【カンタン経済講座】国際紛争・環境対応・感染症 世界情勢が日本経済に影響するメカニズム

書いてあること

  • 主な読者:ヒト・モノ・カネに関して直接的、間接的に海外と関係している企業の経営者
  • 課題:激動する世界情勢が日本経済に及ぼす影響を考えたい
  • 解決策:既に発生した国際紛争・環境問題への対応・感染症のまん延という事象が日本経済にどのように影響を及ぼすのか把握する

1 激動の世界情勢が日本経済を直撃する

  • ロシアによるウクライナ侵攻
  • 脱炭素社会の実現を求める国際的な機運の高まり
  • 新型コロナウイルス感染症のまん延

世界で発生するさまざまな問題は、日本経済にも大きな影響を及ぼしています。日本経済を語る上で、もはや「対岸の火事」という言葉は使えません。グローバル経済が発展した現代では、対岸どころか、地球の裏側で起こったことも、日本経済に深刻な打撃を与えます。

こうした世界における問題は、私たちには防ぎようのない、いわば荒波です。その荒波に沈没しないように企業のかじを取っていくには、まずは荒波が日本経済に及ぼす影響を理解しておくことが大切です。

このシリーズでは、世界の外交・環境・感染症といったリスクが、日本経済にどのように影響を及ぼすのか、そのメカニズムについて2回にわたって解説します。

2 国際紛争は不景気や世界経済のインフレを招く

・具体的な事象

ロシアによるウクライナ侵攻の長期化(中国のロシア支持や西側諸国の経済制裁強化)

・想定される日本経済への影響

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1)資源国の国際紛争は日本に大きな影響

国際紛争などの外交問題は、関係する国が日本にとって依存度の高い資源国の場合、とても大きな影響を及ぼすことになります。

例えば、ロシアによるウクライナへの侵攻が続き、ロシアとの貿易などが困難になれば、直接取引している日本企業はもちろん、ロシア産品を使っている企業にも大きな影響が出かねません。輸出が難しくなり困る企業もあるでしょうし、ロシア国内に工場を持っている企業などにとっては深刻な問題となります。

日本経済全体としての影響を考えた場合、それよりもはるかに深刻なのは、エネルギーなどの資源類の輸入が止まることでしょう。ロシアのエネルギーが輸入できなくなった場合、世界的なエネルギーの不足が生じて、エネルギー価格が高騰するかもしれません。

エネルギー価格が高騰すれば、日本経済としては「産油国が増税した」ような影響を受けるわけです。カネが海外に流出していき、消費者は高いガソリン代などを払う分だけ他のものが買えなくなり、景気は悪化するでしょう。

また、エネルギー価格が高騰すれば、世界経済がインフレになりますから、世界的に金融が引き締められ、景気が悪くなったり、株価が値下がりしたりするでしょう。

ロシアに依存している希少金属などについては、価格の問題というよりも、「それを使わないとつくれない製品」があり得ることが問題です。代替品を使って同じものをつくる技術が簡単に開発できればよいのですが、そうでないと、特定の一部製品の不足が続いてしまいます。

また、ウクライナは農業大国であり、世界の穀物生産に占めるウエートが大きいので、作付けができない場合は、世界の穀物生産量に影響を及ぼします。

2)国際分業体制の後退は世界経済に深刻な事態

中国は巨大な市場ですから、対中輸出が激減するようなことになれば、世界は深刻な不況に陥ることでしょう。仮に中国が明確にロシアを支持する姿勢を取った場合、それに対して西側諸国が中国に対しても種々の経済制裁を科す可能性があります。その場合、日本を含む対中輸出への依存度の高い国の経済は影響を受けることになるでしょう。

しかし、それ以上に深刻なのは、中国との国際分業が急激に後退することです。中国製品の輸入が止まったり、中国にある外国の工場が操業できなくなったりすれば、これまで世界経済の発展を支えてきた大きな流れが逆流しかねません。世界経済は、「お互いが得意なものを大量につくって交換する」という国際分業によって発展してきました。その流れが逆流するとなると、さまざまな経済活動に、これまで必要なかったコストが上乗せされることになります。事態は深刻です。

日本が得意とするものをつくっても中国に輸出することができず、中国が得意とするものは中国以外の国から輸入しなければならなくなります。場合によっては、中国に進出している工場なども閉鎖することになるでしょう。

変化が徐々に起きる場合でも大問題ですが、あるとき突然、「中国との貿易禁止」などということになれば、大混乱が生じかねません。

3 環境問題への対応が産業構造の地殻変動を起こす

・具体的な事象

脱炭素に関する国際的な枠組みやルールの定着

・想定される日本経済への影響

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1)国内の自動車産業にはマイナス、家電産業にはプラスの影響

環境問題に対する世界的な関心が高まっています。環境問題への対応という国際的なルールが浸透していった場合、環境負荷の高かった従来の産業構造を根本から覆し、ゲームチェンジャーが登場する可能性を秘めています。

環境は重要ですし、地球温暖化などについては各国が協力して真剣に取り組まないと将来に大きな禍根を残すことは筆者も理解しています。しかし、そのためのコストは決して小さくなさそうです。特に、日本経済に限った影響を考えれば、リスクのほうがはるかに大きそうだという面もあることに要注意でしょう。とりわけ、長期的な日本経済の将来性を考える際には、大きな懸念材料ともいえそうです。

例えば、日本が強い国際競争力を持ち、巨大な産業として経済を支えている「自動車産業」について考えてみましょう。ガソリン車が世界的に生産されなくなると、日本の持っている国際競争力が意味をなさなくなります。ガソリン車製造業が衰退産業になってしまうわけです。

電気自動車などへのシフトが新しい工場建設を誘発したりすれば、経済にとってプラスの面もあるでしょう。しかし、電気自動車で日本メーカーがガソリン車と同じように強い国際競争力を持てると考える理由は特にありませんし、実際に海外メーカーのほうが先行しているようです。

その一方で、家電産業などに関して言えば、日本メーカーは省エネ技術に長けているので、環境問題の重視は、日本メーカーにとって追い風かもしれません。

もっとも、それが日本経済にとって十分な追い風になるかどうかは、判断が難しいところです。日本の家電メーカーは、海外現地生産が進んでいますので、日本製品への需要が高まったとしても、日本経済がその利益を全て享受できるとはいえないからです。

海外子会社の売り上げと利益が増加すると、日本の家電メーカーの株価が上がり、株主配当は増えるかもしれません。しかし、工場が増設されるのは海外であって、日本国内の設備投資や雇用の拡大にはつながらないことが想定されます。日本国内の労働者の賃上げやボーナス上昇の可能性は皆無ではありませんが、過大な期待は禁物でしょう。

2)脱炭素で一時的なエネルギー価格の上昇も

環境問題に対する関心の高まりで懸念されるのが、化石燃料の価格上昇です。環境問題への対応によって、化石燃料の需要は長期的には減っていくでしょうが、短期間で一気に減るわけではなさそうです。

その一方で、油田や炭鉱の新規開発は行われなくなるとみられます。10年後には需要が激減すると分かっているのに、莫大なコストのかかる投資をしようとは誰も思わないはずだからです。

そうなると、今後の化石燃料の価格を決めるのは、既存の油田や炭鉱の生産力が減っていくスピードと、化石燃料の需要が減っていくスピードの競争の結果次第ということになります。仮に供給力のほうが早く減っていくとすれば、今後10年間は化石燃料の価格が高止まりすることにもなりかねません。

4 エンデミック期の日本経済の相対的な回復の遅れ

・具体的な事象

新型コロナウイルス(コロナ)のまん延に伴う感染防止対策の徹底

・想定される日本経済への影響

エンデミック期への移行後も、過剰な自粛によって海外と比べて経済回復が遅れる

感染症に関しては、筆者は医学の専門ではないので、さまざまなリスクシナリオが必要になります。ここでは、「パンデミック」期から「エンデミック」期へと移行し、強い感染力を持ちながらも重症化率や致死率が低い状態が続くようになったときの、日本経済の回復スピードという点に絞って考えていきます。その場合、感染防止を徹底しすぎて経済への悪影響が甚大になるリスクがあるといえます。リスクを決めるポイントは2つあります。

