【債権回収】「公正証書」を作成して強制的に債権を回収する準備をする

1 強制執行の申立ができる「公正証書」の作成

公正証書とは、

公証役場で公証人がその権限に基づいて作成する文書(公文書)

です。単なる公正証書は私的な契約書と比べて訴訟における証明力は非常に強いですが、法的効力自体は同じです。公正証書に私的な契約書よりも強力な効力を持たせるためには、

公正証書に「強制執行認諾文言」を定める

必要があります。強制執行認諾文言とは、

債務を履行しない場合は、「強制執行」を受けてもやむを得ないという条項

です。強制執行認諾文言が入った公正証書を「執行証書」と呼び、確定判決などと同様に「債務名義」になります。

強制執行とは、

判決等によって債務の履行をすべきであるにもかかわらず、相手がそれに応じない場合、裁判所に「強制執行の申立」をして、国家の強制力によって判決等で定められた内容を実現する

ことです。国家の強制力という表現からも非常に強い手続であることが分かります。それ故に強制執行の申立をするには「債務名義」が必要です。債務名義とは、簡単にいうと、

強制執行をする根拠となる文書であり、債権債務の存在を公に認めるもの

です。執行証書は債務名義になるわけですから、その効力の大きさが分かります。

ただし、執行証書は一定の額の金銭の支払い等を目的にするものに限られるため、継続的に取引が行われ、支払額が定まらない「基本契約書」の場合は作成できません。また、執行証書に「執行文」が付与されていなければ強制執行はできないのですが、この点は後述します。

2 強制執行を開始するための要件

執行証書に基づいて強制執行を開始するための要件が2つあります。

1つ目は、

執行証書の正本に執行文の付与を受けること

です。執行文とは、債務名義に付与されるもので、強制執行ができるという証明です。執行証書の場合、原本を保存する公証人が債権者の申し立てによって執行文を付与します。少しくどいですが、執行証書であっても執行文の付与がなければ強制執行はできません。

2つ目は、

執行証書の謄本をあらかじめ執行を受けるべき債務者に送達し、そのことを公証人の作成した送達証明書によって執行機関に証明すること

です。

執行文付与の手続は次の通りです。

  • 執行証書の正本を所持する債権者が、その原本を保存する公証人に対し、手数料を納付して執行文の付与を請求する
  • 債権者が執行証書の正本を提出して執行文の付与を求めたときには、公証人は、その正本の末尾に、「甲(債権者)が乙(債務者)に対しこの証書により強制執行することができる」旨の文言を付記して、これを債権者に交付する
  • 執行証書の記載から、金銭請求権が債権者の証明すべき事実の到来(例えば、目的物を先に提供することが条件になっている場合など)にかかっているときは、債権者が、その事実の到来した(条件が成就した)ことを証する文書を提出しない限り、執行文を付与できない場合がある

3 公正証書の作成

以上、公正証書の有効性を紹介してきました。公正証書の作成には手間、時間、費用(相手方の負担にすることもできます)がかかります。また、債権回収のリスクを考えても、全ての契約書を公正証書にする必要はありませんが、取引金額が大きいなどの場合は検討に値します。

詳細は日本公証人連合会のウェブサイトなどに記載されていますが、補足として、以下に公正証書を作成するまでの流れを簡単に紹介します。

■日本公証人連合会■
https://www.koshonin.gr.jp/

まず、契約書に次のように定めておきます。

甲(売主)及び乙(買主)は、本契約締結後速やかに、強制執行認諾条項付の公正証書を作成する。なお、公正証書作成費用は、乙の負担とする

こうすると、契約書に基づいて公正証書が作成される流れとなります。

なお、公正証書を作成する際は、原則として、売主(債権者。以下、同様)と買主(債務者。以下、同様)が公証役場に行きます。しかし、手続上、公正証書を作成したい売主が、買主から公正証書作成のための代理人の選任の委任を受け、後日、売主が買主の代理人を選任して公正証書を作成することもあります。

売主本人が公正証書を作成する当日に公証役場に行かずに売主の代理人と買主にて公正証書を作成する場合の基本的な手順は次の通りです。

  • 売主と買主が協議して売買契約書を作成する
  • 買主が「売買契約書の内容について強制執行認諾条項付公正証書とする旨を委任する」旨の委任状に署名なつ印(実印)して、印鑑証明書とともに売主に交付する。その際、添付する売買契約書になつ印する
  • 委任状があれば、買主の代理人は買主の社員や知人でもよく、その代理人と一緒に公証役場に行き、公正証書の原本に署名なつ印の上、公正証書を作成してもらう
  • 売主は、作成された公正証書を買主本人に送達することを公証人に申請する(その際、送達証明書の交付も申請。送達証明書の交付は強制執行を開始するための要件。後に強制執行をすることになった場合、買主が行方不明になっていたり、公正証書の受領を拒否したりするなど、強制執行を妨げる事態が生じることを防ぐため)
  • 売主が、送達証明書を公証人から交付されて完了

以上(2025年7月更新)

pj60189
画像:Mariko Mitsuda

【労災の落とし穴(運送業)】 無理な配車計画で労災に遭っても、 人手不足だし仕方ないよね?

この記事では、現役社労士が直面した小さな運送業の労災の事例として、「無理な配車計画で労災が発生したのに、『人手不足だから仕方がない』と労災対応をしなかった会社」の話を紹介します(実際の会社が特定できないように省略したり、表現を変えたりしているところがあります)。

1 2024年問題で配車計画がさらに逼迫、労災リスクが増大……

社員数15人の中小運送会社に勤めるドライバーBさん。Bさんの勤める会社では、2024年問題に対応しようと、社長が「残業時間を減らせ」と号令をかけています。しかし、受注件数や荷主の納期要望は増える一方で、現場では無理な配車計画が組まれがちです。結果として、Bさんは限られた時間内で配送を完了させようと急ぎ運転になり、ある日、急発進でハンドル操作を誤って、駐車場内の支柱に衝突してしまいました。

社長は「配送時間に余裕がないのは仕方ない。君が気を付ければ事故は起こらなかった」と言い、過密スケジュールが原因である点を棚に上げてしまいます。Bさんは事故により右手を骨折しましたが、社長は「君のミスだから」と健康保険で治療するよう指示。Bさんは「社長に意見すると仕事がなくなるかも……」と、指示に従ってしまいました。

2 「人手不足だから仕方がない」は通らない

2024年4月1日以降、時間外労働の上限規制や改善基準告示の適用が開始されたことで、運送の現場で、「短時間で多くの荷物を運ばなければならない」という圧力が、ドライバーにのしかかっている場合があります。その結果、無理な運転や焦りから交通事故が発生しやすくなる他、車両点検の省略や休憩カットなどにより、労災リスクも高まります。

このケースにおける事故の直接の原因は、Bさんがハンドル操作を誤ったことですが、会社の業務で車両を運転していて事故に遭ったのなら、

  • 業務遂行性:その事故は、「会社の支配・管理下にある」ときに発生したのか
  • 業務起因性:その事故は、「業務と因果関係がある」といえるか

の両方が認められるでしょう。

また、事故の背景に、会社側の無理な配車計画があると判断されれば、会社が安全配慮義務違反として責任を問われるケースも出てきます。「人手不足だから仕方がない」は通りません。

3 DX化や配置転換で業務効率化を!

会社は単に「残業を減らせ」と言うのでは、具体的な配車計画の見直しや荷主との交渉を行い、社員が焦らずに安全運転できる環境を整備しなければなりません。

労働時間を増やすことなく、余裕のある配車を行いたいのであれば、業務効率化は必須です。

  • ドライバーの点呼を行うロボットや、運行日報の記入を自動化できるデジタルタコグラフ(デジタコ)を導入した会社
  • ドライブレコーダー機能とデジタコ機能が一体になったセーフティーレコーダーで、荷待ち時間を可視化し、削減に取り組んだ会社
  • 業界未経験者であっても、会社が費用を出して免許を取ってもらう形を整えるなどして、新卒採用に取り組んだ会社

