事務管理部門の生産性が向上しない22の理由と対策

書いてあること

  • 主な読者:事務管理部門の生産性を向上させたいと考えている経営者
  • 課題:事務管理部門の業務は個人の裁量に任されていることが多く、効率化しにくい
  • 解決策:厚生労働省「働き方・休み方改善ポータルサイト」を参考に、自社の生産性が向上しない理由に該当する対策を実行し、社員の意識や仕事のやり方を改革する

1 事務管理部門の生産性が向上しない理由にはパターンがある

業務効率化やコストダウンの推進は重要な経営課題ですが、事務管理部門に関して言うと、業務が個人の裁量に任されていることも多く、改善が進みにくい面があります。一方で、事務管理部門の業務の内容はどの企業も大体同じなので、改善が進みにくい理由も似通ってきます。

そこで紹介したいのが、厚生労働省「働き方・休み方改善ポータルサイト」です。同サイトでは、社員の働き方・休み方に関してありがちな、具体的な課題とその解決策を示しています。

この記事では、同サイトから事務管理部門の生産性向上に関する部分をピックアップし、生産性が向上しない22の理由(課題)とその対策を紹介します。「うちも困っている」という経営者の皆さんは、ぜひご確認ください。

■厚生労働省「働き方・休み方改善ポータルサイト」■
https://work-holiday.mhlw.go.jp/

2 働き方の実態把握に問題あり

1)働き方の実態が把握できていない

【理由1】自己申告による時間管理を行っており、正確な労働時間の実態把握ができていない
【対策】適切に労働時間を把握するためのシステムを導入する

タイムカードや勤怠管理システムを設置し、労働時間を正確に把握します。直行・直帰する社員、リモートワークをする社員などについては、始業・終業時刻を電話やSNSで報告させたり、ノートPCから打刻可能な勤怠管理システムを活用したりして対応します。自己申告での労働時間管理を続ける場合、PCログをチェックするなどして労働実態の把握に努めましょう。

【理由2】長時間労働や年次有給休暇の取得が低調な部署、個人の原因がわかっていない
【対策】所定外労働(残業)の時間数、年次有給休暇(年休)の取得状況を一覧にする

まずは部署ごとの残業の時間数、年休の取得状況を一覧にして状況を整理します。そして、長時間労働が続いている、あるいは年休の取得が滞っている部署や個人に対して、その要因を明らかにするための調査を行います(ヒアリングなど)。調査する内容は、

  • 顧客および業務の状況(顧客数、担当業務、各業務の所要時間など)
  • 残業が多い要因、年休の取得が滞る要因(業務量が多い、業務用ツールが古いなど)
  • 改善のために実施している取り組み内容(業務の分担、業務用ツールを見直すなど)
  • 問題点(業務の分担を見直したが、どの社員も業務量が多く改善につながらないなど)

などです。また、もしも残業削減や年休の取得促進に成功している部署が他にある場合、その成功理由をヒアリングし、改善が滞っている部署に適用できないか検討します。

  • 成功理由(アウトソーシングによって部署内の総合的な業務量を削減した上で、業務の分担を見直し、社員ごとの業務量を平準化することに成功したなど)

2)働き方に関するデータと業績の関係が不明確

【理由3】経営層に取り組みのメリットがない(業績ダウンにつながる)のではと指摘される
【対策】働き方・休み方に関するデータと業績の関係、組織単位の生産性などを分析する

残業削減や年休の取得促進の効果に疑問を抱く経営層には、データなど客観的な情報で説得を試みましょう。例えば、厚生労働省「働き方・休み方改善ポータルサイト」では、残業削減や年休の取得促進に関する各社の成功事例が、具体的な数字(取り組み前後の残業時間の変化など)とともに紹介されているので参考になります。

3 管理職や社員の意識に問題あり

1)管理職の意識が低い

【理由4】管理職の意識やモチベーションが低く、各職場に業務効率化の動きが浸透しない
【対策】トップからメッセージを発信し、管理職を巻き込んだ推進体制を構築する

業務効率化に消極的な管理職に対しては、経営者から「そのような姿勢ではダメだ」とメッセージを発信し、意識の変化を促しましょう。また、経営者を中心に、業務効率化に取り組むプロジェクトチームをつくり、管理職をメンバーに加えるというのも一策です。

【理由5】管理職に長時間労働の傾向がある場合、部下も長時間労働となる傾向にある
【対策】管理職の長時間労働を解消する仕組みを導入する

管理職を対象とした定時退社推奨日、定時退社推奨月間の設定など、管理職に対して定時退社を促す仕組みを検討しましょう。

2)長時間労働が評価される(と感じている)組織風土がある

【理由6】「付き合い残業」が常態化している
【対策】管理職による所定外労働の事前承認制を設ける

所定外労働を行う場合は、管理職への事前申請・承認を要することとし、部下は、終業時刻前に、「業務内容と残業する理由」「残業予定時間」を上司に申請するルールを設けます。なお、リモートワークなどの場合、事前申請・承認の手続きを嫌がる社員が、定時で終業したように見せかけて仕事を続ける「隠れ残業」が発生しがちです。こうした場合、残業時間の上限(1日○時間、1カ月□時間など)を社員ごとに設定し、その範囲内で残業を認めるのも一策です。

【理由7】「成果を出すためには長時間労働も仕方がない」「長時間労働が評価されるはず」と考えている社員がいる
【対策】効率指標としての「時間当たり成果」を人事評価項目に加える

「時間当たり成果」を人事評価項目に加え、「時間」ではなく「効率性」で評価するように制度設計することで、社員の行動パターンの変化を促しましょう。

【理由8】長時間働くことを評価する意識が残っている部署・個人が存在する
【対策】現場の仕事の進め方を改革し、効率的な業務遂行に向けたインセンティブを付与する

組織業績の評価項目として、人件費を削減して付加価値を高める、時間当たりの売上高を高めるといった指標を組み込み、効率的な業務遂行を評価します。その際、部署メンバーの賞与へ反映させるなどして、所定外労働の削減により賃金に影響が及ばないようにします。

【理由9】フレックスタイム制を導入しているが、一部に夜遅くまで勤務する社員がいる
【対策】朝型勤務を奨励する

1日で終わらせる必要のない業務であれば、早めに終業し、翌朝の早い時間帯に業務を回すよう奨励しましょう。コアタイムの時間帯を前倒しし、朝の時間帯に働きやすい状況を整えるのも一策です。なお、フレキシブルタイムの開始・終了時刻は労使協定で決まっているので、その時刻を超えて働く社員には、管理職への事前申請・承認を義務付けるようにしましょう。

3)社員が長時間労働をいとわない

【理由10】仕事にやりがいを感じており、退社して特段やりたいこともないため、長時間労働に対する問題意識を持っていない
【対策】社員向けの教育・研修を行う

長時間労働と健康・仕事効率の関係などを社員に認知してもらうため、全社員の受講を義務とする教育・研修を行いましょう。例えば、過労死ライン、インターバル(休息)と生産性の関係、社内全体における割増賃金の支払い状況などについて説明することが考えられます。

【対策】オフの時間確保とそれによる社外のさまざまな活動への参加の推奨

定時退社や年休取得により、家族と過ごす時間を大事にし、自己啓発や休養、趣味なども含めて人間性を高め、自分の仕事を見つめ直すことを推奨します。必要に応じて、それら活動の情報提供を求めましょう。オフの活動の際の社員の生き生きした姿や、活動によって得られるものなどの情報について、社内報などを通じて提供することで効果が高まります。

4 仕事の特性、仕事のやり方に問題あり

1)業務が標準化されていない

【理由11】繁忙期に外部人材を雇用しても業務内容の説明に労力がかかり、うまく活用できない
【対策】業務の棚卸しを行う、業務手順書を作成する

業務の棚卸しを行い、業務手順書を作成しましょう。作成した業務手順書を、繁忙期などに新規人材の教育に活用します。ただし、経験や知識を基に感覚的な判断が求められる「属人的な業務(採用面接のノウハウなど)」は、マニュアル化に向かないので対象から外します。

2)業務(時間)の無駄、重複が多い

【理由12】決裁などに手間をかけすぎる部分がある
【対策】組織運営・決裁権限を見直す

現在の組織運営のあり方を再度検討し、特に決裁権限について企業経営上の観点、リスク対策、事業運営の効率性の観点などから簡素化を図りましょう。例えば、現場で決裁できる業務を増やす、紙からオンラインでの決裁に切り替えることなどが考えられます。

【理由13】退職や人事異動、育児休暇取得時など、業務の引き継ぎに時間を取られる
【対策】引継書を作成して業務引き継ぎの効率化を図る

引継書を作成して、上司が事前に承認しておきます。引継書は過去に作成したものをベースに作成するので、半期や四半期、プロジェクトの節目などに改訂を行っておくとよいでしょう。引継書は、業務全体を俯瞰(ふかん)できるものとし、業務の流れ、社内外の関係者とのつながりなどを明示します。資料がある場合、資料一覧と格納先をリストアップしておきます。

3)アウトプットの品質を過剰に追求する

【理由14】社内向け説明資料でも必要以上に質の高い資料を作成するため、手間がかかる
【対策】社内資料の内容について再検討を行う、資料内容の簡素化および枚数の上限を設定する

社内資料は要点が理解できるのであれば、デザインや分量にこだわる必要はありません。例えば図の色は白黒とする、枚数は○枚以内にするなどルールを決め、作成時間を短縮します。

