【朝礼】副の役職は“福の神”

けさは副社長がいないので、この機会に、私が副社長のことをどのように思っているのかについて話そうと思います。私と副社長は、激しく言い争うこともあるので、皆さんの中には、私と副社長の仲が悪いと思っている人もいるかもしれません。ですが、それは誤解です。副社長が自分のことよりも、私や会社のことを第一に考えてくれていて、私に対しても忌憚(きたん)のない意見をぶつけてくれるので、そう見えるのです。副社長がいるからこそ、私は裸の王様にならずにいられます。彼には本当に感謝しています。

それに、副社長は、私と皆さんとをつなぐという大事な役割も果たしてくれています。皆さんが会社や私に対して思うところがあったとき、副社長に相談することがありますね。それを聞いた副社長は、私に伝えるべきことを選んで報告してくれています。もちろん、皆さんの評価を下げるような伝え方をしたことはありません。ですから、私に言いにくいことがあれば、これからも遠慮なく副社長に相談してください。

副社長の素晴らしいところは、まだあります。彼は、私が気付いていないことを教えてくれるのです。あるときは、私に「社長が出張したときに買ってきてくれるお土産は、センスがあると評判です」と伝えてくれたことがありました。それを聞いてから、出張の際は、「どんなお土産なら皆さんが喜んでくれるかな」と想像しながら買い物をするようになり、土産選びが楽しくなりました。

そんな副社長は、私にとっても、会社にとっても、福をもたらしてくれる“福の神”といえます。

この会社には、副社長の他にも、部や課ごとに副部長や課長補佐など、「副」の立場にある人がいます。そうした人たちは、所属長や組織にとっての“福の神”になることを目指してください。副社長のように、所属長を支え、所属長とメンバーの間を取り持つことを心掛けてください。所属長が伝えきれないことや気付かないこと、手が回らないことを察して、そっと手を差し伸べられるようになれれば、もう“福の神”です。組織は所属長によって大きく変わりますが、その変化をより大きくするのは、「副」の立場にある人です。

また、所属長や「副」の立場ではない皆さんにとっても、この話は人ごとではありません。特別な役職に就いていなくても、“福の神”になることはできます。周りを見渡せば、気になる人や、助けてあげたい人がいるはずです。その人に、さりげなく手助けや声掛けをしてみてください。同僚に対する皆さんのこまやかな気遣いは、会社に小さな福を呼んでいるはずです。こうした積み重ねで、もし同僚の業務がうまくいったり、同僚から悩みを打ち明けられる相談相手になったりしたら、あなたは会社にとっての立派な“福の神”といえるでしょう。

社内に“福の神”が何人もいて、会社に福を呼び合えるような組織になれば、この会社は今まで以上に素晴らしい組織になるはずです。

以上(2023年3月)

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画像:Mariko Mitsuda

全社員が持てる“経営的視点”(5)~企業の【存在意義】の正体~/武田斉紀の『誰もが身に付けておきたい“経営的視点”』(9)

書いてあること

  • 主な読者:会社経営者・役員、管理職、一般社員の皆さん
  • 課題:経営幹部や管理職の方はもちろん、若手社員の方でも「経営的視点で見るように」と社長や上司から求められた経験がないでしょうか。その場でうなずきはするものの、「経営的視点とは何か?」「それは社長以外の社員に必要なのか?」「会社員として働く上で、人生において価値があるのか?」「そもそもどのように身に付けていけばいいのか?」といった疑問をお持ちではないでしょうか
  • 解決策:課題で挙げたさまざまな質問に対して、『“経営的視点”の身に付け方』というテーマで、全国で多くの講演を行っている筆者が明快に回答します。“経営的視点”はこれからの時代において新入社員から求められる視点であって、より早く身に付けられれば、その分、仕事においても人生においてもプラスであると分かるはずです

1 企業の【存在意義】を定め、全社で共有浸透していくに当たって

シリーズ『武田斉紀の「誰もが身に付けておきたい“経営的視点”」』の第9回です。

“経営的視点”をより早く身に付けられれば、誰にとってもその分、仕事においても人生においてもプラスになります。では「どうすれば身に付けられるのか」について、今回もさらに掘り下げてお話ししていきましょう。

全社員が持てる“経営的視点”の観点として、ご提示している3点
1)会社の【成長】
2)会社の【組織力】
3)会社の【存在意義】

前回、第8回からは、「3)会社の【存在意義】」についてお話ししています。

会社の【存在意義】の状態には5段階ある。まず、そもそも定められているか、いないか。定められている場合は「定められているもののトップの本気の言葉ではない」といった由々しきケースを除いては、「社内での共有浸透度」の高さが問題であるということでした。

「社内での共有浸透度」の高さでいえることは…
(1)社員一人ひとりが実行した存在意義に共感するお客様は利用し続けてくださり、社会にも認められて、会社は永続し、発展していく。
(2)逆に社員の一人でも存在意義を見失った行動を取ってしまうと、お客様や社会から必要とされなくなる。

同時に、会社の【存在意義】を定めて社内に共有浸透させていければ、全社員が“経営的視点”を持てるようになるのです。

今回は、企業の【存在意義】を定めて社内で共有浸透していくに当たって、「企業の【存在意義】の正体とは何か」について触れていきます。

2 「創業200年以上の企業数」で世界ベスト3はどの国?

いきなりクイズです。「創業200年以上の企業数」で世界ベスト3はどの国でしょうか? 以下の表を見ながら考えてみてください。もちろんすでに表に出ている国は違いますよ。

創業200年以上の企業

表の右下から遡ると、10位まで2桁が続きます。9位のスイスで3桁になり、4位の英国と次の3位までは徐々に増えていますね。ところが2位はいきなり3位の約5倍、そして1位はさらに2倍とダントツの1位なのが分かります。さあ、予想してみてください。答えは↓の下に…

 ↓

 ↓

 ↓

答えは、3位 フランス、2位 ドイツ、1位 日本 でした。いくつ正解できましたか? 周囲を海に囲まれた島国ゆえに国自体が守られてきた歴史はありながらも(英国もそうです)、日本はダントツ世界一の“老舗大国”なのです(*)。

日本、いえ世界最古の企業として知られるのは578年の飛鳥時代に創業した株式会社金剛組。聖徳太子が百済から招聘した宮大工によって始まった社寺を専門に建築する会社です。数々の苦難も乗り越えて今日まで1400年以上、2006年には髙松コンストラクショングループの傘下に入って存続しています。

「創業200年以上の企業数」からさらに絞って「創業250年以上」とすると、対象企業の3分の2が日本企業となるそうです。逆に少し緩めて「創業100年以上」とすると、日本に2万社以上も存在するそうです。(3万7000社以上との調査もあります)

47都道府県、つまりは約50で割ると400社、東京や京都などは多いとしても皆さんの住む都道府県にもそれくらい存在するのです。私は講演会で会社が「創業100年以上」の方いますかと挙手いただくのですが、毎回1割前後いらっしゃってとても身近な存在なのだと感じます。

100年でも十分に長い年月です。その間には少なくとも数人の経営者がバトンを引き継いでいます。経営者に近い立場を経験された方ならお分かりでしょうが、経営にとって危機と呼べる状況は10年に一度くらい訪れます。そしてその数回に一度は存続を左右するような致命的な危機なのです。

それでも時の経営者を中心に、全社が力を合わせて死に物狂いで乗り越えてきたからこそ、100年、200年企業の今があります。

さて、日本に長寿企業が多いとお話しすると、「日本企業は存続ばかりを優先させているから生産性が低いのだ」「利益を拡大させられない会社や事業は、生かしてくれる会社に早く売った方がいい」といった声が聞こえてきそうです。

3 「100年企業」は、顧客や社会から【存在意義】を認められたから永続した

老舗企業の中には存続を最優先にしてきた企業もあるでしょうが、それで100年、200年と会社を維持できるほど経営は簡単ではありません。ではなぜ日本にそれを可能にした企業が多いのでしょうか。

「創業100年以上」の企業を調べてみると8割近く(77.6%)に「家訓・社是・社訓」が存在し、多くの企業がそれを大切に守ってきていたのだと分かったそうです(**)。

「家訓・社是・社訓」を整理・分類してみると、共通するいくつかのキーワードが見えてきたそうです。それはカ=感謝、キ=勤勉、ク=工夫、ケ=倹約、コ=貢献の5つ。企業によってこの中のどれか、あるいはいくつか、また優先順位は異なっています。もちろんこれら以外のキーワードも含めて、老舗各社の経営者と従業員、後継者が商売において何を大切に守ってきたかが分かります。

