「契約」とは何か? 身近だからこそ正しく知ろう/弁護士が教える契約・契約書の基礎知識(1)

1 実はとても身近な「契約」

契約とは、一方の「申し込み」と、もう一方の「承諾」によって成立する法律行為です。

契約はとても身近なものですが、いざ「契約を締結しましょう」と言われたら、ちょっと身構えてしまいます。しかしご安心を。実は私たちの生活は契約だらけなのです。

例えば、仕事では会社と社員は「労働契約」を交わしています。これにより、あらかじめ約束した仕事を社員は行い、その対価として会社は給料を支払います。もっと身近な例では、皆さんがコンビニエンスストア(以下「コンビニ」)でコーヒーやお菓子を買うときなどは、「売買契約」を交わしています。ただ、コンビニの店員が、「今から、このコーヒーについて、売買契約を交わしましょう」などと言っていないだけで、れっきとした法律行為がなされているわけです。

いかがでしょうか。コンビニで買い物をする(売買契約)、レストランで食事をする(役務提供契約)など、これら全てが契約なので、皆さんは、毎日多くの契約を交わしながら生活しているわけです。

この記事では、契約と法律の関係を整理した上で、契約書を作成する理由や、実際に契約を締結できる人は誰なのかについて弁護士が解説します。

2 最初に確認。「契約と法律」の関係

1)「契約自由の原則」とは

契約と法律の関係に関する重要な考え方に、「契約自由の原則」があります。

「契約自由の原則」とは、契約に関する事項は、契約当事者が自由に決めることができ、国家はこれに干渉しないというものです。

「契約自由の原則」は、具体的に次の4つの自由から成り立っています。

  • 相手方選択の自由:契約を締結する相手方を決める自由
  • 内容の自由:契約内容を決める自由
  • 方式の自由:書面か口頭かなど、契約の方式を決める自由
  • 締結の自由:契約を締結するか否かを決める自由

契約は「誰と」「どのような内容で」「どのような方式で」締結してもよく、また「契約を締結するか否か」についても自由に決めることができます。そして、契約で決めたことが法律に優先するのが原則です。

2)公序良俗に反するものはダメ

ただし、契約自由の原則があるとはいえ、何でも契約できるわけではなく、

公序良俗・強行規定 > 契約自由の原則 > 任意規定

といった関係があります。強行規定はおかしな契約を認めないもの、任意規定は契約で不明瞭な部分を補足するものといったイメージですので、以下で確認してみましょう。

まず、「強行規定」についてです。

強行規定とは、「公序良俗」を具体的に定めたものであり、契約当事者の意思にかかわらず適用されます。

強行規定について、民法で「公の秩序又は善良の風俗に反する事項を目的とする法律行為は、無効とする」と定められています。具体的には、建物の賃貸借契約において、「物件が天災、火災、地変その他の災害によって使用できなくなったときには敷金を返還しない」というように、借主の責任ではなく、貸主の責任や不可抗力による場合に敷金を返還しないとすることは、公序良俗に反するとして、裁判で無効とされたケースがあります。

次に、「任意規定」についてです。

任意規定とは、契約当事者の意思が不明確であるときに、不明確な部分を補充するための規定です。契約当事者間の合意があれば、その合意が任意規定よりも優先されます。

任意規定の例には、民法の「典型契約」があります。

民法の典型契約とは、「代表的な契約の種類を定めたものである」と説明されるように、日々の生活に密接に関係するものが多く含まれています。例えば、消費者がお店で買い物をする売買契約や、友人と洋服を貸し借りする使用貸借契約などがあります。

これらは日常の行為であるが故に、細かな条件を契約書で定めることはほとんどありません。こうした、ある意味曖昧な権利・義務関係において何らかのトラブルが生じた場合、判断のよりどころとなるのが典型契約なのです。

実際は、「どれが強行規定で、どれが任意規定なのか」といった判断が難しいことがあります。そのようなときは、弁護士などの専門家に相談しましょう。

3 口約束でも成立するのに、契約書を作成する理由とは?

さて、冒頭の説明でもお分かりいただけたように、コンビニで買い物をするときに、いちいち契約書を作成しません。実際、口約束だけでも「申し込み」と「承諾」があれば契約は成立します(「保証契約」「定期借地権契約」など、一部の契約は書面がなければ成立しないので注意が必要です)。

しかし、ビジネスは必ずといってよいほど契約書を作成するのは、後のトラブルを防ぐためです。以下に具体的な効果を示すので、確認してみてください。

1)契約内容を明確にできる

人の記憶は曖昧ですし、自分にとって都合の良い解釈をしがちです。そのため、口約束だけで契約を締結すると、後になって「言った、言わない」のトラブルになるリスクが高まります。

この点、契約書を作成しておけば、こうした問題が回避されます。互いの曖昧な記憶ではなく、契約書の記載内容に基づいて判断することができます。

2)トラブル発生時に自社を守る

口約束だけだと、大枠では合意しているものの、細かな取引条件まではきちんと合意できておらず、後々、トラブルになるリスクがあります。実際、「納品日・数量・料金の支払日」といった基本的なところが漏れているケースもありますし、目的物が契約に適合しているか否かを判断するよりどころもありません。

受注側は仕事欲しさに「きちんと対応しますよ!」などと安請け合いしますが、目的物が契約に適合しない不備があると、場合によってはいつまでもその対応に追われて、適正な収益が得られなくなります。他方、発注側も契約書に記載がないと、目的物に不備があった場合に、取引相手にどのようなことが主張できるかが明確ではなく、想定外の不利益を被る恐れがあります。こうしたことがないように、契約書で目的物が契約に適合しない不備があるときの補正内容や、その期間を定めておけば、自社を守ることができます。

3)契約内容を慎重に検討できる

その場の雰囲気や会話の流れに影響されて、契約内容を慎重に検討しないまま不利な口約束をしてしまうことがあります。

しかし、契約書を作成するということになれば、事前に何度も契約内容を確認します。社内確認はもちろん、ときには弁護士のリーガルチェックも受けるので、自社にとって不利な条件で契約を締結するリスクは低減されます。

4)後任の担当者が確認できる

ビジネスで、何かのプロジェクトについて契約書を作成する場合、最初の担当者はプロジェクトの内容や契約の経緯を十分に理解しています。しかし、異動によって担当者が代わると、当時の状況は十分に引き継がれなくなり、何かの確認があった際に、「なぜ、このような取り決めをしているのか?」と混乱することがあります。

この点、きちんと契約書を作成していれば、ひとまずそれに基づいて判断することができます。また、契約の背景について社内のメモや、相手とのメールなどを残しておくと理想的です。

5)裁判時の証拠書類になる

相手とトラブルになってしまい、しかも当事者で解決できない場合、裁判で争うことになります。その際、契約書は裁判において有力な証拠書類になり、契約書で合意していた内容やその妥当性が争点となります。

契約書に定めていれば何でも大丈夫というわけではありませんが、契約書は自社の主張の正当性を示す、とても重要な証拠書類となります。

契約書を作成することの効果が大きいと、お分かりいただけたと思います。ですから、

先代から続く長年の取引先やスピード重視で即決したい相手であっても、契約書を締結することが重要

になります。

4 契約を締結できる人、できない人

1)法人と契約をする場合

法人と契約を締結する場合、誰でも契約ができるわけではなく、ふさわしい権限を有していなければなりません。具体的には次の通りです。

(図表1)【法人と契約をする場合に、契約を締結できる人】

相手の状況 法的な問題点 ポイント
代表者 法人の代表者は法人を代表する法的権限を有しているので、契約を締結することができる。株式会社の場合、代表取締役が代表者であるのが一般的。 法人によって代表者の肩書はさまざまなので、法的な権限があるかについては、登記事項証明書で確認する。
支配人 支配人とは、会社から本店または支店の主任者として選任された商業使用人のこと。商法において、その営業に関して会社を代表して契約を締結する権限が与えられているので、契約を締結することができる。 ホテルやレストランなどの責任者を「支配人」と呼ぶことがあるが、商法上の支配人とは必ずしも同じではない。法的な権限があるかについては、登記事項証明書で確認する。
事業責任者 代表権はないため、実際の権限を確認する必要がある。実際に、その契約内容の範囲において事業に関する権限を有していれば契約を締結できる(実際は契約を締結する権限がなく、相手方がそのことを知っていた、または知らないということにつき重大な過失がある場合は除く)。 事業責任者の権限は登記事項証明書では確認できないため、相手に確認する必要がある。

(出所:弁護士監修のもと、日本情報マート作成)

