【チェックリスト付き】社員が定年退職したときに必要な労務と税務の手続き

書いてあること

  • 主な読者:定年退職する社員がいる中小企業の労務担当者、経理(税務)担当者
  • 課題:会社が行う手続きと、社員が行う手続きとがあるので、抜け漏れなく進めたい
  • 解決策:会社用と社員用の手続きチェックリストを作り、相互に確認しながら進める

1 定年退職する社員に関する労務と税務の手続き一覧

社員が定年退職した場合、しなければならない労務と税務の手続きがたくさんあります。しかし、中小企業の場合、毎年定年退職者が出るわけではないので、抜け漏れが生じがちです。そこで、次のようなチェックリストを作ってしっかりと対応したいものです。

画像1

画像2

労務や税務の知識がある方は、このリストを確認用として使っていただければ大丈夫です。一方、手続きの内容などを改めて確認したい方は、この後の説明をお読みください。各手続きの後ろにある(会社)や(社員)は、手続きをする主体を示しています。

2 労務の手続き:社会保険(健康保険・厚生年金保険)

社会保険は、定年退職後の社員の働き方に応じて、必要な手続きが次のように異なります。

  • 定年退職後、再雇用され、社会保険の被保険者要件を満たす場合:1)、2)、3)
  • 定年退職後、再雇用され、社会保険の被保険者要件を満たさない場合:1)、2)、4)
  • 定年退職後、再雇用されない場合:1)、2)、4)

1)保険証の回収(会社)

会社は、社員の退職時に、社員とその被扶養者の保険証(健康保険被保険者証)を回収します。 万が一、社員などが保険証を紛失していたら、回収不能届(健康保険被保険者証回収不能届)を作成し、紛失した旨を記載します。

2)資格喪失届と保険証の提出(会社)

会社は、社員が退職した日の翌日から5日以内に、資格喪失届(健康保険・厚生年金保険被保険者資格喪失届)と保険証(紛失した場合は回収不能届)を、所轄年金事務所に提出します。手続きが終わると、年金事務所から資格喪失の通知が会社に送られてくるので、退職日から2年間、会社が保管します。

なお、会社が資格喪失届と保険証の提出を怠ったり虚偽の届け出をしたりした場合、6カ月以下の懲役または50万円以下の罰金が、会社に科せられます。

3)再雇用時の資格取得届の提出(会社)

定年退職と同時に再雇用された社員が、社会保険の被保険者要件を満たし、かつ再雇用後の給与が大幅に下がる場合、「同日得喪」の手続きを行うことで、再雇用された月から標準報酬月額を変更できます。

同日得喪を行う場合、会社は、社員が退職した日の翌日から5日以内に、資格喪失届、保険証と併せて資格取得届(健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届)を、所轄年金事務所に提出します。被扶養者がいる場合、被扶養者(異動)届(健康保険被扶養者(異動)届)も一緒に提出します。手続きが終わると、年金事務所から資格取得の通知と新しい保険証が会社に送られてきます。資格取得の通知は、再雇用後の労働契約が更新されず終了する日から2年間、会社が保管し、新しい保険証は社員に交付します。

なお、会社が資格取得届の提出を怠ったり虚偽の届け出をしたりした場合、6カ月以下の懲役または50万円以下の罰金が、会社に科せられます。

4)公的医療保険に加入(社員)

社員は、退職した後も所定の期日までに、健康保険などの公的医療保険に必ず加入しなければなりません。公的医療保険については、再就職先で健康保険に加入する場合を除くと次のような選択肢があり、それぞれ加入などに必要な手続きなどが異なります。

画像3

3 労務の手続き:雇用保険

雇用保険は、定年退職後の社員の働き方に応じて、必要な手続きが次のように異なります。

  • 定年退職後、再雇用され、雇用保険の被保険者要件を満たす場合:手続きは原則不要
  • 定年退職後、再雇用され、雇用保険の被保険者要件を満たさない場合:1)、2)、3)
  • 定年退職後、再雇用されない場合:1)、2)、3)

1)離職証明書の作成(会社)

会社は、社員の退職時に、離職証明書(雇用保険被保険者離職証明書)を作成します。離職証明書は、退職した社員が離職票をもらうために必要な書類で、社員が59歳以上の場合、作成は義務です。離職証明書を作成したら、社員に離職理由に異議がないことなどを証明するための署名をしてもらいます。

2)資格喪失届と離職証明書の提出(会社)

会社は、社員が退職した日の翌日から10日以内に、資格喪失届(雇用保険被保険者資格喪失届)と離職証明書を所轄ハローワークに提出します。手続きが終わると、ハローワークから「資格喪失の通知(会社と社員の控え)」「離職証明書(会社の控え)、離職票」が送られてきます。資格喪失の通知(会社の控え)と離職証明書(会社の控え)は、退職日から4年間、会社が保管します。資格喪失の通知(社員の控え)と離職票は、到着後、速やかに社員に送付します。

なお、会社が資格喪失届と離職証明書の提出を怠ったり虚偽の届け出をしたりした場合、またはこれらの書類を社員に送付しない場合、6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金が、会社に科せられます。

3)雇用保険の求職者給付の受給手続き(社員)

社員が再就職を希望する場合、住所地を管轄するハローワークで手続きをすることで、求職活動中、雇用保険の求職者給付が受けられます。退職時の年齢が65歳未満か否かによって給付の種類が次のように異なります。

画像4

4 税務の手続き

1)退職所得の受給に関する申告書の提出(社員)

退職金を受け取る社員は、退職金の支払いを受ける日までに、「退職所得の受給に関する申告書」(以下「申告書」)を会社に提出します。

2)退職する社員の所得税の計算(会社)

会社は、申告書を受領後、原則として次の算式で計算した金額(課税退職所得金額)を基に所得税を計算します。

課税退職所得金額=(退職手当等の額-退職所得控除額)×1/2

なお、税制改正により、勤続年数が5年以下である社員に300万円を超える退職金を支給する場合、その300万円を超える部分については上記算式の「1/2」を適用することができなくなるので注意が必要です(2022年1月1日以降に支給する退職金から適用されます)。

