【経理業務の効率化】交通系ICカードを使って経費精算の手間を軽減

1 経費精算の手間が減って社内の現金も少なくできる

毎月の経費精算が無くなれば……。

会社で働く人であれば、一度は思ったことがあるでしょう。特に外出や出張の多い役員や営業担当者の交通費精算は、多くの手間と時間を要します。また、経理担当者としても、経費精算の提出遅れやミスがあると決算作業が遅れたりして困ります。

そうした中、比較的手ごろに取り組める経費精算の効率化として注目されているのが、

交通系ICカードの利用

です。主なメリットは次の通りです。

  • 経費申請の時間短縮。アプリを利用すれば、交通経路などの検索も不要
  • 経費の請求漏れやミスの防止
  • 小口現金の出し入れ回数の削減

この他、経営者や経理担当者が気になるのは、

交通系ICカードを利用したときの会計処理(仕訳)はどうなるのか?

でしょう。そこで、この記事では交通系ICカードを利用した場合の会計処理を分かりやすく解説しますので、経理業務の効率化を進めるためにご活用ください。

2 会計処理(仕訳)

ここでは、交通系ICカードの利用について、

  • 用途を限定しない
  • 旅費交通費だけに用途を限定する

といったそれぞれのケースについて会計処理を紹介します。なお、以降で紹介する勘定科目は一例なので、貴社の実情に合わせて読み替えてください。

1)用途を限定しない場合の会計処理

1.交通系ICカードに現金をチャージ

現金をチャージしたときは、まだ用途が不明のため、仮払金などの仮勘定で処理します。

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2.支払い

支払った用途に合わせて仕訳を切ります。支払い用途の確認は、利用明細などを基に行います。交通系ICカードの利用明細は駅の自動券売機で出力できますが、交通機関の利用以外の項目は、「物販」とだけ記載されている場合があるので「個々に領収書」が必要です。

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利用明細の中に、社員が私用で購入したものが含まれている場合は要注意です。その場合は、「立替金」勘定に振り替え、後日、社員より現金で精算(給与天引きなど)します。

2)旅費交通費だけに用途を限定する場合

1.交通系ICカードに現金をチャージ

チャージされた現金の用途は旅費交通費に限定されるので、旅費交通費として計上します。

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2.支払い

支払った際は、既に旅費交通費として計上しているので、特段の会計処理は不要です。ただ、支払いが本当に旅費交通費だけなのかを明確にする必要があるので、交通系ICカードの利用明細などはこまめに提出してもらいます。

3.決算時

決算時に交通系ICカードに残高がある場合は、旅費交通費の前払いとして処理するので、前払費用に振り替えます。ここで前払費用に振り替えた旅費交通費は、決算日翌日に反対仕訳が必要になるので忘れないようにしましょう。

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3 税務上の留意点

交通系ICカードを利用すれば経費精算が楽になりますが、うっかり個人利用が混在してしまうことがあるので注意しましょう。もし、交通系ICカードで行った個人利用の支払いを経費として処理してしまった場合、社員であれば給与、役員であれば役員給与として取り扱います。

社員給与であれ、役員給与であれ、いずれの場合もまずは源泉所得税の徴収に関する問題が生じます。また、役員給与の場合は問題が複雑です。税務上、損金算入できる役員報酬は、「定期同額給与」「事前確定届出給与」「業績連動給与」のいずれかに該当するものです。役員の個人利用が判明した場合は損金算入できず、法人税が課されるケースがほとんどです。また、後日税務調査などで指摘を受けた場合は、加算税や延滞税が課されてしまう恐れがあります。最近は、税務調査の際に、交通系ICカードの経理処理に関して指摘を受けるケースが増えているようなので注意しましょう。

以上(2023年9月更新)
(監修 税理士 石田和也)

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【経理人材の育成(5)】今の時代に適した日常のピープルマネジメントとは?

1 人を育てるためには、日常の些細なやり取りが大切

管理職の重要な仕事の1つに、ピープルマネジメントスキルがあります。ピープルマネジメントスキルとは、

メンバー一人ひとりに向き合い、仕事に対するモチベーションやエンゲージメントを向上させ、チーム全体の力を高めるスキル

です。書店に行くと、部下との接し方といった本を多く見かけることからも、おそらく苦手にしている方も多いのではないでしょうか。私の印象では、経理の管理職の皆さんも例外ではなく、むしろ他の職種以上に課題感を感じている方が多い気もします。

そこで今回は、

ピープルマネジメントスキルの中でも、日常のやり取り

を中心に見てみます。評価面談など定期的に行われるかしこまったやり取りももちろん人材育成に影響を与えますが、圧倒的に多くの影響を与えるのは日常のやり取りです。日常の中で、どのような情報を得ておくとメンバーとのコミュニケーションがスムーズになるのか、また、こちらから指示など伝えるときのポイントなどをお話しします。

2 メンバーについて5分間語れるように

突然ですが、

皆さんのチームのメンバー全員について、それぞれどのような人物なのかを5分間ずつ説明をすることはできますか?

