【事業承継】本気の事業承継で大切な後継者育成の考え方

書いてあること

  • 主な読者:自らの子供に事業承継をしたい経営者
  • 課題:自身の子息・子女に何を教育すべきか迷っている。そもそも、経営者の器なのかも見極めたい
  • 解決策:自身の子息・子女といってひいきせずに、長い時間をかけて見極める

1 経営者が押さえておくべきこと

自身の高齢化が進み、事業承継が差し迫った課題になっている経営者は少なくないはずです。事業承継では、自社株式の承継など「資産の承継」と、後継者育成など「経営の承継」が車の両輪となりますが、より重要なのは経営の承継といえます。従来に比べて減ってきてはいますが、中小企業では依然として経営者の子息・子女を後継者とするケースが多いです。

「後継者育成には時間がかかるものだ」と漠然と考えるのではなく、期間や内容を明確に決めなければなりません。この記事では、自身の子息・子女を後継者とすることを想定し、後継者に求められる資質などを紹介しています。

2 子息・子女でも例外ではない後継者に必要な3つの資質

1)マインド

後継者には、いかなる困難に直面しても必ず乗り越えてみせるという強いマインドが必要です。経営者の責任や果たすべき役割は、その質や重要性という点で他の従業員とは一線を画します。経営者の意思決定は、企業の業績や存続は言うまでもなく、従業員や取引先などとの関係にも多大な影響を及ぼすからです。

また、経営者として過ごす日々は決して順風満帆ではなく、困難の連続です。重責に耐えながら困難に立ち向かい、企業を維持・発展させていくためには、強いハートが求められます。これは、経営者としての前提条件といえます。

2)実務能力

経営者に常に求められるのは成果です。どれほど素晴らしい目標を掲げ、熱意を持って取り組んでも、収益の向上、新規事業の立ち上げなど具体的な成果を残していかなければ、経営者としては失格です。

また、後継者は周囲の信頼を獲得しなければ経営者として活動することができません。従業員や取引先をはじめとした利害関係者から認めてもらうためには、「この人が経営のかじ取りを行うのであれば企業の行く末は安心」と評価してもらえる成果が必要です。

3)知識

後継者には、経営戦略・マーケティング・財務など経営に関する広範な知識が求められます。中小企業の経営者は、実務を通じて習得した独自のノウハウや経営感覚を重視して経営しています。そのためか、経営に関する知識を机上の空論としてそれほど重視しない傾向があるようです。

しかし、経済環境が変化する中で、従来の考え方や手法だけでは通用しなくなってきていることを経営者が最も痛感しているはずです。この点を素直に受け止め、積極的に学ぶ姿勢がなくてはなりません。

3 後継者育成における経営者の役割

1)企業の根幹を成す「企業の理想・価値観」を伝える

経営者には、「どのような企業にしたいか」という理想や、大切にしたい価値観があります。こうした理想・価値観は、経営上の意思決定において最も基本的かつ重要な指針であり、短期的に見直すものではありません。

企業の理想・価値観は、経営理念のように明文化されているものばかりではなく、暗黙のうちに組織内で共有されているものもあります。こうした企業の理想・価値観を、後継者にしっかりと伝えることも経営者の大切な役割です。

2)「アドバイス」「サポート」を通じて後継者を側面から支援する

後継者が経営者として成長していく過程で経験する不安や悩みは数え切れません。「今回の意思決定やプロジェクトの進め方は正しかったのか」という業務上の問題はもちろん、「自分は経営者としてふさわしいのか」という根本的な点でも悩みます。

経営者は「経営者」という立場としてはもちろん、後継者の性格や心情を理解できる「肉親」という立場からも、後継者の相談に乗ってあげましょう。ただし、適度な距離感は保ちます。後継者を常に見守りつつも、基本的にはアドバイスやサポートは後継者から相談を受けたときのみ行うといった姿勢がちょうどいいかもしれません。

3)企業を支える「人的ネットワークの承継」を行う

経営を進める上では、従業員・取引先・金融機関をはじめとした社内外の利害関係者との良好な関係が欠かせません。とはいえ、経営者が長年にわたって培ってきた信頼関係は、後継者という立場だけで自動的に引き継がれるわけではありません。それなりの時間をかけ、自分の力で利害関係者と信頼関係を構築しなければなりません。

経営者は、後継者と利害関係者とのコミュニケーションを深める場をセッティングするようにしましょう。例えば、社内については、経営者が頼りにしている幹部と一緒に仕事をさせます。また、社外については、金融機関や他社の経営者などとの会談・会合に後継者を同席させるとよいでしょう。

4 本当に後継者としてふさわしいのか?

経営者が後継者育成で悩むのは、

後継者は、経営者としてふさわしい人材なのか?

という根本的な問題です。

できるなら、自分の子息・子女に継がせたいと考えるのは、経営者の当たり前の心情です。しかし、経営者という役割は誰にでもこなせるものではありません。自分の子息・子女が経営者としてふさわしい人材か否かということを、経営者は客観的に考えなければなりません。

近年は、M&Aやビジネスマッチングの一環で親族外承継をサポートするサービスもあります。経営者は企業の行く末を考え、私情に流されることなく、冷静な選択をすることが求められます。

以上(2021年9月)

op10008
画像:Mariko Mitsuda

中小企業も出来る! 改正地球温暖化対策推進法とCO2削減のヒント

書いてあること

  • 主な読者:企業として温暖化対策を本格化させたい経営者
  • 課題:中小企業の取り組み、改正地球温暖化対策推進法の概要を知りたい
  • 解決策:他社の取り組みを参考にし、「できること」から始めてみる

1 大手取引先からCO2削減要請! 目標達成で有利な融資も

IPCC(気候変動に関する政府間パネル)が、2021年8月9日に公表した「第6次評価報告書(AR6第1作業部会の報告『気候変動-自然科学的根拠』)」によると、

2021〜2040年のうちに、産業革命前から気温が1.5度上昇する可能性が高いというシナリオ

などが示されています。その影響で、海面の上昇や熱波の発生などの切実な問題が起こるとされています。このIPCCの報告によらずとも、地球温暖化は切実な問題であり、世界規模で意識が高まっています。経営者仲間との会話でも、地球温暖化の話題が出るケースが増えているのではないでしょうか。

日本でも二酸化炭素(以下「CO2」)などの温室効果ガスの排出量を2030年度に2013年度比46%に削減する方針が示されました。「ウチは中小企業だから、まだ関係ないよ」と思った皆さん、それでは済まされなくなってきています。CO2の削減問題は、次のような形で皆さんの足元まで要請が迫っているのです。

  • 2021年6月に改正地球温暖化対策推進法が公布され、自治体や企業の取り組みを開示したり、事業所ごとの温室効果ガスの削減量を公開したりする方針
  • 「脱炭素経営」に取り組む大手企業の中には、サプライチェーンを構成する取引先などにも、CO2の削減を要請する動きが出てきている
  • 各地の金融機関も、中小企業などの脱炭素経営の支援や、削減目標を達成することで、金利が下がる融資「サステナビリティ・リンク・ローン」の取り扱いを開始するケースが増えてきている
  • 各地の自治体では、CO2削減や、環境問題に積極的に取り組む企業を表彰・認証する取り組みが始まった

ところが、中小企業の経営者に行ったアンケートによると、

約70%がCO2削減を経営課題として認識しているものの、実際に取り組んでいるのは12%にとどまる

という結果になっています。

CO2の削減に取り組むことで、コスト削減や、企業のイメージ向上による顧客の開拓・維持も期待できます。また、ここ1~2年で、新卒者の採用活動の場面で、環境問題に対してどんな取り組みをしているのか質問する学生が急増していると話す企業もあります。

この記事では、温室効果ガス削減に取り組む中小企業の事例や、取り組む中で直面した課題について紹介します。また、前述のアンケート結果、改正された地球温暖化対策推進法のポイントも記載しています。これらを参考に、自社の「脱炭素経営プラン」を検討してみましょう。

2 CO2削減取り組み事例

今回紹介する取り組み事例の中には、CO2の削減に加え、電気料金のコストダウンにつながったり、温室効果ガス削減の取り組みを顧客獲得のきっかけとして成長させたりしている企業もあります。

1)初期費用ほぼゼロで工場の屋根に太陽光発電:カイハラ産業(広島県)

