【朝礼】徳川家康に学ぶ「本当の忍耐力」

皆さんにとってこの2年ほどはまさに「忍耐」が求められているのではないでしょうか。新型コロナウイルス感染症流行の影響で、仕事、私生活ともこれまで当たり前にできていたことがままならず、さまざまな苦労や戸惑いを感じていることも多いはずです。今日は、そんな皆さんに、徳川家康のエピソードを紹介します。

家康は、三河国(みかわのくに)を統治する松平家の嫡男として生まれました。当時の三河国は、東西を織田家、今川家という強大な勢力に挟まれており、松平家存続の方策として、家康は少年時代の多くを今川家の人質として過ごしました。しかし、家康は人質となった自分の運命を悲観することなく、学問や武術に真摯に取り組みました。そして、17歳の頃に初陣を飾った際は、今川義元(いまがわよしもと)を喜ばせるほどの戦功を立てます。

やがて、織田信長が義元を破ると、家康は故郷である三河国に帰り、信長と同盟を結んで大名として成長していきます。順調に勢力を拡大していた家康ですが、信長の死後、その家臣であった豊臣秀吉に従うことを余儀なくされ、故郷から遠く離れた関東への領地替えを命じられてしまいます。当時の関東は荒れ放題で、あまり良い土地ではなかったそうですが、家康はこの領地替えを受け入れ、土地開発に真摯に取り組み、力を蓄えていきます。

そして、秀吉の死後、家康は10年以上の年月を費やして豊臣家を滅ぼし、73歳になって、ようやく天下を統一します。人生50年といわれたこの時代に、高齢になっても天下を取ることを諦めなかった家康の忍耐力には、類いまれなるものがあるといえるでしょう。

なぜ家康は、これほどまでに苦難に耐えることができたのでしょうか? さまざまな意見があると思いますが、私は家康が「苦難をつらいものではなく、むしろチャンスとして捉えていたからではないか」と考えています。例えば、人質として自由のなかった少年時代については、「自由が制限されている分、自分を律して鍛えるチャンス」と思っていたのかもしれません。秀吉から関東への領地替えを命じられた際も、「自分を荒れた土地に移して秀吉が安心している今こそ、力を蓄えるチャンス」と考えていたのかもしれません。

思い通りに仕事ができないときというのは、必ずやってきます。そんなときこそ、「これまでの自分を変えるチャンス」だと思ってください。仕事の進め方を見直す、勉強し直して知識を蓄えるなど、できることはいくらでもあります。ただ苦難が過ぎ去るのを待つのではなく、苦難の向こうにある、手に入れたい未来をつかむために、水面下で自分を磨き続ける。それが「本当の忍耐力」であると、私は考えます。

以上(2022年1月)

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画像:Mariko Mitsuda

【朝礼】「三年寝太郎」という生き方を再評価する

けさは、昔話の「三年寝太郎」について、私が感じていることを話したいと思います。三年寝太郎の話の内容は幾つか説があるようですが、最も知られている話を大まかに言うと、3年間寝続けていた男が、川の流れを変えることで、干害で苦しんでいた村を救った、というものです。

恐らく江戸時代の農村が舞台の話だと思いますが、もし現代に寝太郎のような人物がいたとしたら、皆さんはどのように感じるでしょうか?

万が一我が社に寝太郎のような社員がいた場合、3年も寝続けられる状況にしないでしょう。すぐに結果を出すことが求められているこの時代に、3年かけないと結果が出せないような社員は、なかなか受け入れることができません。

ですが、私はすぐに結果を出すことが求められる今のような時代こそ、寝太郎の話に見習うべき点があるのではないかと思っています。例えば、3年間という長い年月をかけて、一つのことを考え続けた根気です。少し結果が出ないと諦めてしまうことが多い中で、長期的な視野に立って、それだけの情熱と信念をもって取り組むことは大切だと思います。

また、寝太郎は自分の幸せではなく、世の中をより良く変えていくために3年間を費やしたという、公共心です。SDGsが注目され、共生社会を目指さなければならない今こそ、自分の損得だけで物事を判断しない寝太郎のような考え方を見習うべきではないでしょうか。

実は、研究者のような人たちは、ある意味で寝太郎のような長期的な時間軸と公共心をもって取り組んでいるといえます。研究者と寝太郎の唯一といっていい違いは、寝太郎は寝続ける前に、「私は干害で苦しんでいる村人たちのために、解決策を考える時間がほしい」と打ち明けなかった点です。もし寝太郎がクラウドファンディングをしていれば、それなりの資金が集まったのではないでしょうか。

そして、私が何より感じているのは、結果的にかもしれませんが、寝太郎という人間の生き方を受け入れた社会の寛容性の素晴らしさです。今の医学で診断すると、かつては真面目な働き者だった寝太郎が一日中寝ているのは、うつ病を患ったためにそうせざるを得なくなってしまった、という説もあるようです。それはさておき、さまざまな事情で社会に適応することが難しい人は、少なからずいます。そういった人たちを温かい目で支えられる社会になればいいと思いますし、我が社もさまざまな意味で「人に優しい」会社でありたいと思っています。

私は、皆さんに寝太郎になってもらいたいとは思いませんが、長期的な視点で物事を考えること、情熱と信念をもって一つのことを続けること、世の中を良くしたいと考える気持ちなど、見習ってほしいことがたくさんあります。そして私も、少し長い目で皆さんの成長を見守れるような、「人に優しい」経営者でありたいと思います。

以上(2021年12月)

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画像:Mariko Mitsuda

【朝礼】共進化を促す存在になろう

おはようございます。今日は、約300万年前に起きたとされる「アメリカ大陸間大交差」という現象の話から始めたいと思います。

元来、北米大陸と南米大陸は別々の大陸の一部でした。それが分離して単独の大陸となり、約300万年前に陸続きになりました。こうして、2つの大陸の動物たちが互いに行き来できるようになった結果、北米大陸出身の動物は多くが生き残り、生存領域を広げる動物もいた一方、南米大陸出身の動物の多くは絶滅したとみられています。

2つの大陸の動物たちの運命を分けたのは、それまでの生存競争の質の違いでした。北米大陸はユーラシア大陸とつながっていた時期が長く、外来の強敵との生存競争を繰り広げる中で進化し、競争力を高めてきました。

一方の南米大陸は孤立している時期が長かったため、北米大陸ほどの激しい生存競争はありませんでした。その差が、陸続きになったときに明確に現れたのです。

話は現代に移りますが、人類を襲った新型コロナウイルスは、久しく動物界の頂点に立っている人類に対して、生存競争を挑んできた強敵だと見ることもできます。ある生物が繁栄していると、それを捕食したり、寄生したりする生物が現れるのは、当然の現象なのです。

