【2022年版】法人保険に加入する前に読む 種類ごとにまとめる損金ルール

一般的に、生命保険は個人の病気や入院などに備えて加入するものです。この記事のテーマとなる「法人保険」も基本は同じで、経営者や従業員の万一に備えるものですが、この他にも経営者の退職金の準備など独特の機能を果たします。
 ですから、加入を検討する際に保障内容を確認するのは当然ですが、その他に、支払った保険料の税金の取り扱いや、解約した場合に戻ってくる解約返戻金についても注意することが大切です。例えば、

法人保険の保険料が損金になるかどうかは、保険の種類や解約返戻金の割合などで、大きく変わってくることをご存じでしょうか?

この記事では、

「定期保険」「第三分野保険(医療保険やがん保険など)」「養老保険」「終身保険」

の順番で、損金のルールを分かりやすく解説していきます。

1 定期保険

    ポイント

    支払った保険料の合計額に対する解約返戻金の割合を「解約返戻率」といいます。この解約返戻率がピークになるときの割合(最高解約返戻率)ごとに、損金になる割合や時期が違います。

定期保険の税務上の取扱を示した画像です

1)最高解約返戻率が50%以下の商品

支払った保険料の全額が損金になります。契約年齢や保険期間の長さも関係ありません。

2)最高解約返戻率が50%を超え70%以下の商品

保険期間を3つの期間に分け、取り扱いが決まっています。

最高解約返戻率が50%を超え70%以下の場合を示した画像です

1.保険期間初めの4割の期間(例えば、保険期間が20年であれば8年)

支払った保険料の40%が資産に、残りの60%が損金になります。

2.上記1.の期間後から保険期間の7.5割までの間(例えば、保険期間が20年であれば9~15年)

支払った保険料の全額が損金になります。

3.保険期間の7.5割を経過した後(例えば、保険期間が20年であれば15年経過後)

支払った保険料の全額が損金になります。また、上記1.の期間中に資産とされた部分は、残りの保険期間中に均等に取り崩します。

4.例外

最高解約返戻率が70%以下で、かつ、被保険者1人当たりの年換算保険料相当額(支払保険料の総額/保険期間。以下「年間保険料」)が30万円以下の保険については、全ての保険期間を通して支払った保険料の全額が損金になります。

3)最高解約返戻率が70%を超え85%以下の商品

保険期間を3つの期間に分け、取り扱いが決まっています。

最高解約返戻率が70%を超え85%以下の場合を示した画像です

1.保険期間初めの4割の間

支払った保険料の60%が資産に、残りの40%が損金になります。

2.上記1.の期間後から保険期間の7.5割までの間

支払った保険料の全額が損金になります。

3.保険期間の7.5割を経過した後

支払った保険料の全額が損金になります。また、上記1.の期間中に資産とされた部分は、残りの保険期間中に均等に取り崩します。

4)最高解約返戻率が85%超の商品

保険期間を4つの期間に分け、取り扱いが決まっています。

最高解約返戻率が85%超の場合を示した画像です

1.保険期間初めから10年目まで(図中の(A)期間)

払った保険料のうち、次の計算式で算出した金額は資産に、残りは損金になります。

支払保険料×(最高解約返戻率×90%)

2.11年目以降から、最高解約返戻率となる期間等の終了の日まで(図中の(B)期間)

払った保険料のうち、次の計算式で算出した金額は資産に、残りは損金になります。

支払保険料×(最高解約返戻率×70%)

3.上記2.の期間経過後から、解約返戻金額が最も大きくなる日まで(図中の(C)期間)

支払った保険料の全額が損金になります。

4.上記3.の期間経過後から、保険期間の終了日まで(図中の(D)期間)

支払った保険料の全額が損金になります。また、上記1.の期間中に資産とされた部分は、解約返戻金額が最も大きくなる日から保険期間の終了日まで均等に取り崩します。

2 第三分野保険(医療保険やがん保険など)

    ポイント

    第三分野保険のうち、定期と終身(全期払い)のものは、定期保険と同じ取り扱いになります。終身(短期払い)のものは、年間保険料によって取り扱いが異なります。

1)終身(短期払い)、年間支払保険料が30万円を超えるもの

保険料の払込期間中と、払込期間終了後で取り扱いが変わります。

1.保険料払込期間中

支払った保険料のうち、次の計算式で算出した金額は損金に、残りは資産に計上します。

「年間保険料 × 保険料払込期間 ÷ 保険期間」(以下「算式A」)

なお、終身タイプの第三分野保険の「保険期間」は「116歳-契約年齢」で計算されます。例えば、35歳で契約した場合には、81年(116歳-35歳)となります。

2.保険料払込期間終了後の期間

上記1.の期間中に資産とされた部分を、116歳になるまで、算式Aで計算した金額と同額を「保険料」などとして損金にします。

2)終身(短期払い)、被保険者1人当たりの年間支払保険料が30万円以下のもの

支払った保険料の全額が損金になります。なお、解約返戻金がごく少額な第三分野保険も同じ取り扱いになります。

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3 養老保険

    ポイント

    死亡保険金の受取人・満期保険金の受取人が、「会社」か「被保険者やその遺族」かで取り扱いが違ってきます。

1)死亡保険金の受取人は「会社」、満期保険金の受取人も「会社」のケース

支払った保険料は、全額を資産に計上します。
 なお、資産計上していた支払保険料を「雑損失」などで処理し、損金になります。満期保険金と資産計上した支払保険料の差額は「雑収入」などで処理され、益金(税務上の収益)として課税の対象になります。

2)死亡保険金の受取人は「被保険者やその遺族」、満期保険金の受取人も「被保険者やその遺族」のケース

支払った保険料は損金になります。ただ、被保険者個人に支払う「給与」とみなされるため、支払った保険料は給与同様に所得税の源泉徴収が必要になります。

3)死亡保険金の受取人は「被保険者やその遺族」、満期保険金の受取人は「会社」のケース

支払った保険料のうち半額は資産に、残り半額は「福利厚生費」として損金になります(全社員が加入しているなど一定の要件を満たした契約に限る)。
 なお、資産計上していた支払保険料を「雑損失」などで処理し、損金になります。満期保険金と資産計上した支払保険料の差額は「雑収入」などで処理され、益金(税務上の収益)として課税の対象になります。

4 終身保険

    ポイント

    支払いの際は資産に計上し、解約返戻金の受け取りの際は損金になります。

支払った保険料は、全額を資産に計上します。そして、資産とされた部分は、解約返戻金を受け取ったときに全額を取り崩します。もし、支払った保険料の総額(支払保険料総額)と解約返戻金額(保険金受取額)に差額が生じた場合の取り扱いは次の通りです。

  • 支払保険料総額<解約返戻金額(保険金受取額)の場合は、差額が益金になる
  • 支払保険料総額>解約返戻金額(保険金受取額)の場合は、差額が損金になる

5 契約時には改正が入っていないか、要チェック!

法人保険を取り巻く税金の取り扱いについては、数年ごとに改正が入っています。特に2019年6月に行われた改正により、今までの税金対策の中心であった定期保険と第三分野保険の損金ルールが見直され、上記で解説してきた通り、その効果はかなり小さなものとなっています。
 2019年6月より前に加入していた法人保険の見直しをする際や、今後新たに契約を検討する際には、支払った保険料の損金ルールが現在どうなっているのかを確認することが大切です。

以上

(監修 辻・本郷税理士法人 税理士 安積健)

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2022年2月28日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

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【SDGs】「脱プラ」はここまで進んだ バイオプラスチック最前線

書いてあること

  • 主な読者:プラスチックをビジネスで使用している経営者
  • 課題:環境対策のために脱プラスチックを図りたい
  • 解決策:環境に優しいバイオプラスチックへの代替を検討する。ベンチャー企業などで商品化の動きも進んでおり、政府の導入推進と動きも含めたトレンドを把握する

1 SDGs達成に不可欠なバイオプラによる「脱プラ」

かつて「夢の素材」といわれたプラスチックは、今では海洋汚染や二酸化炭素排出の元凶となり、廃プラスチックの「3R(リデュース、リユース、リサイクル)」が地球環境問題の重要テーマとなっています。しかし、年間3億6800万トン(2019年)も生産されるという全てのプラスチックを3Rだけでカバーするのは現実的ではありません。また、焼却して「熱回収」しても二酸化炭素の排出問題は解決されません。

こうした中で注目されているのが、

生物由来の原料や、自然に分解される性質を持った代替素材「バイオプラスチック」

です。既存のプラスチックと比べてまだ割高ですが、世界的な地球環境問題への関心の高まりに伴い、普及への動きが急速に進んでいます。世界では、

2022年のバイオプラスチック製品の生産能力は、2021年の2倍近くに増強される

との推計もあります。国内でも、ベンチャー企業なども含めた民間企業が商品化を進めており、政府も積極的に利用を推進しています。

国連が提唱するSDGs(持続可能な開発目標)の中でも、バイオプラスチックの普及は「12つくる責任 つかう責任」「13気候変動に具体的な対策を」「14海の豊かさを守ろう」などに深く関連しています。この記事を通じて、バイオプラスチックの普及に向けた官民の動きをチェックし、「脱プラ」を検討してみてください。

2 バイオプラスチックの現在の普及状況

1)生分解性は海水での分解、バイオマスは非可食素材が開発テーマに

バイオプラスチックには2種類あります。1つは、

微生物によって最終的に水と二酸化炭素に分解される生分解性プラスチック

で、もう1つは、

生物由来の再生可能な原料で製造されるバイオマスプラスチック

です。生分解性プラスチックの中には生物由来でないものもありますが、バイオプラスチックと総称されます。2種類のバイオプラスチックは、製品の用途や処分(リサイクル)方法によって使い分けされます。

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同じ生分解性プラスチックでも、素材によって分解の条件が異なります。分解される条件が最も限定されている一方、開発が一番簡単なのが、専用のコンポストに入れると分解される素材です。次いで土の中で分解される素材、淡水で分解される素材が続き、最も開発が難しいのが、微生物の少ない海水でも分解される素材です。

バイオマスプラスチックに関しては、とうもろこしなどを原料とした可食性の素材と、植物残渣(ざんさ)など非可食性の素材に分けることができます。将来的な食料問題を想定し、非可食性の素材を開発する動きも進んでいます。

2)バイオプラスチックの生産量

欧州のバイオプラスチック製造業者などで構成される「ヨーロピアンバイオプラスチックス」によると、2021年の世界のバイオプラスチック製品の生産能力は241万7000トン(生分解性プラスチック155万3000トン、バイオマスプラスチック86万4000トン)でした。2022年には471万9000トン(生分解性プラスチック369万4000トン、バイオマスプラスチック102万5000トン)へとほぼ倍増し、2026年には759万3000トン(生分解性プラスチック529万7000トン、バイオマスプラスチック229万7000トン)へと3倍以上に増加するとの見通しとなっています。

