部下のやる気を高める上手な褒め方のポイントは「あいうえお」

書いてあること

  • 主な読者:部下を「褒める」ということに本気で向き合いたい中堅社員
  • 課題:褒めるのが苦手だし、そもそも褒めるようなことを部下はしていない?
  • 解決策:愛情を持つ、言い方に注意する、上から目線にならない、影響に配慮する、同じ基準で叱る

1 褒めるべきだったのか……

「課長から指示された会議資料の確認をお願いしたいのですが……」。中堅社員のAさんに、部下である入社1年目のBさんが声をかけました。「分かりました。15時までには確認するよ」とAさんは答えました。

資料に一通り目を通し、問題がないことを確認したAさんは、Bさんに、その旨を伝え、課長に資料を提出するよう指示をしました。

その後、Bさんが作成した資料を手にした課長の反応は、Aさんには意外なものでした。課長は資料に目を通しながら、「今回の会議の議題の中心となる●●が一目で分かるようになっていて、よく出来ているじゃないか! よくできてる」と、普段は厳しい課長が満足そうな笑顔でBさんの仕事を褒めたのです。また、そんな課長の表情を見たBさんもうれしそうに「ありがとうございます。次も頑張ります!」と元気よく答えました。

その様子を見たAさんは「課長が言っていることは資料作成の基本中の基本だよな。べつに褒めるようなことではないと思うんだけど……」と。

2 褒めることの効果

中堅社員になって部下を持つと、指導の一環で部下を褒めることが大切になってきます。褒める一番の目的は、「部下の成長を促すこと」です。上司から褒められることで、部下は自分の考え方や仕事の進め方などが正しいことを認識し、仕事に対して自信を深めるきっかけになります。また、自分が会社や部署に貢献できていること、また、会社や部署が自分を必要としていることを実感する機会にもなります。

そして、褒められることで得た自信や充実感は、仕事に対するモチベーションや、会社や部署に対する貢献意欲を高める効果があり、それが、部下の成長の原動力となるのです。

とはいえ、「褒め言葉を掛けさえすればよい」ということではありません。こうした効果を高めるためには、上司は正しく部下を褒めなければなりません。

3 「褒めるところがない」は、上司の責任

部下について「褒めるようなことは、それほど多くない」と言う上司が、しばしばいます。しかし、それは部下ではなく、「褒めるところを見つけられない」上司自身に問題があります。もし、そう感じている人がいれば、次の2つの点について振り返ってみてください。

1つ目は、部下の仕事ぶりを自分(上司)基準で評価していないかということです。褒めるべき点は、部下基準で評価しなければなりません。当然のことのようですが、こうしたことは意外と見落とされがちです。

もう1つは、常に部下に対して気を配っているかということです。部下は、部下なりに、常に努力し、創意工夫をしながら、仕事に取り組んでおり、褒めるべき点は必ずあるはずです。

そうした部下の姿に気が付いていない(=褒めるところがない)のであれば、それは、部下の言動に対して、しっかりと気を配っていないということであり、上司失格を意味するものです。「褒めるところがない部下はいない」。そういう気持ちで、今一度、部下の言動に注目するようにしましょう。

4 上手な褒め方の「あいうえお」

1)「あ」:愛情を持つ

褒めるということは、単に「褒め言葉を掛ける」ことではありません。その言葉に、上司の思いがこもっているか、単なるうわべだけの言葉なのかは、部下は敏感に感じ取ります。そして、うわべだけの褒め言葉では、部下のモチベーションや貢献意欲は高まりません。むしろ、うわべだけの褒め言葉では、上司に対する失望感を与えるだけであり、逆効果になることを覚えておきましょう。

2)「い」:言い方は具体的にする

同じ内容について褒める場合でも、言い方次第で部下の成長度合いは違ってきます。例えば、難しい仕事を成し遂げたとしましょう。その部下を褒める際、「よく頑張った」といったように、漠然と褒めるだけでは、部下の成長にはつながりません。「●●について工夫をした点が良かった」といったように、良かった点などを具体的に褒めることで、はじめて部下は何が良かったのかを理解し、次に生かすことができるようになります。

3)「う」:うれしさを共有する

褒めることがあるということは部下の成長の証しであり、それは、部下に期待を寄せ、成長を願っている上司にとっても喜ばしいことです。褒めるときには、例えば「私もうれしいよ」といった言葉を添えるなどして、そうした思いを伝え、部下と共有する雰囲気をつくりましょう。それは、部下にとっても、うれしいことのはずです。

4)「え」:笑顔で褒める

いくら褒めているといっても、上司が堅い表情や暗い声では、部下は素直に喜ぶことはできません。また、モチベーションや貢献意欲も高まりにくいものです。褒めるときには、部下が遠慮なく喜びを表せるように、笑顔と明るい声で褒めるようにしましょう。

5)「お」:オープンにする

褒めるときは、周囲に人がいる前で、大きな声で褒めるのが原則です。皆の前で、褒められることで、部下の喜びは大きくなり、自信も一層深まります。

ただし、皆の前で褒められたことで、気が緩んでしまう部下もいます。そうしたことがないように、部下に気を配ることも上司の役割であることを忘れてはいけません。

以上(2021年9月)

op20142
画像:Drobot Dean-Adobe Stock

パワハラにならない上手な叱り方のポイントは「あいうえお」

書いてあること

  • 主な読者:部下を「叱る」ということに本気で向き合いたい中堅社員
  • 課題:ついつい感情的に怒ってしまい、後から後悔する
  • 解決策:愛情を持つ、言い方に注意する、上から目線にならない、影響に配慮する、同じ基準で叱る

1 叱った後に……

仕事でミスをした部下のBさんを叱った中堅社員のAさん。Aさんとしては熱心に指導したつもりですが、周囲は「少し厳し過ぎでは……」と感じている様子です。

その日の夕方、タイミングを見計らって課長がAさんに声をかけました。「今日はずいぶん厳しくBさんを叱っていたけど、何があったんだ?」。これに対してAさんは、「はい、実は……」と、Bさんを叱った理由を説明しました。それを聞いた課長は、「なるほど。理由は分かった」と言いつつも、「ここにはBさんの同期や後輩もいるわけだから、その辺りのことも考えてあげないといけないよ。Bさん、ひどく落ち込んだ様子だったから、後でフォローしておくように」と、Aさんに指示を出しました。

Aさん自身も、「ちょっと厳しすぎたかな」と感じていたところだったので、課長に指摘されて、「やはりそうだったか。もう少しBさんの気持ちに配慮して叱ればよかった……」と、反省したのでした。

2 “安全策”は上司の身勝手

中堅社員になって部下を持つと、指導の一環で部下を叱る機会が増えてきます。「叱る」ことは、「褒める」「教える」「考えさせる」ことと同様に、部下を指導する上で欠かせない取り組みです。同時に、上司も叱る過程で、問題をきちんと分析し、どうすれば部下に正しく伝わるかを考えたり、部下の話を根気強く聞こうと努力したりするため、叱ることによって自身の上司としての成長にもつながります。

一方、「パワハラと言われたくない」「部下に嫌われたくない」などと考え、真剣に叱らずに、“安全策”に逃げ込む上司もいます。この場合、上司は部下の顔色をうかがいながら、話す内容、言葉、口調、時間を選びます。時には、場を和ますために不必要な笑顔も振りまくかもしれません。こうすれば、部下との衝突は避けられるでしょう。

ただし、オブラートに包まれた上司の言葉や表情から、部下はその真意を読み取ることはできません。また、部下は上司の叱り方から自分が犯したミスの重大さを理解するものですが、これもままなりません。

部下を叱る一番の目的は「部下の成長を促すこと」ですが、上司が“安全策”に逃げ込んだ瞬間に、叱る目的は「部下の機嫌を損ねないこと」にすり替わります。その場しのぎで部下と表面上は友好的な関係は保てるかもしれませんが、その代償として部下の成長の機会を奪っていることを認識しなければなりません。

