【マーケティング】いまさら聞けないチャネル戦略のポイント

書いてあること

  • 主な読者:「マーケティング」を意識できる組織を作りたい経営者
  • 課題:マーケティングの概念は幅広く、どこから学べばよいのか分からない
  • 解決策:マーケティングの基本として「マーケティング・ミックス」を学ぶ

1 チャネル戦略の検討

チャネル戦略で考えるべきポイントは次の2つです。

  • チャネルの検討:製品をどのようなルートで消費者の元へ届けるか
  • チャネルの管理:構築したチャネルをどのようにして維持・管理するか

基本的なチャネル構成は、チャネルのコントロール性とチャネルメンバーの数に基づいて、「開放的チャネル」「排他的チャネル」「選択的チャネル」の3つに大別できます。まずは、自社に適したチャネルを検討することから始めます。

2 チャネル構成の分類

1)開放的チャネル

消費者の高い購買頻度に対応するため、できるだけ多くの卸売・小売業者などを通じて販売する形式です。いわゆる最寄り品に適しています。ただし、数多くのメンバーでチャネルを構成するため、コントロール性は最も弱い形態となります。

2)排他的チャネル

チャネルを最小限に制限する形式です。チャネルメンバーが限られる分、コントロール性は高くなります。ブランドイメージの維持が重要な場合や、アフターサービスを通じて消費者に質の高いサービスを提供する場合などに適しています。

3)選択的チャネル

開放的チャネルと排他的チャネルの中間の形式です。チャネル数を絞り込んでブランドイメージを維持しつつ、ある程度幅広いチャネルを通じて製品を販売します。

3 垂直型チャネルシステム

開放的チャネルなどは、製造・卸売り・小売りの各業者の独立した活動を想定しています。しかし、製造・卸売り・小売りのチャネルメンバーが一体的に活動することもあり、こうした統合的なチャネル構成を「垂直型チャネルシステム」と呼びます。具体的には、「企業型システム」「契約型システム」「管理型システム」の3つです。

1)企業型システム

企業型システムは、チャネルが1つの企業、あるいは資本関係にある企業体で構成されている形態で、チャネル間の統合度が最も高くなります。中小食品業者などが製品を製造し、自社小売店舗において販売するケースなどが該当します。

2)契約型システム

契約型システムは、各チャネル構成員に資本関係はないものの、契約関係によって結合されている形態です。チャネル間の統合度は、企業型システムと管理型システムの中間程度となります。フランチャイズチェーンなどが該当します。

3)管理型システム

管理型システムは、資本関係や厳密な契約関係はないものの、リベートなどの経済的なメリットや、さまざまな情報や専門的なノウハウなどの非経済的なメリットを提供できる企業を中心に、チャネルが構成されている形態です。

4 チャネル構成の評価基準

1)経済性

企業型システムのような自社独自のチャネルは、チャネルを構築するために多額のイニシャルコストが発生します。また、構築したチャネルの維持に固定費が常に発生することになります。一方、リベートなどの変動費は低くなる傾向があります。

契約型システムや管理型システムのように、他社を活用してチャネルを構築する場合、イニシャルコストやチャネル維持に掛かる固定費は低く抑えることができます。しかし、リベートなどの変動費は相対的に高くなる傾向があります。

2)コントロール性

コントロール性とは、チャネルメンバーを自社の戦略や意図などに沿って、どの程度コントロールできるかということです。コントロール性が問題となるのは、契約型システムや管理型システムのように、他社を活用してチャネルを構築する場合です。

個々に独立した企業であるため、各メンバーは自社の利益を優先して行動します。そのため、自社の方針とチャネルメンバーの間で利害の対立が発生する危険性があるので、チャネルメンバーの行動をどれだけコントロールできるかが重要になります。

3)適応性

有効性の高いチャネルを構築したとしても、経営環境の変化によってはチャネル構成を変えなければならないことはよくあります。このため、構築するチャネルは、環境の変化に適応できる柔軟性を備えたものが好ましいといえるでしょう。

適応性という観点で考えれば、ヒト・モノ・カネといった多くの経営資源を投入して、自社独自のチャネルを構築・維持しなければならない企業型システムは、その形態を変更しにくい面があり、リスクの高い選択肢といえるかもしれません。

4)チャネル内の力関係を決定する要因

複数の企業が関係するチャネルには、チャネル全体に大きな影響を及ぼすチャネルリーダーが存在します。例えば、大手量販店が関連しているチャネルでは、大手量販店が価格設定、製品開発、プロモーションなどさまざまな面で大きな影響力を発揮しています。

チャネルリーダーの中には、「経済性」「コントロール性」「適応性」というチャネルの評価基準に関する項目について、自社にとって理想的な形のチャネルを構成している場合も少なくありません。

チャネルリーダーとなる企業はわずかですが、できる限りチャネルリーダーとしての地位を確立することが望ましいのは間違いありません。そのためには、チャネル内の力関係を決定する要因を理解しておく必要があります。

チャネル内の力関係を理解する上で参考になるのが、他のチャネルメンバーをコントロールできるチャネルパワーの源泉を知ることです。

チャネルパワーの源泉は、経済的パワーの源泉と非経済的パワーの源泉に大別されます。経済的パワーの源泉とは、経済的なメリットをいい、リベートなどの金銭的報酬が代表的なものとなります。

一方、非経済的パワーの源泉には、契約における規定、店舗運営や製品開発能力など専門的な知識、大手小売りチェーンが持つPOS情報や顧客情報など、経済的パワーの源泉以外のさまざまな要因が含まれます。

チャネル内の力関係は、チャネルパワーの源泉に対する依存度で決まります。製造業者が提供するリベートの依存度が高い場合、製造業者の力が強くなります。逆に、製造業者が売り上げの大半を特定の小売業者に依存する場合、小売業者の力が強くなります。

5 チャネルの管理

1)チャネル・コンフリクトの分類と発生要因

チャネルメンバーとして複数の企業が参加する場合、利害が衝突してチャネル内で一体的な活動が困難となるケースがあります。このようなチャネル・コンフリクト(チャネル内の問題)が発生した場合、速やかに解消する必要があります。

チャネル・コンフリクトは垂直関係、水平関係、複数チャネル間で発生する可能性があります。垂直関係におけるコンフリクトとは、製造業者・卸売業者・小売業者の間で問題が発生するケースで、製造業者が卸売業者や小売業者に対するリベート制度の見直し(削減)を行うことなどによって起きます。

水平関係におけるコンフリクトとは、各製造業者間・卸売業者間・小売業者間で発生するケースです。例えば、テリトリー制を認めていないフランチャイズチェーンでは、近隣に商圏の重なる店舗があれば、これらの店舗間でコンフリクトが発生することがあります。

複数チャネル間におけるコンフリクトとは、異なるチャネル間で発生する問題です。例えば、家電製造業の場合、定価で製品を販売して利益を確保したい系列店チャネルと、割引販売を旨とする量販店やディスカウントストアで問題が発生することがあります。

チャネル内で問題が発生する要因はさまざまですが、一般的には「目標の不一致」「現状認識の不一致」が多いようです。

例えば、リベート制度の見直し(削減)について考えてみましょう。製造業者にとってリベート制度の見直しは、過度の値引きの源泉となることを防ぎ、市場価格を適正に維持することを可能にする仕組みづくりを目的としているのかもしれません。

しかし、その製造業者の製品が数多くの取り扱い製品の1つでしかない小売業者にとっては、その製品自体から得られる利益が小さくても、顧客がその製品とともに収益性の高い別の関連製品を購入してくれれば、収益が確保できると考えているかもしれません。こうした目標の不一致がコンフリクトを発生させる要因となります。