ポイントの1つは、政治家による各種規制などに関する判断です。コロナを特殊な病気と捉え続けて感染対策を徹底するのか、「インフルエンザと同じようなもの」と考えて感染対策を緩和していくのか、という政治判断です。

もう1つのポイントは、個々人の行動です。「飲み会の自粛要請は解かれたけれど、怖いから飲みに行かない」「自分はコロナを恐れていないが、仮に感染したときに周囲から何を言われるか分からないから、飲みに行かない」という人が多ければ、やはり経済は回っていきません。

これは、「安全と安心」という難しい問題です。「安全なのか」は科学の問題ですが、「安心なのか」は心理の問題です。筆者の印象としては、海外と比べて日本人は慎重な人が多いので、経済の回復のペースは比較的ゆっくりしているように見えますし、今後もその傾向が続きそうです。

次回は、日本経済のリスクシナリオについて解説しますので、ご期待ください。

以上(2022年6月)
(執筆 前久留米大学商学部教授 塚崎公義)

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画像:bakhtiarzein-Adobe Stock

新任役員が就任直後に行うべきリスク管理

書いてあること

  • 主な読者:所管する事業のリスク管理をする新任役員
  • 課題:リスク管理の考え方と進め方を知りたい
  • 解決策:ある程度主観的に、リスクを評価する勇気を持つ。役員にはその権限がある

1 就任早々に確認する組織の“ブレーキ性能”

役員の職務は会社を成長させることです。そのためにリスクも取ることもあり、その判断によって会社の命運が決まることさえあります。重要な職務を執行する役員には、いわば高性能な“アクセルとブレーキ”が必要です。

  • 役員のアクセル:収益向上を目指す攻めの販売施策など
  • 役員ブレーキ: “事故”のない組織運営を目指すリスク管理など

どちらも大切ですが、ブレーキがしっかり利くからこそ、アクセルを踏み込むことができるともいえます。常日ごろからリスク管理は重要ですが、新型コロナウイルス感染症への対応といった、想定を超えるリスクも出てきます。これが生活やビジネスに与える影響の範囲や程度には不透明な部分もあり、リスク管理の重要性はますます高まっています。

2 あなたが重視するリスクは何ですか?

1)新任役員が考えるべきリスク

リスク管理は企業の永遠のテーマです。役員会や幹部会などでは、企業が重視し、重点的に対策を講じるべきリスクについて議論を深めていることでしょう。新任役員は、企業の方針を分かりやすい言葉に置き換えて、現場に伝える必要があります。

しかし、新任役員の場合、各事業部への理解が浅く、「リスクはそう簡単には顕在化しない」と楽観していることもあり、業界全体や企業全体のリスクをざっくりと把握するにとどまってしまうことがあります。前任者の方針を踏襲するだけの“思考停止”に陥っていることもあります。

もし、皆さんに心当たりがあるならば、変革が必要です。まずは、図表1を見てください。これはリスクを検討するレイヤーを示したものです。最終的には、新任役員が独自に収集した情報に基づくリスクについても、必要に応じて検討しなければなりません。

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新任役員は所管する事業部について、リスク対応の方針を決めなければなりません。例えば、成熟後期にあるA事業を所管する新任役員が、少しでも長く現状を維持する(コストを掛けずに延命する)方針であれば、リスクは「既存の大口顧客の値下げ・解約」「内部コストの増大(仕入れや労務費)」となります。

一方、同じA事業の所管でも、新任役員の考えがA事業を活かした新規事業の開発であれば、リスクは「新規事業の不発」「社内調整の失敗(役員会での否決など)」ということになります。このように、リスクの内容は新任役員の方針によって変わってきます。

2)一般的にいわれる経営リスク

対策が必要となるリスクを検討する際は、幅広い情報を収集・分析し、リスクを絞り込む必要があります。ここでは、その参考となるデータとして、上場企業が「優先して着手が必要」と考えているリスクを紹介します。

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3)さらに網羅的なリスク一覧

もう一つの例として、網羅的にまとめたさまざまなリスクを紹介します。リスクは油断したとき、あるいは意識していなかった分野から生じがちであるからこそ被害が大きくなります。さまざまなリスクの存在を認識することが欠かせません。

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3 リスク管理の進め方

1)フレームワークの活用

リスクを分類する際、図表4のようなフレームワークを使ってみましょう。リスクを「発生確率と被害規模」で整理するフレームワークは広く知られていますが、その他にもあります。状況に合わせてフレームワークを自社で作成することもできるでしょう。

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新任役員は、ある程度主観的にリスクをマッピングする権限を持っています。大切なのは、重視すべきリスクの“重さ”を、誰でも理解できる統一された基準で組織に認識させることです。

2)定量化する(点数を付ける)

絞り込んだリスクに点数を付けます。例えば、発生確率と被害規模、対策状況について「5点、3点、1点、0点」と点数を付けます。配点ルールが複雑だと運用が立ち行かなくなるので、シンプルにしましょう。

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発生確率と被害規模、対策状況の全てに5点を付けたら最高の15点となり、最も重視すべきリスクになります。点数化した一覧表を示せば、社員もどのリスクを重視すべきなのか考えやすくなります。また、以前にそのリスクが顕在化した経験があるか否かも把握します。以前に発生したことがあるということは、組織内に原因があるかもしれないので調査してみます。

3)四半期ごとのチェック

リスクの状況を定期的に把握します。特に、対策がされていないリスクについては四半期ごとに対策の進捗を確認し、必要な措置を講じます。同時に、四半期のうちに顕在化したリスクがあるのかを確認します。しかし業界全体や企業全体のリスクの議論に終始し、各事業部のリスクまで落とし込み切れないという問題があります。

通常、四半期ごとのチェックは全社的に開催される「リスク会議」(仮称)などの場で行われます。他事業部のリスクは理解しにくいので、こうした機会を利用し、新任役員は自身が想定している重点リスクについて、周囲の理解を得る努力をしましょう。

4)独自の情報網を持つ

リスクは、一般化していない情報によって低減できる場合があります。新任役員の場合、他社の役員などはとても良い情報源となるので、積極的に交流会などの会合に参加して、人脈を広げていきましょう。

こうした会合やその後の飲み会では、同業他社の投資や営業の動向、人事や社内の雰囲気等に関する情報を得られることがあります。これらの情報は、自社のリスク低減につながるものが少なくありません。

4 経営判断の原則

役員はいわゆる「経営判断原則」に基づいた意思決定が求められます。役員は「善管注意義務」「忠実義務」などを負っており(2つの義務は実質的には同様と考えられている(最大判昭和45年6月24日民集24巻6号625頁))、これに違反した役員には株主代表訴訟などのリスクが生じます。

善管注意義務とは、端的にいえば、「役員という会社経営の専門家たる地位にある者として、一般に要求される程度の注意を払って業務を遂行する義務」ということですが、一方で、役員は会社の成長のために一定のリスクを取るものでもあります。

役員が取る一定のリスクが適正なものであるか否かを測る上で、一つの要素となり得るのが日ごろのリスク管理です。「なぜ、そのリスクを取るのか?」が、取り組みの中である程度明らかになっているはずだからです。

このように、リスク管理は企業を守るブレーキになるだけではなく、役員の取り組みが誠実であることの裏付けにもなります。改めて自社を取り巻く環境を整理しましょう。重視するリスクの洗い出し、管理を行うことの意義はとても大きいといえます。

以上(2022年6月)

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画像:pixabay

【朝礼】「タネもしかけも」ございます

今日は、成功の裏には必ず「タネもしかけもある」という話をします。

例えば、俳優やタレントさんなどが、「その美貌、体形維持のため、日ごろ、どのようなケアをしているのですか?」と聞かれて、「特別なことは何もしていません」と答えることがあります。しかし、よくよく聞いてみると、食べ物に気を付けていたり、毎朝トレーニングをしていたり、ちゃんと「タネもしかけもある」ことが分かります。

また、「偏差値30からスタートして現役で東大に合格した」という人が、雑誌やメディアなどのインタビューで、「特別なことは何もしていません。必死で1年半勉強しただけです」と話していることもあります。ただ、これもよくよく調べてみると、「東大に合格した10人から聞いた勉強法を忠実に実践した」「家族や友人など周りが勉強しやすい環境づくりに協力し、食事にも気を使い、ずっと励まし続けてくれた」など、何かしらの「タネもしかけもある」ことが分かります。

