年間1000人以上の経営者と会い、人と人とのご縁をつなぐ代表世話人杉浦佳浩氏。ベンチャーやユニークな中小企業の目利きである杉浦氏が今回紹介するのは、アンナ・クレシェンコさん(Flora株式会社 代表取締役)です。
「頑張ればできます」
シンプルな言葉が胸に響きます。実際に確かな結果を出してきている人の言葉だからこその説得力。この言葉を発したのは、Anna Kreshchenko(アンナ・クレシェンコ)さん(以降、本記事ではアンナさん)です。
2017年にウクライナから日本に留学したアンナさん、礼儀正しくて姿勢も良く、そして日本語がとても上手です。「上手」と表現するのがためらわれるくらい「普通」に、美しい日本語を話します。なんとアンナさん、京都大学法学部を日本語だけで卒業しています。法学部を日本語で! どれだけ勉強熱心かつ、日本語に精通しているかが分かります。
アンナさんは、2020年に日本で、Femtech(フェムテック)分野の会社「Flora株式会社」を立ち上げました。Floraでは、アプリなどを使って女性の心身の健康課題を可視化し、女性一人ひとりの「なりたい自分」の実現をサポートしています。近畿経済局のJ-Startup KANSAIのスタートアップ企業にも選定されている、日本を代表するフェムテックスタートアップです。
アンナさんたちの大きな強みは「女性たちから集めたビッグデータを持っている」ところです。このデータがあることで、toCだけでなくtoBにおいても、女性の働く環境を整える、新商品を開発するなどの文脈でアンナさんたちFloraは注目されており、提携する企業は増えています。2023年12月には、約1.5億円の資金調達を達成しました(後でもご紹介します)。
日本では今、不妊治療の保険適用範囲の拡大、卵子凍結をサポートする保険の販売開始などのニュースが日々聞こえてきます。生理や不妊治療、更年期障害とどう向き合って働くかも、少しずつオープンに話されるようになってきています。AIなどテクノロジーを使い、データドリブンで女性の健康課題を解決し生き方をサポートするアンナさんたちの取り組みは、経営者なら一度は必見。ビジネスアイデアの宝庫です。
1 女性約8万人約60万件のビッグデータ! toB向けに活用
冒頭でご紹介した「頑張ればできます」は、アンナさんが京都大学法学部を日本語で卒業したことに対して、素晴らしいですねと伝えたところ、アンナさんが言った言葉です。地に足のついた、とても真実味のある言葉です。
こうしたアンナさんの地に足のついた感じは、下記のFloraのビジョンにも表れています。

(出所:Floraのホームページ)
Floraのビジョンは、「Empowering women through data=データを通じて女性をエンパワーする」というものです。この「データを通じて」というのがポイントです。アンナさんが語る話や会社でやっていることは、ベースにデータがあるので真実味、説得力、重みが違います。
アンナさんに教えてもらったところ、世界中では39.6%もの女性がなんらかの産婦人科の病気を抱えているそうで「その数値は、実は心臓病の数値を大きく上回っています。WHOでも女性の産婦人科の病気を、目に見えないパンデミックだと言っています」と続けるアンナさん。
さらに、女性は受診率も意識も低いことを、アンナさんは問題だととらえています。
「例えば日本の場合、女性特有の課題、約1000万人が月経困難症(腹痛や倦怠感など月経に伴って起こる状態)を抱えてると推定されていますが、診断されていないのが91%です。子宮内膜症の場合も、同じく大半の女性たちは診断されていません。
根本的な課題として、女性が自分の体を理解できていない。そもそも理解する機会が与えられていないのでセルフケアや予防に取り組んでいないのです」
アンナさんがデータ(数字)とともに語る実情は、なかなかに衝撃的です。アンナさんは、こうした事態を改善し、次のような世界観を目指していると語ります。
「例えば、避妊したい、妊娠したい、生理痛から開放されたい、更年期障害をやわらげたいなど、女性一人ひとり、本当に【なりたい自分】は違う。
そこでFloraでは、自社の強みであるデータ、AI、機械学習やコンテンツを活かして、女性が自分の体の状態をちゃんと理解できる、そして女性の一人ひとりの【なりたい自分】を実現する。そういう世界観を目指しています」
まず、女性本人が自分の体を理解できていないところからして大きな課題です。「データがあれば自分の体のコンディションに気づきやすい」ということで、Floraでは、女性向けに自分の体の状態をデータで可視化&セルフケアもできるアプリを開発。月経や妊活のためのソリューションを提供するこのアプリ、なんと約8万人のユーザーがいるそうです。
●Flora App:toC向けのアプリ
https://www.flora-tech.jp/flora-app

(出所:Floraのホームページ)
アプリはUI/UXにもこだわった分かりやすい操作感。そして、AIなどを使った独自のアルゴリズムによりパーソナライズ感も実現しています。
すごいのは、それだけではありません。このアプリを通じて、ユーザーである女性のデータがたくさん集まってきているのがポイントです。それこそ思春期から更年期まで幅広く。生理周期のパターン、症状のパターン、女性特有疾患の発症可能性、どういう化粧品使っているか、どういう食べ物を食べているかなど。量としては、
女性約8万人のデータ約60万件(2023年12月)
が集まっており、ビッグデータプラットフォームを構築しています。
こうしたビッグデータは、企業向けに女性の働く環境改善ソリューションやコンサルティングなどを提供する「flora biz」や、フェムテック分野の新規事業をワンストップでサポートする「Flora Expert」など、FloraのtoB向けのサービスに活かされています。
●flora biz:法人向けサービスを大手銀行、保険会社、地域金融機関、商社など50社で導入
https://florabiz.flora-tech.jp/


(出所:Floraのホームページ)
●Flora Expert:大企業からスタートアップまで30社以上の支援実績
https://www.flora-tech.jp/floraexpert/

(出所:Floraのホームページ)
「データがあること」は、FloraのtoB向けソリューションでとても大きな意味を持ちます。
「女性の働きやすさや女性活躍は、使い回しのソリューションが存在しない」
と言うアンナさん。
その会社の働き方、あるいは工場なのか営業現場なのか、社員の年齢層、業界、業種などによって会社の文化はそれぞれ違います。その会社ごとのソリューションが必要であって、当たり前のことながら、ソリューションの使い回しはできない。そう言うアンナさんは、Floraのソリューションの強みについて、次のように語ってくれました。
「現場の人たちは何に困っているのか、まず数字で徹底的に可視化します。また弊社の場合はBtoCで女性の症例やデータも持っているので、相対化も出来ます。
そうすると、例えば、『あなたの会社の女性社員は、生理痛の割合が平均と比べて高いので、まずはその課題を解決する必要がある。この生理の課題に関連して労働損失額がこのくらい発生しているのでまずそこから着手しましょう』とか、業界的なベンチマークと数値を比べてどうか、対策を実施している会社と比べてどうか。そういうデータドリブンでその会社の状況を可視化して、それに合ったソリューションを提案する。イデオロギー的な女性活躍や人的資本経営の話をするのではなくて、ちゃんとデータ、数値に基づいて話をして対策を進めていきます。弊社はそういうソリューションを提供しています。
例えば、ある会社では、40代、特に更年期障害の社員は自分の体に関することを『相談しにくい』『話したいくない』と答えている一方で、20代の社員は逆に『話したい』と答えている例があります。この会社では、ジェネレーションギャップがあり、年代同士で理解のある関係がちゃんと成り立っていないのがまず課題なので、そこから始めましょうというデータドリブンでコンサルすることができます」
「使い回しのソリューションは存在しない」「データに基づいて会社ごとの状況・課題を把握することがまず大事」などは、「当たり前であってそれほど特別なことではない」と言うアンナさん。それらは、多くの人が、大事だと分かっていながらも実現できていないことであり、決して当たり前のことではなく、地道に実施しているアンナさんたちは本当にすごいと思います。