また、製造業者はリベート制度を見直しても、従来通りの売り上げを確保できると考えますが、小売業者は多くの競合製品が安売りを続けている以上、値引き販売の原資となるリベートが削減されれば、売り上げが大きく低下すると考えている可能性があります。このような現状認識の不一致もまた、コンフリクトの要因です。

2)コンフリクトの解決方法

チャネルリーダーであれば、「チャネルパワーの源泉を使ってコンフリクトを解決する」ことが考えられます。例えば、自社の販売方針に従った企業に対してリベートを手厚く支払い、従わない企業にはリベートの支給額を減らすなどの方法です。

この他、「話し合いや契約内容の見直しなどをして、共通目標の確認・再設定を行う」「チャネル間の人材の交流機会を設け、相互理解を深める」などがあります。これらは、チャネル内の地位に関係なく取り組むことができます。

以上(2022年8月)

pj80025
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事例で解説 知財の応用~営業秘密をどう守るか~/意外と知らない「知的財産権」シリーズ12

書いてあること

  • 主な読者:営業秘密の漏えいを防ぎたい経営者
  • 課題:どのようにすれば防止できるのか分からない
  • 解決策:「営業秘密」の重要性に応じて対策を分ける。重要な「営業秘密」は「秘密情報」と分かるようにして管理するなど、「営業秘密」と認められるための3要件を満たしておく

1 全ての「営業秘密」が法で守られているわけではありません

「営業秘密」は「秘密情報(企業が秘密にしたい情報)」の一種で、一旦漏えいすると、企業に取り返しのつかない損害をもたらす恐れがあります。そこでこの記事では、営業秘密の漏えいを防ぐために必要な情報として、「営業秘密はそもそも法律ではどのように扱われるのか」を解説した上で、実践的な営業秘密の保護や活用の事例をお伝えします。

1)営業秘密と認められるための3つの要件

営業秘密については、不正競争防止法によって持ち出しや不正開示、不正取得等が禁止されており、民事および刑事上の責任が発生します。ただし、

「企業にとって大事な情報だから」といって、自動的に「営業秘密」として保護されるわけではありません。

営業秘密に該当するためには、次の3つの要件を満たさなければなりません。

  • 【秘密管理性】秘密として管理されていること
  • 【有用性】有用な営業上又は技術上の情報であること
  • 【非公知性】公然と知られていないこと

2)秘密管理性

営業秘密保有企業の秘密管理意思が、秘密管理措置によって従業員等に対して明確に示され、当該秘密管理意思に対する従業員等の認識可能性が確保される必要があります。

「秘密管理性」が認められて、「営業秘密」として保護を受けるためには、以下の2つを満たす必要があります。

  • 情報にアクセスできる者が制限されていること(アクセス制限)
  • 情報にアクセスした者に当該情報が営業秘密であることが認識できるようにされていること(認識可能性)

従前の傾向としては、アクセス制限が厳格に要求されていましたが、現在の傾向としては、認識可能性をしっかりと確保することで、秘密管理性が肯定されやすくなっています。

営業秘密を含めて何が企業として秘密にしたい情報(秘密情報)なのかを明示し、それ以外の情報から区別して、社内にもこれを明確に告知する対策が重要となってきています。

3)有用性

「営業秘密」である当該情報自体が、客観的に事業活動に利用されていたり、利用されることによって経費の節約、経営効率の改善などに役立つものであったりする必要があります。

4)非公知性

保有者の管理下以外では、一般に入手できないようにする必要があります。

2 営業秘密の漏えいを防ぐ方法

1)合理的かつ効果的な対策を

全ての秘密情報に対して一律に厳格な対策を実施することは、かえって業務上の円滑な利用を阻害し、また必要以上にコストをかけてしまうことにもなりかねません。

そこで、次の5つの観点を勘案して、合理的かつ効果的な対策を適切に取捨選択して実施することが重要といえます。

  • 誰がその情報を保有しているのか
  • その情報が漏えいすることで、企業にどのような影響が及ぶのか
  • その対策を講じることで、どの程度漏えいを防ぐことができるのか
  • その対策を講じることで、業務上、どの程度の支障を来すのか
  • その対策を講じるために要するコスト

4.と5.の観点から比較的容易に実施できる対策として、

  • 「マル秘」等の秘密表示を付す
  • 当該情報を業務上利用する者だけが共有するパスワードをかけておく

などの対策が考えられます。

これらは、漏えいの予防に一定の効果を発揮すると同時に、前述した「秘密管理性」の要件を満たすことにもつながります。漏えいが発生した際に、民事上の損害賠償請求や刑事告訴等を行う局面において、当該情報が不正競争防止法上の「営業秘密」として保護されるための重要な措置となりますので、優先度の高い対策といえます。

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2)漏えい経路のバリエーションを意識する

営業秘密を含め秘密情報の漏えいは、従業員等の内部者からだけでなく、退職者、業務委託先、不正アクセス者など、さまざまな経路から起こり得ます。漏えい対策に当たっては、経路のバリエーションがあることを意識することで、より実効的な対策を講ずることができるでしょう。

特に近年では、ソフトバンク元従業員が転職先の楽天モバイルに「5G」技術に関する情報を持ち出したとして逮捕・起訴された事案のように、退職者による企業の秘密情報漏えい事案に関する報道が相次いでいます。実際、2021年3月に情報処理推進機構(IPA)が発表した「企業における営業秘密管理に関する実態調査2020」によれば、営業秘密の漏えいルートの中で最も多かったのは、「中途退職者(役員・正規社員)による漏えい」(36.3%)でした。

3)中途退職者からの漏えいを防ぐ方法

退職予定者が利用していた情報については、前述の通り漏えいの危険性が高く、しかも漏えい先はライバル企業となる恐れがあります。

入社時・退社時等に、誓約書や就業規則等で秘密保持義務を課しておくといった対策は、比較的容易に実施可能です。企業としての営業秘密保護に対する姿勢を社内に示し、不正競争防止法の存在も含めて、社内で広く知ってもらうことにもつながります。

特に重要な情報に接する可能性のある従業員等については、退職後一定期間の競業避止義務を課しておくことも、情報漏えいを実効的に防止する上で有用です。

これらの対策に加えて、退職の申し出を行った従業員等に対して、厳格な情報漏えい対策を実施するのも一策です。申し出者による社内情報へのアクセス権限を速やかに制限または削除するとともに、退職申し出の前後のメールやPCのログを集中的にチェックするなども考えられるでしょう。

3 こんなに怖い営業秘密の漏えい

最後に、実際にあった営業秘密の漏えい事案の一例を紹介します。営業秘密の漏えいについて検討する際に、ぜひ参考にしてください。

1)海外のライバル企業への漏えい

新日鐵住金(現日本製鉄)の元従業員が、韓国の競合であるポスコに対して製造プロセス・製造設備の設計図などを漏えいした事案では、約1000億円の損害賠償を求める訴訟が提起されました。ポスコは、新日鐵住金が20年以上かけて開発した技術情報をコストなしに取得・利用して製品を販売し、売り上げにつなげたとされています。しかもこの事案では、ポスコからさらに宝山鋼鉄という中国の競合にも再漏えいがあったとされており、情報漏えいの被害は連鎖的に拡大する恐れがあることが明らかになりました。

東芝のNAND型フラッシュメモリ(電源を切っても記録を保持することができるメモリの一種)に関する技術情報が、業務提携先に勤める元従業員を通じて韓国企業に漏えいされた事案では、約1100億円の損害賠償請求がなされました。

2)顧客情報の漏えい

顧客情報が漏えいした場合、競合他社にその顧客が奪われてしまうという不利益に加え、漏えいに関する顧客への対応にもコストがかかり、その企業の社会的信用をも低下させてしまう結果となってしまいます。

