【中小企業のためのM&A】税務デューディリジェンスの調査ポイント

1 なぜ、税務デューディリジェンスが必要なのか

M&Aにおいて、上場会社等を中心に税務デューディリジェンス(以下「税務DD」)は頻繁に実施されます。しかし、中小企業同士のM&Aにおいて税務DDを実施するケースは極めて少なく、税務DDというものを知らない中小企業の経営者も多くいらっしゃると思います。

DDの分野は幾つかありますが、この記事では「税務DD」を取り上げます。税務DDの目的は、

将来の税務調査における税務上のリスクを把握する

ことです。例えば買い手は、税務DDによって、買収後に対象会社に税務調査が入り、多額の追徴課税(追加の課税や延滞税・重加算税などの罰金課税)の指摘を受ける事態を事前に把握することができます。

なお、税務DDの目的として、税務上のリスクの把握以外にも、買収スキームの検討などがありますが、この記事では、税務上のリスクの把握に絞って説明します。

2 税務DDを実施したほうがよい3つのケース

中小企業同士、特に小規模なオーナー企業同士のM&Aにおいては、税務DDを実施しているケースはほとんどありませんが、大切なのは、どういったM&Aにおいて税務DDが必要となるのかです。税務DDを実施したほうがよいM&Aとして、次の3つのケースがあります。

1)株式譲渡によるM&Aを検討している

M&Aのスキームには、株式譲渡、事業譲渡、合併、会社分割などがあります。中小企業同士のM&Aでは、株式譲渡を選択することが多いです。株式譲渡とは、

売り手が保有する対象会社の株式を買い手に譲渡する方法(買い手は対象会社の株式を取得する方法)

です。

株式譲渡の場合、株式の取得を通じて会社自体を買収することになるので、

対象会社の税務上のリスクは対象会社が抱えたままで、リスクを切り離すことはできない

という特徴があります。そのため、税務DDの実施を検討します。

なお、事業譲渡の場合、税務上のリスクを切り離すことが可能です。事業譲渡とは、

対象会社が運営している事業の一部を、買い手が買収する方法

です。会社自体を買収するわけではないので、税務上のリスクは承継されず、税務DDは実施しないことが多いです。当初は株式譲渡を考えていたものの、税務DDを実施した結果、リスクが高いと判断した場合、売り手と交渉して事業譲渡に変更することもあります。

2)対象会社が特殊な取引などを行っている

対象会社が次に挙げるような特殊な取引などを行っている場合、税務DDの実施を検討します。

  • 過去にM&Aを行っている
  • 輸出入など海外取引を行っている
  • 多額の非経常的取引を行っている(例:土地や建物の売却などにより、多額の特別損益が計上されている場合など)
  • 売り手が対象会社を含めて複数のグループ会社を抱えている

上記の場合、多額の追徴課税が発生するなどの恐れがあります。また、一般的な取引ではないので、税務処理を間違えていることもあります。

3)対象会社に顧問税理士がいない、長年税務調査を受けていない

それほど多くありませんが、対象会社に顧問税理士がいない場合や、長年税務調査を受けていない場合には、税務DDの実施を検討します。一般的に、法人に対する税務調査は3~5年ごとに実施されます。長年税務調査を受けていない場合、近い将来、税務調査が実施されて、税務上のリスクが顕在化する可能性は、他のリスク(法務、労務など)よりも高いと考えられます。

3 税務DDの進め方

税務DDでは、主に次の3つのことが実施されます。

  • 資料の閲覧
  • 対象会社の経営者・実務担当者へのインタビュー
  • 上記1.と2.の情報の分析など

税務DDを実施する場合、仲介会社やフィナンシャル・アドバイザー(FA)を通じて、対象会社に税務DDの目的や理由を丁寧に説明します。何も説明がない、もしくは簡単な説明だけで税務DDを実施すると、対象会社としては、まるで税務調査を受けているような不愉快な気分となり、M&Aプロセスがスムーズに進まず、場合によっては中止になることもあります。

税務DDを担当するのは、税理士や税理士法人であり、買い手の専属アドバイザーとして実施します。買い手の顧問税理士が担当する場合もありますが、通常は、税務DDの経験豊富な税理士や税理士法人が実施します。税務DDは、単に対象会社の税務申告書の計算をチェックするのではなく、計算の前提となるさまざまな取引の内容、背景、理由、根拠などを調査し、それらは税務上問題がないのか、問題がある場合はどの程度のリスクなのかなどを総合的に検討するためです。また、M&Aに関する豊富な知識も必要です。

通常、税務DDの期間は2~3週間です。この期間内に、買い手と対象会社との間でやり取りし、情報開示が行われます。

インタビューは、経営者の他、必要に応じて経理等の実務担当者にも行うことがあります。ただ、M&Aは公にせずに実行されることが少なくないので、通常、情報共有の範囲は限定されます。実務担当者にもインタビューをする場合は、情報漏洩に十分留意しましょう。

4 税務DDで調査されること

税務DDでは、対象会社にある税務上の潜在的なリスクを調査し、その結果に応じて次のように対応を検討します。

  • 買収価格に反映:過去に対象会社が申告した税務申告書の計算に明らかな間違いが発見された場合、税務調査で指摘を受ける恐れが高いため、買収価格に反映する(買収前に修正申告する場合もある)
  • スキームの変更:多額の追徴課税などの恐れがある場合、株式譲渡から事業譲渡にスキームを変更する
  • 買収契約書または買収後の統合作業のプランニングなどに反映:買収後に税務調査が入って指摘を受けた場合、売り手に追徴課税相当を補填してもらう旨を契約書に反映する

では、具体的に税務DDの主な調査対象事項・目的を確認していきましょう。なお、税務の時効は原則5年であることや、税務調査は過去3年を対象とすることが多いことから、調査対象年は過去3~5年で実施することが一般的です。

調査対象事項・目的

税務DDの実施に当たって、よく見られる問題点を以降で紹介します。

5 税務DDで注意すべきこと

1)オーナーの個人的費用の計上

対象会社が高級車、クルーザー、高級マンション、別荘などを購入している場合や、多額の接待交際費や旅費交通費を計上している場合があります。オーナー会社においては、個人的な費用と会社の費用を混同しやすい環境にあるため、資産の利用目的や支出した理由によっては、オーナーの個人的経費とみなされ、追徴課税のリスクがあります。

2)オーナーの資産管理会社との取引

相続対策の一環で、売り手のオーナーが資産管理会社を保有している場合があります。対象会社が資産管理会社に不動産を売却していたり、資産管理会社から不動産を借りていたりする場合、その取引価格はオーナーの一存で決めることができます。そのため、一般的な水準と比較して著しく異なる場合が多くあります。このような場合、対象会社に対して追徴課税のリスクがあります。

また、対象会社が不動産を保有している場合、その不動産をオーナーが引き続き保有するために、M&Aプロセスの直前に不動産とM&A対象事業を分けることがよくあります。仮に対象会社が事前にオーナーに不動産を売却する場合、その売却価格が妥当かどうか、売却により対象会社で、どの程度の売却益および税金が発生するのかを調査する必要があります。多額の税金が発生すると見込まれる場合、それを考慮してM&Aの買収価格を検討します。

3)輸入に係る消費税のリスク

消費税の計算では、原則として、支払った消費税は預かった消費税から控除して納税額を算出します。さらに輸入に関しては、手続きが複雑です。対象会社が海外から物品を輸入している場合、輸入時に消費税を支払います。支払った消費税を証明するために、対象会社宛ての輸入許可書が必要となります。しかし、輸入代行業者を通じて輸入している場合、輸入許可書が対象会社宛てではなく、輸入代行業者宛てとなっていることがあり、それを知らずに消費税申告書を作成している場合(本来は控除できない支払った消費税を、誤って控除してしまっているケース)があります。

4)源泉所得税の徴収漏れ(特に海外取引)

対象会社が、海外の会社や海外在住の個人に対して何らかの支払いをしている場合、一定の支払いについては、その支払いの際に源泉所得税を徴収して納付する義務があります。源泉所得税の納税義務があることを知らずに取引を続けている場合がよくあります。

5)過去のM&A

過去に対象会社がM&Aを行っていた場合には要注意です。他の調査項目と比較して、金額面で税務上のリスクが高い可能性があります。そのM&Aが成立した際に仲介会社に手数料を支払うことが一般的ですが、株式譲渡スキームの場合、税務上は、その仲介手数料は経費として認められず、株式の取得価額に含めます。支払手数料等の費用として処理しているケースがよくあります。

以上(2025年9月更新)
(執筆 アクシアパートナーズ税理士法人 税理士 大塚行親)

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画像:Mariko Mitsuda

教育者としての松岡修造が「感情論」を嫌う理由とは?