退職手当等の額から控除できる退職所得控除額は、原則として次の通りです。

画像5

社員が申告書を提出しない場合、会社は、退職金の金額に対して20.42%の税率で源泉徴収をしなければなりません。この場合、当然ながら、社員は退職金の支給時に退職所得控除などを受けられないため、社員が自分で確定申告することによって精算する必要があります。

3)住民税未納分の支払い(会社)

在職中、住民税は給与から特別徴収されていますが、社員が退職した場合、退職の時期によって処理の方法が違います。住民税には普通徴収と特別徴収があり、その概要は次の通りです。なお、会社勤めの場合は、原則、特別徴収となります。

  • 普通徴収:納税者本人が、市区町村に住民税を納めること
  • 特別徴収:会社が給与から住民税を天引きし、市区町村に住民税を納めること

では、社員が退職する時期に応じた住民税の処理を説明します。

1.1月1日から4月30日までに退職する場合

この場合、会社が退職月から5月分までの住民税を一括で、最後の給与または退職金から天引きし、市区町村に一括で納めます(一括徴収)。なお、給与または退職金から、住民税が多すぎて控除しきれなかった場合は、その金額については社員自身が普通徴収で市区町村に納めることになるため、本人に知らせる必要があります。

2.5月1日から5月31日までに退職する場合

この場合は、通常通り、5月分の給与から住民税を天引きし、市区町村に納めます。

3.6月1日から12月31日までに退職する場合

この場合は、退職月から翌5月分までの住民税は、退職した社員がすぐに再就職する場合を除き、次のいずれかの方法で手続きします。

  • 会社が、最後の給与または退職金から一括で天引きして市区町村に納める
  • 退職時に普通徴収に切り替えて、退職する社員が市区町村に納める方法

4)退職所得の源泉徴収票と給与所得の源泉徴収票の作成(会社)

会社は、社員が退職後1カ月以内に、退職所得の源泉徴収票と給与所得の源泉徴収票を作成して、社員に交付します。なお、退職するのが役員の場合には、役員に交付するのに加えて、税務署と退職する役員が住む市区町村に退職所得の源泉徴収票を提出(原則退職後1カ月以内)しなければなりません。

また、会社が退職所得の源泉徴収票や給与所得の源泉徴収票を退職した社員に交付しない場合、1年以下の懲役または50万円以下の罰金が、会社に科せられます。

以上(2021年12月)
(監修 社会保険労務士法人AKJパートナーズ 特定社会保険労務士 諸富一子)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 税理士 森浩之)

pj30052
画像:Dmytro Zinkevych-shutterstock

不正競争防止法/知的財産権をビジネスで活用する(5)

前回まで、特許権意匠権商標権著作権などの知的財産を保護する権利を紹介してきました。それぞれの権利は特許法などの法律によって保護されていますが、この他にも知的財産を保護する法律があります。それが、営業上の利益を侵害する行為を禁止している「不正競争防止法」です。

1 不正競争防止法とは

不正競争防止法は、不正競争行為としてさまざまな営業上の利益を侵害する行為を規制し、公正なビジネス上の競争を確保することを目的としています。禁止されている不正競争行為には、

商標を侵害するなど、知的財産に対するさまざまな侵害行為が含まれる

のが特徴です。不正競争行為の詳細は、後述する「3 不正競争行為の内容」で紹介しています。
不正競争防止法は、特許権や商標権などとは異なり、特許庁などへの出願や登録などは不要です。また、「登録から○年」「創作してから○年」のように、保護期間の定めはありません

不正競争行為によって、営業上の利益を侵害されたり、その恐れのある者は、侵害する(恐れのある)者に対して、差止請求権などを行使することができます。また、不正競争行為の一部は、懲役または罰金といった刑事罰が科せられる他、業務上の行為の場合は、侵害した者が所属する法人にも罰金が科せられることがあります。

2 不正競争防止法の活用で注意すべきこと

1)保護を受けるハードルは高い

出願や登録が不要で、不正競争防止法でさまざまな知的財産が保護されるなら、「わざわざ特許権や商標権などを取得する必要がないのでは?」と思われるかもしれません。
しかし、もし自社の知的財産などを侵害されて、相手を不正競争行為で訴えようと思っても、簡単に訴えが認められるわけではありません。不正競争防止法による保護は、特許権や商標権などの各種知的財産権による保護に比べて効力は弱いという点を認識しておきましょう。

例えば、ある技術を他社に侵害された場合、特許権であれば侵害を明確に示すことができます。一方、不正競争行為を主張する場合、その技術が「営業秘密」として管理されていることが求められます。営業秘密は、法律上のルールに基づいた適切な管理が必要で、ルールを守っていなければ営業秘密として認められません。

また、商標の場合、不正競争防止法の保護を受けるためには、需要者によく知られた商標でなければいけません。規模の小さい企業や創業間もない企業にとっては、ハードルが高い要件です。加えて、特許法や商標法などでは知的財産権(特許権や商標権)が侵害された場合、「侵害者に過失があったもの」と推定されます。しかし、不正競争防止法では、侵害を受けた者が侵害者に故意または過失があったことを立証しなければなりません

2)広く情報を知られたくない場合などには有効

各種知的財産権による保護に比べて効力は弱いといっても、知的財産の中には、不正競争防止法による保護が適しているものもあります。例えば、広く情報を知られたくない場合です。特許出願を行った場合、発明の内容が公開されるため、多くの人に発明が知られてしまいます。また、特許期間が過ぎれば、その発明などは原則、誰でも自由に使うことができます。
そのため、発明の内容を知られたくないものや長期にわたって保護したいもの、また、他者から模倣された場合にその事実が判明しにくいものなどは、営業秘密として不正競争防止法の保護を受けるほうが適しています。詳細については弁理士や弁護士などの専門家に相談し、自社に適した戦略を検討しましょう。

