【図解】印鑑の意義、契約書への印鑑の押し方、印紙の貼り方/弁護士が教える契約・契約書の基礎知識(3)

1 印鑑がなくても文書は有効?

実は多くのビジネスにおいて、印鑑は法的には不要です。

日々、当たり前のように印鑑を使っている私たちにとって驚くべき事実ですが、「不動産会社が作成する重要事項説明書」など、一部の文書を除き、印鑑がなくてもその効力に問題はありません。

では、印鑑には何の効力もないのでしょうか?

法律では「押印」があると、「文書が真正」であることが推定されます(民事訴訟法228条4項)。文書が真正とは、本人の意思に基づいて文書が作成されたという意味です。つまり、

文書中の印影が本人の印章によって顕出されたものである場合、本人の意思に基づいて文書に押印されたものと推定されるので、名義人は「勝手に偽造された」と主張しにくくなる

ということです。偽造されたと主張したいなら、印鑑で表示された名義人が、偽造された事実を証明しなければなりません。

もしも契約書などに署名がなく、記名だけで印鑑がなかったら(ゴム印だけが押されているようなケース)、反対に「この文書を本人が作成したものである」と主張する人が、その事実を証明する必要があります。

このように押印があると、法的に文書の効力が認められやすくなります。そのため、日本の商慣行として印鑑が定着しているのです。

なお、印鑑が必要な一部の文書の例は次の通りです。

契約書など文書名 概要
自筆証書遺言 自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならないとされています(民法第968条)
不動産の登記申請書類 申請書には申請人又はその代表者(当該代表者が法人である場合には、その職務を行うべき者)若しくは代理人の押印が必要と定められています(商業登記法第17条第2項)。

(出所:弁護士監修のもと、日本情報マート作成)

2 電子署名があれば大丈夫?

押印があると、法的に文書の効力が認められやすくなるということは、逆に押印がないと認められにくくなるのかと考えてしまいますが、その心配はありません。

2001年4月1日に「電子署名法(電子署名及び認証業務に関する法律)」が施行され、電子署名が手書きの署名や押印と同等に通用する法的基盤が整備されました。

電子署名とは、ネット上のやり取りで利用できる署名です。きちんと認定を受けた認証機関で手続きを行って電子文書をやり取りすれば、電子署名にも印鑑と同じ効力が認められます。今は法律も「印鑑を必須とはしていない」ともいえます。

なお、WordやExcelなどのアプリケーションを使って、印影を模したスタンプを作って利用しているケースもあります。ただ、これは電子署名法における電子署名とは全くの別物であり、法的効力もありません。

以上が印鑑の効力に関する説明です。多くの契約書においては押印がなくても大丈夫ということですが、実際は相手ありきです。こちらが印鑑は不要な理由を説明しても、すぐに印鑑がなくなるとは限りません。そこで以降では、契約に伴う印鑑の利用に関するポイントを分かりやすく紹介します。

3 印鑑の基本

1)印鑑には格がある

「印鑑とはハンコ(判子)の正式名称である」と理解している人もいるようですが、厳密には違います。正しくは、私たちが印鑑やハンコと呼んでいるものを総称して「印章」、印章を紙などに押しつけて映ったものを「印影」と呼びます。

ちなみに、印鑑とは、印章のうち、登記所や銀行などに届け出た特定の印章(印影)のことを指すのですが、この記事では分かりやすく説明するために、全般的に「印鑑」と表現しています。

通常、会社は何本かの印鑑を使い分けています。例えば、見積書は「パソコンでの印字と社印」の組み合わせになっているのをよく見かけます。この組み合わせに問題があるわけではありませんが、契約書の場合で考えると少々軽い印象を受けます。

印鑑には格があり、契約書に押す印鑑はそれなりのものであるほうが好ましいのです。

2)登録印・認印

登録印とは、登記所に登録した印鑑のことで、印鑑証明書を取得できるものです。会社では、登録印や実印、代表印などと呼ばれ、契約書でも利用されます。

規模が大きな会社で代表者が複数いる場合は、複数の登録印を所有していることもあります。 なお、その印鑑が登録印であるか否かは、印鑑証明書によって明らかになります。そのため、契約書に印鑑証明書を添付することもあります。

認印とは、登録印以外の印鑑のことです。

認印は、例えば、宅配便の受取書や簡単な申込書など日常取引等の押印の際に使われるもので、印鑑としての格は低いといえるでしょう。認印としてよく使われる印鑑は、いわゆる「シャチハタ(インキ浸透印)」や「三文判」です。

3)銀行印

銀行印とは、口座開設手続きなどの際に銀行に届け出ている印鑑のことで、その用途は銀行との取引に限定するのが基本です。

多くの金融機関と取引している会社は、複数の銀行印を所有して使い分けていることもあります。登録印と同じように銀行印は重要なものなので、紛失時のリスクを低減するなどの狙いもあります。

4)社印

社印とは、会社名だけを印影とする印鑑のことで、角印や社判などと呼ばれることもあります。

社印が押してあれば、少なくとも会社が、その文書を正式なものとして認識している場合が多いといえるでしょう。

しかし、登録印や銀行印ほど利用者が限定されるわけではないため、相手方から見ると、どの程度の権限を持つ人が、どのような手続きを経て押したのかが分かりません。このように、印鑑の格が必ずしも高くはないため、契約書ではほとんど利用されません。

4 【図解】契印・割印などの印鑑の押し方いろいろ

契約書にはさまざまな意味合いで印鑑が押されます。契約当事者が署名や記名の横に押す「契約印」の他にもいろいろな種類があるので、以下で整理してみましょう。

1)契印はどこに押せばいい?

契印とは、2枚以上にわたる契約書について、それが一体の文書であることを明らかにするために押すものです。

2枚以上の契約書の場合、各ページを開いて、それぞれのページにまたがるように押します。

契印の押し方を示した画像です

また、契約書が多数枚に及び、背が白色の製本テープなどでとじられている場合は、その製本テープ(帯)と契約書本体の境目に印影がかかるように押します。

契印の押し方を示した画像です

2)割印はどこに押せばいい?

割印とは、2通の契約書が同時に作成されたことを明らかにするために、それらの契約書を少しずらして重ね、全てに印影がかかるように押すものです。

3通の場合は、契約書を少しずつずらして重ね、それぞれに印影がかかるように押す方法があります。この場合、各契約書には、印影の上3分の1、中3分の1、下3分の1が押されることになります。

割印の押し方を示した画像です

3)消印はどこに押せばいい?

消印とは、印紙を使用済みの状態にして再利用を防止するために、契約書に貼った印紙と契約書の双方に、印影がかかるように押すものです。

慣例上、1枚の印紙に対して契約当事者がそれぞれ消印を押すことが多くなっていますが、「印紙を使用済みにする」という目的に照らせば、契約当事者のいずれか一方が消印を押せば十分です。なお、消印は押印である必要はなく、署名でも問題ありません。

消印の押し方を示した画像です

4)訂正印・捨印はどこに押せばいい?

訂正印とは、契約書の字句を訂正するために押すものです。

一般的には、訂正箇所に二重線を引き、その上に訂正印を押して正しい字句を記載する方法を取ります。なお、訂正の方法は法令で定められているものではなく、他にも方法がありますが、ここでは省略します。

訂正印の押し方を示した画像です

捨印とは、将来の契約書の訂正に備えて、あらかじめ余白に押しておくものです。

捨印で訂正する場合は、正しい字句に訂正し、訂正箇所を明らかにした上で、余白に「削除○文字」「加筆○文字」などと記します。捨印を押す位置や「削除○文字」などの記載位置は、訂正箇所の近くか余白になりますが、できるだけ訂正箇所の近くにしたほうが、どこを訂正したのかが分かりやすくなります。

捨印の押し方を示した画像です

契約書を訂正する際、新たに訂正印を押してもらうことが難しい場合もあります。そこで、捨印を押しておき、将来起こるかもしれない契約書の訂正を可能にします。ただし、相手方に勝手に契約書を訂正されてしまう危険もあるので、捨印は押さないほうが無難です。

5)止印はどこに押せばいい?

止印とは、文書の最後に余白が生じたときに、そこに押すものです。

止印を押すことで、以下は余白であることを明らかにし、相手方に余白を勝手に利用されないようにします。止印の代わりに、「以下、余白」などと記載する場合もあります。

止印の押し方を示した画像です

6)契約印はどこに押せばいい?

契約印とは、契約当事者が署名や記名の横に押すものです。

もはや都市伝説のようなものですが、この契約印をどこに押すのかについて、「名前にかかるように押すべきだ」「いや、名前にしっかりかかっていると訂正印みたいだから、名前のギリギリに押すべきだ」「印影がはっきり分かるように、名前から離して押すべきだ」などの主張があります。

結論から言うと、契約印の決まった位置はありません。そもそも契約印は、契約締結の意思表示の完全性を高めるためのものであり、押してあることが大事なので、名前の横に押してあれば大丈夫です。

5 契約書に貼る印紙のルール

印紙とは、印紙税法に基づいて納める国税の1つです。

印紙を貼らなければならない文書を「課税文書」と呼び、その文書を作成した人が印紙税を納めなければなりません。課税文書は第1号から第20号まであり、契約書や領収書などがあります。詳細は国税庁のホームページなどで確認できます。

●国税庁「印紙税」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/inshi/inshi301.htm

1)印紙税は誰が納めるのか?

印紙税は、課税文書を作成した人が納めます。ただし、例えば二者間契約の場合、印紙税を契約当事者が折半して納めなければならないといった決まりはないため、納めるのはどちらか一方であっても問題ありません。

ただし、「どちらか一方が納める」というのは、あくまでも契約当事者間の取り決めに過ぎません。印紙税を納めていないほうが税務調査などで指摘されてしまったら、納税を免れることはできません。

2)タイトルを変えれば非課税文書になるのか?

課税文書に該当しなければ印紙税は納めなくてもいいため、契約書のタイトルを変えて課税文書に該当しないようにする人がいます。しかし、課税文書か否かの基準は、契約内容を実質的に見て判断されるため、タイトルだけを変えても意味がありません。

3)貼り忘れた場合の過怠税

印紙の貼り忘れは税務調査でも指摘されることが多い事項です。もし、印紙税の不納があった場合、過怠税として納めるべき印紙税の3倍(自主的に申し出た場合は1.1倍)が徴収されます。

4)印紙税を節約する方法はないのか?

印紙税は、正本にのみ課されます。そのため、契約書を正副と区別して節税しようとすることがあります。ただし、副本(コピー)として認められるためには、署名がないことなど複数の条件をクリアする必要があるので、事前に正副の解釈基準をきちんと確認することが大切です。

なお、電子契約においては書面が作成されないため、印紙税は課税されません。ですから、

節税と併せて業務効率化を進めるためには、電子契約を取り入れることが有効である

といえます。

5)消印が必要

印紙には消印をしなければなりません。消印によって、その印紙が使用済みであることが明らかになります。消印をしなかった場合、納めるべき印紙税と同額の過怠税が課されます。

6)契約内容を変更したときの印紙税の負担

契約書が印紙税法上の課税文書に該当する場合、新たな契約書を交わすと、あらためて印紙税を納めなければなりません。

なお、覚書の場合は、

変更箇所が重要な事項の変更となる場合は課税文書として取り扱われますが、重要な事項を含まない変更の場合は課税文書に該当しないため、印紙税が不要になる

ことがあります。判断に迷う場合は、税理士や弁護士などの専門家に確認をするとよいでしょう。

6 課税文書に該当するか否かの判断

文書の内容によって課税文書に該当するか否か、第○号文書かということで決まりますが、解釈が難しい場合もあります。例えば、次のようなケースです。解釈が難しい場合は、所轄税務署に確認してみましょう。

  • 文字通りのリース契約は課税文書に該当しないが、それに付随する機器の保守が請負契約に該当するのか?
  • 基本契約について第7号文書として印紙を貼っているが、そこから派生する個別契約も内容に応じて課税文書に該当するのか?
  • 1通の契約書に、複数の課税文書に該当する要素が含まれている場合、何号として取り扱えばよいのか?

