細かな管理を止めたら「隠れ残業」が減るって本当?

1 管理、管理の「北風政策」では隠れ残業は減らない?

「隠れ残業」とは、

定時で退勤打刻し仕事を終えたように見せかけて、実はその後も仕事を続けること

です。いわゆる「サービス残業」ですが、隠れ残業には「会社に隠れてこっそり残業する」といったニュアンスがあります。

隠れ残業をする社員の言い分は、おそらく図表のようなイメージでしょう。

隠れ残業をする社員の言い分

一方、会社は社員の労働時間を管理する義務を負っていて、だからこそ多くの会社が残業を許可制にしているわけです。残業削減は社員の健康のためでもありますから、経営者は、

社員が残業のルールを守らないなら、もっと厳しく管理するしかない!

と考えます。これは至極当然の考え方ですが、長年、このアプローチを続けてもなかなか隠れ残業がなくならないのも事実です。

そこで、この記事では、

厳しく管理するという「北風政策」ではなく、「許可制を廃止し、ある程度社員の自主性に任せて残業を認めるという、いわば『太陽政策』で隠れ残業をなくす」考え方

をご提案します。ただし、「そもそも仕事が多すぎ! 『残業はダメ!』なんて言われても無理だよ……」といったケースは、業務効率化や人材採用の問題なので、この記事で提案する方法では事態が悪化する恐れがあります。

2 隠れ残業で会社に生じるリスクを確認

まずは、隠れ残業がなぜ問題になるのかを簡単におさらいしましょう。

会社は、36協定(労働基準法第36条に基づく労使協定)を締結し、労働基準監督署に届け出ることで、36協定に定めた範囲内で社員に残業を命じることができます。残業を許可制にしている場合、社員が残業を申請し、上司がそれを承認します。

明確な申請と承認がなければ残業は発生しないように思えますが、実は「黙示の指示」があれば残業を命じたとみなされることがあります。黙示の指示とは、

  • 残業しないと終わらない量の業務を社員に命じている場合
  • 社員が残業をしていることを知りながら放置している場合

などのことです。隠れ残業が法的に労働時間と判断されると、会社が把握していない残業が出てきます。その影響で社員の残業時間が36協定の時間数を超えると労働基準法違反となります。もちろん、残業手当の支払いも必要です。

また、隠れ残業によって過重労働となれば、

社員が心身の健康を害してしまう

恐れがあります。そうなると、会社が安全配慮義務(社員が心身の安全を確保しつつ働けるような配慮する義務)違反を問われることにもなります。

3 許可制を廃止しつつ、残業を必要最小限にとどめる!

1)残業時間の上限を社員ごとに設定する

隠れ残業が引き起こすリスクを回避するために、会社は残業の許可制を導入するなどして管理しようとするのですが、なかなかうまくいきません。であれば、いっそ許可制をやめてしまうというのがこの記事の提案です。

具体的には、残業の許可制を廃止する代わりに

ことにします。その際、残業時間の上限(1日○時間、1カ月□時間など)を社員ごとに設定し、月初などに本人と上司に通知します。上限は業務量や経験、職種などに応じて判断します。

例えば、明らかに業務量が多い社員や、新商品の開発など重要かつ時間が読みにくい業務に従事する社員は、36協定の範囲内で残業を認めます。一方、他の社員のサポートが主な業務である社員などは、実績に応じた時間を設定します。新入社員など残業をするほどの業務がなければ、残業を禁止します。

なお、36協定自体が法律に違反していないかもチェックが必要です。36協定で定める残業時間には、「原則1カ月45時間、1年360時間まで」などの上限があります。労働基準法の「時間外労働の上限規制」といわれるものです。

2)残業時間と社員の健康状態は常にチェックする

上限設定後も、社員がその枠内で安全に働いているかは定期的に確認します。上司は部下の日々の残業時間を把握し、残業が多い人がいたら、声をかけ状況を聞きます。必要な残業であれば認めますし、臨機応変にフォローもします。また、状況確認の結果に応じて設定する残業時間の上限を見直すようにします。

残業の許可制を廃止する際、特に注意が必要なのは社員の健康管理です。許可制なら体調不良の社員が残業を申請してきても、上司がストップすることができます。しかし、許可制を廃止すると社員の健康状態が分からないため、日ごろのコミュニケーションが大切になります。上司が相談しやすい雰囲気を作り、仕事の遅れや体調不良を早めに共有できるような仕組みを整える必要があるでしょう。

4 社員を尊重し、信じる「太陽政策」を進める

この記事で提案しているのは、残業の仕方について社員の自主性を尊重し、申告(勤怠管理システムの打刻など)を信じる仕組みです。社員が申告した時間に基づいて残業手当を支払うため、いわゆる「固定残業代」とは違います。

一定期間内の残業時間の上限を決めますが、それは個々の社員と向き合い、その仕事の状況を把握した結果です。全体を管理するための「申請制度」よりも、一歩も二歩も社員と向き合うことになるため、会社の負担は増えるかもしれません。しかし、会社と社員の双方がルールを守ることによって新しい残業制度となるでしょう。

5 許可制を廃止しても法的な問題はないのか?

最後に補足すると、残業の許可制を廃止すること自体に法令上の問題はありません。ただし、

  • 36協定の締結・届け出をし、その範囲内で残業を認める
  • 労働時間を適切に把握する
  • 設定した枠よりも長い残業をした場合は、その分の残業手当をきちんと支払う
  • 設定した枠内であっても、休日や深夜の残業には法定以上の割増率で残業手当を支払う

ことには注意が必要です。

また、実態を正確に把握したいならば、パソコンの使用時間のログを出力し、勤怠管理システムなどの打刻内容と乖離(かいり)がないか定期的に調査する方法もあります。

以上(2025年9月更新)

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画像:Elnur-Adobe Stock

地域とともに舞うー『とくぎん連』阿波おどりレポート

夏の夜、鳴り物の音に誘われて街がひとつになる瞬間、それが阿波おどりです。

8月13日、今年も当行は『とくぎん連』として参加者110名に、『はなしか連』さま20名が加わり阿波おどりに参加しました。行員有志による連は、日頃の業務とは一味違う熱気と笑顔に包まれ、お客さまや地域の皆さまと心を通わせる貴重なひとときとなりました。

その様子をとくぎんサクセスクラブ事務局よりレポートとしてご紹介します!

阿波おどりの様子01

踊りの練習は7月初旬からスタートしました。

練習は業務終了後に行われ、「とくぎん阿波おどりクラブ」(※)に所属している行員の主導による練習が続きました。踊り手は、入行1年目の行員から、支店長、役員まで幅広く参加しており、部署・支店・年齢を越えた交流が生まれました。互いに励まし合い、少しずつ息の合った連へと成長していく過程は、まさにチームワークの結晶でした。

(※)とくぎん阿波おどりクラブ
当行に勤務しているメンバーで構成されており、今年で結成7年を迎えます。阿波おどりを通じた地域貢献や活性化に繋がる活動を行っており、取引先の慰問や各種イベント等に参加して阿波おどりを披露しています。

阿波おどりの様子02

いよいよ阿波おどり当日、本店ホールに『とくぎん連』、『はなしか連』が集結。

板東頭取の挨拶とともに出陣の熱が高まり、演舞への期待が膨らんでいきました。

阿波おどりの様子03

その後、会場を本店東側駐車場へと移し、演舞がスタート。阿波おどりの衣装に身を包んだ行員たちが「ヤットサー!」の掛け声とともに、笑顔で踊りの輪を広げました。時間が経つにつれて、踊り手たちの足取りは力強さを増していきます。ひとりひとりの動きが次第にひとつの“連”としてまとまっていく様子が見られました。

阿波おどりの動画は、こちらからご覧いただけます!
(下の画像をクリックしていただくと、YouTubeに遷移します)


本店東側駐車場での演舞を皮切りに、紺屋町演舞場、南内町演舞場、そして両国本町演舞場へと舞台を移し、それぞれの会場にて心を込めた踊りを披露しました。

各演舞場では、桟敷席、沿道の皆さまから温かい拍手と声援をいただき、大きな励みとなりました。

阿波おどりの様子05

阿波おどりの様子06

阿波おどりの様子07

今回の阿波おどりを通じて、地域の皆さまと心を通わせる貴重な機会をいただきました。

来年もまた、あの熱気の中で皆さまとお会いできることを楽しみにしています。

引き続き、温かいご支援を賜りますようお願い申し上げます。

【今回とくぎん連に参加した、とくぎんサクセスクラブ事務局の杉綾香さん、泉はる香さん、法人推進部の宮本波太郎さんに感想を聞いてみました!】

阿波おどりの様子08

【関連コンテンツ】

以上(2025年8月作成)

