時代に合わせ、三度の業種・業態変更で成長。ミモザ藤田社長に聞く、変化を生み出しチャレンジし続ける秘訣。

藤田淳一(ふじた じゅんいち)

プロフィール
株式会社ミモザホールディングス代表取締役社長。インターネットショップ運営などを手がける株式会社ミモザ情報システム、株式会社ベクルックスの代表も務める。

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常に次を見据えて事業を拡大

―― 本日はよろしくお願いします。はじめに改めて事業内容を教えてください。

インターネットを使ったビジネスをしています。ホールディングス化していて、ミモザ情報システムでは対企業、ベクルックスでは対個人と、お客様によって会社を分けています。

事業としてはインターネットショップの運営が中心です。ソフトウェア系と事務系に分けて、13ショップを運営しています。特徴は、「1メーカー1ショップ」にしていること。運営側としては、さまざまなメーカーの商品と取り扱う総合ショップの方が運営しやすいのですが、お客様からすると分かりにくい。そのためショップを分けて、お客様の使いやすさにこだわっています。加えて強みをつくるために、大手ネットショップではなかなか手が届かない、商品知識や業務知識など、専門性の高い発信を強化しています。

加えて、対企業においてはネットショップをご利用いただいている全国のお客様から、システム案件も受注しています。商材である財務会計や給与計算のソフトの導入や、バージョンアップのお手伝いなどです。顧客リストは全国14万社。中小企業を中心に、多業種にサービスを展開しています。

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―― 今の事業に到るまで、業種や業態を変えてきたと伺っています。創業からこれまでの沿革を教えてください。

創業は29年前、ちょうどWindows95が出た頃のことです。データ入力とパソコンの訪問販売の事業から始まりました。私は大学卒業後企業に入社し、データ入力などの仕事をしていましたが、自分でやりたいという思いがあり独立したのです。

しかし、しばらくやってみると、データ入力とパソコンの訪問販売は人海戦術となる上に単価が安く、継続が厳しいと感じました。
目をつけたのは財務会計や給与計算などの業務ソフト。業務ソフトであればさまざまなジャンルがあり、導入する際に業務知識も必要なので、サポートが必要とされるだろうと考えたのです。これが当たって、売り上げが伸びました。その段階で社員を採用し、徐々に組織ができました。

ただ業界が伸びると競合他社も爆増。次の事業を作る必要を感じていました。さまざまな事業を試してみる中で、現在のネットショップ事業にたどり着いたのです。ミモザは常に変化してきた会社と言えるのではないかと思います。

現状維持=右肩下がり。ルールの範囲で常にチャレンジを

―― ミモザグループでも、「変化する社会の動きを的確に捉え、求められるサービスを創造する」ことを経営理念に置かれていますよね。積極的にチャレンジし変化することに対して、どんな思いをお持ちですか?

現状維持=右肩下がりでしかないという怖さがあります。もっと会社を大きくしたいと考えているので、現状に満足していません。

例えば同時期に起業した人が成功しているのを見れば、「なんで彼にできて俺にできないんだろう」と思う。負けん気ですよね。上には上がいますし、相手は勝負している気なんてないでしょう。自分で勝手に勝負をしているだけですが、常に上を目指しています。

―― チャレンジに対する怖さはありませんか?

チャレンジのほとんどは失敗しますよ。ただ怖さはありません。今も昔も変わらず、失敗しても元に戻れるならやろうと考えているのです。例えば、1,000万投資して売り上げがゼロでも、始める前のかたちに戻れるならやろう、と。

―― チャレンジのルールを決めていらっしゃるのですね。

そうです。思いついたらある程度検討して、まずやってみます。他に大事にしているのは撤退ラインを決めることです。始める前に、いつまでにどれくらいの成果が出なかったらやめる、と決めています。

それから、思いつけばなんでもいいというわけではなく、これまで成功してきた「インターネット」「中小企業」というキーワードの中で事業をすることにしています。今の事業に全く関係のない飛び地での事業はリスクが大きい。今後を見据え、地続きの領域で事業を展開したいと考えています。

ビジネス・リポートONLINEで事業検討と社員教育

―― 日経トップリーダー経営者クラブでは、サービスの一環として豊富なビジネス情報を蓄積した「ビジネス・リポートONLINE」をご提供しています。藤田さんは「ビジネス・リポートONLINE」のヘビーユーザーのようですが、どのようにご活用いただいていますか?

まず、自分自身の勉強のために見ています。例えば、税制や社会保険制度の改正などがあった際、ビジネス・リポートONLINEにはポイントをまとめた記事がアップされます。それを読んで、自分が得ている情報に漏れがないか確認するようにしています。新聞の見出しのように記事のタイトルを見て情報を把握し、漏れがあった場合は記事を詳しく読み、自分でも追加で調べるようにしています。新しいことを常に考えているので、新規事業のタネになるかなど、さまざまな視点で幅広い分野の記事を読みますね。

あとは、記事をダウンロードして社員に毎日配信しています。例えば、会計・税務分野の記事を経理担当の社員に「この部分を詳しく理解してほしい」と個別に伝えることもあります。社員も読んでくれているようで、前後編に分かれている記事が出た際は、社員から「後編の配信はまだですか?」と聞かれることもありました。経営者仲間にも勧めています。

新入社員向けの記事はよくありますが、中堅、役員などそれ以外の年代や、担当業務別の情報があるとさらに嬉しいです。

社員の想いから変化が生まれる組織に

―― ありがとうございます。営業など業務別の記事の配信を増やしていく予定なので、ぜひご確認ください。最後に、今後の展望について教えてください。

今後は、事業拡大が目標ですね。今はありがたいことに経営が安定し、チャレンジできる幅が広がりました。大きく売上を上げられるような新規事業を作りたいと考えています。ただ、ホームランは狙って打てるものではありません。ヒットをコツコツ積み重ねる中から、ホームランが生まれればいいと思っています。

課題は、ヒト・モノ・カネとそれぞれありますが、中でも特に人です。20代〜40代まで多様な年代の社員がいる中で、一人ひとりの考え方はもちろん違いますし、ジェネレーションギャップもあります。それをどう乗り越えて会社を運営していくかが難しいところです。自分の根底にある、変化を好む、チャレンジをしていく想いは変えるつもりはありません。でも、変化量やチャレンジ幅は人に合わせて調整しなければならないと感じています。

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今は全てトップダウンで決定しており、それも悪くないとは思っています。ただ、もっといろいろな部署からさまざまな想いが上がってきて、新しい変化を生み出せるようになるとより良いですね。今は、社員が一生懸命やっていることが褒められるのが一番嬉しいです。仕事とプライベートの区別はつけながら、透明性を保って会社としてチャレンジしていきたいです。

以上(2022年6月)

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【カンタン経済講座】世界情勢が日本経済に影響を及ぼす3つの最悪のシナリオ

書いてあること

  • 主な読者:ヒト・モノ・カネに関して直接的、間接的に海外と関係している企業の経営者
  • 課題:激動する世界情勢が日本経済に悪影響を及ぼすリスクについて考える材料が欲しい
  • 解決策:対中関係の急激な悪化や中国経済の失速等のリスク、エネルギー不足、大災害などの最悪のリスクシナリオを想定しておく

1 最悪のシナリオを想定しておけば、リスクに備えておける

世界で発生するさまざまな問題は、日本経済にも大きな影響を及ぼす可能性を秘めています。今回は、「起きる可能性は非常に低いことを願っているけれど、起きると日本経済が甚大な被害を受けそうな最悪のリスクシナリオ」と、その対策について考えてみましょう。

例えば、現時点で想定される最悪のリスクシナリオは、次の3つが挙げられるでしょう。

  • 中国の軍事・外交・経済問題
  • エネルギーの輸入が困難になる
  • 核戦争・巨大地震・巨大隕石(いんせき)落下などの大災害

未然に防ぐことも、いつ発生するか予見することも不可能なことばかりですが、「備えあれば憂いなし」です。リスクに見合ったコストの範囲内で、できる限りの対策をしてみてはいかがでしょうか。

