「自然に返る」さまざまな供養の形 樹木葬・海洋散骨など自然葬の動向

書いてあること

  • 主な読者:自然葬に関する動向を知りたい経営者
  • 課題:自然葬の具体的な種類、注目される背景がわからない
  • 解決策:樹木葬などの遺骨を埋葬するタイプと、海洋葬などの遺骨を散骨するタイプに大別できる。これまでの供養方法よりも遺族の負担を減らせることや、近年の自然志向の高まりによって注目が集まっている

1 自然葬の定義と種類

自然葬とは、墓や納骨堂に遺骨を納めるのではなく、海や山などの自然に返す葬送のことです。墓石を購入したり、定期的に掃除したりする必要がないため、遺族の金銭的な負担や維持管理の手間を減らせるといったメリットがあります。

少子化や核家族化が進行した昨今、「故人をきちんと見送りたいけど、代々墓を管理していくのは難しい」と考える人は少なくありません。加えて近年の自然志向の高まりもあり、自然葬は新しい葬送の形として注目されています。

自然葬は、その形態から次の2つのタイプに大別できます。

  • 遺骨を埋葬する(土中に葬る)タイプ:樹木葬など
  • 遺骨を散骨する(粉末状にして海などにまく)タイプ:海洋葬(海洋散骨)、空中葬、宇宙葬など

前者は「墓地、埋葬等に関する法律」の適用を受けるため、自然葬を行うに当たって墓地としての許可を受けた土地が必要になりますが、後者はこうした土地を必要としないという特徴があります。

これらに該当する代表的な自然葬としては、次のようなものが挙げられます。

1)樹木葬

墓石の代わりに桜や紅葉などのシンボルツリーを植え、その周辺に遺骨を埋葬する自然葬です。墓地の許可を受けた山林などに直接遺骨を埋葬するタイプ、寺院や墓地の区画の中に樹木葬専用エリアを設けて埋葬するタイプなどがあります。樹木葬の多くは後継ぎを必要としない「永代供養」で、遺族に代わって寺院や霊園が掃除や遺骨の管理を行います。

2)海洋散骨

遺骨を海で散骨する自然葬です。周囲の人への配慮や地方自治体の条例(詳細は後述)などの関係から、船で沖まで出てから散骨するのが一般的です。乗船した遺族が散骨するタイプ、遺族から遺骨を受け取って事業者が散骨するタイプなどがあります。なお、散骨の特性上、供養が行いにくいイメージがありますが、遺骨の一部のみを散骨し他は遺族に渡すことで手元供養ができるようにしたり、故人をしのぶためのクルーズを定期的に実施したりしている事業者もあります。

3)空中散骨

遺骨を空から散骨する自然葬です。ヘリコプターやセスナ機を使って遺族が上空から散骨するタイプ、バルーンに遺骨を入れて遺族の指定した場所で散骨するタイプなどがあります。

4)宇宙葬

遺骨を納めたカプセルをロケットに載せて、宇宙空間へ散骨する自然葬です。宇宙空間を半永久的に進んでいくタイプ、再び地球に戻ってくるタイプなどがあります。

2 自然葬に関する規制

自然葬を行う際には下記の法律や条例などに留意する必要があります。

1)墓地、埋葬等に関する法律

墓地や火葬場などの運営、遺骨や遺体の処理などについて定めています。

例えば、樹木葬のために寺院や霊園が敷地内の土地を墓地として提供する場合、その施設の所在地の都道府県から許可を得なければなりません。また、火葬を行うには火葬許可証を、埋葬を行うには埋葬許可証を、事前に遺族から受理しなければなりません。なお、 散骨は埋葬に当たらないため、埋葬許可証の受理は原則不要ですが、実際は遺骨の身元を確認するために、散骨であっても埋葬許可証の提出を求める事業者が多いようです。

2)刑法(第190条 死体損壊等)

「死体、遺骨、遺髪又は棺に納めてある物を損壊し、遺棄し、又は領得した者は、三年以下の懲役に処する」というものです。ただし、法務省は「散骨は葬送のための祭祀として節度をもって行われる限り、遺骨遺棄罪に違反しない」という考えを示しており、遺骨を細かいパウダー状にして散骨する場合は、法律上問題ありません。

3)地方自治体の条例による規制

地方自治体の中には、散骨による個人、事業者と地域の間でのトラブルを防ぐために条例によって散骨に関する規制を設けている場合があります。

例えば、北海道長沼町「長沼町さわやか環境づくり条例」では、墓地以外の場所での散骨を禁止しています。

また、静岡県御殿場市「御殿場市散骨場の経営の許可等に関する条例」では、散骨は散骨場(市長の許可を受けた散骨のための事業区域)でのみ認めるものとし、散骨場を経営するための要件として、事業計画の立案や事前説明、市長との協議、散骨場に隣接する土地所有者の同意などを掲げています。

4)各種ガイドライン

ガイドラインに法的拘束力はありませんが、トラブルなく自然葬を行うためにはこれらを遵守することが欠かせません。

例えば、厚生労働省「散骨に関するガイドライン(散骨事業者向け)」では、散骨を行う場所、焼骨の形状、関係者や自然環境への配慮、利用者との契約等、安全の確保、散骨の実施状況の公表といった内容について細かく定めています。

また、日本海洋散骨協会「日本海洋散骨協会ガイドライン」では、海洋散骨に特化したルールが細かく定められており(遺骨は1~2ミリメートル程度に粉末化しなければならないなど)、ガイドラインを遵守する事業者には、協会から信頼できる事業者の証しとして「ブルーハート」が発行されます。

3 自然葬の関連データ

1)自然葬に掛かる金額・需要動向

1.購入された墓の種類

鎌倉新書「【第13回】お墓の消費者全国実態調査(2022年)霊園・墓地・墓石選びの最新動向」によると、同社が運営する「いいお墓」経由で購入された墓の種類は次の通りです。

購入された墓の種類(2018年と2022年の比較)

2018年時点では、購入者の約半数が一般墓(墓地に区画を設けて設置する墓石型の墓)を選んでいました。その理由として「故人に対して手厚い供養をしたかった」「墓石があったほうが手を合わせやすいと感じた」といった意見がありました。

