脳・心臓疾患の労災認定基準が昨年9月に改正されました。それに伴って、改正以前の労災についても、労災認定される事例が出てきています。
本稿では、脳・心臓疾患の労災認定の改正内容をなぞりながら、近時の労災認定事例についてご紹介いたします。
オンラインで「労働条件の不利益変更」を行う場合のポイント
書いてあること
- 主な読者:労働条件の不利益変更をオンラインで行いたい経営者
- 課題:対面との違いが分からない。それに、オンラインだときちんと伝わるか不安
- 解決策:基本ルールは同じ。オンラインの「伝わりにくさ」を考慮して慎重に進める。必要に応じてWeb会議ツールや電子契約書ソフトを使用する
1 オンラインの「労働条件の不利益変更」は慎重に
「業績が悪化したので、基本給を引き下げる」「ジョブ型の人事制度にするので、仕事との関係性が薄い手当(住宅手当など)を廃止する」。会社には十分な理由があってのことでも、
社員から見ると損をするような労働条件の変更を「労働条件の不利益変更」
と呼びます。労働条件の不利益変更には、
- 個々の社員の同意を得た上で、「就業規則」や「労働契約」を変更するのが原則
- 就業規則については、合理的な変更であれば、個々の社員の同意を得なくても変更可
というルールがあります。労働組合がある会社の場合、「労働協約」の変更で対応することもできますが、中小企業で労働組合が組織されているケースは少ないため、ここでは割愛します。
特に注意すべきは「リモートワークをしている会社」です。オンラインで就業規則や労働契約の変更手続きを進める場合、
- 通信環境が悪く、肝心の変更箇所がうまく社員に伝わらない
- Web会議ツールの仕様で、労働条件について質問をしたがっている社員が見えにくい
といった理由から会社と社員の意思疎通がうまくいかないケースがあります。以降で、オンラインでの変更手続きのポイントを紹介しますので、確認していきましょう。
2 オンラインでの変更手続きのポイント
1)Web会議ツールを使って社員説明会を行う
オンラインで就業規則や労働契約を変更する場合、Web会議ツールなどを使って社員説明会を開催し、変更箇所やその理由の説明、質疑応答を行います。通信環境の問題などで内容がうまく社員に伝わらないことがあるので、
- 事前に新旧対照表などのデータを配布し、社員説明会ではそれを「画面共有」しながら説明する
- 社員が質問のタイミングをつかめないと困るので、質疑応答の時間を設ける(「チャット」の機能を使うのもよい)
- 通信環境の都合で社員がツールから「落ちる(離脱する)」ことがあるため、社員説明会の内容を「レコーディング」して、後から内容を確認できるようにする
などして対応します。
また、質疑応答で反対意見や批判的な意見が出た場合、「なぜ、就業規則や労働契約の変更が必要なのか」を改めて丁寧に説明します。必要に応じて、個別の説明も行いますが、その場合、1対1ではなく、会社側から複数人が参加して「言った/言わない」の問題が生じるのを防ぎます。
2)電子契約書ソフトを使って社員の同意を得る
就業規則の不利益変更を行う場合、可能であれば「就業規則変更に関する同意書」を会社側が用意し、社員に署名捺印してもらって個別の同意を得ます。しかし、リモートワークをしている場合、書面で同意を得るのが手間です。
こうした場合、電子契約書ソフトで電子署名をしてもらうのが現実的です。一般的には、
- 会社は、同意書などをPDFにして電子契約書ソフトにアップロードし、電子署名をする欄を設けた上で、各社員のメールアドレス宛てに送信する
- 社員は、電子契約書ソフトからメールが届いたら、メールに記されたURLから同意書にアクセスして電子署名をする
という流れになります。
電子署名がされた書面は電子契約書ソフト内に保管されます。なお、電子契約書ソフトは、書面を用意する会社側のPCでのみ導入すればよく、社員側は特段の手続きは必要ありません。
3)e-Govを使って変更後の就業規則を電子申請で届け出る
就業規則を変更した場合、変更後の就業規則に就業規則(変更)届出書、過半数代表の意見書(社員の過半数で組織する労働組合がない場合)を添えて、所轄労働基準監督署に届け出なければなりません。
これらの書面は、「電子政府の総合窓口(e-Gov)」を使用できる環境にあれば、直接所轄労働基準監督署に行かなくても、電子申請で届け出ることができます。電子申請の手続きで使用できるアカウントは、次のいずれかです。
- e-Govアカウント(e-Govのウェブサイト上で取得できるアカウント)
- GビズID(行政サービス全般にログインできるアカウント)
- Microsoftアカウント
なお、e-Govから電子申請を行う場合、手続きの内容によっては、会社の電子署名と電子証明書(所定の認定局に申請)が必要になるケースがありますが、
2021年4月1日以降、就業規則の届け出については電子署名と電子証明書が不要
となっています。
4)電子契約書ソフトを使って雇用契約書を再締結する
雇用契約書の再締結も、電子契約書ソフトを使います。雇用契約書は「労使の合意」という形を取りますので、会社側、社員側双方が電子契約書ソフトを経由して署名捺印をします。
雇用契約書を再締結する際は、従前の契約書が変更されたことが明確になるよう、
「従前の雇用契約書を合意解約し、〇年〇月〇日以降の労働条件は本雇用契約書による」
などの文言を、備考欄に必ず入れましょう。
なお、雇用契約書は必ずしも書面で保管する義務はありません。しかし、労使間でトラブルが発生した場合に雇用契約書は重要な証拠書類となるので、
電子契約書ソフト内の他、経営者や人事部だけがアクセスできるクラウドストレージなどにもバックアップ
しておきましょう。
以上(2022年10月)
(監修 社会保険労務士 志賀碧)
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町中華の経済学 多品種、丼勘定は本当か?
書いてあること
- 主な読者:飲食店や小売業など多品種少量販売の事業を行う経営者
- 課題:原材料の値上げやコロナ禍の影響を受ける中、事業を継続するヒントを知りたい
- 解決策:丼勘定ではなく、管理会計でポイントを押さえる
1 丼勘定は本当か?
