【新人経理向け】お財布事情をごまかしなく表す「キャッシュフロー計算書」

1 第三の財務諸表「キャッシュフロー計算書」とは

キャッシュフロー計算書は、損益計算書、貸借対照表と並ぶ第三の財務諸表です。キャッシュは現金、フローは流れという意味で、一定期間の企業の現金の流れ、企業の現金収支を表します。

企業会計は、発生主義の原則(収益や費用が発生した時点で財務諸表に計上すること)による損益計算を中心に行われるため、現金の流入を伴わない未収収益や、現金の流出を伴わない未払費用も計上されます。また、建物や機械装置、車両運搬具、土地などの取得に伴う現金支出は費用ではなく資産として計上されます。そのため、会計上の売上や費用を計上するタイミングと、キャッシュの出入りが一致しないことがあります。キャッシュフロー計算書があると、こうした損益計算書と貸借対照表では分からないキャッシュの出入りを明らかにすることができます。

キャッシュフロー計算書の作成が義務付けられているのは、会計監査が強制される金融商品取引法適用会社(有価証券報告書、有価証券届出書提出会社)だけです。

一方で、キャッシュフロー計算書を作成すると、資金繰りの状況がわかりやすくなりますし、金融機関や取引先からの信頼向上を図る上でも重要な資料となるので、中小企業でも作成することが望ましいといえます。

この記事では、キャッシュフロー計算書について勉強したい新人経理担当者向けに、各項目の概要と、キャッシュフロー計算書の作成例を紹介します。

2 キャッシュフロー計算書が対象とする資金の範囲

キャッシュフロー計算書が対象とする資金の範囲は現金及び現金同等物としており、その内容は次の通りです。

1)現金

手元現金及び要求払預金を指します。要求払預金とは、預金者が一定の期間を経ることなく引き出すことができる預金をいい、例えば、普通預金、当座預金、通知預金が含まれます。預入期間の定めがある定期預金は要求払預金には該当しません。

2)現金同等物

容易に換金可能かつ、価値の変動について僅少(きんしょう)なリスクしか負わない短期投資を指します。定期預金は要求払預金には含まれませんが、3カ月以内の期間設定の定期預金であれば、現金同等物に含まれます。容易な換金可能性と僅少な価値変動リスクの要件をいずれも満たす必要があり、市場性のある株式などは換金が容易であっても、価値変動リスクが低いとはいえず、現金同等物には含まれません。

なお、現金同等物として具体的に何を含めるかについては、各企業の資金管理活動により異なることが予想されるため、経営者の判断に委ねることが適当と考えられています。従って、現金及び現金同等物の内容に関しては会計方針として注記する必要があります。

3 キャッシュフロー計算書の概要

1)キャッシュフロー計算書のイメージ

キャッシュフロー計算書では、その源泉によってキャッシュフローを次のように分けています。

  • 営業活動によるキャッシュフロー
  • 投資活動によるキャッシュフロー
  • 財務活動によるキャッシュフロー

キャッシュフロー計算書(間接法)のイメージは次の通りです。

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2)営業活動によるキャッシュフロー(間接法)

日本に導入されているキャッシュフロー計算書は、米国と同様に直接法と間接法のどちらかを選択できるようになっています。

直接法は、商品の販売や仕入れ、経費の支出など、主要となる取引を個々に合算していく方法です。従来の損益計算とは別で新たに営業活動によるキャッシュフローを計算するための手続きを一から行う必要があり、計算手続きに労力がかかります。

一方で、間接法は損益計算書の税引前当期純利益を基に加減して計算できるため、直接法と比べると労力が少なくすみます。

間接法による営業活動によるキャッシュフローの計算は、税引前当期純利益から開始し、これに、支出を伴わない費用である減価償却費、貸倒引当金の増加額などを加算します。そして損益項目と貸借対照表項目を加減することによって、営業活動によるキャッシュフローを計算します。

1.利息及び配当金の受取額

税引前当期純利益から発生ベースによる受取利息・受取配当金(損益計算書の数値)を減算し小計を算出します。小計の後に改めてキャッシュベースによる受取利息・受取配当金を加算し、営業活動によるキャッシュフローを求めます。

2.利息の支払額

税引前当期純利益に発生ベースによる支払利息(損益計算書の数値)を加算し小計を算出します。小計の後に改めてキャッシュベースによる支払利息を減算し、営業活動によるキャッシュフローを求めます。

3.為替差額(為替レートによる差額)

為替差益は減算し、為替差損は加算することにより、営業活動によるキャッシュフローの算出過程から除きます。為替差額は現金及び現金同等物に係る換算差額の欄で改めて独立表示します。

4.有形固定資産売却損益

有形固定資産の売却益は減算し、逆に売却損は加算します。なお、有形固定資産の売却については、改めて投資活動によるキャッシュフローの計算で、有形固定資産の売却による収入として表示します。

5.投資有価証券売却損益

キャッシュフロー計算書(間接法)の様式にはこの項目はありませんが、投資有価証券売却損益についても同様の処理をする必要があります。

投資有価証券の売却益は減算し、逆に売却損は加算します。なお、投資有価証券の売却については、改めて投資活動によるキャッシュフローの計算で、投資有価証券の売却による収入として表示します。

6.売上債権(売掛金)の増減額

売上債権の増加額は減算し、逆に売上債権の減少額は加算します。売上債権は将来の現金収入につながるものですが、現金収入に至るまでの経過的な勘定です。

7.たな卸資産(期末たな卸高)の増減額

たな卸資産は売り上げの実現により、将来の現金収入につながる資産ですが、たな卸資産の取得は現金支出により取得されたものです。たな卸資産の増加額は減算し、逆にたな卸資産の減少額は加算します。

8.仕入債務(買掛金)の増減額

仕入債務の増加額は加算し、逆に仕入債務の減少額は減算します。仕入債務は将来の現金支出につながるものですが、現金支出に至るまでの経過的な勘定です。

3)投資活動によるキャッシュフロー

投資活動によるキャッシュフローは、固定資産や有価証券の取得・売却、資金の貸付け・回収による資金の収支を計算するものです。

発生主義会計においては固定資産・有価証券の取得は損益計算とは関係せず、貸借対照表に資産として計上されます。また、固定資産・有価証券の売却は、損益計算では営業外損益または特別損益に、売却益または売却損のみが計上され、貸借対照表上に計上されている資産が減少します。このように、固定資産・有価証券を売却した場合、売却額(売却による現金収入の総額)が明確になりませんが、投資活動によるキャッシュフローではそれを把握できる利点があります。

4)財務活動によるキャッシュフロー

財務活動によるキャッシュフローは、企業の従来の資金繰りに当たる内容になります。資金の借り入れによる収入、社債発行による収入、株式発行による収入、借入金返済による支出、社債償還による支出、自己株式取得による支出、配当金の支払額などが一覧で把握できます。

5)現金及び現金同等物の計算

営業活動によるキャッシュフロー、投資活動によるキャッシュフロー、財務活動によるキャッシュフローの合計額に現金及び現金同等物に係る換算差額を加減し、現金及び現金同等物の増減額を計算し、これに現金及び現金同等物の期首残高を加算し、現金及び現金同等物の期末残高を計算します。この現金及び現金同等物の期末残高は、貸借対照表に含まれる現金及び現金同等物の額と一致することになります。

4 キャッシュフロー計算書の作成例

簡単な例を使って、×1年度におけるキャッシュフロー計算書の作成例を紹介します。税引前当期純利益は1000万円とします。

下表(C/F1)~(C/F25)の記号は、キャッシュフロー計算書上で確認しやすいように付けたものです。金額の右側の(加算)(減算)は、キャッシュフロー計算書における加算と減算を表します。

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以上を基にキャッシュフロー計算書を作成すると次のようになります。

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以上(2025年4月更新)
(監修 辻・本郷税理士法人 税理士 安積健)

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画像:Supatman-Adobe Stock

【かんたん法人税(7)】中小企業に係る税務

1 中小企業に係る税務上の重要なポイント

シリーズ第7回は、中小企業に係る税務上の取り扱いに注目します。中小企業に対する税務上の優遇措置は多いですが、注意が必要なのは、

一般的に中小企業と呼ばれる会社の全てが、税務上の中小企業に該当するとは限らない

ことです。税務上、中小企業は「中小法人等」または「中小企業者等」と表現され、それぞれ定義は次の通りです。優遇措置には、「中小法人等に適用されるもの」と「中小企業者等に適用されるもの」とがあるため、2つの用語の定義を正確に理解しておく必要があります。

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中小法人等・中小企業者等に係る税務上の重要ポイントは次の通りです。

1.中小法人等に適用される優遇措置

  • 法人税の軽減税率の適用
  • 欠損金の繰越控除額に対する制限の緩和および繰戻還付制度の適用
  • 交際費の定額控除限度額
  • 特定同族会社に対する留保金課税の適用除外

2.中小企業者等に適用される優遇措置

  • 中小企業投資促進税制
  • 少額減価償却資産の全額損金算入
  • 試験研究費の税額控除の特例(中小企業技術基盤強化税制)
  • 賃上げ促進税制

2 中小法人等に適用される優遇措置

1)法人税の軽減税率の適用

法人税の税率は原則として23.2%ですが、中小法人等の場合、所得のうち年800万円までの金額は15%に軽減されます。

ただし、2025年4月1日以降に開始する事業年度については、所得金額が10億円を超える場合に限り、軽減税率が15%から17%に引き上げられます。

2)欠損金の繰越控除額に対する制限の緩和および繰戻還付制度の適用

1.欠損金の繰越控除額に対する制限の緩和

前事業年度以前に生じた欠損金は、当事業年度以降に生じた所得金額から控除できます。中小法人等以外の法人は、控除できる金額が「(欠損金控除前の)所得金額の50%まで」に制限されています。

一方、中小法人等については「50%制限」がないため、所得金額以上の欠損金がある場合は、欠損金の全額を所得金額と相殺することができます。そのため、欠損金が所得金額を超える場合には、法人税の納税は発生しません。

2.繰戻還付制度の適用

繰戻還付制度とは、欠損金が生じた場合において、欠損金が生じた事業年度(当事業年度)開始前1年以内に開始した事業年度(一般的には前事業年度)に所得が生じており、納税していた場合には、当事業年度に生じた欠損金の金額を前事業年度に生じた所得に繰り戻して(遡って)相殺し、納税済みの税金の還付を受ける制度です。

