社内の情報流通をブロックする「門番社員」を排除せよ!

書いてあること

  • 主な読者:自身と他の部下との間に入って「門番」になってしまう部下がいる
  • 課題:門番にもやる気はあるが、他の部下の成長に悪影響を及ぼす
  • 解決策:上司がつとめてフラットかつ平等に接して、情報の非対称性をなくす

1 特定の部下に頼り過ぎてはいけない?

来年度の行動計画を検討している中堅社員のAさん。人、つまり部下に関する課題解決が重要だと認識しています。Aさんが最も憂慮している課題は、機能するチームづくりです。

Aさんのチームは5人です。このうち、Aさんの考えを理解して、自主的に活動してくれるのはBさん1人だけで、残りの4人は指示された仕事しかしません。自主的に活動しようとする部下もいますが、何から始めたらよいのか分からないようです。

こうなるとAさんはBさんに頼るようになりますが、チーム内でコミュニケーションの偏りが生じると、Bさん以外の4人の活動がますます停滞します。どうしたらよいのか、AさんがC部長に相談したところ、C部長は次のように返しました。

「優秀なBさんに頼るのは当然だけど、与える権限は調整しないとね。例えば、他の部下がAさんに話をする際、必ずBさんを通すような体制になっていると、チームのコミュニケーションは停滞し、部下の成長機会も失うことになるよ」

2 部下を門番にしてはいけない

優秀な部下は上司とともに行動する時間が長く、かばん持ちや秘書(スケジュール調整)のような役割を担います。こうして、上司が会う相手、商談の内容、ビジネスの進め方などを学んでいくわけです。上司としても優秀な部下を育てたいと思っているので、特に重要なシーンでは同行させます。また、一部のスケジュール管理も任せるようになるため、その部下は上司のスケジュールを把握するようになります。

こうなったときに生じる、上司が意図しない現象が優秀な部下の“門番化”です。以下、門番化した部下を「門番」と表記します。上司と話をするには必ず門番を通したり、上司の考えを本人ではなく門番に確認したりする体制になっていくのです。

皮肉なことに、この傾向は一生懸命に働いている上司のチームほど顕著です。こうした上司の威厳は高く、多忙のため、部下はなかなか話す機会のない上司に畏怖の念を抱くため、門番に頼るようになります。

これはいけないと感じた上司は、全ての部下を平等に扱おうとするかもしれません。しかし、経験の浅い部下や、やる気が乏しい部下に時間を割いて、優秀な部下と接する時間が減ることの機会費用は小さくありません。

では、上司はどうするべきなのでしょうか。まず、上司の考え方、スケジュール、経費(交際接待費など)の使い道などの情報を平等に知らせます。こうすることで、門番による偏った情報統制を回避でき、チームに平等感が広まります。

一方、部下が上司から与えられた情報を活用して具体的にどのような行動を取るかは、部下自身に任せます。こうすると、優秀な部下や、やる気のある部下が自然と目立つようになってきます。

3 能力不足の部下をフォローする

部下の中には、上司の方針を踏まえ、いかにも“もっともそう”なことを言うものの、何ら行動を起こさない人が少なくありません。このタイプは、何も考えていない口だけの部下と、やる気はあるが何をしたらよいか分からない部下に大別されます。

後者のやる気はあるが何をしたらよいか分からない部下には、何らかのケアをしなければなりません。重要なのは、思考と行動をセットにすることと、期限を設けることの徹底です。

思考と行動をセットにすることについては、1~2カ月に1回の頻度で個別面談をすると効果的です。部下が次の面談までにすべきことを決めていくのです。なお、最初は様子見ということで、上司は細かな管理などはせずに部下に任せてみます。

その結果、上司が納得できるスピード感で行動できている部下はそのままでよいでしょう。一方、面談では目標に納得しているようだが、ほとんど行動を起こすことができない部下には、期限を設ける必要があります。

具体的には、部下と一緒に行動を分解し、優先順位付けも行います。部下が動けない理由は、「能力がない」「時間がない」「優先順位が分からず混乱している」といった3点に集約されます。

行動を分解し、優先順位付けを行うことで問題は切り分けられます。「いつまでに何をする」ところまで明確なのに行動できないのは、その時点では部下の能力が不足しているということなので、目標のレベルを下げる必要があります。

部下の人数にもよりますが、この取り組みを上司1人で行うのは負担が重くなります。そのため、一部の取り組みについては優秀な部下に任せるようにします。ただし、優秀な部下が門番化しないように注意することは不可欠です。

4 自分で人材を見つけ、採用する

ここで紹介してきたのは、今いるメンバーの力を高めていくための取り組みです。一方、新しいことを始める場合には、新たなメンバーを迎え入れなければならないこともあります。

最近は空前の人手不足で、いわゆる「リファラル採用」(社員による人材の紹介や募集)が中小企業に広まっています。採用はこれまで人事の仕事でしたが、リファラル採用では、上司が自分の欲しい人材を積極的に見つけられるようになります。

今、自分のチームに不足しているのはどのような人材なのか、上司が一番理解しているはずです。部下の成長を待つ時間はなく、全社的に人手不足で補充が見込めないのであれば、人事と連携しながら、自らメンバーを探してくることも大切なのです。

以上(2021年9月)

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成果と出口戦略を決める/経済性と社会性を両立させる中小企業のSDGs(2)

書いてあること

  • 主な読者:SDGsに本格的に取り組みたいけれど、企業としての損得勘定も気になる経営者
  • 課題:経済性と社会性を両立させるSDGsの取り組み方を知る
  • 解決策:取り組みの成果を誰が褒めてくれ、どんな経済的なメリットがあるのかという出口戦略を決める。必要であれば行政などへの提言事業も行ってメリットを引き出す

1 SDGsで経済的なメリットを享受するのに必要な「出口戦略」

第1回では、コロナ禍において、新しいビジネスモデルへの転換が求められている中で、

「もっと社会課題、そして政府や地方自治体が作る政策に目を向け、経済性と社会性の両立を目指すことが、中小企業のSDGsの取り組み方である」

と、お話しさせていただきました。また、具体的に自社の事業と政策のマッチングの仕方も示させていただきました。

ただし、実際に政策とマッチングさせた事業に取り組んで成果を上げ、経済的なメリットを享受することは、口で言うほど簡単ではありません。行政など社会課題の解決に取り組むプロ集団とパートナーになり、運動(成果を作るアクション)を行う必要があります。

今回は、こうした運動の仕方を含め、

最終的にSDGsで経済的なメリットを享受するまでの「出口戦略」を決める方法

についてお話をさせていただきます。

2 成果を得るための運動は「推進事業」と「提言事業」の2つ

第1回でご説明したように、SDGsの取り組みで鍵になるのは、ビジネスに取り組んでいるプロ集団である企業と、社会課題の解決に取り組んでいるプロ集団である行政やNPOという、両プロ集団の融合です。両プロ集団の融合は、解決する社会課題を決める段階では自社の事業と政策とのマッチングでしたが、成果を得るために運動する段階での両プロ集団の融合は、企業が行政やNPOなどとパートナーとして連携することを意味します。

では、両プロ集団を融合させ、成果を得るための運動とは、具体的にはどんなアクションでしょうか? 私が共同代表を務める一般社団法人SDGsマネジメント(以下「SDM」)では、「推進事業」と「提言事業」の2つがあると定義しています。