なお、国際紛争・環境問題への対応・感染症のまん延といった、既に顕在化している世界情勢が日本経済に影響するメカニズムについては、次の記事をご覧ください。

2 中国による台湾侵攻は日本経済に大打撃

・具体的な事象

中国による台湾侵攻やロシア支援などに伴う経済関係の悪化、中国経済の失速

・想定される日本経済への影響

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・リスクへの可能な対策

中国への依存度の引き下げ(中国以外の国への展開や国内回帰、調達先の多角化、半導体の在庫を多めにする、など)

1)中国経済が失速する3つのシナリオ

中国経済が失速する要因には、3つの可能性があると思います。

第1の可能性は、不動産バブルの崩壊です。不動産開発事業者の中に資金繰りが詰まっているところが多いようなので、不動産の投げ売りが始まるかもしれません。一時期は大規模事業者の倒産が懸念されていましたが、中国政府が軟着陸を目指しているようなので、大規模倒産による金融恐慌のような懸念は薄らいでいると思います。

しかし、不動産開発は中国の主要産業ですので、新しい不動産開発が行われなくなることで、経済が失速する可能性は懸念されます。

第2の可能性は、中国共産党政権の安定を、経済発展よりも優先することです。中国政府では最近、皆で豊かになろうという言葉、「共同富裕」がよく使われているようです。

共同富裕政策が、「金持ちに課税して困っている人たちに分け与えよう」ということならば、弊害は少ないかもしれません。起業家たちは、「重税を課されても十分残るくらい巨額に稼ごう」と考えるでしょう。

ですが、「共産党に都合の悪い事業者を取り締まろう」といった動きになると厄介です。起業家たちが怖くなって起業しなくなり、経済活動に大きなブレーキがかかる可能性もあるからです。

第3の可能性は、新型コロナウイルス感染症(コロナ)のまん延です。中国政府は、コロナを完全に抑え込もうという方針のようですから、少数の感染者が見つかっただけで街全体をロックダウンしています。流行初期に徹底した対策で封じ込めに成功した体験があるので、それを今回も採用しているようですが、もしかしたら危険なことかもしれません。世界で流行しているのは、感染力が強い変異株に移行しているので、これを完全に抑え込もうとすると、中国全体をロックダウンしなければならない可能性もあるわけです。

そうなると、中国国内の景気が悪化するのみならず、生産活動や物流などが滞り、中国製品の輸出が激減するかもしれません。こうなると、日本から中国への輸出の減少に加えて、中国製品が買えないという状況にもなり得るわけです。感染初期に、「家は建ったのに、中国からトイレが納品されないから完成できない」といった話を耳にしましたが、それがもっと広い範囲で起きるかもしれないのです。

中国経済の失速による日本経済への影響は、少なくありません。日本からの輸出の減少によって景気は悪化しますし、中国製品の輸入の減少はインフレを招きます。中国製部品の調達難になれば、インフレと失業を同時に招きかねません。株価も下がるでしょう。

2)西側諸国との制裁合戦で世界経済が縮小

ロシアがウクライナを侵攻する前から、中国と西側諸国は人権問題などを巡って対立し、一部で禁輸措置なども取られていました。中国が覇権国の地位を目指して「戦狼(せんろう)外交」を繰り広げることで、対立が激化する局面もあったわけです。

2022年に入ってからは、人々の関心がロシアによるウクライナ侵攻に集中して、米中対立はあまり話題に上っていませんでした。ですが、ウクライナ問題が米中対立をより深刻にしかねない状況になってきました。中国とロシアは比較的親密なので、中国がロシアを支援するのではないか、という見方が強まってきたためです。

中国にしてみれば、ロシアに対して武器を売ったり、天然ガスなどを安値で買ったりしてもうけられる上に、ロシアに恩を売るとともに米国を困らせることができるわけです。中国がロシアを支援するインセンティブは決して小さくないでしょう。

もちろん、表立ってロシアを支援して西側諸国と全面的に対立することは、中国も望まないでしょう。ですが、こっそり支援したつもりが西側諸国に証拠を握られ、制裁を受けるという可能性は否定できません。西側諸国が中国に対しても強い制裁を科し、中国側も対抗措置を取るようなことになれば、世界経済に与える影響は計り知れません。

日本経済への直接的な影響としては、輸出の減少による景気悪化、中国製品の入手困難による物価上昇、中国製部品の調達困難によるインフレと不況が深刻化するでしょう。中国製部品が来ないと生産が滞るので、物不足によるインフレと生産量減少による失業増が同時に発生しかねません。

最も困難なのは、インフレと失業が同時に襲ってくる状況に陥ることです。金融・財政政策としては、インフレ抑制のために引き締めるか、失業対策のために緩めるか、対応が非常に難しくなります。このような状況が世界的に生じてしまうと、先進各国はインフレ抑制を優先する可能性が高く、世界の景気は大幅に落ち込むかもしれません。

日本の金融政策は先進各国と比べると相対的に緩和的であることから、ドル高円安圧力が生じています。今後も同様の傾向が続くと、一層の円安と、海外のインフレが国内に波及する「輸入インフレ」が襲ってくる可能性も覚悟しておいたほうがよいかもしれません。

また、世界的に金融が引き締められ、それに伴って景気が大幅に悪化すれば、世界の株価には強い下落圧力が加わるはずです。日本株もその影響を免れることはできないでしょう。

3)最悪のシナリオは中国による台湾侵攻

ないと思いたいですが、万が一にも中国が台湾に侵攻するようなことが起きれば、単にロシアを支援したというのとはレベルが異なる厳しい制裁が科されることでしょう。筆者は外交や軍事に詳しくないので、中国が台湾に侵攻する可能性や、侵攻した場合の日本の立場については記せませんが、外交・軍事面でも何らかの実害を受けるかもしれません。

少なくとも経済面では、中国との関係が一気に悪化し、貿易が事実上できなくなることも想定されます。中国は日本にとって巨大な輸出市場ですから、それが一気に失われることの衝撃は、想像を絶するものがあるでしょう。

輸出企業がもうからなくなるだけならまだいいのですが、中国に依存している物が輸入できなくなったら、日本経済や世界経済は回りません。前述した中国経済の失速リスクが短期間に極端な形で顕在化するということですから、日本経済への影響もはるかに激しく、かつ急激に襲ってくるということになるはずです。

例えば、中国にある日本企業の工場は、急いで閉鎖する必要も出てくるでしょう。そうなると、まだ使える設備機械をスクラップ業者に安価で売り、顧客リストなどを全て放棄して日本に戻らなければならないわけです。これは日本企業にとって大きなダメージとなるため、株価への悪影響は大きなものとなるでしょう。

実は筆者が大変心配しているのが、世界の半導体生産に占める台湾のシェアが高いということです。万が一、台湾が武力攻撃を受けて、台湾の半導体が輸入できなくなったら、世界のコンピューター産業や自動車産業などが止まってしまうかもしれないわけです。そうならないことを祈るのみです。

このリスク抑制策としては、中国に進出している企業であれば他国への展開や国内回帰といったことが考えられますし、中国からの輸入に頼っている企業の場合には調達先の多角化も要検討でしょう。半導体については、国際情勢を見ながら多めに在庫を持っておくということも一策です。

3 エネルギーが輸入困難になると猛烈なインフレに

・具体的な事象

中国・ロシアと西側諸国の対立の本格化によりエネルギーの輸入が困難になる

・想定される日本経済への影響

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・リスクへの可能な対策

在庫を積み増す

通常であればエネルギーが輸入できないことは考えにくいのですが、中国とロシアが西側諸国と本格的に対立するようになると、エネルギーの輸送ルートを中国軍やロシア軍に押さえられてしまうリスクがありそうです。軍艦が輸送ルートを邪魔するだけではなく、サイバー攻撃でタンカーが動かなくなるなど、あらゆる可能性が起こり得ます。

エネルギー価格が高騰するだけであれば、物価が上がるだけですから何とかなりますが、エネルギーが輸入できなくなると本当に困ります。

エネルギーの大半を海外の化石燃料に依存している日本にとって、エネルギーの輸入が困難になってしまうと、工場や自動車を動かす燃料がない、トラクターが動かないので農業生産ができないなどの問題が生じかねません。

日本経済への影響は、猛烈なインフレでしょう。エネルギーの輸入が困難になれば、エネルギー価格が高騰するのみならず、生産活動が滞り、物不足になるはずです。生産減は失業を増加させるでしょうが、そんなことは気にならないほど物不足とインフレが深刻になると覚悟しておく必要がありそうです。

