書いてあること
- 主な読者:事務管理部門の生産性を向上させたいと考えている経営者
- 課題:事務管理部門の業務は個人の裁量に任されていることが多く、効率化しにくい
- 解決策:厚生労働省「働き方・休み方改善ポータルサイト」を参考に、自社の生産性が向上しない理由に該当する対策を実行し、社員の意識や仕事のやり方を改革する
1 事務管理部門の生産性が向上しない理由にはパターンがある
業務効率化やコストダウンの推進は重要な経営課題ですが、事務管理部門に関して言うと、業務が個人の裁量に任されていることも多く、改善が進みにくい面があります。一方で、事務管理部門の業務の内容はどの企業も大体同じなので、改善が進みにくい理由も似通ってきます。
そこで紹介したいのが、厚生労働省「働き方・休み方改善ポータルサイト」です。同サイトでは、社員の働き方・休み方に関してありがちな、具体的な課題とその解決策を示しています。
この記事では、同サイトから事務管理部門の生産性向上に関する部分をピックアップし、生産性が向上しない22の理由(課題)とその対策を紹介します。「うちも困っている」という経営者の皆さんは、ぜひご確認ください。
■厚生労働省「働き方・休み方改善ポータルサイト」■
https://work-holiday.mhlw.go.jp/
2 働き方の実態把握に問題あり
1)働き方の実態が把握できていない
【理由1】自己申告による時間管理を行っており、正確な労働時間の実態把握ができていない
【対策】適切に労働時間を把握するためのシステムを導入する
タイムカードや勤怠管理システムを設置し、労働時間を正確に把握します。直行・直帰する社員、リモートワークをする社員などについては、始業・終業時刻を電話やSNSで報告させたり、ノートPCから打刻可能な勤怠管理システムを活用したりして対応します。自己申告での労働時間管理を続ける場合、PCログをチェックするなどして労働実態の把握に努めましょう。
【理由2】長時間労働や年次有給休暇の取得が低調な部署、個人の原因がわかっていない
【対策】所定外労働(残業)の時間数、年次有給休暇(年休)の取得状況を一覧にする
まずは部署ごとの残業の時間数、年休の取得状況を一覧にして状況を整理します。そして、長時間労働が続いている、あるいは年休の取得が滞っている部署や個人に対して、その要因を明らかにするための調査を行います(ヒアリングなど)。調査する内容は、
- 顧客および業務の状況(顧客数、担当業務、各業務の所要時間など)
- 残業が多い要因、年休の取得が滞る要因(業務量が多い、業務用ツールが古いなど)
- 改善のために実施している取り組み内容(業務の分担、業務用ツールを見直すなど)
- 問題点(業務の分担を見直したが、どの社員も業務量が多く改善につながらないなど)
などです。また、もしも残業削減や年休の取得促進に成功している部署が他にある場合、その成功理由をヒアリングし、改善が滞っている部署に適用できないか検討します。
- 成功理由(アウトソーシングによって部署内の総合的な業務量を削減した上で、業務の分担を見直し、社員ごとの業務量を平準化することに成功したなど)
2)働き方に関するデータと業績の関係が不明確
【理由3】経営層に取り組みのメリットがない(業績ダウンにつながる)のではと指摘される
【対策】働き方・休み方に関するデータと業績の関係、組織単位の生産性などを分析する
残業削減や年休の取得促進の効果に疑問を抱く経営層には、データなど客観的な情報で説得を試みましょう。例えば、厚生労働省「働き方・休み方改善ポータルサイト」では、残業削減や年休の取得促進に関する各社の成功事例が、具体的な数字(取り組み前後の残業時間の変化など)とともに紹介されているので参考になります。
3 管理職や社員の意識に問題あり
1)管理職の意識が低い
【理由4】管理職の意識やモチベーションが低く、各職場に業務効率化の動きが浸透しない
【対策】トップからメッセージを発信し、管理職を巻き込んだ推進体制を構築する
業務効率化に消極的な管理職に対しては、経営者から「そのような姿勢ではダメだ」とメッセージを発信し、意識の変化を促しましょう。また、経営者を中心に、業務効率化に取り組むプロジェクトチームをつくり、管理職をメンバーに加えるというのも一策です。
【理由5】管理職に長時間労働の傾向がある場合、部下も長時間労働となる傾向にある
【対策】管理職の長時間労働を解消する仕組みを導入する
管理職を対象とした定時退社推奨日、定時退社推奨月間の設定など、管理職に対して定時退社を促す仕組みを検討しましょう。
2)長時間労働が評価される(と感じている)組織風土がある
【理由6】「付き合い残業」が常態化している
【対策】管理職による所定外労働の事前承認制を設ける