管理職の方であれば、業務面での課題については延々と話せる方もいると思います。ただ、これから挑戦してほしいことといったメンバーの弱みが中心になりがちで、すでに達成している強みには目が向いていない方もいらっしゃるのではないのでしょうか。

管理職はメンバーに比べて視野が広く、かつ視座が高いものの、多忙を極めるため、なかなか小さな変化には気付きにくいものです。しかし、メンバー本人の視点に立てば、以前できなかった業務ができるようになること(変化)が、仕事に対するモチベーションに大きく影響してきます。このようなメンバーの変化を把握し、折に触れてコメントするだけでも、思った以上に相手に響きます。私の経験では、小さな事柄ほど、「こんなことまで気が付いてくれた、見守ってくれている」というように好意的に解釈してくれて、効果が高いものです。ぜひ、できるようになったことやプラスの面にも視点を向けるようにしてください。

次に確認していただきたいのは、

業務面と個人面の両方から語られているかということ

です。業務面とは具体的に、入社年次、これまでの配属と業務内容、担当業務を行ううえでの強みと課題、資格といったことです。これらの業務面に触れるのは難しくないと思いますが、業務面だけ押さえるのでは不十分です。

ぜひ個人面についてもコメントできるようになりましょう。例えば、入社理由、家族構成や状況、性格や思考、趣味など大事にしていることです。なぜこれらが大事かといえば、業務の進め方や得意不得意に与える影響が大きいためです。例えば、思考のパターンだけみても、慎重にミスがないことを確認しながら仕事を進めるタイプもいれば、スピード感をもって次々進めることを好むタイプもいます。私たちが行う経理業務にとって正確さもスピードもどちらも大事な要素ですが、メンバーがどちらのタイプなのかによっては、管理職の皆さんの確認すべき項目や仕事の依頼内容も変わるはずです。

また、個人的項目の中でも、入社の理由は必ず押さえておきましょう。なぜこの会社を選んだのか、経理の仕事に就いたのか、を聞くことで、本人の価値観やキャリアの考え方のベースを知ることができます。面談で改まって今後のキャリアへの希望を聞いても、饒舌(じょうぜつ)に語ってくれるメンバーは少ないものです。しかし、なぜここを選んだのかという過去については、本人も大体よく記憶しており、率直に教えてくれるケースが多いのです。まずはそれを聞き出して、今後の業務において少しでも考慮することができれば、本人のやる気アップにも中期的なキャリア形成にもつながり、一石二鳥です。

このように、個人面の情報を知ることは、雑談もできる、人間関係がスムーズになるからというレベルの話ではありません。私は、

管理職の仕事は「チューニング」だと考えています。個人の方向性と会社の方向性を合わせることで、業務の進み具合は大きく変わります。

共通点を見つけ、実行を助けるのがまさに管理職の仕事といえます。最近聞く「パーパス経営」も、個人のパーパス(存在意義)と会社のパーパスを合わせることが重要といわれており、もはや管理職の役割として社会的にも求められているのです。

3 ツールや会話を通じて、メンバーの情報を集める

では、業務面の情報はまだしも、個人面の情報はどのように集めたらいいのか、悩む方もいるでしょう。

1つの手は、性格診断テストの活用です。もし会社で人材育成の目的で受けたものがあれば、その結果を人事部門から入手して見直すといいでしょう。管理職であれば、多くの場合メンバーの診断結果は見られるはずです。おすすめなのは、

その結果を半年に1回程度定期的に目を通すこと

です。そうすることで、最近見かけた気になる行動について、この思考タイプが影響していたのかもとつながりに気が付くことがあります。これらの情報は、日常をより良く理解し、個人の性格に合わせた人材育成を行うためのものです。決して日常と切り離さないことが大事です。

例えば、私が在籍していた日本マクドナルドやウォルト・ディズニーでは、「ストレングスファインダー」という強みを把握する診断テストを部門で受検していました。各人の強みが公開されており、チームマネジメントやプロジェクトマネジメントに活用されていました。どのようなテストでも、参考になる情報は含まれています。

また、テストは大げさかもと感じる方は、会話のなかで情報を少しずつ集めていくのもおすすめです。メンバーの中には、あまり自分からは発言しないタイプもいます。その場合は、例えば、管理職自身が自分自身のことから発言してみるのもいいでしょう。あるいは、新たなメンバーが来るなど皆が自己紹介をする機会を積極的に設けることができれば、そこで改めて聞くこともできます。また、口下手なメンバーと仲がいい他のメンバーと一緒に会話をするのもおすすめです。上司と自分という1対1だと緊張あるいは警戒しますが、社交的なメンバーを巻き込むことで複数人の和のなかで安心して発言してもらえます。

私の場合には、部の定例ミーティングの報告内容に、「今週のすごい!」という項目を入れて、発表してもらっていました。対象は、仕事でもプライベートでも構いません。自身がこの1週間の中ですごいと感じたことを共有してもらいます。2~3カ月続けると、各人の傾向がかなり見えて、その方の特性が理解できるようになりました。新しい職場などでお互いの理解を深めたい場合に特におすすめです。