などがあります。

以上(2025年7月作成)

pj00767
画像:ChatGPT

【債権回収】知っておきたい与信管理の基本事項

1 「与信管理」では債権回収のリスクを想定する

多くのビジネスでは、売掛金などの「売上債権」が生じます。万一の未回収に備えて取引金額の上限や決済サイトを決めますし、担保の設定をすることもあります。これらの条件は、

債権回収ができないリスクと、それによって被る被害によって決定

します。つまり、

相手が「信用」できるのか

という点に尽きるため、「信用リスク」と呼ばれます。そして、この条件なら“信用”して取引できると判断した場合、信用を相手に与えるのが「与信」です。与信管理は次の図のような手法で行います。

さまざまな与信管理

2 新規取引をする際の与信管理

1)取引先の実体を確認

取引先が実体のある会社であることを確認します。次のような方法で調べられます。

  • 取引先の本社を管轄する法務局や民事法務協会「登記情報提供サービス」で登記簿謄本の履歴事項全部証明書を取得する
  • 実際に先方の事業所や事務所に行って確かめる「実地調査」
  • インターネットで取引先のホームページや、経営者のSNSをチェックする
■民事法務協会「登記情報提供サービス」■
https://www1.touki.or.jp/

秘書代行など会社に代わって電話受け付けや郵便物受け取りを代行するサービスでは、一等地に所在するサービス提供企業の事業所を法人登記できるようにしている場合があります。取得した履歴事項全部証明書に記載されている住所が一等地だからといって安易に信用せずに、当該住所をインターネットで検索するなどして確認しましょう。

2)分析のポイント

分析は、営業担当者だけではなく上席者なども交えて行います。営業担当者だけだと、自分が担当する案件を何としても通そうとして評価が甘くなることがあるためです。また、定性分析は、分析を行う人の主観が入りがちです。これを防ぐために、複数の人で分析しましょう。

3)定性分析

定性分析では、数値化しにくい事項を分析するため結果が曖昧になりがちです。そこで、定性分析で見るべき項目を設定し、個別項目ごとに評価の基準となるポイントを決めて点数を付けます。分析結果が比較しやすくなるとともに、定量分析の結果と合わせて総合的に評価します。

4)定量分析

定量分析では、財務諸表などを分析するため、取引先が情報開示に積極的であれば必要な情報が集まりやすくなります。有料ですが、帝国データバンクや東京商工リサーチなどの信用調査機関を利用して、取引先の財務に関するデータを入手することもできます。

■帝国データバンク■
https://www.tdb.co.jp/
■東京商工リサーチ■
https://www.tsr-net.co.jp/

5)点数化のポイント

定性分析と定量分析の結果を点数化します。その際には、「安心して取引できる取引先の基準」を設けると分かりやすいです。例えば、分析項目を10項目とし、1項目を1~10点の間で採点する場合、安心して取引できる企業の基準を「50点」といったように設定します。

6)与信の審査

分析結果を受けて、最終的な与信の条件を決めます。例えば、「取引先への販売量」「取引で見込まれる自社の利益」「支払いサイトの長さ」「取引先からの担保の差し入れの有無」が挙げられます。こうしたポイントを基に、自社が持つ人的・物的・資金的な経営資源に見合った、取引上限の金額などの条件を決定します。

また、担保の設定や保証金の差し入れを求める場合、評価額や質(災害の影響を受けやすい、価格が変動しやすい、換金性が高いなど)を評価した上で審査に反映します。こうした与信の条件を決定し、取引の契約を締結します。

3 取引後の与信管理

取引開始後は、与信の条件が履行されているかをチェックします。これを「債権管理」と呼び、「請求書の発行」「入金の確認」「未入金の催促」が基本です。未入金など危険な兆候が見られたら、与信の条件変更や取引の解約・解除も検討します。

取引先の動向もチェックします。従来は、「近所まできたついで」「商品の評判を聞きけて」などの口実で訪問していましたが、コロナ禍では難しいところがあります。そのため、相手の担当者とSNSなどでつながり、気軽に連絡を取れる体制を整えることが大切です。取引先について定期的にインターネット検索をすることも大切です。

その他、商品の注文が急激に増えたような場合、取引先に「注文の動機」を確認しましょう。合理的な理由がない場合、商品の横流し、破綻前の商品の持ち逃げ、架空取引・循環取引などの恐れがあります。営業担当者は、販売実績を上げるため与信管理よりも取引の拡大を優先する傾向があります。また、日ごろの付き合いがあるため、取引先を「倒産することはない」「違法行為をすることはない」と信じがちです。営業担当者には、取引先が倒産した場合に被る損害がどれほど大きいのかを理解してもらう必要があります。

4 外部の力を利用した与信管理の強化

1)ファクタリング(売上債権の支払保証)の活用

売上債権の支払保証とは、

債権者がファクタリング業務を行う会社と支払保証契約(ファクタリング契約)を交わすことによってなされる売掛債権の保全

です。ファクタリングとは、

債権者に代わって債権回収を代行する業務

であり、売上債権が回収不能に陥った場合に、ファクタリング会社は債権者に対して契約であらかじめ決めた額まで損失を補填します。

ファクタリング契約を結んだ債権者は、ファクタリング会社に手数料を支払う他、債権を割り引いて売却します。その代わり、債権者は早期かつ確実な債権回収を図ることができます。ファクタリング会社は債務者から債権回収し、回収不可能のリスクを負います。

2)信用調査機関・与信管理サービスの活用

定量分析のところで紹介した信用調査機関の他、与信管理サービスを活用するのもよいでしょう。与信管理サービスは、信用調査会社の調査結果などを基に、倒産確率や与信限度額といった、与信管理に利用できるデータを提供しています。例えば、AGS「Neuro Watcher」などがあります。

■AGS「Neuro Watcher」■
https://www.ags.co.jp/nw/

以上(2025年7月更新)

pj60017
画像:Mariko Mitsuda

地元でがんばる会社たち──きらやか産業賞の受賞企業・2024年度版をご紹介!

1 「きらやか産業賞・ベンチャービジネス奨励賞」2024年度の受賞企業が決定しました!

地域の未来を支える中小企業や団体を応援する「きらやか産業賞」と「ベンチャービジネス奨励賞」。今年も、山形県内で意欲的な取り組みを行う企業さまが表彰されました。

授賞式は2025年3月17日、山形グランドホテルで行われ、受賞企業さまのこれまでの努力と功績がたたえられました。

「きらやか産業賞」は今回で36回目、「ベンチャービジネス奨励賞」は29回目となり、長年にわたって地域の挑戦を後押ししてきた表彰制度です。今回(2024年度)の受賞者は以下の通りです。誠におめでとうございます!