7 印紙はいつ貼る? 契約書の交わし方

実務上、意外と迷うのが契約書の取り交わし方です。契約当事者が一堂に会するのことはなかなか難しいので、郵送などで手続きをすることが多くなります。その際、「印紙はどのタイミングで貼るのか?」などといった素朴な疑問が生じることがあります。

ここでは、A社とB社が契約書Xを交わすときの手順を整理してみましょう(必要に応じて契印や割印を押しますが、ここでは省略しています)。契約書を郵送する際は、簡易書留など記録が残る方法で送付することも検討しましょう。

印紙の貼り方を示した画像です

8 電子契約を採用すると印鑑は不要になる?!

ここまで、印鑑や印紙のルールについて紹介してきました。これらは非常に重要なことですが、電子契約によって変わってきます。

  • 電子契約では、本物の印鑑を押す必要はなく、電子署名をする(電子契約のシステムやプランによって異なる)
  • 電子契約では、紙の契約書を郵送する必要がない
  • 電子契約では、印紙を貼る必要がない
  • 電子契約では、紙の契約書を保管しておく必要がない(キャビネットなどが不要)

電子契約は、今後も普及していくでしょうが、注意点もあります。電子契約には「当事者型」と「立会人型」があります。

  • 当事者型:契約当事者の本人確認をした上で、電子署名を行う
  • 立会人型:電子契約サービスの提供者が、第三者として電子署名を行う

電子契約で利用されている多くは「立会人型」です。こちらは、本人確認のコストがかからないため、電子契約サービスの提供者が「無料プラン」などとして提供できるからです。ただし、「立会人型」が「当事者型」に比べると、本人確認の面で不安を残すことは間違いありません。「当事者型」は、契約当事者が電子の「印鑑証明書」を取得するようなものであり、手間とコストはかかりますが、

重要な契約書を取り交わす際は、「当事者型」を検討する

ことも重要になるでしょう。

また、電子契約では法的効力を持たない契約書もあります。具体的には次の通りです。そのほか、電子契約の利用は可能ですが相手方の承諾が必要な契約書(建設工事の請負契約書(建設業法19条3項、施行規則13条の2)等)もありますので、そういった契約書については注意が必要です。

(図表2)電子契約では法的効力が不十分な契約書の例

契約書など文書名 概要
事業用定期借地契約 事業用定期借地契約は公正証書で契約しなければならないことになっています(借地借家法第23条第3項)。
任意後見契約書 任意後見契約は、法務省令で定める様式の公正証書によってしなければならない(任意後見契約に関する法律第3条) 。

(出所:弁護士監修のもと、日本情報マート作成)

いかがだったでしょうか?契約書の取り交わしについて、疑問に感じることが多いポイントが整理できたと思います。

この「弁護士が教える契約・契約書の基礎知識」シリーズでは、以下のコンテンツを取りそろえていますので、併せてご確認ください。

以上(2024年4月更新)

(監修 リアークト法律事務所 弁護士 松下翔)

よくある契約書の構成、「条・項・号」、用語の使い分け/弁護士が教える契約・契約書の基礎知識(2)

1 パターンが決まっている「契約書の基本的な構成」

契約書で定める事項に決まった作り方があるわけではありません。しかし、契約書の基本的な構成はおおむねパターンが決まっていて、

タイトル、前文、本文、後文、契約締結日、署名(記名押印)

となっています。

早速、業務委託基本契約書のイメージを確認してみましょう。

(図表)業務委託基本契約書のイメージ

業務委託基本契約書のイメージ

(出所:弁護士監修のもと、日本情報マート作成)

1)タイトル

タイトルとは、「業務委託基本契約書」「売買契約書」「秘密保持契約書」などの表題のことです。タイトル自体に契約の法的効力への影響はなく、自由に付けることができます。ただし、実務上は、契約内容が一目で分かるようなものにします。

また、契約書を「契約書」「契約証書」「覚書」などとすることもあります。こちらもタイトルによって法的効力が変わることはありませんが、実務上は次のように使い分けられることが多いです。

  • 契約書、契約証書:契約当事者双方が権利・義務関係を明確にして、両者が連名で調印する場合
  • 念書、誓約書:一方の契約当事者だけが自分の義務履行を承認して、相手方に差し入れる場合
  • 覚書、協定書:契約条項の解釈や前提事実を明確にするために、主たる契約に付随して作成する場合

2)前文

前文とは、「○○(以下「甲」という)と、□□(以下「乙」という)は、△△について次の通り契約を締結する」といった文言です。契約当事者は誰なのか、契約の目的は何であるのかなどを明らかにします。

3)本文

本文は、一般条項と主要条項に大別されます。

一般条項とは、契約内容にかかわらず、共通して定められることの多い条項です。「解除条項」「損害賠償条項」などがあります。

主要条項とは、一般条項以外の条項です。個々の契約書で大きな違いが生じます。

契約書に記載する順番は、言葉の定義など以降の内容に関わってくる条項や、基本的なもの(売買契約であれば、甲が乙に◇◇を販売するなど)から記載していくのが一般的です。また、一般条項の一部は、契約書の後半にまとめて記載することが多いです。

4)後文

後文とは、「上記合意成立の証しとして、本契約書2通を作成し、甲乙各々署名捺印の上、甲乙各1通を保有する」といった文言です。契約書原本の作成通数、保有する者などを定めます。

5)契約締結日

いつ契約を締結したかが分かるように、契約締結日を記載します。契約書に特別な定めをしていなければ、当該日付が契約の効力発生日と推定されます。なお、本来的にはこのようなことは望ましくありませんが、交渉や手続きの遅れなどからバックデート(日付の遡及)をせざるを得ないことがあります。この場合、契約書に特別な定めをしていなければ、過去に遡って契約に基づく履行義務が生じることになるため注意が必要です。

6)署名(記名押印)

契約当事者(または、その代理人)の署名または記名押印がある契約書は、契約当事者の意思に基づいて成立したものであると推定されます。署名がされておらず、記名だけの場合は、押印もすることで署名と同じ効力があるとされています。また、日本においては、実務上、署名だけではなく、併せて印鑑も押すのが通常です(署名捺印)。

  • 署名:本人が自筆で自分の名前を記すこと
  • 記名:パソコンの印字など、署名以外の方法で自分の名前を記すこと
  • 押印:紙での契約の場合は印鑑を押すこと、電子契約の場合は電子署名または電子押印すること

なお、最近は電子契約システムを利用した契約締結方式も多くなっています。このシステムを利用する場合、署名や記名押印も全て電子で行われます。この点については、以下のコンテンツで解説しています。

2 条・項・号の違い

契約書の内容を確認する際は、「第○条第○項第○号で定めてあります」「第○条の前段と第○条の但書は矛盾していませんか?」といったように、該当箇所を特定して協議をします。

しかし、条・項・号、柱書(はしらがき)、但書、前段、後段の違いを正確に理解していないと、契約内容の確認などの際に、契約当事者間で認識に相違が生じる恐れがあります。そうしたことがないように、以下で基本的な構成を理解しましょう。

1)基本的な構成

1.条・項・号

基本的な構成は条・項・号となります。項は条を細かくしたもの、号は項を細かくしたものです。条の内容が比較的シンプルで、条件などを列挙する場合は、項を飛ばして号が定められることもあります。

なお、契約書によっては条の数が多くなり、内容が分かりにくくなるケースがあります。このような場合は、条の上位の階層に「章」を置いて整理します。

2.項と号の番号に注意

項と号には「1」「(1)」「一」などの番号を付けます。項と号の番号の付け方が同じだと紛らわしくなるので使い分けましょう。

第1項には「1」「(1)」「一」の項番号を付けず、第2項から「2」「(2)」「二」などと付け始めるのが基本です。契約書のひな型などを見ると、第1項から項番号を表示しているものが少なくありませんが、これは分かりやすく表記しているためです。

また、書き方として、号は体言止めにするのが基本です。

2)柱書

柱書とは、条項の中に、号によって項目が箇条書きにされている場合、その号を除いた部分を指します。

3)但書

但書とは、文字通り「但し」という記述から始まり、前文や本文に補足などを加えている部分を指します。

4)前段、後段

前段とは、条項の文章が句点で2つの文に分かれている場合の前半の文、後段とは、同じく後半の文を指します。しかし、後半の文が「但し」で始まる場合は、後段ではなく但書と呼びます。

ちなみに、条項の文章が3つの文に分かれている場合、真ん中の文を中段と呼びます。

第1条(条・項・号など基本的な構造)

これが第1条第1項である。但し、第1項には項番号を付けないのが基本であり、この文は但書である。

2 これが第1条第2項の前段である。これが第1条第2項の後段であり、ここまでを柱書という。

一 これが第1条第2項第1号。

二 これが第1条第2項第2号。

3 契約書でよく見かける、紛らわしい用語の使い方

1)正しい使い分けは意外と難しい?

