【朝礼】あなたは誰から信頼されたいですか

皆さんは、ビジネスにおいて一番大切なことは何だと思いますか。あるいは、日ごろ、仕事を進めていく上で、どのようなことに重きを置いていますか。

ビジネスにおいて最も大切なものは、当たり前のことですが、私は「信頼」だと思っています。

会社が信頼されているからこそ、お客様が私たちの会社の商品を購入してくれたり、サービスを利用してくれますし、金融機関も融資をしてくれるのです。

よく言われることですが、信頼を失うのは簡単ですが、築くのはとても難しいのです。こうしたビジネスにおける信頼の根本は、実は私たち、つまり人にあることを忘れてはなりません。会社は人の集まりですから、信頼を築くのも失うのも私たち次第なのです。

会社は利害関係のあるすべての人と信頼関係を築き、それを維持しなければなりません。今日はその中でも最も身近な「お客様との信頼」「会社の仲間との信頼」について考えてみましょう。

信頼関係を築くには「約束(納期や時間)を守る」「期待に応える」といったことが欠かせません。それから「できないことは、きちんとお断りする」ということも、とても大切なことです。

お客様から何か要望があれば、誰でもできるだけその要望に応えたいと思うものです。上司から何かを依頼されたときもきっと同じように思うでしょう。しかし、できないことを安易に請け負って、後になってから「実はできませんでした」では、お客様や上司との約束を破ることになり、信頼を失ってしまいます。

とはいえ、単に「できません」では、ビジネスパーソンとしては不十分です。代替案を用意するなど、少しでも相手の要望に応えることが大切です。こうして「あの人にお願いしたら、あるいは相談したら、きっと何か考えてくれる」「あの人にお願いしたら間違いない」と思っていただく、それが「信頼」につながるのです。

信頼が求められるのは「お客様」「会社の仲間」だけではありません。もっと身近に、もう一つ大切な信頼があります。それは自分自身への信頼です。自信過剰かもしれませんが、私は私の持つビジネスパーソンとしての能力を信頼しています。

皆さんはご自身を信頼していますか。私たちが自分自身を信頼するためには、日ごろから努力して自分を磨き、一生懸命仕事に取り組むしかありません。超一流のスポーツ選手は、自分自身を信頼し自信を持って競技本番に臨むために、過酷なまでの練習を自らに課します。

自分が一つひとつの仕事をしっかりやっているかいないかは、人が見ていなくても、自分自身が一番よく分かっているはずです。

私たちも、お客様、上司・先輩・同僚、自分自身から信頼されるように、一つひとつの仕事に手を抜かずに、全力で取り組んでいきましょう。今日から、約束を守る、期待に応えるのはもちろんのこと、期待を超えることを目標にしましょう。

以上(2022年9月)

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画像:Mariko Mitsuda

拡大するグルテンフリー市場 グルテンの健康被害をプラスに変える新商品の開発がカギ

書いてあること

  • 主な読者:新規事業を検討する食品メーカー・飲食業の経営者、身近にアレルギーなどの疾患を持つ人がいる経営者
  • 課題:将来性があり、疾患などで困っている人のためになる新商品開発を検討したい
  • 解決策:グルテンフリー食品の基礎と他社の事例を確認して、自社の新商品開発に活かす

1 急拡大するグルテンフリー市場を狙おう!

小麦などに含まれるグルテンを除去したグルテンフリー食品を知っていますか? 米国や欧州などを中心に、20年ほど前からグルテンフリー市場が急拡大しています。消費者の中心はグルテンが原因の腸内疾患の患者や、小麦や大麦アレルギーのある人、ダイエットや自然派食品を好む人などです。

農林水産省の資料によると、世界のグルテンフリーの市場規模は2005年の段階で約8億ドルでしたが、2024年には約13倍の104億ドルに達するといわれています(農林水産省「米粉をめぐる状況について(令和4年8月)」)。

また、2021年には米国・カナダ産小麦の不作があり、2022年にはロシアのウクライナ侵攻によるロシアの輸出規制やウクライナ産小麦の供給懸念があり、輸入小麦の値段が高騰しています(政府売渡価格は2021年10月期が6万1820円/1トンだったのに対し、2022年4月期には7万2530円/1トンに上昇)。

そのため小麦粉を使用した国産食品の代替品としても、グルテンフリーへの需要拡大が見込まれています。特に日本では1962年をピークにコメ消費の低下が進み、2021年には1人当たりの消費量が半分ほどになってしまったことから、コメ消費を促進させるために米粉の消費を刺激する支援に取り組んでいます。

政府の後押しもある米粉ベースの商品やグルテンフリー商品を開発して、市場拡大の流れに乗ってみてはいかがでしょうか。

2 グルテンって何?

グルテンとは、

小麦・大麦・ライ麦などに含まれていて、水を加えてこねることでできる成分

です。グルテンには食品に粘り気と弾力を与える性質があり、これを利用して、モチッとした食感のパスタやうどん、ラーメン、フワフワしたパンやお菓子、弾力のあるピザ、サクサクした天ぷらの衣などが作られています。おいしさのひとつである食感に、グルテンが関わっているのです。

ただし、グルテンを摂取するとさまざまな疾患を発症させる体質の人がいます。セリアック病、グルテン過敏症、小麦アレルギーなどの人たちです。そのため、小麦や大麦、ライ麦などの代替食品である米粉などに置き換えるグルテンフリーの志向が広がりつつあります。

小麦などが含まれた食材を以下にまとめましたが、日常の飲食シーンで提供されるものがたくさんあります。

小麦などが含まれた食材の一例

3 日本政府は米粉の生産と販路拡大を支援

セリアック病患者はグルテンフリー食品なしでの生活が困難なため、欧米各国ではしっかりしたグルテンフリー表示が義務付けられています。さらに消費者に誤解を与えないように、食品に含まれるグルテンの含有数値を設定して表示の徹底を図っています。

米国食品医薬品庁(FDA)が定めるグルテンフリーの表示は、小麦など1キログラム当たりの含有量が20ミリグラム未満です。欧州では、欧州委員会(EC)が20ミリグラム以下と定めています。なお、基準が厳格なグルテンフリー認証団体GFCOは、「小麦に含まれるグルテンが0.001%(10ミリグラム/1キログラム)以下でなくてはならない」という基準を設けています。

一方、日本はコメ余りの打開策として、米粉の普及を進めているため、農林水産省が2018年にグルテン含有量「0.0001%(1ミリグラム/1キログラム)以下」の米粉を認証する「ノングルテン米粉第三者認証制度」を開始し、認証マークを付与しています。しかしこれは、グルテンフリー製品とは違うノングルテン米粉としてPRする方針です。

政府の閣議決定(2020年3月31日)においても、「ノングルテン米粉第三者認証制度や米粉の用途別基準の活用、ピューレ等の新たな米粉製品の開発・普及により国内需要が高まっており、引き続き需要拡大を推進するとともに、加工コストの低減や海外のグルテンフリー市場に向けて輸出拡大を図っていく」とされ、加工品の普及や需要拡大、米粉用米の生産拡大のための支援を行っています。

ノングルテン表示と欧米のグルテンフリー表示との比較

また、消費者庁の報告書によると、日本国内の小麦アレルギーは人口のおよそ5%で、4番目に多いアレルゲンとされています。そのため、小麦から作ったものではない、米粉などのグルテンフリー食品に期待があるのです。

実際に、小麦アレルギーだった人が、自分の経験を踏まえてグルテンフリーのお店を開いたり、商品開発に挑戦したりするケース(第4章をご覧ください)もあります。これらの経験談は、新商品開発などを検討する際に、一定の判断材料になるのではないでしょうか。

4 先行事例に学ぶ! 新商品開発のヒント

小麦の代替食材としては次のものがあり、国内外のグルテンフリー市場の獲得を目指し、多くの食品メーカーや飲食店が開発にしのぎを削っています。

小麦の代わりとなる粉製品

1)飲食店の取り組み例

飲食店では作り手の強い気持ちがダイレクトにお客に伝わります。特にグルテンフリーは、アレルギーや健康、さらには低農薬などの自然食品といった食生活全般に関わっていますので、それを求める理由が消費者にあるのです。そのため、メッセージが明確であるほうが、消費者に気持ちが伝わり、リピーターが増えていくのかもしれません。

これから紹介する事例は、自分の経験から「アレルギーで困っている誰かのために」という思いを強く持っている事業者のお話です。

エンパシー(共感)に訴える方法

ベーカリー&カフェ「enishi(えにし)」(兵庫県明石市)は、

「『子どもに手作りのご飯を食べさせてあげたい』と親御さんに思ってほしい」

という考えを持っています。

全メニュー、調味料まで小麦粉を一切使わないグルテンフリーにこだわったベーカリー&カフェ「enishi」が、2021年11月にオープンしました。開業した塚本ゆかりさんに話を聞きました。

