第34回 Web 3.0・NFT・メタバース・DAO 最新用語の基礎知識/イノベーションフォレスト(イノベーションの森)

Web 3.0・NFT・メタバース…いずれも近年急速に広がる新しい用語・概念ですが、「何となくは知っているものの、遠い世界の話だと思っている」という方も多いのではないでしょうか。

今回は、NFT販売サービス”Stella”の運営やNFT/Web 3.0領域のコンサルティングを行う、microverse株式会社 CEO 渋谷啓太氏にインタビューを実施しました。
 それぞれの用語の説明と、今後の活用可能性について語っていただきます。

1 渋谷氏の経歴/microverse株式会社の事業内容

1997年生まれ。バイナリースター株式会社でステーキングビジネスの立ち上げ、ブロックチェーンセミナーの講師を勤めた後、Priv Tech株式会社で同社プロダクトのセールス・マーケティング、将来的なブロックチェーン活用のリサーチ業務を担当。直近はdoublejump.tokyo株式会社にて、ゲームなどのIPコンテンツを持つ大手クライアントを中心に、NFT プロデュース支援サービス「NFT Plus」を提供、ディレクターとして従事。

キャリアを通じて、ブロックチェーン領域におけるビジネスサイドに精通。プロダクトデザイン、セールス、リサーチ、マーケティングなどを業務領域としています。

2022年1月にはシードラウンドで5,000万円の資金調達を実施し、2月には自身がCEOを務める会社microverse株式会社に変更し、NFT/Web 3.0領域の事業に取り組んでいます。

microverseのミッションと、主な事業内容は以下の3つです。

1)NFT販売サービス“Stella(ステラ)”の提供

IPホルダーが自社のファンにNFTを販売する場合、ウォレットと呼ばれる暗号資産やNFT等を管理するデジタル上のお財布のようなものを開設・管理する必要があり、管理コストがかかります。また、NFTの発行のための暗号資産(仮想通貨)が必要となりますが、仮想通貨には会計基準が定まっておらず、大手企業が持つ上での課題があります。
Stellaはそうした手間やコストをかけずに、ファンにデジタルコンテンツを届けることができるサービスです。

2)NFTコンテンツのプロデュース/販売支援

「どのように、何をコンテンツとして提供すればよいのか」と悩まれているIPホルダーやクリエイターに向け、コンテンツのプロデュースや販売支援を実施しています。

3)NFTビジネスのCo-Creation

より漠然と「NFTを活用して、新規事業ができないか」などを考えている企業に対しては、企画、要件定義の段階からサポート。伴走型で、NFT/Web 3.0領域の事業の”共創”を行っています。

急速な成長を見せているNFT/Web 3.0の領域で、新たな価値を創出しつづけているエキスパートです。

2 Web 3.0とは何か

Web 3.0は昨今よく耳にするワードですが、まだ定義がはっきりと決まっていないと認識しています。
 渋谷氏は「あくまで自分たちmicroverseの定義」とした上で、Web 3.0を以下のように説明しています。

「Web 3.0とは、主権が個人にあるインターネットの世界」

そして、上記の説明を本質的に理解するためには、Web 1.0からの変遷を知る必要があります。

Webの変遷を示した画像です

■Web 1.0
発信者(特定)→受信者(みんな)

Web 1.0では、インターネット上で発信ができるのは特定の人たち(Webサイトをつくる技術を持つ人たちなど)だけ、受信・情報取得は全ての人ができる世界でした。

■Web 2.0
発信者(みんな)→受信者(みんな) データ管理・ルール決め:プラットフォーム

Web 2.0からは、Googleなどの検索エンジンの浸透、Facebook/TwitterといったSNS、YouTubeなどの配信サイトの浸透により、誰でも気軽に発信できる世界へと変化しました。

しかし、発信者は全員でありコンテンツを作っているのは「みんな」のはずなのに、データの管理とルール決めはプラットフォーム側です。
例えば、YouTubeの広告収入比率はGoogleにより決められていますし、Instagramのおすすめ表示のアルゴリズムなどもFacebookによって決められています。

また、データの管理者がプラットフォーム側であることにより、InstagramにUPしたコンテンツ、FacebookにUPしたコンテンツなどが、プラットフォームごとに分断されてしまっているという課題もあります。

■Web 3.0
発信者(みんな)→受信者(みんな) データ管理:個人、ルール決め:みんな

では、Web 3.0の世界では何が変わるのかを見ていきましょう。
Web 3.0においても発信者・受信者がみんなである構造に変わりはありません。
大きく変わるのは、データ管理が個人、ルール決めがみんなでできるようになることです。

具体的には、新しくYouTubeのようなプラットフォームが登場した時に、そこでの広告収入分配率は投稿してくれる人たちで決めることができるようになります。
さらに、「データはブロックチェーン上のウォレットアドレス(銀行口座番号のようなもの)に紐づいて管理される」ので、データを個人で管理することが可能となります。

このように、ルール決めやデータ管理の権限が、プラットフォーム側から個人に移るという意味で、Web 3.0を「主権が個人にあるインターネットの世界」と表現されています。

3 ブロックチェーンについて

続いて、Web 3.0の世界を実現する、ブロックチェーン技術とは何かを説明します。

ブロックチェーンとは、実際の技術的には異なる点が多々あるものの、わかりやすいイメージとしては「みんなで管理するスプレッドシート(データベース)」のようなものです。

今までのデータベースのイメージを示した画像です

例えば、従来のデータベースは修正の履歴を見ることができるのは管理者だけでした。自分が管理者でない場合、データ改ざんが行われてもわかりませんし、裏側でどのようにデータが利用されているかも見ることができません。

一方で、このデータ管理方法には、メリットもあります。管理者1社がデータをどのように扱うかを決め、変更を行えるため、処理速度は非常に速いというメリットもありました。

ブロックチェーンのイメージを示した画像です

では続いてブロックチェーンによって管理されたデータベースを見ていきましょう。
ブロックチェーンの場合は、みんなで同じスプレッドシートを管理・共有している状態になります。

そして、スプレッドシートを修正した履歴も全て残り、共有されますので、誰がいつデータを書き換えたのかがわかるようになるのです。

ブロックチェーン上のデータベースはみんなで管理するため、改ざんが難しいというメリットがありますが、その一方で、処理速度が遅いというデメリットがあります。

「ここに新たなデータを書き加えますよ、いいですか」「いいですよ」という合意をとるような流れとなることが多いため、一度の書き込みに対して処理速度が遅くなってしまいます。

4 NFTとは何か

1)NFTとは

前項のブロックチェーン技術により可能となったことの1つとして、NFTが挙げられます。
NFTを一言で言うならば、「データの所有や発行者を証明できるテクノロジー」のことです。

この説明だけではイメージが湧きにくいかと思いますので、先ほどのブロックチェーン技術の説明と照らしながら、詳しく説明していきます。

データを所有するイメージを示した画像です

そもそも、「データの所有」とは何か。
ここでいうデータの所有とは、改ざんが困難なブロックチェーン上に所有者情報を書き込むことにより「データを所有している」という状態を作り出すことです。

例えばここでは「ID:1」というデータに対して、「HolderはKeitaです」と記入をし、「データを取得したのは2022/2/1 19:00です」ということを書き込み、データの所有を証明しています。

これまでであれば、データの所有を証明したくても、データベースは管理者からしか見ることができず、改ざんされる可能性もあったわけなので、「所有している」と言えない状態でした。

改ざん困難かつみんなが見ることができるブロックチェーン上に記録を残せるようになったことにより、初めて「データを所有している」という状態が証明できるようになったのです。

2)NFTにより、何ができるようになるのか

では、具体的にNFTによってどのようなビジネスチャンスが生まれるのでしょうか。
 NFTの特徴と、それによりできるようになったことは次の通りです。

NFTの特徴と、それによりできるようになったことを示した画像です

特徴1:データの所有・希少性の証明できる
→データの取引・売買が可能に

そもそも、自分が所有していないモノは人に譲ることができません。
データも、従来は自分の所有物であることの証明ができず、取引ができませんでしたが、NFTにより所有の証明と所有権の譲渡が可能となりました。

特徴2:発行者を証明できる
→本物の証明(著作証明)が可能に

例えば、Instagramで人気のインスタグラマーが投稿した画像を、他の人がスクリーンショットを撮って自分のInstagramに投稿しても、これまでは厳密にどちらが元々先にオリジナルの投稿を所有していたかの証明はできませんでした。

NFTにより、今後は誰がそのデータを初めに発行したのかを証明できるようになります。

特徴3:発行したNFTを現在誰が持っているかを確認できる
→購入者の貢献が可視化できるように

発行されたNFTを現在、誰がどのくらい持っているのかという情報までを、みんなで参照できるようになり、購入者の貢献度が可視化されるようになります。
より具体的にいうと、例えばこれまではアイドルを応援するためにCDを100枚買ったとしても、その後転売していないか・現在は何枚持っているのかまでは把握することが困難でした。