2 起業のきっかけを振り返る
コツコツと努力する、積み重ねる。当たり前のことを継続してやり続ける。アンナさんのこうした芯の通った歩み方は、幼いころから空手をやってきたことも関わっているかもしれません。ここでは、アンナさんのこれまでや起業のきっかけなどを振り返ってみましょう。
なんと、ウクライナ代表として空手の世界大会に出場するくらいにまで強くなったアンナさん。日本に留学してきたのは、日本の清水選手(東京五輪では銀メダルを獲得)と一緒に練習がしたいという思いもあったからといいます。空手も勉強も、アンナさんはとにかく文武両道。そして清々しい礼儀正しさ、姿勢の良さ、気持ちのまっすぐさ。これらは、アンナさんがコツコツと努力を積み重ね続けてきたからこそだと思います。
2020年に起業したアンナさん、起業のきっかけとしては、シリコンバレーに短期留学したことと、アンナさんのいとこに起きた出来事を話してくれました。
「大学2回生の時に短期留学でシリコンバレーに行かせていただいて、そこで本当にすばらし過ぎる人たちに出会って、自分も周りにそういう人がいたら人間として成長できるのかもしれない、自分も社会起業をしたいと思いました。
そのころ、私のいとこが妊娠していて産前うつを発症し、妊娠合併症にもかかりました。そして出産の後、第二子は亡くなってしまいました。こうした出来事を機に、婦人科や婦人科系のメンタルな領域には解決されてない課題が多くあることを知りました。そこで、この課題を解決するために、フェムテック分野で起業したいと思いました。妊婦さんへの支援から始まって、試行錯誤し、ユーザーにもヒアリングなどを行いながら、今のビジネスにいたっています」
空手も起業も、その後のビジネスも、データをしっかりベースにしているところも、アンナさんの、生きがいのある人生を自ら創っていく姿勢、より高いところを目指す志が背景にあることを感じます。「自分自身を『何者か』にできるのは、自分自身なのだ」「自分の人生は自分だけが創ることができるのだ」ということを体現しているように見えます。
3 仲間集め、そして今後のこと
日本で起業しビジネスを形にしているアンナさんは、日本語がとにかく堪能で、日本のことをよく知っています。女性活躍推進企業を認定する「えるぼし認定」のことなども。母国を離れ日本で起業し、そして実績を上げているアンナさん、なんと日本代表のスタートアップ企業としてシリコンバレーに行ったこともあるそうです。これは本当にすごいことではないでしょうか。その他にも、数々の受賞歴があります。

(出所:Floraのホームページ)
日本を、そして特に日本ではまだまだ多くはないフェムテック分野を代表するスタートアップ企業を創り出しているアンナさんには、本当にただただ頭が下がります。
素晴らしい実績に関しても、アンナさんは「共同創業者など仲間がいてくれるから」と言います。京都で偶然出会った生体物理工学博士の共同創業者(CTO)イワンさん、SNSで知り合った日本人のCOOなど、チームメンバーは日本にも、世界中にもいて、年代もさまざま。エンジニアも、データドリブンなFloraの要(かなめ)、データサイエンティストもいます。
「チームの半分ぐらいは海外の人で海外在住の人たちもいますし、20代の人もいますし40代の人もいますし、また顧問も入れると70代の方もいらっしゃいますので、本当にダイバーシティを体現したチームになってます」
と語るアンナさん。すばらしいですね! 今の、そしてこれからの時代の会社のあり方、働き方だと思います。
2023年12月には、約1.5億円の資金調達を達成し、豊田通商と資本業務提携をしたことを発表したアンナさんたちFlora株式会社。アンナさんが見ているのは日本だけではありません。今後は東南アジアなど、グローバルに展開していくと発表しています。
世界中の女性一人ひとりが、そして女性に限らずすべての人一人ひとりが「なりたい自分」を実現する未来。アンナさんを見ていると、強い意志で努力を積み重ね、そうした未来を本当に実現していくのだなと感じました。未来を創るアンナさん! 有り難うございます!
●フェムテック事業でシリーズA約1.5億円の資金調達!Flora株式会社が豊田通商と資本業務提携を発表(PR TIMES)
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000024.000072971.html
以上(2024年3月作成)
「家族手当」は本当にオワコンなのか? 諸手当のバージョンアップ
書いてあること
- 主な読者:現在の働き方などに合わせて、諸手当の見直しを検討している経営者
- 課題:何を基準に手当を改廃すればよいのか分からない
- 解決策:経営者の方針を優先する。不利益変更や同一労働同一賃金に注意する
1 大変だ! 「手当」が機能不全を起こしている?
家族手当や住宅手当などの諸手当は、基本給を補完するものとして、多くの会社が導入しています。社員にとってはありがたいことですが、その内容が古く、実情に合っていないケースがあります。例えば、
- 昔と違い独身者や共働きの社員が増えたのに、「家族手当」を支給している
- 社員によって就業時間がバラバラなのに、「精皆勤手当」を支給している
- そもそも何を目的とした手当かよく分からないのに、「○○手当」を支給している
といった具合です。
せっかく諸手当を支給しているのですから、社員のモチベーションにつながるようにしたいものです。そのためには、
経営者が手当の目的を考え、改廃の方針を決める
ことが不可欠です。諸手当は、社員の生活を支える賃金であると同時に、会社が仕事や福利厚生で何を重視しているかを表すことを念頭に置きましょう。
この記事では、諸手当の見直しのポイントを「1.経営者が方針を決める」「2.法令のルール(労働条件の不利益変更や同一労働同一賃金)に注意する」の2つに分けて紹介します。
2 経営者が方針を決める
諸手当を支給する名目は、「業績」「職務」「生活」「勤務」「健康」「その他」などに区分できます。主な手当と一般的な支給の目的は次の通りです。

御社の諸手当を確認してみてください。上の図表に含まれるものも多いと思います。その中に「導入当初は必要だったけど、働き方の変化などで意味を失いつつある」など、不要な手当はありませんか? 例えば、今どきは、
諸手当の改廃で、家族手当や住宅手当などの「生活」関連の手当が注目
されます。生活関連の手当の主な目的は、賃金が低い若手・中堅社員の生活をサポートし、その代わり定年まで働いてもらうことです。しかし、現在のように1社で働き続けることにとらわれないワークスタイルが浸透してくると、こうした手当の意義は薄れてきます。
後は経営者の方針によって判断します。例えば、家族手当なども「ウチの会社には育児や介護をしている社員が多いから、サポートしたい」といった経営者の思いがあるのであれば、残す意味があります。
諸手当の改廃を検討したら、支給額を見直します。例えば、経営者が「ジョブ型雇用(仕事内容に応じて賃金を設定する雇用制度)に移行したい」のであれば、廃止した手当の金額を、役職手当や技能・技術手当などの「職務」関連の手当に充当していくことになります。
3 法令のルールに注意する
1)労働条件の不利益変更に注意する
手当の廃止や支給額の引き下げをすると、社員の手取りが下がります。また、「次の7つに該当しない手当」は残業手当の割増賃金の計算基礎になるので、残業手当の単価も下がります。
- 家族手当(扶養家族の人数に応じて支給されるものに限る)
- 通勤手当(通勤距離や通勤費用に応じて支給されるものに限る)
- 住宅手当(住宅に要する費用に応じて支給されるものに限る)
- 別居手当
- 子女教育手当
- 臨時に支払われた賃金
- 1カ月を超える期間ごとに支払われる賃金
手当を含む賃下げは「労働条件の不利益変更」になるので、これを行うには、
- 労働組合の同意を得て、労働協約を変更する
- 合理的な内容であることを前提に、就業規則を変更する
- 個々の社員の同意を得て、労働契約を変更する
のいずれかの手続きが必要です。なお、就業規則を変更する場合、
「そもそも本当に変更が必要か」「社員の不利益が大き過ぎないか」「不利益を緩和する措置はあるか」「一般的な同業他社の状況はどうか」などを総合的に考慮
して合理性を判断することになります。合理性が担保されていれば、個々の社員の同意がなくても就業規則を変更できますが、とはいえ賃下げ自体がトラブルになりやすい分野ですので、社員数にもよりますが、できれば説明会などを行った上で同意を得るのが理想です。
2)同一労働同一賃金に注意する
諸手当の運用に当たっては、正社員とパート等の「同一労働同一賃金」にも注意が必要です。基本となるルールは、「均等待遇」「均衡待遇」です。
- 仕事の内容などが同じなのに、パート等であるという理由だけで正社員よりも低い労働条件にすることはできない(均等待遇)
- ただし、能力や成果に基づく待遇格差は、合理的なものであれば問題ない(均衡待遇)
例えば、役職に応じて支給する「役職手当」を設けている会社が、次のような運用をしていると、違法になります。
「業務の難易度」を考慮して、役職手当を設けている。正社員には役職手当を支給しているが、同じ役職のパート等には役職手当を支給していない
一方、次のようなケースは違法になりにくいと考えられます。
「役職者の業務負担」を考慮して、役職手当を設けている。正社員には役職手当を支給し、パート等は所定労働時間が正社員の2分の1なので、役職手当も2分の1を支給している
ポイントは、手当ごとの趣旨・目的を明らかにすることです。つまり、
経営者が明確な基準に基づいて手当の改廃の方針を決めていけば、均等待遇・均衡待遇に違反するリスクは低くなる
ということです。
以上(2024年3月更新)
(監修 ひらの社会保険労務士事務所)
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画像:ちーぼう-Adobe Stock
賃上げの影響を受けにくい 「基本給非連動型」の賞与・退職金制度
書いてあること
- 主な読者:賃上げ(定期昇給やベースアップ)をするか否か決めあぐねている経営者
- 課題:賞与や退職金への影響を回避するためにはどうすればよいのかが分からない
- 解決策:賞与・退職金制度を、基本給をベースとしない「基本給非連動型」に変更する
1 賃上げの影響範囲を把握できているか?
人手不足や物価高の影響を受け、「賃上げ」に向けた動きが活発化しています。一般的には、
- 年齢や勤続年数に対応した賃金テーブル(賃金表)や人事考課の結果に基づき、定期的(毎年1回など)に賃金を引き上げる「定期昇給」
- 賃金テーブルを書き換えて賃金水準を一斉に引き上げる「ベースアップ」
のいずれか(または両方)で賃上げを実施する会社が多いです。