メールマガジンの登録ページです

3 不正競争行為の内容

不正競争行為の類型と、それぞれの行為に関係する知的財産は次の通りです(知的財産がひも付いていない不正競争行為もあります)。

1)周知表示混同惹起(じゃっき)行為→意匠、商標
2)著名表示冒用行為→意匠、商標
3)形態模倣商品の提供行為→意匠
4)営業秘密の侵害→発明
5)限定提供データの不正取得等
6)技術的制限手段無効化装置等の提供行為→著作物
7)ドメイン名の不正取得等の行為→商標
8)誤認惹起行為→商標
9)信用毀損行為
10)代理人等の商標冒用行為→商標

以降では、経済産業省「不正競争防止法テキスト」に基づいて、具体例を挙げて、各定義に含まれる行為の詳細について紹介します。

1)周知表示混同惹起行為

周知表示混同惹起行為とは、他人の商品・営業の表示(以下「商品等表示」)として需要者の間に周知されているものと同一、または類似の表示を使用し、他人の商品・営業と混同を生じさせる行為のことです。
周知の定義は次の通りです。

需要者の間に広く認識されていること

ただし、全国的に知られている必要はなく、一地方で知られていれば足りるとされます。商品等表示には、商標や商品の容器・包装等が含まれるため、この規定によって、商標や意匠が保護される場合があります。
周知表示混同惹起行為の事例は次の通りです。

ソニーの有名な表示である「ウォークマン」と同一の表示を看板等に使用したり、「有限会社ウォークマン」という商号として使用したりした業者に対し、その表示の使用禁止および商号の抹消請求が認められた。

2)著名表示冒用行為

著名表示冒用行為とは、他人の商品等表示として著名なものを、自己の商品・営業の表示として使用する行為のことです。
著名の定義は次の通りです。

特定の分野に属する取引者、需要者にとどまらず、特定者を表示するものとして世間一般に知られていること

著名表示冒用行為の事例は次の通りです。

任天堂の「MARIO KART」「マリオ」等と類似する「MariCar」、キャラクターコスチューム等の表示を使用した被告に対して、著名表示冒用行為に当たるとして使用差止等と損害賠償が命じられた。

3)形態模倣商品の提供行為

形態模倣商品の提供行為とは、他人の商品の形態を模倣した商品を譲渡等する行為のことです。商品の形態とは、「需要者が通常の用法に従った使用に際して知覚によって認識することができる商品の外部および内部の形状並びにその形状に結合した模様、色彩、光沢および質感」と定められています。
模倣の定義は次の通りです。

他人の商品の形態に依拠して、これと実質的に同一の形態の商品を作り出すこと

なお、この規定は商品が最初に販売された日から3年を経過した商品には適用されません。商品の形態については、意匠登録によっても保護されますが、販売から3年間はこの規定によって保護を受けることができるため、おもちゃのように多品種少量生産の商品や衣料品のように、商品サイクルが短くて意匠権を取得する時間・費用を捻出することが難しいものに適しています。
形態模倣商品の提供行為の事例は次の通りです。

バンダイが製造・販売するゲーム機「たまごっち」と、類似品「ニュータマゴウオッチ」は両者の形態が実質的に同一であることや、商品名も類似していることから、類似品「ニュータマゴウオッチ」が「たまごっち」の形態を模倣したと判断され、販売差止請求などが認められた。

4)営業秘密の侵害

営業秘密の侵害とは、窃取等の不正の手段によって営業秘密を取得し、自ら使用し、もしくは第三者に開示する行為のことです。
営業秘密の定義は次の通りです。

1.秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の2.事業活動に有用な技術上または営業上の情報であって、3.公然と知られていないもの

営業秘密の3つの要件を示した画像です

企業の研究・開発や営業活動の過程で生み出されたさまざまな営業秘密が、不正使用や不正開示されたりしないように保護しています。
営業秘密の侵害の事例は次の通りです。

投資用マンションの販売業を営む会社の従業員が、退職し独立起業する際に、営業秘密である顧客情報を持ち出し、その情報に記載された顧客に対して連絡するなどした点について、営業秘密を侵害したとして損害賠償請求が認められた。

5)限定提供データの不正取得等

限定提供データの不正取得等とは、窃取などの不正の手段によって限定提供データを取得し、自ら使用もしくは第三者に開示する行為のことです。2018年の改正で新設された不正競争行為です。
限定提供データの定義は次の通りです。

1.業として特定の者に提供する情報として電磁的方法(電子的方法、磁気的方法その他人の知覚によっては認識することができない方法をいう)により、2.相当量蓄積され、3.管理されている技術上または営業上の情報(秘密として管理されているものを除く)

限定提供データの3つの要件を示した画像です

限定提供データは、企業間で複数者に提供や共有されることで、新たな事業の創出につながったり、サービス製品の付加価値を高めたりすることなどが期待されています。例えば、携帯キャリアが、利用者の位置情報を提携先の自治体に提供し、観光施策に役立てるといった利用が想定されています。

6)技術的制限手段無効化装置等の提供行為

技術的制限手段無効化装置等の提供行為とは、技術的制限手段により視聴や記録、複製が制限されているコンテンツの視聴や記録、複製を可能にする(回避する)機器またはプログラムの譲渡などの行為のことです。
技術的制限手段の定義は次の通りです。

音楽・映画・写真・ゲーム等のコンテンツの無断コピーや無断視聴を防止するための技術

技術的制限手段無効化装置等の提供行為の事例は次の通りです。

携帯型ゲーム機「ニンテンドーDS」などを製造・販売する任天堂およびソフトメーカー54社が、インターネットからダウンロードした違法コピーソフトを、ニンテンドーDSで起動させることができる「マジコン」(マジックコンピュータ)と呼ばれる機器を輸入・販売していた事業者に対して、当該機器の輸入・販売の差止と廃棄を請求し、認められた。

7)ドメイン名の不正取得等の行為

ドメイン名の不正取得等の行為とは、図利(とり)加害目的で、他人の特定商品等表示(他人の商品・役務の表示)と同一・類似のドメイン名を使用する権利を取得・保有、またはそのドメイン名を使用する行為のことです。
図利加害目的の定義は次の通りです。