【第36回きらやか産業賞】

  • 公益社団法人山形交響楽協会(前理事長 園部 稔 氏。2025年6月3日より理事長 板垣 正義 氏)
  • 株式会社後藤組(代表取締役 後藤 茂之 氏)
  • 沼田建設株式会社(代表取締役社長 笹 健一 氏)

【第29回ベンチャービジネス奨励賞】

  • 株式会社山から(代表取締役 髙橋 寛光 氏)

次章からは、両賞を受賞した企業について、事業の内容や選考理由を交えてご紹介します。

2 2024年度 受賞企業のご紹介(敬称略)

1)【きらやか産業賞】音楽で地域と子どもたちを育む─山形交響楽協会

山形交響楽協会

山形交響楽協会2

(出所:山形交響楽団ホームページ)

「子どもたちに音楽のミルクを!」という想いのもと、教育・文化・地域をつなぐ活動を長年続けてきた山形交響楽協会。その継続力と地域全体への広がりが評価され、今回のきらやか産業賞受賞となりました。

山形市に本拠を置く山形交響楽協会は、1972年に設立された東北初のプロ・オーケストラ「山形交響楽団」を運営する団体です。以来50年以上にわたり、地域に根ざした音楽活動を続けてきました。

楽団は、年間16回の定期演奏会のほか、庄内での公演や県内各地での「ユアタウンコンサート」などを展開。さらに、東北6県と新潟県を中心に年間100回以上のスクールコンサートを実施し、これまでに延べ5200回以上、約299万人の子どもたちに生の音楽を届けています。創立指揮者・村川千秋氏の「子どもたちに音楽のミルクを!」という理念のもと、情操教育や文化の担い手育成にも貢献しています。

楽団は芸術的にも高く評価され、2017年にはモーツァルト交響曲全集で「第55回レコード・アカデミー賞(企画・制作部門)」を受賞。クラシック音楽専門誌「音楽の友」では、世界オーケストラランキング国内6位、世界45位に選ばれるなど、国際的な存在感も増しています。

音楽を通じて地域文化の活性化と子どもたちの教育に取り組み続けるその姿勢は、文化産業が地域社会にもたらすインパクトの大きさを実証しており、他の地域でも参考となるモデルケースといえるでしょう。

2)【きらやか産業賞】全員でDXに取り組む老舗の建設会社─後藤組

後藤組

後藤組2

(出所:後藤組ご提供資料)

後藤組は長い歴史を持つ建設業(2026年には100周年)でありながら、デジタル化への挑戦を恐れず、DX(デジタルトランスフォーメーション)を通じて業界の常識を塗り替えてきたことが評価され、今回のきらやか産業賞受賞となりました。

1926年創業、米沢市に本社を構える株式会社後藤組は、社員150人、完成工事高で米沢市内トップを誇る総合建設業です。地域に根ざした工事実績を積み重ねつつ、東京支社を通じて都市部でも実績を拡大しています。

2019年からは本格的にDXに着手しています。特徴的なのは「全員DX」をモットーに、「全社員に何でもまず一つアプリを制作して発表する」などユニークな取り組みを実践している点です。建設業界における生産性向上の先進事例となりました。

こうした取り組みにより、2022年には「kintone AWARDグランプリ」や全国中小企業クラウド実践大賞 「東北総合通信局長賞」、2023年には「TOHOKU DX大賞 業務プロセス部門 最優秀賞」、さらに2024年には「日本DX大賞(マネジメントトランスフォーメーション部門 大賞)」など、全国レベルでの受賞が続いています。

伝統的な業界でありながらも変革を恐れず、将来を見据えて自らの仕組みを変える力。そして「書類は60%減少。残業時間20%減少。営業利益44%増加」という目覚ましい実績を挙げている後藤組。地域企業にとってDXは難しそうに見えがちですが、後藤組の事例は「やればできる」ことを具体的に示しています。

3)【きらやか産業賞】独自の「技術」と「人材育成」─沼田建設

沼田建設

沼田建設2

(出所:沼田建設ホームページ)

沼田建設は、革新的な建設技術の開発と、地域に根ざした人材育成の両立を図っている点が高く評価され、今回、きらやか産業賞受賞となりました。

1930年創業、新庄市に本社を置く沼田建設は、最上地域を代表する総合建設業者として、2024年3月期には売上高61億円、社員128名の老舗企業です。長年の歴史の中で、地域インフラを支えるとともに、新しい技術への挑戦も続けています。

特に注目されているのが、同社が保有する2つの特許技術です。「パルフォースモルタル工法」は、廃止する管やトンネルなどを破壊せずに埋め立てすることが可能となる、循環型社会の構築を目的とした全く新しい工法です。もう一つの「推進工法」は、道路を掘り返さずに地下に管を通すことができ、住民への影響を最小限に抑えながら工期を短縮できる工法として注目されています。

また、同社は建設業界では珍しい独自の奨学金制度も実施しています。最大月額6万円、4年間で最大288万円を貸与し、10年以上勤務すれば返済が全額免除される仕組みです。この制度により、最上地域の若者の雇用促進と人材定着に大きく貢献しています。

技術力と人の両方を大切にし、地元に根差しながらも未来を見据えた経営を実践する沼田建設。その取り組みは、これからの地方建設業が目指すべき方向の一つを示しているように思います。

4)【ベンチャービジネス奨励賞】「和」を活かしつつ、「洋」を取り入れた新しいお菓子─山から

山から

山から2

(出所:山からご提供資料)

山からは、地域資源を活かしながらも、革新的な商品開発とグローバルな視点を融合させた経営戦略が評価され、今回、ベンチャービジネス奨励賞受賞となりました。

1918年創業の「高橋商店」を起源とし、時代に合わせて事業の形を変えながら、2019年に「株式会社山から」として再スタート。和と洋を融合させた新しい菓子作りを軸に、上山市から山形、そして全国、世界へと独自のおいしさを届けています。

看板商品「かみのやまシュー(上山秀)」は、地元のブランド米「つや姫」を使い、ふるさと納税の返礼品として3年連続1位を獲得する人気商品です。また、商品開発にも積極的で、「ガブリヤヤマガタシューラスク」や「かみのやまぷるーる」など、やまがた土産菓子コンテストで多数の受賞を誇っています。

M&Aにより山形市の老舗茶舗と連携し「お茶と菓で岩淵」を出店するなど、地域内での新市場開拓にも注力。さらに、ベトナム産チョコレートを使った商品や、カンボジアへの寄付・海外実習生の受け入れなど、SDGsにも通じるグローバルな視野を持って事業を展開しています。

「第三の創業期」と位置づける現在、明確なブランド戦略と柔軟な発想で、新しい価値を次々と生み出している山から。伝統を守りながら、変化を恐れずグローバルにもチャレンジするその姿勢が、多くの地域企業に刺激を与えています。

3 まとめ──地域を思う気持ちが、強さにつながる

4つの受賞企業・団体に共通しているのは、「地域を良くしたい」「一緒に働く人を大切にしたい」「人の暮らしを支えたい」といったまっすぐな想いです。そして、その想いを形にするための工夫と努力を、地道に積み重ねてきた点です。

中小企業が生き残っていくためには、時代の変化に柔軟に対応しながら、自分たちの強みを活かす必要があります。今回紹介した受賞先は、参考の一例になるかもしれません。

お読みいただいた皆さまの会社でも「うちの地域では何ができるか」「どうしたらもっと地域や社員の役に立てるか」を考えるきっかけにしていただけたら幸いです。

以上(2025年6月作成)

【中小企業のためのBCP】 重要なデータ・書類のバックアップ

1 電子データや書類のバックアップが不可欠な理由

突然ですが、今、地震が発生し、会社のパソコンやサーバーが壊れてしまったとしたら、あなたの会社は元通りに業務を再開できるでしょうか?

