テレワークの実施率と今後の在り方について

1 コロナ禍におけるテレワーク実施率の推移

先般、総務省が公表した「提言:ポストコロナの働き方「日本型テレワーク」の実現」関連資料によると、企業のテレワーク実施率は、2020年3月の17.6%(3月2日から8日)から、1回目の緊急事態宣言終了の頃には、56.4%(5月28日から6月9日)に上昇しました。

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しかし、緊急事態宣言解除後は低下し、11月には30.7%(11月9日から16日)まで低下しました。2回目の緊急事態宣言時には38.4%(2021年3月1日から8日)へ再上昇しましたが、1回目の緊急事態宣言の際の実施率とは水をあけられている状況です。

2 直近のテレワーク実施率

それでは、オリンピックを間近に控えた6月のテレワークの実施状況はどのようになっているでしょうか? 株式会社東京商工リサーチの直近の調査結果を見ると38.3%(6月1日から9日)となっており、3月調査とさほどの変化は見られませんでした。

もう少し、掘り下げて調査結果を見てみると、在宅勤務を「現在、実施している」企業のうち、「従業員の何割が在宅勤務を実施していますか?」の問いについては、最多は「1割」の25.6%(1,013社)、続いて「2割」14.05%(555社)、「10割」13.72%(542社)となっています。

政府は「出勤者数7割削減」を呼びかけていましたが、達成している企業は29.0%(1,149社)でした。規模別では、7割以上の削減は、大企業23.8%(1,051社中、251社)、中小企業は30.9%(2,898社中、898社)という結果となっています。

3 おわりに

前述の通り、昨年の緊急事態宣言の発令の際に、急速な広がりを見せたテレワークですが、それ以降のテレワーク実施率は、緊急事態宣言に多少反応しつつも、落ち着いた数値となっているようです。

パーソル総合研究所が本年7月30日から8月1日に行った「第五回・新型コロナウイルス対策によるテレワークへの影響に関する緊急調査」によれば、テレワークを行っていない理由として、「会社がテレワークに消極的で、実施しにくい」という理由が10.3%を占めています。このことは、十分な準備を行わないまま、テレワークが導入された結果、テレワーク本来の良さやテレワークで出来るようになったことよりも、生産性の低下等の課題にフォーカスされてしまったからではないでしょうか。

しかしながらテレワークは、感染症対策の観点だけでなく、長時間労働の抑制やワークライフバランスなどの観点からも、働き方の選択肢として維持されることが望まれます。そして、近時の求職者も高い関心を示していることから、今後はテレワーク制度の有無も企業選びの際のポイントのひとつになるかもしれません。

コロナ禍はいずれ終わります。しかしながら、労働力の不足は長期的に企業の人材戦略に影響を及ぼすでしょう。出勤抑制が求められるからではなく、将来を見据えたテレワークの定着、改善に取り組んでみてはいかがでしょうか。

※本内容は2021年9月2日時点での内容です

(監修 社会保険労務士法人 中企団総研)

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強風・大雨時の運転(2021/10号)【交通安全ニュース】

活用する機会の例

  • 月次や週次などの定例ミーティング時の事故防止勉強会
  • 毎日の朝礼や点呼の際の安全運転意識向上のためのスピーチ
  • マイカー通勤者、新入社員、事故発生者への安全運転指導 など

今年も本格的な台風シーズンになりました。昨今は台風が大型化、強力化しているだけでなく、局所的な集中豪雨による被害も大きくなっています。

台風や集中豪雨などの気象予報については事前に情報収集し、強風・大雨が予想される地域、時間帯の運転は避けるようにしましょう。それでも運転せざるを得ない場合の注意点について以下にまとめてみました。強風・大雨時に運転する場合には、いつも以上に注意を払って運転しましょう。

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1.強風時の運転

■ 強い横風でハンドルを取られやすくなるので、十分に減速して慎重にハンドル操作を行いましょう。特に高速で走行しているときに注意が必要です。トンネル出口、切通し出口、橋の上や大型車の横を通過する時などは、あおられやすいので減速するなど注意しましょう。

■ 市街地を走行していると看板やトタン板などの飛来物があるかもしれません。被害を受けないよう、できるだけ幹線道路を走行しましょう。

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2.大雨時の運転

■ 大雨は視界を悪化させます。対向車の跳ね上げた水しぶきを浴びると一瞬視界を奪われ、周囲の危険を認知しづらくなります。ブレーキの効きも悪くなります。大雨時には十分に速度を落とし、車間距離を広めに取りましょう。また、周囲を走る車や歩行者等に自分の存在を知らせるためにも、昼間でもヘッドライトを点灯して走行しましょう。

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■ 高架下や地下トンネルなどの低い場所は冠水する恐れがあります。冠水した道路を進行すると、エンジンが故障して動けなくなる可能性があります。周囲の地面より低くなっているような場所の通行はできるだけ避けましょう。

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■ 土砂災害や高波、河川の氾濫に巻き込まれないよう注意が必要です。山沿いや海岸・河川の近くを走るのは危険です。できるだけ避けた経路を選択して下さい。

【参考】気象庁では、大雨による「土砂災害」「浸水害」「洪水災害」の危険度分布をリアルタイムで公開しており、以下の政府広報オンラインサイト※が参考になります。

※ 2021年6月2日 この雨、大丈夫? 迫る災害を一目で確認!危険度分布「キキクル」
https://www.gov-online.go.jp/useful/article/202008/1.html

3.台風通過後の運転

■ 強風による飛散物・落下物が道路に散乱していることが想定されます。早めの出発、慎重な運転を心がけましょう。

■ 排水の悪い箇所では冠水状態が続いている場合もあります。冠水場所の通行には注意しましょう。

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以上(2021年10月)

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【従業員が交通事故!】責任割合はどうなる? ②一時停止のある交差点

書いてあること

  • 主な読者:社有車の事故防止に力を入れたい経営者や運行管理責任者ならびに運転者
  • 課題:交通事故の基本的な責任割合や未然防止策を知りたい
  • 解決策:過去の裁判例に基づく基本的な責任割合と場所や状況に応じた事故防止策を理解する

1 事故事例と状況を把握します。

今回の事故状況はこちらです。A(自社の青い車)が、交差点でB(相手方の赤い車)と接触してしまいました。Aの進行方向に、一時停止の標識があったそうです。

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【A車:自社車両 B車:相手方車両】

前回の交差点での確認ポイントをおさらいしてみましょう。

①信号の有無
②双方の道路幅
③交通規制の有無
④センターラインの有無
⑤双方の速度

また、最近ではドライブレコーダーを搭載した車両も多くなってきました。ドライブレコーダーの映像は責任割合を決定するうえで非常に有効ですが、機種によっては時間経過するとデータが自動消去されるものや、走行すると上書きされてしまうものもありますので、事故を録画したデータの保全も重要です。

2 今回の事故事例の基本的な責任割合を見てみましょう。

1)責任割合の決まり方は?

双方に責任が生じる事故の場合、主に加入している保険会社の担当者が窓口となり、類似した過去の裁判例をもとに、実際の事故状況に応じて双方の責任割合に修正を加えながら決定していきます。

2)今回の責任割合は?

