【中小企業のためのM&A】基本となる9つのプロセスを順番に確認

書いてあること

  • 主な読者:重要な経営のかじ取りのためにM&Aを検討している、買い手側の経営者
  • 課題:M&Aといっても、どこから検討すればよいのか分からない
  • 解決策:M&Aのビジョン・目的を明確にした上で、代表的なプロセスを確認する

1 事業拡大から事業承継まで。中小企業にも身近になったM&A

新規事業への進出から事業承継まで、会社経営の重要な局面で有力な選択肢となるのが「M&A」です。M&Aとは、

Mergers(合併)and Acquisitions(買収)の略称で、資本の移動を伴う企業の合併と買収のこと

です。最近は、会社の成長を目指す中小企業と事業承継をしたい中小企業とがM&Aをするなど、M&Aは中小企業にとっても身近なものになっています。

M&Aで重要なのは、

明確なビジョン・目的を明確にした上で、理想のシナリオを描き、戦略的にM&Aを進めていくこと

です。とはいえ、M&Aで買収するモノ(事業)は、ビジネス上、頻繁に行われる商品の売買とは大きく異なる点が多々あります。経営者としては、

  • 買収先はどうやって探す?
  • M&Aを進める体制はどうする?
  • M&Aのスキームはどれが適切?
  • どのような情報を基に買収を判断したらよい?
  • 期待する効果は得られる?

などの疑問や課題が浮かび、何をどこから検討すればよいのかお困りかと思います。

この記事では、M&Aの全体を簡潔に分かりやすくまとめました。これからM&Aを検討する経営者の方に、最初に読んでいただくことを想定しています。M&Aの全体を把握し、疑問や課題を整理するためにお役立てください。

2 M&Aの基本となる9つのプロセス

M&Aの基本的なプロセスは次の通りです。

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1)M&Aの相手を選定

まずは、M&Aの相手となる企業を探します。M&Aの明確な目的がないままに、やみくもに相手を探してもM&Aは失敗してしまうことが多いです。そのため、M&Aを行うビジョン・目的をしっかり考えることが先決です。つまり、

  • M&Aは、今の強みを伸ばすために行うのか、弱みを補完するために行うのか
  • M&Aの結果、会社をどのように拡大していきたいのか

などを考えます。

また、相手の探し方は、

  • 特定の企業を一本釣りで検討する
  • M&Aの売り手と買い手をつなげるM&A仲介会社や、FAと呼ばれるフィナンシャル・アドバイザーに相手となる会社の候補をリストアップしてもらって検討する
  • インターネット上のM&Aマッチングサービスを利用して、ニーズに合う会社を探して検討する

などさまざまです。

相手先の設立年度や資本金、株主構成、業績の推移、今年度の事業の見通しなどを確認するとともに、自社と社風や風土が合うかどうかなど、数字に表れない部分も検討する必要があるでしょう。

2)秘密保持契約(NDA)の締結

M&Aでは、会社の重要な情報を開示する必要があります。M&Aの対象となる会社としては、会社の重要な情報だけ吸い上げられて、それを利用されることは避けたいと考えます。そのため、情報を開示する前に秘密保持契約(NDA)を結ぶことが不可欠です。

NDAを締結し、M&Aの対象となる会社からビジネスの商流や仕入先、販売先、今後の事業展開など、通常第三者に知られたくない重要な情報を開示してもらいながら、M&Aを実行することが双方にとって良い結果となるかを検討していくことになります。

3)M&Aのスキームの策定

中小企業の場合、

株式譲渡のスキームが取られることが大半

ですが、さまざまな事情を考慮して、事業譲渡や会社分割、場合によっては合併などのスキームを検討することになります。どのようなスキームを取るかは、M&Aを行うビジョン・目的を達成するためにどうすればよいかという点の他、スケジュールや法務、税務、会計上の観点を加味しながら決めることになります。

M&Aのスキームによっては、自社に不必要な資産や負債を引き継いでしまうなど、想定していたM&Aのメリットを得られない場合もあります。簡単でもよいので専門家に相談するなどして、それぞれのスキームのメリット・デメリットを理解しながら進めることをお勧めします。

4)条件交渉

双方にとって譲れない条件は何かなど、契約の核となる点について交渉をします。この段階で条件面の折り合いがつかなければ、後述する基本合意を締結することなくM&Aは決裂となります。また、この段階での交渉は、M&Aの核となる部分ですので、とても重要なフェーズといえるでしょう。例えば、一般的に、次の事項について条件交渉をすることが多いです。

  • 譲渡対象となる重要な部分(事業譲渡の場合は事業の内容・範囲、株式譲渡の場合は譲渡株式数、譲渡対価など)
  • 投資後の会社の運営体制の方向性(取締役、キーパーソンの去就など)
  • クロージングまでのスケジュール
  • 独占交渉の有無

5)基本合意の締結

M&Aでは、詳細まで合意を得ることになるので、クロージングするまでに半年から1年程度の期間を要することも珍しくありません。そのため、前述した基本事項が合意でき、おおよその方向性が決まった段階で基本合意書が締結されることがよくあります。

なお、基本合意は、あくまで双方の今後の交渉にあたっての認識の擦り合わせという程度の意味合いを持つにすぎないことが多いため、

基本合意に定める事項の多くは法的拘束力を持たないこと

がよくあります。基本合意は、LOI(Letter of Intent)やMOU(Memorandum of Understandings)などと呼ばれることもあります。

6)デューディリジェンス・バリュエーション

M&Aに向けた方向性が決まった段階で、M&Aの対象となる会社の実態を調査するため、デューディリジェンス(DD)が行われます。中小企業同士のM&Aでは、コストやスケジュールとの関係で、DDを行わなかったり、調査する範囲を絞ったりすることが少なくありませんが、一般的には、ビジネス、会計、法務の他、税務、人事労務などの観点から、M&Aを行うビジョン・目的との関係で気になる点に絞って調査をすることが多いように思います。

DDは、軽視されることもありますが、買い手にとってはM&Aを後悔しないために必ず行ったほうがよいプロセスです。

DDの結果によって、M&Aの検討を断念したり、基本合意で擦り合わせた条件内容を変更する交渉を行ったりするような場合があります。

7)最終契約の締結

DDによって明らかになった内容や問題点を踏まえて、譲渡価格、譲渡条件、表明保証条項、誓約条項、譲渡後の義務等について協議をし、最終的に合意に至った内容を契約書に整理して締結することになります。

中小企業のM&Aでは、最終契約の締結日に、対象会社において必要な株主総会・取締役会といった内部手続きを経ることが多いです。

8)クロージング(契約の効力発生日)