経営者は「頑張っている社員に報いたい」と思って賃上げを検討しますが、人件費への影響は無視できません。例えば、
基本給をベースに賞与・退職金の支給額を決める「基本給連動型」の場合、賃上げによって基本給が上がると、賞与や退職金の支給額まで変わる可能性
があります。一度賃上げをすると、簡単には賃金を引き下げられないので、賃上げはその影響範囲を把握した上で、慎重に実施する必要があります。そこで、この記事では、
賃上げの影響を受けにくい「基本給非連動型」の賞与・退職金制度
を紹介します。
2 基本給連動型と基本給非連動型
基本給連動型では、基本給をベースに賞与や退職金を計算します。具体的には、
- 賞与の支給額=賞与支給時の基本給×支給率(支給月数や資格等級に応じた係数)
- 退職金の支給額=退職時の基本給×支給率(退職事由や勤続年数に応じた係数)
などのように計算します。基本給がベースなので、前述した通り賃上げの影響を大きく受けます。特に「能力や会社への貢献度が高い社員には、賞与や退職金を手厚くしたい」と考えている場合、注意が必要です。
例えば、ベースアップを実施する場合、全社員の基本給が一斉に引き上げられるので、
能力や会社への貢献度が低い社員であっても、ベースアップに伴い賞与や退職金の支給額が大きくなる
という問題が出てきます。定期昇給の場合は、人事考課の結果を昇給に反映することもできますが、基本給に占める年功給(年齢や勤続年数に基づく部分)の割合が大きいと、人事考課の結果を反映しにくくなります。
一方、基本給非連動型では、
会社の業績や社員の勤務成績など、基本給以外の要素をベースに支給額を計算
します。制度の内容にもよりますが、賃上げの影響を受けにくく、能力や会社への貢献度を支給額に反映しやすい面があります。この記事では、代表的な制度として「業績連動型賞与」「ポイント制退職金制度」を紹介します。
3 基本給非連動型の例その1:業績連動型賞与
業績連動型賞与では、会社の業績と社員の勤務成績をベースに賞与を計算します。計算方法はさまざまですが、例えば、賞与原資を会社の業績によって決定するという前提のもと、次のような計算式にすれば、業績や勤務成績を賞与に反映できます。
賞与の支給額=賞与原資を踏まえた基準額×社員個人の勤務成績に基づく支給率
賞与原資は、次のように会社が重視する業績指標に一定率を掛けて計算します。一般的には、営業利益や経常利益などの「利益」がよく用いられます。部門ごとに決定する例や会社の業績と部門の業績の双方を勘案する例もあります。
- 「売上高」基準(売上高、生産高など)
- 「利益」基準(営業利益、経常利益、当期純利益など)
- 「付加価値」基準(付加価値)
- 「キャッシュ・フロー」基準(営業CFなど)
- 「株主価値」基準(ROA、ROE、ROIなど)
支給率は、人事考課などの勤務成績を基に設定します。
- 人事考課(A評価なら配分率○%など)
- 資格等級(○級なら配分率○%など)
- 出勤率(週○時間勤務なら配分率○%など)
4 基本給非連動型の例その2:ポイント制退職金制度
ポイント制退職金制度では、一定のルールに基づいて社員にポイントを付与し、そのポイント累計にポイント単価と支給率を掛けて退職金を計算します。
退職金の支給額=退職時のポイント累計×ポイント単価(1ポイント当たり1万円など)×支給率(退職事由や勤続年数に応じた係数)
ポイントには次のような種類があり、一般的に複数のポイントを組み合わせて運用します。
- 勤続ポイント(勤続年数に応じて付与)
- 等級ポイント(資格等級などの格付けに応じて付与)
- 業績ポイント(会社の業績の良し悪しに応じて付与)
- 職務ポイント(個人の業務の難易度や責任に応じて付与)
- 個人ポイント(人事考課の結果などに応じて付与)
ポイントの組み合わせ次第で、例えば「等級ポイントや個人ポイントの比率を上げて、能力重視の退職金制度にする」「職務ポイントの比率を上げて、職務重視(ジョブ型)の退職金制度にする」といった運用が可能です。
支給率は、例えば「勤続5年で自己都合退職した場合は○%」など、退職事由や勤続年数に応じた係数を設定します。この辺りは、一般的な退職金制度と変わりません。
5 労働条件の不利益変更に注意
賞与・退職金制度を変更する場合、付いて回るのが「労働条件の不利益変更(労働条件を現状よりも引き下げること)」の問題です。例えば、
現状の制度であれば年齢や勤続年数などに基づいて確実にもらえる額があるのに、制度変更によってその部分の額がもらえなくなったり減額されたりする可能性がある場合
などが不利益変更に当たります。
通常、賞与や退職金のルールは就業規則(本則、賃金規程、退職金規程など)で定めますが、労働条件の不利益変更を行う場合、原則として各社員との合意が必要です。例外的に、就業規則を変更して不利益変更を行うことも可能ですが、その変更は合理的である必要があります。具体的には、次の要素に照らして合理性を判断します。
- 社員の不利益が大き過ぎないか
- 労働条件を変える必要があるか(経営上の理由など)
- 内容は適切か(変更の相当性、不利益の緩和のための経過措置、一般的な同業他社の状況など)
- 労働組合等との交渉を行っているか
- その他、就業規則の変更に当たって考慮すべき事情を見落としていないか
年齢や勤続年数などによって確実にもらえていた部分の額がもらえなくなる(または減額される)というのは、金額によっては大きな不利益となり得ます。ですから、
- 業績連動型賞与の場合、業績に関係なく支給する最低保障額を決めておく
- ポイント制退職金制度の場合、等級ポイントや職務ポイントの比率を高めにしつつも、勤続ポイントもある程度計算に含める
など不利益を小さくする措置や、段階的に制度を変更するなどの経過措置を検討しましょう。
以上(2024年3月更新)
(監修 TMI総合法律事務所 弁護士 池田絹助)
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画像:ChatGPT
健康的な毎日を送るために大切な「歯磨き」のチェックポイント
書いてあること
- 主な読者:口の中(口腔)をケアして、健康に気を付けたい経営者、従業員
- 課題:基本は歯磨きだが、どうもちゃんと磨けていない気がする
- 解決策:歯磨きは磨き方と回数が重要。使っている歯ブラシや歯磨き剤にも気を配る
1 「歯磨き」効果で健康になる!
健康管理をする上で、口の中(口腔)の健康はとても大切です。例えば、虫歯や歯周病は、単に歯や歯茎が痛むだけの問題ではありません。歯や歯茎から菌が入ると、血糖値をコントロールするインスリンの働きを妨げられ、糖尿病の原因になることもあるようです。
そして、口腔ケアの基本は「歯磨き」です。「今さら歯磨きについて細かく言われなくても……」と思うかもしれませんが、日常の一部だからこそ「歯ブラシや歯磨き剤が合っていない」「磨き方が間違っている」などの問題があっても、見過ごしてしまっているケースが意外と少なくないのです。
この記事では、歯ブラシ・歯磨き剤の選び方や、歯磨きの仕方の基本的なポイントを紹介するので、この機に確認してみましょう。
2 歯ブラシ・歯磨き剤の選び方
1)歯ブラシはきちんとしたものを
歯ブラシによって、全体の長さ、ヘッドの大きさ、毛先の形や硬さなどが違います。奥の歯まで無理なく届いて口腔内で自由に動かせるよう、先端はコンパクトで、口腔内を傷つけないよう毛先が硬すぎないものを選ぶのが基本です。
ただし、歯並び、歯肉の状態などによっても適した歯ブラシは変わってくるため、歯科医で診察や治療を受ける際に、歯ブラシ選びについてアドバイスを求めるとよいでしょう。
また、歯ブラシはこまめに交換しましょう。古くなると毛先が開くなどして機能が弱まり、磨いていても、歯垢(しこう)をしっかり落とせなくなります。使用頻度や磨き方によっても変わりますが、少なくとも1カ月に一度は交換しましょう。
2)歯磨き剤選びも重要
歯磨き剤には基本成分だけで作られた化粧品と、薬効成分の配合された医薬部外品があります。市販の歯磨き剤の大部分は医薬部外品で、「歯の質を強くする」「歯肉炎を予防する」などの効果がある成分が配合されているため、目的に応じて選ぶようにしましょう。
また、歯磨き剤には一般的に見られる練り歯磨き以外に、液体歯磨きもあります。液体歯磨きは口腔内にくまなく歯磨き剤が行き渡るのが特徴ですが、研磨剤などは入っていないため、歯の着色が気になる場合は研磨剤の入った練り歯磨きの使用がおすすめです。
なお、液体歯磨きと似たものに洗口液(マウスウォッシュ、デンタルリンスなどとも呼ばれます)があります。液体歯磨きは口腔内をすすいだ後に歯ブラシによる歯磨きも行いますが、洗口液は歯磨き後に使用するのが効果的とされます。
洗口液は、口腔内をすすぐことで消毒したり、口臭を予防したりするためのものです。歯垢を落とすためのものではないことを覚えておきましょう。
3)ケアグッズを上手に活用する
いくら丁寧に歯磨きをしても、歯ブラシの毛先では届きにくい部分があります。そこで活用したいのが、デンタルフロスや歯間ブラシといった口腔内ケアグッズです。
デンタルフロスは、弾力のある細い繊維の束(以下「糸」)を歯と歯の間に入れて歯垢を巻き取るように取り除く道具で、必要な分だけ取り出して使う糸だけのタイプと、ホルダーに糸が付いているタイプがあります。歯と歯の間に糸を通し、歯の面に沿わせて歯垢をかき出すように使います。
歯と歯の隙間が大きかったり、部分入れ歯やブリッジなどのためデンタルフロスの使用が難しかったりする場合には、歯間ブラシの使用がおすすめです。歯間ブラシはワイヤーに細かな毛が付いた道具で、歯と歯の隙間に入れて歯垢を取り除きます。その際、歯や歯肉を痛めないために、隙間の大きさより少し小さめのものを選ぶことが重要です。
3 歯磨きの仕方
1)歯垢がたまりやすい場所を重点的に
十分に歯を磨いたつもりでも、「歯と歯の間」「歯と歯茎の境目」「奥歯のかみ合わせ」には磨き残しがあるものです。特に奥歯は、他の歯よりも歯ブラシが届きにくいので、しっかり磨きましょう。
また、ものを食べたらすぐに、歯垢のたまりやすいところを重点的に、丁寧に磨きましょう。「歯の面には毛先を直角に当てる」「歯と歯肉の間には斜め45度で当てる」「歯の1本1本を意識して磨く」などは、磨き方の基本としてよく言われます。
適切な磨き方は、磨く場所や口腔内の状態に応じて変わってくるので、歯科医の歯磨き指導を受けるのもよいでしょう。また、日本歯科医師会ウェブサイトに、年齢や性別を選択した上でいくつかの質問に答えると、自分に合った正しい歯の磨き方を教えてくれるページがあるので、気になる人はのぞいてみてください。
■日本歯科医師会「あなたにピッタリな歯のみがき方を探してみよう!」■
https://www.jda.or.jp/hamigaki/
2)歯磨きは1日2回以上を目安に
適切な歯磨きの頻度についてはさまざまな見解がありますが、1日2回以上の歯磨きが推奨されることが多いです。
厚生労働省「令和4年歯科疾患実態調査」によると、毎日歯を磨く人(1歳以上、歯がない人を除く)の割合は2022年時点で97.4%です。その内訳は以下通りです。
- 毎日1回:18.2%
- 毎日2回:50.8%
- 毎日3回以上:28.4%
3)歯科医で定期的なクリーニングも
しっかり歯磨きなどをしても、完璧に歯垢を取り除くことは難しいです。そのため、定期的に歯科医のクリーニングを受けるのが理想です。
歯科医のクリーニングでは、専用の機械や器具を使って歯垢を取り除きます。虫歯予防の効果が得られる高濃度のフッ素を塗布してくれる歯科医院もあります。口腔内をより健康に保つためには歯医者での定期的なクリーニングはおすすめです。クリーニングの頻度は一概には言えませんが、一般的には3カ月に1回が目安といわれます。
4 (参考)データで見る日本人の口腔の健康状態
厚生労働省「令和4年歯科疾患実態調査」によると、歯周ポケット(4ミリメートル以上)のある人、つまり医学上、歯周病と診断される人の割合は次の通りです。

