変革を生み出す戦略の在り方/ローマ史から学ぶガバナンス(2)

書いてあること

  • 主な読者:現在・将来の自社のビジネスガバナンスを考えるためのヒントがほしい経営者
  • 課題:変化が激しい時代であり、既存のガバナンス論を学ぶだけでは、不十分
  • 解決策:古代ローマ史を時系列で追い、その長い歴史との対話を通じて、現代に生かせるヒントを学ぶ

1 軍事における戦略

ビジネスでは、軍事的な言葉が数多く使われます。「戦略」という言葉はその端的な例でしょう。ビジネスでは競争相手と戦うのですから、当たり前のようにも思えますが、「戦略」という言葉がビジネスの文脈で使用されるようになったのは1960年代からで、ここ50年程度の話です。今日まで発展してきた経営戦略論は、かつての戦争や軍事理論などから多くのヒントを得て構築されてきました。

その1つに19世紀前半のプロイセンの軍事学者クラウゼヴィッツが執筆した「戦争論」があります。この著書の中でクラウゼヴィッツは、戦略とは、精神的要素、物理的要素、数学的要素、地理的要素、統計的要素という5つの要素で構成されており、とりわけ精神的要素が重要だと説いています。これは決して精神論ではありません。戦争には不確実性が伴うため、戦略は憶測と仮定に基づき、指揮官の才覚、組織編成、兵器戦力等といった基礎的単位の新たな組み合わせで構築される。そのように構築された新たな戦略すらすぐに常識化してしまう。こういう状況の中では、強靭な精神を持って、常に新たな組み合わせを発見し、実行できなければならない、ということなのです。

2 近現代のイノベーション論

この考えは、近現代のイノベーション論に繋がっていきます。20世紀初め、経済学者シュンペーターは、基礎的単位を単に結合するのではなく、全く新しい組み合わせで結合し、その新結合によって創造的破壊を生み出す者こそが企業家であり、そこからイノベーションが生まれると説いています。

また、1990年代後半、大資本のリーダー企業が苦戦している状況について、リーダー企業が既存技術の延長線上の「持続的イノベーション」に留まっているのに対し、新規参入企業は全く新しい技術による「破壊的イノベーション」を起こしており、リーダー企業が追従できなくなっていると説かれました。ハーバードビジネススクールのクリステンセン教授の「イノベーションのジレンマ」です。

ここで指摘しておきたいのは、創造的破壊にせよ、破壊的イノベーションにせよ、それは早晩、戦略として常識化してしまうということです。時間の経過や環境の変化によって、先進性も革新性も失われます。いつまでも新しいものなどないのです。

もはや陳腐な例ですが、かつてソニーのウォークマンは、イノベーションの代表例でした。しかし、ご存じの通り、米Apple社がデジタル音楽配信サービスとしてビジネスモデルを変え、ウォークマンはiPodなどに代わられ、現在ではスマートフォンにウォークマンの機能が組み込まれています。破壊的イノベーションも持続的イノベーションになり、やがて次の破壊的イノベーションに駆逐されるのです。

3 無謀な冒険か、イノベーションか

紀元前2~3世紀、地中海の覇権を巡って争われたポエニ戦争に、軍事的戦略としてのイノベーションとその末路を見ることができます。

紀元前272年にイタリア半島を統一したローマは、シチリアの獲得、そして地中海への勢力拡大を目指し、北アフリカの大国カルタゴとの対決に臨みます。ローマは苦戦しながらも、新兵器を駆使し、紀元前241年、シチリアを手に入れました。これが第1次ポエニ戦争です。

そして、23年後の紀元前218年、カルタゴの名将ハンニバルによるローマへの反撃が始まります。第2次ポエニ戦争です。スペインに本拠地を置いていたハンニバルは、常識では考えられないルートでイタリアに進攻します。エブロ河を渡り、ピレネー山脈を越え、ローヌ河を渡り、アルプスを越え、という北からの進攻ルートでした。ハンニバル29歳。この若い司令官が5万の兵士、40頭の象を率いて、アルプスを越えてイタリアに攻め込むなどあり得ないことでした。しかし、ハンニバルにとっては現実的で合理的なルートでした。確かにリスクを伴う進攻でしたが、ハンニバルは、周辺民族がアルプスを越えて往来していることを知っており、その情報をもとに計画し、実行しました。決して無謀な冒険ではなかったのです。イノベーションは、無謀な冒険ではなく、冷徹な計算の上で成り立つのです。そして、若き司令官が機動力を引き出し牽引した新規参入企業のような組織だったからこそ、実行できたのです。

4 模倣されるイノベーション

イタリアに攻め込んだハンニバル率いるカルタゴ軍は、各地でローマ軍を打ち破り、第2次ポエニ戦争の最大の会戦「カンナエの戦い」を迎えます。ローマ軍8万超に対し、カルタゴ軍5万と数的には不利な状況でしたが、圧倒的な勝利を収め、ローマ軍に大きな打撃を与えました。この戦いでのカルタゴ軍の軍略は、今でも防衛大学校で取り上げられるほどで、当時としては軍事的なイノベーションだったことでしょう。具体的には、騎兵を多く備え、凸陣形にした歩兵の両脇に配置した上で、歩兵中心のローマ軍の攻撃を陣形の中央で受けながら後退し、凹陣形にしてローマ軍を引き込みます。そして、騎兵が後背に回り込み、完全包囲して殲滅(せんめつ)していったのです。

しかし、14年後の紀元前202年、カルタゴの本拠地での「ザマの戦い」では、攻守を変えて再現されることになりました。すなわち若き司令官スキピオ率いるローマ軍は、騎兵を十分に備え、ハンニバル率いるカルタゴ軍を包囲殲滅したのです。先進的、革新的であった戦略も模倣され、常識化します。いつまでも新しいものなどないのです。

5 戦略の本質とは

「カンナエの戦い」はローマ軍の大敗、「ザマの戦い」はカルタゴ軍の大敗という結果でしたが、国家レベルでの打撃には大きな差がありました。ローマ軍はカンナエで大敗したものの、周辺国が寝返らなかったため、カルタゴ軍がローマに攻め入ることができず、国家としての余力を残すことができました。一方、カルタゴは、スキピオの巧みな策略でスペイン支配を奪われた後、本拠地ザマで大敗しました。文字通り、国家的危機を招き、第3次ポエニ戦争で滅亡するのです。

これは、国家レベルにおける戦略の差と言えます。ローマは国家戦略として外交で周辺国を掌握していたため、カンナエでの大敗の影響を極小化することができ、最終的に勝利を収めることができたのです。企業においても、営業での競争や製品の比較など個別の戦いで敗れても、収益モデルやサービスモデルなどを含む経営戦略や事業戦略に先進性、革新性があり優位性を築ければ、より高いレベルでの成功を収めることができます。しかし、これもまた模倣され、常識化してしまえば駆逐されます。強靭な精神を持って、常に新たな組み合わせを発見し、実行できなければならない。これは、戦略の本質であり、企業家に課せられた使命なのです。

