【財務会計】損益計算書にある「収益」の基本

書いてあること

  • 主な読者:会計の基礎を勉強したい人で、損益計算書の「収益」について知りたい人
  • 課題:利益の種類がいくつもあって紛らわしい
  • 解決策:本業か否か、売上に直結するか否か、臨時的か否かで考えると整理しやすい

1 収益とは

収益とは、

会社が事業活動により稼いだ成果

です。損益計算書では、利益計算上のプラス項目として記載されます。収益は、本業か本業以外か、また定期的か臨時的かといった発生の背景により区分されます。損益計算書を見る際、それぞれの利益の意味を知ることはとても重要です。利益は収益から費用を差し引いて計算されるので、収益項目の性質を知ることで、利益の意味も理解できます。

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2 収益項目に書かれていること

損益計算書の収益の項目は次の通りです。なお、全ての会社の損益計算書に次の全項目が記載されているわけではありません。

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1)売上

売上は、自社が本業とする商品やサービスの販売対価をいいます。本業の判断基準の1つは、定款上の事業目的に記載されているか否かです。また、定款に記載されていなくても、経営者が本業として行った業務であれば売上に計上されます。

2)営業外収益

営業外収益は、預金や金銭の貸し付けをしている場合に受け取る利息や、株や債券を保有した場合の受取配当金など、本業とは関係のない活動から得た収益です。

3)特別利益

特別利益は、固定資産売却益など、その事業年度だけ臨時的に生じる利益(収益)です。

3 収益を使用する主な財務指標

1)売上高利益率

売上高利益率とは、売上高と利益の比率を表す割合です。

売上高利益率(%)=(当期純利益or営業利益or経常利益)÷売上高×100

売上高利益率は、売上高のうち利益がどの程度占めるのかを示す指標として用いられます。この指標が高ければ高いほど、経営の収益性が高いと見られます。

2)総資本回転率

総資本回転率とは、総資本(負債+純資産)と売上高の比率を表す割合をいいます。計算式で示すと、次の通りです。

総資本回転率(%)=売上高÷総資本×100

総資本回転率は、総資本を使ってどれだけの売上を上げることができたのかを示す指標として用いられます。この指標が高ければ高いほど、経営の効率性が高いと見られます。

3)ROAとROE

ROAは、総資本を使ってどの程度の利益を生み出すことができたかを示す指標です。この指標が高ければ高いほど、会社が保有している資産を使って効率的に利益を獲得したことを示します。

ROEは、株主が拠出した自己資本を使って株主のためにどれだけの利益を上げたかを示す指標です。自己資本利益率が高ければ高いほど、投資が効率的に行われたことを示します。

不特定多数の株主から投資を受ける大企業の場合は株主の視点を重視したROEが重要ですが、中小企業のように少数かつ特定の人で株主が構成されている場合はROAのほうが有用ともいえます。ROAを分解すると、前述の売上高利益率と総資本回転率の2つの指標の組み合わせであることが分かります。

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ROAに財務レバレッジを組み合わせると、ROEになります。なお、財務レバレッジとは、自己資本と総資本の割合をいい、負債を利用して、自己資本の何倍の資金が事業に投入されているかを示す指標として用いられます。この指標が低ければ低いほど、経営の安全性が高い(返済義務のある資金調達が少ない)と見られます。

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このように財務指標を目標の1つに掲げる場合は、計算式をより細かく分解することで、現場担当者がどのような点を改善すればよいのかが理解しやすくなります。

以上(2022年1月)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 公認会計士 仁田順哉)

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【財務会計】貸借対照表にある「負債」の基本

書いてあること

  • 主な読者:会計の基礎を勉強したい人で、貸借対照表の「負債」について知りたい人
  • 課題:負債には、流動や固定などたくさんの種類があって整理しにくい
  • 解決策:負債は会社が外部から調達した返済義務のある資金。性質により2種類に分かれる

1 負債とは

負債とは、

会社が調達した資金で、銀行からの借入金や債務(買掛金など)など

が該当します。負債は貸借対照表の右側上部に表示され、次の2つがあります。

  • 流動負債:短期間(1年以内)に返済期限が到来する債務など
  • 固定負債:返済期限が長期間(1年超)になる債務など

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2 負債の部に書かれていること

貸借対照表の負債の部に記載される主な項目は次の通りです。全ての会社の貸借対照表に次の全項目が記載されているわけではなく、逆にここでは紹介していない項目が記載されていることもあります。あくまでも、会社の状況次第です。

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1)流動負債

流動負債とは、返済期限が1年以内に到来する債務などで、支払手形・買掛金・短期借入金・未払法人税等などが記載されます。流動負債は運転資金に与える影響が大きく、日々の資金繰りを考える上で重要な項目になります。

なお、賞与引当金(将来発生する賞与の支払いに対して設定される引当金)は、実際に賞与が支払われる時期が1年以内に到来するため、流動負債に記載されます。

2)固定負債

固定負債には、返済期限が1年を超える債務などで、社債・長期借入金・リース債務などが記載されます。

なお、退職給付引当金(将来発生する退職金の支払いに対して一定の計算を基に設定される引当金)は、基本的に1年を超える将来に支払われるものであるため、固定負債に記載されます。

また、詳細な説明は省略しますが、繰延税金負債は会計上の利益と税務上の利益(所得)の差を調整するための会計処理(以下「税効果会計」)を適用した場合に生じる負債項目です。税効果会計の適用により生じた繰延税金負債は全て固定負債に計上することになっています。

3 負債を使用する主な財務指標から分かること

1)安全性

1.流動比率

流動比率とは、短期的な支出である流動負債と流動資産の比率です。計算式で示すと次の通りです。

流動比率(%)=流動資産÷流動負債×100

流動比率は、1年以内に支払わなければならない負債(以下「流動負債」)に対して、1年以内に現金化できる流動資産がどれくらいあるのか(流動負債を返済する能力)を示します。この指標が高いほど安全性は高くなり、業界によって平均値は大きく異なりますが、一般的には200%以上あれば安全とされます。

2.当座比率

当座比率とは、流動負債と当座資産の比率です。当座資産は、現金及び預金、売掛金、受取手形、有価証券(すぐに売却可能なもの)の合計額になります。なお、売掛金、受取手形は、貸倒引当金を控除した後の値を用います。貸倒引当金とは、取引先の倒産などにより回収ができなくなる可能性がある金額を見積もった値です。計算式で示すと次の通りです。

