【かんたん会社法(16)】減資の基本

書いてあること

  • 主な読者:減資の基本を知りたい人
  • 課題:減資の方法の違いで手続きが変わるため、分かりにくい
  • 解決策:方法により減資を決定する決議の種類などは異なるが、債権者異議手続きは必要

1 2つある減資の方法

株式会社(以下「会社」)は、資金調達の1つとして募集株式の発行等を行い、資本金の額を増加することがあります。その逆に、会社の業績が芳しくないなどの理由から、資本金の額を減少することもできます。これが「減資」です。

減資には次の2つの方法があります。

  1. 実質上の減資:事業縮小などで不要となった資本金の額を減少する。資本金を剰余金へ振り分けて株主に配当する
  2. 形式上の減資:赤字などを解消するために資本金で欠損を填補する。形式上、資本金の額を減少するだけで、株主に配当はしない

減資の基本的な流れは次の通りです。

  1. 株主総会の特別決議
  2. 債権者異議手続き
  3. 効力の発生
  4. 変更登記

以降では、減資の手続きの概要を紹介します。

2 減資の手続き

1)株主総会の特別決議

減資の際は、原則として株主総会の特別決議で次の内容を決定します。

  • 減少する資本金の額
  • 減少する資本金の額の全部または一部を準備金とするときは、その旨および準備金とする額
  • 資本金の額の減少がその効力を生ずる日

減少する資本金の額は、資本金の額の減少がその効力を生ずる日の資本金の額を上回ることはできません。要するに、資本金が5000万円なら減少できるのは5000万円までで、資本金をマイナスにすることはできないということです。

なお、次の場合は、株主総会の特別決議によらずに資本金を減少することができます。

1.株式の発行と同時に資本金の額を減少させる場合に、効力発生日後の資本金の額が効力発生日前の資本金の額を下回らない場合(増資と減資を同時にする場合)

→取締役会設置会社では取締役会の決議、取締役会非設置会社では取締役の決定

2.減少する資本金の額が、定時株主総会の日における法務省令で定める欠損の額を超えない場合(定時株主総会で形式上の減資をする場合)

→株主総会の普通決議

2)債権者異議手続き

減資を決議した場合、会社は債権者に減資の内容などを知らせなければなりません。資本金の額が減少すれば、債権者が不利益を被る恐れがあるので、債権者が異議を述べる機会を設けるためです。

会社から債権者への通知方法は官報で公告し、かつ知れている債権者には個別に催告をする必要があります。ただし、定款の記載などにより、電子公告や日刊紙への掲載など法定の公告方法を定めている場合は、個別の催告は不要です。

公告・催告をする事項は、次の通りです。

  • 資本金等の額の減少の内容
  • 貸借対照表など計算書類に関する事項として法務省令で定めるもの
  • 債権者が一定の期間内に異議を述べることができる旨

債権者が異議を述べることができる期間は、1カ月以上設けなければなりません。債権者が期間内に異議を述べなければ、減資を承認したものとみなすことができます。

また、債権者が異議を述べたときは、資本金の減少をしてもその債権者を害する恐れがない場合を除き、会社は弁済期を迎えた債務については弁済します。弁済期を迎えていない債務については相当の担保を提供するか、当該債権者に弁済を受けさせることを目的として、信託会社等に相当の財産を信託しなければなりません。

3)効力の発生

前述した株主総会の特別決議などで定めた日から減資の効力が発生します。ただし、債権者異議手続きが終了していない場合は、手続き終了時になります。

4)変更登記

会社は、資本金の額など変更すべき事項について変更登記をします。

3 資本金の額の減少の無効

資本金の額の減少の内容や、手続きに瑕疵(かし)がある場合、減資は無効となります。ただし、いったん効力が発生したものを無効にするのは大変で、一定のルールがあります。資本金の額の減少の無効を主張するためには会社を訴えなければなりません。訴えの提起は、資本金の額の減少の効力が生じた日から6カ月以内に限られます。また、訴えを提起できるのは株主、取締役、執行役、清算人、監査役、破産管財人、資本金の額の減少を承認しなかった債権者に限られます。

無効の主張が認められた場合、判決の効力は原告以外の第三者にも及びます。無効判決は、将来に向かって無効となります。

以上(2024年7月更新)
(監修 有村総合法律事務所 弁護士 栗原功佑)

pj60240
画像:Mariko Mitsuda

もうけが出る値付け! 値上げ時代を勝ち抜く「プライシング」の手法~商品・サービスの価格を再確認

書いてあること

  • 主な読者:仕入コストの上昇などに対応すべく、「値上げ」を検討している経営者
  • 課題:現在の価格に明確な根拠がないし、値上げをして顧客が離れるのが怖い
  • 解決策:根拠ある「価格」設定をするために、プライシングと市場調査のセオリーを知る

1 根拠ある「価格」でもうけを出す!

いきなりですが、御社は商品・サービスの価格をどのように決めていますか? もしかすると、昔からの価格を何も考えずに踏襲していたり、自分の感覚でなんとなく決めていたりしていませんか? しかし、それでは「値上げ」時代にもうけを出すことは難しいかもしれません。

なぜなら、近年は物価高で仕入コストが増加しています。また、賃上げをして人件費が上がった会社もあるでしょう。これらのコストを価格に適正に転嫁していかなければ、「やればやるほど赤字になる」という最悪の事態になりかねません。

一方、見方を変えると、今は「値上げの絶好期!」です。多くの経営者が値上げを意識しているのですから、自社が値上げ要請を受けることも想定しています。それに、政府も価格転嫁・取引適正化に向けて力を入れているのです。

それでも値上げに踏み切れない会社は、「取引を打ち切られるのではないか」という恐怖があるからでしょう。これは正しい恐れですが、少しでも克服しなければ前に進めません。そのために大切な心得として、この記事で「プライシング」と「市場調査」の基本を紹介するので、参考にしてみてください。価格を科学することに近づき、自信を持って「値上げ交渉」に臨めることでしょう。

  • プライシング:コスト(原価)や競合の動きなどを基準に、商品・サービスの望ましい価格を絞り込んでいくこと
  • 市場調査:プライシングにより設定する価格が、客観的に妥当といえるかアンケート調査などを用いて検証すること

2 身近にもある、価格を決める14の手法

価格を決定する基準には、

  1. コスト:商品・サービスのコスト(原価など)に注目する
  2. 競争:競合の価格(相場)やシェアに注目する
  3. 価値:商品・サービスの価値(需要など)に注目する
  4. 心理:消費者の購入意欲やイメージに注目する