第1回でも紹介した、SDMで共同代表をしている西岡徹人さんが経営するSUNSHOW GROUP(以下「SG」)による女性活躍の推進を例に、2つの運動の方法をご説明します。

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1)推進事業

「推進事業」の第一歩は、自社が目指す成果と、行政などが後押ししている政策をマッチングさせることです。政府は女性活躍の推進にあたり、女性活躍推進法という法律を策定し、女性採用比率の向上、勤続年数の男女格差是正、労働時間の適正化、女性管理職比率の向上などを指標に掲げて、企業の女性活躍を後押ししています。

その一環として厚生労働省では、「えるぼし認定」という企業認定制度を準備し、企業の女性活躍への取り組みを見える化し、社会的に評価できるような仕掛けを展開しています。SGでは、厚生労働省をパートナーにすることに決め、同省が推進するえるぼし認定を取得しました。

ただし、SGの推進事業のポイントは、えるぼし認定の取得だけを成果とせず、女性従業員が活躍できるような環境づくりを目指す部門「チーム夢子」を創設するという、自社で独自に決めた成果を連動させていることです。

政府が制定する認定制度系の推進事業は、取得したら終わりという企業が少なくありません。認定を取得することは、「政府からのお墨付き」としてとても重要なことなのですが、我々が目指すべき成果とは、持続的に社会課題を解決する仕組みを作ることです。

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2)提言事業

次に「提言事業」についてご説明します。SDMでは提言事業を「政策の弱点を捉えて、自ら仮説を立案し、対象地域を決めて、プロ集団とのパートナー連携を通じて社会実験を行い、エビデンスを集めて検証すること」と定義しています。推進事業による成果だけでは経済的なメリットが得られにくいと感じた場合、提言事業によって世論や行政などに働き掛け、メリットを享受できるようにするための運動です。

具体的に、SGでの事例をお話しします。前述の通り、SGはえるぼし認定という制度を活用しました。ですが、残念ながらこのえるぼし認定という制度だけでは、女性活躍推進政策として完璧なものとはいえませんでした。

SDMは2020年、企業のえるぼし認定取得を後押しするため、女性活躍推進アドバイザーによる無料相談事業を支援しました。ところが、コロナ禍ということもあるかもしれませんが、正直に申し上げると、中小企業の皆さまの反応は良くありませんでした。SDMが社会保険労務士や専門家の皆さまと検証した中では、「えるぼし認定だけでは、中小企業にとって女性活躍を推進するインセンティブが感じられない」との意見が多く出ました。

これを受けてSGは、他の企業も女性活躍の推進に取り組みやすくなるようなメリットが明らかになる仮説を立証するために、一般社団法人WOMAN EMPOWERMENT PLATFORM(以下「WEP」)を立ち上げました。WEPでは、「どんな中小企業でも女性と男性が力を合わせ、得意なことを活かしあうことができる」という仮説を立証するための社会実験を行い、その経過を発信しています。SGでのビジネス上の成果に加え、WEPでの社会実験の成果についても、西岡さんを通じて厚生労働省に伝えられますので、政策の変化も期待できます。なお、一般社団法人を立ち上げる意義については、次回に詳しくご説明させていただきます。

3 出口戦略は「褒めてもらう」ことから始まる

最後に、経済的なメリットを享受するための「出口戦略」について話をします。企業が社会課題の解決に取り組むときに陥りがちなのが、「自己満足」です。設定した成果は、誰が幸せになっているのでしょうか? 誰が褒めてくれるのでしょうか? 出口戦略は、それが「誰か」を、事前にしっかり決めておくことから始まります。

SGの事例の場合、女性活躍のための推進事業は、直接的に「お客さまから褒められる」ことは目指していません。むしろお客さまには見えない部分であり、「女性活躍を推進しているのでSGから家を買う」という動機付けにもなりません。SGの女性活躍推進事業は、「厚生労働省から褒められる」「従業員から褒められる」「金融機関から褒められる」「報道機関から褒められる」ことを出口戦略にしています。結果として、褒められることが「生産性の向上」「離職率の低下」「金融評価の向上」などのメリットに結び付いているのです。

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また、提言事業の出口戦略は、行政などに提言を受け入れてもらうことです。ですが、提言は行政にとって耳の痛い話です。行政の立場で見れば、自分たちがやってほしいこと(推進事業)をやってもくれない企業から、正論であっても耳の痛い話は言われたくないでしょう。SGは政策推進をしっかりと実行することで、厚生労働省や地元の岐阜市に提言を受け入れてもらいやすい良好な関係を構築しているので、提言事業についてもしっかりと出口を確保することができています。

4 ここまでのまとめ

ここまでの話で、経済性と社会性を両立させるために決める、成果と出口戦略をイメージすることはできましたでしょうか? 最後に、成果と出口戦略の思考フローを整理します。

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第3回は、推進事業と提言事業という2つの運動について深掘りしながら、SDGsの究極の形ともいえる、SDGsをビジネスモデル化するためのパートナーシップによる価値創造についてお話をします。

以上(2021年9月)

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【従業員が交通事故!】責任割合はどうなる? ①同幅員の交差点

書いてあること

  • 主な読者:社有車の事故防止に力を入れたい経営者や運行管理責任者ならびに運転者
  • 課題:交通事故の基本的な責任割合や未然防止策を知りたい
  • 解決策:過去の裁判例に基づく基本的な責任割合と場所や状況に応じた事故防止策を理解する

1 今回の現場と事故の状況を把握します。

今回の事故状況はこちらです。A(自社の青い車)が、交差点でB(相手方の赤い車)と接触してしまいました。双方ともに、直進しようとしていたそうです。

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【A車:自社車両 B車:相手方車両】

一般的に交差点で確認すべきポイントは、主に以下の5点です。

①信号の有無
②双方の道路幅
③交通規制の有無
④センターラインの有無
⑤双方の速度

その他、双方の進行方向(直進、右折、左折など)、車の損害状況や通行した時間帯なども把握しておくと、責任割合を判断する参考になります。また、最近ではドライブレコーダーを搭載した車両も多くなってきました。ドライブレコーダーの機種によっては、時間経過するとデータが自動消去されるものや、走行すると上書きされてしまうものもありますので、事故を録画したデータの保全も重要です。

2 今回の責任割合を、見てみましょう。

1)責任割合の決まり方は?

双方に責任が生じる事故の場合、主に加入している保険会社が窓口となって、相手保険会社と交渉します。過去の裁判例を参考に、実際の事故状況に応じて責任割合を話し合い、決定します。

2)今回の責任割合は?

過去の裁判例より、A(自社の青い車)60%:B(相手方の赤い車)40% が基本の責任割合となります。

今回は信号機や一時停止等の規制がなく、どちらの道路も同じ幅でセンターラインがありません。双方同程度のスピードで接触した場合の基本の割合です。

道路交通法では、左方優先(左側の車を優先)とすることが定められています(道路交通法36条1項1号)。そのため、左方側のB車の割合が10%程度少なくなることが一般的です。

※実際は、それぞれの事故状況に応じて個別に決定されます。そのため、記載の内容とは異なる結果になる場合もあります。

3 事故を未然に防ぐポイントは?

