外拠点
1位 中国・ロシアにおけるテロ、政治情勢 30.9% (4)
2位 グループガバナンスの不全 24.7% (2)
3位 人材流失、人材獲得の困難による人材不足 21.1% (5)
4位 原材料ならびに原油価格の高騰 18.8% (8)
5位 サプライチェーン寸断 18.4% (5)
6位 疫病の蔓延(パンデミック)等の発生 16.1% (1)
7位 東南・東アジアにおけるテロ、政治情報 13.9% (11)
8位 サイバー攻撃・ウイルス感染等による情報漏えい 13.0% (3)
9位 為替変動 11.1% (15)
10位 従業員の不正・贈収賄等 9.8% (14)
10位 市場における価格競争 9.8% (13)

(出所:デロイトトーマツグループ「企業のリスクマネジメントおよびクライシスマネジメント実態調査2022年版」

(注1)有効回答数は376社です。
(注2)( )内は、2021年調査時の順位です。

こうした調査の他にも、有価証券報告書やホームページから他社が重視しているリスクを確認できます。同じ業界であれば自社にも関係しますし、取引先(大企業)のリスクを把握し、自社のリスクマネジメントに反映させることもできます。

8 独自のフレームワークに落とし込む

通常、リスクを分類整理するときは発生確率と被害規模の軸を用います。これを基本としつつ、想定時期と対策状況などの軸を加えたポジションマップを作ることで、別の視点からもリスクを評価できます。何を軸にするかは、会社の状況と経営者の感覚によります。

フレームワーク

以上(2024年1月更新)

画像:Photon photo-Shutterstock

損益分岐点を下げる管理会計

会計には、財務会計、税務会計、管理会計の3種類があります。財務会計とは「株主や金融機関などの利害関係者に会社の状況を説明するための会計」、税務会計とは「法人税や住民税などを申告・納税するための会計」、管理会計とは「経営者が会社の状況を知って意思決定するための会計」といったところです。

ビジネスでよく聞く「損益分岐点」とは、管理会計で用いられる最もポピュラーな項目の1つです。英語では「Break-even Point」と訳され、文字通り、「利益を出すために必要な売上高」ということになります。裏を返せば、「いくら売れば利益が出るのか」ということであり、経営者にとっては、足元の状況を確認するときや、将来の経営計画を立てるときに重要な指標となります。

経営者の興味は損益分岐点の計算方法を暗記することではなく、いかに損益分岐点を下げるかにあるでしょう。つまり、どのようにして効率的に利益を上げていくかということです。これを検討するには、やはり損益分岐点の構造を知る必要があります。その上で、目標利益に応じて必要な売上高を計算するなど、より実践的な使い方をしていくことが大切です。

1 損益分岐点=固定費/限界利益率

タイトルでも示している通り、損益分岐点は「固定費/限界利益率」で求めることができます。とにかく、この基本を覚えてください。この公式を覚えたら、これらが何を意味しているのか、具体的に確認していきましょう。

1)費用を「固定費」と「変動費」に分ける

損益分岐点とは、売上と費用が収支トントンになるポイントです。ここでいう費用の内容は、財務会計でいうところの売上原価や販売費及び一般管理費(以下「販管費」)をイメージすればよいのですが、区分の仕方が違います。財務会計では、売上に直接的に関係するものを売上原価、売上を上げるための活動に関係するものを販管費に区分します。

しかし、損益分岐点を求める際は、費用を「固定費」と「変動費」に分けます。固定費と変動費の考え方はとてもシンプルです。固定費とは、販売数量などにかかわらず一定額が発生する費用であり、減価償却費や建物の賃借料などが該当します。変動費とは、販売数量などに比例して増加する費用であり、仕入原価や材料費などが該当します。固定費と変動費のイメージは次の通りです。

固定費と変動費のイメージを示した画像です

固定費は販売数量などにかかわらず常に一定額なので、真横の線になります。変動費は販売数量などに比例して増加するので、右肩上がりの線になります。そして固定費と変動費の合計額が費用総額となります。

2)「限界利益」と「変動費率」を求める

先に損益分岐点のイメージを確認しておきましょう。上の図表【固定費と変動費のイメージ】に売上高の線を加えると次のようになります。売上高と費用総額の線が交差するポイントが損益分岐点になります。そして、売上高が損益分岐点を超えると利益が生まれます。この利益は、財務会計の営業利益と考えればよいでしょう(売上原価と販管費は、固定費か変動費として認識しているためです)。

損益分岐点売上高のイメージを示した画像です

では、「限界利益」と「変動費率」を確認しましょう。限界利益とは、売上高から変動費を引いたものです。具体的には、次のように限界利益を計算します。

限界利益=売上高-変動費

変動費は販売数量などに応じて変動するものですから、売上が増えるときも減るときも一緒についてくるイメージです。基本的には限界利益を超える利益を出すことはできず、限界利益は会社に残る利益の源泉といえます。つまり、限界利益で固定費を賄えれば利益が出るということであり、限界利益と固定費が同じになるポイントが損益分岐点です。

さて、計算の話に戻りましょう。限界利益が分かれば、「限界利益率」も理解しやすくなります。限界利益率とは、売上に占める限界利益の割合です。具体的には、次のように限界利益率を計算します。

限界利益率=限界利益/売上高

限界利益率が高ければ(変動費率が低ければ)、損益分岐点は低くなる傾向となります(固定費の状況にもよります)。そして、固定費を限界利益率で割ることで、どれだけの限界利益率ならば固定費を賄うことができるかが分かります。これが損益分岐点です。具体的には、次のように損益分岐点を計算します。

損益分岐点=固定費/限界利益率

なお、損益分岐点の計算式としては、次のものを見かけることが多いかもしれませんが、意味する内容は同じであることを理解いただけると思います。「(1-(変動費/売上高))」の部分が表しているのは、限界利益率のことなのです。

損益分岐点=固定費/(1-(変動費/売上高))

2 損益分岐点を計算してみよう

1)本当にもうかっているのかな?

次のように判断することが、結構多くありませんか。しかし、「40万円の黒字」というのは本当なのでしょうか?

「よし、2000個を完売! 仕入原価が160万円(800円×2000個)で、売上は200万円(1000円×2000個)なので、40万円の黒字だ!」

実は、上の説明だけでは40万円の黒字と判断することはできません。仕入原価は変動費であり、売上高から変動費を引いたものが限界利益です。そのため、「40万円の限界利益」あるいは「限界利益率は20%」という説明は正しくても、「40万円の黒字」と判断するのは早計です。

なぜなら、損益分岐点を求める際は固定費も考えなければなりません。例えば、製造機械の減価償却費や、建物の賃借料などが固定費となります。この固定費を限界利益で賄えているかどうかが重要です。仮に「固定費が50万円」だったらどうでしょうか。40万円の黒字どころか、10万円の赤字に転落してしまいます。計算式は次のようにシンプルです。

200万円(売上高)-160万円(変動費)-50万円(固定費)=-10万円

2)いくら売ればよい?

では、このようなケースでは、いくら売れば利益が出るのでしょうか?

これを求めるのが損益分岐点です。損益分岐点の求め方はこれまで紹介した通り、「損益分岐点=固定費/限界利益率」となります。具体的には、次のように損益分岐点を計算します。

損益分岐点=50万円/20%=250万円

参考として、よく見る計算式も紹介しておきましょう。この2つの計算式は同じことを示しています。

損益分岐点=50万円/(1-80%)=250万円

3 損益分岐点を下げる

ここまでの内容で、損益分岐点やそれに関連した数値の求め方についてご紹介しましたが、冒頭で触れた通り、 経営者の興味は損益分岐点を下げることです。実際のビジネス上では、より多くの利益を上げる、つまり損益分岐点を下げるために、硬軟織り交ぜた戦略が取られますが、その効果を感覚的に検証するだけでは十分ではありません。損益分岐点の考え方を加え、定量的に捉えるようにしましょう。以下で2つの例を紹介します。

1)目標利益を達成する売上高の求め方

ビジネスプランを練る際、「夢のあるトップライン(売上高)から決める!」という人がいます。悪いことではないものの、利益についても考慮しないと、目標売上は達成しているのに、利益が出ていないということになりかねません。そこで、目標利益をきちんと設定し、それを達成する売上高を求める必要があります。具体的には、次のように目標利益を達成する売上高を計算します。

目標利益達成売上高=(固定費+目標利益)/限界利益率

仮に、「固定費は400万円」「目標利益は500万円」「限界利益率は30%(変動費率:70%)」といった場合、次のように目標利益を達成する売上高を計算します。

目標利益達成売上高=(400万円+500万円)/30%=3000万円

さて、上の例では500万円の目標利益を達成するためには、3000万円の売上が必要ということになります。単純にいえば、利益を上げる方法は売上高を上げるか、費用を抑えるかの2通りしかないわけです。仮に、費用を抑える施策を打つとしましょう。仕入先を変えて変動費率を10%削減できれば、変動費率の裏返しである限界利益率は10%向上します。その結果、目標利益を達成する売上高は次のようになります。

目標利益達成売上高=(400万円+500万円)/40%=2250万円

2)広告と値下げ、どちらが効果的か?

損益分岐点を下げる、つまり売上高を上げるか、費用を抑えるかの方法について、今度は売上高を上げる施策を取った別の事例を見てみましょう。売上高を上げるために広告を打つか、それとも値下げをするか。ビジネスでよくあることです。どちらの施策が効果的なのかを検証してみましょう。

ここで販売するのは「商品A」です。この商品Aの過去の販売実績は次の通りです。

  • 単価:1000円
  • 販売数量:1万個
  • 売上高:1000万円
  • 変動費:600万円
  • 固定費:350万円

商品Aの販売数量を30%伸ばすために、次の2つのプランを検討しています。どちらが効果的だと思いますか?

  • プラン1:広告戦略。100万円で広告を打つ
  • プラン2:値下げ戦略。販売単価を10%引き下げる

この前提条件で考えた場合の結果は次の通りです。

損益分岐点売上高のプランです

プラン1:広告戦略の利益は70万円、プラン2:値下げ戦略の利益は40万円なので、このケースではプラン1:広告戦略が効果的という結果になります。ただし、状況によって結果は大きく変わるので注意が必要です。図表3の【参考_値下げ戦略】の欄を見てください。仮に商品Aの価格弾力性が高く、値下げによって販売数量が45%伸びると予想すれば、利益は85万円となります。

4 固定費と変動費をどう分ける?