があります。この基準で分類した主なプライシングの手法は次の通りです。書籍などによって名称や細かい説明が異なる場合がありますが、基本的な考え方は同じです。

画像1

1)コスト:商品・サービスのコスト(原価など)に注目する

1.コストプラス

コストに利益を加算して価格を設定する手法です。計算式は、

コスト+利益=価格

です。

例えば、建設やコンサルティング、システム開発など、売り手の交渉力が強い市場(独占企業が存在する市場など)や、商品・サービスの提供に時間がかかり、コストが変動しやすい場合に用いられます。商品・サービスが売れれば利益を確保できますが、競合や商品・サービスの価値を考慮しないため、価格が相場から外れる恐れがあります。

2.マークアップ

コストに一定の利益率(マークアップ率)を掛けて価格を設定する手法です。計算式は、

コスト×(1+利益率)=価格

です。

例えば、流通業界など、商品の種類は多いがコストが安定しやすい場合に用いられます。商品の種類が多いと、コストプラスでは計算がしにくいのでマークアップが活きますが、競合や商品・サービスの価値を考慮していません。

3.ターゲット・リターン

目標ROI(投資収益率)を決め、これを達成できる価格に設定する手法です。計算式は、

コスト+(投下資本×目標ROI)÷販売数量=価格

です。

例えば、自動車や医薬品のメーカーなど、多額の投資が必要な場合に用いられます。目標の利益(投下資本×目標ROI)を、販売する商品・サービスに分散させることで、巨額のコストも上乗せできますが、競合や商品・サービスの価値を考慮していません。

4.第2市場ディスカウンティング

メインの市場(第1市場)とは別の市場(第2市場)を作り、第1市場よりも低価格に設定する手法です。

例えば、国内向け商品の海外展開など、第1市場以外にも商品・サービスを供給できる余裕があり、なおかつ各市場でターゲット層が異なる場合に用いられます。生産などにかかる固定費の大部分を第1市場に持たせることで、第2市場では低価格で販売できますが、過剰な値下げはダンピング(不当廉売)と捉えられる恐れがあります。

2)競争:競合の価格(相場)やシェアに注目する

1.現行レート

競合の価格(相場)などに合わせて設定する手法です。中でも、

リーダー企業(市場で高いシェアを持ち、価格への影響力が大きい企業)の価格に合わせる手法を「プライスリーダー追随法」

といいます。

例えば、清涼飲料水やコンビニエンスストアのおにぎりなど、価値が画一的な市場で用いられます。相場に合わせるので消費者は納得感があります。突出した価格設定は難しいと思われがちですが、相場には意外と幅があり、その範囲内で調整する分には需要が減りにくいです。

2.ペネトレーションプライシング

商品・サービスの販売開始直後は低価格に設定し、新しい商品・サービスでも消費者が手に取りやすくする手法です。

例えば、携帯電話の通信事業や、動画配信サービス(VOD)など、早期に市場シェアを獲得したい場合に用いられます。競合の参入を断念させ、市場シェアを確保してからの値上げが可能です。長期的に低価格で販売する手法であるため、コストが上昇しやすい業界や、コスト改善の余地がない業界には向きません。

3.価格バンドリング

商品・サービスをセットにすることで、個別で売るときよりも安く見せて、「お得感」を演出する手法です。

例えば、飲食店のランチセットや、パソコンとソフトウエア・周辺機器のセットなど、商品・サービス同士が補完関係にある場合に用いられます。単品では売れにくい商品の回転率や、客単価を上げられます。

3)価値:商品・サービスの価値(需要など)に注目する

1.プライスカスタマイゼーション

需要が供給を大きく上回っている場合、商品・サービスを高価格に設定し、利益を最大化させる手法です。

例えば、タクシーの深夜料金は、終電がなくなり他の交通手段で自宅に帰れない場合、サービスの需要が高くなり、日中よりも乗車料を高価格に設定できます。山頂にある自動販売機などもそうです。コンビニやスーパーがなく、飲み物を供給する場所が著しく少ないため、多少価格が高くても買ってもらえます。ただし、特定の場所や時間帯に依存するため、使える場面は限られます。

2.ダイナミックプライシング

需要と供給の差に注目し、価格を細かく調整する手法です。低価格に設定する場合もあります。

例えば、飛行機やホテルのように繁忙期と閑散期がある場合や、コンサートやスポーツ観戦のようにサービスの利用数に上限がある場合に用いられます。近年は、AIを活用した短サイクルの価格調整も可能で、EC業界にも導入されています。需要が供給を大きく上回る時期には高価格で利益を確保でき、需要が供給を大きく下回る時期には低価格で販売数量を稼げます。

3.スキミングプライシング

商品・サービスの販売開始直後は価格を高く設定し、競合の参入や市場の成熟に合わせて価格を下げていく手法です。

例えば、スマートフォンやVR機器など、参入障壁が高い場合や、新作を待ち望んでいる熱狂的なファンが多い場合に用いられます。新商品などを好んで購入する消費者に高価格で販売して利益を確保した後、別のターゲット層向けに価格を下げていくことで、幅広い層にアプローチできます。

4.プレミアムプライシング

価格よりも品質重視の消費者を対象に、スタンダードクラス(通常)に比べて、高価格のプレミアムクラスの商品・サービスを投入する手法です。

例えば、大型家電や自動車などの耐久財、ホテルのスイートルーム、飛行機のファーストクラスなど、価格帯に敏感な消費者と、そうでない消費者が混在する場合に用いられます。スタンダードクラスで販売数量を稼ぎつつ、プレミアムクラスの販売で高い利益を得られます。

4)心理:消費者の購入意欲やイメージに注目する

1.ティアードプライシング

一定数以上の商品・サービスを購入したとき、購入超過分の価格を下げる手法です。なお、

購入分全ての価格を下げる手法は「ボリュームプライシング」

といいます。

例えば、スーツの2着目半額など、小売店やECサイトで、消費者が一度に多くの買い物をする場合に用いられます。「お得感」があることから販売数量を稼げますが、価格を下げる購入数のラインを見誤ると損をする恐れがあります。

2.イメージプライシング

同品質の商品を、広告などでイメージアップさせる高価格ブランドと、低価格ブランドに分ける手法です。

例えば、化粧品などは品質よりもイメージが重要視されることがあり、そうした傾向の消費者が多い場合に用いられます。高価格ブランドでは利益を確保でき、低価格ブランドでは販売数量を稼げます。

