【損金】「税金対策の主役は損金」。損金になる売上原価、販管費、損失とは?

書いてあること

  • 主な読者:「損金」の正しい知識を得たい経営者、経理担当者
  • 課題:損金は税金対策の基本だが、どのようなルールがあるのか分からない
  • 解決策:「売上原価」「販売費及び一般管理費その他の費用」「損失」に分けて整理する

1 税金対策の主役となる「損金」

皆さんの中にも、決算前になると「税金対策(決算対策)」を意識する人が多いでしょう。この税金対策の主役は損金ですが、いわゆる「費用」と何が違うのでしょうか。

損金とは税法上の考え方で、

所得(税務上の利益)を計算するために用いる、税法で認められた費用などの支出

のことです。

画像1

所得は、益金(税務上の収益)から損金(税務上の費用)を引いた金額です。損金が増えれば所得が減るので、税負担も軽くなるのです。これが税金対策です。一方、費用は財務上の考え方で、支出という意味では損金と同じです。

ただし、税務会計と財務会計の考え方の違いから、「損金の額=費用の額」とはなりません。それは、交際費等や役員報酬などのように、税法上で定められる「特定の項目」があるからです。これらは、税法の要件や金額などから損金に算入できるか否かが判断されます。ですから、税金対策をする上では、損金の基本とともに、特定の項目の考え方を知っておく必要があります。一方、特定の項目ではない損金は財務上の費用と同じ基準で計上できるので、特に気にする必要はないでしょう。

では、売上原価、販売費及び一般管理費その他の費用、損失の順に損金の取り扱いを説明していきます。

2 損金になる売上原価

売上原価とは、

その事業年度の売上(収益)に係る売上原価、完成工事原価など

のことです。損金になるのは、

その事業年度に計上された売上と、直接対応しているものでなければならず、この考え方は財務上も税務上も同じ

です。

また、「売上原価=仕入高」ではないことに注意しましょう。仕入高は、商品の仕入時は費用として計上されますが、事業年度末に棚卸しを行い、その事業年度の売上に対応する部分(売上原価)と在庫となる部分(資産)とに区分されます。そして、在庫に係る仕入高は、費用(財務上)にも損金(税務上)にもなりません。

3 損金になる販売費及び一般管理費その他の費用

1)販売費及び一般管理費その他の費用の要件

販売費及び一般管理費その他の費用とは、

  • 事業年度末までに、債務が成立している(償却費を除く)
  • 事業年度末までに、支払い原因となる事実が発生している
  • 事業年度末までに、その金額が合理的に算定できる

といった3つの要件を満たしている費用です。

3月末決算の会社における3月分の給料(毎月末締め翌月25日支給)の「未払計上」について考えてみます。未払計上とは、簡単にいうと「債務は確定しているが、決算時には未払いとなる項目を計上する」という、いわゆる「決算整理仕分」の一つです。

会社は社員の3月の労働(支払いの原因となる事実)の対価として、社員に給料を支払います(債務が成立)。そして、給料の支給額は毎月厳密に計算されています(金額の合理的な算定)。このように、3月末決算の会社における3月分の給料(毎月末締め翌月25日支給)は3つの要件を満たすため、未払計上しなければならないのです。

2)主な特定の項目

前述した3つの要件が基本ですが、例外もあります。それが冒頭で触れた特定の項目です。ここでは交際費等と役員報酬について確認していきましょう。

1.交際費等

交際費等とは、

取引先の接待や慰安などのための費用

です。ただし、交際費等は多岐にわたり、税務上の交際費等に該当するか否かの判断は難しいので注意しましょう。

さて、損金に算入できる交際費等の金額は、接待飲食費の50%相当額までと決まっているのですが、中小法人の場合は、

接待飲食費の50%相当額と、年800万円(定額控除限度額)のいずれかを選択できる

ことになっています。中小法人とは、事業年度終了日における資本金の額または出資金の額が1億円以下の法人です(普通法人のうち事業年度終了日における資本金の額または出資金の額が5億円以上の大法人による完全支配関係がある子法人などを除く)。

2.役員報酬

損金に算入できる役員報酬は次の3つに限定されます。また、次の3つに当てはまる場合でも、税務署から高額すぎると判断された部分は、損金に算入できないなどの制約があります。

画像2

4 損金に算入できる損失

1)棚卸資産の評価損

棚卸資産の価値が著しく下落した場合は評価損を計上しますが、それらが全て損金に算入できるとは限りません。まず、損金に算入できるのは、

  • 災害で損傷した場合
  • 売れ残りが季節商品で、将来的に通常価額で販売できないことが例年の取引などから明らかな場合

などです。

一方、損金に算入できないのは、

物価変動や過剰生産などによって価値が著しく下落した場合

です。

なお、棚卸資産や固定資産の評価損の取り扱いについては、以下のコンテンツで詳しく説明しています。

2)貸倒損失

売掛金が回収できそうにない場合、貸倒れの処理をして貸倒損失を計上しますが、それらが全て損金に算入できるとは限りません。まず、損金に算入できるのは、

  • 取引先が民事再生法や会社更生法の手続きを申し立て、その規定により金銭債権が切り捨てられた場合
  • 取引先の資産状況などから、その金銭債権の全額が回収できないことが明らかになった場合(担保があれば、それを処分した後)

などです。また、継続的に取引をしていた取引先に対する売掛金については、

取引を停止したときなどから1年以上経過した場合

には、備忘価額(1円)を引いた債権金額について、貸倒損失として損金に算入できます。

一方、これらの要件に該当しない貸倒損失は損金に算入できないケースがあるので、税理士などの専門家にご確認ください。

以上(2022年3月)
(監修 税理士 谷澤佳彦)

pj30074
画像:pixabay

【管理会計】売上の増減に応じた見込み利益を簡単だけど正確に計算する方法

書いてあること

  • 主な読者:感覚だけでなく、定量的な基準や根拠を持ってビジネスの判断をしたい人
  • 課題:売上が計画より増減した場合に、見込み利益の計算の仕方が分からない
  • 解決策:コストを変動費と固定費に区分し、そのコストから見込み利益を計算する

1 質問:売上が計画を下回ったら利益はいくらになりますか?