「私には4人の子どもがいますが、長女がアトピー性皮膚炎に苦しんだことがあり、独学で体に良い食事から味噌やしょうゆなどの調味料まで、市販のものを使わず手作りしていました」

あくまで家事として、当たり前のように食事を作っていた塚本さんでしたが、2020年のコロナパンデミックを契機に気持ちに変化が生まれたと言います。

「親御さんは会社に行かなければいけないのに、お子さんは自宅学習。これでは毎日の食事なんてとてもできないという家庭が多かったんですね。そこで夫が経営する焼き肉屋で子ども食堂を開いたところ、子どもの食事に関心を払わない親御さんが多くてびっくりしてしまったのです。ほとんど自炊をしないという家庭もあって、アレルギーが増えるのも仕方ないと思ったほどです。そこで全て自家製で卵、牛乳、小麦の3大アレルゲンを含まないメニューを提供して、食べていただくことで何か感じてくれるといいなと思って、お店を開きました」

「enishi」が提供するメニューはアレルゲンの除去に徹底的にこだわっています。

「ランチは月替わりの予約制で一品のみ(1500円)です。ご飯は低農薬の玄米で、甘さは砂糖の代わりに甜菜(てんさい)糖を使っています。また、グルテンフリーにこだわるだけでなく、私が歯科衛生士でもあり、そしゃくすることが大切だと思っているので、食感のある料理を意識しています」

また、小麦も米粉も使わずに、限りなく無農薬に近い生玄米を使用した総菜パンや玄米を焙煎(ばいせん)したコーヒーや無農薬紅茶も提供しています。

「私はお店を持ちたいという気持ちはなかったのですが、多くの家庭で、できるだけ手作りした料理をお子さんに食べさせてほしいという気持ちはあります。自分で作ると添加物などもいろいろ気になってきますから」

塚本さんは「今までやってきたことを提供しているだけ」と言いますが、「enishi」は“体にいい手作りの料理を子どもの頃から食べてほしい”という思いが詰まったお店です。その料理と人柄に引かれるのでしょうか、他府県からのリピーターや予約客も多いそうです。

2)食品開発メーカーの取り組み例

新規市場に挑戦したいけれど、会社にとって体力的に難しいことも多いでしょう。そういうときこそ、自社にどんな強みがあるか再確認する必要があります。持っている力を活かした新商品は、会社の自信につながります。そして、自信のある技術で開発した商品は業界の垣根を越え、大きな販路を生む可能性もあります。

一方でグルテンフリー食品は、体の健康にも関わるため、一度「おいしい」と認知されると、拡散やリピート率が高い傾向も見受けられます。

小麦などが食べられない消費者に、得意分野を駆使して、おいしいものを作る。基本的なことですが、グルテンフリー市場では、消費者のニーズが明確です。そこにヒットするためのおいしいものづくりにこだわった2社を紹介します。

1.商品開発のアイデア:グルテンフリーのミックス粉「リソジャミックス」

泰喜物産(東京都足立区)は、

自社の強みである大豆加工技術を活かして、グルテンフリー商品の開発

をしています。

「リソジャミックス」は豆腐用凝固剤などを製造している泰喜物産のグルテンフリーのミックス粉です。同社の特許製法で大豆特有の青臭さを取り除いた全脂脱臭大豆粉に米粉とベーキングパウダーを加えたものです。同社の金井健三社長はこう話します。

「全脂脱臭大豆粉は加工段階で、皮と胚軸を取り除いて、大豆特有の青臭さをなくしたものです。大豆を丸ごと配合しているので、豆乳と比較すると、約7倍の食物繊維があります」

同社は大豆粉、ココナッツオイルを使った乳製品を使わない「大豆クリーム」や「ソイホイップ」を開発していました。しかし、思うほどの反響はなく、少子高齢化が進み市場が縮小していく中で、新しい商品を模索していたと言います。

「『大豆クリーム』や『ソイホイップ』も思ったほど響かない。どうしようとなったときに、これらを利用してグルテンフリーであり、乳製品フリーであり、小麦アレルギーや健康志向の人たちにも受け入れていただけるような商品を作ろうということで、開発に乗り出しました」

開発を担当したのは、金井社長の娘さんである金井友里課長です。

「実は、もともと娘はグルテンフリーを実践していたんですね。彼女に開発を担当させたところ、薄力粉の代替粉を作ろうと提案されたのです。グルテンフリー商品では麺が多いけど、薄力粉の代替はあまりないというのも決めたきっかけです。大豆はグルテンがないので膨らみにくく、作るのが難しいのですが、当社も豆腐ならどこにも負けない自信がありました。この強みを活かして作ってみようとなったのです。試行錯誤してできた『リソジャミックス』は薄力粉の代替として遜色なく膨らむので、作れるメニューは豊富にあります。まずは従来の販路である豆腐店にグルテンフリードーナツを提案することから始めて、グルテンフリーやヴィーガン(完全菜食主義者)、インバウンドの方々が利用する洋菓子店やレストランにも提案していこうと思っています」

「リソジャミックス」はこれまでの取引先を越えて、新たな販路獲得につながるのでしょうか。反応は上々と金井課長は自信を持っていました。

2.販路拡大のアイデア:「食べたら分かる」商品の品質が評価されて販路が急拡大

川北製麺(宮崎県串間市)は自社で米粉100%グルテンフリー麺を開発・販売しています。かつては納入先が市内だけでしたが、販売後、取引先が海外にもできるなど、販路が拡大しています。同社の有田豪社長は、

自社製麺で、海外市場を広げ、日本のコメや米粉の製品を伝えたい

と、夢を語ります。同社が最初にグルテンフリー麺を発売したのは2019年。その「喉越しツルツルで、モチモチしているグルテンフリー麺」は評判が評判を呼び、全国展開するスーパーのみならず、海外の11の国と地域まで取引するほどになりました。

「きっかけは、次男が通っていた保育園の保護者から、自分の子が小麦アレルギーで麺もパンもケーキも食べられないと聞いたことです。だったら俺が食べられる麺を作ってやると思って始めました。1年ほど試行錯誤して完成した麺を食べてもらったらすごく喜んでくれたんですね。それで麺の販売を始めると、グルテンフリーの米粉麺ということで、不思議なくらい販路が広がっていきました。数年前まで麺の納入先は市内のお店がほとんどだったのに、商品が独り歩きして広がっていった感じで、問い合わせがたくさん来るようになりました」

商品が「独り歩き」している理由をこう話します。

「まず、麺ですね。コメにはグルテンがないので、ツルツル、モチモチの食感が出せません。それを当社は“箸でつかめないくらいツルツルでモチモチ”に仕上げたんです。そこが評価されたのだと思っています。もうひとつが、アレルギー体質の人たちのネットワークです。家庭にひとりでもアレルギー体質の子がいると、その家庭内の全員がアレルギー対策をしなければなりません。アレルギー体質=消費者数ではないんですね。実際に遠方の孫や親戚がアレルギーだから送りたいというご要望もよくいただいて、次第に広がっていきました」

取引先が全国から海外にまで広がっていったのは、展示会への出展でした。

「食べると違いが分かるので、展示会で試食してもらうと注文が入りました。今では大手スーパーや飲食店へ納品するだけでなく、OEM(受託生産)もやっていますし、プライベートブランドとして出したいというお客さんもいます。宮崎県内の米農家からウチのコメを使ってほしいということもありました。海外展開したきっかけはシンガポール向けに商品を輸出する知り合いが関心を示し、持っていってくれたことです。そこで1袋500円で“グルテンフリージャパニーズライスヌードル”のPOPを作ったら、10束、20束という単位で購入する人が多く、あっという間に売れてしまったというのです。海外のグルテンフリーへの関心の強さを実感しました」

海外需要の強さを実感して、有田社長は今後の夢を語ります。

「海外の店舗やスーパーに納入するだけではなく、店舗を作ってフランチャイズ展開するとか、米粉のグルテンフリー麺といえば、日本の川北製麺と思われるような会社とかにしていきたいですね」

今後も拡大が見込まれるグルテンフリー市場。ロシアのウクライナ侵攻による小麦価格高騰の対策や健康被害者の救済など、商品開発にはさまざまな付加価値が付くことでしょう。先行事例を参考に、新商品の開発を検討してはいかがでしょう。

以上(2022年9月)

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画像:Rawpixel.com-shutterstock

ならなきゃ身に付かない“経営者の視点”とは?(2)/武田斉紀の『誰もが身に付けておきたい“経営的視点”』(3)