2)個人と契約をする場合

個人と契約を締結する場合、誰でも契約ができるわけではなく、ふさわしい権限を有していなければなりません。具体的には次の通りです。

(図表2)【個人と契約をする場合に、契約を締結できる人】

相手の状況 法的な問題点 ポイント
未成年 結婚している場合などの例外を除き、法定代理人(親権者や未成年後見人)の同意を得ていない場合は、法定代理人や未成年者本人に契約を取り消される恐れあり。
親権者などその未成年者に代わって契約を締結できる人(法定代理人)などと契約を締結するか、法定代理人などの同意(親権者が婚姻中の場合は父母両方の同意)が必要。
本人確認として、運転免許証、パスポート、個人番号カード(マイナンバーカード)などで、住所・氏名・生年月日などを確認する。
契約を取り消されると、遡って契約はなかったものとなる。
成年被後見人 成年後見人や成年被後見人本人から契約を取り消される恐れあり(成年被後見人は、成年後見人の同意を得ていても、自ら有効な契約を締結できないため、事前に成年後見人の同意を得ていたとしても、成年後見人から契約を取消されるおそれあり。)。 本人確認として、運転免許証、パスポート、個人番号カード(マイナンバーカード)などで、住所・氏名・生年月日などを確認する。
日用品の購入その他日常生活に関する行為は取消不可。
被保佐人 不動産売買などの重要な契約について、保佐人の同意なく契約した場合は、保佐人や被保佐人本人から契約を取り消される恐れあり。 本人確認として、運転免許証、パスポート、個人番号カード(マイナンバーカード)などで、住所・氏名・生年月日などを確認する。
保佐人の同意が必要な行為は、民法13条第1項で列挙されている。例えば、預貯金の払い戻し、お金の貸し借り、不動産の売却や賃貸借契約の締結などがある。
被補助人 不動産売買などの重要な契約を、家庭裁判所が「補助人の同意が必要な重要な行為」と定めた場合、補助人の同意なく契約した場合は、補助人や被補助人本人から契約を取り消される恐れあり。 本人確認として、運転免許証、パスポート、個人番号カード(マイナンバーカード)などで、住所・氏名・生年月日などを確認する。
補助人の同意が必要な行為は、家庭裁判所が定めたもののみ。

(出所:弁護士監修のもと、日本情報マート作成)

3)契約当事者に代わって契約を締結できる代理人

代理人は、契約当事者に代わって契約を締結できる人で、「法定代理人」と「任意代理人」がいます。

法定代理人とは、法律によって代理権があることが定められた人です。一方、任意代理人とは、法定代理人以外の代理人で、契約当事者から権限の委任を受けた人です。

任意代理人と契約を締結するときは、「一定の代理権はあるが、実は契約締結については代理権の範囲外だった(代理権がなかった)」ということがないように注意しましょう。こうしたリスクを避けるためには、できるだけ契約当事者と手続きをする必要があります。

また、どうしても任意代理人と手続きをしなければならない場合は、

  • 委任状に記載する委任事項について、「○○との間で締結する『売買契約』に係る一切の権限」といったように、代理権を有する範囲を厳格に定める
  • 不明な点はすぐに契約当事者に確認する

などの対応をしましょう。

いかがだったでしょうか? 契約は非常に身近な法律行為なので、プライベートではいちいち契約書を作成しないことが多い一方、ビジネスでは契約書を作成することが基本となっている理由をご理解いただけたと思います。

この「弁護士が教える契約・契約書の基礎知識」シリーズでは、以下のコンテンツを取りそろえていますので、併せてご確認ください。

以上(2024年3月更新)

(監修 リアークト法律事務所 弁護士 松下翔)

画像:LIGHTFIELD STUDIOS-Adobe Stock

【朝礼】そうだ、旅に行こう

おはようございます。今日は「休暇」に関する話をします。適度に休み、心身のコンディションを整えて仕事のパフォーマンスを上げるのは、ビジネスパーソンの大事な心得の1つです。もちろん、皆さんの多くが休暇をちゃんと取っているのは知っていますが、なかには「仕事が忙しいから」といって休みたがらない人もいます。

今日は、改めて私から言わせていただきます。休暇は皆さんに与えられた権利ですから、ちゃんと取ってください。そして、もう1つ。休暇を取ったら、ぜひ「旅行」に行くことをおすすめします。

なぜ、旅行に行ってほしいのか。最近の私の経験からお話しします。私は先日、家族と一緒に伊豆に行ってきました。温泉に入るのが目的でしたが、そこに向かうまでの道中からして、とても楽しいものだったのです。

今回、熱海からローカル線に乗って伊豆に向かったのですが、行く先々の駅の造りが昭和チックで、子どもの頃を思い出してノスタルジーに浸れましたし、晴天の中、緑豊かな山々や美しい駿河湾が見られて、とても心が癒されました。

また、普段はビジネス関係の書籍ばかり読んでいるのですが、今回はせっかく伊豆に向かうのだからと、久しぶりに小説を読んでみました。皆さんもご存じ、川端康成(かわばたやすなり)氏の「伊豆の踊子(いずのおどりこ)」です。一人の青年と旅芸人一座の踊子の淡い恋愛を描いた小説ですが、誰かと旅をしながら孤独だった青年の心が解きほぐされていくストーリーが胸を打ちましたし、ちょうど電車のルートが小説に出てきた場所を通るので、主人公の旅を追体験しているようで楽しめました。

ここまでは、「癒された」「楽しかった」という話ですが、ビジネスパーソンとして心を揺さぶられる体験もありました。私が泊まった宿の温泉は大正時代に採掘されたものなのですが、今のように採掘の技術も優れていなかった当時の人々が、いかに苦労して温泉を掘り当てたかが記されていました。当時の様子をうかがい知れる写真や建物も残っていて、「仮に恵まれない環境にいたとしても、簡単にチャレンジを諦めてはいけない」と身が引き締まる思いでした。

ひたすら私の旅行話になってしまいましたが、私が伝えたいのは「旅に出て、いつもと違う環境に身を置いてみると、得るものがたくさんある」ということです。

もちろん、休暇の使い方は各々の自由ですから自宅で休むのも結構ですし、「旅行はお金も体力もいるからちょっと……」という人もいるでしょう。ただ、一度旅に出てみて、さまざまな面から刺激を受けると、自分の中の「あれをやってみたい」「これをやってみたい」という気持ちが揺り動かされ、休みが明けたとき、元気良く仕事に臨めるのです。月並みな話ではありますが、ぜひ皆さんも旅に出てみてください。

以上(2024年7月作成)

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画像:Mariko Mitsuda

なぜ、「損金」を知れば決算対策の方向性が見えてくるのか?

1 決算対策の第一歩は税金計算の仕組みを知ること

創業して間もないなど、まだもうけ(利益)が出ていないときは気にならない税金(法人税)。しかし、もうけが出てくると一転して経営者は税金を意識し、いわゆる「税金対策」を講じることもあります。

対策の対象は「法人税」ですが、これは益金から損金を差し引いた所得に対して課されます。そのため、税金対策の基本は、いかにして所得を減らすか、つまり益金から差し引ける損金の取り扱いがとても重要になってくるのです。

詳細は「「経費」「費用」「損金」とは? 似ているけど決定的に違う意味」で説明しているので、ここでは簡単に示しますが、財務会計と税務会計で儲けを計算する仕組みは次のように違います。

財務会計と税務会計で儲けを計算する仕組み

肝となるのは、ずばり「税務調整」ですので、以降でその基本を紹介します。

2 4種類の税務調整

税務調整には次の4種類があります。

税務調整の種類

税金計算の基本的な流れは次の通りです。税務調整によって、所得が増えることも減ることもあるわけですが、ここがとても重要になるわけです。

  • 財務会計の収益・費用に、税務調整を加減算して、税務会計の益金・損金とし、所得を算出する
  • 上で算出した所得に税率を乗じて、税額を算出する

3 決算対策の基本的な考え方

税金計算の仕組みが分かれば、「税金対策とは何か?」が分かってきます。そう、決算対策の基本は損金を増やして、所得を減らすことなのです。

決算対策の基本的な考え方

  • 所得が低ければ低いほど、税額は少なくなる
  • 所得を減らすために、損金を増やす

利益を増やすことが会社経営の基本ですが、決算対策など納税額を減らすためには、所得(利益)を減らすという逆の考え方が必要です。なお、所得を減らすために、益金を減らすという考え方もできますが、税務上、益金を減らす対策(売上の計上基準を変更するなど)は一般的には行われません。

それでは、税金対策のために重要な「損金」について、詳しく確認していきましょう。

4 損金とは?