何かを成し遂げた人が、そのための「特別なことは何もしていません」と話す背景には、本人の謙遜や、聞き手の共感を損なわないようにとの意図もあるでしょう。ですが、私は、「本人が、本当に特別なことは何もしていないと思っている」場合も少なくないと考えています。例えば、その俳優やタレントさんにとって、体に良い食事やトレーニングは当然のことで、特別なことだとは認識していない、ということです。

東大合格にしても同じです。「東大に合格したいなら、合格するための最適な方法を考え、工夫するのは当たり前」で、本人や家族は何ら特別なことをしている感覚がないのかもしれません。

こうした話から私が皆さんに伝えたいのは、まず、部下や後輩にも成功してもらいたいと思っている上司や先輩は、自分が意識していない「タネやしかけ」を見つけて言語化し、伝えてほしいということです。逆に若手社員の皆さんは、上司や先輩の「タネやしかけ」を貪欲に吸収するように頑張ってください。

例えば、社内の営業成績トップのメンバーに成約が取れる秘訣を聞いてみると、「特別なことをしているわけではない。相手にとって本当に必要なこと、ためになることは何か、それだけをずっと考え続けてご案内しているだけ」と言います。「相手に必要なことだけを考え続ける」というのは、ビジネスではなかなかできることではありません。本人にとっては当たり前でも、私に言わせると、それこそが「タネやしかけ」なのです。

私の経験から言うと、こうした「タネやしかけ」ができるまでには、「圧倒的な努力の積み重ね」や「試行錯誤」をしているはずです。こうした裏打ちがあるからこそ、会社にとって貴重な財産になり、競合他社には見破れない我が社の「強み」になるのです。

さあ、皆さんの持っている「タネやしかけ」は、どのようなものでしょうか?

以上(2022年6月)

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画像:Mariko Mitsuda

【損金】税理士が解説。損金になる役員報酬、ならない役員報酬

書いてあること

  • 主な読者:決算対策の一環などとして、役員報酬を損金にしたい経営者
  • 課題:役員報酬は従業員給与よりも、格段に税務上のルールが厳しい
  • 解決策:定期同額給与・事前確定届出給与・業績連動給与を知ることが第一歩

1 役員報酬とは

役員報酬とは、

役員に支払う報酬(以下「役員報酬」)で、従業員給与(全額が損金となる)と異なり、支払いについて税法上のルールがある

ので注意が必要です。具体的には、

「定期同額給与」「事前確定届出給与」「業績連動給与」といった税務上のルールがあり、これを守らないと損金に算入できない

ことになります。さらに、支払方法に問題がなくても、金額が高すぎると一部が損金として認められなくなります。

こうした厳格なルールがあるのは、役員報酬は役員自身が決められるからです。例えば、利益が多額に出そうなときは役員報酬を増やして利益を減らし、納税額も減らすことができてしまうため、これを防ぐために税務上のルールがあるのです。詳しく見ていきましょう。

2 損金になる役員報酬の2つのポイント

1)損金とすることができる役員報酬の支払方法は3つある

税務上、損金にすることができる役員報酬の支払方法は、「定期同額給与」「事前確定届出給与」「業績連動給与」の3種類です。

1.定期同額給与

定期同額給与とは、「定期的(=毎月)」に「同額で支給される給与」のことで、毎月支給される役員報酬がこれに当てはまります。税務調査では、総勘定元帳や給与支払台帳などを見て、毎月の役員報酬が同額で定期的に支給されているかがチェックされます。なお、金額の変更は、一般的には毎事業年度実施される定時株主総会の決議によって行います。

2.事前確定届出給与

事前確定届出給与とは、役員に対する臨時的な給与の「支給金額」や「支給日」などをあらかじめ決め、税務署に「届出書」を提出しておくことで損金にできる役員報酬です。定期同額給与以外に、夏と冬に賞与の形で役員報酬を支払う場合などに利用されます。届出書の提出期限は税法で決められています。

なお、提出した届出書に記載した支給金額と実際の支給金額が異なっていたり、支給日が1日でも違っていたりした場合、支給金額の全額が損金にできなくなるので注意しましょう。

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3.業績連動給与

業績連動給与とは、会社の売上や利益に連動させて支給額が決められる役員報酬です。ただし、業績連動給与の算定方法を一定の方法(有価証券報告書など)で開示する必要があるなど、要件が主に上場企業を対象としたものになっているため、本稿では詳細を省略します。

2)役員報酬の金額が高すぎる場合には損金にできないことがある

「定期同額給与」「事前確定届出給与」「業績連動給与」のいずれかに該当していたとしても、支給額が高額の場合、注意が必要です。役員の職務内容などに照らし、「役員報酬の水準が高額すぎる」と判断された場合、その高額とみなされた部分の金額(適正額を超える部分の金額)は損金にできません。税務調査においては、役員報酬の金額が高額すぎるかどうかは、次の2つの基準に従って総合的に判断されます。

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3 役員報酬で迷いやすい実務Q&A

1)経営が悪化しても役員報酬の金額は変更できないの?

毎月支給する役員報酬は事業年度を通じて同額とする必要があるので、利益が前事業年度と比較して多少悪化したからといって、事業年度の途中での変更はできません。従って、事業年度開始前に見積もる予算や利益計画をできる限り精緻に行った上で、役員報酬の水準を決定します。

ただし、新型コロナウイルス感染症の影響などによって経営状況が著しく悪化し、利害関係者(債権者など)との関係上、役員報酬を減額せざるを得ない場合などは、変更が認められます。このような場合には、税務調査において「利益操作」と判断されないよう、減額せざるを得ない事実を、客観的かつ具体的に説明できるような書面などを準備しておくことが重要です。

2)親族である役員に役員報酬を支払っても大丈夫?

役員報酬を支給する相手が親族の場合、いわゆる「お手盛り」になることがあるので、税務調査でも重点的に調べられます。特に「名ばかり役員」に対して報酬を支払っていないか調べるため、「具体的にどのような職務に就いているか」「役員の机はあるか」「電話の内線表に名前があるか」「出勤実績はあるか」などがチェックされます。職務実態があれば必要以上に恐れることはありませんが、金額の決定過程を詳細に説明できるよう、株主総会の議事録などの関係書類を事前に準備しておくことが重要です。

3)役員報酬の限度額改定を忘れずに

役員報酬の金額が高すぎるか否かの判断基準には、「実質基準」と「形式基準」とがありました(図表2参照)。「形式基準」とは、役員報酬の金額が「定款に定めた金額や株主総会などで決議された金額(役員報酬限度額)を超えていないか」を基準にするものです。役員報酬限度額は一度決定したら、その後に改定をしない限り有効です。

この役員報酬限度額ですが、役員の数が増加している(役員報酬の総額が増加している)にもかかわらず改定しなかったため、「知らず知らずのうちに役員報酬の金額が限度額を超えていた」といったようなトラブルがあります。役員報酬限度額については毎事業年度の定時株主総会で見直しを行い、その決定過程を議事録として保存しておき、役員報酬の金額が限度額を超えないようにしましょう。

4)役員報酬と従業員給与とのバランスも重要

役員報酬の金額が高すぎるか否かの判断は、さまざまな視点から検討されますが、例えば、利益が減少傾向にあることから、従業員に対するボーナスを減らしているにもかかわらず、役員報酬が増加しているような場合は、「役員報酬の水準が高すぎる」と判断されることがあります。役員報酬の金額は、利益のみならず、従業員給与とのバランスにも留意しましょう。

以上(2022年6月)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 税理士 森浩之)

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画像:Mariko Mitsuda

【朝礼】自分の短所を書き出せば、すべきことが見えてくる

人は誰でも良い所と悪い所を持っています。よく言う「長所」「短所」です。皆さんは自分の長所と短所を即答できますか。明るくハキハキとしゃべれること、記憶力が良いこと、人の話をじっくり聞くことができるなど、色々あるでしょう。長所が多ければ歓迎すべきことですし、短所は少ない方がよいものです。

皆さんに知ってもらいたいことは、皆さんが自覚している長所や短所は、他の人からは違って見えることがある、ということです。極端な例でいえば、自分では長所と思っていることが、実は他の人から見たら短所にほかならないということがあります。自分では声が大きく元気が良いのが長所だと思っていたのに、周りの人はいつも場に似合わぬ大声を張り上げて、とてもうるさい人だと感じていたということもあります。