3 逃げず、怒らず、あくまで「叱る」

「叱るときは真剣に叱る」。これが上司の仕事であり、安易に“安全策”に逃げてはいけません。とはいえ、ただ厳しくすればよいわけでもありません。先の“安全策”とは正反対で、感情に任せて部下を怒鳴りつける上司もいますが、これでは部下は畏縮してしまいます。

よく「叱る」と「怒る」は違うといわれます。怒るというのは、自分の気持ち(怒り)を、一方的かつ感情的に相手にぶつけている状態です。一方、叱るというのは、部下の成長を促すために、相手を尊重しながら間違いを正し、共に成長していくことです。叱るのは「教育」(教えて育てる)の一環ですが、そこには、同じ「きょういく」でも意味が異なる、「共育」(共に育む)という意味も含まれることを忘れてはいけません。

4 上手な叱り方の「あいうえお」

1)「あ」:愛情を持つ

「叱るよりも叱られるほうが楽」と言われる程、叱る側にはエネルギーが必要です。しかし、自分が辛いときでも、部下のためになるのであれば、上司は真剣に叱らなければなりません。

なお、叱るのを止めることを部下への「やさしさ」と勘違いしてはいけません。真剣に叱らなければ、部下の成長の機会を奪ってしまうのです。

2)「い」:言い方に注意する

同じ内容について叱る場合でも、言い方次第で部下の聞く態度(話の受け入れ度合い)は大きく違ってきます。

例えば、部下が納期遅れを起こしたとしましょう。「部下が二度と納期遅れをしないように指導する」という上司の意図は同じでも、納期遅れのいけない点を強調する叱り方と、部下本人の性格(「ずぼら」「忘れっぽい」など)のいたらなさを強調する叱り方では、明らかに前者のほうが部下は聞く耳を持ってくれるものです。

3)「う」:上から目線にならない

上司の立場と権限を利用して、「とにかく俺(上司)の言うことを聞けばいい!」という叱り方は好ましくありません。叱るときの原則は、できるだけ部下と同じ目線に立ち、部下の言い分もよく聞くことです。そうしなければ部下の考えをよく理解できず、適切な「言い方」が分からないからです。

ただし、「遅刻をしない」などビジネスでは理屈抜きで守るべきルールがあります。それを教え込むときは、上司の立場を利用するのも一策です。

4)「え」:影響に配慮する

周囲に人がいる前で叱られる部下は、「恥ずかしい」「皆の前で侮辱された」と考え、上司の話を聞くどころか、反発を強めます。同様に、朝一番で叱られた部下は、一日中、嫌な思いをすることになります。こうした叱ることの悪影響を排除するために、叱る場所やタイミングには配慮しなければなりません。

また、叱ることとセットで、こちらから世間話をふってみるなど部下の気持ちをフォローすることも上司の役割です。

5)「お」:同じ基準で叱る

同じことをしたのに、あるときは褒められ、あるときは叱られるというのでは、部下は何が正しいのか分かりません。叱る側が必ず守るべきこととして、叱る基準を明確にしなければなりません。

ただし、そのときの状況や部下の成長度合いなどによって叱る基準が変化するのも事実です。これまでとは違う基準で部下を叱る場合、「今回、叱るのは……」と、はじめにその理由を明確にするのが理想的です。

以上(2021年9月)

op20141
画像:Drobot Dean-Adobe Stock

【朝礼】あなたには「自分の物差し」がありますか?

「もしも、君が本当になろうと決めたのなら、もう成功したのと同じだよ」

これは、米国の第16代大統領であるエイブラハム・リンカーンの言葉です。なぜ、決めることが成功につながるのか。私は、本気で決めたら、その目的を達成するための判断基準、つまり「自分の物差し」ができ、それに従って行動できるようになるからだと考えています。けさはこの「自分の物差し」についてお話しします。

先日、メンターと話をしていたときに、「リモートにより人と会う機会が減る中、大切なのは『自分たちらしさ』を共有することである」と言われました。つまり、「これって、うちっぽいよね!」、あるいは「これって、うちっぽくないよね」とメンバーが同じ感覚を持てるということです。この「うちっぽさ」は必ずしも明文化されておらず、私たちが持っている「目に見えない物差し」で判断しているということです。

共通の物差しを持った組織が強いことは間違いないのですが、一つ前提条件があります。それは、その物差しが、「メンバー自身のものになっているか」ということです。

先日、私は交渉の途中で席を立とうと思ったことがありました。「相手の担当者が、自分たちのことしか考えていない」と感じてしまったからです。私の「ビジネスの物差し」は、まず「愛があるか否か」にあります。ですから、自分勝手な人とは、できるだけ仕事をしたくないのです。

ただ、結論としては、もう少し交渉を続けてみることにしました。話を聞いているうちに、相手の担当者が「会社や上司の物差し」で話していることに気付いてきたからです。つまり、会社から課せられたノルマを達成しようと上司の指示を遂行することに必死で、自分勝手にならざるを得ない状況のようでした。

問題は、実はその担当者は愛ある人物かもしれないのに、会社や上司の物差しを意識し過ぎて、自分を出せなくなっていることです。共通の認識となる「らしさ」は大切ですが、そこにメンバーの自主性が伴わなければ、「借り物」の物差しで判断し、行動し続けることになるのです。

物差しは環境の中でつくられ、そして浸透していきます。組織である以上、最後は上司の指示に従うべきです。しかし、そこに至るまでに自分の判断を差し挟む余地が全くない、報連相をしても聞く耳を持ってもらえないといった組織では、メンバーの「自分で考え、判断する能力」はどんどん退化します。結果として、会社の方針や上司の指示に従って自分勝手なことを言っていることに疑問すら感じなくなります。

大切なのは、会社の方針や上司の指示に、皆さんの考えを掛け合わせることです。そのときに生じる疑問や矛盾から皆さんの物差しがつくられていきます。今、皆さんは誰の物差しで判断していますか? 「自分はどうしたいのか?」と自問自答することで答えは見えてきます。

以上(2021年9月)

pj17068
画像:Mariko Mitsuda

「設備投資」を判断するときに使える4つのアプローチ

書いてあること

  • 主な読者:設備投資を行うか否かの定量的な判断基準が欲しい経営者
  • 課題:設備投資は多くの資金を必要とし、その効果も長期に及ぶため判断が難しい
  • 解決策:複数の定量的な評価方法を理解し、投資の目的によって使い分ける

1 設備投資の定量的な判断基準は欲しくありませんか?

工場の建設や拡張、製造機械の購入などの設備投資は、経営者にとって重要な判断の1つです。綿密に計画を立てても、製品の増産や生産性の向上が計画通りに進むかは、蓋を開けてみないと分からないものであり、

設備投資は、ワクワクするけど怖い

というのが本音かもしれません。それに、今どきは環境問題への配慮も必要です。

「えいやっ!」と腹をくくることも必要ですが、ファイナンス的な評価を取り入れると、よりクリアに状況がつかめるようになります。例えば、自社の財務状況への影響を数字で示せば、それは客観的な判断材料になります。また、投資後の実績と当初計画とを比較すれば、現場の問題点や次の設備投資への課題も見つかるでしょう。

この記事では、設備投資を検討する上で重要な4つの評価方法について、事例を用いながら分かりやすく解説していきます。

2 限界利益による評価

限界利益とは

売上高から変動費を差し引いたもの

です。限界利益は事業の比較や損益分岐点を求める際に用いる、比較的なじみの深い数字であり、

限界利益を使用した設備投資効果の評価は多くの会社で利用されています。

確認も兼ねて説明すると、会社の費用は変動費と固定費に大別されます。変動費とは、設備の操業度の増減に比例して増減する費用です。仮に売上がゼロであれば変動費もゼロです。メーカーの場合は、材料費、買入部品費、外注加工費など、小売業の場合は、仕入原価がこれに当たります。設備の操業度を売上高の増減で表現すると、変動費は次の式で表します。

