【朝礼】相手によって変わる「配慮」のポイント

おはようございます。今日は「配慮」というテーマで話をします。服装、名刺交換、電話、メール、席次など、私たちは日々、さまざまなマナーを守って仕事をしています。ただ、こうしたマナーは正解がしっかり決まっているようでいて、実は決まっていません。相手が誰かによって、「配慮すべきポイント」が変わり、細かい部分を調整する必要があるからです。

例えば、体などのハンディキャップのことを「しょうがい」と呼ぶことがあります。漢字で書くと「障害」ですが、世間では「害」の部分を平仮名にして「障がい」と表記している書籍やサイトが多く見られます。これは「体などが不自由な人に対し、『害』という文字を当てるのは不適切ではないか」という配慮によるものです。

一方、目が不自由な人が相手の場合、少し事情が変わります。例えば、医療・介護系サービスのサイトなどでは、目が不自由な人への配慮から、あえて漢字のほうの「障害」を使っているところがあります。目が不自由な人は、サイトに書いてある内容を知りたい場合、スクリーンリーダーなどの音声読み上げ機能を使うことがあります。しかし、その際、平仮名のほうの「障がい」を使っていると、その箇所が「さわりがい」と、誤った読み方をされるケースがあるそうです。そのため、「目が不自由な人にも、サイトに書いてある内容を正しく伝えたい」という配慮から、漢字のほうの「障害」を使っているのです。

「障害」「障がい」どちらの表記も、配慮したい相手がいて、その表記をすべき明確な理由があるわけです。他にも配慮の仕方に注意が必要なケースとして、マスクを「着用する」「着用しない」の問題もありますね。2023年にコロナが5類に移行してから、マスクの着用は個人の判断に委ねられるようになりましたが、今も感染者は出ている状況なので、やはり配慮が必要な場合はあります。

例えば、病院にかかる際などは、マスクを着用したほうがよいといわれます。院内の感染防止などのため、病院からマスク着用を求められることもありますし、そうでなくても、「自分が着けてないことで、医師や他の患者が不安にならないか」という視点は持つべきでしょう。

仕事で誰かと面談する際などもそうです。基本的には個人の判断で問題ありませんが、マスク着用に対する考え方は人それぞれなので、相手の様子を見た上で、「マスクを着けていても(外しても)よろしいでしょうか」と一言添えるぐらいの配慮はあってもよいかもしれません。

いずれにせよ、マナーの根底には、常に相手への配慮があります。何も知らない新入社員の頃は、まず「ビジネスマナーはこういうものだ」と教わるところからスタートしますが、冒頭でも言った通り、絶対という正解はありません。しゃくし定規に教わったマナーを守るのではなく、相手によって臨機応変に対応するのが一人前のビジネスパーソンです。

以上(2024年8月作成)

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画像:Mariko Mitsuda

社員の「安否確認」手段を整備しよう【中小企業のためのBCP】

書いてあること

  • 主な読者:社員の安否確認手段が確立されていない会社の経営者、総務担当者
  • 課題:いざというとき、社員の安否をすぐに確認できるか分からない
  • 解決策:安否確認の目的を明確にして、自社に合った手段を整備する

1 緊急時、社員の安否確認が不可欠な2つの理由

2024年は元日に能登半島地震、8月8日に日向灘地震(宮崎県日向灘を震源とする地震)が発生しました。いつどこで大きな地震が起きてもおかしくなく、備えはどの会社にとっても必須です。

いざ災害が起こってもスムーズに行動できるよう、事前に決めておきたいのが、安否確認の手段です。緊急時に社員の安否確認が不可欠なのは、

  • 社員と、社員の家族の安全を確保するため
  • 事業継続や再開の判断をするため

です。

社員の安否確認をすることは当然ですが、社員の家族も心配です。また、大規模な自然災害の場合、社員の状況によって事業継続(あるいは再開)の状況は変わってきます。「誰が業務をできるのか?」は大切な情報です。

会社が行うべき安否確認の流れは次の通りです。

  1. 避難して安全を確保してから、集合場所に集まった社員を点呼で確認する
  2. 外出中やリモートワークなどでその場にいない社員と連絡を取り、安否確認をする
  3. 安否情報を集計し、待機や出社などの状況に適した指示を出す

このとき、2.で発生しがちな課題として、いざというときに普段の連絡手段が使えないことがあります。特に電話は、災害発生時に回線の混雑や通信制限で使えない場合があります。

では、どうやって社員の安否確認を行えばよいでしょうか。また、日ごろからどのような備えをしておくべきでしょうか。具体的に見ていきましょう。

2 どのように社員の安否確認を行うか?

1)5つの主な安否確認手段を比較

ここでは、官公庁や各種企業が提供している防災情報を参考に、5つの主な安否確認手段を取り上げ、その特徴と注意点を比較します。

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「社員への使い方の教育」「安否状況の集計作業」「導入費用」「運用費用」などを比較すると、それぞれの手段で一長一短があります。

東京商工会議所「会員企業の災害・リスク対策に関するアンケート(2023年調査)」によると、社員の安否確認に最も多く使われる手段は、「メールやSNS」の56.2%となっています。普段から使い慣れている連絡手段とはいえ、集計作業が煩雑であり、社員数や事業拠点数が多い場合は、安否情報を集めるだけでもかなりの時間が取られてしまいます。

対して、安否確認システム/サービスは、導入や運用に費用がかかるものの、安否状況を自動で集計できる上、安否確認メールの自動送信や、報告がない場合のメール再送信機能を備えているものもあり、混乱した状況でも安否情報をスムーズに整理できます。

また、災害用伝言ダイヤル(171)は無料で利用できますが、データ通信専用SIMカードでは音声通話ができないため、社員が格安SIMを使っている場合には注意が必要です。災害用伝言ダイヤル(171)と災害用伝言板(web171)について、詳しくは以下の総務省ウェブサイトをご確認ください。

■総務省「災害用伝言サービス」■

https://www.soumu.go.jp/menu_seisaku/ictseisaku/net_anzen/hijyo/dengon.html

2)安否確認の前提となるインターネット接続環境の確保

安否確認手段はさまざまありますが、災害用伝言ダイヤル(171)を除けば、インターネットに接続できる環境が必要です。

そこで知っておきたいのが、「00000JAPAN」(ファイブゼロジャパン)です。「00000JAPAN」は、災害発生時に携帯電話会社などが無料開放する公衆無線LAN(Wi-Fi)のアクセスポイントで、これを利用してインターネットに接続できます。

ただし、「00000JAPAN」は、被災地で誰でも使えるという利便性を確保するため、通信の暗号化などセキュリティーへの対応は行われていません。「00000JAPAN」を利用するときは、安否確認や災害関連情報の収集にとどめるようにしましょう。

■無線LANビジネス推進連絡会■

https://www.wlan-business.org/00000japan/

3 日ごろから備えておきたいことは?

災害発生時に、安否確認手段が未整備だったら、もう手遅れです。そうならないために早急に決めておくべきなのは、「安否確認で優先的に使う手段」と「安否情報として報告する内容」です。その上で、報告・連絡といった基本的な行動が普段からしっかりできる組織を作っていきましょう。

1)安否確認で優先的に使う手段を1つ決めておく

日常業務で、メール、電話、ビジネスチャットなど複数のツールを用途に応じて使っている会社も多いでしょう。

しかし、緊急時には、連絡手段が複数あることで、かえって混乱を招く場合があります。バックアップ的に複数の安否確認手段を持っておくことは大切ですが、優先的に使う手段は1つに決めておきましょう。

2)安否情報として報告する内容を決めておく

社員が安否情報を登録するときの文言(メッセージ)については、

  • 名前
  • 現在いる場所(自宅・会社・外出先)
  • 状況(例:1人・家族や同僚と一緒)
  • 安否(けがの有無など)
  • 出社の可否
  • 次にメッセージを入れる時刻

など報告する内容を決めておきましょう。

災害用伝言ダイヤル(171)の録音時間は30秒以内、災害用伝言板(web171・各キャリア)の文字数は100文字以内(名前と状況以外)となっており、簡潔に伝える必要があります。災害発生時は、社員がパニックを起こし、うまく情報を伝えられなくなることもあり得ます。安否確認の訓練の実施や、報告すべき情報を記したカードを配布するなどの工夫をしましょう。

なお、災害用伝言ダイヤル(171)と災害用伝言板(web171・各キャリア)は、体験利用日を設けており、災害発生時以外でも利用できます。詳しい日程は、各サービスのウェブサイトをご確認ください。以下、一例として紹介します。

