厚生労働省は、年収が一定額を超えると手取りが減ることから、パートタイム労働者等が就労調整をする事例がみられる、いわゆる「年収の壁問題」の支援強化パッケージを発表し、「106万円の壁」「130万円の壁」への当面の対応策を示しました。
年金制度の改正が予定される令和7年度までの措置として、令和5年10月から実施していくとのことです。
本稿では、厚生労働省から公表された「年収の壁・支援強化パッケージ」について、説明いたします。
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厚生労働省は、年収が一定額を超えると手取りが減ることから、パートタイム労働者等が就労調整をする事例がみられる、いわゆる「年収の壁問題」の支援強化パッケージを発表し、「106万円の壁」「130万円の壁」への当面の対応策を示しました。
年金制度の改正が予定される令和7年度までの措置として、令和5年10月から実施していくとのことです。
本稿では、厚生労働省から公表された「年収の壁・支援強化パッケージ」について、説明いたします。
厚生労働省は、年収が一定額を超えると手取りが減ることから、パートタイム労働者等が就労調整をする事例がみられる、いわゆる「年収の壁問題」の支援強化パッケージを発表し、「106万円の壁」「130万円の壁」への当面の対応策を示しました。
年金制度の改正が予定される令和7年度までの措置として、令和5年10月から実施していくとのことです。
本稿では、厚生労働省から公表された「年収の壁・支援強化パッケージ」について、説明いたします。
厚生労働省が実施した「令和3年パートタイム・有期雇用労働者総合実態調査」によると、会社員などの配偶者で扶養されていて保険料の負担がない「第3号被保険者(社会保険上の被扶養配偶者)」のうちおよそ4割が就労していることが明らかになっています。

(厚生労働省「令和3年パートタイム・有期雇用労働者総合実態調査」)
上記のように、一定以上の収入増となった場合、新たに発生する社会保険料の負担や収入要件が定められている配偶者手当等が無支給となるなど、手取り収入が減少することを恐れ、就業調整をしている方が存在します。
これにより、本人の働く意欲が阻害され、さらには企業にとっても貴重な労働戦力を有効活用できないジレンマが常態化していました。
厚生労働省は、「年収の壁・支援強化パッケージ」の中で、大きく分けて3つの対応を行うとしております。

(厚生労働省「年収の壁・支援強化パッケージ」)
厚生労働省が発表した具体的な施策の概要は、次の通りとなります。
同省は、この「年収の壁・支援強化パッケージ」の各対応策について、今後所要の手続きを経た上で、関係者と連携し、着実に進めていくこととしています。企業は、このパッケージの趣旨や制度内容を良く理解し、適切に活用していきましょう。
※本内容は2023年10月6日時点での内容です
(監修 社会保険労務士法人 中企団総研)
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IT会社(いわゆる「SIer(エスアイアー)」)が、要件定義や開発の一部を下請け業者に委託する際、下請け業者の社員に自社の名刺を持たせているケースも見受けられます。しかし、これには問題があります。具体的には、
下請け業者の社員が起こしたトラブルの責任を負うことになったり、偽装請負とみなされたりする
ことがあるのです。自社の社員以外に自社の名刺を持たせなければよいのですが、営業上、なかなか難しいこともあります。この記事では、他人が自社の名刺を持つリスクについて、具体例を交えて紹介しますので、まずはそちらを確認した上で、慎重にご判断いただければと思います。
下請け業者の社員に自社の名刺を持たせている「ITベンダーA社」の事例です(この事例は架空のものです)。
A社は、ネット通販を行うB社のサイト運用・保守の業務委託を受けています。ただし、実際にB社のサイトの保守を担当しているのは、A社の下請けであるC社の山田さんです。下請けに任せるのはよくあることで、A社は特に違和感などはありませんでした。
そんなある日、B社ではサイトがダウンしたため、山田さんから貰った名刺を見て、山田さんに「サイトがダウンしているので、至急、復旧してほしい」と連絡を試みました。急ぎの対応が必要ですが、山田さんとなかなか連絡がつかず、結局、サイトの復旧まで1日を費やしました。
復旧後、A社はB社に提出した顛末(てんまつ)書において、山田さんが下請けであるC社の社員であることを明らかにしました。今回のサイトのダウンでB社には少なからぬ損害が生じており、その賠償について今も話し合いがされています。

さて、この事例において、A社、C社、山田さんにどのような法的責任を追及することができるのでしょうか。それぞれの立場から、生じ得る法的責任を説明します。
A社とB社が準委任契約を交わしていた場合で考えます。準委任契約とは、
当事者の一方が法律行為でない事務を相手方に委託し、相手方がこれを承諾することを内容とする契約
です。請負契約が成果物を納品するなど仕事の完成を目的とするのに対して、準委任契約は規定された業務を行うことを目的としています。
サイトの運用・保守は、請負契約ではなく準委任契約に基づいて行われることが多いですが、ITサービス関連の契約では、請負契約、準委任契約のどちらの場合もあり得ます。契約内容として、請負契約と準委任契約のどちらの契約なのか、また、運用・保守の範囲についてもトラブルになりやすいため、あらかじめ明確にしなければなりません。
原則として、準委任契約の場合、再委託は認められていません。準委任契約の目的は、規定された業務を行うことです。事例でいえば、B社はA社の業務遂行能力に期待して契約を結んでいるのであり、B社に断りなく、A社は他社にB社の業務を委託することはできません。
そのため、A社がC社に再委託する場合は、あらかじめA社とB社の間との契約で、再委託を認める規定がなければ契約違反となります。当然、C社所属の山田さんをA社所属の社員であるかのように名刺を持たせて業務を行わせることも契約違反です。
B社は山田さんがA社の人間であると信じて、サイトの復旧をお願いしていました。山田さんのミスでサイトの復旧が遅れてしまい、損害が発生したとしても、山田さんはC社の社員であるため、B社が山田さんの責任をA社に追及するのは難しいようにも思われます。とはいえ、それでは、A社の名刺を持つ山田さんを信じたB社は厳しい立場となります。