デニム生産で高いシェアを誇るカイハラ産業は、オリックス(東京都)と共同で、国内最大級の太陽光発電システムの第三者所有モデル(「PPAモデル」)(注1)を開始しました。

この太陽光発電システムは、同社の三和工場の屋根に設置され、稼働を開始しています。これにより、同工場の電力によって排出されるCO2を約12%削減し、電力料金を従来比約25%削減できるとしています。

PPAモデルの場合、初期費用となる太陽光発電システムの設置費用や保守管理費用は第三者が負担してくれます。一方、太陽光発電システム自体は設置した第三者のものであるため、中途解約の難しい長期契約となり、設置場所などの条件も厳しくなります。

2)燃料転換と熱回収でCO2削減:河田フェザー(三重県)

羽毛専業メーカーの河田フェザーは、羽毛を洗浄する際に用いる温水のボイラー燃料を変更したり、製造時に発生するくずを焼却する際に発生する熱を温水用に回収したりすることで、CO2を削減しています。

水鳥から取れた羽毛は、製造時に大量の温水で洗浄し、高温で乾燥させることでふんわりとした触感になります。同社は、大量の水を温めるボイラーを、重油を使うものから、重油に比べ発熱量当たりのCO2排出量が少ないLPガスを使うものに交換しました。

ボイラーの切り替えにより、同社では、2015年から2019年の間で従来比190トンのCO2を削減できました。さらに、ボイラー使用時に発生する熱を回収し、温水用に再利用することで、年間310トンのCO2の削減も行っています。

3)取引先からの要請に事前に準備:協発工業(愛知県)

自動車部品メーカーの協発工業は、大手自動車メーカーなどの主要な顧客から、CO2削減の要請が強まることを見越し、科学的根拠に基づいた削減目標を設定し、国内の自動車産業の関連企業で初となる「SBTイニシアチブ」(注2)の認証を受けました。

同社より一足先に認証された、太陽光発電システムの施工などを行うジェネックス(愛知県)とともに取り組み、工場で使用する電力に再生可能エネルギーを利用することで、2030年のCO2排出量を、2018年比の50%に削減する計画です。

大手企業からの「上から目線」の要請に対し、下請け企業1社だけで対応するのは難しいかもしれません。同社のように、専門分野のパートナーと協業することも中小企業には効果的です。

4)30年以上も前からカーボンニュートラルを実現:艶金(岐阜県)

衣類などの染色事業を営む艶金(つやきん)は、高温で水や化学薬品を大量に使用する業態の責任として、早くから環境を意識した経営を行っています。同社は、1987年にバイオマスボイラーを導入しました。このボイラーでは、燃料として地元の建設廃材である木材のチップを用い、カーボンニュートラル(注3)を実現しました。

同社が自社のCO2の排出量を測定したところ、バイオマスボイラーを導入しなかった場合に比べて、約75%削減する効果があったと推計しています。

同社は、こうした取り組みを他社に先駆けて行うことで、新たな顧客獲得のきっかけや、コストや納期以外で企業としての強みになると考えています。

政府は2020年10月に、2050年のカーボンニュートラルを実現することを宣言しており、同社の取り組みは今後の脱炭素経営を考える中で参考となりそうです。

5)さまざまな取り組みでゼロカーボンを目指す:丸信(福岡県)

印刷加工などを行う丸信は、使用する電力の全てを再生可能エネルギーに転換するための枠組み「再エネ100宣言 RE Action」(注4)に参加しました。

同社は、自社の印刷工場で印刷を乾燥させるランプをLEDに切り替えを行っています。全てのランプを切り替えることで、消費電力が従来に比べて約30~50%削減できるそうです。一般ごみの再利用にも注力しており、これまでは廃棄していた一般ごみを固形燃料として再利用しています。固形燃料化することで、CO2を約33%削減できると見込んでいます。

また、同社は排出権取引にも取り組んでいます。2021年4月には、J-クレジット制度(注5)を活用し、久留米市の特別地方公共団体となっている財産区が所有する森林のCO2排出権「かっぱの森J-クレジット」を100トン分購入しました。今回は、購入量が公表されていることもあり、自社のCO2を相殺しながら環境への取り組みをアピールできるメリットもあります。

これまで見てきたように、一部の企業は将来を見据えて「できること」からCO2の削減に取り組んでいます。また、環境省では、中小企業が、CO2削減などの脱炭素経営を促進するための資料「中小規模事業者のための脱炭素経営ハンドブック」を公開しています。

この資料には、脱炭素経営のメリットや進め方の他に、中小企業の取り組み事例も紹介されています。

■環境省「中小規模事業者のための脱炭素経営ハンドブック」■
http://www.env.go.jp/earth/SMEs_handbook.pdf
  • (注1)第三者が電力需要家の土地や屋根などを借り、パネルなどの太陽光発電システムを設置し、そこで発電される電力を貸し手である電力需要家が購入する仕組み
  • (注2)パリ協定が求める水準の「世界の気温上昇を産業革命以前に比べて2℃を十分に下回る水準に抑え、1.5℃に抑えることを目指す」ことと整合した、5~15年先を目標年として、企業が設定する科学的根拠に基づいた目標
  • (注3)森林の成長過程でCO2を吸収し、燃焼時にそれを排出するため、実質的なCO2の増減はゼロとする考え
  • (注4)消費電力が比較的小規模の企業、自治体、教育機関、医療機関などの団体が、使用電力を100%再生可能エネルギーに転換する意思と行動を示し、再エネ100%利用を促進する枠組み
  • (注5)省エネルギー機器の導入や森林経営などの取り組みによる、CO2などの温室効果ガスの排出削減量や吸収量を「クレジット」として国が認証する制度

3 脱炭素経営企業の声 「できること」から始めてみる

脱炭素経営を進める上で、どのような課題があるのでしょうか。多額の初期投資や、効果がすぐに表れない場合もあります。また、社内に脱炭素の意識が浸透しておらず、一致団結していないこともあります。脱炭素経営を進めている企業からは次のような話が聞けました。

●取り組みを始めたきっかけ

  • 設備に使用していた燃料が、原油価格の乱高下を受けてコスト管理に苦労していたため、調達リスクが低く、急激な価格変動が少ない再生可能エネルギーや、廃材などの調達にかじを切った。
  • SDGsの取り組みの一環として始めた活動(企業内保育所の設置、環境保全に関する国際認証の取得)を公表したところ、取引先から環境を意識した製品の引き合いが急増した。これを受け、地球環境保護を意識した活動をさらに進めるため、温室効果ガスの削減などの取り組みを加速させている。

●直面した課題

  • 化石燃料を用いる設備に比べ、再生可能エネルギーの利用を想定した設備は、現時点で初期費用は割高な印象がある。また、廃材などをエネルギーとして使う場合は、液体や気体である化石燃料に比べて、燃えカスの掃除などの定期的なメンテナンスが負担になる。
  • 従来よりも消費電力の少ない設備を導入したものの、既存の設備に比べて仕上げ加工に時間がかかるため、仕上げ工程のみ既存の設備を利用するなどの試行錯誤が続いている。

●脱炭素経営を継続させるコツ

  • 環境に影響を与える事業を行っている場合や、取引先からの要請を受けた場合などは、いや応なしにやらざるを得ないが、急激な方針転換は社内にも影響を与えることになる。スムーズに脱炭素経営を始め、継続させるには、まずは社内の整理整頓・掃除などの「みんなでできること」から取り組み、環境保護に対する意識を徐々に浸透させていくことが望ましいと考える。
  • 自社の取り組みを外部へ発信することが重要と考えており、まずは外部との接触が多い営業担当者の教育を優先している。営業担当者が仕入れてきた環境問題に関するトピックを社内の全体会議で共有しており、製造現場への情報共有、取り組みとその効果の浸透を図っている。

4 他社のリーダーの動向 経営者アンケート結果

1)経営者アンケート結果:取り組みを行っているのは12%

画像1

冒頭で触れた通り、回答者の過半数以上がCO2の削減に関して無関心、または具体的な行動を取っていないようです。一方、「実際に取り組んでいる」層や、「経営課題として認識している」層は合わせて71%いるともいえます。次に、どのようなことが取り組みの妨げになっているのか質問しています。

2)経営者アンケート結果:取り組みの障害は「自社へのメリットが不透明」

画像2

CO2排出量の削減に取り組む際の障害として、「自社へのメリットが不透明」「コスト面」「業務への負荷」が大きな割合を占めています。「どんなメリットがあるか見えないものに、お金や手間をかけたくない」との心理が見えます。

