デジタル遺品で大混乱を起こさないために3分間でできること~デジタル終活のススメ~

書いてあること

  • 主な読者:パソコンやスマホに公私のデータを保存している経営者
  • 課題:デジタル遺品により発生するリスクと、対応する策が分からない
  • 解決策:「スマホのスペアキー」を作成する。そのうえでデジタル資産を整理する

1 デジタルが欠かせないなら、「デジタル終活」も欠かせない

デジタルはすでに世の中に欠かせない存在になっています。コンビニのレジにはQRコードを読み込むリーダーが設置されていますし、上場株を保有するならデジタルでの取引が必須条件となります。取引先への連絡でも、電話よりも電子メールやLINEが好まれるケースも増えています。

パソコンやスマートフォン(スマホ)、オンラインアカウントなどなど、好むと好まざるとにかかわらず、「デジタル資産」を全く持たない生活は不可能に近いでしょう。

であるならば、

万が一のときにデジタル資産で困らないようにする「デジタル終活」は誰にとっても欠かせないこと

だといえます。とりわけ、経営者の方はきちんと備えておかないと、社会的な信用問題に直結する恐れがあります。家族や社員、株主、取引先のためにも、日ごろからデジタル終活を実践しましょう。

2 必要最小限のデジタル終活は「スマホのスペアキー」

1)パスワードを書いた紙に修正テープを

最低限やっておくべきデジタル終活は何かと問われれば、誰に対しても「スマホのパスワードを紙に書いて残しておくことです」と答えます。スマホを持っていない方は、メインで使っているパソコンのパスワードと置き換えてください。

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方法を具体的に解説しましょう。必要なものは名刺サイズの厚紙とペン、それに修正テープです。特別な道具は要りません。まずは厚紙にスマホの型番や特徴とパスワードを書き込みます。そして、パスワード部分にだけ修正テープを走らせます。一度だけでは透けてしまうので、2~3回重ねるのがコツです。厚紙を照明にかざすと裏側から文字が透けることもあるので、裏側にも同様に修正テープを重ねておきましょう。

これで即席のスクラッチカードの出来上がりです。これを預金通帳や権利書などの重要な書類と一緒に保管しておけば、万が一の際もかなり高い確率で家族や社員に気付いてもらえるはずです。普段盗み見られる心配も、修正テープが抑えてくれます。誰かが削って盗み見たら厚紙に痕跡が残るので、気付いた時点で手元のスマホのパスワードを変更して作り直すだけです。

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私はこれを「スマホのスペアキー」と名付けました。お手持ちの名刺を使えば、3分以内に作れそうではないですか?

作例のような専用カードを作るなら、筆者のホームページ(https://www.ysk-furuta.com/)でひな型を公開しているので、ぜひご利用ください。

2)なぜスマホなのか?――理由1:「スマホの財布化」

デジタル遺品になり得るものはさまざまな種類があります。その中で、なぜスマホを第一優先にすべきなのでしょうか。理由は2つあります。

ひとつは、スマホがデジタル遺品の要になりやすいことが挙げられます。通話やLINEのやりとりといったコミュニケーションの履歴が残るだけでなく、最近はネットバンキングや有価証券の取引の道具としても、パソコン以上に積極的に活用されています。

とりわけ近年目立っているのは、QRコード決済サービスです。スマホで使うことを前提に設計されたサービスで、業界大手の「PayPay」はサービス内に最大100万円分をチャージしておけます。スマホを最大100万円の財布として使えるわけですが、残高を残したまま持ち主に何かがあっても、残された人が現実の財布のようには抜き出すことはできません。

総務省と地方自治体、金融機関はスマホで地方税を納税する仕組みの標準化に取り掛かっていますし、マイナンバーとスマホを連動させる取り組みも国を挙げて検討されています。全てが順調に進まなかったとしても、財産と個人情報の両面からみてスマホの存在感が高まっていくのは間違いなさそうです。

3)なぜスマホなのか?――理由2:「FBIでも開けない強固すぎる構造」

それでいて、スマホのロックはパソコン以上に強固です。それが2つ目の理由となります。

最新のスマホは指紋や瞳の虹彩、顔などの生体認証システムと、文字列などを使ったパスワードシステムを併用するロックが一般的です。どちらかの鍵さえあれば開けますが、どちらも手に入らないとお手上げになってしまいます。本人の身を不幸が襲って生体認証が使えなくなり、パスワードも本人の頭の中だけだったら……もうお手上げです。

別の方法でロックを解除する方法は、一切用意されていません。通信キャリアのショップやメーカーもマスターキーを提供していないので、相談しても無駄です。

この段階でも、パソコンなら地域にある優秀な修理サービスに相談すれば、機械を分解したり、特殊な手順を使って中身にアクセスしたりと、さまざまな方法を検討してくれるでしょう。しかし、スマホの解除を検討してくれるところは全国を見回しても片手で収まるほどしかありませんし、成功率はかなり低くなります。

象徴的なのが、2016年にFBIがアップル社を相手取って起こした連邦裁判です。前年に発生した銃乱射事件では、現場で射殺された犯人が同社のスマホ「iPhone」を所持していました。FBIはこのスマホの解析に乗り出しましたが、自力でのロック解除を断念。そこで製造元のアップル社に技術提供を要請したものの、その後の不正利用を不安視した同社が拒否したことで裁判に発展しました。

つまり、家電量販店や通信キャリアのショップに普通に並んでいるスマホは、一台一台が、FBIですら自力ではどうすることもできないほど強固なセキュリティー機能を有しているわけです。ポケットに収まる地下金庫のような、アンバランスな存在です。

そんなスマホですが、いざというときにパスワードさえ伝わる仕組みを自分で作っておけば、不測の事態が起きても何の憂いもありません。そのために「スマホのスペアキー」を用意しておく必要があるのです。

3 日ごろから「求められるもの」と「隠すもの」に分ける

さて、スマホのスペアキーが役目を果たすときは、家族や社員が自分のデジタル環境に足を踏み入れるときでもあります。当たり前のことですが、ことデジタル環境においては、それを想定している人は意外と少ないようです。

数年前に、ある女性から相談を受けました。法人成りした自営業の夫が急な不幸に見舞われたとのことで、仕事場に残された数台のパソコンを調べるためのアドバイスが欲しいといいます。法律面と技術面で基本的な情報を伝え、信頼できるデジタル遺品サポートを紹介したところ、連絡すべき相手や法人名義の預金口座など、あらかたの情報が拾い出せたそうです。しかし、仕事関連の隣にあったフォルダーからプライベートで収集していた画像が大量に見つかり、相当面食らったと後から教えてくれました。

プライベートなコレクションの中には、違法性が疑われるデータが出てきたという話も少なからず耳にします。その是非はさて置き、デジタル環境においても、日ごろから自分以外の誰かが足を踏み入れることを想定しながら使用する、という意識が必要なのは間違いないでしょう。

家族や社員がデジタル遺品を調べる動機は、金銭関連や進捗中の仕事の情報などの把握が第一に挙げられます。第二に家族写真などの思い出のデータを探したい欲求も強いことがよくあります。

そのように、残された側が求めるであろうデジタル遺品は、なるべく分かりやすいところに置いておくのが親切です。そして、隠しておきたいものがあるなら、その動線上に置かないように、日ごろから意識しておくのが鉄則です。

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パソコンには隠しファイル機能がありますし、パスワード付きの外付けハードディスクに保存するといった手もあります。スマホも特定の写真を隠しフォルダーに収納するなどの工夫の余地はいくらでもありますが、何よりこの鉄則を守ることが大切です。残された側が必死に探すモチベーションを持たない領域なら、いくらでも自由に隠したり壁を作ったりできるでしょう。

ただ、ひとつ注意したいのは、閲覧履歴や通信履歴などは普通に使っているとどうしても痕跡が残るということです。また、バックアップ機能も十分に把握しておかないと、隠したいものの完全な隠蔽は難しいでしょう。デジタル環境をきちんと整理整頓するには、それなりの知識と使いこなしが必要になります。残念ながら、魔法のようなアイテムは存在しません。