交差点は建物やブロック塀などで見通しの悪い場所も多く、左右の安全を走行しながら確認するのは、難しいケースもあります。

  • まずは、交差点進入時はスピードを落とす
  • 次に、左右の安全が確認できる地点まで、減速しつつ進む(カーブミラーも活用)
  • さらに、車や自転車が突然出てくる事も想定し、慎重に走行する

ことで、事故のリスクを軽減することができます。

車の運転は一人で行う業務のため、運転者本人が「事故を絶対に起こさない。」という意識を強くもち、事故を起こさない運転行動を自主的に行うことが重要です。

また、管理者は運転者がそのような意識をもち、日々実践できるように組織的なサポート・指導・管理を行う必要があります。

以上(2021年9月)

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本記事で紹介している責任割合は、過去の裁判例を参考にした基本的な割合です。実際は、それぞれの事故状況に応じて個別に決定されます。そのため、記載の内容と異なる結果になる場合もあります。

組織を速く動かすために必要なのはアクセル人材よりもブレーキ人材

書いてあること

  • 主な読者:プロジェクトなどを率いる立場になってきた中堅社員
  • 課題:スピードをあげるために「イケイケ」で進もうとするが、危ういところがある
  • 解決策:アクセルを踏む人材だけではなく、ブレーキを踏める人材を側におく

1 流れを途絶えさせる(?)意見

現在、中堅社員のAさんの会社では、全社を挙げて業務効率化プロジェクトを推進しており、Aさんはそのプロジェクトの責任者を任されていました。業務効率化は喫緊の課題であり、これまでにもさまざまな案が出され、既に実行に移されているものも数多くあります。

今は、各部署のメンバーが集まったオンラインミーティングの最中です。既にスタートしている取り組みの進捗状況や成果報告、新たな業務効率化策の検討を行っています。

そこで、あるメンバーから、新たな業務効率化案が提案されました。そのメンバーの説明では、大きな効果が見込めるとのことで、Aさんをはじめ、各メンバーもすぐにでも取り組みを始めるという方向で議論が進んでいました。そのような中、メンバーのBさんが発言をしました。

ちょっと待ってください。その部署では既に多くの取り組みが始められています。それらは、まだ部署内で定着しておらず、効果測定も十分ではありません。その上、この案を進めれば、業務に混乱を来してミスが発生したり、社員の“業務効率化疲れ”を招いたりしないでしょうか。その辺りを確認しつつ、場合によっては、現在の取り組みの優先順位の見直しや、この案の延期や中止も視野に入れて、もう少し慎重に検討しませんか。

Bさんの発言で、盛り上がっていた会議が静まり返ってしまいました。

2 カーレースで勝つためのポイント

中堅社員が円滑に業務を進めていくためには、信頼のおける部下が必要です。その部下に求める基準や役割はさまざまですが、大切なポイントの一つに

適切にブレーキを踏むことができるか

ということがあります。適切にブレーキを踏むことのできる人(以下「ブレーキを踏む人」)とは、組織の流れや雰囲気に流されず、また自身の利害関係を問わずに、そこに潜むリスクなどを見つけ、必要に応じて建設的な対策を提案したり、時には「反対だ」という意見を、毅然として主張したりできる人です。

しばしば、「カーレースで重要になるポイントは、ブレーキングにある」といわれます。これと同じで、組織が“速く走る”ためには、アクセルを踏む人だけではなく、ブレーキを踏む人も重要な存在です。

中堅社員が、その役割を担うこともできますが、自分とは違った視点からブレーキを踏む人が身近にいることは、意思決定の質を高める上で大切になります。

3 ブレーキを踏む人はなぜ貴重か

反対意見を言える人をそばに置くことの大切さは、よく指摘されます。そのため、ブレーキを踏む人のような存在の重要性は認識している人が多いでしょう。しかし、ブレーキを踏む人は多くありません。それは、ブレーキを踏む人になるためのハードルが高いからです。例えば、ブレーキを踏む人には次のような要素が欠かせません。

1)相応の知識や経験

ブレーキを踏む人は、決して保守的であったり、自身の保身を図るために反対したりしてはいけません。また、人の好き嫌いで物事を判断するような人でもありません。ブレーキを踏む人は、各局面において是々非々で考え、ブレーキを踏む必要性、踏むときのタイミングを考慮した上で、適切な意見を表明できる人です。

こうした判断を下すには、業務に関する知識・経験が必要ですし、実務の流れや組織の現状などを、しっかりと把握していなければできません。

2)組織への高い貢献意欲や使命感

通常、ブレーキを踏むことで、“得”をすることはありません。冒頭の例でいえば、業務効率化という実績が上がれば組織での評価は高まります。メンバーは昇進・昇格するかもしれません。

しかし、Bさんのようなブレーキを踏む人は、ともすると「抵抗勢力」「後ろ向きの人」などと、否定的な評価をされがちです。また、ブレーキを踏むことに対する明確な評価基準はないので、昇進・昇格につながることも少ないです。

そのため、社員の中には「ブレーキを踏むべきだ」と思っていても、「ここで言っても、何の得もない」などと考えて、実際に発言を控えるような人もいます。それにもかかわらず、ブレーキを踏めるというのは、その人が「組織を、より良くしたい」「組織のために役立ちたい」といったような、組織への高い貢献意欲や使命感があるからです。

4 育てるために上司が気を付けること

ブレーキを踏む人を育てるために大切なことは、月並みかもしれませんが、上司がその人の意見や行動を認め、感謝の思いを示すことです。

昇進・昇格などの形で報いることも大切です。しかし、組織への高い貢献意欲や使命感がある人は、それと同等、あるいはそれ以上に、上司の「ありがとう」という言葉で、自身が認められているという事実を意気に感じます。

例えば、重要案件について意見を聞くようにすると、その人は「上司に信頼されている」「組織に必要とされている」ということを実感するものです。

また、ブレーキを踏む人は、社内で相応の役職にいることが一般的なため、上司は「職務上、当然のこと」と考え、その後のフォローを怠りがちです。しかし、「ありがとう。あの意見は役に立ったよ」などといった一言も効果があるので、そうした配慮を忘れないようにしましょう。

以上(2021年9月)

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画像:khosrork-Adobe Stock

【朝礼】営業力を高めるために必要な3つのこと

私が通うクリーニング店には、2通りの店員がいます。白いシャツをクリーニングに出すことが多い私に、「シャツ1枚につきプラス15円で襟をより白く仕上げるサービスがおすすめです。いかがですか」と提案してくれる店員と、そうした提案を全くしてくれない店員です。

前者の場合、白いシャツを着る機会が多い私は喜んでそのサービスを利用します。後者の場合、仕方なく私のほうからそのサービスをお願いすることになります。するとその店員は、「1枚プラス15円かかってしまいますが、よいですか」と聞いてきます。まるで、私に対して悪いことをしているかのように。そう聞かれた私は、後者の店員の「営業力の低さ」をもどかしく思います。同時に、我が社の社員は、前者の「サービスを自ら前向きに提案できる店員」のようにあってほしいと願うのです。実際のところ、皆さんはどちらの店員に近いのでしょうか?

