【中堅社員のスピーチ例】今年こそ「竜頭竜尾」を貫こう

皆さん、あけましておめでとうございます。早速ですが、今日は私の新年の抱負を聞いていただきたいと思います。「私は今年2024年中に、今のわが社にない新サービスを立ち上げます!」

あれ……なんだか苦笑する声が聞こえますね。無理もありません。覚えてらっしゃる人もいるかと思いますが、実は私、昨年2023年の1月にも「新サービスを立ち上げる」という、今と全く同じ抱負を述べたのです。そして、あろうことか、本来なら2023年中に達成すべきだったその目標を、途中で投げ出してしまいました。

最初はわが社に何が足りないかを分析したり、同業他社が集まる展示会を見に行ったりと自分なりに動いていたのですが、途中から目の前の業務が忙しくなって次第にやる気が薄れ、諦めてしまったのです。昨年の1月に抱負を述べた自分を思い起こすと、正直「口だけで終わってしまった」と、恥ずかしい気持ちでいっぱいです。

「竜頭蛇尾(りゅうとうだび)」という四字熟語がありますよね。頭は立派な竜なのに、尾は細くて弱そうな蛇。最初は勢いが良くても、最後は尻すぼみで勢いがなくなってしまうという意味で使われます。昨年の私がまさにそれでした。新年の初めにあったエネルギーが、時間とともになくなっていく自覚があり、たびたび「業務が忙しいのは皆同じじゃないか、頑張れよ」と自分に言い聞かせるのですが、結局最後は気持ちが折れてしまって自己嫌悪になりました。

2024年も同じことを繰り返すわけにはいかない。どうにかやる気を持続させたい。色々考えた結果、私はその方法を一つ思いつきました。それは、「毎日を新年の初めのような気持ちで生きる」というものです。新年の初めのような節目のタイミングというのは、大げさに言うと自分が生まれ変わったような感覚になり、誰でもやる気に満ちあふれています。

だから、今年の私は「2024中に新サービスを立ち上げる」という目標を毎日自分に言い聞かせ、目標達成のために毎日やるべきことを決めて1日ずつ全力で取り組みます。42.195キロを走る際、1回きりの長距離走ではなく、全力の短距離走を何回も繰り返してゴールにたどり着くようなイメージです。何だか幼稚に聞こえるかもしれませんが、気持ちを強く持ち続けられない人間が志を貫くには、まず仕事に対する向き合い方を変えなければならないと考えました。

先程「竜頭蛇尾」という四字熟語についてお話ししましたが、今年の私のテーマは言ってみれば「竜頭竜尾(りゅうとうりゅうび)」です。頭は立派な竜で、尾も立派な竜。今年2024年の干支も「辰(たつ)」ですが、地上から天空を目指して登り続ける竜のように、目標に向かって走り続け、年の最後に「よく頑張ったな」と自分で自分を褒められる一年にしたいと思います。今年こそ口だけで終わらせず、来年この場で皆さんに良い報告ができるよう頑張ります。

以上(2024年1月)

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画像:Mariko Mitsuda

【中堅社員のスピーチ例】ライト兄弟を成功に導いた「ライバル」

いよいよ12月になりました。今日は飛行機の発明で知られる、米国のライト兄弟の話をします。なぜ12月にライト兄弟なのかというと、今から120年前の1903年12月17日、この2人が世界初とされる、動力飛行機による飛行を成功させたからです。実は「世界初」という部分については諸説あるようですが、いずれにせよ「空気よりも重い機械を空に飛ばす」という、当時としては考えられないレベルの偉業を成し遂げた兄弟です。

ライト兄弟の本業は自転車屋で、元々は飛行機とは特に縁のない人たちでした。ですが、自転車の小売りや修理を請け負う傍ら、自分たちのオリジナル製品を作って成功を収めるなど、乗り物への造詣が深かった彼らは、あるときドイツの航空研究家オットー・リリエンタールがグライダーによる飛行を成功させたニュースを耳にし、空の世界に興味を持ちます。その後、リリエンタールが実験中に墜落死したことを知ると、「高い所から風に乗るグライダーではなく、平地から自力で飛び上がれる乗り物を作れないか」と考え、飛行機の発明に本格的に乗り出したのです。

まずはリリエンタールをはじめとする先駆者たちの航空資料などを基に飛行の基本を勉強するところから始め、さらに自分たちの本分である自転車を改良した装置を使って空気の抵抗を測定したり、自転車の部品を使って数百種類の翼の模型を作ったりと、飛行機を飛ばすための研究を地道に続けました。

そして、何百回にも及ぶ飛行実験のデータを蓄積し続け、とうとう1903年12月17日、ライト兄弟は12馬力のエンジンを搭載した飛行機「ライト・フライヤー」を空に飛ばすことに成功します。彼らが飛行機の発明に乗り出してから、約7年の歳月が過ぎていました。なぜ、彼らは最後まで諦めなかったのか。色々な考え方があるでしょうが、私はライト兄弟にとって負けたくない「ライバル」がいたからだと思っています。

それは、先ほどの話にもあったリリエンタールです。彼は、墜落による非業の死を遂げながらも、亡くなる直前に「成功のためには、犠牲を払わなければならない」という趣旨の言葉を残しています。リリエンタールは自分の死を悲観せず、最後まで人類が空を飛ぶ未来に思いを馳せていたのです。ライト兄弟は彼の死をきっかけに飛行機の発明に本格的に乗り出していますから、もしかしたら失敗でくじけそうになったとき、「リリエンタールだったらここで弱音は吐かない。我々も負けてたまるか」と、自分たちを奮い立たせていたのかもしれません。

誰かは内緒ですが、私にもこの会社に負けたくないライバルがいます。自分がくじけそうになったとき、「あの人だったらここで弱音は吐かない」と自分を奮い立たせるようにしています。もし皆さんの中に、私のことをそのように思っている人がいてくれたらうれしい限りです。これからもいい仲間、いいライバルでいてください。

以上(2023年12月)

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画像:Mariko Mitsuda

全国各地に広がる「子ども食堂」に企業はどんな支援ができる?

1 全国各地で広がる子ども食堂 その役割は?

子どもが1人でも行けて、無料あるいは低価格でご飯が食べられる「子ども食堂」。発祥は、2012年に東京都大田区で「気まぐれ八百屋だんだん」を経営していた近藤博子氏が、家庭の事情で食事が作れない家の子どもに対して、「だんだんワンコインこども食堂」として低価格で夕食を提供したことだとされます。この活動が東京都豊島区で子どもを支援する「豊島子どもWAKUWAKUネットワーク」の栗林知絵子氏の目に留まり、子ども食堂を知ってもらうための講演会やシンポジウムの全国ツアーが行われました。

加えて、子どもの孤食問題の認知拡大、コロナ禍で経済的に困窮する家庭が増えたことなども背景に、子ども食堂は全国各地に広まっていきました。全国こども食堂支援センター・むすびえの「こども食堂全国箇所数調査2022結果」によると、2018年には2286カ所だった子ども食堂は、2022年に7363カ所となっています。

子ども食堂の箇所数の推移"

昨今は国や地方自治体が予算を投入したり、地域の子ども食堂をリストアップしたりして、寄付先を募るといった支援の動きもあります。しかし、元々は民間発の取り組みなので、費用や食材などの調達、開催場所の確保が課題であり、企業の支援が求められています。