以上(2023年7月更新)

pj60299
画像:執筆者提供

【朝礼】柳のようにしなやかな心であれ

仕事や私生活を送る上で、私たちは日々多くの壁にぶつかります。思い通りに行かないこと、想像もしなかった結果に終わることが多々あるでしょう。皆さんは、そんな状況を乗り越えていくために、どのような心構えが必要だと思いますか。

「困難な状況を乗り越えるには、鉄のように強く硬い意志が必要だ、意志が弱ければ鍛えて強くすればよい」とよく言われます。ここでいう、強い意志とは何事も弾き返す、鉄のような硬さを持った意志を指します。確かに、あらゆるストレスを弾き返すことができる硬い意志はどんな状況にも耐えられそうです。しかし、本当に硬い意志を持つだけで、困難な状況を乗り越えることができるのでしょうか。私はそうは思いません。私は、困難な状況には柔軟さこそが必要だと思います。

皆さんは刃物などを製造する時に「焼き入れ」「焼き戻し」などの作業を行うことは知っていますか。「焼き入れ」とは熱した金属を一気に冷やすこと、「焼き戻し」とは熱した金属をゆっくり冷やすことです。

焼き入れを行うと刃は硬くなりますが同時に脆くなり割れやすくなります。焼き戻しを行うと、刃の硬さは落ちるものの、柔軟になります。焼き入れと焼き戻しの作業を繰り返して作られる優れた刃物は、硬さと同時に柔軟さも兼ね備えています。

刃物だけではありません。例えば、「柳に雪折れなし」ということわざがあります。これは、柳の枝はちょっとした風雨や雪でも揺れますが、猛烈な風雨や雪の影響を受けても折れずに軟らかい枝で力を受け流すことから、柔軟なものは堅剛なものよりもよく事に耐えるという意味を表しています。そうした柔軟さを持ちながらも、柳は倒れることなくしっかりと地面に根を張って立ち続けているのです。

刃物であれ、柳であれ、柔軟さを持たずにただ硬いだけでは、自分より強いものとぶつかった時に折れてしまいます。人間も、大きな壁に直面した時、それをはじき返そうと心を固めているだけでは、大きな力に負けて折れてしまうかもしれません。しかし、柔軟でしなやかな心を持てば、一旦は状況を受け止め、そして困難を脱するためのアイデアも湧いてくることでしょう。

ここで、心にしなやかさを持つために、心がけていただきたいことを一つ挙げておきましょう。それは、何事につけても先入観にとらわれてしまわないことです。例えば、過去の経験や習慣はとても重要なことですし、その経験を生かすことは何か問題が起きた時の解決にはとても役立つでしょう。けれども、それだけでは型通りで硬直的な対応になってしまい、新しい問題に対応できないかもしれません。

困難に突き当たっても折れてしまうことなく、臨機応変に対応できる柳のようにしなやかな心を持つことが、皆さんが本当に実力のあるビジネスパーソンとなるための秘訣だと思います。

以上(2023年7月)

pj16546
画像:Mariko Mitsuda

2023年版「中小企業白書」から見えてくる中小企業の成長機会

書いてあること

  • 主な読者:アフターコロナを踏まえて、自社の今後を考える経営者
  • 課題:他社との差異化を図るために何をすべきなのか、検討のヒントが欲しい
  • 解決策:人手不足を解決するための生産性向上や、新しい担い手づくりなどが求められる

1 中小企業が足元で抱える課題は?

業種による違いは大きいものの、コロナ禍からの脱却が急速に進み、中小企業全体で見れば、売上高や経常利益なども回復してきています。しかし、業績が回復して企業が採用を進めると、今後は人手不足が問題になってきます。

そこでこの記事では、2023年版「中小企業白書」(以下「白書」)から、業種を問わず課題となりうる「人手不足への対応策」や「新たな担い手づくり」に焦点を当て、競合他社との差異化を図るためのヒントを紹介します。なお、この記事で紹介する図表の出所は全て白書であることや、分かりやすさを重視したことから、出所の記載や注釈は省略しています。詳細な内容を確認したい場合は、白書の本編をご覧ください。

2 人手不足対応のカギは「生産性向上」

1)採用に注力しつつ、生産性向上を図る

人手不足への対応は、正社員やパートタイマーなどの人材採用に限りません。業務プロセスの見直しによる業務効率化や、社員の能力開発、ITなどの設備投資によって生産性向上等に取り組む動きが見られます。

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2)職場環境の改善で魅力の向上を実現する

人材確保のために中小企業が取り組んでいることとして、「給与水準の引き上げ」や「長時間労働の是正」があります。また、「育児・介護などと両立できる制度の整備」、「福利厚生の拡充」を通じた職場環境の改善などによって、職場の魅力向上に取り組む動きがあります。

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3 他社との差異化は、担い手づくりが肝心

1)経営者仲間との積極的な交流を通じて、企業の成長意欲を喚起する

経営者が成長意欲を高めるきっかけには、同業種・異業種の経営者との交流が大きな比率を占めています。

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2)リスキリングに取り組むことが、自社の成長にもつながる

経営者が学習時間を意図的に確保している企業のほうが、売上高増加率の水準が高い傾向にあるようです。経営者自身が学ぶ姿勢を見せることで、組織全体のリスキリングを推し進めるきっかけにもなります。

経営者が取り組んでいるリスキリングの内容としては、「書籍・セミナー受講等による知識の収集」、「社外での勉強会への参加」が上位に上がっています。

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一方、役員・社員に提供しているリスキリングの内容は、「書籍・セミナー受講等による知識の収集」、「社外での勉強会への参加」、「新しいスキルに関する資格取得」が多いようです。

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4 事業承継によって新たな担い手の創出を図る

1)事業承継後の事業再構築で成果を出す

事業承継は経営資源の散逸を防ぐとともに、経営者の世代交代により、企業を変革するチャンスになります。また、事業承継時の経営者年齢が若い企業ほど、企業の成長に寄与する事業再構築に取り組む傾向があります。

ここでいう事業再構築とは、新たな製品の製造または、新たな商品もしくはサービスを提供することや、製品または商品、もしくはサービスの製造方法、または、提供方法を相当程度変更することを指します。

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2)後継者に意思決定を任せてみる

後継者の新しい挑戦を促す上で、事業再構築の取り組みといった課題を与えるなどして、先代経営者は後継者に経営を任せることが重要です。また、従業員からの信認を確保することも大切で、従業員から信認を得て、事業再構築を行う企業ほど、売上高年平均成長率が高い傾向にあります。

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5 終わりに

白書からは、多様な働き方や意思決定の柔軟さなどといった中小企業ならではの特性を活かして、他社との差異化を図ることの大切さが明らかにされています。

白書の中では、人手不足をきっかけに、デジタル化による業務効率化を実現した企業や、副業人材を活用することで売上の向上につなげた企業など、個別具体的な企業の事例も紹介しているので、自社の戦略を立てる際の参考にするとよいでしょう。

以上(2023年7月作成)

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画像:master1305-Adobe Stock

日常点検を行いましょう!(2023/7号)【交通安全ニュース】

活用する機会の例

  • 月次や週次などの定例ミーティング時の事故防止勉強会
  • 毎日の朝礼や点呼の際の安全運転意識向上のためのスピーチ
  • マイカー通勤者、新入社員、事故発生者への安全運転指導 など

自動車の故障は1年の中で7月頃から増える傾向があります。

皆さんは日常点検を適切に実施していますか?

自動車は精密機械です。走行距離や時間の経過に伴って部品の摩耗や劣化が進みます。日常点検を怠っていると、運転中に故障やトラブルが生じ、交通渋滞や交通事故を誘因するおそれがあります。

今月は、自動車の日常点検について再確認してみましょう。

日常点検を行いましょう!