成功するには具体的な手立て、方法論、計画が必要です。意外に思われるかもしれませんが、僕は感情論が嫌いです

松岡修造氏は、元プロテニス選手であり、国際的なスポーツ大会などのキャスターとしても広く知られています。2025年の7月は松岡氏が現役時代、日本男子で62年ぶりにベスト8進出を果たしたウィンブルドン選手権から30年です。
冒頭の言葉は、松岡氏がテニス選手の育成について語ったものです。松岡氏は現役引退後、コーチとして多くのテニス選手を育成し、世に送り出しました。2015年に世界ランキング4位になった錦織圭選手もその一人です。松岡氏には「熱血」のイメージがありますが、言葉の通り、意外にも「感情論は嫌い」だそうです。

例えば、松岡氏はかつて、当時12歳の錦織選手が海外の選手に大敗を喫した際、「何のためにこの試合に出たんだ!」と怒鳴ったことがありました。その理由は、「負けたことではなく、彼が(体格や年齢などを言い訳にして)試合の途中で諦めたから」です。松岡氏らしいエピソードで、一見感情論のように思えますが、そうではありません。

外国人に体格で劣る日本人が試合に勝つには、緻密にゲームの戦略を立て、工夫を凝らさなければなりません。ですが、諦めてしまってはそのスタートラインにさえ立てない。松岡氏にとって「諦めないこと」は、勝つために理論上必要なことなのです。錦織選手が厳しく叱られながらも松岡氏に着いて行ったのは、彼が「勝つための指導」を徹底するコーチだったからでしょう。

また、松岡氏は、勝つために必要であれば、時に従来のテニス理論をも無視する柔軟性も持ち合わせていました。例えば、錦織選手のバックハンドグリップ(利き手の反対側にボールが来た際のラケットの握り方)に特徴的な癖があり、それを海外の有名トレーナーが矯正しようとした際は「彼なりのやり方でいい、回転の持って行き方に天性のものがある」と、セオリー通りの意見を跳ねのけました。松岡氏は錦織選手のプレーをよく理解し、「錦織選手が勝つための指導」を行っていたのです。

スポーツでの勝利は、会社に置き換えれば「ビジネスの成功」でしょうか。経営者の皆さんならご存じの通り、思いつきだけで成功することはほとんどなく、経営者なりの理論に基づいて行動しなければ勝ち筋は見えてきません。そして、その勝ち筋も、松岡氏が錦織選手のバックハンドをあえて直さなかったように、会社や社員の強みに合わせて、柔軟に探っていくことが大切です。いずれにせよ、まずは「勝つためにやる」という姿勢が最初のステップ。それをどう社員たちに見せるのかに、経営者の手腕が問われるのでしょう。

後に錦織選手は松岡氏に激怒されたことについて、「あの時初めて世界を本気で感じた」と語りました。本気で勝ち筋を考えた松岡氏の元で世界的スターが生まれたように、本気で勝ちに行く経営者の元には、本気で勝ちたいと願い、努力する社員たちが集まるのではないでしょうか。

出典:「松岡修造さんと考えてみた テニスへの本気」(坂井利彰著、東邦出版、2015年9月)

以上(2025年9月作成)

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画像:Maksym-Adobe Stock

【中小企業のためのM&A】財務デューディリジェンスの調査ポイント

1 なぜ、財務デューディリジェンスが必要なのか

M&Aにおいて、対象会社(売り手)は何らかの目的や課題があって会社や事業を売却します。ですから、買い手は相手の実態を正確に把握しなければならず、その一環が「デューディリジェンス(以下「DD」)」です。DDの直訳は、「正当な・相当な(Due)、努力・注意(Diligence)」ですが、噛み砕くと、

買い手が、対象会社やその事業の実態を事前に把握し、価格や取引について適切な判断をするための調査

となります。

DDの分野はいくつかありますが、この記事では「財務DD」を取り上げます。財務数値は、

M&Aの可否に加えて、買収価格の決定などに大きく影響

します。ただし、一般的に財務DDは範囲が広い上に期間が短いです。また、対象会社から提出される財務数値は、企業の実態を正確に表していないケースが少なくなく、その判断に専門知識が多く必要とされるため、外部の専門家に依頼するのが通常です。

2 財務DDの進め方

財務DDでは主に次の3つのことが実施されます。

  • 資料の閲覧
  • 対象会社の経営者・実務担当者へのインタビュー
  • 上記1.と2.の情報の分析など

通常、財務DDの期間は3~4週間です。この期間内に、買い手と対象会社との間でやり取りし、情報開示が行われます。

インタビューは、経営者の他、必要に応じて経理等の実務担当者にも行うことがあります。ただ、M&Aは公にせずに実行されることが少なくないので、通常、情報共有の範囲は限定されます。実務担当者にもインタビューする場合は、情報漏洩の可能性に十分留意しましょう。

3 財務DDで調査されること

財務DDには、一般的な調査対象事項と呼ばれる項目はありますが、厳密に決まっているわけではありません。そのため、

経営者が「こんな情報があればM&Aの可否を検討できる」という情報の調査・分析が必要

ということになります。そうした意味では、対象会社にある財務・会計上の潜在的なリスクを調査し、その結果に応じて次のように対応を検討します。

  • 買収価格に反映する:正常収益力(事業そのものが生み出す実態の収益)などを基に企業価値を算定し、買収価格に反映する
  • スキームを変更する:簿外債務を引き継いでしまうリスクがあるので、株式譲渡から事業譲渡にスキームを変更する
  • 買収契約書または買収後の統合作業のプランニングなどに反映する:保有している不動産の収益性が低いので、売却する旨を契約書に反映する

では、具体的に財務DDの主な調査対象事項・分析手法を確認していきましょう。

財務DDの主な調査対象事項・分析手法

各分析手法の詳細や、実施に当たってよく見られる問題点を以降で紹介します。

4 財務DDで注意すべきこと

1)対象会社に対する理解

対象会社に対する理解では、対象会社の人員、管理体制の状況などを確認します。

この分析を実施することで、限られた財務DDの期間中にどの項目にリスクがあるかを把握しやすくなります。

よく見られる問題点は次の通りです。

  • 事業規模に比して、経理部門の人員が著しく不足している
  • 仕訳の作成と承認を同一担当者が行うといったように職務権限の分掌が十分でない
  • 対象会社が採用している会計方針が、決められたルール(会計基準)に則していない

2)純資産分析

純資産とは、

資産から負債を差し引いた正味の財産で、投資家からの出資金や利益の積み立て分など

です。純資産分析では、貸借対照表の各項目を精査し、含み損や簿外債務などがないかを調査します。そして、含み損などがあった場合、それを一定の基準日時点の対象会社の簿価純資産に加味し、調整します。