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日本バイオプラスチック協会によると、国内では2019年のバイオプラスチックの出荷量の推計(原料別)は、生分解性プラスチックが4300トン、バイオマスプラスチックが4万2350トンで、合わせて4万6650トンとなっています。日本プラスチック工業連盟が公表した2019年のプラスチック原材料生産実績の約1051万トンと比較すると、約0.44%に相当します。

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3 商品化が進むバイオプラスチック

最近は地球環境問題への関心の高まりもあって、ベンチャー企業などを中心に、バイオプラスチックの商品化が進んでいます。一部を紹介します。

1)植物に多量に存在する「ヘミセルロース」を活用

事業革新パートナーズは、細胞壁など植物の成分の約20%を占める多糖類「ヘミセルロース」を原料とした生分解性プラスチックを開発しました。ヘミセルロースは、摂氏27度の海水で90%の生分解率があるのが特徴です。

東日本旅客鉄道(JR東日本)のベンチャー子会社とともに、福島県の鉄道林の間伐材から抽出したヘミセルロースを原料にしたタンブラーを製造しました。

2)海水での生分解率を向上

ダイセルは、植物由来のセルロースと酢酸を原料とした生分解性プラスチック「酢酸セルロース」の海水での生分解率を、従来の2倍に高めました。2021年8月には、海洋生分解性を証明する国際認証「OK biodegradable MARINE」を取得しています。

ダイセルは後述のネクアスと共同で、食品容器や包装資材などの製品開発を進めています。

3)竹を主原料としたストローの国内生産を開始

アミカテラは植物繊維を主原料に、でんぷんや植物由来の天然樹脂を使ったバイオプラスチックを開発しました。植物繊維は、植物残渣や農業廃棄物などからも抽出でき、独自開発した機械で粉砕をして加工します。

海水での生分解も可能といいます。2021年10月からは、竹を主原料としたストローの国内生産を開始しました。

4)木粉を複合したウッドプラスチックを商用可能に

アイ-コンポロジーは、木粉とプラスチックの複合材であるウッドプラスチックを、耐熱性が求められる射出成形も可能な素材に改良しました。これにより、プラスチック製品の量産に適し、コスト面でも商業的に活用できるようになったといいます。

また、東京都立産業技術研究センターと共同で、海水での生分解性を高めた生分解性プラスチック樹脂を開発しました。サトウキビと石油を使ったポリマーと植物粉を混ぜています。

5)独自開発の添加剤で既存のバイオプラスチックを進化

バイオワークスは、耐熱性や成形性で難点のあったバイオプラスチック「ポリ乳酸」に、独自に開発した植物由来の添加剤を5%加えることで、耐熱性や強度を向上させることに成功しました。他のバイオプラスチックと比べてコスト面で優位にあり、生分解も可能といいます。

6)卵の殻やコーヒーかすなどからバイオプラスチック製品を製造

プラント設備などを行う三和商会のグループであるネクアスは、石油由来のポリマーに、卵の殻、米、木粉、貝殻、灰、コーヒーかすなどを高充填したバイオプラスチック製品を開発しています。顧客の要望によって充填する素材を変えることも可能です。

7)米どころ新潟で古古米を使った製品を開発

新潟県上越市にあるバイオポリ上越は、古古米などを使ったバイオマスプラスチックを開発しました。もみ殻や木くず、貝殻でも製造が可能です。米由来の製品では、プラスチック樹脂の他、ごみ袋やうちわ骨なども製造しています。

この他、新潟県南魚沼市に工場があるバイオマスレジンホールディングスも、食用に適さない古米や、米菓メーカーなどで発生する破砕米などを混ぜたバイオプラスチックを開発し、スプーン、おちょこ、レジ袋などを販売しています。

8)再製品化までのサービスを提供

カミーノは、ポリ乳酸に紙を複合させて耐熱性や耐久性、成形性を改良したプラスチック製品を開発しました。主に飲食店や公共施設など向けに、タンブラー、カップ、トレーを販売しています。生分解も可能ですが、製品を回収して再製品化するサービスも行っているのが特徴です。顧客が回収した古紙を使って製品を製造することも可能といいます。

個人向けにはタンブラーを販売しています。

4 バイオプラスチックの普及に向けた政府の取り組み

2021年1月に環境省、経済産業省、農林水産省、文部科学省が合同で策定した「バイオプラスチック導入ロードマップ」によると、既存のプラスチックと比べたバイオプラスチックの製造コストは、生分解性プラスチックが約2~5倍、バイオマスプラスチックが約1.5~3倍です。まだまだ価格面では既存のプラスチックに劣っていることから、現時点でのバイオプラスチックの普及に向けた動きは、「官主導」の側面が強いといえます。この章では政府の取り組みを紹介します。

1)2030年までにバイオマスプラスチックを約200万トン導入

消費者庁など9省庁が2019年5月に策定したプラスチック資源循環戦略では、2030年までにバイオマスプラスチックを最大限(約200万トン)導入するよう目指すことを掲げています。これに基づき前述の通り2021年に環境省、経済産業省、農林水産省、文部科学省が合同で、「バイオプラスチック導入ロードマップ」を策定しています。

また、内閣府の「統合イノベーション戦略推進会議」が2021年1月に策定した「バイオ戦略2020(市場領域施策確定版)」では、「バイオプラスチック」を9つの市場領域の1つに指定しました。市場規模目標として、高機能バイオ素材などを含めた2030年の市場規模を41.4兆円(2018年は23.1兆円)に引き上げると設定しています。

さらに、経済産業省による産業構造審議会のバイオ小委員会が2021年2月に取りまとめた報告書では、今後、バイオプラスチックであることが分かる新たな表示制度の導入を進めることや、バイオ由来製品の開発・利用企業の中で、先進的・独創的な取り組みを行った企業の表彰制度を創設するとしています。

2)プラスチック資源循環法が施行

2022年4月、プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律(プラスチック資源循環法)が施行されます。プラスチック製品の設計から廃棄物処理まで、プラスチック製品の資源循環などの取り組みを促進させるための法律です。

同法によって、バイオプラスチックなど代替素材の活用など、環境に配慮したプラスチック使用製品の設計指針が策定されます。設計指針に適合した製品は、国から認定を受けることができます。

3)グリーン購入法にバイオプラスチックを追加

2019年度から、政府は環境負荷が低い製品やサービスの購入を推進する「グリーン購入法」の対象に、バイオプラスチックを追加しています。プラスチック資源循環戦略に基づいたもので、2019年度、2020年度の見直しに伴い、バイオプラスチックに関する基準を定めたものは、重点的に調達を推進すべき環境物品等(特定調達品目(275品目))のうち37品目となりました。2021年度には、ごみ袋等の植物を原料とするプラスチックの含有率の引き上げなどを行っています。

グリーン購入法に基づいた製品やサービスの購入は、国などの機関は義務、地方公共団体などは努力義務とされています。公的機関などのバイオプラスチックの需要の拡大によって、バイオプラスチックの製造コストの低減につながることが期待されます。

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以上(2022年2月)

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画像:pixabay

第25回 プロノイア・グループ株式会社 代表取締役 ピョートル・フェリクス・グジバチ氏/森若幸次郎(John Kojiro Moriwaka)氏によるイノベーションフィロソフィー

かつてナポレオン・ヒルは、偉大な多くの成功者たちにインタビューすることで、成功哲学を築き、世の中に広められました。私Johnも、経営者やイノベーター支援者などとの対談を通じて、ビジョンや戦略、成功だけではなく、失敗から再チャレンジに挑んだマインドを聞き出し、「イノベーション哲学」を体系化し、皆さまのお役に立ちたいと思います。

第25回に登場していただきましたのは、モルガン・スタンレーやGoogleで人材開発/組織開発/リーダーシップマネージメントに従事し、『ニューエリート グーグル流・新しい価値を生み出し世界を変える人たち』『0秒リーダーシップ 「これからの世界」で圧倒的な成果を上げる仕事術』など多数の著書を出されている、ピョートル・フェリクス・グジバチ(Piotr Feliks Grzywacz)氏です。現在は、未来創造企業のプロノイア・グループ株式会社 代表取締役社長、起業家教育事業の株式会社TimeLeap 取締役を務め、日本でイノベーションの種を蒔き続けているピョートル氏が語る「イノベーションの哲学」とは?(以下インタビューでは「ピョートル」)。

1 「限られたリソースの中で、最大限に価値を発揮できる方法は何か、発揮できる場所はどこか。常にそれを考えて選択するのが、僕の人生の哲学です」(ピョートル)

John

お忙しいところをお時間いただき、本当に愛りがとう(愛+ありがとう)ございます! ピョートルさんに、いろいろとお話をお聞きできることを楽しみにしていました。

ピョートル

こちらこそ、ありがとうございます。

ジョンさんは奥さんと一緒に仕事をされているとお伺いしましたが、日本だと、こういうご夫婦は珍しいのではないかと驚きました。
僕はすごくドライで、人間関係はお互いの求めるものと役割が明確な、契約のような関係でありたいと思っています。
これは、仕事も家族も同様で、僕が組織や人との関わりを考える上で、ベースになっている考え方です。

John

確かに、役割が明確な方がお互いに何を求められているのか、何を求めてもいいのかが分かり易いですよね。私はたまたま、両親が一緒に会社を経営している環境で育ちましたから、他の方々より仕事と家族の線引きが曖昧なのかもしれません。

ピョートルさんは役割が明確な関係がお好きとのことですが、その点についてもう少し詳しく教えていただけますか?

ピョートル

日本にいると、雇用関係が非常に不明確だと感じます。

例えば、大手企業でも、雇用契約、就業規則、ジョブ・ディスクリプション(職務記述書)、ゴール設定、評価というのはそれぞれ明確になっているべきなのに、それらが不明確であり、社員が自分自身にマッチした企業なのかミスマッチな企業なのかが曖昧なまま20年間も仕事をしている……。そんなケースも見られます。

これは組織というものの考え方、組織が示す価値と個人が示す価値、自分には何ができて、何を大切にしているのか……という話に繋がるし、今日のテーマである「イノベーション」を考える上でも重要なポイントではないでしょうか。

John

まさに、私が今日ピョートルさんにお聞きしたかったのは、「人は何を大切にして、働くこと・生きることの意思決定をすべきか」ということなのです。

まず、ピョートルさんご自身についてもっと聞かせてください。
なぜ日本で活動をされるという決断をしたのでしょうか? そこには、どのような意思決定のプロセスがあったのですか?