一方、別の視点では、

子ども食堂を「食事の提供だけでなく、地域の大人と子どもが交流し、お互いに経験を広げることができる場所」

と捉え、子ども食堂と共同してイベントを開催し、地域貢献や企業の人材育成につなげるなどの新しい支援の形に取り組む企業も出てきています。

この記事では、子ども食堂への支援に取り組む企業の事例や、企業が子ども食堂への支援を検討する際に相談、問い合わせ先となる窓口団体などを紹介していきます。

2 子ども食堂の課題・企業による子ども食堂への支援事例

1)子ども食堂の課題

「こども食堂の現状&困りごとアンケートvol.8 結果報告」によると、子ども食堂での困りごと(上位10回答)は次の通りです。このアンケートは、全国こども食堂支援センター・むすびえが、全国各地の「子ども食堂の地域ネットワーク」および「子ども食堂ネットワーク」とつながる子ども食堂を対象に行ったものです。

子ども食堂での困りごと

子ども食堂の課題はさまざまですが、例えば、運営資金やスタッフ、会場の不足などは企業による支援の余地があるといえます。企業による具体的な支援策としては、次のようなものが挙げられます。

企業による子ども食堂への支援策の例

以降で実際の企業事例を見ていきましょう。

2)子ども食堂で出前授業を実施:エナリス(東京都千代田区)

電力の需給管理や電力卸取引などを手掛ける同社では、東京都港区にある「みなと子ども食堂」の中で開催している学習会で出前授業を開催しました。

授業は電力の需要予測をテーマに、電気に関する基礎知識を説明した後、自宅、コンビニ、学校で一日の中でいつ、どのようなときに電気を使うかのワークを行いました。

出前授業によって子どもに新しい興味が生まれ、子どもの未来や電力業界の成長の芽につなげることが狙いとしています。

3)自販機の設置、売上で子ども食堂を支援:ダイドードリンコ(大阪府大阪市)

同社では、売上金の一部を地域の子ども食堂に寄付できる寄付型の自動販売機を展開しています。同社の自販機設置について解説するウェブサイトでは自治体や企業での自販機導入事例を紹介しています。導入した企業によると、地域貢献の方法として寄付型の自販機の設置が検討しやすいことや、飲料を購入するだけで気軽に地域貢献につながるため、社員に意識付けができることがメリットといいます。

また、自治体によっては同社と協定を締結している場所もあります。例えば、愛媛県新居浜市では「こども食堂等子どもの居場所を支援するための協働に関する協定書」を締結し、地元企業に自販機を設置してもらうことで子ども食堂への支援に取り組んでいます。

4)飲食店と連携して子ども食堂を推進:テンポイノベーション(東京都新宿区)

飲食店物件に特化した不動産業を手掛ける同社では、東京都内の飲食店で子ども食堂を開催する取り組みである「お店のこども食堂『みせしょく』」を、2019年から取引先の飲食店と共同で展開しています。

子ども食堂は、地域のボランティアが運営するケースが一般的なため、食材の調達、開催場所の確保、開催の告知などの負担が大きく、継続して開催することが難しくなる場合があります。一方で、飲食店で子ども食堂を開催することによって、食材の調達や開催場所の確保といった課題を解決でき、いつ、どこでも子どもがおなかと心を満たせる環境が整うといったメリットがあります。

なお、子ども食堂の活動資金は同社の企業利益から充てられており、2023年8月末時点で57店舗の参加実績があります。

5)居酒屋でチャリティーメニューを展開:ファイブグループ(東京都武蔵野市)

居酒屋・ダイニング経営を手掛ける同社では、吉祥寺で子ども食堂を定期開催しています。

店舗に来店した顧客が「子ども食事券」を購入して店舗に置き、その食事券を使って子どもは無料で食事を摂ることができるという仕組みになっています。

また、活動費は顧客が購入する食事券以外にも、グループ店舗で展開しているチャリティーメニューの売上金額を充てています。

子ども食堂の活動を通じて、リピーターの来客が増えて店舗の売上に貢献したり、社会貢献の取り組みに共感したとして、入社を希望する学生が増えて人材確保につながったりするなど、地域貢献に限らず企業にとってもメリットが大きい事例といえるでしょう。

6)社員寮を子ども食堂の会場として提供:西松建設(東京都港区)

同社では、福岡県大野城市にある社員寮の食堂を子ども食堂の「おおのじょうこども食堂みずほ町」の会場として提供しています。

この子ども食堂はNPO法人チャイルドケアセンターが開催している子ども食堂で、子ども食堂を定期的に開催できる会場が確保できなかったり、食材や備品を保管する場所が無かったりしたという課題をきっかけに、西松建設がチャイルドケアセンターに支援を申し出たことで実現したそうです。

社員寮に外部の団体が入ることのリスク管理は、次のような対応を取っているといいます。

  • 施設のセキュリティ:建物の解錠・施錠は寮の管理人のみが行う
  • 食中毒、ケガなどのトラブル対策:保健所主催の食品衛生管理・食中毒予防関連の研修の受講、参加するスタッフや子どものNPO活動総合保険への加入
  • 運営団体の信頼確保:チャイルドケアセンターが子ども支援や子育て支援に取り組んできた実績を示す資料の確認

7)自社の運営施設で子ども食堂を開催:ラグジュアリー(福岡県福岡市)

賃貸管理や保育園の運営などを手掛ける同社では、同社が運営する「コワーキングサロン&カフェラウンジ 四季のいろ」で子ども食堂を開催しています。子ども食堂では、カレーなどの食事提供と併せて、書道や英会話、プログラミング教室も催しています。

学校の授業では教わらない体験を通じて子どもに学ぶ楽しさを知ってもらうとともに、施設に集まった子ども同士で一緒に学ぶことで、学校外でのコミュニティ作りや友達づくりを支援する狙いがあります。

3 子ども食堂を支援するときの相談、問い合わせ先となる団体

1)全国こども食堂支援センター・むすびえ

全国各地の子ども食堂を支える団体への支援、子ども食堂を応援したい企業・団体との協働事業、こども食堂が全国にどのくらいあるか調べるなどの調査研究を手掛けています。企業・団体が子ども食堂を支援するに当たり、次のような例があります。

  • 社内や施設内への寄付付き自動販売機の設置、古本の寄付
  • 寄付付き商品の企画や、イベントでの売り上げなどを寄付するための支援
  • 食材や備品などの物資、商品を子ども食堂に提供するための仲介
  • 子ども向けの食育、健康教育、アート体験など企業が手掛ける体験プログラムを子ども食堂に提供するための仲介
■全国こども食堂支援センターむすびえ■
https://musubie.org/

2)全国食支援活動協力会

「こども食堂サポートセンター」の運営や、子ども食堂への支援マッチングなどを手掛けています。同団体のウェブサイトでは、企業連携の事例を紹介しており、王将フードサービスによる商品売上代金の寄付や、アサヒ飲料による飲料と絵本の寄付といった事例があります。

