残業する社員を「頑張っている」と評価するのは違法? 今どきの人事評価のポイントを解説

1 「人事権の裁量の濫用」に当たる人事評価は違法

人事評価は、社員に「会社から評価された」という達成感を与え、モチベーション向上につなげる重要な制度です。しかし、上司(評価者)の主観を完全に排除することが難しく、

  • 好き嫌いで評価しているのでは?
  • 最近のミスだけが強調されすぎているのでは?

と受け取った社員が、不満から離職してしまうこともあります。とはいえ、社員の不満を恐れて甘く評価するのは健全とはいえませんから、上司はあくまで毅然とした評価をするべきです。

一方、もう一つ意識しておきたいことがあります。それは、

人事評価の内容が「人事権の裁量の濫用」に該当する場合は違法

になるということです。具体的には、

  • 残業している社員を「頑張っている」と高く評価する
  • 大きなミスをした社員を就業規則より厳しい降給にする

などのケースですが、こうした問題は、

働いている時間の長短を評価要素に組み込んでいたり、経営者や上司の鶴の一声で高評価も低評価も認められたりするような、昔ながらの感覚が残る会社で起こりがち

です。「人事評価は毅然とするべきであるが、違法はいけない」という、当たり前のことを実現するために、この記事を参考にしていただければ幸いです。

2 残業している社員を「頑張っている」と高く評価するリスク

人事評価の内容が法令に違反していれば無効であり、会社が損害賠償義務を負うこともあります。特に、次のような法令(強行法規)違反につながる人事評価は認められません。

  • 国籍・信条・社会的身分を理由に、労働条件について差別をする(労働基準法第3条)
  • 性別を理由に、賃金について差別をする(労働基準法第4条)
  • 性別を理由に、異動や契約更新について差別をする(男女雇用機会均等法第6条)
  • 妊娠・出産・育児休業・介護休業等を理由に、不利益な取扱いをする(男女雇用機会均等法第9条、育児・介護休業法第10条当)

妊娠・出産により育児休業等を取得した女性に対し、会社が復職後の成果報酬をゼロとする査定を行い、トラブルに発展した事案では、

査定の内容は、育児・介護休業法における不利益取扱いの禁止の趣旨に反し、人事権の裁量の濫用に当たる

と判断されました(東京高裁平成23年12月27日判決)。こうした過ちを起こさないための最も単純な解決策は、例えば、

  • 育児休業等をしている社員の人事評価は、前年度の評価を据え置く
  • 同等の等級にある社員の成果報酬査定の平均値を用いる

ことです。

また、

残業や休日労働に協力する社員を「頑張っている」と高く評価し、そうでない社員を「努力が足りない」と低く評価する

といったことがあるなら、すぐに改めましょう。

2024年4月からは、労働基準法の「時間外労働の上限規制」が、すでに適用済みの業種に加え、建設業や物流業にも適用されるようになりましたが(いわゆる2024年問題)、こうした法の趣旨に反する人事評価は、人事権の裁量の濫用に当たる恐れがありますし、そうでなくても社員のほうから、「時代に逆行している古臭い会社」と見切りを付けられる可能性があります。

3 大きなミスをした社員を就業規則より厳しい降給にする

就業規則や賃金規程にない基準、あるいは定めに違反する基準を用いて人事評価を行うと、人事権の裁量の濫用に当たる恐れがあります。例えば、賃金の決定方法は必ず就業規則などに定めて社員に周知・開示し、守らなければなりません。そのため、

いかに社員が大きなミスをしたとしても、就業規則などの定めを超える降給はできない

のです。

なお、人事評価によって降格された社員は降給となるのが通常ですが、前提は、

役職などと賃金が連動していることを就業規則などで明確に規定しておく

ことです。御社の就業規則などを確認してみてください。次のように定めてあれば問題ありません。

【就業規則の規定例】

第●条(昇格・降格)

会社は、社員に勤務成績不良など職務不適格事由がある場合、役職罷免、職位および資格等級の引き下げなどの降格を命ずることがある。

【賃金規程の規定例】

第●条(昇降給・昇降格)

  • 職務給の昇給・降給は、毎年1回、原則として4月に行うものとする。
  • 昇給・降給は、別表1(省略)に定める基準に基づき人事考課により決定する。
  • 職務等級の昇格・降格は、別表2(省略)に定める基準に基づき人事考課により決定する。この場合、昇格・降格後の役職と職務等級に基づき賃金を決定する。
  • 懲戒処分による降格および勤務成績不良等、職務不適格事由による人事権の行使としての降格の場合も、降格後の役職と職務等級に基づき賃金を決定する。

以上(2025年9月更新)
(執筆 三浦法律事務所 弁護士 磯田翔)

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徳島大正銀行のお取引先企業6社が東京で商談〜『食の魅力』発見商談会2025!!

2025年7月4日(金)、東京都立産業貿易センターで、「『食の魅力』発見商談会2025」が開催されました。来場者数2526名、出展者数156社と大盛況で終わったこの商談会には、「全国の地域食品生産・製造・販売等を行う事業者と首都圏を中心とした食品バイヤーとのマッチング機会の創出」という狙いがあります。2011年にスタートしたこの商談会に、徳島大正銀行は第1回目から参加しています。

1 『食の魅力』発見商談会ってどんな商談会?

1)商談会の主役は地域の食品メーカー

一般的な食の商談会は、出展者の規模やジャンルを問わず、食品に関連する事業者であれば出展ができますが、『食の魅力』発見商談会は、地域の食品メーカーのみ出展ができて、食品容器や資材等を扱う食品関連事業者は出展不可となっています。そうした意味では、選ばれた参加者による「濃い商談会」といえるでしょう。

2)来場者は食品バイヤーのみ(完全B to B)

一般的な食の商談会は、食品バイヤーに限らず、食品メーカーに営業をしたい資材メーカー(食品容器、機械等)、コンサル会社等多くの人が来場できます。『食の魅力』発見商談会は、食品バイヤーに限定しています。来場申込者の属性を確認し、食品バイヤーと認めた人のみが当日来場できるようになっています。こちらも、まさに成果を追求するからこその取り決めです。

他にも、

◆銀行・事務局による万全のサポート体制
◆事前予約制個別商談会
◆出展者×出展者マッチング

などの特徴があります。

2 徳島大正銀行のお取引企業が6社出展!

今回の商談会には当行のお取引先企業6社がご出展されました。

  • 株式会社農家ソムリエーず
  • 株式会社高松製菓
  • 株式会社ニシキランバー
  • 羊HOUSE
  • ヤマク食品株式会社
  • 株式会社ヨシダ

(注)イベントページの紹介順に掲載しています。

各社のご紹介動画はこちらから、ご覧いただけます!
(下の画像をクリックしていただくと、YouTubeに遷移します)


3 うれしい声が続々! お問い合わせも受け付けています!!

会場の風景や参加者からの声をお届けします。

会場の風景1

全国から156社が出展。初出展は58社。来場した食品バイヤーは2526名でした!