契約書の作成や確認の際に困るのは、契約書でよく見かける独特の表現です。例えば、「又は」と「若しくは」はどのように使い分ければよいのか、「直ちに」と「速やかに」にはどのような違いがあるのかといったことで、迷ったことはないでしょうか。

ここでは、契約書でよく見かける表現ではあるものの、使い方や解釈に迷ってしまう契約書独特の表現について整理してみましょう。

2)契約書でよく使われる接続詞

1.「又は」「若しくは」

「又は」と「若しくは」は、いずれも「or」を意味する接続詞です。接続する内容が同一グループの場合、最後だけ「又は」を使います。

例)リンゴ又はバナナ
例)リンゴ、バナナ又はイチゴ

以上は全て「果物」という同一グループ内の接続ですが、ここにタコという「魚介」のグループが加わったらどうでしょうか。大きなグループ(果物と魚介)と、小さなグループ(果物グループの中のリンゴとバナナなど)がある場合は、大きなグループは「又は」、小さなグループは「若しくは」でつなげます。

例)リンゴ若しくはバナナ又はタコ
例)リンゴ、バナナ若しくはイチゴ又はタコ

イメージ

2.「及び」「並びに」

「及び」と「並びに」は、いずれも「and」を意味する接続詞で、基本的な使い方は「又は」と「若しくは」と同じです。接続する内容が同一グループの場合、最後だけ「及び」を使います。

例)リンゴ及びバナナ
例)リンゴ、バナナ及びイチゴ

また、大きなグループ(果物と魚介)と、小さなグループ(果物グループの中のリンゴとバナナなど)がある場合は、大きなグループは「並びに」、小さなグループは「及び」でつなげます。

例)リンゴ及びバナナ並びにタコ
例)リンゴ、バナナ及びイチゴ並びにタコ

3)ややこしい表現を正しく理解する

1.「することができる」「するものとする」「しなければならない」

契約書にありがちな文末の表現には、次のような意味があります。

  • することができる:するか否かを選択できる
  • するものとする:することが義務である
  • しなければならない:することが義務である

「するものとする」という表現には、「しなければならない」ほどの言い回しの強さはありませんが、意味は同じと考えてよく、義務であることに変わりありません。

2.「推定する」「みなす」

「推定する」と「みなす」には、次のような意味があります。

  • 推定する:反証を許す
  • みなす:反証を許さない

「推定する」ことと「みなす」ことの違いは、反証があるときの考え方です。例えば、「冬に収穫した赤い果物はリンゴと推定する」場合は、冬に収穫された果物が実はイチゴであるという明確な証拠があれば覆る可能性があります。しかし、「冬に収穫された赤い果物はリンゴとみなす」場合は、事実とは関係なく、冬に収穫された赤い果物をリンゴと捉えるため、たとえ赤い果物がイチゴであったとしても、それはリンゴとして取り扱うことになります。

3.「直ちに」「速やかに」「遅滞なく」

スピードを示す表現には、次のような意味があります。

  • 直ちに:一切の間を置かず、即時に
  • 速やかに:できるだけ早く
  • 遅滞なく:事情が許す限り、最も早く

速い順に表すと「直ちに > 速やかに > 遅滞なく」となります。ただ、いずれも「○日以内」といった具体的な基準にはなりません。そのため、契約書には必要に応じて「3営業日以内」などと定めたほうがよいでしょう。

4.「その他」「その他の」

「その他」と「その他の」には、次のような意味があります。

  • その他:並列関係 例)リンゴ、バナナ、イチゴその他果物
  • その他の:包含関係 例)リンゴ、タコその他の食材

「その他」は並列なので、果物は全て横に並ぶイメージです。一方、「その他の」は包含関係なので、食材という大きな概念の中に、リンゴ、タコが含まれているイメージです。

5.「時」「とき」

「時」と「とき」には、次のような意味があります。

  • 時:時点を指す
  • とき:仮定的条件を指す

例えば、「契約締結の時」とあれば、契約を締結した時点となります。また、「疑義が生じたとき」とあれば、疑義が生じた場合となります。「とき」については、「場合」と読み替えてほぼ問題ありませんが、仮定的条件が2つ以上重なる場合は、大きい条件に「場合」を使い、小さい条件に「とき」を使います。具体的には次の通りです。

第○条

次の各号に該当する場合は、速やかに相手方に報告するものとする。

一 相手方に不利益を与えるおそれがあるとき。

二 ……。

いかがだったでしょうか? 契約は非常に身近な法律行為なので、プライベートではいちいち契約書を作成しないことが多い一方、ビジネスでは契約書を作成することが基本となっている理由をご理解いただけたと思います。

この「弁護士が教える契約・契約書の基礎知識」シリーズでは、以下のコンテンツを取りそろえていますので、併せてご確認ください。

以上(2024年3月更新)

(監修 リアークト法律事務所 弁護士 松下翔)

画像:Andrey Popov-Adobe Stock

【かんたん会社法(6)】株主の権利と株式の種類

1 株主の権利と株主平等の原則

1)株主の権利は自益権と共益権

株主は、株式会社(以下「会社」)会社に資本を提供する出資者であり、会社が倒産すれば、出資を失うリスクを負っている実質的な会社の所有者です。そのため、会社が儲かった場合、配当(剰余金)を受け取ったり、経営者を選ぶ権利を持っています。これらを自益権と共益権といいます。

1.自益権

自益権とは、株主が会社から直接経済的な利益を受ける権利です。「剰余金の配当を受ける権利」「残余財産(会社が解散し、清算される際に残っている会社の財産)の分配を受ける権利」などがあります。

2.共益権

共益権とは、株主が会社の経営に参加する権利で、「株主総会における議決権」などがあります。上記の通り、経営者である取締役を選任する決議権が典型です。

2)株主平等の原則

株主としての権利義務は、持っている株式の内容と数に応じて平等でなければなりません。そこで、会社は株主名簿を作成し、次の内容を記載・記録することになっています。

  1. 株主の氏名または名称および住所
  2. 株主が持っている株式の数(種類株式の場合、株式の種類と種類ごとの数)
  3. 株主が株式を取得した日
  4. 会社が株券発行会社である場合は株式の株券番号

会社は、一定の日を定めて、その日に株主名簿に記載・記録されている株主を権利者と定めます。

2 株式の内容

会社の設立や新株発行は、株主を募ることでもあり、同時に出資金を募ることでもあります。様々なタイプの会社や株主の要望に応じられるように、株式の内容を自由に設計できれば、それだけ、資金調達がしやすくなります。それゆえに、会社法では多様な株式を認めています。

1)全ての株式の内容を異なる株式にする

定款で一定の事項を定めることで、全ての株式について普通株式とは異なる取り扱いにすることができます。具体的に次の通りです。

  • 譲渡制限株式:株式を譲渡する際に会社の承認が必要な株式
  • 取得条項付株式:一定の事由が発生した場合、会社が強制的に取得できる株式
  • 取得請求権付株式:株主が会社に対して取得を請求できる株式

2)株主によって株式の権利内容を変える

株主は、原則として、株式の内容と数に応じて平等に扱われなければなりません。しかし、非公開会社(全ての株式について譲渡制限(譲渡にあたり会社の承認が必要)がある旨を定款に定めている会社)の場合、定款に定めることで、剰余金の配当、残余財産の分配、議決権行使について株主ごとに異なる定めができます。例えば、

  • 特定の株主にのみ複数の議決権を与える
  • 保有株式数にかかわらず、頭割りで議決権を与える
  • 特定の株主にのみ保有株式数に応じた金額以上(または以下)の剰余金の配当等を行う
  • 保有株式数にかかわらず、頭割りで剰余金の配当等を行う

といった具合です。

3 9つの種類株式

定款で一定の事項を定めることで、次の9つの種類株式を発行できます。

1)剰余金の配当額が異なる株式

優先株式と劣後株式の両方があります。他の株主の先だって、剰余金の配当を受けられる権利があるのが優先株で、この反対の他の株式より遅れてしか配当を受けられないのが劣後株です。業績が悪いときに等に出資を募りたい場合は、優先株を発行するでしょうし、また、会社に資金援助の必要がある場合に親会社や企業が劣後株を引き受けることがあります。

2)残余財産の分配額が異なる株式

優先株式と劣後株式の両方があります。優先、劣後の関係が、上記の剰余金の配当ではなく、会社解散の際の残余財産の配分において認められる株式です。

3)議決権が制限される株式

株主総会の全部または一部の事項について議決権を行使することができない株式を、議決権制限株式といいます。議決権の制限のない一定の株主が会社支配権を持つことになりますが、一定のベンチャー企業等にニーズがあると考えられています。必ずしも健全な姿とは言えないため、公開会社の場合、議決権のない株式が発行済み株式の1/2を超える場合、これ以下にするための必要な措置を講じなければなりません。

4)株式を譲渡する際に会社の承認が必要な株式

一部の種類の株式についてのみ譲渡制限がある会社は、会社法上の公開会社に該当します。公開会社は、非公開会社に比べて定款で会社の基本的な規則を定める自由度が低く、より厳格な会社法上の規律に従うことになります。

従前からある小規模閉鎖会社を念頭にした制度で、仲間以外の人間の会社参入を防ぐことができましたが、一部の株式だけに譲渡制限も付けられるようになっており、より多様な目的にかないます。

5)株主が会社に取得を請求できる株式

株主は、定款に定められた期間内に請求することで、定款の定めに従い、対価を得ることができます。一定の期間、会社の資金需要を賄いつつ、一定の期間後、会社の配当の負担を減らすことが可能になります。

6)一定の事由が発生した場合、会社が強制的に株式を取得できる株式

会社は、定款に定められた事項が生じたことを株主等に通知・公告し、定款の定めに従い対価を支払うことによって、会社が株主から株式を取得することができる株式です。

7)株主総会の特別決議により、他の株式などと引き換えに会社が取得できる株式

株主総会の特別決議によりその種類の株式の全部を取得することができる株式です。

8)一定の事項につき、株主総会の決議に加え、その種類株主総会の決議が必要な株式

いわゆる黄金株や、拒否権付き株式といわれるものです。その種類株主総会で会社の合併などの総会決議事項を否決することできます。合弁会社やベンチャー企業においてニーズがあるといわれてはいますが、特異な制度ではあります。

9)当該株式の種類株主総会の決議だけで取締役または監査役を選任・解任する株式

ある種類株式の種類株式総会だけで、取締役又は監査役を選任できる株式です。その種類株式総会で選任できる取締役、監査役の人数は、定款で定めなければなりません。これらも合弁会社やベンチャー企業において、ニューズがあるといわれています。なお、委員会設置会社および公開会社はこの株式を発行することはできません。

4 発行済株式の内容を変更する手続き

1)既存の全ての株式の内容を変更する手続き

1.譲渡制限

定款を変更して普通株式に譲渡制限を付ける場合、株主総会の特殊決議が必要です。特殊決議には、議決権を行使できる株主の半数以上であって、当該株主の議決権の3分の2以上の賛成が必要です。また、反対株主には買取請求権が与えられます。

2.取得条項

定款を変更して普通株式に取得条項を付ける場合、全ての株主の同意が必要です。反対株主に株式買取請求権は与えられません。

3.取得請求権

定款を変更して普通株式に取得請求権を付ける場合、株主総会の特別決議が必要です。特別決議には、議決権を行使できる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の3分の2以上の賛成が必要です。反対株主に株式買取請求権は与えられません。

2)既存の一部の種類株式の内容を変更する手続き

1.譲渡制限

定款を変更して種類株式に譲渡制限を付ける場合、その種類株式を持つ株主が参加する種類株主総会の特殊決議が必要です。特殊決議の内容や株式買取請求権については、前述した「既存の全ての株式の内容を変更する手続き」と同じです。

2.取得条項

定款を変更して種類株式に取得条項を付ける場合、全ての種類株主の同意が必要です。反対株主がいても、株式買取請求権は与えられません。

3.全部取得条項

全部取得条項付種類株式とは、「7.株主総会の特別決議により、他の株式などと引き換えに会社が取得できる株式」(前述した「2)権利の異なる複数の種類の株式を発行する」を参照)のことです。特別決議には、議決権を行使できる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の3分の2以上の賛成が必要です。

定款を変更して、ある種類株式に全部取得条項を付ける場合、その種類株式を持つ株主が参加する種類株主総会の特別決議が必要です。また、反対株主には買取請求権が与えられます。

5 譲渡制限株式を譲渡するための手続き

1)株主からの承認の請求

譲渡制限株式の譲渡人は、譲渡制限株式を発行した会社に対して、譲受人への譲渡を承認するか否かを決定するよう請求します。

2)譲渡の承認の決定など

譲渡人から譲渡承認の請求を受けた会社は、承認するか否かを決定し、その内容を譲渡人に通知します。この通知は、譲渡承認の請求から2週間以内にしなければならず、これを超えると譲渡を承認したものと見なされます。なお、定款に定めることで2週間を短縮できます。