教育サービス業を営むベネッセの顧客名簿が、業務再委託先の従業員を通じて漏えいした事案では、顧客名簿は約500社に拡散されました。その結果、おわび状の送付など、漏えいした名簿に記載してあった顧客への対応だけでも多額の費用が必要となりました。さらに、顧客情報を漏えいさせてしまったとして、個人情報保護法に基づく監督省庁からの行政措置を受けることにもなりました。

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3)情報漏えいの「被害者」なのに訴えられるケースも

情報漏えいの「被害者」であったはずの企業が、「加害者」として逆に訴えられてしまうこともあります。インターネット接続サービス業を営む企業の会員情報が、アカウント管理の抜け穴を突いた不正なアクセスにより漏えいしてしまった事案では、一部の会員から、その企業に対して慰謝料を請求する訴訟が提起されています。

顧客情報だけでなく、共同研究開発などで取引先と共有した秘密情報が漏えいした場合は、情報管理が不十分であると認定されてしまうと、秘密情報を漏えいした「加害者」として責任を追及されてしまうリスクがあります。

また、転職者の受け入れに際して、転職元企業の秘密情報が図らずも自社に紛れ込んだりするといった場面であっても、処罰の対象になります。これも注意が必要です。

以上(2022年8月)
(執筆 明倫国際法律事務所 弁護士 田中雅敏)

pj60311
画像:areebarbar-Adobe Stock

【朝礼】「つまらない仕事ばかり押し付けられている」と感じている人に

先日、知人の付き合いで、ある草サッカーの試合を観戦しました。私はあまりサッカーに詳しくないのですが、そんな私から見て「悪い意味」で気になる選手がいましたので、お話しします。

その試合で私が注目したのは、最前線でシュートを決める役割を担うポジションの選手でした。仮にA君とします。A君は、なかなかパスをもらえずにイライラして、チームメートにしきりにパスを出すように要求していました。

最初は私も、「なぜA君にパスが渡らないのだろう」と不思議に思っていましたが、試合が進んでいくうちに、その理由に気付きました。それは、「そもそも、チームメートがA君のことを信頼しておらず、意図的にパスを出していない」ということです。そう思ったきっかけは、A君とチームメートの態度です。

例えば、試合中、A君が絶好の位置でシュートを打つ場面がありましたが、彼はシュートを外した上に、悪びれる様子を見せませんでした。また、自分のチームが攻められた際に、積極的に守備に回る姿勢を見せませんでした。そして、A君のチームメートは、そんなA君を叱りも励ましもしませんでした。

私はA君から、シュートを決めることにこだわりがあるものの実力が足りず、一方で、シュート以外のプレーにはどこか「やらされ感」があるような印象を受けました。そして、チームメートはそんなA君に期待していないように見えました。

もし、A君とチームメートの関係がその通りなのであれば、A君がチームメートの信頼を勝ち取り、パスをもらえるようになる方法は2つです。それは、「試合の大事な場面でシュートを決めること」「攻撃だけでなく守備もしっかりこなすこと」です。

ただ、そのためにはシュートの技術を磨き、敵のマークを振り払えるだけの走力をつけ、チームの勝利のために守備に戻れる体力をつけねばなりません。そうした努力をしていなければ、チームメートからの信頼は得られないでしょう。

これはサッカーの話ですが、もし「自分はつまらない仕事ばかり押し付けられていて、大きな仕事を任せてもらえない」と思っている人がいたら、A君と同じだとは思いませんか?

皆さんは上司や同僚から、大きな仕事を任せようと思ってもらえるほどの信頼を得ていますか? 周囲の人たちは、ちゃんと日ごろの皆さんの働きぶりを見ています。仕事に対する姿勢や日ごろの努力、同僚への配慮など、さまざまな角度から皆さんを評価し、信頼度を定めています。

上司や同僚から、大きな仕事を成功させるだけの能力があると信頼されれば、手を挙げれば必ず、仮に手を挙げなくても、場合によっては大きな仕事を任せてくれるようになるでしょう。また、任せた大きな仕事が成功するよう、助言やサポートをしてくれるはずです。チャンスを得られるかどうかは、自分次第なのです。

以上(2022年8月)

pj17117
画像:Mariko Mitsuda

【フレームワーク】新規事業を検討する「アンゾフのマトリクス」と「製品ライフサイクル」

書いてあること

  • 主な読者:新規製品やサービスなど、多角化を検討している経営者
  • 課題:どういった市場を攻めるべきか、またその際の注意点は何があるのか知りたい
  • 解決策:競争優位性を活かすことを検討する。そして成長が見込める市場を狙うことが定石

1 企業の平均寿命は23.8年

東京商工リサーチによると、2021年に倒産した企業の平均寿命は23.8年です。これとは別に「企業の寿命30年説」ともいわれるように、長く経営を続けることは大変です。単一の製品やサービスだけでは刻々と変わる経営環境を勝ち抜くのは難しいため、企業は多角化を進めます。とはいえ、無謀な多角化は経営資源の分散を招き、経営効率の低下につながります。多角化は重要な経営判断であり、相応の検討を進めてから行いたいものです。

やるべきことはさまざまありますが、少なくとも、

  • どの市場に、どの製品やサービスで攻めるか
  • その市場のライフサイクルはどのようになっているか

を検討することは必要です。

2 アンゾフの成長マトリクスと多角化の類型

アンゾフの成長マトリクスとは、

市場と製品・サービスを、それぞれ既存と新規に分けて戦略を検討するフレームワーク

です。

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4つの象限の基本的な戦略は次の通りです。

1)市場浸透戦略

既存の市場で占有率を高めます。具体的には、広告宣伝、価格の改定、流通経路の再整備などを行い、リピート率の向上やチャーンレートの改善を見込みます。

2)市場開拓戦略

アプローチをしてこなかった市場(地域や業種、年齢層など)に、既存の製品・サービスを売り込みます。新しい市場に合わせてカスタマイズなどをします。

3)製品開発戦略

既存の市場に新製品・サービスを投入します。フルモデルチェンジなどを行いますが、コストなどの検討は必要です。

4)多角化戦略

既存の技術や流通網などを活かし、新製品・サービスを開発して新たな市場にチャレンジします。単独では難しい場合、業務提携やM&Aも検討します。

一般的に、多角化戦略には次の4つの類型があります。

  • 水平型:既存の生産技術を活用して、既存の市場と類似した市場を開拓
  • 垂直型:生産だけではなく流通や販売に対応し、上流から下流に至る市場を開拓
  • 集中型:既存技術など現在の優位性を利用し、新たな市場向けの製品を展開
  • 複合型:全くの異業種、新規事業分野に進出

以上が4つの象限の戦略ですが、この他に「撤退戦略」もあります。企業の拡大・成長とは逆方向の選択ですが、損失の回避などのリスクを最小限に抑えるために、常に念頭に置いておきたい戦略です。

3 製品ライフサイクル

1)成長が見込めなければ意味がない

「伸びている市場で流れに乗れば、規模は簡単に拡大する」。今、Web3やAIなどの領域で戦っている企業の経営者がよく言うことです。もちろん、投資が回収できるのか、また、安定した収益につながるのかは別問題ですが、いわゆる「導入期」の製品やサービスには勢いがあります。あるいは、既にコモディティー化している市場であっても、ちょっとした工夫によって新しい市場が生まれることもあります。伝統的な産業がそうしたことで息を吹き返すケースは珍しくありません。

いずれにしても、多角化を検討する際は、勝負する市場の成長が見込めなければ意味がないということであり、それを分析するものに、「製品ライフサイクル」があります。製品ライフサイクルとは、