会場の風景2

会場では至る所で、商品の説明や試食、名刺交換、個別商談会が行われるなど熱気に溢れていました。

会場の風景3

個別商談会ブースで商談を行う出展者とバイヤー

事務局へ届いた【来場した食品バイヤーからの声】

  • 「普段直接お会いすることが無いメーカーさまと商談ができた」
  • 「地域のこだわりの商品が数多くあり、とても興味深かった」
  • 「出展者の熱意が高く、商品発掘の参考になった」

事務局へ届いた【出展された食品メーカーからの声】

  • 「来場した食品バイヤーの質が高く、確度の高い意見交換ができた」
  • 「出展者同士でも実りある商談・情報交換ができ、学びが多かった」

当行取引先さまブースには、常にたくさんのバイヤーが訪れ、商品の魅力を知っていただくことができました。嬉しいお声を聞くことができ、本商談会に大きな可能性を感じています。また、出展者とバイヤーの真剣な交渉を肌で感じ、本商談会と金融機関支援の必要性を改めて感じる機会となりました。

来場した食品バイヤー

(株)三越伊勢丹、(株)大丸松坂屋百貨店、(株)髙島屋、(株)小田急百貨店、(株)京阪百貨店、(株)明治屋、(株)成城石井、(株)イトーヨーカ堂、イオンリテール(株)、(株)パレスホテル、(株)西武・プリンスホテルズワールドワイド、(株)八芳園、キリンシティ(株)、サントリー(株)、(株)ローソン、三菱食品(株)、伊藤忠食品(株)、三井食品(株)、(株)日本アクセス、(株)カタログハウス、国分グループ本社(株)、(株)G7ジャパンフードサービス、(株)JR東日本商事、(株)JALUX等

「『食の魅力』発見商談会」についてのご相談は、お取引のある営業店にお問合せください。または、とくぎんサクセスクラブnaviのお問合せフォームからご連絡ください。

2027年4月からの新リース会計基準は中小企業にどう影響する?

1 新リース会計基準の影響を受けるのは、大企業だけじゃない

新リース会計基準は、2027年4月1日以降に開始する事業年度から、上場企業や会計監査人設置会社などの「大企業」を対象に強制適用されます。中小企業は任意適用ですが、次のように実質的に新基準を意識した会計対応が求められるため、無関係とはいえません。

  • 親会社が上場企業である場合(連結対象):親会社が上場企業である場合など、連結財務諸表に含まれるため、親会社の基準に合わせた会計処理が実質的に求められる
  • 金融機関や出資者などとの関係性を重視する会社:今後の成長戦略として上場やM&A、資金調達を検討している場合、財務の透明性を高めるために、適用が義務でなくとも、任意で新基準に沿った会計処理を選択することが求められる

新リース会計基準を適用した場合、経営への影響は数値の変化だけにとどまりません。会計処理の複雑化や、契約の洗い出し・再評価といった実務負担の増加、税務申告上の調整の発生など、財務・税務・経理の現場にも様々な対応が求められます。

この記事では、リースの借り手企業向けに、適用した場合の影響、新・旧リース会計基準との違い、税務上の取り扱い、そして今から講じるべき実務対応まで、段階的に解説していきます。

2 会計処理の大きな転換点 新・旧リース会計基準の違い

1)会計処理の違い

現行(旧リース会計基準)のリース取引は、

  • ファイナンス・リース:実質的に買うのと同じ性質(分割払いで購入しているのと同等の性質)を持つリース取引で、貸借対照表上の資産・負債の計上が必要(オンバランス処理)
  • オペレーティング・リース:上記のファイナンス・リース取引以外のリース取引で、貸借対照表上に資産・負債としての計上は不要で、毎年支払ったリース料を費用処理できる(オフバランス処理)

の2種類に分類されます。

新リース会計基準では、上記のような取引の区分がなくなります。

新・旧リース会計基準の違い

今まで支払ったリース料を費用処理するだけでよかったオペレーティング・リース取引についても、貸借対照表上に資産・負債を計上しなければならない処理が必要になります。なお、リース契約期間が1年以下の短期リースや、少額リースに該当するリース取引については、現行(旧リース会計基準)から変わりなく、リース料を費用で処理することが認められています。

2)対象となるリース取引の違い

現行(旧リース会計基準)では、契約書に「リース契約」と明記されている取引であれば、原則としてリース会計の対象とされてきました。つまり、形式的にリース契約であるかどうかが判断基準となっていました。

しかし、新リース会計基準では考え方が大きく変わります。契約書に「リース」と書かれているかどうかではなく、契約の実態が「リースの定義」に該当するかどうかが判断基準となるためです。新リース会計基準における「リース」とは、特定の資産を一定期間使用する権利を持ち、その使用に対価を支払う契約をいい、名称にかかわらずその条件に該当するものは、全てリース会計の対象となります。例えば、オフィスやコピー機などの賃貸契約、不動産の借上契約などは、契約上「リース」と明記されていなくても、内容がリースと判断されれば、リース会計の対象となります。

一方、従来はリースとはみなされなかった電力供給契約や業務委託契約なども、その契約の中に特定の設備の使用権が含まれていれば、リースに該当する可能性があります。つまり、新リース会計基準では適用対象となる取引の範囲が大きく広がることになります。ただし、全ての取引が対象となるわけではありません。使用期間が12カ月以下の短期リースや、1契約当たりの金額が非常に小さい少額リースについては、会計上の負担軽減のために、リース会計の対象外とすることが認められています。

短期リースとは、契約期間が1年以下で、更新の義務や選択権がない契約を指します。少額リースは、1契約当たりの資産価格が企業の会計方針で「重要性が乏しい」と判断される程度の少額資産を対象とします。これらについては、従来通り費用で処理することができます。

3 税務上の取り扱い

税務上の取り扱いは2025年度の税制改正により明示されました。税務では、オペレーティング・リースについて、現行の賃貸借処理から変更はなく、今まで通り支払ったリース料を損金とする処理が継続することになります。税務上の取り扱いをまとめると、

  • ファイナンス・リースについては、売買処理(資産・負債を計上し、減価償却費と利息費用が損金になる)
  • オペレーティング・リースについては、賃貸借処理(資産・負債としての計上は不要で、支払ったリース料が損金になる)

されます。

そのため、新リース会計基準を早期に適用した会社については、会計上の費用計上額(減価償却費と利息費用)と、税務上の損金(賃借料)に差異が生じることから、2026年度以降の税務申告書上で税務調整が必要になります。

4 適用を検討している会社が今から講じるべき実務対応

1)自社が新基準の影響を受けるかどうかの確認

まず、貴社が新リース会計基準の強制適用対象となるか(上場企業の子会社、会計監査対象など)を確認しましょう。対象外であっても、将来IPO(株式公開)を目指していたり、大型のM&Aを検討していたりする場合には、任意適用を視野に入れるべきかの判断が必要になります。

2)既存リース契約の洗い出しと、詳細の把握

現在締結している全てのリース、賃借契約(名称が「リース」でなくても、実態としてリースに該当する可能性のある賃借契約やSaaS契約なども含む)を洗い出し、契約内容を詳細に把握しましょう 。特に、リース期間やリース料総額、解約不能期間、残価保証の有無などを確認し、新リース会計基準の定義に照らして「リース」に該当するか、また「短期・少額リース」の簡便処理が適用できるかを判断しておきます。

3)経理業務の複雑化に備えた体制やシステムの準備

新基準への対応には、契約の識別、評価、会計処理、税務調整など、新たな業務プロセスと専門知識が必要になります。そのため、経理部門の教育や、必要に応じて会計システムの改修や新システムの導入などを検討し、実務負担の軽減を図る検討を始めましょう。

中小企業は、限られたリソースの中で新基準に対応するため、会計ソフトのアップデートだけでなく、AIを活用した契約管理システムなど、外部ソリューションの導入を積極的に検討すべきです。また、税務調整の複雑さや財務指標への影響を考慮すると、税理士や会計士といった専門家との連携を強化することが、適切な対応とリスク回避のために極めて重要となります。

4)必要に応じて金融機関など外部利害関係者との対話の準備

新リース会計基準が適用されると、これまで費用として処理していたリース契約の一部が、帳簿上では「使用権資産」(貸借対照表上の資産)と「リース負債」(貸借対照表上の負債)として記載されることになります。その結果、自己資本比率(会社の安全性を示す指標)やROA(資産を使ってどれだけ効率よく利益を出しているか)などの財務指標が、実態に変化がなくても悪く見えてしまうことがあります。

このような決算書の見た目の悪化は、外部利害関係者による融資判断や投資評価に影響する可能性があります。そのため、まずは新リース会計基準を適用した場合に、どのくらい財務数値が変動するかをあらかじめ試算(シミュレーション)しておくことが重要です。