書いてあること

  • 主な読者:会社経営者・役員、管理職、一般社員の皆さん
  • 課題:経営幹部や管理職の方はもちろん、若手社員の方でも「経営的視点で見るように」と社長や上司から求められた経験があるのではないでしょうか。その場でうなずきはするものの、「経営的視点とは何か?」「それは社長以外の社員に必要なのか?」「会社員として働く上で、人生において価値があるのか?」「そもそもどのように身に付けていけばいいのか?」といった疑問があるのではないでしょうか
  • 解決策:課題で挙げたさまざまな質問に対して、『“経営的視点”の身に付け方』というテーマで、全国で多くの講演を行っている筆者が明快に回答します。“経営的視点”はこれからの時代において新入社員から求められる視点であって、より早く身に付けることができれば、その分、仕事においても人生においてもプラスであることが分かるはずです

1 トップの社長以外、“経営者の視点”は持てない

シリーズ『武田斉紀の「誰もが身に付けておきたい“経営的視点”」』の第3回です。

会社で社長や上司から「“経営的視点”を持て!」と言われるけれど…「経営的視点って何?」「社長以外の社員にも必要なの?」「会社で働く上で、人生において価値があるの?」「そもそもどうやって身に付ければいいの?」。こうした疑問にお答えしていくシリーズです。

さらには、『“経営的視点”の身に付け方』の具体的なノウハウと、経営における効用、働く側のメリットなどを事例も交えながらご紹介していくつもりです。

“経営的視点”はこれからの経営や働き方において、新入社員から求められる視点であり、誰にとってもより早く身に付けることができれば、その分、仕事においても人生においてもプラスになります。

さて第2回で、 社長や上司が「“経営的視点”を持て!」と言いながら、もしも“経営的視点”ではなく、“経営者の視点”を求めているとしたら、それは無理な話であると申し上げました。相手が一般社員ならもちろん、管理職や取締役など幹部クラスであってもです。

なぜなら、“経営者の視点”は会社のトップとしての経営者になって初めて身に付けられるもの。基本的に会社のトップとしての経営者になればおのずと身に付くものの、ならない限り簡単には身に付かないからです。

そこで、会社のトップ以外は身に付かないまでも、“経営者の視点”とはどんなものなのかについて触れてみました。

“経営者の視点”の違いは次の5つに集約できます。
1)高さ(広さ)
2)時間(時空)
3)スピード
4)お金の流れ
5)人と組織

第2回では1)高さ(広さ)と2)時間(時空)の2つについてご紹介しました。トップの社長がナンバー2以下の立場とは“視点” が全くといっていいほど異なることを感じていただけたでしょうか。

今回は、3)スピードと4)お金の流れについてお話ししましょう。

2 「3)スピード」の違いを理解するためのカンタンな計算式

管理職以上の人であれば、社長から「急ぎの仕事だ、どれくらいでできるか」と聞かれて、適正な日数と時間を計算して正直に答えたところ、「ノロノロやってるんじゃない、もっと早くできるはずだ!」と叱責された経験はありませんか。

社長と直接仕事をする機会が多い幹部クラスの人であれば、こちらが提示した適性日数よりずっと短い期間、例えば半分くらいを一方的に言いつけられて絶句したことがあるのではないでしょうか。

社長からの要望を現場に伝えるたびに猛烈な反発を買い、「うちの社長は短く言えば何でも通ると思っているんだ」とか「現場のことが何も分かっていない」と、中間管理職としての悲哀を感じてきたことでしょう。

はたして社長は、本当に好き勝手な判断で「何日でやれ!」と無理難題を押し付けているのでしょうか。

一般の社員は労働基準法で守られていて、1日最大8時間、1週間5日勤務が基本です。また昨今は働き方改革や生産性向上への取り組みから、許される残業時間も減少しつつあります。

翻って社長には労働基準法は適用されません。1日何時間働こうが、1週間に7日働こうが、もっといえば1年間休日を一切取らなかったとしても、そしてそれにより健康を害したとしても、どこからもおとがめがないのです。

ちなみに社長は(社長に限らず取締役は同じ)労働者ではないので、仕事でけがをしようが死のうが労災保険の適用はなく、失業しても雇用保険が支払われることもありません。

実はこの差が、「3)スピード」に圧倒的な違いを生んでいる理由の1つなのです。

一般の社員は「1日=8時間、1週間=5日間」なのに対して、社長は「1日=24時間、1週間=7日間」、つまり365日の四六時中、会社や仕事のことを考え続けています。

1日=24時間というと、「社長だって毎日寝ているし、寝ている間は考えようがないじゃないか」と思われるでしょう。確かに社長も毎日寝ています。

が、会社が危機的状況にあるときは全く寝付かれなかったり、夜中に悪い夢を見て全身に脂汗をかき飛び起きたりするといったことが、毎日のように続くのです。

危機的状況になくても、昼間は強気で気丈にふるまっていながら、夜になると急に不安なことを思い出して一寸先は闇かもしれないと眠れなくなるようです。

1週間=7日間に対しては、「うちの社長、週末は取引先とゴルフばかりして遊んでいますよ」といった話を耳にします。

中には本当に遊びで楽しんでいる社長もいるかもしれませんが、多くの社長はラウンドをしながら取引先の情報収集や営業活動をしていますし、コースを移動しながらも自社の課題について思いを巡らせているものです。

こうした前提に立てば、一般の社員と社長の間には1日で約3倍、1週間ではそれ以上の時間感覚の違いがあるといえるでしょう。そして現場の計算では最低1週間はかかりますと提示されると、そのスピード感覚にイライラしながら思わず「ばかを言うな、2日でできるだろう」と言ってしまうのです。

一方で社長のスピードの違いは、時間感覚の違いだけではなく、“会社を預かる最終責任者としての危機感”からも生まれています。

ビジネス上の競争相手や社会や顧客のニーズに少しでも早く答えないと、選ばれなくなってしまう。それでは雇用を守ることも、会社を存続させることもできなくなってしまうという危機感です。

3 「4)お金の流れ」を“我がこと”として見ている幹部はほとんどいない

会社における経営資源は何かと聞かれたら、「ヒト・モノ・カネ」プラス「情報」であると答える人は多いでしょう。しかしながら、それぞれを“我がこと”として見ている人は幹部でさえもほとんどいません。

「4)お金の流れ」についていえば、P/L(損益計算書 Profit and Loss statement)、B/S(貸借対照表 Balance Sheet)、CF(キャッシュフロー計算書)が基本です。ところが一番理解しやすいP/Lでさえ、大手企業の課長クラスの人でも理解できていない人はたくさんいるようです。

私が新卒入社した会社では上司である課長が毎週、時には毎日のように、アルバイトの人にも分かるように課のP/Lの現状を説明してくれました。私自身、新人時代から課の売り上げがいくらで月間目標にどのくらい足りなくて、自分自身がどれだけ貢献しないと、本来は給料が払えないのかを思い知らされました。でもそうした会社は珍しいでしょう。

P/LだけでなくB/SやCFまでも含めて理解し、会社の現状を分析できている幹部はどれくらいいるでしょうか。毎月取締役会を開いても、財務経理関係の役員以外は恐らくちゃんと理解できていないのではないでしょうか。

無論、社長はそういうわけにいきません。CFといえばよく引き合いに出されるのが黒字倒産です。いくら売り上げ好調で利益が出ていたとしても、あるいは大きな固定資産があったとしても、必要なキャッシュ(現金)を用意できなければ会社は倒産してしまいます。

社長とてP/L、B/S、CFなどを完璧に読みこなせるわけではありませんが、経営を左右しそうな勘所だけは押さえています。専門的なことは分からなくても、財務経理関係の役員や提携先の税理士や会計士が、気になることがあればアラートを出してくれることでしょう。

とはいえ「ではどうすればよいか」について、彼らが“経営者の視点”で捉えてくれるわけではありません。安全策を提示することはできても、責任を負えない立場であえてチャレンジする選択肢を提案してはくれないでしょう。最終責任者としての“経営者の視点”は、トップである社長にしか持てません。

会社を危機から救った、あるいはイノベーションを起こして新たなステージに導いた経営者が、その直前では周囲の猛反対を押し切って、年間売り上げと同じくらいの投資を決断していたといった話を耳にしたことがあるでしょう。

後から聞けば単なる武勇伝でも、結果の見えないその時点で決断を下すことは、“経営者の視点”を持ったトップの社長にしかできないことなのです。

今回は“経営者の視点”の5つのうちの、3)スピードと4)お金の流れについて説明してみました。前回に引き続き、トップの立場の社長の“経営者の視点”が、他とは全く異なることをイメージいただけたでしょうか。

