書いてあること
- 主な読者:創業期、成長期を経て成熟期を迎え、資金繰りにもある程度の余裕がある会社の経営者(40~60歳代)
- 課題:老後の生活にいくら必要になるのか予想がつかない。資金不足に備えて、資産運用を検討したいが、どうしたらよいか分からない
- 解決策:老後の資金がいくらになるかシミュレーションしてみる。金融商品の特徴を押さえ、家計で「当面使う予定のないお金」を投資に振り向けてみる
1 老後の資金はいくら必要?
「人生100年時代」と言われる今、老後の資金はいくら必要になるでしょう?
突然そんな質問をされたとき、明確な根拠をもって答えられるでしょうか。
数年前、話題となった「老後資金2000万円問題」を思い出された方もいるでしょう。そのきっかけとなったのは、金融庁の金融審議会 市場ワーキング・グループ報告書「高齢社会における資産形成・管理」(2019年6月)です。そこでは、「夫65歳以上、妻60歳以上の夫婦のみの無職の世帯では毎月の不足額の平均は約5万円であり、まだ20~30年の人生があるとすれば、不足額の総額は単純計算で1,300万円~2,000万円になる」ということが書かれています。報告書に使われた統計データ等の前提条件下では、公的年金を中心とした収入だけでは資金不足に陥る恐れがあるというわけです。
とはいえ、実際に老後に必要となるお金は、年金や貯蓄額、保有資産、生活スタイル、健康状態などによっても大きく異なります。老後の生活にいくら必要になるのかは、
ご自身やご家族がどのように暮らしたいのか、最低でも守りたい生活水準はどれくらいか
によります。生活水準を下げるのは、なかなか難しいことですし、そうした事態はなるべく避けたいものです。
この記事では、老後の生活に必要なお金をシミュレーションしてみるためのツール、そして将来的な資金不足に備え、それを補うために、家計で「当面使う予定のないお金」を投資に振り向けようとする際、押さえておきたい主な金融商品の特徴を紹介します。
なお、以降で紹介するのは情報提供のみを目的とするものであり、取引の申し込みや勧誘、あっせん、推奨、助言、金融商品を含む商品やサービスの販売等を目的として提供されるものではありません。
また、実際の個人の資産運用についてはファイナンシャルプランナーなど専門家に相談するとよいでしょう。
2 老後の生活に必要なお金をシミュレーションしてみる
ここでは、生命保険文化センターがウェブサイトを通じて無償提供しているシミュレーションツールを紹介します。シミュレーションには前提条件がありますので、あくまで、ライフイベントなどに応じて必要になるお金の目安を把握するためのものとしてご活用ください。
1)生命保険文化センター「e-ライフプランニング」
基本情報(生年月日、性別、配偶者の有無、家計を主に担う方はご自身か配偶者か、子どもの有無)を入力し、「ライフプランを作る」「リスクに備える」などのメニューに進み、必要情報(家計の収支・資産や将来のリスクなど)を入力することで、退職後のセカンドライフ、老後生活資金の不足などについて結果を確認できます。
■生命保険文化センター「e-ライフプランニング」■
https://www.jili.or.jp/e-life/
2)不足するかもしれないお金をどのようにカバーするか
老後の生活に必要なお金をシミュレーションしてみた結果、将来的に生活資金が不足するかもしれないことが分かったとしたら、どうすればよいでしょうか。
まずは、ご自身の家計を、大まかに次のように分けて、それぞれどれくらいの金額がかかっているのかを整理してみましょう。
- 生活に必要な当座のお金・生活予備資金:生活費、急な出費に備えるお金など
- 使い道と時期が見えているお金:子どもの教育資金、住宅購入・リフォーム資金など
- 当面使う予定のないお金
そして、まずは、ムダな出費をできる限り抑えるようにしましょう。その上で、「当面使う予定のないお金」があるならば、それを預貯金だけでなく、バランスよく他の金融商品に振り向けることを検討してみましょう。日本ではマイナス金利政策が解消されたとはいえ、預金金利は低い水準が続いており、銀行にお金を預けていてもさほど増えないのが実情だからです。
3 ご自身と相性のよさそうな金融商品の見つけ方
金融商品にはたくさんの種類があり、商品によって特徴もさまざまです。ご自身と相性のよさそうな金融商品を見つけるために押さえておきたいのが「リスク許容度」です。