また、必要に応じて、外部利害関係者に対し、「会計ルールの変更による財務指標の悪化が想定されますが、経営の実態は変わっていない」ことなどを事前に説明しておくと、誤解や不安を招かないですみます。

以上(2025年8月作成)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 公認会計士 仁田順哉)

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【事業承継】後継者に読んでほしい。自信を持って理想を追求しよう

1 先代からの授かり物ではなく、未来からの預かり物

後継者は望むと望まざるとに関係なく、先代が築いたさまざまな経営の資産を引き継ぎます。収益や負債、それ以外にも会社の雰囲気のような無形のものまで引き継ぎます。先代が抜群のカリスマ性で組織を率いていたら、後継者は自分にもカリスマ性があるか悩みますし、周囲も先代と後継者を比較します。

そのようなとき、後継者の選択は、

  • 先代のまねをする
  • 自分を出す
  • 最初だけ先代のまねをする

といったものです。例えば、「自分を出す」であれば、

「私は先代のようなカリスマ性はありませんので、全員で知恵を出し合いながら経営をしたいと思います。どうか力を貸してください」

などと宣言します。後継者は後継者であり、自由なのです。

ただし、一つだけ決して忘れてはならないことがあります。それは、

その経営の資産は、先代からの授かり物ではなく、未来からの預かり物である

ことです。先代が残してくれたものは、会社をさらに発展させて未来にバトンをつなぐために使うものなのです。

2 とはいえ、さまざまなプレッシャーが……

1)失敗をしてはいけない?

「自分は自分」と思っていても、会社が積み重ねてきた歴史はやはり重たいものです。老舗のブランド、積み上げてきた利益など、後継者はそれらを守らなければならないというプレッシャーを感じるでしょう。

厳しいようですが、これは後継者の宿命として受け入れるしかありません。また、新しいことにチャレンジしなければ老舗であっても潰れる時代ですから、「ブランドを守りつつ、新しいことにチャレンジする」という難しいかじ取りも求められます。これを実行した結果、一時、収益は落ち込むかもしれませんが、将来の飛躍のための通過点と割り切るくらいのハートの強さを持ってください。

2)この雰囲気を壊してはいけない?

特に中小企業の場合、社長の意向やキャラクターによって会社の雰囲気が決まります。今、先代の雰囲気で会社がうまく回っているとしたら、後継者はそれを壊したくないとプレッシャーを感じるでしょう。事業承継をきっかけに辞める社員が出ているようなら、なおさらです。

しかし、これは一過性のものなので安心してください。後継者は意識しなくても、後継者がそこにいるだけで、自然に後継者の雰囲気が会社になじんでいきます。また、ほんの一部の社員を除けば、社員は後継者が考えているほど過去の雰囲気に固執していませんし、深く考えてもいません。

3)取引を守らなければいけない?

当然ながら、これまでの取引を守らなければならないというプレッシャーを感じるでしょう。しかし、残念なことに、自社との取引を見直したいと考えていた先は、事業承継をきっかけに取引解消や値下げを申し出てくるかもしれません。いきなりタフな交渉となりますが、結果はどうあれ、やられっ放しは駄目なので、つらくても踏ん張って自身の存在感を示してください。

見方によっては、事業承継をしてすぐにタフな交渉に臨むことで、経営者としての胆力も鍛えられるでしょう。それに、事業承継を利用したいのはこちらも同じです。例えば、

先代の時代は人が手作業でやっていたことを、生成AIで代行できないか検討してもらう

など、取引慣習を見直す絶好のチャンスです。

いずれにしても、最初のうちは取引先と交渉する内容について先代に相談するようにしましょう。どういった経緯で現在の取引になっているのかが分かれば交渉を有利に進められます。

3 後継者が自分のために取り組んだほうがよいこと

1)メンターや仲間を持つ

困ったことがあったときに限らず、定期的に話を聞いてくれるメンターを持ちたいものです。全く別の視点からのアドバイスは、後継者にとって厳しくもあり、優しくもあります。メンターはさまざまな出会いの中で見つけます。「この人だ!」という人がいたらメンターになってほしいとお願いすればよいですし、経営者仲間から紹介してもらうこともできるでしょう。

また、よくいわれることですが、経営者は孤独です。それは、経営者の気持ちは経営者しか分からないところがあるからです。そこで、ぜひとも、利害関係のない経営者仲間を持ちたいものです。後継者教育の一環として大学院に通ったのなら、その同窓生は仲間になりやすいです。異業種交流会に参加して、気の合う経営者と仲良くなることもできます。相手も経営者仲間を探しているので、ハードルは高くないです。

2)サボらず勉強する

経営者は多忙ですが、勉強しない人はいません。「本を読む」「人から話を聞く」など、どのような方法でもよいので、ぜひ、最新で多様な情報に触れる機会を必ず持ってください。これを怠ると、本当にあっという間に時代に取り残され、周囲の話についていけなくなります。

なお、勉強するというと専門家のような知識を身に付けることを考えるかもしれませんが、そこまでの必要はありません。肝となる部分さえ押さえておけば大丈夫です。ただし、念のためにお伝えしますと、

本業については他を寄せ付けないほどの専門家

でなければなりません。

以上(2025年8月更新)

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画像:Mariko Mitsuda

【賃金データ集】 賃金体系・形態管理と支給額の検討

【賃金データ集】シリーズとは?

【賃金データ集】シリーズは、基本給や諸手当など賃金の主要な構成要素ごとの近年のトレンドを、モデル支給額を中心とした関連データとともに紹介します。経営者や実務家の方々が賃金支給水準の決定や改定を行う際の参考としてご活用ください。なお、モデル支給額などのデータを紹介する際は、基本的に出所に記載されている用語を使用するものとします。また、データは公表後に修正されることがあります。

この記事で取り上げるのは「賃金体系・形態管理と支給額の検討」です。

なお、以降で紹介する図表データのExcelファイルは、全てこちらからダウンロードできます。

こちらからダウンロード

1 所定内給与額の推移と賃金マネジメントの重要性

 2024年の男性の所定内給与額は36万3100円です。一方、2024年の女性の所定内給与額は27万5300円で、男性の所定内給与の75.8%の水準です。同じ計算をすると、1980年の女性の所定内給与は男性の58.9%の水準だったので、約40年間で16.9ポイント上昇したことが分かります。

所定内給与額の推移

2 賃金体系の管理

1)賃金体系の一例

賃金をマネジメントする上で、最初に知っておきたいのが「賃金体系」です。賃金体系とは、賃金の要素である基本給や諸手当の組み合わせのことです。賃金体系を理解することで賃金の全体像が把握できるようになります。

賃金体系の一例

2)基準内賃金

現金給与の「毎月きまって支給する給与」の中心は「基準内賃金」で、概要は次の通りです。

通常の労働に対して支払われる基本給や諸手当のことで、基準外賃金の算定基礎になるもの

なお、諸手当のうち、家族手当、住宅手当、通勤手当などは基準外賃金の計算の基礎から除外できるため、基準内賃金に含めないケースがあります。

また、基準内賃金と似た言葉に「所定内給与(賃金)」があります。基準内賃金と所定内給与はほぼ同義ですが、所定内給与は企業が就業規則などに定めた所定労働時間の労働に対する賃金で、家族手当、住宅手当、通勤手当などが含まれます。

1.属人給、仕事給、総合(決定)給

基準内賃金の中心は「基本給」です。基本給は次のように大別されますが、一般的なのは属人給と仕事給です。

  • 属人給:年齢など労働者の属人的な要素によって決定される賃金
  • 仕事給:業績・成果や保有能力など仕事に関係する要素によって決定される賃金
  • 総合(決定)給:勤続年数と担当職務を評価する賃金

基本給の要素を属人給と仕事給に振り分けることが難しい場合、「本給」などの名目で設定されるのが典型ですが、運用しやすい一方、評価基準が曖昧になりがちという問題があります。