1.故障の発生状況

自動車の故障の発生件数は、6~7月から増え始め、12~1月にピークを迎えます。※

特に、ゴールデンウィークやお盆、年末年始などの連休にはロードサービスの救援要請が増加します。

ロードサービス救援件数

出典:一般社団法人日本自動車連盟(JAF)「ロードサービス救援 データ」から当社作成

※夏季は路面温度が上昇しタイヤに負荷が掛かったり、夏季にバッテリーを酷使して冬季にトラブルが生じたりすることが要因と考えられます。

故障の発生状況

国土交通省「令和4年度路上故障の実態調査結果」から当社作成

国土交通省の統計データで路上故障(一般道路)の故障部位をみると、「タイヤ」と「バッテリー」の割合が高く、この2つで全体の約6割を占めています。

タイヤの故障原因としては、空気圧不足やパンク、バーストなどがあげられ、バッテリーの故障原因としては、ライト類の長時間使用などによる過放電や破損、劣化などがあげられます。

運転中に発生するこれらのトラブルの多くは、日常点検をしっかりと行っていれば回避することが可能です。

故障経験

当社調べ「あなたは過去にお車が故障し自走不能となった経験がありますか?
(事故による故障の場合を除きます)」への回答結果
(2022年5月実績 回答者数:2,421名)

実は、3人に1人が故障を経験しています!

エンジン故障など修理費が高額になることもあります。

自走不能の場合はレッカー費用もかさみます。

2.日常点検のキホン

日常点検整備の実施は、ユーザーの義務として法令(道路運送車両法47条の2)に定められています。自家用乗用自動車の場合は、日頃、自動車を使用している中で、走行距離や運行時の状態などから判断した適切な時期に点検を行う必要があります。

【「日常点検項目チェックシート」の紹介】

自動車に安全に乗るためには欠かせない日常点検ですが、自家用乗用自動車の場合、エンジンルーム5項目、クルマの周り4項目、運転席6項目(全部で15項目)をチェックする必要があります。

「日常点検項目チェックシート」を活用して効率的に日常点検を実施しましょう。

日常点検項目チェックシート

日常点検項目チェックシート(上図参照)

出典:国土交通省「自動車の点検整備」
https://www.mlit.go.jp/jidosha/jidosha/tenkenseibi/tenken/t1/t1-2/

※日常点検で、もし少しでも「変だな」と感じたら、整備工場などで点検整備を受けてください。

<タイヤのトラブル回避>

高速で走行中にパンクやバーストが発生すると非常に危険です。また高速道路などの路肩でのタイヤ交換は追突されるなどの危険が伴います。

運転の前には、タイヤの空気圧、亀裂・損傷の有無、溝の深さ(スリップサイン)をしっかりチェックしましょう。

タイヤのトラブル回避

<バッテリーのトラブル回避>

バッテリーがあがる前にはランプ類が暗くなったり、エンジン始動の際のモーターの回転がスムーズでなくなったりします。

バッテリーの寿命を意識して日頃のバッテリー液の点検をしっかり行いましょう。

バッテリーのトラブル回避

3.日常点検の励行

日常点検を励行すれば、不具合を早期に発見・修理することができ、次のメリットが期待できます。

  • 交通事故防止(予期せぬトラブルや不測の事故の発生を未然に防げます)
  • 出費の抑制(長期的にはメンテナンス費用が少なくなり、自動車の寿命も延伸できます)
  • 環境保全(燃費の改善により地球温暖化の原因であるCO2の削減につながります)

※「エコドライブ10のすすめ」の項目(8.タイヤの空気圧から始める点検・整備)になっています。

日常点検をしっかりと行い、安心・安全かつ快適な運転を心がけましょう!

以上(2023年7月)

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画像:amanaimages

【海外展開の手引(6)】お手本にしたい他社の成功事例集

書いてあること

  • 主な読者:販路拡大や生産コスト削減などのために、海外展開を検討している経営者
  • 課題:海外展開を成功させるための秘訣を知りたい
  • 解決策:海外展開に成功した他の中小企業の事例を参考にする

1 他社の成功事例を知ることも大事な情報収集

海外展開を検討する際、現地のリスクの把握や市場調査の他に、収集すべき情報として、

先行した他社の成功事例

があります。理論や数字などから海外展開の成功ポイントを知るだけでなく、実際の成功事例を参考にすることで、検討すべき課題がより明確になるはずです。

この記事では、日本貿易振興機構(以下「ジェトロ」)「ジェトロ活用事例」、新輸出大国コンソーシアム「海外展開成功事例集」、中小企業基盤整備機構(以下「中小機構」)「中小企業の海外展開入門」などの資料や、各社ウェブサイトなどを基に、中小企業の海外展開事例を紹介します。なお、各機関の資料で紹介されている事例については、各資料作成時点のものです。

2 中小企業の海外展開における成功事例

1)オンライン商談を活用して販路開拓した事例:翠華園 谷村弥三郎商店(奈良県)

翠華園 谷村弥三郎商店は、茶せんなどの茶道具を製造販売しています。

同社は2020年に海外への輸出に取り組み始めました。まずは茶道具の海外ユーザーを増やすために、SNSのInstagram(インスタグラム)を活用し、茶道具の魅力や工房の様子などを発信したところ、ダイレクトメッセージで引き合いがくるようになったといいます。

そして、ジェトロが主催するオンラインカタログサイト「JAPAN STREET」に登録したことで、米国のバイヤーとの取引が成約し、ニューヨークのセレクトショップで販売されるようになりました。

取引が成約に至った決め手は、オンライン商談でした。バイヤーが顧客にも茶せんの価値や魅力を伝えられるよう、スマートフォンを使って実物を見てもらいながら、商品の背景にあるストーリーを説明したことが奏功したといいます。

具体的には、原料となる竹を見てもらいながら素材へのこだわりを説明。さらに、実際に工房で職人が手作業で茶せんを作る様子を映しながら製造工程を紹介することで、商品の価値と魅力を伝えることができたそうです。

2)越境ECサイト内のSNSを活用してリピーターを増やした例:Earthink(兵庫県)

Earthinkは、食品や雑貨の企画製造・販売などを行っており、食品の国内外への通販事業にも携わっています。2015年からは、米国のECモールAmazon.comに「Japan Village」を出店し、うなぎのかば焼きなど日本のこだわり食品を販売しています。

ECモール内で自社の販売する商品を見つけてもらうために試行錯誤する中、同社は2021年にジェトロとAmazonが日本の事業者の商品を特集するストア「JAPAN STORE」に参加しました。事業で提供されるウェビナーや講座からSEO対策や広告運用などのノウハウを得て、売り上げの増加につながったといいます。

また、ウェビナーをきっかけに、Amazon内のSNS「POST」への投稿に力を入れるようになりました。POSTではセールス色を抑え、販売している食品の用途やレシピ、商品の魅力や背景にあるストーリーの他、日本の文化など、より日本を身近に感じてもらう投稿を行いました。その結果、フォロワーや購入リピーターが増えたといいます。また、Amazonのイベント前や販促を強化したい商品があるときに集中的に投稿を行うことで、露出がさらに増えたそうです。

3)技能実習生を活用して現地進出を果たした事例:アーキテック(高知県)

アーキテックは建造物の防水加工や内装工事を行っています。同社はミャンマーで建築資材の防水加工を専門に行う企業がないことを知り、ミャンマーへの進出を考えるようになったといいます。

2017年に現地法人を設立後、新輸出大国コンソーシアムの支援を受けて、本格展開の準備を進めました。コンソーシアムの専門家からは、現地の法律や、ASEANでの商習慣などの助言を受けました。コンソーシアムの専門家の助言を受けて日系ゼネコンなどへのPR活動を行った結果、2018年11月から工業団地の工場の外壁工事や、ヤンゴン市内の学校およびホテルの工事の一部を受注できるようになったといいます。