動画:ST企画 提供

画像:徳島大正銀行 谷本真二 提供

【事業承継】投資育成会社を活用するメリットと実務

1 事業承継に投資育成会社を活用する3つのメリット

投資育成会社(正式には「中小企業投資育成株式会社」)とは、

中小企業投資育成株式会社法に基づき設立された投資会社で、その株式は経済産業省、地方公共団体、銀行などが保有

しています。一般的な株式会社と違う公的な株式会社として位置付けられており、東京・名古屋・大阪の3カ所にあります。

この投資育成会社を活用すると、事業承継対策として次の3つのメリットがあります。

  • 事業承継コスト(贈与税など)が軽減される
  • 会社の信用力を向上させる
  • 経営の安定性を高める効果が期待できる

1)事業承継コスト(贈与税など)が軽減される

例えば、社長が株価1億円の事業会社の株式を100%保有しているとします。その株式を長男に贈与する場合、1億円の財産を贈与したものとして贈与税が課税されます。一方、社長が保有する株式の30%を投資育成会社に売却し、70%しか保有していない状態にすると、7000万円の財産を贈与したものとして贈与税が課税されるので、負担が軽減されます。

負担が軽減

日本の贈与税や相続税は、財産の額が大きくなるほど税率も高くなるので、株式価値を減らせば事業承継コストはそれ以上の割合で軽減されます。しかも、投資育成会社は、事業会社の株式を保有したとしても経営に干渉することはありません。こうしたことから、事業承継対策の1つとして投資育成会社の活用が検討されているのです。ただし、投資育成会社は、事業会社の株式50%超は保有することができないことは把握しておきましょう。

2)会社の信用力を向上させる

投資育成会社が株主になると、会社の信用力向上が期待できます。投資育成会社から出資を受けるためには、出資に関しての事前相談をした上で、正式な出資申込を行い、審査を受けなければなりません。審査では、

  • 本社・工場の訪問
  • 経営方針、事業計画、事業内容、収益見通し等についてのヒアリング
  • 経営者自身のプレゼンテーション

が求められます。このような審査手続きをパスして、初めて投資を受けられることから、取引先や金融機関からの評価につながります。

投資育成会社の投資先は現在、全国に3000社以上ありますが、その投資先企業は優良な上場会社や中堅企業が多いです。

3)経営の安定性を高める効果が期待できる

投資育成会社が株主となることで、より確実な経営が行えるようになります。例えば、投資育成会社が株主となった場合、毎年の株主総会に投資育成会社が出席します。また、株主総会開催前に決算内容や議案などについて、事前説明を求められることも少なくありません。このように株主に投資育成会社が入ることで、会社法や税法など、これまで以上に法令を遵守した経営を求められるようになり、その結果、経営の安定性が高まるという効果が期待できます。

さらに、投資育成会社は、中小企業の「育成」を使命としているため、各種の経営課題についての相談もすることができます。

2 投資育成会社に株式を保有してもらうための手続き

1)事前相談と出資審査

投資育成会社から投資を受けるためには、東京・名古屋・大阪のいずれかの投資育成会社に投資の相談と申込をします。その上で、投資育成会社の審査を受け、投資決定を受ければ、株式を引き受けてもらえます。

投資育成会社からの出資の流れは次の通りです。

  • 【ご相談】事業の概況、増資計画等についてのヒアリング(会社パンフレット、最近3期分の決算書、株主名簿の提出)
  • 【お申込受付】投資決定に必要な資料の提出(事業計画書、事業経歴書、役員等の略歴、製品カタログ等の提出)
  • 【審査(事業調査)】本社・工場などの訪問。経営方針・事業計画、事業内容、収益見通し等についてのヒアリング。経営者の投資育成会社でのプレゼンテーション
  • 【投資決定】引き受けの可否および条件を投資育成会社内で機関決定
  • 【資金払い込み】株式、新株予約権付社債などの発行手続きと資金の払い込み
  • 【プレスリリース】新聞社などへのプレスリリース

2)株式取得

投資育成会社の投資が決定したら、経営者などが保有する既発行株式を譲渡するか、新株を発行することによって株式を保有させます。投資育成会社が株式を取得する価格は、投資育成株価算定方式(以下「投資育成算式」)という特有の計算方法で算定されます。投資育成算式とは、1株当たり予想利益を基にした収益還元方式によって算定されますが、その金額は一般的に使われる算式(類似業種比準方式など)に比べ、かなり低額になります。

3)安定配当の継続

投資育成会社は、毎年、投資額の6%程度を配当として求めてきます。通常配当を実施していない会社が6%の配当を実施するには、種類株式の優先配当株式(普通株式より優先して配当する株式)を設定したり、株式の属人的定め(定款で株主ごとに異なる取り扱いを定めること)を設けたりして、投資育成会社にだけ配当できるような仕組みを導入する必要があります。なお、投資育成会社は長期的な投資を行っており、一度投資をしたら原則として10年以上は投資を継続します。従って、年6%の配当は10年以上継続されます。ただし、事業の状況が悪いときは配当をする必要はありません。

3 株式を買い戻す際の重要なポイント

投資育成会社は、投資育成算式に従って企業の株式を取得します。投資育成算式は、1株当たりの予想利益を基にした収益還元方式なのですが、その算式によって算定される額は、

企業が成長するにつれ高額になっていく

ことが特徴です。従って、10年間、投資育成会社に株主になってもらい、事業承継も完了したので株式を買い戻したいと考え、改めて投資育成算式で株価を評価すると、何倍にもなっているということが少なくありません。

毎年6%の優先配当をし、最後には買い戻す価格が何倍にもなる可能性があることを理解した上で活用する必要があります。

また、株式を買い戻すとき、

自社の株主の3分の1以上が、従業員持株会、取引先、銀行などの同族株主以外の株主で占められていなければ、投資育成会社は株式の買い戻しには応じない

ことになっています。将来的に従業員持株会などが整備できなければ、買い戻しが困難となることに注意してください。

以上(2025年8月更新)
(監修 リアークト法律事務所 弁護士 松下翔)

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画像:Mariko Mitsuda

「ワーケーション」の労務管理は業務とプライベートの線引きが重要!

1 旅行先でテレワークをする「ワーケーション」

ワーケーション(Workation)とは、「ワーク(Work)=仕事」と「バケーション(Vacation)=休暇」を組み合わせた造語です。例えば、

旅行先でテレワークを行いながら、空いた時間に休暇を楽しむという柔軟な働き方

を指します。働き方改革や地域おこしにつながるという理由から、各自治体もワーケーションの普及・啓発に取り組んでいます。

ただ、旅行先で「仕事も遊びも両方する」という働き方なので、

業務とプライベートの境界をしっかり分けて労務管理

をしないと、「労働時間管理」「労災(労働災害)の判断」「ワーケーションの費用負担」などで思わぬトラブルに遭遇します。以降でポイントを確認していきましょう。

2 「始業・中断・終業」のタイミングはこまめに把握する

業務とプライベートの境界が曖昧だと、労働時間を正確に算定できないだけでなく、労災の判断や、ワーケーションに掛かる費用負担の判断なども難しくなります。

問題は、ワーケーションでは次の図表のように、1日の中で業務と観光が交互に発生したり、日によって労働時間が変わったりすることです。

ワーケーション

こうした問題を解決するには、

業務の「始業・中断・終業」のタイミングをこまめに把握すること

が大切です。社員から都度チャットツールで連絡を入れてもらう、あるいは1日に複数回の打刻ができる勤怠管理システムを使う方法があります。また、業務時間が長くなりすぎると社員が休暇を楽しめないので、「1日当たりの業務時間の上限」を事前に決めておくとよいでしょう。

次の問題は、賃金の取り扱いです。上の図表の場合、所定労働時間中に、1日目は5時間(8時間-3時間)、2日目は3時間(8時間-5時間)の不就労時間(働かなかった時間)があります。完全月給制の場合などを除き、不就労時間の賃金は控除できますが、ワーケーションを強く推進したいのであれば、

「半日単位」や「時間単位」の年休(年次有給休暇)の活用

を促すのが望ましいです。ちなみに、

  • 半日単位年休:導入する場合、就業規則への定めが必要
  • 時間単位年休(年5日まで):導入する場合、就業規則への定め、労使協定の締結が必要

です。なお、半日単位年休も時間単位年休も、計画的付与(会社が年休の取得日の計画を立て、日にちを指定すること)の対象にはならないので、取得はあくまで社員の意思に委ねられます。

この他、ワーケーションの開始前に、期間中の行動計画、予定表などを作成し、社員と共有しておくのも有効です。

3 業務中と自宅・ホテル間の移動中の被災は労災になり得る

労災には、業務上の事由による「業務災害」、通勤上の事由による「通勤災害」があります。

1)業務災害の考え方

業務災害は、

  • 業務遂行性(社員が会社の支配下にあるときに被災したこと)
  • 業務起因性(業務と被災との間に因果関係があること)

の両方を満たすと労災として認定されます。業務に従事しているときや、業務に付随する行為をしているときに被災すると、「業務遂行性」が認められます。

2)通勤災害の考え方

通勤災害は、

  • 自宅と就業場所
  • 就業場所と他の就業場所
  • 帰省先と赴任先と就業場所の三者間(やむを得ない事情がある場合)

のいずれかを、合理的な経路・方法で移動していて被災した場合に労災として認定されます。ただし、合理的な経路を逸脱(不要な遠回りなどをした場合)した場合や、移動を中断した場合(通勤と関係ない行為をした場合。ただし日用品の購入などは可)は、労災になりません。

3)具体的には?