公序良俗に反する態様で、自己または他人の利益を不当に図る目的や、他人に対して財産上の損害、信用の失墜などの有形無形の損害を加える目的

具体的には、取得・保有するドメイン名を不当に高額な値段で転売したり、他人の顧客吸引力を不当に利用して事業を行ったりすることなどが挙げられます。
ドメイン名の不正取得等の行為の事例は次の通りです。

日立マクセルの著名な商品等表示である「maxell」と類似する「maxellgrp.com」というドメイン名を使用し、ウェブサイトを開設して、その経営する飲食店(風俗業)の宣伝を行っていた会社に対し、使用許諾料相当額の損害賠償が命じられた。

8)誤認惹起行為

誤認惹起行為とは、商品・役務やその広告などに、その原産地、品質、内容などについて誤認させるような表示をする行為またはその表示をした商品を譲渡等する行為のことです。
誤認惹起行為の事例は次の通りです。

富山県氷見市内で製造されておらず、その原材料が氷見市内で産出されてもいないうどんに「氷見うどん」などの表示を付して販売する行為は原産地の誤認に該当するとして、損害賠償が命じられた。

9)信用毀損行為

信用毀損行為とは、競争関係にある他人の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知し、または流布する行為を指します。なお、個別具体的な名称を明示しなくても、告知の内容、業界内の情報などから、告知の相手方が「他人」が誰を指すのか理解できれば足りるとされています。
信用毀損行為の事例は次の通りです。

競業者の米国内取引先に権利侵害に関する告知をした特許権者に対し、非侵害が明らかであるとして、虚偽事実の告知・流布の差止と損害賠償請求が認められた。

10)代理人等の商標冒用行為

代理人等の商標冒用行為とは、パリ条約の同盟国などにおいて商標に関する権利を有する者の代理人が、正当な理由なくその商標を使用等する行為のことです。
裁判所のウェブサイト「知的財産裁判例」によると、代理人等の商標冒用行為の事例は次の通りです。

米国の栄養補助食品会社から、マイタケ抽出エキス「D-フラクション」を仕入れて販売していた日本の代理店が、自社商品に「スーパーDフラクション・タブレット」「スーパーDフラクション・エキス」と無断で表示した行為などに対して、損害賠償が命じられた。

以上

(監修 Earth&法律事務所 弁護士 岡部健一)

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2021年12月23日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

※上記内容は、株式会社日本情報マートまたは執筆者が作成したものであり、りそな銀行の見解を示しているものではございません。上記内容に関するお問い合わせなどは、お手数ですが下記の電子メールアドレスあてにご連絡をお願いいたします。

【電子メールでのお問い合わせ先】
inquiry01@jim.jp

(株式会社日本情報マートが、皆様からのお問い合わせを承ります。なお、株式会社日本情報マートの会社概要は、ウェブサイト https://www.jim.jp/company/をご覧ください)

ご回答は平日午前10:00~18:00とさせていただいておりますので、ご了承ください。

【従業員が交通事故!】責任割合はどうなる? ⑤前方車両の急ブレーキ

書いてあること

  • 主な読者:社有車の事故防止に力を入れたい経営者や運行管理責任者ならびに運転者
  • 課題:交通事故の基本的な責任割合や未然防止策を知りたい
  • 解決策:過去の裁判例に基づく基本的な責任割合と場所や状況に応じた事故防止策を理解する

1 事故事例と状況を把握します。

今回の事故状況はこちらです。A(自社の青い車)が、一般道でB(相手方の赤い車)に追突してしまいました。Bが突然急ブレーキをかけて車間距離が一気に詰まってしまったため、Aの停止が間に合わなかったそうです。

画像1

【A車:自社車両 B車:相手方車両】

安全な場所に停止している自動車への追突事故や、法定速度の範囲内で通常の走行をしている自動車への追突事故の場合は、追突された側に過失(不注意やミス)がないため、責任割合はA100%:B0%となることが一般的です。

これは「車両等は、同一の進路を進行している他の車両等の直後を進行するときは、その直前の車両等が急に停止したときにおいてもこれに追突するのを避けることができるため必要な距離を、これから保たなければならない。」(道路交通法26条1項)と定められているためです。

今回のケースでは「後ろから煽られている感じがして、イライラしてブレーキを踏んだ」とBが言っていたそうです。

2 今回の責任割合を、見てみましょう。

1)責任割合の決まり方は?

双方に責任が生じる事故の場合、それぞれの保険会社を窓口として交渉することが一般的です。過去の裁判例の責任割合を参考に、実際の事故状況を踏まえて話し合い、決定していきます。

2)今回の責任割合は?

過去の裁判例より、A(自社の青い車)70%:B(相手方の赤い車)30%が基本の責任割合となります。

Bの急ブレーキの事実に争いがなく、かつ正当な理由もなくブレーキをかけたことが明らかになっている場合の基本の割合です。

前述のとおり、追突された側に過失がない場合の責任割合はA100%:B0% ですが、今回の事故状況における基本の責任割合には、道路交通法で「車両等の運転者は、危険を防止するためやむを得ない場合を除き、その車両を急に停止させ、又はその速度を急激に減ずることとなるような急ブレーキをかけてはならない」(同法24条)と定められていることに基づいて、Bの過失を認めています。

※実際は、それぞれの事故状況に応じて個別に決定されます。そのため、記載の内容とは異なる結果になる場合もあります。

3 今回の事故事例を未然に防ぐポイントとは。

今回は追突事故において、追突をされた側にも責任が問われるケースをご紹介しましたが、追突事故の発生を予防するには、

  • 安全な車間距離を維持する(一般道での安全な車間距離の目安は、例えば時速40キロで走行の場合は25メートル、時速60キロで走行の場合は45メートルと言われています)
  • 渋滞時には前方車だけではなく、2台前の車の動きや横からの車の割り込みなども注視して前方車の動きを予測する

ことが重要です。

その他、ドライブレコーダーを活用した安全運転指導や教育サービス、無料の安全運転セミナーを提供している機関もありますので、それらを利用して自動車事故防止活動をしていくのも良いでしょう。