次回は5)人と組織についてお話しして、トップの社長だけが持つ“経営者の視点”をまとめてみたいと思います。第3回も最後までお読みいただきありがとうございました。

<ご質問を承ります>
最後まで読んでいただきありがとうございます。ご質問や疑問点などあれば以下までメールください。※個別のお問合せもこちらまで

Mail to: brightinfo@brightside.co.jp

以上(2022年8月)
(著作 ブライトサイド株式会社 代表取締役社長 武田斉紀)
https://www.brightside.co.jp/

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画像:NicoElNino-shutterstock

【文例付き】中堅社員としてふさわしい朝礼スピーチをしよう

書いてあること

  • 主な読者:朝礼でのスピーチで、ネタ切れ感に困っている中堅社員
  • 課題:ネットでスピーチのテーマ探しをするのはやめたい。もっと意味のある話をしたい
  • 解決策:現場で起きていることや日ごろの自分の人となりをスピーチのテーマとする。特にオンラインでは、実感のこもった「自分事」の話が聞き手に伝わりやすい

1 「実感のこもった」テーマがおすすめ

朝礼は今も昔も、“思い”と情報を共有する貴重な機会です。ただし、今はデジタル化が進み、その形は変わってきています。経営者・役員239人を対象とした独自アンケート(日本情報マート、2021年2月調査)によると、「朝礼をしている」と回答した人は30.5%で、中には「オンラインでの朝礼が多くなっている」という人が12.3%います。

こうした中で、改めて考えたいのが「テーマ」です。ビデオオフでも可にしているオンライン朝礼の場合、参加者は「ながら聞き」しているかもしれません。ネットで探したありがちな話では、ちゃんと聞いてもらえないでしょう。何より、話し手の気分が乗りません。音声だけの場合、話し手の「乗らなさ」は聞き手にすぐバレてしまいます。

そこでおすすめなのが、「自分の言葉で話せる実感のこもった内容」です。聞き手に気持ちが伝わりますし、話し手も温度感、情熱を持って伝えられます。例えば入社3~5年目の中堅社員の場合、次のいずれかのテーマが良いでしょう。

  • 現場で起きていることを話す(良い話も悪い話も)
  • 日ごろの自分の人となりを話す
  • 会社の方針や上司の話を「自分事」に落とし込んで話す

2 現場で起きていることを話す(良い話も悪い話も)

中堅社員には、現場での情報が集まってきます(集まってくるようにしなければなりません)。中堅社員の“感度”が高ければ、現場には「素晴らしい」と称賛できるナイスプレーや、「危ない」と肝を冷やすヒヤリ・ハットなど耳の痛い話があるはずです。

例えばこの1週間、現場で何が起きたのか、上司や部下は自分に何を話してくれたのかを思い出してみてください。皆に伝えたいと思う情報がたくさんありませんか。ナイスプレーや耳の痛い話など、スピーチで話すことが決まったら、ここに1つだけ中堅社員ならではのエッセンスを加えてください。それは「仕組みづくり」を進める提案です。

「あぁ、良かったね」あるいは「危なかった……」と思うだけで終わっていてはいけません。素晴らしいことは再現性を持たせる、問題になりそうなことは再発を防止するのが中堅社員に求められます。ここでは、ナイスプレーと耳の痛い話の例をそれぞれ紹介します。

【文例:素晴らしいことを共有し、仕組みをつくる(ナイスプレー)】
先日、私のチームに新しいメンバーが加わりました。その際、誰に頼まれたわけでもないのに、自然と皆でリモートでもコミュニケーションが取りやすいようチャットツールを整えたり、各自の名前や特徴をオンライン上の背景画像に載せたりといった準備をしました。我ながら、「いいチームだな」と誇らしく思います。
先日行ったチームビルディングに関するセミナーの参加者にこの話をしたら、その人は「自分たちもまねしたい」と言ってくれました。その人の会社はチームの連帯感が薄く、新人が定着しないという課題があり、その解決に役立てたいとのことでした。今回は、私が所属するチームについてお話ししましたが、他のチームはどうでしょうか。私は新しい仲間を温かく迎え入れる雰囲気にあふれた当社は、素晴らしい会社だと思っています。ぜひ、この雰囲気を大切にして、広めていきたいです!

【文例:メンバー全体への通知からの仕組みづくり(耳の痛い話)】
今日は、「伝言」について注意したいことを皆さんに共有します。このごろ、出社勤務の人と在宅勤務の人が両方いる状態に慣れてきて、各自が気を付けていたコミュニケーションの取り方も、「なあなあ」になってきているように思います。
特に感じたのは「電話の伝言」についてです。会社で電話を取った人が在宅勤務の人に伝言するときに、本人にだけ個別にチャットで伝言を送ると、他の人は「起きていること」が分かりません。特にトラブルなどは、全員に伝えるよう徹底していきましょう。
在宅でお客さまからの電話を個別に受けた人も同じです。トラブルでなくてもお客さまと話した内容は情報共有しましょう。忙しい中ですぐに情報共有するのが難しい場合は、この朝礼の場を使ってもいいと思います。今日から実践していきましょう!

3 日ごろの自分の人となりを話す

同じ会社で働いている仲間でも、実は互いのことをあまりよく分かっていなかったりしませんか。せっかく一緒に働いているのに、年齢、名前、所属などの互いを認識する最低限のことしか知らないとしたら、それは少し残念です。

せっかく皆に話をするなら、「この朝礼に出て良かった。この話は他では聞けない」と思ってもらえるスピーチをしたいものです。といっても難しく考える必要はなく、参加したオンラインセミナーの話、読んだ本の話、趣味の話など、とりとめのない話でいいのです。

これらの話は、あなたの人となりを表すものであり、メンバーにあなたのことを知ってもらう良い機会となります。また、自己紹介のスピーチは、新入社員がスピーチをする際にも参考にしやすいテーマです。新入社員の見本となるような自己紹介スピーチをしてみましょう。

【文例:自分のことを知ってもらう】
皆さん、おはようございます! 私はYouTube動画にハマっています。特に、日本の歴史を分かりやすく、しかも短時間で説明するシリーズが面白く、ついつい何本も見てしまいます。
あまり公にはしていないのですが、昔、私は映画を作る仕事をしたいと思っていて、実際に何本か簡単な脚本を書いたこともあります。ですので、映像全般についてとても興味があります。
YouTubeを見過ぎると家族に怒られるのですが、今の映像技術はものすごく進化していますし、YouTuberの演出もレベルが高いものが多く、かなり面白いです。YouTuberの考え抜かれた伝え方を、実はプレゼンにも役立てています。
ということで、私は自称“映像オタク”です。うちの会社の動画コンテンツは、私もお手伝いできます! それから、私は今、バーチャルのキャラクターを使った「VTuber(ブイチューバー)」にも興味があって色々見ています。YouTuberやVTuberの可能性を探って皆さんにまたレポートしますので、期待してお待ちください!

4 会社の方針や上司の話を「自分事」に落とし込んで話す

中堅社員がサンドイッチの具に例えられた時代があります。これは上司(パン)と部下(パン)に挟まれて、両者の間をうまく取り持つということです。一方の考えを通訳して、もう一方に伝える立場ともいえます。この点を意識し過ぎる中堅社員は、「自分のスピーチは上司に厳しく評価されている」と考え、上司の考えを忖度(そんたく)したスピーチをしがちです。

しかし、それは間違いです。上司は中堅社員のスピーチに注目しますが、採点しているわけではありません。ましてや、自分と同じ考えを持ってほしいなどとは思いません。上司は、中堅社員のスピーチから、現場で起きていることや人となりを聞いているだけです。

以上から、中堅社員は自由にスピーチをしてよいのですが、会社の方針や上司の話を伝える際は、通訳ではなく、エバンジェリストであることを意識してみましょう。エバンジェリストとは、「伝道師」のことで、ある事柄の価値を相手に正しく伝え、広める役割を担います。

広める対象が会社や部門の方針だとしたら、まさに中堅社員に求められるのはエバンジェリストの役割だと分かるでしょう。そして、朝礼のスピーチはそのための絶好の機会になるわけで、中堅社員にとっては腕の見せどころです。聞き手に伝えるポイントは、「自分事」として話せるかどうかです。