所定外労働を行う場合は、管理職への事前申請・承認を要することとし、部下は、終業時刻前に、「業務内容と残業する理由」「残業予定時間」を上司に申請するルールを設けます。なお、リモートワークなどの場合、事前申請・承認の手続きを嫌がる社員が、定時で終業したように見せかけて仕事を続ける「隠れ残業」が発生しがちです。こうした場合、残業時間の上限(1日○時間、1カ月□時間など)を社員ごとに設定し、その範囲内で残業を認めるのも一策です。
【理由7】「成果を出すためには長時間労働も仕方がない」「長時間労働が評価されるはず」と考えている社員がいる
【対策】効率指標としての「時間当たり成果」を人事評価項目に加える
「時間当たり成果」を人事評価項目に加え、「時間」ではなく「効率性」で評価するように制度設計することで、社員の行動パターンの変化を促しましょう。
【理由8】長時間働くことを評価する意識が残っている部署・個人が存在する
【対策】現場の仕事の進め方を改革し、効率的な業務遂行に向けたインセンティブを付与する
組織業績の評価項目として、人件費を削減して付加価値を高める、時間当たりの売上高を高めるといった指標を組み込み、効率的な業務遂行を評価します。その際、部署メンバーの賞与へ反映させるなどして、所定外労働の削減により賃金に影響が及ばないようにします。
【理由9】フレックスタイム制を導入しているが、一部に夜遅くまで勤務する社員がいる
【対策】朝型勤務を奨励する
1日で終わらせる必要のない業務であれば、早めに終業し、翌朝の早い時間帯に業務を回すよう奨励しましょう。コアタイムの時間帯を前倒しし、朝の時間帯に働きやすい状況を整えるのも一策です。なお、フレキシブルタイムの開始・終了時刻は労使協定で決まっているので、その時刻を超えて働く社員には、管理職への事前申請・承認を義務付けるようにしましょう。
3)社員が長時間労働をいとわない
【理由10】仕事にやりがいを感じており、退社して特段やりたいこともないため、長時間労働に対する問題意識を持っていない
【対策】社員向けの教育・研修を行う
長時間労働と健康・仕事効率の関係などを社員に認知してもらうため、全社員の受講を義務とする教育・研修を行いましょう。例えば、過労死ライン、インターバル(休息)と生産性の関係、社内全体における割増賃金の支払い状況などについて説明することが考えられます。
【対策】オフの時間確保とそれによる社外のさまざまな活動への参加の推奨
定時退社や年休取得により、家族と過ごす時間を大事にし、自己啓発や休養、趣味なども含めて人間性を高め、自分の仕事を見つめ直すことを推奨します。必要に応じて、それら活動の情報提供を求めましょう。オフの活動の際の社員の生き生きした姿や、活動によって得られるものなどの情報について、社内報などを通じて提供することで効果が高まります。
4 仕事の特性、仕事のやり方に問題あり
1)業務が標準化されていない
【理由11】繁忙期に外部人材を雇用しても業務内容の説明に労力がかかり、うまく活用できない
【対策】業務の棚卸しを行う、業務手順書を作成する
業務の棚卸しを行い、業務手順書を作成しましょう。作成した業務手順書を、繁忙期などに新規人材の教育に活用します。ただし、経験や知識を基に感覚的な判断が求められる「属人的な業務(採用面接のノウハウなど)」は、マニュアル化に向かないので対象から外します。
2)業務(時間)の無駄、重複が多い
【理由12】決裁などに手間をかけすぎる部分がある
【対策】組織運営・決裁権限を見直す
現在の組織運営のあり方を再度検討し、特に決裁権限について企業経営上の観点、リスク対策、事業運営の効率性の観点などから簡素化を図りましょう。例えば、現場で決裁できる業務を増やす、紙からオンラインでの決裁に切り替えることなどが考えられます。
【理由13】退職や人事異動、育児休暇取得時など、業務の引き継ぎに時間を取られる
【対策】引継書を作成して業務引き継ぎの効率化を図る
引継書を作成して、上司が事前に承認しておきます。引継書は過去に作成したものをベースに作成するので、半期や四半期、プロジェクトの節目などに改訂を行っておくとよいでしょう。引継書は、業務全体を俯瞰(ふかん)できるものとし、業務の流れ、社内外の関係者とのつながりなどを明示します。資料がある場合、資料一覧と格納先をリストアップしておきます。
3)アウトプットの品質を過剰に追求する
【理由14】社内向け説明資料でも必要以上に質の高い資料を作成するため、手間がかかる
【対策】社内資料の内容について再検討を行う、資料内容の簡素化および枚数の上限を設定する
社内資料は要点が理解できるのであれば、デザインや分量にこだわる必要はありません。例えば図の色は白黒とする、枚数は○枚以内にするなどルールを決め、作成時間を短縮します。
4)必要ではないメール、会議が多い、会議が効果的に行われていない
【理由15】ミーティングやメールが多い(減らない)ことがネックとなっている
【対策】会議の効率化を図る
会議で明確な意思決定を行うことや、会議に必要な人のみが出席するなどの取り組みを徹底しましょう。また、決められた会議時間内に決定をする、資料は紙ではなくデータで連携し参加者がノートPCで内容を確認するなど、具体的なルールを設定します。