お客様や取引先、地域や社会は、各社と長年付き合う中で、各社が大切にしている価値観を信じて互いに支え合ってきたのでしょう。そこには各社が「私たちはどんな存在でありたいか」を明確にし、関係者(ステイクホルダー)に対して大切に守ってきた【存在意義】があったのです。

存続は目的ではなく、【存在意義】を追求してきた“結果”であったと言えるのではないでしょうか。

「企業は誰のものか?」の質問への答えは、米国に代表される資本主義の本流では、まがうかたなく「株主」とされてきました。経済学の教科書にもそう書いてあります。

先ほど触れた「利益を拡大させられない会社や事業は、生かしてくれる会社に早く売った方がいい」との声は、企業の持ち主である株主に対しては実に誠実な答えです。私もM&Aは選択肢の一つに入れておくべきと考えますし、それによって顧客や社会にとっての【存在意義】が失われないのであればよい選択だとさえ思います。

忘れてはいけないのは、企業も人もその【存在意義】を認めるのは自身ではなく、関わっている周囲の人たちであること。お客様が継続的に購入して利益をもたらしてくれて、地域や社会からも積極的に受け入れられてこそ、企業として存在し続けられるのです。

4 各社がその【存在意義】を追求していけば、日本も世界もよくなっていく

SDGsやESGといった言葉が世界的に受け入れられるようになって、ビジネスの流れが変わってきました。

ご存じのようにSDGsとは2015年9月の国連サミットで採択された2030年までの「持続可能な開発目標」、ESGは「Environment(環境)、Social(社会)、Governance(ガバナンス=企業統治)」の頭文字です。企業にはESGの3つや、SDGsの健康・教育・女性活躍・平等・地球環境といった17の目標を意識しながら、“持続的であること”が強く求められています。

米国の株主資本主義にも変化が表れました。

2018年、世界最大の資産運用会社といわれる米ブラックロック社のCEOが年次書簡で「企業が継続的に発展していくためには、すべての企業は、優れた業績のみならず、社会にいかに貢献していくかを示さなければなりません」と述べました。

2019年には米国主要企業の経営者をメンバーとする団体「ビジネス・ラウンドテーブル」が、「企業は顧客への価値の提供、従業員の能力開発への取り組み、サプライヤーとの公平で倫理的な関係の構築、地域社会への貢献、そして最後に株主に対する長期的利益の提供を行う」と発表しました。株主への配慮が“最後に”置かれています。

時を前後して、企業の【存在意義】を問う「パーパス経営」という言葉が知られ、大手企業を中心に新たにパーパスを定める機運が生まれています。

企業としての【存在意義】を問い、何代にも渡って守りながら“存在”し続けてきた日本の老舗企業からすれば、今さら感は否めません。たとえば元々は株主資本主義の企業から投資をしてもらうにしても、急激なかじ取りの変更に対して、どこまで信じてよいのやらといぶかりたくもなります。

一方で日本の老舗企業は、出資者である株主あっての企業である事実を忘れてはいけません。【存在意義】を大切にしながらも、もっと生産性を上げ、もっと利益を上げるべく心血を注ぐべきでしょう。もっと利益が上がれば、従業員や経営者、地域や社会にも還元できます。ひいては日本経済、世界経済にも貢献できます。

株主のため、とはいえ日本の99%は中小企業で、その多くは経営者=株主のケースが多いでしょう。経営者と株主のダブルで利益をむさぼるよりも、従業員、顧客、取引先、地域や社会などそれ以外の関係者(ステークホルダー)に利益を分配した方が、会社は永続できることでしょう。

以上今回は、“経営的視点”を身に付けていくのに当たって、「企業の【存在意義】の正体とは何か」について解説してみました。

第9回も最後までお読みいただきありがとうございました。次回も引き続き「3)会社の【存在意義】」についてお話しします。

【参考文献】
(*)「三代、100年潰れない会社のルール : 超長寿の秘訣はファミリービジネス」(後藤俊夫(著)、プレジデント社、2009年7月)
(**)「百年続く企業の条件 : 老舗は変化を恐れない」(帝国データバンク史料館・産業調査部(編)、朝日新聞出版、2009年9月)

<ご質問を承ります>
最後まで読んでいただきありがとうございます。ご質問や疑問点などあれば以下までメールください。※個別のお問合せもこちらまで

Mail to: brightinfo@brightside.co.jp

以上(2023年3月)
(著作 ブライトサイド株式会社 代表取締役社長 武田斉紀)
https://www.brightside.co.jp/

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画像:NicoElNino-shutterstock

【朝礼】虫の目、鳥の目、魚の目

経済問題を考えるときには三つの目が必要であると、よく言われます。経済活動の細部をミクロの視点で注意深く見ることのできる「虫の目」、経済をマクロから鳥瞰(ちょうかん)することのできる「鳥の目」、そして経済の潮の流れの変化を見通すことのできる「魚の目」だそうです。

ビジネスに置き換えてみると、現場で顧客や商品に直接触れて実態を知るのが「虫の目」、自社はどんな状況に置かれていて、何が最重要問題なのかを感じるのが「鳥の目」、そして、自社や業界全体がどんな流れの中にあり、そこでどんな流れに沿って、どのタイミングで何を行ったらよいかを判断するのが「魚の目」だと考えればいいでしょう。

「虫の目」は業務改善に徹することといってよいかもしれません。一言でいうと「現場主義」です。現場の担当者が何を求め、どのように業務を遂行したいか、どうありたいかを明確にして、日常的業務を改善することです。そのためには、まず業務の進め方や作業内容を正確に記録し、点検し、リスクを洗い出し、改善の可能性を追求する必要があります。まさに、「虫の目」を持って、詳細に検討を重ねるということです。

「鳥の目」は戦略といっていいでしょう。自社の進むべき道筋を明確に意識し、それに向かって自社が活動しているかどうかを見定め、問題があれば、それを明確に把握することが求められます。高いところに上がって、全体を見下しながら、総合的判断をすることができるといったイメージです。

日常的な判断は「虫の目」と「鳥の目」があればできるかもしれませんが、ビジネスの将来の方向性を決定するようなときにはさらに「魚の目」が必要です。

そして、この「魚の目」を養うには、業界の動向や金融情勢はもちろんのこと、国際的な政治・経済、ひいては人類の歴史・文化や宗教問題まで含めたさまざまなジャンルに関心を持っておくことが求められるでしょう。こう考えると、何よりも「魚の目」を養ってくれるのはいろいろなジャンルの事象から得られる「知識」や「経験」であることが分かります。

自分のかかわっているビジネスが行き詰まった、人間関係がうまくいかないといったことも、「虫の目」の視点から離れ、「鳥の目」つまり高みから見下ろせば、全体像や自分の位置がよく分かり、そこから突破口を開くことができる場合があります。

「虫、鳥、魚」を客船で考えてみましょう。「虫の目」で見ると、客室、食堂、機関室などそれぞれの現場しか目に入りません。「鳥の目」で見ると客船としての機能が有機的に結びついていることが分かるでしょう。「魚の目」で見ると、海の状態、天候などを考え、安全に目的地に着くことが求められます。

「虫、鳥、魚」を時間軸で考えると、「虫の目」が今週のこと、「鳥の目」が半年先のこと、「魚の目」が3年先のことといったイメージです。

そして、「虫、鳥、魚」の目の割合ですが、若手社員は7対2対1、中堅社員は5対3対2、幹部社員は3対4対3、役員は1対5対4でお願いします。若手社員であっても「魚の目」を持つ努力が必要ですし、役員であっても「虫の目」を忘れてはなりません。

皆さんには、「虫の目」を持ってビジネスを遂行し、「鳥の目」を持って全体を設計し、「魚の目」を持って世の中の流れをつかんで、会社をよい方向に導いてほしいと思います。

以上(2023年3月)

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画像:Mariko Mitsuda

15年で村内総生産額が3倍! 村内起業×SDGs×DXで若者が流入し続ける村/1400人の山村のキセキ(前)

書いてあること

  • 主な読者:地方創生に関心のある経営者や町おこし担当者、地方創生を支援する金融機関
  • 課題:過疎化によって人材、資源、資金の全てが不足し、活力を取り戻す方策がない
  • 解決策:森林資源の価値の最大化を目標に、村内起業やSDGs、DXなどに挑戦し続けている岡山県西粟倉村の取り組みを参考にする

1 16%が移住者! 若者が流入する「消滅可能性都市」

日本創成会議(注1)が2014年に指摘した、将来存続できなくなる恐れがある市町村、いわゆる「消滅可能性都市」(注2)は、1799市町村(2014年当時)のうち896市町村に上ります。