基本給の区分

2.基本給の体系

基本給の体系は、属人給や仕事給などをどのように組み合わせるかによって次のように大別されます。

  • 単一型体系:1つの基本給の要素によって構築された体系
  • 併存型体系:複数の基本給の要素によって構築された体系

単一型体系の場合、「研究職は100%職務給」「営業職は100%成果給」といった運用ができますが、配置転換で職務が変更された場合、労働者がケガなどをした場合などに問題が生じるため、これを導入する企業と対象となる労働者は限られます。このような事情から、多くの企業は併存型体系を導入しており、属人給と仕事給の割合を調整することで賃金制度をマネジメントしています。

3)基準外賃金

現金給与の「毎月きまって支給する給与」のもう1つの要素が「基準外賃金」で、概要は次の通りです。

通常の労働以外に対して支払われる賃金で、時間外労働手当(いわゆる「残業手当」)など

基準外賃金は、通常よりも割り増しした金額を支払わなければならず、その割増率は労働基準法で定められています。いわゆる「残業」が慢性化している企業では、基準外賃金が大きな負担になります。特に、2023年4月1日からは、中小企業に対する割増賃金率の猶予措置が廃止され、従業員の残業(時間外労働)が1カ月で60時間を超える場合、その時間については50%以上の割増賃金の支払いが必要になったため、注意が必要です。

また、基準外賃金と似た言葉に「所定外給与(賃金)」がありますが、これは基準外賃金と同じ意味です。

3 賃金形態の管理

1)賃金形態の種類と賃金支払いの5原則

賃金は労働の単位(時間や出来高)に応じて支払うという考え方があり、それを類型化したものが「賃金形態」です。具体的には、次のようなパターンがあります。

  • 時間給、日給、月給など時間によって計算されるパターン
  • 出来高給のように販売個数などによって計算されるパターン

賃金形態を管理することで、雇用形態(正社員やパートなど)、職務の難易度、成果を上げるまでの期間などに応じて賃金をマネジメントしやすくなります。

注意が必要なのは、労働基準法の「賃金支払いの5原則」です。賃金支払いの5原則は次の通りで、一部、例外があるものの、順守しなければなりません。そのため、年俸制を導入した場合でも、年俸を12等分して毎月支払うことになります(賞与を支払う場合はさらに細かく分けて賞与相当分を確保します)。

  1. 通貨払いの原則
  2. 直接払いの原則
  3. 全額払いの原則
  4. 毎月1回以上払いの原則
  5. 一定期日払いの原則

2)賃金形態の状況

厚生労働省「平成26年就労条件総合調査」によると、主な賃金形態で最も割合が高いのは「月給」の80.9%です。

賃金形態の状況

4 賃金支給額を決定する際の視点とこれまでの変遷

1)賃金支給額を決定する際の視点

労働者が労働力を提供し、企業がその対償として賃金を支払うことは労働契約の基本です。賃金支給額はこの点を前提としつつ、次の視点を考慮して決定されます。

1.企業の賃金支給能力(コスト)

労働者の労働力を購入するという「人件費」の視点です。他のコストと賃金(人件費)を全く同様に捉えることはできませんが、賃金が販売費・一般管理費(製造業などでは売上原価)の多くを占めているのは事実であり、これを適正水準に保つ必要があります。

2.労働力の市場価値

賃金には、労働力の需給状況に応じて変化する市場性があります。具体的には、労働者数全体、特定の業界の就業者、特定の技能の習得者などが変化の要因になります。現在のような「売り手市場」だと、一般的に賃金は上昇します。

3.他社の支給額

賃金は企業規模、業種、地域によって支給水準が異なります。この水準を下回ると労働者の不満足につながり、他社に転職してしまうこともあります。企業は、モデル賃金に関する情報を収集し、自社との違いを確認しておく必要があります。

4.雇用を巡るトレンド

景気動向、雇用環境、人事制度の変化などによって賃金のトレンドが生じます。分かりやすいのは、人手不足への対策として賃上げを検討するケースです。

5.労働者の生活保障

賃金は労働者にとって「生活の糧」であり、労働者の年齢、家族構成、居住地域などを考慮する必要があります。

6.労働者の貢献度

企業への貢献度は、労働者の職務遂行能力、担当職務の難易度、具体的に達成した成果(売り上げや研究成果など)などによって変わるため、これを加味して賃金を決定します。

7.利益分配

企業業績に連動し、利益分配の意味合いで支給する賃金です。毎月きまって支給される「業績給」と、臨時的に支払われる「賞与・期末一時金」の場合があります。

2)日本企業における賃金制度の変遷とこれからの動き

賃金支給額は前述した視点を考慮した上で決定され、それを実現するための仕組みが賃金制度として構築されます。これまでの日本企業の賃金制度は、その時々の状況に応じて年功主義から能力主義・成果主義へと変化してきました。主な流れを、基本給の構成要素の変化を中心に確認してみましょう。

1.年功主義(年齢給、勤続給)

戦後の日本の賃金体系に大きな影響を与えたのが、1946年に電力関係企業の労働組合が提案した、いわゆる「電産型賃金体系」です。これには、労働者の年齢、家族構成、勤続年数などに重きを置いた、生活防衛的・安定的な賃金制度であるといった特徴があり、基本給の中心は「年齢給」「勤続給」でした。

電産型賃金体系には、「職能給」などといった能力給も組み込まれてはいるものの、その割合はそれほど高くありませんでした。

2.能力主義(職能給、職務給)

家族構成や勤続年数などによって賃金の大部分が決定される電産型賃金体系への不満が高まり、1950年代後半から1980年代にかけて、基本給に「職能給」「職務給」が取り入れられるようになりました。

中でも職能給は、いわゆる「職能資格制度」として多くの日本企業に定着しました。しかし、職能資格制度が年功的に運用されるようになり、能力主義がほぼ有名無実化し、問題となりました。

3.成果主義(成果給、業績給)

1990年代に入ると、脱年功主義がより鮮明なものとなり、成果主義が注目されるようになりました。ここで基本給の要素として注目されたのが、「成果給」「業績給」です。

成果主義では、従業員が個人(あるいはチーム)で目標を達成するために取ったプロセスとその結果を評価するのが基本です。しかし、1990年代当時は、結果を必要以上に重視する企業が多く、「過酷な目標設定による従業員のストレス過多」「自分の成績につながらない仕事を嫌う従業員の発生」「確実に達成できそうな低い目標を掲げる従業員の発生」などの問題が生じ、多くの企業で成果主義の導入は失敗に終わりました。

もっとも、近年は業務管理ツールの発達に伴い、評価の中心を結果に置きつつ、プロセスについてもある程度評価する、バランスの取れた成果主義を導入している企業もあります。

5 賃金支給額を決定する際の考え方

賃金支給額を検討する際は「適正人件費」に注目します。適正人件費の算出方式はいくつかありますが、例えば、「売上高×付加価値率×労働分配率」によって求めます。付加価値は売上高から原価(製造業は材料費や外注加工費、小売業は売上原価)を差し引いたもので(業種によって異なります)、その割合が付加価値率です。また、労働分配率とは、付加価値に占める人件費の割合です。自社の過去3年分のデータと将来の利益目標を参考に付加価値率などを設定すれば、適正人件費の目安を把握することができます。

付加価値率

また、世間相場を確認するためには、自社の「適正人件費」だけではなく、他社の賃金支給状況も確認します。世間相場と大きな違いがある場合は、必要に応じて見直しを検討します。

1)売上高労務費比率、売上高人件費比率

中小企業庁「令和5年中小企業実態基本調査(令和4年度決算実績)」によると、合計の売上高労務費比率は6.43%、売上高人件費比率は9.67%です。

合計の売上高労務費比率

売上高人件費比率

2)賃金支給額

厚生労働省「令和6年賃金構造基本統計調査」によると、企業規模計、産業計の「きまって支給する現金給与額」は35万9600円で、そのうちの33万400円が所定内給与額です。差額の2万9200円は時間外労働手当などです。また、「年間賞与その他特別給与額」は95万4700円です。