電子データや書類のバックアップが不可欠なのは、

それが使えなくなると事業の存続に関わる危機的な影響が及ぶ

からです。会社には、社員や顧客などの様々な情報が、電子データや紙の書類として蓄積されており、これらが滅失したり毀損したりすれば業務に支障を来すでしょう。また、漏洩すれば社会的な信用を失うことにもなりかねません。

電子データと書類はどうバックアップすればよいのか、バックアップ体制を整えるに当たってどのようなことを考え、日ごろからどのような備えをしておくべきかを見ていきましょう。

2 電子データをバックアップする3つの方法

電子データのバックアップは、主に3つの方法があります。

  • 外部記憶媒体を利用する
  • ネットワークストレージを利用する
  • オンラインストレージを利用する

1)外部記憶媒体を利用する

外付けハードディスク、DVD、USBフラッシュメモリなどに電子データをバックアップする方法です。電子データの容量に応じて適切な記憶媒体を購入し、基本的には、必要な電子データを都度、手作業でバックアップします。

比較的手軽な方法ですが、定期的にバックアップする必要があります。また、外部記憶媒体の紛失や、ウイルス感染に注意しなければなりません。

2)ネットワークストレージを利用する

いわゆる「NAS(Network Attached Storage)」に電子データをバックアップする方法です。NASは、ネットワークを介して複数のパソコンなどから、同時接続できるハードディスクです。

外部記憶媒体よりも高額ですが、数テラバイト以上の大容量のNASを購入すれば、容量をあまり気にせずにバックアップできます。また、あらかじめ深夜帯や休日に設定しておけば、自動的にバックアップすることも可能です。

3)オンラインストレージを利用する

クラウドサービスを利用し、インターネット上に電子データをバックアップする方法です。電子データを自社とは離れた遠隔地に保存できるため、大地震や火災などによって社内のパソコンやサーバーが損傷しても、電子データは無傷で守られます。

サービスの多くは、保存するデータ容量に応じた料金体系になっています。どのくらいの費用がかかるのかを把握するために、バックアップするデータ容量を事前に算出しておきましょう。安全性、速度、運用のしやすさなども、サービスを選ぶ際のポイントになります。

バックアップ方法はどれか1つを選ぶのではなく、複数を組み合わせることで、大切な情報が失われるリスクを低減できます。参考になるのが、情報処理推進機構(IPA)が理想的なバックアップ方法として勧めている「321ルール」です。これは、

  • データを3つ持ち(運用データ1つ、バックアップデータ2つ)、
  • 2種類の異なる媒体でバックアップし、
  • そのうち1つは異なる場所(オフサイト)で保管する

というルールです。

バックアップ方法「321ルール」

図表のように、電子データのコピーを複数作り、保存する媒体を異なるものにするだけでなく、地理的にも離すことで、ウイルス感染に加えて、大地震や火災などにも対応できます。ただし、電子データを社外に持ち出すことにもなるので、漏洩には十分に注意する必要があります。

3 書類をバックアップする2つの方法

紙の書類のバックアップは、主に2つの方法があります。

  • コピーを取る
  • スキャナーなどで電子データ化する

これらについては細かく説明するまでもないでしょう。

大切なのは、原本とそのコピー(もしくは電子データを記録した媒体)を離れた場所で保管する「二元管理体制」を整えることです。大地震や火災などで同時に被災してしまうのを避けるために、なるべく遠隔地に保管するのが理想的です。

ただし、原本のコピーを取ることで情報漏洩の危険性が高まります。機密情報や個人情報などの取り扱いは特に細心の注意を払い、慎重に行わなければなりません。

4 バックアップ体制を整えるときに考えておきたいことは?

バックアップ体制を整えるに当たって、バックアップ方法の選択以外に、どのようなことを考えておくべきでしょうか。重要になってくるのが、次の3つのポイントです。

  • どの情報を優先的に保護するのかを決める
  • 自社が被災する可能性の高い災害を把握する
  • 目標復旧時間内にコンピューターシステムが機能回復できるかを検証する

これらは「事業継続計画」(BCP:Business Continuity Plan)のプロセスでもあります。BCPについて考えてこなかった方も、これを足掛かりに策定を検討してみてください。

1)どの情報を優先的に保護するのかを決める

BCPでは、策定の第一歩として、会社の存続に最も重要な「中核事業」を決めます。

災害発生時は、事業を継続するために必要な経営資源(ヒト・モノ・カネ・情報)を、平常時と同じように確保することが難しくなります。中核事業を決めるときは、経営資源が平常時の約30%しか利用できないと仮定し、その範囲で継続すべき事業を考えます。

電子データや書類については、中核事業の継続に必要となる情報は保護の優先度が高くなります。経営者や事業部長、現場の業務責任者などを交えたプロジェクトチームを立ち上げ、優先度を検討するとよいでしょう。

2)自社が被災する可能性の高い災害を把握する

BCPでは、中核事業が影響を受けると思われる災害を把握します。

会社が被災する可能性のある災害は、大地震や火災、水害など様々です。行政機関が公表している地震被害想定や河川氾濫浸水マップ、土砂災害ハザードマップなどをチェックし、自社の周辺で災害が起こると、どの程度の被害となるのかを把握しましょう。

国土交通省「ハザードマップポータルサイト」では、土砂災害や津波などの被害を受けそうな地域を確認できる「重ねるハザードマップ」と、市区町村作成のハザードマップを検索できる「わがまちハザードマップ」を参照できます。

■国土交通省「ハザードマップポータルサイト」■
https://disaportal.gsi.go.jp/

3)目標復旧時間内にコンピューターシステムが機能回復できるかを検証する

BCPでは、災害が経営資源に与える影響を考え、中核事業の目標復旧時間を設定します。

中核事業が中断した場合、顧客や市場がいつまで復旧を待ってくれそうか、日ごろの取引で培った経営感覚で予測を立てます。顧客と意見交換や調整をしながら合意を得るのも重要です。

コンピューターシステムが被災により滅失・毀損してしまった場合、バックアップした電子データから復旧を試みることになります。事前に、目標復旧時間内に回復できるかどうかを検証し、それまではどのような手段で代替するのかを決めておきましょう。

5 日ごろから備えておきたいことは?

1)パソコンやサーバー本体は、停電・水没・転倒・ほこりに注意

電子データを保存しているパソコンやサーバー本体の保管にも注意が必要です。例えば、次のような対策をしましょう。

  • 落雷などによる停電に備えて無停電電源装置(UPS)を導入して接続しておく
  • 水害などで水没しないように高い場所に置く(サーバールームは地下に設置しない)
  • 地震などの揺れで転倒しないように、耐震マットや固定器具を使用する
  • トラッキング現象による火災に備え、電源プラグやその周りにほこりがたまらないように定期的に掃除する

2)重要書類の原本は、保管場所と取り出し方法をルール化

災害などの緊急時に備え、重要書類の原本の保管場所と取り出し方法を取り決め、責任者や担当者だけでなく、全ての社員にルールを共有しておくことが重要です。

例えば、経理部門や総務部門には、会計帳簿・契約書・社員台帳などの重要書類が集中していますが、

  • 書類の重要度が分かるように分類する
  • 施錠できるキャビネットに整理・保管する

ようにしておくとよいでしょう。

なお、クリアファイルは書類をまとめるのに便利な半面、保管場所の環境によっては書類にカビが生える恐れがあるため、長期保管には向きません。

3)危機管理意識の高い組織を目指す

いざというときに動ける組織であるためには、BCPのような計画やルールの運用に対して、社員と経営者が前向きである必要があります。そのためにも、BCPでは、防災に関する勉強会を開くこと、定期的に訓練を実施することなどが推奨されています。

重要度を問わず、日ごろから書類の整理整頓を行い、コンピューターシステムの「いつもとはちょっと異なる動き」を無視せずに担当者に報告するなどのルールを、社員に徹底することも重要です。

以上(2025年7月更新)

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画像:onephoto-Adobe Stock

【債権回収】債権回収が有利になる契約書の定め方

1 信用できる相手でも契約書を交わしましょう

「信用できる相手だから」といって、契約書を交わさずに取引していないですか? これはビジネスを進める上でとても危険なことです。口約束だけの状態でお金のトラブルになってしまったら、双方が「言った、言わない」を主張してもめてしまいます。裁判に発展した場合も、債権回収の根拠を立証するのが難しく、敗訴してしまうことさえあります。そのため、

必ず契約書を交わす

ことが不可欠で、さらに、

  • 支払条件(弁済条件):定められた期日に確実に支払いをしてもらえるようにしておく
  • 期限の利益喪失:支払期日前でも債務履行(支払い)を促せるようにしておく
  • 約定解除:一定の事態が生じた場合に契約を解除できるようにしておく
  • 担保権:回収不能となった売掛債権を担保で回収できるようにする