当座比率(%)=当座資産÷流動負債×100

当座比率は、流動負債に対して、すぐに現金化できる当座資産がどれくらいあるのかを示します。この指標が高いほど安全性は高くなり、一般的には100%以上が目安です。

3.負債比率

負債比率とは、会社の自己資本(純資産の部)に占める負債の比率をいいます。自己資本は、株主資本に評価・換算差額等を加えたものです。計算式で示すと次の通りです。

負債比率(%)=負債÷自己資本×100

負債比率は、返済義務のある負債と返済義務のない純資産のバランスから、会社の安全性を示す指標です。この指標が低いほど安全性は高くなり、一般的には100%以下が目安です。

2)効率性

1.総資本利益率(ROA、Return On Asset)

総資本利益率とは、利益を自己資本(純資産の部)と他人資本(負債の部)の合計額(総資本)で除した比率をいい、一般的にROAと呼ばれます。計算式で示すと次の通りです。

総資本利益率(%)=(当期純利益or営業利益or経常利益)÷(自己資本+他人資本)×100

総資本利益率は、総資本を使ってどの程度の利益を生み出せたかを示し、効率性を見る指標です。この指標が高いほど、利益を効率的に生み出せていると見ることができます。

2.仕入債務回転率

仕入債務回転率とは、売上原価を仕入債務(買掛金と支払手形の合計額)で除した比率をいいます。計算式で示すと次の通りです。

仕入債務回転率(%)=売上原価÷仕入債務×100

仕入債務回転率は、会社の仕入債務の支払いが、どの程度効率的に行われているかを示します。この指標が低いほど、仕入日から代金支払日までの期間が長いと判断できます。支払日までの期間が長いということは、その分キャッシュに余裕が生まれ、資金繰りの観点から良い状況といえます。ただし、資金繰りが悪化して仕入債務の支払いを延ばしていることで仕入債務回転率が低下している場合もあるため、注意が必要です。

以上(2022年1月)
(監修 税理士AKJパートナーズ 公認会計士 仁田順哉)

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著作権~自社や他者の表現やプログラムの侵害を防ぐために必要な知識~/意外と知らない「知的財産権」シリーズ6

書いてあること

  • 主な読者:デザインなどの著作物に関する著作権の侵害や保護について知りたい経営者
  • 課題:著作権侵害の話題はよく耳にする。どのような侵害に注意すべきか?
  • 解決策:自社の他者に対する著作権侵害を防ぐためには、外注先などの管理も必要。自社の著作物を保護するためには、商標権などとセットで保護することも検討

1 最も身近な知的財産権である著作権

メールを書いたり、写真や動画を撮ったりと、私たちの日常生活は表現行為にあふれています。これらの行為を法的に保護してくれるのが著作権です。著作権は、特許権や商標権と異なり、

権利を取得するために特許庁に出願して審査を受ける必要がありません。

その意味では私たちに最も身近な知的財産権ということができます。この記事では、身近でかつ、知らないとすぐに大きなトラブルに発展しかねない著作権について、最近よく見られる下記の点を解説します。自分たちに当てはまるところがないか確認しておきましょう。

  • デザインの外注
  • 動画配信(ゲーム実況も含む)
  • ソフトウエアの違法コピー
  • 事業活動に使われるキャラクター
  • ロゴマーク(海外での事例も含む)

2 外注先のデザインで発注者が著作権侵害の責任を負う可能性も

商品の包装や広告のデザイン制作を外部のベンダーなどに委託することがあると思います。その制作過程や納品された成果物について、他人の著作権を侵害していないか調査・確認を行っている企業は少ないでしょう。しかし、著作権侵害があった場合、

発注者である自社の責任も問われる可能性がある

ことを認識しておきましょう。

例えば、ある食品加工会社が外注先のデザイン会社に商品パッケージのデザイン制作を委託。納品されたパッケージのデザインで商品を販売していました。ところが、実はそのデザインは第三者の著作権を侵害するものであったため、その著作権者から差止め・損害賠償の請求を受けました。

この事案において、食品加工会社側は「外注先のデザイン会社の制作するデザインを全て管理することは事実上困難だ」と主張しました。

しかし、裁判所は、要約すると次のように判断して、この食品加工会社の責任を認めています(東京地判平成31年3月13日)。

  • 被告イラストの作成経過を確認するなどして、他人のイラストに依拠していないかを確認すべき注意義務を負っていたと認めるのが相当
  • 食品加工会社が上記のような確認をしていれば、著作権および著作者人格権の侵害を回避することは十分に可能であったと考えられる。にもかかわらず、食品加工会社は、確認を怠ったものであるから、上記の注意義務違反が認められる

とはいえ、発注元の企業が、外注先によるデザイン制作の過程を十分に管理するのは困難です。そのため、著作権侵害があった場合に備えて、

損害賠償の範囲、額、著作権侵害行為がないことの表明・保証などについて、あらかじめ契約で定めておく

ことが重要となってきます。

また、自社でデザインを制作する場合でも、ネット上に散見されるフリー素材を利用する機会があると思います。その際は、利用規約で商業利用についてまで許諾されているか必ず確認しておきましょう。許諾範囲が個人的な利用にとどまる場合は、これを安易に商用利用などすると、無許諾での利用として著作権侵害となる可能性があります。実際、ネット上で著作権侵害の画像などを探し出しては、高額請求をしてくる企業も存在するので注意しましょう。

3 動画配信の注意点

1)街頭での「写り込み」は問題ない?

最近は企業が自社紹介のために、本社ビルや自社イベントの様子などを動画や写真で配信するのをよく見かけます。これに他人の著作物やロゴマークが写り込んでしまうことがありますが、このような場合も、著作権侵害になるのでしょうか?

この点については、著作権法上、動画の配信などでは、「正当な範囲内」であれば、「著作権者の利益を不当に害することとなる場合」を除き、「利用することができる」こととされています。

従って、

背景に意図せず小さく写り込んだ絵画や写真、映像、あるいは、たまたま取り込まれた街中の音楽などに関しては、そのまま著作権者の許諾なく配信できる場合が多い

と思われます。

これに対して、漫画のキャラクターなど、それ自体の顧客吸引力を利用する態様で写り込んだ写真や動画の利用については、著作権者の許諾が必要となるものと考えられますので注意が必要です。

2)「ゲーム実況」は著作権侵害の場合も

最近では、ゲーム画面をそのまま動画として配信する、いわゆる「ゲーム実況」が人気を得ており、著名なゲームタイトルでは、企業間のイベントやコンテストなども盛んに開催されているようです。ゲームについては、映画の著作物として著作権法による保護の対象になると考えられていますから、著作権者(通常はゲーム会社)から動画配信に関する利用許諾を受ける必要がある、というのが原則的な考え方です。

