【労災の落とし穴(製造業)】 労災かくしで労基署の調査が!?

この記事では、現役社労士が直面した小さな製造業の労災の事例として、「社員と口裏を合わせて労災かくしをしようとした結果、それが労働基準監督署にバレてしまった会社」の話を紹介します(実際の会社が特定できないように省略したり、表現を変えたりしているところがあります)。

1 社員と口裏を合わせたつもりが、本人が医師に真相を打ち明けて大問題に……

社員数10人の金属製造工場に勤めるBさん。機械に部品をセットする際に誤って指を挟み、大量に出血してしまいました。医師からは「少なくとも1週間程度は安静が必要。指の機能回復に時間がかかる」と診断され、10日以上仕事を休むことになりました。

この会社では、過去に似た状況で社員が負傷し、労働基準監督署の調査が入ったことがあります。苦い経験のある社長は、Bさんに「指のけがぐらいなら健康保険で治療してくれる。業務中のけがだってことは黙っていてね」と持ちかけます。Bさんは「社長がそう言うなら……」と、指示に従いました。

しかし、悪いことはできないもので、数カ月後に事態は急変します。Bさんはけがの回復が芳しくなく、医師から手術が必要と宣告されます。会社への不満が募っていたBさんは、とうとう医師に「実は業務中のけがだった」と打ち明けました。この話が病院から労働基準監督署に伝わり、監督官による会社への立ち入り調査が実施されました。

調査の結果、明らかに業務中のけがなのに、労働者死傷病報告が提出されていなかったことが判明。会社側が故意に報告をせず、社員にも口止めしていた点が重く見られ、社長は労働安全衛生法違反で、刑事責任を問われることになりました。

2 口裏を合わせても、いずれはバレる

労災かくしに協力させられた社員の中には、会社への不満だったりつい口を滑らせたりして

医師や労働基準監督署に「実は業務中のけがだった」と報告する人も少なくありません。その結果、労働基準監督署の監督官による立ち入り調査が実施され、経営者が処罰されるケース

もあります。業務中にけがをした場合、診察や治療を受ける際は、原則として労災保険を使わなければなりません。

このケーススタディーは、長期休業が必要なレベルのけがにもかかわらず、健康保険を使わせるという極めて悪質な労災かくしです。「労災であっても、社員と口裏を合わせて報告しなければバレない」という甘い考えが通用するはずもなく、結果として社長が刑事責任を問われることになりました。

3 意図的な労災かくしは言語道断、正しい手続きを!

まずは、「労災が発生したら労災保険で対応する」「労災により休業・死亡が発生した場合、労働者死傷病報告を提出する」という法律のルールを守りましょう。ちなみに、労働者死傷病報告の提出時期は、

  • 4日以上の休業(または死亡)の場合:労災発生から遅滞なく
  • 4日未満の休業の場合:3カ月ごと(4月末、7月末、10月末、1月末)

となっていて、2025年1月からは「電子政府の総合窓口(e-Gov)」での提出(電子申請)が義務化されています。

なお、会社が労災保険で対応しようとしても、社員のほうが「会社に迷惑をかけたくない」と健康保険を使おうとするケースが時折見受けられますが、社員の意思に関係なく、

事故の内容が労災であれば、会社は労働者死傷病報告を提出しなければならない

ので、労災かくしを疑われないためにも、「業務中のけがの場合は労災保険を使うこと」を社員にも徹底させましょう。万が一健康保険で診察や治療を受けてしまった場合でも、所定の手続きを踏めば労災保険に切り替えられる制度があるので、併せて社員に周知するとよいでしょう。

■厚生労働省「お仕事でのケガ等には、労災保険!」■
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11200000-Roudoukijunkyoku/0000150202.pdf

以上(2025年5月作成)

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画像:ChatGPT

【労災の落とし穴(製造業)】 労災に健康保険を使ったら違法?

この記事では、現役社労士が直面した小さな製造業の労災の事例として、「社員が業務により負傷したのに、労災保険でなく健康保険を使うよう指示してしまった会社」の話を紹介します(実際の会社が特定できないように省略したり、表現を変えたりしているところがあります)。

1 業務中に膝を打撲した社員に、労災保険でなく健康保険を使うよう指示した……

社員数10人の金属加工工場に勤めるAさん。ある日、プレス機のオペレーション中、足元の部品につまずいて転倒し、膝を打撲してしまいました。膝が赤く腫れていましたが、忙しいこともあり、Aさんは周囲に「このぐらい、大したけがじゃない」と言い、社長も「病院へ行きなさい」とは言わず、そのまま業務に復帰させました。

しかし、その後も膝の痛みが引かなかったので、翌日、Aさんは病院に行きました。診断結果は靭帯損傷、医師からは「念のため1日休業した上で、数週間通院するように」と言われました。

ところが社長に報告すると、社長は「1日の休業で済むレベルなら軽傷だし、労災にしなくてもいいでしょ? 労働基準監督署から監督官が来るかもしれないし、労災保険料が上がるのも困るから、健康保険を使ってくれ」と、Aさんに頼み込みます。Aさんは「社長がそう言うなら……」と、指示に従ってしまいました。

2 業務中のけがで健康保険を使うのは違法!

業務中にけがをした場合、診察や治療を受ける際は、原則として労災保険を使わなければなりません。安易に健康保険を使うと、後に労働基準監督署が実態を確認した際、労災かくしとみなされる恐れがあります。また、社員にとっても、

診察や治療にかかる費用が、労災保険を使えば「自己負担0円」で済むところ、健康保険を使うことで「3割が自己負担」になってしまう

という問題があります。

3 まずは労働者死傷病報告のルールを正しく押さえよう

まずは、「労災が発生したら労災保険で対応する」「労災により休業・死亡が発生した場合、労働者死傷病報告を提出する」という法律のルールを守りましょう。ちなみに、労働者死傷病報告の提出時期は、

  • 4日以上の休業(または死亡)の場合:労災発生から遅滞なく
  • 4日未満の休業の場合:3カ月ごと(4月末、7月末、10月末、1月末)

となっていて、2025年1月からは「電子政府の総合窓口(e-Gov)」での提出(電子申請)が義務化されています。

なお、会社が労災保険で対応しようとしても、社員のほうが「会社に迷惑をかけたくない」と健康保険を使おうとするケースが時折見受けられますが、社員の意思に関係なく、

事故の内容が労災であれば、会社は労働者死傷病報告を提出しなければならない

ので、労災かくしを疑われないためにも、「業務中のけがの場合は労災保険を使うこと」を社員にも徹底させましょう。万が一健康保険で診察や治療を受けてしまった場合でも、所定の手続きを踏めば労災保険に切り替えられる制度があるので、併せて社員に周知するとよいでしょう。

■厚生労働省「お仕事でのケガ等には、労災保険!」■
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11200000-Roudoukijunkyoku/0000150202.pdf

後は基本的なことですが、「社員がけがをしたら、すぐに病院で診てもらう」「現場を整理整頓された状態に保つ」ようにしましょう。症状が悪化する前に病院を受診すればその分回復が早くなりますし、小さな製造業の場合、清掃や作業時の動線チェックを習慣化するだけでも労災の防止に大きな効果があります。

以上(2025年5月作成)

pj00747
画像:ChatGPT

【新人経理向け】決算のメーン作業となる棚卸資産と固定資産の評価の全体像を把握する

1 棚卸資産と固定資産の評価は決算のメーン作業

さまざまな集計や計算が行われる決算作業の中でも、金額の大きさなどからメーンとなるのが、棚卸資産と固定資産の評価です。

  • 棚卸資産:売上原価の計算と、期末評価額の算定、減耗損の有無の判断
  • 固定資産:減価償却の計算と減損の有無の判断

この記事では、新人経理担当者に必要な棚卸資産と固定資産の会計処理を解説します。

  • 商品や製品などの棚卸資産の評価
  • 建物や機械装置などの有形固定資産の評価

2 商品や製品などの棚卸資産の評価

1)売上原価と期末商品棚卸高

製造業以外の業種の売上原価は、

売上原価=期首商品棚卸高+当期商品仕入高-期末商品棚卸高

で計算できます。

当期に仕入れたものが全て売上原価になるのではなく、販売につながった商品だけが売上原価として損益計算書に記載されることになります。期末商品棚卸高は棚卸資産として貸借対照表に記載されて次期に繰り越され、次期以降の売上原価の一部になります。