3)会社または指定買取人による買取請求

会社が譲渡を拒否すれば、譲渡人は株式に投資した資本を回収できません。そこで、譲渡人は、譲渡承認の請求に際して、譲渡を承認しない場合は会社または指定買取人が譲渡制限株式を買取るように請求できます。

4)会社または指定買取人による買取り

3)の請求がなされ、会社が株式譲渡を承認しない場合、会社は、会社が買取るか、別の買取人を指定するかを決定します。

会社が買取る場合、会社は2)の通知をしたときから40日以内(これを超えた場合、譲渡を承認したと見なされる)に、1株当たり純資産額に買取る対象株式数を乗じて得た額を供託します。そして、当該供託を証する書面を譲渡人に交付し、譲渡人に株式を買取る旨および買取る株式の種類および数を通知します。

別の買取人を指定する場合、指定買取人は2)の通知をしたときから10日以内(これを超えた場合、譲渡を承認したと見なされる)に、指定買取人が1株当たり純資産額に買取る対象株式数を乗じて得た額の供託を証明する書面を譲渡人に交付します。そして、指定買取人として指定された旨および買取る株式の種類および数を通知します。

5)売買価格の協議

会社または指定買取人から譲渡人に4)の通知があったら、売買価格を協議します。協議が調えば、それが売買価格となります。

6)裁判所による売買価格の決定

4)の通知があった日から20日以内に、裁判所に売買価格決定の申し立てがあれば、裁判所が定めた額が売買価格となります。一方、20日以内に申し立てがない場合は、4)で供託した金額が売買価格となります。

7)留意点

以上は、譲渡人が承認を求める流れです。反対に譲受人から承認を求めることもでき、基本的な手続きの流れは同じです。譲受人が承認を求める場合、「取得した株式の株主名簿上の株主またはその一般承継人と共同で請求」をするか、「確定判決、裁判上の和解、競売、株式移転などで株式を取得したことを示す資料を提供して請求」します。

6 株式に係るその他の制度について

1)単元株制度

単元株制度とは、

定款で一定数の株式を「1単元」と定め、単元株式数(1単元の株式)につき1個の議決権を認める一方、単元株式数に未たなければ議決権を認めない

というものです。単元株制度の目的は、少額出資者の権利(特に「共益権」)を限定し、会社の株主管理コストを削減することです。つまり、一定の株式数を持つ株主だけを対象に議決権行使に関する手続きをすればよいので、業務が効率化できるのです。

一方、単元株制度は、単元未満株主の権利を制限するため、会社法ではこの点に配慮しています。例えば、

  • 単元株式数の上限を1000および発行済株式の総数の200分の1
  • 単元未満株主は会社に株式の買取請求ができる
  • 単元株式数となるように、単元未満株主が会社に株式を売り渡すよう請求できる

ことなどを定めています。

2)株式の分割・併合

株式の分割とは、発行済株式を細分化することです。例えば、1株を10株に分割すると、会社財産は変わらないまま株式総数が増えます。その結果、1株当たりの株価が下がり、株式の流動性が向上します。株式分割は既存株主にはあまり影響がないため、取締役会設置会社は取締役会の決議、その他の会社は株主総会の普通決議で決められます。

株式の併合とは、数個の株式を合わせることです。例えば、2株を1株に合わせると、会社財産は変わらないまま株式総数が減ります。その結果、1株当たりの株価が上がり、株式の流動性が低下します。また、株主管理コストを削減したり、合併や株式交換などに先立って株式の割当比率を調整したりすることができます。

株式の併合によって1株に満たない端数が生ずる場合、会社は端数の合計数に相当する株式を競売などで売却し、売却金を従前の株主に分配することになるので、既存株主にとっては影響が大きい手続きといえます。そこで、株式の併合を行うためには、原則として、株主総会の特別決議が必要です。また、取締役はその株主総会において、株式併合の必要性を説明しなければなりません。

以上(2024年7月更新)
(監修 有村総合法律事務所 弁護士 有村佳人)

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画像:Mariko Mitsuda

「契約」とは何か? 身近だからこそ正しく知ろう/弁護士が教える契約・契約書の基礎知識(1)

1 実はとても身近な「契約」

契約とは、一方の「申し込み」と、もう一方の「承諾」によって成立する法律行為です。

契約はとても身近なものですが、いざ「契約を締結しましょう」と言われたら、ちょっと身構えてしまいます。しかしご安心を。実は私たちの生活は契約だらけなのです。

例えば、仕事では会社と社員は「労働契約」を交わしています。これにより、あらかじめ約束した仕事を社員は行い、その対価として会社は給料を支払います。もっと身近な例では、皆さんがコンビニエンスストア(以下「コンビニ」)でコーヒーやお菓子を買うときなどは、「売買契約」を交わしています。ただ、コンビニの店員が、「今から、このコーヒーについて、売買契約を交わしましょう」などと言っていないだけで、れっきとした法律行為がなされているわけです。

いかがでしょうか。コンビニで買い物をする(売買契約)、レストランで食事をする(役務提供契約)など、これら全てが契約なので、皆さんは、毎日多くの契約を交わしながら生活しているわけです。

この記事では、契約と法律の関係を整理した上で、契約書を作成する理由や、実際に契約を締結できる人は誰なのかについて弁護士が解説します。

2 最初に確認。「契約と法律」の関係

1)「契約自由の原則」とは

契約と法律の関係に関する重要な考え方に、「契約自由の原則」があります。

「契約自由の原則」とは、契約に関する事項は、契約当事者が自由に決めることができ、国家はこれに干渉しないというものです。

「契約自由の原則」は、具体的に次の4つの自由から成り立っています。

  • 相手方選択の自由:契約を締結する相手方を決める自由
  • 内容の自由:契約内容を決める自由
  • 方式の自由:書面か口頭かなど、契約の方式を決める自由
  • 締結の自由:契約を締結するか否かを決める自由

契約は「誰と」「どのような内容で」「どのような方式で」締結してもよく、また「契約を締結するか否か」についても自由に決めることができます。そして、契約で決めたことが法律に優先するのが原則です。

2)公序良俗に反するものはダメ

ただし、契約自由の原則があるとはいえ、何でも契約できるわけではなく、

公序良俗・強行規定 > 契約自由の原則 > 任意規定

といった関係があります。強行規定はおかしな契約を認めないもの、任意規定は契約で不明瞭な部分を補足するものといったイメージですので、以下で確認してみましょう。

まず、「強行規定」についてです。

強行規定とは、「公序良俗」を具体的に定めたものであり、契約当事者の意思にかかわらず適用されます。

強行規定について、民法で「公の秩序又は善良の風俗に反する事項を目的とする法律行為は、無効とする」と定められています。具体的には、建物の賃貸借契約において、「物件が天災、火災、地変その他の災害によって使用できなくなったときには敷金を返還しない」というように、借主の責任ではなく、貸主の責任や不可抗力による場合に敷金を返還しないとすることは、公序良俗に反するとして、裁判で無効とされたケースがあります。

次に、「任意規定」についてです。

任意規定とは、契約当事者の意思が不明確であるときに、不明確な部分を補充するための規定です。契約当事者間の合意があれば、その合意が任意規定よりも優先されます。

任意規定の例には、民法の「典型契約」があります。

民法の典型契約とは、「代表的な契約の種類を定めたものである」と説明されるように、日々の生活に密接に関係するものが多く含まれています。例えば、消費者がお店で買い物をする売買契約や、友人と洋服を貸し借りする使用貸借契約などがあります。

これらは日常の行為であるが故に、細かな条件を契約書で定めることはほとんどありません。こうした、ある意味曖昧な権利・義務関係において何らかのトラブルが生じた場合、判断のよりどころとなるのが典型契約なのです。

実際は、「どれが強行規定で、どれが任意規定なのか」といった判断が難しいことがあります。そのようなときは、弁護士などの専門家に相談しましょう。

3 口約束でも成立するのに、契約書を作成する理由とは?

さて、冒頭の説明でもお分かりいただけたように、コンビニで買い物をするときに、いちいち契約書を作成しません。実際、口約束だけでも「申し込み」と「承諾」があれば契約は成立します(「保証契約」「定期借地権契約」など、一部の契約は書面がなければ成立しないので注意が必要です)。

しかし、ビジネスは必ずといってよいほど契約書を作成するのは、後のトラブルを防ぐためです。以下に具体的な効果を示すので、確認してみてください。

1)契約内容を明確にできる

人の記憶は曖昧ですし、自分にとって都合の良い解釈をしがちです。そのため、口約束だけで契約を締結すると、後になって「言った、言わない」のトラブルになるリスクが高まります。

この点、契約書を作成しておけば、こうした問題が回避されます。互いの曖昧な記憶ではなく、契約書の記載内容に基づいて判断することができます。

2)トラブル発生時に自社を守る

口約束だけだと、大枠では合意しているものの、細かな取引条件まではきちんと合意できておらず、後々、トラブルになるリスクがあります。実際、「納品日・数量・料金の支払日」といった基本的なところが漏れているケースもありますし、目的物が契約に適合しているか否かを判断するよりどころもありません。

受注側は仕事欲しさに「きちんと対応しますよ!」などと安請け合いしますが、目的物が契約に適合しない不備があると、場合によってはいつまでもその対応に追われて、適正な収益が得られなくなります。他方、発注側も契約書に記載がないと、目的物に不備があった場合に、取引相手にどのようなことが主張できるかが明確ではなく、想定外の不利益を被る恐れがあります。こうしたことがないように、契約書で目的物が契約に適合しない不備があるときの補正内容や、その期間を定めておけば、自社を守ることができます。

3)契約内容を慎重に検討できる

その場の雰囲気や会話の流れに影響されて、契約内容を慎重に検討しないまま不利な口約束をしてしまうことがあります。

しかし、契約書を作成するということになれば、事前に何度も契約内容を確認します。社内確認はもちろん、ときには弁護士のリーガルチェックも受けるので、自社にとって不利な条件で契約を締結するリスクは低減されます。

4)後任の担当者が確認できる

ビジネスで、何かのプロジェクトについて契約書を作成する場合、最初の担当者はプロジェクトの内容や契約の経緯を十分に理解しています。しかし、異動によって担当者が代わると、当時の状況は十分に引き継がれなくなり、何かの確認があった際に、「なぜ、このような取り決めをしているのか?」と混乱することがあります。

この点、きちんと契約書を作成していれば、ひとまずそれに基づいて判断することができます。また、契約の背景について社内のメモや、相手とのメールなどを残しておくと理想的です。

5)裁判時の証拠書類になる

相手とトラブルになってしまい、しかも当事者で解決できない場合、裁判で争うことになります。その際、契約書は裁判において有力な証拠書類になり、契約書で合意していた内容やその妥当性が争点となります。

