ドローン商用化へTake off! 2022年6月の航空法改正で広がるビジネスチャンス

書いてあること

  • 主な読者:航空法改正を機に、ビジネス用途でのドローン利用を検討している経営者
  • 課題:ドローンを自社のビジネスにどう利用できるのか知りたい。また、法改正の影響も知りたい
  • 解決策:空撮や空輸などの特徴を活かしたさまざまな業種での活用事例を参考にする。法改正によってドローンの登録が義務化されるが、市街地でも飛行が可能になる

1 法改正で飛行エリアが拡大。“野良ドローン”は飛行不可に

政府は航空法などの改正によって、商業面でのドローンの利用拡大を後押ししています。具体的には、

2022年6月から、ドローンの所有者による機体の登録が義務付けられる一方で、

2022年12月から、市街地などの有人地帯でドローンを飛ばすことができる

ようになります。

政府の方針を追い風に、農林水産、建築、物流、宿泊、広告など、さまざまな業種がドローンの利用を活性化させるための取り組みや実証実験を進め、省力化やコスト削減の効果を上げています。

この記事では、自社のビジネスでドローンの利用を検討されている経営者の皆さまに、今後の普及が見込まれるドローンの活用事例を紹介するとともに、法改正に伴って留意すべき点について解説します。

2 注目の「ドローン×さまざまな業種」

空中での撮影や空輸など、ドローンの特徴を活かせる領域として、次のような業種が注目されています。さらに、水中ドローンも登場し、養殖業での活用が始まっています。

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1)ドローン×農業

農業分野でのドローンの利用が注目されています。ドローンが撮影した映像をAIが分析することで、広大な農地の作付け状況や病害虫の発生の早期発見などに役立てる狙いがあります。また、これまでは有人の小型機や専用のヘリコプターで行っていた農薬散布なども、空中からの映像を見ながら操作ができ、コストが安価なドローンが担う場面も見られるようになってきました。

農林水産省でも農業分野でのドローン導入を推進しており、関連資料や支援策、取り組み事例などの情報発信を行っています。取り組み事例の中には、ドローンでキャベツ畑を見回り、生育状況を画像診断して収穫量を予測するvegeta(広島県)は、生産コストが年間約600万円削減、生産額が約6500万円増加したとの報告があります。また、イネを食害するスクミリンゴガイ(ジャンボタニシ)を、農薬散布に特化したドローンで駆除するヤマハ発動機(静岡県)は、駆除にかけていた作業時間が従来の約9分の1の4分に短縮され、ジャンボタニシの90%近くが死滅したといいます。

■農林水産省「農業用ドローンの普及拡大に向けた官民協議会」■
https://www.maff.go.jp/j/kanbo/smart/drone.html

2)ドローン×林業

林業でのドローンは、切り出した木材の運搬や、上空からの森林調査などで活用が始まっています。

木材の運搬では、住友林業(東京都)が産業用ドローンの製造を行う国内メーカーのマゼックス(大阪府)とともに、林業用のドローン「森飛(MORITO)」を開発しました。一度に8~15キログラムの重量を運搬することができ、従来は人力で80分かかっていた運搬作業を、空中の最短距離を移動できることによって5分で完了します。

森林調査では、ジェイドローン(東京都)がドローンを活用したサービスを提供しています。同社のサービスでは、空から森林を撮影することで、樹種、本数、大きさから、想定される収穫量を算定することができます。こうして得られた情報は、自治体が作成する林地台帳や、木材販売時の参考資料にも利用することができます。

3)ドローン×建築業

建築業などの企業の中には、自社が行うリフォームに関連した取り組みとして、ドローンを使った建物の診断サービスを提供しています。

このサービスは、ドローンで建物の屋根などを撮影し、破損箇所のチェックを顧客と担当者がその場で確認できるものです。ドローンを使うことで、これまでは屋根に上って目で確認していた作業が短縮され、作業のために組んでいた足場などが必要なくなります。

ドローンの多くが市販のものを利用しており、調達コストも低価格に押さえられそうです。こうしたこともあり、点検無料をPRしている企業もあります。

ドローンを使った検査サービスが登場した背景には、消費者庁への相談が増加していることや、故意に屋根を傷付けて修理費用を請求されるトラブルも要因の一つとして挙げられています。ドローンを使うことで、これまで顧客が見えなかった部分も映像として残ることになり、顧客からの安心感を得る方法の一つとしても定着する可能性があります。

4)ドローン×物流業

今回の航空法改正で利用の拡大が見込まれている分野の一つが、市街地などでのドローンによる輸送です。東京都では、ドローン関連のビジネスモデル構築に向けた支援を行う計画で、三菱総合研究所(東京都)とともに、都心部でのドローンを用いたフードデリバリー、医薬品運搬、小売店舗からの配送、という3つのプロジェクトを進めています。

フードデリバリーを例に挙げると、2021年11月に近距離(約50メートル、約700メートル)での配送を実証実験しました。この実験の主な目的は、近隣のレストランから提供される料理を温かいまま配送できるかに加えて、ドローンによる配送というエンターテインメント性を顧客に提供できるかも評価されています。

東京都ではこの計画を継続し、2024年度にはサービス提供エリアを拡大するとともに、ホテルのプランに組み込むことや、オフィスや住宅への配送も開始する予定です。

5)ドローン×宿泊業

宿泊施設では、サービスの一環として観光用にドローンを利用したり、ドローンのライセンス取得のための合宿プランを提供したりしています。さらに、宿泊施設向けに、ドローンからのプロモーション用動画の撮影などを提供する企業も登場しています。

小川旅館(岩手県)は、県内初とされるドローンを用いたサービス「ドローンツーリズム」を提供しています。このサービスは、宿泊者にドローンを貸し出し、周辺の観光スポットを撮影できるものです。