リスク許容度とは、投資によって損失が出るリスクをどこまで受け入れられるかを示す限度のことで、年齢(=運用できる期間)、家族構成(=予定されるライフイベント)、収入や保有資産の状況、これまでの投資経験、ご自身の性格などによって個人差があります。
試しにご自身の性格がどんなタイプか、次の簡単な質問に「はい/いいえ」で答えていってみてください。
いかがだったでしょうか? 割と当たっているという方もいれば、全然違うという方もいるかもしれません。
リスク許容度の診断テストを、ウェブサイトを通じて提供している金融機関などもあるので、ご興味のある方は「リスク許容度 診断」などのキーワードで検索してみてください。
4 押さえておきたい主な金融商品の特徴
金融商品は「安全性」「収益性」「流動性」という3つの観点で整理すると、特徴が分かりやすくなります。それぞれ簡単に言うと、次のような意味合いです。
- 安全性:元本が保証されているか
- 収益性:どれくらいの収益が期待できるか
- 流動性:必要なときにすぐに現金化できるか
主な金融商品の特徴を押さえて、ご自身と相性のよさそうな金融商品を見つけてください。
1)預貯金
預金(銀行や信用金庫などに預けている日本円)と貯金(ゆうちょ銀行に預けている日本円)は、必要なときに引き出すことができ、万一、金融機関が破綻しても預金保険の対象として1000万円まで(とその利息)は全額保護されます。普通預金の金利は、年率0.02%ほど(2024年7月31日時点)で、預けていてもさほど増えません。
2)株式
株式会社が発行する「株式」は、会社が利益を上げるとその一部を配当として株主に還元します。「この会社は成長しそう」と多くの人が思い、株式を購入したがると株価が上がります。購入時よりも株価が上がったタイミングで売却することで利益を得ることもできます。一方、会社の業績が下がると、一般的には株価も下がります。会社が破綻してしまうと株式の価値はゼロになります。株式は比較的簡単に売却して現金化できますが、手元に現金が入るまでは時間がかかります。
先述したチャートで「好奇心旺盛でいろいろ挑戦したいタイプ」となった方は、株式を中心とした資産運用に興味を持つかもしれません。
3)債券
国が発行する国債、地方公共団体が発行する地方債、株式会社などが発行する社債といった「債券」は、利子を支払う時期や利率、満期日があらかじめ決められており、満期日に購入した元本(額面金額)が払い戻されます(償還といいます)。
債券の発行者が破綻するとお金が返ってこない恐れがあるため、格付け会社が、発行者の信用力によって債券を格付けします。収益性は、一般的に預貯金よりも高く、株式より低くなります。満期日前に売却して現金化できますが、金利などの影響を受けて価格が変動し、売却価格が額面を下回って元本割れとなる可能性もあります。
先述したチャートで「堅実で無理はしたくないタイプ」となった方は、債券を中心とした資産運用に興味を持つかもしれません。
4)投資信託
投資信託は、多くの人からお金を集めて、専門家である資産運用会社が株式や債券などで運用するもので「ファンド」ともいいます。運用により利益が出ると配当として、また値上がり益を分配金として保有者に還元します。少額から投資できるものも多いですが、安全性や収益性は投資信託が何にどれだけ投資しているかによります。株式同様、比較的簡単に売却して現金化できますが、手元に現金が入るまでは時間がかかります。
先述したチャートで「大ざっぱだけれどバランスを重視するタイプ」となった方は、投資信託を中心とした資産運用に興味を持つかもしれません。
5 リスクとリターンはトレードオフの関係
リスクという言葉は、「危険」「良くないことが起こる恐れ」という意味合いで使われていますが、資産運用の世界では、リターンのブレの大きさを指すことが一般的です。
そして、リスクの小さな資産からは得られるリターンも小さく、リスクの大きな資産からは大きいリターンが得られると言われています。
ローリスク・ハイリターンの金融商品があれば理想的ですが、現実には存在し得ないので、そのようなことをうたう商品を見つけたら詐欺を疑ってかかったほうが無難です。だまされないように気をつけましょう。
また、ハイリスク・ハイリターンの金融商品の中でも、リスクが高い商品(例えば、FX、信用取引、先物取引など)は、損失が生じたときの影響も大きくなるので注意が必要です。老後の生活に必要なお金をカバーするのには不向きでしょう。
以上(2024年8月作成)
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画像:photo-ac