製品・サービスの状況を把握し、それに応じて戦略を検討するフレームワーク

です。プロダクトライフサイクル(PLC)と呼ばれることもあります。

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4つのライフサイクルの基本的な戦略は次の通りです。

2)導入期

製品・サービスを市場に認知してもらうフェーズです。広告宣伝費に加え、今後の需要増加を見込んだ生産体制を整えるための設備資金なども必要です。コストがかかる半面、利益は出にくいですが、ここを乗り越えると先行者利益が得られるかもしれません。

3)成長期

製品・サービスが市場で認知され、市場規模が拡大していくフェーズです。「市場がある」ことが分かると、そこに魅力を感じた競合が参入してくるため、自社の競争優位性をきちんと確保しておく必要があります。特許など知的財産権の確保も必要です。

4)成熟期

製品・サービスの売り上げがピークとなります。市場に浸透した分、競合製品との差異化が図りにくくなり、価格競争が激しくなります。

5)衰退期

市場が縮小し、撤退する企業も出てきます。生き残った企業においても、内部の徹底した合理化などコスト削減をしなければなりません。よほど自社に優位な外部環境の変化(昭和レトロブームなど)がない限り収益は落ち込むため、ここで多角化が必要になってきます。

4 多角化を検討する際に考えておきたいこと

多角化を進めやすいのは、ニーズを理解している既存の市場を攻めたり、既にバリューチェーンが整っている既存の製品・サービスを利用したりする戦略です。既存の製品・サービスを別の市場に投入して成功すれば、「売り上げの増加→生産量の増加→コストの引き下げ」といった戦略が描けます。

一方、既存市場や既存製品から離れた多角化は、未知の可能性が広がる一方で、リスクは高くなります。多角化の目的には、「市場や技術の変化への対応」「未使用の経営資源の有効活用」「将来展望」「リスク分散」などがあるので、この目的に照らして検討することが大切です。

多角化を図るタイミングも重要です。新規市場に進出してみたものの、当初の想定通りに市場が成長せず、事業が軌道に乗らないケースもあります。「時代を先取りしすぎるのは良くない」といわれ、実際に失敗事例も多いので注意しましょう。

以上(2022年8月)

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【朝礼】イメージを描かない仕事は成果の出ない練習と変わらない

先日、息子の柔道の試合を応援しに出かけました。試合前の数週間は特に練習に力が入っていたようで、頑張っているのを知っていたものですから、私も勝利を期待していました。しかし、結果は惜しくも引き分けでした。帰宅した息子に声をかけると、「あれだけ練習したのだから、試合に勝てるだろうと思っていたのに悔しい」と言います。私はこの言葉を聞いて、彼は「何のために練習しているのか」を自覚していなかったのではないかと思いました。

練習とは何のためにやるのでしょうか? 当然、試合に勝つためです。しかし、それを忘れてしまうと、「たくさん練習したから」と、練習の量だけに満足してしまい、練習の質や効果について目をやるのを忘れてしまいがちになります。

たくさん練習するのはもちろんよいことです。しかし、それはあくまでも自分の実力が向上し、成果を試合で生かせることが大前提となります。毎日のメニューがたとえハードであっても、結果を出すという本質を忘れた練習は、「練習のための練習」でしかないのです。

この、「練習のための練習」をしてしまい、思うような結果が得られないといったことは、スポーツの試合だけでなく、ビジネスでも似たようなことが言えるのではないでしょうか。

例えば、皆さんは仕事の中でさまざまな商品の開発や販売に携わっています。その中で、皆さんはそれぞれが助け合いながらさまざまな仕事をしていると思います。しかし、いま皆さんが進めているその仕事は、最終的に何を目的にしていることなのか、あるいは自分の仕事が次の担当者、次の工程に渡ったとき、どのように生かされるのか、それを皆さんはきちんと理解できていますか? そういう点をきちんと理解できていなければ、たとえ時間をかけて一生懸命やった仕事であったとしても、的が外れてしまい思った通りの成果は出ないかもしれません。これは、ビジネスでいえば「練習のための練習」に過ぎないのではないでしょうか。

ビジネスの上で「試合で結果を出すための練習」をするためには二つのコツがあると思います。一つは、「実際に起こり得る状況を想定して、準備を怠らない」ということ、そして、もう一つは、「何のためにいまの仕事をしているのか、常に目的意識を持つ」ことです。

自分がいま進めている仕事は誰のために、何のためにしていることなのか、まずはそれを考えてみてください。例えば商品の販売計画を立てるのであれば、「誰にその商品を購入してもらい、どういうシーンで使ってもらいたいのか」、営業資料の作成ならば、「誰をキーパーソンとみなして、何をアピールするのか」をイメージしてみてください。

具体的なイメージを描いて、目的を持って仕事をする。そうすれば誰のために、何のためにいまの仕事をしているのかはおのずと分かるでしょう。これこそが試合で勝つ、つまりお客様から支持されるための有意義な仕事をする秘訣だと思います。

以上(2022年8月)

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画像:Mariko Mitsuda

松田公太(タリーズコーヒージャパン株式会社創業者)/経営のヒントとなる言葉

「情熱は誰でも平等に持つことができる」(*)

出所:「すべては一杯のコーヒーから」(新潮社)

冒頭の言葉は、

  • 「資産や才能に関係なく、情熱は誰でも同じ条件で持つことができる。たとえ人と比べて恵まれない状況にあっても、『必ず物事を成し遂げる』という強い情熱を持ち続ければ、必ずやそれを成就することができる」

ということを表しています。

父親の転勤にともない、幼い頃よりアフリカや米国などの海外で生活していた松田氏は、さまざまな国の文化に触れるうちに、「食を通じて文化の懸け橋になりたい」という思いを強く抱くようになっていました。

大学卒業後、松田氏は銀行で働いていましたが、あるとき訪れた米国のボストンで偶然スペシャルティコーヒーに出合い、大きな感銘を受けました。そして、帰国後もスペシャルティコーヒーの魅力を忘れることができず、再び渡米してスペシャルティコーヒー発祥の地であるシアトルを訪れ、街中を歩き回りさまざまなコーヒーを飲み比べました。その結果、味・香りともに最高のコーヒーと出合います。それが、小さなコーヒーショップ、タリーズのコーヒーでした。

松田氏は「タリーズコーヒーを日本に広めたい」という情熱に突き動かされ、日本の喫茶店市場について、また自身が描くビジネスプランについての詳細なリポートを作成し、米国タリーズの社長宛に毎週E-メールを送り続けました。そして、数カ月後、社長がたまたま出張で来日していることを知ると、即座にアポイントメントを取り付けて宿泊先のホテルを訪問しました。当時、タリーズコーヒーは日本進出を計画し、いくつかの企業にパートナーとしての提携を打診していました。これに対し、松田氏は、いかに自分がタリーズコーヒーを愛しているかを説き、自身が考えたタリーズコーヒーを展開する際のビジョンを情熱的に伝えました。こうした情熱が社長の心を打ち、松田氏は日本におけるタリーズコーヒー出店の権利を獲得することができました。

開業に際しては、出店する物件の確保や開業資金の調達、コーヒーや食器の輸入に関する障壁など、多くの困難がありましたが、これらの困難の一つひとつに対し、松田氏は粘り強く対処していきました。そして、1997年、ついにタリーズコーヒーの第1号店が東京・銀座にオープンしました。

しかし、困難はそれだけではありませんでした。当時の日本ではタリーズコーヒーの知名度は低く、オープン後しばらくは赤字が続きました。こうした中、松田氏は、早朝の開店から深夜の閉店まで寝る間を惜しんで働き、連日店に泊り込む生活を送りました。そして、周辺の企業に手書きのビラを配って回ったり、来店した顧客一人ひとりにタリーズコーヒーの説明をしたりと、懸命の努力を重ねました。こうしたことから、やがてタリーズコーヒーの魅力は次第に人々の間に浸透し、第1号店のオープンから9年後の2006年には店舗数300号店を超えるまでに成長することとなりました。