過去の裁判例より、A(自社の青い車)80%:B(相手方の赤い車)20% が基本の責任割合となります。

今回はどちらの道路も同じ幅でセンターラインが無く、双方同程度のスピードで接触した場合の基本の割合です。

道路交通法では、一時停止の規制がある場合、車両等には停止線の直前での一時停止義務が定められています。また、交差する道路を走行する車両等の進行を妨げてはいけない(道路交通法43条)とも定められています。

一方、相手方にも、交差点を通行する車両に対する注意義務(道路交通法42条1項)があるため、20%の責任が発生します。

※実際は、それぞれの事故状況に応じて個別に決定されます。そのため、記載の内容とは異なる結果になる場合もあります。

3 今回の事故事例を未然に防ぐポイントとは。

一時停止の規制標識や停止線が、交差点より少し手前に設定されていることが多いのには理由があります。建物やブロック塀などで見通しの悪い場所から突然、歩行者や自転車が進行してくる可能性もあるため、少し手前で停止しないと接触してしまう危険があります。

  • まずは、一時停止の標識や停止線で必ず停止
  • 次に、左右の安全が確認できる地点まで、減速しつつ慎重に進む(カーブミラーも活用)

車の運転は一人で行う業務のため、運転者本人が「事故を絶対に起こさない。」という意識を強くもち、事故を起こさない運転行動を自主的に行うことが重要です。

また、管理者は運転者に対し、組織的なサポート・指導・管理を行う必要があります。

例えば、ある運送会社では、事故に繋がりやすい性格や心理状態を診断する無料のサービスを運転者全員が受検し、心の穏やかさや慎重さなどの各運転者の診断結果を踏まえたきめ細やかな指導を行っています。

その他、ドライブレコーダーを活用した安全運転指導や教育サービス、無料の安全運転セミナーを提供している機関もありますので、それらを利用して自動車事故防止活動をしていくのも良いでしょう。

以上(2021年10月)

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本記事で紹介している責任割合は、過去の裁判例を参考にした基本的な割合です。実際は、それぞれの事故状況に応じて個別に決定されます。そのため、記載の内容と異なる結果になる場合もあります。

【朝礼】思ったことをそのまま口に出してはいけません

「伝え方」に関する書籍がベストセラーになるなど、ビジネスでは「自分の考えを相手に正確に伝えるスキル」が重要視されます。特にある程度の役職で影響力が大きかったり、法人対法人で取引する際の窓口担当者になったりした場合、伝える力は一層大事になります。

例えば、この会社で最も影響力が大きい私が相手に対する伝え方を間違えると、それだけで取引が終わってしまう恐れがあります。一方、窓口担当者の場合は、伝え方を間違えたくらいではいきなり取引がなくなることはないかもしれません。しかし、相手の社内における当社の評判は、確実に悪くなります。この恐ろしさが分かるでしょうか。相手にとって「当社が大切ではない」ということになれば、何かの対応は他よりも後送りにされますし、いざというときに本気で助けてくれません。

先日、社長仲間で話をしていたとき、その中の1人の社長の会社に届いたメールが話題になりました。そのメールには、「取引を終わらせようとしているのか?」と思えるような、辛辣な内容が書かれていました。しかし最後に、「怒りにまかせて、失礼なことを言ってしまいました」と謝罪をしています。相手としては、この最後の謝罪で、それまでの内容をご破算にできると思ったのかもしれませんが、甘い話です。法人対法人の継続取引で、一方的に売ったけんかを、たった1行の謝罪で勝手に終わらせることなどできません。

それでもその社長は、相手がそこまで立腹しているのだからと自分たちの落ち度を反省し、すぐに今後の対策などをまとめて、相手の意見や要望を確認するメールを返信したそうです。しかし、それには何の返事もなく、相手はこれまで通りに取引を続けています。恐らく、一時の怒りの感情をメールで送って、すっきりしたのでしょう。

さて、この話をしていた場には、その社長と私の他にも、同業界の社長が数名いました。つまり、その怒りのメールを送ってきた相手の会社のことは、私たちの中ですっかり共有されました。それどころか、今、私が皆さんにお話ししているのと同じように、他の社長も、自社の社員や別の社長に話しているはずです。

今どきは、ネットの世界におけるネガティブ情報の拡散が問題になりがちですが、今回のようなリアルの世界では、情報は当事者の感情が込められて伝わります。ひとたび悪評が立てば、もはや“火消し”をすることはできないかもしれません。

「伝え方」に関する書籍では、シーン、話す順番、言葉の選択などが多く紹介されています。しかし、テクニックを意識するよりも大切なのは、「思ったことをそのまま口にしたり、メールで送ったりしない」ことです。特にネガティブな話をするときは、必ず一呼吸おいて、自分がこれから口にしようとしている内容を吟味してから、判断してください。当たり前ですが、これはビジネスでとても大切なことなのです。

以上(2021年10月)

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画像:Mariko Mitsuda

パートナーシップによる価値創造/経済性と社会性を両立させる中小企業のSDGs(3)

書いてあること

  • 主な読者:SDGsに本格的に取り組みたいけれど、企業としての損得勘定も気になる経営者
  • 課題:経済性と社会性を両立させるSDGsの取り組み方を知る
  • 解決策:SDGsのポイントはパートナーシップにある。自社の取り組みに自己満足せず、課題解決のためのつながりを広げていく

1 「自己満足」に陥らないSDGsを目指す

前回は、SDGsで経済的なメリットを享受するまでの「成果」と「出口戦略」を決める方法について、お話をさせていただきました。

企業が社会課題解決に取り組むときに陥りがちなのが、「自己満足」です。

設定した成果は、誰が幸せになっているのでしょうか? 誰が褒めてくれるのでしょうか? 出口戦略では、その「誰」を事前にしっかり決めておくことだとお伝えしました。最終回となる今回は、この、

自社のSDGsによって幸せになる人や、自社のSDGsを褒めてくれる人が「誰」なのかを深めることが、自社のSDGsの価値を高め、そして新たなイノベーションを生む

ことをお話ししたいと思います。

2 自社だけで取り組むSDGsは「真のSDGs」ではない

SDGsのゴール17に、「パートナーシップで目標を達成しよう」というゴールがあります。その他の16の政策的なゴールに比べると、ちょっと忘れがちですが、一般社団法人SDGsマネジメント(以下「SDM」)では、SDGsの中で最も重要なゴールであると位置付けています。

そもそも国連がSDGsを定める際に、なぜゴール17を設定したのでしょうか? それは、SDGsのゴール1~16を達成するためには、世界中の国の政府、国民、技術者、地域、企業といった、ありとあらゆる人たちが結束してSDGsに取り組むことが必要だからです。つまり、誰かがやってくれるのを待つだけでは達成されないし、主体的に取り組むにしても自分一人では達成できないのがSDGsなのです。

「自社だけでSDGsをやっている」と語る企業は、本質的にやり方を間違っている

のです。

では、どのようにパートナーシップを構築したらよいのでしょうか? SDMは、団体フィロソフィーに、「社会課題に対して、あらゆるパートナーと連携し、ビジネスという手法を通じて、新しい価値を生み出し解決をする」と定義しています。

変化が激しく、社会課題も複雑な現代において、中小企業が単体の機動力で対応することは、人的資源、経済的資源の観点から考えても困難です。だからこそ、SDGsのゴール17を活用し、それぞれの機関や立場の人の強みを活かした「オールスターチーム」を組むほうが、柔軟性と創造性が増すと考えております。

3 産官学の「オールスターチーム」を組む方法

では、具体的にはどのようにオールスターチームを組めばよいのでしょうか?

SDMでは、産官学モデルを推奨しています。もちろん、皆さんの会社は「産」の立場でパートナーシップを作っていくことになります。

ここでポイントなのは、

自社だけがもうかるための、上下関係のパートナーシップは作らない

ということです。

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1)社会課題だけを抽出した団体を立ち上げれば、「産」同士が連携できる

パートナーシップの中心となるのは企業の利益ではなく、社会課題解決です。そこでSDMでは、社会課題解決のための団体を立ち上げることをお勧めしています。

前回も触れましたが、SDMの共同代表である西岡徹人さんが経営するSUNSHOW GROUP(以下「SG」)の事例を紹介しましょう。SGでは、SDGsゴール5:「ジェンダー平等を実現しよう」のために、女性活躍や働き方改革を推進する団体として一般社団法人WOMAN EMPOWERMENT PLATFORM(WEP)を立ち上げ、女性社員が理事長を務められています。

確かにSGのSDGsゴール5に対する取り組みは先進的ですが、1社だけでは本質的な解決はできません。とはいえ、企業体であるSGの活動に、SGとは利害関係のない他の企業が関わるというのも難しい話です。

そこで、社会課題だけを企業体から抽出することで、利害関係のない他の企業もSGの取り組みに賛同しやすい仕掛けを作っているのです。

2)「産」同士が連携すると「学」と連携しやすくなる

社会課題解決のための団体の立ち上げは、「産」のパートナーシップだけに効果を発揮するものではありません。

次にパートナーシップを作るのは、大学や研究機関などの専門家・研究者といった「学」です。SDGsに関わる研究を進めている専門家は、多くの企業事例を求めていますので、本来、「産」と「学」はもっと積極的に交流すべきです。

なぜ中小企業と「学」との連携が進まないかというと、中小企業は自社の事例だけしか提供できないため、研究対象になりにくいからです。その課題を解決するのが、前述した社会課題解決のための団体です。「産」で集めた社会課題解決の企業事例を「学」に提供することで、社会課題解決の企業事例が、専門家の研究のための「エビデンス(数値的な根拠)化」するのです。