損益分岐点を求める際の基本である固定費と変動費について、現場において最も迷う点について触れておきます。それは、費用を固定費と変動費のどちらに区別するかということです。

例えば、「広告宣伝費は、固定費か、変動費か」と聞かれたら、迷う人もいるのではないでしょうか。利用する広告媒体などによって違いますが、原則として、広告宣伝費は売上高の金額に比例して増加しないので、固定費に分類します。

それぞれの費用を厳密に分類するのは難しく、時間もかかります。少し大ざっぱでもよいので、経理・会計上の勘定科目に基づいて、次の方針に従って分類するとよいでしょう。その上で、不都合が生じれば、実情に応じて見直しましょう。

  • 仕入原価、材料費、外注費のように、明らかに変動するものは変動費とする
  • その他の費用は、全て固定費とする
  • 水道光熱費のように発生場所が明らかなものは、その場所(区分)の費用とする

5 損益分岐点を用いた主な財務指標

1)損益分岐点比率

損益分岐点比率とは、実際の売上高に占める損益分岐点売上高の割合で、企業がどれだけの売上減少に耐えられるかが把握できます。この比率が低ければ低いほど良く、一般的に80%以下であるのが望ましいとされています。具体的には、次のように損益分岐点比率を計算します。

損益分岐点比率=損益分岐点売上高/実際の売上高

2)安全余裕率

安全余裕率とは、実際の売上高に占める、実際の売上高と損益分岐点売上高の差額の割合で、企業の経営状況にどの程度余裕があるのかが把握できます。この比率は高ければ高いほど良く、一般的に20%以上であるのが望ましいとされています。具体的には、次のように安全余裕率を計算します。

安全余裕率=(実際の売上高-損益分岐点売上高)/実際の売上高×100

6 損益分岐点の活用方法

1)価格設定の最適化

損益分岐点を計算することで、取り扱う商品やサービスに対して最適な価格を設定する助けになります。思うように商品が売れなかったり、集客がうまくいかない状況が続いたりすると、安易に価格を下げすぎてしまったり、割引セールなどの施策に走ってしまったりしがちです。そういった場合でも損益分岐点を押さえておくことで、利益とのバランスを考慮した価格設定を意識することができます。

2)売上目標の設定

損益分岐点を分析することで、売上目標の設定にも役立ちます。分析結果を基に、事業として目指すべき売上高を定量的に定めることができます。これによって、営業活動やマーケティング戦略を具体的かつ効果的に策定するための指標として利用でき、また貴重な経営資源も効率よく配分することが可能になります。

3)リスク管理の強化

損益分岐点を把握することで、市場の変動や経済状況の悪化に対するリスク管理を強化できます。例えば、市場が予想よりも縮小した場合に、どれだけの売上が減少するか、またそれによってどの程度利益に影響が出るかを事前に把握することができます。こういった情報は、不測の事態に備える上での貴重なデータとなり、将来的にも持続可能な成長を支える基盤となります。

7 損益分岐点の分析におけるAIの活用事例

ここまでの解説で、損益分岐点の分析が、いかに企業の健全性や効率的な経営戦略を把握するために重要かということが理解できたのではないでしょうか。近年では人工知能(AI)の進化により、こういった売上関連の分析手法も革新的な変化を遂げています。最後に、身近なAIの活用事例をいくつかご紹介しておきたいと思います。

1)ダイナミックプライシング

ダイナミックプライシングとは、需要と供給のバランスに合わせて価格設定を変動させるシステムのことです。これまで商品やサービスの価格設定は、この記事でもご紹介したように、損益分岐点などの分析結果や経営者の経験に基づいた判断などによって決定されてきました。そのため、どうしても属人化に対する費用や時間の面で、価格設定の変更には大きな負担が伴っていました。

ところがAIの活用により状況は一変、より高度で複雑な価格設定が即座に反映できるようになりました。飛行機や新幹線のチケット、ホテル・旅館などの宿泊料金などは、このダイナミックプライシングのシステムの身近な導入事例として、なじみがあるのではないでしょうか。

2)ECプラットフォームでもAI機能が活躍

近年、ShopifyなどのECプラットフォームでも、AIによる技術が積極的に導入されています。これによりオンラインストアの運営がさらに効率化されるだけでなく、売上データの分析にも大きな影響を与えており、販売戦略や価格設定の最適化などにも活かされています。

以上(2024年5月更新)
(監修 辻・本郷税理士法人 税理士 安積健)

運転中のリスクテイキングと「心の天秤」(2024/7号)【交通安全ニュース】

活用する機会の例

  • 月次や週次などの定例ミーティング時の事故防止勉強会
  • 毎日の朝礼や点呼の際の安全運転意識向上のためのスピーチ
  • マイカー通勤者、新入社員、事故発生者への安全運転指導 など

片側一車線の道路を走行中、前にゆっくり走る車がいると、対向車の有無など周囲の状況をよく確認しないまま前の車を追い越したくなることはありませんか。

追い越し時に対向車と衝突するかもしれない、というようなリスクに気付いていながら効率など何らかのメリットを得るためにリスクを冒そうとしてしまう心理について考えます。

運転中のリスクテイキング

1.「心の天秤」に影響されるリスクテイキング行動

リスクテイキング行動とは「危険や損害の可能性を認識しているがリスクを冒す」行動です。

冒頭の例は、追い越し行為を行った場合とそうでない場合との、それぞれのメリット・デメリットやリスクの大きさなどを「心の天秤」にかけ、リスクテイキング行動となる追い越しを実行するか考えながら運転している状態と言えます。

リスクテイキング行動

リスクテイキング行動の例としては先に挙げた追い越しのほかに、信号無視、短い車間距離、割り込み、カーブや交差点でのスピードの出しすぎなどが挙げられます。

運転中のリスクテイキング行動といえる例

リスクテイキング行動の例

リスクテイキング行動の例

リスクテイキング行動の例

もし、周囲に車がいるのにそれを見落とすなどしてリスクの大きさを見誤ると、事故発生につながる危険なリスクテイキング行動となる恐れがあります。

2.なぜ危険なリスクテイキング行動を選んでしまうのか

運転中に、「心の天秤」はなぜ危険なリスクテイキング行動を選択するほうに傾いてしまうのでしょうか。これには以下のような原因が考えられます。

【リスク(ハザード、事故の要因や対象)の見落とし】

「右左折時に信号や標識を見落とす」、「歩行者を見落とす」、「車線変更のとき右後方の死角に潜んでいるバイクに気付かない」などの状況のままリスクテイキング行動を選ぶケースです。

【自分の運転スキルを過大評価】

「少々危ないかもしれないが、自分の運転なら、まあ大丈夫だろう」などと判断するケースです。

【経験による「メリットが大きい」との思い込み】

多少危ない運転をしても、事故に遭わず到着時間短縮などメリットが感じられる経験を重ねた結果、「大丈夫だろう」と思い込みがちになるケースです。

【個人の性向による「メリットが大きい」との思い込み】

積極的にリスクを冒す運転をすることで感じられる「スリル」を、ストレス解消や眠気覚ましの手段として利用するなどのケースです。

※上記のほか、心身状態の影響による判断ミスなども考えられます

リスクテイキング行動

参考文献: 蓮花一己, 向井希宏 編著, 「交通心理学」, 2013, NHK出版

3.より安全な運転に向けて

例えば駐車場から出てくる車や、車の陰にいる歩行者の存在を予測しながら運転すること、つまり『かもしれない』運転の励行は安全運転の基本であり、危険なリスクテイキング行動を避けることにつながります。

これ以外にも以下のような対策が考えられます。

【自分の運転スキルを過大評価しないために】

同乗者からの意見や、ドラレコやスマホアプリ等の運転診断機能活用など、第三者からの評価は自分自身の運転スキルについて気づきを得られるきっかけになりそうです。

【慣れ、個人の性向の問題に対応するために】

個人での解決が難しい部分もあります。安全運転を「ほめる」文化や、トップから現場まで同じレベルの交通安全意識を共有する風土作りなど、組織的な取り組みをお勧めします。

以上(2024年7月)

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画像:amanaimages

【総まとめ】契約実務で押さえておくべき3つのポイント/弁護士が教える契約・契約書の基礎知識(7)

1 契約を締結する当事者は誰か

このシリーズで触れてきたように、契約は日常のさまざまなシーンで締結されます。これまで6回にわたって契約書の定義、契約書の読み方、印鑑の意義、具体的なチェック方法を説明してきました。しかし、契約実務にあまり携わったことがない人にとっては、やはり「よく分からない」ものかもしれません。

とはいえ、注文書のやり取りだけをして契約書を締結せずにビジネスを進めることにはリスクがあります。また、「市販のひな型だから大丈夫」と内容を確認しないまま契約を締結するという形だけ整えることも、実態に即していない内容である可能性があるため問題です。

そこで、この記事では、これまでの連載を踏まえて、特に注意しなければならない、次の3つの点を簡潔にまとめましたので、有効に活用していただければと思います。

  • 契約を締結する当事者は誰か
  • 一般的な契約条項で見落としはないか
  • 押印・印紙貼付に誤りはないか

2 契約を締結する当事者は誰か

まずは、契約相手の誰が、契約締結権限を有しているかを確認しましょう。相手が法人の場合、代表取締役や支配人であれば契約当事者として問題ありませんが、事業責任者などは契約内容を実質的に決定する権限があっても、会社を代表して契約を締結する権限まではないことも多々あります。

契約を締結できる人・できない人については、「契約」とは何か?身近だからこそ正しく知ろうで詳しく紹介しているのでご確認ください。

(図表1)【法人と契約をする場合に、契約を締結できる人】

相手の状況 法的な問題点 ポイント
代表者 法人の代表者は法人を代表する法的権限を有しているので、契約を締結することができる。株式会社の場合、代表取締役が代表者であるのが一般的。 法人によって代表者の肩書はさまざまなので、法的な権限があるかについては、登記事項証明書で確認する。
支配人 支配人とは、会社から本店または支店の主任者として選任された商業使用人のこと。商法において、その営業に関して会社を代表して契約を締結する権限が与えられているので、契約を締結することができる。 ホテルやレストランなどの責任者を「支配人」と呼ぶことがあるが、商法上の支配人とは必ずしも同じではない。法的な権限があるかについては、登記事項証明書で確認する。
事業責任者 代表権はないため、契約締結権限があるかを個別に確認する必要がある。実際に、その契約内容の範囲において事業に関する権限を有していれば契約を締結できる。 事業責任者の権限は登記事項証明書では確認できないため、相手に直接確認する必要がある。

(出所:弁護士監修のもと、日本情報マート作成)

(図表2)【個人と契約をする場合に、契約を締結できる人】

相手の状況 法的な問題点 ポイント
未成年 未成年は、結婚している場合などの例外を除き、法定代理人(親権者や未成年後見人)の同意を得た上で、契約を締結する必要がある。法定代理人の同意を得ていない場合は、法定代理人や未成年者本人に契約を取り消される恐れがある。親権者などその未成年者に代わって契約を締結できる人(法定代理人)などと契約を締結するか、法定代理人などの同意(親権者が婚姻中の場合は父母両方の同意)が必要。 本人確認として、運転免許証、パスポート、個人番号カード(マイナンバーカード)などで、住所・氏名・生年月日などを確認する。契約を取り消されると、遡って契約はなかったものとなる。
成年被後見人 成年被後見人は、自ら契約を締結することはできない。成年被後見人は、成年後見人の同意を得ていても、自ら有効な契約を締結できないため、事前に成年後見人の同意を得ていたとしても、成年後見人から契約を取消される恐れがある。成年被後見人と契約を締結しても、成年後見人や成年被後見人本人から契約を取り消される恐れがある。 本人確認として、運転免許証、パスポート、個人番号カード(マイナンバーカード)などで、住所・氏名・生年月日などを確認する。日用品の購入その他日常生活に関する行為は取消不可。
被保佐人 被保佐人は、不動産売買などの法律で定められた重要な契約については、保佐人の同意なく契約をすることはできない。これに反して契約した場合は、保佐人や被保佐人本人から契約を取り消される恐れがある。 本人確認として、運転免許証、パスポート、個人番号カード(マイナンバーカード)などで、住所・氏名・生年月日などを確認する。保佐人の同意が必要な行為は、民法13条第1項で列挙されている。例えば、預貯金の払い戻し、お金の貸し借り、不動産の売却や賃貸借契約の締結などがある。
被補助人 被補助人は、不動産売買などの重要な契約を、家庭裁判所が「補助人の同意が必要な重要な行為」と定めた場合、補助人の同意なく契約をすることはできない。これに反して契約を締結した場合は、補助人や被補助人本人から契約を取り消される恐れがある。