石油などのエネルギーが輸入できないという事態は、個々の企業では到底防ぎ得ません。国際情勢などに注意を払いつつ、リスクを感じたら早めに在庫を積み増すといったことは要検討かもしれません。

4 巨大地震などの大災害は米ドルの急騰を誘発

・具体的な事象

核戦争・巨大地震・巨大隕石落下などの大災害

・想定される日本経済への影響

復興資材の輸入が急増し、米ドルが急騰する

・リスクへの可能な対策

ドル資産を保有する、巨大地震対策としては耐震補強や地震保険に加入する

核戦争・巨大地震・巨大隕石落下といった大災害は、たとえ日本以外の国で発生しても日本経済に影響を及ぼすでしょう。ですが、何といっても国内で発生したとき、日本経済は甚大な被害を受けることになります。

これは避けようがありませんし、被害を予測することも容易ではありません。核シェルターは現実的か否か分かりませんし、巨大隕石はどうしようもありません。

しかし、巨大地震に対しては耐震補強、地震保険加入などの他、米ドルを持つという選択肢もあります。巨大地震で大都会が被害を受ければ、復興資材の輸入が急増し、そのためのドル買い注文が殺到するでしょう。

そうなれば、ドルが高騰して輸入品全てが大幅に値上がりすることになります。そんなときに円の預金を持っていても仕方ありません。ドル(具体的には米国株の投資信託など)を持っていれば、それが(円換算すると)値上がりするので、円だけで資産を持っているよりも、はるかにマシなはずです。

ちなみに、円の急落(いわゆる通貨危機)は、大災害の発生以外でも起こる可能性があります。例えば財政が行き詰まって日本国債の利払いがストップ(デフォルト)した場合や、米国を中心とする海外と日本の金利差が圧倒的に開いた場合などです。

円が急落すると、日本経済は猛烈なインフレに悩むことになります。日銀はインフレ対策と通貨防衛の両方を目指して、厳しい金融引き締めに走る可能性があります。これは景気にとっては非常にマイナスになります。

ただ、大災害で工場などが被害を受けて生産能力が落ちているときには、需要を抑えることが優先されるのは仕方のないことでしょう。

以上(2022年7月)
(執筆 前久留米大学商学部教授 塚崎公義)

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画像:bakhtiarzein-Adobe Stock

【営業最強フレーズ集】ヒアリング編1「同業他社から○○という課題を聞きます。御社はいかがですか?」

書いてあること

  • 主な読者:今よりレベルアップしたい営業担当者と、営業担当者を指導する営業管理職
  • 課題:現場ですぐに使えて顧客と信頼関係を築けるトークスクリプト的なものが欲しい
  • 解決策:シーンごとに「最強フレーズ」を、少なくとも1つは持っておく。あとは応用

同業他社から○○という課題を聞きます。御社はいかがですか?

相手のニーズは、相手も分からない

営業活動で最も大切で、最も難しいのは「相手のニーズを知る」ことです。そもそも相手が自身のニーズに気付いていないことも多く、特に営業の初回では、相手は警戒もしています。そこで初回のヒアリングでどのように質問するかがとても重要になってきます。

相手が初めての営業を受ける目的は、大きく分けて次の4つになります。

  • 本当に導入を検討している
  • 情報を収集しておきたい
  • つながりだけを持っておきたい
  • 時間潰し

相手の目的が1.であれば、アプローチの段階である程度提案の道筋が見えているため、問題ありませんが、こうしたケースはまれです。営業担当としては、上の2.~4.を目的としている相手と信頼関係を築く必要があり、ここが腕の見せ所です。

「相談される人」を目指す

初回は、相手にとってのあなたは、「飛び込み営業に来たうちの1人」にすぎません。そこから、「何かあったときに相談したい特別な人」にレベルアップすることで、ニーズが顕在化したときに、「あの営業担当者に頼んでみよう」となる可能性があります。

そうした関係構築に効果的なのが、今回の営業最強フレーズです。

「同業他社から最近こういう課題を聞いた」など、相手にとっての競合や顧客など「ビジネスにつながる情報」を提供することで、相手に「この営業担当者は業界全体や同業他社、顧客の動向に明るい『事情通』だ。つながっておく価値がある」と認識してもらうのです。

「もしかしたら感」を感じてもらう

今回の営業フレーズには、「相手にニーズを気付かせる」という意味もあります。

最初は、相手はそもそも自身のニーズに気付いていないことがほとんどです。同業他社や相手にとっての顧客の事例がヒントとなって、「うちも何かしたほうがよいのでは?」と感じてもらえれば、そこからニーズが顕在化していくことも珍しくありません。

相手がヒントと感じやすいテーマは、「競合他社との差異化・同質化」「相手にとっての顧客のニーズや変化」「売り上げ増、利益増」「リスク回避」「コスト削減、効率化」などとなるので、事例として話せるように常に情報収集し、整理するなど準備をしておきましょう。

アイスブレイクも忘れず、初回は素直に。

ヒアリングで同業他社や顧客の事例を出すときは、「この事例が御社の今後の参考になる。なぜなら……」という理由もきちんと説明しましょう。

ただし、こうした話をしたところで、相手がすぐにあなたのことを信頼し、ニーズを教えてくれるわけではありません。初回は「入り口」です。「売り上げ! 成約!」とがっつかず、アイスブレイクや笑顔も交えて和やかな雰囲気をつくり、腰を据えて相手との関係を構築することを心掛けましょう。

また、こちらが準備した「同業他社や相手にとっての顧客の事例(課題)」が、的外れな場合もあります。相手がピンと来ていなさそうだったら、

「勉強不足で申し訳ありません、後学のため、どのあたりがズレていたか教えていただけますでしょうか?」

と素直に質問し、正しい情報を教えてもらいましょう。知ったかぶりや独りよがりは厳禁。相手の反応をよく見ながら話を進めるのが大事です。これはオンラインの際も同じで、相手がカメラオフになっていた場合は、こまめに「いかがでしょうか?」と質問を投げ掛けるのも一策です。

以上(2022年7月)

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画像:Mariko Mitsuda

【営業最強フレーズ集】ヒアリング編2 「○○について、理想的なのはどのようなものですか?」

書いてあること

  • 主な読者:今よりレベルアップしたい営業担当者と、営業担当者を指導する営業管理職
  • 課題:現場ですぐに使えて顧客と信頼関係を築けるトークスクリプト的なものが欲しい
  • 解決策:シーンごとに「最強フレーズ」を、少なくとも1つは持っておく。あとは応用

○○について、理想的なのはどのようなものですか?

営業担当は「質問」が苦手

営業は相手と会話をしながら進めていくものです。相手に質問したり、逆に相手からの質問に答えたり、提案内容を説明したり、意見交換したり。しかし、営業経験が長くても、会話に苦手意識を持つ人は意外と少なくありません。特に、「相手にうまく質問できない」人は多いのではないでしょうか。

試しに、営業セミナーや社内研修で、相手に質問してニーズを明らかにしていくロールプレイングをやってみてください。自分が、いかに相手に質問できていないか、相手のニーズを聞き出せないかが分かります。

「質問」しているようで決めつけてしまいがち

ニーズをヒアリングするとき、相手にいきなり「ニーズはなんですか?」と聞いても、おそらく答えてもらえません。

そこで、【営業最強フレーズ集】ヒアリング編1で紹介したように、「同業他社からは、○○という課題を聞きます。御社はいかがですか?」などのように質問していきますが、ここに「決めつけ」という落とし穴があるので要注意です。

ニーズヒアリングのとき、話の入り口として同業他社や相手にとっての顧客の事例を出したり、ニーズを想像しておいてから質問したり、というのはとても有効です。

けれど、それだけでは相手のニーズをきちんと聞き出せないときもあります。

「旅行」に望むものは……

例えば「社員研修を提案する」で考えてみましょう。

「御社の同業他社からは、新入社員研修として、オンラインでの商談マナーが人気でした。御社もいかがですか?」「当社のセミナーランキング1位は管理職向け財務研修です。御社の管理職向けにも合うと思いますが、どうですか?」

相手に響くこともあるかもしれませんが、こうした聞き方を続けていると、相手から「どれも興味ないからいいや」と言われかねません。一見、質問しているようでいて、実は相手のニーズを「決めつけ」て、それに対して「Yesか、Noか」を聞いているだけだからです。

そこで、冒頭で紹介した営業最強フレーズの出番です。「社員研修するとしたら、理想的なのはどのような研修ですか?」相手が「若手向けかな、実務に活かせる感じの」と答えたら、

「もう少し具体的に言うとどうですか? 例えばどういう分野でしょうか?」

と重ねて質問します。こうしていけば、相手の考えを掘り下げていけます。また、相手自身の中でも、モヤモヤしたものが形になるでしょう。

「質問」するのは怖い?