「安い・うまい・早い」の三拍子そろった町中華。どこの街にでもありますが、長く続く秘訣は何でしょうか? 低価格で、客数はさほど多くもなさそう。でも潰れない。
町中華探検隊として町中華を食べ歩くライターの北尾トロ氏は、町中華を「昭和以前から営業し、1000円以内で満腹になれる庶民的な中華店。単品料理主体や、ラーメンなどに特化した専門店と異なり、麺類、飯類、定食など多彩な味を提供する。カレーやカツ丼、オムライスを備える店も。大規模チェーン店と違ってマニュアルは存在せず、店主の人柄や味の傾向もはっきりあらわれる」と定義づけています(「町中華とはなんだ 昭和の味を食べに行こう」北尾トロ、下関マグロ、竜超著、KADOKAWA、2018年9月)。
丼勘定のイメージがありますが、本当にそうでしょうか? 町中華がいかにして生き残っているのかを探り、他の飲食店や小売業などの経営者が、管理会計で押さえるべきポイントを紹介します。
2 町中華が強い3つの秘訣
1)多品種に対応できる使い回しが利く仕入れ
町中華の特徴は豊富なメニューです。しかし、原材料となる食材は実は共通の食材が多いのです。町中華によくあるメニューと食材の例を挙げました。

こうして見ると、豚バラ肉など汎用性の高い食材が多く使われていることが分かります。仕入れや在庫管理の工夫はあるのでしょうか。公認会計士・税理士で、自身も青森県八戸市でラーメン店を経営し、『会計の基本と儲け方はラーメン屋が教えてくれる』(日本実業出版社)の著書もある石動龍氏は次のように教えてくれました。
「お客さんへ魅力を感じてもらえるよう、豊富なメニューを用意するとしても、食材のロスのないよう、メニュー構成や、原材料の仕入れ、管理を工夫する必要があります。例えばレバニラ炒めにしか使わないレバーを大量に仕入れるわけにはいかないでしょう。共通の食材で、いかに幅広いメニューを用意するか。食材のロスがないように仕入れ、管理するか。品質を保ちながら冷凍保存するのも一案でしょう」
2)適正な利益を確保できる価格設定
価格帯が異なるメニューが共存できるのも町中華の強みであると、石動氏は指摘します。中華料理には、北京ダックやフカヒレスープ、つばめの巣といった高級メニューがあります。町中華でもエビチリくらいはラインアップとしてあるところも少なくないでしょう。町中華でチャーハンが750円でエビチリが1500円で販売されていても違和感はありませんよね。一方、よほどのマーケティング的な狙いがない限り、価格帯の大きく異なるメニューを並べるのは、ラーメン屋やファストフード店では難しいでしょう。1杯750円が相場のラーメン屋に、1500円のラーメンがあったら違和感を覚えますよね。つまり、
町中華は適正な利益を確保できる価格設定がしやすい業態
ともいえるわけです。
3)居心地の良さが利益を生む
町中華に行くと、おつまみを数品頼んでお酒を飲んでいるお客さんを見かけます。この点も町中華の強みであると、石動氏は自著で述べています。つまり
長居をしてもらって、原価率が低いおつまみやお酒を頼んでもらうことで利益を確保
しているのです。例えば800円の炒め物が原価率30%だとして(粗利560円)、加えておつまみとお酒を2000円分オーダーし、その原価率が10%だったとします(粗利1800円)。そうすると、客1人当たりの限界利益は2360円になります。
町中華の店主がそのように狙っているかは分かりませんが、町中華には手軽な「居酒屋」という側面もあります。ファストフード店などが努力して取り込もうとしている居酒屋需要が町中華にはあるのです。
3 ココだけは押さえたい管理会計のポイント
1)FLR比率に注目する
本当に丼勘定でやっていると、自分の店が苦戦している理由として、固定費が高いのか、原材料費が高いのかすら分からなくなります。一般的に、飲食店経営で大切な指標といえばFLRコストです。それぞれ、
- F(Food):食材費
- L(Labor):人件費
- R(Rent):賃料
を指しています。店の状況によってさまざまですが、一般的に、
F比率は30%程度、FL比率は60%程度、FLR比率は70%程度
に抑えるのが理想とされています。
FLR比率=(食材費+人件費+賃料)÷売上
とはいえ、R(Rent/賃料)は、都市部と地方とで大きな差があります。都市部の好立地では、賃料は高くなりますが、それに見合う人通りもあります。ちなみに、昔ながらの商店街で数十年と続いている町中華がありますが、
「そのような店の多くは、持ち物件で営まれているのかもしれませんね。さらにもし家族経営だったとすれば、それだけで固定費の大半がカットできます。コストはほぼ食材のみとなり、あとは利益となるのです」(石動氏)
2)固定費と変動費に分ける
コストには、売上高に関係なく発生する固定費と、売上高に応じて発生する変動費があります。FLRコストに注目すると、
- 固定費:人件費、賃料
- 変動費:食材費
となります。これを軸に考えると、
月の売上高から食材費を引いたものを「限界利益」と呼び、この限界利益で人件費や賃料を賄えるか否か
が重要となります。これは、一般的な損益分岐点の考え方です。
3)利益構造を把握する
石動氏によると、押さえておきたいポイントは、
- 客単価
- 来客人数
- コスト:固定費(主に人件費、賃料)
- コスト:変動費(主に食材費)
です。客単価をベースとして、何人の来客数があれば、コストがどれくらいかかり、どれくらいの利益が残るのかという利益構造を把握していれば、食材費などが高騰したときも、どこに影響が出て、どこをやりくりすれば賄えるのかという打ち手がイメージできるようになります。
例えば、麺の仕入れ価格が、1玉当たり5円値上がりしたとすると、
5円×月の来客数=月の原材料コストがいくら上がるか
がすぐに分かり、ダメージの小さいうちに対処することができるのです。町中華の店主は、このあたりの計数感覚を自然と身に付けているのかもしれません。
以上のようなポイントを押さえ、管理会計を経営に活かしましょう。
以上(2022年10月)
pj50519
画像:和久 澤田-Adobe Stock
【朝礼】よい結果を出すために、気持ちを共有しよう
「皆さんにお願いがあります。明日の午後3時までに、皆さんが日々行っている業務内容を箇条書きにした資料を上長に提出してください」
ではもう一つ、「皆さんにお願いがあります。皆さんが日々行っている業務を整理し、業務の効率化につなげたいと考えています。本人以外が知らない細かな作業を、簡単なことでも把握したいと思います。そこで、明日の午後3時までに、皆さんの業務内容を箇条書きにした資料を上長に提出してください」
どうでしょう。前者と後者、どちらの方が、より正確な資料を作ることができそうですか? もちろん後者です。
前者では、私は単に必要な項目を提示しただけであり、それが何のために必要なのか、何に使うものなのかについて一切言っていません。これでは、資料を作る皆さんはきっと「これから一体何が起こるのか」と不安に思うでしょう。
vビジネスで頻繁に話題となる「見える化」というテーマは、簡単にいうと「現場における目に見えない活動の様子を目に見える形にしようとする取り組み」です。スタートからゴールに至るまでの過程を明らかにすることで、よりよい結果を出そうとする試みでもあります。