年齢が上がるほど歯周病患者は増加傾向で、全体で見ても約半数が歯周病を患っている状況です。多くの日本人が口腔内の健康状態において問題を抱えていることが分かります。
以上(2024年3月更新)
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画像:pixabay
商品券を渡したり、もらったりした場合の会計処理はどうなる?
書いてあること
- 主な読者:商品券を渡したり、貰ったりした場合の処理を知りたい経理担当者
- 課題:「商品券を購入する目的」などによって会計処理が違ってくるので分かりにくい
- 解決策:他人にプレゼントする場合と、自社で使う場合(備品購入や社員へのプレゼント)に分けて整理する
1 マーケティングの「お礼」としても使われる商品券
お中元やお歳暮で商品券を贈ることは減ってきたように感じます。一方、ちょっとしたアンケートに答えると「Amazonギフト券」のような、特定のプラットフォームで利用できる商品券をもらう機会は増えてきました。豊富な品揃えの中から好きなものを購入する際の「足し」にできる商品券は、もらったほうも嬉しいものです。こうした魅力をマーケティングに活かすべく、企業は便利にAmazonギフト券のような商品券を使っているわけです。
ところで、商品券を渡すほうも、もらったほうも、これをどのように会計処理するかご存知ですか?
実は商品券の会計処理は少しややこしくて、「何のために使うのか」などパターンごとに仕訳が違ってきます。正しい会計処理はどのようなものなのか、少ししゃくし定規な話となりますが、この記事で模範解答を示します。ただ、社員にプレゼントする場合など、取り扱いが難しいケースもありますので、実際に会計処理する際は、必要に応じて専門家である顧問税理士などへ相談してみてください。
2 商品券を取引先などにプレゼントする場合
アンケートに答えてくれた人や、昇進や結婚などをした顧客などへのプレゼント用に商品券を購入するケースで考えてみましょう。
この場合、購入した商品券は、
「接待交際費」として費用計上
します。例えば、社外へのプレゼント用に3万円分の商品券を現金で購入した場合の仕訳は次の通りです。なお、商品券の購入金額ではなく額面金額を基準に計上します。また、商品券の購入に消費税は課されないため、税抜処理をしている場合でも消費税の仕訳は不要です。

もし、金券ショップなどで割安の商品券を購入した場合は、差額を「雑収入」として計上します。例えば、金券ショップで本来は3万円分の商品券を2万9000円で購入した場合の仕訳は次の通りです。

こうして購入した商品券を、実際に社外の人にプレゼントした場合の仕訳は不要です。商品券を購入した際に接待交際費として経費処理しているため、それ以上の仕訳はしなくてよいということです。
なお、購入した商品券が期末まで未使用のまま残っている場合、
「貯蔵品」として資産計上
します。期中に費用計上しているものの、期末時点で保有しているということは費用がまだ発生していません。そのため、期中に計上した「接待交際費」を除く仕訳(いわゆる「逆仕訳」)が必要です。例えば、期末時点において取引先などにプレゼントするために購入した3万円分の商品券が残っている場合の仕訳は次の通りです。

3 商品券を自社で使う場合
文房具やちょっとした備品の調達など、自社で使うために商品券を購入するケースで考えてみましょう。
この場合、購入した商品券は、
「他社商品券」として資産計上
します。例えば、自社用に1万円分の商品券を現金で購入した場合の仕訳は次の通りです。額面金額を基準にすること、消費税が課されないことは前述の通りです。

また、金券ショップなどで割安の商品券を購入した場合の処理は社外へのプレゼント用の場合と同じで、差額を「雑収入」として計上します。例えば、金券ショップで本来は1万円分の商品券を9000円で購入した場合の仕訳は次の通りです。

こうして購入した商品券を、実際に自社で利用した場合の仕訳は、その目的によって違ってきます。例えば、1万円分の商品券で1万円分(税込)の備品を購入した場合、仕訳は次の通りです。大切なポイントは、
商品券を利用する際は消費税の仕訳が必要になる(税抜処理をしている場合)
ことです。

また、商品券と現金を合わせて使う場合もあるでしょう。例えば、1万円分の商品券と現金1万円を合わせて、2万円分(税込)の備品を購入した場合の仕訳は次の通りです(税抜処理をしている場合)。

