厚生労働省は、年収が一定額を超えると手取りが減ることから、パートタイム労働者等が就労調整をする事例がみられる、いわゆる「年収の壁問題」の支援強化パッケージを発表し、「106万円の壁」「130万円の壁」への当面の対応策を示しました。
年金制度の改正が予定される令和7年度までの措置として、令和5年10月から実施していくとのことです。
本稿では、厚生労働省から公表された「年収の壁・支援強化パッケージ」について、説明いたします。
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厚生労働省は、年収が一定額を超えると手取りが減ることから、パートタイム労働者等が就労調整をする事例がみられる、いわゆる「年収の壁問題」の支援強化パッケージを発表し、「106万円の壁」「130万円の壁」への当面の対応策を示しました。
年金制度の改正が予定される令和7年度までの措置として、令和5年10月から実施していくとのことです。
本稿では、厚生労働省から公表された「年収の壁・支援強化パッケージ」について、説明いたします。
厚生労働省は、年収が一定額を超えると手取りが減ることから、パートタイム労働者等が就労調整をする事例がみられる、いわゆる「年収の壁問題」の支援強化パッケージを発表し、「106万円の壁」「130万円の壁」への当面の対応策を示しました。
年金制度の改正が予定される令和7年度までの措置として、令和5年10月から実施していくとのことです。
本稿では、厚生労働省から公表された「年収の壁・支援強化パッケージ」について、説明いたします。
厚生労働省が実施した「令和3年パートタイム・有期雇用労働者総合実態調査」によると、会社員などの配偶者で扶養されていて保険料の負担がない「第3号被保険者(社会保険上の被扶養配偶者)」のうちおよそ4割が就労していることが明らかになっています。

(厚生労働省「令和3年パートタイム・有期雇用労働者総合実態調査」)
上記のように、一定以上の収入増となった場合、新たに発生する社会保険料の負担や収入要件が定められている配偶者手当等が無支給となるなど、手取り収入が減少することを恐れ、就業調整をしている方が存在します。
これにより、本人の働く意欲が阻害され、さらには企業にとっても貴重な労働戦力を有効活用できないジレンマが常態化していました。
厚生労働省は、「年収の壁・支援強化パッケージ」の中で、大きく分けて3つの対応を行うとしております。

(厚生労働省「年収の壁・支援強化パッケージ」)
厚生労働省が発表した具体的な施策の概要は、次の通りとなります。
同省は、この「年収の壁・支援強化パッケージ」の各対応策について、今後所要の手続きを経た上で、関係者と連携し、着実に進めていくこととしています。企業は、このパッケージの趣旨や制度内容を良く理解し、適切に活用していきましょう。
※本内容は2023年10月6日時点での内容です
(監修 社会保険労務士法人 中企団総研)
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皆さん、社内外や対面・非対面を問わず、会議で次のような経験をしたことはありませんか?
会議が、このような「うんざり」なものになってしまうかどうか、鍵を握るのがファシリテーターです。ファシリテーターとは、
会議のメンバーや議長をサポートし、全員が意見を出しやすいよう、環境を整え、論点を整理し、全員が納得するかたちで結論に導く役割を担う人
です。
一朝一夕に「できる」ファシリテーターになれるわけではありませんが、この記事では、成果を生み出す会議にするために、ファシリテーターとして押さえておくべき3つの手順について解説します。
プロセス・デザインとは、会議に先立ち、会議の効率を上げるために行う準備です。必要なのは、主に次の4つのポイントを明らかにしておくことです。
「何のために会議を行うか」を明確にします。会議の目的が曖昧だと、議論は的外れでまとまりのないものとなります。事前に目的を確認し、会議の方向性を決めましょう。会議の目的をその都度確認することで、月例会議(月ごとに行われる部内会議)のような定型業務でも形骸化しにくくなります。
「会議によってどのようなアウトプットを目指すか」を明確にします。例えば、営業部が行う会議で方向性が「営業部の売り上げを伸ばす」ならば、アウトプットはこれを具体的にした「3カ月以内に、営業部の売り上げを前年度比105%とする」とします。
アウトプットの具体的なイメージを共有することにより、メンバーは、より具体的なアイデアを出しやすくなります。
「どのようなルールに基づいて会議を行うか」を明確にします。ファシリテーションではメンバーの自主性を尊重しますが、ともすればメンバーが自由に発言をし過ぎて会議が混乱することもあります。そこで、「発言は最後まで聞く」「部署や肩書の違いにとらわれない」「会議時間は60分までとする」などのおおまかなルールを決定しておきます。
このルールは、メンバーがいつでも確認できるようにしておくとより効果的です。
「メンバーがどのような役割を担うか」を明確にします。例えば、
など、メンバーの特性を活かした役割をある程度決定しておくことで、会議を円滑に進めることができます。
プロセス・マネジメントとは会議のかじ取りのことで、「発散のプロセス」「収束のプロセス」の2つから成り立ちます。
ここでは、発散のプロセスについて紹介します。
ファシリテーターはメンバーの発言をしっかりと聞き、発言の一部やキーワードを繰り返したり、メンバーの発言を自分の言葉でまとめて相手に伝えたりします。メンバーはファシリテーターが自分の発言を復唱することで、「自分の意見がちゃんと伝わっている」という安心感を持ちます。
ただし、ファシリテーターは中立性を保たなくてはならないため、「今までで一番素晴らしい発言ですね」といった、中立性を欠くような言い方は避けましょう。
メンバーからさまざまな発言が出てきたら、今度はそれらに対して質問を行い、発言の本質を探ります。このときの質問には、「オープン・クエスチョン」「クローズド・クエスチョン」の2つの種類があります。
自由に答えられる質問です。「売り上げ減少の原因は何だと思いますか?」などの質問がオープン・クエスチョンに当たります。オープン・クエスチョンは答えを限定しないため、メンバーの自由な発想を膨らませる上で役立ちます。
「はい」「いいえ」のいずれかで答えられる質問です。「売り上げ減少の原因は、自社の営業力の低下だと思いますか?」などの質問がクローズド・クエスチョンに当たります。クローズド・クエスチョンは答えを限定するため、メンバーの発言を細かい点まで絞り込む上で役立ちます。