賃金支給額<

6 情報インデックス(この記事で紹介したデータの出所)

この記事で紹介した統計資料は以下の通りです。調査内容は個別のURLからご確認ください。なお、内容はここ数年の公表実績に基づくものであり、調査年(度)によって異なることがあります。

■賃金構造基本統計調査■
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/chinginkouzou.html

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■就労条件総合調査■
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/11-23.html

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■企業活動基本調査■
https://www.meti.go.jp/statistics/tyo/kikatu/

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■中小企業実態基本調査■
https://www.chusho.meti.go.jp/koukai/chousa/kihon/

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以上(2025年8月更新)

pj17901
画像:ChatGPT

企業の未来図「中期経営計画」を立ててみよう

1 中期経営計画とは何か

中期経営計画とは、企業が3~5年後にどのような姿になっていたいのかを描き、その実現に向けて現状を整理し、必要な施策を決める計画です。変化が激しい時代には、企業の進むべき方向を社内外に共有し、目線を合わせる役割があります。

中期経営計画で示される3~5年の活動は、単年度の事業計画にも落とし込まれます。年度ごとの売上目標・製品販売個数などに反映することで、「将来あるべき姿」の達成に向け、具体的にどのような行動を起こせばいいかが定まってきます。

企業によりますが、中期経営計画は、基本的には以下の図のような手順で策定します。

中期経営計画の策定手順

この記事では、中期事業計画の事前準備から策定、運用に至るまでの一般的な流れと、そのポイントをご紹介します。

2 フレームワークを活用して、現状分析をしてみよう

1)現状分析で活用できるフレームワークとは

中期経営計画を策定するには、まず自社の現状を確認し分析することが必要です。ここでは

  • 外部環境を分析する「PEST分析」
  • 顧客(市場)・競合・自社の現状を洗い出す「3C分析」

の2つのフレームワークを紹介します。自社を取り巻く環境について確認することが、中期経営計画策定に向けた第一歩です。

他にも外部環境・内部環境の分析に使えるフレームワークとして、自社の強み・弱みを確認する「SWOT分析」、業界の競争環境を分析する「ファイブフォース分析」などがあります。

2)PEST分析

PEST分析は、自社を取り巻く外部環境のうち、政治や経済といった世の中の大きな流れを整理し、確認するフレームワークです。「PEST」(ペスト)は、分析する4つの項目の頭文字を表しています。

  • 政治(Politics):政府の方針、法改正などの動向
  • 経済(Economy):景気、価格変動などの動向
  • 社会(Society):社会的な背景、世論などの動向
  • 技術(Technology):技術革新、代替技術などの動向

項目ごとに現状を洗い出し、それが自社にとってプラス(↑)なのかマイナス(↓)なのかをまとめます。分析を重ねていけば、単に現状を理解するだけでなく、これからの時代の変化を予測するのにも役立ちます。

PEST分析

3)3C分析

3C分析は、顧客(市場)・競合・自社の現状を洗い出すフレームワークです。顧客(市場)のニーズや、競合に対する自社の優位性といった現状を把握するための基本となるものです。それぞれ確認する主な指標や項目などは次の通りです。

  • 顧客(市場)(Customer):市場規模、成長性、購買動向、ニーズの変化など
  • 競合(Competitor):販売実績、販売価格、新製品開発、営業戦略など
  • 自社(Company):市場シェア、技術力、営業力、収益性、安全性、生産性など

3C分析では、市場規模・販売実績・市場シェアなどの定量面と、顧客(市場)のニーズの変化・競合の営業戦略といった定性面の両方を洗い出します。特に難しいのは定性面ですが、現場の営業担当者が持っている情報や、顧客アンケートなどを活用すると理解が深まります。

3C分析

PEST分析や3C分析などを活用して現状を把握する際は、財務省「貿易統計」、内閣府「景気動向指数」、総務省「国勢調査」などの公的データに加え、新聞、インターネット、関係各所へのヒアリングなどが必要です。

3 戦略策定の要は「事業ドメイン」

1)事業ドメインを検討する

現状分析で自社の立ち位置を把握したら、自社が勝負する事業領域である「事業ドメイン」を決めます。創業時などを除けば、既に事業ドメインは決まっていることが多いでしょう。そのため中期経営計画を策定する際には、現状分析に基づいて、「事業ドメインを見直すかどうか」を検討します。

事業ドメインの決定や見直しは、企業が今後成長していくための“要”です。何もかも経営者1人で決めず、日々現場でビジネスを進めている社員の、自社に対する意見をよく聞くことも大切です。

2)アンゾフの成長マトリクスで戦略を策定

今後の成長戦略を考える際には、「アンゾフの成長マトリクス」が有効です。市場(既存・新規)と製品(既存・新規)の組み合わせによって、次の4つの戦略が考えられます。

アンゾフの成長マトリクス

「既存市場×既存製品=市場浸透」は、これまでの自社のノウハウを活かしやすいこともあり、成功率が高い戦略といわれています。具体策としては、新しい提案方法で使用量を増やすなどが考えられるでしょう。

「新規市場×既存製品=新市場開拓」は、例えばターゲットの拡大です。既存製品を使って他の顧客(市場)を開拓するので、既存製品に対するニーズがありそうな顧客(市場)を見極める力や、営業力の強化が必要になるでしょう。

「既存市場×新規製品=新製品開発」は、既存顧客の潜在ニーズの掘り起こしが求められるでしょう。

「新規市場×新規製品=多角化」では、思い切った新規事業開発が必要になるかもしれません。

こうして全体的な方向性が決定した後は、それを実現するためのマーケティング戦略や人材戦略などを個別に決めていくことになります。個別の戦略策定では、どこに経営資源を集中させるかという点を重視するとよいでしょう。

4 計画立案は「課題」と「数値」がポイント

1)盛り込むべき内容

戦略策定の後、いよいよ具体的な計画を立案します。まずは、ビジョンの実現に向けて解決すべき課題を、時間軸とともに盛り込んでいくのが分かりやすいでしょう。次のような項目などで資料に落とし込むイメージです。

盛り込むべき内容

具体的な計画立案では、活動計画に落とし込んでいくのが大変です。そこで、「理由:なぜこの課題を改善するのか」「手段:改善するために必要なことは何か」などを整理していきます。

例えば、「理由:新規市場開拓に注力するためには営業面の人材確保・育成が課題」「手段:既存の営業担当者の社外研修、新しい営業担当者の採用枠拡大」といったことが考えられるでしょう。

改善する課題は企業によって違いますが、課題となりやすいのは売上増大や管理者層の育成、資金繰りなどです。現状分析に基づく自社の課題に加え、日本政策金融公庫「事業計画書」などを参考にすると、抜け漏れがなく課題を考えられるでしょう。

課題の例

2)数値計画を踏まえた経営計画

計画立案では、これからの活動を具体的な数値に落とし込みます。企業の状況にもよりますが、「営業利益」がポイントの1つです。3~5年先には「本業でどれだけもうけられるようになっていたいか」を念頭に、数値計画を立てていきます。

数値計画

ただし、数値が一人歩きするようではいけません。3~5年先のビジョンを達成するため、「いつ、どのような課題を解決するか」「どのように営業利益を伸ばしていくか」といった活動計画と連動させると、具体的な経営計画となります。

5 中期経営計画を運用していくための4つのポイント

1)経営者が自ら全社員に伝える

まず、中期経営計画の内容を、経営者が全社員に伝えることが大切です。外部環境・内部環境から自社の置かれている現状を説明し、「なぜこのような中期経営計画が必要なのか」というところから話します。

このとき、ビジョンをしっかりと伝えましょう。例えば、「今から10年後の203X年に、我が社は○○のような姿になっている」と理想を語り、社員に夢を持たせるのもよいでしょう。