(2021年9月)
(執筆 辻大志)

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画像:unsplash

【与信管理】取引先の信用力を調査する

書いてあること

  • 主な読者:経営環境の変化が激しい現在、与信管理をこれまで以上に徹底したい経営者
  • 課題:与信管理として具体的に何をしたらよいのか分からない
  • 解決策:取引開始後も与信管理を継続し、必要に応じて外部機関の情報も参考にする

1 取引先との良好な関係を築くために信用力調査を行う

取引の始まった頃は、あんなにも良好な関係だったのに、時間の経過とともに、少しずつ関係が悪化してしまうことがあります。ビジネスの条件について折り合わないような場合は仕方ないですが、売掛金の回収ができないなどとなると話は別です。

「何となく大丈夫だろう」と思っていたのに、実際に取引を始めてみると、取引先の経営状況が思った以上に悪く、早々に弁済猶予を求められてしまったなどということも珍しくありません。また、新型コロナウイルス感染症の拡大によって、オンラインでしか話したことのない相手と取引することもあります。取引開始時に取引先の信用力調査を、これまで以上に十分に行っておかないと、後で痛い目を見るのは自社であることを肝に銘じて、取引先と良好な関係を築いていくために、信用力調査を怠らずに行っていきましょう。

この記事では、取引先の信用力調査としてどのようなことを行えばよいのかを説明します。

2 取引開始前に行っておきたい取引先調査について

取引を開始するに当たって、今後良好な関係で取引を行っていくために行っておきたい調査事項として、以下のようなことが挙げられるでしょう。

1)取引先の代表者と面談し、会社の経営方針・取引先などを確認する

特に中小企業においては、代表者に実権が集中し、資金繰りなどを含む会社の経営実態を正確に把握しているのは代表者だけであることも少なくありません。そのため、会社の代表者と実際に面談し、経営方針や沿革・理念などを確認しながら、自社が継続的に取引をしていく会社として適切かどうかを見極めるとよいでしょう。

また、その際に、取引先にどのような属性(業種、会社規模など)の会社が多いのかなどを確認してその信用力を調査するとともに、債権の焦げ付きの可能性や支払いサイトがどのようになっているかなどもそれとなく把握できるとより良いでしょう。

2)営業担当者間で連絡を取る方法を確認しておく

些細な違和感が大きな問題の氷山の一角であることも少なくありません。そのため、気になることをすぐに確認できるように、会社の外線や直通番号だけでなく、営業担当者の携帯電話番号やSNS、LINEのアカウントなども確認しておくとよいでしょう。なお、会社によっては、業務上のやり取りをSNSやLINEで行うことが禁止されている場合もあるため、事前に確認しておきましょう。

3)信用調査サービスやインターネット上の情報から企業情報を取得する

会社の代表者との面談や営業担当者とのやり取りを通じて、ある程度は取引先の情報を取得することはできますが、例えば、取引金額が大きく、債権が焦げ付いてしまうと自社への影響が大きいため、信用調査に万全を期したいといった場合には、信用調査サービスを利用して企業情報を取得してみるとよいでしょう。これにより、会社の代表者との面談や営業担当者とのやり取りでは分かりにくい第三者から見た会社の現況や健全度が分かることがあります。

また、インターネットで会社名や会社所在地、代表者の名前などをGoogleなどで検索したり、会社登記簿を取得することによっても、会社の代表者との面談や営業担当者とのやり取りからは知り得なかった事実が分かるかもしれません。様々調べてみて、再度気になることを会社に確認してみるとよいでしょう。

3 取引継続を検討するために確認しておきたい取引先の信用力

 

会社の経営状況は日々変わります。そして、その変化は、小さな変化の積み重ねによって、やがて大きな変化になるということも少なくありません。

そのため、日ごろの取引先の担当者とのやり取りなどを通じて、取引先にどのような変化が起きているかなどを感じ取って、取引継続に支障が生じていないかを確認する必要があります。参考までに、以下のような事情があるかどうかは取引先の変化を察知する一つのきっかけになると思いますので、参考にしてください。

  • 日ごろ、担当者とは円滑に連絡が取れているか
  • 担当者が突然変わったり、定期的に退職者が出ていたりすることはないか
  • 取引先を訪問した際に、会社の雰囲気が変わっていないか
  • 納品や支払いが理由なく遅れることがないか
  • 取引先の事業計画、経営方針が大きく変わったりしていないか

4 取引先の信用力は定期的に調査しなければ意味がない

上述の通り、会社の経営状況は、社会情勢などにより日々大きく変わり得るものですので、取引先の信用力も、現在と6カ月前、6カ月後で大きく変わっている可能性があります。

そのため、取引開始時にきちんと調査をしたから当面大丈夫だろうと思っていても、例えば、大口の取引先の債権が焦げ付いて、一気に財務状況が悪化することもあります。こういったことをいち早くキャッチして、今後も取引先への支援という意味合いも込めて、取引を継続するのか、それとも取引を抑えたり、停止したりするのかを検討する必要があるでしょう。

このように、取引先の信用力の調査は一度行うだけでは意味がなく、取引を継続している間は定期的に行う必要があります。売り上げや取引が増加しても、その代金をきちんと支払ってもらわなければ、意味がありませんので、取引先の信用力を開始前から継続的に調査をしながら取引を行うことを心掛けるようにしましょう。

以上(2021年9月)
(執筆 竹村総合法律事務所 弁護士 松下翔)

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画像:Mariko Mitsuda

早期帰宅や避難の判断材料となる防災気象情報とは?/中小企業のためのBCP

1 適切な行動を取るために把握すべき災害情報

洪水、高潮、崖崩れ、地すべりなど、気象や防災に関して収集すべき情報はさまざまあります。「注意報」や「警報」などの警戒レベルに応じて、取るべき行動も異なります。経営者は、こうした情報や警戒レベルを正しく理解し、早期帰宅や避難、自宅待機などの指示を迅速かつ的確に出さなければなりません。

オフィスや工場、営業拠点などが、被災しやすい地域にあるのかを事前に把握しておくことも欠かせません。オフィスの近くに河川や海がある場合は洪水や高潮が起きやすいのか、オフィスが山間部にある場合は崖崩れや地すべりが起きやすいのかなどを把握します。被害が起きそうな地域を地図で可視化した「ハザードマップ」を使い、想定される被害状況を踏まえておくのが望ましいでしょう。