広い敷地を持つ宿泊施設の中には、敷地の一部を利用したドローンのライセンス取得のための合宿プランを提供しているところもあります。リソルの森(千葉県)は、ドローンの操縦に慣れ、操縦技術を身に付ける「ドローンライセンス取得1泊2日プラン」を提供しています。このプランでは、国土交通省が認定したコーチによる指導の下、認定資格のドローンパイロット1級または2級の取得を目指すものです。特に、1級の取得を目指す「ビジネスコース」では、業務での空撮や赤外線点検を想定した内容で、法人向けの研修にも対応できます。

micado(東京都)は、宿泊業向けのマーケティング支援をしています。同社のサービスでは、ドローンを使って撮影したオリジナルのコンテンツの作成を10万円から提供しています。自社の施設のプロモーションビデオや写真よりも臨場感のあるドローンからの映像で、競合他社との差別化に効果的です。

6)ドローン×広告業

中国などが先行しているドローンを用いた野外広告が、日本でも登場しました。ドローンを使ったショーを手掛けるレッドクリフ(東京都)は2022年2月、テレビCMのプラットフォームを運営するテレシー(東京都)と共同で、日本初とされるドローン広告を公開しました。

この広告は、300機のドローンを用いて、夜空に広告主のロゴやQRコードを表示するものです。同社によると、上空100メートルで展開されたドローン広告は、数キロ離れたところからも確認できたとされ、これまでの野外広告よりも広範囲で視認されそうです。

ドローン広告は今後も需要が増えていくと見込まれ、同社は2022年度中に、1000機以上のドローンを使った広告を目指しています。

7)水中ドローン×養殖業

ドローンがカバーする領域は空だけではありません。水中に潜り、これまで人間が高いリスクにさらされながら行ってきた仕事を、水中ドローンに代替させることを試みています。

ドローンの販売や関連サービスを展開するスペースワン(福島県)は、水中ドローンの養殖業での本格利用を推進し、マダイなどの養殖を行うダイニチ(愛媛県)とともに、水中ドローンの活用について実証実験を実施しました。

この実証実験では、養殖いけすに水中ドローンを投入し、いけすの底に沈んだ死魚の回収や、いけすの網の点検などを行いました。これまでは、死魚の回収やいけすの点検は人間が潜水して作業していましたが、危険な潜水作業で体力的に負担が大きいため頻繁に行うことが難しく、死魚が大量に発生していたり、いけすの破損に気付くのが遅れたりなどの課題がありました。

この他、KDDI(東京都)は、世界初ともいわれる「水空合体ドローン」を開発し、水中ドローンの「目的地まで船などで運ぶ必要がある」課題を、飛行型ドローンに水中ドローンを搭載するというアプローチで解決を試みています。水中ドローンをダムや港湾施設での点検、水産施設での監視などで活用することを目標にしたものです。

現在は陸地からドローンが発進し、目的の沖合に着水し、水中用の子機ドローンを潜水させる実証実験を行っています。飛行型の親機が音響測位を行って水中の子機をコントロールし、子機は搭載されたカメラで水中の様子を撮影する仕組みです。

3 法改正のポイント

冒頭でも触れた、航空法などの一部改正について簡単に紹介します。改正の背景として、新型コロナの影響を受けた航空産業の維持や、航空輸送の安全確保の向上、ドローンの利便性向上が目的です。ドローンに関しては、2022年度中の「レベル4飛行(有人エリアで、人の目の届かない範囲でドローンを飛行させること)」の実現を目標としています。

今回の改正の中からドローンに関する改正をピックアップすると、次のようになります。

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人口密集地でのドローンによる配送や警備などが該当するレベル4飛行を実現するためには、利用するドローンの機体認証と、操縦者のライセンス登録が必要となります。

新たに創設される機体認証では、ドローンの使用者に機体の整備を義務付け、民間検査機関による検査の実施などを行うとしています。操縦ライセンスでは、学科および実地での試験を行い、有人地帯での飛行に対応する資格とそれ以外に分け、固定翼や回転翼などの機体に対応した限定資格を想定しています。

これらの資格制度に加え、ドローン運行時のルールの明確化を狙い、飛行計画の提出や飛行日誌の記録なども必要になります。ドローンが関係する事故が発生した場合には、航空機や鉄道での事故の原因究明や再発防止策を調査する運輸安全委員会の調査対象となり、「実際の航空機」に近い管理が求められるようになります。

4 義務化に備え、ドローンを登録するには?

2022年6月の無人航空機(機体重量100グラム以上のドローンやラジコンなど)の登録義務化を控え、国土交通省では2021年12月から事前登録の受け付けを開始しています。最後に、ドローン登録の手続きについて簡単に紹介します。登録手続きは、「ドローン登録システム」でのオンライン申請と、郵送での書類申請の2通りがあります。今回は、オンライン申請の大まかな流れを解説します。手続きの詳細、書面申請に必要な書類などは、国土交通省の「無人航空機の登録制度」をご参照ください。

■国土交通省「無人航空機の登録制度」■
https://www.mlit.go.jp/koku/koku_ua_registration.html

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これまで見てきたように、ドローンが活躍するシーンはさまざまな業種に広がっています。政府もこれを後押しするために法整備を進めています。一方で、今後は登録許可制になるため、無許可のドローンを飛ばすことができなくなります。ドローンの操縦者の育成や機体認証にはある程度の時間がかかると予想され、ドローンの利用を検討している場合には、前もって準備を進めることが重要です。

5 ドローン関連の動向:物流・農林水産関連などで期待大

ドローンの性能が向上し、活用シーンが増えるにつれて、市場規模も右肩上がりで成長しています。市場調査企業の調査区分や、産業用や民生用、軍事用などの用途により数字は変化しますが、一部では2020年のドローンの世界市場規模は約2兆円、国内は約1800億円に達するとの見方もあるようです。

東京都では、ドローンを用いた新たなビジネスの社会実装を目指し、ビジネスモデル構築の支援を行っています。東京都「東京都における産業用ドローンの市場規模の推計と予測」によると、東京都の市場規模(ドローンに関連する取引の売上の総計)は次の通りです。

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東京都の資料によると、2018年時点の都内の市場規模は約107億円とされ、2030年には約965億円と約9倍に伸びると予測されています。特に成長が予測されるのは、ドローンの操縦訓練や専門人材の派遣などの「周辺サービス」や、空撮および物流、農林水産関連などでドローンを用いたサービスを提供する「サービスプロバイダー」とされています。

