スマホで新しい販路を開拓する「ライブコマース」の成功ポイント

書いてあること

  • 主な読者:対面の接客・販売手法だけでなく、「ライブコマース」を取り入れたい経営者
  • 課題:具体的な「ライブコマース」の動向や事例、成功のポイントが分からない
  • 解決策:インターネットとはいえ、コミュニケーションを重視する。関連法令にも注意

1 新たな販路の開拓にライブコマースを!

ライブコマースとは、

ライブ(Live)+Eコマース(E-Commerce)の名の通り、インターネットで商品を紹介する動画をライブ配信し、リアルタイムでオンラインショップでの購入につなげる販売手法

です。日本では、2017年頃に登場し、新型コロナの影響が拡大した2020年以降、ユーチューバーやインスタグラマー、動画アプリのTiktokなどになじみがある、若者や外国人を中心に定着してきています。

売りたい商品を映像で紹介するスタイルは、従来のテレビショッピングと似ていますが、ライブコマースには次のような特徴があります。

  • ネットの動画配信による、視聴者との双方向のコミュニケーション
  • 顧客に対して購入ボタンのワンクリックのみで直感的な購入に導くことができる
  • モデルやインフルエンサーなどがPRすることで、効果的な宣伝が見込める

この記事では、ライブコマースのサービス内容や、企業の取り組み、利用者の動向などについて解説し、ライブコマースで新たな販路を開拓するためのヒントをご提供します。

2 スマホで簡単注文、テレビ通販と実演販売のいいとこ取り

ライブコマースは、スマートフォンなどのアプリを用いて提供するタイプや、自社のECサイトにライブコマース機能を持たせるタイプなどがあります。

配信者が商品を紹介する動画を撮りながら、その動画を見ている利用者の質問などに答えていくスタイルですが、リアルタイムで顧客とコミュニケーションを取るライブコマースは、スーパーで総菜などを目の前で調理してくれる実演販売のようなイメージかもしれません。

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3 多様化が進むライブコマースの活用方法

日本でも、さまざまな業界でライブコマースの導入が進んでいます。最近は、ライブコマースをデジタルな販売戦略の一環として組み込んだり、地方の企業向けにライブコマースのサービスを提供する取り組みも登場したりと、活用方法が多様化してきている印象を受けます。

1)三越伊勢丹HD:実店舗のイベント連動、チャットやビデオ通話で接客

新型コロナが出現する前からライブコマースに取り組んでいた三越伊勢丹ホールディングスは、自社のライブコマースの取り組みを進化させています。これまでは、実店舗でのイベントに連動したものや新商品を紹介する配信を行っていました。

現在では、自社の専用アプリ「三越伊勢丹リモートショッピングアプリ」を提供しています。このアプリは、販売員にチャットでの商品についての相談や、一部の店舗限定ですが、販売員にビデオ通話で商品を見ながら提案を受けたり相談したりすることもできます。

こうした取り組みもあり、同社はライブコマースを含むオンライン売上高を、2024年度には600億円超と計画しています。

2)ファンケル:中国での販売に活用、限定商品や先行情報も発信

化粧品メーカーのファンケルは、新型コロナの感染拡大を機にライブコマースのサービス「ファンケル ライブショッピング」を開始し、自社の強みである通販事業の強化に取り組んでいます。

PR担当者と商品部門の担当者がコンビで、紹介する商品とその使用方法を説明します。配信中は、利用者からの質問などに商品部門の担当者が回答したり、PR担当者が使い心地やメークのコツなどを引き出したりします。

また、ライブコマース限定商品の販売や、その配信でしか聞けない先行情報などもあり、コアなユーザーを引きつける効果的な取り組みといえます。

同社は日本の化粧品に対する評価、需要が高い中国の顧客向けのライブコマース活用にも注力しているようです。同社は2021年11月に中国・上海で行われた博覧会に出展し、SNS「WeChat」によるライブ配信を行ったところ、約8900万人が閲覧したといいます。

3)京都中央信用金庫など:海外向けに店舗や周辺の風景の動画も配信

京都中央信用金庫は、取引先企業の販路拡大を支援すべく、越境ECの事業を行うインタセクト・コミュニケーションズと共に越境ECモール「京都優品跨境商城」の提供をしています。

この越境ECモールは、「WeChat」の軽量アプリ「ミニプログラム」として展開し、京都中央信用金庫の取引先の商品に限定して販売しています。商品の掲載だけでなく、プロモーション動画の配信や、商品を掲載している企業の実店舗や周辺の風景をライブコマースで配信しました。

新型コロナの影響によりインバウンド観光客がほぼ途絶えている中、金融機関が取引先を越境EC、ライブコマースで支援する動きは、今後も要注目といえそうです。

4)クリップス:地場商品を全国に発信

クリップスは、地方創生に特化したライブコマースのプラットフォーム「Sharing Live(シェアリングライブ)」を運営しています。

シェアリングライブの特徴は、地方創生に特化したプラットフォームのため、これまでは地元で消費されることが多かった地場の商品を他の都道府県の視聴者に紹介し、全国に販路を広めることができる点です。その他の同社の強みとして、ライブコマースの動画配信だけにとどまらず、企画や配信者(ライバー)の育成やスタジオ、撮影機器の手配なども一気通貫して提供できることが挙げられます。

こうした特徴を活かし、地方の企業や金融機関と共同でのライブコマースの配信実績を積み重ねています。同社の取り組みは、自治体からも好評を得ているようで、2021年11月には、東京都が主催するスタートアップ支援事業「NEXs Tokyo(ネックス トウキョウ」のモデル事業創出プログラムとして採択されました。

5)楽天:巨大ECサイト「楽天市場」を活用したライブコマース

楽天は、自社が運営するECサイト「楽天市場」の出店企業向けにライブコマースの配信機能を追加しました。

この配信機能は、楽天市場の各店舗が、最大90分の動画配信を行えるものです。また、楽天市場で定期的に行われる「楽天スーパーセール」などのイベントと連動し、動画配信もできます。

直近の配信予定を見ると、アパレルや食品、健康器具を販売する店舗などが比較的多く配信を行っているようです。これらの店舗を見てみると、視聴者限定の10%オフのクーポン発行や、購入時に付与される楽天ポイントを10倍にするなどで、視聴者を引きつける試みを行っています。