期中に計画よりも売上が大幅に減少することが分かったとき、利益の見込みを速やかに把握して目標や経営戦略の変更を検討します。今回は、売上の変化による、「見込み利益の計算」について考えます。この見込み利益の計算方法が分かれば、売上だけでなく、コストに増減があったときにも使えます。

早速、次の簡易的な損益計算書を使って、当初計画の売上が5000万円から4000万円に減少したときの見込み利益を、2章以降で計算してみましょう。

画像1

2 見込み利益計算の第一歩は費用の分類

見込み利益を計算する際のポイントは、

費用を「変動費」と「固定費」とに分けること

です。変動費は売上に連動して発生する費用で、固定費は売上とは連動せず決まった額が発生する費用です。管理会計の体制が自社に整っていない会社は、まず費用一つ一つを変動費と固定費に分けることから始めましょう。

変動費と固定費の主な具体例を挙げておきます。

  • 変動費:商品売上原価、売上割戻金、紹介手数料、支払いロイヤリティ、荷造運賃
  • 固定費:給与などの人件費、福利厚生、地代家賃、水道光熱費、広告宣伝費、減価償却費、リース料、その他売上の連動にかかわらず発生する費用のすべて

自社の費用項目をどのように分ければいいのかということですが、

実は変動費と固定費の区分に明確な基準はない

のです。まずは、上記の主な具体例の中にある費用を振り分け、残った費用の項目は経営者や現場の社員の感覚で影響(金額)の大きい費用項目について判断していきます。金額が少額なものは取りあえず固定費にしておき、最初のうちは、見込み利益の計算に使えるレベルかどうかを調整しながら進めるので十分です。

3 変動費は「率」、固定費は「金額」

費用を変動費と固定費とに振り分けたら、後は次のポイントに沿って金額を当てはめていきます。

変動費は売上に連動するので「率(売上比=変動費率)」に、固定費は売上に連動しないので「金額」

に注目します。

変動費は、売上が変化した場合、変化後の売上に率を乗じて計算します。一方、固定費は売上が変化したとしても金額は変わりません。そのため、売上が変化した場合も、当初計画の金額をそのまま当てはめます。

画像2

4 見込み利益を計算した後にすること

今回の例題では、当初の営業利益が1200万円で、見込みの営業利益が800万円となりました。

どうしたら、当初の1200万円に届くのか?

経営者であれば見込み利益だけでなく、次のアクションとして当初の営業利益に近づけるために、何か費用を減らせるものがないかを考えるでしょう。

この場合、変動費と固定費のどちらを減らしていけばよいでしょうか? 答えは、

固定費

です。なぜなら、変動費は売上に連動して下がりますが、固定費は売上が減っても下がらないため、負担が大きくなります。極端に言えば、売上が0になっても、決まった金額が発生するのが固定費です。

また、固定費の特徴として、一度減らせば、削減効果が長く続くことがあります。オフィス賃料を考えると分かりやすいと思います。今より安い賃料のオフィスに移転した場合、退去費用や引っ越し費用など一時的な支出はあるものの、定額の賃料は売上の増減に関わらず、契約のある限り減額効果は続くのです。

以上(2022年3月)
(執筆 管理会計ラボ株式会社 取締役・公認会計士 福原俊)

pj35113
画像:apinan-Adobe Stock

派遣社員に退職金は必要? 同一労働同一賃金の「労使協定方式」と賃金の最低水準

書いてあること

  • 主な読者:派遣社員の同一労働同一賃金について知りたい派遣元(派遣会社)の経営者
  • 課題:どうやって派遣社員の賃金が決まるの? 退職金は必ず支給しなければならない?
  • 解決策:「労使協定方式」で決めるのが主流。「基本給・賞与・手当等」「通勤手当」「退職金」の3項目については、賃金の最低水準があるので注意

1 「労使協定方式」が主流。ただし賃金の最低水準に注意

「同一労働同一賃金」とは簡単に言うと、

仕事の内容などが同じなのに、パートや派遣社員であるという理由だけで、正社員などよりも低い待遇にすることはできない

という考え方です。パートも派遣社員も基本は同じですが、派遣社員特有のルールが1つあります。それが「待遇の決め方」です。労働者派遣法により、派遣元には、

  • 労使協定で派遣社員の待遇を決める「労使協定方式」
  • 派遣先に応じて、派遣社員の待遇を決める「派遣先均等・均衡方式」

のいずれかによって、同一労働同一賃金を実現することが義務付けられています。どちらを選択するかは派遣元の自由ですが、「派遣先が変わっても逐一全ての待遇を見直す必要はなく、派遣社員の収入も安定しやすい」という理由から、1.の労使協定方式が主流のようです。

ただし、労使協定方式には注意点があります。それは、

職種や地域などに応じて、賃金(退職金を含む)の最低水準が決められていること

です。詳細は後述しますが、通勤手当や退職金の支給額が最低水準に達していない場合、支給額の引き上げを検討しないといけません。

派遣社員の同一労働同一賃金は2020年4月1日から施行済みですが、今の賃金状況に問題がないか、いま一度チェックしてみるとよいでしょう。この記事では、労使協定方式における賃金の最低水準の考え方を紹介していますので、参考にしてください。

また、同一労働同一賃金の基本や、労使協定方式と派遣先均等・均衡方式の概要などを知りたい人は、次の記事をご確認ください。

2 賃金の最低水準のルールは3項目に分かれている

労使協定方式では、「基本給・賞与・手当等」「通勤手当」「退職金」の3項目について最低水準のルールが設けられています。ちなみに、基本給・賞与・手当等とは、賃金全体から通勤手当、退職金、残業代(時間外・休日・深夜労働に対して支払うもの)を除いた金額のことです。

1)基本給・賞与・手当等

基本給・賞与・手当等の最低水準は、次の計算式で算出した金額(時給換算)です。計算の結果、1円未満の端数が生じた場合は「切り上げ」になります。

画像1

各基準値・指数の具体的な数字は、厚生労働省ウェブサイトから確認できます。

■厚生労働省「労使協定方式(労働者派遣法第30条の4)『同種の業務に従事する一般労働者の賃金水準』について」■
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000077386_00001.html

2)通勤手当

通勤手当の最低水準は、次のいずれかの金額です。どちらを適用するかは労使で選択することとされ、派遣社員によって1.と2.を使い分けるよう労使協定で定めることもできます。

  • 通勤費の実費相当額(定期代など)
  • 厚生労働省が定める金額(2021年度は74円、2022年度は71円、どちらも時給換算)

ただし、通勤手当の支給額に上限を設けている場合は注意する必要があります。通勤手当の支給額が1.の実費相当額を下回る派遣社員については、必ず2.の最低水準が適用されるからです。ちなみに、通勤手当の支給額が2.の最低水準に達しているかどうかは、通勤手当を時給換算した金額で判断します。例えば、通勤手当が毎月支給されている場合、

毎月の通勤手当の支給額÷(1日の所定労働日数×1カ月の所定労働日数)≧74円(71円)

となっていれば、最低水準に達していることになります。

3)退職金

退職金の最低水準は、次のいずれかの金額です。どちらを適用するかは労使で選択することとされ、派遣社員によって1.と2.を使い分けるよう労使協定で定めることもできます。

  • 厚生労働省が認める統計調査(賃金構造基本統計調査など、「1)基本給・賞与・手当等」のURLを参照)を基にした金額
  • 基本給・賞与・手当等の最低水準×6%(時給換算、1円未満の端数は「切り上げ」)

ただし、中小企業退職金共済制度等(中小企業退職金共済制度、商工会議所の特定退職金共済制度、中小事業主掛金納付制度(iDeCo+)、企業型の確定拠出年金など)に加入する場合は、必ず2.が適用されます。なお、拠出金は会社が拠出するもののみが対象で、派遣社員(加入者)本人が拠出金を上乗せする、いわゆる「マッチング拠出」は対象外です。