ところが、消滅可能性都市の1つとされた人口約1400人の山村が、

約15年間で村内総生産額を約3倍に増やし、若者の流入が相次いで村民の16%を移住者が占めるようになった

という事実を、皆さんは信じることができますか? そんな“奇跡”のような村が、岡山県西粟倉村(にしあわくらそん)です。村内の経済を成長させ、新たな雇用を生み出し、若者の流入に成功しただけでなく、SDGsやDXの面でも先行しています。

このシリーズでは、西粟倉村の約15年間の軌跡と、地方創生の成功モデルと言われるまでの“奇跡”を遂げた理由について、西粟倉村役場の上山隆浩・地方創生特任参事へのインタビューを、前後編の2回にわたって紹介します。

(注1)日本生産性本部が2011年に発足させた民間の政策提言組織。現在は活動休止中
(注2)2010年から2040年にかけて、20~39歳の女性の人口が5割以下に減少する市町村と定義

2 「森林しかない村」が森林資源の価値に気付く

1)村単独での生き残りを決断したことが転機に

西粟倉村は、岡山県の北東端、兵庫県と鳥取県との境にある人口1361人(2023年1月末時点)の山村です。約57.97平方キロメートルの面積の約93%が森林で、このうち84%をスギやヒノキなどの人工林が占めています。

地方の他の山村と同様に、人口減と高齢化が進んでいた西粟倉村の転機となったのは、2004年の「平成の大合併」の際に、他の市町村とは合併しないと決めたことでした。村役場では合併を前提に準備をしていたのですが、住民アンケートの結果、合併反対が上回ったことを受けて、村単独でやっていくことになったのです。

とはいえ、村のかつての主力産業だった林業は衰退し、財政力指数(注3)は岡山県の市町村で最低という状況の中、村が生き残っていける見通しがあったわけではありませんでした。

(注3)市町村の財政力を示す指標で、「基準財政収入額/基準財政支出額」の過去3年間の平均値

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2)外部の視点で「負の遺産」だった森林の価値付けを目指すことに

どうしたら村が生き残っていけるのかを考えていく中で生まれたのが、「百年の森林(もり)構想」です。この構想は、人工林の管理をあと50年続けて、2058年には西粟倉村を、100年の森林に囲まれた「上質な田舎」にしようというものです。

構想が生まれたきっかけは、2004年から2007年まで、総務省の補助事業である「地域再生マネージャー事業」を導入し、村の活性化策について外部のコンサルタントなどの専門家を招いて議論をしたことでした。元々は村内の観光施設の赤字をどのように解消するかをテーマにしていたのですが、地域と都市部とを結び付けるチャネルである観光施設を活かすには、「村として、何を売っていけばよいのか」が議論されました。

村民からすると、「この村で売っていくものなんて、何もないよね」という意識でいたのですが、Iターンで西粟倉村に来られた方や、外部のコンサルタントが着目したのが、森林でした。西粟倉村では、戦後の昭和30年代に植えられたスギの人工林が50~60年たって、「これからお金になる」まで生育していました。ですが、輸入木材の普及によって木材価格が低下するとともに、高齢化によって林業の担い手がいないという状況にありました。

特に西粟倉村の場合、村有林を村民に払い下げたという経緯もあって、2ヘクタール程度しか保有していない零細な所有者が多く、個人で森林を管理することが困難になっていました。このため、森林には価値も人も付かなくなり、放置される状況があちこちで見受けられるようになっていたのです。特に住居の裏山は、大雨によって崩れることもありますから、防災面でも森林の管理が大きな課題となっていました。このため、村民の間では、「森林は負の遺産になりつつある」という考えが広がっていました。

これに対して、外部のコンサルタントの分析は、「観光施設も大切だが、一次産業は地域の資源であり、豊富にある。しっかりと管理して価値を付けていけば、非常に重要な産業になるし、西粟倉村が持続可能な地域になる」というものでした。外部の知見をもらえなければ、森林は管理が必要な「負の遺産」ではなく、ただ「森林資源が豊かである」ということだけで価値のあることだということに気付かなかったと思います。さらには、森林に価値を付け、その森林資源を活用すれば、経済効果や雇用を生み出すことができるということにも、村民の目は向かわなかったでしょう。

このような考え方に基づいて、コンサルタントの方のアドバイスを受けながら2008年に着想し、2009年に事業を開始したのが「百年の森林構想」です。

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3 森林で「稼げる村」へ!

1)役場を中心とした全村体制で森林資源の価値最大化計画がスタート

こうして始まった百年の森林構想の第一歩は、森林の管理を村役場が一括して行うことでした。村役場には元々、1300ヘクタールの村有林を管理する部署があったので、その部署を広げて個人の森林も管理する体制を取りました。

まず、村役場と森林を所有する村民とで、「森林長期施業管理に関する契約」を結びました。契約の主な内容は、

  • 事務や事業にかかる費用は村の全額負担(村の一般財源と国・県の補助金から支出)
  • 丸太の販売収益は、村と森林所有者が半分ずつ得る

というものです。

森林の管理は多くの村民が困っていましたし、自分でお金を払わない上に村役場が管理してくれて、利益の半分も手元に入ります。山崩れなどの災害リスクも減り、環境にも良いということですから、悪い話は全くありません。総論としては皆が賛成してくれました。

ただし、ただ森林を管理するだけでは費用が出ていくだけです。百年の森林構想の最初の重要ポイントは、森林に価値を付け、その森林資源を活用して「稼げる村」になることでした。小さな村ですので、何百人もが働く工場を誘致するのではなく、小規模でも林業者が増え、木材加工業を手掛けるような、身の丈に合った6次産業化を進めることを目指しました。

2)「西粟倉村の木を使いたい」というニーズをつくることで森林に価値が付く

森林に価値を付けて「外貨」を生み出す役割を担うリソースが、「ローカルベンチャー」です。地元で起業してもらう、木材加工事業のスタートアップ企業です。

ローカルベンチャーの大前提となるのが、20世紀型のビジネスモデルから外れることです。20世紀型のビジネスモデルは、基本的に森林の木を切って木材市場で売るだけです。売り上げを伸ばすには、量で勝負するしかありませんが、それでは外国産の大量かつ安価な木材には勝てません。西粟倉村の現在の木材搬出量は1万立方メートルしかありませんので、1立方メートル当たり1万円で木材を売ったとしても、1億円にしかなりません。

これに対して、林業を6次産業化して、木材を家具や内装材に加工して販売する地元の「ローカルベンチャー」を育成すれば、森林から得られる売り上げは10億円にもなりますし、雇用者も増えます。

とはいえ、ただ木材加工した製品を大量生産していては、やはり20世紀型モデルから抜け出せません。大手企業が参入しないようなニッチな市場で、しかも「西粟倉村の木を使いたい」というニーズをつくることが、西粟倉村の森林に価値を付けるために必要なことです。

例えば、西粟倉村で成功したローカルベンチャーの製品に、幼稚園の什器やマンションの内装用のタイルがあります。都市部の若い方たちの中には、国産材の木に囲まれた環境の中で子供を育てたいという人がいます。大手企業は参入しないニッチな市場かつ、製品に込められたストーリーまで含めて購入されるような市場です。

こうした市場を見つけ、広げていくには、事業を行うローカルベンチャー自体に、「西粟倉村の木を使いたい」という思いがなければ実現しません。

そのような思いや価値観を集約した「旗」になるものが、「百年の森林構想」です。そして、西粟倉村の森林資源の最大価値化というビジョンを共感・共有したいという人たちが増えるほど、森林資源の価値が高まっていくことになるのです。

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3)ビジョンにプロジェクトが一体化

とはいえ、他の市町村でも、ビジョンはあってもプロジェクトが付いていかないという話を聞くことがあります。西粟倉村の場合、ビジョンに共感してプロジェクトを実行してくれる企業と一体化することができました。

うまくいったのは、たまたまなのかもしれませんが、先駆者となってくれた数社の役割は大きかったと思います。観光施設の赤字対策のために招いた外部のコンサルタントの方が起業した「西粟倉・森の学校(およびエーゼロ)」(以下「森の学校」)や、地元の森林組合の職員が起業した「木の里工房 木薫」(以下「木薫」)、百年の森林構想に共感して西粟倉村にIターンした方が起業した「ようび」といった先駆者が、市場を開拓してくれました。森の学校や木薫は、百年の森林構想を作る前の段階から関わっているので、当然ながらビジョンを理解し、共感してくれていました。