【文例:会社の方針を伝える】
先日の全社会議の中で、社長は「我が社のあるべき理想の姿」をお話しされ、「社員一人ひとりも『あるべき理想の姿』を改めて考えなければならない」とおっしゃっていました。早速私なりに考えてみたので、今朝はその話をします。
私が仕事を通じて成し遂げたい、「あるべき理想の姿」だと思うのは、「頑張る経営者をサポートする」ことです。それによって日本経済に貢献できれば、私たちの子供や孫の世代に良い日本を残すことになると思うからです。
自分でも壮大なことを言っているなと思います。しかし、これが仕事を通じて成し遂げたいことであると自信を持って言えます。そして、この理想に向かって、皆さんと楽しく仕事をしていきたいと心から思っています。
「あるべき理想の姿」は人それぞれであり、それが自然です。ただ、ともすれば漫然と目先の仕事に追われてしまう中で、一度立ち止まり、自分が成し遂げたいことを考えてみるのは、とても有意義だと感じました。
皆さんは、「あるべき理想の姿」について考えてみたでしょうか。ぜひ、皆でこのテーマをディスカッションしましょう! そうしたことの積み重ねが、チームの結束力を高めるだけでなく、多様性を生むのだと思います。

以上(2022年9月)

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【朝礼】健康管理は大丈夫ですか

皆さん、体調は大丈夫でしょうか。仕事が忙しいと、つい健康管理がおろそかになってしまいがちです。特に自身の健康を過信している人は気をつけてください。不規則な生活が続くと体調を崩しやすくなります。

体調を崩せば、最高のパフォーマンスは発揮できませんし、周りの人にも迷惑をかけることになってしまいます。これでは、せっかく日ごろの頑張りが、半減してしまいます。仕事をする上で、健康管理は必須条件なのです。

スポーツ選手の多くは、最高のパフォーマンスを発揮するのには「心・技・体」の充実が欠かせないといいます。少し違う意見としては、プロゴルファーの青木選手の提唱する「体・技・心」があります。

心が充実していないとよいパフォーマンス(仕事)が発揮できません。同様に体が充実していない状態、つまり健康を損っては、何もできないのです。「体・技・心」の優先順位は年齢によって変わるというのが私の持論です。20~30歳代は「心・技・体」、40歳代以上は「体・技・心」です。年齢を重ねるごとに、健康の重要度は増してくるのです。

多くの人は、健康が大切なのは分かっているし、健康を管理するためには何をやればいいかも知っているのです。問題なのは、健康管理を実践できない人が多いだけなのです。

ここにいる皆さんには、健康管理をしてもらいたいと思っています。毎日の生活を少し見直すだけでいいのです。

例えば、カリフォルニア大学のブレスロー博士が提唱した、「七つの健康習慣」です。これは以前に、「厚生白書(現在の厚生労働白書)」(当時)にも紹介されたものです。この習慣を実施している数が多いほど、病気が少なく、寿命が長くなるといわれています。

七つの健康習慣は、
1つ目は「適正な睡眠時間」
2つ目は「喫煙をしない」
3つ目は「適正体重を維持する」
4つ目は「過度の飲酒をしない」
5つ目は「定期的にかなり激しい運動をする」
6つ目は「朝食を毎日食べる」
7つ目は「間食をしない」
です。

いかがでしょう。どれも難しいものではありません。専門的な知識も、特別な道具もいりません。当たり前の生活を毎日続ける「意思」を持ち、実践するだけでよいのです。

これだけで健康的な生活が送れるのですから、ぜひ皆さんにも実践していただきたいと思います。ただ、どんなに気をつけていても体調を崩してしまうことはあります。そのときには無理をせずに、しっかりと休んでください。休むことも大事な健康管理です。

仕事をするだけでなく、充実した生活を送るにも体が資本です。健康管理に気をつけて、仕事にプライベートに最高のパフォーマンスを発揮できるようにしておきましょう。

以上(2022年9月)

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画像:Mariko Mitsuda

【税務調査】インボイス導入で要注意。あなたの会社の消費税が調査される!

書いてあること

  • 主な読者:消費税の税務調査ではどんな点が調べられるのか知りたい経営者、経理担当者
  • 課題:税率もUPし、来年にはインボイス制度の導入も控え、今後、消費税の税務調査の重要度が高まる可能性がある
  • 解決策:法人税と連動する項目もあれば、消費税固有の論点もある。特に申告義務の判定、仕入税額控除の取り扱いは重点的に調査が行われる

1 インボイス制度で消費税の税務調査が増える?

税務調査の中心は法人税や所得税で、消費税が単独で調査されることはほぼありません。しかし、

2023年10月1日から始まるインボイス制度の影響で、今後は消費税の税務調査の重要度が高まる

かもしれません。インボイス制度とは、

請求書に適用される税率や消費税額などを記載し、適切に相手に知らせるもの

です。ポイントは仕入税額控除です。仕入税額控除とは、「預かった消費税(仮受消費税)」から「支払った消費税(仮払消費税)」を差し引くことです。そして、仕入税額控除を受けられる支払いが、

インボイス発行事業者(「課税事業者」で、かつ適格請求書発行事業者の申請・承認を受けた事業者)に対するものに限定

されます。ここの運用が税務調査で重点的に確認されることがあります。

また、インボイス制度を機に、いわゆる「免税事業者」から課税事業者に変わるケースもあるでしょう。しかし、免税事業者は消費税の申告・納税に慣れていないためミスが生じやすく、この点を税務調査で指摘されるかもしれません。

この記事では、消費税の税務調査で指摘を受けやすい項目や注意点を説明するので、参考にしてください。

2 本当に「免税事業者」でよいか?

免税事業者は消費税の申告・納税の必要がありませんが、税務調査で実は課税事業者であることが判明するケースがあります。そうなったら、

期限後申告をして、課税事業者であった期間分の申告・納税

をしなければなりません。期限後申告をしたり、納付税額につき決定を受けたりすると、その申告によって納める税金の他に無申告加算税(納付すべき税額に対して、50万円までは15%、50万円を超える部分は20%を乗じて計算)が課されます。

もう一度、確認しておきましょう。消費税の申告義務は、

原則として、基準期間(その事業年度の前々事業年度)の課税売上高が1000万円を超える

場合に生じます。ただし、

  • 設立1年目や2年目の会社(基準期間がない会社)
  • 売上が急拡大した会社

などの場合は特例の判定方法もあります。

なお、申告義務の有無の判定の詳細は、以下のコンテンツで説明しています。

3 本当に「仕入税額控除」の対象か?

仕入税額控除の適用については、

  • 帳簿および請求書などがしっかり保存されているか
  • 非課税取引や不課税取引を課税取引として処理し、仕入税額控除の対象としていないか

が調査されます。以下で、一般的な会社で多く見られる問題を紹介します。

なお、仕入税額控除や、非課税取引・不課税取引の詳細は、以下のコンテンツで説明しています。

1)交際費(祝い金や香典など)

祝い金や香典など、商品やサービスなどの見返りを求めない現金の支出は不課税取引となり、支払った消費税は控除できません。課税取引か不課税取引かは、会計処理システムに入力する際に同時に登録していると思いますが、日々の取引で生じがちな不課税取引については、入力時の注意事項としてメモを残しておくと抜け漏れがなくなります。

2)外注費

従業員やパートに対する給与は不課税取引となり、支払った消費税は控除できません。問題は、自社の従業員以外に対する支払いなどが外注費か給与か分かりにくい場合です。外注費になるか給与になるかは、

請負契約に基づくものか(外注費)、雇用契約に基づくものか(給与)

によって判断されます。外注費は課税取引となり、支払った消費税は控除できます。働き方が多様化している昨今、明確な契約の有無で消費税の判断をするようにしましょう。

3)諸会費

業界団体(同業者団体や組合など)に支払う会費は不課税取引となり、支払った消費税は控除できません。ただし、業界団体が主催するセミナーや講演会に参加するための特別会費は課税取引となり、支払った消費税は控除できます。消費税の取り扱いを取引先ではなく、支出の内容ごとに判断するようにしましょう。

4)旅費交通費(海外出張)

海外出張にかかる旅費交通費(航空チケット代や現地のホテル代・飲食代など)は、免税取引または不課税取引となり、支払った消費税は控除できません。海外出張の場合は、出発前・到着後の支出(国内での支出)と、現地での支出を明確に区分して整理しましょう。

4 本当に「簡易課税制度」を適用してよいか?

消費税には、小規模事業者だけが適用を受けられる「簡易課税制度」があります。簡易課税制度が適用できるのは、

  • 基準期間の課税売上高が5000万円以下
  • 期日までに簡易課税を適用する旨の届出書を提出している

の2つを満たした事業者です。

簡易課税制度の適用を受けると、

預かった消費税×みなし仕入率(業種ごとに決められている)

の計算式で仕入税額控除の計算ができます。簡易課税制度の適用を受けるのは事業者の判断です。また、適用を受けるためには、

納税地の所轄税務署長に「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出

する必要があります。

税務調査では、

  • 簡易課税制度の適用ができる会社か否か
  • 業種によって異なるみなし仕入率の適用が妥当か否か

が確認されます。例えば、製造業として申告していたところ、税務調査で小売業だと判断された場合、申告誤りとなり追加で納税が必要になります。

5 本当にその「課税売上割合」で正しいか?