ワーケーションで想定される事故と労災の判断の例は次の通りです。ただし、細かい判断は個別の案件ごとに異なるので、必ず所轄労働基準監督署などに確認をしてください。

【自宅と就業先であるホテルの往復中に負傷した場合】

→自宅と就業場所の間を移動しているので、労災になる可能性が高い

【就業先のホテルや、ホテルへ移動する機内等で業務をしていて負傷した場合】

→業務中の負傷なので、労災になる可能性が高い

【就業先のホテルで、業務の準備や休憩(トイレに行くなど)をしていて負傷した場合】

→業務に付随する行為なので、労災になる可能性が高い

【業務終了後、就業先のホテルから飲食店に移動していて負傷した場合】

→飲食は業務(出張)に付随する行為なので、労災になる可能性が高い

【業務終了後、飲食店で飲酒をして酔っ払い、ホテルに戻る際に負傷した場合】

→酔っ払うのは業務(出張)に付随する行為とはいえず、労災にならない可能性が高い

【観光施設に行った後、ホテルに戻ろうとして負傷した場合】

→自分の意思で観光施設に行っている場合、業務(出張)に付随する行為とはいえないので、労災にならない可能性が高い

4 業務に関する費用以外は個人負担としても差し支えない

ワーケーションで発生する費用としては、自宅とホテル間の交通費や宿泊費、通信費などが考えられます。結論から言うと、

通信費など業務に関する費用は会社が負担し、それ以外の旅行費用は本人負担とする

のが一般的です。

自宅とホテル間の交通費や宿泊費は、出張や社内研修のように会社命令に基づくものであれば、会社負担とするのが妥当です。ただ、会社命令ではなく社員自身の意思で就業場所を選択している場合は、個人負担としても差し支えないでしょう。

通信費については、会社がパソコンなどを貸与する場合、会社負担とします。社員が私物のパソコンなどを使って業務を行う場合も、業務に要した分については会社負担とするのが妥当でしょう。

この他、最近は、社員がホテルなどでワーケーションを行いながら、人間ドックや保健指導、運動指導などを受けられるサービスも登場しています。社員がこうしたサービスを受ける可能性がある場合、福利厚生として会社負担にするのか、社員の意思に任せて個人負担にするのかも決めておきましょう。

なお、会社の命令によらないプライベートの旅行の途中で一部業務を行う場合、

旅行に係る交通費を会社が負担すると、その費用が従業員への給与として課税される可能性がある

と観光庁のQ&Aで指摘されています。旅費や宿泊費をどのように扱うかは、税務上の取扱いも踏まえて検討しましょう。

■観光庁「労災や税務処理に関するQ&A」■
https://www.mlit.go.jp/kankocho/workation-bleisure/corporate/qa/

5 必要に応じて就業場所や対象者、使用機器などを制限する

ワーケーションの就業場所は、

原則として社員が自由に選択できるようにしつつ、「集中できなかったり、セキュリティーに問題があったりする場所は認めない」というのが基本

です。例えば、不特定多数が出入りし、パソコンの画面を見られる恐れがある場所は不適切です。どこまでやるかは会社次第ですが、参考として紹介すると、

始業前に就業場所の状況を映せるコミュニケーションツールを使用して、上司の承認を得ている会社

もあります。

また、ワーケーションの対象となるのは、

ある程度自立して業務を遂行できる社員

です。このあたりも会社次第になりますが、例えば、就業規則で「能力や勤務態度を考慮して、所属長が承認した者を対象とする」などと定めておき、事前にワーケーションの就業場所や期間を申請してもらう形にすると、管理がしやすくなります。

ワーケーション中に使用する機器については、会社が貸与するパソコンやWi-Fi端末を利用させるのが基本です。私物のパソコンなどの利用を認める場合は、

  • 会社指定のセキュリティーソフトをインストールさせる
  • フリーのWi-Fiには接続させないようにする

などの対策を取りましょう。Wi-Fi環境を整備しているホテルなどは多くありますが、セキュリティーの強度が異なるので、社員には会社から貸与したモバイルルーターなどを使用させるのが無難です。対策の詳細については、総務省の資料などが参考になります。

総務省「テレワークセキュリティガイドライン(第5版)(令和3年5月)」
https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/cybersecurity/telework/

以上(2025年9月更新)
(監修 監修 弁護士 田島直明)

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画像:pixabay

【オーナー企業の事業承継(8)】資産管理会社を活用した事業承継対策

1 事業承継に伴う間接的な資産の移転

事業承継に伴う自社株式や不動産などの資産の移転は、相続や贈与により後継者に直接移転する方法の他に、いわゆる「資産管理会社(持株会社または不動産管理会社)」を活用して、間接的に後継者に移転する方法もよく使われます。

「資産管理会社(持株会社または不動産管理会社)」を活用して資産の移転をする場合の効果や留意点を認識し、自社に合った対策案として検討してみてください。

2 持株会社を活用した事業承継対策

1)持株会社とは

持株会社とは、

他の株式会社を支配する目的を持って、その被支配会社の株式を保有する会社

をいいます。なお、支配を本業とする持株会社を「純粋持株会社」といい、別途、本業を持ちながら他の会社を支配する持株会社を「事業持株会社」といいます。

2)持株会社活用の流れ

持株会社活用の流れは次の通りです。

  • 後継者の出資により持株会社を設立する
  • 持株会社が金融機関などから資金調達する
  • 株式を持株会社に譲渡する

なお、持株会社移行後の全体像は次の通りです。

持株会社移行後の全体像

持株会社移行後の全体像

3)持株会社へ移行する際のポイント

1.自社株式の買取価額

持株会社が自社株式を買い取る価額は「時価」となります。利益が相反する純然たる第三者との間の取引では、お互いの合意価額が「時価」になりますが、同族関係者間の取引の場合には、自分たちに都合の良い取引価額を決められる可能性があるため、原則として純資産価額を基に「時価」を算出します。なお、純資産価額の計算式は次の通りです。

純資産価額=会社の資産(時価評価額)-負債(時価評価額)

2.オーナーは確定申告が必要

非上場会社の株式を譲渡したオーナーは、「株式譲渡益」に対して譲渡所得税等(20.315%)を負担する必要があるため、譲渡した年の翌年3月15日までに確定申告をする必要があります。なお、株式譲渡益の計算式は次の通りです。

株式譲渡益=譲渡代金-取得費用(出資金額など)

4)持株会社活用のメリット

1.非上場株式が現金化できる

オーナーにとっては売却が難しく、換金性の乏しい自社株式を現金化することができます。併せて換金した現金を活用して、将来の相続税の納税資金に充てることで、納税問題も解決することもできるため、自社株式の時価評価額が高い場合や、社長の保有する財産の中での自社株式の占める比率が高い場合には効果があります。

2.いわゆる「争続」問題を回避できる

後継者がオーナーの子どもなどの相続人である場合、相続を待つことなく、事前にオーナーの意向に沿ったかたちで、後継者に法的な経営権を譲ることができます。

後継者にとっては、将来的な自社株式に関わる相続税の負担や遺産分割問題の心配がなくなり、経営に専念することができます。もし、後継者が自社株式を相続で引き継ぐことを前提に経営を引き継いだ場合には、「相続税負担を抑えたい」という思いと、「業績の向上による自社株の時価評価額の上昇(相続税負担の増加)」という矛盾を抱えて経営することになりかねませんが、こうした問題も解決できます。

また、オーナーの相続財産から自社株式を分離することで、結果的に相続人間の争い(争続)を回避することもできるため、収益力が高く、今後も自社株式の評価額が上昇していく見込みのある法人や、オーナーの相続人が複数存在する法人には効果的です。