しかし、NFT化することによって、リアルタイムで誰がどのくらいNFTを保有しているか、どのくらい貢献してくれているのかを可視化できるようになるのです。

特徴4:二次流通売上の一部を受け取ることができる
→一次創作者が報われるように

NFTを用いてデータが発行・流通されるようになれば、二次流通売上の一部を一次創作者へ還元するような設定をすることが可能です。

発行されたNFTが後に転売された場合にも、一次創作者にその一部が還元されるため、これまでよりもクリエイターが報われやすい世界になります。

3)主なNFTの取引事例

実際にNFTを活用した取引の事例をご紹介します。

・2021年3月、デジタルアーティストBeepleによるNFTデジタルアートが約75億円で落札

NFTを活用した取引の事例(デジタルアーティストBeeple)を示した画像です

・米国のTikTokクリエイターの動画コレクションが約1,200万円で落札

NFTを活用した取引の事例(米国のTikTokクリエイターの動画コレクション)を示した画像です

・Twiitter Blue(Twitterのより高度な機能を使える有料会員向けサービス)にてNFTをアイコン設定する機能を搭載

NFTを活用した取引の事例(Twiitter Blue)を示した画像です

これにより、ユーザーはデジタル上で自分のアイデンティティを証明できるようになります。
 具体的には、アイドルのライブ参加者のみが購入できるNFTをアイコンにすれば、「この人は本当にあのアイドルのファンなのだな」と他のファンに示すことができる、といった活用が考えられます。

Twitter、TikTokのみらずInstagramもCEOがNFT導入を表明しており、1-2年という近い将来でさまざまな活用事例が増えてくると言われています。

5 Web 3.0時代は、本当にやってくるのか

ここまでWeb 3.0、NFTなどの説明をしてきましたが、「バズワード的に広がっているが、本当に世の中に広く浸透するのか」と疑問視する声も上がっています。

渋谷氏は自身の個人的な見解であると前置きしつつ、「Web 3.0時代は間違いなく訪れる」としています。また、その根拠として、以下の2点を挙げています。

1)決済関連のUXが大幅に改善される

従来のECサイトでは、購入までに必要なステップは、大きく3つでした。

「購入するボタンをクリック」→「届け先などの個人情報入力」→「クレジットカード等の決済情報入力」

一方、Web 3.0のウォレットを活用した買い物では、以下の2ステップで購入が完了します。

「ログイン」→「購入ボタンをクリック」

また、ウォレットで何かを買うと、銀行口座から直接お金を支払うような状態となるため、クレジットカード会社などのプロバイダーを介さずに、よりスピーディで完結な決済が可能となります。

2)本当に”好きなことで生きていける”時代が来るかもしれない

インターネットが世の中に与えた大きな変化の1つとして、「広告効果の可視化」があります。

従来、広告というのは大手広告代理店が広告枠を保有し、TVや新聞などのマスメディア上にある広告枠をおさえ、クライアントに販売をしていました。
広告主は、お金を払って広告枠を購入するものの、その広告を出したことにより何人が広告を見て、どれだけ商品が売れたかを知る手立てはありませんでした。

しかし、インターネット上の広告が登場したことにより、広告をどれだけの人が見て、そこから購入につながったのかという広告の効果が可視化できるようになったのです。

NFTはインターネット広告と同様に、これまで見えなかったけれども大事な指標を可視化するのではないかという点で、期待を集めているテクノロジーなのです。

NFTが可視化する大事な指標とは何か。それは「ファンの貢献度」です。

具体的に、NFTによりどのようにファンの貢献度が見える化されていくのか、例を挙げて見ていきましょう。

<今の世界で、アイドルを応援したら・・・>

アイドルを応援するイメージを示した画像です

【初期】
とあるデビューしたてのアイドルの初ライブ。初めてのライブは、小さなライブ会場で行われる予定です。彼女たちには資金がないので、ライブ会場を使用するためにかかる費用をクラウドファンディングで集めることにしました。

ファンの人たちはクラウドファンディングで出資をし、ライブのためにチケットを購入し、ライブ会場ではグッズを購入することで、アイドルを応援します。

まだまだファンの少ないアイドルグループですので、ライブ終わりにはファン1人1人に挨拶をし、直接「ありがとう」と声をかけて感謝を伝えました。

【中期】
ライブを重ね、少し知名度が出てきたアイドルたち。少し大きな会場で、ライブが開催されることとなりました。

ファンはこれまで同様、チケットやグッズを購入して応援します。今度は会場が大きくなるので、ガラガラではかわいそうだとSNSなどを通してライブ情報を拡散する協力をしました。

ファンは増えたものの、まだ直接話ができる程度です。アイドルたちは熱心なファンにライブ後お礼を伝えたり、SNSでDMを送って感謝を伝えます。しかし、ファンが増えたため、1人あたりにかけられる時間は短くなってしまいます。

【後期】
順調にファンも増え、いよいよ武道館でのライブです!
ファンはチケット、グッズを購入、SNSでの拡散など、これまで通り応援します。

ところが、ファンが多くなりすぎて、アイドルは昔からのファン1人ひとりにお礼を言いたくても、できません。それどころか、「グッズやチケットはみんなと平等に並んで買ってくださいね。昔からのファンも最近のファンも平等です!」という案内をせざるを得なかったり、最悪の場合には「ごめんなさい、誰でしたっけ」なんていうことも起こりかねません。

<Web 3.0の世界でアイドルを応援したら・・・>
【初期】

これまでの世界と同様、ファンはアイドルをクラウドファンディング、チケット購入、グッズ購入などで応援。アイドルはライブ会場でお礼を言います。

これまでと違うのは、アイドルからはクラウドファンディングのお礼などとして、NFTをプレゼントすることができます。

【中期】
アイドルたちは少し大きな会場でライブをし、ファンはこれまで同様チケット・グッズを購入、SNSの拡散で応援をします。

ファンの人たちはさらにライブ限定のNFTや、「アイドルトークン」のような仮想通貨をもらえる可能性があります。ファンの人たちはNFTやトークンによって、チケットが優先的に購入できる等の精神的なインセンティブを獲得できるかもしれません。

【後期】
いよいよ武道館!
ここからが、Web 2.0時代とWeb 3.0時代で大きな差が出てくるフェーズです。

アイドルトークンを保有しているファン限定で、チケットやグッズを優先的に購入できたり、FTによる決済ができたり、昔からのファンだけに特別なサービスをすることができるようになります。

これまでであれば、ファンクラブのサイトやCDを購入するECサイトがバラバラで管理されていて、厳密に昔からのファンかどうか、どれだけ貢献してくれたファンなのかを可視化するのが難しかったのですが、ブロックチェーン上で、NFTやFTをキーとしてファンの情報を管理できるようになります。

ファンの人たちは昔からのファンであることをデジタル上で証明でき、かつ高待遇を受けることができるため、精神的なインセンティブを受けられるようになりますし、将来的にはNFTやFTを譲渡することで金銭的なインセンティブを得ることができるかもしれません。

ただただ自分が好きでアイドルを応援していた歴そのものが、自分の収入、経済的インセンティブとなるかもしれないのです。

6 メタバースとは何か

昨今バズワード的に取り上げられることの多い「メタバース」。
 一般的には”VR空間”のようなイメージが強いと思いますが、渋谷氏はメタバースを以下のように表現しています。

メタバースとは、データ主権が個人に紐付き、複数の経済圏を自由に移動できる世界

メタバースのイメージを示した画像です

メタバースが世の中に浸透すると、上の図のように、IPや思想・趣味などにより小さなコミュニティ・経済圏が生まれるようになります。
 また、デジタル上でデータ主権が個人に紐付くことにより、自由にデジタル上の経済圏を移動することができるようになるのです。

例えば、Aというアイドルを応援し続けていた人が、今度はBというアイドルを応援したいと考えた時、現在では、Aで培ったファン歴などは関係なく、Bのアイドルのファンクラブで1からスタートしなくてはなりません。

一方、NFT/FTが浸透するWeb 3.0の世界では、Aのアイドルを応援する過程で得たトークンを、Bのアイドルのトークンに変換するなどして、これまで育てたデータ資産と共にコミュニティ間を移動することが可能となります。

現在、リアルの世界で通貨の価値交換が行われているように、データの価値をデジタル上で交換できる世界、それがメタバースなのです。

7 DAO(分散型自律組織)とは何か

NFTやメタバースと関連して注目されているワードの1つにDAO(分散型自律組織)があります。

「DAOはリーダーのいない組織」とも言われますが、実際には「コントリビューター」と呼ばれる人たちがいます。
彼らは該当のDAOにもっともコミットし、ミッション・ビジョンを定義するなど、今後のコミュニティの方向性を示す存在です。