こうした先駆者である数社のローカルベンチャーが、ビジョンと一体化したプロジェクトで実績を出してくれているので、外部の人たちにも西粟倉村の取り組みがよく分かり、共感・共有を得やすくなったのだと思います。先駆者たちの活躍を見て、同じような活動をしようと考えていた人たちが西粟倉村を選んでくれるようになりました。

西粟倉村では、新たなローカルベンチャーの育成を後押しする取り組みも行っています。2015年に、先駆者であるローカルベンチャーを主体としたローカルベンチャースクールに取り組みました。また、2016年に、西粟倉村と東京のNPO法人ETIC.の呼びかけに賛同した8つの自治体により、ローカルベンチャー協議会を発足しています。

このような取り組みによって、2022年には、西粟倉村のローカルベンチャーは50社にまで増えました。村内総生産額は百年の森林構想がスタートする2009年以前の8億円から22億円へと約3倍に増え、221人の新規雇用を実現しています。

4)移住者だけでなく「関係人口」の拡大も重要

ビジョンを共感・共有していただいたのは、ローカルベンチャーの担い手だけではありません。西粟倉村のビジョンに対する共感・共有によって、地域外の方たちにも西粟倉村の顧客やインフルエンサーになってもらい、さらに共感・共有の輪が広がるようになっています。こうした、移住はできなくても西粟倉村のビジョンに共感・共有していただいて、村と強い関係を持っている方々を、私たちは「関係人口」と呼び、特に経済面や課題解決の面での西粟倉村の発展にとって重要な存在だと考えています。

例えば、2009年と2010年には、「西粟倉村共有の森ファンド」というクラウドファンディングを立ち上げ、423人の投資家の方から約4900万円が集まりました。

関係人口を増やすために、2018年には、西粟倉村の情報を掲載し、村内の製品を購入することなどができる「アプリ村民票」のサービスを始めました。既に村の人口を上回る約1700人の方に登録していただいています。

4 脱炭素・SDGs推進で「循環型社会」へ

ローカルベンチャーによって、森林資源の価値が高まり、西粟倉村は「稼げる村」になりました。その一方で、事業を進めていくうちに、森林資源の価値をより一層高めるには、木材加工事業を行うローカルベンチャー以外の方法も必要だということが見えてきました。木材加工には使えない低質材・未利用材を活用できるようになれば、今まで無価値だった木材にも価値が生まれるからです。

そのための解決策が、脱炭素です。木材加工に使えない低質材・未利用材(薪やチップ)を使ったバイオマス発電と小型の水力発電によって、小規模分散型の再生可能エネルギー供給システムの構築を進めています。ローカルベンチャーなども募り、2014年度から事業に着手しています。

事業は、国からの補助金などを活用しています。西粟倉村は2013年に内閣府の環境モデル都市、2014年に農林水産省などのバイオマス産業都市、2019年に内閣府のSDGs未来都市に認定されていますので、こうした制度を活かしてファイナンスを行っています。

現在では、小中学校や村役場の新庁舎など村内の6カ所の公共施設に木質バイオボイラーで熱供給をし、3カ所の温泉施設に薪ボイラーを導入しています。また、2018年に西粟倉村や地元の金融機関などが出資して小型の水力発電事業会社を設立し、売電事業を始めました。

こうした取り組みにより、村内の再生可能エネルギーによる電力自給率は、約50%に達しています。目標はもちろん100%です。2022年度には環境省の脱炭素先行地域に選定されており、2030年に村有施設の電力由来の二酸化炭素の排出量をゼロにすることを目指しています。

脱炭素やSDGsは、西粟倉村にとっては、森林資源の価値を高めるためのツールです。脱炭素やSDGsというコンセプトに沿えば、国などからの補助金を活用できますし、専門的な知見を持った人材も集めやすくなります。さらには、百年の森林構想への共感・共有が広がるというメリットもあります。

5 さらなる高みへ、最新技術を活用した「構想Ver.2.0」

1)全ての森林をデータ化して用途に選別

百年の森林構想では、林業の6次産業化と脱炭素・SDGsで森林資源の価値を高めてきましたが、課題はまだまだ残っています。西粟倉村の森林の84%が人工林とはいえ、実際に林業に適している森林は、このうち6割程度しかないことが分かってきました。残りの4割程度の森林は、「生育が悪い」「人が入るのが困難な場所にある」「住居や墓地に近いので保水効果を考えると木を伐採できない」などの理由で、価値を付けられていないのです。

価値を付けられていない森林の管理は、おろそかになりがちです。しかし、管理を怠ると大雨によって山崩れが起こりかねませんし、山崩れが起きればますます管理をしなくなるという「負の連鎖」が起きてしまいます。

そこで、2020年から、百年の森林構想を新たなフェーズに移行させることとしました。百年の森林構想Ver.2.0の開始です。

Ver.2.0の最大の事業は、村内の約6700地番ある森林を全てデータ化して分析し、用途を決める作業を行う「森林 RE Design」です。例えば、生育の悪い森林や、木材の搬出が困難な場所にある森林は、環境林として観光客を呼び込み、グリーンツーリズムなどの「コト消費」につなげます。住居に近い森林は、低層木に植え替えて、シロップの生産や養蜂、山菜の育成といった「森林農業」を営む場所にして、5~6年でキャッシュフローが回るようなビジネスモデルへの転換を進めています。DXを活用した「森林 RE Design」によって、木材利用だけでない森林の価値を付け、森林資源の価値をさらに高めることができると考えています。

2)都市部に流出した森林の所有権は「森林商事信託」を活用

Ver.2.0のもう1つの大きな事業が、2020年度から開始した森林商事信託事業です。百年の森林構想の第一歩となった「森林長期施業管理に関する契約」は、村役場が対象に想定している約3000ヘクタールの森林のうち、約1800ヘクタールほどしか締結できていません。

その主な理由は、相続によって森林の所有権が、都市部の住民に流出し始めていることです。森林商事信託事業は、都市部の住民に契約を締結してもらうための手法です。都市部に住んでいる所有者が森林管理を委託しやすくするために、村役場が村内の所有者と締結したような契約を、大手信託銀行と締結するスキームです。所有者は信託契約が続く限り、森林管理の費用負担がなくなりますし、信託受益権の配当を受け取ることができます。委託した森林の管理状況については、森林管理を行っている大手企業が、信託銀行のアドバイザーとして参画していますので、遠隔地の方でも安心して信託していただける制度になっています。

3)都市部など外部企業との協働にシフト

ご紹介した2つの事業でも分かるように、百年の森林構想Ver.2.0は、Ver.1.0と比べると、活用すべきリソースが異なっています。「稼ぐ村」への転換に貢献していただいているローカルベンチャーは、DXに関するリテラシーやノウハウが必ずしもあるわけではありませんし、信託事業を行っているわけでもありません。これは脱炭素に関しても同様のことが言えます。

Ver.2.0の課題や脱炭素に取り組むには、DXや脱炭素などに関する専門的なノウハウや知見があり、さらには投資もできるファイナンス力のある事業者に参加してもらう必要があります。

これまでは、ローカルベンチャー事業のKPIを起業数に設定してきましたが、これからは起業数ではなく、生み出した事業の売り上げ規模をKPIに設定しています。1社当たり1億円や2億円の事業を生み出すことが理想です。例えば、観光事業は裾野が広い産業なので、億単位の売り上げ規模の事業を起こすこともできますし、数十人単位の若者を呼び入れることもできます。

地域資源の価値最大化のための活用すべきリソースの変化に伴って、村内で企業を育成してリソースにするという考え方から、地域内で賄えないものは外部のリソースを活用するという考え方にシフトしています。このため、これまで以上に都市部の企業などとの協働プロジェクトに取り組み、2024年に13件に、2030年までには35件に増やすことを目指しています。

2020年に設立した「一般財団法人西粟倉村まるごと研究所」は、企業や大学などの研究機関に、西粟倉村そのものを実証実験の場として提供することで、さまざまな課題を解決するための最新技術の導入を図るための受け皿になることを目的としています。

4)社会資本の充実でSDGsもバージョンアップへ

Ver.2.0では、SDGsのターゲットの拡大も目指しています。これまで西粟倉村のSDGsは、脱炭素や環境分野が中心でしたが、これからは社会資本の充実も進めていくことを目標に掲げています。このため、村内で育成するローカルベンチャーは、従来の「木材加工型」だけでなく、「ソーシャルビジネスローカルベンチャー」を増やしていきたいと考えています。

2020年には、村内の小中学生向けに、環境やSDGsに関する教育を実践し、西粟倉村のアイデンティティを高めていくことを狙った「一般社団法人Nest」を設立しました。

百年の森林構想を中心に、環境、経済、社会の3つが自立的に好循環を生んでいくような仕組みをつくっていくことが、西粟倉村の持続可能性を高めることにつながると考えています。

西粟倉村役場の上山隆浩・地方創生特任参事へのインタビューの前編は以上です。後編では、西粟倉村の取り組みの中心的な役割を担う村役場の職員たちは、どのような意識改革によって育成されたのかについて聞いています。

以上(2023年3月)

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画像:岡山県西粟倉村役場

【業務効率化】便利だけれど万能ではない「エクセル管理」を見直そう

書いてあること

  • 主な読者:Microsoft Excel(エクセル)を使って業務管理を行っている会社の経営者
  • 課題:業務管理の効率化を図りたいが、エクセルを使い続けることには限界を感じている
  • 解決策:エクセルには不向きな使い方をしていないか確認し、それに代わるクラウドサービスの利用を検討する

1 便利なエクセルですが、不向きな使い方をしていませんか?