この背景には、働き手の高齢化による労働集約的な作業の自動化などが進むことと、23区内の人口増が続き、需要が増加することを挙げています。特に注目されている分野は物流で、日用品などの小口配送やフードデリバリーが普及すると予測しています。

以上(2022年6月)

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画像:tonefotografia-Adobe Stock

不妊治療と仕事との両立支援

不妊治療の検査や治療を受けたことがある夫婦は、5.5組に1組と増加傾向にあり、4月1日から不妊治療が保険適用されたことから、今後ますます不妊治療と仕事との両立を希望する労働者は増加することが見込まれています。本稿では、不妊治療の現況と、仕事との両立を支援するため厚生労働省が提供しているツールや助成金をご案内いたします。

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不妊治療と仕事との両立支援

不妊治療の検査や治療を受けたことがある夫婦は、5.5組に1組と増加傾向にあり、4月1日から不妊治療が保険適用されたことから、今後ますます不妊治療と仕事との両立を希望する労働者は増加することが見込まれています。
本稿では、不妊治療の現況と、仕事との両立を支援するため厚生労働省が提供しているツールや助成金をご案内いたします。

1 不妊治療の現況

厚生労働省が実施した総合調査によれば、約7割の企業が「不妊治療を行っている従業員の把握ができていない」、約8割の企業が「不妊治療と仕事の両立を支援するため当該従業員を対象とした取り組みを実施していない」と回答しています。

そして、労働者側の調査では、「仕事と不妊治療の両立ができなかった」と回答した方の割合は35%と、少なからず何かを犠牲にした方がおり、企業のサポート体制の確立が望まれるところです。

2 支援ツールの概要

しかしながら、不妊治療がどのようなもので、企業があるいは職場全体としてどのように取り組めば良いのか、対応が悩ましい企業も多いことでしょう。厚生労働省では、このような点を踏まえ仕事と不妊治療の両立を支援するための3つのツールを提供しています。以下に概要をご案内いたします。

支援ツールの概要

※本ツールは、厚生労働省のHPからダウンロードしてご活用ください。

3 両立支援等助成金

また、不妊治療と仕事との両立に資する職場環境の整備に取り組み、不妊治療のために利用可能な休暇制度や両立支援制度を労働者に利用させた中小企業事業主を支援する助成金制度も実施されています。

申請のステップや助成額は次の通りとなっています。詳細は厚生労働省のHPなどでご確認ください。

助成金制度の概要

4 さいごに

従業員が不妊治療をしながら働き続けやすい職場づくりを行うことは、安定した労働力の確保、社員の安心感やモチベーションの向上、新たな人材を引き付けることなどにつながり、企業にとってもメリットがあると考えられます。

まずは、今回ご紹介した企業向けマニュアルなどをご覧いただくとともに、助成金の活用も視野に入れながら、仕事と不妊治療の両立に向けた支援導入を検討してみてはいかがでしょうか。

※本内容は2022年5月13日時点での内容です

(監修 社会保険労務士法人 中企団総研)

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雇用保険法等の一部を改正する法律のポイント

雇用保険法等の一部を改正する法律(以下、「改正法」という)が令和4年3月30日に成立し、4月1日から施行されています(一部の施行日は別)。改正法については、雇用保険率の上昇や年度途中の料率変更が話題となりましたが、それ以外にもこれまでの法規制から大きく転換し、企業にとっても影響の大きい改正内容が含まれています。本稿では、従業員の生活や企業実務に関係する部分を中心に、改正法の内容を解説します。

(日本法令ビジネスガイドより)
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雇用保険法等の一部を改正する法律のポイント

雇用保険法等の一部を改正する法律(以下、「改正法」という)が令和4年3月30日に成立し、4月1日から施行されています(一部の施行日は別)。改正法については、雇用保険率の上昇や年度途中の料率変更が話題となりましたが、それ以外にもこれまでの法規制から大きく転換し、企業にとっても影響の大きい改正内容が含まれています。本稿では、従業員の生活や企業実務に関係する部分を中心に、改正法の内容を解説します。

1 雇用保険率の改正▶労働保険徴収法改正、令和4年4月1日施行

令和4年度の雇用保険率は、令和4年4月1日から9月30日までの期間(令和4年度前期)と令和4年10月1日から令和5年3月31日までの期間(令和4年度後期)のそれぞれで上昇します(図表1)。年度途中の料率変更は平成14年度以来であり、当時は雇用情勢が想定以上に悪化したため急遽10月1日から引き上げた経緯があったのですが、年度当初から変更が予定されたのは初のケースとなります。雇用保険率の改正に伴い、毎月の賃金、賞与計算に影響が生じるため、具体的な実務上の留意点を解説します。

令和4年度の雇用保険率

(1)給与計算システムの確認

まず、利用している給与計算システムが年度途中での料率変更に対応しているか確認してください。クラウド型の給与計算システムを利用している場合は、一般的に、最新の雇用保険率の改正に自動的に対応されており、利用者側でアップデート等の作業をする必要はないはずですが、念のため利用しているソフトの公式ウェブサイトをご確認ください。

次に、PCにインストールするタイプの給与計算システムを利用している場合は、システムのアップデートを必ず行ってください。

また、従業員数が少なく、Excelで賃金計算を行っている場合は、参照している雇用保険率の箇所の変更が必要です。ただし、令和4年度前期の雇用保険率の変更は、事業主負担のみ(一般の事業の場合、6.5/1000)であり、令和4年度後期から事業主負担が再度上昇(一般の事業の場合:8.5/1000)し、労働者負担も変更(一般の事業の場合:5/1000)になります。過去のデータをコピー&ペーストする際には、変更箇所の違いがある点にご注意ください。また、令和4年4月以降、令和4年10月以降に支給する賞与についても雇用保険率が異なる点に併せてご注意ください。

(日本法令ビジネスガイドより)

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【損金】税理士が解説。損金になる旅費交通費、ならない旅費交通費

書いてあること

  • 主な読者:決算対策の一環などとして、旅費交通費を損金にしたい経営者
  • 課題:電車やタクシー代は全て旅費交通費でよいのか? 請求も手間がかかる
  • 解決策:必要な旅費交通費は損金になるが、証憑(しょうひょう)はしっかり残すこと