中小企業同士のM&Aでは、最終契約の締結日に契約の効力が発生し、クロージングとなる場合も少なくありません。ただし、一般的には最終契約で定めたクロージングの前提条件の履行や会社法、商業登記法等の手続き上必要なことを行うため、契約締結日とクロージング日は別の日とすることが多いです。

9)M&A後の統合プロセス(PMI)

M&Aで最も大事なことは、

クロージング後に買収した事業を買い手の下で、どのように軌道に乗せていくか

ということに尽きるといってもよいでしょう。

一般的に、クロージング後は、買い手がM&Aを決めた目的を達成するのに必要な事業シナジーの実現のための事業計画の策定や実行、KPIの設定・管理、人事労務関係、決裁プロセス、社内規程等の統合作業などが行われます。

以上(2022年1月)
(執筆 リアークト法律事務所 弁護士 松下翔)

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画像:Atstock Productions-shutterstock

「資産」って何?/社会人に必要な会計の基本(1)

書いてあること

  • 主な読者:会計の基礎を勉強したい人で、貸借対照表の「資産」について知りたい人
  • 課題:資産には、流動や固定などたくさんの種類があって整理しにくい
  • 解決策:資産は会社が所有する財産。現金化への期間など性質により3種類に分かれる

1 資産とは

資産とは、

会社が所有する財産で、手元にある現金や会社が購入した商品、土地・建物など

が該当します。資産は貸借対照表の左側に表示され、次の3つがあります。

  • 流動資産:短期間(1年以内)で現金化できる資産
  • 固定資産:長期間(1年超)にわたって保有される資産
  • 繰延資産:実質的に費用(開発費など)だが、支出効果が1年以上に及ぶもの

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2 資産の部に書かれていること

貸借対照表の資産の部に記載される主な項目は次の通りです。全ての会社の貸借対照表に次の全項目が記載されているわけではなく、逆にここでは紹介していない項目が記載されていることもあります。あくまでも、会社の状況次第です。

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1)流動資産

流動資産とは、1年以内に現金化できる資産で、当座資産、棚卸資産、その他の流動資産の3つに分かれます。流動資産が多ければ、取引先への支払いが滞ることなく、また、急に生じた損失にも耐えられる安全性の高い会社と判断されます。

また、日々の営業活動で生じる商品及び製品(以下「商品等」)は、販売されたら売掛金や現金及び預金のような当座資産となりますが、販売されるまでは在庫として貸借対照表に記載されます。在庫があれば欠品を防げますが、一方で、保管コスト(維持管理のための人件費や賃借料など)がかかり、盗難リスク(減耗損)や陳腐化リスク(評価損)もあります。

2)固定資産

固定資産とは、1年を超えて使用・保有される資産(販売目的の資産を除く)をいい、有形固定資産、無形固定資産、投資その他の資産の3つに分類されます。建物や土地など形のあるものは「有形固定資産」、ソフトウェアやのれん、特許権のような法律上の権利など形のないものは「無形固定資産」となります。また、関係会社株式(子会社や関連会社の株式)や長期貸付金など、有形固定資産・無形固定資産に該当しないものは「投資その他の資産」となります。

固定資産は、長期間にわたって使用することで収益を生み出す資産です。また、建物や機械装置といった設備には多額の投資資金が必要です。投資の際には、自社の規模に適した投資なのか、将来の収益計画に無理はないかを十分に検討する必要があります。

3)繰延資産

繰延資産とは、会社が支出する費用のうち、支出後その効果が1年以上にわたって及ぶものをいいます。会計上、繰延資産として計上することができる次の5つの支出項目は、実質費用ではあるものの、その効果の期間にわたって、一旦資産に計上することができます。その後、一定期間にわたって償却することにより、少しずつ費用化します。なお、会計上の原則的な取り扱いは、いずれの支出項目も支出時に費用として処理することとなっており、繰延資産としての資産計上は例外的な取り扱いとなります。

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3 資産を使用する主な財務指標から分かること

1)安全性

1.流動比率

流動比率とは、短期的な支出である流動負債と流動資産の比率です。流動負債とは、支払手形や買掛金など1年以内に支払う必要のある負債です。計算式で示すと次の通りです。

流動比率(%)=流動資産÷流動負債×100

流動比率は、流動負債に対して、1年以内に現金化できる流動資産がどれくらいあるのか(流動負債を返済する能力)を示します。この指標が高いほど安全性は高くなり、一般的には200%以上あれば安全とされます。

2.当座比率

当座比率とは、流動負債と当座資産の比率です。当座資産は、現金及び預金、売掛金、受取手形、有価証券の合計額になります。なお、売掛金、受取手形は、貸倒引当金を控除した後の値を用います。貸倒引当金とは、取引先の倒産などにより回収ができなくなる可能性がある金額を見積もった値です。計算式で示すと次の通りです。

当座比率(%)=当座資産÷流動負債×100

当座比率は、流動負債に対して、すぐに現金化できる当座資産がどれくらいあるのかを示します。この指標が高いほど安全性は高くなり、一般的には100%以上が目安です。

3.固定比率

固定比率とは、固定資産と自己資本(純資産の部)の比率です。計算式で示すと次の通りです。

固定比率(%)=固定資産÷自己資本×100

固定比率は、短期間での回収が難しい固定資産が、返済期限の定めのない自己資本によってどれくらい賄われているのかを示します。この指標が低いほど、企業の長期的な安全性は高くなり、一般的には100%以下が目安です。

2)効率性

1.売上債権回転率

売上債権回転率とは、売上高を売上債権(売掛金と受取手形の合計額)で除した比率です。計算式で示すと次の通りです。

売上債権回転率(回)=売上高÷売上債権

売上債権回転率は、売上から販売代金の回収までの期間が長いのか短いのかを示します。この指標が高いほど売上から債権回収までの期間が短く、効率的と判断できます。

2.棚卸資産回転率

棚卸資産回転率とは、売上高を棚卸資産で除した比率です。計算式で示すと次の通りです。

棚卸資産回転率(回)=売上高÷棚卸資産

棚卸資産回転率は、効率よく販売できているのか、棚卸資産の在庫数が適正かどうかを示します。この指標が高いほど、棚卸商品が効率的に販売されていると判断できます。また、棚卸資産回転率が低い場合は、企業が在庫過多になっている、もしくは不良在庫を抱えている可能性があります。

3.有形固定資産回転率

有形固定資産回転率とは、売上高を有形固定資産で除した比率です。計算式で示すと次の通りです。

有形固定資産回転率(回)=売上高÷有形固定資産

有形固定資産回転率は、売上高を獲得するために、有形固定資産がどれくらい効率的に使用され、売上に影響しているかを示します。この指標が高いほど、有形固定資産が効率的に使用されていると判断できます。逆に、この指標が低い場合、建物や土地への投資が過剰になっている、または遊休化している建物や土地があるなどの可能性があります。

