食料としても昆虫すごいぜ 残る課題は普及に向けた「イメチェン」

書いてあること

  • 主な読者:新規事業を検討する小売業、食品・飲料業の経営者
  • 課題:将来性のある新規事業を検討したい
  • 解決策:昆虫食の取り組みを確認しつつ、消費者の認識も把握する

1 世界の潮流は「家畜から昆虫へ」だけど、虫のイメージが…

日本でも、昆虫を食べ物に取り入れる昆虫食が徐々に広まってきています。最近では、大手小売店の無印良品でコオロギを原材料としたせんべいが発売されました。また、小麦価格の上昇を背景に、代替たんぱく源として昆虫食の問い合わせが増えているとの声も聞かれます。

食料としての昆虫は、家畜などに比べて、

  • 高たんぱくで栄養が豊富
  • 温室効果ガスやアンモニアなどの排出量が少ない
  • 水や肥料などの消費が少ない

といったメリットがあるので、国連が定めたSDGs(持続可能な開発目標)の、「飢餓をゼロに」「気候変動に具体的な対策を」「陸の豊かさも守ろう」といった課題の解決が期待されています。

、昆虫食の最大の欠点は、消費者に根強く残る「見た目や虫そのもののイメージ」です。この記事では、メディアでも徐々に露出が増えてきた昆虫食の動向を解説し、昆虫食の普及が加速していくためのヒントを考えていきます。

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2 多様なタイプが登場。キモは虫の姿を活かすか、なくすか?

昆虫食は、国内外で「昆虫食スタートアップ」などが次々と新商品を開発・提供し、従来のイメージが変わりつつあります。

これまでは昆虫の見た目をそのまま商品にした提案が注目されがちでしたが、昨今では昆虫食の普及や定着を視野に入れ、パウダーなどの形にして、消費者の心理的なハードルを下げる商品も登場しています。詳しく見ていきましょう。

1)女性向けを意識した昆虫食自販機:亜細亜TokyoWorld

亜細亜TokyoWorldは、昆虫食自販機「MOGBUG(モグバグ)」を、東京の秋葉原と高田馬場に設置しています。

自販機では、コオロギやカイコなどのスナックや、タガメのエキスを使ったサイダーなどを販売しています。女性でも興味を引くように自販機自体をカラフルなデザインにするとともに、商品パッケージもリアルな虫の姿ではなくカラフルにすることで、消費者の抵抗感を抑え、購入しやすくしています。

同社ではMOGBUGを、「栄養満点なギルトフリー(天然の素材を使い、カロリーなどが低い“食べても罪悪感がない”)スナック」として打ち出しており、食生活や健康の意識が高い女性向けに浸透させようとしています。

2)ハイセンスな昆虫食レストラン:ANTCICADA

ANTCICADA(アントシカダ)は、ジビエや昆虫食をメニューに取り入れたレストランを運営しています。

同店では、昆虫食につきまとう、いわゆる「ゲテモノ料理」のイメージを覆す、おしゃれなコース料理として提供しています。ペアリングのアルコール類の選定を専門知識のある発酵家が担い、シェフはミシュランに選ばれた料理店で修業したこともある本格派です。提供される料理は「高級昆虫食」の印象を与えています。

同店はECショップも運営しており、店舗でランチタイムに提供されるコオロギラーメンや、カイコの繭(まゆ)を使ったシルクソーセージ、タピオカミルクティーのシロップとして使う蚕沙(さんさ。カイコのふんのこと。漢方として使われる)なども販売しています。

3)カイコを次世代の食品に:Ellie

Ellie(エリー)は、日本では衣料品の素材として古くから使用されているカイコを、次世代の食料として提案しています。同社と提携する大学との研究で、カイコにはたんぱく質などに加えて、健康維持や有害物質を緩和させる機能性成分が豊富に含まれていることが分かりました。

同社はカイコの繭を粉末またはペースト状に加工し、食品の形状に応じてパテやチップスに練り込んで使用することを提案しています。2020年には、カイコを原料に含んだハンバーガーやスープなどを販売するスタンド「SILKFOOD LAB」を、期間限定で展開しました。現在はカイコのパウダーを原料にしたチップスを同社のECサイトで販売中です。

同社の取り組みは異業種からも注目を集めており、2020年3月には、アイビスパートナーズ、三井住友海上キャピタル、京葉ガスを引受先とした、約4500万円の第三者割当増資を実施しました。

4)日本初のコオロギ製プロテイン:ODD FUTURE

2020年創業のフードテック企業のODD FUTURE(オッドフューチャー)は、「INNOCECT(イノセクト)」のブランドで、コオロギの粉末を用いたプロテインパウダーや、プロテインバーを販売しています。同社のECサイトや商品パッケージは、スキンケアブランドをほうふつとさせるデザインを取り入れており、女性をターゲットにしていることがうかがわれます。

商品紹介のコンテンツでも、コオロギが持つ美容成分やグルテンフリーなどを紹介し、健康面や美容面でのメリットを強調しています。また、「コオロギ」とは表記せずに英訳の「クリケット」に統一することで、「昆虫感」を排除しています。さらに、同社が掲載されたメディア紹介でも、女性誌やファッション誌を積極的に挙げており、ターゲット層に合った広告戦略を取っています。

同社は2021年10月に複数のベンチャーキャピタルを引受先とした第三者割当増資を実施し、今後のマーケティング強化や研究開発に取り組む計画です。

5)新規事業で昆虫食に参入:太陽グリーンエナジー

太陽ホールディングスの子会社で、再生エネルギーの発電事業などを行う太陽グリーンエナジーは、同社で養殖したコオロギを販売するECサイト「TAIYO Green Farm Cricket」を2020年8月から運営しています。このECサイトは、同社が養殖したコオロギを、ペットの飼料用と人間の食用として販売しています。

当初は、新型コロナの影響で外出の自粛が要請される中で、飼っているペットの餌のコオロギが購入できなくなったことからスタートしましたが、昆虫食の輸入や小売りなどを行うTAKEO(タケオ)と共同で、太陽グリーンエナジーが養殖するコオロギの産地(埼玉県、福島県)ごとの特徴を活かした商品を販売しています。

6)コオロギせんべいで昆虫食の認知度を高める:良品計画

近年、一部の人たちの間で徐々に注目を集めていた昆虫食の認知度を、一般の消費者向けに広めたきっかけの一つに、良品計画のコオロギせんべいが挙げられます。同社のコオロギせんべいは、食用のコオロギの研究で著名な徳島大学発のベンチャーで、食用コオロギの大量養殖を進めるGRYLLUS(グリラス)と共同で商品開発を行いました。

グリラスが養殖するコオロギは、野生種との判別が容易になるように、目が白くなったアルビノ種に厳選し、国内の施設内で飼育して野生種との混入を防いでいます。食品としての安全性にも配慮し、エサや成長過程を記録しています。

コオロギせんべいの類似商品は数多く市場にあり、同社の商品は、日本初のものではありません。しかし、これまで多くの昆虫食関連製品が苦労していた低価格化を実現しています。この背景には、良品計画によるコオロギの量産体制や、国内外に出店する販売網などの大企業の力が発揮されているといえます。また、幅広く受け入れられるために「昆虫の見た目」を排除し、国内の施設での品質管理を徹底することで、心理面・衛生面にも配慮しているといえるでしょう。

7)食育セットで未来の「昆虫食ユーザー」を育成:MNH

MNHは、昆虫食商品の販売に特化したECサイトで、コオロギの粉末を使った食育セットを販売しています。同社の「未来コオロギラボ・コオロギたこ焼き作りキット」は、コオロギの粉末と素揚げをたこ焼きの粉とセットにしており、子供の自由研究に使える「研究まとめシート」も同封されています。

たこ焼きに混ぜる粉末の量を調整することで、味の変化などを研究することができます。従来は、粉末や素揚げはそれぞれ単品として販売されることが主流でしたが、「粉もの」であるたこ焼きに混ぜる形にして、自由研究の題材としてアレンジすることで、これまでとは違うユーザー層の開拓につながりそうです。

こうした取り組みは大企業も始めており、パン製造大手の敷島製パンも、食用コオロギのパウダーを使ってパンを自宅で作れる食育セットを販売し、この食育セットを用いた子供の自由研究のコンテストを開催しました。

8)イエバエを飼料化:MUSCA

MUSCA(ムスカ)は、イエバエを用いたバイオマスリサイクルと、幼虫の飼料化を行っています。同社のイエバエは、約50年間の品種改良を繰り返しており、通常種に比べて成長や有機物の分解が優れています。

このイエバエの卵を、家畜の育成過程で発生する排泄物に植え付け、幼虫の餌として処理します。処理された排泄物を堆肥として商品化し、植物の栽培などに利用されています。成長したイエバエの幼虫は、さなぎになるために排泄物から這い出てきたところを回収し、乾燥させ、魚や鶏などの養殖業、畜産業向けの飼料として販売されます。

従来は排泄物を畑などに撒き、悪臭などを放ちながら数カ月かけて堆肥化していましたが、イエバエを用いることで、堆肥化までの期間を約1週間に短縮できるだけでなく、成長したイエバエを飼料として収益化できるようになりました。さらに、イエバエの飼料は、飼料を食べた魚の病気への耐性が強化され、体が大きく成長するなどの効果が報告されています。

3 昆虫食に対する意識など 状況は追い風も、普及はまだまだ

昆虫食が徐々に認知され始め、「将来の食料」の候補として意識調査も実施されるようになりました。今回は、近い将来の潜在ユーザーとなり得る、若者への意識調査から、昆虫食の現在地を見てみます。

1)若者への意識調査:日本財団 第31回18歳意識調査「新しい食について」

日本財団が17~19歳を対象に行った意識調査「新しい食について」によると、昆虫食に対する認識は次の通りです。

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この意識調査によると、代替肉(植物由来の原料などで肉の食感を再現したもの)や昆虫食などに対する評価は、半々といった状況です。また、昆虫食については「食べてみたくない」との回答が83.8%と、普及へのハードルは容易ではなさそうです。一方で、今回の調査対象者でフードテック(先進的な技術を用いて食料の課題の解決や、可能性を開拓するもの)を知っていると回答したのが9.7%にとどまったことを考慮すると、まずは昆虫食を含めたフードテック全体の認知度を向上させることが先決かもしれません。

また、価格も普及の足かせになっています。例えば、昆虫食のスナックとして代表的なミールワームやコオロギの素揚げのパックの場合、商品の中には15グラムで1000円以上もするものがあります。昆虫食を食べるメリットが明確でない場合、興味のない食べ物に1000円以上を出すのは現実的とはいえないでしょう。

この背景には、昆虫食の需要が限定的で、効率的な大量生産、流通が確立していないことなどが挙げられます。東南アジアなどから輸入する昆虫の素揚げなどは、昆虫を人力で採集している場合もあり、収穫は天候に左右され、人件費もかさんでいるかもしれません。

近年では、コオロギせんべいのように、一般消費者への普及を意識した商品開発、価格帯での提供を進める企業も現れており、今後は価格の低下も期待できそうです。

2)昆虫食の現状

最後に、昆虫食の現状として次のようなものが想定されます。国連などによる普及の支援や、国内外の昆虫食スタートアップなどの登場で市場は徐々に盛り上がってきています。消費者側に目を向けると、一般への普及にはまだまだ時間がかかりそうですが、昆虫食の高たんぱく・低カロリーなどの特徴を活かすことで、近年の健康ブームに乗った商品開発で認知度を高めることができるかもしれません。

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画像:andrerako-Adobe Stock

以上(2022年6月)

雨天時の安全運転(2022/06号)【交通安全ニュース】

活用する機会の例

  • 月次や週次などの定例ミーティング時の事故防止勉強会
  • 毎日の朝礼や点呼の際の安全運転意識向上のためのスピーチ
  • マイカー通勤者、新入社員、事故発生者への安全運転指導 など

今年も、梅雨入りの時期となりました。降雨は、視界を悪くし、路面を滑りやすくするなど運転に少なからず影響を与えるため、慎重な運転が求められます。

今回は、雨天時の運転での視界確保とスリップ事故防止に着目して、安全運転を考えましょう。

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1.視界不良やスリップによる事故事例

首都高速道路株式会社の調査(下図)によると、首都高速における雨天時の事故件数は約5倍に増えています。

雨による視界不良、路面状況の悪化、雨音による車外の音情報の遮断など運転上の悪条件が重なり、事故が発生しやすくなります。特に視界不良とスリップによる事故が多いので、事故事例を通じて注意点を確認しましょう。