もっとも、実際には多くのゲームタイトルで動画配信に関するガイドラインが定められていますので、まずはそちらを確認しておくのがよいでしょう(ガイドラインの内容はゲーム会社やタイトルによってもまちまちのようです)。

なお、イベントによっては、ゲーム会社とのコラボにより、再生される他人の音楽が配信動画中にうっかり入ってしまうことがあります。音楽についても、ゲーム同様に著作権の利用許諾が必要なので注意しましょう。

4 ソフトウエアの違法コピー

著作権法の保護対象には、音楽、映画、写真、小説などの伝統的な著作物に加えて、コンピュータープログラムも含まれています。この点に関して、特に中小企業の経営者にとって無視できないのは、ソフトウエアの違法コピーに関する問題です。

ソフトウエアの違法コピーについては、通常、著作権者側でもそのソフトウエア自体に対策を組み込んでいます。そのため、会社ぐるみでも従業員の単独行動でも、違法コピーは著作権者側に知られてしまうと考えておいたほうがよいでしょう。そして、ひとたび著作権侵害と分かれば、

違法ソフトの使用中止は当然のことながら、これまでに著作権者側に生じた損害を賠償する責任を負うこととなります。場合によっては刑事責任を問われること

もあります。

例えば、会社の従業員が海賊版サイトにアクセスして、あるソフトAを違法にダウンロードしようとしたとします。そのソフトA以外の類似・関連する海賊版ソフトまで含まれたセットでダウンロードした場合、実際にはソフトAだけをインストールして使用していたとしても、そのセットに含まれていた全ての海賊版ソフトについて、著作権侵害として扱われることになる点に留意しなければなりません。

これは「複製権」の侵害に当たる行為ですが、プログラムの「複製」は、ダウンロード行為によって完成しており、その後にインストールしたかどうかや、インストール後にアンインストールしたかどうかなどは問題ではないからです。このため、セット内の全ての海賊版ソフトが賠償の対象となり、金額が極めて高額となることも珍しくありません。

実際、ソフトウエアメーカーからの報告によると、違法コピーによる著作権侵害事件の1事案当たりの平均和解額は1200万円を超えているようです。さらに、会社役員は、株主代表訴訟において会社が負担した賠償額を求償される可能性もあります。ソフトウエアの違法コピーに対する賠償額は、正規品の小売価格相当額を基準とするのが裁判例の示すところではあるものの、訴訟を避けて和解するためには小売価格相当額を超えて、さらに多くの解決金を支払わなければならなくなる場合も少なくありません。

なお、プログラムを作成するためのプログラム言語、規約、解法には保護は及びませんので、検索機能に関するアルゴリズム、コーディングルール、インターフェース規約などは著作権法の保護対象ではありません。また、AI開発に関しては、元データ、学習データ、学習済みモデルなどをどう扱うかといった問題があり、一定の場合には著作権法の保護対象となり得ますが、この問題については回を改めて検討したいと思います。

5 キャラクターの法的保護

会社や自治体で、ゆるキャラなどのイメージキャラクターを利用して、さまざまな事業活動を行うことが一般的になっています。キャラクターをかたどった具体的な描画などが著作権法の保護対象となり得ることは確かですが、

キャラクターそのものは著作権法の保護対象ではない

という点については理解しておく必要があります。

この点について裁判所は、漫画のキャラクターに関して、「キャラクターといわれるものは、漫画の具体的表現から昇華した登場人物の人格ともいうべき抽象的概念であって、具体的表現そのものではなく、それ自体が思想又は感情を創作的に表現したものということができない」としています。

さらに、「一定の名称、容貌、役割等の特徴を有する登場人物が反復して描かれている一話完結形式の連載漫画においては、当該登場人物が描かれた各回の漫画それぞれが著作物に当たり、具体的な漫画を離れ、登場人物のいわゆるキャラクターをもって著作物ということはできない」と、著作物性を否定する判断を示しています(最高裁判所平成9年7月17日第一小法廷判決)。

また、原作のキャラクターを登場させたいわゆる同人誌の事案において、同様にキャラクターには著作物性がなく、「本件各漫画のキャラクターが原著作物のそれと同一あるいは類似であるからといって、これによって著作権侵害の問題が生じるものではない」と判断しています(令和2年10月6日知財高裁判決)。

このため、自社のゆるキャラなど、キャラクターに関する盗用行為に対して効果的に対処するためには、

著作権だけでなく、商標権や意匠権等の権利も有効に組み合わせて行使すること

などが必要です。

6 ロゴマーク

1)著作権だけではロゴマークを保護できない

企業のロゴマークは、商標登録によって保護を受けることが多いと思いますが、ロゴマークに創作性が認められるときは、著作権でも保護されます。それならば、創作性のあるロゴマークについては、わざわざ特許庁へ手数料を支払って商標登録までしなくともよいと思われるかもしれませんが、必ずしもそうではありません。

日本の商標法は、著作権侵害を直接の理由として商標登録を拒絶するという建て付けにはなっていません。ですから、

ロゴマークについて著作権で保護されていても、それを第三者が勝手に商標登録してしまう可能性

があります。その結果、著作権者はロゴマークを商標として無断で使用することができなくなる一方で、商標権者もそのロゴマークを複製などして無断で使用することができないという、非常にややこしい状況になってしまうのです。このような理由から、創作性を有するロゴマークであっても、やはり商標登録しておくのが最も望ましいと考えられるわけです。

2)中国での冒認商標には著作権登録で対抗することも可能

商標は、商品や役務を指定して登録する必要があり、区分数に応じて費用を支払わなければならないため、どうしても出願は後回しになってしまいがちです。このため、特に中国では著作権者以外の第三者が、他人のロゴマークやキャラクターを無断で商標出願することも少なくありません。

この問題に対する対策として、中国における著作権登録制度(作品登記制度)を利用するという方法が考えられます。中国においては、著作物を登録機関に登録することで、自己がその著作権を有することについての初歩的証明に用いることができることとされています(最高人民法院による著作権民事紛争事件審理上の法律適用の若干問題に関する解釈7条、著作権行政処罰実施弁法19条)。

そして、中国商標法32条は、「商標登録出願は、先に存在する他人の権利を侵害してはならない」と規定しています。「先に存在する他人の権利」には出願前の他人の著作権が含まれることから、

あらかじめ中国でロゴマークやキャラクターについて著作権登録を行っておくことにより、仮に他人の冒認出願が登録を受けてしまったとしても、同条を根拠に異議申立てや無効審判で争うことができる