以上(2022年1月)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 公認会計士 伏見健一)

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画像:pixta

【朝礼】北条義時に見習う「位負け」しない気概

私の今年の目標は、「位(くらい)負け」をしないことです。これまで私は、取引先の人と会話をする際、役員クラスの人や一部上場企業の社員を「格上」と感じて、どうしても緊張してしまい、気後れするという悪い癖がありました。そんな「位負け」のような状態になってしまうと、自分のペースで会話をすることができず、会社として主張すべきことを伝えられなかったこともありました。今年こそ、どのようなときも「位負け」をしない気概を持ちたいと思います。

「位負け」をしないために私が見習いたいと思っているのが、今年の大河ドラマの主人公にもなっている北条義時(ほうじょうよしとき)です。義時のことをインターネットで調べたところ、思った以上にすごい人だったことが分かりました。

義時は鎌倉幕府の第2代執権で、当時の幕府で実質的な最高権力者になった人です。今からほぼ800年前の1221年(承久3年)、後鳥羽上皇を中心とした朝廷との戦い「承久の乱」に勝利し、武士を中心とした時代の幕を開けました。

日本の歴史上の大きな転換点として、承久の乱は3本指に入る出来事といわれています。なぜなら、それまでは天皇や上皇による朝廷が持っていた絶対的な権力を、武士のものにしたからです。あとの2つの転換点とされる明治維新や第二次世界大戦後の民主化は、黒船などの外圧や敗戦に促される形での変化ですので、外圧なしに変化をもたらした承久の乱のすごさが分かると思います。

承久の乱が起きた当時、朝廷の権威は絶対的でした。武士は朝廷あっての存在であり、鎌倉幕府も征夷大将軍が朝廷から任命されることによって、存在が認められていました。

ですから、朝廷の中心にいた後鳥羽上皇から名指しで追討命令を宣告された義時は、最初はとても狼狽(ろうばい)したといわれています。しかし、義時は武士のリーダーとして鎌倉幕府を守らなければならない立場。姉の北条政子の支援もあり、朝廷という権威に「位負け」しませんでした。義時は、兵を率いた息子の泰時に、「天皇自ら兵を率いてきた場合は降伏せよ。ただし、都から兵だけを送ってくるのであれば力の限り戦え」と命じ、最終的には朝廷軍を打ち破って「前代未聞の下克上」を果たしたのです。これは、朝廷が絶対だった当時の「常識」から考えると、非常に勇気のいる決断だったに違いありません。

今は、「大企業だから立場が上」「役員だから偉い」ということではなく、その企業、その人の実力が問われる時代です。当たり前のことですが、フェアな取引をしている企業同士、対等な立場で話をすることに何の問題もありません。格上に感じる人と話をするプレッシャーだって、朝廷が絶対だった義時の時代を思えばささいな問題です。

このように自分を励まして、今年は「位負け」をしないように頑張ります。もし取引先の人に会う前に私が青い顔をしていたら、「承久の乱を思い出せ」と声をかけてください。

以上(2022年1月)

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画像:Mariko Mitsuda

【朝礼】「人の褌で相撲を取る」のもう一つの意味

今年度も残り2カ月程度となりました。年度始めに立てた目標は、どれだけ達成できましたか。1年間の活動を振り返ってみれば、数多くの課題が見つかるはずです。そして、特に管理職以上の人は、自分一人の努力だけでは解決できない課題が増えたことを痛感するでしょう。

組織や自分自身の成長に応じて、ビジネスは難しくなっていきます。新しいことにチャレンジしたり、これまでよりもレベルの高い人の信頼を獲得したりする必要があるからです。そして、これらの課題は、孤軍奮闘するだけでは、うまく解決できない場合があります。

例えば、新しいことにチャレンジする場合です。私たちにとっては未知の領域でも、他の誰かにとっては“土地勘のある”ビジネスであるというのが通常です。それならば、“土地勘のある”人のアドバイスを得たほうが課題を解決しやすくなります。そうした人と親しくなれば、人脈や販路を紹介してくれる可能性もあるでしょう。

これは「人の褌(ふんどし)で相撲を取る」ことでもあります。この言葉は良い意味で使われないこともありますが、私の考え方は少し違います。確かに、他人の権勢を利用する、「虎の威を借る狐(きつね)」のような振る舞いは好ましくありません。しかし、相手との信頼関係を築いた上で、相手の同意を得て褌を借りるのであれば、何の問題もありません。それに他人から褌を借りるというのは、相当に難しいことでもあるのです。

一つ、私の経験談をお話ししましょう。私には懇意にさせてもらっている10歳以上年上の大学教授がいます。彼はベンチャー企業を経営した経験があり、ビジネスをよく知っています。そして、折に触れて私に言ってくれます。「私の人脈を全部紹介してあげるよ。きっかけは会食でもゴルフでもいいんだから、もっと私を利用しなさい」

その大学教授は、知識だけではなく、リアルなビジネスを知っているからこそ、人の“パワー”を借りる、つまり人の褌で相撲を取ることの大切さを痛感しているのでしょう。

実際、私はその大学教授の“パワー”を借りてビジネスをすることもありますが、なぜ、ここまで私に良くしてくれるのでしょうか。大学教授に尋ねてみると、答えは「信用しているからだよ」というシンプルなものでした。信用をもう少し分解すると、「礼儀正しく約束を破らない」「相手のメリットをよく考えられる」「自分にないものを持っている」ということでした。

大学教授の言葉から、真摯にビジネスと向き合い、社外で通用する絶対的な強みがなければ、他人から褌は貸してもらえないことが分かるでしょう。あえて言います。人の褌で、正々堂々と相撲が取れる人になってください。言葉を変えれば、相手が大切な褌を貸してもいいと思えるくらい信用される人になってください。そのためには、皆さんは何を磨くべきでしょうか。来年度の皆さんの課題が見えてきたはずです。

以上(2022年1月)

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画像:Mariko Mitsuda

採用ミスマッチはなぜ発生する? 会社要因、個人要因、思い込み要因の3つに分けて整理しよう

書いてあること

  • 主な読者:採用ミスマッチが増えてきたと感じている経営者
  • 課題:なぜ採用ミスマッチが発生するのかが分からず、具体的な対策が打てない
  • 解決策:採用ミスマッチは「会社側の問題」「求職者側の問題」「会社・求職者双方の誤った思い込み」で発生するので、それぞれに対応する

1 深刻化する採用ミスマッチ

採用ミスマッチとは、

採用時に会社と求職者との間で起こる、働き方やスキルなどに関する認識のズレ

であり、経営者にとっては常識の、古くて新しい問題です。ミスマッチがあると次のような問題が生じます。

  • 期待通りの働きをしてくれない
  • 自社のやり方になじまず、不満ばかり述べている
  • 既存のメンバーとトラブルになることが多い
  • 入社数カ月後に他の会社に転職してしまった