一方で、2022年になると樹木葬を選ぶ人の割合が高くなっています。その理由として「一定期間が経過すると合葬(複数の骨つぼと一緒に供養すること)になり子どもや孫への負担が掛からなくなる」「故人が、自然が好きだった」といった意見がありました。

2. 墓の平均購入価格の推移

鎌倉新書「【第13回】お墓の消費者全国実態調査(2022年)霊園・墓地・墓石選びの最新動向」によると、墓の平均購入価格の推移は次の通りです。

墓の平均購入価格の推移

樹木葬の平均購入価格は2022年時点で69.6万円となっています。樹木葬はプレート状の墓石を使用することもありますが、一般墓よりも石材が少なくて済む分、費用を抑えることができます。

2)葬儀業の売上高、取扱件数、事業所数、従業者数の推移

経済産業省「特定サービス産業動態統計調査」によると、葬儀業の売上高、取扱件数、事業所数、従業者数の推移は次の通りです。

葬儀業の売上高、取扱件数、事業所数、従業者数の推移

葬儀業の事業所数、取扱件数は過去5年間で増加しているものの、売上高は下がっています。この理由としては、葬儀業が新規参入に対し、特別な法規制が設けられていないために参入が増えて競争が激しくなったことや、新型コロナウイルス感染症対策で大規模な葬儀の中止や葬儀の規模が縮小していることなどが挙げられます。

4 自然葬の市場分析

1)自然葬を取り巻く外部環境分析

ここではPEST分析を用いて、自然葬を取り巻く外部環境を整理します。

自然葬を取り巻く外部環境分析

自然葬に注目が集まる背景として、冒頭で紹介した遺族の金銭的な負担や維持管理の手間を減らせるだけでなく、都市部での墓不足によりこれまでの埋葬方法が難しくなっていることが挙げられます。

また、新型コロナウイルス感染症の拡大や、遠方に住んでおり現地での参列が難しい人向けに、オンラインによる事前相談や散骨の様子をライブ配信するなど、オンライン化も進んでいます。

5 自然葬を手掛ける事業者の事例

1)いせや(東京都府中市):彩り豊かなやすらぎの樹木葬

同社では、バラをはじめ、季節の花々に彩られた樹木葬が可能なガーデニング霊園「ふれあいパーク」をはじめ、首都圏を中心に、寺院・霊園での樹木葬を行っています。

また、同社はエイチームライフデザイン(愛知県名古屋市)が運営する樹木葬の専門メディア「あんしん樹木葬東京版」にて、樹木葬に関する寄稿・情報提供・監修を手掛けています。

2)カン綜合計画(京都府京都市):樹木葬の現地見学をオンラインで完結

同社では、外出が困難な人や遠方で何度も現地見学に行くことが難しい人に向けて、自宅で樹木葬の無料見学ができる「おんらいん樹木葬」のサービスを行っています。

同サービスでは、事前にオンライン見学用の資料を顧客に送付し、無料通話アプリのLINE、またはウェブ会議システムのZoomを用いて墓苑や墓を管理するお寺を紹介しています。また、契約や納骨に関する相談もオンライン上で受け付けています。

3)燦ホールディングス(東京都港区):預かり期限のない永代供養の樹木葬

同社では、樹木葬専門霊園「千年オリーブの森」などで樹木葬を行っています。

従来の樹木葬では納骨は人数制限があったり、他人と一緒の場所に納骨され、遺骨の預かり期限があったりするなどの制約がありましたが、同社の霊園では、人数制限や遺骨の預かり期限がなく、家族・親族・友人などの親しい人同士で納骨ができるとしています。また、水道代などの管理費が不要であったり、霊園内は完全バリアフリーにされていたりするなど、お参りに行く遺族への負担も軽減されています。

4)はせがわ(東京都文京区):ペットと一緒に眠れる樹木葬

同社では、「瑞光寺 牛込庭苑」や「町田いずみ浄苑」など数々の霊園で樹木葬を行っています。

霊園によってはペットと一緒に埋葬ができたり、単身や承継者がいない場合でも1人ずつ専用の容器で個別に埋葬ができたりします。

5)ニチリョク(東京都中央区):骨壺のまま遺骨を納める樹木葬

同社では、「横浜三保浄苑」などで桜の木の下に埋葬される樹木葬や、骨つぼのまま納骨し、一般墓と同じように埋葬できる「樹木葬こもれび墓苑」などを運営しています。

一般的に、樹木葬は遺骨を土に返すものが多く、後から遺骨を取り出すことができないケースがありますが、骨つぼのまま遺骨を納めることで、後から家族が同じ墓に入ることもできます。また、霊園によっては管理費不要、初期費用のみで利用できる樹木葬のプランを用意している場所もあります。

6)ハウスボートクラブ(東京都江東区):海洋散骨の立役者

同社では、「ブルーオーシャンセレモニー」というブランドで海洋散骨を行っています。

海洋散骨のプランには、遺族が貸し切りのクルーザーに乗船して散骨する「チャーター散骨プラン」、何らかの事情で乗船できない遺族に代わってスタッフが散骨する「代行委託散骨プラン」などがあります。海洋散骨を模擬体験できる「散骨体験クルーズ」も行っています。この他、散骨前の有害化学物質の無害化や100%水に溶ける献花の「エコフラワー」の開発など、環境に配慮した葬送にも注力しています。

また、海洋散骨の広がりを受けて、前述の日本海洋散骨協会を設立したのも同社で、同協会では海洋散骨を行う際のルールやガイドラインを発信しています。

7)日本葬送倫理協会(福岡県福岡市):遺骨の一部をインテリアアイテムとして加工

同協会では海洋散骨を行いつつ、ハーバリウム(植物標本)に似た「美霊珠(みれいじゅ)」という、手元供養のためのインテリアアイテムを遺族に提供しています。

これは、火葬後に遺骨の一部を滅菌処理し、ガラス玉に入れて加工し、色鮮やかなプリザーブドフラワーやドライフラワーなどとともにガラスボトルに詰めたものです。同協会では、海洋散骨について、遺族から「墓がなく、初盆のお参りをどうするのか」「墓も遺骨もなく、故人と会えずさびしい」などの声が寄せられたことを受け、美霊珠の提供を始めたそうです。