損金とは、法人税を計算する際に益金から差し引くことを税法で認められているもので、「1.売上原価」「2.販売費及び一般管理費その他の費用」「3.損失」の3つに分類されます。なお、税法上で取り扱いが定められている項目以外は、財務上の費用と同じ取り扱いになります。

1)売上原価

売上原価とは、その事業年度の売上に対応する売上原価、完成工事原価その他の原価です。損金に算入できるのは、その事業年度に計上された売上に直接対応しているものです。この考え方は財務会計でも同じです。

また、「売上原価=仕入高」とはならないことを覚えておきましょう。仕入高は、商品の仕入れ時には費用として計上されますが、事業年度末に棚卸しを行い、その事業年度の売上に対応する部分(売上原価)と在庫となる部分(資産)に区分されるからです。そして、事業年度末の在庫に係る仕入高は、費用(財務会計)にも損金(税務会計)にもなりません。

2)販売費及び一般管理費その他の費用

販売費及び一般管理費その他の費用(以下「販管費等」)とは、償却費以外の費用で、その事業年度末までに債務が確定しているものです。具体的には、次の3つの要件を満たしている費用です。

  • 事業年度末までに債務が成立していること
  • 事業年度末までに支払い原因となる事実が発生していること
  • 事業年度末までにその金額が合理的に算定できること

また、役員報酬や交際費など一部の販管費等については、上記の3つの要件とは別のルールが定められているものもあります。

販管費等や交際費、役員報酬については、次の記事で詳しく説明しています。

3)損失

損失には棚卸資産の評価損や、災害等により生じた損失、金銭債権などの貸倒損失などがあり、それらの事実が生じた事業年度に損金に算入されます。そのため、損失に基づく事実の発生の有無やその発生時期の判断が重要になります。税法上では、損金に算入できる主な損失については、個別に通達が設けられています。

5 専門家に相談する

損金に算入できるか否かによって納税額が変わるため、会社のキャッシュフローに影響を及ぼします。また、損金を気にするということは、所得が出ている(利益が出ている)ということです。

経営者は、攻めの経営で設備投資や人材採用を加速させるのか、はたまた守りの経営で内部留保を厚くするのかなど、所得(利益)をどのように使うのかを考えなければなりません。その一環として、経営者は決算対策の正しい知識を持っておく必要があります。

なお、実際に税金対策に取り組む際は、資金繰りや会社の資産状況などの幅広い視点が必要なので、税理士などの専門家と相談しながら進めるのがよいでしょう。

以上(2024年3月更新)

(監修 辻・本郷税理士法人 税理士 安積健)

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画像:Rawpixel.com-Shutterstock

損金の計算で重要な「減価償却」の肝は取得価額と使用可能期間

1 固定資産を取得などした場合に有利な選択をする

企業の成長過程では、さまざまな設備投資が必要です。例えば、取引が大きくなると製造機械や装置の刷新・増設、人材が増えるとオフィスの拡大、さらにオフィス機能を充実化するための備品調達などです。

設備投資に要した支出は、損金(税務上の費用)に算入できますが、そのルールは複雑で次のような分岐があります。

固定資産を取得した場合の基本的な処理の流れ

また、固定資産は取得だけではなく、修理・改良や廃棄・売却をした際の取り扱いにも注意が必要です。さらに、一定の設備投資をした際は、投資額の一部について税額控除などの優遇を受けられる優遇税制もあるので、検討したいところです。

この記事では、有形固定資産を「取得、修理・改良や廃棄・売却」した場合の損金算入に関する基本的なルールと、中小企業の設備投資に係る主な優遇税制を紹介します。

2 「少額減価償却資産」は支出した年に全額を損金に算入できる

1)「少額減価償却資産」とは

「10万円までなら一括で落とせるよね?」。経営者同士でこんな会話がされることがあります。これは「少額減価償却資産」の話題です。

少額減価償却資産とは、「使用可能期間が1年未満」または「取得価額が10万円未満」のいずれかに該当する固定資産です。そして、少額減価償却資産の取得価額は、事業のために使い始めた年に全額を損金に算入できるので、「一括で消耗品費などの経費として落とせる」ということです。

この場合、固定資産として計上しないので減価償却は不要です。また、少額減価償却資産は、取得価額の全額を損金として処理しなければならず、一部だけを資産計上することはできません。

2)1事業年度で総額300万円まで使える「少額減価償却資産の特例」とは

少額減価償却資産は取得価額が10万円未満までですが、青色申告を行う中小企業者等(資本金の額などが1億円以下で一定の法人)には特例があります。少額減価償却資産の特例と呼ばれるもので、「取得価額が30万円未満」の固定資産を少額減価償却資産として処理し、事業のために使い始めた年に、全額を損金に算入できます。これにより、その事業年度の課税所得を減らすことができるのがメリットです。

少額減価償却資産の特例の限度は、1事業年度で総額300万円までです。総額ですから、30万円未満のパソコンを10台調達した場合に全額を損金の額に算入することができます。

3 取得後、数年間にわたって損金に算入する減価償却

1)通常の減価償却資産

少額減価償却資産に該当しない固定資産については、減価償却が必要です。減価償却とは、取得価額を耐用年数にわたって適正に配分(減価償却費として計上)することであり、これにより正しく期間損益計算を行うことが会計上の目的です。ただし、土地のように使用や時間の経過で価値が減少しないと考えられているものは、減価償却の対象にはなりません。

経営者から見ると、減価償却費はキャッシュアウトを伴わない費用であり、タックスプランニングを含めた損益計算において無視できない重要な制度です。前述した「少額減価償却資産の特例」を使うことで、その事業年度の法人税の支払いを抑えることができるでしょう。

では、具体的に減価償却はいつから、どれくらいの期間行うのでしょうか。

まず、減価償却は事業のために使い始めた日から計算するため、基本的には取得時に減価償却方法や耐用年数を判断しなければなりません。この耐用年数が減価償却の期間であり、税務上の耐用年数は法令で定められています。固定資産の種類・仕様・用途などさまざまな要素ごとに細かく規定されており、それぞれの固定資産の特徴を踏まえて決定します。実務上は、国税庁のホームページなどで確認し、対応する耐用年数を決定することになります。

国税庁「主な減価償却資産の耐用年数表」

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/pdf/2100_01.pdf

2)定額法と定率法の違い

主な減価償却方法には定額法、定率法、生産高比例法がありますが、生産高比例法は対象資産が限定されているため、説明を省略します。

定額法と定率法の比較は次の通りです。

定額法と定率法の比較

なお、定額法と定率法のどちらを選択した場合でも、耐用年数を通して見れば減価償却費の合計額は同じです。例として、期首に車両(500万円、耐用年数5年)を取得した場合の定額法と定率法の減価償却費の推移を紹介します。

定額法と定率法の減価償却費の推移

3)一括償却資産

一括償却資産とは、取得価額が20万円未満の減価償却資産のことで、3年間の均等償却ができます。つまり、

機械装置や工具器具備品などについて、個々の耐用年数を把握し、固定資産として計上して通常の減価償却をするのではなく、一括償却資産として計上し、3年間の均等償却をする

という選択肢があるわけです。通常の減価償却の耐用年数は3年を超えるものが多く、一括償却資産を選択すれば短期間で損金に算入できます。

4 まとめ:固定資産を取得した場合の取り扱い

ここまで、固定資産の取り扱いとして「少額減価償却資産」「少額減価償却資産の特例」「通常の減価償却資産」「一括償却資産」について説明してきました。改めてそれぞれの特徴を整理すると次のようになります。

固定資産を取得した場合の取り扱い

5 固定資産を修理・改良した際の支出は損金に算入できるか?

長年使用してきた固定資産が故障してしまった場合、修理・改良(以下「修理等」)が必要です。この場合の選択は、修理等のための支出を、

修繕費などとして損金に算入するか、新たな固定資産の取得とみなして資産計上するか

となります。固定資産として計上しなければならない修繕費を、税務上「資本的支出」と呼びます。

まとめると、固定資産の修理等のうち、「通常の維持管理または原状回復のための支出」は修繕費、「固定資産の価値や耐久性を高めたと認められる支出」は資本的支出として処理することになり、資本的支出の場合は減価償却が必要となります。

例えば、資本的支出に該当するのは、次のようなものです。

  • 建物の避難階段の取り付けなど、物理的に付加した部分に係る費用の額
  • 用途変更のための模様替えなど、改造または改装に直接要した費用の額
  • 機械の部品を特に品質または性能の高いものに取り替えた場合のその取り替えに要した費用の額のうち、通常の取り替えの場合にその取り替えに要すると認められる費用の額を超える部分の金額

ただし、これだけでは判断できないことがほとんどなので、実際は図表5で示した修繕費と資本的支出の判定フローチャートを参考にしながら検討することになります。

修繕費と資本的支出の判定フローチャート

6 固定資産を廃棄や売却したら損金に算入できるか?