4 ライブコマースを成功させるためのヒント

ライブコマースを導入し、ファンや潜在顧客を獲得し、収益につなげるためにはどのような対策が必要なのでしょうか。ライブコマースを取り入れている企業からは、次のようなヒントを聞くことができました。

ライブコマースに対するスタンス:

  • 単なる商品・サービス説明ではテレビショッピングと変わらず、利用者にも飽きられるため、「顧客とのコミュニケーション」に主眼を置くこと。自社や商品の認知度が高くない場合は、収益化を急がずに、まずは自社のファンを増やすような気持ちで取り組む

配信者の選定:

  • 自社内で選定する場合には、進行役の「しゃべりのうまい人」、利用者の質問に的確に回答する「商品知識の深い人」のコンビで行っている。他のライブコマースの配信や、ユーチューブで有名ユーチューバーの配信方法を参考にしている
  • インフルエンサーなどに依頼したことはないが、多数の利用者に商品をアピールする場合や、自社が狙う顧客層とインフルエンサーのフォロワー層が合致する場合には、配信効果が大きいと考える。ただし、依頼する際には、商品の特徴や、想定問答の準備などが必ず必要になる

配信中:

  • 配信中は、利用者からの質問コメントに丁寧に回答する。回答し忘れたり、曖昧な回答をしたりすると、コメント欄が「荒れ」、視聴者が離脱する恐れがある
  • 配信者だけが盛り上がり、利用者を置いてきぼりにさせないために、「スーパーマーケットの実演販売者」を意識してお客さんとのコミュニケーションを取る
  • 利用者からは、色味やイメージが違うとの声が寄せられることがある。これは、カメラの僅かな光の加減や、手ブレなどによることもあり、配信時には、さまざまな角度で商品を紹介することや、アップで撮るなどの工夫をしている

配信後:

  • ただ配信するのではなく、コメントや販売数などの分析や、配信時の改善点の洗い出しも行う。質問やコメントなどは、貴重な「お客様の声」となるので、今後の商品企画や配信のヒントになる

5 リスク面:利用者とのトラブルや法規制

ライブコマースの本格的な普及はこれからなので、ライブコマースの利用者と導入する企業との両者の間で、ノウハウなどの蓄積が不十分といえます。国民生活センターの調査によると、「イメージと異なる商品が届いた」「出品者に確認した内容と異なる品質の商品が届いた」などのトラブルが報告されているようです。

1)消費者庁の注意喚起

消費者庁は「インターネット消費者トラブルに関する調査研究 ライブコマースの動向整理」の中で、利用者が注意すべき事項として、以下のような注意喚起を行っています。

  • 商品情報・取引条件を確認する
  • 衝動的な購入を行わない
  • 販売者・配信者の信頼性について確認する

2)関連法規制

ライブコマースに関連する法規制としては、次のようなものがあります。

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これらの法規制に抵触する恐れがある場合には、消費者庁が調査を実施し、措置命令や課徴金の納付を命じたり、業務停止命令や罰金が科されたりすることもあります。

6 ライブコマースの利用者動向

ネオマーケティングが2022年1月に行った「全国の20歳~69歳の男女1000人に聞いた『ライブコマース成功のカギ』」によると、ライブコマースを視聴した理由について、以下のように回答しています。この回答結果を見ると、「すでに知っている商品」について、さらに詳しく知りたいというニーズがあるようです。また、「パッケージを開いて使ってみせる」などの一歩踏み込んだ商品解説が求められているともいえそうです。

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また、ライブコマース利用者に今後の利用意向については、68.6%が「購入したい・やや購入したい」と回答しており、配信を継続することで顧客を定着させることができる可能性もうかがえます。利用者のライブコマースでの消費行動(消費金額、売れ筋商品など)は公表されていませんが、ライブコマースのサービスを提供する企業などによると、アパレルやアクセサリー、家電などがよく売れる傾向にあり、消費金額は数千円~1万円前後がボリュームゾーンとなっているそうです。

新型コロナの拡大を受けた外出自粛や店舗の閉鎖などを背景に、巣ごもり需要を捉える方法の一つとして広まったライブコマースですが、現在では、目的を差異化したものや、顧客との新しいコミュニケーション手法として活用する事例も登場しています。

一方、スマホで手軽に情報発信や顧客とやり取りができるため、トラブルなども消費者庁にも寄せられています。ライブコマースを取り入れる際には、関連する法規制の確認はもちろん、動画配信時の表現やコメント対応にも配慮することが望ましいといえます。

以上(2022年5月)

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画像:Daxiao Productions-shutterstock

EVシフトで車のライトやミラーはどう変わる? 自動車部品産業の動向

書いてあること

  • 主な読者:自動車部品(ライト関連・ミラー機器)の製造を手掛ける企業の経営者
  • 課題:企業によっては電気自動車(EV)へのシフトで既存事業の継続が困難になりかねないため、EVで必要になる部品の新規開発や新事業への業態転換が求められる
  • 解決策:国による自動車部品産業への支援策や他企業の先進事例を参考に、自社で取り組める新技術の開発や業態転換を検討する

1 自動車部品産業にまつわるデータ

1)自動車部品の出荷金額の推移について

日本自動車部品工業会「自動車部品出荷動向調査結果」によると、自動車部品(ライト関連、ミラー機器)の出荷金額推移は次の通りです。

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自動車部品の出荷金額は、完成車メーカーの生産に影響されます。特に、2019年度から2020年度にかけての出荷金額の減少は、

  • 新型コロナウイルスの感染拡大に伴う工場の稼働停止
  • 半導体不足に伴う自動車の生産台数の減少

などが要因として挙げられます。

2)事業所数などの推移について

1.自動車用のヘッドライトを製造する事業所

総務省の「日本標準産業分類」では、自動車用のヘッドライトを製造する事業所は、電気照明器具製造業に含まれます。経済産業省「工業統計調査 産業別統計表(各年)」によると、電気照明器具製造業の事業所数などの推移は次の通りです。

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2.自動車用のドアミラーを製造する事業所

総務省の「日本標準産業分類」では、自動車用のドアミラーを製造する事業所は、自動車部分品・附属品製造業に含まれます。経済産業省「工業統計調査 産業別統計表(各年)」によると、自動車部分品・附属品製造業の事業所数などの推移は次の通りです。

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2 自動車産業を取り巻く環境の分析、自動車部品産業に関わる規制について