例えば、上司が部下に対して「新商品についてまとめたプレゼン資料を作っておくように」などといったように、作成すべきものだけを指示したとしましょう。部下は上司に指示された通りの資料を作成するわけですが、用途や目的が分からないままなので、部下は「これでよいのだろうか?」という疑問を抱くでしょう。自分なりの創意工夫や提案を盛り込むことにもちゅうちょしてしまうかもしれません。これでは上司が満足する資料ができない可能性があるだけでなく、部下にとっても経験・成長する機会にならず、お互いにとってよい仕事ができません。
そこで、上司が「来週、取引先を訪問する際に新商品を案内したい。新商品の概要をまとめたプレゼン資料を作ってほしい。特に機能面をアピールしたい」と伝えればどうでしょう。これなら部下は上司の意図や目的を理解できますから、それに沿うように自分で考え、調べ、工夫するでしょう。結果として、期待以上の資料が完成する可能性も高くなります。
このように、スタートからゴールに至るまでの過程を明らかにし、周囲の人と共有することは、自分以外の人に対して自分の考えを説明・説得するときにとても大切なことです。
人の気持ちや考えは当人にしか分かりません。他人が皆さんの頭や心をのぞくことはできないのです。ですから、皆さんが誰かに何か指示や依頼をするときは、相手がその意図を理解し、理由について納得できる話をするように努めましょう。過程とゴールを相手と共有できれば、必ずよい結果が出るはずです。
以上(2022年10月)
op16566
画像:Mariko Mitsuda
【朝礼】マラドーナ選手の“神の手”ゴールを批判から伝説に変えたプレー
けさは皆さんに、1986年にメキシコで開催されたサッカーワールドカップ(以下「W杯」)でのエピソードを話したいと思います。昔の話ですから知らない人も多いでしょうが、優勝したアルゼンチン代表のディエゴ・マラドーナ選手のプレーは、映像で見たことがあるかもしれません。
中でも有名なのが、準々決勝のイングランド戦で、ボールを手に当ててゴールを決めたプレーです。本来は反則ですので、ゴールは無効となるべきで、イングランド側から審判に対して抗議があったのですが、審判は判定を覆さずにゴールとして認めてしまいました。このプレーは、試合後にマラドーナ選手自身が、「ただ神の手が触れた」とコメントしたことで、“神の手”ゴールと呼ばれるようになりました。
当時はビデオによる判定が制度化されていなかったという事情はありますが、テレビの視聴者も明らかにハンドだと分かったくらいですから、試合後に審判やマラドーナ選手に対する批判が集まってもおかしくない状況だったと思います。
ちなみに、W杯の主催者であるFIFA(国際サッカー連盟)ですら、2004年の創立100周年を記念して制作したDVDの中で、W杯での「10大誤審」の第1位に“神の手”ゴールを選んでいます。
ところが、“神の手”ゴールは、後に「伝説のプレー」と呼ばれるようになったものの、審判もマラドーナ選手も、強く批判されることはありませんでした。
その大きな理由は、“神の手”ゴールのわずか4分後に、マラドーナ選手自身が世界中を魅了した、さらなる「伝説のプレー」を披露したことでした。ビデオで映像を見たことのある人も多いと思いますが、約60メートルをドリブルで独走し、相手ディフェンスを5人も抜き去ってゴールを決めたプレーです。そのプレーがあまりにも印象的だったため、その前の“神の手”ゴールに対する批判のトーンは一気に和らぎ、2つのプレーがセットになって「伝説」となっていったのです。
このエピソードは、サッカーに限らず、私たちが仕事をする上での心構えにも通じるものがあります。皆さんは多かれ少なかれ、仕事で失敗をして、クライアントに迷惑をかけてしまった経験があるかもしれません。大きな失敗であれば、人によっては、「クライアントの信頼を失った……もうダメだ」と思うこともあるでしょうが、素直に自分の誤りを認めて真摯(しんし)に謝罪し、ミスを帳消しにするぐらいの活躍を見せれば、クライアントの信頼は取り戻せるのです。
仕事に失敗はつきもので、特に前例がない、難しい業務をやるときはなおさらです。もちろん、誰しも失敗したくありませんが、仮に失敗しても、立ち止まって落ち込むのではなく、「取り返そう」と前を向ける意志の強さこそが大切です。間もなく今年も終わりです。来年も細心の注意を払いつつ、しかし失敗を恐れることなく、仕事に取り組んでください。期待しています。
以上(2022年10月)
pj17126
画像:Mariko Mitsuda
POS情報の連携やクラウドファンディングなど「6次産業化テック」最前線/新技術で変わる農林水産業(5)
書いてあること
- 主な読者:業務の効率化や人手不足の解消を図りたい農林水産業者
- 課題:どのようにすれば効率化や人手不足の解消が図れるのか分からない
- 解決策:事例を参考に、生産者が生産だけでなく、販売・流通までの新技術を取り入れる
1 テクノロジーで6次産業化の課題を解決「6次産業化テック」
近年、農林水産業を営む企業で、人工知能(AI)やドローンなどのテクノロジーを取り入れる動きが出てきています。体力勝負のこまめな管理や、自然環境の影響を大きく受けるこれらの業界では、次のような課題が挙げられています。
- 高齢化による人手不足、ノウハウの継承
- 変化する自然環境への対応
- 効率的、持続的な生産・収穫・漁獲・販売体制の確立
このシリーズでは、農林水産業を営む企業が直面する課題を解決するための最新テクノロジーの動向と、その活用事例を紹介します。これまで4回にわたって第1次産業である農林水産業に関する最新テックを紹介してきました。最終回となる第5回は、農林水産業者が、6次産業化を目指す中で直面する課題を解決するための「6次産業化テック」です。具体的には、
- POSシステムを取り入れたリアルタイムの情報連携で、補充漏れや誤発注を回避
- 産直サイトなどを通じた消費者とのコミュニケーションで中間マージンを削減
- クラウドファンディングを活用した資金調達とファンづくり
といった取り組みを紹介します。
2 「6次産業化テック」取り組み事例

1)生産者・食品加工業者・飲食店×POS連携=フードロスの回避
ブエナピンタ(徳島県鳴門市)が運営する6次化支援施設「THE NARUTO BASE(ナルトベース)」は、生産者による農産物や加工品の直売所を提供している他、生産者が持ち込む農産物の加工場やレストランを展開しています。ナルトベースは販売情報を個別に管理するPOS(Point Of Sales=販売時点情報管理)システムを取り入れて、生産者や施設内の加工場、レストラン、直売所、契約レストランなどとリアルタイムの情報連携を行っています。当日の追加補充の必要性や、週ごとにどのくらい仕込めばよいのかが分かるので、「売れ筋」商品を早期に把握できるとともに、補充漏れや誤発注などのロスが回避できます。
また、加工場は、規格外で既存の流通では廃棄されてしまう農作物や魚介類を、近隣の生産者から買い取り、新鮮なままペースト加工・瞬間冷凍などにより商品化します。商品は首都圏の契約レストランをはじめ、全国の飲食店や個人に販売します。地元の加工場で新鮮な食材を低コストで調理することで、人件費や土地代の高い首都圏で下ごしらえをするコストの削減につながります。地元生産者にとっても、もともと廃棄するものが商品として販売できるので、利益になる仕組みです。
2)生産者と消費者×ネットワーク=消費者との直接のコミュニケーションの実現・配送のコストダウン