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出典:首都高速道路株式会社 首都高ドライバーズサイトに掲載の2020年度統計値を基に当社作成

【事例1:視界不良による衝突事故】

運転者は雨天時に幹線道路を走行しており、降雨により前方が見えにくい状況にあった。横断歩道外を横断した歩行者の発見が遅れ、急ブレーキをかけたが、間に合わず衝突した。

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⚠ 注意点

雨天時の運転では、フロントガラス等に付着する水滴により、前車や信号機、標識等が滲んで見えるなど、視認性が低下します。また車内外で気温差が大きいときや湿度が高いときは、フロントガラスが曇りやすくなります。

【事例2:水たまりでのスリップ事故】

運転者は直線道路を走行しており、路面には降雨による水たまりができていた。運転者は路面状況を見誤り、水たまり部分でスリップし、道路沿いの街路樹に衝突した。

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⚠ 注意点

雨天時の運転では、路面とタイヤとの間の摩擦が小さくなるため、制動距離(ブレーキをかけて車が止まるまでの距離)が伸びます。またタイヤが滑りやすくなり、水たまりがあるとスリップすることがあります。

2.視界確保とスリップ防止のポイント

視界確保

①ワイパーを正しく使用する

雨量に応じて適切にワイパーを使用しましょう。

ワイパー作動時に、拭きむらやビビリ音などを発見した場合は、早めにワイパーを交換しましょう。

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②フロントガラスを曇らせない

エアコンの除湿やデフロスターを活用しましょう。

車外の湿度が高い場合は、内気循環が有効です。

傘や服の水滴を払ってから車に乗り込むようにすることも車内の湿度対策として有効です。

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※雨天時は、歩行者や自転車からの視界も悪くなるため、歩行者や自転車が自車の接近に気づかずに道路を横断するようなことがあります。よって、視界不良を踏まえた危険予測運転や自車の存在を周囲に気づいてもらえるようなヘッドライト等の点灯が有効です。

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スリップ防止

①スピードを抑えて車間距離を長めに取る

路面状況の変化を意識した上で、スピードを抑えて十分な車間距離を取りましょう。

追突等の危険回避だけでなく、前車の水しぶきを浴びる可能性も少なくなります。

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②「急」な運転操作はしない

急発進・急ハンドル・急ブレーキは厳禁です。

特に水たまりでの急ハンドルや急ブレーキは事故に繋がる可能性があり、大変危険です。

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※雨の降り始めは、路面にホコリや泥などが浮き上がり、車が滑りやすい状況です。また濡れた道路標示やマンホールの蓋の上などは滑りやすくなっています。路面状況の変化を早めに察知し、状況に応じた走行をすることが重要です。

3.雨天時の安全運転に向けて

日頃から、ワイパーやタイヤの点検、フロントガラス等の清掃など雨天に備えておくことが大切です。また雨天時は、視界の悪化や路面状況の変化を踏まえて、常に先の状況を予測しながら運転をすることが重要です。

事前準備と危険予測の心構えで、安全運転を継続しましょう。

以上(2022年6月)

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画像:amanaimages

第27回 東北電力 事業創出部門 アドバイザー 出馬 弘昭 氏/森若幸次郎(John Kojiro Moriwaka)氏によるイノベーションフィロソフィー

かつてナポレオン・ヒルは、偉大な多くの成功者たちにインタビューすることで、成功哲学を築き、世の中に広められました。私Johnも、経営者やイノベーター支援者などとの対談を通じて、ビジョンや戦略、成功だけではなく、失敗から再チャレンジに挑んだマインドを聞き出し、「イノベーション哲学」を体系化し、皆さまのお役に立ちたいと思います。

第27回に登場していただきましたのは、大阪ガスで海外スタートアップとの協業、複数の新規プロジェクト立ち上げを経験され、2018年からは東京ガスのシリコンバレーにおけるCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)立上げにも参画し、2021年から東北電力 事業創出部門 アドバイザーをしている 出馬 弘昭 氏です(以下インタビューでは「出馬」)。

国内有数のクリーンテックの有識者として十数社のアドバイザーなどを務める出馬氏に、現在に至るまでの道のりと、イノベーションの哲学を伺いました。

1 「80年代当時から、大阪ガスは『将来、関西でガス事業だけでは会社を存続できない。総合生活産業を目指す』という考えを持ち、事業に取り組んでいる会社でした」(出馬)

John

日本を代表するクリーンテックの専門家、Mr.脱炭素の出馬さん、貴重なお時間をいただき、愛りがとうございます(愛+ありがとう)。
この記事では、出馬さんご自身のお話を掘り下げてお聞きしたいと思っています。

どうしたら出馬さんのような方になれるのか、イントレプレナーとはどのように生まれるのか、その秘訣を探っていきたいです。

まずは、どのような学生時代を経て大阪ガスへ入社されたのか、教えていただけますか。

出馬

学生時代は、京都大学工学部機械系物理工学科に在籍し、エネルギー系の研究室に所属していました。

研究テーマは極低温での輻射特性でした。研究室の出身者は、電力ガスなどのエネルギー系の会社に就職することが多く、僕も大阪ガスを選びました。

入社は1983年。当時、大阪ガスは「将来、関西のガス事業だけでは会社を存続できない。総合生活産業を目指す」会社でした。

エネルギーの領域を都市ガスだけではなく、LPガスや電気などに広げ、地域も関西だけでなく全国・世界に展開しました。また、総合生活産業を目指すということで、エネルギー以外の事業にも取り組み、経営の多角化を目指していました。

新規事業にもいろいろと取り組んでおり、日本の電力・ガス業界ではかなり先進的な考えを持つ会社だったと思います。

そんな大阪ガスで、僕は主に研究所やIT部門に在籍していました。大阪ガスでは、研究所の成果やIT部門の成果を、必ず事業化するというのが鉄則でした。

通常、企業の研究所というのは、研究成果は社内のために使うものと考えますが、大阪ガスでは「社内で使うのは当たり前。それが終わったら事業化して外部へ販売を」という姿勢だったのです。「商人(あきんど)魂」が根付いた会社でしたね。

僕も研究の成果を事業化、外販することを多々やっていました。

John

今でこそ、研究とビジネスを繋ぐ必要性が叫ばれていますが、80する年代からそうした姿勢を持って取り組まれていたとは、先見の明を持つ会社だったのですね。素晴らしいです。

中でも、印象に残っているプロジェクトやご経験はありますか。

出馬

初めて携わった海外プロジェクトは、大阪ガスと米国スタートアップの協業でした。

1988年、僕は会社の海外留学制度を利用して、米国・南カリフォルニア大学で画像処理の研究をしていました。ある時、大阪ガスの研究所の先輩から「ロサンゼルス(LA)におもしろいスタートアップがあるから見に行ってほしい」と連絡が来ました。

そのスタートアップは音声認識の会社で、不特定話者、つまり誰の声でも認識するという技術を持っている当時最先端の会社でした。

直ぐにスタートアップを訪問し、実際に音声認識をトライ、日本にレポートしました。すると、先輩がLAに来て、スタートアップと協業の話をしました。その後、大阪ガスはその音声認識の技術をライセンス契約し、IT子会社・オージス総研でビジネス化しました。

その時に驚いたのは「大阪ガスというローカルなガス会社は、海外のスタートアップと、こんな短期間で協業し、ビジネス化する会社なのか」ということでした。

その後、そのスタートアップはうまくいかず経営破綻しましたが、大阪ガスは音声認識のソフトウェアライセンスを買い取り、国内でビジネスを続けました。

このエピソードからも分かる通り、一般の方が考えているような電力・ガス会社の研究所の仕事ではなかったですね。1980年代、大阪ガスの研究所では、「ガスの研究はするな」とまで言われていました。当時の幹部曰く「大阪ガスの研究所は将来のための研究をするべきであり、先細ることが見えているガスの研究はしなくてよい」と。

今考えると、すごい会社だったなと思います。

John

今後伸びる産業に関わることは、企業を成長させる上で欠かせないことです。しかし、ガス会社が率先して、ガスの研究をするより将来性のあるビジネスの創出に力を注ごうという方針を打ち出しているとは驚きです。ここまでアントレプレナーマインドの徹底した企業は、いまだに少ないのではないでしょうか。

若い頃にそういう環境にいらっしゃったというのは、うらやましい限りです。帰国後は、どのようなお仕事をされていたのですか。

出馬

1989年に帰国し、大阪ガスの研究所でやっていたSQUID脳磁計と呼ばれる医療装置のプロジェクトに参画しました。脳の機能解明をする医療装置を開発し、大学病院などに販売するプロジェクトでした。基幹部品であるセンサーはカナダのスタートアップのセンサーを採用し、大阪ガスが医療装置を開発しました。僕は画像処理の分野を担当していました。

脳を調べる機械といえばMRIがイメージしやすいと思いますが、MRIは脳の組織・形状を見るものです。一方、僕たちが作っていたのは脳のどこが動いているかを可視化する装置でした。

脳の構造がわかるMRIのデータと、我々がつくっている脳磁計を重ね合わせるようにしたら、どの部位が動いているのかが分かります。

「なぜガス会社がメディカル系の事業を?」と思われるかもしれませんが、この医療装置というのは全く脈絡のない話ではありません。大阪ガスが海外から輸入する液化天然ガスが持つ冷熱エネルギーの活用という側面がありました。

天然ガスはガスのままでは体積が大きいので、液化して600分の1の体積にして輸入します。大阪ガスはこの冷熱を有効利用する研究をたくさん行っていました。

基幹部品のセンサーは、極低温で作動するため、冷熱利用技術の一環でした。

僕は画像処理の責任者としてプロジェクトに加わりました。LAでは音声認識のスタートアップとの協業の現場に接し、日本に帰ってきたらカナダのスタートアップと組んで医療装置のビジネス開発をするという、今だったら考えられないような幅広いプロジェクトに携わらせてもらえたのです。

こうした経験を20代後半から30代前半にかけてできたというのは、その後に大きく影響しました。

John

本当に、若いうちに世界を見るというのは貴重な体験ですよね。しかも出馬さんの場合は、実際にプロジェクトを成功に導かれている。

国による違いはもちろんですが、相手がスタートアップという部分で大企業とはさまざまなギャップがあったことと思います。それらの壁を乗り越えて、両社にとって良い方向に話を進めていかなければならない。

いち早くグローバルオープンイノベーションを成功させた出馬さんの気づきは、これからに取り組もうという多くの企業の参考になると思いますが、カナダのスタートアップとの協業で、特に印象に残っていることはなんでしょうか。

出馬

英語でのタフな交渉を経験できたことと、スタートアップの厳しさを肌で感じられたことですね。

当時、僕は年に5〜6回程度、カナダのバンクーバーの郊外にあったセンサーのスタートアップを訪れていました。

こちらは僕1人ですが、スタートアップはCEOやCTO以下4〜5人が打ち合わせに出てきます。日本市場に合うように彼らの仕様を変更してもらうような交渉をするのが仕事ですので、彼らと戦わなくてはいけないことも当然あります。

1回の出張で1週間程度滞在し、その間は朝から晩まで英語で議論しました。出張中は英語漬け、夢も英語で見るほどでしたね。英国でかなりタフな経験ができたので、その後、日本語での仕事は怖いものなし、何でもできる気になりました。

また、僕は結局のところ大企業の安定した社員の身でしたが、彼らは週給で働くスタートアップ。

今でもよく覚えているのが、その会社の「金曜日の朝、CEOに呼ばれた社員はクビを宣告される」という厳しい現実でした。

金曜に「○○さん、社長が呼んでいます」と言われたら、一切何も物を持たず、手ぶらで社長室へ行くのです。

そこで、社長から「君はパフォーマンスが悪いので今日で終わりです」と言われます。そして、係の者がその人のデスクへ行き、個人的な物だけを段ボールに入れて運んでくるのです。

そういう様子を見て、「この人たちはこんな厳しい中で、短期で成果を出すことを求められているのか」と感じましたし、大企業との違いと、これがスタートアップかというのを目の当たりにしました。30歳の自分には、大きな衝撃であり、刺激となりました。

