書いてあること
- 主な読者:あまりコストをかけず、社員に喜ばれる福利厚生を実現したい経営者
- 課題:具体的にどんな福利厚生がいいのか、思い浮かばない
- 解決策:福利厚生を「家計」「健康」「育児・介護」「自己啓発」「コミュニケーション」「レジャー」「その他」の7つにカテゴリー分けし、主なものを押さえる
1 コストをかけず、充実した福利厚生を実施するには?
福利厚生とは、社員の生活や職場環境を良くするための報酬やサービス全般を指す言葉で、
- 法定福利厚生:法律で実施が義務付けられている福利厚生(社会・労働保険)
- 法定外福利厚生:会社が独自に実施する福利厚生(各種手当や社内設備など)
に分けられます。法定福利厚生を法令違反のないように実施しつつ、法定外福利厚生の内容を工夫して、人材の採用・定着や、会社のイメージ向上などにつなげていくのが基本です。
とはいえ、法定外福利厚生は種類も多いので、他社と差別化しようにも「どのような福利厚生があるのか分からない」という経営者は少なくないはずです。また、リソースの限られる中小企業の場合、ある程度コストを抑えて福利厚生を実施したいというニーズもあるでしょう。
そこで、この記事では実際に行われている福利厚生で、中小企業向けのものを、一般的なものからユニークなものまで次のようにカテゴリー分けし、計100種類集めました。気になる章からご確認ください。
2 「家計」系(住宅手当など、20種類)
通常の給与に手当をプラスしたり、給与の前払いを認めて支給ルールを柔軟にしたりするなどして、社員の家計をサポートします。
1)住宅手当
家賃や住宅ローンの負担を軽減するために支給します。
2)家族手当
扶養家族がいる社員の生活費を補助するために支給します。
3)単身赴任手当
社員が家族と別居し、赴任先で一人暮らしをする場合、生活費を補助するために支給します。引っ越しなどの初期費用については、別途「転勤支度金」などを支給するケースもあります。
4)子女教育手当
社員に子どもがいる場合、その教育費を補助するために金銭を支給します。最近は、教育費だけでなく、「給食費の補助」を行っている会社もあります。
5)ペット手当
社員がペットを飼う場合、飼育費を補助するために支給します。例えば、ある会社は、社会貢献の一環で猫の保護に力を入れている関係で、猫を飼っている社員に手当を支給しています。
6)食事手当
食費の負担を軽減するために支給します。
7)地域手当
社員が物価の高い地域で勤務する場合、他地域との物価格差を補うために支給します。似たようなケースとして、寒冷地で勤務する場合に、他地域との暖房費の差を補うために「寒冷地手当」などを支給するケースもあります。
8)インフレ手当
物価高が続く間、社員の生活費を補助するために支給します。
9)慶弔見舞金
社員やその家族に祝事や不幸があった際、金銭を支給します。結婚や出産の場合は「祝金」、病気やけがの場合は「見舞金」、死亡の場合は「弔慰金」といった名称になります。
10)退職金制度
退職金制度も、退職後の家計を支えるという意味では、重要な福利厚生です。退職時に一括で受け取る「退職一時金」と年金形式で受け取る「企業年金」とに大別されます。
11)選択制DC
企業年金の代表格は、会社が毎月決まった掛金を拠出する「企業型DC(企業型確定拠出年金)」です。この企業型DCの中に、給与の一部を引き続き手当などとして受け取っていくか、企業型DCの掛金にするかを社員が選択できる「選択制DC」という制度があります。
12)iDeCo+(イデコプラス)
iDeCo(イデコ)は、社員が自分で掛金を拠出して運用する個人型の確定拠出年金です。このiDeCoの中に、一定額の範囲内で、社員の掛金に追加して、会社が掛金を拠出できる「iDeCo+」という制度があります。
13)財形貯蓄
毎月一定の額を給与天引きなどで積み立て、社員が目的に応じて、積み立てたお金を任意のタイミングで払い出します。
14)職場つみたてNISA(ニーサ)
NISAは、「NISA口座」と呼ばれる口座を使って個人が株式投資などを行った際、一定の範囲内で得た利益が非課税になる制度です。このNISAの中に、会社が社員のNISA口座の開設や株式などの購入手続きを支援する「職場つみたてNISA」という制度があります。
15)奨学金の代理返還
社員が学生時代に借りた貸与奨学金を、会社が社員に代わり返済します。
16)給与の前払い
社員から請求があった場合、本来の支給日を待たず、すでに働いた分の給与を支払います。
17)社宅・寮の貸与
会社が法人名義で賃貸物件を借り上げ、社員に貸与します。家賃が安くなることが多いです。
18)団体保険
