2025年度版 「助成金」受給&活用マニュアル(2025年7月号)

国の雇用政策として、若者、女性、高年齢者、障害者など働く意欲のあるすべての人々が、能力を発揮し、安心して働き、安定した生活を送ることができる社会の実現が推し進められています。誰もが「出番」と「居場所」のある社会の実現を目指しています。
この雇用政策を達成するための手段のひとつが、雇用保険の助成金です。
雇用・労働分野の助成金は大きく分けて「雇用関係助成金」と「労働条件等関係助成金」があります。前者は雇用の安定、仕事と家庭の両立支援、従業員の能力向上などを対象にしています。一方、後者は職場環境の改善、生産性向上に向けた取組みなどを対象としています。
本冊子では、これらの助成金のうち、中小企業にお勧めのものを中心に解説しています。
なお、助成金の詳細な要件については、個別に都道府県労働局やハローワークへ問い合わせて確認してください。


中小企業の同一労働同一賃金

正規労働者と非正規労働者の不合理な待遇差をなくす「同一労働同一賃金ルール」が中小企業に適用され、約4年がたちました。政府は現在、同一労働同一賃金をより定着させるため、ルールの見直しを検討しています。本稿では、独立行政法人 労働政策研究 ・ 研修機構が今年3月に公表した「同一労働同一賃金の対応状況等に関する調査(企業調査)」の結果のうち、中小企業(従業員300人以下)に関係する主なデータを紹介します。

1 非正規労働者の待遇改善

調査は2023年9~10月に行われ、中小企業2,677社、大企業761社の有効回答が集まりました。同一労働同一賃金へ対応するため待遇を見直した中小企業では、パートや有期契約社員の基本給や賞与の改善が進みました。

慶弔休暇や病気休暇などの休暇制度、教育訓練も拡充されました。多くの中小企業で、同一労働同一賃金について何らかの対応が行われたことがうかがえます。詳細は次の表のようになっています。

パートや有期契約社員の待遇の新設・拡充等を行った中小企業の割合

基本給 57.0%
基本給の昇給の仕組み 40.0%
家族手当 13.1%
住宅手当 9.0%
精皆勤手当 10.1%
通勤手当 27.0%
賞与 41.1%
退職金 14.7%
慶弔休暇 28.3%
健康診断に伴う勤務免除や休暇 27.6%
病気休暇 24.1%
上記以外の法定外の休暇・休職 24.5%
教育訓練(OJT) 24.9%
教育訓練(Off-JT) 19.7%

2 毎月の給与が上昇

同一労働同一賃金へ対応した結果、多くの中小企業で、パートや有期契約社員の毎月の給与(1人あたり)が上昇しました。「有期フルタイム」「有期パートタイム」「無期パートタイム」に分けて集計したところ、いずれも9割近くの中小企業で、毎月の給与(1人あたり)がアップしています。

同一労働同一賃金ルールへの対応によるパートや有期契約社員の毎月の給与(1人あたり)の変化

  変わらない、
または減った
少し増えた
(1~3%程度)
やや増えた
(4~5%程度)
かなり増えた
(6%以上)
無回答
有期フルタイム 12.7% 44.8% 29.5% 12.9% 0.1%
有期パートタイム 11.5% 44.1% 26.3% 17.0% 1.1%
無期パートタイム 14.1% 45.5% 29.5% 10.4% 0.4%

※「無期パートタイム」については、端数処理の関係で合計が100%にならない

中小企業における年間の賞与(1人あたり)もアップしました。「有期フルタイム」の賞与をアップさせた企業は85.3%、「有期パートタイム」では80.9%、「無期パートタイム」では67.1%に達しました。

同調査では、同一労働同一賃金への対応にあたって、労使の話し合いを行ったかどうかについても尋ねました。パートや有期契約社員を雇う中小企業のうち、労使の話し合いを行ったのは46.5%。内訳は、パートや有期契約社員を含めて話し合いを行った企業が28.3%、含めずに行った企業が18.2%でした。

3 さいごに

中小企業の同一労働同一賃金への対応については、「既に必要な見直しを行った(対応完了)」が44.6%、「検討の結果、見直しは必要ないと判断した(対応予定なし)」が23.2%、「現在、必要な見直しを行っている(対応中)」が11.5%でした。一方、「今後の見直しに向けて具体的な対応方策を検討中(対応予定)」が10.5%、「まだ見直しについて検討していない」が10.3%となっています。規模が小さい企業ほど、「まだ見直しについて検討していない」と答えた割合が高い傾向がありました。

同一労働同一賃金については、ルールの難解さや対応に時間がかかるなどの課題があり、中小零細企業にとっては負担が大きいかと思いますが、改めてこの機会にご検討いただくのも良いのではないでしょうか。

※表はいずれも「同一労働同一賃金の対応状況等に関する調査(企業調査)」の結果より

※本内容は2025年6月10日時点での内容です。

(監修 社会保険労務士法人 中企団総研)

sj09153

画像:illust-ac

【債権回収】取引先が「会社更生手続」を申立てたら債権はどうなるのか?

