豪雨時の水没リスク(2023/6号)【交通安全ニュース】

活用する機会の例

  • 月次や週次などの定例ミーティング時の事故防止勉強会
  • 毎日の朝礼や点呼の際の安全運転意識向上のためのスピーチ
  • マイカー通勤者、新入社員、事故発生者への安全運転指導 など

近年は、梅雨の時期に大雨による災害が発生することも珍しくありません。集中豪雨やゲリラ豪雨など局地的大雨により、日頃走行している道路が冠水し、自動車が水没するといったリスクが以前より高まっています。

今回は、豪雨により冠水した道路を走行する場合の自動車の水没リスクについて考えます。

豪雨時の水没リスク

1.冠水道路の走行に伴うリスク

都市部などでは舗装面積が多いため、集中豪雨やゲリラ豪雨が発生すると、周囲より低い場所では雨水の排水処理能力が限界を超えてしまい、道路が冠水することがあります。道路が冠水すると、運転者は路面状況が分からず深みにはまったり、側溝へ脱輪したりするおそれがあります。特に周囲に比べて道路の高さが低くなっているアンダーパスでは水没リスクが高く、注意が必要です。

冠水した道路を走行する場合、一般的な自動車はある程度の浸水に耐えられるように設計されていますが、エンジン内部やマフラーに水が入ってしまうと故障するおそれがあります。冠水した道路では水深により自動車に以下のような不具合が生じます。

冠水道路の走行に伴うリスク

出典:国土交通省Webサイト「水深が床面を超えたら、もう危険!-自動車が冠水した道路を走行する場合に発生する不具合について-」より当社作成
https://www.mlit.go.jp/report/press/jidosha08_hh_003565.html

2.水没リスクを回避するために

アンダーパスは全国に3,700箇所ほどあり、 それ以外にも周囲より低く水はけが悪いといった豪雨時に冠水しやすい場所は思った以上に多いものです。 日頃通勤や業務で走行している道路に冠水しやすい場所がないか一度確認しておくのがよいでしょう。

また、気象情報を確認することを習慣にして、集中豪雨やゲリラ豪雨などに関する情報を早期に把握し、予め危険を回避できるようにしておくことが大切です。

・道路冠水想定箇所の確認
 国土交通省「重ねるハザードマップ」
https://disaportal.gsi.go.jp/maps/?ll=36.097938,139.87793&z=7&base=pale&vs=c1j0l0u0t0h0z0

・大雨・洪水の危険度の確認
気象庁「浸水キキクル(危険度分布)」、「洪水キキクル(危険度分布)」
https://www.jma.go.jp/bosai/#pattern=rain_level&area_type=japan&area_code=010000

浸水キキクル

万一の場合に備え、脱出用ハンマーやシートベルトカッターなどの避難用具を車内に常備しておくようにしましょう。避難用具はいざというときに手の届く範囲にあることが重要です。

国土交通省webサイト「いざというときのために、緊急脱出用ハンマーを備え付けましょう!」
https://www.mlit.go.jp/jidosha/carinf/rcl/carsafety_sub/carsafety023.html

3.冠水道路を走行する場合の注意点

道路が冠水するような豪雨時の運転では、無理をしないことが大切です。

やむを得ず冠水した道路を走行する場合は、以下の点に注意しましょう。

  • アンダーパスには入らない。
  • 前車の水しぶきや急停車を想定し、車間距離を十分に取る。
  • 水を巻き上げないように速度を十分落とし、ゆっくりと進む。

アンダーパス

豪雨により短時間で道路が冠水するような場合、水深も急速に増していくおそれがあります。

「これくらいの冠水なら進めるのでは」といった油断は禁物です。

<走行後は>

  • ブレーキの効きが悪くなったと感じたらブレーキを数回踏んでブレーキパッド等を乾かしましょう。
  • エンジンや電気装置が浸水した場合は、故障や車両火災のおそれがあるので、エンジンをかけてはいけません 。ロードサービスや自動車販売店、整備工場等に連絡しましょう。

以上(2023年6月)

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画像:amanaimages

小さな会社が大企業をぶっ飛ばすために知っておくべき「ランチェスター戦略」

書いてあること

  • 主な読者:「ランチェスター戦略」の基本が知りたい経営者
  • 課題:経営資源が限られる中小企業が取るべき戦略が知りたい
  • 解決策:地域・顧客・商品などの戦う領域を絞って市場シェア1位になる

1 中小企業は「ランチェスター戦略」で勝つ

ランチェスター戦略とは、

弱者が強者に勝つための戦略であり、言い換えるなら「中小企業が限られた経営資源で勝ち残るための戦略」

でです。もともとは、第1次世界大戦のときに英国人のフレドリック・W・ランチェスターが導き出した戦い方で、それを第2次世界大戦の際に進化させました。そして、戦後にマーケティングコンサルタントの田岡信夫氏がマーケティング活用などで使えるように体系化したといわれます。

ランチェスター戦略は「勝つための戦略」であり、兵力、つまり経営資源の乏しい中小企業が、いかにして勝ち残っていくかのヒントが多くあります。この記事では、ポイントをまとめています。

2 ランチェスター戦略とは

1)弱者向けの「ランチェスター第一法則」

ランチェスター第一法則とは、刀を持って戦うような接近戦や局地戦で、基本的には1人が1人としか戦うことができない状況を想定した場合、

武器の性能が双方同じであれば、兵力数の勝るほうが勝利する

というものです。

画像1

兵力が小さいB軍が勝つためには、武器効率を上げる必要があります。例えば、B軍が武器効率を1から2に上げることができれば、

2×3(B軍)-1×5(A軍)=B軍は1人が生存

することになり、B軍が勝利します。範囲が限定された戦場で武器効率が同じなら、兵士の数が多いほうが勝つという意味で、ランチェスター第一法則は弱者向きだといえます。

2)強者向けの「ランチェスター第二法則」

ランチェスター第二法則とは、マシンガンや戦闘機を投入して戦うような広域戦や遠隔戦、確率戦で、基本的には1人が複数の敵を狙える状況を想定した場合、

戦闘開始時の兵力数の2乗対2乗の力関係で戦う

というものです。

画像2

ランチェスター第二法則でも、兵力が大きいA軍が勝ちます。しかも、兵力が小さいB軍の損害は圧倒的に大きくなります。ここから分かるのは、

弱者は、ランチェスター第二法則で戦ってはならない

ということです。

以上のランチェスター戦略の第一法則、第二法則から、

  • 武器効率(質)が同じなら、兵力(数)の多いほうが有利
  • 弱者はランチェスター第一法則、強者はランチェスター第二法則で戦うべき

ということになります。

3 弱者とは誰か?