この分析を実施することで、買収後に買い手側の財務諸表に計上される、のれんの計上額および償却額の分析や、対象会社の貸借対照表において簿価と時価との差額が生じている項目を把握します。

よく見られる問題点は次の通りです。

  • 回収困難な売上債権について、貸倒引当金の計上や貸倒処理などの必要な処理がされていない
  • 長期間滞留している、または陳腐化している棚卸資産について、評価減などの必要な処理がされていない
  • 減損が必要な固定資産について、必要な処理がされていない
  • 支払義務のある仕入債務が計上されていない
  • 簿外債務(貸借対照表に計上されていないもの)や、偶発債務(係争中で判決の結果によっては負債を負う可能性のあるもの)の存在が考慮されていない

3)純有利子負債(ネットデット)分析

純有利子負債(ネットデット)とは、

有利子負債残高から現金および現金同等物を差し引いた正味(ネット)の有利子負債

です。純有利子負債分析では、有利子負債や余剰現預金に加え、

  • 将来のキャッシュフローに影響を及ぼす恐れがある非経常的な残高(デットライクアイテム)
  • 対象会社の事業遂行にあたり不要な資産(非事業用資産)
  • 一定の条件下で顕在化する可能性のある簿外債務(コミットメントや偶発債務)

を特定します。

この分析を実施することで、買収価格の決定に必要な情報が得られます。買収価格の決定には株式価値が最終的に大きな影響を与えますが、この株式価値は企業価値から純有利子負債(ネットデット)を差し引いたものになります。

よく見られる問題点は次の通りです。

  • 有利子負債の大部分をグループ会社からの借入に依存している
  • 確定給付型の退職給付制度を採用しており、退職給付会計上、貸借対照表に計上されていない退職給付債務が多額に存在する
  • 簿外債務や偶発債務が存在する

4)運転資本分析

運転資本とは、

事業運営上、短期的に計上・決済されることにより回転している資産および負債

です。一般的には、営業取引関連の運転資本である売上債権、棚卸資産、仕入債務の他、未払金、前払金、その他流動資産、その他流動負債が含まれます。運転資本分析では、過去の運転資本残高の季節的変動やトレンドを分析し、正常的な運転資本水準を算出します。

この分析を実施することで、事業上、最低限必要とされる運転資本の水準が把握できます。

よく見られる問題点は次の通りです。

  • 回収可能性に疑義のある長期滞留売上債権や、販売可能性に疑義のある長期滞留在庫が存在する
  • 仕入先への支払条件や得意先からの回収条件が悪化し、必要となる運転資本金額が増加している
  • 運転資本水準の季節的変動が大きいため、買収のタイミングによっては、買収後に追加の出資が必要になる可能性がある

5)固定資産・設備投資分析

固定資産・設備投資分析では、過去に実施された設備投資や事業計画達成のために、将来的にどの程度の設備投資が必要かを明らかにします。具体的には、設備投資を新規投資と既存設備の維持・保守投資とに区分し、それぞれがどのような水準で推移しているか、また、対象会社の規模や業種に基づいて必要な投資サイクルを把握します。それを実績と比較し、必要な投資が先延ばしにされていないかを検証します。さらに、現行の生産能力や稼働率等を理解し、余剰の生産能力および投資予定の新規設備による生産能力の増強と事業計画上の前提が整合しているかの検証を行います。

この分析を実施することで、新たな設備投資や不要な固定資産の売却などを検討できます。

よく見られる問題点は次の通りです。

  • 事業継続上、必要性が高い設備投資が、資金的な理由により先延ばしになっている
  • 不採算店舗閉鎖後に、他の用途に転用できていない遊休状態の土地、建物や設備がある
  • 減損会計における資産のグルーピングの方法次第では、減損が必要な可能性がある

6)収益性分析

収益性分析では、調査の対象期間において同じ会計方針で財務諸表が作成されていることを前提に、過去の損益構造を理解するため、収益力の把握において有効な指標の特定や変動要因を分析します。その上で、過去実績(非経常的要因が含まれている場合には調整を実施)と、事業計画の財務情報における比較可能性や一貫性を検討し、対象会社の収益性を分析します。

この分析を実施することで、対象会社が持つ稼ぐ力の実力値が把握できます。

よく見られる問題点は次の通りです。

  • 過去実績において一時的または非経常的な要因による収益が多額に計上されており、対象会社の「本来の実力値」である正常化損益に影響を与えている
  • 調査対象期間にわたって、適用されている会計処理や会計方針に一貫性がない、もしくは誤りがある
  • 多角化事業を営んでいる対象会社の場合、コア事業に関連しない事業や赤字が継続している事業がある

7)事業計画検証

事業計画検証では、対象会社が作成した事業計画の前提条件が過去の実績や現状と整合しているか、現状の余剰生産能力および新規の投資計画による生産能力増強分に比較して過度に乖離していないかなどを把握します。

この分析を実施することで、今後の事業運営を検討したり、企業価値を評価する際に使う情報が得られたりします。

よく見られる問題点は次の通りです。

  • 事業計画上、リリースされたばかりの新製品の売上に大きく依拠している
  • 計画期間における販売原価に原材料や人件費の増加分を見込んでいない
  • 生産計画が、既存設備及び新設設備による生産能力を遥かに上回っている

上記は比較的よく検出される懸念事項の一例に過ぎません。財務DDにおいて、ディールに重要な影響を及ぼす種々のリスクが出てくることも少なくないため、M&Aにおける財務DDのプロセスは非常に重要であることを改めてご認識いただければと思います。

以上(2025年9月更新)
(執筆 公認会計士・米国公認会計士 碓田篤史)

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画像:Mariko Mitsuda

経営者のマイカー通勤に潜むリスク。きちんと対策を講じて安全運転!

1 経営者のマイカー通勤に潜む見過ごせないリスク

皆さんの会社では、マイカー通勤(社用車・社有車を含みますが、この記事では便宜上「マイカー通勤」とします)を認めていますか? マイカー通勤は、満員電車のストレスがなくなったり、子どもの送り迎えをしながら通勤できたりと色々便利ですが、一方で避けて通れないのが「交通事故」のリスクです。特に、経営者の交通事故は、

  • 経営者が死傷することで、会社の意思決定に支障を来す
  • 経営者が加害者の場合、損害賠償を請求され、社会的信用が損なわれる

など、経営に深刻な影響を与えます。

交通事故の発生件数は減少傾向にありますが、依然として年間27万件以上の交通事故が発生しており、うち約26%が65歳以上のドライバーによる交通事故となっています。身体機能は加齢に伴って低下しますから、年齢を重ねるほど交通事故のリスクは高まるのです。

原付以上運転者(第1当事者)の年齢層別交通事故件数の推移

この記事では、マイカー通勤中の経営者が交通事故の当事者となった場合、どのような問題点があるかを整理した上で、交通事故のリスクを回避する方法の一例をご提案します。総務担当者などが中心となって、経営者のマイカー通勤のリスクを改めて見直してみてください。

2 経営者が交通事故の当事者となってしまった場合

1)経営者自身の死傷

経営者が入院や自宅療養を余儀なくされる場合、会社は経営者不在の状況となり、意思決定に支障を来します。資金調達など会社の重要な機能が滞ってしまいます。傷害の程度によっては、経営者ご自身の体が事故前の状態に完全に戻るとは限りません。