これに対して人類は、ワクチンや特効薬の開発の他、「3密」の回避など生活スタイルを変化させることで、強敵に打ち勝とうとしています。

進化した強敵に打ち勝つために自分たちも進化することなどを「共進化(きょうしんか)」といいます。人類は、新型コロナウイルスに打ち勝つために、共進化をしている最中なのです。

広い意味での共進化は、実は私たちも日々実践している身近なものです。ライバルとの切磋琢磨(せっさたくま)や、課題の克服と言い換えれば分かりやすいでしょう。同業他社との競争で、我が社は新商品や新サービスを開発し、新たな販路を開拓しています。同業他社が新基軸を打ち出せば、それを研究して取り入れることもしています。

皆さん一人ひとりも、同じように共進化をしてきたはずです。同僚や、同業他社の同じ部門に優秀な社員がいれば、彼らのやり方を見習い、彼らを超えられるように努力をしてきたでしょう。業務上、足りない知識や技術があれば、人から聞いたり本を読んだりして補ってきたはずです。

これからの皆さんに私が期待するのは、自ら積極的に進化して、同僚たちの共進化を促すことです。同僚や同業他社に合わせて共進化するだけで満足せず、自分が社内や業界内の生存競争の質を高める、という気概を持ってください。

経済の地殻変動が激しい今の時代、他の大陸と陸続きになる、つまり他業種や他地域、新興企業などとの競合が急に始まっても不思議ではありません。生存競争の質を高めておけば、新たな強敵に打ち勝ち、生存領域を広げることもできます。皆さんの一層の奮起に期待します。

以上(2022年1月)

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画像:Mariko Mitsuda

【朝礼】北条義時に見習う「位負け」しない気概

私の今年の目標は、「位(くらい)負け」をしないことです。これまで私は、取引先の人と会話をする際、役員クラスの人や一部上場企業の社員を「格上」と感じて、どうしても緊張してしまい、気後れするという悪い癖がありました。そんな「位負け」のような状態になってしまうと、自分のペースで会話をすることができず、会社として主張すべきことを伝えられなかったこともありました。今年こそ、どのようなときも「位負け」をしない気概を持ちたいと思います。

「位負け」をしないために私が見習いたいと思っているのが、今年の大河ドラマの主人公にもなっている北条義時(ほうじょうよしとき)です。義時のことをインターネットで調べたところ、思った以上にすごい人だったことが分かりました。

義時は鎌倉幕府の第2代執権で、当時の幕府で実質的な最高権力者になった人です。今からほぼ800年前の1221年(承久3年)、後鳥羽上皇を中心とした朝廷との戦い「承久の乱」に勝利し、武士を中心とした時代の幕を開けました。

日本の歴史上の大きな転換点として、承久の乱は3本指に入る出来事といわれています。なぜなら、それまでは天皇や上皇による朝廷が持っていた絶対的な権力を、武士のものにしたからです。あとの2つの転換点とされる明治維新や第二次世界大戦後の民主化は、黒船などの外圧や敗戦に促される形での変化ですので、外圧なしに変化をもたらした承久の乱のすごさが分かると思います。

承久の乱が起きた当時、朝廷の権威は絶対的でした。武士は朝廷あっての存在であり、鎌倉幕府も征夷大将軍が朝廷から任命されることによって、存在が認められていました。

ですから、朝廷の中心にいた後鳥羽上皇から名指しで追討命令を宣告された義時は、最初はとても狼狽(ろうばい)したといわれています。しかし、義時は武士のリーダーとして鎌倉幕府を守らなければならない立場。姉の北条政子の支援もあり、朝廷という権威に「位負け」しませんでした。義時は、兵を率いた息子の泰時に、「天皇自ら兵を率いてきた場合は降伏せよ。ただし、都から兵だけを送ってくるのであれば力の限り戦え」と命じ、最終的には朝廷軍を打ち破って「前代未聞の下克上」を果たしたのです。これは、朝廷が絶対だった当時の「常識」から考えると、非常に勇気のいる決断だったに違いありません。

今は、「大企業だから立場が上」「役員だから偉い」ということではなく、その企業、その人の実力が問われる時代です。当たり前のことですが、フェアな取引をしている企業同士、対等な立場で話をすることに何の問題もありません。格上に感じる人と話をするプレッシャーだって、朝廷が絶対だった義時の時代を思えばささいな問題です。

このように自分を励まして、今年は「位負け」をしないように頑張ります。もし取引先の人に会う前に私が青い顔をしていたら、「承久の乱を思い出せ」と声をかけてください。

以上(2022年1月)

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画像:Mariko Mitsuda

同一労働同一賃金の対応状況

「パートタイム・有期雇用労働法(以下、同法)」に基づく同一労働同一賃金が、中小企業に対しても適用されましたが、各企業の取組はどの程度まで進んでいるのでしょうか。本稿では、企業が同一労働同一賃金で求められることを簡単にお伝えしながら、その対応状況についての調査結果を概観し、お伝えいたします。

1 企業が求められること

同法では、正社員と非正規雇用労働者(短時間労働者・有期雇用労働者)の間の不合理な待遇差の解消(いわゆる「同一労働同一賃金」)として、以下のことが求められています。

①同じ企業で働く正社員と非正規雇用労働者との間で、基本給や賞与、手当、福利厚生などあらゆる待遇について、不合理な差を設けることが禁止されます。

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※職務内容とは、業務内容+責任の程度をいいます。

②事業主は、非正規雇用労働者から、正社員との待遇の違いやその理由などについて説明を求められた場合は、説明をしなければなりません。

2 各企業の対応状況

独立行政法人 労働政策研究・研修機構が実施した「同一労働同一賃金の対応状況等に関する調査」の結果が、2021年11月に公表されました。以下に、その結果を抜粋してご紹介します。

「同一労働同一賃金ルール」への対応(雇用管理の見直し)状況

「同一労働同一賃金ルール」への対応(雇用管理の見直し)状況

待遇要素毎の具体的な見直し内容
(「必要な見直しを行った・行っている、または検討中」として待遇面の見直しを挙げた企業のうち)

待遇要素毎の具体的な見直し内容

「パートタイム・有期雇用労働者」に対する「正社員(無期雇用フルタイム労働者)」との待遇差や理由にかかる説明状況
~待遇差が「不合理ではない」ことについて

待遇差や理由にかかる説明状況

※すべて『独立行政法人 労働政策・研究機構「同一労働同一賃金の対応状況等に関する調査」結果』より

以上のように、対応が必要なことのうち、不合理な差に対する対応が完了している企業はおよそ5割、待遇差や理由が説明できると回答している企業はおよそ6割であり、それ以外の企業が、対応中あるいは対応が進んでいない状況であることが見て取れます。

3 おわりに

具体的な見直し内容を見るに、取扱いをマイナス方向で検討する事例もありますが、これには不利益変更に該当する要素もあります。いまだ対応方法にお悩みの企業や、取扱い変更時や待遇差の説明について自信を持てない企業は、専門家の助言を受けるなどし、いち早く対応することが望まれます。