日ごろから皆さんに言っている通り、お客様に提案するのは悪いことではありません。むしろ、お客様は提案を待っています。状況にもよりますが、商品やサービスを提案してくれる皆さんのことを、お客様は、「自分のことを考えてくれているのだな」と好意的に感じるものです。

皆さんがお客様に提案できないのは、「何を提案すべきか分からない」「断られたりしたくない」と思うからかもしれません。中には、営業しようという意識を持てていない人もいるでしょう。

こうした状況を変え、営業力を高めてお客様に自ら提案できるようになるために、今日から次の3つのことを実践してください。

まず1つ目は、数字に敏感になることです。皆さんは今期の売上目標が分かりますか? 会社の売上と営業利益を知っていますか? 一番大きな売上のお客様とその金額をすぐに答えられますか? こうした数字は営業の基本です。売上や利益といった数字に敏感になることで、営業しようという意識も芽生えてくるでしょう。

2つ目は、我が社の商品やサービスをよく知ることです。特に、商品やサービスの「おすすめポイント」は必ず押さえておきましょう。コストや納期を含め、お客様にどのような価値を提供できるのかを知っていれば、「何を提案すべきか分からない」ということはなくなるはずです。

そして3つ目は、お客様のことをよく知ることです。それには、接する機会を増やすことが大切です。私が皆さんに、少なくとも月に1度はお客様と話をするように言っているのはそのためです。今どきはSNSを使っているお客様も多いので、それをチェックするのもよいでしょう。お客様の投稿、どのようなセミナーやイベントに顔を出しているかを見れば、お客様が今、何に関心を持っているかが分かるからです。

この3つのことを積み重ね、ぜひ一度、営業で成功体験をしてください。それこそが、皆さんの営業力の大きな肥やしになるでしょう。

以上(2021年9月)

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画像:Mariko Mitsuda

【朝礼】「なぜ」を考えたくなる提案があります

先日、ウェブサイトのマーケティングをしている人と話す機会があり、「ウェブサイトの利用状況を分析する秘訣」を聞きました。印象に残った部分を皆さんにお話しします。

さて、皆さんは、ウェブサイトの利用状況を分析するにあたり、一番重要なことは何だと思いますか。考え方は人それぞれですが、その人が重要だと言っていたのは、

「なぜ」と思えるかどうか

でした。集計データを見て、「ウェブサイトの訪問数が増えた、あるいは減った」を把握して終わりではなく、「それはなぜだろう」と思ってもう一歩調べを進めてみる。例えば、月間でウェブサイト全体の訪問数が増えたなら、「前月に比べてどのページの訪問数が増えたから全体が増えたのか」を調べていく。減った場合もしかりです。

そして該当するページが分かったら、今度は、「なぜ、そのページの訪問数が増えたのか」「どんな人が訪問しているのか」とさらに調べを掘り下げ、「こういう人が、こういう理由で訪問するケースが増えていると思われる」と仮説を立てていく。こうして、一つひとつの事象に「なぜ」と思い、掘り下げていくことが、分析とその後の改善には欠かせないのだそうです。

これは、ウェブに限らずビジネス全般に通じることではないでしょうか。例えば、お客さまから要望を聞いたときや苦言を呈されたとき、皆さんは「なぜ」と思い、尋ねることができますか。

あるいは、「今月はこの商品が売れた、問い合わせが多かった」「今期の売り上げが前期を上回った」といった状況に対して、「なぜ」と思い、理由を知ろうと行動できるでしょうか。

お客さまの要望や苦言の理由を知れば、お客さまの本音、やりたいことが見えてくるかもしれません。また、商品の売れた理由が分かれば、次の商品開発に活かせるでしょうし、前期を上回る売り上げに何が寄与したかが分かれば、それを次の営業活動や、リソース配分に活かせるでしょう。このように、「なぜ」の理由には、ビジネスを前進させるヒントがたくさんあると思います。

また、別の角度から見ると、

「なぜ」と思えるのは関心があるから

ともいえます。恐らく、ウェブサイトの分析でも、「訪問してくれた人をもっと知りたい」と思うことが、「なぜ」の源泉になっているはずです。

同じように、お客さまや商品、売り上げに関心を寄せれば、おのずと「なぜだろう」と理由が知りたくなるのではないでしょうか。

そこで、皆さんに提案です。毎月、チームで「今月、人気があった商品はどれか。それはなぜか」を話し、発表し合ってみましょう。自分一人では見えていなかったお客さまのやりたいことや商品の良さに、気付けるかもしれません。そして何より、「なぜ」の理由を考えるのは、皆さんの知的好奇心をくすぐる面白いことだと私は思うのです。

以上(2021年8月)

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画像:Mariko Mitsuda

2つの軸がもたらす変化と前進/ローマ史から学ぶガバナンス(3)

書いてあること

  • 主な読者:現在・将来の自社のビジネスガバナンスを考えるためのヒントがほしい経営者
  • 課題:変化が激しい時代であり、既存のガバナンス論を学ぶだけでは、不十分
  • 解決策:古代ローマ史を時系列で追い、その長い歴史との対話を通じて、現代に生かせるヒントを学ぶ

1 2つの大きな軸による二分化と変化

ビジネスの世界でも、政治の世界でも、学術の世界でも、2つの大きな軸に寄っていく形で、その世界が大きく二分されることがあります。目的、方法、主義、思想、スタンスなどの違いで2つに大きく分かれ、その2つが均衡を保つこともありますが、多くの場合、一方が主導権を握り、ある契機を経て、他方に主導権が移る。それが振り子のように繰り返されます。あるいは2つの大きな潮流が交互に主流となるイメージでしょうか。このような動きは、多数決の論理で動く場合もありますし、権威主義的な論理で動く場合もあります。いずれにせよ、私たちが目にする多くの世界は、2つの大きな軸を行き交いながら、変化しています。

政治の世界では、それが端的に表れます。言うまでもないことですが、アメリカの政治を見ると、共和党と民主党という政党が2つの大きな軸になっており、政権与党が変わると、大小さまざまな政策の転換が図られ、市民生活に変化をもたらします。その変化を前進と感じるのか後退と感じるのかは、個々人の立場などによって異なりますが、こうした変化が繰り返し行われることによって、全体としてはバランスの取れた前進となっているのではないでしょうか。

2 ビジネス界における2軸の争い

ビジネスの世界でも、政治の世界ほど顕著ではありませんが、2つの大きな軸、2つの大きな潮流がつばぜり合いを繰り返し、争いながら変化していく例は数多く挙げられます。ビジネスという特性上、比較的短い時間軸の中で、いずれかに勝ち名乗りがありますし、2つの大きな軸のいずれか、あるいは両方が陳腐化し、新たな軸に取って代わられることもあります。そうした一連の過程を通じて変化が生み出され、産業界全体を前進させています。

古くは、家庭用ビデオのVHS方式とβ方式の争いがあり、Blu-ray Disc方式とHD DVD方式との間で同様の争いが再び起こったことは記憶に新しいところです。コンピューター市場においても、2つの大きな軸の争いが繰り返され、現在に至っています。後ほど触れますが、こうした先端技術に関わるビジネス領域においては、品質や価格での競争も重要ではあるものの、それ以上に、業界標準や標準規格の競争が重要となっています。

