【朝礼】楽しく仕事を続けるための「仕組み」を作ろう

皆さんは何かをやり始めて三日坊主で終わったことはありませんか? 正直に申し上げれば、私もあります。そのときは「やる気」ばかりが空回りしてしまったと後悔したものです。

せっかく何かを始めても、途中で投げ出してしまうのはもったいないことです。そこで、「やる気」に頼らずに努力を続けられるような仕組みを作ってみてはいかがでしょう。

例えば、私の友人でこんな人がいます。その友人は、「健康のために自宅の最寄り駅から1つ離れた駅を使うようにした」と言います。朝は少し早めに自宅を出て、1駅分歩いて電車に乗り、帰宅するときは1つ手前の駅で電車を降りて1駅分歩いて家に着くという具合です。ところが、彼はこれを始めて2週間ほどで挫折しそうになりました。最初の1週間は「健康のため」というモチベーションが高く、また、普段と違った道を通るので新鮮な気持ちで歩けたそうです。しかし、翌週に入って残業や雨で歩けない日が3日ほど続き、「やる気を失ってしまった」そうです。

ここまでならよくある話です。しかし、彼はここで終わらず、再度歩き始めました。以前と違うのは、「やる気だけでは長続きしないから、通勤定期の区間を1駅短く買った」ということです。

彼は「やる気」だけではものごとを継続できないことを知り、思い切って「仕組み」を変えたわけです。帰宅が遅くなった日や雨の日などには1駅分の料金を払って最寄り駅を使うので、さほど苦にはならないそうです。

やる気だけでは続かないのは、仕事でも同じです。例えば、新しい仕事を担当したばかりのときなどは、「さあやるぞ!」とやる気にあふれているものです。しかし、その仕事もやり続けていると、慣れたり、飽きたりして、だんだんと「やる気」が薄れていきます。そして、やる気を取り戻せないまま、仕事がおざなりになってしまっては、仕事の効率は下がる一方です。

このようなことを避けるためには、やる気に頼らずに継続するための仕組みを作り上げることです。例えば、「その日の仕事は1カ所にまとめて置いておき、終わるまで帰らない」、そして「1日の仕事が増えすぎないように、全体の予定から逆算して週末に翌1週間分のスケジュールを必ず作る」といった具合に、仕事の予定を立てるための自分なりの仕組みを作ってしまうのです。そうすれば、仕組みに応じたスケジュールで動くことができるようになり、やる気で成果が左右されることは少なくなるでしょう。

もちろん、常にやる気に満ちて仕事に取り組んでいる姿が理想です。けれども、そのやる気は皆さんが成果を上げているからこそ持続するものです。仕組みを上手に作って、成果を残すことができれば、皆さんのやる気の維持にもつながることでしょう。そうして、良い循環を作っていけるような仕事をしていきましょう。

以上(2022年9月)

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画像:Mariko Mitsuda

稲盛和夫氏(京セラ株式会社創業者)/経営のヒントとなる言葉

「ビジネスの世界で勝つには、『何がなんでも』という気迫で、なりふり構わず突き進んでいくガッツ、闘魂がまずは必要である。」(*)

出所:「燃える闘魂」(毎日新聞社)
  

冒頭の言葉は、

  • 「経営者の揺るぎのない信念や情熱が、企業を成長させる原動力となる」

ということを表しています。

稲盛氏は、心をベースとした経営を説くなど、経営において「心」が重要な要素であると考え、また、それを実践することで、オイルショックをはじめ、さまざまな困難を乗り越え京セラを世界的な企業へと導いてきました。また、最近では、2010年1月に会社更生法の適用を申請した日本航空グループ(現日本航空株式会社。以下「JAL」)の再生に尽力した稲盛氏ですが、順調に再生への歩みを進めることができた要因も、従業員の心の変化にありました。

JALの再生に際しては、賃金ダウンなどの労働条件の悪化、路線の大幅な縮小、航空機をはじめとした機材や設備も当初は更新せずに古いものを使用するなど、再生に対して“追い風”となる要素は、ほとんどありませんでした。こうした厳しい状況の中で、良い方向に変わったものは、人の心であったと稲盛氏は述べています。

稲盛氏は、当初、「倒産した」という危機意識が希薄な従業員などに対して、その事実を認識させると同時に、「人間として正しいことを追求する」を経営の判断基準とするなど、京セラなどで実践してきたことを研修などを通じて伝えて、従業員の意識改革に取り組みました。その結果、幹部、従業員一人一人の中に、自分のためだけではなく、会社のため、お客さまのため、社会のために何ができるかという真摯な心が根付いてきました。こうした心の変化が“追い風”となりJAL再生の大きな原動力になったのです。

経営における心の重要性を知る稲盛氏の目には、経営不振の原因を経済環境や市場動向といった外部環境に求めることのある最近の経営者は「燃える闘魂」が欠けていると映っています。「燃える闘魂」とは、弱肉強食の厳しいビジネスの世界で勝ち抜いていくためには、いかなる格闘技にも勝る激しい闘争心が必要だということを示したもので、稲盛氏が事業を成功に導くための普遍的な要諦をまとめた「稲盛経営12カ条」(注)の一つとしても知られています。稲盛氏は、敗戦後の厳しい環境の中から、世界的な企業を育て上げてきた松下幸之助氏や本田宗一郎氏などの名経営者たちの姿や、自身の経験から、定めた目標を何がなんでも実現してみせるという強い心があれば、どんな困難でも乗り越えられると言います。稲盛氏のその信念は次の言葉にも表れています。

  

「不可能を可能に変えるには、まず『狂』がつくほど強く思い、実現を信じて前向きに努力を重ねていくこと。それが人生においても、また経営においても目標を達成させる唯一の方法なのです。」(**)

  

経営者であれば、誰しもが、情熱を持って経営に当たっているはずです。しかし、経営者も人間である以上、困難な状況に直面したり、思うような成果が得られなかったりしたときには、諦めや弱気な気持ちが心中をよぎることもあるでしょう。また、外部環境という経営者自身がコントロールできない要因に経営が翻弄されてしまうことも紛れもない事実です。

しかし、トップである経営者が、「もう無理だ」と諦めてしまえば、会社が成長・発展する道は閉ざされてしまいます。逆に、いかなる状況に直面しても、経営者が「燃える闘魂」を持ち続けて経営のかじ取りを行えば、それが企業を成長・発展させる原動力となり、前進するための道を切り開いていくことができるのです。

そうした意味では、本当に困難な状況に直面したときでもなお、「何がなんでも企業を成長に導く」「必ず目標を達成する」という不退転の決意を経営者が持つことは、厳しいビジネスの世界で会社が生き残っていくための必須条件といえるでしょう。

(注)「稲盛経営12カ条」とは、「1.事業の目的、意義を明確にする」「2.具体的な目標を立てる」「3.強烈な願望を心に抱く」「4.誰にも負けない努力をする」「5.売上を最大限に伸ばし、経費を最小限に抑える」「6.値決めは経営」「7.経営は強い意志で決まる」「8.燃える闘魂」「9.勇気をもって事に当たる」「10.常に創造的な仕事をする」「11.思いやりの心で誠実に」「12.常に明るく前向きに、夢と希望を抱いて素直な心で」の12カ条からなります。

【本文脚注】

本稿は、注記の各種参考文献などを参考に作成しています。本稿で記載している内容は作成および更新時点で明らかになっている情報を基にしており、将来にわたって内容の不変性や妥当性を担保するものではありません。また、本文中では内容に即した肩書を使用しています。加えて、経歴についても、代表的と思われるもののみを記載し、全てを網羅したものではありません。

【経歴】

いなもりかずお(1932~2022)。鹿児島県生まれ。鹿児島大学卒。1959年、京都セラミツク株式会社(現京セラ株式会社。本稿では「京セラ」)設立。1966年、社長就任。

【参考文献】

(*)「燃える闘魂」(稲盛和夫、毎日新聞社、2013年9月)
(**)「生き方 人間として一番大切なこと」(稲盛和夫、サンマーク出版、2004年8月)
「稲盛和夫 OFFICIAL SITE」(京セラ株式会社)

以上(2022年9月)

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画像:mariyaermolaeva-shutterstock

開発途上国での取引を円滑にする「オープンマインド」実践7カ条

書いてあること

  • 主な読者:海外(特に東南アジア)の人とビジネスをしたい、海外に進出したい経営者
  • 課題:現地に行ったことがなく、現地の人たちの考え方や文化もよく分からない
  • 解決策:東南アジアの100以上の企業・団体との太いパイプラインを築いた日本人の、偏見を持たず壁をつくらないオープンマインドの考え方と実践方法を参考にする