1 旅費交通費とは

旅費交通費とは、

役員や従業員(以下「社員等」)に支給する通勤費や社用車で必要となるガソリン代、出張時に必要となる宿泊費や日当などの費用

です。旅費交通費は事業を行う上で必要不可欠な費用であり、税務上も原則として損金になります。ただし、取引先を接待する際に使ったタクシー代は交際費とされたり、出張によって支給する日当が高額すぎる場合は給与にされたりするなど、独特な取り扱いをされることがあるので注意が必要です。

旅費交通費が損金になるかどうかのポイントは、

  • きちんと実費精算していること
  • 出張旅費規程を作っていること

です。詳しく見ていきましょう。

2 損金になる旅費交通費の2つのポイント

1)きちんと実費精算していること

取引先との商談のために必要な電車やタクシーなどの移動費用は、実費精算が原則です。その都度、精算するのは手間がかかるため、週1回や月2回などと精算日を決め、経費精算書を作成して精算する方法が多く取られます。経理担当者は、社員等から経費精算書と領収書の提出を受け、内容をチェックした上で精算を行い、経理処理をします。経費精算書には交通機関などの利用日や利用金額の他、交通手段や経路、目的、得意先の名称なども入れるとよいでしょう。

なお、目的が曖昧であったり、領収書の添付がなかったりする場合は、私的費用などとして交際費あるいは給与として取り扱われることがあるため注意しましょう。

2)出張旅費規程は作っていること

出張では、交通費や宿泊費の他、現地で発生する通信費その他の雑費がかかります。これらの雑費についても実費精算が原則ですが、細かいものまで全て実費精算するのは手間です。出張期間が長い場合はなおさらです。そのため、実費精算に代えて、「日当」を支給することがあります。実費精算と異なり、日当は定額で支給するものなので、一定の要件を満たす「出張旅費規程」を作り、その規程に基づいて支給します。こうして支給された日当は損金になります。

気になるのは、出張旅費規程で満たす「一定要件」ですが、これは2つあります。

  • 支給する役員および使用人の全てを通じて、適正なバランスが保たれている基準によって計算・支給されるものであること
  • 同種規模類似法人(同業他社)と比較して、一般的に支給している金額として相当と認められる金額の範囲内であること

1.の要件のポイントは、出張する社員等の全てが日当の支給対象であることです。特定の社員等のみを支給対象にしたり、同じ役職なのに支給金額にばらつきがあったりすると、税務上の要件を満たさないことになるので注意しましょう。なお、役職によって必要となる雑費も異なりますので、役職に応じて支給金額に差をつけることは問題ありません。

2.の要件のポイントは、同業他社などと比較して金額が高額すぎないことです。もし、高額であると判断された場合は、給与として所得税の源泉徴収の対象とされます。特に役員に対するものについては損金にならないので注意しましょう。税務上の具体的な基準はありませんが、

  • 一般社員:2000〜3000円
  • 役職者:3000〜5000円
  • 役員:4000〜6000円

の範囲で設定している会社が多いです。必要に応じて、税理士などの専門家に相談するようにしましょう。

3 旅費交通費で迷いやすい実務Q&A

1)通勤交通費はいくら支給してもいいの?

通勤交通費は、原則として会社側では損金になり、社員等側においても所得税の対象にはなりません。ただし、一定の金額を超えて支給した場合、その超過した部分については社員等の所得として取り扱われ、所得税の源泉徴収の対象となります。

所得税の非課税とされる金額(範囲)は次の通りです。

1.交通機関で通勤する人

支給する運賃相当の全額が非課税とされますが、1カ月当たり15万円が上限です。ここでいう運賃とは、「通勤のための運賃・時間・距離等の事情に照らして、最も経済的かつ合理的な経路及び方法で通勤した場合」をいいます。住宅事情に伴って新幹線通勤をする人もいると思いますが、新幹線通勤をせざるを得ない状況であれば、特急料金を含めて15万円までは非課税とされます。15万円を超える部分は非課税とはなりません。

2.マイカー通勤の場合

マイカー通勤の場合は、実際の片道通勤距離に応じて下表の金額までが非課税です。

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3.マイカーと交通機関を利用する人

自宅から最寄り駅までマイカーを利用し、最寄り駅から勤務先までは交通機関を利用する場合、上記の1.と2.の合計金額が非課税とされますが、上限は15万円です。

2)出張に合わせて帰宅しても、全て旅費交通費として処理していいの?

単身赴任者が出張した場合、その出張先が自宅に近ければ自宅に帰ることもあるでしょう。この場合にも、出張の目的や行路から見て、あくまでも出張が主な目的であり、かつ業務を行う上で必要な出張である限り、往復の旅費交通費は損金になり、出張者側においても所得税の源泉徴収の対象とはなりません。

反対に、帰宅すること自体が主な目的と判断された場合は給与として取り扱われ、所得税の源泉徴収の対象となります。特に出張者が役員である場合、旅費交通費として処理していても、税務上は役員給与として損金にならないので注意しましょう。

旅費交通費として認められる場合と給与として取り扱われる場合の例は下記の通りです。

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3)展示会に得意先を招待した際の交通費や宿泊費は、旅費交通費か交際費か?

自社商品の展示会に得意先を招待し、その交通費や宿泊費を負担した場合の取り扱いです。これは、より多くの人に自社商品を知ってもらい、売上の増加・促進を図るために必要な費用であるため、旅費交通費として損金とすることが認められます。一方、展示会とは名ばかりで、得意先を招待して宴会を行うことを主目的としている場合は、交際費として取り扱われます。

従って、展示会を行う趣旨や期間その他が記載されている計画書や企画書などを証憑書類とともに保管しておき、税務調査で質問された場合においても、十分な説明ができるようにしておきましょう。

4)定額の通勤手当を廃止し、実費精算に切り替えた場合、税務上取り扱いで変わる点はあるの?