ビジネス界における2軸の争いでは、どちらの軸が勝利したかは比較的分かりやすいといえます。しかし、その中で、総合的に見て、本当の勝者はどの企業だったのかが判然としないのが興味深いところです。2軸の争いで勝利するために実行した戦略が、勝利した後の段階で、自社の首を絞める結果となっていたり、あるいは結果的に新たに敵対する軸への利敵行為になっていたりして、瞬く間に勝者の座を追われたりすることもあります。そもそも、戦略には選択という側面があり、中・長期で見れば、それが成功だったのか失敗だったのかは判然としないものではあります。

後世の人間が歴史上の戦略や選択を評価することと同じで、本当の勝者は誰だったのか、その戦略は正しかったのか、というのは、極めて難しい問いなのです。

3 共和政ローマにおける2軸の争い

古代ローマの共和政期において2つの大きな軸といえば、元老院派(閥族派)と民衆派(平民派)でしょう。名称が与える印象からか、両派の争いは階層的な対立と捉えられがちですが、そうではありません。支配者層の中で、出自や考え方が異なる2つの私的なグループが存在し対立していたのです。

元老院派が元老院の既得権を守ろうとする考えであったのに対し、民衆派は元老院の既得権を打破しようとする考えでした。この対立は沈静化していた時期もありましたが、長期の戦争に対応するために元老院への権力集中が進められる中、失業者の増加などの社会不安が広がっていったことを背景に、両派の対立は激化していきます。

民衆派のグラックス兄弟は、失業者対策として農地改革を進めようとしますが、反対する元老院派から追い詰められ、命を落とします。その後、執政官のマリウスが、失業者対策として軍制改革を進めます。これは、それまで有産階級の義務であった兵役を志願制とし、無産階級でも職に就ける(職業軍人となれる)ようにしたのです。こうして民衆派の支持を得たマリウスは、次第に元老院派と対立するようになり、元老院派のスッラと激しく争っていくことになります。

スッラとの争いに敗れ、国賊扱いでアフリカに逃れていたマリウスは、スッラが出征した留守を狙ってローマに戻り、自身と敵対した人物を次々と殺害します。ほどなくマリウスが病気で亡くなり、元老院派のスッラが権力を掌握すると、今度はスッラが、民衆派を粛清すべく、処刑者名簿に沿って、次々と民衆派を殺害しました。

こうして民衆派を一掃したスッラは、それまで6カ月という任期が定められていた独裁官の地位に、任期無期限で就任し、盤石な地位と権威を背景に、元老院を中心とした政治体制の確立に向けて国政改革を断行していったのです。

このような状況を見ると、元老院派の優位がこの後も続いていくかのようですが、実際はそうではありません。これまで前例のなかった任期無期限の独裁官という地位は、この後登場するカエサルやアウグストゥスの権威を終身で保証することになり、元老院派の弱体化、さらには共和政の終結という想定外のシナリオに進んでいくのです。大きな2軸の争いの中で実行された戦略が、新たな軸を生み出す苗床となっていったのです。

4 クローズ戦略かオープン戦略か

先ほども述べた通り、先端技術に関わるビジネス領域においては、業界標準や標準規格の競争が重要となります。

この競争を制する戦略の1つは、クローズ戦略(クローズドポリシー)と呼ばれ、その成功例としては、コンピューターのメインフレームにおけるIBMが挙げられます。IBM機でのみ作動するアプリケーションにデータが蓄積されることで、ユーザー企業は他社製品へ乗り換えるスイッチングコストが大きくなるため、IBM機を再び選ぶことになります。IBMはこの戦略で市場を安定的に押さえていくことに成功しました。

この後、パソコン市場の黎明(れいめい)期に主役となるAppleも同様のクローズ戦略を採っていました。

もう1つの戦略は、オープン戦略(オープンドポリシー)と呼ばれるものです。パソコン市場に遅れて参入したIBMは、OSやMPUなどを他の企業から調達し、その仕様をオープンにすることで、IBM機向けのアプリケーションや周辺機器を開発・販売する自由を外部の企業に与えました。この戦略が功を奏し、参入の翌年にはAppleを上回る販売額を記録しました。ご存じの通り、この戦略に乗って、MicrosoftやIntelもパソコン市場で大きな地位を築くことになりました。

このクローズ戦略とオープン戦略という2つの大きな軸は、コンピューター市場の中で、繰り返し揺れ動き、それぞれの戦略のメリット・デメリットとあいまって、各企業の浮き沈みに影響を与えています。

パソコン市場でオープン戦略を採ったIBM(コンピューターのメインフレームではクローズ戦略でした)は、当初は成功を収めたものの、他社が製造販売するIBM互換機に押され、IBM互換機のシェア拡大、IBM機のシェア低下という結果を招きました。Microsoftは、よりオープンな戦略を採るGoogleなどに押され、スマホ市場では後手に回っています。

一方、クローズ戦略を採ったAppleは、オープン系の製品が抱える機能品質問題と一線を画す形で、iPhoneやiPadの成功につなげています。また、スマホアプリについてはオープン戦略を採って活発なアプリ市場を有するに至っています。

クローズ戦略とオープン戦略という大きな2つの軸は、今後も繰り返し現れ、業界や市場がどちらに寄っていくかについて議論が続けられることでしょう。実際には、各企業の技術力、資金力、市場でのポジショニングなどによって個別に判断されるものですが、2つの軸のいずれかに業界や市場が寄っていく中で、冷静かつ適切に戦略的判断を下せるかが肝要となります。その選択が自社の将来や未来を決めることになるのです。

(2021年9月)
(執筆 辻大志)

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特許/実用新案 「いつもやっていること」が特許になる可能性も。/意外と知らない「知的財産権」シリーズ3

書いてあること

  • 主な読者:発明やアイデアを「特許」として権利化したい経営者
  • 課題:特許として認められるためには高度な技術などが必要? ハードルが高そう
  • 解決策:ありふれているもの、日々のノウハウや業界の常識と思われるものでも、物や機器との組み合わせや工夫次第で特許として認められる可能性がある

1 立食形式の量り売りステーキ店のアイデアは特許の対象になる?

一つ、特許に関する興味深い事例をご紹介しましょう。突然ですが、問題です。

【問題】
ある立食形式のステーキ店が、お客さんの注文した種類と量の肉が間違いなく提供されるように、テーブル番号・肉の種類・量が印字されたシールを皿に貼るというステーキ提供システムを発案し、類似店を排除するために特許を求めました。
果たして、このステーキ店は、特許で守られたでしょうか? 