契約書に定めていれば何でも大丈夫というわけではありませんが、契約書は自社の主張の正当性を示す、とても重要な証拠書類となります。

契約書を作成することの効果が大きいと、お分かりいただけたと思います。ですから、

先代から続く長年の取引先やスピード重視で即決したい相手であっても、契約書を締結することが重要

になります。

4 契約を締結できる人、できない人

1)法人と契約をする場合

法人と契約を締結する場合、誰でも契約ができるわけではなく、ふさわしい権限を有していなければなりません。具体的には次の通りです。

(図表1)【法人と契約をする場合に、契約を締結できる人】

相手の状況 法的な問題点 ポイント
代表者 法人の代表者は法人を代表する法的権限を有しているので、契約を締結することができる。株式会社の場合、代表取締役が代表者であるのが一般的。 法人によって代表者の肩書はさまざまなので、法的な権限があるかについては、登記事項証明書で確認する。
支配人 支配人とは、会社から本店または支店の主任者として選任された商業使用人のこと。商法において、その営業に関して会社を代表して契約を締結する権限が与えられているので、契約を締結することができる。 ホテルやレストランなどの責任者を「支配人」と呼ぶことがあるが、商法上の支配人とは必ずしも同じではない。法的な権限があるかについては、登記事項証明書で確認する。
事業責任者 代表権はないため、実際の権限を確認する必要がある。実際に、その契約内容の範囲において事業に関する権限を有していれば契約を締結できる(実際は契約を締結する権限がなく、相手方がそのことを知っていた、または知らないということにつき重大な過失がある場合は除く)。 事業責任者の権限は登記事項証明書では確認できないため、相手に確認する必要がある。

(出所:弁護士監修のもと、日本情報マート作成)

2)個人と契約をする場合

個人と契約を締結する場合、誰でも契約ができるわけではなく、ふさわしい権限を有していなければなりません。具体的には次の通りです。

(図表2)【個人と契約をする場合に、契約を締結できる人】

相手の状況 法的な問題点 ポイント
未成年 結婚している場合などの例外を除き、法定代理人(親権者や未成年後見人)の同意を得ていない場合は、法定代理人や未成年者本人に契約を取り消される恐れあり。
親権者などその未成年者に代わって契約を締結できる人(法定代理人)などと契約を締結するか、法定代理人などの同意(親権者が婚姻中の場合は父母両方の同意)が必要。
本人確認として、運転免許証、パスポート、個人番号カード(マイナンバーカード)などで、住所・氏名・生年月日などを確認する。
契約を取り消されると、遡って契約はなかったものとなる。
成年被後見人 成年後見人や成年被後見人本人から契約を取り消される恐れあり(成年被後見人は、成年後見人の同意を得ていても、自ら有効な契約を締結できないため、事前に成年後見人の同意を得ていたとしても、成年後見人から契約を取消されるおそれあり。)。 本人確認として、運転免許証、パスポート、個人番号カード(マイナンバーカード)などで、住所・氏名・生年月日などを確認する。
日用品の購入その他日常生活に関する行為は取消不可。
被保佐人 不動産売買などの重要な契約について、保佐人の同意なく契約した場合は、保佐人や被保佐人本人から契約を取り消される恐れあり。 本人確認として、運転免許証、パスポート、個人番号カード(マイナンバーカード)などで、住所・氏名・生年月日などを確認する。
保佐人の同意が必要な行為は、民法13条第1項で列挙されている。例えば、預貯金の払い戻し、お金の貸し借り、不動産の売却や賃貸借契約の締結などがある。
被補助人 不動産売買などの重要な契約を、家庭裁判所が「補助人の同意が必要な重要な行為」と定めた場合、補助人の同意なく契約した場合は、補助人や被補助人本人から契約を取り消される恐れあり。 本人確認として、運転免許証、パスポート、個人番号カード(マイナンバーカード)などで、住所・氏名・生年月日などを確認する。
補助人の同意が必要な行為は、家庭裁判所が定めたもののみ。

(出所:弁護士監修のもと、日本情報マート作成)

3)契約当事者に代わって契約を締結できる代理人

代理人は、契約当事者に代わって契約を締結できる人で、「法定代理人」と「任意代理人」がいます。

法定代理人とは、法律によって代理権があることが定められた人です。一方、任意代理人とは、法定代理人以外の代理人で、契約当事者から権限の委任を受けた人です。

任意代理人と契約を締結するときは、「一定の代理権はあるが、実は契約締結については代理権の範囲外だった(代理権がなかった)」ということがないように注意しましょう。こうしたリスクを避けるためには、できるだけ契約当事者と手続きをする必要があります。

また、どうしても任意代理人と手続きをしなければならない場合は、

  • 委任状に記載する委任事項について、「○○との間で締結する『売買契約』に係る一切の権限」といったように、代理権を有する範囲を厳格に定める
  • 不明な点はすぐに契約当事者に確認する

などの対応をしましょう。

いかがだったでしょうか? 契約は非常に身近な法律行為なので、プライベートではいちいち契約書を作成しないことが多い一方、ビジネスでは契約書を作成することが基本となっている理由をご理解いただけたと思います。

この「弁護士が教える契約・契約書の基礎知識」シリーズでは、以下のコンテンツを取りそろえていますので、併せてご確認ください。


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契約書作成・チェックのポイント

以上(2024年3月更新)

(監修 リアークト法律事務所 弁護士 松下翔)

画像:LIGHTFIELD STUDIOS-Adobe Stock

【朝礼】そうだ、旅に行こう

おはようございます。今日は「休暇」に関する話をします。適度に休み、心身のコンディションを整えて仕事のパフォーマンスを上げるのは、ビジネスパーソンの大事な心得の1つです。もちろん、皆さんの多くが休暇をちゃんと取っているのは知っていますが、なかには「仕事が忙しいから」といって休みたがらない人もいます。

今日は、改めて私から言わせていただきます。休暇は皆さんに与えられた権利ですから、ちゃんと取ってください。そして、もう1つ。休暇を取ったら、ぜひ「旅行」に行くことをおすすめします。

なぜ、旅行に行ってほしいのか。最近の私の経験からお話しします。私は先日、家族と一緒に伊豆に行ってきました。温泉に入るのが目的でしたが、そこに向かうまでの道中からして、とても楽しいものだったのです。

今回、熱海からローカル線に乗って伊豆に向かったのですが、行く先々の駅の造りが昭和チックで、子どもの頃を思い出してノスタルジーに浸れましたし、晴天の中、緑豊かな山々や美しい駿河湾が見られて、とても心が癒されました。

また、普段はビジネス関係の書籍ばかり読んでいるのですが、今回はせっかく伊豆に向かうのだからと、久しぶりに小説を読んでみました。皆さんもご存じ、川端康成(かわばたやすなり)氏の「伊豆の踊子(いずのおどりこ)」です。一人の青年と旅芸人一座の踊子の淡い恋愛を描いた小説ですが、誰かと旅をしながら孤独だった青年の心が解きほぐされていくストーリーが胸を打ちましたし、ちょうど電車のルートが小説に出てきた場所を通るので、主人公の旅を追体験しているようで楽しめました。

ここまでは、「癒された」「楽しかった」という話ですが、ビジネスパーソンとして心を揺さぶられる体験もありました。私が泊まった宿の温泉は大正時代に採掘されたものなのですが、今のように採掘の技術も優れていなかった当時の人々が、いかに苦労して温泉を掘り当てたかが記されていました。当時の様子をうかがい知れる写真や建物も残っていて、「仮に恵まれない環境にいたとしても、簡単にチャレンジを諦めてはいけない」と身が引き締まる思いでした。

ひたすら私の旅行話になってしまいましたが、私が伝えたいのは「旅に出て、いつもと違う環境に身を置いてみると、得るものがたくさんある」ということです。

もちろん、休暇の使い方は各々の自由ですから自宅で休むのも結構ですし、「旅行はお金も体力もいるからちょっと……」という人もいるでしょう。ただ、一度旅に出てみて、さまざまな面から刺激を受けると、自分の中の「あれをやってみたい」「これをやってみたい」という気持ちが揺り動かされ、休みが明けたとき、元気良く仕事に臨めるのです。月並みな話ではありますが、ぜひ皆さんも旅に出てみてください。

以上(2024年7月作成)

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画像:Mariko Mitsuda

損金の計算で重要な「減価償却」の肝は取得価額と使用可能期間

1 固定資産を取得などした場合に有利な選択をする

企業の成長過程では、さまざまな設備投資が必要です。例えば、取引が大きくなると製造機械や装置の刷新・増設、人材が増えるとオフィスの拡大、さらにオフィス機能を充実化するための備品調達などです。

設備投資に要した支出は、損金(税務上の費用)に算入できますが、そのルールは複雑で次のような分岐があります。

固定資産を取得した場合の基本的な処理の流れ

また、固定資産は取得だけではなく、修理・改良や廃棄・売却をした際の取り扱いにも注意が必要です。さらに、一定の設備投資をした際は、投資額の一部について税額控除などの優遇を受けられる優遇税制もあるので、検討したいところです。

この記事では、有形固定資産を「取得、修理・改良や廃棄・売却」した場合の損金算入に関する基本的なルールと、中小企業の設備投資に係る主な優遇税制を紹介します。

2 「少額減価償却資産」は支出した年に全額を損金に算入できる

1)「少額減価償却資産」とは

「10万円までなら一括で落とせるよね?」。経営者同士でこんな会話がされることがあります。これは「少額減価償却資産」の話題です。

少額減価償却資産とは、「使用可能期間が1年未満」または「取得価額が10万円未満」のいずれかに該当する固定資産です。そして、少額減価償却資産の取得価額は、事業のために使い始めた年に全額を損金に算入できるので、「一括で消耗品費などの経費として落とせる」ということです。

この場合、固定資産として計上しないので減価償却は不要です。また、少額減価償却資産は、取得価額の全額を損金として処理しなければならず、一部だけを資産計上することはできません。

2)1事業年度で総額300万円まで使える「少額減価償却資産の特例」とは

少額減価償却資産は取得価額が10万円未満までですが、青色申告を行う中小企業者等(資本金の額などが1億円以下で一定の法人)には特例があります。少額減価償却資産の特例と呼ばれるもので、「取得価額が30万円未満」の固定資産を少額減価償却資産として処理し、事業のために使い始めた年に、全額を損金に算入できます。これにより、その事業年度の課税所得を減らすことができるのがメリットです。

少額減価償却資産の特例の限度は、1事業年度で総額300万円までです。総額ですから、30万円未満のパソコンを10台調達した場合に全額を損金の額に算入することができます。

3 取得後、数年間にわたって損金に算入する減価償却

1)通常の減価償却資産

少額減価償却資産に該当しない固定資産については、減価償却が必要です。減価償却とは、取得価額を耐用年数にわたって適正に配分(減価償却費として計上)することであり、これにより正しく期間損益計算を行うことが会計上の目的です。ただし、土地のように使用や時間の経過で価値が減少しないと考えられているものは、減価償却の対象にはなりません。

経営者から見ると、減価償却費はキャッシュアウトを伴わない費用であり、タックスプランニングを含めた損益計算において無視できない重要な制度です。前述した「少額減価償却資産の特例」を使うことで、その事業年度の法人税の支払いを抑えることができるでしょう。

では、具体的に減価償却はいつから、どれくらいの期間行うのでしょうか。

まず、減価償却は事業のために使い始めた日から計算するため、基本的には取得時に減価償却方法や耐用年数を判断しなければなりません。この耐用年数が減価償却の期間であり、税務上の耐用年数は法令で定められています。固定資産の種類・仕様・用途などさまざまな要素ごとに細かく規定されており、それぞれの固定資産の特徴を踏まえて決定します。実務上は、国税庁のホームページなどで確認し、対応する耐用年数を決定することになります。

国税庁「主な減価償却資産の耐用年数表」

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/pdf/2100_01.pdf

2)定額法と定率法の違い

主な減価償却方法には定額法、定率法、生産高比例法がありますが、生産高比例法は対象資産が限定されているため、説明を省略します。

定額法と定率法の比較は次の通りです。

定額法と定率法の比較

なお、定額法と定率法のどちらを選択した場合でも、耐用年数を通して見れば減価償却費の合計額は同じです。例として、期首に車両(500万円、耐用年数5年)を取得した場合の定額法と定率法の減価償却費の推移を紹介します。

定額法と定率法の減価償却費の推移

3)一括償却資産

一括償却資産とは、取得価額が20万円未満の減価償却資産のことで、3年間の均等償却ができます。つまり、

機械装置や工具器具備品などについて、個々の耐用年数を把握し、固定資産として計上して通常の減価償却をするのではなく、一括償却資産として計上し、3年間の均等償却をする

という選択肢があるわけです。通常の減価償却の耐用年数は3年を超えるものが多く、一括償却資産を選択すれば短期間で損金に算入できます。

4 まとめ:固定資産を取得した場合の取り扱い

ここまで、固定資産の取り扱いとして「少額減価償却資産」「少額減価償却資産の特例」「通常の減価償却資産」「一括償却資産」について説明してきました。改めてそれぞれの特徴を整理すると次のようになります。

固定資産を取得した場合の取り扱い

5 固定資産を修理・改良した際の支出は損金に算入できるか?