ビビッドガーデン(東京都港区)は全国の生産者から、消費者が直接食材を購入できるオンライン直売所「食べチョク」を運営しています。通常の流通では、生産者が作った食材は農協がまとめて購入し、卸売―仲卸―小売店―消費者といった流通ルートを通すため、生産者の取り分は小売価格の30%ほどといいます。その一方で「食べチョク」は、生産者がサイトに自分のページを作り、値段も自分で決めて、直接消費者へと送ります。そのため、売り上げ手数料である20%を差し引いた80%ほどが粗利益となります。
「食べチョク」は、収穫から最短24時間以内に発送を行っているので、鮮度の高い食材が届くことや、農家が自分のページを持つことで、生産者と消費者が直接コミュニケーションできることが特徴です。「食べチョク」の登録ユーザー数は70万人、登録生産者数は7500件に上ります(2022年7月22日時点)。
生産者と直接つながることで、消費者は「生産者とつながっているから安心できる」という声が多いそうです。また、生産者は「こういう料理に使いやすい」といった情報や、手書きの「ありがとう」メッセージを入れるなどして、ファンづくりをしているといいます。
やさいバス(静岡県牧之原市)もECサイト「やさいバス」を通して地域内の生産者と消費者を結び付けていますが、独自の配送システムで野菜を効率的に流通させる仕組みも提供しています。
生産者は「やさいバス」を利用することで、受発注の記録が流通の過程で自動的に残るため、伝票を書いたり、集計したりする必要がなくなり、事務作業が大幅に効率化したそうです。また、通常の市場流通では、農家に価格決定権はありませんが、「やさいバス」では、農家側が価格を提示できるので、こだわって作った野菜を、適切な価格で早く消費者の元へ届けることが可能です。サイトにはSNS(交流サイト)もあり、そこで農家と購入者が直接コミュニケーションできます。例えば、こだわりの農産物の栽培農家を探す際にSNSを活用し、好みの農家と出会い、土壌や栽培方法などを聞くことで付加価値に気付いたり、農家側も購入者の声を聞くことで、栽培する野菜を見直したりすることもできるようになったそうです。
同社は、地域内の複数の場所に「バス停」を開設。消費者から注文を受けた農家が最寄りの「バス停」に野菜を持ち込むと、当日中に同社の地域巡回冷蔵トラックが消費者の最寄りの「バス停」に配送します。利用料は、2022年9月時点で農家の販売手数料が売り上げの15%で、購入者の配送手数料が1ケース385円(税込み)です。従来は、農家が宅配事業者を利用して取引先に配送しようとすると、配送料が野菜と同程度になることもあったので、大幅にコストダウンできたそうです。
3)自治体の支援×クラウドファンディング=資金調達とファンづくりに貢献
鹿児島県は2021年に、県内の6次産業化に取り組む農林漁業者や県産農林水産物の食品加工事業者に対して、「クラウドファンディング」の支援を行いました。17事業者が参加し、全事業者が目標金額を達成できました。
同県は参加した事業者に対し、2回の活用セミナーと、ウェブサイトの作り方や返礼品の設計などをオンラインによる個別指導を実施しました。それを基に、参加した事業者の多くがウェブサイトに、「顔写真があり、自分の気持ちや生い立ちを説明した自己紹介」や「商品へのこだわり」を掲載しました。その他、「鹿児島県ならではの歴史や地域性」「事業者の家族やグループメンバーの紹介」「レシピ集」など、事業者と商品を関連付けてストーリー化したPRでファンづくりにつなげました。
4)取引業務アプリ×LINE=数多くの取引先とのやり取りを効率化
Kikitori(東京都文京区)は、スマホやタブレットなどの端末を使って卸売事業者や仲卸業者といった、流通業者と生産者の取引業務が効率化できるアプリ「nimaru」を提供しています。
生産者は、「nimaru」を利用する流通業者とLINEで友だち登録するだけで、新たな流通業者とつながることができるのが特徴です。一方、流通業者の中には、営業担当者1人につき100件を超える生産者・出荷者と取り引きをしているところもあります。生産者ごとに電話、FAX、メール、SMSといった連絡手段が違うと、日々相場が変化する市場取引では、集計や報告作業が煩雑になり、報告漏れやミスの原因となります。
しかし、流通業者と生産者の双方が「nimaru」を利用すれば、入力した入出荷予定情報は、即時に流通業者と生産者の間で共有されるので、情報集約のための作業負担が大幅に軽減されたといいます。
3 6次産業化テック関連のデータ:ニーズと課題など
1)市場は緩やかに拡大
これまで見てきたように、さまざまなシーンで「6次産業化テック」導入の動きが始まっています。農林水産省などの資料から、求められているニーズや課題などの状況を見てみましょう。6次産業化の農業生産関連事業の年間総販売金額は2018年度まで緩やかに拡大していましたが、2019年度は、前年度と比べて267億円減少し、2兆773億円となりました。

2)6次産業化に取り組んだ事業者の売上額は増加傾向となる
政府は2010年3月に「地域資源を活用した農林漁業者等による新事業の創出等及び地域の農林水産物の利用促進に関する法律」(六次産業化・地産地消法)を成立させました。
農林水産物などの生産や加工、販売を一体的に行う事業計画を「総合化事業計画」と呼び、認定を受けた事業者は「総合化事業計画認定者」として、無利子融資資金の貸し付けや新商品開発、販路開拓などに対する補助、農林水産省による媒体掲載、仲間づくり、情報提供などの支援を受けることができる法律です。
総合化事業計画の認定件数は2020年度末時点で2591件となりました。農林水産省が行った認定事業者を対象としたフォローアップ調査によると、5年間総合化事業に取り組んだ事業者の総合化事業で用いる農林水産物等と新商品の売上高平均額は、増加傾向となっています。

以上(2022年10月)
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【朝礼】仕事と勉強、できない人の6つの共通点
突然、変な質問をしますが、皆さんは自分自身を、仕事ができる人間だと思いますか? できない人間だと思いますか? 実は恥ずかしながら、若手だった頃の私には「自分は仕事ができる」と信じきっていた時期がありました。ただ、ある程度月日がたち、それがうぬぼれだったことに気付きました。なぜ、うぬぼれだと気付いたのかをお話しする前に、ぜひ聞いてほしいことがあります。
私は、仕事ができない人には、学生時代、勉強が苦手だった人が多いと考えています。私が考える、勉強が苦手な人というのは、
- 同じ問題を何度も間違える
- 一冊の問題集をやり遂げられない
- ノートをきれいに作りすぎる
- 勉強時間の長さにこだわる
- 理想が高く難問ばかりに挑戦する
- 志望校などの情報に、やたら詳しい
のいずれかに当てはまる人です。この1.から6.のタイプ、実は学校だけでなく会社にもいます。
まず、1.は、学習効果の薄い人です。仕事で同じミスを繰り返す人は評価が低いですし、特に若い社員は、失敗も含めた経験を次に活かすことが大事なはずです。
2.は、根気と実行力のない人です。途中で次々と新しい問題集に手を出す学生がいるように、仕事でも、最初の掛け声や返事は良いのに、少したって「あれはどうなった?」と聞くと、「実は、進んでいません」と答える人がいます。
3.は、手段と目的を明確にできない人です。例えば、きれいなプレゼン資料を作ることに満足してしまい、プレゼンで提案を通すという本来の目的を忘れてしまうようなタイプです。