なぜ、営業担当者は、つい「決めつけ」て質問してしまうのか? それは、おそらく質問するのが怖いからです。相手が答えにくいのではないか。答えてもらえなかったらどうしよう。そんな思いが怖さにつながります。

質問は営業の基本です。相手の考えを聞かなければ営業は前に進めません。もっと言えば、営業以前に、相手との関係性を築く上で「相手のことを知るために質問する」のが必須です。ヒアリング編1と2のフレーズを上手に組み合わせて、しっかり相手のことを聞きましょう。

以上(2022年7月)

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画像:Mariko Mitsuda

【朝礼】販促費・広告宣伝費ゼロを目指せ

おはようございます。皆さん、今回の販促キャンペーンでは、お疲れさまでした。皆さんの頑張りによって、最高の結果とはいかなかったものの、一定の成果を得ることができました。

そんな中で、あえて皆さんにお伝えしたいことがあります。実は、私は「将来的には販促キャンペーンをなくしたい」と考えています。こんな話をするのは、決して私が皆さんの頑張りを認めていないからではありません。仕事に対して取り組む際の参考にしてもらいたいためです。

私が考える理想の状態は、販促費も広告宣伝費もゼロにすることです。そもそも、販促費や広告宣伝費が必要になるのは、お客さまと当社との間にギャップがあるからです。ギャップといっても内容はさまざまですが、簡単に言うと、私たちがお客さまにお伝えしていることが、お客さまにご理解いただけていないということです。例えば、「商品の存在」「商品の魅力」「商品価格の相場」「当社の信用度」などです。こうしたものが理解されていないから、コストを掛けてお客さまに何度もお伝えし、お客さまと当社との間のギャップを埋める必要が出てくるわけです。また、商品価格については、お客さまが許容していただける価格と当社の希望価格との間のギャップを、販促費で埋めているという側面もあるかもしれません。

逆に考えれば、競合他社もお客さまとのギャップがあるからこそ、当社が販促や広告宣伝を行う効果もあるのだともいえます。

お客さまと当社との間にギャップがあることは、お客さまにとっても、当社にとっても、幸せなことではありません。販促費や広告宣伝費は、当社の利益を押し下げるか、販売価格に転嫁することになります。販促費や広告宣伝費がなくても購入していただけるのなら、それだけ当社の利益は増えますし、価格も抑えてご提供できます。販促キャンペーンのための人的な負担も軽減できます。実際に国内外のスーパーマーケットでは、「EDLP(エブリデーロープライス)」を売りにして、特売チラシやプロモーションを廃止しても売り上げを伸ばしている会社があります。

何より言えるのは、お客さまが事前に当社や当社の商品を熟知してくだされば、安心して商品を購入でき、購入後に後悔されることもなく、取引は永続的なものになっていくということです。

ですから皆さんは、日ごろからお客さまとのギャップが埋まるように、当社のことや当社の商品について、お客さまに対して包み隠さず正直にお伝えして、しっかりとご理解いただくことを意識してください。せっかくの販促キャンペーンが一時的な効果しか得られないのであれば、いつまでたっても私の理想の状態にはたどり着きません。

もちろん私は、今の当社の実力では、まだ販促費や広告宣伝費をゼロにはできないことも分かっています。ですが、その理想に向かって、一歩一歩登っていきましょう。目指す山は高いですが、登れば登るほど視界は開けるはずです。

以上(2022年7月)

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画像:Mariko Mitsuda

【朝礼】自信は実力の裏付け、不安は成長の機会

皆さんに、「能力」と「自信」ということについてお話をしたいと思います。

皆さんはよく、「あの人は能力がある」というような言い方をすると思います。それでは、この能力というのがどういうものなのかと考えたことがありますか。

学生時代には、例えばテストの点数や順位、体力測定の数字といったように、能力を分かりやすく表現する基準があったかと思います。「彼の成績はクラスで1番」「彼は学校で一番足が速い」というのは、とてもはっきりとした能力の基準です。また、数字で表現はできなくても、例えば「部活で県大会に出場した」なども分かりやすい能力の証明です。

これが社会人になると、とたんに能力の基準というのが分かりにくくなります。社会人として求められる能力は、記憶力や読解力だけではなく、コミュニケーション能力や問題解決能力、場合によっては身なりや態度までも含まれるわけですから、学生時代のように「テストで100点取れたから能力がある」といった単純なものではなくなってしまうわけです。

社会人の能力というのは、こうしたさまざまな力を合わせた総合力で評価されます。それだけに、社会人になるとたとえ優秀な人であっても、「自分は果たして能力があるのか」と、自身の能力に対して不安を抱いてしまう人も多いようです。自分自身で自分の総合力を評価するというのはとても難しいことですから、それもやむを得ないことかもしれません。

私は、社会人が自分自身の能力を確認するための方法は「自信」の有無ではないかと思います。例えば、仕事をするとき、過去に取り組んで成功してきた仕事であれば自信が持てるはずです。逆に、初めて取り組む仕事や、これまで取引がなかった会社に初めて訪問するときなどは、心のどこかに不安を持っていると思います。自信を持ってできる仕事が自分の能力の範囲というわけです。

ここで一つ、見方を変えてみてください。仮に、常に自分が自信のある仕事だけをしていたとしたらどうでしょう。自信が持てる仕事とは、つまり自分がこれまでこなしてきた仕事です。言い方を換えれば、自分自身の幅を広げる新しい仕事に取り組んでいないということです。

仕事の幅を広げて、自分自身の能力を高めたいと思ったら、新しい仕事に取り組んでいかなくてはなりません。たとえ初めは自信がなくても、未経験の仕事に取り組んでそれを克服したとき、新しい自信が自分の中に生まれていることでしょう。そのときこそ、自分自身の能力が一つステージを上ったことが実感できるでしょう。

社会人は自分の能力に対して不安になることもあるはずです。けれども、それは決して恥ずかしいことではありません。仕事を通して不安を乗り越えることで、不安は自信へと変わります。そして、その自信は自分に力がついた証しでもあるのです。皆さん、新しい仕事には積極的にチャレンジしましょう。

以上(2022年7月)

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画像:Mariko Mitsuda

なぜ、「焼き芋」が東南アジアでバカ売れするのか? 農林水産物の輸出1兆円を支える“売り方”の新発想

書いてあること

  • 主な読者:農林水産物や加工食品を製造・販売している経営者
  • 課題:海外にも販売先を広げたいが、どうせ売れないだろうと思っている
  • 解決策:少しの発想転換や海外の意外なニーズを知ることで、輸出の道が開けることがある

1 冬の風物詩の「焼き芋」が常夏の東南アジアで人気?

2021年の日本の農林水産物・食品輸出額が、長年の悲願だった1兆円に到達しました。けん引したのは酒類、牛肉、ホタテ貝など一部の品目です。だからといって、「我が社が取り扱う品目は、輸出とは関係ない」と考えている農林水産物や加工食品の製造・販売事業者の皆さん、そう決めつけるのは早計です。今、海外で、輸出額を急速に伸ばしている品目があります。それは、

東南アジア向けのさつまいも

です。いったいなぜだと思いますか?

