【事業承継】事業承継のベストタイミングはいつか?業績や最新の判例から検討する

1 事業承継のベストタイミングはいつだ?

事業承継を検討するにあたり、混乱する世界情勢や物価高騰は判断を難しくする要因です。また、事業承継を検討する上で無視することができない通達も出てきます。事業承継はベストなタイミングで行いたいものですが、その判断材料にはどのようなものがあるのでしょうか?

この記事では、「業績低迷時の事業承継」を想定し、重要なポイントとして、

  • 役員退職慰労金など基本的な対策が難しくなる恐れがある
  • 業績が低迷していたら、親族内承継のチャンスである
  • 業績が低迷していたら、M&Aでは不利になる

ことについて紹介します。また、事業承継を検討する上で知っておきたい、

不動産を使った相続税対策

に関する裁判例も紹介します。

2 業績低迷時の事業承継のポイント

1)退職慰労金の支給額や支給時期を再検討

業績が低迷している場合、経営者の退職慰労金を見直さざるを得ません。赤字なのに経営者が高額の退職慰労金を取れば、資金繰りはもちろん、対外的な評価も落とします。退職慰労金の支給は事業承継を進める際のさまざまなスキームで利用されますが、それを検討せざるを得ない状況になる恐れがあります。

また、難しい経営環境の中で皆さんが本当に経営から離れられるかという問題もあります。税務署に経営者が取締役を退任したと認められなければ、退職慰労金の損金算入が否認される恐れがあります。

2)逆張り! 業績低迷時は株式承継のチャンス?

業績が低迷している時こそ事業承継のチャンスであると考えることもできます。中小企業の株価は、主に次の類似業種比準方式で算定されます。

類似業種比準方式

この方式で最も重要な要素は1株当たりの年利益金額なので、利益が落ちれば利益に関する指標がゼロになる場合があります。つまり、株価対策(退職慰労金の支払いなど)をしなくても株価は安くなっており、「安く事業承継ができる」タイミングになります。

詳細は割愛しますが、株価が安くなれば相続時精算課税制度などを利用して後継者に株式を承継させることも検討できます。生前贈与分も相続財産に含まれますが、贈与時の価値で評価されるので、贈与時の価値が小さく、将来の相続時の価値が大きくなることが想定される場合は有利になります。

3)業績低迷時のM&A

M&Aを選択する会社も増加しています。ここでの留意点は、

会社の業績が低迷しているタイミングは、M&A価格も下落する

ことです。中小企業のM&A価格は、時価純資産価額に営業利益の3年分程度を加算して算定するのが一般的です。業績が低迷するとM&A価格も下落するので難しい判断ですが、いつが事業承継のタイミングなのか検討しなければなりません。

3 事業承継に関する重要な判例

1)総則6項による否認

自社株の評価や経営者の個人資産の相続税評価は、国税庁が定める財産評価基本通達(以下「通達」)によって行われます。これは国が全国一律で簡易に相続税を徴収するために作った財産評価のルールです。

ただし、

この通達を使って財産評価することが著しく不適当だと国が判断する場合、この通達の総則6項によって、国は別の評価方法で評価しなおすことができる(通常のルールによって算出した財産評価を否認できる)

のです。

そして、2022年に不動産を活用した相続税対策を国税庁が総則6項により否認をした事例について、最高裁判所の判決が出されました。

2)最高裁判所令和4年4月19日判決の事例とは?

経営者だったA氏は、個人の相続税対策として、銀行から10億800万円を借り入れ、甲不動産(8億3000万円)と乙不動産(5億5000万円)を購入しました。不動産は時価と通達での評価(相続税評価)がかけ離れる傾向があります。A氏が購入した不動産は、いずれも76%の乖離(かいり)が生じています。

取引の概要

つまり、A氏が購入した甲不動産と乙不動産は、通達では甲不動産が2億円、乙不動産が1億3000万円と評価され、合計で10億5000万円分(8億3000万円-2億円+5億5000万円-1億3000万円)、A氏の個人資産が低く評価される結果となりました。これにより、A氏は相続税の負担をゼロ(銀行からの借入金などのマイナスの財産と相殺されるため)としました。

これに対して、国税庁は通達を使うことが著しく不適当だとし、不動産鑑定士が別途鑑定した評価額で相続税を課税しました。

3)なぜ否認されたのか?

A氏のケースは、なぜ総則6項により否認されたのでしょうか?

相続税対策で不動産を購入するのは一般的です。しかし近年、いわゆるタワーマンション節税(タワーマンション1室の相続税評価が低いことを利用した相続税対策)と呼ばれる、相続税の節税対策が広く活用されるようになったため、国は以下の4つの条件を満たす場合は、総則6項で否認をしていく方針を取っています。

1.財産評価基本通達を使うと不合理な結果となる場合

1つ目の条件は、通達を使うと不合理な結果となることです。上記のように、相続間際になって多額の不動産を購入し、相続税をゼロにするようなケースが該当します。

2.合理的な評価方法の存在

2つ目の条件は、通達以外に、他の財産評価方法があることです。不動産に関しては、不動産鑑定士の鑑定評価という別の評価方法があります。

3.評価額の著しい乖離

3つ目の条件は、通達での評価額と別の評価方法による評価額が著しく乖離することです。上記の不動産の評価額が通達で76%低く評価される事例は、この著しい乖離が認められました。

4.納税者が節税のために行ったこと

4つ目の条件は、納税者が節税対策を行った結果、上記3.の乖離が生じたことです。上記の事案では、銀行の稟議書が裁判に提出され、その中に相続税対策のために不動産を取得する旨が記載されていたことが1つの理由となりました。