特に、これまで社内でCO2排出量の削減などが課題として挙げられず、環境問題との接点が少ない業種や業態の場合は、取り組むイメージが湧きづらいかもしれません。

3)経営者アンケート結果:約半数が「利益が減るなら協力できない」

画像3

CO2排出量の削減を進める際に、利益が減少する事態になった場合、どの程度なら許容できるか聞いた結果が図表3です。

回答者の19%が利益の減少を許容できるとしていますが、49%が利益を下げてまでCO2排出量の削減には応じないとの考えです。また、30%の回答者が「わからない」と答えています。この背景には、CO2排出量の削減に対する認識不足や、まだ判断材料が不足していることなども推測されます。

4)経営者アンケート結果:CO2排出量の削減で「妥当な利益」は10%以上

画像4

最後の質問は、CO2排出量の削減で生まれる利益について聞きました。

回答者の30%が、妥当と考える利益を10%以上としています。また、回答者の14%が、妥当な利益として、現状の30%以上と回答しています。30%以上の利益をもたらすとなると、ハードルはかなり高くなると感じますが、「従来のCO2排出量の削減」や「電気料金の大幅ダウン」の切り口であれば、今回紹介した事例の企業のように、再生可能エネルギーの導入などで実現できる可能性もあります。

5 改正地球温暖化対策推進法のポイント

最後に、冒頭でも触れた、改正地球温暖化対策推進法についても簡単に紹介します。改正の背景として、2020年以降の気候変動問題の国際的な枠組みであるパリ協定、2050年のカーボンニュートラル宣言(2050年までに脱炭素社会を実現し、温室効果ガスの排出を実質ゼロにすることを目標とするもの)を基本理念に、法律として位置付けたものです。

今回の改正をまとめると、次のようになります。

画像5

企業として注目しておきたいのが、2つ目と3つ目のポイントです。

2つ目の「地域の再エネを活用した脱炭素化を促進する事業を推進するための計画・認証制度の創設」は、地方公共団体や関係省庁の定めに沿う、再生可能エネルギーを利用した地域の脱炭素化を進める事業(「地域脱炭素化促進事業」)の手続きが簡素化され、これまで以上に迅速に事業を行うことが期待できます。

3つ目の「脱炭素経営の促進に向けた企業の排出量情報のデジタル化・オープンデータ化の推進など」は、一定量の温室効果ガスを排出している企業に課せられている報告(「温室効果ガス排出量 算定・報告・公表制度」)をデジタル化・オープンデータ化し、報告者とデータ利用者の利便性を向上させます。企業の排出量が公表されることで、脱炭素経営の見える化やESG投資を促進させる効果も期待されています。

これまで見てきたように、CO2の削減などの地球環境保護に対する意識が高まり、企業の取り組み、その支援は着々と整備されています。設備投資の初期費用や人材の育成など、乗り越える壁は幾つもありますが、他社を参考に、「できること」から検討してみましょう。

以上(2021年9月)

pj80109
画像:unsplash

従業員の皆さんへ 粉飾決算・資産流用など、社内不正を見つけた場合の対処法

書いてあること

  • 主な読者:社内不正を疑っている従業員、あるいは社内不正を発見した従業員
  • 課題:誰に相談したらよいのか分からない。裏切り行為のようで気が引ける面もある
  • 解決策:まずは自分でできる範囲で調査し、証拠を集める。次に、自分に及ぶリスクを理解し、通報先を選択する

1 社内不正を見つけてしまったら……

粉飾決算、資産流用、利益相反取引、品質偽装、情報漏洩、ハラスメント……。残念ながら企業内の不祥事は後を絶ちません。皆さんの会社ではどうですか? もしかすると「あれ、これって不正かも?」と感じることがあるかもしれません。

しかし、確証が得られないうちに話を表に出すことははばかられますし、内部不正を暴くことは、お世話になった会社や同僚への「裏切り行為」のように感じられるかもしれません。実際、こうした事態に直面した人たちの中には、自分で問題を抱え込み、たった一人で思い悩んでしまうこともあります。

ただ、

忘れてならないのは、不正は不正である

ということであり、皆さんはしかるべき対応をしなければなりません。この記事では、

社内不正を発見した場合に、具体的に何をすればよいのか

について弁護士が解説します。また、この記事は従業員向けですが、経営者は社内不正を防ぎ、万一の場合はすぐに正しい対応を取りたいと考えているはずです。ですから、この記事を、従業員の皆さんも読んでいただくことをお勧めいたします。

2 初動対応を間違えると自分が不利益を被ることも

社内不正を発見した皆さんは、不正に対する怒りから「今すぐに監督官庁などに通報してやろう!」と思うかもしれません。しかし、ここは慎重になってください。なぜなら、

従業員は、会社に対して誠実に業務を行う義務や秘密を保持しなければならない義務

を負っています。むやみに通報するとこの義務に違反してしまい、会社から解雇、降格、配置転換などの処分を受けるかもしれません。場合によっては会社の信用を低下させたとして、損害賠償請求を受けたりすることだってあり得ます。

一方で、

公益通報者保護法(以下「法律」)では、一定の要件を満たした場合に限り、内部告発を理由に従業員に対する不利益な扱いをすることを禁止

しています。保護の対象となるのは、法律に違反する犯罪行為や最終的に刑罰につながる行為に限られます。さらに、

  • 社内への通報(内部通報)
  • 行政機関への通報(行政通報)
  • その他外部への通報

といった順で保護要件が厳しくなります。

保護されるための要件の1つは、

社内不正について「信ずるに足りる相当な理由(客観的に不正が行われていると認められる証拠などがそろっていること)」

です。これを真実相当性というのですが、この要件を満たすためにも、

まずは、事実関係の調査と証拠の収集

をしなければいけません。

証拠の収集方法は不正のタイプによってさまざまですが、

  • 電子ファイル、メール、スクーリンショットなどでPCにデータ保存する方法
  • 画面や書類などをスマホで撮影する方法
  • 不正行為をしている当事者の会話を録音する方法

などがあります。ただし、ドラマに出てくるような自分の閲覧権限を超えたデータにアクセスするなどの行為は絶対にしてはいけません。悪いことを追及するのだからルールを破っても許されるだろうと考えるかもしれませんが、その行為も同様に不正なのです。

とはいえ、自分の権限が及ぶ範囲内の事実調査、証拠収集には限界があります。立ちゆかなくなったら、「内部通報」と「外部への通報」のいずれかを検討しましょう。

3 通報することを決めたときに取るべき方法

1)内部通報

優先的に考えるべきは内部通報でしょう。最も身近な相手は直属の上司です。上司が取り仕切る部署内での社内不正であれば、適切で素早い解決が期待できます。問題は、その上司が不正に関与しているケースがあるということです。また、当事者でなくても、上司が自分の部署の不正が明るみになることを恐れて隠蔽するケースもあるでしょう。

このような場合、まず自社に内部通報制度が整備されているか確認してください。整備されていれば、内部通報窓口として、社内の人事部や法務部、外部の法律事務所などが設置されていますので、そこに相談をします。

内部通報制度が整備されていない場合は、人事や総務部門の担当役員、責任者への通報が考えられます。会社の規模によっては直接代表者に通報してもよいでしょう。ここでは、

誰であれば自分を守ってくれるか

という観点から、通報先を選択しなければなりません。

皆さんが注意しなければならないのは、

通報者の特定により不利益を被るリスクがある

ことです。内部通報を受けた会社は、通報された不正行為が事実なのかについて内部調査をしますが、その過程で誰が通報したかが推測されます。小さな会社ならすぐに分かるでしょう。その結果、あってはならないことですが、内部通報者が「裏切り者」として、不利益を被ることが想定されます。

これを防ぐためには、通報は匿名で行い、内部調査の際は、通報者を推測できるような情報を調査対象者に明らかにしないように依頼することが考えられます。ただし、こうして情報を絞ると、内部調査が進みにくくなることも事実であり、この点に対する一定の留意は必要です。

2)外部への通報

内部通報によって会社から不利益な扱いを受ける恐れがあったり、社内不正が組織的に行われていて、自浄作用が期待できなかったりする場合は、行政(中央省庁など)への通報や、その他外部(マスコミなど)への通報を検討することになります。

注意すべきなのは、

自分一人の判断で外部への通報を決断しないこと

です。なぜなら、前述した通り、外部への通報で法律の保護対象となるのは、その社内不正を「信ずるに足りる相当な理由(客観的に不正が行われていると認められる証拠などがそろっていること)」がある場合に限られるからです。また、通報先がマスコミなどの場合、より厳しい要件を満たさなければ保護の対象となりません。

法律上の保護対象となるか否かの基準はケース・バイ・ケースなので、事前に弁護士などの専門家に相談するようにしましょう。弁護士会によっては、内部告発の相談窓口を設けているところもあり、これを利用することも考えられます。

以上(2021年8月)
(執筆 日比谷タックス&ロー弁護士法人 弁護士 浜地保晴)

pj60234
画像:beeboys-Adobe Stock

こびない上司が部下に伝えたいこと

書いてあること

  • 主な読者:次世代のリーダーとして、過去にとらわれずに組織を率いる中堅リーダー
  • 課題:本人の意図とは別に、周囲に悪影響を与えてしまうことがある
  • 解決策:自分の志を周囲に示し、賛同する仲間を募る

1 とがった人は格好いい?