2 防災気象情報と警戒レベルとの対応

「避難情報に関するガイドライン」(内閣府(防災担当))では、「自らの命は自らが守る」意識を持ち、自らの判断で避難行動をとるとの方針が示され、この方針に沿って自治体や気象庁等から発表される防災情報を用いて、取るべき行動を直感的に理解しやすくなるよう、5段階の警戒レベルを明記して防災情報が提供されることとなっています。政府では、警戒レベル5の状況は安全に避難できない状態であり、警戒レベル5の発令を待つのではなく、警戒レベル4までに必ず避難することとしています。

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3 主要な防災向けウェブサイト

災害が起きやすい地域などを確認できる防災向けウェブサイトを紹介しています。BCPを策定するときの参考にしてください。

1)国土交通省「ハザードマップポータルサイト」

洪水・土砂災害・高潮・津波のリスク情報、道路防災情報、土地の特徴・成り立ちなどを地図や写真に自由に重ねて表示できる「重ねるハザードマップ」、各市町村が作成したハザードマップを検索できる「わがまちハザードマップ」が掲載されています。

■国土交通省「ハザードマップポータルサイト」■
https://disaportal.gsi.go.jp/

2)気象庁「キキクル(危険度分布)」

大雨による災害発生の危険度が地図上で確認できます。危険度は、「極めて危険」(濃い紫色)、「非常に危険」(うす紫色)、「警戒」(赤色)、「注意」(黄色)、「今後の情報等に留意」(無色)の5段階で色分けされ、10分ごとに情報が更新されます。「土砂災害」「浸水害」「洪水害」の危険度を切り替えて確認できます。

■気象庁「キキクル」■
https://www.jma.go.jp/bosai/risk/

以上(2021年9月)

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画像:Maslakhatul Khasanah-Shutterstock

これからはチャット上手の上司がもてる?

書いてあること

  • 主な読者:テレワークなどでチャットを使っているが、部下とうまくコミュニケーションがとれない上司
  • 課題:すぐに返信がこないことにイラつくし、意図が正確に伝わらない
  • 解決策:これからはチャットが中心になると心得え、自身のコミュニケーションをバージョンアップする

1 チャットが苦手で……

「何で誰もリアクションをしないのだ!」。中堅社員のAさんはいら立ちを隠せません。グループチャットを使って複数の部下に一斉に指示を出したのに、“数分”待っても、誰からも何の返信もないのです。しばらくして、Aさんの上司であるB本部長が、同じようにグループチャットで部下に指示を出しました。すると間髪入れずに部下が反応し、コミュニケーションが成立したのです。この違いの理由は、役職の違いだけなのでしょうか。

あるとき、AさんはB本部長に愚痴をこぼしました。「私がチャットで指示を出しても、皆のリアクションが悪くて本当に困ります。B本部長のときとは大きな違いですよ。私は軽く見られているのでしょうか……」。するとB本部長は、次のように返しました。

「Aさんが軽く見られているわけではないよ。ただ、チャットには対面はもちろん、メールとも違う独特の雰囲気があるから、それを理解しないといけないね。それからチャット以外の、日ごろのコミュニケーションが大事なんだよ」

2 広がるチャットツール

最近はチャットツールがビジネスの連絡手段として定着しています。リモートワークなど、離れた場所にいる複数の人がコミュニケーションを取る手段として、チャットは便利です。しかし一方で、チャットのコミュニケーションの問題が出ている企業も少なくありません。

例えば、チャットツールはテキストのやり取りが中心で、相手の表情が分かりません。電話やメールも同じですが、電話なら声が聞けます。また、メールは誤解が生じないように丁寧過ぎるくらい、固い表現で書く人が少なくありません。対してチャットは「手軽さ」を重視します。相手の表情が分からず、また声も聞けない状態ですが、いきなり要件に入ります。メールのように、「いつもお世話になっております」などの前置きもありません。

この雰囲気に慣れていないと、チャットなのに堅苦しくなったり、逆にはしょり過ぎて意味が通じなくなったりします。受け手も同様です。手軽だからこそすぐに返すのが礼儀ですが、「チャットだからいいか」と、ついつい返事を先送りにしてしまいがちです。

3 日ごろからイライラしない

いろいろと難しい面のあるチャットですが、だからこそ上司にとってはコミュニケーションの訓練になります。例えば、対面や電話だとつい余計なことまで話して時間を浪費しがちですが、チャットならば必要最低限の言葉で正確に伝えようと努めます。

これは“アバウトに伝える”ことに慣れている上司にとっては、意外と難しいことです。チャットでは、「あれ、これ、それ」などの指示語の多い文はとても分かりにくいので、具体的かつ簡潔に示さなければなりません。

また、日ごろからイライラしないことも重要です。なぜなら、いつもイライラしている上司からのチャットに返信する勇気のある部下は少ないからです。関わったら最後、矢継ぎ早にチャットが入り、少しでも返信が遅いと叱られそうだと思うはずです。

自分のチャットに返信がないのは、自分自身の日ごろのコミュニケーションに問題があるケースも考えられます。また、チャットを送った側は即座の対応を求めますが、受け取った側にも事情がありますので、返信をせかしたいところを少し我慢しましょう。

また、チャットは手軽なので、つい休日にも送りがちです。送る側の上司の意図は、「忘れないうちに伝えておきたい」というものですが、今どきは休日に仕事の連絡を取るのもはばかられます。就業時間後や休日のチャットを禁止している企業も少なくありません。

4 「あれ、どうなった?」は通用しなくなる

「(上司)あれ、どうなった?」「(部下)あれって何ですか?」「(上司)何で分からないんだ。あれだよ、あれ!」。このような上司と部下のやり取りは、今後ますます減っていくのでしょう。

これから組織を率いる人は、その場に居合わせなくても、適時、適切なコミュニケーションが取れる組織を作らなければなりません。そうした意味では、“チャット上手”が上司の絶対条件になっていくかもしれません。

以上(2021年9月)

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画像:George Rudy-shutterstock

【事業承継】本気の事業承継で大切な後継者育成の考え方

書いてあること

  • 主な読者:自らの子供に事業承継をしたい経営者
  • 課題:自身の子息・子女に何を教育すべきか迷っている。そもそも、経営者の器なのかも見極めたい
  • 解決策:自身の子息・子女といってひいきせずに、長い時間をかけて見極める

1 経営者が押さえておくべきこと

自身の高齢化が進み、事業承継が差し迫った課題になっている経営者は少なくないはずです。事業承継では、自社株式の承継など「資産の承継」と、後継者育成など「経営の承継」が車の両輪となりますが、より重要なのは経営の承継といえます。従来に比べて減ってきてはいますが、中小企業では依然として経営者の子息・子女を後継者とするケースが多いです。

「後継者育成には時間がかかるものだ」と漠然と考えるのではなく、期間や内容を明確に決めなければなりません。この記事では、自身の子息・子女を後継者とすることを想定し、後継者に求められる資質などを紹介しています。