■NTT東日本「災害用伝言ダイヤル(171)体験利用のご案内」■

https://www.ntt-east.co.jp/saigai/voice171s/howto.html

■NTT東日本「災害用伝言板(web171)体験利用のご案内」■

https://www.ntt-east.co.jp/saigai/web171s/howto.html

■NTT西日本「災害用伝言ダイヤル(171)体験利用のご案内」■

https://www.ntt-west.co.jp/dengon/taiken/

■NTT西日本「災害用伝言板(web171)体験利用のご案内」■

https://www.ntt-west.co.jp/dengon/web171/taiken.html

3)報告・連絡をしっかりできるようにする

どれだけ事前に安否確認の体制を整備しても、災害発生時には想定外の事態が起こり得ます。

重要なのは、平時でも基本的な報告・連絡を、全員がしっかりとできる組織であることです。例えば、連絡に対して迅速にレスポンスを行う、外出するときに行き先を周知する(周囲のメンバーも確認する)といった基本的な行動です。社員がこうしたことをできているのか、いま一度確認し、できていないようであれば、普段から徹底するように、あらためて注意を促しましょう。

また、避難を要する災害に見舞われた場合、スマートフォンや携帯電話のバッテリーが切れてしまい、継続的な安否確認ができなくなる恐れがあります。外出時の持ち物や避難用品に充電済みのモバイルバッテリーを加えるなどの呼びかけをしておきましょう。

以上(2024年9月更新)

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画像:NOBUHIRO ASADA-shutterstock

60代の就業ニーズ

人手不足に悩む中小企業にとって、60代のシニア層の活用は有効な解決策のひとつとなり得ます。本稿では、公益財団法人産業雇用安定センターが、求職活動中の60代男女を対象に実施した「60代シニア層の就業ニーズに関するアンケート調査」(2023年11月。男女各500人回答)の結果をもとに、働くことに関するシニア層の希望や意識についてお伝えします。

この記事は、こちらからお読みいただけます。pdf

50代から考える定年後の「働き方&年金」ハンドブック(2024年9月号)

「人生100年」──。これは、ロンドン・ビジネス・スクールのリンダ・グラットン教授が『LIFE SHIFT──100年時代の人生戦略』のなかで提唱した言葉です。同書は、2007年生まれの2人に1人が100歳を超えて生きる「人生100年時代」が到達するとし、長い人生をどうやって生きるかを考える人生設計の必要性を説いています。
改めて、「人生100年」時代を見据え、本冊子は「定年後の人生」が視野に入りつつある50代社員を対象に、定年後の人生設計を考えるための基礎情報を解説します。

社労士が教える「社会保険の適用拡大(2024年10月)」直前対策!

書いてあること

  • 主な読者:パート等を雇用していて、正社員などが51人以上いる企業の経営者、労務担当者
  • 課題:2024年10月から「社会保険の適用拡大」の対象になる。具体的な実務を知りたい
  • 解決策:まずは、社会保険の被保険者になるパート等がいないかを確認(いる場合、資格取得の手続き)。配偶者の扶養から外れたくないパート等への対応なども忘れずに

1 「社会保険の適用拡大」とは?

社会保険の適用拡大とは、

2016年10月から社会保険(健康保険・厚生年金保険)に加入するパート等の範囲が、段階的に拡大されること

です。また、「パート等」とは、

週の所定労働時間または月の所定労働日数が、正社員の4分の3未満の短時間労働者

です。これまでは「厚生年金保険の被保険者数(正社員など)が101人以上」の企業に勤め、一定の要件を満たすパート等が対象でしたが、2024年10月から「101人以上」の部分が「51人以上」に拡大されます。

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パート等の社会保険加入の手続きを怠ると、健康保険法・厚生年金保険法により「6カ月以下の懲役または50万円以下の罰金」という罰則の対象になります。

そこで、この記事では、被保険者数が51人以上でパート等を雇用している企業向けに、社会保険加入のヌケモレを防止するためのチェック項目と各実務のポイントを紹介します。

2 社会保険加入の対象者がいるかを確認しよう!

まずは、社会保険加入の対象となるパート等がいるかを確認します。パート等について、図表2のチェック項目を確認し、当てはまる場合は「〇」を付けてみてください。「全ての項目」に〇が付く場合、そのパート等は2024年10月から社会保険に加入します。逆に1つでも満たさなければ、社会保険に加入させる必要はありません。

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1)企業が「特定適用事業所」かを確認

前述した通り、2024年10月からパート等を社会保険に加入させる義務があるのは、厚生年金保険の被保険者数が51人以上の企業です。該当する企業を「特定適用事業所」といいます。

「被保険者数が51人以上か」は、パート等(週労働時間がフルタイムの3/4未満)の人数を除外し、図表3のAとBの人数を合計して判断します(支店や営業所が複数ある場合、全事業所の合計で判断)。

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また、人の入れ替わりが激しく、「51人以上」「50人以下」のラインを上下する場合、

直近12カ月のうち「51人以上」の月が6カ月以上あるかで判断

します。この要件を満たす見込みがある企業(2023年10月から2024年7月までの10カ月のうち「51人以上」の月が6カ月以上ある企業)には、

2024年9月上旬に、日本年金機構から「特定適用事業所該当事前のお知らせ」が送付

されていますので、そちらが届いているかも併せて確認してください。

2)パート等が「被保険者要件」を満たすかを確認

1)の特定適用事業所に雇用され、次の労働条件の要件を「全て」満たすパート等が、2024年10月から社会保険の被保険者になります。ポイントを見ていきましょう。

1.週の所定労働時間が20時間以上か

所定労働時間とは、就業規則や労働条件通知書で決められている労働時間のことです。注意が必要なのが、労働時間が流動的な「シフト制」のパート等です。シフト制のパート等は

一定期間内の労働時間を週単位に換算した場合、20時間以上になるかどうか

で要件を満たすかを判断するので、シフトの組み方によっては意図せず被保険者になることがあります。

2.所定内賃金が月額8.8万円以上か

所定内賃金とは、週給、日給、時間給を月額に換算したものに諸手当等を含めたもののことです。ただし、次に掲げる賃金は所定内賃金に含めません。

  • 臨時、または1カ月を超える期間ごとに支払われる賃金(結婚手当、賞与など)
  • 時間外労働、休日労働、深夜労働の賃金(つまり残業代)
  • 最低賃金法で算定対象外とされている賃金(精皆勤手当、通勤手当、家族手当)

3.2カ月を超える雇用の見込みがあるか

2カ月以内の雇用期間で労働契約を締結した場合であっても、2カ月を超える見込みがある場合、被保険者になります。労働条件通知書などの記載内容ではなく、実態で判断します。

4.学生でないか

学生は原則として対象外ですが、卒業証明書をもらっていて「卒業後の雇用継続」が見込まれる学生、休学中の学生、夜間学生などは、例外的に被保険者になります。

3 社会保険加入の手続き前にパート等への説明を!

社会保険加入の手続きをする前に、対象となるパート等に対して社会保険加入後の働き方について、必要な説明をしましょう。また、社会保険加入後の、企業の人件費負担についても併せて確認しておきましょう。

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1)対象となるパート等への説明

社会保険に加入する場合、パート等には次のようなメリット・デメリットがあります。

  • (メリット)傷病手当金や出産手当金の対象になる/厚生年金保険に加入するので年金額が増える/扶養の範囲(労働時間や賃金)を気にせず働ける など
  • (デメリット)パート等が被扶養者の場合、家族の扶養から外れ、社会保険料が賃金から天引きされる(賃金の手取り額が減る可能性がある) など

社会保険料の負担がないという理由でパート等として勤務している人もいるでしょうから、2024年10月から被保険者になる人には、メリット・デメリットの説明資料や、パート等から質問されるであろう点をまとめたFAQなどを準備した上で、面談を実施しましょう。

自社で説明資料などを準備するのが難しい場合、厚生労働省が運営する「社会保険適用拡大特設サイト」を紹介するのもよいでしょう。「パート・アルバイトのみなさま」のページに、傷病手当金などの保険給付や社会保険料についての紹介動画・パンフレットが掲載されています。