こうした問題を避けるため、会社法では「名板(ないた)貸し責任」という規定があります。具体的には、「自己の商号を使用して事業または営業を行うことを他人に許諾した会社は、当該会社が当該事業を行うものと誤認して当該他人と取引をした者に対し、当該他人と連帯して、当該取引によって生じた債務を弁済する責任を負う」(会社法第9条)というものです。
A社は、山田さんに自社の名刺を持たせていたので、自社の商号使用を許諾していたといえ、山田さんをA社所属の社員と誤認したB社に対して名板貸し責任を負います。名板貸し責任が認められると、
その範囲には制限がなく、取引によって生じた債務を全て連帯して負う
ことになります。他人に自社の名刺を持たせて業務をさせることについては、相当のリスクがあることを認識しなければなりません。
A社とC社が業務委託(準委任)契約を交わしている場合、A社が山田さんに「他よりも優先してB社サイトを復旧して」などのように行うべき業務を直接指示すると、「偽装請負」となる恐れがあります。
A社が山田さんに指揮命令を下すには、C社が派遣業として許可を受けて、A社に山田さんを派遣しなければなりません。仮に偽装請負に当たると判断された場合、A社・C社とも会社名が公表されたり、労働局から是正措置命令などの行政処分が下されたりすることになります。
A社がB社に対して名板貸し責任を負う場合、C社も連帯して責任を負います。対外的には、C社はA社と連帯してB社に対する責任を負う形となります。ただし、山田さんのミスでB社に対して責任を負うことになった場合、A社とC社との内部的な責任割合は等分ではなく、C社が相応に負うべきケースもあり得ます。その場合、C社はA社に対して求償債務を負います。
なお、C社が山田さんに、A社の名刺を持って業務を行わせることに関する雇用者としての法的責任についてですが、A社から承諾を受けている限り、ほとんど考えられません。
最後に、山田さん自身についての責任です。所属していない会社の名刺を持つことについて、捉え方によっては経歴を詐称しているようにも思われます。しかし、山田さんがこれによってB社から財産上の利益を得るなどしていない限り、詐欺などで刑事責任を追及することは難しいといえます。
以上(2023年10月更新)
(監修 三浦法律事務所 弁護士 磯田翔)
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笹島信義(ささじまのぶよし)氏は、1956年から1963年にかけて行われた黒部ダムの建設において、最も困難な工事といわれる「大町2号トンネル工事」を成し遂げた作業班の中心人物です。この工事が難航を極めた理由は、作業班が着工2年目に遭遇した破砕帯(はさいたい)にあります。破砕帯とは、岩盤の中で岩が細かく砕けた、通常よりもろく崩れやすい地層のことですが、1957年、その破砕帯から人が吹き飛ばされるほど大量の地下水と土砂が噴出し、トンネル工事は中断を余儀なくされたのです。
冒頭の言葉は、笹島氏が自身の著書の中で、トンネル工事の今後を検討する委員会が開かれたときのことを振り返って述べた言葉です。委員会には、学者や技術者などの有識者が招かれましたが、破砕帯の脅威が未知数だったことなどから、工事の続行については否定的な意見が飛び交いました。しかし、笹島氏は有識者の前でも、「冬になれば、水が減り、トンネルを掘れるようになると思う」と言って、工事の続行を強く望みました。
笹島氏の心の内には、ある使命感がありました。それは「戦後の荒廃と虚脱から抜け出し、日本の産業を興隆させるために、何としても電力不足を解消する」というもの。当時の日本は日常的に停電が繰り返され、工場は停電のたびに作業を休止しなければならないなど、深刻な電力不足に陥っていました。だから、笹島氏は「この工事の本当の発注者は、国家であり国民である」と考えて、文字通り命がけで工事に取り組んでいたのです。
冬になると、笹島氏の言った通り坑内の水が減少し、工事再開が可能となりました。そして、破砕帯との遭遇から7カ月後、最後まで諦めなかった作業班はついに破砕帯を突破、1958年に大町2号トンネルは無事開通したのです。
ビジネスでは、経営者が会社の進むべき道を決める際、常に何らかのリスクが付いて回ります。ノーリスクで成功を得られるケースはゼロに等しく、時には「社員に負担を強いるかもしれない」「失敗したら会社が傾くかもしれない」といった大きなリスクを背負いつつ、困難なことに挑戦しなければならないケースもあります。
そんなときに経営者を支えるのは、「わが社はこの事業を通じて、社会のためにこんなことを成し遂げるんだ」という強い使命感です。笹島氏は、破砕帯との遭遇によりトンネル工事の危険性が新聞などで取り沙汰されるようになった際、作業員たちが家族から反対されて現場を離れてしまうことを危惧しましたが、実際はほとんどの作業員が現場に残ったそうです。それは、「自分たちがトンネル工事で日本を支えるんだ」という笹島氏の使命感が、作業員たちの誇りとなり、自分事として共有されていたからです。いつの時代も、経営者の本気の思いは社員を突き動かし、困難な壁を突破する力となるのです。
出典:「おれたちは地球の開拓者:トンネル1200本をつくった男:大事にしたい日本人の生き方」(笹島信義、ベストブック、2010年10月)
以上(2023年10月作成)
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画像:JOWNAKA-Adobe Stock
内部監査とは、
を行う取り組みです。上場企業や会社法上の大会社にとって内部監査は義務ですが、中小企業は任意です。実際、内部監査を行っている中小企業は少ないのですが、この記事では、次のような理由から中小企業に内部監査の実施をご提案いたします。特に、長い間、担当者や業務の遂行方法が変わっていないような中小企業は、この記事を読んでみてください。

内部監査を担当する部門の年度計画を策定します。とはいえ、人的・時間的リソースには限りがあるので、
リスクの高い順番に内部監査の対象とする(リスク・アプローチ)
ようにします。通常、年度計画には、
が織り込まれ、適切な承認者(経営者や取締役会など)に報告の上、承認を得ます。なお、内部監査は独立性の確保が重要になるため、内部監査部員は、監査を受ける部門とは関連のない人物にする必要があります。
業務計画は、年度計画で絞り込まれた内部監査のテーマのうち、重点的に見るべき具体的な項目を要約したものです。ここでも前述したリスク・アプローチに基づいて実施します。
リスクの高い項目を絞り込む際は、監査対象となる拠点の概要を把握する必要があるため、拠点の担当者に事前に監査があることを伝え、
予備調査:概要インタビューや関連規程類の閲覧
を行って、スムーズに本調査につなげることがあります。ただし、不正調査の場合は、事前通知をしないこともあります。