人員体制の整備については、技能実習生として2015年から日本の本社で受け入れていたミャンマー人を活用しました。技能実習生としての勤務経験があるスタッフを雇用し、現地採用の人材の指導に当たってもらうことで、20人規模の運営体制を構築したといいます。元技能実習生を現地で雇用したことは、日本にやって来る技能実習生にとっても、やる気を引き出す効果があったようです。

4)特許戦略で海外展開の足掛かりを築いた例:アイマックエンジニアリング(東京都)

アイマックエンジニアリングは、プラント用機械の設計・製作を行っており、工場内で製作したユニットを現地で据え付けるだけで建設可能な新工法のノウハウを持っていることが強みです。

同社は2019年度に、新工法のノウハウを武器に、国内メーカーだけでなく海外メーカーとの取引も行うことを目指して、知的財産を活用した中小企業の海外展開をサポートする経済産業省の「戦略的知財活用型中小企業海外展開支援事業」に応募し、採択されました。

当初はライセンス供与による海外メーカーとの取引を計画しましたが、中小機構のアドバイザーと検討した結果、周辺特許を多数権利化する必要があることなどが判明し、PCT出願(国際特許出願)を行うことにしました。PCT出願は、特許協力条約(PCT)への加盟国の1カ国に、統一された出願書で特許を出願すると、全ての加盟国に特許出願したことになるものです。

2020年12月に日本での特許の権利化を達成し、2021年度までにアジアや欧米の9カ国で権利化の手続きを開始しました。同社は特許の権利化を足掛かりに、今後は海外展開を進めていく方針といいます。

3 海外展開の成功事例に関する情報源

1)ジェトロ「ジェトロ活用事例」

ジェトロでは、目的、分野、海外展開先などから、海外ビジネスの成功事例を検索できるようにしています。

■ジェトロ「ジェトロ活用事例」■

https://www.jetro.go.jp/case_study/

2)新輸出大国コンソーシアム「海外展開成功事例集」

ジェトロのウェブサイトでは、ジェトロが事務局を務める新輸出大国コンソーシアムによる支援を活用した、58社の事例を紹介しています。

■ジェトロ「新輸出大国コンソーシアム『海外展開支援活用事例集』をウェブサイトで公開」■

https://www.jetro.go.jp/news/releases/2022/0f885ee3faef4a45.html

また、同じく新輸出大国コンソーシアムを活用して海外展開に成功した、100社の事例も紹介しています。

■ジェトロ「新輸出大国コンソーシアム『海外展開成功事例集』をウェブサイトで公開」■

https://www.jetro.go.jp/news/releases/2019/48c3ea6f0bbe6a95.html

3)中小企業基盤整備機構「中小企業の海外展開入門」

中小企業基盤整備機構では、中小企業による「海外進出の取り組み事例一覧」をウェブサイト上で掲載しています。また、「事例集(中小企業庁編)」では、全国の中小企業支援機関による支援を受けて、海外展開を果たした事例を紹介しています。

■中小企業基盤整備機構「中小企業の海外展開入門」■

https://j-net21.smrj.go.jp/special/overseas/

4)国際協力機構「採択事業検索」

国際協力機構(JICA)では、中小企業への海外展開支援事業に関して、対象国、スキーム、公示年度などから過去の案件事例を検索できるようにしています。

■国際協力機構「採択事業検索」■

https://www2.jica.go.jp/ja/priv_sme_partner/index.php

5)日本商工会議所/東京商工会議所「ヒラケ、セカイ2」

日本商工会議所および東京商工会議所では、2018年1月に中小企業の海外展開事例集「ヒラケ、セカイ2」を発行しました。2016年10月に発行した第1弾に続く電子冊子で、16社の事例を紹介しています。

■日本商工会議所/東京商工会議所「ヒラケ、セカイ2」■

http://www.tokyo-cci.or.jp/page.jsp?id=112735

6)工業所有権情報・研修館 知財総合支援窓口「支援事例」

工業所有権情報・研修館では、ウェブサイト「知財総合支援窓口」において、知財面における「支援事例」を紹介したページの中で、代表的な海外展開支援事例を紹介しています。

■工業所有権情報・研修館 知財総合支援窓口「支援事例」■

https://chizai-portal.inpit.go.jp/supportcase/02.html#supportcase04

以上(2023年6月更新)

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画像:unsplash

「室温は18度以上28度以下」など、御社のオフィス環境が法定基準を満たしているかを確認!

書いてあること

  • 主な読者:リモートワークをやめ、オフィス勤務を復活させている経営者など
  • 課題:法改正の関係で、オフィス環境が法定基準を満たさなくなっている恐れがある
  • 解決策:特に2022年に法改正のあった「照明」「トイレ」「洗面設備等」「休養室・休養所」「休憩設備」「救急用具」「室温」「作業環境測定」のルールを確認する

1 リモートワークをやめた会社は2022年の法改正に注意!

コロナ禍で広まったリモートワークですが、最近はオフィス回帰の動きが広まっています。その場合に注意が必要なのは、労働安全衛生法とその関係法令で定められている「オフィス環境の衛生基準(以下「法定基準」)」です。

会社は「照明の明るさ」「トイレの数」などについて、法定基準を守らなければならないのですが、図表1の通り、2022年(4月と12月)にルール変更があった関係で、知らないうちに法令に違反している可能性があるのです(違反は努力義務の場合を除き、6カ月以下の懲役または50万円以下の罰金)。

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以降で、図表1のそれぞれの項目について法令上のルールを紹介するので、今のオフィス環境に不安がある場合は確認してみてください。

2 照明

照明は、社員の作業内容に応じた「照度(照明の明るさ)」が法定基準を満たすようにしなければなりません(義務)。照度は、光の量を表す「ルクス」という単位で表され、照度計で測定できます。作業場所はルクスが高いほど明るく、低いほど暗くなります。

2022年12月1日からは、社員の作業内容と、作業内容ごとに満たすべき照度の基準が次のように変更されています。

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パソコン操作・計算などの「精密な作業」と電話応対などの「普通の作業」が「一般的な事務作業」に統合され、資料の袋詰めなど文字を読む必要のない「粗な作業」が「付随的な作業」に名称変更されました。作業に必要な照度も引き上げられているので注意が必要です。

オフィスの照明・採光は、図表2の基準の照度を満たした上で、「明暗の対照が著しくなく、かつ、まぶしさを感じさせない方法」とされています。

  • まぶしいと感じる場合は、照明を明るさの調節ができるものに変える、カバーのついた照明に変える、
  • 暗すぎる場合は、テーブルライトを設置する

などの対策が必要です。また、オフィス全体の照度は基準通りでも、パーテーションで作業スペースが暗くなるといったケースでは、基準を満たさなくなる恐れがあるので注意しましょう。

3 トイレ

トイレは、社員の性別や人数に応じて、次のように設置しなければなりません(義務)。

  • 男性用トイレ(大):男性社員60人までにつき1個以上
  • 男性用トイレ(小):男性社員30人までにつき1個以上
  • 女性用トイレ:女性社員20人までにつき1個以上

また、2022年4月1日からは、「独立設置型のトイレ」に関するルールが新設されました。

独立設置型のトイレとは、プライバシーが保護され、社員が性別などに関係なく利用できる、完全個室のトイレのこと

で、具体的には次の基準を満たすものをいいます。

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独立設置型のトイレを設置すると、そのトイレ1個につき、会社の男性社員と女性社員を、実際の人数よりも10人ずつ減らしてカウントすることができます。例えば、男性社員が70人いる場合、独立設置型のトイレを1個設置することで、男性社員は60人(70人−10人)としてカウントされ、会社が設置しなければならない男性用トイレの数が次のように変わります。

  • 通常:男性用トイレ(大)2個以上、男性用トイレ(小)3個以上
  • 独立設置型のトイレを設置:男性用トイレ(大)1個以上、男性用トイレ(小)2個以上

ただ、このルールは、会社が建物の都合上、トイレを男女別に設置できないケースなどに対応するためのものなので、法定基準を満たすからといって、今ある男性用・女性用トイレの数を減らしてスペースを節約するといったことはできません。