コロナ禍において、通勤手当を廃止した会社が多くあります。通勤手当を実費精算へ切り換えた場合も税務上の取り扱いは変わらず、旅費交通費として損金となります。なお、実費精算の場合は従業員ごとに出勤日や出勤経路の確認など詳細の確認を怠らないようにしましょう。

以上(2022年5月)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 税理士 森浩之)

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画像:Mariko Mitsuda

【朝礼】「もう一度の青春」が生み出す爆発力

皆さんは何か、若い頃に「青春」をささげたものはありますか? スポーツ、研究、ボランティア、アルバイト……何か1つは熱中したものがあるはずです。もし「朝から暑苦しいな……」だとか「そんな昔のことは忘れた……」なんてドライな感想を持った人がいたら、そんな人にこそぜひ聞いてほしい話があります。今日お話しするのは、今から60年前の1962年に完成した、戦後初の国産旅客機「YS-11」のエピソードです。

この話の前提になるのは、当時の日本にとって「航空機産業」というのは、非常にハードルが高い分野だったということです。第二次世界大戦で敗戦国となった日本は、1945年以降、航空機の製造や開発など、航空に関するあらゆる活動を禁止されます。1952年に連合国による統治が終わったことで、これらの禁止は解かれるのですが、7年間のブランクによって、日本の航空機は世界に大きく後れを取ってしまったのです。

そんな状況を打開しようと立ち上がったのが、今でいう経済産業省の役人だった赤澤璋一(あかざわしょういち)氏でした。赤澤氏は「日本の空を日本の翼で」を合言葉に、民間機体メーカーの精鋭たちをかき集め、国産旅客機の開発に取り組みます。ジブリ映画の「風立ちぬ」で有名な航空技術者の堀越二郎(ほりこしじろう)氏もメンバーにいたそうです。そんな精鋭たちによって動き出したYS-11のプロジェクトですが、製造は難航しました。

旅客機は、何十もの座席を設置した上で乗り心地も確保しなければならないのに、当時の技術力では機体を安定させることさえ難しく、航空実験は何度も失敗しました。それでも開発チームは最後まで音を上げずに試行錯誤を続け、ついにYS-11は旅客機としての認可をクリアします。

なぜ、彼らは諦めなかったのか。理由はさまざまありますが、私が大きいと思う理由は「メンバーの多くが若い頃、航空機に青春をささげていたから」です。開発チームのメンバーには、「零戦(ぜろせん)」「飛燕(ひえん)」など、戦前戦中に日本で使用された航空機の開発に携わった人たちが多くいました。ただ、先ほどお話しした通り、敗戦で航空機に関する活動が禁止され、彼らはその仕事を続けることができなくなってしまいました。国産旅客機の開発は、彼らにとって失った青春をもう一度取り戻すための場所であり、その情熱がYS-11を完成へと押し上げたのです。

皆さんにもし、若い頃に青春をささげたけれど、今は遠ざかっているものがあれば、折を見て再び挑戦してみてはいかがでしょうか。大きな活力を得られるかもしれませんし、今の仕事につながる「気付き」を与えてくれるかもしれません。私自身も、皆さんが「もう一度の青春」に挑戦することで生まれる爆発力を見てみたいと思います。仮に爆発力までいかなくても、新たな人脈づくりや、社内外の人との会話の際の「話題づくり」に、大いに役立つはずです。

以上(2022年6月)

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画像:Mariko Mitsuda

【朝礼】プロ意識を考える

皆さんは、上司や先輩から「プロとしての自覚を持て」とか「プロ意識を持て」と言われることがあるでしょう。プロとは、もちろんプロフェッショナルの略語であり、日本語でいうと「専門家」となります。また、プロ意識とは専門家としての自負心を持つということになるでしょう。しかしプロとは何なのか、プロとしての自覚を持つとはどういうことなのか、というのはなかなか分かりにくいものです。プロなんて、野球選手・音楽家・職人・研究者などの世界の言葉であって、自分たちには関係ないと思う人も多いでしょう。

ここで、プロとアマチュアの違いは何か考えてみましょう。両者の区別は、お金を基準に考えれば分かりやすいでしょう。それを行うことでお金がもらえる人はプロ、もらえない人はアマチュアです。そういう意味では皆さんは私も含め、この業界で働くことによってお金をもらっているわけですからプロであるということになります。実際、我が社のお客様は私たちのことを業界のプロとして見ています。ですから私たちはこの業種のプロであると自覚することはとても大切です。

さあ、皆さんはプロとして自覚を持ちました。プロである以上、もらうお金以上の仕事ができるようになりましょう。言われたことを言われた通りにできるだけでは十分ではありません。

プロの自覚があれば、言われたことはもちろん、それ以上の結果を残す、成果を挙げることが求められているのです。

例えば、何かサービスを受けたとき、お金を払ってサービスを受け、「こんなものかな」と思ったときと、「値段以上のもので、とても満足」と思ったときを考えればすぐに分かります。「もう一度このサービスを受けたい」と思うのは後者です。

もちろん、私だって最初から言われたこと以上の結果を残せたわけではありません。まずは、与えられた業務をこなし、組織の中での役割を実行し、その仕事にやりがいを感じられるようになることから始めました。それを、自分にしかできない仕事へ高めていくために、努力や創意工夫を重ねていったのです。

こうして積み重なっていったものが、いつしか周囲から実力として評価され、私の自信や誇りとなりました。周囲の評価や自らの自信はさらなる努力や創意工夫の源泉となりました。

プロは最初からプロであったのではなく、不断の努力と創意工夫、そして情熱で真のプロになっていくのです。今から「私はプロ」の自覚を持って業務に励んでください。

以上(2022年6月)

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画像:Mariko Mitsuda

オンラインでも中古車が売れる!? 仕組みが変わる中古車販売業界の動向

書いてあること

  • 主な読者:中古車販売業や、その関連サービスを手掛ける経営者
  • 課題:中古車販売は好調なのか、各企業がどのような事業展開をしているのかを知りたい
  • 解決策:中古車需要は高まっている一方、半導体や部品の供給不足による品薄などの課題がある。特定の車種を取り扱ったり、非対面のサービスを推進したりする企業が多い