3 派遣社員の賃金の見直しは必要? シミュレートしてみよう

次に、派遣社員の賃金について見直しが必要かどうかシミュレートしてみましょう。ここでは、職種が「一般事務員」の派遣社員を例に、シミュレーションのイメージを紹介します。

まずは、前提条件を次のように設定します。

画像2

次に、賃金の最低水準の金額を計算します。厚生労働省の基準値・指数などについては、「2022年度」のものを使用した場合、最低水準の合計金額は次のようになります。

画像3

この賃金の最低水準の合計金額と、図表2の現在の賃金とを比較すると、次のようになります。

  • 賃金の最低水準の合計金額:1万4224円(8時間換算、1778円×8時間)
  • 現在の賃金:1万1531円(8時間換算)
  • 差額:2693円(8時間換算、1万4224円-1万1531円)

この場合、賃金が最低水準に達していないため、支給額を引き上げなければなりません。仮に派遣社員の1日の所定労働時間を8時間、1カ月の所定労働日数を20日とした場合、

通勤手当や退職金込みで、1カ月当たり5万3860円(2693円×20日)の引き上げ

が必要になります。

4 労働条件の不利益変更に注意

第3章では、派遣社員の賃金が最低水準に達していないケースを取り上げましたが、逆に現在の賃金が最低水準を上回っていて、経営者が「これまで賃金を払いすぎていたのでは……」と見直しを検討するケースも考えられます。

しかし、賃金の引き下げは「労働条件の不利益変更」に当たるため、実施するには、

  • 労働組合の同意を得て、労働協約を変更する
  • 合理的な内容であることを前提に、就業規則を変更する
  • 個々の派遣社員の同意を得て、労働契約を変更する

のいずれかの手続きが必要です。なお、「合理的な内容であることを前提に、就業規則を変更する」場合、派遣社員が被る不利益の大きさや労働条件変更の必要性、変更内容の相当性や労働組合等との交渉状況その他の事情等を考慮して合理性が判断されることになります。

基本的に、最低水準だけを理由にして賃金を引き下げるのは合理的とはいえませんが、経営上の高度の必要性があり、代償措置の存在等の相当性が認められる事情があれば、その合理性が認められる余地が出てくるでしょう。とはいえ、トラブル防止の観点から考えると、可能な限り個々の派遣社員の自由な意思に基づく合意を得た上で就業規則を変更するのが望ましいです。

以上(2022年3月)
(監修 弁護士 八幡優里)

pj00459
画像:tiquitaca-Adobe Stock

【朝礼】社内の評価より社外の評価を誇れ

突然ですが、私は新年度から、皆さんの評価の方法を見直すつもりです。そのきっかけになったのは、A君に対する評価について、私に至らない部分があったからです。これからその経緯について話しますが、皆さんの仕事の取り組み方にも関係することなので、しっかりと聞いてください。

皆さんもご存じのように、A君は若手から中堅社員になりつつあり、これからの成長が期待される一人です。私を含めたA君の上司たちは、A君に対してそれなりに評価しているつもりでした。

ところが最近、ある取引先の幹部の方と話をしたときにA君の話題になり、取引先の方々は私が想像していた以上に、A君を高く評価していることを知りました。

確かにA君は人当たりが良く、私も取引先から好まれる人物だとは思っていました。その一方で、取引先との交渉の進め方が遅いという難点があるとも感じていました。ところが、取引先の幹部の方は、A君は綿密に連絡を取り、こちらの事情も踏まえて行動してくれると感謝していたのです。しかも、取引先におもねって言い分をそのままのむのではなく、我が社の立場もしっかりと説明した上で、両社の折り合いがつくような提案をしてくれているそうです。

私がこの話を踏まえ、A君から取引先を引き継いだ若手のB君に話を聞いてみたところ、A君が築いた取引先との良好な関係のおかげで、取引先の我が社に対する信頼も厚いとのことです。

こうした話を聞いて、私はA君に対してとても感謝し、これまで社外での評価を考慮せずに低く評価していた自分自身の、人を見る目のなさを反省しました。

私がA君の交渉の進め方が遅いと思っていたのは、「我が社の都合」で見ていたからでした。A君は、たとえ進め方が遅いという社内の評価を受けてでも、取引先から感謝され、結果的に我が社が取引先と長くWIN-WINの関係を続けられることを優先してくれていたのです。

この反省を踏まえて、私は新年度から、皆さんを評価するために、取引先を含めたいろいろな人の意見を聞くようにします。そして、皆さんにもお願いがあります。それは、社内での、特に上司からの目先の評価だけを気にして仕事をしないでもらいたい、ということです。もちろん、私の顔色を見ながら仕事をする必要もありません。

皆さんは、取引の現場の最前線に立つ者として、我が社のことだけでなく、取引先にとって何がベストなのかも考えて行動するようにしてください。取引先のために最大限の努力をすれば、取引先は必ず評価してくれます。取引先との最前線に立つ皆さんが評価されるということは、我が社の評価が上がるということでもあります。もし私や上司が現場の事情を知らずに、取引先からの評価が下がるような要求をしていると感じたら、遠慮なく反論してください。私は新年度から、それができる社員も、高く評価します。

以上(2022年3月)

pj17095
画像:Mariko Mitsuda

海外と知財~中小企業の海外展開を成功させる知財活用ノウハウとは~/意外と知らない「知的財産権」シリーズ8

書いてあること

  • 主な読者:海外展開の際に自社の商標を保護したい経営者
  • 課題:日本国内の著名な商標が外国で侵害されているという話を耳にする。保護は難しい?
  • 解決策:知的財産権は各国・各地域で取得する必要がある。権利を取得しておけば、国・地域によっては侵害に対して行政摘発が行われ、早期決着が図れる

1 知的財産戦略が後手に回ったことで起きた悲劇

突然ですが、質問です。皆さんにもなじみのある以下の画像には、ある共通点があります。何だと思いますか?