John

国内で大企業に勤めていたら目にすることのないスタートアップの厳しい世界を目の当たりにされたのですね。

この環境の違いは、実はオープンイノベーションを成功させるために、日本企業側が知っておかなければならない重要なポイントですよね。

せっかくミーティングしても協業の話が途中でなくなってしまう原因として、スタートアップ側が真っ先に挙げるのが「スピード感の違い」です。意思決定1つとっても、大企業側には社内の複雑な意思決定プロセスがあり、通常のプロセスを踏んでいるだけなのに遅いと言われても困ると感じたりする。

なぜこのように両社の足並みが揃わないのかというと、出馬さんが仰った通り大企業とスタートアップでは安定性があまりにも違いすぎる。先ほどの例のように、社員個人レベルでも終身雇用と1週間ごとにクビ宣告がある環境という違いがあり、会社レベルでも何十年も続いてきた会社と資金調達に失敗したら無くなる会社という違いがある。

生命線が短いスタートアップとその社員にとっては、1分1秒が本当に貴重で、今持っている時間をフル活用してすぐに具体的な成果を出さなければ、次はない。ゆっくりと検討している時間はないんですよね。

2 「事業立ち上げにおけるスピード感は、海外のスタートアップなどと協業していた経験から得たものです。アジャイルで開発し、とにかく早く進めることを心がけていました。」(出馬)

John

先ほどお話しいただいた医療機器のプロジェクトは、ご自身で企画されたのですか。

出馬

いえ、医療機器は研究所の別の先輩が立ち上げたテーマでした。僕は留学から帰国後、そのプロジェクトに途中参画しました。初めて自分でプロジェクトを立ち上げたのは、医療機器プロジェクトを離れた後の1993年のことです。

当時、マルチメディア全盛時代でした。CATVこそが情報スーパーハイウェイだと言われていました。研究所で新しいテーマを検討することになり、エネルギー会社はエネルギーをお客さまに供給するだけでなく、情報も提供する時代が来るだろうと考えました。そこで、「エネルギー情報サービス」というコンセプトを立案しました。

どういう情報をお客さまに提供するかと考え、社内を探したところ、料理レシピにたどり着きました。大阪ガスは大正時代にガス調理を普及させるために料理教室を始め、数万のレシピを保有していました。まずはお客さまの生活に密着した料理レシピコンテンツの配信を考えました。

1994年、京阪奈でCATVによる情報スーパーハイウェイ実験が行われており、ここに参画し、レシピコンテンツ配信を始めました。

1995年、阪神・淡路大震災が起こりました。震災後の混乱の中、誰がどこにいるか、無事かどうか、そうした情報がインターネット上に集まるようになり、一気に一般の人までインターネットが認知されました。そこで、CATVからインターネットにピボットすることを決意しました。

日本のスタートアップ2社を巻き込み、1カ月でアジャイル的にレシピサイトを完成させました。

しかし、インターネット公開については、社内からの猛烈な反発がありました。料理レシピは大阪ガスの家庭用営業部門に帰属するもので、僕たち研究所がつくったものではなかったためです。

彼らから「インターネットなんてオタクしか使っていない。なんでそんなところに公開するのか」と猛反対されましたね。

それを何とか乗り切って、95年7月にレシピサイトをローンチ、大ヒットさせることができました。自分がリーダーとなって立ち上げた初めてのプロジェクトです。

1996年、このサイトは日経新聞の日経インターネットアワード第1号に選ばれました。また、Yahoo!が「日本の定番100サイト」などを選ぶ企画でも常連でした。1999年、docomoのiモードが開始した時には最初のコンテンツプロバイダーの1つとなりました。

まだクックパッドが出る前の時代で、レシピサイトとしては大阪ガスがNo.1だったのです。当時、僕は新聞、雑誌、書籍、テレビにも出る、ネット業界人でしたね。

John

ご自身の初のプロジェクトということですが、世の中の流れの変化に迅速に対応し、立場の異なるさまざまな人をチームに巻き込んで、見事に大ヒットを納められた訳ですね。おめでとうございます。

プロセスを伺うと、まるでスタートアップのようだとも感じます。

出馬

ありがとうございます。事業立ち上げのスピード感は、海外のスタートアップなどと協業していた経験から得たものです。アジャイルで開発し、とにかく早く進めることを心がけていました。

残念ながら、レシピサイトNo.1の座はクックパッドに抜かれてしまいました。大企業でスピード感を持って仕事をしても、スタートアップのスピードには敵わないことを実感しました。

レシピサイトはレシピレンタルなどで事業化し、四半世紀経った今も大阪ガスの子会社のビジネスとして継続しています。

その後、僕は研究所のマネジャーになり、部下といろいろなプロジェクトを立ち上げました。

1998年、データ分析部門を立ち上げ、その後、事業化しました。実は大阪ガスはデータ分析のジャンルでも有名なのです。

日経情報ストラテジー誌が2014年にデータサイエンティスト・オブ・ザ・イヤーをつくり、大阪ガスは第1号に選ばれました。今も大阪ガスの中には、高度なデータ分析のチームがあり、経営の意思決定支援から現場の生産性向上まで行っています。また、子会社でのデータ分析ビジネスも継続しています。

2001年には行動観察というプロジェクトを立ち上げました。先ほどのデータ分析はデータとして存在するものを分析します。しかし人間の行動は全てデータ化されていません。行動観察は人間の行動そのものを観察し分析するものです。

米国のコーネル大学に留学し、人間工学分野で行動観察、英語ではオブザベーションと言いますが、これを学んで帰国し、私のチームに配属された部下とともにプロジェクトを立ち上げました。

John

行動観察! おもしろそうですね。
どのような事業だったのですか。

出馬

まずは社内の既存ビジネスに、行動観察の考え方を取り入れていきました。

例えば、大阪ガスでは自社ブランドでガス機器を売っていまして、そのガス機器を売っている店舗の売上増加を目的に、行動観察の考え方を活用しました。

人間工学の専門家が店舗でお客さまの流れ、従業員の立ち位置、ガス機器の展示方法などを観察します。そして営業終了後に商品の展示方法を変え、従業員の立ち位置なども調整しました。すると翌日にガス機器の売上が2〜3倍になったのです。

新しいガスコンロの開発にも、行動観察を用いました。お客さまの家に行き、どうやってコンロを使うかを観察して、お客さまも気づいていない潜在的なニーズを発見し、新しいコンロを開発しました。後にグッドデザイン賞を受賞しました。

John

「よくなった」という体感だけでなく、売上が伸びたり、受賞したりするなど客観的な効果が実際に出ている点もすごいですね!
お客様の声を直接聞くのではなく、行動を観察するというのも興味深いです。

出馬

行動を観察すると、お客さまも気づいていない、もっと深く潜在的なニーズを見つけることができるのですよ。

通常、アンケートというのは、お客さまが気付いていることを答えます。これは顕在化したニーズです。しかし潜在的なニーズは、お客様自身も気づいていないし、言葉にできません。

より本質的な課題を発見するためには、お客さまの行動を見て、潜在的なニーズを探り出すことが必要だ、というのが行動観察の考え方です。

John

デザイン思考にも通じるものがありそうですね。

出馬

デザイン思考も一部含みますね。ただ、2001年当時はデザイン思考という言葉はなかったので、当時は深く潜るという意味で「ディープ・ダイブ」と呼ばれていました。

社内で実績を積んだ後、2005年からは子会社で行動観察ビジネスを事業化しました。

John

自社で成果を上げたら、次は外部へ売る!
すばらしい商人魂ですね。さすが、関西人ですね(笑)。

3 「大阪ガスのIT子会社の協業先を見つけるためのシリコンバレー赴任でしたが、大阪ガス本体こそがシリコンバレーに拠点を創り、クリーンテックと組むということをしなければいけないと思いました。」(出馬)

John

クリーンテックの領域に取り組むようになったのは、いつ頃からなのでしょうか。

出馬

スタートアップをシステマチックに探索するきっかけとなったのは、2008年に立ち上げたオープンイノベーションのプロジェクトです。

社内でデータ分析事業・行動観察事業の立ち上げをやっている間は、スタートアップとの関わりはあまりなかったのですが、2008年に技術戦略部長として、大阪ガスの技術戦略を横串で見るという立場になりました。

その時に取り組みはじめたのが、オープンイノベーションでした。

今でこそ、いろいろなところでオープンイノベーションが叫ばれていますが、元は2003年にハーバード大学のヘンリー・チェスブロウ教授が提唱した概念です。大阪ガスでは、2008年に取り組みはじめました。

エネルギー業界では初めて実践しました。オープンイノベーションの日本の事例として、必ず大阪ガスの事例が挙げられます。

大阪ガスグループの技術を全て棚卸しして、大阪ガスがやるべきコア技術を選定しました。ノンコア技術は世界から探索・調達するオープンイノベーションの仕組みを作り、今も進化しています。

探索する技術には日本および世界のスタートアップも含まれます。スタートアップとの協業を本格化したのが2008年でした。

その後、2016年に僕はIT子会社であるオージス総研の米国法人のCEOとしてシリコンバレーに赴任しました。IT系スタートアップの発掘、日本でのビジネス展開が当初のミッションでした。

しかし、いざシリコンバレーに行ってみると、クリーンテックと呼ばれる脱炭素分野のイノベーションに資するスタートアップの隆盛に衝撃を受けました。

さらに、欧米エネルギー大手がクリーンテックに出資・買収するという事例も数多く目にしました。

「これはエライことになっている!」と思いましたね(笑)。

大阪ガスのIT子会社の協業先を見つけるためのシリコンバレー赴任でしたが、大阪ガス本体こそがシリコンバレーに拠点を創り、クリーンテックと組むということをしなければいけないと思いました。

そこで、ITからクリーンテックにピボットしたのです。2016年、大阪ガスは日本のエネルギーでは初めてシリコンバレーに拠点を創り、欧米クリーンテックとのビジネス開発を開拓しました。

Johnさんはお詳しいと思いますが、今あらゆる業界のイノベーションの主役はスタートアップですね。大企業はそれをサポートする脇役です。

一方、日本では、まだ大企業が主役という感じで、世界の流れからは遅れている気がします。

イノベーションの主役はスタートアップだということ、これがエネルギー業界にもきていると、シリコンバレーで学んだのです。

日本では、まだそのような状況がメディアで報道されていなかった時期でした。これは大阪ガス単体の問題ではなく、日本のエネルギー業界全体の問題だと思いました。そこで、日本のエネルギー業界に向けてもクリーンテックに関するセミナーなどを行い、情報発信を行ってきました。それが、現在の活動にもつながっています。

2018年に東京ガスに転職し、シリコンバレーのCVCの立ち上げに参画しました。欧米クリーンテックとのビジネス開発に3年間取り組みました。

2021年に帰国し、東北電力に転職しました。東北電力の仕事は週3日、それ以外は個人事業主として十数社とクリーンテック分野の仕事をテレワーク複業しています。

今も、シリコンバレーにいた5年間と同様、欧米の有望なスタートアップと協業するということに取り組んでいます。

しかし、帰国後、日本国としては、日本から世界で戦えるクリーンテックを創出することが必要だと思うようになりました。

そのために、日本のスタートアップの海外展開を支援する「環境エネルギーイノベーションコミュニティ」などのアドバイザーとしても活動を始めました。

John

シリコンバレーでのクリーンテックとの出会いが、出馬さんのその後を大きく変えたのですね。

改めて、クリーンテックとは何か、クリーンテック系の企業にはどのようなものがあるのかなど、基礎的なことを教えていただけませんか。

出馬

クリーンテックとは、脱炭素を実現するために、技術によってイノベーションを起こそうとしているエネルギー分野のスタートアップです。金融業界のフィンテックにあたります。

クリーンテックの主要分野はエネルギー・パワーです。脱炭素社会は今ある技術では実現できません。脱炭素に向けて、化石燃料は天然ガスでさえ燃やせなくなることを意味し、基本は電化を目指すということになります。

そして、この電化においても、化石燃料を使わず、ソーラーや風力といった再生可能エネルギーによるグリーン電力になります。

ただ、どうしても電化が難しいというのもありますよね。例えば、大型のトラックをEVにするとバッテリーの重量が問題になります。大型輸送には水素燃料電池や水素エンジンのほうが向いていると言われています。