上記の問題、皆さんはどう考えるでしょうか。一見すると単なる人為的な取決めやビジネスを行う方法にとどまるようなアイデアですから、このようなものは今さら特許発明にはならない、と思われるでしょうか。

【正解】
正解は、上記のアイデアは特許の対象となり、このステーキ店は後発の類似店を約1年半にわたって防ぐことに成功しました。

ヒットすればすぐに類似店が出てくるという厳しい飲食店業界では、とても珍しい事例です。このステーキ店は、「特許登録キャンペーン」を打つなど、特許を出願・登録したことをしっかり「活用」して、実際の売上や競争優位性の維持につなげています。

2 ステーキ店が特許で守られた理由

実は、このステーキ店の特許問題は、専門家の間でも判断の分かれる難しい問題でした。当初は特許査定を得ることができましたが、その後、第三者からの特許異議申立てを受け、いったん特許庁が特許を取り消したのです。ところが、これを不服としたステーキ店が訴訟を行った結果、このステーキ提供システムを実現するための具体的な構成とそれによる効果には技術的な意義があるとして、特許が認められたという経緯があります。

1)特許の争点は「発明」といえるか否か

詳しくご説明するために、まずは、このステーキ店の提供システムを分解してみます(読みやすくするために一部言い回しを加工しています)。

  • A 立食形式で、お客様からステーキの量をお伺いし、オーダーの量の肉をカットして焼き、それをお客様のテーブルまで運ぶというステーキの提供システムで、
  • B お客様を案内したテーブル番号が記載された札と、
  • C お客様の要望に応じてカットした肉を計量する計量機と、
  • D その肉を他のお客様のものと区別する印しを備え、
  • E 計量機が計量した肉の量と札に記載されたテーブル番号を記載したシールを出力し、その印しが計量機が出力した肉の量とテーブル番号が記載されたシールであるという、ステーキの提供システム(特許第5946491号)

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一見すると、どこの飲食店でも従来やっているようなオーダーの管理方法ですから、このようなものは今さら特許発明にはならない、と思われるかもしれません。

争点は「発明」といえるか否かです。なお、「発明」か否かの判断につき、特許庁の審査基準では「自然法則を利用していないもの」は発明には該当しないとされており、その具体例として、「人為的な取決め」や「ビジネスを行う方法それ自体」などが挙げられています(特許・実用新案審査基準第Ⅲ部第1章2.1.4参照)。

2)特許庁の判断

審査段階では最終的に特許査定を得ることができたようですが(平成28年4月26日特許査定)、その後、第三者からの特許異議申立てを受けました。そこで特許庁は「『ステーキの提供システム』は、…経済活動それ自体に向けられたものであることに鑑みれば、社会的な『仕組み』(社会システム)を特定しているものにすぎない」として、「発明」には該当しない(特許を取り消す)と判断しました(平成29年11月28日決定)。

3)裁判所の判断

これを不服としてステーキ店が提起した訴訟において、知財高裁は、前述したアイデアのA部分については「ステーキ店において注文を受けて配膳をするまでに人が実施する手順を特定したものであると認められる。よって、本件ステーキ提供方法の実施に係る構成は、『ステーキの提供システム』として実質的な技術的手段を提供するものであるということはできない」として否定的な判断を示しました。

しかし、B以下の構成に関しては「札、計量機及びシール(印し)という特定の物品または機器(本件計量機等)を、他のお客様の肉との混同を防止して、発明の課題を解決するための技術的手段とするものであり、全体として『自然法則を利用した技術的思想の創作』に該当するということができる。したがって、『発明』に該当するということができる」として、「特許を取り消す」とした特許庁の決定を取り消しました(平成30年10月17日判決)。

当該特許権は本稿執筆時点でもなお有効に存続しています。

この事例は、一見すると単なる「人為的な取決め」や「ビジネスを行う方法にとどまるようなアイデア」であっても、解決課題との関係で意味のある「物」や「機器」を用いることで、特許発明になることが明らかにされた点でとても意義があります。本件では「札」「計量機」「シール」が発明成立性を肯定する決め手となりましたが、これらはステーキ店であれば恐らくどのお店にも置いてある物だと思われます。

つまり、お客様に対する商品やサービスの提供方法、顧客管理方法などについても、何か特定の「物」や「機器」を使ってしっかり構成をすれば、その「物」や「機器」自体はありふれたものであっても、十分特許性が認められるのです。この「機器」には、「コンピューター」や「IT機器」も含まれますので、DX(デジタル・トレンスフォーメーション)を使ってビジネスを再構築しようというときには、特許性のある「発明」がないか、ぜひ一度チェックしてみてください。きっと皆さんの業界にも特許発明となる鍵があちこちに転がっているはずです。

3 身近なビジネスにも発明の種はある

先に事例をご紹介しましたが、今回は特許にフォーカスしてお話ししたいと思います。

特許の対象が「新規性」「進歩性」を有する産業上利用可能な「発明」であることについては、ご存じの方もおられると思います。

「発明」というと、実験室で研究をして生まれるもの、といったイメージがあるかもしれませんが、先ほどのステーキ店の事例のように、実はもっと幅広い「発明」が特許権の対象になります。皆さんのビジネスのあちこちに、特許権を受けることができ、他の競争者と差別化できる種となる「発明」が隠れているはずです。それらを探し出して、自社のビジネスの強みを再認識し、事業の付加価値につなげてみてはいかがでしょうか?

4 ありふれているからといって、諦めない。証拠が全て

ところで、皆さんの業界には、「そんなのこの業界じゃあ常識だよ。みんなやっているよ」というような技術やノウハウ、やり方などはないでしょうか?

本来、特許は、「新規性」や「進歩性」、つまり、それまで世の中に存在しない発明で、かつ、従来の技術からは容易に考えつかないような発明に対して認められるものです。従って、すでに皆さんが実施しているような技術ややり方は、特許にならないのが原則です。

しかし、実際にはこういったものでも、特許として登録を受けて、1社が独占権を持つということがあり得るのです。

1)“塩味が染みた冷凍枝豆”が特許に

ある食品製造会社が特許出願を行い、次のような内容で特許権を取得しました。

「豆の薄皮に塩味が感じられ、かつ、豆の中心まで薄塩味が浸透しているソフト感のある塩味茹枝豆の冷凍品。」(特許第2829817号)

要するに“塩味が染みた冷凍枝豆”ですから、当時の業界に与えたインパクトは想像に難くありません。当然、多くの同業他社から特許異議申立てと特許無効審判の請求を受けることとなりましたが、その前に、なぜこのような出願が審査を通ってしまうのか理解しておく必要があります。

2)特許出願人は「新規性」や「進歩性」があることの証明が不要

特許出願は、審査官によって内容を審査され、「特許査定」を受けて、初めて特許権の設定登録へと手続が進むこととなります。実際の「特許査定」の中身は「この出願については、拒絶の理由を発見しないから、特許査定をします」というたった一言からなり、拒絶理由の存在については、審査官のほうが立証責任を負うものと理解されています。

つまり、発明に「新規性」や「進歩性」がないことの証拠は、審査官のほうで集めなければなりません。審査官が「こんなの普通にありふれているよな」と思ったとしても、すでに世の中にそのような発明が存在しているとか、業界の人なら簡単に思いつくものだとかいうことを審査官が証拠で証明できない限り、その「発明」は特許として登録されてしまうのです。

本件では「豆の中心まで薄塩味が浸透している」という構成要件に関する文献が見つからなかったために、審査官としても拒絶理由があることを証明できず、最終的には特許を認めざるを得なかったという経緯があったものと思われます。

その後、多数の同業他社から複数回の異議申立て・無効審判の請求を受け、最終的にこの特許は無効にされてしまいます。しかし、なかなか「豆の中心まで薄塩味が浸透している」ことに関して特許性を崩せる証拠が挙がらず、特許権が成立した1998年から無効審決となった2003年までの間、この枝豆はずっと特許発明品であり続けたのです。

いかに特許庁といえども、証拠がなければ特許性を否定することは許されません。むしろ、特許出願をしない傾向にある業界にこそ、思いもかけない特許発明が眠っている可能性があるのです。