の4つについて定めたいところです。

この記事をお読みになっていただければ分かりますが、お金を払わない相手が悪いのに、それを取り返すまでには「もどかしい」ともいえる手続が必要です。そして、債権回収を進める上で契約書が重要な役割を果たします。

2 基本的だが重要な「支払条件(弁済条件)」

基本的ですが、支払条件(弁済条件)の記載はとても大切なことです。例えば、契約書に取引代金の総額が記載されていたとしても、

  • 支払期日がいつなのか
  • 取引代金は一括して支払われるのか
  • 取引代金の支払いには条件があるのか(物を先に提供することが条件であるなど)

といったことが明記されていないと、債権者の想定通りに債務者が代金を支払わないことがあります。こうしたことがないように、支払条件について明確に契約書に定めておきましょう。

3 「期限の利益喪失」と「約定解除」

1)「期限の利益喪失」と「約定解除」の考え方

例えば、業界関係者などの情報で取引先が支払期日前に不渡りを出すことが分かっていたら、こちらとしては納品した商品だけでも回収したいと考えます。ところが、原則としてそれはできません。なぜなら、

債務者が不渡りを出しても、支払期日まで弁済する義務がない(期限の利益)

からです。なんとも納得できない状況なわけで、そうならないためには、

契約書で先手を打つ

必要があります。具体的には、不渡りなど一定の事態が生じた場合、

債務者に支払期日前であっても債務を弁済する義務を生じさせ(期限の利益喪失条項)、債権者が直ちに契約の解除権を行使できる(約定解除条項)

ようにしておくのです。

ここで約定解除という言葉が出てきたので説明します。契約の解除には、

  • 約定解除:契約書に定められた条件に該当する場合の解除
  • 法定解除:債務者に法律で定められている「債務不履行」などがあった場合の解除

があります。約定解除とは、「不渡りを出したとき」など、契約書で定める条件に該当した場合に契約を解除できるものです。また、法定解除の条件の一つである債務不履行には、

  • 履行遅延:支払いが遅れているなど
  • 履行不能:支払うことができないなど
  • 不完全履行:一部しか支払われていないなど

の3つがあります。

法定解除の場合は、債務不履行があっただけでは、解除権の行使はできず、履行の催告などの手続きを経なければならないので、約定解除条項を定めておく方が、有利となります。

2)契約書における「期限の利益喪失」と「約定解除」の規定例

期限の利益喪失と約定解除は、契約書には次のように定めます。

第○条(期限の利益喪失)

乙(買主)に次の各号のいずれかの事由が生じた場合、乙は甲(売主)の通知催告がなくても、本契約上の甲に対する債務につき当然に期限の利益を失い、本債務の全額を直ちに弁済する。

1.1度でも支払いを怠ったとき

2.手形、小切手不渡りの事実のあったとき

3.破産、民事再生、会社更生、特別清算などの申立てをし、または申立てがなされたとき

4.差押え、仮差押え、仮処分、担保権の実行としての競売申立て、租税滞納処分その他これらに準じる手続の開始がなされたとき

5.監督官庁より事業停止命令を受け、または事業に必要な許認可の取消処分を受けたとき

6.その他本契約に定める条項に違反したとき

7.資産、信用または支払能力に重大な変更が生じたとき

8.その他前各号に準じる事由が生じたとき

第◯条(約定解除)

乙に第○条各号(上の第○条(期限の利益喪失)条項の各号を指します)のいずれかの事由が生じた場合には、甲は催告なくして、直ちに本契約を解除できる。

なお、期限の利益喪失には、上の例のように「請求しなくても当然に期限の利益を喪失させる」定め方と、「一定の事実が発生した場合に、自社からの請求により期限の利益を喪失させる」定め方があります。後者の場合、通常、自社から「内容証明郵便」でその旨を通知し、期限の利益を喪失させます。

3)「倒産解除特約」の有効性

前述した期限の利益喪失の条項において、「3.破産、民事再生、会社更生、特別清算などの申立てをし、または申立てがなされたとき」と示しましたが、こうした定めを「倒産解除特約」と呼びます。

倒産解除特約については、会社更生手続の場合に無効とする最高裁判例(最判昭和57年3月30日)や、民事再生手続の場合に無効とする最高裁判例(最判平成20年12月16日)があります。また、破産手続については、無効とする地裁判例(東京地判平成21年1月16日)もあります。

そのため、「倒産解除特約を定めれば安心」というわけではなく、その有効性については議論の余地があることを認識しておきましょう。実際には、

倒産解除条項ではない解除条項で解除をする、あるいは当該条項を交渉材料にして合意解約する

ことが、無用な争いを避ける上で望ましいといえます。

4)約定解除の効果

約定解除をすると、売主(債権者)には次の行為が認められます。

  • 納入済み商品(継続的契約の場合は代金未払い分のみ)の引き揚げ要求
  • 未納品の出荷停止

「回収できるうちに、回収できるものを回収する」というのが債権回収の基本ですから、商品の引き揚げができる約定解除は効果的です。ただし、

約定解除をしても、返還請求権が売主に発生するだけで、強引に商品を引き揚げることまでは許されない

ことに注意が必要です。「自力救済の禁止」といって、債権者が裁判などによらず強制的に力を行使することは禁止されているからです。場合によっては、窃盗罪、恐喝罪の刑事事件にもなりかねません。そのため、商品の引き揚げは、買主(債務者)の同意を得た上で行うほうが無難です。具体的には、

  • 甲(売主)が本契約を解除したとき、甲は未納品の商品については引渡義務を免れ、納入済みの商品については返還を求めることができる
  • 乙(買主)が甲より商品返還を求められた場合、乙は速やかにこれに協力しなければならない

といった具合です。

こうすると、買主に対して、商品の引き揚げの承諾を取り付けやすくなりますし、買主の明示の承諾がなくても、黙認していれば引き揚げはできますが、後に同意の有無に争いが生じた場合、窃盗罪などに問われる恐れがあります。そのため、

同意が得られない場合は商品の返還請求訴訟を起こす必要がありますが、判決が下されるまで商品を執行官に保管してもらうために、占有移転禁止の仮処分を申し出る

などの保全策を講じなければなりません。

5)契約書に「解約条項」も定める

解約とは、

当事者の一方の意思表示により、将来に向かって解約するというもので、「3カ月前に通知すれば解約できる」

といったように定めるものです。約定解除に該当する状態に至らなくても、取引先の倒産を察知した場合などに行使することができます。

4 「担保権」の効果と定め方

1)担保権とは

担保権には、

  • 約定担保:抵当権や連帯保証のように契約書によって発生するもの
  • 法定担保:先取特権のように当然に発生するもの

があります。

約定担保についてもう少し説明します。例えば、初めての取引や、少し不安を感じる相手(実績がないなど)との取引の場合、将来、売掛金などの回収ができなくなるかもしれないと心配なものです。そうしたときは、

不動産を差し押さえたり、経営者個人から債権を回収したりできるようにする

ことが、担保の設定となります。

2)物的担保と人的担保

担保権には、物的担保と人的担保とがあります。

物的担保とは、

債務者や債務者以外の第三者が持つ特定の財産から、優先的に弁済を受けられるもの

です。物的担保の対象になるのは、主に不動産と債権です。その他、機械、商品、有価証券、ゴルフクラブ会員権、船舶、自動車、工場財団なども対象になります。不動産を担保にする場合、登記と実態の両方をチェックすることが重要です。登記のチェックは不動産鑑定士や司法書士、土地家屋調査士などに依頼できます。また、実態のチェックは、どのような不動産なのかを実際に目で確かめる必要があります。