8)SPICE SERVE(東京都港区):海洋散骨後の年忌法要クルーズ

同社では、海洋散骨を行った後も故人を弔うための取り組みとして「年忌法要クルーズ」を行っています。

2時間半~3時間かけて遺骨を散骨した海域をクルーザーで巡り、献酒、献花や会食、記念撮影を行うサービスとなっています。また、同社以外の事業者を利用して散骨をした場合でも、散骨ポイントの緯度・経度を事前に伝えれば、その海域周辺を航行できます。

9)博全社(千葉県千葉市):ヘリコプターによる空中散骨

同社では、ヘリコプターによる空中散骨を行っています。

故人の生家や勤務先といった思い出の場所を回りながら、九十九里や勝浦、館山、江ノ島沖の海域で空中から散骨し、散骨後はお別れの献花と黙とうを行います。

10)SPACE NTK(茨城県つくば市):日本初の宇宙葬

同社では、遺骨やメッセージカードを専用のカプセルに納めて宇宙に打ち上げる「宇宙SOH(葬・想)」を行っています。

同社は、2022年4月2日に宇宙散骨を行う人工衛星「MAGOKORO」の第1弾の打ち上げに成功しており、2023年の1月に第2弾を打ち上げる予定としています。人工衛星はロケットで打ち上げられた後、高度500~600キロメートルで切り離され、約5年間地球周回の軌道に入ります。地球の周りを数年回った後に大気圏に突入し、最後は流れ星になって燃え尽きるという流れになっています。

以上(2022年9月)

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画像:buritora-Adobe Stock

労働時間の考え方

今年7月、従業員が制服に着替える時間などに賃金を支払っていなかったとして、カフェを運営する大手飲食チェーンが労働基準監督署から是正勧告を受けていたことがニュースで報じられました。本稿では、そもそもの前提となる労働時間の考え方について厚生労働省のガイドラインをもとに概説すると共に、本題に関するリーディングケースをご紹介します。

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労働時間の考え方

今年7月、従業員が制服に着替える時間などに賃金を支払っていなかったとして、カフェを運営する大手飲食チェーンが労働基準監督署から是正勧告を受けていたことがニュースで報じられました。本稿では、そもそもの前提となる労働時間の考え方について厚生労働省のガイドラインをもとに概説すると共に、本題に関するリーディングケースをご紹介します。

1 労働時間の考え方

平成29年に「労働時間の適正な把握のための使用者向けのガイドライン」が厚生労働省により策定されました。同ガイドラインによれば労働時間とは、「使用者の指揮命令下に置かれている時間のこと」をいい、次の考え方が示されています。

<労働時間の考え方>

労働時間の考え方

(厚生労働省「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」)

冒頭の事案では、更衣室での制服への着替えや店舗への移動などの時間が、労働時間にあたると労働基準監督署は認定し、相当する過去2年分の未払い賃金を支払うよう、運営会社に是正勧告が出されたと報じられています。

2 リーディングケース

厚生労働省による「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」は、三菱重工業長崎造船所事件(平成12年3月9日、最高裁第一小法廷判決)で示された判断基準をもとに策定されています。

この事件では、従業員の始業・終業について、①所定の始業時刻に作業場で実作業を開始できるようにしておくこと、②始業時刻に間に合うように作業服などを装着し、作業場に到着すること、③終業時刻に作業場にいることなどで管理を行っており、所定労働時間以外に行った時間について、割増賃金を求めた訴訟が提起されました。そして最高裁は、労働基準法の労働時間について、次の通り判断しています。

<判断理由 抜粋>

最高一小、平12.3.9判決

三菱重工業長崎造船所事件(最高一小、平12.3.9判決)

3 さいごに

本稿で挙げた着替えなどの準備時間のほか、仮眠時間や待機時間といった実作業を行っていない時間も、指揮命令下にあれば「労働時間」と認定される可能性があります。

労働時間に関する認識を正しく理解し、終業後は速やかに退社させる、許可なく残業をする従業員には残業禁止命令を発するなどの管理ができているか、今一度会社の現状を確認してみてはいかがでしょうか。

※本内容は2022年7月29日時点での内容です

(監修 社会保険労務士法人 中企団総研)

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画像:photo-ac

【朝礼】見えない壁を壊せ

私たちの日常は、日々が成功と失敗の繰り返しです。成功が続くときもあれば、失敗を繰り返してしまうことも多くあります。

何度かの失敗の後に成功に至れば苦労も報われますが、時にはひたすら失敗を繰り返すこともあります。私たちは失敗を繰り返すと成功の望みを失い、「これはもしかしたら絶対に不可能なことなのではないか」と思い込んで、自ら心に「壁」を作ってしまうことがあります。

例えば、皆さんが考えぬいた企画の提案が10回連続で認められなかったとしたら、11回目の提案内容に自信を持てますか? おそらく「自分の企画の何が悪いのか分からない」「どうせ次もダメだろう」と意欲を失って落ち込むでしょう。中には「自分には能力などないのだ」と諦めてしまう人もいるかもしれません。

そうした自信の喪失や諦めは心の壁となって再挑戦への気力をそぎます。そして、スランプの原因になったり、成長の足かせになったりします。

一度ぶつかった「壁」は、皆さんが成長するに従って簡単に乗り越えられるようになっていくはずですが、いつまでたっても古い壁に悩まされて、いつしかそれが自分の苦手なこととして意識の中に刻まれてしまうことがあります。

例えば、新人時代に皆さんの提案が通らなかったのはアイデア、プレゼンテーション能力、準備などが不足していたからであり、それらは成長した今なら、おそらく克服できているはずです。しかし、過去の失敗が壁となって苦手意識を持ち続けてしまってはいませんか? ある程度の経験を積んだ皆さんが、今苦手だと思っていることの中には、自分自身で作ってしまった心の壁が、いくつもあるはずです。

自分が作ってしまった壁を壊すためには、まず、苦手意識を持つ事柄をリストアップし、なぜそれを苦手と思っているのか考えてみましょう。今、冷静に思い返せば、苦手の原因はささいなことにすぎなかったかもしれません。自分で考えるだけではなく、同僚や友人などに意見を求めるのもよいでしょう。自分が苦手だと思っていたことが、実は周囲からは高い評価を得ているかもしれません。それがわかれば、心の壁はいつの間にか消えてしまうことでしょう。