1 途上国など海外の人と取引するときの秘訣

東南アジアなど海外の人と一緒にビジネスをしたい、海外に進出したい。途上国の人たちの役にも立ちたい。けれど、実は現地に行ったこともないし、人脈もない、言葉も不安……。

そんな経営者の方は、ぜひこの記事をお読みください。この記事では、ソーシャルマッチ(代表取締役社長の原畑実央さん、取締役副社長の樋口麻美さん)へのインタビューを紹介します。同社は、東南アジアの社会問題解決のために、現地の企業・団体と日本企業とのマッチング事業を行っているスタートアップです。カンボジアを中心に、東南アジアで提携する企業・団体は100を超え、現地に進出している日本企業でも届かないような、独自の太いパイプラインを多く持っています。原畑さんたちが、こうした現地との「深いつながり」を築けた秘訣は、

オープンマインドであること

です。インタビューから見えてきた具体的な実践方法をまとめたのが、次の7カ条です。

  • 何よりもまず、取引相手の国を尊重する
  • 語学力は気にしない。自分の情熱や思いを伝える
  • 「自分だけ得する」考えを捨て、互いの目的を合致させる
  • 理想は、個人同士の心でつながった関係をつくる
  • 文化や商慣習などの違いを認め、受け入れる
  • 自らを変えて相手に合わせることを厭(いと)わない
  • 取引相手から「学ぶ」姿勢を忘れない

以降では、ソーシャルマッチの代表である原畑さんのお話をメインにご紹介します。この記事から、途上国、ひいては海外での取引を円滑にするヒントが見つかれば幸いです。

2 何よりもまず、取引相手の国を尊重する

1)カンボジア人の明るさや力強さに憧れる!

学生時代に東南アジアを旅行したときに、カンボジアでは特に、日本にはないエネルギーや“カラフルさ”を感じ、ワクワクした憧れを抱くとともに、この社会で学ばせてもらいたいと思いました。

カンボジアは東南アジアの中でも「まだこれから」と言われるのですが、たくさんの人がバイクに乗っていたり、バイクで大量の荷持を運んでいたり、路上で家族や仲間たちが集まって飲んだり食べたりする姿に、力強さと温かさを感じました。友人のアフリカ系の米国人もそうなのですが、彼らには日本人にはない、底抜けの明るさと、人としての力強さがあります。

大学卒業後は、日本の製品で東南アジアの人たちの生活に役立ちたいと考えて、アリババで1年半勤務したのですが、海外で働いている先輩の話を聞いてとても羨ましくなり、思い切ってカンボジアにある日系の人材紹介会社に転職しました。

原畑実央(はらはた みお)さん

2)カンボジアの社会問題の解決に関心を持ち起業を決意

私は学生時代から社会問題にとても関心があり、社会問題について話し合い、解決に取り組んでいる方を訪れるツアーを開催する団体を立ち上げたこともあります。

カンボジアは発展が始まったばかりで、経済格差が大きく、国の社会福祉制度も整っていません。ですから、夜間に働き学校に行けない子供や、路上で生活をする障害者など、社会問題が目に付きやすい国でもあります。

こうした社会問題を自分だけでは解決できないと思っていたのですが、カンボジアの中にも、社会問題の解決を目指す社会起業家の方がいます。国がサポートできない分、社会問題を解決するには、現地(カンボジア)の民間企業やNGOなどの団体の力がより重要になります。

彼らを応援したくて、仕事の傍ら、彼らの活動を取り上げるインタビューメディアの運営や、一緒にイベントを開催するなどの活動をしました。ちょうどこの頃、大学を休学して、カンボジアの教育支援の団体で1年間のインターンシップをしていた樋口さん(現ソーシャルマッチ取締役副社長)と出会いました。

社会問題の解決を目指している人たちの輪が広がる様子を目の当たりにして、「自分の価値を発揮できるのは、この分野ではないのか」と考えるようになりました。そして、カンボジアに移住してから3年後の2019年12月に、樋口さんとともにソーシャルマッチを起業しました。

3 語学力は気にしない。自分の情熱や思いを伝える

1)自己PRや情熱を積極的に語ることで提携先を開拓

起業して法人登記は日本で行い、カンボジアに長期出張する形で、現地の提携先探しを始めました。

提携したいと思った先には、何回もオフィスにお伺いしてお話しさせていただいたり、「現地の社会問題の解決のために取り組みたい」という情熱や思いを伝えたりしました。

日本人である私は、現地の方々とバックグラウンドが違いますし、相手から見れば「どのような人物かも分からない」ので、警戒されやすいのは当然です。そこで、まずは自分のことを分かりやすくプレゼンテーションするようにしました。海外では、自分でいかに自己主張し、自分をPRするのかが、ビジネスチャンスをつかむ上ですごく重要なことだと思います。積極的にコミュニケーションを取っていくことで、さまざまなチャンスをいただいたり、多くの企業・団体との提携に結び付いたりしました。

こうしたネットワークを活かすことで、日本企業と、1000人のカンボジア農家とのネットワークを持った現地の社会起業家とをつなぐこともできました。提携先の力を借りなければ、とてもできないことだと思います。

2)語学力よりも情熱。ただし英語力を磨く工夫は必要

カンボジアの提携先の方々は皆さん英語を話されるので、ビジネスでは英語を使っています。特に東南アジアの人たちに対しては、片言の英語であっても、自信を持って話して大丈夫だと思います。東南アジアでは英語は第二言語なので、それほど文法は気にしない人が多いですし、比較的分かりやすくゆっくりと話してくれるので、とても理解しやすいです。

こちらの話も、ちゃんと聞こうとしてくれたり、「これはこういうことだよね?」と聞いてくれたりします。ですから、間違えてもいいので、取りあえず話していくことが大事だと思います。私も、「通じていないだろうな」と思いながら話していることもあります(笑)。

英語は、話す「場」を積まないと、うまくならないものです。恥をかいた分だけ強くなり、上達もするので、取りあえずアウトプットすることが大切です。実は私自身も、英語力を磨くために、音声SNSを使って、飛び込みで知らない海外の人と英語で話すチャレンジをしてきました。ドキドキしながら話して、たくさん失敗して恥ずかしい思いをしたおかげで、生きた英語を身に付けることができたと思います。

それから、上手に話そうとするよりも、一生懸命に話している気持ちを伝えることが大事です。心から発した情熱や態度は、相手に伝わるものだと思います。言葉が未熟でも、「この人の話なら聞いてみよう」と思ってもらえることがあります。言葉は50%くらいで、後は声の大きさや表情、友好的な態度などの要素が影響するのではないでしょうか。

ただし、事前準備として、少なくとも英語でのプレゼンテーションの練習や、話をしに行く相手の事業のリサーチ、話題になりそうな業務に関する英単語のチェックなどはしておいたほうがいいと思います。

4 「自分だけ得する」考えを捨て、互いの目的を合致させる

1)目指すものが一致したとき、スムーズに協働できるようになる

私たちがマッチングさせていただく基準として、現地も日本側も、社会問題の解決やSDGsに取り組む企業・団体であることを前提としています。そのため、紹介した企業・団体は、互いの姿勢や取り組みを評価し、共感し合えることが、ソーシャルマッチの強みになっています。共感し合うことで、ビジネス上というよりも、精神的なつながりによって、「同志」のような関係を築けていると思います。

原畑実央(はらはた みお)さんと樋口麻美(ひぐち あさみ)さん

そもそも、私たちが東南アジアのこれだけの企業・団体と提携できているのも、「社会問題の解決を目指しているソーシャルマッチだから」ということがあります。例えば現地の大手商社のトップの方など、代表の方に目をかけていただくことで、トップダウンで話が進むという側面が少なくありません。それは、ご依頼いただく日本の企業も同じです。

そのような両国の企業・団体であるからこそ、チームとして同じ思いを持ち、一丸となって共同プロジェクトを進められるのだと思います。今はオンラインによる面談が多いのですが、それでもスムーズにいくのは、目指すべきもの、つくりたいものが一緒であるからだと実感しています。

2)自社の利益だけを考えていては長続きしない

長期的に見ると、例えば自社の利益だけを考えて、自然環境や現地の雇用者の労働環境をないがしろにしているような企業は、事業を継続することが困難になる可能性があると思います。

成長著しい東南アジア市場に進出してくる企業が増えています。私たちが事業領域にしている社会課題の解決をテーマとした分野では、現地の人たちと友好的な関係が築けない企業は、取引先やお客さまからの評価にも影響しますので、次第に選ばれなくなるのではないかと思っています。