長年使用してきた固定資産が故障してしまった場合、修理・改良(以下「修理等」)が必要です。この場合の選択は、修理等のための支出を、

修繕費などとして損金に算入するか、新たな固定資産の取得とみなして資産計上するか

となります。固定資産として計上しなければならない修繕費を、税務上「資本的支出」と呼びます。

まとめると、固定資産の修理等のうち、「通常の維持管理または原状回復のための支出」は修繕費、「固定資産の価値や耐久性を高めたと認められる支出」は資本的支出として処理することになり、資本的支出の場合は減価償却が必要となります。

例えば、資本的支出に該当するのは、次のようなものです。

  • 建物の避難階段の取り付けなど、物理的に付加した部分に係る費用の額
  • 用途変更のための模様替えなど、改造または改装に直接要した費用の額
  • 機械の部品を特に品質または性能の高いものに取り替えた場合のその取り替えに要した費用の額のうち、通常の取り替えの場合にその取り替えに要すると認められる費用の額を超える部分の金額

ただし、これだけでは判断できないことがほとんどなので、実際は図表5で示した修繕費と資本的支出の判定フローチャートを参考にしながら検討することになります。

修繕費と資本的支出の判定フローチャート

6 固定資産を廃棄や売却したら損金に算入できるか?

長年使用して老朽化したり、新モデルが開発されて陳腐化したりした固定資産を廃棄・売却した場合、その時点における固定資産の帳簿価額と売却価額の差額を、固定資産除却(売却)損益として損金(または益金)に算入します。

このあたりは簿記の話となりますが、要するに売却価額が帳簿価額を下回れば損金、上回れば益金となります。なお、廃棄・売却の際に、運送費や廃棄手数料などの付随費用が生じたときは、その金額は固定資産除却(売却)損益に含めて処理します。

以上が基本ですが、一括償却資産の場合は異なります。

3年間の償却期間中に一括償却資産を廃棄(売却)した場合、その除却(売却)損に相当する額は損金に算入できない

というルールがあります。そのため、廃棄(売却)した年も、引き続き3年均等償却をしなければなりません。実務上は、一度、固定資産除却(売却)損を計上し、税務申告書上で調整をするという、少々面倒な手続きをすることになります。

また、廃棄せずに保有している固定資産であっても、次の場合は固定資産除却損として損金に算入できます。

  • その使用を廃止し、今後通常の方法により事業の用に供する可能性がないと認められる固定資産
  • 特定の製品の生産のために専用されていた金型等で、当該製品の生産を中止したことにより将来使用される可能性のほとんどないことがその後の状況等から見て明らかなもの

7 中小企業が設備投資で使える有利な優遇税制

ここまで、固定資産について取得、修理・改良、廃棄・売却した場合の取り扱いについて紹介してきました。いずれも中小企業が有利な選択をするための一助となる情報です。最後に紹介する優遇税制も、大切な内容ですので、ぜひ、ご確認ください。

1) 中小企業投資促進税制

中小企業投資促進税制とは、生産性の向上を目的に一定の設備投資やソフトウエアを購入した場合に、その投資額の一部を税額控除か、特別償却(通常の減価償却費のかさ増し)のいずれかを選択して適用(資本金3000万円超の中小企業については特別償却のみ)できる制度です。

中小企業投資促進税制の概要

例えば、生産性向上を目的に300万円の機械装置を購入して、税額控除を選択した場合、21万円(300万円×7%)を法人税額から控除できます(法人税額の20%限度内である場合)。

なお、購入する設備ごとに購入金額や重量などに下限が決められているため、注意が必要です。また、一部の業種(電気業、水道業、鉄道業、航空運輸業、銀行業、映画業を除く娯楽業など)は対象外とされているため、自社の業種が指定事業に含まれているか確認するようにしましょう。

この税制を受けるためには、事前の申請などは必要なく、法人税の申告の際に、確定申告書に一定の書類を添付することで適用を受けることができます。

中小企業投資促進税制を利用する際に必要な書類

2)中小企業経営強化税制

中小企業経営強化税制とは、中小企業等経営強化法の認定を受けた経営力向上計画に基づいて新たな設備投資をした場合に、税額控除か即時償却(購入時に全額を損金に算入)のいずれかを選択して適用できる制度です。

要件は4つのタイプに分かれており、それぞれに定められた要件を満たす必要があります。また、法人税の申告の際に、確定申告書に一定の書類(別表や適用額明細書)を添付することで適用を受けられます。

中小企業経営強化税制の概要

例えば、100万円のシステム投資を行って税額控除を選択した場合、10万円(100万円×10%)を法人税額から控除できます(法人税額の20%限度内である場合)。

なお、中小企業投資促進税制と同様、購入した設備ごとに購入金額の下限が決められているため、注意が必要です。また、一部の業種(電気業、水道業、鉄道業、航空運輸業、銀行業、映画業を除く娯楽業など)は、対象外とされているため、自社の業種が指定事業に含まれているか確認するようにしましょう。

この税制を受けるためには、事前に経営力向上計画を作成し、国から認定を受けなければなりません。申請準備から認定までおおよそ3カ月はかかるといわれているので、早めの相談が必要です。また、法人税の申告の際に、確定申告書に一定の書類(認定計画の申請書および認定書の写しや、別表、適用額明細書)を添付しなければなりません。

以上(2024年3月更新)

(監修 税理士法人アイ・タックス 税理士 山田誠一朗)

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画像:pixta

忘れがちな「労働者死傷病報告」

雇用している労働者が仕事中のけがで休業した場合、会社は所轄の労働基準監督署に「労働者死傷病報告」を提出しなくてはなりません。しかし、労災保険の給付申請は行っても、労働者死傷病報告の提出を忘れる中小・零細企業が少なくありません。本稿では、労働者死傷病報告について詳しくお伝えします。

この記事は、こちらからお読みいただけます。pdf

「経費」「費用」「損金」とは? 似ているけど決定的に違う意味

1 理解していますか? 「経費」で落とすことの大切な意味

「この支払いは経費で落ちる?」

経営者や社員が経理・会計担当者によく聞く内容ですが、この質問の意図は立場によって大きく違います。

社員がこの質問をするのは、「会社のお金で経費を精算できるか」、つまり自腹を切らずに済むかを確かめたいからでしょう。一方、経営者の場合は、社員と同じように経費精算できるかを聞く意味合いもありますが、それ以上に「1円でも多くのお金を設備投資や人材採用に使いたい」という思いがあります。

では、なぜ支払いが経費で落ちると事業のために使える資金が増えるのでしょう?

経費で落ちるということは、会社のお金で支払うということですから、逆に事業で使えるお金は減りそうなものです。

このカラクリは会計制度の違いからきていて、経営者は「税務会計」を意識して質問をしています。

一体、どういうことなのか。詳しく見ていきましょう。

2 中小企業の会計は税務会計が基準

会計には「財務会計」「税務会計」「管理会計」の3つがあり、目的や作成される書類などが違います。

3つの会計の比較表

3つの会計の関係性を示すと、次のようになります。

3つの会計の目的や関係(イメージ図)

一般的な中小企業には、上場会社のように財務諸表を広く外部に公表する義務がありません。一方、納税の義務は会社の規模に関係なく生じます。そのため、

中小企業の会計は税務会計が中心になる

ことになります。

なお、管理会計は社内の意思決定のために行うものなので、実施するか否かは任意ですし、納税額の計算にも直接的な影響はありません。

会計の種類とそれぞれの役割がお分かりいただけたと思います。ここからは、財務会計と税務会計という、2つの制度会計を中心に説明していきます。

3 「経費」「費用」「損金」の正しい定義とは?

早速、財務会計と税務会計でもうけを計算する仕組みを確認してみましょう。

財務会計と税務会計で儲けを計算する仕組み

財務会計では「利益」「収益」「費用」、税務会計では「所得」「益金」「損金」の関係になります。これは言葉の違いだけではありません。多くの項目はほぼ同じ取り扱いではあるものの、一部、取り扱いが違うものがあり、それこそが「税務調整」の対象となります。

具体的には、税務計算では財務会計上の収益・費用に一定の調整(税務調整)を加えて、益金・損金とし、所得を計算する流れになります。

このあたりの詳細は、以下の記事で紹介しているので、ご確認ください。

ところで、皆さんは疑問に感じませんか?