松田氏は、ビジネスについて、銀行時代の営業を例にとって次のように語っています。

「あらゆる仕事についていえることだが、最も大切なのは『情熱』だ。外交の仕事でいえば、相手の企業にとことん思い入れ、大好きになって、それで初めて心を開いてもらえる。そんな気持ちは、自然と相手にも伝わるものだ」(*)

タリーズコーヒーの開店を目指していた当時の松田氏は、巨額の資金や大手スポンサーとの有力な関係を持たない、いわゆる「カネもコネもない」普通の銀行員にすぎませんでした。松田氏が持っていたのはただ一つ、「タリーズコーヒーを日本に広めたい」という情熱のみでした。この情熱が、タリーズコーヒーとの契約につながり、そしてその後のタリーズコーヒーを日本におけるスペシャルティコーヒーの代表的な存在の一つにまで育て上げたのです。

環境や個人の資質など、人間にはさまざまな条件があります。資金や人脈、才能に恵まれた人もいれば、そうでない人もいます。しかし、何かを成し遂げようという「情熱」は、誰でも平等に持つことができます。成功をつかみとる上で、情熱は決して欠くことのできない大切なエネルギーとなるのです。

【本文脚注】

本稿は、注記の各種参考文献などを参考に作成しています。本稿で記載している内容は作成および更新時点で明らかになっている情報を基にしており、将来にわたって内容の不変性や妥当性を担保するものではありません。また、本文中では内容に即した肩書を使用しています。加えて、経歴についても、代表的と思われるもののみを記載し、全てを網羅したものではありません。

【経歴】

まつだこうた(1968~)。宮城県生まれ。筑波大学卒。1990年、三和銀行(現株式会社三菱東京UFJ銀行)入行。1998年、タリーズコーヒージャパン株式会社設立(第1号店オープンは1997年)、代表取締役就任(2007年に退任)。

【参考文献】

(*)「すべては一杯のコーヒーから」(松田公太、新潮社、2005年4月)

「仕事は5年でやめなさい」(松田公太、サンマーク出版、2008年6月)

以上(2012年4月作成)

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2012年3月時点のものであり、将来変更される可能性があります。

身体にも地球にも優しい「海藻」 広がる用途がビジネスチャンスに

書いてあること

  • 主な読者:環境に優しい新商品づくり、脱炭素ビジネスに取り組みたい経営者
  • 課題:環境への配慮のインパクトが大きく、コスト面でも有利な素材を知りたい
  • 解決策:「海藻」の活用を検討する。廃棄されていた海藻を原料にすることで、コスト削減や地域の活性化につなげている企業などの事例を参考にする

1 「厄介者」だった海藻がSDGsで再評価

企業にとって「新商品の開発」や「環境への配慮」は重要な課題ですが、その両方をかなえる手段として、

「海藻」を原料にした新商品づくり

をご提案します。

これまで海藻は、わかめや昆布など一部の食材を除けば、多くは漁船や養殖の網に絡みついたり、砂浜に漂着して長時間放置しておくと悪臭や虫が発生したりする「厄介者」でした。ですが、近年では、海藻の「ヘルシーさ」以外に次のような特徴も評価され、注目を集めています。

  • 海岸に打ち上げられたり、廃棄されたりしていた海藻を、低コストで活用できる
  • 海藻を穀物飼料に混ぜて牛や豚などの家畜に与えると、肉に含まれる栄養価が高くなり、げっぷなどのメタンガスも抑制される
  • 生分解性プラスチック、燃料、肥料などに活用できる
  • 二酸化炭素の吸収量が多く、カーボン・オフセットに利用できる

この記事では、実際の企業が取り組む海藻を使った新商品づくりの事例を紹介します。環境に優しい新商品づくりを検討する際の参考としてお役立てください。

2 海藻を活用した新商品が続々と誕生

まずは、海藻を原材料にした新商品の事例を紹介します。新商品の方向性について、縦軸を「高付加価値化や地域の活性化につなげる/廃棄されていた材料を活用してコスト削減を図る」、横軸を「健康に配慮した商品を作る/環境に配慮した商品を作る」に分けると、次の通りになります。

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1)希少海藻「まつも」を使ったバターで地域産業の活性化に:阿部伊組

総合建設業の阿部伊組(宮城県南三陸町)では、南三陸の希少海藻であるまつもの陸上養殖に取り組んでおり、養殖したまつもを使用した海藻クラフトバター「三陸海藻バター」を販売しています。

まつもはビタミンA・E、葉酸が豊富な海藻ですが、採藻の期間が限られ、流通量が少ない希少な海藻です。そこで、陸上養殖に取り組むことで、収穫量の減少と地域の働き手減少の課題解決に取り組んでいます。

2021年5月には、南三陸ワイナリーとのコラボイベントを開催しました。イベント参加者とECサイトでの販売分を含め150個を販売して、第1弾の一般販売は完売となる盛況ぶりでした。

2)捨てられていた海藻を加工して売上UPへ:海藻開発コンブリオ

加工品販売や飲食店を手掛ける海藻開発コンブリオ(青森県青森市)では、海藻の「ツルアラメ」を原料に使ったハンバーグや即席スープなどを販売しています。

ツルアラメは繁殖力が強く、コンブの成長を妨げる海の厄介者として、取れても捨てられていたといいます。同社では、ツルアラメに食物繊維やポリフェノールが豊富に含まれ、生活習慣病の予防や美容に効果があることに着目し、商品開発に取り組んでいます。

3)海藻を餌にしたブランド豚を育成:臼井農産

畜産事業者の臼井農産(神奈川県厚木市)では、海岸に打ち上げられ、廃棄されていた海藻を餌にした、ブランド豚の「鎌倉海藻ポーク」を育成しています。海藻を食べて育った豚は、うまみ成分のオレイン酸が通常の豚よりも多く含まれており、脂の融解温度が低く、口の中で早くとろけるといいます。

料理研究家の矢野ふき子氏が海岸に打ち上げられていた海藻を豚の餌に活用できないかということをきっかけに始まった取り組みで、餌となる海藻の回収や加工は、地域の障害者福祉施設や老人ホームの利用者などが担っています。この水産資源の有効活用や障害者の社会参画にもつながる仕組みづくりは高い評価を受け、2020年1月には、農林水産省の6次産業化・地産地消法「総合化事業計画」の認定も受けています。

4)漂着した海藻でアルギン酸を製造、温暖化対策と地域貢献へ:キミカ

アルギン酸メーカーのキミカ(東京都中央区)は、漂着した海藻を活用して、アルギン酸(海藻のぬめりの主成分で、食物繊維の一種です)を製造しており、アルギン酸の国内市場で9割以上のシェアを誇っています。

原料は、南米・チリの海岸に漂着した硬くて食用にできず、使い道がない海藻です。漂着した海藻は腐ると二酸化炭素を排出するため、腐る前に回収することで温暖化対策につながります。また、現地の海藻集荷会社を系列化し、海藻の常時買い取り備蓄体制を整えたことで、漁業者の収入の安定化と生活向上にも貢献しているといいます。

アルギン酸を抽出した海藻の残りは、ミネラル豊富な肥料として活用し、チリの自社工場周辺の農家に無償で提供しています。

5)「サルガッサム」を原料とする生分解性プラスチックを開発:GSアライアンス

脱炭素、カーボンニュートラル社会構築に向けた、環境、エネルギー分野における最先端技術、材料を研究開発するGSアライアンス(兵庫県川西市)では、カリブ海で大量発生して問題となっている海藻「サルガッサム」を原料とする、生分解性プラスチックを開発しました。