以上(2021年12月)

sj09023

本記事で紹介している責任割合は、過去の裁判例を参考にした基本的な割合です。実際は、それぞれの事故状況に応じて個別に決定されます。そのため、記載の内容と異なる結果になる場合もあります。

【従業員が交通事故!】責任割合はどうなる? ④信号のある交差点(赤×青)

書いてあること

  • 主な読者:社有車の事故防止に力を入れたい経営者や運行管理責任者ならびに運転者
  • 課題:交通事故の基本的な責任割合や未然防止策を知りたい
  • 解決策:過去の裁判例に基づく基本的な責任割合と場所や状況に応じた事故防止策を理解する

1 事故事例と状況を把握します。

今回の事故状況はこちらです。A(自社の青い車)が、交差点でB(相手方の赤い車)と接触してしまいました。Aは赤信号、Bは青信号だったそうです。

画像1

【A車:自社車両 B車:相手方車両】

今回のポイントは「信号機の色」です。

信号機の色は双方の主張が食い違うことがありますので、周囲の方の目撃情報などの協力を仰ぐことも有効です。

もしドライブレコーダーが搭載されている場合は、事故を録画したデータの保全をしておく事が重要です。ドライブレコーダーの機種によっては、時間経過するとデータが自動消去されるものや、走行すると上書きされてしまうものもありますので注意しましょう。

2 今回の事故事例の基本的な責任割合(過失割合)を見てみましょう。

1)責任割合の決まり方は?

双方に責任が生じる事故の場合、それぞれの保険会社を窓口として交渉することが一般的です。過去の裁判例の責任割合を参考に、実際の事故状況を踏まえて話し合い、決定していきます。

2)今回の責任割合は?

過去の裁判例より、A(自社の青い車)100%:B(相手方の赤い車)0% が基本の責任割合となります。

信号機のある交差点では、通行する車両は信号に従わなければならない(道路交通法7条1項)ため、赤信号で進入したAに100%の責任が生じます。

ただし、Bが前方に対する注意を払っていれば容易に事故を回避できた場合や、信号の変わり目に事故が起こった場合は、Bも責任を問われることがあります。

※実際は、それぞれの事故状況に応じて個別に決定されます。そのため、記載の内容とは異なる結果になる場合もあります。

3 今回の事故事例を未然に防ぐポイントは?

信号無視の主な原因としては、①信号の見落とし ②信号の誤認 ③タイミング 等が考えられます。

①信号の見落とし・・疲労や考え事、同乗者との会話などにより集中力を欠如しない。
②信号の誤認・・黄色は「止まれ」の意味。矢印表示などの変則信号機では慎重に、誤って一つ先の信号と勘違いしないよう気を付ける。
③タイミング・・黄色信号で交差点へ進入しない。

赤信号で交差点に進入した場合の事故はスピードが出ていることが多く、双方の車が大破したり、横転や怪我など大きな事故につながりやすく危険です。無理な交差点進入は避け、心と時間に余裕を持って運転することを心掛けましょう。

その他、ドライブレコーダーを活用した安全運転指導や教育サービス、無料の安全運転セミナーを提供している機関もありますので、それらを利用して自動車事故防止活動をしていくのも良いでしょう。

以上(2021年12月)

sj09022

本記事で紹介している責任割合は、過去の裁判例を参考にした基本的な割合です。実際は、それぞれの事故状況に応じて個別に決定されます。そのため、記載の内容と異なる結果になる場合もあります。

【従業員が交通事故!】責任割合はどうなる? ③一方が優先道路の交差点

書いてあること

  • 主な読者:社有車の事故防止に力を入れたい経営者や運行管理責任者ならびに運転者
  • 課題:交通事故の基本的な責任割合や未然防止策を知りたい
  • 解決策:過去の裁判例に基づく基本的な責任割合と場所や状況に応じた事故防止策を理解する

1 事故事例と状況を把握します。

今回の事故状況はこちらです。A(自社の青い車)が、交差点でB(相手方の赤い車)と接触してしまいました。Bの進行道路には、交差点を貫通するセンターラインがあったそうです。

画像1

【A車:自社車両 B車:相手方車両】

今回のポイントは、センターラインです。

①実線(繋がっている線)か破線(点線)かどうか
②交差点の中心を貫通しているかどうか
③A側から見た時、中央線が視認できるか

などを確認します。

もしドライブレコーダーが搭載されている場合は、事故を録画したデータの保全をしておく事が重要です。ドライブレコーダーの機種によっては、時間経過するとデータが自動消去されるものや、走行すると上書きされてしまうものもありますので注意しましょう。

2 今回の事故事例の基本的な責任割合を見てみましょう。

1)責任割合の決まり方は?

双方に責任が生じる事故の場合、それぞれの保険会社を窓口として交渉することが一般的です。過去の裁判例の責任割合を参考に、実際の事故状況を踏まえて話し合い、決定していきます。

2)今回の責任割合は?

過去の裁判例より、A(自社の青い車)90%:B(相手方の赤い車)10% が基本の責任割合となります。

道路標示により中央線が交差点の中まで連続して設けられている(貫通している)道路は、「優先道路」として認められます。

道路交通法では、優先道路を通行している車両が見通しのきかない交差点を通行する時には徐行義務は無い(道路交通法42条1号)と定められています。しかしその場合でも、交差道路を通行する車両等に注意し、できる限り安全な速度と方法で進行する義務が求められている(道路交通法36条4項)ため、Bにも10%の責任割合が発生します。

※実際は、それぞれの事故状況に応じて個別に決定されます。そのため、記載の内容とは異なる結果になる場合もあります。

3 今回の事故事例を未然に防ぐポイントとは。

皆さんは「二段階停止」や「多段階停止」という言葉を聞いた事がありますでしょうか。

一度停止するだけではなく、安全を確認できる場所で二度、三度と停止して慎重に進んでいく運転方法です。安全確認に加えて、他の車などに自車を認知させる意味もあります。

今回のA側の注意点としては

  • カーブミラー等を活用し、多段階停止をしながら慎重に進む
  • 交通の往来が多い場所では無理に横断しようとせず、まずは左折し迂回してできるだけ安全なルートも検討する

ことで、事故のリスクを軽減することができます。

また優先道路のB側においても、交差点がある場合にはカーブミラー等で進入車の有無を確認しましょう。「優先道路だから大丈夫」と過信せず、前方を注視して減速するなど、構えることも大切です。

その他、ドライブレコーダーを活用した安全運転指導や教育サービス、無料の安全運転セミナーを提供している機関もありますので、それらを利用して自動車事故防止活動をしていくのも良いでしょう。

以上(2021年12月)

sj09021

本記事で紹介している責任割合は、過去の裁判例を参考にした基本的な割合です。実際は、それぞれの事故状況に応じて個別に決定されます。そのため、記載の内容と異なる結果になる場合もあります。

【会員特典】お役立ち資料の無料ダウンロードページ

\経営者のための/
リスクマネジメントマニュアル ~ハラスメント対策編~

「ハラスメント対策」できていますか?