1 中古車の流通経路と主なプレーヤーについて

中古車の流通経路のイメージは次の通りです。

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中古車販売業の主なプレーヤーは次の通りです。

1)ディーラー系販売店

各自動車メーカーと特約店契約を結び、そのメーカーで展示用や試乗用として使用されていた車を仕入れたり、一般ユーザーから下取り(ユーザーが新しい車に乗り換えるために、今乗っている車をディーラーに買い取ってもらうこと)したりした車を販売する店舗です。

2)中古車販売店

一般ユーザーからの買い取りや、オートオークションなどの業者間取引を通じて中古車を仕入れて販売する店舗です。

全国展開するチェーン店から、地域密着型で単独経営を行う販売店までさまざまな規模の店舗があります。また、特定の車種の取り扱いに特化した店舗や、高級車から軽自動車まで幅広く取り扱う店舗など、商品展開もいろいろです。

3)中古車買取店

一般ユーザーからの買い取りを専業としている店舗です。仕入れた中古車はオークションなどを通じて、中古車販売店に転売する流れとなっています。

なお、企業によっては一般ユーザーからの買い取り、業者間取引だけでなく、一般ユーザーへの直接販売に注力するところもあります。

この他にも、自動車整備工場やガソリンスタンドが事業多角化の一環として中古車を取り扱ったり、実店舗を持たず、ネットオークション形式の販売や個人売買の仲介を手掛けたりするケースもあります。

2 中古車販売にまつわるデータについて

1)乗用車の保有台数、平均使用年数について

自動車検査登録情報協会「自動車保有台数推移表」によると、2021年の自動車保有台数は約8208万台で、そのうち乗用車が約6192万台となっています。乗用車の多くはガソリンエンジン車ですが、ハイブリッド車(プラグインハイブリッド車を含む)が約1001万台、電気自動車が約12万台と、年々普及が進んでいます。

また、同協会が公表している「自動車の平均使用年数(軽自動車を除く)」によると、乗用車の平均使用年数は13.87年(注)となっています。

(注)1年前の自動車保有台数と比較し、減少した車両を1年間に抹消された車両とみなして、国内で新規(新車)登録されてから抹消登録するまでの平均年数を算出しています。ただし、減少台数には一時抹消(一時的に登録を抹消し、公道を走れなくする手続き)も含まれるため、自動車が完全にスクラップされるまでの期間とは若干異なります。

2)中古車販売業の事業所数について

中古車販売業は日本標準産業分類上、「中古自動車小売業」に位置付けられます。直近の総務省「平成28年経済センサス活動調査」によると、2016年時点で中古自動車小売業の事業所数は2万1556です。

3)中古車登録台数について

日本自動車販売協会連合会「中古車年別登録台数」によると、中古車登録台数の推移は次の通りです。

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2021年度の普通乗用車と小型乗用車の合計台数は前年度比5.8%減の316万9492台となり、2019年度以降の前年度割れとなりました。この背景には、中古車需要が高まる一方で、半導体や部品不足により新車の販売が停滞し、中古車流通が減ったことが挙げられます。

4)軽乗用車の中古車販売台数について

全国軽自動車協会連合会「軽四輪車 中古車販売台数の年別推移」によると、軽四輪車のうち、軽乗用車の中古車販売台数の年別推移は次の通りです。

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5)中古車の購入台数と市場規模について

リクルート「中古車購入実態調査2021」によると、中古車の購入台数、市場規模(推計値)は次の通りです。

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中古車市場規模(推計)は2020年に一度前年を下回りましたが、2021年には回復し、直近5年間の推移でも最大の数値となっています。また、若者の車離れといわれて久しい状況ですが、年齢別に見ると、中古車市場で購入台数が最も多いのは20歳代、次いで30歳代となっています。

6)中古車輸出の仕向け国上位10カ国について

日本中古車輸出業協同組合「中古車輸出台数」によると、中古車輸出の仕向け国上位10カ国の推移は次の通りです。

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中古車の海外への輸出先は5カ年連続でロシア、アラブ首長国連邦、ニュージーランドが上位3カ国を占めており、ロシアは5年連続で輸出台数が増加しています。一方、図表には掲載されていませんが、2022年3月時点ではウクライナ侵攻に伴う経済制裁が影響し、ロシアへの輸出が滞ったことで、アラブ首長国連邦への輸出が首位となっています。

また、タイが2020年に入り仕向け国の上位10カ国に入っていますが、背景として、新型コロナウイルス感染症拡大の影響で、公共交通機関を避けて自動車を選ぶ傾向にあることや、経済的事情で新車の購入が難しく、中古車購入の需要が高まっていることが挙げられます。

7)中古自動車小売業を手掛ける主な企業(大手5社)の売上高ランキング

各企業の決算短信資料によると、中古自動車小売業を手掛ける主な企業(大手5社)の売上高ランキングは次の通りです。

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各企業とも、売上高が増加傾向にあります。各企業の動向を見ていきましょう。

IDOMは、中古車買い取り、販売店の「ガリバー」をはじめ、個人間売買の仲介を行う「ガリバーフリマ」や、中古車の査定をスマートフォンアプリで行う「ガリバーオート」などを手掛けています。2022年2月期の国内直営店における中古車小売台数が14万119台となり、創業以来過去最高となりました。

ネクステージは、地域密着型として中古車の販売だけでなく、車検、板金修理、自動車保険までトータルで手掛けています。スバル車だけを取り扱う専門店や輸入車専門店、買取専門店などを幅広く出店したことで、売上高の増加につなげています。

ケーユーホールディングスは、中古車販売店の「ケーユー」を手掛けつつ、もう1つの事業である輸入車ディーラーのほうで売上高を伸ばしています。2022年3月期の国産車販売事業の売上高が404億8800万円に対して、輸入車ディーラー事業の売上高はおよそ2倍の906億3100万円となっています。

ユー・エス・エスは、中古車オークションや中古自動車買取専門店「ラビット」を手掛けています。オートオークションでの中古車取り扱い台数の増加、成約率の上昇が売上高の増加につながったとしています。

グッドスピードは、SUVや4WDの取り扱いに強みを持ち、店舗にサービスファクトリーを併設してサポートを行っています。東海地方以外へのエリア拡大による専門店の出店を進めただけでなく、整備・板金・ガソリンスタンド、レンタカーサービス、保険代理店サービスを強化し、ワンストップでサービスを提供できる体制を整えることによって、売上高の増加につなげています。

