価格競争から脱却するために不可欠な経営者の意識改革/「人を大切にする経営」で業績アップ(3)

書いてあること

  • 主な読者:業績は上がらないし、社員は生き生きと働いていない。会社の経営指針を根本的に見直したいと考えている経営者
  • 課題:社員の幸福や会社の社会的意義も大事だが、業績が悪ければそれどころではない
  • 解決策:会社に関係する全ての人の幸福を最優先する「人を大切にする経営」を実践する。経営者の意識改革によって変化を見誤らない「眼」を持ち、価格競争から脱却する

1 経営者がかじ取りを誤れば、人を大切にはできない

これまで2回にわたって、人を大切にする経営のエッセンスについて述べてきました。第3回からは、いよいよ本格的な実践編になります。

新型コロナや不安定な国際情勢など、経営に関する不確実性は、かつてないほど高まっています。人を大切にする経営を実践していくには、経営者が環境変化に対して適切なかじ取りを行い、環境変化にもびくともしない会社にすることが不可欠です。

そのためには、経営者が、

時代の変化や現在抱えている問題を見誤らない「確かな眼」を持つ

とともに、会社を、

社員の犠牲の上に成り立つ「価格競争」から脱却し、社員の能力の活用・向上によって永続的な成長を目指す「非価格競争」へと転換する

ことが求められます。「非価格競争が理想であることは分かっているけど……」と考えている経営者のあなたには、新しい市場を見いだしていくための意識改革が求められるでしょう。

今回は、環境変化にもびくともしない経営を実践するために、経営者に必要な意識改革について述べていきます。

2 経営者が持つべき「5つの眼」

外部環境に適応するために新たなことを始めようと思った際は、不安定・不確実な社会情勢を見極めることが重要です。そのために、経営者が持つべき「5つの眼」があります。それは、

  • 主観ではなく客観
  • 短観ではなく歴史観
  • ローカルではなく世界観
  • 現象観ではなく本質観、原理原則観
  • 企業観ではなく現場観・現物観・現実観(三現観)

です。

主観ではなく客観とは、変化・問題を、自社・自身を基準にして観るのではなく、第三者的・俯瞰(ふかん)的な視点で観るということです。主観にとらわれず、より幅広くものを観る眼のことです。

短観ではなく歴史観とは、変化・問題を、対前年比較などの短期ではなく、5~10年の中長期のスパンで比較するということです。時間軸をしっかり持ち、長い歴史の中の一つの時間として、今を眺める眼のことです。まさに今、国際情勢の転換点にいる私たちにとって必要な視点といえます。

ローカルではなく世界観とは、変化・問題を、自社・自身の生活範囲や地域レベルで判断するのではなく、より広い世界的視野から観察するということです。幅広い空間軸でものを観て、そして判断する眼のことです。

現象観ではなく本質観、原理原則観とは、変化・問題を、その現象だけ見るのではなく、それをもたらした要因・本質を見極めるということです。表面的に物事をとらえるのではなく、原理原則を見つめ、本質を見極める眼のことです。

企業観ではなく現場観・現物観・現実観(三現観)とは、変化・問題を、現場・現状も知らずに机上の空論で判断するのではなく、その現場に出向き、現物を見て、現実を知るということです。三現主義でものを観る眼のことです。

経験したことのない激変する環境下においても、この5つの眼を持っていれば、時代の変化や現在抱えている問題を見誤ることなく物事を進めていくことができるはずです。

3 価格競争からの脱却に必要な「オンリーワン経営」の意識

1)「オンリーワン経営」によって培われる非価格競争力

永続的に成長する会社に共通する要因の一つが、非価格競争力です。価格に関する会社の競争力は、大きく分けると価格競争力と非価格競争力の2種類あります。価格競争力とは、言うまでもなく「他社より安い」といった価格の安さを追求した競争力です。

一方、非価格競争力とは、価格の安さではなく、他社にはない価格以外の付加価値を追求した競争力で、新たなマーケットの創造を目指すものです。もう少し具体的に言うと、

  • その会社でしか扱っていない価値ある商品
  • その会社でしか創造・提案できない価値ある感動サービス
  • お客さまが絶賛する組織風土やブランド

などをいいます。すなわち、市場・業界シェアや売り上げ規模が一番といった「ナンバーワン経営」ではなく、「オンリーワン経営」によって培われる競争力だといえます。

どちらの競争力が理想的かといえば、恐らく100%の経営者が非価格競争力だと回答すると思いますが、実現できている会社は多くありません。

2)非価格競争力が強く求められる時代に

今から6年ほど前になりますが、「非価格競争経営に関するアンケート調査」を行ったことがあります。回答企業(製造業・非製造業を含め836社)のうち、「価格競争型企業」が81%、「非価格競争型企業」が19%でした。当時は価格の安さを売りにした会社、つまり価格が安いことが唯一の存立基盤という会社が圧倒的に多かったのです。

価格競争型企業が圧倒的多数だった時代、このような売り方がよく見られました。例えば、大手スーパーや量販店で、「自社の価格がもし他店よりも1円でも高ければ、そのチラシを見せてくれたら同じ価格、さらに安い価格にします」という売り方です。チラシがなくても、「あそこの店はここよりも安かったから、ここで買うから同じ価格にしろ」という、声の大きい客にだけ値引きをするといった売り方もされていました。

確かに当時は、1円でも安くなるからありがたいと、多くのお客さまがチラシを持参して、複数店舗を歩き回ることもありました。しかし、いつしか時代も消費者心理も変わり、お客さまは、「この店が当初設定した価格は何だったのか」「声の大きい客、値切れる客だけ安くなるのはおかしいのでは」と、逆にそのお店の値決めに不信感を増幅させていくようになったのです。

3)非価格競争への転換に成功した大阪のばねメーカー

大阪府大阪市に本社のあるばねメーカーT社の社長(現顧問)は、かつて欧州視察に参加した際、ドイツのばねメーカーを見学しました。そのときの質疑応答で、彼が「価格はどのように設定していますか」と質問すると、「原価などに利益を乗せて設定している」との答えが返ってきました。続けて、「値引きを要求されませんか」との質問には、「値引きして売っているようでは、ばね屋として成り立たない。価格が折り合わなければ断るだけ」との返答だったそうです。

その言葉を聞いた彼は、「単品特化のばね屋が値引きしたら消滅する運命しかない」「人が嫌がる仕事は正当に評価されるべき」ということに気付きました。そして、非価格競争の世界に足を踏み入れ、価格決定権を得ることに成功したのです。

T社はそのために、1本単位の注文であっても高品質のばねを生産できる、高度で精密な技術力に磨きをかけました。国家資格である「金属ばね製造技術士」を保有する優秀な職人を多数育成するとともに、日本一難易度が高いと自負する社内独自の技能検定も実施して技術力を高め、独自の「単品に特化した多品種微量・完全受注生産」システムを確立しました。

今では、値引き交渉をしてくる問い合わせには、「他社をお探しください」ときっぱりお断りするとともに、納期についてもT社の都合を理解いただいたお客さまの注文にのみ応じるようにしているのです。

4 非価格競争でマーケットを創造するための3つの型

非価格競争を実現するためには、

取引先、お客さまに、いかにファンになってもらうか

が重要です。

具体的に、非価格競争でマーケットを創造する方法として、次の3つの型が考えられます。

  • 顧客密着型
  • 新商品開発型
  • オペレーショナル・エクセレンス型

1)中小企業の小回りを活かした顧客密着型

顧客密着型とは、文字通り、お客さまにとことん密着し、お客さまの状況を察し、「喉が渇く前に飲み物を渡してあげる」「背中がかゆくなる前に背中をかいてあげる」といったサービスを提供するタイプです。すなわち、

大企業には難しい、中小企業だからこそできる小回りの利いた対応

をすることです。具体的には、商品・サービスの価格は他社より少々高くても、

  • 接客サービスやアフターサービスが抜群に良い
  • 1個の注文や、今日・明日という短納期の注文であっても対応してくれる
  • 困ったときにいつでも駆けつけてくれる