1 「会社更生手続」の位置付け

取引先が会社更生手続を申立てた場合、自社もその影響を受けます。そのため、取引先の会社更生手続の申立てに備えて、事前に何ができるのかを知っておく必要があります。その前提となる情報として倒産処理の手続を整理します。

倒産処理の手続き

会社が債務超過などで倒産した場合、その手続は、

  • 私的整理:裁判所を利用しない
  • 法的整理:裁判所を利用する

に大別されます。法的整理はさらに、

  • 清算型:会社の清算を目的とする
  • 再建型:会社の再建を目的とする

に大別されます。

会社更生手続とは、

規模の大きな会社(株式会社に限る)の利用を想定した制度

です。そのため、多数の関係者の利害調整を行うことができるように、厳格な手続が定められています。なお、債権回収の可能性という観点で見ると、手続が厳格な分、民事再生手続よりも会社更生手続のほうが手続外で取り得る手立てが限られています。

では、会社更生手続の基本的なポイントを紹介していきます。なお、会社更生手続には、株主も利害関係者として参加できますが、この記事は債権者の視点を中心にしているので、株主に関する規定は省略します。

2 会社更生手続における債権の分類

会社更生手続では、債権を3つに分類します。

会社更生手続における債権の分類

商取引上の債権の多くは更生債権です。また、更生債権の中には、一般の「先取特権」のように優先的取扱いのされる更生債権や、更生手続開始後の利息請求権などのように劣後的取扱いのされる更生債権があります。

民事再生手続との大きな違いは、

担保権が「更生担保権」として会社更生手続に取り込まれ、手続外での自由な権利行使が認められなくなる

ことです。つまり、担保権を行使することができなくなります。

3 会社更生手続の概要

会社更生手続の主な流れは次の通りです。図の網掛けについては以降で詳しく紹介しています。

会社更生手続の主な流れ

1)更生債権等の届出

更生債権者は、定められた債権届出期間内に、裁判所に自身の債権の内容などを届け出ます。会社更生手続に取り込まれる担保権を有する者(更生担保権者)も届け出なければなりません。

また、民事再生手続においては、届出がない再生債権についても再生債務者が自認していれば再生債権に取り込まれますが、会社更生手続にはこうした制度がありません。その代わり、会社更生手続には、知れたる債権者が届出をしない場合、債権届出期間の末日を通知する旨の規定があります。

2)更生計画案の決議・認可

更生計画は、民事再生手続における再生計画に当たるものです。

ただし、更生計画では「更生担保権」「一般の先取特権その他一般の優先権がある更生債権」「更生債権」「約定劣後更生債権」「残余財産の分配に関し優先的内容を有する種類の株式」「これ以外の株式」の順で優先順位が定められます。原則として、上位の権利者のほうが債権の削減幅が小さくなる可能性が高いです。

また、可決の要件は、更生債権者・更生担保権者・株主ごとに異なる定めがなされています。議決権を行使する場合は、事前に確認をしておいたほうがよいでしょう。

4 会社更生手続中の取引先から債権回収する手立て

更生債権等は、原則として、更生計画に基づいて権利の変更がなされ、それに従って弁済などを受けることになります。しかし、更生計画とは別に、債権回収を図ることができる手立てもあります。

民事再生手続と同じように、会社更生手続においても、

債権届出期間内であれば、双方の債権債務を相殺

できます(相殺の条件は、基本的には民事再生手続と同じです)。同様に、中小企業者の債権の弁済の許可や少額債権の弁済の許可が定められています(内容は、基本的には民事再生手続と同じです)。

以上(2025年7月更新)
(監修 有村総合法律事務所 弁護士 平田圭)

pj00000
画像:Mariko Mitsuda

【労災の落とし穴(運送業)】 自賠責保険で労災対応したら、 労災保険は使えないでしょ?

この記事では、現役社労士が直面した小さな運送業の労災の事例として、「長期休業が必要になり労災保険での対応を求めてきた社員に対し、『自賠責保険で対応したからだめだ』と突っぱねてしまった会社」の話を紹介します(実際の会社が特定できないように省略したり、表現を変えたりしているところがあります)。

1 対向車との接触事故、自賠責保険で対応したが費用負担が予想以上に高い……

社員数10人の配送会社に勤めるドライバーのCさん。ある日、Cさんは業務で車両を運転していた際、アクセルを踏み間違えた対向車と接触する事故に遭いました。幸い、命に別状はありませんでしたが、長期休業が必要になるほどの大けがを負ってしまいました。

Cさんの休業中の諸費用(入院・治療費や生活費)は、加害者側の自賠責保険で賄うことになりました。しかし、Cさんのけがは後遺障害が残るレベルではなかったものの、費用負担が予想以上に重くなってしまいました。Cさんは社長に「労災保険で対応できませんか?」と相談しましたが、「もう自賠責保険で対応したんだから無理だよ」と突っぱねられてしまいました。

2 自賠責保険と労災保険は、併用できる場合もある

自賠責保険(自動車損害賠償責任保険)は、交通事故の被災者を救済するための保険で、全ての自動車に加入が義務付けられています。本来労災保険で対応すべき業務中の事故を健康保険で対応することは違法ですが、

労災保険と自賠責保険の場合、どちらの保険で事故に対応するかは社員(被災者)が選択

できます。

なお、労災保険と自賠責保険の間には、

補償内容が重複する部分については、どちらか一方の保険からしか給付を受けられない

というルールがあり、この点を勘違いして「自賠責保険で治療費や休業費の補償を受けたら、労災保険からの給付は受けられない」と思っている人がいます。しかし、実は両方の保険から給付を受けられる場合もあります。