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2)製造業の製品製造原価と期末製品棚卸高

製造業は原材料を仕入れて、それを加工し出荷します。そのため製造業の場合、売上原価と期末棚卸高は自社製造製品が対象になります。

製造に必要な費用は、材料費、労務費、製造経費に大きく分けることができます。

  • 材料費:「材料費=期首材料棚卸高+当期材料仕入高-期末材料棚卸高」で計算
  • 労務費:製造に携わる社員の給与、賞与、退職金、各種社会保険料などを集計
  • 製造経費:工場の光熱費、消耗品費、建物の減価償却費、外注費などを集計

製造業の場合、商品仕入高の代わりに当期製品製造原価を用いて売上原価を計算します。

また、棚卸資産は、材料棚卸高、仕掛品棚卸高(期末時点で製造途中の未完成品)、製品棚卸高により計算されます。その算出フローは次の通りです。

  • 当期材料費=期首材料棚卸高+当期材料仕入高-期末材料棚卸高
  • 当期総製造費用=当期材料費+当期労務費+当期製造経費
  • 当期製品製造原価=当期総製造費用+期首仕掛品棚卸高-期末仕掛品棚卸高
  • 売上原価=期首製品棚卸高+当期製品製造原価-期末製品棚卸高

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3)棚卸資産の主な評価方法

商品などの棚卸資産は取得原価を基に評価しますが、いつ仕入れたかによって価額が異なる場合が多いです。物価上昇時では、先に仕入れた商品より後から仕入れた商品のほうが仕入値は高くなります。一方、物価下落時では、先に仕入れた商品より後から仕入れた商品のほうが仕入値は安くなります。

そのため、決算時には次の評価方法の中から選択した方法で売上原価・製造原価の払出原価と期末棚卸資産の価額を評価することになります。

1.個別法

取得原価の異なる棚卸資産を区別して記録し、その個々の実際原価によって期末棚卸資産の価額を算定する方法です。個別法は、一品一品受注生産しているような棚卸資産の評価に適した方法です。

2.先入先

出法最も古く仕入れものから順次払出し、期末棚卸資産は最も新しく仕入れたものからなるとみなして、期末棚卸資産の価額を算定する方法です。

3.平均原価法

仕入れた棚卸資産の平均原価を算出し、この平均原価によって期末棚卸資産の価額を算定する方法です。なお、平均原価は、総平均法(1年間分をまとめて平均原価を計算する方法)または移動平均法(仕入れる都度平均原価を計算する方法)によって算出します。

4.売価還元法

値入率などが同じ棚卸資産のグループごとの期末の売価合計額に、原価率を乗じて期末棚卸資産の価額とする方法です。売価還元法は、取扱品種の極めて多い小売業等の業種における棚卸資産の評価に適用されます。売価還元法によると、期末棚卸資産は

期末棚卸資産=期末棚卸資産の通常の販売価額×原価率

の算式で計算されます。

なお、原価率は、

原価率=(期首棚卸資産+当期仕入高)/(当期売上高+期末棚卸資産の通常の販売価額)

の算式で計算されます。

例えば、期首棚卸資産の取得原価が200万円、当期仕入高が1000万円、当期売上高が1400万円、期末棚卸資産の通常の販売価額が200万円の場合、次の通りです。

原価率=(200万円+1000万円)/(1400万円+200万円)=75%

期末棚卸資産=200万円×75%=150万円

4)棚卸資産の減耗損はありますか

本来、商品在庫は、仕入数量から売上数量を引いた数量と一致すべきものですが、さまざまな要因(紛失や盗難など)で数量不足が起きることがあります。本来あるべき数量(帳簿棚卸数量)に比べて実際の数量(実地棚卸数量)が少ないケースです。この数量の減少による損失を減耗損といいます。減耗損の仕訳例は次の通りです。

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減耗損が毎期不可避的に発生するものは売上原価に含めるか、または販売費として扱います。一方、経常的でない異常な減耗損は特別損失(金額的に重要性の乏しい場合は営業外費用)として扱います。

5)棚卸資産の評価損はありますか

販売するために保有する棚卸資産は、取得原価で貸借対照表に計上します。ただし、期末における正味売却価額(期末時点で市場で販売できる価額)が取得原価よりも下落している場合には、正味売却価額をもって貸借対照表価額とします。この場合、取得原価と当該正味売却価額との差額は当期の費用として処理します。なお、詳細な解説は省略しますが、会計基準上は認められていないものの、税務上は原価法も認められています。

前期に評価損を計上した棚卸資産については、当期首に戻入れを行う方法(洗替え法)と行わない方法(切放し法)のいずれかを棚卸資産の種類ごとに選択適用することができます。また、売価の下落要因を、

  • 物理的劣化
  • 経済的劣化
  • 市場の需給変化

の要因ごとに区分できるときは、その区分ごとに洗替え法と切放し法のいずれかを選択適用できます。この場合、いったん採用した方法は、原則として、継続して適用しなければなりません。切放し法と洗替え法による仕訳例は次の通りです。なお、税務上、切放し法は認められません。

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3 建物や機械装置などの有形固定資産の評価

1)減価償却とは

建物や機械装置、車両運搬具などは、少額のものを除き有形固定資産として計上します。これらの資産は購入した年度だけ使用するのでなく、翌年度以降も使用されます。そのため、耐用年数(資産の種類や性質ごとに異なります)の期間を通じて、費用処理する方法が取られています。この処理を減価償却といい、毎期一定の金額、または一定の割合で価値が減るという仮定で費用処理します。現在は、パソコンなどで自動計算されるため、計算方法よりも、むしろ貸借対照表にどのように計上されているのかを押さえることが大切です。

2)事例で学ぶ 減価償却の会計処理

減価償却について、次の条件を基に説明します。

機械装置を100万円で購入、耐用年数は10年、定額法定額法による場合、各期の減価償却費は次式で算出されます。

各年度の減価償却費=取得価額×償却率(耐用年数ごとに定められている定額法の率)

各年度の減価償却費=100万円×0.100=10万円

また、期首帳簿価額、減価償却費、期末帳簿価額は次のように推移します。資産は備忘価額1円を残して、10年間で99万9999円まで償却します。

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減価償却累計額は、原則的には貸借対照表の有形固定資産を間接的に減額する評価勘定として表示され、減価償却費は、損益計算において営業費用として処理されることになります。各期の仕訳例は次の通りです。

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貸借対照表では次のように表示されます。原則は間接控除方式ですが、直接控除方式によることもできます。

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以上(2025年4月更新)
(監修 税理士 石田和也)

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画像:pixabay

【株主総会】開催までのスケジュール~コピペで使える書式付き

1 スケジュールの起点は「基準日」

この記事で想定するのは、中小企業に多く見られる「非公開会社」で、機関設計は「取締役会・監査役設置会社」です。非公開会社とは、

全ての株式の譲渡について、会社の承認が必要となる旨を定款に定めている会社

のことです。

定時株主総会(以下「株主総会」)を開催するまでのスケジュールは、会社法などの法令で細かく決まっているのですが、重要なのは「基準日」です。基準日とは、

株主が権利を行使できる日として会社が定めた特定の日のことで、多くの会社は、定款で事業年度の末日を基準日

としています。株式の譲渡などによって株主が変わる可能性があるため、その基準となる日を定める必要があるのです。

ところで、株主総会の開催日について法令の定めはありません。しかし、多くの会社は基準日(事業年度の末日)の翌日から2~3カ月以内に開催します。その理由は会社法と法人税法の2つです。