4)必要ではないメール、会議が多い、会議が効果的に行われていない

【理由15】ミーティングやメールが多い(減らない)ことがネックとなっている
【対策】会議の効率化を図る

会議で明確な意思決定を行うことや、会議に必要な人のみが出席するなどの取り組みを徹底しましょう。また、決められた会議時間内に決定をする、資料は紙ではなくデータで連携し参加者がノートPCで内容を確認するなど、具体的なルールを設定します。

【対策】会議を開かないという選択肢を検討する

これまで会議を行ってきた議事事項について、決定権限を委譲するなどして会議の開催を省略することを検討します。

【対策】メールに関わる時間の削減・効率化を図る、メール数そのものの削減を図る

メールの宛先について、TOは返信をしてほしい相手、CCはやり取りを知っておくべき相手に限定するなどして、送受信や確認作業の手間を減らします。また、社内の簡易な連絡については手間がかからないSNSで行うなどして、メール数そのものの削減を図ります。

【理由16】会議で意見が出ず、会議の機能を果たしていない
【対策】会議の活性化を促進する

会議の前に、その会議の目的、議題、決めるべきことなどを明確にし、会議参加者に伝えるようにします。参加者には、問題意識を持って会議に参加するように促します。会議によっては会議中のメールや電話の使用を禁じることも検討しましょう。

5)IT化(効率化)に対する忌避感がある

【理由17】業務効率化のためにIT機器を導入したいが、IT機器に対する忌避感が強い社員が多く導入が難しい
【対策】IT機器に対する忌避感がある社員向けに、通常のマニュアルとは別の簡易マニュアルを作成する

IT機器を使用する際に活用できる、図付きのマニュアルを作成しましょう。手順通り行えば従来通りに業務が行え、時間場所を選ばず報告ができるなどのメリットがあることも伝えましょう。IT機器の使い方を習得するための研修機会を設けるとよいでしょう。

6)特定の部署・社員に仕事が集中している

【理由18】社員各人の業務負荷が把握できていない
【対策】業務の棚卸しを行う

業務の棚卸しをすることで、各人の業務負荷を「見える化」しましょう。長時間労働につながる負荷が重い業務は、業務分担の調整を行い、業務を平準化します。

【理由19】月の所定外労働60時間以上のリストに挙げられている社員が常連化している
【対策】実態や状況を把握し、フォローアップを進めて改善を推進する

担当部署に改善報告書を作成させ、

  • 原因が的確に分析されているか
  • 改善対策は分析した原因に対応したものとなっているか
  • 改善対策は実現可能なものであるか、改善目標の達成期日は設定されているか
  • 設定された期日に無理はないか

を精査します。改善報告書を基に、報告した所属長をリーダーとして、改善報告書に記載した内容に取り組みます。

取り組み結果の報告を基に、効果を上げていない取り組みについて、その原因を分析して対策を講じましょう。該当部署だけで推進することが難しい取り組みについては、企業全体で対策を推進するための体制の整備について検討すべきです。

7)周囲の社員が業務を代替しにくい

【理由20】知識やスキルの違いから、職場内で特定社員の仕事を分担できない状況が発生し、仕事が属人化している
【対策】周辺領域も含めた、広めの専門性の育成と業務の標準化

社員に対して、周辺領域を含めた広めの専門性の育成を行いましょう。標準化できる業務については、マニュアルなどを作成し、業務の平準化を図ります。

【理由21】全社的に「自分の持っている業務を他人に頼む」という考えが根付いておらず、個人で抱え込みがちである
【対策】業務の組織的遂行体制の構築(ペア制など)

主担当が不在の場合は副担当がバックアップする「ペア制」を導入するなど、組織的に対応する体制を構築しましょう。人事評価において、個人業績に加えて部門の業績を評価の対象とするように検討します。

【対策】複数業務を経験させ、多能工型の育成を行う

ある程度複数の業務を経験させ、多能工型の社員の育成を図りましょう。業務範囲を他のメンバーと重複させるなどして、協力し合う体制づくりを進めます。

8)中間管理職がプレイングマネジャーになっている

【理由22】部下の残業を減らすために、業務を引き受けた課長がプレイングマネジャーになっており、生産性向上を考える十分な時間が取れない
【対策】上長職が課長職への支援を行う、上長職の人事評価項目にワーク・ライフ・バランスの項目を盛り込む

課長の顧客に対する折衝に上長が立ち会うなど、無理な働き方の防止や計画的な業務遂行が可能となるよう、課長職を支援しましょう。また、上長職の人事評価項目にワーク・ライフ・バランスについての項目を盛り込むことで、上長職本人および課長職を含む部下の長時間労働の抑制や年休の取得を促進させることにつながります。

【対策】業務の棚卸しにより課長級の業務負荷を軽減させる

課長職が担っている業務の棚卸しを行って業務が必要かどうかを選別し、不要な業務を廃止しましょう。それでも負荷の軽減が足りない場合は、必要な業務のうち課長職が行うべき業務を選別し、一部の業務を上司や部下に振り分けましょう。プレーヤーとしての仕事とマネジャーとしての仕事の割合を、ある程度決めておくことも一策です。

以上(2021年10月)

pj40012
画像:pixabay

ダイレクト・メールを活用したマーケティングを再考する

書いてあること

  • 主な読者:若年層などに「刺さる」宣伝活動をしたい一般消費者向けサービスの提供者
  • 課題:今のやり方では競合他社との差異化が図れない。もっと宣伝効率を高めたい
  • 解決策:紙媒体のダイレクト・メールを再活用する。提供するサービスの特性と目的に合わせて送付先を絞り、ターゲットの心を掴む仕様のものを送付すれば効果が見込める

1 紙媒体のダイレクト・メールは、若年層には受けが良い?

SNSなどが普及した今、企業や店舗から送られてくる紙媒体のダイレクト・メール(以下「DM」)は、「古い」と思われがちかもしれませんが、そう決めつけるのは早計です。意外なことに、

DMは20代の男女や30代の女性への訴求力が強い

ことを示唆する調査結果もあります。例えば下記のデータです。

画像1

日本ダイレクトメール協会の「DMメディア実態調査2020」によると、DMを見て何らかの行動をした人は15.1%で、そのうち商品やサービスを購入・利用した人の割合は2.1%です。

この「何らかの行動をした人」の割合を性別と年代で見ると、20代男性は37.1%、20代女性は31.6%、30代女性は27.7%です。同協会では、調査結果から、比較的若い世代のほうがDMを見て何らかの行動をする傾向にあるとしています(30代男性は7.7%、40代男性は8.9%、50代男性は14.5%、40代女性は17.8%、50代女性は9.2%)。また、世帯年収別が高い層ほど、何らかの行動をする人の割合が高くなる傾向もあるようです。

また、DMにはその他にも次のような「追い風」があります。

  • コロナ禍の影響で在宅率が高まり、手に取る、あるいは目に入る可能性が高まった
  • デジタルの宣伝手法が増えたことで、アナログはユニークな存在になりつつある
  • 個人情報保護法の改正でDMのハードルが高くなり、逆に「特別感」が増している
  • デジタルマーケティングの手法が広がり、顧客分析や効果検証が容易になっている

この記事では、アナログな手法であるDMを見直すべき理由を解説した上で、分析などを行って戦略的にDMを活用することで宣伝効果を高める考え方を紹介します。改めてDMの活用を検討する際のご参考にしてください。

2 DMが若年層に「刺さる」3つの理由

前述の「DMメディア実態調査2020」を行った日本ダイレクトメール協会によると、「若年層のDMに対する行動喚起率の高さは、5~6年ほど前から顕著に見られる傾向」だといいます。

同協会ではその理由や背景について確認するために、2018年に「若年層のDM意識」を調べるグループインタビューを実施しました。その結果、若年層の開封率および行動喚起率が高い要因として、次の3点を確認できたといいます(2018年調査時点の内容です)。

1.デジタルネイティブ世代にとってのDMは特別感がありインパクトもある

「(電子メールは)1日で200~300通は届いている。量が多すぎて、全くさばききれていない」(40代男性)
「(DMは)欲しい情報が向こうから来てくれるので、うれしい。それがアクションするきっかけになる」(30代女性)
「手に取ったときにインパクトがあるのは“企業からの手紙”ならではなので、テンションが上がる」(20代男性)

2.自分のために手間とコストを掛けて印刷物を送ってくれたことに価値を感じる

「自分がいよいよ大人になった、お金を使う立場になったと認識するきっかけになった」(20代男性)
「5年前の美容院からのDMをまだ取ってある。オシャレだし、店員さんのメッセージも書かれていたので」(20代女性)
「スポーツショップからDMを受け取ったとき、そのショップとの付き合いの長さを初めて実感した。企業から『お得意様』として認めてもらえたことがうれしくて、また利用したいと思った」(20代男性)

3.電子メールよりも見やすく分かりやすいため、お得情報が印象に残る

「スマホでは件名も最初の何文字かしか見えない。前半に「クーポン」とか入っていなければスルー」(30代女性)
「電子メールだとスクロールしなければならないが、DMは開くと全ての情報が一覧できる」(20代男性)
「紙だからからこそ、周辺の興味がなかった情報を知るきっかけになるし、内容が頭に残りやすい」(30代男性)

3 DMで狙える効果と活用事例

このように、若年層に受けが良いかもしれないDMについて、実際にどのような効果が狙えるのか、どのような活用方法があるのか確認しましょう。

DMは、最終的には提供するサービスの販売につなげることが目的ですが、1通のDMで販売を目指すことだけが活用方法ではありません。自社が提供するサービスの特徴によって、効果のある活用方法が異なります。例えば、次の通りです。