例えば、休業補償については、労災保険と自賠責保険それぞれで、

  • 労災保険:休業4日目から給付基礎日額の80%(60%+特別支給金20%)
  • 自賠責保険:原則1日6100円。収入減の立証で1万9000円を限度として、実額を補償

という補償内容になっていますが、労災保険の「特別支給金20%」の部分は、労働者の福祉のために政策的に支給されるもので、損害の補填を目的としていないため、自賠責保険とは重複しないと考えられています。

つまり、Cさんのケースであれば、自賠責保険の休業補償とは別に、労災保険の特別支給金の支給を受けられる可能性があるわけです。

3 労災保険と自賠責保険、それぞれの補償内容を押さえる

労災保険と自賠責保険は、前述した休業補償の他にも違いがあります。例えば、自賠責保険には被害者に対する慰謝料の支給がありますが、労災保険にはありません。一方で、自賠責保険は治療費の上限額が決まっており、超過部分が自己負担となるケースがありますが、労災保険の場合は自己負担がありません。

労災保険と自賠責保険の比較

前述した通り、労災保険と自賠責保険、どちらを使うかは社員(被災者)が自由に選択できますので、それぞれの給付の内容を理解した上で対応しましょう。

■厚生労働省「労災保険給付の概要」

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/gyousei/rousai/040325-12.html
■自賠責保険・共済ポータルサイト「自賠責保険・共済の限度額と補償内容」■
https://www.mlit.go.jp/jidosha/jibaiseki/about/payment/index.html

以上(2025年7月作成)

pj00768
画像:ChatGPT

【債権回収】与信管理で使えるチェックリスト

1 日々の「与信管理」で使えるチェックポイント

 与信管理は日々、継続して行う必要があります。しかし、取引開始後はどうしてもチェックが甘くなりがちです。また、社員によって与信管理に対する重要性の認識が違うため、足並みも揃いません。こうした問題を解決し、取引先の状況を「横で比較」しやくするため、

取引先の経営実態をつかむ際に重要となるチェックポイント

を紹介します。これをリスト化して、日々の与信管理に活用してください。

2 ヒトから経営実態をつかむ

 企業経営はヒトが要で、特に中小企業では「経営者=会社」というほど、経営者が経営に影響を与えます。取引先のヒトを知るには、実際に話してみるのが肝心。対面が望ましいですが、難しい場合はオンラインでもよいでしょう。ヒトに関する主なチェックポイントは次の通りです。

  • 壮大な事業計画を口にする
  • 他人の意見や忠告を聞かない
  • 社外の公職をひけらかす
  • 服装や生活が派手だ
  • 家庭不和の噂がある
  • 幹部社員の入れ替わりが激しい
  • 社長との連絡がほとんどとれない
  • 社員の表情が暗い、覇気がない

3 モノから経営実態をつかむ

 取引先の経営実態は商品などモノの流れから把握できます。具体的には、仕入先や販売先、在庫などをチェックします。取引先と関係のある仕入先や販売先の企業にヒアリングしたり、取引先の倉庫に出向く機会があれば在庫を確認したりしてみましょう。モノに関する主なチェックポイントは次の通りです。

  • 取引量が急増もしくは急減した
  • 仲間取引が急増している
  • 主要仕入先や販売先が頻繁に変わる
  • 在庫品がきちんと保管されていない
  • 不良品が増加している
  • 本業と関係のない商品の取り扱いを始めた

4 カネから経営実態をつかむ

 取引先の経営実態は、決算書などの財務内容に表れます。取引先の決算書を入手して財務内容をチェックすることも必要です。取引先の決算書を入手するのが難しければ、信用調査会社から入手することもえきます。カネに関する主なチェックポイントは次の通りです。

  • 売掛金、借入金、棚卸資産が急増している
  • 税金や社会保険料の滞納が続いている
  • 決済日を守らなくなった
  • 手形のサイトが長期化した
  • 決済条件の変更を頻繁に要請してくる
  • 取引銀行が頻繁に変わる

5 周辺情報から経営実態をつかむ

 同業者の声や街の噂など、取引先に関する第三者の情報も役立ちます。周辺情報に関する主なチェックポイントは次の通りです。

  • 同業者から悪い噂を耳にする
  • 使い込みなどの噂を耳にする
  • 飲み屋で支払いが悪いという声を耳にする
  • 派手な接待を行っているといった噂を聞く

以上(2025年7月更新)

pj60055
画像:Mariko Mitsuda

【債権回収】取引先が「民事再生手続」を申立てたら債権はどうなるのか?

1 「民事再生手続」の位置付け

取引先が民事再生手続を申立てた場合、自社の債権は大きな影響を受けます。そのため、取引先の民事再生手続の申立てに備えて、事前に何ができるのかを知っておく必要があります。その前提となる情報として倒産処理の手続を整理します。

「民事再生手続」の位置付け

会社が債務超過などで倒産した場合、その手続は、

  • 私的整理:裁判所を利用しない
  • 法的整理:裁判所を利用する

に大別されます。法的整理はさらに、

  • 清算型:会社の清算を目的とする
  • 再建型:会社の再建を目的とする

に大別されます。

民事再生手続は、

株式会社の他、個人や株式会社以外の法人においても利用できる制度

になります。財産の管理・処分権は原則として債務者が有することとなっており、各種手続も同じ再建型の手続きである会社更生手続よりも柔軟です。

では、民事再生手続の基本的なポイントを紹介していきます。

2 民事再生手続における債権の分類

民事再生手続では、債権を4つに分類します。

民事再生手続における債権の分類

商取引上の債権の多くは再生債権です。再生債権は、「債権は○%カットされる」など権利変更の対象になります。一方、共益債権・一般優先債権は再生手続によらず、随時弁済を受けることができます。また、詳細は省略しますが、通常の商取引では開始後債権に該当するものは限られます。