課税売上割合とは、

総売上高に対する課税売上高の占める割合

です。課税売上割合については、

  • 課税売上高が適正に集計されているか否か
  • 課税取引を非課税取引や不課税取引として取り扱っていないか否か
  • 以上を踏まえ、課税売上割合が95%以上か未満か

が調査されます。

もし課税売上割合が95%未満だと、課税仕入額の全額控除の対象になりません。注意が必要なのは、その事業年度に土地を売却(非課税取引)したり、住宅の貸し付け(非課税取引)事業を新たに開始したりした場合です。金額が大きい非課税取引があると、売上高に占める課税売上割合が下がり、95%未満になることがあるのです。実際に95%未満となっていると、支払った消費税が一部しか控除できず、納税額が変わる可能性があります。

多額の取引や、スポット的なイベントが生じたときは、消費税のみならず、税金の計算に大きく影響を及ぼす場合があるので、顧問税理士などの専門家に相談するとよいでしょう。

以上(2022年9月)
(執筆 南青山税理士法人 税理士 窪田博行)

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画像:Nastudio-Adobe Stock

【文例付き】Z世代の社員の成長を促す「名言」を使ったスピーチ~吉田麻也、サンドウィッチマン

書いてあること

  • 主な読者:朝礼などでZ世代の社員の成長を促すスピーチをしたい経営者
  • 課題:Z世代の社員は基本行動への意識が薄く、仕事への不安が強いとの調査結果もある
  • 解決策:基本行動の大切さを伝え、不安を乗り越えて前向きに進めるよう、著名人の名言などを引用したスピーチを行う

1 「基本行動」への意識が薄く、「不安」が強いZ世代

ここ数年、いわゆる「Z世代」(一般的には1990年中後半から2010年前半に生まれた人)の新入社員が入社している企業もあるでしょう。いつの時代も新しい世代とはギャップがあるもので、接し方や指導のポイントもバージョンアップする必要があります。

日本能率協会マネジメントセンターが2021年10月に公表した「イマドキ新入社員の仕事に対する意識調査2021」(以下「新入社員の意識調査」)によると、Z世代の新入社員には、

  • 5Sや体調管理などの基本行動に対する意識が、上司・先輩が期待するレベルより薄い
  • 働くことに不安を感じている人の割合が、他の世代よりも高い

という傾向がみられました。

そこでこの記事では、Z世代の新入社員の傾向を踏まえた上で、彼らの意識の変化を促し、成長を後押しするようなスピーチを、著名人の名言を使った文例も添えて紹介します。

2 文例1:「基本行動」の継続こそ重要だと気付かせる言葉

「継続には力が必要なり」(吉田麻也*)

1)文例

皆さんは、一刻も早く会社の戦力になって、上司や先輩たちから認められたい、会社に貢献したいという気持ちでいっぱいだと思います。ですが、焦ることはありません。「千里の道も一歩から」といいます。整理・整頓・清潔・清掃・躾(しつけ)という、いわゆる「5S」や、体調管理など、基本的なことをきちんと守りながら仕事を続けていれば、着実に力は付いていくものです。

サッカー日本代表のキャプテンである吉田麻也さんは、イングランド(英国)・プレミアリーグのサウサンプトンFCに加入して初年度は活躍したものの、2年目からは怪我の影響もあって、レギュラーとして使われることが減ってしまいました。

そんな逆境をはね返そうと吉田さんが力を注いだのは、筋力トレーニングと食事の見直しなどによる「肉体改造」や、走り方のトレーニングといった基本的な事柄でした。短期的に結果が出る努力ではありませんでしたが、吉田さんはこれを継続することで、次第にプレミアリーグの屈強なライバルたちにも劣らないフィジカルを得て、移籍5年目ごろからレギュラーを奪還します。

皆さんが、すぐに「デキる社員」になりたいと、はやる気持ちも分かります。ですが、入社していきなり活躍できるようなスーパーマンは、100人に1人もいないでしょう。今、当社で活躍している上司や先輩たちは皆、5Sや体調管理など社会人としての基本を守り続け、それを土台にして、「デキる」ことを少しずつ増やしてきた人ばかりです。

吉田さんは、自身の著書で「継続には力が必要なり」と語っています。基本的なことを継続することは、簡単ではなく、今後の成長に最も重要なことだということを忘れないでください。

2)解説:情報過多なZ世代は「意識が高い」だけに基本がおろそかになる恐れも

新入社員の意識調査によると、Z世代の新入社員は、「5S」や「体調管理」といった「基本行動」については、上司・先輩が新入社員に対して期待しているほど、意識をしていないことが分かります。

一方、新入社員は、上司・先輩がそこまで期待していない、「目的を設定し確実に行動する(やり抜く、挑戦する)」ことや「必要な経験を自ら開拓する」ことなどを期待されていると思っています。

SNSなど情報過多な環境で育ったZ世代の人たちは、少しずつステップアップしていく実体験よりも、「デキる社員の人物像」に関してネットに溢れる情報を、圧倒的にたくさん得ているのでしょう。それだけに、早く「デキる社員」に近づこうと気がはやるのかもしれません。

こうしたZ世代の新入社員の意識や理想の高さを評価しつつ、「成長のための近道はない」「5Sや体調管理といった基本をおろそかにしてはいけない」ということを伝えてあげるとよいでしょう。

新入社員に期待している/期待されていると思う「仕事の基本要素」

3 文例2:「不安」を感じている新入社員を勇気づける言葉

「気持ちのない奴に、人生は変えられないんだ」(サンドウィッチマン・富澤たけし**)

1)文例

新入社員や若手社員の皆さん、今日も張り切っていきましょう。もし、「自分は会社にあまり貢献できていないのではないか」「先輩社員に比べて、自分は成長が遅いのではないか」と不安に感じていても大丈夫です。その不安をバネにして、仕事に向き合えばよいのです。

人気お笑いコンビのエピソードをお話しします。サンドウィッチマンの2人は、M-1グランプリで優勝するまでの10年間、ほとんど無名のまま、下積み時代を続けました。アルバイトで生計を支え、アパートに2人暮らしという生活です。特に上京して6年ほどは、将来の展望もなく、体調を崩してネタが書けなくなった富澤さんは、コンビの解散話も切り出したといいます。

そんな状況を脱するべく、2人は7年目を「勝負の年」と決めて、お笑いに真剣に向き合うようになりました。そして、その2年後にM-1グランプリで優勝したことで、一気に道が開けました。富澤さんは著書で、「気持ちのない奴に、人生は変えられないんだ」と振り返っています。

皆さんが抱いている不安は、自分で掲げている高い理想に近づけていない現状に満足していないから生じているのだと思います。不安を払拭するには、強い気持ちを持って、前進することしかありません。目の前にある仕事に真剣に向き合うことで、必ず道は開けるはずです。

2)解説:不安は真剣さの裏返し。前向きなエネルギーに変えるサポートを

この1年間で働くことに不安を感じた人の割合は、Z世代が圧倒的に高く、7割を超えています。コロナ下で入社した新入社員の中には、リモートワークという職場環境や、上司や先輩もコロナ対応で精一杯という状況の中で、十分な指導を受けられず、社内のコミュニケーションも十分に取れていないと考える人もいるでしょう。働くことに不安を感じる人が多いのは、仕方のないことだといえます。

世の中の動きに関心を持ち始める頃にリーマンショックが発生し、思春期に東日本大震災を経験し、社会人になるときにコロナ禍に巻き込まれたZ世代の新入社員は、自分の将来を簡単に楽観できないというのもうなずけます。それだけに、自分の将来について真剣に悩んでいるはずです。また、世の中の荒波を乗り越えていくためには、人とのリアルなつながり、つまり「絆」が大切だということを理解している世代でもあるのではないでしょうか。

スピーチも大事ですが、上司や先輩が頻繁に声を掛けてあげるなど、なるべく気にしてあげるとよいでしょう。その際は、Z世代が抱える不安を否定するのではなく、不安を受け入れた上でエネルギーに変えるような励まし方がいいかもしれません。

この1年間で、働くことに不安を感じた人の割合

【参考文献】
(*)「レリジエンス-負けない力」(吉田麻也、ハーパーコリンズ・ジャパン、2018年6月)
(**)「復活力」(サンドウィッチマン、幻冬舎、2018年8月)

