目次
1 「人手不足」や「賃上げの負担」をどう乗り越える?
今、日本の中小企業の多くは、物価上昇や深刻化する人手不足のために、高水準の賃上げを続けざるを得ないという状況にあります。2026年版中小企業白書(以下「白書」)では、こうした状況を踏まえ、
- 経営環境の転換期にある中で、現状維持は最大のリスク
- 短期的な損益を追うのではなく、長期的な視点で事業構造・組織構造を再構築していく「戦略」を持った経営に転換し、「稼ぐ力」を高め、「強い中小企業」へと成長することが重要
と強調し、次のような内容について解説しています。

「稼ぐ力」の強化に関して、白書では、生産性向上・デジタル化などを含め幅広い課題を取り上げていますが、この記事では、
中小企業の切実な悩みである「人手不足」に焦点を当て、その解決策として「人材確保の方向性の見直し」「価格交渉(賃上げの原資づくり)」のポイントを紹介
します。なお、白書の詳細な内容を確認したい場合は、下記URLをご覧ください。
■中小企業庁「2026年版『中小企業白書』全文」■
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2026/PDF/chusho.html
2 もはや「待っていれば人が来る」という時代ではない
1)人材確保は経営者が特に重視する経営課題
白書によると、帝国データバンクが2025年11月から12月にかけて実施したウェブアンケート調査で明らかになった「最も重視する経営課題(企業規模別)」は次の通りです。

中規模企業、小規模事業者ともに「人材確保」を経営課題として重視していることが分かります。実際、「求人を出しても、さっぱり応募がない」という悩みを抱える社長は少なくありません。一方、いまだに「待っていれば人が来る」という淡い期待を抱いたまま、具体的な対策を検討していない中小企業も多く見受けられます。まずは、待ちの姿勢を脱却することから始めましょう。
日本の生産年齢人口(15~64歳人口)は減少傾向にあり、今後、人手不足は更に深刻化する見込みです。中小企業(従業員99人以下)における雇用者数は、2040年には2018年比で84.1%(15.9%減)にまで落ち込む可能性があります。つまり、これまでと同じやり方では、いずれ立ち行かなくなる恐れがあるわけです。

2)採用活動や就業環境への向き合い方を見直してみる
それではどうするか? 白書が示すヒントは、「闇雲に求人を出す」のではなく、
採用したい人材像を明確にする
ことです。実際、白書のアンケート調査では、
年齢・経験・スキル・価値観といった「求める人材像」を明確化できている企業ほど、採用実績(予定人数を確保できた割合)も、採用後の定着率も高い
という結果が出ています。「とりあえず人手が欲しい」ではなく、「どんな人に、どんな業務を任せたいか」を先に固めることが、ミスマッチによる早期離職を防ぎ最初の第一歩になります。
また、「採れる企業」「辞めない企業」になるための環境整備も欠かせません。白書では、人材の定着率が高い企業が実際に取り組んでいることとして、「賃上げ」の他、
- 休暇の取得推進
- 時間外労働の削減
- 柔軟な働き方の導入
を挙げています。さらに、自社の社員だけで人手不足を乗り切るのが難しい場合は、
- 副業・兼業人材
- 外国人材
- スポットワーク人材(単発・短時間の求人プラットフォーム経由の人材)
といった、社外の多様な人材を活用する選択肢もあります。特に副業・兼業人材については、人手不足の解消だけでなく、「自社にない技術やノウハウの獲得」「従業員のスキルアップ」につながったと回答する企業も多く、単なる労働力の補充以上の効果が報告されています。
3)「脱どんぶり勘定」で、良い人が集まり始めている
中小企業では、社長自らが陣頭指揮を取りながら現場を飛び回るケースが多いものです。そのため、ついつい社長の頭の中だけで様々な処理が行われ、「どんぶり勘定」になりがちです。
しかし、人手不足の中でも「不思議と人が辞めない企業」「新しい人が採れる企業」には共通点があります。それは、社長の勘に頼る経営を卒業し、財務や労務管理、業務プロセスなどの「仕組み化」に取り組んでいる点です。
「うちの企業は、この仕事でいくら儲かっているのか」「従業員の労働時間や有給の消化状況は適正か」これらを数値として「見える化」することで、無駄なコストや作業が浮き彫りになり、結果として企業に残る利益(営業純益)を増やすことができます。増えた利益は、賃上げや休暇制度の充実など、ここまで見てきた「採れる企業」「辞めない企業」になるための原資にもなります。
社長の役割は、現場で誰よりも働くことではなく、「少ない人数でも、しっかり利益が出て、社員に還元できる仕組み」を整えることにあります。
3 「原材料分」も「社員の給料分」も値上げ交渉して構わない
1)賃上げの原資確保に苦戦しながらも、賃上げせざるを得ない現実
人材確保に付いて回るのが「賃上げ」です。政府や世間から「賃上げ」を強く求められ、中小企業でも、2024年に「4.45%」、2025年に「4.65%」という高い賃上げ率が記録されました。