■全国食支援活動協力会■
https://mow.jp/

3)地方自治体による子ども食堂の開設・寄付に関する相談窓口

市区町村によっては、ウェブサイト上で子ども食堂の開設や寄付に関する相談窓口をはじめ、その地域内にある子ども食堂の一覧や、どのような支援を必要としているかの情報を公開している場合があります。また、自社で子ども食堂を開設する場合の手続きや開設に伴う助成金制度がある場合もあるので、最寄りの自治体のウェブサイトを確認してみるとよいでしょう。

以上(2024年1月)

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画像:hasegawa risa-Adobe Stock

「解雇」の種類と基本ルール

1 解雇のハードルは高い、ルールを押さえて慎重に

「解雇」とは、使用者(会社)が労働契約を一方的に解約することです。多くの会社にとって解雇は身近なものではないですが、雇用の考え方やルールが変化する中で、今後は解雇の在り方も変わっていくのではないかという声があります。例えば、「ジョブ型雇用が浸透していくと、能力が仕事に追いつかない社員を解雇する会社が増えるのではないか」といった具合です。

ただ、注意しておかなければならないのは、

少なくとも今の日本の法制度では、解雇が認められるハードルは高く、慎重に手続きを進めないと、社員と訴訟などのトラブルになるリスクがあること

です。トラブルを防ぐには、次のような解雇に関する基本ルールを押さえる必要があります。

  1. 解雇の種類(普通解雇、整理解雇、懲戒解雇の3種類)
  2. 解雇全般に共通する基本的なルール(解雇権濫用法理など)

2 普通解雇、整理解雇、懲戒解雇の違い

1)普通解雇

普通解雇とは、

病気やけが、能力不足などを理由に、社員を解雇すること

をいいます。「社員が会社に対し、労務を提供できなくなった場合に行われる」というのがポイントです。普通解雇が行われる主なケースは次の通りです。

  • 社員が病気やけがで就業不能になった
  • 社員の勤務成績が会社の求める水準に達しない状態が続いた

2)整理解雇

整理解雇とは、

経営危機の状態にある会社が、余剰人員の削減を目的として社員を解雇すること

です。「社員の能力不足などに関係なく、経営上の理由で実施される」というのがポイントです。整理解雇が行われる主なケースは次の通りです。

  • 会社の収益が不況による販売不振で著しく悪化した
  • 会社の設備などが災害で大きく損傷し、事業の縮小を余儀なくされた

3)懲戒解雇

懲戒解雇とは、

極めて悪質な規律違反や非行があったときに、就業規則にのっとり、懲戒処分として社員を解雇すること

です。「重大な問題行為をした社員を罰する目的で行われる」というのがポイントです。懲戒解雇が行われる主なケースは次の通りです。

  • 社員が会社の名誉を害する犯罪行為や重大なハラスメント行為をした
  • 社員が重要な経歴を詐称して入社した
  • 社員が正当な理由なく、無断で遅刻、早退、欠勤を繰り返した

3 解雇の基本的なルール

1)解雇権濫用法理

解雇権濫用法理とは、

「客観的に合理的な理由」を欠き、「社会通念上相当」であると認められない場合、解雇は不当解雇として無効になるというルール

です。この解雇権濫用法理は労働契約法第16条に明文化されています。

1.客観的に合理的な理由

客観的に合理的な理由とは、

客観的に見て解雇はやむを得ないといえるだけの具体的理由のこと

です。例えば、社員の著しい能力不足、契約義務違反、経営上の必要性などがそうです。なお、多くの裁判例では、「就業規則の解雇事由に該当するかどうか」が、解雇の客観性・合理性を肯定する重要な基準になっています。つまり、就業規則に解雇事由に関する規定がないと、不当解雇と判断されるリスクが高いということです。

2.社会通念上相当

社会通念上相当とは、

社員の行為や状況に照らして、解雇が妥当であるかということ

です。例えば、「たった1回の少額な納品ミスで能力不足と判断し、解雇する」というのは厳し過ぎて、社会通念上相当とはいえません。

2)解雇ができない期間

会社は次の期間中、社員を解雇することができません。

  1. 業務上の病気やけがで療養するために休業する期間と、休業終了後30日間
  2. 産前産後休業の期間と、休業終了後30日間(女性社員のみ)

ただし、1.の場合、療養開始後3年を経過しても治癒しなければ、平均賃金の1200日分の「打切補償」を支払うことで、解雇制限が解除されます。また、天災事変などによって事業の継続が不可能となった場合も同様です。なお、平均賃金とは、算定事由発生日(けがをした日や病気が判明した日など)以前の直近3カ月間の賃金総額(賞与等を除く)を、算定事由発生日以前の直近3カ月間の総日数で除した金額です。

3)解雇予告と解雇予告手当

原則として、解雇は事前に予告して行わなければなりません。これを「解雇予告」といいます。解雇予告は少なくとも30日前にしなければなりませんが、「解雇予告手当(平均賃金)」を支払えば、その日数分、解雇予告期間を短縮できます。

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また、例外として、懲戒解雇など社員に帰責性があって解雇する場合や、天災事変により事業の継続が不可能となった場合、解雇予告なしに解雇することが可能ですが、その際は会社を管轄する労働基準監督署の事後認定を受けなければなりません。

4)即時解雇が認められている社員(例外あり)

次の社員は、解雇予告や解雇予告手当の支払いを経ずに解雇することができます。ただし、一定の条件を満たすようになると、解雇予告などが必要となります。

  1. 日雇いの社員(1カ月を超えて使用された場合を除く)
  2. 2カ月以内の期間を定めて使用される社員(定めた期間を超えて使用された場合を除く)
  3. 4カ月以内の期間を定めて季節的業務に従事する社員(定めた期間を超えて使用された場合を除く)
  4. 試用期間中の社員(14日を超えて使用された場合を除く)

5)原則として契約期間中の解雇は認められない

パート等の有期契約社員を契約期間の中途で解雇することは、やむを得ない事由(天変地異や会社の倒産、パート等の重大な非違行為など)がある場合を除いて認められません。解雇する場合も、会社に過失があれば、損害賠償責任を負う恐れがあります。

6)その他

この他、労働基準法や育児・介護休業法、男女雇用機会均等法により、

  • 国籍、信条、社会的身分を理由とした解雇
  • 妊娠や出産などを理由とする解雇
  • 育児休業・介護休業などを取得したことを理由とする解雇

が禁止されています。

以上(2023年12月更新)
(監修 弁護士 田島直明)

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画像:Maxx-Studio-shutterstock

お尻を触るセクハラ社員は解雇できるか?