  1. 会社法:株主の権利行使は基準日から3カ月以内なので、それまでに株主総会を開催する必要がある
  2. 法人税法:法人税の申告は株主総会で承認された計算書類で行う。申告期限は決算日(事業年度の末日)の翌日から2カ月以内なので、それまでに株主総会を開催する必要がある。なお、申告の延長をしたら申告期限は決算日から3カ月以内に延びる

いかがでしょうか。最近は分散化が進んでいるとはいえ、株主総会の開催日が一定の期間にまとまるのには、こうした理由があるのです。なお、現在は金融庁のほうで、投資家の利益を考え、有価証券報告書の提出後に株主総会が開催されるよう、開催時期の後ろ倒しを各社に推奨していこうという動きがありますので、このあたりは引き続き動向に注意しておきましょう。

2 スケジュール表を作って抜け漏れなく

株主総会を開催するに当たっては、

スケジュール表を作って抜け漏れを防止

しましょう。ここでは、基準日が3月31日で、株主総会が5月25日の場合のスケジュール例を紹介しますので参考にしてみてください。なお、このスケジュールは招集通知の発送が期限ぎりぎりとなっています。遠方に株主がいる場合は、もう少し余裕のあるスケジュールを組むとよいでしょう。

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3 株主総会の開催場所

株主総会の開催場所は会社が自由に決めてよいことになっています。ただし、開催場所が従来の開催場所と著しく離れているような場合、株主からその場所にした理由の説明が求められることがあります。こうした事態が想定されるときは、

招集通知に開催場所を変更した理由を記載する

のが一般的です。また、あえて「株主が出席しにくい場所」が選択された場合、招集手続きが著しく不公正であるとして、総会決議の取り消し事由になることもあるので注意してください。

開催場所という意味では、新型コロナウイルス感染症の影響で広まったオンライン開催が注目されています。これまでは、オンラインだけの開催は認められていなかったのですが、2021年の改正「産業競争力強化法」で会社法の特例が設けられ、

いわゆる「バーチャルオンリー株主総会」が解禁

されました。これにより、株主総会の開催方法は次の3つに分類されます。

  1. リアル株主総会
  2. ハイブリッド型バーチャル株主総会
  3. バーチャルオンリー株主総会

ただし、

バーチャルオンリー株主総会を開催できるのは、所定の要件を満たした上場企業だけ

なので、この記事で対象としている中小企業は、「バーチャルオンリー株主総会」を開催することはできません。中小企業が開催できるのは、

物理的な会場を設けた上でオンラインも開催する「ハイブリッド型バーチャル株主総会」

です。ハイブリッド型バーチャル株主総会については、経済産業省「ハイブリッド型バーチャル株主総会の実施ガイド」で説明されているので参考になります。

■経済産業省「ハイブリッド型バーチャル株主総会の実施ガイド」■

https://warp.da.ndl.go.jp/
info:ndljp/pid/12685722/www.meti.go.jp/press/2019/02/20200226001/20200226001.html

■「ハイブリッド型バーチャル株主総会の実施ガイド(別冊)実施事例集」■

https://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/13165026/www.meti.go.jp/press/2020/02/20210203002/20210203002.html

4 招集通知やその他の書類

1)招集通知の発送期限

株主総会を開催するために、株主に招集通知を発送します。もし、株主全員が同意していれば招集通知の発送を省略できますが、書面またはメールなど(電磁的方法)で議決権行使を認める場合は省略できません。

招集通知は、書面または事前に同意を得ている株主にはメールなど(電磁的方法)で行います。発送期限は、原則として、株主総会の日の1週間前までです。ただし、書面やメールなどによる議決権行使を認める場合は少し長めの期間をとり、株主総会の日の2週間前までに招集通知を発送しなければなりません。

招集通知に記載すべき主な事項は次の通りです。

  • 株主総会の日時と場所
  • 株主総会の議題。定款の変更、役員の選任などの場合はその概要
  • 株主総会に出席しない株主が書面やメールなどで議決権を行使できるときは、その旨

2)招集通知と併せて添付する書類

招集通知に添付しなければならない書類はいくつかあります。

  • 計算書類:貸借対照表、損益計算書などのいわゆる決算書
  • 事業報告:事業環境の分析などをした書類
  • 監査報告書:上記の書類を監査役が監査したことを示す書類

計算書類は定量的、事業報告は定性的に会社の状況を示すもので、いずれも取締役会の承認を得ます。監査役はこれらの書類を監査し、監査報告書を作成します。

この他、議決権を行使する際の参考となる事項として、取締役が提出する議案についての提案理由などを記載した「株主総会参考書類」を添付する必要があります。

5 招集通知の例 ※書面による議決権行使を認める場合

○年○月○日

株主各位

住所:○○○○○○○

社名:株式会社○○○

代表取締役 ○○○○

 

第○回 定時株主総会 招集ご通知

 

拝啓 ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。

さて、当社第○回定時株主総会を下記の通り開催いたしますので、ご出席くださいますようご通知申し上げます。

 

なお、当日ご出席いただけない場合は、書面によって議決権を行使することができますので、お手数ですが後記の株主総会参考書類をご検討いただき、同封の議決権行使書用紙に議案に対する賛否をご表示いただき、○年○月○日(○曜日)午後○時までに到着するようご返送くださいますようお願い申し上げます。

敬具

 

  1. 日時 ○年○月○日 午前○時
  2. 場所 ○○県○○市○○町○○1-1 当社本社○階第○会議室
  3. 株主総会の目的事項

報告事項

第○期(○年○月○日から○年○月○日まで)の事業報告、計算書類及び監査役の監査結果報告の件

決議事項

第1号議案 第○期事業年度に係る計算書類承認の件

第2号議案 取締役○名選任の件

以上

(お願い)

当日ご出席の際は、お手数ながら同封の議決権行使書用紙をご持参のうえ、会場受付にご提出くださいますようお願い申し上げます。

6 議決権行使書の例

議決権行使書

株式会社○○○御中

 

私は、○年○月○日開催の株式会社○○○第○回定時株主総会の各議案につき、下記(賛否を◯印で表示)の通り議決権を行使いたします。継続会または延会となった場合にも、上記により議決権を行使します。

 

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(ご注意)

  1. 議案に対し賛否の表示がない場合は、弊社提出議案について賛成の表示があったものとして取り扱います。
  2. 第2号議案の一部候補について「否」とされる場合は、「賛」に○印を表示のうえ、当該候補者の番号(「招集ご通知」添付の株主総会参考書類記載の候補者番号)を但書欄にご記入ください。

 

株主番号 ○○

議決権個数 ○○個

 

(基準日現在の所有株式数 ○○株)

株主

○○○○○○○(住所)

○○○○(株主名)

(お願い)

  • 株主総会にご出席の際は、議決権行使書用紙を会場受付にご提出ください。
  • 当日ご出席願えない場合は、議決権行使書用紙に賛否をご表示のうえ、○年○月○日(○曜日)午後○時までに到着するように、返信用封筒に封入のうえご返送ください。

以上(2025年4月更新)
(監修 有村総合法律事務所 弁護士 平田圭)

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画像:Mariko Mitsuda

【株主総会】知っていますか? 普通・特別・特殊決議の違い

1 株主総会で行われる3つの決議

定時株主総会(以下「株主総会」)で行われる決議には、普通決議・特別決議・特殊決議の3種類があります。ほとんどの事項は普通決議で決まりますが、多くの株主に影響を及ぼすような重大な事項は、特別決議などで決めます。