1)自動車産業を取り巻く環境について

自動車部品産業は、完成車の生産やそれにまつわる規制の影響を大きく受けます。ここでは、自動車産業全般に焦点を当てて、PEST分析で外部環境と成長要因を整理します。なお、以降の説明で紹介する電気自動車(以下「EV」)は、自宅や充電スタンドなどで車載バッテリーに充電を行い、モーターを動力として走行する自動車を指します。

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地球温暖化や都市部の大気汚染対策として、世界的にガソリン車の販売を規制し、EVの普及を促進する動きが広がっています。また、地方自治体や企業単位でもEVのカーシェアリングや、蓄電池として活用する実証実験を通じて普及を推進しています。

ガソリン車からEVにシフトすることに伴い、必要になる自動車部品が大きく変わる他、既存の車体やタイヤなども軽量化などの改善が求められます。EVで不要となるエンジン部品を手掛けるメーカーなど、企業によっては事業の継続が困難になりかねないことにもなるので、EVで必要になる部品の新規開発や新事業への業態転換が喫緊の課題となっています。

そこで、政府では新しい経営戦略の立案のサポートや資金補助などを通じて、自動車部品産業を支援していくとしています。

2)EVシフトに伴う自動車部品産業への影響

一般的に、EVシフトに伴い、自動車の構造は次のように変わるといわれています。

  • ガソリン車に必要な部品が車両全体で約3万点必要なのに対し、EVはエンジンを中心に1万~2万点程度の部品が不要になる
  • 動力源の構造が簡素化されることで、部品がユニット化されて、工場における自動車の組み立て時間の短縮につながる
  • 完成車メーカーを頂点とする系列企業で構成する構造が変わり、車両の組み立て、新規参入の障壁が低くなる

EVシフトにより影響を受ける主な自動車部品は次の通りです。

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EV化に伴い、ヘッドライトは従来のハロゲンではなく、電力消費が少ない発光ダイオード(LED)の需要が伸びつつあります。EVの場合は動力に限らず、エアコン、照明なども全て1つのバッテリーで賄うため、電装品の省電力化が車の走行距離などの性能に影響を及ぼすからです。また、ヘッドライトだけでなく、自動運転に対応するためのセンサーに内蔵されるランプの需要も増えるとされています。

自動車ランプを製造する企業では、「LiDAR(ライダー)」の開発に注力しているところもあります。近赤外光や可視光、紫外線を使って対象物に光を照射し、その反射光をとらえて距離を測定する仕組みで、今後の自動運転車には欠かせない技術とされています。

自動車のドアミラーに関しては、2016年に国土交通省がバックミラー等に代わる「カメラモニタリングシステム」の基準を整備したことをきっかけに、バックミラーの代わりに、「カメラモニタリングシステム」(CMS)を備えた自動車の設計・製造が可能になりました。そのため、EVの一部の車種では、バックミラーやサイドミラーがカメラ式になったものがあります。

3)国による自動車部品産業への支援策の例

経済産業省では「自動車産業『ミカタ』プロジェクト」として、自動車部品のサプライヤーが業態転換を行う際の支援を、2022年度内に始めるとしています。

同プロジェクトでは、電気自動車で不要になるエンジン部品などを製造するサプライヤーが、電動車の部品製造や軽量化などの技術適応を図る場合に対して、相談を受け付けたり、専門家を派遣したりするなどの支援を行う計画です。また、業態転換に向けて必要となる設備を導入する場合には、設備導入費の補助も行います。補助率は中小企業が2分の1(上限は1億円)、中堅企業が3分の1(上限は1億5000万円)となっています。

事業期間は2022~2026年度の予定で、初年度となる2022年度は専門家派遣企業100社を含む約1000社を支援するとしています。

3 自動車部品(ライト関連、ミラー機器)製造企業の新技術・業態転換の事例

1)無動力歩行支援機を開発:今仙電機製作所(愛知県犬山市)

自動車用リアランプやシート用のアジャスターなどを手掛ける同社では、無動力歩行支援機の「aLQ by ACSIVE」(通称:aLQ(アルク))を名古屋工業大学と共同で開発しています。この製品は電気モーターなどを使わず、バネと振り子の動きによって歩く際の足の振り出しをサポートするものになります。同社では、この製品を通じて取得した知見を活かして、健康寿命の長期化を図るなどの自動車以外の新規事業を推進する計画です。

また、同社では、東海理化が開発した「フェンダー付けデジタルアウターミラー」(詳細は後述)に組み込むランプの製造も手掛けています。

■今仙電機製作所■
https://www.imasen.co.jp/

2)自動車電球の技術を活かしてきのこを栽培:大井川電機製作所(静岡県島田市)

フロントランプやルームランプなどの自動車用電球の製造を手掛ける同社では、電球製造の厳格な品質管理と生産体制のノウハウを活かして、「はなびらたけ」というきのこの栽培に取り組んでいます。

照明のLED化の影響を危惧していた同社では、新規事業への参入を検討し、2015年からはなびらたけの人工栽培の研究を始めました。はなびらたけは市場にほとんど出回らず、人工栽培が難しいきのこですが、育成環境や生育条件の試行錯誤を重ね、2018年には独自の栽培ノウハウを確立しました。

同社のはなびらたけは、2021年2月に「ホホホタケ」というブランド名に刷新し、2022年1月にはシンガポール、香港、マレーシアに「ホホホタケ」の輸出を開始しました。

■大井川電機製作所■
https://www.oigawa.com/

3)蓄電池の開発に着手:岐阜多田精機(岐阜県岐阜市)

自動車のドアハンドルやドアミラーの製造に使う金型製作を手掛ける同社では、蓄電池のバナジウムレドックスフロー電池(VRFB)システムの研究開発・事業化に取り組んでいます。この電池は安全性と充放電特性が高く、小規模蓄電システムの候補として有望視されています。また、電池の部品が樹脂で作られているため、同社の金型開発と親和性があるといいます。

同社の事業は岐阜県の「次世代エネルギー産業創出コンソーシアムの取組」内で、活動補助金を受けて進めています。

■岐阜多田精機(多田精機グループ)■
http://www.tada.co.jp/

4)世界初の次世代電子ミラーを開発:東海理化(愛知県大口町)

自動車用のスイッチやシートベルトなどを手掛ける同社では、ドアミラーに代わり、自動車のフェンダー(泥よけ)部分に設置する「フェンダー付けデジタルアウターミラー」を2021年5月に開発しました。フェンダー部にミラーを格納することでカメラの汚れを防止したり、多彩なイルミネーション機能により、さまざまなコミュニケーションが図れたりなど、世界初となる技術が盛り込まれています。