多くのビジネスパーソンが慣れ親しんでいる「Microsoft Excel」(以下「エクセル」)。その使い方はさまざまで、台帳管理、勤怠管理、予算管理など、業務管理ツールとして使われるケース(以下「エクセル管理」)もあります。

しかし、本来、エクセルは表計算ソフトなので次のような使い方には不向きです。

  • 複数人での同時作業
  • ファイルの更新状態の管理
  • 細かなアクセス権限の管理
  • 複数データの統合
  • 大容量データの蓄積、処理

エクセルに不向きな使い方をしていることに気付いていなかったり、そのまま見過ごしてしまったりして、業務が非効率になっていないでしょうか?

この記事では、エクセル管理には限界があることを踏まえた上で、見直しを図っていく方法を考えていきます。

2 エクセル管理には限界がある

エクセルには不向きな使い方をしていないか、自社の課題を洗い出してみましょう。

1)複数人での同時作業

エクセルファイル自体は比較的簡単に共有できます。しかし、通常の使い方では、1つのファイルを複数人で同時に閲覧することはできても、同時に編集することはできません。

「共有ブック機能」を使うと同時に編集することもできますが、他の人が編集中の情報がリアルタイムに反映されるわけではなく、ちょっとした手順の違いで、入力したはずのデータが更新されていない、ファイルが破損するといったトラブルが発生しがちです。

2)ファイルの更新状態の管理

複数人で同じエクセルファイルを更新する場合、入力ミスがあったときや、誤って削除してしまったときなど予期せぬトラブルが発生した際に原因を特定するのが困難です。

また、各人が自分勝手な命名ルールで「(最新版)***.xlsx」といったファイル名で保存したり、バックアップ用と称してコピーしたファイルをいくつも保存したりすると、どのファイルが正しい最新のファイルなのか(本人ですら)分からなくなりがちです。

3)細かなアクセス権限の管理

例えば、部門や役職によって、特定のメンバーには編集権限を付与し、それ以外のメンバーには閲覧権限だけを付与するといった管理をしようとする場合、エクセルファイルに、細かなアクセス権限を設定して管理するのは現実的ではありません。

4)複数データの統合

例えば、プロジェクトの予算管理にはエクセルを使い、進捗管理には他のツールを使っているという場合、二重入力の手間がかかったり、最新情報の共有に漏れが生じたりする恐れがあります。

5)大容量データの蓄積、処理

エクセル2007以降であれば、1シート当たり104万8576行×1万6384列と、理論上はそれなりの量のデータを蓄積できますが、データ量が大きくなったり、複雑な関数を使ったりすると処理速度が遅くなります。ファイルを開くのにとても時間がかかったり、行を挿入したらフリーズしたり、といったように作業効率の低下を招くことになります。

3 エクセル管理から脱却するには

もし、先ほど説明したエクセルに不向きな使い方を御社がしているのであれば、エクセル管理からの脱却を検討してみてはいかがでしょうか。

1)エクセル管理からの脱却が進まないのはなぜ?

エクセル管理には何となく限界を覚えつつも、なかなか止められないのは、エクセルの使い勝手がよく、それで業務が回ってきたからです。会社側からすると、エクセルは業界や職種を問わず広く普及しているオフィスソフトの代表格であり、操作を覚えてもらうために従業員をトレーニングする必要もないため、わざわざ費用や時間をかけてまで他のツールを使う必要性を感じにくいのかもしれません。

2)クラウドストレージにエクセルのファイルを格納してみよう

クラウドストレージは、一般的に、ファイルのバージョン管理の機能が備えられています。このため、

同じファイルに上書きをした場合、「誰が」「いつ」「どのような」ファイル変更を行ったかが追跡できる

ようになります。ですから、万が一、データを前のバージョンに戻したいという場合も、すぐにデータを復元することが可能になります。

さらに、クラウドストレージならではの強みとして、データのバックアップ場所としても適切です。

事故や天変地異などで、社内の重要なデータを喪失してしまった場合でもデータが保持されています

ので、すぐに業務を再開することも可能になります。近年では、このデータバックアップを主目的として、クラウドストレージを活用する会社も少なくありません。

代表的なクラウドストレージとしては、次の3つが挙げられます。

  • OneDrive(Microsoft)
  • Googleドライブ
  • Dropbox

クラウドストレージは、基本的にはユーザーの数で課金されるケースがほとんどです。クラウドストレージを利用するユーザーの数が多い場合は、月々の利用料がそれなりの金額になるケースがあります。

3)クラウド型データベース構築ツールを試してみよう

近年では、クラウド型のデータベース構築ツールが普及し、簡単にデータベースを構築することができるようになりました。エクセルを、業務管理のためのデータベースのような形で使用している場合は、こうしたクラウド型データベース構築ツールを使ってデータベースに移行させることを検討してもよいでしょう。

従来のエクセルをデータベースに移行させる利点としては、次の2点が挙げられます。

1.複数人での利用がしやすくなる

エクセルを利用する場合、入力と出力が1つの画面にまとまっています。使い勝手は良いのですが、その半面、データを編集すべきではない場所を不慮の要因で上書きしてしまった場合、データが壊れてしまうリスクも抱えています。複数人が利用する場合、こうしたリスクが高まります。データベースを導入すれば、

入力すべきデータの種類が明確に規定され、入力の間違いや上書きによるデータ損失のリスクをゼロにする

ことができます。

2.“見える化”が進む

エクセルは入力と出力が1枚のシートにまとまっています。利用者によって見たい項目が違う場合でも、表示項目を切り替えるといった機能は、エクセルには備わっていません。利用者がその都度、表示をフィルタリングしたり、並び替えたりする作業が発生します。

データベースでは、入力と表示が明確に切り離されています。そのため、

それぞれの利用者が画面をカスタマイズして、必要な情報や入力項目だけを表示することができる

ので、“見える化”が進みます。

3)お勧めのデータベース構築ツール

近年、著名なクラウド型データベースの構築ツールとして、サイボウズ社のKintone(キントーン)が挙げられます。

エクセルからデータを直接読み込ませるだけでデータベース化することもできる

ので、プログラミングなどの知識がなくても、簡単に業務アプリを作成することができます。

ユーザー単位の課金となるため、利用者数が多いと金額がそれなりにかかってしまいますが、データベースを多用する会社は、価格以上の価値を得られると考えられます。

他にも、

  • Claris社のFileMaker(ファイルメーカー)
  • NI Consulting社のnyoibox(如意箱)
  • AirTable(エアテーブル。現状では英語版のみの提供)

など、多くのツールが登場しています。自社のニーズと実現したいことを踏まえながら、適切なツールを選択するとよいでしょう。

4 参考:円滑なデータ活用は社内ルールの標準化から

エクセルファイルに限りませんが、社内ルールが標準化されていないと、各人が自分勝手にファイル名を付けて、自分のパソコンのローカルドライブに保存することが横行しがちです。ファイルの命名ルールやフォルダの構成ルールといった基本が置き去りのままだと、クラウド型データベース構築ツールを導入したところで、どこに何のファイルが保存されていて、どれが正しいファイルなのか分からなくなってしまう恐れがあります。

1)ファイルの命名ルールを明確化する

まずは、ファイルの命名ルールを明確化することが考えられます。ファイルの命名ルールにはさまざまなアイデアがありますが、以下に幾つかのルールを挙げてみます。

1.日付を含める(例:「YYYYMMDD_ファイル名」)

ファイル名に日付を含めることで、ファイルが作成された日付が、ひと目で分かるようになります。

2.プロジェクト名や顧客名を含める(例:「社名_ファイル名」)

ファイルが属するプロジェクト名や顧客名をファイル名に含めることで、どのプロジェクトのファイルなのかが、ひと目で分かるようになります。

3.バージョンを含める(例:「ファイル名_v1」「ファイル名_v2」)