最後に、どうしても苦手意識をぬぐえず壁を感じるなら、それを飛び越える努力は、惜しむべきではありません。例えば、接客が不得手なら積極的に店頭に立つ、苦手な顧客がいるなら、週に1度は直接足を運ぶことを決めて実行してみましょう。

過去の失敗を恐れてはいけません。自分で作ってしまった自分の限界は、自分自身で打ち破らなくては、超えることはできないのです。苦手から逃げず、チャレンジする。そういう意識に自分を置くことで、皆さんが感じている心の壁は、きっと打ち破れることでしょう。

以上(2022年9月)

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画像:Mariko Mitsuda

【朝礼】「それでも地球は回っている」と主張し続けた男

今日は、ガリレオ・ガリレイの話をします。ガリレオは、16世紀から17世紀にかけて活躍した、イタリアの物理学者、天文学者です。ピサ大聖堂のランプを見て「振り子の等時性」や、ピサの斜塔から大小2つの鉄球を落として「落体の法則」を発見したなど、ガリレオの功績はさまざまありますが、私が好きなのは「地動説」に関する話です。

地動説とは、地球が太陽の周りを回っているという、ポーランドの天文学者コペルニクスが提唱したとされる説です。ガリレオは40代の頃、まだ発明されたばかりの望遠鏡を使って、星の満ち欠けや、太陽黒点の動きを観測した結果、コペルニクスの説が正しいことを証明します。

ただ、当時のカトリック教会は、地球が宇宙の中心にあり、地球の周りを太陽、月、その他の星が周回しているという「天動説」を支持していました。当時はカトリック教会が絶対的な力を持っていた時代だったので、ガリレオの考えは教会の教えに背いているとして、彼は異端審問にかけられてしまいます。

やがて、ガリレオはローマ法王の前で、半ば強引に地動説を撤回する宣誓をさせられ、フィレンツェ郊外の村に幽閉されますが、その後も地動説を信じ続け、幽閉先の村で、それまでの自分の考えをまとめた本を出版します。諸説ありますが、最期は「それでも地球は回っている」と言い残して、この世を去ったといわれています。

カトリック教会は、ガリレオの死後も引き続き天動説の考え方を貫き通します。しかし、彼の地動説に対する考えは多くの人々に影響を与え続け、ガリレオの死から300年以上が経過した1992年、カトリック教会は、ガリレオに対する異端審問が間違いだったことを認めました。

私がガリレオをすごいと思うのは、「古くから当たり前とされている考え方におもねることなく、科学的な根拠に基づいて導き出した“真実”を主張し続けた」ということです。革新的な主張は奇異の目で見られやすく、その中で意見を貫き通すのは、簡単なことではありません。

皆さんも仕事の中で、自分の意見について上司や先輩から「それは間違っているんじゃないか?」と言われて、自分の意見を引っ込めてしまった経験はありませんか? もちろん、本当に間違っていたときにそれを認める素直さは大事なのですが、自分では納得できていないのに、相手が上司や先輩だからという理由で萎縮してしまっているのだとしたら、それは皆さんにとっても、会社にとっても決して良いことではありません。

上司や先輩は、皆さんの意見が自分たちと違うというだけでは否定しません。客観的に見て正しいことであれば、ちゃんと耳を傾けます。もし社内に、「天動説」のような改善すべき課題を見つけたならば、自信を持って主張してみてください。皆さんの一言が、社内の「天動説」をひっくり返すことを期待しています。

以上(2022年9月)

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画像:Mariko Mitsuda

中小企業の社員がやる気になる「良い朝礼」とは

書いてあること

  • 主な読者:朝礼のバージョンアップを図りたい経営者
  • 課題:長年行ってきた朝礼のスタイルを、どう変えたらよいのか分からない
  • 解決策:伝える力(表情、声のトーン、話すスピード、つかみのネタ)を磨く、人材育成の場とする

1 朝礼のバージョンアップが求められる

朝礼は経営者の思いを伝え、全社的な認識の統一を図る貴重な機会です。経営者・役員239人を対象とした独自アンケート(日本情報マート、2021年2月調査)によると、

30.5%の企業が朝礼を行っている

という結果が出ています。コロナ禍でリモートワークが進んだり、職場のコミュニケーションの在り方が変わってきたりして全体的に朝礼は減っているようですが、今でも朝礼が日本企業に深く浸透しているのは間違いないようです。

ただ、朝礼の在り方は変わってきています。従来の朝礼は「集まることに意義がある。上意下達の場」という面がありました。しかし今では、朝礼を

参加者の成長を促す、フラットなコミュニケーションの場

にバージョンアップする企業が出ています。

2 朝礼のバージョンアップの鍵

朝礼をバージョンアップするための前提は、

経営者や上司が「伝える力」を磨くこと

です。皆さん自身の話術を自己評価してみてください。「つかみがない、論点が不明瞭、話が長い、自分の話ばかり、インタラクティブでない、締めのメッセージが曖昧……」といったことはないでしょうか。

オンラインが浸透してくると、制約が多い中でも相手をうまく引き込む【話し上手】が登場しました。そうした人の話を聞いて耳が肥えた社員は、つまらない話に厳しくなっています。リアルの朝礼の場合、皆さんの話がつまらなくても社員は聞く姿勢を崩しません。目の前で上司が話しているのですから当然ですが、ほとんど話を聞いていないでしょう。オンラインでビデオオフを許しているなら、画面の向こうで別のことをしているかもしれません。それくらい人に聞いてもらうのは難しく、努力が必要なのです。伝える力を磨くテクニックには、表情、声のトーン、話すスピード、つかみのネタなどがあります。

3 人材育成の視点を持つ

従来の朝礼は「1対多」ですが、バージョンアップされた朝礼は「多対多」とし、参加者の成長を促します。そのためには経営者や上司が一方的に話をするのではなく、社員が自由に意見やアイデアを出せる雰囲気が理想です。

とはいえ、いきなり意見を出してもらうのは難しいため、朝礼とは別に「1対1」のコミュニケーションを取ります。実際、多くの経営者が「朝礼だけでは十分にコミュニケーションが取れない。社員のメンタルが心配」という理由で、「1対1」のコミュニケーションを取っていますが、その結果、