画像2

自社が提供するサービスの特徴を踏まえた上で、どのような目的で(Why)、誰に(ターゲット、Whom)、どのようなタイミングで(When)、どのような(What)DMを送るのか、検討することが大切です。次章で「4W(Why、Whom、When、What)」を見てみましょう。

4 DMの効果を高めるために必要な「4W」

1)目的を明確にする(Why)

第3章で触れたように、DMは提供するサービスによって効果が異なります。自社が提供するサービスの特徴に合わせて、「優良顧客の囲い込み」「顧客との関係維持」「休眠顧客の掘り起こし」「新規顧客の開拓」など、DMを送付する目的を明確にしましょう。

また、DMをそのままサービスの販売に結び付けるのか、「来店してもらう」「ウェブサイトにアクセスしてもらう」「会員登録してもらう」「アプリをダウンロードしてもらう」「まずは認知してもらう」といった段階を踏むのかなど、細かい目的も決めておきましょう。そのほうが訴求力のある内容が考えやすくなります。

2)ターゲットを絞る(Whom)

1通のDMにもコストが掛かるので、送付先は可能な限り絞るようにしましょう。DMの目的を踏まえて、性別や年齢層はもちろん、住所、これまでの自社のサービスの利用頻度などに基づいてターゲットを絞ります。新規顧客を獲得したいときなど、自社の顧客リストが活用できない場合は、送付先の属性を絞ってDMを送付してくれる「ターゲティングDM」事業者に相談してみてもよいでしょう。

3)送付のタイミングを選ぶ(When)

送付のタイミングも、DMの目的に沿った形で選びましょう。イベントやセールなど期間限定の内容であれば開始直前が理想的です。時候の挨拶やバースデーカードであれば、そのタイミングをずらさないようにしましょう。タイミングを逸したDMは、逆に顧客の心象を悪くしないとも限りません。

4)DMの内容にこだわる(What)

せっかく送付したDMが、郵便受けからゴミ箱に直行してしまうような内容では意味がありません。簡単ではありませんが、パッと見も詳しい内容も、ターゲットのハートを掴み、目的とする行動を促しやすいDMづくりをしたいものです。予算にもよりますが、外部のデザイナーなどに相談するのも一策です。

前述の日本ダイレクトメール協会による2018年の「若年層のDM意識」では、「特に若年層の女性はデザイン性の高さや豪華さにときめく」という結果も出たそうです。

予算や費用対効果との兼ね合いにもよりますが、場合によっては試供品やノベルティグッズを同封したり、簡単なクイズによる懸賞を付けたり、アンケートを返信してくれた人に粗品をプレゼントしたりするなど、送付先にメリットを与えることで注目度を高めることも検討してよいでしょう。

この他、宛名や大切なメッセージの部分を手書きにするなど、送付先によって「パーソナライズ」させることや、「丁寧さ」を大切にすることもおすすめです。

画像3

日本郵便が主催する全日本DM大賞では、毎年応募のあったDMの中から優れた作品を選定し、表彰しています。全日本DM大賞のウェブサイトでは、表彰されたDMを画像入りで紹介していますので、デザインなどを検討する際に参考になるでしょう。

■日本郵便「全日本DM大賞」■
https://www.dm-award.jp/

5 DM送付後の対応でさらなる効果が期待できる

1)送付後の検証が次回以降の効果を高める

DMを送りっぱなしでは、DMを送付するメリットを享受できているとは言えません。DMの効果について検証を徹底することで、DMの効果を高めることにつなげられるようになります。

DMの目的が明確になっていれば、効果の検証もやりやすくなります。今回のDMが目的の達成のためにどの程度効果を発揮したのか、データを基に確認しましょう。効果を検証する視点としては、次のようなものがあります。

  • DM送付前後の客数や売り上げなどの変化
  • 客数や売り上げなどの変化が、費用や作業量に見合ったものだったのか
  • DMで効果のあった客層の属性にはどのような特徴があるか
  • そもそもDMの「4W」が正しかったのか
  • DMのどこを改善すれば、もっと効果が高まるという仮説が立てられるか

また、例えば当初からDMの内容を2種類にする、送付時期を分けるなど「ABテスト」を実施して効果の高い送付方法を検証してみてもよいでしょう。

2)顧客リストをアップデートする

顧客リストを基にDMを送付している場合、顧客リストをアップデートすることが大事です。不達の送付先を顧客リストから削除することはもちろんですが、DMへの反応があったかどうか、購買行動につながったかなどの情報も付加するようにしましょう。

顧客の属性とDMに対する反応をひも付けてデータ化していけば、自社のサービスをDMでプロモーションするには、どのような属性の人をターゲットにすれば効果が高いかも把握できるようになるでしょう。

3)個人情報の取り扱いには注意を

個人情報の漏洩があっては、サービスの販売どころか企業の信頼にも影響します。自社内だけでなく取引先を含めた、情報管理の徹底に留意しましょう。

  

以上(2021年10月)

pj70002
画像:unsplash

融資かリースか? 自社に有利な調達方法を判断する材料

書いてあること

  • 主な読者:新たな設備投資について融資かリースかを検討している経営者
  • 課題:融資とリースのどちらが有利なのか、どう判断すればよいのか分からない
  • 解決策:固定資産税はリースがお得だが税制次第。その他、金利や企業の信用状況によって異なるため、都度、判断するしかない

1 融資とリースでどちらがお得か?

機械などの設備投資には多額の資金が必要で、自己資金だけで賄いきれないことがあります。そうした場合は、

  • 金融機関から設備資金の融資を受けて設備を購入する
  • リースまたはレンタルで調達する

ことが一般的です。経営者が知りたいのは、「融資とリースではどちらがお得か?」ということですが、結論は、設備投資の都度、判断するしかありません。なぜなら、

固定資産税の負担はリースが有利ですが、支払利息の負担は金利や企業の信用状況によって異なります。また、税制も変わります。そのため、設備投資の都度、税制、金利、企業の信用状況などを総合的に勘案する必要がある

ということです。この記事では、こうした結論に至るまでの考え方を紹介します。

2 融資を受けて購入する場合

融資を受けて設備を購入する場合、損益に影響する項目は、

減価償却費、支払利息、租税公課(固定資産税)

です。注目するのは減価償却費です。代表的な減価償却方法には、

  • 定額法:耐用年数にわたり一定の減価償却費を計上
  • 定率法:取得当初に多額の減価償却費を計上

があります。いずれを選択しても最終的な減価償却費は同じですが、途中の事業年度の損益に与える影響が異なります。定額法と定率法における減価償却費の推移(イメージ)は次の通りです。

画像1

3 リースで導入する場合

1)ファイナンスリースとオペレーティングリース

会計上のリースとは、

特定の物件の所有者たる貸手が当該物件の借手に対して、リース期間にわたりこれを使用収益する権利を与え、借手は貸手にリース料を支払う取引

です。専門的でとっつきにくい印象を受けるかもしれませんが、内容はリースに関する世間一般の認識と異なるものではありません。また、会計上のリースは、ファイナンスリースとオペレーティングリースとに区分されます。

ファイナンスリースは、リース期間の中途で契約解除ができないリース、またはこれに準ずる取引です。借手が当該リース物件からもたらされる経済的利益を実質的に受け、かつ、当該リース物件の使用に伴って生じるコストを実質的に負担します。ファイナンスリースに該当するか否かについては、「リース取引に関する会計基準の適用指針」で詳細に規定されています。ファイナンスリースは、「売買取引」に準ずる取引とみなすため、設備を導入した企業は、リース資産を購入した場合に準じた会計処理を行います。なお、ファイナンスリースは所有権移転ファイナンスリースと所有権移転外ファイナンスリースに区分されますが、わが国のファイナンスリースは所有権移転外ファイナンスリースであることが多いため、以降では所有権移転外ファイナンスリースを前提とします。

一方、オペレーティングリースは、ファイナンスリース以外のリースをいい、リース取引を「賃貸借取引」に準ずる取引とみなすため、設備を導入した企業は、リース資産を賃貸借した場合に準じた会計処理を行います。現在、オペレーティングリースの会計基準(日本基準)の見直しが検討されていて、今後、資産計上が必要になる可能性があります(2021年9月17日時点)。この記事では、現時点の会計基準(日本基準)を基に、「賃貸借取引」に準じた会計処理として紹介しています。

会計上、ファイナンスリースとオペレーティングリースのどちらに該当するかの判断は、次のように行われます。

画像2

2)損益に与える主な影響(費用化)

ファイナンスリースの場合、

減価償却費と支払利息

が損益に影響する項目になります。ファイナンスリースの減価償却方法は、通常はリース期間を耐用年数としたリース期間定額法となります。一方、オペレーティングリースの場合、

支払リース料

が損益に影響する項目になります。

4 融資とリースでキャッシュフローが有利なのはどっち?