ことになるのです。

しかも、著作権登録は商標出願とは異なり、商品・役務を指定して行う手続ではないため効力範囲が広く、かつ安価で登録できます。それに加えて、手続に要する期間も1カ月程度と短いため、中国における冒認対策として非常に効果的といえます。

実際に、ある企業の下記ロゴマーク(「Z」を図案化したもの)が中国で冒認出願・登録された事例において、北京市高級人民法院はロゴマークの著作物性を認め、「既存の権利」が侵害されたことを理由に、係争商標の取消を認めたという事例がありますので参考になります(案件番号:(2008)高民終字第121号、出典:北京法院網)。

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以上(2022年1月)
(執筆 明倫国際法律事務所 弁護士 田中雅敏)

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【財務会計】貸借対照表にある「純資産」の基本

書いてあること

  • 主な読者:会計の基礎を勉強し始めた新入社員で、「純資産」について知りたい人
  • 課題:純資産に含まれる項目の名称が難しく、内容も複雑なので分かりにくい
  • 解決策:純資産は資産と負債の差額。株主に帰属する部分とそうでない部分がある

1 純資産とは

純資産とは、

会社の正味の財産(=資産-負債)で、投資家からの出資金や利益の積み立て分など

が該当します。純資産は貸借対照表の右側に表示され、次のように大別されます。なお、株主資本と評価・換算差額等を合あわせたものを「自己資本」と呼びます。

  • 株主に帰属する部分:「株主資本」
  • そうではない部分:「評価・換算差額等」「新株予約権」

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2 プラスの場合とマイナスの場合

資産が負債より大きい場合はプラスの正味財産といい、正常な状態です。一方、資産が負債より小さい場合にはマイナスの正味財産といい、債務超過の状態になります。債務超過とは、

自社の資産だけでは借入金の返済や買掛金、その他債務の支払いができない状況

で、これが続けば実際にデフォルト(債務不履行)を起こし、最悪の場合には倒産します。

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3 純資産の部に書かれていること

貸借対照表の純資産の部に記載される主な項目は次の通りです。全ての会社の貸借対照表に次の全項目が記載されているわけではなく、逆にここでは紹介していない項目が記載されていることもあります。あくまでも、会社の状況次第です。

1)株主資本

株主資本とは、株主からの出資と会社が稼いだ利益の蓄積であり、資本金、新株式申込証拠金、資本剰余金、利益剰余金、自己株式、自己株式申込証拠金の6つに区分されます。

1.資本金

資本金は、会社の設立または株式の発行時に、株主から会社に払い込まれた、または給付された財産の額です。資本金として計上された金額を減額する場合、株主総会の特別決議や登記変更など一定の手続きが必要です。

なお、この払い込みまたは給付に係る額の2分の1を超えない額は、資本金として計上せずに資本準備金(詳細は後述)とすることができます。

2.新株式申込証拠金

新株の引受人は出資金の払込期日に株主となるため、株式の払込期日前に払い込まれた金額(手付金)は資本金として処理できず、一時的に新株式申込証拠金として表示されます。

3.資本剰余金

資本剰余金は、資本準備金とその他資本剰余金とに区分されます。資本準備金は、株式の発行時に株主となる人から払い込まれた、または給付を受けた財産のうち資本金に組み入れなかった額です。会社法により、一定の積み立てが強制されています。赤字(欠損金)が生じた場合などには、これを取り崩して補填することができます。ただし、資本準備金を取り崩すためには、株主総会の普通決議など一定の手続きが必要になります。

その他資本剰余金は、企業再編(合併など)時に発生する合併差益、株式交換差益および株式移転差益や、自己株式を処分した際に発生する差損益などが表示されます。

4.利益剰余金

利益剰余金は、利益準備金とその他利益剰余金に区分されます。利益準備金は、利益の配当時に、配当額の一定額を積み立てる項目で、会社法により積み立てが強制されています。これは、異常に高額な配当によって会社の財産が一定以上減少し、借入金の返済や買掛金の支払いができなくなることを防ぐためです。なお、株主に配当金を支払う場合、資本準備金と利益準備金の合計額が資本金の4分の1に達するまで、その配当の額の10分の1以上を資本準備金または利益準備金として積み立てる必要があります。

また、その他利益剰余金には、過去において計上した利益のうち、社内留保している繰越利益剰余金や任意積立金が表示されます。

5.自己株式

自己株式は、会社が保有する自社の株式のことです。会社が自社の株式を既存の株主から買い受けた場合、資本の払い戻しとなるため、純資産の控除項目として表示されます。

6.自己株式申込証拠金

自己株式の処分(会社が保有する自社の株式を外部(将来の株主)に売却すること)に際して払い込まれた金額のうち、払込者が株主となる前(払込期日前)のものは、自己株式申込証拠金に表示されます。

2)評価・換算差額等

評価・換算差額等は、その他有価証券評価差額金、繰延ヘッジ損益及び土地再評価差額金の3つに区分されます。

1.その他有価証券評価差額金

その他有価証券とは、市場価格のある株式(売買目的有価証券、子会社及び関連会社株式を除く)、社債等の債券(満期保有目的の債券は除く)のことで、会社同士の持ち合い株などが該当します。その他有価証券については、時価評価(決算時の時価(市場価格など)に帳簿価額を修正すること)を行うことで生じる評価差額のうち、当期の損益に反映されなかったものをその他有価証券評価差額金に表示します。

これは、その他有価証券はその保有目的(持ち合いなど)から、時価との評価差額の全額を損益に反映するのはふさわしくないとの考えのもと、その一部(税効果を考慮した後の評価差額、つまり、税効果会計によって認識された繰延税金資産または繰延税金負債に見合う額を除いた額)が純資産に表示されます。

2.繰延ヘッジ損益

ヘッジ手段とするデリバティブ取引の損益を発生時に認識せずに、ヘッジ対象に係る損益が認識されるまで損益認識を遅らせるために、ヘッジ手段に係る損益を繰延ヘッジ損益に表示します。これは資産・負債のいずれの性質も有しないことから純資産に表示されます。

3.土地再評価差額金

土地再評価差額金は、事業用土地を時価で評価し、土地の帳簿価額を改定する1回限りの臨時的かつ例外的な会計処理によって計上されるものです。土地の再評価差額から再評価に係る税効果の影響を加味した金額を純資産に表示します。

3)新株予約権

新株予約権は、株式の交付を受けられる権利です。新株予約権は、将来、権利行使されると払込資本となるため資本金または資本準備金に計上されますが、権利行使されず失効してしまうと払込資本にはなりません。従って、払込資本となることが確実ではないものの、返済義務のある負債の性質を有しないことから純資産に表示されます。