ファイルが何回編集されたのかをファイル名に含めることで、古いバージョンと新しいバージョンを区別することができます。

以上のような命名ルールを組み合わせて使うことで、ファイルの管理がより簡単かつ、見つけやすくなります。ただし、命名規則は目的に応じて変えることもできるので、自社の運用形態に合わせた規則を設定することが大切です。

2)フォルダの構成ルールを明確化する

ファイル名の命名ルールと合わせて検討したいのが、ファイルを格納するフォルダの構成ルールを明確化することです。プロジェクト名や業務分野、事業年度など、フォルダ構成を標準化することで、ファイルの管理がしやすくなります。

あまりフォルダの階層を深くしすぎてしまう(フォルダの中にフォルダがあり、そのフォルダの中にフォルダがあるといった状態にする)と、逆に目的のファイルが見つけにくくなるので、2~3階層程度にとどめておくことが望ましいでしょう。

以上(2023年3月)

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画像:IB Photography-shutterstock

【収支シミュレーション】デイケア(通所リハビリテーション)施設の開業収支モデル

書いてあること

  • 主な読者:デイケア施設の開設を検討している人
  • 課題:自社の所有地に通所リハビリテーション施設を新築する
  • 解決策:開業、運営に掛かる費用の目安を押さえ、収支計画をシミュレーションしてみる

1 通所リハビリテーションとは

1)通所リハビリテーション

通所リハビリテーションとは、

居宅の要介護者を介護老人保健施設、病院、診療所、その他の厚生労働省令で定める施設に通わせ、その心身の機能の維持回復を図り、日常生活の自立を助けるために行われる理学療法、作業療法その他必要なリハビリテーション

をいいます。また、通所リハビリテーションは一般にデイケアとも呼ばれています。

通所リハビリテーションは、介護保険法の居宅サービス事業に該当します。居宅サービス事業者となるには、都道府県知事(指定都市・中核市は各市長)の指定を受ける必要があります。

2)介護予防通所リハビリテーション

介護予防通所リハビリテーションとは、

居宅の要支援者(要介護に至っていない状態の人)を介護老人保健施設、病院、診療所、その他の厚生労働省令で定める施設に通わせ、その介護予防(要介護状態になることの予防)を目的として、厚生労働省令で定める期間にわたり行われる理学療法、作業療法その他必要なリハビリテーション

をいいます。

介護予防通所リハビリテーションは、介護保険法の介護予防サービスに該当します。介護予防サービス事業者になるには、都道府県知事(指定都市・中核市は各市長)の指定を受ける必要があります。

3)通所リハビリテーション施設の開設

通所リハビリテーション施設を開設するには

  • 法人格を取得する
  • 厚生労働省令で定められた事項を都道府県知事に届け出る
  • 厚生労働省が定める「指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準」を満たす
  • 施設の所在地の都道府県知事(指定都市・中核市は各市長)から介護保険法の「通所介護」に係る「指定居宅サービス事業者」の指定を受ける

なお、市区町村によって基準が異なる場合や、設置を計画していた施設の数を満たしているといった理由で申請を受け付けていない場合があるため、事前に市区町村の担当部署に確認しましょう。

また、市区町村によって施設整備費や設備整備費などに補助金を出していることもあるので、併せて確認するとよいでしょう。

2 開業収支を考える

1)前提条件

1.売上高

売上高は、施設定員を90人として年間5870万円とします。算出式は次の通りです。

(介護サービス費8万3800円+日常生活費等6800円)×定員90人×12カ月×稼働率60%≒5870万円

通所リハビリテーションの売上高は、介護サービス費と日常生活費等から成ります。

厚生労働省「介護給付費等実態統計月報(令和3年4月審査分)第5表 介護サービス受給者1人当たり費用額,要介護状態区分・サービス種類別」によると、通所リハビリテーションの介護サービス受給者1人当たり費用額は8万3800円となっています。介護保険が適用されるので利用者の負担は1割(一定基準以上の所得がある場合は2割または3割)となります。

日常生活費等は、食材料費、教育娯楽費、日用品代などで、利用者が実費を負担します。

2.原価率

厚生労働省「令和2年度介護事業経営実態調査」の介護事業費用(3)その他を参考に、売上高の27.7%とします。

3.人件費

厚生労働省「令和2年度介護事業経営実態調査」の介護事業費用(1)給与費66.7%を参考に、3915万円(5870万円×66.7%)とします。

4.施設設備整備費用

一般的に、通所リハビリテーション施設は、病院や診療所、他の介護サービス施設と併設されるケースが多いようです。そこで、このシミュレーションでは、リハビリテーションを行う専用の部屋を既存の施設に増築するものと仮定し、建物(延床面積120平方メートル。1平方メートル当たり工事単価30万円)は3600万円。建物附属設備(電気・給排水・消火設備など)は540万円とします。

その他の諸条件は次の通りとします。

損益収支計画の前提条件

2)収支シミュレーション

損益収支計画

主な財務指標

3 通所リハビリテーション施設(予防を含む)の収支

厚生労働省「令和2年度介護事業経営実態調査結果」によると、通所リハビリテーション(予防を含む)の1施設1カ月当たり収支は次の通りです。

通所リハビリテーション施設(予防を含む)の1施設1カ月当たり収支

以上(2022年12月)

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画像:Robert Kneschke-shutterstock

管理職の約6割が「上司の指示が急変」で困惑。部下への説明は“割り切って”派? “理由も丁寧に”派?~管理職200人アンケート

書いてあること

  • 主な読者:マネジメントに関して、上司と部下との板挟み状態で悩んでいる管理職
  • 課題:自分と同じ悩みは、他の管理職の人にも共通する悩みなのか、解決策はあるのか
  • 解決策:管理職の経験者へのアンケート結果から、どのように対応したのか参考にする

1 管理職としてのその悩み、あなただけではありません!

上司も部下も言いたいことを言うだけで、一番つらいのは管理職である自分だ!

マネジメントで悩んでいる管理職の皆さん。その悩みは、あなただけのものではないかもしれません。もし次の3つのうち、1つでも経験のある方は、ぜひこの記事をご覧ください。

  • 部下が自分を飛び越えて自分の上司と連絡を取り合っていた
  • 上司からの指示が急に変わり、部下への説明に困った
  • 部下同士の仲が悪くて必要な連携さえ取れていないと感じた

この記事では、198人の管理職経験者に、上記の3つの経験があるかどうかをアンケートしました。経験が「ある」と答えた人には、そのときにどのように対応したかも聞いていますので、皆さんがマネジメントの能力をもう一段高めるための参考にしてください。

なお、アンケートは2023年2月に、インターネットを通じて行いました。

2 部下が自分を飛び越えて自分の上司と連絡を取り合っていた

1)53.0%が経験あり

部下が自分を飛び越えて自分の上司と連絡を取り合っていたという経験がありますか?

部下が自分を飛び越えて自分の上司と連絡を取り合っていたという経験が「ある」と答えたのは、管理職経験者198人のうち105人、「ない」と答えたのは76人でした。

2)連絡の内容と理由は確認しておきたい

部下が自分を飛び越えて自分の上司と連絡を取り合っていたときの対応

部下が自分を飛び越えて自分の上司と連絡を取り合っていたときの対応(93人が回答)として最も多かったのは、「特に何もしなかった」の29人でした。理由は定かではありませんが、これとは別に「黙認、知らんぷり、無視、諦めた」(17人)、「気にしなかった、問題視しなかった」(4人)、「自己反省した」(2人)といった回答がヒントになるでしょう。

前後の状況を踏まえて問題視しなかった人もいるようで、

  • たまたま自分が在席しておらず、大した内容ではなかったので黙認した(40代男性)
  • 上司も後から私に報告してくれた(60代男性)

といった回答もありました。部下を預かる者として、部下が取り合っていた連絡の内容と、その理由は確認しておいたほうがよいかもしれません。

  • 後で部下に確認して、内容が正しいのかどうか判断した(40代男性)
  • どういった事情でそうなったかの説明を求めた(50代男性)

といった対応が無難といえそうです。波風を立てずに連絡の内容を確認するために、

  • 「上司に話してくれたんだ?」と、伝聞風に尋ねた(60代男性)

という対応も参考になるでしょう。また、その一件を機に自分のマネジメント手法を改め、

  • 「1on1などでコミュニケーション量を増やすようにした」(30代女性)

といった回答もありました。

3)再発防止のために部下に注意や指導をした人も

穏便な形での解決を図った人が多いものの、再発防止を徹底するために、17人が「(部下に)注意した、指導した」と回答しました。

  • 厳しく指導した(50代男性)、内容にもよるが基本的には部下を叱った(50代男性)
  • 内容を確認し、情報は共有するように指示した(60代男性)
  • 部下に報告の必要性と責任の所在を説明した(40代男性)
  • 上司に連絡してからで構わないので、連絡した旨話してほしいと伝えた(60代男性)
  • 「後で困ったからといって、助けを求めて来ても知らないよ」と注意した(60代男性)

といった回答もありました。

実行するのは難しいかもしれませんが、本来は「上司に抗議した」(4人)という対応が理想的かもしれません。

  • 上司に、組織を重んじるように直接抗議した(70代男性)
  • 連絡を取っていた上司の口から、部下の行為を諌めてもらった(60代男性)

といった回答もありました。

3 上司からの指示が急に変わり、部下への説明に困った

1)57.6%が経験あり

上司からの指示が急に変わり、部下への説明に困った経験はありますか?

