【損金】税理士が解説。損金になる役員報酬、ならない役員報酬

書いてあること

  • 主な読者:決算対策の一環などとして、役員報酬を損金にしたい経営者
  • 課題:役員報酬は従業員給与よりも、格段に税務上のルールが厳しい
  • 解決策:定期同額給与・事前確定届出給与・業績連動給与を知ることが第一歩

1 役員報酬とは

役員報酬とは、

役員に支払う報酬(以下「役員報酬」)で、従業員給与(全額が損金となる)と異なり、支払いについて税法上のルールがある

ので注意が必要です。具体的には、

「定期同額給与」「事前確定届出給与」「業績連動給与」といった税務上のルールがあり、これを守らないと損金に算入できない

ことになります。さらに、支払方法に問題がなくても、金額が高すぎると一部が損金として認められなくなります。

こうした厳格なルールがあるのは、役員報酬は役員自身が決められるからです。例えば、利益が多額に出そうなときは役員報酬を増やして利益を減らし、納税額も減らすことができてしまうため、これを防ぐために税務上のルールがあるのです。詳しく見ていきましょう。

2 損金になる役員報酬の2つのポイント

1)損金とすることができる役員報酬の支払方法は3つある

税務上、損金にすることができる役員報酬の支払方法は、「定期同額給与」「事前確定届出給与」「業績連動給与」の3種類です。

1.定期同額給与

定期同額給与とは、「定期的(=毎月)」に「同額で支給される給与」のことで、毎月支給される役員報酬がこれに当てはまります。税務調査では、総勘定元帳や給与支払台帳などを見て、毎月の役員報酬が同額で定期的に支給されているかがチェックされます。なお、金額の変更は、一般的には毎事業年度実施される定時株主総会の決議によって行います。

2.事前確定届出給与

事前確定届出給与とは、役員に対する臨時的な給与の「支給金額」や「支給日」などをあらかじめ決め、税務署に「届出書」を提出しておくことで損金にできる役員報酬です。定期同額給与以外に、夏と冬に賞与の形で役員報酬を支払う場合などに利用されます。届出書の提出期限は税法で決められています。

なお、提出した届出書に記載した支給金額と実際の支給金額が異なっていたり、支給日が1日でも違っていたりした場合、支給金額の全額が損金にできなくなるので注意しましょう。

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3.業績連動給与

業績連動給与とは、会社の売上や利益に連動させて支給額が決められる役員報酬です。ただし、業績連動給与の算定方法を一定の方法(有価証券報告書など)で開示する必要があるなど、要件が主に上場企業を対象としたものになっているため、本稿では詳細を省略します。

2)役員報酬の金額が高すぎる場合には損金にできないことがある

「定期同額給与」「事前確定届出給与」「業績連動給与」のいずれかに該当していたとしても、支給額が高額の場合、注意が必要です。役員の職務内容などに照らし、「役員報酬の水準が高額すぎる」と判断された場合、その高額とみなされた部分の金額(適正額を超える部分の金額)は損金にできません。税務調査においては、役員報酬の金額が高額すぎるかどうかは、次の2つの基準に従って総合的に判断されます。

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3 役員報酬で迷いやすい実務Q&A

1)経営が悪化しても役員報酬の金額は変更できないの?

毎月支給する役員報酬は事業年度を通じて同額とする必要があるので、利益が前事業年度と比較して多少悪化したからといって、事業年度の途中での変更はできません。従って、事業年度開始前に見積もる予算や利益計画をできる限り精緻に行った上で、役員報酬の水準を決定します。

ただし、新型コロナウイルス感染症の影響などによって経営状況が著しく悪化し、利害関係者(債権者など)との関係上、役員報酬を減額せざるを得ない場合などは、変更が認められます。このような場合には、税務調査において「利益操作」と判断されないよう、減額せざるを得ない事実を、客観的かつ具体的に説明できるような書面などを準備しておくことが重要です。

2)親族である役員に役員報酬を支払っても大丈夫?

役員報酬を支給する相手が親族の場合、いわゆる「お手盛り」になることがあるので、税務調査でも重点的に調べられます。特に「名ばかり役員」に対して報酬を支払っていないか調べるため、「具体的にどのような職務に就いているか」「役員の机はあるか」「電話の内線表に名前があるか」「出勤実績はあるか」などがチェックされます。職務実態があれば必要以上に恐れることはありませんが、金額の決定過程を詳細に説明できるよう、株主総会の議事録などの関係書類を事前に準備しておくことが重要です。

3)役員報酬の限度額改定を忘れずに

役員報酬の金額が高すぎるか否かの判断基準には、「実質基準」と「形式基準」とがありました(図表2参照)。「形式基準」とは、役員報酬の金額が「定款に定めた金額や株主総会などで決議された金額(役員報酬限度額)を超えていないか」を基準にするものです。役員報酬限度額は一度決定したら、その後に改定をしない限り有効です。

この役員報酬限度額ですが、役員の数が増加している(役員報酬の総額が増加している)にもかかわらず改定しなかったため、「知らず知らずのうちに役員報酬の金額が限度額を超えていた」といったようなトラブルがあります。役員報酬限度額については毎事業年度の定時株主総会で見直しを行い、その決定過程を議事録として保存しておき、役員報酬の金額が限度額を超えないようにしましょう。

4)役員報酬と従業員給与とのバランスも重要

役員報酬の金額が高すぎるか否かの判断は、さまざまな視点から検討されますが、例えば、利益が減少傾向にあることから、従業員に対するボーナスを減らしているにもかかわらず、役員報酬が増加しているような場合は、「役員報酬の水準が高すぎる」と判断されることがあります。役員報酬の金額は、利益のみならず、従業員給与とのバランスにも留意しましょう。

以上(2022年6月)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 税理士 森浩之)

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画像:Mariko Mitsuda

【朝礼】自分の短所を書き出せば、すべきことが見えてくる

人は誰でも良い所と悪い所を持っています。よく言う「長所」「短所」です。皆さんは自分の長所と短所を即答できますか。明るくハキハキとしゃべれること、記憶力が良いこと、人の話をじっくり聞くことができるなど、色々あるでしょう。長所が多ければ歓迎すべきことですし、短所は少ない方がよいものです。

皆さんに知ってもらいたいことは、皆さんが自覚している長所や短所は、他の人からは違って見えることがある、ということです。極端な例でいえば、自分では長所と思っていることが、実は他の人から見たら短所にほかならないということがあります。自分では声が大きく元気が良いのが長所だと思っていたのに、周りの人はいつも場に似合わぬ大声を張り上げて、とてもうるさい人だと感じていたということもあります。

ここまで極端でなくとも、長所と短所に相関があることは少なくありません。

例えば、私の若いときの同僚で、書類の作成が速いことが自分の長所であると思っている人がいました。その人の書類の作成の速さは自他共に認めるところでした。しかし、その一方で、その同僚の仕事には小さなミスが多く、上司や同僚はチェックをするのが大変でした。この同僚は、仕事が速いという長所の裏側に、仕事に対して正確性に欠けるという短所があったことに気付いていませんでした。

これとは逆に、私のかつての部下で、書類の作成に時間がかかるのが自分の短所であると考えている人がいました。しかし、その部下は自分では気付いていませんでしたが、作る書類は丁寧でミスがほとんどありませんでした。また構成や文章が優れておりとても読みやすく、私はチェックが楽でした。社内でも、彼が作る書類への信頼は高かったのです。これは、仕事が遅いという短所の裏側に、仕事には正確で丁寧に取り組むという長所が存在していた例です。

このように、長所と短所は表裏一体となっていることが多いのです。

そこで、自分が他人より優れている、得意であるという長所については、一層の高みを目指しながらも、今一度見直すことで気持ちを引き締めましょう。そう、長所の裏側に短所が潜んでいるかもしれないからです。

また、自分が他人よりも劣っている、苦手であるという短所については、悩んだり引け目を感じたりするのはやめましょう。ネガティブに考えるのではなく、今までとは別の方向から自分を眺めてみましょう。その短所の裏側に長所が隠れているかもしれません。仮に、長所が隠れていなくても、短所は必ず補えるということを覚えておいてください。そう考えれば、短所から自分の意外な可能性に気付き、そのことが自分を成長させるきっかけになるかもしれません。

昨日、私は自分の短所をノートに書き出してみました。思った以上に短所が多くありました。皆さんも短所を書き出して、それをじっと眺めてください。不思議なことに、これから自分が何をすべきかが見えてきます。

以上(2022年6月)

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画像:Mariko Mitsuda

【損金】税理士が解説。損金になる賃借料、ならない賃借料

書いてあること

  • 主な読者:決算対策の一環などとして、賃借料を損金にしたい経営者
  • 課題:オフィス賃料や借上社宅などによる取り扱いの違いが複雑で分からない
  • 解決策:物件はビジネスで使うこと。借上社宅は入居者から一定額を収受する