財務会計にも税務会計にも「経費」という言葉が出てきません。実は、

経費とは、財務会計上の費用の一部を指す会計用語

なので、先のもうけの計算では登場しなかったのです。ただし、個人の場合は所得税法上の用語として経費という言葉が使われます。確定申告をしたことがある方にはなじみが深いでしょう。

経費と費用と損金の関係を示すと、次のようになります。

経費と費用と損金の関係(イメージ図)

まとめると、次のようになります。

「経費」「費用」「損金」の違い
経費とは、一般的に財務会計上の費用の一部を指す会計用語で、費用のうち販売や管理目的で支払われる支出を指すことが多い。

費用とは、財務会計上の利益を計算する上で、マイナス項目となる支出のこと。

損金とは、税務会計上の所得を計算する上で、マイナス項目となる支出のこと。

ここで冒頭の質問に戻ります。経営者は税務会計を意識して、「この支払いは経費で落ちる?」と聞いているわけですが、その真意は次の通りです。

税務会計を意識した経営者の意図
経費が増えると費用が大きくなる。その中で損金に算入できるものがあれば、税務会計上の損金も大きくなって所得が小さくなり、税金負担が軽減される。その分、会社により多くのお金が残るので事業に使える。

法人税は、前述した「所得」に税率を乗じて計算するので、所得が小さければ税額は減少するのです。ただし、経費が増えれば「必ず」税負担が減少するわけではなく、損金になるものは限られています。

次章で、損金に算入できるか否かの判断に迷いやすい代表的な費用として、福利厚生費、交際費、備品などの購入費、減価償却を取り上げます。

4 福利厚生費、交際費、備品などの購入費、減価償却の損金算入

1)福利厚生費

福利厚生費とは、社内のコミュニケーションの円滑化や社員のモチベーション向上のために行われるイベント開催費や物品購入費などです。

基本的に、福利厚生費は全額を損金に算入できます。ただし、支出の目的が曖昧だったり、金額が一般的に見て高額すぎたりする場合、福利厚生費とは認められず、損金に算入できません。福利厚生費の詳細は、次の記事を参照ください。

2)交際費

交際費とは、取引先など社外の人との飲食費や、贈り物をした場合の物品購入代などです。

交際費は、原則として損金に算入できません。ただし、飲食費については、参加者1人当たりの代金が1万円以下(2024年3月31日以前のものは5000円以下)であれば、交際費ではなく、会議費などとして損金に算入できます。

また、資本金が1億円以下である中小企業の場合、社外の人との飲食費の50%までの金額(飲食費の金額を問わない。社内飲食費は除く)、もしくは飲食費に限らず年間800万円までの交際費のどちらか一方を選択し、損金に算入できる特例があります。交際費と会議費の詳細は、次の記事を参照ください。

3)備品などの購入費

備品などの購入費は、金額の大小や、どのくらいの期間使い続けられるものかなどによって考え方が変わってきます。

例えば、使用可能期間が1年未満、または取得価額が10万円未満のものであれば、消耗品費として、全額をその物品を使い始めた日に損金に算入できます。この他にもさまざまなルールがあるので、備品などの購入費の詳細については、次の記事を参照ください。

4)減価償却

減価償却とは、資産計上される備品など(以下「固定資産」)の損金処理の方法です。

会社の成長・発展のためには設備投資が欠かせず、数千万や数億円を使うこともあります。このように高額な固定資産については、使用の実態に合わせて、少しずつ損金処理していくルールがあり、それが減価償却です。

固定資産の減価償却は、種類・仕様・用途など、さまざまな要素ごとに細かく減価償却方法や償却期間(耐用年数)が決まっていて、その通りに計算しなければなりません。

ややこしいのは、財務会計では認められるが、税務会計では認められない方法などがあるため、税務会計の限度額を超えて減価償却費を計上してしまうことがあります。しかし、税務会計の限度額を超えた部分については損金に算入できないので注意が必要です。減価償却の詳細については、次の記事を参照ください(備品などの購入費のところで紹介しているのと同じ記事です)。

5 「経費・費用」と「損金」と経営者に必要な視点

いかがでしたか。普段何気なく使っている「経費」「費用」「損金」という言葉には、明確な違いがあることをお分かりいただけたと思います。

そして、「この支払いは経費で落ちる?」という質問には、単に会社から経費分のお金が戻ってくるということだけではなく、「それが損金に算入できたら税務会計上の所得が減り、税負担の減少につながる」という意味もありました。

一方、税負担を減らすという点だけに重きを置きすぎることは危険です。確かに損金に算入できれば税負担は減少します。しかし、そもそも備品などを購入するために支払った費用が会社に戻ってくるわけではないので、当たり前のことですが、会社の成長に効果のないお金の使い方、つまり無駄遣いはしてはいけません。

事業に必要な費用は使わなければなりませんが、何が必要で、何が不要なのかを判断するのは経営者です。しかも、その基準は会社の経営ステージによって変わります。経営者の計数感覚が試されるところです。

以上(2024年3月更新)

(監修 辻・本郷税理士法人 税理士 安積健)

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画像:Wizatnicko-Adobe Stock

家康がくれた宝「プラモデル産業」を未来へつなげ! ~「聖地巡礼」事業のススメ 後編

1 「聖地巡礼」事業のキホン

まずは、前編で押さえた「聖地巡礼」事業の大切な3つのポイントをおさらいしてみましょう。具体的には以下の3つです。

1.好きになることからはじめよう

自らが作品やキャラクターのファンになり、ファンが本当に求めているサービスなどを理解する

2.地域も人も巻き込もう

行政や中小企業が志を共有し、協力する。業界や分野を問わず、さまざまな分野を巻き込んで街全体で取り組みをはじめる

3.長期的に付き合ってゆく覚悟を持とう

実質的な効果が出始めるまでは時間がかかる場合が多いので、一度始めたら長期的なスパンでイベントを続ける

前編では【キャラクターと共に育ってゆく】【地域全体で協力する】をキーワードに、「福島県飯坂温泉×温泉むすめ」の事例を紹介しました。後編では、【地元の産業を活かす】【伝統をつないでゆく】をキーワードに、静岡県静岡市がはじめた斬新な「静岡市プラモデル化計画」の事例を紹介します。

※この記事は後編です。前編は下リンクからどうぞ!

2 【静岡市×プラモデル】“聖地”で歴史と技術をつなぐ

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早速「静岡市プラモデル化計画」の成功の秘訣をひもといていきましょう。プラモデルのアツいファンと静岡市がどのように結びついてきたのかがポイントです。

1)「ホビーの聖地」静岡市

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静岡市内には一風変わったモニュメントがたくさんあります。「プラモニュメント」と名付けられたもので、その名の通りプラモデルを模したモニュメントです。中には公衆電話や郵便ポストと一体化しているなど、実用性を兼ねて設置されているものもあります。

静岡市経済局 産業振興課 プラモデル振興係の石川 直哉(いしかわ なおや)氏によると、2024年7月現在、静岡市にあるプラモニュメントは全部で12基。2年後の2026年度までに、30基の設置を目指しているそうで

す。このプラモニュメントは地元の産業とのコラボレーション。実は、

日本全国のプラモデル製造品出荷額の8割以上を静岡市が占めている

のです。タミヤ(株式会社タミヤ)、アオシマ(青島文化教材社)、バンダイホビーセンター(株式会社BANDAI SPIRITS ホビー事業部)、ハセガワ(株式会社ハセガワ)など、プラモデルで有名な企業は、そのほとんどが静岡市に拠点を置いています。

では、なぜ静岡市にこんなにもプラモデルメーカーが集まっているのか?――その答えは、歴史の中にありました。

2)家康からつないできたプラモデルの歴史

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上図の通り、静岡市のプラモデル産業は江戸時代から受け継がれる流れであり、職人が懸命に積み上げてきた地域技術の結晶です。しかし、これから先もプラモデル産業を盛り上げてゆくためには、次のような大きな課題がありました。

  • 静岡市と言えばプラモデル、というイメージが浸透していないこと
  • 製造者もファンも年齢層が上がってきていること

かくして、「本来のファン層以外にプラモデルのことを知ってもらい産業自体の認知度を上げること」、そして「地元の次世代を担う若者たちにプラモデルに興味を持ってもらうこと」を目的に、視覚的に訴えかけるプラモニュメントの制作と設置がはじまりました。

何よりこのプロジェクトの“キモ”は、

地元の自治体と企業がしっかりと手を組み、協力している

ことです。次のパートでは、静岡市のプラモデル企業や他業種の地元企業がこのプロジェクトにどう関わっているのか、そして企業同士の連携などについて紹介します。

3)未来のために連携する企業たち

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はじめに、プラモニュメントについて。元来のプラモデルファンが「聖地」を訪れたときに満足できるよう、プラモニュメントはたとえ裏側であっても決して手は抜かずに、ファンをして「細かすぎる!」と言わしめるほど細部にまでこだわっています。

実際のプラモデルについているパーツを忠実に再現し、目にした瞬間にワクワクするようなデザインにすることで、ファンの心を魅了するのはもちろん、広告電通賞最高賞(2023年、自治体が受賞するのは全国初)やJAA広告賞(2023年 屋外・交通広告部門)など、多くの場で評価されています。

これは地元のプラモデルメーカーの全面的な協力と監修あってのこと。

自治体と地元企業が協力し、本気で「聖地巡礼」事業に取り組んでいることが良く分かります。

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次に、他業種との連携について。静岡市に本店を構える静清信用金庫では、設置するプラモニュメントの製造を静岡市内の製造業者に依頼することで、地域経済の活発化にも貢献しています。

静岡市主催の地域創生プロジェクトに、静岡市に本社を置く信用金庫が参加し、静岡市内のメーカーに制作を依頼し、静岡市内の企業が監修する――「静岡市プラモデル化計画」は、街中に次々と登場するプラモニュメントを通して、「聖地巡礼」事業にとっての理想の姿を実現しているように見えます。

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また、特筆すべきは、このプロジェクトは単なるモニュメント設置だけのために存在しているのではないということ。静岡市のもう一つの目的として挙げられるインナーブランディング――技術を承継する人材の育成についても、地元企業は大々的に協力しています。

同プロジェクトではプラモデルメーカーが行う地元小学校への出張授業や、静岡市で開かれる日本有数のホビーショーへの地元小中高生の特別招待なども、官民一体となって取り組まれています。静岡市の子どもや若者がプラモデルに興味を持つこと、やがてその中からプラモデルに関わる人材を輩出することを目指して、プラモデルメーカーが精力的にプロジェクトに参加しています。

静岡市の取り組みは「フォトジェニック」な対外的なプロジェクトのように思われがちですが、新規の観光客をはじめ、外部だけに地域の魅力をアピールしているわけではありません。内部(地元)へ向けてのアプローチも大きな目的であり、地元が誇る産業を引き継いでゆく人材を育てることを目標としているのです。

将来的にはプラモデルが静岡市民の生活に浸透し、静岡市の誇るべき産業が循環して永続的に続き、静岡市が百年先も「世界一のプラモデルの街」であり続けるように……

今日も静岡市と地元企業は、地元の未来のために奮闘しています。

3 「三方よし」のプロジェクトを目指す

ここまで紹介してきたものの他にも、埼玉県久喜市(「らき☆すた」)、茨城県大洗町(「ガールズ&パンツァー」)、静岡県沼津市(「ラブライブ! サンシャイン!!」)など、「聖地巡礼」事業で地域創生に成功した例はたくさんあります。

また、アニメツーリズム協会専務理事の鈴木 則道(すずき のりみち)氏によると、昨今は作品の制作段階から、アニメの舞台となる地域と手を組みプロジェクトを推進してゆくケースも多いとのこと。作品の制作側にとっても、作品の聖地で定期的にイベントを開催することでファンの心を捉え続け、作品の人気が持続することはメリットといえます。

「三方よし」は多くの事業にとっての理想の姿ですが、それを実現するのはなかなか困難を極めるもの。しかし「聖地巡礼」事業は、

地域(自治体や地元企業など)とファンと作品制作側、全員が満足できる可能性を秘めた取り組み

なのです。

自治体と地元の中小企業が手を組み本気で向き合えば、「聖地巡礼」事業は、経済効果が見込めるほか、地元住民同士がコミュニケーションを取るきっかけになる、次世代の産業の担い手を育成することにもつながるといった、大きなチャンスにもなり得ます。自分たちの地元のために何ができるのか、検討してみる価値は十二分にあるでしょう。

以上(2024年7月作成)

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画像:静岡市

「温泉むすめ」と一緒に地域創生! ~「聖地巡礼」事業のススメ 前編

1 「聖地巡礼」事業で地域創生!