3.補完的プライシング

本体となる商品・サービスを低価格にして、その本体を利用するために、定期的に必要になる付属品を高価格に設定する手法です。

例えば、印刷機と純正トナーや、シェーバーと替え刃といった、付属品の需要が高い場合に用いられます。初期費用を抑えることで消費者の購入ハードルを下げ、なおかつ付属品で長期的に利益を確保できます。

3 市場調査の手法

プライシングの手法を決めたら、市場調査も実施しましょう。市場調査の手法は業界や会社の規模ごとに様々ですが、ここでは代表的な3つを紹介します。

1)PSM分析(価格感度分析)

調査対象者に4つの質問をすることで、最適な価格帯を調査する手法です。質問内容は、

  1. 高いと感じ始める価格はいくらですか?(需要最高価格)
  2. 安いと感じ始める価格はいくらですか?(需要最低価格)
  3. 高すぎて買わないと感じ始める価格はいくらですか?(非需要最高価格)
  4. 安すぎて品質に不安を感じ始める価格はいくらですか?(非需要最低価格)

です。回答は自由記述形式で価格を記入してもらい、結果は1.と4.の交点と、2.と3.の交点の間の価格帯が最適という形で導き出されます。

この調査手法はシンプルであるため、アンケート調査の中では比較的精度の高いものといえます。ただし、消費者視点での調査となるため、結果が商品・サービスの生産にかかるコストを下回ってしまう場合もあります。また、アンケートを設計する上で、以下の点に注意してください。

・ターゲット層とできる限り適合させる

調査依頼をする前にターゲット層の具体的なイメージを固め、調査会社に伝えます。実際のアンケートにおいて、ターゲット層ではない人が調査対象者に交ざらないよう注意しましょう。例えば、「新規開拓を目的とした調査で購入経験者が含まれている」「商圏外の人が含まれている」などは避けましょう。

・商品・サービスの適正価格をイメージできるものに限る

調査対象者が価格を全くイメージできない商品・サービスは向いていません。後述するCVM分析のような別の手法で調査を行うようにしてください。

・サンプル総数を確保し、有効データを見極める

調査会社へのヒアリングによると、定量調査のサンプル総数は最低でも500人は用意する必要があるそうです。また、各質問の回答数が極端に少ないもの(PSM分析の場合、回答があまりに少ない価格)は、結果から除外しなければなりません。

2)CVM分析

事前に決めた基準価格をもとに、価格帯別の購入意向を調査する手法です。質問内容は、

  1. この商品が5000円だったとしたら、購入したいと思いますか?
  2. 上の1.で「はい」と回答した方:5500円では購入したいと思いますか?
  3. 上の1.で「いいえ」と回答した方:4500円では購入したいと思いますか?

です。回答はそれぞれに「はい」もしくは「いいえ」で答えてもらい、結果は価格帯ごと(上記の例であれば500円ごと)に購入意向率が導き出されます。

この調査手法だと、最適な価格帯の他に、価格を変更したときの需要の変化も確認できます。ただし、アンケートを設計する上で、以下の点に注意してください。

・基準価格によって回答にバイアスがかかる

事前に基準価格を決めるため、質問に調査側の意向が混ざることで、回答にバイアスがかかってしまい、結果が本来よりも高価格または低価格に偏ることがあります。これを回避するために、グループインタビューなどを実施し、基準価格の決定にもターゲット層の意向を反映させましょう。事前調査は小規模(2~3グループ、各90~120分程度)で大丈夫です。

・サンプル総数を確保し、有効データを見極める

定量調査であるため、サンプル総数は最低でも500人は用意する必要があります。また、似たような質問を繰り返すため、回答者がこれを嫌って離脱してしまうことがあるので、質問数を絞るなどの工夫をします。

さらに、回答の分岐による偏りで、特定の質問に対する回答数が極端に減ってしまった場合、この回答を集計から除外する必要があります。

3)コンジョイント分析

商品・サービスの仕様や価格を「属性」と「水準」に分け、その組み合わせで作ったカードを調査対象者の好む順に並び替えてもらい、購入意向率の高い組み合わせを調査する手法です。

画像2

図表2の例では、「ホワイト」「6GB」「10インチ」「8万円」の組み合わせをカードにするといった具合に、合計81枚のカードを作成します。

この調査手法は、仕様を変えたときの価格への影響を調べることができます。ただし、カードを作る上では、以下の点に注意してください。

・属性と水準の選定にもターゲット層の意向を反映させる

事前に属性と水準を決めておくため、調査側の意向が混ざります。また、属性と水準が、消費者の購入意向にあまり影響しない場合、調査結果の信頼性は低くなります。これらの問題を避けるために、CVM分析の場合と同様にグループインタビューなどを実施しましょう。

・属性と水準の数を絞り、カード枚数を減らす

カードを一枚一枚並べ替えてもらう手法であるため、カード枚数が多いと調査対象者が疲れてしまい、購入意向に近い回答が得られない可能性があります。属性と水準は、多くても各4つ以内に収め、できる限りカード枚数を減らすように工夫をしましょう。

4 BtoBにおけるプライシングの手法

BtoBビジネスでは、主に自社の「収益向上や業務効率化、CSR、ブランディング」への寄与を期待して取引相手を決めます。そして、どの期待であっても取引の効果を数値化し、その費用対効果を検証するのが通常です。例えば、収益向上の場合でいえば、「増えた商談数から売上の期待値を計算する」「削減できた作業時間を時給換算してみる」といった具合です。

また、BtoBビジネスでは、一定の信用調査を経て取引が開始されるため、取引が開始されると長く続く傾向があります。そのため、商品・サービスの初期費用ではあまりもうけず(多少赤字でも)、運用や保守などでもうけていくケースもあります。

1)創出利益基準の価格設定

商品・サービスの利用で、クライアントが利益をどのくらい創出できるかを基準に価格を設定する手法です。

例えば、ある営業ツールを導入すると、1カ月当たりの商談数が5件増えるとします。商談受注率40%、販売商品の粗利が20万円だった場合、

商談数5件×商談受注率40%×粗利20万円=創出利益40万円

となり、この営業ツールの上限価格は月40万円と算出できます。

2)削減コスト基準の価格設定

商品・サービスの利用で、クライアントのコストがどのくらい削減できるかを基準に価格を設定する手法です。

例えば、あるシステムを導入すると、社員1人当たり1日30分の時間的コストを削減できるとします。このとき、同社の社員数が30人、時給2000円、月間営業日数20日とすると、削減コストは、