では、これまでのトップがいる組織とは何が違うのか。
もっとも大きく異なる点は「全員が議決権を持っていること」です。

例えば、株式会社であれば、先述のコントリビューターのような存在として、代表取締役が存在します。代表取締役は株をもっとも多く保有し、取締役会で意思決定をする権限を持ちます。

それに対し、DAOは付与方法や比率はDAOにより異なるものの、参加する全ての人に議決権付きの株を付与するようなイメージです。
何かの議題に対して、ブロックチェーン上で、全員が投票をし、コミュニティとしての意思決定をする「意思決定が分散化された組織」なのです。

8 Web 3.0時代の現状

これまでできなかったことが可能となる、そんな期待感に満ちるWeb 3.0の世界観。
一方で、解決すべき課題や、まだまだ人々が技術に追いついていないといった現状もあります。

1)法整備が追いついていない

Web 3.0の世界には、新しい経済圏であるメタバースや、デジタル上の資産であるNFT/FTなどが台頭してきますが、現行の法律では税制や適切な規制が追いついていません。

2)メタバースはまだ「オンライン上のコミュニケーション」感覚

昨今さまざまな企業やIPホルダーがメタバースに参入しているものの、消費者目線ではオンラインゲーム上のコミュニケーションとの違いがわからないといった声も。

ただし、「オンラインゲームで友達と待ち合わせする」などが日常となっている現在の中高生が数年後に社会人となることで、メタバースの活用方法や価値についても変化が訪れると考えられています。

ゆくゆくは、リアルの家や車よりも、メタバース上のステータスにお金を払う人々も出てくるかもしれません。

9 読者に向けてのメッセージ

Web 3.0やNFTの市場はまだまだ幕が開けたばかりです。今後、さまざまなユースケースや体験価値が創造されていく領域なので、みなさんとともに市場を開拓できますと幸いです。

以上

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2022年6月29日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

※上記内容は、株式会社日本情報マートまたは執筆者が作成したものであり、りそな銀行の見解を示しているものではございません。上記内容に関するお問い合わせなどは、お手数ですが下記の電子メールアドレスあてにご連絡をお願いいたします。

【電子メールでのお問い合わせ先】
inquiry01@jim.jp

(株式会社日本情報マートが、皆様からのお問い合わせを承ります。なお、株式会社日本情報マートの会社概要は、ウェブサイト https://www.jim.jp/company/をご覧ください)

SNSの活用は第一に目的の明確化、第二にTTP/基礎から分かる ウェブの活用で売上アップ(2)

書いてあること

  • 主な読者:ウェブを活用して売上アップにつなげたい経営者
  • 課題:SNSを活用して売上アップを図りたいが、どうすれば成功するか分からない
  • 解決策:それぞれのSNSの特性を知り、活用目的を明確にすることから始める。投稿方法は、成功事例をTTP(徹底的にパクる)する

1 SNSの活用度でコロナ禍の明暗が分かれる

コロナ禍で苦しむ飲食店。コロナ禍の巣ごもり需要に対応するためにテイクアウトをスタートしたA店とB店で、明暗がハッキリ分かれました。

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コロナ禍で苦しむ旅館。コロナ対策として各都道府県で実施した「県民宿泊割キャンペーン」の情報を顧客にお伝えしたA社とB社で、明暗がハッキリ分かれました。

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コロナ禍で明暗を分けた理由は、SNSの活用度合いです。SNSでお客さまとつながっていた店舗や企業は、情報をタイムリーに、かつ低コストで発信することができ、売上につなげることができました。

2 何のためにやるの? 目的の明確化こそSNS活用の要諦

「よし、SNSを活用してみよう」と思っている方に、先にお伝えしたいことがあります。SNS活用の失敗パターンは、「はやっているから」という理由でスタートすることです。まずは、さまざまなSNSの特性と自社のターゲットを考慮して、SNS活用の目的を明確にしましょう。

  • 飲食店⇒「新規客を取り込むため」に「インスタグラム」を活用
  • 美容院⇒一度来店した方に「リピーターになってもらうため」に「LINE」を活用
  • 食品製造業⇒「商品の認知度を高めるため」に「ツイッター」を活用
  • ネットショップ⇒「商品の魅力を伝えるため」に「ユーチューブ」を活用

上述のように、「〇〇〇のため」に「〇〇〇(SNSツール)」を活用、というフレーズを作成してみてください。

なお、さまざまなSNSの特性を詳しくお知りになりたい方は、第4章をご参照ください。

3 やってみる! マネてみる! の精神でチャレンジを

1)キーワードは「TTP」

SNSのビジネス活用の世界で「TTP」という言葉がよく使われます。何の略語かわかりますか? TTPとは、

徹底的にパクる

ということです。

そう、うまく活用できている同業種・同業態のアカウントをユーザーとしてフォローしたり登録したりして、その投稿内容や手法を徹底的に参考にしてください。

2)これぞTTP効果! 1投稿で100以上のフォロワー獲得に成功

当社がご支援させていただいているワイナリーでは、コロナ禍でインスタグラムを始めましたが、フォロワー数を伸ばすことに苦戦していました。私は、フォロワーを多く獲得しているワイナリーのアカウントをご紹介し、そこと比較をしてみました。

すると、違いは「#(ハッシュタグ)」にありました。フォロワーを集めているアカウントは、ワイン好きの人が使うハッシュタグを数多く入れていたのです。そこで、TTPさせていただき、「#ワイン好きな人と繋がりたい」「#winelover」というハッシュタグを投稿に入れたところ、1投稿で100以上のフォロワーを獲得することに成功しました。

3)ユーザーとして「やってみる」ことから始めよう!

先ほどのワイナリーの話を読まれても、インスタグラムを使ったことのない方は、ハッシュタグの重要性をイメージしづらいと思います。まずは、いちユーザーとして、SNSを使ってみることをお勧めします。

多くの読者の方がプライベートでLINEは使われているかと思います(使っていなければ、今すぐ始めましょう!)。飲食店に行くと、よく「LINE公式アカウント登録で今すぐドリンク進呈」といった訴求を目にします。見つけたら、ぜひ登録してみてください。そうすると、お得なクーポンが送られてきたりします。「あっ、これがLINE公式アカウントね!」と、すぐにご理解いただけると思います。

SNS活用で最も大切なのは、ユーザー目線。まずは、ユーザーとしてSNSを体感することから始めてみてください。

4 参考:活用するSNS選びのためのアドバイス

次の図表は、ビジネス活用ができる主要なSNSの特性をまとめたものです。SNSと一言で言っても、ユーザー層や使い方はさまざまです。ビジネス活用となれば、その活用法も変わってきます。

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このうち利用者が1000万人を超えるLINE、Instagram、Twitter、YouTube、Facebookのお勧めの活用方法をお伝えします。

1)LINE(ライン):リピート促進

日本人の多くが使っているSNSがLINEです。LINEのビジネス活用としては、「LINE公式アカウント」というツールがあります。

既存のお客さまに自社のLINE公式アカウントに登録いただき、登録者に対して月に1回程度、お得情報や最新情報をお送りします。

現状ですと、月に1000配信まで無料で利用できます。

LINEのビジネス活用の主目的は、「リピート促進」が挙げられます。既存のお客さまとつながるツールとしては、以前はメール配信が主流でしたが、近ごろはLINE配信が増えています。

また、「LINEで問い合わせ」という活用方法も多くなってきました。若年層を中心に、

「電話よりLINEで問い合わせするほうが楽」

という方が増えています。

2)Instagram(インスタグラム):集客からリピート購入、ファンづくりにも

インスタグラムは、今利用が伸びている注目のSNSです。インスタグラムは若い女性向けのSNSというのは、今や幻想です。男性利用が4割を超え、中年層にも拡大中です。

インスタグラムは、#(ハッシュタグ)という文化があり、

ハッシュタグを通じて、同じ趣味・嗜好の方の情報を得る

ことができます。ちなみに、私は、「#新潟アルビレックスBB」というハッシュタグをフォローすることで、地元のプロバスケットボールチームを応援する方の投稿を瞬時にキャッチしています。

ビジネスでは「集客」のツールとして利用されることが多いです。上述のように、

ハッシュタグを投稿に入れることで、そのハッシュタグをフォローしている方や検索した方に投稿を見ていただき、そこから興味を持ってもらい、アカウントをフォローしてもらえれば、新たな接点につながります。