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この繰戻還付制度は、現在は取り扱いが停止されていますが、例外として、中小法人等は適用することができます。なお、還付されるのは法人税と地方法人税のみであり、地方税(住民税や事業税)については還付されません。

3)交際費の定額控除限度額

原則として、交際費は全額が損金算入できません。しかし、取引先との接待飲食費(社外飲食費)の50%相当額については、損金算入できます。また、中小法人については、特例として年800万円まで損金算入が認められています(「定額控除限度額」といいます)。

つまり、中小法人は社外飲食費の50%相当額と定額控除限度額とを比較し、いずれか多い方を損金算入限度額として選択することができます。

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4)特定同族会社に対する留保金課税の適用除外

一定の同族会社については、原則として、通常の法人税の他に「留保金課税」という特別の税金が追加で課税されます。しかし、中小法人等については、例外としてこの留保金課税が「適用除外」とされています。留保金課税は、所得に対する法人税の他に追加で負担すべき税金です。中小法人等に該当するか否かで税負担が大きく変わってくるので、判定は慎重かつ正確に行う必要があります。

3 中小企業者等に適用される優遇措置

1)中小企業投資促進税制

中小企業者等が機械装置等に設備投資した場合には、「取得価額の30%の特別償却(通常の減価償却の他、追加で減価償却ができる制度)」が認められています。また、資本金3000万円以下の法人は「取得価額の7%の税額控除(法人税から直接控除する制度)」を選択することもできます。

中小企業者等が行う設備投資に対しては、「中小企業投資促進税制」の他、税務上の優遇措置が多く設けられています。従って、設備投資を行う際には、税務上の優遇措置の有無についても併せて確認することが重要です。

2)少額減価償却資産の全額損金算入

取得価額が10万円以上である減価償却資産を取得した場合は、原則として資産に計上し、耐用年数に応じた減価償却費を計上することで損金算入されます。ただし、中小企業者等については、取得価額が30万円未満の減価償却資産(貸付け(主要な事業として行われるものを除く)の用のように供されるものは対象外)について、その全額を即時に損金算入できる特例があります。

ただし、全額を損金算入できる限度額は年間300万円までです。年間300万円を超える金額を損金算入したことによって税務調査で指摘されるケースも多いため、この制度を適用する上では、少額減価償却資産を計上する勘定科目を新たに設けるなどして、年間300万円の限度額以上に損金処理していないか確認できるようにしておきましょう。

なお、この規定は、グループ通算制度を適用している場合や、常時使用する従業員の数が500人を超える場合には適用できません。

3)試験研究費の税額控除の特例(中小企業技術基盤強化税制)

製品の製造または技術の改良や考案などに必要な試験研究費を支出している会社は、その支出した試験研究費の一定割合を法人税から控除する税額控除制度が設けられています。これは大企業でも適用される制度ですが、中小企業者等に該当する法人については税額控除割合などの面で優遇されています(中小企業者等に適用される税額控除を「中小企業技術基盤強化税制」と呼びます)。

中小企業者等については、大企業に適用される税額控除制度と中小企業技術基盤強化税制の両方を計算し、いずれか有利な方法(金額)で税額控除を適用することができます。

4)賃上げ促進税制

従業員に対して支給する当事業年度の給与額が、前事業年度に支給した給与に対して一定程度増加した場合においては、所定の税額控除を適用することができます。この制度は大企業でも適用できますが、中小企業者等に該当する法人については、その適用要件が優遇されています。中小企業者等の場合の適用要件および税額控除額は次の通りです。

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なお、賃上げをした事業年度が赤字であったり、黒字でも所得が少額であったりすることにより、税額控除のメリットが受けられない(または全額受けられない)場合には、翌事業年度以降5年間は税額控除額を繰り越すことができる繰越税額控除制度があります。

この制度は、上記の算式で計算した税額控除額がそのまま法人税を減らすことにつながるため、前事業年度と比較して高いベースアップを行っている場合などには、本制度を適用できるかどうか必ず確認しましょう。また、適用判定で使用する数値の集計には比較的時間を要するため、申告期限の間際に行うのではなく、時間にゆとりを持って判定作業をするようにしましょう。

以上(2025年4月更新)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 税理士 森浩之)

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【新人経理向け】簿記を使って、会社の取引の全体像をイメージしてみよう

1 経理担当者の基礎は簿記

財務諸表を作成するには、勘定科目とその処理方法を知る必要があります。そのために必要なのが、簿記の知識です。全ての取引を仕訳し、項目ごとに集計したものが財務諸表となるからです。取引を見たとき、会計上、どのように処理されるのかをすぐに判断するためにも、項目ごとの仕訳のパターンをイメージできるようになることが大切です。また、財務諸表の項目から仕訳をイメージすることでも、数値に変化があったときの分析に役立ちます。

この記事では、新人経理担当者向けに

  • 複式簿記の基本“貸方”と“借方”の考え方
  • 貸借対照表の表示区分ごとの各勘定の処理方法

をまとめています。簿記の基本中の基本を押さえていきましょう。

2 複式簿記の基本“貸方”と“借方”の考え方

簿記(この記事では複式簿記)は、企業の活動を記録するものです。例えば、商品を現金で仕入れれば、商品(資産)が増え、現金(資産)が減ります。また、商品を現金で販売した場合、売上高(収益)が増え、現金(資産)も増えると同時に、商品(資産)が減り、売上原価(費用)が増えます。複式簿記は、こうした

出ていく財貨と入ってくる財貨といった、2つの流れを同時に記録

できます。

勘定は借方(かりかた)と貸方(かしかた)の2つに分けることができます。貸借対照表の左側(資産の部)の科目が借方勘定で、右側(負債の部と純資産の部)の科目が貸方勘定です。また、損益計算書の収益・利益に当たるのが貸方勘定で、費用・損失に当たるのが借方勘定です。

初心者には理解しにくいかもしれませんが、貸借対照表の場合、次のように考えると分かりやすいと思います。貸借対照表の右側は負債の部と純資産の部ですが、これは企業活動に必要な資金の調達方法を表しています。この資金を左側の資産の部にあるさまざまな資産の形で運用します。

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簡単な簿記の仕訳例を見ながら、どのように各勘定に反映されるのかを見てみましょう。

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  • 現金及び預金勘定は10万円の増加(-10万円+20万円)
  • 仕入勘定は25万円の増加(+10万円+15万円)
  • 売上勘定は45万円の増加(+20万円+25万円)
  • 買掛金勘定は15万円の増加
  • 売掛金勘定は25万円の増加

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勘定科目の内容は、貸方と借方に分かれます。各勘定科目の金額の増減は、次のようになります。

  • 貸方勘定の金額の増加は貸方に記帳、減少は借方に記帳
  • 借方勘定の金額の増加は借方に記帳、減少は貸方に記帳

以降では、貸借対照表の表示区分ごとの、主な勘定科目の処理方法を説明していきます。

3 流動資産

1)流動資産に含まれるもの

流動資産に含まれるものは、次の通りです。

現金及び預金、受取手形、売掛金、有価証券、商品及び製品(棚卸資産)、前渡金、前払費用、未収収益、未収入金など

2)売上債権と貸倒引当金

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受取手形と売掛金は売上債権といいますが、これらは必ずしも現金化できるとは限りません。こうした債権には貸し倒れリスクがついて回るからです。例えば、売掛金の期末残高が1000万円あり、このうちの2%程度が貸し倒れになるリスクがあると過去のデータから判断した場合は、20万円(1000万円×2%)の貸倒引当金を設定します。

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3)棚卸資産

商品は、仕入れて保有している段階では資産です。その商品を販売して初めて売上原価(費用)となります。売上原価は次の式で算出されます。

期首商品棚卸高+当期商品仕入高-期末商品棚卸高=売上原価

この期末商品棚卸高が貸借対照表の流動資産の棚卸資産を構成します。また、これが翌期の期首商品棚卸高となり、翌期以降に費用となって売上原価を構成することになります。

例えば、期首商品棚卸高200万円、当期商品仕入高1000万円、期末商品棚卸高100万円の場合、当期の売上原価は次の通りです。

当期の売上原価=200万円+1000万円-100万円=1100万円

期末商品棚卸高100万円が流動資産に表示されます。

4)前渡金、前払費用、未収収益、未収入金

1.前渡金

前渡金は商品や原材料などの仕入れや外注加工などの発注に際し、代金の一部または全部を、物品の受け入れや外注加工の完了前に交付した場合、その金額を一時的に処理する勘定です。前払金、手付金ともいわれます。前渡金は金銭債権ではなく物品やサービスの給付請求権となるため、貸倒引当金を設定できません。

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2.前払費用

前払費用は、一定の契約に基づいて、継続して役務やサービスの提供を受ける場合、決算日においてまだ提供されていない役務やサービスに対して事前に支払った対価のことです。未経過の支払利息、賃借料などがこれに当たります。

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これにより、翌期分の費用を翌期に繰り延べることができます。

3.未収収益

未収収益は、一定の契約に基づいて、継続して役務やサービスの提供を行う場合、決算日において既に提供した役務やサービスに対してまだ受領していない対価のことです。未収の受取利息、賃貸料などがこれに当たります。

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これにより、当期分の収入を見越して当期の収益を計上することができます。

4.未収入金

未収入金は、売掛金以外の固定資産、有価証券売却代金などの本来の事業目的以外の財貨やサービスを提供した場合の代価の未収額を処理する勘定です。

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4 固定資産

1)固定資産に含まれるもの

固定資産には有形固定資産、無形固定資産及び投資その他の資産が計上されます。それぞれに含まれるものは、次の通りです。

  • 有形固定資産:建物、機械装置、車両運搬具、土地など
  • 無形固定資産:ソフトウエア、のれん、借地権、工業所有権(特許権、実用新案権、意匠権、商標権)など
  • 投資その他の資産:投資有価証券、関係会社株式など

2)有形固定資産の減価償却

減価償却費は、営業費用の一部として損益計算をする上で費用計上されます。減価償却累計額は固定資産勘定を間接的に減額する評価勘定です。減価償却累計額は、土地などの非償却資産を除く固定資産の減価償却費の累計額です。固定資産取得価額から減価償却累計額を差し引いた価額が、償却資産の未償却残高(帳簿価額)となります。