社員30人×時給2000円×月間営業日数20日×(削減時間30分÷1時間)=削減コスト60万円

となり、このシステムの上限価格は月60万円と算出できます。

5 相手を見極めつつ、何度もアタックする

第2章から第4章までで紹介した手法を実施しても、値上げ交渉がうまくいかないことはよくあります。しかし、何度もアタックしてみる価値はあります。その際、相手を見極めることが大切で、そのポイントは、

交渉先との関係値や、交渉先における自社の商品・サービスの重要度

です。これらが高い場合、粘り強く交渉すれば、値上げ自体は受け入れてもらえずとも、納期など他のところで有利な条件を引き出せる可能性があります。

また、再交渉においても、この値上げが自社と相手にとっていかに重要か、値上げできないことで自社がどうなってしまうかなど、数字以外の要素も含め、冷静に交渉に臨むことが大切です。

【参考文献】

「プライシングの技法」(下寛和著、日経BP、2022年12月)

「プライシング戦略×交渉術 実践・B2Bの値決め手法」(下寛和著、日経BP、2023年10月)

「値決めの教科書 勘と経験に頼らないプライシングの新常識」(高橋嘉尋著、日経BP、2023年6月)

「利益を最大化する 価格決定戦略」(上田隆穂著、明日香出版社、2021年3月)

以上(2024年8月作成)

pj70128
画像:takasu-Adobe Stock

「特別休暇の買い取り」は福利厚生としてアリ? ナシ? 経営者と社員にアンケート!

書いてあること

  • 主な読者:新しい形の福利厚生を模索している経営者、労務担当者
  • 課題:社員が特別休暇(夏季休暇など)を使わない場合、その休暇を買い取ろうと思うが、どの程度ニーズがあるのか分からない
  • 解決策:独自アンケートによると、実は経営者よりも社員のほうが買い取りに前向き。ただ、「休暇として取得しづらくなる可能性」などには注意

1 これからは「休む」「休まない」も個人の自由?

2024年6月、神奈川県横浜市が「市営バスの運転手が夏季休暇を返上する場合、特別手当を支給する制度」を開始したことがニュースになりました。2024年問題などで運転手不足が深刻化する中、「夏季休暇の買い取り」を実施し、これを解消しようというのが市の意図です。

夏季休暇とは、一般的には7~9月の間に与える休暇のことで、

法律で定められた「法定休暇」ではなく、会社が独自に実施する「特別休暇」に該当

します。法定休暇の代表格である年次有給休暇(年休)は、社員の疲労回復やリフレッシュの観点から、「買い取りは基本的に不可(休暇として与えるのが原則)」とされていますが、

特別休暇は会社独自の制度なので、これを買い取るルールを設けることは特に問題ない

と考えられています(ただし、就業規則等への定めは必要です)。

少し前までは、働き方改革の名の下、「とにかく社員を休ませることが大事」という風潮がありましたが、最近は「働きたい人が自分の意思で働くのは自由」という声もよく聞きます。そういった意味で「特別休暇の買い取り」は今後、新しい形の福利厚生になる可能性があります。ただ、「実際のところ、どの程度社員にニーズがあるの?」と気になる人も多いでしょう。

そこで、この記事では、経営者303人と社員313人それぞれに独自アンケートを実施し、「特別休暇の買い取りに賛成か、反対か」や、その理由などを聞きました。すると、

買い取りに「賛成」の人の割合はそれぞれ、経営者が38.3%、社員が66.5%となっていて、実は社員のほうが買い取りに前向きであること

が分かりました。以降でアンケート結果の詳細を紹介します。早速見ていきましょう。

2 「特別休暇の買い取り」に関するアンケート結果

経営者303人と社員313人に対し、「特別休暇の買い取り」に関するアンケート調査を実施しました(実施期間は2024年7月16日から7月17日まで)。

1)特別休暇の買い取りについてどう思う?

まず、回答者全員に、特別休暇の買い取りに「賛成」か「反対」かを聞きました。

画像1

前述した通り、実は経営者よりも社員のほうが、買い取りに前向きのようです。

2)特別休暇の買い取りに「賛成」の理由は?

1)で特別休暇の買い取りに「賛成」と答えた人に、その理由を聞きました。

画像2

経営者も社員も「忙しい人にとってはありがたい制度だと思うから」が1位、「働き方・休み方の幅が広がるから」が2位となっています。

会社として、社員が過重労働などにならないように配慮するのは当然ですが、「忙しくて休めないなら、代わりに金銭で補填するのも1つの方法」「働きたい人が自分の意思で働くのは自由」という感覚は、経営者と社員である程度一致しているようです。

3)特別休暇の買い取りに「反対」の理由は?

1)で特別休暇の買い取りに「反対」と答えた人に、その理由を聞きました。

画像3

経営者も社員も「休暇の意味がなくなりそうだから」の割合が圧倒的に高くなっています。

法定の年休については、前述した通り「社員の疲労回復やリフレッシュを図るなら、買い取らずに休暇として与えるべき」というのが基本的な考え方ですが、特別休暇についても同じように考える人が多いようです。

4)特別休暇を買い取るとしたら「いくら」?

1)で特別休暇の買い取りに「賛成」と答えた人に、買い取り金額はどの程度が妥当だと思うかを聞きました。

画像4

経営者も社員も「1日働いた場合の賃金と同じ」の割合が圧倒的に高くなっています。一方、「1日働いた場合の賃金よりも多く」の割合は、社員のほうが経営者よりもやや高く、仮に福利厚生として実践するのであれば、このあたりのニーズをくむのも1つの考え方です。

なお、1日当たりの賃金額は社員ごとに異なる可能性がありますが、冒頭で紹介した横浜市のケースでは、「1日当たり1万円」という定額での買い取りを実施しているようです。

3 特別休暇の買い取りは、あくまで社員主導で行う

前述した通り、特別休暇は法律の制度ではないので、会社が就業規則等で自由にルールを決められます。とはいえ、例えば「会社は社員の意思に関係なく、休暇を買い取ることができる」といった、休暇制度を有名無実化させるような運用はトラブルになりかねません。