また、独立設置型のトイレを設置する場合、トイレは男女共用になり、重い持病や障害がある社員も使うことが想定されますから、次のような事項についても検討する必要があります。

  • 手洗い設備(トイレ内に設けるのが基本)
  • 消臭や清潔を保つマナー
  • サニタリーボックスの管理方法
  • 盗撮や侵入などの犯罪を防ぐ方法(非常用ブザーの設置など)
  • 体調が悪くなったときの措置(マスターキーを使って外部からの解錠を可能にするなど)

4 洗面設備等

会社は社員数に関係なく、社員が顔を洗える洗面設備を設置しなければなりません。加えて、業務上、社員の服が汚れたり、濡れたりすることがある場合は、更衣室やシャワー設備、乾燥機などを設置しなければなりません(義務)。

また、2022年4月1日からは、社員が更衣室やシャワー設備を、性別に関係なく安全に使えるよう、プライバシーに配慮することが会社に求められるようになりました。プライバシー保護の基本的な考え方は、前述した独立設置型のトイレと同じです。

5 休養室・休養所

休養室・休養所とは、体調が悪い社員や生理中の女性社員が横になって休むことのできる場所のことです。部屋の場合は「休養室」、施設の場合は「休養所」といいます。会社は、

社員が50人以上または女性社員が30人以上いる場合、休養室・休養所を「男女別」に設置

しなければなりません(義務)。

また、2022年4月1日からは、オフィスの空いているスペースを臨時の休養室として使う場合などに、社員がすぐに利用できる体制を整えることが求められるようになりました。例えば、

社員が体調不良を訴えたら、すぐに折りたたみ式のベッドを出せるようにする

といった具合です。また、社員が安心して休めるよう、プライバシーと安全に配慮することが求められるようになりました。例えば、

  • 入口や通路から直視されないように目隠しを設ける
  • 関係者以外の出入りを制限する
  • 緊急時に安全に対応できるよう、救急用具を揃えておく

といった具合です。

6 休憩設備

休憩設備とは、社員が食事をしたり、休憩したりするための場所です(設置は努力義務)。設置に関する具体的な基準は特にありません。

ただし、2022年4月1日から「休憩スペースの広さや設備内容については、衛生委員会などで調査審議・検討するのが望ましい」旨が示されたので、衛生委員会がある社員数50人以上の会社などは認識しておいたほうがよいでしょう。例えば、「同じタイミングで休憩する社員が多い場合、今の休憩設備は窮屈でないか」などについて確認してみましょう。

7 救急用具

会社は、負傷した社員の応急手当に必要な救急用具を備えて、清潔に保たなければなりません(義務)。救急用具の品目については、以前は最低でも

  1. 包帯・ピンセット・消毒薬
  2. 火傷薬(業務上、火傷の恐れがある場合)
  3. 止血帯、副木、担架等(業務上、重傷者が出る恐れがある場合)

の3つを用意することが義務付けられていたのですが、2022年4月1日からは具体的な品目が削除され、各社が想定される事故などに応じて必要な品目を準備することになりました。

ホワイトカラーの会社でも、はさみやカッターによるけが、階段での転倒などが起こり得るので、救急用具は必需品です。一概には言えませんが、包帯・ピンセット・消毒薬などの他、感染予防のためのマスク・ビニール手袋・手指洗浄薬などを用意しておく必要があるでしょう。

また、救急用具の保管場所や使用方法、応急手当後の対応ルール(医療機関への搬送など)については、あらかじめ社内で共有しておきましょう。

8 室温

会社には、空調設備(エアコンや加湿器など)がある部屋の室温を、法令で定める基準に設定することが求められています(努力義務)。

2022年4月1日からは、室温に関する努力目標値が次のように変更されています。

  • 法改正前:17度以上28度以下
  • 法改正後:18度以上28度以下

9 作業環境測定

オフィスに中央管理方式の空調設備がある会社は、原則2カ月以内に1回、次の項目に関する作業環境測定をし、その記録を3年間保存しなければなりません(義務)。

  • 一酸化炭素・二酸化炭素の含有率(原則、検知管方式の測定器で測定)
  • 室温・外気温(0.5度目盛の温度計で測定)
  • 相対湿度(0.5度目盛の乾湿球の湿度計で測定)

このうち、一酸化炭素・二酸化炭素の含有率の測定については、検知管方式と同等以上の性能がある場合、他の測定器の使用も認められています。2022年4月1日からは、具体的な測定器の例として次の2つが示されています。

  • 一酸化炭素の場合:定電位電解法を用いる測定器
  • 二酸化炭素の場合:非分散型赤外線吸収法(NDIR)を用いる測定器

なお、作業環境測定に必要な機器は、各都道府県の産業保健総合支援センターなどで貸し出している場合があります。また、自社で行うのが難しい場合は、「作業環境測定士」に依頼することもできます。

以上(2023年6月更新)
(監修 社会保険労務士 志賀碧)

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画像:pexels

税務のグレーゾーン 経営者が押さえておくべき勘所

書いてあること

  • 主な読者:税務処理を選択する際、課税リスクを押さえた判断をしたい経営者
  • 課題:課税リスクの判断基準や、すべてが明確に決まっているわけではない
  • 解決策:税務調査で指摘を受けやすい「不相当に高額」「通常要する費用」「専ら」と基準が曖昧な項目の考え方を押さえる

1 グレーゾーンを把握して、税務の勘所を高めよう

経営をしていると、税務処理を選択しなければならない機会が結構あります。問題は白黒がはっきりしていない、つまり場合によっては課税リスクが高まるかもしれないケースがあることです。税務処理の選択による課税リスクは、「白・黒・グレー」の3色で表現され、それぞれ次のような意味合いで使われます。

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経営者が税務の勘所を高めるために重要なのは、グレーゾーンの考え方を知ることです。グレーゾーンは解釈次第で税務署側の取り扱いが変わることがあるためです。グレーゾーンは「〇〇円未満なら白で、それ以上は黒」といったように、文字通り、金額で白黒はっきりするようなものではなく、法令でも、

「不相当に高額」「通常要する費用」「専ら」

などという言葉で表現されます。これらが具体的にどのようなことを示しているのでしょうか。税務調査で指摘を受けやすいグレーゾーンとして、

  • 「不相当に高額」な役員報酬
  • 「不相当に高額」な役員退職金
  • 「通常要する費用」としての交際費
  • 「専ら」従業員のために行われる福利厚生費

について解説していきます。

2 「不相当に高額」な役員報酬

1)「不相当に高額」と判断される一般的な基準(考え方)とは

役員報酬については、定期同額(毎月一定の額など)で支給されているなどの条件を満たしていれば基本的に損金(税務上の費用)とすることができます。しかし、その支給金額が「不相当に高額」な場合、その高額と判断された部分については損金と認められません。

役員報酬について「不相当に高額かどうか」を判断する基準には、

  1. 形式基準
  2. 実質基準

の2つがあります。

形式基準とは、

定款や株主総会の決議で決めた役員報酬の限度額と照らし合わせて判断するもの

です。つまり、あらかじめ決定した限度額を超えて支給した場合は、超過額部分については損金とされないことになります。

実質基準とは、

役員の職務の内容や会社の収益状況、従業員に対する給与の支給状況、あるいは、同業他社との比較などで「不相当に高額かどうか」を判断するもの

です。そのため、

  • 実質的に何もしていない役員(名前だけの役員)に役員報酬を支給している場合
  • 売上・利益が減少していて、従業員のボーナスなどもカットしているのに、役員報酬だけ増加傾向にある場合

には、税務調査で指摘されることが多いです。

2)現場レベルで注意すべき点は

形式基準は、定款や株主総会の議事録などで確認できます。もし実際の支給額と限度額の金額が近い場合には、次の株主総会で限度額の増額を決定しておくようにしましょう。

また、役員報酬を決定するときには、会社の利益の状況などを踏まえた上で決定することとし、「なぜその金額に決定したの?」という調査官からの問いかけに対して、合理的に説明できる資料を書面で準備しておくことが重要です。特に役員報酬を増額する際にはその理由を明確にしておきましょう。