4 商品券を社員にプレゼントする場合
購入した商品券を社員にプレゼントするケースもあると思います。まず、購入時の仕訳は「3 商品券を自社で使う場合」で紹介したとき同じで、他社商品券として資産計上します。
その商品券を社員にプレゼントする場合、
基本的には「給与」として費用計上
します。商品券には金銭と同様の性質があると考えられため、給与となるのです。例えば、資格を取得した社員への報奨として3万円分の商品券を支給する場合の仕訳は次の通りです。給与として扱われるため、所得税等の源泉徴収処理も必要です。ここでは、説明上源泉徴収される所得税等の金額は3000円としています。

このように、社員にプレゼントする商品券は給与として処理するのが基本ですが、例外も考えられます。例えば、全社員を対象に、あるいは全社員が機会を得られるケースで、社会通念上妥当な金額分の商品券を社員にプレゼントする場合、
「福利厚生費」として費用処理
します。例えば、社員への結婚祝いとして1万円分の商品券をプレゼントした場合の仕訳は次の通りです。福利厚生費として費用計上する場合、源泉徴収の必要はありません。

5 立場を変えて、商品券をもらった側の処理
これまで商品券を渡す側の立場で会計処理を説明してきました。ここでは、立場を変えて、商品券をもらった場合の会計処理について考えてみます。
もし、取引先から商品券をもらった場合は、
「雑収入」として収益計上
します。例えば、取引先から3万円分の商品券をもらった場合の仕訳は次の通りです。

もらった商品券を使った場合の会計処理は前述した通りです。同じ例となりますが、例えば、1万円分の商品券で1万円分(税込)の備品を購入した場合、仕訳は次の通りです(税抜処理をしている場合)。

商品券は購入したときだけでなく、もらった場合の会計処理も忘れずに行いましょう。
以上(2024年4月作成)
(監修 税理士 石田和也)
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スピードの超過に注意!(2024/3号)【交通安全ニュース】
活用する機会の例
- 月次や週次などの定例ミーティング時の事故防止勉強会
- 毎日の朝礼や点呼の際の安全運転意識向上のためのスピーチ
- マイカー通勤者、新入社員、事故発生者への安全運転指導 など
車を運転中、気がつくと思った以上にスピードが出ていたという経験はありませんか。慣れた道だったので「つい」「うっかり」スピードを出してしまったということも珍しくないかと思います。しかし、スピードを出しすぎると交通違反の取締りの対象になるだけでなく、重大事故を起こす危険が高まります。
そこで、今月はスピードの超過について考えます。

1.スピードを出すことの危険
交通事故統計によると、規制速度を超過した交通事故の死亡事故率は、超過しない交通事故の9.2倍となっています。速度超過での事故は、死亡事故になる確率が高まることがわかります。車の衝突による衝撃力は、スピードの2乗に比例して大きくなります。
また、スピードを出すと視力の低下や停止距離の延伸により、危険の発見が遅れる、危険の回避が難しくなるなどして、事故を起こしやすくなります。

出典:警視庁Webサイト「速度管理の意義 適切な速度管理の必要性」」から当社作成
https://www.keishicho.metro.tokyo.lg.jp/kotsu/jikoboshi/torikumi/sokudokanri/igi_hitsuyosei.html
◆視力の低下
スピードを出せば出すほど動体視力(動いているときの視力)は低下します。例えば、時速30km程度で走行しているときの動体視力は、静止視力(止まっているときの視力)の約60%程度といわれています。また、視野(見える範囲)も狭くなります。

◆停止距離の延伸
停止距離は、ブレーキが効き始めるまでの「空走距離」とブレーキが効いて車が停止するまでの「制動距離」を合計した距離です。空走距離はスピードに比例しますが、制動距離はスピードの2乗に比例して長くなります。例えば、速度が時速30kmから時速60kmへ2倍になると、停止距離は約3倍となります。

2.スピードを抑えるには
運転者がスピードを出す要因として、次のような心理が考えられます。
◆運転の慣れ
車の運転に慣れると気の緩みや過信が生じやすく、スピード感覚も鈍くなります。また、慣れた道ではスピードを出してしまいがちになります。
◆急ぎの心理
人間のDNAには、「急ぐこと」が本能として刷り込まれているそうです。約束の時間に遅れそうで焦っていたり、前の車が遅くてイライラしたりすると「急ぎの心理」が顔を出し、無意識にスピードを出してしまいがちになります。
◆スピード感覚のマヒ
夜間は交通量が少なく、周囲の景色も見えにくいため、スピードが出ていないように感じます。また、広い道路を走行している場合や、他車と並走していて速度差が小さい場合は、スピード感覚がマヒしがちです。
◆スピードに挑戦する心理
「広い道路では思い切りスピードを出してみたい」「スピードを出すほど快感を感じる」といった心理で、特に若い運転者に多いといわれています。
スピードを出すことの危険を十分認識し、常に自分の運転ぶりを客観的にとらえ、上記のような心理状態に適切に対処できるよう自分をコントロールすることが大切です。
エコドライブを励行するなど小さな意識を習慣にすることで、スピードが抑えられ、交通事故の回避につながります。

3.適切な速度管理
規制速度は、道路形状や交通量を踏まえて交通事故が起こらないように考えられた規制です。規制速度を遵守していれば、交通事故の回避や交通事故時の被害軽減にもつながります。
道路標識や道路標示の最高速度を意識し、こまめにスピードメーターをチェックするなどして、安全速度での運転を心がけましょう。

以上(2024年3月)
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その停滞感の原因は? 休むほどではない体調不良「プレゼンティーイズム」が生産性を下げる
書いてあること
- 主な読者:最近、社員に元気がなく会社の活力が低下していると感じる経営者
- 課題:なぜ元気がないのかは社員によって異なり、何から手をつけていいのか分からない
- 解決策:肩こりや腰痛などの“ちょっとした体調不良”に注目する。アンケートや健康診断の結果から社員の健康状態を分析する。健康施策は自社の身の丈に合ったもので十分
1 欠勤よりもタチが悪い「プレゼンティーイズム」とは?
社員の健康管理を、経営課題として捉えて改善に取り組む「健康経営」。その重要な要素の1つに、「プレゼンティーイズム(presenteeism)」というものがあります。簡単にいうと、
出勤はしているが、体や心の不調から仕事に身が入らず成果を上げられない状態のこと
です。体や心の不調といっても、風邪やインフルエンザ、うつ病などのことではありません。ここで想定しているのは、「肩こり」「腰痛」「ストレス」などの、“ちょっとした体調不良”です。
普通、肩こりや腰痛で欠勤する社員はあまりいませんが、放置しておくと、社員が仕事に集中できずミスをしたり、さらに体調が悪化したりして、欠勤するよりも大きな損失を会社にもたらすことがあるのです。
「たかが肩こりや腰痛で大げさな……」と思うかもしれませんが、実はプレゼンティーイズムが経営に与える損失は大きく、2015年度に東京大学が実施した調査研究では、
会社の健康関連のコスト(医療費、傷病手当金、労災補償、病欠による損失コストなど)のうち、プレゼンティーイズムは77.9%を占める
とされています(東京大学政策ビジョン研究センター健康経営研究ユニット「健康経営評価指標の策定・活用事業成果報告書」)。
社員の健康管理は、いまや「コスト」ではなく「投資」です。“ちょっとした体調不良”のケアもその1つ。具体的に何をしたらいいか分からない人が大半だと思いますが、ポイントは、
自社のプレゼンティーイズムを「数値化」「見える化」した上で、「自社の身の丈に合った健康施策」を実施すること
です。以降で、具体的な方法や実際の取り組み事例などを紹介します。
2 まずは自社のプレゼンティーイズムを「数値化」する
経済産業省「企業の『健康経営』ガイドブック」では、プレゼンティーイズムを数値として把握する、科学的な5つの測定方法を紹介しています。
その中で、最も簡単に測定できるといわれているのが、東京大学政策ビジョン研究センター健康経営研究ユニットが開発した「SPQ(東大1項目版)」です。社員に次の質問をするだけで、「社員のプレゼンティーイズムが、どの程度会社に損失を与えているか」が分かります。
【設問】
病気やけががないときに発揮できる仕事の出来を100%として過去4週間の自身の仕事を評価してください( %)
【算出方法】
プレゼンティーイズム損失割合(%)=100% - 上の設問の回答値
労働生産性損失額(円)=プレゼンティーズム損失割合(%)× 賃金(円)
「プレゼンティーイズム損失割合」は体調不良により社員が本来の能力の何%ぐらいを使えずにいるのかを、「労働生産性損失額」は会社に与える損失がどの程度なのかを表す数値です。
ちなみに、前述の2015年度に東京大学が実施した調査研究では、
- SPQの回答値の平均は84.9%
- プレゼンティーイズム損失割合の平均は15.1%(100%-84.9%)
でした。つまり、平均的な会社では「15.1%×賃金」の損失が発生していることになります。
仮に社員の月給が30万円だとしたら、1人当たり月に4万5300円、年に54万3600円の損失
が発生する計算です。
■経済産業省「企業の『健康経営』ガイドブック」(改訂第1版)■
https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/kenko_keiei_guidebook.html
■東京大学政策ビジョン研究センター「SPQとは」■
https://spq.ifi.u-tokyo.ac.jp/
3 次に社員の体調不良を「見える化」する
1)アンケートを活用する
前述したSPQなどを用いて、自社の健康状態を把握したら、次にその要因となっている体調不良をアンケートなどで把握します。これはSPQとセットで実施してもいいでしょう。質問内容は、次のようにシンプルなもので構いません。
【設問】
あなたの仕事に悪影響を及ぼしている体調不良は?(複数回答可)
- 肩こり
- 腰痛
- 頭痛
- ストレス
- 睡眠不足
- 目の疲れ(眼精疲労)
- 花粉症・鼻炎
- その他(生理、長期連休の疲れ、喫煙など)
肩こりや腰痛などの慢性的な体調不良は、日々の生活習慣を色濃く反映します。つまり、職場に問題があると、体調にも悪影響が出やすいのです。例えば、デスクワークが多い社員は、座っている時間が長く活動量が少ないため、肩こりや腰痛になりやすいといわれます。
とはいえ、体調不良の傾向は業種や社員の年齢構成、職種によって異なりますから、まずは
どのような体調不良を抱える社員が何人いるのか、考えられる要因は何か
を、アンケートなどで見える化することが大切です。
2)健康診断の結果を活用する
自社の健康状態を把握する上でもう1つ重要なデータが、健康診断の結果です。例えば、毎年実施する定期健康診断の結果表からは、
- 社員の肥満度、血圧、血糖値など
- (問診に回答している場合)食事回数、喫煙や飲酒の頻度、睡眠時間、運動の頻度、ストレスの有無など
が分かります。
3)年齢構成や職種など、属性ごとにデータをまとめて分析する
アンケートや健康診断の結果から得られた情報は、次のような表にまとめるとよいでしょう。年齢構成や職種など、属性ごとにデータをまとめれば、例えば「事務職で頭痛や肩こりを抱える社員が多い」「営業職で腰痛を抱える社員が多い」など、自社の問題点が見えてきます。