3)「産」「学」連携は「官」にとっても好都合

実は、企業事例が研究のためのエビデンス化するというのは、「官」である政府や行政にとっても好都合なのです。政府や行政の官僚にとって一番重要なのは、自分たちの政策の成果が出ることです。そのため、政策を立案するに当たっては十分な事例を検討する必要がありますが、政府などは中小企業との強いネットワークがあるわけではありません。

社会課題解決のための団体である「産」の私たちの事例が、「学」によってエビデンス化され、「官」に情報提供される仕組みができれば、より大きな社会課題解決のパートナーシップが構成されるようになるのです。

4)オールスターチームのラインアップ表を作成

SDMでは、この産官学モデルのパートナーシップを構築することを大前提として、オールスターチームのラインアップ表を作るようにしています。「産」で共に社会課題解決に協力してくれる企業は誰か? 「学」でその社会課題に対して研究をしている専門家は誰か? 「官」では、政府や地方自治体で、この社会課題に取り組んでいる担当部署はどこか? またその政策作りを担当しているのは誰か? などを調べ上げるようにしています。

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ラインアップ表ができたら、ラインアップした機関や人を巻き込む仕掛け作りをします。仕掛けは、例えば次のようなものがあります。

  • 企業と専門家による社会課題検討をするためのワーキンググループなどを主催する
  • 自社などの企業事例を専門家に研究材料として提供する
  • 専門家の最新研究を自社に取り込み、自社で社会実験を実装してみる

中小企業のSDGsにおいて、最大の課題は情報とネットワークであると考えています。産官学モデルを参考にしていただき、パートナーシップの考え方の視座を上げていただけると、今までにない価値創造ができると思います。

4 まとめ

経済性と社会性を両立していく取り組みについて、中小企業だからこそできるSDGsをイメージすることはできましたでしょうか? ポイントになるのは、社会課題と政策への感度を高め、成果と出口戦略を設定し、そして自社だけでない幅広いパートナーシップを構築することです。

最後に、SDGsの思考フローを整理してみます。

1.経営者の想い、事業計画を深める

経営者の事業への想いを社会課題とマッチングさせながら深めていきます。また既存の事業計画においても、問題意識を共有できるようにします。

2.行政の掲げる政策を読み込む

「経済財政運営と改革の基本方針(=骨太の方針)」や、自社の商圏の総合計画・マスタープラン・政策集を読み込みます。それによって、日本や商圏の現状と未来と課題を捉えることができるとともに、自社の事業にマッチングする行政セクションを探すことが可能になります。

3.成果を決める

自社が具体的にどんな社会課題=指標に対して、明確な変化を起こすのか? を決めます。そのときには、経営者の想いと総合計画・政策集との整合性を考え、対外から見た視点でも、分かりやすい成果設定をします。この場合の成果設定は、政策の実施計画に合わせて、長期的な指標と1年で達成できる短期的な指標を作ることが望ましいです。長期指標だけだと具体性が乏しくなり、また短期指標だけだと目線が下がってしまって、目的を見失う可能性があります。

4.誰とやるのかを決める

成果が決まったら、共に運動をしてくれそうなパートナーを探します(図表1の産官学モデルをご参照ください)。政策から導く場合には、政策を担当している省庁や市町村の担当課にアプローチをします。その際、公的機関は一企業だけの利益になるような情報提供はしないため、ビジネスという目線だけではなかなか話を聞いてもらえないケースがあります。その場合には、社会課題解決に特化した一般社団法人の設立なども視野に入れた上で、パートナーシップ構築をすることをお勧めします。

5.運動を決める

成果を残すための具体的な運動(推進事業または提言事業)を決めます。お勧めは行政の政策と連動した推進事業です。それを展開する中で、政策の弱点も見えるようになりますので、提言事業につなげるとよいでしょう。

6.出口を決める

一生懸命に取り組んだ運動の成果について、誰に自社を評価してほしいのかを明確にストーリーにします。「この社会課題解決を通じて誰かからの評価が高まる」→「自社の評価が高まり、経済的な利益を得る」→「経済的な利益を得られるので、さらに社会課題解決に取り組む」という連鎖を起こし、結果的にビジネスに好影響を与えるという解釈(すなわち「事業のローカライズ」)をします。

ここまでできたら、あとはやり切るだけです。途中で多くの問題に突き当たるとは思いますが、ぜひそのプロセスを記録しておいてください。記録を広く公開することで、他社の参考になるだけでなく、自社の知名度や評価を高めることにもつながります。

記録する媒体は、一般社団法人サステナブルトランジションが提供する「Platform Clover」がお勧めです。自社のSDGsの取り組みについて、アクティビティの発信、プロジェクトの管理・評価が体系的に行えるオンラインプラットフォームです。

■Platform Clover■
https://platform-clover.net/

SDGsはゴールを宣言するだけでは意味がありません。ゴールに向かって経済性と社会性の両立をマネジメントすることで、まさに社会課題解決の取り組み自体を持続可能な形で発展させていくことが、これからのSDGsには求められています。

以上(2021年10月)

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画像:Sakosshu Taro-Adobe Stock

【朝礼】批判を受け止める勇気、受け止めた上で前に進む勇気

おはようございます。突然ですが、クイズを出します。今から約120年前に創設された、世界初の受賞者の国籍を問わない賞といえば何でしょう? 答えは「ノーベル賞」です。ノーベル賞は、発明家アルフレッド・ノーベル氏の「人類に最大の利益を与えた人々に賞を授けるため、自分の遺産を使ってほしい」という遺言に基づき、1901年に第1回授賞が行われました。現在は物理学、化学、医学生理学、文学、平和、経済学の6分野において、世界最大級の貢献をした人々に賞が贈られています。今日はノーベル賞がどうやって生まれたのかを、ノーベル氏の生涯と共に紹介します。

ノーベル氏は1833年、スウェーデンのストックホルムに生まれました。後の自分と同じく発明家だった父の影響もあって、幼い頃から化学に興味を持っていたノーベル氏は、あるとき知人から爆薬の一種であるニトログリセリンを紹介されます。当時のニトログリセリンは、爆発しやすく扱いが難しいとされていましたが、彼はその爆発を制御し、建設工事などの平和利用に役立てようと研究に没頭します。こうして発明されたのが、皆さんもご存じの、ダイナマイトです。

ノーベル氏は、この発明により莫大な財産を築きますが、後にそのダイナマイトが戦争に利用され、自身にも「死の商人」のレッテルが貼られていることを知ります。人類を豊かにするための発明が、全く逆の受け取り方をされていたことに、ノーベル氏はショックを受けます。

やがてノーベル氏は、自分の発明について彼なりの結論を出します。彼は、「この世の中で悪用されないものはない」と、ダイナマイトに人命を奪う負の側面があることを認め、その上で自身の発明が正しく使われることを願って、平和のための運動に積極的に参加するようになります。一方で、人類のための発明がうがった見方をされることなく正当に評価されるシステムをつくりたいとも考えるようになります。こうした発明への思いから誕生したのが、ノーベル賞というわけです。

私がノーベル氏をすごいと思うのは、批判の声に真っ向から向き合い、一方で、その声に押し潰されず、発明への思いを生涯大事に持ち続けた点です。彼が批判の声を「関係ない」と無視していたとしても、逆に「自分は死の商人だ、悪だ」と絶望して発明家をやめてしまっていたとしても、恐らくノーベル賞は生まれなかったでしょう。

私たちのビジネスでも、サービスや商品の内容、コミュニケーションなどについて、自分の意図とは裏腹に、相手から厳しい言葉を浴びることがあります。そんなときはぜひとも深呼吸して、「相手の言うことにも一理あるのではないか」と、批判に向き合ってみてください。そして、批判の声を受け止めつつ、それでも自分が貫きたい思いがあるなら、それを貫くことを簡単に諦めないでください。批判を受け止める勇気、受け止めた上で前に進む勇気、この2つが備わったとき、皆さんはさらに大きく成長できるはずです。

以上(2021年9月)

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画像:Mariko Mitsuda

「地道さ」は才能を超える/ ローマ史から学ぶガバナンス(7)