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東南アジアへ輸出されたさつまいもの多くは、現地で焼き芋などとして消費されているとみられます。「冬の風物詩である焼き芋が常夏の東南アジアで売れるわけないでしょ?」と思われるかもしれません。実は、そこに“商機”があったのです。

東南アジアでは、蒸したさつまいもが、おやつとして一年中食べられています。今から10年以上前にそこに目を付け、日本の焼き芋が受け入れられる可能性を探った事業者がいました。そして発見した、現地の人たちに受け入れられるカギとなったのが、

日本では廃棄されるような、小ぶりのサイズのものを輸出すること

でした。

「日本人の好みはこうだから」という固定観念から抜け出し、異なる食文化を持つ人たちの目線に合わせる発想に改めれば、「海外では売れない」と思い込んでいた品目でも、輸出して販路を拡大できる可能性があります。

この記事では、さつまいもの輸出に取り組む事例を、関係者へのヒアリングに基づいて紹介します。

政府は農林水産物・食品の輸出額を、2025年までに2兆円、2030年までに5兆円という目標を掲げ、輸出を後押ししています。皆さんがこのビジネスチャンスを捉え、国内向けに製造・販売している農林水産物や加工食品の輸出を検討するヒントになれば幸いです。

2 日本の焼き芋はこうして東南アジアに受け入れられていった

1)小ぶりのサイズのさつまいもで輸出シェア3割に

「うちの会社の今があるのは、小ぶりのサイズのさつまいもの出荷を始めたから」

そう話すのは、宮崎県串間市の「くしまアオイファーム」の海外担当、堀内翔斗副社長です。同社は地元のさつまいも農家出身の池田誠会長が、海外などへの出荷を推進するために2013年に法人化。それから10年とかからずに、国内から輸出されるさつまいもの3割近くのシェアを占めるようになりました。

池田会長は今から10年以上前、中華系の人たちがおやつとして、さつまいもを蒸して食べることを知り、実際に香港や東南アジアに赴いて現地のニーズを確認したといいます。

日本で焼き芋向けのさつまいもといえば、200グラム程度が通常で、それより大きなサイズも人気があります。一方で200グラムを下回る小さなサイズには人気がなく、低価格でしか販売できない上に、廃棄されることもあったそうです。

ですが、香港や東南アジアの人たちは小ぶりのサイズのさつまいもを食べていたことから、池田会長は150グラム未満の小ぶりのさつまいもの輸出に力を入れることにしました。そのために、あえて小ぶりのサイズのさつまいもを栽培する農法も開発しました。その戦略が奏功し、国内から輸出されるさつまいもの3割近くのシェアを占めるまでになったといいます。

堀内副社長によると、現在の輸出先の8割は、香港、シンガポール、タイとのことです。3つの国・地域に重点を置いている理由として、次の3点を挙げています。

  • もともと、さつまいもを蒸すなどして食べる習慣があった
  • 「メード・イン・ジャパン」に良いイメージを持っている地域である
  • 腐らないうちに船で大量輸送できる距離にある

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2)さつまいも産地も輸出を後押し

鹿児島県と並び、さつまいもの二大生産地である茨城県。同県農産物輸出促進チームでは、5年ほど前からさつまいもの輸出を積極的に支援するようになりました。

同県の担当者は、「常夏の東南アジアで焼き芋がこれほど売れるとは思わなかった。日系スーパーの焼き芋機に行列ができるほど売れているのを目の当たりにして、輸出の可能性を感じ力を入れることにした」と言います。

現在は焼き芋ブームで、国内でのさつまいも需要が旺盛であるものの、今後の人口減を見据え、「10年、20年先の将来を考えると、成長している東南アジアを始め世界中の潜在的なマーケットを開拓しておくことは大切」と、輸出を支援しています。

輸出支援に当たって同県が最も力を入れているのは、現地での試食販売の実施です。担当者は、「現地で生産されるさつまいもと比べて、日本産の販売価格は3倍ほどだが、甘さでは圧倒している。まず食べてもらって、なぜ高いのかを理解してもらうことが大事」と話します。

試食をしてもらうことで、「焼く」という、これまで現地にはなかった食べ方の提案も行っています。「さつまいもは焼くことによって、水分が飛んで甘みが凝縮され、香ばしさも出る。現地の蒸したさつまいもとは別の食べ物だという認識をしてもらっている」と言います。

こうした取り組みにより、2018年から2020年までの間に、茨城県産のさつまいもの輸出量は2倍ほどに増えたといいます。

3)さらなる輸出拡大へ、「冷凍焼き芋」という新たな提案

前述のくしまアオイファームをはじめ、さつまいも業界が今後の輸出拡大に向けて期待を寄せているのが、国内で焼いたさつまいもを冷凍して輸出する「冷凍焼き芋」です。

冷凍焼き芋が注目される理由の1つは、輸送の問題です。くしまアオイファームの堀内副社長は、「さつまいもの輸出は、腐敗との戦い」と語ります。さつまいもは船便で輸出を行うのが通常ですが、常温で2、3週間すると腐ってしまうさつまいもが増え、ロス率が高まります。冷凍焼き芋であれば、輸送時のロス率はほぼゼロになります。

ただし、低温での輸送や、国内でさつまいもを焼く工程が加わるため、その分のコストが販売価格に上乗せされます。堀内副社長は、「東南アジアであれば冷凍しないほうがコストに見合うが、今後は欧州、北米、南米、アフリカなどへの輸出も考えており、その場合は冷凍焼き芋になる」と話します。

冷凍焼き芋が注目されるもう1つの理由は、「冷やし焼き芋」という新たな食べ方の提案をすることです。国内ではここ数年、夏にも食べられるスイーツとして、冷やした焼き芋が販売されるようになってきています。冷凍焼き芋であれば、現地の販売店は完全に解凍・加熱しないことで、容易に冷やし焼き芋として販売することができます。

茨城県かすみがうら市の「ポテトかいつか」は、2021年12月からシンガポールで冷やし焼き芋のテスト販売を始めました。くしまアオイファームの堀内副社長も、「冷たい焼き芋というのは、日本でもまだ始まったばかりだが、新しい食べ方の提案になる」と期待を寄せています。

3 参考:農林水産物・食品の輸出に関するデータ

最後に、2021年に1兆円を達成した日本の農林水産物・食品の輸出に関するデータを紹介します。輸出する商品や輸出先を検討する際の参考にしてみてください。

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以上(2022年6月)

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画像:ソース

【部門別の見える化】この店舗の赤字は本当にコロナのせいなのか?

書いてあること

  • 主な読者:財務分野の「見える化」を進めたい経営者
  • 課題:会社が大きくなるにつれ、会社の財務分野の状況が見えなくなっている
  • 解決策:数値をグラフ化して状況を可視化し、トレンドに対する正確なイメージを持つ

1 なぜ、会社は「見えなくなる」のか?

会社の「見える化」の重要性を理解しても、そのための取り組みを行わなければ、次第に会社が見えなくなっていきます。会社が歴史を積み重ねていくと、必然的に顧客の数、支社・店舗の数、関連会社の数などが増加し、マンパワーだけでは徐々に管理できなくなっていくからです。

こうした段階になれば、システム構築などを検討すべきですが、実際は従来の延長線上で管理を続け、適切な対策を講じていない会社が少なくありません。そうすると、次第に会社全体の姿を正確に把握できない(=会社が見えない)状況に陥ってしまうのです。

この記事では、支社・支店・店舗などの部門別の損益について、会社の「見える化」を推進する際のポイントなどを、店舗別の事例を交えて紹介します。なお、グラフから業績のトレンドや問題点を把握することを重視するため、個々のグラフについての数値に関する詳細な説明は省略しています。

2 各店舗の問題点の把握

部門別の観点とは、全社的な損益の観点の一部、ないしは詳細版です。そのため、全社的な損益グラフを部門別に細分化すれば、部門別グラフは作成できます。しかし、それだけでは不十分です。部門別の「見える化」を行う上では、

各部門間での相対比較を行い、各部門の存在価値(優劣)を一目で分かるようにすることがポイント

です。

例えば、「各店舗を売上高と利益でプロットしたグラフ」というと、図表1のようなグラフをイメージする人が多いかもしれません。

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全ての店舗において、売上高と利益の割合がほぼ一定である場合は、こうしたグラフになります。しかし、実際には、図表2のようなグラフとなるケースが一般的です。

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図表2と同様に、次のようなケースが少なくありません。

  • 売上高、利益とも高い10~20%程度の優良店舗が全体をけん引しており、その他の店舗が“お荷物状態”になっている
  • 全体の30~50%程度の店舗が赤字になっている
  • 売上高が大きくても、利益はそれほどでもない(利益率が低い)店舗がある
  • 売上高ナンバーワンが、利益ナンバーワンとは限らない