ランチェスター戦略から、中小企業が勝ち残っていくためには、

全国展開よりも地域限定、フルラインアップよりも一点突破で戦うことが望ましい

ということが分かります。

ちなみに、戦闘ではなくビジネスを想定しているランチェスター戦略では、強者=市場シェア1位の企業、弱者=市場シェア2位以下の企業のことを指します。強者=大企業、弱者=中小企業と考えがちですが、例えば、

ある地域に限れば、中小企業が大企業を抑えて、市場シェア1位=強者になる

ことができます。このため、ランチェスター戦略は、弱者が強者になるための戦略を示しているとされます。

ランチェスター戦略では、強者になるためには、

  • ナンバーワン主義
  • 「足下(そっか)の敵」攻撃の原則
  • 一点集中主義

という3つのポイントが重要だとされています。次章で確認しましょう。

4 ランチェスター戦略から導く中小企業の戦い方

1)ナンバーワン主義

ナンバーワン主義とは、

2位以下を圧倒的に引き離して「ナンバーワン」になることを重視した考え方

です。ナンバーワンの目安とは、市場シェアに占める割合が41.7%(安定目標値)以上を指します。ただし、当初から41.7%の市場シェアを占めている必要はなく、まずは強者と弱者の境目とされる市場シェア26.1%(下限目標値)を目指します。そして、ほぼ独り勝ちの状態とされる41.7%を経た後、73.9%(上限目標値)に達することができれば理想的です。73.9%が理想的とされるのは、2位以下に逆転されることがなくなると考えられているためです。

また、ナンバーワンを目指す際は、

  • 地域
  • 顧客
  • 商品

の順で、自社がシェアを確保する余地があるかを検討します。例えば、世界初の画期的な商品をゼロから生み出して市場シェアナンバーワンを目指すよりも、自社製品を限られた地域で販売して市場シェアナンバーワンを目指すほうが容易です。そのため、1.~3.の順でナンバーワンとなる方法を検討するのです。

2)「足下の敵」攻撃の原則

「足下の敵」攻撃の原則とは、

自社がナンバーワンとなるために、まずは自社の1つ下にいる企業から攻撃する

という考え方です。足下の企業は、自社より弱者であり、勝ちやすい相手です。勝ちやすい相手からシェアを奪い、自社の市場シェアが上位の企業と拮抗した時点で対決に挑みます。

この「足下の敵」攻撃の原則で重視されているのが、競争目標と攻撃目標を分けるという考え方です。具体的には、自社よりも市場シェア上位の企業を目標(競争目標)として定めながら、攻撃を仕掛ける相手は自社よりも市場シェアが下位の企業(攻撃目標)とします。

 競争目標と攻撃目標に対する戦い方は異なります。競争目標に対する戦い方は、差別化戦略です。数に劣る自社は、質を高める必要があり、競合先と同じことをしていては勝てません。足下の競合先をたたいた後は、差別化戦略によって質を高め、上位の競合先と戦う必要があります。

一方、攻撃目標に対する戦い方は、ミート戦略(競合先と同じことをする、合わせる)です。同質であれば、数に勝るほうが勝利するため、強者である自社は競合先と同じことをすればよいのです。

3)一点集中主義

一点集中主義とは、

ナンバーワンになるために、一点を決めて集中的に投資する

という考え方です。「1.地域」「2.顧客」「3.商品」の視点から市場を細分化し、自社が強者となることができる、集中的に経営資源を投入していく重点化市場を定めます。

これによって、「兵力的な優位を築き→差別化によって質を高め→収益性が増す余力を生み→その余力で次なる重点化市場を攻略する」というサイクルを生むことができます。ランチェスター戦略では、このサイクルを繰り返しながら、ナンバーワンを目指すのが基本です。

4)重要なのは差別化

以上で紹介した3つの戦い方で重要なのは差別化です。弱者が強者に勝つためには、差別化によって競合先(強者)とは異なる、自社独自の取り組みを実施することが必要です。自社を競合先と差別化する際、市場を細分化し、次の6つの視点から検討します。

  • 製品(Product):例)商品に機能を加えるなど
  • 価格(Price):例)3つ買うと1つ無料とするなど
  • 流通(Place):例)インターネットで販売するなど
  • プロモーション(Promotion):例)手書きのDMを送付するなど
  • サービス:例)アフターサービスを無料で提供するなど
  • 地域:例)自社から片道30分以内の地域だけに配達するなど

差別化を検討する際には、「競合相手よりも、価格を低く抑え、アフターサービスを無料で提供し、地域限定で販売する」など、上記6つの中から3つ以上を組み合わせることが効果的だとされています。

【参考文献】
「世界一やさしいイラスト図解版! ランチェスターNo.1理論—小さな会社が勝つための3つの結論」(坂上仁志、ダイヤモンド社、2013年3月))
「小さな会社の稼ぐ技術」(栢野克己(著)、竹田陽一(監修)、豊倉義晴(取材・執筆協力)、日経BP社、2016年12月)

以上(2023年5月)

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画像:pexels

新型コロナ5類移行にともなう実務上の注意点

令和5年5月8日より、新型コロナウイルス感染症が、感染症法による2類相当から季節性インフルエンザと同様の「5類感染症」に引き下がりました。

厚生労働省が示した「新型コロナウイルス感染症の感染症法上の位置付け変更後の療養期間の考え方等について」によると、新型コロナウイルスに感染した場合は、感染症法に基づき、行政が患者に対し、外出自粛を要請することはなくなり、外出を控えるかどうかは、季節性インフルエンザと同様に、個人の判断に委ねられることになりました。

本稿では、新型コロナウイルス感染症の5類引き下げ以降に労働者が感染した場合の就業措置(労働安全衛生法)と感染または濃厚接触者となった場合の傷病手当金(健康保険法)の請求について、実務上の注意点を解説していきます。