※本内容は2021年12月13日時点での内容です

(監修 社会保険労務士法人 中企団総研)

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【朝礼】自分の中に潜む“虎”を飼いならそう

明けましておめでとうございます。今年のえとは「寅(とら)」です。そこで、今日は動物の虎にまつわる話として、中島敦(なかじまあつし)氏の小説「山月記(さんげつき)」を紹介します。

山月記の舞台は、今から約1300年前の中国です。主人公の李徴(りちょう)は大変な秀才で、若くして役人になりますが、とてもプライドが高く、自分よりも能力の低い上司に仕えるのが嫌で、役人を辞めてしまいます。その後、李徴は詩人として身を立てようとしますが、彼の詩は世間から評価されませんでした。生活が苦しくなった李徴は、詩を諦めて再び役人になりますが、かつての同僚が自分より高い地位に就いていることなどに耐えられず、行方をくらましてしまいます。

その1年後、袁慘(えんさん)という李徴のかつての友人が、ある林の中で1匹の虎に出合います。その虎は、行方不明になっていた李徴その人でした。李徴は袁慘の前で、自分が虎になってしまった理由をこう話します。「自分は詩人として身を立てたいと思いながら、誰かに教えを請うたり、友人と競って腕を磨いたりしてこなかった。もしも自分に才能がないと分かってしまったらと思うと怖かったし、一方で、自分は優れているという自負もあったから凡人と交わりたくなかった。この『尊大な羞恥心』が猛獣、つまり虎だったのだ」。最後に李徴は、自分が人の心をなくして完全に虎になる前に林から出ていくよう袁慘に言い、二度とその姿を現さなくなります。

李徴の言う「尊大な羞恥心」、これは何も特別なものではありません。皆さんも「上司や先輩に怒られるのが怖くて、質問できない」「本当は知らないことについて、つい知ったかぶりをしてしまう」「旧来のビジネスの進め方にこだわって、新しい方法を受け入れようとしない」といった経験があるはずです。誰だって自分の無知をさらけ出すのは怖いことです。しかし、知らないことを放置すれば、それ以上の成長はありませんし、事故にもつながりかねません。

ですから今年は、「知らないことは知らないと、はっきり言える環境」をつくっていきましょう。どんな初歩的なことでも分からなければ質問し、質問を受けた人は丁寧に対応してください。これは新入社員や若手だけでなく、上司も含む全社員へのお願いです。私も含め、誰一人完璧な人間はいません。入社時期や役職に関係なく、全員が全員の無知を受け入れられるようになりましょう。

ただし、注意してほしいことがあります。それは「羞恥心を忘れない」こと。よく同じ質問を何度も繰り返す人がいますが、そうした人は「分からなければ、また質問すればいい」と軽く考え、相手の言ったことを理解する努力をしていない場合があります。羞恥心のせいで行動できないのは問題ですが、知らないことを恥と思う感覚をなくしたら、人は成長しません。皆さんの中に潜む羞恥心という“虎”は、退治すべき存在ではなく、上手に飼いならしていくべきものなのです。

以上(2022年1月)

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【朝礼】任せる責任、任される責任

日ごろから私は皆さんに、「次工程はお客様」ということを繰り返し伝えています。仕事は1人で進めるものではありません。たとえ社内であっても、次工程を担当する人が進めやすいように考えて仕事をしてください。アウトプットの方法もしかり、スケジュールもしかりです。

「次工程はお客様」とは、つまり、「次工程も自分事として考える」、ひいては「一連の仕事全体を自分事として考える」ということに他なりません。皆さんはこのことを、本当に理解できているでしょうか。残念ながら私にはそうは思えません。「次工程に移ったら自分はもう関係ない」と考えている人が多いように感じます。

例えば、自分の担当分が終わり、次工程を担当する人に仕事を任せた後、皆さんはどうしていますか。スケジュール通りに進んでいるか把握しようとしていますか。困ったことが起きてはいないかどうか、確認しているでしょうか。

スケジュール通りに進まなかったときやトラブルが発生したときなどに、皆さんは「私はちゃんとやりました」と言うことがあります。それに対して次工程がうまく進められていないことを把握していたか尋ねると、「確認していません」「それは次の担当に任せています」と答えたりしますが、それでは「ちゃんとやった」ことにはなりません。仕事は、誰かに任せたらそれで終わりではありません。任せる側には、任せた後の進捗を確認し、完了まで見届ける責任があるのです。

一方、任される側にも、同じだけ責任があります。任される側の責任は、第一に任された仕事をしっかり進めることですが、それだけではありません。予定通り進捗しているかどうか、問題が発生していないかどうかなどを、自分のほうから任せてくれた人に報告や相談をし、知らせる責任があるのです。

また、任されることがあらかじめ分かっているのなら、「自分は次工程だから」と黙って待っているだけでは問題です。前の工程がうまく進められているかどうか、もしそうではないなら手伝えることはないか、先に調整しておける部分はないかを確認しなければなりません。ただ待つのではなく、仕事を任されるために必要な準備をするのも、任される側の責任です。

このように、仕事は、任せる側にも任される側にも責任があります。どちらも重要な責任です。両方がそれを果たして初めて、仕事が完了するということを肝に銘じてください。

皆さんは日々、任せる側と任される側、どちらの立場にも立つでしょう。大切なのは、どちらの立場であっても「声を出すこと」です。両方が声を出し、状況を知らせたり確認し合ったりしていれば、仕事は回っていくはずです。

仕事ではチームワークが大切です。チームワークは、任せる側と任される側のそれぞれが、まず自分の責任を果たした上に成り立つものだということを忘れてはならないのです。

以上(2022年1月)

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清水エスパルスの経営はプロ野球より難しい/千葉ロッテを黒字転換させた前球団社長の組織再建術(特別編)

書いてあること

  • 主な読者:会社の再建を成功させたい経営者
  • 課題:資金も戦力もないところから、どのように立て直せばよいのか分からない
  • 解決策:社内で人材が不足している分野は、副業人材の新たな採用や社外との提携など、外部の力を積極的に活用する

この記事は、千葉ロッテマリーンズ(以下「千葉ロッテ」)の前球団社長・山室晋也氏へのインタビューの「特別編」です(本編は下記)。2019年末に千葉ロッテの社長から「フリーエージェント宣言」して退任し、2020年1月にJリーグの清水エスパルス(運営会社はエスパルス)の社長に就任した山室氏の、新天地での状況をお伺いしています。経営者の皆さまの会社再建、組織再建の参考になれば幸いです。