まずは、3つの決議について説明した後に、それぞれの決議で決められることを網羅的に紹介します。株主総会で決めたいことと照らし合わせて、必要な決議の種類を確認してください。

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1)普通決議

普通決議には、

議決権を行使できる株主の議決権の過半数を有する株主が出席(定足数)し、出席した当該株主の議決権の過半数の賛成(決議要件)

が必要です。定款に定めれば定足数を変更・排除できます。

なお、会社法第309条1項に定める普通決議ではないものの、注意が必要なのが、

役員の選任・解任の決議については、定款で定めても定足数は議決権を有する株主の3分の1以上でなければならない

という点です。

2)特別決議

特別決議には、

議決権を行使できる株主の議決権の過半数を有する株主が出席(定足数)し、出席した当該株主の議決権の3分の2以上の賛成(決議要件)

が必要です。ただし、定款に定めれば定足数を3分の1超、決議要件を3分の2超にできます。

3)特殊決議

特殊決議には2種類あります。1つは会社法第309条第3項に定められるもので、

議決権を行使できる株主の半数以上であって、当該株主の議決権の3分の2以上の賛成(決議要件)

を必要とするものです。主な決議事項には、発行する全部の株式に譲渡制限を付するための定款変更などがあります。

もう1つは第309条第4項に定められるもので、

総株主の半数以上であって、総株主の議決権の4分の3以上の賛成(決議要件)

を必要とするものです。主な決議事項には、非公開会社における「剰余金の配当を受ける権利」「残余財産の分配を受ける権利」「株主総会における議決権」について、株主ごとに異なる取り扱いを行う旨の定款の変更(廃止を除く)などがあります。

2 普通決議で決められること

  • 特定の株主からの取得(会社法第160条第1項)を除く、株主との合意による自己株式の有償取得(会社法第156条第1項)
  • 会計監査人の選任、解任(会社法第329条第1項、第339条第1項)
  • 会計監査人の不再任(会社法第338条第2項)
  • 取締役会非設置会社の取締役による競業および利益相反取引の承認(会社法第356条第1項)
  • 取締役の報酬など(定款に当該事項を定めていないとき)(会社法第361条第1項)
  • 会計参与の報酬など(定款に当該事項を定めていないとき)(会社法第379条第1項)
  • 監査役の報酬など(定款に当該事項を定めていないとき)(会社法第387条第1項)
  • 資本金の額の減少(株主総会で欠損の額を超えない範囲で決定するもの)(会社法第447条第1項、第309条第2項第9号括弧書)
  • 準備金の額の減少(会社法第448条第1項)
  • 剰余金の額の減少による資本金・準備金の額の増加(会社法第450条第2項、第451条第2項)
  • 剰余金についてのその他の処分(会社法第452条)
  • 剰余金の配当に関する事項の決定(金銭分配請求権を与えない現物配当を除く)(会社法第454条第1項)
  •  

    (以下は、会社法第309条1項に定める普通決議ではないが、出席株主の過半数の決議で行うもの)

  • 取締役、会計参与、監査役の選任(会社法第329条第1項)
  • 取締役(累積投票により選任された者を除く)、会計参与の解任(会社法第339条第1項)

3 特別決議で決められること

  • 株式譲渡不承認の場合における株式会社の買取の決定(会社法第140条第2項)
  • 取締役会非設置会社における指定買取人の指定(会社法第140条第5項)
  • 特定の者からの自己株式の取得(会社法第156条第1項、第160条第1項)
  • 全部取得条項付種類株式の取得(会社法第171条第1項)
  • 相続その他の一般承継により当該株式会社の譲渡制限株式を取得した者に対する売渡し請求(会社法第175条第1項)
  • 株式の併合(会社法第180条第2項)
  • 非公開会社における募集株式(新株発行・自己株式処分)における募集事項の決定(会社法第199条第2項)
  • 非公開会社における募集株式の募集事項の決定の取締役、取締役会への委任(会社法第200条第1項)
  • (取締役による決定および取締役会による決議によって募集事項を定められる旨の定款が存在しない場合)非公開会社における募集株式の割当てを受ける権利を株主へ与える決定(会社法第202条第3項第4号)
  • 取締役会非設置会社における譲渡制限株式の割当て(会社法第204条第2項)
  • 募集新株予約権の発行における募集事項の決定(会社法第238条第2項)
  • 募集新株予約権の募集事項の決定の取締役、取締役会への委任(会社法第239条第1項)
  • (取締役による決定および取締役会による決議によって募集事項を定められる旨の定款が存在しない場合)非公開会社における募集新株予約権の割当てを受ける権利を株主へ与える決定(会社法第241条第3項第4号)
  • 取締役会非設置会社における譲渡制限株式を目的とする募集新株予約権および譲渡制限新株予約権の割当て(会社法第243条第2項)
  • 監査等委員である取締役もしくは監査役、累積投票により選任された取締役の解任(会社法第339条第1項)
  • 役員等の会社に対する損害賠償責任の一部免除(会社法第425条第1項)
  • 資本金の額の減少(株主総会で欠損の額を超えない範囲で決定するものを除く)(会社法第447条第1項)
  • 金銭以外の配当(株主に金銭分配請求権を与える場合を除く)(会社法第454条第4項)
  • 会社法第2編第6章「定款変更」(会社法第466条の規定により株主総会の決議を要する場合における当該株主総会)
  • 会社法第2編第7章「事業譲渡」(会社法第467条~第470条の規定により株主総会の決議を要する場合における当該株主総会)
  • 会社法第2編第8章「解散」(会社法第471条~第474条の規定により株主総会の決議を要する場合における当該株主総会)
  • 会社法第5編「組織変更、合併、会社分割、株式交換および株式移転」(会社法第743条~第816条の規定により株主総会の決議を要する場合における当該株主総会)

4 特殊決議で決められること

1)会社法第309条第3項

  • 発行する全部の株式に譲渡制限を付するための定款変更(第1号)
  • 吸収合併により消滅する会社または株式交換により完全子会社となる会社が公開会社であって、かつ、当該株式会社の株主に対して交付する金銭などの全部または一部が譲渡制限株式などである場合における当該会社の吸収合併契約、株式交換契約の承認(第2号)
  • 新設合併により消滅する会社または株式移転により完全子会社となる会社が公開会社であって、かつ、当該株式会社の株主に対して交付する金銭などの全部または一部が譲渡制限株式などである場合における当該会社の新設合併契約、株式移転計画の承認(第3号)

2)会社法第309条第4項

  • 公開会社でない株式会社における、「剰余金の配当を受ける権利」「残余財産の分配を受ける権利」「株主総会における議決権」に関する事項について、株主ごとに異なる取り扱いを行う旨の定款の定めについての定款の変更(廃止する場合を除く)

以上(2025年4月更新)
(監修 有村総合法律事務所 弁護士 小出雄輝)

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画像:Mariko Mitsuda

【新人経理向け】一時的な会計と税務のルールの違いを調整する「税効果会計」

1 基本的な知識として押さえておきたい税効果会計

税効果会計とは、

会計上と税務上の収益・費用(益金・損金という)のズレを調整する決算処理

です。例えば、引当金など会計上は計上できるが、税務上は計上できないといった会計と税務の違いがあります。すなわち、利益を計上するタイミングが会計と税務で異なることから、こうした違いを調整せずに決算書を作成すると、税金費用が会計上の利益と対応しなくなり、適正な期間損益計算が行えなくなります。そこで、会計上の利益に対応する税金費用を計算するための決算処理が必要になるのです。

税効果会計が義務付けられているのは次の会社です。

  • 上場企業
  • 金融商品取引法の適用を受ける非上場会社(1億円以上の発行価額で有価証券の募集を行った場合など)
  • 会計監査人を設置している会社(非上場も含む)