長年使用して老朽化したり、新モデルが開発されて陳腐化したりした固定資産を廃棄・売却した場合、その時点における固定資産の帳簿価額と売却価額の差額を、固定資産除却(売却)損益として損金(または益金)に算入します。

このあたりは簿記の話となりますが、要するに売却価額が帳簿価額を下回れば損金、上回れば益金となります。なお、廃棄・売却の際に、運送費や廃棄手数料などの付随費用が生じたときは、その金額は固定資産除却(売却)損益に含めて処理します。

以上が基本ですが、一括償却資産の場合は異なります。

3年間の償却期間中に一括償却資産を廃棄(売却)した場合、その除却(売却)損に相当する額は損金に算入できない

というルールがあります。そのため、廃棄(売却)した年も、引き続き3年均等償却をしなければなりません。実務上は、一度、固定資産除却(売却)損を計上し、税務申告書上で調整をするという、少々面倒な手続きをすることになります。

また、廃棄せずに保有している固定資産であっても、次の場合は固定資産除却損として損金に算入できます。

  • その使用を廃止し、今後通常の方法により事業の用に供する可能性がないと認められる固定資産
  • 特定の製品の生産のために専用されていた金型等で、当該製品の生産を中止したことにより将来使用される可能性のほとんどないことがその後の状況等から見て明らかなもの

7 中小企業が設備投資で使える有利な優遇税制

ここまで、固定資産について取得、修理・改良、廃棄・売却した場合の取り扱いについて紹介してきました。いずれも中小企業が有利な選択をするための一助となる情報です。最後に紹介する優遇税制も、大切な内容ですので、ぜひ、ご確認ください。

1) 中小企業投資促進税制

中小企業投資促進税制とは、生産性の向上を目的に一定の設備投資やソフトウエアを購入した場合に、その投資額の一部を税額控除か、特別償却(通常の減価償却費のかさ増し)のいずれかを選択して適用(資本金3000万円超の中小企業については特別償却のみ)できる制度です。

中小企業投資促進税制の概要

例えば、生産性向上を目的に300万円の機械装置を購入して、税額控除を選択した場合、21万円(300万円×7%)を法人税額から控除できます(法人税額の20%限度内である場合)。

なお、購入する設備ごとに購入金額や重量などに下限が決められているため、注意が必要です。また、一部の業種(電気業、水道業、鉄道業、航空運輸業、銀行業、映画業を除く娯楽業など)は対象外とされているため、自社の業種が指定事業に含まれているか確認するようにしましょう。

この税制を受けるためには、事前の申請などは必要なく、法人税の申告の際に、確定申告書に一定の書類を添付することで適用を受けることができます。

中小企業投資促進税制を利用する際に必要な書類

2)中小企業経営強化税制

中小企業経営強化税制とは、中小企業等経営強化法の認定を受けた経営力向上計画に基づいて新たな設備投資をした場合に、税額控除か即時償却(購入時に全額を損金に算入)のいずれかを選択して適用できる制度です。

要件は4つのタイプに分かれており、それぞれに定められた要件を満たす必要があります。また、法人税の申告の際に、確定申告書に一定の書類(別表や適用額明細書)を添付することで適用を受けられます。

中小企業経営強化税制の概要

例えば、100万円のシステム投資を行って税額控除を選択した場合、10万円(100万円×10%)を法人税額から控除できます(法人税額の20%限度内である場合)。

なお、中小企業投資促進税制と同様、購入した設備ごとに購入金額の下限が決められているため、注意が必要です。また、一部の業種(電気業、水道業、鉄道業、航空運輸業、銀行業、映画業を除く娯楽業など)は、対象外とされているため、自社の業種が指定事業に含まれているか確認するようにしましょう。

この税制を受けるためには、事前に経営力向上計画を作成し、国から認定を受けなければなりません。申請準備から認定までおおよそ3カ月はかかるといわれているので、早めの相談が必要です。また、法人税の申告の際に、確定申告書に一定の書類(認定計画の申請書および認定書の写しや、別表、適用額明細書)を添付しなければなりません。

以上(2024年3月更新)

(監修 税理士法人アイ・タックス 税理士 山田誠一朗)

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忘れがちな「労働者死傷病報告」

雇用している労働者が仕事中のけがで休業した場合、会社は所轄の労働基準監督署に「労働者死傷病報告」を提出しなくてはなりません。しかし、労災保険の給付申請は行っても、労働者死傷病報告の提出を忘れる中小・零細企業が少なくありません。本稿では、労働者死傷病報告について詳しくお伝えします。

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「経費」「費用」「損金」とは? 似ているけど決定的に違う意味

1 理解していますか? 「経費」で落とすことの大切な意味

「この支払いは経費で落ちる?」

経営者や社員が経理・会計担当者によく聞く内容ですが、この質問の意図は立場によって大きく違います。

社員がこの質問をするのは、「会社のお金で経費を精算できるか」、つまり自腹を切らずに済むかを確かめたいからでしょう。一方、経営者の場合は、社員と同じように経費精算できるかを聞く意味合いもありますが、それ以上に「1円でも多くのお金を設備投資や人材採用に使いたい」という思いがあります。

では、なぜ支払いが経費で落ちると事業のために使える資金が増えるのでしょう?

経費で落ちるということは、会社のお金で支払うということですから、逆に事業で使えるお金は減りそうなものです。

このカラクリは会計制度の違いからきていて、経営者は「税務会計」を意識して質問をしています。

一体、どういうことなのか。詳しく見ていきましょう。

2 中小企業の会計は税務会計が基準

会計には「財務会計」「税務会計」「管理会計」の3つがあり、目的や作成される書類などが違います。

3つの会計の比較表

3つの会計の関係性を示すと、次のようになります。

3つの会計の目的や関係(イメージ図)

一般的な中小企業には、上場会社のように財務諸表を広く外部に公表する義務がありません。一方、納税の義務は会社の規模に関係なく生じます。そのため、

中小企業の会計は税務会計が中心になる

ことになります。

なお、管理会計は社内の意思決定のために行うものなので、実施するか否かは任意ですし、納税額の計算にも直接的な影響はありません。

会計の種類とそれぞれの役割がお分かりいただけたと思います。ここからは、財務会計と税務会計という、2つの制度会計を中心に説明していきます。

3 「経費」「費用」「損金」の正しい定義とは?

早速、財務会計と税務会計でもうけを計算する仕組みを確認してみましょう。

財務会計と税務会計で儲けを計算する仕組み

財務会計では「利益」「収益」「費用」、税務会計では「所得」「益金」「損金」の関係になります。これは言葉の違いだけではありません。多くの項目はほぼ同じ取り扱いではあるものの、一部、取り扱いが違うものがあり、それこそが「税務調整」の対象となります。

具体的には、税務計算では財務会計上の収益・費用に一定の調整(税務調整)を加えて、益金・損金とし、所得を計算する流れになります。

このあたりの詳細は、以下の記事で紹介しているので、ご確認ください。

ところで、皆さんは疑問に感じませんか?

財務会計にも税務会計にも「経費」という言葉が出てきません。実は、

経費とは、財務会計上の費用の一部を指す会計用語

なので、先のもうけの計算では登場しなかったのです。ただし、個人の場合は所得税法上の用語として経費という言葉が使われます。確定申告をしたことがある方にはなじみが深いでしょう。

経費と費用と損金の関係を示すと、次のようになります。

経費と費用と損金の関係(イメージ図)

まとめると、次のようになります。

「経費」「費用」「損金」の違い
経費とは、一般的に財務会計上の費用の一部を指す会計用語で、費用のうち販売や管理目的で支払われる支出を指すことが多い。

費用とは、財務会計上の利益を計算する上で、マイナス項目となる支出のこと。

損金とは、税務会計上の所得を計算する上で、マイナス項目となる支出のこと。

ここで冒頭の質問に戻ります。経営者は税務会計を意識して、「この支払いは経費で落ちる?」と聞いているわけですが、その真意は次の通りです。

税務会計を意識した経営者の意図
経費が増えると費用が大きくなる。その中で損金に算入できるものがあれば、税務会計上の損金も大きくなって所得が小さくなり、税金負担が軽減される。その分、会社により多くのお金が残るので事業に使える。

法人税は、前述した「所得」に税率を乗じて計算するので、所得が小さければ税額は減少するのです。ただし、経費が増えれば「必ず」税負担が減少するわけではなく、損金になるものは限られています。

次章で、損金に算入できるか否かの判断に迷いやすい代表的な費用として、福利厚生費、交際費、備品などの購入費、減価償却を取り上げます。

4 福利厚生費、交際費、備品などの購入費、減価償却の損金算入

1)福利厚生費

福利厚生費とは、社内のコミュニケーションの円滑化や社員のモチベーション向上のために行われるイベント開催費や物品購入費などです。

基本的に、福利厚生費は全額を損金に算入できます。ただし、支出の目的が曖昧だったり、金額が一般的に見て高額すぎたりする場合、福利厚生費とは認められず、損金に算入できません。福利厚生費の詳細は、次の記事を参照ください。