本人確認として、運転免許証、パスポート、個人番号カード(マイナンバーカード)などで、住所・氏名・生年月日などを確認する。補助人の同意が必要な行為は、家庭裁判所が定めたもののみ。

(出所:弁護士監修のもと、日本情報マート作成)

3 一般的な契約条項で見落としはないか

契約の本文は一般条項と主要条項に大別されます。

一般条項とは、契約内容にかかわらず、共通して定められることの多い条項です。「解除条項」「損害賠償条項」などがあります。

主要条項とは、一般条項以外の条項です。個々の契約書で大きな違いが生じます。

一般条項は「当たり前の定め」として認識されがちなため、抜け漏れも生じます。そうならないようにしっかりと確認しましょう。一方、主要条項は個々の契約によって変わるため、注意が必要です。納期や金額などをしっかり確認しましょう。

ここでは、民法改正を踏まえて、契約締結に当たって、一般的に注意すべき点を契約類型ごとに見ていきましょう。

1)契約目的を明記しているか

改正民法では当事者の意思が尊重され、どのような目的で契約が締結されたかによって履行責任、債務不履行責任、契約不適合責任等の内容が変わってくるため、今後は契約目的を明記することが重要になってきます。

2)知的財産権の帰属や利用方法について、どのように規定されているか

納品物に係る所有権と知的財産権は、権利としては別であり、それぞれの帰属を明記する必要があります。そして、所有権と知的財産権の帰属が異なる場合には、知的財産権の利用方法(使用許諾等)を定める必要があります。

3)危険負担は誰が負うか

改正民法では、いわゆる債権者主義が撤廃され、債務者主義に統一されました(売買契約において天災で物が滅失した場合、その危険は債務者(売主)が負うことになります)。そのため、従前のように債権者主義としたい場合には、契約書に記載する必要があります。

4)債務者の帰責性が要件となっているか

改正民法によって、債務不履行解除を行うに当たって、債務者の帰責性は不要となりました。そのため、債務不履行解除ができる場合を制限するために、債務者の帰責性を必要とする場合には、契約書に記載する必要があります。

5)損害賠償の内容はどのように規定されているか

賠償義務を負う損害の範囲や損害賠償額の上限がどのように規定されているか。また、損害額の算定が難しい場合には、損害賠償額の予定に関する記載が必要かを検討しなければなりません。

6)専属的合意管轄の裁判所はどこになっているか

離れた場所にある裁判所で訴訟を提起されることになると、訴訟対応の手間・労力が増えることから、留意して決める必要があります。

4 押印・印紙貼付に誤りはないか

契約内容が決まり、残すは締結だけとなった場合でも、押印作業を誤ってしまうと契約の効力が否定されることになりかねません。また、課税文書について印紙を納めていないと、思わぬ形で過怠税を徴収されるリスクが生じることもあります。

そのため、押印と印紙についても注意をする必要があるでしょう。具体的には次の点に留意する必要があります。

1)電子契約で締結可能か

電子契約で締結する場合は、法律上、書面によることが必要な契約でないかを確認する必要があります。また、電子署名を行う相手が契約締結権限のある者(または契約締結権限のある者から委任を受けた者)であるかの確認も必要です。

2)契約書に押す印鑑は代表者印とすべきか

法人が契約当事者の場合に、角印が押されている契約書がありますが、角印は信用性が必ずしも高いとはいえず、あまりお勧めはできません。契約者が代表取締役である限り、代表者印(実印など)を押すことをお勧めします。

3)捨印は押すべきか

契約書の内容を修正する際に、訂正印を押して厳格な手続きを踏むことが煩雑である場合などに、簡易な方法で契約書の修正ができるように捨印を押すことがあります。捨印が押されている場合、契約書の内容を簡単に修正することはできますが、想定していなかった内容で修正をされてしまう可能性を否定できません。そのため、捨印は特段の事情がない限り、押さないほうがよいでしょう。

4)契印・割印は押すべきか

全ての契約書に契印・割印を押すことは煩雑なので、重要な契約に限定して行われることが多いです。ただし、契印・割印を押すことによって、デメリットが生じることはありませんので、契約の相手方から契印・割印を押すことを求められた場合は応じてもよいでしょう。

5)課税文書にはどのような契約書があるか

国税庁「印紙税額の一覧表」にて課税文書を確認することができます。また、課税文書かどうかの判断に悩んだ際には、同じく国税庁印紙税の手引」を参照するとよいでしょう。なお、電子契約による場合は、印紙貼付は不要になります。

6)印紙税を節約する方法はあるか

契約書のタイトルを変更したり、正本を1通だけ作成したり(契約当事者の一方は副本を保管する)といった方法で印紙税を節約することは認められていません。契約書の記載や作成方法を変更することで、印紙税を節約することは難しいでしょう。

7)印紙はどのように貼付すればよいのか

貼付する場所に条件はありませんが、契約書の最初のページの左上に貼付することが多いといえます。ただし、どこに貼付しても効力に変わりはありません。

印鑑の種類などについては【図解】印鑑の意義、契約書への印鑑の押し方、印紙の貼り方で詳しく紹介しているのでご確認ください。

5 最後に

契約を締結するに当たっては、個別事情に応じた交渉をして重要な取引条件を決め、契約書に落とし込んでいくことが最も大事であることは言うまでもありません。もっとも、それ以外にこの記事でまとめた点についても対応することで、初めてトラブルにならない契約書の作成が可能となります。この記事が契約書作成の参考となることを願っています。

この「弁護士が教える契約・契約書の基礎知識」シリーズでは、以下のコンテンツを取りそろえていますので、併せてご確認ください

以上(2024年5月更新)

(監修 リアークト法律事務所 弁護士 松下翔)

契約内容の変更、解約の流れ/弁護士が教える契約・契約書の基礎知識(6)

1 契約内容を変更する2つの方法

契約当事者の事情の変更などによって、契約内容が変わることは珍しくありません。既に交わしている契約書(以下「原契約書」)の内容を変更する場合、

  • 原契約書を失効させて、新たな契約書を交わす方法
  • 原契約書は有効としたまま、変更内容だけを「覚書」で交わす方法

のいずれかとなります。

新たな契約書を交わす場合、その前文に、

本契約の成立により、甲乙間で○○年○月○日に締結した「□□に関する契約書」は失効するものとする

などと定めたり、別途「合意解約書」を交わしたりします。この方法は確認や承認に時間がかかるので、大きな変更でなければ、覚書で対応するケースが多いです。ただし、覚書が原契約書よりも法的効力が弱いなどといったことはないので、この点は勘違いしてはいけません。

覚書を交わす場合、どの原契約書に関するものなのかを明確にします。具体的には、覚書の前文に、

甲と乙は、甲乙間で○○年○月○日に締結した「□□に関する契約書」の●●に関する定めを変更する目的で、以下の通り、覚書を締結する

などと定めます。

なお、合意解約書には、契約の終了日の他、残存条項の内容を変更する場合はその旨を定めます。また、債権・債務がないときはその旨を、債権・債務があるときは「清算に関する事項(金額、返済期限、返済方法など)」を定めるのが一般的です。合意解約書は、契約を終了させるための必須事項ではありませんが、後のトラブルを防止する上では有効です。

2 新旧対照表の作成

原契約書の内容を変更する際、変更箇所をまとめた「新旧対照表」を作成することがあります。新旧で変更のない条項については「第○条(略)」などとして、内容の記載は省略します。また、変更のある条項については、全文を記載した上で、変更した文言に下線を引いて、変更した部分が一目で分かるようにします。

(図表)新旧対照表

変更前契約 変更後契約
第1条乃至第5条(略) 第6条(対価)甲が、乙に対して、本契約に基づいて支払うシステムメンテナンス料は、1年間で420,000円(税別)とする。
第6条(対価)甲が、乙に対して、本契約に基づいて支払うシステムメンテナンス料は、1年間で350,000円(税別)とする。

(出所:弁護士監修のもと、日本情報マート作成)

3 契約終了の基本的な流れ

1)契約期間や取引状況を確認する

契約終了を検討する際は、原契約書で定められている「契約期間」「契約終了後も効力が残る『残存条項』」などを確認します。例えば、秘密保持義務については、契約終了後も一定期間は残存するのが通常です。また、「掛(かけ)」で取引をしている場合、契約終了後も債権・債務が残ることがあります。このような注意点を洗い出した上で、契約終了日や残存条項の内容を検討します。

そうして契約を終了させる意向が固まったら、相手方にその旨を伝えます。相手方に配慮し、こうした連絡は早めにすることが大切です。なお、後述の通り、契約書に「契約終了時の通知方法」や「通知期限」の定めが置かれている場合は、その方法に基づいて期限までに通知を行わないと契約終了の意思表示と評価されない恐れがあるので、注意が必要です。

2)契約を終了させる

契約書に自動更新の定めがある場合、

契約期間は○○年○月○日から○○年○月○日までとする。ただし、契約期間満了日の3カ月前までに、甲乙いずれからも解約の申し出がないときは、本契約と同一の条件でさらに1年間更新されるものとし、以後も同様とする

というように、解約申し出期間が定められています。この場合、解約申し出期間内に、相手方に解約する旨の申し出をします。契約書に特段の定めがなければ、申し出方法に決まりはありませんが、解約を申し出た証拠が残るようにします。

一方、原契約書に自動更新に関する定めがなく、

契約期間は○○年○月○日から○○年○月○日までとする

といったように、契約期間だけが定められているときは、特段の手続きを取らなくても、契約期間の満了とともに契約は終了します。

3)契約を中途解約する

契約期間の満了時ではなく、期間の途中で契約を終了したい場合、原契約書に

甲及び乙は、解約日の○カ月前までに相手方に書面又は電磁的方法で通知することにより、本契約を解約することができる

といった定めがあれば、中途解約は可能です。原契約書に定められている方法で、相手方に解約の意思表示を行うとよいでしょう。

仮に原契約書にそのような定めがなく、法律上のルール(例:民法第651条)の適用対象にもならない場合、当事者間で解約について合意しなければ、中途解約はできません。そのため、中途解約を検討する可能性がある取引については、契約を締結する際に、契約書に中途解約条項の定めがあるかを確認し、ない場合はこれを追記する交渉をする必要があるでしょう。