国連のスタートアップ企業サポートプログラムである、UNOPS GIC KOBEの支援により試作されたこの生分解性プラスチックは、100%天然バイオマス組成であり、石油系の材料を一切使用せず、廃棄後は微生物などに全て分解される特性があります。最近は、量産時における低コスト化にも成功しており、スプーン、フォーク、食品パッケージなどの食器や農業資材に加工し、環境意識の高い欧州、米国などでの需要を見込むとしています。

6)海藻のフノリエキスをヘアケア製品へ応用:シー・アクト

海藻資源の研究開発などを手掛けるシー・アクト(東京都千代田区)は、福井県立大学生物資源学部と共同で、海藻のフノリエキスを用いたヘアケア製品を開発しました。

フノリは絹織物ののり付け、日焼け対策、洗髪料などに利用されてきた海藻です。これまでフノリの効能は科学的に証明されていませんでしたが、粉末を水に溶かして精製したフノリエキスを人の毛髪や皮膚に塗布することで、毛髪や肌の水分量が増加したり、髪のくし通りが良くなったりしたなどの効能が証明されたことから、製品開発に乗り出したといいます。

開発したヘアケア製品は「天使のリング」の商品名で販売しています。海藻のにおいはなく、無色無臭で洗髪剤や化粧品として活用しやすく、天然素材を重視した商品やノンシリコンシャンプーの素材として、企業向けに売り出されています。

7)海藻の炭素を製鉄利用へ応用:日本製鉄

鉄鋼メーカーの日本製鉄(東京都千代田区)では、日鉄ケミカル&マテリアル(東京都中央区)、金属系材料研究開発センター(東京都港区)と共同で、海藻を生産して、製鉄プロセスの中で利用するサプライチェーンの構築に取り組んでいます。

この取り組みでは、臨海製鉄所という地の利を活かして海藻を生育し、その海藻を炭材や炭素材料として応用が可能かどうかを調査しています。

海藻のカーボンニュートラル材としての検討は、世界的に例がない研究とされており、この取り組みは、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「先導研究プログラム/エネルギー・環境新技術先導研究プログラム/ブルーカーボン(海洋生態系による炭素貯留)追及を目指したサプライチェーン構築に係る技術開発」に採択されています。

3 原材料以外でも広がる海藻の活用方法

このように、海藻を活用した新商品づくりや地域・環境への貢献活動はさまざまです。ここでは、海外での研究事例も含めた海藻の原材料以外での活用方法や、新たな海藻関連の動向を見てみましょう。

1)海藻を家畜の餌にすることで、地球温暖化対策に

海藻を餌にした家畜は、前章で紹介した「鎌倉海藻ポーク」のように、海藻を与えない場合と比べて肉の栄養価が高くなるだけでなく、げっぷやおならとして放出されるメタンガスが減少し、地球温暖化対策になるともいわれています。

例えば、豪州連邦科学産業研究機構(CSIRO)が行った研究では、海藻の「カギケノリ」を配合した飼料を牛に与え、90日間にわたり牛がげっぷやおならとして放出するメタンガスの排出量を測ったところ、海藻を与えない場合と比べてメタンガスの排出量が98%減少したといいます。

2)海藻をバイオ燃料や肥料に変換

海藻を燃料や肥料として活用する研究も進んでいます。例えば、イギリスのエクセター大学とバース大学が共同して、海藻をバイオ燃料として生成するための研究を行っています。

この研究では、通常のバイオマス処理で必要となる海藻を真水で洗って乾燥させる方法を使わず、酸性と塩基性の触媒を使い、海藻からパーム油の代替品を生み出す原料の糖を取り出したり、海藻を高温高圧にさらして燃料や肥料のもととなるバイオオイルに変換したりしています。

また、この方法では、海岸で集められたプラスチックもエネルギー源として海藻と一緒に処理が可能としており、今後のさらなる研究開発が期待されています。

3)国土交通省が二酸化炭素の吸収源として「ブルーカーボン」の活用を検討

国土交通省は、「ブルーカーボン(藻場や干潟などの海洋生態系に蓄積される炭素)」を二酸化炭素の吸収源として活用するため、2021年より検討会を設置しました。検討会では、干潟や藻場の保護活動によって得られる二酸化炭素の削減分を、排出権として取引する仕組みづくりなどを進めています。

ブルーカーボンに関しては、建設業などの一部の企業で海藻を人工的に培養したり、護岸などの港湾構造物へ海藻を着生させたりすることで、藻場の再生や海藻による二酸化炭素吸収効果の拡大に取り組んでいます。

4)地方自治体による「ブルーカーボン・オフセット」の取り組み

地方自治体の中には、国に先駆けて排出権の取引などを進めているところがあります。

例えば、福岡県福岡市では、「福岡市博多湾ブルーカーボン・オフセット制度」を導入しています。この制度は、博多湾のアマモがため込んだ二酸化炭素の吸収量を「クレジット」として0.1トン当たり800円(税別)で販売し、売り上げをアマモ場の整備など、生物のさらなる育成に役立てる仕組みです。

企業や市民は、このクレジットを購入することで、自分たちの努力や工夫では減らせない二酸化炭素の排出量を相殺し、脱炭素の取り組みとしてアピールできます。

なお、令和4年度の「博多湾ブルーカーボン・クレジット」は2022年7月25日時点で購入希望者の募集は行っていませんが、福岡市の担当課によると、準備が整い次第、令和4年度分についても購入希望者の募集を開始するとしています。

以上(2022年8月)

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画像:shutterstock-divedog

【朝礼】1200年以上も灯を絶やさずにいられる理由

皆さんは、延暦寺(えんりゃくじ)の「不滅の法灯(ほうとう)」をご存じでしょうか。延暦寺は、天台宗の開祖・最澄(伝教大師)が、788年に京都府と滋賀県にまたがる比叡山(ひえいざん)に建てた寺です。建立の際、最澄は「世の中を照らし続けるように」との願いを込めて、「根本中堂(こんぽんちゅうどう)」の本尊の前に灯(ひ)をともしました。この灯が今まで1200年以上、たった1度を除いて消えたことがないため、不滅の法灯と呼ばれているのです。

この灯りの構造は単純で、灯芯を燃料である菜種油に浸しただけです。灯を消さないためには、朝夕の2回、僧侶が油を注ぎ足さなければなりません。「油断大敵」という言葉は、ここから生まれたともいわれています。ちなみに、1度だけ灯が消えた理由は、織田信長による延暦寺焼き討ちです。ただ、その30年ほど前に、山形県の「立石寺(りっしゃくじ)」に灯を分灯していたため、立石寺の灯を再分灯してもらう形で、結果的に灯を絶やさずに済みました。いずれにしても、僧侶が油を注ぎ足し忘れるという「うっかりミス」は、1200年以上皆無だということです。

油を注ぎ足すという作業は重要ですが、単純なので忘れてしまいそうです。現代なら、多くの会社が当番制などで担当者を決めるでしょう。また、現代の技術であれば、自動で油を注ぐ構造にしたり、油が少ないとアラートを鳴らす技術を導入したりすることも、簡単にできるはずです。

ところが、延暦寺ではこれまで、油を注ぐための当番を決めずにきたといいます。逆に、担当者を決めないことで、全ての僧侶が灯を絶やさないように気を付け、守り続けてきたのです。灯を消さないための新技術も導入していません。