4)これからの留意点

1.節税だけの対策は行わない

A氏は、相続の約3年前に13億8000万円(甲・乙不動産合わせて)の不動産を購入しています。しかも、A氏の住所は札幌市であるにもかかわらず、取得した不動産は首都圏の不動産でした。このような点から、国はA氏が相続税対策で不動産を取得したと判断したのでしょう。このような裁判例を踏まえると、不動産取得が相続税対策としか考えられないようなケースでは、総則6項による否認のリスクを想定する必要があります。

A氏が、純粋に不動産投資をしていたと判断できるような事実が残されていれば、上記の条件を満たさず、否認されることはなかったかもしれません。

2.時の経過

相続間際になって不動産を取得すると、純粋な不動産投資というよりも相続税対策であると判断される傾向が強くなります。従って、不動産を活用するにしても、相続間際ではなく、相続時から起算しておおよそ3年ないしは5年以上前には不動産を取得し、その後も相当期間その不動産を継続して所有していくことが重要です。

以上(2024年8月更新)
(執筆 日比谷タックス&ロー弁護士法人 弁護士 福崎剛志)

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画像:Mariko Mitsuda

【中小企業のためのM&A】基本となる9つのプロセスを順番に確認

1 事業拡大から事業承継まで。中小企業にも身近になったM&A

新規事業への進出から事業承継まで、会社経営の重要な局面で有力な選択肢となるのが「M&A」です。M&Aとは、

Mergers(合併)and Acquisitions(買収)の略称で、資本の移動を伴う企業の合併と買収のこと

です。最近は、会社の成長を目指す中小企業と事業承継をしたい中小企業とがM&Aをするなど、M&Aは中小企業にとっても身近なものになっています。

M&Aで重要なのは、

明確なビジョン・目的を明確にした上で、理想のシナリオを描き、戦略的にM&Aを進めていくこと

です。とはいえ、M&Aで買収するモノ(事業)は、ビジネス上、頻繁に行われる商品の売買とは大きく異なる点が多々あります。経営者としては、

  • 買収先はどうやって探す?
  • M&Aを進める体制はどうする?
  • M&Aのスキーム(手法)はどれが適切?
  • どのような情報を基に買収を判断したらよい?
  • 買収した会社をどのように運営していけばよいか?
  • 期待する効果は得られる?

などの疑問や課題が浮かび、何をどこから検討すればよいのかお困りかと思います。

この記事では、M&Aの全体を簡潔に分かりやすくまとめました。これからM&Aを検討する経営者の方に、最初に読んでいただくことを想定しています。M&Aの全体を把握し、疑問や課題を整理するためにお役立てください。

2 M&Aの基本となる9つのプロセス

M&Aの基本的なプロセスは次の通りです。

M&Aの基本的なプロセス

1)M&Aの相手を選定

まずは、M&Aの相手となる企業を探します。M&Aの明確な目的がないままに、やみくもに相手を探してもM&Aは失敗してしまうことが多いです。そのため、M&Aのビジョン・目的をしっかり考えることが先決です。つまり、

  • M&Aは、新規の事業を始めるために行うのか、既存の事業の強みを伸ばすために行うのか、弱みを補完するために行うのか
  • M&Aの結果、会社をどのように拡大していきたいのか

などを考えます。

また、相手の探し方は、

  • 特定の企業を一本釣りで検討する
  • M&Aの売り手と買い手をつなげるM&A仲介会社や、FAと呼ばれるフィナンシャル・アドバイザーに相手となる会社の候補をリストアップしてもらって検討する
  • インターネット上のM&Aマッチングサービスを利用して、ニーズに合う会社を探して検討する

などさまざまです。

相手先の設立年度や資本金、株主構成、業績の推移、今年度の事業の見通しなどを確認するとともに、自社と社風や風土が合うかどうかなど、数字に表れない部分も検討する必要があるでしょう。

2)秘密保持契約(NDA:Non-Disclosure Agreement)の締結

M&Aでは、会社の重要な情報を開示する必要があります。M&Aの対象となる会社としては、会社の重要な情報だけ吸い上げられて、それを利用されることは避けたいと考えます。そのため、情報を開示する前に秘密保持契約(NDA:Non-Disclosure Agreement)を結ぶことが不可欠です。

NDAを締結し、M&Aの対象となる会社からビジネスの商流や仕入先、販売先、今後の事業展開など、通常第三者に知られたくない重要な情報を開示してもらいながら、M&Aを実行することが双方にとって良い結果となるかを検討していくことになります。

3)M&Aのスキーム(手法)の策定

中小企業の場合、

株式譲渡のスキームが取られることが大半

ですが、さまざまな事情を考慮して、事業譲渡や会社分割、場合によっては合併などのスキームを検討することになります。どのようなスキームを取るかは、M&Aのビジョン・目的を達成するためにどうすればよいかという点の他、スケジュールや法務、税務、会計上の観点を加味しながら決めることになります。

M&Aのスキームによっては、自社に不必要な資産や負債を引き継いでしまうなど、想定していたM&Aのメリットを得られない場合もあります。簡単でもよいので専門家に相談するなどして、それぞれのスキームのメリット・デメリットを理解しながら進めることをお勧めします。

4)条件交渉

双方にとって譲れない条件は何かなど、契約の核となる点について交渉をします。この段階で条件面の折り合いがつかなければ、後述する基本合意を締結することなくM&Aは決裂となります。また、この段階での交渉は、M&Aの核となる部分ですので、とても重要なフェーズといえるでしょう。例えば、一般的に、次の事項について条件交渉をすることが多いです。

  • 独占交渉の有無
  • 譲渡対象となる重要な部分(事業譲渡の場合は事業の内容・範囲、株式譲渡の場合は譲渡株式数、譲渡対価など)
  • 買収後の会社の運営体制の方向性(取締役、キーパーソンの去就など)