いかがだったでしょうか? 契約内容の変更、解約の流れについて詳しく紹介しました。

この「弁護士が教える契約・契約書の基礎知識」シリーズでは、以下のコンテンツを取りそろえていますので、併せてご確認ください。

以上(2024年4月更新)

(監修 リアークト法律事務所 弁護士 松下翔)

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契約書のチェック! 知財条項、反社条項など/弁護士が教える契約・契約書の基礎知識(5)

1 侮ってはいけない一般条項

一般条項とは、契約内容にかかわらず、共通して定められることの多い条項です。決まり文句のようなものもあるので、チェックが甘くなりがちです。しかし、「多くの契約書で定められているものだから問題ないだろう」などと確認を怠ると、知的財産を相手にいいように使われてしまったり、なかなか債務を履行してもらえなかったりすることがあります。自社にとって不利な内容とならないように、一般条項もしっかり確認しましょう。

シリーズ第4回「契約書のチェック! 基本構成から解除条項や損害賠償条項まで」に引き続き、この記事では、多くの契約書に共通する一般条項に関するチェックポイントを紹介します。

2 「知財条項」のチェックポイント

1)重要性を増す知財条項

知財条項(知的財産(権)に関する条項)とは、請負契約の成果物に含まれる知的財産の取り扱いや、ライセンス契約における相手方の知的財産(権)の利用ルールなどを定めるものです。

知的財産には次の2種類があります。

  • 発明や商標などのように、所定の手続きを経て初めて知的財産権(知的財産の創作者の財産を保護する権利)として保護されるもの
  • 著作権のように特に手続きを経ずとも、著作物を創作した時点で自動的に知的財産権として保護されるもの

請負契約の発注側やライセンス契約のライセンサーは、契約を締結する前に、既存および将来生み出される可能性がある知的財産を含めて関係する知的財産(権)を明確にし、それを守るための措置を講じる必要があります。この点を明らかにしておかないと、「知的財産(権)がどちらに帰属するのか」「知的財産(権)をどのように利用するのか」について、契約当事者間でトラブルになってしまうからです。

2)知的財産(権)の帰属

非常に重要なのは、知的財産(権)の帰属を明らかにすることです。知的財産(権)は物体とは異なり、財産的な価値を持つ情報であることから、権利が誰に帰属するかが不明確である、権利者以外の人が簡単に知的財産を利用できる、といった特徴があります。

成果物が物体の場合、「納品と同時に所有権も相手方に移る」ことだけを定めるケースがあります。物体の所有権という意味ではこれでよいですが、そこに知的財産(権)が含まれる場合、その帰属についても明確に定めなければなりません。例えば、ウェブサイトの構築のように成果物に知的財産(権)が含まれる契約では、プログラムに知的財産(権)が含まれることがあるので、その帰属をより明確に定める必要があります。

また、お互いが知的財産(権)を自社で保有したいと考えた場合、双方の話し合いによって帰属する知的財産(権)の範囲を定めます。1つの成果物の中に知的財産(権)が複雑に入り組んでいる場合、一概に分けるのは難しいため、「知的財産(権)の取り扱いは双方の協議で決めるものとする」といったように定めることになります。

3)知的財産(権)の利用

例えば、共同研究の場合、そこから得られた知見を別の研究に活かしたり、別のビジネスパートナーと提携したりして、ビジネスチャンスを広げたいと思うものです。請負契約から生まれた成果物を改変して、別の相手に販売するというケースも考えられます。

一方、相手方(当初の共同研究者・ビジネスパートナー)としては、できるだけ利用を制限して、自社のビジネスの障害になる可能性のある要素は排除しておきたいと考えるため、利害の不一致からトラブルになることがあります。

このようなケースでは、共同研究の成果などに関する知的財産(権)の利用範囲を制限することも定める必要があります。よくある内容としては、同業他社や競業する取引先との共同利用を制限する、一定期間を置いてから利用を認める、利用にあたって事前承認を必要とする、事前に合意した範囲で双方が自由に利用できるといった定めを置くことです。

3 「期限の利益喪失条項」のチェックポイント

金銭消費貸借契約では、借主は借りたお金を定められた期限までに返済すればよいことになります。このように、「債務の履行を期限までしなくてよい」という債務者(金銭消費貸借契約では借主)の利益を「期限の利益」といいます。

期限の利益喪失条項とは、一定の事由が生じたときに、期限の利益を喪失させて、あらかじめ定められていた期限の到来を待たずして、即時に一括して債務の履行を請求できるようにするものです。民法では、

  • 債務者が破産手続開始の決定を受けたとき
  • 債務者が担保を滅失させ、損傷させ、または減少させたとき
  • 債務者が担保を供する義務を負う場合において、これを供しないとき

の3つを期限の利益喪失事由としています。

実務の契約では、この3つ以外にも期限の利益喪失条項を定めるのが通常です。多く見られるのは、契約違反(例:弁済期限を遅滞した場合等)、差押え・仮処分・強制執行、破産・民事再生・会社更生の各手続きの開始申し立て、支払停止・不渡処分、営業停止処分などです。また、定め方として、相手方からの通知によって期限の利益が喪失するものと、相手方からの通知がなくても期限の利益を喪失するものがあります。

4 「反社条項」のチェックポイント

反社条項(反社会的勢力排除条項)とは、契約当事者が暴力団などの反社会的勢力ではないことの表明や、反社会的勢力であることが判明した場合の、契約解除に関する規定などを定めたものです。暴力団排除条例が各都道府県で施行され、企業においてもコンプライアンスが重視される中、相手方に反社会的勢力の疑いがあるか否かにかかわらず、反社条項は契約書に盛り込まれるのが一般的です。

反社条項では、こちらが反社会的勢力でないことを表明するのはもちろん、相手方が反社会的勢力ではないことも確認します。そのために相手方の表明を受ける他、相手方に関する新聞記事や雑誌記事などの検索を行います。こうした確認は、契約当事者(代理人を含む)に対して行うのが基本ですが、グループ会社などについても確認できれば理想的です。

また、反社会的勢力の範囲については、例えば「暴力団員、暴力団や暴力団員と密接な関係にある者、総会屋、社会運動等標榜ゴロなど」といったように定め、反社会的勢力全てが対象になっているかを確認します。

ここまでは反社会的勢力との契約を未然に防ぐ予防措置ですが、反社会的勢力排除条項には、相手方が本条項に違反していることが判明した場合に、無催告解除をするための解除条項も定めることが重要なポイントとなります。

なお、反社会的勢力排除条項については、業界団体がモデル条項例を公開していることがあるので参考にするとよいでしょう。

5 「合意管轄条項」のチェックポイント

合意管轄条項とは、契約に関するトラブルで裁判になった際、「どこで裁判をするか?」を決めるものです。

よくある専属的合意管轄は合意管轄の1つで、必ず契約当事者が合意した裁判所で第一審の裁判を行います。これを定めていない場合は法定管轄に従うことになり、基本的には被告の住所地を管轄する地方裁判所または簡易裁判所で行います。ただし、財産上の訴えの場合は義務履行地、手形または小切手による金銭の支払いの請求を目的とする訴えの場合は手形または小切手の支払地、不法行為に関する訴えのあった場合は不法行為があった地の地方裁判所または簡易裁判所が管轄します。

例えば、北海道札幌市に本社を置くA社と、沖縄県那覇市に本社を置くB社が契約を締結したものの、その契約では専属的合意管轄裁判所を定めていなかったとします。あるとき、B社が契約義務を履行せず裁判になったとしたら、契約の義務履行地がB社の本社の所在地であれば、A社は義務を履行してもらえない上に、那覇地方裁判所または那覇簡易裁判所まで行かなければなりません。これは1つの例ですが、専属的合意管轄裁判所は自社に近い場所のほうが有利だといえるのです。

この他、専属的合意管轄裁判所を決めておくことで、裁判への対応がスピーディーになりますし、先の例であれば、自社から離れた場所で、裁判が起こされることがなくなるなどのメリットもあります。

なお、地方裁判所と簡易裁判所の違いは訴額により決まります。原則として、訴額が140万円を超える請求なら地方裁判所、訴額が140万円以下の請求なら簡易裁判所が管轄権を有します。

裁判手続きがIT化され、裁判期日がWebで行われるなど、わざわざ提起された裁判所に出頭しなくても裁判手続きを進められる場合もあり、その意味では以前と比べると、合意管轄を定めるインパクトはやや小さくなっているかもしれません。しかし、全く裁判期日に出頭しなくてよいわけではないですし、近くの裁判所に管轄権があるに越したことはありませんので、管轄合意についてはしっかり検討したほうがよいでしょう。

いかがだったでしょうか? 一般条項もしっかりとチェックしなければならないことがお分かりいただけたと思います。

この「弁護士が教える契約・契約書の基礎知識」シリーズでは、以下のコンテンツを取りそろえていますので、併せてご確認ください。


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契約書作成・チェックのポイント

以上(2024年4月更新)

(監修 リアークト法律事務所 弁護士 松下翔)

画像:nendra wahyu kuncoro-Shutterstock

契約書のチェック! 基本構成から解除条項や損害賠償条項まで/弁護士が教える契約・契約書の基礎知識(4)

1 契約トラブルの回避は締結前のチェックが重要!

しゃくし定規に言えば、一度締結した契約は、不本意なものでも守らなければいけません。もちろん、相手と協議して変更を求めることはできますが、時間や手間がかかります。それに、こちらが変更しようとしている内容が、相手にとっては不利なものの場合、なかなか変更に応じてもらえないかもしれません。

ですから、契約書の内容は締結前に慎重に検討することがとても大事です。

特に契約実務に慣れていない人は、「相手方の契約実務に詳しい人が作成したのだから、間違いはないだろう」「ひな型にあるのだから、必要な条項なのだろう」などと思い、確認を怠ることがあります。

しかし、分からない点を、分からないままにして契約書を交わすと、後々、大きなトラブルになることもあります。そのため、契約書は、次のような視点からチェックする必要があります。

  • 交渉で決めたことが正しく、かつ過不足なく盛り込まれているか
  • トラブル防止などに必要となる条項が適切に盛り込まれているか
  • 法的に認められない条項や条項間の矛盾はないか

2 契約書の構成に沿った基本的なチェックポイント

一般的な契約書の構成に沿って、チェックポイントを紹介していきます。なお、契約書を読む際に紛らわしい用語などは、次の記事で紹介しているので参考にしてください。

1)タイトル

タイトルは、契約書を読む人が勘違いしないように、内容がおおよそイメージできるものになっているかをチェックします。とはいえ、タイトルによって契約の法的効力が変わることはありません。

2)前文

前文には、契約当事者や契約の目的などが定められています。これだけで契約当事者などが確定するわけではありませんが、正しく定められているかをチェックします。なお、民法が改正され、契約不適合責任や債務不履行責任を考えるに当たって、これまで以上に当事者の意思が重視されるようになってきているため、前文で契約の目的を詳細に定めている場合、その前文が当事者の意思を解釈する際に、重要な意味を持つことになるでしょう。

3)主要条項

ここからが重要ですが、一般的な契約書は、

「契約自由の原則」は、具体的に次の4つの自由から成り立っています。

  • 主要条項(契約当事者の権利義務)
  • トラブルの際の条項(解除条項や損害賠償条項)
  • 一般条項(合意管轄、準拠法など)

といった並びになっています。

1.主要条項(契約当事者の権利義務)

最も大事なのが主要条項です。その内容は契約ごとに異なりますが、権利・義務の内容が適切かをチェックするのが基本です。読み方としては、

自社は何をしなければならないのか、あるいは相手方に何を求めているのか?