また、採用コストが無駄になるだけではなく、フォローに回る社員は疲弊し、社内の雰囲気も悪くなります。

かつては採用ミスマッチがあっても、求職者のほうが入社後に「何とか新しい会社に適応しよう」と努力する風潮がありました。しかし、ここ10年ほどの傾向を見ると、中途採用・新卒採用を問わず、

会社に無理やり合わせなくても、いざとなれば転職すればいい

と考える人が増え、問題が深刻化しているようです。この記事では、やっかいな採用ミスマッチを防止するため、その原因と対策について簡単に紹介します。

2 会社要因(会社側の問題)による採用ミスマッチ

1)就業環境が劣悪である

求職者がミスマッチを感じる原因として一番多いのは、業務や人間関係などを含む就業環境に関する問題です。具体的には、「業務が多忙・過酷すぎる、または暇すぎる」「職場が殺伐としている、パワハラ気質がある」「職場内のコミュニケーションが希薄すぎる、またはウエットすぎる」「管理職個人と相性が悪い」などが挙げられます。

2)受け入れ準備が不足している

求職者は、入社に必要なスキルは兼ね備えていても、新しい会社の業務ルール、利用するツール、承認フローなどは知りません。また、社内の関係もゼロから構築していく必要があり、入社時に負担になります。よって、順調に仕事を進めていくために必要なルールを教える場(研修など)や社内の他メンバーとコミュニケーションを取る機会などがない場合、ミスマッチの原因になります。

3)採用担当者のマインドセットに問題がある

採用活動の本来の目的は、「自社にとって魅力的な求職者」に自社を選んでもらうこと、会社と求職者の相性を確認することです。しかし、採用担当者の「入社してもらいたい」「採用してやる」という意識が強すぎると、求職者のニーズや会社との相性の確認がおろそかになる恐れがあります。

3 個人要因(求職者側の問題)による採用ミスマッチ

1)求職者のマインドセットに問題がある

「過去へのこだわりが強い」「プライドが高い」など、求職者のマインドセットに問題があると、入社後に会社と価値観が合わなくなる恐れがあります。

2)性格傾向が合わない

変化への適応力やストレス耐性が低かったり、問題行動を起こしやすい傾向があったりすると、入社後、業務を十分にこなせなかったり、既存メンバーと衝突したりする恐れがあります。

3)入社前の準備が不足している

自分の仕事と生活スタイルが大きく変化することへの覚悟や、入社後に実現したいことについての自己分析などが足りない求職者は、入社早々に、「この会社は自分に合わない」と判断してしまう恐れがあります。

4)スキルなどが不足している

求職者が「自分は新しい職場で活躍できる」と思っていても、実際はスキルなど(技能、知識、資格、経験など)が会社の求める水準に達していないケースがあります。しかも、こうした求職者は自己評価が高く自信ありげに見えるため、会社もスキルなどの不足に気付かず採用してしまう恐れがあります。

4 思い込み要因(会社・求職者双方の誤った思い込み)による採用ミスマッチ

1)会社側の誤った思い込み

1.会社の「当たり前」は、求職者にとっても「当たり前」に違いない

会社は、企業理念など自社にとっては当たり前の価値観を、「求職者も当然理解してくれるだろう」と思い込んでいることがあります。求職者がその価値観に合っていない場合、入社後、会社になじめなくなる恐れがあります。

2.会社が伝える入社後の業務やキャリアパスなどについての情報は、絶対に正しい

会社は、求職者に業務やキャリアパスなどについての情報を提供しますが、現場への聞き込みや自社の状況分析が足りない場合、情報の不足や誤った情報を提供してしまう恐れがあります。

3.会社は、募集業務に必要なスキルなどを正しく認識している

現場への聞き込みや自社の状況分析が不足しているために、会社が募集業務に必要なスキルなどを過小評価、もしくは過大評価している場合があります。その場合、採用時に求職者のスキルなどを正しく判断できない恐れがあります。

2)求職者側の誤った思い込み

1.自分は、入社後の業務内容や業務の仕方を正しくイメージできている

入社後の業務内容や業務の仕方について、会社から与えられる情報は限定的です。本来は、面接時などに求職者が会社に質問して情報を補完するのですが、あまり質問をせず、分からない部分の情報を分からないまま放っておく求職者もいます。また、想像で補える求職者の場合、精度が高ければ問題ありませんが、実際は、企業側が考える以上に「現実とは全く異なる環境をイメージしている」ケースが少なくありません。

2.会社ウェブサイトなどを見れば、会社の雰囲気が分かる

会社ウェブサイトなどに業務風景や社員インタビューが掲載されている場合、そこから会社の雰囲気をある程度読み取れます。しかし、会社も自社を良く見せようと演出するので、そこで会社と求職者の認識のズレが生じる恐れがあります。

5 3ステップの採用ミスマッチ対策

採用ミスマッチを減らすためには、会社要因、個人要因、思い込み要因をそれぞれなくしていく必要があります。ここでは、個人要因と思い込み要因に注目します。会社要因については、社内アンケートや管理職へのヒアリングなどを通して、就業環境や受け入れ体制の問題点を洗い出し、取り組めるものから改善に着手するというのが基本的なアプローチになりますが、詳細は割愛します。

個人要因と思い込み要因をなくすためのポイントは次の通りです。

  • 求職者による個人要因をなくすには、履歴書・職務経歴書で想定し、面接で確認する
  • 会社・求職者それぞれの思い込み要因をなくすには、応募の段階での思い込みを可能な限り発生させないために、職務記述書(ジョブディスクリプション)に必要な情報を確実に記載した上で、面接で確認する

これらのポイントを踏まえるための具体的なアクションを、3ステップにまとめました。

1)ステップ1:職務記述書の作成

職務記述書とは、職務内容(担当する業務内容やその範囲、難易度、必要なスキルなど)がまとめられた書類です。求職者の思い込み要因を最小化するためには、この職務記述書を作り込む必要があります。

2)ステップ2:履歴書・職務経歴書・エントリーシートの確認

ステップ1の段階で、会社が求めるスキルなどを細かく列挙しておけば、自社が求める人材像について社内での認識を合わせられます。その上で、履歴書や職務経歴書、新卒採用の場合にはエントリーシートなどから、職務記述書と一致するスキルなどを持っているか確認しましょう。

また、短期間での転職を繰り返しているなど、気になる経歴がないかを可能な範囲で探ります。履歴書などの内容を見て、採用担当者自身が「自分であればこのキャリアチェンジをするだろうか」と自問してみましょう。