2)交際費

交際費とは、取引先など社外の人との飲食費や、贈り物をした場合の物品購入代などです。

交際費は、原則として損金に算入できません。ただし、飲食費については、参加者1人当たりの代金が1万円以下(2024年3月31日以前のものは5000円以下)であれば、交際費ではなく、会議費などとして損金に算入できます。

また、資本金が1億円以下である中小企業の場合、社外の人との飲食費の50%までの金額(飲食費の金額を問わない。社内飲食費は除く)、もしくは飲食費に限らず年間800万円までの交際費のどちらか一方を選択し、損金に算入できる特例があります。交際費と会議費の詳細は、次の記事を参照ください。

3)備品などの購入費

備品などの購入費は、金額の大小や、どのくらいの期間使い続けられるものかなどによって考え方が変わってきます。

例えば、使用可能期間が1年未満、または取得価額が10万円未満のものであれば、消耗品費として、全額をその物品を使い始めた日に損金に算入できます。この他にもさまざまなルールがあるので、備品などの購入費の詳細については、次の記事を参照ください。

4)減価償却

減価償却とは、資産計上される備品など(以下「固定資産」)の損金処理の方法です。

会社の成長・発展のためには設備投資が欠かせず、数千万や数億円を使うこともあります。このように高額な固定資産については、使用の実態に合わせて、少しずつ損金処理していくルールがあり、それが減価償却です。

固定資産の減価償却は、種類・仕様・用途など、さまざまな要素ごとに細かく減価償却方法や償却期間(耐用年数)が決まっていて、その通りに計算しなければなりません。

ややこしいのは、財務会計では認められるが、税務会計では認められない方法などがあるため、税務会計の限度額を超えて減価償却費を計上してしまうことがあります。しかし、税務会計の限度額を超えた部分については損金に算入できないので注意が必要です。減価償却の詳細については、次の記事を参照ください(備品などの購入費のところで紹介しているのと同じ記事です)。

5 「経費・費用」と「損金」と経営者に必要な視点

いかがでしたか。普段何気なく使っている「経費」「費用」「損金」という言葉には、明確な違いがあることをお分かりいただけたと思います。

そして、「この支払いは経費で落ちる?」という質問には、単に会社から経費分のお金が戻ってくるということだけではなく、「それが損金に算入できたら税務会計上の所得が減り、税負担の減少につながる」という意味もありました。

一方、税負担を減らすという点だけに重きを置きすぎることは危険です。確かに損金に算入できれば税負担は減少します。しかし、そもそも備品などを購入するために支払った費用が会社に戻ってくるわけではないので、当たり前のことですが、会社の成長に効果のないお金の使い方、つまり無駄遣いはしてはいけません。

事業に必要な費用は使わなければなりませんが、何が必要で、何が不要なのかを判断するのは経営者です。しかも、その基準は会社の経営ステージによって変わります。経営者の計数感覚が試されるところです。

以上(2024年3月更新)

(監修 辻・本郷税理士法人 税理士 安積健)

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役員報酬を損金に算入するための基本ルールと役員住宅を使った税金対策

1 役員報酬を損金に算入できなければ資金繰りに影響が出る?

役員報酬は、従業員給与と違い、税務上のさまざまな取り決めがあります。例えば、従業員給与は基本的に全額を損金に算入できますが、役員報酬は毎月同額でなければならないなど、一定の方法で支払われたものでなければ損金に算入できません。

役員報酬は金額が大きいので、取り扱いを間違えて損金に算入できないと想定外に税負担が重くなり、資金繰りにも影響します。このような事態を避けるためにも、役員報酬に関する税務上の取り扱いを正確に把握しましょう。

また、役員関連で活用できる税金対策に「役員が居住用に借りている自宅の社宅化」があります。一般的には社宅家賃の5割程度が損金に算入できるといわれています。ただし、一定の取り決めなどが必要になりますので、決められた取り決め通り正確に実施することが大切です。

この記事では役員報酬の基本的なルールと、役員社宅に関する税金対策について分かりやすく紹介していきます。

2 損金に算入できる3つの役員報酬

税務上、損金算入できる役員報酬は、以下のいずれかに限られています。なお、業績連動給与を損金に算入できるのは有価証券報告書の提出企業(いわゆる上場企業)などに限られるので、中小企業は、定期同額給与か事前確定届出給与で支給するのが通常です。

  • 定期同額給与
  • 事前確定届出給与
  • 業績連動給与

仮に、いずれにも該当しない役員報酬を損金に算入して確定申告をしてしまった場合、税務調査などで指摘を受け、役員報酬分に係る法人税を支払うことになります。役員個人には支給時に所得税が課税されているので、損金に算入できないこの役員報酬には法人税と所得税が二重に課されることになります。

3 定期同額給与とは?

定期同額給与とは、毎月同額を給与として支給するものです。例えば、3月決算の会社の場合、4月から翌年3月までの12カ月の支給時期における支給額が同額でなければなりません。

定期同額給与のイメージ(3月決算の会社の場合)

定期同額給与の金額を変更できるのは、原則として事業年度の開始から3カ月以内に限られます。例えば、3月決算の会社であれば、6月30日までに改定されて支給される役員報酬が該当します。役員報酬の支給金額変更には株主総会での普通決議が必要です。

定期同額給与(その他これに準ずるもの)

なお、役員の職制上の地位の変更など一定の理由(臨時改定事由や業績悪化改定事由)がある場合は、期中でも役員報酬の減額が認められ、毎月同額でなくなった場合も全額損金として認められます。とはいえ、損金に算入するためには、定められた期間内の支給額を同じ額にする必要があります。

では、事業年度の開始から3カ月が過ぎ、期中に増額・減額をした場合(臨時改定事由や業績悪化改定事由がない場合に限る)はどうなるのでしょうか。答えは次の通りです。

  • 3月決算の会社が、12月以降の役員報酬を月20万円「増額」した場合、「20万円×4カ月間(12月~3月)=80万円」を損金に算入できない
  • 3月決算の会社が、12月以降の役員報酬を月20万円「減額」した場合、「20万円×8カ月間(4月~11月)=160万円」を損金に算入できない

役員報酬を増額または減額する場合

また、役員報酬は給与所得であるため、法人税のルールにかかわらず所得税の対象になります。つまり、損金とすることができない役員報酬額の部分には、法人税と所得税が二重に課されることになります。

4 事前確定届出給与

事前確定届出給与とは、いわゆる役員賞与に当たり、支給するためには原則として一定の届出が必要です。

具体的には、株主総会等の決議をした日から1カ月以内など、定められた期限内に税務署へ届出書を提出し、その届出書に記載した対象者・支給日・支給金額の内容通りに支給します。手続きは煩雑ですが、支給額や支給時期を自由に決めることができます。ただし、届出書に記載した対象者・支給日・支給金額の内容通りに支給しなければ、その全額が損金に算入できなくなってしまうので注意が必要です。

事前確定届出給与のイメージ(四半期支給の場合)は次の通りです。

事前確定届出給与のイメージ

また、事前確定届出給与を前述した定期同額給与と組み合わせて、役員賞与を設定する場合があります。

定期同額給与+事前確定届出給与のイメージ

5 役員報酬を変更する場合のスケジュール

ここまで触れてきたように、定期同額給与と事前確定届出給与を変更する際は、その期限を守らなければなりません。3月決算の会社を例にとると、役員報酬を変更するスケジュールは次のようになります。

役員報酬の変更スケジュール

3月決算の場合、定時株主総会は6月末までに開催することになっています。定期同額給与の変更は、原則として事業年度開始の日から3カ月以内なので、6月末が期限です。

事前確定届出給与は、定時株主総会による決議から1カ月以内、または事業年度開始の日から4カ月以内のいずれか早い日が届出期限です。例えば、6月20日に株主総会が開催された場合、7月20日と7月31日を比較し、早い日である7月20日が届出期限となります。

6 ルールを守っていても高額すぎるとみなされた部分は損金に算入できない

ここまで紹介してきたルールにのっとって役員報酬を支給していても、役員の職務内容や会社の業績などと照らし、高額すぎるとみなされた場合、その高額とみなされた部分の金額は損金に算入できません。

支給額が高額かどうかの判断は、金額のみで判断されるわけではなく、実質基準と形式基準の2つの基準に従って総合的に判断されます。

  • 実質基準:役員の職務内容、会社の収益状況、従業員に対する給与の支給状況、類似する会社の役員給与の支給状況などから判断する
  • 形式基準:定款の定めまたは株主総会の決議によって決定した役員報酬の金額の限度額に照らす