ここでは次の前提条件で「定額法償却」について説明します。

前提条件:期首に機械装置を100万円で購入。耐用年数は10年

定額法による場合、各年度の減価償却費は次の式で算出されます。

  • 各年度の減価償却費=取得価額/償却率(耐用年数ごとに定められている定額法の率)
  • 各年度の減価償却費=100万円/0.100(耐用年数10年の場合の償却率)=10万円

また、期首資産価額、減価償却費、期末資産価額は次のように推移します。資産は備忘価額1円を残して、10年間で99万9999円を償却します。

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減価償却累計額は、原則的には貸借対照表の有形固定資産を間接的に減額する評価勘定として表示され、減価償却費は、損益計算書において営業費用として処理されることになります。

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有形固定資産の貸借対照表での表示は、次の通りです(5年度の期末)。

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3)投資その他の資産

投資その他の資産は、投資有価証券、関係会社株式、関係会社出資金、破産更生債権等、投資不動産などで構成されています。

例えば、取引先の経営状況が悪化して、会社更生法や民事再生法などの適用を受けることになった場合、通常の売掛金と区別するため、次のような会計処理を行い、投資その他の資産の欄に計上されるようになります。

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5 繰延資産

かつての会計規則(旧商法施行規則)では、繰延資産として、創立費、開業費、研究費及び開発費、新株発行費、社債発行費、社債発行差金、建設利息が挙げられていました。

ただ現在の会計規則(会社計算規則)では、繰延資産についての例示はなく、「繰延資産として計上することが適当であると認められるもの」を「繰延資産」とするとされています。繰延資産は帳簿価額から償却額を控除した直接控除方式で記載しなければなりません。

6 流動負債

1)流動負債に含まれるもの

負債の部は流動負債と固定負債に分けられます。

流動負債には、次のようなものが含まれます。

支払手形、買掛金、短期借入金、リース債務、前受金、前受収益、未払金、未払費用など

2)支払手形、買掛金

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3)前受金、前受収益、未払金、未払費用

1.前受金

前受金は商品や原材料などの仕入れや外注加工などの受注に際し、代金の一部または全部を、物品の出荷や外注加工の完了の前に受け取った場合、その金額を一時的に処理する勘定です。前受金は金銭債務というよりも、物品やサービスの給付債務となります。

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2.前受収益

前受収益は、一定の契約に基づいて、継続して役務やサービスの提供を行う場合、決算日においてまだ提供していない役務やサービスに対して事前に受領した対価のことです。未経過の受取利息、賃借料などがこれに当たります。

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これにより翌期分の収益を翌期に繰り延べることができます。

3.未払金

未払金は、固定資産、有価証券購入代金などの本来の事業目的以外の財貨やサービスの提供を受けた場合の代価の未払分を処理する勘定です。

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4.未払費用

未払費用は、一定の契約に基づいて、継続して役務やサービスの提供を受ける場合、決算日において既に提供を受けた役務やサービスに対してまだ支払っていない対価のことで、未払いの支払利息、保険料、賃借料、リース料などです。

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これにより当期分の正しい費用を計上することができます。

4)借入金

借入金は、金銭消費貸借契約により金銭を借り入れた場合に生じる債務です。この借入金は、返済期限までの期間によって次のように分類します。

  • 短期借入金:決算日から1年以内に返済期限の到来するもの
  • 長期借入金:決算日から1年を超えて返済期限の到来するもの

短期借入金の借り入れから返済までの取引の仕訳を見てみましょう。

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また、短期借入金、長期借入金は、もし役員からのもの、親会社からのものがあれば、それぞれ区分して計上しなければなりません。

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7 固定負債

固定負債は、社債、長期借入金、退職給付引当金などで構成されています。ここでは、社債の発行について説明します。

社債は、資金を調達するために社債券という有価証券を発行することによって生じる企業の債務です。

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社債発行費の償却を60カ月(償還までの期間5年)とした場合、社債発行費の償却、社債の額面と簿価の差額は×6年3月31日に解消します。

×6年3月31日に社債を償還した際の仕訳例は次の通りです。

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8 純資産の部

1)純資産の部の表示項目

純資産の部は、株主資本、評価・換算差額等、新株予約権に区分されます。

さらに、株主資本と評価・換算差額等は次のように分けられます。

  • 株主資本:資本金、資本剰余金、利益剰余金、自己株式
  • 評価・換算差額等:その他有価証券評価差額金、繰延ヘッジ損益、土地再評価差額金

会社計算規則に基づいた純資産の部の表示項目は次の通りです。

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2)増資の仕訳

株主総会決議に基づく取締役会の決議により、株式1000株を第三者に割当増資することになりました。

発行価額は1株につき7万円、1株当たり2万円を資本金に組み入れないことにし、かつ発行価額と同額の申込証拠金を受け入れることにしました。また、申込期日までに全額が払い込まれました。

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3)利益配当

株主総会において、次の配当を決議しました。

  • 配当金:1000万円
  • 利益準備金:100万円

この場合の仕訳例は次の通りです。

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4)自己株式

自己株式を1000万円で取得しました。

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自己株式1000万円を1100万円で売却しました。

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自己株式処分差益は、純資産の部のその他資本剰余金となります。

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以上(2025年4月更新)
(監修 辻・本郷税理士法人 税理士 安積健)

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【新人経理向け】財務諸表の基本となる「損益計算書」と「貸借対照表」

1 財務諸表の基本となる損益計算書と貸借対照表

一定期間の経営状態や財務状況を示す財務諸表。その中でも、損益計算書と貸借対照表は会社の決算時に、企業規模を問わず全ての会社で作成が求められる重要な書類です。損益計算書は事業の成果を表す一方で、貸借対照表は財務状態を示すという違いがあります。

これらは株主や税務署など、外部への申告書類としてはもちろん、社員が自社の経営状態を把握するためにも欠かせない書類です。そのため、決算業務に携わる担当者はそれぞれの内容をよく理解しておく必要があります。

この記事では、損益計算書と貸借対照表について勉強したい新人経理担当者向けに、それぞれの概要と、仕入れや販売などの財政状態の変化がどのように表れるのかを見ていきます。

2 損益計算書の概要

1)損益計算書とは

損益計算書は

一定期間の企業の経営成績を表すもの

です。一番上の「売上高」から費用を引いていき、「売上総利益」「営業利益」「経常利益」「税引前当期純利益」「当期純利益」の5つの利益を求める構造になっています。

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2)5つの利益の見方

1.売上総利益

「売上高」から「売上原価」を引いた金額が「売上総利益」として表示されます。この金額がマイナスになるときは「売上総損失」として表示されます。

2.営業利益

「売上総利益」から「販売費及び一般管理費」の合計額を引いた金額が「営業利益」として表示されます。この金額がマイナスになるときは「営業損失」として表示されます。

3.経常利益

「営業利益」に「営業外収益」を加算し、「営業外費用」を引いた金額が「経常利益」として表示されます。この金額がマイナスになるときは「経常損失」として表示されます。

4.税引前当期純利益

「経常利益」に「特別利益」を加算し、「特別損失」を引いた金額が「税引前当期純利益」として表示されます。この金額がマイナスになるときは「税引前当期純損失」として表示されます。

5.当期純利益

「税引前当期純利益」から「法人税、住民税及び事業税」を引いて、さらに「法人税等調整額」を加減した金額が「当期純利益」として表示されます。この金額がマイナスになるときは「当期純損失」として表示されます。

3 貸借対照表の概要

1)貸借対照表とは

貸借対照表は

企業の期末日など、一定時点の財政状態を表すもの

です。財政状態とは資金の運用と調達の状況をいい、資産合計と負債・純資産合計は同じ金額となります。

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貸借対照表は、資産の部、負債の部、純資産の部で構成されています。貸借対照表の左側が資産の部、右側には負債の部と純資産の部が配置されています。

左側の資産の部は、資金の運用状況を表しています。右側の負債の部と純資産の部は、資金の調達状況を表しています。分かりやすくいえば、負債の部は借入金などによる資金調達を表しています。また、純資産の部のうち、株主資本は出資者からの出資による資金調達を表しています。

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資産の部は、流動資産、固定資産、繰延資産に分けられます。固定資産はさらに有形固定資産と無形固定資産、投資その他の資産に分けられます。

負債の部は流動負債、固定負債に分けられ、純資産の部は株主資本、評価・換算差額等、新株予約権に分けられます。

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2)資産の部

資産の各科目は現金及び預金、受取手形、建物その他の資産の性質を示す適当な名称を付した科目に細分しなければなりません。

1.流動資産

流動資産は、現金や当座預金、普通預金などの最も流動性の高い資産を筆頭に、売掛金や受取手形など営業に関係する債権、商品などの棚卸資産、1年以内に回収が見込まれる営業外の短期貸付金などの債権も含まれます。

商品などの棚卸資産は、仕入れた段階では費用ではなく資産です。その後、販売された分について、費用として計上します。

売掛金などの債権には回収不能が予想される分を貸倒引当金として計上します。例えば、売掛金が100万円あり、このうち5%程度が回収不能になることが予想される場合、5万円(100万円×5%)を貸倒引当金として流動資産の部にマイナスの金額として計上します。

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2.固定資産

固定資産は、次のように分けられます。

  • 有形固定資産(建物や機械装置、工具器具備品、車両運搬具、土地など)
  • 無形固定資産(ソフトウエア、特許権、借地権、のれんなど)

固定資産は、その取得時に資産に計上しますが、建物にしても機械装置にしても、時の経過とともに劣化(価値が減少)していきます。この劣化分を考慮して、毎期、減価償却費を計上して、劣化する部分を費用計上していきます。

例えば、取得価額100万円の備品を5年かけて定額法で償却する場合、毎期の減価償却費は次の式で計算できます。

減価償却費=取得価額/償却率(耐用年数ごとに定められている定額法の率)

20万円=100万円×0.200(耐用年数5年の場合の償却率)

従って、取得から丸3年が経過した上記の備品は、次のように表示されます。

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減価償却累計額とは、毎年の減価償却費の累計額(60万円=20万円×3年)をいいます。