人的担保とは、

債務者以外の第三者から、債務者に代わって弁済を受けることができるもの

です。人的担保の代表的な制度が「保証」です。保証とは、

主債務者が債務の弁済ができない場合に、主債務者に代わって保証人が債権者に弁済すること

であり、代表者個人の連帯保証などがあります。

3)契約書における「担保権」の規定例

担保権は、契約書には次のように定めます。

第◯条(担保権の設定)

担保権を次の通り設定する。

1.乙(買主)は、甲(売主)のために、甲に対する売買代金支払債務を担保するため、乙の所有する土地(〇〇県〇〇市〇〇町〇―〇―〇所在)に抵当権を設定するものとし、甲乙間において別途抵当権設定契約書を締結する

2.丙(連帯保証人)は、乙(買主)の連帯保証人として、本契約に基づく甲(売主)の乙に対する一切の債務を極度額◯◯円の範囲で連帯して保証する

なお、物的担保や人的担保の差し入れについて了承が得られても、優先する物的担保が設定されていたり、保証人に全く資産がなかったりする状況では債権が回収できないため、事前の調査は不可欠です。

4)保証に関する注意点

民法上、保証に関してはいくつかの注意点があります。まず、個人(法人は含まれません)が保証人になる根保証契約(将来発生する不特定の債務まで保証する契約)については、

保証人が支払責任を負う上限額である「極度額」を定めなければ、保証契約は無効

となります。また、個人が事業用融資の保証人になろうとする場合、公証人による保証意思の確認を行わなければなりません。かかる意思確認の手続を経ずに保証契約を締結しても、その契約は無効となります。

その他、個人が保証人になる根保証契約について、保証人が破産したり、主債務者または保証人が亡くなったりすると、元本が確定し、その後に発生する主債務は保証の対象外となります。また、保証人になることを主債務者が依頼する際の情報提供義務や主債務の履行状況に関する情報提供義務、主債務者が期限の利益を喪失した場合の情報提供義務が定められています。

きちんとした手続きを経ないと無効になる場合もありますので、保証のルールを把握しておきましょう。

以上(2025年7月更新)
(監修 TMI総合法律事務所 弁護士 池田賢生)

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画像:Mariko Mitsuda

【労災の落とし穴(運送業)】 居眠り運転で交通事故を起こしたら自己責任でしょ?

この記事では、現役社労士が直面した小さな運送業の労災の事例として、「居眠り運転の事故を『自己責任』で片付け、労災対応を怠った結果、訴えられてしまった会社」の話を紹介します(実際の会社が特定できないように省略したり、表現を変えたりしているところがあります)。

1 居眠り運転の事故を「自己責任」で片付けたら、会社が訴えられてしまった……

社員数12人の運送会社に勤めるドライバーAさん。人手不足もあって1日10時間を超える運転業務が常態化し、十分な睡眠時間が確保できず、休憩も短く、疲労がたまっていました。そんな状況が続いていたAさんは、ある日、居眠り運転を起こしてガードレールに衝突。幸い大けがには至りませんでしたが、むち打ちや背中の痛みに悩まされることになりました。

社長は「自分で体調管理をしっかりしてくれないと困るよ。労災にすると、会社の労災保険料が上がっちゃうから、健康保険で治療してよ」とAさんに頼み込み、Aさんも責任を感じて社長に従いました。しかし、後日、社長はがくぜんとします。なんとAさんが「居眠り運転をしてしまったのは、会社から過重労働を強いられたからだ」と、訴訟を提起したのです。

2 「労災かくし」は違法! さらに安全配慮義務違反で責任を問われるリスクも……

業務中の事故でけがをした場合、それが労災になるかどうかは、

  • 業務遂行性:その事故は、「会社の支配・管理下にある」ときに発生したのか
  • 業務起因性:その事故は、「業務と因果関係がある」といえるか

を基準に判断されます。Aさんのように、会社の業務で車両を運転していて事故に遭ったのなら、基本的には業務遂行性・業務起因性が認められます。たとえ居眠り運転でも、業務遂行性・業務起因性が認められるのなら、「業務上災害」として扱わなければなりません。

安易に健康保険を使うと、後に労働基準監督署の調査で「労災かくし」と判断されることがあります(違反は労働安全衛生法により50万円以下の罰金の対象)。会社が「保険料の上昇」や「監督署の調査」を恐れて労災を隠すケースが散見されますが、処罰されることや社員との信頼関係を考えると、事故を隠すリスクは大きいです。

また、Aさんの場合は、十分な睡眠時間が確保できない中で事故を起こしています。会社は、社員が安全かつ健康に働けるように配慮する「安全配慮義務」を負っていますから、居眠り運転の原因が、会社の管理不足からくる過密労働にあるならば、会社が安全配慮義務違反で損害賠償を請求されることも十分あり得ます。

3 労働者死傷病報告のルールを正しく押さえつつ、労働時間管理をしっかりと!

まずは、「労災が発生したら労災保険で対応する」「労災により休業・死亡が発生した場合、労働者死傷病報告を提出する」という法律のルールを守りましょう。ちなみに、労働者死傷病報告の提出時期は、

  • 4日以上の休業(または死亡)の場合:労災発生から遅滞なく
  • 4日未満の休業の場合:3カ月ごと(4月末、7月末、10月末、1月末)

となっていて、2025年1月からは「電子政府の総合窓口(e-Gov)」での提出(電子申請)が義務化されています。

また、過重労働の防止のため、2024年4月1日から適用が始まっている「時間外労働の上限規制」と「改善基準告示(トラック運転者)」についても改めて周知徹底しておきましょう。

2024年4月1日以降、自動車運転の業務の時間外労働は「原則1カ月45時間、1年360時間まで」となり、臨時的・特別な事情がある場合も「1年960時間」が上限となっています。

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改善基準告示は、「トラック運転者」「タクシー・ハイヤー運転者」「バス運転者」についてそれぞれ定められていて、トラック運転者の場合は次のようになっています。

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以上(2025年7月作成)

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画像:ChatGPT

災害時の労務管理!社員の賃金が振り込めなくなったら?

1 災害時でも労務管理は万全に

災害時は会社の事業継続が重要で、「労務管理」もその一環です。例えば、家族の治療や家屋の修理などでお金が必要なときに、賃金の支払いが滞ったら大変です。

この記事では、賃金支払い、労働時間管理などに区分けして「災害時の労務管理」の基本ルールを紹介します。労働基準法(以下「労基法」)などの定めが基準になりますが、

  • 災害時も平常時も変わらず適用されるルール(例:賃金は毎月1回以上、一定の期日に支払わなければならない)
  • 災害時のみ適用される特殊なルール(例:36協定によらずに社員に残業を命じられる)

があるので、その点に注意しながら確認してみてください。

2 賃金支払いのルール

1)口座振込ができなくなったらどうする?

労基法上、賃金は毎月1回以上、一定の期日に支払わなければなりません。これは災害時でも変わりません。また、社員が災害による治療などのために賃金の前払いを請求してきた場合、支払期日前でも、すでに働いた時間分については支払わなければなりません。

災害時は金融機関の機能停止などで、賃金を通常通りに支払えないこともありますが、

  • 支払い方法を一時的に「口座振込」から「手渡し」に切り替える
  • 手渡しも難しければ、金融機関の機能が回復したタイミングで、即座に賃金を支払う

などの対応をします。

また、社員本人と連絡が取れない間に、その家族が賃金の支払いを請求してくることもあります。本来、賃金は社員本人に支払わなければなりませんが、使者(本人に支払うのと同一の効果を生じさせる者)に対して賃金を支払うことは差し支えないとされています。ただ、緊急時に支払いの請求をしてきた者が使者かどうかを判別するのは困難な場合もあるので、まずは家族の身分や事情等を確認し、受領書を取得することを条件として支払うなど慎重に対応します。

大災害の場合には、社員が行方不明となる場合もあるかもしれません。その場合に、家族から支払額が高額になる退職金などの請求がされた場合は、社員が「失踪宣告」(生死不明の者を、法律上死亡したものとみなす効果を生じさせる制度)を受けているのかを確認した上で支払うなど、慎重に対応します。

2)災害時も休業手当を支払う?