会社が保険の契約者となり、社員は傷病、死亡などの際に保障を受けられます。
19)家計のコンサルティングサービス
ファイナンシャルプランナーなどの専門家に依頼し、社員のお金に関する相談に対応してもらいます。
20)日用品購入などの福利厚生サービス
低価格で日用品を購入したり、レンタカーを借りたりできるサービスなどを導入します。
3 「健康」系(人間ドックの費用補助など、18種類)
社員に健康に働いてもらうため、人間ドックで病気を早期発見できるようにしたり、健康促進のための取り組み(自転車通勤など)を推奨するための手当を支給したりします。
1)人間ドックの費用補助
人間ドックを実施し、その受診費用を補助します。人間ドックは、法定の定期健康診断などよりも検査項目が多く、自覚症状のない病気なども早期発見できる可能性があります。
2)予防接種の費用補助
社員がインフルエンザなどの予防接種を受ける場合、その費用を会社が補助します。
3)自転車通勤手当
健康促進のため、自転車で通勤する社員に対し、毎月定額で手当を支給します。
4)花粉症手当
花粉症の時期に、病院の診察や薬剤の費用を補助するため、手当を支給します。手当の支給と併せて、ティッシュ、マスク、目薬などを現物支給するケースもあります。
5)残業削減インセンティブ
過重労働防止の観点から、残業を削減した社員に、達成度合いに応じて金銭を支給します
6)早起き推奨制度
始業より一定時間以上前に出社した場合、金銭を支給します。満員電車を避けられ、通勤時のストレス軽減につながります。出社から始業までの時間は自由時間で、仕事以外の自己啓発などに充ててもらいます。
7)健康診断ボーナス
健康診断でA判定(健康状態:良好)が出た場合や、特定の数値が改善した場合などに、金銭を支給します。
8)スマホアプリを用いた健康イベント
健康促進につながる社内イベントを実施します。例えば、各社員のスマホに歩数計アプリをダウンロードしてもらって歩数を競い合い、成績の良かった社員には賞品を贈呈します。
9)病気休暇
けがや病気の療養のための特別休暇(年次有給休暇などの「法定休暇」とは別に取得できる、会社独自の休暇)を付与します。
10)二日酔い休暇
お酒を飲みすぎた場合、翌日の午前に体を休めるための特別休暇を付与します。
11)非喫煙者向けの特別休暇
一定期間、禁煙を成功させた社員や、もともと喫煙しない社員に特別休暇を付与します。
12)姿勢矯正クッション、スタンディングデスク
デスクワークが多い社員向けに、正しい姿勢で快適に仕事をしてもらうための姿勢矯正クッションや、座りすぎを防ぐためのスタンディングデスクを貸与します。
13)健康に良い食品の提供
栄養バランスの良い食事や野菜などを、オフィスや社員の自宅に配達してもらい、メタボリック改善などに活用します。
14)昼寝スペース
会議室などを一定の時間帯、昼寝スペースとして開放します。
15)社内フィットネスジム
社内に腹筋台、フィットネスバイク、懸垂器などのトレーニング器具を設置します。
16)フィットネスジムの利用割引
会社がフィットネスジムの法人会員になり、社員に低料金で利用してもらいます。
17)運動指導
フィットネスジムから会社にスポーツインストラクターを派遣してもらい、社内でトレーニング指導を行ってもらいます。
18)健康相談サービス
医師・保健師・心理カウンセラーなどに依頼し、社員の健康(メンタルヘルスを含む)に関する相談に対応してもらいます。
4 「育児・介護」系(休業・休暇期間の延長など、12種類)
社員が育児・介護に注力できるよう、休業・休暇制度を法律の内容よりも充実させたり、ベビーシッターなどの費用を補助したりします。休業中の社員のフォローに回る同僚を対象とした福利厚生もあります。
1)休業・休暇期間の延長
育児休業・介護休業の期間や、子の看護休暇・介護休暇の日数を、育児・介護休業法で定められている期間・日数よりも延長します。
2)配偶者出産休暇
配偶者の出産に立ち会うための特別休暇を付与します。似たようなケースで、「孫の誕生に立ち会うための休暇」を導入している会社もあります。
3)学校行事休暇
子どもの学校行事に参加するための特別休暇を付与します。
4)不妊治療休暇
不妊治療を受けるための特別休暇を付与します。不妊治療であることを悟られたくない社員のため、配偶者出産休暇や学校行事休暇などと統合して、「ファミリーサポート休暇」といった名称にすることもあります。
5)不妊治療の費用補助
社員が不妊治療を受ける場合、その治療費を補助します。治療前にまとまった金額を貸し付けるケースもあります。
6)ベビーシッターの費用補助