計画が策定されたら、
を行います。
限られたリソースで一定の要求水準を満たすには、内部監査部員の努力はもちろん、監査対象となる拠点が質問に正確に回答したり、依頼された資料をきちんとそろえたりするなど協力が不可欠です。
実際に監査対象となる拠点に赴き、予備調査で得た情報と、事前準備で作成された内部監査手続書に基づいて監査手続を実施します。監査手続の手法はさまざまで、例えば、次のような作業が挙げられます(下記以外にも、再実施、分析、計算調べなどがあります)。
「最もスムーズにリスクを確かめられる手続きはどれか?」を意識しながら選択するのですが、内部監査手続書通りに監査手続を進めても、想定外のリスクが判明するケースがあります。その場合、新たに判明したリスクの内容とその重要性を勘案しながら、追加の監査手続を実施すべきか否かを検討します。
また、内部監査は限られたリソースで行うため、全ての項目・取引に対して漏れなく監査手続を実施することは難しいです。そのため、取引全体の母集団からサンプル(判断に必要な一部の資料)を抽出して、監査手続を実施する「サンプリング」を採用するのが一般的です。
監査調書とは、
実施した内部監査手続とその結果を記録し、経営者に提出される内部監査報告書上の結論のベースとして使用されるもの
です。監査調書は、
に大別されます。
個別監査調書は、実施された監査手続によって監査調書のフォーマットも変わりますが、例えば、次のような形式が挙げられます。
監査手続が終了した段階で個別監査調書が作成され、総括監査調書に転記・要約します。総括監査調書は、内部監査部門の責任者が内部監査報告書の作成に際して、各監査項目について問題点が識別されたか否かを正確に判断できるように、簡潔に記載します。
現場作業の最終日、監査現場作業の結果について、監査対象の拠点の責任者などと協議する講評会を開きます。特に、
不備事項に関する事実確認や、不備を解消するための改善活動(効果的かつ実現可能であること)
は重要な協議事項です。十分な協議を行わずに事実確認を誤ってしまうと、本来は不備ではない内容や、非現実的なスケジュール感での改善活動の実施案が報告書に記載されてしまいます。
講評会や監査調書をベースとして、最終成果物である内部監査報告書を作成・発行します。内部監査報告書のフォーマット例を紹介しますので、参考にしてください。

報告書に記載された不備が放置されたままでは問題です。そのため、拠点において計画通りに改善活動が行われているかを確認する、フォローアップ監査を実施します。フォローアップ監査では、
報告書に記載された「何を」「いつまでに」実施するかの改善案に基づいて、改善活動が行われているかを確認
します。フォローアップ監査も内部監査の一環であることを認識しましょう。
ここまで紹介してきた内部監査の実施フローは、主に整備された業務が想定通りに運用されているか否かを確認・報告する機能(保証機能)です。この他、内部監査には、会社の発展にとって最も有効な改善策を助言・勧告する機能(助言機能)もあります。特に「6)結果の検討と報告書の作成」において、報告書に改善提案を記載した場合は、助言機能の一例になります。
さらに、もう一歩進んだ助言機能として、コンサルティング業務も考えられます。さまざまな拠点などを独立した立場で把握する内部監査では、多くのノウハウが蓄積されるため、そのノウハウを活かしたコンサルティングを依頼されるケースが想定されます。例えば、
などが挙げられます。
なお、コンサルティング業務においては次の留意点を念頭に置きましょう。
内部監査の結果を歪めないために、
などが必要です。「内部監査人は、良心と信念に基づき、公正・普遍の立場で監査を行い、いかなる圧力にも負けない」ことが重要なので、特に独立性の確保に努めましょう。
そのために、内部監査部門を経営者直属にします。こうすることで、他部門の指揮命令系統から外れ、不必要な干渉を排除できるからです。また、リソースが限られた中小企業では難しい面もありますが、内部監査部門と他の部門との兼任は認めないのが基本です。
中小企業が単独で内部監査を実施することが、リソースや知識の面から難しいことがあります。その場合、公認会計士や弁護士などに内部監査をアウトソーシングすることが考えられます。外部委託の範囲によって、
が考えられます。
内部監査の根拠となる規程の整備が必要です。一般的に、内部監査規程は、
といった項目で構成されます。内部監査規程は会社の基本規程の1つです。そこでは詳細な内容は入れられないので、別途、内部監査マニュアルなどを作成して実務的なことを記載します。
最後に、難易度がやや上がる子会社の内部監査について触れておきます。中小企業でも子会社を持っているケースがあり、内部監査の対象とすることがあります。しかし、
親会社が子会社を自由に内部監査できる法令はないため、子会社は拒否できる
ことになっています。こうした問題を回避するために、あらかじめ親・子会社間で、親会社が監査を行うことを認める契約を締結するなど、スムーズに内部監査を行える環境作りが必要です。
子会社を内部監査する場合は、
などがあります。どの方法を採用するにしても、内部監査の方針や要求水準が一定になるように注意しましょう。具体的には、規程やマニュアルの統一、定期的な品質評価レビューなどが挙げられます。
海外に拠点を持つ中小企業も少なくないのですが、海外子会社の内部監査は国内子会社に比べて難しい面があります。距離や言語の壁が高く、対応できる人材の確保もままならないからです。ただ、壁が高いほど目が届きにくくなるということで、逆に内部監査が必要になってきます。
海外子会社に対する内部監査で最大の注意点は、法制度や商慣習が違うことです。内部監査の主目的の1つは法令遵守ですが、肝心の法制度を理解していないと、目指すべきところが明確になりません。その国独自の法制度を調べるのはなかなか難しいため、必要に応じて現地法務に精通した弁護士に相談することも検討します。
また、文化、価値観、言葉の違いにも注意しましょう。内部監査手続の多くはコミュニケーションや書類の閲覧によって行われるため、使用可能な言語(日本語、英語もしくは現地語)の確認と、通訳の要否などを検討する必要があります。
なお、これらの問題をクリアすることが難しい場合には、外部の専門家である公認会計士や弁護士に委託することも検討しましょう。
以上(2023年10月更新)
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目次
不正会計と聞くと、ニュースをにぎわすような巨額な不正をイメージし、自社には関係ないと思っていませんか?