特別休暇の買い取りは、社員が希望する場合にのみ実施する

など、買い取りについては社員が選択できる制度設計にしておきましょう。

なお、本アンケートでは、特別休暇の買い取りに前向きな社員が多かったですが、このあたりの傾向は、会社によって異なる可能性があります。実施を検討する場合、自社の社員のニーズをアンケートなどで調査し、制度設計について社会保険労務士などの専門家に相談した上で行うようにしてください。

以上(2024年8月作成)

pj00719
画像:Vadym-Adobe Stock

【かんたん会社法(15)】企業再編の1つである「株式交換」「株式移転」「株式交付」

書いてあること

  • 主な読者:企業再編の1つとして「株式交換」などの基本を知りたい人
  • 課題:株式交換などの手続きはとても複雑そうで、とっつき難い
  • 解決策:株式交換と株式移転は100%の親子関係になるが、株式交付は100%ではない

1 さまざまな企業再編

いわゆる「M&A(Mergers and Acquisitions)」は、事業拡大、選択と集中、事業承継などさまざまな目的で実施されます。M&Aには、合併と買収という2つの意味がありますが、両方の意味を含むものとして、「企業再編」という言葉が使われることが多くあります。主な企業再編には次の7つの手法があります。

  1. 株式譲渡:会社の株式の全部または一部を他の会社に譲渡する
  2. 事業譲渡:事業の全部または一部を他の会社に譲渡する
  3. 合併:複数の会社が1つになる。吸収合併と新設合併とがある
  4. 会社分割:事業の全部または一部を他の会社に譲渡。吸収分割と新設分割とがある
  5. 株式交換:既にある会社を100%子会社にする
  6. 株式移転:会社を新規設立し、その会社を100%親会社にする
  7. 株式交付:既にある会社を子会社にする(100%子会社に限らない)

ここで紹介するのは株式交換、株式移転、株式交付です。株式交換の手続きを中心とし、株式移転と株式交付についてはポイントを絞って紹介します。

2 株式交換、株式移転、株式交付とは

株式交換、株式移転、株式交付は、いずれも自社株を買収対価とする企業再編の手法です。株式交換と株式移転は、完全親子関係になります。株式交付は株式交換に似ていますが、完全親子関係にとらわれずに実施することができます。

株式交換は、既存のA社とB社との間で、B社(株式交換完全子会社)株式の全部をA社(株式交換完全親会社)に移転し、B社株主にはA社の株式等が交付される制度です。

株式移転は、新たに設立されたA社(株式移転設立完全親会社)に既存のB社(株式移転完全子会社)株式の全部が移転し、B社株主はA社の株式等の交付を受ける制度です。株式移転は、いわば新会社の設立と株式の交換を1つの手続きで行うものです。

株式交付は、既存のA社とB社との間で、B社(株式交付子会社)株式をA社(株式交付親会社)に移転し、B社株主にはA社の株式等が交付される制度です。

3 株式交換の手続き

1)株式交換契約の締結

株式交換を行う際は、完全親会社となる会社と完全子会社となる会社が「株式交換契約」を締結します。株式交換契約で定める事項は次の通りです。

  • 株式交換完全子会社および株式交換完全親会社の商号・住所
  • 株主に交付する株式交換完全親会社の金銭等に関する事項など
  • 新株予約権者に株式交換完全親会社の新株予約権を交付する場合はその事項など
  • 株式交換の効力発生日

2)株式交換契約等に関する事前開示

株式交換完全子会社および株式交換完全親会社は、株主総会の開催前に、株式交換契約等に関する事項(株式交換比率の相当性等)を開示しなければなりません。これは、株主が株式交換を承認するか否か、債権者が異議を述べるか否かを判断するための資料です。事前開示する期間は、一定の日(さまざまありますが、例えば株主総会の2週間前)から効力発生日後6カ月を経過する日までです。

3)株主総会の承認

株式交換契約は、株式交換完全子会社および株式交換完全親会社が、それぞれ株主総会の特別決議によって承認を得なければなりません。

ただし、株式交換完全親会社において株主総会の承認決議を省略できるケースがあります。まず、簡易株式交換の場合です。簡易株式交換とは、株式交換完全親会社が株式交換完全子会社の株主に交付する金銭などの額が、株式交換完全親会社の純資産額の20%以下の場合です。この場合、株式交換完全親会社の株主に与える影響が小さいと考えられ、株主総会の承認決議は不要となるのです。ちなみに、株式交換完全子会社は、原則として、株主総会の承認決議を省略できません。

また、略式株式交換の場合も株主総会の承認決議が不要になります。略式株式交換とは、特別支配関係にある会社の株式交換です。特別支配関係とは、相手の会社の議決権の90%以上を有しているケースです。株式交換において、

  • 株式交換完全親会社が特別支配会社である場合は、株式交換完全子会社における株主総会の承認決議が不要
  • 株式交換完全子会社が特別支配会社である場合は、株式交換完全親会社における株主総会の承認決議が不要

となります。

4)株主通知

株式交換について、次のことを株主に通知します(一定の場合には公告で代用することができます)。

  • 株式交換完全子会社:株式交換の効力発生日の20日前までに、株式交換をする旨、株式交換完全親会社の商号・住所
  • 株式交換完全親会社:株式交換の効力発生日の20日前までに、株式交換をする旨、株式交換完全子会社の商号・住所

5)反対株主の買取請求

上記の株主通知を受けた株主のうち、株式交換に反対する株主は、自身の有する株式を公正な価格で買い取るよう会社(株式交換完全親会社、株式交換完全子会社)に請求できます。会社との協議が不調に終わった場合、会社または株主は裁判所に対して価格の決定の申し立てをすることができます。

6)新株予約権の買取請求

株式交換完全子会社が新株予約権を発行している場合、これを残しておくと株式交換後に新株予約権が行使され、完全親会社による支配という目的が達成できなくなります。そこで株式交換完全親会社は、株式交換完全子会社の新株予約権者に対してその新株予約権に代えて当該完全親会社の新株予約権を交付することができます。ただし、新株予約権の内容として、株式交換に際し新株予約権が交付される旨が定められていたものの、その取扱いがされないもの、または異なる取り扱いがされる場合、株式交換完全子会社の新株予約権者が不利益を被る可能性があるため、新株予約権の買取請求権が認められています。

7)債権者の保護

株式交換完全親会社の株式を対価とする株式交換では、株式交換完全子会社においては株主が入れ替わるだけで会社財産の流出はありません。また、株式交換完全親会社においても株式交換完全子会社の株式を取得して資産および資本金の額が増加します。このような理由から、債権者の利益が害される恐れは基本的にありません。