4.は、結果でなく努力だけを重視する人です。結果を出すための工夫をせずに、非効率であっても、ただ頑張ったことだけを誇るタイプです。
5.のような理想が高い人は、自分自身の現時点での実力を受け入れられない人です。一見、仕事ができそうに感じますが、ただ背伸びをして、基礎を固めていないので、しばらくするとメッキが剥がれるタイプです。
6.は、情報通で、ゴシップ好きな人です。情報収集力は高いのですが、その力の発揮する方向が社内に限定され、仕事に費やすべきエネルギーについて、間違った使い方をしているタイプです。
怖いのは、周囲から仕事ができると評価されている人が、実はこの6つのタイプに当てはまるケースがあるという点です。特に若手のうちは「頑張り」が見えれば評価されますが、ある程度月日が経過すると、それだけでは通用せず、結果を求められるようになっていきます。私が自分のうぬぼれに気付けたのも、月日がたって、そうしたメッキが剥がれてきたからなのです。
「自分は仕事ができる」と思っている方、ぜひこの6つのタイプに当てはまっていないか確認してみてください。私も若手の頃の過ちを繰り返さないよう、謙虚に自分を見つめていきます。
以上(2022年10月)
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画像:Mariko Mitsuda
【朝礼】整理整頓ができなければ、思い切って捨ててしまえ
オフィスを見回すと、デスクの上が片付いている人、片付いていない人がいます。デスクが雑然としていると、必要なときに探し物が見つからず、仕事の効率が悪くなります。中には「片付けなくても、私はどこに何があるか分かっている」という人がいるかもしれません。そういう人に聞いてみましょう。「デスクの上や引き出しの中には何があるのかすべて覚えていますか? 必要なものをすぐに取り出せますか?」。どうですか? すべてを把握している人はいないでしょう。
仕事を効率的に進めるためにも不要なものを整理し、使い勝手よく整頓することは欠かせませんが、整理整頓が苦手な人もいるようです。私がみたところ、そんな人の多くは不要なものを捨てることができていないようです。そういう人は「不要なものを保管しておくのは、収納スペースがもったいない、探し物をする時間と労力がもったいない」と、視点を変えて整理整頓に取り組んでみてはどうでしょうか。
ここで、私が実際に整理整頓を実践する際の秘訣を紹介したいと思います。整理整頓は、まず不要なものを捨てることからスタートしますが、人によって要不要の判断基準は異なると思います。私はまず、それがすぐに使うものかどうかという点でそれを判断します。例えば、毎日使うカレンダーをデスクにしまい込む必要はありませんが、3カ月に一度しか使わない画びょうをデスクの上に出したままにしておくのはおかしいですね。
もし、すぐに使うかどうか判断に迷う場合は、しばらく置いておくのもよいでしょう。その場合もただ置いておくのではなく、判断に迷うものを入れる箱を用意して、そこに入れて1週間たっても使わないようなら片付けるか、捨ててしまいます。
また、資料などであれば、すぐに手に入るか否かで判断します。インターネットで簡単に入手できる資料を印刷して保存するのは無駄ですが、図書館に行かなければ手に入らないものはファイリングして保存しておく必要があります。
このほか、なくしてしまいがちで、整理が面倒なメモ書きなどはバラバラに保管したり、ノートに内容を書き写したりするよりも、スキャナでパソコンに取り込んだり、ノートにまとめて張り付けてしまうのもよいでしょう。
不要なものをためこんでしまうから、デスクは雑然としてしまい、肝心なときに必要なものを見つけられなくなってしまいます。要不要を判断して、不要なものは思い切って捨ててしまうことです。そして、要不要の基準は、頻繁に使うものか、再度入手することが容易なものかです。さらに、バラバラなものはとにかくまとめてしまう。これが、私の整理整頓の秘訣です。
デスクやオフィスの収納スペースには限りがあります。もったいないと思わず、思い切って捨ててしまいましょう。今日紹介した要不要の判断基準や、自分なりの判断基準を基に整理整頓に努めて、仕事の効率化につなげていただきたいと思います。
以上(2022年10月)
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画像:Mariko Mitsuda
男女の賃金差異、どこからが違法な「男女差別」?
書いてあること
- 主な読者:男女の賃金差異の公表が義務化され、賃金の方向性について考えている経営者
- 課題:男女の平均年齢の違いなど、やむを得ない賃金差異もある。どこまで対処すべき?
- 解決策:「性別の違いだけを理由に賃金に差を付ける」「産休(産前・産後休業)などを取った女性の賃金を極端に下げる」など、違法な賃金差異がないかを確認する
1 常時301人以上の会社では、男女の賃金差異の公表が義務化
2022年7月8日より、女性活躍推進法の厚生労働省令が改正され、
社員数が常時301人以上の会社では、自社が雇用する男女の賃金差異を、事業年度ごとに公表することが義務化(社員数が常時300人以下の場合、公表は任意)
されました。具体的には、新年度の開始からおおむね3カ月以内に、図表の赤字の内容(前年度の実績)を、厚生労働省「女性の活躍推進企業データベース」などで公表する必要があります。

中小企業は公表義務の対象外ですが、男女の賃金差異に無頓着でいると、「女性に優しくない、時代遅れの会社」などのレッテルを貼られ、人材採用などにも影響が出るかもしれません。
男女の賃金差異が生じる理由はさまざまで、なかには「男女の平均年齢の違いから、年功給の平均額に差異が出る」など、やむを得ないケースもあります。一方で、確実に対処しなければならないのが、違法な「男女差別」による賃金差異です。主なものは、次の3つです。
- 性別の違いだけを理由に賃金に差を付ける(労働基準法)
- 性別の違いだけを理由に職務に差を付ける(男女雇用機会均等法)
- 産休などを取った女性の賃金を極端に下げる(男女雇用機会均等法、育児・介護休業法)
いずれも社員とトラブルになった場合、民法の損害賠償請求などを受ける恐れがある他、1.については、労働基準法違反の罰則(6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金)もあります。
「令和の時代に、こんな露骨なことをする会社があるのか」と思うかもしれませんが、まだ法整備が進んでいない頃に作られた社内規程が見直されないまま、知らず知らずのうちに「男女差別」に当たる運用をしてしまうケースなどもあるので、念のため確認しておきましょう。
2 ケース1:性別の違いだけを理由に賃金に差を付ける
労働基準法には、「性別の違いだけを理由に賃金に差を付けてはならない」というルールがあります。「賃金に差を付ける」ケースに当たるのは、例えば、
- 男女で基本給の額が異なる
- 特定の手当を男性にだけ支給し、女性に支給しない
- 男女別の賃金表を設けており、勤続年数に応じて昇給額が異なる
などです。
労働基準法では、何をもって「性別の違いだけを理由に賃金に差を付けている」と判断するのかが明らかになっていませんが、過去の裁判(東京地裁平成4年8月27日判決)では、
男女の「職務内容・責任・能力が同じ」で「勤続年数や年齢も比較的近い」場合、賃金に差を付けるのは違法(性別の違いだけを理由に差を付けていると判断できる)