1 トラブルになりにくい懲戒処分のポイント

セクハラをするような「問題社員」は厳しく罰したいところですが、感情的になるのはトラブルのもとです。ここは冷静になり、次のポイントを確認しながら懲戒処分を検討しましょう。

  • 問題社員の行動が、就業規則の懲戒事由に該当するか
  • 客観的に見て、処分はやむを得ないといえるだけの具体的理由があるか
  • 問題社員の行動に照らして、処分の重さが妥当といえるか
  • 社員の問題行動、会社による注意や処分の内容を記録しているか
  • 処分の前に、弁明や挽回の機会を与えているか

注目すべきは、「問題社員の行動に照らして、処分の重さが妥当といえるか」です。例えば、服の上からお尻を触る社員は問題ですが、たった1回の行為なら、いきなり懲戒解雇にするのは厳しすぎます。

また、社員のプライベートにも注意が必要です。原則として、プライベートの行動は、会社の信用を失墜させた場合などでなければ懲戒処分にはできません。

以上を踏まえ、この記事では、ありがちな問題社員の行動と妥当と思われる懲戒処分を紹介します。一般的な懲戒処分の内容は次の通りで、1.の戒告が最も軽い処分、7.の懲戒解雇が最も重い処分になります。

  1. 戒告:厳重注意を言い渡す
  2. けん責:始末書を提出させ、将来を戒める
  3. 減給:一定期間、賃金支給額を減額する
  4. 出勤停止:数日間、出勤することを禁じ、その間は無給とする
  5. 降格:役職の罷免・引き下げ、または資格等級の引き下げを行う
  6. 諭旨解雇:退職届の提出を勧告した上で、退職届の提出がなければ解雇とする
  7. 懲戒解雇:即時に解雇する

2 就業時間内の問題行動への対応

1)業務命令に違反した、業務命令を無視した

社員が業務命令に従わなかったり、無視したりした場合、まずは口頭で注意して様子を見ます。その後も勤務態度を改めなければ、けん責や戒告などの軽い懲戒処分から始め、その後も改善が見られなければ、より重い処分に切り替えます。

指示された業務を放棄したり、業務はしていても職場環境や人間関係に大きな悪影響を及ぼしたりするようなら、場合によっては懲戒解雇や諭旨解雇も検討し得るかもしれません。

ただ、勤務態度の悪さを理由に懲戒解雇や諭旨解雇を課すのはハードルが高く、実務では解雇がやむを得ないケースであっても

普通解雇(社員としての適性がないことを理由とする解雇、懲戒処分ではない)で対応

するのが一般的です。

2)無断欠勤を繰り返した

社員が1~2日の無断欠勤をした場合、まずはけん責や戒告とし、改善されなければ重い処分とします。一方、2週間連続して無断欠勤した場合はレベルが違います。就業規則で「2週間連続の無断欠勤の場合は懲戒解雇とする」と定めている会社は多く、実際、それを認めた裁判例もあります(開隆堂出版事件 東京地裁平成12年10月27日判決)。

ただし、無断欠勤している社員がメンタルヘルス不調を抱えている場合などは、慎重に対応を判断しましょう。休職制度がある場合は、それを適用して様子を見ます。休職期間が終わっても復職が難しければ、就業規則に従って退職となります。

3)隠れて休憩した、居眠りをした、パソコンを私的利用した(怠業)

社員が隠れて休憩や居眠りをした場合、まずはけん責や戒告とし、改善されなければ重い処分に切り替えます。ただ、長時間労働が常態化しているなら、懲戒処分よりも就業環境の改善が先です。

パソコンの私的利用については、例えば、私的なメールを送るのに使っている場合などは、まずは懲戒処分ではない口頭注意などとし、改善されなければけん責や戒告とします。

ただし、回数が異常だったり、内容が会社の信用に関わる事案であったりする場合は重い処分を検討します。1日300回以上のチャットを行い、チャットを使って顧客情報を持ち出した社員の懲戒解雇を有効と判断した裁判例もあります(ドリームエクスチェンジ事件 東京地裁平成28年12月28日判決)。

4)ハラスメント行為をした

ハラスメントの判断は難しいので、大まかな基準を設けておくとよいです。例えば、セクハラ(セクシュアルハラスメント、性的嫌がらせ)の場合の目安は次の通りです。

  1. 刑法に抵触(強制性交等(準強制性交等)、強制わいせつ(準強制わいせつ)など):懲戒解雇、諭旨解雇
  2. 迷惑防止条例に抵触(服の上からお尻を触るなど):降格、出勤停止、減給、けん責、戒告
  3. 男女雇用機会均等法に抵触(性的な言動など):降格、出勤停止、減給、けん責、戒告
  4. 法令には抵触しない(「おばさん」と呼ぶなど):口頭で注意、けん責、戒告

セクハラと言われる行為は、刑法犯に該当する行為から性的発言まで幅広く存在します。これまでは、性的発言のみでは懲戒解雇、諭旨解雇は難しいとされていましたが、最近はセクハラについて厳しく判断される傾向にあり、行為態様、頻度によっては懲戒解雇や諭旨解雇を有効とする事例が出てくると思われます。セクハラを理由に懲戒処分を検討する場合には、上記のポイントを踏まえて慎重に判断しましょう。

3 プライベートでの問題行動への対応

1)飲酒運転などの犯罪行為をした

会社の信用を失墜させた場合などでなければ、プライベートの問題行動で懲戒処分にするのは難しいです。例えば、飲酒運転の場合、次の項目を確認してみましょう。

  1. 会社がトラックやタクシーなどの運送業を営んでいるか
  2. 問題社員が運転業務に従事しているか
  3. 刑事処分を受けたか
  4. 事故(人身事故など)を発生させたか
  5. 報道などで社名が出るなどし、会社の社会的信用が毀損されたか

1.から5.までの要素を検討し、仮にこれらに該当する場合、懲戒解雇などの重い処分が認められる可能性があるでしょう。

2)近隣住民とトラブルを起こした

犯罪に該当しない近隣住民とのトラブルは、基本的に懲戒処分の対象になりません。会社が管理する社宅でのトラブルについても、社員のプライベートな時間であるため、基本的に会社が介入することはできません。

例外として、社宅の利用や施設に影響を及ぼすトラブルであれば、事前に社宅利用規程などに決めておくことで、その範囲内で対応できますが、懲戒処分は限定的になるでしょう。

以上(2023年12月更新)
(監修 弁護士 田島直明)

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画像:M-Production-shutterstock

優秀な社員を慰留しただけでトラブルになる?

1 退職にトラブルはつきもの?

皆さんは、退職した社員や解雇した社員とトラブルになったことはありませんか? 例えば、次のようなケースです。

  • 社員を慰留したら、「会社が退職させてくれない」と外部の労働組合に駆け込まれた
  • 自己都合退職で合意したはずなのに、退職後に会社都合退職を主張してきた
  • 懲戒解雇した社員の退職金を不支給にしたら、「不当だ」と訴えられた

よほど円満でなければ、社員は会社に恨みを持っていることがあり、会社を去って関係がなくなる機会に、それが爆発するわけです。世知辛い話ですが、こうしたトラブルはある程度は仕方がないと割り切り、

トラブルになっても「会社は正しい対応をした」と主張できる行動をすることが大切

です。以降で、法令や裁判例に基づく対応のポイントを紹介するので、確認していきましょう。

2 退職の慰留交渉はどこまで大丈夫?

会社が社員の退職を止める権利はありません。民法や労働基準法では、

  • 無期労働契約の場合、退職の申し入れをしてから2週間が経過したとき
  • 有期労働契約(一定の事業完了に必要な期間を定めるものを除く)の場合、契約期間が1年を超えた後に退職の申し入れをしたとき

に社員はいつでも退職できるとされています。一方、会社からすれば優秀な社員が退職するのは痛手なので慰留交渉をします。その際、

最終的に社員が自由に決定できるなら、慰留しても問題ない

ことになります。ただし、

社員の意思決定を不当に妨げるのは違法

です。具体的には、

  • 暴行、脅迫、監禁などの不当な手段を用いて、社員を強制的に働かせる(強制労働)
  • 暴言を浴びせたり、無視したりして心理的に追い詰める(ハラスメントなどの不法行為)
  • 「退職するなら賃金や退職金は支払わないし、年次有給休暇の消化も認めない」などと迫る(労働基準法における労働者の権利の行使を不当に妨げる行為)

などをしてはいけません。

3 社員以外の者と退職交渉をしても大丈夫?