ピョートル

僕の仕事のテーマは「人に気づきをもたらしたい」ということ。これは、僕の著書「パラダイムシフト」や「ニューエリート」にも共通するテーマです。

そして今の仕事で、僕の持っているリソースを活用して、最大限価値を発揮できる場所は、日本だと確信しているのです。
それが、日本で活動を続ける理由です。

実を言うと、シリコンバレーで働くという選択肢もあったのですが、僕はそのオファーを断りました。

僕が日本で構築した実績、持っているリソースは、シリコンバレーでは他の人も経験し、持っているものだと思います。しかし、日本では同じような経験をしている人、リソースを持っている人はほとんどいません。

であれば、シリコンバレーよりも、日本で最大限にリソースを活かした方が、人生で大きなレガシーを残せると考えました。

日本は、社会問題も経済問題も山ほど抱えてはいるものの、いまだに世界で3位の経済力を誇る国です。もしかしたら、もうすぐ4位や5位には落ちてしまうかもしれないけど、200近い国の中でTOP5に入っているのです。

世界に影響を与えるような企業の多くも、東京に本社を構えています。名古屋や大阪へ行っても、企業はたくさんある。

こうしたさまざまな要素を踏まえて、日本で活躍すればより合理的な結果が生まれると考えているのです。

John

ピョートルさんご自身の価値を最大化できる場所はどこかという視点で日本を選ばれたというわけですね。素晴らしいご決断だと思います。

このように大事な意思決定をする場面に出会った時に、どのようなことを大切にされていらっしゃいますか?

ピョートル

意思決定する際に、常に念頭に置いていることは3つあります。

1つ目は「限定合理性」。
これは、「人間は合理的であるが、その合理性は限定されている」という行動経済学のコンセプトです。

人間には、それぞれのインテリジェンス、IQ・EQ、脳のCPUがあります。また、育った環境、インプットされた認知バイアス、情報の量なども人によって異なり、合理性を限定する要素は個人によるものが大きいのです。

そして僕は、いかにその限定合理性を認識するかというのが、意思決定の結果につながると考えています。

2つ目は、リソースは限られている、ということです。
当然ながら人生は有限です。人はいつか死にます。
90年生きるとしたら、人生は約2000万秒。
長いように思える人生も、1、2、3……と1秒ごとに残りの時間は減っているのです。

こうした自分の限られたリソースである時間やお金、体やエネルギーをどう優先順位をつけて使っていくのかは、個々の考え方によって異なります。

今日のこのインタビューも、「僕は超忙しいし、インタビューの時間はありません」と断ることもできたでしょう。でも、時間がないから新しいオファーを引き受けないという選択を僕はしません。
自分にしかできない、自己実現につながること。自分の才能やポテンシャルを最大限発揮できるようなことに時間を使いたいと考えているからです。

そして、そういった自分にとって大切なものに時間というリソースを割けるよう、考えなくてよいもの・意思決定しなくてよいものというのを予め決めてあります。例えば、洋服。仕事の時、僕は黒いシャツしか着ないと決めている。
ブランディングにもなるし、削減された時間をより有効に使えます。

3つ目に、自分のリソースやポテンシャルを最大限発揮できる「場所」の見極め。
例えば、僕は背が低いので、世界最高のバスケットボール選手にはなれません。
でも、今の仕事でパフォーマンスを発揮しています。

自分の合理性や考え方は限定的なものであると理解した上で、限られたリソースを合理的に使い、最大限に価値を発揮できる方法・場所を考える。
それが僕の意思決定方法であり、人生の哲学です。

John

人生の1秒1秒を大切にし、自分にしかできない仕事に精を出す。気持ちの上でそう思うだけでなく、実際にどうすればそれを実現できるのかを計算し、日々実行されている。ピョートルさんの成功の秘訣を垣間見ることができました。

私は常々、「マインドが変われば、行動も変わる」とお伝えしています。ピョートルさんはご自身の価値観をしっかり確立されていらっしゃるので、それが行動にまで反映されているのだと感じます。
どんなに良い考えを持っていても、行動に落とし込めるかどうか、そこで差が出てくると思います。私の周囲の成功者を見ると、人一倍粘り強く、自分で決めたことは最後まで何があってもやり通す方々が多いです。

2 「自分は何者なのか。今自分はどんな状況に置かれていて、どんな強みがあり、どんな選択肢があるのか。その選択肢の中からいかに合理的なものを選び、選んだ先でしっかりと自分の責任を果たすのか。こうしたことを認識するのがとても大事です」(ピョートル)

John

ここからは、現在の成功までの道のり、ご自身の人生哲学の背景についてもお聞かせいただけますか。

過去の著書を拝見したところ、ピョートルさんはポーランドにある50名くらいの小さな村のご出身だそうですね。
当時の思い出や、今の人生哲学に繋がっていることをお聞かせください。

ピョートル

おっしゃる通り、僕が住んでいたのはとても小さな村でした。
山の中にあり、自由度が高い環境で、子どもたちは森の中で自分たちの好きなように遊んでいました。

自由な環境ではあるものの、村の大人たちは「あの子は、あの家の子だな」と子どもたちの顔を覚えているので、間違ったことをすれば誰かが正しい方向へと導いてくれました。お腹が空いたら隣の家であってもご飯を食べさせてくれたり、互いに助け合ったりするような文化もありました。
そんな環境下で、自然や人との接し方・関わり方を学べたと思います。

家業は畜産農家で、僕は5〜6歳の頃から家の仕事を手伝っていました。動物と接する中で学んだことも今の自分に大きく影響しています。

例えば、体重が500キロある牛がいるとします。この牛を、手綱を引いてあそこの丘まで連れて行ってください、と言われたら、あなたならどうしますか?

John

うーん、牛と仲良くなる……でしょうか。

ピョートル

そう、牛と信頼関係を築くのが1番の近道なのです。

無理に引っ張ったり押したりしては、牛は逃げてしまう。逃げてしまえば、当然ながら家族みんなに迷惑をかける。
牛に逃げられずに、自分の責務を果たすためには、まず牛に敵ではないことを理解してもらい、一緒に歩くしかありません。

そして、牛と人との間で役割分担をすることも、良い関係を築く上で重要です。

牛が僕たちに牛乳をくれる代わりに、僕たちは餌や屋根を用意し、牛の快適な生活を保証する、という分担です。
牛は強い動物ですから、本当は逃げようと思えば逃げられるのですよ。僕たちは、牛に逃げられないために、居心地の良い環境を作る必要がありました。

これは、人間同士の関係性にも置き換えられます。
人間同士でも、相手に合わせ寄り添い、お互いに役割分担をして、それぞれが責務を果たせば、信頼が生まれ、有意義な関係性を整えることができます。

John

ピョートルさんと牛のお話は、経営者と社員、上司と部下の関係にも通じますね。一方的にトップダウンで物事を進める時代ではなくなっていますし、無理矢理に動かそうとしても動かないのは、人間も同じ気がします。
役割分担をし、互いに有意義な関係を目指すというのは、組織づくりをする上でも重要なポイントですね。

ピョートル

もう1つ、今の僕の価値観に影響を与えた出来事として、母国のポーランドが共産主義から資本主義へと体制変換をしたことをよく話します。
これは、世界はプロセスだ、ということを学べた出来事だからです。

社会主義国家の頃、人々は国の社会保障により生活をしていましたが、資本主義へと体制が変わり、人は自分の力で生きていくことが求められるようになりました。
しかし、僕の村には、兄たちも含め、高校すら行っていない人がほとんどだったのです。

お金もなく、リソースもない中、資本主義社会で生きていくために僕にできることは、学ぶことだけでした。

日本の皆さんはあまり実感が湧かないかもしれませんが、世界というのは、このように変化するものなのです。人も国も、自然のように変わっていく。

日本ではいまだに、良い大学に入って、良い企業に入って、家を持ち、子どもを育てて……という人生観があるけど、僕に言わせれば、これはフィクションだ。

経済の変化や政治の仕組みの変化により、ある日突然、弱者になってしまう可能性もあるのですから。
今世界で大きな影響力を持っている企業ですら、倒産してしまう可能性はあります。

John

私は、どのような状況に置かれたとしても、自ら新しい道を切り開こうと決意した人であれば、いずれ必ず成功すると考えています。
「あの人は環境に恵まれていたから〇〇が出来たのだ」「私は〇〇がないから出来ない」といった考えを持っていては、自分の可能性を引き出せません。確かに環境の影響は大きいでしょうが、人間の持つ意志の力の方が人生に対する影響力は勝ると思います。

ですから、ピョートルさんが環境に左右されず、学ぶことで飛躍を遂げてこられたこと、多くの人々に影響を与える存在としてご活躍されていることを尊敬しています。

日本も若年層を中心に、過去の成功モデルを追従するだけではいけない、国や組織を頼っているだけでは将来どうなるか分からないという危機感を持つ人々が増加していると感じています。

そのような若者たちには、1人ひとりが自分にとっての正解や幸せを追い求めてほしいということ、人の言うことを鵜呑みにしないこと、心の軸を持つことが重要であると伝えています。

You are CEO in your life. 何があっても自分で自分の人生を創り上げる。そう腹を括った方が、より創造性豊かでハッピーな人生になるはずです。

ピョートル

僕もメディアの言うことを率直に100%信じるということはありません。
先日、元新聞記者の方とお話しをする機会があり、その方は「新聞は事実を報じている」と仰っていましたが、記者も人間です。

先ほどの限定合理性の話と繋がりますが、記者にも自分の育った環境、バイアスがありますので、悪意はなくとも必ず偏るのです。
同じ事実についての記事を書こうとしても、50年前のポーランドで生まれ育った人間と、日本で育った人間とでは、全く異なる記事に仕上がります。

必要なのは、自分の置かれている状況を、自分の持っている全てのリソースを使って、できる限り合理的に把握すること、そして合理的に動くことです。

自分は何者なのか。今自分はどんな状況に置かれていて、どんな強みがあり、どんな選択肢があるのか。その選択肢の中からいかに合理的なものを選び、選んだ先でしっかりと自分の責任を果たすのか。
こうしたことを認識するのがとても大事です。

非常におもしろいことですが、合理的な見方・合理的な動き方をしていくと、不思議と必ず、一見普通ではないような、創造的な方法が見つかるのです。

例えば、泊まる場所を探したいけれど、旅行サイトやアプリでいくら探しても見つからない、という状況があるとします。

じゃあどうするか。
個人が持っている部屋を、個人に貸せばいい。

どうすれば個人同士をよりスピーディに結びつけられるか。
スマホのアプリを使えばいい。
こうしてAirbnbのようなサービスが生まれていくのです。

本当に良い結果を生み出すためには、このように常識を打ち破るしかありません。

僕は子どもながらに、自然や社会の変化の中で、こうした思考方法を身につけることができました。

3 「自分の人生をどう生きるか、新しい価値をどう生み出すかという話には、教科書なんてないのですよ。」(ピョートル)

John

ピョートルさんの育った環境のお話にもありましたが、子どもの頃に自然と触れ合って育った子というのは、とても創造性豊かに育ちますよね。
大人になって、その創造性を活かして成功する方も多いと感じます。

ピョートルさんは株式会社TimeLeapの取締役として、未来を担う子どもたちの育成に力を入れていらっしゃいますが、教育に関してどのような考えをお持ちですか?