または、固定資産の備品を次のように表示し、減価償却累計額を貸借対照表の下に注記事項とすることもできます。

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無形固定資産(のれんなど)は、償却額を控除した残額を記載します。

なお、有形固定資産の償却は帳簿価額が1円になった時点で償却(耐用年数の最後の年の減価償却費は「帳簿価額-1円」)を終えますが、無形固定資産は帳簿価額が0円になるまで償却します。

2.投資その他の資産

投資その他の資産は、満期まで1年超の定期預金、長期貸付金、投資有価証券、関係会社株式、破産債権、更生債権などが表示されます。流動資産、有形固定資産、無形固定資産または繰延資産に属さないものを表示します。

3.繰延資産

かつて(旧商法施行規則)は、繰延資産として、創立費、開業費、研究費及び開発費、新株発行費、社債発行費、社債発行差金、建設利息が挙げられていました。

しかし、現在(会社計算規則)は、繰延資産についての例示はなく、「繰延資産として計上することが適当であると認められるもの」を「繰延資産」とするとされています。繰延資産は償却額を控除した直接控除方式で記載しなければなりません。

3)負債の部

負債の部は、流動負債、固定負債に区分されます。負債の各科目は、支払手形、買掛金、社債その他の負債の性質を示す適当な名称を付した科目に細分しなければなりません。

1.流動負債

買掛金、支払手形その他の営業取引によって生じた金銭債務は、流動負債に記載しなければなりません。

借入金その他の営業取引によって生じた金銭債務以外の金銭債務で、その履行期が決算期後1年以内に到来するもの、または到来すると認められるものは、流動負債に記載しなければなりません。

2.固定負債

流動負債に記載した金銭債務以外の金銭債務は、固定負債に記載します。

4)純資産の部

純資産の部は「株主資本」「評価・換算差額等」「新株予約権」に区分されます。

さらに、それぞれ次のように区分されます。

1.株主資本

  • 資本金:会社設立時の出資金や増資払込などの金額です
  • 資本剰余金:株主が払い込んだお金のうち、資本金に含まれなかった金額です
  • 利益剰余金:会社の活動によって得た利益のうち、社内に留保している金額です
  • 自己株式:会社が買い取った自社株式の金額です

2.評価・換算差額等

  • その他有価証券評価差額金:売買目的有価証券や満期保有目的債券、子会社および関連会社株式以外の有価証券を期末に時価評価した場合の評価差損益の税効果分を除いた金額です
  • 繰延ヘッジ損益:先物取引やオプション取引について、期末時点での時価評価による差額を翌期以降に繰り延べるときに使います
  • 土地再評価差額金:土地の再評価に関する法律に規定されている、再評価差額金です

3.新株予約権

  • 投資家などに会社が発行する株式の交付を受けることができる権利を発行し、払込を受けた代金です

会社計算規則に基づいた純資産の部の表示科目は次の通りです。

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4 財政状態の説明

貸借対照表の理解を深めるため、財政状態の変化について、複式簿記の知識がない人でも分かるような簡易な例で説明します。

1)財政状態1(資本金1000万円を現金で保有しているときの財政状態)

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2)財政状態2(200万円を借り入れ、それを現金で保有しているときの財政状態)

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3)財政状態3(商品100万円を現金払いで仕入れたときの財政状態)

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4)財政状態4(土地400万円を現金払いで取得したときの財政状態)

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5)財政状態5(建物300万円を現金払いで取得したときの財政状態)

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6)財政状態6(商品200万円を掛けで仕入れたときの財政状態)

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7)期末の財政状態

最後に、商品200万円を400万円で販売し、買掛金100万円、販売費100万円、借入金の利息10万円を支払ったところで決算日を迎えたときの財政状態は次の通りです。なお、建物の減価償却費10万円を計上しています。

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損益計算書の当期純利益が貸借対照表の純資産の部の繰越利益剰余金に加算され、期末における企業の財政状態が示されます。貸借対照表は資産の合計額と負債・純資産の合計額が一致します。

以上(2025年4月更新)
(監修 辻・本郷税理士法人 税理士 安積健)

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画像:ururu-Adobe Stock

【かんたん法人税(6)】経営者に係る税務

1 経営者に係る税務上の重要なポイント

シリーズ第6回では、経営者(役員)に係る税務上の取り扱いに注目します。最も注意が必要なのは役員に対する給与や退職金(以下「役員給与等」)です。役員給与等は、

一定のルールに基づかないと損金算入できず、また損金算入できる金額にも限度がある

からです。

また、中小企業のうち、とりわけ同族会社では、

業務上の費用と私的な費用の区別が曖昧となりがちで、税務調査で指摘される

ことも多いです。私的な費用と判断された場合、その費用は役員給与等として取り扱われ、一定のルールに沿ったものでなければ損金算入できません。こうした区別をきちんとすることはもちろん、業務上の費用でも私的な費用と誤解を受けることがないように、所定の書類などをそろえておきましょう。

役員に係る税務上の重要ポイントは次の通りです。

  • 損金算入ができる3種類の役員給与
  • 過大役員給与
  • 役員退職金
  • 使用人兼務役員
  • 役員と会社の取引
  • 私的な費用

2 損金算入が認められる3種類の役員給与

1)定期同額給与

定期同額給与とは、「定期的(=毎月)」に「同額で支給される給与」です。一般的に毎月支給される役員給与がこれに当てはまり、事業年度を通じて毎月同額で支給されている場合に限り、損金算入できます。

税務調査では、総勘定元帳などによって毎月の役員給与が同額で計上されているかチェックされるので注意しましょう。なお、どんなことがあっても金額の変更が認められないというわけではなく、次のような場合などに役員給与の金額の変更が認められます。

1.期首から3カ月以内の変更

通常、期首から3カ月以内に定時株主総会が実施されます。この株主総会の決議により役員給与の変更がされたなら、金額の変更が認められます。この場合、税務調査において金額の変更理由を聞かれたときに備え、株主総会の議事録を作成・保管しておくことが重要です。

2.職務の内容に変更があった場合

通常の取締役が代表取締役に就任するなど、事業年度中において職務の内容に変更があった場合は、その職務内容に応じた役員給与の金額の変更が認められます。この場合、職務内容がどのように変わったのかなどについて、税務調査において具体的な説明を求められることが多いため、議事録などの関係書類を事前に準備しておくことが重要です。

2)事前確定届出給与

事前確定届出給与とは、役員に対する給与の「支給金額」や「支給日」などをあらかじめ決めておき、税務署に「届出書」を提出することで損金算入が認められる役員給与です。定期同額給与以外で、例えば夏と冬に賞与の形で役員給与を支払いたい場合などに利用されます。

なお、届出書の提出期限は次の通りです。ただし、その届出書に記載した支給金額と実際の支給金額が異なっていたり、支給日が異なっていたりする場合には、支給金額の全額が損金に算入できなくなる恐れもあるため注意が必要です。

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3)業績連動給与

業績連動給与とは、会社の売上や利益に連動させて支給額が決められる役員給与です。なお、この業績連動給与は、同族会社には原則として適用できないなど、適用要件が主に上場企業を対象としたものになっているため、この記事では詳細な説明を省略します。

3 過大役員給与の取り扱い

役員給与は、「定期同額給与」「事前確定届出給与」「業績連動給与」のいずれかに該当すれば、原則として損金に算入できます。しかし、役員給与の支給を受ける役員の職務内容などに照らし、「役員給与の水準が高額過ぎる」と判断された場合は、その高額とみなされた部分の金額(適正額を超える部分の金額)については損金に算入できません。役員給与の金額が適正額かどうかについては単に金額のみで判断されるのではなく、次の2つの基準に従って総合的に判断されます。

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税務調査では、売上や利益が横ばいにもかかわらず役員給与の金額が増加していたり、従業員の給与を上げていないにもかかわらず、役員給与のみ多額に増加していたりする場合などは、その理由の説明を求められる場合があります。従って、役員給与については、金額の決定過程を詳細に説明できるよう、議事録などの関係書類を事前に準備しておくことが重要です。

4 役員退職金

原則として役員退職金は損金算入されますが、「損金に算入する時期」と「過大役員退職金」に注意しましょう。

役員退職金が損金算入される時期は、原則として「株主総会の決議等によって退職金の額が具体的に確定した日の属する事業年度」です。ただし、「会社が退職金を実際に支払った事業年度において損金経理(経理上、費用として処理すること)をした場合」は、その支払った事業年度において損金算入することも認められています。

注意が必要なのは、「支給した役員退職金が高額過ぎる(過大役員退職金)」と判断された場合、その高額とみなされた部分の金額(適正額を超える部分の金額)は損金算入できないことです。役員退職金の金額が適正額かどうかの判断基準は会社の状況によってさまざまですが、一般的に次の基準に従って総合的に判断されます。

  • 会社の業務に従事した期間
  • 退職の事情
  • 類似する会社の役員退職金の支給状況等

役員退職金は金額が大きくなることもあり、税務調査においては、金額の算定根拠についてよく説明を求められます。従って、役員給与と同様に、金額の決定過程について詳細に説明できるよう、議事録や算定根拠資料などを事前に準備しておくことが重要です。

5 使用人兼務役員

使用人兼務役員とは、

「部長」や「課長」など使用人としての地位を有し、かつ、部長職や課長職に日々従事している役員

をいいます。具体的には、「取締役経理部長」などの肩書となります。

使用人兼務役員の給与については、役員として支給された給与に該当する部分と、使用人として支給された部分とで、損金の取り扱いが異なります。

「役員として支給された給与」は、「定期同額給与、事前確定届出給与、業績連動給与」(以下「定期同額給与等」)のいずれかに該当する場合に、原則として損金算入できます。また、「使用人として支給された給与」は、通常の使用人給与と同様に、原則として全額が損金算入できます。

ただし、経営者の親族については、「使用人兼務役員」としての肩書であっても、税務上は「役員」として取り扱われる場合があるので注意が必要です。具体的には株式の持株割合によって判断され、次の全てに該当し、会社の経営に従事していると判断された場合、税務上は「役員」とされます。

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従って、使用人兼務役員の「使用人」としての職位に対して支給した賞与でも、税務上は役員に対する賞与とされるため、「事前確定届出給与」の届出書を提出していなければ、支給額の全額が損金に算入できないので注意しましょう。