「自社でハラスメントは起こらない」と、油断してはいませんか? 事が起きてからでは遅い、リスクを認識するところから始めましょう!

本資料では、企業が知っておくべきハラスメント事例や対策をご紹介します。

昨今の法改正からハラスメントによる影響まで網羅的に記載しており、経営者みなさまの基礎知識としてはもちろん、従業員研修などにもお使いいただけます。

sj_DLbutton

\経営者のための/
リスクマネジメントマニュアル ~休業リスク対策編~

休業リスクに対する備えは、万全ですか…?

「事業所の建物・設備の損壊により、一時休業せざるをえなくなったら…」

「取引先が台風被害に遭ってしまい、部品が納入されなくなったら…」

経営における、休業リスクの多い国、日本。例えば、近年多発する台風・集中豪雨・地震などの大規模な自然災害による被害額は実に世界の14.3%※ にのぼるともいわれています。

本資料では、様々なリスクソリューションを提供する損保ジャパンの視点と調査データをもとに「他社はどうしている?」の疑問にお答えします。

※『2019年版中小企業白書』(中小企業庁編) | https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2019/PDF/chusho/00Hakusyo_zentai.pdf

sj_DLbutton

【業種別データ】ブリキ缶・その他のめっき板等製品製造業の動向

書いてあること

  • 主な読者:各業種の産業規模、経営指標などを知りたい経営者
  • 課題:さまざまなデータを集める必要があり、時間や手間がかかる
  • 解決策:事業所数や製造品出荷額等から近年の動向を把握する。経営指標で各業種の平均値を知る

1 業界動向

2019年のブリキ缶・その他のめっき板等製品製造業の事業所数は196事業所(対前年比100.5%)、従業者数は7402人(対前年比98.3%)、製造品出荷額等は2907億8700万円(対前年比96.6%)となっています。

1事業所当たりの従業者数は38人(対前年比97.8%)、現金給与総額は1億6500万円(対前年比99.4%)、原材料使用額等は10億900万円(対前年比96.3%)、製造品出荷額等は14億8400万円(対前年比96.1%)、付加価値額は4億700万円(対前年比93.4%)となっています。

従業者1人当たりの現金給与総額は438万円(対前年比101.7%)、製造品出荷額等は3928万円(対前年比98.3%)、付加価値額は1076万円(対前年比95.5%)となっています。

製造品出荷額等に占める原材料使用額等比率は68.0%(対前年比100.2%)、同付加価値額比率は27.4%(対前年比97.2%)、同現金給与総額比率は11.1%(対前年比103.5%)となっています。

画像1

2 品目別・都道府県別出荷金額ランキング(2019年実績)

品目別・都道府県別出荷金額ランキング(2019年実績)は次の通りです。

画像2

3 経営指標

画像3

以上(2022年1月)

pj55078
画像:pixabay

【業種別データ】加工紙製造業の動向

書いてあること

  • 主な読者:各業種の産業規模、経営指標などを知りたい経営者
  • 課題:さまざまなデータを集める必要があり、時間や手間がかかる
  • 解決策:事業所数や製造品出荷額等から近年の動向を把握する。経営指標で各業種の平均値を知る

1 業界動向

1)業界全体

2019年の加工紙製造業の事業所数は284事業所(対前年比98.3%)、従業者数は1万1820人(対前年比97.1%)、製造品出荷額等は5100億5500万円(対前年比97.2%)となっています。

1事業所当たりの従業者数は42人(対前年比98.8%)、現金給与総額は1億9800万円(対前年比100.9%)、原材料使用額等は11億7600万円(対前年比99.6%)、製造品出荷額等は17億9600万円(対前年比98.9%)、付加価値額は5億4500万円(対前年比98.6%)となっています。

従業者1人当たりの現金給与総額は476万円(対前年比102.1%)、製造品出荷額等は4315万円(対前年比100.1%)、付加価値額は1309万円(対前年比99.8%)となっています。

製造品出荷額等に占める原材料使用額等比率は65.5%(対前年比100.8%)、同付加価値額比率は30.3%(対前年比99.7%)、同現金給与総額比率は11.0%(対前年比102.0%)となっています。

画像1

2)塗工紙製造業(印刷用紙を除く)

2019年の塗工紙製造業(印刷用紙を除く)の事業所数は136事業所(対前年比101.5%)、従業者数は7957人(対前年比99.9%)、製造品出荷額等は3863億600万円(対前年比99.1%)となっています。

画像2

3)段ボール製造業

2019年の段ボール製造業の事業所数は91事業所(対前年比100.0%)、従業者数は2392人(対前年比89.5%)、製造品出荷額等は810億6800万円(対前年比86.8%)となっています。

画像3

4)壁紙・ふすま紙製造業

2019年の壁紙・ふすま紙製造業の事業所数は57事業所(対前年比89.1%)、従業者数は1471人(対前年比95.7%)、製造品出荷額等は426億8100万円(対前年比102.1%)となっています。

画像4

2 品目別・都道府県別出荷金額ランキング(2019年実績)