1 労働者の就業に当たっての措置

感染症法によると、1類感染症から3類感染症に罹患した場合は、就業制限の措置をとる必要があるとされています。また、労働安全衛生法では、「伝染性の疾病その他の疾病で、厚生労働省令で定めるものに罹った労働者については、その就業を禁止しなければならない。」とあります。

つまり、2類相当に分類されていた新型コロナウイルスは、労働者が感染した場合、就業制限の措置をとる必要がありました。

感染症法上の類型

(「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」「労働安全衛生法」)

新型コロナウイルスの5類引き下げは、就業制限も撤廃されることになります。労働者が新型コロナウイルスに感染した場合でも、会社として、就業を制限する(就業を禁止する)ことはできなくなるため、今後は、コロナ感染を含む体調不良時には、無理に出社をせず、有給休暇を取得するなど、自主的に休暇が取得できるような労働環境を構築する必要があります。

2 傷病手当金について

5類移行後も、業務外の事由で、新型コロナウイルス感染症に罹患し、労務不能となったときには、健康保険の傷病手当金が請求できます。

傷病手当金支給申請書

(「全国健康保険協会」)

新型コロナに係る傷病手当金の注意点として、令和5年5月7日までの支給申請については、臨時的な取扱いとして、療養担当者意見欄(申請書4ページ目)の証明が不要でしたが、5類に移行したことにより、令和5年5月8日以降の支給申請については、他の傷病による支給申請と同様に、傷病手当金支給申請書の療養担当者意見欄に医師の証明が必要となります。

3 さいごに

法律による就業禁止は、いわゆる「使用者の責に帰すべき理由による休業」には該当しないため、会社は休業補償の支払いをする必要はありません。しかし、今後、新型コロナに感染した労働者に、従来の就業制限を継続していると、法律上「休業手当」の支払いが必要となります。

また、傷病手当金は、労働者本人に自覚症状がなく、家族等が感染し濃厚接触者になった場合、労働者自身が労務不能と認められない限り、給付の対象とはなりません。

こうした状況下においても、労働者を無理に出社させることは得策ではなく、今後は、職場での感染拡大を阻止するために、新たなルール作りが求められるでしょう。

※本内容は2023年5月15日時点での内容です

(監修 社会保険労務士法人 中企団総研)

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画像:photo-ac

新型コロナ5類移行にともなう実務上の注意点

令和5年5月8日より、新型コロナウイルス感染症が、感染症法による2類相当から季節性インフルエンザと同様の「5類感染症」に引き下がりました。

厚生労働省が示した「新型コロナウイルス感染症の感染症法上の位置付け変更後の療養期間の考え方等について」によると、新型コロナウイルスに感染した場合は、感染症法に基づき、行政が患者に対し、外出自粛を要請することはなくなり、外出を控えるかどうかは、季節性インフルエンザと同様に、個人の判断に委ねられることになりました。

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日本の歴史人物(斎藤道三)

1 親子二代にわたる下克上 戦国時代の申し子「斎藤道三」

 「権謀術数(他人を巧みに欺く策略)」に長け、仕えた主君を次々に倒してのし上がったといわれる斎藤道三。かつては、油売りから大名へと、道三が一代で上り詰めたと考えられていましたが、近年の研究では父・長井新左衛門尉と親子二代をかけて国盗りを成し遂げたことが分かってきました。

 道三は、したたかに相手の懐に入り込み、自身の才能と非道な謀略でのし上がりました。しかし、道三は自分の息子によって殺されるという非業な最期を遂げました。

斎藤道三(および父・長井新左衛門尉)の生涯

2 道三の有名エピソード

 道三にまつわるエピソードには諸説ありますが、この記事では代表的なものを紹介します。

1)油売りとして情報を集め、人心を掴む

 道三の父・新左衛門尉は、幼い頃に京都の妙覚寺に預けられましたが、成長すると還俗し、油売りの家に入り婿として入りました。

 当時の油売りは、諸国を自由に往来できるため情報収集がしやすく、野心的で優秀な人が集ったそうです。中でも新左衛門尉は、高くかざした柄杓から一文銭の穴を通して油を注ぐなど、大道芸じみたパフォーマンスで人気を得たといわれています。

 その後、新左衛門尉は、美濃守護家土岐氏の家老・長井長弘と知り合い、その長弘を通じて土岐頼芸に引き合わせられました。そして、頼芸に気に入られた新左衛門尉は、長井家の家老に引き立てられていきます。

 新左衛門尉が長弘と出会った経緯は分かっていませんが、恐らく偶然もあったでしょう。運を引き込み、チャンスをものにするには、日ごろからチャンスを狙い、人の心をつかみ続ける才覚が必要です。さまざまな情報を集め、人の懐に入り込む新左衛門尉のしたたかさは、油売り時代の経験によって鍛えられたのではないでしょうか。

2)「美濃のマムシ」の実力

 新左衛門尉と道三の親子が「美濃のマムシ」と呼ばれるようになったのは、主君を押しのけ、その地位を略奪する冷徹さがゆえんです。新左衛門尉は、自分と頼芸を引き合わせた長弘が謀反を企てていると頼芸に讒言(ざんげん)し、長弘を妻と一緒に殺害しました。

 しかし、同年新左衛門尉は亡くなってしまいます。跡を継いだ道三は、頼芸の兄・政頼を追放して頼芸を守護大名の地位に就けますが、結局は頼芸も美濃から追放してしまいます。

 すると、政頼が頼った越前の朝倉氏、頼芸が頼った尾張の織田氏(信長の父)らが2度にわたって美濃を進攻しました。家督争いで弱体化した美濃なら倒せると思ったのかもしれませんが、道三は難攻不落の稲葉山城でもって、これを退けます。

 その後、道三は娘・帰蝶(濃姫)を信長に嫁がせ、同盟を結んで美濃の支配を安定させます。それをきっかけに信長に出会った道三は、当時「うつけ者」といわれていた信長の類いまれな才能を見抜いたといわれています。

斎藤道三

3)最期は息子に殺される

 戦国時代は目上の者を引きずり降ろしたり、親子や兄弟で争ったりすることありましたが、それでも周囲の反感を買うことは避けられません。道三はそうした中でも実力で敵を退け、上り詰めていきました。