しかし、それは間違いかもしれません。なぜなら、経営者自身の何気ない一言が不正会計につながったり、思いもよらない従業員の不正が生じたりすることがあるなど、想像できない
不正会計は意外と身近にある
からなのです。また、コロナ禍や国際情勢の不安定化など、経済環境が悪化する時期は、不正会計が生まれやすい時期でもあります。昨今のテレワークの浸透により内部統制が脆弱化している会社は少なくないと思われます。
では、経営者が不正会計の兆しをキャッチしたり、防止したりするために、どのような知識が必要なのか、現場を知る公認会計士に不正会計の実態やその防止策などを聞きました。
不正会計とは、
決算書(貸借対照表や損益計算書など)に虚偽の表示をすること
です。代表的な不正会計は、「粉飾決算」「資産の流用」によるものです。
粉飾決算とは、
意図的に決算書(貸借対照表や損益計算書など)を操作して、会社の財務状況や損益状況を実際よりも良く見せること
です。詳細はQ2で解説しますが、「売上の水増し計上」や「売上の前倒し計上」による方法があります。粉飾決算によって赤字を黒字に見せる極端なケースもあります。
資産の流用とは、
会社の資産を盗み取ること
です。詳細はQ3で解説しますが、現金預金の「横領」、物的資産の「窃盗」などが挙げられます。多くは従業員の犯行で、この場合の被害は比較的少額です。しかし、資産の流用を容易に偽装できる経営者層が関与すると、被害が多額になることもあります。
売上の水増し計上とは、
本来の取引金額に架空の取引金額を水増しして、売上を計上すること
です。売上の水増し計上では、その計上した売上の相手勘定として「売掛金」を用いることが一般的です。そのため、貸借対照表には架空の売掛金も計上されます。
売上の前倒し計上とは、
本来は決算日後(将来)に計上されるべき売上を、決算日前(現在)に計上すること
です。売上の前倒し計上では、決算日をまたいで売上の計上が前後するだけであるため、全体(年度で区切らず全ての期間)としては損益計算や代金の入金額は変わりません。しかし、決算日後(将来)の売上を取り込んでしまうため、当年度の決算と翌年度の決算のいずれの決算書も虚偽の表示となります。
売上の水増し計上、売上の前倒し計上ともに、会社の利益をよく見せることが目的で行われる不正会計です。例えば、決算時点で赤字が明らかである場合、既存取引の売上の水増し計上をすることでその原価を差し引いた利益が本来の利益に上乗せされ、赤字決算を黒字決算へと変えてしまうことができます。
中小企業の場合、融資元の金融機関や、入札審査を受ける際の官公庁に対して、会社の業績を少しでも良く見せようとして、粉飾決算に手を染めるケースがあります。
横領とは、
自らの職位を利用して会社の資産を盗み取ること
です。例えば、出納業務と記帳業務を兼務する経理担当者が、無断で預金を解約してそれを盗み取るなどの行為です。業務によっては、同一人物が担当することで横領の発生リスクが高まります。
窃盗とは、会社の物品を盗み取ることです。例えば、会社の収入印紙や切手などを盗み取ることなどの行為です。なお、総務部の鍵のないロッカーに収入印紙や切手を保管している状況の中で、誰でも自由に取り出せるような場合には、窃盗の発生リスクが高まります。
これらの動機はさまざまで、個人的な事情(多額の借金を抱えている、遊ぶお金が不足しているなど)から実行されることが多いようです。
不正会計の防止策を考える上で重要な概念は「不正のトライアングル」です。不正のトライアングルとは、
不正を引き起こす3つの要素(動機・機会・正当化)のこと
です。これらを考慮した不正防止の仕組みをつくることが有効です。
1.動機
「従業員が行動を起こす、または行動を方向付ける」ことです。不正の防止策として、例えば従業員個人や部署に対して過度な目標が課されている場合、この目標が過大なプレッシャーになっていないかを見直します。
2.機会
「不正会計を起こせる立場にあり、それを実行できる能力がある」ことです。不正の防止策として、例えば職務分掌を明確にして、重要な決定についてはチェック・承認制度を社内ルール化することや業務相互チェックを掛けるなどのけん制機能を設けるようにします。
3.正当化
「不正会計をすることは悪くない≒仕方がない」と思うことです。不正の防止策として、例えば従業員に対して定期的に社内研修などを行い、不正会計の影響(個人・会社のダメージ)を啓蒙するようにします。
売上の水増し計上は、
貸借対照表の「売掛金」に発見の糸口
があります。なぜなら、
その売掛金は架空のものであり、何もしなければ、現金回収されることなくいつまでも貸借対照表に計上し続けることになるから
です。仮に、本来の回収期間が過ぎて長期間滞留しているような売掛金が存在する場合には、売上の水増し計上が疑われます。また、
売上の前倒し計上を行った場合にも、上記同様「売掛金」がポイント
です。売上を前倒し計上すると、その分の売掛金残高が増えます。しかし、この増加は、当年度及び前年度の各月末の売掛金残高と比べることで異常な増加として発見することができます。
横領では、やはり、
担当者間のチェック体制が重要なポイント
です。経理担当者が出納業務と記帳業務の双方を兼務しているような場合、お金を取り扱う担当者(出納係)と、帳簿をつける担当者(記帳係)を分ける必要があるでしょう(職務分掌)。なお、人員が不足し、どうしても兼務しなければ業務が回らないような場合は、他者が定期的にチェック・照合することによって代替することもできます。
窃盗は、
適切な現物(切手や収入印紙など)の管理を行うことが最も重要
です。具体的には、現物を鍵の掛かる場所に保管し、現物を取り出した者が都度、日付・数量・氏名などを管理簿に記入し、総務担当者などが日々管理簿に照らして在庫数量を確認する体制が必要です。また、他者が定期的に管理簿を閲覧して異常な記録がないか確認しましょう。
「社内に不正会計の疑いがあるかもしれない」という情報を耳にしたら、経営者は、まずこの情報が正しいものであるかどうかを確かめましょう。相手の言うことをうのみにしてしまったり、逆に聞き流してしまったりしては後々大きな問題になりかねません。また、場合によっては刑事事件に発展する可能性もあるため、早めに顧問弁護士などに相談することが賢明です。