一方で、中小企業の税効果会計は任意での適用となっています。その理由は、

法人税等の額が少額だったり、株主が親族だけだったりする中小企業は、調整をしなくても特段問題が生じない

からです。税効果会計を行うことで、自社の経営成績を正確に把握できたり、経営指標の健全化を図れたりするメリットもあるため、中小企業の経理担当者も押さえておくべき知識です。

2 仕組みから理解する税効果会計の調整と効果

税引前当期純利益と課税所得(税務上の利益)が共に1000万円で、法人税等を300万円とした場合、損益計算書の税引前当期純利益から税引後当期純利益までは次のようになります。

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もし、×1年度において、会計上で500万円を費用処理したものが、税務上で損金とすることができない場合、課税所得は1000万円ではなく1500万円(1000万円+500万円)になります。この場合は次のようになります。

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×2年度において、前年度(×1年度)に費用処理した500万円を税務上、損金とすることができたとします。会計上の税引前当期純利益が前年度と同じく1000万円なら、税務上500万円が損金となるので、課税所得は500万円(1000万円-500万円)となります。

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税引前当期純利益が、×1年度、×2年度共に1000万円なのに、法人税等の額が、

×1年度は450万円

×2年度は150万円

と大きく違ってくるのです。

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税効果会計では、会計上の費用と税務上の損金の認識時点が異なることから生じた差異(税引前当期純利益とそれに対応する法人税等が一致しない部分)を、次のように調整します。

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×1年度において、法人税等450万円のうち、税引前当期純利益1000万円に対応する300万円(1000万円×30%)を超える150万円(450万円-300万円)分の法人税等、つまり、税務上損金にできなかった500万円に対する法人税等(500万円×30%=150万円)を減額することで、会計上の利益と対応した税額に調整できます。

また、×2年度において、税引前当期純利益1000万円に対応する税額は300万円なのですが、課税所得計算上は150万円です。これは×1年度の課税所得計算上損金にできなかった500万円が×2年度に損金計上できることになったためです。そこで、×1年度に税額調整した150万円を×2年度の税額に加えて300万円(150万円+150万円)に増額し、会計上の利益と対応した税額に調整します。

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このようにして、税引前当期純利益と法人税等を合理的に対応させることができるのです。

3 税効果会計の対象は「一時差異」だけ

税効果会計では、会計上の費用と税務上の損金の認識時点の差異を次のように分けています。

  • 一時差異:ずれが一時的に限定されるもの。減価償却費、引当金など
  • 永久差異:ずれが永久に解消されないもの。交際費、寄付金、役員報酬など

税効果会計で調整が必要なのは一時差異だけで、永久差異は対象外となります。あくまで、税効果会計は認識時点にずれの生じたものを調整する手続きだからです。

さらに、一時差異は次のように分けられます。

  • 将来減算一時差異:将来の課税所得を減額させる一時差異
  • 将来加算一時差異:将来の課税所得を増額させる一時差異

それぞれ取り扱いが異なりますので、以降で具体例を確認してみましょう。

4 将来減算一時差異と繰延税金資産

次の条件を基に、将来減算一時差異と繰延税金資産について説明します。

  • ×1年度において、棚卸資産が陳腐化したため、500万円の評価減をした。ただ、これは税務上認められないので、税務上、自己否認(決算書において費用として計上した500万円の評価減の金額を税務申告書で自ら否認して、課税所得を算出)した
  • ×2年度において、評価減した棚卸資産を販売したため、×1年度に評価減した500万円が税務上、損金として認容(過去に否認した損金を、損金算入)された
  • ×1年度、×2年度の税引前当期純利益はそれぞれ1000万円で、実効税率は30%

×1年度と×2年度の税額計算、税効果会計を適用しない場合の損益計算書、税効果会計を適用した場合の損益計算書を比べると次の通りです。

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法人税等の計算から分かるように、棚卸資産の評価減を自己否認した×1年度において、税引前当期純利益1000万円と課税所得1500万円の間に500万円の差異が生じています。また、税効果会計を適用しない場合、税引前当期純利益1000万円に対する法人税、住民税及び事業税の額は、次の通り大きく異なったものとなり、一定率の対応関係にありません。

×1年度:450万円

×2年度:150万円

一方、税効果会計を適用した場合、税引前当期純利益1000万円に対する法人税、住民税及び事業税の額は、次の通り一定率の対応した金額になります。

×1年度:300万円(450万円-150万円)

×2年度:300万円(150万円+150万円)

×1年度と×2年度の税効果会計を適用した場合の仕訳例を示すと次の通りです。

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この一連の仕訳をフロー図で示すと次の通りです。

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繰延税金資産とは、前払税金に相当するもので、将来の期間利益に対応すべき税額ですが、当期に支払うものとして位置付けることができます。税引前当期純利益と課税所得との間に発生した×1年度の差異は、その差異が解消する×2年度において課税所得を減額する働きがあります。

5 将来加算一時差異と繰延税金負債

次の条件を基に将来加算一時差異と繰延税金負債について説明します。

  • ×1年度に導入した設備について、税法上500万円の特別償却が認められるため、この特別償却を剰余金処分方式により特別償却準備金として積み立て、税務申告において減額した。この準備金は積み立てた翌期から5年間にわたり均等額を取り崩す

特別償却とは、投資額の一定割合を税務上の損金に計上できる制度です。ただ特別償却は会計上では計上されないため、会計上、特別償却の処理のつじつまを合わせるために、剰余金処分の方法で準備金として積み立てる処理が行われます。積立金の取り崩し期間は税法で定められており、前述の例では5年(設備の法定耐用年数が5年以上10年未満)としています。

×1~×6年度の税額計算、税効果会計を適用しない場合の損益計算書、税効果会計を適用した場合の損益計算書を比べると次の通りです。

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法人税、住民税及び事業税の計算から分かるように、×1年度において、税引前当期純利益1000万円と課税所得500万円の間に500万円の差異が生じています。また、税効果会計を適用しない場合、税引前当期純利益1000万円に対する法人税、住民税及び事業税の額は次の通りです。

×1年度:150万円

×2年度:330万円

×3年度:330万円

×4年度:330万円

×5年度:330万円

×6年度:330万円

×1年度と×2~×6年度の法人税等は異なります。一方、税効果会計を適用した場合、税引前当期純利益1000万円に対する法人税等の額は、次の通り一定率の対応した金額になります。

×1年度:300万円(150万円+150万円)

×2年度:300万円(330万円-30万円)

×3年度:300万円(330万円-30万円)

×4年度:300万円(330万円-30万円)

×5年度:300万円(330万円-30万円)

×6年度:300万円(330万円-30万円)

×1~×6年度の税効果会計を適用した場合の仕訳例を示すと次の通りです。

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この一連の仕訳をフロー図で示すと次の通りです。

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繰延税金負債とは、未払税金に相当するもので、当期の利益に対応すべき税額ですが、将来に支払うものとして位置付けることができます。税引前当期純利益と課税所得との間に発生した×1年度の差異は、その差異が解消する×2年~×6年度において課税所得を加算する働きがあります。

以上(2025年4月)
(監修 税理士 石田和也)

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画像:pixabay

【株主総会】面倒でも株主総会を開催しないと「会社法」違反!

1 株主総会を開催しない株式会社はやばい?

この記事で想定するのは、中小企業に多く見られる「非公開会社」で、機関設計は「取締役会・監査役設置会社」です。非公開会社(公開会社でない会社)とは、

全ての株式の譲渡について、会社の承認が必要となる旨を定款に定めている会社

のことです。

株主が経営者とその親族などに限られているオーナー企業では、「いつでも株主と連絡が取れる」「株主総会の実務が面倒」といった理由から、実際の株主総会を開催せず、議事録だけを作成しているケースがあります。しかし、これは会社法第319条第1項で株主総会の決議の省略が認められている場合を除き会社法違反です。

なぜなら、株主総会は株式会社に必ず必要な「機関」です。また、株主総会には、

  • 定時株主総会:事業年度の終了後に開催
  • 臨時株主総会:定時株主総会以外で必要がある場合に開催

がありますが、会社法上、定時株主総会(以下「株主総会」)は事業年度に1回、必ず開催しなければなりません。つまり、

株主総会を開催しなくてよい株式会社はない

ということになります。

2 株主総会で決められることは限定的?