3.後継者の保有株式の評価額の上昇を抑制できる

持株会社の純資産価額は計算上、保有資産の時価が取得時の価額(帳簿価額)を上回る場合、いわゆる「含み益」のある保有資産の評価は、法人税相当額37%を控除することが認められています。

含み益のある保有資産の計算式およびイメージは次の通りです。

保有資産の計算式

従って、社長と後継者間で直接自社株式を売買して後継者が直接保有する場合に比べて、資産管理会社を通じて自社株を保有するほうが、その純資産価額の評価は低くなり、後継者が将来的に直面する自身の相続財産の評価額の上昇を抑制することができます。そのため、収益力が高く、今後も自社株式の時価評価額が上昇していく見込みの法人には効果があります。

ここで、事例を使って自社株式を個人保有した場合と持株会社を活用した場合の自社株式の評価額を比較してみます。個人保有した場合と持株会社を活用した場合の比較例および比較表は次の通りです。

自社株式の評価額

自社株式の評価額

5)持株会社へ移行する際の留意点

1.持株会社設立、運営のコスト

持株会社を新会社として設立する場合は、登録免許税などの登記費用が必要となります。また、毎期、法人税等の確定申告が必要となるなどの管理コストに加えて、所得が発生する場合は、法人税等の納税に係る負担が発生します。仮に所得が発生しない場合でも、資本金等の額に応じた法人住民税均等割額の負担が発生します。

2.資金調達、返済の検討

持株会社は、自社株式を購入するための資金を準備する必要があります。また、銀行などの金融機関から資金を調達する場合は、その返済方法(返済資源)を検討しなければなりません。

事業会社の配当金を返済資源にする場合は、「受取配当等の益金不算入」規定などの適用を受け持株会社の法人税負担を抑制したり、あるいは持株会社に収益不動産を保有させたりして収益力を確保する必要があります。

3.自社株式の譲渡に関わる税負担

前述のように、自社株式を譲渡したオーナーは、譲渡代金から取得費用を差し引いて譲渡益が生じた場合は、その譲渡益に対して譲渡所得税等(20.315%)を申告、納税する必要があります。

また、時価以外での譲渡が行われた場合は、譲渡価額と時価との差額について、追加的な税負担が発生するケースもあるので注意が必要です。

3 不動産管理会社を活用した事業承継対策

1)不動産管理会社とは

不動産管理会社とは、

オーナーが所有している賃貸不動産などを購入し、その賃貸不動産などの管理や保有を主な事業とする会社

をいいます。

オーナー自身で経営する事業会社に事業用の不動産を貸し付けている場合は、承継後の経営をスムーズに行えるようにするため、原則、その事業会社が使用している資産を自社株式と同様に、後継者に承継する必要があります。

2)不動産管理会社活用の流れ

不動産管理会社活用の流れは次の通りです。

  • 後継者の出資により不動産管理会社を設立する
  • 不動産管理会社が金融機関などから資金調達する
  • 賃貸用不動産を不動産管理会社に売却する

不動産管理会社活用

なお、不動産管理会社への売却後の全体像は次の通りです。

売却後の全体像

3)不動産管理会社へ売却する際のポイント

1.不動産の売買価額

オーナーが賃貸用不動産を売却する価額は「時価」となります。この場合の時価には実務上、市場の実勢を反映した専門家による評価額として、「不動産鑑定士による鑑定評価額」を利用するケースが多くあります。

2.オーナーは確定申告が必要

賃貸用不動産を譲渡したオーナーは、「譲渡益」に対して譲渡所得税等を負担する必要がありますので、譲渡した年の翌年3月15日までに確定申告をする必要があります。

3.含み損のある不動産の売却

不動産の取得時の価額よりも時価の低い(含み損のある)不動産を売却した場合は、不動産売却損が計上されます。そのため不動産売却損が計上された年に、別の不動産の売却による不動産売却益がある場合は、売却損を売却益から控除することができます。

 

4)不動産管理会社活用のメリット

1.不動産を現金化することができる

オーナーは換金の難しい不動産を現金化することができます。また、相続人が相続するのは換金された現金(預金)となるため、遺産分割も容易で、相続人は相続した現金(預金)の一部を相続税の納税資金に充当することができます。

2.いわゆる「争続」問題を回避できる

相続資産の中で比較的ウエートの高い不動産を、オーナーの生前に、その意向に沿うかたちで承継させることができるため、複数の賃貸不動産を保有している場合は、物件ごとに承継者を決めるなどの対策で「争続」問題を回避することが可能です。

また、賃貸不動産売却後の賃貸料収入は不動産管理会社の収入となるため、収益の分散効果で、特に収益性の高い物件の売却によりオーナーの相続財産の抑制を図ることができます。

3.将来の相続登記の必要がなくなる

個人所有の不動産については、相続のたびに名義変更の登記が必要となりますが、法人所有にすることにより、登記に係る負担が不要になります。

5)不動産管理会社へ売却する際の留意点

1.不動産管理会社設立、運営のコスト

不動産管理会社を新会社として設立する場合は、持株会社のときと同様、登記費用の負担や、毎期の確定申告などの管理コスト、法人税等の負担が発生します。

2.資金調達、返済の検討

不動産管理会社で賃貸用不動産を購入するための資金を準備する必要があります。検討に当たっては、賃料収入から固定資産税などのランニングコストや大規模修繕のための積立金などを差し引いたフリーキャッシュフローについて、事前にシミュレーションを実施し、無理のない返済計画を策定することがポイントになります。また、空室の多い物件については、併せて空室率の改善計画なども立てる必要があります。

3.譲渡に伴う税負担の発生

不動産を購入した不動産管理会社は不動産の所有権移転に伴い、登録免許税(固定資産課税台帳の価格×原則2%)・不動産取得税(同×原則4%:特例による軽減あり)を負担する必要があります。

また、不動産を譲渡したオーナーは土地・建物の譲渡に係る譲渡所得税等を負担する必要があります。特に一族で代々所有してきた不動産については、取得費の不明なものもあり、長期譲渡所得といえども相当の負担となる場合がありますので、注意が必要です。

4.相続予定財産の一時的増大

時価による不動産譲渡の取引価格は、一般的にその不動産の相続税評価額より高額となるケースが多いため、譲渡代金を得たオーナーの相続予定財産は一時的に増大します。

相続予定財産の一時的増大

ただし、前述の通り、賃貸不動産の家賃収入は譲渡によりオーナーから不動産管理会社に移転するため、個人所得が減少し、中長期的には不動産管理会社を活用しない場合に比べて、相続予定財産の抑制につながります。

例えば、賃貸による家賃収入が年間1000万円あった場合には、10年後の相続予定財産はおおよそ家賃収入分(1億円)増加します。しかし、不動産管理会社を活用し、家賃収入を不動産管理会社に移転した場合には、その家賃収入分、オーナーの相続予定財産を抑制することができます。

5.建物のみを譲渡した場合の借地権相当額の取り扱い

コスト圧縮のため建物のみを不動産管理会社に譲渡するケースもありますが、この場合、通常では当該土地に借地権設定がなされるため、借地権相当額の収受がオーナーと不動産管理会社間で行われないときは、不動産管理会社に対して借地権相当分の受贈益が発生し、法人税等が課税されるケースがあります。

このため、実務上は不動産管理会社からオーナーに対して相当の地代を支払うか、税務署に無償返還の届け出をすることによって、受贈益課税を回避することが一般的です。

4 (参考)土地・建物の譲渡に係る譲渡所得税

土地や建物の譲渡所得に対する税金(譲渡所得税)は、他の所得と区分して計算し、適用される税率は、譲渡した土地や建物の所有期間が、譲渡した年の1月1日現在で5年を超えるかどうかによって異なります。

譲渡所得税額の計算式は、次のようになります。

譲渡所得税額の計算式

以上(2025年8月更新)
(監修 辻・本郷税理士法人 税理士 安積健)

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画像:soo hee kim-shutterstock

改正が見込まれる 暗号資産に関する税金の取り扱い

1 改正議論が本格化。暗号資産に係る税制の改正

資産形成の選択肢の1つ、暗号資産(ビットコインなどの仮想通貨)。ただ、興味はあるものの、「税金の取り扱いが難しそう」「他の金融商品に比べて税率が高い」といった理由で、なかなか投資に踏み出せない方も多いのではないでしょうか。

確かに、現状の暗号資産は、税金の取り扱いが株や債券といった通常の金融商品と異なり、課税のタイミングなどについて誤解が生じやすかったり、税率が高かったりします。しかし、近年は暗号資産を金融商品として位置付けるための税制の改正や、税務上の取り扱いについて見直しの議論が進んでいます。