社員がベビーシッターを使いながら働く場合、そのベビーシッター代を補助します。
7)業務代替手当
育児・介護で長期休業する社員のフォローに入る同僚がいる場合、その同僚に手当を支給します。休業のフォローで仕事が増える同僚の不満を和らげる意味合いがあります。
8)授乳室
乳児を連れて出勤する社員がいる場合、その社員が使える授乳室を設置します。生理痛などの体調不良時の休憩スペースとしても利用できます。
9)企業主導型保育施設(他社と共同利用も可)
企業主導型保育施設とは、社員の子どものために、オフィス内や近隣地に設置する「認可外保育施設」のことです。自社だけで運営するのはハードルが高いですが、他社が設置した施設を「共同利用」させてもらえるケースもあります。
10)育児・介護研修
外部から講師を招いて研修を実施します。例えば、育児・介護に関する公的サービスやノウハウ(ミルクの作り方、おむつの替え方など)を学ぶことができます。
11)家事代行サービス
「仕事+育児・介護」で時間が捻出しにくい社員のために、買い物、掃除、食事などの家事代行サービスを利用してもらいます。
12)育児・介護相談サービス
保健師・看護師・ケアマネジャーなどに依頼し、社員の育児・介護に関する相談に対応してもらいます。
5 「自己啓発」系(貸出図書など、14種類)
社員が自主的に勉強できるよう、書籍を貸し出したり、特定の資格を取得した際に金銭を支給したりします。「おしゃれ」などの自分磨きに焦点を当てた福利厚生もあります。
1)貸出図書
書籍や新聞を共有スペースなどに配置し、希望する社員に無料で貸し出します。
2)書籍代の補助
仕事につながる書籍を購入する場合、購入費用を補助します。
3)受講費用の補助
社員が有料のセミナーに参加したり、仕事につながる資格を取得するため学校に通ったりする場合などに、受講費用を補助します。
4)資格報奨金
仕事につながる資格などを取得した場合、金銭を支給します。
5)アート鑑賞などの費用補助
アートに触れて感性を磨くという観点から、美術館の入館費用などを補助します。
6)おしゃれの費用補助
仕事上の身だしなみを整える目的で衣類やカバンを購入する場合、その費用を補助します。
7)勉強休暇
自己啓発のための特別休暇を付与します。
8)会議室などの貸し出し
就業時間外に自己啓発に取り組む場合、会議室などの使用を認めます。
9)社内勉強会
定期的に社員同士の勉強会を開催します。業務に関する内容だけにとどまらず、社員が自主的に勉強していることなどもテーマとして扱います。
10)スタンプ制度
社内勉強会などに参加した場合、1回参加につき1つスタンプを押し、一定数たまると交換できる景品を提供します。
11)パラレルワーク
社員の知見を広めるため、パラレルワーク(副業)を推奨します。
12)社内副業
通常の業務をこなしつつ、社内の別部署の業務に従事することを認めます。
13)eラーニング
仕事に必要な知識を動画などで学べるeラーニングサービスを導入します。
14)コーチング
コーチングサービス会社などに依頼し、社員のキャリア形成やスキルアップに関する相談に対応してもらいます。
6 「コミュニケーション」系(誕生祝いなど、10種類)
誕生日や勤続◯年など節目を迎えた社員を祝ったり、他部署メンバー同士の交流を深めたり、社員同士のコミュニケーションを活性化させます。
1)誕生祝い
誕生日を迎えた社員を祝います。例えば、ある会社は、誕生日の社員に対し、他の社員が一輪ずつ花をプレゼントするという取り組みを行っています。
2)入社祝い
新たに入社した社員を祝います。例えば、ある会社は一定の金額の範囲内で、社員が自分の好きなデスク周りの備品を買える制度を設けています。
3)勤続◯年表彰
勤続が一定年数に達した社員を祝います。例えば、ある会社は勤続7年を迎えた社員に、特別休暇と旅行代金をプレゼントしています。
4)ランチの費用補助
社内であまり関わらない「他部署メンバー」「役員と社員」や、より関係を深めてほしい「上司と部下」などがランチに行く場合、その費用を補助します。
5)飲み会の費用補助
特定のプロジェクトが完了した際などに、そのメンバーに対しての打ち上げ代を補助します。
6)部活動の費用補助
部活動での社員同士の交流を活性化させるため、活動費を補助します。
7)コーヒーブレイク
特定の時刻になったら、全社員が業務を一時中断し、コーヒーを飲みつつ歓談します。
8)同僚へのメッセージカード
「仕事を手伝ってくれてありがとう」など、同僚に対するちょっとした感謝のメッセージを、カードなどにしたためて贈ります。似たようなケースで、全社員が、毎月ランダムに別の社員1人の長所だけを評価し、評価の内容を書面で本人に伝える会社もあります。