4 純資産を使用する主な財務指標から分かること

1)自己資本比率

自己資本比率とは、会社の総資産に占める自己資本の割合のことをいいます。計算式で示すと次の通りです。

自己資本比率(%)=自己資本÷総資産×100

自己資本比率は、会社の財務健全性を示す指標です。この指標が高いほど安全性は高くなり、一般的に40%以上あれば安全と考えられています。

2)総資本利益率(ROA、Return On Asset)

総資本利益率とは、利益を自己資本(純資産の部)と他人資本(負債の部)の合計額(総資本)で除した比率をいい、一般的にROAと呼ばれます。計算式で示すと次の通りです。

総資本利益率(%)=(当期純利益or営業利益or経常利益)÷(自己資本+他人資本)×100

総資本利益率は、総資本を使ってどの程度の利益を生み出せたかを示し、効率性を見る指標です。この指標が高いほど、利益を効率的に生み出せていると見ることができます。

3)自己資本利益率(ROE、Return On Equity)

自己資本利益率とは、当期純利益を自己資本で除した割合のことをいいます。計算式で示すと、次の通りです。

自己資本利益率(%)=当期純利益÷自己資本×100

自己資本利益率は、株主が拠出した自己資本を使って株主のためにどれだけの利益を上げたかを示す指標です。この指標が高いほど、投資が効率的に行われているとみられます。

以上(2022年1月)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 公認会計士 伏見健一)

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【朝礼】「三年寝太郎」という生き方を再評価する

けさは、昔話の「三年寝太郎」について、私が感じていることを話したいと思います。三年寝太郎の話の内容は幾つか説があるようですが、最も知られている話を大まかに言うと、3年間寝続けていた男が、川の流れを変えることで、干害で苦しんでいた村を救った、というものです。

恐らく江戸時代の農村が舞台の話だと思いますが、もし現代に寝太郎のような人物がいたとしたら、皆さんはどのように感じるでしょうか?

万が一我が社に寝太郎のような社員がいた場合、3年も寝続けられる状況にしないでしょう。すぐに結果を出すことが求められているこの時代に、3年かけないと結果が出せないような社員は、なかなか受け入れることができません。

ですが、私はすぐに結果を出すことが求められる今のような時代こそ、寝太郎の話に見習うべき点があるのではないかと思っています。例えば、3年間という長い年月をかけて、一つのことを考え続けた根気です。少し結果が出ないと諦めてしまうことが多い中で、長期的な視野に立って、それだけの情熱と信念をもって取り組むことは大切だと思います。

また、寝太郎は自分の幸せではなく、世の中をより良く変えていくために3年間を費やしたという、公共心です。SDGsが注目され、共生社会を目指さなければならない今こそ、自分の損得だけで物事を判断しない寝太郎のような考え方を見習うべきではないでしょうか。

実は、研究者のような人たちは、ある意味で寝太郎のような長期的な時間軸と公共心をもって取り組んでいるといえます。研究者と寝太郎の唯一といっていい違いは、寝太郎は寝続ける前に、「私は干害で苦しんでいる村人たちのために、解決策を考える時間がほしい」と打ち明けなかった点です。もし寝太郎がクラウドファンディングをしていれば、それなりの資金が集まったのではないでしょうか。

そして、私が何より感じているのは、結果的にかもしれませんが、寝太郎という人間の生き方を受け入れた社会の寛容性の素晴らしさです。今の医学で診断すると、かつては真面目な働き者だった寝太郎が一日中寝ているのは、うつ病を患ったためにそうせざるを得なくなってしまった、という説もあるようです。それはさておき、さまざまな事情で社会に適応することが難しい人は、少なからずいます。そういった人たちを温かい目で支えられる社会になればいいと思いますし、我が社もさまざまな意味で「人に優しい」会社でありたいと思っています。

私は、皆さんに寝太郎になってもらいたいとは思いませんが、長期的な視点で物事を考えること、情熱と信念をもって一つのことを続けること、世の中を良くしたいと考える気持ちなど、見習ってほしいことがたくさんあります。そして私も、少し長い目で皆さんの成長を見守れるような、「人に優しい」経営者でありたいと思います。

以上(2021年12月)

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画像:Mariko Mitsuda

【朝礼】共進化を促す存在になろう

おはようございます。今日は、約300万年前に起きたとされる「アメリカ大陸間大交差」という現象の話から始めたいと思います。

元来、北米大陸と南米大陸は別々の大陸の一部でした。それが分離して単独の大陸となり、約300万年前に陸続きになりました。こうして、2つの大陸の動物たちが互いに行き来できるようになった結果、北米大陸出身の動物は多くが生き残り、生存領域を広げる動物もいた一方、南米大陸出身の動物の多くは絶滅したとみられています。

2つの大陸の動物たちの運命を分けたのは、それまでの生存競争の質の違いでした。北米大陸はユーラシア大陸とつながっていた時期が長く、外来の強敵との生存競争を繰り広げる中で進化し、競争力を高めてきました。

一方の南米大陸は孤立している時期が長かったため、北米大陸ほどの激しい生存競争はありませんでした。その差が、陸続きになったときに明確に現れたのです。

話は現代に移りますが、人類を襲った新型コロナウイルスは、久しく動物界の頂点に立っている人類に対して、生存競争を挑んできた強敵だと見ることもできます。ある生物が繁栄していると、それを捕食したり、寄生したりする生物が現れるのは、当然の現象なのです。

これに対して人類は、ワクチンや特効薬の開発の他、「3密」の回避など生活スタイルを変化させることで、強敵に打ち勝とうとしています。

進化した強敵に打ち勝つために自分たちも進化することなどを「共進化(きょうしんか)」といいます。人類は、新型コロナウイルスに打ち勝つために、共進化をしている最中なのです。

広い意味での共進化は、実は私たちも日々実践している身近なものです。ライバルとの切磋琢磨(せっさたくま)や、課題の克服と言い換えれば分かりやすいでしょう。同業他社との競争で、我が社は新商品や新サービスを開発し、新たな販路を開拓しています。同業他社が新基軸を打ち出せば、それを研究して取り入れることもしています。

皆さん一人ひとりも、同じように共進化をしてきたはずです。同僚や、同業他社の同じ部門に優秀な社員がいれば、彼らのやり方を見習い、彼らを超えられるように努力をしてきたでしょう。業務上、足りない知識や技術があれば、人から聞いたり本を読んだりして補ってきたはずです。

これからの皆さんに私が期待するのは、自ら積極的に進化して、同僚たちの共進化を促すことです。同僚や同業他社に合わせて共進化するだけで満足せず、自分が社内や業界内の生存競争の質を高める、という気概を持ってください。