2 子息・子女でも例外ではない後継者に必要な3つの資質

1)マインド

後継者には、いかなる困難に直面しても必ず乗り越えてみせるという強いマインドが必要です。経営者の責任や果たすべき役割は、その質や重要性という点で他の従業員とは一線を画します。経営者の意思決定は、企業の業績や存続は言うまでもなく、従業員や取引先などとの関係にも多大な影響を及ぼすからです。

また、経営者として過ごす日々は決して順風満帆ではなく、困難の連続です。重責に耐えながら困難に立ち向かい、企業を維持・発展させていくためには、強いハートが求められます。これは、経営者としての前提条件といえます。

2)実務能力

経営者に常に求められるのは成果です。どれほど素晴らしい目標を掲げ、熱意を持って取り組んでも、収益の向上、新規事業の立ち上げなど具体的な成果を残していかなければ、経営者としては失格です。

また、後継者は周囲の信頼を獲得しなければ経営者として活動することができません。従業員や取引先をはじめとした利害関係者から認めてもらうためには、「この人が経営のかじ取りを行うのであれば企業の行く末は安心」と評価してもらえる成果が必要です。

3)知識

後継者には、経営戦略・マーケティング・財務など経営に関する広範な知識が求められます。中小企業の経営者は、実務を通じて習得した独自のノウハウや経営感覚を重視して経営しています。そのためか、経営に関する知識を机上の空論としてそれほど重視しない傾向があるようです。

しかし、経済環境が変化する中で、従来の考え方や手法だけでは通用しなくなってきていることを経営者が最も痛感しているはずです。この点を素直に受け止め、積極的に学ぶ姿勢がなくてはなりません。

3 後継者育成における経営者の役割

1)企業の根幹を成す「企業の理想・価値観」を伝える

経営者には、「どのような企業にしたいか」という理想や、大切にしたい価値観があります。こうした理想・価値観は、経営上の意思決定において最も基本的かつ重要な指針であり、短期的に見直すものではありません。

企業の理想・価値観は、経営理念のように明文化されているものばかりではなく、暗黙のうちに組織内で共有されているものもあります。こうした企業の理想・価値観を、後継者にしっかりと伝えることも経営者の大切な役割です。

2)「アドバイス」「サポート」を通じて後継者を側面から支援する

後継者が経営者として成長していく過程で経験する不安や悩みは数え切れません。「今回の意思決定やプロジェクトの進め方は正しかったのか」という業務上の問題はもちろん、「自分は経営者としてふさわしいのか」という根本的な点でも悩みます。

経営者は「経営者」という立場としてはもちろん、後継者の性格や心情を理解できる「肉親」という立場からも、後継者の相談に乗ってあげましょう。ただし、適度な距離感は保ちます。後継者を常に見守りつつも、基本的にはアドバイスやサポートは後継者から相談を受けたときのみ行うといった姿勢がちょうどいいかもしれません。

3)企業を支える「人的ネットワークの承継」を行う

経営を進める上では、従業員・取引先・金融機関をはじめとした社内外の利害関係者との良好な関係が欠かせません。とはいえ、経営者が長年にわたって培ってきた信頼関係は、後継者という立場だけで自動的に引き継がれるわけではありません。それなりの時間をかけ、自分の力で利害関係者と信頼関係を構築しなければなりません。

経営者は、後継者と利害関係者とのコミュニケーションを深める場をセッティングするようにしましょう。例えば、社内については、経営者が頼りにしている幹部と一緒に仕事をさせます。また、社外については、金融機関や他社の経営者などとの会談・会合に後継者を同席させるとよいでしょう。

4 本当に後継者としてふさわしいのか?

経営者が後継者育成で悩むのは、

後継者は、経営者としてふさわしい人材なのか?

という根本的な問題です。

できるなら、自分の子息・子女に継がせたいと考えるのは、経営者の当たり前の心情です。しかし、経営者という役割は誰にでもこなせるものではありません。自分の子息・子女が経営者としてふさわしい人材か否かということを、経営者は客観的に考えなければなりません。

近年は、M&Aやビジネスマッチングの一環で親族外承継をサポートするサービスもあります。経営者は企業の行く末を考え、私情に流されることなく、冷静な選択をすることが求められます。

以上(2021年9月)

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画像:Mariko Mitsuda

中小企業も出来る! 改正地球温暖化対策推進法とCO2削減のヒント

書いてあること

  • 主な読者:企業として温暖化対策を本格化させたい経営者
  • 課題:中小企業の取り組み、改正地球温暖化対策推進法の概要を知りたい
  • 解決策:他社の取り組みを参考にし、「できること」から始めてみる

1 大手取引先からCO2削減要請! 目標達成で有利な融資も

IPCC(気候変動に関する政府間パネル)が、2021年8月9日に公表した「第6次評価報告書(AR6第1作業部会の報告『気候変動-自然科学的根拠』)」によると、

2021〜2040年のうちに、産業革命前から気温が1.5度上昇する可能性が高いというシナリオ

などが示されています。その影響で、海面の上昇や熱波の発生などの切実な問題が起こるとされています。このIPCCの報告によらずとも、地球温暖化は切実な問題であり、世界規模で意識が高まっています。経営者仲間との会話でも、地球温暖化の話題が出るケースが増えているのではないでしょうか。

日本でも二酸化炭素(以下「CO2」)などの温室効果ガスの排出量を2030年度に2013年度比46%に削減する方針が示されました。「ウチは中小企業だから、まだ関係ないよ」と思った皆さん、それでは済まされなくなってきています。CO2の削減問題は、次のような形で皆さんの足元まで要請が迫っているのです。

  • 2021年6月に改正地球温暖化対策推進法が公布され、自治体や企業の取り組みを開示したり、事業所ごとの温室効果ガスの削減量を公開したりする方針
  • 「脱炭素経営」に取り組む大手企業の中には、サプライチェーンを構成する取引先などにも、CO2の削減を要請する動きが出てきている
  • 各地の金融機関も、中小企業などの脱炭素経営の支援や、削減目標を達成することで、金利が下がる融資「サステナビリティ・リンク・ローン」の取り扱いを開始するケースが増えてきている
  • 各地の自治体では、CO2削減や、環境問題に積極的に取り組む企業を表彰・認証する取り組みが始まった

ところが、中小企業の経営者に行ったアンケートによると、

約70%がCO2削減を経営課題として認識しているものの、実際に取り組んでいるのは12%にとどまる

という結果になっています。

CO2の削減に取り組むことで、コスト削減や、企業のイメージ向上による顧客の開拓・維持も期待できます。また、ここ1~2年で、新卒者の採用活動の場面で、環境問題に対してどんな取り組みをしているのか質問する学生が急増していると話す企業もあります。