1 賃借料とは

賃借料とは、

オフィスを借りたり、役員や従業員のために会社名義でマンションを借りたりする(借上社宅)際に支払う家賃

です。賃借料は、原則として全額を損金とすることができますが、いくつかの注意点があります。また、権利金の取り扱いなど税務特有の処理が必要になるため、税務調査でも重点的に調べられます。

賃借料が損金になるかどうかのポイントは、

  • オフィスや営業所の賃借料であること
  • 社宅の賃借料であること。ただし、役員・従業員からの徴収額に要注意
  • 権利金は一旦資産計上、原則5年間で償却すること

です。詳しく見ていきましょう。

2 損金になる賃借料の3つのポイント

1)オフィスや営業所の賃借料であること

リモートワークが進むとはいえ、オフィスや営業所は事業を行う上で重要なものであり、このオフィスなどについて支払う賃借料は全額が損金となります。ただし、実際にオフィスとして使われておらず、経営者などが私的に使用しているものと判断された場合、その全額または一部が損金とできないこともあります。詳細は後述します。

2)社宅の賃借料であること。ただし、役員・従業員からの徴収額に要注意

借上社宅について支払う賃借料についても、原則として支払った金額の全額を損金とすることができます。ただし、その借上社宅に住んでいる役員・従業員から、1カ月当たり一定額の家賃を会社が収受していないと(役員・従業員が会社へ支払わないと)、その一定額は給与として所得税の源泉徴収の対象となります。この「一定額」とは、会社が家主に支払っている賃借料と同額にする必要はありませんが、計算方法は税法で決まっており、また、役員と従業員で計算方法が違います。

1.役員の場合

役員の場合、税法で決められた一定額と同額以上を会社が受け取っていれば、所得税の源泉徴収の対象とはなりません。また、一定額の計算方法は、

  • 小規模住宅(床面積が132平方メートル以下などの基準を満たした住宅)の場合
  • 豪華社宅(床面積が240平方メートル超などの基準を満たした住宅)の場合
  • そのいずれにも該当しない住宅の場合

で異なります。それぞれの区分の詳細な判断基準や徴収額の計算方法は少し専門的になるので末尾にまとめています。

2.従業員の場合

従業員の場合、税法で決められた一定額の2分の1以上を会社が受け取っていれば、所得税の源泉徴収の対象とはなりません。一定額の計算方法(従業員の場合)は次の通りです。

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3)権利金は一旦資産計上、原則5年間で償却すること

オフィスや社宅を借りるときに「権利金」を支払った場合、支払時に全額を損金とすることはできません。いったん資産に計上し、税法で定められている年数に応じて償却することによって損金となります。税法上の償却期間は原則として5年ですが、契約による賃借期間が5年未満の場合でかつ、契約更新の際に再び権利金(いわゆる更新料)の支払いが必要な場合は、契約による賃借期間が償却期間となります。

3 賃借料で迷いやすい実務Q&A

1)オフィス兼住宅としているマンションの賃借料も損金となるの?

自宅である賃貸マンションの一室をオフィスとして使用している場合、賃貸マンションの家賃を賃借料として会社の損金にできます。ただし、この賃借料には自宅として使用している部分も含まれるため、全額を損金にできません。マンションの床面積を自宅使用部分とオフィス使用部分とに区分して家賃を按分した上、オフィス使用部分のみを賃借料とするなど、合理的に計算した金額を賃借料として処理しましょう。また、按分計算した資料(計算表や、計算の基となった設計図など)は税務調査の際に提示を求められるので、帳簿書類とともに保存しておくことが重要です。

2)高級タワーマンションでも社宅として大丈夫?

高級タワーマンションであっても、借上社宅として使用すること自体には問題ありません。重要なのは、税法で定められている一定額を役員・従業員から収受することです。中でも「豪華社宅」の場合、会社が家主に支払っている家賃と同額を役員から収受する必要があります。「豪華社宅」の明確な定義はありませんが、高級タワーマンションの場合、「プール」や「トレーニングジム」など、一般的な住宅にはない設備が整えられているケースがあるため、豪華社宅と認定される可能性もあります。

税務調査で豪華社宅と指摘された場合、「会社が家主に支払っている家賃」と「会社が役員から収受している家賃」の差額は役員に対する給与として取り扱われ、所得税源泉徴収の対象になります。金額によっては多額の税負担が生じることにもなるので、判断に迷った場合には、税理士などの専門家に相談することが重要です。

3)新型コロナウイルス感染症拡大の影響によるオフィス家賃の減額を受けた場合の税務上の取り扱いはどうなるの?

オフィス家賃の減額を受けた会社側には、減額された分の受贈益(益金)が発生しますが、減額分のオフィス家賃(損金)と相殺され、課税は生じません。例えば、元のオフィス家賃が100万円で、30万円の減額を受けた場合、100万円(損金)-30万円(益金)=70万円(損金)となります。結果、減額後のオフィス家賃分が損金として処理されます。

4 社宅に対する役員からの徴収額の区分と計算方法

1)役員で、小規模住宅の場合

小規模住宅とは、次のいずれかに該当する住宅です。なお、区分所有の建物の場合(マンションやオフィス兼住宅など)、共用部分の床面積を按分し、専用部分の床面積に加えたところで面積判定します。

  • 法定耐用年数が30年以下の建物の場合→床面積が132平方メートル以下の住宅
  • 法定耐用年数が30年を超える建物の場合→床面積が99平方メートル以下の住宅

一定額の計算方法(役員で、小規模住宅の場合)は次の通りです。

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2)役員で、豪華社宅の場合

豪華社宅であるかどうかは、「床面積が240平方メートルを超えるもの」のうち、取得価額、支払賃貸料の額、内外装の状況など、各種の要素を総合的に見て判定します。「床面積が240平方メートル以下のもの」であっても、一般的な住宅にはないような設備が整えられている場合、税務調査において「豪華社宅」として指摘されることがあります。

一定額の計算方法(役員で、豪華社宅の場合)は次の通りです。

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3)役員で、小規模住宅・豪華社宅のいずれにも該当しない場合

一定額の計算方法は次の通りです。

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以上(2022年6月)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 税理士 森浩之)

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画像:Mariko Mitsuda

自動で適量の餌やり、優良稚魚のAI識別など「水産テック」最前線/新技術で変わる農林水産業(1)

書いてあること

  • 主な読者:業務の効率化や人手不足の解消を図りたい養殖業・水産業経営者
  • 課題:どのようにすれば効率化や人手不足の解消が図れるのか分からない
  • 解決策:事例を参考に、AIやドローンなどの最新技術を業務に取り入れる

1 テクノロジーで養殖業・水産業の課題を解決「水産テック」

近年、農林水産業を営む企業で、人工知能(AI)やドローンなどのテクノロジーを取り入れる動きが出てきています。体力勝負のこまめな管理や、自然環境の影響を大きく受けるこれらの業界では、次のような課題が挙げられています。

  • 高齢化による人手不足、ノウハウの継承
  • 変化する自然環境への対応
  • 効率的、持続的な生産・収穫・漁獲体制の確立

このシリーズでは、農林水産業を営む企業が直面する課題を解決するための最新テクノロジーの動向と、その活用事例を紹介します。

第1回の今回のテーマは、養殖業や水産業が直面する課題を解決するための「水産テック」です。具体的には、

  • 水中ドローンを使ったいけすの管理
  • 餌やりの自動化
  • ゲノム編集で体を大きくした魚の養殖

といった取り組みを紹介します。

2 AI、ドローン、ゲノム編集などの活用事例

1)画像認識×養殖魚を自動カウント=生産金額を予測可能に

発動機メーカーのヤンマーのグループ企業、ヤンマー舶用システム(兵庫県)は、画像認識技術を使ったマグロの「自動魚数カウントシステム」を提供しています。これは、専用に開発された水中カメラや画像処理などを組み合わせることで、養殖網の中の魚の数をリアルタイムで計測することができるものです。精度は98%以上ともいわれており、漁獲数の報告のための作業や、適正な餌代の管理などを効率化させることができます。

養殖網の中の魚の数をより正確にカウントすることは、予測される生産金額と、実際に販売された実績値の誤差を小さくするのに不可欠です。水産庁の資料によると、魚の数を基に予測した生産金額の誤差による収益の減少率は、魚の数が1%少なかった場合は5%減、3%少なかった場合は14%減という試算もあります。

一旦稚魚を養殖網に放流すると、成長するまでこまめに確認したり、個体の減少を把握したりすることが難しく、餌代が余分にかかり、想定よりも出荷が振るわないこともあります。従来は、人が目視してカウントしていましたが、水中での画像認識を駆使することで、正確な数を把握でき、餌代のコントロールや生産金額のより正確な予測が可能になります。

2)AI×錦鯉の模様を画像診断=高額に育つ稚魚を判別

ITソリューションを提供するメビウス(新潟県)は、新潟県特産の錦鯉の個体識別に、機械学習を用いる取り組みを進めています。錦鯉をスマホで撮影することで、個体ごとのヒレや骨格の比率などからAIが個体を識別するものです。