2)責任者を明確にする

活動計画に含まれるプロジェクトやタスクには、それぞれ責任者を割り当てます。責任者はそれらを進行し、経営者に進捗状況を報告します。経営者は責任者と話し合い、「いつまでに」「何をするか」を決め、ガントチャートを作成しておくとよいでしょう。こうして責任者を明確にしておけば、「計画は立てたものの、誰も何も動いていなかった」という事態を防げます。

また、細かな確認のためにプロジェクトなどの進行が止まらないように、責任者にはある程度の権限を与えることも必要です。

3)進捗を確認できる仕組みをつくる

進捗を確認できる仕組みをつくります。例えば、毎月1回、責任者を集めて報告会を行うようにします。オンラインミーティングが定着した今、地理的に離れた場所にいる責任者ともコミュニケーションが取りやすくなりました。事前に動画や資料で状況を報告してもらうことで、責任者が順番に話す単なる報告会ではなく、その場で議論ができるようになります。

4)月次決算を行って予実管理をする

月次決算は、中期経営計画の達成度合いを把握するのに有効です。とはいえ、年度末の決算書のようなルールがないので、数値計画と照らし合わせやすいように、売上や利益であれば取引先別・製品群別に管理するなどの工夫が必要です。いわゆる「管理会計」の分野です。

ただし、管理会計は凝り過ぎると実務負担が大きくなるので注意しましょう。売上原価を管理する場合はあまり科目を細かくせずに、固定費と変動費の内訳がおおよそ分かるくらいのレベルでよいでしょう。

6 中期経営計画にとって本当に必要なもの

中期経営計画は策定して終わりではなく、実行、つまり具体的な行動が伴わなければ意味がありません。また、行動の内容は外部環境・内部環境の変化などに応じて柔軟に見直す必要があります。その時々の状況によって優先すべきことは変わってくるからです。

また、市場環境が大きく変化した場合は「将来あるべき姿」そのものを見直さざるを得ないこともあります。企業にとって、「将来あるべき姿」はとても重要ですが、企業経営では、多角化によって事業ドメインそのものを変えなければならないこともあります。こうした大きな方向転換は大変なことです。

とはいえ、「事業ドメインそのものを変えるべき」なのに、その変化に気付かず進んでしまうことのほうが問題です。「将来あるべき姿」を決めたからといって、必ずそのゴールにたどり着かなければならないわけではないのです。

中期経営計画を策定した後は、常に「本当にこれが自社にとって正しいのか」を客観視する目を持ち、変化を捉え続ける努力が求められます。こうした努力こそが、中期経営計画を支え、企業の未来をつくっていくのです。

以上(2025年9月更新)

pj80018
画像:takasu-Adobe Stock

【朝礼】ナイチンゲールは「統計」の力で医療を変えた

【ポイント】

  • ナイチンゲールは、戦争における病院の劣悪な環境を訴えるため、統計学の知識を使った
  • 彼女は「死亡者数という客観的な根拠」を「グラフという分かりやすい形」で示した
  • 正しいだけでは人は動かない。「相手に納得してもらうための工夫」が不可欠

おはようございます。今日は、フローレンス・ナイチンゲールの話をしたいと思います。ナイチンゲールと聞くと、多くの方は「看護の母」というイメージを持たれるかもしれません。実際、彼女は19世紀のイギリスで、看護という仕事を人々に尊敬される職業へと変えた先駆者です。

しかし、彼女のすごさは、それだけではありません。実は彼女は、「統計」の力で多くの兵士を救った人物でもあるのです。ナイチンゲールが活躍したクリミア戦争では、多くのイギリス軍兵士が命を落としましたが、その主な原因は戦傷ではなく、病院の劣悪な環境下で発生する感染症でした。上流階級の家庭に生まれ、統計学の知識があったナイチンゲールは、戦死者・傷病者に関する多くのデータを分析し、「病院の衛生状態の改善」が必須であることを本国に訴えたのです。

なかでも画期的だったのが、本国への報告の際、当時としては珍しかった「グラフ」を用いたことです。ナイチンゲール自身は統計に強くても、国会議員や役人はそうではありません。だから、彼女は初心者にも分かりやすいよう、1カ月ごとの死亡者数をその原因ごとに色分けして円グラフにしたのです。その結果、多くの人が「病院の衛生状態の改善」が必須であることを認識し、抜本的な感染症対策が実施されました。そして、40%以上あった兵士の死亡率は数%台まで下がったのです。

ナイチンゲールは、看護という仕事において、自分が兵士を救うために何をできるのかを真剣に考え、行動しました。それだけでも尊いことですが、1人の力でできることには限界があります。彼女が病院の在り方を根本から変えるには、多くの人々の協力が必要でした。だから、彼女は「死亡者数という客観的な根拠」を、「グラフという分かりやすい形」で示すことで人々を納得させ、協力を取り付けたのです。

皆さんも社内外で話をする際、「こうするのが正しいのに、なんで伝わらないんだ」とモヤモヤすることがあるかもしれませんが、仮に皆さんの意見が正しいとしても、それだけでは人は動きません。大切なのは「相手に納得してもらうための工夫」です。ナイチンゲールのように常に人に寄り添う姿勢を忘れず、頑張っていきましょう。

以上(2025年10月作成)

pj17232
画像:Mariko Mitsuda

【オーナー企業の事業承継(9)】 MBO・ファンド・M&Aを活用した事業承継対策

1 親族内に後継者がいない場合はどうするのか

オーナーの事業承継を検討するに当たって、親族内に後継者として適当な人材がいない、あるいは、いても当人の承諾が得られないケースも見受けられます。

また、親族内での承継にこだわり過ぎて強引に事業承継を行い、かえって後継者にも会社にも悪影響を与えてしまうこともあります。

親族内に適当な後継者がいない場合に考える選択肢として、MBO、ファンド、M&Aの手法を用いた対策があります。それぞれの効果や留意点を認識し、自社に合った対策案として検討してみてください。

2 MBOを活用した事業承継対策

1)MBOとは

MBOとは、

Management Buyoutの略称で、経営陣(役員)が事業の継続性を前提に自社株式を買い取り、オーナー経営者などとして独立する行為

をいいます。

また、従業員が自社株式を買い取る場合はEBO(Employee Buyout)といいます。なお、この記事では一般的に用いられているMBOについて説明します。

MBOは、親族内に適当な後継者はいないけれど、社内に有能な役員がいる場合などの事業承継対策として活用することができます。

MBOを活用した事業承継の流れ(一般的なスキーム例)は次の通りです。

MBOを活用した事業承継の流れ

2)対策のポイント

通常は自社株式購入のための自己資金が不足するため、金融機関などから不足資金を調達する必要があります。しかし、後継役員などの個人では借り入れの返済原資が乏しいことから、新たに設立する受け皿会社が金融機関などから借り入れを受けて、株式を取得するケースが多く見られます。

MBOでは、後継役員自身が株式購入資金の準備手続きを行わなければなりません。特に金融機関などからの借り入れで資金を賄う場合は、事業の継続や成長の源泉となる商品、技術、販売力、人材などに関して十二分に説明し、借り入れ条件などを綿密に調整・確認することが重要となります。

また、子会社化される事業会社と受け皿会社との資本関係を100%とするなど一定の要件を満たすことで、受け皿会社が事業会社から受け取る配当金には課税されません。そのため、配当を生み出す事業会社の事業収益を借入金の返済原資として有効に利用することができます。

3)対策のメリット

MBOを活用した事業承継対策のメリットは次の通りです。

  • 親族内に後継者がいない場合でも、第三者によるM&A(詳細は後述)の手法を用いることなく、事業を承継することができる
  • 事業の承継者が会社の事業実態を熟知している現経営陣(役員など)であることから、円滑に事業を承継することができる
  • 現経営陣(役員など)がオーナー経営者となることで、一層の責任感を持って会社の経営に取り組むこととなり、また、従業員の雇用も確保され、経営陣と従業員の一体感や企業風土といった会社の独自性も維持していくことができる
  • 現オーナーにとっては換金性の乏しい非上場株式を換金することができ、オーナーの親族は、その現金を将来の相続における相続税の納税資金に充当することができる