といったサービスが挙げられます。

例えば、神奈川県横浜市で新築やリフォームの工事および企画設計を行うS社の取り組みが挙げられます。S社は、アフターフォローという概念が薄い業界にあって、「地元住民が困ったときに、何でも頼める『住まいのかかりつけ医』となる」をモットーに、リフォームした家を定期的に訪問し、不具合がないかを聞いて回るなどしています。他社が敬遠する小工事についても手間暇惜しまず、迅速に対応してくれることから、口コミや顧客からの紹介を通じてお客さまが増え続けています。

2)商品・サービスそのものの魅力で勝負する新商品開発型

次に、新商品開発型とは、商品・サービスそのものの魅力で引きつけるタイプです。

  • 自社しかできない/やれない価値ある商品の創造・生産・販売を行う
  • お客さまを飽きさせることなく常に新しい商品・サービスを提供し続ける

ことによって実現します。ただし、新商品・サービスの開発といっても、全てをゼロから作り上げる必要はなく、既に他社にもあるもので、お客さまが不満に思っていることを解消するなどの改善も当てはまります。

例えば、ブルーシートの材料にもなっている「フラットヤーン」の関連製品および産業機械の製造・販売を行う岡山県倉敷市のH社は、多様な商品を開発し続け、ニッチな市場にも領域を広げています。例えば、シートであれば、防炎、遮熱、防音といった機能を訴求した商品や、発掘現場での埋蔵文化財保護シートのようなニッチな商品まで手掛けています。また、水中に浸してもむと数分で土のうの代用品になる吸水土のうや、コンクリートに混ぜるとひび割れが生じにくくなる補強繊維など、さまざまなヒット商品も生み出しています。その根底にあるのは、創業の精神「おもしれえ 直ぐやってみゅう(岡山弁で「やってみよう」の意味)」であり、社員からのカイゼン提案は年間5000件を超えているそうです。

3)オペレーションの改善で差別化を図るオペレーショナル・エクセレンス型

最後のオペレーショナル・エクセレンス型とは、生産方法や販売方法などのオペレーション面で、競合会社に対してスピードやコストで差別化を図っていくタイプです。「こんなに良いものが、こんなに安く」や「旨い・安い・早い」という言葉を聞いたことがあると思いますが、それらはこのタイプに当てはまります。

このタイプには、先ほどご紹介した大阪府大阪市のばねメーカーT社が該当します。T社は現在、「ITを活用した完全受注生産体制」を整備し、同業他社がやらない/できないレベルのサービスを提供することで、お客さまからのばねに関する「困った」を解決しています。

5 非価格競争のために利活用すべき「第4の経営資源」

非価格競争とそれによるマーケットの創造は、自社の既存の経営資源のみでの取り組みではなかなかうまくいきません。当然、既存事業を行いながら付加価値の高い分野に進出していくことになるので、新しい人材や技術、ノウハウが必要になります。中小企業は総じて、人材・技術・情報といった経営資源に限界があります。

では、多くの中小企業は限られた経営資源の中で、いかにして戦っていけばよいのでしょうか。そのヒントになるのが、

ネットワーク型経営の実行

です。つまり、

外部にある必要な経営資源を自社に取り込み、有効活用することで、その経営資源をあたかも自社の経営資源のように高度に利活用する経営

を進めることです。

ここでいう外部経営資源とは、同業種の会社はもとより、取引先の会社・異業種会社、さらには弁護士や公認会計士・税理士・社会保険労務士・経営コンサルタント、行政や大学等教育機関が持つ資源のことを指します。

人材・技術・情報、またはヒト・モノ・カネに次ぐという意味で、これを第4の経営資源と呼んでもよいと思います。こうした第4の経営資源の利活用のためには、

中小企業は内にこもらず、価値ある仲間を求め、積極的に外に出るべき

といえるでしょう。

そして、まずは産学官交流会や異業種交流会、展示会などに参加して、自社の存在を広く知らしめる必要があります。こういった場には、同じ考えを持つ人たちが多く集まっているため、価値ある人脈作りに格好な場となるからです。

次回の第4回は、人を大切にする経営において重要な取り組みとなる、“人財”活用および育成について、働き方や雇用の在り方、創造的な社員の育成手法などを事例を交えてご紹介します。

以上(2022年6月)
(執筆 人を大切にする経営学会事務局次長 坂本洋介、水沼啓幸)

【著者紹介】
坂本洋介(さかもと ようすけ)

1977年静岡県生まれ。東京経済大学大学院経営学研究科修了。株式会社アタックス「強くて愛される会社研究所」所長、コンサルタント。人を大切にする経営学会事務局次長。著者画像1
主な著書に「社員にもお客様にも価値ある会社」(かんき出版)、「小さな巨人企業を創りあげた 社長の『気づき』と『決断』」(かんき出版)「実践:ポストコロナを生き抜く術!強い会社の人を大切にする経営」(PHP研究所)他、連載、執筆多数。

水沼啓幸(みずぬま ひろゆき)
1977年栃木県生まれ。法政大学大学院イノベーション・マネジメント研究科修了(MBA)。株式会社サクシード代表取締役。人を大切にする経営学会事務局次長。作新学院大学客員教授。中小企業診断士。地域特化型M&Aプラットフォーム「ツグナラ」運営。著者画像2
主な著書に「地域一番コンサルタントになる方法」(同文舘出版)、「キャリアを活かす!地域一番コンサルタントの成長戦略」(同文舘出版)、「実践:ポストコロナを生き抜く術!強い会社の人を大切にする経営」(PHP研究所)他、「近代セールス」等連載、執筆多数。

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画像:fizkes-Adobe Stock

SNSの活用は第一に目的の明確化、第二にTTP/基礎から分かる ウェブの活用で売上アップ(2)

書いてあること

  • 主な読者:ウェブを活用して売上アップにつなげたい経営者
  • 課題:SNSを活用して売上アップを図りたいが、どうすれば成功するか分からない
  • 解決策:それぞれのSNSの特性を知り、活用目的を明確にすることから始める。投稿方法は、成功事例をTTP(徹底的にパクる)する

1 SNSの活用度でコロナ禍の明暗が分かれる

コロナ禍で苦しむ飲食店。コロナ禍の巣ごもり需要に対応するためにテイクアウトをスタートしたA店とB店で、明暗がハッキリ分かれました。

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コロナ禍で苦しむ旅館。コロナ対策として各都道府県で実施した「県民宿泊割キャンペーン」の情報を顧客にお伝えしたA社とB社で、明暗がハッキリ分かれました。

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コロナ禍で明暗を分けた理由は、SNSの活用度合いです。SNSでお客さまとつながっていた店舗や企業は、情報をタイムリーに、かつ低コストで発信することができ、売上につなげることができました。

2 何のためにやるの? 目的の明確化こそSNS活用の要諦

「よし、SNSを活用してみよう」と思っている方に、先にお伝えしたいことがあります。SNS活用の失敗パターンは、「はやっているから」という理由でスタートすることです。まずは、さまざまなSNSの特性と自社のターゲットを考慮して、SNS活用の目的を明確にしましょう。

  • 飲食店⇒「新規客を取り込むため」に「インスタグラム」を活用
  • 美容院⇒一度来店した方に「リピーターになってもらうため」に「LINE」を活用
  • 食品製造業⇒「商品の認知度を高めるため」に「ツイッター」を活用
  • ネットショップ⇒「商品の魅力を伝えるため」に「ユーチューブ」を活用

上述のように、「〇〇〇のため」に「〇〇〇(SNSツール)」を活用、というフレーズを作成してみてください。

なお、さまざまなSNSの特性を詳しくお知りになりたい方は、第4章をご参照ください。

3 やってみる! マネてみる! の精神でチャレンジを

1)キーワードは「TTP」

SNSのビジネス活用の世界で「TTP」という言葉がよく使われます。何の略語かわかりますか? TTPとは、

徹底的にパクる

ということです。

そう、うまく活用できている同業種・同業態のアカウントをユーザーとしてフォローしたり登録したりして、その投稿内容や手法を徹底的に参考にしてください。

2)これぞTTP効果! 1投稿で100以上のフォロワー獲得に成功

当社がご支援させていただいているワイナリーでは、コロナ禍でインスタグラムを始めましたが、フォロワー数を伸ばすことに苦戦していました。私は、フォロワーを多く獲得しているワイナリーのアカウントをご紹介し、そこと比較をしてみました。

すると、違いは「#(ハッシュタグ)」にありました。フォロワーを集めているアカウントは、ワイン好きの人が使うハッシュタグを数多く入れていたのです。そこで、TTPさせていただき、「#ワイン好きな人と繋がりたい」「#winelover」というハッシュタグを投稿に入れたところ、1投稿で100以上のフォロワーを獲得することに成功しました。

3)ユーザーとして「やってみる」ことから始めよう!