ファシリテーターは基本的には意見を言わない「黒子」ですが、時としてメンバーの発言を喚起して会議をより活性化させるために発言することもあります。例えば、発言が途絶えて会議全体が停滞した場合、メンバーの発言を促すために、ファシリテーターが自分の意見に基づいてメンバーに問いかけるケースが考えられます。その際、メンバーの発言を否定するのではなく、メンバーの発言を十分に受け入れた上で問いかけをします。
メンバーによる言葉以外のメッセージを読み取ることも重要です。例えば、感情的になったメンバーは、イライラとした表情となり、発言の際は声のトーンが高くなります。このような場合、ファシリテーターは、感情的になったメンバーと視線を合わせ、発言に対してはっきりとうなずき、そのメンバーのことを理解しようとしていることを伝えます。
言葉以外のメッセージは、言葉以上にメンバーの本音を伝えるものです。ファシリテーターは、言葉と言葉以外のメッセージの両方を十分に理解するように努めましょう。
発散された発言をまとめ、絞り込む上で重要なのは論理性です。論理とは、話が「どこから」「どこを通って」「どこに着くのか」を明確にすることです。メンバーの論理の偏りや飛躍を取り除くことで、全体の認識が統一されます。その際に重要なのは、相手を否定しないことです。相手の主張に対して、冷静に質問の形式で、相手に自分で答えを探させることが重要です。
メンバーから出た発言は、ファシリテーターがホワイトボードなどに逐次記録していきます。これをファシリテーション・グラフィックといいます。
ファシリテーション・グラフィックは、会議の流れを視覚化し、発言したメンバーの意図をグループ全体に分かりやすく認識してもらうための重要なツールです。ですが、メンバーの発言を一言一句漏らさず記録する必要はありません。発言を要約したり、キーワードを抽出して短くまとめたりすることで、会議の全体的な流れを書くことが重要です。
発言のポイントを漏れや重複がないように整理するために、問題の原因などをツリー状に並べて整理する方法です。ロジックツリーでは、下位の項目は上位の項目をさらに細かく分析したものとなっています。営業部門の売り上げ減少を例にしたロジックツリーは次の通りです。

メンバーの発言から得られた情報をこのように並べると、現状の問題および目標がよく分かります。
この会議では、メンバーの発言を分析した結果、売り上げ減少の原因は、「『個々の営業社員が提供するサービスの質の低下』による『自社の営業力低下』」であることが分かりました。従って、目標は「営業社員の販売スキルアップ」とします。
ファシリテーターは、この目標に対して、再度発散のプロセスを用いてメンバーから解決策についての発言を募ります。ただし、最初の発散のプロセスとは異なり、今回はより直接的な目標が定まっているため、より具体的かつ内容が絞り込まれた発言が期待できます。
ここまでで、「営業社員の販売スキルアップ」という目標が設定され、その解決策についての発言が集まりました。次は、「これらの発言を基に、どのような解決策を決定するか」という意思決定を行います。
意思決定には幾つかの方法がありますが、ここでは多重投票を活用します。多重投票が多数決と異なるのは、メンバー1人が1票ではなく、多数の票を持っている点です。多数集まった発言について、メンバー各自は良いと思う案全てに投票します。多重投票を何度か繰り返し、獲得票が少ない案を外していくと、最終的に1つの案が残ります。この案についてグループで議論し、最終的な意思決定を行います。
コンセンサスによる意思決定で重要なのは、次に挙げる点です。
多くの会議では、コンフリクト(対立・衝突)が発生します。このコンフリクトを協調的に解消することをコンフリクト・マネジメントといいます。
例えば、多重投票の結果、Aさんが発言した「営業社員は、毎週2時間は新商品の勉強会のために時間を割く」という解決策が最後まで残ったとします。しかし、Bさんからは、「現場にはそんな余裕はない。時間を割けるのは30分が限界」という発言があり、コンフリクトが発生しました。
コンフリクトが発生した場合、ファシリテーターは、まずメンバーに互いの意見を説明してもらい、双方で正確に理解しているかどうかを確認します。例えば、ここで「本当は同じ意見であるにもかかわらず、どちらかのメンバーが相手の意見を誤って解釈していた」ということが分かれば、コンフリクトはすぐに解消されます。
一方で、互いの意見が異なることが分かった場合は、「どのようにして自分が異なる意見を持つに至ったか」について双方に説明してもらいます。さらに、「自分が相手の立場であったらどう考えるか」についても質問します。
このプロセスでは、コンフリクトにあるメンバー同士に、それぞれ相手の判断基準に基づいて考えてもらうことで、相手の判断基準を受け入れ、理解することができるようになります。ファシリテーターはこの相互理解の橋渡しを行うのです。
ファシリテーターによるコンフリクト・マネジメントにより、前述のAさんとBさんとで相互理解することができ、「各営業所で、異なる商品について週に30分の新商品知識勉強会を開催する。そして、その結果を部内で回覧し、メンバーは空いている時間に他の営業所の資料に目を通し、商品知識の獲得に努める」という解決策が新たに生まれました。このように、メンバー同士、そして全体にとってプラスの状態をつくり出すことこそが、ファシリテーションの最終的な目標です。ここで重要なのは、コンフリクトは解消しなくてはならないが、意見の違いは解消しなくてもよいということです。
違いを違いとして受け入れ、そこからさらにプラスを取り出すことが、コンフリクトの協調的な解決方法です。
また、ファシリテーションでは会議の終了後にも重要なプロセスがあります。それは、メンバーに、会議についての気付きを促すことです。会議を通して、メンバーは今までにない本音の意見を発言し、協力して1つの解決策をまとめ上げました。その中でメンバーが、次の点をしっかりと認識することで、ファシリテーションの効果はさらに高まります。
ファシリテーションを通じて各メンバーが、「自分はどのように自主性を発揮できたか、できなかったか。また、これからどのように発揮するか」ということに気付き、考えることが、さらにメンバーの自主性を育成することにつながります。ファシリテーターは、会議を振り返りながら、これらについてメンバーに問いかけます。
そして、ファシリテーター自身にも、フィードバックが必要です。ファシリテーションについて、メンバーから意見をもらうことは、自身の成長にとって非常に重要です。