取締役会を設置している会社は、

  • 株主総会の決議事項は、法令で定められた事項と定款に定めた事項に限り認められる
  • 株主総会の議案として上程したもの以外は、原則としてその株主総会では決められない
  • 株主総会の議題については、事前に取締役会の決議が必要

といったルールがあります。つまり、株主総会だけで新しいことをあれこれと決めることはできません。何を決めなければならないのか、事前の取締役会の決議の時点から漏れなどがないようにしなければなりません。以降で、株主総会の主な議題と留意点を確認していきましょう。

3 株主総会の主な議題と留意点

1)計算書類の承認と事業報告の報告

計算書類とは要するに決算書のことで、株主総会で承認のための普通決議を受けなければなりません。普通決議とは、

議決権を行使できる株主の議決権の過半数を有する株主が出席(定足数)し、出席した株主の議決権の過半数の賛成(決議要件)よる決議

です。また、取締役は株主総会で事業報告をしなければなりません。事業報告とは、文字通り、事業の状況に関する報告です。

取締役会設置会社の場合は、

計算書類と事業報告は取締役会における承認が必要

となるので注意しましょう。

2)取締役・監査役の選任

取締役・監査役の選任には、株主総会の決議が必要です。取締役の任期は原則2年、監査役の任期は原則4年です。ただし、非公開会社の場合、取締役・監査役ともに、定款に定めることで任期を最長10年に伸長できます。

3)取締役の報酬

取締役の報酬は、次の事項を定款に定めるか、定めないときは株主総会の普通決議が必要です。

  1. 報酬等のうち額が確定しているものについては、その額
  2. 報酬等のうち額が確定していないものについては、その具体的な算定方法
  3. 報酬等のうち金銭でないものについては、その具体的な内容

2.は業績連動型報酬などのように事前に額を確定できないもの、3.は現物支給やストックオプションなどが該当します。中小企業では、1.に該当するものがほとんどでしょう。

なお、取締役会設置会社の場合、全取締役の報酬総額を「年額○○○万円以内とし、各役員の具体的な報酬額は取締役会に一任する」などと株主総会で決議し、報酬額は取締役会で決定することが実務上は多いです。

株主総会での決議は、一度決議をした範囲で報酬額を決定している限り、毎年行う必要はありませんが、全取締役の報酬総額の上限を超えて報酬を支払う場合や、取締役の報酬総額を決議した内容と異なる報酬額とする場合は、改めて株主総会で決議する必要があります。

4)定款の変更

定款の変更は、株主総会での特別決議が必要です。特別決議とは、

議決権を行使できる株主の議決権の過半数を有する株主が出席(定足数)し、出席した株主の議決権の3分の2以上の賛成(決議要件)よる決議

です。

定款には「絶対的記載事項」「相対的記載事項」「任意的記載事項」があります。絶対的記載事項は、定款に必ず記載する必要があり、その規定を欠くと定款が無効になる事項です。相対的記載事項は、記載がなくても定款の効力自体に問題はありませんが、記載がなければその効力が認められません。任意的記載事項は、会社が任意に記載する事項です。

相対的記載事項を新たに設定する場合、本当に定款に定める必要があるか否かについて会社法の規定を確認する必要があります。絶対的記載事項と主な相対的記載事項は次の通りです。

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以上(2025年4月更新)
(監修 有村総合法律事務所 弁護士 栗原功佑)

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画像:Mariko Mitsuda

「勤務時間外は電話に出ません!」 つながらない部下の対処法

1 たまに耳にする「つながらない権利」って何?

皆さんは「つながらない権利」という言葉をご存じですか?

プライベートの時間(勤務時間外)では、社員は会社からの仕事に関する連絡(電話・メール・チャットなど)への対応を断ることができるという権利

のことです。フランスで2016年に法制化されたのをきっかけに、他のヨーロッパ諸国でもこのつながらない権利が広がっています。国によっては、勤務時間外の連絡そのものを禁止していて、違反すると会社に罰金が科される場合もあるほどです。

日本では法制化には至っていませんが、

テレワークなどで働き方が自由になった一方、仕事とプライベートの境界があいまいになり、社員が「常に仕事につながれた状態」になりやすい環境

ができています。そんな中で、つながらない権利をめぐって上司と部下が対立することもしばしば。例えば、上司が急ぎでお願いしたいことがあっても、部下が「勤務時間外ですから」とそれを突っぱねてしまうのです。上司と部下、両者の主張はおそらくこんなカンジでしょう。

(上司)そりゃ、プライベートは大切だろうけど、時と場合によるだろう! そっちは勤務時間外でもこっちは働いているんだ! 少しは融通を利かせてくれないと困る!

(部下)こっちは休みたいし趣味だって楽しみたいのに、当然のように連絡されたんじゃプライベートの意味がない! 勤務時間中は真面目に働いているんだから、いいでしょ!

つながらない権利は、基本的には部下寄りの考え方に立ちますが、会社からすると上司の主張も一理あるかもしれません。どちらの主張も汲んだ「バランスの取れたつながらない権利」を実現するにはどうすればいいのか、そのためには「会社」「上司」「部下」それぞれが以降で紹介するポイントを押さえることが大切です。

2 会社:働き方のルールをきちんと作る!

1)「原則、勤務時間外には連絡しない。ただし、急ぎの案件などは別」が基本

まずは、会社が働き方のルールをきちんと作りましょう。就業規則等に、つながらない権利の規定を設けている会社は少数派かもしれませんが、例えば日本労働組合総連合会(以下「連合」)が次のような規定例を紹介しています。

【規定例】

第〇条(つながらない権利(勤務時間外の連絡))

1 会社は勤務時間外の従業員に対し、緊急性が高い場合を除き、電話、メール、その他の方法で連絡等を行わない。

2 従業員は、勤務時間外の別の従業員に対し、電話、メール、その他の方法で連絡をしてはならない。ただし、緊急性の高いものはこの限りではない。

3 勤務時間外の従業員は、会社または別の従業員からの電話、メール、その他の方法による連絡について、応対する必要はない。

4 会社は、会社または別の従業員からの電話、メール、その他の方法による連絡に応対しなかった従業員に対して、人事評価等において不利益な取扱いをしない。

(出所:連合「【重点分野-2】テレワーク導入に向けた労働組合の取り組み方針」)

ざっくりポイントをまとめると、

会社は原則として、勤務時間外には社員に連絡しないが、急ぎの案件などでは連絡することがある。ただし、社員が応対しなくても、人事評価等で不利益な取扱いはしない

です。

2)連絡手段についてはもう少し細かいルールを

連絡手段については、必要に応じてもう少し細かいルールを決めておくのもよいでしょう。例えば、

  • 普段、業務で使用するチャットツールについては、勤務時間外では通知をオフにすることを推奨し、社員が安心してプライベートを過ごせるよう配慮する
  • その上で、どうしても急ぎ連絡を取らなければならない場合は、あらかじめ「急ぎの連絡手段(携帯電話への連絡など)」を決めておき、そちらに連絡する

といった具合に、連絡手段を使い分けるようにすると、メリハリが付けやすいかもしれません。あるいは、チャットツールなどについて、深夜・早朝・休日などの時間帯にはアクセス制限をかける仕組みを整えると、上司が部下に悪気なく連絡してしまうのを防ぐことができます。

3)社外への伝達も忘れずに!