3)ステップ3:面接の実施

面接時は、職務記述書に沿って求職者への質問を行い、履歴書などに書かれた内容について会社が誤った思い込みをしていないか、入社後の業務の難易度、ハードさなどについて認識にズレがないかなどを確認していきます。

求職者のマインドセット、性格傾向といった履歴書などに表れない部分については、これまでの求職者の経験や、そのエピソードの際に何を考えて行動していたかなどを質問して見極めましょう。人材紹介会社などに事前に話を聞いた上で面接に臨むのも有効です。

なお、1回の面接で確認できることは限られるので、可能であれば面接の機会は複数回設け、それぞれの面接で何を確認するかを絞り込んだ上で、懸念事項を1つずつ潰していくことをお勧めします。

以上(2022年1月)
(執筆 エリクシア代表取締役 医師 産業医 経営学修士(MBA) 上村紀夫)

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画像:metamorworks-Adobe Stock

同一労働同一賃金の対応状況

「パートタイム・有期雇用労働法(以下、同法)」に基づく同一労働同一賃金が、中小企業に対しても適用されましたが、各企業の取組はどの程度まで進んでいるのでしょうか。本稿では、企業が同一労働同一賃金で求められることを簡単にお伝えしながら、その対応状況についての調査結果を概観し、お伝えいたします。

1 企業が求められること

同法では、正社員と非正規雇用労働者(短時間労働者・有期雇用労働者)の間の不合理な待遇差の解消(いわゆる「同一労働同一賃金」)として、以下のことが求められています。

①同じ企業で働く正社員と非正規雇用労働者との間で、基本給や賞与、手当、福利厚生などあらゆる待遇について、不合理な差を設けることが禁止されます。

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※職務内容とは、業務内容+責任の程度をいいます。

②事業主は、非正規雇用労働者から、正社員との待遇の違いやその理由などについて説明を求められた場合は、説明をしなければなりません。

2 各企業の対応状況

独立行政法人 労働政策研究・研修機構が実施した「同一労働同一賃金の対応状況等に関する調査」の結果が、2021年11月に公表されました。以下に、その結果を抜粋してご紹介します。

「同一労働同一賃金ルール」への対応(雇用管理の見直し)状況

「同一労働同一賃金ルール」への対応(雇用管理の見直し)状況

待遇要素毎の具体的な見直し内容
(「必要な見直しを行った・行っている、または検討中」として待遇面の見直しを挙げた企業のうち)

待遇要素毎の具体的な見直し内容

「パートタイム・有期雇用労働者」に対する「正社員(無期雇用フルタイム労働者)」との待遇差や理由にかかる説明状況
~待遇差が「不合理ではない」ことについて

待遇差や理由にかかる説明状況

※すべて『独立行政法人 労働政策・研究機構「同一労働同一賃金の対応状況等に関する調査」結果』より

以上のように、対応が必要なことのうち、不合理な差に対する対応が完了している企業はおよそ5割、待遇差や理由が説明できると回答している企業はおよそ6割であり、それ以外の企業が、対応中あるいは対応が進んでいない状況であることが見て取れます。

3 おわりに

具体的な見直し内容を見るに、取扱いをマイナス方向で検討する事例もありますが、これには不利益変更に該当する要素もあります。いまだ対応方法にお悩みの企業や、取扱い変更時や待遇差の説明について自信を持てない企業は、専門家の助言を受けるなどし、いち早く対応することが望まれます。

※本内容は2021年12月13日時点での内容です

(監修 社会保険労務士法人 中企団総研)

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画像:illust-ac

【朝礼】自分の中に潜む“虎”を飼いならそう

明けましておめでとうございます。今年のえとは「寅(とら)」です。そこで、今日は動物の虎にまつわる話として、中島敦(なかじまあつし)氏の小説「山月記(さんげつき)」を紹介します。

山月記の舞台は、今から約1300年前の中国です。主人公の李徴(りちょう)は大変な秀才で、若くして役人になりますが、とてもプライドが高く、自分よりも能力の低い上司に仕えるのが嫌で、役人を辞めてしまいます。その後、李徴は詩人として身を立てようとしますが、彼の詩は世間から評価されませんでした。生活が苦しくなった李徴は、詩を諦めて再び役人になりますが、かつての同僚が自分より高い地位に就いていることなどに耐えられず、行方をくらましてしまいます。

その1年後、袁慘(えんさん)という李徴のかつての友人が、ある林の中で1匹の虎に出合います。その虎は、行方不明になっていた李徴その人でした。李徴は袁慘の前で、自分が虎になってしまった理由をこう話します。「自分は詩人として身を立てたいと思いながら、誰かに教えを請うたり、友人と競って腕を磨いたりしてこなかった。もしも自分に才能がないと分かってしまったらと思うと怖かったし、一方で、自分は優れているという自負もあったから凡人と交わりたくなかった。この『尊大な羞恥心』が猛獣、つまり虎だったのだ」。最後に李徴は、自分が人の心をなくして完全に虎になる前に林から出ていくよう袁慘に言い、二度とその姿を現さなくなります。

李徴の言う「尊大な羞恥心」、これは何も特別なものではありません。皆さんも「上司や先輩に怒られるのが怖くて、質問できない」「本当は知らないことについて、つい知ったかぶりをしてしまう」「旧来のビジネスの進め方にこだわって、新しい方法を受け入れようとしない」といった経験があるはずです。誰だって自分の無知をさらけ出すのは怖いことです。しかし、知らないことを放置すれば、それ以上の成長はありませんし、事故にもつながりかねません。

ですから今年は、「知らないことは知らないと、はっきり言える環境」をつくっていきましょう。どんな初歩的なことでも分からなければ質問し、質問を受けた人は丁寧に対応してください。これは新入社員や若手だけでなく、上司も含む全社員へのお願いです。私も含め、誰一人完璧な人間はいません。入社時期や役職に関係なく、全員が全員の無知を受け入れられるようになりましょう。

ただし、注意してほしいことがあります。それは「羞恥心を忘れない」こと。よく同じ質問を何度も繰り返す人がいますが、そうした人は「分からなければ、また質問すればいい」と軽く考え、相手の言ったことを理解する努力をしていない場合があります。羞恥心のせいで行動できないのは問題ですが、知らないことを恥と思う感覚をなくしたら、人は成長しません。皆さんの中に潜む羞恥心という“虎”は、退治すべき存在ではなく、上手に飼いならしていくべきものなのです。

以上(2022年1月)

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画像:Mariko Mitsuda

【朝礼】任せる責任、任される責任

日ごろから私は皆さんに、「次工程はお客様」ということを繰り返し伝えています。仕事は1人で進めるものではありません。たとえ社内であっても、次工程を担当する人が進めやすいように考えて仕事をしてください。アウトプットの方法もしかり、スケジュールもしかりです。