変動費=売上高×変動費率

一方、固定費とは、売上の増減に関係なく発生する費用で、人件費や減価償却費などが該当します。固定費は、操業度がゼロでもフル操業時でも、理論的には同額しか発生しません。

費用は変動費と固定費から成り立ち、その関係は次の式で表します。

費用=変動費+固定費=売上高×変動費率+固定費

限界利益とは、売上高から変動費を差し引いたもので、次の式で表します。

限界利益=売上高−変動費=売上高−売上高×変動費率=売上高×(1−変動費率)
=売上高×限界利益率

変動費率は一定ですから、限界利益率(=1−変動費率)も一定です。この限界利益率が高ければ、売上高の増加に伴って付加価値の増加も見込めます。

それでは限界利益を使って利益の算出方法を見てみます。

利益
=売上高−費用
=売上高−変動費−固定費
=限界利益−固定費

限界利益が固定費より大きければ黒字で、反対なら赤字です。また、利益は出ないが損失も出ない売上高が損益分岐点になります。

以上から、利益を増加させる方法は次の通りです。

  • 売上高を増やす、設備の操業度を高める
  • 限界利益率を高める(変動費率を下げる)
  • 固定費を下げる

それでは、設備投資効果の限界分析を考えてみます。まず、設備投資に伴う固定費の増減額を計算します。人件費その他に減価償却費、固定資産税、金利などの増減額を考慮します。

次に、限界利益の増減額を算出します。そのためには、売上高の増加額と限界利益率を設定します。

新製品の場合、限界利益率の予想には十分な検討が必要です。しかし、既存製品の場合は、外注部品を内製化するなどのケースでなければ、ほぼ変化は生じません。そのため、限界利益率は不変として考えるべきケースも多いです。もっとも、新型機械の導入で歩留率の向上が図られる場合は、その分を考慮に入れます。設備投資による増加利益は次の式で算出できます。

利益増加額=予想売上高増加額×限界利益率−固定費増加額

例えば、新たな設備投資によって、売上高が1000万円増加すると予想でき、限界利益率が60%で、固定費が200万円増加するというケースで考えると、次の通りです。

利益増加額=1000万円×60%−200万円=400万円

3 回収期間法による評価

回収期間法とは、

投資額を、その投資からもたらされる年間のキャッシュフローで回収するのに何年かかるかを求める

ものです。収益による償却年限といわれるもので、次の式で求められます。

画像1

この評価の場合、回収期間の長短によって投資の採用を検討します。例えば、本来7年以内で回収すべきものが10年超と見込まれれば、通常は見送りとなります。

キャッシュフローとは、利益と減価償却費(リース資産にかかるものを除く)を合計したものです。押さえておきたいのは、減価償却費という、資金流出のない費用がキャッシュフローの重要な構成要素となることです。

また、どの段階の利益(営業利益、経常利益、当期純利益)で把握するかによって違いがあります。設備投資案の検討では、営業利益+減価償却費を採用することがあります。なぜなら、設備投資の判断は資金調達の方法(外部借入か自己資金か)によって左右されるべきでないからです。しかし、回収期間法の考え方からは適切でないともいえます。回収期間は、

経営者が設備投資を実際に何年で回収できるかを知る

ためのものだからです。この考え方によれば、投資回収に充当できるキャッシュフローは、次の式の範囲内とするのが適切であるといえます。

年間キャッシュフロー(回収期間法)
=当期純利益(税引後利益)+減価償却費−社外分配金(配当金)

例えば、設備投資額が2500万円、予想キャッシュフロー(年平均)を500万円と見込んだケースで考えると、次の通りです。

回収期間=2500万円/500万円=5年間

4 会計的利益率法による評価

会計的利益率法とは、一般的には、

投資額に対する会計的利益(償却後利益)の率を求める

ものです。会計的利益と呼ばれるのは、設備投資の費用を減価償却の形で会計上負担させているからです。

画像2

償却後利益としては、税引前利益を使用する場合と税引後利益を使用する場合がありますが、以降の数値例では税引前利益を使用します。

分母に設備投資に投下された資本(投資額)を用いて利益率を出す方法と、設備投資の前後の総資産利益率(使用総資産に対する営業利益率。ROAという)を比較する方法の2つがあります。

例えば、B社は親会社からの増産要請で5000万円の設備投資を行いました。投資前と投資後では次のような数字が見込まれます。

画像3

1)現状の総資産利益率(ROA)

利益=売上高−(変動費+固定費)=1億円−(1億円×70%+2700万円)=300万円
総資産利益率=300万円÷8570万円=3.5%

ちなみに、総資産8570万円には、次の売上債権残高および期末棚卸高が含まれています。

売上債権残高:2500万円(売上高1億円×3/12カ月)
期末棚卸高:1000万円(売上高1億円×10%)

2)投資後の総資産利益率(ROA)

利益=1億3000万円−(1億3000万円×70%+3400万円)=500万円
総資産=投資前の使用総資産+設備投資額+増加運転資本
=8570万円+5000万円+1050万円(注)=1億4620万円

(注)増加運転資本=売上高増加額×(売上債権回転期間+期末棚卸高対売上比率)
=(1億3000万円−1億円)×(3/12+0.1)=1050万円

総資産利益率=500万円÷1億4620万円=3.4%

3)設備投資に対する利益率(ROI)

投資に伴う増分利益=500万円−300万円=200万円
投下資本=設備投資額+増加運転資本=5000万円+1050万円=6050万円
ROI=200万円÷6050万円=3.3%

以上から、現状とほぼ同等のROAが確保され、採算的には一応のレベルに達しているのではないかという判断ができます。

5 現在価値法による評価

1)現在の金額と将来の金額

回収期間法と会計的利益率法を検討してきましたが、両者には共通の欠点があります。それは、

貨幣の時間的価値を全く考慮していない

ことです。つまり、

現在のキャッシュフロー1000万円も、10年後のキャッシュフロー1000万円も同価値

として扱ってしまうことになります。

この1000万円を運用すれば運用益が得られる可能性もありますし、運用損が生じる恐れもあります。いずれにしても同じ価値というのは経済的に不合理なのです。

2)正味現在価値法(NPV法)

そこで登場するのが、正味現在価値法です。正味現在価値法とは、

投資により得られる一連のキャッシュフローを、ある一定の資本コストで割り引いた現在価値の合計が設備投資額より大きければ投資を実行する

という方法です。

画像4

ここでは、

投資は、NPV≧0であれば実行、NPV<0であれば見送り

とします。例えば、年間キャッシュフローを500万円、資本コスト(資金の調達コスト)が3%、回収期間は5年、投資額2000万円のケースで考えると次の通りです。

画像5

本ケースでは、NPV289万8536円≧0であるので、投資は実行すると判断できます。

以上(2021年9月)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 公認会計士 仁田順哉)

pj30098
画像:photo-ac

【朝礼】あなたは「本物」が分かりますか?