ここまで極端でなくとも、長所と短所に相関があることは少なくありません。

例えば、私の若いときの同僚で、書類の作成が速いことが自分の長所であると思っている人がいました。その人の書類の作成の速さは自他共に認めるところでした。しかし、その一方で、その同僚の仕事には小さなミスが多く、上司や同僚はチェックをするのが大変でした。この同僚は、仕事が速いという長所の裏側に、仕事に対して正確性に欠けるという短所があったことに気付いていませんでした。

これとは逆に、私のかつての部下で、書類の作成に時間がかかるのが自分の短所であると考えている人がいました。しかし、その部下は自分では気付いていませんでしたが、作る書類は丁寧でミスがほとんどありませんでした。また構成や文章が優れておりとても読みやすく、私はチェックが楽でした。社内でも、彼が作る書類への信頼は高かったのです。これは、仕事が遅いという短所の裏側に、仕事には正確で丁寧に取り組むという長所が存在していた例です。

このように、長所と短所は表裏一体となっていることが多いのです。

そこで、自分が他人より優れている、得意であるという長所については、一層の高みを目指しながらも、今一度見直すことで気持ちを引き締めましょう。そう、長所の裏側に短所が潜んでいるかもしれないからです。

また、自分が他人よりも劣っている、苦手であるという短所については、悩んだり引け目を感じたりするのはやめましょう。ネガティブに考えるのではなく、今までとは別の方向から自分を眺めてみましょう。その短所の裏側に長所が隠れているかもしれません。仮に、長所が隠れていなくても、短所は必ず補えるということを覚えておいてください。そう考えれば、短所から自分の意外な可能性に気付き、そのことが自分を成長させるきっかけになるかもしれません。

昨日、私は自分の短所をノートに書き出してみました。思った以上に短所が多くありました。皆さんも短所を書き出して、それをじっと眺めてください。不思議なことに、これから自分が何をすべきかが見えてきます。

以上(2022年6月)

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画像:Mariko Mitsuda

【損金】税理士が解説。損金になる賃借料、ならない賃借料

書いてあること

  • 主な読者:決算対策の一環などとして、賃借料を損金にしたい経営者
  • 課題:オフィス賃料や借上社宅などによる取り扱いの違いが複雑で分からない
  • 解決策:物件はビジネスで使うこと。借上社宅は入居者から一定額を収受する

1 賃借料とは

賃借料とは、

オフィスを借りたり、役員や従業員のために会社名義でマンションを借りたりする(借上社宅)際に支払う家賃

です。賃借料は、原則として全額を損金とすることができますが、いくつかの注意点があります。また、権利金の取り扱いなど税務特有の処理が必要になるため、税務調査でも重点的に調べられます。

賃借料が損金になるかどうかのポイントは、

  • オフィスや営業所の賃借料であること
  • 社宅の賃借料であること。ただし、役員・従業員からの徴収額に要注意
  • 権利金は一旦資産計上、原則5年間で償却すること

です。詳しく見ていきましょう。

2 損金になる賃借料の3つのポイント

1)オフィスや営業所の賃借料であること

リモートワークが進むとはいえ、オフィスや営業所は事業を行う上で重要なものであり、このオフィスなどについて支払う賃借料は全額が損金となります。ただし、実際にオフィスとして使われておらず、経営者などが私的に使用しているものと判断された場合、その全額または一部が損金とできないこともあります。詳細は後述します。

2)社宅の賃借料であること。ただし、役員・従業員からの徴収額に要注意

借上社宅について支払う賃借料についても、原則として支払った金額の全額を損金とすることができます。ただし、その借上社宅に住んでいる役員・従業員から、1カ月当たり一定額の家賃を会社が収受していないと(役員・従業員が会社へ支払わないと)、その一定額は給与として所得税の源泉徴収の対象となります。この「一定額」とは、会社が家主に支払っている賃借料と同額にする必要はありませんが、計算方法は税法で決まっており、また、役員と従業員で計算方法が違います。

1.役員の場合

役員の場合、税法で決められた一定額と同額以上を会社が受け取っていれば、所得税の源泉徴収の対象とはなりません。また、一定額の計算方法は、

  • 小規模住宅(床面積が132平方メートル以下などの基準を満たした住宅)の場合
  • 豪華社宅(床面積が240平方メートル超などの基準を満たした住宅)の場合
  • そのいずれにも該当しない住宅の場合

で異なります。それぞれの区分の詳細な判断基準や徴収額の計算方法は少し専門的になるので末尾にまとめています。

2.従業員の場合

従業員の場合、税法で決められた一定額の2分の1以上を会社が受け取っていれば、所得税の源泉徴収の対象とはなりません。一定額の計算方法(従業員の場合)は次の通りです。

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3)権利金は一旦資産計上、原則5年間で償却すること

オフィスや社宅を借りるときに「権利金」を支払った場合、支払時に全額を損金とすることはできません。いったん資産に計上し、税法で定められている年数に応じて償却することによって損金となります。税法上の償却期間は原則として5年ですが、契約による賃借期間が5年未満の場合でかつ、契約更新の際に再び権利金(いわゆる更新料)の支払いが必要な場合は、契約による賃借期間が償却期間となります。

3 賃借料で迷いやすい実務Q&A

1)オフィス兼住宅としているマンションの賃借料も損金となるの?

自宅である賃貸マンションの一室をオフィスとして使用している場合、賃貸マンションの家賃を賃借料として会社の損金にできます。ただし、この賃借料には自宅として使用している部分も含まれるため、全額を損金にできません。マンションの床面積を自宅使用部分とオフィス使用部分とに区分して家賃を按分した上、オフィス使用部分のみを賃借料とするなど、合理的に計算した金額を賃借料として処理しましょう。また、按分計算した資料(計算表や、計算の基となった設計図など)は税務調査の際に提示を求められるので、帳簿書類とともに保存しておくことが重要です。

2)高級タワーマンションでも社宅として大丈夫?

高級タワーマンションであっても、借上社宅として使用すること自体には問題ありません。重要なのは、税法で定められている一定額を役員・従業員から収受することです。中でも「豪華社宅」の場合、会社が家主に支払っている家賃と同額を役員から収受する必要があります。「豪華社宅」の明確な定義はありませんが、高級タワーマンションの場合、「プール」や「トレーニングジム」など、一般的な住宅にはない設備が整えられているケースがあるため、豪華社宅と認定される可能性もあります。

税務調査で豪華社宅と指摘された場合、「会社が家主に支払っている家賃」と「会社が役員から収受している家賃」の差額は役員に対する給与として取り扱われ、所得税源泉徴収の対象になります。金額によっては多額の税負担が生じることにもなるので、判断に迷った場合には、税理士などの専門家に相談することが重要です。

3)新型コロナウイルス感染症拡大の影響によるオフィス家賃の減額を受けた場合の税務上の取り扱いはどうなるの?

オフィス家賃の減額を受けた会社側には、減額された分の受贈益(益金)が発生しますが、減額分のオフィス家賃(損金)と相殺され、課税は生じません。例えば、元のオフィス家賃が100万円で、30万円の減額を受けた場合、100万円(損金)-30万円(益金)=70万円(損金)となります。結果、減額後のオフィス家賃分が損金として処理されます。

4 社宅に対する役員からの徴収額の区分と計算方法

1)役員で、小規模住宅の場合

小規模住宅とは、次のいずれかに該当する住宅です。なお、区分所有の建物の場合(マンションやオフィス兼住宅など)、共用部分の床面積を按分し、専用部分の床面積に加えたところで面積判定します。

  • 法定耐用年数が30年以下の建物の場合→床面積が132平方メートル以下の住宅
  • 法定耐用年数が30年を超える建物の場合→床面積が99平方メートル以下の住宅

一定額の計算方法(役員で、小規模住宅の場合)は次の通りです。

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2)役員で、豪華社宅の場合

豪華社宅であるかどうかは、「床面積が240平方メートルを超えるもの」のうち、取得価額、支払賃貸料の額、内外装の状況など、各種の要素を総合的に見て判定します。「床面積が240平方メートル以下のもの」であっても、一般的な住宅にはないような設備が整えられている場合、税務調査において「豪華社宅」として指摘されることがあります。

一定額の計算方法(役員で、豪華社宅の場合)は次の通りです。

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3)役員で、小規模住宅・豪華社宅のいずれにも該当しない場合