逆に言うと、自社のプロダクトやブランド自体がそれほど強くない企業であっても、取引をしたい先としっかりとコミュニケーションを取り、目指している世界を共有することによって、優先的に取り組んでいただいたり、良い条件で協働できたりすることがあります。一般的な企業に広く当てはまるわけではないかもしれませんが、少なくとも社会課題の解決を重視し、取引先とともに発展したいと考える日本の中小企業にとっては、魅力的な市場環境だといえるかもしれません。

5 理想は、個人同士の心でつながった関係をつくる

私たちは、東南アジアの提携先の企業・団体の方々とは、こまめに、友人や仲間のような感覚でコミュニケーションを取っています。SNSもよく活用していて、例えば相手の誕生日や、何かの賞を受賞されたときなどには、お祝いのコメントをしています。

そのようなことをしているのは、ビジネスのことを意識してというよりも、純粋に「相手のことが好きだから」だと思います。

私たちはずっと社会問題の解決に関心があるので、自分のためでなく社会のため、未来のために活動している人たちがとても好きです。自分の人生を使って、命を懸けて社会問題を解決しようとしている人たちは本当に格好良いですし、尊敬しています。

自分の好意は相手にも伝わるもので、それは取引先やお客さまに対しても同じだと思います。心でつながっていると、「ソーシャルマッチだから」と優遇していただいたり、良い条件で協働していただいたりすることもあります。

特にカンボジアの人たちは、ある意味、日本の下町のように情に厚いところがあって、個人的なつながりをとても大切にしていると思います。私たちがカンボジアにほれ込んでいる魅力の一つかもしれません。

6 文化や商慣習などの違いを認め、受け入れる

1)納期やクオリティーに対する認識の違いを想定しておく

カンボジアの企業・団体との協働は、順調に進むことばかりではありません。気を付ける点が幾つかあります。

何よりも、現地の文化や商慣習を知っておき、それを受け入れ、尊重することが大事です。例えば、日本との大きな違いの一つは、納期が日本に比べて厳格ではないことです。これはもう仕方のないことだと思って、途中で進捗状況を確認する、実際の納期よりも余裕を持って締切日をお伝えするなどで対処するしかありません。カンボジアには長期の休みもありますし、日本人のように、納期を厳守するために休みを返上するというような意識は薄いです。これは、良いとか良くないとかの問題ではなく、もともとそういう文化なのです。そこを理解することが大事です。

また、商品のクオリティーに対する感覚も日本人とは違います。色合いや縫製など、発注時のイメージと異なる仕上がりになることが少なくありません。そのため、現物を見て確認しておく、最初は小ロットから取引を始める、サンプルをいただいて事前に改善点を伝えておくなどの対応が必要になります。クオリティーに関しては、「日本の基準や認識とは違う」ことを前提にして、その違いをどのように埋めていくか、齟齬(そご)が生じたときに、どのようにリカバリーしていくかを考えておくことが大事です。

2)口約束は厳禁

これは日本国内でのビジネスも同じですが、口頭で合意したことでも、認識が完全に一致しているとは思わないことも大切です。たとえ先方が「イエス」と言っても、認識が一致していないことがあります。取り決めは必ず文面で残し、重要な内容は契約書に残しておくようにしておきましょう。

また、日本とはインフラの整備状況が異なるということも認識しておく必要があります。カンボジアの場合、特に地方に行くと電波(通信)がつながりにくく、緊急の連絡が取れなくなることがあります。取引上の重要な時期は、相手のスケジュールを事前にチェックし、相手が地方に行く日時なども把握しておくとよいでしょう。また、停電も起きやすく、電力不足で停電になることも想定しておくべきです。

7 自らを変えて相手に合わせることを厭(いと)わない

1)意思決定や行動のスピードを上げる

日本企業と現地(カンボジア)の企業・団体のマッチングが失敗する原因の一つに、意思決定やスピード感の違いがあります。

カンボジアでは今、経済成長に勢いがあるので、チャンスがあればすぐに飛びつかないと乗り遅れてしまいます。ですので、カンボジアの社会起業家の方はかなりスピード感があります。一方で、日本の企業は「検討」「稟議(りんぎ)」といった時間が非常に長くかかります。日本企業が早く返答やリアクションをしていれば協働できたのに、リアクションが遅かったためにうまくいかなかったケースも少なくありません。「日本側の返答が遅いので、信頼感が薄れた」と言われたこともあります。先ほど、「文化として納期が厳格ではない」と言いましたが、「だから返答やリアクションが少しくらい遅くなってもいい」わけでは決してありません。途中経過を伝えるだけでもいいので、むしろ、リアクションはなるべく早いことが大事です。

日本の企業側がカンボジアの企業・団体に合わせて、スピード感を速めると、より協働がうまくいくと思います。

2)現地の起業家の意見を取り入れた商品開発を

商品のクオリティーと価格のバランスが、カンボジアの消費者の目線に合わないことも、マッチングが失敗する原因の1つです(この点はソーシャルマッチ樋口さんからのお話です)。

日本の企業は、本当に現地で展開したいのであれば、現地のニーズにフィットした商品開発をすべきです。現地の社会起業家の方々は消費者のニーズを熟知していて、「この商品はこの価格では売れない」「この価格まで下げれば売れる」ということが分かっています。日本の考え方を押し付けるのではなく、彼らの意見を取り入れ、現地に最適な商品を開発したほうがいいと思います。

3)連絡手段も現地の人たちに合わせる

カンボジアの人たちは、ビジネス上の連絡手段としてSNSを多用しており、急ぎの連絡などは、メールよりもSNSのほうが早くつながります。スピード感がとにかく大事ですので、コンタクト先とはSNSでつながっておき、リマインドなどもSNSを活用するとよいでしょう。

また、現地の祝日を把握しておくことも大切です。先ほど述べたように、カンボジアの人たちは休日はしっかり休みますので、祝日が続く間は工場の稼働がストップします。現地のカレンダーを踏まえたスケジューリングが必要になります。

8 取引相手から「学ぶ」姿勢を忘れない

先ほど述べたように、カンボジアの企業・団体には、日本の企業にはないスピード感があります。また、東南アジアを中心とした海外展開にも積極的で、ビジネスに携わる人の多くは英語を話すことができます。

カンボジアの企業・団体のトップの方々は人間的に温かい方が多く、社員や職員とファミリーのような関係を築き、一体感のある組織をつくっているケースが少なくありません。日本人より楽観的で積極的なところ、「底抜けに明るい」ところも大きな魅力です。

途上国の取引先とは上下の関係はあり得ません。オープンマインドを持って、学ぶべきところは謙虚に学ぶ、教えていただくという姿勢を持つことが大事だと思っています。

9 インタビュー後記:二人のブレない思い

原畑さん、樋口さん共に、「東南アジアの方々や日本の中小企業の役に立つことがライフワークである」という思いを持っています。

古民家を改装したソーシャルマッチのオフィス風景

日ごろのビジネスは、もちろんキラキラしたことだけではありません。失敗や泥臭いこともたくさんありますが、それでもなお東南アジアと日本の中小企業のために前に進めるのは、そうした確固たる思いがあり、その活動が心から楽しいからでしょう。そんなソーシャルマッチは、オフィス選びにもブレがありません。古民家を改装した一軒家の一室です。なぜなら、「日本の社会課題である【空き家問題】の解決に少しでも役に立てればと思って」だそうです!

以上(2022年8月)

原畑実央(はらはた みお)
松山大学在学中に社会問題をディスカッションする団体を立ち上げる。原畑実央(はらはた みお)
社会問題を解決しようとする人の講演会の主催や、活動の現場に訪れるツアーを開催する。
大学卒業後、アリババジャパンに入社。日本企業の海外販路開拓支援に携わる。その後、カンボジア移住し、カンボジアで最大手日系人材紹介会社CDLで3年間マネジャーを務める。
2019年にソーシャルマッチ株式会社を立ち上げる。
2021年度のSDGs Quest みらい甲子園首都圏大会の実行委員に就任。

樋口麻美(ひぐち あさみ)
幼少期はアメリカ、南アフリカ、オーストラリアで育ち、途上国各国でインターンシップを経験。樋口麻美(ひぐち あさみ)
同志社大学在学中にカンボジアで教育支援NGOを現地の人と設立し日本支部代表として資金調達に務めた。卒業後、IT人材ベンチャーONE CAREERに入社。その後、ソーシャルマッチ株式会社の立ち上げに参画。

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【マーケティング】いまさら聞けないチャネル戦略のポイント

書いてあること

  • 主な読者:「マーケティング」を意識できる組織を作りたい経営者
  • 課題:マーケティングの概念は幅広く、どこから学べばよいのか分からない
  • 解決策:マーケティングの基本として「マーケティング・ミックス」を学ぶ