中堅社員のAさんは、他部署の上司であるBさんに憧れています。たまにしか会うことがなく、一緒に仕事をしたこともないBさんに憧れを抱くのには幾つかの理由があります。Aさんは、上の者にも臆せず“かみつく”Bさんを格好いいと思っています。また、他の上司とは明らかに雰囲気の違い、服装もオシャレだと感じています。そうしたBさんのとがった姿に、Aさんは旧態依然とした組織への反抗のシンボルを重ねているのです。

あるとき、AさんはBさんに言いました。「Bさんは本当に頼りになりますね。上の人にも平然と“かみつく”のですから。格好いいです。それに引き換え、今の自分の上司は“腰巾着”みたいで情けないです」。するとBさんは、次のように返しました。

「Aさんには私が“かみついている”ように見えるのか。だったら私を反面教師にしたほうがいい。私は目指すべき理想を実現するために、上とディスカッションをしているだけだ!」

2 本人と周囲とのギャップ

組織では、Bさんのような存在に対する評価が大きく分かれます。ある評価は「上との衝突もいとわない『勇気ある変革者』」、別の評価は「これまでの秩序を乱す『礼儀知らずの無法者』」といったものです。大切なのは、表面的な言動だけで判断しないことです。大人がとがるのには、それなりの理由があるからです。

実際、周囲からはとがっているように見えても、当の本人は自分が信じる理想に向かって進んでいるだけです。上に意見できない風潮を変えるために、自ら率先して意見しているだけであり、単に反抗しているわけではないのです。

これは、服装でも同じです。真面目といわれる職業でさえネクタイを外す時代。Bさんは、自由な雰囲気を醸し出すための手っ取り早い方法として、カジュアルな服装を選択しているだけで、自分の趣味を押し通すためではありません。

また、とがっている人は一生懸命に仕事をしますし、勉強もします。上に意見を言い、時には理想を掲げるわけですから、日々努力をして実力をつけないと、「口だけの存在」として無視されてしまうからです。この結果、とがっている人の多くは会社の上層部の理解を得ます。上層部から見て、「言うだけのことはある。何かやってくれそうだ!」と期待するに足る存在に見えるからです。

3 とがる人の義務

繰り返しになりますが、とがっている本人の意識と周囲の見方には大きなギャップがあります。組織に対してある程度の影響力を持つようになったら、そのギャップを解消していかないと、Aさんのように誤解する人が出てきます。

自分が周囲とは違う言動をとる理由を理解してもらう努力は、組織でとがる人の義務だといえます。そして、この行動はまさに中堅社員がこれから学ぶべきリーダーシップの本質であるともいえるでしょう。目指すべき理想が明確であれば、それを正しく理解して賛同してくれる人が出てきます。そうした人たちは、これから中堅社員が組織を率いていく際のかけがえのない仲間になることでしょう。

以上(2021年8月)

op20314
画像:Damir Khabirov-shutterstock

【朝礼】相手を思いやる努力を惜しむな

今日は、皆さんに「思いやり」について考えてもらうために、1つの質問をしたいと思います。

ハンカチが必要なときに、会社の同僚が消毒済みのハンカチを貸してくれたとします。あなたはどのようにハンカチを返すべきでしょうか? ちなみに、ハンカチはそれほど高価には見えないものとします。私が4つ選択肢を出すので、自分ならこうすると思う方法を選んでください。

  • ハンカチを使った後、そのまま返す
  • 急いで別のハンカチを買って渡す
  • 後日、借りたハンカチを洗濯して返す
  • 後日、もっと上質なハンカチを買って渡す

どうでしょうか。私は、考えれば考えるほど難しいと感じる質問をしたつもりです。なぜなら、ハンカチを貸してくれた人の状況や性格、あなたとの関係性などによって、正解が変わるからです。

よほど気心の知れた、付き合いの長い同僚であれば、1番でもよいでしょう。ですが、そこまでの関係性のある同僚は少ないかもしれません。

もし、貸してくれた人が、その日にハンカチが使えずに困ることを気遣うのであれば、2番を選ぶのが妥当でしょう。

ものを大切にする人や、「借りたものは返すべき」という思いの強い人、あるいは貸したハンカチそのものに思い入れがある人に対しては、借りたハンカチ自体を返すことが重要ですから、3番が正解ということになります。

これはまれなケースかもしれませんが、もし、ハンカチを貸してくれた人がかなりの潔癖性で、「ハンカチを返してもらっても使えない」と考えるような人だったら、4番が無難にも思えます。

3番と4番の両方をすればいいと思った人もいるでしょう。ですが、「ハンカチ1枚のために色々してもらうのは、逆に申し訳ない」と感じる人もいるかもしれません。「だったら貸した本人に聞けばいい」のでしょうか。貸した人が遠慮がちなタイプなら、「『返して』とも言いにくいから、『あげるよ』と答えよう」と考えてしまいかねません。

というわけで、この質問に絶対的な正解はありません。私が知りたかったのは、この質問の答えを、自信をもって簡単に出したのか、悩んだ末に「強いて挙げれば」で出したのか、なのです。

皆さんに戒めてほしいのは、相手の気持ちを思いやることなく、“独り善がり”や“何となく”で方法を決めてしまわないことです。どうすれば相手が喜ぶかを、きちんと考えてほしいのです。

それをビジネスに当てはめるなら、自社のサービスやその提供方法は、お客さまにとって本当に最適なのか、常に考えることです。お客さまのことを思いやり続けることは、相手との関係性を深め、新しいサービスを生むことにつながります。結果的に選択を誤ったとしても、「実はこのように考えまして」と説明すれば、こちらの誠意は受け取ってもらえます。相手を思いやる努力は、決して無駄になりません。

以上(2021年8月)

pj17065
画像:Mariko Mitsuda

【朝礼】「現場感」は思いやりから生まれる

ビジネスは「現場感」を持って進めなければなりません。現場感に対する解釈は人それぞれですが、私の考えはこうです。「現場感とは、携わる人の喜びや悩みを踏まえて、仕事の意義や仕組みを理解する感覚」。

現場感のない思考は机上の空論にすぎず、そのような発言をすれば、「この人はビジネスが分かってない」と厳しい評価を受けます。先日、当社にマーケティング施策を提案してきたコンサルタントも現場感がありませんでした。そのコンサルタントの提案は、大企業並みの豊富なリソースがなければ着手できない施策ばかりだったのです。また、実務はマーケティング担当者に任せて、経営者は社長室にどっしりと構えていればよいと言っていました。このコンサルタントは、中小企業にはマーケティング担当者がいないケースが多いことや、中小企業の経営者は“社長業”だけではなく、それこそマーケティングからちょっとした事務まで、組織運営に関することは何でもやるという実態が分かっていなかったのです。

何事も経験しなければ分かりません。そうした意味では、中小企業の“社長業”を経験していなければ、中小企業の経営者の本音が分かるはずはありません。しかし、このレベルで終わっているうちは現場感が身に付きません。大切なのは、自分は中小企業のことが分かっていないということを認識し、“無知の知”の状態になって、現場感を持つための努力をすることなのです。

皆さん、改めて考えてみてください。皆さんには現場感がありますか?