あとは製鉄・化学など大規模プラントを電化できるかというと、それも難しく、水素のほうが適していると言われています。

脱炭素社会を目指し、世界は基本電化、一部水素に向かっています。再生可能エネルギーや水素のコストダウンを目指すスタートアップがエネルギー・パワー分野で注目されています。

そしてその大きな流れに付随してたくさんのクリーンテックが誕生してきました。

例えば、再生可能エネルギーは、風や太陽の状況に左右される「お天気商売」です。安定した供給のためには、電気を溜めておく技術が必要です。エネルギー貯蔵のクリーンテック、特に長期貯蔵分野は注目されています。

大規模なソーラーパネルの故障などをリモートで分析するなど、O&M(operation and maintenance)の効率化を図る技術を持ったスタートアップも増えてきていますね。

また、水素をつくる際には、メタンを分解して、高温で熱分解して水素とCO2に分けています。つまり、天然ガスから水素をつくるとCO2が出てしまうのです。

このCO2をキャプチャーする、CCU(Carbondioxide Capture, Utilization)や、CCUS(Carbondioxide Capture, Utilization and Storage)といわれる技術は、今注目を集めています。

次にモビリティ分野が注目されています。EV自動車の増加に備え、充電系のスタートアップは山のように出てきていますし、車の流れなどを見て渋滞・事故を減らす交通データ分析という分野もあります。

少し別の切り口ですが、脱炭素というゴールに向けては、農業やフードという分野もあります。

フードのところでは代替食品、代替タンパク質というのが注目されています。

日本でも最近、植物由来の肉、昆虫由来タンパク質、バイオ系など出てきていますけど、シリコンバレーでは日本よりも数年前から商業化していました。

農業で言えば、ヴァーティカルファーミング(垂直農法)と呼ばれる、都市部の高層ビルなどの敷地や屋内で農業を行うものや、食品廃棄物を減らすためのスタートアップなども出てきています。

それ以外にも資源・環境、素材・ケミカルもあります。

クリーンテックというのはエネルギー・パワーに留まらず、モビリティ、農業・フード、資源・環境、素材・ケミカルとかなり広い概念になりますね。こうした領域全般を指して、クリーンテックと呼んでいます。

4 「日本のスタートアップの方々には『もっと世界を見ましょう』と伝えています。世界にどんなクリーンテックのスタートアップがあるのかを見て、世界へ出ることを念頭においてみてはどうか、と」(出馬)

John

今から日本の大企業・スタートアップがクリーンテックの世界で勝っていくためには、どうしたらよいでしょうか。

出馬

政府、大企業、スタートアップ、VC、大学などそれぞれに課題があります。まず政府や国レベルの問題としては、補助金などのお金の使い方が挙げられると思っています。

政府は、クリーンテックに関連したいろいろな補助金などを主に大企業・大学に提供します。

しかし、大企業からよい技術がプロダクトとして世の中に出るまでには長い時間がかかります。大学からはそもそもプロダクトは出ません。

せっかくよい技術が日本の大学や企業にあっても、そこにお金を入れている限りは、プロダクトに繋がりません。

欧米のクリーンテックを見ると、よい技術を持った大学の教授や学生はすぐにスタートアップをつくります。企業の研究者は飛び出して起業します。そこに欧米の政府系のお金が入ってスタートアップを成長させています。

スタートアップはプロダクトを早く世に出すことにこだわります。世の中の評価を得て改良するサイクルを高速回転しプロダクトの完成度を高める。そのスピードが大企業より圧倒的に速い。国がお金を入れるべきは、やはりスタートアップです。

日本でもよい技術を持つ大学や企業から、どんどんスタートアップができてほしいと思います。

あとは、日本のエネルギー業界全体の問題。エネルギーの規制が緩和されてきているとは言え、まだまだ日本では大企業が強い世界です。

スタートアップが参入しようと思うと、ニッチなところを狙うしかなくなってしまいます。

もちろん日本のエネルギー系スタートアップの皆さんも一生懸命取り組んでおられますが、成功しても日本のニッチ市場での成功にとどまってしまうのです。世界には出られません。

日本のスタートアップの方々には「もっと世界を見ましょう」と伝えています。世界にどのようなクリーンテックのスタートアップがあるのかを見て、世界へ出ることを念頭においてみてはどうか、と。

すべては無理でも、一部のスタートアップにはそういう目線を持ってほしいと思っています。

John

欧米では、初めから世界を見据えたクリーンテック系スタートアップが多いのですか。

出馬

クリーンテックの世界でいいますと、2009年から毎年発表される「有望な世界のクリーンテックベスト100」のうち、約60社は北米、約30社が欧州とイスラエルという割合です。日本のスタートアップの選定は過去ゼロです。

やはりシリコンバレーはイノベーションのメッカ。クリーンテックも、シリコンバレー中心に北米が多いです。そして最近では、欧州も頑張っている、という印象です。

米国のスタートアップは、米国で成功したら欧州へ行きます。反対に欧州のスタートアップは、欧州が成功したら北米へ打って出ます。

そうして、この2カ所でどんどんよいスタートアップが成長し合い、日本は蚊帳の外となってしまっています。

John

今日ちょうどカナダのコーポレート・ナイツが発表した「世界でもっとも持続可能な100社」を見ましたが、ここでもやはり1位はデンマークのヴェスタス・ウィンド・システムズ、2位もデンマークでクリスチャン・ハンセン、3位が米国・オートデスク、4位フランス・シュナイダーエレクトリック、5位シンガポールのシティ・デベロップメントと続いています。

日本企業は、残念ながら昨年の5社から3社に減少してしまいました。

出馬

政策的に脱炭素という分野でリードしているのは欧州ですからね。

米国はトランプ時代に政策的には遅れました。カリフォルニア、ニューヨーク、ボストン、マサチューセッツ、ハワイなど環境派の州は、独自の政策を整え、クリーンテックのスタートアップを支援しました。

それと比較し、欧州はEU全体と英国含め、欧州全体で脱炭素に向けたルールを決めて、後押しの政策をつくり、スタートアップを育成しようという連携ができています。

イノベーションでリードする北米と、政策でリードする欧州。この2つが競い合う図式です。

John

大企業・スタートアップ共に北米と欧州中心になっているわけですね。

大企業のクリーンテックへの出資・買収もよく目にします。
Amazonもエネルギー系の取り組みをしていますよね。

出馬

かなり注力していますね。Amazonはクライメート・プレッジというVCをつくり、そこからクリーンテック企業へ出資をしています。ジェフ・ベゾス氏個人でも出資していますよね。

あとはブレイクスルーエナジーなど、ビル・ゲイツ氏が携わる企業でも、クリーンテック企業へ出資しています。

John

エンジェル投資家レベルでも、ESC投資、環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)を考慮した投資に移ってきていますよね。

2年ほど前に海外の巨大ファミリーオフィスグループのマネージメントをされてるエンジェル投資家の方へインタビューしましたが、当時から個人レベルでも、スタートアップだけではなく、ESGのプロジェクトに対して出資されていました。

世界の富裕層はすでにそういうプロジェクトファンディングに自分たちの資金を提供するのか、と思いました。日本ではまだそういった例をあまり見かけないので。

出馬

そうですね。僕もまさにそうした事例をシリコンバレーで見て、すごいことになっているなと感じたのです。

シリコンバレーの投資家は、電気自動車でテスラが成功したように、エネルギー分野のテスラに匹敵するクリーンテック系の大穴を当てようと狙っています。

John

本当にすごい時代がきましたね。

5 「現在のシリコンバレーでは、『1番優秀な学生は起業する、次に優秀な学生はスタートアップへ就職する』と言われています。」(出馬)

John

ここからはクリーンテックに限らず「日本でイノベーションを起こすには」というテーマでお話をお伺いしたいと思います。

私は、日本でも優秀な学生や研究者が、大企業ではなく、スタートアップへ就職してくれたらと思っているのですが、どうしたらそういう時代が来るでしょうか。

出馬

日本ではまだそういった例は少ないですし、僕自身も知見はないのですが、やはり前例をこれからつくっていくということではないでしょうか。

日本とシリコンバレーを比べた時の圧倒的な違いは、成功した「先輩の背中」が見えるかどうかだと思います。

シリコンバレーでは、大学の先生・学生がどんどん起業し、億万長者になるケースも多い。一方、日本ではそういった前例自体がほぼないため、学生たちも「研究者の先生・先輩が起業して成功した」という話を聞かないわけですからね。

シリコンバレーはそれこそ80年以上前、ウィリアム・ヒューレット氏とデビッド・パッカード氏が会社をつくった時代から、大学の技術で起業するというのが行われてきています。

現在のシリコンバレーでは、「1番優秀な学生は起業する、次に優秀な学生はスタートアップへ就職する」と言われています。

スタートアップはほぼ潰れていきますが、GAFAなどテック大手が受け皿になっています。テック大手で高給をもらいながら次の起業チャンスを狙います。

シリコンバレーの優秀な人たちは、スタートアップとテック大手のレイヤーをぐるぐる回るのです。そこに入れない人たちが大企業へ行くという流れ、とも言われています。

日本にはまだそうした文化がないので、年月をかけて積み重ねていくしかないですよね。

John

私もかつてはシリコンバレーのエコシステムを説明する際、1987年からのVUCA(Volatility=変動性・Uncertainty=不確実性・Complexity=複雑性・Ambiguity=曖昧性)の話、2003年からのオープンイノベーション、ヘンリー・チェスブロウ氏の話なんかをしていました。しかし、ここ2年くらいは「シリコンバレーの父」と言われるフレデリック・ターマン氏や、ヒューレッド・パッカード、インテルの成り立ちなど、かなり古い時代の話も含めて、エコシステムの成り立ちを説明しています。

エコシステムというのは時間がかかるものです。ただコワーキングスペースやアクセラレーターを整えたり、アントレプレナーシップ教育・精神論を唱えたりするだけでは不十分です。行動して、成功して、失敗してという過程を長い時間をかけて繰り返していく必要があります。

出馬さんが仰った通り、シリコンバレーでは起業家の先輩の背中が非常に身近ですよね。そこにいることで自然と自分にもなにかできるのではないだろうか、自分でもやってみたいと思える。

私もそういったシリコンバレーのカルチャーが大好きで日本人にももっと知って欲しいと、シリコンバレー初の起業家コミュニティStartup Grindの福岡チャプター Startup Grind Fukuokaを設立しました。

コロナ渦でのスタートでしたのでオンラインですが、毎月起業家をはじめとするイノベーションを創出しているゲストをお招きし、私との対談形式でゲストの体験に基づいたお話をお聞きしています。内容はもちろんですが、ゲストの表情や動き、話し方からも私自身も毎回多くの気づきをいただいています。

先ほど、イノベーションでリードする北米と、政策でリードする欧州と言うお話がありましたが、欧州から参考にすると良いことはなんでしょう。

出馬

そうですね、シリコンバレーには長い歴史がありますが、欧州に目を向けると、もっと短期間にぐっと伸びてきたように僕は思います。

欧州の各都市にもどんどんスタートアップが出てきていて、これはやはり国主導。特にフランス、クリーンテック分野でもフレンチテックはかなり出てきている。

元々、フランスは農業と観光の国。
そこにテクノロジーなんてなかったはずなのに、何があったのか。

その一因に、リーマンショックがあるのではと言われています。フランス人で優秀な人たちの多くは、リーマンショック前にはシリコンバレーのテック系企業に就職していました。しかしリーマンショックで職を失い、フランスに泣く泣く戻ってきて、その人たちが起業しはじめたことが、フレンチテックが盛り上がる1つのきっかけとなったのです。

さらに、フランス政府はその時期に起業家を手厚くサポートし、伸ばしたといいます。

こうした経緯から、フランスには、シリコンバレーには及ばないものの、短期間でスタートアップが生まれる文化が根付いたのです。

また、シリコンバレーでもよく聞くエストニア。彼らのケースからも、日本は学ぶことが多いと思います。
エストニアは、人口が133万人しかいない小さな国で、自国だけではビジネスが成り立たず、国をあげて海外進出に取り組んでいます。

欧州勢は80年もかけず、10分の1くらいの短い期間でスタートアップのエコシステムを創っています。

John

確かに、今のフランスのお話にもある通り、スタートアップが盛り上がっている国は、結局シリコンバレーを経験しているのですよね。

僕はコロナ前、1年かけて11カ国のスタートアップ・エコシステムを訪れました。
イスラエル、インド、フランス、ルクセンブルク、北欧5カ国、カナダ、オーストラリアなどです。
その後もいろいろな国のケースを見たり、今日のように有識者の方々にインタビューしたりして、日本でスタートアップエコシステムをつくるにはどうしたらいいかを考えてきました。