クロージングまでのスケジュール

5)基本合意の締結

M&Aでは、詳細まで合意を得ることになるので、クロージングするまでに半年から1年程度の期間を要することも珍しくありません。そのため、前述した基本事項が合意でき、おおよその方向性が決まった段階で基本合意書が締結されることがよくあります。

なお、基本合意は、あくまで双方の今後の交渉にあたっての認識の擦り合わせという意味合いが多いため、

基本合意に定める事項には法的拘束力を持たないこと

も少なくありません。基本合意は、LOI(Letter of Intent)やMOU(Memorandum of Understandings)などと呼ばれることもあります。

6)デューディリジェンス・バリュエーション

M&Aに向けた方向性が決まった段階で、M&Aの対象となる会社の実態を調査するため、デューディリジェンス(DD)が行われます。中小企業同士のM&Aでは、コストやスケジュールとの関係で、DDを行わなかったり、調査する範囲を絞ったりすることが少なくありませんが、一般的には、ビジネス、会計、法務の他、税務、人事労務などの観点から、M&Aのビジョン・目的との関係で気になる点に絞って調査をすることが多いように思います。

DDは、軽視されることもありますが、買い手にとってはM&Aを後悔しないために必ず行ったほうがよいプロセスです。

DDの結果によって、M&Aの検討を断念したり、基本合意で擦り合わせた条件内容を変更する交渉を行ったりするような場合があります。

7)最終契約の締結

DDによって明らかになった内容や問題点を踏まえて、譲渡価格、譲渡条件、表明保証条項、誓約条項、譲渡後の義務等について協議をし、最終的に合意に至った内容を契約書に整理して締結することになります。

中小企業のM&Aでは、最終契約の締結日に、対象会社において必要な株主総会・取締役会といった内部手続きを経ることが多いです。

8)クロージング(契約の効力発生日)

中小企業同士のM&Aでは、最終契約の締結日に契約の効力が発生し、クロージングとなる場合もあります。ただし、一般的には最終契約で定めたクロージングの前提条件の履行や会社法、商業登記法等の手続き上必要なことを行うため、契約締結日とクロージング日は別の日とすることが多いです。

9)M&A後の統合プロセス(PMI)

M&Aで最も大事なことは、

クロージング後に買収した事業を買い手の下で、どのように軌道に乗せていくか

ということに尽きるといってもよいでしょう。

一般的に、クロージング後は、買い手がM&Aを決めた目的を達成するのに必要な事業シナジーの実現のための事業計画の策定や実行、KPI(目標達成度を測る指標)の設定・管理、人事労務関係、決裁プロセス、社内規程等の統合作業などが行われます。

以上(2025年9月更新)
(執筆 リアークト法律事務所 弁護士 松下翔)

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画像:Mariko Mitsuda

【事業承継】「財産の承継」は合わせ技。基本的な方法を押さえよう

1 事業承継で重要となる自社株式の評価

オーナー企業の事業承継では、自社株式の評価額が非常に重要になります。業績好調で利益を積み重ねれば自社株式の評価は上がりますが、事業承継に限っていえば、評価が上がるのは好ましいことばかりではありません。なぜなら、

親族内承継であれば評価額を下げたいですし、M&Aによる第三者への承継であれば評価額を上げたい

からです。実際、親族内承継の場合、後継者に株式の買い取り資金がないこと、譲渡の際の贈与税・相続税が高いということが課題となっています。

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自社株式を後継者に「安く」引き継ぐことが事業承継を成功させるポイントですが、

  • さまざまな方法があり、それぞれ専門的である
  • 専門家や支援機関によって指摘するポイントが違う

といった課題があり、とっつきにくい分野です。そこで、この記事では、親族内承継を中心に財産の承継において、これくらいは知っておきたいというポイントをまとめます。実際に取り組む際は、必ず専門家などにご相談ください。

2 後継者に「3分の2以上」の株式を集中させる

後継者に自社株式を集中させる必要がありますが、具体的な割合を意識していますか? 過半数あれば大丈夫と考えているかもしれませんが、これは「普通決議」ができる水準にとどまります。より安定的な経営をするためには、「特別決議」ができる3分の2以上を後継者に集中させなければなりません。「特別決議」で決められることには「定款の変更や組織再編など」があり、より積極的な経営がしやすくなります。一方、長く続いている会社ほど株式が分散する傾向があります。そこで、

会社や後継者が自社株式を買い取り、後継者を対象にした新株発行などを通じて、後継者の持株比率を高めること

を検討する必要があるでしょう。

さらに、事業承継をした後の株式分散を防止するために、定款に株式譲渡制限や株式の買い取り請求に関する事項を定めることも検討しましょう。

3 自社株式の評価を引き下げる、引き継ぐ数を減らす

1)自社株式の評価を引き下げる方法

自社株式の評価方法はさまざまです。中小企業の場合、

  • 類似業種比準価額方式:事業内容が類似する上場会社の平均株価を参考に計算する
  • 純資産価額方式:評価時点で資産や負債を時価評価した場合の純資産価額を、自社株式の数で除して計算する
  • 両方を併用

が用いられますが、いずれも純資産価額を引き下げれば自社株式の評価は下がります。純資産価額を引き下げる方法には、

  • 役員退職慰労金を支払う
  • 不動産を購入する

などがあります。特に役員退職慰労金は、経営者と後継者が話し合ってしっかりと決めるべきです。経営者は「勇退時にいくら欲しいのか」を明確に告げ、時期を決めて支給すれば自社株式の評価を引き下げられます。とはいえ、いくらでもよいというわけではなく、過大であれば税務上否認される恐れがあります。また、不動産の購入についても相続時の評価などに注意する必要があります。