書いてあること

  • 主な読者:現在・将来の自社のビジネスガバナンスを考えるためのヒントがほしい経営者
  • 課題:変化が激しい時代であり、既存のガバナンス論を学ぶだけでは、不十分
  • 解決策:古代ローマ史を時系列で追い、その長い歴史との対話を通じて、現代に生かせるヒントを学ぶ

1 地道さの重要性

最先端の技術を駆使した画期的なビジネスモデルをひっさげて、短期間で好業績を上げる企業。その姿を見ているだけでワクワクします。しかしながら、そういう企業の中には、すぐに業績が下降していき、あっという間に消えてしまうところも少なくありません。

これとは対照的に、事業内容に派手さがなく、メディアなどで取り上げられることがない企業でも、創業から100年を超え、今も好業績を続けている優れた老舗が数多くあります。こうした企業は、時代に合った業態にしなやかに変化し続けています。

いずれにしても、真に強い企業は地道に本業の基礎を磨き続け、同時に組織を鍛え上げています。レバレッジを効かせたビジネスやサービス化によるストック型のビジネスを展開する企業も、突如として現れるのではなく、地道に差別化要素を磨き続けた上で、その差別化要素を生かして築き上げたものがほとんどで、それを守り続けるためにまた更なる地道な努力を継続しています。こうした部分こそ評価し、大事にしなければなりません。

歴史を眺めても、同じようなことがいえそうです。長い年月の経緯を現在に伝えるためには致し方ないことですが、教科書では、象徴的な出来事やそれを担った変革者など、派手で目立つ事象や人物のみを取り上げ、かいつまんで説明されるにとどまります。

その裏側にある地道な取り組みなどは取り上げられないのですから、ご本人からは、納得がいかない、自分はもっと評価されるべきだ、という声が聞こえてきそうです。私は、ローマ帝国初代皇帝アウグストゥスも、そんな歴史上の人物の一人ではないか、と思います。

2 後世のアウグストゥスの扱い

ローマ帝国初代皇帝アウグストゥスの歴史的な意義や価値は、アレクサンドロスやユリウス・カエサルにも匹敵するほどといえますが、アウグストゥスについての書籍は意外なほど少ないというのが実情です。

映画もほとんどがカエサル、クレオパトラ、アントニウスが中心で、アウグストゥスは端役として登場する程度です。これだけの偉業を残しているのになぜなのかとも思うのですが、彼の施政を眺めるとその理由が分かります。

簡単に言ってしまうと、あまりに地味で地道なので、物語や映画にする題材としては面白みに欠け、ふさわしくないのです。

19歳で執政官となり、35歳で皇帝という立場になるアウグストゥスは、一つ一つの施策をじっくりと進めていく時間がありました。ドラスティックな改革には激しい抵抗や反発を招くことがあることを理解していたアウグストゥスは、何事も段階的に時間をかけて進めていきました。

従って、後世の私たちから見ると、彼の改革の進め方には華やかさがありません。しかし、改革の内容は当時では画期的で驚嘆に値するものであり、76歳で亡くなる日まで地道に進めてきた多くの施策、改革、事業は、まさに偉業というべきものなのです。

次章では、組織論的な観点から、私なりに象徴的と思う事象をかいつまんでご紹介したいと思います。

3 組織と戦略

経営学者のアルフレッド・チャンドラーは、「組織は戦略に従う」という言葉を残しています。例えば、単一製品を大量に製造・販売して、規模の経済を追求する戦略をとる場合には、営業、開発、製造といった機能別組織を志向します。製品や地域を多角化し、範囲の経済を追求する戦略をとる場合には、複数の事業が分権的に意思決定する事業部別組織を志向します。

このように、戦略によって築くべき組織は違うわけですが、一方で、チャンドラーは、組織は戦略のみに従うものではなく、また組織が戦略に影響を与えることがあることも指摘しています。

競合企業に対する対応など、外部環境の変化によって組織形態が変わった場合などは、とるべき戦略も変わっていくというのです。つまり、組織と戦略は、互いに深く関連し合い、影響を受け合う関係にあると説いているのです。

アウグストゥスの施政を見ていくに当たっては、この組織と戦略の関係性という視点が重要になります。カエサルの基本方針が「寛容」であったのに対し、アウグストゥスの基本方針は、自らの安定的かつ長期的な施政を含意する「平和」でした。

これは、アウグストゥスの、あるいはローマ国家の新たな戦略であり、この戦略と、組織体制とがその時々の情勢によって影響し合う様が見てとれます。例えば、軍の再編成は、その代表的な例といえるでしょう。

内戦終結後の軍事力は50万を超えるほどでしたが、アウグストゥスはこれを16万8000にまで削減します。これは文章にしてしまうと、それほど難しいことのようには思えないかもしれませんが、ただ除隊させるというわけではなく、次の職や退職金も用意しなければなりませんし、植民都市に行かせるならば、国家戦略として、どこにどの規模で入植させるのかといったことも決めなければなりません。兵士たちの不満が生まれるようであれば、それは政情不安に直結しますから、慎重に事を進めなければなりません。

こうした組織改革は、軍事のみならず、元老院の他、税制、通貨、食糧、安全保障などの改革と併せて、それらに関わる行政機関にも及びました。領土拡張の時代から領土維持の時代に入り、周辺国との防衛線を維持することが重要になったという点でいえば、周辺国という外部環境の変化によって組織と戦略を見直すことも繰り返し行われました。時間をかけ、慎重に、そして地道に、様々な組織改革が進められていったのです。

4 自身の身の回りの組織

こうした幅広い戦略的かつ組織的な対応は、アウグストゥス一人の手でなされたわけではありません。アウグストゥスは、国家組織を見極めるのと同様に、自分の足りない部分や不安な部分を冷静に分析し、信頼できる人材によって補強することを怠りませんでした。世の中で名が知られている経営者や企業家の中には、一見、万能に見える人物もいますが、必ずといっていいほど「右腕」と呼ばれる人材を備えています。

アウグストゥスに欠けている軍事面を補うために、カエサルが見いだしたアグリッパは、アウグストゥスの右腕と称すべき人物でしょう。アグリッパはアウグストゥスと同い年で、17歳から51歳で亡くなるまで、アウグストゥスとともに歩みました。

軍事面では、期待どおり、優れた戦略と指揮で数々の勝利をもたらしました。その後は、防衛戦略網の構築、公共施設の建築等を担っただけでなく、アウグストゥスの血脈を守るために離婚までして彼の娘を妻に迎え入れ、5人の子供を残しました。公私にわたってアウグストゥスを補佐したアグリッパは、アウグストゥスにとって特別な存在だといえます。

アグリッパが右腕ならば、左腕はマエケナスです。マエケナスはアウグストゥスの1、2歳年上で、20代前半のときに2人は出会いました。教養豊かで状況把握に優れていたマエケナスは、アウグストゥスの相談役であるとともに、外交交渉、宣伝広報、文化助成を担いました。

ちなみに、芸術・文化支援を意味するメセナの語源は、マエケナスの名が由来といわれています。アウグストゥスは、休養と称してたびたびマエケナス邸で過ごしたといいますから、心を許せる相手だったのでしょう。マエケナスもまた62歳で亡くなるまでアウグストゥスのそばにいました。

こうした右腕、左腕を備え、自身の身の回りを固める組織を作り、施政に邁進した点こそ、アウグストゥスがたたえられるべきところだろうと思います。また、このような組織を備えたからこそ、数々の偉業を成し遂げられたのです。

5 ローマ国家の組織風土

組織には、機能的な側面もありますが、やはり風土や文化としての側面があります。企業が抱える課題や問題は様々ですが、そのほとんどは、組織風土に起因するともいわれています。これは言い過ぎのように思われるかもしれませんが、課題や問題の原因を突き詰めていけば、ほぼ必ず組織風土にたどり着きます。

企業の組織風土は、企業組織の構成員によって育まれますが、多くの組織体が権限上、役割上の階層構造を持つ以上、上位者たる経営層が示す制度やルールが組織風土を育む土壌となっていることは否めません。制度やルールは、ともすると小手先の手段となりますが、上位者の基本的な思いや魂が反映された土壌にもなり、それをもとに組織風土が構成員によって育まれるのです。

歴代ローマ皇帝の中で最長の在位40年を誇ったアウグストゥスは、しっかりと時間をかけて新たな制度や規制を導入していきました。少子化問題と倫理問題を解決すべく「ユリウス姦通罪・婚外交渉罪法」「ユリウス正式婚姻法」を成立させ、健全な国家の礎を成す健全な家庭人を法によって定めました。