画像1

実は、これらはいずれも海外での知的財産権に関する対策が後手に回ったことから、

外国で無関係の第三者に先に商標権を取得されてしまった

という共通点があります。裁判で争ったものの、敗訴したため、自社の商標登録がその国ではできなくなってしまったのです。

中小企業の海外展開に当たっては、現地との共同開発関係の構築、代理店・フランチャイズ展開、ビジネスパートナーとの協力関係の樹立、製品の輸出、ネット販売、展示会への出展などさまざまな段階がありますが、

それらの全てに先立って「知的財産戦略」を考えて臨む必要がある

のです。

2 まだまだある海外での知的財産権を巡るトラブル事例

この他にも、海外での知的財産権を巡るトラブルは数多くの事例があります。

1)よくあるトラブル事例:無印良品

例えば、日本でもよく知られている「無印良品」は、1980年に親会社である西友が創設したプライベートブランドです。1999年11月に中国で商標出願する際、ファブリック関連商品の属する第24類を出願範囲から除きました。その結果、2000年4月に海南南華実業貿易公司という中国の会社が第24類の商品分野で「無印良品」を商標出願して、2004年1月に登録を受けました。さらに同年8月に、同社から当該商標権を譲り受けた北京棉田紡績品有限公司によって、日本の無印良品は逆に、2015年4月商標権侵害に基づく訴訟を提起され、しかも敗訴したのです。

さまざまな“ファッション・ブランド”が台頭した1980年代において、「無印良品」はまさに「印が無くとも、良い品を」というコンセプトを打ち出すことで、支持を得ました。そのネーミングが商標登録というブランディング行為に対して、やや消極的に働いたことには同情できる部分もあります(下記引用元参照)。

とはいえ、「無印良品」の表示を目にする需要者に対して商品の品質を保証して、出所混同の不利益から保護するために、最低限、商標登録はしておくべきだったといわざるを得ないでしょう。

画像2

2)よくあるトラブル事例:某飲食店チェーン

この他にも、商標権未取得によって起こる典型的なトラブルがあります。例えば、日本の飲食店A社に、台湾のB社から、フランチャイズ展開をさせてくれないかとの打診がありました。商談に進み、フランチャイズ条件の大筋が合意できた時点で、弁護士から海外展開には商標権取得が不可欠とのアドバイスを受けて商標調査してみると、すでに台湾では、A社のブランドがB社によって商標登録されていたといったような事例です。

このような場合、B社が商標権譲渡を拒否し、フランチャイジーの条件についても自社に有利な条件に固執するなどして破談となれば、A社は自社のブランドを台湾で使用できなくなってしまいます。結局、自社ブランドでの台湾展開そのものを断念するほかなくなるのです。

さらに、近年は越境ECによる海外取引が活発に行われていますが、

そもそも商標登録がなければ出店を認めないプラットフォーマーが散見され、商標登録がなければアカウントそのものを削除されてしまう

といった状況もあるようですから、海外展開に先立つ商標登録は、もはや必須といっていいでしょう。

3 なぜトラブルが発生してしまうのか

知的財産戦略を怠るとやっかいなトラブルに巻き込まれることは、もはや世界の情勢から見て明白です。特に、

商標は全ての企業が保有する知的財産ですから、その対策は避けて通れない

といえます。

現在、ほとんどの国で登録商標に関する情報がインターネットを通じて世界中に公開され、どのような企業が、どの範囲で商標登録をしているか(していないか)、誰でも簡単に把握することができる状況です。

そして、商標は他の知的財産と異なり登録に新規性が要求されないため、すでに他人が使用している名前でも出願・登録することが可能です。比較的低額で済む官庁費用さえ払えば、誰でも海外の登録商標を自国における未登録分野で商標登録できてしまうのです。前章で取り上げたような悲劇が生まれてしまうのは、こうした事情が背景にあります。

さらに中国には、商標そのものを取引する転売サイトも存在していますので、商標権がどのような人の手に渡るか分かりません。対策の遅れは大きなトラブルとなる可能性が高いといえます。

4 どうすればトラブルを回避できる?

これまでにもすでに述べたところですが、海外展開には知的財産戦略が不可欠です。特に新興国においては知的財産に関する法の整備が遅れていることもあり、適切な対策を講じて臨む必要があります。覚えておいていただきたいのは、

知的財産権は各国・各地域で成立する権利であり、進出対象国などにおいて個別に取得する必要がある

ということです。

とはいえ、現地代理人に依頼するなどして行政手続きを踏む必要があることから、相応のコストを要します。中小企業ではどうしても対応が後回しとなってしまうことも少なくありません。この点に関しては、

国や都道府県などが出願費用を助成するなど、さまざまな支援が用意されています

ので、必ず確認されるとよいでしょう。

5 知的財産権を守るためのワンポイントアドバイス

1)商標登録さえすれば行政摘発で早期決着が期待できる

中国やベトナムなどでは、

商標登録をしておけば、その侵害行為に対して行政機関が摘発に動いてくれる

という有利な点もあります(意匠も同様)。知的財産権に対する侵害への救済については、裁判所へ提訴することも可能ですが、司法的な解決にはかなりの時間を要することになります。対して、行政摘発では、中国であれば約3カ月で決着するなど、かなり迅速に動いてもらえるメリットがあります。

画像3

2)「日本語のみ」の商標は認められない国も

実際に商標を出願するに当たっては、ベトナムなど、日本語のみからなる商標については識別力を否定する運用をとっている国もあります。日本語のまま出願するのか、英語で出願するのか、現地の言語にするのか、中国語の場合は簡体字か繁体字か、その場合は呼称まできちんと権利範囲に含まれているかなどの検討が必要です。

また、商標の構成態様についても、紛争を未然に回避するためにも、各国の法制度に鑑みて十分な内容となっているか必ず確認されるようお勧めします。このあたりは知財を専門としている弁護士にご相談いただくのがよいでしょう。

以上(2022年3月)
(執筆 明倫国際法律事務所 弁護士 田中雅敏)

pj60307
画像:areebarbar-Adobe Stock

【朝礼】新年度に持っていくこと、捨てること

4月は年度が替わる節目の月です。これは、古いものを捨て、新しいものを取る「取捨選択」の月でもあります。新年度、私はこの取捨選択を徹底的に行っていきます。日立でラストマンといわれた川村隆氏の言葉に、その理由が示されているので紹介します。

「英国の軍艦の興味深い話があります。軍艦をそのまま放っておくと、毎年1インチずつ喫水が下がり、船の航行速度が落ちて、最後には使い物にならなくなるそうです。さびて浸水したり、貝殻が付着したりというようなことではなく、船の重量が毎年少しずつ増えていくのが原因です」

皆さんは、船の機能が奪われていく理由は何であると思いますか。川村氏の言葉は次のように続きます。

「なぜか。乗組員が勤務に慣れてくるに従って、自分のベッドや個室に本などの私物を持ち込み、それが全体ではバカにならない重量になるというのです」

日々、私たちが行う仕事には、各人の“想い”が込められています。“想い”がなければ良い仕事はできません。また、仕事に慣れてくれば、効率化が図れます。しかし一方で、知らないうちにそれらが独りよがりのものとなり、他人の意見や指摘を聞き入れる心の余裕を失ったり、世の中の変化に置き去りにされて “ガラパゴス化”した仕事の進め方になってしまったりすることがあります。これはとても怖いことです。

昨年の大掃除は、乱れたものをあるべき場所に戻したり、順番通りに並べたりするだけの「整える掃除」ではありませんでした。明らかに不要なものはもちろんですが、それ以外にも「もしかするとこれから使うかもしれない」と思って保管してきたものも一気に処分する「捨てる掃除」をしました。いわば物質の取捨選択です。そして、キャビネットの台数を減らした代わりに、新しくミーティングスペースを作りました。リモートでは難しい、オフィスに出社するからこそできる活気ある議論や、仲間とのつながりを感じられる場を作りたいと思ったからです。