また、同製品は従来のドアミラーよりも前に設置されることで、広範囲に視界を確保し安全性を向上させる、小型化により空気抵抗を減らし、燃費を向上させるといったメリットがあるとされています。

他にも、同社では防犯電子錠や窓施錠モニターなどの住宅用品、除菌・脱臭ができるオゾン発生器などの自動車部品以外の製造も手掛けています。

■東海理化■
http://www.tokai-rika.co.jp/

5)トースター型殺菌器を開発:スタンレー電気(東京都目黒区)

ヘッドランプやドアミラーカメラ用センサーなどを手掛ける同社では、2020年12月に自治医科大学と共同でトースター型殺菌器を開発しました。除菌庫内で特殊な波長の紫外線を照射し、医療用マスク、ゴーグル、ペンなどに付着したウイルスを不活性化させるものです。

また、同社は、2020年12月に三菱電機と車載用ランプシステムの開発・設計・製造・販売で業務提携しました。次世代ランプ制御システムの共同開発においてスタンレー電気が光源、光学およびランプ本体部分を担当、三菱電機が灯火・配光制御ユニット部分を担当することで、車載用ランプシステム事業を拡大させるとともに、交通死亡事故ゼロを目指し、安全安心な社会の実現に貢献するとしています。

■スタンレー電気■
https://www.stanley.co.jp/

以上(2022年5月)

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画像:BLKstudio-Adobe Stock

社員は家族であり、コスト・原材料ではない/「人を大切にする経営」で業績アップ(2)

書いてあること

  • 主な読者:業績は上がらないし、社員は生き生きと働いていない。会社の経営指針を根本的に見直したいと考えている経営者
  • 課題:社員の幸福や会社の社会的意義も大事だが、業績が悪ければそれどころではない
  • 解決策:会社に関係する全ての人の幸福を最優先する「人を大切にする経営」を実践する。まず、社員は家族であり、コスト・原材料ではないという基本的な考え方を持つ

1 業績は最大の目的ではなく、社員はコスト・原材料ではない

前回は、「人を大切にする経営」をしている会社がどれだけすごいのか、その実力をご紹介しました。人を大切にする経営を進める中で成長サイクルが生まれ、業績が上がるとともに、少子化対策などの社会課題解決にも貢献するということをご理解いただいたと思います。

第2回からは、あなたの会社で人を大切にする経営を実践することを想定した話になります。今回は、まず人を大切にする経営を進めていく上で必要となる、基本的な考え方をご説明します。大きなポイントは次の3点です。

  • 業績は会社の最大の目的ではなく、人を幸せにするための手段もしくは結果である
  • 社員はコスト・原材料ではなく、家族のように考えるべき
  • 「ヒト・モノ・カネ」は並列ではない

2 業績を最大の目的にする会社ほど業績が低迷する現実

好不況やコロナウイルス感染拡大など有事にもかかわらず、業績を拡大させている会社とそうではない会社との決定的な違いは、経営そのものに対する考え方にあります。

業績が低迷する多くの会社では、会社経営の最大の目的・使命は、業績を上げることです。ライバル会社との勝ち負けを競うことが目的になってしまっています。業績は重要ですが、

業績や勝ち負け自体は会社経営の目的ではなく、本来の目的を実現するための手段もしくは結果にすぎない

のです。

本来は手段や結果であるはずの業績や勝ち負けを目的とした経営を実践すると、必ず誰かを不幸にします。その不幸になる人こそ、働く社員その人たちなのです。業績や勝ち負けを競うことを追求する経営においては、最も大切な「人」をコスト・原材料としか見ることができなくなり、大きな間違いを繰り返すのです。

これに対して、業績が拡大している会社の会社経営の目的は、関わる全ての人を大切に、幸せにすることです。ですから、たとえ有事であったとしても、関係する人たちが「自分たちは会社から大切にされている」と実感できるような経営にブレずに取り組み続けています。

3 業績だけを求めるのは「経営者の虚栄心」の表れだ!

ここで、実際に人を大切にする経営者が、どのような考え方で社員に接しているのか、「生の声」を紹介しましょう。

長野県にある、寒天を製造販売する会社のトップは、社員をコストとみる考え方について、次のように話しています。

  • 従業員を解雇することはこれまでなかったし、これからもありません。どんなに苦しくとも、経営者の責任として一度採用した以上はその人の幸せを考え、雇用し続けるのが当然です。
  • 突発的事項によって、一時的に景気が低迷したからといって「社員を切る」などということは絶対にあり得ません。そのためにずっと取り組んできたし、売り上げが半分になっても社員を2~3年雇用するくらいの力はあるつもりです。
  • 企業の目的は、経営者の虚栄心を満たすことではなく、いい会社にして皆で幸せになることです。

また、京都府にある、各種モーターを製造する会社のトップも、次のように話しています。

  • 創業以来、雇用を維持することを常に重視してきました。社会への貢献は雇用の維持と思ってきたからです。
  • 創業後の苦しい時期には、一流大学出というわけではない人たちばかりでしたが、(今があるのは)皆が一生懸命働いて会社を伸ばしてくれたからです。だから私は、財産をなげうってでも雇用は守ると言ってきました。それが日本企業の強さだと思ったからです。

4 社員を家族と考えれば、組織が競争から協働の関係になる

どんなに「人が大切」と言っても、経営者はどうしても業績を上げ、組織を成長、発展させることが最高かつ最大の目的・目標になってしまいがちです。そこで参考にしていただきたいのが、発展を続ける会社に共通しているのは、

経営者と社員がまるで大家族のような関係で経営を進めている

ということです。ここでいう大家族的経営とは、会社をまさに家族・家庭と位置付けた経営のことです。

もとより、大家族的経営のもとでは、組織のトップは社長ではなく「父親・母親」となり、管理者は上司ではなく「兄・姉」となり、そして一般社員は部下ではなく「子供、弟・妹」という位置付けになります。どんなに「デキが悪い」子供であっても、家計の損得勘定を考えて家から追い出そうという家族は、常識的ではありません。むしろ、「デキが悪い」子供を、どのように育て、サポートすればよいかを考えることが通常だと思います。