上記の他、「再生手続開始後の利息請求権」や「再生手続開始前に劣後的債権とすることを合意した債権」などは、劣後的取扱いのされる再生債権となります。

3 民事再生手続の概要

民事再生手続の主な流れは次の通りです。図の黒塗りの部分については以降で詳しく紹介しています。

民事再生手続の主な流れ

1)裁判所による保全処分・中止命令等

会社を再建するには、債務者が所有する財産の散逸を防がなければなりません。そのため、民事再生手続の申立てから開始までには、債権者などの権利行使を制限するさまざまな定めがあります。例えば、裁判所は、一部の債権者のみに弁済したり、各債権者が自己の債権回収を進めたりすることを防ぐため、申立てまたは職権で仮差押え・仮処分その他の必要な保全処分ができます。加えて、こうした個別の対処では不十分な場合に備えて、

再生手続開始の決定までの間、全ての再生債権者(再生債権の権利者)に対して、強制執行などを包括的に禁止する

こともできます。

例外的な債権回収方法は後述しますが、

再生債権に関しては、民事再生手続申立て後は、基本的に認可を受けた再生計画によらずに弁済を受けることは難しい

と考えておいたほうがよいでしょう。

2)再生債権の届出

再生債権者は、民事再生手続の開始決定時に定められた債権届出期間内に、裁判所に自らの債権の内容等を届け出なければなりません。

再生債務者(再生手続の対象者)は、届出があった再生債権について、その内容などの認否を記載した認否書を作成します。原則、この認否書の内容に基づいて各再生債権者の債権の額などが調査・確定されます。再生債務者は、届出がない再生債権があることを知っているときは、それも再生債権に含める必要があります。

3)再生計画案の決議・認可

再生計画とは、

再生債務者の再生を図るための取り組みなどを定めた計画

のことです。再生計画には、全部または一部の再生債権者の権利を変更する条項、共益債権および一般優先債権の弁済に関する条項などが定められます。再生債権者から見ると、「債権は○%カットされる」など、権利変更の内容が定められた計画です。

再生債務者などが裁判所に再生計画案を提出すると、裁判所は書面などによる決議または債権者集会による決議に付します。このとき、再生債権者は再生債権額などに応じて議決権を有します。再生債権者にとっては、意思表示ができる数少ない機会です。

可決要件は、債権者集会に出席している再生債権者または書面などによる議決権を行使した債権者の頭数による過半数の賛成と、議決権総額の2分の1以上の議決権を有する者の賛成の双方が必要となります。

4 民事再生手続中の取引先から債権回収する手立て

1)債権債務の相殺

再生債権者が再生債務者に対して債務がある場合、

債権届出期間内であれば、双方の債権債務を相殺

できます。相殺できる債権債務には一定の条件があります。主な条件は次の通りです。

  • 自働債権(相殺の意思表示をする側の債権。この場合は再生債権者)の弁済期が再生債権届出期間満了前までに到来していること。受働債権(相殺の意思表示をされる側の債権。この場合は再生債務者)の弁済期間が到来している必要はない
  • 再生債権者による相殺の意思表示が、再生債権届出期間内に相手方に到達していること

2)担保権の行使

民事再生手続開始の時点で、再生債務者の財産に設定されている担保権(特別の先取特権、質権、抵当権、商事留置権)を有する者は、その目的である財産については「別除権」を有し、民事再生手続によらずに行使できるとされます。そのため、上記に該当する担保権を有していれば、競売などを通じて債権回収できる可能性があります。

「特別の先取特権」は、「動産売買の先取特権」と「不動産の先取特権」に分けて詳細が定められています。動産売買の先取特権の場合、例えば、

再生債務者が自社から仕入れた商品を転売している場合、再生債務者が転売先に対して有する売掛金などの債権を、裁判所の債権差押命令によって差押さえて債権回収できる

場合があります。こうした方法で全額弁済を受けることができない場合は、不足する部分について、再生債権者として権利を行使することができます。

なお、一般の先取特権は別除権とはなりませんが、これによって担保される債権は、一般優先債権として、再生手続によらずに随時弁済を受けることができます。

3)その他の手立て

ここで紹介する手立ては再生債務者の申立てや裁判所の職権によるものなので、債権者が主体的に始めることはできません。しかし、債権回収の可能性がある手立てなので紹介します。

1.中小企業者の債権に対する弁済の許可

再生債務者を「主要な」取引先とする「中小企業者」が、再生債権の弁済を受けなければ事業継続に著しい支障を来す恐れがあるとき、裁判所は再生計画認可の決定が確定する前でも、再生債務者などの申立てや職権によって、その全部または一部の弁済を許可することができます。

なお、「主要な」や「中小企業者」について絶対的な基準はなく、中小企業者と再生債務者のその規模や、再生債務者への依存度(取引高の規模)などが考慮して決められます。

2.少額債権の弁済の許可

「少額」の再生債権を早期に弁済することで民事再生手続を円滑に進められるとき、または「少額」の再生債権を早期に弁済しなければ、再生債務者の事業継続に著しい支障を来すときは、裁判所は再生計画が認可される前でも再生債務者などの申立てによって、弁済を許可することができます。

なお、「少額」についても絶対的な基準はなく、再生債務者の規模、債務の総額、弁済能力、弁済の必要性などが考慮して決められます。

以上(2025年7月更新)
(監修 有村総合法律事務所 弁護士 有村佳人)

pj60195
画像:Mariko Mitsuda

【朝礼】油断大敵! 「自覚なきカスハラ」をしていませんか?