情報を集める際の全般的なポイントは、

自分の推測をはさまないこと

です。推測ではなく、本人の発言を得てその内容を重視してください。例えば、子供のいる女性には負担が少ないよう経験のある仕事を中心に任せようと、優しい性格の方ほど先回りして考えがちです。そのような配慮を実際に行う前に、ぜひ本人に働き方の希望を聞いてみてください。人間ですので自分の先入観がどうしても推測にはいってしまいがちですが、本人の発言ほど役に立つものはありません。もしかすると、プライベートに関することは聞きにくいと思うかもしれませんが、この例のように業務分担のための質問であれば、その旨を説明したうえで質問することには大きな問題はないはずです。

4 具体的に伝える

ここまでは、メンバー各人の情報を得るというインプットの話でした。管理職の皆さんは、インプットした情報を踏まえて、メンバーに指示などを出す場面も日常では多いはずです。ここからは、アウトプットする際のポイントを見ていきましょう。

まず、

新しい話や不得手そうな話は、対面で伝える

ようにします。もちろん、リモート勤務の場合には最近多いWeb会議でも構いません。要は電話やメールといった相手に伝わる情報(表情や雰囲気など)が少ない手段は避ける方がいいでしょう。また、本人にとって難易度が高いであろう仕事の話をする場合には、相手の反応が容易に分かり、臨機応変に説明を変えられる方法で伝えます。

また、

紙に書いたり、ホワイトボードを活用したりする

こともいい方法です。私の上司は、私に新しい資料の作成を依頼するときには、一緒にホワイトボードの前に立ちイメージを書き込み、さらにスマホで画像データにして共有してくれました。そうすることで、行き違いを防ぎ、何度も見直すことができます。対面と紙・ホワイトボードに共通するメリットは、容易に目に見えることといえます。

他にも、

理解の相違を避けるためには、使う言葉を選ぶこと

も大事です。例えば、「注意する」「意識する」などは、あまり使わない方がいいでしょう。なぜなら、具体的に何をどうすることなのかが分かりにくいからです。実際に本人が対応方法を考えることになってしまうため、そこでずれが生じがちなのです。もしそれを考えさせたいということであれば、会話の中で、具体的にどうやったらいいと思いますか? と質問して、その回答内容をもとに必要なら説明する方がいいでしょう。

さらに、

日常においてメンバーが判断する拠り所を、標語にして伝える

のも有効です。例えば、私の上司は「Quick Win」という言葉を部門の指針として使っていました。Quick Winとは、とりあえずすぐにできることに取り組んで少しでも改善するという意味です。当時、残業が非常に多く、業務上の課題が山積みという状況でした。その中で、完璧な解決を目指すのではなく、少しでも前に進もうということでこの言葉を使っていたようです。メンバーである私は、この言葉を判断基準として、根本的な解決に時間がかかる場合には応急処置を優先するという行動を迷わずとることができました。このように、標語はいちいち指示をしなくても、管理職の皆さんの考え方を届けてくれるのです。

以前に比べて、コミュニケーションの「ブラックボックス」化が進んでいる今、このような「分かりやすさ」は人材育成や業務の進捗に大きく影響すると感じます。

少し前の時代では、上司が電話でやり取りする様子を伺って、こういうことも起こるんだとか、こういう風に伝えればいいんだと、まさに背中を見て学ぶことができました。しかし、もはや電話はそれほどかかってこない時代であり、代わりにチャットなどで1対1でのコミュニケーションが簡単にとれるようになりました。それも同じタイミング(同期)ではなくお互いの都合がいいタイミングで(非同期)というタイムラグもあります。

よく世代による考え方の違いを踏まえてメンバーとコミュニケーションをとるべきといわれます。しかし、私はそれに加えて、コミュニケーションツールが変わったことで、学ぶ機会が大幅に減少していることをメンバーとのやり取りにおいては大いに踏まえる必要があるのではないかと強く感じます。

以上(2023年9月作成)

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画像:Kittiphan-Adobe Stock

クリーンエネルギー自動車導入促進補助金(CEV補助金)のご紹介

中小企業等を支援する国や自治体の補助金・助成金事業では、雇用・人材開発・IT補助・コロナ支援など幅広いジャンルの支援があります。本レポートでは、おすすめの補助金・助成金について支援の内容や対象条件、申請方法等についてわかりやすく紹介します。

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中小企業の経営者が知っておきたい 経営者のための相続税対策

相続税対策を行うには、まず相続税がどれぐらいかかるかを把握しておくことが必要です。また、相続税対策をするには、その計算をどのようにするかも知っておかなくてはなりません。そこで、経営者にありがちな具体的な問題点をもとに、基本的な相続税計算と、相続税対策のポイントをご紹介させていただきます。

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【朝礼】“効率的じゃない”行動が皆さんを成長させる

今朝は「余白」というテーマで話をします。余白といってもページの余り部分ではありません。仕事の「余白」です。これだけ言われてもピンとこないと思いますから、まずは聞いてください。

今、世の中は「効率化の時代」を迎えています。働き方改革やコロナを背景に広がったリモートワーク、ChatGPTのような生成AIの登場によって、効率化を求める動きはこれまでとは全く違ったレベルで進んでいることを日々実感します。タイムパフォーマンスを略した「タイパ」という言葉が出てくるほどです。

皆さんも日ごろから「効率的に仕事をする」ということを意識しているはずです。効率化とは「無駄」をそぎ落とすことですから、できるだけ直線的に、なおかつ最短距離でゴールに向かうイメージです。ここで問題なのは、「何を『無駄』と定義するか」です。効率的に仕事をすることだけを考え、自分の感情を考慮せずにひたすら仕事をした場合、それは作業に近くなっていくでしょう。確かに早く仕事が終わるかもしれませんが、果たしてそれで皆さんは楽しいでしょうか? あるいは、そんな仕事をしている皆さんは、周囲の人から見て魅力的に映るでしょうか?