3 中古車販売業を取り巻く市場環境の分析

ここではPEST分析を用いて、中古車販売業を取り巻く外部環境と成長要因について整理します。

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中古車販売市場は新車販売の状況に大きく影響されます。新型コロナウイルスの感染拡大や、半導体の供給不足による自動車生産の停滞によって中古車も品薄になり、販売価格が上昇傾向にあります。

中古車の取引価格は年式、走行距離、整備状況や不具合の有無、オートオークションでの相場などを基に販売事業者が決めていますが、一般的に内燃機関(ガソリンやディーゼルエンジン)搭載の車両は、走行距離や整備、修理の履歴で価格の評価が可能とされている一方で、バッテリーを搭載する電気自動車は、バッテリーの性能を適正に評価することが難しく、中古車市場では取引価格が下がる、ユーザーからの人気が低いといわれています。

このことから、日本中古自動車販売協会連合会では、中古自動車のカーボンニュートラルを実現するために、補助金・減免税制を新車、中古車問わずに実施すること、電気自動車のバッテリーを適正に評価するための制度づくりを政府に要望しています。

中古車販売に関わるサービスでは、新型コロナウイルスの感染防止対策や業務効率化の観点から、これまでの対面による商談を避けて、オンライン商談に取り組む企業や、ウェブサイト上で車を購入する際のオートローンの手続きを行えるサービスなど、中古車販売店向けの業務支援ビジネスも登場しています(詳細は次章で後述)。

4 中古車販売に関わる新しいサービスの事例

1)じげん(東京都港区):買い取りが難しい水没車、事故車などの売却を支援

求人情報サイトや住宅リフォームサイトなどのライフサービスプラットフォーム事業を手掛ける同社では、中古車買取店や輸出事業社特化型の買取一括査定メディア「セルトレ」を運営しています。一般的に買い取りが難しいとされている水没車、事故車、走行距離が10万キロ以上の車でも、査定・買い取りが可能としています。

中古車の買い取りを依頼したいユーザーがウェブサイト上で車種や走行距離などの情報を入力すると、「国内小売向け」「海外輸出向け」「廃車」の区分で自動判定を行い、買い取りが可能な中古車の買取専門店や輸出事業者を紹介する仕組みとなっています。

2)ゼロカートラブル(大阪府大阪市):高級車を古着感覚で楽しむことを提案

欧州の中古車をメインに取り扱う同社では、取り扱う車に「チープアップ」という独自のカスタマイズをして提案しています。日本に輸入される欧州車は高級なイメージがありますが、例えば、アルミホイールをあえて質素なスチールホイールに取り換える、キャンプ用品などを積むためのキャリアを取り付ける、ステッカーを車体に貼るなどのカスタマイズを施すことで、より気軽に高級車を楽しんでもらうことをコンセプトにしています。

3)プロトコーポレーション(愛知県名古屋市):オンライン商談、AIで中古車販売を支援

クルマ情報メディア「グーネット」の運営などを手掛ける同社では、専用アプリ等のインストールが不要のオンライン商談ツール「グーネットLive」を提供しています。ユーザーが「グーネット」に掲載している自動車販売会社から発行されるURLを開きパスコードを入力することで、音声とビデオ通話機能でクルマのオンライン商談が可能となります。

また、「グーネット」を利用する中古車販売会社の経営支援システム「MOTOR GATE(モーターゲート)」では、掲載する中古車の画像から、車種情報登録などをAIが自動で判別してデータ化する「MOTOR GATE AI」というサービスも提供しています。

4)ロペライオ(東京都世田谷区):高級中古車のリモート査定、YouTube動画での紹介

輸入中古車の販売・買い取りを手掛ける同社では、リモート査定や動画による販売車の紹介に取り組んでいます。リモート査定は同社ウェブサイトの専用フォームへの入力やラインによる申し込みを受け付けており、最短10分で査定ができるとしています。

販売車を紹介するYouTube動画では、内外装の状態チェックをはじめ、スタッフが試乗して公道を走る様子やレビューも収めているため、顧客が気になった車の状態を詳細に知ることができます。

5)リクルート(東京都千代田区):「非対面WEBローンシステム」で購入プロセスを効率化

中古車情報サイト「カーセンサー」などを手掛ける同社では、アルファ・ゴリラ(兵庫県神戸市)が開発し、リクルートが中古車販売店向けに提供している「インスタントLIVE」(販売店と顧客がオンライン相談をしたり、商談情報を管理したりするシステム)と連携した「非対面WEBローンシステム」を提供しています。

自動車を購入する際のオートローンの審査申し込み、審査結果確認、契約締結までをオンラインでできるので、顧客の契約書記入・なつ印のための来店が不要になるだけでなく、店舗側の業務効率化にもつながります。

以上(2022年6月)

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知的財産の活用~新ビジネスを創出する製造業の事例に学ぶ~/意外と知らない「知的財産権」シリーズ9

書いてあること

  • 主な読者:知的財産を活用して新ビジネスを創出したい製造業の経営者
  • 課題:どのように知的財産を活用すればよいのか分からない
  • 解決策:成功事例を基に、自社の技術の再定義などを行ってみる

1 知的財産の活用で新ビジネスが生まれる

特許権や意匠権など、新規で有用性の高いアイデアやデザインが知的財産権として保護されるのは、これまでにも説明してきた通りです。また、アイデアやデザインなどだけでなく、権利化していない技術上・営業上のノウハウなども知的財産であり、あらゆる無形資産が保護の対象となります。

今回は、社内で保有するさまざまな知的財産を活用することで、新ビジネスを生み出した製造業の事例を紹介します。

2 特許出願した機械点検情報システムで「第三の市場」を創出

しのはらプレスサービスは、プレス加工機械の点検・保守などを行う会社です。プレス加工機械産業においては、従来、プレス加工機械メーカー(大手数社)と修理業者(全国500以上の小企業)の2種類だけで構成されていました。メーカーが新式装置を開発・販売し、修理業者が旧式装置を応急的に直すという構造が定着していたのです。しのはらプレスサービスの創業者である篠原氏も、メーカー側の従業員としてその中にいたそうです。