錦鯉は成長するにつれて模様が変化するため、高額で取引されるような優良な成魚になるかどうかの判別が難しく、熟練者による「長年の勘」に頼っていました。AIを用いて個体情報や成長記録を蓄積することで、最終的には、錦鯉の成長を予測することを目指しています。また、この取り組みで得られた結果を基に、養殖分野での品質管理や水面での画像検査などでの応用を検討しています。

3)水中ドローン×いけすの管理=潜水作業の省力化と早期の異常発見

潜水できるドローンを使い、いけすの中を監視するドローンも現れました。これまで人間が高いリスクにさらされながら行ってきた仕事を、水中ドローンに代替させることを試みています。

ドローンの販売や関連サービスを展開するスペースワン(福島県)は、水中ドローンの養殖業での本格利用を推進し、マダイなどの養殖を行うダイニチ(愛媛県)とともに、水中ドローンの活用について実証実験を実施しました。

この実証実験では、養殖いけすに水中ドローンを投入し、いけすの底に沈んだ死魚の回収や、いけすの網の点検などを行いました。これまでは、死魚の回収やいけすの点検は人間が潜水して行っており、危険な潜水作業で体力的に負担が大きいため頻繁に行うことが難しく、死魚が大量に発生していたり、いけすの破損に気付くのが遅れたりなどの課題がありました。水中ドローンであれば、陸上のモニターで水中の様子を確認し、その場で水中ドローンを使って対処することができます。

この他にも、KDDI(東京都)は、世界初ともいわれる「水空合体ドローン」を開発し、陸地からドローンを発進させ、目的の沖合に着水し水中用の子機ドローンを潜水させる実証実験を行っています。飛行型の親機が音響測位を行って水中の子機をコントロールし、子機は搭載されたカメラで水中の様子を撮影する仕組みです。

同社は、水中ドローンの「目的地まで船などで運ぶ必要がある」課題を、飛行型ドローンに水中ドローンを搭載するというアプローチで解決を試みており、今後は、水中ドローンをダムや港湾施設での点検、水産施設での監視などで活用することを目標にしています。

4)スマホ×いけすの餌やり自動最適化=餌やりの省力化と適量化

ウミトロン(東京都)は、養殖業向けに、スマホやクラウドを利用して遠隔からいけすの餌やりなどを自動化する給餌器「UMITRON CELL(ウミトロン セル)」や、水中カメラでいけすの様子を撮影・解析し、魚群の食欲などを判定する「UMITRON FAI」などを提供しています。

従来は、それぞれのいけすを船で回りながら、餌の量を「漁師の勘」で与えていましたが、餌代が余分にかかることや、残った餌による水質悪化などが養殖業の課題として挙げられていました。また、毎日餌やりのため、悪天候や休日でも作業をすることが必要でした。

ウミトロンの製品を用いることで、餌やりのタイミングをAIで自動判定し、いけすに設置した餌入れから適切な量だけが自動、またはスマホでリアルタイムに確認しながら給餌されるので、こうした課題を解決することができます。さらに、生育期間の短縮や、魚の体重増加にも効果がありました。

また、同社は陸上養殖向けのAIを利用した自動給餌機も開発し、2021年9月から試験運用を行っています。魚群の行動や水質データをAIが解析し、最適な餌の量やタイミングをコントロールして自動で餌やりをすることで、餌代の抑制や水質管理に役立てることができるとされています。

5)LEDライト×ヒラメの養殖=成長の促進

深良津二世養殖漁業生産組合(大分県)は、大分県農林水産研究指導センターや北里大学とともに、緑色のLEDライトを用いたヒラメの養殖に取り組んでいます。自然界では、ヒラメは、太陽光が届きにくい海底で生息していますが、海底まで届く太陽の緑色光を受けることで、成長が促進するとされています。この緑色光をLEDライトで再現し、養殖しているヒラメの成長を早める狙いがあります。

同センターによると、ヒラメの養殖場の電球をLEDライトに変更するだけで効果が表れ、平均体重は約1.6倍増、出荷可能な大きさに成長する期間は約3カ月短縮されたとのことです。LEDライトにすることで電気代なども削減できるため、コストを下げながら収益を伸ばすことができそうです。

6)人工海水×サーモンの陸上養殖=どこでも養殖可能で環境負荷もかけない

これまでは海でしか養殖できなかった魚を、陸上のみで養殖する動きも出てきています。FRDジャパン(埼玉県)は、海水や地下水を使わずに、水道水を独自の技術でろ過し、人工海水を作って養殖サーモンに使用しています。

人工海水を使うことで、川や海への排水をなくし、陸上養殖の課題である海水の温度管理を解決しています。陸上養殖のため、人口密集地に近い場所でも新鮮な魚を養殖、直送できるメリットがあります。

同社が開発した養殖システム「閉鎖循環式陸上養殖システム」は、水道水から人工海水を作り出すだけでなく、いけすで使用した人工海水を再度バクテリアで清浄化することで、実質的な水の入れ替えが不要になります。

同社はすでに、養殖サーモンを「おかそだち」というブランド名で販売しており、「取れたてのサーモン」を冷凍せずに首都圏まで直送できることを強みとしています。現在は実証実験用の養殖施設を運営していますが、商業用の大型施設を2022年に着工する計画です。

7)ゲノム編集×マダイの養殖=少ない餌で大きく成長

品種改良や陸上養殖を行うリージョナルフィッシュ(京都府)は、ゲノム編集(生物のゲノムDNA(DNAおよびその中の遺伝情報)の特定の遺伝子を狙って変異させることで、特性を活かす個体を生み出すもの)によって作り出されたマダイの養殖を行っています。

家畜や植物と異なり、魚類などは養殖技術の発展が先行する一方、食品としての質を向上させる品種改良は遅れているといわれています。同社の取り組みは、狙った遺伝子を切除する「欠失型ゲノム編集」と呼ばれるもので、どんな影響が出るか分からない従来の品種改良よりも安全とされています。

欠失型ゲノム編集で生み出された同社のマダイ「22世紀鯛」は、通常の品種に比べて餌の消費を抑え、肉付きが1.2~1.6倍に増加しています。すでに厚生労働省から食品としての安全性に問題がないと判断されており、同社のECサイトで昆布締めなどが販売されています。

世界の人口増加を受けた乱獲や餌の原料価格の高騰、地球環境の変化による生息域の縮小などで、魚類などの安定供給が難しくなると予想される中、こうした品種改良の取り組みは、今後も注目される可能性があります。

3 水産テック関連のデータ:求められるニーズと課題、漁獲量

これまで見てきたように、さまざまなシーンで「水産テック」導入の動きが始まっています。水産庁の資料から、求められているニーズや課題、養殖での漁獲量の推移を見てみましょう。

1)水産テックのニーズと課題

水産庁では、テクノロジーを漁業や養殖業に活用するべく、企業や有識者、水産試験場などからなる「水産業の明日を拓くスマート水産業研究会」を開催しています。

その中で、水産庁が、都道府県の水産試験場、水産研究センターの担当者に行った調査によると、養殖業におけるスマート化に対するニーズ、課題には次のようなものが挙げられています。

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この調査によると、回答した18県のうち、「生産管理(品質管理)」「省人省力化・ロボット化」「リスク管理」などでニーズが高いようです。また、課題として挙げられるものとして、「初期コストが高い、ランニングコストがかかる」「高齢者はICTを扱えない、扱える者の養成が必要」「操作位置情報や漁獲情報は出したくない」などが挙げられています。

2)令和2年漁業・養殖業生産統計

水産庁「令和2年漁業・養殖業生産統計」によると、養殖魚の魚種別の収穫量は次の通りです。

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この統計によると、収穫量が多いのは「海藻類」「貝類」「魚類」です。他の魚種に比べて収穫量が多いこうした魚種の養殖から、水産テックの導入が進む可能性があります。

以上(2022年6月)

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画像:stephan kerkhofs-Adobe Stock

チャンネル登録数約11万人のZ世代向けYouTuber社長は、本人もZ世代屈指の“熱さと生真面目さを併せ持つ”【ニコニコした革命家】福田さんの思考を覗いてみよう/岡目八目リポート

年間1000人以上の経営者と会い、人と人とのご縁をつなぐ代表世話人杉浦佳浩氏。ベンチャーやユニークな中小企業の目利きである杉浦氏が今回紹介するのは、福田 駿(ふくだ しゅん)さん(株式会社Diaryの代表取締役)です。

学生起業家で“就活YouTuber”の福田さんからまず感じるのは、圧倒的な「突撃力」です。そこには、物事を成し遂げるために大切なものが凝縮されています。Z世代であり、「熱さ」と「生真面目さ」を併せ持つ福田さんを一言で表現するなら、【ニコニコした革命家】。物腰柔らかな福田さん、ニコニコした感じのまま、行動はガツンと大胆で、世の中を大きく変えていこうとしています。
今回はそうした福田さんの突撃力の源、ビジネスや組織に対する考え方などをご紹介します。モヤモヤ悩む働くすべての人に、色々迷っている学生に、一度、福田さんのお話を聞いてみることをお勧めします。「今日から私も変わろう、変わりたい」と思えるでしょう!