社員が「発言してもいいのだ」と気付き、実際に発言することで自信を持つ

という効果が出ています。特にオンラインで「1対1」のコミュニケーションを取る場合、経営者や上司が意図せずに醸し出してしまう「圧」も緩和されるため、対話が進みやすくなります。

こうして社員とのコミュニケーションが進むと社員が発言しやすい環境となり、若手社員も頭角を現していきます。こちらが想定しているよりも仕事ができたり、積極的に発言したりする社員が出てきます。朝礼の場で全体に発言することは、客先で話すのを想定した訓練になりますし、自信も持ってもらえるでしょう。

4 事務連絡は意外と浸透している

最後に補足します。特にオンラインでの朝礼になると、事務連絡がきちんと伝わっているか不安になるという意見があります。しかし、手順の変更、仕事の締め切り、ミーティングの日時などといった事務連絡は、意外と浸透しているものです。なぜなら、こうした内容は聞き逃すと仕事に支障が出るものであるため、社員もしっかり聞くのです。面白い/つまらないという評価は関係のない内容ということです。朝礼で聞き逃してしまった社員がいても、同僚に確認してキャッチアップしています。

ただし、例えば「手順の変更」がされるのには理由があり、そちらのほうが大切だったりします。変更された手順は選択肢の1つにすぎず、背景を理解していれば別のアイデアも出てきて、業務が改善されていきます。この背景に耳を傾けてもらうには、やはり伝える力が重要になってきます。

以上(2022年9月)

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画像:unsplash

【消費税】提出期限に要注意! 損をしないための3つの届出

書いてあること

  • 主な読者:消費税の基本を知りたい経営者や経理担当者
  • 課題:各種届出が遅れると大きな損をする恐れがある。しかも、届出の提出期限は早い
  • 解決策:基本的には、適用を受けたい課税期間の前課税期間末日までに提出期限が来るものが多いので、計画時など早い段階での判断が必要になる

1 忘れていたでは済まされない“消費税の届出書”

消費税は、

届出をしなければ適用されない制度が多い税金

といえます。当然、それぞれの届出には提出期限があり、1日でも遅れてしまうと大きな損につながる恐れがあります。厄介なのは提出期限です。提出期限は、

適用を受けたい課税期間の前課税期間の末日(例えば、2023年4月1日以降に受けたい3月決算の会社であれば、2022年3月31日)に設定

されているものが多いので、顧問税理士に早めに知らせて計画的に進めないと間に合わなくなります。

そこで、この記事では、消費税の実務の中でも大きな損につながりやすい届出として、「課税事業者選択届出書」「簡易課税制度選択届出書」「課税期間特例選択・変更届出書」を紹介します。

2 課税事業者選択届出書

1)免税事業者が対象

消費税の納付税額は、次のように計算します。

納付税額=課税売上に係る消費税額(預かった消費税額)-課税仕入に係る消費税額(支払った消費税額)

預かった消費税額よりも支払った消費税額が大きい場合、その差額は還付を受けることができます。しかし、免税事業者は還付申告ができません。免税事業者は、

確定申告する義務がない代わりに、還付申告する権利もない

のです。免税事業者が還付申告したいなら、届出書を提出して課税事業者を選択しなければなりません。

なお、免税事業者になるには複数の要件を満たす必要があります。詳細は、次の記事をご参照ください。

2)課税事業者の選択

免税事業者が、課税事業者選択届出書を税務署長に提出した場合、

提出日の属する課税期間(以下「提出課税期間」)の翌課税期間以後

に国内で行う課税資産の譲渡等については、納税義務は免除されなくなります。なお、事業を開始した課税期間などである場合は提出した課税期間から適用を受けます。

注意が必要なのは、その届出書の効力は翌課税期間から生じるので、

当課税期間から課税事業者となって還付申告をする場合は、前課税期間末までに届出書を提出しなければならない

ことです。免税事業者が設備投資等によって、課税売上を超える多額の課税仕入れが生じた場合、還付を受けることができるのにもかかわらず、届出を忘れたことで還付を受けられないという事態に陥ってしまいます。

3)課税事業者の選択不適用の届出

課税事業者選択届出書を提出して課税事業者になった事業者が、免税事業者に戻りたいとき(または事業を廃止したとき)は、課税事業者選択不適用届出書を提出します。ただし、課税事業者を選択すると、最低2年間は継続適用してからでないと免税事業者には戻れません。従って、免税事業者が課税事業者を選択する場合、2年間のシミュレーションをして判断することになります。

また、課税事業者選択不適用届出書の効力も、提出課税期間の翌課税期間からです。従って、当課税期間から免税事業者に戻りたい場合、前課税期間の末日までに届出書を提出する必要があります。なお、課税事業者を選択している期間中に、高額特定資産(1000万円以上の一定の資産)の課税仕入れがあった場合、免税事業者の選択には一定の制限が入ります。

3 簡易課税制度選択届出書

1)課税売上高が5000万円以下の事業者が適用できる簡易課税制度

基準期間(簡単にいうと2年前)における課税売上高が5000万円以下の中小企業には、簡単に消費税の納付税額を計算する簡易課税方式が認められています(適用の届出をした者に限る)。この場合、納付税額を次のように計算します。

納付税額=課税売上に係る消費税額-課税売上に係る消費税額×みなし仕入率

みなし仕入率は、業種ごとに40%~90%となります。課税売上に係る消費税額のみを集計すればよいので、実務上の負担が少なく済みます。

2)簡易課税制度の選択

簡易課税制度の適用を受ける場合、簡易課税制度選択届出書を税務署長に提出しなければなりません。この届出書の効力も、翌課税期間から生じます。従って、当課税期間から簡易課税制度で計算したい場合は、前課税期間末までに届出書の提出が必要です。

なお、簡易課税制度を検討する際は、仕入項目(費用の支払い、資産の取得など)のうち、課税仕入れに該当するものを集計し、原則課税と簡易課税のどちらが有利なのかを判断しましょう。例えば、簡易課税制度では仕入項目は考慮しません。そのため、その課税期間に多額の課税仕入れ等(設備投資など)があり、原則課税なら還付を受けられるケースでも、簡易課税では還付を受けられないので注意が必要です。