最悪の事態は、経営者が急逝してしまった場合です。この場合、後継者選定や事業継続のための準備が不十分なままとなり、会社の存続自体が危ぶまれる状況になります。

2)会社の信用度の低下

経営者が交通事故の加害者の場合、特に相手が死亡するなどの重大な交通事故を起こした場合は、社会から非難され、今の役職にとどまることが難しくなるかもしれません。もちろん、過失割合の大小にかかわらず、その事実が明るみに出た時点で会社のイメージも悪化します。

3)刑事上・民事上の責任

経営者が交通事故の加害者の場合、事故の内容に応じて、刑事上・民事上の責任を問われることになります(この他に行政上の責任がありますが、この記事では割愛します)。

まず、刑事上の責任ですが、自動車の運転上必要な注意を怠り、人を死傷させることは過失運転致死傷罪に該当し、7年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金の対象になります(ただし、被害者の傷害が軽ければ、情状により免除されることもあります)。

次に民事上の責任ですが、加害者は交通事故の被害者やその遺族に対し、与えた損害を賠償しなければなりません。重傷・死亡の場合、賠償金も高額になります。交通事故の場合、賠償金は損害保険を利用して支払うのが一般的ですが、任意保険の補償金額で足りなければ経営者自身が負担することになりますし、会社が「経営者のマイカー通勤を認めている場合」などは、

3)刑事上・民事上の責任

経営者が交通事故の加害者の場合、事故の内容に応じて、刑事上・民事上の責任を問われることになります(この他に行政上の責任がありますが、この記事では割愛します)。

まず、刑事上の責任ですが、自動車の運転上必要な注意を怠り、人を死傷させることは過失運転致死傷罪に該当し、7年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金の対象になります(ただし、被害者の傷害が軽ければ、情状により免除されることもあります)。

次に民事上の責任ですが、加害者は交通事故の被害者やその遺族に対し、与えた損害を賠償しなければなりません。重傷・死亡の場合、賠償金も高額になります。交通事故の場合、賠償金は損害保険を利用して支払うのが一般的ですが、任意保険の補償金額で足りなければ経営者自身が負担することになりますし、会社が「経営者のマイカー通勤を認めている場合」などは、会社に責任が及ぶ恐れもあります。

3 交通事故を回避するためのアプローチ

前述した通り、交通事故のリスクは年齢を重ねるほど高くなります。「加齢による交通事故のリスク」という観点から対応を考えるなら、基本的なアプローチは「自身の運転能力を高める」「運転を減らす(やめる)」「別の人に運転してもらう」のいずれかになります。

1.タクシーやハイヤーを利用する

自分よりも若く、運転技術のある人に運転してもらえば、その分、交通事故のリスクを減らせるでしょう。タクシーとハイヤーは、どちらも車で目的地に移動するという点では同じですが、ハイヤーは完全予約制かつ、タクシーよりもサービスが充実しています。利用料金も異なるため、通勤の頻度や利用シーンによって使い分けるとよいでしょう。

2.専属の運転手を確保する

自社雇用、もしくは外部委託で専属の運転手を確保するのも一策です。自社雇用であれば、⾃社で重視する条件に合わせた雇用、育成ができる点がメリットになります。一方で、外部委託であれば、車両の運転のみなど、業務の範囲が限られますが、求⼈、採⽤、管理などのコスト削減につながる点がメリットになります。

3.運転や管理を自家用自動車管理業に委託する

社用車・社有車を通勤に使っている場合の話になりますが、自家用自動車管理業への委託を検討するのもよいでしょう。企業や官公庁の役員車などの車両について、運転、整備、修理、燃料、消耗品、自動車保険、そして事故処理までを包括的に請け負うサービスです。そのため、自社で車両を管理する手間が省けるといったメリットがあります。

自動車保険は自家用自動車管理業のほうで契約(保険料は依頼者側が負担)し、交通事故発生時の補償や処理も自家用自動車管理業側で行ってもらえます。

■日本自動車運行管理協会■
https://www.ajva.or.jp/service/index.html

以上(2025年9月更新)

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画像:pexels

【中小企業のためのM&A】法務デューディリジェンスの調査ポイント

1 なぜ、法務デューディリジェンスが必要なのか

法務デューディリジェンス(以下「法務DD」)の目的は、

M&Aに内在するリスクを把握することで、適切なM&Aのスキームを選択し、M&A実行後に経営に及ぼす影響を知る

ことです。財務DDに比べて優先度が低くなりがちですが、法務DDをせずにM&Aを行って、

  • 事業を適正に行うには許認可を取得する必要があった
  • 問題が顕在化していないものの、事業の一部に法律違反があった
  • 未払残業代があった

などの問題が発見されることは珍しくありません。そうなると、不備を是正するために想定外の費用がかかりますし、一部の事業撤退も検討せざるを得なくなります。

そうならないように、法務DDの重要性を認識し、専門家と協議しながらM&Aを進めていくことを検討してみてください。この記事では、法務DDで何が行われるのか、そのポイントを紹介します。

2 法務DDを実施したほうがよいケース

1)株式譲渡や合併など包括的に会社や事業を譲り受ける場合

M&Aでは、「あの会社と一緒になれば、自社にないノウハウや顧客網が手に入る」など、対象会社の魅力が注目されがちです。こういった魅力があるからこそM&Aを行うことにはなりますが、M&Aの実行後に自社にとってどのような負担、デメリットが生じるのかもきちんと検討しなければなりません。

特に株式譲渡や合併などのように、会社全体の負債、義務を包括的に引き受けるM&Aのスキームの場合、「M&A実行後のデメリット」を正確に把握するための法務DDが重要です。

2)参入障壁が低い事業、自社に十分な知見がない新規事業についてM&Aを行う場合

許認可や登録が必要な事業の場合、そうした条件を満たすために会社のコンプライアンス(法令遵守)体制が担保されていることも多く、大きな問題やリスクが内在していることは少ないように感じます。一方、許認可や登録が必要ないなど参入障壁が低い事業の場合、他社との競争に勝とうとするあまり、コンプライアンス体制が不十分であることも少なくありません。そうした会社とのM&Aは、いかにシナジーが大きいとしても、後々さまざまな問題が生じる恐れが高いといえるでしょう。

また、M&Aによって新規事業に取り組む際も注意しましょう。なぜなら、自社にはその事業に関する知見がないので、将来的に生じそうな問題や、それに対応することの大変さが分かりません。この辺りを明らかにするためにも、法務DDが重要です。

3)M&Aをこれまで行ったことがない場合

「費用をかけずにM&Aを進めるために、自社のリソースだけで対象会社の調査などをしたが、意外と問題なかった」という話を聞くことがあります。ただ、よくよく話を聞いてみると、「問題の種はあるが、それが顕在化していないだけ」ということがあります。

M&Aに慣れていない場合、今、問題が生じていないことをもって「問題のない会社」と評価してしまうことがありますが、これは危険です。M&Aを成功させるには、M&A実行後の経営に影響を及ぼす事実をきちんと把握することが不可欠であり、そのために法務DDが重要になるのです。

3 法務DDの進め方

法務DDでは、主に次の3つのことが実施されます。

  • 資料の閲覧
  • 対象会社の経営者・実務担当者へのインタビュー
  • 上記1.と2.の情報の分析など

通常、法務DDの期間は1カ月程度です。この期間内に、対象会社から必要な資料を開示してもらい、それを精査し、経営者や実務担当者へインタビューが行うというのが一般的な法務DDの流れです。