不正が事実だった場合は、被害が大きくならないうちに早めの対処が必要です(初動が大切)。また、不正は意図的に仕組まれ、見つからないように巧妙かつ複雑な手口で隠されていることがあるため、外部の専門家を交えてその対処方法(対象者へのヒアリング方法や被害額の算定方法など)を検討するのが望ましいでしょう。
コンプライアンスとは、法令遵守を意味し、コーポレートガバナンス(企業統治)の基本原理の1つになります。
会社が企業活動を続けていくためには、会社の業績を維持・拡大していくことが必要で、基本的に会社は利益を追求していくことになります。しかし、利己的な利益追求をしていくと、法令すれすれ(グレーゾーン)の行動を取らざるを得ないこともあります。
さらに、目先の利益追求のために倫理観を失った行動を取れば、社会的な信用を大きく損ねてしまい、極端なケースでは会社の存続が危うくなることもあります。そうならないために、経営者が先頭に立ってコンプライアンスの重要性を社内に認識させることが求められます。
また、コンプライアンスの強化に励むことは、会社の存続に関わる重大問題の発展を事前に防止することのみならず、対外的にも社会的信用の認知度を高める積極的な取り組みと考えることもできます。
以上(2023年10月更新)
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決算書は、
になる重要な情報です。決算書は正直に作成されなければなりませんが、中には「嘘つき」な決算書もあります。これを「不正会計」(不適切な会計処理)といいます。意図的な不正会計は論外ですが、意図せず結果として不正会計になってしまっていることもあります。
しかし、関係者はそうした背景に関係なく、不適切な会計処理をした会社を信用しなくなります。そうならないためにも、経営者は典型的な方法とその兆候を知り、具体的な防止手段を取っておかなければなりません。この記事では、そのためのポイントを紹介します。
売上高計上のタイミングは、
対象となる物品やサービスが受け渡された日
です。そのため、このタイミングより早く売上高を計上することで売上高を大きく見せることができます。これは、実際の販売取引に対して、売上高計上のタイミングのみを操作することが特色です。例えば、売買契約締結日や手付金受取日に売上高を計上することが考えられます。

売上高の架空計上は、実際の販売取引がないにもかかわらず決算書でのみ売上高があったかのように会計処理するものです。売上高の前倒し計上と異なり、実際の販売取引自体を仮装していることが特色です。
なお、全くの架空販売取引として売上高を計上することの他に、実際の販売取引の金額に上乗せして架空の売上高を計上するケースも見られます。

対象となる物品の購入対価は販売されるまでの間、棚卸資産として資産に計上され、販売されたときに売上原価(費用)に振り替えられます。
棚卸資産の過大計上とは、販売されたものの、棚卸資産から売上原価への振り替えを過小とすることで、売上原価を減少させて差引としての利益を大きく見せるものです。売上原価への振り替えが過小であるため、振り替え後の棚卸資産は過大計上される結果となります。

会社運営に必要な諸費用は、その費用が発生した期の損益計算書に計上する必要があります。架空資産の計上とは、費用として計上すべきものを資産勘定として貸借対照表に計上することで、費用を減少させて差引としての利益を大きく見せるものです。資産勘定には計上されているものの実際の資産は存在しないため、架空資産となります。
例えば、本来は損益計算書の費用に計上される交際費を仮払金(資産)で、修繕費(費用)を固定資産(資産)で計上することが考えられます。

売上高計上のタイミングが本来のタイミングより早いため、
売上高の相手勘定である売掛金が回収されるまでの期間が徐々に長期化
します。例えば、決済条件が月末締め翌月末払いのケースの場合、本来は翌月末には入金があり売掛金残高はなくなりますが、前倒しで売掛金が計上されると、取引先は本来の決済条件で支払うため入金は翌月末より後になり、回収までの期間が本来の決済条件よりも長期化します。回収までの期間が長期化している売掛金がある場合は、その原因を慎重に究明する必要があります。
実際の販売取引がなく決算書のみで計上された売上高のため、取引先からの代金の支払いはありません。
架空売上高に対応する売掛金は回収できないことから、滞留債権となり長期間にわたって残高が減少しない
こととなります。残高が長期間にわたって減少しない売掛金がある場合は、その原因を慎重に究明する必要があります。
なお、架空売上の事実を隠蔽するため、正当な取引による回収代金を架空売上高の売掛金回収に充当することで、滞留債権化を回避することも考えられますが、この場合、正当な取引により発生した売掛金の回収までの期間が長期化するという影響が表れます。
売上原価に振り替えることなく棚卸資産として計上され続けるため、
滞留棚卸資産となり長期間にわたって残高が減少しない
こととなります。滞留している期間と、通常の販売までの期間とを比較して、不合理に長期化している棚卸資産がある場合は、その原因を慎重に究明する必要があります。
なお、棚卸資産の過大計上を隠蔽するため、過大な棚卸資産残高を棚卸減耗損や棚卸評価損によってなくすことが考えられます。不合理な棚卸減耗損や棚卸評価損が計上されている場合には、その原因を慎重に究明する必要があります。
現物が確認できない仮払金勘定が利用されることが多く、相手先や支出内容が不明な残高が徐々に増加します。
仮払金勘定は、一時的な支出を仮に処理する勘定科目のため、長期間にわたって多額な残高がある場合
には、その原因を慎重に究明する必要があります。
また、架空資産として固定資産勘定を利用する場合、不自然な金額が不自然なタイミングで計上されることが多くなります。
固定資産としては少額な金額が定期的に計上されている場合や決済されていない固定資産支出が計上されている場合
には、その原因を慎重に究明する必要があります。
不適切な会計処理の防止のためには、適切な内部統制を構築することが有効です。特に
職務分掌(仕事の役割分担や権限を明確にすること)の徹底