こうした実情が分かれば、次は赤字店舗の状況について詳細に把握し、検討していくことになります。その際は、グラフの集計期間に注意する必要があります。例えば、集計期間がある特定の月であれば、その月特有の事情があるかもしれません。こうした特殊要因の影響を排除するためには、累計値のグラフを作成する必要があります。

図表3は、最も赤字を出している1店舗の月次損益の推移をグラフにしたものです。なお、13期7月時点での検討を想定しているため、13期のデータは7カ月分しか表示されていません。

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このグラフを見て、現状をどのように分析するでしょうか。もしかすると、「ここ数年は、コロナ禍の影響があるから……。もう少し様子を見てみよう」といったように、“言い訳”をする人が出てくるかもしれません。

しかし、図表3に表示されている3期に加えて、前4期分の情報を追加すると、どうでしょうか(図表4)。

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図表4を見ると、“ここ数年”といった短・中期的に業績に影響を与えるような偶発的要因が、業績不振の原因ではないことが分かります。より長期間の状況をグラフで示すと、偶発的要因を排除した状況を簡単に把握することができます。ここで大切なことは、分布図で部門の相対評価を行うのは、各部門の相対価値を関係者が共有するためであり、その先の検討には、店舗別(部門別)の損益グラフが必要になるということです。

3 会社全体の問題点の把握

ここでは、各部門の順位グラフを検討し、会社全体の問題点について見ていきます。各店舗の業績(売上高および利益)を、利益の多い順にグラフにしたものが図表5です。

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また、各店舗の利益を、利益の多い順に左側から積み上げたものが図表6です。

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図表6では、右端にあるA店の部分にある数値が、全店舗合計の利益を表しているので、全社的には約5億円の利益が出ていることになります。また、上位2店舗(H店とI店)のみでも、5億円以上(約7億円)の利益が出ていることが分かります。これは決してイレギュラーな現象ではありません。件数ベースで上位約20%の部門だけで、全体利益の数百%を構成する場合もあります。ただし、経営上の観点からいうと、こうした比率は重要ではありません。本当に大切なことは、このグラフが会社を継続していくと共にどのように変化しているかを把握することです。会社を継続していくと、図表7のような兆候が発生しがちです。

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会社を継続すると、必然的に規模の拡大が行われるため、店舗(部門)の数は増加します。全部が一定率の利益を出す、すなわちグラフで表すと右肩上がりの直線的なものになるようであればよいのですが、現実は図表7のような形が出現しがちです。言い換えると、会社を継続するほど、収支がほぼ均衡する“胴体の部分”(図表7でいえばE~T店)が長くなってきます。

つまり、「顧客や店舗はどんどん増えるけれど、利益が増えない」状態です。

一方で、固定費が増加しない仕組みを構築しない限り、顧客や店舗が増えれば必然的に全社ベースでの固定費は増大します。そのため、こうした仕組みを構築することができなければ、いずれこの会社は固定費の増大に耐えられなくなります。

自社にこの症状は出ていないか、グラフを使って確認してみるとよいでしょう。

以上(2022年6月)
(監修 公認会計士 益子宣夫)

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価格競争から脱却するために不可欠な経営者の意識改革/「人を大切にする経営」で業績アップ(3)

書いてあること

  • 主な読者:業績は上がらないし、社員は生き生きと働いていない。会社の経営指針を根本的に見直したいと考えている経営者
  • 課題:社員の幸福や会社の社会的意義も大事だが、業績が悪ければそれどころではない
  • 解決策:会社に関係する全ての人の幸福を最優先する「人を大切にする経営」を実践する。経営者の意識改革によって変化を見誤らない「眼」を持ち、価格競争から脱却する

1 経営者がかじ取りを誤れば、人を大切にはできない

これまで2回にわたって、人を大切にする経営のエッセンスについて述べてきました。第3回からは、いよいよ本格的な実践編になります。

新型コロナや不安定な国際情勢など、経営に関する不確実性は、かつてないほど高まっています。人を大切にする経営を実践していくには、経営者が環境変化に対して適切なかじ取りを行い、環境変化にもびくともしない会社にすることが不可欠です。

そのためには、経営者が、

時代の変化や現在抱えている問題を見誤らない「確かな眼」を持つ

とともに、会社を、

社員の犠牲の上に成り立つ「価格競争」から脱却し、社員の能力の活用・向上によって永続的な成長を目指す「非価格競争」へと転換する

ことが求められます。「非価格競争が理想であることは分かっているけど……」と考えている経営者のあなたには、新しい市場を見いだしていくための意識改革が求められるでしょう。

今回は、環境変化にもびくともしない経営を実践するために、経営者に必要な意識改革について述べていきます。

2 経営者が持つべき「5つの眼」

外部環境に適応するために新たなことを始めようと思った際は、不安定・不確実な社会情勢を見極めることが重要です。そのために、経営者が持つべき「5つの眼」があります。それは、

  • 主観ではなく客観
  • 短観ではなく歴史観
  • ローカルではなく世界観
  • 現象観ではなく本質観、原理原則観
  • 企業観ではなく現場観・現物観・現実観(三現観)

です。

主観ではなく客観とは、変化・問題を、自社・自身を基準にして観るのではなく、第三者的・俯瞰(ふかん)的な視点で観るということです。主観にとらわれず、より幅広くものを観る眼のことです。

短観ではなく歴史観とは、変化・問題を、対前年比較などの短期ではなく、5~10年の中長期のスパンで比較するということです。時間軸をしっかり持ち、長い歴史の中の一つの時間として、今を眺める眼のことです。まさに今、国際情勢の転換点にいる私たちにとって必要な視点といえます。

ローカルではなく世界観とは、変化・問題を、自社・自身の生活範囲や地域レベルで判断するのではなく、より広い世界的視野から観察するということです。幅広い空間軸でものを観て、そして判断する眼のことです。

現象観ではなく本質観、原理原則観とは、変化・問題を、その現象だけ見るのではなく、それをもたらした要因・本質を見極めるということです。表面的に物事をとらえるのではなく、原理原則を見つめ、本質を見極める眼のことです。

企業観ではなく現場観・現物観・現実観(三現観)とは、変化・問題を、現場・現状も知らずに机上の空論で判断するのではなく、その現場に出向き、現物を見て、現実を知るということです。三現主義でものを観る眼のことです。

経験したことのない激変する環境下においても、この5つの眼を持っていれば、時代の変化や現在抱えている問題を見誤ることなく物事を進めていくことができるはずです。

3 価格競争からの脱却に必要な「オンリーワン経営」の意識

1)「オンリーワン経営」によって培われる非価格競争力

永続的に成長する会社に共通する要因の一つが、非価格競争力です。価格に関する会社の競争力は、大きく分けると価格競争力と非価格競争力の2種類あります。価格競争力とは、言うまでもなく「他社より安い」といった価格の安さを追求した競争力です。

一方、非価格競争力とは、価格の安さではなく、他社にはない価格以外の付加価値を追求した競争力で、新たなマーケットの創造を目指すものです。もう少し具体的に言うと、

  • その会社でしか扱っていない価値ある商品
  • その会社でしか創造・提案できない価値ある感動サービス
  • お客さまが絶賛する組織風土やブランド

などをいいます。すなわち、市場・業界シェアや売り上げ規模が一番といった「ナンバーワン経営」ではなく、「オンリーワン経営」によって培われる競争力だといえます。

どちらの競争力が理想的かといえば、恐らく100%の経営者が非価格競争力だと回答すると思いますが、実現できている会社は多くありません。

2)非価格競争力が強く求められる時代に

今から6年ほど前になりますが、「非価格競争経営に関するアンケート調査」を行ったことがあります。回答企業(製造業・非製造業を含め836社)のうち、「価格競争型企業」が81%、「非価格競争型企業」が19%でした。当時は価格の安さを売りにした会社、つまり価格が安いことが唯一の存立基盤という会社が圧倒的に多かったのです。

価格競争型企業が圧倒的多数だった時代、このような売り方がよく見られました。例えば、大手スーパーや量販店で、「自社の価格がもし他店よりも1円でも高ければ、そのチラシを見せてくれたら同じ価格、さらに安い価格にします」という売り方です。チラシがなくても、「あそこの店はここよりも安かったから、ここで買うから同じ価格にしろ」という、声の大きい客にだけ値引きをするといった売り方もされていました。