投稿頻度は週に2~3回程度がお勧めで、投稿頻度が増えるほどフォロワーも多くなり、集客を図ることができます。

新たな集客を狙わなくても、既存のお客さまにフォローしてもらい、情報発信を行うことで、「リピート購入」や「ファンづくり」につなげることも可能です。

3)Twitter(ツイッター):認知度アップと集客

ツイッターは、拡散性に優れたSNSなので、「認知度アップ」「集客」に向いています。「バズる」という言葉の通り、

投稿の内容によっては、情報が一気に拡散し、新たな出会いを生み出します。

しかし、1日1回以上投稿したり、フォロワーとマメにコミュニケーションを取ったり、投稿内容にも面白味がないと拡散は期待できません。運用担当者、いわゆる「中の人」の腕次第であり、適任者がいない場合は、手を出さないほうがよいかもしれません。

4)YouTube(ユーチューブ):自社・自店の魅力を伝え、信頼を得る

「ユーチューバーになって、一獲千金を狙いましょう」とは言いません。ユーチューブのビジネス活用としては、動画で商品・サービスの説明等をして、自社・自店の「魅力を伝え、信頼を得る」という目的で使うことをお勧めします。まずは、

動画を作成して、それをユーチューブにアップする。その動画をホームページに入れたり、パンフレットや名刺にYouTubeにつながるQRコードを入れたりして閲覧を促します。

また、ユーチューブ内で、動画を拡散して「集客」を図る手法もありますが、難易度は高くなります。

5)Facebook(フェイスブック):既存客への情報発信

フェイスブックは、以前は拡散性に優れたSNSでしたが、最近は拡散しづらくなっており、ビジネス活用としては、フェイスブック内で広告を展開して新規の「集客」を図るケースが多いです。

拡散性は低くなっているものの、会社や店舗で利用できる「フェイスブックページ」は無料ですので、

既存のお客さまへの「情報発信ツール」として機能させる

ことは有効です。

以上(2022年6月)

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画像:Pixel-Shot-Adobe Stock
執筆者サイト:https://glocal-marketing.jp/

【朝礼】君たちは「餌が食べられないカマス」のままでいいのか?

皆さんは「カマス」という魚を知っていますか。暖かい海に生息し、干物や塩焼きにするとおいしい魚です。今日は、このカマスを使った有名な実験についてお話しします。

この実験ではまず、大きな水槽を透明な壁で仕切り、一方の水槽にカマスの群れ、もう一方の水槽にカマスの餌になる小魚を放します。すると、カマスたちは餌を食べようと、壁に体当たりを始めます。しかし、何度体当たりをしても壁の向こう側に行けないことが分かると、そのうち諦めておとなしくなってしまいます。次に、水槽の中の透明な壁を取り除きます。すると、カマスたちは一斉に餌のほうに向かっていく……と思いきや、全く動こうとしません。目の前を小魚が泳いでも反応せず、そのまま餓死してしまうそうです。

では、どうすればこのカマスたちは餌を食べるようになるのか。答えは簡単。「新しいカマスを水槽に入れる」のです。新しいカマスは、もともと水槽に壁があったことは知りませんから、喜んで小魚のいるところに行きます。すると、「餌は食べられない」と諦めていた“古い”カマスたちも、新しいカマスに釣られ餌を食べ始めるのです。

ビジネスに置き換えるなら、餌は「達成すべき目的」、透明な壁は「目的の達成を妨げる障害」、古いカマスは「目的をなかなか達成できず、チャレンジに消極的になってしまった社員」、新しいカマスは「怖いもの知らずのチャレンジ精神旺盛な新入社員」といったところです。

この実験の話は、「停滞している組織に新しい風を吹き込めば、組織は活性化する」という例えとしてよく使われます。ですが、私は皆さんに、外部から新しい風が吹き込むまで待ってもらいたくありません。ビジネスでは、組織が停滞しているときに、都合良く優秀な新入社員が入ってくるとは限りません。それを待っていては、古いカマスたちのように餓死してしまいかねません。新しいカマスがいなくても、餌を食べられるようになるためのポイントは2つです。

1つは「壁をよく観察すること」です。古いカマスたちは、透明な壁があることに気付かず、何度も体当たりを繰り返していましたが、もしかしたら壁の表面をゆっくりなぞっていくと、実は抜け穴があったかもしれません。仮に抜け穴がなくても、日ごろから壁を観察していれば、その壁がなくなったときに、すぐに気付くことができます。つまり、「目的の達成を妨げる障害」が何なのかを正しく認識・分析するということです。

もう1つは「壁を突破するという気持ちを持ち続けること」です。カマスは成長すると50センチ、種類によっては2メートルにもなる魚です。からだが小さいうちは破れなかった壁も、成長するにつれて突破できるようになるかもしれません。単なる根性論と思う人もいるでしょうが、「何度障害にぶつかっても、諦めずに自分を磨き続ければ、いつかは目的を達成できる」ということです。

以上(2022年6月)

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画像:Mariko Mitsuda

【損益の見える化】グラフを使った月次経営管理の基本的な流れ

書いてあること

  • 主な読者:財務分野の「見える化」を進めたい経営者
  • 課題:会社が大きくなるにつれ、会社の財務分野の状況が見えなくなっている
  • 解決策:数値をグラフ化して状況を可視化し、トレンドに対する正確なイメージを持つ

1 損益が劇的に把握しやすくなる「グラフ化」

数字が羅列された表だと見落としてしまうことも、グラフだと発見しやすくなります。日々の経営では、月次試算表に基づく経営成績のチェックが不可欠ですが、実際に次のような月次試算表が手元に届いたとしましょう。この会社は12月決算で、13期7月(以下「最新月」)時点の月次試算表になります。

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経営者は次の視点から検討することでしょう。

  • 最新月の売上高の確認
  • 最新月の売上高の、対前期や対前月での増減額および増減率の確認
  • 最新月は黒字か、赤字か、またその額の確認
  • 最新月の原価率(または売上総利益率)の確認
  • 人件費の額、構成比の確認
  • 個々の会社において、特に注意を要すべき費目(例えば、広告宣伝費など)の額の確認

また、累計月次試算表に基づいて、期首からの累計値で同様の検討を行い、異常な増減などがあれば、その原因を把握し、必要に応じて対策を検討・実施します。これで最新月の検討が終わり、翌月の月次試算表が届いたら、対策の効果などに目を配りつつ、再度同様のことを行う、この繰り返しではないでしょうか。

2 月次損益を把握する流れ

ここでは、月次の経営管理に活用する基本的なグラフについて見ていきます。

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図表2の月次損益の推移のグラフから、売上高、売上総利益、利益の月別状況が分かります。ただし、年度ごとの状況が分かりにくいので、年次累計グラフが必要です。

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図表3は図表2を年次累計(12カ月サイクル)グラフにしたものです。年度を通じて、黒字なのか、赤字なのか、また、その幅(金額)など年度の状況を確認できます。ただし、対前期同月比の推移が分かりにくいので、対前期同月比グラフが必要です。

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図表4は図表3を対前期同月比グラフにしたものです。設例では11期からのデータを使用しているため、図表4はその翌期である12期からのグラフになっています。

対前期同月比グラフにして、増減金額のみをグラフ化すると、増減トレンドがはっきりと分かります。このグラフが一方的にマイナスサイドに伸びている場合は、減収減益トレンドが止まらないことを表し、一方的にプラスサイドにグラフが伸びている場合は、増収増益トレンドが継続していることを表します。また、売上高と利益のグラフ方向が逆に伸びる場合がありますが、これは増収減益、減収増益といった状況を示します。損益の増減を、部門別(店舗別)に分解してみると、より多くのことが分かります(図表5)。

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図表5は図表4の最新月(13期7月)を、部門別(店舗別)グラフにしたものです。ここでは、部門を店舗として設定していますが、実際には、事業部門、顧客、地域など自社の実情に応じて部門を設定することになります。

なお、この図表5の場合、L店が相対的に減収減益幅が大きいため、次は、L店の時系列グラフ(図表2~4)を作成し、この減収減益が一時的なものなのか、トレンドとして続いているのかを検討していくことになります。

以上(2022年6月)
(監修 公認会計士 益子宣夫)

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画像:pixabay

【朝礼】ビジネスでは格好つけるな!