メンバーからの意見はファシリテーターのファシリテーションスキルを高め、そしてそのファシリテーションスキルが、さらに次のメンバーを育てることにもつながります。
以上(2023年11月更新)
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IT会社(いわゆる「SIer(エスアイアー)」)が、要件定義や開発の一部を下請け業者に委託する際、下請け業者の社員に自社の名刺を持たせているケースも見受けられます。しかし、これには問題があります。具体的には、
下請け業者の社員が起こしたトラブルの責任を負うことになったり、偽装請負とみなされたりする
ことがあるのです。自社の社員以外に自社の名刺を持たせなければよいのですが、営業上、なかなか難しいこともあります。この記事では、他人が自社の名刺を持つリスクについて、具体例を交えて紹介しますので、まずはそちらを確認した上で、慎重にご判断いただければと思います。
下請け業者の社員に自社の名刺を持たせている「ITベンダーA社」の事例です(この事例は架空のものです)。
A社は、ネット通販を行うB社のサイト運用・保守の業務委託を受けています。ただし、実際にB社のサイトの保守を担当しているのは、A社の下請けであるC社の山田さんです。下請けに任せるのはよくあることで、A社は特に違和感などはありませんでした。
そんなある日、B社ではサイトがダウンしたため、山田さんから貰った名刺を見て、山田さんに「サイトがダウンしているので、至急、復旧してほしい」と連絡を試みました。急ぎの対応が必要ですが、山田さんとなかなか連絡がつかず、結局、サイトの復旧まで1日を費やしました。
復旧後、A社はB社に提出した顛末(てんまつ)書において、山田さんが下請けであるC社の社員であることを明らかにしました。今回のサイトのダウンでB社には少なからぬ損害が生じており、その賠償について今も話し合いがされています。

さて、この事例において、A社、C社、山田さんにどのような法的責任を追及することができるのでしょうか。それぞれの立場から、生じ得る法的責任を説明します。
A社とB社が準委任契約を交わしていた場合で考えます。準委任契約とは、
当事者の一方が法律行為でない事務を相手方に委託し、相手方がこれを承諾することを内容とする契約
です。請負契約が成果物を納品するなど仕事の完成を目的とするのに対して、準委任契約は規定された業務を行うことを目的としています。
サイトの運用・保守は、請負契約ではなく準委任契約に基づいて行われることが多いですが、ITサービス関連の契約では、請負契約、準委任契約のどちらの場合もあり得ます。契約内容として、請負契約と準委任契約のどちらの契約なのか、また、運用・保守の範囲についてもトラブルになりやすいため、あらかじめ明確にしなければなりません。
原則として、準委任契約の場合、再委託は認められていません。準委任契約の目的は、規定された業務を行うことです。事例でいえば、B社はA社の業務遂行能力に期待して契約を結んでいるのであり、B社に断りなく、A社は他社にB社の業務を委託することはできません。
そのため、A社がC社に再委託する場合は、あらかじめA社とB社の間との契約で、再委託を認める規定がなければ契約違反となります。当然、C社所属の山田さんをA社所属の社員であるかのように名刺を持たせて業務を行わせることも契約違反です。
B社は山田さんがA社の人間であると信じて、サイトの復旧をお願いしていました。山田さんのミスでサイトの復旧が遅れてしまい、損害が発生したとしても、山田さんはC社の社員であるため、B社が山田さんの責任をA社に追及するのは難しいようにも思われます。とはいえ、それでは、A社の名刺を持つ山田さんを信じたB社は厳しい立場となります。
こうした問題を避けるため、会社法では「名板(ないた)貸し責任」という規定があります。具体的には、「自己の商号を使用して事業または営業を行うことを他人に許諾した会社は、当該会社が当該事業を行うものと誤認して当該他人と取引をした者に対し、当該他人と連帯して、当該取引によって生じた債務を弁済する責任を負う」(会社法第9条)というものです。
A社は、山田さんに自社の名刺を持たせていたので、自社の商号使用を許諾していたといえ、山田さんをA社所属の社員と誤認したB社に対して名板貸し責任を負います。名板貸し責任が認められると、
その範囲には制限がなく、取引によって生じた債務を全て連帯して負う
ことになります。他人に自社の名刺を持たせて業務をさせることについては、相当のリスクがあることを認識しなければなりません。
A社とC社が業務委託(準委任)契約を交わしている場合、A社が山田さんに「他よりも優先してB社サイトを復旧して」などのように行うべき業務を直接指示すると、「偽装請負」となる恐れがあります。
A社が山田さんに指揮命令を下すには、C社が派遣業として許可を受けて、A社に山田さんを派遣しなければなりません。仮に偽装請負に当たると判断された場合、A社・C社とも会社名が公表されたり、労働局から是正措置命令などの行政処分が下されたりすることになります。
A社がB社に対して名板貸し責任を負う場合、C社も連帯して責任を負います。対外的には、C社はA社と連帯してB社に対する責任を負う形となります。ただし、山田さんのミスでB社に対して責任を負うことになった場合、A社とC社との内部的な責任割合は等分ではなく、C社が相応に負うべきケースもあり得ます。その場合、C社はA社に対して求償債務を負います。
なお、C社が山田さんに、A社の名刺を持って業務を行わせることに関する雇用者としての法的責任についてですが、A社から承諾を受けている限り、ほとんど考えられません。
最後に、山田さん自身についての責任です。所属していない会社の名刺を持つことについて、捉え方によっては経歴を詐称しているようにも思われます。しかし、山田さんがこれによってB社から財産上の利益を得るなどしていない限り、詐欺などで刑事責任を追及することは難しいといえます。
以上(2023年10月更新)
(監修 三浦法律事務所 弁護士 磯田翔)
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笹島信義(ささじまのぶよし)氏は、1956年から1963年にかけて行われた黒部ダムの建設において、最も困難な工事といわれる「大町2号トンネル工事」を成し遂げた作業班の中心人物です。この工事が難航を極めた理由は、作業班が着工2年目に遭遇した破砕帯(はさいたい)にあります。破砕帯とは、岩盤の中で岩が細かく砕けた、通常よりもろく崩れやすい地層のことですが、1957年、その破砕帯から人が吹き飛ばされるほど大量の地下水と土砂が噴出し、トンネル工事は中断を余儀なくされたのです。