確かに当時は、1円でも安くなるからありがたいと、多くのお客さまがチラシを持参して、複数店舗を歩き回ることもありました。しかし、いつしか時代も消費者心理も変わり、お客さまは、「この店が当初設定した価格は何だったのか」「声の大きい客、値切れる客だけ安くなるのはおかしいのでは」と、逆にそのお店の値決めに不信感を増幅させていくようになったのです。

3)非価格競争への転換に成功した大阪のばねメーカー

大阪府大阪市に本社のあるばねメーカーT社の社長(現顧問)は、かつて欧州視察に参加した際、ドイツのばねメーカーを見学しました。そのときの質疑応答で、彼が「価格はどのように設定していますか」と質問すると、「原価などに利益を乗せて設定している」との答えが返ってきました。続けて、「値引きを要求されませんか」との質問には、「値引きして売っているようでは、ばね屋として成り立たない。価格が折り合わなければ断るだけ」との返答だったそうです。

その言葉を聞いた彼は、「単品特化のばね屋が値引きしたら消滅する運命しかない」「人が嫌がる仕事は正当に評価されるべき」ということに気付きました。そして、非価格競争の世界に足を踏み入れ、価格決定権を得ることに成功したのです。

T社はそのために、1本単位の注文であっても高品質のばねを生産できる、高度で精密な技術力に磨きをかけました。国家資格である「金属ばね製造技術士」を保有する優秀な職人を多数育成するとともに、日本一難易度が高いと自負する社内独自の技能検定も実施して技術力を高め、独自の「単品に特化した多品種微量・完全受注生産」システムを確立しました。

今では、値引き交渉をしてくる問い合わせには、「他社をお探しください」ときっぱりお断りするとともに、納期についてもT社の都合を理解いただいたお客さまの注文にのみ応じるようにしているのです。

4 非価格競争でマーケットを創造するための3つの型

非価格競争を実現するためには、

取引先、お客さまに、いかにファンになってもらうか

が重要です。

具体的に、非価格競争でマーケットを創造する方法として、次の3つの型が考えられます。

  • 顧客密着型
  • 新商品開発型
  • オペレーショナル・エクセレンス型

1)中小企業の小回りを活かした顧客密着型

顧客密着型とは、文字通り、お客さまにとことん密着し、お客さまの状況を察し、「喉が渇く前に飲み物を渡してあげる」「背中がかゆくなる前に背中をかいてあげる」といったサービスを提供するタイプです。すなわち、

大企業には難しい、中小企業だからこそできる小回りの利いた対応

をすることです。具体的には、商品・サービスの価格は他社より少々高くても、

  • 接客サービスやアフターサービスが抜群に良い
  • 1個の注文や、今日・明日という短納期の注文であっても対応してくれる
  • 困ったときにいつでも駆けつけてくれる

といったサービスが挙げられます。

例えば、神奈川県横浜市で新築やリフォームの工事および企画設計を行うS社の取り組みが挙げられます。S社は、アフターフォローという概念が薄い業界にあって、「地元住民が困ったときに、何でも頼める『住まいのかかりつけ医』となる」をモットーに、リフォームした家を定期的に訪問し、不具合がないかを聞いて回るなどしています。他社が敬遠する小工事についても手間暇惜しまず、迅速に対応してくれることから、口コミや顧客からの紹介を通じてお客さまが増え続けています。

2)商品・サービスそのものの魅力で勝負する新商品開発型

次に、新商品開発型とは、商品・サービスそのものの魅力で引きつけるタイプです。

  • 自社しかできない/やれない価値ある商品の創造・生産・販売を行う
  • お客さまを飽きさせることなく常に新しい商品・サービスを提供し続ける

ことによって実現します。ただし、新商品・サービスの開発といっても、全てをゼロから作り上げる必要はなく、既に他社にもあるもので、お客さまが不満に思っていることを解消するなどの改善も当てはまります。

例えば、ブルーシートの材料にもなっている「フラットヤーン」の関連製品および産業機械の製造・販売を行う岡山県倉敷市のH社は、多様な商品を開発し続け、ニッチな市場にも領域を広げています。例えば、シートであれば、防炎、遮熱、防音といった機能を訴求した商品や、発掘現場での埋蔵文化財保護シートのようなニッチな商品まで手掛けています。また、水中に浸してもむと数分で土のうの代用品になる吸水土のうや、コンクリートに混ぜるとひび割れが生じにくくなる補強繊維など、さまざまなヒット商品も生み出しています。その根底にあるのは、創業の精神「おもしれえ 直ぐやってみゅう(岡山弁で「やってみよう」の意味)」であり、社員からのカイゼン提案は年間5000件を超えているそうです。

3)オペレーションの改善で差別化を図るオペレーショナル・エクセレンス型

最後のオペレーショナル・エクセレンス型とは、生産方法や販売方法などのオペレーション面で、競合会社に対してスピードやコストで差別化を図っていくタイプです。「こんなに良いものが、こんなに安く」や「旨い・安い・早い」という言葉を聞いたことがあると思いますが、それらはこのタイプに当てはまります。

このタイプには、先ほどご紹介した大阪府大阪市のばねメーカーT社が該当します。T社は現在、「ITを活用した完全受注生産体制」を整備し、同業他社がやらない/できないレベルのサービスを提供することで、お客さまからのばねに関する「困った」を解決しています。

5 非価格競争のために利活用すべき「第4の経営資源」

非価格競争とそれによるマーケットの創造は、自社の既存の経営資源のみでの取り組みではなかなかうまくいきません。当然、既存事業を行いながら付加価値の高い分野に進出していくことになるので、新しい人材や技術、ノウハウが必要になります。中小企業は総じて、人材・技術・情報といった経営資源に限界があります。

では、多くの中小企業は限られた経営資源の中で、いかにして戦っていけばよいのでしょうか。そのヒントになるのが、

ネットワーク型経営の実行

です。つまり、

外部にある必要な経営資源を自社に取り込み、有効活用することで、その経営資源をあたかも自社の経営資源のように高度に利活用する経営

を進めることです。

ここでいう外部経営資源とは、同業種の会社はもとより、取引先の会社・異業種会社、さらには弁護士や公認会計士・税理士・社会保険労務士・経営コンサルタント、行政や大学等教育機関が持つ資源のことを指します。

人材・技術・情報、またはヒト・モノ・カネに次ぐという意味で、これを第4の経営資源と呼んでもよいと思います。こうした第4の経営資源の利活用のためには、

中小企業は内にこもらず、価値ある仲間を求め、積極的に外に出るべき

といえるでしょう。

そして、まずは産学官交流会や異業種交流会、展示会などに参加して、自社の存在を広く知らしめる必要があります。こういった場には、同じ考えを持つ人たちが多く集まっているため、価値ある人脈作りに格好な場となるからです。

次回の第4回は、人を大切にする経営において重要な取り組みとなる、“人財”活用および育成について、働き方や雇用の在り方、創造的な社員の育成手法などを事例を交えてご紹介します。

以上(2022年6月)
(執筆 人を大切にする経営学会事務局次長 坂本洋介、水沼啓幸)

【著者紹介】
坂本洋介(さかもと ようすけ)

1977年静岡県生まれ。東京経済大学大学院経営学研究科修了。株式会社アタックス「強くて愛される会社研究所」所長、コンサルタント。人を大切にする経営学会事務局次長。著者画像1
主な著書に「社員にもお客様にも価値ある会社」(かんき出版)、「小さな巨人企業を創りあげた 社長の『気づき』と『決断』」(かんき出版)「実践:ポストコロナを生き抜く術!強い会社の人を大切にする経営」(PHP研究所)他、連載、執筆多数。

水沼啓幸(みずぬま ひろゆき)
1977年栃木県生まれ。法政大学大学院イノベーション・マネジメント研究科修了(MBA)。株式会社サクシード代表取締役。人を大切にする経営学会事務局次長。作新学院大学客員教授。中小企業診断士。地域特化型M&Aプラットフォーム「ツグナラ」運営。著者画像2
主な著書に「地域一番コンサルタントになる方法」(同文舘出版)、「キャリアを活かす!地域一番コンサルタントの成長戦略」(同文舘出版)、「実践:ポストコロナを生き抜く術!強い会社の人を大切にする経営」(PHP研究所)他、「近代セールス」等連載、執筆多数。