5 発想こそ全て

前述したように、特許発明と聞いて超ハイレベルな最先端技術をイメージされるのは無理もないことですが、必ずしもそうでないことは繰り返し述べているところです。技術レベルよりも、むしろ柔軟な発想によって特許発明を生み出し、それが大きなビジネスにつながっている事例はたくさんあります。

身近なところでは、アップル製品に搭載されている、いわゆる「バウンス・バック機能」(iPhoneなどにおいて表示されたリストやページをタッチしてスワイプ、スクロール等していき、最終位置に到達すると、それ以上先に行きそうで行かない引っ張られたような描写となって、指を離すと跳ね返るように所定の位置に戻る挙動)は、必ずしも難解な科学技術に基づくものではなく、むしろユーザー目線の柔軟な発想によるアイデアですが、こちらも特許発明品です(特許第4743919号)。

アップル製品の洗練されたデザインと直感的なUI(ユーザー・インターフェイス)とが相まって大きなシェアを獲得していることは言うまでもありません。それに加え、この特許権があるために、日本では他社が無断でスマホにバウンス・バック機能を搭載できない状況となっていることもまた、アップル社の市場優位性を維持する一因となっているといえるでしょう(この関連特許を巡って日本を含むさまざまな国々でアップル社とサムスン社で紛争に発展していることはメディアでも報道されているところです)。

このように、経営リソースとして利用可能な特許発明を手にするために、必ずしも高度な技術レベルは必要ありません。皆さんが日々取り組まれているビジネス上の課題とそれを解決する知恵の中にこそ、特許発明の可能性は秘められているのです。

以上(2021年9月)
(執筆 明倫国際法律事務所 弁護士 田中雅敏)

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【債権回収】継続的契約関係における債権保全策

書いてあること

  • 主な読者:継続的契約関係にある取引先と安全に取引をしたい経営者
  • 課題:今すぐに債権回収が必要なわけではないが、不測の事態に備えて債権保全策を知っておきたい
  • 解決策:契約書を交わすだけでなく、保証金などを設定して債権保全策を講じておく

1 契約書を交わすことが基本

保証契約などの特別な契約を除き、双方の合意があれば、契約は口頭のみでも法的に有効となります。しかし、実際のビジネスでは、契約関係を明確にし、当事者間の認識違いが生じないように「契約書」「覚書」「念書」「誓約書」といった文書形式で取り決めます。

特に、裁判になった場合、文書は証拠として重要な役割を果たします。取引内容や契約期間、契約の解除項目などについて契約書に明記しておきます。契約の解除事由として記載する事項としては、次が想定されます。

  • 契約違反、信用不安、業務の継続困難、背信行為、事情の急変、代表者・株主・組織の変更など

なお、相手が合併により消滅した場合、合併後の存続会社は消滅会社の権利義務を包括的に承継します。そのため、従前の契約は合併後の存続会社を相手として有効です。また、直接取引をしていない部門の事業譲渡や役員交代などがあった場合、会社自体の同一性に変更はないので、従前の契約は有効です。

しかし、トラブルを避けるために、新体制において契約内容を検討し直す必要性は高いといえます。

2 債権保全策として保証金などを設定する

賃貸借契約や代理店契約などの継続的契約関係にある場合、契約書を交わすだけでなく、「保証金」を設定するなどの債権保全策を講じておくことで、安心して継続的な取引ができます。

1)継続的契約関係における保証金

継続的契約関係にある場合、その関係を安定的に維持すること、あるいは相手の債務不履行による損害賠償金の支払いを担保することを目的として、保証金制度が利用される場合が多くあります。例えば次の通りです。

  • 不動産賃貸借契約:貸し手が借り手に月額賃貸料の2~12カ月分の保証金を求める
  • フランチャイズ契約:フランチャイザーがフランチャイジーに一定金額の保証金を求める
  • 代理店契約:継続的に商品を供給している企業(メーカーなど)が販売店に数カ月分の仕入れ代金相当額の保証金を求める

商品を供給する側(メーカーなど)と供給を受ける側(販売代理店)とでは、供給する側の立場が強いケースがあります。この場合、供給する側が供給を受ける側に保証金の差し入れなどの担保を要求することが通常です。

なお、財務内容が健全で長年の取引実績があり、かつ信用度が高い企業の場合、保証金は取引額の割に低くなることが通常です。反対に財務内容が芳しくなく、取引実績が振るわない企業の場合、保証金が取引額の割に高く、またそれ以外の債権保全策を求められることが多いといえるでしょう。

2)保証金に関する注意事項

相手の債務不履行による未払い代金や損害賠償金の支払いを担保する手段として保証金は有効ですが、これがどの程度有効に機能するかは、あくまで契約内容によります。

例えば、賃貸借契約の場合に要求される保証金は、裁判上、敷金のような性質、権利金のような性質のいずれにも認定される場合があります。従って、保証金という名目の金銭の授受があったからといって、必ずしも担保の手段として万全ではありません。保証金がどの程度担保として機能するかについては、契約書の担保特約、償却特約、没収特約、違約特約、返還猶予特約などの条項を確認する必要があります。この点について懸念事項がある場合は、顧問弁護士に相談をするなどして、内容を精査しておくとよいでしょう。

3)商品供給がある場合は保証金以外の方法も

代理店契約の場合、販売店はメーカーなどから継続的に商品供給を受けて、メーカーなどの代わりに販売や、顧客からの販売代金を受領しています。メーカーなどとしては販売代理店から債権回収ができないという不測の事態に陥らないように、さまざまな債権保全策を講じることになります。

例えば、保証金だけでなく、次のような債権保全策があります。

  • 所有権留保:供給した商品などに対して代金が完済されるまで所有権が残る
  • 集合動産譲渡担保の設定:特定の動産ではなく、相手が保有している「倉庫内の在庫商品」など複数の動産をまとめて譲渡担保権の目的に設定する
  • 不動産の根抵当権の設定:不特定の債権に対して、極度額を限度に担保される。債権額が増減する場合や、債権が発生・消滅を繰り返す場合、一度根抵当権を設定しておけば、ある一定の極度額の範囲内の債権である限り、その都度根抵当権を設定する必要がない

3 相手が倒産した場合

1)倒産後の処理

一般的に「倒産」と呼ばれるものは、私的整理と法的整理に大別されるので、簡単に整理しましょう。

1.私的整理のケース

私的整理は話し合いで解決する方法ですので、解決方法について自由に取り決めをすることが可能です。

2.法的整理のケース(破産のケース)

法的整理は適用する法律によって倒産処理の方法が異なるなど、対応が複雑です。ここでは、会社を清算する形の典型的な法的整理方法である破産のケースを紹介します。

裁判所から破産手続開始決定を受けた企業に対して債権を有する債権者は、その債権を自身で回収することはできません。裁判所により破産管財人が選任され、破産した企業の債権者らは、自身が有する債権を届け出ます。

その後、債権調査を経て債権額が確定した後、各債権額の割合に応じて各債権者に配当が実施されます。

企業が破産する場合、配当の原資となる財産は配当対象となる債権の総額に比して少なくなります。また、原則として配当は債権額に応じて平等に行われるため、債権の全額回収はほぼ不可能です(そもそも配当が全くなされない場合も少なくありません)。