は、シンプルではありますが効果的と考えられます。例えば、伝票起票者と伝票承認者が区分されていれば、相互けん制によって不適切な会計処理は実行しにくくなります。また、資金担当者と記帳担当者が区分されていれば、入金内容を意図的に変更させて経理処理することは難しくなります。さらに、担当者の変更により後任者が前任者の不適切な会計処理に気付くことがありますので、人事異動を定期的に実施することも、不適切な会計処理の防止に効果的です。
特定の1人に任せきりにしないことが最も重要なポイントとなりますが、中小企業のように限られた人員で管理業務を実施している場合、複数名での対応が難しいことも考えられます。その場合、十分とはいえないまでも、例えば、
監査役などが既述の事項を重点的にヒアリングする
ことによって一定のけん制効果が期待できます。
以上(2023年10月更新)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 公認会計士 米山泰弘)
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皆さんはコンプライアンス違反が原因で倒産する企業がどれくらいあると思いますか? 帝国データバンク「特別企画:コンプライアンス違反企業の倒産動向調査(2022年度)」によると、2022年度は実に300件の倒産がコンプライアンス違反で発生しています。長年にわたる粉飾決算の他、足元ではコロナ禍における助成金の不正受給も問題となっています。
「やってはいけないことだと知らなかった」「これくらいならいいだろうと思っていた」など、ちょっとした油断もあるでしょう。しかし、悪気がないといっても、不正は知らなかったでは済まされません。「不名誉な敗者」にならないためには、コンプライアンス経営が必要です。コンプライアンス経営とは、
法令や規則を遵守することはもちろん、社会規範に照らして企業としての倫理を遵守していくことで、広義には法令遵守などのために企業内の体制を整備することまで含む経営
であり、攻守の効果があります。

企業の不祥事が後を絶たない中、消費者は不誠実な企業に厳しい目を向けています。同時に、「ステークホルダー(利害関係者)や環境に配慮しながら持続可能な成長を目指す企業」を評価する傾向はますます強まっています。
この記事では、中小企業が想定すべきコンプライアンス違反のリスクにはどのようなものがあるかを押さえた上で、コンプライアンス経営を具体的にどのように進めていけばよいのか紹介します。最も大切なのは、経営者の強いリーダーシップです。経営者が社員の模範になるとともに、朝礼などの場を利用して企業(自社)が社会の一員として果たすべき役割を伝えましょう。
なお、会社法は、大企業(資本金5億円以上または負債200億円以上の株式会社)には法令遵守などのために企業内のコンプライアンス体制を整備することを義務付けています。事故や不祥事を防止するために経営者が組織の全ての活動を直接把握するのは現実的でないため、経営者が間接的に組織を監督するための体制の整備を求めるという趣旨です。
一方、中小企業にはこの義務はありません。しかし、中小企業であっても、コンプライアンス体制が機能した際には、業務品質や顧客対応の向上、事故や不祥事の防止が期待できますから、企業規模を問わず、体制を整備するのが望ましいといえるでしょう。
コンプライアンス経営を行うにあたり、まずは自社の経営に関連する主な法令とリスクを想定しましょう。これにより、対策すべきリスクが明確になります。
加えて、過去に不祥事を起こした企業の「調査報告書」(不祥事の発生原因や状況が克明に記載された報告書)を研究すれば、コンプライアンス経営の参考になります。調査報告書では、「ワンマンな経営者」「利益至上主義」などさまざまな問題が指摘されています。これらの企業と同じ問題点があるとすれば、不祥事が起こる前に対策を取る必要があるかもしれません。
経営者が独断で判断せず、現場の社員の声を聞く必要があります。そのために有効なものとして「内部通報窓口」があります。これは、社内でコンプライアンス違反などを発見した社員が通報をするための仕組みです。内部通報窓口については、改正「公益通報者保護法」により、2022年6月1日から社員301人以上の企業に設定が義務付けられています。
内部通報窓口や通報に適正に対応する体制が整っていない場合、社員が事故や不祥事などのコンプライアンス違反を突然社外に通報・公表する可能性があります。その場合には、自社による事実調査や、通報が事実であった場合の社内外への対応をどうするかなどといった必要な検討を行う妨げとなる上、企業の社会的信用が著しく低下するなどの事態もあり得ます。
また、社員300人以下の企業にとって内部通報窓口の設置は努力義務ですが、実際は設置する企業が増えています。
コンプライアンス経営のよりどころとなる書類(規程)を整備します。整備する書類はさまざまですが、「コンプライアンスガイドライン(企業倫理規程)」などと呼ばれる、コンプライアンス経営の目的や行動規範を定めたものが中心となります。この他、業務ごとに「業務遂行マニュアル」が作成されることもあります。こうした規程やマニュアルは、社員の日ごろの活動のよりどころにもなります。
コンプライアンスガイドライン(企業倫理規程)などの書類は、整備するだけでは不十分です。そこで明らかにされている企業のコンプライアンス経営の考え方が、日々の活動に活かされなければなりません。企業は社員がコンプライアンスに対する高い意識を持つことができるよう、コンプライアンス教育を行う必要があります。
モニタリングとは、実際にコンプライアンス経営が行われているかを確認・改善する行為です。顧問弁護士に一任するとよいでしょう。なお、社内に法務部門のある企業では、法務がコンプライアンス部門を兼務する場合もありますし、コンプライアンスを別部門とする企業もあります。自社で無理なく機能できる手段を取りましょう。
「ISO26000」は、ISO(国際標準化機構)が発行する国際規格です。規格の認証は不要で、民間・公的・非営利のさまざまな組織を対象とした「社会的責任に関する手引」として利用できます。組織の規模を問わず活用できるように作成されており、中小企業でもISO26000を参考としながら、自社に合わせた柔軟な対応が可能です。なお、ISO26000を基にした日本産業規格(JIS)「JIS Z 26000」も制定されています。