この質問に答えるためには、「皆さんの『現場』」を定義する必要があります。こう言うと、ほとんどの人は自分が働いている場所が現場であると定義しますが、それだけでよいでしょうか。製造担当者であれば工場、販売担当者であれば店舗が現場であることは間違いありません。しかし、会社全体ということで考えれば、工場も店舗も現場です。つまり、製造担当者は工場だけではなく、店舗も自分の現場であると認識しなければならないのです。さらに付け加えれば、お客様が当社の製品を使って活動する場所も、私たちにとっての現場であるわけです。これが分からなければ、先のコンサルタントのように、現場感のない的外れな提案をすることになってしまいます。

現場感を持つためには、相手に聞くしかありません。相手が社内の人であっても、社外の人であっても同じです。相手の今抱えている課題を聞き出し、思いを共有するのです。

ただし、特に社外の人から現場の話を聞き出すことは簡単ではありません。そこで常日ごろから、相手を思いやる気持ちを示し、「この人に話せば、何か力になってくれるかもしれない」と信頼してもらわなければならないのです。こうした努力をした人だけが、現場感のあるビジネスをすることができます。現場感は相手を思いやることで身に付くものです。忘れないでください。

以上(2021年8月)

op16918
画像:Mariko Mitsuda

5つの問題点を回避し、プロジェクトを成功させる組織づくりの秘訣

書いてあること

  • 主な読者:プロジェクトの推進体制づくりに悩む経営者、プロジェクトマネジャー
  • 課題:成果を上げるプロジェクトチームの編成、運営、推進方法が知りたい
  • 解決策:まずはどのようなプロジェクトマネジャーが必要でどこまで権限委譲するか決める

1 プロジェクト推進体制の5つの問題点

プロジェクトは新しい製品やサービスを生み出したり、既存の業務推進体制を改善したりするための取り組みで、その成功は企業の成長に大きく寄与します。仮に成功に至らなくても、ノウハウを蓄積することで次に活かすことができます。

中小企業ではそもそもの人材が限られていることに加えて、通常業務との兼ね合いもあり、プロジェクトに割り当てることができる人材の選択肢は広くありません。実際、中小企業におけるプロジェクトチームの編成では、次のような問題が起こりがちです。

  • 場当たり的な即席チームが編成される
  • プロジェクトの成果が各チームによって大きく異なる傾向がある
  • プロジェクトマネジャーに必要な資質が総合的に評価されていない
  • プロジェクトマネジャーへの権限委譲が明確でない
  • 各プロジェクトを横断的にまとめるプロデューサーがいない

こうした問題を回避し、プロジェクト推進力を高めるにはどうしたらよいのでしょうか。以降では、プロジェクトを推進するための組織づくりや、プロジェクトマネジャーに求められる資質などを解説していきます。

2 プロジェクト推進力の強い組織をつくる

1)プロジェクト推進体制の統一を図る

権限委譲した範囲であれば、プロジェクトの進め方は、プロジェクトマネジャーの裁量に任せるのが基本です。とはいえ、複数のプロジェクトが進行している場合、皆が状況を把握できるよう、スケジュール表などのフォーマットは統一するのがよいでしょう。

ビジネス情報を公開するためのウェブサイト構築プロジェクトのスケジュール表の一例は次の通りです。

画像1

エクセルで作成する場合、グループウエアやタスク管理ツールなどを利用するのもよいでしょう。ただし、こうしたフォーマットはクライアントと共有することもあるため、ウェブ上のツールを利用する際は、セキュリティー面での配慮が不可欠です。

2)プロジェクトの評価とナレッジの共有が高業績チームを育成する

プロジェクトの評価は、プロジェクトの進行途中はそのプロセスを、終了後は具体的な成果に着目して行います。

プロセス評価は、経営者がプロジェクトマネジャーの報告を受けながら行います。例えば、ウェブサイト構築プロジェクトであれば、システム仕様やデザイン変更など要件が頻繁に変更されがちなので、それに応じた軌道修正を強いられることもあります。こうした局面で、プロジェクトマネジャーおよびメンバーがどのように考え、どのような方向に軌道修正したのかを評価します。

また、プロジェクトの成果については、次の点などを総合的に評価します。

  • 成果:最終的に、プロジェクトは成功したか(目的を達成したか)?
  • 期間:予定した期日にプロジェクトは完了したか?
  • 予算:計画した予算の範囲内でプロジェクトは完了したか?
  • 人員:当初のチームを変更することなくプロジェクトは完了したか?
  • 効果:当初のコンセプト通り、顧客に新しい価値を提供できたか?

プロジェクトの成功率を高めるには、プロジェクトを成功させた経験のあるチームのナレッジを全社的に共有することが重要です。ナレッジ共有の場を提供し、プロジェクトに成功したコアチームにプレゼンテーションをしてもらうのもよいでしょう。

プレゼンテーションする際には、プロジェクトで利用したスケジュール表などの資料を配布し、予算の動き、時間管理状況などを報告します。また、プロジェクトの進行途上で発生した問題については、初めに「どのような問題があったのか」だけを紹介し、その対策は他の参加者に考えてもらってもよいでしょう。

そして、実際の行動と他の参加者の回答とでは何が違うのかを比較するなどして、プロジェクトの難所を乗り越えるためのノウハウを共有します。

プロジェクトを成功に導くためのキーパーソンはプロジェクトマネジャーです。中小企業では、業務の処理スピードが速い、営業成績が優れているなど、部分的に高い能力が評価されて経営者の目に留まる人材が少なくありませんが、プロジェクトマネジャーに求められる資質はさまざまで、これらをバランスよく備えた人材であるのが理想です。次章で、プロジェクトマネジャーに求められる10の資質を確認してみましょう。

3 プロジェクトマネジャーに求められる10の資質

1)理解力

経営者の考えや企業の置かれている状況、プロジェクトの目的を理解し、プロジェクトを正しい方向に進める力が求められます。

2)調整力

利害の一致しないこともある社内外の意見を調整し、プロジェクトを当初の方針通りに進める力が求められます。特に中小企業の場合、業務委託など外部のネットワークも活用してプロジェクトを進めることが多いので、こうした社外の人と調整する力も非常に重要です。

3)推進力

強力なリーダーシップがあり、プロジェクトの終点までチームを導く力が求められます。プロジェクトの進捗には、大なり小なりトラブルがつきものです。トラブルが起きても、プロジェクトを進めていく心の強さも必要です。

4)遂行力

迅速かつ正確に業務を遂行し、プロジェクトをスケジュール通りに進める力が求められます。

5)先見力

プロジェクトの始点から終点までを見渡し、事前に課題を想定する力が求められます。

6)対話力

メンバーと対話して良好な関係を築き上げることができ、結束力の強いチームをつくり上げる力が求められます。

7)決断力

冷静で的確な決断力があり、プロジェクトの方向転換や中止を経営者に進言する力が求められます。

8)想像力

最良のシナリオと最悪のシナリオを想像し、最良の成果を上げることができるだけでなく、最悪の結果を避ける力も求められます。

9)管理力

メンバー、設備、費用を管理し、バランスよく使いこなし、チームを切り盛りする力が求められます。

10)精神力

強い精神力があり、課題に直面したときに、強いハートで立ち向かっていく力が求められます。

11)プロジェクトマネジャーを育成する

以上で紹介した10の資質を全て備えた人材は、なかなか存在しないため、経営者はその育成を進めなければいけません。候補となる人材を経営者に同行させる機会を増やし、商談の流れや交渉術などを学ばせることが大切です。

4 権限委譲の範囲を明確にする

プロジェクトマネジャーには、プロジェクト推進に関する一定の権限が委譲されます。経営者が細かな点までを管理せずに済む体制が整えば、それがベストです。また、権限委譲はプロジェクトマネジャーのモチベーションを高める上でも効果的です。ただし、権限委譲の範囲について、経営者とプロジェクトマネジャーに認識の相違があってはいけません。権限委譲の確認表の一例は次の通りです。

画像2

5 横断プロデューサーを配置する

メンバーが固定化されたプロジェクトチームの結束力は強くなります。これはプロジェクトチームにとってプラスである半面、いわゆる「グループシンク」に陥りやすい傾向でもあります。そうした傾向を是正するのはプロジェクトマネジャーの役割ですが、当の本人も担当プロジェクトに愛着があり、客観的な評価ができないことがあります。