先ほどのワイナリーの話を読まれても、インスタグラムを使ったことのない方は、ハッシュタグの重要性をイメージしづらいと思います。まずは、いちユーザーとして、SNSを使ってみることをお勧めします。

多くの読者の方がプライベートでLINEは使われているかと思います(使っていなければ、今すぐ始めましょう!)。飲食店に行くと、よく「LINE公式アカウント登録で今すぐドリンク進呈」といった訴求を目にします。見つけたら、ぜひ登録してみてください。そうすると、お得なクーポンが送られてきたりします。「あっ、これがLINE公式アカウントね!」と、すぐにご理解いただけると思います。

SNS活用で最も大切なのは、ユーザー目線。まずは、ユーザーとしてSNSを体感することから始めてみてください。

4 参考:活用するSNS選びのためのアドバイス

次の図表は、ビジネス活用ができる主要なSNSの特性をまとめたものです。SNSと一言で言っても、ユーザー層や使い方はさまざまです。ビジネス活用となれば、その活用法も変わってきます。

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このうち利用者が1000万人を超えるLINE、Instagram、Twitter、YouTube、Facebookのお勧めの活用方法をお伝えします。

1)LINE(ライン):リピート促進

日本人の多くが使っているSNSがLINEです。LINEのビジネス活用としては、「LINE公式アカウント」というツールがあります。

既存のお客さまに自社のLINE公式アカウントに登録いただき、登録者に対して月に1回程度、お得情報や最新情報をお送りします。

現状ですと、月に1000配信まで無料で利用できます。

LINEのビジネス活用の主目的は、「リピート促進」が挙げられます。既存のお客さまとつながるツールとしては、以前はメール配信が主流でしたが、近ごろはLINE配信が増えています。

また、「LINEで問い合わせ」という活用方法も多くなってきました。若年層を中心に、

「電話よりLINEで問い合わせするほうが楽」

という方が増えています。

2)Instagram(インスタグラム):集客からリピート購入、ファンづくりにも

インスタグラムは、今利用が伸びている注目のSNSです。インスタグラムは若い女性向けのSNSというのは、今や幻想です。男性利用が4割を超え、中年層にも拡大中です。

インスタグラムは、#(ハッシュタグ)という文化があり、

ハッシュタグを通じて、同じ趣味・嗜好の方の情報を得る

ことができます。ちなみに、私は、「#新潟アルビレックスBB」というハッシュタグをフォローすることで、地元のプロバスケットボールチームを応援する方の投稿を瞬時にキャッチしています。

ビジネスでは「集客」のツールとして利用されることが多いです。上述のように、

ハッシュタグを投稿に入れることで、そのハッシュタグをフォローしている方や検索した方に投稿を見ていただき、そこから興味を持ってもらい、アカウントをフォローしてもらえれば、新たな接点につながります。

投稿頻度は週に2~3回程度がお勧めで、投稿頻度が増えるほどフォロワーも多くなり、集客を図ることができます。

新たな集客を狙わなくても、既存のお客さまにフォローしてもらい、情報発信を行うことで、「リピート購入」や「ファンづくり」につなげることも可能です。

3)Twitter(ツイッター):認知度アップと集客

ツイッターは、拡散性に優れたSNSなので、「認知度アップ」「集客」に向いています。「バズる」という言葉の通り、

投稿の内容によっては、情報が一気に拡散し、新たな出会いを生み出します。

しかし、1日1回以上投稿したり、フォロワーとマメにコミュニケーションを取ったり、投稿内容にも面白味がないと拡散は期待できません。運用担当者、いわゆる「中の人」の腕次第であり、適任者がいない場合は、手を出さないほうがよいかもしれません。

4)YouTube(ユーチューブ):自社・自店の魅力を伝え、信頼を得る

「ユーチューバーになって、一獲千金を狙いましょう」とは言いません。ユーチューブのビジネス活用としては、動画で商品・サービスの説明等をして、自社・自店の「魅力を伝え、信頼を得る」という目的で使うことをお勧めします。まずは、

動画を作成して、それをユーチューブにアップする。その動画をホームページに入れたり、パンフレットや名刺にYouTubeにつながるQRコードを入れたりして閲覧を促します。

また、ユーチューブ内で、動画を拡散して「集客」を図る手法もありますが、難易度は高くなります。

5)Facebook(フェイスブック):既存客への情報発信

フェイスブックは、以前は拡散性に優れたSNSでしたが、最近は拡散しづらくなっており、ビジネス活用としては、フェイスブック内で広告を展開して新規の「集客」を図るケースが多いです。

拡散性は低くなっているものの、会社や店舗で利用できる「フェイスブックページ」は無料ですので、

既存のお客さまへの「情報発信ツール」として機能させる

ことは有効です。

以上(2022年6月)

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画像:Pixel-Shot-Adobe Stock
執筆者サイト:https://glocal-marketing.jp/

【朝礼】君たちは「餌が食べられないカマス」のままでいいのか?

皆さんは「カマス」という魚を知っていますか。暖かい海に生息し、干物や塩焼きにするとおいしい魚です。今日は、このカマスを使った有名な実験についてお話しします。

この実験ではまず、大きな水槽を透明な壁で仕切り、一方の水槽にカマスの群れ、もう一方の水槽にカマスの餌になる小魚を放します。すると、カマスたちは餌を食べようと、壁に体当たりを始めます。しかし、何度体当たりをしても壁の向こう側に行けないことが分かると、そのうち諦めておとなしくなってしまいます。次に、水槽の中の透明な壁を取り除きます。すると、カマスたちは一斉に餌のほうに向かっていく……と思いきや、全く動こうとしません。目の前を小魚が泳いでも反応せず、そのまま餓死してしまうそうです。

では、どうすればこのカマスたちは餌を食べるようになるのか。答えは簡単。「新しいカマスを水槽に入れる」のです。新しいカマスは、もともと水槽に壁があったことは知りませんから、喜んで小魚のいるところに行きます。すると、「餌は食べられない」と諦めていた“古い”カマスたちも、新しいカマスに釣られ餌を食べ始めるのです。

ビジネスに置き換えるなら、餌は「達成すべき目的」、透明な壁は「目的の達成を妨げる障害」、古いカマスは「目的をなかなか達成できず、チャレンジに消極的になってしまった社員」、新しいカマスは「怖いもの知らずのチャレンジ精神旺盛な新入社員」といったところです。

この実験の話は、「停滞している組織に新しい風を吹き込めば、組織は活性化する」という例えとしてよく使われます。ですが、私は皆さんに、外部から新しい風が吹き込むまで待ってもらいたくありません。ビジネスでは、組織が停滞しているときに、都合良く優秀な新入社員が入ってくるとは限りません。それを待っていては、古いカマスたちのように餓死してしまいかねません。新しいカマスがいなくても、餌を食べられるようになるためのポイントは2つです。

1つは「壁をよく観察すること」です。古いカマスたちは、透明な壁があることに気付かず、何度も体当たりを繰り返していましたが、もしかしたら壁の表面をゆっくりなぞっていくと、実は抜け穴があったかもしれません。仮に抜け穴がなくても、日ごろから壁を観察していれば、その壁がなくなったときに、すぐに気付くことができます。つまり、「目的の達成を妨げる障害」が何なのかを正しく認識・分析するということです。