1 「降格」があるJリーグでは、チーム力と収益力を同時に強化する必要がある

2019年11月に千葉ロッテをフリーエージェント(以下「FA」)宣言して退任することを発表したときは、「FA」の文字通り、転身先が決まっていませんでした。FA宣言後、さまざまな会社からオファーをいただいた中で、一番自分を評価していただいたJリーグ(日本プロサッカーリーグ)所属の清水エスパルスに行くことを、ほぼ即決しました。

とはいえ、千葉ロッテより清水エスパルスの経営のほうが楽だと思ったわけではなく、むしろその逆です。千葉ロッテの社長に就任したときもそうですが、私は昔から「火中の栗を拾う」という性分なのだと思います。

1)清水エスパルスで利益を出すことは目指せない

プロ野球とJリーグの経営は、いずれもスポーツ・エンターテインメントビジネスですが、最も大きな、そして決定的な違いは、Jリーグにはシーズンの戦績によって下部リーグへの「降格」があることです。千葉ロッテでは、チーム力の強化の前に、まずは収益力という経営面の強化を優先して取り組むことができました。ですが、清水エスパルスでは、「下位でもいいや」ということが許されません。

降格してJ2になってしまうと、収入は大幅に減少することになり、前提となる経営環境が変わってしまいます。「収益力を上げることを優先して、J2(2部リーグ)、J3(3部リーグ)に降格しました」は、戦略としてあり得ません。チーム力と経営面の強化の両にらみで進めていかないといけないという制約があるわけです。これは正直、きついです。

ですから、Jリーグの場合、常に優勝争いをしているくらいでないと利益が出ない体質といえます。これは欧州のトップリーグでも同じだと思います。欧州のサッカーチームのオーナーがよく変わるのは、会社組織としては全然もうからず、「サッカーチームを保有している」という、オーナーの満足感でチームが維持されている側面があるからだと思います。一方、米国のメジャーリーグなどでは、球団自体にバリューが付いて転売したりもできています。

これはサッカー特有のビジネスモデルだと思いますので、私も清水エスパルスで利益を出そうとは思っていません。

2)目標はチームの強化とファン層の拡大

清水エスパルスでの目標は、チームを強くすることと、ファン層を拡大することです。

清水エスパルスというチームは、過去には天皇杯(天皇杯JFA全日本サッカー選手権大会)での優勝(2001年)や、Jリーグでのステージ優勝(1999年第2ステージ)の経験もあり、1993年のJリーグスタート時に参加した10チーム「オリジナル10(テン)」に入っている名門チームです。

ところが、2000年代に入ってからは下位に低迷することが増えていますので、ある程度の強さをしっかりと示さないといけないフェーズにあると思います。

チームを強くしないといけない最大の理由は、ファン層を拡大させるためです。清水エスパルスの一番の課題は、若年層のファンの獲得です。本来、チームが永続していくには、常に新たなファンを獲得していく必要があります。ところが、清水エスパルスではファンの平均年齢が毎年上がっています。

ファンの高齢化は野球チームでも同じような傾向があるのですが、特に清水エスパルスの場合は顕著に見られ、10代、20代の新規加入がものすごく少なくなっています。その理由としては、静岡という“地方”が本拠地であることと、オリジナル10としてものすごく輝いていた20~30年前のファン層が今でもメインになっているという、2つの要素があると思います。

清水エスパルスのファンは、従来は旧清水市、今は旧清水市を含む静岡市全体が中心となっていますが、マーケットとしては静岡県全域をカバーしたいと考えています。それくらいの商圏がないと、チームを運営するのはなかなか難しいと思います。静岡県内には他の人気チームもありますので簡単ではありませんが、ファンの獲得に取り組んでいかなければいけないと思っています。

3)お金を掛けても結果が伴わないスポーツの難しさ

チーム力強化のために、2021年のシーズンが始まる前は、日本代表のゴールキーパーを1年間の期限付き移籍で獲得するなどして、メディアで随分と選手を補強したと言われました。ですが、なるべく移籍金の掛からない選手を獲得しており、実はそんなにお金を掛けていません。予算としては、前年よりも若干は増えていますが、そこまで大幅に増えたわけではないです。

実際には、メディア戦略によって大型補強に見せたという面があります。従来は選手を獲得した場合、一度に発表していたものを、日にちをずらして発表するようにしました。しかも、最初に臆測記事が流れるように仕向けて、正式に発表をして、記者会見を行うという、「一粒で3回おいしい」形にしました。1人の選手の加入につき3回の山を作ることで、ファンの期待感をあおることも狙ったのです。

2021年はACL(AFCチャンピオンズリーグ)の出場権が得られるような、Jリーグで3位以内(2020年は16位)とか、天皇杯のタイトルとかの争いに絡むことができると思っていました。もちろん私の立場としては、常に優勝を狙うことは言い続けなければいけないポジションではありますが。

実はシーズン開幕前の補強ではあまりお金を掛けませんでしたが、シーズン半ばの2021年夏には、本当にお金を掛けて補強しました。それにはお金が必要ですので、スポンサー企業からの支援のめどがついた段階で新たな選手を獲得しました。

最終節にJ1への残留が決まった2021年の結果(Jリーグ14位)については、やはりスポーツはお金を掛けて良い選手や監督を集めたから勝てるという簡単なものではないということですし、歯車がうまく回らなかったのだと思います。ここ数年の低迷から脱却すべく、強い決意のもと臨みましたが、皆様のご期待を大きく裏切る結果となってしまったことを、清水エスパルスを応援してくださる全ての皆さまに深くお詫び申し上げます。2022年も、J1の舞台で戦うことができます。クラブ創設30周年を迎えるシーズンだからこそ、クラブの歴史の重みを噛み締めつつ、もう一度原点に立ち返り、強い清水エスパルスの再建を目指していきます。

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2 組織再建のために外部の力を積極的に活用

1)グッズ販売店の閉鎖などで1億円以上のコストを削減

社長に就任した2020年は、チームのスローガンを「RE-FRAME」とし、ゼロベースから改革に取り組むことにしました。多くの社員が新たなチャレンジに期待してくれ、さまざまな要望を聞くことができました。

組織を再建するための基本的な考え方は千葉ロッテ時代と変えていませんが、清水エスパルスの場合、ここ20年間ほどいろいろなものが昔のままで見直されていなかったので、アップデートする必要がありました。

例えば、グッズ販売店を6店舗運営していたのですが、分析したところ全店舗が赤字でした。そこで、2020年9月に5店舗を閉鎖し、1店舗のみに集約しました。また、毎月発行していたオフィシャルマガジンを2021年3月号より、従来の紙媒体からデジタルブックに改めました。こうした取り組みによって年間1億円以上のコスト削減ができ、新たな投資に振り向けられるようになりました。ただし、経営課題としてコストの削減を優先していたわけではなく、これまでのやり方を見直し、無駄な部分をなくした結果、ということです。