1 「一緒に仕事したい」と多くの人に熱望される福田さん

自分が困っていることを解決できるサービスを自分で立ち上げてビジネスにする。

福田さんの原点かつ株式会社Diaryの出発点は、就活をしていた福田さんが始めた、就活生向けのYouTubeチャンネル「しゅんダイアリー」です。チャンネル登録数は約11万人にも上ります(2022年6月時点)。

福田さん自己紹介画像です

(出所:福田さんご提供資料)

「しゅんダイアリー」は、福田さんご自身が、就活やインターンシップで感じた閉塞感や悩み、衝撃などが元になっています。「就活がうまくいかない」「首都圏と地方とで学生の情報量や実力に圧倒的な差がある(と感じる)」。そんな思いから、「このままじゃダメだ」と、なんと自分の就職面接の様子を動画でガチ撮影して配信し始めました。

●YouTubeチャンネル「しゅんダイアリー」

しゅんダイアリーtop画像です

(出所:YouTube「しゅんダイアリー」)

しゅんダイアリー説明画像です

(出所:福田さんご提供資料)

大学を休学して会社を立ち上げた福田さん。何もないゼロの状態からコトを起こすその突撃力だけでもすごいのに、成し遂げるために地道に努力できる面もあります。そして福田さんとお話して大きな特徴だと感じるのは「非常に物腰柔らかで素直」なところです。

終始ニコニコ笑顔、穏やかな語り口。相手(周り)の話に真剣に耳を傾け、分からない言葉は素直に質問し、気づきになったことはすぐにメモ。「この気づきを本当に事業に活かすのだろうな」と思える真摯さです。そして実際に物事を進め、形にします。福田さんと会う人会う人、特に経営者層が皆、「(福田さんと)一緒に仕事をしたい」「うちの会社にCOOとして来てほしい」と熱望するのがよく分かります。福田さんは年齢的には20代前半と若いですが、年齢に関係なく、誠実、努力家、行動的、チャレンジ精神旺盛と、とにかく人間的魅力の塊!です。

2 なぜ「しゅんダイアリー」を始めたか?

福田さんたち株式会社Diaryでは、「しゅんダイアリー」のほか、企業向けに採用広報系の動画制作やYouTubeチャンネルの立ち上げ・運用なども行なっています。就活・採用関係がメーンですが、事業コンセプトはもっと大きなもので、若者たちの行動格差をなくし、

一人ひとりが作りたい未来を自分で描いていける時代を作りたい。

というもの。

Vision画像です

(出所:福田さんご提供資料)

このコンセプトの原体験、福田さんがなぜ「しゅんダイアリー」を始めたかを振り返ってみましょう。

石川県出身で地元の金沢大学で学んでいた福田さん。「もともと、東京で働きたいと思っていた」そうです。しかし、東京どころか、「(石川)県外に出て働こうとする人自体が少ない。自分のような東京で働きたい人は少数派」と福田さんは感じていました。県外に出ようとする人がそもそも少ないので、将来のことを友だちに相談できないし、気持ちも分かり合えないし、情報も入って来ない。

そんな福田さんの人生に大きな影響を与えたのが、大学4年生の就活時、サイバーエージェントの3日間のインターンシップに参加したことでした。福田さんは文字通り「衝撃的」な思いをします。ある意味、外の世界を初めて知ったからです。「行動格差」も感じたそうです。ここは、福田さんの言葉をそのまま借りて、その衝撃をご紹介しましょう。

●サイバーエージェントのインターンシップを経て福田さんが受けた衝撃

「大学1年のときからインターンを始めている人や、どこかの会社の事業部で実際にプロジェクトを回している人、『学生団体を自分で作ってます』という人など東京の大学の方々がいっぱいいて。」
「使っている言葉もカタカナが多くて、正直、何を言っているのか分からなかった。(今から思えば難しくない当たり前のことなのですが)例えばPLとかKPIとか。PLと言えば高校野球が強いPL学園のことしか知りませんでした(笑)。」
「とても衝撃的で、やはり広い世界を知らないことはもったいないなと思った。」

福田さんがいかにショックを受けたかがよく分かります。しかし、福田さんはそれだけで終わりませんでした。ここから、福田さんの突撃が始まります。
「例えば、『和食が好き』と言うにしても、フレンチもイタリアンも食べた上で『和食が好き』がいい。和食しか食べたことないのに『和食が好き』は何か違うと思う」と例え話で説明する福田さん。福田さんとしては、

「一つの県内の県庁や地場の大手企業しか見ていない状態で自分の人生を選ぶのはもったいない。選択肢を広げたい。そして、自分と同じような環境で生きてきた人にも、もっと選択肢を知って欲しい」

という思いでした。そこで、自分の面接の様子を動画で撮影・配信するようになったのです。

「会社」という形にしたきっかけは、ズバリ、「自分の実力の無さに危機感を感じたから」。「就活をしている中で、自分の実力のなさ、自分は何も持っていないということを痛感させられました。同世代のすごい人たちを目の当たりにして、このまま就職しても社会で活躍できずに埋もれてしまうと、ある種の直感的な危機感を感じました。そこでいったん就活をやめて、休学をして、会社を作るところにフルコミットしようと思ったのが会社を作ったきっかけです」と言う福田さん。これが2019年2月のことです。
 自分の足りなさに直面し、それを「危機感」として受け止め、そこから起死回生を図ろうと「会社を作る」。こういう「へこたれない」思考回路、稀だと思います。そして、本当に実現まで持っていける福田さんのような人は、ほんの一握りではないでしょうか。

●福田さん:サイバーエージェントのガチ面接の動画

面接画像です

(出所:YouTube「しゅんダイアリー」)

初めはサイバーエージェントの面接をYouTubeで流したり友人に共有したりしていた福田さん。そのうちYouTubeの登録者数が4000人くらいに増え、その4000人に対して認知を広げたいという石川県の企業からインタビュー依頼が来たそうです。それをきっかけに、福田さんは当時、流行り始めていたクラウドファンディングを行い、また、石川県の青年会議所や商工会議所など経営者が集まるところに行ってリアルで資金調達をして東京に引っ越してきました。なにやらもう、このあたりもすごい突撃力としか言いようがありません。

3 爆裂する突撃力の秘密

福田さんに、なぜそこまで突撃力があるのかを尋ねたところ、子どもの頃の話も教えてくれました。印象的だったのは、中学時代のバスケ部の話と、さまざまなことを「コツコツやるのが好き」という話です。福田さんの言葉を借りつつ、ご紹介します。

●中学時代のバスケ部の件

「当時は分かりませんでしたが、突撃力は確かに小さい頃からあったかもしれません。中学生のバスケ部のときはキャプテンをやっていて、顧問の先生がいなかったので、タウンワークで調べて隣町のバスケ経験者に電話をかけてコーチになってもらったりしました。強い高校に練習試合を申し込んだり、一緒に練習したりとかもやっていましたが、それが凄いとか、他の人がやっていないことだとかは全く思ってもいませんでした」
「ただ、今振り返ると、中学時代のバスケ部のような誰も何も言ってくれない状況で、なんとかしなきゃいけないカオスな環境のほうが自分の力が発揮できると思います」

●「コツコツやるのが好き」な件

「もともとコツコツ努力することだったり、目標立てて地道に泥臭いことをやったりするのは、幼稚園のときからとても好きです」
「父が伝統工芸の加賀友禅の作家だったので、絵を描くのはよく見ていました。自分も絵を描くのが上手くなりたいなと思い、幼稚園のときに、1日に50枚は絶対に絵を描こうと決めて。塗り絵からスタートして、ちょっとずつ絵を描いて、ペンだこというか(今でも残ってるんですけど)、中指の豆が潰れまくってボッコリとなるまで描き続けました」
「少年野球もやっていましたが、野球が上手くなりたくて、週2回の練習以外に、毎日自主的に山を走りに行っていました」
「ある種、効率はものすごく悪いかもしれないのですが、コツコツ毎日何かをやり続けるのが好きなんです」

こうしたお話をお聞きしていると、福田さんの突撃力は、目標を立ててコツコツ毎日泥臭く努力できる持久力の上に、思い立ったら環境を打破するためにパッと行動できる瞬発力も重なって、「二重底の分厚い突撃力」になっている。両輪の突撃力。そう感じます。

福田さんは大物経営者などにアポなしで会いに行って動画まで撮ったりしています。普通は気後れしそうなものですが、「さすがに大物は怖いという感覚はありますし緊張もしますが、それよりも何も残らない、残せない怖さのほうが大きい。だから突撃できます」と語る福田さんです。突撃力の裏には、「こうしたい」という強い意志があることも伺えます。