先日、知り合いの社長と食事に行ったときの話です。私たちのテーブルから2つ離れたテーブルでは男女2人ずつの4人グループが食事をしていました。ほどなくして、私たちとその4人グループの間のテーブルに家族連れが案内されました。

家族連れは、4人グループのテーブルのそばを通ってそのテーブルに着こうとしました。そのとき、4人グループの1人が通路に放っていたリュックを子供が踏んでしまいました。「ごめんなさい」と子供が謝ると、4人グループの1人は、「気にしなくていい」といったそぶりで無言のまま片手を上げました。恐らく、自分の寛大さを仲間やその家族連れにアピールして、格好をつけたつもりなのでしょう。しかし、私も知り合いの社長も強い違和感を覚えました。

考えてみてください。子供はリュックが通路にはみ出していたから踏んでしまったのです。つまり、そこに放っておいたその人がよくないのです。また、これは「ヒヤリハット」です。この後子供がトイレに行くときに、今度はリュックにつまずいてテーブルの角に顔でもぶつけてしまったら、大きな事故になる恐れがあります。これくらいのことがイメージできないのは短慮です。加えて、子供が謝罪しているのに、大人が声も出さずに片手を上げて応えるだけとは常識がありません。

この場合の格好いい対応とは、「子供のほうを向いてしっかりと謝罪し、速やかにリュックを引っ込めること」なのです。

誰でも格好よくありたいと思っています。しかし、格好いいの基準は人それぞれですし、TPOもあるので、普遍的ではありません。

ただし、1つ言えるのは、「自分をよく見せよう」としてうわべだけをとりつくろったりするのは、とても「格好悪い」ということです。

ビジネスでは、「トラブルなく仕事をして自分をよく見せたい」という思いから周囲との衝突を避け、当たり障りのない意見ばかりを言う人がいます。本人は格好よくスマートに立ち回っているつもりかもしれませんが、私から見れば、自分の得点を下げないことで精一杯のように思えます。衝突を恐れずに自分の意見を正しく主張するほうが、よほど格好いいと私は思います。

同様に、「部下にチャンスを与える!」など部下育成の姿勢を見せていても、実際は自分から一切動かず、リスクをとらないというのは、部下思いではなく、自分思いなだけだと私は思います。部下にチャンスを与えるために、自分は上役から叱られるかもしれないけれど、リスクをとって部下にチャレンジさせたり、自分がチャレンジする姿を部下に見せるほうが、よほど頼もしいです。

うわべだけ格好をつけても、上司や部下、同僚、取引先などからすぐに本質を見抜かれてしまいます。リアルなビジネスは泥臭いもので、ぶざまでも一歩一歩進むしかありません。その泥臭さこそ、本当に「格好いい」姿といえるのではないでしょうか。

以上(2022年6月)

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画像:Mariko Mitsuda

知的財産の活用~BtoC企業のブランディング~/意外と知らない「知的財産権」シリーズ10

書いてあること

  • 主な読者:自社で製造企画を行い、消費者に直接販売している経営者
  • 課題:自社商品・サービスを差異化して競争優位を保ちたい
  • 解決策:消費者に体験やストーリーを共有した上で、それらを強化するために、商標や意匠を活用してブランディングを成功させる

1 消費者に受け入れられるブランディングを目指して

消費者はブランドだけを単純に求めず、自分に必要な具体的な情報に基づいて購買の意思決定をしています。飲食料品、化粧品、サプリメント、農産物など、健康・生命・美容といった自らの重大な関心事に直結するものについては、「賢い消費者」としての消費行動が定着しつつあり、実店舗は、「商品販売の場」から、企業と消費者が体験やストーリーを共有できる「絆づくりの場」に変わりつつあります。今回は、知的財産を活用したブランディングの事例を紹介します。

2 意匠を活用したデザインによるブランディング

まずご紹介するのは、意匠を効果的に活用して、ブランディングを行う方法です。

「カートリッジ」に入ったリキッドを電気加熱により蒸気にして、これを、専用の「たばこカプセル」に通過させることで発生するたばこベイパーを吸引するプルームテック(Ploom TECH)は、紙巻たばこに比べて有害性物質が少なく、かつ、燃焼を伴わず安全性が高いことから、人気を得ている加熱式たばこの一種です。

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プルームテックは、バッテリーから供給される電力でカートリッジ内に備わる小型ヒーターが発熱する仕組みであることから、安全装置が内蔵されています。ところが、カートリッジ側の回路はヒーターのみであるため、安全装置のない互換品でも動作してしまうという問題があります。安全装置に関する特許を持っていたとしても、互換品がこれを備えなければ特許権侵害にはならないため、特許権では互換品を排除することはできません。また、接合部分の構造そのものを特許化することも容易ではありません。

そこで、日本たばこ産業(JT)は、バッテリーとカートリッジの接合部分の形状を意匠登録して、そのような形状を有する互換品を効果的に排除しています。接合部分のデザインを知財として確保することで、「安全性」という付加価値を伴ったブランディングを行っているのです。

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3 商標を活用したブランドの維持

体験やストーリーの共有などを通してブランディングに成功したとしても、その付加価値の維持には独占化の努力が不可欠です。特に新規の商品・サービスを開発してネーミングを検討する際は、その商品・サービスの特徴を暗示するような商標を採択することがあります。

もっとも、このようなネーミングは、一般的に識別力が弱いことが多く、商標管理を適切に行わなければ普通名称化して、やがて十分に権利行使できなくなることがあります。「エスカレーター」「ホッチキス」「巨峰」「うどんすき」「正露丸」「ポケベル」「サニーレタス」「ういろう」「西京味噌」「デジカメ」「ホームシアター」などは、かつては登録商標として権利性を認められていましたが、現在では普通名称化などの理由により、独占排他的な商標ではなくなったと考えられています。

従って、自社の「ブランド」を維持するためには、「取得した商標権と同じ商標を正しく使用する」「同一又は類似の商標を第三者が使用している場合は、速やかに権利を行使してこれを排除する」といった、不断のメンテナンスが必要といえるでしょう。

自社の登録商標と一般的な名称を明確に区別している味の素は、その好例といえます。

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4 消費者への体験やストーリーの共有を中国企業に学ぶ

1)SNSの商品紹介でも体験やストーリーが重要に

こちらは、中国の女優・モデルとして著名なインフルエンサーである「Angelababy」さんの小紅書アカウントです。「ファン」は約235万人、動画内では最新の化粧品などを使用しつつ、おススメを紹介したりしていますが、ある動画に投稿された「いいね」の数は8795でした。

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これに対して、こちらは一般人の「Rika0_0」さんのアカウントですが、「ファン」は約182万人で「Angelababy」さんを下回っているものの、彼女が投稿する化粧品の動画では、実際に使用方法を具体的に説明しながら、成分情報なども詳しく紹介していて、約4万8000もの「いいね」を得ています。

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これらのことは、動画の視聴者が表面上の美しさや有名インフルエンサーのおススメといったうたい文句よりも、「具体的な商品情報」や「商品に対する信頼感」を求めていることを示します。つまり、SNS上でも体験やストーリーの共有が求められているということができます。

2)食の安心・安全で消費者との絆をつくった巨大飲料企業「農夫山泉」

「農夫山泉(Nongfu Spring)」という中国の大手ボトルウオーターメーカーをご存じでしょうか。前身企業を設立したのは1996年で、2020年9月に香港に上場すると、寄り付き価格が39.8香港ドル(約560円)と、発行価格から85.12%上昇する人気銘柄となり、時価総額は4452.92億香港ドル(約6兆2000億円)に達しました。

その結果、創業者の鐘●●(●は「目偏に炎」、Zhong Shanshan)氏は資産額が5000億香港ドル(約7兆円)となって、テンセントのポニー・マー氏、アリババのジャック・マー氏を上回り、長者番付で中国1位となった企業です。2020年8月末の公募段階でも購入希望者は70万人以上、倍率は1148.3倍、調達額は6709.5億香港ドル(約9兆4000億円)で、香港市場史上最高額となっています。

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中国飲料水市場のシェアは20%、年間売上は240億元(約3730億円)で、その3分の2がボトルウオーターです。1997年に浙江省千島湖を水源とする「農夫山泉」ボトルウオーター第1号商品を発売後、2003年にはジュース、2004年には機能性ドリンク、2011年には茶飲料へと進出しました。その過程で、果実そのものを商品展開するに当たり、消費者との間で、体験やストーリーを共有できる「絆づくり」の観点からのブランディングに成功しているといえます。

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特に、「17.5°シリーズ」と呼ばれる果実を商品展開するに当たって、商品を「追跡可能」な農産物とすることで、食の安心・安全を確保できることをアピール。さらに、「甘さの基準」を数値化することによって、「確実に甘い」果物のブランドイメージを獲得しています。そのブランド展開においては、「生産者の顔」「商品へのこだわり」「商品ができるまでのストーリー」といった、いわば商品の付加価値を消費者に追体験してもらうことで、顧客を「ファン」として確実に増やしていったといえます。

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この結果、「17.5°シリーズ」の果実は、通常のオレンジやリンゴと比較して2倍以上の価格で取引されており、ブランディング戦略によって価格決定力を手にすることに成功しています。

これに対して、以下の写真は日本のあるデパートの青果売り場の様子です。せっかく高品質の果物であっても、具体的な「情報」や「ストーリー」の発信がなく、単に売り場に陳列しているだけとなっています。