冒頭の言葉は、笹島氏が自身の著書の中で、トンネル工事の今後を検討する委員会が開かれたときのことを振り返って述べた言葉です。委員会には、学者や技術者などの有識者が招かれましたが、破砕帯の脅威が未知数だったことなどから、工事の続行については否定的な意見が飛び交いました。しかし、笹島氏は有識者の前でも、「冬になれば、水が減り、トンネルを掘れるようになると思う」と言って、工事の続行を強く望みました。
笹島氏の心の内には、ある使命感がありました。それは「戦後の荒廃と虚脱から抜け出し、日本の産業を興隆させるために、何としても電力不足を解消する」というもの。当時の日本は日常的に停電が繰り返され、工場は停電のたびに作業を休止しなければならないなど、深刻な電力不足に陥っていました。だから、笹島氏は「この工事の本当の発注者は、国家であり国民である」と考えて、文字通り命がけで工事に取り組んでいたのです。
冬になると、笹島氏の言った通り坑内の水が減少し、工事再開が可能となりました。そして、破砕帯との遭遇から7カ月後、最後まで諦めなかった作業班はついに破砕帯を突破、1958年に大町2号トンネルは無事開通したのです。
ビジネスでは、経営者が会社の進むべき道を決める際、常に何らかのリスクが付いて回ります。ノーリスクで成功を得られるケースはゼロに等しく、時には「社員に負担を強いるかもしれない」「失敗したら会社が傾くかもしれない」といった大きなリスクを背負いつつ、困難なことに挑戦しなければならないケースもあります。
そんなときに経営者を支えるのは、「わが社はこの事業を通じて、社会のためにこんなことを成し遂げるんだ」という強い使命感です。笹島氏は、破砕帯との遭遇によりトンネル工事の危険性が新聞などで取り沙汰されるようになった際、作業員たちが家族から反対されて現場を離れてしまうことを危惧しましたが、実際はほとんどの作業員が現場に残ったそうです。それは、「自分たちがトンネル工事で日本を支えるんだ」という笹島氏の使命感が、作業員たちの誇りとなり、自分事として共有されていたからです。いつの時代も、経営者の本気の思いは社員を突き動かし、困難な壁を突破する力となるのです。
出典:「おれたちは地球の開拓者:トンネル1200本をつくった男:大事にしたい日本人の生き方」(笹島信義、ベストブック、2010年10月)
以上(2023年10月作成)
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内部監査とは、
を行う取り組みです。上場企業や会社法上の大会社にとって内部監査は義務ですが、中小企業は任意です。実際、内部監査を行っている中小企業は少ないのですが、この記事では、次のような理由から中小企業に内部監査の実施をご提案いたします。特に、長い間、担当者や業務の遂行方法が変わっていないような中小企業は、この記事を読んでみてください。

内部監査を担当する部門の年度計画を策定します。とはいえ、人的・時間的リソースには限りがあるので、
リスクの高い順番に内部監査の対象とする(リスク・アプローチ)
ようにします。通常、年度計画には、
が織り込まれ、適切な承認者(経営者や取締役会など)に報告の上、承認を得ます。なお、内部監査は独立性の確保が重要になるため、内部監査部員は、監査を受ける部門とは関連のない人物にする必要があります。
業務計画は、年度計画で絞り込まれた内部監査のテーマのうち、重点的に見るべき具体的な項目を要約したものです。ここでも前述したリスク・アプローチに基づいて実施します。
リスクの高い項目を絞り込む際は、監査対象となる拠点の概要を把握する必要があるため、拠点の担当者に事前に監査があることを伝え、
予備調査:概要インタビューや関連規程類の閲覧
を行って、スムーズに本調査につなげることがあります。ただし、不正調査の場合は、事前通知をしないこともあります。
計画が策定されたら、
を行います。
限られたリソースで一定の要求水準を満たすには、内部監査部員の努力はもちろん、監査対象となる拠点が質問に正確に回答したり、依頼された資料をきちんとそろえたりするなど協力が不可欠です。
実際に監査対象となる拠点に赴き、予備調査で得た情報と、事前準備で作成された内部監査手続書に基づいて監査手続を実施します。監査手続の手法はさまざまで、例えば、次のような作業が挙げられます(下記以外にも、再実施、分析、計算調べなどがあります)。
「最もスムーズにリスクを確かめられる手続きはどれか?」を意識しながら選択するのですが、内部監査手続書通りに監査手続を進めても、想定外のリスクが判明するケースがあります。その場合、新たに判明したリスクの内容とその重要性を勘案しながら、追加の監査手続を実施すべきか否かを検討します。
また、内部監査は限られたリソースで行うため、全ての項目・取引に対して漏れなく監査手続を実施することは難しいです。そのため、取引全体の母集団からサンプル(判断に必要な一部の資料)を抽出して、監査手続を実施する「サンプリング」を採用するのが一般的です。
監査調査とは、
実施した内部監査手続とその結果を記録し、経営者に提出される内部監査報告書上の結論のベースとして使用されるもの
です。監査調書は、
に大別されます。
個別監査調書は、実施された監査手続によって監査調書のフォーマットも変わりますが、例えば、次のような形式が挙げられます。
監査手続が終了した段階で個別監査調書が作成され、総括監査調書に転記・要約します。総括監査調書は、内部監査部門の責任者が内部監査報告書の作成に際して、各監査項目について問題点が識別されたか否かを正確に判断できるように、簡潔に記載します。
現場作業の最終日、監査現場作業の結果について、監査対象の拠点の責任者などと協議する講評会を開きます。特に、
不備事項に関する事実確認や、不備を解消するための改善活動(効果的かつ実現可能であること)
は重要な協議事項です。十分な協議を行わずに事実確認を誤ってしまうと、本来は不備ではない内容や、非現実的なスケジュール感での改善活動の実施案が報告書に記載されてしまいます。
講評会や監査調書をベースとして、最終成果物である内部監査報告書を作成・発行します。内部監査報告書のフォーマット例を紹介しますので、参考にしてください。

報告書に記載された不備が放置されたままでは問題です。そのため、拠点において計画通りに改善活動が行われているかを確認する、フォローアップ監査を実施します。フォローアップ監査では、