という根本を明確にすることです。複雑な条文は理解しにくいですが、そのような場合は、

「誰が」「誰に」「何を」「いつ」「どこで」「何の目的で」「どのように」「いくらで」

といった要素に分解してみましょう。これらの要素で不明な点は相手に確認しますし、逆にこれらの要素が抜けている場合は、必要に応じて付け加えます。

また、契約書の前半では用語の定義がされていることが多いですが、この定義が曖昧だと契約当事者間で解釈に違いが生じてトラブルになることがあります。さらに、裁判になったときは、用語の解釈が争点とされることもあるので慎重にチェックします。

2.トラブルの際の条項(解除条項や損害賠償条項)

何らかのトラブルがあった場合に対応するための条項です。この記事では、特にご質問を受けることが多い条項として、「解除条項」「損害賠償条項」に注目し、個別に解説しています。

4)一般条項

一般条項とは、契約内容にかかわらず、共通して定められることの多い条項で、合意管轄や準拠法などが該当します。一般条項のチェックについては、次の記事で紹介しています。

5)後文

後文では、「上記合意成立の証しとして、本契約書2通を作成し、甲乙各々署名捺印の上、甲乙各1通を保有する」というように、作成通数、署名押印を要する旨などが定められます。

なお、電子契約の場合、厳密には「甲乙が電子署名をした電子データを保管し〜」などと記載すべきですが、紙の契約書と同様の文言を使っているケースもよく見かけます。

6)契約書作成日

意外と軽視されがちですが、契約書作成日はとても大切です。契約書に特別の定めがある場合以外は、原則として契約書作成日が契約成立日(締結日)と推定され、契約の効力が発生する日となります。また、契約書作成日はトラブルが生じたときに、いつの時点の合意内容であるかを示す重要な証拠となるので、誤りがないかをチェックします。

3 解除条項を定める際のポイント

1)法定解除と約定解除

解除とは、一方の契約当事者の意思表示によって、契約を遡及的に解消することをいいます。契約書に解除条項がなくても、民法上、一方の契約当事者に債務不履行があった場合、契約を解除できることが定められています。これを「法定解除」と呼びます。

ただし、実務上は、この他にも契約を解除しなければならない事由が想定されるため、その旨を契約書に定めておく必要があります。これを「約定解除」と呼びます。

2)約定解除の事由

法定解除に該当せず、約定解除の事由として定めていないことは、一方的に解除できません。そのため、約定解除として必要な事由を漏れなく、契約書に盛り込むことが大切です。

一般的な解除事由には、契約違反、差押え・仮処分・強制執行、破産・民事再生・会社更生の各手続きの開始申し立て、支払停止、営業停止処分、事業譲渡、合併、解散などがあります。その他としては、例えば、業務委託契約では、

相手方の責により、委託業務が期日までに履行される見込みがないとき

などがあります。

3)無催告解除

通常、解除事由が発生した場合、相手方に催告をして契約に従って対応してもらうように促します。それでも対応してもらえないときに契約を解除します。

無催告解除とは、こうしたプロセスを経ないで、解除事由が発生したら、相手方に解除の意思表示をした上で、すぐに契約を解除できるようにする条項です。こちらが該当する場合、相手からすぐに契約を解除されてしまうということでもあるので、契約書の内容は慎重に検討しましょう。

4)解除後の措置

契約を解除するときは「けんか別れ」のようになっていて、とても話し合いができる状態ではないこともあります。そのため、解除後の措置は「協議して決める」というような話し合いを前提とせず、できる限り手続きなどを具体的に定めておきましょう。

契約解除の流れとトラブル時の対応などについては、次の記事でまとめているので参考にしてください。

4 「損害賠償条項」のチェックポイント

1)損害賠償条項の意義

民法上、契約書に損害賠償条項がなくても、債務不履行によって損害を受けたときは、損害を受けた契約当事者に損害賠償請求権が発生します。とはいえ、損害発生時の話し合いをスムーズに進めるためには、損害賠償条項を契約書に定めるのが一般的です。

この際、妥当な損害賠償の範囲と損害賠償額を定めることが大切です。損害賠償は契約当事者間のパワーバランスが表れやすい分野ですので、優位な立場にあるほうは相手方に配慮し、劣位な立場にあるほうは自社が許容できる内容にすることが大切です。

2)損害賠償の範囲

損害賠償の範囲は、損害額に影響する非常に重要なポイントです。例えば、契約当事者が受けた直接的な損害のみとするのか、あるいはそれに関連して第三者が受けた間接的・付随的な損害も含むのかによって、損害額は大きく違ってきます。

このあたりは、実際に損害が発生したときに、契約当事者間で争いになりやすいところなので、明確にしておきましょう。契約当事者間で合意できるのであれば、「直接的な損害のみとする」といったように、契約書で損害賠償の範囲を決めておくとよいでしょう。

3)損害賠償額の予定

契約当事者が合意すれば、契約書にあらかじめ具体的な損害賠償額を定めておくことができます(損害賠償額の予定)。こうすると、損害額を立証する必要がなくなります。

4)損害賠償額の上限

損害賠償額が、会社が負担できないほど高額になるリスクを避けるためには、「損害賠償の額は、第○条に定める年間業務委託料の○倍を上限とする」といったように、あらかじめ損害賠償額の上限を定めるのも一案です。

5)残存条項との整合性

契約書の中には、「本契約の義務は、本契約終了後も○年間は引き続き効力を有する」といったように、契約終了後も効力が存続する条項が定められていることがあります。これを「残存条項」と呼びます。

例えば、契約終了後であっても秘密情報の漏洩は経営に大きな影響があるため、秘密保持義務に関する条項は残存条項とすることが多いのですが、残存条項に反したときにも損害賠償を請求できるように、損害賠償条項も併せて残存条項の扱いにしておく必要があります。

いかがだったでしょうか? 契約書をチェックする際の基本的な視点と、解除条項と損害賠償条項について詳しく紹介しました。

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以上(2024年4月更新)

(監修 リアークト法律事務所 弁護士 松下翔)

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【図解】印鑑の意義、契約書への印鑑の押し方、印紙の貼り方/弁護士が教える契約・契約書の基礎知識(3)

1 印鑑がなくても文書は有効?

実は多くのビジネスにおいて、印鑑は法的には不要です。

日々、当たり前のように印鑑を使っている私たちにとって驚くべき事実ですが、「不動産会社が作成する重要事項説明書」など、一部の文書を除き、印鑑がなくてもその効力に問題はありません。

では、印鑑には何の効力もないのでしょうか?

法律では「押印」があると、「文書が真正」であることが推定されます(民事訴訟法228条4項)。文書が真正とは、本人の意思に基づいて文書が作成されたという意味です。つまり、

文書中の印影が本人の印章によって顕出されたものである場合、本人の意思に基づいて文書に押印されたものと推定されるので、名義人は「勝手に偽造された」と主張しにくくなる

ということです。偽造されたと主張したいなら、印鑑で表示された名義人が、偽造された事実を証明しなければなりません。

もしも契約書などに署名がなく、記名だけで印鑑がなかったら(ゴム印だけが押されているようなケース)、反対に「この文書を本人が作成したものである」と主張する人が、その事実を証明する必要があります。

このように押印があると、法的に文書の効力が認められやすくなります。そのため、日本の商慣行として印鑑が定着しているのです。

なお、印鑑が必要な一部の文書の例は次の通りです。

契約書など文書名 概要
自筆証書遺言 自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならないとされています(民法第968条)
不動産の登記申請書類 申請書には申請人又はその代表者(当該代表者が法人である場合には、その職務を行うべき者)若しくは代理人の押印が必要と定められています(商業登記法第17条第2項)。

(出所:弁護士監修のもと、日本情報マート作成)

2 電子署名があれば大丈夫?

押印があると、法的に文書の効力が認められやすくなるということは、逆に押印がないと認められにくくなるのかと考えてしまいますが、その心配はありません。

2001年4月1日に「電子署名法(電子署名及び認証業務に関する法律)」が施行され、電子署名が手書きの署名や押印と同等に通用する法的基盤が整備されました。

電子署名とは、ネット上のやり取りで利用できる署名です。きちんと認定を受けた認証機関で手続きを行って電子文書をやり取りすれば、電子署名にも印鑑と同じ効力が認められます。今は法律も「印鑑を必須とはしていない」ともいえます。

なお、WordやExcelなどのアプリケーションを使って、印影を模したスタンプを作って利用しているケースもあります。ただ、これは電子署名法における電子署名とは全くの別物であり、法的効力もありません。

以上が印鑑の効力に関する説明です。多くの契約書においては押印がなくても大丈夫ということですが、実際は相手ありきです。こちらが印鑑は不要な理由を説明しても、すぐに印鑑がなくなるとは限りません。そこで以降では、契約に伴う印鑑の利用に関するポイントを分かりやすく紹介します。

3 印鑑の基本

1)印鑑には格がある

「印鑑とはハンコ(判子)の正式名称である」と理解している人もいるようですが、厳密には違います。正しくは、私たちが印鑑やハンコと呼んでいるものを総称して「印章」、印章を紙などに押しつけて映ったものを「印影」と呼びます。

ちなみに、印鑑とは、印章のうち、登記所や銀行などに届け出た特定の印章(印影)のことを指すのですが、この記事では分かりやすく説明するために、全般的に「印鑑」と表現しています。

通常、会社は何本かの印鑑を使い分けています。例えば、見積書は「パソコンでの印字と社印」の組み合わせになっているのをよく見かけます。この組み合わせに問題があるわけではありませんが、契約書の場合で考えると少々軽い印象を受けます。

印鑑には格があり、契約書に押す印鑑はそれなりのものであるほうが好ましいのです。

2)登録印・認印

登録印とは、登記所に登録した印鑑のことで、印鑑証明書を取得できるものです。会社では、登録印や実印、代表印などと呼ばれ、契約書でも利用されます。

規模が大きな会社で代表者が複数いる場合は、複数の登録印を所有していることもあります。 なお、その印鑑が登録印であるか否かは、印鑑証明書によって明らかになります。そのため、契約書に印鑑証明書を添付することもあります。

認印とは、登録印以外の印鑑のことです。

認印は、例えば、宅配便の受取書や簡単な申込書など日常取引等の押印の際に使われるもので、印鑑としての格は低いといえるでしょう。認印としてよく使われる印鑑は、いわゆる「シャチハタ(インキ浸透印)」や「三文判」です。

3)銀行印

銀行印とは、口座開設手続きなどの際に銀行に届け出ている印鑑のことで、その用途は銀行との取引に限定するのが基本です。

多くの金融機関と取引している会社は、複数の銀行印を所有して使い分けていることもあります。登録印と同じように銀行印は重要なものなので、紛失時のリスクを低減するなどの狙いもあります。

4)社印

社印とは、会社名だけを印影とする印鑑のことで、角印や社判などと呼ばれることもあります。

社印が押してあれば、少なくとも会社が、その文書を正式なものとして認識している場合が多いといえるでしょう。

しかし、登録印や銀行印ほど利用者が限定されるわけではないため、相手方から見ると、どの程度の権限を持つ人が、どのような手続きを経て押したのかが分かりません。このように、印鑑の格が必ずしも高くはないため、契約書ではほとんど利用されません。

4 【図解】契印・割印などの印鑑の押し方いろいろ

契約書にはさまざまな意味合いで印鑑が押されます。契約当事者が署名や記名の横に押す「契約印」の他にもいろいろな種類があるので、以下で整理してみましょう。

1)契印はどこに押せばいい?