 

また、昨年末から年始にかけて、私は皆さんに繰り返し伝えました。「来年度に、何を持っていき、何を捨て、そして新たに何を獲得するのかをじっくり考えてほしい」と。その答えを行動で示すときが、いよいよやってきたことを皆さんは分かっているでしょうか。

当社は小さいながらも、長い歴史があります。とても誇らしいことですが、冒頭で紹介した英国の軍艦のようになったら、あっという間に沈んでしまいます。小さな会社だからこそ、スピードと柔軟さという武器を失ってはいけないのです。

新年度、我が社は新規事業にチャレンジします。そのためには、物質だけではなく、これまでの積み重ねの中にも捨てなければならないものがあります。決して過去をないがしろにするわけではありません。新しいスタートを切るための儀式のようなものなのです。皆さん、気持ちをリフレッシュしてください。そして、勢いよく新年度のスタートを切りましょう。

以上(2022年3月)

op16903
画像:Mariko Mitsuda

第33回 スタートアップ投資と成長のさせ方/イノベーションフォレスト(イノベーションの森)

資金調達を考える上で、ベンチャーキャピタル(以下「VC」)はメジャーな選択肢の1つです。一方で、「VCとは何か」「企業をどのように支援してくれるのか」といったことに漠然としたイメージしかなく、理解を深めたいとお考えの方も多いのではないかと思います。

今回は、株式会社産業革新機構(以下「INCJ」)元マネージング ディレクター/日本ベンチャーキャピタル協会理事、現在は株式会社Global Hands-On VCにて代表を務める安永 謙氏にインタビューを実施しました。

「スタートアップ投資と成長のさせ方」をテーマとし、投資を受けたい/投資をしたい、どちらの立場の方にとっても、学びの多いお話をいただきました。

1 安永氏の経歴

安永氏は、日商岩井株式会社(現双日)、日商岩井アメリカ株式会社で経験を積まれた後、Co-Founderとして立ち上げたアメリカのVC(Entrepia Ventures)で投資経験を重ね、帰国後日本ベンチャーキャピタル協会理事を務めた後、株式会社INCJで戦略投資グループのマネージングディレクターを務められました。

シリコンバレーでベンチャーキャピタリストとしての研鑽を積まれ、特に技術領域では、半導体、ストレージ、セキュリティなど、ソフト/ハード問わず幅広く投資を行い、日本の技術系スタートアップの海外進出支援の実績も多数お持ちです。

現在は、半導体スタートアップのCFOを兼任しながら、日本の技術系スタートアップの海外進出支援を行う「Global Hands-On VC」(以下「GHOVC」)の立ち上げを進めています。
GHOVCは、安永氏の他に、日本VC界の重鎮であるアレン・マイナー氏、DEC・Microsoft・Googleなどで経験を積んだ著名なエンジニアの及川卓也氏、安永氏が師と仰ぐ連続起業家のシュリ・ドダニ氏、スタンフォード大学で教鞭を取るリチャード・ダッシャー氏などから成る夢のスタートアップ支援チーム。
海外進出の経験、海外での会社経営経験、グローバルに通用する商材を開発・販売した経験を持つメンバーが集まり、日本の技術系スタートアップが海外へ進出するための支援をします。

その他にも、経済産業省・文科省・内閣府などのベンチャー関連のアドバイザー、大学でのアントレプレナーシップ教育も兼務するなど、その実績は枚挙にいとまがありません。
長年にわたり、日本のVCとスタートアップ業界を牽引してきたベンチャーキャピタリストです。

安永氏の画像です

2 シリコンバレー流 企業を成長へ導く「ハンズオン投資」とは

ベンチャーキャピタリストは、将来成長が見込めるスタートアップ企業に対して出資を行うベンチャーキャピタルの投資担当者を指します。
投資後は、スタートアップ企業の経営を助け、成長を支援します。

文字にすると非常にシンプルではありますが、安永氏が提唱するハンズオン投資では、より深く、近い距離で、経営者の悩みに寄り添った支援をしていきます。

具体的に安永氏が行うスタートアップ支援には、以下のようなものがあります。

1)資金調達と、調達した資金の使い方に関するアドバイス

企業運営において重要であり、多くの経営者を悩ませているのは「お金」に関する問題です。ハンズオン投資では、お金を出して終わりではなく、それを企業の成長のために適切に使うための相談に乗ります。

投資先に対してマイクロマネジメントを行うのではなく、現時点で企業が何をすべきか、そのためにどれだけの資金をつぎ込むのか、次のチャレンジに向けた資金調達をどうするかといった考え方を共有し、共に計画策定に臨みます。

また、「苦しい時ほど寄り添う」というのが、安永氏が大切にしてきた価値観です。投資先企業を信頼し、資金繰りが厳しい時こそ親身に相談に乗り、時には追加で出資を行なうこともあります。

2)グロースストーリーの策定、事業推進支援

自社の商品・サービスを携え、どのマーケットに打って出るのか。その後の展開はどうするのか、大まかな成長ストーリーを経営者と共に策定していきます。

例えば、SaaSのサービスを持つIT企業の場合、イニシャルのマーケットを押えたら、次はどのマーケットを目指すのか。そのためのセールスチームのつくり方と、KPI設定などを考えると同時に、事業の選択と集中についても話し合い、「受託開発的なことはやらない」など、企業としての方向性を定める支援をします。

3)人材の採用、チームづくり

固定費としての割合が大きい人件費は、経営者にとって慎重に検討しなければならない事案の1つです。

どんな人を、どのフェーズで採用するのか。その人がチームに溶け込んでくれるまでの時間を鑑みながら、採用とチームづくりのアドバイスを行います。

4)ビジネスのピボットに関するアドバイスと支援

「事業は生き物であり、マーケットに合わせてその姿を変えなくてはならない」と安永氏は語ります。そのため、「このビジネスのために投資したのだから」ということにこだわるのではなく、いかに適切にピボットさせていくかを経営者と話し合い、適切な支援を行います。

このように全体のストーリーづくりからチームのKPI設定、人の採用など、ハンズオン投資で支援する領域は幅広くあります。

1年目、3年目、5年目と、成長に合わせた各フェーズで、スタートアップはさまざまな課題に直面するため、それに合わせてベンチャーキャピタリストに寄せられる相談の内容も、おのずと広がっていくのです。

課題に対する解決方法は必ずしも1つではありませんが、ベンチャーキャピタリストは、過去の知見やノウハウを元に、経営者により正しい決断ができるヒントを与えてくれる存在です。

3 海外進出を成功させるために必要なポイント

数多くのスタートアップを支援してきた安永氏ですが、中でも日米のVCで培った経験を活かした海外進出のノウハウに多くの経営者が助けられてきました。

ここでは、安永氏が実際にどのように海外進出を支援しているかをご紹介します。

1)マーケットを見極め、適切な商品を、適正価格で売る

当然ながら、はじめは進出国の選定からスタートします。
競合が多いか、少ないか。自社の商品がフィットしそうな市場はあるか。
保有する商材の中で最もマッチする市場をセレクトします。