  • 金融庁が暗号資産に関連する制度の在り方等の検証資料を2025年4月と6月に公開
  • 令和7年度税制改正大綱において、見直しの検討が明記される

この記事では、現状の暗号資産に関する所得税のルールから、今後、改正がされた場合に想定される取り扱いまでを解説します。

2 暗号資産に関する所得税の現状ルール

1)暗号資産は利益が大きくなるほど税率が高くなる(最大55%)

現状、暗号資産の利益は原則として、

「雑所得」に分類

され、給与所得や事業所得など他の所得と合算される、

「総合課税」の対象

となります。これにより、利益が大きくなるほど税率も高くなる累進課税が適用され、

最大で55%(所得税45%+住民税10%)

の税金がかかる可能性があります。株式投資の利益が通常20.315%の申告分離課税(他の所得と合算しないで税額計算する課税方式)であることを考えると、これは非常に高い税率であり、特に高所得者にとっては大きな負担となります。

累進課税の税率

2)5パターンもある課税されるタイミング

暗号資産に係る課税のタイミングは、日本円に換金したときだけでなく、様々な取引で発生します。なお、下記2.~5.の課税については、現金が手元に入らないにもかかわらず税金が発生するため、特に注意が必要です。

1.暗号資産を売却(日本円に換金)したとき

保有する暗号資産を日本円に換金し、売却益が出た場合、課税対象となります。

2.暗号資産で商品やサービスを購入したとみなされたとき

暗号資産を支払い手段として利用した場合、その暗号資産を一度売却し、商品やサービスを購入したとみなされ、利益が出ていれば課税対象となります。

3.暗号資産同士を交換したとき

例えば、ビットコインでイーサリアムを購入するなど、異なる暗号資産同士を交換した場合も、売却した暗号資産に利益が出ていれば課税対象となります。日本円に換金していなくても税金がかかる点に注意が必要です。

4.マイニング、ステーキング、レンディングなどで暗号資産を取得したとき

これらの活動によって新たに暗号資産を取得した場合、その取得時点での時価が所得として課税対象となります。

5.暗号資産を寄附したとき

寄附時点の時価と取得価額との差額が利益とみなされ、課税対象となります。

3 今後はどうなる? 税制改正議論の動向

現時点(2025年7月)では、暗号資産について、具体的な税制改正の内容が明示されているわけではありません。ただし、暗号資産の法律上の位置付けの改正については、具体的な議論が進んでいます。

【現状】は支払い手段として資金決済法の下に位置付けられていますが、【改正案】では投資対象として金融商品取引法の下

に位置付けられ、決済手段の1つとしての取り扱いから、金融商品としての取り扱いに変わると見込まれています。この改正が実現した場合、税務上最も大きな影響があるのは、課税方式と税率です。

暗号資産に係る税金の取り扱い

現状の総合課税かつ累進課税(所得が大きくなるにつれ税率が高くなる)の下では、合算する他の所得のバランスを取りながら、暗号資産の売却を考えなければならないなど、税金が投資の足かせ要因の1つともいわれています。そのため、今後の改正により、他の所得とは区別して課税される申告分離課税、かつ一律20.315%となれば、

売却時の懸案事項が減り投資の促進にもつながる

とみられています。

以上(2025年8月作成)
(監修 税理士 石田和也)

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画像:Fand-Adobe Stock

ヒント2[採用2]:会社が“目指すこと”、“大切にしたいこと”を明示する/武田斉紀の『人が辞めない会社、10のヒント』(3)

1 “自社を必要以上に大きく見せる”ことなく、採用したい人に応募してもらう

今シリーズの狙いは、経営者、人事担当者、現場の皆さんのお悩みである「社員を採ってもすぐに辞めてしまう上に、そもそも採れない」という課題を解決することです。

『人が辞めない会社、10のヒント』と題して、「時系列」で毎回1つずつご紹介しています。

「社員を採ってもすぐに辞めてしまう上に、そもそも採れない」という課題の原因と解決策は会社によってさまざまです。

今回ご提示するヒントが皆さんの抱える原因に明らかに当てはまらない場合は、読み飛ばしてくださって結構です。ですが、ヒントの1~9までが該当しなくても、10が当てはまるかもしれません。

全社共通の原因もあれば、部署ごとの固有の原因も存在することでしょう。原因が1つだけというケースは少ないので、何回分か読んでいただければ「これはうちにも当てはまるな」というものを見つけていただけるのではと思います。

前回、ヒント1として社員の入り口となる採用について触れました。募集時に“自社を必要以上に大きく見せていませんか?”と、皆さんに疑問を投げかけました。

社員が早期退職してしまう事例として、「普通に募集しても応募者が集まらないから」「もっと優秀な人を集めたいから」と、募集段階で“自社を必要以上に大きく見せてしまう”ケースが後を絶ちません。

募集広告の内容を信じて応募し入社した本人が、「聞いていた話と違う」となって、早期退職につながってしまうのです。

“だって自社を大きく見せないと、うちみたいな会社には応募者が来てくれないじゃないか”という声が聞こえてきそうです。

そこで今回と次回で、本人が「聞いていた話と違う」となることなく、「自社が本当に採用したい人に応募してもらう」方法を、事例と合わせてご紹介します。

2 会社の「求める人材像」が明確で、採用基準となっていますか?

採用に関わったことのある人であれば、「求める人材像」という言葉はご存じでしょう。文字通り「会社がどんな人材を求めているか、その条件を定めたもの」です。

あなたの会社の「求める人材像」は明確ですか。「求める人材像」を基準に募集や面接を進めて、採用者を決定できていますか。できていないとすれば、それが「社員を採ってもすぐに辞めてしまう上に、そもそも採れない」ことの原因の1つである可能性が高いです。

「求める人材像」という言葉を初めて聞いたという人は、「そんなものを提示したところで、会社が採用したいのは、学生でいえば偏差値の高い大学の出身者や、働く意欲や向上心の高い学生なのではないか」と考えるでしょうか。

一方、「求める人材像」を定めているという会社でも、それを基準に採用活動ができているとはいえない。そもそも採用基準にすることに懐疑的なところも少なくないようです。

理由として、先ほどのように「定めてはいるけれど、他社と大差ないと思うので結局はあまり意識せず採用している」や「人事レベルでは採用基準としているが、最終判断する役員や社長が意識しているとは思えない」など、いろいろな状況があるようです。

「求める人材像」なら知っているよという方に聞きます。「求める人材像」にはどんな要素が含まれるでしょうか。

何かの法則のように明確に定義されているわけではないのですが、さまざまな文献や専門家の意見、私の実感も含めて整理すると、大きくは「(1)適性」と「(2)意欲」に分けられるようです。それぞれには次のような要素を含んでいると考えられます。

(1)適性 ①価値観/資質・性格  ②経験/スキル(知識・能力)
(2)意欲 ③興味関心 ④将来像

先に申し上げておくと、(2)意欲①興味関心については、本人がすでに持っている部分はあるものの、会社からの情報提供により仕事や会社への理解が進むにつれて高まっていくものといえます。

同じく(2)意欲④将来像についても、本人が具体的な将来像を描けているか、それが会社の求めるものと一致するかは、仕事や会社への理解次第でしょう。

すなわち、(2)意欲については、会社の求める(1)適性との一致を確認した後で、“会社からの働きかけ次第”でいかようにも変えられる部分なのです。

ということで(1)適性のほうを掘り下げてみましょう。

3 企業が応募者に求める資質やスキルは共通? では価値観はどうか

2022年に経団連がまとめた「採用と大学改革への期待に関するアンケート」結果によれば、「採用の観点から、大卒者に特に期待する資質・能力・知識」として、次のような点が挙げられています。

上記(1)①に含まれる「資質」として特に期待するのは「主体性」「チームワーク・リーダーシップ・協調性」で、回答企業の約8割が指摘しています。次に変化の激しい人生100年時代を迎えて、「学び続ける力」も4割近くが求めています。

上記(1)②に含まれるスキルの「知識」として最も期待するのは、「文系・理系の枠を超えた知識・教養」。「能力」の上位は、「課題設定・解決能力」「論理的思考力」「創造力」とのことです。

多くの企業で新卒採用での「求める人材像」(1)の①資質・性格や②スキル(知識・能力)が似通っている点は否めません。

ちなみに、これらの項目は、ここ数年でもあまり変化していないようです。

これから就職活動を始める学生さんや若手社員の皆さんには、これらの「資質」「知識能力」を意識して鍛えていただければと思います。ただ会社側にも知っておいていただきたいのは、①資質・性格は簡単ではないですが、

少なくとも②スキル(知識・能力)は入社後でも十分に鍛え得るという点です。

少し想像すれば分かりますが、これらの条件を全て満たしている学生など、ほんの一握りでしょう。

一定基準では満たしていてほしいところですが、採用時点で多くを求めれば求めるほど自社の採用の可能性を狭めてしまいそうです。

では、残った(1)①の「価値観」についてはどうでしょうか。皆さんの会社が社員に求めている「価値観」とは何ですか?