こうした状況を解決するために、複数のプロジェクトを第三者的な立場で冷静に見守る横断プロデューサーを配置します。横断プロデューサーは、プロジェクトに主体的に参画して他のメンバーと一緒に議論したり、行動したりするのではなく、プロジェクトの方向性、プロジェクトマネジャーの考えや癖などを客観的に観察する役割です。横断プロデューサーがプロジェクトが暴走しそうな気配を感じたら、必ず経営者に報告するようにすれば、致命的な失敗を回避できる可能性が高まります。横断プロデューサーは、経営者の参謀的な役どころであり、過去に幾つものプロジェクトに携わってきた、ベテラン社員に任せるのがよいでしょう。

6 ボトムアップ型プロジェクトを形にする

プロジェクトのキーパーソンは優秀なプロジェクトマネジャーであり、まずはその選抜、育成に力を注ぐことが必要です。その後、横断プロデューサーの育成などを少しずつ進めていけばよいでしょう。こうして、プロジェクト推進体制が整った後、中小企業が取り組むとよいのは、従業員の自主的な立案による「ボトムアップ型プロジェクト」の募集です。ボトムアップ型プロジェクトとは、いわば従業員のアイデアから始まったプロジェクトであり、従業員が日ごろの業務遂行の中で感じている生の声を企画にしたものです。それらの中には、経営者が考えもしなかった視点で自社製品の改善を提案するものなど、経営のヒントになるものがあるかもしれません。

ボトムアップ型プロジェクトを多く募るためには、小規模なもので構わないので、実際にボトムアップ型プロジェクトを始動してみることです。立案者である従業員から見たボトムアップ型プロジェクトは、「自ら企画した提案を具現化する大きなチャンス」であり、高いモチベーションでプロジェクトに臨みます。こうした実例は従業員に“夢”を与えるため、ボトムアップ型プロジェクトが集まりやすい企業風土が生まれてきます。

中小企業のプロジェクト推進力の向上とは、単にプロジェクトチームの力量だけで実現できるものではありません。経営者が立案する「トップダウン型プロジェクト」の成功はもちろんのこと、「従業員が自ら考え、立案し、実際に行動して成功させるといった、積極的、自発的な組織であること」も重要なポイントといえるのです。

以上(2021年8月)

pj80021
画像:photo-ac

利害の衝突を問題解決へ生かす/ローマ史から学ぶガバナンス(1)

書いてあること

  • 主な読者:現在・将来の自社のビジネスガバナンスを考えるためのヒントがほしい経営者
  • 課題:変化が激しい時代であり、既存のガバナンス論を学ぶだけでは、不十分
  • 解決策:古代ローマ史を時系列で追い、その長い歴史との対話を通じて、現代に生かせるヒントを学ぶ

1 人は歴史に学ぶ

歴史は、人間社会が経てきた変遷であり、私たちに多くのことを教えてくれます。時の権力者の意向や著述者の思想といった影響もあり、歴史は、必ずしも真実の記録とは言えませんが、その1つ1つの出来事を見つめることで、私たちが現実に抱えている課題に対するヒントが見えてきます。

「歴史は現在と過去の対話である」と言われますが、この対話を通じて、先人たちと自分たちを重ね合わせ、自分たちの判断や行動に対する助言を得ることができるのです。本シリーズでは、古代ローマ史を時系列で追い、その長い歴史との対話を通じて、ビジネスガバナンスについての示唆を得ていきます。

2 社会集団の形成:5つの段階

国家と企業の違いは多くあるものの、多数人から構成される社会集団として捉えると、類似した点も多く見いだせます。部門やチームも同様です。通常、社会集団が形成される場合には、形成期・激動期・規範形成期・実現期・終了期といった5つの段階があると言われています。この中で、特に重要なのは、激動期です。激動期をどのように経て、規範形成期に入っていくか、というのが、後々の形に大きな影響を与えるからです。

すなわち、激動期は、社会集団を構成するメンバーの間でコンフリクト(衝突、対立)が生じ、一見すると良くない兆候のように見えますが、このコンフリクトを通じ解決に向けて行動することによって、お互いの考えが理解され、社会集団内の共通規範のイメージが形成されます。もちろん、コンフリクトを放置しているだけでは崩壊に向かいますが、解決に向けた議論や行動が先々の礎となって、共通規範が形成され、豊かな成果が上げられるようになるのです。

3 古代ローマにおける激動期とコンフリクト

古代ローマ史とは、一般的に、紀元前753年の建国から西暦476年の西ローマ帝国の滅亡までの約1200年を指します。この長きにわたった社会集団の変遷もまた、先述の5つの段階を経ていきましたが、やはり激動期におけるコンフリクトとその解消に向けた取り組みが、後々の礎になったように思います。それでは、簡単に、古代ローマ史の第1幕を見ていきましょう。

ローマの歴史は、ロムルスとレムスという双子の兄弟から始まります。2人は、新たな都市をつくるべく近隣の人々をまとめていきましたが、2人の間に不和が生じ、レムスは殺されてしまいます。そして、紀元前753年、ロムルスが王となり、ローマが建国されました。ここから7代、約240年にわたって王政が続きましたが、市民たちが決起して王を追放し、紀元前509年、共和政へ移行しました。

共和政の下、ローマは周辺部族との戦いを続けながら、徐々に力をつけ、市民の数も増えていきましたが、貴族層と平民層の対立が深刻な問題になっていきます。富と権力を持つ貴族層に対し、数で勝る平民層がストライキを起こし、貴族層がほんの少し譲歩する。そういったことが繰り返されました。まさに、激動期におけるコンフリクトでした。

4 国家存亡の危機からコンフリクトの解消へ

しかし、一時的ではありますが、このコンフリクトは落ち着きます。それは、国家存亡の危機というべき出来事が発生し、国内でコンフリクトを起こしている場合ではなくなったからです。古代も現代も、共通の敵を持つと、社会集団の結束が高まるということでしょう。このときは、北方からのケルト族の襲来でした。この紀元前390年のケルト族の襲来は、ローマにとって屈辱的で、甚大な被害をもたらしました。ローマは、ケルト族の侵入を阻むことができず、彼らの残虐な蛮行を7カ月間も許すことになります。

更に屈辱的だったのは、300キロの金塊を条件に、ケルト族に撤退を受け入れてもらったことでした。しかし、このケルト族の襲来は、この後長く続くローマの発展と繁栄の契機になったのではないでしょうか。国家も企業も、あるいは個人も、壊滅的な打撃を受けた後、大きな変革が進むことがあります。

ケルト族の襲来後、破壊されたローマの再建が進められました。屈辱、不安、恐怖などはまだ拭えずとも、20年が経ち、ようやく襲来前の状態に近づいていくと、貴族層と平民層との間のコンフリクトが再燃しました。

一方で、このコンフリクトこそが国家の脆弱性をまねき、ケルト族の襲来の本質的な原因であると認識していたのでしょう。ローマの人々は、この問題を先送りせず、解決に向けて歩みを進めました。紀元前367年、ローマの人々は「リキニウス・セクスティウス法」と呼ばれる画期的な法律を成立させます。この法律は、貴族層が占めていた国家の要職についての規程を改め、平民層の不満を解消するものでした。その後、更に法律が整えられ、貴族層と平民層との間のコンフリクトは治まっていくのです。

5 コンフリクト・マネジメント:ローマのアプローチ

一般に、ビジネスにおけるコンフリクト・マネジメントは、「競争」「和解」「回避」「妥協」「協力」という5つの対処法があると言われています。「競争」は、相手を打ち負かすことでコンフリクトを解消することで、かなり一方的な対処法と言えるでしょう。「和解」「回避」「妥協」は、対立する両者、あるいはいずれかに火種を残すこともありますが、平和的にコンフリクトを鎮静化する対処法と言えます。「協力」は、双方の利得が大きくなる方策を見つけて実行することでコンフリクトを解消することですが、現実の対立場面を考えると少々理想論にも思えます。

いずれにせよ、この5つの対処法を知らずとも、経営者が日々目にするコンフリクトを思い浮かべれば、想像できる対処法でしょう。

「リキニウス・セクスティウス法」は、5つの対処法のどれにも当てはまらないようにも、すべてに当てはまるようにも見えるものでした。そもそも平民層は、貴族層が占めている国家の要職を、平民層と貴族層で配分することを求めていました。