私の経営者仲間に、とても魅力的な人がいます。その人は頭が良く、それこそ効率的に仕事をするのですが、「効率化」や「タイパ」などと言っているのを聞いたことがありません。常に「余裕」を持って、本当に楽しそうに仕事をするのです。

この「余裕」が、いうなれば仕事の「余白」なのですが、もう少し掘り下げていきましょう。私の考える余白には、「内側の余白」「外側の余白」の2種類があります。

内側の余白とは、自由な時間や、おおらかな気持ちです。忙しい中でも、自分の趣味に没頭したり、考え事をしたりする時間を確保していれば、定期的に自分と向き合うことができます。そうすると、「私が進むべき道はこれでいいのか?」と考えては足元を固めていくので、めったなことではぐらつかないのです。

外側の余白とは、仕事や家族とは違う人とのコミュニケーションと、そこから得られる気づきです。人間関係にまで効率化を持ち込めば、それは損得感情での付き合いになってしまいます。気遣いをすることもなく、関係も深まりません。しかし、外側に余白があり、異業種の人や自分とは違う年代の人と積極的に交わっていけば、皆さんの、人としての厚みが増していくのです。

「余白は余裕」と言いましたが、余白には無駄なものもあります。しかし、無駄を経験したからこそ気づくこと、得られることがあるのも事実です。常に時間に追われ、ろくに会話もせずに仕事をする人を、誰も魅力的とは思いません。魅力的でなければ周りも本気で話しかけてはきませんから、皆さんの可能性を引き出してくれる人はいなくなります。効率化の時代だからこそ、余白を大切にすることで広がる世界もあるのです。

以上(2023年9月)

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画像:Mariko Mitsuda

関東大震災から100年の節目に考える 現代の地震リスクの特徴と対策について【PR】

1 関東大震災と現代の地震の想定について

10万人を超える死者が出た関東大震災から9月1日で100年になります。この震災は火災による焼死が犠牲者の9割を占めたことで知られますが、大きな余震の連続による建物の倒壊や津波、土砂災害による死者も多数に及んだ記録もあり、地震が様々な災害に波及したことが分かります。今後、高い確率で起こる可能性がある大地震としては、「南海トラフ地震」、「日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震」、「首都直下地震」、「中部圏・近畿圏直下地震」の4つと言われていますが、首都直下地震は南関東で30年以内にM7クラスの地震が発生する確率が70パーセントと予想されており、地震が発生した場合、首都中枢機能の被災が懸念されます。2022年に都が公表した首都直下地震の被害想定では、都心南部を震源に起きると死者最大約6200人のうち、焼死が約2500人を占めると予測しており、延焼の原因になる木造住宅密集地の解消や、漏電火災を防ぐ「感震ブレーカー」の普及など、火災対策を減災の柱に掲げています。しかし、複数回の地震動を考慮していない現在の建物や構造物の耐震基準の問題や、地震時に崖崩れや地滑りの恐れがある多数の土砂災害警戒区域の問題、地盤の液状化が懸念される河川や沼を埋め立てた数多くの「大規模盛土造成地」の問題等への対応も求められます。

関東大震災、阪神・淡路大震災、東日本大震災の比較

出典:内閣府ホームページ「関東大震災100年」 特設ページ
https://www.bousai.go.jp/kantou100/

2 地震リスクの特徴について

日本は世界の0.25%の国土面積でありながら、世界で発生するマグニチュード6以上の地震の約20%が発生しており、全国どこでも地震発生の可能性があると言えます。地震がいつ・どこで起こるかを正確に予測することはできませんが、ある一定期間内に、強い揺れに見舞われる可能性を示した地図(確率論的地震動予測地図)により、地震の発生確率を確認することが可能です。なお、地震の発生確率と、自然災害や事故などの発生確率とを比較してみると、日本の太平洋側の地域は26%以上の確率となっていますが、これは交通事故で負傷する確率(24%)を上回っています。0.1%未満~3%といった確率の低い地域もありますが、それでも火災や大雨で被災する確率に近い値であるため、地震は避けられない自然災害であり、身近なリスクと捉える姿勢が必要です。

今後30年以内にあう自然災害や事故などの発生確率との比較

【確率論的地震動予測地図】
今後30年以内に震度6弱以上の揺れに見舞われる確率の分布図

出典:内閣府「広報ぼうさい51号」

また、地震による影響も企業の規模特性に応じて様々であり、建物の倒壊や焼失、土砂災害や液状化等による財産損失や事業中断に加えて、大切なデータや従業員等を失う可能性も考えられます。また、従業員や第三者の死傷に伴って、施設賠償責任や安全配慮義務違反による使用者責任を問われる可能性もありますし、取引先の倒産や事業中断による貸倒れや取引中断の影響を受けることも想定されます。実際に、東京商工リサーチによる2023年のデータでも震災関連倒産2019件のうち、東京の企業が587件と約1/3を占め、2021年のデータでは直接的に被害を受けていない企業の倒産が90%を占める結果が出ており、サプライチェーンの分断による影響の大きさが伺えます。