「次工程はお客様」とは、つまり、「次工程も自分事として考える」、ひいては「一連の仕事全体を自分事として考える」ということに他なりません。皆さんはこのことを、本当に理解できているでしょうか。残念ながら私にはそうは思えません。「次工程に移ったら自分はもう関係ない」と考えている人が多いように感じます。

例えば、自分の担当分が終わり、次工程を担当する人に仕事を任せた後、皆さんはどうしていますか。スケジュール通りに進んでいるか把握しようとしていますか。困ったことが起きてはいないかどうか、確認しているでしょうか。

スケジュール通りに進まなかったときやトラブルが発生したときなどに、皆さんは「私はちゃんとやりました」と言うことがあります。それに対して次工程がうまく進められていないことを把握していたか尋ねると、「確認していません」「それは次の担当に任せています」と答えたりしますが、それでは「ちゃんとやった」ことにはなりません。仕事は、誰かに任せたらそれで終わりではありません。任せる側には、任せた後の進捗を確認し、完了まで見届ける責任があるのです。

一方、任される側にも、同じだけ責任があります。任される側の責任は、第一に任された仕事をしっかり進めることですが、それだけではありません。予定通り進捗しているかどうか、問題が発生していないかどうかなどを、自分のほうから任せてくれた人に報告や相談をし、知らせる責任があるのです。

また、任されることがあらかじめ分かっているのなら、「自分は次工程だから」と黙って待っているだけでは問題です。前の工程がうまく進められているかどうか、もしそうではないなら手伝えることはないか、先に調整しておける部分はないかを確認しなければなりません。ただ待つのではなく、仕事を任されるために必要な準備をするのも、任される側の責任です。

このように、仕事は、任せる側にも任される側にも責任があります。どちらも重要な責任です。両方がそれを果たして初めて、仕事が完了するということを肝に銘じてください。

皆さんは日々、任せる側と任される側、どちらの立場にも立つでしょう。大切なのは、どちらの立場であっても「声を出すこと」です。両方が声を出し、状況を知らせたり確認し合ったりしていれば、仕事は回っていくはずです。

仕事ではチームワークが大切です。チームワークは、任せる側と任される側のそれぞれが、まず自分の責任を果たした上に成り立つものだということを忘れてはならないのです。

以上(2022年1月)

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画像:Mariko Mitsuda

【管理会計】月次決算のデータを分析するにはどうしたらよい?

書いてあること

  • 主な読者:感覚だけではなく、定量的な基準や根拠を持ってビジネスの判断をしたい人
  • 課題:数字の良し悪しを判断するための基準が分からない
  • 解決策:当月を把握した後、前年同月や計画と比較する。数値の整理に終わらず、そうした結果になった理由や状況の継続性まで突っ込む。必要に応じて他部門とも連携する

1 質問:売上高1億円は好調ですか、不調ですか?

皆さんは、初めて会社の売上高を聞くことになりました。そのとき、次のような報告を受けました。しかし、この報告では業績が良いのか悪いのか分かりません。

今月は売上高が1億円です。

では、ここにどういった情報が加われば業績が判断できるようになるでしょうか。答えはいろいろありますが、この記事で紹介するのは、

シンプルで、とても分かりやすい「比較分析」

です。比較を加えると、前述の報告は、

今月の売上高は1億円で、前年同月比では1000万円の増加、予算比では500万円の増加です

といったようになります。とても分かりやすいですよね。

当期実績と比較するのは「前期実績」と「予算」の2つですが、今回は比較対象を前期実績として説明していきます。ここから明らかになるのは、

今年度のトレンド(売上は増加傾向なのか減少傾向なのかなど)はどうか?

です。

2 比較分析をする損益計算書

では、早速、比較の効果を確認しましょう。次の月次決算の損益計算書では、当期の損益計算書の左側に前期の数字、右側に当期と前期の比較差異を並べています。増減は、増減金額と比率(増減金額÷前期金額)の増減を表示しています。

この損益計算書を読み進める前に、

どんな特徴がありそうか? 自分なりの仮説

を立ててみてください。

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3 当期の状況把握をして比較し、差異の理由を探る

1)当期の状況把握

分析というと、前期との変化に目がいきたくなりますが、ここは焦らず、まずは当期実績を把握しましょう。損益計算書では、会社が行う通常の取引活動(本業)と臨時・特別な取引活動(本業以外)とが分けて表示されており、それぞれ段階ごとに5つの利益が算出されます。この点を意識して損益計算書を見ると、数値への理解がより深まっていきます。

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まず、当期純利益を見れば当期が黒字であることが分かります。また、どこに注目するかは会社のステージや立場によりますが、本業が好調か否かを見るには営業利益を確認します。1つ前の段階である売上総利益は4022万円(売上比40%)で、そこから人件費などの「販売費および一般管理費」(以下「販管費」)を差し引いた営業利益は122万円(売上比1%)でした。この会社の特徴として、売上総利益が高い一方で、販管費が重そうだということが分かります。

2)前期との比較差異をする

次に当期前期金額の比較をします。これにより、次のことが分かりました。

  • 売上高は増減なし
  • 売上原価率が3ポイント良化した
  • 売上原価率の改善で、売上総利益が増加した
  • 広告宣伝費の増加で販管費が2ポイント悪化した
  • 販管費の悪化を売上原価率の良化がカバーし、営業利益は増加した
  • 特別損益の発生はない

ここまでは、単なる数字の読み上げです。比較差異で大切なのは、

なぜ、そうなったのか。また、その傾向は続くのか(続けるのか)?

といったところまで踏み込むことです。例えば、

  • 売上高の増減はないが、販売先や商品の内訳に変化はないのか
  • 売上原価率が良化しているが、原価率が良化した要因は何か、それは続くのか
  • 広告宣伝費が増えているが、その効果はどうなのか

といった具合です。まとめると、次のようになります。

  • 結果としての金額の差異も重要だが、そこに至った背景を調べる
  • 調べやすい勘定科目の調査から始め、より詳細な部分まで手を抜かずに突っ込む

4 差異を調べる仕組みを作る

数値は会計システムで簡単に確認できるはずですが、経営者が重視する勘定科目については、別に明細を作成しましょう。今回、売上総利益と広告宣伝費に差異があったので、この2つを調べる仕組みをご紹介します。

1)売上総利益の明細例

売上総利益は原価と裏返しですから、その両方が分かるようにします。複数の商品やサービスを取り扱っている場合、商品を種類別に整理することで、商品ごとの状況が分かりやすくなります。