融資とリースでキャッシュフローが有利なのはどちらなのか、次の条件で比較します。

  • 売上高:1500万円
  • 導入資産の取得価額:1000万円
  • 耐用年数:7年
  • リース期間:5年
  • 融資の場合の借入金利:年2.0%
  • リースの場合の割引率(支払利息の計算に適用される利率):年2.8%

融資とリースの場合の、損益計算書とキャッシュフロー計算書は次の通りです。

画像3

この条件のキャッシュフローの合計は、融資が4480万円、リースが4490万円となり、リースのほうが10万円有利になります。その理由は次の通りです。

  • 固定資産税負担がない:40万円
  • 支払利息負担が多い:マイナス26万円(融資2.0%、リース2.8%)
  • 上記による税負担の増加:マイナス4万円((40万円-26万円)×30%)(万円未満切捨)

融資とリースの比較の場合、固定資産税の負担ではリースが有利です。一方、支払利息の負担では、金利動向や企業の信用状況によって結果が変わります。そのため、いずれが有利かの判断は画一的には決定できず、設備調達の都度、税制、金利、企業の信用状況など総合的に勘案して決定することが大切です。

5 (参考)それぞれの会計処理

1)融資を受けて設備を購入する場合の会計処理

融資を受けて設備を購入する場合の会計処理を紹介します。なお、購入する設備は機械設備とし、取得価額は1000万円(耐用年数7年、定額法、消費税は考慮しません)、金融機関からの借入金返済期間は5年、利率は年2.0%とします。

1.融資を受けたとき

現金預金を借方に計上(資産の増加)し、借入金を貸方に計上(負債の増加)します。

(借方)現金預金 1000万円 /(貸方)借入金 1000万円

2.設備の購入時

現金預金を貸方に計上(資産の減少)し、機械設備を借方に計上(資産の増加)します。

(借方)機械設備 1000万円 /(貸方)現金預金 1000万円

3.金融機関に対する元本および利息の支払時

現金預金を貸方に計上(資産の減少)し、借入金を借方に計上(負債の減少)するとともに、支払利息も借方に計上(費用の計上)します。

(借方)借入金  192万円 /(貸方)現金預金 212万円

(借方)支払利息 20万円 /

4.購入した設備の減価償却費計上

減価償却費を借方に計上(費用の計上)し、機械設備を貸方に計上(資産の減少)します。これは、機械設備の取得価額に、使用による価値の減少を反映するものです。

(借方)減価償却費 143万円 /(貸方)機械設備 143万円

5.固定資産税の支払時

現金預金を貸方に計上(資産の減少)し、租税公課(固定資産税)を借方に計上(費用の計上)します。これは、設備等に課された固定資産税(固定資産評価額×標準税率1.4%)を反映するものです。

(借方)租税公課 12万円 /(貸方)現金預金 12万円

2)ファイナンスリースにより設備を導入する場合の会計処理

ファイナンスリースにより設備を導入する場合、次のような会計処理になります。なお、リース資産の取得価額は1000万円、リース期間は5年、支払利息は利息法(毎事業年度のリース債務未返済残高に一定の利率を乗じて、支払利息を計上する方法)によるものとし、割引率は年2.8%、消費税は考慮しません。

1.リース資産の導入時

リース資産を借方に計上(資産の増加)し、リース債務を貸方に計上(負債の増加)します。

(借方)リース資産 1000万円 /(貸方)リース債務 1000万円

2.リース会社に対するリース料の支払時

現金預金を貸方に計上(資産の減少)し、リース債務を借方に計上(負債の減少)するとともに、支払利息も借方に計上(費用の計上)します。

(借方)リース債務 189万円 /(貸方)現金預金 217万円

(借方)支払利息   28万円 /

3.リース資産の減価償却費計上

リース資産を貸方に計上(資産の減少)し、減価償却費を借方に計上(費用の計上)します。これは、リース資産の取得価額に、使用による価値の減少を反映するものです。

(借方)減価償却費 200万円 /(貸方)リース資産 200万円

ファイナンスリースを売買取引に準ずる取引とみなすため、企業はリース資産を購入した場合と同様に資産計上し、リース期間にわたって減価償却費を計上していきます。ただし、リース資産の所有権はリース会社にあるため、固定資産税はリース会社が負担します。

3)オペレーティングリースにより設備を導入する場合の会計処理

リース料の支払いの都度、支払リース料を借方に計上(費用の計上)し、現金預金を貸方に計上(資産の減少)します。

(借方)支払リース料 217万円 /(貸方)現金預金 217万円

オペレーティングリースを賃貸借取引に準ずる取引とみなすため、設備を導入しても、資産計上する必要はありません。また、ファイナンスリース同様に、固定資産税はリース会社が負担します。

なお、レンタル会社から設備をレンタルする場合の会計処理も、賃貸借取引であることから、オペレーティングリースと同様の会計処理(費用科目は賃貸料など)となります。そのため、別途説明は省略します。

以上(2021年10月)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 公認会計士 仁田順哉)

pj35027
画像:pixabay

【朝礼】リモートワークで「進化し続ける組織」になるために

皆さん、おはようございます。今日も全員リモートワークですので、チャットやオンラインツールでしっかりコミュニケーションを取って、仕事を進めていきましょう。

さて、当社がリモートワークに切り替えてからもうすぐ1年半がたちます。この1年半、皆さんが頑張ってくれたおかげでリモートワークで仕事が回るようになり、この新しい働き方も浸透しました。これからも試行錯誤が続くかもしれませんが、皆さんの協力と頑張りには心から感謝しています。ありがとうございます。

当社では今後もリモートワークを続けていくつもりですので、今日は皆さんに改めて伝えておきたいことがあります。皆さんは、これから言う数字が何を指しているか分かるでしょうか?

「リモートワーク前は週に5時間、

リモートワーク後は月に5時間」

これは、私自身が改めて振り返った、「自分が新しいことを学ぶためにセミナーに費やした時間」です。リモートワークになる前は、新しい領域の対面セミナーに少なくとも週に5時間は参加していました。それが、リモートワークになってから、なんと「月に5時間」に減ってしまっていたのです。リモートワークに切り替えた当初の3、4カ月ほどは、多くのセミナーがオンラインに切り替わり、移動時間もなく便利なので、それこそ週に10時間くらいは参加していました。

しかし、リモートワークやオンラインセミナーに慣れた最近は、自ら積極的にセミナーなどに参加する機会が減っていることに気付いてがくぜんとしました。

自宅でリモートワークをしていると、通信状態さえ整っていれば仕事環境としては最高です。極端に言えば、起きてすぐから寝る直前まで仕事ができますし、移動せずにクライアントや社内外の人とオンラインでミーティングもできます。

その一方で、リモートワークでは「自ら新しいことを学ぼうとしなければ、その機会は減ってしまう」のも事実です。皆さんはどうでしょうか?

出社していたときは上司や同僚、社外の人と触れ合えるので、自分の知らなかった新しいことを学ぶ機会がまさに「転がっていた」はずです。しかしリモートワークでは、自分で情報を取りに行く、違った領域に触れに行くことをしなければ、新しい知識を身に付けたり学んだりするのは難しいでしょう。そうして自分自身が進化できなくなってしまうのです。さらに、何より恐ろしいのは、「自分が進化していないことに気付かなくなっていく」ことです。

当社は、「進化し続ける組織」を目指しています。これからもリモートワークを続けていく当社だからこそ、一人ひとりが自分で「新しいことを学ぼう」とする姿勢が大切です。皆さん、ぜひ「新しく学ぶこと」を決めて、今日、それをスタートさせましょう!

以上(2021年10月)

pj17073
画像:Mariko Mitsuda

帝政ローマと“今”の会社機構は似ているか/ローマ史から学ぶガバナンス(9)

書いてあること

  • 主な読者:現在・将来の自社のビジネスガバナンスを考えるためのヒントがほしい経営者
  • 課題:変化が激しい時代であり、既存のガバナンス論を学ぶだけでは、不十分
  • 解決策:古代ローマ史を時系列で追い、その長い歴史との対話を通じて、現代に生かせるヒントを学ぶ

1 会社機構と国家機構

粉飾決算、不正融資、損失補填、利益供与、入札談合など、これまで数多くの企業不祥事が報じられてきました。あまりなじみのなかった不祥事の用語もすっかり聞き慣れたものとなり、程なくまた、次の新たな不祥事の用語が表れ、報道されます。

こうした企業不祥事のたびに、コーポレート・ガバナンスの話になります。コーポレート・ガバナンスは、元来、企業の不正行為の防止だけでなく、企業の競争力・収益力の向上も含め、長期的な企業価値の増大に向けた企業経営の仕組みのことを意味します。企業不祥事が発生すると、当然、不正行為の防止に主眼を置いたコーポレート・ガバナンスの議論がなされます。そして、コーポレート・ガバナンスの強化に向けた法規制が施され、会社機構が見直されることになります。

お気付きの方も少なくないと思いますが、会社機構は、国家機構を模写して制度設計がなされているため、よく似たところがあります。現代日本の国家機構に対しては、様々な意見もあるかと思いますが、会社と同じく、抑制と均衡が求められる形態として変遷してきた国家機構の思想から、会社機構に取り入れられた機関や規制は幾つもあります。

国家機構と会社機構の最も単純な相似性でいえば、立法・行政・司法という三権について、国家機構では国会・内閣・裁判所という構成であるのに対し、会社機構では株主総会・取締役会・監査役会という構成でできていることが挙げられます。ここでは細かな点は割愛しますが、国家機構における様々な工夫や思想が、会社機構の機関や規制に生かされており、従って似たところがあるのです。

しかし、どうも腑に落ちないところもあります。参考にすべきところを取り入れ、似たところがあるとはいえ、現代の国家と会社は、やはり本質的に異なります。現代日本の国家機構は、民主主義を体現するにふさわしい形態として設計され、見直されているはずであり、株式会社をはじめとする会社機構が目指す姿や実際の社会での役割とは大きな違いがあります。企業は、顧客、市場、従業員などの声に耳を傾けるべきではありますが、決して民主主義的とは限らず、むしろ、民主主義的な運営が弊害となる場合すらあります。そんなことから、現代日本の国会機構と対比するより、帝政ローマの形態と対比するのがよいのかもしれないと直感的に思い、考えてみました。少なくとも、コーポレート・ガバナンスや会社機構を見つめ直す際に、一つのアナロジーとして帝政ローマの形態を眺めてみることには意味がありそうです。