このような手法では、消費者が「共感」できる「情報」や「ストーリー」を伝えることができず、結果として、消費者からのロイヤルティーは得られにくいと考えられます。陳列「するだけ」では、そのこだわりや生育状況などを消費者にアピールすることはできません。ブランディングという観点からは、まだまだ工夫の余地がありそうです。

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以上(2022年6月)
(執筆 明倫国際法律事務所 弁護士 田中雅敏)

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画像:areebarbar-Adobe Stock

【会社の見える化】グラフを使えば会社の状況が驚くほど見えてくる

書いてあること

  • 主な読者:財務分野の「見える化」を進めたい経営者
  • 課題:会社が大きくなるにつれ、会社の財務分野の状況が見えなくなっている
  • 解決策:数値をグラフ化して状況を可視化し、トレンドに対する正確なイメージを持つ

1 グラフ化することの効果

経営者の皆さんは、決算書や月次試算表などを見て自社の状態をチェックしていることでしょう。しかし、売上高や利益額、これらの対前期比の増減額や増減率、さらに原価率や人件費額など、たくさんの数値を全て記憶している人はどれだけいるでしょうか。

また、当然ですが、会社は動いています。この動きをコントロールするのが経営ですから、自社の動きを正確に捉えることが非常に重要です。ただし、こうした数値は、ある一時点のもの、すなわち“点の情報”にすぎません。こうした断片的な数値を記憶することよりも、トレンドを正確に認識するほうが、経営においては重要です。そして、そのための最善の方法が、

数値を時系列でグラフ化し、会社の「見える化」を図ること

なのです。別の言い方をすれば、数値をグラフに変換し、状況を可視化して、トレンドに対する正確なイメージを持つことが大切なのです。

両者の違いは明確です。例えば、「100」と「1000」の2つの数値で比較してみましょう。

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「1000」は「100」の10倍であることは理屈では誰でも理解しています。しかし、これを数値で表すと、見た目の違いは、わずか「0」1つだけです。一体どれほどの人が、「1000」が「100」の10倍であることを、正しくイメージして心に残せるでしょうか。

ところが、グラフを使って表現すると、「1000」は「100」の10倍の面積になります。

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グラフであれば、直感的かつ正確に量の違いを認識でき、また、記憶にも残りやすくなります。違う言い方をすれば、両者の違いを認識せざるを得なくなります。ここに、会社の見える化をグラフで表すことの大きな意義があるわけです。

2 認識の共有化を促進する

グラフ化すると、関係者間における認識の共有も促進できます。部下の中に「自分は数字が苦手だから」と公言している人はいませんか。そういう人でも、数値ではなく、グラフで状況を見せることで、そうした“言い訳めいた発言”は聞かないで済む可能性が高まります。

もう1つ例を挙げてみましょう。例えば、会議における業績報告の場面を思い出してみてください。「ビジネスでは数値が大切」とはいうものの、「○○部門の12月の業績は売上高450万円、対前月比10%減。営業利益は……」などと口頭での報告や、文章による説明だけだったらどうでしょうか。たとえ、数字が苦手な人ではなくとも、その数字を全て記憶することは容易ではありません。また、「対前月比10%減」という重要な情報が抜け落ちてしまい、「売上高450万円」だけが記憶に残る人もいるでしょう。

大きな問題は、同じことを聞いたり見たりしても、記憶に残る内容は人それぞれだということです。そのため、「売上高450万円」だけが記憶にある人は、「まあまあだな」といった漠然とした印象だけが残ったり、逆に「対前月比10%減」だけが記憶にある人は、「とにかくまずい!」といった焦りだけが印象に残るなど、同じ情報を見聞きしても、人によって認識が異なってしまうことがあります。

一方、これをグラフで表した場合はどうでしょう。

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このグラフは、あえて各月の具体的な数値は表示していません。しかし、具体的な数値を把握できなくても、グラフを見れば「12月になって急に売上高が減少している」という状況を誰もが認識することができるでしょう。

会社の見える化をする意義は、数値をグラフ化すること自体にあるのではありません。会社の見える化を進める意義は、数値をグラフ化することで、経営者が会社のトレンドを把握できるようになると同時に、関係者間で正しい認識を共有することによって、

的確な打ち手を検討し、会社全体が1つの方向に向かって行動することができる

ようになることにあります。

以上(2022年6月)#
(監修 公認会計士 益子宣夫)

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画像:pixabay

【広告】熱中症の応急処置と熱中症予防に有効なIoT/AI管理ツール

書いてあること

  • 主な読者:建設・土木業、製造業、運送・物流業、警備業、商業、農業等の会社経営者および役員、管理職、人事・労務担当者
  • 課題:熱中症は、症例によっては急速に進行し、重症化することがあります。従って、作業者の体調不良を早期に把握し、適切な処置を施すことが必要であり、管理者や作業者全員が日頃から正しい応急処置方法を身につけておくことが重要です。
  • 解決策:重症の場合は救急車を呼ぶことはもとより、現場ですぐに体を冷やし始めることが必要です。また、熱中症の発症は個人差が大きく、自覚症状が出たときには手遅れになりやすいため、作業者の体調不良を早期に把握することが重要です。そのためには、人による労務管理だけではなく、IoTウェアラブルデバイスによる管理ツールを導入することも有効です。

1 作業者の体調不良を示す「危険信号」を見落とさない!

近年の夏の暑さは当たり前を通り越して、“猛暑が普通”と思われるような気候となってきています。とくに、今夏(6~8月)は、「太平洋高気圧(夏の高気圧)の北側への張り出しが強い」とみられており、暑さは厳しく、そして長い期間、猛暑になる可能性が高いと予報されています。

そのような猛暑において気を付けなければならないのが、熱中症。軽症のうちは体温が上がらないことがあるため、熱中症に気付きにくく、そのまま放置している間に重症化して、死に至ることもあります。軽症の段階で早期に対応することが重要です。
作業者の体調をよく観察し、不調のサインを見落とさないことが大切です。

<こんな症状がでたら危険信号です!>

  • めまい・立ちくらみや失神(熱失神)

熱中症の代表的な初期症状です。暑さによって上昇した体温を下げようとして血管が拡がるため、血圧が下がり、脳への血液の量が減少します。そのため、顔面から血の気が失せて、めまいや立ちくらみ、場合によっては、一時的に失神することがあります。このような症状は、単独で発症することは少なく、多くは頭痛や吐き気・嘔吐、全身の倦怠感等を伴います。
めまいや立ちくらみ等の軽症の段階で熱中症を疑い、水分補給や休憩するなどの対応を行いましょう。

  • 筋肉痛や筋肉の硬直・けいれん(熱けいれん)

「手足のしびれ」や「足がつる(こむら返り)」、「足がぴくぴくする」などの症状がある場合は、熱けいれんを疑いましょう。意識ははっきりしていることが多く、必ずしも体温上昇を伴うわけではありません。

  • 大量の発汗、逆にまったく汗をかかない

熱中症の初期は、体温を下げるために汗をかきますが、体内の水分が失われると、それ以上汗をかくことができなくなります。汗のかきかたに異常がある場合には、熱中症にかかっている可能性があります。

  • 高い体温

汗をかかなくなると、体温が上昇します。熱中症が重症化すると、40℃超の高熱が見られることがあり、「熱射病」と呼ばれる状態に陥ることがあります。

  • 意識障害(応答が異常である、呼びかけに反応がない等)

おかしな応答や声を掛けても反応しない。また、歩行できないなどの異常がみられる場合は、重度の熱中症にかかっています。躊躇なく救急車を呼ぶことが必要です。

  • 水分補給ができない

自分で水分補給できない場合は、危険な状態です。無理に水分を口から飲ませることはやめて、すぐに医療機関を受診しましょう。

2 熱中症疑い時の応急処置

熱中症は「非労作性熱中症」と「労作性熱中症」 に大別できます。これらの基本的な症状は同じですが、発症環境と症状の進行時間に大きな違いがあります。

工事現場や製造現場等で労働されている作業者が発症する熱中症は「労作性熱中症」に該当し、「非労作性熱中症」に比べて、その症状の進行時間は早く、数時間のうちに悪化するため、身体に大きな異変が起きてから気付くことも多く、救命のためにも適切な対処方法を身に付けておくことが重要です。

  • 非労作性熱中症:

基本的に気温の高い室内などの暑い環境で長時間生活していると発症し、症状は数日間かけてゆっくりと進行します。

  • 労作性熱中症:

暑い環境に加えて、過度な作業や運動に伴うもので、作業をしている労働者に多く発症しています。

「熱中症疑い時の応急処置」を次図に示していますので、参考にしてください。

重症の場合は、救急車を待たずに現場ですぐに体を冷やし始める

熱中症による重症者を救命できるかどうかは、いかに早く体温を下げることができるかにかかっています。何らかの意識障害が認められるような場合は、救急車を要請することが必要ですが、その到着前から、冷却を開始することが必要です。

体温が高く、意識障害が認められるような場合は、全身を氷水(冷水)に浸ける「氷水浴/冷水浴法」が最も体温の低下効果が高く、救命につながることが知られていますが、医師の管理下において、直腸温を継続的にモニターできる人的・物的環境が整った状況で実施する必要があります。そのような環境でない場合には、水道につないだホースで全身に水をかけ続ける「水道水散布法」が推奨されます。

どこを冷やすのが効果的か?