【ポイント】

  • 「カスハラをしている」という自覚のないまま、つい横柄な態度を取ってしまう人がいる
  • 相手が取引先の場合、自分の言動一つで会社の評判が傾くこともある
  • 相手への思いやりと、「これを言ってしまったらどうなるか」という危機意識が大切

今日は「カスハラ」をテーマにお話しします。皆さんもご存じですよね。正式名称は「カスタマーハラスメント」、客がお店の店員などに対し、暴言を吐いたり土下座を迫ったりといった、悪質な嫌がらせをすることをいいます。カスハラは今や社会問題、客から嫌がらせを受け、精神を病んでしまう人も多いと聞きます。もしも社員である皆さんが、誰かからカスハラを受けようものなら、会社は全力で皆さんを守ります。ただ、今日考えていただきたいのは、それとは別の話。皆さんが「客」として、知らず知らずのうちにカスハラをしていないか、という問題です。

このように言うと、皆さんの多くは「自分がカスハラなんてするわけがない!」と憤慨することでしょう。でも、よく考えてみてください。例えば、「仕事帰りに疲れていて、たまたま寄ったコンビニの定員に、ついぶっきらぼうな態度を取ってしまった」「飲食店で注文が通っていなくて、つい舌打ちをしてしまった」、このような経験はないでしょうか? 誰しも1つぐらいは思い当たるものがあるはずです。もちろん、こうした行為が即カスハラとして認定されるわけではありませんが、私が皆さんに伝えたいのは「油断をするな」ということです。

仮に皆さんが、コンビニや飲食店の店員でなく、取引先の窓口担当者に横柄な態度を取ってしまったとしたら、どうなるでしょう? たとえ法的にはカスハラにならなくても、「あの会社の担当者に横柄な態度を取られた」という話に尾ひれが付いて、「あの会社はカスハラまがいのことをしてくる」なんて噂が広まってしまう……自分の言動一つで会社の評判が傾くことだってあるのです。

「そんな大げさな」と思うかもしれませんが、今、世の中で起きているカスハラだって、加害者の多くには「カスハラをしている」という自覚がありません。「悪気はなかった」「店員を教育してあげたつもりだった」というような言い訳、皆さんも聞いたことがあるでしょう。自分の言動というのは、自分が考えている以上に相手を傷付けているケースが多いのです。

「自覚なきカスハラ」をしてしまう人に足りないのは、相手への思いやりと、「これを言ってしまったらどうなるか」という危機意識です。油断大敵! 言動にはくれぐれもご注意を。

以上(2025年7月作成)

pj17221
画像:Mariko Mitsuda

「そのとき社員は動けるか?」~AEDに初期消火、今こそ見直す防災訓練~

1 【提案】日ごろからの訓練で災害に備えましょう!

大地震などの災害時に適切な行動が取れるようにするには、日ごろの訓練が欠かせません。2024年に発生した「令和6年能登半島地震」など、近年は大規模な災害が続いており、改めて企業の防災意識と具体的な備えが求められています。具体的には、以下を実現させましょう。

  • 災害が発生した場合の初動対応の流れ(全体像)を理解する
  • 初動対応を円滑に進められるよう、代表的な防災訓練である「応急救護訓練」「通報・伝達訓練」「消火訓練」「避難訓練」のポイントを押さえ、実施する

2 仕事中に大地震が発生したらどうする?

仕事中に大地震が発生した場合を想定した際の初動対応は、一般的に次のようになります。

  • 安全確保と応急救護
  • 通報と初期消火(火災が発生した場合)
  • 避難

大地震が発生した場合を想定した際の初動対応

火災も発生してしまった場合には、周囲に火災が発生した旨を伝え、119番通報(第4章参照)を促した上で、初期消火(第5章参照)などを行います。

火災が発生した場合の対応

火災や建物の倒壊の危険があったり、役所・警察・消防から避難の指示があったりした場合はすぐに避難(第6章参照)します。避難の流れは次の通りで、火災や建物の倒壊の危険がなく、役所・警察・消防から避難の指示がない場合、会社が避難すべきかどうかを判断します。

  • 近所の学校や公園などの「一時集合場所」に避難
  • 一時集合場所への避難が危険な場合、大きな公園・広場などの「避難場所」に避難
  • 火災や建物の倒壊の危険がなくなり自宅に被害がない場合、帰宅
  • 自宅で生活できない場合、学校などの「避難所」に避難

以上が、大地震が発生した場合の初動対応の流れですが、日ごろから訓練していなければ、いざというとき適切な対応を取るのは難しいです。次章からは、いよいよ具体的な防災訓練のポイントを見ていきます。ここまでの初動対応の流れを踏まえ、

  • 応急救護訓練
  • 通報・伝達訓練
  • 消火訓練
  • 避難訓練

という順番で紹介します。防災訓練についてより詳細な情報を知りたい方は、総務省消防庁のマニュアルなども参考になります。また、訓練内容や消防署員の派遣などについて相談したい方は、最寄りの消防署にお問い合わせください。