4 法務DDで調査されること

一般的な法務DDの調査対象事項はあるものの、

対象会社の業種、社風、社歴やM&Aのクロージングまでのスケジュール、M&Aの予算などにより、実際に調査する事項は大きく変わる

というのが実情です。

法務DDの調査事項を決めた上で、対象会社にある法務上の潜在的なリスクを調査し、その結果に応じて次のように対応を検討します。

  • 買収価格に反映する:潜在的な法務リスクの有無と、それが顕在化した場合の対応費用を想定し、買収価格に反映する
  • スキーム(手法)を変更する:潜在的な法的リスクを引き継ぐことがM&Aの実行において足かせになる場合などに、株式譲渡から事業譲渡、会社分割にスキームを変更する
  • 買収契約書または買収後の統合作業のプランニングなどに反映する:取引先を円滑に引き継ぐために、現経営陣にM&A実行後も一定期間業務を遂行してもらうことなどを契約書に反映する

では、具体的に法務DDの主な調査対象事項・分析手法を確認していきましょう。

法務DDの主な調査対象事項・分析手法

法務DDの実施に当たって、よく見られる問題点を以降で紹介します。

5 法務DDで注意すべきこと

1)株主の異動履歴

株主の異動履歴は、その会社の歴史を物語るものといっても過言ではありません。例えば、「株主が創業者の親族から第三者に変わった後に再び親族に変わった」「創業者の引退を機にその長男に変わった後、早々に株式譲渡を希望している」などの動きを見れば、会社の内情が分かってきます。

また、株券発行会社の場合、株式の交付がなければ、法律上、株式譲渡の効力が生じません。そのため、株券発行会社において複数にわたる株主の異動が、株券が発行されずに行われていたら法律上は大きな問題となり、是正しなければなりません。

2)M&Aの実行が取引先との契約関係に与える影響の把握

取引先との契約書を確認すると、M&Aを行う場合の事前通知が必要であったり、M&Aが契約の解除事由になっていたりすることがあります。このような条項を「チェンジオブコントロール条項」といいます。

チェンジオブコントロール条項によってM&Aの後に取引先との関係が悪化したり、契約を解除されたりしてしまうことがあります。その相手が重要な先なら、買収した目的を達成できなくなる恐れもあります。そうならないように、事前に取引先との契約を確認しましょう。

3)知的財産権の保護

近年、知的財産に対する権利意識が高まっており、M&Aにおいても重要なポイントです。対象会社のロゴや商品名、商品のデザインなどが悪意なく他者と似通っていることがあるので、他社の商標権、意匠権などを侵害していないかを調査しましょう。

逆に、対象会社が他社から模倣されていたり、商標登録などをしていない知的財産権を、第三者が登録申請してしまったりすることもあるので、対象会社の知的財産権に対する防衛状況も調査しましょう。

4)労働関係の法令遵守体制

雇用に関する問題は避け難いかもしれません。経営者がよかれと思った労働条件が、実は法律に違反していることもあります。また、従業員との間で合意をしていたとしても、未払残業代が発生していることもあります。法務DDでは、このような既に存在する問題や潜在的な問題を洗い出していきます。

5)個人情報の管理体制

個人情報保護法の改正等によって、個人情報の厳格な管理が求められています。特に、顧客情報や従業員情報を多く取り扱う事業では、社内規程の整備、委託先の管理、漏えい時の対応体制などが整備されているかが重要なチェックポイントとなります。また、プライバシーポリシーの整備や社内教育の実施状況、過去の漏えい事案の有無などについても確認し、M&A後のリスクを見極めることが必要でしょう。

以上(2025年9月更新)
(執筆 弁護士 松下翔)

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画像:Mariko Mitsuda

建設業の担い手確保! 2025年全面施行の改正法、ポイントは3つ!

1 建設業の担い手確保に向けて

建設業者は、地域のインフラや住居・オフィス・商業施設の建設を担う重要な存在でありながら、他の産業よりも賃金が低く、就労時間も長いという課題があります。

一方で、2024年4月1日から労働基準法の「時間外労働の上限規制」が建設業にも適用されるようになったこと(いわゆる「2024年問題」)等を受けて、これまでのような長時間労働に依存した働き方も難しくなり、建設業の担い手を一刻も早く確保する必要が出てきています。

そんな中、建設業の担い手確保に向けて、2024年6月14日に改正建設業法・入契法が公布され、2025年12月13日までに全面施行されることとなりました(2025年9月現在、すでに施行済みの内容もあります)。ポイントは大きく次の3つに分けられます。

  • (ポイント1)処遇改善
  • (ポイント2)資材高騰に伴う労務費へのしわ寄せ防止
  • (ポイント3)働き方改革・生産性向上

以降で簡単にポイントを紹介します。より詳しく知りたい場合は、国土交通省のウェブサイトをご確認ください。

■国土交通省「建設業法・入契法改正(令和6年法律第49号)について」■
https://www.mlit.go.jp/tochi_fudousan_kensetsugyo/const/tochi_fudousan_kensetsugyo_const_tk1_000001_00033.html

2 (ポイント1)処遇改善

1)労働者の処遇確保の努力義務化

建設業者に対し、労働者の処遇を確保する「努力義務」が課せられます。具体的には、

  • 労働者の能力(知識や技能)を公正に評価して、適切な賃金を支払うこと
  • その他、労働者の処遇を確保するための措置を効果的に実施すること

が求められるようになります。

2)不当に金額の低い見積もり提出・見積もり依頼の禁止

また、労務費(賃金原資)について、国土交通省の中央建設業審議会が「労務費の基準」を作成・勧告することになりました。そして、この基準に照らして、

著しく低い材料費等による見積もり提出・見積もり依頼が禁止

されるようになります。

この規定に違反した場合、発注者は国土交通大臣による勧告・公表の対象、受注者は指導・監督の対象となります。特に重要なのが「公表」です。従来の規制下では、不適切な契約が結ばれても、受注者側が泣き寝入りするケースが多くありました。しかし、今回の改正により、不当に低い労務費の見積りを依頼した発注者の名称が公表されることになります。

3)原価割れ契約の禁止

この他、建設工事の請負契約について、

建設業者がその地位を利用して、原価に満たない金額で契約を締結することが禁止

されます。ただし、自ら保有する安価な資材を工事に用いることができる等、正当な理由がある場合を除きます。

3 (ポイント2)資材高騰に伴う労務費へのしわ寄せ防止

1)契約締結前のルールの追加

請負契約の締結前のルールとして、

受注者が注文者に、資材高騰等の請負金額に影響を及ぼすリスクの情報(おそれ情報)を通知すること

が義務付けられます。おそれ情報には、必要な資材の供給不足や価格高騰、特定の建設工事における労働者不足等が含まれます。また、

おそれ情報と併せて、状況把握のために必要な情報(根拠情報)を通知すること

も求められます。根拠情報は、メディアの記事、資材業者の記者発表、公的機関による統計資料等一定の客観性を有するものである必要があります。

さらに、契約締結後に予期せぬ事態が発生した際の協議を円滑に進めるためのルールとして、

資材が高騰した際の請負代金等の「変更方法」を、契約書記載事項として明確に定めること

が義務付けられます。

2)契約締結後のルールの追加

請負契約の締結後のルールとして、

  • 実際に資材の価格高騰等が起きた場合、受注者が注文者に、請負代金等変更について協議を申し出ることができること
  • 注文者は、受注者から協議の申し出があったら、誠実に応じる努力義務を負うこと

が定められます。協議すること自体を正当な理由なく拒絶したり、協議の開始をあえて著しく遅らせたり、受注者の主張を一方的に否定したり、十分に聞き取らずに協議を打ち切ったりすると、「誠実」に協議に応じていないと判断されます。