「東日本大震災」関連 企業倒産(2023年2月28日現在)

出典:株式会社東京商工リサーチ「「東日本大震災」関連倒産」より

3 平時のリスクコントロール対策について

リスク対策は想定する地震発生の場所・時間・規模や、企業の規模特性によって異なりますが、平時においては、キャビネットやパソコンの固定、データのバックアップ等の対策を行うと共に、有事に備えてハザードマップを見て避難場所や避難経路を確認し、安否確認の連絡方法や緊急時の主要連絡先一覧、消化設備や防護安全設備、非常用物品の備蓄や持ち出し品リスト等を作成しておく事が重要です。また、防災訓練を普段から実施して消化設備の使用方法や応急処置方法等を自社内で共有すると共に、地震は広範囲に被害が広がる可能性があるため、日頃から地域の防災訓練にも参加するなど、自社だけではなく、周辺企業や地域住民と協力する共助の体制構築が重要です。それらの有事に備えた全社的な活動は危機管理規程やBCPに落とし込み、教育・訓練を通して現場に周知することが重要であり、中小企業の場合は事業継続力強化計画(ジギョケイ)の認定を受ける事で、リスク対策を目的とした設備投資に対する低利融資や税務面での優遇措置、保険の割引等が適用される可能性があるため、積極的な利用が求められます。

4 有事のリスクコントロール対策

有事に損失を最小化するには、予め有事の対応方針を明確化し、必要な準備を行うと共に、BCPや危機管理規程等に基づいた適切かつ迅速な対応が求められます。基本的に最優先されるのは安全であり、業務中の場合は、自分の身の安全を確保した上で、自衛消防対応として初期消火・ケガ人の救助・被害の拡大防止や避難誘導を行う必要があります。自衛消防対応後は、役割を分担して初動対応を行います。初動対応は、安否確認、被災状況確認、事業所状況確認等の「状況把握」、職員等の支援、設備の復旧手配、地域周辺対応等の「安全確保」、お客様への報告、業務関連情報の収集、災害広報、復旧対応等の「特別対応」の3つに分けられます。初動対応後は日常業務への復旧が必要ですが、ヒト・モノ・システムなどの経営資源が満足に揃わない可能性があるため、業務に優先順位をつけて優先度の高い業務に経営資源を集中する対応が求められます。

事業継続力強化計画×保険パンフレット

※事業継続力強化計画×保険パンフレット https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/antei/bousai/download/pamflet/hoken.pdf
(出典:中小企業庁ウェブサイトより https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/antei/bousai/keizokuryoku.htm

5 地震リスクのファイナンス対策について

地震は多くの企業に致命的なダメージをもたらすリスクであり、財務対策としての保険の必要性は非常に高いと考えられます。しかし、地震に伴う財産損失や賠償責任、事業中断に関わるリスク等を全て保険に移転するのは難しい場合があります。理由としては、そもそも保険会社の引き受けの制限や、引き受けても保険料が非常に高額になることが想定されるからです。そのため、まずは積極的なリスクコントロールで損失を最小化し、出来る限り財務力を高めて保険の効率化を図ることが重要ですが、必要に応じて、保険以外の資金調達方法も検討することが求められます。具体的には、有事の際の融資予約や有事の際に返済が免除される金融商品の活用、実損額を支払う保険ではなく、一定の地域で一定の震度の地震が発生した場合に、予め設定した金額を支払うデリバティブ商品の活用等が考えられます。何れにしても、地震大国である日本では、企業は地震による巨額の損失に備えた何らかの財務対策が求められるでしょう。

【損保ジャパン BCP地震補償保険】

https://www.sompo-japan.co.jp/hinsurance/risk/benefit/speq/

被災時における損害保険・火災共済の貢献度

出典:中小企業庁 2019年版「中小企業白書」

以上(2023年9月)

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提供:ARICEホールディングスグループ( HP:https://www.ariceservice.co.jp/
ARICEホールディングス株式会社(グループ会社の管理・マーケティング・戦略立案等)
株式会社A.I.P(損保13社、生保15社、少額短期3社を扱う全国展開型乗合代理店)
株式会社日本リスク総研(リスクマネジメントコンサルティング、教育・研修等)
トラスト社会保険労務士法人(社会保険労務士業、人事労務リスクマネジメント等)
株式会社アリスヘルプライン(内部通報制度構築支援・ガバナンス態勢の構築支援等)

日本の植物分類学の父・牧野富太郎。植物愛に満ちた彼の、対人間関係にも通じる一言とは?