社員の退職届を受理しないなど、問題を先送りするような対応をしてはいけません。業を煮やした社員が、労働組合や弁護士に会社との交渉を依頼することがあるからです。

労働組合、弁護士、法定代理人など法令に定めのある者は、社員の代わりに退職交渉をする権限

を持っており、交渉を申し込まれたら必ず対応しなければなりません。そうなると、当事者だけなら折り合えた問題が複雑になることもあります。

なお、最近は会社に「退職したい」と言えない社員などが、弁護士や労働組合に当たらない民間の退職代行サービスを使って退職を申し出てくることがあります。ですが、こうしたサービス業者には、退職交渉をする権限はありません。あくまで社員と交渉する必要があります。

4 退職届があれば、退職理由は「自己都合退職」でいい?

社員が離職票の交付を希望する場合、会社は管轄のハローワークに離職証明書を提出します。離職証明書には、会社都合退職か自己都合退職かを記載します。ただ、退職理由は、

  • 会社都合退職:雇用保険給付が増えるなど、社員にとって好ましい
  • 自己都合退職:会社に落ち度がないことを示せるなど、会社にとって好ましい

といったように双方の思いが交錯します。とはいえ、これを偽るのは問題で、たとえ「社員の雇用保険給付を増やしてあげたい」と自己都合退職を会社都合退職にした場合でも、雇用保険給付の不正受給、刑法上の詐欺罪などに当たる恐れがあります。

つまり、ありのままの状態で判断しなければならないのですが、判断が難しいケースもあります。例えば、社員が「一身上の都合により退職します」と退職届を会社に提出した場合は一般的には自己都合退職ですが、

社員が退職勧奨を受け、退職届を提出するよう促された場合などは会社都合退職

になります。また、有期労働契約が社員の希望に反して更新されない場合、

「契約を更新する」ことを示していれば会社都合退職、そうでなければ自己都合退職

になります。

ここでは、参考として会社都合退職と自己都合退職の基本的なケースを紹介します。

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5 退職金の不支給・減額は認められる?

退職金の不支給・減額を行うには、合理的で社会的に相当な理由が必要です。この点、就業規則に定めがあれば、懲戒解雇する社員の退職金を不支給にしても問題ないように思えます。

ですが、過去の裁判例では、

懲戒解雇であっても、退職金を不支給とすることは、長年の勤続の功を打ち消す重大な背信行為がなければ合理的とはいえないので、減額などにとどめるべき

としたもの(東京高裁平成15年12月11日判決)もあり、注意が必要です。ちなみに、この裁判では、痴漢行為が原因で懲戒解雇された社員の退職金を不支給としたことで会社と社員が争いになり、最終的に70%の減額が妥当と判断されました。

また、会社都合退職よりも自己都合退職の場合の退職金を低くすることはよくありますが、これは、社員の定着率を高める上で合理性があると考えられており、問題となるケースは少ないようです。

6 賞与の不支給・減額は認められる?

賞与の不支給・減額を行う場合も、合理的で社会的に相当な理由が必要です。例えば、賞与支給日に在籍していない社員には賞与を支給しない「支給日在籍要件」は、合理的かつ社会的に相当であるとされています。なお、就業規則等の定めは必要です。

悩ましいのは、賞与支給日には在籍しているが、その後間もなく退職する社員です。この点について、過去の裁判例では、

  • 賞与は、社員の将来への期待を込めて支給するものなので、減額自体は違法ではない
  • ただ、社員の実績評価に基づいて支給するものでもあるので、大幅な減額は公序良俗に反する

としたもの(東京地裁平成8年6月28日判決)があります。ちなみに、この裁判例では、賞与を通常の82%以上減額したことで会社と社員が争いになり、最終的に減額は通常の20%までが相当と判断されました。

7 退職する社員に研修費用の返還を請求してもいい?

社員の資格取得の費用を補助したのに、社員が資格を取得した後に退職してしまうことがあります。会社としては、研修費用を返還してほしいところですが、例えば

就業規則等に「資格取得後○年以内に自己都合により退職する場合、研修費用の全額を返還しなければならない」といった定めをすると、労働基準法の「賠償予定の禁止」に抵触する恐れ

があるので注意が必要です。

もっとも、研修費用の返還について会社と社員が合意していれば、返還請求が認められることもあります。例えば、

研修費用をいったん会社が立て替え、資格取得後、社員が一定期間勤務した場合に、費用の返還を免除する

といった形で合意することがあります。こうした合意が「賠償予定の禁止」に抵触するか否かについては、次の3点を基に判断されます。

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ちなみに、過去の裁判例では、

研修内容が業務上必要なものである場合、その費用は会社が負担すべきで、社員に請求するのは不当である

と判断されたもの(東京地裁平成10年3月17日判決)があります。

以上(2023年12月更新)
(監修 弁護士 坂東利国)

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画像:photo-ac

【朝礼】大谷翔平選手の入団会見に学ぶ「勝つ」ことが一番大事

皆さん、おはようございます。今日が2023年最後の朝礼です。2023年、私から皆さんへの最後のメッセージは「勝つ」ことへのこだわりです。

私たちは営利法人ですから、利益を上げなければ生き残れません。つまり、倒産です。帝国データバンクなどの信用調査会社の発表では、2023年の倒産件数は増加傾向にあるそうです。倒産してしまう理由はさまざまでしょうが、その一つには、コロナ禍の企業延命措置として実施されたゼロゼロ融資の返済があります。コロナは私たちだけで解決できるものではありません。私がマネジメントスクールに通っていたとき、企業を取り巻く環境には、外部環境と内部環境があり、外部環境の変化には抗いにくいと教えられました。コロナはもちろん、不安定な国際情勢や物価高は、私たちだけの力で変えることができない外部環境です。

ただし、「外部環境だから仕方ない」とその変化に流されるだけでは、会社は倒産してしまうでしょう。外部環境が目まぐるしく変化する中でも、私たちは勝つことに執着しなければなりません。

そのことを改めて教えてくれたのは、あの大谷翔平選手です。日本時間で12月15日の朝に大谷選手のドジャース入団会見が行われました。その内容はテレビなどで放送されましたし、あっという間にSNSで拡散され、ネットニュースも数多く出ました。いつも通りの真摯でありつつも、ユーモアを交えた「大谷節」が繰り広げられる中、私が最も心を打たれたのは、大谷選手がドジャースを選んだ理由です。

会見の中で、ドジャースの首脳陣が大谷選手に「この10年間を成功だと思っていない」と伝えたことが明らかになりました。ドジャースは優れた成績を残している名門チームで、ポストシーズンには11年連続で進出しています。ただ、その間にワールドシリーズで優勝したのは、コロナ禍のために試合数の削減などの特別ルールが設けられた2020年の1回だけです。