役員報酬の支給額を変更する際には、その検討過程を詳細に説明できるよう、議事録などの関係書類を作成しておくようにしましょう。

7 損金に算入できる役員社宅の賃借料

役員が居住用に借りている自宅については、通常、役員個人が賃貸借契約をしています。これを会社の賃貸借契約に変更すると、会社が借りた住居を社宅として役員に貸し付けるかたちとなり、会社が支払う家賃と役員から受け取る家賃の差額を損金に算入できます。このメリットは大きく、

一般的に、社宅家賃の5割程度が損金に算入できる

といわれます。

役員社宅の仕組み

ただし、役員の家賃負担額には一定の基準があります。役員は、国税庁が定めた「一定額の家賃」以上の額を会社に支払うことで、税務署に社宅であると認めてもらえます。この定められた額より少ないと、上記の損金に算入できる部分は損金に算入できない役員報酬とみなされ、課税対象になります。

具体的には、役員が支払う家賃については、床面積などから次の3つの住宅に区別して計算されることになっています。

  • 小規模な住宅
  • 小規模な住宅に該当しない住宅
  • 豪華社宅

1)小規模な住宅

小規模な住宅とは、建物の法定耐用年数が30年を超える場合は床面積が99平方メートル以下、30年以下の場合には、132平方メートル以下の住宅のことです。次の1~3の合計額が、役員が支払う家賃になります。

  • (その年度の建物の固定資産税の課税標準額)×0.2%
  • 12円×(その建物の総床面積(平方メートル)/(3.3平方メートル))
  • (その年度の敷地の固定資産税の課税標準額)×0.22%

2)小規模な住宅に該当しない住宅

小規模な住宅に該当しない場合、次の2種類に分けて役員の家賃を計算します。

1.自社所有の社宅の場合

次のa.とb.の合計額の12分の1

a.(その年度の建物の固定資産税の課税標準額)×12%(建物の法定耐用年数が30年を超える場合は10%)
b.(その年度の敷地の固定資産税の課税標準額)×6%

2.他から借りた住宅を社宅にする場合

会社が支払う家賃の50%の金額と1.で算出した金額の、いずれか多い金額

3)豪華社宅

豪華社宅は家賃の全額が役員の負担となるので、税金対策ができません。豪華社宅に該当するか否かは、

床面積が240平方メートルを超える場合で、かつ物件価格・家賃・内装や外装の設備の状況などを考慮した総合的判断

となります。また、床面積が240平方メートル以下でも、プールなど役員の個人的な嗜好が反映されている設備があると豪華社宅とみなされます。

なお、家賃負担額以外にも、光熱費、駐車場代などは、役員本人の負担となり、もし会社が負担すると役員報酬として課税対象になります。

留意点も多少ありますが、居住用の自宅を社宅化することで役員報酬を減額すれば、会社が負担する社会保険料を抑えることができます。また、役員個人としての家賃負担が軽減されるので、結果として手取り額が増えるのと同じ効果を得られます。

以上(2024年3月更新)

(監修 エスコート税理士法人 税理士 林孝行)

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家康がくれた宝「プラモデル産業」を未来へつなげ! ~「聖地巡礼」事業のススメ 後編

1 「聖地巡礼」事業のキホン

まずは、前編で押さえた「聖地巡礼」事業の大切な3つのポイントをおさらいしてみましょう。具体的には以下の3つです。

1.好きになることからはじめよう

自らが作品やキャラクターのファンになり、ファンが本当に求めているサービスなどを理解する

2.地域も人も巻き込もう

行政や中小企業が志を共有し、協力する。業界や分野を問わず、さまざまな分野を巻き込んで街全体で取り組みをはじめる

3.長期的に付き合ってゆく覚悟を持とう

実質的な効果が出始めるまでは時間がかかる場合が多いので、一度始めたら長期的なスパンでイベントを続ける

前編では【キャラクターと共に育ってゆく】【地域全体で協力する】をキーワードに、「福島県飯坂温泉×温泉むすめ」の事例を紹介しました。後編では、【地元の産業を活かす】【伝統をつないでゆく】をキーワードに、静岡県静岡市がはじめた斬新な「静岡市プラモデル化計画」の事例を紹介します。

※この記事は後編です。前編は下リンクからどうぞ!

2 【静岡市×プラモデル】“聖地”で歴史と技術をつなぐ

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早速「静岡市プラモデル化計画」の成功の秘訣をひもといていきましょう。プラモデルのアツいファンと静岡市がどのように結びついてきたのかがポイントです。

1)「ホビーの聖地」静岡市

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静岡市内には一風変わったモニュメントがたくさんあります。「プラモニュメント」と名付けられたもので、その名の通りプラモデルを模したモニュメントです。中には公衆電話や郵便ポストと一体化しているなど、実用性を兼ねて設置されているものもあります。

静岡市経済局 産業振興課 プラモデル振興係の石川 直哉(いしかわ なおや)氏によると、2024年7月現在、静岡市にあるプラモニュメントは全部で12基。2年後の2026年度までに、30基の設置を目指しているそうで

す。このプラモニュメントは地元の産業とのコラボレーション。実は、

日本全国のプラモデル製造品出荷額の8割以上を静岡市が占めている

のです。タミヤ(株式会社タミヤ)、アオシマ(青島文化教材社)、バンダイホビーセンター(株式会社BANDAI SPIRITS ホビー事業部)、ハセガワ(株式会社ハセガワ)など、プラモデルで有名な企業は、そのほとんどが静岡市に拠点を置いています。

では、なぜ静岡市にこんなにもプラモデルメーカーが集まっているのか?――その答えは、歴史の中にありました。

2)家康からつないできたプラモデルの歴史

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上図の通り、静岡市のプラモデル産業は江戸時代から受け継がれる流れであり、職人が懸命に積み上げてきた地域技術の結晶です。しかし、これから先もプラモデル産業を盛り上げてゆくためには、次のような大きな課題がありました。

  • 静岡市と言えばプラモデル、というイメージが浸透していないこと
  • 製造者もファンも年齢層が上がってきていること

かくして、「本来のファン層以外にプラモデルのことを知ってもらい産業自体の認知度を上げること」、そして「地元の次世代を担う若者たちにプラモデルに興味を持ってもらうこと」を目的に、視覚的に訴えかけるプラモニュメントの制作と設置がはじまりました。

何よりこのプロジェクトの“キモ”は、

地元の自治体と企業がしっかりと手を組み、協力している

ことです。次のパートでは、静岡市のプラモデル企業や他業種の地元企業がこのプロジェクトにどう関わっているのか、そして企業同士の連携などについて紹介します。

3)未来のために連携する企業たち

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はじめに、プラモニュメントについて。元来のプラモデルファンが「聖地」を訪れたときに満足できるよう、プラモニュメントはたとえ裏側であっても決して手は抜かずに、ファンをして「細かすぎる!」と言わしめるほど細部にまでこだわっています。

実際のプラモデルについているパーツを忠実に再現し、目にした瞬間にワクワクするようなデザインにすることで、ファンの心を魅了するのはもちろん、広告電通賞最高賞(2023年、自治体が受賞するのは全国初)やJAA広告賞(2023年 屋外・交通広告部門)など、多くの場で評価されています。

これは地元のプラモデルメーカーの全面的な協力と監修あってのこと。

自治体と地元企業が協力し、本気で「聖地巡礼」事業に取り組んでいることが良く分かります。

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次に、他業種との連携について。静岡市に本店を構える静清信用金庫では、設置するプラモニュメントの製造を静岡市内の製造業者に依頼することで、地域経済の活発化にも貢献しています。

静岡市主催の地域創生プロジェクトに、静岡市に本社を置く信用金庫が参加し、静岡市内のメーカーに制作を依頼し、静岡市内の企業が監修する――「静岡市プラモデル化計画」は、街中に次々と登場するプラモニュメントを通して、「聖地巡礼」事業にとっての理想の姿を実現しているように見えます。

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また、特筆すべきは、このプロジェクトは単なるモニュメント設置だけのために存在しているのではないということ。静岡市のもう一つの目的として挙げられるインナーブランディング――技術を承継する人材の育成についても、地元企業は大々的に協力しています。

同プロジェクトではプラモデルメーカーが行う地元小学校への出張授業や、静岡市で開かれる日本有数のホビーショーへの地元小中高生の特別招待なども、官民一体となって取り組まれています。静岡市の子どもや若者がプラモデルに興味を持つこと、やがてその中からプラモデルに関わる人材を輩出することを目指して、プラモデルメーカーが精力的にプロジェクトに参加しています。