報告書に記載された「何を」「いつまでに」実施するかの改善案に基づいて、改善活動が行われているかを確認
します。フォローアップ監査も内部監査の一環であることを認識しましょう。
ここまで紹介してきた内部監査の実施フローは、主に整備された業務が想定通りに運用されているか否かを確認・報告する機能(保証機能)です。この他、内部監査には、会社の発展にとって最も有効な改善策を助言・勧告する機能(助言機能)もあります。特に「6)結果の検討と報告書の作成」において、報告書に改善提案を記載した場合は、助言機能の一例になります。
さらに、もう一歩進んだ助言機能として、コンサルティング業務も考えられます。さまざまな拠点などを独立した立場で把握する内部監査では、多くのノウハウが蓄積されるため、そのノウハウを活かしたコンサルティングを依頼されるケースが想定されます。例えば、
などが挙げられます。
なお、コンサルティング業務においては次の留意点を念頭に置きましょう。
内部監査の結果を歪めないために、
などが必要です。「内部監査人は、良心と信念に基づき、公正・普遍の立場で監査を行い、いかなる圧力にも負けない」ことが重要なので、特に独立性の確保に努めましょう。
そのために、内部監査部門を経営者直属にします。こうすることで、他部門の指揮命令系統から外れ、不必要な干渉を排除できるからです。また、リソースが限られた中小企業では難しい面もありますが、内部監査部門と他の部門との兼任は認めないのが基本です。
中小企業が単独で内部監査を実施することが、リソースや知識の面から難しいことがあります。その場合、公認会計士や弁護士などに内部監査をアウトソーシングすることが考えられます。外部委託の範囲によって、
が考えられます。
内部監査の根拠となる規程の整備が必要です。一般的に、内部監査規程は、
といった項目で構成されます。内部監査規程は会社の基本規程の1つです。そこでは詳細な内容は入れられないので、別途、内部監査マニュアルなどを作成して実務的なことを記載します。
最後に、難易度がやや上がる子会社の内部監査について触れておきます。中小企業でも子会社を持っているケースがあり、内部監査の対象とすることがあります。しかし、
親会社が子会社を自由に内部監査できる法令はないため、子会社は拒否できる
ことになっています。こうした問題を回避するために、あらかじめ親・子会社間で、親会社が監査を行うことを認める契約を締結するなど、スムーズに内部監査を行える環境作りが必要です。
子会社を内部監査する場合は、
などがあります。どの方法を採用するにしても、内部監査の方針や要求水準が一定になるように注意しましょう。具体的には、規程やマニュアルの統一、定期的な品質評価レビューなどが挙げられます。
海外に拠点を持つ中小企業も少なくないのですが、海外子会社の内部監査は国内子会社に比べて難しい面があります。距離や言語の壁が高く、対応できる人材の確保もままならないからです。ただ、壁が高いほど目が届きにくくなるということで、逆に内部監査が必要になってきます。
海外子会社に対する内部監査で最大の注意点は、法制度や商慣習が違うことです。内部監査の主目的の1つは法令遵守ですが、肝心の法制度を理解していないと、目指すべきところが明確になりません。その国独自の法制度を調べるのはなかなか難しいため、必要に応じて現地法務に精通した弁護士に相談することも検討します。
また、文化、価値観、言葉の違いにも注意しましょう。内部監査手続の多くはコミュニケーションや書類の閲覧によって行われるため、使用可能な言語(日本語、英語もしくは現地語)の確認と、通訳の要否などを検討する必要があります。
なお、これらの問題をクリアすることが難しい場合には、外部の専門家である公認会計士や弁護士に委託することも検討しましょう。
以上(2023年10月更新)
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不正会計と聞くと、ニュースをにぎわすような巨額な不正をイメージし、自社には関係ないと思っていませんか?
しかし、それは間違いかもしれません。なぜなら、経営者自身の何気ない一言が不正会計につながったり、思いもよらない従業員の不正が生じたりすることがあるなど、想像できない
不正会計は意外と身近にある
からなのです。また、コロナ禍や国際情勢の不安定化など、経済環境が悪化する時期は、不正会計が生まれやすい時期でもあります。昨今のテレワークの浸透により内部統制が脆弱化している会社は少なくないと思われます。
では、経営者が不正会計の兆しをキャッチしたり、防止したりするために、どのような知識が必要なのか、現場を知る公認会計士に不正会計の実態やその防止策などを聞きました。
不正会計とは、
決算書(貸借対照表や損益計算書など)に虚偽の表示をすること
です。代表的な不正会計は、「粉飾決算」「資産の流用」によるものです。
粉飾決算とは、
意図的に決算書(貸借対照表や損益計算書など)を操作して、会社の財務状況や損益状況を実際よりも良く見せること
です。詳細はQ2で解説しますが、「売上の水増し計上」や「売上の前倒し計上」による方法があります。粉飾決算によって赤字を黒字に見せる極端なケースもあります。
資産の流用とは、
会社の資産を盗み取ること
です。詳細はQ3で解説しますが、現金預金の「横領」、物的資産の「窃盗」などが挙げられます。多くは従業員の犯行で、この場合の被害は比較的少額です。しかし、資産の流用を容易に偽装できる経営者層が関与すると、被害が多額になることもあります。
売上の水増し計上とは、
本来の取引金額に架空の取引金額を水増しして、売上を計上すること
です。売上の水増し計上では、その計上した売上の相手勘定として「売掛金」を用いることが一般的です。そのため、貸借対照表には架空の売掛金も計上されます。
売上の前倒し計上とは、
本来は決算日後(将来)に計上されるべき売上を、決算日前(現在)に計上すること
です。売上の前倒し計上では、決算日をまたいで売上の計上が前後するだけであるため、全体(年度で区切らず全ての期間)としては損益計算や代金の入金額は変わりません。しかし、決算日後(将来)の売上を取り込んでしまうため、当年度の決算と翌年度の決算のいずれの決算書も虚偽の表示となります。
売上の水増し計上、売上の前倒し計上ともに、会社の利益をよく見せることが目的で行われる不正会計です。例えば、決算時点で赤字が明らかである場合、既存取引の売上の水増し計上をすることでその原価を差し引いた利益が本来の利益に上乗せされ、赤字決算を黒字決算へと変えてしまうことができます。