社員のプライベートを守るためには、取引先などに自社の営業時間をきちんと伝えておきましょう。例えば、自社のウェブサイトや問い合わせフォームに

「弊社の営業時間は平日9時~18時です。土日祝日は休業日のため、お問い合わせには翌営業日に対応いたします」

といった表記をすることが考えられます。

この他、システム面を工夫して、休暇中の社員への電話を会社に転送したり、時間外に届いたメールを自動削除して再送を求めたりする機能を導入している会社もあります。こうした機能がある場合は、あらかじめ取引先などに説明し、理解を得るようにしましょう。

3 上司:勤務時間外には原則連絡せず、する場合も配慮を!

1)「自分が若い頃は……」は通用しない

上司の中には、「自分が若い頃は、夜中や休日に上司から連絡を受けても対応していた」という人がいるかもしれませんが、今の時代、それは通用しません。本来、プライベートの時間は体を休めたり、趣味を楽しんだりするためのものであり、上司から連絡が来るのが当たり前になると、部下は安心して休むことができません。厳しいようですが、

「原則、勤務時間外には連絡しない」というのが鉄則。しなければならないのだとしたら、それは自身のマネジメントに問題がある

ぐらいに思っておいたほうがいいでしょう。

2)「急ぎの連絡をする基準」を部下と共有する

とはいえ、1)のように教科書通りにもいかないのがビジネスなので、どうしても部下に連絡をしなければならない場合に備え、「急ぎの連絡をする基準」を部下と共有しておきましょう。

  • 基本は「部下にその日のうちに連絡をしないと業務に支障が出る場合のみ」連絡する
  • 翌営業日の連絡で間に合うなら、翌営業日に回してその日は連絡しない

です。休日などに、「翌営業日の対応で間に合うが、忘れないうちに部下に連絡しておきたいので……」とチャットだけを送る上司もいるでしょうが、

上司が即日返信を求めていなくても、部下のほうはいざ連絡を受けると、「自分も早く返信しなければ」と圧を感じることがある

ので、避けたほうが無難です。

また、連絡する場合は次のポイントを意識すると、部下も対応しやすいでしょう。

  • 要点を簡潔に伝える
  • 急ぎかどうかを明確にする
  • 深夜や早朝など、対応が難しい時間帯は避ける

3)稼働した時間の労働時間管理はしっかりと!

勤務時間外に部下に何らかの作業を依頼する場合、部下が稼働した時間は労働時間になります。当然、稼働した時間分の賃金は必要ですし、状況によっては時間外・休日労働の割増賃金も支払わなければなりませんから、労働時間管理はしっかり行いましょう。

4 部下:急ぎの連絡については、可能な限り協力を!

1)正当な業務命令であれば、基本的には従う

部下にとっては「勤務時間外はなるべく会社から連絡を受けたくない」ものですし、ここまでお話しした通り、つながらない権利は最大限尊重されるべきものでしょう。

一方、ほとんどの会社は就業規則等で「36協定に基づき、社員に時間外・休日労働を命じることがある」などの規定を設けています。

部下のほうも正当な業務命令であれば、基本的にはそれに従う義務がある

ので、その点は認識しておきましょう。とはいえ、休日などに急に連絡を受けて即座に対応するのが難しいケースもあるので、その場合は上司に

「今すぐは無理ですが、○時以降なら対応できます」

などと返事して、落としどころを探りましょう。

2)上司のつながらない権利にも配慮を!

また、ここまでは「上司が勤務中」「部下が勤務時間外」という前提で話をしてきましたが、逆のパターンで「部下が勤務中」「上司が勤務時間外」というケースもあります。その場合は当然、部下のほうも上司のつながらない権利に配慮をする必要があります。第3章で紹介した通り、

  • 基本は「上司にその日のうちに連絡をしないと業務に支障が出る場合のみ」連絡する
  • 翌営業日の連絡で間に合うなら、翌営業日に回してその日は連絡しない

です(上司から「今日は先に上がるけど、○時に業務の報告をしてほしい」などと頼まれた場合は別です)。

以上(2025年4月作成)

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画像:ChatGPT

【朝礼】テンポと情報量。今どきは情報発信もTPOが大切

【ポイント】

  • 動画は特にテンポが大事。テンポが良くないと見ている側がストレスを感じる
  • 話す速度もテンポが大事だが、人の話で肝心なのは「内容の深さ」になってくる
  • どのような方法で情報を伝えるかによって、適したテンポや情報量は違う

YouTube(ユーチューブ)やTikTok(ティックトック)など、今や世の中にはさまざまな動画コンテンツがあふれています。当社も最近になって、会社の情報を発信するための動画制作を始めました。今日はそんな動画制作について、最近感じたことをお伝えします。

先日、知り合いの放送作家からこんな話を聞きました。その人いわく「ドラマで大事なのは脚本よりもテンポだ。どんなに脚本が良くても、テンポが悪いとつまらなくなる」のだそうです。脚本は面白いのに、場面が切り替わるときにたった2秒、余計な間が入るだけでテンポが悪くなり、そのせいで視聴者から「つまらない」と酷評されたドラマもあるのだとか。

私は以前、「社長の一日」という動画を制作しましたが、最初は動画の冒頭で、「今日の予定」を一覧で見せてから、顧客の訪問シーンに入ろうとしていました。そのほうが視聴者に分かりやすいと思ったからです。しかし、動画制作のプロからは、「動画ではそういう情報はいらない。テンポ良く、訪問シーンを次々に入れるほうが見やすい」と、きっぱり言われました。実際、できあがった動画では「今日の予定」はカットになりましたが、そのほうが断然見やすかったのです。制作者側が入れたい情報と、視聴者側が消化できる情報の間には、大きなギャップがあったわけです。

もちろん、情報発信においてはテンポだけでなく、情報量も大切です。例えば、私は最近、AIの最新動向のセミナーを聞きにいきました。登壇者がかなり早口な方でしたが、それでも苦にはなりませんでした。実際にAIを作っている人にしか話せない、知らない世界の面白い話ばかりだったからです。仮にセミナー内容を動画で配信するとしても、テンポのために話の一部をカットして「内容の深さ」を犠牲にすることはしたくありません。そうなってくると、この場合、多くの人にストレスを与えることなく情報を届ける方法は、動画よりもテキストのほうが向いているのかもしれません。

どのような方法で情報を伝えるかによって、適したテンポも情報量も違ってきます。さまざまな情報発信の手段がある今では、相手のことを考えた「情報発信のTPO」がとても大切なのではないか。これが、動画制作をするようになってから特に私が実感していることです。

以上(2025年4月作成)

pj17214
画像:Mariko Mitsuda

【かんたん法人税(8)】決算と申告・納付

1 決算と申告・納付の重要なポイント

シリーズ第8回は、決算と申告・納付の手続きに注目します。まずは、決算から税額を納付するまでの一連の流れを把握しましょう。

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決算と申告・納付の重要ポイントは次の通りです。

  • 決算から税額の納付までの作業内容
  • 4つの申告手続き(確定申告、中間申告、修正申告、更正の請求)
  • 申告・納付が遅れた、または間違えた場合の税金

2 決算から税額の納付までの作業内容

1)ステップ1(決算手続き)

決算手続きは「実査手続き」とも呼ばれ、帳簿に記載されている資産の金額や数量と、実際の金額や数量が一致しているかを確認する手続きです。

この手続きを通じて、現金や預金の残高、棚卸資産の数量の他、除却済みの固定資産が帳簿に残っていないかなどを確認し、帳簿上の残高と実際の残高を一致させます。もし不一致があった場合には、その原因を究明した上で、差額を損益計算書に計上します。

2)ステップ2(決算調整)