そして価格設定についても、競合と比較の上で、「あえて高価格に設定する」「圧倒的に低価格に設定する」などの工夫をします。

2)現地へ赴き、現地法人のトップを見つける

創業したばかりのスタートアップの場合、進出方法として現地の企業と代理店契約を結ぶというのはあまり現実的ではありません。いかに現地法人を任せられるトップを探し、権限移譲していけるかが成功の鍵となります。

また、採用後も、はじめは自社の方向性や文化を浸透させるため、ファウンダーの1人が現地に残り、寄り添うことを勧めています。

シリコンバレーなど、安永氏が運営するGHOVCのメンバーがいるエリアでは、採用の支援まで行うことも可能だそうです。

3)現地化に向け、売れる仕組みと継続できる兵站(へいたん)を整える

現地化を成功させるためには「現地社員のモチベーションが上がるようなインセンティブが設定できた」など、「売れる仕組みづくり」が不可欠です。

また、現地化は一朝一夕でできるものではないため、長期的な目線を持ち、充分な兵站(=資金やパートナーなどのリソース)を準備することも重要となります。

4 成長する企業に必要な「アンフェア・アドバンテージ」

多くのスタートアップ企業を支援してきた安永氏が、支援する企業に一貫して伝えているのが、「アンフェア・アドバンテージ」という考え方です。

アンフェア・アドバンテージとは、わかりやすく表現すれば、「これをやれば、競合は敵わない」というような、競合に対する圧倒的な優位性のことを指します。

例えば、半導体であれば、競合と比較して圧倒的に速い処理速度、圧倒的に低い消費電力など、圧倒的に勝る技術力のことです。ソフトウェアであれば、競合と比較して圧倒的に優れたUI/UX、圧倒的に低価格な導入コストなども、アンフェア・アドバンテージと言えます。

もちろん、技術で圧倒的に勝ることが理想ではありますが、それが難しい場合には、「仕組み」で競合を上回ることもできます。

例えば、安永氏が支援する、あるストレージ事業の企業では、シリコンバレー進出にあたりAWS(Amazon Web Services)とパートナーシップを結びました。
これを実現させた企業が他になかったため、同社ではそれが圧倒的なアドバンテージとなり、GoogleのGCP(Google Cloud Platform)、MicrosoftのAzureとも提携を進めた他、BIツールとも連携してストレージ内の分析ができるようにサービスを改善していったのです。

結果として、このエコシステム自体がさらに他社が追随できないアドバンテージとなり、売上が約30倍まで伸長していきました。

もちろん、パートナーとなる企業に対して「当社と組めばこんなメリットがあります」といえる強みは必要ですが、技術的なパフォーマンスだけではなく、サプライチェーン自体がアンフェア・アドバンテージとなった成功事例です。

安永氏の画像です

5 スタートアップが成長するために、起業家/投資家に必要なマインド

多数のスタートアップやVCと共に仕事をしてきた安永氏から見て、事業を大きく成長させる起業家/投資家に共通するポイントはあるのでしょうか。
それぞれに共通するポイントについて、教えていただきました。

1)起業家に必要な3つの要素

1.事業をやり遂げる情熱

まず、起業家にもっとも必要な要素として、安永氏が挙げたのは「事業をやり続ける情熱」でした。

もちろん、技術が必要な事業であれば、「こういうものがつくりたい!」といくら言っても、それを実現する技術力やスキルがなければ、それは机上の空論です。技術があっても、マーケットが受け入れるには時間がかかります。最初は受け入れられなくても、マーケットに合わせて商品やビジネスモデルを変えながら、事業をやり続ける・やり通す情熱がなければ、スタートアップに成功はないのです。

2.ステークホルダーを巻き込むコミュニケーション能力

次いで重要なのは、「コミュニケーション能力」だといいます。
安永氏が尊敬し、GHOVCのメンバーでもある起業家・経営者のシュリ・ドダニ氏は、元々安永氏が出資していたスタートアップのCEOでした。

安永氏のVCからは5%程度の出資しかしていなかったものの、ドダニ氏は経営判断の際には必ず「こんなことをしようと思うけど、理解してもらえるか?」と安永氏に確認を取っていました。
また、ドダニ氏は困っている時にはそれを正直に伝え、自信がある時には自信がある、ということをはっきりと伝える経営者でもあったそうです。

恐らくドダニ氏は、他の投資家や従業員、ステークホルダーに対しても安永氏への対応と同様に、真摯で丁寧なコミュニケーションを取っていたのでしょう。

彼のコミュニケーション能力は、従業員のモチベーションを高め、投資家やステークホルダーからの共感を集めることに大きく貢献しました。

3.常に大きな商売のことを考えるアイデアマン

最後に安永氏が挙げた要素は、「大きな商売を見据えたアイデアマンであること」です。

優れた経営者というのは、少しの時間話すだけでも「この事業をもっとこうしたら」「あの事業とくっつけたら」「こんな売り方をしたら」と湧水のようにアイデアが出てきます。
そして「儲かる」とは目先の利益ではなく、将来の数十億・数百億という利益を見据えているのです。

安永氏が過去に仕事をした仲間の中に、自身が経営する企業を上場させ、大きなエグジットを成し遂げた人物がおり、彼はまさにそのタイプだったといいます。

どうしたら儲かるのかをいつも考え、「数億で喜んでいたらダメ。数十億・数百億を目標に置かなくては」と常々語り、時には雑誌社を買収するようなダイナミックなお金の使い方をしました。

その一方で、コストマインドも高く、出張先で安いレンタカーを探すような地道なコスト削減を自ら行う、謙虚な経営者でもあったそうです。

2)投資家に必要な3つの要素

1.主人公は経営者であることを理解する、良きメンター

投資家に必要な要素の1つ目は「主人公は経営者」という認識を持っていることです。
投資家はパートナーであり、経営者との間に上下関係はありません。

経営者やメンバーが本当にやりたいことをやるために必要なものを揃えてあげて、時にはその知見やノウハウを経営者にシェアしてヒントや気づきを与える良きメンター。

それが、安永氏が考える投資家の理想の姿です。

2.付加価値があること

1.で挙げたような良きメンターであるためには、投資家自身に、経営者にシェアできる「付加価値」がなくてはなりません。

例えば、トップ営業の支援ができるだけのコネクション、セールスの組織を育てた経験、エンジニアのマネジメント経験、プロダクトマネジメントのノウハウ、経営ノウハウなどです。もちろんすべてを持っている人はいないでしょうが、何かしらの付加価値を持って、経営者を支援できる経験値は必要不可欠です。