 しかし、そんな道三も、最終的には自分の息子に殺されることになります。道三は嫡男・義龍を冷遇していました。義龍の母はもともとは頼芸の妾であり、義龍の本当の父親は頼芸であるという噂があったことが、確執の原因ともいわれます。

 そうした確執を収拾するため、道三は一旦隠退することにします。しかし、家督を義龍に譲った後も、道三は義龍を排除して、別の息子に跡を継がせようと画策しました。そうした道三の動きを察知した義龍は、2人の弟を殺害し、最終的には長良川の戦いで道三をも討ちました。周囲からの恨みを買っていた道三に味方するものは少なく、この戦いの義龍の戦力は道三の7倍近かったといわれます(明智光秀は道三側として戦ったといわれています)。

 敵から領土と家臣を守り、大名家を存続させるためには、身内同士の結束は不可欠です。自分の主君を裏切って成り上がった道三には、息子たちに結束を固めるよう促すのは難しかったのかもしれません。

【参考】
山川出版社「戦国大名 歴史文化遺産」(五味文彦監修)
成美堂出版「戦国の合戦と武将の絵事典」(高橋伸幸(著)、小和田哲男(監修))

以上(2023年5月更新)

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日本の歴史人物(明智光秀)

1 「謀反の逆臣」はつくられたイメージ? 謎が多い「明智光秀」

光秀といえば、自分を重臣に取り立ててくれた織田信長を本能寺で自害させた「裏切り者」として有名です。さらに、その本能寺の変からたった11日後の山崎合戦で豊臣秀吉に敗れた「三日天下」でも知られています。

こうしたマイナスイメージの多い光秀ですが、実は光秀の人生は謎が多く、生誕年や父親の名前、そして信長を裏切った動機などはほとんど分かっていません。近年研究が進められており、後世にできた創作と実在した光秀とは違う一面が少なくないようです。

明智光秀の生涯

2 光秀の有名エピソード

光秀にまつわるエピソードには諸説ありますが、この記事では代表的なものを紹介します。

1)光秀の誕生年は、江戸時代の物語が出所?

光秀の歴史的な資料は、その多くが本能寺の変や山崎合戦に関するもので、1568年に足利義昭(室町幕府・最後の将軍)に臣従した以前のことはほとんど分かっていません。

1528年生まれといわれていますが、これも光秀が亡くなってから100年以上後に書かれた伝記「明智軍記」が基になっています。「明智軍記」は歴史書というよりは物語であり、信ぴょう性が疑問視されていますが、他に信頼できる資料がないことなどから、現在でも通説として定着しています。

これに対し、最近は光秀の誕生年は1516年だとする、新たな説が出てきています。ただし、細川忠興に嫁いだ娘の玉(ガラシャ)が1563年生まれと、47歳のときの子どもとなることや、信長よりも20歳も年上になることなどから、現在も1528年生まれ説が有力のようです。

2)非情? 良識人? 比叡山焼き討ちの功労者の見えない素顔

信長の苛烈さを象徴して語られることの多い「比叡山焼き討ち」。司馬遼太郎「国盗り物語」などの影響で、光秀は比叡山焼き討ちに反対したイメージが強いかもしれませんが、実際は光秀が中心となって攻め落としたようです。その功績を認めて、信長は光秀に比叡山延暦寺の遺領を与え、自分の城を築くことも許可しています。この時期の光秀は、共に信長に仕えた秀吉よりも信長の信頼を得ていたともいわれています。

では、光秀は「裏切り者」のイメージ通り、非情な人物だったのかというと、一概にそうともいえません。領内となった比叡山延暦寺に対し、穏便な対応をしたという伝承や、光秀が治めた京都・福知山の地では善政を敷いた領主として慕われていたという伝承が現代にも残っています。

3)最大の謎「なぜ本能寺の変を起こしたのか」

光秀のイメージを決定付けている「本能寺の変」にも謎が残されています。信長を討った理由が分かっていないのです。

信長のパワハラに対する「怨恨説」、下克上をして天下統一を企てた「天下取り野望説」、朝廷の高官に唆された「朝廷黒幕説」など、さまざまな説がありますが、極秘で進められた計画のためか、資料がほとんど残っていません。

これらの中で、近年有力になりつつあるのは「長宗我部元親関与説」です。これは、光秀の重臣・斎藤利三の妹が嫁いだ長宗我部元親の四国全土の所領を信長が認めると約束したものの心変わりをしたため、元親が光秀に信長を討たせたという説です。

歴史の真実を知るのは難しいことですが、光秀は秀吉とライバル関係にあったこともあり、「勝者の歴史」から切り落とされた部分もあるかもしれません。光秀がどういう思いで主人である信長を討ったのか、手掛かりになる資料が発見されることが望まれます。

明智光秀

【参考】

  • 吉川弘文館『明智光秀 (人物叢書)』(高柳光寿)
  • 河出書房新社『光秀からの遺言 本能寺の変436年後の発見』(明智憲三郎)
  • NHK出版『麒麟がくる 明智光秀とその時代』(NHKシリーズ NHK大河ドラマ歴史ハンドブック、2020年1月)

以上(2023年5月)

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画像:Hick-Adobe Stock
画像:いらすとや

【朝礼】家に諌(いさ)むる子あればその家必ず正し

皆さん、日々の仕事は順調ですか。仕事を順調に進めるためには、上司や同僚・部下との協力が必要不可欠です。もし、何かうまくいかないことがあれば、そういう人たちからアドバイスを受けることです。具体的な解決策を教えてくれるかもしれませんし、叱咤(しった)激励されるかもしれません。

本日は皆さんに、「家に諌(いさ)むる子あればその家必ず正し」という言葉を紹介します。

これは、中国の思想家・孔子(こうし)の教えに基づいた「孝経(こうきょう)」という書物にある故事成語です。読んで字のごとく、家に過ちを指摘する子供がいればその家は正しい方向に向かう、という意味です。

ここで、「家」を「会社」、「子」を「社員」と読み替えてみましょう。「会社に諌(いさ)むる社員あればその会社必ず正し」となります。この言葉はビジネスの場においても、大きな意味を持っています。