3 「不相当に高額」な役員退職金

1)「不相当に高額」と判断される一般的な基準(考え方)とは

役員退職金は基本的に損金とすることができるのですが、その支給金額が「不相当に高額」な場合、その高額と判断された部分については損金と認められません。

役員退職金は、職務に従事していた期間や退職の事情や、同業他社の支給状況などを総合的に勘案して判断されます。よく利用される基準に「功績倍率法」というものがあります。これは、次の算式に当てはめて役員退職金の額を決定する方法です。

退職直前の役員報酬の月額 × 勤続期間 × 職責に応じた倍率

必ずしも功績倍率法で計算すれば税務上認められるわけではありませんが、支給額を決定する際の参考にするとよいでしょう。

なお、

  • 実質的に何もしていない役員(名前だけの役員)に退職金を支給した場合
  • 退職直前に極端に役員報酬を増額し、功績倍率法の計算結果を意図的に増やした場合

には、税務調査で指摘されることが多いので注意しましょう。

3)現場レベルで注意すべき点は

役員報酬と同じで、支給した役員退職金について「なぜその金額に決定したの?」という調査官からの問いかけに対して合理的に説明できる資料を書面で準備しておくことが重要です。

また、功績倍率法を使用する場合は役員退職金規程を整備するとともに、役員報酬については会社の利益の状況などを鑑みつつ、計画的に増額するようにするとよいでしょう。

4 「通常要する費用」としての交際費

1)「通常要する費用」と判断される一般的な基準(考え方)とは

中小企業の場合、損金として認められる交際費は「年間800万円まで」と決まっています。そのため、飲食費だからといってなんでも交際費にしてしまうと、損金として認められない交際費が出てくる可能性があります。

一般的に交際費となりそうな費用であっても、「通常要する費用」の範囲内であれば交際費としなくてもよいケースがあります。

一般的に多く見られる事例としては、

会議に関連して、茶菓、弁当等の飲食物を供与するために通常要する費用

があります。つまり、会議で提供された飲食関連の費用であっても「通常要する費用」の範囲内であれば交際費とせず、会議費(金額基準に関係なく損金とすることができる)として処理することができます。

通常要する費用とは、

  • 必要があって支出したもので、
  • 一般的・常識的な範囲内であるもの

ということになります。そのため、会議時に提供されたお弁当の金額が1000円から3000円くらいの範囲内であればさほど問題になるケースは多くないものと考えられますが、フレンチのフルコースなど、会議というより接待が主になると思われるようなものは交際費とされる可能性が高くなります。

また、月に数回程度の会議であれば問題ありませんが、ほぼ毎日会議を行い、お弁当を食べている場合には「必要外のもの」と判断されて交際費とされることもあります。いずれにしても「常識の範囲内」というのが判断基準になります。

2)現場レベルで注意すべき点は

会議費などで飲食を伴った場合には、まず「金額が大きくなりすぎていないか」について敏感になる必要があります。この金額についての判断が現場担当者の間で曖昧になるようであれば、社内規程などを設け、会議飲食費としての金額範囲などを決めてしまうのも一方法です。また、会議を行った場合は、

「本当に会議が存在したこと」を証明するため、議事録などは必ず作成する

ようにしておきましょう。

5 「専ら」従業員のために行われる福利厚生費

1)「専ら」と判断される一般的な基準(考え方)とは

「専ら従業員の慰安のために行われる運動会、演芸会、旅行等のために通常要する費用」については交際費とせず、福利厚生費(金額基準に関係なく損金とすることができる)として費用処理することができます。

「専ら」とは、

必ずしも100%である必要はないものの、80%から90%は該当するような状態

と言われています。例えば忘年会などの催し事の場合、全従業員を対象として開催しつつも、最終的に80%から90%の人が参加すれば福利厚生費として処理されます。そのため、

  • 特定の役職者のみを対象とした飲み会
  • 役員のみを対象とした慰安旅行

については、税務調査で交際費に該当すると指摘されたり、給与として源泉徴収すべきと指摘されたりするので注意しましょう。

2)現場レベルで注意すべき点は

福利厚生費として処理すべき年間行事はさほど頻繁に行われるものではありませんので、行事の内容や参加者(人数)、費用の総額などを一覧にし、税務調査で指摘された際には明確な説明できるような書類を準備するようにしておきましょう。

以上(2023年6月作成)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 税理士 森浩之)

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画像:ipuwadol-Adobe Stock

【海外展開の手引(5)】パートナー選び、資金手当て、法対応などの戦略と実務

書いてあること

  • 主な読者:販路拡大や生産コスト削減などのために、海外展開を検討している経営者
  • 課題:海外展開を成功させるために準備すべきことを知りたい
  • 解決策:現地拠点の形態やパートナー選びなどの戦略を立てる。資金手当て、人材確保・育成、法規制への対応といった実務面での対策も講じておく

1 海外展開の成否を左右する「戦略」と「実務」対応

海外展開のための構想を練って現地調査が完了したら、いよいよ実現に向けて具体的に動き出す段階です。ここで必要な手順は、次の2つです。

  1. 構想段階で立てた目的を実現するための戦略を立てる(現地拠点の形態、パートナー選びなど)
  2. 現地調査の結果を踏まえた実務面での対策を講じる(資金手当て、人材確保・育成、法規制など)

2 目的に適した現地拠点の形態を決める

海外展開の戦略を立てる上で欠かせないものの一つが、現地拠点の形態をどうするかです。

一般的に、現地拠点の形態は次のようなものが挙げられます。

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国や地域、業種によっては、外資規制のため単独出資で現地法人を設立できないこともあります。基本的には、拠点の規模が大きく、自社の出資比率が高いほど、ハイリスク・ハイリターンになります。

3 現地のパートナー候補を見つける

海外で事業を行うためのリソースやノウハウを持っている現地企業とパートナーシップを築くことは、海外展開の成否に大きく影響します。

1)アピールや商談に結び付く情報を集約しておく

現地での取引相手となるパートナーを探す際は、自社が求める具体的な希望条件と、自社のアピールポイントをまとめておくことが必要です。

例えば自社商品の販売先を探すのであれば、具体的な希望条件として金額、数量、納期、輸送方法などを決めておきます。自社のアピールポイントとしては、製品の強み(品質、販売実績、報道・表彰歴など)をまとめ、バイヤー(購買担当者)に示すことで、実際の商談に結び付けられるようにします。

2)マッチングサービスを活用する

海外展開を支援する機関の中には、専用のウェブサイトを設けるなどして、海外展開のためのマッチングサービスを提供している場合があります。

例えば、日本貿易振興機構(以下「ジェトロ」)が運営する国際ビジネスマッチングサイト「e-Venue」は、100カ国以上のビジネスパーソンが利用しており、ビジネス案件の登録や、ビジネス案件の検索・閲覧・問い合せ(引き合い)などを行うことができます。海外のビジネス案件は日本語でも閲覧でき、コンタクト先とチャットでやり取りすることも可能です。e-Venueの登録や利用は無料です。

■ジェトロ国際ビジネスマッチングサイト「e-Venue」■

https://e-venue.jetro.go.jp/bizportal/s/?language=ja

民間企業でも国際ビジネスマッチングのサービスを提供している企業があります。例えば、世界的な電子商取引仲介業であるアリババグループは、190以上の国と地域のバイヤーが参加しているというマッチングサイト「Alibaba.com」を展開しています。