■厚生労働省・社会保険適用拡大特設サイト「パート・アルバイトのみなさま」■

https://www.mhlw.go.jp/tekiyoukakudai/dai1hihokensha/

2)2024年10月以降の働き方についてパート等と協議

1)の説明をした場合、パート等から「扶養から外れたくないので、労働時間を調整したい」「社会保険に加入するのはいいが、手取りが減るので出勤日を増やしたい」といった要望が出る可能性があります。必要に応じて本人と協議し、労働条件の見直しを検討しましょう。

ただし、2024年10月1日時点で被保険者要件(第2章参照)を満たしているパート等は、必ず社会保険に加入させなければならないので、労働条件を見直す場合は早めの対応が必要です。

3)企業の人件費負担の確認

社会保険料は企業と従業員が折半で負担します。ですから、2024年10月から新たに社会保険に加入するパート等が増えれば、企業の人件費負担が増加することは避けられません。経営にも関わる部分なので、具体的な額を事前に把握しておきましょう。

前述した社会保険適用拡大特設サイトの「社会保険料かんたんシミュレーター」を使うと、企業負担分の社会保険料がどの程度変動するのか、簡単に試算できます。また、同サイトでは、人件費負担などの経営相談に対応してくれる専門家や、パート等を正社員化するときのための助成金なども紹介しているので、必要に応じてご活用ください。

■厚生労働省・社会保険適用拡大特設サイト「事業主のみなさま」■

https://www.mhlw.go.jp/tekiyoukakudai/jigyonushi/

4 社会保険加入の手続きと、その後の対応

最後に、2024年10月の制度改正のタイミングで、被保険者となるパート等を社会保険に加入させます。給与システムの変更なども忘れないようにしましょう。

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1)法定書類の提出など

社会保険の加入手続きは、被保険者要件を満たすようになった日(資格取得日)から5日以内に行う必要があります。2024年10月1日時点で被保険者要件を満たしているパート等の場合、

2024年10月6日までに被保険者資格取得届を、日本年金機構の所轄年金事務所(郵送の場合は所轄事務センター)に提出

しなければなりません。

提出後、健康保険被保険者証と資格取得に関する通知が会社に送付されますので、被保険者証は社員に交付、通知は社内で保管します。なお、被保険者証は、マイナンバーカードと一体化される関係で、2024年12月に廃止が予定されています。

2)社内のシステムや各書式の変更

1)の資格取得に関する通知には、パート等の標準報酬月額が記載されているので、給与システムへの反映を忘れずに行いましょう。

賃金が毎月末日締め、翌月払いの場合、11月支給の賃金から社会保険料の天引きを開始

します。

また、社会保険の適用拡大後に、新しいパート等を採用する予定があるのであれば、求人案内や労働条件通知書の「社会保険の適用」についても、必要に応じて記載内容を修正しておきましょう。

以上(2024年9月作成)

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画像:ChatGPT

「年収の壁」は6枚。配偶者特別控除が受けられなくなる年収、社会保険料の負担が発生する年収はいくら?

書いてあること

  • 主な読者:いわゆる「年収の壁」について正しく知りたい人
  • 課題:年収の壁は複数の制度にまたがっており、いくつもあるので全体がつかみにくい
  • 解決策:年収の壁は6枚。税制上の壁の「100万円、103万円、150万円、201万円」と、社会保険上の壁の「106万円、130万円」を覚えよう

1 年収によって生じる6枚の壁

年収の壁とは、

税金や社会保険料の負担が変わる境目の年収

です。具体的には次の6枚の壁があります。

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年収の壁についてざっくりとしたイメージはあったかもしれませんが、このように表にすると、複数の制度にわたっていて複雑であることが分かります。また、近年は、共働き世帯の増加など家庭内の所得構成の変化を背景に、年収の壁に関係した制度改正や支援策導入が活発です。

年収の壁は、

  • 従業員個人にとっては、本人、配偶者、子供の働き方次第で手取りが変わってくる要因
  • 会社にとっては、パート等のシフト調整や勤怠管理をする際に考慮すべき一定の基準

になりますので、きちんと理解をしましょう。この記事を従業員に読んでもらうのも、有益な情報提供になるでしょう。

2 税制上の壁:100万円、103万円、150万円、201万円

1)100万円の壁

100万円の壁は、住民税が課税されるか、されないかの境目となる壁です。年収が100万円を超えると、住民税が課税されます。住民税は前年の所得を基に計算されるので、実際に納税(給与を受け取っている人は給与から徴収)するのは、100万円を超えた翌年6月以降です。

住民税は、都道府県民税と市町村民税に分かれ、それぞれ「均等割(均等に一定額が課される)」と「所得割(その人の所得を基に課される)」によって計算されます(東京23区内の法人都民税は、法人市町村民税分を分けず、合わせて計算されます)。標準税率は、

  • 均等割:都道府県民税が1000円、市区町村民税が3000円の合計4000円(2024年度より森林環境税が1000円課税されます)
  • 所得割:都道府県民税が4%、市町村民税が6%の合計10%

です。標準税率とは、地方税法で定められた税率のことです。各自治体が一定の範囲内で標準税率と異なる税率(制限税率)を定めることができるため、お住まいの自治体によって税率が異なる場合があります。

2)103万円の壁

103万円の壁は、所得税が課税されるか、されないかの境目となる壁です。年収が103万円を超えると、所得税が課税されます。実際は、月給が8万8000円を超えると、支給される給与から所得税が差し引かれます。もし、年収が103万円以下の年に、たまたま月給が8万8000円を超えた月があるときは、年末調整(年末時点の年収から正確な所得税を計算し、精算する処理)または確定申告をすることで、差し引かれる必要のない所得税を返してもらえます。

所得税の税率は所得額に応じて異なり、所得額(年収から控除額を控除した金額)の区分別に5~45%で、所得額が高くなるにつれて税率が上がります。最小の税率(5%)は、所得1000円~194万9000円までの区分に適用されます。

103万円という金額は給与を支給される人(一定の人を除く)が受けられる控除である、

  • 基礎控除の48万円
  • 給与所得控除の55万円(給与所得が180万円以下の場合受けられる控除の最低額)

の2つの控除の合計額(103万円=48万円+55万円)です。控除額の合計額が103万円以内の年収であれば、所得は0円扱いとなり所得税が掛からないというわけです。

年収 103万円-給与所得控除額 55万円-基礎控除額 48万円=所得額 0円

3)150万円の壁と201万円の壁

150万円の壁は、配偶者特別控除の満額である38万円を受けられるか、受けられないかの境目となる壁です。配偶者特別控除は、一定の所得範囲の配偶者がいる納税者が受けられる控除です。

納税者本人(扶養者)をA、その配偶者をBとします。配偶者Bの年収が150万円を超えると、控除額は段階的に減少し、納税者Aの税負担が増えていきます。また、納税者Aの収入金額によっても控除額が異なり、原則1195万円(所得金額が1000万円)を超えると、配偶者Bの所得に関係なく、配偶者特別控除は受けられません。

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201万円の壁は、配偶者特別控除が受けられるか、受けられないかの境目となる壁です。配偶者Bの収入金額が201万円(正確には201.6万円)を超えると、配偶者特別控除が受けられず、納税者Aの税負担が増えます。

3 社会保険上の壁:106万円、130万円

1)106万円の壁

106万円の壁は、一定の規模以上の会社における社会保険(健康保険、厚生年金保険)への加入義務が発生するか、しないかの境目となる壁です。パート等(パート、アルバイト)は「週の所定労働時間または月の所定労働日数が、正社員の4分の3未満」であれば社会保険には加入しませんが、次の1.から5.を全て満たす場合については、被保険者(社会保険の加入者)になります。

  1. 会社規模:勤務先の従業員数(厚生年金保険の被保険者数)が常時100人超(2024年10月1日以降は50人超)
  2. 給与収入:所定内賃金が月額8万8000円以上(8万8000円×12カ月≒106万円)
  3. 労働時間:週の所定労働時間が20時間以上
  4. 雇用期間:継続して2カ月を超えて使用される見込み
  5. 適用除外:学生でない

これらの要件のうち、2.の給与収入が「106万円の壁」です。

社会保険料は、「標準報酬月額(月の収入を一定幅で区分したもの)×保険料率」で計算します。ここでは、健康保険の保険者が全国健康保険協会(協会けんぽ)である会社の場合を紹介します。協会けんぽでは健康保険料率が都道府県支部ごとに異なりますが、例えば東京支部では