また、先ほど触れた軍備の削減を進める一方で、防衛力の維持・強化を目的に、常備軍の設置、兵士の退職金制度の導入、ローマ市民からなる軍団兵と非ローマ市民からなる補助兵の制度化等を図りました。

これらはいずれも、ローマ市民が強さと自覚を持ち、ローマ市民が帝国の中核となって平和を築いていくという思いと魂が色濃く表れており、紆余曲折がありながらもじっくりと作られた土壌といえるでしょう。そしてこの土壌の上で200年以上続く「パクス・ロマーナ(ローマの平和)」という風土がローマの人々によって育まれていきました。

歴史上、アウグストゥスは、才能において、カエサルに劣ると評されています。しかし、カエサルがたどり着くことができなかった世界に到達したのは、地道に戦略と組織に向き合い、施政に努めたアウグストゥスでした。こうしたことからも、アウグストゥスはもっと注目されるべきですし、私たちも彼から学ぶべき点が多くあるように思うのです。

以上(2021年10月)
(執筆 辻大志)

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【カンタン経済講座】2022年1月の発効目指す「RCEP」 中韓との連携で日本企業に大きな効果

書いてあること

  • 主な読者:ヒト・モノ・カネに関して直接的、間接的に海外と関係している企業の経営者
  • 課題:海外との取引における自由化および円滑化に関する政策の方向性を知りたい
  • 解決策:中国、韓国が参加するRCEPが2022年1月に発効した場合の効果を確認する

1 2022年1月にも発効するRCEP ポイントになる3つの意義

2021年9月、日本、中国、韓国、ASEAN(東南アジア諸国連合)の経済担当相による共同声明で、

地域的な包括的経済連携(以下「RCEP」)協定について、2022年1月初旬までの発効を目指す

ことが発表されました。既に参加する15カ国(日本、中国、韓国、ASEAN10カ国、豪州、ニュージーランド(以下「NZ」))による署名を2020年11月に終えており、あとは各国の国内手続きの完了を待つだけです。具体的には、RCEPはASEAN10カ国のうち6カ国以上、その他5カ国のうち3カ国以上が国内手続きを終えて批准書を寄託した60日後に発効します。2021年9月30日時点で既にシンガポール、中国、日本などが国内手続きを完了しています。

日本企業にとって、RCEPに関して意義の大きいポイントは、次の3点です。

  • 人口・GDPともに世界の約3割を占めるメガ経済圏が誕生
  • 日本が中国、韓国との間で結ぶ初めての経済連携協定
  • 当初は交渉に参加していたインドが2019年11月に離脱

この記事では、2021年9月30日時点で明らかになっている情報に基づいて、RCEPの発効が日本企業にとってどのような影響を受けることが想定されるのかを紹介します。

2 人口・GDPともに世界の約3割を占めるメガ経済圏が誕生

図表1のように、RCEPの参加15カ国を合わせた2020年の人口や名目GDPは、世界の約3割を占めます。仮にインドが復帰した場合、人口は36億人を超え、世界のおよそ半分を占める規模になります。

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3 日本が中国、韓国との間で結ぶ初めての経済連携協定

日本の企業にとってRCEPの最大の意義は、中国および韓国との間で初めて経済連携協定を結ぶということでしょう。

TPP11(環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定)や日EU経済連携協定をはじめ、日本はさまざまな国との間で経済連携協定を結んでいます。ところが、隣国の中国および韓国とは、経済連携協定を結んでいませんでした。RCEP参加15カ国のうち、日本が経済連携協定を結んでいないのは中国と韓国だけです。

2012年11月に日中韓自由貿易協定に関する交渉開始が宣言されましたが、2019年11月の第16回の交渉会合まで交渉が続いています。RCEPは、3国間交渉に先んじる形で発効する可能性が高まっています。

なお、香港およびマカオは現時点ではRCEP協定の適用対象外となっています。

1)日本の輸出入総額の約3割が中国、韓国との貿易

隣国という地理的なメリットや、産業の補完関係にある部分も多いことから、日本は貿易面で中国、韓国の2カ国への依存度が高くなっています。

図表2からも分かるように、2020年の日本の相手国別の輸出入総額で見ると、中国は1位で世界の約24%を占めています。また、韓国も米国に次ぐ第3位で、この2カ国で日本の輸出入総額の約3割を占めています。

輸出入総額からも、RCEP協定の発効は日本にとって大きな影響があることが分かります。ちなみに、RCEPの参加15カ国を合計すると、日本の輸出入総額のほぼ半分を占めています。

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2)日中、日韓貿易の関税撤廃が進む

RCEPによって、中国や韓国と貿易する場合、無税となる品目の割合が大幅に増加します。特に工業製品の輸出に関しては、中国では発効前の8%から86%、韓国では19%から92%へと増えます。中国、韓国を合わせた2019年の貿易ベースでは、16兆円分の工業製品が無税になるといいます。

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財務省、経済産業省、農林水産省が2021年3月に公表した機械的試算によると、RCEPによって減少する関税の支払額は、発効した初年は工業製品が3054億円、農林水産品が33億円となります。段階的な関税の引き下げが全て終えた後は、工業製品が1兆1294億円、農林水産品が103億円に上ると試算しています。

4 当初は交渉に参加していたインドが2019年11月に離脱

交渉の開始当初は参加していたインドが離脱した影響は、どの程度大きいのでしょうか。

経済的な面では、日本は既に2011年にインドとの間で日本インド包括的経済連携協定(日インドCEPA)を結んでいます。このため、関税撤廃率などに関して大きなデメリットが生じることは想定されません。

インドの離脱は、経済的というよりも政治・外交的な影響が大きいとみられます。そもそもRCEPは、日本が提唱したASEANプラス6(日本、中国、韓国、インド、豪州、NZ)による「東アジア包括的経済連携(CEPEA)」と、中国が提唱したASEANプラス3(日本、中国、韓国)による「東アジア自由貿易圏(EAFTA)」の2つの構想を抱合する形で交渉が始まったという経緯があります。

RCEPにおける中国の強い影響力を、インドが加わることによって薄められるかどうかは、日本が提唱してきた「自由で開かれたインド太平洋」構想や、日本、米国、豪州、インドによる安全保障や経済について協議する枠組み「Quad(クアッド)」にも関連する、国際関係上の綱引きという側面が大きいといえそうです。

また、2027年にも中国の人口を超すと予測されるインドの加入によって、参加各国にとっては自国の成長に結びつけたいという思惑もあるとみられます。

こうした背景などから、2020年11月の署名の際に公表された「インドのRCEPへの参加に係る閣僚宣言」には、インドの復帰を促すための次のような内容が盛り込まれました。

  • インドはいつでもRCEPに加入できる(インド以外の国は発効から18カ月以降)
  • いつでもインドとの交渉を開始する
  • インドはRCEPの会合にオブザーバーとして参加できる
  • RCEP協定の下で参加国によって実施される経済協力活動に、インドは参加できる

以上(2021年10月)

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第28回 企業改革のプロが語る コロナ禍でも成長し続けるための組織マネジメント/イノベーションフォレスト(イノベーションの森)

コロナ禍によって新たな課題に直面し、今後の成長の在り方を模索している企業も多いのではないでしょうか。
今回は、株式会社RE-Engineering Partners 代表の稲田将人氏をお迎えして、コロナ禍の下、そしてその後に企業が成長し続けるための組織マネジメントについて話を伺いました。
稲田氏は、豊田自動織機製作所(現・豊田自動織機)の自動車事業部にて、トヨタ車の工場における生産指示を行うシステム開発に従事し、その後、マッキンゼーに勤務後、アオキインターナショナル(現Aoki HD)、ワールド、ロック・フィールド、卑弥呼、日本コカ・コーラをはじめとする数多くの企業にて社長、事業責任者として、売上V字回復、収益性強化を実現してきた企業改革のプロフェッショナルです。事業の再活性化、V字回復を請負うコンサルタントとして独立後には、ベストセラーとなった
『戦略参謀』
『経営参謀』(共に日経ビジネス人文庫)や
『戦略参謀の仕事』、直近では
『経営トップの仕事』(共にダイヤモンド社)、
『PDCAマネジメント』(日経文庫)など多数の書籍も執筆されています。