3)国際的な展示会・展覧会・商談会に出展する

国内外で開催される国際的な展示会・展覧会・商談会に出展することで、国外のバイヤーと接触でき、具体的な取引へつなげることが可能になります。

自社で負担できる費用と、開拓したい市場(国・地域、販売チャネルなど)を勘案し、適切な展示会・展覧会・商談会に出展するようにしましょう。

ジェトロでは、ウェブサイト上で国際的な展示会・展覧会・商談会に関する情報を発信するとともに、要件を満たした事業者に対して出展に関する各種支援を行っています。また、国内外の展示会・商談会で、ジェトロが主催・参加するジャパンブースへの、個別企業・団体などの参加を支援します。一部の展示会の出展については、ジェトロから、出展にかかる各種手続きの支援と出展費用の一部補助を受けることができます。

■ジェトロ「展示会・商談会への出展支援」■

https://www.jetro.go.jp/services/tradefair/

この他、中小企業基盤整備機構では、海外の展示会に出展することをテーマに、必要な知識を集めた冊子「海外出展 海外展示会ハンドブック」を公開しています。

■中小企業基盤整備機構 海外ビジネスナビ「海外出展 海外展示会ハンドブック」■

https://biznavi.smrj.go.jp/handbook-overseas-exhibitions/

4)パートナー候補の信用情報もチェックをする

せっかく選んだ現地パートナーの経営が傾いてしまっては、元も子もありません。パートナー候補の信用情報は、ある程度のお金を掛けてでも押さえておきたい情報です。

海外企業の信用情報を入手するに当たっては、国内信用情報会社の海外企業調査サービスを活用する方法があります。例えば、東京商工リサーチでは、米国の企業情報サービス会社Dun&Bradstreet(D&B)社と提携し、同社がカバーする240カ国超、5億件超の「ダンレポート」を有料で提供しています。

■東京商工リサーチ「海外企業調査レポート(ダンレポート)」■

http://www.tsr-net.co.jp/service/detail/dun-report.html

4 資金の手当てに万全を期す

現地法人を設立するなどの大規模な海外展開を行う場合、相応の資金を要します。また、海外展開は思わぬ出費が嵩む場合もあります。資金の手当ては万全にしておきましょう。

1)日本政策金融公庫「海外展開・事業再編資金」

中小企業が海外の地域で事業開始・拡大・再編する際に必要な資金(海外企業に対する転貸資金を含む)の融資を受けられます。詳細は日本政策金融公庫の支店窓口で確認してください。

■日本政策金融公庫「海外展開・事業再編資金」■

https://www.jfc.go.jp/n/finance/search/kaigaitenkai.html

2)国際協力銀行(JBIC)「中堅・中小企業分野」

中堅・中小企業の海外投資や製品輸出などに必要な長期資金を、民間金融機関との協調融資などで支援しています。また、対外借り入れ規制や諸手続きなどへの助言も行っています。

■国際協力銀行「中堅・中小企業分野」■

https://www.jbic.go.jp/ja/business-areas/sectors/smes.html

3)信用保証協会「海外投資関係保証制度」「特定信用状関連保証制度」

都道府県の信用保証協会は、中小企業が海外展開に要する資金を金融機関から借り入れる際の債務の保証を行います。「海外投資関係保証制度」は、国内の金融機関から海外直接投資事業資金の融資を受ける際に利用できます。「特定信用状関連保証制度」は、海外子会社が現地金融機関から融資を受ける際に利用できます。

■全国信用保証協会連合会「海外展開をお考えの方」■

https://www.zenshinhoren.or.jp/model-case/kaigaitenkai/

4)商工組合中央金庫(商工中金)「海外進出サポート」

商工中金は国内外全店舗に「中小企業海外展開サポートデスク」を設置し、海外進出に必要な海外投融資から貿易金融まで、個別相談によるサポートを行っています。

■商工中金「海外進出サポート」■

https://www.shokochukin.co.jp/corporation/service/support/

5 海外で渡り合える「グローバル人材」の確保・育成

初めて海外展開を行う企業にとって障害となりかねない問題として、「ヒト」の問題が挙げられます。海外で存分に力を発揮できる人材の確保や育成は、実務面での大きな課題です。

単に語学力があるだけでは、海外展開の重責を担う資質として不十分です。現地の文化や習慣に敬意を払って順応し、多様性や現地の事情を認めながらも、大事なところでは折れずに自社の立場を主張できる「グローバル人材」の育成が求められます。

1)東京都中小企業振興公社−海外展開支援−「海外人材育成支援」

国際ビジネスに対応できる人材育成を総合的にサポートしており、貿易実務者養成講習会やグローバル人材育成講座などを開催しています。

■東京都中小企業振興公社−海外展開支援−■

https://www.tokyo-kosha.or.jp/TTC/

2)日本生産性本部「コンサルティング・人材育成支援(海外進出企業支援)」

海外での経営の効率化や、現地スタッフおよび現地駐在日本人の育成を支援しています。具体的には、現地スタッフのマネジメント力向上などの課題の解決を支援しており、現地社員の意識調査や、マネージャー育成プラグラムなどを行います。

■日本生産性本部「コンサルティング・人材育成支援(海外進出企業支援)■

https://www.jpc-net.jp/consulting/mc/global/vietnam.html

3)海外産業人材育成協会(AOTS)「技術協力活用型・新興国市場開拓事業」

海外事業を展開する上で必要となる人材の育成を支援しています。対象となる国・地域は経済協力開発機構(OECD)の開発援助委員会が定めるODA対象国・地域です。一般研修と管理研修の2つのコースがあります。

■海外産業人材育成協会(AOTS)「技術協力活用型・新興国市場開拓事業」■

https://www.aots.jp/hrd/technology-transfer/receiving/oda/

4)外部人材の招請

社内でグローバル人材を育成するのは容易ではありませんし、時間もかかります。社内で人材が育つまで、外部から経験者を中途採用するというのも現実的な方法です。

最近では海外に居住している日本人も多いので、現地の事情に精通している日本人の現地採用を検討してもよいでしょう。

6 現地の法規制への対応は専門家のアドバイスが必須

海外展開を行うには、現地の法規制にしっかりと対応する必要があります。法規制への対応といっても、出資や土地取得などに関する法規制、知的財産権に関わる法規制、税制や会計制度など多岐にわたります。

それぞれ現地の事情に詳しい専門家のアドバイスを受けることが不可欠ですが、公的機関などが海外展開時の法規制への対応に関して、一部サービスを提供しています。

1)日本弁護士連合会「中小企業の国際業務支援事業(弁護士紹介)」

日本弁護士連合会では、ジェトロ、東京商工会議所、日本政策金融公庫、国際協力銀行、国際協力機構などを通じて依頼があった際に限り、弁護士の紹介サービスを行っています。

海外展開において、相手国側の企業・団体との契約書のチェックなどで法的知見を必要とする場合や、トラブルが発生した際のアドバイスをしてくれます。初回の相談は30分無料です。

■日本弁護士連合会「中小企業の国際業務支援事業(弁護士紹介)」■

https://www.nichibenren.or.jp/activity/resolution/support.html

2)法務省「日本企業及び邦人を法的側面から支援する方策等を検討するための調査研究」

日本企業の海外展開を法的な側面から支援するための調査研究の結果を掲載しています。調査対象の国は限られていますが、海外展開を検討している国であれば参考になります。

■法務省「日本企業及び邦人を法的側面から支援する方策等を検討するための調査研究」■

https://www.moj.go.jp/housei/shihouseido/housei10_00135.html

3)工業所有権情報・研修館「海外展開知財支援窓口」

海外駐在経験などを持つ知財のスペシャリスト「海外知的財産プロデューサー」が、海外ビジネスにおける知的財産のリスク管理に関してアドバイスします。また、ビジネス展開に応じた知的財産の権利化や、取得した権利を利益に結びつけるための活用方法を提案します。相談は無料で、全国どこにでも訪問します。

また、海外での知財リスクに対応するために、新興国などの知財実務情報を「新興国等知財情報データバンク」で提供しています。

■工業所有権情報・研修館「海外展開知財支援窓口」■

https://faq.inpit.go.jp/gippd/service/

■工業所有権情報・研修館「新興国等知財情報データバンク」■

https://www.globalipdb.inpit.go.jp/

以上(2023年6月更新)