以上(2022年9月)

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横断歩道付近での交通ルールについて(2022/09号)【交通安全ニュース】

活用する機会の例

  • 月次や週次などの定例ミーティング時の事故防止勉強会
  • 毎日の朝礼や点呼の際の安全運転意識向上のためのスピーチ
  • マイカー通勤者、新入社員、事故発生者への安全運転指導 など

歩行者が道路を安全に渡るための横断歩道ですが、横断歩道で歩行者が犠牲となる交通事故が後を絶ちません。

自動車は速度が速く、車体も大きいため、歩行者と交通事故を起こした場合は、死亡事故につながる可能性があります。

横断歩道は歩行者優先であり、ドライバーには、横断歩道手前での減速義務や停止義務があります。

今回は、横断歩道付近での交通ルールについて、再確認したいと思います。

横断歩道付近での交通ルール

1.横断歩道付近での交通事故の発生状況

警察庁の統計によると、 令和3年の死亡事故のうち、人対車両における事故類型では、約7割が横断中での事故となっていますが、そのうちの約半分は横断歩道やその付近で発生しています。

死亡事故における人対車両の事故類型

出典:警察庁「令和3年中における交通死亡事故の発生状況及び道路交通法違反取締り状況等についてより当社作成

信号機のない横断歩道で、「歩行者は渡らないだろう」、「自車が通過するのを待ってくれるだろう」などと安易に考えて通行するのは危険です。歩行者が自車の接近に気づいていない可能性もあります。

なお、横断歩行者等妨害等違反の取締り件数は年々増加しており、令和3年の取締り件数は、平成29年の約2.2倍となっています。

横断歩行者等妨害等違反の取締り件数

出典:警察庁“横断歩道は歩行者優先です” https://www.npa.go.jp/bureau/traffic/oudanhodou/info.html(2022.7.20閲覧) から当社作成

横断歩行者等妨害等違反をした場合は、以下の罰則等が科せられます。

  • 罰則(刑事責任)
    3月以下の懲役または5万円以下の罰金
  • 反則(行政処分)
    基礎点数:2点
    反則金:大型車1万2千円、普通車9千円、二輪車7千円、 原付車6千円

2.横断歩道付近での交通ルール

横断歩道付近での交通ルールについて、再確認しましょう。

横断歩道付近での交通ルール

3.横断歩道付近の道路標識・道路標示

日頃から、横断歩道に関する道路標識や道路標示を意識し、横断歩道付近に歩行者等がいないか注意して、走行しましょう。

横断歩道付近の道路標識・道路標示

令和4年秋の全国交通安全運動の全国重点項目の一つとして、歩行者の安全確保が掲げられています。ドライバー一人一人が思いやりのある運転を心がけ、横断歩道での歩行者優先が当たり前となる社会の実現を目指しましょう。

以上(2022年9月)

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画像:amanaimages

【朝礼】自分の能力に自信がある人に考えてもらいたいこと

けさは、とある観光地を旅行したときの話をします。その観光地は、それなりに知名度があり、幾つかの観光スポットもあります。特に、地元を走る鉄道会社は、さまざまな集客策を企画していることで有名です。駅ではユニークな土産品を販売し、車両内を飾り立て、ダジャレを交えた車内放送で乗客を飽きさせない工夫をしています。

ところが、いざ観光スポットを巡ってみると、このような時節柄もあるのでしょうが、活気がないという印象を受けました。観光施設の老朽化などハード面の問題もありますが、それ以上に、観光客を歓迎する雰囲気がない気がしました。

例えば、ガイドブックでレンタサイクルを紹介しているのに、自転車用の道路が整備されていません。目指した観光スポット付近に案内板がなく、通り過ぎてしまいました。「○○ホテル前」というバス停が、ホテルから離れた場所に移動しており、私が宿泊した別のホテルの従業員がそのことを知らなかったため、バス停探しに苦労しました。

私が感じたのは、「この観光地で頑張っているのは鉄道会社など少数で、他の人たちと足並みがそろっていない」ということです。

もちろん、頑張っていない人たちに問題があるのは当然です。ただ、私は、もし先ほどの鉄道会社が、自社だけでなく、他の場所の活性化にも目を向けていたら、状況は違っていたのではないかとも思いました。地域全体が盛り上がらないと困るのは、鉄道会社も同じだからです。

例えば、駅で販売している土産品を観光施設でも購入できるようにするとか、車両内で観光スポットの魅力を紹介することもできます。自社のために発揮している発想力を、地域全体を巻き込む活動にも活かせるのではないかと思うのです。

これは、組織が活気を失っていくときの1つの特徴でもあります。当社も含め、どこの会社でも、役職と関係なく、モチベーションが高く成績優秀な社員がいます。素晴らしいことですが、こうした社員の中には時折、自分を成長させることや、自分の仕事を成功させることに注力するあまり、周りが見えなくなってしまう人がいます。他の社員が皆、「自分も同じようになりたい」と、有能な社員を目標にするポジティブな人たちならいいのですが、「アイツばかり目立っている」としらけた目で見てしまうことも少なくありません。

繰り返しになりますが、優秀な社員以外の人たちが努力しなければならないのは当然です。しかし、私は、優秀な社員にもまた、もう少し周囲を顧みる気持ちを持ってほしいと思います。ですから、自分の能力に自信のある人がいれば、自分の仕事だけに100%の力を注ぐのではなく、例えば10%程度は、同僚たちの仕事にも気を配り、良い影響を与えることに注力してみてください。それで仕事の成果が10%落ちたとしても、周囲の社員の成果が数%ずつ上がれば、会社としてはプラスになります。大きな視点で組織を活性化させてくれる社員を、私は積極的に評価します。

以上(2022年9月)

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画像:Mariko Mitsuda

【インタビュー】有事こそ社会貢献! 中小企業が地域の防災を担う方法

書いてあること

  • 主な読者:地域社会に貢献したいと考えている経営者
  • 課題:地域の防災を担って社会貢献したいが、労力も費用も多くはかけられない
  • 解決策:自社の社員を守るための災害対策を地域住民向けに拡大する、駐車場を避難所に提供するなど、自社が保有するインフラや事業の延長線上で可能なことから始める

1 地域の防災を担って社会貢献を

いつも自分たちがお世話になっている地域のために、地元企業としてできることをしたい。そう考えている経営者は多いはずです。一方、「社会貢献」「地域貢献」というと、何か壮大で難しい、すぐにはできそうもないと感じるかもしれません。そうした経営者の方には、

災害時に地域貢献できるように、準備をする

ことをご提案します。

これは地域住民の命を守る取り組みであり、かなり重要な社会貢献です。しかも、次のような取り組みであれば日頃の活動の延長線上でできるので、それほど敷居は高くなく、かつ費用負担も抑えられるでしょう。

  • 社内向けの防災活動を地域住民向けに拡大する
  • 自社の事業の延長線上で可能なことから防災活動を行う

さらに、やり方によっては、自社のビジネスの成長につながる可能性もあります。

そこでこの記事では、防災システムの開発、民間による緊急避難所の認定事業、防災の資格普及・運営事業などを行っているBOSAI SYSTEMの新妻健将社長へのインタビューから、中小企業が少ない費用負担で地域の災害対策に貢献するための方法を紹介します。

2 社内向けの防災活動を地域住民向けに拡大する

それでは、取り組みやすい地域の防災を担う方法として、まずは「自社の社員を守るための防災活動を地域住民向けに拡大すること」をご紹介します。

基本的にどの経営者も社内の防災には関心があり、準備をしているか、しなければと考えているでしょう。まずは、自社の社員を災害から守るための活動を進めていけば、その延長線上で地域社会に貢献できることがあります。

1)社員のための防災用品の備蓄の拡充

企業にとって最低限の防災活動は、社員分の防災用品の備蓄や、避難ルート・避難場所の確保です。例えば、地域住民のことを想定し、備蓄を多めに用意しておいてもよいでしょう。また、リモートワークを導入しているのであれば、災害時にオフィスにいない社員の分の備蓄を地域住民に提供できるような規定を設けるのも一策です。

2)防災に関する資格を利用して地域住民を啓発

災害時に社員を無事に避難させられる確率を高める第一歩としては、社員に防災教育を受けさせることをお勧めします。例えば、震度7以上の地震が発生してカオスな状況になってしまうと、7割以上の人が硬直して何もできなくなってしまい、適切な避難行動が取れるのは1割程度というデータもあります。防災教育を受けて、「いざというとき、人間はなかなか動けない」ということを知っているだけでも違うと思います。NPO法人日本防災士機構が認証する「防災士」という資格がありますし、当社(BOSAI SYSTEM)でも、一般社団法人日本防災教育振興中央会が新しく発行した、「緊急時避難誘導責任者(誘導員)」という資格制度を運営しています。