2)引き継ぐ自社株式の数を減らす方法

全株式を引き継ぐと後継者の負担が重くなります。「3分の2」の株式を後継者に集中させれば、残りの3分の1は別の株主でもよいわけです。それも、

会社の方針に賛成し、長期に保有してくれる安定株主が好ましい

ということであり、ここで検討されるのが「従業員持株会」の設立です。従業員に株式を保有してもらえば、経営の安定と事業承継時の後継者の負担軽減が実現します。

4 「相続」の負担を軽減する

高齢の経営者が親族内承継をする場合、「相続」が事業承継の中心的な話題となります。負担軽減にどのような方法があるのか、ポイントを簡単に紹介します。

1)相続時精算課税:イメージは2500万円+年間110万円

「相続時精算課税」とは、贈与税の先送りのような制度です。具体的には、生前贈与について、特別控除(累計2500万円)と基礎控除(年間110万円で、2024年1月1日以後の贈与に適用)の合計額まで贈与税が非課税となり、これを超える部分には一律20%の贈与税がかかります。実際に相続が発生した場合、生前贈与した部分(年間110万円の基礎控除分を除く)も含めて相続財産を評価し、相続税を計算します。ポイントは、

生前贈与した時点と、相続した時点の財産の価値の違い

です。価値が小さいうちに生前贈与し、価値が大きくなったときに相続が発生すると、生前贈与時の小さい価値により相続財産とされるため、後継者の負担は軽減されることになります。つまり、将来、業績が向上して自社株式の評価が高まると考えるなら、相続時精算課税はさらに有効な手段になります。

2)暦年贈与:イメージは年間110万円

「暦年贈与」という制度もあります。これは、年間110万円までの贈与が非課税となる制度です。非課税はうれしいところですが、年間110万円までしか非課税枠がなく、10年間にわたって利用しても贈与できるのは1100万円です。経営者が若く、よほど計画的に事業承継を検討していない限り、メリットは小さいかもしれません。また、前述した相続時精算課税と併用することもできません。なお、暦年贈与については死亡日以前3年~7年間の分を相続財産に加えることになっています。つまり、相続税がかかるということです。

  • 死亡日以前3年間:これまで同様に全て相続財産に加える
  • 死亡日以前4〜7年間(2027年の相続については最長4年間となり、翌年から段階的に延長され2030年以後の相続で最長7年間):100万円を差し引いた額を相続財産に加える

といった取り扱いになります。

3)事業承継税制

事業承継税制とは、

一定の要件を満たし続ければ、承継した自社株式にかかる相続税・贈与税が猶予・免除される制度

です。一定の要件についての詳細は割愛しますが、簡単にいうとある程度の規模を継続しながら会社経営を続け、事業承継のたびにこの制度を使えば、相続税と贈与税が猶予・免除され続けるというものです。

4)持ち株会社(ホールディングス)

厳密には相続と違いますが、事業承継の通過点として持ち株会社(ホールディングス)が設立されることもあります。株式移転などの組織再編の手法を用いるのですが、

持ち株会社に会社の株式を移転。事業会社(元の会社)は、持ち株会社の100%子会社

とします。経営者は持ち株会社の代表、後継者は元の事業会社の代表になり、経営者は持ち株会社の代表の立場から後継者の経営をサポートします。ある意味で「院政」のような体制となりますが、後継者がまだ若い場合など、事業承継前のワンステップとして有効です。

5 遺言書の作成、家族信託の利用

1)遺言書の作成

ここまで後継者の負担軽減を前提に説明してきましたが、それ以外の親族への配慮も必要です。例えば、経営者に長男と次男がいて、後継者である長男にだけ遺産を集中させると次男が不満を覚え、兄弟げんかになって会社経営に悪影響を及ぼしかねません。そこで、経営者は「遺言書」を作成し、

遺産の配分や、配分した意図(法的拘束力はない)

を残しておくことが大事です。なお、相続には「法定相続分」があります。例えば相続人が「配偶者や子」の場合、それぞれ2分の1ずつ相続できることになっています。しかし、遺言書を書くとこれを変えることができます。とはいえ、遺言書に書いたからといって法定相続分がゼロになることは問題なので、「遺留分」が定められています。相続人が「配偶者や子」の場合、それぞれ4分の1ずつ相続できることになっています。

2)家族信託の利用

ちょっと視点は変わりますが、財産の承継を間違いなく行うために、「家族信託」を利用することもあります。家族信託とは、

経営者が家族に財産(自社株式も含む)の管理を託すこと

であり、経営者が認知症になった際の対策として利用されるのが一般的です。高齢な経営者は認知症のリスクがあり、万一の場合は冷静な判断ができません。そうなると事業承継どころか会社経営が立ち行かなくなってしまうため、家族信託を利用し、長男が「議決権」を行使できるようにするなどします。

6 M&Aを検討する際の主なポイント

1)M&Aの目的と課題

ここまで親族内承継を中心に考えてきましたが、最後にM&Aについても簡単に触れておきます。アンケートなどを見るとM&Aに対する悪いイメージは根強いようですが、一方で近年は後継者不足からM&Aによる第三者への承継が増えているのも事実です。M&Aによって想定されている効果と課題は次の通りです。

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2)M&Aの種類

M&Aにはさまざまな種類があり、代表的な方法およびそれぞれの特徴は次の通りです(中小企業庁「事業引継ぎハンドブック(2015年9月)」)。

1.株式譲渡

譲渡する側の会社のオーナー(経営者)が所有している発行済株式を、譲り受ける側の会社に売却し、子会社になることです。株主および経営者が交代するだけで、社員や社外の関係は変わりません。会社をそのまま存続させたいときや、オーナー(経営者)の持つ株式を現金化したいときに向いています。

2.事業譲渡

譲渡する側の会社が、その事業部門の全部または一部を譲り受ける側の会社に売却します。債権や債務、契約関係、雇用関係などについて、それぞれ同意を取り付けてなければいけないため手続きは煩雑です。また、複数の事業のうちの一部だけを売却し、その他の事業は残したい場合には有効な方法です。