4 「Z世代ですが……」な福田さん

福田さんは年齢的にはZ世代であると同時に、「らしからぬビジネスに対する熱さ(良い意味で)」やハングリー精神、根性といったものが感じられます。

福田さんが具体的な目標として挙げるのは、

「時価総額10兆円の会社を作る」

です。そのために、毎日、1分1秒を惜しんで事業に勉強に邁進している福田さん。

 「新卒市場だけだと800億円なので、そもそも10兆円に届かない。もっと大きくしたいと考えているので、本当に毎日時間が惜しいです」と、朝早くから夜遅くまで、事業計画、採用、ミーティング、動画制作、資金調達、営業など目まぐるしく動きます。さらに、さまざまな人に会い、本を読み、「自分が経験して来なかったことを経験している方の、凝縮された情報を収集することも大事にしている」という福田さん。

時間がいくらあっても足りなそうですし、正直かなり疲れそうですが、そこは、「今、これが必要だなとか、楽しいなとか思うことなので、ずっとやっていても、疲れるというのはないですね。」と、やはり笑顔の福田さんです。

福田さんに自分と同じZ世代をどう思うか聞いてみたところ、「自分自身のことも反省しつつですが」ということで、次のように答えてくれました。

●「Z世代」に対する福田さんの考え

「いわゆるZ世代といわれる僕らと同世代の人たちは、ハングリー精神が乏しいかもしれません。売上とか目標とか数字的な感覚はあまりなくて、お金は困らない程度でよく、ゆるくプライベートも充実させて、なんとなく楽しければいいという人が多数派だと思います」
「僕ら世代は優しすぎるとも思います。何かを達成するために厳しく誰かに注意したり言ったりすることが苦手な人が圧倒的に多くて、だから怒られることにも弱いですし、怒るという経験もしたことがない人がほとんどかもしれません」
「(怒る、怒られる経験がないので)何かをやろうという時にも、優しすぎて、人を巻き込みきれない、あるいは突き放せないという弱みがあると思います」
「とはいいつつ、Z世代の強みは、評価軸が自分にあることです。世の中一般的に車を持つのがかっこいいとか家買うのがかっこいいという価値観ではなく、自分のものさしを持っているので、幸せという観点でいえば、『成長しなくてもいいというわけではないが自分のペースでできればいい』という人が圧倒的に多いと思います」

このように自分たちZ世代を分析している福田さんの会社の仲間も、ほとんどZ世代です。そうした中で福田さんは、組織の作り方、動かし方についても福田さん流で進めています。

5 仲間たち「本人」の「こうしたい」という気持ちを大切にする

メンバーがほとんどZ世代な福田さんの会社では、「トップがいてこれをやりなさい、あれをやりなさいというマネジメントの方法はまったく通用しない」そうです。
 「逆に、本人が『自分がこうしたいからやる』という時が一番力を発揮しやすい」と感じている福田さんは、「同一線上にメンバー皆が並んで立って、それぞれ同じ目標に向かって一緒に走る組織の形」を心がけています。目指すところの共通認識があり、それぞれがリーダーとなってそれぞれが主体になって走る。誰が上とか下とか、そういうピラミッド型ではないフラットな形、ということです。

福田さんたちが毎朝行っている「朝会」もユニークです。仲間たち「本人」の「やろう」「仕事を楽しもう」という気持ちを大切にする福田さんたちらしい内容です。毎回、朝会ではたくさんの画像や動画、キャラクターなどを使った“面白資料”をつくり、オンライン会議ツールで画面共有します。そして資料は画面共有しつつも、面白い話や雰囲気はその場で共有して一体感を高めたい。ということで、「オンライン会議ツールを使うけれど全員集合で朝礼をする」スタイルだといいます。一人ひとりが「自分ごと」で楽しく、けれど真剣に臨める朝会は、新しい「気持ち共有の形」なのかもしれません。

●株式会社Diaryの朝会資料例(一部抜粋)

朝会資料例画像です

(出所:福田さんご提供資料)

会社のメンバーを集める(採用する)ときも、その相手と一緒に登山しながら説得して集めているという福田さん(しかも相手の地元や大学近くの山)。「山は余計な情報がありません。それに、登山は苦しいので、一緒に苦しいことを経験すると結束感が生まれます。さらに言えば、Z世代の特徴と思いますが人に何かを捻じ曲げて矯正させるのは難しいですし、僕自身もそれはやりたくないんです。相手がやりたいことを理解して、それと自分がやりたいことが一緒なら一緒にやりませんかという……そういうやりたいことの方向性のすり合わせが、山はしやすいと思います」。福田さんの“福田流・登山説得型”も、Z世代のメンバーが仲間だからこその工夫なのかもしれません。

突撃力はもちろん、しっかりとロジカルに考え、壁にぶつかってもへこたれずとにかく実践して物事を地道に前に進める。そういう福田さんの厚み、ふわふわしていない力強さ、泥臭さが、仲間を大切にしている感じからも伝わってきます。こうした結束感、一人ひとりが楽しんで仕事をしているのも、福田さんたちの強みと言えるでしょう。
 実際に「しゅんダイアリー」の動画などを見ると分かりますが、メンバーが皆、自分で工夫してやりたいことをやっている感じがします。かつ、視聴者のことを考えてとてもテンポが良く、内容も就活の現場ですぐに使えそうな具体的なものばかり。何よりとにかくメンバーが楽しそうなのが印象的です。

6 福田さんの理想とする実現したい世界観

株式会社Diaryでは、「しゅんダイアリー/内定に一歩近づく就活動画メディア」もリリースしており、就活生向けの「行動力診断テスト」もできるようになっています。今後も色々と新しい展開が期待されます。
※「しゅんダイアリー/内定に一歩近づく就活動画メディア」はこちら

最後に、福田さんに、理想とする実現したい世界観をお聞きしたところ、次のように答えてくれました。

●福田さんの描く世界観

若者の全員が自分の才能に気付いて、その才能が発揮される世界にしたいです。
若者の才能が発見され発揮されると、社会にとっても一人当たりの生産性が上がり、スタートアップも大手企業も、さまざまな企業が元気になります。
就職するにしても起業するにしても、若者が元気になることが、社会全体が元気になる、日本が元気になる上で必須なことだと思います。そのため、(自分たちと)同世代の価値観や生き方、在り方を、ある種、変革する事業をやり続け、結果的に日本全体、そして世界全体が活性化する、元気になる状態を作りたいと思っています。

素晴らしい世界観ですね! 就職でも起業でも、どこの地域にいても、とにかく形にとらわれないで、若い世代の人たちがやりたいことを見つけ、思い切り力を発揮できる。そんな、「世間や隣を気にしない、もっと自由な社会」を福田さんのような【ニコニコした革命家】が作っていく未来が見える気がして、とてもうれしくなりました。未来は明るいです! 有り難うございます!

以上(2022年6月作成)

【朝礼】ボーっと生きてなんかいられません

私はこれまで、恥ずかしながら世界の出来事にそれほど関心がなく、ニュースをこまめにチェックすることはありませんでした。ですが、最近はその考えが変わり、真剣に世界のニュースを見るようになりました。先輩方からすると、「今さら何を言うのか」と思われるかもしれませんが、けさは、まだ世界の出来事に対して関心の薄い人のために、私がどうして世界のニュースに関心を持つようになったかをお話ししたいと思います。

少し前まで、私はニュースで流れる世界の出来事は、自分とはほとんど関係のない話ばかりだと思ってきました。感染症の流行も、異常気象も、国際紛争も、「その地域の人たちはかわいそうだな」としか感じず、基本的に自分事として考えることはなかったように思います。

ですが、今は違います。新型コロナウイルス感染症が日本でも猛威を振るい続け、異常気象は私たちも含めた地球全体の環境破壊が原因となっていることが指摘され、国際紛争が日本の物価にも影響を及ぼすことを体験しました。

まさに今、私たちは世界の動きと自分の生活が直結しているのだということを意識せざるを得なくなっています。そして、たとえ自分は世界の出来事に関心がないとしても、もう世界の動きと自分の生活を切り離すことはできない、ということを悟りました。私は「俗世から離れた悠々自適な生活」に憧れる部分があったのですが、もう夢のまた夢のような話になってしまいました。

世界の動きと自分の生活が直結するようになった理由は、幾つかあると思います。感染症が瞬く間に世界中に広がるようになったのは、世界経済が密接になり、人の往来も増えたことが背景にあるでしょう。環境破壊や兵器の使用といった人間の行為が、地球全体にインパクトを与えるほどまで強力になったということもあると思います。