この記事内でいう【「聖地巡礼」事業】とは、「熱烈なファン(オタク)が居るコンテンツやジャンルを資源として、地域の企業が協力して取り組むさまざまな事業」を指します。「聖地巡礼」事業は地域創生の可能性を広げる取り組みであり、各地に成功例があります。そこで、この記事では前編と後編に分けて、「聖地巡礼」事業の成功ポイントと、「聖地巡礼」事業の“お手本”といえる成功事例を紹介します。

昨今、多くのメディアで取り上げられている「聖地巡礼」。もともとは「宗教上の聖地・霊場などを参拝して回ること(小学館 デジタル大辞林より)」を指しますが、いまどきは、

小説・映画・アニメなどの作品の舞台となった場所をファンが訪ねること

を意味します。地元の人からしてみれば「なんでもない」場所に、よそから来た若者が集まって写真を撮っている? という感じでしょう。

常にファンが集まる「聖地」は全国各地に存在しており、インバウンドの増加も、その盛り上がりを後押ししています。

では、「聖地巡礼」は地域にどのようなメリットをもたらすのでしょうか。訪れたファンが地域の飲食店や宿泊施設を利用することで、地域全体の経済活動が活発になります。聖地巡礼をビジネスとして捉えて取り組むことを「聖地巡礼」事業とすれば、地域創生を目指す地域にとって「聖地巡礼」事業は地域活性化のトリガーになり得ます。しかし、「聖地巡礼」事業はもろ刃の剣。中途半端に手を出すと逆にファンの信用を失ってしまったり、せっかく作ったマスコットキャラクターにファンがつかなかったり……。ノウハウ不足のままはじめると、予想以上に事業が「スベって」しまうことも多いものです。

この問題に、どのように向き合えばよいのか。早速、確認していきましょう。

2 「作品のファン」から「地域のファン」へ

まず「聖地巡礼」事業の真の目的は、

「作品のファン」が「地元のファン」へと進化を遂げること

です。ファンに地元の良いところをアピールし、何度も訪れてもらい、地元全体が活き活きとすることで、

  • 作品やキャラクター、コンテンツを抜きにしても、永続的に遊びに来てもらえる
  • 地元出身の若い人材が、都市部ではなく地元で生きていくようになる
  • 新しい人材(ファン)が地元企業に就職あるいは定住する

などの効果が表れれば地域創生に成功したといえます。この点を踏まえると、「聖地巡礼」事業をはじめるにあたって押さえておきたいのは

  • 好きになることからはじめよう
  • 地域も人も巻き込もう
  • 長期的に付き合ってゆく覚悟を持とう

という3つのポイントです。

1)好きになることからはじめよう

大前提として、熱烈なファンの気持ちは熱烈なファンにしか理解できません。つまり、聖地巡礼に訪れた人を満足させるサービスを創り出すためには、

自分がその作品やキャラクターなどを好きになり、理解することが不可欠

ということです。

特にキャラクターを使用した地域創生については、

ファンは想像している以上に、サービスの“浅さ”を見抜いてしまう

ものです。

例えば、ただイラストを貼り付けただけのグッズではファンの心は動かせません。【キャラクターの性格や好みを反映する】【地元との共通点を押し出す】【デザイン細部までこだわる】など、「作品を理解しているからこそ」の遊び心を入れ込むことで、ファンははじめて大きな喜びを感じ、グッズを手に取るに至ります。

2)地域も人も巻き込もう

アニメを通した地域振興・インバウンド促進を目的に活動するアニメツーリズム協会専務理事の鈴木 則道(すずき のりみち)氏によると、「聖地巡礼」事業を成功させた地域には、自治体や地元の企業が手を組み、地域ぐるみで事業に取り組んでいるところが多いそうです。

まずは地元の自治体や中小企業がしっかりと志を共有し、協力することが大切

なのです。

例えば、地元製造業では伝統工芸品や名物を用いたグッズ、飲食店・宿泊施設では登場人物をイメージしたコラボメニュー・コラボプランの販売、交通ではオリジナル・アナウンスの放送など、色々な分野のサービスを「聖地巡礼」事業に巻き込むことが考えられます。

自治体や周りの企業・店舗に声がけし、地域一帯で取り組みをはじめてみる

ことで地域の一体感も増して、地方の喫緊の課題でもあるコミュニケーション・ロスの解消にもつながるでしょう。

3)長期的に付き合ってゆく覚悟を持とう

3つ目のポイントは、

一度はじめたら長期的に、もしかしたら何十年も事業と付き合ってゆく覚悟を持つこと

です。

イベントなどを開催して得られる経済効果は大切ですが、スタートから定期的に開催しないと、ファンはだんだんとコンテンツのことを忘れていってしまいます。

「聖地巡礼」事業は一朝一夕とはいきません。長期にわたるプロジェクトであることを認識し、責任と覚悟を持って取り組まなければなりません。

以上3つのポイントを見てみると、「思った以上に大変そう」と気後れしてしまうかもしれません。しかし、「聖地巡礼」事業をきっかけに、確かに地域復興に成功している地域もあります。前編では、地域全体で協力することで「聖地巡礼」事業が成功し根付いた「福島県 飯坂温泉×温泉むすめ」の例を挙げ、【キャラクターと共に育ってゆく】【地域全体で協力する】をキーワードに、その効果や成功の秘訣について詳しく紹介していきます。

3 【福島県 飯坂温泉×温泉むすめ】 地元愛で育ててゆく

1)地域創生のために生まれた“むすめ”たち

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「温泉むすめ」は、全国各地の温泉地をキャラクター化(擬人化)し、声優やキャラクターを通じて、Z世代に温泉地の魅力をPRする国内で唯一の地域活性化プロジェクト。

2016年に産声をあげた「温泉むすめ」たちの活動は、今年度でなんと8年目! 観光業界に大きなダメージを与えたコロナ禍も乗り越え、彼女たちは今なお多くのファンを魅了し続けています。

2010年代に一世を風靡した「艦隊これくしょん-艦これ-」や「刀剣乱舞ONLINE」(両者共にDMM GAMES)などと同じ、いわゆる「擬人化モノ」のコンテンツではあるのですが、それらと大きく違うのは、彼女たちが最初から“地域創生のために”生まれてきたという点です。

日本各地の温泉地から生まれ、温泉地をPRするために活動している彼女たちが実際にもたらした経済効果は、なんと累計で100億円になります。

キャラクターに惹かれたファンが実際の温泉地まで足を伸ばして、彼女たちに「会いにゆく」――「温泉むすめ」は、一種の「推し活」と地域活性化を組み合わせた、唯一無二の「聖地巡礼」事業です。

加えて特徴的かつとても大事なのは、

彼女たちは温泉地の人々に、地域の看板娘=地域の皆さんの実の娘のようにかわいがられ、愛されている

こと。

そしてその「愛」としか名前を付けることができない、「温泉むすめ」たちに関わる人が共有するユニークな感情にこそ、「温泉むすめ」たちが地域活性化に貢献した理由が隠されていたのです。

2)「真尋ちゃん」という地域の“むすめ”

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例えば、福島県・飯坂温泉の温泉むすめ「飯坂真尋(いいざか まひろ)」。地域の祭りである「けんか祭り」からイメージされる勇ましい性格で、大好物は飯坂温泉名物の飯坂ラーメンやラジウム玉子……と、飯坂温泉ならではのモチーフをちりばめた設定は、本当に地元に生まれ、生きている女の子のよう。飯坂温泉の人々からは、「真尋ちゃん」と呼ばれ、実の娘のように親しまれています。

しかし、なぜ「真尋ちゃん」は、飯坂温泉の人々からこんなにも愛されているのでしょうか?

――それは、

彼女が普通の女の子と同じように、“地元と共に育ってきたから”

に他なりません。

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例えば、街中に設置されている真尋ちゃんパネルのイラストを見てみましょう。酒屋さんには地酒を持った姿、お茶屋さんでは茶摘み娘の姿……と、真尋ちゃんは飯坂温泉のあちこちで、地域のPR活動に奔走しています。

実は、基本のビジュアル以外はどの真尋ちゃんも、地域の魅力を誰よりも分かっている飯坂温泉の人々が「どんな真尋ちゃんを見せたいか」を考え、話し合ってプロジェクト側に制作を依頼したもの。

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飯坂温泉の人々は1カ月~2カ月に1度、老若男女問わず集まって「飯坂真尋ちゃんプロジェクト会議」を開き、地域の看板娘である真尋ちゃんの活動について、アツく意見をぶつけ合っています。

かつて飯坂温泉は、福島県外での知名度の低さに悩んでいました。飯坂温泉はヤマトタケル伝説にも登場するほど歴史が深く、正岡子規や与謝野晶子をはじめとした文豪たちやヘレン・ケラーなど、国内外問わず多くの人に愛された名湯ですが、福島県外での知名度は下がるばかり。飯坂温泉の人々は「このままでは将来、観光客がいなくなってしまうのではないか?」という懸念も持っていました。

そんな中、飯坂温泉を訪れたファンから教えてもらって「温泉むすめ」の活動を知り、飯坂温泉観光協会や地域を巻き込みながらはじまったのが「飯坂真尋ちゃんプロジェクト」。観光協会や温泉宿をはじめとして、飲食店や企業が協力し、今では地元の大学も巻き込んで年代や業種問わず、地域全体で「聖地巡礼」事業に取り組んでいます。

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真尋ちゃんについて真剣に考え、皆で話し合い、共に育ち、生きてゆく。その結果、真尋ちゃんの息づかいが感じられる飯坂温泉は、温泉むすめファンにとってまさに「聖地」と呼ぶべき場所になりました。

彼女が主役のイベントを開催すれば800名近くのファンが集まり、飯坂温泉の温泉宿や飲食店が大いににぎわいます。また、「真尋ちゃん音頭」を作るクラウドファンディングは開始から4時間半で目標金額を達成し、支援総額は約360万円にものぼりました。

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真尋ちゃんの私室を模した部屋を提供する温泉旅館もあり、スマートフォンで使える街案内アプリでは、3Dの真尋ちゃんが実際に飯坂温泉を案内してくれます。真尋ちゃんは紛れもなく、飯坂温泉で「生きて」いるのです。

飯坂温泉の人々は、その言葉の通り、真尋ちゃんを温泉地の一員として迎え入れ、実の娘のように育て、そして彼女の家族のように、共に育ってきました。

3)キャラクターとも地域とも、「一緒に生きてゆく」

温泉むすめの生みの親である橋本竜(はしもと りょう:株式会社エンバウンド代表取締役)氏によると、温泉むすめによる地域創生の効果は外部からの観光客の増加だけにとどまらないそうです。地域の人々がキャラクターを全世代共通の話題として持ち、皆で地域創生に取り組むことで、世代などを超え、コミュニケーションを取っていく良い効果も生まれています。大切なのは、

キャラクターを「利用する」のではなく、キャラクターと「共に生きてゆく」

こと。飯坂温泉と真尋ちゃんの関係を見ていると、真尋ちゃんへの愛とリスペクトこそが「聖地巡礼」事業の成功へとつながっていくことが、良く分かります。

後編では、【地元の産業を活かす】【伝統をつないでゆく】をキーワードに、静岡県静岡市がはじめた斬新な「聖地巡礼」事業のプロジェクト「静岡市プラモデル化計画」を紹介します。

以上(2024年7月作成)

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画像:飯坂温泉 吉川屋