3.吸収合併・吸収分割

吸収合併は、譲渡する側の会社の全ての資産や負債、社員などを譲り受ける側の会社が吸収し、譲渡する側の会社は消滅します。雇用条件の調整や事務処理手続きの合意の形成が難航する恐れがあります。吸収分割は、譲渡する側の会社が、その事業部門の全部または一部を分割した後、譲り受ける側の会社に承継させる方法です。労働契約承継法によって、社員の現在の雇用がそのまま確保されます。

3)M&Aに向けた事前準備と支援機関への相談

M&Aで会社を売却する場合、相手先との交渉に入る前に、仲介機関の選定や会社の実態把握、企業の「磨き上げ」などさまざまなことをしなければなりません。最も注意すべきなのは、

いかにして秘密を守り、外部への漏洩を防ぐか

です。第三者はもちろん、親族や友人、役員・社員に至るまで十分に注意しましょう。また、こうした一連の手続きを自社だけで行うことは困難なので、専門的なノウハウを有する支援機関に相談しましょう。具体的には、事業引継ぎ相談窓口、事業引継ぎ支援センター、商工会議所、金融機関(銀行、生命保険会社、損害保険会社)、税理士、弁護士、M&A仲介業者などがあります。それぞれ得意分野や業務の範囲、報酬体系などが異なるため、実績や利用者の声などを十分調査して選択しましょう。その際、複数の機関から話を聞いて比較することを忘れないでください。

以上(2025年8月更新)
(監修 アイ・タックス税理士法人 税理士 山田誠一朗)

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画像:Mariko Mitsuda

最前線でクマと対峙! マタギと猟友会のヒミツ(9月法改正の内容を追記)

1 鳥獣保護管理法改正でますます注目! マタギと猟友会

近年、人の生活圏内にクマが出没し、人的・物的被害が増加していることが大きな社会問題となっています。2023年度は全国でクマによる人身被害が過去最多の219人(うち死亡者6人)に達し、2025年度も8月末時点ですでに69人(うち死亡者5人)の被害が出ている状態です(環境省「クマによる人身被害件数(速報値)」)。

以前は想定しにくかった「市街地にクマが出没するケース」も報告されており、こうした状況を受けて、2025年9月1日から鳥獣保護管理法が改正されました。改正内容は複数ありますが、特に重要なのが「銃猟(銃を使用してクマ等を捕獲すること)」のルール変更です。以前は、市街地での銃猟は原則禁止(都道府県知事の許可を得た場合を除く)されていたのですが、

  1. 危険鳥獣(クマ等)が人の日常生活圏(住居、広場、乗物等)に侵入し、
  2. 危険鳥獣による人の生命・身体への危害を防止する措置が緊急に必要で、
  3. 銃猟以外の方法では的確かつ迅速に危険鳥獣の捕獲等をすることが困難であり、
  4. 避難等によって地域住民等に弾丸が到達する恐れがない場合

に限り、市町村長が捕獲者に委託して「緊急銃猟」を行えるようになりました。

さて、捕獲者として実際に銃猟を行うのが「マタギ」や「猟友会」。前述した法改正で、地域の安全を守る彼らの役割はますます重要になってきています。日本の狩猟文化を語る上でも欠かせない存在ですが、その実態や関係性、そして現代社会における役割については、意外と知られていないことも多いのではないでしょうか。

この記事では、マタギと猟友会の「ヒミツ」に迫り、それぞれの魅力と、現代社会が抱える野生動物との共存という課題に対する彼らの貢献、今後の展望について深掘りしていきます。

2 マタギと猟友会:それぞれの定義と関係性

1)マタギとは

マタギは、主に東北地方・北海道で、古くから伝わる伝統的な方法を用いて集団で狩猟を行う人々を指します。特に秋田県の阿仁地方は、本家「マタギの里」として知られています。マタギの語源については、「狩猟用具に又木を使用することから来た」「狩猟を意味するアイヌ語のマトキから来た」など諸説あります。

マタギの狩猟は、地域の「マタギ組」という共同体によって行われ、頭領(シカリ)の指示のもと、厳格な役割分担と公平な獲物の分配が行われます。狩猟は彼らの生活の基盤であり、山を神聖な場所と捉え、独自の掟や山言葉など、山岳信仰に基づいた独自の文化を持つ人々でもあります。

正確な統計はありませんが、現在は後継者不足でマタギの数が激減しているとされています。一方、動植物の乱獲や自然破壊といった問題が深刻化している昨今、マタギ独自の文化が、古くて新しい文化として再評価されている面もあります。

2)猟友会とは

猟友会は、狩猟免許を持つ人々が所属する公益団体です。全国組織である大日本猟友会を中心に、各都道府県、市町村単位で支部が組織され、狩猟事故の防止、マナー向上や関係法令改正の要請、狩猟の担い手の育成、野生鳥獣の保護管理などの事業を行っています。

現代において狩猟を行う人はほぼ猟友会に所属しており、情報交換や共同での狩猟活動、地域での有害鳥獣駆除などに重要な役割を果たしています。また、猟友会に加入すると、会員全員が大日本猟友会の「狩猟事故共済保険」(対人補償限度額4000万円)に入れるなどのメリットもあります。

大日本猟友会によると、猟友会の会員数は1978年度にピーク(42万4820人)を迎えるも、その後は後継者不足などから減少が続き、2023年度は10万1068人となっています。一方、女性の会員数については、カウントが始まった2015年度(1183人)から年々増加し、2023年度は3799人となっています。

3)両者の関係性

現代において、多くのマタギは猟友会に所属しています。これは、現代で狩猟を行うには鳥獣保護管理法に基づいた狩猟免許の取得が必須であり、マタギも例外ではないためです。また、地域の有害鳥獣駆除活動は猟友会が中心となっており、マタギはその長年の経験とクマなどの大型獣に関する深い知識を活かして、この活動に大きく貢献しています。

3 マタギが持つ独自の文化とは?