4)対策のデメリットと留意点

MBOを活用した事業承継対策のデメリットと留意点は次の通りです。

  • 受け皿会社が金融機関などからの借り入れで資金調達をする場合、事業性の評価次第では、後継役員などが個人の連帯保証や担保提供を要求されることある
  • 承継する事業会社は多くの場合、既に金融機関からの借り入れがあり、通常はオーナーがその債務を連帯保証しているため、後継役員などはその債務についても承継しなければならないことがある。そのため、後継役員などの理解を得たり、金融機関との調整で、多くの時間を費やしたりすることともある
  • 後継者候補が複数いる場合に誰を後継者に選択するかによって、その後の経営幹部内での争いのもととなる恐れがある

3 事業承継を目的としたファンドを活用した対策

1)ファンドとは

ファンドとは、

投資家から資金を集めて株式などに投資して運用を行う仕組み

をいいます。

ファンドにはさまざまなタイプがありますが、その投資スタンスの決め手となるのが資金の出し手となる投資家です。

一般に地域の金融機関や国内の年金基金などから資金を集めているような場合は、中長期的に経営者と二人三脚で企業の成長を支援するというスタンスのファンドが多いようです。

ファンドを活用した株式承継の流れ(一般的なスキーム例)は次の通りです。

ファンドを活用した株式承継の流れ

なお、「普通株」とは一般的に通常売買、保有されるような株式で議決権があり、また、配当がもらえる権利があるような株式をいいます。これに対して

「優先株」は普通株よりも配当を優先的に受けることができたり、倒産などの際に残余財産を優先的に受け取ることができたりする一方で、議決権がないような株式

をいいます。

現在、株式の内容は配当、議決権、償還、普通株への転換、残余財産分配に関して自由に設計することができるため、名称は同じ「優先株」であっても全く内容が異なっている場合もあるので、活用においては株式の内容をよく確認する必要があります。

なお、種類株式の詳細については、下記のリポートをご参照ください。

2)対策のポイント

株式を譲渡する際の株価は、後継者が中心となって策定する事業計画を根拠としてDCF(ディスカウント・キャッシュフロー)法などにより算定されます。DCF法とは、会社が将来生み出すフリー・キャッシュフロー(純現金収支)を、一定の割引率で割り引いた現在価値に基づき株式の価値を評価する方法です。従って、調達した資金について、一定期間で無理なく返済ができるような事業計画を策定することが重要です。

また、一口に「ファンド」といっても、事業承継をサポートするファンドは世の中に多く存在します。これらのファンドの性格はファンドマネジャーやその出資者の属性によって大きく異なっており、どのようなファンドと付き合うのかは対策を行う上での重要なポイントです。

そのため、入り口の段階において、高い価格で株式を買い取ってもらえたとしても、その後、後継者には不本意な形で経営権を取られてしまったということがないように、次のポイントなどを確認し、ファンドの性格を理解する必要があります。

  • 投資に対する方針
  • ファンドマネジャーの信頼性
  • 出資者の属性

3)対策のメリット

事業承継を目的としたファンドの活用による対策のメリットは次の通りです。

  • 換金性の乏しい非上場株式を換金することで、オーナーの自由に使える資金が増え、将来の相続税などの納税資金としての活用も可能となる
  • 買収目的会社を設立する際の普通株への出資は少額でも可能なため、会社の将来を担う人材を中心に、新しい世代へと株式保有者を再構成することができる

4)対策のデメリットと留意点

事業承継を目的としたファンドの活用による対策のデメリットと留意点は次の通りです。

  • 通常は、事業計画の達成状況についてファンド運営者によるモニタリング(定期的な事業計画の実行状況の確認)が行われる。実際のモニタリングの内容は会社の状況によって異なるが、モニタリングを通して、経営管理面の強化と成長企業への脱皮を求められる
  • 事業計画を下回るような状況が継続するような場合には、後継者による経営に一定の制限が加えられることがある。そのため、事前に作成する事業計画は、後継者が確実に遂行できる内容にする必要がある

4 M&Aを活用した事業承継対策

1)M&Aとは

M&Aとは、

Mergers and Acquisitionsの略称で、企業の合併・買収を総称し、事業承継においては、外部資本(第三者)がおおむねの株式を買い取り、事業を継続する行為

をいいます。M&Aを活用した事業承継対策の流れ(一般的なスキーム例)は次の通りです。

M&Aを活用した事業承継対策の流れ

2)対策のポイント

M&Aにより会社を売却する場合、次のような状況にある会社が売却しやすい(売却しにくい)とされています。売却しやすい会社と売却しにくい会社は次の通りです。

売却しやすい会社と売却しにくい会社

なお、業績が好調な時期に譲渡する経営者が意外に多いようです。事業で成功している経営者は決断力があるといえるのかもしれません。

中には、いざとなって最後の決断ができず自ら交渉を破談にしながら、後々になって業績が悪化し、再度、売却を検討したが当初の条件からは大きく後退してしまい、悔やむオーナーもいます。そのため、M&Aの決断には経営者の資質が問われるのです。

3)対策のメリット

M&Aを活用した事業承継対策のメリットは次の通りです。

  • 廃業や会社清算と比べると税金の面で有利で(後述)、従業員の雇用、顧客を守ることができる
  • オーナーは会社の借り入れに対する連帯保証や担保提供が必要なくなる
  • 一般的には株式の売却や退職金の受領、会社に対する貸付金の回収といった形で、株主や役員は大きな現金収入を得ることができる

4)対策のデメリットと留意点

M&Aを活用した事業承継対策のデメリットと留意点は次の通りです。

  • 情報の漏洩など、不適切な形でM&Aに関する情報が開示されると、従業員の不安感の増大と、退社のリスクや経営不安などの噂の流布による営業面でのリスクなどに直面する可能性がある
  • M&Aの前後において、売却先との企業文化の相違により、社内のモチベーションが低下してしまうリスクがある

5)M&Aと清算の比較

M&Aは、会社を清算した場合と比べて税金面などで有利になります。M&Aの場合と清算の場合の株主の手取り額の比較は次の通りです。

M&Aと清算の比較

M&Aの場合は清算の場合と比べると、株式の譲渡益に対する20.315%の課税だけで済むため、税金面では有利といえます。清算の場合は法人の含み益に対して法人税が課税され、さらに個人の手取り金に対して配当所得として他の所得と合算して総合課税されるため、金額が大きい場合は49%程度の高税率で課税されることが多くなります。

また、清算の場合には、実際の資産処分価額はM&Aの場合の評価額を大きく下回ります。清算手続きに入り、資産を実際に処分する際には機械装置などの移設ができないものはスクラップ価格となってしまいます。

逆に業績の良い非上場企業のM&Aの場合は営業権が資産額に加算されるため、通常は、

時価純資産評価額+営業権

で株価が評価され、清算の場合よりも圧倒的に有利となります。時価純資産評価額と営業権は次のように計算します。

  • 時価純資産評価額=会社の資産(時価評価)-負債(時価評価)
  • 営業権=税引き後利益(過去3~5年の平均)×年数(目安:3~5年)

以上(2025年8月更新)
(監修 辻・本郷税理士法人 税理士 安積健)

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画像:soo hee kim-shutterstock

【9月12日】公益社団法人徳島県産業国際化支援機構主催! 第1回 商品開発実践セミナー


↑クリックで拡大表示↑

徳島県産業国際化支援機構(以下「機構」)が、第1回商品開発実践セミナーを開催します。本セミナーでは、「商品開発」×「人財開発」×「デザイン」の視点から唯一無二の売れる商品を生み出すためのポイントを、2人の講師から学びます。

売れる商品づくりに本気で取り組みたい方にとって、絶好の機会です。ご興味のある方はぜひご参加ください。


【開催概要】

問合わせ先
公益社団法人徳島県産業国際化支援機構 販路開拓・海外進出課
TEL:088-676-3001
FAX:088-676-3040
E-mail:yamamotog@tokushima-bussan.com

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以上(2025年8月作成)

労災保険だけでは足りない? 労災の「法定外補償」の最新相場!