6 役員と会社の取引

税務上、役員と会社との間の取引は、「第三者(外部)と同等の条件で行うべき」とするのが原則的な考え方です。例えば、会社の所有している不動産を時価よりも低い価額で役員に譲渡(低額譲渡)した場合、不動産の時価と譲渡価額の差額は、役員に対する一定の利益供与とみなされます。その結果、税務上「役員給与」扱いになり、所得税の源泉徴収が必要になるとともに、定期同額給与等にも該当しないため、損金算入もできません。

会社から役員に対して無利息で資金の貸し付けを行った場合も同様に、適正利率相当が役員給与として取り扱われます。役員との取引だからといって、自分たちの都合で安易に価格を決定した場合などには、税務調査において価格の算定方法について指摘され、想定外の納税を伴うことがあります。役員と会社との取引に係る金額の決定過程については税務調査時に詳細に説明できるよう、議事録や契約書などの関係書類を事前に準備しておくことが重要です。

7 私的な費用

本来は経営者個人が自分で支払うべき私的な費用を会社の費用として経理処理した場合、その費用については、税務上「役員給与」として取り扱われます。例えば、経営者1人の飲食代は税務上の交際費や会議費ではなく、役員給与とされます。

また、ゴルフクラブの入会金を法人会員として支払った場合、その入会金は会社の資産として計上しなければなりません。プレー代などは交際費等として一定の限度額の範囲内で損金に算入できますが、ゴルフクラブに入会した事実を経営者以外の従業員などに知らせていなかったため、税務調査において「業務に不要なもの=実質的に経営者が個人で負担すべきもの」と判断され、役員給与として取り扱われたケースもあります。

このように、業務に関連しない私的な費用については役員給与とされ、所得税の源泉徴収を要するとともに、定期同額給与等に該当しない場合には損金にも算入できません。

税務調査では、単に領収証の有無などを確認するだけではなく、「業務に必要なものか」といった視点からも調べられますので、関係書類などを事前に準備しておき、業務上必要な経費であることを説明できるようにしておくことが重要です。

以上(2025年4月更新)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 税理士 森浩之)

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画像:pixabay

受験生のハートに刺さった乳酸菌タブレットの「屋外広告」とは?

1 OOH広告を使って「とがったアプローチ」を!

売り上げにつながるような「広告」の出し方って何でしょう? 分かりやすいのは、電車内のスクリーンに流れる動画や渋谷スクランブル交差点の3D広告のように、

掲示する場所や機会を多くして、広告に触れる人の母数を増やすこと(大量のリーチ)

ですが、これには大掛かりで費用も手間もかかるという問題があります。

なるべく費用や手間をかけたくない場合、

掲示数が少なくても、広告に触れた人に強烈な印象を残すこと(とがったアプローチ)

が必要になりますが、これはこれで「そんな簡単に印象に残るなら、誰も苦労しない」という話になります。ただ、取り組むハードルが低い分、アイデア次第で可能性は無限に広がるので、他社の事例などを見ながら勉強するだけでも、御社の広告は‟前進”していきます。

そこで、この記事では「OOH(Out Of Home)広告」、つまり屋外広告にスポットを当てて、

ユーモアのあるOOH広告を使った、とがったアプローチ

のポイントを紹介します。まずは、実際にOOH広告を出している会社へのヒアリング内容を紹介するので、ぜひご覧ください。

(注)この記事では、実際に屋外にある広告以外に、スマートフォンやPC、テレビなどを通さず、掲示してある場所を通りかかった人の目に入る広告も、OOH広告として扱います。

2 広告を通じて手渡す「想いを込めたお守り」

ここでは、生活者起点のマーケティング支援会社であるネオマーケティング(東京都渋谷区)が2023年に行った、乳酸菌タブレット「おなかはかせ(現在は販売終了)」のOOH広告を紹介します。この広告は、

若い世代に、乳酸菌タブレットを効果的にアピールすること(認知度アップ)

を目的に実施され、2023年1月27日から7日間、小田急線新宿駅構内に貼り出されました。

「本番で集中したい受験生をおなかはかせは応援します。」という文言と共に、ポスターに貼り付けられていたのは、実物のお守り。それも、プロジェクトメンバーが実際に神社へ持って参詣し、ゲン担ぎをしたものだといいます。

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本広告では7日間で約500個のお守りを配布し、大盛況になったそうです。成功のポイントは

「受験生」を明確なターゲットにして、期間(受験シーズン)や場所(通勤・通学の人が多い駅)を選定し、エモーショナルで想いが込められたアプローチを行った点

です。

どのような思いで広告を作ったのか、どのような点を工夫したのかなどを、「おなかはかせ」事業責任者であるネオマーケティングの加藤 賢大(かとう たかひろ)氏に聞きました。

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「(広告制作時は)ただひたすら、悩みを持つ受験生を応援したい、という気持ちでした。人通りの多い駅構内でのピールオフタイプ広告であれば、目に入った受験生や保護者の方にお守りを持って帰ってもらえるかもしれないと思い、この形を選びました」(加藤氏)

「ピールオフ」とはそもそも、「剥がす」という意味。ピールオフタイプ広告は、ポスターにグッズを貼り付け、それを見た人が剥がして持って帰ることのできる広告のことです。思いが詰まったお守りを手渡す手段としては最適でしょう。

また広告のデザインについても、次のように語ります。

「お守りを貼り付けるポスター本体のデザインにもこだわりました。お守りがメインなので背景は主張しすぎず、けれど、“お守りで受験生を応援したい!”というメッセージはきちんと伝わるよう、絵馬風の木目のデザインなども盛り込んだものを自社で制作しました」(加藤氏)

実際に貼られた広告を見てみると、

  • 明確なメッセージ
  • コンセプトに合ったデザイン
  • ピールオフすることで文字が見える仕組み

といった具合に、随所からこの広告にかける想いが感じられます。

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また、期間中は思いも寄らない苦労もあったそうです。

「予想以上に、お守りがすぐにさばけてしまうことが判明したんです。半日に一度はお守りを補充しに新宿駅に行ったりして、期間中はなかなか大変でした……。けれど、メンバーが願掛けしたお守りは全て、配り終えることができました。結果的に認知度アップにもつながり、とても充実したプロジェクトになりました」(加藤氏)

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努力のかいあって、広告の開始前と比べてSNSのインプレッション数は1.76倍、サイトのユニークセッション・ユニークユーザー数は2.7倍まで上昇したそうです。

また、「おなかはかせ」のプロジェクトでは、広告が貼り出されるまで毎日(30日間)、プロジェクトメンバーがお守りを手に健康祈願を行う様子を、XとInstagramのアカウントに投稿。SNSでの宣伝を組み合わせることで、若い世代に効果的なアプローチを行いました。

実際、ピールオフタイプ広告の写真を撮って、SNSにアップロードする方もいらっしゃったそうです。プロジェクトメンバーの「受験生を応援したい!」という情熱が、ピールオフタイプ広告によってターゲットにきちんと伝わったのでしょう。

ネオマーケティングの事例から、OOH広告は、

利用者(特に広告のターゲット)が多く行き交う場所を確保する

というポイントを押さえることが重要だということがわかります。また、

対象物(貼り付けるもの)がなくなり次第、補充する時間と人員が必要

という手間もかかりますが、従来より幅広いターゲットにとがったアプローチを与え、自社製品や自社サービスの認知度を高めることが可能といえます。

以上、実際にユーモアのあるOOH広告を出しているネオマーケティングの事例でした。以降では、この章のピールオフタイプ広告も含め、OOH広告の種類を次の3タイプに分けて紹介します。

3 ポスター~ビジュアルと文言でシンプルに勝負

ポスタータイプ広告は、街中で最もよく見かける屋外広告です。大まかな概要は、下の図表の通りになります。

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設置場所は駅、バス停、道路脇など多岐にわたり、用意するものはビジュアル、文言、印刷物。

最も手数が少なく、うまくいけば、かなりの手間対効果を得られる

ことが利点です。

一見簡単そうに思えますが、シンプルなだけあり、自社商品を効率的に宣伝するためには、かなりとがったアプローチが必要です。

例えば、ただ単に商品の写真・宣伝の文言・自社のロゴをデザインしたポスターを作るのではなく、

コピーライターを雇い、ユーモアのあるキャッチコピーを考案する、デザイナーと連携してカメラマンやモデルを用意する

など、広告の前を通りかかった人の視覚と好奇心を刺激するような工夫が必要不可欠です。

4 ピールオフ~「自分で手に取る」体験を提供

ピールオフタイプ広告は、ポスタータイプ広告に試供品やステッカー、カードなどを貼り付け、通行人がそれを剥がして持ち帰ることができるタイプの、近年流行している広告です。大まかな概要は、下の図表の通りになります。

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特に人通りの多い駅や学生街、または商業施設の中などで実施されることが多く、ポスタータイプ広告と比べると、貼り付けるものも必要になってくることから、費用も手間もかかります。

しかし、希求力が強く、影響力が大きいのも確かです。基本的に軽量で落下しづらいものであれば貼り付けることができますので、例えば、化粧品やマスクなどのサンプルを貼り付け、

自社商品に興味がある人が直接手に取れる

ことが大きな利点です。

また、コミックやドラマなどのピールオフタイプ広告では、通行人がステッカーやカードなどを剥がしていくことによって、ポスターの全容が見えるようになる仕組みも多用されます。毎日の通勤・通学途中にだんだんとポスターの全容が明らかになっていくことによって注目をあおり、より強い宣伝効果を得ることができます。

5 サイネージ~より的確なターゲティングが可能

サイネージタイプ広告は、ポスタータイプ広告、ピールオフタイプ広告とは違い、特定の場所に設置されたサイネージ(画面)に、「映す」という手法が取られる広告です。大まかな概要は、下の図表の通りになります。

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サイネージタイプの広告は、東京駅や新宿駅などのターミナル駅をはじめ、商業施設やサービスエリア、ゴルフ場、あるいは高層マンション、ビルのエレベーター内などにも設置されています。ポスター