先日、宝石商から後継者を育てる際の方針について話を聞いたのですが、これがとても興味深いものでした。宝石商が後継者に伝えていかなければならない最も大切なことは、「宝石の真贋(しんがん)の見極め方」です。その能力を高めるために、宝石商は後継者に本物の宝石だけを見せ、その輝きや色合いを徹底的に刷り込むそうです。

「これが本物。こっちは偽物」と、真贋両方を見せて比べさせるのではなく、本物だけをひたすら見せることで、実際に偽物を見たときに、「これは本物とは違う」と一目で分かるようになるのだそうです。

この考え方はビジネスにおける人付き合いでも同様で、「本物」といわれる人たちと付き合うことで自分自身の成長につながります。「本物」を「一流」と言い換えてもよいでしょう。

「本物」といわれる人たちが持っている哲学に触れ、一緒に仕事を進めていくことで、自身の判断のよりどころが生まれ、物事の正しい進め方も分かってきます。「朱に交われば赤くなる」といいますが、二流三流ではなく、「本物」の人たちと付き合うことで、自らも「本物」に近づいていくということなのでしょう。

とはいえ、人は宝石とは違います。明確な真贋があるわけではありません。名経営者と呼ばれる人などは「本物」といえるかもしれませんが、感じ方は人それぞれです。重要なのは、どのような人を「本物」と思うかという自分の中の基準です。

私が皆さんに日ごろ、「本を読みなさい」「社外の人と話す機会をつくりなさい」「多くのことを経験しなさい」と言っているのは、「どのような人を『本物』と思うか」という基準を皆さん自身で見つけ、それを目標の姿としてほしいからです。

私の場合、「この人は本物だ」と思うポイントを3つ持っています。

1つ目は、家族を大事にしている人です。家庭生活は人間の基本です。それを大事にする人は、何事も大事にするだろうと信頼できるからです。

2つ目は、「時間」と「お金」の使い方に哲学のある人です。「ここに時間とお金を使う」と決めてその通りに使っている人は、自ら物事を考え、判断し、行動することができるからです。

3つ目は、地道な努力を続けられる人です。何かを成し遂げるために地道な努力が必要だと分かってはいても、それを実践できている人は多くはありません。人は、やすきに流れます。自分を律する強い意志の持ち主こそ、地道な努力を続けることができるのです。

この3つのポイントは、あくまでも私の感じる「本物像」です。皆さんも自分なりの「本物像」を見つけ、「本物」と思える人に会う機会をつくる努力をしてください。宝石商では「本物」を見せてくれますが、「本物の人」は皆さんのほうから行動を起こさなければ出会うことはできません。そしていつの日か皆さん自身が「本物」となることを期待しています。

以上(2021年9月)

op16866
画像:Mariko Mitsuda

戦略的提携におけるポジショニング/ローマ史から学ぶガバナンス(4)

書いてあること

  • 主な読者:現在・将来の自社のビジネスガバナンスを考えるためのヒントがほしい経営者
  • 課題:変化が激しい時代であり、既存のガバナンス論を学ぶだけでは、不十分
  • 解決策:古代ローマ史を時系列で追い、その長い歴史との対話を通じて、現代に生かせるヒントを学ぶ

1 ビジネスにおける戦略的提携の背景

経済やビジネスのニュースを眺めていると、企業間の提携の話がたびたび報道されています。企業がビジネスを推進し、成長させていくための戦略として、提携という方法が一つの大きな選択肢となっています。もはや提携という選択肢は、当たり前のように、私たちの頭にありますが、実際に、企業間の提携が活発に行われるようになったのは、1980年代後半あたりからとされています。その頃から、経営戦略としての「戦略的提携論」も活発に議論されるようになり、経営者をはじめ、多くの企業人に意識されるようになりました。

ではなぜ、1980年代後半あたりから、こうした戦略的提携が増加しているのでしょうか。その要因としては、経済のグローバル化、企業間の競争激化、技術的な革新の3つを挙げることができます。そして、重要なことは、この3つの動きが加速化しており、戦略事項を速やかに実施することが求められるようになっている点です。企業が自社の経営資源のみで戦っていくことに固執している場合ではなくなったともいえるでしょう。スピード感を持って経営環境に対応していく方法として、戦略的提携が行われているのです。

一方で、提携が解消されたというニュースもたびたび耳にします。本来、戦略的提携は、長期的に発展できるパートナーシップを目的とした10年以上の提携関係が前提とされています。しかし、戦略的提携のうち30~60%が5~7年の間に解消されているとの指摘もあります(調査によって異なります)。これもやはり先述の3つの動きが加速化しているためではないでしょうか。

すなわち、経営環境の変化が加速度的に速くなっているために、戦略的提携が形成された時点での目論見や見込みとは異なる展開が必要となり、変化に対応する形で戦略的提携を解消するということです。奇妙に思われるかもしれませんが、これも戦略的提携のメリットかもしれません。長期的に発展できるパートナーシップを前提に始めつつ、状況が変われば解消できるというのは、柔軟性に富んでいるともいえます。M&A(Mergers & Acquisition:企業の合併・買収)では、そうはいかないわけですから、こうした点も、戦略的提携が活発に行われている理由になっています。

2 「三頭政治」という戦略的提携

企業でなくとも、そこに利害が絡めば、個人でも、グループでも、国家でも、手を組んだり、それを解消するということがあるでしょう。人間社会の中では、当たり前のことです。特に、政治や経済の世界では、周りを取り囲む状況が複雑であり、変化も速いため、こうしたことが繰り返されていますし、常にその判断が求められているといっても過言ではありません。どういった状況で、どういう狙いがあって、戦略的提携を図ったのか、あるいは解消したのか。歴史を振り返り、こうした考察を進めることで、見えてくるものがあります。それでは、ローマ史をのぞいてみましょう。

民衆派を一掃し、元老院を中心とした政治体制の確立に向けて国政改革を断行したスッラが亡くなると、その指揮下にいた若きポンペイウスが、ローマの覇権を広げていきます。ポンペイウスは、若くして軍功を重ねてきた将軍で、スッラ存命中の25歳のときには、スッラの許しを得て、名誉ある凱旋式を挙げ、「マグヌス(偉大なる)」という尊称まで付されるようになります。さらに、反乱の鎮圧、海賊の討伐、小アジア・オリエントの平定にも成功し、名実共にローマの第一人者となります。

そうした栄光の影に、クラッススがいました。クラッススは、ローマ随一の大富豪でしたが、反乱鎮圧の名誉をポンペイウスに奪われた格好となっており、ポンペイウスには敵愾(がい)心を燃やしていました。軍功の名誉を持つポンペイウスと、莫大な資産を持つクラッススは、長年、対立関係にある間柄だったのです。この2人をつなぎ、三者の戦略的提携を築き上げたのが、当時、民衆からの人気だけが頼りだったガイウス・ユリウス・カエサルでした。

後世の私たちにとっては意外なことですが、不世出の創造的偉人であるカエサルが政治的に台頭したのは遅く、40代に手が届こうかとする頃でした。40歳の頃、最高政務職である執政官に立候補する機会を得ましたが、強力な支持を得る力はなく、元老院派が立てる候補者相手に勝ち目は薄い状況でした。そこで、カエサルは、従来のローマ政体にはない「三頭政治」を創案します。

まず、カエサルは、第一人者であるポンペイウスにアプローチします。自分が執政官になった暁には、ポンペイウスの元部下たちへの土地給付と、ポンペイウスが望む東方属州の再編成案を承認することを引き換えに、ポンペイウスから票集めの約束を取り付けました。

これでカエサルが求めていた執政官当選・就任は確実になったわけですが、カエサルは、さらにクラッススにも声を掛けました。当時、クラッススは、カエサルの莫大な額の借金を支える最大債権者であり、カエサルに倒れられては困る立場にありました。加えて、ポンペイウスをけん制したい考えもあったため、カエサルの求めに応じ、カエサル創案の枠組みに加わり、協力することになりました。

カエサルからすれば、ポンペイウスと自分では、ポンペイウスの力があまりにも大きいために、主従のような関係性になりかねないと考えたのでしょう。ここにクラッススを加えることで、ポンペイウスとクラッススの間に利害関係と緊張関係を生み出し、三者の力関係の均衡を図ることに成功しました。相対的には、カエサルは、そのときの実力を上回るポジションを得たことになります。こうしてカエサルは三頭政治というスキームを確立し、翌年、元老院派の候補者を破り、晴れて執政官に就任しました。なお、クラッススの死を境に、三頭政治は崩れ、カエサルはポンペイウスとたもとを分かつことになります。目的を達し、戦略的提携は解消されたということです。