シリコンバレーのモノマネを日本でやろうとしても無理だろうから、いろいろな国を見ようと思ったのです。

すると、例えばカナダのモントリオールでは、数学に強いフランス系移民たちがAIの教授を務めていて、その弟子たちがインターンでシリコンバレーに行って、カナダに戻ってスタートアップを立ち上げている、ということがわかりました。

他の国々も同様です。もちろん各国の特性を活かすエコシステム作りを行ってはいますが、みんなが参考にするのはシリコンバレーで、どんどん真似をしている。シリコンバレーを中心として動いているのだな、と。

結局、出馬さんから見て、シリコンバレーの何がすごいのでしょうか。日本は何を取り入れるべきですか。

出馬

シリコンバレーのすごいところは、「スタートアップで、世界を変えよう」というマインドの人が多いということですね。

日本のスタートアップで、世界を変えようと言っている人がどれだけいるか。お金を稼ぎたいというのも当然あるだろうけど、世界を変えようという気持ちを持っているかどうかの差は大きいと感じます。

かつ、日本のVCや銀行などの投資家たちは、日本の中で小さな成功することを求めていて、世界での成功を求めていないようにも見えます。

その結果、日本のスタートアップの多くは国内でのIPOを目指しています。海外スタートアップは、9割以上がM&Aですよね。

John

やはりマインドの違い、世界を見据えているかの違いなのですね。

純粋に、僕自身としては「世界をよくしたい」という気持ちをなぜ持たないのかとむしろ疑問ですらあります。

6 「若い人たちには、世界にアンテナを張ること、張って得た情報をもとに行動すること、行動するためにマインドセットを変えること。これをずっと伝えています。」(出馬)

John

僕は昔から「世の中を何とかせないかん」「アメリカへ行く」と言っていましたが、それに対しての親の反応は「頼むから普通にしてくれ」というものでした。

それでも僕はシリコンバレーへ行き、1つにどっぷり浸かってしまうといけないと思い、次はイスラエルに行きといったように、いろいろなものを満遍なく見てきましたし、そういう経験をしてよかったと思っています。

日本の子どもたちはもちろん、大人も、世界を見る・まず話を聞くというのをやってみてほしいです。

出馬

おっしゃる通りで、まずは世界を見ることですよね。VUCAの時代で1番重要なのは一次情報を掴むこと。一次情報を掴むには、新聞やネット記事を読んでるだけではだめで、現地に行かなくてはいけないと僕も思います。

現在、僕はエネルギー業界人向けに勉強会をやっていて、2つのことを伝え続けています。1つは世界にアンテナを張るということ。もう1つはマインドセットを変えるということ。

世界にアンテナを張って、こういう風にパートナーとなるスタートアップを探すのだという方法論を伝えています。

もう1つは、マインドセットを変えるということ。エネルギー業界では、このマインドセットの変革こそが求められるところなのです。

これからのエナジートランジションを乗り越えるためにマインドセットを変える必要があり、大企業ではなくスタートアップのマインドセットこそが必要なのだと言われているのです。欧米の電力大手は今、「シリコンバレーに学ぼう」と言っています。

大阪ガスは昔から海外スタートアップと組んだり、シリコンバレーに目を向けたりしていましたが、国内大手でそれを積極的にできている会社は少ない。大阪ガスの働き方も紹介しています。

文化的にも、電力・ガスなどの会社の人たちは変革を望むような人たちではないように感じます。

また、シリコンバレーのスタートアップのような短期間で成果を出す働き方というのも、日本企業はもっと意識したほうがいい。

カナダのスタートアップのような「金曜日にCEOに呼ばれたらクビ」という厳しい世界。それくらいの気持ちを持って、成果を出す働き方をしなくてはならないのだと話しています。

若い人たちには、世界にアンテナを張ること、張って得た情報をもとに行動すること、行動するためにマインドセットを変えること。これをずっと伝えています。

John

今ご指摘いただいた、アンテナの張り方、スタートアップとの組み方のところ、もう少し詳しくお伺いしてもよろしいですか。

出馬

アンテナの張り方というところでは、クリーンテック業界、特にハードウェア系は、フィンテック分野のようにスタートアップが次々と出てくる業界ではないので、網を張るところが決まっています。

クリーンテックのアクセラレーター系、クリーンテックに出資をすることで有名なVC、クリーンテックに関連する主なカンファレンスなどに出入りしていれば、大体のスタートアップの情報はキャッチアップすることができます。

コロナ以前は、現場でピッチを聞くというのが主でしたので、ピッチが終わったらすぐに名刺交換をしていろいろな話をし、Zoomなどで補足情報を得て、日本側で興味を持ってくれる人を探し、興味を持ってくれたらNDAを結んでより深い話をする…というような流れが一般的でした。

John

日本側のキャッチャーが話をうまく理解できるか、活かせるかというのが重要になってきそうですね。

出馬

おっしゃる通りです。大阪ガスに在籍していた時はオープンイノベーションの仕組みとして、システマチックにつくっていました。

日本の大企業、大学・研究機関、中小企業、世界の企業の情報をシステマチックに管理し、キャッチャー側の組織をしっかりつくるということをしていました。「ここに情報を投げれば、適切に判断して、関連する部署や子会社へつないでくれる」という仕組みですね。

しかし、普通の企業では、社内にそうした仕組みができていないことが多い。キャッチャー側の人がいても、一向に返事がない、情報がキャッチャーで止まってどこにも伝わっていなかった、ということも聞きますね。

キャッチャー側には、技術の理解と、適切な部署に話を振るための社内人脈が必要です。それがないと、うまくいきません。

僕自身も、キャッチャー側の組織がうまくできていない企業に対しては、自分が持っている情報に関心のありそうな、社内の研究所・事業部・関連会社の人たちを集めてもらい、ミニセミナーを開催した経験があります。ある会社では合計20回以上もそうした社内セミナーを開催しましたよ。

あとは、シリコンバレーで得た情報をウィークリーレポートにしたりもしました。もはや自分で投げて、自分で取る。ピッチャーとキャッチャーの二刀流です(笑)。

また、逆に各部門のニーズ、課題を収集することも必要です。どんな会社の情報であれば興味を持ってくれるのか、よい会社が見つかった場合は誰に繋げばやりとりをしてくれるのかなど、あらかじめ決めておくことも必要ですね。

こういう仕組みづくりは僕がこれまでのキャリアでやっていたことですが、オープンイノベーションに本気で取り組むなら、こういう体制・組織をつくることがスタートだと思います。

John

現地での情報収集にあたる駐在員、ピッチャー側に必要な素養は何だと思われますか。

出馬

駐在員に必要な能力は、2つあります。1つ目はアクティブであること、2つ目は社内人脈があることです。

アクティブというのは、当然のことですよね。せっかくシリコンバレーに来たのにデスクに座っていたらいけません。

いろんなピッチ、カンファレンス、セミナーに出る行動力が大事。日本で行動力がない人が米国で行動できるわけがありません。オフィスにいつもいない、外へ出てどんどん人脈を拡げていくような人がいいでしょう。

2つ目の社内人脈のあるというのは、先ほどの話にも出ましたが、よいスタートアップを見つけても、社内で引き取ってくれる人がいなくては無意味な情報になってしまうからです。

すでに社内で人脈を持っていて、適切な部署に話を振ることができれば、シリコンバレーの駐在員として通用します。

よく「英語ができるから駐在させる」という会社がありますが、英語が話せるだけではだめです。シリコンバレーの現地駐在員には、英語力はそこまで必要ありません。僕は英語下手ですから(笑)。

他企業の人を見ていても、英語は上手くなくても、行動力のある人こそが成果を出します。

John

海外=英語力と安易に考えるのは危険ですよね。日本に置き換えて考えればわかるのですが、日本語の語彙力のある人・文法の完璧な人が必ずしもリーダーシップをとっているとは限りません。

もちろん語学に堪能な方が幅広い表現ができますが、表現の多彩さよりも行動力や巻き込み力、パワフルさを持っている人の方が輪の中心になってプロジェクトを回していたりします。これは場が海外に変わっても実は同じなんですよね。

むしろ、海外では余計にアクティブにならなければいけないくらいです。そこで、出馬さんのようにアクティブになるにはどうしたらいいか教えていただけると嬉しいです。

出馬

それはもう「迷ったらやれ」ですね。

人間は日々いろいろな決断を迫られます。あらゆることに意思決定をする中、例えば迷わずやることが2割、迷わずやらないことが2割あるとしたら、あとの6割は迷っていることになります。

そうした時に、迷ったものを全てやらなかったら、8割捨ててしまうことになります。逆に、迷ったらやる、と決めたら8割できるようになる。
これが行動を増やすコツですね。やってだめなら次やらなければいいだけですから。

「このミートアップ行こうかな、どうしようかな」と迷う時間がもったいない。迷ったら行く。違うなと思ったら次は行かない。それだけです。

John

すばらしいお考えですね。迷うと言うことは、プラスになる可能性があるかもしれないとどこかで感じているわけですからね。出馬さんが仰る通り、確実に不必要だとわかっているなら迷わずやらないと決められますから。それを認識できているかどうかで6割の意思決定に影響が出る訳ですから大きいですね。

私も「迷ったらやる」を実行していきます!

7 「すごいと思える人に出会ったら、ギブ、ギブ、ギブ・・・そして最後に1つテイクがあればよいくらい。ギブアンドテイクなんて滅相もない、そのくらいの謙虚さでキーパーソンとは付き合うことです。」(出馬)

John

イベントに行って興味がある会社に出会ったら、その先どのように交流を続けていかれますか。

シリコンバレーのクリーンテック業界で強固なネットワークを築いた出馬さんの、成功の秘訣をお伺いしたいです。

出馬

人脈や関係をつくるという点では、大阪ガスで教わったのは「裏の人脈を創る」というのが根本にあります。

表の人脈というのは、普段仕事で付き合いのある社内・社外の人たち。

それに対して、裏の人脈というのは、仕事上で付き合いはないのだけれど、他部門で「あの人おもしろいな」と思える人や、社外でも直接仕事はしていないのだけれど、「あの会社のこの人はすごいな」と思える人たちと繋がっておくことです。

社外のそういう人と出会える場は、やはりミートアップなど社外のイベントですよね。

そして、そういう人に出会ったらどうするか。ここで次に若い人たちに伝えたいのは、「ギブアンドテイクではなく、ギブギブギブで付き合え」ということ。

すごいと思える人に出会ったら、ギブ、ギブ、ギブ……。そして最後に1つテイクがあればよいくらい。ギブアンドテイクなんて滅相もない、そのくらいの謙虚さでキーパーソンとは付き合うことです。

本当にすごいなと思える人には、「こういう情報がありますよ」「こういう人を紹介しますよ」と与えて、与えて、付き合うのです。

僕は2021年の3月に日本に帰ってきましたが、その半年ほど前には日本に帰ろうと決めていて、これまで培った裏の人脈の人たちに帰国を連絡しました。

そうしたところ、ありがたいことに、直ぐに数件の仕事のオファーをいただきました。今もオファーは続き、累計50件以上来ました。

これらオファーのほとんどは裏の人脈からです。2回の転職と個人事業主の仕事は全て裏の人脈経由です。

若手の人たちにもそうした自分の例を挙げながら、「ギブギブギブ」で付き合うこと、それを続ければ、いざという時にそれをしてきた人たちが助けてくれると伝えています。

John

「裏の人脈」と言う発想は面白いですね。VUCA時代が続く今は、先行き不透明な時代ですから、会社の名前や肩書きだけでなく、自分個人に興味を持ってくれる人々と繋がることはなおさら大切になってきますね。

また、「ギブギブギブ」のお話、私の尊敬するシリコンバレーの投資家も同様のことを仰っていました。成功される方の共通点なのかもしれません。

このコロナ禍で、現地に行って人脈をつくることが難しくなった面がありますが、その点はいかがでしょうか。

出馬

ほとんどの仕事はオンラインで代替可能になりました。もちろん、オンラインだけですべて代用できるかというと、難しいのですが。

例えば、これまでシリコンバレーでスタートアップと協業しようという時には、必ずオフィスや製造現場に行くとか、日本から出張者を連れて行くという動きをしましたが、それは今はできません。