4 自社の身の丈に合った健康施策を
1)身の丈に合った施策で十分
自社独自の問題点が見えてきたら、次はそれをどう解消するかの施策を考えていきます。施策というと、ストレッチマシンの導入やマッサージ師の派遣といったコストのかかる大々的なものを連想するかもしれません。しかし、自社の問題点が分かっていれば、例えば、朝礼などにストレッチを取り入れるといった施策でも効果が見込めます。
また、例えば、明日から全面禁煙にするといったような、日々の生活習慣を一気に変えるような施策は、社員の反発を招く恐れがあります。就業時間のうち数時間を禁煙時間に設定するなど、徐々に変化を促すような施策が効果的です。大切なのは、
会社側も社員も取り組みやすい施策から始め、毎日の生活習慣を少しずつ変えていく
という心構えです。
2)取り組みやすい健康施策の例
中小企業が取り組みやすい健康施策には、次のようなものがあります。

例えば、肩こりに悩む社員が多く、それが長時間のパソコン業務で姿勢が固定されていることが要因だと考えられる場合、次のような施策が取り組みやすいでしょう。
- 「モニターが正面にない」「デスクの上や足元がちらかっている」といった、姿勢を悪くする要素を取り除くためにデスク周りの見直しをさせる
- パソコン業務の連続作業時間が1時間を超えないようにし、作業の合間に立ち上がって休憩したり、ストレッチしたりするなどの作業休止時間を設けるよう促す
- 朝のラジオ体操のメリット(肩こり防止に効果的など)を伝えたり、正しいラジオ体操の映像を見せたりするなどして、本気で取り組んでもらう
また、血糖値が高い社員が多く、それが気分転換にお菓子を食べる習慣や、不規則な食事が要因だと考えられる場合、次のような施策が取り組みやすいでしょう。
- ヘルシーなお菓子コーナーを設置する。ヘルシーな置き菓子サービスを利用する
- 一口20~30回かんで早食いを抑えることで、血糖値が上がりにくくなることを伝える
- 日本医師会ウェブサイトなどから、正しい歯の磨き方を学ぶことを推奨する
1番下の「正しい歯の磨き方」については、次のウェブサイトなどが参考になります。虫歯や歯周病予防に取り組むことで血糖値が下がるケースもあるので、一度のぞいてみるとよいでしょう。
■日本歯科医師会「あなたにピッタリな歯のみがき方を探してみよう!!」■
https://www.jda.or.jp/hamigaki/
3)協会けんぽを活用しよう
効果的な施策が分からない場合は、加入している全国健康保険協会(協会けんぽ)の保健師にアドバイスを求めましょう。
相談は基本的に無料ですし、業種や職種ごとに抱えやすい体調不良の内容や効果的な施策を教えてくれたり、実際に効果のあった事例を紹介してくれたりします。前述した図表1のように、あらかじめ自社の健康状態を表などにまとめておくと、よりスムーズに相談できるでしょう。
また、協会けんぽでは、「事業所健康診断(事業所カルテ)」を配布しています。
事業所カルテは、健康診断データを基に、社員の健康リスク(血圧、血糖、飲酒、食習慣、運動習慣、喫煙など)や、都道府県ごとの平均値との比較などを診断してくれるもの
です。社員の健康状態をまとめたり、協会けんぽにアドバイスを求めたりする際に役立ちます。
5 一過性の取り組みで終わらせないために
経営者が、健康経営を人事労務担当者などに任せきりにしてしまうと、施策が途中で頓挫しがちです。また、短期的なスパンで改善が見えないからと、早々に取り組みを打ち切ってしまうケースもあります。
健康経営を一過性の取り組みで終わらせないためには、経営者が
「健康経営は重要な経営課題である」と繰り返し社内に発信し、自ら施策に関わること
が欠かせません。役員や上司などに働き掛け、「上から」社内全体に浸透させていくと、さらに効果的です。また、人の習慣はすぐには変わらないので、3年、5年といったスパンで施策を継続し、効果測定を重ね、長い目で経過を見守ることが大切です。
以上(2024年3月更新)
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やらかしがちな賃金トラブルにご用心。未払いや過払いなどへの対処法
書いてあること
- 主な読者:賃金の計算や支払いに関するトラブルをなくしたい経営者、人事労務担当者
- 課題:賃金の計算や支払いは、定型業務のわりにイレギュラーな事態が生じる
- 解決策:賃金の控除、未払い、過払いに関するルールを押さえる
1 賃金実務で「あれっ?」と思ったら
賃金の計算と支払いは毎月必要なものですが、わりとイレギュラーな事態が発生します。そのような場合でも未払いや過払いなどのトラブルは避けたいところですが、皆さんは次のケースの対応を具体的にイメージできますか?
- 遅刻や早退をした社員の賃金を控除したい
- 未払い分を支払わなければならない
- 過払い分を返還してもらわなければならない
もし、「具体的な対応がイメージできない」あるいは「何となく分かるけど怪しい」と感じたら、この記事を読み進めてみてください。正しい対応を紹介します。
2 遅刻や早退をした社員の賃金を控除したい
社員が遅刻や早退をした場合、ノーワーク・ノーペイの原則により、その時間分の賃金は支払う必要がありません。社員が10分遅刻したら、原則として10分の賃金を控除できます。
ただし、見落としがちな問題があります。同じ月給制でも、
- 日給月給制:1カ月単位で算定されるが、不就労分の賃金を控除する
- 完全月給制:1カ月単位で算定され、労働時間に関係なく定額で賃金を支給する
といった種類があります。御社が完全月給制を採用しているなら、社員が遅刻や早退をしても賃金は控除できません。また、日給月給制の場合でも、就業規則に、
不就労分の賃金を控除しない
などと定めている場合は、やはり控除できません。
なお、「控除」とは少し違いますが、遅刻の常習者などに対しては、反省を促すために懲戒処分の「減給」にする対応も考えられます。日給月給制の場合、遅刻した時間以上の控除は原則できませんが、就業規則の懲戒事由に該当した社員を減給にする場合、例えば
「3回遅刻をしたら半日分の賃金をマイナスする」といった対応
が認められる可能性があります。ただし、労働基準法上、減給については
1回の額が「平均賃金(過去3カ月間の賃金総額を暦日数で除した金額)の1日分の半額」を超えてはならず、総額が「1回の賃金支払総額の10分の1」を超えてはならない
というルールがあるので、この制限は守らなければなりません。
3 未払い分を支払わなければならない
賃金の未払いは、社員の勤怠報告の間違いなどによって生じます。会社に悪気がないのに生じます。それで確認しておきたいのは、「いつの時点まで遡って支払い賃金を支払う必要があるのか」ということですが、この点は、
賃金請求権を行使できる時点(賃金支払日など)から起算して5年(当面の間3年)
と決まっています。
ただし、災害補償や退職手当などは時効の長さが違います。一覧表にまとめましたので参考にしてください。