静岡市の取り組みは「フォトジェニック」な対外的なプロジェクトのように思われがちですが、新規の観光客をはじめ、外部だけに地域の魅力をアピールしているわけではありません。内部(地元)へ向けてのアプローチも大きな目的であり、地元が誇る産業を引き継いでゆく人材を育てることを目標としているのです。

将来的にはプラモデルが静岡市民の生活に浸透し、静岡市の誇るべき産業が循環して永続的に続き、静岡市が百年先も「世界一のプラモデルの街」であり続けるように……

今日も静岡市と地元企業は、地元の未来のために奮闘しています。

3 「三方よし」のプロジェクトを目指す

ここまで紹介してきたものの他にも、埼玉県久喜市(「らき☆すた」)、茨城県大洗町(「ガールズ&パンツァー」)、静岡県沼津市(「ラブライブ! サンシャイン!!」)など、「聖地巡礼」事業で地域創生に成功した例はたくさんあります。

また、アニメツーリズム協会専務理事の鈴木 則道(すずき のりみち)氏によると、昨今は作品の制作段階から、アニメの舞台となる地域と手を組みプロジェクトを推進してゆくケースも多いとのこと。作品の制作側にとっても、作品の聖地で定期的にイベントを開催することでファンの心を捉え続け、作品の人気が持続することはメリットといえます。

「三方よし」は多くの事業にとっての理想の姿ですが、それを実現するのはなかなか困難を極めるもの。しかし「聖地巡礼」事業は、

地域(自治体や地元企業など)とファンと作品制作側、全員が満足できる可能性を秘めた取り組み

なのです。

自治体と地元の中小企業が手を組み本気で向き合えば、「聖地巡礼」事業は、経済効果が見込めるほか、地元住民同士がコミュニケーションを取るきっかけになる、次世代の産業の担い手を育成することにもつながるといった、大きなチャンスにもなり得ます。自分たちの地元のために何ができるのか、検討してみる価値は十二分にあるでしょう。

以上(2024年7月作成)

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画像:静岡市

「温泉むすめ」と一緒に地域創生! ~「聖地巡礼」事業のススメ 前編

1 「聖地巡礼」事業で地域創生!

この記事内でいう【「聖地巡礼」事業】とは、「熱烈なファン(オタク)が居るコンテンツやジャンルを資源として、地域の企業が協力して取り組むさまざまな事業」を指します。「聖地巡礼」事業は地域創生の可能性を広げる取り組みであり、各地に成功例があります。そこで、この記事では前編と後編に分けて、「聖地巡礼」事業の成功ポイントと、「聖地巡礼」事業の“お手本”といえる成功事例を紹介します。

昨今、多くのメディアで取り上げられている「聖地巡礼」。もともとは「宗教上の聖地・霊場などを参拝して回ること(小学館 デジタル大辞林より)」を指しますが、いまどきは、

小説・映画・アニメなどの作品の舞台となった場所をファンが訪ねること

を意味します。地元の人からしてみれば「なんでもない」場所に、よそから来た若者が集まって写真を撮っている? という感じでしょう。

常にファンが集まる「聖地」は全国各地に存在しており、インバウンドの増加も、その盛り上がりを後押ししています。

では、「聖地巡礼」は地域にどのようなメリットをもたらすのでしょうか。訪れたファンが地域の飲食店や宿泊施設を利用することで、地域全体の経済活動が活発になります。聖地巡礼をビジネスとして捉えて取り組むことを「聖地巡礼」事業とすれば、地域創生を目指す地域にとって「聖地巡礼」事業は地域活性化のトリガーになり得ます。しかし、「聖地巡礼」事業はもろ刃の剣。中途半端に手を出すと逆にファンの信用を失ってしまったり、せっかく作ったマスコットキャラクターにファンがつかなかったり……。ノウハウ不足のままはじめると、予想以上に事業が「スベって」しまうことも多いものです。

この問題に、どのように向き合えばよいのか。早速、確認していきましょう。

2 「作品のファン」から「地域のファン」へ

まず「聖地巡礼」事業の真の目的は、

「作品のファン」が「地元のファン」へと進化を遂げること

です。ファンに地元の良いところをアピールし、何度も訪れてもらい、地元全体が活き活きとすることで、

  • 作品やキャラクター、コンテンツを抜きにしても、永続的に遊びに来てもらえる
  • 地元出身の若い人材が、都市部ではなく地元で生きていくようになる
  • 新しい人材(ファン)が地元企業に就職あるいは定住する

などの効果が表れれば地域創生に成功したといえます。この点を踏まえると、「聖地巡礼」事業をはじめるにあたって押さえておきたいのは

  • 好きになることからはじめよう
  • 地域も人も巻き込もう
  • 長期的に付き合ってゆく覚悟を持とう

という3つのポイントです。

1)好きになることからはじめよう

大前提として、熱烈なファンの気持ちは熱烈なファンにしか理解できません。つまり、聖地巡礼に訪れた人を満足させるサービスを創り出すためには、

自分がその作品やキャラクターなどを好きになり、理解することが不可欠

ということです。

特にキャラクターを使用した地域創生については、

ファンは想像している以上に、サービスの“浅さ”を見抜いてしまう

ものです。

例えば、ただイラストを貼り付けただけのグッズではファンの心は動かせません。【キャラクターの性格や好みを反映する】【地元との共通点を押し出す】【デザイン細部までこだわる】など、「作品を理解しているからこそ」の遊び心を入れ込むことで、ファンははじめて大きな喜びを感じ、グッズを手に取るに至ります。

2)地域も人も巻き込もう

アニメを通した地域振興・インバウンド促進を目的に活動するアニメツーリズム協会専務理事の鈴木 則道(すずき のりみち)氏によると、「聖地巡礼」事業を成功させた地域には、自治体や地元の企業が手を組み、地域ぐるみで事業に取り組んでいるところが多いそうです。

まずは地元の自治体や中小企業がしっかりと志を共有し、協力することが大切

なのです。

例えば、地元製造業では伝統工芸品や名物を用いたグッズ、飲食店・宿泊施設では登場人物をイメージしたコラボメニュー・コラボプランの販売、交通ではオリジナル・アナウンスの放送など、色々な分野のサービスを「聖地巡礼」事業に巻き込むことが考えられます。

自治体や周りの企業・店舗に声がけし、地域一帯で取り組みをはじめてみる

ことで地域の一体感も増して、地方の喫緊の課題でもあるコミュニケーション・ロスの解消にもつながるでしょう。

3)長期的に付き合ってゆく覚悟を持とう

3つ目のポイントは、

一度はじめたら長期的に、もしかしたら何十年も事業と付き合ってゆく覚悟を持つこと

です。

イベントなどを開催して得られる経済効果は大切ですが、スタートから定期的に開催しないと、ファンはだんだんとコンテンツのことを忘れていってしまいます。

「聖地巡礼」事業は一朝一夕とはいきません。長期にわたるプロジェクトであることを認識し、責任と覚悟を持って取り組まなければなりません。

以上3つのポイントを見てみると、「思った以上に大変そう」と気後れしてしまうかもしれません。しかし、「聖地巡礼」事業をきっかけに、確かに地域復興に成功している地域もあります。前編では、地域全体で協力することで「聖地巡礼」事業が成功し根付いた「福島県 飯坂温泉×温泉むすめ」の例を挙げ、【キャラクターと共に育ってゆく】【地域全体で協力する】をキーワードに、その効果や成功の秘訣について詳しく紹介していきます。

3 【福島県 飯坂温泉×温泉むすめ】 地元愛で育ててゆく

1)地域創生のために生まれた“むすめ”たち

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「温泉むすめ」は、全国各地の温泉地をキャラクター化(擬人化)し、声優やキャラクターを通じて、Z世代に温泉地の魅力をPRする国内で唯一の地域活性化プロジェクト。

2016年に産声をあげた「温泉むすめ」たちの活動は、今年度でなんと8年目! 観光業界に大きなダメージを与えたコロナ禍も乗り越え、彼女たちは今なお多くのファンを魅了し続けています。

2010年代に一世を風靡した「艦隊これくしょん-艦これ-」や「刀剣乱舞ONLINE」(両者共にDMM GAMES)などと同じ、いわゆる「擬人化モノ」のコンテンツではあるのですが、それらと大きく違うのは、彼女たちが最初から“地域創生のために”生まれてきたという点です。

日本各地の温泉地から生まれ、温泉地をPRするために活動している彼女たちが実際にもたらした経済効果は、なんと累計で100億円になります。

キャラクターに惹かれたファンが実際の温泉地まで足を伸ばして、彼女たちに「会いにゆく」――「温泉むすめ」は、一種の「推し活」と地域活性化を組み合わせた、唯一無二の「聖地巡礼」事業です。

加えて特徴的かつとても大事なのは、

彼女たちは温泉地の人々に、地域の看板娘=地域の皆さんの実の娘のようにかわいがられ、愛されている

こと。

そしてその「愛」としか名前を付けることができない、「温泉むすめ」たちに関わる人が共有するユニークな感情にこそ、「温泉むすめ」たちが地域活性化に貢献した理由が隠されていたのです。

2)「真尋ちゃん」という地域の“むすめ”

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例えば、福島県・飯坂温泉の温泉むすめ「飯坂真尋(いいざか まひろ)」。地域の祭りである「けんか祭り」からイメージされる勇ましい性格で、大好物は飯坂温泉名物の飯坂ラーメンやラジウム玉子……と、飯坂温泉ならではのモチーフをちりばめた設定は、本当に地元に生まれ、生きている女の子のよう。飯坂温泉の人々からは、「真尋ちゃん」と呼ばれ、実の娘のように親しまれています。

しかし、なぜ「真尋ちゃん」は、飯坂温泉の人々からこんなにも愛されているのでしょうか?