しかし、Zoomによるミートアップなどでも、人脈づくりはできると思います。

実際、僕はコロナ禍でもオンラインでのやりとりで、PoC(Proof of Concept・概念実証)を何件も実現させました。それも、ソフトウェアではなく、ハードウェア系ばかりです。

John

私も同じ意見です。
オンラインイベントであっても積極的に参加して、率先して質問をしたり、スピーカーの方にお礼のメールを送ったりなど、できることはたくさんありますよね。
返事が来なかったとしても、失うものはありませんし。

出馬

そうですよね。
僕は今やっている仕事でも、一度もリアルでお会いしたことがない人もいます。ですが、Zoomとメールだけで仕事をもらえています。

John

私もこのインタビューの少し前に、欧州、アジア、米国を拠点にしているベンチャーキャピタル兼ベンチャービルディング企業のベンチャーパートナーになったばかりですが、その企業の創業者とは1年半程度かけてオンラインで打ち合わせを重ねてきました。

出馬

まさに、裏の人脈ですね(笑)。

John

そうです。世界中のピッチ大会のジャッジなどをお互いやったり、私がモデレーターを務めたルクセンブルク大使館のイベントにそのかたもゲストで招かれてて、日本でピッチイベントをやるとなったら無償で手伝って……いろいろなことを無償でやっていたら、彼女が経営する企業のベンチャーパートナーになりました。

ギブという意識はありませんでしたが、僕も好奇心で生きるタイプなので、自分の知らないことを知っている人には憧れを抱くし、気づいたら手伝ったり連絡を取り合ったりしています。

出馬

まさにギブギブギブの末のテイクの実例ですね。

Johnさんが言うように、本当にすごいと思える方とは、何かしてもらおうなんて考えずに付き合ってしまいますよね。

そこに下心はなくて「この人と付き合ったらおもしろそうだな」と。
それが裏の人脈づくりの根本かもしれません。

そういう付き合い方がこれからは求められるのだ、と若手に伝えたいです。

John

出馬さんとの出会いも、シリコンバレーのPlug and Playで歩いていらっしゃるところに私が声をかけ、挨拶させていただいたのがきっかけでしたよね。あの日があったから、本日このような素晴らしいお話を聞かせていただくことができたわけですし、出馬さんとの出会いに感謝の気持ちでいっぱいです。

最後に、出馬さんの「イノベーションの哲学」についてお聞きします。

どういう時にプロジェクトはうまくいき、人々に価値を与えられるのでしょうか。出馬さんが働く上で大事にされてきたことを教えてください!

出馬

「やりたいことを見つけ、やりきる覚悟を持つこと」です。

自分が心底やりたいことでないと、プロジェクトはうまくいかない。

例えば、レシピサイトの件は、僕はガス会社も将来必ず、情報サービスに取り組む時代が来ると考え、第一弾としてレシピサイトをローンチしました。

あるいはデータ分析部隊というのも、そうです。欧米のエネルギー事業者などを見ていて、データアナリストを彼らは抱えていて、気象予報士なども社内にいて取り組んでいるのを見て、自分たちもやらなくてはいけないと感じました。

行動観察も、コーネル大学から戻ってきた部下の話を聞いて「これはおもしろい!」と思い、心底やりたいと思えたのです。

オープンイノベーションや、クリーンテックも同様です。

心底やりたいと思えることを見つける、これが第一。

そして次に大事なのが「やり遂げるためには、あらゆる手段を使う」ということ。たとえ、上司の反対を押し切ってでもです。

僕は昔、上司にあるプロジェクトを潰されそうになったことがありました。僕はマネジャーで、相手は常務。普通なら諦めるシチュエーションですが、僕はずっと戦っていました(笑)。

ある時、日経新聞に経済産業省が僕のプロジェクトに関連する課を立ち上げたと言う記事を見つけました。直ぐにその課を訪問して、僕のプロジェクトを説明しました。すると「これこそが経済産業省がやろうとしていることだ!」絶賛されました。経済産業省の後押しもあり、僕のプロジェクトは存続し、今も発展しています。

そのくらい、本当にやりたいと思った事は、あらゆる手段を使ってとことんやりきることが重要です。

当時の大阪ガスはすごいところで、僕だけじゃなく、みんなやりたいことは上司に止められても、隠れてでもやっていました。

その頃の経営陣には「どうにかなりまっしゃろ、やってみなはれ」と言ってくれる方がいたから、そういう文化が根付いたのだと思います。

時には敵もつくったし、同じ社内なのに出入り禁止になった部門が何度かありました。

それでも、やりたいと思ったらやるという覚悟を持つことです。もちろん、それを先にやっている諸先輩方、そういう風土をつくる経営層がいたからできたのです。

それが僕のイノベーションの哲学です。

John

出馬さん、本当に、楽しく貴重なお話を愛りがとうございました!

出馬さんのイノベーションの哲学を示した画像です

以上

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2022年6月8日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

※上記内容は、株式会社日本情報マートまたは執筆者が作成したものであり、りそな銀行の見解を示しているものではございません。上記内容に関するお問い合わせなどは、お手数ですが下記の電子メールアドレスあてにご連絡をお願いいたします。

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【損金】税理士が解説。損金になる固定資産の購入費用と、ならない購入費用

書いてあること

  • 主な読者:決算対策の一環などとして、消耗品費を損金にしたい経営者
  • 課題:取得したもの、取得した金額によって取り扱いが大きく異なる
  • 解決策:消耗品費と減価償却費の違い、中小企業の特例を理解して自社に有利な方法を選択

1 消耗品費・減価償却費とは

固定資産の購入費用を損金とするときには、「消耗品費」と「減価償却費」とが主な項目になります。

消耗品費とは、

事業を行う上で日常的に使用する文房具などの「消耗品」を購入するための費用

です。通常、消耗品は事業年度ごとにある程度決まった数量を購入し、その時点で「消耗品費」として損金の処理をします。一方、パソコンや机などの器具備品や建物・建物附属設備などの固定資産は、原則として、購入時に全額損金とすることができず、耐用年数に応じて何年かに分けて費用である「減価償却費」として損金に算入します。

ただし、その固定資産の値段(取得価額)やどの程度の間使用できるか(使用可能期間)によっては、例外的に購入時に全額損金にすることができます。このように、固定資産の購入費用は、税務上の取り扱いに注意が必要となる費用の1つです。

固定資産の購入費用が損金になるかどうかのポイントは、

  • 取得価額が10万円未満、または使用可能期間が1年以下であること
  • 取得価額が10万円以上20万円未満のものは3年間で均等償却すること
  • 取得価額が20万円以上のものは耐用年数に応じて減価償却すること
  • 中小企業者等については取得価額が30万円未満であること

です。詳しく見ていきましょう。

2 損金になる消耗品費・減価償却費の4つのポイント

原則として、固定資産を購入時に全額損金にすることはできません。しかし、取得価額の金額によって処理が分かれるので確認しましょう。

1)取得価額が10万円未満、または使用可能期間が1年以下であること

取得価額が10万円未満、または使用可能期間が1年以下の固定資産は、消耗品と同様に「消耗品費」という勘定科目で、購入時に全額損金とすることができます。

2)取得価額が10万円以上20万円未満のものは3年間で均等償却すること

取得価額が10万円以上20万円未満の固定資産は、「一括償却資産」と呼ばれ、取得した事業年度から3年間で損金に算入します。この一括償却資産は各事業年度で取得価額の3分の1ずつ損金に算入(1年決算法人の場合)することができるので、事業年度の中途で購入したものであっても月割り計算をする必要はありません。例えば取得価額が15万円の場合、各事業年度に5万円(=15万円/3年)ずつ均等に損金に算入します。

3)取得価額が20万円以上のものは耐用年数に応じて減価償却すること

取得価額が20万円以上の固定資産は、定額法や定率法といった方法を使用し、税法で決められている耐用年数にわたって損金に算入します。適用する耐用年数の誤りは税務調査でよく指摘されるポイントなので注意しましょう。

  • 定額法:「取得価額」に一定割合を掛けて減価償却費を計算する方法で、毎期の減価償却費が一定額となる
  • 定率法:「未償却残高(帳簿価額)」に一定割合を掛けて減価償却費を計算する方法で、耐用年数の前半で多額の、後半では少額の減価償却費が計上される

4)中小企業者等については取得価額が30万円未満のものであること

青色申告書を提出している中小企業者等(資本金が1億円以下で、常時使用の従業員の数が1000人以下の法人などで一定の要件を満たすもの)が、取得価額が30万円未満の固定資産(以下「少額減価償却資産」)を購入した場合、購入時に消耗品費として全額損金にできる特例があります。この少額減価償却資産の特例の適用は会社の任意ですが、全額損金にできるのは、1事業年度で300万円まで(1年決算法人の場合)です。

例えば、1事業年度に25万円のパソコンを13台購入した場合、少額減価償却資産として購入時に一括損金とすることができるのは12台分(25万円×12台=300万円)までです。残り1台(25万円)については、一旦器具備品(資産)として計上し、通常の減価償却を行わなければなりません。また、同じ事業年度に他の固定資産を購入した場合も、すでに300万円の枠を使い切っているため、この特例を適用することはできません。

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なお、税法の改正により、他社に貸し付ける目的で購入した「貸付用資産」については、金額の多寡に関わらず資産計上し、税法で決められている耐用年数にわたって損金に算入されることになりましたので、注意しましょう。

3 消耗品費・減価償却費で迷いやすい実務Q&A

1)数年分をまとめ買いした消耗品でも、全額損金にできるの?

文房具などの消耗品は、原則として購入したときに全額損金にできます。これは、購入した消耗品はその直後(長くても1年以内)に消費されるのが一般的で、購入時に全額損金としても、各事業年度の損金になる金額はほぼ同額になると考えられるためです。

では、消耗品をまとめ買いしたときはどうでしょうか。例えば、割安で購入できるといった理由から、2年分をまとめ買いすることがあると思います。このケースでは全額を購入時の損金とすることはできません。あくまでも損金とされるのは1年分のみです(残りの1年分は翌事業年度の損金とされます)。1年分の消耗品に該当するかどうかの明確な判断基準はありませんが、例年と比較して明らかに消耗品費が高額になっており、その理由が翌事業年度以降の分のまとめ買いに当たるものは税務調査でもチェックされるので注意しましょう。

2)作業服や制服などは消耗品費として処理することができるの?

業務で使用する目的で従業員に作業服や制服などを支給する会社も多いでしょう。こういった作業服なども、業務にのみ使用することを目的としている場合に限り、その購入費用は消耗品費として損金になります。

一方、「スーツ」についてはプライベートでも使用可能なものと考えられています。ですから、スーツを会社が支給した場合、税務上は給与として取り扱われ、源泉所得税の対象となります。特に役員に対してスーツを支給した場合には、損金にすることができない「役員給与」とみなされるので注意しましょう。

3)固定資産の金額の判断は1個ずつ行うの?

固定資産は、その取得価額がいくらかによって取得時に全額を損金とすることができるか、固定資産に計上して減価償却を行うかに分かれますが、この金額は基本的に「1個当たりの単価」で判断します。

ただし、単体で使用することが想定されていないものなどについては、「1個当たり」ではなく「1組当たり」で判断します。例えば、応接間に置いてあるソファやテーブルなどはセットで使用することを前提にデザインされているものが多く、こうした資産については1組の金額で処理方法を判断する必要があります。例えば、ソファが25万円、テーブルが10万円の応接セットを購入の場合、35万円の器具備品(固定資産)として計上します。

4)車やクルーザーといった固定資産も減価償却費を損金にできるの?