2)グッズ改革のために外部とパートナーシップ契約

グッズ販売店の問題もありましたが、グッズの改革は、清水エスパルスにとって大きな課題でした。さらに、コロナ禍によって観客数が制限されたことで、チケット収入だけには頼れなくなり、改革の重要性はさらに高まりました。

そこで、2020年12月に、プロスポーツのグッズの企画製造販売を行っている米国のファナティクスの日本法人との間で10年間の戦略的マーチャンダイジングパートナーシップ契約を結びました。同社は米国のメジャーリーグやアメリカンフットボール(NFL)およびバスケットボール(NBA)といったリーグの他、欧州のマンチェスター・ユナイテッドFCやパリ・サンジェルマンFCといったクラブチームとも提携している企業です。日本では2019年以降に複数のプロ野球チームが契約していますが、Jリーグのチームでは初めてのパートナーシップ契約でした。

スポーツチームのグッズ販売というのは、実はそんなにもうかっていないことが多いです。なぜかと言うと、表向きの利益は出ますが、最後に在庫管理の部分で大きなロスが出てしまうのです。特にサッカーの場合は毎年ユニホームが変わりますから、古くなると売れなくなってしまいます。在庫管理を上手に行わないと利益がほとんど残らなくなってしまうのですが、その辺りのオペレーションはものすごく難しいです。商品企画や品質管理も行わなければなりませんが、スポーツクラブには専門のプロもいませんし、販売促進をやるにもかなりのリソースが必要になります。そこで、そういったことに長けている外部と提携したほうがいいと考え、ファナティクスとの契約を締結しました。

2021年からファナティクスにグッズの企画製造とオンラインストアも含めた店舗運営を任せることで、新たな施策もできるようになりました。サッカーの試合で最も活躍した選手が「MAN OF THE MATCH」に選ばれるのですが、ホームゲームで勝利した後に、MAN OF THE MATCHに選ばれた選手のTシャツやフェイスタオルといったグッズを期間限定、数量限定で販売する企画を2021年3月から開始しました。勝利の熱気が冷めないうちにファンの購買意欲を満たす「ホットマーケット」を狙ったもので、ECサイトからの購入者には最速2日で届くようにしました。

3)IT活用の強化のためにデジタル人材を副業で雇用

コロナの影響もあり、プロスポーツビジネスの世界でもITの活用、DXが求められています。SNSを活用したファン層の拡大は、千葉ロッテでも取り組みました。清水エスパルスはかなり出遅れたというほどではありませんが、やはりキャッチアップしていく必要があると思います。

ITの活用は今後強化していく課題ですが、デジタルマーケティングやITの分野に詳しい人材が、社内には決定的に不足していました。エスパルスの正社員は三十数人の規模ですので、その中にITやグッズに詳しい人までそろえるのは難しいです。専門人材は外部に任せるということが必要になっています。

そこで、2020年12月に、副業という形でマーケティングとデータマネジメント業務の人材募集を行い、2021年4月にヤフージャパンのデータコラボレーション部の部長を副業人材として採用しました。デジタル関連の人材は首都圏に集中しており、採用までの時間と静岡までの距離をクリアするためには、副業という形で人材を募集したほうがよいと考えました。千葉ロッテでは内部人材の活用を重視しましたが、組織再建のための考え方を変えたわけではなく、コロナ禍や働き方改革といった時代の流れもありますので、そのときに最も適したやり方を選択した結果だと思っています。

3 ファンサービスとユーモアを大事にする“山室流”は変わらず

コロナ禍で思うようにはできていませんが、ファンサービスのための新しいアイデアは、清水エスパルスでも積極的に取り入れています。

2020年4月のエイプリルフールには、社員からの発案で、私が社長を退任し、用具担当(業務委託契約)として出直すことにしたというニュースリリースを発表しました。実際にボールを運んだりスパイクシューズを磨いたりする姿をSNS動画にも投稿しました。コロナ禍の厳しい時期で批判が寄せられることへの懸念はありましたが、社員には「とにかく話題になるようなことをSNSで発信しよう」と言っていたこともあり、快諾しました。

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この他にも、ホームゲームで、過去に清水エスパルスに在籍した47人のブラジル選手の顔を配置したTシャツをプレゼントした「ブラジルデー」や、地元の「清水港マグロまつり」と連動した「まぐろDAY」といったイベントを開催しました。コロナの影響で実現しなかった、ブラジルのサンバチームによるダンスやマグロの解体ショーなどは、2022年以降にできればよいと思っています。

【参考文献】
「経営の正解はすべて社員が知っている」(山室晋也、ポプラ社、2021年2月)

山室晋也(やまむろ しんや)
1960年1月25日、三重県生まれ。エスパルス代表取締役社長。
1982年に立教大学経済学部卒業後、大手銀行に入行。4店の支店長を経て、2011年4月から執行役員。2013年4月、銀行子会社の代表取締役社長に就任。
2013年11月に千葉ロッテマリーンズ顧問に就任し、2014年1月から取締役社長。2019年12月、退任。
2020年1月、清水エスパルスを運営するエスパルス代表取締役社長に就任し、現在に至る。
著書に「経営の正解はすべて社員が知っている」(ポプラ社、2021年2月)。

以上(2022年1月)

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人事の超スペシャリストにお聞きする【中小企業の人事のあるべき姿:7つの重要なこと】〜今日から会社の「しわ」を伸ばしましょう!/岡目八目リポート

年間1000人以上の経営者と会い、人と人とのご縁をつなぐ代表世話人杉浦佳浩氏。ベンチャーやユニークな中小企業の目利きである杉浦氏が今回紹介するのは、安田雅彦さん(株式会社 We Are The Peopleの代表取締役)です。

グッチグループジャパン(現ケリングジャパン)やジョンソン・エンド・ジョンソン、ラッシュジャパンなど外資系企業で人事責任者などを歴任されてきた安田さん。人事のスペシャリストとして、メディアでも広くご活躍されています。
安田さんは2021年7月末でラッシュジャパン人事責任者を辞職、株式会社We Are The Peopleを起業され、中小企業の人事などをサポートされています。今回の岡目八目は、そうした安田さんに「中小企業の人事のあるべき姿」についてお伺いした、大変光栄で貴重な内容となりました。中小企業の経営者の皆さまにとって、組織を改革していくご参考になれば幸いです。

1 「中小企業の人事をサポートする」という思い

2021年夏に起業し、中小企業の人事をサポートされている安田さん。安田さんの掲げる人事は、日本企業にありがちな「人を管理する人事」とは根本的に違うもので、ずばり「人事=経営戦略」です。

We Are The People社のWebサイトに掲載されている事業への考え方と想いを示した画像です

(出所:株式会社 We Are The PeopleのWebサイト)

