脳・心臓疾患の労災認定基準が昨年9月に改正されました。それに伴って、改正以前の労災についても、労災認定される事例が出てきています。
本稿では、脳・心臓疾患の労災認定の改正内容をなぞりながら、近時の労災認定事例についてご紹介いたします。
オンラインで「労働条件の不利益変更」を行う場合のポイント
1 オンラインの「労働条件の不利益変更」は慎重に
「業績が悪化したので、基本給を引き下げる」「ジョブ型の人事制度にするので、仕事との関係性が薄い手当(住宅手当など)を廃止する」。会社には十分な理由があってのことでも、
社員から見ると損をするような労働条件の変更を「労働条件の不利益変更」
と呼びます。労働条件の不利益変更には、
- 個々の社員の同意を得た上で、「就業規則」や「労働契約」を変更するのが原則
- 就業規則については、合理的な変更であれば、個々の社員の同意を得なくても変更可
というルールがあります。労働組合がある会社の場合、「労働協約」の変更で対応することもできますが、中小企業で労働組合が組織されているケースは少ないため、ここでは割愛します。
特に注意すべきは「リモートワークをしている会社」です。オンラインで就業規則や労働契約の変更手続きを進める場合、
- 通信環境が悪く、肝心の変更箇所がうまく社員に伝わらない
- Web会議ツールの仕様で、労働条件について質問をしたがっている社員が見えにくい
といった理由から会社と社員の意思疎通がうまくいかないケースがあります。以降で、オンラインでの変更手続きのポイントを紹介しますので、確認していきましょう。
2 オンラインでの変更手続きのポイント
1)Web会議ツールを使って社員説明会を行う
オンラインで就業規則や労働契約を変更する場合、Web会議ツールなどを使って社員説明会を開催し、変更箇所やその理由の説明、質疑応答を行います。通信環境の問題などで内容がうまく社員に伝わらないことがあるので、
- 事前に新旧対照表などのデータを配布し、社員説明会ではそれを「画面共有」しながら説明する
- 社員が質問のタイミングをつかめないと困るので、質疑応答の時間を設ける(「チャット」の機能を使うのもよい)
- 通信環境の都合で社員がツールから「落ちる(離脱する)」ことがあるため、社員説明会の内容を「レコーディング」して、後から内容を確認できるようにする
などして対応します。
また、質疑応答で反対意見や批判的な意見が出た場合、「なぜ、就業規則や労働契約の変更が必要なのか」を改めて丁寧に説明します。必要に応じて、個別の説明も行いますが、その場合、1対1ではなく、会社側から複数人が参加して「言った/言わない」の問題が生じるのを防ぎます。
2)電子契約書ソフトを使って社員の同意を得る
就業規則の不利益変更を行う場合、可能であれば「就業規則変更に関する同意書」を会社側が用意し、社員に署名捺印してもらって個別の同意を得ます。しかし、リモートワークをしている場合、書面で同意を得るのが手間です。
こうした場合、電子契約書ソフトで電子署名をしてもらうのが現実的です。一般的には、
- 会社は、同意書などをPDFにして電子契約書ソフトにアップロードし、電子署名をする欄を設けた上で、各社員のメールアドレス宛てに送信する
- 社員は、電子契約書ソフトからメールが届いたら、メールに記されたURLから同意書にアクセスして電子署名をする
という流れになります。
電子署名がされた書面は電子契約書ソフト内に保管されます。なお、電子契約書ソフトは、書面を用意する会社側のPCでのみ導入すればよく、社員側は特段の手続きは必要ありません。
3)e-Govを使って変更後の就業規則を電子申請で届け出る
就業規則を変更した場合、変更後の就業規則に就業規則(変更)届出書、過半数代表の意見書(社員の過半数で組織する労働組合がない場合)を添えて、所轄労働基準監督署に届け出なければなりません。