4 (ポイント3)働き方改革・生産性向上

1)働き方改革

いわゆる工期ダンピング(建設工事を施工するために通常必要とされる期間よりも著しく短い工期を設定する請負契約)への規制が強化されます。

もともと注文者については、工期が著しく短い請負契約を締結することが禁止されていますが、このルールが受注者側にも適用

されるようになります。受注者自らが無理な工期設定を提案することを抑制し、長時間労働の温床を根本から絶つのが狙いです。

また、

  • 受注者が注文者に、資材が入手困難になる等工期に影響を及ぼすリスクの情報を通知する義務を負うこと
  • 通知を受けた注文者は、工期の調整について誠実に協議に応じる努力義務を負うこと

が定められます。

2)生産性向上

本来、公共性があったり、多くの人が利用したりする建物の建設工事では、専任の監理技術者等を置くことが義務付けられていますが、

ICT(情報通信技術)を活用することを条件に、専任者の設置義務が緩和

されます。ICTの活用例としては、

  • タブレット端末を通じた設計図面や現場写真等の共有
  • ウェアラブルカメラ等による現場のリアルタイム映像・音声の共有

等が挙げられます。ただし、ICTの活用と併せて「現場間の移動時間が概ね2時間以内であること」等の要件も満たす必要があります。

以上(2025年9月作成)

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画像:metamorworks-Adobe Stock

【収支シミュレーション】 サバイバルゲームフィールドの開業収支モデル

1 サバイバルゲーム市場の動向

サバイバルゲームとは、エアソフトガン(BB弾を発射する銃。以降、エアガン)や赤外線が出る光線銃を使って、敵味方に分かれて撃ち合い、決められたルールに基づいて勝敗を競うゲームです。

矢野経済研究所「オタク」市場に関する調査によると、2024年度の予測で、サバイバルゲームの施設運営事業者の市場規模は売上高ベースで76億円、サバイバルゲームで使われるトイガンの国内メーカーの市場規模は出荷金額ベースで88億円とされています。

サバイバルゲームの検索やイベントなどの情報発信を行うウェブサイトの東京サバゲーナビによると、都道府県別のサバイバルゲームフィールドの件数は次の通りです(2025年8月13日時点)。なお、フィールドの種類(アウトドア、インドアなど)は問いません。

サバイバルゲームフィールドの件数

全国で見ると、特に千葉県には46カ所のサバイバルゲームフィールドが集中しており、関東圏のプレイヤーが集まる中心地となっています。

なお、常設でないサバイバルゲームフィールド(例:スキー場などを、本業で稼働していない時期に期間限定でサバイバルゲームフィールドとして開放する)などもあるため、表中の件数と実際の件数は異なる可能性があります。

2 サバイバルゲームフィールドの事例

1)サバイバルゲームフィールドの運営について

サバイバルゲームフィールドは、普段一緒にゲームを楽しむ仲間同士での貸し切り利用に限りません。多くのサバイバルゲームフィールドでは、運営事業者が不特定多数のプレイヤーが参加できる「定例会」と呼ばれるイベントを定期的に開催し、集客を図っています。

また、道具を持っていない人でもサバイバルゲームを楽しめるように、「エアガン」「目や顔を守るためのゴーグルやフェイスマスク」などの装備をレンタル品として貸し出したり、初心者向け講習会、親子向けイベントを開いたりすることで、間口を広げる取り組みをしている施設もあります。

2)アウトドアフィールドとインドアフィールドの比較

サバイバルゲームフィールドは、大きくアウトドア型とインドア型で分けられます。

アウトドア型は、森林などの自然や実際の地形を活かして作られるサバイバルゲームフィールドです。自然下でゲームを楽しめるため、非日常感を味わいたいユーザーや、大人数で楽しみたいユーザーを取り込みやすいことが強みになります。一方で、都市部から立地が離れてしまうため、アクセス手段が限られてしまうことや、天候や季節に営業が左右されることがデメリットといえます。

インドア型は、倉庫や既存の物件を改装するなどして作られたサバイバルゲームフィールドで、少人数でのグループ利用が中心となります。天候に左右されずに営業ができ、都市部や駅の近くに立地しやすいため、初心者やライト層を取り込みやすいことが強みになります。

その他の特徴は、次の通りです。

アウトドアフィールドとインドアフィールドの比較

2)アウトドア型サバイバルゲームフィールドの事例

1. BE FORESTER 壬生(栃木県壬生町)

フォレストーリー(栃木県宇都宮市)が運営するサバイバルゲームフィールドです。同社は林野庁「令和元年度森林づくりへの異分野技術導入・実証事業」の委託事業者で、栃木県壬生町の18ヘクタールの森林を山主から借り上げ、自然を活かしたフィールド作りをしています。

サバイバルゲームの参加費の一部を山主に還元し、山林管理費に充当している他、参加者がごみ拾いをすることで、適切な山林管理につながる仕組みづくりに取り組んでいます。

ウェブサイトでは、サバイバルゲームのルール解説や必要な道具を紹介している他、関連グッズの通信販売なども手掛けています。

なお、上記の他、長野県伊那市にも原野林を利用したサバイバルゲームフィールド「BE FORESTER 伊那」が存在します。

■BE FORESTER■
https://beforester.net/

2.宍道サバゲーPARK DANDAN(島根県松江市)

CLIP(島根県松江市)が「宍道総合公園古墳の森」を活用し、占用して開設したサバイバルゲームフィールドです。古墳の森は維持管理コストが高い一方で利用客が少ないという課題があり、同施設は地域の再生とまちおこしを目的に作られました。

ウェブサイトでは、初心者・未経験者向けにサバイバルゲームのルールや必要な道具を解説するなどの情報発信を行っている他、カレンダーや公式ラインで手軽に予約しやすいように工夫がされています。

■宍道サバゲーPARK DANDAN■
https://dandan.kk-clip.co.jp/

3.箱根サバイバルゲームフィールド山中合戦場(静岡県三島市)

戦国時代に武田軍と北条軍がぶつかった、山中合戦場跡地にあるサバイバルゲームフィールドです。箱根の自然を活かしつつ、戦国時代を彷彿とさせる造りを取り入れています。

防風林に囲まれており、風の影響を受けずにゲームができる、会場南側から駿河湾、箱根、伊豆の絶景が一望できる景観の良さも施設の売りとなっています。

親子で参加できる「親子サバゲー」や、夕方から夜間の時間帯にゲームを行う「夜戦」などのイベントを開催しています。

■箱根サバイバルゲームフィールド山中合戦場■
https://hakone-survival.com/

3)静岡県内のインドア型サバイバルゲームフィールドの事例

1.OPERATION JUDGMENT(静岡県浜松市)

アクション映画やドラマの世界のようなフィールドが特徴の施設です。東名高速道路浜松ICより車で約4分とアクセスしやすい立地です。

親子で参加できる「親子サバゲー」や、10歳以上18歳未満用のエアガンを使った「10禁サバゲー」などのイベントを定期的に開催しています。

また、ショップも併設しており、トイガンの買い取り、修理、カスタマイズも受け付けることで、収益源を多角化しています。

■OPERATION JUDGMENT■
http://www.judgment.jp/

2.浜松戦闘ごっこ社(静岡県浜松市)

10歳以上向けの専用サバイバルゲームフィールドを常設している施設です。「子供が堂々と合法的に遊べるサバイバルゲームフィールド」として、ファミリー層からの支持を得ています。フィールド上空でドローンを飛ばすこともできるのも特徴です。

水鉄砲で戦う「水鉄砲エキシビジョンマッチ」や、サバイバルゲームではないですがもの作りが無料で楽しめる「竹灯篭製作体験」など、ユニークなイベントを開催しています。

■浜松戦闘ごっこ社■
http://sentougoccosya.com/

3.SPECIAL FORCE(静岡県焼津市)