ピョートル

やはり、「五感で学ぶ」というのは必要不可欠ですね。
これは、大人も子どもも同じです。

TimeLeapは、仁禮 彩香さんと一緒に立ち上げた会社ですが、彼女が通っていたのは湘南インターナショナルスクールという学校で、海岸で遊びながら学ぶようなところだったそうです。僕も森で生まれ育ったタイプなので、五感を使って学んできたという点は共通しています。

僕は、今でも自然に触れることが大好き。
東京の街は自然が少ないけれど、比較的暖かい気候なので、1年を通して何かしら花が咲いたりしていますよね。
だからつい、咲いている花を見ると香りを嗅ぎに行ってしまうし、触りたくなる。
会社のスタッフと一緒に歩いていると「あと5分で移動しなきゃいけないのに、何をしているのですか!」とよく怒られるのですけど(笑)。

でも、僕にとってはビジネスの会話と、道に咲いている花の香りを嗅ぐことは、どちらが大切かと言われても選べないほどにどちらも大切なのです。

自然からのインプットがなければ今の僕はないし、今のようなアウトプットは出せていないでしょう。
五感を使い、総合的に探求できる環境に身を置くことは大切なことなのです。

そして「教育」に対する考え方というご質問ですが、実は、僕は「教育」「エデュケーション」という言葉が大嫌い。
なぜかと言うと、「教育」は決まった型があって、その型に当てはまる人をつくるためのプロセスだと思うから。

もちろん、教育が必要な面はあります。飛行機のパイロットにはしっかりと操縦法を学んでいただかなくては、飛行機は墜落してしまいますから(笑)。
そういった資格を取るために必要なプロセスは別です。

しかし、自分の人生をどう生きるか、新しい価値をどう生み出すかという話には、教科書なんてないのですよ。

ビジネスモデル・キャンバスというフレームワークのような、便利なツールはありますが、そのツール自体はアウトプット=成果ではない。
新たに生み出されるものが成果です。

そのためには、自分の無意識に働きかけるスキルというのが大事になってきます。

自己認識というのは、必ずしも言語化すればいいというものではないと考えています。「私はこういう性格で、これを大切にしています」と言葉に出したところで、それは「本当か?」と。
言語化できなくても、自分がいかに感じているかということ、それを認識することが非常に重要なのです。

John

おっしゃる通りですね。言語化できることばかりが正しいわけではありません。「なぜかわからないけど気になる」という感覚は大切に拾っていく方がいいと思います。私の経験では、自分の直感を信じた時は、いつも良い方向に進んでいます。

例えば、3年前に突然ルクセンブルクが気になって仕方がなくなりました。そこで、現地で開催されたアクセラレーターに参加することにしたのですが、その時にルクセンブルク投資事務所の方々とご縁をいただきました。

それから、毎年ルクセンブルクとベルギーの両大使館主催で行われるガラパーティーにご招待していただいたり、この
イノベーションの哲学の第16回にエクゼクティブ・ディレクタターの松野百合子氏にインタビューさせていただいたりしました。つい先日も、松野さんには、私がディレクターを務める日本人をグローバル人財にすることを目標としてオンラインレッスンを提供しているGlobal Communication Gym(GCG)でも講師を務めていただきました。

GCGでは、カナダ人の講師からカナダと日本の英語教育の違いについて、海外からの視点で教えていただいたこともあるのですが、ピョートルさんは日本の教育制度についてはどう思われますか?

ピョートル

日本だけの問題ではありませんが、現在の教育制度には思うところがありますね。小学校・中学校・高校・大学……というステップは、時間がかかりすぎている。

これまでTimeLeapでさまざまな試みをしてきましたが、10歳くらいの子は、大人と同程度のアウトプットが出せるのです。

もちろん、まだ多感な時期ですし、1人で生きられるわけではないので、大人の保護は必要ですが、彼らは1人の人間としてアウトプットを出せます。
子どもたちが持っている集合知や知恵、エネルギーをいかに早く社会に還元するかというのは、今後の社会で重要なポイントだと思います。

例えば、TimeLeapから生まれた「Atelier minon」というプロジェクトがあります。これは、みのんちゃんという今年11歳になる女の子が立ち上げたオンラインビジネスです。

彼女は海が好きで、「きれいな海を未来に残したい」という想いから、シーグラスなどの海洋ゴミを活用したアクセサリーを販売し、収益を海の環境保全にあてるという仕組みを考えました。

お母さんを巻き込んで一緒にアクセサリーを作り、クラウドファンディングで資金を集め、実際にオンラインショップを立ち上げています。

あまりに早すぎる成長でメディアの注目を集めたり、子どもタレントになったりすることには賛成できませんが、子どもたちが自分の意思の元、より早く実業家になれるような仕組みが今の教育制度の中にあっても良いはずです。

John

すばらしい事例ですね!

私たち大人は、子どもたちの可能性を信じて、どんどんチャレンジして経験を積むようにサポートしてあげたいですね。10歳だからこのくらいしかできない、これができれば十分だ、というのは大人の思い込みかもしれません。

私も人を喜ばせて対価をもらう、人の困りごとを解決する、そういうことが楽しいと気づいたのは3歳の時です。母の料理が美味しかったので、お弁当にしたらどうだろうかと考えたのがきっかけでした。

社会の役に立ちたいと思っている子どもは案外多いと思います。彼らが、幼少期から自由にアウトプットを出せる環境をつくることで、起業家精神の身についた若者に育っていくのだと思います。

4 「イノベーティブな組織になるためには、『パーパスは何なのか』という共通意識を持つことが必要不可欠です。」(ピョートル)

John

ピョートルさんも私も子どもたちに無限の可能性を感じていると思います。しかし、その一方で、日本は少子高齢化が続いています。こちらに関しては、どのようなお考えをお持ちでしょうか。

ピョートル

少子高齢化というテーマについては、「それほど問題ではないのでは」という考え方もあります。
人口をより減らして、生活水準を上げていくという考え方もある。

少子高齢化の問題点は、経済がシュリンクするという点ですよね。
残念ながら、いまだにこの世界は、大きな国同士がパワーを取り合うような仕組みになっていて、国のGDP、経済のサイズというのは世界の中での影響力に直結しています。

でも、経済力というのは、人生における幸せや、SDGs・環境への配慮、暮らしやすさといったものとは、実はあまり関係がなかったりしませんか。
合理性を考えれば、人口を減らして1人あたりの生産性を高め、生活水準の向上をはかるという方向もあると思います。

日本は生活水準が高いと思われていますが、例えば、東京で働き始めたばかりの20代などはあまり生活水準が高いとは思えません。

小さな部屋に住み、コロナによる変化はあるものの、基本的には毎日電車に乗って会社へ行き、残業せざるをえない。
自己認識はそれほど高くなく、本当にやりたいことを見つけられない。
趣味は消費で、かっこいい腕時計を買うために頑張る……。

日本でこのような生活をしている若者は少なくないと思いますが、これは生活水準が高いとは言えない、と僕は思うのです。

もっと自然と共に生き、家族やコミュニティを大切にする生き方を考え、実現できれば、少子高齢化が進んだとしても、それほど問題ないのではないかと考えています。

そういった意味で、北欧のノルウェーやスウェーデンなどは、日本よりずっと人口が少ない国ですが、生活水準は非常に高いです。
自然と共に生き、競争よりもコラボレーションを重視する文化があります。

もちろん、日本は政治経済の問題として、少子高齢化を解決しなくてはいけないというのはわかりますが、「人類」のレベルで言えば、地球の人口が増え過ぎている状態です。

私たちがより考えるべきは、「国」としてどうあるべきかではないでしょうか。
どんな歴史を持ち、どんな未来を目指していくのか。

例えば、民族・人種といった分け方は正しいのか。
国は、経済的に強くならなければならないのか。
国民に流動性があってはいけないのか。
僕のように、母国を離れて生きる場所を選んでも良いのではないか。

こうした問いについて、みんなで考えるべきだと思います。

すぐに簡単な答えが出ないと思うが、本質的な問いを持ち続けて議論することによってよりよい答えが生まれるはずです。

John

非常に興味深いお話です。確かに、合理的に考えれば、必ずしも経済的な強さは必要でないのかもしれませんね。

しかし、生活水準を高めるためには、生産性の向上が必要というお話もありました。

日本はこれから各企業・各組織がもっとイノベーティブになっていかなくてはならないと思います。顧客のニーズはどんどん変化しており、それにスピード感と柔軟な発想を持って対応していけるかどうかで、これからも人々から求められる企業でいられるかどうかが変わってくると思います。
ピョートルさんは、Googleで組織改革にも携わられたと伺っていますので、ぜひイノベーティブな組織をつくる上でのヒントをいただけると嬉しいです。

ピョートル

イノベーティブな組織になるためには、「パーパスは何なのか」という共通意識を持つことが必要不可欠です。

新聞社を例に考えてみましょう。
「私たちは新聞社だから、新聞をつくる」、これはパーパスではありません。

例えばパーパスを「地域の人たちが適切な生き方をできるように、情報を提供していくこと」としてみましょう。
パーパスを持つことで意識は変わり、「それなら、方法は新聞じゃなくてもいいよね」となり、組織は全く違う動きをし始めます。

パーパスがしっかりわかっていれば、従業員がしっかりと自分の意思で動けるようになるのです。
Googleのプロジェクト・アリストテレス(注)のチームづくりには、僕は納得しかなくて、パーパスがあるからこそ「インパクトを与える」という感覚を持てる。
インパクトは自分たちにとっても意味があるもので、それにより得ることができる価値があると理解しているのです。

(注)「効果的なチームを可能とする条件は何か」という問いを見つけ出すことを目的としたプロジェクト。
https://rework.withgoogle.com/jp/guides/understanding-team-effectiveness/steps/introduction/

そして次に大切なのは、価値が生み出せるような仕組みが、組織の中でつくられているかどうか。

チームの役割と個人の役割、目標設定、何を期待しているのかが明確になっているか。そして、相互に責任を持ち、信頼関係が築けているか、というのがポイントとなります。

例えば、バスケットボールの試合で、僕がJohnさんにボールをパスし、Johnさんがそのボールを落としてしまったとします。

この時に、「ボールを取れなかったJohnさんが悪い!」「いや、ピョートルさんの投げ方が悪い!」などというやりとりが、プロのスポーツ選手の間で起こるでしょうか? ありえませんよね。
それなのに、企業ではそういったことがよく起こります(笑)。