担当者を決めないやり方は、一見、非効率的といえますし、「他人任せ」にもなりがちです。ですが、私はそうならない理由が、最澄の教えの「一隅を照らす」にあると思っています。これは、「一人ひとりがそれぞれの持ち場で最善を尽くすことによって、自然に周囲の人々の心を打ち、お互いに良い影響を与え合い、やがて社会全体が明るく照らされていく」という教えです。

延暦寺の僧侶は、この教えを守っているからこそ、灯を絶やさないことの重要さを感じ、一人ひとりが最善を尽くしているのではないでしょうか。そして、油の残量を確認するたびに、最澄の教えを改めてかみしめているはずです。朝礼で社是を唱和することと同じように、それは決して非効率的な作業ではありません。

大事なのは、一人ひとりが灯を絶やさないことの重要性を理解し、自分事に感じて、緊張感を持つことです。これは、皆さんにもぜひ見習ってほしいと思います。当社は1200年以上の歴史はありませんが、皆さんやご家族、取引先の方々など、多くの人たちをお支えしており、絶やしてはならない存在のはずです。社是を忘れず、緊張感を持って業務に取り組んでください。

以上(2022年8月)

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画像:Mariko Mitsuda

【朝礼】その成功の理由を探せ

「上司に褒められた」「プレゼンテーションがうまくいった」「新しい顧客を獲得した」「資格試験に合格した」「ダイエットでウエストが5センチ細くなった」など、人生にはさまざまな成功があります。

成功したときのいいようもない充実感、達成感、高揚感は非常に心地よいものです。人生においても、仕事においても成功体験が多いほど楽しいものであり、一つでも多くの成功体験を重ねていきたいものです。

よく「失敗から学ぶ」という言葉を聞きますが、「成功から学ぶ」ことも同じように重要です。また、「過去の成功体験を忘れろ」もよく聞く言葉ですが、忘れる前にすることがあります。それは、その成功をしっかりと分析することです。

世の中には「高い確率で成功できる人」がいます。こうした人は「成功の理由をとことん追究して次に生かしている」のです。失敗したときに「なぜ、失敗したのか」を分析するのと同じように、成功した次にやるべきことは、「なぜ、成功したのか」を分析し、理由を追究することです。成功を「あのときはラッキーだった」で終わらせてしまっては次の成功につながりません。成功に至った理由を追究して自分の頭と体に叩き込み、それを自分の「成功法則」にすることができれば、次も成功に導けるかもしれません。

自分の「成功法則」を整理するために、今日から二つのことを実践してください。

一つは、上司、同僚、家族、友人など身の回りの人に自分の成功体験を話してください。そうすることで、「あのとき、自分はこう思っていた」「相手の気持ちをこうして察した」など、成功した理由が客観的な言葉になって整理されてきます。

中には後付け的に出てくる理由もあるでしょうが、問題ではありません。それは、自分の成功を自分自身が分析した結果だからです。また、皆さんの話を聞いた上司や同僚などがいろいろと質問してくるでしょう。それに答えていくことによって、自分では気づかなかった新しい視点も生まれます。そして、このときに、話し相手の成功体験を聞くようにしましょう。人の成功体験は思った以上に刺激になります。

もう一つは、成功体験を「原因と結果」で整理して一冊のノートにまとめることです。この「私の成功ノート」には、成功の秘訣が文字で記されます。文字にすることで、成功がより具体化します。

経営の神様といわれた松下幸之助氏は「成功している会社はなぜ成功しているか。成功するようにやっているからだ。失敗している会社はなぜ失敗しているか。失敗するようにやっているからだ」といいました。

皆さんが成功するためには、これまで成功した理由を知り、そこから成功の法則を見つけ出し、その法則通りにやるより方法はありません。

最後に、成功するためにはチャレンジし続ける勇気を持つことも忘れてはなりません。大きな成功をした後ほど、「次は前ほどうまくいかないかもしれない」と気持ちが後ろ向きになりがちです。しかし、人生にもビジネスにも、かならず次のチャレンジが到来します。当たり前のことですが、チャレンジがなければ成功もありません。成功と失敗を多く経験し、その都度、理由を追究して自分のものにしていくことでしか、自分の「成功法則」を完成させることはできません。

以上(2022年8月)

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画像:Mariko Mitsuda

センサーで健康状態の把握、データ解析で収益最大化など「畜産テック」最前線/新技術で変わる農林水産業(3)

書いてあること

  • 主な読者:業務の効率化や人手不足の解消を図りたい畜産業の経営者
  • 課題:どのようにすれば効率化や人手不足の解消が図れるのか分からない
  • 解決策:事例を参考に、センサーやAI、ビッグデータ解析などの新技術を取り入れる

1 テクノロジーで畜産業の課題を解決「畜産テック」

近年、農林水産業を営む企業で、人工知能(AI)やドローンなどのテクノロジーを取り入れる動きが出てきています。体力勝負のこまめな管理や、自然環境の影響を大きく受けるこれらの業界では、次のような課題が挙げられています。

  • 高齢化による人手不足、ノウハウの継承
  • 変化する自然環境への対応
  • 効率的、持続的な生産・収穫・漁獲体制の確立

このシリーズでは、農林水産業を営む企業が直面する課題を解決するための最新テクノロジーの動向と、その活用事例を紹介します。第3回の今回のテーマは、畜産業が直面する課題を解決するための「畜産テック」です。具体的には、

  • センサーを使った監視による分娩事故の防止
  • ウエアラブルデバイスからのデータ取得で、家畜の健康状態や繁殖情報を把握
  • AI解析により外観だけで判定する体重測定
  • ビッグデータの解析による、収益を最大化させるための飼育方法の最適化

といった取り組みを紹介します。

2 「畜産テック」取り組み事例

畜産テックによって、繁殖、個体の把握、飼育などで、次のようなことが可能になります。

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1)体内温度センサー・IoT/AI×分娩監視(牛)

牛の出産時の「子取り」に失敗する、いわゆる「分娩事故」によって子牛が死亡してしまうと、畜産農家にとっては大きな損失となります。このため、畜産農家は24時間体制で親牛を見守ることが少なくありませんでした。

リモート(大分県別府市)の「モバイル牛温恵」は、親牛の体内に入れた温度センサーによって、「分娩の約24時間前」や「1次破水時」などを検知してメールで通知します。

また、ノーリツプレシジョン(和歌山県和歌山市)の「牛わか」は、分娩房に設置したカメラが分娩を予定している親牛を監視し、分娩データを学習したAIが分娩前の特徴的な行動を検知してメールで通知します。

こうしたテックを活用することで、畜産農家が長時間親牛を見守っていなくても、分娩事故を減少させることが可能になるといいます。

2)ウエアラブルデバイス・AI×個体把握(牛)

牛の健康状態や繁殖状況をしっかりと把握するには、畜産農家に1頭ずつ観察する手間と経験が求められていました。特に繁殖に関しては、3分の2程度の牛の発情時刻が午後6時から午前6時までの間ともいわれており、授精のタイミングを逃してしまうことが少なくありません。牛は発情を1回逃すと、次の発情(平均21日後)まで約2万円の餌代がかかる他、乳量にも影響することから、受胎率の向上はコスト削減に効果があるといいます。

富士通Japan(東京都港区)の「牛歩SaaS」は、牛に取り付けた歩数計から自動的に集まる時間当たりの歩数を基に、発情開始時間・授精適期・受胎・未受胎・疾病などを判断します。一般的に発情開始時期に歩数が多くなるといわれており、発情兆候を検知して畜産農家にメールで通知します。また、過去の繁殖情報を分析し、繁殖作業予定の牛をカレンダー形式で表示します。