  • 健康保険料率:9.98%(40歳以上の場合、介護保険料分の負担が加わり11.58%)
  • 厚生年金保険料率:18.3%

となっています(2024年度)。社会保険料は会社と従業員が半分ずつ負担するので、収入の14~15%程度が、従業員の自己負担分として給与から差し引かれます。

2)130万円の壁

130万円の壁は、社会保険の扶養に入れるか、入れないかの境目となる壁です。パート等の年収が130万円を超えると、そのパート等は配偶者らの扶養から外れ、勤務先の社会保険に加入しなければなりません(勤務先で加入しない場合、自分で国民健康保険料や国民年金に加入)。つまり、それまで負担しなくてよかった保険料を、負担しなければならなくなるということです。

106万円の壁には会社規模(従業員数)の要件がありますが、130万円の壁は全ての会社で働く人が対象です。ただし、国の施策により、一時的な増収により年収130万円を超えたと認められる場合、一定期間、配偶者らの扶養にとどまることができる措置が取られています(後述)。

4 政府による年収の壁への支援策

働く人にとって年収の壁は切実です。壁を越えないように働く時間を調整することが多く、これが人材不足に拍車をかけていると指摘されています。そこで、2023年10月から「年収の壁・支援強化パッケージ」と呼ばれる

年収の壁(106万円の壁・130万円の壁)に対する支援策が開始

されています。具体的には、

  • 106万円の壁に対する支援:賃上げや労働時間(週所定労働時間)の延長などを取り組む会社に対して、1人当たり最大50万円(最長3年間)の助成金を支給
  • 130万円の壁に対する支援:繁忙期に残業が増えるなどにより一時的な増収があった場合、連続2年間は扶養にとどまれる措置

です。なお、今のところは2023年10月から2年間だけの期間限定の支援策とされていますが、経済的な効果や反響によっては延長される可能性などもあるため、今後の動きにも注目しておきましょう。

以上(2024年8月作成)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ)
(監修 社会保険労務士法人AKJパートナーズ)

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画像:ChatGPT

AEDの手配や初期消火……社員全員できますか? やってみよう防災訓練!

書いてあること

  • 主な読者:防災訓練をしっかりしておかなければならないと感じている経営者
  • 課題:具体的に何を訓練すべきか分かっていない
  • 解決策:応急救護訓練、通報・伝達訓練、消火訓練、避難訓練を押さえる

1 【提案】日ごろからの訓練で災害に備えましょう!

大地震などの災害時に適切な行動が取れるようにするため、日ごろの訓練はできていますか。2011年の東日本大震災では、大津波に襲われた岩手県釜石市で、鵜住居(うのすまい)地区の児童・生徒約570人が日ごろの防災訓練・防災教育を活かして全員無事に避難した「釜石の奇跡」が注目されました。

2024年は元日から令和6年能登半島地震が発生、その後も各地で豪雨被害が相次いでいます。また、8月8日の日向灘地震(宮崎県日向灘を震源とする地震)に伴い、南海トラフの巨大地震への注意を呼びかける臨時情報が発表されるという出来事もありました。今、改めて企業の防災意識と具体的な備えが求められています。具体的には、以下を実現させましょう。

  • 災害が発生した場合の初動対応の流れ(全体像)を理解する
  • 初動対応を円滑に進められるよう、代表的な防災訓練である「応急救護訓練」「通報・伝達訓練」「消火訓練」「避難訓練」のポイントを押さえ、実施する

2 仕事中に大地震が発生したらどうする?

仕事中に大地震が発生した場合を想定した場合の初動対応は、一般的に次のようになります。

  • 安全確保と応急救護
  • 通報と初期消火(火災が発生した場合)
  • 避難

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火災も発生してしまった場合には、周囲に火災が発生した旨を伝え、119番通報(第4章参照)を促した上で、初期消火(第5章参照)などを行います。

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火災や建物の倒壊の危険があったり、役所・警察・消防から避難の指示があったりした場合はすぐに避難(第6章参照)します。避難の流れは次の通りで、火災や建物の倒壊の危険がなく、役所・警察・消防から避難の指示がない場合、会社が避難すべきかどうかを判断します。

  • 近所の学校や公園などの「一時集合場所」に避難
  • 一時集合場所への避難が危険な場合、大きな公園・広場などの「避難場所」に避難
  • 火災や建物の倒壊の危険がなくなり自宅に被害がない場合、帰宅
  • 自宅で生活できない場合、学校などの「避難所」に避難

以上が、大地震が発生した場合の初動対応の流れですが、日ごろから訓練していなければ、いざというとき適切な対応を取るのは難しいです。次章からは、いよいよ具体的な防災訓練のポイントを見ていきます。ここまでの初動対応の流れを踏まえ、

  • 応急救護訓練
  • 通報・伝達訓練
  • 消火訓練
  • 避難訓練

という順番で紹介します。

防災訓練についてより詳細な情報を知りたい方は、総務省消防庁のマニュアルなども参考になります。また、訓練内容や消防署員の派遣などについて相談したい方は、最寄りの消防署にお問い合わせください。

■総務省消防庁「消防安第31号 小規模ビル避難等訓練マニュアルについて」■
https://www.fdma.go.jp/laws/tutatsu/post1367/
■東京消防庁「自衛消防訓練~もしもの時に備えて訓練していますか?~」■
https://www.tfd.metro.tokyo.lg.jp/lfe/office_adv/life11.htm

3 応急救護訓練

1)応急救護訓練の概要

災害が発生したとき、まずは身の安全を確保し、周りの人の安否を確認します。その際、けがをした人に応急救護する必要があります。応急救護訓練では、三角巾やAED(自動体外式除細動器)の使い方、人工呼吸や心臓マッサージのやり方などを身に付けます。専門的な内容もあるので、可能であれば消防署に相談の上、救命講習を受講するのが理想です。総務省消防庁の「一般市民向け応急手当WEB講習」サイトなどでも、基本的な知識を学ぶことができます。

■一般市民向け応急手当WEB講習■
https://www.fdma.go.jp/relocation/kyukyukikaku/oukyu/index.html

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2)応急救護訓練のポイント

応急救護の基本的な流れは、

  • 負傷者の状況を確認し、必要に応じ119番通報する
  • 救急車の到着まで手当てをする

です。

手当ての内容は、「出血している」「骨折している」「意識・呼吸がない」などの状況によって異なるので、救命講習で状況ごとの対応を習いましょう。また、救命処置の一環として、特にAEDの場所と使い方は社員に周知しておきましょう。

AEDとは、心臓がけいれんして血液を全身に送れない状態(心室細動)になった場合、電気ショックを与えて蘇生を試みるための医療機器

です。

一般市民が心肺蘇生を実施した傷病者(全体)の1カ月後の生存率は12.8%なのに対し、AEDを使用した傷病者の1カ月後の生存率は50.3%になっています(総務省消防庁「令和5年版 救急救助の現況」)。AEDは全国の駅や公共施設など、さまざまな場所に設置されています。AEDの設置場所を検索したり、地図上で確認したりできるサービス・アプリが登場しているので使ってみるとよいでしょう。

■日本救急医療財団「財団全国AEDマップ」■
https://www.qqzaidanmap.jp
■日本AED財団「AED N@VI」■
https://aed-navi.jp
■アルム「日本全国AEDマップ」■
https://aedm.jp

AEDの基本的な使い方については、前述した一般市民向け応急手当WEB講習のサイトなどで動画が公開されているので、こちらも併せて社内に周知しておきましょう。

■一般市民向け応急手当WEB講習「心肺蘇生 AEDの基本的な使い方」■
https://www.fdma.go.jp/relocation/kyukyukikaku/oukyu/01futsu/05shinpai/01_05_11.html

4 通報・伝達訓練

1)通報・伝達訓練の概要

通報訓練では、火災などの災害発生時から通報するまでの一連の流れ(119番通報の方法、非常放送の流し方など)を身に付けます。119番通報の訓練で実際に119番通報することもできますが、この場合は消防職員の立会いが必要です。

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2)通報・伝達訓練のポイント

119番通報などをする場合の基本的な流れは、

  • 非常ベルを押す
  • 火災を確認後、非常放送などで社内に知らせる
  • 119番通報する

です。非常放送では、次のように「火災の状況」と「社員に対する指示」を正確かつ簡潔に知らせます。

  • (非常ベルを押した場合)ただ今○階で、非常ベルが作動しました。現在、確認中ですので、指示があるまで待機してください
  • (火災の発生を確認した場合)ただ今○階で、火災が発生しました。所属長の指示に従って避難してください
  • (確認したが、火災でなかった場合)先ほど今○階で、非常ベルが作動しましたが、火災ではないことが確認できました。安全を確認しましたので、ご安心ください
  • (火災が発生後、消火が完了した場合)先ほど〇階で発生した火災の消火が完了しました。避難中の社員の皆さんは、安全の確認が取れるまでそのまま待機してください