2 帝政ローマの機構・形態

以前、ご紹介した通り、ガイウス・ユリウス・カエサルから後継者指名を受けたオクタヴィアヌス(のちのアウグストゥス)は、時間をかけて、ひっそりと帝政ローマという形態を築きました。合法的に得られたものを組み合わせ、政治的に調和された皇帝という地位がいつの間にか、気付かぬうちに存在していたのです。

このようにして創設された帝政ローマは、実に微妙なバランスの上で成り立っていました。皆さんがイメージされる帝政や王政といった君主政は、圧倒的な軍事力、経済力、統治力によって築かれた厳然たる地位に一人の権力者が就き、平民のことなど顧みず、横暴も許されるような形態かもしれません。そういった君主政も実際、存在しました。

しかし、帝政ローマは、そのような形態ではありません。帝政ローマの皇帝という地位は、合法的に得られたもの、すなわち、元老院からの権力委託の承認、市民からの権力委託の承認、軍団からの忠誠誓約が組み合わされて築かれているため、厳然たる地位とは言い難く、バランスを上手に取らなければ簡単に転げ落ちてしまうのです。

これを会社に当てはめてみます。比較的大きいBtoC企業をイメージすると分かりやすいかもしれませんが、皇帝を経営者に、元老院を株主・株主総会に、市民を一般消費者に、軍団を従業員に置き換えて考えてみましょう。

共和政期に比べると、元老院の権威は低下しましたが、経済的な実利を握り、承認機関としての政治的な権限も有していました。少なくとも紀元2世紀あたりまで、皇帝は、強大な権力を持ちながらも、元老院の権威を尊重し、統治を行っていました。資本構成などにもよりますが、経営者が株主(総会)からの意見に耳を傾け、信頼に応えつつ、経営においては裁量を持って手腕を振るう姿と重なるところがあります。

皇帝は、市民からの世論や人気に支えられていましたが、BtoC企業においても、一般消費者からの支持や人気、それに基づく購買行動は、経営状況に直接的に好影響を及ぼすだけでなく、経営に対する評価として、経営者の地位を支える働きがあります。皇帝が市民のご機嫌取りのために「パンとサーカス」、すなわち食糧と娯楽を提供していたことは、市民を政治的盲目にさせたといわれるところではありますが、経営者が一般消費者に受け入れられるように、いろいろな工夫やアイデアを実践する姿と似ているといえるでしょう。

次に、皇帝と軍団の関係を見てみましょう。軍団は皇帝に対して忠誠を誓約し、国家の繁栄と防衛のために働き、皇帝はその働きに対する対価を与えるだけでなく、軍事的意義や価値を示し、士気を高めるよう振る舞います。最近では、働き方が多様化しており、会社と従業員との関係が変わってきていますが、経営者は、従業員に対して給与を支払うだけでなく、会社としてのビジョンや事業が有する価値をうたい、従業員がやる気を持って高いパフォーマンスを発揮できるよう働きかけます。このように当てはめてみると、アナロジーの一つとして考えられないでしょうか。

3 微妙なバランスがもたらす長期的な健全性

会社の経営者は、多くの場合、皇帝ほど微妙なバランスの上で成り立っている存在ではないかもしれません。多くの経営者は、資本政策や多数派形成などにより、安定的な地位を築いている場合のほうが多いでしょう。しかし、それは健全といえるでしょうか。

微妙なバランスの上で成り立つためには、高度な経営力を要します。株主総会、一般消費者、従業員の三方のバランスを上手に取り、三方が納得する経営があって初めて、経営者としての地位を保てることになります。三方のいずれかにおいて、不満や反対が起こり、経営として落第点が付いたら、次の経営者にバトンが渡される。そのほうが会社にとっては健全といえるのではないでしょうか。

そんな不安定な地位を自ら作る経営者はいないでしょうが、この微妙なバランスのほうが、より長く健全に会社が存続するように思います。経営者が盤石な地位にいると、三方のバランスが崩れていても、その悪い状態を抱えたまま経営が続きます。そして、会社としては破綻することすらあるのです。そのように考えると、株主総会、一般消費者、従業員の三方の微妙なバランスの上で成り立つ形態というのは、とても貴重なように思われるのです。

帝政ローマでは、皇帝が実に微妙なバランスの上で成り立つという形態であったために、次から次へと新たな皇帝にバトンが渡される時代がありました。愚帝の時代、混乱の時代などといわれていますが、帝政ローマの形態は維持されていきます。少々駆け足になりますが、そんな時代を振り返ってみましょう。

4 ローマの混乱期

ティベリウスが亡くなり、皇帝の座に就いたのは、24歳のカリグラでした。カリグラは、初代皇帝アウグストゥスの血を引く、若く美しい青年で、元老院からも市民からも大きな歓迎を受けて皇帝になったのですが、その人気に固執したためか、剣闘士試合や戦車競走のスポンサーになるなど、人気取り政策のために莫大な国費を使い、財政を破綻させてしまいます。そして、皇帝を守るための近衛軍団の手によって暗殺されました。

そして、近衛軍団に担がれて、50歳のクラウディウスが皇帝に就任します。クラウディウスは、皇位継承の候補者からは外れていて、それまで歴史研究だけに没頭してきた人物でしたが、皇帝になると財政を見事に立て直し、ブリタニア(イギリス南部)遠征を成功に導くなど、着々と責務を果たしました。しかし、クラウディウスの性格や生来のハンディなどから周囲から畏敬の念を抱かれることがなく、臣下や近親者の横暴を止めることができませんでした。最後は、4番目の妻である小アグリッピーナに毒殺されたといわれています。

実子ネロをクラウディウスの養子とさせていた小アグリッピーナの思惑通り、16歳のネロが新皇帝に就きました。暴君として有名なネロですが、当初は、哲学者のセネカや近衛軍団だったブッルスの補佐を受け、元老院からも市民からも支持される政治を推進していました。しかし、セネカが引退すると、キリスト教徒迫害の先鞭となった「ローマの大火」をはじめ、悪行に悪行を重ねていきます。このようなネロに対して、次々と暗殺や反乱が企てられました。そして、最後は、近衛軍団も反ネロに加わり、元老院もネロを「国家の敵」と宣告し、市民もネロを見限ります。皇帝としての正当性を失ったネロは自死しました。

ここまでで初代皇帝アウグストゥスの血統による皇帝は終わります。この後も混乱が続き、ガルバは7カ月で暗殺、オトーは3カ月で自死、ヴィテリウスは8カ月で処刑という危機的状況に陥りますが、常識的で責任感のあるヴェスパシアヌスが皇帝に就いたことで、一時的に秩序が回復されました。

皇帝という微妙なバランスの上に成り立つ最高権力者が次々と代わり、混乱が続きましたが、帝政ローマという形態は維持されました。これは帝政ローマという形態が機能したからこそ、皇帝にふさわしくない者が打倒され、次の担い手にバトンが渡されていった結果といえるかもしれません。

5 アナロジーとしての歴史

現代に生きる私たちにとって、帝国や帝政というと、邪悪なイメージがあります。映画などでも、民主主義、自由主義、平和主義の真逆にいる敵として、帝国や皇帝が描かれています。しかし、人類の歴史を振り返れば、過去2500年間、世界で最も一般的な国家機構は、帝国や帝政と呼ばれる形態でした。現代の国家観としてはいかなものかとは思いますが、先ほども申し上げた通り、現代の会社と、帝国や帝政を見比べてみると、興味深い気付きがあります。特に、帝政ローマについては、共和政から微妙なバランスの中で生まれたという背景もあり、民主主義を体現する現代国家の中にある会社と、符合する点が見られます。

歴史の中の人物や組織、出来事などは、現代の私たちの社会とは大きく異なる環境ならではという側面もありますが、やはり同じ人間として似たようなところがあります。これらをアナロジーとして捉え、現在の自分たちに置き換えてみることで、新たな発見があるように思うのです。

以上(2021年10月)
(執筆 辻大志)

op90058
画像:unsplash

アンケート結果を理解するための数字の見方

書いてあること

  • 主な読者:顧客の考えを知り、次の施策に活かしたいマーケティング担当者、営業担当者
  • 課題:顧客アンケートの結果を効果的に理解したい
  • 解決策:散布図を利用して自社のやるべきことを把握する

1 回収したアンケート結果を自社の戦略に活かすには…

あらゆるビジネスにおいて、顧客の考えを知ることは極めて重要です。顧客を理解するときに有効な方法の一つがアンケートです。アンケートは、顧客や見込み客、その他一般の消費者、企業などの考えを知るツールとして、さまざまなシーンで活用されています。特に今どきは、インターネットを通じて、簡単かつ安価にアンケートを実施することも可能になりました。

そうして実施したアンケートの後には多くのデータが得られますが、その内容を理解し、自社の戦略に反映することができているでしょうか。

今回はアパレル商品に対する顧客アンケートを参考に、アンケートの大量の回答の中から、次の戦略のヒントを見つけ出す「散布図」について解説します。顧客の声を、次の施策に活かす際のご参考にしてください。