仕事をする上で、怠慢による失敗、社会的な倫理規範に反する行為、明らかな不正な行為があれば、会社の信用は失墜し、お客様、お取引先、また、ほかの社員に大きな迷惑を掛けてしまいます。また、皆さんが、自らが意図的に行わなくても、知らず知らずのうちに、不正や過ちを犯してしまうことがあるかもしれません。不正や過ちではなくても、仕事を進める上での手順や方法が明らかに間違っていることもあるでしょう。

このような場合、間違いに気付かないままでいると、業務に混乱が生じ、ひいては大きな損失につながる恐れがあります。

同僚や部下からの諌言(かんげん)は耳が痛いかもしれません。しかし、一人で「自己流」のやり方だけで仕事をしていると、どこかで知らず知らずのうちに過ちを犯してしまう可能性があります。

もう一つ、忘れないでもらいたいことがあります。ここで言う諌(いさ)むる社員は皆さん全員ですし、その対象となる社員も皆さん全員です。

皆さんは同僚や部下に対して諫言(かんげん)をすることは容易にできるでしょう。しかし、上司に対して諌言(かんげん)するのはとても勇気がいることですが、それでもお願いします。

ただし、部下の皆さんが上司に諌言(かんげん)するときは、言い方に注意を払い丁寧な言葉で意見を述べてください。そうしないと、上司が機嫌を損ねて、部下の皆さんの意見を聞く耳すら持たなくなるかもしれません。こうなると、部下の皆さんの勇気が無駄になります。

私としては、上司の皆さんには大きな度量で、諌言(かんげん)してくれる部下の心情と意見をしっかりと受け止めてほしいと思っています。それが会社のためになるのです。

互いに諌(いさ)め合い、そして人の諌言(かんげん)には真摯に耳を傾ける姿勢を持ちましょう。私にも諌言(かんげん)でかまいませんので、遠慮なく意見してください。

以上(2023年5月)

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画像:Mariko Mitsuda

【経理人材の育成(1)】経理管理職の最優先課題。経理負債の解消を考える

書いてあること

  • 主な読者:経理人材の育成や、経理部全体の効率化に悩む中小企業のマネジメント職
  • 課題:時間がない、具体的な改善策が思いつかないことを理由に、現状維持になってしまう。その結果、ミスの繰り返しや、現場のモチベーション低下が生じ、経理負債が蓄積される
  • 解決策:コト(経理業務自体)とヒト(一緒に働くメンバー)の両面から課題を捉える

1 経理負債の解消こそが、経理管理職の最優先課題

経理に課題を抱える会社には共通点があります。それは、「経理負債」を抱えていることです。「経理負債」とは、

経理部門が通常通り業務を行うことを妨害する蓄積された課題

のことです。例えば、月次決算で手間がかかると思いながらも、毎月、同じやり方で作業を続けていませんか。変えなければと頭では分かっていても、時間がない、または具体的な方法が思いつかないなどの理由から足踏みし続けてしまう。その結果、複雑な手順から生じるミスが減らず、経理負債が蓄積されていくのです。

経理負債は、以前話題になった「睡眠負債」によく似ています。毎日の不足分が少しずつたまった結果、健康を害するほどの影響が出てしまう。私たちの健康も、会社の経理業務も、ため込まないことが重要です。

では、いったんたまってしまった経理負債をどうしたらいいのでしょうか。解決に必要なのは、気合と根性ではありません。

時間と方法の具体的なアイデアこそが必要

です。日ごろ、会社の経理の人と接していると、「非効率なやり方をしているので、時間がない」とよく言われます。しかし、私は逆だと考えています。多くの場合、時間がないから非効率なままなのです。もちろん、大きく変えるための取り組みにはたくさんの時間が必要なため、始めは小さな改善しかできないものです。それでも、とにかく小さな改善を積み重ねて時間を捻出し続けることで、大きな改善に取り組めるようになるのです。

経理管理職にとっての最優先課題は経理負債の解消だと私は強く感じます。

2 コトとヒトの2面から課題を捉えよう

経理負債があると、ミスしたり時間がかかったりという経理にとってはよくない事態を招きます。これでは、「決算の早期化」や「正確性の向上」といった経理部門でよく挙げられる目標を達成することはできません。

さらに、長時間労働になりがちで、体調不良になったり、成長実感が得られない作業に追い立てられてモチベーションが下がったりするメンバーも出てきます。

経理業務自体に関する前者は「コト」のはなしであり、一緒に働くメンバーに関する後者は「ヒト」のはなしです。経理負債は、このように、「コト」と「ヒト」の両面に悪影響を及ぼす、諸悪の根源といえるでしょう。

従来、経理の課題は、「コト」に関する問題が注目されてきました。しかし、最近では、在宅勤務など新しい働き方の普及や、人的資本に関する情報開示の広がりから大手企業を中心に人材育成に熱心に取り組むようになっています。もちろん、この話は経理に限ることではありません。

ましてや人手不足が深刻化する中、従業員が会社を選べる時代に変わったことを心に留めておく必要があります。特に経理職は、他の職種に比べて、ポータブルスキル(会社を問わず活用できるスキルのこと)の色合いが濃いため、今いるメンバーが来年も一緒に働いてくれる保証はどこにもありません。

3 ヒトを重視した管理職の取り組み例

脅かすような話をしてしまいましたが、ヒトの側面での取り組みを少しだけ紹介しておきます。私の印象では、経理人材は「職人気質」の人が多く、これまであまり人材育成に注力する人が多くなかったように思います。まずは気負わず簡単なことから始めましょう。

例えば、経理管理職は、経営者や役員に呼ばれて、緊急の打ち合わせが入り、当初予定していたメンバーとの打ち合わせに出られなくなった場合どうしますか。

このようなときは、役員との打ち合わせが終わったらすぐにメンバーとの打ち合わせを再設定するようにしてください。近年流行りの1 on 1など、少人数で行う個人的な内容の場合には特にです。このようなメンバーとのやり取りは、緊急ではないものの、現場レベルでの重要な事案が多く、後から気付いたときには手遅れになりかねません。また、小さな行動でも、「大事にされている」という印象を確実に与えることができます。