消防署員にも正確かつ簡潔に状況を伝えます。総務省消防庁が、通報に便利な「119番通報メモ」を公表しているので、あらかじめ通報項目を記入して、電話機の前などに貼っておくとよいでしょう。なお、スマートフォンの場合は通報前にGPS機能をONにしておくと、災害発生場所の特定がより迅速になることが期待できます。

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5 消火訓練

1)消火訓練の概要

消火訓練では、消火器や屋内消火栓の使い方を身に付けます。屋内消火栓は消火器よりも放水能力が高く、消火器での初期消火が難しい場合などに使われます。

放水訓練(実際に燃えている火を消す訓練)の場合、最寄りの消防署や防災センターなどに問い合わせることで、訓練が受けられます。最近はVRなどを使って、初期消火を擬似的に体感しながら学ぶ訓練もあります。

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2)消火訓練のポイント

消火器を使う場合の基本的な流れは、

  • 火事だと大きな声で周囲に知らせる
  • 消火器を取りに行く
  • 初期消火を行う

です。消火器は安全ピンを抜いてから使用しますが、運搬時に誤ってピンを抜くと事故のもとなので気を付けましょう。また、

消火器で初期消火を行える限界は、炎が天井に到達するまでが目安

です。危険を感じたら直ちに初期消火を中止し、安全な場所に避難してください。

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なお、消火器は使用期限を過ぎると腐食が進み、破裂などの事故を起こす恐れがあります。

使用期限は、業務用消火器の場合で約10年(住宅用消火器は約5年)

ですので、社内の消火器が使用期限を過ぎていないか必ず確認してください。屋内消火栓を使って消火を行う場合、

  • 1号消火栓(ホースを延長しないと、水を流せないタイプ)
  • 2号消火栓・易操作性1号消火栓(ホースが収納状態でも、水を流せるタイプ)

の2種類があり、それぞれ操作要領が違うので注意が必要です。下記にて両者の違いがイラスト付きで掲載されているのでご確認ください。

■総務省消防庁「小規模ビル避難等訓練マニュアル 消火訓練」(下記2枚目を参照)■
https://www.fdma.go.jp/laws/tutatsu/items/160305an31_1.pdf

6 避難訓練

1)避難訓練の概要

避難訓練では、通路・階段を使った、安全な場所までの避難方法を身に付けます。火災で煙が出ることを想定する場合、ハンカチやタオルで鼻・口を押さえ、姿勢を低くして避難します。

避難器具(緩降機や避難はしご)の使い方を訓練する場合、事故防止のため消防署員の立会いのもとで行うことが推奨されています。

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2)避難訓練のポイント

非常放送(第4章)が流れてから避難するまでの基本的な流れは、

  • 避難誘導を行う
  • 避難通路・避難階段を使って外に出て、安全が確保できる場所まで誘導する
  • 避難者を確認する

です。避難誘導は、所属長が拡声器を使うなどして避難ルートを指示しながら行います。エレベーターの使用は禁止し、あらかじめ決められた通路・階段を使って外に出ます。この際、

通路・階段に物が放置されていると、消防法違反になる上、避難経路が断たれてしまう

ので、避難ルートの状況は必ず確認しておきましょう。誘導灯の照明が切れていないかなども要チェックです。

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実際は出火場所などによって通れない通路や階段も出てくるので、

避難ルートを何パターンか決めておき、出火場所の想定を訓練のたびに変えるなどして、状況に合わせた避難ができるよう社員を訓練すること

も大切です。

避難器具については、使い方が分からないという社員も少なくないので、消防署員の立会いのもと、学習の機会を設けましょう。また、東京消防庁のウェブサイトでは、緩降機や避難はしごの使い方を動画で説明しているので、併せて社員に周知するとよいでしょう。

■東京消防庁「消防用設備などの取扱い要領メニュー」■
https://www.tfd.metro.tokyo.lg.jp/learning/contents/shobo-setsubi/#breadcrumb

以上(2024年9月作成)

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画像:TY Lim-shutterstock

福利厚生100! 基本メニューから変わり種まで

書いてあること

  • 主な読者:あまりコストをかけず、社員に喜ばれる福利厚生を実現したい経営者
  • 課題:具体的にどんな福利厚生がいいのか、思い浮かばない
  • 解決策:福利厚生を「家計」「健康」「育児・介護」「自己啓発」「コミュニケーション」「レジャー」「その他」の7つにカテゴリー分けし、主なものを押さえる

1 コストをかけず、充実した福利厚生を実施するには?

福利厚生とは、社員の生活や職場環境を良くするための報酬やサービス全般を指す言葉で、

  • 法定福利厚生:法律で実施が義務付けられている福利厚生(社会・労働保険)
  • 法定外福利厚生:会社が独自に実施する福利厚生(各種手当や社内設備など)

に分けられます。法定福利厚生を法令違反のないように実施しつつ、法定外福利厚生の内容を工夫して、人材の採用・定着や、会社のイメージ向上などにつなげていくのが基本です。

とはいえ、法定外福利厚生は種類も多いので、他社と差別化しようにも「どのような福利厚生があるのか分からない」という経営者は少なくないはずです。また、リソースの限られる中小企業の場合、ある程度コストを抑えて福利厚生を実施したいというニーズもあるでしょう。

そこで、この記事では実際に行われている福利厚生で、中小企業向けのものを、一般的なものからユニークなものまで次のようにカテゴリー分けし、計100種類集めました。気になる章からご確認ください。

2 「家計」系(住宅手当など、20種類)

通常の給与に手当をプラスしたり、給与の前払いを認めて支給ルールを柔軟にしたりするなどして、社員の家計をサポートします。

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1)住宅手当

家賃や住宅ローンの負担を軽減するために支給します。

2)家族手当

扶養家族がいる社員の生活費を補助するために支給します。

3)単身赴任手当

社員が家族と別居し、赴任先で一人暮らしをする場合、生活費を補助するために支給します。引っ越しなどの初期費用については、別途「転勤支度金」などを支給するケースもあります。

4)子女教育手当

社員に子どもがいる場合、その教育費を補助するために金銭を支給します。最近は、教育費だけでなく、「給食費の補助」を行っている会社もあります。

5)ペット手当

社員がペットを飼う場合、飼育費を補助するために支給します。例えば、ある会社は、社会貢献の一環で猫の保護に力を入れている関係で、猫を飼っている社員に手当を支給しています。

6)食事手当

食費の負担を軽減するために支給します。

7)地域手当

社員が物価の高い地域で勤務する場合、他地域との物価格差を補うために支給します。似たようなケースとして、寒冷地で勤務する場合に、他地域との暖房費の差を補うために「寒冷地手当」などを支給するケースもあります。

8)インフレ手当

物価高が続く間、社員の生活費を補助するために支給します。

9)慶弔見舞金

社員やその家族に祝事や不幸があった際、金銭を支給します。結婚や出産の場合は「祝金」、病気やけがの場合は「見舞金」、死亡の場合は「弔慰金」といった名称になります。

10)退職金制度

退職金制度も、退職後の家計を支えるという意味では、重要な福利厚生です。退職時に一括で受け取る「退職一時金」と年金形式で受け取る「企業年金」とに大別されます。

11)選択制DC

企業年金の代表格は、会社が毎月決まった掛金を拠出する「企業型DC(企業型確定拠出年金)」です。この企業型DCの中に、給与の一部を引き続き手当などとして受け取っていくか、企業型DCの掛金にするかを社員が選択できる「選択制DC」という制度があります。

12)iDeCo+(イデコプラス)

iDeCo(イデコ)は、社員が自分で掛金を拠出して運用する個人型の確定拠出年金です。このiDeCoの中に、一定額の範囲内で、社員の掛金に追加して、会社が掛金を拠出できる「iDeCo+」という制度があります。

13)財形貯蓄

毎月一定の額を給与天引きなどで積み立て、社員が目的に応じて、積み立てたお金を任意のタイミングで払い出します。

14)職場つみたてNISA(ニーサ)