インドア型のサバイバルゲームフィールドで、リアルな廃バスや車が障害物として活用されており、縦長のデザインが特徴です。自販機や水道、照明、コンセント、電気ポット、電子レンジも完備されており、快適性が重視されています。

大人チームと子供チームに分かれてのゲームが楽しめ、市街地で戦闘をしているようなスリリングな体験ができます。

■SPECIAL FORCE■
https://x.com/specialforce888

3 開業に当たり留意したい法規制

1)銃砲刀剣類所持等取締法(銃刀法)

銃刀法では、サバイバルゲームで用いられるエアガンの発射速度を0.98J(ジュール)と定めています。サバイバルゲームフィールドの運営者は受付時に参加者の銃の弾速を測定し、この法定初速を超えていないか確認する必要があります。

2)建築基準法

倉庫などの既存の建物を改装し、サバイバルゲームフィールド(特殊建築物)として利用する場合、用途変更の確認申請が必要となることがあります。特に、用途を変更する面積が200㎡を超える場合は確認申請が必須です。

3)消防法

延べ面積が一定規模(特定防火対象物で300㎡以上、非特定防火対象物で500㎡以上など)以上の建物では、防火管理者の選任が義務付けられます。

消火器の設置も義務付けられており、各防火対象物・部分から歩行距離20m以下(大型消火器は30m以下)になるよう各階ごとに設置し、床面からの高さ1.5m以下に設置する必要があります。

4 運営に当たり対策すべきこと

1)騒音問題への対策

エアガンの発射音、プレイヤーの声、アナウンス、来場者の車両などの騒音対策に備えることが重要です。来場者に対しては、車両の騒音を抑えるための駐車場までのルート指定や、フィールド内での大声の使用を控えるようにマナー啓発を行うことも大切です。

2)保険への加入

運営や施設の設備に不備があり、利用者が怪我をしてしまった場合に備えて、賠償責任保険に加入している施設もあります。一方で、利用者同士がプレイ中に怪我をしたり、エアガンなどの持ち物が破損したりしてしまった際の補填は、利用者自身が保険に加入することで備えてもらう必要があります。

3)ごみ問題への対策

特に、アウトドア型のサバイバルゲームフィールドではごみやBB弾の適切な処理に注意が必要です。生分解性(微生物の働きによって自然に還る性質)のBB弾でも、地面に放置するのではなく、土中に埋めないと適切に分解されないとされています。利用者に対してはごみの分別やBB弾の適切な処理を呼びかけることが大切です。

5 サバイバルゲームフィールドの開業収支シミュレーション

1)前提条件

前提条件として、静岡県藤枝市内の空き倉庫を改装して、広さ約826平方メートル(約250坪)、スタッフ3人でインドア型のサバイバルゲームフィールドを開業するものとします。

1.売上高

売上高は年間2570万円とします。算出式は次の通りです。

利用金額1人3300円×1回当たりの利用人数15人×1日当たりの回転数2回×年間営業日数260日(週5日営業×52週間)≒2570万円

2.原価率

日本政策金融公庫「小企業の経営指標調査(サービス業)」(2024年8月公表)に掲載の娯楽業(黒字かつ自己資本プラス企業平均)の売上高総利益率73.3%を参考に、原価率を年間売上高の27%とします。

原価には水道光熱費、エアガンを始め、目や顔を守るためのゴーグルやフェイスマスクなどの装備などのレンタル品、BB弾、エアガン用のガスなどの消耗品が含まれます。

3.人件費

サバイバルゲーム運営スタッフの求人情報を基に、スタッフの給与を月25万円とします。スタッフの総数を3人として、年間人件費は900万円とします。

4.賃借料

静岡県藤枝市内の貸し倉庫賃料を月60万円と仮定し、年間720万円とします。

5. 施設整備・設備整備費用

この項目は、総額で270万円とします。主な費用は次の通りです。

  • トイレ、事務所、店舗設置:80万円
  • フィールド内の障害物の設置:70万円
  • 電気工事:50万円
  • 水道工事:40万円
  • 安全管理設備(防弾ネットやフェンス、セーフティゾーンなど):30万円

6.開業費用

この項目は、開業に当たっての立地調査や広告宣伝費などを想定し、総額50万円とします。

7.差入保証金

差入保証金は、賃借料の10カ月分となる600万円とします。

2)収支シミュレーション

収支シミュレーションの前提条件

収支シミュレーション(財務三表)

主な財務指標

以上(2025年8月作成)

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画像:Philipimage-Adobe Stock

【中小企業のためのM&A】 専門的な知識と経験でM&Aを支援してくれる「七人の専門家」

1 M&Aでは専門家の支援が不可欠

M&Aの交渉では、次のような調査や検討が必要になるので、専門的な視点から支援してくれる専門家の存在が不可欠です。

  • M&Aの対象となる事業・会社の探索・選定
  • 法律、会計、税務等の専門的事項に関する整理
  • 買収資金の調達
  • 取得する資産の価値、不適合の有無 など

M&Aにおける専門家の役割は基本的に分業体制ですが、

全体のスケジュール管理を行う専門家、法務や財務の専門家が基本

になるといえるでしょう。この記事では、中小企業のM&Aでよく登場する主要な専門家とその役割を説明します。

なお、中小企業庁では、中小企業が安心してM&Aに取り組める基盤を構築するため、M&A支援機関に係る登録制度を実施しています。M&A支援機関には、これから紹介するフィナンシャル・アドバイザー(FA)やM&A仲介会社などが該当します。中小企業にとってのメリットは、

  • 中小M&Aガイドライン(中小企業庁が策定)の遵守を宣言しており、相対的にM&Aの支援機関としての適性を備えている
  • 登録を受けたM&A支援機関を利用すると、必要な手数料の一部が補助され、金銭的な負担が軽減される

ことです。

■M&A支援機関に係る登録制度■
https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/2021/211007m_and_a.html
■中小M&Aガイドライン■
https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/m_and_a_guideline.html

2 中小企業のM&Aを支援してくれる「七人の専門家」

七人の専門家

1)フィナンシャル・アドバイザー(FA)

フィナンシャル・アドバイザー(FA)は、M&Aの初期段階からクロージングまで案件全体のスケジュールを設定・管理する水先案内人のような役割を果たします。具体的には、

買い手か売り手の一方に対して、M&Aの対象事業や対象会社の探索に始まり、スキームの提案や契約交渉の助言・支援の他、M&Aに関する各種専門家の紹介、簡易な企業価値の算定など

を行います。ただし、FAの業務内容は会社の方針や個別ケースによって大きく違うので、個別に確認したほうが無難です。

中小企業のM&Aでは、銀行がFAを担当するケースが比較的多く、その他だと証券会社などとなります。また、顧問税理士を通じてM&Aが実現する場合だと、税理士がFAのような役割を果たすこともあります。

2)M&A仲介会社

M&A仲介会社は、M&Aの買い手と売り手をつなぐマッチングの役割を担います。具体的には、

買い手と売り手の間に立って、M&Aの初期段階からクロージングまで案件全体のスケジュールの設定・管理など

を行います。

支援内容はFAと似ていますが、利益が相反しがちな買い手と売り手の間に立って、中立的に業務を行うところに一方サイドに立つFAと大きく違う点があります。難しい立場でM&Aの実現を導くことになるため、双方が考える落としどころをうまく調整して話をまとめられるような経験と能力が必要です。