なお、破産した企業に対する債権を、破産手続開始決定前の取引によって負担することになった買掛金などの反対債権と相殺し、実質的に全額回収することが可能な場合もありますが、破産法に相殺に関する制限規定もあるため注意が必要です。また、この時期に買掛金などの反対債権と相殺する旨を相手と合意することも考えられますが、ケースによっては相手が破産した後に「破産管財人から無効である」と主張(否認)されることもあります。

2)大切なのは契約によるリスク回避と緊急時への対処

倒産の法的整理が始まると債権の全額回収は不可能です。債権回収は他にも債権者がいることを念頭におき、費用対効果も考慮した上で、危ない兆候を察知したらすぐに行動しなければなりません。

そのため、平常時の商取引において、あらかじめリスクを低減する取り組みを講じることが重要です。例えば、相手の信用状態には常に気を配り、自社の営業担当者・信用調査会社・取引金融機関などからの情報を見過ごしてはなりません。少しでも信用不安の兆しがあれば、直接相手先企業に状況説明を求めるようにすべきです。

また、契約書上で、事前に破産手続きが始まる前に支払期日が到来するように期限の利益喪失条項を入れておくなどして、いざというときの回収方法を準備しておくとよいでしょう。

特に、商品を供給する側が倒産した場合の対処は非常に難しくなります。供給を受ける側が担保として差し入れた保証金は回収不能となることがほとんどでしょう。また、商品を供給してくれる先を別に確保する必要もあります。信用不安はあるが、倒産していないという状況での対処は難しいですが、取引量を少なくするなど、何らかの手を打つ必要があるでしょう。

以上(2021年9月)
(監修 みらい総合法律事務所 弁護士 田畠宏一)

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人材流動化が進む時代の上司道。部下への「感謝」の気持ち忘れないこと

書いてあること

  • 主な読者:人材流動化が進む時代の上司のあり方について迷っている人
  • 課題:部下の至らないところばかりが目についてしまう
  • 解決策:部下への感謝の気持ちを忘れない。また、実際に部下に感謝の気持ちを伝える

1 部下を失う上司の気持ち……

中堅社員のAさんは、システム部に所属しています。今夜は今月末で転職する同僚Bの最後の出勤日です。同僚Bは学生時代の友人に誘われて、その友人が働いている会社に転職することを決意したそうです。要するに、引き抜きです。詳細は不明ですが、噂によると同僚Bの労働条件は今よりも良くなるようで、システム畑の人間としては、キャリアアップにつながるチャンスです。

システム部の部長も加わって、会話をしています。笑顔は絶やしませんが、部下が去っていく寂しさは隠しきれません。いずれAさんも上司になり、部下を本気で叱ったり、部下を失ったりすることもあるでしょう。そのために学ぶべきことが多いと感じる夜でした。

2 人は意外と簡単に辞めていく?

多くのビジネスパーソンにとって、人(上司、部下、同僚など)は、そこに居ることが当たり前の存在になっているのではないでしょうか。

しかし、役職が上がってくると、そのように楽観的な考え方はできません。なぜなら、人は意外と簡単に会社を去っていくからです。特に人材流動化が当たり前になりつつある今はなおさらです。実際、「今よりも良い条件の会社に誘われたとき」「家庭の事情で働き続けることが難しくなったとき」「上司や同僚とどうしても反りが合わないとき」「仕事に飽きてしまったとき」。このような状況に置かれたら、今の会社を去るというのも有力な選択肢になるはずです。

役職が上がるということは、それだけキャリアを積んできた証しです。自身の退職を真剣に考えたことがあるかもしれませんし、部下の退職を経験しているかもしれません。そうした中で、人に対する認識が、居ることが当たり前の存在から、居てくれることがありがたい存在に変わっていくのです。

3 感謝の気持ちが前提

こうした感覚は、自分が率いる組織が大きくなるほど強くなります。組織が大きくなるということは、自分の目が行き届かない範囲が広がり、部下に任せなければ回すことができない仕事が増えるということです。

上司は、部下に「仕事が遅い!」「仕事が雑だ!」などと不満を感じますが、部下の仕事を全て上司が行うことはできません。上司から見て至らないところが多くても、自分の指示を聞いてくれる部下が居るからこそ仕事が成り立つということです。上司は部下に感謝しなければなりません。

4 自分よりも優秀な部下を求める

しかし、世の中には「自分の指導の至らなさ」が分からない上司が多いものです。そして、そうした上司ほど、部下にドリームチームのような働きを求めます。

ただし、ここで確認しておきたいのは、上司自身がドリームチームを率いるのにふさわしい指揮官であるかということです。皆さんが部下を持つ場合、自分よりも「能力が高い部下」と「能力が低い部下」のどちらを求めるでしょうか。

ドリームチームを求めるならば、自分よりも能力が高い部下を求めるはずですが、実際は自分よりも能力の低い部下を集める上司が少なくないようです。そのほうが、部下を従わせやすいからです。

にもかかわらず、自分よりも能力が低い部下にドリームチームのような働きを求めるということに、大きな矛盾があります。役職に応じて仕事の難易度も上がります。困難な仕事をやり遂げるためには、自分よりも優秀なメンバーを確保し、マネジメントできる上司にならなければなりません。

5 上司の人間性

昨今では、Aさんの同僚Bのように他社から引き抜かれる社員もいれば、逆に自社が他社から引き抜くこともあります。

そのような状況で、自分よりも優秀なメンバーを確保し、マネジメントしていくことは容易ではありませんが、特に優秀な部下は飽きやすいことを念頭に置いておきましょう。

部下から見たときに、直属の上司が、そのまた上司から指示されたことだけを黙々とこなす人だったらどうでしょうか。刺激や新鮮さが感じられずに閉塞感を覚え、新天地を探したくなるかもしれません。

こうしたことがないように、特に優秀な部下に対しては新しい仕事を任せるようにしましょう。期待以上の成果を上げることもあるはずです。

また、上司は謙虚さと誠実さを忘れてはいけません。ダメな上司は、目の前の“大人”が、部下として自分の指示に従ってくれることのすごさに気付かず、部下を気遣いません。部下は、そのような上司についていきたいとは思わないでしょう。上司と部下といえども、最後は人と人との関係です。上司は部下のことを尊重し、真摯に向き合わなければなりません。

6 上司の器がはっきりと分かるのは?

最後に、自分の部下が転職によって会社を去る場合を考えてみます。転職の理由はどうあれ、部下が会社を去っていくのはつらいものです。

しかし、上司が意識すべきは会社に残る部下です。その部下たちは、会社を去っていく部下にどのように接するかをよく観察しています。もし、去っていく部下に嫌みの一つでも言おうものなら、たちまち「器の小さい上司」のレッテルを貼られ、後のマネジメントに悪影響が出るでしょう。Aさんの上司であるシステム部の部長が送別会で笑顔を絶やさなかったように、上司は寛容な姿勢を示さなければなりません。

また、昨今では一度会社を去った社員が出戻ってくることが珍しくありません。あるいは、ビジネスパートナーになる可能性もあります。つらくても先々のことを考え、笑顔で部下と握手をして別れることが上司には求められるのです。

以上(2021年9月)

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