という考えが示されています。要するに「男女の働き方が同じなら、賃金も男女平等にしなければならない」ということです。
なお、労働基準法では、
賃金について、女性を男性よりも「不利に扱う」だけでなく「有利に扱う」のも違法
とされています。最近は、女性が働きやすいように福利厚生の充実に取り組む会社が多いですが、例えば、「育休(育児休業)期間のうち、最初の○日間は有給とする」という制度を設ける場合、「女性の育休は有給とするが、男性の育休は無給とする」といった運用はできません。
3 ケース2:性別の違いだけを理由に職務に差を付ける
男女雇用機会均等法には、「性別の違いだけを理由に、次の内容について差を付けてはならない」というルールがあります。
- 配置転換(業務の配分、権限の付与を含む)、昇進、降格、教育訓練
- 住宅資金の貸付けなどの福利厚生の措置
- 職種、雇用形態の変更
- 退職勧奨、定年、解雇、労働契約の更新
第2章の労働基準法のルールだけにのっとると、「男女で職務が違う場合、賃金差異があっても違法ではない」といえそうですが、この男女雇用機会均等法のルールがあるため、
合理的な理由もなく、男女で就くことのできる職務に差を付け、その結果、男女の賃金差異が生じる場合は違法
になります。
過去の裁判(東京地裁平成14年2月20日判決)では、「総合職」「一般職」のコース別人事を設けていた会社が、賃金の高い総合職には男性ばかりを、賃金の低い一般職には女性ばかりを当てはめていて違法と判断されたことがあります。社内規程上は男女双方に開かれたポストであっても、実際にそのポストに就いている社員(過去に就いていた社員を含む)の性別が極端に偏っている場合、配置の見直しが必要かもしれません。
なお、個人の経験や能力の違いによって職務に差を付けることは問題ありませんが、その裏で「会社として、職務に就くために必要な能力を身に付ける教育訓練を実施しているが、教育訓練の対象を男性に限定している」といった運用がされている場合は、違法になります。
4 ケース3:産休などを取った女性の賃金を極端に下げる
男女雇用機会均等法と育児・介護休業法には、「妊娠や出産をしたり、産休や育休を取ったりしたことを理由に、不利益な取扱いをしてはならない」というルールがあります。賃金に関する不利益な取扱いの例としては、
- 基本給を引き下げる
- 賞与支給額や昇給額の一部または全部をカットする
などが挙げられます。不利益な取扱いが禁止されているのは、産休や育休などの制度の利用を妨げないためですが、賞与支給額や昇給額の一部または全部をカットするケースについては、少し判断が複雑です。例えば、賞与の査定期間中に産休を取った女性がいる場合、
その女性は、休業しなかった他の社員よりも査定期間中の仕事量が少なくなる
ため、その点を賞与支給額に反映しないと、他の社員にとって不公平になる
という問題があります。
過去の裁判(最高裁第一小法廷平成15年12月4日判決)では、ある学校が「賞与の査定期間の90%以上を勤務しない場合、賞与は支給しない」というルールに基づき、査定期間中に産休を取った女性の職員に賞与を支給せず、トラブルになったケースがあります。裁判では、
- 賞与の査定期間の出勤すべき日数に、産休の日数を算入することは、法令で認められた休業制度の意義を失わせるので違法である
- 賞与支給額を、産休による欠勤日数の分だけ減額すること自体は違法でない
という判断がされています。つまり、
女性が査定期間中に産休や育休を取っていても、出勤した分の仕事については評価して賞与を支給しなければならない
ということです。
5 (補足)違法ではないものの、見直しが必要なケース
ここまで「賃金差異が違法なケース」を紹介してきましたが、これ以外に「違法ではないものの、見直しが必要なケース」というものもあります。
例えば、第1章で紹介した「男女の平均年齢の違いから、年功給の平均額に差異が出る」というケースは、賃金制度の運用と直接関係がなく違法とはいえませんが、仮にその裏に「男性に比べて女性の平均勤続年数が明らかに短い」という事情がある場合、見直しが必要です。
女性が定着しない会社によく見られるケースとしては、
- 産休や育休などの制度は整備されているものの、「職場が常に忙しく、妊娠や出産を歓迎する雰囲気がない」などの理由で、制度を利用しにくい
- 女性の管理職が少なく、キャリアアップが見込めない雰囲気がある
などが挙げられます。対策としては、
- 会社として女性の活躍推進に積極的に取り組みたい旨を、経営者が進んでPRする
- 産休や育休などの制度の存在を、定期的に社内に周知する
- 産休や育休を取る社員には、出産・育児の妨げにならない範囲で、職場の状況などを共有する機会を設け、休業終了後にスムーズに職場復帰できるようにする
- 社員とキャリア形成に関する面談を定期的に実施し、キャリアアップの希望を聞く
などが挙げられます。なお、一番最後の「キャリア形成に関する面談」については、女性自身がキャリアアップを希望しないケースもありますが、それが本人の生活事情や価値観によるものなのか、あるいは「女性は○○職に就けない」などの誤解をしているからなのかは、慎重に確認する必要があります。
上のようなケースは、「賃金差異が違法なケース」に比べると対処の優先度は低く、また是正にもそれなりの時間を要しますが、冒頭でも触れた通り、世間全体が男女の賃金差異に注目している状況ですので、やはり計画的に是正に取り組む必要があります。
以上(2022年10月)
(監修 弁護士 田島直明)
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画像:gugu-Adobe Stock
【特別企画】Z世代起業家がZ世代の学生に向けて「起業」を語る講座/岡目八目リポート
年間1000人以上の経営者と会い、人と人とのご縁をつなぐ代表世話人杉浦佳浩氏。ベンチャーやユニークな中小企業の目利きである杉浦氏が今回ご紹介するのは、
特別企画、埼玉大学で行われた講座「実践ベンチャー論:Z世代スタートアップ実践の実情を聞く」(2022/6/24開催)です。
この講座は、「Z世代に向けて、Z世代起業家がスタートアップの実情を語る」内容で、他では聞くことのできない、志も高く実績もある起業家4名による講義です。事業や起業の実情を詳しく語った4名の起業家。そして、真剣に耳を傾け、時間が足りなくなるほど質問もたくさんしてくれていた埼玉大学の学生などの聴講生。講義後、「起業の志が固まりました!」と決意も新たに顔つきがすっかり変わった聴講生もいたほどです。
本当に大げさでなく、聴講生たち(年齢問わず)の今後の人生に影響を与えたであろう、かけがえのない暑いアツい夏の一日が凝縮されていました。この記事では、講義の中で4名のZ世代起業家がお話してくださった内容を一部ご紹介します(とても伝えきれない、盛りだくさんで素晴らしい内容と熱量!)。なお、起業家4名の中には、かつてこの「岡目八目シリーズ」でご紹介した方々もおられます。後ほどそれぞれの岡目八目シリーズ記事へのリンクもご案内しますので、ぜひ覗いてみてください。
●登壇 Z世代起業家
後藤 学氏 :株式会社Helte 代表取締役
福田 駿氏 :株式会社Diary 代表取締役、就活YouTuber
西側 愛弓氏:株式会社COXCO 代表取締役
大槻 祐依氏:株式会社FinT 代表取締役
●モデレート
杉浦 佳浩氏:代表世話人株式会社 代表取締役
1 どのような事業をしているか?