ただし、株式交換完全親会社が対価として株式以外の財産を交付するなど、会社財産の流出が生じ、債権者の利害に関わる場合には、債権者の保護手続きが定められています。

8)登記

株式交換完全親会社は、通常、株式または新株予約権の発行を行うため、2週間以内に変更の登記が必要です。株式交換完全子会社の新株予約権者に対して株式交換の対価として新株予約権が交付される場合には、株式交換完全子会社においても、新株予約権の消滅につき変更の登記が必要です。

9)書面などの備え置き

株式交換完全子会社および株式交換完全親会社は、株式交換の効力発生日後遅滞なく、株式交換契約の内容およびその他法務省令で定める事項を記載した書面または電磁的記録を作成しなければなりません。

これらの書面または電磁的記録は、株式交換の効力発生日から6カ月間、本店に備え置かなければなりません。

以上(2024年8月更新)
(監修 TMI総合法律事務所 弁護士 池田賢生)
(監修 TMI総合法律事務所 弁護士 梶原大暉)

pj60078
画像:Mariko Mitsuda

「360度評価」をすれば、働き方改革の進み具合が把握できる

書いてあること

  • 主な読者:働き方の変化に対応できる強い組織をつくりたい経営者
  • 課題:リモートワークなど働き方の変化に社員の意識が追い付いていない
  • 解決策:360度評価を実施し、各社員が自身の働き方を見直すきっかけをつくる

1 360度評価で働き方の「指さし確認」

360度評価とは、

上司、同僚、部下、取引先や顧客など、立場や関係性の異なる人たちが評価者となり、文字通り360度の方向から被評価者の仕事ぶりを評価する制度

です。360度評価の主な役割は、

評価者(上司)が多忙だったり評価に不慣れだったりする場合でも、「目」を増やして評価を補完できること

です。しかし、ここにきて別の役割が期待されています。それは、

各評価者からのフィードバックを通して、被評価者の働き方が、本当に会社の方針や時代に合ったものかを「指さし確認」すること

です。例えば、「昭和・平成の時代では普通」とされていた指導やコミュニケーションが、「令和の時代ではハラスメント」と指摘されるのはよくあるケースです。評価者が1人だとこうした問題に気付けない恐れがありますが、世代や立場の違うさまざまな人が評価者になることで、

社員は互いに「自分は今の状態で大丈夫なのか?」と確認することができる

わけです。

そこでこの記事では、360度評価における経営者の役割、被評価者・評価者の選び方などを紹介します。なお、

通常、360度評価は報酬決定(賞与や昇給など)につながる人事考課とは切り離して運用

されます。評価者が増えることで被評価者の報酬が変動しやすくなるリスクがあるからです。この記事でも、360度評価は人事考課と切り離して考えます。

2 360度評価における経営者の役割

社員は上司から評価されることには慣れていますが、同僚、部下、取引先などから評価されるのには慣れていません。ですから、360度評価の結果が良くないものだった場合、それを冷静に受け止められない恐れがあります。例えば、管理職が部下から低い評価を受けた場合、

  • 「自分を低く評価するなんて許せない!」と憤慨する
  • 「部下が何と言おうと関係ない。今まで通りやる」と開き直る
  • 「自分は管理職失格だ……」と必要以上に落ち込む
  • 「もう部下に嫌われたくない……」とおびえて指導に消極的になる

といったケースが考えられます。

これでは360度評価の意味がないので、経営者は事前に社員に次の2点を伝えましょう。

  1. 評価結果は評価者の「主観的」な意見であり、妥当性は一旦横に置いてほしいこと
  2. 1.を踏まえ、評価結果を「自分の働き方を見直すためのヒント」にしてほしいこと

評価者の中には評価に不慣れな人も多いですし、被評価者について知っていること、知らないことにもバラつきがあります。また、単純な好き嫌いで評価してしまう人もいるでしょう。ですから、正当かどうかはともかく、フィードバックを受けた被評価者が、「そういう考え方もあるのか」「言われてみればそうかもしれない」と気付きを得て、自分の働き方の見直しに活かしていくことができれば、そこには大きな意味があります。

そのため、360度評価を実施するに当たって重要なのは、

「評価結果を過大にも過小にも受け止めず、客観的に見てほしい」という経営者のメッセージ

です。

3 被評価者・評価者の選び方

1)被評価者

360度評価を報酬や配置など人事考課と切り離して運用する場合、全社員を被評価者にする必要はなく、

  • 管理職のマネジメント能力を確認したいので、管理職を被評価者にする
  • プロジェクトチームの雰囲気などを確認したいので、メンバーを被評価者にする
  • 他社に出向している社員の状況が分からないので、出向社員を被評価者にする

といった具合に、経営者の方針で決めていきます。

なお、部下や後輩がいない社員は360度評価の対象になりにくいですが、リーダーとしての資質などを確認するために、複数の管理職や同僚、取引先などを評価者にして実施することも効果的です。

2)評価者

評価者を選ぶ場合、上司、同僚、部下、取引先や顧客などの中から、

  • 被評価者と業務上の接点があり、接触する頻度が高い人
  • 被評価者の業務内容や求められている役割について、ある程度知っている人

を選びます。評価者の人数は、会社の規模や被評価者の状況によって変わりますが、できれば上司、同僚、部下、取引先など各レイヤーで2人以上いると好ましいです。取引先などに評価してもらう場合、被評価者が自ら取引先に依頼する方法もあります。そうすれば、評価結果をより真摯に受け止められるでしょう。

なお、一概には言えませんが、上司以外の評価者については次のような特性がありますので、念のため触れておきます。

1.同僚

被評価者と同レベルの仕事を行っていて、被評価者の仕事内容や仕事の進め方を理解しています。ただし、友人・ライバルなどの場合、なれ合いや足の引っ張り合いにもなり得ます。

2.部下

上司の言動を日ごろから観察していて、良い点も悪い点も把握しています。ただし、上司の仕事内容についての理解が浅く、厳しい、優しいなど表層的な基準で評価することがあります。

3.取引先や顧客

被評価者の接客レベルなどの他、評価結果から取引先や顧客のニーズも知ることができます。ただし、社外の人間なので、評価者になってもらうには相応のハードルがあります。

4 設問の例

設問は30問以内で5段階評価など選択式を基本としつつ、自由記述式の設問も交えます。回答フォームを評価者にメールなどで送信し、回答してもらうとよいでしょう。その際、被評価者本人にも同じ設問を送り、自己評価をしてもらいます。自己評価と他者評価のギャップが分かると、自身の働き方について気付きを得やすくなるからです。

具体的な設問の内容は、会社の方針や被評価者の属性などによって変わりますが、例えば、被評価者が管理職の場合は次のような内容が考えられます。

  1. ビジネスの環境変化を捉えているか?
  2. 環境変化を恐れずに適合しようとするマインドはあるか?
  3. 環境変化に適合するために具体的な行動を起こしているか?
  4. 自身の知識のバージョンアップをしているか?
  5. 新しい働き方に合ったコミュニケーションが取れているか?

