1 取適法施行後、価格交渉は進んでいますか?
2026年1月1日に「下請法」が改正され、名称も中小受託取引適正化法(「取適法(とりてきほう)」)となりました。この改正により、
- 適用対象となる取引の範囲が拡大
- 発注者が受注者に対してやってはいけない「禁止行為」が追加
されました。
発注者と受注者が対等な関係を築き、人件費や原材料費等のコスト上昇を価格に反映できるよう、交渉を促すことが今回の狙いです。ただ、法改正から6カ月が経過した今でも、狙いである「価格交渉の促進」は、あまり成果が上がっていないようです。
Sansanが取適法の適用対象となる受注者・発注者に対して実施したアンケート調査によると、2026年3月時点で、
受注者の6割は、取適法施行後も「発注者との価格について協議する機会が増えていない」
と回答しています。

同調査では、
- 発注者の約6割が「(取適法の)対象企業の特定」に課題を抱えている
- 受注者の7割以上が「契約書や発注書が手元になく、価格交渉をためらった経験」がある
ことが明らかになりました。
■Sansan「取適法施行後の実態調査」(2026年3月)■
https://jp.corp-sansan.com/news/2026/0330.html
取適法のルールはシンプルです。発注者は、受注者が価格交渉を要求してきたら適切に対応しなければなりません。要求を拒んだり、無視したりすれば法令違反となり、行政指導、勧告、さらには会社名公表等のリスクがあります。一方、受注者には、価格交渉について、自ら積極的に発注者に働きかける姿勢が望まれます。ですが、足元では、
- 発注者は、どの取引先(受注者)が取適法の対象になるのかを特定しきれていない
- 受注者は、発注者に価格交渉を要求する権利があるのに、取引条件を明示した契約書や発注書が手元にないために、その一歩を踏み出せていない
という問題が起きているのです。
発注者・受注者いずれの問題も、取適法のルールへの理解不足が根底にあります。この記事で取適法のポイントをおさらいしますので、改めて確認していきましょう。
(注)この記事では便宜上、取適法(旧下請法)の用語である委託事業者(親事業者)を「発注者」、中小受託事業者(下請事業者)を「受注者」、製造委託等代金(下請代金)を「代金」と呼びます。
2 対象となる取引の範囲が広がっている
取適法では、適用対象となる取引の範囲を、「取引の内容」と「資本金基準」(資本金の額あるいは出資の総額)または「従業員基準」(常時使用する従業員の数)によって定めています。
「法律の対象取引」=「取引の内容」+「資本金基準」または「従業員基準」
「取引の内容」については、旧下請法の「製造委託」「修理委託」「情報成果物作成委託」「役務提供委託」の他に、「特定運送委託」が新たに追加されました。特定運送委託とは、
販売する物品、製造を請け負った物品、修理を請け負った物品、作成を請け負った情報成果物(例:作成を請け負ったデザインに基づいて製造されたペットボトル)が記載される等した物品の引き渡しに必要な運送を、他の事業者に委託すること
です。
「従業員基準」は、今回の法改正で新たに追加されました。
従業員数が多く事業規模が大きいのに、減資等により資本金額が少額となっていた事業者を適用対象に含める
ことで、より多くの取引関係における不公正な慣行を是正しようという狙いがあります。
具体的な考え方は図表の通りです。黒字が「資本金基準」、赤字が「従業員基準」で、適用対象となる取引の発注者がどちらか1つでも該当する場合、取適法の適用を受けます。