もう1つは「壁を突破するという気持ちを持ち続けること」です。カマスは成長すると50センチ、種類によっては2メートルにもなる魚です。からだが小さいうちは破れなかった壁も、成長するにつれて突破できるようになるかもしれません。単なる根性論と思う人もいるでしょうが、「何度障害にぶつかっても、諦めずに自分を磨き続ければ、いつかは目的を達成できる」ということです。

以上(2022年6月)

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画像:Mariko Mitsuda

【損益の見える化】グラフを使った月次経営管理の基本的な流れ

書いてあること

  • 主な読者:財務分野の「見える化」を進めたい経営者
  • 課題:会社が大きくなるにつれ、会社の財務分野の状況が見えなくなっている
  • 解決策:数値をグラフ化して状況を可視化し、トレンドに対する正確なイメージを持つ

1 損益が劇的に把握しやすくなる「グラフ化」

数字が羅列された表だと見落としてしまうことも、グラフだと発見しやすくなります。日々の経営では、月次試算表に基づく経営成績のチェックが不可欠ですが、実際に次のような月次試算表が手元に届いたとしましょう。この会社は12月決算で、13期7月(以下「最新月」)時点の月次試算表になります。

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経営者は次の視点から検討することでしょう。

  • 最新月の売上高の確認
  • 最新月の売上高の、対前期や対前月での増減額および増減率の確認
  • 最新月は黒字か、赤字か、またその額の確認
  • 最新月の原価率(または売上総利益率)の確認
  • 人件費の額、構成比の確認
  • 個々の会社において、特に注意を要すべき費目(例えば、広告宣伝費など)の額の確認

また、累計月次試算表に基づいて、期首からの累計値で同様の検討を行い、異常な増減などがあれば、その原因を把握し、必要に応じて対策を検討・実施します。これで最新月の検討が終わり、翌月の月次試算表が届いたら、対策の効果などに目を配りつつ、再度同様のことを行う、この繰り返しではないでしょうか。

2 月次損益を把握する流れ

ここでは、月次の経営管理に活用する基本的なグラフについて見ていきます。

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図表2の月次損益の推移のグラフから、売上高、売上総利益、利益の月別状況が分かります。ただし、年度ごとの状況が分かりにくいので、年次累計グラフが必要です。

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図表3は図表2を年次累計(12カ月サイクル)グラフにしたものです。年度を通じて、黒字なのか、赤字なのか、また、その幅(金額)など年度の状況を確認できます。ただし、対前期同月比の推移が分かりにくいので、対前期同月比グラフが必要です。

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図表4は図表3を対前期同月比グラフにしたものです。設例では11期からのデータを使用しているため、図表4はその翌期である12期からのグラフになっています。

対前期同月比グラフにして、増減金額のみをグラフ化すると、増減トレンドがはっきりと分かります。このグラフが一方的にマイナスサイドに伸びている場合は、減収減益トレンドが止まらないことを表し、一方的にプラスサイドにグラフが伸びている場合は、増収増益トレンドが継続していることを表します。また、売上高と利益のグラフ方向が逆に伸びる場合がありますが、これは増収減益、減収増益といった状況を示します。損益の増減を、部門別(店舗別)に分解してみると、より多くのことが分かります(図表5)。

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図表5は図表4の最新月(13期7月)を、部門別(店舗別)グラフにしたものです。ここでは、部門を店舗として設定していますが、実際には、事業部門、顧客、地域など自社の実情に応じて部門を設定することになります。

なお、この図表5の場合、L店が相対的に減収減益幅が大きいため、次は、L店の時系列グラフ(図表2~4)を作成し、この減収減益が一時的なものなのか、トレンドとして続いているのかを検討していくことになります。

以上(2022年6月)
(監修 公認会計士 益子宣夫)

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画像:pixabay

【朝礼】ビジネスでは格好つけるな!

先日、知り合いの社長と食事に行ったときの話です。私たちのテーブルから2つ離れたテーブルでは男女2人ずつの4人グループが食事をしていました。ほどなくして、私たちとその4人グループの間のテーブルに家族連れが案内されました。

家族連れは、4人グループのテーブルのそばを通ってそのテーブルに着こうとしました。そのとき、4人グループの1人が通路に放っていたリュックを子供が踏んでしまいました。「ごめんなさい」と子供が謝ると、4人グループの1人は、「気にしなくていい」といったそぶりで無言のまま片手を上げました。恐らく、自分の寛大さを仲間やその家族連れにアピールして、格好をつけたつもりなのでしょう。しかし、私も知り合いの社長も強い違和感を覚えました。

考えてみてください。子供はリュックが通路にはみ出していたから踏んでしまったのです。つまり、そこに放っておいたその人がよくないのです。また、これは「ヒヤリハット」です。この後子供がトイレに行くときに、今度はリュックにつまずいてテーブルの角に顔でもぶつけてしまったら、大きな事故になる恐れがあります。これくらいのことがイメージできないのは短慮です。加えて、子供が謝罪しているのに、大人が声も出さずに片手を上げて応えるだけとは常識がありません。

この場合の格好いい対応とは、「子供のほうを向いてしっかりと謝罪し、速やかにリュックを引っ込めること」なのです。

誰でも格好よくありたいと思っています。しかし、格好いいの基準は人それぞれですし、TPOもあるので、普遍的ではありません。

ただし、1つ言えるのは、「自分をよく見せよう」としてうわべだけをとりつくろったりするのは、とても「格好悪い」ということです。

ビジネスでは、「トラブルなく仕事をして自分をよく見せたい」という思いから周囲との衝突を避け、当たり障りのない意見ばかりを言う人がいます。本人は格好よくスマートに立ち回っているつもりかもしれませんが、私から見れば、自分の得点を下げないことで精一杯のように思えます。衝突を恐れずに自分の意見を正しく主張するほうが、よほど格好いいと私は思います。

同様に、「部下にチャンスを与える!」など部下育成の姿勢を見せていても、実際は自分から一切動かず、リスクをとらないというのは、部下思いではなく、自分思いなだけだと私は思います。部下にチャンスを与えるために、自分は上役から叱られるかもしれないけれど、リスクをとって部下にチャレンジさせたり、自分がチャレンジする姿を部下に見せるほうが、よほど頼もしいです。

うわべだけ格好をつけても、上司や部下、同僚、取引先などからすぐに本質を見抜かれてしまいます。リアルなビジネスは泥臭いもので、ぶざまでも一歩一歩進むしかありません。その泥臭さこそ、本当に「格好いい」姿といえるのではないでしょうか。

以上(2022年6月)

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画像:Mariko Mitsuda

知的財産の活用~BtoC企業のブランディング~/意外と知らない「知的財産権」シリーズ10

書いてあること

  • 主な読者:自社で製造企画を行い、消費者に直接販売している経営者
  • 課題:自社商品・サービスを差異化して競争優位を保ちたい
  • 解決策:消費者に体験やストーリーを共有した上で、それらを強化するために、商標や意匠を活用してブランディングを成功させる

1 消費者に受け入れられるブランディングを目指して

消費者はブランドだけを単純に求めず、自分に必要な具体的な情報に基づいて購買の意思決定をしています。飲食料品、化粧品、サプリメント、農産物など、健康・生命・美容といった自らの重大な関心事に直結するものについては、「賢い消費者」としての消費行動が定着しつつあり、実店舗は、「商品販売の場」から、企業と消費者が体験やストーリーを共有できる「絆づくりの場」に変わりつつあります。今回は、知的財産を活用したブランディングの事例を紹介します。

2 意匠を活用したデザインによるブランディング

まずご紹介するのは、意匠を効果的に活用して、ブランディングを行う方法です。

「カートリッジ」に入ったリキッドを電気加熱により蒸気にして、これを、専用の「たばこカプセル」に通過させることで発生するたばこベイパーを吸引するプルームテック(Ploom TECH)は、紙巻たばこに比べて有害性物質が少なく、かつ、燃焼を伴わず安全性が高いことから、人気を得ている加熱式たばこの一種です。