中小企業の場合、融資元の金融機関や、入札審査を受ける際の官公庁に対して、会社の業績を少しでも良く見せようとして、粉飾決算に手を染めるケースがあります。
横領とは、
自らの職位を利用して会社の資産を盗み取ること
です。例えば、出納業務と記帳業務を兼務する経理担当者が、無断で預金を解約してそれを盗み取るなどの行為です。業務によっては、同一人物が担当することで横領の発生リスクが高まります。
窃盗とは、会社の物品を盗み取ることです。例えば、会社の収入印紙や切手などを盗み取ることなどの行為です。なお、総務部の鍵のないロッカーに収入印紙や切手を保管している状況の中で、誰でも自由に取り出せるような場合には、窃盗の発生リスクが高まります。
これらの動機はさまざまで、個人的な事情(多額の借金を抱えている、遊ぶお金が不足しているなど)から実行されることが多いようです。
不正会計の防止策を考える上で重要な概念は「不正のトライアングル」です。不正のトライアングルとは、
不正を引き起こす3つの要素(動機・機会・正当化)のこと
です。これらを考慮した不正防止の仕組みをつくることが有効です。
1.動機
「従業員が行動を起こす、または行動を方向付ける」ことです。不正の防止策として、例えば従業員個人や部署に対して過度な目標が課されている場合、この目標が過大なプレッシャーになっていないかを見直します。
2.機会
「不正会計を起こせる立場にあり、それを実行できる能力がある」ことです。不正の防止策として、例えば職務分掌を明確にして、重要な決定についてはチェック・承認制度を社内ルール化することや業務相互チェックを掛けるなどのけん制機能を設けるようにします。
3.正当化
「不正会計をすることは悪くない≒仕方がない」と思うことです。不正の防止策として、例えば従業員に対して定期的に社内研修などを行い、不正会計の影響(個人・会社のダメージ)を啓蒙するようにします。
売上の水増し計上は、
貸借対照表の「売掛金」に発見の糸口
があります。なぜなら、
その売掛金は架空のものであり、何もしなければ、現金回収されることなくいつまでも貸借対照表に計上し続けることになるから
です。仮に、本来の回収期間が過ぎて長期間滞留しているような売掛金が存在する場合には、売上の水増し計上が疑われます。また、
売上の前倒し計上を行った場合にも、上記同様「売掛金」がポイント
です。売上を前倒し計上すると、その分の売掛金残高が増えます。しかし、この増加は、当年度及び前年度の各月末の売掛金残高と比べることで異常な増加として発見することができます。
横領では、やはり、
担当者間のチェック体制が重要なポイント
です。経理担当者が出納業務と記帳業務の双方を兼務しているような場合、お金を取り扱う担当者(出納係)と、帳簿をつける担当者(記帳係)を分ける必要があるでしょう(職務分掌)。なお、人員が不足し、どうしても兼務しなければ業務が回らないような場合は、他者が定期的にチェック・照合することによって代替することもできます。
窃盗は、
適切な現物(切手や収入印紙など)の管理を行うことが最も重要
です。具体的には、現物を鍵の掛かる場所に保管し、現物を取り出した者が都度、日付・数量・氏名などを管理簿に記入し、総務担当者などが日々管理簿に照らして在庫数量を確認する体制が必要です。また、他者が定期的に管理簿を閲覧して異常な記録がないか確認しましょう。
「社内に不正会計の疑いがあるかもしれない」という情報を耳にしたら、経営者は、まずこの情報が正しいものであるかどうかを確かめましょう。相手の言うことをうのみにしてしまったり、逆に聞き流してしまったりしては後々大きな問題になりかねません。また、場合によっては刑事事件に発展する可能性もあるため、早めに顧問弁護士などに相談することが賢明です。
不正が事実だった場合は、被害が大きくならないうちに早めの対処が必要です(初動が大切)。また、不正は意図的に仕組まれ、見つからないように巧妙かつ複雑な手口で隠されていることがあるため、外部の専門家を交えてその対処方法(対象者へのヒアリング方法や被害額の算定方法など)を検討するのが望ましいでしょう。
コンプライアンスとは、法令遵守を意味し、コーポレートガバナンス(企業統治)の基本原理の1つになります。
会社が企業活動を続けていくためには、会社の業績を維持・拡大していくことが必要で、基本的に会社は利益を追求していくことになります。しかし、利己的な利益追求をしていくと、法令すれすれ(グレーゾーン)の行動を取らざるを得ないこともあります。
さらに、目先の利益追求のために倫理観を失った行動を取れば、社会的な信用を大きく損ねてしまい、極端なケースでは会社の存続が危うくなることもあります。そうならないために、経営者が先頭に立ってコンプライアンスの重要性を社内に認識させることが求められます。
また、コンプライアンスの強化に励むことは、会社の存続に関わる重大問題の発展を事前に防止することのみならず、対外的にも社会的信用の認知度を高める積極的な取り組みと考えることもできます。
以上(2023年10月更新)
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決算書は、
になる重要な情報です。決算書は正直に作成されなければなりませんが、中には「嘘つき」な決算書もあります。これを「不正会計」(不適切な会計処理)といいます。意図的な不正会計は論外ですが、意図せず結果として不正会計になってしまっていることもあります。
しかし、関係者はそうした背景に関係なく、不適切な会計処理をした会社を信用しなくなります。そうならないためにも、経営者は典型的な方法とその兆候を知り、具体的な防止手段を取っておかなければなりません。この記事では、そのためのポイントを紹介します。
売上高計上のタイミングは、
対象となる物品やサービスが受け渡された日
です。そのため、このタイミングより早く売上高を計上することで売上高を大きく見せることができます。これは、実際の販売取引に対して、売上高計上のタイミングのみを操作することが特色です。例えば、売買契約締結日や手付金受取日に売上高を計上することが考えられます。

売上高の架空計上は、実際の販売取引がないにもかかわらず決算書でのみ売上高があったかのように会計処理するものです。売上高の前倒し計上と異なり、実際の販売取引自体を仮装していることが特色です。
なお、全くの架空販売取引として売上高を計上することの他に、実際の販売取引の金額に上乗せして架空の売上高を計上するケースも見られます。