品目別・都道府県別出荷金額ランキング(2019年実績)は次の通りです。

画像5

3 経営指標

画像6

以上(2021年12月)

pj55033
画像:industrieblick-Adobe Stock

商標~ブランドを守る。商品名・ロゴ・音・色彩など、多様な商標の世界と中小企業でもできる活用法~/意外と知らない「知的財産権」シリーズ5

書いてあること

  • 主な読者:名称やロゴマークなどを「商標」として権利化したい経営者
  • 課題:名称やロゴマークしか保護されない? 他にはない独特な形状、色の組み合わせなどについても保護したい
  • 解決策:立体商標、色彩のみからなる商標など、さまざまな商標が保護の対象。商標は意匠などと異なり、半永久的に権利が保護されるので上手に活用する

1 商標によって半永久的な保護が可能に

商標とは、

自社の商品やサービスを、自社のものであると消費者に認識してもらうために表示する標識

です。会社の名称やロゴマーク、商品やサービスのネーミングなどの登録がよく知られています。商標の存続期間は設定登録日から10年ですが、更新手続きを行えば、

何度でも権利の更新が可能で、半永久的に権利が保護される

のが特徴です。

また、商標が保護するものは名称にとどまらず、例えば「きのこの山」のお菓子の形状など、

形状・動き・ホログラム・音・色彩・位置など、さまざまなものが商標として保護される

のです。

ブランドに対する顧客の信頼や愛着は、長い時間をかけて蓄積されます。長く権利を独占できる商標を上手に活用することで、それが実現できます。

2 「きのこの山」の形状も商標。アイデアやデザインも同時に保護できる「立体商標」

商標法の保護を受けられるものに、商品等の形状そのものを登録することで、その形状を独占する「立体商標」があります。立体商標は、文字商標(文字だけで構成される商標・「SONY」のロゴマークなど)や図形商標(図形のみから構成される商標・「ヤマト運輸のクロネコ」のロゴマークなど)ほどは活用されていないようにみえます。

ただし、立体商標は次のような点で非常に高い有用性を発揮することがあります。

  • 特許法、実用新案法、意匠法といった他法域で保護されるべきアイデアやデザインを併有できる
  • 登録商標として保護を受けることで、同時にこれに具体化されたアイデアやデザインについても、半永久的に他者に対して優越的な地位を得られる

立体商標の具体例は次の通りです。

1)「きのこの山」

画像1

これは誰もが知っている「きのこの山」です。明治は「きのこの山」という文字商標の登録(登録第1330075号)に加え、その形状も立体商標として登録しています。これによって商品のネーミングのみならず、この形状のお菓子そのものを独占的に製造・販売できる法的地位を手にしています。

お菓子を含む「物の形状」に対する法的保護としては、一つには意匠登録による保護が考えられるところですが、意匠権の存続期間は出願日から25年であり、更新はできないとされています。一方、商標権の存続期間は設定登録日から10年ですが、更新によって半永久的に保護を受けられるため、保護期間の面でかなりメリットが大きいといえます。

もちろん商標登録を受けるには、登録要件としてその商標に識別力が備わっている必要があります。そのため、ありふれた形状だとなかなか識別力を認めてもらえず、立体商標としての登録は容易ではないでしょう。実際「きのこの山」の立体商標も、一度は審査段階で識別力欠如による拒絶理由を通知されましたが、使用による識別力の獲得を主張して登録を得ています。いずれにしても、ひとたび識別力を肯定されれば、以後その形状を独占できるのですから、かなり強力なブランディングとなります。

2)食パンの袋のクリップ

画像2

こちらもよく知られる、食パンの袋についているあのクリップです。あまりにも生活の中に溶け込んでいるため意識しませんが、これ自体も登録商標です。一見して分かる通り、それは、クリップに対して一般的に求められる「留めやすくはずれにくい」形状をしています。そのため、やはり審査では識別力の問題を指摘され、これに反論して商標登録を得たという経緯があるようです。

この立体商標は、商標であると同時に、「留めやすくはずれにくい」形状という、クリップの構造に関するアイデアを具体化したものでもあります。登録商標としてこの形状そのものを独占しながら、併せて技術的アイデアについても、保護を受けられるかのような効果を得ている点において優れています。

なお、技術的アイデアは本来特許で保護されるのが一般的ですが、特許権の存続期間は出願日から20年で更新ができず、この期間が過ぎると消滅してしまいます。しかし、商標は、前述の通り更新を繰り返すことで半永久的に保護が受けられるので、この点は非常に大きなメリットです。

3 動き・ホログラム・色彩などなど。立体以外も保護される

2014年(平成26年)の法改正によって、新たに「動き商標」「ホログラム商標」「色彩のみからなる商標」「音商標」「位置商標」が加わりました。こちらについても代表的なものを幾つか紹介します。

1)動き商標

文字や図形等が時間の経過に伴って変化する商標です。

画像3

2)ホログラム商標

文字や図形等がホログラフィーその他の方法により変化する商標です。

画像4

3)色彩のみからなる商標

単色または複数の色彩の組み合わせのみからなる商標(これまでの図形等に色彩が付されたものではない商標)で、輪郭なく使用できるものです。

画像5

4)音商標

音楽、音声、自然音等からなる商標であり、聴覚で認識される商標です。

画像6

5)位置商標

図形等を商品等に付す位置が特定される商標です。

画像7

このように、文字や図形以外にも商標として機能するものがたくさんあります。顧客の目線に立ったとき、皆さんが提供されている商品やサービスの中にも、ブランディング戦略につながる価値を持つ商標がきっとあると思います。

4 商標を登録する際の課題。記述的な商標や他者と同じ商標はどう考える?

ところで、商品やサービスの名称として、どのような商標を採択するのが望ましいのでしょうか? 例えば、今までになかった全く新しい商品・サービスを開発した場合、その商品等の性質やコンセプトを顧客にアピールするようなネーミングを採択することが少なくないと思います。「アスクル」「スーパードライ」「ヒートテック」などがそのような商標に当たるといえるでしょう。

このような商標は、今後同種の商品等で市場に参入しようとする後続事業者にとっては、誰もが使いたい商標です。これを商標登録して独占しておくことは重要な戦略です。

ただし、そのような記述的な商標は、

単に商品等の性質を説明するにすぎないとして、識別力の問題を突き付けられる

のが通常でしょう。では、記述的であっても、なお商標登録を受けられる商標かどうかについては、どのような点に注意したらよいのでしょうか。

1)「加圧トレーニング」の名称は商標登録できるのか?