世の中に”雑草”という草は無い

牧野富太郎氏は「日本の植物分類学の父」ともいわれる、世界的な植物学者です。自らを「草木の精かも知れん」と言うほど、子供の頃から植物が好きで、一生を植物の採集・分類・図鑑作成に費やしました。1862年から1957年までの94年の生涯で、牧野氏が命名した新種や新品種などの植物は、1500種以上とも、2500種以上ともいわれています。NHKの連続テレビ小説「らんまん」(2023年度前期放送)の主人公のモデルとしても有名です。

冒頭の言葉は、「樅ノ木は残った」や「赤ひげ診療譚」などの著作で知られる小説家の山本周五郎氏が雑誌の編集記者だった時代に、対談した牧野氏から言われたとされています。まだ20代の山本氏が対談中に「雑草」という言葉を口走ると、牧野氏はなじるように冒頭の言葉を述べ、「どんな草にだって、ちゃんと名前がついている」と指摘。さらに、「世の中の多くのひとびとが“雑草”だの“雑木林”だのと無神経な呼び方をする。もしきみが、“雑兵”と呼ばれたら、いい気がするか」ととがめられ、山本氏は「これにはおれも、一発ガクンとやられたような気がした」と振り返ったエピソードが残っています。

牧野氏が山本氏をとがめた理由は、自分が愛する植物に対する無神経さに憤っただけではないはずです。なぜなら、牧野氏は講演などで、しばしば「草木でさえ思いやるようにすれば、人間同士は必然的になおさら深く思いやり厚く同情する」と語り、人間愛、博愛心を養うために、草木に対して愛情を持つことを勧めていたからです。

そもそも、“雑草”という言葉は、「人為的ではなく自然に生えた草」「名前が分からない雑多な草」「目的の栽培植物以外に生える草」などを指しますが、どれも自分にとって有用かどうか、邪魔かどうかといった“人間都合の目線”を含んでいます。人間が大切に栽培している農作物と同様か、それ以上に必死に生きている草の立場は、全く考慮されていません。また、薬草などのように、“雑草”扱いしていたものが、後になって人間にとって有用だと分かることもあるものです。

人間にとって有用かどうか、という観点は、結果が求められるビジネスの世界においては、ごく当たり前の評価軸です。社員が会社に対する貢献度で評価されるのも当然のことです。ですが、現時点で社員としての評価が低いからといって、その人を“雑兵”のように見なし、態度や扱いにも露骨に表すことは、それとは全く別の次元の話です。むしろ、同じ組織の仲間である以上、上役は評価の低い社員ほど愛情を注いで、会社に貢献できるように導いていくべきではないでしょうか。

草木は水やりをすれば大きく育ちます。人が世話をしない“雑草”だって必死に伸びようとします。会社に貢献できない社員に対して、イライラするときこそ、社員の未来に思いをはせ、愛情をもって接してみてはいかがでしょうか。

出典:「周五郎に生き方を学ぶ」(木村久邇典、実業之日本社、1995年11月)、
「牧野富太郎自叙伝」(牧野富太郎、講談社、2004年4月)

以上(2023年8月作成)

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賃金未払企業への国の対応

厚生労働省は、令和4年(令和4年1月から令和4年12月まで)に賃金不払が疑われる事業場に対して労働基準監督署が実施した監督指導の結果を取りまとめました。

この公表は、従来、支払額が1企業当たり100万円以上の割増賃金不払事案のみを集計していましたが、今回から、それ以外の事案を含め賃金不払事案全体を集計しています。

本稿では、厚生労働省が公表した結果をご紹介するとともに、「パートナーシップによる価値創造のための転嫁円滑化の取組について」に基づき、労働基準監督機関が賃金未払企業に対して徹底するとしている主な取組などをご紹介して参ります。

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賃金未払企業への国の対応

厚生労働省は、令和4年(令和4年1月から令和4年12月まで)に賃金不払が疑われる事業場に対して労働基準監督署が実施した監督指導の結果を取りまとめました。

この公表は、従来、支払額が1企業当たり100万円以上の割増賃金不払事案のみを集計していましたが、今回から、それ以外の事案を含め賃金不払事案全体を集計しています。

本稿では、厚生労働省が公表した結果をご紹介するとともに、「パートナーシップによる価値創造のための転嫁円滑化の取組について」に基づき、労働基準監督機関が賃金未払企業に対して徹底するとしている主な取組などをご紹介して参ります。

1 労働基準監督署の指導結果

①令和4年に全国の労働基準監督署で取り扱った賃金不払事案の件数、対象労働者数及び金額は次のとおりです。

令和4年の賃金不払事案

②労働基準監督署が取り扱った賃金不払事案(上表)のうち、令和4年中に、労働基準監督署の指導により使用者が賃金を支払い、解決されたものの状況は次のとおりです。

令和4年の賃金不払事案のうち解決されたもの

※令和4年中に解決せず、事案が翌年に繰り越しになったものも含まれます。
※倒産、事業主の行方不明により賃金が支払われなかったものも含まれます。
※不払賃金額の一部のみを支払ったものも含まれます。

(厚生労働省「賃金不払が疑われる事業場に対する監督指導結果(令和4年)」)

2 労働基準監督機関における対応

厚生労働省では、「パートナーシップによる価値創造のための転嫁円滑化の取組について」(令和3年12月27日閣議了解)などに基づき労働基準監督機関による次のような取組を徹底するとしています。また、倒産、事業主の行方不明により解決が困難な事案については、「賃金の支払の確保等に関する法律」(昭和51年法律第34号)に基づく未払賃金立替払制度の迅速かつ適正な運営に努めていくとしています。