そして、大家族的経営の視点では、業績や成長が目的・目標ではなく、家族である組織構成員一人ひとりの幸せや成長こそが目的・目標となります。つまり、

組織メンバーの関係は、競争関係・上下関係ではなく、共生関係・協働関係

になります。家族なのだから、

喜びも悲しみも苦しみも、共に分かち合う温もりや幸せこそを大切にする

という考えが強く根付いているのです。

会社全体を家族・家庭と見た大家族的経営への関心がますます高まっているように思います。これまでの行き過ぎた企業間競争や社員間競争などにより、社会も会社も疲弊しきっています。そのため、最近では、

  • 競争ではなく共走
  • 教育ではなく共育

という言葉も使われるようになってきました。

5 創造性の発揮による生産性向上と、コスト削減の「罠」

このところ、白書や統計などには、中小企業の生産性の低さが指摘され続けています。そのことが日本の経済の停滞の要因とされ、早急に中小企業の大規模化を図るべきだという主張をされる専門家もいます。

しかし、その指摘は、果たして正しいのでしょうか? マクロで見ると会社の規模と生産性には相関関係があるように見えますが、ミクロで見ると決してそうではないのです。日本の中小企業には、大企業よりも生産性が高い会社がたくさんあります。

生産性向上には、創造性を発揮して生産性向上を図る取り組みと、コスト削減や改善活動のような積み上げ型でコツコツと取り組んでいく活動に分けられます。大企業よりも生産性を高めている中小企業の多くは、前者の取り組みによるものです。

1)長野県の寒天製造販売会社が生産性を向上できている理由

例えば、先ほど紹介した長野県の寒天製造販売会社は、常に全社の1割の人財が研究開発の業務を行っています。寒天の新たな用途開発などさまざまな研究開発を続ける「研究開発型企業」として、常に新たな価値を創造する取り組みが行われています。

その結果、お湯に溶かしてから冷蔵庫で冷やすだけで、ゼリーなどさまざまなデザートが作れる粉末シリーズなどのヒット商品を生み出しています。そして、ヒット商品を開発するための根底にある理由は、やはり人を大切にする経営を行っていることです。なぜなら、

人間が高い成果を発揮するのは、モチベーションが高く、創造的業務に取り組むとき

だからです。

この成果の発揮プロセスは、「積み上げ型のコスト削減」や、「現場改善による生産性向上」とは全く違った取り組みとなります。

2)コスト削減だけでは社員のモチベーション低下に至ることも

一方で、大企業が中小企業と比べて生産性が高いのは、後者のコスト削減が中心であり、場合によっては、取引先である中小企業との取引条件の「改善」によって実現している部分もあるのではないでしょうか。

現場のコスト管理や改善活動は、学校の勉強に例えられるでしょう。テストで良い点を取るために勉強をすることは、必要で当たり前の作業です。経営活動におけるコスト管理や改善活動は、同様に経営を行う上で、必要で当たり前の取り組みです。しかし、その当たり前の取り組みが度を過ぎると、勉強をする目的がテストで点数を取ることになってしまい、学力を向上させるという本来の趣旨を忘れてしまうようになります。同様に、コスト管理や改善活動も、度を過ぎると、生産性の向上という本来の趣旨からそれることになりかねません。

市場の拡大が望めない日本においては、合理化の名目で、コスト削減を第一とする生産性向上が図られています。しかし、それは結果として社員のモチベーションを下げ、生産性向上において最も重要な、創造性を高めるという活動が行われない状況を作り出してしまいます。その結果、市場が望むような画期的な商品やサービスは生み出されなくなり、働く人の賃金は増えないという構図が出来上がっているのです。

この現状を打開するには、創造性の高い業務である新製品開発や新規事業開発に、社員が高いモチベーションで取り組むことが重要です。歴史を見ても、会社の生産性が飛躍的に向上するのは、付加価値の高い商品やサービスを生み出し、市場に受け入れられたときなのです。

6 「ヒト・モノ・カネ」は並列ではない

1)ヒトがいてこそモノが開発されカネになる

経営における三要素といわれるものに「ヒト・モノ・カネ」「人財・技術・情報」という言葉があります。確かに、この3つがなければ企業活動は回っていかないのですが、この3つは並列ではないと考えています。

この3つの中で、最も先に来るのは、とにもかくにも「ヒト」です。ヒトがいて、そのヒトがモノ・サービスを提供することで、その対価としてカネをいただくことができる。そして、そのカネでヒトが新たなモノ・サービスを開発していく。企業活動はこのサイクルを繰り返して成り立っているのです。

世の中が不況や予期せぬ災害に見舞われたりすると、真っ先に社員をリストラしたり、非正規社員の雇い止めをしたりする会社があります。こういった会社では、ヒトを単にコストや景気の調整弁としてしか見ていないのです。

仮に、あなたが経営者から、「今は会社が厳しいからリストラするしかないから理解してくれ。でも、また好況になったら、戻って来てほしい」と言われて納得するでしょうか? そんな会社に戻って仕事をしようと思うでしょうか? 戻るという選択をする人は少ないと思います。

経営者は、人が減った分を機械で補おうと考えるかもしれませんが、どんな優秀な機械であっても、性能以上の仕事はできません。人間だけが自ら考え、本来持ち得る能力以上の結果をもたらすことができる。人間だけが常に成長し続けられるのです。

2)経営者はCS(顧客満足度)よりもES(社員満足度)を優先せよ

会社にとって、お客さまは大切ですが、お客さまに提供する価値を創造するのは社員です。顧客満足度を高めることは会社にとって必須ですが、それは、お客さまに喜んでもらえる、お客さまを幸せにするための価値を提供できる社員がいて初めてできることです。

お客さまが喉から手が出るほど欲している新たな価値、リピーターになりたいと思う感動サービスの提供者は誰かを考えてみてください。これは鶏が先か卵が先かの議論ではなく、やはり社員が先です。

社員に幸せと感じてもらえて初めて、その社員が恩返しのような形で、お客さまに感動を与える

のです。これが本来あるべきサイクルだと思います。

それゆえ、トップはお客さまを幸せにするための価値を提供する社員のことを最優先に考えるべきです。そうすることで、物心両面で満たされた社員たちは、自然とその満たされた気持ちをお客さまに還元しようとするのです。

次回の第3回は、いよいよ本格的な実践編になります。まずは経営者の意識改革について、実践事例も交えながらより深く解説していきます。お楽しみにしてください。

以上(2022年5月)
(執筆 人を大切にする経営学会事務局次長 坂本洋介、水沼啓幸)