1 チャネル戦略の検討

チャネル戦略で考えるべきポイントは次の2つです。

  • チャネルの検討:製品をどのようなルートで消費者の元へ届けるか
  • チャネルの管理:構築したチャネルをどのようにして維持・管理するか

基本的なチャネル構成は、チャネルのコントロール性とチャネルメンバーの数に基づいて、「開放的チャネル」「排他的チャネル」「選択的チャネル」の3つに大別できます。まずは、自社に適したチャネルを検討することから始めます。

2 チャネル構成の分類

1)開放的チャネル

消費者の高い購買頻度に対応するため、できるだけ多くの卸売・小売業者などを通じて販売する形式です。いわゆる最寄り品に適しています。ただし、数多くのメンバーでチャネルを構成するため、コントロール性は最も弱い形態となります。

2)排他的チャネル

チャネルを最小限に制限する形式です。チャネルメンバーが限られる分、コントロール性は高くなります。ブランドイメージの維持が重要な場合や、アフターサービスを通じて消費者に質の高いサービスを提供する場合などに適しています。

3)選択的チャネル

開放的チャネルと排他的チャネルの中間の形式です。チャネル数を絞り込んでブランドイメージを維持しつつ、ある程度幅広いチャネルを通じて製品を販売します。

3 垂直型チャネルシステム

開放的チャネルなどは、製造・卸売り・小売りの各業者の独立した活動を想定しています。しかし、製造・卸売り・小売りのチャネルメンバーが一体的に活動することもあり、こうした統合的なチャネル構成を「垂直型チャネルシステム」と呼びます。具体的には、「企業型システム」「契約型システム」「管理型システム」の3つです。

1)企業型システム

企業型システムは、チャネルが1つの企業、あるいは資本関係にある企業体で構成されている形態で、チャネル間の統合度が最も高くなります。中小食品業者などが製品を製造し、自社小売店舗において販売するケースなどが該当します。

2)契約型システム

契約型システムは、各チャネル構成員に資本関係はないものの、契約関係によって結合されている形態です。チャネル間の統合度は、企業型システムと管理型システムの中間程度となります。フランチャイズチェーンなどが該当します。

3)管理型システム

管理型システムは、資本関係や厳密な契約関係はないものの、リベートなどの経済的なメリットや、さまざまな情報や専門的なノウハウなどの非経済的なメリットを提供できる企業を中心に、チャネルが構成されている形態です。

4 チャネル構成の評価基準

1)経済性

企業型システムのような自社独自のチャネルは、チャネルを構築するために多額のイニシャルコストが発生します。また、構築したチャネルの維持に固定費が常に発生することになります。一方、リベートなどの変動費は低くなる傾向があります。

契約型システムや管理型システムのように、他社を活用してチャネルを構築する場合、イニシャルコストやチャネル維持に掛かる固定費は低く抑えることができます。しかし、リベートなどの変動費は相対的に高くなる傾向があります。

2)コントロール性

コントロール性とは、チャネルメンバーを自社の戦略や意図などに沿って、どの程度コントロールできるかということです。コントロール性が問題となるのは、契約型システムや管理型システムのように、他社を活用してチャネルを構築する場合です。

個々に独立した企業であるため、各メンバーは自社の利益を優先して行動します。そのため、自社の方針とチャネルメンバーの間で利害の対立が発生する危険性があるので、チャネルメンバーの行動をどれだけコントロールできるかが重要になります。

3)適応性

有効性の高いチャネルを構築したとしても、経営環境の変化によってはチャネル構成を変えなければならないことはよくあります。このため、構築するチャネルは、環境の変化に適応できる柔軟性を備えたものが好ましいといえるでしょう。

適応性という観点で考えれば、ヒト・モノ・カネといった多くの経営資源を投入して、自社独自のチャネルを構築・維持しなければならない企業型システムは、その形態を変更しにくい面があり、リスクの高い選択肢といえるかもしれません。

4)チャネル内の力関係を決定する要因

複数の企業が関係するチャネルには、チャネル全体に大きな影響を及ぼすチャネルリーダーが存在します。例えば、大手量販店が関連しているチャネルでは、大手量販店が価格設定、製品開発、プロモーションなどさまざまな面で大きな影響力を発揮しています。

チャネルリーダーの中には、「経済性」「コントロール性」「適応性」というチャネルの評価基準に関する項目について、自社にとって理想的な形のチャネルを構成している場合も少なくありません。

チャネルリーダーとなる企業はわずかですが、できる限りチャネルリーダーとしての地位を確立することが望ましいのは間違いありません。そのためには、チャネル内の力関係を決定する要因を理解しておく必要があります。

チャネル内の力関係を理解する上で参考になるのが、他のチャネルメンバーをコントロールできるチャネルパワーの源泉を知ることです。

チャネルパワーの源泉は、経済的パワーの源泉と非経済的パワーの源泉に大別されます。経済的パワーの源泉とは、経済的なメリットをいい、リベートなどの金銭的報酬が代表的なものとなります。

一方、非経済的パワーの源泉には、契約における規定、店舗運営や製品開発能力など専門的な知識、大手小売りチェーンが持つPOS情報や顧客情報など、経済的パワーの源泉以外のさまざまな要因が含まれます。

チャネル内の力関係は、チャネルパワーの源泉に対する依存度で決まります。製造業者が提供するリベートの依存度が高い場合、製造業者の力が強くなります。逆に、製造業者が売り上げの大半を特定の小売業者に依存する場合、小売業者の力が強くなります。

5 チャネルの管理

1)チャネル・コンフリクトの分類と発生要因

チャネルメンバーとして複数の企業が参加する場合、利害が衝突してチャネル内で一体的な活動が困難となるケースがあります。このようなチャネル・コンフリクト(チャネル内の問題)が発生した場合、速やかに解消する必要があります。

チャネル・コンフリクトは垂直関係、水平関係、複数チャネル間で発生する可能性があります。垂直関係におけるコンフリクトとは、製造業者・卸売業者・小売業者の間で問題が発生するケースで、製造業者が卸売業者や小売業者に対するリベート制度の見直し(削減)を行うことなどによって起きます。

水平関係におけるコンフリクトとは、各製造業者間・卸売業者間・小売業者間で発生するケースです。例えば、テリトリー制を認めていないフランチャイズチェーンでは、近隣に商圏の重なる店舗があれば、これらの店舗間でコンフリクトが発生することがあります。

複数チャネル間におけるコンフリクトとは、異なるチャネル間で発生する問題です。例えば、家電製造業の場合、定価で製品を販売して利益を確保したい系列店チャネルと、割引販売を旨とする量販店やディスカウントストアで問題が発生することがあります。

チャネル内で問題が発生する要因はさまざまですが、一般的には「目標の不一致」「現状認識の不一致」が多いようです。

例えば、リベート制度の見直し(削減)について考えてみましょう。製造業者にとってリベート制度の見直しは、過度の値引きの源泉となることを防ぎ、市場価格を適正に維持することを可能にする仕組みづくりを目的としているのかもしれません。

しかし、その製造業者の製品が数多くの取り扱い製品の1つでしかない小売業者にとっては、その製品自体から得られる利益が小さくても、顧客がその製品とともに収益性の高い別の関連製品を購入してくれれば、収益が確保できると考えているかもしれません。こうした目標の不一致がコンフリクトを発生させる要因となります。

また、製造業者はリベート制度を見直しても、従来通りの売り上げを確保できると考えますが、小売業者は多くの競合製品が安売りを続けている以上、値引き販売の原資となるリベートが削減されれば、売り上げが大きく低下すると考えている可能性があります。このような現状認識の不一致もまた、コンフリクトの要因です。

2)コンフリクトの解決方法

チャネルリーダーであれば、「チャネルパワーの源泉を使ってコンフリクトを解決する」ことが考えられます。例えば、自社の販売方針に従った企業に対してリベートを手厚く支払い、従わない企業にはリベートの支給額を減らすなどの方法です。

この他、「話し合いや契約内容の見直しなどをして、共通目標の確認・再設定を行う」「チャネル間の人材の交流機会を設け、相互理解を深める」などがあります。これらは、チャネル内の地位に関係なく取り組むことができます。

以上(2022年8月)

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事例で解説 知財の応用~営業秘密をどう守るか~/意外と知らない「知的財産権」シリーズ12

書いてあること

  • 主な読者:営業秘密の漏えいを防ぎたい経営者
  • 課題:どのようにすれば防止できるのか分からない
  • 解決策:「営業秘密」の重要性に応じて対策を分ける。重要な「営業秘密」は「秘密情報」と分かるようにして管理するなど、「営業秘密」と認められるための3要件を満たしておく