3 戦略的提携の“外側”と“内側”

昨今の戦略的提携の事例を見ると、複雑な競争環境を背景に、2社間のみの話だけでなく、3社以上の複数企業の間でのスキームになっていることが多々あります。EV(電気自動車)の開発競争がグローバルで激化している自動車業界、電力・ガスの自由化を迎え、新たな競争環境に移行しつつあるエネルギー業界などは、ここ数年、3社以上の企業による戦略的提携が数多く見受けられます。

戦略的提携を進めるにあたっては、戦略的適合性と文化的適合性が基礎条件として重視されていますが、実際のところ、提携後の枠組みの中で、どのようなポジショニングを取るのかが極めて重要になります。一般論として、希少かつ重要な資源を有することによって、組織間関係において強い力を持つといわれており、技術力、経済力、ブランド力などの資源の優劣を上手にコントロールし、自社にとって最もメリットのあるポジションを戦略的提携の枠組みの中で築くことを考えねばなりません。

すなわち、戦略的提携によって、その枠組みの外側に対して競争優位性を築くだけでなく、内側においても競争優位なポジションを築かなくてはならないのです。カエサルのように、力や資源で劣っていたとしても、スキームの組み方や他者の巻き込み方によって、競争優位なポジションを築くことができます。今後、規模の大小を問わず、企業間の戦略的提携はますます活発化していきます。その際、大所高所に立ち、戦略的提携の内外に目を向けながら、競争優位なポジショニングを進めていくよう心掛けたいものです。

(2021年9月)
(執筆 辻大志)

op90053
画像:unsplash

経営者・従業員の皆さんへ 粉飾決算・資産流用など、社内不正の「内部通報を受けた」場合の対処法

書いてあること

  • 主な読者:社内不正の内部通報を受けた会社の経営者と担当者
  • 課題:内部通報を受けたものの、経験不足から、どう対応したらよいのか分からない
  • 解決策:通報者の保護を前提に、素早く、できるだけ秘密裏に対応する。調査は経営者が主導するのが望ましい

1 従業員から内部通報があったのに……

社内不正の早期発見と対応のために中小企業も取り入れているのが「内部通報制度」です。しかし、仕組みは整えたものの、内部通報に対する認識の甘さや担当者の経験不足から、

せっかく内部通報があったのに対応を誤ってしまい、逆に事態を悪化させたり、関係者に証拠隠滅を図られたりしてしまう

といった問題がよく起こります。せっかく不正を正す機会があったのに、それを逃してしまうのは、本当に残念なことです。

この記事では、内部通報をしてきた従業員(以下「通報者」)に適切に対応し、素早く不正調査に移るために、不正対応の責任者に求められる心構えと、具体的な対応を解説します。

2 不正対応の責任者に必要な4つの心構え

1)通報者の心情に配慮する

通報者は、

  • 通報しても握り潰されてしまうのではないか
  • 自分がいじめなどに遭うのではないか

など大きな不安を抱えています。特に、

ハラスメントの被害者自身が通報する場合、ひどく感情的になっている

こともあるでしょう。

不正対応の責任者が通報者の心情を理解していないと、通報者の不安は不満に変わり、内部に言っても無駄だということで外部に通報してしまうなど、事態が悪化します。そのため、

不正対応の責任者は通報者の心情に十分配慮し、段階に応じてこまめにコミュニケーションを取る

ことが不可欠です。

2)匿名性を保持するなど通報者を保護する

不正調査の過程で不正関係者に通報者が特定されると、通報者は「裏切り者」として職場に居づらくなる恐れがあります。勇気を振り絞って内部通報をしてくれた従業員に不利益が及ぶことは避けなければなりません。不正調査では、

匿名性をできる限り保持し、通報者の保護に努める

ことが不可欠です。

3)素早く対応する

不正が外部に漏れれば会社の信用が地に落ちます。不正は社内で解決し、必要であれば、しかるべきタイミングで自ら外部に公表すべきです。内部通報を受けたにもかかわらず、会社が素早く対応しないと、通報者は会社に強い不満を抱き、外部に通報することがあります。このような事態を招かないために、

適切な対応と、素早く不正調査に移る

ことが不可欠です。

4)秘密裏に行う

不正に関係する者に不正調査が行われていることを知られると、証拠隠滅を図られてしまうかもしれません。そのため、

不正調査は情報管理を徹底し、できる限り秘密裏に行う

ことが不可欠です。

3 内部通報を受けたときの具体的な対応

1)内部通報の受け付け

内部通報の受け付けは電話、メール、手紙などが考えられますが、ここでは電話で通報を受けたことを想定します。内部通報の受け付け時に重要なことは次の2つです。

1.事実関係の正確な把握

事実関係を正確に把握するために、「それは考え方が違うのではないか」「勘違いなのではないか」など、個人的な見解を差し挟まずに、通報者の話を慎重に聞きます。通報者が独自に収集した資料があれば、それも提供してもらいます。

その上で、補足的に5W1H(いつ、どこで、誰が、どのようなことをしたかなど)を意識した質問をして、より正確に事実関係を把握します。ヒアリングシートを準備しておけば、抜け漏れがなくなります。

2.通報者へのリスクの告知

どれだけ気を付けて不正調査をしても、不正に関係する者に通報者の身元を察知されるリスクはあるため、通報者に告知すべきです。通報者にとってリスクが大きく、特に匿名性の保持を重視しなければならない場合は、不正調査の方法に工夫が必要です。

2)不正調査開始の判断・通知

まず、不正対応は経営者や役員が責任者となるべきです。なぜなら、通報された事実にどのようなリスクがあるのか、法令違反があるのかなどの検討は、社内の情報の全てを取り扱える経営者や役員でないと難しいからです。また、判断に迷う場合は弁護士などに仰ぎますが、どこまで依頼するのかを決めるのは経営者や役員でなければ難しいです。

不正調査をするか否かの判断は素早く行います。なぜなら、通報者を保護するための法律である「公益通報者保護法」で、

会社が内部通報を受けてから20日以内に、通報者に調査開始などの通知をしない場合、通報者が企業内部の情報を外部へ通報することを認めている(法律による保護要件を満たすことになる)

からです。また、通知が20日以内であっても、会社が誠実に対応していないと通報者が判断したら、外部への通報に踏み切る可能性があります。これを避ける意味でも、通報者とは密にコミュニケーションを取る必要があります。

なお、軽微な事案などの理由で不正調査をしないと判断した場合、具体的な理由とともに、その旨を通報者に通知します。

3)不正調査の実施

1.情報管理

不正調査を行うことになったら、調査チームを編成します。調査チームは少人数とし、責任者である経営者や役員が率います。チームのメンバーには、高度の守秘義務があること、通報者の匿名性を保持することなどを周知徹底します。不正の内容・規模によっては弁護士も調査チームに加えます。

2.調査方法

調査方法は状況によって異なります。ただし、不正に関係する者が証拠隠滅することを防ぐため、まずは目立たないように客観的情報を収集して事実を固め、その後にヒアリングを行う流れとするのがセオリーです。

通報者の匿名性保持に配慮した調査方法は次の通りです。通報内容、不正の程度、通報者の意向に応じて使い分けましょう。

  • 不正が疑われる部署だけでなく全社一斉調査を行う
  • ダミーのアンケート調査を行った上で調査を実施する
  • ヒアリングの対象者を広げる

3.客観的資料の収集

客観的資料には、帳簿類、書類、PC内のデータ、メールなどがあります。これらを収集する際は、不正に関係する者に察知されないように注意します。PC内データの閲覧や私物の調査にはプライバシー保護の問題があるので、調査の必要性や方法の妥当性を検討します。