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プルームテックは、バッテリーから供給される電力でカートリッジ内に備わる小型ヒーターが発熱する仕組みであることから、安全装置が内蔵されています。ところが、カートリッジ側の回路はヒーターのみであるため、安全装置のない互換品でも動作してしまうという問題があります。安全装置に関する特許を持っていたとしても、互換品がこれを備えなければ特許権侵害にはならないため、特許権では互換品を排除することはできません。また、接合部分の構造そのものを特許化することも容易ではありません。

そこで、日本たばこ産業(JT)は、バッテリーとカートリッジの接合部分の形状を意匠登録して、そのような形状を有する互換品を効果的に排除しています。接合部分のデザインを知財として確保することで、「安全性」という付加価値を伴ったブランディングを行っているのです。

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3 商標を活用したブランドの維持

体験やストーリーの共有などを通してブランディングに成功したとしても、その付加価値の維持には独占化の努力が不可欠です。特に新規の商品・サービスを開発してネーミングを検討する際は、その商品・サービスの特徴を暗示するような商標を採択することがあります。

もっとも、このようなネーミングは、一般的に識別力が弱いことが多く、商標管理を適切に行わなければ普通名称化して、やがて十分に権利行使できなくなることがあります。「エスカレーター」「ホッチキス」「巨峰」「うどんすき」「正露丸」「ポケベル」「サニーレタス」「ういろう」「西京味噌」「デジカメ」「ホームシアター」などは、かつては登録商標として権利性を認められていましたが、現在では普通名称化などの理由により、独占排他的な商標ではなくなったと考えられています。

従って、自社の「ブランド」を維持するためには、「取得した商標権と同じ商標を正しく使用する」「同一又は類似の商標を第三者が使用している場合は、速やかに権利を行使してこれを排除する」といった、不断のメンテナンスが必要といえるでしょう。

自社の登録商標と一般的な名称を明確に区別している味の素は、その好例といえます。

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4 消費者への体験やストーリーの共有を中国企業に学ぶ

1)SNSの商品紹介でも体験やストーリーが重要に

こちらは、中国の女優・モデルとして著名なインフルエンサーである「Angelababy」さんの小紅書アカウントです。「ファン」は約235万人、動画内では最新の化粧品などを使用しつつ、おススメを紹介したりしていますが、ある動画に投稿された「いいね」の数は8795でした。

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これに対して、こちらは一般人の「Rika0_0」さんのアカウントですが、「ファン」は約182万人で「Angelababy」さんを下回っているものの、彼女が投稿する化粧品の動画では、実際に使用方法を具体的に説明しながら、成分情報なども詳しく紹介していて、約4万8000もの「いいね」を得ています。

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これらのことは、動画の視聴者が表面上の美しさや有名インフルエンサーのおススメといったうたい文句よりも、「具体的な商品情報」や「商品に対する信頼感」を求めていることを示します。つまり、SNS上でも体験やストーリーの共有が求められているということができます。

2)食の安心・安全で消費者との絆をつくった巨大飲料企業「農夫山泉」

「農夫山泉(Nongfu Spring)」という中国の大手ボトルウオーターメーカーをご存じでしょうか。前身企業を設立したのは1996年で、2020年9月に香港に上場すると、寄り付き価格が39.8香港ドル(約560円)と、発行価格から85.12%上昇する人気銘柄となり、時価総額は4452.92億香港ドル(約6兆2000億円)に達しました。

その結果、創業者の鐘●●(●は「目偏に炎」、Zhong Shanshan)氏は資産額が5000億香港ドル(約7兆円)となって、テンセントのポニー・マー氏、アリババのジャック・マー氏を上回り、長者番付で中国1位となった企業です。2020年8月末の公募段階でも購入希望者は70万人以上、倍率は1148.3倍、調達額は6709.5億香港ドル(約9兆4000億円)で、香港市場史上最高額となっています。

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中国飲料水市場のシェアは20%、年間売上は240億元(約3730億円)で、その3分の2がボトルウオーターです。1997年に浙江省千島湖を水源とする「農夫山泉」ボトルウオーター第1号商品を発売後、2003年にはジュース、2004年には機能性ドリンク、2011年には茶飲料へと進出しました。その過程で、果実そのものを商品展開するに当たり、消費者との間で、体験やストーリーを共有できる「絆づくり」の観点からのブランディングに成功しているといえます。

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特に、「17.5°シリーズ」と呼ばれる果実を商品展開するに当たって、商品を「追跡可能」な農産物とすることで、食の安心・安全を確保できることをアピール。さらに、「甘さの基準」を数値化することによって、「確実に甘い」果物のブランドイメージを獲得しています。そのブランド展開においては、「生産者の顔」「商品へのこだわり」「商品ができるまでのストーリー」といった、いわば商品の付加価値を消費者に追体験してもらうことで、顧客を「ファン」として確実に増やしていったといえます。

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この結果、「17.5°シリーズ」の果実は、通常のオレンジやリンゴと比較して2倍以上の価格で取引されており、ブランディング戦略によって価格決定力を手にすることに成功しています。

これに対して、以下の写真は日本のあるデパートの青果売り場の様子です。せっかく高品質の果物であっても、具体的な「情報」や「ストーリー」の発信がなく、単に売り場に陳列しているだけとなっています。

このような手法では、消費者が「共感」できる「情報」や「ストーリー」を伝えることができず、結果として、消費者からのロイヤルティーは得られにくいと考えられます。陳列「するだけ」では、そのこだわりや生育状況などを消費者にアピールすることはできません。ブランディングという観点からは、まだまだ工夫の余地がありそうです。

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以上(2022年6月)
(執筆 明倫国際法律事務所 弁護士 田中雅敏)

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【会社の見える化】グラフを使えば会社の状況が驚くほど見えてくる

書いてあること

  • 主な読者:財務分野の「見える化」を進めたい経営者
  • 課題:会社が大きくなるにつれ、会社の財務分野の状況が見えなくなっている
  • 解決策:数値をグラフ化して状況を可視化し、トレンドに対する正確なイメージを持つ

1 グラフ化することの効果

経営者の皆さんは、決算書や月次試算表などを見て自社の状態をチェックしていることでしょう。しかし、売上高や利益額、これらの対前期比の増減額や増減率、さらに原価率や人件費額など、たくさんの数値を全て記憶している人はどれだけいるでしょうか。

また、当然ですが、会社は動いています。この動きをコントロールするのが経営ですから、自社の動きを正確に捉えることが非常に重要です。ただし、こうした数値は、ある一時点のもの、すなわち“点の情報”にすぎません。こうした断片的な数値を記憶することよりも、トレンドを正確に認識するほうが、経営においては重要です。そして、そのための最善の方法が、

数値を時系列でグラフ化し、会社の「見える化」を図ること

なのです。別の言い方をすれば、数値をグラフに変換し、状況を可視化して、トレンドに対する正確なイメージを持つことが大切なのです。

両者の違いは明確です。例えば、「100」と「1000」の2つの数値で比較してみましょう。

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「1000」は「100」の10倍であることは理屈では誰でも理解しています。しかし、これを数値で表すと、見た目の違いは、わずか「0」1つだけです。一体どれほどの人が、「1000」が「100」の10倍であることを、正しくイメージして心に残せるでしょうか。

ところが、グラフを使って表現すると、「1000」は「100」の10倍の面積になります。

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グラフであれば、直感的かつ正確に量の違いを認識でき、また、記憶にも残りやすくなります。違う言い方をすれば、両者の違いを認識せざるを得なくなります。ここに、会社の見える化をグラフで表すことの大きな意義があるわけです。

2 認識の共有化を促進する

グラフ化すると、関係者間における認識の共有も促進できます。部下の中に「自分は数字が苦手だから」と公言している人はいませんか。そういう人でも、数値ではなく、グラフで状況を見せることで、そうした“言い訳めいた発言”は聞かないで済む可能性が高まります。