マタギの文化や精神性は、厳しい自然と共生する中で育まれた、深い知恵と畏敬の念に満ちています。

1)山岳信仰と厳格な掟

マタギにとって山は、獲物を与えてくれる恵みの場所であると同時に、危険も潜む神聖な領域です。山の神への畏敬の念から、多くの厳格な掟が生まれ、守られてきました。

  • (女人禁制)山の神が嫉妬深いとされることから、マタギの狩りの場に女性が入ることは禁じられてきました。家でお産があった場合も仲間に入れないそうです。
  • (山に持ち込んではいけないもの)酒やタバコは禁止、汁かけ飯を食べてはいけない、サメやイカを持ち込めないなどのルールがあります。
  • (ケボカイの儀式)獲物を解体する前に行われる儀式です。獲物の魂を山の神に返し、肉と皮を受け取るという意味があります。頭領(シカリ)しか行うことができません。

2)独自の山言葉

山に入る際には、日常生活で使う「里言葉」ではなく、マタギにしか通じない「山言葉」を使用します。

  • (神聖な領域での言葉遣い)山は神聖な場所であり、里の言葉は「穢れた言葉」とされます。そのため、山の神を怒らせないよう、独特の言葉を使うのです。山の中で里の言葉を使うと、冬でも裸にされて水こり(身を清める)をさせられたそうです。
  • (山言葉の例)例えば、米を「クサノミ」、人を「ヘタゲ」、クマを「イタジ」、犬を「ヘダ」などと呼びます。動詞についても、食べるは「クサノミヲツム」、寝るは「スマル」などと言います。

3)自然との共生とそこから得られる「知恵」

マタギは、山を深く理解し、自然の摂理に従って生きることを重んじます。これは単なる知識ではなく、身体に染み付いた「知恵」として受け継がれています。

  • (獲物の全身活用)マタギは獲物を「山の神からの授かりもの」と考え、肉はもちろん、内臓から骨、血液、脂まで余すことなく使います。肉を食べるだけでなく、舌や内臓を薬として使うこともあります。皮や血を絵画の材料に使うケースもあるそうです。
  • (何事も静かに)マタギは、山を歩くときは足音を立てません。また、咳払い、あくび、歌を歌うことや口笛を吹くこともしません。仲間と相撲を取るなどして戯れるのも禁止。これは自然への配慮と、獲物に自身の存在を悟られないための知恵でもあります。
  • (敬意を持った真剣勝負)獲物を仕留めた際、マタギは「勝負させてもらった」と言います。常に獲物と対等な立場で勝負し、命のやり取りに深い敬意を払うのです。

4 猟友会はどんな活動をしている?

クマの被害などが深刻化する昨今、マタギを含む猟師が所属する猟友会では、次のような活動をしています。

1)有害鳥獣の捕獲・駆除

猟友会会員は、自治体からの要請に応じて、主にオレンジ色のベストと帽子を着用し、銃器や罠を用いてこれらの動物の捕獲に協力しています。この活動は義務ではありませんが、住民の安全確保のためにボランティア精神に基づき行われています。

  • (有害鳥獣の捕獲)自治体から依頼を受け、猟友会の会員が猟銃や罠により有害鳥獣の捕獲を行っています。主な捕獲対象は、クマ・ニホンジカ・イノシシ・ニホンザル・カワウなどです。農林業被害を軽減させるため、一部の鳥獣については加害群の数や生息数について目標数値が定められています。
  • (外来種の駆除)日本にもともと生息していなかった外来種による被害を防ぐため、「特定外来生物」の駆除に取り組んでいます。特定外来生物には、アライグマ、アメリカミンク、ヌートリア、タイワンリス(クリハラリス)などが指定されています。
  • (訓練の実施)警察や自治体と連携し、鳥獣の被害から人々を守るための訓練を実施しています。例えば、市街地にクマが現れた場合を想定し、通報を受けてからクマを追い払うまでの手順の確認、クマが逃げなかった場合の猟銃による駆除や怪我人の救護などの流れの確認をするケースがあります。

2)環境への配慮

森林は多くの野生鳥獣の生息地であるため、その保全は鳥獣の生息数増加に直結します。多くの猟友会が地域で植樹や森林保全活動などに協力しています。

  • (植樹等の推進)自治体と協力して、キジ・ヤマドリの増殖・放鳥事業を行い、狩猟対象の鳥類の増加に努めています。一部の猟友会では、「野鳥愛護校」を指定し、巣箱や双眼鏡を贈るなどの活動も行っています。
  • (各種環境調査への協力)毎年1月に実施される環境省「ガン・カモ調査」の際は、各猟友会がカモ類の狩猟を自粛し、調査に協力します。この他、環境省や自治体が実施する地域の野生動物関係の各種調査に、猟友会会員である狩猟者が協力しています。

3)狩猟の知識・文化の伝承

猟友会の会員数の減少・高齢化が進む中で、狩猟の知識・文化を次世代につなげていくための活動も行われています。

  • (狩猟体験会の実施)猟友会による射撃や鳥獣の解体、罠の仕掛けなどの体験会が行われるケースがあります。
  • (ジビエ利用の推進)脂の乗った猪のぼたん鍋や鴨鍋、雉鍋など、野生鳥獣の肉(ジビエ)の利用を推進することで、命を無駄にしないという文化の伝承に努めています。