また、不正について取引先に照会することも考えられますが、ビジネス上の信頼関係の観点からは望ましくないこともあるので、慎重な判断が求められます。

4.ヒアリング

客観的資料から事実を固めた上で、不正に関係する者にヒアリングをします。ヒアリングの状況は、後の証拠となるように録音します。不正に関係する者は言い逃れを図ることもありますが、客観的資料や他の者へのヒアリング結果との整合性・矛盾点を意識しながらヒアリングを進めます。そして、最終的に不正の事実を判断し、報告書の形でまとめます。

4)不正調査後

不正の事実が明らかになったら、是正措置と再発防止策を講じます。同時に、不正に関係する者の懲戒処分を検討します。懲戒処分には、一般的には次のものがあります。いずれの処分にするかは、行為の重大性、その会社の業種、対象者の地位・職務、過去の処分歴など、事案の個性を総合的に考慮して選択することになります。

  • 戒告・けん責:将来を戒める。始末書の提出を求めることがある。
  • 減給:賃金から一定額を差し引く。
  • 出勤停止:従業員の就労を一定期間禁止する。その期間中は賃金が支払われないことが多い。
  • 降格:役職、職位、職能資格などを引き下げる。
  • 諭旨解雇:退職を勧告して依願退職させる。退職金は支給されないことがある。
  • 懲戒解雇:懲戒処分として解雇する。退職金は支給されないことが多い。

調査後も通報者の保護を忘れてはなりません。内部通報によって不正調査が行われたことが明らかである場合は、犯人捜しや通報者への報復が行われないように十分に配慮すべきであり、状況によっては人事異動も検討します。また、通報者には、是正措置と再発防止策について最終報告することが望ましいです。

以上(2021年9月)
(執筆 日比谷タックス&ロー弁護士法人 弁護士 浜地保晴)

pj60235
画像:Adobe Stock-beeboys

働き方の多様化に見合う「適正人件費」の考え方

書いてあること

  • 主な読者:改めて適正人件費を検討したい経営者
  • 課題:働き方の多様化で適正人件費の基準が会社などによって異なり、比較できない
  • 解決策:同業他社がどうかではなく、自社の今までと、これからの「人材」「業務」「投資」に着目して基準を設定する

1 適正人件費を考えるための3つの線引き

人件費を適正な水準にしたいというのは経営者共通の思いでしょうが、「では、人件費がどういう状態なら適正といえるの?」と聞かれると、答えに困る人が多いかもしれません。例えば、

自社の労働分配率(人件費÷付加価値×100)を算出し、同業他社の平均などと比較

して、人件費が適正かどうかを判断するという考え方は広く知られていますが、こうした考え方が通用していたのは、労働者全体がある程度均一的な働き方をしていた頃の話です。

年功序列型の雇用システムの崩壊、ジョブ型雇用、外部への業務委託などで働き方が多様化している中、従来の人件費の考え方を今もそのまま当てはめるのは難しくなってきていますし、そもそも当てはめること自体がナンセンスといえます。

これからの適正人件費は、

同業他社がどうかではなく、会社の現状とこれからを考えて、自社だけの基準を設定

しなければなりません。考え方はさまざまありますが、この記事で紹介するのは、次の3つの線引きによって人件費の適正化を図る方法です。

  • 人材の線引き(「中核人材」と「作業者」)
  • 業務の線引き(「自社で必ずやるべき業務」と「外部に出してもいい業務」)
  • 投資の線引き(「これからの注力事業」と「その他の事業」)

2 人材の線引き

1)「中核人材」と「作業者」

同じ仕事を担当する社員でも、「能力」や「経営方針に対する共感度」などは大きく異なります。将来の会社を担ってくれそうな社員は「中核人材」として位置付け、人件費を手厚くします。一方、そうでない社員は「作業者」として位置付け、ある程度割り切って対応します。

能力も経営方針に対する共感度も評価がブレやすいので、経営者が評価基準を決めます。能力については、営業部門であれば商品・サービスの成約件数や商談件数などを評価基準にするといった具合です。また、経営方針に対する共感度については、社員が自社の経営方針を理解しているか、理解した上でその方針についていく意思があるか、経営方針について自分なりのビジョンがあるかなどを評価基準にします。

2)限定正社員制度を設けると、人件費を管理しやすくなる

中核人材と作業者について、それぞれ別々の雇用区分を設定すると、人件費を管理しやすくなります。例えば、「限定正社員制度」を設け、中核人材は正社員、作業者は限定正社員とすることを検討します。

限定正社員とは、

職務内容、勤務地、労働時間などのいずれかが限定される正社員

のことです。例えば、職務内容が限定される限定正社員は、決められた職務以外のことをする必要がありませんが、その代わり割り当てられる人件費は、職務内容が限定されない正社員よりも少なくなります。

図表1は、正社員と限定正社員の1カ月当たりの人件費のイメージです。正社員の人件費は厚生労働省「平成28年就労条件総合調査」の労働費用(調査産業計)を基に設定し、限定正社員の人件費は正社員の9割としています。

画像1

図表1の場合、作業者の雇用区分を「正社員→限定正社員」に変更することで、総額人件費を1カ月当たり4万1682円削減できます。削減できた金額は、中核人材の現金給与額や教育訓練費などに充てます。なお、雇用区分の変更に当たって、人件費の引き下げがどの程度まで認められるかは労働条件などによって異なりますので、実務では社会保険労務士などに相談してください。

3 業務の線引き

1)「自社で必ずやるべき業務」と「外部に出してもいい業務」

業務の一部を外部に委託すれば、社員の作業時間が減り、不要な人件費(残業代など)を削減できます。昨今は、さまざまな業務のプロ人材が外部にいるので、次のように社内業務の多くが業務委託で行えます。

  • 営業関連:見積書・営業資料などの作成、受発注業務、営業戦略の立案、営業データの集計・分析、顧客からの問い合わせ対応、ECサイトの構築・保守運用など
  • 総務・人事関連:電話応対、オフィスの備品管理、採用活動、研修の実施、給与支払い、社会保険手続き、マイナンバー管理、ハラスメントの相談対応など
  • 経理関連:経費精算、請求書発行、月次・年次決算書の作成、年末調整、税務申告など

ただし、本業を外部に委託するのは考えものです。例えば、重要な商品・サービスの営業は、自社の社員のほうが熱を入れてPRできるはずですし、外部に委託すると社内にそのノウハウが蓄積されなくなるので、自社でやるべきです。業務の専門性などにもよりますが、外部に委託するのは、原則として本業との関連性が低い業務(付随業務)にしておきましょう。

2)業務委託で削減される人件費と、発生する外注費のバランスに注意する

業務を外部に委託した場合、委託先の事業者に支払う「外注費」が発生します。ですから会社は、業務委託で削減される人件費と、発生する外注費のバランスに注意する必要があります。

図表2は、業務委託前後における1カ月当たりの人件費のイメージです。業務委託前は所定外労働(時間外・休日労働など所定外の労働)が発生していましたが、業務委託によって所定外労働が発生しなくなったことで、所定外給与(所定外労働に対して支払う給与)と法定福利費(社会・労働保険料の会社負担分)が削減されたという想定です。

画像2

図表2の場合、総額人件費は1カ月当たり2万5064円削減されますので、外注費についても2万5064円を超えないように注意します。2万5064円を超えてしまう場合、より安価な事業者を探すか、委託する業務内容を見直すなどして外注費を調整します。

もっとも、仮に外注費が割高になってしまっても、社員が業務委託によって空いた時間で別の成果を挙げれば、業務委託は無駄になりません。この辺りはコストだけでなく、「空いた時間で、社員に何をさせるか」という点も考慮して、適正人件費を設定するようにしましょう。