ファームノート(北海道帯広市)の「Farmnote color」は、牛に付けたウエアラブルデバイスで活動を24時間把握し、その情報をスマートフォンなどにリアルタイムで通知してくれます。具体的には、AIで個体差を把握した上で、それぞれの牛の活動量を解析。活動の低下や起立困難といった異常の際に通知をしてくれます。繁殖に関しては、発情や分娩の兆候に加え、授精の最適時刻も解析してくれます。飼育する牛に関する全てのデータはグラフなどで「見える化」されるので、妊娠率や発情見逃し頭数などを基に、繁殖に関する課題を把握することも可能といいます。

デザミス(東京都江東区)の「U-motion(ユーモーション)」も、牛に付けるタグに内蔵された複数のセンサーから、牛のデータをクラウドに収集、分析します。採食、飲水、反すう、動態、起立、横臥(おうが)、静止の7つの行動を、24時間リアルタイムで「見える化」しています。これらの行動データを分析することで、牛の発情、分娩、疾病といった兆候や、起立困難のアラート提供を行い、適切な処理や見回りの軽減に役立つといいます。

米国企業の日本法人MSDアニマルヘルス(東京都千代田区)の「SenseHub Dairy(センスハブデイリー)」は、牛の耳や首に取り付けるタグを使って、クラウド飼育管理システムを提供しています。世界で600万頭の牛のビッグデータに基づく解析も活用し、生産性の最大化をサポートしているのが特徴です。

3)非ウエアラブルデバイス・AI×個体把握(牛)

ウエアラブルデバイスを使わずに牛の状態を把握するテックもあります。

コンピューター総合研究所(茨城県水戸市)の「MOH-CAL(もーかる)」は、牛舎に取り付けた監視センサーで牛の採食時間、水飲み時間、立位・座位時間を1時間単位で集計します。同時に牛の行動変化をデータ化し、分娩兆候、起立困難状態を検出してメールで通知します。

太平洋工業(岐阜県大垣市)の「CAPSULE SENSE(カプセルセンス)」やThe Better(東京都新宿区)の「LiveCare(ライブケア)」は、温度と活動量を測定するカプセルを牛の胃の中に滞留させることで、牛の繁殖状況や健康状態を監視します。カプセルセンスは、一度牛の中に入れれば5年間はメンテナンスが不要な点が、ライブケアはカプセルケースがサトウキビ由来の材料を使用している点が、それぞれ特徴です。

4)AI×体重測定(豚)

豚の体重を1頭ずつ計測するには、時間も人手もかかります。また、体重は取引価格に影響しますし、体重の誤差は等級付けの際の「格落ち」の要因にもなります。このため、従来より豚の外観から体重を推定する「目勘(めかん)」と呼ばれる方法がありますが、長年の経験が求められる上に、ばらつきも生じてしまいます。

NTTテクノクロス(東京都港区)との共同研究で開発した伊藤忠飼料(東京都江東区)の「デジタル目勘(めかん)」は、専用の端末で豚を撮影して、外観から体重を推定します。真上から見た豚の体形や体長、体幅などの特徴量と、AIによって体重推定モデルを照合して算出します。実際の体重との誤差は4.5%以内といいます。

この他、アイピー通商(徳島県名西郡)の「eYeGrow(アイグロウ)」は、赤外線3Dカメラを使って豚舎内の豚の群の平均体重を計測し、データをスマートフォンなどに送信します。出荷時期の予測や飼育方法の最適化などに役立つといいます。

5)ロボット×飼育の自動化・省力化(牛、鶏)

ロボットなどを活用して、人力で行っている飼育作業を軽減するテックも開発されています。

オリオン機械(長野県須坂市)は酪農家の作業を軽減するために、自動搾乳ロボットや給飼機、哺乳機、牛床を清潔に保つための乾牧草やワラなどの敷料を自動で散布する敷料散布機、ふん尿搬出機といった、作業の自動化や省力化のための機械を販売しています。

東西産業貿易(東京都文京区)の「レイヤーウオッチャー」は、自動走行ロボットが撮影した画像をAI分析して、鶏舎内で死んでいる疑いのある鶏とそのゲージ列番号を表示します。表示されたゲージ列の段情報を選択すると、10秒間の検知動画を見ることができ、死んでいる鶏のチェックのための時間を従来の5分の1に削減するといいます。

6)人工衛星/ドローン×牧草地管理(牛)

国際航業(東京都新宿区)の「天晴れ(あっぱれ)」は、人工衛星やドローンからの画像を解析して、牧草地の生育状況を分析します。酪農家は牧草地を全て歩いて生育状況をチェックする必要がなくなり、草地更新の際は経年数ではなく、雑草の繁茂状況で牧草地を選ぶことなどが可能となるといいます。

7)ビッグデータ解析×飼育方法の最適化(牛、豚)

これまで牛や豚の飼育は人の経験や勘によって行われていたため、ムラやムダがつきものでした。これを改め、多くの畜産農家の飼育に関するデータを収集し解析することにより、収益を最大にするための飼育方法の最適化を進める取り組みが、民間・非民間団体ともに進んでいます。

酪農家向けには、家畜改良事業団(東京都江東区)が主体となって運営する「全国版畜産クラウド」が、2018年から始まりました。クラウド上のデータベースに牛の生産者団体からの個体識別情報、乳量・乳成分情報、人工授精情報、疾病履歴情報などのビッグデータを蓄積・解析して、効率的な畜産経営のための情報提供を行うシステムです。情報を提供している酪農家は無料で利用できます。このシステムを利用すると、例えば、個体識別情報を基に分娩間隔の長い牛を発見し、飼養改善や治療を行うことが可能になります。

養豚農家向けのサービスもあります。日本養豚開業獣医師協会(JASV)と農業・食品産業技術総合研究機構(茨城県つくば市)が開発した養豚農場の生産性評価システム「PigINFO」は、養豚農家の出荷頭数や販売金額などのデータを四半期ごとに集めて、ベンチマーク解析します。解析結果を基に、養豚農家は獣医師と連携して飼育方法などの改善に取り組めます。養豚農家の抗菌剤使用量などのデータ「PigINFO Bio」や、食肉衛生検査所での病気の検査データ「PigINFO Health」と連携させることで、抗菌剤の削減や疾病対策などにもつなげられるそうです。

この他、Eco-Pork(東京都墨田区)の養豚農家向けの経営管理システム「Porker(ポーカー)」は、繁殖や肥育など養豚に関するデータをスマートフォンなどから入力し、クラウドで管理します。飼育方法を最適化させるための分析を行い、経営改善に貢献するといいます。また、同社による豚舎の環境のモニタリングサービス「Porker-Sense-(ポーカーセンス)」は、IoTセンサーによって豚舎内の温度や湿度などをモニタリングします。異常時にはメールなどでのアラートによって豚の死亡事故を防ぐ他、生産成績と肥育環境をひも付けて分析してくれます。

3 畜産テック関連のデータ:ニーズと課題、需給など

これまで見てきたように、さまざまなシーンで「畜産テック」導入の動きが始まっています。農林水産省などの資料から、求められているニーズや需給などの状況を見てみましょう。

1)畜産テックのニーズ

全日本畜産経営者協会は2018年度から2019年度にかけて、「スマート畜産調査普及事業」を実施し、スマート畜産技術ニーズなどに関する畜産経営者へのアンケート調査を行いました。その報告書によると、酪農、肉用牛、養豚、採卵鶏、ブロイラーの各農家の畜産テックのニーズは、次のようなものが挙げられています。

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2)飼養頭(羽)数と飼養戸数の推移

農林水産省「農林水産統計」によると、国内の畜産農家の飼養頭(羽)数と飼養戸数の推移は次の通りです。飼養頭(羽)数はやや増加している一方で、飼養戸数が減少していることが分かります。

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以上(2022年8月)

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画像:shutterstock-Luke SW