経済の地殻変動が激しい今の時代、他の大陸と陸続きになる、つまり他業種や他地域、新興企業などとの競合が急に始まっても不思議ではありません。生存競争の質を高めておけば、新たな強敵に打ち勝ち、生存領域を広げることもできます。皆さんの一層の奮起に期待します。

以上(2022年1月)

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画像:Mariko Mitsuda

【中小企業のためのM&A】基本となる9つのプロセスを順番に確認

書いてあること

  • 主な読者:重要な経営のかじ取りのためにM&Aを検討している、買い手側の経営者
  • 課題:M&Aといっても、どこから検討すればよいのか分からない
  • 解決策:M&Aのビジョン・目的を明確にした上で、代表的なプロセスを確認する

1 事業拡大から事業承継まで。中小企業にも身近になったM&A

新規事業への進出から事業承継まで、会社経営の重要な局面で有力な選択肢となるのが「M&A」です。M&Aとは、

Mergers(合併)and Acquisitions(買収)の略称で、資本の移動を伴う企業の合併と買収のこと

です。最近は、会社の成長を目指す中小企業と事業承継をしたい中小企業とがM&Aをするなど、M&Aは中小企業にとっても身近なものになっています。

M&Aで重要なのは、

明確なビジョン・目的を明確にした上で、理想のシナリオを描き、戦略的にM&Aを進めていくこと

です。とはいえ、M&Aで買収するモノ(事業)は、ビジネス上、頻繁に行われる商品の売買とは大きく異なる点が多々あります。経営者としては、

  • 買収先はどうやって探す?
  • M&Aを進める体制はどうする?
  • M&Aのスキームはどれが適切?
  • どのような情報を基に買収を判断したらよい?
  • 期待する効果は得られる?

などの疑問や課題が浮かび、何をどこから検討すればよいのかお困りかと思います。

この記事では、M&Aの全体を簡潔に分かりやすくまとめました。これからM&Aを検討する経営者の方に、最初に読んでいただくことを想定しています。M&Aの全体を把握し、疑問や課題を整理するためにお役立てください。

2 M&Aの基本となる9つのプロセス

M&Aの基本的なプロセスは次の通りです。

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1)M&Aの相手を選定

まずは、M&Aの相手となる企業を探します。M&Aの明確な目的がないままに、やみくもに相手を探してもM&Aは失敗してしまうことが多いです。そのため、M&Aを行うビジョン・目的をしっかり考えることが先決です。つまり、

  • M&Aは、今の強みを伸ばすために行うのか、弱みを補完するために行うのか
  • M&Aの結果、会社をどのように拡大していきたいのか

などを考えます。

また、相手の探し方は、

  • 特定の企業を一本釣りで検討する
  • M&Aの売り手と買い手をつなげるM&A仲介会社や、FAと呼ばれるフィナンシャル・アドバイザーに相手となる会社の候補をリストアップしてもらって検討する
  • インターネット上のM&Aマッチングサービスを利用して、ニーズに合う会社を探して検討する

などさまざまです。

相手先の設立年度や資本金、株主構成、業績の推移、今年度の事業の見通しなどを確認するとともに、自社と社風や風土が合うかどうかなど、数字に表れない部分も検討する必要があるでしょう。

2)秘密保持契約(NDA)の締結

M&Aでは、会社の重要な情報を開示する必要があります。M&Aの対象となる会社としては、会社の重要な情報だけ吸い上げられて、それを利用されることは避けたいと考えます。そのため、情報を開示する前に秘密保持契約(NDA)を結ぶことが不可欠です。

NDAを締結し、M&Aの対象となる会社からビジネスの商流や仕入先、販売先、今後の事業展開など、通常第三者に知られたくない重要な情報を開示してもらいながら、M&Aを実行することが双方にとって良い結果となるかを検討していくことになります。

3)M&Aのスキームの策定

中小企業の場合、

株式譲渡のスキームが取られることが大半

ですが、さまざまな事情を考慮して、事業譲渡や会社分割、場合によっては合併などのスキームを検討することになります。どのようなスキームを取るかは、M&Aを行うビジョン・目的を達成するためにどうすればよいかという点の他、スケジュールや法務、税務、会計上の観点を加味しながら決めることになります。

M&Aのスキームによっては、自社に不必要な資産や負債を引き継いでしまうなど、想定していたM&Aのメリットを得られない場合もあります。簡単でもよいので専門家に相談するなどして、それぞれのスキームのメリット・デメリットを理解しながら進めることをお勧めします。

4)条件交渉

双方にとって譲れない条件は何かなど、契約の核となる点について交渉をします。この段階で条件面の折り合いがつかなければ、後述する基本合意を締結することなくM&Aは決裂となります。また、この段階での交渉は、M&Aの核となる部分ですので、とても重要なフェーズといえるでしょう。例えば、一般的に、次の事項について条件交渉をすることが多いです。

  • 譲渡対象となる重要な部分(事業譲渡の場合は事業の内容・範囲、株式譲渡の場合は譲渡株式数、譲渡対価など)
  • 投資後の会社の運営体制の方向性(取締役、キーパーソンの去就など)
  • クロージングまでのスケジュール
  • 独占交渉の有無

5)基本合意の締結

M&Aでは、詳細まで合意を得ることになるので、クロージングするまでに半年から1年程度の期間を要することも珍しくありません。そのため、前述した基本事項が合意でき、おおよその方向性が決まった段階で基本合意書が締結されることがよくあります。

なお、基本合意は、あくまで双方の今後の交渉にあたっての認識の擦り合わせという程度の意味合いを持つにすぎないことが多いため、

基本合意に定める事項の多くは法的拘束力を持たないこと

がよくあります。基本合意は、LOI(Letter of Intent)やMOU(Memorandum of Understandings)などと呼ばれることもあります。

6)デューディリジェンス・バリュエーション

M&Aに向けた方向性が決まった段階で、M&Aの対象となる会社の実態を調査するため、デューディリジェンス(DD)が行われます。中小企業同士のM&Aでは、コストやスケジュールとの関係で、DDを行わなかったり、調査する範囲を絞ったりすることが少なくありませんが、一般的には、ビジネス、会計、法務の他、税務、人事労務などの観点から、M&Aを行うビジョン・目的との関係で気になる点に絞って調査をすることが多いように思います。

DDは、軽視されることもありますが、買い手にとってはM&Aを後悔しないために必ず行ったほうがよいプロセスです。

DDの結果によって、M&Aの検討を断念したり、基本合意で擦り合わせた条件内容を変更する交渉を行ったりするような場合があります。

7)最終契約の締結

DDによって明らかになった内容や問題点を踏まえて、譲渡価格、譲渡条件、表明保証条項、誓約条項、譲渡後の義務等について協議をし、最終的に合意に至った内容を契約書に整理して締結することになります。