しかし、社長の本音は「そんな原資、うちのどこにあるんだ」というところでしょう。白書によると、中小企業の労働分配率(付加価値額に占める人件費の割合)は中規模企業が約7割、小規模企業が約8割と非常に高く、賃上げ余力は大企業と比べて小さいのが実情です。
にもかかわらず、多くの企業は既存社員の転職を防ぎ、新しい人材を採用するために賃上げする、いわゆる「防衛的な賃上げ」をせざるを得ず、実際、業績の改善が見られないにもかかわらず、賃上げに踏み切っている企業が4割を超えています。
2)取適法などに基づく価格交渉で原資の確保を
この問題に対し、白書が解決策として示しているものの1つが、「自社の製品・サービス価格への適切な転嫁(値上げ交渉)」です。これまで原材料や燃料費の高騰ばかりが注目されがちでしたが、これからは「社員の給料を上げるための人件費(労務費)の引き上げ」についても、堂々と発注元(取引先)に価格交渉をしようという考え方です。
2026年1月、長年の中小企業取引のルールだった下請法は、新しく「取適法(中小受託取引適正化法)」として生まれ変わりました。取適法では、適用対象となる取引の範囲を、「取引の内容」と「資本金基準」(資本金の額あるいは出資の総額)または「従業員基準」(常時使用する従業員の数)によって定めています。
今回の法改正で新たに追加された「従業員基準」は、
従業員数が多く事業規模が大きいのに、減資等により資本金額が少額となっていた事業者を適用対象に含める
ことで、より多くの取引関係における不公正な慣行を是正しようという狙いがあります。

黒字が「資本金基準」、赤字が「従業員基準」で、適用対象となる取引の発注者がどちらか1つでも該当する場合、取適法の適用を受けます。相手の資本金が小さくても、一定以上の従業員がいる企業からの発注であれば、受注者側の企業は法律で保護されます。
また、建設工事の取引には、さらに厳しい「建設業法」が適用されます。発注者が受注者に対して「労務費の引き上げ分(賃上げ分)を無視して、一方的に低い単価を押し付けること(買いたたき)」を明確に禁止しており、これも価格交渉をする上での重要な規定になります。
4 「何から始めればよい?」社長を助ける3つの強力な公的支援
人材を確保するための仕組みづくりや、賃上げ原資を確保するための価格交渉……色々とやらなければならないことはありますが、「資金もノウハウもないし、何から始めればよい?」と悩む社長は少なくないでしょう。そんな社長のための公的支援をいくつか紹介します。
1)機械の導入や新製品の開発時に使える「中小企業省力化投資補助金」「新事業進出・ものづくり商業サービス補助金」
少ない人数で現場を回すための「機械の導入」や「ITツールの活用」には補助金が使えます。例えば、「中小企業省力化投資補助金」は、付加価値額向上や生産性向上に効果的な自動化機器などをカタログから選択することで、比較的手軽に申請ができる補助金です。
また、2026年6月から始まった「新事業進出・ものづくり商業サービス補助金」も、新製品・新サービスの開発や新市場・高付加価値事業への進出を検討する場合に活用できる補助金です。
■中小企業省力化投資補助金■
https://shoryokuka.smrj.go.jp/
■中小機構 補助金活用ナビ「 新事業進出・ものづくり補助金のご案内」■
https://seisansei.smrj.go.jp/subsidy_info/business_manufacturing_subsidy.html
2)賃上げ時に活用できる「業務改善助成金」
事業場内で最も低い時給(事業場内最低賃金)を50円以上引き上げる計画を立て、同時に「業務を効率化するための設備(POSレジや専用什器など)」を購入した場合、その設備投資費用の一部が国から助成される「業務改善助成金」が活用できます。賃上げと職場の効率化を同時に進められる制度です。
■厚生労働省「業務改善助成金」■
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/zigyonushi/shienjigyou/03.html
3)何から話せばいいか分からないときの駆け込み寺「よろず支援拠点」
補助金の種類が多すぎて選べないときや、価格交渉の進め方に悩んだ時は、各都道府県にある無料の相談窓口「よろず支援拠点」を頼りましょう。経営の専門家が、無料で社長のアドバイスに乗ってくれます。
■よろず支援拠点全国本部■
https://yorozu.smrj.go.jp/
現状維持は最大のリスクですが、裏を返せば「小さな第一歩」を踏み出した企業が、競合他社の一歩前に抜け出せるチャンスの時代でもあります。取引金融機関や、地元の商工会・商工会議所、よろず支援拠点などの専門家は、補助金活用から法改正への対応まで、社長の強力な味方になってくれます。
以上(2026年7月作成)
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画像:ChatGPT





