お互いの結果に責任を持って動くことで、そうした事態はなくすことができますし、信頼が生まれ、心理的安全性も確保されます。

パーパスを持つことに加え、そんな組織としての土台ができていることが、イノベーティブな集団となるために必要な要素です。

John

組織づくりの根本に関わる、すばらしい教えですね。来年度へ向けて、新たな組織づくりに取り組む人々も多い時期だと思いますので、ピョートルさんのお話が非常に役に立つと思います。

まだまだお話をお伺いしたいのですが、次で最後の質問です。
ピョートルさんにとっての「イノベーションの哲学」を教えてください。

ピョートル

僕のイノベーションの哲学は、「本質を問い続けること(Keep asking)」です。
解決しようとしている問題の根本は何なのか、本質を掴むことができなくては、イノベーションは起こりません。

「教育とは?」「仕事とは?」「恋愛とは?」「家族とは?」
本質的な問いを見つけ、自分の頭の中に持ち続けることが大事です。
そして、そんな本質的な問いを自分の中に持ち続け、増やしていくことですね。

また、僕は「知っていること」よりも「知らないこと」を美徳としています。
いつも新しい状況に身を置き、「これはおもしろいな」と感じる心を大切にしています。どんなに悪い状況にあっても、です。
そうした姿勢で物事に取り組めば、どこかで答えが出るはずですから。

ただし、答えは短期的なものである、ということも同時に認識しておく必要があります。
僕にとって、問いというのは常に普遍的なものですが、答えというのは一時的なもの、と考えているのです。

例えば、「幸せとは?」という問いは変わらないものですが、答えはその時の、その人の状況や気持ちによって変わりますよね。

「こんな家に住めば幸せ」「こんな人と結婚すれば幸せ」「こんな仕事に就けば幸せ」……。我々はいまだにそうした考えに囚われてしまうことがありますが、「幸せとは?」という普遍的な問いに対して、普遍の答えというのはないのです。

できるだけ問いは保ち、答えは保たない。正解は1つではないと知る。
それが僕の考える、イノベーションの哲学です。

John

まさにイノベーションの哲学ですね!
本日は、すばらしいお話を愛りがとうございました!

ピョートルさんのイノベーションの哲学を示した画像です

以上

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2022年2月25日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

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一番は「スピード感」 オンライン融資と窓口融資の違い

経営者の皆さまは、これまで一度は「もっと簡単にお金が借りられたらいいのに」と思ったことがあるかもしれません。特に、より本業に集中したいスタートアップやベンチャーの経営者ほどそうでしょう。こうした際に検討したいのが、「オンライン融資」です。

原則、ネット上で完結するオンライン融資と、従来の金融機関での窓口融資とで一番違うのは「スピード感」です。この記事では、そのスピード感の違いとオンライン融資のメリットをまとめましたので、迅速に資金調達をしたい方に、ご参考になれば幸いです。
なお、りそな銀行ではオンライン完結型ビジネスローン「Speed on! (スピードオン)」を展開しており、申し込みできる対象者が2021年の秋から拡大。りそな銀行に口座がなくても、弥生会計ユーザーであれば申し込み可能となっています。


Speed on!の商品ページです

1 「約1カ月」は違うオンライン融資と窓口融資

オンライン融資とは、申し込みから審査・入金まで、原則としてネット(Web)上のやり取りだけで完結する融資サービスで、オンラインレンディングと呼ばれることもあります。

オンライン融資の申し込みに必要なのは本人確認書類など(例えば運転免許証のキャプチャ画像)ですが、事前の決算書類準備がいらず、審査時間も圧倒的に短いのが特徴です。窓口融資と「かかる時間」を比べるとスピード感が分かります。約1カ月は違ってきます。

オンライン融資と窓口融資のスピード感を比較した画像です

一昔前は、「ネットでお金を借りる」と言うと、怪しい、うさんくさいなどのイメージを持たれがちでしたが、それも今は変わりました。FinTech(フィンテック=金融×テクノロジー)の名の下に、メガバンクや大手地銀、地元での信頼が厚い信用金庫などもAIなどを活用したオンライン融資に積極的に取り組んでいるためです。コロナ禍で、業務のオンライン化、DXが急激に進んだこともオンライン融資の浸透を後押ししています。

2 オンライン融資の代表的な「5つのメリット」

早くお金が借りられることが一番のメリットのオンライン融資。そのメリットをもう少し詳しくみてみましょう。

メリット1)来店する必要がない

申し込みから口座への入金まで、原則、すべてオンラインで完結する仕組みです。一部の例外を除き、店頭で書類を提出したり、事業内容や資金の使い道を担当者に説明したりする必要はありません。金融機関の職員と対面せずに手続きできるため、忙しくて時間が取れない方、コロナなど感染症が心配な方も利用しやすいサービスです。

メリット2)提出書類が少ない

オンライン融資の申し込みで必要な書類は、本人確認書類や会計データです。従来の窓口融資で求められる事業計画書・決算書・登記簿謄本などは必要ありません。事前にさまざまな書類を準備することなく、手元にある書類で手軽に申し込めます。

メリット3)最短即日で審査結果が出る

オンライン融資ではAIなどテクノロジーを活用して審査を行うことが多いため、窓口融資での人による審査よりも短時間で審査結果が出ます。りそな銀行の「Speed on!」など、最短で「申し込んだその日」に審査結果が出るサービスもあります。口座に入金されるまでの時間も短くなるので、すぐに融資を受けたい方に向いています。

メリット4)無担保、個人連帯保証なし

銀行の窓口融資では、担保の提供や経営者本人による連帯保証が求められることが多いのに対し、オンライン融資では原則として担保や連帯保証は必要ありません。起業して間もないと担保の提供が難しいケースが多いと考えられるため、無担保のほうが便利です。

メリット5)事前に限度額(今の「借りられる力」)を知ることができる

オンライン融資を申し込むと、利用可否だけでなく、利用限度額や金利についても審査の回答が来ます。実際に借りる前に、自分がいくら借りられるのか、金利がいくらになるかを知ることができます。経営者の方にとっては、資金調達の手段としてどの程度有効なのか、判断材料とすることもできるでしょう。

審査結果が出てから実際に契約するかを決めることができますので、現時点で急ぎで融資が必要なくても、ひとまず申し込みをして限度額を知っておくのもアリかもしれません。中には、「いざという時に困らないために」という意味で、オンライン融資で「お金を借りられる枠を確保しておく」経営者の方もいるようです。

3 りそな銀行の「Speed on!」はすぐ資金調達をしたい法人におすすめのオンライン融資

スタートアップやベンチャーなど立ち上げたばかりの法人は、オンライン融資を利用するのがおすすめです。特にりそな銀行の「Speed on!」は以下のような特徴があり、利便性が高くなっています。

1)ネット(Web)で完結して審査が早い

オンライン融資の申し込みや書類の提出といった手続きはオンラインで完結し、りそな銀行とのやり取りも、原則としてメールで行います。審査結果は、最短で即日分かるため、入金までの時間が短いのもメリットです。

2)年率1.0%~9.0%と低金利

一般的にオンライン融資は金利がやや高めの傾向ですが、「Speed on!」は低金利なのもメリットです。適用される金利は1.0%~9.0%で、カードローンや消費者金融より低い金利で融資を受けられます。

3)弥生会計のユーザーはりそな銀行の口座なしでも申し込みできる

「Speed on!」に申し込むには、以前はりそな銀行の法人口座が必要でした。しかし2021年秋から弥生会計のユーザーも対象となり、申し込み可能な対象者が大きく広がりました。弥生会計デスクトップ版のユーザーであれば、会計データを提出することで、りそな銀行に口座がなくても申し込み可能です(後で口座開設が必要)。

4)申し込みに必要なのは本人確認書類のみ

申し込み時に用意するのは、法人代表者の本人確認書類のみです。運転免許証または個人番号カードだけで申し込むことができ、書類を準備する手間がかかりません(「履歴事項全部証明書」の提出も不要です)。

5)担保・保証は不要

「Speed on!」では不動産や有価証券などの担保を提供する必要はなく、保証人の設定も不要です。

4 用途によって両方使い分けてみる

オンライン融資は、これまでご紹介してきた通り、スピーディで手軽に申し込みができる、便利な融資サービスです。一方で金融機関担当者にビジネス内容や事業計画なども相談しつつ、お金を借りられるのが窓口融資です。オンライン融資と窓口融資を用途によって上手に使い分けると、より有効な融資活動・資金繰りが実現できるかもしれません。

Speed on!の商品ページです

以上

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2022年2月24日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

※上記内容は、株式会社日本情報マートまたは執筆者が作成したものであり、りそな銀行の見解を示しているものではございません。上記内容に関するお問い合わせなどは、お手数ですが下記の電子メールアドレスあてにご連絡をお願いいたします。

【電子メールでのお問い合わせ先】
inquiry01@jim.jp

(株式会社日本情報マートが、皆様からのお問い合わせを承ります。なお、株式会社日本情報マートの会社概要は、ウェブサイト https://www.jim.jp/company/をご覧ください)

ご回答は平日午前10:00~18:00とさせていただいておりますので、ご了承ください。

「社員が喜ぶ福利厚生」に欠かせない3つのメニュー群。一番人気は直接的な生活支援?

書いてあること

  • 主な読者:福利厚生の導入や見直しを検討している経営者
  • 課題:社員のニーズは千差万別。自社単独でメニューを充実させるのは難しい
  • 解決策:アウトソーシングで定番をカバー。独自のメニューも検討する

1 住宅手当のない福利厚生には満足できない?

働き方改革が進み、働く時間や場所は随分と様変わりしました。柔軟な働き方ができる会社を社員は歓迎し、採用の際も有利になります。これと同様に、福利厚生に対する社員の期待も高いのですが、中小企業が単独で充実したメニューを取りそろえるのは困難です。そこでご提案したいのが、次の3つのメニュー群を整備する方法です。

  • ニーズの高いものは確実に対応:住宅手当や家賃補助など
  • できれば独自のメニューを構築:「自転車通勤」手当など健康経営に関連するもの
  • その他の定番は手間とコストをかけずに対応:福利厚生のアウトソーシングを利用

まず、1.ニーズの高いものですが、これはいつの時代でも、

社員が直接的に金銭的なメリットを得られるもの

が人気で、代表的なのは住宅手当や家賃補助です。福利厚生や諸手当の見直しで、確実に対応しないと不満足つながります。これと関連して、2.独自のメニューを構築する場合、ここでは会社の方針が重要となります。例えば、健康経営を進めたい意向があれば、「自転車通勤」手当などを導入します。

最後に、3.その他の定番です。ここが最も悩ましいところです。社員のニーズは千差万別なため独自で対応するのは困難です。そこで検討したいのが、アウトソーシングの利用です。これは、

「アウトソーサー」と呼ばれる事業者に入会金と会費を支払って、福利厚生の運用を委託するサービス

です。定番のメニューはそろっていますし、運営も代行してくれるので、

中小企業は手軽に充実した福利厚生を実現

することができます。

2 福利厚生のアウトソーシングとは?