上司からの指示が急に変わり、部下への説明に困ったという経験が「ある」と答えたのは、管理職経験者198人のうち114人、「ない」と答えたのは77人でした。

2)あえて“組織の歯車”に徹するのも一策

上司からの指示が急に変わり、部下への説明に困ったときの対応

上司からの指示が急に変わり、部下への説明に困ったときの対応(100人が回答)としては、約3分の1の人が「上司の指示をそのまま伝えた」(33人)と回答しました。「会社の方針だと割り切って説明した」(15人)と合わせると、「その他」(23人)を除いた回答者の6割以上を占めています。「上司の指示をそのまま伝えた」と答えた人の中には、

  • (上司の)方針が変わったと粛々と説明した(50代男性)、真実を話すのみ(50代男性)
  • 上からの指示だからと、そのまま伝えた(50代男性)

といった回答もありました。自分が上司と部下との板挟みになって苦労しそうな場合、あえて“組織の歯車”に徹することも一策かもしれません。

「会社の方針だと割り切って説明した」と答えた人は、部下にも“組織の歯車”に徹するようにアドバイスしたといえるかもしれません。

  • 会社の方向性は常に変わるものだと言った(40代男性)
  • いろいろ考えはあると思うが、指示の急な変更はあり得ることだと説明した(60代男性)

といった回答もありました。

3)部下の気持ちに配慮しながら説明する

これに対し、部下の気持ちに配慮しながら説明した人も少なくありません。部下がまず感じる「なぜ?」に答えるように、

  • なぜその方針変更があったのか、理由を自分の中で腹落ちさせ、納得いく説明ができるように準備した。納得できない状態では伝えなかった(30代女性)
  • 原因を丁寧に説明し、理解を得るまできちんとコミュニケートした(60代男性)
  • 部下のモチベーションが落ちないように、できるだけその背景や理由を添えて説明した(70代男性)
  • 自分なりの理由をつけて説明をし、納得してもらえるように努めた(40代男性)
  • 聞いたまま事実を伝え、自分なりに考え理解したその理由も伝え、理解を図った。自分なりに持っている疑問点も伝えた(70代男性)

といった回答もありました。

また、上司の指示だけでなく、それに対する自分の考えも織り交ぜて伝えることで、部下の理解を得ようとした人もいました。

  • 会社の方向性に対しての私自身の考えを示し、その思いを共有してもらった(40代男性)
  • 上司の指示には逆らえないが、言わなくてはいけないことは私が言うから、何かあったら言ってと伝えた(60代男性)
  • 私たちの考えは十分に伝えたが、上司の判断が変わったので、そのように対応したいと説明した(60代男性)
  • 納得いかない点もあるだろうが、方針として従ってもらいたいと懇切丁寧に説明した(50代男性)、部下に詫びを言いながら伝えた(60代男性)

といった回答もありました。中には、やや上司を非難するような口調も織り交ぜることで、部下の理解を得ようとした人もいるようです。

  • 朝令暮改かもしれないが、臨機に方向修正した(結果だ)と言って説明した(60代男性)
  • 会社の方針であることと上司の愚痴を織り交ぜて説明した(50代男性)
  • (上司に)朝令暮改の癖がある旨説明し、(部下に)納得させた(70代男性)
  • 愚痴りながら説明した(30代女性)

といった回答もありました。

4 部下同士の仲が悪くて必要な連携さえ取れていないと感じた

1)52.5%が経験あり

部下同士の仲が悪くて必要な連携さえ取れていないと感じたことがありますか?

部下同士の仲が悪くて必要な連携さえ取れていないと感じたことが「ある」と答えたのは、管理職経験者198人のうち104人、「ない」と答えたのは85人でした。

2)まずは話し合いで解決を図り、ダメなら異動?

部下同士の仲が悪くて必要な連携さえ取れていないと感じたときの対応

部下同士の仲が悪くて必要な連携され取れていないと感じたときの対応(92人が回答)として、最も多かったのは「個別に話をした」の25人でした。「(3人で)話し合った」の10人、「2人で話し合いをさせた」の3人を加えると、「その他」(13人)を除いた回答者の半数近くを占めています。「異動、配置転換させた」と回答した人の中にも、まずは話し合いから始めたという回答がありますので、まずは話し合いから解決を図ることが基本といえるでしょう。

  • 双方の意見を個別に聞き、最後に両者を会わせて穏便に解決した(50代男性)
  • 個別に聞き取りをして、お互いの考えを聞いた。その上で相容れないものは何か、容認できるものは何か整理して、個々に伝えた(60代男性)
  • 個別ではなく、何が原因なのかお互いの話し合いを取り持った(60代男性)
  • 2人を同時に呼んで事情を説明させた(60代男性)
  • 部下たちと飲みに行った(60代男性)
  • 業務に支障が出るので、勤務中だけでも連携して仕事をするよう、それぞれ指導した(50代男性)
  • しばらく間に入り連携するようにし、徐々に関係を取り戻すようにした(50代男性)

といった回答もありました。

とはいえ、話し合いだけでは解決に至らず、やむなく異動や配置転換という形で決着を図った人もいたようです。

  • 個別に話し合い、修復の可能性がないと判断された場合、配置換えもしくは転勤命令を出した(70代男性)
  • 個別に話し合い、互いの言い分を聞いた上で、必要があれば部署を異動してもらった(40代男性)
  • 個別に話しつつ、可能な範囲で実務に影響がないよう配置換えを検討した(30代女性)

といった回答もありました。

3)若い世代の管理職は、関係修復への関与を避ける傾向も

回答で特徴的だったのは、若い管理職ほど、自らは2人の関係修復になるべく関わらない形で解決を図る傾向が見られたことです。世代によってマネジメント手法に違いが出てきている可能性もありそうです。

  • (2人に)挨拶をさせた(40代男性)
  • 間に入って業務を進めた(40代男性)
  • 部下同士が関わらないようにした(40代男性)
  • 上司に相談し解決してもらった(40代男性)
  • その人の特性と強み・弱みを分析して、得意とする業務に当てはめて対応した。お互いに力が発揮できる業務を探るということ(40代男性)
  • 他の職員に仲裁してもらった(40代男性)

といった回答もありました。

この他に、

  • 優秀な部下の味方をした(50代男性)
  • 自分では何もできなかったが、有能な部下がこまめに動いて調整してくれた(60代男性)
  • 子どもじゃないから放置した(50代男性)

といった回答もありました。

以上(2023年3月)

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画像:ニワトコ-Adobe Stock

【収支シミュレーション】老人デイサービスセンターの開業収支モデル

書いてあること

  • 主な読者:老人デイサービスセンターの開設を検討している人
  • 課題:自社の所有地に老人デイサービスセンターを新築する
  • 解決策:開業、運営に掛かる費用の目安を押さえ、収支計画をシミュレーションしてみる

1 老人デイサービスセンターとは

老人デイサービスセンターとは、

居宅要介護者および居宅要支援者に対して、日帰りで入浴、食事の提供、機能訓練、介護方法の指導などのサービスを行う施設

です。また、介護保険では、居宅要介護者に対する老人デイサービスを「通所介護」といいます(介護保険法第8条第7項)。

利用者は生活介助を受けられるだけでなく、孤立感の解消、心身機能の向上も図ることができます。また、家族などの介護者は、老人デイサービスセンターに要介護者・要支援者を預けることにより、介護による身体・精神的負担の軽減を図ることができます。

老人デイサービスセンターを開設するには、

  • 法人格を取得する
  • 厚生労働省令で定められた事項を都道府県知事に届け出る
  • 厚生労働省が定める「指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準」の人員配置基準、設備基準、運営基準を満たす
  • 施設の所在地の都道府県知事(指定都市・中核市は各市長)から介護保険法の「通所介護」に係る「指定居宅サービス事業者」の指定を受ける