契印とは、2枚以上にわたる契約書について、それが一体の文書であることを明らかにするために押すものです。

2枚以上の契約書の場合、各ページを開いて、それぞれのページにまたがるように押します。

契印の押し方を示した画像です

また、契約書が多数枚に及び、背が白色の製本テープなどでとじられている場合は、その製本テープ(帯)と契約書本体の境目に印影がかかるように押します。

契印の押し方を示した画像です

2)割印はどこに押せばいい?

割印とは、2通の契約書が同時に作成されたことを明らかにするために、それらの契約書を少しずらして重ね、全てに印影がかかるように押すものです。

3通の場合は、契約書を少しずつずらして重ね、それぞれに印影がかかるように押す方法があります。この場合、各契約書には、印影の上3分の1、中3分の1、下3分の1が押されることになります。

割印の押し方を示した画像です

3)消印はどこに押せばいい?

消印とは、印紙を使用済みの状態にして再利用を防止するために、契約書に貼った印紙と契約書の双方に、印影がかかるように押すものです。

慣例上、1枚の印紙に対して契約当事者がそれぞれ消印を押すことが多くなっていますが、「印紙を使用済みにする」という目的に照らせば、契約当事者のいずれか一方が消印を押せば十分です。なお、消印は押印である必要はなく、署名でも問題ありません。

消印の押し方を示した画像です

4)訂正印・捨印はどこに押せばいい?

訂正印とは、契約書の字句を訂正するために押すものです。

一般的には、訂正箇所に二重線を引き、その上に訂正印を押して正しい字句を記載する方法を取ります。なお、訂正の方法は法令で定められているものではなく、他にも方法がありますが、ここでは省略します。

訂正印の押し方を示した画像です

捨印とは、将来の契約書の訂正に備えて、あらかじめ余白に押しておくものです。

捨印で訂正する場合は、正しい字句に訂正し、訂正箇所を明らかにした上で、余白に「削除○文字」「加筆○文字」などと記します。捨印を押す位置や「削除○文字」などの記載位置は、訂正箇所の近くか余白になりますが、できるだけ訂正箇所の近くにしたほうが、どこを訂正したのかが分かりやすくなります。

捨印の押し方を示した画像です

契約書を訂正する際、新たに訂正印を押してもらうことが難しい場合もあります。そこで、捨印を押しておき、将来起こるかもしれない契約書の訂正を可能にします。ただし、相手方に勝手に契約書を訂正されてしまう危険もあるので、捨印は押さないほうが無難です。

5)止印はどこに押せばいい?

止印とは、文書の最後に余白が生じたときに、そこに押すものです。

止印を押すことで、以下は余白であることを明らかにし、相手方に余白を勝手に利用されないようにします。止印の代わりに、「以下、余白」などと記載する場合もあります。

止印の押し方を示した画像です

6)契約印はどこに押せばいい?

契約印とは、契約当事者が署名や記名の横に押すものです。

もはや都市伝説のようなものですが、この契約印をどこに押すのかについて、「名前にかかるように押すべきだ」「いや、名前にしっかりかかっていると訂正印みたいだから、名前のギリギリに押すべきだ」「印影がはっきり分かるように、名前から離して押すべきだ」などの主張があります。

結論から言うと、契約印の決まった位置はありません。そもそも契約印は、契約締結の意思表示の完全性を高めるためのものであり、押してあることが大事なので、名前の横に押してあれば大丈夫です。

5 契約書に貼る印紙のルール

印紙とは、印紙税法に基づいて納める国税の1つです。

印紙を貼らなければならない文書を「課税文書」と呼び、その文書を作成した人が印紙税を納めなければなりません。課税文書は第1号から第20号まであり、契約書や領収書などがあります。詳細は国税庁のホームページなどで確認できます。

●国税庁「印紙税」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/inshi/inshi301.htm

1)印紙税は誰が納めるのか?

印紙税は、課税文書を作成した人が納めます。ただし、例えば二者間契約の場合、印紙税を契約当事者が折半して納めなければならないといった決まりはないため、納めるのはどちらか一方であっても問題ありません。

ただし、「どちらか一方が納める」というのは、あくまでも契約当事者間の取り決めに過ぎません。印紙税を納めていないほうが税務調査などで指摘されてしまったら、納税を免れることはできません。

2)タイトルを変えれば非課税文書になるのか?

課税文書に該当しなければ印紙税は納めなくてもいいため、契約書のタイトルを変えて課税文書に該当しないようにする人がいます。しかし、課税文書か否かの基準は、契約内容を実質的に見て判断されるため、タイトルだけを変えても意味がありません。

3)貼り忘れた場合の過怠税

印紙の貼り忘れは税務調査でも指摘されることが多い事項です。もし、印紙税の不納があった場合、過怠税として納めるべき印紙税の3倍(自主的に申し出た場合は1.1倍)が徴収されます。

4)印紙税を節約する方法はないのか?

印紙税は、正本にのみ課されます。そのため、契約書を正副と区別して節税しようとすることがあります。ただし、副本(コピー)として認められるためには、署名がないことなど複数の条件をクリアする必要があるので、事前に正副の解釈基準をきちんと確認することが大切です。

なお、電子契約においては書面が作成されないため、印紙税は課税されません。ですから、

節税と併せて業務効率化を進めるためには、電子契約を取り入れることが有効である

といえます。

5)消印が必要

印紙には消印をしなければなりません。消印によって、その印紙が使用済みであることが明らかになります。消印をしなかった場合、納めるべき印紙税と同額の過怠税が課されます。

6)契約内容を変更したときの印紙税の負担

契約書が印紙税法上の課税文書に該当する場合、新たな契約書を交わすと、あらためて印紙税を納めなければなりません。

なお、覚書の場合は、

変更箇所が重要な事項の変更となる場合は課税文書として取り扱われますが、重要な事項を含まない変更の場合は課税文書に該当しないため、印紙税が不要になる

ことがあります。判断に迷う場合は、税理士や弁護士などの専門家に確認をするとよいでしょう。

6 課税文書に該当するか否かの判断

文書の内容によって課税文書に該当するか否か、第○号文書かということで決まりますが、解釈が難しい場合もあります。例えば、次のようなケースです。解釈が難しい場合は、所轄税務署に確認してみましょう。

  • 文字通りのリース契約は課税文書に該当しないが、それに付随する機器の保守が請負契約に該当するのか?
  • 基本契約について第7号文書として印紙を貼っているが、そこから派生する個別契約も内容に応じて課税文書に該当するのか?
  • 1通の契約書に、複数の課税文書に該当する要素が含まれている場合、何号として取り扱えばよいのか?

7 印紙はいつ貼る? 契約書の交わし方

実務上、意外と迷うのが契約書の取り交わし方です。契約当事者が一堂に会するのことはなかなか難しいので、郵送などで手続きをすることが多くなります。その際、「印紙はどのタイミングで貼るのか?」などといった素朴な疑問が生じることがあります。

ここでは、A社とB社が契約書Xを交わすときの手順を整理してみましょう(必要に応じて契印や割印を押しますが、ここでは省略しています)。契約書を郵送する際は、簡易書留など記録が残る方法で送付することも検討しましょう。

印紙の貼り方を示した画像です

8 電子契約を採用すると印鑑は不要になる?!

ここまで、印鑑や印紙のルールについて紹介してきました。これらは非常に重要なことですが、電子契約によって変わってきます。

  • 電子契約では、本物の印鑑を押す必要はなく、電子署名をする(電子契約のシステムやプランによって異なる)
  • 電子契約では、紙の契約書を郵送する必要がない
  • 電子契約では、印紙を貼る必要がない
  • 電子契約では、紙の契約書を保管しておく必要がない(キャビネットなどが不要)

電子契約は、今後も普及していくでしょうが、注意点もあります。電子契約には「当事者型」と「立会人型」があります。

  • 当事者型:契約当事者の本人確認をした上で、電子署名を行う
  • 立会人型:電子契約サービスの提供者が、第三者として電子署名を行う

電子契約で利用されている多くは「立会人型」です。こちらは、本人確認のコストがかからないため、電子契約サービスの提供者が「無料プラン」などとして提供できるからです。ただし、「立会人型」が「当事者型」に比べると、本人確認の面で不安を残すことは間違いありません。「当事者型」は、契約当事者が電子の「印鑑証明書」を取得するようなものであり、手間とコストはかかりますが、

重要な契約書を取り交わす際は、「当事者型」を検討する

ことも重要になるでしょう。

また、電子契約では法的効力を持たない契約書もあります。具体的には次の通りです。そのほか、電子契約の利用は可能ですが相手方の承諾が必要な契約書(建設工事の請負契約書(建設業法19条3項、施行規則13条の2)等)もありますので、そういった契約書については注意が必要です。

(図表2)電子契約では法的効力が不十分な契約書の例

契約書など文書名 概要
事業用定期借地契約 事業用定期借地契約は公正証書で契約しなければならないことになっています(借地借家法第23条第3項)。
任意後見契約書 任意後見契約は、法務省令で定める様式の公正証書によってしなければならない(任意後見契約に関する法律第3条) 。

(出所:弁護士監修のもと、日本情報マート作成)

いかがだったでしょうか?契約書の取り交わしについて、疑問に感じることが多いポイントが整理できたと思います。

この「弁護士が教える契約・契約書の基礎知識」シリーズでは、以下のコンテンツを取りそろえていますので、併せてご確認ください。


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(監修 リアークト法律事務所 弁護士 松下翔)

よくある契約書の構成、「条・項・号」、用語の使い分け/弁護士が教える契約・契約書の基礎知識(2)

1 パターンが決まっている「契約書の基本的な構成」

契約書で定める事項に決まった作り方があるわけではありません。しかし、契約書の基本的な構成はおおむねパターンが決まっていて、

タイトル、前文、本文、後文、契約締結日、署名(記名押印)

となっています。

早速、業務委託基本契約書のイメージを確認してみましょう。

(図表)業務委託基本契約書のイメージ

業務委託基本契約書のイメージ

(出所:弁護士監修のもと、日本情報マート作成)