理由はどうであれ、今の時代は、自分の幸せを実現させるためには、自分だけではなく、世界全体の幸せを実現させる必要がある、と考えなければいけないのだと感じます。

そう考えると、SDGsというものは、世界の誰かを助けてあげるためのものではなく、自分自身や自分と関係する人たちの身を守るために目指さなくてはいけないゴールなのではないでしょうか。

私のようなちっぽけな人間も含めて、一人ひとりが地球上で共同生活をしているという責任を自覚し、世界レベルで物事を考えるようにならなくてはいけない、ということなのだと思います。私が今日捨てたゴミは地球全体の生活環境を悪化させ、電気を消し忘れて無駄に消費した資源は、異常気象を発生させる原因につながっているわけです。でも逆に、私がゴミを拾えば地球は少し住みやすくなり、仕事を通じて社会に貢献すれば、世界が少し便利になるわけです。そのように大きな視点で考えると、とてもボーっと生きてなんかいられません。

以上(2022年6月)

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画像:Mariko Mitsuda

【朝礼】会社は報連相で回っている

「報連相」は、仕事を進める際の基本として知られています。報連相は、報告・連絡・相談の頭の文字をとったもので、ビジネスの基本的な情報を共有するために役立つものです。実は、会社(組織)は、報連相で回っているといっても過言ではありません。

例えば、予定よりもプロジェクトの進行が遅れていることについて、先輩・同僚に報告すれば、よいアドバイスを受けられるかもしれません。また、この件を上司に連絡・相談すれば、上司はプロジェクトの遅れを取り戻すために業務推進のあり方を見直すように指示を出すでしょう。このように報連相をしっかり行うことで、情報を共有し、ビジネスをスムーズに進めることができます。

一方、報連相がうまくいっていない会社(組織)では、各人が自分一人だけで仕事を行いがちです。これでは、その人がミスをしても誰も分かりませんし、その人が急な病気で仕事を休んだときに、会社(組織)としての対応ができません。

報連相は「報告・連絡」と「相談」の二つに分けることができます。「報告・連絡」は相手に情報を伝達するだけですが、「相談」は相手の知恵を借りなければなりません。

まずは、報告・連絡について考えてみましょう。ビジネスにおける報告・連絡は簡単なようで実は難しいのです。独りよがりな報告・連絡では、情報が正しく相手に伝わりません。仮に、情報の受け手に誤解を招きやすい内容の報告・連絡の場合、周囲に混乱が生じることもあります。

次に、相談について考えてみましょう。相談は、相手の知恵を借りることになります。そのため、相手の状況や相談内容によっては、相手に大きな負担をかけることになります。

ここで少し考えてみてください。皆さんが仕事に困ったときに、相談したい相手は誰ですか。その人は、自分よりビジネスパーソンとして能力が高く、しかも相談しやすい人でしょう。こうした人の多くは、皆に頼りにされるため、多忙を極めています。

ここで、会社(組織)の中で、報告・連絡・相談がスムーズに行われるためのポイントを紹介します。

  • 報連相の相手を間違わない
  • 事実を分かりやすく簡潔に伝える
  • 結論から伝える
  • 事実と意見を分けて伝える
  • できる限り書面を用いる
  • 相談の場合は、自分の意見を整理しておく
  • 相手の邪魔にならないタイミングで行う

報連相には、常に相手があります。そのため、相手に伝えるべき内容はあらかじめ分かりやすく整理しておきます。その上で、相手の都合も考えて、タイミングを見計らって行いましょう。

最後に、皆さんに質問します。上司の方は部下から報連相を受けましたか。部下の方は上司に報連相をしましたか。

会社(組織)は、報連相で回っています。自分一人で仕事を抱えこまず、こまめな報連相をお願します。

以上(2022年6月)

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画像:Mariko Mitsuda

食料としても昆虫すごいぜ 残る課題は普及に向けた「イメチェン」

書いてあること

  • 主な読者:新規事業を検討する小売業、食品・飲料業の経営者
  • 課題:将来性のある新規事業を検討したい
  • 解決策:昆虫食の取り組みを確認しつつ、消費者の認識も把握する

1 世界の潮流は「家畜から昆虫へ」だけど、虫のイメージが…

日本でも、昆虫を食べ物に取り入れる昆虫食が徐々に広まってきています。最近では、大手小売店の無印良品でコオロギを原材料としたせんべいが発売されました。また、小麦価格の上昇を背景に、代替たんぱく源として昆虫食の問い合わせが増えているとの声も聞かれます。

食料としての昆虫は、家畜などに比べて、

  • 高たんぱくで栄養が豊富
  • 温室効果ガスやアンモニアなどの排出量が少ない
  • 水や肥料などの消費が少ない

といったメリットがあるので、国連が定めたSDGs(持続可能な開発目標)の、「飢餓をゼロに」「気候変動に具体的な対策を」「陸の豊かさも守ろう」といった課題の解決が期待されています。

、昆虫食の最大の欠点は、消費者に根強く残る「見た目や虫そのもののイメージ」です。この記事では、メディアでも徐々に露出が増えてきた昆虫食の動向を解説し、昆虫食の普及が加速していくためのヒントを考えていきます。

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2 多様なタイプが登場。キモは虫の姿を活かすか、なくすか?

昆虫食は、国内外で「昆虫食スタートアップ」などが次々と新商品を開発・提供し、従来のイメージが変わりつつあります。

これまでは昆虫の見た目をそのまま商品にした提案が注目されがちでしたが、昨今では昆虫食の普及や定着を視野に入れ、パウダーなどの形にして、消費者の心理的なハードルを下げる商品も登場しています。詳しく見ていきましょう。

1)女性向けを意識した昆虫食自販機:亜細亜TokyoWorld

亜細亜TokyoWorldは、昆虫食自販機「MOGBUG(モグバグ)」を、東京の秋葉原と高田馬場に設置しています。

自販機では、コオロギやカイコなどのスナックや、タガメのエキスを使ったサイダーなどを販売しています。女性でも興味を引くように自販機自体をカラフルなデザインにするとともに、商品パッケージもリアルな虫の姿ではなくカラフルにすることで、消費者の抵抗感を抑え、購入しやすくしています。

同社ではMOGBUGを、「栄養満点なギルトフリー(天然の素材を使い、カロリーなどが低い“食べても罪悪感がない”)スナック」として打ち出しており、食生活や健康の意識が高い女性向けに浸透させようとしています。

2)ハイセンスな昆虫食レストラン:ANTCICADA

ANTCICADA(アントシカダ)は、ジビエや昆虫食をメニューに取り入れたレストランを運営しています。

同店では、昆虫食につきまとう、いわゆる「ゲテモノ料理」のイメージを覆す、おしゃれなコース料理として提供しています。ペアリングのアルコール類の選定を専門知識のある発酵家が担い、シェフはミシュランに選ばれた料理店で修業したこともある本格派です。提供される料理は「高級昆虫食」の印象を与えています。

同店はECショップも運営しており、店舗でランチタイムに提供されるコオロギラーメンや、カイコの繭(まゆ)を使ったシルクソーセージ、タピオカミルクティーのシロップとして使う蚕沙(さんさ。カイコのふんのこと。漢方として使われる)なども販売しています。

3)カイコを次世代の食品に:Ellie

Ellie(エリー)は、日本では衣料品の素材として古くから使用されているカイコを、次世代の食料として提案しています。同社と提携する大学との研究で、カイコにはたんぱく質などに加えて、健康維持や有害物質を緩和させる機能性成分が豊富に含まれていることが分かりました。

同社はカイコの繭を粉末またはペースト状に加工し、食品の形状に応じてパテやチップスに練り込んで使用することを提案しています。2020年には、カイコを原料に含んだハンバーガーやスープなどを販売するスタンド「SILKFOOD LAB」を、期間限定で展開しました。現在はカイコのパウダーを原料にしたチップスを同社のECサイトで販売中です。

同社の取り組みは異業種からも注目を集めており、2020年3月には、アイビスパートナーズ、三井住友海上キャピタル、京葉ガスを引受先とした、約4500万円の第三者割当増資を実施しました。

4)日本初のコオロギ製プロテイン:ODD FUTURE

2020年創業のフードテック企業のODD FUTURE(オッドフューチャー)は、「INNOCECT(イノセクト)」のブランドで、コオロギの粉末を用いたプロテインパウダーや、プロテインバーを販売しています。同社のECサイトや商品パッケージは、スキンケアブランドをほうふつとさせるデザインを取り入れており、女性をターゲットにしていることがうかがわれます。

商品紹介のコンテンツでも、コオロギが持つ美容成分やグルテンフリーなどを紹介し、健康面や美容面でのメリットを強調しています。また、「コオロギ」とは表記せずに英訳の「クリケット」に統一することで、「昆虫感」を排除しています。さらに、同社が掲載されたメディア紹介でも、女性誌やファッション誌を積極的に挙げており、ターゲット層に合った広告戦略を取っています。