2 アンケート結果から相関関係を見抜く

今回は、次の図表1の1~10の質問項目についてアパレル商品に関する「満足度」を聞き取り、点数を平均化します。そこに別途質問するアパレルブランド全体に対する満足度の点数を「総合満足度」とします。この総合満足度と1~10の質問の満足度の相関係数を算出し「重視度」を設定しています。

相関係数をざっと説明すると、2つの異なる数値データ同士の関連の強さを表す指標です。相関係数は、-1から1の範囲を取り「相関係数が0から1の場合は、正の相関がある(一方のデータが大きくなればなるほど、もう一方のデータの値も大きくなる関係)」と言います。一方で「相関係数が-1から0の場合は負の相関がある(一方のデータが大きくなればなるほど、もう一方のデータの値は小さくなる関係)」といいます。

相関係数はエクセルの「CORREL関数」を使って算出できます。算出したいデータの範囲を選択し、関数の中から「CORREL」を選択します。

画像1

質問1(商品の種類)とアパレルブランド全体に対する質問の相関係数が0.3で、質問2(デザインセンス)とアパレルブランド全体に対する質問の相関係数が0.7だったとします。この場合、商品の種類よりもデザインセンスに満足している顧客のほうが、ブランド全体に対しても満足している傾向が強いということになります。つまり、このブランドは商品の種類よりもデザインセンスを重視している顧客が多いと解釈できます。

1)散布図を使ってみる

図表1のアンケート結果を「見える化」するための方法として、ここで散布図の登場です。散布図は2つの項目の関係を明らかにするために用いられる図表です。縦軸と横軸の目盛り上のデータが該当する場所に点をプロット(打点)することでグラフに情報を反映していきます。

注意点としては、散布図で分かるのは「2つの量の間に見た目の関係性があるか」ということで、「2つの項目に因果関係がある」とは言えません。

今回は、平均満足度を縦軸に、重視度を横軸に取って散布図を作成します。例えば、質問1「商品の種類」に関する平均満足度と重視度は次の通りです。

画像2

平均満足度と重視度の算出例によると、質問1「商品の種類」の平均満足度は78.75、重視度は0.44なので、散布図上の該当する位置にマークと「商品の種類」と表示しています。

また、一般に相関係数が0.2以下の場合は、ほとんど相関がないといわれているので、今回は重視度が0.2以下の質問は散布図の対象外とします。散布図の軸の表示範囲の基準となる平均満足度や重視度の平均値も、対象外とした項目の値を除いて算出した値を使用するようにします。

残りの質問の結果も、散布図に反映していくと、次のような図表3が出来上がります。

画像3

この散布図の結果を、次のような項目で分類すると、このアパレルブランドが取り組むべきことが見えてきます(図表4ご参照ください)。

画像4

1から5のそれぞれの領域が意味するところは次の通りです。

1.最重要改善項目

この領域は他の領域に比べて「平均満足度が低く重視度が高い」領域です。顧客はこの領域の質問が示す内容に対し、重要視しているにもかかわらず不満に思っているという危険な状態を意味します。

つまり、この領域に属する質問が示す内容は最も重要で、企業にとって、早急に改善を要する内容といえます。今回の例では、質問6「他の商品との組み合わせ」が該当します。

2.品質維持項目

この領域は他の領域に比べて「平均満足度が高く重視度も高い」領域です。この領域は、顧客はこの領域に属する質問が示す内容に対し、重要視していてかつ満足しているといえます。

この領域に属する質問が示す内容は、企業にとって、今の品質を維持すべき内容です。今回の例では、質問2「デザインセンス」、質問3「着心地」、質問4「色合い」が該当します。

3.戦略再考項目

この領域は他の領域に比べて「平均満足度が高く重視度が低い」領域です。この領域に属する質問が示す内容に対し、顧客は満足してはいるが重要視していないといえます。

この領域に属する質問が示す内容は、顧客にとって当たり前になっている可能性があるので、顧客があまり重要視していないからといって安易に品質を下げるのは危険ですが、企業にとって他の質問が示す内容と比較して、力の入れ具合を再考すべき内容といえます。今回は、質問1「商品の種類」が該当します。

4.見極め項目

この領域は他の領域に比べて「平均満足度が低く重視度も低い」領域です。顧客はこの領域に属する質問が示す内容に対し、不満に思っているが重要視していないといえます。

企業は、この領域に属する質問が示す内容について、アンケートの自由回答の内容などからこれから重要視される可能性があるかどうかを見極める必要があります。

例えば、顧客が長い間重要視していたが、一向に変化がないので今は諦めているといったような可能性がある場合は、その質問が示す内容を改善することで顧客にかつての期待を呼び起こし、ブランド全体の満足感を高めることができる可能性があります。

今回の例では、質問8「値段」、質問9「店頭従業員の提案内容」、質問10「販売店の立地や数」が該当します。

5.中間項目

この領域は他の領域に比べて「平均満足度も重視度も平均的」な領域です。企業はこの領域に属する質問が示す内容に対し、基本的には品質の維持を心掛けて余裕があれば改善するというスタンスでよいでしょう。

今回の例では、質問5「肌触り」、質問7「耐久性」が該当します。

2)分析結果の実効性を高めるには

これまで紹介したように、アンケートの結果から、質問ごとに顧客の重視度を算出し、散布図で分かりやすく図示することで、調査対象の商品やサービスが抱える問題や優先的に改善すべき内容を直感的に分かるように明らかにすることができます。

重点的に改善すべき質問が決まったら、その質問について顧客が記したフリーコメントを抽出してみましょう。そのコメントの内容を分類し、顧客が特に重視していることや不満に思っていることをさらに深く掘り下げることで、より効果のある具体的な改善策の立案に役立てることができます。 

さらに、アンケートの回収数が多ければ、年齢や性別、アンケート実施店舗など顧客の属性ごとに散布図を作成することで、顧客ターゲットごとに最適な改善策を立案することができます。

今回紹介した方法は、アンケートに総合満足度を聞く質問を1つ入れるだけで、簡単に実施できます。ぜひ一度お試しください。

以上(2021年10月)

pj00107
画像:pexels

【朝礼】朝礼が減った今こそ考えるコミュニケーション

昔、先輩から教えてもらったことがあります。

「電話をしているとき、相手からこちらの姿が見えないからと油断せず、会っているとき以上に丁寧に接するように」

そう言われて周囲を見渡すと、椅子にふんぞり返っている人など一人もいませんでした。それどころか、皆、電話を切る際は「ありがとうございました!」と深々と頭を下げていました。「あぁ~、私は素晴らしい会社に入社したんだな」と感じた瞬間でした。

本気であれば自然と背筋が伸びるものです。皆、仕事に真剣だったわけで、電話にも手を抜いていなかったのです。先輩は、「もし、あなたが椅子にふんぞり返って電話をしているなら、仕事や相手との向き合い方を反省しなさい」と教えてくれたのでしょう。

心には「根っこ」があって、その根っこが健全なのか、腐っているのかによって態度が変わってきます。これまでは毎日のように朝礼をしていましたから、お互い顔を見ながら話すことができました。同僚の話を聞き、また自分も話す中で刺激を受け、自分の「根っこ」が健全かどうかを無意識のうちに確認できたはずです。

しかし、今や朝礼は不定期となりました。クライアントとのコミュニケーションでも対面はおろか電話も減り、メールやチャットのやり取りが当たり前になってきています。

こんな時代だからこそ、私は先に話した先輩の教えがとても重要だと感じています。姿も見えず、声も聞こえない。ある意味で制約の多いテキストのコミュニケーションが中心になっている今、皆さんはどうやって自分の真剣さを伝えますか?

例えば、同じ「はい」という返事でも、「はい」「はい?」「はい!」「はい……」といったようにたくさんの種類があります。

昔、私は先輩によく誘われて、ご飯をおごってもらっていました。先輩が「ご飯食べに行こう!」と誘ってくれたとき、「はい」と言うだけの同僚もいましたが、私は「いつもありがとうございます! ぜひ、お願いします!!」と笑顔で答え、よく飲み食いしていました。おもねるわけではなく、ただ自分の気持ちを言葉に乗せていただけです。しかし、先輩にとって、私は誘いがいのある後輩であったことは間違いありません。食事の席で仕事の話をいろいろしてくれましたし、何かと気にかけてくれました。

松下電器産業(現パナソニック)の創業者で、経営の神様と称される故・松下幸之助さんは、採用基準の一つに「愛嬌(あいきょう)」を加えていたそうです。愛嬌があれば人から嫌われることなく、いろいろなところに呼んでもらえるので、仕事の輪も広がるということでしょう。

皆さんの心の「根っこ」は健全ですか。言葉や態度に愛嬌はありますか。同じ「はい」にも、たくさんの種類があることを知ってください。

以上(2021年10月)

pj17072
画像:Mariko Mitsuda

【朝礼】管理職に伝えたい「つもり違い十カ条」

先日、私は、長年の大切なお客様から、「先週の日曜日、電車の中でお見かけしましたよ。混んでいたのでご挨拶もできず、大変失礼しました」と言われました。

それを聞いて私は、とても心配になりました。先週の日曜日、私はどのような格好をしていただろうか、電車の中でだらしのない姿勢で座っていなかっただろうか。お客様は「混んでいたので」と言ってくださいましたが、実は私が険しい顔をしていたので、声を掛けてはいけないと思ってしまったのではないか。そうしたことが頭をよぎり、大げさではなく、肝を冷やす思いでした。