――それは、

彼女が普通の女の子と同じように、“地元と共に育ってきたから”

に他なりません。

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例えば、街中に設置されている真尋ちゃんパネルのイラストを見てみましょう。酒屋さんには地酒を持った姿、お茶屋さんでは茶摘み娘の姿……と、真尋ちゃんは飯坂温泉のあちこちで、地域のPR活動に奔走しています。

実は、基本のビジュアル以外はどの真尋ちゃんも、地域の魅力を誰よりも分かっている飯坂温泉の人々が「どんな真尋ちゃんを見せたいか」を考え、話し合ってプロジェクト側に制作を依頼したもの。

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飯坂温泉の人々は1カ月~2カ月に1度、老若男女問わず集まって「飯坂真尋ちゃんプロジェクト会議」を開き、地域の看板娘である真尋ちゃんの活動について、アツく意見をぶつけ合っています。

かつて飯坂温泉は、福島県外での知名度の低さに悩んでいました。飯坂温泉はヤマトタケル伝説にも登場するほど歴史が深く、正岡子規や与謝野晶子をはじめとした文豪たちやヘレン・ケラーなど、国内外問わず多くの人に愛された名湯ですが、福島県外での知名度は下がるばかり。飯坂温泉の人々は「このままでは将来、観光客がいなくなってしまうのではないか?」という懸念も持っていました。

そんな中、飯坂温泉を訪れたファンから教えてもらって「温泉むすめ」の活動を知り、飯坂温泉観光協会や地域を巻き込みながらはじまったのが「飯坂真尋ちゃんプロジェクト」。観光協会や温泉宿をはじめとして、飲食店や企業が協力し、今では地元の大学も巻き込んで年代や業種問わず、地域全体で「聖地巡礼」事業に取り組んでいます。

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真尋ちゃんについて真剣に考え、皆で話し合い、共に育ち、生きてゆく。その結果、真尋ちゃんの息づかいが感じられる飯坂温泉は、温泉むすめファンにとってまさに「聖地」と呼ぶべき場所になりました。

彼女が主役のイベントを開催すれば800名近くのファンが集まり、飯坂温泉の温泉宿や飲食店が大いににぎわいます。また、「真尋ちゃん音頭」を作るクラウドファンディングは開始から4時間半で目標金額を達成し、支援総額は約360万円にものぼりました。

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真尋ちゃんの私室を模した部屋を提供する温泉旅館もあり、スマートフォンで使える街案内アプリでは、3Dの真尋ちゃんが実際に飯坂温泉を案内してくれます。真尋ちゃんは紛れもなく、飯坂温泉で「生きて」いるのです。

飯坂温泉の人々は、その言葉の通り、真尋ちゃんを温泉地の一員として迎え入れ、実の娘のように育て、そして彼女の家族のように、共に育ってきました。

3)キャラクターとも地域とも、「一緒に生きてゆく」

温泉むすめの生みの親である橋本竜(はしもと りょう:株式会社エンバウンド代表取締役)氏によると、温泉むすめによる地域創生の効果は外部からの観光客の増加だけにとどまらないそうです。地域の人々がキャラクターを全世代共通の話題として持ち、皆で地域創生に取り組むことで、世代などを超え、コミュニケーションを取っていく良い効果も生まれています。大切なのは、

キャラクターを「利用する」のではなく、キャラクターと「共に生きてゆく」

こと。飯坂温泉と真尋ちゃんの関係を見ていると、真尋ちゃんへの愛とリスペクトこそが「聖地巡礼」事業の成功へとつながっていくことが、良く分かります。

後編では、【地元の産業を活かす】【伝統をつないでゆく】をキーワードに、静岡県静岡市がはじめた斬新な「聖地巡礼」事業のプロジェクト「静岡市プラモデル化計画」を紹介します。

以上(2024年7月作成)

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画像:飯坂温泉 吉川屋

【かんたん会社法(5)】 中小企業に多い「機関設計」のパターン

1 機関設計とは

会社の「機関」とは、意思決定を行ったり、運営等が適切に行われているか監視したりするものです。具体的な機関には株主総会や取締役などがあり、機関が無ければ会社は適切に運営できません。まさに「体の器官」と同じです。

株式会社(以下「会社」)が設置できる機関は11種類で、その組み合わせを決めることが「機関設計」です。ただし、会社が自由に機関設計をできるわけではなく、会社法でルールが定められています。細かな取り決めは、次の2つのポイントで決まります。なお、

中小企業に多いのは、非公開会社と非大会社の組み合わせ

です。

1.非公開会社(株式譲渡制限会社)と公開会社

1つ目は、非公開会社と公開会社です。非公開会社とは、全ての株式について譲渡制限(株式の譲渡に会社の承認が必要)ある旨を定款に定めている会社です。これ以外の会社が公開会社となります。

2.大会社と非大会社

2つ目は、大会社と非大会社です。大会社とは、資本金が5億円以上または負債総額が200億円以上の会社です。これ以外の会社が非大会社です。会社が採用できる機関設計は2つのポイントの組み合わせで決まります。次章で確認してみましょう。

2 機関設計のパターン

機関設計のパターンは以下の通りです。「株主総会+取締役会+会計参与」を除く他のパターンでは、会計参与の設置は任意となります。

1)非公開会社で大会社の機関設計

非公開会社で大会社の機関設計のパターンは次の通りです。

  • 株主総会+取締役+監査役+会計監査人
  • 株主総会+取締役会+監査役+会計監査人
  • 株主総会+取締役会+監査役会+会計監査人
  • 株主総会+取締役会+監査等委員会+会計監査人
  • 株主総会+執行役+取締役会+指名委員会等+会計監査人

2)非公開会社で非大会社の機関設計

非公開会社で非大会社の機関設計のパターンは次の通りです。

  • 株主総会+取締役
  • 株主総会+取締役+監査役
  • 株主総会+取締役会+監査役
  • 株主総会+取締役会+監査役会
  • 株主総会+取締役会+会計参与
  • 株主総会+取締役+監査役+会計監査人
  • 株主総会+取締役会+監査役+会計監査人
  • 株主総会+取締役会+監査役会+会計監査人
  • 株主総会+取締役会+監査等委員会+会計監査人
  • 株主総会+執行役+取締役会+指名委員会等+会計監査人

3)公開会社で大会社の機関設計

公開会社で大会社の機関設計のパターンは次の通りです。

  • 株主総会+取締役会+監査役会+会計監査人
  • 株主総会+取締役会+監査等委員会+会計監査人
  • 株主総会+執行役+取締役会+指名委員会等+会計監査人

4)公開会社で非大会社の機関設計

公開会社で非大会社の機関設計のパターンは次の通りです。

  • 株主総会+取締役会+監査役
  • 株主総会+取締役会+監査役会
  • 株主総会+取締役会+監査役+会計監査人
  • 株主総会+取締役会+監査役会+会計監査人
  • 株主総会+取締役会+監査等委員会+会計監査人
  • 株主総会+執行役+取締役会+指名委員会等+会計監査人

3 中小企業に多い機関設計のパターン

中小企業で多いのは、非公開会社と非大会社の組み合わせです。具体的な機関設計としては、

「株主総会+取締役」か「株主総会+取締役会+監査役」

を選択することが多いようです。

「株主総会+取締役」が選択されるのは、取締役が1人でも大丈夫なため、シンプルに会社が運営できるからです。

「株主総会+取締役会+監査役」が選択されるのは、株主総会の決議が必要な事項(多額の借財を実施する場合など)でも、取締役会で決められるというメリットがあるからです。また、3人以上の取締役による相互監督抑制機能、取締役の職務執行の監査を行う監査役を設置することで、対外的な信用力も向上します。

以上(2024年7月更新)
(監修 弁護士 八幡優里)

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画像:Mariko Mitsuda