■総務省消防庁「消防安第31号 小規模ビル避難等訓練マニュアルについて」■
https://www.fdma.go.jp/laws/tutatsu/post1367/
■東京消防庁「自衛消防訓練~もしもの時に備えて訓練していますか?~」■
https://www.tfd.metro.tokyo.lg.jp/lfe/office_adv/life11.htm

3 応急救護訓練

1)応急救護訓練の概要

災害が発生したとき、まずは身の安全を確保し、周りの人の安否を確認します。その際、けがをした人に応急救護する必要があります。応急救護訓練では、三角巾やAED(自動体外式除細動器)の使い方、人工呼吸や心臓マッサージのやり方などを身に付けます。専門的な内容もあるので、可能であれば消防署に相談の上、救命講習を受講するのが理想です。総務省消防庁の「一般市民向け応急手当WEB講習」サイトなどでも、基本的な知識を学ぶことができます。

■一般市民向け応急手当WEB講習■
https://www.fdma.go.jp/relocation/kyukyukikaku/oukyu/

応急救護訓練

2)応急救護訓練のポイント

応急救護の基本的な流れは、

  • 負傷者の状況を確認し、必要に応じ119番通報する
  • 救急車の到着まで手当てをする

です。手当ての内容は、「出血している」「骨折している」「意識・呼吸がない」などの状況によって異なるので、救命講習で状況ごとの対応を習いましょう。

また、救命処置の一環として、特にAEDの場所と使い方は社員に周知しておきましょう。

AEDとは、心臓がけいれんして血液を全身に送れない状態(心室細動)になった場合、電気ショックを与えて蘇生を試みるための医療機器

です。

一般市民が心肺蘇生を実施した傷病者(全体)の1カ月後の生存率は14.8%なのに対し、AEDを使用した傷病者の1カ月後の生存率は54.2%になっています(総務省消防庁「令和6年版 救急救助の現況」)。

AEDは全国の駅や公共施設など、さまざまな場所に設置されています。AEDの設置場所を検索したり、地図上で確認したりできるサービス・アプリが登場しているので使ってみるとよいでしょう。

■日本救急医療財団「財団全国AEDマップ」■
https://www.qqzaidanmap.jp
■日本AED財団「AED N@VI」■
https://aed-navi.jp
■アルム「日本全国AEDマップ」■
https://aedm.jp

AEDの基本的な使い方については、前述した一般市民向け応急手当WEB講習のサイトなどで動画が公開されているので、こちらも併せて社内に周知しておきましょう。

■一般市民向け応急手当WEB講習「心肺蘇生 AEDの基本的な使い方」■
https://www.fdma.go.jp/relocation/kyukyukikaku/oukyu/01futsu/05shinpai/01_05_11.html

4 通報・伝達訓練

1)通報・伝達訓練の概要

通報訓練では、火災などの災害発生時から通報するまでの一連の流れ(119番通報の方法、非常放送の流し方など)を身に付けます。119番通報の訓練で実際に119番通報することもできますが、この場合は消防職員の立会いが必要です。

通報・伝達訓練

2)通報・伝達訓練のポイント

119番通報などをする場合の基本的な流れは、

  • 非常ベルを押す
  • 火災を確認後、非常放送などで社内に知らせる
  • 119番通報する

です。非常放送では、次のように「火災の状況」と「社員に対する指示」を正確かつ簡潔に知らせます。

  • (非常ベルを押した場合)ただ今○階で、非常ベルが作動しました。現在、確認中ですので、指示があるまで待機してください
  • (火災の発生を確認した場合)ただ今○階で、火災が発生しました。所属長の指示に従って避難してください
  • (確認したが、火災でなかった場合)先ほど今○階で、非常ベルが作動しましたが、火災ではないことが確認できました。安全を確認しましたので、ご安心ください
  • (火災が発生後、消火が完了した場合)先ほど〇階で発生した火災の消火が完了しました。避難中の社員の皆さんは、安全の確認が取れるまでそのまま待機してください

消防署員にも正確かつ簡潔に状況を伝えます。総務省消防庁が、通報に便利な「119番通報メモ」を公表しているので、あらかじめ通報項目を記入して、電話機の前などに貼っておくとよいでしょう。なお、スマートフォンの場合は通報前にGPS機能をONにしておくと、災害発生場所の特定がより迅速になることが期待されます。

119番通報メモ

5 消火訓練

1)消火訓練の概要

消火訓練では、消火器や屋内消火栓の使い方を身に付けます。屋内消火栓は消火器よりも放水能力が高く、消火器での初期消火が難しい場合などに使われます。

放水訓練(実際に燃えている火を消す訓練)の場合、最寄りの消防署や防災センターなどに問い合わせることで、訓練が受けられます。最近はVRなどを使って、初期消火を擬似的に体感しながら学ぶ訓練もあります。

消火訓練

2)消火訓練のポイント

消火器を使う場合の基本的な流れは、

  • 火事だと大きな声で周囲に知らせる
  • 消火器を取りに行く
  • 初期消火を行う

です。消火器は安全ピンを抜いてから使用しますが、運搬時に誤ってピンを抜くと事故のもとなので気を付けましょう。また、

消火器で初期消火を行える限界は、炎が天井に到達するまでが目安

です。危険を感じたら直ちに初期消火を中止し、安全な場所に避難してください。

消火器の操作

なお、消火器は使用期限を過ぎると腐食が進み、破裂などの事故を起こす恐れがあります。

使用期限は、業務用消火器の場合で約10年(住宅用消火器は約5年)