中小企業のM&Aでは、最終契約の締結日に、対象会社において必要な株主総会・取締役会といった内部手続きを経ることが多いです。

8)クロージング(契約の効力発生日)

中小企業同士のM&Aでは、最終契約の締結日に契約の効力が発生し、クロージングとなる場合も少なくありません。ただし、一般的には最終契約で定めたクロージングの前提条件の履行や会社法、商業登記法等の手続き上必要なことを行うため、契約締結日とクロージング日は別の日とすることが多いです。

9)M&A後の統合プロセス(PMI)

M&Aで最も大事なことは、

クロージング後に買収した事業を買い手の下で、どのように軌道に乗せていくか

ということに尽きるといってもよいでしょう。

一般的に、クロージング後は、買い手がM&Aを決めた目的を達成するのに必要な事業シナジーの実現のための事業計画の策定や実行、KPIの設定・管理、人事労務関係、決裁プロセス、社内規程等の統合作業などが行われます。

以上(2022年1月)
(執筆 リアークト法律事務所 弁護士 松下翔)

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画像:Atstock Productions-shutterstock

「資産」って何?/社会人に必要な会計の基本(1)

書いてあること

  • 主な読者:会計の基礎を勉強したい人で、貸借対照表の「資産」について知りたい人
  • 課題:資産には、流動や固定などたくさんの種類があって整理しにくい
  • 解決策:資産は会社が所有する財産。現金化への期間など性質により3種類に分かれる

1 資産とは

資産とは、

会社が所有する財産で、手元にある現金や会社が購入した商品、土地・建物など

が該当します。資産は貸借対照表の左側に表示され、次の3つがあります。

  • 流動資産:短期間(1年以内)で現金化できる資産
  • 固定資産:長期間(1年超)にわたって保有される資産
  • 繰延資産:実質的に費用(開発費など)だが、支出効果が1年以上に及ぶもの

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2 資産の部に書かれていること

貸借対照表の資産の部に記載される主な項目は次の通りです。全ての会社の貸借対照表に次の全項目が記載されているわけではなく、逆にここでは紹介していない項目が記載されていることもあります。あくまでも、会社の状況次第です。

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1)流動資産

流動資産とは、1年以内に現金化できる資産で、当座資産、棚卸資産、その他の流動資産の3つに分かれます。流動資産が多ければ、取引先への支払いが滞ることなく、また、急に生じた損失にも耐えられる安全性の高い会社と判断されます。

また、日々の営業活動で生じる商品及び製品(以下「商品等」)は、販売されたら売掛金や現金及び預金のような当座資産となりますが、販売されるまでは在庫として貸借対照表に記載されます。在庫があれば欠品を防げますが、一方で、保管コスト(維持管理のための人件費や賃借料など)がかかり、盗難リスク(減耗損)や陳腐化リスク(評価損)もあります。

2)固定資産

固定資産とは、1年を超えて使用・保有される資産(販売目的の資産を除く)をいい、有形固定資産、無形固定資産、投資その他の資産の3つに分類されます。建物や土地など形のあるものは「有形固定資産」、ソフトウェアやのれん、特許権のような法律上の権利など形のないものは「無形固定資産」となります。また、関係会社株式(子会社や関連会社の株式)や長期貸付金など、有形固定資産・無形固定資産に該当しないものは「投資その他の資産」となります。

固定資産は、長期間にわたって使用することで収益を生み出す資産です。また、建物や機械装置といった設備には多額の投資資金が必要です。投資の際には、自社の規模に適した投資なのか、将来の収益計画に無理はないかを十分に検討する必要があります。

3)繰延資産

繰延資産とは、会社が支出する費用のうち、支出後その効果が1年以上にわたって及ぶものをいいます。会計上、繰延資産として計上することができる次の5つの支出項目は、実質費用ではあるものの、その効果の期間にわたって、一旦資産に計上することができます。その後、一定期間にわたって償却することにより、少しずつ費用化します。なお、会計上の原則的な取り扱いは、いずれの支出項目も支出時に費用として処理することとなっており、繰延資産としての資産計上は例外的な取り扱いとなります。

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3 資産を使用する主な財務指標から分かること

1)安全性

1.流動比率

流動比率とは、短期的な支出である流動負債と流動資産の比率です。流動負債とは、支払手形や買掛金など1年以内に支払う必要のある負債です。計算式で示すと次の通りです。

流動比率(%)=流動資産÷流動負債×100

流動比率は、流動負債に対して、1年以内に現金化できる流動資産がどれくらいあるのか(流動負債を返済する能力)を示します。この指標が高いほど安全性は高くなり、一般的には200%以上あれば安全とされます。

2.当座比率

当座比率とは、流動負債と当座資産の比率です。当座資産は、現金及び預金、売掛金、受取手形、有価証券の合計額になります。なお、売掛金、受取手形は、貸倒引当金を控除した後の値を用います。貸倒引当金とは、取引先の倒産などにより回収ができなくなる可能性がある金額を見積もった値です。計算式で示すと次の通りです。

当座比率(%)=当座資産÷流動負債×100

当座比率は、流動負債に対して、すぐに現金化できる当座資産がどれくらいあるのかを示します。この指標が高いほど安全性は高くなり、一般的には100%以上が目安です。

3.固定比率

固定比率とは、固定資産と自己資本(純資産の部)の比率です。計算式で示すと次の通りです。

固定比率(%)=固定資産÷自己資本×100

固定比率は、短期間での回収が難しい固定資産が、返済期限の定めのない自己資本によってどれくらい賄われているのかを示します。この指標が低いほど、企業の長期的な安全性は高くなり、一般的には100%以下が目安です。

2)効率性

1.売上債権回転率

売上債権回転率とは、売上高を売上債権(売掛金と受取手形の合計額)で除した比率です。計算式で示すと次の通りです。

売上債権回転率(回)=売上高÷売上債権

売上債権回転率は、売上から販売代金の回収までの期間が長いのか短いのかを示します。この指標が高いほど売上から債権回収までの期間が短く、効率的と判断できます。

2.棚卸資産回転率

棚卸資産回転率とは、売上高を棚卸資産で除した比率です。計算式で示すと次の通りです。

棚卸資産回転率(回)=売上高÷棚卸資産

棚卸資産回転率は、効率よく販売できているのか、棚卸資産の在庫数が適正かどうかを示します。この指標が高いほど、棚卸商品が効率的に販売されていると判断できます。また、棚卸資産回転率が低い場合は、企業が在庫過多になっている、もしくは不良在庫を抱えている可能性があります。