NISAは、「NISA口座」と呼ばれる口座を使って個人が株式投資などを行った際、一定の範囲内で得た利益が非課税になる制度です。このNISAの中に、会社が社員のNISA口座の開設や株式などの購入手続きを支援する「職場つみたてNISA」という制度があります。

15)奨学金の代理返還

社員が学生時代に借りた貸与奨学金を、会社が社員に代わり返済します。

16)給与の前払い

社員から請求があった場合、本来の支給日を待たず、すでに働いた分の給与を支払います。

17)社宅・寮の貸与

会社が法人名義で賃貸物件を借り上げ、社員に貸与します。家賃が安くなることが多いです。

18)団体保険

会社が保険の契約者となり、社員は傷病、死亡などの際に保障を受けられます。

19)家計のコンサルティングサービス

ファイナンシャルプランナーなどの専門家に依頼し、社員のお金に関する相談に対応してもらいます。

20)日用品購入などの福利厚生サービス

低価格で日用品を購入したり、レンタカーを借りたりできるサービスなどを導入します。

3 「健康」系(人間ドックの費用補助など、18種類)

社員に健康に働いてもらうため、人間ドックで病気を早期発見できるようにしたり、健康促進のための取り組み(自転車通勤など)を推奨するための手当を支給したりします。

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1)人間ドックの費用補助

人間ドックを実施し、その受診費用を補助します。人間ドックは、法定の定期健康診断などよりも検査項目が多く、自覚症状のない病気なども早期発見できる可能性があります。

2)予防接種の費用補助

社員がインフルエンザなどの予防接種を受ける場合、その費用を会社が補助します。

3)自転車通勤手当

健康促進のため、自転車で通勤する社員に対し、毎月定額で手当を支給します。

4)花粉症手当

花粉症の時期に、病院の診察や薬剤の費用を補助するため、手当を支給します。手当の支給と併せて、ティッシュ、マスク、目薬などを現物支給するケースもあります。

5)残業削減インセンティブ

過重労働防止の観点から、残業を削減した社員に、達成度合いに応じて金銭を支給します

6)早起き推奨制度

始業より一定時間以上前に出社した場合、金銭を支給します。満員電車を避けられ、通勤時のストレス軽減につながります。出社から始業までの時間は自由時間で、仕事以外の自己啓発などに充ててもらいます。

7)健康診断ボーナス

健康診断でA判定(健康状態:良好)が出た場合や、特定の数値が改善した場合などに、金銭を支給します。

8)スマホアプリを用いた健康イベント

健康促進につながる社内イベントを実施します。例えば、各社員のスマホに歩数計アプリをダウンロードしてもらって歩数を競い合い、成績の良かった社員には賞品を贈呈します。

9)病気休暇

けがや病気の療養のための特別休暇(年次有給休暇などの「法定休暇」とは別に取得できる、会社独自の休暇)を付与します。

10)二日酔い休暇

お酒を飲みすぎた場合、翌日の午前に体を休めるための特別休暇を付与します。

11)非喫煙者向けの特別休暇

一定期間、禁煙を成功させた社員や、もともと喫煙しない社員に特別休暇を付与します。

12)姿勢矯正クッション、スタンディングデスク

デスクワークが多い社員向けに、正しい姿勢で快適に仕事をしてもらうための姿勢矯正クッションや、座りすぎを防ぐためのスタンディングデスクを貸与します。

13)健康に良い食品の提供

栄養バランスの良い食事や野菜などを、オフィスや社員の自宅に配達してもらい、メタボリック改善などに活用します。

14)昼寝スペース

会議室などを一定の時間帯、昼寝スペースとして開放します。

15)社内フィットネスジム

社内に腹筋台、フィットネスバイク、懸垂器などのトレーニング器具を設置します。

16)フィットネスジムの利用割引

会社がフィットネスジムの法人会員になり、社員に低料金で利用してもらいます。

17)運動指導

フィットネスジムから会社にスポーツインストラクターを派遣してもらい、社内でトレーニング指導を行ってもらいます。

18)健康相談サービス

医師・保健師・心理カウンセラーなどに依頼し、社員の健康(メンタルヘルスを含む)に関する相談に対応してもらいます。

4 「育児・介護」系(休業・休暇期間の延長など、12種類)

社員が育児・介護に注力できるよう、休業・休暇制度を法律の内容よりも充実させたり、ベビーシッターなどの費用を補助したりします。休業中の社員のフォローに回る同僚を対象とした福利厚生もあります。

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1)休業・休暇期間の延長

育児休業・介護休業の期間や、子の看護休暇・介護休暇の日数を、育児・介護休業法で定められている期間・日数よりも延長します。

2)配偶者出産休暇

配偶者の出産に立ち会うための特別休暇を付与します。似たようなケースで、「孫の誕生に立ち会うための休暇」を導入している会社もあります。

3)学校行事休暇

子どもの学校行事に参加するための特別休暇を付与します。

4)不妊治療休暇

不妊治療を受けるための特別休暇を付与します。不妊治療であることを悟られたくない社員のため、配偶者出産休暇や学校行事休暇などと統合して、「ファミリーサポート休暇」といった名称にすることもあります。

5)不妊治療の費用補助

社員が不妊治療を受ける場合、その治療費を補助します。治療前にまとまった金額を貸し付けるケースもあります。

6)ベビーシッターの費用補助

社員がベビーシッターを使いながら働く場合、そのベビーシッター代を補助します。

7)業務代替手当

育児・介護で長期休業する社員のフォローに入る同僚がいる場合、その同僚に手当を支給します。休業のフォローで仕事が増える同僚の不満を和らげる意味合いがあります。

8)授乳室

乳児を連れて出勤する社員がいる場合、その社員が使える授乳室を設置します。生理痛などの体調不良時の休憩スペースとしても利用できます。

9)企業主導型保育施設(他社と共同利用も可)

企業主導型保育施設とは、社員の子どものために、オフィス内や近隣地に設置する「認可外保育施設」のことです。自社だけで運営するのはハードルが高いですが、他社が設置した施設を「共同利用」させてもらえるケースもあります。

10)育児・介護研修

外部から講師を招いて研修を実施します。例えば、育児・介護に関する公的サービスやノウハウ(ミルクの作り方、おむつの替え方など)を学ぶことができます。

11)家事代行サービス

「仕事+育児・介護」で時間が捻出しにくい社員のために、買い物、掃除、食事などの家事代行サービスを利用してもらいます。

12)育児・介護相談サービス

保健師・看護師・ケアマネジャーなどに依頼し、社員の育児・介護に関する相談に対応してもらいます。

5 「自己啓発」系(貸出図書など、14種類)

社員が自主的に勉強できるよう、書籍を貸し出したり、特定の資格を取得した際に金銭を支給したりします。「おしゃれ」などの自分磨きに焦点を当てた福利厚生もあります。

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1)貸出図書

書籍や新聞を共有スペースなどに配置し、希望する社員に無料で貸し出します。

2)書籍代の補助

仕事につながる書籍を購入する場合、購入費用を補助します。

3)受講費用の補助

社員が有料のセミナーに参加したり、仕事につながる資格を取得するため学校に通ったりする場合などに、受講費用を補助します。

4)資格報奨金

仕事につながる資格などを取得した場合、金銭を支給します。

5)アート鑑賞などの費用補助

アートに触れて感性を磨くという観点から、美術館の入館費用などを補助します。

6)おしゃれの費用補助

仕事上の身だしなみを整える目的で衣類やカバンを購入する場合、その費用を補助します。

7)勉強休暇

自己啓発のための特別休暇を付与します。

8)会議室などの貸し出し

就業時間外に自己啓発に取り組む場合、会議室などの使用を認めます。

9)社内勉強会

定期的に社員同士の勉強会を開催します。業務に関する内容だけにとどまらず、社員が自主的に勉強していることなどもテーマとして扱います。

10)スタンプ制度

社内勉強会などに参加した場合、1回参加につき1つスタンプを押し、一定数たまると交換できる景品を提供します。

11)パラレルワーク

社員の知見を広めるため、パラレルワーク(副業)を推奨します。

12)社内副業

通常の業務をこなしつつ、社内の別部署の業務に従事することを認めます。

13)eラーニング

仕事に必要な知識を動画などで学べるeラーニングサービスを導入します。

14)コーチング

コーチングサービス会社などに依頼し、社員のキャリア形成やスキルアップに関する相談に対応してもらいます。

6 「コミュニケーション」系(誕生祝いなど、10種類)