9)季節イベント
希望者を集めて、花火大会やハロウィン、社員旅行などのイベントを企画します。
10)ファミリーデー
社員が子どもを連れて参加できる、食事会や運動会などのイベントを開催します。「子どもの世話があるから……」と、普段社内イベントに来られない社員も、参加しやすくなります。
7 「レジャー」系(推し休暇など、14種類)
プライベートを充実させ、メリハリを付けて仕事に励んでもらえるよう、社員の「推し活」のための特別休暇を付与したり、その費用を補助したりします。
1)推し休暇
社員が「推し」のアーティストなどのライブやイベントに参加するための特別休暇を付与します。推しが結婚した、グループを脱退したことによる「ロス(喪失感)」を癒やすための「推しロス休暇」というものもあります。
2)ボランティア休暇
社員が社会・地域貢献活動に参加するための特別休暇を付与します。
3)スポーツ観戦休暇
サッカーのワールドカップなど、世界的なスポーツの大会が行われる際、日本代表戦のときだけ特別休暇を付与します。
4)結婚休暇
社員が結婚した際、新婚旅行などのための特別休暇を付与します。
5)誕生日休暇
社員の誕生日(または誕生月)に特別休暇を付与します。社員の家族や恋人の誕生日に特別休暇を付与する会社もあります。
6)夏季休暇
7~9月にかけて取得できる特別休暇を付与します。
7)リフレッシュ休暇
一定の勤続年数に応じた特別休暇を付与します。
8)山ごもり休暇
まとまった日数の特別休暇を付与しつつ、休暇中は電話連絡やメールでのコンタクトを禁止することで、仕事から完全に社員を解放します。
9)年次有給休暇の積み立て制度
使われずに時効により消滅する年次有給休暇を積み立てておき、社員が任意のタイミングで取得できるようにします。
10)推し活の費用補助
アーティストなどのライブやイベントなど「推しの特別な日」に限り、推し活の費用を補助します。
11)帰省の費用補助
社員が休暇を取って実家に帰省する際、その旅費を補助します。
12)婚活の費用補助
社員が会社指定のアプリを使って婚活を行う場合、その利用費を補助します。
13)施設の利用割引
旅行会社との法人契約により、社員が低料金で飲食店や宿泊施設を利用できるようにします。
14)サブスクリプションサービス
福利厚生サービス会社との法人契約により、社員が低料金で「Netflix」などのサブスクリプションサービスを利用できるようにします。
8 「その他」(社員食堂など、12種類)
ここまで紹介したものの他にも、さまざまな福利厚生があります。
1)社員食堂
社員が低価格で利用できる食堂を運営します。自社だけで運営するのはハードルが高いですが、複数の会社が1つの食堂を「共同運営」するケースもあります。
2)まかない制度
会社のキッチンや食材を使って、社員が自由に昼食を作れるようにします。
3)フリードリンク・スナック
会社に飲み物やお菓子を常備しておき、社員が好きなときに飲食できるようにします。
4)サテライトオフィス
通常のオフィス(本社など)とは別のオフィスを設けます。ワーケーションの一環で、古民家などをサテライトオフィスにしている会社もあります。
5)駐車場
マイカー通勤を希望する社員のために、駐車場を貸与します。オフィスに駐車場がない場合、月極駐車場を法人契約することもあります。
6)通勤バス
最寄り駅からオフィスまでの距離が遠い場合などに、社員用の通勤バスを手配します。
7)アルムナイ社員の原職復帰
社員が退職してから一定期間以内であれば、復職しても元のポジションに就けるようにします。
8)アルムナイ社員への支度金
一度会社を退職し、再入社する社員に、支度金として金銭を支給します。
9)フルフレックスタイム制
フレックスタイム制でコアタイム(必ず勤務しなければならない時間帯)を設けず、始業・就業時刻を完全に自由にします。
10)働き方宣言
あらかじめ宣言することで、働く時間帯や場所を社員が自由に決められるようにします。
11)特別休暇の買い取り
社員が特別休暇を使わない場合、本人からの請求に応じて、その休暇を買い取ります。なお、特別休暇の買い取りは基本的に会社が自由にルールを決められますが、法定の年次有給休暇の場合、買い取りの仕方によっては違法と判断されるケースもあるので注意が必要です。
12)法律相談サービス
弁護士法人との法人契約により、社員がプライベートの法律相談をできるようにします。
以上(2024年9月作成)
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