この記事では、温室効果ガス削減に取り組む中小企業の事例や、取り組む中で直面した課題について紹介します。また、前述のアンケート結果、改正された地球温暖化対策推進法のポイントも記載しています。これらを参考に、自社の「脱炭素経営プラン」を検討してみましょう。

2 CO2削減取り組み事例

今回紹介する取り組み事例の中には、CO2の削減に加え、電気料金のコストダウンにつながったり、温室効果ガス削減の取り組みを顧客獲得のきっかけとして成長させたりしている企業もあります。

1)初期費用ほぼゼロで工場の屋根に太陽光発電:カイハラ産業(広島県)

デニム生産で高いシェアを誇るカイハラ産業は、オリックス(東京都)と共同で、国内最大級の太陽光発電システムの第三者所有モデル(「PPAモデル」)(注1)を開始しました。

この太陽光発電システムは、同社の三和工場の屋根に設置され、稼働を開始しています。これにより、同工場の電力によって排出されるCO2を約12%削減し、電力料金を従来比約25%削減できるとしています。

PPAモデルの場合、初期費用となる太陽光発電システムの設置費用や保守管理費用は第三者が負担してくれます。一方、太陽光発電システム自体は設置した第三者のものであるため、中途解約の難しい長期契約となり、設置場所などの条件も厳しくなります。

2)燃料転換と熱回収でCO2削減:河田フェザー(三重県)

羽毛専業メーカーの河田フェザーは、羽毛を洗浄する際に用いる温水のボイラー燃料を変更したり、製造時に発生するくずを焼却する際に発生する熱を温水用に回収したりすることで、CO2を削減しています。

水鳥から取れた羽毛は、製造時に大量の温水で洗浄し、高温で乾燥させることでふんわりとした触感になります。同社は、大量の水を温めるボイラーを、重油を使うものから、重油に比べ発熱量当たりのCO2排出量が少ないLPガスを使うものに交換しました。

ボイラーの切り替えにより、同社では、2015年から2019年の間で従来比190トンのCO2を削減できました。さらに、ボイラー使用時に発生する熱を回収し、温水用に再利用することで、年間310トンのCO2の削減も行っています。

3)取引先からの要請に事前に準備:協発工業(愛知県)

自動車部品メーカーの協発工業は、大手自動車メーカーなどの主要な顧客から、CO2削減の要請が強まることを見越し、科学的根拠に基づいた削減目標を設定し、国内の自動車産業の関連企業で初となる「SBTイニシアチブ」(注2)の認証を受けました。

同社より一足先に認証された、太陽光発電システムの施工などを行うジェネックス(愛知県)とともに取り組み、工場で使用する電力に再生可能エネルギーを利用することで、2030年のCO2排出量を、2018年比の50%に削減する計画です。

大手企業からの「上から目線」の要請に対し、下請け企業1社だけで対応するのは難しいかもしれません。同社のように、専門分野のパートナーと協業することも中小企業には効果的です。

4)30年以上も前からカーボンニュートラルを実現:艶金(岐阜県)

衣類などの染色事業を営む艶金(つやきん)は、高温で水や化学薬品を大量に使用する業態の責任として、早くから環境を意識した経営を行っています。同社は、1987年にバイオマスボイラーを導入しました。このボイラーでは、燃料として地元の建設廃材である木材のチップを用い、カーボンニュートラル(注3)を実現しました。

同社が自社のCO2の排出量を測定したところ、バイオマスボイラーを導入しなかった場合に比べて、約75%削減する効果があったと推計しています。

同社は、こうした取り組みを他社に先駆けて行うことで、新たな顧客獲得のきっかけや、コストや納期以外で企業としての強みになると考えています。

政府は2020年10月に、2050年のカーボンニュートラルを実現することを宣言しており、同社の取り組みは今後の脱炭素経営を考える中で参考となりそうです。

5)さまざまな取り組みでゼロカーボンを目指す:丸信(福岡県)

印刷加工などを行う丸信は、使用する電力の全てを再生可能エネルギーに転換するための枠組み「再エネ100宣言 RE Action」(注4)に参加しました。

同社は、自社の印刷工場で印刷を乾燥させるランプをLEDに切り替えを行っています。全てのランプを切り替えることで、消費電力が従来に比べて約30~50%削減できるそうです。一般ごみの再利用にも注力しており、これまでは廃棄していた一般ごみを固形燃料として再利用しています。固形燃料化することで、CO2を約33%削減できると見込んでいます。

また、同社は排出権取引にも取り組んでいます。2021年4月には、J-クレジット制度(注5)を活用し、久留米市の特別地方公共団体となっている財産区が所有する森林のCO2排出権「かっぱの森J-クレジット」を100トン分購入しました。今回は、購入量が公表されていることもあり、自社のCO2を相殺しながら環境への取り組みをアピールできるメリットもあります。

これまで見てきたように、一部の企業は将来を見据えて「できること」からCO2の削減に取り組んでいます。また、環境省では、中小企業が、CO2削減などの脱炭素経営を促進するための資料「中小規模事業者のための脱炭素経営ハンドブック」を公開しています。

この資料には、脱炭素経営のメリットや進め方の他に、中小企業の取り組み事例も紹介されています。

■環境省「中小規模事業者のための脱炭素経営ハンドブック」■
http://www.env.go.jp/earth/SMEs_handbook.pdf
  • (注1)第三者が電力需要家の土地や屋根などを借り、パネルなどの太陽光発電システムを設置し、そこで発電される電力を貸し手である電力需要家が購入する仕組み
  • (注2)パリ協定が求める水準の「世界の気温上昇を産業革命以前に比べて2℃を十分に下回る水準に抑え、1.5℃に抑えることを目指す」ことと整合した、5~15年先を目標年として、企業が設定する科学的根拠に基づいた目標
  • (注3)森林の成長過程でCO2を吸収し、燃焼時にそれを排出するため、実質的なCO2の増減はゼロとする考え
  • (注4)消費電力が比較的小規模の企業、自治体、教育機関、医療機関などの団体が、使用電力を100%再生可能エネルギーに転換する意思と行動を示し、再エネ100%利用を促進する枠組み
  • (注5)省エネルギー機器の導入や森林経営などの取り組みによる、CO2などの温室効果ガスの排出削減量や吸収量を「クレジット」として国が認証する制度

3 脱炭素経営企業の声 「できること」から始めてみる

脱炭素経営を進める上で、どのような課題があるのでしょうか。多額の初期投資や、効果がすぐに表れない場合もあります。また、社内に脱炭素の意識が浸透しておらず、一致団結していないこともあります。脱炭素経営を進めている企業からは次のような話が聞けました。