このような資格取得を利用して、防災に関する講習やセミナーに地域住民の方々をお招きすれば、防災意識の啓発につながるでしょう。講習やセミナーをきっかけに、新たな顧客の開拓につながる可能性もあるかもしれません。また、集客施設などは、利用者に「施設内に緊急時避難誘導員がいる」ことを知ってもらえば、安心感を与えることができます。実際に、有事の際に来店者を適切に避難誘導できるよう、資格を取得したフラワーショップの経営者の方もいます。

この他、リモートワークをしている社員がいる場合は、在宅勤務中の社員を守るFCP(Family Continuity Plan、家族継続計画。災害時に家族の集合場所を決めておく、など)も必要になってくると思います。こうしたノウハウも、地域防災への貢献に役立つでしょう。

3 自社の事業の延長線上で可能なことから防災活動を行う

1)事業内容や企業の特徴を活かした防災活動を

自社の事業や特徴を活かし、その延長線上で地域の防災活動を担うことも可能です。

例えば、製造業者や小売店、飲食店であれば、原材料や製造・販売している商品を、災害時に地域住民に提供できるかもしれません。私たちが2021年6月に事業提携した小型電気商用車メーカーは、ショールームを、電源供給特化型の民間緊急避難所として認定しました。災害時には、ショールーム内の電源や、展示している小型電気商用車に蓄電してある電気を地域住民に提供することを想定しています。

災害時は展示している小型電気商用車に蓄電してある電気を地域住民に提供

また、2022年5月に設立した一般社団法人の「EV100ラストワンマイルを実現する会」は、災害時に地域貢献することを目指す配送事業者の集まりです(新妻氏が理事)。配送車は電気自動車ですので、災害時には移動型の電源供給ステーションとなります。さらに、配送車には救護用品を装備し、ドライバーや作業員は緊急時避難誘導員の資格を取得していますので、地域住民の避難や救護活動にも貢献することができます。

自社の事業や特徴を活かした地域のための防災活動の一例

2)各企業ができる防災活動が集まれば大きな力に

それぞれの企業が、おカネや時間をあまりかけずにできる防災活動を組み合わせていければ、大きな力になると思います。理想的なのは、中小企業のそうした取り組みが多く出てきて大きなムーブメントになることです。「隣の会社はここまで防災活動をしているから、うちはここまでやろう」といった感じで、企業間で切磋琢磨(せっさたくま)していくようになればいいなと思っています。

いずれにしても、いざというときの備えを地域住民の方々に役立つようにするには、普段から地域住民の方々に、「うちの会社はこのようなことをしています」ということをお伝えしたほうがよいと思います。結果的に、自社のPRにもなるでしょう。

4 改めて確認しておきたい中小企業が地域の防災を担う意義

1)災害への危機意識が低い日本人

日本は地震、台風、豪雨などが多発する、世界でも有数の災害大国です。それにもかかわらず、今の日本人は、災害に対する危機意識が低いように感じます。

その大きな理由は、戦後の日本の義務教育に、防災教育がなくなってしまったことです。海外では防災教育を行うのが一般的なのですが、日本で正しい防災教育を受けているのは、戦前の世代の人たちしかいません。このため日本人は、実際に被災をしないと、危機意識が生まれにくくなっているのです。

私も子供の頃、たまに行った避難訓練で、「地震が発生したら机に隠れて防災頭巾を被りましょう」と教わった記憶しかありません。本来は、巨大地震が発生したときに机の下に潜ろうとすると、机ごと吹き飛ばされてけがをする可能性があります。救助が行き届かないような大災害の場合は、まず「けががなく生き残る」ことが大切ですので、まずは正しい姿勢(ゴブリンポーズといいます)でしゃがみ、揺れが少し収まるのを待って危険な場所から離れるのが正しい防災教育です。

2)災害時に頼れるのは自助と共助。公助は来ないと考えておくべき

日本人は、大震災が発生したら、すぐに自衛隊や救急隊が助けに来てくれると思っている人が多いと思います。ですが実際は、交通網が遮断されていますし、救助チームに比べて被災者の数が圧倒的に多いので、「公助」が来る確率はゼロだと考えるべきです。

1995年1月に発生した阪神・淡路大震災では、生き埋めや閉じ込められて救助された人のうち、救助隊に助けられた人は2.6%だったというデータもあります(日本火災学会「1995年兵庫県南部地震における火災に関する調査報告」)。首都直下地震が発生したと仮定した際に、負傷者を救助するために「公助」が来る確率は、自衛隊の初動対処部隊「FAST-Force」が0.26%、救急車が0.25%、消防車が0.34%、パトカー・白バイが1.5%とされています(一般社団法人日本防災教育振興中央会調べ)。

本来は、全ての国民が正しい防災教育を受けて、危機意識を持ち、「自分の身は自分で守る。家族や大切な人が被災したら、自分が助ける」という感覚を持っているべきです。そして、全ての国民が災害に備えて、防災用品の備蓄や家具の倒壊防止はもちろんのこと、止血の方法や骨折時の対応までできるようになっておくことが理想です。

とはいえ、こうした災害に対する危機意識がなかなか国民に浸透しない以上、SDGsのように、国連、政府、大企業といった“上から”の流れで、地域に根付いた中小企業にまで災害時の備えが広がっていくことが現実的な対応だと思います。

5 継続した取り組みにするために知っておきたいこと

1)社会貢献の訴求力が高い「地域の住民の命を守る」取り組み

社会貢献に取り組む際にあまり「メリットは何か」とは言いにくいかもしれませんが、継続して取り組めるようにあえて明らかにしておきましょう。まずは、防災に限らず、一般的な社会貢献活動と同じものです。月並みですが、以下の3つがあるでしょう。

  • イメージアップが図れる「ブランディング」
  • 社会性の高い企業で働きたいと考える若い人材を確保できる「人材採用」
  • メディアに取り上げられるなどの「PR効果」

しかも、防災という取り組みは、一般的な社会貢献活動と比べて、上記の3つのメリットをより享受できるはずです。なぜなら、防災に関する活動は、人命に直接関わる取り組みだからです。「地域の住民の命を守りたいから、この取り組みをしている」という理由付けは、非常に高い訴求力を持っていると思います。被災経験のない人には通じにくい部分があるかもしれませんが、不幸にも災害が発生してしまったときは、地域住民にお役立ていただけることは間違いありません。

2)地域の防災力の強化によって復興までの期間を短縮させる

防災を行う目的は、助けられる命を助けることはもちろんですが、災害後の復興までの期間を短縮させるということも大きいです。2011年3月に発生した東日本大震災は11年以上がたちますが、被災地はまだ完全には復興していません。

今後、日本のさまざまな地域で大震災が発生する可能性があるといわれているのに、大震災が発生するたびに復興まで10年、15年かかる、ということを繰り返しているわけにはいきません。復興までの期間が長くなるということは、経済活動の再開も遅れるということですから、地域社会にとっても、地域に根付いた中小企業にとってもマイナスです。

復興までの期間を短縮させるには、先ほどお話ししたように、「自分の身は自分で守る」という意識を前提にした、人的・物的な被害を最小限に抑えるための日頃の備えしかないと思います。つまり、地域の防災力を強化することは、中小企業自身にとってもメリットになるわけです。大震災は日本のさまざまな地域でいずれ発生するといわれているわけですから、地域の防災力の強化は、保険と同じような感覚を持ってよいのではないでしょうか。

3)何より大切なのは、地域社会に貢献したいという「思い」

とはいえ、中小企業が地域の防災に取り組むには、まずは何よりも、地域社会に貢献したいという「思い」がないとできません。

災害時に、皆で助け合えば、助かる命がたくさんあるはずです。ちょっとの余力をちょっとずつ集めていくことで、互いに助け合う風土づくりが実現できるでしょう。それが、地域の防災力につながっていくのだと思います。

【著者紹介】
新妻健将(にいづま けんすけ)
新妻健将(にいづま けんすけ)
青山学院大学経営学部卒業後、みずほ証券株式会社本店営業部入社。新規開拓営業、コンサルティング営業に従事。その後、運送会社の起業で独立し、複数の事業の立ち上げを経験。2021年4月「救えるはずの命を救う」ことを目的に、BOSAI SYSTEM株式会社設立。代表取締役就任。一般社団法人 日本防災教育振興中央会 副事務局長。株式会社EVA取締役。一般社団法人EV100ラストワンマイルを実現する会理事。国連NGO JACE 上席研究員

以上(2022年9月)

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画像:sogane-shutterstock