3.有形固定資産回転率

有形固定資産回転率とは、売上高を有形固定資産で除した比率です。計算式で示すと次の通りです。

有形固定資産回転率(回)=売上高÷有形固定資産

有形固定資産回転率は、売上高を獲得するために、有形固定資産がどれくらい効率的に使用され、売上に影響しているかを示します。この指標が高いほど、有形固定資産が効率的に使用されていると判断できます。逆に、この指標が低い場合、建物や土地への投資が過剰になっている、または遊休化している建物や土地があるなどの可能性があります。

以上(2022年1月)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 公認会計士 伏見健一)

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画像:pixta

【朝礼】北条義時に見習う「位負け」しない気概

私の今年の目標は、「位(くらい)負け」をしないことです。これまで私は、取引先の人と会話をする際、役員クラスの人や一部上場企業の社員を「格上」と感じて、どうしても緊張してしまい、気後れするという悪い癖がありました。そんな「位負け」のような状態になってしまうと、自分のペースで会話をすることができず、会社として主張すべきことを伝えられなかったこともありました。今年こそ、どのようなときも「位負け」をしない気概を持ちたいと思います。

「位負け」をしないために私が見習いたいと思っているのが、今年の大河ドラマの主人公にもなっている北条義時(ほうじょうよしとき)です。義時のことをインターネットで調べたところ、思った以上にすごい人だったことが分かりました。

義時は鎌倉幕府の第2代執権で、当時の幕府で実質的な最高権力者になった人です。今からほぼ800年前の1221年(承久3年)、後鳥羽上皇を中心とした朝廷との戦い「承久の乱」に勝利し、武士を中心とした時代の幕を開けました。

日本の歴史上の大きな転換点として、承久の乱は3本指に入る出来事といわれています。なぜなら、それまでは天皇や上皇による朝廷が持っていた絶対的な権力を、武士のものにしたからです。あとの2つの転換点とされる明治維新や第二次世界大戦後の民主化は、黒船などの外圧や敗戦に促される形での変化ですので、外圧なしに変化をもたらした承久の乱のすごさが分かると思います。

承久の乱が起きた当時、朝廷の権威は絶対的でした。武士は朝廷あっての存在であり、鎌倉幕府も征夷大将軍が朝廷から任命されることによって、存在が認められていました。

ですから、朝廷の中心にいた後鳥羽上皇から名指しで追討命令を宣告された義時は、最初はとても狼狽(ろうばい)したといわれています。しかし、義時は武士のリーダーとして鎌倉幕府を守らなければならない立場。姉の北条政子の支援もあり、朝廷という権威に「位負け」しませんでした。義時は、兵を率いた息子の泰時に、「天皇自ら兵を率いてきた場合は降伏せよ。ただし、都から兵だけを送ってくるのであれば力の限り戦え」と命じ、最終的には朝廷軍を打ち破って「前代未聞の下克上」を果たしたのです。これは、朝廷が絶対だった当時の「常識」から考えると、非常に勇気のいる決断だったに違いありません。

今は、「大企業だから立場が上」「役員だから偉い」ということではなく、その企業、その人の実力が問われる時代です。当たり前のことですが、フェアな取引をしている企業同士、対等な立場で話をすることに何の問題もありません。格上に感じる人と話をするプレッシャーだって、朝廷が絶対だった義時の時代を思えばささいな問題です。

このように自分を励まして、今年は「位負け」をしないように頑張ります。もし取引先の人に会う前に私が青い顔をしていたら、「承久の乱を思い出せ」と声をかけてください。

以上(2022年1月)

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画像:Mariko Mitsuda

【朝礼】「人の褌で相撲を取る」のもう一つの意味

今年度も残り2カ月程度となりました。年度始めに立てた目標は、どれだけ達成できましたか。1年間の活動を振り返ってみれば、数多くの課題が見つかるはずです。そして、特に管理職以上の人は、自分一人の努力だけでは解決できない課題が増えたことを痛感するでしょう。

組織や自分自身の成長に応じて、ビジネスは難しくなっていきます。新しいことにチャレンジしたり、これまでよりもレベルの高い人の信頼を獲得したりする必要があるからです。そして、これらの課題は、孤軍奮闘するだけでは、うまく解決できない場合があります。

例えば、新しいことにチャレンジする場合です。私たちにとっては未知の領域でも、他の誰かにとっては“土地勘のある”ビジネスであるというのが通常です。それならば、“土地勘のある”人のアドバイスを得たほうが課題を解決しやすくなります。そうした人と親しくなれば、人脈や販路を紹介してくれる可能性もあるでしょう。

これは「人の褌(ふんどし)で相撲を取る」ことでもあります。この言葉は良い意味で使われないこともありますが、私の考え方は少し違います。確かに、他人の権勢を利用する、「虎の威を借る狐(きつね)」のような振る舞いは好ましくありません。しかし、相手との信頼関係を築いた上で、相手の同意を得て褌を借りるのであれば、何の問題もありません。それに他人から褌を借りるというのは、相当に難しいことでもあるのです。

一つ、私の経験談をお話ししましょう。私には懇意にさせてもらっている10歳以上年上の大学教授がいます。彼はベンチャー企業を経営した経験があり、ビジネスをよく知っています。そして、折に触れて私に言ってくれます。「私の人脈を全部紹介してあげるよ。きっかけは会食でもゴルフでもいいんだから、もっと私を利用しなさい」

その大学教授は、知識だけではなく、リアルなビジネスを知っているからこそ、人の“パワー”を借りる、つまり人の褌で相撲を取ることの大切さを痛感しているのでしょう。

実際、私はその大学教授の“パワー”を借りてビジネスをすることもありますが、なぜ、ここまで私に良くしてくれるのでしょうか。大学教授に尋ねてみると、答えは「信用しているからだよ」というシンプルなものでした。信用をもう少し分解すると、「礼儀正しく約束を破らない」「相手のメリットをよく考えられる」「自分にないものを持っている」ということでした。

大学教授の言葉から、真摯にビジネスと向き合い、社外で通用する絶対的な強みがなければ、他人から褌は貸してもらえないことが分かるでしょう。あえて言います。人の褌で、正々堂々と相撲が取れる人になってください。言葉を変えれば、相手が大切な褌を貸してもいいと思えるくらい信用される人になってください。そのためには、皆さんは何を磨くべきでしょうか。来年度の皆さんの課題が見えてきたはずです。

以上(2022年1月)

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画像:Mariko Mitsuda