労基法上、「使用者の責に帰すべき事由」により休業する場合、会社は休業期間中、社員に平均賃金の60%以上の休業手当を支払わなければなりません。

使用者の責に帰すべき事由とは、簡単に言えば「会社都合」です。会社側に故意・過失があるケースよりも広く、不可抗力によるものは含まれない

とされています。休業が不可抗力によるものと認められれば、休業手当の支払いは不要ですが、そのためには次の2つの要件を満たす必要があります。

  • 休業の原因が外部により発生した事故である
  • 会社が通常の事業主として最大の注意を尽くしても、避けられないといえる事故である

例えば、建物が損壊して事業を行えない、計画停電により事業が行えないなどの理由で休業する場合、休業手当の支払いは不要になる可能性が高いです。

一方、オフィスに直接的な被害はないものの、道路が損壊し資材が届かないなどの理由で操業できずに休業する場合、判断が分かれます。日ごろの備蓄管理の状況、他の調達手段の可能性、災害発生からの期間などによって、休業手当の支払いが必要になる可能性があります。所轄の労働基準監督署に相談するなどして対応を検討してください。

3)賃金や休業手当の支払いが難しい場合は?

災害によって資金繰りが悪化し、賃金や休業手当の支払いが負担となる場合、「雇用調整助成金」を利用するとよいでしょう。

復旧に長い時間がかかる、交通インフラの問題で資材が手に入らないなど「経済的な理由」により休業せざるを得ない場合、会社が雇用保険の適用事業所であれば、雇用調整助成金が支給される可能性があります。使用者の責に帰すべき事由による休業でも、助成金の扱いは変わりません(助成を受けるためには所定の要件を満たす必要があります)。

中小企業の場合、原則として

  • 支給額は、休業手当負担額の3分の2(上限額あり)
  • 支給限度日数は、1年の間に最大100日、3年の間に最大150日

ですが、災害時は支給額や支給限度日数について特例措置が講じられることがあります。例えば、令和6年能登半島地震で事業活動の縮小を余儀なくされた中小企業については、

  • 支給額は、休業手当負担額の5分の4(上限額あり)
  • 支給限度日数は、1年の間に最大300日(「3年の間に最大150日」のルールは適用しない)

という措置が講じられています。詳細については、厚生労働省ウェブサイトをご確認ください。

■厚生労働省「雇用調整助成金」■
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/pageL07_20200515.html

3 労働時間管理のルール

1)災害時は36協定に関係なく残業を命じられる?

会社が社員に時間外労働等を命じるには、労基法第36条に基づく労使協定(通称「36協定」)の締結・届け出が必要です。

しかし、災害などの緊急事態で臨時に社員を働かせる必要がある場合、36協定の締結・届出とは関係なく必要の限度で残業(時間外労働や休日労働)を命じることができます。これを「災害時の時間外労働等」といいます。ただし、通常の残業と同様、休日・時間外・深夜の割増賃金の支払いは必要です。

災害時の時間外労働等の場合、会社は事前に所轄労働基準監督署に申請して、社員に残業を命じる許可をもらう必要があります。認められる基準は次の通りです。

  • 単に仕事が忙しいなど、経営上の理由だけでは認められない
  • 地震や津波、風水害、雪害、爆発、火災などの災害への対応、または急な病気への対応など、人の命や公共の利益を守るために必要な場合は認められる
  • 機械や設備が突然壊れて、それが修理されないと事業が運営できなくなるような場合や、システムがダウンしてそれを直さないと事業の運営が不可能であるような場合は認められる。ただし、平常時でも発生し得る部分的な修理や、定期的な保守点検の場合は認められない
  • 上の2.と3.の基準は、他の会社からの協力を求められた場合でも適用される。つまり、人の命や公共の利益を守るために協力が必要な場合や、協力しないと会社の運営ができなくなる場合は認められる

申請の際は、

  • (事前申請の場合)非常災害等の理由による労働時間延長・休日労働許可申請書
  • (事前申請ができない場合)非常災害等の理由による労働時間延長・休日労働届

に残業を命じる理由や社員数などを記入し、所轄労働基準監督署に提出します。原則は事前申請ですが、事態が逼迫している場合は事後に遅滞なく届け出ます。どちらの書類も厚生労働省ウェブサイト(下記URL中段)からダウンロードできます。

■厚生労働省「主要様式ダウンロードコーナー(労働基準法等関係主要様式)」■
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/roudoukijunkankei.html

2)災害時は年少者や派遣社員にも残業を命じられる?

災害時の時間外労働等の場合、通常の残業の対象とならない、18歳未満の年少者や派遣元で36協定を締結していない派遣社員にも残業を命じられます。ただし、妊産婦については、本人が請求した場合、残業命令は出せません。

なお、派遣社員を残業させる場合、前述した所轄労働基準監督署への申請手続きは派遣先の会社が行います。その場合、前述した「非常災害等の理由による労働時間延長・休日労働許可申請書」などには、派遣社員を含む社員数を記入して提出します。

3)災害時の時間外労働等の時間数に上限はある?

災害時の時間外労働等には、労基法の「時間外労働の上限規制(時間外労働は月45時間以内、年360時間以内を原則とするなど)」は適用されません。ただし、厚生労働省は、過重労働などを防止する上で、「時間外労働を月45時間以内にすること」などの計らいが重要としています。

そもそも災害時は、家族が負傷したり家屋が損壊したりして、社員が強いストレスを抱えた状態で働くことが予想されます。残業を社員に命じる場合、社員の疲労の状態、生活の現状などにも配慮する必要があるでしょう。

4)災害時に社員が年休を申請してきたらどうする?

年休(年次有給休暇)は原則として、社員が指定した時季に与えなければなりません。ただし、指定した時季に年休を与えて事業の運営に支障が出る場合については、会社はその時季を変更することができます。これを「時季変更権の行使」といいます。

災害時は、復旧作業などで人手が必要なときに年休を取得されると、事業の運営に支障が出る恐れがあります。ですから、時季変更権の行使は比較的認められやすいと考えられます。

ただし、「災害により負傷した家族の看護」など、やむを得ない理由による年休取得の場合は慎重に判断したほうがよいでしょう。また、例えば、退職が近い社員で退職日までに有休を別の時季に変更できない場合は、時季変更権は行使できません。

どうしても災害時の復旧作業などで出勤してもらいたい場合は社員とよく話し合う必要があるでしょう。

4 労働災害や解雇のルール

1)災害による負傷は労働災害に当たる?

労働災害(以下「労災」)とは、業務上の事由による「業務災害」と、通勤による「通勤災害」のことです。震災や豪雨などの災害(自然災害)は、業務や通勤とは関係なく発生するので、これらによる負傷が労災に当たるのか、疑問に思うかもしれません。

結論から言うと、業務中や通勤途中の災害による負傷は、労災として認定されやすい傾向にあります。オフィスや通勤経路に被災しやすい事情(建物や道路の構造上の脆弱性など)があって、その危険が災害によって現実化したものと考えられるからです。

災害による負傷は労働災害に当たる?

2)災害を理由に解雇は可能?