  1. 最低賃金違反や賃金・残業代の不払が疑われる事業場に対して、監督指導を実施し、是正を図る
  2. 毎年1月から3月までの「集中取組期間」において、最低賃金の遵守徹底を図り、賃金の引上げについて検討がなされるよう、賃金引上げや転嫁対策関連の施策の紹介を行う。
  3. 賃金不払をはじめとした基本的な労働条件の履行確保を図るため、定期監督(年間10万事業場以上実施)において、賃金引上げの意向や労働条件の改善状況を確認する。
  4. 労使において賃金の引上げを行うとの取決めを行ったにもかかわらず、賃金支払が履行されず、労働基準監督機関による度重なる指導でも是正しない事業場や、定期賃金や割増賃金を適切に支払わず、同様の法違反が繰り返される事業場については、司法処分を含め厳正に対応する。

3 さいごに

2020年の改正民法施行に伴う労働基準法改正により、賃金の消滅時効期間が原則5年(旧法では2年)、当分の間は経過措置として3年に変更されました。既に改正法施行から3年が経過し、2023年度以降は丸々3年分の未払賃金請求が生じ得ることとなります。

つまり、残業手当などの未払いが生じ、請求が行われた場合は、請求対象期間が1年分増えることになります。

また、2023年4月1日からは、中小企業でも月60時間超の時間外労働に係る割増賃金率が50%以上へと引き上げられており、未払賃金の請求金額が多額になる恐れもあります。会社としては、これまで以上に未払賃金対策に取り組み、リスク回避を図っていく必要があります。

※本内容は2023年8月10日時点での内容です

(監修 社会保険労務士法人 中企団総研)

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画像:photo-ac

職場で盗難事件が発生したら、すぐ警察に通報すべきですか?

1 職場で盗難! しかも、犯人は社員……!

職場のロッカーに入れていた財布が社員の誰かに盗まれた……。こうした職場の盗難は本来あってはならないことですが、万が一のときに素早く、冷静に対応できますか? 対応が遅れると、被害者が「財布を盗まれた!」と大声で騒ぎ立てて社内が混乱し、SNSに「ウチの職場で盗難が起きた」と書き込む社員も出てくるかもしれません。

「盗難は許せないし、被害者には真摯に向き合いたい。でも、大ごとにはしたくない」というのが経営者や労務担当者の本音ではないでしょうか。この記事では、職場で盗難が起きた場合の基本的な対応を紹介していますので、万一の備えとしてご活用ください。

  • 盗難が起きにくい状況を作る
  • 相談窓口を事前に決めて情報を一元管理する
  • 被害者などへの聞き取り調査は焦らずに行う
  • 警察への届け出は被害者の意向を尊重して決める
  • 捜査には協力するが、他の社員への配慮も忘れない
  • 処分後の情報開示は最低限にし、再発防止に努める

2 盗難が起きにくい状況を作る

職場で財布などの盗難が起きやすい場所はロッカールーム(更衣室)です。作業服や制服に着替える必要があって、なおかつロッカールームを使用する時間が社員によってバラバラだと、盗難は起きやすくなります。

ロッカールームでの盗難防止策として有効なのが「防犯カメラ」の設置です。ロッカールームにカメラを設置するのは、プライバシーの問題もあってハードルが高いですが、入口付近に設置するだけでも、「誰が、いつ出入りしたのか」が証拠として残ります。カメラの設置が難しければ、最低でもロッカーを鍵付きにしましょう。

また、この他にも、例えば、ジャケットを脱いで椅子にかけたまま離席し、ジャケットのポケットに入れていた財布を盗まれるといったケースがあります。貴重品は常に身に着けておくことを社員に周知徹底しましょう。

3 相談窓口を事前に決めて情報を一元管理する

万が一盗難が起きた場合、大切なのは「盗難に関する情報がむやみに拡散されないようにする」ことです。盗難に関する情報がむやみに拡散されてしまうと、被害者のプライバシーを害するだけでなく、犯行発覚を恐れた加害者が証拠隠滅を図ったり、被害者を脅迫したりするリスクが生じるためです。

そのために、盗難が起きた際に被害者が最初に連絡する相談窓口を決めておきます。例えば、

社内の不正行為全般に関する相談を受け付ける「内部通報窓口」

などがその役割を果たします。内部通報窓口は、公益通報者保護法で社員数301人以上の会社に設置が義務付けられている窓口ですが、設置義務のない中小企業でも、いわゆる「ハラスメント相談窓口」の対応範囲を拡大して、幅広い相談を受け付けるようにしているケースがあります。

なお、窓口の存在を社員が知らなければ意味がないので、就業規則等で窓口について定めた上で、担当者の連絡先や連絡方法を社内ポスターで掲示するなどしましょう。

また、いざ盗難が起きると、気が動転した被害者が、相談窓口を介さず自分の上司や同僚などに直接相談するケースもありますが、こうした場合は同僚などから相談窓口に報告させるなどして、情報を一元管理できるようにします。