タイプ広告、ピールオフタイプ広告と比べて最も大きな利点は、

広告に動きをつけることが可能であること

です。また、画面がある場所であればどこでも設置できるので、

「富裕層」「ファミリー」「若者」など、自社商品を宣伝したいターゲットに合わせて、より的確な時間帯・場所に掲示することが可能

です。

以上(2025年4月作成)

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画像:ネオマーケティング

ブログでポルシェを300台売った“ブルドーザー”が語る販路開拓の勘どころ/販路開拓事例集

1 今度はテスラジャパンに挑む

「ブログでポルシェを300台売った」という異色の実績を持つ、株式会社ストーリーテラーズ代表取締役、通称“ブルドーザー”こと高野(こうの)美奈子さん。

「本当にいい会社に光が当たる世の中をつくりたい」

その想いのもと、高野さんはとにかく行動を続けています。企業ごとのストーリーを丁寧に紡ぎ出し、それを記事や動画といったコンテンツにして発信。そして販路開拓も突き進めます。気持ちと実際の行動の両方があるからこそ、高野さんの言葉には、説得力があります。

今回、高野さんはなんと、ゼロからテスラジャパンにアプローチし、最終的には社長へのインタビュー記事の掲載まで実現しました。この、ゼロからテスラジャパン社長にまでつながった「高野さん流テスラジャパンモデル」を横展開した販路開拓を行い、高野さんは今、大阪で、八尾市や東大阪市の製造業の“魅力発掘隊”としても絶賛活躍中です。

このインタビューでは、そんな高野さんに「販路開拓の勘どころ」を、実際のエピソードを交えて語っていただきました。

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2 質問「これまで販路開拓やチャンスを切り開く中で一番大変だったことは?」

「一番大変だったのは、キーマンにたどり着くことです」

明確な目的は「テスラジャパンの社長に会う」ことでしたが、最初はメール・郵送・直接訪問など、あらゆる手段を試しても反応はなし。ゼロからの飛び込みだったので、それも当然だったかもしれません。

関西から東京まで出向いたものの、企画書を手渡すことができなくて入り口のポストに投函する場面もあった高野さん。まさに“ブルドーザー”の異名を体現する行動です。

しかし結果が出なかったため、戦略を一度練り直すことに。

そこで見つけたのが「テスラオーナーズクラブジャパン」(クラブ)という団体。高野さんはオーナーとしてこのクラブに参加し、更新が止まっていたウェブサイトに対して「無償で更新をお手伝いしましょうか?」と提案します。

キーマンである団体の代表理事を見つけてつながり、信頼関係を築いたうえで、コンテンツ執筆を担当。その後、代表理事から「こんなに良いコンテンツを書いてくれるなら、社長インタビューもどうですか?」という流れになり、テスラジャパンの社長へとつながっていきました。

「回り道のようで、結果的に、それが一番の近道だったんだと思います」

高野さんは今回、テスラジャパンにチャレンジしていく中で、「仕事につなげたい」から「お役に立ちたい」というような気持ちに変わっていったことなどを、正直に教えてくださいました。ここは高野さんの言葉をそのままお借りしてご紹介します。

「当初は、テスラジャパンとつながることで何か仕事につながればという思いがありました。正直、打算的な気持ちもありましたし、ビジネスとして合理的に動こうと考えていました。

ただ、実際にプロジェクトに関わり、社長とも直接やり取りをさせていただく中で、『仕事がほしい』という気持ちは次第に薄れていきました。

それ以上に、目の前のことに価値を提供したいという気持ちが大きくなっていったんです。

結果として、自分が持っているスキルや価値――たとえば『発信の支援』といったミッションに沿った行動を起点に、テスラオーナーの方々から別案件の相談をいただいたり、新たなビジネスの可能性が広がりました。

改めて実感したのは、『先に与える側に立つこと』が、長期的な信頼や販路拡大につながるということ。

目の前の利益だけを追うのではなく、ミッションドリブンで動くことの大切さを、今回の経験から学ばせてもらいました。

今回の出会いと機会に、心から感謝しています」

目の前のことに「お役に立ちたい」という気持ちで精一杯集中して力を尽くす。そして感謝の気持ちを持ち続ける。こうしたことも、とても大事なのではないかと思います。

3 高野さんの販路(チャンス)開拓のポイントは4つ

1)チャンスに気づく力

「テスラオーナーズクラブジャパン」を見つけたとき、そのサイトが更新されていないことに着目し、「ここなら自分の力が活かせるかも」と気づいたことが始まりでした。

2)キーマンを見つける根気と洞察力

メーリングリストやメールのやり取りの中から、どの人が実際に意思決定しているのかを丁寧に読み取る。肩書きだけでなく、宛名やメールのやりとりなどからキーマンを見つけ出す観察眼と根気。これも大事なポイントです。

3)自分が役に立てることをしたいですという姿勢

高野さんも改めて振り返っていますが、最初から何かを売り込むのではなく、「お金にはならなくても、役に立ちたい」という気持ちで関わる姿勢が重要。高野さんの「ウェブサイト更新、私ならお役に立てるかもしれません」という申し出が、のちの社長インタビューにつながりました。ビジネスはボランティアではありませんが、根底にある「役に立ちたい」という気持ちは欠かせないものです。

4)いいコンテンツを作る力

実はこれが一番基本、大前提といえるでしょう。高野さんのコンテンツは、読んでいて分かりやすく、そして面白い。きれいごとだけでなく、現場のリアルも伝えられる。コンテンツとはつまり高野さんの商品です。「商品がいい」のがまず大事。「こういういいコンテンツにしてくれるなら、社長インタビューもぜひ」となるのです。

ちなみに、高野さんが「コンテンツを作るうえで大事にしていること」は、本記事の最後に掲載しています。

4 質問「販路開拓に必要な情報とは? どうやって入手するか?」

「自分で動く。自分で動いて情報を取りに行く。これが一番大事だと思います」

「最初は『テスラジャパンの知り合い、誰かいませんか?』と周囲に聞いて回っていましたが……」と語る高野さん。やがて、自分で動くことの大切さに気づいたそうです。

実際に自ら行動していると、「こういうところなら入り込めるかも」と周囲からアドバイスが受けられたりすることもあったとのこと。

「紹介すること」も同じです。自ら動いている人には紹介したくなるし、動かない人には紹介したくなくなるものです。

5 最後の質問「販路開拓で一番大事なこととは?」

「大事なのは、役に立ちたいという気持ちと行動。そしてコンテンツの良さ」

役に立ちたい気持ちがあったら次は行動が大事。ただし、役に立ちたい気持ちがあってもコンテンツ(商品)がダメだと、「いい人だけど、コンテンツ(商品)はイマイチ」で終わってしまう。

逆に、コンテンツが良くても、最初から「売りたい売りたい」では人は逃げる。つまり、

役に立ちたいという気持ち × 行動 × 商品の質

この3つが揃うのが販路開拓に最も大事なことだと、高野さんは自分の経験を振り返りつつまとめてくださいました。

「これから10年で1万社。本当にいい会社に光が当たるように頑張ります!」

楽しそうに、そして覚悟を持ってそう語る高野さん。

高野さん、今回の販路開拓インタビューにお答えいただきありがとうございます!

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高野さんがコンテンツで大事にしていること

  • 読み手への配慮(わかりやすさ、敬意、感情)
  • 読み進めたくなる構成力(興味がない人でも読める設計)
  • 内容そのものの誠実さ(マウントを取らない、嫌な気持ちにさせない)

読み手の気持ちに配慮しつつ、自然と引き込まれ、気づけば心に何かが残るような構成を、丁寧に、誠実に。読んでよかったと思ってもらえることを大事にしている。

こうした点は、テキストコンテンツのみならず、高野さんのつくる動画からも伝わってきます。

以上(2025年4月作成)

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画像:株式会社ストーリーテラーズ提供

【働き方改革推進支援助成金】 年休の促進で最大920万円!?

1 「年5日の年休取得」に向けた取り組みは助成金の対象

労働基準法には、会社の「年休の時季指定義務」が定められています。これは、

年10日以上の年次有給休暇(以下「年休」)が付与されている社員には、社員の意見を聴取した上で、会社が時季を指定して年5日の年休を取得させる

という義務で、違反すると30万円以下の罰金の対象となります。

仕事ばかりで休もうとしない社員や、周囲に遠慮して休みたいと言えない社員もいます。しかし、年休の取得は、社員の心身のリフレッシュや仕事の効率に繋がることから、この義務に真摯に向き合って確実に年休を取らせていくことは大切です。

それに、社員の年休取得を促進する取組は、助成金の対象にもなります。具体的には、

「働き方改革推進支援助成金(労働時間短縮・年休促進支援コース)」で、最大920万円を受給できる可能性がある

のです。助成金を受給するには、所定の「交付申請書」を事業実施計画書などとともに、所轄都道府県労働局雇用環境・均等部(室)に提出します。

2025年度の申請期限は、2025年11月28日まで

ですので、詳細を確認してみてください。助成金の概要は次の通りで、赤字の部分が年休に関連する内容です。

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2 何をしたら年5日の年休取得が達成できるのか?