税務上、事業を行う上で必要な固定資産であれば、減価償却費は損金となります。従って、社用車を購入したり、福利厚生目的でクルーザーを購入したりした場合、減価償却費は原則として損金になります。

ただし、こういった資産は高額で、かつ「事業目的」か「私的目的」かが曖昧になるケースも多いため、事業目的で購入・使用していることを証明できるような書類を整えておくことが重要です。例えば、「運用規程(使用手続きなど)」や「使用管理表(いつ、誰が、どのような目的で使用したのかなど)」を準備するとよいでしょう。これを怠り、事業目的で使用していることが証明できなかったり、そもそもプライベートでの使用がほとんどであったりすることが明らかな場合は、減価償却費が損金にできないばかりでなく、購入金額が役員などの個人に対する給与として源泉所得税の対象となるなど、思わぬ税負担が生じる恐れがあります。

以上(2022年5月)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 税理士 森浩之)

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画像:Mariko Mitsuda

ドローン商用化へTake off! 2022年6月の航空法改正で広がるビジネスチャンス

書いてあること

  • 主な読者:航空法改正を機に、ビジネス用途でのドローン利用を検討している経営者
  • 課題:ドローンを自社のビジネスにどう利用できるのか知りたい。また、法改正の影響も知りたい
  • 解決策:空撮や空輸などの特徴を活かしたさまざまな業種での活用事例を参考にする。法改正によってドローンの登録が義務化されるが、市街地でも飛行が可能になる

1 法改正で飛行エリアが拡大。“野良ドローン”は飛行不可に

政府は航空法などの改正によって、商業面でのドローンの利用拡大を後押ししています。具体的には、

2022年6月から、ドローンの所有者による機体の登録が義務付けられる一方で、

2022年12月から、市街地などの有人地帯でドローンを飛ばすことができる

ようになります。

政府の方針を追い風に、農林水産、建築、物流、宿泊、広告など、さまざまな業種がドローンの利用を活性化させるための取り組みや実証実験を進め、省力化やコスト削減の効果を上げています。

この記事では、自社のビジネスでドローンの利用を検討されている経営者の皆さまに、今後の普及が見込まれるドローンの活用事例を紹介するとともに、法改正に伴って留意すべき点について解説します。

2 注目の「ドローン×さまざまな業種」

空中での撮影や空輸など、ドローンの特徴を活かせる領域として、次のような業種が注目されています。さらに、水中ドローンも登場し、養殖業での活用が始まっています。

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1)ドローン×農業

農業分野でのドローンの利用が注目されています。ドローンが撮影した映像をAIが分析することで、広大な農地の作付け状況や病害虫の発生の早期発見などに役立てる狙いがあります。また、これまでは有人の小型機や専用のヘリコプターで行っていた農薬散布なども、空中からの映像を見ながら操作ができ、コストが安価なドローンが担う場面も見られるようになってきました。

農林水産省でも農業分野でのドローン導入を推進しており、関連資料や支援策、取り組み事例などの情報発信を行っています。取り組み事例の中には、ドローンでキャベツ畑を見回り、生育状況を画像診断して収穫量を予測するvegeta(広島県)は、生産コストが年間約600万円削減、生産額が約6500万円増加したとの報告があります。また、イネを食害するスクミリンゴガイ(ジャンボタニシ)を、農薬散布に特化したドローンで駆除するヤマハ発動機(静岡県)は、駆除にかけていた作業時間が従来の約9分の1の4分に短縮され、ジャンボタニシの90%近くが死滅したといいます。

■農林水産省「農業用ドローンの普及拡大に向けた官民協議会」■
https://www.maff.go.jp/j/kanbo/smart/drone.html

2)ドローン×林業

林業でのドローンは、切り出した木材の運搬や、上空からの森林調査などで活用が始まっています。

木材の運搬では、住友林業(東京都)が産業用ドローンの製造を行う国内メーカーのマゼックス(大阪府)とともに、林業用のドローン「森飛(MORITO)」を開発しました。一度に8~15キログラムの重量を運搬することができ、従来は人力で80分かかっていた運搬作業を、空中の最短距離を移動できることによって5分で完了します。

森林調査では、ジェイドローン(東京都)がドローンを活用したサービスを提供しています。同社のサービスでは、空から森林を撮影することで、樹種、本数、大きさから、想定される収穫量を算定することができます。こうして得られた情報は、自治体が作成する林地台帳や、木材販売時の参考資料にも利用することができます。

3)ドローン×建築業

建築業などの企業の中には、自社が行うリフォームに関連した取り組みとして、ドローンを使った建物の診断サービスを提供しています。

このサービスは、ドローンで建物の屋根などを撮影し、破損箇所のチェックを顧客と担当者がその場で確認できるものです。ドローンを使うことで、これまでは屋根に上って目で確認していた作業が短縮され、作業のために組んでいた足場などが必要なくなります。

ドローンの多くが市販のものを利用しており、調達コストも低価格に押さえられそうです。こうしたこともあり、点検無料をPRしている企業もあります。

ドローンを使った検査サービスが登場した背景には、消費者庁への相談が増加していることや、故意に屋根を傷付けて修理費用を請求されるトラブルも要因の一つとして挙げられています。ドローンを使うことで、これまで顧客が見えなかった部分も映像として残ることになり、顧客からの安心感を得る方法の一つとしても定着する可能性があります。

4)ドローン×物流業

今回の航空法改正で利用の拡大が見込まれている分野の一つが、市街地などでのドローンによる輸送です。東京都では、ドローン関連のビジネスモデル構築に向けた支援を行う計画で、三菱総合研究所(東京都)とともに、都心部でのドローンを用いたフードデリバリー、医薬品運搬、小売店舗からの配送、という3つのプロジェクトを進めています。

フードデリバリーを例に挙げると、2021年11月に近距離(約50メートル、約700メートル)での配送を実証実験しました。この実験の主な目的は、近隣のレストランから提供される料理を温かいまま配送できるかに加えて、ドローンによる配送というエンターテインメント性を顧客に提供できるかも評価されています。

東京都ではこの計画を継続し、2024年度にはサービス提供エリアを拡大するとともに、ホテルのプランに組み込むことや、オフィスや住宅への配送も開始する予定です。

5)ドローン×宿泊業

宿泊施設では、サービスの一環として観光用にドローンを利用したり、ドローンのライセンス取得のための合宿プランを提供したりしています。さらに、宿泊施設向けに、ドローンからのプロモーション用動画の撮影などを提供する企業も登場しています。

小川旅館(岩手県)は、県内初とされるドローンを用いたサービス「ドローンツーリズム」を提供しています。このサービスは、宿泊者にドローンを貸し出し、周辺の観光スポットを撮影できるものです。

広い敷地を持つ宿泊施設の中には、敷地の一部を利用したドローンのライセンス取得のための合宿プランを提供しているところもあります。リソルの森(千葉県)は、ドローンの操縦に慣れ、操縦技術を身に付ける「ドローンライセンス取得1泊2日プラン」を提供しています。このプランでは、国土交通省が認定したコーチによる指導の下、認定資格のドローンパイロット1級または2級の取得を目指すものです。特に、1級の取得を目指す「ビジネスコース」では、業務での空撮や赤外線点検を想定した内容で、法人向けの研修にも対応できます。

micado(東京都)は、宿泊業向けのマーケティング支援をしています。同社のサービスでは、ドローンを使って撮影したオリジナルのコンテンツの作成を10万円から提供しています。自社の施設のプロモーションビデオや写真よりも臨場感のあるドローンからの映像で、競合他社との差別化に効果的です。

6)ドローン×広告業

中国などが先行しているドローンを用いた野外広告が、日本でも登場しました。ドローンを使ったショーを手掛けるレッドクリフ(東京都)は2022年2月、テレビCMのプラットフォームを運営するテレシー(東京都)と共同で、日本初とされるドローン広告を公開しました。

この広告は、300機のドローンを用いて、夜空に広告主のロゴやQRコードを表示するものです。同社によると、上空100メートルで展開されたドローン広告は、数キロ離れたところからも確認できたとされ、これまでの野外広告よりも広範囲で視認されそうです。

ドローン広告は今後も需要が増えていくと見込まれ、同社は2022年度中に、1000機以上のドローンを使った広告を目指しています。

7)水中ドローン×養殖業

ドローンがカバーする領域は空だけではありません。水中に潜り、これまで人間が高いリスクにさらされながら行ってきた仕事を、水中ドローンに代替させることを試みています。

ドローンの販売や関連サービスを展開するスペースワン(福島県)は、水中ドローンの養殖業での本格利用を推進し、マダイなどの養殖を行うダイニチ(愛媛県)とともに、水中ドローンの活用について実証実験を実施しました。

この実証実験では、養殖いけすに水中ドローンを投入し、いけすの底に沈んだ死魚の回収や、いけすの網の点検などを行いました。これまでは、死魚の回収やいけすの点検は人間が潜水して作業していましたが、危険な潜水作業で体力的に負担が大きいため頻繁に行うことが難しく、死魚が大量に発生していたり、いけすの破損に気付くのが遅れたりなどの課題がありました。

この他、KDDI(東京都)は、世界初ともいわれる「水空合体ドローン」を開発し、水中ドローンの「目的地まで船などで運ぶ必要がある」課題を、飛行型ドローンに水中ドローンを搭載するというアプローチで解決を試みています。水中ドローンをダムや港湾施設での点検、水産施設での監視などで活用することを目標にしたものです。

現在は陸地からドローンが発進し、目的の沖合に着水し、水中用の子機ドローンを潜水させる実証実験を行っています。飛行型の親機が音響測位を行って水中の子機をコントロールし、子機は搭載されたカメラで水中の様子を撮影する仕組みです。

3 法改正のポイント

冒頭でも触れた、航空法などの一部改正について簡単に紹介します。改正の背景として、新型コロナの影響を受けた航空産業の維持や、航空輸送の安全確保の向上、ドローンの利便性向上が目的です。ドローンに関しては、2022年度中の「レベル4飛行(有人エリアで、人の目の届かない範囲でドローンを飛行させること)」の実現を目標としています。

今回の改正の中からドローンに関する改正をピックアップすると、次のようになります。

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人口密集地でのドローンによる配送や警備などが該当するレベル4飛行を実現するためには、利用するドローンの機体認証と、操縦者のライセンス登録が必要となります。

新たに創設される機体認証では、ドローンの使用者に機体の整備を義務付け、民間検査機関による検査の実施などを行うとしています。操縦ライセンスでは、学科および実地での試験を行い、有人地帯での飛行に対応する資格とそれ以外に分け、固定翼や回転翼などの機体に対応した限定資格を想定しています。

これらの資格制度に加え、ドローン運行時のルールの明確化を狙い、飛行計画の提出や飛行日誌の記録なども必要になります。ドローンが関係する事故が発生した場合には、航空機や鉄道での事故の原因究明や再発防止策を調査する運輸安全委員会の調査対象となり、「実際の航空機」に近い管理が求められるようになります。

4 義務化に備え、ドローンを登録するには?

2022年6月の無人航空機(機体重量100グラム以上のドローンやラジコンなど)の登録義務化を控え、国土交通省では2021年12月から事前登録の受け付けを開始しています。最後に、ドローン登録の手続きについて簡単に紹介します。登録手続きは、「ドローン登録システム」でのオンライン申請と、郵送での書類申請の2通りがあります。今回は、オンライン申請の大まかな流れを解説します。手続きの詳細、書面申請に必要な書類などは、国土交通省の「無人航空機の登録制度」をご参照ください。

■国土交通省「無人航空機の登録制度」■
https://www.mlit.go.jp/koku/koku_ua_registration.html

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これまで見てきたように、ドローンが活躍するシーンはさまざまな業種に広がっています。政府もこれを後押しするために法整備を進めています。一方で、今後は登録許可制になるため、無許可のドローンを飛ばすことができなくなります。ドローンの操縦者の育成や機体認証にはある程度の時間がかかると予想され、ドローンの利用を検討している場合には、前もって準備を進めることが重要です。

5 ドローン関連の動向:物流・農林水産関連などで期待大

ドローンの性能が向上し、活用シーンが増えるにつれて、市場規模も右肩上がりで成長しています。市場調査企業の調査区分や、産業用や民生用、軍事用などの用途により数字は変化しますが、一部では2020年のドローンの世界市場規模は約2兆円、国内は約1800億円に達するとの見方もあるようです。

東京都では、ドローンを用いた新たなビジネスの社会実装を目指し、ビジネスモデル構築の支援を行っています。東京都「東京都における産業用ドローンの市場規模の推計と予測」によると、東京都の市場規模(ドローンに関連する取引の売上の総計)は次の通りです。

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東京都の資料によると、2018年時点の都内の市場規模は約107億円とされ、2030年には約965億円と約9倍に伸びると予測されています。特に成長が予測されるのは、ドローンの操縦訓練や専門人材の派遣などの「周辺サービス」や、空撮および物流、農林水産関連などでドローンを用いたサービスを提供する「サービスプロバイダー」とされています。