同社は2021年10月に複数のベンチャーキャピタルを引受先とした第三者割当増資を実施し、今後のマーケティング強化や研究開発に取り組む計画です。

5)新規事業で昆虫食に参入:太陽グリーンエナジー

太陽ホールディングスの子会社で、再生エネルギーの発電事業などを行う太陽グリーンエナジーは、同社で養殖したコオロギを販売するECサイト「TAIYO Green Farm Cricket」を2020年8月から運営しています。このECサイトは、同社が養殖したコオロギを、ペットの飼料用と人間の食用として販売しています。

当初は、新型コロナの影響で外出の自粛が要請される中で、飼っているペットの餌のコオロギが購入できなくなったことからスタートしましたが、昆虫食の輸入や小売りなどを行うTAKEO(タケオ)と共同で、太陽グリーンエナジーが養殖するコオロギの産地(埼玉県、福島県)ごとの特徴を活かした商品を販売しています。

6)コオロギせんべいで昆虫食の認知度を高める:良品計画

近年、一部の人たちの間で徐々に注目を集めていた昆虫食の認知度を、一般の消費者向けに広めたきっかけの一つに、良品計画のコオロギせんべいが挙げられます。同社のコオロギせんべいは、食用のコオロギの研究で著名な徳島大学発のベンチャーで、食用コオロギの大量養殖を進めるGRYLLUS(グリラス)と共同で商品開発を行いました。

グリラスが養殖するコオロギは、野生種との判別が容易になるように、目が白くなったアルビノ種に厳選し、国内の施設内で飼育して野生種との混入を防いでいます。食品としての安全性にも配慮し、エサや成長過程を記録しています。

コオロギせんべいの類似商品は数多く市場にあり、同社の商品は、日本初のものではありません。しかし、これまで多くの昆虫食関連製品が苦労していた低価格化を実現しています。この背景には、良品計画によるコオロギの量産体制や、国内外に出店する販売網などの大企業の力が発揮されているといえます。また、幅広く受け入れられるために「昆虫の見た目」を排除し、国内の施設での品質管理を徹底することで、心理面・衛生面にも配慮しているといえるでしょう。

7)食育セットで未来の「昆虫食ユーザー」を育成:MNH

MNHは、昆虫食商品の販売に特化したECサイトで、コオロギの粉末を使った食育セットを販売しています。同社の「未来コオロギラボ・コオロギたこ焼き作りキット」は、コオロギの粉末と素揚げをたこ焼きの粉とセットにしており、子供の自由研究に使える「研究まとめシート」も同封されています。

たこ焼きに混ぜる粉末の量を調整することで、味の変化などを研究することができます。従来は、粉末や素揚げはそれぞれ単品として販売されることが主流でしたが、「粉もの」であるたこ焼きに混ぜる形にして、自由研究の題材としてアレンジすることで、これまでとは違うユーザー層の開拓につながりそうです。

こうした取り組みは大企業も始めており、パン製造大手の敷島製パンも、食用コオロギのパウダーを使ってパンを自宅で作れる食育セットを販売し、この食育セットを用いた子供の自由研究のコンテストを開催しました。

8)イエバエを飼料化:MUSCA

MUSCA(ムスカ)は、イエバエを用いたバイオマスリサイクルと、幼虫の飼料化を行っています。同社のイエバエは、約50年間の品種改良を繰り返しており、通常種に比べて成長や有機物の分解が優れています。

このイエバエの卵を、家畜の育成過程で発生する排泄物に植え付け、幼虫の餌として処理します。処理された排泄物を堆肥として商品化し、植物の栽培などに利用されています。成長したイエバエの幼虫は、さなぎになるために排泄物から這い出てきたところを回収し、乾燥させ、魚や鶏などの養殖業、畜産業向けの飼料として販売されます。

従来は排泄物を畑などに撒き、悪臭などを放ちながら数カ月かけて堆肥化していましたが、イエバエを用いることで、堆肥化までの期間を約1週間に短縮できるだけでなく、成長したイエバエを飼料として収益化できるようになりました。さらに、イエバエの飼料は、飼料を食べた魚の病気への耐性が強化され、体が大きく成長するなどの効果が報告されています。

3 昆虫食に対する意識など 状況は追い風も、普及はまだまだ

昆虫食が徐々に認知され始め、「将来の食料」の候補として意識調査も実施されるようになりました。今回は、近い将来の潜在ユーザーとなり得る、若者への意識調査から、昆虫食の現在地を見てみます。

1)若者への意識調査:日本財団 第31回18歳意識調査「新しい食について」

日本財団が17~19歳を対象に行った意識調査「新しい食について」によると、昆虫食に対する認識は次の通りです。

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この意識調査によると、代替肉(植物由来の原料などで肉の食感を再現したもの)や昆虫食などに対する評価は、半々といった状況です。また、昆虫食については「食べてみたくない」との回答が83.8%と、普及へのハードルは容易ではなさそうです。一方で、今回の調査対象者でフードテック(先進的な技術を用いて食料の課題の解決や、可能性を開拓するもの)を知っていると回答したのが9.7%にとどまったことを考慮すると、まずは昆虫食を含めたフードテック全体の認知度を向上させることが先決かもしれません。

また、価格も普及の足かせになっています。例えば、昆虫食のスナックとして代表的なミールワームやコオロギの素揚げのパックの場合、商品の中には15グラムで1000円以上もするものがあります。昆虫食を食べるメリットが明確でない場合、興味のない食べ物に1000円以上を出すのは現実的とはいえないでしょう。

この背景には、昆虫食の需要が限定的で、効率的な大量生産、流通が確立していないことなどが挙げられます。東南アジアなどから輸入する昆虫の素揚げなどは、昆虫を人力で採集している場合もあり、収穫は天候に左右され、人件費もかさんでいるかもしれません。

近年では、コオロギせんべいのように、一般消費者への普及を意識した商品開発、価格帯での提供を進める企業も現れており、今後は価格の低下も期待できそうです。

2)昆虫食の現状

最後に、昆虫食の現状として次のようなものが想定されます。国連などによる普及の支援や、国内外の昆虫食スタートアップなどの登場で市場は徐々に盛り上がってきています。消費者側に目を向けると、一般への普及にはまだまだ時間がかかりそうですが、昆虫食の高たんぱく・低カロリーなどの特徴を活かすことで、近年の健康ブームに乗った商品開発で認知度を高めることができるかもしれません。

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画像:andrerako-Adobe Stock

以上(2022年6月)

雨天時の安全運転(2022/06号)【交通安全ニュース】

活用する機会の例

  • 月次や週次などの定例ミーティング時の事故防止勉強会
  • 毎日の朝礼や点呼の際の安全運転意識向上のためのスピーチ
  • マイカー通勤者、新入社員、事故発生者への安全運転指導 など

今年も、梅雨入りの時期となりました。降雨は、視界を悪くし、路面を滑りやすくするなど運転に少なからず影響を与えるため、慎重な運転が求められます。

今回は、雨天時の運転での視界確保とスリップ事故防止に着目して、安全運転を考えましょう。

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1.視界不良やスリップによる事故事例

首都高速道路株式会社の調査(下図)によると、首都高速における雨天時の事故件数は約5倍に増えています。

雨による視界不良、路面状況の悪化、雨音による車外の音情報の遮断など運転上の悪条件が重なり、事故が発生しやすくなります。特に視界不良とスリップによる事故が多いので、事故事例を通じて注意点を確認しましょう。

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出典:首都高速道路株式会社 首都高ドライバーズサイトに掲載の2020年度統計値を基に当社作成

【事例1:視界不良による衝突事故】

運転者は雨天時に幹線道路を走行しており、降雨により前方が見えにくい状況にあった。横断歩道外を横断した歩行者の発見が遅れ、急ブレーキをかけたが、間に合わず衝突した。

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⚠ 注意点

雨天時の運転では、フロントガラス等に付着する水滴により、前車や信号機、標識等が滲んで見えるなど、視認性が低下します。また車内外で気温差が大きいときや湿度が高いときは、フロントガラスが曇りやすくなります。

【事例2:水たまりでのスリップ事故】

運転者は直線道路を走行しており、路面には降雨による水たまりができていた。運転者は路面状況を見誤り、水たまり部分でスリップし、道路沿いの街路樹に衝突した。

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⚠ 注意点

雨天時の運転では、路面とタイヤとの間の摩擦が小さくなるため、制動距離(ブレーキをかけて車が止まるまでの距離)が伸びます。またタイヤが滑りやすくなり、水たまりがあるとスリップすることがあります。

2.視界確保とスリップ防止のポイント

視界確保

①ワイパーを正しく使用する

雨量に応じて適切にワイパーを使用しましょう。

ワイパー作動時に、拭きむらやビビリ音などを発見した場合は、早めにワイパーを交換しましょう。

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②フロントガラスを曇らせない

エアコンの除湿やデフロスターを活用しましょう。

車外の湿度が高い場合は、内気循環が有効です。

傘や服の水滴を払ってから車に乗り込むようにすることも車内の湿度対策として有効です。

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※雨天時は、歩行者や自転車からの視界も悪くなるため、歩行者や自転車が自車の接近に気づかずに道路を横断するようなことがあります。よって、視界不良を踏まえた危険予測運転や自車の存在を周囲に気づいてもらえるようなヘッドライト等の点灯が有効です。