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画像:fizkes-Adobe Stock

SNSの活用は第一に目的の明確化、第二にTTP/基礎から分かる ウェブの活用で売上アップ(2)

書いてあること

  • 主な読者:ウェブを活用して売上アップにつなげたい経営者
  • 課題:SNSを活用して売上アップを図りたいが、どうすれば成功するか分からない
  • 解決策:それぞれのSNSの特性を知り、活用目的を明確にすることから始める。投稿方法は、成功事例をTTP(徹底的にパクる)する

1 SNSの活用度でコロナ禍の明暗が分かれる

コロナ禍で苦しむ飲食店。コロナ禍の巣ごもり需要に対応するためにテイクアウトをスタートしたA店とB店で、明暗がハッキリ分かれました。

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コロナ禍で苦しむ旅館。コロナ対策として各都道府県で実施した「県民宿泊割キャンペーン」の情報を顧客にお伝えしたA社とB社で、明暗がハッキリ分かれました。

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コロナ禍で明暗を分けた理由は、SNSの活用度合いです。SNSでお客さまとつながっていた店舗や企業は、情報をタイムリーに、かつ低コストで発信することができ、売上につなげることができました。

2 何のためにやるの? 目的の明確化こそSNS活用の要諦

「よし、SNSを活用してみよう」と思っている方に、先にお伝えしたいことがあります。SNS活用の失敗パターンは、「はやっているから」という理由でスタートすることです。まずは、さまざまなSNSの特性と自社のターゲットを考慮して、SNS活用の目的を明確にしましょう。

  • 飲食店⇒「新規客を取り込むため」に「インスタグラム」を活用
  • 美容院⇒一度来店した方に「リピーターになってもらうため」に「LINE」を活用
  • 食品製造業⇒「商品の認知度を高めるため」に「ツイッター」を活用
  • ネットショップ⇒「商品の魅力を伝えるため」に「ユーチューブ」を活用

上述のように、「〇〇〇のため」に「〇〇〇(SNSツール)」を活用、というフレーズを作成してみてください。

なお、さまざまなSNSの特性を詳しくお知りになりたい方は、第4章をご参照ください。

3 やってみる! マネてみる! の精神でチャレンジを

1)キーワードは「TTP」

SNSのビジネス活用の世界で「TTP」という言葉がよく使われます。何の略語かわかりますか? TTPとは、

徹底的にパクる

ということです。

そう、うまく活用できている同業種・同業態のアカウントをユーザーとしてフォローしたり登録したりして、その投稿内容や手法を徹底的に参考にしてください。

2)これぞTTP効果! 1投稿で100以上のフォロワー獲得に成功

当社がご支援させていただいているワイナリーでは、コロナ禍でインスタグラムを始めましたが、フォロワー数を伸ばすことに苦戦していました。私は、フォロワーを多く獲得しているワイナリーのアカウントをご紹介し、そこと比較をしてみました。

すると、違いは「#(ハッシュタグ)」にありました。フォロワーを集めているアカウントは、ワイン好きの人が使うハッシュタグを数多く入れていたのです。そこで、TTPさせていただき、「#ワイン好きな人と繋がりたい」「#winelover」というハッシュタグを投稿に入れたところ、1投稿で100以上のフォロワーを獲得することに成功しました。

3)ユーザーとして「やってみる」ことから始めよう!

先ほどのワイナリーの話を読まれても、インスタグラムを使ったことのない方は、ハッシュタグの重要性をイメージしづらいと思います。まずは、いちユーザーとして、SNSを使ってみることをお勧めします。

多くの読者の方がプライベートでLINEは使われているかと思います(使っていなければ、今すぐ始めましょう!)。飲食店に行くと、よく「LINE公式アカウント登録で今すぐドリンク進呈」といった訴求を目にします。見つけたら、ぜひ登録してみてください。そうすると、お得なクーポンが送られてきたりします。「あっ、これがLINE公式アカウントね!」と、すぐにご理解いただけると思います。

SNS活用で最も大切なのは、ユーザー目線。まずは、ユーザーとしてSNSを体感することから始めてみてください。

4 参考:活用するSNS選びのためのアドバイス

次の図表は、ビジネス活用ができる主要なSNSの特性をまとめたものです。SNSと一言で言っても、ユーザー層や使い方はさまざまです。ビジネス活用となれば、その活用法も変わってきます。

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このうち利用者が1000万人を超えるLINE、Instagram、Twitter、YouTube、Facebookのお勧めの活用方法をお伝えします。

1)LINE(ライン):リピート促進

日本人の多くが使っているSNSがLINEです。LINEのビジネス活用としては、「LINE公式アカウント」というツールがあります。

既存のお客さまに自社のLINE公式アカウントに登録いただき、登録者に対して月に1回程度、お得情報や最新情報をお送りします。

現状ですと、月に1000配信まで無料で利用できます。

LINEのビジネス活用の主目的は、「リピート促進」が挙げられます。既存のお客さまとつながるツールとしては、以前はメール配信が主流でしたが、近ごろはLINE配信が増えています。

また、「LINEで問い合わせ」という活用方法も多くなってきました。若年層を中心に、

「電話よりLINEで問い合わせするほうが楽」

という方が増えています。

2)Instagram(インスタグラム):集客からリピート購入、ファンづくりにも

インスタグラムは、今利用が伸びている注目のSNSです。インスタグラムは若い女性向けのSNSというのは、今や幻想です。男性利用が4割を超え、中年層にも拡大中です。

インスタグラムは、#(ハッシュタグ)という文化があり、

ハッシュタグを通じて、同じ趣味・嗜好の方の情報を得る

ことができます。ちなみに、私は、「#新潟アルビレックスBB」というハッシュタグをフォローすることで、地元のプロバスケットボールチームを応援する方の投稿を瞬時にキャッチしています。

ビジネスでは「集客」のツールとして利用されることが多いです。上述のように、

ハッシュタグを投稿に入れることで、そのハッシュタグをフォローしている方や検索した方に投稿を見ていただき、そこから興味を持ってもらい、アカウントをフォローしてもらえれば、新たな接点につながります。

投稿頻度は週に2~3回程度がお勧めで、投稿頻度が増えるほどフォロワーも多くなり、集客を図ることができます。

新たな集客を狙わなくても、既存のお客さまにフォローしてもらい、情報発信を行うことで、「リピート購入」や「ファンづくり」につなげることも可能です。

3)Twitter(ツイッター):認知度アップと集客

ツイッターは、拡散性に優れたSNSなので、「認知度アップ」「集客」に向いています。「バズる」という言葉の通り、

投稿の内容によっては、情報が一気に拡散し、新たな出会いを生み出します。

しかし、1日1回以上投稿したり、フォロワーとマメにコミュニケーションを取ったり、投稿内容にも面白味がないと拡散は期待できません。運用担当者、いわゆる「中の人」の腕次第であり、適任者がいない場合は、手を出さないほうがよいかもしれません。

4)YouTube(ユーチューブ):自社・自店の魅力を伝え、信頼を得る

「ユーチューバーになって、一獲千金を狙いましょう」とは言いません。ユーチューブのビジネス活用としては、動画で商品・サービスの説明等をして、自社・自店の「魅力を伝え、信頼を得る」という目的で使うことをお勧めします。まずは、

動画を作成して、それをユーチューブにアップする。その動画をホームページに入れたり、パンフレットや名刺にYouTubeにつながるQRコードを入れたりして閲覧を促します。

また、ユーチューブ内で、動画を拡散して「集客」を図る手法もありますが、難易度は高くなります。

5)Facebook(フェイスブック):既存客への情報発信

フェイスブックは、以前は拡散性に優れたSNSでしたが、最近は拡散しづらくなっており、ビジネス活用としては、フェイスブック内で広告を展開して新規の「集客」を図るケースが多いです。

拡散性は低くなっているものの、会社や店舗で利用できる「フェイスブックページ」は無料ですので、

既存のお客さまへの「情報発信ツール」として機能させる

ことは有効です。

以上(2022年6月)

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画像:Pixel-Shot-Adobe Stock
執筆者サイト:https://glocal-marketing.jp/