安田さんは起業の理由を次のように教えてくれました。

    今の時代、中小企業にもエンゲージメント、多様性・ダイバーシティ、パーパス経営といった、「いかに企業としての存在意義・存在価値をセットするか」が求められています。こう伝えると、「それは大企業の話ですよね」「安田さん外資系だし」と言われることがよくあります。しかし、規模や外資かどうかは関係ない。要は、「(その企業が)やるかやらないか」であって、これまでの経験や見識は中小企業でも通用すると思っています。

    日本企業はほとんど中小企業で、その中小企業の活性化こそが日本経済の明日につながります。これまでの経験や見識、ノウハウを中小企業の人事サポートに役立てたいという気持ちで起業しました。

安田さんは、起業への思いを、noteにも詳しく記載しておられます。

Hello! 社名は「株式会社 We Are The People」といいます。

安田さんのサポートは、人事制度づくりに留まるものではなく、もっと根本的なものです。後ほどご紹介しますが、「この会社は何のために存在するのか」といったことを、一日がかりで社内会議したりもします。
安田さんに、「中小企業が人事面で心がけること」として、7つの本当に重要なことを教えていただきました。次章から、ご紹介していきます。経営者にとっては耳の痛い内容かもしれませんが、組織を良くするヒントとしてお読みいただければと思います。

2 これまでの歴史に向き合う

安田さんのご支援先には2代目経営者もいます。多くの2代目経営者が抱える悩みは、「自分(経営者)が新しいことをやっていこうとしても、メンバーが付いてきてくれない」というもの。

これに関して安田さんは、「メンバーが付いてきてくれないのには理由がある」と言います。その理由はさまざまですが、特に、

    これまでの成長の歴史に向き合わず、自分(2代目経営者)のつくりたい未来の話ばかりしてしまっている

ことが多いのだそうです。今、企業が存在しているのは、これまでの成長の歴史があるからです。こうした成功のDNAを探し、寄り添うことをおろそかにしてはいけないということです。

3 トップがロールモデルになる

メンバーが付いてこないことに関しては、もう一つ、

    トップがロールモデルになっていない

ことも原因だと指摘する安田さん。「うちは人材育成をもっとしなきゃいけないのに、部長たちは面談やフィードバックを全然やらない」と言う経営者がいるそうですが、逆に「では、社長は部長に面談やフィードバックをしているのですか?」と尋ねると、「いや、そこまでやっていない」と答えるのだそうです。

    「社長がしなかったら部長が課長に面談やフィードバックをするわけがないし、課長が担当者にするわけがない」

当然のことですが、経営者が率先してやることが大事。メンバーが付いてこないときほど、経営者は自身の言動を振り返る必要があるのでしょう。

4 フィードバックは「オン・ザ・ジョブ」が鉄則

人材の成長にはフィードバックが大事で、

    フィードバックは「オン・ザ・ジョブ」、つまり仕事の中で行うこと

がポイントだそうです。
「経営塾のような座学も大事ですが、それだけだと人はなかなか成長できない。
仕事の中で【できているか、できていないか】を伝えて、できていなければ何がどうできていないのかフィードバックして、できていれば褒める。これを愚直に伝え続けていく。シンプルですがとても大事なことです」と安田さん。

5 【OS】は他社でつくらせるものではない

安田さんは、「人事制度は、会社にとっての【OS】です」と面白い表現をしてくださいました。人事制度はOSであり、メンバーに対するメッセージです。

    自分たちの会社のOSを他人がつくれるわけがない。つまり、人事制度をつくるときに人事コンサルに任せきりにしてはいけない。それではメンバーにトップの意図が伝わりません

と安田さんは警鐘を鳴らします。
ただし、人事の専門知識が不足しているなど、経営者だけでは難しい場合は人事コンサルに相談してもいいそうです。ただそうした場合でも、「経営者が経営者自身の言葉で分かるまで、コンサルに何回も説明してもらい、腹に落ちるまで徹底的に話すべき。だって、経営者が分からないのに、メンバーは分かりませんから。絶対に」と安田さんは続けます。

6 メンバー皆で考える。【事例】安田さん流「一日がかりの社内会議」

安田さんのご支援の一環として行われるのが、「一日がかりの社内会議」です。安田さんが重視するのは、

    「この会社って何」という本質を、経営者ではなく、メンバーが話すこと

です。お教えいただいた事例は、下記のような内容でした。

【事例】「一日がかりの社内会議:目的は人事制度をつくること」

安田さんがメンバーに投げかけたのは、次のことです。

  • 人事制度はOS。そもそも、何のためにこの会社があり、どのような価値を提供していきたいのか。そこから考える必要がある
  • 「5年後に10億、10年後に20億つくります」はあくまで数字の結果でしかない。そのときに世の中をどうしていたいか、周りに何と言われたいか

こうしたことをメンバーが自ら発言するだけでも画期的ですが、安田さんの方法はさらに工夫されたものでした。上記のような話をするには信頼関係が大事なので、それを築くところから始めました。その方法は2つで、1つ目は「ハイポイントインタビュー」、2つ目は「年表づくり」です。

1)ハイポイントインタビュー

これは、ペアになったメンバーが、互いに「今の自分に最も影響を与えた幼少期の出来事」を話し、話を聞いた側が相手のその出来事を発表します。一緒に働く仲間のことをもっと知ることが狙いです。

話を聞いた側は、「ああ、こういう人なのだな」と分かりますし、話を聞いてもらった側は、「あ、自分にはこういうことがあったな」と改めて気づきを得ます。
安田さん曰く、このインタビューでは、必ず「だから、あのような発言をしていたのか!」ということがあり、それが大事なのだそうです。

2)年表づくり

これは、大きな模造紙に3つの枠を作り、「社会の歴史」「この会社の歴史」「皆さんの歴史」を書き入れていきます。創業年か経営者が生まれた年から年表を始め、「未来」もつくります。
年表づくりの趣旨は、この会社がどうやって今日まで発展を遂げてきたかということに想いを馳せ、そのとき自分が何をしていたかという「自分の歴史」や「社会の歴史」を重ね合わせていくというものです。

    「歴史的瞬間を皆で語り合うことで、皆の歴史、皆の時間軸が合ってきます。そして、思い入れも強くなっていきます。今まで全く別の時間軸で生きてきたメンバーが、【今日】という同じスタートラインに立つ。そして、【そこから、一緒に未来を考えていこう】となるわけです」

ハイポイントインタビューと年表づくりを午前中に行い、午後から「自分たちの存在意義、価値はなんだろう」を考えます。
信頼関係を築き、企業の存在意義をメンバーで共有する「一日がかりの社内会議」。本当に素晴らしいですね! 実際にこの会議をされた企業さんは「とてもよかった」とのことで、次のような感想が寄せられています。