1 全ての「営業秘密」が法で守られているわけではありません

「営業秘密」は「秘密情報(企業が秘密にしたい情報)」の一種で、一旦漏えいすると、企業に取り返しのつかない損害をもたらす恐れがあります。そこでこの記事では、営業秘密の漏えいを防ぐために必要な情報として、「営業秘密はそもそも法律ではどのように扱われるのか」を解説した上で、実践的な営業秘密の保護や活用の事例をお伝えします。

1)営業秘密と認められるための3つの要件

営業秘密については、不正競争防止法によって持ち出しや不正開示、不正取得等が禁止されており、民事および刑事上の責任が発生します。ただし、

「企業にとって大事な情報だから」といって、自動的に「営業秘密」として保護されるわけではありません。

営業秘密に該当するためには、次の3つの要件を満たさなければなりません。

  • 【秘密管理性】秘密として管理されていること
  • 【有用性】有用な営業上又は技術上の情報であること
  • 【非公知性】公然と知られていないこと

2)秘密管理性

営業秘密保有企業の秘密管理意思が、秘密管理措置によって従業員等に対して明確に示され、当該秘密管理意思に対する従業員等の認識可能性が確保される必要があります。

「秘密管理性」が認められて、「営業秘密」として保護を受けるためには、以下の2つを満たす必要があります。

  • 情報にアクセスできる者が制限されていること(アクセス制限)
  • 情報にアクセスした者に当該情報が営業秘密であることが認識できるようにされていること(認識可能性)

従前の傾向としては、アクセス制限が厳格に要求されていましたが、現在の傾向としては、認識可能性をしっかりと確保することで、秘密管理性が肯定されやすくなっています。

営業秘密を含めて何が企業として秘密にしたい情報(秘密情報)なのかを明示し、それ以外の情報から区別して、社内にもこれを明確に告知する対策が重要となってきています。

3)有用性

「営業秘密」である当該情報自体が、客観的に事業活動に利用されていたり、利用されることによって経費の節約、経営効率の改善などに役立つものであったりする必要があります。

4)非公知性

保有者の管理下以外では、一般に入手できないようにする必要があります。

2 営業秘密の漏えいを防ぐ方法

1)合理的かつ効果的な対策を

全ての秘密情報に対して一律に厳格な対策を実施することは、かえって業務上の円滑な利用を阻害し、また必要以上にコストをかけてしまうことにもなりかねません。

そこで、次の5つの観点を勘案して、合理的かつ効果的な対策を適切に取捨選択して実施することが重要といえます。

  • 誰がその情報を保有しているのか
  • その情報が漏えいすることで、企業にどのような影響が及ぶのか
  • その対策を講じることで、どの程度漏えいを防ぐことができるのか
  • その対策を講じることで、業務上、どの程度の支障を来すのか
  • その対策を講じるために要するコスト

4.と5.の観点から比較的容易に実施できる対策として、

  • 「マル秘」等の秘密表示を付す
  • 当該情報を業務上利用する者だけが共有するパスワードをかけておく

などの対策が考えられます。

これらは、漏えいの予防に一定の効果を発揮すると同時に、前述した「秘密管理性」の要件を満たすことにもつながります。漏えいが発生した際に、民事上の損害賠償請求や刑事告訴等を行う局面において、当該情報が不正競争防止法上の「営業秘密」として保護されるための重要な措置となりますので、優先度の高い対策といえます。

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2)漏えい経路のバリエーションを意識する

営業秘密を含め秘密情報の漏えいは、従業員等の内部者からだけでなく、退職者、業務委託先、不正アクセス者など、さまざまな経路から起こり得ます。漏えい対策に当たっては、経路のバリエーションがあることを意識することで、より実効的な対策を講ずることができるでしょう。

特に近年では、ソフトバンク元従業員が転職先の楽天モバイルに「5G」技術に関する情報を持ち出したとして逮捕・起訴された事案のように、退職者による企業の秘密情報漏えい事案に関する報道が相次いでいます。実際、2021年3月に情報処理推進機構(IPA)が発表した「企業における営業秘密管理に関する実態調査2020」によれば、営業秘密の漏えいルートの中で最も多かったのは、「中途退職者(役員・正規社員)による漏えい」(36.3%)でした。

3)中途退職者からの漏えいを防ぐ方法

退職予定者が利用していた情報については、前述の通り漏えいの危険性が高く、しかも漏えい先はライバル企業となる恐れがあります。

入社時・退社時等に、誓約書や就業規則等で秘密保持義務を課しておくといった対策は、比較的容易に実施可能です。企業としての営業秘密保護に対する姿勢を社内に示し、不正競争防止法の存在も含めて、社内で広く知ってもらうことにもつながります。

特に重要な情報に接する可能性のある従業員等については、退職後一定期間の競業避止義務を課しておくことも、情報漏えいを実効的に防止する上で有用です。

これらの対策に加えて、退職の申し出を行った従業員等に対して、厳格な情報漏えい対策を実施するのも一策です。申し出者による社内情報へのアクセス権限を速やかに制限または削除するとともに、退職申し出の前後のメールやPCのログを集中的にチェックするなども考えられるでしょう。

3 こんなに怖い営業秘密の漏えい

最後に、実際にあった営業秘密の漏えい事案の一例を紹介します。営業秘密の漏えいについて検討する際に、ぜひ参考にしてください。

1)海外のライバル企業への漏えい

新日鐵住金(現日本製鉄)の元従業員が、韓国の競合であるポスコに対して製造プロセス・製造設備の設計図などを漏えいした事案では、約1000億円の損害賠償を求める訴訟が提起されました。ポスコは、新日鐵住金が20年以上かけて開発した技術情報をコストなしに取得・利用して製品を販売し、売り上げにつなげたとされています。しかもこの事案では、ポスコからさらに宝山鋼鉄という中国の競合にも再漏えいがあったとされており、情報漏えいの被害は連鎖的に拡大する恐れがあることが明らかになりました。

東芝のNAND型フラッシュメモリ(電源を切っても記録を保持することができるメモリの一種)に関する技術情報が、業務提携先に勤める元従業員を通じて韓国企業に漏えいされた事案では、約1100億円の損害賠償請求がなされました。

2)顧客情報の漏えい

顧客情報が漏えいした場合、競合他社にその顧客が奪われてしまうという不利益に加え、漏えいに関する顧客への対応にもコストがかかり、その企業の社会的信用をも低下させてしまう結果となってしまいます。

教育サービス業を営むベネッセの顧客名簿が、業務再委託先の従業員を通じて漏えいした事案では、顧客名簿は約500社に拡散されました。その結果、おわび状の送付など、漏えいした名簿に記載してあった顧客への対応だけでも多額の費用が必要となりました。さらに、顧客情報を漏えいさせてしまったとして、個人情報保護法に基づく監督省庁からの行政措置を受けることにもなりました。

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3)情報漏えいの「被害者」なのに訴えられるケースも

情報漏えいの「被害者」であったはずの企業が、「加害者」として逆に訴えられてしまうこともあります。インターネット接続サービス業を営む企業の会員情報が、アカウント管理の抜け穴を突いた不正なアクセスにより漏えいしてしまった事案では、一部の会員から、その企業に対して慰謝料を請求する訴訟が提起されています。

顧客情報だけでなく、共同研究開発などで取引先と共有した秘密情報が漏えいした場合は、情報管理が不十分であると認定されてしまうと、秘密情報を漏えいした「加害者」として責任を追及されてしまうリスクがあります。

また、転職者の受け入れに際して、転職元企業の秘密情報が図らずも自社に紛れ込んだりするといった場面であっても、処罰の対象になります。これも注意が必要です。

以上(2022年8月)
(執筆 明倫国際法律事務所 弁護士 田中雅敏)

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画像:areebarbar-Adobe Stock

【朝礼】「つまらない仕事ばかり押し付けられている」と感じている人に

先日、知人の付き合いで、ある草サッカーの試合を観戦しました。私はあまりサッカーに詳しくないのですが、そんな私から見て「悪い意味」で気になる選手がいましたので、お話しします。

その試合で私が注目したのは、最前線でシュートを決める役割を担うポジションの選手でした。仮にA君とします。A君は、なかなかパスをもらえずにイライラして、チームメートにしきりにパスを出すように要求していました。

最初は私も、「なぜA君にパスが渡らないのだろう」と不思議に思っていましたが、試合が進んでいくうちに、その理由に気付きました。それは、「そもそも、チームメートがA君のことを信頼しておらず、意図的にパスを出していない」ということです。そう思ったきっかけは、A君とチームメートの態度です。

例えば、試合中、A君が絶好の位置でシュートを打つ場面がありましたが、彼はシュートを外した上に、悪びれる様子を見せませんでした。また、自分のチームが攻められた際に、積極的に守備に回る姿勢を見せませんでした。そして、A君のチームメートは、そんなA君を叱りも励ましもしませんでした。

私はA君から、シュートを決めることにこだわりがあるものの実力が足りず、一方で、シュート以外のプレーにはどこか「やらされ感」があるような印象を受けました。そして、チームメートはそんなA君に期待していないように見えました。

もし、A君とチームメートの関係がその通りなのであれば、A君がチームメートの信頼を勝ち取り、パスをもらえるようになる方法は2つです。それは、「試合の大事な場面でシュートを決めること」「攻撃だけでなく守備もしっかりこなすこと」です。

ただ、そのためにはシュートの技術を磨き、敵のマークを振り払えるだけの走力をつけ、チームの勝利のために守備に戻れる体力をつけねばなりません。そうした努力をしていなければ、チームメートからの信頼は得られないでしょう。

これはサッカーの話ですが、もし「自分はつまらない仕事ばかり押し付けられていて、大きな仕事を任せてもらえない」と思っている人がいたら、A君と同じだとは思いませんか?