一定額の計算方法は次の通りです。

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以上(2022年6月)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 税理士 森浩之)

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画像:Mariko Mitsuda

自動で適量の餌やり、優良稚魚のAI識別など「水産テック」最前線/新技術で変わる農林水産業(1)

書いてあること

  • 主な読者:業務の効率化や人手不足の解消を図りたい養殖業・水産業経営者
  • 課題:どのようにすれば効率化や人手不足の解消が図れるのか分からない
  • 解決策:事例を参考に、AIやドローンなどの最新技術を業務に取り入れる

1 テクノロジーで養殖業・水産業の課題を解決「水産テック」

近年、農林水産業を営む企業で、人工知能(AI)やドローンなどのテクノロジーを取り入れる動きが出てきています。体力勝負のこまめな管理や、自然環境の影響を大きく受けるこれらの業界では、次のような課題が挙げられています。

  • 高齢化による人手不足、ノウハウの継承
  • 変化する自然環境への対応
  • 効率的、持続的な生産・収穫・漁獲体制の確立

このシリーズでは、農林水産業を営む企業が直面する課題を解決するための最新テクノロジーの動向と、その活用事例を紹介します。

第1回の今回のテーマは、養殖業や水産業が直面する課題を解決するための「水産テック」です。具体的には、

  • 水中ドローンを使ったいけすの管理
  • 餌やりの自動化
  • ゲノム編集で体を大きくした魚の養殖

といった取り組みを紹介します。

2 AI、ドローン、ゲノム編集などの活用事例

1)画像認識×養殖魚を自動カウント=生産金額を予測可能に

発動機メーカーのヤンマーのグループ企業、ヤンマー舶用システム(兵庫県)は、画像認識技術を使ったマグロの「自動魚数カウントシステム」を提供しています。これは、専用に開発された水中カメラや画像処理などを組み合わせることで、養殖網の中の魚の数をリアルタイムで計測することができるものです。精度は98%以上ともいわれており、漁獲数の報告のための作業や、適正な餌代の管理などを効率化させることができます。

養殖網の中の魚の数をより正確にカウントすることは、予測される生産金額と、実際に販売された実績値の誤差を小さくするのに不可欠です。水産庁の資料によると、魚の数を基に予測した生産金額の誤差による収益の減少率は、魚の数が1%少なかった場合は5%減、3%少なかった場合は14%減という試算もあります。

一旦稚魚を養殖網に放流すると、成長するまでこまめに確認したり、個体の減少を把握したりすることが難しく、餌代が余分にかかり、想定よりも出荷が振るわないこともあります。従来は、人が目視してカウントしていましたが、水中での画像認識を駆使することで、正確な数を把握でき、餌代のコントロールや生産金額のより正確な予測が可能になります。

2)AI×錦鯉の模様を画像診断=高額に育つ稚魚を判別

ITソリューションを提供するメビウス(新潟県)は、新潟県特産の錦鯉の個体識別に、機械学習を用いる取り組みを進めています。錦鯉をスマホで撮影することで、個体ごとのヒレや骨格の比率などからAIが個体を識別するものです。

錦鯉は成長するにつれて模様が変化するため、高額で取引されるような優良な成魚になるかどうかの判別が難しく、熟練者による「長年の勘」に頼っていました。AIを用いて個体情報や成長記録を蓄積することで、最終的には、錦鯉の成長を予測することを目指しています。また、この取り組みで得られた結果を基に、養殖分野での品質管理や水面での画像検査などでの応用を検討しています。

3)水中ドローン×いけすの管理=潜水作業の省力化と早期の異常発見

潜水できるドローンを使い、いけすの中を監視するドローンも現れました。これまで人間が高いリスクにさらされながら行ってきた仕事を、水中ドローンに代替させることを試みています。

ドローンの販売や関連サービスを展開するスペースワン(福島県)は、水中ドローンの養殖業での本格利用を推進し、マダイなどの養殖を行うダイニチ(愛媛県)とともに、水中ドローンの活用について実証実験を実施しました。

この実証実験では、養殖いけすに水中ドローンを投入し、いけすの底に沈んだ死魚の回収や、いけすの網の点検などを行いました。これまでは、死魚の回収やいけすの点検は人間が潜水して行っており、危険な潜水作業で体力的に負担が大きいため頻繁に行うことが難しく、死魚が大量に発生していたり、いけすの破損に気付くのが遅れたりなどの課題がありました。水中ドローンであれば、陸上のモニターで水中の様子を確認し、その場で水中ドローンを使って対処することができます。

この他にも、KDDI(東京都)は、世界初ともいわれる「水空合体ドローン」を開発し、陸地からドローンを発進させ、目的の沖合に着水し水中用の子機ドローンを潜水させる実証実験を行っています。飛行型の親機が音響測位を行って水中の子機をコントロールし、子機は搭載されたカメラで水中の様子を撮影する仕組みです。

同社は、水中ドローンの「目的地まで船などで運ぶ必要がある」課題を、飛行型ドローンに水中ドローンを搭載するというアプローチで解決を試みており、今後は、水中ドローンをダムや港湾施設での点検、水産施設での監視などで活用することを目標にしています。

4)スマホ×いけすの餌やり自動最適化=餌やりの省力化と適量化

ウミトロン(東京都)は、養殖業向けに、スマホやクラウドを利用して遠隔からいけすの餌やりなどを自動化する給餌器「UMITRON CELL(ウミトロン セル)」や、水中カメラでいけすの様子を撮影・解析し、魚群の食欲などを判定する「UMITRON FAI」などを提供しています。

従来は、それぞれのいけすを船で回りながら、餌の量を「漁師の勘」で与えていましたが、餌代が余分にかかることや、残った餌による水質悪化などが養殖業の課題として挙げられていました。また、毎日餌やりのため、悪天候や休日でも作業をすることが必要でした。

ウミトロンの製品を用いることで、餌やりのタイミングをAIで自動判定し、いけすに設置した餌入れから適切な量だけが自動、またはスマホでリアルタイムに確認しながら給餌されるので、こうした課題を解決することができます。さらに、生育期間の短縮や、魚の体重増加にも効果がありました。

また、同社は陸上養殖向けのAIを利用した自動給餌機も開発し、2021年9月から試験運用を行っています。魚群の行動や水質データをAIが解析し、最適な餌の量やタイミングをコントロールして自動で餌やりをすることで、餌代の抑制や水質管理に役立てることができるとされています。

5)LEDライト×ヒラメの養殖=成長の促進

深良津二世養殖漁業生産組合(大分県)は、大分県農林水産研究指導センターや北里大学とともに、緑色のLEDライトを用いたヒラメの養殖に取り組んでいます。自然界では、ヒラメは、太陽光が届きにくい海底で生息していますが、海底まで届く太陽の緑色光を受けることで、成長が促進するとされています。この緑色光をLEDライトで再現し、養殖しているヒラメの成長を早める狙いがあります。

同センターによると、ヒラメの養殖場の電球をLEDライトに変更するだけで効果が表れ、平均体重は約1.6倍増、出荷可能な大きさに成長する期間は約3カ月短縮されたとのことです。LEDライトにすることで電気代なども削減できるため、コストを下げながら収益を伸ばすことができそうです。

6)人工海水×サーモンの陸上養殖=どこでも養殖可能で環境負荷もかけない

これまでは海でしか養殖できなかった魚を、陸上のみで養殖する動きも出てきています。FRDジャパン(埼玉県)は、海水や地下水を使わずに、水道水を独自の技術でろ過し、人工海水を作って養殖サーモンに使用しています。

人工海水を使うことで、川や海への排水をなくし、陸上養殖の課題である海水の温度管理を解決しています。陸上養殖のため、人口密集地に近い場所でも新鮮な魚を養殖、直送できるメリットがあります。

同社が開発した養殖システム「閉鎖循環式陸上養殖システム」は、水道水から人工海水を作り出すだけでなく、いけすで使用した人工海水を再度バクテリアで清浄化することで、実質的な水の入れ替えが不要になります。

同社はすでに、養殖サーモンを「おかそだち」というブランド名で販売しており、「取れたてのサーモン」を冷凍せずに首都圏まで直送できることを強みとしています。現在は実証実験用の養殖施設を運営していますが、商業用の大型施設を2022年に着工する計画です。