●取り組みを始めたきっかけ

  • 設備に使用していた燃料が、原油価格の乱高下を受けてコスト管理に苦労していたため、調達リスクが低く、急激な価格変動が少ない再生可能エネルギーや、廃材などの調達にかじを切った。
  • SDGsの取り組みの一環として始めた活動(企業内保育所の設置、環境保全に関する国際認証の取得)を公表したところ、取引先から環境を意識した製品の引き合いが急増した。これを受け、地球環境保護を意識した活動をさらに進めるため、温室効果ガスの削減などの取り組みを加速させている。

●直面した課題

  • 化石燃料を用いる設備に比べ、再生可能エネルギーの利用を想定した設備は、現時点で初期費用は割高な印象がある。また、廃材などをエネルギーとして使う場合は、液体や気体である化石燃料に比べて、燃えカスの掃除などの定期的なメンテナンスが負担になる。
  • 従来よりも消費電力の少ない設備を導入したものの、既存の設備に比べて仕上げ加工に時間がかかるため、仕上げ工程のみ既存の設備を利用するなどの試行錯誤が続いている。

●脱炭素経営を継続させるコツ

  • 環境に影響を与える事業を行っている場合や、取引先からの要請を受けた場合などは、いや応なしにやらざるを得ないが、急激な方針転換は社内にも影響を与えることになる。スムーズに脱炭素経営を始め、継続させるには、まずは社内の整理整頓・掃除などの「みんなでできること」から取り組み、環境保護に対する意識を徐々に浸透させていくことが望ましいと考える。
  • 自社の取り組みを外部へ発信することが重要と考えており、まずは外部との接触が多い営業担当者の教育を優先している。営業担当者が仕入れてきた環境問題に関するトピックを社内の全体会議で共有しており、製造現場への情報共有、取り組みとその効果の浸透を図っている。

4 他社のリーダーの動向 経営者アンケート結果

1)経営者アンケート結果:取り組みを行っているのは12%

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冒頭で触れた通り、回答者の過半数以上がCO2の削減に関して無関心、または具体的な行動を取っていないようです。一方、「実際に取り組んでいる」層や、「経営課題として認識している」層は合わせて71%いるともいえます。次に、どのようなことが取り組みの妨げになっているのか質問しています。

2)経営者アンケート結果:取り組みの障害は「自社へのメリットが不透明」

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CO2排出量の削減に取り組む際の障害として、「自社へのメリットが不透明」「コスト面」「業務への負荷」が大きな割合を占めています。「どんなメリットがあるか見えないものに、お金や手間をかけたくない」との心理が見えます。

特に、これまで社内でCO2排出量の削減などが課題として挙げられず、環境問題との接点が少ない業種や業態の場合は、取り組むイメージが湧きづらいかもしれません。

3)経営者アンケート結果:約半数が「利益が減るなら協力できない」

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CO2排出量の削減を進める際に、利益が減少する事態になった場合、どの程度なら許容できるか聞いた結果が図表3です。

回答者の19%が利益の減少を許容できるとしていますが、49%が利益を下げてまでCO2排出量の削減には応じないとの考えです。また、30%の回答者が「わからない」と答えています。この背景には、CO2排出量の削減に対する認識不足や、まだ判断材料が不足していることなども推測されます。

4)経営者アンケート結果:CO2排出量の削減で「妥当な利益」は10%以上

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最後の質問は、CO2排出量の削減で生まれる利益について聞きました。

回答者の30%が、妥当と考える利益を10%以上としています。また、回答者の14%が、妥当な利益として、現状の30%以上と回答しています。30%以上の利益をもたらすとなると、ハードルはかなり高くなると感じますが、「従来のCO2排出量の削減」や「電気料金の大幅ダウン」の切り口であれば、今回紹介した事例の企業のように、再生可能エネルギーの導入などで実現できる可能性もあります。

5 改正地球温暖化対策推進法のポイント

最後に、冒頭でも触れた、改正地球温暖化対策推進法についても簡単に紹介します。改正の背景として、2020年以降の気候変動問題の国際的な枠組みであるパリ協定、2050年のカーボンニュートラル宣言(2050年までに脱炭素社会を実現し、温室効果ガスの排出を実質ゼロにすることを目標とするもの)を基本理念に、法律として位置付けたものです。

今回の改正をまとめると、次のようになります。

画像5

企業として注目しておきたいのが、2つ目と3つ目のポイントです。

2つ目の「地域の再エネを活用した脱炭素化を促進する事業を推進するための計画・認証制度の創設」は、地方公共団体や関係省庁の定めに沿う、再生可能エネルギーを利用した地域の脱炭素化を進める事業(「地域脱炭素化促進事業」)の手続きが簡素化され、これまで以上に迅速に事業を行うことが期待できます。

3つ目の「脱炭素経営の促進に向けた企業の排出量情報のデジタル化・オープンデータ化の推進など」は、一定量の温室効果ガスを排出している企業に課せられている報告(「温室効果ガス排出量 算定・報告・公表制度」)をデジタル化・オープンデータ化し、報告者とデータ利用者の利便性を向上させます。企業の排出量が公表されることで、脱炭素経営の見える化やESG投資を促進させる効果も期待されています。

これまで見てきたように、CO2の削減などの地球環境保護に対する意識が高まり、企業の取り組み、その支援は着々と整備されています。設備投資の初期費用や人材の育成など、乗り越える壁は幾つもありますが、他社を参考に、「できること」から検討してみましょう。

以上(2021年9月)

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画像:unsplash

従業員の皆さんへ 粉飾決算・資産流用など、社内不正を見つけた場合の対処法

書いてあること

  • 主な読者:社内不正を疑っている従業員、あるいは社内不正を発見した従業員
  • 課題:誰に相談したらよいのか分からない。裏切り行為のようで気が引ける面もある
  • 解決策:まずは自分でできる範囲で調査し、証拠を集める。次に、自分に及ぶリスクを理解し、通報先を選択する

1 社内不正を見つけてしまったら……

粉飾決算、資産流用、利益相反取引、品質偽装、情報漏洩、ハラスメント……。残念ながら企業内の不祥事は後を絶ちません。皆さんの会社ではどうですか? もしかすると「あれ、これって不正かも?」と感じることがあるかもしれません。

しかし、確証が得られないうちに話を表に出すことははばかられますし、内部不正を暴くことは、お世話になった会社や同僚への「裏切り行為」のように感じられるかもしれません。実際、こうした事態に直面した人たちの中には、自分で問題を抱え込み、たった一人で思い悩んでしまうこともあります。

ただ、

忘れてならないのは、不正は不正である

ということであり、皆さんはしかるべき対応をしなければなりません。この記事では、

社内不正を発見した場合に、具体的に何をすればよいのか

について弁護士が解説します。また、この記事は従業員向けですが、経営者は社内不正を防ぎ、万一の場合はすぐに正しい対応を取りたいと考えているはずです。ですから、この記事を、従業員の皆さんも読んでいただくことをお勧めいたします。