1)大手はメニューが豊富

アウトソーサーの大手には、次のようなところがあります。会員数は2022年1月時点の各社ウェブサイトに掲載されているものです。

  • ベネフィット・ワン:約1011万人
  • リロクラブ:638万人以上
  • イーウェル:407万人超
  • リソルライフサポート:約210万人

大手が提供する福利厚生のメニューには以下のようなものがあります。一般的なメニューは揃っていると思ってよいでしょう。

  • 旅行・レジャー関連:旅行ツアー、ホテルや交通機関などの手配など
  • キャリアアップ関連:資格取得講座などを割安で利用
  • 医療、育児・介護関連:人間ドック、家事代行、ベビーシッター、介護サービスなど

2)パッケージプランとカフェテリアプラン

アウトソーサーが提供するプランは、パッケージプランとカフェテリアプランとに大別されます。

  • パッケージプラン:社員はパッケージで提供されている全てのメニューを利用できる。利用回数などに制限はない。事務作業も料金に含まれている
  • カフェテリアプラン:社員は自分の好みでメニューを選択する。あらかじめ社員に付与したポイントの範囲内で利用できる。事務作業は会社負担だが、有料でアウトソーサーに任せることも可能

パッケージプランはメニューが豊富で会社側の負担は軽いものの、社員のニーズに合わないメニューも含まれているため、無駄が生じがちです。

一方、カフェテリアプランはあらかじめメニューを絞り込むため、社員のニーズが比較的明確な場合に適しています。ただし、事務作業などをアウトソーシングする場合は別途コストが必要です。

3)費用の目安

条件によって異なりますが、一つの目安として東京商工会議所のCLUB CCI「バフェプラン」の費用を紹介します。

  • 入会金:0円
  • 基本料金:1100円×社員数(月間)
  • 初年度の合計:39万6000円(1100円×30人×12カ月)
  • 5年間の合計:198万円(39万6000円×5年)

一般的に費用には松竹梅のようなランクがあり、基本料金が高いほどメニューが豊富で、サービス利用時の割引率も高くなります。

3 (参考)福利厚生費に関するデータ

最後に、福利厚生の見直しの参考となるように、福利厚生費に関するデータを紹介します。

1)福利厚生費などの推移

福利厚生費などの推移は次の通りです。

画像1

2)法定外福利費の内訳

法定外福利費の項目別内訳の推移は次の通りです。

画像2

以上(2022年2月)

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画像:pixabay

【朝礼】私、失敗しますので

突然ですが、皆さんにおわびしたいことがあります。以前より、新たな取引先を獲得しようと、皆さんに色々と無理なお願いをしていたのですが、私の失敗のせいで契約に至らず交渉が終わってしまいました。大変申し訳ありません。ただ、今回の失敗によって得たものもありました。むしろ失ったものより得たもののほうが大きかったくらいです。今日はそれをぜひ、皆さんに聞いていただきたいと思います。

まずは、今回の失敗の大まかな経緯を説明します。今回の新たな取引先候補となった会社は、これまでお付き合いしている先とは異なる、外資系の新興企業でした。私が懇意にしている取引先の方からご紹介いただいたこともあり、何としてでも新たな取引先にしたいと、上司や先輩からいただいたご忠告もよく聞かずに、強引に交渉を進めてしまいました。

交渉の進め方にも問題があったと思います。最初にコンタクトした時点で、大筋で合意できたと思ってしまって安心し、従来通りの交渉の進め方や条件の提示で問題ないと思っていました。結果的に、この最初のボタンの掛け違いが尾を引き、契約が流れてしまう原因となってしまいました。私の見通しの甘さが招いた失敗でした。

契約に至らなかったことは本当に悔しいですし、何より私自身の力不足を痛感しています。ですが、私は、この失敗によって、とても貴重な財産を得ました。それは「経験」です。

先ほどもお話ししたように、今回の交渉相手は既存の取引先とは異なり、今までの業界の常識が通じない会社でした。交渉をする中で、先方が望んでいる情報や、取引先に選ぶ基準も、既存の取引先と全く異なっていることが、次第に分かってきました。

また、交渉の途中からは、なんとか契約につなげようと、新たなアプローチによる交渉の進め方も試すことができました。今後、こうした会社との交渉が増えていくことも想定されますので、今回の経験が役に立つと思います。

失敗しておいておこがましいとは思いますが、今回の件は、既存とは異なる新たな取引先を開拓するための、試行錯誤の一環だったと思っています。せんえつながら、現時点で新規開拓のノウハウを一番持っているのは、私ではないでしょうか。

今回の経験から、私は、これからも「失敗できる」社員になりたいと思いました。もちろん、同じ失敗をする社員ということではありません。会社から期待され、難しい仕事を与えられるという意味での「失敗できる」社員です。そして、たとえ失敗しても、その過程で自分自身や会社のための貴重な経験を得て、次につなげられる社員こそ、本当の「失敗できる」社員だと思います。

また失敗できるチャンスを得られるよう、まずは今回の失敗を取り返すために頑張ります。このたびは申し訳ありませんでした。これからもご指導のほど、よろしくお願いいたします。

以上(2022年2月)

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画像:Mariko Mitsuda

【朝礼】あなたはヤマメか、サクラマスか

今日は皆さんに、問題を出したいと思います。皆さんはヤマメという魚と、サクラマスという魚の違いを知っていますか?

ちょっと意地悪な問題なのですが、正解は、「違わない」のです。生物学的には、両方ともサケ科の同じ種類の魚です。しかし、その生き方は全く異なります。川に一生住み続ける“陸封(りくふう)型”と呼ばれるのがヤマメで、川を下って海で育つのがサクラマスです。

では、ヤマメとサクラマスとの運命の分かれ道はどこにあるのでしょうか? その答えは、両者が生まれて約1年後に激烈を極める、縄張り争いにあります。体の小ぶりなヤマメが争いに敗れ、居場所を失って川を下るそうです。

海に出たヤマメは、川よりも天敵の数も種類も多い海で、危険にさらされながら生きることになります。ですが、海には餌となる小魚が豊富にいます。川に居続けるヤマメの大きさが20~30センチメートルほどなのに対して、海で生き延びたヤマメ、つまりサクラマスは、2倍以上の70センチメートル程度にまで成長します。そして海に出てから約1年後、産卵のために生まれた川に“凱旋”するのです。

ヤマメと比べて体の大きなサクラマスのほうが産み落とす卵の数は多く、子孫を残せる可能性が高くなります。つまり、一度は競争に負けたヤマメが約1年後にサクラマスとなり、川に残っていたヤマメに逆転勝ちするのです。

皆さんはこの話を聞いて、ヤマメとサクラマスのどちらになりたいと思いましたか? 私はかつてサクラマスの生き方に憧れて、積極的に広い世界に出て、学び、成長したいと考えたものです。

しかしながら、今の考えは違います。私が今、なりたいのは、ヤマメでもサクラマスでもありません。ヤマメやサクラマスを育む、川になりたいのです。

この会社にも、さまざまなタイプの人がいます。1つの仕事をコツコツやり遂げるヤマメタイプの人もいますし、社外でいろいろと学んでスキルアップをしたいと考えているサクラマスタイプの人もいます。

どちらの生き方も素晴らしいことですし、私はそれぞれの生き方を応援したいと思っています。今の仕事の専門性を高め、極めたいと考えている人には、それにふさわしい場所を与えられるようにします。外の広い世界で学び、成長したいのであれば、むしろ積極的に後押しして送り出したいと思っています。ヤマメは川で、サクラマスは海で、それぞれ精いっぱい生きているのですから、どちらも胸を張ってよいのではないでしょうか。

私はこの会社を、ヤマメやサクラマスが生き生きと泳げる、川のような会社にしたいと思っています。皆さんは、自分の思うような生き方をしてください。そして、自分と生き方や考え方の違う人とも、認め合える関係を築いていってください。

以上(2022年2月)

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画像:Mariko Mitsuda

不正競争防止法~顧客情報やノウハウなどの営業秘密を守る~/意外と知らない「知的財産権」シリーズ7

書いてあること

  • 主な読者:顧客情報やノウハウなどの営業秘密を保護したい経営者
  • 課題:営業秘密を保護するためには、何をしておけばよいか分からない
  • 解決策:情報にアクセス制限をかけたり、「社外秘」などと表示したりして、その情報が秘密であることが認識できるようにしておく

1 顧客情報やノウハウなどの営業秘密を保護する

顧客情報や製造設計書、各種のノウハウなど、職場では、会社が競争力を維持するために極めて重要な情報(営業秘密)が、従業員の目に触れる場所に存在しています。もし、従業員がこれらの情報を無断で持ち出してライバル企業に売り渡したり、転職や独立をしてしまったりしたら、会社はどのような対応を取ることができるでしょうか?

顧客情報などの営業秘密は、特許法などの産業財産権法の保護対象として権利を取得するのは難しいですが、不正競争防止法による保護を受けられます。ただし、全て法的に保護されるというわけではないので、

適切な保護を受けるために、事前に会社がやるべきこと

があります。以降で確認していきましょう。

2 営業秘密の流出事件と不正競争防止法の適用例

不正競争防止法では、他人の技術開発、商品開発等の成果を冒用する行為等を不正競争として広く禁止しています。不正競争防止法では、次のような行為を禁止し、差止め・損害賠償の対象としています。

  • ブランド表示の盗用
  • 形態模倣等
  • 営業秘密の不正取得、使用、開示

では実際に、営業秘密が流出し、不正競争防止法によって差止め・損害賠償の対象となったケースを紹介します。

1)顧客情報の流出:退職従業員が競合他社の副社長の地位と引き換えに

・事案
オークションで落札した中古車を海外顧客にインターネット経由で販売するシステムを開発し売り上げを伸ばしていた原告企業において、退職従業員が退職直前にアクセス権限を悪用して原告企業の顧客情報を複製して持ち出し、副社長としての地位を約束されていた被告企業(中古車販売業者)に流したうえで、その顧客情報を用いて中古車を販売していた事案です。

・判決(大阪地方裁判所 平成25年4月11日判決)
顧客情報の使用差止め、廃棄、および不正取得を行った退職従業員(個人)に約1億3000万円、当該顧客情報を不正使用した被告企業2社に、それぞれ約9000万円と約5000万円の損害賠償責任が認められました。

2)技術情報の流出:独立した元幹部らがデータを持った従業員を引き抜く

・事案
半導体全自動封止機械装置を製造する企業の常務取締役らが、退職直前に、自ら設立した会社に原告企業の従業員を引き抜き、その持ち出した封止用金型を構成する一部の部品に関する図面のCAD(コンピューター支援設計)データを、自社の製造販売事業に利用した事案です。