ISO26000では、社会的責任にまつわる課題とその説明、課題の解決に向けた行動や組織に期待されること、組織が社会的責任を遂行するための具体的な行動などが規定されています。組織が果たすべき社会的責任のうち、特に重要性が高い7項目は「社会的責任の中核主題」として、主題の解説・実践に当たってのポイント・具体的な取り組み方法がまとめられています。
ISO26000の中核主題ごとに、中小企業の留意すべき点と取り組み例は次の通りです。

ここまで説明してきたコンプライアンスと同じく耳にする言葉として、コーポレートガバナンス(企業統治)というものがあります。定義は人によってさまざまですが、一般的には経営者の暴走を未然に防ぐため、経営者を監視・監督する体制をいいます。
経営者がコーポレートガバナンスの下で適正な経営を行っても、社員が経営者の意向を無視してコンプライアンスに反する不正を行えば企業に損失が出ます。コンプライアンス体制が構築されていても、経営者が暴走し不適切な事業を行えば同じことです。従って、コーポレートガバナンスは、コンプライアンスと併せて、企業の健全な運営・中長期的な成長のための両輪といえます。
日本取引所グループは、このコーポレートガバナンスの指針として「コーポレートガバナンス・コード」というものを発表しており、企業が上場する際にはガバナンスの構築・整備状況が審査対象になります。
他方、コーポレートガバナンス体制の構築・実施や、コーポレートガバナンス・コードの実施は、法的な義務ではありませんし、短期的に売上・利益の向上に直結するものでもないため、比較的小規模な企業がはじめから大企業のような重厚な体制を構築する必要はありません。中小企業が、コーポレートガバナンスにどの程度の手間やコストをかけるかは、企業の中長期的成長に不可欠なものだという観点から、規模・成長ステージに応じて、構築・整備していくことが重要です。
以上(2023年10月更新)
(監修 のぞみ総合法律事務所 弁護士 鈴木章太郎)
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私たちは、仕事やプライベートで関わる人に対し、無意識のうちに「〇〇な人」というイメージを持つことがあります。優しい人、怖い人、面白い人、退屈な人、いろいろありますね。ただ、それらのイメージはあくまで自分がつくり上げたもので、実態とかけ離れていることも少なくありません。歴史上の人物を例に一つ話をします。
皆さんは、「パンがなければお菓子を食べればいいじゃない」という言葉を聞いて、誰を思い浮かべますか。おそらく、多くの人が「マリー・アントワネット」と答えるでしょう。18世紀にフランス王妃となるも、フランス革命により処刑台に追いやられた悲劇の女性です。大変な浪費家だったとされ、「パンがなければお菓子を食べればいいじゃない」は、王妃としてぜいたくな日々を送る彼女が「民衆がパンを食べられずに苦しんでいる」と告げられた際に発した言葉として有名です。
ですが、実はこれは誤りとされています。先ほどの言葉は、フランスの思想家ルソーの自伝に記されたものですが、それが出版された頃のマリー・アントワネットは、まだフランス王妃になる前の10歳ぐらいの少女なのです。にもかかわらず、彼女の「浪費家」というイメージが強すぎるせいで、本当は他の誰かが口にした言葉が、彼女が言ったものと200年以上誤解されているのです。ちなみに、彼女が本当に浪費家だったのかも実は定かではなく、飢饉の際、彼女が宮廷費を削って寄付をしたという話もあるのです。
このように、「〇〇な人」というイメージは、大きな誤解を生むことがあります。ビジネスでも、意図せずに相手から悪いイメージを持たれてしまうケースというのはよくあります。
例えば、若手社員が上司に同行して、取引先との商談に臨む場面を想像してみてください。商談は上司メインで話が進むため、若手社員は「上司の邪魔にならないように」と、口を挟まず黙っています。しかし、相手は、若手社員が全く話に入ってこないのを見て、「この人は全く発言しないけど、何しに来たのかな」「話に入ってこないということは、半人前なんだな」と、ネガティブなイメージを持つかもしれません。
こうしたネガティブなイメージを払拭するための方法は、たった1つ。相手と積極的に話して、相手が自分に対して抱いている「○◯な人」というイメージを塗り替えるのです。「怖いと思っていた人が、話してみたら意外と優しかった」というのはよくある話です。
先ほどの商談であれば、事前に上司に相談して自分がメインで話をするパートをつくってもらったり、気になる点を相手に質問してみたりするとよいでしょう。多少拙い部分があっても、一生懸命話そう、話を聞こうとしてくる人には、相手も好意的なイメージを持つものです。「もしも嫌われたら……」と何もしないでいるのが一番よくありません。自分のイメージは自分から相手にアタックしてつくるのです。
以上(2023年10月)
pj17159
画像:Mariko Mitsuda
裁判で勝訴をしても、相手が判決に従って弁済するとは限りません。そのような場合、「強制執行」を行う必要があります。強制執行とは、
判決内容に基づいて債務の履行をすべきなのに相手がそれを行わない場合、改めて裁判所に「強制執行の申立」をして、国家が強制的に判決で命じられた債務の履行を債務者に行わせること
です。強制執行は、民事執行法で定められた「民事執行」の1つで、
に分類され、対象となる財産や目的などによって細分化されます。

この記事では、比較的事例の多い不動産執行(強制競売)と債権執行を紹介します。なお、強制執行には相応の時間とコストがかかります。そのため、担保を設定するなど、訴訟や強制執行によらずに債権回収ができる準備をしておくことも大切です。
強制執行には、
の3点セットが必要です。
まず、債務名義とは、
強制執行によって実現されるべき請求権の存在・範囲、債権者、債務者を示す公の文書
です。債務名義には、確定判決の他、執行証書(公正証書)や和解調書などがあります。
この債務名義とセットになるのが執行文です。執行文とは、
債務名義の執行力を公的に証明する文書
です。なお、債務名義のうち、「少額訴訟の確定判決」「仮執行宣言付少額訴訟の判決」「仮執行宣言付支払督促」については、執行文がなくても強制執行ができます。
最後は送達証明書です。強制執行をするには、債務名義が債務者に送達されている必要があります。そこで、確かに送達されていることを証明する送達証明書が必要なのです。
不動産執行には、