5 マタギと猟友会、それぞれの課題・展望

マタギも猟友会も、現代社会において多くの課題を抱えていますが、同時に今後の展望も期待されています。

1)マタギの課題と展望

1.課題

  • (高齢化・後継者不足)厳しい修行や、生活様式の変化などからマタギの道を志す若者が少なく、高齢化が進み、伝統的な狩猟技術や文化の継承が困難になっています。
  • (法規制との調整)伝統的な狩猟方法や文化が、現代の鳥獣保護管理法などの法規制と必ずしも合致しない場合があり、活動が制限されることがあります。

2.今後の展望

  • (文化継承の取り組み)マタギ文化の保存・継承を目指す団体や、マタギの魅力を伝える教育プログラムなどが各地で始まっています。秋田県の阿仁地方では、マタギを志す若者をインターネットで募集する動きもあります。
  • (エコツーリズムへの活用)マタギ文化を活かしたガイド付きトレッキングや、マタギ小屋での体験など、地域活性化や観光資源としての可能性が模索されています。
  • (自然共生モデルとしての価値)自然を畏敬し、共生するマタギの哲学は、現代社会における環境問題や持続可能な社会を考える上で、貴重なモデルケースとなり得ると再評価されています。

2)猟友会の課題と展望

1.課題

  • (会員の減少と高齢化)狩猟免許取得者の減少と高齢化は、猟友会にとっても大きな課題です。若手の加入が伸び悩み、組織の維持が難しくなる地域も出てきています。
  • (社会からの理解不足)狩猟に対する偏見や誤解が根強く、有害鳥獣駆除などの活動が十分に社会に理解されていない場合があります。「クマを殺すな」などのクレームが入るケースも少なくありません。
  • (安全管理の徹底)猟銃を扱うため、常に事故のリスクが伴います。安全対策の徹底と、会員への安全意識の浸透は不可欠です。

2.今後の展望

  • (広報活動の強化)狩猟の重要性や、野生動物保護管理における猟友会の役割を社会に広く伝えるための広報活動が強化されることが期待されます。
  • (若い世代へのアプローチ)狩猟体験会や免許取得支援など、若い世代が狩猟に興味を持ち、参加しやすい環境を整える取り組みが重要です。近年は、ジビエブームやアウトドア志向の高まりから、20代から30代の若年層の狩猟免許取得者が増加傾向にあり、今後の会員増に繋がる可能性も出てきています。
  • (テクノロジーの活用)ドローンによる鳥獣の探索や、GPSを用いた狩猟管理など、最新技術を導入が進んでいます。今後はより効率的かつ安全な狩猟活動が可能になると思われます。
  • (地域貢献への注力)有害鳥獣駆除だけでなく、地域の自然環境保護や、ジビエ利用を通じた地域経済の活性化など、より多角的な地域貢献の役割が期待されます。

以上(2025年9月更新)

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画像:日本情報マート

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【中堅社員のスピーチ例】「言いにくいこと」を伝える3つのポイント

【ポイント】

  • 「言いにくいこと」を避け続けると、後々大きな問題につながりかねない
  • 建設的な目的を持ち、Iメッセージで、具体的に伝えることが大切
  • 言いにくいことを伝えるのは、否定ではなく、共に成長していきたい願いの表れ

おはようございます。社内会議やクライアントとの打ち合わせなどで、意見が対立しそうな場面では、多かれ少なかれ「相手に不快な思いをさせたくない」「波風を立てたくない」と考えて、自分の意見を主張しづらくなるときがあります。しかし、そうした「言いにくいこと」を避け続ける状況が続くと、業務の改善が進まなかったり、小さな不満が積もって大きな問題になったりと、後々面倒なことになります。私自身も、過去に「もっと早く伝えていれば……」と後悔した経験があるので、今日は「言いにくいこと」を伝えるときに私なりに意識しているポイントを3つ話します。

1つ目は、「相手を責める」「不満をぶつける」という感情的な目的ではなく、「より良い成果を出すため」「円滑な業務遂行のため」といった建設的な目的を持つことです。「これを言ったら相手に嫌がられるかな……」と考えると消極的になってしまいますが、「これを言うことは相手のためにもなる」というマインドで臨めば、発言する勇気が湧いてくるはずです。

2つ目は、「あなたは~すべきです」ではなく、「私は~だと考えています」というI(アイ)メッセージで伝えることです。「あなたは…」を主語にすると、相手の行動を制限することになるので強い口調になりがちですが、「私」を主語にすると、柔らかい印象になります。

3つ目は、「いつも」「全然」といった曖昧な言葉を避け、「〇月〇日の〇〇の件ですが……」と具体的に伝えることです。せっかく主張をしても、曖昧な言い方では自分と相手の共通認識ができないので、物事が前に進んでいきません。なので、発言はできる限り具体的にしましょう。

これらは、私が若い頃、上司から「君の意見は分かるけれど、もう少し主観ではなく、事実と自分の感情を分けて話してみようか」とアドバイスされて以来、特に意識している点です。「言いにくいこと」を伝えるのは、確かに勇気がいります。しかし、それは決して相手を否定することではありません。むしろ、相手への真剣な関心と、共に成長していきたいという強い願いの表れだと私は考えています。私たちもコミュニケーションの種をまき、互いに高め合い、実り多い秋を迎えられるよう、今日から少しだけ「伝え方」を意識してみましょう。

以上(2025年9月作成)

pj17228
画像:Mariko Mitsuda

映画派?漫画派?小説派?経営者が好きなコンテンツ大調査!

1 経営者の好きなコンテンツ決定戦!