ですので、社内の消火器が使用期限を過ぎていないか必ず確認してください。

屋内消火栓を使って消火を行う場合、

  • 1号消火栓(ホースを延長しないと、水を流せないタイプ)
  • 2号消火栓・易操作性1号消火栓(ホースが収納状態でも、水を流せるタイプ)

の2種類があり、それぞれ操作要領が違うので注意が必要です。下記にて両者の違いがイラスト付きで掲載されているのでご確認ください。

■総務省消防庁「小規模ビル避難等訓練マニュアル 消火訓練」(下記2枚目を参照)■
https://www.fdma.go.jp/laws/tutatsu/items/160305an31_1.pdf

6 避難訓練

1)避難訓練の概要

避難訓練では、通路・階段を使った、安全な場所までの避難方法を身に付けます。火災で煙が出ることを想定する場合、ハンカチやタオルで鼻・口を押さえ、姿勢を低くして避難します。

避難器具(緩降機や避難はしご)の使い方を訓練する場合、事故防止のため消防署員の立会いのもとで行うことが推奨されています。

避難訓練

2)避難訓練のポイント

非常放送(第4章)が流れてから避難するまでの基本的な流れは、

  • 避難誘導を行う
  • 避難通路・避難階段を使って外に出て、安全が確保できる場所まで誘導する
  • 避難者を確認する

です。避難誘導は、所属長が拡声器を使うなどして避難ルートを指示しながら行います。エレベーターの使用は禁止し、あらかじめ決められた通路・階段を使って外に出ます。この際、

通路・階段に物が放置されていると、消防法違反になる上、避難経路が断たれてしまう

ので、避難ルートの状況は必ず確認し、誘導灯の照明が切れていないかなどにも注意します。

避難経路

実際は出火場所などによって通れない通路や階段も出てくるので、

避難ルートを何パターンか決めておき、出火場所の想定を訓練のたびに変えるなどして、状況に合わせた避難ができるよう社員を訓練すること

も大切です。避難器具については、使い方が分からないという社員も少なくないので、消防署員の立会いのもと、学習の機会を設けましょう。また、東京消防庁のウェブサイトでは、緩降機や避難はしごの使い方を動画で説明しているので、併せて社員に周知するとよいでしょう。

■東京消防庁「消防用設備などの取扱い要領メニュー」■
https://www.tfd.metro.tokyo.lg.jp/learning/contents/shobo-setsubi/#breadcrumb

以上(2025年7月更新)

pj00723
画像:TY Lim-shutterstock

【債権回収】「公正証書」を作成して強制的に債権を回収する準備をする

1 強制執行の申立ができる「公正証書」の作成

公正証書とは、

公証役場で公証人がその権限に基づいて作成する文書(公文書)

です。単なる公正証書は私的な契約書と比べて訴訟における証明力は非常に強いですが、法的効力自体は同じです。公正証書に私的な契約書よりも強力な効力を持たせるためには、

公正証書に「強制執行認諾文言」を定める

必要があります。強制執行認諾文言とは、

債務を履行しない場合は、「強制執行」を受けてもやむを得ないという条項

です。強制執行認諾文言が入った公正証書を「執行証書」と呼び、確定判決などと同様に「債務名義」になります。

強制執行とは、

判決等によって債務の履行をすべきであるにもかかわらず、相手がそれに応じない場合、裁判所に「強制執行の申立」をして、国家の強制力によって判決等で定められた内容を実現する

ことです。国家の強制力という表現からも非常に強い手続であることが分かります。それ故に強制執行の申立をするには「債務名義」が必要です。債務名義とは、簡単にいうと、

強制執行をする根拠となる文書であり、債権債務の存在を公に認めるもの

です。執行証書は債務名義になるわけですから、その効力の大きさが分かります。

ただし、執行証書は一定の額の金銭の支払い等を目的にするものに限られるため、継続的に取引が行われ、支払額が定まらない「基本契約書」の場合は作成できません。また、執行証書に「執行文」が付与されていなければ強制執行はできないのですが、この点は後述します。

2 強制執行を開始するための要件

執行証書に基づいて強制執行を開始するための要件が2つあります。

1つ目は、

執行証書の正本に執行文の付与を受けること

です。執行文とは、債務名義に付与されるもので、強制執行ができるという証明です。執行証書の場合、原本を保存する公証人が債権者の申し立てによって執行文を付与します。少しくどいですが、執行証書であっても執行文の付与がなければ強制執行はできません。

2つ目は、

執行証書の謄本をあらかじめ執行を受けるべき債務者に送達し、そのことを公証人の作成した送達証明書によって執行機関に証明すること

です。

執行文付与の手続は次の通りです。

  • 執行証書の正本を所持する債権者が、その原本を保存する公証人に対し、手数料を納付して執行文の付与を請求する
  • 債権者が執行証書の正本を提出して執行文の付与を求めたときには、公証人は、その正本の末尾に、「甲(債権者)が乙(債務者)に対しこの証書により強制執行することができる」旨の文言を付記して、これを債権者に交付する
  • 執行証書の記載から、金銭請求権が債権者の証明すべき事実の到来(例えば、目的物を先に提供することが条件になっている場合など)にかかっているときは、債権者が、その事実の到来した(条件が成就した)ことを証する文書を提出しない限り、執行文を付与できない場合がある