もう1つ例を挙げてみましょう。例えば、会議における業績報告の場面を思い出してみてください。「ビジネスでは数値が大切」とはいうものの、「○○部門の12月の業績は売上高450万円、対前月比10%減。営業利益は……」などと口頭での報告や、文章による説明だけだったらどうでしょうか。たとえ、数字が苦手な人ではなくとも、その数字を全て記憶することは容易ではありません。また、「対前月比10%減」という重要な情報が抜け落ちてしまい、「売上高450万円」だけが記憶に残る人もいるでしょう。

大きな問題は、同じことを聞いたり見たりしても、記憶に残る内容は人それぞれだということです。そのため、「売上高450万円」だけが記憶にある人は、「まあまあだな」といった漠然とした印象だけが残ったり、逆に「対前月比10%減」だけが記憶にある人は、「とにかくまずい!」といった焦りだけが印象に残るなど、同じ情報を見聞きしても、人によって認識が異なってしまうことがあります。

一方、これをグラフで表した場合はどうでしょう。

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このグラフは、あえて各月の具体的な数値は表示していません。しかし、具体的な数値を把握できなくても、グラフを見れば「12月になって急に売上高が減少している」という状況を誰もが認識することができるでしょう。

会社の見える化をする意義は、数値をグラフ化すること自体にあるのではありません。会社の見える化を進める意義は、数値をグラフ化することで、経営者が会社のトレンドを把握できるようになると同時に、関係者間で正しい認識を共有することによって、

的確な打ち手を検討し、会社全体が1つの方向に向かって行動することができる

ようになることにあります。

以上(2022年6月)#
(監修 公認会計士 益子宣夫)

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【広告】熱中症の応急処置と熱中症予防に有効なIoT/AI管理ツール

書いてあること

  • 主な読者:建設・土木業、製造業、運送・物流業、警備業、商業、農業等の会社経営者および役員、管理職、人事・労務担当者
  • 課題:熱中症は、症例によっては急速に進行し、重症化することがあります。従って、作業者の体調不良を早期に把握し、適切な処置を施すことが必要であり、管理者や作業者全員が日頃から正しい応急処置方法を身につけておくことが重要です。
  • 解決策:重症の場合は救急車を呼ぶことはもとより、現場ですぐに体を冷やし始めることが必要です。また、熱中症の発症は個人差が大きく、自覚症状が出たときには手遅れになりやすいため、作業者の体調不良を早期に把握することが重要です。そのためには、人による労務管理だけではなく、IoTウェアラブルデバイスによる管理ツールを導入することも有効です。

1 作業者の体調不良を示す「危険信号」を見落とさない!

近年の夏の暑さは当たり前を通り越して、“猛暑が普通”と思われるような気候となってきています。とくに、今夏(6~8月)は、「太平洋高気圧(夏の高気圧)の北側への張り出しが強い」とみられており、暑さは厳しく、そして長い期間、猛暑になる可能性が高いと予報されています。

そのような猛暑において気を付けなければならないのが、熱中症。軽症のうちは体温が上がらないことがあるため、熱中症に気付きにくく、そのまま放置している間に重症化して、死に至ることもあります。軽症の段階で早期に対応することが重要です。
作業者の体調をよく観察し、不調のサインを見落とさないことが大切です。

<こんな症状がでたら危険信号です!>

  • めまい・立ちくらみや失神(熱失神)

熱中症の代表的な初期症状です。暑さによって上昇した体温を下げようとして血管が拡がるため、血圧が下がり、脳への血液の量が減少します。そのため、顔面から血の気が失せて、めまいや立ちくらみ、場合によっては、一時的に失神することがあります。このような症状は、単独で発症することは少なく、多くは頭痛や吐き気・嘔吐、全身の倦怠感等を伴います。
めまいや立ちくらみ等の軽症の段階で熱中症を疑い、水分補給や休憩するなどの対応を行いましょう。

  • 筋肉痛や筋肉の硬直・けいれん(熱けいれん)

「手足のしびれ」や「足がつる(こむら返り)」、「足がぴくぴくする」などの症状がある場合は、熱けいれんを疑いましょう。意識ははっきりしていることが多く、必ずしも体温上昇を伴うわけではありません。

  • 大量の発汗、逆にまったく汗をかかない

熱中症の初期は、体温を下げるために汗をかきますが、体内の水分が失われると、それ以上汗をかくことができなくなります。汗のかきかたに異常がある場合には、熱中症にかかっている可能性があります。

  • 高い体温

汗をかかなくなると、体温が上昇します。熱中症が重症化すると、40℃超の高熱が見られることがあり、「熱射病」と呼ばれる状態に陥ることがあります。

  • 意識障害(応答が異常である、呼びかけに反応がない等)

おかしな応答や声を掛けても反応しない。また、歩行できないなどの異常がみられる場合は、重度の熱中症にかかっています。躊躇なく救急車を呼ぶことが必要です。

  • 水分補給ができない

自分で水分補給できない場合は、危険な状態です。無理に水分を口から飲ませることはやめて、すぐに医療機関を受診しましょう。

2 熱中症疑い時の応急処置

熱中症は「非労作性熱中症」と「労作性熱中症」 に大別できます。これらの基本的な症状は同じですが、発症環境と症状の進行時間に大きな違いがあります。

工事現場や製造現場等で労働されている作業者が発症する熱中症は「労作性熱中症」に該当し、「非労作性熱中症」に比べて、その症状の進行時間は早く、数時間のうちに悪化するため、身体に大きな異変が起きてから気付くことも多く、救命のためにも適切な対処方法を身に付けておくことが重要です。

  • 非労作性熱中症:

基本的に気温の高い室内などの暑い環境で長時間生活していると発症し、症状は数日間かけてゆっくりと進行します。

  • 労作性熱中症:

暑い環境に加えて、過度な作業や運動に伴うもので、作業をしている労働者に多く発症しています。

「熱中症疑い時の応急処置」を次図に示していますので、参考にしてください。

重症の場合は、救急車を待たずに現場ですぐに体を冷やし始める

熱中症による重症者を救命できるかどうかは、いかに早く体温を下げることができるかにかかっています。何らかの意識障害が認められるような場合は、救急車を要請することが必要ですが、その到着前から、冷却を開始することが必要です。

体温が高く、意識障害が認められるような場合は、全身を氷水(冷水)に浸ける「氷水浴/冷水浴法」が最も体温の低下効果が高く、救命につながることが知られていますが、医師の管理下において、直腸温を継続的にモニターできる人的・物的環境が整った状況で実施する必要があります。そのような環境でない場合には、水道につないだホースで全身に水をかけ続ける「水道水散布法」が推奨されます。

どこを冷やすのが効果的か?

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体表近くに太い静脈がある場所は、大量の血液がゆっくり体内に戻っていく場所のため、その箇所を冷やすのが最も効果的です。
具体的には、頚部の両側、腋の下、足の付け根の前面(鼠径部)等です。そこに保冷剤や氷枕(なければ自販機で買った冷えたペットボトルやかち割り氷)をタオルでくるんで当て、皮膚を通して静脈血を冷やし、結果として体内を冷やすことができます。冷やした水分(経口補水液)を摂らせることは、体内から体を冷やすとともに水分補給にもなります。
また、濡れタオルを体にあて、扇風機やうちわ等で風を当て、水を蒸発させて体を冷やす方法もあります。

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3 IoTデバイスを活用した熱中症予防の管理ツール

前項のとおり、熱中症を予防するためには、作業者の体調不良を早期に察知して、適切な対応を図ることが大切ですが、単独での作業や逆に作業者が多い作業場等では、作業者の体調を観察することにも限界があります。そこで今回は、IoTデバイスを活用した熱中症予防に有効な管理ツールとして多くの企業で採用されている「みまもりふくろう」をご紹介します。

【労務/熱中症管理サービス】 みまもりふくろう

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リストバンド型デバイスにより作業者の脈拍と位置情報をリアルタイムに計測し、企業の労務管理と熱中症対策をサポートするウェアラブルIoTサービスです。