4 被害者などへの聞き取り調査は焦らずに行う

盗難の相談があったら、まず相談してきた被害者に聞き取り調査をします。具体的には、

  • いつ、何を、どういう状況で盗まれたのか(できるだけ具体的に)
  • 加害者の心当たりはあるか(ある場合、その根拠は何か)
  • 盗難に関することを誰かに相談したか(相談した場合は誰にしたか)

などを確認します。同時に、被害者には「会社が対応するので、許可があるまで盗難に関する情報を周囲に漏らさないように」と伝えます。すでに事情を知っている社員がいる場合はその人についても同じことを伝えます。

加害者について根拠となる証拠(防犯カメラの映像や、目撃者の証言など)があるならば、加害者と思われる社員に事情を聞きます。ただし、最初から加害者扱いしたり、語気を荒らげたりせず、相手にも弁明の機会を与えながら話を聞きます。特に、弁明の機会を与える手続きをおろそかにすると、後述する懲戒処分などが無効になる恐れがあります。

5 警察への届け出は被害者の意向を尊重して決める

社員への聞き取り調査によって加害者が分かっていても、そうでなくても、盗難の疑いがあれば警察に被害届や告訴状を出すことができます。単に被害を受けたことを届け出るのが「被害届」、犯行者の刑事処罰まで前提として届け出るのが「告訴状」です。

警察に届け出るか否か、被害届と告訴状のどちらを選択するのかは、

  1. 被害者の意向
  2. 盗難の悪質性

を基に判断します。

優先すべきは「1.被害者の意向」です。仮に被害者が「大ごとにしたくないから、警察に届け出ないでほしい」と言ってきたら、その意向を尊重するのが基本です。逆の場合もしかりです。ただし、「2.盗難の悪質性」によっては、被害者の意向に反してでも、届け出るべきケースがあります。具体的には、「被害者が過去にも職場で盗難の被害に遭っている」「他にも被害に遭っている社員が複数いる」など、放置すれば企業秩序を危うくするケースがそうです。

こうした場合、

「窃盗」ではなく、「建造物侵入」として警察に届け出る

という方法があります。「建造物侵入」とは正当な理由なく建造物に侵入することで、社員が会社の建造物内で盗みを働くことも、「正当な理由のない建造物への侵入」とみなされます。建造物侵入の場合、被害者は会社になるので、警察に届け出るか否かは会社が決められます。

なお、警察に届け出ない選択をした場合も、加害者が分かっているならば、その者には毅然とした態度で臨みます。具体的には、

「今回は被害者の意思を尊重するが、次に同じ犯行をした場合は警察に届け出るし、会社としても重い処分を下す用意がある」

といった旨を伝えます。

6 捜査には協力するが、他の社員への配慮も忘れない

警察への届け出が受理された場合、

  • その時点で加害者が分かっていれば、加害者は警察に出頭して取り調べを受ける
  • その時点で加害者が分かっていなければ、警察が会社を訪問して現場検証を行う

ことになります。後者の場合、当事者以外の盗難の事情を知らない社員に、必要以上に不安を与えないように配慮します。

具体的には、警察が届け出を受理して、現場検証を行う前に、社員に一定の説明を行って協力を要請します。現時点で会社として把握していることを伝えますが、開示する情報は「社内で盗難が発生したこと」など必要最小限にとどめましょう。「誰が被害者か」「盗難物が何か」などの情報が拡散してしまうと、被害者のプライバシーに関わりますし、「犯行者しか知り得ぬ情報」が漏れると捜査に支障を来す恐れもあります。警察が捜査を開始した後は、事件への対応は基本的に警察の手に委ねる形になります。

7 処分後の情報開示は最低限にし、再発防止に努める

警察の捜査が終わったら、会社側でも加害者に対する懲戒処分を検討します。警察への届け出と同様、「1.被害者の意向」「2.犯罪の悪質性」が検討のポイントになります。被害者が処分を望んでいない場合、その意向を尊重して厳重注意だけで済ませることもできますが、悪質性の高いものについてはこの限りではない、という意味です。

ただし、懲戒処分を与えるにしても、犯行の内容に対して重すぎる処分は無効になるので、「盗んだ額はどの程度か」「反省は見られるか」などを考慮して慎重に処分内容を検討する必要があります。なお、就業規則等に懲戒事由に関する規定があることが大前提です。

処分に関する手続きが終わったら、最後に、二度と同じような事案が起きないよう再発防止に努める必要があります。基本は、

  1. 発生した盗難事件に関する情報開示
  2. 会社として「盗難を許さない」旨の再周知

です。

1.については、犯行者が特定され、犯行者に対する処分が確定した後に行います。ただし、社員に開示する情報は「社内で盗難が発生したこと」など必要最小限にとどめましょう。「加害者や被害者の氏名」「盗難物の具体的な内容」「加害者の処分内容」などはプライバシーに関わるので、基本的に開示は避けるべきです。

2.については、会社の就業規則等の懲戒事由について改めて全社員に説明し、犯罪行為をした場合、ことと次第によっては「懲戒解雇」のような重い処分を下す可能性があることを周知します。

以上(2023年9月作成)
(監修 弁護士 八幡優里)

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