【対策】会議を開かないという選択肢を検討する
これまで会議を行ってきた議事事項について、決定権限を委譲するなどして会議の開催を省略することを検討します。
【対策】メールに関わる時間の削減・効率化を図る、メール数そのものの削減を図る
メールの宛先について、TOは返信をしてほしい相手、CCはやり取りを知っておくべき相手に限定するなどして、送受信や確認作業の手間を減らします。また、社内の簡易な連絡については手間がかからないSNSで行うなどして、メール数そのものの削減を図ります。
【理由16】会議で意見が出ず、会議の機能を果たしていない
【対策】会議の活性化を促進する
会議の前に、その会議の目的、議題、決めるべきことなどを明確にし、会議参加者に伝えるようにします。参加者には、問題意識を持って会議に参加するように促します。会議によっては会議中のメールや電話の使用を禁じることも検討しましょう。
5)IT化(効率化)に対する忌避感がある
【理由17】業務効率化のためにIT機器を導入したいが、IT機器に対する忌避感が強い社員が多く導入が難しい
【対策】IT機器に対する忌避感がある社員向けに、通常のマニュアルとは別の簡易マニュアルを作成する
IT機器を使用する際に活用できる、図付きのマニュアルを作成しましょう。手順通り行えば従来通りに業務が行え、時間場所を選ばず報告ができるなどのメリットがあることも伝えましょう。IT機器の使い方を習得するための研修機会を設けるとよいでしょう。
6)特定の部署・社員に仕事が集中している
【理由18】社員各人の業務負荷が把握できていない
【対策】業務の棚卸しを行う
業務の棚卸しをすることで、各人の業務負荷を「見える化」しましょう。長時間労働につながる負荷が重い業務は、業務分担の調整を行い、業務を平準化します。
【理由19】月の所定外労働60時間以上のリストに挙げられている社員が常連化している
【対策】実態や状況を把握し、フォローアップを進めて改善を推進する
担当部署に改善報告書を作成させ、
- 原因が的確に分析されているか
- 改善対策は分析した原因に対応したものとなっているか
- 改善対策は実現可能なものであるか、改善目標の達成期日は設定されているか
- 設定された期日に無理はないか
を精査します。改善報告書を基に、報告した所属長をリーダーとして、改善報告書に記載した内容に取り組みます。
取り組み結果の報告を基に、効果を上げていない取り組みについて、その原因を分析して対策を講じましょう。該当部署だけで推進することが難しい取り組みについては、企業全体で対策を推進するための体制の整備について検討すべきです。
7)周囲の社員が業務を代替しにくい
【理由20】知識やスキルの違いから、職場内で特定社員の仕事を分担できない状況が発生し、仕事が属人化している
【対策】周辺領域も含めた、広めの専門性の育成と業務の標準化
社員に対して、周辺領域を含めた広めの専門性の育成を行いましょう。標準化できる業務については、マニュアルなどを作成し、業務の平準化を図ります。
【理由21】全社的に「自分の持っている業務を他人に頼む」という考えが根付いておらず、個人で抱え込みがちである
【対策】業務の組織的遂行体制の構築(ペア制など)
主担当が不在の場合は副担当がバックアップする「ペア制」を導入するなど、組織的に対応する体制を構築しましょう。人事評価において、個人業績に加えて部門の業績を評価の対象とするように検討します。
【対策】複数業務を経験させ、多能工型の育成を行う
ある程度複数の業務を経験させ、多能工型の社員の育成を図りましょう。業務範囲を他のメンバーと重複させるなどして、協力し合う体制づくりを進めます。
8)中間管理職がプレイングマネジャーになっている
【理由22】部下の残業を減らすために、業務を引き受けた課長がプレイングマネジャーになっており、生産性向上を考える十分な時間が取れない
【対策】上長職が課長職への支援を行う、上長職の人事評価項目にワーク・ライフ・バランスの項目を盛り込む
課長の顧客に対する折衝に上長が立ち会うなど、無理な働き方の防止や計画的な業務遂行が可能となるよう、課長職を支援しましょう。また、上長職の人事評価項目にワーク・ライフ・バランスについての項目を盛り込むことで、上長職本人および課長職を含む部下の長時間労働の抑制や年休の取得を促進させることにつながります。
【対策】業務の棚卸しにより課長級の業務負荷を軽減させる
課長職が担っている業務の棚卸しを行って業務が必要かどうかを選別し、不要な業務を廃止しましょう。それでも負荷の軽減が足りない場合は、必要な業務のうち課長職が行うべき業務を選別し、一部の業務を上司や部下に振り分けましょう。プレーヤーとしての仕事とマネジャーとしての仕事の割合を、ある程度決めておくことも一策です。
以上(2021年10月)
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画像:pixabay