Webサイト:https://www.sompo-rc.co.jp/services/view/184

熱中症の発症は深部体温(直腸温)との相関が高いことが一般的に知られていますが、専門家によれば、その深部体温と脈拍との間にも相関性があるとされています。

「みまもりふくろう」はこの原理を利用して、脈拍を計測することで、着用者の熱中症を予防する管理ツールです。作業者の脈拍をリアルタイムに計測し、熱ストレスによる危険度が高まると、作業者本人や管理者にアラートメールを通知するため、新たな熱中症予防の管理ツールとして大きな注目を集めており、管理者にとっての労務管理支援ツールとしても魅力的と考えられます。

この「みまもりふくろう」の特長は以下のとおりです。

「みまもりふくろう」の5つの特長

  • 個々の体調を考慮したアラート

危険度が高まるとアラート通知されるため、客観的なデータを元に休憩が必要なタイミングを把握できる。

  • アラート基準値はAIが自動設定

AIが学習し、個人に最適な値へと自動修正するため、使うことで精度が向上する。

  • GPS機能で位置情報の把握が可能

夜間や1人作業中に異常が発生しても早期に発見し、作業員を守ることができる。

  • 多彩なダッシュボード機能で現場管理を支援

取得したデータを元に、様々なレポート抽出が可能。とくに危険度が高い作業者や作業内容を把握し、職場内での相互理解を深めることができる。

  • 低価格で導入しやすい

デバイス1個あたり13,000 円(税別)、月額料金2,000円(税別)から利用できる。ただし、デバイス10個以下の場合の月額料金は20,000円(税別)。最低利用期間は3ヵ月。

とくに導入費用に関しては、デバイス費用以外のシステム構築費用等が不要なため、低価格でのサービス提供を実現しているほか、夏場の3か月間だけというような期間利用も可能なため、導入しやすいサービスとなっています。

作業員が高齢化するなど、労働安全管理がより難しくなる中、管理者の責任は年々増え、安全配慮義務違反を問われる事例も増加してきています。このような状況下で、作業者だけでなく、管理者を守ることを目的としたサービスは、今後ますます重要視されていくものと考えられます。

新時代の熱中症対策、また労務管理ツールとして、作業者の個人差を踏まえて熱中症管理ができる他にない機能を有した「みまもりふくろう」の採用を検討してみてはいかがでしょうか。

詳細なサービス内容や料金等は上記のWebサイトから確認可能です。

【参考文献】

  • 気象庁「暖候期予報(令和4年2月25日発表)の解説」
  • 厚生労働省「職場における熱中症予防対策マニュアル」
  • 環境省「熱中症環境保健マニュアル 2022」(令和4年3月改訂)
  • 前田俊輔・伊達豊他「暑熱環境下における漸増負荷運動時の深部体温と生理情報との関連」日本生理人類学会誌 Vol.23,No.4  2018, 11

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以上(2022年6月)

【管理会計】利益も大事ですが、資金繰りも確認をしていますか?

書いてあること

  • 主な読者:感覚だけでなく、定量的な基準や根拠を持ってビジネスの判断をしたい人
  • 課題:資金繰りを確認する理由や、具体的なチェックポイントが分からない
  • 解決策:運転資金を把握するために、売上債権、棚卸資産、仕入債務の残高管理や回転期間分析を実施する

1 質問:今、会社にいくら資金が必要か分かりますか?

業績が悪化しているときだけでなく、好調なときにも資金繰りへの注意を怠ってはいけません。資金繰りに大きくかかわっているのが、会社が日々の事業を営んでいくための資金、つまり運転資金です。

運転資金は、

運転資金=売上債権+棚卸資産―仕入債務

の算式で計算されます。図で表すと、次のようになります。

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売上債権は商品などを売り上げましたが、掛け売上のためまだ入金されていません。また棚卸資産もまだ売られていない在庫なので、売上債権と同様、まだ入金はありません。一方、仕入債務は原材料や商品などの仕入代金で、掛け仕入のため、まだ出金されていません。

このように、

入金のタイミングと出金のタイミングにタイムラグがあると、一時的に資金が足りなくなってしまいます。この足りない場合の資金を補うものが運転資金

なのです。

では、早速、次の売上債権、棚卸資産、仕入債務を使って、運転資金を求めてみましょう。その上で、4月から5月に売上高が大幅に増えたことによって、必要な運転資金がどれだけ増えるかも併せて確認してみましょう。

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2 運転資金を計算し、追加資金が必要かどうか判断する

運転資金は、

  • 4月:売上債権1,000千円+棚卸資産200千円-仕入債務700千円=500千円
  • 5月:売上債権5,000千円+棚卸資産500千円-仕入債務4,300千円=1,200千円

となります。

ただ、運転資金がいくらなのかを把握するだけでは意味がありません。前月からの運転資金の増減の結果、資金繰りにどのような影響があるのかを知る必要があります。そして、それに対する追加資金の必要性と、その対応が可能かどうかを確認しなければなりません。

この事例では、4月から5月にかけて、追加で運転資金700千円(1200千円-500千円)が必要になりました。損益計算書からみて、取引規模(売上の増加)が大きくなったことが原因と分かります。もし、社内に余剰資金があまりなく、翌月の売上見込みも5月同様の取引規模が継続する場合には、追加資金の手当てが早急に必要になります。

このように急激な売上の増加があったときには、業績的には好調でも、資金繰りに困ってしまうという事態に陥る可能性があるのです。

3 より詳細な分析のために必要な「回転期間」による分析

運転資金の変動要因は、売上の増減だけではありません。売上債権の回収が滞っていたり、棚卸資産(在庫)の販売状況が悪かったりして、必要な運転資金が増えている場合もあります。このような異常な増減のケースでは、売上債権、棚卸資産、仕入債務の「回転期間」の変動も見ておく必要があります。

回転期間とは、

売上債権を回収するまでの期間、棚卸資産が売れるまでの期間、仕入債務を支払うまでの期間

をいい、経営の効率性を知るための指標です。それぞれ次のように算式で計算されます。

  • 売上債権回転期間=売上債権÷(売上高÷365日)
  • 棚卸資産回転期間=棚卸資産÷(売上原価÷365日)
  • 仕入債務回転期間=仕入債務÷(売上原価÷365日)

運転資金の回転期間は、上記3つの回転期間を使い、

運転資金回転期間=売上債権回転期間+棚卸資産回転期間-仕入債務回転期間

の算式で計算します。

もちろん、この指標も、月ごと、年ごとで比較し、増減を把握していかなければなりません。増減が大きい場合は、取引先の経営状況の変化や営業部門の人員配置がうまくいっていないなど、決算書だけでは読み取ることができない原因の追求に役立つことになります。

また、運転資金に関しては、この記事で解説してきた売上債権、棚卸資産、仕入債務で計算されるもの以外に、賞与の支払いや税金の支払いなどのような季節的に発生するもの(季節運転資金)があります。毎年同じタイミングに発生するものなので、3年分くらいの月次単位での資金繰り状況を確認しておくとよいと思います。

以上(2022年6月)
(執筆 管理会計ラボ株式会社 取締役・公認会計士 福原俊)

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【カンタン経済講座】国際紛争・環境対応・感染症 世界情勢が日本経済に影響するメカニズム

書いてあること

  • 主な読者:ヒト・モノ・カネに関して直接的、間接的に海外と関係している企業の経営者
  • 課題:激動する世界情勢が日本経済に及ぼす影響を考えたい
  • 解決策:既に発生した国際紛争・環境問題への対応・感染症のまん延という事象が日本経済にどのように影響を及ぼすのか把握する

1 激動の世界情勢が日本経済を直撃する

  • ロシアによるウクライナ侵攻
  • 脱炭素社会の実現を求める国際的な機運の高まり
  • 新型コロナウイルス感染症のまん延

世界で発生するさまざまな問題は、日本経済にも大きな影響を及ぼしています。日本経済を語る上で、もはや「対岸の火事」という言葉は使えません。グローバル経済が発展した現代では、対岸どころか、地球の裏側で起こったことも、日本経済に深刻な打撃を与えます。

こうした世界における問題は、私たちには防ぎようのない、いわば荒波です。その荒波に沈没しないように企業のかじを取っていくには、まずは荒波が日本経済に及ぼす影響を理解しておくことが大切です。