例えば、共和政ローマにおける最高職である2人の執政官のうち、1人を平民層からにすることを求めていたわけです。しかし、「リキニウス・セクスティウス法」は、ローマの共和政府のすべての要職を全面開放しました。つまり、人数の配分枠はなく、どの要職にも、平民層でも貴族層でも就けるるということです。完全に自由な競争で、執政官が2人とも平民層の場合もあれば、貴族層になる場合もありますし、1人ずつになる場合もあります。すべて公平で自由な競争の結果に委ねようというわけです。もし人数枠を等分していたら、国家が2つの組織構造を抱え、それらを争わせることになっただけでしょう。

更に、この数年後に成立した法律では、重要な公職に就き、その職を全うした者は、貴族層か平民層かにかかわらず、元老院議員になれる権利を与えることにしました。経験と能力さえあれば出自を問わないこととし、元老院議員という地位をも開放したわけです。

6 コンフリクト・マネジメントがつくる文化・思想

前述の通り、社会集団におけるコンフリクトは、起こらないほうがよいというわけではなく、適切な対処によっては、社会集団としての共通規範のイメージが形成され、後々の礎になり得る貴重な機会となります。

紀元前4世紀半ばにローマで実行されたコンフリクト・マネジメントは開明的だっただけでなく、その後のローマ国家における文化・思想を決定づけるものになります。貴族層、平民層という階層がなくなったわけではありませんが、いずれの立場であろうとも、更にはローマ市民でなかろうとも、機会の均等をつくっていこうという共通規範のイメージがここで明らかに示されたのです。そして、その共通規範のイメージが、この後に続くローマ史に色濃く表れていきます。

ビジネスにおいても同様でしょう。会社設立後、事業が回り始めると、社員を採用し、社員が一定数になると、コンフリクトが起こり始めます。企業間の合併や吸収などにおいてもコンフリクトが生じ、それがもとで実行が見送られるケースもありますし、合併や吸収の後も、コンフリクトが長らく続くこともあります。

こうした場面で、経営者や管理者が示すマネジメントは、企業のその後の文化・思想の礎になります。更には、その企業におけるリーダーシップ上の不文律になることもあるでしょう。コンフリクト自体を好ましい機会とできるのか、生産性のない内輪もめにしてしまうのかは、コンフリクト・マネジメントに掛かっています。経営者や管理者は、日々の対処の1つ1つがその後の事業運営に大きな影響を与えることを肝に銘じねばなりません。

7 敗北からの学び

ケルト族の襲来は、ローマにとって屈辱的な出来事でしたが、ローマが内部的に抱えていたコンフリクトと向き合う契機となったことは先に述べた通りです。もう1つ付け加えておきたいのは、ケルト族の襲来という屈辱は、内政上のコンフリクトの対処だけでなく、他国との同盟関係を見直す契機にもなり、「政治建築の傑作」とも呼ばれ、ローマの拡大を支えたローマ連合の仕組みづくりに繋がったという点です。また、このローマ連合を支える動脈網として、街道の整備が全国に展開されていきます。

「喉元過ぎれば熱さを忘れる」ということわざもありますが、ローマは、ケルト族の襲来と、その後の苦悩を忘れることなく、改革を進めていきました。こうしたことがこの後長く続くローマの発展と繁栄を築いていったのです。

ビジネスにおいても、大小さまざまな失敗や敗北が積み重ねられます。失敗や敗北の直後は、原因調査と改善策検討がなされますが、それを何年にもわたり、多方面から対応していくことは難しいでしょう。多くの場合、長くても次の年度になる頃には、取り組みが頓挫し始めるのではないでしょうか。

ケルト族の襲来は、ローマにとって忘れ去ることができないほど、甚大で屈辱的な敗北でしたが、こうした敗北からの学びが重要であり、その取り組みが後々にまで生きるということを忘れずに、失敗や敗北と向き合っていきたいものです。

以上(2021年8月)
(執筆 辻大志)

op90050
画像:unsplash

知的財産権の全体像と役割/意外と知らない「知的財産権」シリーズ2

書いてあること

  • 主な読者:知的財産権を侵害してしまうリスクと活用するメリットについて知りたい経営者
  • 課題:何をすると他社の知的財産権を侵害してしまうのか? また、どうすれば自社の知的財産が保護されるのか?
  • 解決策:それぞれの知的財産権が何を保護対象としているのか、権利取得のためにどのような手続が必要となるのか、保護期間はどれくらいあるのかを押さえておく

1 ゆるキャラはどの権利で保護する?

突然ですが、皆さんの会社で「ゆるキャラ」をつくることになりました!

Webサイトでの掲載などのPR活動、ぬいぐるみやお菓子などのグッズ展開もしようと考えています。ここで質問です。

このゆるキャラをどのような知的財産権で保護していくべきでしょうか?

著作権、意匠権などさまざまな知的財産権が思い当たるでしょうが、「これだ!」という確信はないのではないでしょうか。今回は、さまざまな知的財産権の種類と、それらが何を保護してくるかについて分かりやすく説明していきます。

2 ゆるキャラを保護する知的財産権

まずは、皆さんも気になっているはずの、「ゆるキャラを保護するための知的財産権」について簡単に触れておきましょう。結論としては、「何を保護したいのか?」によって重要となる知的財産権は変わってきます。この辺りを意識して確認してみてください。

1)著作権で保護する

キャラクターの保護として、最初に思い浮かぶのは著作権ではないでしょうか。ディズニーなどの映画に出てくるキャラクターを商業利用するときに著作権の問題をクリアにしておかなければならないことは、よくご存じだと思います。

著作権の発生には何らの手続も必要なく、権利期間も著作者の死後(法人著作物や映画の著作物は公表から)70年間と長期にわたって保護を受けることができる点でメリットがあります。

ただ、裁判所は、キャラクターそのもの、つまり小説や漫画等の具体的表現から昇華したイメージ(小説や漫画等に実際描かれたイラストとは異なる)に関しては著作物には当たらず、著作権法の保護対象ではないと判断しているという点については注意が必要です。このため、展開するグッズは知的財産権を保護できない可能性があるのです。また、ゆるキャラのネーミングも保護できません。

2)意匠権で保護する

意匠権は、権利の存在の証明が容易であることに加え、物品を特定してそのデザインを権利化し、その効力は類似範囲の物品にまで及びますから、「ぬいぐるみ」「菓子」「表示画像」などの意匠として登録することで、第三者による無断使用を広く排除することができます。

もっとも、意匠権は意匠登録が必要なためコストがかかりますし、出願前に発表したり秘密保持契約のない第三者に開示してしまったりすると登録ができなくなる上、権利期間も著作権と比べると短期に終わるというデメリットがあります。グッズなどを急いで展開したい場合などは向かないかもしれません。また、著作権と同様に、ネーミングは保護されません。

3)商標権で保護する

立体商標としての商標権による保護も考えられます。商標権は、更新によって半永久的に保護を受けられるメリットがあります。ゆるキャラのネーミングも商標権で保護する必要があります。

ただし、商品役務の区分ごとに登録をしていく必要がありますのでコスト面でのデメリットがありますし、立体商標として登録されるためには、十分な識別力がある必要があり、若干ハードルが高いといえます。

3 知的財産権の活用で重要なポイント

このように知的財産を保護する方法は一長一短があり、正解があるというわけではありません。実際の事業活動の内容との関係でその都度最適な保護方法を検討していくことが必要となるのです。

その場合、次のようなポイントを押さえた上で、知的財産権を取得するメリット・デメリットについて知っておくことが重要です。

  • 特許権や著作権など知的財産権がそもそも何を保護対象としているのか
  • 権利取得のためにどのような手続が必要となるのか
  • 保護期間はどれくらいあるのか など

そこで、次章では、知的財産法の全体像を概観し、それぞれの特徴や守備範囲などを解説していきます。

4 知的財産法の全体像と各法域の特徴

前回「知的財産権侵害のリスクと知的財産権活用のメリット/意外と知らない「知的財産権」シリーズ1」のおさらいになりますが、知的財産とは、財産的価値のあるアイデアやブランドなどの無形固定資産をいいます。これらのうち知的財産に関する法令によって保護される権利や利益のことを、一般に知的財産権と呼んでいます。

主な知的財産権の種類、保護対象、保護期間については、次のように整理することができます。

画像1

以降では、主な知的財産権の特徴を紹介します。

1)特許権

特許法の保護対象は「発明」です。新しい物の組成や構造、その物の製法、新しい測定方法などの技術に関するアイデアが発明として保護を受けられることになります。エネルギー、宇宙関連、IT、医薬品など最先端の科学技術から、日常生活における目からうろこの知恵まで、ありとあらゆる分野で、日々特許発明が生まれています。