対象となる物品の購入対価は販売されるまでの間、棚卸資産として資産に計上され、販売されたときに売上原価(費用)に振り替えられます。
棚卸資産の過大計上とは、販売されたものの、棚卸資産から売上原価への振り替えを過小とすることで、売上原価を減少させて差引としての利益を大きく見せるものです。売上原価への振り替えが過小であるため、振り替え後の棚卸資産は過大計上される結果となります。

会社運営に必要な諸費用は、その費用が発生した期の損益計算書に計上する必要があります。架空資産の計上とは、費用として計上すべきものを資産勘定として貸借対照表に計上することで、費用を減少させて差引としての利益を大きく見せるものです。資産勘定には計上されているものの実際の資産は存在しないため、架空資産となります。
例えば、本来は損益計算書の費用に計上される交際費を仮払金(資産)で、修繕費(費用)を固定資産(資産)で計上することが考えられます。

売上高計上のタイミングが本来のタイミングより早いため、
売上高の相手勘定である売掛金が回収されるまでの期間が徐々に長期化
します。例えば、決済条件が月末締め翌月末払いのケースの場合、本来は翌月末には入金があり売掛金残高はなくなりますが、前倒しで売掛金が計上されると、取引先は本来の決済条件で支払うため入金は翌月末より後になり、回収までの期間が本来の決済条件よりも長期化します。回収までの期間が長期化している売掛金がある場合は、その原因を慎重に究明する必要があります。
実際の販売取引がなく決算書のみで計上された売上高のため、取引先からの代金の支払いはありません。
架空売上高に対応する売掛金は回収できないことから、滞留債権となり長期間にわたって残高が減少しない
こととなります。残高が長期間にわたって減少しない売掛金がある場合は、その原因を慎重に究明する必要があります。
なお、架空売上の事実を隠蔽するため、正当な取引による回収代金を架空売上高の売掛金回収に充当することで、滞留債権化を回避することも考えられますが、この場合、正当な取引により発生した売掛金の回収までの期間が長期化するという影響が表れます。
売上原価に振り替えることなく棚卸資産として計上され続けるため、
滞留棚卸資産となり長期間にわたって残高が減少しない
こととなります。滞留している期間と、通常の販売までの期間とを比較して、不合理に長期化している棚卸資産がある場合は、その原因を慎重に究明する必要があります。
なお、棚卸資産の過大計上を隠蔽するため、過大な棚卸資産残高を棚卸減耗損や棚卸評価損によってなくすことが考えられます。不合理な棚卸減耗損や棚卸評価損が計上されている場合には、その原因を慎重に究明する必要があります。
現物が確認できない仮払金勘定が利用されることが多く、相手先や支出内容が不明な残高が徐々に増加します。
仮払金勘定は、一時的な支出を仮に処理する勘定科目のため、長期間にわたって多額な残高がある場合
には、その原因を慎重に究明する必要があります。
また、架空資産として固定資産勘定を利用する場合、不自然な金額が不自然なタイミングで計上されることが多くなります。
固定資産としては少額な金額が定期的に計上されている場合や決済されていない固定資産支出が計上されている場合
には、その原因を慎重に究明する必要があります。
不適切な会計処理の防止のためには、適切な内部統制を構築することが有効です。特に
職務分掌(仕事の役割分担や権限を明確にすること)の徹底
は、シンプルではありますが効果的と考えられます。例えば、伝票起票者と伝票承認者が区分されていれば、相互けん制によって不適切な会計処理は実行しにくくなります。また、資金担当者と記帳担当者が区分されていれば、入金内容を意図的に変更させて経理処理することは難しくなります。さらに、担当者の変更により後任者が前任者の不適切な会計処理に気付くことがありますので、人事異動を定期的に実施することも、不適切な会計処理の防止に効果的です。
特定の1人に任せきりにしないことが最も重要なポイントとなりますが、中小企業のように限られた人員で管理業務を実施している場合、複数名での対応が難しいことも考えられます。その場合、十分とはいえないまでも、例えば、
監査役などが既述の事項を重点的にヒアリングする
ことによって一定のけん制効果が期待できます。
以上(2023年10月更新)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 公認会計士 米山泰弘)
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私たちは、仕事やプライベートで関わる人に対し、無意識のうちに「〇〇な人」というイメージを持つことがあります。優しい人、怖い人、面白い人、退屈な人、いろいろありますね。ただ、それらのイメージはあくまで自分がつくり上げたもので、実態とかけ離れていることも少なくありません。歴史上の人物を例に一つ話をします。
皆さんは、「パンがなければお菓子を食べればいいじゃない」という言葉を聞いて、誰を思い浮かべますか。おそらく、多くの人が「マリー・アントワネット」と答えるでしょう。18世紀にフランス王妃となるも、フランス革命により処刑台に追いやられた悲劇の女性です。大変な浪費家だったとされ、「パンがなければお菓子を食べればいいじゃない」は、王妃としてぜいたくな日々を送る彼女が「民衆がパンを食べられずに苦しんでいる」と告げられた際に発した言葉として有名です。
ですが、実はこれは誤りとされています。先ほどの言葉は、フランスの思想家ルソーの自伝に記されたものですが、それが出版された頃のマリー・アントワネットは、まだフランス王妃になる前の10歳ぐらいの少女なのです。にもかかわらず、彼女の「浪費家」というイメージが強すぎるせいで、本当は他の誰かが口にした言葉が、彼女が言ったものと200年以上誤解されているのです。ちなみに、彼女が本当に浪費家だったのかも実は定かではなく、飢饉の際、彼女が宮廷費を削って寄付をしたという話もあるのです。
このように、「〇〇な人」というイメージは、大きな誤解を生むことがあります。ビジネスでも、意図せずに相手から悪いイメージを持たれてしまうケースというのはよくあります。
例えば、若手社員が上司に同行して、取引先との商談に臨む場面を想像してみてください。商談は上司メインで話が進むため、若手社員は「上司の邪魔にならないように」と、口を挟まず黙っています。しかし、相手は、若手社員が全く話に入ってこないのを見て、「この人は全く発言しないけど、何しに来たのかな」「話に入ってこないということは、半人前なんだな」と、ネガティブなイメージを持つかもしれません。