基準を満たす事業者を「優先的地位にある」ものとして取り扱うことで、取引に係る発注者の不当な行為をより迅速に、そして効果的に規制することが狙いです。
なお、詳細は省きますが、取適法とフリーランス・事業者間取引適正化等法のいずれにも違反する行為については、原則としてフリーランス・事業者間取引適正化等法を優先して適用することとされています。
3 取適法で追加された新たな禁止行為
取適法では、旧下請法でも禁止されてきた発注者による「受領拒否」「代金の支払遅延」「代金の減額」「返品」「買いたたき」等に加え、
- 協議に応じない一方的な代金決定の禁止
- 手形による代金支払いの禁止
という、新たな禁止行為が定められました。
受注者の了解を得ていても、発注者に悪意がなくても、禁止行為に当たれば法令違反
です。これまでの取引慣行が違法とみなされる場合もあるので、早めに対応しておきましょう。
1)協議に応じない一方的な代金決定の禁止
発注者が一方的に代金を決定し、受注者の利益を不当に害する行為は禁止されます。例えば、次のようなものが禁止行為に該当します。
- 受注者が代金の額の引き上げについて協議を求めたにもかかわらず、発注者が無視したり、拒否したり、回答を先延ばしにしたりして応じない
- 発注者が代金の引き下げを要請する場合に、受注者が説明を求めたにもかかわらず、具体的な理由の説明や根拠となる資料の提供をしない
発注者にとって重要なのは、
- 代金について価格交渉の機会をきちんと設けること
- 交渉材料として必要なデータ(原価データ等)を事前に整えておくこと
です。「これまでそうだったから」という屁理屈は通用しませんし、代金の決定プロセスが不透明だと、優良な受注者は取引に応じず離れていってしまう恐れがあります。
2)手形による代金支払いの禁止
代金の支払手段として手形を用いることで、受注者に資金繰りの負担を強いる商習慣が続くことが問題視され、取適法では、
- 代金の支払手段として手形(紙の手形)を用いることは全面禁止
- 電子記録債権や一括請求方式(ファクタリング等)についても、支払期日までに、代金に相当する金銭(手数料等を含む満額)を得ることが困難なものは使用禁止
となりました。
これまで、代金の支払手段として手形を用いてきた発注者は、
振込等による支払いが増えることを見越して、あらかじめ資金を確保しておく必要
があります。発注者は、物品等の受領後、60日以内で定められている支払期日までに、代金を支払わなければ支払遅延となるからです。なお、紙の手形は2026年度末(2027年3月末)までに廃止される予定であり、代替の支払手段への移行が急務です。政府の方針を受けて、多くの金融機関では2027年3月を待たずに前倒しで手形・小切手の取扱を縮小する動きがあります。
4 法令違反をしないための参考情報
中小企業庁は、受注者に対する定期調査や、受注者からの申告または聴取等、様々な端緒情報を踏まえ、取適法違反の可能性がある発注者に対し立入検査を実施しています。

2025年度は、725者の発注者への立入検査等を行い、1454件の違反行為を確認し、619者に対して改善指導を実施したほか、9者に対して公正取引委員会への措置請求が行われました(措置請求を行った9者については、公正取引委員会からの「勧告」に基づき指導がなされています)。
禁止行為の違反として支払遅延が276件、製造委託等の代金減額が142件、買いたたきが129件、不当な経済上の利益の提供要請が120件認められ、改善指導の対象となりました。特に不当な経済上の利益の提供要請では金型等の「型等無償保管」に関する違反行為の指摘が大幅に増えています。
公正取引委員会は、取適法の違反行為を未然に防ぐために、取適法のほか優越的地位の濫用規制等に関する基礎知識の習得を希望する人を対象に説明会を開催予定です(2026年6月11日時点で未定)。
■公正取引委員会「令和8年度取適法講習会の実施について」■
https://www.jftc.go.jp/event/kousyukai/2026toriteki.html
また、中小企業庁は、「適正取引支援サイト」を通じて、基本的な知識とともに、法改正のポイントを重点的に学ぶ無料のオンライン講習会を開催しています(受講には参加申し込みが必要です)。
■適正取引支援サイト「中小受託取引適正化法(取適法)講習会」■
https://tekitorisupport.go.jp/toriteki/
上記のオンライン講習会に加え、中小企業庁は、「みんなのパブリックレッスン」を通じて、取適法の内容や価格交渉についての無料のeラーニングも提供しています(利用規約に同意の上、新規利用登録が必要です)。
■みんなのパブリックレッスン■
https://minpub.learning-ware.jp/login
以上(2026年6月更新)
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画像:日本情報マート
