また、メンバーからは、管理職の皆さんに質問や相談したいのに、「話しかけづらい」という声をよく聞きます。これは私が管理職だった頃もそうで、メンバーから言われて反省したこともありました。言い訳ではありませんが、経理部門は自分でも会計処理を検討するようなプレイングマネージャーが多く、デスクに居るときは作業に時間がとられがちです。また、在宅勤務の場合は、相手の状況が分かりづらいことも拍車を掛けているのかもしれません。そこで、デスクにいる際はなるべく暇な雰囲気を出したり、自分の作業はメンバーが出社する前の朝の時間帯に行ったりすることも手です。さらに、共有カレンダーに作業予定も入れている場合には、作業とイベント(会議)を区分して表示し、メンバーには作業の時間帯はいつでも話しかけていいなど、ルールを明確にして伝えておくのも役に立ちます。

これらは近年話題の「心理的安全性」、つまり従業員が自分は受け入れられていると感じ、安心して発言したり業務を行えたりする状態を生み出すことにもつながります。実際に私が見聞きする中では、残念ながらこの程度のことができていない経理部が大半の印象です。忙しいから仕方がない側面もありますが、前述のとおりメンバーが辞めてしまい生産性が下がっては、経理負債が解消されるどころか、さらに積み上がってしまいます。悪循環に陥らないためには、負担が少ない方法で、ヒトの側面をカバーすることが必須なのです。

4 管理職だからこそ経理部を変えられる

このような理由から、本連載では、コトとヒトの両面を扱います。これまで、ヒトの側面というのは、経理の分野ではあまり注目されなかったため、違和感を覚える人もいるかもしれません。

でも、考えてみてください。もし皆さんが、メンバーのひとりから明日突然辞めると言われたら、業務への影響を真っ先に心配するのではないでしょうか。いくらAI時代の到来といっても、コトとヒトは切っても切り離せないのです。

ここまでの話で、管理職の仕事がとても広範囲であることを改めて実感したと思います。しかし、経理管理職にはおおきなやりがいがあります。実際に、私は管理職になったときに、スタッフ時代と比べて色々なことが容易に進むようになり、感動したことを覚えています。

例えば、業務の削減や改善を行うことは、管理職であれば難しくありません。やり方を変えた場合のリスクがとれるのは管理職だからこそですし、そもそも経験と立場があるからこそ事前に十分な検討ができます。また、他部門の調整も管理職の力が生かしやすい場面です。肩書などの属性によって対応を変えるタイプの人もいます。そういう相手と対峙するときに、管理職という肩書は、経理部を代表して他部門を動かすことができる力の源泉にもなるのです。

これらの力があるからこそ、管理職は、経理負債の解消の主役として機能でき、ひいては経理部を変えることができるのです。「経理の仕事はAIにとって変わられる」といわれて久しいですが、主にスタッフクラスが行っている業務の話です。日々高度な判断やコミュニケーション、人材育成を担っている経理管理職ご自身については、直接の脅威ではないはずです。

本連載が、やりがいあるこの経理管理職という仕事を体系立てて整理したり、実務に生かせるヒントを得たりする機会になれば幸いです。

以上(2023年5月)
(執筆 管理会計ラボ株式会社 代表取締役・公認会計士 梅澤真由美)

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画像:Kittiphan-shutterstock

【交渉術】主張が入り乱れる「製販調整会議」から学ぶ交渉に強い組織

書いてあること

  • 主な読者:同じ会社なのに製造部と販売部など、部門間が協力せずに困っている経営者
  • 課題:部門の力関係や妥協によって方針が決められていて、建設的な議論にならない
  • 解決策:相手が本当に望んでくることを把握して交渉し、最善策を検討するようにする

1 なれ合いでもけんかでもない。交渉術を身に付ける

ビジネスは利害の異なる人が意見調整しながら進めるものですが、これは社外に限ったことではありません。例えば、製造業が生産/販売計画のズレを補正する「製販調整会議」(以下「会議」)では、社内の関係者の利害が次のように衝突します。

  • 生産部門:増産よりも製造ラインの安定稼働
  • 販売部門:製造ラインの安定稼働よりも増産による収益の確保

このようなとき、単純なパワーバランスで決まったり、なれ合い(交互に主張を通す)で決まったりするようでは駄目でしょう。かといって、調整が子供のけんかのように対決になるのも論外です。経営者は、

社員がきちんと交渉術を身に付け、会社にとって好ましいと信じる方向に進むために議論してほしい

と考えるでしょう。

そこでこの記事では、鉄鋼メーカーA社の会議を例に、交渉術を使って組織を同じ方向に導く方法を紹介します。社員教育の一環としてご活用ください。

2 鉄鋼メーカーA社の会議

鉄鋼メーカーA社は、国内外に鋼材を販売しています。国内向けが中心ですが、ここ数年は低迷しており、海外市場のさらなる開拓が必須となっています。ただし、海外市場は大量受注が見込めるものの単価は安く、生産ラインの安定稼働によるコストコントロールが課題です。

そのような折、販売部門が海外の顧客から新規受注を獲得しようとしています。なにやら、「海外のコンテナメーカーが、ステンレス製コンテナの製造工場を新設するため、ステンレスの取引量をこれまでの2万トンから3万トンに引き上げたい」というのです。

今回、販売部門が持ち込んだのは計画外の1万トンです。販売部門にとっては大手柄になる可能性があるビッグディール。一方、生産部門は計画外の生産によるリスクを何とか回避しようとします。すると、次のように両部門の主張は衝突します。

  • 販売部門長:「3カ月後の納品予定で、ステンレスを1万トン増産してほしい。国内市場が低迷する昨今、海外市場の開拓は経営目標でもある。これは千載一遇のチャンスなのだ!」
  • 生産部門長:「おいおい、いきなり1万トンの増産はむちゃだ。そんなことしたら他のラインに影響が出かねない。それに、そもそも採算は合うのか。海外向けは利益率が低いから無理する必要はない」
  • 販売部門長:「“いつもの”慎重すぎて『石橋をたたいて渡らない』って考えか。多くのコンテナはさびやすい鉄製だが、ステンレスならさびにくい。このビジネスで成功すれば海外展開の可能性が広がると思わないのか?」
  • 生産部門長:「生産体制を見直すのはリスクだと言っている。既存顧客に悪影響が及べば本末転倒だ! それに、今後の需要は“いつもの”『捕らぬ狸(たぬき)の皮算用』ってやつか? 需要予測はデータで示してほしい」

3 心理的バイアスの軽減

同じ事象に遭遇しても、個人の心理的な状態によって捉え方は異なります。例えば、次のようなシーンの場合、瞬時にどのような印象を抱きますか?