1 コロナ禍によって、いくつもの課題が表面化した多くの企業

コロナ禍により、事業の環境や就労環境が変化しました。
ネットワークを利用した環境でも、多くの職場ではリモートでも仕事が十分に回ることが明らかになり、ある意味、コロナ禍によって「未来の仕事のスタイル」に向かって背中を押されました。
しかし、変化は常に、見えていなかった課題も顕在化させます。リモートワークの初期の頃には、部下が目の前からいなくなった上司が、家で仕事をしている部下に電話をかけてきて、仕事の邪魔をして困ると言った声も聞かれました。
「対面していない状態で、どのように社員を評価すればよいのか。それだけではなく、そもそも自社のマネジャーたちは、部下の業務の何を管理していたのか」と頭を抱えた経営者もいるはずです。
もともと、製造業を中心に日本企業がグローバルに大躍進していた70-80年代の企業内の上下のコミュニケーションは、少なくとも今よりは、しっかりとなされていました。そして当時、多くの日本企業が取り組んだTQC(Total Quality Control)活動により、業務上の問題解決のためのコミュニケーションの質を上げる様々な作法も工夫され、社内が一丸となって事業に取り組んでいました。
ところが、最近、日本企業内でよく聞かれるようになった「落とし込み」の言葉に象徴されるように、「(本部が)決めたことを(現場に)やらせる」と、例え説明会の開催を伴なっていたとしても、基本的には一方向の指示がなされる場合がほとんどです。そしてマネジャーも、目標数値や指示を伝え、後はやらせることが自身の役割だと錯覚し、肝心の現場の体感を通した確認や部下の言い分をしっかり聴き、担当部門の現場の実態を的確に把握する努力を結果的に怠るケースが増えてきています。
これは、欧米式のマネジメントの方法が正解であると説いた書籍やコンサルタントにより、欧米式マネジメントスタイルを、「組織図上の上位にある部署が決めたことを現場にやらせること」であると、その振舞い様式の真似だけが広がったためです。欧米式のマネジメントのもとでは、指示を「やらせる」場合には、指示をしたマネジャーがすべての責任を負います。よって、自身の指示内容が適切かどうかまで確認し、実態を確認しながら、指示内容の修正も含めて責任を持って部下や現場を動かして成功に導くことになります。
ところが、その皮相的な理解のみで、一方的に言って「やらせればいい」とのスタイルが、日本企業に蔓延してしまったのが今日の姿なのです。

2 日本企業で、成果主義評価制度がうまく機能しない理由

さて、コロナ禍の中、部下の仕事をしている姿を目の前で見ることのない、このリモートワーク環境で、成果主義の評価制度の導入を考えるトップもおられたと思います。
しかし、安易に「成果主義」の導入を行うと、深刻な弊害を伴うことは忘れてはいけません。
元々、成果主義評価の考え方は、優秀なマネジャーに、より多くのスタッフをつけ、そして予算という経営資源を使える権限を与え、より多くの成果を期待するという、人に任せる「人治」式マネジメントが前提にある米国で生まれました。「人治」式のマネジメントの下では、上長の好き嫌いが評価に色濃く出てしまうため、客観性のある評価指標を設定する必然性がありました。
一方、日本では前述のように、60-70年代のTQC活動の流行以降に米国式の経営手法が有効と考える風潮ができ、さまざまな米国式マネジメントの方法が企業に取り入れられました。しかし、アメリカ企業と日本企業では根底にある文化に大きな違いがあります。
例えば、アメリカの文化の下では個々の社員が、自身のイニシアティブの発揮を重視します。片や企業側は株主からの、株価の上昇、高配当の要求にこたえるために、事業の発展性や収益性を優先させます。そして、損益状況が好ましくない部門などにも利益確保のために、人員削減を促すことも当たり前のように行います。
それに対して日本の場合は、イニシアティブを前面に出して強く主張するタイプの人は少なく、また、企業側もできるだけ人材を経費扱いしないようにして、多くの企業は人材の雇用を維持しようとします。
かつて日本で、「利益の管理が容易になります」と経営効率化のためのITパッケージ、皆さんもご存知のERP(Enterprise Resource Planning、企業資源計画)の販売がなされました。当時、この触れ込みに乗って高価なERPを導入した企業は多く、このシステムを使うと経費項目も仕分けされて、部門別の収益が「見える化」されます。しかし欧米企業では、部門の利益を確保するための打ち手は、手っ取り早く「人切り」です。例えば、ある事業部門での四半期単位での利益目標が達成されていなければ、さっさと人を解雇するように指示が出ます。このシステムを導入しても日本企業の場合は、利益確保のための人切りなどできるわけもなく、結局、高い買い物をしただけで終わった企業もありました。

成果主義の評価制度を単純に導入すると、まず、数字の評価ばかりに意識が向き、本来、日本企業の強みであった、仮に上からの指示が漠としていても、現場サイドで全体最適の視点で、顧客のことを考えて動こうとする文化を壊します。この、成果評価を指向して企業内のエゴイズムの蔓延を促進する事態は70-80年代に欧米でも起き、当時、「欧米病」とも呼ばれました。欧米であれば、イニシアティブが発揮されて「それでいいのか」と声を上げるものが現れますが、日本の従業員の多くは黙ってそれに従ってしまいます。また日本企業の特徴として、事業が停滞状態にある局面などでは、減点評価を恐れて「100点を狙って失敗するリスクを取るよりは、無難に前例踏襲の施策を選んで80点をとろう」と、よく言えば堅実に、言い方を変えれば消極的な選択を行う社員やマネジャーが増えます。
欧米と日本では、さまざまな点で経営やマネジメントの背景にある文化が異なるため、それを考慮せずに成果主義の評価制度を導入してもうまくはいきません。
「(上長が)数字以外もしっかりと見て評価する」というのが正しいあり方です。欧米企業では例えば、「成果の評価の比重は80%。それ以外に、将来のための組織開発や社内活動の貢献などを20%とする」などと明示するのが一般的です。
成果主義評価が拡がる時期の人事系コンサルティング会社の中には、あたかも数字ですべての評価を行うことが推奨されるがごとくに指導をしていたところもあるようです。おそらく人事部の担当者との制度の詰めの作業を通じて、上長による曖昧な判断の余地をなくす方向に着地したのだと思いますが、この20%をしっかりと行えるのがマネジャーのマネジャーたる由縁のはずなのです。それがある程度のレベルでもできないうちは、成果主義の評価制度などは導入を見合わせるべきだったのですが、当時は経営側に、バブル崩壊後の人件費コントロールの目的が腹にあったため、人事部が拙速に導入を進めてしまったのでしょう。
かくして、成果主義のみの評価基準に則り、仮に短期的に数字を上げたとしても、自身の評価につながらない中長期的な課題や、挑戦的な施策に取り組む社員が出てこなくなります。その結果、この評価制度は皆が自分の点数稼ぎを優先させるように作用し、社内にはエゴイズムが根をはり始め、企業成長の停滞につながります。
また、すべての企業は挑戦を通して「学び」を得るのですが、この80点狙いが常態化してくると、事業における「学び」を得られる「挑戦」の機会をことごとく避けて通ることになるために、企業は新たな発展の機会を見出せなくなります。結局、成果主義の評価制度の導入には組織の中の全マネジャーの、指導を含むマネジメントが不可欠になります。
今の日本経済の長期低迷の大きな原因は、企業側がこの点に気が付いていなかったことにあるとも言えます。

稲田氏の画像です

3 マネジャー層のマネジメントを健全に機能させる

誤解をしていただきたくないのですが、社員に数値目標を課すこと自体が悪いわけではありません。成果評価の部分以外もしっかりと確認して評価ができるように、マネジャーたちがその能力をつける努力を行わなければなりません。
そしてトップは、

「初めて導入する制度は必ずしも完成度は高くない現実を受け入れ、導入後の実態をトップと本部機能がしっかりと現実を確認し、躊躇なく修正を重ねているか」
「事業の各業務の特性をよく理解した上で、会社として各機能部門に何をして欲しいか、業務の『丸投げ』することなく、適切な『業務定義』、つまり成功率を高めるための手順が明確にされているか。そして、KPI以外の努力をちゃんと把握して、評価につなげているか」