必要があります。

なお、市区町村によって基準が異なる場合や、設置を計画していた施設の数を満たしているといった理由で申請を受け付けていない場合があるため、事前に市区町村の担当部署に確認しましょう。

また、市区町村によって施設整備費や設備整備費などに補助金を出していることもあるので、併せて確認するとよいでしょう。

2 開業収支を考える

1)前提条件

1.売上高

売上高は、施設定員を30人、稼働率を70%として年間2741万円とします。算出式は次の通りです。

(介護サービス9万9400円+日常生活費等9400円)×定員30人×12カ月×稼働率70%≒2741万円

老人デイサービスセンターの売上高は、介護サービス費と日常生活費等から成ります。

厚生労働省「介護給付費等実態統計月報(令和3年4月審査分)第5表 介護サービス受給者1人当たり費用額,要介護状態区分・サービス種類別」によると、通所介護の介護サービス受給者1人当たりの費用額は9万9400円となっています。介護保険が適応されるので利用者の負担は1割(一定基準以上の所得がある場合は2割または3割)となります。

日常生活費等は、食材料費、レクリエーション参加費、理美容代、おむつ代、日用品代などで、利用者が実費を負担します。

2.原価率

原価率は、後掲の図表4(通所介護の1施設1カ月当たり収支)の介護事業費用のうち(4)その他を参考に27.4%とします。

3.人件費

人件費は同じく後掲の図表4(通所介護の1施設1カ月当たり収支)の介護事業費用のうち(1)給与費63.8%を参考に2498万円(3916万円×63.8%)とします。

4.施設設備整備費

建物(延床面積400平方メートル。1平方メートル当たり工事単価30万円)は1億2000万円。建物附属設備(電気・給排水・消火設備など)は1800万円とします。

その他の諸条件は次の通りとします。

損益収支計画の前提条件

2)収支シミュレーション

損益収支計画

主な財務指標

3 通所介護施設の1施設1カ月当たり収支

厚生労働省「令和2年度介護事業経営実態調査結果」によると、通所介護施設の1施設1カ月当たり収支は次の通りです。

通所介護施設の1施設1カ月当たり収支

以上(2023年3月)

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画像:mapo-Adobe Stock

【朝礼】厳しい校則と増えるルーチン業務の共通点

おはようございます。突然ですが、皆さんが通っていた中学校や高校は、校則が厳しかったでしょうか? いきなり変な質問をしてすみません。この質問にはちゃんと理由がありますので、しばらく私の話にお付き合いください。

先日、学生時代の友人と会った際、私たちが通っていた中学校の校則の厳しさが話題になりました。当時の生徒手帳には、髪形、ズボンの太さ、スカート丈から始まる数多くの校則が細かく記載されていたのです。ただ、どうも世の中には、さらに変な校則や厳しい校則がある、もしくは、あったようです。友人と一緒にインターネットで調べてみたら、あまりの内容に驚きました。

例えば、プールではふんどし禁止、学校に出前を取ることは禁止、タトゥー禁止などがそうです。私や友人の感覚からすると、「そんなの当たり前でしょ」と思ってしまうような内容でした。逆に、髪を切るときは教師の許可を得ること、○○駅で待ち合わせをするのは禁止など、「そこまでする必要があるの?」と、疑問に感じる内容もありました。

ですが、今にして思うと、こうした校則を作った学校側も、私や友人と同じ気持ちだったのかもしれません。実際に、ふんどしで泳ぐ生徒や学校に出前を取る生徒、タトゥーをした生徒が出てきて、PTAを含めて問題になった結果、学校側はやむなく校則で禁止したという背景が想像できます。

また、あまりに奇抜な髪形をした生徒や、駅前で生徒が駅の利用者に迷惑を掛ける行為に対して、学校側は何度も指導したのに効果がなかったのでしょう。その結果、学校側としては、髪を切るのは許可制、駅での待ち合わせは禁止に踏み切るしかなかったのだろうと思います。

私が通っていた高校は、中学校と違って校則がほとんどありませんでしたが、奇抜な髪形や服装をする生徒は皆無でした。だから髪形や服装に関する校則が不要だったのだと思います。

これは、今の私たちにも当てはまる話ではないでしょうか。業務上、本来はあり得ないミスや、原因不明の納期遅れが続けば、当然ながら再発防止のための対策として、チェック体制を二重三重に増やし、業務の進捗を逐一、上司に報告しないといけなくなります。それは、変な校則や厳しい校則と同じように、「そんなの当たり前でしょ」「そこまでする必要があるの?」と思ってしまうようなルーチン業務です。こうした業務が増えると、本当に重要な業務を行う時間が減ってしまいます。つまり、自分たちの落ち度や怠慢によって、自分たち自身の首を絞めることになるわけです。

今、会社では業務効率化が求められていますが、その第一歩は、「そんなの当たり前でしょ」「そこまでする必要があるの?」というルーチン業務を減らしていくことだと思います。そのために私は、自分がやるべきこと、守るべきことを怠らないように努めたいと思います。

以上(2023年3月)

pj17136
画像:Mariko Mitsuda

【朝礼】丁寧さが好感を生みます。皆さんは丁寧さの基準を知っていますか

先日、取引先企業を訪問した際、言葉遣いや所作がとても丁寧な受付の方(女性)がいました。本当に丁寧に応対してくれたので、なんとなく気持ちがよくなりました。そのときは、その後の商談がうまく運ぶような気さえしました。また昨日、急ぎの要件で電話をかけたとき、相手の女性の受け答えが、とても丁寧でした。そのせいか、私の気のあせりは少し和らぎました。丁寧に応対されると、とても心が落ち着くだけでなく、嬉しくなるものです。

高級ホテルや高級レストランでは、皆さんはとても丁寧な接客を受けると思います。もちろん、彼らは接客のプロフェッショナルですので、言葉遣いや所作が丁寧なのは当然のことといえます。こうしたことが分かっていても、丁寧に応対してもらうと、悪い気はしません。

ここで逆のことを考えてみましょう。仮に、高級ホテルで、雑な応対をされたらどうでしょう。嫌な気持ちになるに違いありません。程度によっては、そのホテルを利用するのをやめようとさえ思うでしょう。

日常のビジネスシーンでも、同じようなことが起きているかもしれません。ここで、皆さんと取引先様との電話応対を思い出してください、常日ごろ、すべての取引先様に丁寧に応対していますか。

ポイントは「すべての取引先様」です。一口に取引先様といっても、大口のお客様、小口のお客様、これからお客様になってくれるかもしれない見込み客、仕入先様などさまざまです。皆さんの中に、大口のお客様にはとても丁寧に接している一方で、小口のお客様には丁寧さに欠ける応対をしている人はいませんか。仕入先様に対しては、「うちが商品を買ってやっている」という態度や物言いになっていませんか。

ビジネスシーンにおける応対の基本は、お客様の大小や、お客様か仕入先様かで、変わっていては混乱します。なぜなら、小口のお客様は大口のお客様になるかもしれないからです。それに、仕入先様がお客様になるかもしれません。もう少し分かりやすく説明しましょう。小口のお客様が大口のお客様になった場合、相手に有利に契約条件などを変更するのは、ビジネスとしてよくあることです。逆に、大口のお客様が小口になることも少なくありません。取引の大きさに応じて、取引条件が変更するのはビジネス上、問題はありません。しかし、相手の立場や取引額によって、応対を変えるようでは、皆さんだけでなく、会社の信用にもかかわります。

今後、皆さんはどのような立場の相手の方でも、社外はもちろん社内でも、上司と部下の関係であっても、丁寧に接してください。丁寧過ぎるぐらいでかまいません。丁寧な応対は間違いなく、好感を生みます。仮に、厳しい交渉でも、丁寧な言葉遣いで行うと、相手は感情的になりません。部下を厳しい言葉で叱責する際も、丁寧な口調でいうと、部下は納得します。

丁寧さは言葉遣いと口調、そして所作に表れます。皆さんの敬語が多少間違っていても、ゆっくりと優しい口調であれば、丁寧さは伝わります。

そして、肝心なことですが、丁寧さにも基準があります。分かりますか。よく、「相手に不快感を与えないようにすればいい」という方がいますが、これはマナーの問題であって、丁寧さの基準ではありません。

私が考える丁寧さの基準を皆さんに教えましょう。その基準は「相手よりも」です。相手を上回る丁寧さで応対すれば、相手は好感を抱いてくれるでしょう。今日から、相手よりも丁寧に応対してください。

以上(2023年3月)

pj16485
画像:Mariko Mitsuda