1)就業規則等の整備

働き方改革推進支援助成金(労働時間短縮・年休促進支援コース)を受給するには、年5日の年休取得について就業規則等を整備する必要があります。定めるべきポイントは次の通りです。

  • 年休の付与日数が年10日以上の社員に、年5日の年休を取得させる
  • 5日の年休は、年休の付与日から1年以内に取得させる
  • 5日の年休は、社員の意見を聴取し、尊重するよう努めた上で、会社が時季を指定して取得させる

就業規則等の規定例は次の通りです。

【規定例】

第○条(年次有給休暇の時季指定)

会社は年次有給休暇を年10日以上付与する社員に対して、付与日から1年以内に、付与日数のうち5日について、会社が社員の意見を聴取し、その意見を尊重した上で、あらかじめ時季を指定して取得させる。ただし、社員が本人による時季指定または第○条で定める計画的付与により年次有給休暇を取得した場合、取得した日数分を5日から控除する。

なお、就業規則等を整備するだけでなく、運用面においても注意が必要です。具体的には、

社員ごとに年次有給休暇管理簿を作成し、3年間保存する

ことが義務付けられています。また、社員数が常時10人未満の会社(事業場)が働き方改革推進支援助成金(労働時間短縮・年休促進支援コース)を受給する場合、就業規則に代えてこの年次有給休暇管理簿の添付で代替可能とされています。社員数が常時10人以上の場合も、万が一提出を求められた際にきちんと対応できるよう、準備をしておきましょう。

2)計画的付与を導入する

年休をなかなか取ろうとしない社員がいる場合は、計画的付与が有効です。計画的付与とは、

労使協定で定めた日に年休を与えられる制度

です。年休の時季指定義務との大きな違いは、

年休を与えるに当たって、社員の意見を聴取しなくてもよい

という点です。計画的付与では、会社全体で一斉に付与することも、チームや個人単位での交代制にすることもできます。導入するには「労使協定」(事業場の過半数労働組合、それがない場合は労働者の過半数代表との書面による協定)の締結が必要になります。

計画的付与の対象は、付与日数のうち5日を超える部分です。例えば、年休の付与日数が10日の社員の場合は5日まで、20日の社員の場合は15日までです。逆に言うと、年休の付与日数が5日以下の社員には、計画的付与を適用できません。また、計画年休に充てるべき休暇日数が不足する社員を含めて計画的に付与する場合には、年休の付与日数を増やす等の措置が必要となります。

図表2が年休の付与日数の一覧で、赤字が年休の時季指定義務の対象になる社員、網掛けにしているのが計画的付与を適用できない社員です。

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3)半日単位年休や時間単位年休の導入

半日単位年休や時間単位年休を導入すると、

  • 仕事の引き継ぎなどにかかる手間が減る
  • 病院や役所に行くなど、ちょっとした私用に活用できる

といったメリットにより、社員が年休を取得しやすくなることが期待できます。社員が出張先で仕事をした後、空いた時間で観光を楽しむ「ブリージャー(出張休暇)」なども取りやすくなるかもしれません。

なお、半日単位年休と時間単位年休は似ていますが、実は次のように大きな違いがあります。

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注意していただきたいのは図表3の赤字部分、「5.年休の時季指定義務との関係」「6.働き方改革推進支援助成金(労働時間短縮・年休促進支援コース)との関係」です。

  • 半日単位年休では助成金はもらえないが、年休の時季指定義務には含まれる
  • 時間単位年休では助成金がもらえる可能性があるが、年休の時季指定義務とは無関係なので、別で年5日の年休を取得させる必要がある

以上(2025年5月更新)
(監修 TMI総合法律事務所 弁護士 池田絹助)

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画像:pixabay

【かんたん法人税(5)】交際費・会議費・福利厚生費などに係る税務

1 主な販管費に係る税務上の重要なポイント

シリーズ第5回では、主な販売費および一般管理費(以下「販管費」)に係る税務上の取り扱いに注目します。法人税の課税所得を計算する上で、販管費は損金算入できるものが多いです。しかし、

科目によっては一定金額、または全額損金に算入できないものもある

ため、税務担当者は科目ごとの基本を理解する必要があります。

また、中小企業のうち、とりわけ同族会社においては、

業務上の費用と私的な費用の区別が曖昧となりがちで、税務調査で指摘される

ことも多いです。こうした区別をきちんとすることはもちろん、業務上の費用でも私的な費用と誤解を受けることがないように、所定の書類などをそろえておきましょう。

販管費に係る税務上の重要ポイントは次の通りです。

  • 交際費の損金算入限度額
  • 10000円以下の接待飲食費
  • 交際費と会議費の区別
  • 業務上の交際費と私的交際費の区別
  • 福利厚生費の範囲
  • 寄附金の損金算入限度額とその範囲
  • 租税公課
  • 業務委託費(グループ会社などに対するもの)の取り扱い

2 販管費に係る税務上の取り扱いと留意点

1)交際費・会議費

1.交際費の損金算入限度額の算定方法

原則として、交際費は全額が損金算入できません。しかし、取引先との接待飲食費(社外飲食費)の50%相当額については、損金算入できます。また、中小法人については、特例として年800万円まで損金算入が認められています(「定額控除限度額」といいます)。

つまり、中小法人は社外飲食費の50%相当額と定額控除限度額とを比較し、いずれか多い方を損金算入限度額として選択することができます。

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上記の「社外飲食費」については、帳簿書類に次の項目を記載しておく必要があります。税務調査においては、この記載事項についてチェックされるので注意しましょう。

  • 飲食等を行った年月日
  • 飲食等に参加した得意先や仕入先等の氏名または名称およびその関係
  • 飲食費の額ならびに飲食店の名称および所在地
  • その他飲食費であることを明らかにするために必要な事項

2.10000円以下の接待飲食費の取り扱い

取引先との接待飲食費のうち、1人当たり10000円以下のものは交際費の範囲から除かれます(以下「少額交際費」)。従って、少額交際費は上記1.の損金算入限度額に含めることなく損金算入できます。ただし、少額交際費として取り扱うためには、帳簿書類に上記の記載事項の他に、

  • 飲食等に参加した者の人数

も追加で記載する必要があります。

3.交際費と会議費の区別

会議や打ち合わせで提供されるお茶やお菓子、昼食代といった飲食費は、通常は会議費として損金に算入できます。ただし、昼食代であっても、通常の金額を超えるようなものについては交際費とされます。

どの程度までが会議費として認められるかについて、税務上では明らかにされていません。しかし、例えば居酒屋や高級飲食店などにおける飲食費など、一般的な会議では利用されなそうな場所での飲食費などは、税務調査において交際費と指摘される可能性が高いです。

4.業務上の交際費と私的交際費の区別

お酒を共にする接待などは、取引先と懇親を深めることができるでしょう。中小企業においては、一定限度額まで損金算入することが認められています。

一方、経営者1人での飲食など私的なものについては、税務上の交際費とはされずに「役員給与」とされ、損金算入できません。なお、役員給与の詳細な取り扱いについては、下記のリポートをご参照ください。

また、取引先との接待費用であっても、帳簿書類でそれが証明できない場合や領収証が無い場合などは、税務調査において私的費用として疑われる可能性もあるので注意しましょう。

2)福利厚生費

役員や従業員(以下「従業員等」)の慰安のために行われる旅行や新年会・忘年会などに通常要する費用で、おおむね従業員等の全員を対象とする場合は福利厚生費とされ、損金算入できます。また、従業員等またはその親族等のお祝いやご不幸などに際して、一定の基準に従って支給される金品(例えば、結婚祝いや香典など)も福利厚生費として損金算入できます。

一方、特定の従業員等のみを対象とした旅行費用や、特定の人だけ基準を超える高額な香典などは福利厚生費とされず、税務上は「給与」として取り扱われます。「給与」と認定されると、所得税の源泉徴収が必要ですし、役員の場合は費用そのものが損金算入できません。

税務調査においては、例えば社員旅行の場合は対象者が誰であるか、香典などについては、一定の基準(社内規程など)通りに支払われているかなどをチェックされるので注意しましょう。

3)寄附金

1.寄附金の種類と損金算入限度額の算定方法

法人税法において寄附金は次の4種類に区分され、それぞれ損金に算入できる金額(損金算入限度額)が定められています。

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2.税務上の寄附金の範囲

国・地方公共団体や一定の公益法人等(以下「国等」)に対する寄附金は会社が意図して行うものであり、領収証も発行されるため、他勘定で処理するといった誤りは少ないでしょう。

しかし、税務上の寄附金はこういった国等に対する意図した寄附金よりも非常に範囲が広く定義されています。例えば、

資産を時価より低く譲渡した場合、「譲渡した相手方に利益供与を行った」として、税務上は時価と譲渡価額との差額が寄附金として取り扱われる

ことがあります。

また、

返済能力のある取引先に対する売掛金を債権放棄した場合なども、「取引先に対して利益供与を行った」として、債権放棄額が寄附金として取り扱われる

こともあります。このように税務上の寄附金は、一般的な用語で使われるものより非常に範囲が広いため注意しましょう。もし判断に困るケースが出てきた場合には、税理士などの専門家に相談することが重要です。

4)租税公課

租税公課にはさまざまな種類がありますが、税務上、その種類によって損金に算入できるものとできないものとがあります。また、損金に算入できるものであっても、その損金に算入する時期が決まっています。主な租税公課の取り扱いは次の通りです。

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5)業務委託費

自社で作業が不可能な業務などを外部に業務委託した際に支払う業務委託費については「役務提供を受けた日」において損金に算入されますが、業務委託先がグループ会社や親族の経営する会社の場合には、業務委託費の金額を意図的に操作することも可能なため、税務調査においては重点的に調べられます。

従って、グループ会社などに対する業務委託費については、

金額の決定過程を税務調査時に詳細に説明できるよう、関係書類などを事前に準備する

ことが重要です。

以上(2025年4月更新)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 税理士 富永慎也)

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画像:buritora-Adobe Stock

育児休業の悩み解消。助成金(最大1342万円)で代替要員を確保!

1 両立支援等助成金で社員の子育てをサポート!

2025年4月1日に改正育児・介護休業法が施行され、子育てをする社員の支援制度がさらに手厚くなりました。人手不足の中小企業にとっては、「育児休業(以下「育休」)等を取得する社員が増えたら、仕事が回らなくなる……」と不安かもしれませんが、

休業する社員の業務をカバーする他の社員に手当等を支給したり、代替要員を新たに雇ったりすると、最大で1342万円が支給

されます。紹介するのは両立支援等助成金です。今どきの社員は、会社に「子育てなどと仕事の両立」を求めており、これに応える上で、この助成金はとても重要です。以降では、制度概要と併せて専門家のポイントを紹介するので、参考にしてください。

なお、助成金の内容は2025年4月14日時点のもので、将来変更される可能性があります。また、申請書の書き方や添付書類については、全コースまとめてこちらに記載されていますので、ご確認ください。

■厚生労働省「事業主の方への給付金のご案内」■
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kodomo/shokuba_kosodate/ryouritsu01/index.html

2 育休中等業務代替支援コース(最大1342万円)

1)育休中等業務代替支援コースとは?

社員が育休を取得したり、短時間勤務制度を利用したりしている間、その社員の業務をカバーする他の社員に手当等を支給したり、代替要員を新たに雇ったりした場合に助成金を受け取れるコースです。

2)助成金を受け取るには?