4 投資の線引き

1)「これからの注力事業」と「その他の事業」

会社が複数の事業を行っている場合、経営戦略上重要となる「これからの注力事業」と「その他の事業」を線引きします。これからの注力事業に従事する社員には人件費を手厚くし、その他の事業に従事する社員には、その重要度や難易度に応じて人件費を割り当てます。

いわゆる「ジョブ型雇用」に通じる考え方であり、具体的には、

  • 会社の事業と、それに関連する社員の職務をリストアップする
  • 重要度や難易度に応じて事業内容と職務内容をグルーピングする
  • グルーピングの内容を基に格付けを行い、その格付けに基づいて人件費を設定する

という流れで人件費の見直しを進めることになります。

2)年齢給など属人的な要素を、職務給などに振り替える

ジョブ型雇用では、仕事(ジョブ)に等級を設け、それに基づいて給与を支払いますので、現状その仕組みがない場合、給与制度の改定が必要になります。とはいえ、給与制度の改定によって総額人件費があまり大きく変動するのは、会社にとって困りものです。

そこで、ジョブ型雇用に移行する場合、まずは総額人件費を変更しないまま、現行の給与制度の内容をジョブ型雇用の考え方に合致したものに変えていきます。具体的には、「年齢給」などの属人的な要素を廃止し、「職務給」などに振り替えます。

図表3は、年齢給を廃止し、職務給を導入する場合のイメージです。A、B、C、Dの4人の社員について、給与の総額が職務給の導入前後で変更がないようにしつつ、年齢給を職務給に振り替えています。

画像3

BとCは、職務給導入前は年齢給の関係で支給額に差がありましたが、職務給導入後は等級が同じため、支給額も同額になっています。なお、図表3では、職務給導入前後で給与の総額は変わりませんが、年齢給の廃止に伴い、今後は年齢が上がることによる定期昇給がなくなりますので、長期的な視点で見た場合、人件費が抑制されることになります。

なお、このような変更は、労働条件の不利益変更となる場合がありますので、導入に当たっては社会保険労務士などの専門家に相談してください。

以上(2021年9月)
(監修 社会保険労務士 志賀碧)

op80149
画像:takasu-Adobe Stock

続・ウソかホントか? 税務調査にまつわる噂

書いてあること

  • 主な読者:噂に惑わされず、税務調査の実態を知りたい経営者
  • 課題:「調査官によって厳しさが違う」などの噂が本当なのか確かめようがない
  • 解決策:臆測で税務調査を捉えない。大切なのは、日ごろの税務・会計処理、契約書面の作成などを徹底すること。また、イレギュラーな処理の場合は事前に税理士に相談

もはや都市伝説? 税務調査にまつわる噂

「別に悪さをしているわけではないけれど、税務調査は嫌だ」。ほとんどの経営者はこう考えるでしょう。いきなり調査官がやって来て、あれこれと帳簿の提出を求められ、多額の税金を支払わされるイメージです。それに、とにかく「面倒」です。

こうした思いもあり、税務調査については、

「コロナで税務調査もオンラインになった」

など、さまざまな臆測が飛び交いますが、これは本当なのでしょうか。この記事では、現役税理士に覆面インタビューを実施し、普段はなかなか聞くことのできない税務調査の舞台裏を徹底的に聞き出しました。

Q1 コロナで税務調査がオンラインになった?

緊急事態宣言が発令された際には、会社の同意のもと、調査官と会社が双方にアクセスできるサーバーに必要書類を保存するといった形で資料の提示や質問のやり取りをする方法が取られたことがありました。これは新型コロナウイルス感染症の影響によって一時的に取られた措置ですが、今後は調査手法にも変化が出てくる可能性はあります。

Q2 税務調査の対象はどのように決まる?

基本的に、どのような会社も税務調査の対象になります。ただ、長い間(7年以上)、税務調査が入っていない会社や、直近3〜5年の決算書類の比較・分析から異常な数値の動きが見られる会社は、調査の対象となりやすいようです。

また、国税局・税務署側も毎年テーマを持って調査を行っているケースがみられます。例えば、今は新型コロナウイルス感染症の影響によって赤字決算となった会社も多いため、赤字会社のうち、「調査内容によっては黒字になる可能性がある(=税務上の所得が発生し、税金が徴収できる)」と判断されるような会社が調査対象に選定されるかもしれません。他にも、売上が急激に伸びている会社なども目につきやすいでしょう。

Q3 調査日数は会社ごとに違う?

調査日数は会社ごとに異なり、1日で終わる調査もあれば、5日以上続く調査もあります。大体2〜3日の調査が多いようです。

調査日数は、会社の規模(売上高や資産規模など)、業種業態、同時に行われる調査税目など、さまざまな要因で決定されます。そのため、前回の調査が1日で終わったからといって、次回も同じ調査日数だとは限りません。

Q4 税務調査の間、経営者は何をする?

税務調査の対応は、基本的には税理士と自社の経理(税務)責任者が行います。経営者が調査官と話をするシーンは、通常、調査の冒頭で行われる会社概要の説明時(スケジュールの調整は可能)となります。

知っておいてもらいたいのは、この会話の中においても、調査官は目を光らせているということです。趣味の話や世間話などをして場の雰囲気を和らげ、経営者を油断させるのも、調査官の調査手法の1つです。例えば、週末の過ごし方を聞く中で、経営者のプライベートな趣味やその頻度などを把握し、個人資産(別荘やクルーザーなど)を会社の資産として計上していないかなどの判断材料とすることもあります。

Q5 調査官は何を見ている?

基本的に、調査官は提出を要求した帳簿や、売上・仕入関連資料、経費資料などを黙々と調べ続けます。その他、棚卸資産・固定資産の実物チェックや疑義のある取引の担当者へのヒアリングが行われます。最近では、従業員のパソコンや、サーバー内のデータをチェックすることもあります。例えば、表や文書ファイルの更新日時を見て、取引日と照らし合わせるなどです。

また、調査官にとっては、従業員同士の会話など、見聞きするもの全ての情報が税務調査の資料となります。例えば、トイレに行く際に社内の売店に立ち寄って、店員に世間話をしながら会社役員の勤務状況を聞いたり、喫煙室で従業員同士の会話を聞いていたりと、いろいろなところで調査官は会社の実態を知ろうとします。

Q6 社歴の浅い会社には税務調査は入らない?

税務調査が全くないわけではありませんが、設立後3年未満の会社に税務調査が入ることはまれだといえます。

モバイルアプリ開発などで、売上が急激に伸びた会社などは調査に入ることがあるかもしれませんが、設立直後の会社は売上規模が小さく、取引の動きも少ないことから、調査に入っても指摘事項があまりないと考えられます。また、過去の取引が少ないと、調査官側も事前に十分な分析ができないことなどから、調査対象になりにくいのではないでしょうか。

Q7 調査官によって調査の結果が左右される?

調査官によって調査の結果が左右されることは、少なからずあります。納税者側の反論に耳を傾けてくれる調査官もいれば、全く耳を傾けない調査官もいます。また、高圧的な態度の調査官もいれば、柔和な態度の調査官もいます。

ただ、耳を傾けない調査官だからといって、指摘を全て受け入れないといけないかといえば、そうではありません。そういうときのために、代理人として税理士がいますので、納得のいかない指摘に対しては、税理士と相談しながら理路整然と対応していきましょう。

Q8 前回調査と指摘が変わることってあるの?

前回の税務調査で指摘されなかった項目について、次の税務調査で指摘されることがあります。中には、前回の調査官から認められた経理処理について指摘される場合もあります。

調査ごとに指摘が変わるのは、前回の調査官が見落としていたり、判断が間違っていたりすることなどが考えられます。もし、前回の調査官に認められた経理処理について指摘された場合は、前回の調査で、調査官に対して話した取引の背景や、経理処理が認められた経緯などを詳細に説明しましょう。

Q9 税務調査対策としてワンポイントアドバイスを!