1)タイトル

タイトルとは、「業務委託基本契約書」「売買契約書」「秘密保持契約書」などの表題のことです。タイトル自体に契約の法的効力への影響はなく、自由に付けることができます。ただし、実務上は、契約内容が一目で分かるようなものにします。

また、契約書を「契約書」「契約証書」「覚書」などとすることもあります。こちらもタイトルによって法的効力が変わることはありませんが、実務上は次のように使い分けられることが多いです。

  • 契約書、契約証書:契約当事者双方が権利・義務関係を明確にして、両者が連名で調印する場合
  • 念書、誓約書:一方の契約当事者だけが自分の義務履行を承認して、相手方に差し入れる場合
  • 覚書、協定書:契約条項の解釈や前提事実を明確にするために、主たる契約に付随して作成する場合

2)前文

前文とは、「○○(以下「甲」という)と、□□(以下「乙」という)は、△△について次の通り契約を締結する」といった文言です。契約当事者は誰なのか、契約の目的は何であるのかなどを明らかにします。

3)本文

本文は、一般条項と主要条項に大別されます。

一般条項とは、契約内容にかかわらず、共通して定められることの多い条項です。「解除条項」「損害賠償条項」などがあります。

主要条項とは、一般条項以外の条項です。個々の契約書で大きな違いが生じます。

契約書に記載する順番は、言葉の定義など以降の内容に関わってくる条項や、基本的なもの(売買契約であれば、甲が乙に◇◇を販売するなど)から記載していくのが一般的です。また、一般条項の一部は、契約書の後半にまとめて記載することが多いです。

4)後文

後文とは、「上記合意成立の証しとして、本契約書2通を作成し、甲乙各々署名捺印の上、甲乙各1通を保有する」といった文言です。契約書原本の作成通数、保有する者などを定めます。

5)契約締結日

いつ契約を締結したかが分かるように、契約締結日を記載します。契約書に特別な定めをしていなければ、当該日付が契約の効力発生日と推定されます。なお、本来的にはこのようなことは望ましくありませんが、交渉や手続きの遅れなどからバックデート(日付の遡及)をせざるを得ないことがあります。この場合、契約書に特別な定めをしていなければ、過去に遡って契約に基づく履行義務が生じることになるため注意が必要です。

6)署名(記名押印)

契約当事者(または、その代理人)の署名または記名押印がある契約書は、契約当事者の意思に基づいて成立したものであると推定されます。署名がされておらず、記名だけの場合は、押印もすることで署名と同じ効力があるとされています。また、日本においては、実務上、署名だけではなく、併せて印鑑も押すのが通常です(署名捺印)。

  • 署名:本人が自筆で自分の名前を記すこと
  • 記名:パソコンの印字など、署名以外の方法で自分の名前を記すこと
  • 押印:紙での契約の場合は印鑑を押すこと、電子契約の場合は電子署名または電子押印すること

なお、最近は電子契約システムを利用した契約締結方式も多くなっています。このシステムを利用する場合、署名や記名押印も全て電子で行われます。この点については、以下のコンテンツで解説しています。

2 条・項・号の違い

契約書の内容を確認する際は、「第○条第○項第○号で定めてあります」「第○条の前段と第○条の但書は矛盾していませんか?」といったように、該当箇所を特定して協議をします。

しかし、条・項・号、柱書(はしらがき)、但書、前段、後段の違いを正確に理解していないと、契約内容の確認などの際に、契約当事者間で認識に相違が生じる恐れがあります。そうしたことがないように、以下で基本的な構成を理解しましょう。

1)基本的な構成

1.条・項・号

基本的な構成は条・項・号となります。項は条を細かくしたもの、号は項を細かくしたものです。条の内容が比較的シンプルで、条件などを列挙する場合は、項を飛ばして号が定められることもあります。

なお、契約書によっては条の数が多くなり、内容が分かりにくくなるケースがあります。このような場合は、条の上位の階層に「章」を置いて整理します。

2.項と号の番号に注意

項と号には「1」「(1)」「一」などの番号を付けます。項と号の番号の付け方が同じだと紛らわしくなるので使い分けましょう。

第1項には「1」「(1)」「一」の項番号を付けず、第2項から「2」「(2)」「二」などと付け始めるのが基本です。契約書のひな型などを見ると、第1項から項番号を表示しているものが少なくありませんが、これは分かりやすく表記しているためです。

また、書き方として、号は体言止めにするのが基本です。

2)柱書

柱書とは、条項の中に、号によって項目が箇条書きにされている場合、その号を除いた部分を指します。

3)但書

但書とは、文字通り「但し」という記述から始まり、前文や本文に補足などを加えている部分を指します。

4)前段、後段

前段とは、条項の文章が句点で2つの文に分かれている場合の前半の文、後段とは、同じく後半の文を指します。しかし、後半の文が「但し」で始まる場合は、後段ではなく但書と呼びます。

ちなみに、条項の文章が3つの文に分かれている場合、真ん中の文を中段と呼びます。

第1条(条・項・号など基本的な構造)

これが第1条第1項である。但し、第1項には項番号を付けないのが基本であり、この文は但書である。

2 これが第1条第2項の前段である。これが第1条第2項の後段であり、ここまでを柱書という。

一 これが第1条第2項第1号。

二 これが第1条第2項第2号。

3 契約書でよく見かける、紛らわしい用語の使い方

1)正しい使い分けは意外と難しい?

契約書の作成や確認の際に困るのは、契約書でよく見かける独特の表現です。例えば、「又は」と「若しくは」はどのように使い分ければよいのか、「直ちに」と「速やかに」にはどのような違いがあるのかといったことで、迷ったことはないでしょうか。

ここでは、契約書でよく見かける表現ではあるものの、使い方や解釈に迷ってしまう契約書独特の表現について整理してみましょう。

2)契約書でよく使われる接続詞

1.「又は」「若しくは」

「又は」と「若しくは」は、いずれも「or」を意味する接続詞です。接続する内容が同一グループの場合、最後だけ「又は」を使います。

例)リンゴ又はバナナ
例)リンゴ、バナナ又はイチゴ

以上は全て「果物」という同一グループ内の接続ですが、ここにタコという「魚介」のグループが加わったらどうでしょうか。大きなグループ(果物と魚介)と、小さなグループ(果物グループの中のリンゴとバナナなど)がある場合は、大きなグループは「又は」、小さなグループは「若しくは」でつなげます。

例)リンゴ若しくはバナナ又はタコ
例)リンゴ、バナナ若しくはイチゴ又はタコ

イメージ

2.「及び」「並びに」

「及び」と「並びに」は、いずれも「and」を意味する接続詞で、基本的な使い方は「又は」と「若しくは」と同じです。接続する内容が同一グループの場合、最後だけ「及び」を使います。

例)リンゴ及びバナナ
例)リンゴ、バナナ及びイチゴ

また、大きなグループ(果物と魚介)と、小さなグループ(果物グループの中のリンゴとバナナなど)がある場合は、大きなグループは「並びに」、小さなグループは「及び」でつなげます。

例)リンゴ及びバナナ並びにタコ
例)リンゴ、バナナ及びイチゴ並びにタコ

3)ややこしい表現を正しく理解する

1.「することができる」「するものとする」「しなければならない」

契約書にありがちな文末の表現には、次のような意味があります。

  • することができる:するか否かを選択できる
  • するものとする:することが義務である
  • しなければならない:することが義務である

「するものとする」という表現には、「しなければならない」ほどの言い回しの強さはありませんが、意味は同じと考えてよく、義務であることに変わりありません。

2.「推定する」「みなす」

「推定する」と「みなす」には、次のような意味があります。

  • 推定する:反証を許す
  • みなす:反証を許さない

「推定する」ことと「みなす」ことの違いは、反証があるときの考え方です。例えば、「冬に収穫した赤い果物はリンゴと推定する」場合は、冬に収穫された果物が実はイチゴであるという明確な証拠があれば覆る可能性があります。しかし、「冬に収穫された赤い果物はリンゴとみなす」場合は、事実とは関係なく、冬に収穫された赤い果物をリンゴと捉えるため、たとえ赤い果物がイチゴであったとしても、それはリンゴとして取り扱うことになります。

3.「直ちに」「速やかに」「遅滞なく」

スピードを示す表現には、次のような意味があります。

  • 直ちに:一切の間を置かず、即時に
  • 速やかに:できるだけ早く
  • 遅滞なく:事情が許す限り、最も早く

速い順に表すと「直ちに > 速やかに > 遅滞なく」となります。ただ、いずれも「○日以内」といった具体的な基準にはなりません。そのため、契約書には必要に応じて「3営業日以内」などと定めたほうがよいでしょう。

4.「その他」「その他の」

「その他」と「その他の」には、次のような意味があります。

  • その他:並列関係 例)リンゴ、バナナ、イチゴその他果物
  • その他の:包含関係 例)リンゴ、タコその他の食材

「その他」は並列なので、果物は全て横に並ぶイメージです。一方、「その他の」は包含関係なので、食材という大きな概念の中に、リンゴ、タコが含まれているイメージです。

5.「時」「とき」

「時」と「とき」には、次のような意味があります。

  • 時:時点を指す
  • とき:仮定的条件を指す

例えば、「契約締結の時」とあれば、契約を締結した時点となります。また、「疑義が生じたとき」とあれば、疑義が生じた場合となります。「とき」については、「場合」と読み替えてほぼ問題ありませんが、仮定的条件が2つ以上重なる場合は、大きい条件に「場合」を使い、小さい条件に「とき」を使います。具体的には次の通りです。

第○条

次の各号に該当する場合は、速やかに相手方に報告するものとする。

一 相手方に不利益を与えるおそれがあるとき。

二 ……。

いかがだったでしょうか? 契約は非常に身近な法律行為なので、プライベートではいちいち契約書を作成しないことが多い一方、ビジネスでは契約書を作成することが基本となっている理由をご理解いただけたと思います。

この「弁護士が教える契約・契約書の基礎知識」シリーズでは、以下のコンテンツを取りそろえていますので、併せてご確認ください。


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契約書作成・チェックのポイント

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(監修 リアークト法律事務所 弁護士 松下翔)

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【かんたん会社法(6)】株主の権利と株式の種類

1 株主の権利と株主平等の原則

1)株主の権利は自益権と共益権

株主は、株式会社(以下「会社」)会社に資本を提供する出資者であり、会社が倒産すれば、出資を失うリスクを負っている実質的な会社の所有者です。そのため、会社が儲かった場合、配当(剰余金)を受け取ったり、経営者を選ぶ権利を持っています。これらを自益権と共益権といいます。

1.自益権

自益権とは、株主が会社から直接経済的な利益を受ける権利です。「剰余金の配当を受ける権利」「残余財産(会社が解散し、清算される際に残っている会社の財産)の分配を受ける権利」などがあります。

2.共益権

共益権とは、株主が会社の経営に参加する権利で、「株主総会における議決権」などがあります。上記の通り、経営者である取締役を選任する決議権が典型です。

2)株主平等の原則

株主としての権利義務は、持っている株式の内容と数に応じて平等でなければなりません。そこで、会社は株主名簿を作成し、次の内容を記載・記録することになっています。

  1. 株主の氏名または名称および住所
  2. 株主が持っている株式の数(種類株式の場合、株式の種類と種類ごとの数)
  3. 株主が株式を取得した日
  4. 会社が株券発行会社である場合は株式の株券番号