3.自ら手を動かした経験があること

ここまでの話ともつながりますが、投資家は自ら手を動かした経験を持つべきだと安永氏は語ります。

経営者は企業の成長過程で、さまざまな困難にぶつかります。
 MBAなどの経営の知識を元に解決を試みるものの、「論理的にはそうだけど、それでは解決できないから困っているのに!」という状況は多々あるのです。

そんな時、投資家が同じような苦労をしたことがあれば、経営者も心を開いて話を聞いてくれるでしょうし、より現実的な解決策が見つかります。

シリコンバレーでは元経営者がVCに入ることが多く、このように自らの経験をシェアして育てる、という文化が根付いているといいます。

6 VCは、たくさんの人を幸せにするエキサイティングな仕事

最後に、ベンチャーキャピタリストとして熱い想いを持つ安永氏に、仕事にかける想いを語っていただきました。

    私は、「生きている中で、たくさんの人を幸せにしたい」という想いのもと、情熱を持ってベンチャーキャピタリストを続けています。

    私自身は起業家にはなれませんでしたが、自分たちでアメリカでベンチャーキャピタルを立ち上げた時に、組織が大きくなっていくワクワク感を味わってきました。
    また、シリコンバレーでは、すばらしく優秀な経営者の方々と出会い、謦咳に接する幸せを感じました。そして、「人生においてチャレンジする喜び」を知ることができました。

    一方で、日本には、良い商品・サービスを持ち、優秀な経営者・良いチームを持つ企業がたくさんあるにもかかわらず、グローバルに出て成長していく企業がそれほど多くないと思っており、この状況を変えたいという想いもあります。

    だからこそ、日本企業の海外進出を支援する、GHOVCを立ち上げました。
    GHOVCには、自分たちが手を動かし、成功・失敗を重ねてきたアントレプレナーが揃っています。

    このチームの力を活かして、自分が味わったようなワクワク感や、チャレンジする喜びを、もっと多くの人に知ってもらいたい。
    そして、国内の上場までをゴールとするのではなく、グローバルに出て、ユニコーン企業へ成長を遂げる日本のスタートアップ企業を、より多く輩出していく。

    それが今の私の願いであり、情熱の源となっています。

安永氏の画像です

以上

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2022年3月28日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

※上記内容は、株式会社日本情報マートまたは執筆者が作成したものであり、りそな銀行の見解を示しているものではございません。上記内容に関するお問い合わせなどは、お手数ですが下記の電子メールアドレスあてにご連絡をお願いいたします。

【電子メールでのお問い合わせ先】
inquiry01@jim.jp

(株式会社日本情報マートが、皆様からのお問い合わせを承ります。なお、株式会社日本情報マートの会社概要は、ウェブサイト https://www.jim.jp/company/をご覧ください)

ご回答は平日午前10:00~18:00とさせていただいておりますので、ご了承ください。

【損金】認められた効果は絶大? 「損金算入できる評価損」の条件

書いてあること

  • 主な読者:決算のとき、評価損が計上できそうな商品や固定資産を有する会社の経営者
  • 課題:評価損を損金に算入できるか否かの判断は難しく、税務調査でも指摘を受けやすい
  • 解決策:棚卸資産と固定資産の評価損を損金算入するには証拠やデータが必要

1 ほとんど損金に算入できない「評価損」

決算が近づくと、資産の「評価」という普段とは違う会計処理をします。評価とは、

資産の一定時点における価値を認識し、帳簿上の価額を修正すること

です。財務上は、評価時点の価値(時価)が、帳簿の価額を下回る場合は「評価損」(上回る場合は「評価益」)を計上します。一方、税務上は、

原則的に評価損は損金に算入できないが、特定の事情に該当する場合は例外

ということになっています。

この例外を知ることは、税金対策の基本になるので、フローを使いながら説明していきます。ただ、評価損の判断は難しく、影響する金額も大きくなりがちです、ミスをして税務調査で指摘されると、追加で多額の税金を納めなければならないこともあります。そのため、税理士などの専門家に相談しながら進めるのが無難です。

2 棚卸資産に関する評価損

棚卸資産の評価損が損金に算入できるかどうかは、次のフローで判断します。

画像1

「経済的な環境変化による著しい陳腐化」とは、資産自体に欠陥が生じたわけではないが、経済的な環境の変化に伴ってその価値が著しく減少し、今後回復しないと認められる状態にあることをいいます。

例えば、

アパレル商品などの季節商品で、将来的に通常価額で販売できないことが例年の取引などから明らかな場合

は、損金に算入できる可能性があります。この場合、バーゲンでも売れ残ったなど、通常価額では販売できない客観的な実績を記録しておきます。過去の実績も記録しておきましょう。

また、

パソコンのモデルチェンジのように、用途はほぼ同じだが、形式・性能・品質が大きく異なる新モデルが発表された影響で、今後通常の方法で販売することができない場合

も、損金に算入できる可能性があります。パソコンなどは新モデルの販売前に見切り販売することがあります。見切り販売が習慣化している場合、過去事例や他社事例など、慣例となっていることが証明できるようにしておきましょう。

3 固定資産に関する評価損

固定資産の評価損が損金に算入できるかどうかは、次のフローで判断します。

画像2

「所在場所が著しく変化した」とは、地盤沈下で地価が下落した場合などを指し、バブル経済の崩壊やリーマンショックのような経済環境の悪化による変化は含まれません。

また、以下の固定資産の評価損は損金に算入できません。

  • 過度の使用や修理が不十分なために、著しく損耗している固定資産
  • 償却を行わなかったため、償却不足額が生じている固定資産
  • 取得価額が取得時の事情で、同種の資産よりも高くなっている固定資産
  • 機械及び装置が、製造方法の急速な進歩により旧式化している固定資産

なお、モデルチェンジなどで既存の製造用機械装置の価値が著しく低下したとしても、その評価損は損金に算入できません。棚卸資産と異なるのは、固定資産は減価償却によって毎事業年度に費用計上されていて、価値の低下は減価償却の範囲内で行うことになっているからです。その代わり、耐用年数の短縮(税務署の承認が必要)により、その事業年度に損金に算入できる減価償却費の額を増やす方法があります。

最後に、財務上の減損損失との関係を整理しておきます。財務上の減損損失がされても、税務上は損金に算入できません。いずれも資産の帳簿価額を減額する処理ですが、

  • 財務上の減損損失(減損会計)は、将来の収益性(その固定資産を使っていくら稼げるか)の低下や、経営環境の悪化(材料価格の高騰)など経済的な要因で計上
  • 税務上の評価損は、その資産の物理的な損傷などに限って計上

されます。ただし、財務上の減損の対象となった固定資産の中には、税務上の評価損を損金に算入できるものも含まれている可能性があるので、精査する必要があります。

以上(2022年3月)
(監修 南青山税理士法人 税理士 窪田博行)

pj35056
画像:photo-ac

「Z世代」について企業が理解しておくべきこと

1 世界の人口の約3割を占めるZ世代

私の息子は1996年生まれです。まさにZ世代の初めの世代。少なくとも息子の人生初めてのお絵かきの道具は「クレヨン」ではありませんでした。クレヨンを買い与える前に勝手に「マウス」を触ってお絵描きをした世代です。なぜなら我が家には“Windows95”があったからです。生まれた時から両親がパソコンを立ち上げる姿をその目に映しながら人生のスタートをきった世代がZ世代です。