まずは自己紹介を兼ねて、「どのような事業をやっているか」「なぜその事業をやっているか」といったことを最初にそれぞれお話してくださいました。そこからしてもう、面白くて勉強になる情報が満載です。お話してくださった順番にご紹介します。
1)大槻さん 株式会社FinT
大槻さんの株式会社FinTでは、主に、メルカリなどの企業のSNSマーケティング支援や運用、ライブ配信、メディア運用などを行っています。とにかく勉強家で実績もあり、突破力も実行力もハンパない大槻さん。ビジコンで優勝したこともある大学時代には、インターンながら一事業部を担当し、力強く仕事をして社員のマネジメントもしていたそうです。
ビジコン優勝特典でシリコンバレーに行ったり、シンガポールに1年間留学したり、大学3年のうちに起業したりとさまざまな経験をしてきた大槻さん。聴講生向けにさっそく「私自身、たくさんチャレンジしてたくさん失敗してきました。皆さんも多くのチャレンジと失敗をしてください。今私たちの会社は、インターン生20人くらい社員40人くらいで、インターン生もすごく活躍していて年齢は関係ないなと感じてます。ぜひ頑張ってください」と激励を。場作り、リーダーシップも素晴らしいと感じました。
会社としてのパーパスを変えたという大槻さん。その思いを次のように話していました。
「今のパーパスは“みんなの強みを活かして、日本を世界を前向きに”です。日本を、世界を前向きにしたい、それが今一番やりたいこと。日本の技術など日本の『何か』を使ってグローバルスタンダードをつくっていけるようにしようとしています」
●株式会社FinTのウェブサイトはこちら

2)後藤さん 株式会社Helte
後藤さんの株式会社Helteでは、日本のアクティブシニア層と海外の人たちがオンライン上で、“日本語で”交流できるプラットフォーム「Sail」を開発展開しています。「Sail」はまさに、すぐに海外とつながれる、自分の世界を広げる窓。参加国は実に154カ国、総利用者数は26,000人以上(2022年9月時点)とすごい数です。海外の人たちを集めるために、コネ無し知り合い無しの状態でタイなどの海外を“飛び込み”で回った泥臭いガッツの後藤さん。その様子を、まるで当たり前のように飄々と語る感じがまた、聴講生を惹きつけていました。
「Sail」を使って交流した後の分析にハマっているという後藤さん、そうした中で海外の人が日本で就職する際の支援のようなこともやっているそうです。
また、東京大学と一緒に、「Sail」を使ったことによる人の行動変容(ICTの理解度が上がった、海外の人に対する偏見が減ったなど)の分析なども行っており、これに関心を持った自治体などとも連携が実現。これからもどんどん全国各地、そして世界に拡がっていきそうです。
海外の人たちが参加した日本語スピーチコンテストを実施した後藤さん。こう語ります。
「今回は、全世界80カ国を超える1500人が参加、日本語でビジコン的にプレゼンしてもらいました。彼らの大きな夢を日本語で聞いて本当に感動した。これからの日本を支えるのはきっと彼らのような海外の人たち。ぜひ一緒に色々な事業ができたらと思います」
●株式会社Helteのウェブサイトはこちら

3)福田さん 株式会社Diary、就活YouTuber
福田さんは株式会社Diaryの代表かつ、就活生向けのYouTubeチャンネル「しゅんダイアリー」を持つ就活YouTuberでもあります。YouTubeで11万人、TikTokで9.7万人の登録者がいて(2022年9月時点)、そこを軸に就活サービスを展開。また、企業の採用広報も手掛けています。
YouTuberとして、日頃から色々な人にインタビューもしている福田さん、今回の講義でも自分の話をしつつも聴講生に「しゅんダイアリーって聞いたことある人、手を挙げてもらっていいですか?」とインタラクティブに展開。
続けて「僕は石川県金沢市出身で金沢大学に行っていて、留学もインターンもしたことなかったんです。でもどうしても東京の大学に来たかったし、東京で仕事したかった」「埼玉大学と金沢大学はなんか雰囲気が似ていてめちゃめちゃ親近感あります」「中学生のころから起業を考えていたけれど、自分は何者でもないし何もできないので、とりあえずYouTubeで結果を残したいと思った」「最初は旅行系の動画とか配信してまったくうまくいかず、『自分の言いたくないことを言おう』と仮面浪人に失敗した体験談をアップしたら初めて10万回再生」「仮面浪人人口は2万人しかいないと気づいて、大学3年の就活タイミングで就活系に切り替えて、毎週東京に行って東京の会社で自分がガチで面接を受ける様子を動画にしたらちょっとずつウケて今につながる」などなど、聴講生から見るととても分かりやすく親近感がわく、そしてぐんぐん引き込まれるストーリー。聴かせます。福田さんは目指す未来もしっかり語ります。
「僕は中学生のころから世界と戦いたいと思ってきた。時価総額という会社の『企業価値』というものがありますが、時価総額10兆円の会社にすることが今の目標であり課題です」
●株式会社Diaryのウェブサイトはこちら

4)西側さん 株式会社COXCO
今回、西側さんはなんと、フィリピンからのオンライン参加でした。こういうスタイルも、聴講生にとってはとても良い刺激になります。
西側さんが展開するのは社会課題と向き合うアパレルブランドです。西側さんは「服の形をしたメディア」とも表現しています。「大学時代にバックパッカーをした経験から、貧困問題などさまざまな社会課題を肌で感じた」という西側さん、ファッションを通して社会にとっていいことをしたいと考えるようになったそうです。例えば、不要になった繊維(洋服)からつくられた再生ポリエステルを使って、できるだけ長く愛されるデザインの服を仕立てる、しかも受注生産で気に入ってくれた人にだけ提供するなどを行っています。
そして今は、「フィリピンでファッションスクールをつくる」というチャレンジもしているそうです。
フィリピンではファッションショーも開催している西側さん、その思いを語ります。
「2015年から、フィリピンで暮らす子どもたちが思い出になる場所をつくろうと、ファッションショーをやっています。今回で8回目になります。ファッションを通してみんなで夢を描く、みんなで胸を張って生きていこうという体験をつくりたいです」
●株式会社COXCOのウェブサイトはこちら

「挑戦」。4名の自己紹介含めた事業の話からまず感じるのはこの言葉です。グローバルな目線を持っている、そもそも生き方が枠にとらわれていない。そして難しいこと、でもやりたいことに果敢に挑み続けていることがうかがえます。