2 初動対応を間違えると自分が不利益を被ることも

社内不正を発見した皆さんは、不正に対する怒りから「今すぐに監督官庁などに通報してやろう!」と思うかもしれません。しかし、ここは慎重になってください。なぜなら、

従業員は、会社に対して誠実に業務を行う義務や秘密を保持しなければならない義務

を負っています。むやみに通報するとこの義務に違反してしまい、会社から解雇、降格、配置転換などの処分を受けるかもしれません。場合によっては会社の信用を低下させたとして、損害賠償請求を受けたりすることだってあり得ます。

一方で、

公益通報者保護法(以下「法律」)では、一定の要件を満たした場合に限り、内部告発を理由に従業員に対する不利益な扱いをすることを禁止

しています。保護の対象となるのは、法律に違反する犯罪行為や最終的に刑罰につながる行為に限られます。さらに、

  • 社内への通報(内部通報)
  • 行政機関への通報(行政通報)
  • その他外部への通報

といった順で保護要件が厳しくなります。

保護されるための要件の1つは、

社内不正について「信ずるに足りる相当な理由(客観的に不正が行われていると認められる証拠などがそろっていること)」

です。これを真実相当性というのですが、この要件を満たすためにも、

まずは、事実関係の調査と証拠の収集

をしなければいけません。

証拠の収集方法は不正のタイプによってさまざまですが、

  • 電子ファイル、メール、スクーリンショットなどでPCにデータ保存する方法
  • 画面や書類などをスマホで撮影する方法
  • 不正行為をしている当事者の会話を録音する方法

などがあります。ただし、ドラマに出てくるような自分の閲覧権限を超えたデータにアクセスするなどの行為は絶対にしてはいけません。悪いことを追及するのだからルールを破っても許されるだろうと考えるかもしれませんが、その行為も同様に不正なのです。

とはいえ、自分の権限が及ぶ範囲内の事実調査、証拠収集には限界があります。立ちゆかなくなったら、「内部通報」と「外部への通報」のいずれかを検討しましょう。

3 通報することを決めたときに取るべき方法

1)内部通報

優先的に考えるべきは内部通報でしょう。最も身近な相手は直属の上司です。上司が取り仕切る部署内での社内不正であれば、適切で素早い解決が期待できます。問題は、その上司が不正に関与しているケースがあるということです。また、当事者でなくても、上司が自分の部署の不正が明るみになることを恐れて隠蔽するケースもあるでしょう。

このような場合、まず自社に内部通報制度が整備されているか確認してください。整備されていれば、内部通報窓口として、社内の人事部や法務部、外部の法律事務所などが設置されていますので、そこに相談をします。

内部通報制度が整備されていない場合は、人事や総務部門の担当役員、責任者への通報が考えられます。会社の規模によっては直接代表者に通報してもよいでしょう。ここでは、

誰であれば自分を守ってくれるか

という観点から、通報先を選択しなければなりません。

皆さんが注意しなければならないのは、

通報者の特定により不利益を被るリスクがある

ことです。内部通報を受けた会社は、通報された不正行為が事実なのかについて内部調査をしますが、その過程で誰が通報したかが推測されます。小さな会社ならすぐに分かるでしょう。その結果、あってはならないことですが、内部通報者が「裏切り者」として、不利益を被ることが想定されます。

これを防ぐためには、通報は匿名で行い、内部調査の際は、通報者を推測できるような情報を調査対象者に明らかにしないように依頼することが考えられます。ただし、こうして情報を絞ると、内部調査が進みにくくなることも事実であり、この点に対する一定の留意は必要です。

2)外部への通報

内部通報によって会社から不利益な扱いを受ける恐れがあったり、社内不正が組織的に行われていて、自浄作用が期待できなかったりする場合は、行政(中央省庁など)への通報や、その他外部(マスコミなど)への通報を検討することになります。

注意すべきなのは、

自分一人の判断で外部への通報を決断しないこと

です。なぜなら、前述した通り、外部への通報で法律の保護対象となるのは、その社内不正を「信ずるに足りる相当な理由(客観的に不正が行われていると認められる証拠などがそろっていること)」がある場合に限られるからです。また、通報先がマスコミなどの場合、より厳しい要件を満たさなければ保護の対象となりません。

法律上の保護対象となるか否かの基準はケース・バイ・ケースなので、事前に弁護士などの専門家に相談するようにしましょう。弁護士会によっては、内部告発の相談窓口を設けているところもあり、これを利用することも考えられます。

以上(2021年8月)
(執筆 日比谷タックス&ロー弁護士法人 弁護士 浜地保晴)

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画像:beeboys-Adobe Stock

こびない上司が部下に伝えたいこと

書いてあること

  • 主な読者:次世代のリーダーとして、過去にとらわれずに組織を率いる中堅リーダー
  • 課題:本人の意図とは別に、周囲に悪影響を与えてしまうことがある
  • 解決策:自分の志を周囲に示し、賛同する仲間を募る

1 とがった人は格好いい?

中堅社員のAさんは、他部署の上司であるBさんに憧れています。たまにしか会うことがなく、一緒に仕事をしたこともないBさんに憧れを抱くのには幾つかの理由があります。Aさんは、上の者にも臆せず“かみつく”Bさんを格好いいと思っています。また、他の上司とは明らかに雰囲気の違い、服装もオシャレだと感じています。そうしたBさんのとがった姿に、Aさんは旧態依然とした組織への反抗のシンボルを重ねているのです。

あるとき、AさんはBさんに言いました。「Bさんは本当に頼りになりますね。上の人にも平然と“かみつく”のですから。格好いいです。それに引き換え、今の自分の上司は“腰巾着”みたいで情けないです」。するとBさんは、次のように返しました。

「Aさんには私が“かみついている”ように見えるのか。だったら私を反面教師にしたほうがいい。私は目指すべき理想を実現するために、上とディスカッションをしているだけだ!」

2 本人と周囲とのギャップ

組織では、Bさんのような存在に対する評価が大きく分かれます。ある評価は「上との衝突もいとわない『勇気ある変革者』」、別の評価は「これまでの秩序を乱す『礼儀知らずの無法者』」といったものです。大切なのは、表面的な言動だけで判断しないことです。大人がとがるのには、それなりの理由があるからです。

実際、周囲からはとがっているように見えても、当の本人は自分が信じる理想に向かって進んでいるだけです。上に意見できない風潮を変えるために、自ら率先して意見しているだけであり、単に反抗しているわけではないのです。

これは、服装でも同じです。真面目といわれる職業でさえネクタイを外す時代。Bさんは、自由な雰囲気を醸し出すための手っ取り早い方法として、カジュアルな服装を選択しているだけで、自分の趣味を押し通すためではありません。