を常に確認をする必要があります。
評価とマネジメントにあたり、トップを含むマネジャーは何を心掛けるべきかをあげてみると、以下のようになります。

1)数値だけの評価ではなく事業の全体観を持ち、中長期視点での事業価値を考えて評価を行う

例えば、新しい業態が成功してイケイケどんどんの状態にある小売業にありがちなのが、立地開発担当者を、「本年度、何店舗を出店したか」で評価を行うケースです。
出店立地を探すだけであれば、何も難しいことではありません。重要なのは、新店舗は「競合店よりお客様が行きやすい、有利な立地の物件を押さえられたのか」に加えて、「中長期にわたり収益が出る立地か」です。
店は出したら終わりではありません。
店の出店数だけで評価を行えば、不採算店舗の山が出来上がることもあり、実際にそのために絶好調だった企業が、周りの忠告も聞かずに店を出し続けて、経営危機に陥ったケースもあります。

2)安易に部下に「丸投げ」をせず、正しく業務に関与し、指導を通して、あるべき「躾」を行う

経営者は「(部門や店の)責任者には、経営者感覚を持って欲しい」と願うものですが、安易に指示の『丸投げ』を行うのは禁物です。
前述のようにそれまで、「落とし込み」と称して、その実、「黙って言われたことをやればいいのだ」と上から指示を与えるような、一方的な組織運営をしていた企業が、ある日突然、現場への権限移譲を言い出してもうまくいくものではありません。「現場をよく知る君たちにも、経営視点で考え、判断してほしい」という言葉が発せられるのは、多くの場合、トップダウン、あるいは本部からの一方的な指示の押し付けで組織運営を続けてきた企業が、そのやり方では、二進(にっち)も三進(さっち)も行かなくなった局面です。

「経営感覚を磨いてもらいたいので、数字に責任を追ってほしい」
「あなたがマネジャーと決めた目標を基に成果を評価します」

聞こえは良いのですが、業務の押さえどころも明確に定義をせずに経営側が、欲しい数値目標のみを「丸投げ」してしまっていることが多いものです。
拙著『経営トップの仕事 戦略参謀の改革現場から50のアドバイス』(ダイヤモンド社)でも実事例を挙げてお伝えしていますので詳細はそちらを参考ください。
自社が、組織が自律的に判断し、機能するように運営するべき段階に入ったと考えるのであれば、そのための知識や方法を体得させるために、トップの意志の元に組織に対する真剣な指導を始めることになります。そして同時に、各業務の『業務定義』を進めることが重要です。優良企業を除くと意外に行われていないのが、この『業務における成功則の見極めとその手順の明確化』です。これらがなければ、ただの責任の「丸投げ」となり、社員は一方的に押し付けられた数値目標を追いかけざるを得なくなります。「気合いのマネジメント」の下では、一時的に数字が回復することはあっても、多くの場合は製品・サービスの質が低下するといった組織の機能不全を進める結果になります。
この「丸投げ」は、本来はトップとの連動が重要な本部業務への「丸投げ」から始まり、本部から現場への指示の「丸投げ」という連鎖が起きます。
組織の発展のためには、結局はトップをはじめとするマネジャーたちの持つ文化と役割が重要になるのです。

講演中の稲田氏の画像です

4 社員の成長を促す組織マネジメント

では、自律的に判断し、機能する組織を育てるにはどうしたらいいのでしょう。ここで、パン・パシフィック・インターナショナルホールディングスの主力事業であるドン・キホーテの組織運営を例に挙げます。
店内を見ると、一見ジャングルのように見えるドン・キホーテですが、実は数値の管理単位を160部門×店舗数のマトリックスに分割しています。そして、このマトリックスごとの売上高、粗利益高、在庫回転数の伸長で評価し、現場の責任者たちにその数字を達成する責任と権限、成果に見合った報酬を与えています。これらの数値を見ると、細かく割った単位で、経営者と同等の判断を行う権限が与えられており、現場のメンバーが商売人として腕を磨くプラットフォームとして機能していることがわかります。ドン・キホーテでは、社長からエリアマネジャーに、現場の店長に指示を出さないように告げられており、現場の責任者である店長が、本部が仕入れた商品であっても店頭に並べるかどうかの最終判断を行い、さらには商品全体の40%までは独自の判断で仕入れることさえも許されています。B to Cのビジネスでは、顧客にとっての楽しさや利便性が大きく影響します。その反応を直接見ている現場の責任者が自律的にPDCAを廻すことのできる、完成度の高い仕組みが、皆さんご存知のニトリと並ぶドン・キホーテの永続的な成長を支えているのです。この仕組みも、一朝一夕に出来上がったものではありません。創業者である安田隆夫氏が側近と共に、いかに大きな組織を自律的に動かすのかを考え、制度づくりのPDCAを廻し続けた賜(たまもの)なのです。

5 コロナ禍だからこそ、オンラインの会議のメリット面を活かす

リモートワーク下では、「部下と対面していないので、指導は難しい」と考えがちですが、見方を変えると、「オンラインだからこそ、むしろチャンスだ」とも言えるでしょう。
私は、企業の指導の会議の際は、ギャラリーとしての参加者は別として、参加メンバーにはできるだけ一人一台PCを用意してもらい、それぞれの顔を映して行うようにしています。実践フェーズにおいては、支援先企業の社長自ら参加していただき、あらかじめ指名された方に、ご本人が業務で廻しているPDCAを発表してもらいます。資料の共有が簡単にできるだけではなく、本人の表情も確認できるため、以前よりも各自の理解度を判断しやすくなっています。
ちなみに、今は多くの会社で、パワーポイントの利用が一般的になってきていると思います。パワーポイントは、自身の思考を「見える化」してまとめるための道具であり、しっかりとしたものが出来上がれば、もはや、パワーポイントで作った資料など不要になるほど、発表者の頭の中に、明確なイメージが出来上がっており、話も明快になるものです。
個々の部下と向かい合って、まずは話をよく聞く。そして、Q&Aを繰り返すことで「部下の頭の中を創り」あげ、担当業務における優秀な人材となるべく指導を行う。
対面であってもオンラインであっても、これがマネジャーの最も重要な役割であることには変わりはありません。

6 「フェアネス」の重要性を再認識する

競争力のある商品、業態を持っているのに業績が振るわない会社を見かけることがありますが、内情を見ると、社長の周囲に、イエスマンばかりという企業が多いものです。トップは孤独なもので、知らず知らずにのうちに癒しを求めます。時として、会社のためにと進言してくる幹部をうっとうしいと感じ、結果的にエゴイズムや保身が腹にある、トップからは、一見、使いやすいイエスマンを側近として周りに集めてしまっていることがあります。
結局、「お客さまのため、会社のために当たり前のことを、しっかりやる。それがきちんと評価される」ことが社内で徹底され、全員がそれを疑いなく信用していれば、組織が傾くということはありません。
組織の「フェアネス」が実践されている組織では、「足の引っ張りあい」や「自分さえよければ良い」といった行動をとる社員は減り、例えばトヨタのように組織力が強化されていきます。そしてそれが巡り巡って、顧客の満足に繋がり、事業の永続的な発展につながっていくのです。
社長が率先してその重要性について話し、自ら率先して体現することで、組織に「フェアネス」を浸透させていく努力が必要です。

企業が低迷している時は、例外なく『市場との乖離』を起こしています。売上というものは上がるか下がるかのどちらか

であり、事業活動を市場が評価していれば、必然的にその成長は「右肩上がり」になるものです。

稲田氏の画像です

7 最後に

ここまで、稲田氏のお話をお伝えしてきました。経営者としての在り方を振り返り、コロナ禍でも企業を成長させるためのヒントを掴めたのではないでしょうか。是非その学びを日々の会社経営に活かして頂けると嬉しいです。
稲田さん、貴重な学びのシェア、愛りがとうございました!(愛+ありがとう)

以上

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インターンシップを実施する上でのベーシックフレームを知る/超現実的インターンシップ主義〜手間をかけずに成功させる導入のノウハウ(3)

現在の新卒採用市場において、企業にとっても学生にとってもインターンシップが「活動の起点」になってきました。しかし、実施に手間のかかるインターンシップは、人事担当を専任で置くことがままならない中小企業においては、ハードルの高い取り組みでもあります。本連載では、はじめてインターンシップに着手しようという中小企業の視点に立って、“超現実的かつ効果的な”インターンシップの導入ノウハウについて解説していきます。