見方によっては、ドジャースの成績は十分に素晴らしいものです。しかし、首脳陣はさらなる高みを目指していて、その姿勢が大谷選手に響いたのでしょう。大谷選手も「勝つことが今の僕にとって一番大事」と語っており、勝ちにこだわるそれぞれの思いが合致したのだと私は感じました。

ここ数年、「勝つ」ということに対する意識が変わってきたと感じることがあります。勝つ側がいれば負ける側もいるわけで、それを「優劣」に置き換えるのを問題とする意見もあるからです。しかし、大谷選手や私たちの「勝つ」とは、相手をボロボロに打ちのめすことではありません。自身の想いに正直になり、夢を叶えることこそが「勝つ」ことに他なりません。

2023年の成功と失敗を糧として、2024年、私たちは「勝つことに貪欲な組織」になります。その先には、素晴らしい未来が待っていることでしょう。

以上(2023年12月)

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画像:Mariko Mitsuda

企業年金や職場つみたてNISAなど、社員自身が運用できる資産形成の制度

1 社員にとって“身近”な「自分で資産を運用できる制度」

多くの会社の退職金制度は、長く勤めた分だけ支給額が多くなる年功型の制度設計になっています。昔は、こうした制度の存在が人材定着に一役買っていたのですが、最近では「もう社員が定年まで働く時代じゃないから」と、制度自体を廃止する会社が少なくありません。

ただ、もしかしたら、退職金制度が人材定着につながりにくいのは、

そもそも制度自体が、社員にとってあまり“身近”でないから

かもしれません。中小企業の多くは、退職一時金(退職金を一括で支払う制度)を導入していますが、実際に退職するタイミングになって初めて支給額が分かるケースが多く、在職中の社員はなかなか制度の存在を意識しません。逆に言うと、社員が日ごろから存在を意識するような制度設計になっていれば、あるいは今の会社で長く働くモチベーションになるかもしれません。

そこで、この記事では、退職金制度を社員にとってより“身近”なものにするために、

社員が「自分で資産を運用できる制度」を導入すること

をご提案します。「自分で資産を運用できる」とは、一定のルールの範囲内で、拠出を増やしたり、希望する時期に資産を引き出したりできるという意味です。

退職金制度では企業年金(DB、企業型DC)がこれに該当しますが、退職金制度以外にもiDeCo、財形貯蓄、職場つみたてNISAなど、自分で資産を運用できる制度がある

ので、併せて紹介します。

「人生100年時代」といわれるほどの高齢化社会や、先行き不透明な経済情勢の中で、将来の生活に不安を抱えている社員は多いですから、こうした制度のニーズは一定以上あるはずです。特に職場つみたてNISAは、2024年1月の制度改正でより社員が使いやすい制度に変わりますので、この機会にご確認ください。

2 企業年金で資産形成

企業年金は、退職金を年金形式で支払う制度のことで、広く知られているのは「DB(確定給付企業年金)」「企業型DC(企業型確定拠出年金)」です。ちなみに、確定給付は「給付額が決まっている」、確定拠出は「掛金が決まっている」という意味です。なお、この他に「厚生年金基金」という企業年金もありますが、現在は実質廃止されているのでここでは割愛します。

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DBも企業型DCも、会社が掛金を積み立て(社員が追加拠出することも可)、運用に応じて拠出時・運用時・受給時に税制優遇を受けられる制度です。大きな違いは給付額のルールで、

  • DBは、給付額があらかじめ決まっているので、予定通りの運用ができない場合、会社が追加の拠出をしなければならない。社員にとっては安心だが、会社の負担が大きくなるリスクもある
  • 企業型DCは、給付額が社員の運用成績で決まるので、予定通りの運用ができなくても、会社は責任を負わない。社員は運用に成功すれば退職金を増やせるが、失敗すれば元本割れで減るリスクもある

という違いがあります。

どちらも難点なのは、資産を引き出せるのが原則60歳以降で、資産の流動性があまり高くない点です。途中引き出しは認められていますが一定の要件を満たさなければならず、また60歳以降に引き出す場合と違って、受給時の税制優遇が受けられないというデメリットがあります。

3 iDeCoで資産形成

iDeCo(イデコ)は、社員が自分で掛金を拠出して運用し、60歳以降に受け取る個人型の確定拠出年金です。また、iDeCoの中には、

拠出限度額の範囲内(月額5000円以上、2万3000円以下)で、iDeCoに加入する社員の掛金に追加して、会社が掛金を拠出できる「iDeCo+(イデコプラス)」

という制度があります(正式名は「中小事業主掛金納付制度」)。

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iDeCoも企業年金と同じく、拠出時・運用時・受給時に税制優遇が受けられます。これに加えてiDeCo+も利用できる場合、会社が掛金を拠出してくれるので、社員は自身の出費を抑えながら、資産形成を図れます。

また、会社のほうは、iDeCo+で拠出した会社負担分の掛金を全額損金に算入できます。個人の運用をサポートする制度なので、事務負担も通常の退職金制度より軽減できます。ただし、

  • 対象は、社員(厚生年金の被保険者)が300人以下で、企業年金(DB、企業型DC、厚生年金基金)を実施していない中小企業に限定される
  • 導入するには、過半数労働組合(ない場合は過半数代表者)の同意が必要になる
  • 会社が、掛金(社員拠出分と会社拠出分)をまとめて実施機関に納付する必要がある(社員拠出分の掛金は、給与天引き)

といった点に注意が必要です。

iDeCo(iDeCo+)も企業年金と同じく、資産の流動性が高くないのが難点です。途中引き出しは原則不可で、基本的に60歳以降にならないと資産を引き出せません。途中引き出しに重点を置くのであれば、この後に紹介する財形貯蓄制度や職場つみたてNISAは、基本的にいつでも資産を引き出せるのでお勧めです。

4 財形貯蓄制度で資産形成

財形貯蓄制度は、毎月一定の額を給与天引きなどで積み立て、社員が目的に応じて、積み立てたお金を任意のタイミングで払い出す制度です。一般財形貯蓄、財形住宅貯蓄、財形年金貯蓄の3種類があります。

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一般財形貯蓄は、使用目的も引き出し時期も自由なので、社員にとっては利用しやすい制度です。一方、税制優遇の面では財形住宅貯蓄、財形年金貯蓄のほうがメリットは大きいですが、この2種類は制度としての柔軟性には欠けます。

なお、社員の転職時などには、積み立てを停止して払い出す必要がありますが、転職先の会社でも同じ財形貯蓄制度を運用していれば、転職先の財形貯蓄制度に資産を引き継げます。

5 職場つみたてNISAで資産形成

NISAは、「NISA口座」と呼ばれる口座を使って個人が株式投資などを行った際、一定の範囲内で得た利益が非課税になる制度です。通常、投資で得た利益には約20%の税金がかかりますが、NISA口座で投資すれば税金はかからなくなり、その分のお金で資産形成ができます。

このNISAの中に、会社が社員のNISA口座の開設や株式などの購入手続きを支援する「職場つみたてNISA」という制度があります。職場つみたてNISAでは、会社と契約したNISA取扱業者が選定する金融商品の中から、社員が投資対象を指定して投資を行います(金融商品は毎月同額購入、投資資金は給与天引きなどで支払い)。2024年1月から投資の非課税限度額(年間)などのルールが大きく変わるので、制度改正前後を比較しながら、概要を確認してみましょう。

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現行の職場つみたてNISAは、上場株式、ETF、投資信託、REIT等を運用対象とする「一般NISA」と金融庁が厳選した一定の投資信託を運用対象とする「つみたてNISA」について、年間160万円の範囲内で、投資の運用益が非課税になります。2024年1月からは、それぞれ名称が「成長投資枠」「つみたて投資枠」と変わり、上限額が年間360万円と大幅に増えます。

運用面では、元々いつでも資産を引き出せるというメリットがありましたが、今回の制度改正で最長20年間とされていた運用期間が「無期限」に変更され、より利用しやすくなります。

以上(2023年12月更新)
(監修 社会保険労務士法人AKJパートナーズ)

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画像:FancyCrave

痴漢で逮捕された問題社員をすぐに解雇できるのか?