皆さんは上司や同僚から、大きな仕事を任せようと思ってもらえるほどの信頼を得ていますか? 周囲の人たちは、ちゃんと日ごろの皆さんの働きぶりを見ています。仕事に対する姿勢や日ごろの努力、同僚への配慮など、さまざまな角度から皆さんを評価し、信頼度を定めています。

上司や同僚から、大きな仕事を成功させるだけの能力があると信頼されれば、手を挙げれば必ず、仮に手を挙げなくても、場合によっては大きな仕事を任せてくれるようになるでしょう。また、任せた大きな仕事が成功するよう、助言やサポートをしてくれるはずです。チャンスを得られるかどうかは、自分次第なのです。

以上(2022年⑧月)

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画像:Mariko Mitsuda

【フレームワーク】新規事業を検討する「アンゾフのマトリクス」と「製品ライフサイクル」

書いてあること

  • 主な読者:新規製品やサービスなど、多角化を検討している経営者
  • 課題:どういった市場を攻めるべきか、またその際の注意点は何があるのか知りたい
  • 解決策:競争優位性を活かすことを検討する。そして成長が見込める市場を狙うことが定石

1 企業の平均寿命は23.8年

東京商工リサーチによると、2021年に倒産した企業の平均寿命は23.8年です。これとは別に「企業の寿命30年説」ともいわれるように、長く経営を続けることは大変です。単一の製品やサービスだけでは刻々と変わる経営環境を勝ち抜くのは難しいため、企業は多角化を進めます。とはいえ、無謀な多角化は経営資源の分散を招き、経営効率の低下につながります。多角化は重要な経営判断であり、相応の検討を進めてから行いたいものです。

やるべきことはさまざまありますが、少なくとも、

  • どの市場に、どの製品やサービスで攻めるか
  • その市場のライフサイクルはどのようになっているか

を検討することは必要です。

2 アンゾフの成長マトリクスと多角化の類型

アンゾフの成長マトリクスとは、

市場と製品・サービスを、それぞれ既存と新規に分けて戦略を検討するフレームワーク

です。

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4つの象限の基本的な戦略は次の通りです。

1)市場浸透戦略

既存の市場で占有率を高めます。具体的には、広告宣伝、価格の改定、流通経路の再整備などを行い、リピート率の向上やチャーンレートの改善を見込みます。

2)市場開拓戦略

アプローチをしてこなかった市場(地域や業種、年齢層など)に、既存の製品・サービスを売り込みます。新しい市場に合わせてカスタマイズなどをします。

3)製品開発戦略

既存の市場に新製品・サービスを投入します。フルモデルチェンジなどを行いますが、コストなどの検討は必要です。

4)多角化戦略

既存の技術や流通網などを活かし、新製品・サービスを開発して新たな市場にチャレンジします。単独では難しい場合、業務提携やM&Aも検討します。

一般的に、多角化戦略には次の4つの類型があります。

  • 水平型:既存の生産技術を活用して、既存の市場と類似した市場を開拓
  • 垂直型:生産だけではなく流通や販売に対応し、上流から下流に至る市場を開拓
  • 集中型:既存技術など現在の優位性を利用し、新たな市場向けの製品を展開
  • 複合型:全くの異業種、新規事業分野に進出

以上が4つの象限の戦略ですが、この他に「撤退戦略」もあります。企業の拡大・成長とは逆方向の選択ですが、損失の回避などのリスクを最小限に抑えるために、常に念頭に置いておきたい戦略です。

3 製品ライフサイクル

1)成長が見込めなければ意味がない

「伸びている市場で流れに乗れば、規模は簡単に拡大する」。今、Web3やAIなどの領域で戦っている企業の経営者がよく言うことです。もちろん、投資が回収できるのか、また、安定した収益につながるのかは別問題ですが、いわゆる「導入期」の製品やサービスには勢いがあります。あるいは、既にコモディティー化している市場であっても、ちょっとした工夫によって新しい市場が生まれることもあります。伝統的な産業がそうしたことで息を吹き返すケースは珍しくありません。

いずれにしても、多角化を検討する際は、勝負する市場の成長が見込めなければ意味がないということであり、それを分析するものに、「製品ライフサイクル」があります。製品ライフサイクルとは、

製品・サービスの状況を把握し、それに応じて戦略を検討するフレームワーク

です。プロダクトライフサイクル(PLC)と呼ばれることもあります。

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4つのライフサイクルの基本的な戦略は次の通りです。

2)導入期

製品・サービスを市場に認知してもらうフェーズです。広告宣伝費に加え、今後の需要増加を見込んだ生産体制を整えるための設備資金なども必要です。コストがかかる半面、利益は出にくいですが、ここを乗り越えると先行者利益が得られるかもしれません。

3)成長期

製品・サービスが市場で認知され、市場規模が拡大していくフェーズです。「市場がある」ことが分かると、そこに魅力を感じた競合が参入してくるため、自社の競争優位性をきちんと確保しておく必要があります。特許など知的財産権の確保も必要です。

4)成熟期

製品・サービスの売り上げがピークとなります。市場に浸透した分、競合製品との差異化が図りにくくなり、価格競争が激しくなります。

5)衰退期

市場が縮小し、撤退する企業も出てきます。生き残った企業においても、内部の徹底した合理化などコスト削減をしなければなりません。よほど自社に優位な外部環境の変化(昭和レトロブームなど)がない限り収益は落ち込むため、ここで多角化が必要になってきます。

4 多角化を検討する際に考えておきたいこと

多角化を進めやすいのは、ニーズを理解している既存の市場を攻めたり、既にバリューチェーンが整っている既存の製品・サービスを利用したりする戦略です。既存の製品・サービスを別の市場に投入して成功すれば、「売り上げの増加→生産量の増加→コストの引き下げ」といった戦略が描けます。

一方、既存市場や既存製品から離れた多角化は、未知の可能性が広がる一方で、リスクは高くなります。多角化の目的には、「市場や技術の変化への対応」「未使用の経営資源の有効活用」「将来展望」「リスク分散」などがあるので、この目的に照らして検討することが大切です。

多角化を図るタイミングも重要です。新規市場に進出してみたものの、当初の想定通りに市場が成長せず、事業が軌道に乗らないケースもあります。「時代を先取りしすぎるのは良くない」といわれ、実際に失敗事例も多いので注意しましょう。

以上(2022年8月)

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【朝礼】イメージを描かない仕事は成果の出ない練習と変わらない

先日、息子の柔道の試合を応援しに出かけました。試合前の数週間は特に練習に力が入っていたようで、頑張っているのを知っていたものですから、私も勝利を期待していました。しかし、結果は惜しくも引き分けでした。帰宅した息子に声をかけると、「あれだけ練習したのだから、試合に勝てるだろうと思っていたのに悔しい」と言います。私はこの言葉を聞いて、彼は「何のために練習しているのか」を自覚していなかったのではないかと思いました。

練習とは何のためにやるのでしょうか? 当然、試合に勝つためです。しかし、それを忘れてしまうと、「たくさん練習したから」と、練習の量だけに満足してしまい、練習の質や効果について目をやるのを忘れてしまいがちになります。

たくさん練習するのはもちろんよいことです。しかし、それはあくまでも自分の実力が向上し、成果を試合で生かせることが大前提となります。毎日のメニューがたとえハードであっても、結果を出すという本質を忘れた練習は、「練習のための練習」でしかないのです。

この、「練習のための練習」をしてしまい、思うような結果が得られないといったことは、スポーツの試合だけでなく、ビジネスでも似たようなことが言えるのではないでしょうか。