  • アラスカの住民に冷蔵庫を営業する → 売れる/売れない
  • コップに水が半分入っている → まだ半分もある/もう半分しかない
  • 計画外でステンレスを1万トン生産する → チャンス/リスク

例えば、「アラスカの住民に冷蔵庫が売れるわけがない」と瞬時に判断することを、心理学では「フレーミング」(枠付け)と呼びます。フレーミングには、所属する組織の文化や個人の経験が強く影響しており、これを完全に排除することはできません。先の鉄鋼メーカーA社の会議で、販売部門長と生産部門長が双方とも「いつもの」という言葉を使っていたことに気付きましたでしょうか。これが典型的なフレーミングで、お互いが相手に対して固定化されたイメージを持っている証拠です。

フレーミングは誰にでもあります。相手が「こちらの考えを理解しない」と腹を立てるのではなく、少しでも多く売りたい販売部門と、常に生産ラインを安定稼働させたい生産部門とでは、常識が違うことを認識する努力が必要です。

その上で、フレーミングから抜け出す「リフレーミング」(再枠付け)を試みます。その方法には「人や場所を変える」「第三者に同席してもらう」などがあります。「相手が知らない情報を提供し、気付きを与える」こともビジネスでは有効です。

先のアラスカの例では、「アラスカの住民は、食品を解凍する時間と手間を嫌っている。冷凍のニーズはないが、『食品を適温に保つ箱』のニーズは高い」といった情報を提供し、冷蔵庫の売り方の気付きを与えるのです。

フレーミングの他にも心理的バイアスは数多くあるので、一覧にまとめます。フレーミングと同様にこれらを完全に排除することはできませんが、少なくとも「双方に心理的なバイアスがある」ことを知るだけでも効果があります。

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4 論点の整理

交渉を「駆け引き」だと思っている人がいます。駆け引きとは、もともと「戦争における兵隊の押し引き」という意味ですから、交渉は相手との勝負ということになります。しかし、これでは片方が得をすると、もう一方は損をすることになります。例えば、販売部門が担当役員などを巻き込んで、無理やり1万トンの増産を生産部門に受けさせれば、生産ラインは混乱しますし、遺恨となります。

そうならないように心理的バイアスを軽減し、人と問題を切り離した上で状況を整理します。そうすると、表面的な主張は激しく対立しても、根本的なところで大切にしていることは一致しているケースがよくあります。例えば、次のようにです。

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上図のような整理ができると、交渉の突破口が見えてきます。販売部門は「海外市場の開拓」、生産部門は「生産ラインの安定」を重視しており、このポイントを満たす合意案を考えることが、「Win-Win(ウィンウィン)」の関係構築です。

相手が本当に望んでいることは、相手が譲れないことともいえます。これを知らないままでWin-Winを目指せば、表面的な妥協を繰り返すことになりかねません。この辺りの違いを次章で確認していきましょう。

5 交渉で必ず押さえたい3つのこと

1)留保価値

交渉は駆け引きではありませんが、良い人同士の譲り合いでもありません。合意のために自分の要求レベルを下げ続ける人もいますが、これでは交渉をする意味がありません。そこで登場するのが、交渉で必ず押さえることの1つ目、「留保価値」です。

留保価値とは、

「それ以下の条件では合意しない」という交渉の最低ライン

です。例えば、販売部門が1万トンにこだわれば、1万トンが留保価値となります。一方、生産部門はどんなに頑張っても7000トンしか増産できなければ、これが留保価値となります。

2)ZOPA

交渉で必ず押さえることの2つ目が、「ZOPA(ゾーパ:Zone of Possible Agreement)」です。

ZOPAとは、

双方の留保価値の間、つまり交渉余地

です。「交渉の余地はあるのか?」とのフレーズをよく聞きますが、これは「双方の留保価値はクロスしているのか」と同義です。

先の例で言えば、販売部門の留保価値が1万トン、生産部門の留保価値が7000トンの場合、次のような関係になります。「絶対に1万トンが必要だ」と販売部門が主張したとしても、「ない袖は振れない」と生産部門が主張する状態では、ZOPAがつくれません。

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これが、相手が本当に望んでいることを知らずに、表面的な妥協を繰り返すというありがちなパターンです。しかし、双方が本当に望んでいることは、販売部門は「海外市場の開拓」、生産部門は「生産ラインの安定」です。これを図にすると次のようになります。

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販売部門が持ち込んだ案件で、顧客が「3カ月後に3万トン(もともとの2万トンと新たな1万トン)を納品できないなら他社に切り替える」と要求してきているとしたら、何とか1万トンを確保しないと「海外市場の開拓」が達成できません。

一方、生産部門は7000トンならば確保できると言っているので、残りの3000トンをどのように調達するのかを双方で検討することになります。その際に大切なことは、生産ラインの安定を損ねないことです。

3)BATNA

交渉で必ず押さえることの3つ目が、「BATNA(バトナ:Best Alternative to Negotiated Agreement)」です。

BATNAとは、

足元の交渉が決裂した場合、次に取るべき最も好ましい代替案

です。

当初、販売部門が想定していたのは1万トンの「増産」です。しかし、生産部門が増産できるのは7000トンまでなので、増産以外の方法で3000トンを確保するBATNA(最善の代替案)を検討する必要があります。

どのような代替案が考えられるでしょうか。例えば、顧客にお願いして納期を延ばしてもらう、協力会社の生産ラインを借りる、別の既存顧客にお願いして納期を遅らせ、その分の生産能力を割り当てるなどの方法が考えられます。これらの中で最善のもの、つまりBATNAを決定します。対外的な交渉だと当事者がそれぞれのBATNAを持ちますが、社内の会議では、双方が本当に望んでいることの共有を前提に、協力して1つのBATNAを決められる強みがあります。

仮に、別の既存顧客にお願いして納期を遅らせ、その分の生産能力を割り当てる方法を選択した場合のイメージは次の通りです。表面的に妥協しただけではほぼ導き出せないZOPAがつくられたことが分かります。