なお、選択式よりも自由記述のほうが、より詳細な情報を得やすいので、選択式の設問を減らしつつ、自由記述式のボリュームを増やすのも一策です。あるいは、リポート形式とし、

新しい働き方に合った管理職であるか?

などのテーマでリポートを書いてもらう方法もあります。

5 被評価者へのフィードバック

フィードバックは、上司(または経営者)と被評価者による面接形式で行い、その際、被評価者には自己評価の結果を持参してもらいます。フィードバックの目的は、被評価者に、

  • 相対的な強み・弱みを知ってもらうこと
  • 自己評価と他者評価のギャップに着目してもらうこと

です。点数の低い項目、自己評価と他者評価の点数の乖離(かいり)が大きい項目があれば、それを洗い出し、働き方の見直しに役立ててもらいます。

360度評価の結果は、「過大評価せず、過小評価もしない」が原則なので、上司(または経営者)が被評価者の点数の低さなどを糾弾するようなことはしません。ただし、働き方を見直してもらうのには良いタイミングなので、フィードバックと併せて、

  • 被評価者自身は、評価結果を受けて今後どのように成長していきたいか
  • 上司(または経営者)として、今後どのような働き方を期待しているか

を明らかにし、改善に役立ててもらうとよいでしょう。

以上(2024年9月更新)

pj00328
画像:Studio Romantic-Adobe Stock

交通量の多い高速道路​での留意点​(2024/08号)【交通安全ニュース】

活用する機会の例

  • 月次や週次などの定例ミーティング時の事故防止勉強会
  • 毎日の朝礼や点呼の際の安全運転意識向上のためのスピーチ
  • マイカー通勤者、新入社員、事故発生者への安全運転指導 など

8月は、夏季休暇などを利用して帰省や行楽ドライブを計画されている人も多いことでしょう。長距離の移動に欠かせないのが高速道路ですが、8月の高速道路は交通量が多く、渋滞も発生しやすくなります。

そこで今回は、高速道路における渋滞の発生原因や発生箇所、渋滞に差し掛かった時の留意点について考えてみましょう。

高速道路​での留意点

1.渋滞の発生傾向

月別の全国の高速道路の交通量をみると、8月が最も多くなっており(図1)、特にお盆の時期を中心に長い渋滞が発生しています。

月別の全国高速道路の交通量

出典:独立行政法人 日本高速道路保有・債務返済機構「各高速道路会社の交通量データ」を基に当社作成。
「全国高速道路の交通量」は東日本高速道路、中日本高速道路、西日本高速道路、首都高速道路、阪神高速道路、本四高速道路、の合計値。

この時期には各高速道路会社から渋滞予測等の交通情報が発表されますので、事前にこれらの情報を確認し渋滞を回避できる運行計画を立てることが大切です。

渋滞の発生原因は「交通集中」(自然渋滞)が7割以上を占めています(図2)。

また、渋滞の発生箇所は「上り坂・サグ部※」がほぼ6割を占めています(図3)。

交通渋滞の発生箇所

出典:NEXCO東日本「高速道路の渋滞対策」
https://www.e-nexco.co.jp/activity/safety/detail_07.html

※サグ部・・・道路の、下り坂から上り坂にさしかかる凹型構造の箇所

上り坂・サグ部では速度が無意識のうちに低下することがあります。1台の車の速度が落ちると、後続車も速度を落とし、その後ろの車も速度を落とし…と連鎖していくことで車がつながり(交通集中)、渋滞が発生します。

緩やかな下りや上りは識別しにくく、そのような箇所には渋滞発生を注意喚起する看板が設置されることもあります。それらを見落とさないようにし、こまめにスピードメーターで速度を確認する習慣をつけるとよいでしょう。

2.渋滞に差し掛かった時の留意点

図4は高速道路の平均速度調査の一例ですが、渋滞時(40km/h以下)は第一走行車線が最も速くなっています。追越車線へ強引に車線変更する車が見受けられますが、リスク(事故・あおり運転の誘発要因にもなる)があるだけで何のメリットもありません。頻繁な車線変更も同様です。

高速道路の平均速度

出典:ウェザーニュース「渋滞の高速道路、最も速く進む車線は”左車線”」https://weathernews.jp/s/topics/202305/020075/

渋滞時に路肩を走行する車を見かけることがありますが、路肩は緊急車両の通行路であり、走行は禁止されています。

急ぎの要因の一つとしてトイレも考えられますので、高速道路を走行するときは携帯トイレも備えておきましょう。

また渋滞時には、二輪車が車の間を縫うように走行することがあります。少しでも車が動いているときや停止状態から動き出すときは、後方や側方から二輪車が接近していないか確認しましょう。

コラム 運転支援装置「追従型クルーズコントロール」の留意点

追従型クルーズコントロール※は、運転者がセットした車速を維持するとともに、カメラ・レーダー等のセンサーで先行車を認識すると、その速度に応じて速度を自動調節し、車間距離を適正に保ちつつ走行する運転支援装置です。

追従型クルーズコントロール

以下は追従型クルーズコントロール利用時の留意点です。

  • 居眠り運転や機能の過信による前方不注意などに陥る危険があります。運転の主役はあくまでも運転者自身。装置に頼って油断することのないよう緊張感をもって運転しましょう。
  • 急カーブや急こう配などでセンサーの検知範囲を超えたり、センサーへの着雪・汚れ、逆光などで対象物を認識できなかったりする場合、装置が正しく機能しない場合があります。
  • この装置は車が一定の速度で流れやすい高速道路向きです。一般道路での使用や、高速道路であっても都市高速など急カーブが多いところ、合流・分流時、料金所付近での使用は控えましょう。