例えば、皆さんは仕事の中でさまざまな商品の開発や販売に携わっています。その中で、皆さんはそれぞれが助け合いながらさまざまな仕事をしていると思います。しかし、いま皆さんが進めているその仕事は、最終的に何を目的にしていることなのか、あるいは自分の仕事が次の担当者、次の工程に渡ったとき、どのように生かされるのか、それを皆さんはきちんと理解できていますか? そういう点をきちんと理解できていなければ、たとえ時間をかけて一生懸命やった仕事であったとしても、的が外れてしまい思った通りの成果は出ないかもしれません。これは、ビジネスでいえば「練習のための練習」に過ぎないのではないでしょうか。

ビジネスの上で「試合で結果を出すための練習」をするためには二つのコツがあると思います。一つは、「実際に起こり得る状況を想定して、準備を怠らない」ということ、そして、もう一つは、「何のためにいまの仕事をしているのか、常に目的意識を持つ」ことです。

自分がいま進めている仕事は誰のために、何のためにしていることなのか、まずはそれを考えてみてください。例えば商品の販売計画を立てるのであれば、「誰にその商品を購入してもらい、どういうシーンで使ってもらいたいのか」、営業資料の作成ならば、「誰をキーパーソンとみなして、何をアピールするのか」をイメージしてみてください。

具体的なイメージを描いて、目的を持って仕事をする。そうすれば誰のために、何のためにいまの仕事をしているのかはおのずと分かるでしょう。これこそが試合で勝つ、つまりお客様から支持されるための有意義な仕事をする秘訣だと思います。

以上(2022年8月)

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画像:Mariko Mitsuda

「初めて越境ECのデータを調べるとき」に参考になる情報&情報源

越境ECとは「ネットを通じた国際的な電子商取引(EC)」です。今では、ネットを通じて海外から商品を買ったり、逆に海外向けに売ったりすることは珍しくなく、拡大が期待される越境ECへの参入を検討している企業も多いでしょう。

まずは情報収集といきたいところですが、どのような情報や情報源があるのでしょうか。この記事では越境ECの定義・分類を紹介した後、市場規模など基本となる情報の集め方を紹介します。

1 「越境ECの定義・分類」は、経済産業省の調査報告書を見てみよう

越境ECを所管する経済産業省は、越境ECも含めた「電子商取引」の市場調査を行っています。経済産業省「令和3年度 電子商取引に関する市場調査報告書(2022年8月12日公表)」(以下「報告書」)では、越境ECの事業モデルを次の6つに定義しています。
なお、報告書上は、ネットを通じて海外向けに対して販売するものだけでなく、「自国内にいる販売者から海外製品を購入することも、広い意味では越境ECに当たる」ことになります。

1)国内自社サイトでの販売

日本国内に越境ECの自社サイトを構築する事業モデルです。もともと日本語で提供している自社ECサイトを多言語化することで、越境ECに対応します。

2)国内ECモールなどへの出店・出品

越境ECに対応した日本国内のモールなどに出店・出品する事業モデルです。国内消費者を対象とした出店・出品の延長として海外の消費者向けに商品を販売します。

3)相手国ECモールなどへの出店・出品

商品を販売したい相手国のECモールやECサイトに出店・出品する事業モデルです。出店・出品する際は、ECモールやECサイト運営事業者との交渉が発生するため、専用の代行会社によるサポートを受けるケースが多いです。

4)保税区活用型出店

保税区(税関の監督・管理下で輸入品・輸出品が一時的に保管される場所)に指定された域内の倉庫にあらかじめ商品を輸送しておき、受注後に保税倉庫から配送する事業モデルです。中国向けの越境ECで多く活用されています。相手国からの発送のため、直送よりも配送期間が短いのがメリットです。

5)一般貿易型EC販売

一般貿易と同様に、国内の輸出者と相手国の輸入者との間で貿易手続きを行い、相手国のECモールやECサイトで商品を販売する事業モデルです。BtoBの貿易において、販売チャネルとしてECを活用するイメージです。

6)相手国自社サイトでの販売

商品を販売したい相手国側で自社サイトを構築して商品を販売する事業モデルです。すでに相手国で自社商品が浸透していて、ECサイトの運営を自社でコントロールできる体制が整っている場合、取り組みやすいとされています。

2 拡大が続く見込み! 越境ECの市場規模を確認してみよう

1)世界の越境ECの市場規模予測

報告書によると、2019年時点の世界の越境EC市場規模は推計7800億USドルで、2026年にはおよそ6倍の4兆8200億USドルにまで拡大すると予測されています。その理由には次のようなものがあります。

  • 越境ECの認知度が上がり、消費者が自国では手に入らない商品を探したり、自国 よりも安価で商品を購入したりするために越境ECを利用している
  • 物流レベルが向上して事業者が世界に販路を拡大しやすくなった

また、ネットを通じて世界中から(あるいは世界中のものを)購入することが日常的になったことも関係しているでしょう。

2)日本・米国・中国 3カ国間の越境EC市場規模の推移

報告書では、日本・米国・中国の3カ国間の越境EC市場規模推計が示されています。過去の報告書の数字と合わせた推移は次の通りです。全体的に右肩上がりで市場規模は拡大しています。

日本・米国・中国各国間の越境EC市場規模の推移です

3 個別の状況もデータで確認してみよう

1)中国における越境EC市場「日本の商品を購入したい理由」

全体の市場規模を把握したら、国別など個別の状況も確認してみましょう。図表1で3カ国間の越境EC市場規模を確認したところ、日本視点で見ると、2021年には、中国が日本から2兆円以上も購入してることが分かりました。なぜ中国における越境ECで、日本の商品が購入されているかというと、中国にはない商品が珍しく、そして品質が良いからといえそうです(下グラフ参照)。

中国の越境EC市場「日本の商品を購入したい理由」です

2)中国における「コロナ後、越境ECで購入したい日本の商品」

中国において、「コロナが終息した後、日本に行き、日本国内の通販サイトなどで越境ECを利用して購入したい商品」を調査した結果が次のグラフです。日本のゲームやアニメグッズ、エンタメ系など、「コンテンツやその関連商品」の引きが強そうです。

コロナ後、越境ECで購入したい日本の商品です

3)商品カテゴリーごとの購入比率

2021年に公開された経済産業省「令和2年度電子商取引に関する市場調査報告書」では、「新型コロナウイルス感染症の拡大に伴う商品カテゴリーごとの購入比率」が示されています。コロナ禍という大きな生活環境の変化の中で、オンラインでの購入が増えたもの、逆に、オンラインでは購入しないものなどを考えるのに役立ちます。

新型コロナウイルス感染症の拡大に伴う商品カテゴリーごとの購入比率

4 越境ECに関する参考データの入手先URL

最後に、これまで見てきた経済産業省のデータや、その他の越境EC関連データ、情報の入手先などを紹介します。越境ECについて調べたい方は参考にしてみてください。

1.経済産業省「電子商取引に関する市場調査報告書」

世界の越境EC市場の推計や国別で見る越境ECでの購入先国をはじめ、米国や中国におけるEC市場の概況などをまとめています。

■経済産業省「電子商取引に関する市場調査の結果を取りまとめました」 「令和3年度 電子商取引に関する市場調査報告書」■
https://www.meti.go.jp/press/2022/08/20220812005/20220812005.html/

2.BEENOS「越境EC世界ヒットランキング2021」

国内外でEコマース事業などを手掛けるBEENOSでは、自社が手掛けるBEENOSグループの購買データより2021年の消費傾向を振り返り、日本発、世界でヒットした商品を紹介する「BEENOS 越境EC 世界ヒットランキング2021」を公表しています。

■BEENOS「越境EC世界ヒットランキング2021」■
https://beenos.com/news-center/detail/20211110_bns_pr/

3.セカイコネクト「レポートで“知る”」

越境ECに限らず、広く海外進出に関する情報発信&企業の海外進出支援をしているCOUXUでは、海外進出支援サービス「セカイコネクト」の中で、海外市場の最新情報や国別のニーズ情報などを提供しています。

■セカイコネクト「レポートで“知る”」■
https://world-conect.com/report/

以上

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2022年8月26日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

※上記内容は、株式会社日本情報マートまたは執筆者が作成したものであり、りそな銀行の見解を示しているものではございません。上記内容に関するお問い合わせなどは、お手数ですが下記の電子メールアドレスあてにご連絡をお願いいたします。

【電子メールでのお問い合わせ先】
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(株式会社日本情報マートが、皆様からのお問い合わせを承ります。なお、株式会社日本情報マートの会社概要は、ウェブサイト https://www.jim.jp/company/をご覧ください)

ならなきゃ身に付かない“経営者の視点”とは?(1)/武田斉紀の『誰もが身に付けておきたい“経営的視点”』(2)