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スリップ防止

①スピードを抑えて車間距離を長めに取る

路面状況の変化を意識した上で、スピードを抑えて十分な車間距離を取りましょう。

追突等の危険回避だけでなく、前車の水しぶきを浴びる可能性も少なくなります。

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②「急」な運転操作はしない

急発進・急ハンドル・急ブレーキは厳禁です。

特に水たまりでの急ハンドルや急ブレーキは事故に繋がる可能性があり、大変危険です。

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※雨の降り始めは、路面にホコリや泥などが浮き上がり、車が滑りやすい状況です。また濡れた道路標示やマンホールの蓋の上などは滑りやすくなっています。路面状況の変化を早めに察知し、状況に応じた走行をすることが重要です。

3.雨天時の安全運転に向けて

日頃から、ワイパーやタイヤの点検、フロントガラス等の清掃など雨天に備えておくことが大切です。また雨天時は、視界の悪化や路面状況の変化を踏まえて、常に先の状況を予測しながら運転をすることが重要です。

事前準備と危険予測の心構えで、安全運転を継続しましょう。

以上(2022年6月)

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画像:amanaimages

【損金】税理士が解説。損金になる固定資産の購入費用と、ならない購入費用

書いてあること

  • 主な読者:決算対策の一環などとして、消耗品費を損金にしたい経営者
  • 課題:取得したもの、取得した金額によって取り扱いが大きく異なる
  • 解決策:消耗品費と減価償却費の違い、中小企業の特例を理解して自社に有利な方法を選択

1 消耗品費・減価償却費とは

固定資産の購入費用を損金とするときには、「消耗品費」と「減価償却費」とが主な項目になります。

消耗品費とは、

事業を行う上で日常的に使用する文房具などの「消耗品」を購入するための費用

です。通常、消耗品は事業年度ごとにある程度決まった数量を購入し、その時点で「消耗品費」として損金の処理をします。一方、パソコンや机などの器具備品や建物・建物附属設備などの固定資産は、原則として、購入時に全額損金とすることができず、耐用年数に応じて何年かに分けて費用である「減価償却費」として損金に算入します。

ただし、その固定資産の値段(取得価額)やどの程度の間使用できるか(使用可能期間)によっては、例外的に購入時に全額損金にすることができます。このように、固定資産の購入費用は、税務上の取り扱いに注意が必要となる費用の1つです。

固定資産の購入費用が損金になるかどうかのポイントは、

  • 取得価額が10万円未満、または使用可能期間が1年以下であること
  • 取得価額が10万円以上20万円未満のものは3年間で均等償却すること
  • 取得価額が20万円以上のものは耐用年数に応じて減価償却すること
  • 中小企業者等については取得価額が30万円未満であること

です。詳しく見ていきましょう。

2 損金になる消耗品費・減価償却費の4つのポイント

原則として、固定資産を購入時に全額損金にすることはできません。しかし、取得価額の金額によって処理が分かれるので確認しましょう。

1)取得価額が10万円未満、または使用可能期間が1年以下であること

取得価額が10万円未満、または使用可能期間が1年以下の固定資産は、消耗品と同様に「消耗品費」という勘定科目で、購入時に全額損金とすることができます。

2)取得価額が10万円以上20万円未満のものは3年間で均等償却すること

取得価額が10万円以上20万円未満の固定資産は、「一括償却資産」と呼ばれ、取得した事業年度から3年間で損金に算入します。この一括償却資産は各事業年度で取得価額の3分の1ずつ損金に算入(1年決算法人の場合)することができるので、事業年度の中途で購入したものであっても月割り計算をする必要はありません。例えば取得価額が15万円の場合、各事業年度に5万円(=15万円/3年)ずつ均等に損金に算入します。

3)取得価額が20万円以上のものは耐用年数に応じて減価償却すること

取得価額が20万円以上の固定資産は、定額法や定率法といった方法を使用し、税法で決められている耐用年数にわたって損金に算入します。適用する耐用年数の誤りは税務調査でよく指摘されるポイントなので注意しましょう。

  • 定額法:「取得価額」に一定割合を掛けて減価償却費を計算する方法で、毎期の減価償却費が一定額となる
  • 定率法:「未償却残高(帳簿価額)」に一定割合を掛けて減価償却費を計算する方法で、耐用年数の前半で多額の、後半では少額の減価償却費が計上される

4)中小企業者等については取得価額が30万円未満のものであること

青色申告書を提出している中小企業者等(資本金が1億円以下で、常時使用の従業員の数が1000人以下の法人などで一定の要件を満たすもの)が、取得価額が30万円未満の固定資産(以下「少額減価償却資産」)を購入した場合、購入時に消耗品費として全額損金にできる特例があります。この少額減価償却資産の特例の適用は会社の任意ですが、全額損金にできるのは、1事業年度で300万円まで(1年決算法人の場合)です。

例えば、1事業年度に25万円のパソコンを13台購入した場合、少額減価償却資産として購入時に一括損金とすることができるのは12台分(25万円×12台=300万円)までです。残り1台(25万円)については、一旦器具備品(資産)として計上し、通常の減価償却を行わなければなりません。また、同じ事業年度に他の固定資産を購入した場合も、すでに300万円の枠を使い切っているため、この特例を適用することはできません。

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なお、税法の改正により、他社に貸し付ける目的で購入した「貸付用資産」については、金額の多寡に関わらず資産計上し、税法で決められている耐用年数にわたって損金に算入されることになりましたので、注意しましょう。

3 消耗品費・減価償却費で迷いやすい実務Q&A

1)数年分をまとめ買いした消耗品でも、全額損金にできるの?

文房具などの消耗品は、原則として購入したときに全額損金にできます。これは、購入した消耗品はその直後(長くても1年以内)に消費されるのが一般的で、購入時に全額損金としても、各事業年度の損金になる金額はほぼ同額になると考えられるためです。

では、消耗品をまとめ買いしたときはどうでしょうか。例えば、割安で購入できるといった理由から、2年分をまとめ買いすることがあると思います。このケースでは全額を購入時の損金とすることはできません。あくまでも損金とされるのは1年分のみです(残りの1年分は翌事業年度の損金とされます)。1年分の消耗品に該当するかどうかの明確な判断基準はありませんが、例年と比較して明らかに消耗品費が高額になっており、その理由が翌事業年度以降の分のまとめ買いに当たるものは税務調査でもチェックされるので注意しましょう。

2)作業服や制服などは消耗品費として処理することができるの?

業務で使用する目的で従業員に作業服や制服などを支給する会社も多いでしょう。こういった作業服なども、業務にのみ使用することを目的としている場合に限り、その購入費用は消耗品費として損金になります。

一方、「スーツ」についてはプライベートでも使用可能なものと考えられています。ですから、スーツを会社が支給した場合、税務上は給与として取り扱われ、源泉所得税の対象となります。特に役員に対してスーツを支給した場合には、損金にすることができない「役員給与」とみなされるので注意しましょう。

3)固定資産の金額の判断は1個ずつ行うの?

固定資産は、その取得価額がいくらかによって取得時に全額を損金とすることができるか、固定資産に計上して減価償却を行うかに分かれますが、この金額は基本的に「1個当たりの単価」で判断します。

ただし、単体で使用することが想定されていないものなどについては、「1個当たり」ではなく「1組当たり」で判断します。例えば、応接間に置いてあるソファやテーブルなどはセットで使用することを前提にデザインされているものが多く、こうした資産については1組の金額で処理方法を判断する必要があります。例えば、ソファが25万円、テーブルが10万円の応接セットを購入の場合、35万円の器具備品(固定資産)として計上します。

4)車やクルーザーといった固定資産も減価償却費を損金にできるの?

税務上、事業を行う上で必要な固定資産であれば、減価償却費は損金となります。従って、社用車を購入したり、福利厚生目的でクルーザーを購入したりした場合、減価償却費は原則として損金になります。

ただし、こういった資産は高額で、かつ「事業目的」か「私的目的」かが曖昧になるケースも多いため、事業目的で購入・使用していることを証明できるような書類を整えておくことが重要です。例えば、「運用規程(使用手続きなど)」や「使用管理表(いつ、誰が、どのような目的で使用したのかなど)」を準備するとよいでしょう。これを怠り、事業目的で使用していることが証明できなかったり、そもそもプライベートでの使用がほとんどであったりすることが明らかな場合は、減価償却費が損金にできないばかりでなく、購入金額が役員などの個人に対する給与として源泉所得税の対象となるなど、思わぬ税負担が生じる恐れがあります。

以上(2022年5月)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 税理士 森浩之)

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画像:Mariko Mitsuda