篠原氏は、プレス加工機械の生産性を向上するためには、故障した機械を修理する、いわば「マイナスからのスタート」よりも、壊れる前のメンテナンスの段階から関わる「マイナスではない状態でのスタート」のほうが優れていると考えました。そこで、

プレス加工機械の「メンテナンス」ビジネスに着目し、新式装置への交換と旧式装置の修理だけではない「第三の市場」を開拓すること

を目指しました。

従来の修理では、職人の勘と経験に頼らざるを得ない部分が多かった一方で、しのはらプレスサービスは、そのバックボーンとなる次の情報収集に取り組みました。

  • プレス加工機械そのもののスペックに関わる「静的情報」
  • ユーザーによるプレス加工機械の使用状況や部品の劣化状況といった、経時的に変化する「動的情報」

これらの情報をセンサーで収集して数値を管理することにより、故障前に不具合の兆候を察知して、予防保全を実現する「メンテナンス」ビジネスに行き着いたとのことです。

これによって、職人がいなくても、センサーによって収集された大量のデータから、高い精度で不具合の兆候を察知し、故障前に対応できるようになりました。実際に、故障後の対処では修理まで2週間以上要していたところ、このサービスであれば、故障前の不具合対応により、5日程度でできるようになったそうです。

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しのはらプレスサービスは、この機械設備の点検情報システムについて2005年に特許出願しました。特許庁は特許登録を認めませんでしたが、しのはらプレスサービスは、従来にはなかった「第三の市場」を開拓して業界にも徐々に受け入れられ、ビジネスのバリエーションを拡大し続けています。

その要となったのは、収集された「データ」や、そのデータから、故障原因を予測することを可能とするメンテナンスの「ノウハウ」のシステム化といった、知的財産を活用する戦略があったといえるでしょう。

3 特許権で守られた自社技術を「再定義」して他分野に応用

ナベルは、蛇腹を専門に取り扱うメーカーです。蛇腹とは、アコーディオンのように伸縮自在な部品で、従来はカメラのレンズ取り付け部とカメラ本体とをつなぐ遮光部材として取引されてきました。やがてカメラはデジタル化し、カメラ用途の蛇腹の需要は縮小していきました。

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そこでナベルは、

蛇腹を「必要なときに伸び、不要なときに縮んで、何かを守るもの」と広く捉え直し、CT・MRI装置の昇降テーブル用の蛇腹フードなど、産業機械向けに応用分野を拡大させた蛇腹製品を製作

しました。

さらにナベルは、蛇腹の概念を「機能的なカバー」へと進化させて、レーザー加工機用蛇腹、測定機器の駆動部カバー、飛散する油や粉末でロボットが汚れるのを防ぐロボットのアームカバーなどを製作し、幅広い分野に進出しました。また、工作機械ロボットのカバーは交換需要が広く見込めることから、蛇腹の整備サービスもスタートさせ、「製造業のサービス化」にも乗り出しました。

この他、東日本大震災をきっかけに、災害時のスマートフォンの充電や小型家電の電源としての利用を想定し、三重大学との共同で、充電式バッテリーとともに、コンパクトに折り畳んで持ち運べるソーラーパネルを開発しました。

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このように、一見すると縮小傾向にあると思われる市場でも、知的財産を見直し、自社が提供しようとする価値を再定義することで、新たな市場を切り開いていくことが可能な場合があります。

そして、ナベルのこのような挑戦を可能にした要素の一つに、

適切な特許権の取得と、これによる競争優位性の確保・維持

があります。「カメラの蛇腹」の技術を他の分野に応用するとき、そこには当然、工夫や発明が発生します。このような応用された技術を適切に権利化することで、それぞれの分野における優位性を確保し、かつ、これを固定化することに成功しているのです。

4 「スマート農業」というテーマで関連技術やノウハウを集積

5Gの浸透によって、一般市民の生活だけでなく、あらゆる産業が大きく進化できる可能性があるといわれています。熟練者の勘と経験に頼る作業が多かった農業においても、ロボットや、情報通信技術(ICT)とセンシング(センサーによる計測)で得られる大規模データを活用する「スマート農業」が注目されています。スマート農業が実現すれば、農機の自動化・無人化とデータを活用した精密農業が軸となり、農家の負担軽減、新規就農者の確保、栽培技術力の継承などが実現します。

国内大手の農機メーカーであるクボタとヤンマーは、早くからスマート農業への取り組みを開始しました。GPSアンテナと通信端末を用いたシステムを構築して、各圃場の状況、施肥作業の状況、刈り取りと乾燥作業のバランス、農機の稼働状況、最適な収穫のタイミングなどに関する情報の提供、日報の簡易作成など、これまでの農家が抱えていたさまざまな問題を解消しています。

これらは、単に農業機械を高度化したということではなく、

自社の役割を、「豊かで安定的な食料の生産、安心な水の供給と再生、快適な生活環境の創造に貢献し、地球と人の未来を支え続け」る(クボタ)などの内容に再定義したこと

から始まりました。クボタとヤンマーは、「農業」「食料の供給」「環境」といった切り口から、技術の力で社会課題を解決しようとしているのです。

そして、

言うまでもなく独自に開発した関連技術については特許出願するなどして権利化していますし、「ノウハウ」や「データ」については営業秘密化

しています。そうすることで、自社の競争優位の確立と維持を図り、付加価値の高い事業を展開しようとしているのです。これらは、まさに知的財産を活用して事業の価値を増進させた事例といえるでしょう。

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以上のように、プレス加工機械、カメラ用蛇腹、農業といった、いわば伝統的ともいえる産業分野においてさえ、新しい情報技術との融合により、これまでには想像もできなかったようなビジネスの形が日々生み出されています。

これらの企業は、その新しいビジネスや価値が持つ競争優位性を、知的財産権や営業秘密、ブランドイメージなどを通して確立、維持しています。このような企業の取り組みは、変化の時代に新しい挑戦を行おうとするあらゆる企業にとって、とても参考になるといえます。

以上(2022年5月)
(執筆 明倫国際法律事務所 弁護士 田中雅敏)

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