これらの書面は、「電子政府の総合窓口(e-Gov)」を使用できる環境にあれば、直接所轄労働基準監督署に行かなくても、電子申請で届け出ることができます。電子申請の手続きで使用できるアカウントは、次のいずれかです。
- e-Govアカウント(e-Govのウェブサイト上で取得できるアカウント)
- GビズID(行政サービス全般にログインできるアカウント)
- Microsoftアカウント
なお、e-Govから電子申請を行う場合、手続きの内容によっては、会社の電子署名と電子証明書(所定の認定局に申請)が必要になるケースがありますが、
2021年4月1日以降、就業規則の届け出については電子署名と電子証明書が不要
となっています。
4)電子契約書ソフトを使って雇用契約書を再締結する
雇用契約書の再締結も、電子契約書ソフトを使います。雇用契約書は「労使の合意」という形を取りますので、会社側、社員側双方が電子契約書ソフトを経由して署名捺印をします。
雇用契約書を再締結する際は、従前の契約書が変更されたことが明確になるよう、
「従前の雇用契約書を合意解約し、〇年〇月〇日以降の労働条件は本雇用契約書による」
などの文言を、備考欄に必ず入れましょう。
なお、雇用契約書は必ずしも書面で保管する義務はありません。しかし、労使間でトラブルが発生した場合に雇用契約書は重要な証拠書類となるので、
電子契約書ソフト内の他、経営者や人事部だけがアクセスできるクラウドストレージなどにもバックアップ
しておきましょう。
以上(2022年10月)
(監修 社会保険労務士 志賀碧)
pj00419
画像:pixabay
町中華の経済学 多品種、丼勘定は本当か?
1 丼勘定は本当か?
「安い・うまい・早い」の三拍子そろった町中華。どこの街にでもありますが、長く続く秘訣は何でしょうか? 低価格で、客数はさほど多くもなさそう。でも潰れない。
町中華探検隊として町中華を食べ歩くライターの北尾トロ氏は、町中華を「昭和以前から営業し、1000円以内で満腹になれる庶民的な中華店。単品料理主体や、ラーメンなどに特化した専門店と異なり、麺類、飯類、定食など多彩な味を提供する。カレーやカツ丼、オムライスを備える店も。大規模チェーン店と違ってマニュアルは存在せず、店主の人柄や味の傾向もはっきりあらわれる」と定義づけています(「町中華とはなんだ 昭和の味を食べに行こう」北尾トロ、下関マグロ、竜超著、KADOKAWA、2018年9月)。
丼勘定のイメージがありますが、本当にそうでしょうか? 町中華がいかにして生き残っているのかを探り、他の飲食店や小売業などの経営者が、管理会計で押さえるべきポイントを紹介します。
2 町中華が強い3つの秘訣
1)多品種に対応できる使い回しが利く仕入れ
町中華の特徴は豊富なメニューです。しかし、原材料となる食材は実は共通の食材が多いのです。町中華によくあるメニューと食材の例を挙げました。

こうして見ると、豚バラ肉など汎用性の高い食材が多く使われていることが分かります。仕入れや在庫管理の工夫はあるのでしょうか。公認会計士・税理士で、自身も青森県八戸市でラーメン店を経営し、『会計の基本と儲け方はラーメン屋が教えてくれる』(日本実業出版社)の著書もある石動龍氏は次のように教えてくれました。
「お客さんへ魅力を感じてもらえるよう、豊富なメニューを用意するとしても、食材のロスのないよう、メニュー構成や、原材料の仕入れ、管理を工夫する必要があります。例えばレバニラ炒めにしか使わないレバーを大量に仕入れるわけにはいかないでしょう。共通の食材で、いかに幅広いメニューを用意するか。食材のロスがないように仕入れ、管理するか。品質を保ちながら冷凍保存するのも一案でしょう」
2)適正な利益を確保できる価格設定