2 なぜ、どうやって起業したか? 起業ストーリー
起業の理由、起業ストーリーも各者各様で、特に今回は起業を志す聴講生も多かったため、かなり聞き応えがあったのではないでしょうか。「海外留学」「バックパッカー」といった、世界に触れられる環境も起業要因の一つと思いますが、そうした環境以上に「これをやりたい、やってみる。やり切ってみる」という志、そして行動することがとても大事だと感じました。ここでは、それぞれが講義で語っていた濃い起業ストーリーの特徴的な点をご紹介します。
●大槻さん
- 起業した理由は、広く言うと「自分が生まれてきた意味を持ちたい、私が生まれたから世界が良くなったという風にしたい」から
- シンガポール留学時代から「金融課題を解決するサービスをやろう」と一緒に練っていた仲間と大学3年のときに起業。後にサービスは変化
- 起業当初は両親が大反対。起業して、オフィスに寝泊まりするくらいずっと仕事漬けで必死だったがうまく行かず。お金もなくなり。仲間とは解散したり。そうした過酷な毎日でも、1人でやり切ると頑張っているうちに親の見る目が変わってきた
- 今では、税理士事務所で働く母が経理担当として会社をとても支えてくれている
●後藤さん
- 誰もが知る大企業に就職するも1年で辞めて起業。泥船でもいいから早く出航したかった
- 大学時代にシアトルに留学、インドにも行き、その他にも色々とバックパッカーで世界を放浪する日々。それが後に「海外の仕事に貢献したい」につながって、その気持ちが爆発
- 起業していく中でさまざまな人のご縁を感じる。フランス人の事業家が最初に出資してくれたり、中国人の投資家がいてくれたり
- 事業がしんどい局面は何度もあったが、ふと誰かが助けてくれたり、そういうご縁の中で「生かされている」と感じる。感謝の気持ち、恩返しをしたい気持ちがとてもある
●福田さん
- 金沢の大学で就活生をしているときは「大企業に行っている人が勝ち組」と思っていた
- サイバーエージェントやDeNAのインターンに参加してショックを受ける。東京の大学生は1年次からインターンやってるとか起業しているとかいう人がゴロゴロ
- 東京と地方では、大学生が使っている言語、見ている景色、情報がまったく違うと、大きな格差を感じる。そうした格差をなくしたいと、就活チャンネルを立ち上げ起業した
- お金はクラウドファンディングなどで120万円、商工会議所で一人1万円ずつなど人力で180万円くらい集めて、300万円くらい集まったタイミングで東京に引っ越してきた
- 親を説得する自信はなかったので、起業については事後報告
●西側さん
- 起業した理由は「(ファッションという)好きなことができたから」
- 起業する前はサイバーエージェントに就職し、2年ほど働いた
- 大学3年のとき、現在フィリピンで活動している団体を立ち上げた。そこから、ファッションスクールをつくろうと頑張ってきている
- ファッションスクールをつくるなら、卒業生の将来を考える必要があると思い、起業した
- 社会課題解決のためにアパレルブランドを立ち上げたが、「会社」という体がないと話を聞いてもらえない、契約してもらえないという観点からも起業した
3 キラキラばかりではない。課題、失敗の連続。それでもその先を考える
インターン、海外留学、バックパッカー、起業、スタートアップなどのキーワードから、何も知らないとキラキラしたイメージを持ちそうですが、それだけではありません。というより、そうではありません。課題も失敗もたくさんあります。それが実情です。この4名のZ世代起業家もそうです。そして、課題や失敗がどれほどあろうとも、今後の展開を考え続け、前に進み続けます。それぞれの課題感、そして今後について印象的な点をご紹介します。
●大槻さん
「課題はたくさんあります。常にあります。起業をしていてとても面白いと感じるのは、目の前に毎回、壁が出てくること。例えば、組織がよくない感じになっているという壁があったとして、やっとその壁をよじ登って超えたと思ったら、また別の壁が出てくる。それが病みつきになります。これをずっと繰り返す、成長ってそういうもんだなあと楽しくて、社長やっててよかった、起業してよかったと思います」
「今後3〜4年後には海外展開というか、日本のものを海外に出していく軸もつくりたいです」
●後藤さん
「日々の仕事に追われてインプットが難しいときがあるのが課題。余白が生まれたほうが新しいチャレンジやコミュニケーションの方法などが分かってきて、それが事業につながると思うので、そういう余白があるようにしたい」
「今後はグローバル展開のギアを上げていきたい。今年に入ってから、積極的に英語やフランス語でプレゼンするようにしている」
「会社も、インド人やフランス人など色々な人がいるようになってきたので、そういう色々な考え方をまとめて編集して力を付けていく、これも課題」
●福田さん
「僕らの一番の課題は採用。自分たちよりも優秀で素直な人を仲間にしていくのが課題。凡人が後天的に努力していく、そういう仲間。自分たちもそうありたい」
「採用するときは一緒に山に登る。山登りは苦しいから本音が見える。スマホも使えないので、みっちり話ができる」
「採用するときは、親にも会いに行って、娘さんおよび息子さんを私にください、一緒に社会をよくする会社をつくっていくと伝える」
「今後は、世の中の人に行動してもらえるようにWeb3の領域で事業展開も考えている。試験的にやっていることもある」
●西側さん
「起業するとお金周りも課題になると思う。お金を借りるとなると大きな責任も負うし、本当に大変」
「起業はキラキラしたイメージかもしれないが、実際に人に見せないところで起業家は皆大変だし、根気がいること」
4 講座の最後。途切れない質疑応答
もっともっと話を聞いていたいところでしたが、最後の質疑応答へ。4名のZ世代起業家の話に、質問したい聴講生がたくさん。もしかしたら、今までにない質問の多さだったかもしれません。中には、4名の会社でインターンをしてみたいという聴講生もいました。
聴講生からの質問は、例えば次のようなものでした。登壇してくださったZ世代起業家、熱心に参加されていたZ世代が中心の聴講生。本当にアツくて濃い時間、有り難うございました!
●聴講生からの質問例
- 海外とビジネスをやっていく中で、どうやって海外の方とつながったのか?
- 就活サービスについて、他のナビサイトとどうやって差異化を図っていくのか?
- パーパスが変わったことで、社員の行動変容、変わったアクションはあったか?
- どうやって自分のビジョンに合う人(仲間)を見つけてきたのか?
- VCからの資金調達を考えているか?

以上(2022年10月作成)