1 判断が難しい「犯罪行為」の懲戒処分

懲戒処分とは、

職場規律や企業秩序に違反した社員に対し、会社が行う制裁(戒告、減給、懲戒解雇など)

です。会社があらかじめ就業規則で「懲戒事由」を定めていて、社員がその懲戒事由に該当した場合、就業規則に従って懲戒処分を課すことが認められています。

ただし、労働契約法では

社員が起こした違反行為に比して、重すぎる懲戒処分は課せない

と定められています。特に痴漢や飲酒運転のような犯罪行為の場合は要注意。「犯罪に手を染める社員なんてけしからん! 懲戒解雇だ!」と重い処分に傾きがちですが、裁判ではそうした懲戒処分が「重すぎる」として無効になったケースが少なくないのです。

この記事では、犯罪行為をした社員の懲戒処分を検討する際のポイントとして、

  1. 就業規則の懲戒事由を確認する
  2. 懲戒処分の種類と考慮要素を押さえる
  3. 犯罪行為の懲戒処分に関する裁判例を知る

の3つを紹介します。

2 就業規則の懲戒事由を確認する

大前提として、就業規則や社員との労働契約に懲戒事由に関する定めがない場合、懲戒処分は認められません。また、定めがあっても、社員の違反行為と合致する内容になっていなければ、やはり認められません。これは、労働契約法に「合理的な理由がなく、相当ではない懲戒処分は無効とする」という定めがあるからです。

犯罪行為に対して懲戒処分を課す場合、懲戒事由の書き方の例は次の通りです。

  • 暴行、脅迫、傷害その他犯罪行為によって著しく社内の秩序を乱したとき
  • 不正不義の行為によって会社の名誉・体面を汚したとき
  • 刑罰に触れる行為をしたとき

会社によっては、「刑事裁判において有罪判決を受けたとき」と定めている場合がありますが、この書き方だと、社員が全面的に罪を認めていても、実際に有罪判決を受けるまでは懲戒処分を課すことができないので好ましくありません。

なお、就業規則を確認する際は、懲戒事由と併せて、

「懲戒処分を検討する際、社員に弁明の機会を与える」旨の規定があるか

もチェックしておきましょう。適正な手続きを踏んでいない懲戒処分は、「相当ではない」として無効になる恐れがあるからです。

3 懲戒処分の種類と考慮要素を押さえる

一般的に、懲戒処分には次の7種類があります。1.の戒告が最も軽い処分、7.の懲戒解雇が最も重い処分です。

  1. 戒告:厳重注意を言い渡す
  2. けん責:始末書を提出させ、将来を戒める
  3. 減給:一定期間、賃金支給額を減額する
  4. 出勤停止:数日間、出勤することを禁じ、その間は無給とする
  5. 降格:役職の罷免・引き下げ、または資格等級の引き下げを行う
  6. 諭旨解雇:退職届の提出を勧告した上で、退職届の提出がなければ解雇とする
  7. 懲戒解雇:即時に解雇する

前述した通り、社員の違反行為に対して、重すぎる懲戒処分は課せません。犯罪行為に対する懲戒処分の内容が妥当かどうかは、次のような要素に照らして判断されます。

  • 当該行為の動機、内容、結果(犯罪行為の種類や程度、故意または過失の度合い、被害の重大性など)
  • 業務への影響(免許取り消しで運転業務が行えず、他の社員の負担が増したなど)
  • 社員の勤務歴、過去の処分歴、反省の様子
  • 当該行為に関する会社側の要因の有無 など

犯罪行為の場合、こうした要素に照らして判断しますが、難しいのが「私生活上の犯罪行為」です。会社は本来、社員のプライベートには介入できないため、原則として懲戒処分は行えません。ただし、例外として、

会社の社会的評価に重大な悪影響を与える場合に限り、私生活上の犯罪行為であっても懲戒処分は可能

とされています(最高裁第二小法廷昭和49年3月15日)。社会的評価に重大な影響を与えるかどうかは、次のような要素に照らして判断されます。

  • 会社の事業の種類・態様・規模
  • 会社の経済界に占める地位、経営方針
  • 社員の会社における地位・職種 など

4 犯罪行為の懲戒処分に関する裁判例を知る

1)痴漢行為

1.懲戒解雇(有効)

鉄道会社の職員が、電車内で痴漢行為をして懲戒解雇された事案(東京高裁平成15年12月11日判決)では、次の点などから「懲戒解雇は妥当である(有効)」と判断されました。

  • 職員は本来、電車内の迷惑行為を防止する立場にあった
  • 本事案の半年前にも、痴漢行為で罰金刑に処せられ、昇給停止・降職の処分を受けていながら、再び痴漢行為に及んだ

2.諭旨解雇(無効)

鉄道会社の職員が、電車内で痴漢行為をしたとして諭旨解雇された事案(東京地裁平成27年12月25日判決)では、次の点などから「諭旨解雇は重すぎる(無効)」と判断されました。この裁判例の事案では、自社の電車内で痴漢行為を行った事案であることから、結論に批判もありますが、諭旨解雇が無効になる場合があるという点について参考となります。

  • 職員の勤務態度に問題はなく、過去に懲戒処分を受けたこともなかった
  • 事件の報道や社外からの苦情等の事実が認められず、会社の社会的評価に大きな影響を与えたとはいえない

2)飲酒運転

1.懲戒解雇(有効)

貨物自動車運送業のセールスドライバーが、業務終了後に飲酒運転をして懲戒解雇された事案(東京地裁平成19年8月27日判決)では、次の点などから「懲戒解雇は妥当である(有効)」と判断されました。

  • 会社は大手の貨物自動車運送業者であり、飲酒運転が社会的評価に及ぼす影響は大きい
  • 会社の業種に照らすと、率先して交通事故防止に努力するという企業姿勢を示すために、飲酒運転に懲戒解雇という重い処分を課すことには妥当性がある

2.懲戒免職(無効)

市の職員が、休日に飲酒運転をして懲戒免職された事案(大阪高裁平成21年4月24日判決)では、次の点などから「懲戒免職は重すぎる(無効)」と判断されました。

  • 検知されたアルコールの量が道路交通法違反となる水準としては最下限で、運転時間も走行距離もごく短く、事故なども起こしていないため悪質性が高いとはいえない
  • 100名を超える市民から嘆願書が提出されており、公務員への信頼という観点からして地域社会に与えた悪影響も多大とまではいえない
  • 職員の勤務態度に問題はなく、過去に懲戒処分を受けたこともなかった
  • 飲酒運転の事実を、翌日すぐに職場に報告しているなど、反省が見られる

以上(2023年12月更新)
(監修 三浦法律事務所 弁護士 磯田翔)

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画像:BortN66-shutterstock

ChatGPTなど生成AIでも注目される著作権制度。2024年以降の法改正で何が変わる?