このコースは「手当支給等(育児休業)」「手当支給等(短時間勤務)」「新規雇用(育児休業)」に分かれていて、次の要件などを満たす必要があります。

1.手当支給等(育児休業)※社員数300人以下の会社が対象

社員が7日以上の育休(産後パパ育休を含む)を取得し、その業務をカバーする他の社員に対し、会社が手当等を支給する必要があります。手当等の内容は事前に就業規則等で定めなければなりません。

2.手当支給等(短時間勤務)※社員数300人以下の会社が対象

社員が短時間勤務制度(3歳未満の子を養育する社員を対象とするもの)の措置を受けられる制度を1カ月以上利用し、その業務をカバーする他の社員に対し、会社が手当等を支給する必要があります。手当等の内容は事前に就業規則等で定めなければなりません。

3.新規雇用(育児休業)※中小企業が対象

社員が7日以上の育休(産後パパ育休を含む)を取得し、その業務をカバーする他の社員を、会社が新たに雇用し(または派遣で受け入れ)、実際に業務を代替させる必要があります。

3)受け取れる金額はいくら?

手当支給等(育児休業)・手当支給等(短時間勤務)・新規雇用(育児休業)それぞれについて、図表1の額を受け取れます。その他、

  • 育休取得者(または短時間勤務利用者)が有期雇用の場合、業務代替期間が1カ月以上であれば「有期雇用労働者加算」
  • プラチナくるみん認定を受けている場合、「プラチナくるみん認定事業主への加算」
  • 育休の取得状況を厚生労働省が運営するウェブサイト「両立支援のひろば」で公表した場合、「育休等に関する情報公表加算」

を受けられます。

■厚生労働省「両立支援のひろば」■
https://ryouritsu.mhlw.go.jp/

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支給額の計算がややこしいですが、仮に手当支給等(育児休業)を1年度10人まで申請した場合、加算も含めると最大1342万円を受け取れる計算になります。

4)専門家のワンポイントアドバイス

子育てをする社員へのサポートに注力するあまり、その業務をカバーする他の社員へのフォローが手薄になって、職場から不満が上がるケースは珍しくありません。助成金額と照らし合わせつつ、手当等がカバーに回る社員の負担を考慮した額になるよう制度を設計しましょう。

また、このコースは1年度につき10人までが支給対象になるという手厚い内容ではありますが、「手当支給等(育児休業)」「手当支給等(短時間勤務)」「新規雇用(育児休業)」を合わせて10人なので、どの方法で社員の負担を軽減していくのかを計画的に決めましょう。

なお、コース共通の条件として、次世代育成支援対策推進法に基づく一般事業主行動計画を策定し、都道府県労働局に届け出ていることが必要となります。申請日が行動計画期間内である事も条件となっていますので、ギリギリで動くのではなく余裕を持った対応が求められます。(プラチナくるみん認定を受けている場合、行動計画の策定・届出がなくても支給対象)。

3 出生時両立支援コース(最大127万円)

1)出生時両立支援コースとは?

会社(実際は支店等の事業場単位)が、「男性社員」が育休を取得するための雇用環境や業務体制を整備し、男性社員が実際に育休を取得した場合、助成金を受け取れるコースです。

2)助成金を受け取るには?

このコースは「第1種」「第2種」に分かれていて、次の要件などを満たす中小企業が対象となります。

第1種

一定の「雇用環境整備措置」を講じた上で、就業規則等に基づいて引き継ぎなどの業務体制を整備し、男性社員が産後8週間以内に連続5日以上の育休(産後パパ育休を含む)を取得する必要があります(2人目の取得者は10日以上、3人目の取得者は14日以上)。この他、休業期間中に含まれる所定労働日数に関する日数条件もあります。

雇用環境整備措置とは次の5つのことで、育休取得者の数などに応じて、2~5つの措置を講じる必要があります。

第2種

男性社員の育休取得率が一定の要件を満たす必要があります。また、第1種と同じく雇用環境や業務体制の整備に関する要件もあります。

3)受け取れる金額はいくら?

第1種・第2種それぞれについて、図表2の額を受け取れます。また、育休中等業務代替支援コースと同じく、「プラチナくるみん認定事業主への加算(第2種申請時のみ)」「育休等に関する情報公表加算」も受けられます。

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第1種(3人分)と第2種、さらに加算を含めると、最大127万円を受け取れる計算になります。ただし、第1種と第2種を、同一年度内に申請することはできません。

4)専門家のワンポイントアドバイス

第2種については、2024年度までは「第1種の申請から、3年度以内に一定の取得要件を満たさないと受給できない」というルールがありましたが、現在は第1種の申請がなくても、受給できるようになっています。このコースも、受給の条件として、次世代育成支援対策推進法に基づく一般事業主行動計画を策定し、都道府県労働局に届け出ていることが必要となります。

4 育児休業等支援コース(最大122万円)

1)育児休業等支援コースとは?

社員(男性・女性を問わない)の育休の取得・職場復帰が円滑に進むよう、会社が一定の取り組みをした場合、助成金を受け取れるコースです。

2)助成金を受け取るには?

このコースは「育休取得時」「職場復帰時」に分かれていて、次の要件などを満たす中小企業が対象となります。

1.育休取得時

「育休復帰支援プラン」という、育休(産後パパ育休を含む)の取得・職場復帰をサポートするための計画書を策定する必要があります。まず、育休復帰支援プランを使って、育休の取得・職場復帰をサポートする旨を社内に周知し、育休取得者のプランを本人との面談を通して作成します。その上で、本人に連続3カ月以上の育休を取得させる必要があります。

2.職場復帰時

1.の育休取得者の休業終了時に、本人と面談をして原職等に復帰させ、6カ月以上継続雇用する必要があります。「育休取得時」の助成金を受給していないと申請できません。また、育休取得者を継続雇用する際は、本人が雇用保険の被保険者である必要があります。

3)受け取れる金額はいくら?

育休取得時・職場復帰時それぞれについて、図表2の額を受け取れます。どちらも社員2人(無期雇用1人、有期雇用1人)まで受給可能です。また、「育休等に関する情報公表加算」も受けられます。

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育休取得時(2人分)と職場復帰時(2人分)、さらに加算を含めると、最大122万円を受け取れる計算になります。

4)専門家のワンポイントアドバイス

支給要領では、育休復帰支援プランを策定する場合、少なくとも育休取得者の、

について定めなければならないとされています。厚生労働省ウェブサイトでは、プランの様式や、職場の状況(代替要員の確保が難しい、残業が多いなど)に応じたモデルプランを記載したマニュアルが公表されているので、参考にしながら策定を進めてください。

■厚生労働省「育休復帰支援プラン策定のご案内」■
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000067027.html

このコースも、受給の条件として、次世代育成支援対策推進法に基づく一般事業主行動計画を策定し、都道府県労働局に届け出ていることが必要となります。

5 柔軟な働き方選択制度等支援コース(最大127万円)

1)柔軟な働き方選択制度等支援コースとは?

3歳以上小学校就学前の子を養育する社員のために、短時間勤務などの柔軟な働き方に関する制度等を複数導入した上で、実際に対象者に利用させた場合に助成金を受け取れるコースです。

2)助成金を受け取るには?

このコースでは、「柔軟な働き方選択制度等」という図表4の制度等を、最低でも2つ以上導入する必要があります(就業規則等への規定も必須です)。制度等を導入した上で、「育児に係る柔軟な働き方支援プラン」という、社員の柔軟な働き方をサポートするための計画を策定し、その計画に基づいて社員が利用開始から6カ月間のうちに、制度等を一定基準以上利用すると、助成金を受け取れます。助成対象は中小企業のみです。

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3)受け取れる金額はいくら?

柔軟な働き方選択制度等を2つ以上導入し、対象者(3歳以上小学校就学前の子を養育する社員)が一定基準以上利用した場合、図表5の額を受け取れます。また、「育休等に関する情報公表加算」も受けられます。

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制度等を3つ以上導入し、1年度に社員5人が利用した場合、加算も含めると最大127万円を受け取れる計算になります。

4)専門家からのワンポイントアドバイス

このコースは、改正育児・介護休業法の「柔軟な働き方を実現するための措置等」との関連性が深いです。会社は2025年10月1日から、図表4で紹介した「始業時刻の変更」など5つの制度から2つ以上を選択して実施する義務を負います。法改正への対応は必須なので、制度を見直す過程で、助成金の申請も併せて検討するとよいでしょう。

このコースも、受給の条件として、次世代育成支援対策推進法に基づく一般事業主行動計画を策定し、都道府県労働局に届け出ていることが必要となります。

6 不妊治療及び女性の健康課題対応両立支援コース(最大90万円)

1)不妊治療及び女性の健康課題対応両立支援コースとは?

女性社員が不妊治療と仕事を両立したり、健康課題(月経や更年期)に対応したりするため、休暇制度などを導入し、実際に対象者に利用させた場合に助成金を受け取れるコースです。

2)助成金を受け取るには?

このコースは「不妊治療」「女性の健康課題対応(月経)」「女性の健康課題対応(更年期)」に分かれていますが、大まかな要件は共通しています。次の制度のいずれかを導入し、1年間に5日以上、対象者に利用させる必要があります。助成の対象は中小企業のみです。

3)受け取れる金額はいくら?

不妊治療・女性の健康課題対応(月経)・女性の健康課題対応(更年期)それぞれについて、図表6の額を受け取れます。加算は特にありません。

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それぞれについて支給要件を満たした場合、最大90万円を受け取れる計算になります。

4)専門家のワンポイントアドバイス

このコースでは、休暇制度や短時間勤務制度を1年に5日以上対象者に利用させる必要がありますが、不妊治療や女性の健康課題対応が目的であることが明確でない場合、利用しても日数にカウントされません。

例えば、休暇制度を設ける場合、女性社員が利用しやすいよう「ファミリーサポート休暇」などの名称にすることがありますが、助成金の受給を考えるのであれば、「休暇申請書などの際に利用目的を記載する欄を作ること」などを検討する必要があるかもしれません。ただ、その場合、労務担当者が男性だと申請しにくい女性社員もいるでしょうから、女性の担当者を配置するなどの配慮は必須です。

以上(2025年4月作成)
(監修 人事労務すず木オフィス 特定社会保険労務士 鈴木快昌)

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画像:ChatGPT