7)ゲノム編集×マダイの養殖=少ない餌で大きく成長

品種改良や陸上養殖を行うリージョナルフィッシュ(京都府)は、ゲノム編集(生物のゲノムDNA(DNAおよびその中の遺伝情報)の特定の遺伝子を狙って変異させることで、特性を活かす個体を生み出すもの)によって作り出されたマダイの養殖を行っています。

家畜や植物と異なり、魚類などは養殖技術の発展が先行する一方、食品としての質を向上させる品種改良は遅れているといわれています。同社の取り組みは、狙った遺伝子を切除する「欠失型ゲノム編集」と呼ばれるもので、どんな影響が出るか分からない従来の品種改良よりも安全とされています。

欠失型ゲノム編集で生み出された同社のマダイ「22世紀鯛」は、通常の品種に比べて餌の消費を抑え、肉付きが1.2~1.6倍に増加しています。すでに厚生労働省から食品としての安全性に問題がないと判断されており、同社のECサイトで昆布締めなどが販売されています。

世界の人口増加を受けた乱獲や餌の原料価格の高騰、地球環境の変化による生息域の縮小などで、魚類などの安定供給が難しくなると予想される中、こうした品種改良の取り組みは、今後も注目される可能性があります。

3 水産テック関連のデータ:求められるニーズと課題、漁獲量

これまで見てきたように、さまざまなシーンで「水産テック」導入の動きが始まっています。水産庁の資料から、求められているニーズや課題、養殖での漁獲量の推移を見てみましょう。

1)水産テックのニーズと課題

水産庁では、テクノロジーを漁業や養殖業に活用するべく、企業や有識者、水産試験場などからなる「水産業の明日を拓くスマート水産業研究会」を開催しています。

その中で、水産庁が、都道府県の水産試験場、水産研究センターの担当者に行った調査によると、養殖業におけるスマート化に対するニーズ、課題には次のようなものが挙げられています。

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この調査によると、回答した18県のうち、「生産管理(品質管理)」「省人省力化・ロボット化」「リスク管理」などでニーズが高いようです。また、課題として挙げられるものとして、「初期コストが高い、ランニングコストがかかる」「高齢者はICTを扱えない、扱える者の養成が必要」「操作位置情報や漁獲情報は出したくない」などが挙げられています。

2)令和2年漁業・養殖業生産統計

水産庁「令和2年漁業・養殖業生産統計」によると、養殖魚の魚種別の収穫量は次の通りです。

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この統計によると、収穫量が多いのは「海藻類」「貝類」「魚類」です。他の魚種に比べて収穫量が多いこうした魚種の養殖から、水産テックの導入が進む可能性があります。

以上(2022年6月)

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画像:stephan kerkhofs-Adobe Stock

チャンネル登録数約11万人のZ世代向けYouTuber社長は、本人もZ世代屈指の“熱さと生真面目さを併せ持つ”【ニコニコした革命家】福田さんの思考を覗いてみよう/岡目八目リポート

年間1000人以上の経営者と会い、人と人とのご縁をつなぐ代表世話人杉浦佳浩氏。ベンチャーやユニークな中小企業の目利きである杉浦氏が今回紹介するのは、福田 駿(ふくだ しゅん)さん(株式会社Diaryの代表取締役)です。

学生起業家で“就活YouTuber”の福田さんからまず感じるのは、圧倒的な「突撃力」です。そこには、物事を成し遂げるために大切なものが凝縮されています。Z世代であり、「熱さ」と「生真面目さ」を併せ持つ福田さんを一言で表現するなら、【ニコニコした革命家】。物腰柔らかな福田さん、ニコニコした感じのまま、行動はガツンと大胆で、世の中を大きく変えていこうとしています。
今回はそうした福田さんの突撃力の源、ビジネスや組織に対する考え方などをご紹介します。モヤモヤ悩む働くすべての人に、色々迷っている学生に、一度、福田さんのお話を聞いてみることをお勧めします。「今日から私も変わろう、変わりたい」と思えるでしょう!

1 「一緒に仕事したい」と多くの人に熱望される福田さん

自分が困っていることを解決できるサービスを自分で立ち上げてビジネスにする。

福田さんの原点かつ株式会社Diaryの出発点は、就活をしていた福田さんが始めた、就活生向けのYouTubeチャンネル「しゅんダイアリー」です。チャンネル登録数は約11万人にも上ります(2022年6月時点)。

福田さん自己紹介画像です

(出所:福田さんご提供資料)

「しゅんダイアリー」は、福田さんご自身が、就活やインターンシップで感じた閉塞感や悩み、衝撃などが元になっています。「就活がうまくいかない」「首都圏と地方とで学生の情報量や実力に圧倒的な差がある(と感じる)」。そんな思いから、「このままじゃダメだ」と、なんと自分の就職面接の様子を動画でガチ撮影して配信し始めました。

●YouTubeチャンネル「しゅんダイアリー」

しゅんダイアリーtop画像です

(出所:YouTube「しゅんダイアリー」)

しゅんダイアリー説明画像です

(出所:福田さんご提供資料)

大学を休学して会社を立ち上げた福田さん。何もないゼロの状態からコトを起こすその突撃力だけでもすごいのに、成し遂げるために地道に努力できる面もあります。そして福田さんとお話して大きな特徴だと感じるのは「非常に物腰柔らかで素直」なところです。

終始ニコニコ笑顔、穏やかな語り口。相手(周り)の話に真剣に耳を傾け、分からない言葉は素直に質問し、気づきになったことはすぐにメモ。「この気づきを本当に事業に活かすのだろうな」と思える真摯さです。そして実際に物事を進め、形にします。福田さんと会う人会う人、特に経営者層が皆、「(福田さんと)一緒に仕事をしたい」「うちの会社にCOOとして来てほしい」と熱望するのがよく分かります。福田さんは年齢的には20代前半と若いですが、年齢に関係なく、誠実、努力家、行動的、チャレンジ精神旺盛と、とにかく人間的魅力の塊!です。

2 なぜ「しゅんダイアリー」を始めたか?

福田さんたち株式会社Diaryでは、「しゅんダイアリー」のほか、企業向けに採用広報系の動画制作やYouTubeチャンネルの立ち上げ・運用なども行なっています。就活・採用関係がメーンですが、事業コンセプトはもっと大きなもので、若者たちの行動格差をなくし、

一人ひとりが作りたい未来を自分で描いていける時代を作りたい。

というもの。

Vision画像です

(出所:福田さんご提供資料)

このコンセプトの原体験、福田さんがなぜ「しゅんダイアリー」を始めたかを振り返ってみましょう。

石川県出身で地元の金沢大学で学んでいた福田さん。「もともと、東京で働きたいと思っていた」そうです。しかし、東京どころか、「(石川)県外に出て働こうとする人自体が少ない。自分のような東京で働きたい人は少数派」と福田さんは感じていました。県外に出ようとする人がそもそも少ないので、将来のことを友だちに相談できないし、気持ちも分かり合えないし、情報も入って来ない。

そんな福田さんの人生に大きな影響を与えたのが、大学4年生の就活時、サイバーエージェントの3日間のインターンシップに参加したことでした。福田さんは文字通り「衝撃的」な思いをします。ある意味、外の世界を初めて知ったからです。「行動格差」も感じたそうです。ここは、福田さんの言葉をそのまま借りて、その衝撃をご紹介しましょう。

●サイバーエージェントのインターンシップを経て福田さんが受けた衝撃

「大学1年のときからインターンを始めている人や、どこかの会社の事業部で実際にプロジェクトを回している人、『学生団体を自分で作ってます』という人など東京の大学の方々がいっぱいいて。」
「使っている言葉もカタカナが多くて、正直、何を言っているのか分からなかった。(今から思えば難しくない当たり前のことなのですが)例えばPLとかKPIとか。PLと言えば高校野球が強いPL学園のことしか知りませんでした(笑)。」
「とても衝撃的で、やはり広い世界を知らないことはもったいないなと思った。」

福田さんがいかにショックを受けたかがよく分かります。しかし、福田さんはそれだけで終わりませんでした。ここから、福田さんの突撃が始まります。
「例えば、『和食が好き』と言うにしても、フレンチもイタリアンも食べた上で『和食が好き』がいい。和食しか食べたことないのに『和食が好き』は何か違うと思う」と例え話で説明する福田さん。福田さんとしては、