・判決(福岡地方裁判所 平成14年12月24日判決)
技術情報の使用差止め、廃棄、および不正取得・不正使用した被告企業と原告企業の元常務取締役らに約4億円の損害賠償責任が認められました。

このように過去の事案においても、裁判所は、顧客情報、技術情報いずれの持ち出しに対しても、1億円以上の高額な損害賠償責任を認めています。最近でも、ソフトバンクが、楽天モバイルに移籍した元従業員が退職に際して5G関連の技術情報を持ち出し、営業秘密を不正取得・不正使用されたと訴訟を提起しました。ソフトバンク側は、「控えめに見積もっても1000億円を下らない」と主張していることは、報道されている通りです。

営業秘密の不正取得等に関する事件は、従業員が退職に際して会社の営業秘密を持ち出すというケースが多く、しかもその退職従業員と受入先会社とが裏でつながっていることも多々あることから、当事者間の対立は激しく、解決にかなりの期間を要することとなります。

また、従業員の退職は待遇面などでの不満を理由とする場合が少なくないことから、営業秘密を持ち出した退職従業員を全面的に責めるべきかどうか分からない、という価値判断が働く場面もあるでしょう。そこでやはり、会社としても営業秘密の漏洩に十分な対策をしておく必要があります。

3 「営業秘密」として保護されるための3要件

不正競争防止法上の「営業秘密」として保護されるためには、次の3要件(不正競争防止法第2条第6項)を満たす必要があります。

  • 秘密管理性(秘密として管理されていること)
  • 有用性(事業活動に有用な技術上または営業上の情報であること)
  • 非公知性(公然と知られていないものであること)

1)秘密管理性

「秘密として管理されている」とは、

客観的に秘密として管理されている状態

のことです。まず重要なことは、

社外秘の表示、秘密管理規程の整備、従業員教育や啓発活動など、比較的簡単にできる対策をしっかりやっておくこと

だといえます。裁判所は秘密管理性について、次の2つの要素を考慮しています。

1.その情報にアクセスできる者が制限されていること(アクセス制限)
具体的には、次のような例が挙げられます。

  • 対象となる情報へのアクセスにパスワード等が要求されている(特に退社意思表明後)
  • 当該情報が暗号化されている
  • 当該情報がインターネット等のネットワークに接続されていないパソコン、その他隔離された場所で保管されている
  • 使用後に回収・廃棄・処分が行われている
  • 当該情報を閲覧・複製・持ち出しできる者が限定されている

2.その情報にアクセスした者に、当該情報が営業秘密であることが認識できること(客観的認識可能性)
具体的には、次のような例が挙げられます。

  • 媒体に「マル秘」「社外秘」などと表示されている
  • 就業規則・秘密管理規程・誓約書(入社時・退社時)などにおいて、営業秘密となる文書がリスト化されている
  • 定期的な研修等において、営業秘密に該当する情報や取り扱いについて注意喚起がされている

このうち、「アクセス制限」については、特に中小企業にとっては、現場の効率性や対策予算などを考えると、すぐには対応できない場合もあるかと思います。しかし、「アクセス制限」と「客観的認識可能性」は、秘密管理性の有無を判断する重要なファクターであるものの、それぞれ別個独立した要件ではなく、「アクセス制限」は、「客観的認識可能性」を担保する一つの手段であると考えられています。

つまり、必ずしも「アクセス制限」が完璧でなかったとしても、「客観的認識可能性」がある場合、情報にアクセスした者にとって、その情報が「秘密」であると認識できる場合には、「秘密管理性」が認められ得ると理解されています(経済産業省「営業秘密管理指針」)。

なお、実際の事案では、以下のような場合に秘密管理性が否定されていますので注意が必要です。

  • PCを操作する者が限定されておらず、パスワードでアクセス制限がかけられているわけでもない情報、机上や無施錠のキャビネットに保管され、社内の誰もが自由に閲覧できるファイルや袋に入れられている情報であって、秘密表示のないもの(東京地判平成11年5月31日「化学工業薬品事件」)
  • 社外秘等の表示がなく、社外に預ける際も秘密保持契約を締結しない場合は、従業員に対する関係では、秘密管理性がない(京都地判平成13年11月1日「人工歯事件」)
  • 同種書類中の一部のみにマル秘の押印があるだけで、同じ内容の情報がパスワードのない状態でPCに保存されている場合も、秘密管理性はない(東京地判平成12年12月7日「車両変動状況表事件」)

2)有用性

「有用である」とは、

「財やサービスの生産、販売、研究開発に役立つ」(平成12年(ワ)第9499号)こと

と理解されています。

従って、過去に失敗した実験データなども、不要な研究開発費用を回避できるとして有用性は肯定されます。一方、技術情報であっても技術的価値の低いものや、企業の脱税スキームなど反社会的な情報は法的保護に値せず、有用性は否定されるため、不正競争防止法で保護されるべき「営業秘密」には該当しません。

実際の裁判例では、以下のような情報について、有用性を否定する判断がなされています。

  • 被告において決められていた小型USBフラッシュメモリの寸法に応じて、公知の技術をどのように組み合わせて各部品を配置するかは、当業者であれば、通常の工夫の範囲内において適宜選択・決定する設計的事項であるということができ、当該組み合わせによって、予測外の格別の作用効果を奏するものとも認められないから、有用性があるとは認められない(東京地裁平成23年3月2日、知財高裁平成23年11月28日)
  • セメントに炭素を混合することが開示されている以上、炭素を混合するに当たり、偏りのないよう均一に混合するというのは、当業者であれば、通常の創意工夫の範囲内において適宜に選択する設計的事項にすぎず、有用性があるとは認められない(大阪地裁平成20年11月4日)
  • エルメスのバーキンに酷似したバッグに、独自の標章を付して廉価で販売することにより、エルメスに憧れながら買えないでいる消費者層に、商品展開を行う方法に関する情報には有用性がない(東京地裁平成13年8月31日)

3)非公知性

「公然と知られていない」とは、

その営業秘密が一般に知られていない状態、または容易に知ることができない状態

をいいます。従って、仮に外国の刊行物にその営業秘密が記載されていたとしても、その取得に時間的・資金的に相当のコストを要する場合には、非公知性は否定されないということになります。

また、営業秘密はさまざまな知見を組み合わせて一つの情報を構成していることが通常ですから、すでに刊行物に掲載されている情報の断片から、営業秘密に近い情報が再構成できるからといって、そのことをもって直ちに非公知性が否定されることにはなりません。

非公知性が問題になりやすいケースとしては、リバースエンジニアリングによる非公知性の喪失があります。つまり、リリースされた製品などを見たり解析したりすれば、容易にその内容が分かるというような場合は、すでに「公知」になったものとして、その情報はもはや「営業秘密」としては保護されない、というものです。

裁判例では、次のような事案がありますが、判断基準としては、「リバースエンジニアリングによって当該技術情報を容易に再製可能」である場合は、非公知性を失っており、「営業秘密」としての保護は及ばないとしています。

  • 原告のセラミックコンデンサー積層機および印刷機のリバースエンジニアリングによって、本件電子データと同じ情報を得るのは困難であるものと考えられ、仮にリバースエンジニアリングによって本件電子データに近い情報を得ようとすれば、専門家により、多額の費用をかけ長期間にわたって分析することが必要であるものと推認されるから、非公知性は失われていない(大阪地裁平成13年(ワ)第10308号)
  • 錫(すず)製品の製造に携わって錫の性質を熟知した者は、いかなる元素が錫合金に適しているかを経験によって知悉(ちしつ)しており、リバースエンジニアリングを行うに際して多大な手間、費用をかける必要はなく、錫製品を専門的に製造した経験のない者であっても、錫合金の素材となり得る元素はインターネットや一般の書籍で得た知識に基づいて容易に推測しておよその見当が付くのであり、リバースエンジニアリングを行う際の分析対象となる元素はせいぜい数種類の候補に絞られるから、非公知性は失われている(知財高裁平成23年7月21日)

4 不正競争防止法の対象外の情報の保護

特許法などの産業財産権法と不正競争防止法のいずれの保護対象にも当たらない情報についても、一切法的保護が受けられないというわけではなく、秘密保持契約などの契約によって当事者を拘束することが考えられます。その際、当該情報が営業秘密に該当するかどうかは問題となりませんが、

契約当事者以外の第三者に対する拘束力はなく、また、損害額の推定など不正競争防止法等に定める特別規定の適用も受けられない

ことには注意が必要です。

また、判例上は、すでに「公知」になっていたり、「有用性」がなかったりするような情報は、秘密保持契約の対象たる「秘密」に該当しないといった判断をしているものもありますので、いずれにしても、対象情報を「秘密」として守るという会社の姿勢は、やはり重要だといえるでしょう。

5 意図せず秘密漏洩の加害者になってしまう危険も

営業秘密の漏洩に関しては、会社の情報を持ち出されるケースだけでなく、新規に採用した従業員が従前の職場から営業秘密を持ち出している可能性もあります。つまり、会社が意図していなくても、知らないうちに加害者側に回ってしまう危険も潜んでいます。このため、

従業員の中途採用時には、必ず「前職の営業秘密を保持していない」ことや、「当社の業務を行うにつき、前職で知り得た情報を一切利用しない」といった旨の誓約書を取り付ける

必要があるでしょう。

また、昨今の世相から特に気を付けるべきケースとしては、

SNSの普及により、従業員が業務に関連する情報をSNSなどに不用意に上げた結果、会社がその取引先の「秘密情報」を開示してしまった

というようなことも、しばしば見られるところです。

例えば、取引先とのランチの様子を画像投稿したところ、当社とその会社に接点があることを知れば、同業者であればどのようなプロジェクトが検討されているかを推測することができます。そもそも、そのような接点があること自体が秘密情報に該当するものであった、といったこともしばしば見受けられます。

他にも、取引先やその周辺で撮影した写真に、その取引先の重要情報が写り込んでしまっていたということもあります。意図せず、取引先の秘密情報を漏洩した加害者となってしまわないよう、十分に気を付けなければなりません。

SNSの普及度は国によってまちまちです。例えば中国との取引などの場合、中国では日本とは比較にならないほどSNS文化が普及していますので、このような観点からも、秘密情報の管理には万全の体制で臨む必要があります。

以上(2022年2月)
(執筆 明倫国際法律事務所 弁護士 田中雅敏)

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令和4年4月施行せまる個人情報保護法改正の実務対応ポイント

1 令和4年4月に施行される改正個人情報保護法

ここ1~2年の間に個人情報保護法の改正が急ピッチで進められています。

具体的には、まず令和2年3月10日に「個人情報の保護に関する法律等の一部を改正する法律案」が第201回通常国会に提出され、令和2年6月5日の国会において可決、成立し、令和2年6月12日に公布されました(図表)。

個人情報の保護に関する法律等の一部を改正する法律(概要)