中学校教師をしている私の友人は、よく、「生徒や父母がどこで見ているか分からないから、たとえ家の近所だろうとも、誰かに見られて恥ずかしい言動は絶対にしないように気を付けている」と言っています。つまりそれは、「公人である」という意識を持って行動しているということだと思います。お客様から「お見かけしましたよ」と言われたことで、私も、改めて自分自身を戒めようと心に誓いました。

このことは、皆さんにも当てはまります。特に「公人」の意識を持ってほしいのは、管理職です。管理職の日ごろの言動は、部下に見られているからです。例えば、お客様からの難しい要望に管理職が感情的になって「面倒だ」「やりたくない」と言うのを聞けば、部下はその仕事をネガティブに捉えます。やりがいを感じるはずがありません。

逆に、管理職が「言ってもらえてよかった。これは我が社がステップアップするチャンスだ!」と言うのを聞けば、部下は、前向きに取り組むべき大切な仕事だと感じるでしょう。

管理職の皆さん、日ごろの言動において「部下に見られている」ことを意識していますか。そうでない人は、今日からすぐに改めましょう。

とはいえ、自分の行動を改めたり戒めたりするのは簡単なことではありません。そこで、今から善光寺の元住職が作ったとされる「つもり違い十カ条」をお伝えします。自分自身を振り返り、見直すために必要なことばかりなので、管理職の皆さんは「自分はこうした『つもり違い』をしている」と思って、謙虚な気持ちで聞いてください。

  • ・高いつもりで、低いのが教養
  • ・低いつもりで、高いのが気位
  • ・深いつもりで、浅いのが知識
  • ・浅いつもりで、深いのが欲望
  • ・厚いつもりで、薄いのが人情
  • ・薄いつもりで、厚いのが面の皮
  • ・強いつもりで、弱いのが根性
  • ・弱いつもりで、強いのが自我
  • ・多いつもりで、少ないのが分別
  • ・少ないつもりで、多いのが無駄

「公人」である管理職の皆さんには、私から、もう一カ条、付け足しておきましょう。「軽いつもりで、重いのがあなたの言動」です。このことを忘れないでください。

以上(2021年10月)

op16897
画像:Mariko Mitsuda

「差分」でシンプルに比較するファイナンスは経営の味方/経営者のためのファイナンス講座(8)

書いてあること

  • 主な読者:将来の意思決定に役立つファイナンス思考を身に付けたい経営者
  • 課題:経営者は日々、意思決定の連続。判断の一助となるシンプルな基準が欲しい
  • 解決策:比較対象を明確にし、「差分」を見るというシンプルな思考が大切

1 経営者の意思決定の裏に、ファイナンス思考あり

経営は、大きなことから小さなことまで、日々、意思決定の連続です。新規の得意先を開拓するかどうか、増えつつある管理業務を誰にやってもらうかなど。私自身も小さな会社を経営していますので、決めなくてはいけないことの多さに、夕方にはへとへとになることもしばしばです。ただ数が多いというだけならまだしも、大事な意思決定に対する判断を間違えてしまうと、経営に打撃を与えることになります。

ファイナンスはこのような状況を解決するのに、とても役に立つツールです。あまたある意思決定を正しく、また負担を減らしてくれます。お金を尺度として情報を整理することで状況が理解しやすくなり、判断のポイントが見えてくるのです。

シリーズの最終回となる今回は、ファイナンスのベースにある考え方を見てみましょう。ファイナンスに限らず、広く意思決定を行う場合にも使える、とても便利な考え方ですので、押さえておくといいと思います。

2 比較を制する者が、ファイナンスを制する

ファイナンスのベースにあるのは、

「比較」というとてもシンプルな考え方

です。日常生活でも、天気予報に出てくる気温情報に比較が用いられています。「明日の最高気温30度」に加えて、前日比+2度といった比較が必ずセットで表示されます。30度という実数だけでは、多くの人は正しく情報を理解できないのです。自分が過ごした今日と比べることで、「明日の方が少し暑い」と理解できます。このように、私たちは日常でも比較を活用しているのです。

とあるデータサイエンティストが、「分析とは比較すること」と言っているのを聞いたことがあります。これは、財務数値を扱うファイナンスでも同じです。比較という一見シンプルな手法は、多くのことを教えてくれます。

3 メリハリをつけて、差分だけに注目する

比較するときには、差分だけに注目すると効率的です。例えば、シリーズ第4回(意思決定時に欠かせない「機会コスト」と「埋没コスト」/中小企業経営者のためのファイナンス講座(4))で紹介した機会コストと埋没コストいうファイナンス特有の用語も、差分の性質を扱っています。それだけ、ファイナンスは差分を大事にしているのです。

工場の機械が老朽化し、取り換えが必要な場合を考えてみましょう。機械Aと機械Bが候補に上がっているなら、両者の違いだけに目を向けます。機械Aは年間保守料が100万円だけど、機械Bは80万円であれば、機械Bの方が20万円お得ですので、この差分は押さえておく必要があります。一方、耐用年数がどちらも5年で同じということであれば、耐用年数に関してはどちらを選んでも変わらないわけです。購入相手からは、年間保守料など差分の部分を中心に説明を受けたり、交渉したりすればよく、差分のない耐用年数については根掘り葉掘り聞く必要はないでしょう。

4 比較対象を間違えない

仮に、現在稼働している機械の年間保守料が50万円だったとしましょう。これに比べると、機械A、機械Bどちらも高くなります。しかし、このことは意思決定においては考慮しません。この機械が主力製品を製造するのに使用しているもので、老朽化したのであれば、取り換えのために投資せざるを得ないからです。

どうしても通常の感覚では、比較対象を現在に置きがちです。しかし、それはファイナンスの観点からは正しくありません。気持ちとしては、今より高くなるというのはがっかりしますが、感情と理性を切り分けます。理性の面から、現状維持という選択肢がない以上、現実として選び得る案だけを検討対象にしましょう。余計なことに頭と時間を使う余裕は、中小企業にはありません。

5 見えないコストこそ、見落とさない

もし機械Aと機械Bで稼働させるために必要な工数が異なるようであれば、それも考慮する必要があります。保守費用や耐用年数はパンフレットなどに書いてあるので目がいくと思いますが、見落としがちなのが、付随して発生する社内のコストの差分です。もし機械Aは、機械Bよりも作業員が関わる時間が少なくて済むのであれば、保守費用が高くても採用すべきかもしれません。

シリーズ第2回(ファイナンス特有の「見えないコスト」の考え方/中小企業経営者のためのファイナンス講座(2))で、現金を管理することに伴うコストの話をしましたが、これと同じです。社内ですでに発生している人件費などのコストの変化に気が付かず、機械本体の代金など、請求書によって実際に支払いが生じるものばかりに目がいきがちです。このような社内的なコストが漏れなく把握されているのか、慎重に検討しましょう。

6 シンプルに考えることが、意思決定では一番大事

ファイナンスはお金を尺度として考えることが特徴であり、中小企業の意思決定の場面での使い方をこれまで見てきました。一方で、そのベースにあるのは、今回ご紹介したような普遍的で何にでも使える、とてもシンプルな比較という考え方です。

よく通販の広告では、サプリメントから通信講座まで、「1日当たり〇〇円」という表示を見かけます。これも、お金を尺度としながらも、身近な1日という単位を用いることで、買い手がその金額感を理解し、比べやすくし、さらには購入という意思決定を促すことを目的としています。

シンプルに考えることこそが、意思決定を間違えずに、かつスムーズにする最大のポイントなのです。情報量が多いことは一見良いことに思えますが、多くから1つの結論を選び出す意思決定においては、むしろ逆です。意思決定だけに時間を避けるわけではありません。また、経営には中小企業であっても多くの人が関わります。さらには、膨大な数値情報を一度に処理できるほど、人間は賢くありません。このような状況の中で、最小限の時間で間違いのない結論に至るカギは、単純さにあるのです。

7 気負わず、まずはできるところから取り組もう

全8回にわたって見てきましたファイナンスは、数字を使うことで、私たち中小企業にとって意思決定を楽にしてくれる、味方のツールです。「ファイナンス」を気負わずに、どうやって楽ができるかという視点で、経営者や管理部門の皆さんに興味を持っていただけたらと思います。最も大事なのは、激変する環境の中で多忙な日々をなんとか乗り切っていくことです。「これならできそう」という簡単なことから、ぜひ取り組んでみていただけたら幸いです。

以上(2021年10月)
(執筆 管理会計ラボ 代表取締役 公認会計士 梅澤真由美)

pj35108
画像:pixta

「二代目」の役割/ローマ史から学ぶガバナンス(8)

書いてあること

  • 主な読者:現在・将来の自社のビジネスガバナンスを考えるためのヒントがほしい経営者
  • 課題:変化が激しい時代であり、既存のガバナンス論を学ぶだけでは、不十分
  • 解決策:古代ローマ史を時系列で追い、その長い歴史との対話を通じて、現代に生かせるヒントを学ぶ

1 事業承継に見られる「お家騒動」と「二代目」

経済やビジネスのニュースを見ていると、時折、企業の事業承継での「お家騒動」が取り上げられます。江戸時代の大名家における内部抗争を指す「お家騒動」という言葉が使われているあたりも含め、面白おかしく、滑稽な話のように扱われていますが、古今東西、こうした問題は数多くあり、どんな企業にでも起こり得る話です。

こうした「お家騒動」は、初代の創業者やカリスマ的な経営者から、次の担い手に引き継がれる際に起こることが多く、ここ数年、マスコミを賑わせた「お家騒動」もまさにそうでした。