また、とがっている人は一生懸命に仕事をしますし、勉強もします。上に意見を言い、時には理想を掲げるわけですから、日々努力をして実力をつけないと、「口だけの存在」として無視されてしまうからです。この結果、とがっている人の多くは会社の上層部の理解を得ます。上層部から見て、「言うだけのことはある。何かやってくれそうだ!」と期待するに足る存在に見えるからです。

3 とがる人の義務

繰り返しになりますが、とがっている本人の意識と周囲の見方には大きなギャップがあります。組織に対してある程度の影響力を持つようになったら、そのギャップを解消していかないと、Aさんのように誤解する人が出てきます。

自分が周囲とは違う言動をとる理由を理解してもらう努力は、組織でとがる人の義務だといえます。そして、この行動はまさに中堅社員がこれから学ぶべきリーダーシップの本質であるともいえるでしょう。目指すべき理想が明確であれば、それを正しく理解して賛同してくれる人が出てきます。そうした人たちは、これから中堅社員が組織を率いていく際のかけがえのない仲間になることでしょう。

以上(2021年8月)

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画像:Damir Khabirov-shutterstock

【朝礼】相手を思いやる努力を惜しむな

今日は、皆さんに「思いやり」について考えてもらうために、1つの質問をしたいと思います。

ハンカチが必要なときに、会社の同僚が消毒済みのハンカチを貸してくれたとします。あなたはどのようにハンカチを返すべきでしょうか? ちなみに、ハンカチはそれほど高価には見えないものとします。私が4つ選択肢を出すので、自分ならこうすると思う方法を選んでください。

  • ハンカチを使った後、そのまま返す
  • 急いで別のハンカチを買って渡す
  • 後日、借りたハンカチを洗濯して返す
  • 後日、もっと上質なハンカチを買って渡す

どうでしょうか。私は、考えれば考えるほど難しいと感じる質問をしたつもりです。なぜなら、ハンカチを貸してくれた人の状況や性格、あなたとの関係性などによって、正解が変わるからです。

よほど気心の知れた、付き合いの長い同僚であれば、1番でもよいでしょう。ですが、そこまでの関係性のある同僚は少ないかもしれません。

もし、貸してくれた人が、その日にハンカチが使えずに困ることを気遣うのであれば、2番を選ぶのが妥当でしょう。

ものを大切にする人や、「借りたものは返すべき」という思いの強い人、あるいは貸したハンカチそのものに思い入れがある人に対しては、借りたハンカチ自体を返すことが重要ですから、3番が正解ということになります。

これはまれなケースかもしれませんが、もし、ハンカチを貸してくれた人がかなりの潔癖性で、「ハンカチを返してもらっても使えない」と考えるような人だったら、4番が無難にも思えます。

3番と4番の両方をすればいいと思った人もいるでしょう。ですが、「ハンカチ1枚のために色々してもらうのは、逆に申し訳ない」と感じる人もいるかもしれません。「だったら貸した本人に聞けばいい」のでしょうか。貸した人が遠慮がちなタイプなら、「『返して』とも言いにくいから、『あげるよ』と答えよう」と考えてしまいかねません。

というわけで、この質問に絶対的な正解はありません。私が知りたかったのは、この質問の答えを、自信をもって簡単に出したのか、悩んだ末に「強いて挙げれば」で出したのか、なのです。

皆さんに戒めてほしいのは、相手の気持ちを思いやることなく、“独り善がり”や“何となく”で方法を決めてしまわないことです。どうすれば相手が喜ぶかを、きちんと考えてほしいのです。

それをビジネスに当てはめるなら、自社のサービスやその提供方法は、お客さまにとって本当に最適なのか、常に考えることです。お客さまのことを思いやり続けることは、相手との関係性を深め、新しいサービスを生むことにつながります。結果的に選択を誤ったとしても、「実はこのように考えまして」と説明すれば、こちらの誠意は受け取ってもらえます。相手を思いやる努力は、決して無駄になりません。

以上(2021年8月)

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画像:Mariko Mitsuda

【朝礼】「現場感」は思いやりから生まれる

ビジネスは「現場感」を持って進めなければなりません。現場感に対する解釈は人それぞれですが、私の考えはこうです。「現場感とは、携わる人の喜びや悩みを踏まえて、仕事の意義や仕組みを理解する感覚」。

現場感のない思考は机上の空論にすぎず、そのような発言をすれば、「この人はビジネスが分かってない」と厳しい評価を受けます。先日、当社にマーケティング施策を提案してきたコンサルタントも現場感がありませんでした。そのコンサルタントの提案は、大企業並みの豊富なリソースがなければ着手できない施策ばかりだったのです。また、実務はマーケティング担当者に任せて、経営者は社長室にどっしりと構えていればよいと言っていました。このコンサルタントは、中小企業にはマーケティング担当者がいないケースが多いことや、中小企業の経営者は“社長業”だけではなく、それこそマーケティングからちょっとした事務まで、組織運営に関することは何でもやるという実態が分かっていなかったのです。

何事も経験しなければ分かりません。そうした意味では、中小企業の“社長業”を経験していなければ、中小企業の経営者の本音が分かるはずはありません。しかし、このレベルで終わっているうちは現場感が身に付きません。大切なのは、自分は中小企業のことが分かっていないということを認識し、“無知の知”の状態になって、現場感を持つための努力をすることなのです。

皆さん、改めて考えてみてください。皆さんには現場感がありますか?

この質問に答えるためには、「皆さんの『現場』」を定義する必要があります。こう言うと、ほとんどの人は自分が働いている場所が現場であると定義しますが、それだけでよいでしょうか。製造担当者であれば工場、販売担当者であれば店舗が現場であることは間違いありません。しかし、会社全体ということで考えれば、工場も店舗も現場です。つまり、製造担当者は工場だけではなく、店舗も自分の現場であると認識しなければならないのです。さらに付け加えれば、お客様が当社の製品を使って活動する場所も、私たちにとっての現場であるわけです。これが分からなければ、先のコンサルタントのように、現場感のない的外れな提案をすることになってしまいます。

現場感を持つためには、相手に聞くしかありません。相手が社内の人であっても、社外の人であっても同じです。相手の今抱えている課題を聞き出し、思いを共有するのです。

ただし、特に社外の人から現場の話を聞き出すことは簡単ではありません。そこで常日ごろから、相手を思いやる気持ちを示し、「この人に話せば、何か力になってくれるかもしれない」と信頼してもらわなければならないのです。こうした努力をした人だけが、現場感のあるビジネスをすることができます。現場感は相手を思いやることで身に付くものです。忘れないでください。

以上(2021年8月)

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画像:Mariko Mitsuda