その後、令和3年2月9日に「デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律案」が第204回通常国会に提出され、令和3年5月12日の国会において可決、成立し、同年5月19日に公布されました。

これらの改正法はいずれも一部を除き、令和4年4月1日施行が予定されているところです。

本稿では、個人情報取扱事業者(以下、単に「事業者」という)が対応すべき事項については主に令和2年改正のほうで対応がなされていますので、以下ではこの令和2年改正の内容を軸に事業者が施行前に見直すべき対応ポイントについて述べていきます。ただ、法令の条数に関しては同日付の令和3年改正の一部施行を踏まえた最終の条数で示すこととしますので、この点につきご留意ください(以下、個人情報保護法は「法」、個人情報保護法施行規則は「規則」と表記する)。

(日本法令ビジネスガイドより)

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スタートアップが売り手になるM&Aにおいて留意すべきこと/スタートアップが知っておくべきM&A入門(2)

「スタートアップが知っておくべきM&A入門」の第2回となる今回は、スタートアップが対象会社となるM&A(以下「スタートアップM&A」)のうち、主要な経営株主が売り手になる株式譲渡の例を念頭に、主な留意点について解説します。
なお、第1回でも、スタートアップの株主が売り手となるM&Aを念頭にアーンアウト条項や株式対価M&Aを取り上げていますので、ご興味のある方はこちらもご確認ください。

1 「経営株主間契約」の内容次第でM&Aがなくなることも……

スタートアップM&Aの買い手は、

  • 一部の株主からのみ株式を譲り受けられればよい
  • 発行株式の全てを取得したい

という希望の何れかを有しています。
買い手が発行株式の全てを取得するつもりなら、売り手の全株主が同意しなければなりません。しかし、経営株主の意向はさまざまであり、一部でも売却を拒めば、取引自体の成否が危ぶまれることになりかねません。このような問題は、

設立または参画の際に共同経営者間で締結された「経営株主間契約」のドラッグ・アロング・ライト等の諸権利(詳細は後述します)を実行させたり、スクイーズ・アウト(少数株主の株式を強制的に取得する)の手法を用いたりする

ことで、解決できる場合があります。そのため、経営株主間契約の条項を確認しておく必要があります。具体的には、次のような権利を活用することが考えられます。

  • ドラッグ・アロング・ライト
    経営株主のうち1名が第三者に保有株式を売却する場合は、他の経営株主の持分も同一条件にて強制的に売却させることができる
  • タグ・アロング・ライト
    経営株主のうち1名が第三者に保有株式を売却する場合は、他の経営株主も同一条件にて売却に参画することができる
  • コール・オプション
    経営株主による役員退任等の一定事由が生じた場合、他の経営株主や対象会社が、当該事由の生じた他の経営株主から株式を有償または無償で譲り受けることができる
  • プット・オプション
    コール・オプションとは逆で、経営株主自身が保有株式を他の経営株主や対象会社に対し、一定価格で買い取らせることができる

もっとも、こうした権利が経営株主間で対等・平等に設けられているとは限りません。例えば、エグジットの決定権限を有する一部の主要な経営株主だけに、こうした権利が付与されていることも多い印象です。
また、そもそも経営株主間契約が締結されていないケースもあります。あるいは、経営株主間契約は締結されていても、ドラッグ・アロング・ライトやコール・オプションの行使条件や、当該権利が行使された場合の譲渡価格の算定方法が不明瞭で、他の経営株主から確実に保有株式を譲り受けられるのか(当該権利を適法に行使できるのか)が不透明なこともあります。創業当初のスタートアップ経営者は、将来的に経営方針の違い等が生じて互いに離散することをあまり想定していないことが多く、経営株主間契約の内容が十分でないケースが珍しくありません。

経営に参画していない旧創業者が離脱後も少数株主として残存し続けることは、M&AのみならずIPOの障害にもなり得ます。全株式を譲り受けることを企図している買い主はなおさらで、M&Aを断念してしまうこともあるでしょう。そのため、経営株主間契約の十分な作り込みはエグジットを考える上で重要です。

なお、スタートアップの中には、経営株主が役員を退任したら高額の退職慰労金を受給できるとの合意をしていることがあります。こうした特殊な退職慰労金は、引当金が貸借対照表に計上されていないことが多いこともあり、買い主としては、想定外の企業価値の毀損を避けるために、そうした退職慰労金が存在しないことをデューディリジェンスで確認したり、表明保証を求めたりするケースもあります。

2 種類株式や潜在株式の処理はM&A実施における重要事項

1)種類株式や潜在株式

スタートアップは、資金調達のため投資家に対し、以下のような種類株式や潜在株式を発行している場合や、投資契約においてこのような種類株式等の発行に関する各種条項を設けている場合があります。

1.取得請求権付株式
取得請求権付株式とは、経営株主による株式売却等の一定事由が生じた場合、当該投資家が、保有株式を所定の価格で対象会社に買い取らせることができる旨を定めた株式です。前述した、プット・オプションとして同様の内容を定めている場合もあります。

取得請求権またはプット・オプションが行使されて自己株式を取得する場合、多額の現金が流出し、譲渡価格の算定に影響を及ぼすおそれがあります。また、必要な取得価格に会社方の「分配可能額」が満たない場合、取得請求権等の存在を理由に想定しているM&Aの実現自体が妨げられることになりかねません。

実際、スタートアップは利益を上げておらず、投資された資金でビジネスをしていることから、分配可能額はほとんどありません。また、経営株主の保有株式譲渡には何らかの形で投資家の承諾が必要になるケースが多く、売り手としても、買い手との交渉開始前に当該種類株式を保有する投資家の意向を確認しておくことも考えられます。

なお、こうした諸権利が行使された場合に備え、

スタートアップM&Aの実務では、株式譲渡契約等において価格調整条項を設けておく

ことが多い印象です。

2.残余財産分配請求権付株式
 残余財産分配請求権付株式とは、清算が生じた際、投資家が残余財産の分配を優先的に受けられる旨を定めた株式です。
 また、多くの残余財産分配請求権付株式には、いわゆる「みなし清算条項」が設けられています。これは、M&Aが実施された場合に、残余財産分配請求権の規定に従って譲渡価格を分配する旨を定めた条項です。
 売り主は、こうしたみなし清算条項の内容に留意しつつ、クロージングが実現した場合の自身への手取りはいくらになるかを考えながら、価格交渉に臨む必要があります。

3.潜在株式
スタートアップの資金調達では、新株予約権や新株予約権付社債等の潜在株式が発行されることがあります。潜在株式も種類株式と同じで、M&A等の一定の事由が生じた場合に、潜在株式を普通株式に即時転換することのできる条項や、対象会社に潜在株式を一定額で買い取らせることができる条項が設けられていることがあります。これらの条項の存否や内容も、M&Aの成否や譲渡価格の算定に影響を与える要因になり得ます。

M&Aによるエグジットを見据えるスタートアップの経営者は、資金調達の段階から、潜在株式の発行が将来のエグジットにどのような影響を与える可能性があるのか留意する必要があるでしょう。

2)役職員に対するストックオプション

スタートアップでは、IPOを見据えて役職員にストックオプションを発行している場合があります。ストックオプションも潜在株式の一種ですが、一定事由が生じた場合には対象会社が当該ストックオプションを取得できる旨の条項が適切に付されていないと、M&A実施後もストックオプションが残存することになってしまいます。
実務上は、買い手または対象会社がストックオプションを譲り受けたり、あるいは、いったんストックオプションを放棄させた後、買収後に残留した役職員に新たなインセンティブ制度を設けたりする例が見られますが、これらの方法を確実に実施する上でも、発行時点における適切なストックオプションの設計が肝要です。

3 コンプライアンス ~人事労務は売却前のセルフチェックが肝心

スタートアップでは、人的資源の不足から株主総会や取締役会等の会社法上必要な議事録類の整備が不十分である場合や、コンプライアンス、とりわけ人事労務面の不備が顕著である場合が少なくありません。
しばしば見られる例としては、次のような事象です。

  • 労働時間の管理がずさんである
  • 違法・無効な固定残業代手当制度がある
  • 労使協定の締結や労働基準監督署への各種届出に不備がある
  • 過去に社内でのハラスメント事例がある など

こうした人事労務面の違法や不備はM&A後のリスクとなり、クロージング後に従業員から多額の未払残業代の請求を受けるおそれもあります。こうした理由から、M&Aの交渉でも、買い手が安易に妥協しない領域です。
 M&Aによるエグジットを見据えるスタートアップの経営者は、日々の労務管理をはじめとするコンプライアンス面に問題がないかを確認しましょう。不備がある場合は、一般的に考えて、買い手の許容可能な範囲なのかを顧問弁護士等に相談しておくことも考えられます。

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4 キーマンをめぐる問題

スタートアップの付加価値は、属人的な要素による部分が多くあります。「キーマン」と呼ばれる役職員がクロージング後も対象会社の業務に継続して従事するか否かは、企業価値の算定に影響を及ぼす重要な事項です。
実務上は、次のような条項を定めておくことがあります。

  • 特定の役職員に、クロージング後の一定期間、対象会社で働くことを求めるロックアップ条項
  • 一定期間内に特定の役職員が退職した場合、譲渡価格の調整を行う条項

M&A交渉が円滑に進むよう、事前にキーマンとなる役職員に継続して働く意向があるか否かを確認しておくことも考えられます。

5 PMIの重要性

M&Aでは、クロージング後の経営統合プロセスである「PMI =Post Merger Integration(ポスト・マージャー・インテグレーション)」がとても重要です。
主なPMIの内容には、ガバナンス制度や人事制度の整備、広義のスタンド・アローン・イシュー(M&Aにおいて、対象会社が親会社・企業グループから離脱した場合に受ける事業運営上等の問題。次回の第3回で詳しく解説する予定です)への対応等があります。スタートアップは人的資源による部分が多いので、優秀な役職員が離職しないよう、魅力的なインセンティブプランや就業環境の整備が重要になるといえるでしょう。
PMIの方針について売り手・買い手間で話し合い、必要に応じて当該方針をクロージング前に一部のキーマンに伝え、理解や了承を得ておくということも考えられます。
なお、中小企業庁は「中小PMI指針」の策定を進めており、2022年中に公表される予定です(2022年2月1日時点)。

最後に、スタートアップM&Aに関連するトピックを一つ紹介します。2021年8月から、中小企業庁により、FA(ファイナンシャル・アドバイザー)やM&A仲介業者等の「M&A支援機関」の登録制度が開始されました。登録を受けたM&A支援機関を利用する場合、必要な手数料の一部が補助されるようになったため、金銭的な負担が軽減されます。これにより、今後、スタートアップを含む中小企業におけるM&Aが活発化することが期待されています。


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スタートアップが知っておくべきM&A入門

以上

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2022年2月15日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

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