「求める人材像」の(1)①「価値観」が明確ではないという方は、次の質問を自社に問うてみてください。

Q.会社が「これだけは譲れない」と大切にしてきた価値観は何ですか

経営トップが「こういう社員を大事にしたい」「こういう社員は許さない」と繰り返し求めていれば、それも会社として「大切にしたい価値観」の1つといえるでしょう。以上を含めて複数ある場合は、優先順位をつけて並べてみてください。

「大切にしたい価値観」が10も20もたくさんあるという会社もあるかもしれませんが、求める数が増えるほど採用できる対象者がどんどん少なくなってしまいます。

また、あらゆる価値観が一致する同質な人材だけを集めても、会社の強みや魅力は広がりませんし、世の中の変化にも対応できなくなります。

理想としてはこれだけは譲れないものを、優先順位の高い順にできれば3つ程度、せいぜい5項目くらいまでに絞ってみてください。他社は必ずしも優先しなくとも、自社としては優先的に採用したい価値観を共有できる人材が集まってくれる可能性が高いでしょう。

会社と価値観を共有できている人材は、入社してから簡単には辞めません。

4 “目指すこと”、“大切にしたいこと”の明示が、人を強く引き寄せる!

会社が“大切にしたいこと”=価値観が明確になったら、同時に会社が“目指すこと”=目的も、併せて言葉にしてみましょう。

会社が目指す目的は、企業理念を言葉にまとめている会社であれば、その中に書いてあるはずです。会社が目指す理想の姿としてどうなりたいのか、それが目指す目的です。

最近よく耳にする「パーパス(英語で目的、そこから派生して存在意義と訳しているケースもあります)」はこれに当たります。社会的存在としての目的のようにいわれていますが、自社が本気で目指していることであれば社会的存在としての云々でなくとも私はいいと捉えています。

さて、本人が「聞いていた話と違う」となることなく、「自社が本当に採用したい人に応募してもらう」方法の1つは、採用時に会社が“目指すこと”、“大切にしたいこと”を明示することです。

そんなものを明示したところで、応募者を引きつけられるものだろうか。中小企業や不人気の業界に応募者が増えるのだろうかと、不安に思われるでしょうか。

身近な例で考えてみましょう。あなたに“推し”たい(大好きな)対象がいて、でもすごくマイナーな存在だったとしましょう。

ジャンルは皆さんが趣味としているもので構いません。アーティストやアイドル、スポーツ選手やチーム、アニメや漫画のキャラ、敬愛する歴史上の人物、昔のクルマやバイク。何でもいいので世の中としてはマイナーな“推し”を、1つ(1人)思い浮かべてみてください。

マイナー過ぎて公言することには気後れしていたかもしれませんが、ここは思い切ってSNSでカミングアウトしてみましょう。SNSの素晴らしさは、一瞬で世界中の人とつながれることですよね。すると、同じように「こんな対象を“推す”人なんていないだろう」と思っていた人があなたを見つけて反応してくれます。

彼らからすればどうでしょう。「やった、同じ目的や価値観を共有できる仲間が見つかった!」となるはずです。世界中のあまたの人の中に、自分にとって本当に心を許せる友を見つけたような喜び。その人にとって、こんなに魅力的なことがあるでしょうか。

それらの“推し”は、ある意味で知る人ぞ知る中小企業(ほとんどの人は知らない)と同じです。「うちの会社の目的や価値観は、かなり特殊だから」と心配でしょうか。むしろそれくらいでいいのです。だからこそ強烈に共感して“推し”てくれる人材が見つかります。

5 上場後に幹部が一斉退職したA社を救ったのは、価値観を共有して入社した若手だった

私がかつて採用をご支援したA社の事例を紹介します。

A社はB社長が創業したレストランチェーンで、まだ店舗数も限られた中小企業でした。数年以内には株式上場を果たし、一気に規模も大きくしたいということで、まとまった数の新卒採用を成功させたいとのことでした。

私は取材を進めながら、オーナーであるB社長が“目指すこと”、“大切にしたいこと”を打ち出して、共感してくれる学生を集めましょうとご提案しました。

例えばこんな感じです。価値観はまずまず独特ですよね。

・目的/誰もが楽しめて感動できるレストランを作る
・価値観/結果次第で社長の給料さえ超えられるが、降格もある
 価値観/自分で手を挙げない限り昇給も昇格もできない
 価値観/会議では社長も店長も同じ1票
 価値観/上司を見るより、お客様を見ろ

これらの考え方を分かりやすく解説した冊子を用意して、広告やホームページで告知し、読んで共感した人は社長宛に手紙を書いて送ってほしいという形で募集をかけました。その代わり、送ってくれた全員に社長が直接会うという約束をして。

結果、学生の売り手市場の中、予想を大きく上回る数の熱い気持ちのこもった手紙が集まりました。社長は約束通り全員と会って話を聞き、その中から特に共感してくれた学生を中心に採用を決めました。

その後、A社は無事に株式上場を果たします。ところが、とんでもない事態が起こります。事前に経営幹部にも会社の株の一部を持ってもらっていたところ、彼らのほとんどが、株を売って独立し、会社を去ってしまったのです。一国一城の主を目指す人たちが集まる業界とはいえ、上場してこれからというタイミング。B社長は頭を抱えました。

すると、その姿を見ていた若手の店長たちが、B社長のところに来てこう言ったそうです。「社長、僕らは辞めません。社長の考え方に強く共感してこの会社を選んだのですから。大丈夫ですよ、僕らに任せてください!」彼らはあのときに採用した新卒たちでした。

その後若手の店長たちは幹部が抜けた穴を見事に埋め、成長しながら危機を乗り切ってくれたそうです。

ネットやSNSの時代には、会社が“目指すこと”=目的と“大切にしたいこと”=価値観を分かりやすく明示できれば、本当に共感してくれる人材に届けることができます。彼らは自分の目的と価値観に一致する会社を見つけて、「ここしかない」と思って応募してくれるはずです。

第3回を最後までお読みいただきありがとうございました。

ご紹介するヒントを参考にしながら、自社を退職する一人ひとりの「辞める理由」と、働いている一人ひとりの「辞めない理由」を丁寧に拾ってみましょう。見えてきた自社ならではの“課題”を解消し“強み”を活かせれば、『人が辞めない会社』へと変われるはずです。

次回も引き続き『人が辞めない会社、10のヒント』をご紹介していきます。

<ご質問を承ります>

ご質問や疑問点などあれば以下までメールください。※個別のお問合せもこちらまで

Mailto:brightinfo@brightside.co.jp
https://www.brightside.co.jp/

※武田が以前上梓した書籍『新スペシャリストになろう!』および『なぜ社長の話はわかりにくいのか』(いずれもPHP研究所)が、ディスカヴァー・トゥエンティワンより電子書籍として復刻出版されました。前者はキャリア選択でお悩みの方に、後者はリーダーやトップをめざしている方にお薦めです。

『新スペシャリストになろう!』
https://amzn.asia/d/e8GZwTB
『なぜ社長の話はわかりにくいのか』
https://amzn.asia/d/8YUKdlx

以上(2025年9月作成)
(著作 ブライトサイド株式会社 代表取締役社長 武田斉紀)
https://www.brightside.co.jp/

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【賃金データ集】 退職金のモデル支給額

【賃金データ集】シリーズとは?