【著者紹介】
坂本洋介(さかもと ようすけ)

1977年静岡県生まれ。東京経済大学大学院経営学研究科修了。株式会社アタックス「強くて愛される会社研究所」所長、コンサルタント。人を大切にする経営学会事務局次長。著者画像1
主な著書に「社員にもお客様にも価値ある会社」(かんき出版)、「小さな巨人企業を創りあげた 社長の『気づき』と『決断』」(かんき出版)「実践:ポストコロナを生き抜く術!強い会社の人を大切にする経営」(PHP研究所)他、連載、執筆多数。

水沼啓幸(みずぬま ひろゆき)
1977年栃木県生まれ。法政大学大学院イノベーション・マネジメント研究科修了(MBA)。株式会社サクシード代表取締役。人を大切にする経営学会事務局次長。作新学院大学客員教授。中小企業診断士。地域特化型M&Aプラットフォーム「ツグナラ」運営。著者画像2
主な著書に「地域一番コンサルタントになる方法」(同文舘出版)、「キャリアを活かす!地域一番コンサルタントの成長戦略」(同文舘出版)、「実践:ポストコロナを生き抜く術!強い会社の人を大切にする経営」(PHP研究所)他、「近代セールス」等連載、執筆多数。

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令和3年の交通事故死者数等の特徴と対策(2022/05号)【交通安全ニュース】

活用する機会の例

  • 月次や週次などの定例ミーティング時の事故防止勉強会
  • 毎日の朝礼や点呼の際の安全運転意識向上のためのスピーチ
  • マイカー通勤者、新入社員、事故発生者への安全運転指導 など

警察庁から公表されている「令和3年における交通事故の発生状況等について」によると、全体の死者数は減少傾向にあるものの、高齢者が占める割合が増加したことや歩行者の死亡事故では道路横断中の死者が多いことが示されています。

また、この状況を受けて「本年の主な取組」もあわせて公表されていますので、この機会に確認いただき、日頃の安全運転に役立ててください。

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出典:警察庁「令和3年における交通事故の発生状況等について」(2022.4.10.閲覧)
https://www.npa.go.jp/publications/statistics/koutsuu/jiko/R03bunseki.pdf

1.交通事故死者数の推移と歩行者の事故状況

令和3年の交通事故死者数は、2,636人で昨年より203人減少し、警察庁が発表を始めた昭和23年以降の統計で最少人数となりました。

そのうち65歳以上の高齢死者数は、1,520人で昨年より76人減少していますが、その割合をみると、1.5%増加して57.7%となりました。

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出典:警察庁「令和3年における交通事故の発生状況等について」から当社作成

状態別死者数では、歩行中の割合が35.7%(最多)であり、歩行中死亡事故の事故類型別では、横断中が69.3%を占めています。

歩行中死亡事故の法令違反別では、車両側には前方不注意などの安全運転義務違反や横断歩行者妨害等の違反が多く、歩行者側には横断方法等の違反が多い状況ですが、横断歩道横断中の事故については、歩行者の79.5%が違反なしです。

2.歩行中の交通事故死者数等の特徴

歩行中の交通事故死傷者数の年齢層別をみると、5-9歳の子供と75歳以上の高齢者の死傷者数が多い状況であり、子供や高齢者の交通事故死者数等の特徴は以下のとおりです。

・歩行中児童(小学生)の通行目的別死者・重傷者数では、登下校中が約4割であり、事故発生時間帯は14時~17時台が多い。
※子供は状況判断や危険予測を十分にできず、急に道路に飛び出したり、無理な横断をしようとすることがあります。

・歩行中死亡事故の事故類型別について、高齢者の場合は横断中が約8割であり、また、高齢者は、高齢者以外と比較して横断違反が多い。
※高齢者は加齢に伴う体力や判断力の低下を考慮しないなどにより、無理な横断をしてしまうことがあります。

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出典:警察庁「令和3年中の交通事故発生状況」(表2-3-1 年齢層別・状態別人口10万人当たり死傷者数の推移)から当社作成

3.本年の主な取組

警察庁は「本年の主な取組」として以下の3点を掲げています。

○ 子供や高齢者をはじめとした歩行者の安全確保
○ 自転車の遵法意識の向上に向けた交通安全教育等の推進
○ 飲酒運転等の悪質・危険な交通違反の指導取締まり

※警察庁「令和3年における交通事故の発生状況等について」(2022.4.10.閲覧)
https://www.npa.go.jp/publications/statistics/koutsuu/jiko/R03bunseki.pdf

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≪思いやり運転の実践≫

下校時間帯の通学路など(学校等の付近や住宅街)で小学校低学年の子供を見かけたら、子供の安全確保を意識した思いやりのある運転を心がけましょう!

歩行中の高齢者を見かけたら、減速や一時停止をするなど高齢者に配慮した思いやりのある運転を心がけましょう!


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以上(2022年5月)

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月60時間超の時間外労働に対する法定割増賃金率の引き上げ

令和5年4月から、月60時間を超える時間外労働についての割増賃金率は、中小企業にも50%以上が適用されることとなります。

本稿では各企業の対応状況や、対応方法などについて、厚生労働省のリーフレットなどをもとに概説します。

1 対応状況

1か月60時間を超える時間外労働に係る割増賃金率について、厚生労働省が実施した「令和3年就労条件総合調査」では、以下の概況結果が公表されています。

○ 1か月60時間を超える時間外労働に係る割増賃金率の定めの有無、割増賃金率階級別企業割合

1か月60時間を超える時間外労働に係る割増賃金率の定めの有無、割増賃金率階級別企業割合

(出所:「令和3年就労条件総合調査」、厚生労働省)

このように、1か月60時間を超える時間外労働に係る割増賃金率を定めている企業割合は、「中小企業」が28.3%、そのうち割増賃金率が25~49%となっている階級は58.8%であることから、中小企業における対応が進んでいないことが見て取れます。

2 法定割増賃金率の考え方

本改正により1か月の起算日からの時間外労働時間数を累計し、60時間を超えた時点から、50%以上の率で計算した割増賃金を支払うことになります。そのほか、深夜の労働や休日の法定労働との関係は以下のとおりとなります。