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体表近くに太い静脈がある場所は、大量の血液がゆっくり体内に戻っていく場所のため、その箇所を冷やすのが最も効果的です。
具体的には、頚部の両側、腋の下、足の付け根の前面(鼠径部)等です。そこに保冷剤や氷枕(なければ自販機で買った冷えたペットボトルやかち割り氷)をタオルでくるんで当て、皮膚を通して静脈血を冷やし、結果として体内を冷やすことができます。冷やした水分(経口補水液)を摂らせることは、体内から体を冷やすとともに水分補給にもなります。
また、濡れタオルを体にあて、扇風機やうちわ等で風を当て、水を蒸発させて体を冷やす方法もあります。

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3 IoTデバイスを活用した熱中症予防の管理ツール

前項のとおり、熱中症を予防するためには、作業者の体調不良を早期に察知して、適切な対応を図ることが大切ですが、単独での作業や逆に作業者が多い作業場等では、作業者の体調を観察することにも限界があります。そこで今回は、IoTデバイスを活用した熱中症予防に有効な管理ツールとして多くの企業で採用されている「みまもりふくろう」をご紹介します。

【労務/熱中症管理サービス】 みまもりふくろう

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リストバンド型デバイスにより作業者の脈拍と位置情報をリアルタイムに計測し、企業の労務管理と熱中症対策をサポートするウェアラブルIoTサービスです。

Webサイト:https://www.sompo-rc.co.jp/services/view/184

熱中症の発症は深部体温(直腸温)との相関が高いことが一般的に知られていますが、専門家によれば、その深部体温と脈拍との間にも相関性があるとされています。

「みまもりふくろう」はこの原理を利用して、脈拍を計測することで、着用者の熱中症を予防する管理ツールです。作業者の脈拍をリアルタイムに計測し、熱ストレスによる危険度が高まると、作業者本人や管理者にアラートメールを通知するため、新たな熱中症予防の管理ツールとして大きな注目を集めており、管理者にとっての労務管理支援ツールとしても魅力的と考えられます。

この「みまもりふくろう」の特長は以下のとおりです。

「みまもりふくろう」の5つの特長

  • 個々の体調を考慮したアラート

危険度が高まるとアラート通知されるため、客観的なデータを元に休憩が必要なタイミングを把握できる。

  • アラート基準値はAIが自動設定

AIが学習し、個人に最適な値へと自動修正するため、使うことで精度が向上する。

  • GPS機能で位置情報の把握が可能

夜間や1人作業中に異常が発生しても早期に発見し、作業員を守ることができる。

  • 多彩なダッシュボード機能で現場管理を支援

取得したデータを元に、様々なレポート抽出が可能。とくに危険度が高い作業者や作業内容を把握し、職場内での相互理解を深めることができる。

  • 低価格で導入しやすい

デバイス1個あたり13,000 円(税別)、月額料金2,000円(税別)から利用できる。ただし、デバイス10個以下の場合の月額料金は20,000円(税別)。最低利用期間は3ヵ月。

とくに導入費用に関しては、デバイス費用以外のシステム構築費用等が不要なため、低価格でのサービス提供を実現しているほか、夏場の3か月間だけというような期間利用も可能なため、導入しやすいサービスとなっています。

作業員が高齢化するなど、労働安全管理がより難しくなる中、管理者の責任は年々増え、安全配慮義務違反を問われる事例も増加してきています。このような状況下で、作業者だけでなく、管理者を守ることを目的としたサービスは、今後ますます重要視されていくものと考えられます。

新時代の熱中症対策、また労務管理ツールとして、作業者の個人差を踏まえて熱中症管理ができる他にない機能を有した「みまもりふくろう」の採用を検討してみてはいかがでしょうか。

詳細なサービス内容や料金等は上記のWebサイトから確認可能です。

【参考文献】

  • 気象庁「暖候期予報(令和4年2月25日発表)の解説」
  • 厚生労働省「職場における熱中症予防対策マニュアル」
  • 環境省「熱中症環境保健マニュアル 2022」(令和4年3月改訂)
  • 前田俊輔・伊達豊他「暑熱環境下における漸増負荷運動時の深部体温と生理情報との関連」日本生理人類学会誌 Vol.23,No.4  2018, 11

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画像:作成者-Adobe Stock

以上(2022年6月)

「上座」「下座」をめぐるビジネスマナーの本質/今どきの若手社員のトリセツ〜上司や先輩に贈るストレスマネジメントの処方箋 Vol.2

近年、職場の上司や先輩(いわゆるオトナ世代)は、若手社員の言動を理解できないイライラ、腑に落ちないモヤモヤを抱えつつも、指導の際は「パワハラ」と感じさせないように、気遣いや遠慮が求められるようになりました。
そもそもオトナ世代が若手にストレスを感じる原因は、オトナの考えと、若者の行動のすれ違いによるものがほとんどです。しかし若手に対して「けしからん!」と怒ったり「理解できない!」と嘆いたりしていたことを、冷静に分析するだけでスッキリすることもあります。

本連載は、拙著「イライラ・モヤモヤする 今どきの若手社員のトリセツ」を一部抜粋し再構成してお届けします。

  • オトナ世代が違和感をもつ若手社員の言動を具体的にピックアップ
  • ギャップやストレスの正体を分析
  • 円滑なコミュニケーションや適切な指導法を考察

という3ステップで、オトナ世代にとっても必要なストレスマネジメントについて解説していきます。

1 おいおい、会議室で上座に座っちゃダメでしょ

オトナのイライラ・モヤモヤ
会議室に入って、びっくり。ウチの部署の若手が議長席に座っている。おいおい勘弁してくれよ。議長役の事業本部長がまだお見えになっていなかったからよかったものの、見つかったらと思うと、冷や汗ものだ。新人研修で「上座」「下座」のマナーは教えてもらったんじゃないのか!?

若手のホンネ
会議室の「上座」「下座」って、マナー研修で教えてもらいましたよ、確かに。でも、ぶっちゃけ、座る場所なんてどこでもよくないスか? いや、会議資料をスクリーンに映すとき、一番偉い人が一番見やすい席に座るとか。そういうルールなら、合理的で納得感ありますけど……。

部長や課長を差し置いて自分が上座に座る。お客様を下座に座らせてしまう。そんな失礼かつ常識知らずなシーンを、オトナ世代が目にしたら、イライラ・モヤモヤを通り越して、烈火のごとく怒りだしてしまうかもしれません。少なくとも筆者はそうでした。

とはいえ、年齢や仕事上の地位が上の人が座る席=「上座」で、地位が下の人や主催者側が座る席=「下座」。雑にこう教えられただけだと、冒頭の「上座って意味あります?」的な感じで、若手には響かないんじゃないでしょうか。

そもそも、「心地よい場所」に目上の方をお通しするというおもてなしの心が、席次ルールの基本ですよね。その昔から、入り口から遠い場所というのは、床の間や飾り棚が置かれることが多い神聖な場所でした。
会議室にはこうした設備はありませんが、静かな落ち着く場所であることに変わりはありません。このように、出入り口から遠い席が上座、近い席が下座となっていることには、本来の意味があるわけです。

2 別にいいんだけど、いつもこっちがエレベーター係なんだよな

会議室だけではなく、エレベーター内にも上座と下座が存在するのは、ご存じの通りです。当然、下座は操作盤の前。混み合っている場合に無理に動いて移動する必要はないものの、こうした立ち位置はビジネスマナーの常識ですよね。

オトナのイライラ・モヤモヤ
なんか気付くとエレベーターの操作盤の前にいるのは自分なんだよな。若い頃から、真っ先に乗り込んで操作盤の係をやるってのは、もう長年しみついている行動だ。だからといって、若手にそれを強要するわけじゃないけど。でも、なんかモヤっとするよなぁ。

若手のホンネ
目上の人にエレベーターのボタンを押してもらうのは失礼にあたるって……。じゃあ、ボタンを押したくない人はボタンの前に立たないでほしいです。てゆーか、位置や順番的に上司や先輩がボタンの前に来たのなら、押してもらえばよくないですか。無理やりボタンを奪いにいくのがマナーって、ちょっと意味分かんないんですけど。