こうしたネガティブなイメージを払拭するための方法は、たった1つ。相手と積極的に話して、相手が自分に対して抱いている「○◯な人」というイメージを塗り替えるのです。「怖いと思っていた人が、話してみたら意外と優しかった」というのはよくある話です。
先ほどの商談であれば、事前に上司に相談して自分がメインで話をするパートをつくってもらったり、気になる点を相手に質問してみたりするとよいでしょう。多少拙い部分があっても、一生懸命話そう、話を聞こうとしてくる人には、相手も好意的なイメージを持つものです。「もしも嫌われたら……」と何もしないでいるのが一番よくありません。自分のイメージは自分から相手にアタックしてつくるのです。
以上(2023年10月)
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画像:Mariko Mitsuda
近年は、雇用にとらわれず、フリーランスなどに業務委託をしてリソースを確保するケースが増えてきました。新しい組織のあり方としてますます進みそうですが、条件面などでのトラブルが多いので注意が必要です。フリーランスはあくまでも外部の人材なので、取引先の会社と契約するように細かく条件を決める必要があるのです。
フリーランスとの取引については環境整備も進んでいて、2021年3月26日には「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」(以下「ガイドライン」)が策定されました。そこでは、フリーランスとの取引における労働関係法令(労働基準法、労働組合法など)、独占禁止法、下請法上のルール適用の在り方を詳細に定めています。
ガイドラインは、労働関係法令、独占禁止法、下請法といった既存の法律の適用の在り方の明確化でしたが、新たな規制として、2023年4月28日には「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」(通称:フリーランス・事業者間取引適正化等法)が成立し、5月12日に公布されました。施行は2024年11月までに開始の予定ですが、フリーランスを活用する会社は意識しなければならない法令です。
この記事では、ガイドラインなども意識しつつ、フリーランスと取引する際に特に重要なポイントを解説していきます。
■内閣官房「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」■
https://www.cas.go.jp/jp/houdou/20210326guideline.html
■e-GOV「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」■
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=505AC0000000025_20241111_000000000000000
業務委託契約であっても、就労実態などから次の2つが認められる場合、フリーランスであっても「労働者」とみなされます。これを「使用従属性」といいます。
加えて、事業者性の有無(機械、器具、衣裳等の負担関係、報酬の額、商号使用などを基に判断)や専属性の程度(特定の発注者等への専属性が高いと認められるかを基に判断)も、フリーランスの「労働者性」を補強する要素になります。
労働基準法上の「労働者性」を確認する場合、次の図表を見ると分かりやすいです。

フリーランスが労働者とみなされて労働関係法令が適用されると、次のようなリスクが生じます。
フリーランス・事業者間取引適正化等法は、フリーランスを「事業者」として扱う法律ですが、この労働者性の解釈については、フリーランス・事業者間取引適正化等法の成立によっても変わるものではないでしょう。
フリーランスとの取引では、会社の規模や業種を問わず独占禁止法が適用されます。発注者側である会社は受注者側であるフリーランスよりも優越的な立場にあることが多く、そうした地位を利用してフリーランスに不利益を強いると、独占禁止法の「優越的地位の濫用」に違反する恐れがあります。具体的には、ガイドラインで次の12の行為類型が挙げられています。なお、一部の行為類型は下請法の適用も受けます。

独占禁止法との関係では、「優越的地位の濫用」の規定に違反した場合、次のような制裁を受けるリスクがあります。
また、資本金が1000万円超で、フリーランスとの取引内容が「製造委託」「修理委託」「情報成果物作成委託」「役務提供委託」に該当する会社は、下請法も適用されます。その場合、所定の取引事項を記載した書面を交付することが義務付けられます。これを怠ると50万円以下の罰金に処される恐れがある他、勧告や会社名の公表などのペナルティーが課されます。
なお、フリーランス・事業者間取引適正化等法は、下請法よりも適用範囲が広く設定されているため、同法の施行後は、ガイドラインよりもフリーランス・事業者間取引適正化等法への対応を優先すべきでしょう。
独占禁止法、下請法の関係もありますが、フリーランスに発注する際は必ず書面の契約書を交わしましょう。特に、フリーランス・事業者間取引適正化等法では、書面に限りませんがフリーランスへの発注には広く取引条件の明示が義務付けられています。
フリーランスが条件を細かく確認してくることについて、「私を信用していないのか?」と気分を害する経営者がいるかもしれません。しかし、フリーランスには社員のような手厚い補償がありませんし、自身が体調を崩すなどして働くことができなくなれば収入もありません。身一つで仕事をしており、契約にないことをサービスで行うような余裕はないのです。そのため、フリーランスに依頼するときは発注する業務を明確に切り出し、契約書に落とし込むことが礼儀でもあるのです。
また、意外なことですが、フリーランスと取引をすることで業務効率化が実現することがあります。フリーランスはさまざまなITツールを使ってクライアント(この場合は自社)とコミュニケーションを取ったり、請求業務を効率化したりしています。フリーランスが利用しているITツールを自社も導入したり、日ごろのコミュニケーションの方法や時間に対する考え方を吸収したりすることは、自社にとってプラスになります。
以上(2023年10月更新)
(執筆 日比谷タックス&ロー弁護士法人 弁護士 堀田陽平)
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