会社は、一定の日を定めて、その日に株主名簿に記載・記録されている株主を権利者と定めます。

2 株式の内容

会社の設立や新株発行は、株主を募ることでもあり、同時に出資金を募ることでもあります。様々なタイプの会社や株主の要望に応じられるように、株式の内容を自由に設計できれば、それだけ、資金調達がしやすくなります。それゆえに、会社法では多様な株式を認めています。

1)全ての株式の内容を異なる株式にする

定款で一定の事項を定めることで、全ての株式について普通株式とは異なる取り扱いにすることができます。具体的に次の通りです。

  • 譲渡制限株式:株式を譲渡する際に会社の承認が必要な株式
  • 取得条項付株式:一定の事由が発生した場合、会社が強制的に取得できる株式
  • 取得請求権付株式:株主が会社に対して取得を請求できる株式

2)株主によって株式の権利内容を変える

株主は、原則として、株式の内容と数に応じて平等に扱われなければなりません。しかし、非公開会社(全ての株式について譲渡制限(譲渡にあたり会社の承認が必要)がある旨を定款に定めている会社)の場合、定款に定めることで、剰余金の配当、残余財産の分配、議決権行使について株主ごとに異なる定めができます。例えば、

  • 特定の株主にのみ複数の議決権を与える
  • 保有株式数にかかわらず、頭割りで議決権を与える
  • 特定の株主にのみ保有株式数に応じた金額以上(または以下)の剰余金の配当等を行う
  • 保有株式数にかかわらず、頭割りで剰余金の配当等を行う

といった具合です。

3 9つの種類株式

定款で一定の事項を定めることで、次の9つの種類株式を発行できます。

1)剰余金の配当額が異なる株式

優先株式と劣後株式の両方があります。他の株主の先だって、剰余金の配当を受けられる権利があるのが優先株で、この反対の他の株式より遅れてしか配当を受けられないのが劣後株です。業績が悪いときに等に出資を募りたい場合は、優先株を発行するでしょうし、また、会社に資金援助の必要がある場合に親会社や企業が劣後株を引き受けることがあります。

2)残余財産の分配額が異なる株式

優先株式と劣後株式の両方があります。優先、劣後の関係が、上記の剰余金の配当ではなく、会社解散の際の残余財産の配分において認められる株式です。

3)議決権が制限される株式

株主総会の全部または一部の事項について議決権を行使することができない株式を、議決権制限株式といいます。議決権の制限のない一定の株主が会社支配権を持つことになりますが、一定のベンチャー企業等にニーズがあると考えられています。必ずしも健全な姿とは言えないため、公開会社の場合、議決権のない株式が発行済み株式の1/2を超える場合、これ以下にするための必要な措置を講じなければなりません。

4)株式を譲渡する際に会社の承認が必要な株式

一部の種類の株式についてのみ譲渡制限がある会社は、会社法上の公開会社に該当します。公開会社は、非公開会社に比べて定款で会社の基本的な規則を定める自由度が低く、より厳格な会社法上の規律に従うことになります。

従前からある小規模閉鎖会社を念頭にした制度で、仲間以外の人間の会社参入を防ぐことができましたが、一部の株式だけに譲渡制限も付けられるようになっており、より多様な目的にかないます。

5)株主が会社に取得を請求できる株式

株主は、定款に定められた期間内に請求することで、定款の定めに従い、対価を得ることができます。一定の期間、会社の資金需要を賄いつつ、一定の期間後、会社の配当の負担を減らすことが可能になります。

6)一定の事由が発生した場合、会社が強制的に株式を取得できる株式

会社は、定款に定められた事項が生じたことを株主等に通知・公告し、定款の定めに従い対価を支払うことによって、会社が株主から株式を取得することができる株式です。

7)株主総会の特別決議により、他の株式などと引き換えに会社が取得できる株式

株主総会の特別決議によりその種類の株式の全部を取得することができる株式です。

8)一定の事項につき、株主総会の決議に加え、その種類株主総会の決議が必要な株式

いわゆる黄金株や、拒否権付き株式といわれるものです。その種類株主総会で会社の合併などの総会決議事項を否決することできます。合弁会社やベンチャー企業においてニーズがあるといわれてはいますが、特異な制度ではあります。

9)当該株式の種類株主総会の決議だけで取締役または監査役を選任・解任する株式

ある種類株式の種類株式総会だけで、取締役又は監査役を選任できる株式です。その種類株式総会で選任できる取締役、監査役の人数は、定款で定めなければなりません。これらも合弁会社やベンチャー企業において、ニューズがあるといわれています。なお、委員会設置会社および公開会社はこの株式を発行することはできません。

4 発行済株式の内容を変更する手続き

1)既存の全ての株式の内容を変更する手続き

1.譲渡制限

定款を変更して普通株式に譲渡制限を付ける場合、株主総会の特殊決議が必要です。特殊決議には、議決権を行使できる株主の半数以上であって、当該株主の議決権の3分の2以上の賛成が必要です。また、反対株主には買取請求権が与えられます。

2.取得条項

定款を変更して普通株式に取得条項を付ける場合、全ての株主の同意が必要です。反対株主に株式買取請求権は与えられません。

3.取得請求権

定款を変更して普通株式に取得請求権を付ける場合、株主総会の特別決議が必要です。特別決議には、議決権を行使できる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の3分の2以上の賛成が必要です。反対株主に株式買取請求権は与えられません。

2)既存の一部の種類株式の内容を変更する手続き

1.譲渡制限

定款を変更して種類株式に譲渡制限を付ける場合、その種類株式を持つ株主が参加する種類株主総会の特殊決議が必要です。特殊決議の内容や株式買取請求権については、前述した「既存の全ての株式の内容を変更する手続き」と同じです。

2.取得条項

定款を変更して種類株式に取得条項を付ける場合、全ての種類株主の同意が必要です。反対株主がいても、株式買取請求権は与えられません。

3.全部取得条項

全部取得条項付種類株式とは、「7.株主総会の特別決議により、他の株式などと引き換えに会社が取得できる株式」(前述した「2)権利の異なる複数の種類の株式を発行する」を参照)のことです。特別決議には、議決権を行使できる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の3分の2以上の賛成が必要です。

定款を変更して、ある種類株式に全部取得条項を付ける場合、その種類株式を持つ株主が参加する種類株主総会の特別決議が必要です。また、反対株主には買取請求権が与えられます。

5 譲渡制限株式を譲渡するための手続き

1)株主からの承認の請求

譲渡制限株式の譲渡人は、譲渡制限株式を発行した会社に対して、譲受人への譲渡を承認するか否かを決定するよう請求します。

2)譲渡の承認の決定など

譲渡人から譲渡承認の請求を受けた会社は、承認するか否かを決定し、その内容を譲渡人に通知します。この通知は、譲渡承認の請求から2週間以内にしなければならず、これを超えると譲渡を承認したものと見なされます。なお、定款に定めることで2週間を短縮できます。

3)会社または指定買取人による買取請求

会社が譲渡を拒否すれば、譲渡人は株式に投資した資本を回収できません。そこで、譲渡人は、譲渡承認の請求に際して、譲渡を承認しない場合は会社または指定買取人が譲渡制限株式を買取るように請求できます。

4)会社または指定買取人による買取り

3)の請求がなされ、会社が株式譲渡を承認しない場合、会社は、会社が買取るか、別の買取人を指定するかを決定します。

会社が買取る場合、会社は2)の通知をしたときから40日以内(これを超えた場合、譲渡を承認したと見なされる)に、1株当たり純資産額に買取る対象株式数を乗じて得た額を供託します。そして、当該供託を証する書面を譲渡人に交付し、譲渡人に株式を買取る旨および買取る株式の種類および数を通知します。

別の買取人を指定する場合、指定買取人は2)の通知をしたときから10日以内(これを超えた場合、譲渡を承認したと見なされる)に、指定買取人が1株当たり純資産額に買取る対象株式数を乗じて得た額の供託を証明する書面を譲渡人に交付します。そして、指定買取人として指定された旨および買取る株式の種類および数を通知します。

5)売買価格の協議

会社または指定買取人から譲渡人に4)の通知があったら、売買価格を協議します。協議が調えば、それが売買価格となります。

6)裁判所による売買価格の決定

4)の通知があった日から20日以内に、裁判所に売買価格決定の申し立てがあれば、裁判所が定めた額が売買価格となります。一方、20日以内に申し立てがない場合は、4)で供託した金額が売買価格となります。

7)留意点

以上は、譲渡人が承認を求める流れです。反対に譲受人から承認を求めることもでき、基本的な手続きの流れは同じです。譲受人が承認を求める場合、「取得した株式の株主名簿上の株主またはその一般承継人と共同で請求」をするか、「確定判決、裁判上の和解、競売、株式移転などで株式を取得したことを示す資料を提供して請求」します。

6 株式に係るその他の制度について

1)単元株制度

単元株制度とは、

定款で一定数の株式を「1単元」と定め、単元株式数(1単元の株式)につき1個の議決権を認める一方、単元株式数に未たなければ議決権を認めない

というものです。単元株制度の目的は、少額出資者の権利(特に「共益権」)を限定し、会社の株主管理コストを削減することです。つまり、一定の株式数を持つ株主だけを対象に議決権行使に関する手続きをすればよいので、業務が効率化できるのです。

一方、単元株制度は、単元未満株主の権利を制限するため、会社法ではこの点に配慮しています。例えば、

  • 単元株式数の上限を1000および発行済株式の総数の200分の1
  • 単元未満株主は会社に株式の買取請求ができる
  • 単元株式数となるように、単元未満株主が会社に株式を売り渡すよう請求できる

ことなどを定めています。

2)株式の分割・併合

株式の分割とは、発行済株式を細分化することです。例えば、1株を10株に分割すると、会社財産は変わらないまま株式総数が増えます。その結果、1株当たりの株価が下がり、株式の流動性が向上します。株式分割は既存株主にはあまり影響がないため、取締役会設置会社は取締役会の決議、その他の会社は株主総会の普通決議で決められます。

株式の併合とは、数個の株式を合わせることです。例えば、2株を1株に合わせると、会社財産は変わらないまま株式総数が減ります。その結果、1株当たりの株価が上がり、株式の流動性が低下します。また、株主管理コストを削減したり、合併や株式交換などに先立って株式の割当比率を調整したりすることができます。

株式の併合によって1株に満たない端数が生ずる場合、会社は端数の合計数に相当する株式を競売などで売却し、売却金を従前の株主に分配することになるので、既存株主にとっては影響が大きい手続きといえます。そこで、株式の併合を行うためには、原則として、株主総会の特別決議が必要です。また、取締役はその株主総会において、株式併合の必要性を説明しなければなりません。

以上(2024年7月更新)
(監修 有村総合法律事務所 弁護士 有村佳人)

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画像:Mariko Mitsuda