【賃金データ集】シリーズは、基本給や諸手当など賃金の主要な構成要素ごとの近年のトレンドを、モデル支給額を中心とした関連データとともに紹介します。経営者や実務家の方々が賃金支給水準の決定や改定を行う際の参考としてご活用ください。なお、モデル支給額などのデータを紹介する際は、基本的に出所に記載されている用語を使用するものとします。また、データは公表後に修正されることがあります。

この記事で取り上げるのは「退職金」(退職給付等の費用)です。

退職給付等の費用

なお、以降で紹介する図表データのExcelファイルは、全てこちらからダウンロードできます。

こちらからダウンロード

1 退職金の位置付けと退職金制度の概要

1)退職金の位置付け

退職金とは、在職中の従業員の功労に対する報償や賃金の後払いといった意味合いで、企業が退職した従業員に支払う金銭です。退職金制度は、支払い形態、算定の考え方、掛け金の積立形態などによって幾つかの種類に分類されます。退職金制度の導入は企業の義務ではないものの、多くの企業が実施しています。

2)退職金制度の概要

主な退職金制度の種類は次の通りです。

退職金の位置付け

1.支払い形態

支払い形態は、次のように大別されます。

  • 退職一時金:退職金を一括で支給
  • 退職年金:退職金を年金として支給(「企業年金」とも呼ばれる)

2.算定の考え方

退職一時金の算定の考え方は、次のように大別されます。

  • 基本給連動型:算定基礎額(退職金を計算する基礎となるもの)を基本給とする制度で、一般的には、「退職時の基本給×勤続年数別係数×退職事由別係数(会社都合退職と自己都合退職)」によって退職金を算定するもの
  • 基本給非連動型:算定基礎額を基本給以外とする制度で、代表的なものは「ポイント制退職金制度」や「別テーブル方式(第二基本給)」など

 退職年金の算定の考え方は、「確定給付型:あらかじめ将来の年金支払額が決まっている制度」と、「確定拠出型:あらかじめ掛け金の額が決まっている制度」に大別されます。

3.積立形態

積立形態はさまざまで、それぞれ特徴があります。

積立形態

2 退職金制度の潮流

1)退職金制度の3つの機能

退職金制度は功労に対する報奨や賃金の後払いといった機能を持ちながら、終身雇用・年功序列の人事制度に組み入れられ、定着してきました。

現在有力とされている退職金制度の機能を整理すると次の3つになります。

  • 功労報奨:従業員の長年の勤務を慰労する
  • 賃金後払い:若年時の低い賃金を補償する
  • 生活保障:退職後の労働者の生活を援助する

2)これからの退職金制度

かつての退職金制度は、年功主義の下で賃金の後払い機能を持ち、従業員の定着率向上に寄与しました。しかし、定年まで1社に勤め続ける従業員が減った昨今では、こうした考え方は必ずしも実情に合わなくなってきており、実際、退職金制度の見直し(廃止も含む)を実施・検討している企業が少なくありません。

例えば、企業の負担軽減という視点で、前述の確定給付企業年金と確定拠出年金について考えてみましょう。確定給付企業年金は企業(基金)が将来の給付額を加入者に約束するという仕組みです。仮に予定通りの運用ができなかった場合、企業は追加拠出をして加入者を保護する必要があります。一方、確定拠出年金ではあらかじめ掛け金は決まっていますが、将来の年金給付額は運用期間中の従業員の運用成績によって決まるため、運用成績に対する企業の責任が軽くなります。退職金に係る企業の負担を軽減したいと考えている企業にとっては、確定拠出年金のほうが適しているといえるかもしれません。

また、従業員の多くは、「退職後の生活のために、ある程度の資産が欲しい」と少なからず考えています。退職後の生活を考えるためには、退職金の具体的な支給額を知りたいところですが、実際の退職金制度は、退職時まで支給額の実態が分からないなど、制度内容がブラックボックス化しているケースが少なくありません。こうした場合は、確定拠出年金のように、従業員が在職中に自らの裁量で利用して、資産を運用できる退職金制度にするのも1つの方法です。

ちなみに、退職金制度ではありませんが、従業員が自分で掛け金を決めて運用する「個人型確定拠出年金」(通称「iDeCo(イデコ)」)には、従業員の掛け金に追加して、企業が掛け金を拠出することができる「中小事業主掛金納付制度」(通称「iDeCo+(イデコプラス)」)という制度があります。退職金に充てる原資の一部を企業が拠出する掛け金に充てることなどで、従業員の資産形成のサポートが可能になります。

3 厚生労働省の統計資料によるモデル支給額

厚生労働省の統計資料によるモデル支給額

厚生労働省の統計資料によるモデル支給額

厚生労働省の統計資料によるモデル支給額

厚生労働省の統計資料によるモデル支給額

厚生労働省の統計資料によるモデル支給額

厚生労働省の統計資料によるモデル支給額

4 日本経済団体連合会等の統計資料によるモデル支給額

日本経済団体連合会等の統計資料によるモデル支給額

5 東京都労働相談情報センターの統計資料によるモデル支給額

東京都労働相談情報センターの統計資料によるモデル支給額

東京都労働相談情報センターの統計資料によるモデル支給額

東京都労働相談情報センターの統計資料によるモデル支給額

東京都労働相談情報センターの統計資料によるモデル支給額

東京都労働相談情報センターの統計資料によるモデル支給額

東京都労働相談情報センターの統計資料によるモデル支給額

東京都労働相談情報センターの統計資料によるモデル支給額

東京都労働相談情報センターの統計資料によるモデル支給額

東京都労働相談情報センターの統計資料によるモデル支給額

東京都労働相談情報センターの統計資料によるモデル支給額

東京都労働相談情報センターの統計資料によるモデル支給額

東京都労働相談情報センターの統計資料によるモデル支給額

6 情報インデックス(この記事で紹介したデータの出所)

この記事で紹介した統計資料は以下の通りです。調査内容は個別のURLからご確認ください。なお、内容はここ数年の公表実績に基づくものであり、調査年(度)によって異なることがあります。

■就労条件総合調査■
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/11-23.html

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■退職金・年金に関する実態調査結果■
https://www.keidanren.or.jp/policy/index09.html

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■中小企業の賃金・退職金事情■
http://www.sangyo-rodo.metro.tokyo.jp/toukei/koyou/chingin/

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以上(2025年8月更新)

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画像:ChatGPT

「内輪差・外輪差」を意識した安全運転(2025/9号)【交通安全ニュース】

活用する機会の例

  • 月次や週次などの定例ミーティング時の事故防止勉強会
  • 毎日の朝礼や点呼の際の安全運転意識向上のためのスピーチ
  • マイカー通勤者、新入社員、事故発生者への安全運転指導 など

日ごろの車の運転で「内輪差・外輪差」を意識していますか。例えば左折する際は、車両の左後方を走る二輪車の巻き込みや縁石への乗り上げなどに注意することが「内輪差」も意識した運転になります。

車が曲がる時の「内輪差・外輪差」を理解し、事故を起こさないための安全運転について考えます。

内輪差・外輪差

1 「内輪差・外輪差」とは

「内輪差・外輪差」とは、図1に示すように、車両が曲線を描くときの前輪と後輪の走行半径の差です。

図1.内輪差・外輪差

「内輪差・外輪差」は、計算ができます。ある乗用車を例に「内輪差」を計算すると次のようになります 。

ホイールベース:2.6m、トレッド:1.5m、最小回転半径:5mの場合、内輪差は、約1.03mとなります。

実際に運転をしているときの「内輪差」の目安は、ホイールベースの1/3といわれています。ホイールベースが2.6mであれば、内輪差は、約0.9mとなります。このように乗用車であっても、内輪差は1m程度あり、内側に二輪車が走行している場合には、空間を塞ぐ幅となります。

≪右振り左折に注意≫

「内輪差」を意識するあまり、生活道路などの狭い道で、図2のように、車の頭を右側に振って左折をするドライバーを見かけます。このような運転は、対向車との衝突や後続車からの追突のリスクがあります。

図2.右振り左折

2 駐車場での事故例

狭い駐車場は「内輪差・外輪差」に起因する事故が発生しやすい場所となります。

駐車出庫

バック入庫

次の点に注意して運転操作をしましょう。

  • スピードをしっかり落とす
  • 適切な位置まで前進・後進し、ハンドルをしっかり切り小回りをする
  • 左右のドアミラーも活用しながら周囲を確認する(巻き込み・外側突出部分の接触)

3 周囲を走る大きな車を意識した気配り

車体が大きい車は、図3に示す「オーバーハング」(バンパーや荷台など、タイヤからはみ出した車体の部分)が、曲がる際に周囲と接触するリスクがあります。

オーバーハング

そのため、車体が大きい車の周囲を走るときは、走行の妨害になったり、接触したりしないように気配りをすることが大事です。注意すべき事項を次に例示します。

交差点停止時

交差点直進時

カーブ走行時

大きな車を意識した周囲への気配りが、事故を起こさないための安全運転となります。

以上(2025年9月)

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画像:amanaimages

【オーナー企業の事業承継(7)】財産権と経営権の移転に関する対応策

1 自社株式の承継に含まれる2つの側面

オーナーにとって、自社株式の承継は会社を経営する権利(経営権)と自身の築き上げてきた財産(財産権)という2つの側面があります。このため、事業承継を検討する上では、経営権の承継に加えて、オーナーの財産の相続についても考慮しなくてはなりません。