書いてあること

  • 主な読者:会社経営者・役員、管理職、一般社員の皆さん
  • 課題:経営幹部や管理職の方はもちろん、若手社員の方でも「経営的視点で見るように」と社長や上司から求められた経験があるのではないでしょうか。その場でうなずきはするものの、「経営的視点とは何か?」「それは社長以外の社員に必要なのか?」「会社員として働く上で、人生において価値があるのか?」「そもそもどのように身に付けていけばいいのか?」といった疑問があるのではないでしょうか
  • 解決策:課題で挙げたさまざまな質問に対して、『“経営的視点”の身に付け方』というテーマで、全国で多くの講演を行っている筆者が明快に回答します。“経営的視点”はこれからの時代において新入社員から求められる視点であって、より早く身に付けることができれば、その分、仕事においても人生においてもプラスであることが分かるはずです

1 “経営的視点”はこれからの時代、新入社員から求められる視点

前回から新シリーズ、『武田斉紀の「誰もが身に付けておきたい“経営的視点”」』をスタートしました。

会社で社長や上司から「“経営的視点”を持て!」と言われるけれど…「経営的視点って何?」「社長以外の社員にも必要なの?」「会社で働く上で、人生において価値があるの?」「そもそもどうやって身に付ければいいの?」。こうした疑問にお答えしていくシリーズです。

さらには、『“経営的視点”の身に付け方』の具体的なノウハウと、経営における効用、働く側のメリットなどを、事例も交えながらご紹介していくつもりです。

“経営的視点”はこれからの経営や働き方において、新入社員から求められる視点であり、誰にとってもより早く身に付けることができれば、その分、仕事においても人生においてもプラスであることをお伝えしたいと考えています。

では、簡単に前回のおさらいをしましょう。

社長や上司が「“経営的視点”を持て!」と言いながら、もしも“経営的視点”ではなく、“経営者の視点”を求めているとしたら、それは無理な話であると申し上げました。相手が一般社員ならもちろん、管理職や取締役など幹部クラスであってもです。

なぜならエピソードをご紹介した社長のように、

“経営者の視点”は、会社のトップとしての経営者になって初めて身に付けられるものだからです。

恐らく、大手などで限られた数年だけ社長のバトンを受け取って、次の人に渡せば上がりになる会社や、オーナーなど最終責任者が別にいる会社の社長になっても実感できないことでしょう。

裏を返せば、“経営者の視点”は、基本的に会社のトップとしての経営者になれば、おのずと身に付くともいえます。

簡単に言えば、社長は経営に関わるヒト・モノ・カネの全ての最終責任を負っているということなのですが、言葉では理解できても

実際トップとしての社長になってみると、最終責任を負うということの重みのリアリティーが、全然違ってのしかかってきます。

それは必ずしも会社の規模によりません。皆さんも明日会社を設立登記し、1人でもいいので社員を雇えば、その瞬間に“経営者の視点”を体験できるだろうと想像します。

社員1人と1000人の重みは確かに違いますが、最終責任を負っているという点では同じだからです。

2 社長と副社長の距離は、副社長と新入社員との距離より大きい

私はよく全国の金融機関からの依頼で、各社の会員企業であるオーナー系中小企業の次期経営者向けに講演をします。会場で「すでに最終責任者としての会社のトップになられた方は手を挙げてください」と質問すると、何人かいらっしゃいます。

一人ひとりに「なった瞬間、見える景色が変わりませんでしたか?」と聞くと、「はい」とうなずきます。さらに「それはナンバー2の時代までと全然違いませんでしたか?」と聞くと、周囲のまだトップになっていない後継者の方々の目を気にしながらも、例外なくもっと深くうなずかれるのです。

私がいつも申し上げている、「社長と副社長の距離は、副社長と新入社員との距離より大きい」ということを、改めて確信するのです。

“経営者の視点”と“経営的視点”は、言葉は似ていますが全く異なります。
ではいったい“経営者の視点”とはどんなものなのか。

それを今回と次回の2回で説明してみたいと思います。トップの社長にならないと分からないまでも、何となく理解し、感じていただけたら幸いです。

「経営的視点は社員にも必要なの?」「働く上で、人生において価値があるの?」「どうやって身に付ければいいの?」といった疑問の答えを早く聞きたい方には申し訳ないですが、しばしお付き合いください。

なかなか他の記事には書かれていない、「社長とはいったい、普段何を見て、何を考えているんだろう?」という興味にお答えできると思います。

3 トップの社長が普段見ている“経営者の視点”は、主に5つ

トップとしての社長が普段何を見ているかといえば、ヒト・モノ・カネと情報だろうという人も多いでしょう。確かに見ていますが、それぞれを単独で見ているわけではありません。そこにはトップの経営者ならではの“経営者の視点”があります。

“経営者の視点”は、次の5つに集約できると考えています。

1)高さ(広さ)
2)時間(時空)
3)スピード
4)お金の流れ
5)人と組織

いずれもさして特別な言葉ではありませんが、1)高さ(広さ)にしても、2)時間(時空)にしても、3)スピードにしても、ナンバー2以下の立場とは“視点”が全くといっていいほど異なります。

今回は1)高さ(広さ)と、2)時間(時空)について説明していきましょう。

4 「1)高さ(広さ)」は山頂から360度を見渡して見えてくるもの

頭の中に山をイメージしてみてください。会社組織を人でできた山と考えると、①社長、②役員・部長、③課長、④一般社員はそれぞれ山のどの辺にいるでしょうか。

①社長は山のてっぺん、②役員・部長はそこから少し下の辺り、③課長は②の下の中腹、④一般社員は裾野に近い辺りでしょう。では社内の人で、会社という山の周囲360度を全て見ている人は誰でしょうか。それは唯一、①の社長だけなのです。

②の役員・部長は、時には山頂まで登って社長の隣で一緒に周囲を見渡すことを期待されているでしょう。しかしながら「目に入ってくる」のと、「見るべき立場として見に行く」のでは、見え方も目に入ってくるものも異なります。

役員・部長は幾つかの事業部や部を任されていて、そこをマネジメントするのが仕事であり担当業務です。日常的に山頂に登って積極的に周囲全体を見に行く必要などありません。しかし、それでは自分の担当業務に直接関係しない周囲のことは、よく見えてこないのです。

山の周囲にあるものとは何か。会社が直面している市場であり、顧客であり、競合であり、社外の株主、地域や社会です。市場が国内なら、それらは山頂を離れて全国が見渡せる高さから俯瞰(ふかん)しないと見えません。市場が世界なら、大気圏を飛び出して宇宙から俯瞰しないと見えてこないでしょう。

①の社長はただ一人、②~④の人たちとは別次元の「1)高さ(広さ)」で、それらを自社の現状と比べながら見ているのです。

経営判断を間違えて、会社と働く社員とその家族を路頭に迷わせることがないように。そしてチャンスと見るや、会社を成長させるための新たな投資を即断できるように。

5 「100年先から今を見ている」と本気で言う社長の「2)時間(時空)」感覚

会社のトップの立場の社長にインタビューする機会があれば、次の質問をぶつけてみてください。「社長は何年くらい先から発想して、今後の経営を考えていますか?」

②の役員・部長に聞けば5年、10年くらい先からと答えることでしょう。③の課長であれば、せいぜい1年くらいでしょうし、④の一般社員であれば目の前の仕事で精いっぱいで、1年先から発想するという考えさえないかもしれません。

現代はかつてないほど変化の激しい時代です。5年先どころか、1年先であっても誰にも予測できません。実際、新型コロナのまん延やロシアによるウクライナ侵攻を発生の1年前に予測できた人がいたでしょうか。

それでも先ほどの質問を社長にすると、実務的には5年、10年、20年先からとしながらも、「私は100年先から発想している」と答えるトップが珍しくないのです。100年先など生きているはずもないのに。

ある著名な経営者は「200年先から発想している」と豪語していました。今を遡れば200年前は江戸後期、伊能忠敬が日本地図を作り、ペリー来航の30年前で、イギリス船が浦賀に来航した時代です。

IT分野など、市場によっては欧米だけでなく、中国や新興国もしのぎを削る現在、世界を目指すトップ社長にはそれくらいの発想力が求められているのかもしれませんね。

今回は“経営者の視点”の5つのうちの2つについて説明してみました。これだけでもトップの立場の社長と、ナンバー2以下の立場とは“視点”が全くといっていいほど異なることを、イメージいただけたのではないでしょうか。続きは次回お話しします。

第2回も最後までお読みいただきありがとうございました。

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以上(2022年8月)
(著作 ブライトサイド株式会社 代表取締役社長 武田斉紀)
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