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2)広告宣伝費の明細例

広告費についても、複数の媒体を利用している場合は、補助科目を使って個別の状況が分かるようにします。これにより、

広告ごとの費用の状況は把握できますが、この情報だけでは不十分

です。ここからは営業やマーケティング部門との連携が必要ですが、それぞれの広告の成果まで把握すれば、次月からどの広告にいくら投下するかも判断できるようになります。

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以上(2022年1月)
(執筆 管理会計ラボ株式会社 取締役・公認会計士 福原俊)

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画像:apinan-Adobe Stock

清水エスパルスの経営はプロ野球より難しい/千葉ロッテを黒字転換させた前球団社長の組織再建術(特別編)

書いてあること

  • 主な読者:会社の再建を成功させたい経営者
  • 課題:資金も戦力もないところから、どのように立て直せばよいのか分からない
  • 解決策:社内で人材が不足している分野は、副業人材の新たな採用や社外との提携など、外部の力を積極的に活用する

この記事は、千葉ロッテマリーンズ(以下「千葉ロッテ」)の前球団社長・山室晋也氏へのインタビューの「特別編」です(本編は下記)。2019年末に千葉ロッテの社長から「フリーエージェント宣言」して退任し、2020年1月にJリーグの清水エスパルス(運営会社はエスパルス)の社長に就任した山室氏の、新天地での状況をお伺いしています。経営者の皆さまの会社再建、組織再建の参考になれば幸いです。

1 「降格」があるJリーグでは、チーム力と収益力を同時に強化する必要がある

2019年11月に千葉ロッテをフリーエージェント(以下「FA」)宣言して退任することを発表したときは、「FA」の文字通り、転身先が決まっていませんでした。FA宣言後、さまざまな会社からオファーをいただいた中で、一番自分を評価していただいたJリーグ(日本プロサッカーリーグ)所属の清水エスパルスに行くことを、ほぼ即決しました。

とはいえ、千葉ロッテより清水エスパルスの経営のほうが楽だと思ったわけではなく、むしろその逆です。千葉ロッテの社長に就任したときもそうですが、私は昔から「火中の栗を拾う」という性分なのだと思います。

1)清水エスパルスで利益を出すことは目指せない

プロ野球とJリーグの経営は、いずれもスポーツ・エンターテインメントビジネスですが、最も大きな、そして決定的な違いは、Jリーグにはシーズンの戦績によって下部リーグへの「降格」があることです。千葉ロッテでは、チーム力の強化の前に、まずは収益力という経営面の強化を優先して取り組むことができました。ですが、清水エスパルスでは、「下位でもいいや」ということが許されません。

降格してJ2になってしまうと、収入は大幅に減少することになり、前提となる経営環境が変わってしまいます。「収益力を上げることを優先して、J2(2部リーグ)、J3(3部リーグ)に降格しました」は、戦略としてあり得ません。チーム力と経営面の強化の両にらみで進めていかないといけないという制約があるわけです。これは正直、きついです。

ですから、Jリーグの場合、常に優勝争いをしているくらいでないと利益が出ない体質といえます。これは欧州のトップリーグでも同じだと思います。欧州のサッカーチームのオーナーがよく変わるのは、会社組織としては全然もうからず、「サッカーチームを保有している」という、オーナーの満足感でチームが維持されている側面があるからだと思います。一方、米国のメジャーリーグなどでは、球団自体にバリューが付いて転売したりもできています。

これはサッカー特有のビジネスモデルだと思いますので、私も清水エスパルスで利益を出そうとは思っていません。

2)目標はチームの強化とファン層の拡大

清水エスパルスでの目標は、チームを強くすることと、ファン層を拡大することです。

清水エスパルスというチームは、過去には天皇杯(天皇杯JFA全日本サッカー選手権大会)での優勝(2001年)や、Jリーグでのステージ優勝(1999年第2ステージ)の経験もあり、1993年のJリーグスタート時に参加した10チーム「オリジナル10(テン)」に入っている名門チームです。

ところが、2000年代に入ってからは下位に低迷することが増えていますので、ある程度の強さをしっかりと示さないといけないフェーズにあると思います。

チームを強くしないといけない最大の理由は、ファン層を拡大させるためです。清水エスパルスの一番の課題は、若年層のファンの獲得です。本来、チームが永続していくには、常に新たなファンを獲得していく必要があります。ところが、清水エスパルスではファンの平均年齢が毎年上がっています。

ファンの高齢化は野球チームでも同じような傾向があるのですが、特に清水エスパルスの場合は顕著に見られ、10代、20代の新規加入がものすごく少なくなっています。その理由としては、静岡という“地方”が本拠地であることと、オリジナル10としてものすごく輝いていた20~30年前のファン層が今でもメインになっているという、2つの要素があると思います。

清水エスパルスのファンは、従来は旧清水市、今は旧清水市を含む静岡市全体が中心となっていますが、マーケットとしては静岡県全域をカバーしたいと考えています。それくらいの商圏がないと、チームを運営するのはなかなか難しいと思います。静岡県内には他の人気チームもありますので簡単ではありませんが、ファンの獲得に取り組んでいかなければいけないと思っています。

3)お金を掛けても結果が伴わないスポーツの難しさ

チーム力強化のために、2021年のシーズンが始まる前は、日本代表のゴールキーパーを1年間の期限付き移籍で獲得するなどして、メディアで随分と選手を補強したと言われました。ですが、なるべく移籍金の掛からない選手を獲得しており、実はそんなにお金を掛けていません。予算としては、前年よりも若干は増えていますが、そこまで大幅に増えたわけではないです。

実際には、メディア戦略によって大型補強に見せたという面があります。従来は選手を獲得した場合、一度に発表していたものを、日にちをずらして発表するようにしました。しかも、最初に臆測記事が流れるように仕向けて、正式に発表をして、記者会見を行うという、「一粒で3回おいしい」形にしました。1人の選手の加入につき3回の山を作ることで、ファンの期待感をあおることも狙ったのです。

2021年はACL(AFCチャンピオンズリーグ)の出場権が得られるような、Jリーグで3位以内(2020年は16位)とか、天皇杯のタイトルとかの争いに絡むことができると思っていました。もちろん私の立場としては、常に優勝を狙うことは言い続けなければいけないポジションではありますが。

実はシーズン開幕前の補強ではあまりお金を掛けませんでしたが、シーズン半ばの2021年夏には、本当にお金を掛けて補強しました。それにはお金が必要ですので、スポンサー企業からの支援のめどがついた段階で新たな選手を獲得しました。