1 押さえておくべき改正内容は3つ

著作権法では、書籍、楽曲、映画、ソフトウェアなどの「著作物」を創作した著作者には、

  • 著作権(著作財産権):著作物を勝手に複製されたり、配信されたりしない権利
  • 著作者人格権:著作物を勝手に公表されたり、内容を変更されたりしない権利

が認められます(著作権(著作財産権)については、著作者以外への譲渡も可)。また、著作者ではないものの、著作物を伝達する上で重要な役割を担うレコード製作者や放送事業者には、

  • 著作隣接権:著作物を複製したり、二次使用料を受けたりできる権利

が認められます。これらをまとめて「著作権等」、その権利者を「著作権者等」といいます。

まだインターネットがなかった昔、著作権等に関わりがあるのは、基本的にレコード製作者や放送事業者などの「プロ」だけでした。ですが、今はウェブサイトやSNSで誰もが簡単に情報を発信でき、誰もが著作権等の当事者になり得ます。

一方、最近はChatGPTなど、いわゆる「生成AI」が登場したことで、「AIが作った生成物に著作権等は認められるのか」「既存のイラストなどをベースにAIが画像を生成した場合、著作権等の侵害にならないか」など、新しい議論が起きています。著作権等の内容は、時代とともに複雑化しているのです。

そのような中、「デジタルトランスフォーメーション(DX)時代に対応した著作権制度の見直し」というテーマで、2023年5月26日に改正著作権法(以下「改正法」)が公布されました。改正内容は次の3つで、2024年1月1日から随時施行されます。対象者が限られる法改正もありますが、一般常識として動向を押さえておいたほうがよいでしょう。以降で概要を紹介します。

  1. 海賊版被害による損害賠償額の算定方法が見直される(2024年1月1日施行)
  2. 立法・行政組織の内部で著作物の公衆送信等が可能になる(2024年1月1日施行)
  3. 著作物の二次利用に関する新制度が創設される(2023年5月26日から3年以内に施行)

2 海賊版被害による損害賠償額の算定方法が見直される

2024年1月1日から、海賊版(著作隣接権者でない者が、著作物を無断で複製したもの)被害に遭った場合における、侵害者(海賊版サイトの運営者等)に対する損害賠償額の算定方法が変わります。

現行法では、海賊版被害の損害賠償額は

「1.侵害者が販売した数量」×「2.著作権者等が正規品を販売した場合の1個当たり利益」

で算定されます。ですが、この計算式には、

著作権者等の販売等の能力を超える数量は、「1.侵害者が販売した数量」に含まれない

というルールがあります。例えば、侵害者によって映画やソフトウェアの海賊版が100点複製されたとしても、もともと著作権者等に10点しか販売する能力がなければ、90点分については損害賠償を請求できないのです。そのため、海賊版サイト等による被害が深刻化している実態に対し、実際に認定される損害賠償額が低くなりやすいという問題がありました。

この点を踏まえ、2024年1月1日以降は

現行法のルールで算定した損害額に、著作物のライセンス料(使用料)相当額を加算して損害賠償を請求できる

ようになります。例えば、著作権者等に著作物を10点しか販売する能力がなくても、海賊版が100点複製されているなら、90点分についてライセンス料相当額を請求できるイメージです。

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なお、このライセンス料相当額ですが、改正法では、損害賠償の際に著作権が侵害された事実を請求額の考慮に入れることができる旨が明示されています。簡単に言うと、

著作権侵害があったことを前提に、ライセンス料相当額を通常の額(著作権侵害がなかった場合の額)より高く設定してもよい

ということです。具体的にどの程度の増額が認められるのかなどについてはまだ不明瞭ですが、著作権者等にとっては法改正前よりも有利な損害賠償請求が可能になります。

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3 立法・行政組織の内部で著作物の公衆送信等が可能になる

2024年1月1日から、立法・行政組織での内部資料として必要な場合に限り、一定の範囲内で著作物の公衆送信等が認められるようになります。

著作権(著作財産権)の1つに、著作権者が著作物を自分の意思で公衆(不特定多数または特定多数の人)に送信する「公衆送信権」というものがあります。現行法では、第三者が公衆に著作物を送信する場合、著作権者の許諾が必要です。ですが、クラウド保存やオンライン会議での共有などを利用してスピーディーに情報をやり取りしたい場合、許諾の手続きがその妨げになってしまうことがあります。

この点を踏まえ、2024年1月1日以降は、

立法・行政組織での内部資料として必要な場合に限り、必要な範囲に限って、著作権者の許諾がなくても、著作物のクラウド保存、オンライン会議での共有などが認められる

ようになります。具体的には、行政機関における法律案・予算案の審議、施策の企画、立案などの場面で用いられます。ただし、著作物の一部しか必要とされていないのに全部を共有・送信するなど、必要な範囲を超えた運用は認められません。

この改正は立法・行政組織のみを対象としたものです。民間の会社が、第三者の著作物を公衆に送信する場合については、引き続き著作権者の許諾が必要となるので注意が必要です。

4 著作物の二次利用に関する新制度が創設される

2023年5月26日(改正法の公布日)から3年以内に、著作物の二次利用の可否などについて、著作権者等が不明である場合や著作権者等の意思が確認できない場合、一定の手続きを経て、補償金を支払うことによりこれを利用できるようにする新制度が創設されます。施行の具体的な日付は未定です。

現行法では、インターネット上などにある著作物を利用したいものの、「著作権者等が誰か分からない」「どこにいるのか分からない」といった場合、文化庁長官の裁定を受けることでこれを利用することが認められています。ですが、申請してから裁定を受けるまでに約2カ月かかる上に、著作権情報センターウェブサイトに権利者に関する情報提供を求める記事の掲載を依頼しなければならないなど手続きも複雑です。

この点を踏まえ、法改正後は

文化庁長官指定の民間の窓口組織を新設し、利用者はそこに「補償金を供託」することで、合法的かつ迅速に著作物を二次利用できる

ようになります。補償金を「著作物のライセンス料(使用料)」と考えるとイメージしやすいでしょう。先に民間の窓口組織に補償金を払って著作物を利用させてもらい、後になって著作権者等から「自分の著作物が勝手に使われている」と申し出があったら、それまでの利用期間のライセンス料として補償金を支払うというものです。

なお、著作物を利用できるのは最長3年間(再申請することで更新は可能)で、著作権者から申し出があったら、そこから先の二次利用については著作権者と交渉する必要があります。

また、裁定制度の申請受付や要件確認、補償金額の決定に関する事務の一部も民間機関に一元化される予定なので、法改正前よりも利用に係る手続きは簡便かつスピーディーになることが期待されています。

以上(2023年12月作成)
(監修 三浦法律事務所 弁護士 磯田翔)

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