「今どきの若い者は…」などという、いつの世代も繰り返されてきたような、世代を一括りにするような言い方はあまり好きではありませんが、20歳までの多感な時期をどのような時代背景で育まれてきたのかは、ある程度その世代の文化をつくると感じます。

マーケティングの世界において、すでに世界の人口の約32%を占めるといわれるZ世代の消費行動に対応できなければ、この世代を顧客化し、次代に生き残る企業とはなり得ません。日本においては少子高齢化の影響もあり、Z世代の人口割合は約半分、15%程度に過ぎませんが、これからの日本を支えていくのは間違いなく彼らの世代です。

そもそも近年はVUCAの時代といわれてきました。VUCAは、次の4つの単語の頭文字をとった造語です。

V(Volatility:変動性)
U(Uncertainty:不確実性)
C(Complexity:複雑性)
A(Ambiguity:曖昧性)

そして、ここにコロナ禍という想定外が重なりました。Z世代はこのタイミングで入社や就活を経験した世代ともいえます。限られた誌面ではありますが、この時代背景におけるいわゆるZ世代への対応を通じて、これからの人事・労務担当者のあり方を一緒に考えていきましょう。

(日本法令ビジネスガイドより)

この記事の全文は、こちらからお読みいただけます。pdf

sj09031
画像:photo-ac

【働き方改革】副業社員の「残業代」を負担するのは自社か副業先か?

書いてあること

  • 主な読者:副業する社員の【労働時間管理】のルールについて知りたい経営者
  • 課題:できれば副業社員の残業代は負担したくない
  • 解決策:原則として、残業代は労働契約の締結が遅いほうで発生する

1 副業社員の労働時間はどう管理する?

働き方改革が進み、いよいよ中小企業でも社員の「副業」を認めるケースが増えてきています。本業がおろそかになる、副業先に社員を引き抜かれてしまうなどといったネガティブなイメージよりも、人手不足の解消や社員のスキルアップなど前向きな捉え方が浸透しつつあるのです。

一方、副業には通常と異なる労務管理のルールがあるので、この記事では基本となる労働時間管理を取り上げます。ポイントは次の3点です。

  • 自社と副業先での労働時間は通算される
  • 残業代の支払い義務は「労働契約の締結時期」で判断する
  • 副業先での実労働時間は必ずしも把握しなくてもよい

なお、副業特有の労務管理のルールについて詳しく知りたい場合、次のURLの厚生労働省「副業・兼業の促進に関するガイドライン」(以下「ガイドライン」)も併せてご確認ください。

■厚生労働省「副業・兼業」■
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000192188.html

2 自社と副業先で労働時間を通算

労働基準法(以下「労基法」)では、事業場(就業場所)が異なる場合、その労働時間を通算して規定を適用します。例えば、

自社で8時間、副業先で4時間働いたら、12時間(8時間+4時間)働いた

ことになります。このルールが適用されるのは「労基法上、労働時間規制が適用される社員」なので、次に該当する場合は通算されません。

  • 労基法が適用されないケース:フリーランス、独立、起業、共同経営、アドバイザー、コンサルタント、顧問、理事、監事など
  • 労基法は適用されるが労働時間制度が適用されない場合:農業・畜産業・養蚕業・水産業、管理監督者・機密事務取扱者、監視・断続的労働者、高度プロフェッショナル制度の対象者など

3 残業代の負担は「労働契約の締結時期」で判断

労働時間を通算する場合、気になるのは、

自社と副業先のどちらが残業代を支払うのか

ですが、これは労働契約の締結時期で判断します。簡単に言うと、

自社が副業先よりも早く社員と労働契約を締結していれば、副業先で時間外労働が発生する(逆の場合は、自社で時間外労働が発生する)

ことになります。

図表1は、1日の所定労働時間(就業規則に定める労働時間)が8時間の社員が、新たに副業先と1日の所定労働時間が4時間の労働契約を締結したイメージです。

画像1

このように言うと、自社のほうが先に社員を雇っている限り、自社では時間外労働が発生しないように思うかもしれませんが、例外があります。それは、

自社と副業先の所定労働時間を通算した時間が、法定労働時間に達することを知りながら労働時間を延長した場合、自社で時間外労働が発生する

というものです。

図表2は自社と副業先の所定労働時間が共に1日4時間の社員が、自社で5時間、副業先で5時間働いた場合のイメージです。

画像2

自社と副業先の所定労働時間は通算8時間(4時間+4時間)で、すでに法定労働時間(原則として、1日8時間、週40時間)に達しています。そのことを知っていて、社員の労働時間を延長した場合、自社で1時間(5時間-4時間)、副業先で1時間(5時間-4時間)の時間外労働が発生します。

4 副業先での実労働時間は必ずしも把握しなくてよい

最後に、「自社(副業先)は、副業先(自社)での実労働時間を把握する必要はあるのか」を説明します。結論から言うと、過重労働や残業代の未払いを防ぐため、本来は自社も副業先も互いの実労働時間を把握する必要があるとされています(方法は社員からの自己申告など)。とはいえ、これだと労務管理上の負担が大きいため、ガイドラインでは、

自社と副業先がそれぞれ時間外労働の上限を設定し、社員がその範囲内で働く場合、互いの実労働時間を把握しなくてもよいとされています。この運用方法を「管理モデル」

といいます。具体的には、

労働時間を通算した際に、時間外労働(休日労働を含む)が単月100時間未満、2~6カ月平均80時間以内となるよう、自社と副業先がそれぞれ時間外労働の上限を設定

します。なお、この単月100時間未満、2~6カ月平均80時間以内というのは、労基法で定められている時間外労働の上限です。

例えば、図表3は所定労働時間が共に1日4時間の自社と副業先が、1日単位・1カ月単位(20日稼働)でそれぞれ時間外労働の上限を設定する場合のイメージです。

画像3

社員の時間外労働の上限は1カ月単位で通算60時間(3時間×20日)です。社員がこの上限を守って6カ月間働く場合、時間外労働は通算で単月100時間未満、2~6カ月平均80時間以内に収まるので、自社と副業先は互いの実労働時間を把握しなくてもよいということです。

ただし、当然のことながら、それぞれの会社の時間外労働の上限については、事前に社員を通じて共有しておかないと、管理モデルが正しく機能しません。

なお、36協定(労基法第36条に基づく労使協定)の時間数については、通算されません。図表3の場合、自社は1カ月単位で40時間(2時間×20日)、副業先は1カ月単位で20時間(2時間×20日)という時間数が、それぞれの会社の36協定に違反しなければ問題ないということです。

以上(2022年3月)
(監修 弁護士 田島直明)

pj00460
画像:photo-ac