誕生日や勤続◯年など節目を迎えた社員を祝ったり、他部署メンバー同士の交流を深めたり、社員同士のコミュニケーションを活性化させます。

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1)誕生祝い

誕生日を迎えた社員を祝います。例えば、ある会社は、誕生日の社員に対し、他の社員が一輪ずつ花をプレゼントするという取り組みを行っています。

2)入社祝い

新たに入社した社員を祝います。例えば、ある会社は一定の金額の範囲内で、社員が自分の好きなデスク周りの備品を買える制度を設けています。

3)勤続◯年表彰

勤続が一定年数に達した社員を祝います。例えば、ある会社は勤続7年を迎えた社員に、特別休暇と旅行代金をプレゼントしています。

4)ランチの費用補助

社内であまり関わらない「他部署メンバー」「役員と社員」や、より関係を深めてほしい「上司と部下」などがランチに行く場合、その費用を補助します。

5)飲み会の費用補助

特定のプロジェクトが完了した際などに、そのメンバーに対しての打ち上げ代を補助します。

6)部活動の費用補助

部活動での社員同士の交流を活性化させるため、活動費を補助します。

7)コーヒーブレイク

特定の時刻になったら、全社員が業務を一時中断し、コーヒーを飲みつつ歓談します。

8)同僚へのメッセージカード

「仕事を手伝ってくれてありがとう」など、同僚に対するちょっとした感謝のメッセージを、カードなどにしたためて贈ります。似たようなケースで、全社員が、毎月ランダムに別の社員1人の長所だけを評価し、評価の内容を書面で本人に伝える会社もあります。

9)季節イベント

希望者を集めて、花火大会やハロウィン、社員旅行などのイベントを企画します。

10)ファミリーデー

社員が子どもを連れて参加できる、食事会や運動会などのイベントを開催します。「子どもの世話があるから……」と、普段社内イベントに来られない社員も、参加しやすくなります。

7 「レジャー」系(推し休暇など、14種類)

プライベートを充実させ、メリハリを付けて仕事に励んでもらえるよう、社員の「推し活」のための特別休暇を付与したり、その費用を補助したりします。

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1)推し休暇

社員が「推し」のアーティストなどのライブやイベントに参加するための特別休暇を付与します。推しが結婚した、グループを脱退したことによる「ロス(喪失感)」を癒やすための「推しロス休暇」というものもあります。

2)ボランティア休暇

社員が社会・地域貢献活動に参加するための特別休暇を付与します。

3)スポーツ観戦休暇

サッカーのワールドカップなど、世界的なスポーツの大会が行われる際、日本代表戦のときだけ特別休暇を付与します。

4)結婚休暇

社員が結婚した際、新婚旅行などのための特別休暇を付与します。

5)誕生日休暇

社員の誕生日(または誕生月)に特別休暇を付与します。社員の家族や恋人の誕生日に特別休暇を付与する会社もあります。

6)夏季休暇

7~9月にかけて取得できる特別休暇を付与します。

7)リフレッシュ休暇

一定の勤続年数に応じた特別休暇を付与します。

8)山ごもり休暇

まとまった日数の特別休暇を付与しつつ、休暇中は電話連絡やメールでのコンタクトを禁止することで、仕事から完全に社員を解放します。

9)年次有給休暇の積み立て制度

使われずに時効により消滅する年次有給休暇を積み立てておき、社員が任意のタイミングで取得できるようにします。

10)推し活の費用補助

アーティストなどのライブやイベントなど「推しの特別な日」に限り、推し活の費用を補助します。

11)帰省の費用補助

社員が休暇を取って実家に帰省する際、その旅費を補助します。

12)婚活の費用補助

社員が会社指定のアプリを使って婚活を行う場合、その利用費を補助します。

13)施設の利用割引

旅行会社との法人契約により、社員が低料金で飲食店や宿泊施設を利用できるようにします。

14)サブスクリプションサービス

福利厚生サービス会社との法人契約により、社員が低料金で「Netflix」などのサブスクリプションサービスを利用できるようにします。

8 「その他」(社員食堂など、12種類)

ここまで紹介したものの他にも、さまざまな福利厚生があります。

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1)社員食堂

社員が低価格で利用できる食堂を運営します。自社だけで運営するのはハードルが高いですが、複数の会社が1つの食堂を「共同運営」するケースもあります。

2)まかない制度

会社のキッチンや食材を使って、社員が自由に昼食を作れるようにします。

3)フリードリンク・スナック

会社に飲み物やお菓子を常備しておき、社員が好きなときに飲食できるようにします。

4)サテライトオフィス

通常のオフィス(本社など)とは別のオフィスを設けます。ワーケーションの一環で、古民家などをサテライトオフィスにしている会社もあります。

5)駐車場

マイカー通勤を希望する社員のために、駐車場を貸与します。オフィスに駐車場がない場合、月極駐車場を法人契約することもあります。

6)通勤バス

最寄り駅からオフィスまでの距離が遠い場合などに、社員用の通勤バスを手配します。

7)アルムナイ社員の原職復帰

社員が退職してから一定期間以内であれば、復職しても元のポジションに就けるようにします。

8)アルムナイ社員への支度金

一度会社を退職し、再入社する社員に、支度金として金銭を支給します。

9)フルフレックスタイム制

フレックスタイム制でコアタイム(必ず勤務しなければならない時間帯)を設けず、始業・就業時刻を完全に自由にします。

10)働き方宣言

あらかじめ宣言することで、働く時間帯や場所を社員が自由に決められるようにします。

11)特別休暇の買い取り

社員が特別休暇を使わない場合、本人からの請求に応じて、その休暇を買い取ります。なお、特別休暇の買い取りは基本的に会社が自由にルールを決められますが、法定の年次有給休暇の場合、買い取りの仕方によっては違法と判断されるケースもあるので注意が必要です。

12)法律相談サービス

弁護士法人との法人契約により、社員がプライベートの法律相談をできるようにします。

以上(2024年9月作成)

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画像:siro46-Adobe Stock

60代の就業ニーズ

人手不足に悩む中小企業にとって、60代のシニア層の活用は有効な解決策のひとつとなり得ます。本稿では、公益財団法人産業雇用安定センターが、求職活動中の60代男女を対象に実施した「60代シニア層の就業ニーズに関するアンケート調査」(2023年11月。男女各500人回答)の結果をもとに、働くことに関するシニア層の希望や意識についてお伝えします。

1 仕事内容・働きやすさ重視

シニア層が仕事探しで最も重視しているのは、「仕事内容や職場の働きやすさ」です。60代男女全体の40.1%が「重視する」と答えました。次いで「就業場所・通勤時間」が34.9%、「就労日数・就業時間」が33.7%、「これまでの職業経験・知識を活かせる」が32.5%でした。「給料」は25.1%、「体力・体調に合っている」は22.7%にとどまりました。

仕事探しで重視するもの

仕事探しで重視するもの

2 60~64歳男性、週5日以上希望

「週に何日働きたいか」という質問では、男性の働く意欲が高いことがうかがえます。「週6日」または「週5日」と答えた男性は、60~64歳で計48.6%、65~69歳でも計30.3%に上りました。「1日に何時間働きたいか」という質問でも、60~64歳男性の70%が「6~8時間程度」と回答しています。

週に何日働きたいか

週に何日働きたいか

1日に何時間働きたいか

1日に何時間働きたいか

また、民間企業における仕事の希望度としては、「事務補助・雑務」「一般事務」「商品仕分・梱包業務」などといった業務を希望する割合が比較的高くなっています。また、人手不足の運輸、警備、介護福祉などの仕事であっても、ルート配送、福祉施設の間接業務、夜勤なしといった業務に対しては一定数の希望者がみられます。

3 さいごに

企業には、65歳までの雇用機会の確保が義務付けられ、70歳までの就業機会の確保も努力義務となっています。これから60代以上の従業員が意欲的に、能力を発揮しながら働けるよう、これまで以上の配慮が求められるでしょう。ぜひ、本稿で紹介したアンケート結果を参考に、シニア層の就業ニーズを的確につかみ、対策を立ててください。

※3つのグラフは、公益財団法人産業雇用安定センター「60代シニア層の就業ニーズに関するアンケート調査」の結果より抜粋

※本内容は2024年8月13日時点での内容です。

(監修 社会保険労務士法人 中企団総研)

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2024年11月からの新法施行でフリーランスとの取引が厳格に…… 会社が押さえておくべき7項目とは?