「一つの県内の県庁や地場の大手企業しか見ていない状態で自分の人生を選ぶのはもったいない。選択肢を広げたい。そして、自分と同じような環境で生きてきた人にも、もっと選択肢を知って欲しい」

という思いでした。そこで、自分の面接の様子を動画で撮影・配信するようになったのです。

「会社」という形にしたきっかけは、ズバリ、「自分の実力の無さに危機感を感じたから」。「就活をしている中で、自分の実力のなさ、自分は何も持っていないということを痛感させられました。同世代のすごい人たちを目の当たりにして、このまま就職しても社会で活躍できずに埋もれてしまうと、ある種の直感的な危機感を感じました。そこでいったん就活をやめて、休学をして、会社を作るところにフルコミットしようと思ったのが会社を作ったきっかけです」と言う福田さん。これが2019年2月のことです。
 自分の足りなさに直面し、それを「危機感」として受け止め、そこから起死回生を図ろうと「会社を作る」。こういう「へこたれない」思考回路、稀だと思います。そして、本当に実現まで持っていける福田さんのような人は、ほんの一握りではないでしょうか。

●福田さん:サイバーエージェントのガチ面接の動画

面接画像です

(出所:YouTube「しゅんダイアリー」)

初めはサイバーエージェントの面接をYouTubeで流したり友人に共有したりしていた福田さん。そのうちYouTubeの登録者数が4000人くらいに増え、その4000人に対して認知を広げたいという石川県の企業からインタビュー依頼が来たそうです。それをきっかけに、福田さんは当時、流行り始めていたクラウドファンディングを行い、また、石川県の青年会議所や商工会議所など経営者が集まるところに行ってリアルで資金調達をして東京に引っ越してきました。なにやらもう、このあたりもすごい突撃力としか言いようがありません。

3 爆裂する突撃力の秘密

福田さんに、なぜそこまで突撃力があるのかを尋ねたところ、子どもの頃の話も教えてくれました。印象的だったのは、中学時代のバスケ部の話と、さまざまなことを「コツコツやるのが好き」という話です。福田さんの言葉を借りつつ、ご紹介します。

●中学時代のバスケ部の件

「当時は分かりませんでしたが、突撃力は確かに小さい頃からあったかもしれません。中学生のバスケ部のときはキャプテンをやっていて、顧問の先生がいなかったので、タウンワークで調べて隣町のバスケ経験者に電話をかけてコーチになってもらったりしました。強い高校に練習試合を申し込んだり、一緒に練習したりとかもやっていましたが、それが凄いとか、他の人がやっていないことだとかは全く思ってもいませんでした」
「ただ、今振り返ると、中学時代のバスケ部のような誰も何も言ってくれない状況で、なんとかしなきゃいけないカオスな環境のほうが自分の力が発揮できると思います」

●「コツコツやるのが好き」な件

「もともとコツコツ努力することだったり、目標立てて地道に泥臭いことをやったりするのは、幼稚園のときからとても好きです」
「父が伝統工芸の加賀友禅の作家だったので、絵を描くのはよく見ていました。自分も絵を描くのが上手くなりたいなと思い、幼稚園のときに、1日に50枚は絶対に絵を描こうと決めて。塗り絵からスタートして、ちょっとずつ絵を描いて、ペンだこというか(今でも残ってるんですけど)、中指の豆が潰れまくってボッコリとなるまで描き続けました」
「少年野球もやっていましたが、野球が上手くなりたくて、週2回の練習以外に、毎日自主的に山を走りに行っていました」
「ある種、効率はものすごく悪いかもしれないのですが、コツコツ毎日何かをやり続けるのが好きなんです」

こうしたお話をお聞きしていると、福田さんの突撃力は、目標を立ててコツコツ毎日泥臭く努力できる持久力の上に、思い立ったら環境を打破するためにパッと行動できる瞬発力も重なって、「二重底の分厚い突撃力」になっている。両輪の突撃力。そう感じます。

福田さんは大物経営者などにアポなしで会いに行って動画まで撮ったりしています。普通は気後れしそうなものですが、「さすがに大物は怖いという感覚はありますし緊張もしますが、それよりも何も残らない、残せない怖さのほうが大きい。だから突撃できます」と語る福田さんです。突撃力の裏には、「こうしたい」という強い意志があることも伺えます。

4 「Z世代ですが……」な福田さん

福田さんは年齢的にはZ世代であると同時に、「らしからぬビジネスに対する熱さ(良い意味で)」やハングリー精神、根性といったものが感じられます。

福田さんが具体的な目標として挙げるのは、

「時価総額10兆円の会社を作る」

です。そのために、毎日、1分1秒を惜しんで事業に勉強に邁進している福田さん。

 「新卒市場だけだと800億円なので、そもそも10兆円に届かない。もっと大きくしたいと考えているので、本当に毎日時間が惜しいです」と、朝早くから夜遅くまで、事業計画、採用、ミーティング、動画制作、資金調達、営業など目まぐるしく動きます。さらに、さまざまな人に会い、本を読み、「自分が経験して来なかったことを経験している方の、凝縮された情報を収集することも大事にしている」という福田さん。

時間がいくらあっても足りなそうですし、正直かなり疲れそうですが、そこは、「今、これが必要だなとか、楽しいなとか思うことなので、ずっとやっていても、疲れるというのはないですね。」と、やはり笑顔の福田さんです。

福田さんに自分と同じZ世代をどう思うか聞いてみたところ、「自分自身のことも反省しつつですが」ということで、次のように答えてくれました。

●「Z世代」に対する福田さんの考え

「いわゆるZ世代といわれる僕らと同世代の人たちは、ハングリー精神が乏しいかもしれません。売上とか目標とか数字的な感覚はあまりなくて、お金は困らない程度でよく、ゆるくプライベートも充実させて、なんとなく楽しければいいという人が多数派だと思います」
「僕ら世代は優しすぎるとも思います。何かを達成するために厳しく誰かに注意したり言ったりすることが苦手な人が圧倒的に多くて、だから怒られることにも弱いですし、怒るという経験もしたことがない人がほとんどかもしれません」
「(怒る、怒られる経験がないので)何かをやろうという時にも、優しすぎて、人を巻き込みきれない、あるいは突き放せないという弱みがあると思います」
「とはいいつつ、Z世代の強みは、評価軸が自分にあることです。世の中一般的に車を持つのがかっこいいとか家買うのがかっこいいという価値観ではなく、自分のものさしを持っているので、幸せという観点でいえば、『成長しなくてもいいというわけではないが自分のペースでできればいい』という人が圧倒的に多いと思います」

このように自分たちZ世代を分析している福田さんの会社の仲間も、ほとんどZ世代です。そうした中で福田さんは、組織の作り方、動かし方についても福田さん流で進めています。

5 仲間たち「本人」の「こうしたい」という気持ちを大切にする

メンバーがほとんどZ世代な福田さんの会社では、「トップがいてこれをやりなさい、あれをやりなさいというマネジメントの方法はまったく通用しない」そうです。
 「逆に、本人が『自分がこうしたいからやる』という時が一番力を発揮しやすい」と感じている福田さんは、「同一線上にメンバー皆が並んで立って、それぞれ同じ目標に向かって一緒に走る組織の形」を心がけています。目指すところの共通認識があり、それぞれがリーダーとなってそれぞれが主体になって走る。誰が上とか下とか、そういうピラミッド型ではないフラットな形、ということです。

福田さんたちが毎朝行っている「朝会」もユニークです。仲間たち「本人」の「やろう」「仕事を楽しもう」という気持ちを大切にする福田さんたちらしい内容です。毎回、朝会ではたくさんの画像や動画、キャラクターなどを使った“面白資料”をつくり、オンライン会議ツールで画面共有します。そして資料は画面共有しつつも、面白い話や雰囲気はその場で共有して一体感を高めたい。ということで、「オンライン会議ツールを使うけれど全員集合で朝礼をする」スタイルだといいます。一人ひとりが「自分ごと」で楽しく、けれど真剣に臨める朝会は、新しい「気持ち共有の形」なのかもしれません。

●株式会社Diaryの朝会資料例(一部抜粋)

朝会資料例画像です

(出所:福田さんご提供資料)