4 過払い分を返還してもらわなければならない
賃金の過払いもよく問題になります。過去の裁判では、公立の教職員が6月と12月に支払われる勤勉手当(ボーナス)について、過払い分の返還を求められたのにこれに応じず、不当利得だとして争いになったケース」などがありました(最高裁第一小法廷昭和44年12月18日判決)。気になるのは「いつの時点まで遡って返還を請求できるか」ですが、この点については、
過払いの事実があった時点から10年(ただし、会社が過払いの事実を知ったときはその時点から5年)
と決まっています。
なお、原則として、返還請求できるのは過払い分だけです。ただし、
社員本人が過払いの事実を知っていた場合、利息を付けて返還請求することが可能
です。会社と社員との間で金利についての取り決めがなければ、金利は年3%です(ただし、利率は3年ごとに見直されます。次の見直しは2026年4月1日です)。
過払い分を賃金から控除することもできますが、その場合は労使協定の締結が必要です。また、労使協定を締結している場合も、過払いだからといって一度に控除する金額が多くなると、社員の生活に影響が出る恐れがあるので、このあたりは慎重な対応が求められます。
以上(2024年3月更新)
(監修 みらい総合法律事務所 弁護士 田畠宏一)
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「基本給」の賃上げは属人給と仕事給のウエイトに注意!
書いてあること
- 主な読者:基本給の賃上げを考えている経営者、人事労務担当者
- 課題:安易に賃上げに踏み切って、後々経営に差し支えないかが不安
- 解決策:基本給を構成する属人給と仕事給のウエイトに注意する
1 「賃上げ率、何%にしようか?」と考える前に……
毎年、春闘の時期になると「賃上げ」の話題が世間をにぎわせます。直近では日本労働組合総連合会が、2023年春闘で「5%程度」としていた賃上げ目標を、2024年春闘では「5%以上」に改めたことなどが注目を集めています(どちらの賃上げ率も定期昇給相当分を含む)。
賃上げの対象となるのは、主に「基本給」です。一般的に、基本給とは「毎月きまって支給する賃金のうち、諸手当などを除いた基本となる賃金」のことをいい、その内容は
- 属人給:年齢や勤続年数など、社員の属人的な要素によって決定される賃金
- 仕事給:能力や職務のグレードなど、仕事に関係する要素によって決定される賃金
に大別されます。

多くの会社では、図表1のような複数の要素が組み合わさって基本給を構成しているので、
「各要素が基本給に占めるウエイト」を確認した上で、賃上げを検討する
ようにしないと、後々、人件費が経営を圧迫することになりかねません。以降でポイントを紹介します。
2 属人給と仕事給のウエイトで賃金カーブの傾きが変わる
賃上げを行う場合、一般的には
- 賃金テーブルや人事考課に応じ、毎年1回など定期に賃金を引き上げる「定期昇給」
- 賃金テーブルを書き換えて賃金水準を一斉に引き上げる「ベースアップ」
のいずれか(または両方)で実施する会社が多いです。
年齢や勤続年数に応じた賃金額の変化を線にしたものを「賃金カーブ」といいますが、基本給に「属人給」が含まれていれば、賃金カーブは図表2のように、定期昇給の度に右肩上がりになり、ベースアップをした場合はカーブ全体が底上げされます。

一方、基本給に占める「仕事給」のウエイトが大きくなり、「属人給」のウエイトが小さくなると、年齢や勤続年数に応じた変化は小さくなります。仮に基本給のウエイトを「属人給0%、仕事給100%」にしている会社があった場合、もしも社員の能力や職務のグレードが一向に変わらなければ、賃金カーブは図表3のようにベースアップ以外では変化しなくなります。

図表3はかなり極端な例ですが、要するに
属人給と仕事給のウエイトに応じて、賃金カーブの傾きが変わってくる
ということです。
仕事給のウエイトが大部分を占めると、いわゆる「ジョブ型」の人事制度になり、社員の会社への貢献度に応じて賃金が支払われるので、賃上げをしても人件費が経営を圧迫するリスクは低くなります。一方、年齢や勤続年数に応じて確実にもらえるはずの賃金が減り、社員の生活や安定した定期昇給を期待する社員のモチベーションに影響が出るリスクが高くなるので、ウエイトについては慎重に判断しなければなりません。
この記事の最後で、基本給の決定要素に関する統計データを紹介しているので、同業・同規模の会社の状況が気になる人は参考にしてください。
3 ウエイトを変えるときは「労働条件の不利益変更」に注意
属人給と仕事給のウエイトを変える場合、「労働条件の不利益変更」に注意が必要です。前述した、年齢や勤続年数に応じて確実にもらえるはずの賃金が減るケースなどがそうです。
労働条件の不利益変更を行うには、自社の状況に応じて、
「労働協約」「就業規則」「個別の労働契約」等を変更する必要
があります。中小企業の多くは労働組合を持たないので、「就業規則」や「個別の労働契約」を変更することになります。例えば、就業規則の作成義務のない会社(社員数が常時10人未満)では、労働契約を変更するために個別の社員の同意が必須となります。
就業規則については、個別の社員の同意を取らずに変更することも可能ですが(過半数代表者への意見聴取、所轄労働基準監督署への届け出は必須)、その場合、次のような内容に照らして「変更が合理的」といえるものでなければいけません。
- 社員の不利益が大き過ぎないか
- 労働条件を変える必要があるか(経営上の理由など)
- 内容は適切か(変更の方向性、不利益の緩和措置、一般的な同業他社の状況など)
- 社員との交渉を行っているか
- その他、変更に当たって考慮すべき事情を見落としていないか
例えば、「ジョブ型の人事制度にしたいので、仕事給のウエイトを上げ、属人給のウエイトを下げる」という場合、次のような対応をしていれば合理的といえるかもしれません(実際は、個別・具体的に判断される部分ですので、あくまで参考として捉えて下さい)。

なお、賃金形態の変更は社員の生活やモチベーションに直結する部分ですので、就業規則に関係なく、個別の社員の同意を得てトラブルを回避しようとする会社も多いです。
4 基本給の決定要素に関する統計データ
最後に、基本給の決定要素に関する統計データを紹介します。
図表5と図表6は、管理職と管理職以外の基本給の決定要素です。全体的に「職務・職種など仕事の内容」「職務遂行能力」の割合が高めですが、教育、学習支援業や複合サービス事業は、他の業種に比べ「学歴、年齢・勤続年数など」を重視する傾向が見られます。また、管理職と管理職以外では、管理職以外のほうが「学歴、年齢・勤続年数など」の割合が高くなっています。


図表7は、会社が基本給で最も重要としている決定要素です(原則として資本金5億円以上、社員数1000人以上の会社のデータ)。調査産業計では「総合判断」の割合が最も高いですが、業種別に見ると鉱業、建設、電力、商事、新聞・放送、情報・サービス、飲食・娯楽では、「職務内容・職務遂行能力等」を最も重要な決定要素に位置付けています。