価格帯が異なるメニューが共存できるのも町中華の強みであると、石動氏は指摘します。中華料理には、北京ダックやフカヒレスープ、つばめの巣といった高級メニューがあります。町中華でもエビチリくらいはラインアップとしてあるところも少なくないでしょう。町中華でチャーハンが750円でエビチリが1500円で販売されていても違和感はありませんよね。一方、よほどのマーケティング的な狙いがない限り、価格帯の大きく異なるメニューを並べるのは、ラーメン屋やファストフード店では難しいでしょう。1杯750円が相場のラーメン屋に、1500円のラーメンがあったら違和感を覚えますよね。つまり、
町中華は適正な利益を確保できる価格設定がしやすい業態
ともいえるわけです。
3)居心地の良さが利益を生む
町中華に行くと、おつまみを数品頼んでお酒を飲んでいるお客さんを見かけます。この点も町中華の強みであると、石動氏は自著で述べています。つまり
長居をしてもらって、原価率が低いおつまみやお酒を頼んでもらうことで利益を確保
しているのです。例えば800円の炒め物が原価率30%だとして(粗利560円)、加えておつまみとお酒を2000円分オーダーし、その原価率が10%だったとします(粗利1800円)。そうすると、客1人当たりの限界利益は2360円になります。
町中華の店主がそのように狙っているかは分かりませんが、町中華には手軽な「居酒屋」という側面もあります。ファストフード店などが努力して取り込もうとしている居酒屋需要が町中華にはあるのです。
3 ココだけは押さえたい管理会計のポイント
1)FLR比率に注目する
本当に丼勘定でやっていると、自分の店が苦戦している理由として、固定費が高いのか、原材料費が高いのかすら分からなくなります。一般的に、飲食店経営で大切な指標といえばFLRコストです。それぞれ、
- F(Food):食材費
- L(Labor):人件費
- R(Rent):賃料
を指しています。店の状況によってさまざまですが、一般的に、
F比率は30%程度、FL比率は60%程度、FLR比率は70%程度
に抑えるのが理想とされています。
FLR比率=(食材費+人件費+賃料)÷売上
とはいえ、R(Rent/賃料)は、都市部と地方とで大きな差があります。都市部の好立地では、賃料は高くなりますが、それに見合う人通りもあります。ちなみに、昔ながらの商店街で数十年と続いている町中華がありますが、
「そのような店の多くは、持ち物件で営まれているのかもしれませんね。さらにもし家族経営だったとすれば、それだけで固定費の大半がカットできます。コストはほぼ食材のみとなり、あとは利益となるのです」(石動氏)
2)固定費と変動費に分ける
コストには、売上高に関係なく発生する固定費と、売上高に応じて発生する変動費があります。FLRコストに注目すると、
- 固定費:人件費、賃料
- 変動費:食材費
となります。これを軸に考えると、
月の売上高から食材費を引いたものを「限界利益」と呼び、この限界利益で人件費や賃料を賄えるか否か
が重要となります。これは、一般的な損益分岐点の考え方です。
3)利益構造を把握する
石動氏によると、押さえておきたいポイントは、
- 客単価
- 来客人数
- コスト:固定費(主に人件費、賃料)
- コスト:変動費(主に食材費)
です。客単価をベースとして、何人の来客数があれば、コストがどれくらいかかり、どれくらいの利益が残るのかという利益構造を把握していれば、食材費などが高騰したときも、どこに影響が出て、どこをやりくりすれば賄えるのかという打ち手がイメージできるようになります。
例えば、麺の仕入れ価格が、1玉当たり5円値上がりしたとすると、
5円×月の来客数=月の原材料コストがいくら上がるか
がすぐに分かり、ダメージの小さいうちに対処することができるのです。町中華の店主は、このあたりの計数感覚を自然と身に付けているのかもしれません。
以上のようなポイントを押さえ、管理会計を経営に活かしましょう。
以上(2022年10月)
pj50519
画像:和久 澤田-Adobe Stock