決算で費用として計上する処理(損金経理処理)をしていなければ、税務上で損金に算入できない項目があります。例えば「固定資産の減価償却費」「繰延資産の償却費」「貸倒引当金繰入」「資産の評価損」などが該当し、このような項目を「決算調整項目」といいます。

決算調整項目についてはこのステップで金額を計算し、費用に計上する処理をします。期中の仕訳(日常行われている取引の仕訳)にこの決算調整を加えることで、会計上の利益を確定させます。

3)ステップ3(申告調整)

会計上の収益・費用と税務上の益金・損金は必ずしも一致しません。そこで、「会計上の利益」をスタートとして、ステップ2で確定した会計上の利益から税務上の所得金額(税務上の利益)を算出する手続きをします。

この手続きを「申告調整手続き」といい、申告調整が必要な項目を「申告調整項目」といいます。主な申告調整項目には「役員賞与」「税務上認められる金額を超えて計上した減価償却費」「受取配当金」「延滞税や加算税などの附帯税」などがあります。この申告調整手続きは、法人税の確定申告書(別表)上で行います。

4)ステップ4(税額計算)

申告調整手続きにより計算された所得金額に、税率を乗じて年間の法人税額を計算します。

法人税の税率は、原則として23.2%です。ただし、中小法人資本金が1億円以下の一定の法人)の場合、所得のうち年800万円までの金額は15%に軽減されます。

なお、所得拡大促進税制などの優遇措置(税額控除)が適用できる場合は、このステップで税額控除額を計算し、法人税額から控除します。そして最後に事業年度中に納付した中間納付額を差し引いて、確定申告により最終的に納付すべき法人税の金額が計算されます。

5)ステップ5-1(確定申告書の提出)

ステップ4において法人税の金額を計算後、その法人税の金額などを記載した確定申告書を所轄税務署に提出します。提出期限は、原則として「事業年度終了の日の翌日から2カ月以内」です。例えば、3月末決算の法人の場合は、5月31日が提出期限日となります。ただし、災害その他やむを得ない事情がある場合などは、申告期限を延長することもできます。なお、確定申告書は書面(紙)にて提出する方法の他、電子申告(e-Tax)によって提出する方法もあります。

6)ステップ5-2(法人税の納付)

ステップ5-1により確定申告書を提出するとともに、法人税を納付します。法人税の納付は、納付書を利用して金融機関の窓口で納付する方法や電子納税(インターネットバンキングなどを利用した納税)の他、クレジットカードを利用した納付もできます。

なお、納付期限は確定申告書の提出期限と同様に「事業年度終了の日の翌日から2カ月以内」です。確定申告書の「提出期限」について延長の承認を受けている場合でも、法人税の「納付期限」については延長されません。誤って確定申告書の提出期限(延長された期限)に納付を行った場合、利子税(利息のようなもの)が課されますので注意しましょう。

3 さまざまな申告手続きの違い

1)確定申告

確定申告とは、各ステップによって計算した各事業年度の所得金額や、法人税額を申告・納税する手続きをいいます。ステップ5-1で解説した通り、提出期限は、原則として「事業年度終了の日の翌日から2カ月以内」となりますが、次のようなケースについては、所定の申請書を提出することにより、申告期限を延長することも可能です。

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2)中間申告

事業年度が6カ月を超える法人(前事業年度の法人税額20万円以下の法人を除く)については、事業年度開始の日以後6カ月を経過した日から2カ月以内(3月末決算法人の場合は、11月30日)に「中間申告書」を提出するとともに、「中間法人税」を納付します。一般的な1年決算法人の場合、中間法人税は基本的に前事業年度の法人税の12分の6相当額を納付します。

なお、確定申告書作成時と同様の手続き(上記ステップ1~4)を行った上で中間申告書を作成し、申告・納付を行う方法も認められており、これを「仮決算による中間申告」といいます。もし「前事業年度の法人税の12分の6相当額」より「仮決算による中間申告」を行うことにより中間納付額が少なくなる場合には、「仮決算による中間申告」を選択すると中間納付に係る納税資金が少額で済みます。ただし、手続きが煩雑となる点に注意しましょう。

3)修正申告

過去に行った法人税の確定申告の内容に誤りがあり、法人税を本来の法人税額より「少なく申告」していた場合は、正しい申告書を所轄の税務署長へ再提出し、不足していた法人税額を追加納付しなければなりません。この手続きを「修正申告」といいます。修正申告を行った場合、不足していた法人税額の他、後述する延滞税などの附帯税を併せて納める必要があります。

4)更正の請求

修正申告とは逆に、法人税を本来の法人税額より「多く申告」していた場合には、過大に納付していた法人税額の還付を所轄の税務署長に請求することができます。これを「更正の請求」といいます。

なお、修正申告については、修正申告書の提出とともに、不足していた法人税額を同時に納付する必要がありますが、「更正の請求」については、過大に納付していた法人税が必ず還付されるとは限りません。更正の請求を行った場合、一般的には申告内容の誤りについて証明するような書類の追加提出などが求められ、税務署内で審議した結果、「申告内容に誤りがある」と認められて初めて還付を受けることができます。なお、更正の請求ができるのは、確定申告書の申告期限から5年間である点に注意しましょう。

4 申告・納付が遅れた、または間違った場合の税金

1)延滞税

延滞税とは、法人税の納付が納期限後になってしまった場合や、修正申告により不足していた法人税を追加納税した場合に課されるものです。税率(2025年の場合)は、「納付が遅れた法人税の金額」や「修正申告により追加納付した法人税額」に対して、年2.4%(納期限の翌日から2カ月を経過した日以降は年8.7%)となります。

2)加算税

1.過少申告加算税

過少申告加算税とは、修正申告により追加納税した法人税に対して課されるもので、税率はそれぞれ次の通りになります。

  • 自ら誤りに気が付いて自主的に修正申告を行った場合:過少申告加算税はかかりません
  • 税務調査の予告があった後、税務調査の実施前に修正申告を行った場合:「追加納税した法人税」の5%(追加納税額が当初の申告税額と50万円のいずれか多い金額を超えるときは、その超える部分については10%)
  • 税務調査の実施後に修正申告を行った場合:「追加納税した法人税」の10%(追加納税額が当初の申告税額と50万円のいずれか多い金額を超えるときは、その超える部分については15%) 

2.無申告加算税

無申告加算税とは、確定申告書の提出が申告期限を過ぎてしまった場合に課されるもので、税率はそれぞれ次の通りになります。

  • 正当な理由があり、法定申告期限から1月以内に確定申告を行った場合:無申告加算税はかかりません。
  • 税務調査の予告がなく、自ら自主的に確定申告を行った場合:「納付すべき法人税の金額」の5%
  • 税務調査の予告があった後、税務調査の実施前に確定申告を行った場合:「納付すべき法人税の金額」の10%(納付税額のうち50万円超300万円以下の部分は15%、300万円超の部分は25%)
  • 税務調査の実施後に確定申告を行った場合:「納付すべき法人税の金額」の15%(納付税額のうち50万円超300万円以下の部分は20%、300万円超の部分は30%)

なお、過去5年以内に無申告加算税または3.の重加算税を課されたことがあるときは、上記の税率に10%がさらに加算されます。

3.重加算税

重加算税とは、仮装や隠蔽など悪質な申告の誤り(申告漏れや脱税行為など)に係る追加納税額に対して、上記の過少申告加算税や無申告加算税に代えて課される非常に重い加算税です。

税率は、過少申告加算税に代えて課される場合は追加納付税額の35%、無申告加算税に代えて課される場合は追加納付税額の40%となります。

なお、過去5年以内に無申告加算税または重加算税を課されたことがあるときは、追加納付税額の45%(無申告加算税に代えて課される場合は追加納付税額の50%)と、さらに重い加算税が課されます。

以上(2025年4月更新)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 税理士 森浩之)

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