3)弁護士

弁護士は、M&Aを実現する際に必要な法的な問題点の洗い出し(法務デューディリジェンス(DD))や、M&A全体の手続きのコーディネートなどを行います。具体的には、

M&Aの対象事業や対象会社についてのDD、実行するM&Aのスキームの検討、M&Aの条件交渉、それを取りまとめる基本合意書・最終契約書の作成など

を行います。

4)司法書士

司法書士は、買い手または売り手の登記やその関連業務などを行います。具体的には、

議事録の作成、会社分割等の組織再編スキームを用いてM&Aを行う場合やM&Aに伴って会社組織等を変更する場合の登記(取締役会設置会社を非設置会社にする、株券不発行会社にするなど)、現役員が退任する場合の登記、新役員の選任等の登記など

を行います。なお、これらの業務を社内で全て行う場合は、司法書士は担当しません。

5)弁理士

弁理士は、特に買い手側の立場から、M&Aの対象事業や対象会社の知的財産権に関する調査などを支援します。具体的には、

知的財産権の権利範囲、ライセンス契約や職務発明規程はどのように整備・管理されているかなどの知的財産権の価値評価や、登録されている知的財産権について必要な変更手続きなど

を行います。なお、知的財産権の価値評価については、弁護士が担当することもあります。

6)公認会計士

公認会計士は、特に買い手側の立場から、財務デューディリジェンスなどを行います。具体的には、

企業価値の算定、財務的観点からの問題点の洗い出し、M&A後の収益見込みなどをシミュレーションした上での事業計画の作成支援など

を行います。

7)税理士

税理士は、特に買い手側の立場から、M&Aによって懸念される税務リスクの洗い出しなどを行います。具体的には、

将来発生するものも含めて法人税等のタックスプランニング(税務戦略)など

を行います。M&Aの規模が大きくなればなるほど、取引金額も相応になりますので、税務上のインパクトを勘案しておく必要があります。

8)その他

前述した専門家の他に、次のような専門家の支援が必要になることもあります。

  • 社会保険労務士:人事労務問題への対応
  • 行政書士:行政上の許認可関係の手続き
  • 不動産鑑定士や汚染調査会社:不動産の価値・土壌汚染の有無の調査など
  • ITコンサルタント会社:対象事業・対象会社のシステムの情報漏洩や情報セキュリティー上の欠陥の有無、システム統合をする上での課題の洗い出しなど
  • 中小企業診断士:M&A後を見据えた経営課題全般の助言

以上(2025年9月更新)
(執筆 リアークト法律事務所 弁護士 松下翔)

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画像:Mariko Mitsuda

【事業承継】経営理念など「知的資産」の承継で、経営者の思いと強さを引き継ぐ

1 知的資産の承継で「仏造って魂も込める」

事業承継の対象で「知的資産」と呼ばれるのは、

「経営理念、経営者の信用」など業種や規模に関係なく全ての会社にある競争力の源泉

です。事業承継において、人や資産を承継して器をつくっても、知的資産が承継されなければ「仏造って魂入れず」の状態に陥ってしまうため、経営者は知的資産を確実に承継しなければなりません。目に見えにくい知的資産の取り扱いは難しいのですが、例えば、

  • 後継者教育を通じて承継すること
  • 体制の整備で承継すること
  • 自社の把握によって明らかにし、承継すること

と整理すれば分かりやすいです。以降で順番に確認していきます。

2 後継者教育を通じて承継する知的資産

後継者教育を通じて承継する知的資産には、

「経営理念、組織力、経営者の信用」

があります。このうち経営理念については、

「事業承継とは【経営理念】の承継である」

と言う経営者がいるくらい、とても大切です。経営理念とは、会社の理想の姿であり、向かうべき目的地でもあります。経営理念がなければ、会社はまとまりがなく、また、向かうべき目的地も定まらないまま空中分解してしまうかもしれないからです。経営者には、「どのような会社にしたいか」という理想や、大切にしたい価値観があります。これは、経営上の意思決定において最も基本的かつ重要な指針であり、「会社らしさ」です。経営理念のように明文化されたものばかりではなく、暗黙のうちに組織内で共有されているものもあるので、経営者はきちんと言語化し、後継者に伝えましょう。この経営理念という力強い大黒柱があるからこそ、組織力が発揮され、経営者の対外的・対内的な信用につながるわけです。一方、「経営理念がない」という会社があるかもしれませんが、正しくは「経営理念として明文化していない」だけのことです。事業承継を機に後継者の思いも踏まえた経営理念を明文化し、社内に共有してください。

3 体制の整備で承継する知的資産

体制の整備で承継する知的資産には、「社員の技術や技能、ノウハウ、取引先との人脈、顧客ネットワーク」があります。

1)社員の技術や技能、ノウハウ

まず、社員の技術や技能、ノウハウについてですが、これは会社内の職務分析を通じて明らかにする必要があります。日々、社員が当たり前のように提供してくれるので気付きませんが、他社からうらやましがられるような素晴らしい技術や技能が自社にはあります。それをきちんと棚卸ししてください。

そして、ここが重要なのですが、

社員が「ヘソを曲げる」と技術や技能は十分に発揮されず、最悪の場合は社員の離職によって社外に流出する

ことです。残念ながら事業承継によってやる気を失う社員や離職する社員が出てくると思います。高い技術を持つ社員が反目に回っては困るので、必ず事前にケアしてください。一体感を高めるためには、全社的な取り組みとして会社の強みを棚卸しします。そして、その強みが価値の源泉であることを社員に伝え、「誇り」を持ってもらいます。また、事業承継にあたり、後継者を中心とする経営チームをつくることがありますが、重要な技術を所管する責任者を経営チームに加えることも検討します。

2)取引先との人脈、顧客ネットワーク

会社経営では、社内外との良好な関係が欠かせません。とはいえ、経営者が長年にわたって培ってきた信頼関係は、「後継者」という立場だけで自動的に引き継がれるものではありません。そこで経営者は、

後継者が、「社内の幹部、金融機関、取引先」とのコミュニケーションを深める場をセッティング

しましょう。例えば、経営者が頼りにしている社内の幹部と後継者を一緒に仕事させれば、互いのことがより深く理解できます。また、社外については金融機関や取引先などとの会談、会合に後継者を同席させ、必ず発言させるようにします。ここで重要なのは、主役はあくまでも後継者ということです。「まだまだ若くて、私が見ていないと……」と、経営者は後継者をフォローするつもりで言っているかもしれませんが、そんなことよりも後継者が真っすぐ話したほうが相手に伝わります。

4 自社の把握によって明らかにし、承継する知的資産

自社の把握によって明らかにし、承継する知的資産には、

「知的財産権、許認可」

があります。他の知的資産に比べると、最も分かりやすいものである半面、専門的なものなので、必要に応じて専門家に相談しながら整理しましょう。知的財産には、特許や商標などさまざまなものがありますが、著作権を除けば、権利化しないと守れません。そのため、

まだ権利化していない知的財産があれば、事業承継を機に、権利化を検討する

ことが大切です。

また、許認可については有効期間を確認しながら一覧にし、更新に抜け漏れがないようにしなければなりません。その際、

  • Pマークなど会社が取得しているものと、その担当者
  • 社員が取得している資格

の両方を整理することが大切です。

以上(2025年8月更新)

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画像:Mariko Mitsuda

脱炭素経営に取り組む事業者を募集! 徳島県の脱炭素社会推進事業


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徳島県の脱炭素社会推進事業で、脱炭素経営の伴走支援がスタート! 脱炭素経営に取り組む事業者を募集しています。

脱炭素に本気で取り組みたい方にとって、絶好の機会です。ご興味のある方はぜひ、お申し込みください。


【募集概要】

  • 伴走支援期間 令和7年10月~令和8年3月
  • 対象者 徳島県内に本社がある中小企業
  • 定員 3社
  • 募集期限 令和7年9月30日(火)まで

詳細のご確認とお申し込みは、下記URLからお願いいたします。


以上(2025年9月作成)