3)簡易課税制度の選択不適用の届出

簡易課税制度選択届出書を提出した事業者は、簡易課税制度で計算することをやめるとき(または事業を廃止したとき)は、簡易課税制度選択不適用届出書を提出します。ただし、簡易課税制度の適用を受けると、原則として、最低2年間は継続適用してからでないと原則課税には戻れません。

また、簡易課税制度選択不適用届出書の効力も、提出課税期間の翌課税期間からです。当課税期間から原則課税に戻りたいという場合は、前課税期間の末日までに届出書を提出する必要があります。

4 課税期間特例選択・変更届出書

1)輸出業者など、消費税の還付が経常的に発生する事業者が対象

消費税の課税期間の原則は、

  • 個人事業者:暦年(1月1日から12月31日までの期間)
  • 法人:事業年度

です。しかし、経常的に還付を受ける事業者のために、選択によって課税期間を短縮できる特例制度があります。例えば、輸出業者は売上げに係る消費税額よりも仕入れに係る消費税額のほうが大きいため、常に還付を受けることになります。そこで、特例制度を利用することで、より早く還付を受けられます。

この課税期間の短縮制度には、

3月ごとの期間に短縮する場合と、1月ごとの期間に短縮する場合

があります。

「3月ごとの期間に短縮する場合」の短縮課税期間は、

  • 個人事業者は、「1月から3月まで」「4月から6月まで」「7月から9月まで」「10月から12月まで」の期間
  • 法人は、その事業年度開始の日から3カ月ごとに区分した期間(最後に3カ月未満の期間を生じたときは、その3カ月未満の期間を含む)

となります。

「1月ごとの期間に短縮する場合」の短縮課税期間は、

  • 個人事業者は、1月から12月までの各期間
  • 法人は、その事業年度開始の日から1カ月ごとに区分した期間

となります。

2)短縮課税期間の選択

課税期間を短縮する場合、課税期間特例選択・変更届出書を税務署長に提出します。この届出書の効力も、翌課税期間から生じます。

事業年度が4月1日から翌年3月31日までの法人が7月15日に届出書を提出したとします。3カ月の短縮を適用する場合、7月から9月までの期間が提出期間となり、翌期間である10月から12月までの期間から短縮課税期間が始まります。この場合、4月から9月までの期間も1つの課税期間とみなされます。

また、1カ月の短縮課税期間を適用する場合、7月が提出期間となり、翌期間である8月から短縮課税期間が始まることになります。この場合は4月から7月までの期間も1つの課税期間とみなされます。

3)短縮課税期間の選択不適用の届出

課税期間特例選択・変更届出書を提出した事業者が、短縮課税期間の適用をやめようとするとき(または事業を廃止したとき)は、課税期間特例選択不適用届出書を提出します。ただし、短縮課税期間を採用すると、最低2年間は継続適用しないと原則には戻れません。

5 短縮課税期間を利用した還付申告

短縮課税期間の選択は、毎年のように還付が生じる事業者のために設けられた特例ですが、

課税事業者の選択の届出書や簡易課税制度の選択不適用の届出書の提出を忘れた場合などの裏技として利用する

こともできます。

免税事業者が当課税期間に多額の設備投資をした場合、還付申告を行うために、前課税期間末までに「課税事業者選択届出書」を提出する必要があります。同様に、簡易課税制度を選択している事業者が当課税期間において多額の設備投資をした場合、還付申告を行うために、前課税期間末までに「簡易課税制度選択不適用届出書」を提出する必要があります。もし、これらの提出を忘れてしまった場合、

短縮課税期間の特例を利用することで、事実上その提出期限を延ばす

ことができます。

例えば、事業年度が4月1日から翌年3月31日の免税事業者が、当課税期間の2月に多額の設備投資をしたとします。当課税期間から課税事業者を選択して還付申告を行おうとする場合、前課税期間の3月末までに課税事業者選択届出書を提出する必要がありますが、これを忘れてしまった場合でも、

当課税期間の1月末までにこれらの届出書を提出すれば還付申告を行う

ことができます。なぜなら、当事業年度の課税期間は、短縮課税期間の特例により、「4月から翌年1月までの期間」、「2月」そして「3月」の3つに区分されます。そして、課税事業者選択届出書の提出課税期間は「4月から翌年1月までの期間」となりますから、この届出書の効力は、翌課税期間である「2月」から生じ、還付申告ができるのです。

以上(2022年9月)
(監修 税理士 谷澤佳彦)

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画像:unsplash

事業承継で何を引き継ぐのか 後継者計画の策定・運用の視点から

経済産業省が策定した「コーポレート・ガバナンス・システムに関する実務指針」(CGSガイドライン)に示されている、後継者計画の考え方や後継者選定の視点、選定・育成に当たっての有効な取り組みを紹介する。

(日本法令ビジネスガイドより)
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自動走行するトラクタや薬剤散布・農場観測ドローンなど「農業テック」最前線/新技術で変わる農林水産業(4)

書いてあること

  • 主な読者:業務の効率化や人手不足の解消を図りたい農業の経営者
  • 課題:どのようにすれば効率化や人手不足の解消が図れるのか分からない
  • 解決策:事例を参考に、自動農機やドローン、ビッグデータ解析などの新技術を取り入れる

1 テクノロジーで農業の課題を解決「農業テック」

近年、農林水産業を営む企業で、人工知能(AI)やドローンなどのテクノロジーを取り入れる動きが出てきています。体力勝負のこまめな管理や、自然環境の影響を大きく受けるこれらの業界では、次のような課題が挙げられています。

  • 高齢化による人手不足、ノウハウの継承
  • 変化する自然環境への対応
  • 効率的、持続的な生産・収穫・漁獲体制の確立

このシリーズでは、農林水産業を営む企業が直面する課題を解決するための最新テクノロジーの動向と、その活用事例を紹介します。第4回の今回のテーマは、農業が直面する課題を解決するための「農業テック」です。具体的には、

  • 無人で走り、2台同時でも操作ができるロボットトラクタ
  • センサー機能搭載で病害虫の発生を確認して農薬散布するドローン
  • 農作業用の車両に設置すると、作業の進捗が管理できる生産管理ツール
  • 農業に関わるあらゆる情報を、誰もが利用できる農業データプラットフォーム