1 法定補償と法定外補償の「二段構え」で労災に備える!

転倒・転落、交通事故、化学物質、過重労働、ハラスメントなど……社員がけがや病気になるリスクはさまざまです。そして、社員の事故等が労働災害(労災)として認定されると、社員や遺族は労災保険から給付を受けられます。いわゆる労災の「法定補償」です。

ただ、法定補償(労災保険給付)だけでは、被害の大きさによっては治療費や生活費を賄いきれない場合があります。こうしたケースに備えるのであれば、

民間の保険会社が提供する、労災の「法定外補償」(私的な保険など)に加入

するのも1つの手です。例えば、製造業・建設業・運輸業など労災が発生しやすい業種の会社は、法定補償を基本としつつ、法定外補償にも加入して、手厚い補償体制を実現しています。

法定外補償に加入するかどうかはさておき、「労災に対する備えはどの程度必要か?」を知っておくことは重要です。そこで、この記事では労務研究所「旬刊 福利厚生」のデータを基に

労災の障害補償と遺族補償について「法定外補償の相場」を紹介

します。また、労災の法定補償(労災保険給付)の内容についても第4章で紹介しているので、気になる人はぜひご確認ください。

2 障害補償(法定外)の相場

1)業務災害の障害補償

業務災害(業務に関連して発生する労災)によって社員の体に障害が残った場合、その社員は障害等級に応じた障害補償が受けられます。

2024年の障害補償の給付額(業務災害、法定外)を見てみると、障害等級1級の給付額は、

  • 退職の場合:平均2899万円(製造業は3025万円、非製造業は2604万円)
  • 継続雇用の場合:平均2226万円(製造業は2252万円、非製造業は2176万円)

となっています。

2024年の障害補償の給付額(業務災害、法定外)

また、障害補償の給付額(業務災害、法定外)の推移は次の通りです(障害1級から障害3級の継続雇用の場合については非掲載)。給付額は減少傾向にあります。

障害補償の給付額(業務災害、法定外)の推移

2)通勤災害の障害補償

通勤災害(通勤に関連して発生する労災)によって社員の体に障害が残った場合も、障害等級に応じた障害補償が受けられます。

2024年の障害補償の給付額(通勤災害、法定外)を見てみると、障害等級1級の給付額は、

  • 退職の場合:平均1784万円(製造業は1719万円、非製造業は1916万円)

となっています(障害1級から障害3級の継続雇用の場合については非掲載)。

2024年の障害補償の給付額(通勤災害、法定外)

また、障害補償の給付額(業務災害、法定外)の推移は次の通りです(障害1級から障害3級の継続雇用の場合については非掲載)。こちらも給付額は減少傾向にあります。

2024年の障害補償の給付額(通勤災害、法定外)

3)参考:休業4日以上の死傷者数の推移

参考までに、労災における休業4日以上の死傷者数の推移も紹介します。休業4日以上の死傷者数は、2021年までは増加傾向にありましたが、それ以降は減少し、2024年時点で13万5718人となっています。

休業4日以上の死傷者数の推移

3 遺族補償(法定外)の相場

1)業務災害の遺族補償

業務災害によって社員が死亡した場合、その遺族は遺族補償を受けられます。

2024年の遺族補償の給付額(業務災害、法定外)を見てみると、金額は

  • 死亡の場合:平均2812万円(製造業は3105万円、非製造業は2314万円)

となっています。給付額自体は、障害補償と同様、減少傾向にあります。

遺族補償の給付額(業務災害、法定外)の推移

2)通勤災害の遺族補償

通勤災害によって社員が死亡した場合も、遺族は遺族補償を受けられます。

2024年の遺族補償の給付額(通勤災害、法定外)を見てみると、金額は

  • 死亡の場合:平均1630万円(製造業は1554万円、非製造業は1814万円)

となっています。給付額自体は減少傾向にあります。

遺族補償の給付額(通勤災害、法定外)の推移

3)参考:死亡者数の推移

参考までに、労災における死亡者数の推移も紹介します。死亡者数は減少傾向にあり、2024年時点で746人となっています。

死亡者数の推移

4 労災の法定補償(労災保険給付)

1)労災の法定補償

労災の法定補償では、業務災害、通勤災害に対して保険給付を行います。保険給付には、定額支給のものや、「給付基礎日額の○○日分」などの形で支給額を計算するものがあります。なお、給付基礎日額は原則として次の方法で計算します。

給付基礎日額=労災発生以前3カ月間の賃金総額(3カ月を超える期間ごとに支払われる賞与等を除く)÷その期間の総日数

2)主な保険給付

労災の法定補償の主な保険給付は次の通りです。なお、業務災害の場合、保険給付の名称に「補償」という文言が付きます。例えば、業務災害によって療養が必要な場合は療養補償給付と呼ばれます。ただし、葬祭に要した費用については、業務災害では葬祭料、通勤災害では葬祭給付と呼ばれます。

1.療養(補償)給付

労災による傷病のため、労災指定病院等で療養を受けるときに、必要な療養の給付(現物給付)が受けられます。労災指定病院等以外で療養を受けたときは、必要な療養の費用が支給されます。

2.休業(補償)給付

労災による傷病の療養のため労働することができず、賃金を受けられないときに、休業4日目から、休業1日につき給付基礎日額の60%相当額が支給されます。休業(補償)給付の支給期間に制限はありませんが、社員が療養を開始してから1年6カ月が経過し、傷病(補償)年金の支給を受けるようになると支給されなくなります。

3.傷病(補償)年金

労災による傷病が療養開始後1年6カ月を経過した日または同日後において、「傷病が治っていないこと」「傷病による障害の程度が厚生労働省令で定める傷病等級に該当すること」のいずれも満たしたときに、傷病の程度に応じ、給付基礎日額の313日~245日分の年金が支給されます。

4.障害(補償)年金

労災による傷病が治った後に「障害等級第1級~第7級」に該当する障害が残ったときに、障害の程度に応じ、給付基礎日額の313日~131日分の年金が支給されます。

5.障害(補償)一時金

労災による傷病が治った後に「障害等級第8級~第14級」に該当する障害が残ったときに、障害の程度に応じ、給付基礎日額の503日~56日分の一時金が支給されます。

6.介護(補償)給付

傷病(補償)年金か障害(補償)年金の受給者のうち、第1級の者または第2級の「精神神経・胸腹部臓器の障害」を有している者であって、現に介護を受けているときに支給されます。常時介護を要する状態か、随時介護を要する状態かなどによって支給額が異なります(最大で18万6050円)

7.遺族(補償)年金

労災により死亡したときに、受給権者および受給権者と生計を同じくしている遺族の人数等に応じ、給付基礎日額の245日~153日分の年金が支給されます。

8.遺族(補償)一時金

労災により死亡した当時、遺族(補償)年金を受け得る遺族がいないときに、給付基礎日額の1000日分の一時金が受給権者に支給されます。

また、遺族(補償)年金を受けている者が失権し、かつ、他にこれを受け得る者がいない場合であって、既に支給された合計額が給付基礎日額の1000日分に満たないときに、給付基礎日額の1000日分から既に支給した年金の合計額を差し引いた額が受給権者に支給されます。

9.葬祭料(葬祭給付)

労災により死亡した者の葬祭を行うときに、31万5000円に給付基礎日額の30日分を加えた額が支給されます。その額が給付基礎日額の60日分に満たない場合は、給付基礎日額の60日分が葬祭を行う者に対して支給されます。

以上(2025年8月更新)

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