以上(2024年3月作成)
(監修 人事労務すず木オフィス 特定社会保険労務士 鈴木快昌)
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あなたの常識を見直す「NGな褒め方、叱り方」/武田斉紀の『次世代リーダーに必須のコミュニケーション習慣』(9)
書いてあること
- 主な読者:会社経営者・役員、管理職、一般社員の皆さん
- 課題:最近話題のZ世代(1990年代後半以降生まれで会社においては20代前半くらいまで)だけでなく、それ以前の平成生まれ(30代前半くらいまで)の世代と、現在経営や管理職を担っている昭和世代との世代間ギャップが注目されています。それは価値観の違いやコミュニケーションの違いとして表れ、変化や多様性が求められる昨今、日本企業において深刻な経営の足かせとなりつつあるようです。
- 解決策:まず会社においてZ世代を含む平成生まれと昭和生まれの世代背景を整理しながら、ギャップを埋めるための「価値観の変化」を明らかにします。その上で、筆者が多くの講演や企業研修で紹介してきた『次世代リーダーに必須のコミュニケーション習慣』を実践的に指南します。
1 相手を【どのように】褒めるべきかを、意識できていますか?
今シリーズでは、昭和生まれの管理職・リーダー世代と、平成生まれ、とりわけ「Z世代」との価値観に、ここ10年ほどで“真逆”といえるほどのギャップが生まれていることを取り上げています。
そして、世界のビジネス上の価値観は、平成生まれや「Z世代」の価値観のほうに寄っており、会社の成長を今後も目指すためには管理職・リーダー側の皆さんが、価値観やコミュニケーション習慣を見直す必要に迫られているのです。
第6回からは、『次世代リーダーに必須のコミュニケーション習慣』その1の『傾聴』に続いて、その2『褒める』を取り上げています。前回までで【何を】【どのように】褒めればよいかについて、おのおの整理して5項目ずつの活用テクニックを伝授しました。
今回は、引き続き「NGな褒め方」について、また「叱り方」をテーマにお話ししていきたいと思います。
2 NGな褒め方2選
NGな褒め方 ①他人と比較して褒める
例えば「〇〇さんよりすごいね」「〇〇さんはダメだけど、あなたは違うね」といった褒め方です。
上司がしがちなのが、部下の同期や近い世代との比較です。「同期の〇〇さんはできないのに、あなたはすごいね」「職場の若手〇人の中で一番すごいね」など。比較したほうが分かりやすいだろうと思われるかもしれませんが、比較された相手はどう感じるでしょう。
褒める相手と2人きりのときに伝えるから大丈夫と思われるでしょうか。身内の会合で「ここだけの話ですが」と軽口をたたいたはずが、公になって謝罪に追い込まれた政治家を、私たちは何度見たことでしょう。
今の世の中、もう“ここだけの話”などどこにも存在しません。いつかは比較対象にされた本人の耳にも入ってしまうと考えるべきです。
褒められたはずの本人も、素直に喜べないかもしれません。比較された相手が親しい人だとなおさらでしょう。そして「この上司は、陰で自分のことも引き合いに出して悪く言っているかもしれない。褒めてもらっても額面通りに受け取れない」と感じるでしょう。これでは逆効果です。
NGな褒め方 ②「〇〇なのにすごいね」
例えば「若いのにやるね」「女なのに頭が切れるね」「バイトなのに働き者だね」「主婦なのに責任感あるね」といった褒め方です。
同じ「〇〇なのにすごいね」でも、「すごい、1年目とは思えないね」であればOKではないでしょうか。先に挙げた例と何が違うか分かりますか。
前者の4つには「〇〇なのに」の対象に対する「~のくせに」といった少し見下したニュアンスが含まれていませんか。そうしたニュアンスを相手は敏感に感じ取るものです。
ではどうすればよいのでしょうか? そうです。「〇〇なのに」の部分は余計なのです。「すごいね」だけでいいのではないですか? 具体的に何がすごいと思ったのかを添えてあげれば相手はもっと実感できるはずです。
3 褒めてばかりで、叱らなくていいの?
第6回から今回の第9回まで4回にわたって「褒めましょう」と言い続けてきました。若い世代との間に “真逆”といえるほどの価値観のギャップが生まれていて、世界のビジネス上の価値観もそちらにあるのだから、管理職・リーダー側の皆さんが変わらなければならない、だから「褒めましょう」と。
今日までに「早速、褒めてみた」という人はどれくらいいるでしょう。私がとらわれていたような次の3つの誤解は解けたでしょうか。
【誤解①】「褒める」なんて自分には無理と思い込んでいる
【誤解②】他人を「褒める」と、その分自分が損をする
【誤解③】「褒める」と相手が慢心して天狗(てんぐ)になってしまう
【誤解①】については、最初は相手の反応を気にしながらびくびくだったかもしれませんが、気にせず続けていたら相手の反応も好意的に変わってきたのではないでしょうか。
頑張って続けていけば、あなたは「褒め上手で、部下を育てるのが上手な上司」と呼ばれるようになれます。
そうなれば【誤解②】など氷解してしまうでしょう。
いくら部下が優秀で結果を出し続けたとしても、周囲は「〇〇さんが活躍できるのは、上司の〇〇さんが褒めて伸ばしてくれるからだね」と見てくれるはずです。①の反応も含めて、損どころか、お得なことこの上ないのです。
【誤解③】についても、あなたがいくら褒めても相手は思っていたほど天狗にはならないことに気付いたでしょう。しかし中には褒めれば褒めるほどに慢心し増長して、仕事に適当に手を抜く人も出てくるかもしれません。
そこで「褒めてばかりで、時には叱らなくていいの?」という疑問が湧いてきていないでしょうか。
年齢も経験も違うのだから上の者が叱って教えてやらなければいけないんだとおっしゃるでしょうか。
私も大学にまで行かせてもらって社会人40年、いい歳になってそれなりの経験もありますが、とはいえ限られた世界の経験です。
この歳になっても知らなくて恥をかきそうになったことは、何度もあります。理系出身でネットビジネスを立ち上げた経験からパソコンには詳しいほうですが、スマホについては子どもたちに教えてもらってばかりです。また私が学生時代に習ったはずの知識や常識が、その後の発見や理論で覆っていることも多々あります。
上司と部下の関係であろうと、上司の知らないこともいっぱいあるのです。そんな中で年齢や経験は違えど、お互い“大人同士”なのに、大人が大人を「叱る」のはおかしくないですか。
では、試しに叱ってみてください。相手はあなたの話を理解して、素直に受け入れてくれましたか。逆にあなたがさらに上の上司や先輩から叱られたとして、素直に受け入れてすぐに行動を変えられますか?
私は素直に受け入れられる自信がありません。まして叱られた経験の少ない若い世代はどうでしょうか。
「叱る」ことで、あなたが本当に伝えたい意図が相手に伝わるでしょうか。
4 「叱る」のではなく、「注意やアドバイス」をすればいい
実際に叱ってみると分かりますが、相手はあなたの話を理解し素直に受け入れてくれるどころか、むしろ反発してしまうでしょう。従来の関係性すらこじれて尾を引くかもしれません。こうなってからいくら褒めても効果なし、後の祭りです。
「叱る」のではなく、「注意やアドバイス」をすればいいのです。「注意やアドバイス」のし方にもコツがあります。
1)先に良いところを「褒めて」から行う
先に良いところを褒められると、人は認めてもらえたと感じます。その上での注意やアドバイスであれば受け入れやすいものです。
例えば「〇〇さんはいつも一生懸命ですね。でもここだけは直してほしい、みんな困っていますよ」「ここの企画はすごくいいよね。ただこっちについては、お客様はどう思うだろう?(例えばこうしては?)」
ちなみにNGな褒め方①で触れた、他人と比較して「注意やアドバイス」をするのもNGです。例えば「同期の〇〇さんはこんなにできるのに悔しくないの?」。理由は申し上げるまでもありませんね。
2)なるべく前向きな表現で、期待を伝える
これも相手を認めることに通じるのですが、例えば「〇〇さんならできると思う」「〇〇さんならもっとできるよ」「みんな喜ぶよ、私も助かるなあ」。
3)できるだけ相手に考えさせ、自律的に
こちらからあまり具体的な注意やアドバイスをすると、相手は“指示”だと捉えます。人によっては指示には素直に従いたくないと思うかもしれませんし、毎回ただ指示に従うだけでは人は成長しません。
できるだけ相手に自ら考えさせることで、本人の成長も責任感も促せます。
例えば「A社のことは担当のあなたが一番よく知っているのだから、ベストな方法を考えてみて」といったように。
5 部下が上司に褒められたいこと、使ってほしい褒め言葉とは?
話を「褒める」に戻しましょう。調査によれば「部下が上司に褒められたいこと」は1位「努力」、2位「成果」、3位「個性」だそうです。
「成果」が出たときはもちろん褒めてほしいでしょうが、成果はいつも出るとは限りませんし、成果の裏には大抵多くの努力が潜んでいます。そこも見ていてくれて「努力」を褒めてほしがっているのです。
同じく「部下が上司の褒めてほしい言葉」は1位「さすがだね」、2位「がんばったね」、3位「安心して任せられるね」だそうです。
いずれも自分を一人の人間として認めてほしいという気持ちが表れていませんか。部下は何人いようとそれぞれ異なります。上司に求められている役割は、部下一人ひとりを活かして会社の期待に応えることです。
「褒める」にしても、時には「注意やアドバイス」を添えるにしても、部下一人ひとりに目を配り、個々の力を引き出していくことが肝要です。それは手間もかかるし遠回りなように見えて、結局は組織を活かすための近道なのだと思います。
最後までお読みいただきありがとうございました。次回は『次世代リーダーに必須のコミュニケーション習慣』その3をテーマにお話ししていきたいと思います。
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以上(2024年3月作成)
(著作 ブライトサイド株式会社 代表取締役社長 武田斉紀)
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