書いてあること

  • 主な読者:フリーランスに仕事を依頼する経営者や実務担当者
  • 課題:2024年11月に施行される新しい法律のポイントが分からない
  • 解決策:「書面等による取引条件の明示」をはじめ7つの項目を押さえる

1 罰則ありのフリーランス・事業者間取引適正化等法に備える

フリーランスを活用する会社が増えてきましたが、発注側と受注側の力関係から、フリーランスが一方的に不利益を被るケース(低報酬、短納期、ハラスメントなど)が少なくありません。皆さんの会社は大丈夫ですか?

2024年11月1日から、「フリーランス・事業者間取引適正化等法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)」(以下「新法」)が施行され、フリーランスの権利保護が次のように強化されます。なお、「現状」は、下請法や独占禁止法の規制を記載しています。

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「下請法」もフリーランスの保護につながりますが、これは資本金が1000万円超の会社を対象とするため、小さな会社と契約するフリーランスは守られにくい状況です。一方、新法はフリーランスと取引する全ての会社が対象となります。

新法の施行以降は、会社(発注事業者)が図表1の義務を果たさない場合、行政機関からの立入検査、指導・助言、勧告・命令が行われることがあります。勧告・命令に従わない場合、

  • 会社名が公表される
  • 命令違反に対して50万円以下の罰金が科される

といったペナルティーがあります。以降で、2024年11月から対応が必要となる各義務のポイントを紹介します。なお、新法の細かい内容については、厚生労働省ウェブサイトのリーフレットなども併せてご確認ください。

■厚生労働省「「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」(フリーランス・事業者間取引適正化等法)■
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/zaitaku/index_00002.html

2 書面等による取引条件の明示(口約束はNG)

会社がフリーランスに仕事を頼む際、

書面(契約書や発注書)、電磁的方法(メールやSNS)で取引条件を明示すること

が義務付けられます。口約束はNGです。具体的に明示すべき項目は次の8つです。

  • 会社とフリーランス、それぞれの名称
  • 会社とフリーランスとの間で業務委託をすることを合意した日
  • 仕事の内容(品目、品種、数量・回数、規格、仕様など)
  • 仕事のスケジュール(いつ納品するのか、いつ作業をするのか)
  • 仕事の場所(どこに納品するのか、どこで作業をするのか)
  • 仕事の検収をする場合、それが完了する期日
  • 報酬の額と支払期日(具体的な報酬額を記載することが難しい場合は算定方法でも可)
  • 現金以外の方法で報酬を支払う場合、支払方法に関すること

このルールは2024年11月以降に締結する業務委託契約だけでなく、既存の契約についても適用されるので、現在仕事を依頼しているフリーランスに対し、8つのうち明示していない事項があれば、新たに書面等を交わしてフリーランスと合意する必要があります。

なお、8つの明示事項のうち、正当な理由があって内容が決められない事項(未定事項)がある場合、その理由と、未定事項の内容が決まる予定日を委託時に明示する必要があります。

3 原則60日以内の報酬支払い

フリーランスに仕事を依頼する場合、

フリーランスから「給付を受領した日」から起算し、原則60日以内のできる限り短い期間内で報酬の支払期日を定め、期日までに報酬を支払うこと

が義務付けられます。「給付を受領した日」とはフリーランスが仕事を完成させ、納品等を終えた日という意味です。例えば、次のようなイメージです。

  • 物品の製造・加工:物品を受け取り、会社の管理下に置いた日(検収の要否は関係ない)
  • 情報成果物(ソフトウェアなど)の作成:データの入ったメールやUSBメモリを受け取り、会社の管理下に置いた日
  • 役務(サービス)の提供:個々の役務の提供を受けた日、または一連の役務の提供が終了した日

支払期日を定めなかった場合は「給付を受領した日」に、また法律に反し、給付を受領した日から60日を超える日を支払期日とした場合は「60日目」に報酬を支払わなければなりません。また、フリーランス側の事情で支払いが遅れる場合は「その事情が解決してから60日以内」に支払えばよいとされています。

なお、会社(発注事業者)が取引先など(元委託者)から受けた仕事をフリーランスに「再委託」する場合、例外的に

「再委託である旨」「元委託者の名称」「元委託業務の支払期日」をフリーランスに明示することで、元委託業務の支払期日から起算し、30日以内で支払期日を定めることが可能

です。これを「再委託の例外」といいます。

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4 発注における問題行為の禁止

フリーランスと1カ月以上の業務委託契約を締結する場合、次の7つの行為が禁止されます。この7つは、フリーランス側の同意があったとしても、行った時点で違法なので注意が必要です。

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ちなみに、図表3の7つは現状でも、独占禁止法の「優先的地位の濫用」に該当し得る行為として、内閣官房のガイドラインに記載されています(全ての会社が対象)。なお、上の7つ以外にも「優先的地位の濫用」に該当する行為が4つあります。併せて押さえておきましょう。

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「優先的地位の濫用」については、内閣官房のガイドラインも併せてご確認ください。

■内閣官房「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」■
https://www.cas.go.jp/jp/houdou/20210326guideline.html

5 募集情報の的確な表示

会社がコーポレートサイトや広告などを使ってフリーランスを募集する際、

募集情報が「虚偽の表示をしたり、誤解を生じさせたりする表示になっていないか」「正確かつ最新の内容となっているか」を確認すること

が義務付けられます。具体的には次の5つの項目について、募集情報の的確な表示ができているかを確認する必要があります。

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フリーランスとのトラブルを防止するため、上の5つの項目については可能な限り具体的な情報を記載し、また変更があった場合、その部分を明らかにして速やかに明示します。

なお、「通常の社員」と「フリーランス」の募集情報が混同されるケースがありますので、

  • フリーランスの募集情報に業務委託であることを明記する
  • コーポレートサイトは、社員用とフリーランス用とで募集のページを分ける

などの対応をして、トラブルがないようにしましょう。

6 出産・育児・介護に関する配慮

フリーランスと6カ月以上の業務委託契約を締結する場合、

フリーランスから申し出があった際、出産・育児・介護と仕事を両立できるよう、必要な配慮を行うこと

が義務付けられます。具体的には、次の流れで対応します。

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フリーランスは社員ではないので、産前・産後休業や育児・介護休業の対象にはなりませんが、例えば「仕事の量」「打合せ日時、稼働時間、納期」「テレワークの可否」などについて、可能な範囲で配慮する必要があります。

フリーランスの申し出通りに必ず措置を講じなければならないわけではありませんが、実施できない場合、その旨と理由を本人に説明する必要があります。何もせず申し出を無視したり、契約を解除するなどの不利益な取扱いをしたりするのは違法です。

7 ハラスメント対策の体制整備

業務委託でフリーランスとコミュニケーションを取るに当たり、

フリーランスに対するハラスメントを防止するための体制を整備すること

が義務付けられます。現状、通常の社員については、男女雇用機会均等法や育児・介護休業法により次のハラスメント対策を講じることが義務付けられていますが、これをフリーランスにも準用するイメージです。

  • ハラスメント防止方針の明確化、周知・啓発
  • 相談窓口の設置・運用
  • 事実確認、ハラスメント行為者の処分と再発防止策の検討
  • その他プライバシーの保護のための措置など

ハラスメント防止方針に「フリーランスに対する悪質な言動も、ハラスメントとして厳しく対処する」旨などを追記し、相談窓口はフリーランスからの相談も受け付けられるようにした上で、社員とフリーランスに周知徹底しましょう

また、フリーランスが相談をしやすくなるよう、フリーランスも対象とするハラスメント防止研修などを企画し、ハラスメントに関する基本知識や相談の流れを身に付けさせるのもよいでしょう。

8 中途解除等の事前予告・理由開示

フリーランスと6カ月以上の業務委託契約を締結する場合、

フリーランスとの契約を解除する際に、30日前までに契約解除の予告をすること

が義務付けられます。イメージは、通常の社員を解雇する際の「解雇予告」と同じです。ただし、「金銭を支払って、予告期間(30日)を短縮する」といった「解雇予告手当」のような制度はありません。また、

契約解除の予告後、フリーランスから請求があったら、契約解除の理由を開示すること

が義務付けられます。なお、事前予告や理由開示は、書面の交付、ファックス、電子メール等のいずれかの方法で行わなければなりません。

通常の社員の解雇でもそうですが、契約の解除は特にトラブルになりやすい分野であるため、解除の可能性が生じた時点で、速やかにフリーランスと協議を行うことをお勧めします。

以上(2024年9月作成)

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