そうした中で「二代目」というテーマが取り上げられ、いろいろな論評がなされるわけですが、これも面白おかしく取り上げたいからか、親子や親族内での事業承継の「二代目」について多く書かれています。

しかし、本来的に考えるべき「二代目」論は、親子や親族内の話に限定することではなく、また順番として二番目に該当する者に限ることもなく、もう少し実態的に広く捉えて考えるべきでしょう。

すなわち、初代の創業者や、初代でなくともカリスマ的な経営者から事業を引き継ぐ次の担い手という、広義かつ実態的な「二代目」です。さらに身近なイメージで言えば、画期的なアプローチで素晴らしい功績を作った先輩上司から業務を引き継いだ、担当者も含めるべきかもしれません。

いずれにせよ、こうした「二代目」に円滑に引き継ぎ、引き継がれ、さらに成功の軌道に乗せて走らせることは大変難しく、ビジネス上、慎重を要すべき重要なテーマなのです。

2 「二代目」の難しさ

では、「二代目」にはどのような難しさがあるのでしょうか。一般的に企業には、半永久的に継続していくという社会的責任があると考えられており、理念上も会計上もゴーイングコンサーン(継続企業)の前提が置かれています。こうした前提の下、「二代目」は、前任者が成功の基礎として築き上げた手法や仕組みが、属人性を排してもなお、永続性を持って維持していくことが求められるのです。

前任者が成功という結果を出している以上、大きな変更を加えることにはリスクが伴います。しかしながら、前任者が担っていたときと、環境や状況が変化していれば、勇気を持って変えていかなければなりません。

また、前任者の属人的な能力や性格などに依存していた部分は、曖昧さを排除し、客観性のある規範を定め、補完しなければなりません。こうして前任者の手法や仕組みに手を加えている中で、業績が下がってしまうと、それは全てこの「二代目」の責めに帰するわけですから、強靭な精神力がなければ、とても務まりません。

属人性を排することを進める一方で、「二代目」は、前任者の一身に寄せられていた信頼を、前任者とは異なる形で築かなければなりません。これは相矛盾するようなことではありますが、「二代目」は地位や権限をポンと与えられたかのように見られがちなので、属人性を排するという組織運営上正しい変化であったとしても、信頼が醸成されない中で、それを進めようとすれば、前任者の信奉者たちを中心に反対勢力が作られてしまいます。前任者の輝かしい功績がある中で、前任者とは異なる形であっても、信頼を醸成していくことは、時間も工夫も努力も必要で、この点でも強靭な精神力が求められます。

3 重要な鍵を握る「二代目」の役割

歴史を振り返ってみても、「二代目」が重要な鍵を握っているように思われます。何代にもわたって続いた王朝、国家などを見てみると、地味ながらも「二代目」が為政者として君臨したからこそ、その後の長い治世が続いていったように思えます。

私たち日本人にとって分かりやすいのは、江戸幕府の二代将軍徳川秀忠でしょうか。大河ドラマなどでの扱われ方からも分かりますが、初代将軍家康や三代将軍家光ほどの存在感はないものの、無難にバトンをつないだイメージが浮かびます。実際、江戸幕府の基礎を固めた為政者として高く評価する意見も少なくありません。

ローマ史においても「二代目」が重要な鍵を握っています。初代皇帝アウグストゥスも、ユリウス・カエサルのビジョンを引き継いだという点では「二代目」に当たるでしょう。カエサルが描いた絵を、アウグストゥスが現実に構築したという関係です。

ただし、この現実に構築されたローマ帝国を元首として引き継いだのは第二代皇帝ティベリウスで、当たり前ですが、彼こそが「二代目」です。歴史上、あまり取り上げられることがなく、賛否両論ある皇帝ですが、人間の強さも弱さも持ち合わせており、「二代目」を考える上での好材料のように思います。

4 ティベリウスの「二代目」としての手腕

ティベリウスは、「二代目」になるべくしてなったのではなく、消去法的に選ばれてしまった皇帝でした。アウグストゥスは、血縁者を後継者とすることに執着していたのですが、後継者候補が次々と亡くなってしまい、66歳になって、妻リヴィアの連れ子で45歳になるティベリウスに後継を託すことにします。アウグストゥスとティベリウスの間には、この後継者問題を含め、微妙な経緯や複雑な関係があったので、引き継ぐほうも引き継がれるほうも、お互いに難しい決断と決意が必要でした。

アウグストゥスは、ティベリウスの実力も実績も認めていましたが、血のつながりのないティベリウスを後継者にすること自体、大きな失意の中で決めたことでした。一方、ティベリウスも、消去法的に選ばれ、かつ甥に当たるゲルマニクスが皇帝になるまでの中継ぎでしかないことが公然と示されている中で、強大な権力と地位を引き継がねばならないという責任と重圧がありました。しかし、実直なティベリウスは、何度か固辞したものの、自分の責任と使命を理解し、これを仕方なく引き受けたのです。

皇帝となったティベリウスは、アウグストゥスの基本方針を継承しつつも、全く異なる形で政治を進めます。これは、「二代目」としてはそうせざるを得なかったといえるでしょう。アウグストゥスの治世においては、街道、水道、橋、港湾、浴場、劇場等の建設といった公共工事が積極的に進められましたが、ティベリウスはこれらを最小限に留め、もっぱらそれらの保守に徹しました。

ローマ市民と元老院の承認に支えられた皇帝という地位を考えれば、人気取り政策としての新たな公共工事が当たり前であった中で、緊縮財政を旨としたティベリウスの判断は、ローマ市民には異様に映ったかもしれません。剣闘士試合や競技会のスポンサーを降り、元老院議員への経済的援助を制限し、賜金というローマ市民へのボーナスも打ち切りました。増税はしないという信念の下で進められた数々の緊縮財政政策は、より大切なものを維持し、未来につなぐために進められたのですが、多くの不評を買うことになりました。

しかし、ティベリウスは意に介さず、着実に進めていったのです。ローマ国家としての方向性は維持しつつも、国家の財政状況や社会環境の変化に合わせて、勇気を持って、異なるアプローチを取った点は、「二代目」として求められる絵姿ではないでしょうか。

5 「二代目」が作ってしまった恐怖政治

しかし、前任者とは異なる形で、信頼を醸成していくという点では難があったようです。カエサルやアウグストゥスが独裁的な国家運営を志向したのに対して、ティベリウスは、帝政という政体を継承しつつも、元老院と協力し合う独裁的ではない国家運営を理念として強く持ち、それを志向しました。

先帝アウグストゥスから権力を譲られた形のティベリウスは、自身の才能や力量に不安を覚え、元老院に真摯に協力を求めたのです。そして、そのための努力も重ね、互いの信頼を築こうとしました。しかし、元老院にはもはやその意欲も気概も能力もありませんでした。

自分たちの利害にだけ関心を示し、重要な国政については皇帝に委ねるだけとなっていた元老院を目の当たりにし、ティベリウスは深い失望と幻滅で嫌気が差してしまい、ローマから遠く離れたカプリ島に引き籠もってしまいます。今で言えば、「二代目」の社長が取締役たちに失望して、出社しなくなってしまったようなものです。

しかし、ティベリウスは、決して責務を投げ出したわけではありませんでした。責任感の強いティベリウスは、情報収集と命令伝達の仕組みを使い、実に的確に遠隔から統治を続けたのです。しかし、この的確な遠隔統治は、元老院など不要だということを突き付けたに等しく、皮肉なことに、皇帝による独裁的な国家運営の強化という結果を招きます。

遠隔からの指示に従う忠実な手足が必要だったティベリウスは、その筆頭に近衛軍団長官セイアヌスを抜てきし、この手足を使って、皇帝に敵対する親族一派を一掃します。その後、セイアヌスの陰謀情報をつかんだティベリウスは、セイアヌスを奸計(かんけい)に陥れて処刑し、その一族一派を徹底的に粛清しました。

こうした混沌の中で恐怖に駆られた元老院議員たちは、自らも恐怖政治に加担するかのように、告発合戦による潰し合いを始めますが、人員整理にはちょうどいいと考えたのか、ティベリウスは静観し、放置しました。

6 成果や実績を評価することの難しさ

これら晩年のティベリウスの治世は、恐怖政治として歴史に刻まれています。確かに、統治者として、リーダーとして、これらの振る舞いは非難されて当然です。しかしながら、より大きな流れで見た場合、「カプリ島から出ずとも敵を一掃できる力を示し、恐怖と脅威を与えたことで、皇帝の権威を高め、帝政という政体を揺るぎないものにした」という評価も可能であり、ローマ帝国を盤石にした「二代目」として論じることもできるのです。

人々に恐怖を植え付けたティベリウスの死は、ローマ市民に歓喜をもたらしたそうです。一方、19世紀の歴史家モムゼンは、ティベリウスを「ローマが持った最良の皇帝の一人」と称賛しています。どちらの評価が正しいのでしょうか。

大きな業績を残し、評価が高かった経営者でも、任を退いた後、業績が落ち込み、長期的な戦略ミスを問われることがあります。ある時点において真実だった評価も時間の経過とともに変化し得るのです。一つ一つの判断がどのような結果を導き、どのように評価され、またそれがどのように変化するのかは、誰にも分からないのです。

ティベリウスはどのように思っているのでしょうか。歴史に残されたティベリウスの行動などを見ていると、評価などは気にせずに、そのときそのときの自分の判断を大事にした、と言いそうな気がします。そういうところが「二代目」に必要なのかもしれません。

以上(2021年10月)
(執筆 辻大志)

op90057
画像:unsplash