【参加された方からのご感想(要約)】

  • 実はメンバーが会社のことをどう思っているか不安だったが、セッションを通して、メンバー一人ひとりが成長したいと思っていること、お互いのために何ができるかをすごく考えていることが分かった。
  • 自社のカルチャーや価値観を今どれくらい体現できているかを考える時間があり、そこでメンバー共通で出た課題があった。これから入ってくる人もエネルギー高く働けるように、働き方や組織の仕組みの改善すべきポイントを認識できた。
  • セッションをきっかけに視座が上がった。自分個人としてのパフォーマンスはもちろん、メンバー一人ひとりの成長、会社としてのクオリティ向上のために、チームのために時間を使おうと思うようになった。
  • このセッションを通じて大きな心理変容があった。メンバーを、会社の未来を一緒に作る仲間だと思えるようになった。
  • 他者理解が進んだことで、会社に安心感が生まれたように感じる。この会議の後、実際に全社会議なども雰囲気が明るくなった気がする。
  • 小さなことでもいいから仲間と話したり、仲間のことを知ったりする機会を作ろうと思った。仲間やこれから入ってくるメンバーが、幸せに安心して仕事ができるよう組織としての仕組みや交流が図れる場づくりをしていきたい。
  • 自分自身が、仲間と一緒にこの会社の未来を作っていく当事者なのだと自覚することができた。

ご感想を読んでいると、メンバーの方々がもう何か成長されているように感じます。安田さんが次のように言っておられたのがよく分かります。

    「経営者はすぐ人事制度から入りたがる傾向がありますが、やはりパーパスや価値、存在意義、認識の共有そういったものが根底にあって、それから人事制度を作るべきなのです。その順番は間違えてはいけない」

7 すべての部門がハッピーである

安田さんは「すべての部門がハッピーであることが大事。でも、このことをちゃんと分かっている経営者の方は少ないかもしれません」と言います。

よくあるのは「営業部門は花形」という考え方です。特に営業系(販売会社など)の企業に多いのですが、「とりあえず営業の意見が最優先」「営業が走り回れるようにサポートせよ」「お金を稼ぐ営業が1番大変」という考え方では、

    必ずどこか他の部門(例えばカスタマーサービス、商品管理、営業事務、経理、総務など)にしわ寄せがいってしまう

と言う安田さん。

    「虐げられている部門があっていいわけがない。それを是としている限り、組織全体のエンゲージメントやモチベーションは決して上がりません」

この安田さんの言葉にはドキっとしてしまいます。
「こういう状態だと、あの部門にはしわが寄っているからかわいそう、申し訳ないという観点になってしまい、意外と仕事のクオリティを問わなくなってしまう。罪滅ぼしで良い評価をつけたりするから、今度は次第にその部門に問題があっても誰も指摘できない【モンスター部門】になってしまうのです」と続ける安田さん。こうした組織では、エンゲージメントが上がるはずがありません。「しわ」が寄るのは本当に良くない、今日からでも「しわ」を伸ばす意識が大切です。

8 2種類の1on1を分けて考える

「しわ」を発見する、あるいは伸ばすためにも「1on1」が大事です。そして、1on1についても、安田さんから貴重なアドバイスをいただきました。それは、

    1on1に詰め込みすぎないほうがいい

ということです。

1on1には、

  • 普段の1on1
  • 半期ごとなどに行う業務のパフォーマンスに対する評価や能力開発、キャリアについての1on1

の2種類があると説く安田さん。
「普段」のほうは、文字通り、日ごろ行うもので、いわば「今どんな感じ?」を聞くイメージです。モチベーションやエンゲージメントの確認、信頼関係のメンテナンス、ちょっとした業務の確認などです。一方、「半期ごと」のほうは、評価やキャリアの話といった特別感がある内容です。
内容も意味合いも違う2種類の1on1は分けて考えたほうがよく、両方の要素を詰め込もうとするとうまくいきません。

例えば、「普段は全く1対1の会話がないのに、半期に一度、急に1on1をして、今幸せか? と聞かれても聞かれたほうは困惑しますよね。普段から仕事以外の会話をきちんとする、日ごろの人間関係・信頼関係をどう作るかがパフォーマンスやエンゲージメントに影響していくのです」と安田さんは言います。

9 まとめ:安田さんが語る「中小企業が進化するための条件」

中小企業には、「部長・課長といった管理職が育たないから、直接、経営者がメンバーに指示やフィードバックする」といった課題があります。この点について安田さんにお聞きしてみました。

    「直属の上司がいるのに、その人を飛び越えてフィードバックしないほうがいい。たまに、経営者が思いつきで全メンバーと1on1するというのも、直属の上司がいるのであればやめたほうがいいと思います。はがゆくても直属の上司にやらせる。そうしないと結局、管理職が育ちません」

そして安田さんは最後に、「経営者は、中間管理職にしっかりと権限を与え、責任も取らせる。それが大事」ということも教えてくれました。

    「中小企業だとしても、その部門の人に採用の責任を負わせる。あなたが責任を持つなら採用していいですよ、と。財務部門なら財務部門の部長が採用責任者になる。日本の会社では、人事が良いと思う人材を採用して、中間管理職に教育せよと言って押し付ける。直属の上司(中間管理職)からしてみれば、自分の責任のない知らないところで人事が採用してきた人を、本気で育てる気になんかならないと思います」

中小企業が進化することが、日本経済の明日につながる。安田さん、大変勉強になりました、有り難うございます!

以上(2022年1月作成)

2022年度税制改正大綱のポイント整理 ~住宅ローン減税と賃上げ税制の改正が目玉~

(要旨)

  • 2022年度の税制改正大綱が与党から示された。大所は①住宅ローン減税の見直しと②賃上げ減税の見直しだ。
  • 住宅ローン減税の見直しでは、控除率引き下げ・対象となるローン残高上限の引き下げが家計負担増要因となる一方で、控除期間の延長、優遇対象となる住宅の種類の拡大が行われている。新たに優遇対象となる「省エネ基準適合住宅」は戸建てで9割、共同住宅で7割(新築分)が基準を満たしており、多くの住宅が優遇を受けられるとみられる。また、ローン残高が少ない、支払い税額が少ない世帯では減税メリットをフルに受けられないため、控除率引き下げのデメリットよりも控除期間延長のメリットが大きくなる。改正後のほうが減税額が多くなる世帯も相応にいるだろう。
  • 賃上げ減税は大企業では給与増額分の最大30%、中小企業では最大40%の税額控除を受けることができるよう拡充される。ただ、一時的な減税が企業にとっては固定費にあたる賃金上昇をどこまで促すのかは不透明。
  • 今後の課題として、働き方の中立化のための所得控除制度の見直し、資産移転時期の中立化のための資産課税の見直しのほか、金融所得課税における「1億円の壁」の見直しなどが挙げられている。筆者の注目は資産課税の見直し。若年層への資産移転・生前贈与促進と格差固定化防止という2つの論点について、バランスの取れた議論が求められている。