最終節にJ1への残留が決まった2021年の結果(Jリーグ14位)については、やはりスポーツはお金を掛けて良い選手や監督を集めたから勝てるという簡単なものではないということですし、歯車がうまく回らなかったのだと思います。ここ数年の低迷から脱却すべく、強い決意のもと臨みましたが、皆様のご期待を大きく裏切る結果となってしまったことを、清水エスパルスを応援してくださる全ての皆さまに深くお詫び申し上げます。2022年も、J1の舞台で戦うことができます。クラブ創設30周年を迎えるシーズンだからこそ、クラブの歴史の重みを噛み締めつつ、もう一度原点に立ち返り、強い清水エスパルスの再建を目指していきます。

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2 組織再建のために外部の力を積極的に活用

1)グッズ販売店の閉鎖などで1億円以上のコストを削減

社長に就任した2020年は、チームのスローガンを「RE-FRAME」とし、ゼロベースから改革に取り組むことにしました。多くの社員が新たなチャレンジに期待してくれ、さまざまな要望を聞くことができました。

組織を再建するための基本的な考え方は千葉ロッテ時代と変えていませんが、清水エスパルスの場合、ここ20年間ほどいろいろなものが昔のままで見直されていなかったので、アップデートする必要がありました。

例えば、グッズ販売店を6店舗運営していたのですが、分析したところ全店舗が赤字でした。そこで、2020年9月に5店舗を閉鎖し、1店舗のみに集約しました。また、毎月発行していたオフィシャルマガジンを2021年3月号より、従来の紙媒体からデジタルブックに改めました。こうした取り組みによって年間1億円以上のコスト削減ができ、新たな投資に振り向けられるようになりました。ただし、経営課題としてコストの削減を優先していたわけではなく、これまでのやり方を見直し、無駄な部分をなくした結果、ということです。

2)グッズ改革のために外部とパートナーシップ契約

グッズ販売店の問題もありましたが、グッズの改革は、清水エスパルスにとって大きな課題でした。さらに、コロナ禍によって観客数が制限されたことで、チケット収入だけには頼れなくなり、改革の重要性はさらに高まりました。

そこで、2020年12月に、プロスポーツのグッズの企画製造販売を行っている米国のファナティクスの日本法人との間で10年間の戦略的マーチャンダイジングパートナーシップ契約を結びました。同社は米国のメジャーリーグやアメリカンフットボール(NFL)およびバスケットボール(NBA)といったリーグの他、欧州のマンチェスター・ユナイテッドFCやパリ・サンジェルマンFCといったクラブチームとも提携している企業です。日本では2019年以降に複数のプロ野球チームが契約していますが、Jリーグのチームでは初めてのパートナーシップ契約でした。

スポーツチームのグッズ販売というのは、実はそんなにもうかっていないことが多いです。なぜかと言うと、表向きの利益は出ますが、最後に在庫管理の部分で大きなロスが出てしまうのです。特にサッカーの場合は毎年ユニホームが変わりますから、古くなると売れなくなってしまいます。在庫管理を上手に行わないと利益がほとんど残らなくなってしまうのですが、その辺りのオペレーションはものすごく難しいです。商品企画や品質管理も行わなければなりませんが、スポーツクラブには専門のプロもいませんし、販売促進をやるにもかなりのリソースが必要になります。そこで、そういったことに長けている外部と提携したほうがいいと考え、ファナティクスとの契約を締結しました。

2021年からファナティクスにグッズの企画製造とオンラインストアも含めた店舗運営を任せることで、新たな施策もできるようになりました。サッカーの試合で最も活躍した選手が「MAN OF THE MATCH」に選ばれるのですが、ホームゲームで勝利した後に、MAN OF THE MATCHに選ばれた選手のTシャツやフェイスタオルといったグッズを期間限定、数量限定で販売する企画を2021年3月から開始しました。勝利の熱気が冷めないうちにファンの購買意欲を満たす「ホットマーケット」を狙ったもので、ECサイトからの購入者には最速2日で届くようにしました。

3)IT活用の強化のためにデジタル人材を副業で雇用

コロナの影響もあり、プロスポーツビジネスの世界でもITの活用、DXが求められています。SNSを活用したファン層の拡大は、千葉ロッテでも取り組みました。清水エスパルスはかなり出遅れたというほどではありませんが、やはりキャッチアップしていく必要があると思います。

ITの活用は今後強化していく課題ですが、デジタルマーケティングやITの分野に詳しい人材が、社内には決定的に不足していました。エスパルスの正社員は三十数人の規模ですので、その中にITやグッズに詳しい人までそろえるのは難しいです。専門人材は外部に任せるということが必要になっています。

そこで、2020年12月に、副業という形でマーケティングとデータマネジメント業務の人材募集を行い、2021年4月にヤフージャパンのデータコラボレーション部の部長を副業人材として採用しました。デジタル関連の人材は首都圏に集中しており、採用までの時間と静岡までの距離をクリアするためには、副業という形で人材を募集したほうがよいと考えました。千葉ロッテでは内部人材の活用を重視しましたが、組織再建のための考え方を変えたわけではなく、コロナ禍や働き方改革といった時代の流れもありますので、そのときに最も適したやり方を選択した結果だと思っています。

3 ファンサービスとユーモアを大事にする“山室流”は変わらず

コロナ禍で思うようにはできていませんが、ファンサービスのための新しいアイデアは、清水エスパルスでも積極的に取り入れています。

2020年4月のエイプリルフールには、社員からの発案で、私が社長を退任し、用具担当(業務委託契約)として出直すことにしたというニュースリリースを発表しました。実際にボールを運んだりスパイクシューズを磨いたりする姿をSNS動画にも投稿しました。コロナ禍の厳しい時期で批判が寄せられることへの懸念はありましたが、社員には「とにかく話題になるようなことをSNSで発信しよう」と言っていたこともあり、快諾しました。

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この他にも、ホームゲームで、過去に清水エスパルスに在籍した47人のブラジル選手の顔を配置したTシャツをプレゼントした「ブラジルデー」や、地元の「清水港マグロまつり」と連動した「まぐろDAY」といったイベントを開催しました。コロナの影響で実現しなかった、ブラジルのサンバチームによるダンスやマグロの解体ショーなどは、2022年以降にできればよいと思っています。

【参考文献】
「経営の正解はすべて社員が知っている」(山室晋也、ポプラ社、2021年2月)

山室晋也(やまむろ しんや)
1960年1月25日、三重県生まれ。エスパルス代表取締役社長。
1982年に立教大学経済学部卒業後、大手銀行に入行。4店の支店長を経て、2011年4月から執行役員。2013年4月、銀行子会社の代表取締役社長に就任。
2013年11月に千葉ロッテマリーンズ顧問に就任し、2014年1月から取締役社長。2019年12月、退任。
2020年1月、清水エスパルスを運営するエスパルス代表取締役社長に就任し、現在に至る。
著書に「経営の正解はすべて社員が知っている」(ポプラ社、2021年2月)。

以上(2022年1月)

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画像:S-PULSE