好きな物語を語れば、その人の価値観や意外な一面が浮かび上がってきます。それはもちろん、日々会社のために忙しく走り回る経営者も例外ではありません。日々の経営判断や人との向き合い方の背景には、実は幼いころに夢中になった漫画や、心を打たれた映画のワンシーンが息づいていることもあるのではないでしょうか。

そこで、中小企業の経営者214人に「好きなコンテンツ」についてのアンケートを実施し、

  • 映画・ドラマ派ですか? 漫画・アニメ派ですか? 小説派ですか?
  • 特に好きな作品や、心に残っているセリフ・シーンはありますか?
  • 特に好きな作品の好きなセリフやシーンについて教えて下さい

という3つの質問をしたところ、経営者の素顔や価値観が垣間見える結果が集まりました。この記事では、個性豊かな回答をジャンルごとにご紹介します。

アンケートは2025年8月に、インターネットを通じて行いました。回答の中で、明らかに誤字と思われる表記などは修正しています。

2 経営者が熱愛するコンテンツ第1位は一体!?

アンケートの結果

アンケートの結果、

映画・ドラマ派が57.9%

と、圧倒的な人気を見せました! 次点で漫画・アニメ派の19.2%、小説派の13.6%が続きます。「どれも好きではない」と答えた方も9.3%いました。

また、「映画・ドラマ派」「漫画・アニメ派」「小説派」のいずれかを選んだ方のうち、

特に好きな作品や、好きなセリフやシーンなどがある方は52.1%

でした。次章からは、経営者に人気のセリフやシーンを紹介していきます! なお、セリフやシーンは各経営者の回答に基づいており、実際の内容とは必ずしも一致しない場合があります。

3 映画・ドラマ派の経営者たち

映画・ドラマ派

映画・ドラマ派の「好きなセリフ」の中で最も票を集めたのは、

「I’ll be back(また来る)」(映画「ターミネーター」シリーズより)

でした!

その他の回答は次の通りです。数々の印象的な名台詞が揃っています。

  • 「Don’t think, feel(考えるな、感じろ)」(映画「燃えよドラゴン」より)
  • 「男が女を好きになるのは理屈じゃねえんだよ」(映画「男はつらいよ」シリーズより)
  • 「人生はお前が見た映画とは違うんだ。人生はもっと厳しいものだ」(映画「ニュー・シネマ・パラダイス」より)
  • 「天は我々を見放した」(映画「八甲田山」より)
  • 「なめたらいかんぜよ」(映画「鬼龍院花子の生涯」より)
  • 「怖いよ。けど誰かが行くんだよ。だから俺でいいんだよ。」(映画「突入せよ! あさま山荘事件」より)
  • 「誰かが貧乏くじ引かなきゃなんねえんだよ」(映画「ゴジラ-1.0」より)
  • 「待ってるだけじゃ、救えない命があるんです」(ドラマ「TOKYO MER~走る緊急救命室」より
  • 「青春は贅沢だ」(ドラマ「ちはやふる めぐり」より)
  • 「たまるかー」「ほいたらね」(ドラマ「あんぱん」より)

また、「好きなシーン」では次のような回答がありました。

  • 映画「キリング・フィールド」……映画でエンディングのあたりでBGMとして流れたジョン・レノンの「イマジン」、まるでこの映画の為に作られたのかと思うほど感動的だった。
  • 映画「道」……冷たく当たっていた女性が亡くなり、掛け替えのない人を失い号泣したアンソニー・クインのシーン
  • 映画「あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。」……最後に百合が泣き崩れるところ
  • 映画「卒業」……結婚式場(教会)から花嫁を奪って逃げるシ-ン
  • 映画「タイムライン」……耳のない石像を見て、「It’s me.」と言ったところ
  • 映画「砂の器」……加藤嘉がわが子(加藤剛)を「知らん」と言うシーン

4 漫画・アニメ派の経営者たち

漫画・アニメ派

漫画・アニメ派の「好きなセリフ」の中で最も票を集めたのは、

「お前はもう死んでいる」(漫画「北斗の拳」より)

でした! また、

「地球か……何もかも懐かしい」(アニメ「宇宙戦艦ヤマト」より)

も、複数票を集めています。

その他の回答は次の通りです。

  • 「バルス」(映画「天空の城ラピュタ」より)
  • 「お前にサンを救えるか?」(映画「もののけ姫」より)
  • 「まるでシンクロニシティ!(意味のある偶然)」(漫画「ゴルゴ13」より)
  • 「聖闘士に同じ技は通じない」(漫画「聖闘士星矢」より)
  • 「君のような勘のいいガキは嫌いだよ」(漫画「鋼の錬金術師」より)

中には、「このセリフのここが好き!」を、熱く語ってくれた経営者も。

  • 「あきらめたらそこで試合終了だよ」(漫画「SLAM DUNK」より)……自分を奮い立たせたいときに思い出す
  • 「俺の敵はだいたい俺です」(漫画「宇宙兄弟」より)……何か挑戦しようとするときにためらう自分に対して
  • 「ちょっと勘弁してよォッ!! 法律が許すならオメーらの命なんてどーでもいいけどさあッ あたしに轢き殺させる気ィッ!?」(漫画「ジョジョリオン」より)……セリフを見るに、世の代弁だろうなという印象を見受けられるので

また、「好きなシーン」では以下のような回答が寄せられました!

  • 漫画「ONE PIECE」……魚人島でルフィがナミに麦わら帽子を被せたところ
  • 漫画「こちら葛飾区亀有公園前派出所」……両津勘吉のお決まりのシーン

5 小説派の経営者たち

小説派

「小説派」の経営者たちももちろん、好きな気持ちでは負けていません。寄せられた回答は次の通りです。

  • 「大切なものは目に見えない」(「星の王子さま」より)
  • 「皇国の興廃、この一戦にあり」(「坂の上の雲」より)
  • 「遠藤周作作品の、心優しいカトリック(の表現)が好き」
  • 「壬生義士伝のシーンが好き」

以上(2025年9月作成)

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画像:ChatGPT