基本的なことですが、書類をしっかり保存・整理しておきましょう。言うまでもありませんが、契約書関係はすぐに提出できるようにしておいてください。調査官にとっても、提出依頼をした書類がすぐに出てくると、その会社に良い印象を抱くはずです。

万一、作成漏れなどにより契約書がない取引などがある場合は、税務調査の有無にかかわらず、すぐに作成するようにしてください。最終的に、調査官は書類を基に、その経理・税務処理が認められたものなのか、認められたものでないのかを判断することになるからです。

ただし、印紙を貼るべき契約書の作成を失念していた場合には注意が必要です。印紙のデザインは年度によって異なる場合があり、調査のために後付けで貼ったことが露呈する恐れもあります。

以上(2021年9月)

pj30051
画像:Andrey_Popov-shutterstock

ウソかホントか? 税務調査にまつわる噂

書いてあること

  • 主な読者:噂に惑わされず、税務調査の実態を知りたい経営者
  • 課題:「調査官によって厳しさが違う」などの噂が本当なのか確かめようがない
  • 解決策:臆測で税務調査を捉えない。大切なのは、日ごろの税務・会計処理、契約書面の作成などを徹底すること。また、イレギュラーな処理の場合は事前に税理士に相談

もはや都市伝説? 税務調査にまつわる噂

「別に悪さをしているわけではないけれど、税務調査は嫌だ」。ほとんどの経営者はこう考えるでしょう。いきなり調査官がやって来て、あれこれと帳簿の提出を求められ、多額の税金を支払わされるイメージです。それに、とにかく「面倒」です。

こうした思いもあり、税務調査については、

「コロナが落ち着くまで税務調査は行われない」

など、さまざまな臆測が飛び交いますが、これは本当なのでしょうか。この記事では、現役税理士に覆面インタビューを実施し、普段はなかなか聞くことのできない税務調査の舞台裏を徹底的に聞き出しました。

Q1 コロナが落ち着いたら税務調査が増える?

2020年11月に東京国税局から発表された情報では、2020年6月までの直近1年においては、大口・悪質な不正計算が想定される会社を中心に税務調査を実施しており、法人税・消費税の調査件数は前年比の75%まで減少したようです。

これは、悪質な案件に調査対象を絞ったということもありますが、2020年に入ってからの新型コロナウイルス感染症による影響も少なからずあると思います。そのため、今後、新型コロナウイルス感染症が落ち着いた場合、2019年以前の水準まで調査件数が増えることは予想されます。

また、新型コロナウイルス感染症の影響で、今まで黒字だった会社が赤字に陥ったケースも増えています。しかし、中には「コロナを理由に、粉飾決算で赤字を装っている会社も存在する」と税務当局は見ているようです。そのため、急に赤字となった事業者のうち、事前の予備調査で「怪しい」と思った案件を中心に税務調査が実施される可能性もあります。

Q2 税務調査は突然やって来る?

税務調査は強制調査と任意調査とに大別されます。強制調査は、突然、やってきますが、これは悪さをしている場合に受ける調査です。通常は、事前に連絡があります。

強制調査とは、悪質な脱税の疑いがある者に対して行われる調査です。いわゆる「マルサ」(国税局査察部の通称)が担当し、査察調査とも呼ばれます。調査官は事前に実態を調べ、脱税が事実であることに確信を持った上で会社にやって来ます。納税者による帳簿などの証拠書類の隠蔽を防ぐために、事前の連絡はなく、突然やって来ます。

任意調査とは、調査に入るために会社の同意が必要な調査です。ほとんどの税務調査がこちらに該当し、強制調査のように突然やって来ることはありません。事前に会社や確定申告書に署名している税理士に対して調査の予告が来ます。基本的には電話で連絡が来た後に、事前準備資料リストその他の書類が送られてきます。

Q3 税務調査を断ることができる?

強制調査の場合は、裁判所の令状を持って調査に入るため断れません。会社側の都合で調査日を変更することもできません。

任意調査の場合も、原則として断ることはできません。ただし、事前予告の段階での日程調整は融通が利きます。調査官から日程が提案されますが、会社の繁忙期、立ち会いの税理士の都合などもろもろの正当な理由があれば、日程を調整できます。

Q4 税務調査が集中する時期はある?

調査官(税務職員)の人事異動は毎年7月に行われます。そこから1年間、調査官は与えられたノルマ(調査件数や指摘金額)を基に税務調査を行っていくことになります。なるべく早くノルマを消化するため、年内、特に8~9月に税務調査が多く行われます。

また、7月の人事異動に合わせて、調査官の評価が決まることを考えると、年内、遅くとも翌年の4月ごろまでに行われる調査に力が入ると考えられます。

Q5 税務調査が中止になることはある?

基本的に、一度予告された税務調査は必ず行われます。

ただし、4~6月ごろに予告された税務調査について、調査時期を7月以降で日程調整をお願いすると、まれに調査が実施されないことがあります。はっきりした理由は分かりませんが、調査の実施自体がうやむやになってしまうケースが過去にありました。明確ではありませんが、考えられるのは「7月に行われる調査官の人事異動により、新旧担当者間の引き継ぎがうまく行われていない」「そもそも重要性の高い調査対象ではない」といった理由です。

Q6 反面調査はどのように対応する?

反面調査とは、調査対象会社の取引先などに対して、取引状況などを確認する調査で、自社に対しては調査対象会社との契約書や請求書などの提出が求められます。反面調査の性質は、調査対象会社に対する税務調査が強制調査か任意調査かに準じます。調査対象会社に配慮して、事実と異なった回答をしたり、あやふやな回答をしたりすると、自分の首を絞めることにもなり得ます。事実を淡々と語り、求められた書類などは提出するようにしましょう。

Q7 繰越欠損金があると税務調査が入りにくい?

繰越欠損金がある会社は、税務調査後において修正申告をしても所得が発生しにくいので、税金を徴収できる可能性が低いという意味においては対象外となることが多いのではないでしょうか。

ただし、繰越欠損金のある会社に税務調査が入るケースもたくさんあります。そのため、繰越欠損金があるから、税務調査が来ないだろうという考えは正しくありません。

Q8 どういった科目を重点的に調査する?

売上・仕入関連の勘定の場合、期ズレに注意しましょう。例えば、3月決算の会社であれば、特に3月・4月の取引は重点的に調べられます。収益・費用を正確に計上するためには、日々の書類整理や、経理担当者だけでなく営業担当者など、従業員全体の期ズレに関する意識を高めることなどが大切です。

人件費では、役員、特に同族会社であれば身内に関連する報酬や給与でしょう。例えば、勤務実態(業務内容や出勤日数)に見合わない報酬・給与を支払っていないかが重点的に調べられます。

固定資産では、資本的支出(固定資産として計上しなければならない修繕費用など)を、費用計上していないかといった点も指摘されやすい箇所でしょう。

他には、外注委託費です。特に外注委託先に身内が経営している会社がある場合、委託業務の内容と金額が適正なものかがよく調べられます。

Q9 税務調査に臨む経営者にアドバイスを!

税務調査のあるなしにかかわらず、税務顧問としてお願いしたいのは、「イレギュラーなことをやるときは、事前に相談してほしい」ということです。事前に相談してくれさえすれば、多くの場合、税務的なリスクをかなり減らすことができます。もちろん、完全に違法な取引を合法にすることはできませんが、白黒つけがたい取引であれば、より白に近づけることは可能です。もし、事後に報告を受けた場合には、後付けで対策を練ることとなってしまい、十分な対応ができません。

また、税務・会計処理は日々の取引の積み重ねです。税務調査の予告が来てからまとめて書類を整理したとしても、どうしても抜け漏れが生じます。日々の税務・会計処理を、継続して適切に処理していれば、税務調査は決して恐れるものではないのです。

以上(2021年9月)

pj30034
画像:Veres Production-shutterstock