といった取り組みを紹介します。

2 「農業テック」取り組み事例

かねてから農業はトラクタによる耕地やコンバインでの脱穀、ベルトコンベアーでの搬送など、作業の省力化・自動化が進められてきました。しかしそれでも、手作業で作業進捗をまとめなければならない、自分で運転した分しか耕せないなどの問題がありました。

それがテクノロジーの進化により、農作業の進捗状況を自動的にまとめる生産管理ツールや、ビッグデータを解析して市場予測や生産・出荷を予測するAI、設定された農地を無人で自動運転するトラクタなどが登場し、さらなる省力化・自動化が達成できるようになってきました。

今回登場するのは、無人で動くトラクタや自動で草刈りをするロボット、車両に取り付けた端末がスマホやPCと連動し、農地の作業進捗を自動で記録・蓄積する生産管理ツールなどです。こうしたテクノロジーを導入することで、次のようなことが実現できます。

農業テックで実現すること

1)自動走行×有人トラクタと無人トラクタの2台使い=作業効率を拡大

ヤンマーアグリジャパン(大阪市北区)の無人のロボット農機「ロボットトラクタ」は、熟練者と同程度の精度で農地内を自動走行します。1人で2台の操作が可能(1台は有人)なので、無人機で耕うん・整地を行うのと同時に、有人機で肥料やり・種まきなどの作業ができます。また、作業中のハンドル操作がなくなるので、作業状況の確認に集中でき、運転による疲労が軽減されます。

同社は従来の人が運転するタイプのトラクタ・田植機・コンバインなどに、後付けで使用できる自動操舵(そうだ)システム「ジョンディア」や、登録した農地データを基にした作業経路の作成と農地データに基づいた適正量を肥料散布でき、田植えを自動で行うスマート施肥田植機「直進アシスト田植機 可変施肥仕様」など、さまざまな自動化農機を展開しています。

2)自動走行×見えないところ・行きにくいところを除草=作業の軽減化や危険の回避

和同産業(岩手県花巻市)のロボット草刈機「ロボモア」は、地面のさまざまな凹凸や勾配を走破し、超音波センサーで障害物を探知しながら、草の状況に応じた草刈りを自動で行い、充電ステーションまで帰還します。スマホと連動するため、離れたところにいても草刈りの状況が確認でき、一部の操作ができます。

3)センサー×収量・食味測定=農地ごとの品質の偏りを解消

クボタ(大阪市浪速区)の穂先だけ選別・脱穀するコンバイン「DIONITH」は、収穫時に農地単位で収穫物の収量・食味(水分およびタンパク含有率)を測定できるセンサー機能を搭載しています。さらに、同社の営農支援システム「クボタスマートアグリシステム(KSAS)」と無線で連携することで、自動的に作業日誌の作成や栽培履歴の管理もできます。

こうしたデータを活用することで、農地ごとの品質の偏りの解消につなげられます。

4)アシストスーツ×上向き状態保持=摘果・摘花・収穫などの上向き作業の負担軽減

ダイドー(大阪府河内長野市)の上向き作業用アシストスーツ「TASK AR」は、上向き作業に特化しています。1分ほどで装着できる簡便さに加え、動力がガススプリングなので電力いらずで、摘果・摘花・収穫などの上向き作業の負担軽減になります。

5)ドローン×観測×薬剤散布=育成期間を可視化し、最適な時期の薬剤散布が可能

ドローンは操作が簡単で、さまざまな用途に拡張できる小型の飛行プラットフォームとして、農業分野での活用も行われています。

中国のメーカーで、農業用ドローンでは国内でも最大のシェアを持つDJI(日本法人は東京都港区)の「P4 MULTISPECTRAL」は、6つのセンサーを搭載したセンシングドローンです。センチメートル単位の測定値が得られるので、より詳細に作物の生育状態を把握できます。また、同社のiOSアプリ「GS PRO」と連動させることで、あらかじめ計画した飛行計画に沿って、自動飛行およびデータ収集を行うことが可能になります。

サイトテック(山梨県身延町)は、ユニット交換により輸送・測量・検査・散布などさまざまな作業ができるユニット型ドローン「YOROI」や、大型で大量の薬剤散布や資機材、農作物を運搬できる重量物運搬ドローン(最大搭載荷重は80キログラム)「KATANA」を発売しています。

また、オプティム(東京都港区)の農場管理システム「Agri Field Manager」は、ドローンが撮影した農地の画像をAI分析します。病害虫や雑草を検知すると、ドローンが対象となる地点のみをピンポイントで農薬散布します。同社のオペレーターがドローンを操縦するサービスもあり、必要なときだけ利用ができます。

6)スマホ×農地の各種センサー=水田を監視して給水・止水を自動化

Farmo(栃木県宇都宮市)の「水田ファーモ」は、太陽光で発電する水位センサーと給水ゲート(自動給水装置)、スマホで給水・止水ができる給水バルブを連携させて、自動測定した農地の水位・水温に異常があった場合に、スマホやタブレット端末などに連絡します。アプリに水田に入れたい水位を設定しておけば、給水ゲートが自動で開閉し、水田の水位を保ち続けます。

7)位置情報×作業記録を自動的に作成=作業進捗の共有とデータ蓄積が容易に

エゾウィン(北海道標津町)の「レポサク」は、GPS端末を利用した車両と農地の管理ツールです。GPS端末を農作業用車両のシガーソケットに差し込むと、運転者が車両を走らせた位置情報から、リアルタイムにスマホやPCに作業状況を送信し、日報を自動的に作成します。

広い農地では、トラクタなどの作業状況を無線でしか確認できず、全体の状況を把握するのが難しいですが、スマホやPCで常に現場の進捗状況が分かるので、作業内容の整理や手順の検討、情報共有が容易になります。

8)ビッグデータ×データを基にツール開発=生産管理のデジタル化

農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構、茨城県つくば市)が運営主体である「WAGRI」は、72(2022年6月末現在)の民間事業者などが利用している農業データプラットフォームです。官公庁や農機メーカー、民間企業などが持つ気象や農地、収量予測などの農業データを、統一した規格で集積しているので、さまざまなツールを開発・提供するための基盤になっています。