また、自社株式の移転に伴う税負担を移転コストと考えれば、自社株式の評価が低いタイミングで株式の移転(承継)を行うのが基本です。しかし、そのタイミングで後継者が経営を引き継げる力量を備えているかどうかという問題が生じる可能性もあります。

そこで活用したいのが種類株式や信託です。それぞれの効果や留意点を認識し、自社に合った対策案として検討してみてください。

2 種類株式の活用した事業承継対策

1)種類株式とは

株主には剰余金の配当や残余財産の分配など、会社から直接に経済的利益を受ける権利や、株主総会の議決権など経営に参加する権利などが与えられています。

現行の会社法ではこういった

株主の権利を制限したり強化したりする、内容の異なる2種類以上の株式を発行すること

が認められています。こうした内容の異なる株式を発行した場合における株式を、種類株式といいます。

現在、発行が認められている種類株式の概要は次の通りです。

種類株式の概要

2)種類株式の活用例

1.配当優先無議決権株式の発行

配当優先無議決権株式とは、普通株に対して剰余金の配当について優先権を持つ一方、株主総会の決議については全く議決権を持たない種類株式です。

配当優先無議決権株式の活用の流れは次の通りです。

活用の流れ

配当優先無議決権株式を活用することにより、財産権としての株式(配当を得る権利など)は兄弟間での調整が可能となる一方、議決権は後継者である長男に集中させることができるので、経営権を安定させられます。

なお、配当優先無議決権株式の保有株主に対する支払い配当の負担が増加する可能性がある点には注意が必要です。

2.黄金株の発行

拒否権付株式(以下「黄金株」)とは、株主総会や取締役会での決議事項について、普通株式保有株主による決議とは別に、黄金株保有株主による決議が必要となる株式、つまり拒否権を持った種類株式です。

黄金株の活用の流れは次の通りです。

黄金株の活用の流れ

黄金株を活用することで、自社株式の評価が下がった時点などに大半の自社株式を後継者に承継しつつ、現オーナーの経営への影響力を残せるので、後継者の独断的な経営を阻止することができます。なお、次の点には注意が必要です。

  • 過度に拒否権を行使すると、後継者の経営意欲が低下したり、逆に前オーナーへの依存心が生じたりしてしまう可能性がある
  • 黄金株はその効力が強大であるがために、万一、後継者以外の第三者に譲渡されたり相続されたりすると、会社経営に重大な支障を来す恐れがあるため、後継者以外の者に承継されないような対応が必要となる

そのため、次のような対策を取る必要があります。

  • 黄金株を譲渡制限株式として発行する
  • 黄金株を相続の発生を条件とする取得条項付株式として発行する
  • 黄金株の発行と同時に公正証書遺言を作成しておく

3 信託を活用した事業承継対策

1)信託とは

信託とは、「委託者」が自ら所有する財産を、信頼できる「受託者」に託し、その財産から生じる成果を「受益者」に給付するものです。ここでは自己信託(委託者と受託者が同一人物)の活用例を解説します。なお、自己信託は公証人役場に自ら出向くか、行政書士や弁護士に依頼して公正証書を作成し設定を行います。

2)自己信託の活用例

自己信託の活用例は次の通りです。

自己信託の活用例

自己信託の仕組みを活用し、オーナーが委託者として自社株式を信託して自らがその受託者となり議決権を行使します。自社株式の名義人はオーナーのまま、後継者を受益者とすることにより、実質的な財産の帰属を後継者とすることができます。ただし、この段階で後継者には贈与税が課されます。

なお、自己信託の設定時において、信託契約はオーナー死亡時に終了させ、後継者が自社株式の名義人となるよう取り決めておきます。これによりオーナーが死亡した段階で後継者が自社株式の名義人となりますが、自己信託を設定したときに贈与税は課税済みであるため、上記の信託設定が相続開始前3年以内の贈与または相続時精算課税に該当しない限り、相続税は生じないこととなります。自己信託の活用のメリットには以下があります。

  • 財産の経済的な所有者は受益者である後継者となるため、税金面では生前贈与と同様の効果がある
  • 通常の信託では、財産の名義は委託者から受託者に移転し、財産の管理は財産の名義人である受託者が行うことになるが、自己信託の活用により委託者と受託者は同一人物となるため、オーナー自らが引き続き財産の管理(議決権の行使)を行うことができる
  • 贈与においては受贈者(贈与を受ける者)の受諾が必要だが、信託では必ずしも受益者への通知は必要とされていない

なお、信託の設定により財産の名義は「受託者(オーナー)」となりますが、税務上は実質課税の原則(実際にその資産を有しているとみなされる人に対する課税)により、委託者から受益者に贈与があったものとして、受益者に対して贈与税が課されるため、自社株式の評価額などに十分注意して信託を設定する必要があります。

4 少数株主への対応について

1)少数株主の存在

事業承継の検討に当たり、オーナーとしてスムーズな会社経営を行うためには株式(議決権)の過半数(できれば3分の2以上)を確保すべきであるといわれます。確かに会社としての意思決定をするにはそれでよいのですが、一方で「少数株主」の存在にも気を付けなければなりません。

2)「少数株主」の権利と潜在リスクへの対応

会社を経営していく上で、少数株主の意見を反映せざるを得ないというケースはまれですが、会社法では次の「少数株主」に対して、経営者としては無視できないそれぞれの権利を認めています。

  • 1単元以上の株式を有する株主
    株主代表訴訟(株主が会社に代わって取締役や役員などの責任を追及し、損害賠償を求める訴訟)を提起する権利
  • 総株主の議決権の3%以上、または発行済株式数の3%以上の株式を有する株主
    会計帳簿などの閲覧・謄写を請求する権利

また、株主に相続が生じた場合に、その相続人から「株式を(高値で)買い取ってほしい」と要求されることもよくあります。その背景には「少数株主」が存在する経緯と、少数株主の代替わりなどがあります。「少数株主」が存在する経緯としては、次のようなケースが多く見られます。

  • 1990年の商法改正前までは会社設立時には7名の発起人が必要だったため、会社設立時に発起人として名義を借りた
  • 相続税対策として、オーナーの持株比率を抑えるために、従業員・取引先などに自社株式を保有してもらい、将来、何か問題が生じたときは払込金額で買い取る口約束をしていた

しかし、時間の経過とともにオーナーや株主が代替わりしていくと、当初の経緯がうまく引き継がれず、株式保有の目的が分からなくなってしまうことがあります。また、株主が生前に何らかの恩恵をオーナーや会社から受けていたとしても、その株主の相続人までが会社に対して好意的とは限りません。そのため、上記の「少数株主」に認められている権利が敵対的に行使されるリスクが生じます。

従って、特に創業オーナーら、過去の経緯を熟知している世代から次の世代への事業承継に当たっては、問題を先送りすることなく当代のオーナーが責任を持って「少数株主」と交渉し、何らかの対応をしておくことが望まれます。

具体的な対応方法としては次のようなものが考えられます。ただし、会社ごとにその対策の有効性が異なるため、詳しくは税理士や公認会計士などの専門家に相談するようにしましょう。

対応方法

3)個人の「少数株主」からの買取価額について

オーナーが個人の「少数株主」から自社株式を買い取る場合、原則的評価方式による評価額よりも安い価格で買い取りをすると、個人の「少数株主」から贈与を受けたとして、買取価額と原則的評価方式による評価額の差額に対してオーナー側に贈与税が課されます。

この点について、オーナーの皆さんの中には「もともと旧商法下での額面株式のように安い金額で払い込まれたものであるにもかかわらず、贈与税を回避するために原則的評価方式による評価額で買い取らなければならない」と誤解している人が多くいます。

しかし、贈与税を課されたとしても、例えば、例外的評価方式である「配当還元方式」による評価額で買い取り、あえて贈与税を支払ったほうがキャッシュアウトの総額は少なくなる場合もあります。次の事例で見てみましょう。

買取価額

原則的評価方式による評価額(1000万円)で買い取れば、キャッシュアウトの総額は1000万円となりますが、例外的評価方式(配当還元方式)による評価額(100万円)で買い取って贈与税を支払う場合のキャッシュアウトの総額は291万円で済みます。

さらに、12月と1月のように年をまたいで2年に分けて買い取りを行うと、贈与税の基礎控除(110万円)が2回使える上、課税価格が下がるのに伴い贈与税率が低くなります。そのため、キャッシュアウトの総額は186万円にとどめることができます。

なお、例外的評価方式(配当還元方式)による評価額は、自社の配当額により異なるため、具体的に比較する場合には、税理士や公認会計士などの専門家に相談するようにしましょう。

以上(2025年8月更新)
(監修 辻・本郷税理士法人 税理士 安積健)

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画像:soo hee kim-shutterstock