いよいよここからは、3回にわたってインターンシップを実施する上での具体的なノウハウについて解説していきます。皆さんに実践していただきたいのは、時間とお金を極力かけないで実施できて、採用に結びつけることができる=超現実的なインターンシップですが、3回目の本稿においては、そのベースとなるインターンシップの「基本の型」についてお伝えします。今期の具体的設計の土台になるのはもちろん、来期にもし本格的なインターンシップを実施したいとなったときにも役に立ちます。いってみれば“インターンシップの永久保存版参考書”。ぜひご一読ください。

1 インターンシップ実施に向けた7つのリスト

早速インターンシップ実施に向けて決めておくべきことをご紹介します。

  • 目的
  • 対象学生
  • スケジュール
  • コンテンツ設計
  • 告知/選考
  • 受入準備
  • インターン後の接点準備

この7つのリストに沿って、それぞれ準備をしていってください。
一番重要なのは、言うまでもなく「目的」の決定です。そして、その目的に沿って「対象学生」を決めましょう。目的を達成するために「どんな学生に来てほしいのか」を決めていきましょう。実施の目的や参加してほしい学生像によって、インターンシップは大きく変わってきます。そこを明確にしないで進めていくと一気通貫したインターンシップに結実しません。実際の学生集客においても影響してきますので、ターゲット設定は明確に行ってください。
また、この段階から、実施後にどうやって採用選考ルートに接続するかをイメージしておくことも重要です。

インターン実施に向けた7つのリストの画像です

(出所:執筆者提供)

2 中長期な視点でのインターンシップもあり

本連載は、もちろん採用直結型のインターンシップを念頭に置いています。しかし本来、インターンシップには多岐にわたる目的があります。例えば、今年の採用というよりやや中長期的な視点で新卒採用を考えた場合、「学校との関係構築」や「社外広報活動」を目的とすることが有益になるでしょう。
インターンシップ募集を大学のキャリアセンター経由で告知することで、もちろん今年対象となる学生からの応募が期待できます。その上で翌年や翌々年もインターンシップ募集を継続していけば、おのずと大学のキャリアセンターと関係性ができてくるでしょう。事業の特徴や働きがいなどをアピールできれば、ゆくゆくはキャリアセンターの相談員が学生に推薦してくれることも期待できます。
また、大企業ほど知名度が高くない中小企業の場合、インターンシップ自体が学生たちに企業の魅力をアピールする好機。多くの学生に認知してもらえることは大きなメリットといえます。なぜなら就活する学生は、前年に就活した先輩からのクチコミをおおいに参考にするからです。やや時間はかかることになりますが、中小企業のインターンシップは、広報活動のような役割も果たしているのです。

3 コンテンツ設計のフレームワーク

インターンシップの骨子を考えていく上で参考になるのが、5W1Hに基づいたフレームワークです。ご存じのよう5W1Hとは、

  • WHY
  • WHO
  • WHEN
  • WHAT
  • WHERE
  • HOW

を指します。
これをインターンシップに当てはめると、

  • WHY=目的は?
  • WHO=参加してほしい学生は?
  • WHEN=時期は? 日数は?
  • WHAT=形式は?
  • WHERE=対面? Web?
  • HOW=内容は?

となります。ひとつひとつを埋めていくことで、自社のインターンシップの骨子がぼんやりとでもイメージできるようになるでしょう。
お気付きかもしれませんが、実はこのフレームの1〜3は、冒頭でご紹介した7つのリストの1〜3と同じです。前述したように一気通貫したインターンシップを設計していく上でも、このフレームワークが役立つはずです。一方で、具体的なコンテンツに関するのが4〜6の項目となります。この3点を整理することで、インターンシップコンテンツの方向性が明確になっていきます。

4 実務体験型か疑似体験型か

インターンシップの実施形式は、「実務体験型」か「疑似体験型」かに大別され、それぞれ実施する上でのポイントが異なります。
実務体験型は、

  • 中長期(3日間以上)が望ましい
  • 実務体験+αのコンテンツが効果的
  • 職場受け入れの事前準備が大切

といった点が挙げられます。職場で実際に仕事を体験させるため、職場の「生」の雰囲気や業務内容、仕事のやりがいを体感することで、学生の気付きや学びが深まる。あるいは、インターンシップ期間中に、職場ローテーションや質問会、グループディスカッションを導入することで、情報の整理や知識定着の促進を図れる。つまり学生の理解度・満足度があがる=好意度が増すというメリットがあります。半面、受け入れ部署の協力や一定期間の受け入れに関する準備など、ある程度の工数がかかってしまうのがデメリットです。

疑似体験型は、

  • 短期間でもコンテンツ設計が可能
  • コンテンツの狙いを明確にする
  • コンテンツ導入の事前準備が大切

といった点が挙げられます。短期間から導入でき、実施期間についても柔軟な設計ができるため、協力部署が少なくても開催が可能。グループワークやビジネスワークを用いることで、短期間でもある程度の仕事体験は提供できる。なにより学生の参加ハードルが低いというメリットがあります。もちろん、短期間のインターンシップは企業の目的と学生への狙いが伝わりづらいことから、学生の志望度変化につながりづらいリスクもあります。

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5 インターンシップにもWebの波

そして、コロナ禍の中、インターンシップにもWebで実施するという波が広がっています。従来のように「対面形式」で実施するか、感染リスクをケアして「Web形式」で実施するか、運営の形式についても選択する必要があります。

対面形式は、1dayから長期間まで受け入れが可能で、会社の雰囲気や社風などを伝えやすく、実務体験もできるため仕事内容の理解が促進され、志望度が上がりやすいというメリットがあります。また他の学生との交流も活発になり、インターンシップ自体が盛り上がる傾向もあります。半面、会場押さえ、社員のアサインなど実施のための準備が大変です。感染リスクが拭えないことからも、参加ハードルがやや高くなるデメリットもあります。

Web形式は、1dayに適した運営の形式といえます。場所を選ばず実施が可能なため、これまでリーチできなかった学生と接触ができますし、感染リスクがないというのも魅力的です。とはいえ、オンラインツールありきのため、運営慣れしていないと実施が難しい。あくまでも疑似体験止まりのため、仕事理解などが不十分になる。対面に比べて社風なども伝わりづらい。こうした懸念もあります。それでも、一定の会社理解や仕事理解はさせることができると割り切れれば、選択する価値のある形式です。現に、最近は「疑似体験型×Web形式」で実施される企業が多くなっています。

コンテンツ設計のマトリクスの画像です

(出所:執筆者提供)

6 重要となる3Cの観点

実務体験か疑似体験か、さらに対面かWebか。形式がなかなか決められない場合は、上記のマトリクスを使ってみましょう。縦軸は受入期間(実施期間)で、横軸は受入形式(実施形式)になっています。そして、それぞれの形式に適した運営の形式をプロットしてみます。Web形式に最も適しているのは左上の「1Day×疑似体験型」。一方で、せっかく手間のかかる対面形式を選択するなら、最も効果を得ることのできる右下の「3日以上×実務体験型」がおススメとなります。

ここまでは、自社の都合を土台にしながらコンテンツ設計をイメージしてきました。しかし、当然のことながら、そもそもインターンシップを実施するのは新卒採用を成功させるためです。学生にとって魅力あるインターンシップでなければ、その後、採用選考に参加してもらうのは至難の業。最終的に内定受諾に至る上でも、インターンシップでのインスピレーションは極めて重要です。

学生がインターンシップに参加するのは、もちろん採用選考を視野に入れているからです。しかしそれだけではありません。特定の企業について深く知りたいのと併せて、社会に出て働くという自身のキャリアに対して視野を広げたいと考えています。つまり、企業理解が深まる内容であるだけでなく、学生のキャリア観醸成に寄与するコンテンツ設計が求められるのです。
また、他社の企画内容と差別化を図るという意識も必要です。ひとりでも多くの学生に参加してもらうためには、他社よりも魅力的なプログラムを用意することが求められます。具体的には、参加する学生の成長につながるか、挑戦の場となっているか、成功体験が得られるか。こうした観点を念頭に置きながら、学生たちが「参加したい」と思う企画づくりを心がけましょう。

これは、まさにマーケティング戦略における「3Cフレーム」の観点です。自社(Company)視点だけでなく、学生(Customer)視点、競合他社(Competitor)視点も含め、インターンシップのコンテンツ設計に臨んでください。

以上

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2021年10月8日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

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