例えば、26日先まで局地的に天気の予測ができる「1キロメートルメッシュ気象情報」や、スマホで撮った異常のある葉の部位から、どのような病害虫か分かる「病虫害画像判定プログラム」、農薬データを組み込んだ「栽培支援サービス」などが開発されています。この他、WAGRIの「育成・収量予測」「青果物市況情報」「青果物卸売市場調査情報」などの支援サービスを利用することで、将来を見通した生産管理体制を作ることができます。

また、さまざまな農業データを一元化することで、農業に関わる情報や熟練を要する作業、勘が「見える化」され、新規参入者がいち早く生産活動に入ることを可能にしています。

3 農業テック関連のデータ:ニーズと課題など

これまで見てきたように、さまざまなシーンで「農業テック」導入の動きが始まっています。農林水産省などの資料から、求められているニーズや課題などの状況を見てみましょう。

1)農業テックのニーズ

流通経済研究所が行った農業者の「経営課題ごとの重要さ」によると、一番関心の高いものは「作業の効率化」です。

農業者の経営課題ごとの重要さ

農業経営者が実際にどのような技術に関心があるのかに関しては、「全国的な公表データはありません」(農林水産省大臣官房政策課技術政策室)ということですが、中国地方に限定した調査データがありますので、1つの指標として参考になります。

農業従事者が関心があるスマート農業の内容

2)基幹的農業従事者の推移と年齢構成

農林水産省「農林業センサス」によると、国内の基幹的農業従事者の推移と年齢構成は次の通りです。担い手の減少・高齢化は年々深刻さを増してきており、これまで以上の作業の省力化・自動化は喫緊の課題といえます。

農業従事者の推移と年齢構成

3)農業テックの導入で労働時間が平均38~47%削減とのデータも

農林水産省は、2019年度から「スマート農業実証プロジェクト」を全国各地(19地区=畜産除く)で実施し、農作業の自動化や各種データの活用などによる効果の分析を行っています。その結果、品目ごとの各作業の労働時間削減率の単純平均は、38~47%でした。

スマート農業技術を導入した各作業の労働時間削減効果

人手不足や高齢化、業務の効率化を図りたい農業従事者にとって、農業テックは有効なツールといえるのではないでしょうか。

以上(2022年9月)

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画像:Andrey Popov-Adobe Stock

打ち上げ花火の豆知識(2)

1 打ち上げ花火の大きさ

打ち上げ花火の玉の大きさは昔ながらの単位である「寸」を用いて表示されます(1寸は約3センチメートル)。2.5号玉から40号玉まであり(実際は打ち上げ用の筒の大きさに合わせ、少し小さめに作られます)、3寸の大きさのものは3号玉と呼ばれます。

花火の玉の大きさが増すと、打ち上げたときの直径も大きくなります。一般的な花火大会で打ち上げられる花火玉は2.5~5号玉で、空中で開いたときの直径は約50~150メートルです。それでも十分迫力がありますが、40号玉の場合は約750メートルと、桁違いのスケールになります。

打ち上げ花火の直径と高さ

花火を打ち上げるには安全を確保する必要があるため、花火大会で使用される花火の最大の大きさは「保安距離」によって決まります。保安距離とは、玉の大きさに合わせて、花火の打ち上げ場所から観客や付近の建物まで最低限確保すべき距離で、都道府県により規定が違っています。

都市部では建物が多くたくさんの人が集まるため、小規模な花火大会が多くなります。

2 打ち上げ方

1)打ち上げ方の分類

花火の打ち上げ方は、1発ずつ打ち上げるものからたくさんの花火を一気に打ち上げるものまでさまざまです。

  • 単発打ち
    単発打ちは、その名の通り、1発ずつ打ち上げる方法です。7寸以上の大玉などによく採用されます。

  • 早打ち
    早打ちは、1つの筒で数十玉を連続で打ち上げる方法です。

  • スターマイン
    スターマインは連射連発とも呼ばれる数多くの玉を一気に打ち上げる方法で、観客にもよく知られたプログラムです。見た目が華やかで、花火大会の目玉となっています。

打ち上げ花火

2)電気・コンピューターを使用した遠隔点火

かつては打ち上げ筒の間近に人間が作業して点火するのが当たり前でした。しかし、近年では安全性などの観点から、電気・コンピューターを使った、遠隔操作による点火が多く見られるようになり、広範囲の演出が可能になりました。

特にコンピューターを使用した点火器では、音楽とシンクロさせたタイミングで打ち上げられるようになり、花火の表現の幅を広げていくことが期待されています。

3 良い花火の見分け方

どんな花火が良い花火かという基本を覚えておけば、花火見物はもっと楽しくなるでしょう。ここでは良い花火の見分け方を紹介します。

  • 玉の座り
    玉の座りとは、打ち上げられた花火の玉が上空の最高点に達したところをいいます。玉の座りに達したところで割火薬に点火されて玉が破裂するのが良い花火とされており、これを「玉の座りが良い」といいます。最高点まで玉が上がったかどうか、玉が最高点まで昇りつめたところで破裂しているかどうかに注意してみましょう。


  • 玉が開いた形を盆といい、「菊」などの花火では円(丸)形が良いとされています。楕円(だえん)や形がゆがんだものは「盆が欠ける」といい、評価されません。開いたときの輪郭がはっきりしているかどうか、玉の号数に合わせた大きさに開いたかどうかを見ます。

  • 星の飛び方
    玉から飛び出した星が放射状にまっすぐ飛ぶのがよく、これを「肩の張りが良い」といいます。星は全てに火が付いて飛んでいくのが良いとされ、一部に火が付かなかったり、まだらに飛んでいってしまったりするものは評価が下がります。また、飛ぶはずの星が飛ばなかったり、放射線状に飛ばず、ふらふら飛んでいったりするのも評価を下げてしまいます。

  • 消え口
    全ての星が同時に開き、同時に色が変化し、さらに飛び散った星が同時に消えることを「消え口がそろう」といいます。

  • 配色
    最近の花火はさまざまな色が用いられていますが、たくさんの色を使用すればよいというものでもありません。特に小さな玉は目まぐるしく色が変化すると、開いたとき色がそろわないことが多くなります。
    また、星の色合いや色の組み合わせ、変化にも注目してみましょう。色が濃くかつ明るいかどうか、色の変化が多いかどうかを見ていると、技術的な難しさや手間の入れ具合が読み取れるかもしれません。

以上(2022年9月)

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