会社のメンバーを集める(採用する)ときも、その相手と一緒に登山しながら説得して集めているという福田さん(しかも相手の地元や大学近くの山)。「山は余計な情報がありません。それに、登山は苦しいので、一緒に苦しいことを経験すると結束感が生まれます。さらに言えば、Z世代の特徴と思いますが人に何かを捻じ曲げて矯正させるのは難しいですし、僕自身もそれはやりたくないんです。相手がやりたいことを理解して、それと自分がやりたいことが一緒なら一緒にやりませんかという……そういうやりたいことの方向性のすり合わせが、山はしやすいと思います」。福田さんの“福田流・登山説得型”も、Z世代のメンバーが仲間だからこその工夫なのかもしれません。

突撃力はもちろん、しっかりとロジカルに考え、壁にぶつかってもへこたれずとにかく実践して物事を地道に前に進める。そういう福田さんの厚み、ふわふわしていない力強さ、泥臭さが、仲間を大切にしている感じからも伝わってきます。こうした結束感、一人ひとりが楽しんで仕事をしているのも、福田さんたちの強みと言えるでしょう。
 実際に「しゅんダイアリー」の動画などを見ると分かりますが、メンバーが皆、自分で工夫してやりたいことをやっている感じがします。かつ、視聴者のことを考えてとてもテンポが良く、内容も就活の現場ですぐに使えそうな具体的なものばかり。何よりとにかくメンバーが楽しそうなのが印象的です。

6 福田さんの理想とする実現したい世界観

株式会社Diaryでは、「しゅんダイアリー/内定に一歩近づく就活動画メディア」もリリースしており、就活生向けの「行動力診断テスト」もできるようになっています。今後も色々と新しい展開が期待されます。
※「しゅんダイアリー/内定に一歩近づく就活動画メディア」はこちら

最後に、福田さんに、理想とする実現したい世界観をお聞きしたところ、次のように答えてくれました。

●福田さんの描く世界観

若者の全員が自分の才能に気付いて、その才能が発揮される世界にしたいです。
若者の才能が発見され発揮されると、社会にとっても一人当たりの生産性が上がり、スタートアップも大手企業も、さまざまな企業が元気になります。
就職するにしても起業するにしても、若者が元気になることが、社会全体が元気になる、日本が元気になる上で必須なことだと思います。そのため、(自分たちと)同世代の価値観や生き方、在り方を、ある種、変革する事業をやり続け、結果的に日本全体、そして世界全体が活性化する、元気になる状態を作りたいと思っています。

素晴らしい世界観ですね! 就職でも起業でも、どこの地域にいても、とにかく形にとらわれないで、若い世代の人たちがやりたいことを見つけ、思い切り力を発揮できる。そんな、「世間や隣を気にしない、もっと自由な社会」を福田さんのような【ニコニコした革命家】が作っていく未来が見える気がして、とてもうれしくなりました。未来は明るいです! 有り難うございます!

以上(2022年6月作成)

【朝礼】ボーっと生きてなんかいられません

私はこれまで、恥ずかしながら世界の出来事にそれほど関心がなく、ニュースをこまめにチェックすることはありませんでした。ですが、最近はその考えが変わり、真剣に世界のニュースを見るようになりました。先輩方からすると、「今さら何を言うのか」と思われるかもしれませんが、けさは、まだ世界の出来事に対して関心の薄い人のために、私がどうして世界のニュースに関心を持つようになったかをお話ししたいと思います。

少し前まで、私はニュースで流れる世界の出来事は、自分とはほとんど関係のない話ばかりだと思ってきました。感染症の流行も、異常気象も、国際紛争も、「その地域の人たちはかわいそうだな」としか感じず、基本的に自分事として考えることはなかったように思います。

ですが、今は違います。新型コロナウイルス感染症が日本でも猛威を振るい続け、異常気象は私たちも含めた地球全体の環境破壊が原因となっていることが指摘され、国際紛争が日本の物価にも影響を及ぼすことを体験しました。

まさに今、私たちは世界の動きと自分の生活が直結しているのだということを意識せざるを得なくなっています。そして、たとえ自分は世界の出来事に関心がないとしても、もう世界の動きと自分の生活を切り離すことはできない、ということを悟りました。私は「俗世から離れた悠々自適な生活」に憧れる部分があったのですが、もう夢のまた夢のような話になってしまいました。

世界の動きと自分の生活が直結するようになった理由は、幾つかあると思います。感染症が瞬く間に世界中に広がるようになったのは、世界経済が密接になり、人の往来も増えたことが背景にあるでしょう。環境破壊や兵器の使用といった人間の行為が、地球全体にインパクトを与えるほどまで強力になったということもあると思います。

理由はどうであれ、今の時代は、自分の幸せを実現させるためには、自分だけではなく、世界全体の幸せを実現させる必要がある、と考えなければいけないのだと感じます。

そう考えると、SDGsというものは、世界の誰かを助けてあげるためのものではなく、自分自身や自分と関係する人たちの身を守るために目指さなくてはいけないゴールなのではないでしょうか。

私のようなちっぽけな人間も含めて、一人ひとりが地球上で共同生活をしているという責任を自覚し、世界レベルで物事を考えるようにならなくてはいけない、ということなのだと思います。私が今日捨てたゴミは地球全体の生活環境を悪化させ、電気を消し忘れて無駄に消費した資源は、異常気象を発生させる原因につながっているわけです。でも逆に、私がゴミを拾えば地球は少し住みやすくなり、仕事を通じて社会に貢献すれば、世界が少し便利になるわけです。そのように大きな視点で考えると、とてもボーっと生きてなんかいられません。

以上(2022年6月)

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画像:Mariko Mitsuda

【朝礼】会社は報連相で回っている

「報連相」は、仕事を進める際の基本として知られています。報連相は、報告・連絡・相談の頭の文字をとったもので、ビジネスの基本的な情報を共有するために役立つものです。実は、会社(組織)は、報連相で回っているといっても過言ではありません。

例えば、予定よりもプロジェクトの進行が遅れていることについて、先輩・同僚に報告すれば、よいアドバイスを受けられるかもしれません。また、この件を上司に連絡・相談すれば、上司はプロジェクトの遅れを取り戻すために業務推進のあり方を見直すように指示を出すでしょう。このように報連相をしっかり行うことで、情報を共有し、ビジネスをスムーズに進めることができます。

一方、報連相がうまくいっていない会社(組織)では、各人が自分一人だけで仕事を行いがちです。これでは、その人がミスをしても誰も分かりませんし、その人が急な病気で仕事を休んだときに、会社(組織)としての対応ができません。

報連相は「報告・連絡」と「相談」の二つに分けることができます。「報告・連絡」は相手に情報を伝達するだけですが、「相談」は相手の知恵を借りなければなりません。

まずは、報告・連絡について考えてみましょう。ビジネスにおける報告・連絡は簡単なようで実は難しいのです。独りよがりな報告・連絡では、情報が正しく相手に伝わりません。仮に、情報の受け手に誤解を招きやすい内容の報告・連絡の場合、周囲に混乱が生じることもあります。

次に、相談について考えてみましょう。相談は、相手の知恵を借りることになります。そのため、相手の状況や相談内容によっては、相手に大きな負担をかけることになります。

ここで少し考えてみてください。皆さんが仕事に困ったときに、相談したい相手は誰ですか。その人は、自分よりビジネスパーソンとして能力が高く、しかも相談しやすい人でしょう。こうした人の多くは、皆に頼りにされるため、多忙を極めています。

ここで、会社(組織)の中で、報告・連絡・相談がスムーズに行われるためのポイントを紹介します。

  • 報連相の相手を間違わない
  • 事実を分かりやすく簡潔に伝える
  • 結論から伝える
  • 事実と意見を分けて伝える
  • できる限り書面を用いる
  • 相談の場合は、自分の意見を整理しておく
  • 相手の邪魔にならないタイミングで行う

報連相には、常に相手があります。そのため、相手に伝えるべき内容はあらかじめ分かりやすく整理しておきます。その上で、相手の都合も考えて、タイミングを見計らって行いましょう。

最後に、皆さんに質問します。上司の方は部下から報連相を受けましたか。部下の方は上司に報連相をしましたか。

会社(組織)は、報連相で回っています。自分一人で仕事を抱えこまず、こまめな報連相をお願します。

以上(2022年6月)

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画像:Mariko Mitsuda