この背景には、働き手の高齢化による労働集約的な作業の自動化などが進むことと、23区内の人口増が続き、需要が増加することを挙げています。特に注目されている分野は物流で、日用品などの小口配送やフードデリバリーが普及すると予測しています。

以上(2022年6月)

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画像:tonefotografia-Adobe Stock

不妊治療と仕事との両立支援

不妊治療の検査や治療を受けたことがある夫婦は、5.5組に1組と増加傾向にあり、4月1日から不妊治療が保険適用されたことから、今後ますます不妊治療と仕事との両立を希望する労働者は増加することが見込まれています。本稿では、不妊治療の現況と、仕事との両立を支援するため厚生労働省が提供しているツールや助成金をご案内いたします。

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不妊治療と仕事との両立支援

不妊治療の検査や治療を受けたことがある夫婦は、5.5組に1組と増加傾向にあり、4月1日から不妊治療が保険適用されたことから、今後ますます不妊治療と仕事との両立を希望する労働者は増加することが見込まれています。
本稿では、不妊治療の現況と、仕事との両立を支援するため厚生労働省が提供しているツールや助成金をご案内いたします。

1 不妊治療の現況

厚生労働省が実施した総合調査によれば、約7割の企業が「不妊治療を行っている従業員の把握ができていない」、約8割の企業が「不妊治療と仕事の両立を支援するため当該従業員を対象とした取り組みを実施していない」と回答しています。

そして、労働者側の調査では、「仕事と不妊治療の両立ができなかった」と回答した方の割合は35%と、少なからず何かを犠牲にした方がおり、企業のサポート体制の確立が望まれるところです。

2 支援ツールの概要

しかしながら、不妊治療がどのようなもので、企業があるいは職場全体としてどのように取り組めば良いのか、対応が悩ましい企業も多いことでしょう。厚生労働省では、このような点を踏まえ仕事と不妊治療の両立を支援するための3つのツールを提供しています。以下に概要をご案内いたします。

支援ツールの概要

※本ツールは、厚生労働省のHPからダウンロードしてご活用ください。

3 両立支援等助成金

また、不妊治療と仕事との両立に資する職場環境の整備に取り組み、不妊治療のために利用可能な休暇制度や両立支援制度を労働者に利用させた中小企業事業主を支援する助成金制度も実施されています。

申請のステップや助成額は次の通りとなっています。詳細は厚生労働省のHPなどでご確認ください。

助成金制度の概要

4 さいごに

従業員が不妊治療をしながら働き続けやすい職場づくりを行うことは、安定した労働力の確保、社員の安心感やモチベーションの向上、新たな人材を引き付けることなどにつながり、企業にとってもメリットがあると考えられます。

まずは、今回ご紹介した企業向けマニュアルなどをご覧いただくとともに、助成金の活用も視野に入れながら、仕事と不妊治療の両立に向けた支援導入を検討してみてはいかがでしょうか。

※本内容は2022年5月13日時点での内容です

(監修 社会保険労務士法人 中企団総研)

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画像:photo-ac

雇用保険法等の一部を改正する法律のポイント

雇用保険法等の一部を改正する法律(以下、「改正法」という)が令和4年3月30日に成立し、4月1日から施行されています(一部の施行日は別)。改正法については、雇用保険率の上昇や年度途中の料率変更が話題となりましたが、それ以外にもこれまでの法規制から大きく転換し、企業にとっても影響の大きい改正内容が含まれています。本稿では、従業員の生活や企業実務に関係する部分を中心に、改正法の内容を解説します。

(日本法令ビジネスガイドより)
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雇用保険法等の一部を改正する法律のポイント

雇用保険法等の一部を改正する法律(以下、「改正法」という)が令和4年3月30日に成立し、4月1日から施行されています(一部の施行日は別)。改正法については、雇用保険率の上昇や年度途中の料率変更が話題となりましたが、それ以外にもこれまでの法規制から大きく転換し、企業にとっても影響の大きい改正内容が含まれています。本稿では、従業員の生活や企業実務に関係する部分を中心に、改正法の内容を解説します。

1 雇用保険率の改正▶労働保険徴収法改正、令和4年4月1日施行

令和4年度の雇用保険率は、令和4年4月1日から9月30日までの期間(令和4年度前期)と令和4年10月1日から令和5年3月31日までの期間(令和4年度後期)のそれぞれで上昇します(図表1)。年度途中の料率変更は平成14年度以来であり、当時は雇用情勢が想定以上に悪化したため急遽10月1日から引き上げた経緯があったのですが、年度当初から変更が予定されたのは初のケースとなります。雇用保険率の改正に伴い、毎月の賃金、賞与計算に影響が生じるため、具体的な実務上の留意点を解説します。

令和4年度の雇用保険率

(1)給与計算システムの確認

まず、利用している給与計算システムが年度途中での料率変更に対応しているか確認してください。クラウド型の給与計算システムを利用している場合は、一般的に、最新の雇用保険率の改正に自動的に対応されており、利用者側でアップデート等の作業をする必要はないはずですが、念のため利用しているソフトの公式ウェブサイトをご確認ください。

次に、PCにインストールするタイプの給与計算システムを利用している場合は、システムのアップデートを必ず行ってください。

また、従業員数が少なく、Excelで賃金計算を行っている場合は、参照している雇用保険率の箇所の変更が必要です。ただし、令和4年度前期の雇用保険率の変更は、事業主負担のみ(一般の事業の場合、6.5/1000)であり、令和4年度後期から事業主負担が再度上昇(一般の事業の場合:8.5/1000)し、労働者負担も変更(一般の事業の場合:5/1000)になります。過去のデータをコピー&ペーストする際には、変更箇所の違いがある点にご注意ください。また、令和4年4月以降、令和4年10月以降に支給する賞与についても雇用保険率が異なる点に併せてご注意ください。

(日本法令ビジネスガイドより)

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画像:photo-ac

【損金】税理士が解説。損金になる旅費交通費、ならない旅費交通費

書いてあること

  • 主な読者:決算対策の一環などとして、旅費交通費を損金にしたい経営者
  • 課題:電車やタクシー代は全て旅費交通費でよいのか? 請求も手間がかかる
  • 解決策:必要な旅費交通費は損金になるが、証憑(しょうひょう)はしっかり残すこと

1 旅費交通費とは

旅費交通費とは、

役員や従業員(以下「社員等」)に支給する通勤費や社用車で必要となるガソリン代、出張時に必要となる宿泊費や日当などの費用

です。旅費交通費は事業を行う上で必要不可欠な費用であり、税務上も原則として損金になります。ただし、取引先を接待する際に使ったタクシー代は交際費とされたり、出張によって支給する日当が高額すぎる場合は給与にされたりするなど、独特な取り扱いをされることがあるので注意が必要です。

旅費交通費が損金になるかどうかのポイントは、

  • きちんと実費精算していること
  • 出張旅費規程を作っていること

です。詳しく見ていきましょう。

2 損金になる旅費交通費の2つのポイント

1)きちんと実費精算していること

取引先との商談のために必要な電車やタクシーなどの移動費用は、実費精算が原則です。その都度、精算するのは手間がかかるため、週1回や月2回などと精算日を決め、経費精算書を作成して精算する方法が多く取られます。経理担当者は、社員等から経費精算書と領収書の提出を受け、内容をチェックした上で精算を行い、経理処理をします。経費精算書には交通機関などの利用日や利用金額の他、交通手段や経路、目的、得意先の名称なども入れるとよいでしょう。

なお、目的が曖昧であったり、領収書の添付がなかったりする場合は、私的費用などとして交際費あるいは給与として取り扱われることがあるため注意しましょう。

2)出張旅費規程は作っていること

出張では、交通費や宿泊費の他、現地で発生する通信費その他の雑費がかかります。これらの雑費についても実費精算が原則ですが、細かいものまで全て実費精算するのは手間です。出張期間が長い場合はなおさらです。そのため、実費精算に代えて、「日当」を支給することがあります。実費精算と異なり、日当は定額で支給するものなので、一定の要件を満たす「出張旅費規程」を作り、その規程に基づいて支給します。こうして支給された日当は損金になります。

気になるのは、出張旅費規程で満たす「一定要件」ですが、これは2つあります。

  • 支給する役員および使用人の全てを通じて、適正なバランスが保たれている基準によって計算・支給されるものであること
  • 同種規模類似法人(同業他社)と比較して、一般的に支給している金額として相当と認められる金額の範囲内であること

1.の要件のポイントは、出張する社員等の全てが日当の支給対象であることです。特定の社員等のみを支給対象にしたり、同じ役職なのに支給金額にばらつきがあったりすると、税務上の要件を満たさないことになるので注意しましょう。なお、役職によって必要となる雑費も異なりますので、役職に応じて支給金額に差をつけることは問題ありません。

2.の要件のポイントは、同業他社などと比較して金額が高額すぎないことです。もし、高額であると判断された場合は、給与として所得税の源泉徴収の対象とされます。特に役員に対するものについては損金にならないので注意しましょう。税務上の具体的な基準はありませんが、

  • 一般社員:2000〜3000円
  • 役職者:3000〜5000円
  • 役員:4000〜6000円

の範囲で設定している会社が多いです。必要に応じて、税理士などの専門家に相談するようにしましょう。

3 旅費交通費で迷いやすい実務Q&A

1)通勤交通費はいくら支給してもいいの?

通勤交通費は、原則として会社側では損金になり、社員等側においても所得税の対象にはなりません。ただし、一定の金額を超えて支給した場合、その超過した部分については社員等の所得として取り扱われ、所得税の源泉徴収の対象となります。

所得税の非課税とされる金額(範囲)は次の通りです。

1.交通機関で通勤する人

支給する運賃相当の全額が非課税とされますが、1カ月当たり15万円が上限です。ここでいう運賃とは、「通勤のための運賃・時間・距離等の事情に照らして、最も経済的かつ合理的な経路及び方法で通勤した場合」をいいます。住宅事情に伴って新幹線通勤をする人もいると思いますが、新幹線通勤をせざるを得ない状況であれば、特急料金を含めて15万円までは非課税とされます。15万円を超える部分は非課税とはなりません。

2.マイカー通勤の場合

マイカー通勤の場合は、実際の片道通勤距離に応じて下表の金額までが非課税です。

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3.マイカーと交通機関を利用する人

自宅から最寄り駅までマイカーを利用し、最寄り駅から勤務先までは交通機関を利用する場合、上記の1.と2.の合計金額が非課税とされますが、上限は15万円です。

2)出張に合わせて帰宅しても、全て旅費交通費として処理していいの?

単身赴任者が出張した場合、その出張先が自宅に近ければ自宅に帰ることもあるでしょう。この場合にも、出張の目的や行路から見て、あくまでも出張が主な目的であり、かつ業務を行う上で必要な出張である限り、往復の旅費交通費は損金になり、出張者側においても所得税の源泉徴収の対象とはなりません。

反対に、帰宅すること自体が主な目的と判断された場合は給与として取り扱われ、所得税の源泉徴収の対象となります。特に出張者が役員である場合、旅費交通費として処理していても、税務上は役員給与として損金にならないので注意しましょう。

旅費交通費として認められる場合と給与として取り扱われる場合の例は下記の通りです。

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3)展示会に得意先を招待した際の交通費や宿泊費は、旅費交通費か交際費か?

自社商品の展示会に得意先を招待し、その交通費や宿泊費を負担した場合の取り扱いです。これは、より多くの人に自社商品を知ってもらい、売上の増加・促進を図るために必要な費用であるため、旅費交通費として損金とすることが認められます。一方、展示会とは名ばかりで、得意先を招待して宴会を行うことを主目的としている場合は、交際費として取り扱われます。

従って、展示会を行う趣旨や期間その他が記載されている計画書や企画書などを証憑書類とともに保管しておき、税務調査で質問された場合においても、十分な説明ができるようにしておきましょう。

4)定額の通勤手当を廃止し、実費精算に切り替えた場合、税務上取り扱いで変わる点はあるの?

コロナ禍において、通勤手当を廃止した会社が多くあります。通勤手当を実費精算へ切り換えた場合も税務上の取り扱いは変わらず、旅費交通費として損金となります。なお、実費精算の場合は従業員ごとに出勤日や出勤経路の確認など詳細の確認を怠らないようにしましょう。

以上(2022年5月)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 税理士 森浩之)

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画像:Mariko Mitsuda