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画像:pixabay

【朝礼】基本に忠実になれば、仕事のレベルは上がる

最近、お客様から求められる仕事のレベルが高くなっています。お客様から期待されているということの表れだと思うと、大変うれしいことです。今後、お客様の期待に応えるためによりレベルの高い仕事をしていくためには、皆さんにはこれまで以上に頑張ってもらわなければなりません。とはいえ、これまで以上にレベルの高い仕事をするということは、仕事の密度が高くなることでもあります。そこで余裕を失い、ミスをしてしまってはむしろお客様の信頼を損ねてしまいます。

そうならないよう、今だからこそ、「仕事の基礎や基本に忠実になる」という点について、考えてみたいと思います。

仕事量が増えて忙しくなってくると、よくないとは思いつつ、忙しさを言い訳にして「決まった手順を省略する」といったよう、つい基礎や基本をおろそかにしてしまいます。

しかし、基礎や基本をおろそかにして仕事をすると、ミスを起こしたり、仕事がはかどらなくなりがちです。仕事に限ったことではありませんが、基礎や基本という土台が弱いと、レベルの高いことや、何か新しいことをやろうとしても、うまくいきません。なぜでしょうか。

例えば、家を建てる場合のことを考えてみましょう。家の土台や基礎がしっかりしていないと、たとえ柱を建てることができても、完成した家は不安定で、いわゆる欠陥住宅になってしまいます。

仕事でも家と同様のことがいえます。基礎や基本という土台をおろそかにしてはしっかりとした仕事はできません。そんな状態でレベルの高い仕事をするなど、到底無理でしょう。

もし、忙しさのあまり、仕事の基礎や基本をおろそかになりそうになったら、「『誰のために』『何のために』『どうして』その仕事をするのか」という点について考えてください。これらは、お客様の立場に立って仕事を考えるということであり、仕事をする上での原点です。お客様のことを常に考え、その上で仕事をすることで、無用なミスを減らし、高いレベルの仕事をするためのモチベーションとすることができると思います。

そして、私は皆さんに、できるだけ強い家、仕事に置き換えるならレベルの高い仕事に挑戦してもらいたいと願っています。そのためには、今まで培ってきた仕事の基礎や基本に忠実であると同時に、日々努力を怠らずに知識を習得して、新しい仕事の基礎や基本を増やしていくように心がけてもらいたいと思います。それは、強い家を支える多くの柱のように、皆さんが今、そしてこれから挑戦することになるレベルの高い仕事を支えるものとなるはずです。

最初にも言いましたが、お客様から求められる仕事のレベルが上がっている今、改めて仕事の基礎や基本の重要性を認識し、土台のしっかりとした、お客様に安心していただける仕事をするために頑張っていきましょう。

以上(2023年6月)

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画像:Mariko Mitsuda

上杉鷹山(米沢藩藩主)/経営のヒントとなる言葉

「成せばなる 成さねばならぬ 何事も 成らぬは人の 成さぬ成りけり」(*)

出所:「上杉家文書」(国宝)

冒頭の言葉は、

  • 「物事を成し遂げることができるか否かは、その人の意志にかかっている。どのような困難があっても、地道にあゆみを進め、決して諦めなければ必ずや成し遂げることができる」

ということを表しています。

古くからの名門であった上杉家は、かつては会津地方で石高120万石という広大な領地を治めていました。しかし、関ヶ原の合戦で徳川家康(とくがわいえやす)に敵対したため、戦後は石高を30万石に減らされた上、米沢に移されることとなりました。その後、世継ぎ問題の不手際などからさらに石高を15万石にまで減らされてしまいました。

このような経緯にもかかわらず、米沢藩は120万石の頃とほぼ同じ数の藩士を養っていました。このため、米沢藩は膨大な借金を抱え、8代藩主であった上杉重定は幕府へ領地の返上を検討するほどの存続の危機に陥っていました。

鷹山は、こうした危機に際して高鍋藩から米沢藩に迎えられ、17歳で藩主となりました。藩財政の窮乏を知った鷹山は、自身の食事を一汁一菜の質素なものとし、年間行事の中止や贈答の禁止などを行うなど倹約に努めました。また自らも鍬をとり、藩士全員に田畑の開墾に当たらせました。鷹山は、自身が率先して改革に取り組むことで、藩全体に改革の精神を広げようとしたのです。

こうした従来の慣例を破る改革は名門上杉家の伝統に背くとして、藩の保守的な重臣たちは鷹山に反発しました。しかし、鷹山はこうした反発に厳しく対処し、あくまでも迅速かつ果敢に改革を進めようとしました。

鷹山はまず、米沢に新しい産業を興すべく漆の植林に取り組みました。漆にはロウが含まれているため、漆から取れるロウを藩の専売品として販売し収益を上げ、藩財政を立て直そうと考えたのです。しかし、漆から取れるロウはほかのロウよりも品質が悪かったため市場で受け入れられず、この計画は失敗に終わりました。その後、信頼していた重臣が不祥事によって相次いで失脚し、さらに天明の大飢饉により藩内の田畑は大損害を受けました。このような悪条件が重なったことにより改革は頓挫し、1785年、鷹山は藩主の座を退くこととなりました。

鷹山が藩主の座を退いたのち、米沢藩の財政はさらに悪化の一途をたどりました。俸禄(給料)を大幅に削除された藩士のなかには、農民から不正に多くの年貢を徴収する者も現れ、厳しい生活に耐えられなくなった多くの農民たちが藩内から逃げ出しました。

このような状況を憂慮した鷹山は、隠居の身でありながら再び改革に着手することを決心しました。鷹山は、かつて性急に改革を進めようとして挫折した経緯を省みて、まずは藩士に藩の財政状況を公開し、危機を実感してもらうことに努めました。その後、武士だけでなく、農民や町人からも財政再建に関する意見を広く求めました。

そして、集まった意見について検討を重ねた結果、藩全体で養蚕による生糸の生産に取り組むことを決定しました。鷹山は織物の名産地から職人を招き、最新の織機なども導入しました。さらに、藩内で以前から栽培されていた紅花で生糸を染めて織物を織り、藩外に販売することを考案しました。こうして織られた織物は米沢織と呼ばれ、米沢藩の名産品となって藩士の暮らしを支えることとなりました。このような取り組みにより藩の財政は徐々に回復に向かい、鷹山が逝去した翌年の1823年には、これまでの借金のほとんどを返済し終わることができたのです。

鷹山は生涯倹約に努めましたが、後にその要点について次のように述べています。

「六ヶ敷(むつかしく)成難き筋に心を労すべからず、智者は事なき所を行(おこなう)と云へり」

この言葉は「最初から難しいことをやろうとしてはならない。まずは簡単に取りかかることができることから始めるべきである」ということを表しています。そこには、結果を急ぐあまり、性急に改革を進めて挫折してしまった鷹山の自省の念がうかがえます。

まず「必ずやり抜く」という強い信念を持つ。そして、簡単なことから取り組みを始め、一歩一歩、着実に結果を積み重ねていく。この2つの取り組みによってこそ、物事を最後まで成し遂げることができるのです。

【本文脚注】

本稿は、注記の各種参考文献などを参考に作成しています。本稿で記載している内容は作成および更新時点で明らかになっている情報を基にしており、将来にわたって内容の不変性や妥当性を担保するものではありません。また、本文中では内容に即した肩書を使用しています。加えて、経歴についても、代表的と思われるもののみを記載し、全てを網羅したものではありません。

【経歴】

うえすぎようざん(本名:上杉治憲(うえすぎはるのり))(1751~1822)。江戸(現東京都)生まれ。1767年、米沢藩9代藩主就任。

【参考文献】

「上杉家文書」(国宝)
「上杉鷹山」(横山昭男、吉川弘文館、1987年11月)
「その時歴史が動いた 13」(NHK取材班(編)、KTC中央出版、2002年5月)

以上(2012年5月更新)

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