なお、特許権は、特許庁に対して特許出願を行い、審査官による審査を経て、登録査定を得たのちに特許庁にある特許原簿へ登録されることによって、はじめて権利として成立します(登録主義)。特許権を取得するためには、必ず「出願」という手続をしなければなりません。

特許権の存続期間は、出願の日から20年間です。

画像2

2)実用新案権

実用新案法が保護するのは、物品の形状、構造または組合せに係る「考案」です。発明と考案は、創作の程度が高度かどうかによって区別されています。考案は「小発明」ともいわれ、私たちの身近なところでは、洗濯槽の糸屑を集めるネットやフローリングワイパーの回動自在なジョイント機構などのアイデアの保護に利用されています。

実用新案法においても登録主義が採用されていますので、実用新案権を得るためには、必ず出願をして実用新案登録を受ける必要があります。なお、実用新案法では、特許法と異なり、審査を受けなくても実用新案権者になれるという特徴がありますが、この点については、次回以降に改めて詳しく触れたいと思います。

実用新案権の存続期間は、出願の日から10年間です。

画像3

3)意匠権

意匠法で保護されるのは「意匠」、すなわち物品のデザインです。人工衛星のような大型のものから電子顕微鏡で見なければ分からないような極小の粒子まで幅広く保護対象とされています。

意匠法においても登録主義が採用されており、意匠権者になるためには出願して登録を受けることが必要です。また、意匠法には、秘密意匠、関連意匠、部分意匠、動的意匠など特有の制度が用意されていますので、これらについては、また回を改めて詳しく解説したいと思います。

なお、2019年の意匠法改正で保護対象が拡充され、スマートフォンなどの端末画面そのもののデザインや建造物、店舗内装のデザインまで意匠登録を受けられるようになりました。

意匠権の存続期間は、出願の日から25年間です。

画像4

4)不正競争防止法

商品や営業の表示、商品の形態、ドメインネーム、営業秘密等は、不正競争防止法によって保護されています。不正競争防止法上の保護は、特許庁への出願手続等は必要ありません。また、保護期間についても、商品形態の保護が国内初販日から3年間に限られるのを除いては、特に制限はありません。

5)著作権

著作権法の保護対象は、楽曲や小説、映画、プログラムなどの著作物です。ゲームソフトなども著作物として保護されます。著作権は、各利用行為に応じたさまざまな権利の束として構成され、複製、上映、インターネット配信など、さまざまな場面において保護を受けられることとなります。

著作権法は、特許法や商標法などの産業財産権法とは異なり、登録主義を採用していません。このため、著作行為を完成すれば、何らの手続を行うことなく、著作権が発生するという仕組みになっており、この点に大きな特徴があるといえます。

なお、著作権法においても登録制度はありますが、権利の発生要件ではなく、著作者の実名や創作年月日の推定や権利移転、担保権の設定の第三者対抗要件を目的として利用されています。

著作権の存続期間は、著作者の死後70年間、法人著作や映画の著作物については公表後70年間です。

6)育成者権

種苗法では植物新品種が保護対象とされています。農林水産省の品種登録簿に登録することにより、育成者権者として保護を受けられることとなります。

なお、日本の優良品種が海外へ流出するのを防止することを目的として、令和2年の種苗法改正で、登録品種の種苗については育成者権者の意思に反する海外持ち出しや自家増殖が禁止され、これに違反した場合は損害賠償請求や刑事罰の対象とされることとなった点には注意が必要です。

育成者権の存続期間は、登録日から25年間(果樹等の永年性植物は30年間)です。

画像5

7)商標権

商標法は、「商標」、すなわち商品やサービスのネーミング、ロゴマークなどを保護対象としています。2014年の法改正で保護対象が拡充され、名称やロゴマークなど従来の伝統的な商標に加え、動き商標、ホログラム商標、色彩商標、音商標、位置商標が新しい商標として保護を受けられるようになりました。

商標法も登録主義を採用していますから、商標権を得るためには出願・登録が必要となります。ただ、商標法は、特許法、実用新案法、意匠法などの他の産業財産権法とは異なり、登録要件として「新規性」が不要であるという点に特徴があります。このため、既に使用を開始したネーミングであっても商標登録を受けることは可能である反面、場合によっては、他人に冒認されて先に商標登録されてしまう危険もあるのです。

商標権の存続期間は、登録日から10年間です。ただし、他の産業財産権と異なり何度でも更新可能ですので、更新を続ける限り半永久的に保護を受けられる点に特徴があります。

画像6

以上(2021年8月)
(執筆 明倫国際法律事務所 弁護士 田中雅敏)

pj60301
画像:areebarbar-Adobe Stock

飲酒運転の根絶に向けて(2021/08号)【交通安全ニュース】

活用する機会の例

  • 月次や週次などの定例ミーティング時の事故防止勉強会
  • 毎日の朝礼や点呼の際の安全運転意識向上のためのスピーチ
  • マイカー通勤者、新入社員、事故発生者への安全運転指導 など

飲酒運転による交通事故は、2006年に福岡県で幼児3名が死亡する重大事故が発生するなど大きな社会問題となりました。その後、飲酒運転の厳罰化・行政処分強化などにより、飲酒運転による交通事故は年々減少しているものの、近年では下げ止まり傾向にあり、依然として飲酒運転による悲惨な交通事故は後を絶ちません。

飲酒運転は悪質・危険な犯罪です。
私たち一人ひとりが、「飲酒運転を絶対にしない、させない」という強い意志を持ち、飲酒運転を根絶しましょう。

画像1

※ 警察庁Webサイト 「飲酒運転による交通事故件数の推移」
https://www.npa.go.jp/bureau/traffic/insyu/img/insyu_03.pdf (2021.7.13閲覧)

1.飲酒運転での死亡事故事例

飲酒運転は、絶対に許されません。被害者も加害者も あまりに多くのものを失います。

画像2

2.飲酒の影響

アルコールの影響について理解を深めましょう。

①体内からアルコールが抜けるまでの時間

リスクの低い飲酒の目安として1日純アルコール20グラム(=1単位)以内と示されており、1単位のアルコールが体内で分解されるには、個人差はありますが約4時間かかります。2単位では約8時間となり、3単位では約12時間かかります。

画像3

※特定非営利活動法人ASK Webサイト「アルコールが体から抜けるまでの時間」
https://www.ask.or.jp/article/8502 (2021.7.13閲覧)

②少量の飲酒でも危険

アルコールが認知・判断・動作に与える影響は、酒に強いか弱いかに関係なく、同じ飲酒量であれば同程度という検証結果もあります。しかし、酒に強い人ほど酒による酔いの自覚症状が出にくいため、酔いの程度を低く評価する傾向があります。少量の飲酒だから酔っていないだろうと思っても、アルコールによる「脳の麻痺」は始まっています。

※警察庁Webサイト 科学警察研究所交通安全研究室「低濃度のアルコールが運転操作等に与える影響に関する調査研究」
https://www.npa.go.jp/koutsuu/kikaku/insyuunten/kakeiken-kenkyu.pdf  (2021.7.13閲覧)

3.飲酒運転を根絶しましょう

飲酒運転に対する社会的制裁は非常に大きいものです。

<飲酒運転をしないために>

  • ・翌日に運転予定がある場合は、飲酒を控えましょう。
    翌朝アルコールが残っていると「飲酒運転」になります。
  • ・飲酒習慣のあるドライバーは、自身のアルコール依存度を把握しましょう。アルコール依存症の疑いのある方は専門医に相談しましょう。

画像4

<飲酒運転をさせないために(職場での取り組み)>

  • ・日頃から過度の飲酒とならないよう、お互いに気を付けましょう。
  • ・飲酒習慣のあるドライバーに対しては、運転前のアルコール残量チェックを行いましょう。
  • ・従業員の健康管理の一環で、習慣飲酒やアルコール依存の状況を把握し、必要に応じて健康指導を行いましょう。

≪飲酒運転防止の取り組みの参考≫

日本損害保険協会のサイト「飲酒運転防止マニュアル」https://www.sonpo.or.jp/report/publish/bousai/trf_0003.html

以上(2021年8月)

sj09008
画像:amanaimages