①深夜割増賃金との関係

深夜(22:00~5:00)の時間帯に月60時間を超える時間外労働を行わせた場合は、深夜割増賃金率25%+時間外割増賃金率50%=75%となります。

②法定休日との関係

1か月60時間の時間外労働の算定には、法定休日に行った労働は含まれませんが、それ以外の休日に行った時間外労働は含まれます。

3 代替休暇

1か月60時間を超える時間外労働については、臨時的な特別の事情等によってやむを得ない場合には、休息機会確保の観点から、労使協定により割増賃金の支払いに代えて、有給の休暇を付与することも可能とされています。

<イメージ図>

1か月に80時間の時間外労働を行った場合

(出所:「法定割増賃金率の引き上げについて」、厚生労働省)

また、代替休暇の付与は、取得を「可能」とするものであって、取得を「義務」づけるものではありません。代替休暇の付与に関する制度を設けた場合は、取得するか否かの決定は労働者の意思に委ねることに留意しましょう。

4 さいごに

改正民法により、請求権消滅時効期間が3年に延長されました。これに今回引き上げられる割増賃金率の適用が重なれば、残業未払いの係争時に支払いを求められる割増賃金は想定以上に高額となるかもしれません。例えば、時間外労働の適用が除外される管理監督者に対し、残業代を含む管理職手当など支払っている場合、管理監督者性や手当の残業代該当性が否定されれば、一般従業員と同様の考え方で計算した割増賃金を追加で支払う必要が生じることになります。2年以上遡る請求期間に重ね、ひと月に60時間を超える時間外労働が常態化していれば、企業への大きな労務リスクになるでしょう。今回の法改正を契機として、自社の規程や管理監督者を含む働き方の見直しを図りましょう。

※本内容は2022年3月30日時点での内容です

(監修 社会保険労務士法人 中企団総研)

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【朝礼】「伝え方」で相手の気持ちは変わります

今日は、「伝え方」についてお話しします。新商品のパンフレットのデザインや内容について、デザイナーと話していたときのことです。

そのデザイナーは私に、たくさん質問をしました。「このパンフレットはどの年代の人に見てほしいか?」「どういうシチュエーションで手に取ってほしいか?」「一番伝えたいのは【価格の安さ】と【機能の良さ】のどっちか?」「商品の伝えたい雰囲気は【楽しくてワクワク】か【便利でスマート】のどっちか?」「パンフレット上での商品を人に例えると【モード系オシャレで寡黙なお姉さん】か【テック系仕事バリバリの情熱起業家】のどっち寄りか?」などなど。

要するに「このパンフレットで伝えたいことは何なのか」ということを、色々な角度から掘り下げて、具体的、立体的にしてもらった感じです。おかげでパンフレットは想像以上の仕上がりになりました。何より、パンフレットに記載したQRコードからの問い合わせが想定の2倍以上にも上り、成果を上げることができました!

当たり前のことですが、「楽しくてワクワク」を伝えるときと、「便利でスマート」を伝えるときでは、色使いやレイアウト、使う言葉などが全く違います。イラストを主にするか、写真を主にするかなども違ってきます。「伝え方が全然違う」と言ってもいいでしょう。パンフレットの製作過程とその成果から、私は改めて「伝え方」は非常に大事だと感じました。

表情や話し方についても同じことがいえます。例えば、「楽しくてワクワク」を相手に伝えたいときは、ニコニコの笑顔、声のトーンを上げる、身振り手振りをつけるなどが考えられます。そうすると「楽しそうだ」という雰囲気が伝わります。話の内容はもちろん大事ですが、つまらなそうに話していたら、せっかくの内容の楽しさ、面白さが半減してしまうかもしれません。日ごろ、人と話すときやプレゼンをするとき、オンラインのときなどには、「伝え方」を考えてみましょう。

オンラインといえば、最近印象に残った「伝え方」がもう一つあります。お世話になっているクライアントの方が、異動することになったと画面越しにお話しされました。遠方ということもあり、画面越しに、「オンラインでのご挨拶で失礼します」とのお言葉。普段、オンライン上では一貫してカメラをオフにしているその方が、その異動のお話のときには、カメラをオンにしてご挨拶してくださいました。「お世話になりました。ありがとうございました」という気持ちを、カメラをオンにすることで伝えてくださっているように感じました。これも気持ちの「伝え方」の一つではないでしょうか。もちろん、こちら側も全員カメラをオンにし、顔と顔を合わせてご挨拶し、感謝の気持ちをお伝えしました。

「伝え方」一つで、相手の気持ちが変わることもあります。オンライン化が進む今だからこそ、ぜひ、「伝え方」を工夫してみてください。

以上(2022年5月)

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画像:Mariko Mitsuda

【管理会計】売上が増えているのに、利益が増えないのはなぜ?

書いてあること

  • 主な読者:感覚だけでなく、定量的な基準や根拠を持ってビジネスの判断をしたい人
  • 課題:売上ほど利益が伸びておらず、その原因をしっかりと把握したい
  • 解決策:管理会計用の損益計算書を作成し、コスト構造を把握する

1 質問:なぜ、売上ほど利益が伸びないのか?

売上ほど利益が伸びない、あるいはその逆で予想以上に利益が伸びているなんてことがあります。感覚と実際の利益が違うのは、自社のコスト体質(売上と変動費・固定費との連動状況)に起因するので、その要因を分析しなければなりません。

しかし、いつもの損益計算書を見ても、その要因が分からないことはありませんか?

次の2つの損益計算書を見比べてみてください。いずれも同じ会社の損益計算書ですが、左側は財務会計、右側は管理会計のものです。売上と営業利益は同じですが、費用の項目が違っています。早速、それぞれの違いや分析ポイントなどを見ていきましょう。

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2 ポイントは「限界利益」と「営業利益」

管理会計用の損益計算書では、費用を売上高に連動する「変動費」と、売上高に連動しない「固定費」に分けています。そして、以下の2つの利益を示しています。

  • 限界利益:売上高に連動する利益で、「売上高-変動費」で計算
  • 営業利益:限界利益から固定費を差し引いた利益

限界利益を導く変動費は売上高に連動するものなので、「額」ではなく「率」で把握するのがポイントです。次の計算式を覚えておくと便利です。

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売上高と変動費(率)、限界利益の関係がシンプルになったところで押さえておきたいのが、