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BATNAについて1つ補足をします。BATNAとは、事前に具体的に想定するものです。「A社が駄目なら“別の会社”に売る」の別の会社は、BATNAではありません。「A社が駄目なら“B社”に売る。ニーズもリサーチ済み」といったレベルのB社がBATNAです。

6 社内交渉で強い企業になる

なぜ、社内では事業部門や役職者同士の意地の張り合いのような衝突が起きるのか。その理由の1つは、当事者が表面的なやり取りに終始してしまうからです。改善するには、本当に望んでいることを知るための訓練をしなければなりません。

会議は、そうした訓練をするための貴重な場です。会議では必要な資料が全てそろい、双方の本音も知ることができます。対外的な交渉ではあり得ません。そこで「衝突、確認、合意」のプロセスを繰り返すことで、社員の交渉力は確実に高まるでしょう。

以上(2023年5月)

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業界分析・競合分析に使える「有価証券報告書」の読み方

書いてあること

  • 主な読者:「有価証券報告書」を使って業界分析や競合分析をしたい人
  • 課題:有価証券報告書の内容は専門的かつボリュームもあるので読みにくい
  • 解決策:有価証券報告書は最初から順番に読む必要はなく、興味のある部分から読んでみる

1 サステナビリティや人的資本などの記載が義務化!

有価証券報告書は、金融商品取引法に基づいて公開されるもので、投資家の判断材料として企業情報や決算書類などが開示されます。有価証券報告書は、決算日後3カ月以内(3月末決算の企業の場合は、6月末日まで)に開示され、企業のウェブサイトやEDINETに公開されます。

2023年3月期決算からは、

サステナビリティ(持続可能性)や人的資本(人材の多様性を含む)に関する情報

などの開示も義務付けられることになりました。サステナビリティや人的資本についての取組状況を開示するということは、

その企業が環境問題に対してどう取り組むのか、人材をどのように育成するかといった姿勢が問われる

ことになります。有価証券報告書を使った業界分析や競合分析をしていく際には、それを踏まえる必要があります。

有価証券報告書の構成は図表1の通りです。

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この記事では、ビジネスで活用できる有価証券報告書「第一部 企業情報」の「第1 企業の概況」~「第5 経理の状況」で記載されている内容のポイントを解説します。

なお、有価証券報告書と似た資料に「決算短信」があります。決算短信は、法律ではなく証券取引所の要請に基づいて作成されます。簡単にいうと、

  • 決算短信は「速報」
  • 有価証券報告書は「確報」

です。速報である決算短信は、決算日から45日以内と有価証券報告書よりも早いタイミングで開示されます。その分、決算短信は有価証券報告書よりも情報量が少なく、数値の正確性も低くなります。あくまでもスピード重視ということです。

2 「企業の概況」に記載されていること

企業の概況では、

主要な経営指標等の推移、沿革、事業の内容、関係会社の状況、従業員の状況

といった、基本情報が記載されています。企業の概況から、企業の主な事業内容や実績、規模、従業員の状況などが読み取れます。

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3 「事業の状況」に記載されていること

事業の状況には、

経営方針・経営環境及び対処すべき課題等、サステナビリティに関する考え方及び取組、事業等のリスク、経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析、経営上の重要な契約等、研究開発活動

が記載されています。事業の状況から、企業の経営状況や今後の事業方針、リスクや問題点などが読み取れます。

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4 「設備の状況」に記載されていること

設備の状況には、

設備投資等の概要、主要な設備の状況、設備の新設・除却等の計画

が記載されています。設備と聞くと、製造業が思い浮かびますが、IT企業などにおけるソフトウエア投資も含まれます。設備の状況から、この企業がどのような分野に重きを置いているのかが読み取れます。

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5 「提出会社の状況」に記載されていること

提出会社の状況では、

株式等の状況、自己株式の取得等の状況、配当政策、コーポレート・ガバナンスの状況等

が記載されています。「提出会社の状況」から、企業の株主構成(株主に国内企業が多いか、国外企業が多いかなど)や、その企業の意思決定に与える影響度の大きい株主が読み取れます。

投資家が投資を検討する際の情報としては重宝しますが、一般的なビジネスシーンではあまり活用されないかもしれません。

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6 「経理の状況」に記載されていること

経理の状況では、

連結財務諸表とその注記事項(子会社等のない会社においては作成されません)、個別財務諸表とその注記事項など

が記載されています。「経理の状況」は財務情報の肝となる章で、企業の財務状況や業績に関する情報が読み取れます。

連結財務諸表は、子会社なども含めた企業グループの財務諸表で、企業の実態を知る上では個別財務諸表よりも重要視されています。例えば、「企業の概況-主要な経営指標等の推移」からざっくりとした変化を読み取り、詳細をそれぞれの連結財務諸表から分析することができます。なお、この記事では、連結財務諸表および個別財務諸表の見方についての詳細な説明は割愛します。

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連結(個別)貸借対照表からは、企業グループ(企業)の財政状態が分かり、

企業に十分な資金があるか、過大な借金を抱えていないかなど、財務的な健全性などを確認する

ことができます。

連結(個別)損益計算書からは、企業グループ(企業)の経営成績が分かり、

売上高、営業利益、経常利益、当期純利益などの指標から、特に前期と比べて当期に増加したか、減少したかなど、財務的な成長性などを確認する

ことができます。

連結(個別)損益計算書上は黒字の企業グループ(企業)であっても、資金収支はマイナスで資金繰りが厳しい場合もあるので、連結(個別)キャッシュ・フロー計算書から、

企業グループ(企業)の資金収入、資金支出を把握し、企業グループ(企業)の実態を読み取る

必要があります。

また、連結(個別)財務諸表等に関する注記が充実している点は、有価証券報告書の特徴の1つです。会計になじみのない人にはハードルが高いかもしれませんが、連結(個別)財務諸表についてより詳細な内容を知りたい場合は、注記を読むことで非常に詳細な情報を得ることができます。

財務会計を勉強し自信がついたら注記を読んでみてください。もし、書いてある意味が分からない項目があれば、その項目に関する分野を勉強すると知識が豊富になっていきます。

財務諸表を読む際のポイントは、

前期との比較で見ること(改善しているか否か)、同業他社との比較で見ること(業種によって財務諸表の数値の意味がかなり異なります)

です。

以上(2023年5月)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 公認会計士 仁田順哉)

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