があります。債権者は強制競売と強制管理のいずれか、もしくは併用を選択します。実務では、強制競売が選択されるケースが多いため、裁判所のウェブサイトを基に強制競売の手続きを紹介します。
不動産執行の申立は書面で行います。書式例は、東京地方裁判所や大阪地方裁判所のウェブサイトに掲載されています。申立先は、目的不動産の所在地を管轄する地方裁判所となり、その裁判所を「執行裁判所」といいます。
申立が適法なものと認められたら、執行裁判所は不動産執行を開始する旨および目的不動産を差押さえる旨を宣言します。
開始決定がされると、裁判所書記官が管轄法務局に目的不動産の登記簿に差押えの登記をするように嘱託します。また、債務者および所有者に開始決定正本が送達されます。差押えの効力は、強制競売の開始決定正本が債務者に送達されたとき、もしくは送達前に差押えの登記がされたときに生じます。
なお、差押えをされると、債務者は目的不動産を処分できなくなります。ただし、競売の手続きを経て買受人が決まり、買受人がその代金を納付して不動産を取得するまでは、通常の用法に従って目的不動産を使用することができます。
裁判所は執行官や評価人に命じて、目的不動産の詳細を調査します。この結果に基づき、裁判所は不動産の売却基準価額を定めます。また、物件明細、現況調査報告書、評価書を作成して一般の閲覧に供します。
裁判所書記官が、売却の日時、場所、売却方法などを定めます。売却方法はさまざまですが、1回目の売却方法は定められた期間内に入札をする期間入札で行われます。裁判所書記官は、売却すべき不動産の表示、売却基準価額、売却の日時、場所を公告します。
入札は、公告書に記載された保証金を納付し、売却基準価額からその20%相当額を差し引いた価額(買受可能価額)以上の金額でしなければなりません。最高価額で落札して売却許可がされた者(買受人)は、裁判所が通知する期限までに代金を納付します。納付代金は、入札金額から保証金額を引いた額であり、代金の納付をもって買受人は目的不動産を取得します。
なお、所有権移転等の登記の手続きは裁判所が行いますが、手続きに要する登録免許税等の費用は買受人の負担となります。
不動産の引渡しが行われます。引き続き居住する権利のない人が居住している場合、その人に明渡しを求めることができます。この求めに応じないときは、代金納付後、6カ月以内であれば、裁判所に申立てて明渡しを命じる引渡命令を出してもらえます。引渡命令があれば、執行官に強制的な明渡しの手続きを取るように申立てることができます。
裁判所が、申立てをした債権者や配当を要求した他の債権者に売却代金を配ります。原則として、抵当権を有している債権と、債務名義しか有していない債権とでは、抵当権を有している債権が優先されます。また、抵当権を有している債権の間では、抵当権が設定された日の早い順に優先されます。債務名義しか有していない債権の間では優先順位はありません。
債権執行とは、
金銭の支払いまたは船舶もしくは動産の引渡しを目的とする債権(動産執行の目的となる有価証券が発行されている債権を除く)に対する強制執行
のことです。例えば、債務者の銀行預金を差押さえて債権回収を図る場合などです。ここでは裁判所のウェブサイトを基に債権執行の手続きを紹介します。
債権執行の申立ては書面で行います。申立先は、債務者の住所地を管轄する地方裁判所ですが、住所地が分からないときは、差押さえたい債権の所在地となります。その裁判所を「執行裁判所」といい、「銀行」のように差押さえたい債権の債務者を「第三債務者」といいます。
裁判所は、債権差押命令申立てに理由があると認めるときは、債務者に対して債権の取立てその他の処分を禁止し、かつ第三債務者に対し債務者への弁済を禁止すること等を内容とした差押命令を発し、債務者と第三債務者に送達します。差押えの効力は、差押命令が第三債務者に送達されたときに生じます。
執行裁判所は、差押さえるべき債権の全部について差押命令を発することができます。例えば、請求債権が250万円で、被差押債権が300万円の場合、差押えの効力は300万円全額に及びます。
また、給料その他継続的給付に係る債権の差押え効力は、差押債権者の債権および執行費用を限度に、差押え後に受けるべき給付に及びます。なお、給料などについては「差押禁止債権」として、債権額の一部の差押えが禁止されています。「差押禁止債権」の概要は次の通りです。この他、国民年金・厚生年金、児童手当給付金、生活保護給付金等については、個別法により差押え自体が禁止されています。

債権差押命令が債務者に送達された日から1週間(給料等の差押えの場合については4週間)を経過したときは、債権者はその債権を自ら取り立てることができます。ただし、第三債務者が供託をした場合、裁判所が配当を行うので直接取り立てることはできません。
財産開示手続とは、
債権者が債務者の財産に関する情報を取得し、強制執行の実効性を高めるための制度
です。債務者が裁判所の指定する財産開示期日に出頭し、自らの財産状況を陳述する手続になります。
これまでの財産開示手続は、債務者が出頭しなくても30万円以下の過料の制裁を科されるリスクしかなかったことから、債務者が財産開示手続に出頭しないことが少なくなく、実効性に疑問がありました。そのため、なかなか利用される制度ではありませんでした。
このような問題点を踏まえて、民事執行法が2020年4月1日に改正(施行)され、
財産開示手続に出頭しなかったり、債務者が財産状況について虚偽の陳述をしたりした場合、6カ月以下の懲役または50万円以下の罰金が科される
ようになりました。そして、法改正後、
裁判所の財産開示の呼び出しに応じなかった債務者が民事執行法違反で書類送検される
ケースも出てきました。
このように、財産開示手続に出頭しなかったり、虚偽の陳述をしたりすることによる刑事罰の定めが心理的なプレッシャーになり、今まではあまり利用されていなかった財産開示手続が今後、強制執行を実効化するために利用される機会が増えるのではといわれています。そのため、強制執行を検討するにあたって、このような手続きをきちんと知っておきたい場合には、弁護士に相談してみるとよいでしょう。
以上(2023年9月更新)
(監修 有村総合法律事務所 弁護士 平田圭)
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