2022年度税制改正大綱が示される、大所は住宅ローン減税改正&賃上げ減税拡充

12月24日に令和4年度税制改正大綱が閣議決定された。今回の税制改正の大所は①住宅ローン減税の見直しと②賃上げ税制の拡充である。①は昨年度大綱で改正の方向が示されていたもので、金利低下のもとで住宅ローンの金利負担分を減税額が上回る、いわゆる「逆ざや」が会計検査院に問題視されたことを発端とするものだ。減税額の上限を金利負担分とするキャップ制の導入も議論されたが、事務の煩雑さ等の観点から一律で控除率を引き下げる形に落ち着いた。キャップ制は上限額の範囲内で高めのローン金利を選択する誘因にもなってしまう点も問題含みであった1。②は賃上げ税制の拡充だ。要件を満たすことで、大企業で給与増額分の最大30%、中小企業で40%の税額控除を受けられるようにし、企業の従業員への賃金還元を後押しする。

このほか、企業によるスタートアップ出資を促すオープンイノベーション税制の延長、住宅資金の贈与税非課税制度の縮小・延長等の改正が示されている。富裕層に保有資産の報告を求める財産債務調書制度は、所得が少ない場合でも資産要件のみで提出を求め、提出義務者の範囲が広げられる。2023年10月から開始される予定のインボイス制度の円滑な移行に向けた対応等も大綱で示されている。

2022年度税制改正大綱の主な内容


1 例えば、キャップ制を設けると変動金利:0.5%、固定金利:1.0%の場合、控除率が▲0.5%、▲1.0%となり、実質負担は0.0%、0.0%で同等となる。金利上昇のリスクを抑えられる固定金利を選択する、といったようにインセンティブにゆがみが発生しうる。

住宅ローン減税改正はプラスになる世帯も、ポイントは控除期間延長と省エネ住宅基準

今回の住宅ローン減税の改正によって控除額算定にあたってローン残高に乗じる控除率が引き下げられる(1%→0.7%)ほか、対象となるローン残高の上限が引き下げられている。また、減税を受けるための所得要件が3000万円→2000万円に引き下げられており、これらの点は増税(減税縮小)要因だ。一方で、ローン控除の期間は10年→13年に延長されているほか、残高上限の優遇が受けられる住宅の種類が増えている。従来は優遇を受けられる長期認定優良住宅とその他の一般住宅の括りのみであったが、ZEH(ネットゼロエネルギーハウス)と省エネ住宅の2つが追加される。認定基準の厳しい順に長期認定優良住宅>ZEH>省エネ住宅となり、控除上限もこの順に大きい。

資料2では改正内容を踏まえて通算の最大控除額を計算、その変化をまとめた。これらの認定基準に該当しない一般住宅については最大減税額が縮小されるなど基本的に増税(減税縮小)方向での改正となる一方、環境配慮型住宅に大きめの控除が導入されている。このうち、省エネ住宅はカバー範囲が広く、2019年度の新築住宅に占める割合は戸建てで9割弱、共同住宅で7割程度に上る(資料3)。新築でみると現行制度の一般住宅の最大控除額は400万円だが、新制度の省エネ基準を満たした場合の最大控除額は364万円と減税額の縮小度合いはさほどドラスティックなものではない。また、①ローン残高が少ない、②対象となる所得・住民税が控除率1%分に満たない、ために最大控除額まで恩恵をフルに受けられていない世帯にとっては、控除率が引き下げのマイナス影響は小さい一方、控除期間延長の恩恵が大きくなる。今回の改正がプラスになる世帯も相応にいるものと考えられる。

ただし、2024・25年は新築住宅についてはいずれも縮小方向での改正が予定されており、こちらは明らかな負担増の要因だ。基本的には住宅ローン減税制度は縮小方向が志向されていることは確かであろう。将来的には再改正を加えたうえで延長されることも想定されるが、その際には省エネ・脱炭素基準の厳格化等を通じて、より環境性能の高い住宅の取得を促すような形が考えられる2。同様のスキームは自動車におけるエコカー減税でも用いられており、住宅ローン減税も似た形になる可能性があろう。


2 なお、今回の改正では既に、2024年以降に建築確認をした新築住宅については、省エネ基準適合が住宅ローン減税適用の要件とすることが示されている。

今後の住宅ローン減税制度 控除率・控除期間・所得要件

今後の住宅ローン減税制度 制度適用年・住宅種類ごとの最大控除額

新築住宅に占める環境基準等の認定を受けた住宅の割合

賃上げ減税を拡充、どこまで利用が広がるかは不透明

賃上げ減税は給与増額率などを要件に、より多くの従業員還元をした場合には減税額が追加される仕組みとなっていたが、今回の改正でこの追加減税部分が拡充されることになった。より大幅な賃上げに対してインセンティブを効かせた形だ。内容を以下でまとめた。要件を満たせば大企業では給与増額分の30%、中小企業では40%の税額控除を受けることができる。また、大企業の要件を「新規雇用者支給額の増加」から「継続雇用者支給額の増加」に切り替える。コロナ禍による経済環境の悪化を受けて「新規雇用」を重視した内容としていたが、継続雇用者支給額=賃金引上げに重心を移す。

ただ効果は不透明だ。基本的にこれまでの賃上げ減税が目に見えた効果をあげられていない理由は、一時的な減税と固定費である賃金の引き上げは時間軸が異なっているからだと考えられる。目先は減税メリットを受けることができても、将来減税がなくなった際に賃金を引き下げることは難しい。政府・与党の議論でもなされている通り、税制のみで賃上げを促進することには限界もあろう。

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積み上がる宿題

今後の検討事項は山積みである。大綱には今後の課題として働き方の中立化を目指した所得控除制度の見直し、相続税と贈与税の資産課税の中立化のほか、昨今岸田首相の発言も多かった金融所得課税への対応などが明記されている(資料5)。

筆者が注目しているのは資産課税の資産移転時期の中立化に関する議論だ。長年検討課題として挙げられ、議論が続けられている。高齢化に伴った老老相続の増加、高い贈与税のために若年層への資産移転が進まない問題が念頭に置かれているが、昨今の税制調査会の議事録等からは資産課税の強化や生前贈与制度の非課税枠縮小など「格差固定化防止」により比重が置かれている印象を受ける。日本の相続税の最高税率はすでに海外と比べても高い水準にあるほか、国際比較では日本の資産格差は小さい部類に入る(資料6)。資産課税の強化は節税のためのアパート投資などにつながり、それが空き家問題に拍車をかけるといった非効率な支出も招いている。格差固定化防止は重要な課題ではあるが、それぞれがもたらす影響を幅広くとらえた丁寧な議論が必要だろう。

大綱で明示された今後の課題

上位10%の人が持つ資産シェア

以上(2022年1月)
(執筆 第一生命経済研究所 経済調査部)

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