このシリーズでは、世界の外交・環境・感染症といったリスクが、日本経済にどのように影響を及ぼすのか、そのメカニズムについて2回にわたって解説します。

2 国際紛争は不景気や世界経済のインフレを招く

・具体的な事象

ロシアによるウクライナ侵攻の長期化(中国のロシア支持や西側諸国の経済制裁強化)

・想定される日本経済への影響

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1)資源国の国際紛争は日本に大きな影響

国際紛争などの外交問題は、関係する国が日本にとって依存度の高い資源国の場合、とても大きな影響を及ぼすことになります。

例えば、ロシアによるウクライナへの侵攻が続き、ロシアとの貿易などが困難になれば、直接取引している日本企業はもちろん、ロシア産品を使っている企業にも大きな影響が出かねません。輸出が難しくなり困る企業もあるでしょうし、ロシア国内に工場を持っている企業などにとっては深刻な問題となります。

日本経済全体としての影響を考えた場合、それよりもはるかに深刻なのは、エネルギーなどの資源類の輸入が止まることでしょう。ロシアのエネルギーが輸入できなくなった場合、世界的なエネルギーの不足が生じて、エネルギー価格が高騰するかもしれません。

エネルギー価格が高騰すれば、日本経済としては「産油国が増税した」ような影響を受けるわけです。カネが海外に流出していき、消費者は高いガソリン代などを払う分だけ他のものが買えなくなり、景気は悪化するでしょう。

また、エネルギー価格が高騰すれば、世界経済がインフレになりますから、世界的に金融が引き締められ、景気が悪くなったり、株価が値下がりしたりするでしょう。

ロシアに依存している希少金属などについては、価格の問題というよりも、「それを使わないとつくれない製品」があり得ることが問題です。代替品を使って同じものをつくる技術が簡単に開発できればよいのですが、そうでないと、特定の一部製品の不足が続いてしまいます。

また、ウクライナは農業大国であり、世界の穀物生産に占めるウエートが大きいので、作付けができない場合は、世界の穀物生産量に影響を及ぼします。

2)国際分業体制の後退は世界経済に深刻な事態

中国は巨大な市場ですから、対中輸出が激減するようなことになれば、世界は深刻な不況に陥ることでしょう。仮に中国が明確にロシアを支持する姿勢を取った場合、それに対して西側諸国が中国に対しても種々の経済制裁を科す可能性があります。その場合、日本を含む対中輸出への依存度の高い国の経済は影響を受けることになるでしょう。

しかし、それ以上に深刻なのは、中国との国際分業が急激に後退することです。中国製品の輸入が止まったり、中国にある外国の工場が操業できなくなったりすれば、これまで世界経済の発展を支えてきた大きな流れが逆流しかねません。世界経済は、「お互いが得意なものを大量につくって交換する」という国際分業によって発展してきました。その流れが逆流するとなると、さまざまな経済活動に、これまで必要なかったコストが上乗せされることになります。事態は深刻です。

日本が得意とするものをつくっても中国に輸出することができず、中国が得意とするものは中国以外の国から輸入しなければならなくなります。場合によっては、中国に進出している工場なども閉鎖することになるでしょう。

変化が徐々に起きる場合でも大問題ですが、あるとき突然、「中国との貿易禁止」などということになれば、大混乱が生じかねません。

3 環境問題への対応が産業構造の地殻変動を起こす

・具体的な事象

脱炭素に関する国際的な枠組みやルールの定着

・想定される日本経済への影響

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1)国内の自動車産業にはマイナス、家電産業にはプラスの影響

環境問題に対する世界的な関心が高まっています。環境問題への対応という国際的なルールが浸透していった場合、環境負荷の高かった従来の産業構造を根本から覆し、ゲームチェンジャーが登場する可能性を秘めています。

環境は重要ですし、地球温暖化などについては各国が協力して真剣に取り組まないと将来に大きな禍根を残すことは筆者も理解しています。しかし、そのためのコストは決して小さくなさそうです。特に、日本経済に限った影響を考えれば、リスクのほうがはるかに大きそうだという面もあることに要注意でしょう。とりわけ、長期的な日本経済の将来性を考える際には、大きな懸念材料ともいえそうです。

例えば、日本が強い国際競争力を持ち、巨大な産業として経済を支えている「自動車産業」について考えてみましょう。ガソリン車が世界的に生産されなくなると、日本の持っている国際競争力が意味をなさなくなります。ガソリン車製造業が衰退産業になってしまうわけです。

電気自動車などへのシフトが新しい工場建設を誘発したりすれば、経済にとってプラスの面もあるでしょう。しかし、電気自動車で日本メーカーがガソリン車と同じように強い国際競争力を持てると考える理由は特にありませんし、実際に海外メーカーのほうが先行しているようです。

その一方で、家電産業などに関して言えば、日本メーカーは省エネ技術に長けているので、環境問題の重視は、日本メーカーにとって追い風かもしれません。

もっとも、それが日本経済にとって十分な追い風になるかどうかは、判断が難しいところです。日本の家電メーカーは、海外現地生産が進んでいますので、日本製品への需要が高まったとしても、日本経済がその利益を全て享受できるとはいえないからです。

海外子会社の売り上げと利益が増加すると、日本の家電メーカーの株価が上がり、株主配当は増えるかもしれません。しかし、工場が増設されるのは海外であって、日本国内の設備投資や雇用の拡大にはつながらないことが想定されます。日本国内の労働者の賃上げやボーナス上昇の可能性は皆無ではありませんが、過大な期待は禁物でしょう。

2)脱炭素で一時的なエネルギー価格の上昇も

環境問題に対する関心の高まりで懸念されるのが、化石燃料の価格上昇です。環境問題への対応によって、化石燃料の需要は長期的には減っていくでしょうが、短期間で一気に減るわけではなさそうです。

その一方で、油田や炭鉱の新規開発は行われなくなるとみられます。10年後には需要が激減すると分かっているのに、莫大なコストのかかる投資をしようとは誰も思わないはずだからです。

そうなると、今後の化石燃料の価格を決めるのは、既存の油田や炭鉱の生産力が減っていくスピードと、化石燃料の需要が減っていくスピードの競争の結果次第ということになります。仮に供給力のほうが早く減っていくとすれば、今後10年間は化石燃料の価格が高止まりすることにもなりかねません。

4 エンデミック期の日本経済の相対的な回復の遅れ

・具体的な事象

新型コロナウイルス(コロナ)のまん延に伴う感染防止対策の徹底

・想定される日本経済への影響

エンデミック期への移行後も、過剰な自粛によって海外と比べて経済回復が遅れる

感染症に関しては、筆者は医学の専門ではないので、さまざまなリスクシナリオが必要になります。ここでは、「パンデミック」期から「エンデミック」期へと移行し、強い感染力を持ちながらも重症化率や致死率が低い状態が続くようになったときの、日本経済の回復スピードという点に絞って考えていきます。その場合、感染防止を徹底しすぎて経済への悪影響が甚大になるリスクがあるといえます。リスクを決めるポイントは2つあります。

ポイントの1つは、政治家による各種規制などに関する判断です。コロナを特殊な病気と捉え続けて感染対策を徹底するのか、「インフルエンザと同じようなもの」と考えて感染対策を緩和していくのか、という政治判断です。

もう1つのポイントは、個々人の行動です。「飲み会の自粛要請は解かれたけれど、怖いから飲みに行かない」「自分はコロナを恐れていないが、仮に感染したときに周囲から何を言われるか分からないから、飲みに行かない」という人が多ければ、やはり経済は回っていきません。

これは、「安全と安心」という難しい問題です。「安全なのか」は科学の問題ですが、「安心なのか」は心理の問題です。筆者の印象としては、海外と比べて日本人は慎重な人が多いので、経済の回復のペースは比較的ゆっくりしているように見えますし、今後もその傾向が続きそうです。

次回は、日本経済のリスクシナリオについて解説しますので、ご期待ください。

以上(2022年6月)
(執筆 前久留米大学商学部教授 塚崎公義)

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