腕と足の付け根に適正な圧力を加え、血流量を制限した状態でトレーニングをすると、通常の場合と比べて少ない負荷でも、大きな効果が得られることを発見したとします。これを新たなトレーニング方法としてビジネス展開するに当たって、そのネーミングを「加圧トレーニング」として商標出願した場合、これは登録を受けられるでしょうか、それとも、一般名称にすぎないとして拒絶されるでしょうか。

この「加圧トレーニング」の名称については、実際に出願された事例があります(商願2005-96978)。この出願は、審査で一度拒絶され、不服審判で認容審決を得て商標登録を受けたものの、第三者から異議申立てを受けるなど、識別力について再三争われました。しかし、最終的に特許庁は、「現代用語の基礎知識」や「知恵蔵」などの文献に「加圧筋力トレーニング」という記載はあるものの、「加圧トレーニング」という記載はないことを根拠に、「加圧トレーニング」は特定の商品の品質や役務の質を直接的、かつ、具体的に表示するものではないとして、識別力を認める判断をしています。

すなわち、

判断基準はその商標が商品の品質等を「直接的、かつ、具体的に」表示するものか否かであって、間接的・抽象的にとどまるものについては識別力が肯定される

ことになります。この観点により、間接的・抽象的・暗示的な商標を検討していくのがよいといえるでしょう。

2)同じ単語(文字列)が使われている商標は登録できるのか?

企業のイメージやコンセプトを表現した図形等を用いて構成される「ロゴマーク」を商標登録する場合、どのように商標を構成するのがよいか、これもまた難しい問題を含んでいます。もちろん、図形要素と文字要素を分け、さらに文字要素については重ねて標準文字でも登録しておくのが理想的であるのは言うまでもありません。

ただし、出願件数に応じてその費用も2倍、3倍とかかってきますから、コスト面を勘案して、図形と文字を組み合わせた一つの商標として出願・登録することも少なくないでしょう。しかし、これには注意が必要です。例えば、次の例をご覧ください。

1.「WORLD」

画像8

2.「STAGE」

画像9

3.「LPGA」

画像10

4.「やんちゃ」

画像11

1.から4.に示した商標は、いずれも「WORLD」「STAGE」「LPGA」「やんちゃ」といった文字列部分が明らかに共通しています。しかし、いずれも非類似と判断され、すべて併存して登録を受けているのです。

ロゴ図形と文字列を組み合わせた商標によって商標登録を受ける場合は、

その文字列部分のみを使用する者に対して、商標権の効力が及ばない可能性が十分にあり得る

ということを念頭に置かなくてはなりません。

そして、この点に関する検討には十分なリサーチが不可欠となりますので、判断に迷った際には、ぜひ知財を専門とする弁護士等にご相談されることをお勧めします。

どのようなマークによって顧客に認識してほしいのか、商標によるブランディング戦略を考える際には、いつもこのテーマに立ち返る必要があります。

以上(2021年12月)
(執筆 明倫国際法律事務所 弁護士 田中雅敏)

pj60304
画像:areebarbar-Adobe Stock

【朝礼】今年の進化と来年の進化を考えてください

今日は私から皆さんに2つ、提案があります。1つ目は、「今年を振り返って、去年に比べて自分が進化した点は何か考えること」。2つ目は、「来年、今年よりも進化したい点を決めること」です。今年もあとわずかで終わりますので、ぜひ年内にやってみてください。

この提案をしようと思ったのは、お付き合いのあるデザイナーさんから聞いた「口紅の話」がきっかけです。化粧品メーカーでは、口紅の色合いや品質を常に研究してバージョンアップしているので、同じ赤でも、数年前に出した商品と今年出した商品では、色や質感がかなり異なるそうです。そのため、若い頃から愛用している口紅を変えずに使い続けていると、「妙に古臭いメーク」に見えてしまいます。言葉を選ばずに言えば、「昭和感のあるメーク」です。

デザイナーさんいわく、「口紅で新しい赤が出ている上に、化粧品以外のさまざまな商品でも赤が変化しているのに、自分の口紅だけが十何年も前からの赤であれば、当然古く見える」のだそうです。身の回りの商品やはやりなどの変化に伴って、世の中全体の色彩感覚も変化しているから、ということなのでしょう。

色に着目したデザイナーさんらしい面白い視点です。これに加えて私が思うのは、世の中全体の色彩感覚の他にも、当然、「自分の顔が変化したのに同じ口紅を使い続けている」のも、古臭いメークに見える要因ではないかということです。

これはつまり、自分の顔が変化していることを認識できていないともいえます。毎日鏡で見ていると、確かに変化に気付きにくいでしょう。

このことは、私たち一人ひとりの仕事、生き方、人生にも通じるところがあります。毎日同じ環境で同じ仕事をしていると、自分の変化はなかなか認識できません。「前よりこの仕事の処理速度が上がった」「クライアントへの話の仕方が変わって反応が良くなった」など、実は、変化というより良い方向に進化していることでさえ、意識していないと気付かないことが多いのです。

また、人間は惰性の生き物です。「意識する」という点で言うと、そもそも、自分を進化させようと意識して行動していなければ、前に進んでいくことはできないでしょう。

そこで冒頭の提案です。皆さん、今年の進化を振り返り、そして来年の進化の目標を、自分で意識して決めてください。ちなみに私は、今年は社外の人に対してオンラインセミナーでお話しする機会が多い年でした。そのため、オンラインの最初の1分で引きつけるコツを前より身に付けたと思いますし、画面越しにファシリテーションする能力も上がったように感じます。来年は、これをさらに進化させて、定期的な動画配信にチャレンジしようと考えています。見た目も大事なので、ジョギングも始めようと思います。そう考えると、来年が楽しみで仕方ありません! 皆さんもぜひ、考えてみてください。

以上(2021年12月)

pj17081
画像:Mariko Mitsuda