限界利益を高くするには、変動費率を下げること

という、ごく当たり前のことです。

次に営業利益です。営業利益が出るかどうかは、限界利益が固定費を回収できているかどうかにかかってきます。また、

営業利益を高くするためには、固定費を下げること

という、こちらもごく当たり前のことが必要です。

売上ほど利益が伸びていないと感じたら、管理会計用の損益計算書を作成し、限界利益と営業利益を確認します。そうすることで、

  • 限界利益が少ない商品の売れ行きが伸びたことで売上が増えた
  • 労務費や減価償却費などの固定費がかかりすぎている

など、財務会計用の損益計算書からは分からない要因が浮かび上がってきます。

以上(2022年4月)
(執筆 管理会計ラボ株式会社 取締役・公認会計士 福原俊)

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【朝礼】憧れは大切。しかし、最後は「自分」だ

皆さんには、仕事に関して「あの人のようになりたい」「あの人には負けたくない」といった憧れやライバル視する対象はいますか? もしかしたら、社会人になったばかりのとき、こうしたベンチマークとなる人を早く見つけるよう上司などから指導されてきたかもしれません。

考え方はそれぞれですが、私には今、ベンチマークになる人はいません。むしろ、そうした人をつくらず、あくまでも「自分は自分だ」と考えています。誰かを手本にして追いかけたりすると、知らず知らずのうちにその人のまねをしたり振り回されたりするようになり、自分自身の意思や考えが薄くなっていく気がするからです。

私は、経営者という今の立場になってすぐの頃、他の経営者がどのような考えを持ち、行動しているのかを知るために、著名な経営者の書籍を何冊も読み、講演も聴きました。実際にさまざまな業種の経営者に会いに行き、直接お話を聞いたことも数えきれないほどあります。

他の経営者の考えや生きざまはとても勉強になりましたし、「あの人のようになりたい」「あの人には負けたくない」という憧れの人やライバルもでき、その背中を懸命に追いかけた時期もあります。しかし、ふと、「ベンチマークを追いかけることが私自身の意思といえるのだろうか」「自分で必死に考え抜いているだろうか」と疑問を覚えました。私にとっては、ベンチマークをつくるのは、ある意味、「楽な道」だったのです。

臨済宗の僧侶、山田無文(やまだむもん)老師は、「何ものにもとらわれるな。全てのものを断ち切り、己の肚(はら)の中から出てきた言葉に従って生きよ」という教えを説いたといいます。

己の肚の中から「こうしたい」という意思や言葉が出てくるまで己と向き合うのは、苦しく険しい道かもしれません。何もよりどころにせず、自分だけで考えなければならないからです。自分の意思が正しいのかどうか迷いもするでしょう。失敗するかもしれない、それどころか、何が起こるか分かりません。

それでも、ひたすら己と向き合い、必死に考え抜いて実行すれば、その先に大きな喜びと成長があります。皆さんには、その喜びと成長を体感してほしいのです。「どうしたらよいですか?」と皆さんから聞かれたとき、私が「あなたはどうしたいの?」と聞き返すのはそのためです。

ただし、皆さんと私は立場や権限が違います。今日からすぐに、私と同じように何事も自分の意思で決めて実行するのは難しいかもしれません。

そこで、皆さんに提案です。一つ一つの仕事に取り組むとき、「本当に自分はこれでよいと思うか」「自分は本当はどうしたいか」を考えてみてください。前例や役職にとらわれたり、誰かに遠慮したりせず、自分の力で考えることが大切です。

皆さんにベンチマークは必要ありません。ベンチマークがなくても、一人ひとりが、自分で考え実行できる力を秘めているはずです。

以上(2022年5月)

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【朝礼】時には競合他社の商品をお薦めしてもいい

けさは、私の知人から聞いた、お子さんを歯科医院に連れて行ったときの話から始めます。

知人のお子さんは小学校低学年で、歯並びを治したくて歯科医院に相談に行きました。そこは、通常の治療法と異なる独自の治療を行う歯科医院でした。知人によると、歯科医院に入るなり、お子さんの口内を診察しないまま、歯科衛生士が治療法についての説明を始めました。しかも、歯並び以外も含めた歯科矯正全般の治療法についてのマニュアルを読み上げ、その治療法で治った人の口内の写真を繰り返し見せられたそうです。

さらに、その治療法には、毎日のトレーニングに加え、夜寝ている間も口内に治療器具を着け続ける必要があるのに、その説明はほとんどなく、最後は「今、治療を受けないと、値上がりするかもしれません」と念押しされたとのことでした。

その後、知人はやっと会うことのできた歯科医師に、その治療法の「成功率」を聞いてみたところ、「それは分かりません。きちんと毎日宿題ができる子供であれば成功率は高いです」と言われました。通常の治療法との治療期間や成功率の違いを聞いてみても、「自分たちがやっていない治療法のことは分かりません」という返答。

揚げ句の果てに、知人のお子さんの口内を診察した途端、その歯科医師は「この子の歯の状態では、まだ治療ができません」と伝えてきたといいます。これには知人もあきれ返り、二度とその歯科医院に行かないと心に決めたそうです。

知人が感じたのは、「この歯科医院は子供の歯並びを治したいのではなく、独自の治療法を売りつけたいだけだ」ということでした。

これは、他山の石とすべき話です。我が社でも新商品のキャンペーンをやっていますが、もし、お客さまに新商品を販売すればそれでいいと考えている人がいるとしたら、それは間違いです。会社の方針を守るのと、お客さまが求めているものを提供するのは全く別の話です。仮に我が社が推す新商品と、お客さまの悩みを解決する従来の商品の、どちらを提案するかと問われたら、私は迷わず従来の商品を提案します。

場合によっては、競合他社の商品だってお薦めしていいのです。お客さまのニーズに合う商品を提供できていない私たちの努力不足こそ問題視し、商品を改善していくのが、本来のあるべき姿だと思うからです。それに、今はさまざまな情報が容易に入手できる時代。仮に競合他社より劣った商品を一時的に販売することができても、後でお客さまが競合他社の商品のことを知れば、もう二度と我が社の商品は使ってくれないでしょう。

大切なのは、「商品を売る」ことではなく、「お客さまの信頼を得る」ことです。そのためには、何がお客さまのためになるのかを常に考えることが重要です。そうした積み重ねによってお客さまからの信頼を得られれば、次回は必ず、我が社が自信を持ってお薦めする商品を購入していただけるはずです。

以上(2022年5月)

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画像:Mariko Mitsuda