災害によって経営環境が著しく悪化した場合、人員削減のために社員を解雇せざるを得なくなることがあります。こうした解雇はいわゆる「整理解雇」に当たります。

解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は無効とされています。なかでも整理解雇は、社員に明確な落ち度がなくても行うことがあるため、特に厳しい判断がなされます。

「客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当である」かどうかを判断するに当たっては、次の整理解雇の4要素が重要な考慮要素となります。

  • 人員削減の必要性:人員削減措置が経営上の十分な必要性に基づいていること
  • 解雇回避努力義務の履行:配置転換・出向、希望退職者の募集等の手段によって、整理解雇を回避する努力を尽くしていること
  • 人選の合理性:被解雇者の選定にあたり、客観的で合理的な基準を設定し、公正に適用していること
  • 手続きの妥当性:対象社員や労働組合に対して整理解雇の必要性と時期、規模、方法等について説明、協議を行ったこと

過去には、これらを「4要件」として「どれか1つでも欠ければ整理解雇は無効である」と判断した裁判例がありますが、最近は「4要素」としてそれぞれの要素を総合的に考慮して、整理解雇の有効性を判断する傾向にあります。ただし、1つでも欠けると、その整理解雇は無効と判断されることが少なくありません。実務では、整理解雇は最後の選択肢として、まずは前述の雇用調整助成金などを活用して事業や雇用の継続を図る努力をするのが一般的と考えられています。

以上(2025年7月)
(監修 TMI総合法律事務所 弁護士 池田絹助)

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画像:metamorworks-Adobe Stock

【朝礼】レトロゲームは「手作り感」満載だからこそホッとする

【ポイント】

  • レトロゲームは最近のゲームほど洗練されていないが、その「手作り感」にホッとする
  • AIの進化はすさまじいが、人間にしかできない仕事もまた存在する
  • 「便利なものは使いつつ、人にしかできないことも大切にしていくバランス感覚」が大切

おはようございます。今日は「コンピュータゲーム」をテーマに話をします。今や日本では毎月のように、新しいゲームソフトが発売され、今年の9月には東京でゲームの祭典「東京ゲームショウ2025」が開催されるなど、大きな盛り上がりを見せています。私は最近のゲームにはあまり詳しくありませんが、それでもテレビCMなどで、美しいグラフィックの世界を、3Dのキャラクターが縦横無尽に動き回る映像を見せられると、「ゲームの進化ってすごい!」と感じます。

一方、ここ数年ちょっとしたブームになっていたのが、昭和の時代に流行した、いわゆる「レトロゲーム」です。グラフィックのビットは粗く、奥行きのない平面の世界で、2Dのキャラクターを操作する。最近のゲームに比べると物足りないかもしれませんが、そんなレトロゲームに、昭和世代の大人だけでなく、若い人たちまでもが熱中するそうです。

考えてみれば、今はスマートフォンで何でもできるし、AIも出てきて、便利すぎるくらい便利な世の中になってきました。そんな世の中にあって、良い意味でそこまで洗練されていない、「人の手」を感じるものが存在することで、人々はその「手作り感」にホッとするのかもしれません。

最近はAIを使えば、文章も書けるし、絵も描けるし、計算も一瞬でやってくれます。「このままじゃ、いつか人の仕事はなくなるのでは……」と心配になるくらいの勢いです。しかし、AIにはできないこともあります。例えば、「この人、今日はちょっと元気ないな」「なんか空気がピリッとしているな」という場面に出くわした際、相手に合わせて言い回しを変える、気を利かせてフォローするなど、そういう細やかな温かみを見せるのは、やはり人間の仕事なのかなと思います。

私たちに必要なのは、「便利なものは使いつつ、人にしかできないことも大切にしていくバランス感覚」です。「レトロな温かさ」と「最新の便利さ」、両方をうまく使いこなせたら、もっとスムーズに、そして気持ち良く仕事ができるはずです。

今日も、ちょっとした気配りや丁寧さ、そんな、AIとはまた違う“あなたらしい仕事”を一つでも増やしていきましょう!

以上(2025年6月作成)

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画像:Mariko Mitsuda

【管理会計】現金収支トントンの「キャッシュ・フロー分岐点売上高」で万全の資金繰り

1 現金収支トントンの売上高を意識する

利益はあるのに資金ショートで倒産してしまう「黒字倒産」。経営者なら知っている事象だと思いますが、

資金ショートを防ぐために、適宜、キャッシュ・フロー計算書を確認している経営者はどれほどいるでしょうか?

もし、損益計算書の売上や利益は確認しているものの、キャッシュ・フロー計算書を確認していないのなら、この記事を読んで「キャッシュ・フロー分岐点売上高」を意識してください。損益分岐点売上高が利益とトントン(ゼロ)になる売上高であるのに対し、キャッシュ・フロー分岐点売上高とは、

現金収支がトントンで、資金不足にならないために最低限必要な売上高

です。キャッシュ・フロー分岐点売上高は、

キャッシュ・フロー分岐点売上高=(固定費±費用修正)/限界利益率

で計算できます。この指標を確認すれば、御社の資金繰りが強化されます。

2 キャッシュ・フローの流出・流入のイメージをつかむ

営業活動によるキャッシュ・フロー(以下「営業CF」)がマイナスになったら、投資活動によるキャッシュ・フロー(以下「投資CF」)、または財務活動によるキャッシュ・フロー(以下「財務CF」)をプラスにして、全体のバランスを取らなければなりません。

  • 投資CF:有価証券や土地・建物などを売却すればプラス
  • 財務CF:借入、社債発行、株式発行などをすればプラス

とはいえ、売却できる資産には限りがありますし、融資や出資を受け続けることも難しいです。つまり、

営業CFがプラスでないと企業活動の継続は困難になるので、営業CFをプラスに保ち続けることが重要

になります。イメージしやすいように図で示します。営業CFの流入が多い場合と少ない場合では、次のように顕著な違いが生じます。

営業CFの流入が多い場合と少ない場合

3 キャッシュ・フロー分岐点売上高の計算

営業CFの流入と流出が同額になる売上高が、キャッシュ・フロー分岐点売上高です。その計算は損益分岐点売上高とほぼ同じです。

ここでは話を単純化するために、営業CFの流入と売上高を同額とします。また、費用と支出は同時に発生するものとしますが、減価償却資産の取得と減価償却費の計上のように、キャッシュの動きに大きなズレが生じる部分は修正します。

キャッシュ・フロー分岐点売上高の算出式は次の通りです。なお、限界利益率とは、売上高に占める限界利益(売上高−変動費)の割合です。

キャッシュ・フロー分岐点売上高=(固定費±費用修正)/限界利益率

費用修正では、支出しない費用をマイナスし、費用ではない支出をプラスします。分かりにくいかもしれませんが、具体的には次のような修正をします。

  • マイナスにする:減価償却費(支出しない費用)
  • プラスにする:借入金元本の返済額(費用ではない支出)

損益分岐点売上高とキャッシュ・フロー分岐点売上高の相違のイメージは次の通りです。利益を余剰キャッシュとしていますし、固定費もキャッシュの動きに合わせて修正している点がポイントです。

損益分岐点売上高とキャッシュ・フロー分岐点売上高の相違のイメージ

4 実際に計算してみよう

実際にキャッシュ・フロー分岐点売上高を計算してみましょう。条件は次の通りです。

  • 固定費:1億円。このうち減価償却費(支出を伴わない固定費)は3000万円
  • 変動費率:50%

この場合の損益分岐点売上高とキャッシュ・フロー分岐点売上高を計算してみましょう。まず損益分岐点売上高は、

2億円=1億円/(1-0.5)

となります。次にキャッシュ・フロー分岐点売上高は、

1億4000万円=(1億円-3000万円)/(1-0.5)

となります。計算の結果、損益分岐点売上高は2億円ですが、キャッシュ・フロー分岐点売上高は1億4000万円となりました。1億4000万円の売上高があれば収支トントンですが、これでは手元のキャッシュは0円のままです。そのため、再投資が必要な場合などは別途資金調達が必要です。

以上(2025年6月)
(監修 辻・本郷税理士法人 税理士 安積健)

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