ここで、正式なエレベーターマナーをおさらいしてみましょう。本来、マナーとしては「空間には上位者が先に入るもの」という考え方があるため、先に上司など目上の人に乗ってもらうもの。しかしエレベーターの場合は、安全やスムーズな乗り降りが優先されます。途中でドアが閉まらないようにフォローするために、下位者が先に乗り込むのがマナーとなっているようです。
そして、乗り込む前には「本来は先に乗っていただくところを、お先に失礼します」という気持ちを込めて、相手とアイコンタクトを取ったり、「失礼します」と言ったりして、乗り込んだら、すぐに開閉ボタンの「開」を押します。

また、エレベーター内にすでに人がいる場合は、乗る順が違います。中にいる人が操作をしてくれることが多いので、本来のマナー通り上司に先に乗ってもらいます。さらに、自分が乗ったら、可能な限り操作盤の近くの下座側に立って、目上の人が操作してくれている場合は「代わります」と声を掛けます。この一連の動作が正解。

オフィスのエレベーターはビジネスの場。密室で狭い空間なので、ちょっとした振る舞いが目立ちやすいのです。だからこそエレベーターマナーが存在するのでしょう。とはいえ、「鉄則としてエレベーターは先乗り・後降りが基本」くらいの感覚で長年やってきたオトナ世代も多いんじゃないでしょうか。シーンによって乗り込む順番が違うんだ……などと、正式なマナーを目の当たりにすると、「そこまで厳格にやる?」と思ったりしませんか。

筆者を含め、大半のオトナがそうだとしたら、合理的な若手は余計にそう感じているはずです。「不要なビジネスマナー」や「次世代に残したくないビジネスマナー」といったランキングに名を連ねているのも、理解できなくはありません。

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3 オンライン会議の上座機能に失笑

オトナがイライラ・モヤモヤするのは、結局のところ、「形式というより気配り」の観点なんだと思います。絶対「下座に座れよ!」とか「操作盤の場所に立ってエレベーター係やれよ!」とか思っているわけではなく、マナーの本質に沿った行動を望んでいるだけなんですよね。

一方で、「そういうオトナだって上座、下座マナーが思いきり形骸化しているじゃないですか!」と、若手にツッコまれても仕方ないようなニュースが報じられました。Web会議ツールの「Zoom」が新たに搭載した「カスタムギャラリービュー」という機能が、「Zoomの上座機能」だと物議をかもしたのです。

「Zoomの上座機能はネタかと思うレベル(笑)」
「この機能を使わないといけない同調圧力が発生して、社員の工数が増える」
「いい機能だが、日本では『エラい人を上座に配置』するクソマナーが定着していく」

ネット上では、否定的な若手の声が後を絶ちませんでした。

そもそもこの新機能は、発言者を目立つ位置に配置するために開発されました。なぜ、それが「上座機能」といわれるのか。その理由は、幾つもの日本企業がZoomに対して、「部長や役員を大きく表示できないか」「上役を画面の上座に表示できないか」と要請していたからなのです。

会議室というリアル空間なだけでなく、オンライン上のバーチャル空間で行われる会議までも席次を気にする。そこからは「心地よい場所」にお通しするといった本来のおもてなしの心ではなく、形式や対面を気にしすぎるオトナ的な一面が漂ってきます。

4 イライラ・モヤモヤ解消法

世のオトナ世代は大変です。
若手に対しては立派に振る舞いたいけど、組織の中での立場もあるからこそ、板挟みになることも往々にしてあります。「上座」「下座」といった席次問題などは、自分の上司と若手の間で、気を使わざるを得ない代表的な例といえるでしょう。

目上の方には会議室の奥に座っていただく、自分は入り口付近に座る。
乗るのは自分が先、降りるのはお客様が先。

当たり前ですが、これらはマナーのガイドラインのひとつにすぎません。(Zoomの残念なエピソードを反面教師として)自らが席次マナーの本質に立ち返って考えて、「おもてなしの本質」で若手と手を握っていく。これをおススメします。

マナーというものには全て意味・目的・理由があります。 目指すのは「同じ時間、空間を共有する者同士、互いに不快感を与えないために、気持ちの良い時間を過ごしてもらうために」ということを目的とした気配り・気遣い・思いやりですよね。
本質は、

周囲に対する気遣いを実現させるために、時宜に応じた最適解を導き出す知恵を身に付けること

です。こういう本質論の観点で、若手とコミュニケーションをしていきましょう。若手の気遣いが多少ズレていたとしても、彼らなりの思いやりが発揮されれば、かわいく感じられるんじゃないでしょうか。

以上

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2022年6月22日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

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【管理会計】利益も大事ですが、資金繰りも確認をしていますか?

書いてあること

  • 主な読者:感覚だけでなく、定量的な基準や根拠を持ってビジネスの判断をしたい人
  • 課題:資金繰りを確認する理由や、具体的なチェックポイントが分からない
  • 解決策:運転資金を把握するために、売上債権、棚卸資産、仕入債務の残高管理や回転期間分析を実施する

1 質問:今、会社にいくら資金が必要か分かりますか?

業績が悪化しているときだけでなく、好調なときにも資金繰りへの注意を怠ってはいけません。資金繰りに大きくかかわっているのが、会社が日々の事業を営んでいくための資金、つまり運転資金です。

運転資金は、

運転資金=売上債権+棚卸資産―仕入債務

の算式で計算されます。図で表すと、次のようになります。

画像1

売上債権は商品などを売り上げましたが、掛け売上のためまだ入金されていません。また棚卸資産もまだ売られていない在庫なので、売上債権と同様、まだ入金はありません。一方、仕入債務は原材料や商品などの仕入代金で、掛け仕入のため、まだ出金されていません。

このように、

入金のタイミングと出金のタイミングにタイムラグがあると、一時的に資金が足りなくなってしまいます。この足りない場合の資金を補うものが運転資金

なのです。

では、早速、次の売上債権、棚卸資産、仕入債務を使って、運転資金を求めてみましょう。その上で、4月から5月に売上高が大幅に増えたことによって、必要な運転資金がどれだけ増えるかも併せて確認してみましょう。

画像2

2 運転資金を計算し、追加資金が必要かどうか判断する

運転資金は、

  • 4月:売上債権1,000千円+棚卸資産200千円-仕入債務700千円=500千円
  • 5月:売上債権5,000千円+棚卸資産500千円-仕入債務4,300千円=1,200千円

となります。

ただ、運転資金がいくらなのかを把握するだけでは意味がありません。前月からの運転資金の増減の結果、資金繰りにどのような影響があるのかを知る必要があります。そして、それに対する追加資金の必要性と、その対応が可能かどうかを確認しなければなりません。

この事例では、4月から5月にかけて、追加で運転資金700千円(1200千円-500千円)が必要になりました。損益計算書からみて、取引規模(売上の増加)が大きくなったことが原因と分かります。もし、社内に余剰資金があまりなく、翌月の売上見込みも5月同様の取引規模が継続する場合には、追加資金の手当てが早急に必要になります。

このように急激な売上の増加があったときには、業績的には好調でも、資金繰りに困ってしまうという事態に陥る可能性があるのです。

3 より詳細な分析のために必要な「回転期間」による分析

運転資金の変動要因は、売上の増減だけではありません。売上債権の回収が滞っていたり、棚卸資産(在庫)の販売状況が悪かったりして、必要な運転資金が増えている場合もあります。このような異常な増減のケースでは、売上債権、棚卸資産、仕入債務の「回転期間」の変動も見ておく必要があります。

回転期間とは、

売上債権を回収するまでの期間、棚卸資産が売れるまでの期間、仕入債務を支払うまでの期間

をいい、経営の効率性を知るための指標です。それぞれ次のように算式で計算されます。

  • 売上債権回転期間=売上債権÷(売上高÷365日)
  • 棚卸資産回転期間=棚卸資産÷(売上原価÷365日)
  • 仕入債務回転期間=仕入債務÷(売上原価÷365日)

運転資金の回転期間は、上記3つの回転期間を使い、

運転資金回転期間=売上債権回転期間+棚卸資産回転期間-仕入債務回転期間

の算式で計算します。

もちろん、この指標も、月ごと、年ごとで比較し、増減を把握していかなければなりません。増減が大きい場合は、取引先の経営状況の変化や営業部門の人員配置がうまくいっていないなど、決算書だけでは読み取ることができない原因の追求に役立つことになります。

また、運転資金に関しては、この記事で解説してきた売上債権、棚卸資産、仕入債務で計算されるもの以外に、賞与の支払いや税金の支払いなどのような季節的に発生するもの(季節運転資金)があります。毎年同じタイミングに発生するものなので、3年分くらいの月次単位での資金繰り状況を確認しておくとよいと思います。

以上(2022年6月)
(執筆 管理会計ラボ株式会社 取締役・公認会計士 福原俊)

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