※車種によって機能や操作方法が異なります。利用する前に必ず機能詳細を確認しておきましょう。

以上(2024年8月)

sj09120
画像:amanaimages

まだまだある!社労士に相談が多い事例10選!生成AI、通勤手当、社内不倫など

働き方にも“新時代”が到来している今、私たち社労士のもとに多く寄せられる相談事例トップ10と、その解決策を検討することで、よりよい職場環境についてともに考えてみたいと思います。

この記事は、こちらからお読みいただけます。pdf

テレワーク中の部下は「できる/できない」で評価する

書いてあること

  • 主な読者:テレワークで働く部下の人事考課のポイントを知りたい上司
  • 課題:働いている姿が見えにくく、「頑張っているから」といった基準では評価できない
  • 解決策:「できる/できない」を基準に人事考課を実施する。手厚い教育とセットにする

1 「できる/できない」を基準にするとは

今どきは、テレワークでも常にWeb会議ツールなどでつながることができ、オフィスにいるときとほぼ同じように仕事ができます。

というのは建前で、実際は目の前に相手がいない状況は特に細かいことを伝えたり、熱量を込めたコミュニケーションを取ったりするのに不向きです。特に、上司からすれば、目の前で部下が働いていないので、指導も評価もしにくいというのが本音でしょう。

ここで必要となるのが上司の意識転換です。テレワークの大前提は「上司や先輩が近くにいなくても自立して働けること」なので、

「頑張っている」など曖昧な基準を排除し、シンプルに「できる/できない」で評価する

ことに徹すると、人事考課も適切に実施することができます。「できる/できない」のイメージは、例えば次のようなものです。

  • 自分で考えて、仕事を「作れる/作れない(指示待ち)」
  • 実際にその仕事が「できる/できない」
  • 自分で時間管理が「できる/できない」
  • 自分からきめ細かいコミュニケーションが「取れる/取れない」
  • 自分の足りない部分を知り、自ら勉強が「できる/できない」

このように言うと、「人事考課が結果主義に偏らないか?」と心配する人もいるでしょうが、ここで言う「できる/できない」は、それとは少し違います。結果主義は「できた/できなかった」という、文字通りの結果だけを評価しますが、テレワークの人事考課では、

成果に結びつくような行動を「取れた/取れなかった」も評価の対象

に加えます。そして、これが本当に重要なポイントですが、

「できる/できない」は教育とセットで行う

ことが不可欠です。つまり、

  • 会社はできるように全力で社員教育をする
  • その教育を効率的に行うために仕事を見える化し、マニュアルを作る
  • そのマニュアルがテレワークのルールとなる

といった流れになります。

2 具体的なイメージとなる「学習の5段階レベル」

「できる/できない」をイメージする際に参考になるのが、NLPの「学習の5段階レベル」です。この考え方に基づくと、社員の「できる/できない」は次のようなレベルになります。

  • レベル5:人に教えることができるほど、その仕事に精通している
  • レベル4:深く考えなくても、その仕事ができる
  • レベル3:深く考えれば、その仕事ができる
  • レベル2:浅く知っているだけで、その仕事ができない
  • レベル1:その仕事ができず、できるようになろうともしない

オフィスワークの場合、部下の実力はレベル1や2でも、上司の指示やフォローで「げた」を履き、レベル3として評価されることがあります。また、その社員が遅くまで残業をしていると、「真面目に頑張っている(ようだ)」と、さらに高い評価がされることさえあります。

しかし、テレワークだと事情は変わってきます。もちろん、Web会議ツールなどでつながることはできますが、「部下が困っていそうなときに声をかける」「部下のパソコンを見て『そこ間違っているよ』と修正を図る」といった、こまめな指示やフォローはしにくくなります。つまり、レベル1や2の部下が、「げた」を履きレベル3などと評価される可能性は下がっていきます。こうした、本来のレベルに基づいて人事考課をするための基準が「できる/できない」です。

厳しい取り組みのように感じられますが、「できる/できない」の人事考課を行うことで、「組織全体の戦闘力」の向上が期待できます。レベル1や2のままでは評価が下がることを知った部下の一部は、できるようになる努力をするでしょう。また、これが大きいのですが、現時点でレベル3以上の部下は、自分の仕事に集中できるようになります。

3 仕事を見える化し、失敗を許容する

繰り返しになりますが、「できる/できない」の評価とは結果主義ではありません。例えば、部下に初めての仕事を与えたとします。部下は、どうすれば「できるのか」という勝ち筋が分かっていないので、多くは失敗するでしょう。しかし、勇気を持って新しいことにチャレンジしているのに、失敗したら評価が下がるというのでは、部下のモチベーションは上がりません。

そこで、最初は手間がかかりますが、

できるだけ仕事のプロセスを「見える化」

していきます。テレワークは自由なようで、実は細かなルールの積み重ねが重要です。そこで、仕事の手順についてもマニュアル化し、成功や失敗を共有します。どこが難所なのか、手順にムダ・ムラ・ムリはないのかということも分かってきます。

また、コミュニケーションの一環として、各社員の仕事の進捗を共有するオンラインを実施することで、そこでの発言によって社員の成長や課題感も把握できるようになります。

4 教育に力を注ぐ

「できる/できない」の人事考課は、一部の社員にとっては厳しいものとなります。そこで、前述したマニュアルで仕事の進め方を示すと同時に、教育を充実させ、社員ができるようになるための努力を後押しするべきです。

ここに社員の気持ちが乗れば、従来のようなノルマ消化的なセミナーとは全く違う次元で、社員は本気で学ぶようになるでしょう。これも「できる/できない」の人事考課で期待できる一つのメリットであり、会社としても一定の予算を確保すべきところです。

以上(2024年9月更新)

pj00387
画像:pixabay

自社所有でなくとも所有者との共同申請で申請可能! 事務所等の省エネ化を支援する「脱炭素ビルリノベ事業」のご紹介

中小企業等を支援する国や自治体の補助金・助成金事業では、雇用・人材開発・IT補助・コロナ支援など幅広いジャンルの支援があります。
本レポートでは、おすすめの補助金・助成金について支援の内容や対象条件、申請方法等についてわかりやすく紹介します。

この記事は、こちらからお読みいただけます。pdf


令和6年度新設・改正 助成金のプロがおすすめする注目の雇用関係助成金5選

令和6年度に注目すべき厚生労働省の雇用関係助成金を5つ選び、その詳細と活用方法について解説します。これらの助成金は、企業が人材を確保し、定着させ、また働きやすい環境を整備し、結果として事業の持続的な成長を実現するための重要な手助けになります。

この記事は、こちらからお読みいただけます。pdf