3 公正証書の作成

以上、公正証書の有効性を紹介してきました。公正証書の作成には手間、時間、費用(相手方の負担にすることもできます)がかかります。また、債権回収のリスクを考えても、全ての契約書を公正証書にする必要はありませんが、取引金額が大きいなどの場合は検討に値します。

詳細は日本公証人連合会のウェブサイトなどに記載されていますが、補足として、以下に公正証書を作成するまでの流れを簡単に紹介します。

■日本公証人連合会■
https://www.koshonin.gr.jp/

まず、契約書に次のように定めておきます。

甲(売主)及び乙(買主)は、本契約締結後速やかに、強制執行認諾条項付の公正証書を作成する。なお、公正証書作成費用は、乙の負担とする

こうすると、契約書に基づいて公正証書が作成される流れとなります。

なお、公正証書を作成する際は、原則として、売主(債権者。以下、同様)と買主(債務者。以下、同様)が公証役場に行きます。しかし、手続上、公正証書を作成したい売主が、買主から公正証書作成のための代理人の選任の委任を受け、後日、売主が買主の代理人を選任して公正証書を作成することもあります。

売主本人が公正証書を作成する当日に公証役場に行かずに売主の代理人と買主にて公正証書を作成する場合の基本的な手順は次の通りです。

  • 売主と買主が協議して売買契約書を作成する
  • 買主が「売買契約書の内容について強制執行認諾条項付公正証書とする旨を委任する」旨の委任状に署名なつ印(実印)して、印鑑証明書とともに売主に交付する。その際、添付する売買契約書になつ印する
  • 委任状があれば、買主の代理人は買主の社員や知人でもよく、その代理人と一緒に公証役場に行き、公正証書の原本に署名なつ印の上、公正証書を作成してもらう
  • 売主は、作成された公正証書を買主本人に送達することを公証人に申請する(その際、送達証明書の交付も申請。送達証明書の交付は強制執行を開始するための要件。後に強制執行をすることになった場合、買主が行方不明になっていたり、公正証書の受領を拒否したりするなど、強制執行を妨げる事態が生じることを防ぐため)
  • 売主が、送達証明書を公証人から交付されて完了

以上(2025年7月更新)

pj60189
画像:Mariko Mitsuda

【労災の落とし穴(運送業)】 無理な配車計画で労災に遭っても、 人手不足だし仕方ないよね?

この記事では、現役社労士が直面した小さな運送業の労災の事例として、「無理な配車計画で労災が発生したのに、『人手不足だから仕方がない』と労災対応をしなかった会社」の話を紹介します(実際の会社が特定できないように省略したり、表現を変えたりしているところがあります)。

1 2024年問題で配車計画がさらに逼迫、労災リスクが増大……

社員数15人の中小運送会社に勤めるドライバーBさん。Bさんの勤める会社では、2024年問題に対応しようと、社長が「残業時間を減らせ」と号令をかけています。しかし、受注件数や荷主の納期要望は増える一方で、現場では無理な配車計画が組まれがちです。結果として、Bさんは限られた時間内で配送を完了させようと急ぎ運転になり、ある日、急発進でハンドル操作を誤って、駐車場内の支柱に衝突してしまいました。

社長は「配送時間に余裕がないのは仕方ない。君が気を付ければ事故は起こらなかった」と言い、過密スケジュールが原因である点を棚に上げてしまいます。Bさんは事故により右手を骨折しましたが、社長は「君のミスだから」と健康保険で治療するよう指示。Bさんは「社長に意見すると仕事がなくなるかも……」と、指示に従ってしまいました。

2 「人手不足だから仕方がない」は通らない

2024年4月1日以降、時間外労働の上限規制や改善基準告示の適用が開始されたことで、運送の現場で、「短時間で多くの荷物を運ばなければならない」という圧力が、ドライバーにのしかかっている場合があります。その結果、無理な運転や焦りから交通事故が発生しやすくなる他、車両点検の省略や休憩カットなどにより、労災リスクも高まります。

このケースにおける事故の直接の原因は、Bさんがハンドル操作を誤ったことですが、会社の業務で車両を運転していて事故に遭ったのなら、

  • 業務遂行性:その事故は、「会社の支配・管理下にある」ときに発生したのか
  • 業務起因性:その事故は、「業務と因果関係がある」といえるか

の両方が認められるでしょう。

また、事故の背景に、会社側の無理な配車計画があると判断されれば、会社が安全配慮義務違反として責任を問われるケースも出てきます。「人手不足だから仕方がない」は通りません。

3 DX化や配置転換で業務効率化を!

会社は単に「残業を減らせ」と言うのでは、具体的な配車計画の見直しや荷主との交渉を行い、社員が焦らずに安全運転できる環境を整備しなければなりません。

労働時間を増やすことなく、余裕のある配車を行いたいのであれば、業務効率化は必須です。

  • ドライバーの点呼を行うロボットや、運行日報の記入を自動化できるデジタルタコグラフ(デジタコ)を導入した会社
  • ドライブレコーダー機能とデジタコ機能が一体になったセーフティーレコーダーで、荷待ち時間を可視化し、削減に取り組んだ会社
  • 業界未経験者であっても、会社が費用を出して免許を取ってもらう形を整えるなどして、新卒採用に取り組んだ会社

などがあります。

以上(2025年7月作成)

pj00767
画像:ChatGPT