初期投資のリスクを測るモノサシ「回収期間」/経営者のためのファイナンス講座(6)

書いてあること

  • 主な読者:将来の意思決定に役立つファイナンス思考を身に付けたい経営者
  • 課題:一度に多額の支払いが必要になる初期投資の判断は難しい
  • 解決策:ファイナンスでは「回収期間」を用いることで、どれだけ自社にとってその投資のリスクが小さいかを判断する

1 設備などの初期投資は、超・固定費

今回は、固定費の中の固定費ともいえる存在について解説したいと思います。それは、設備や新規事業などの「初期投資」です。

固定費は、売上の増減に関わらずに一定額発生する費用であり、手を打たなければ将来にわたり発生し続けるものです。これに対して初期投資は、いっときに多額のお金を支払います。払ったら最後、もう取り戻すことはできません。将来にわたって発生が続く固定費と違い、過去の支払いで、支払ったら最後変えることができないのが初期投資なのです。実は、この特徴が、固定費以上に、悪魔にも天使にもなるのです。

2 初期投資は、何が難しいのか?

初期投資を支払った後で、状況が想定と違ってしまうというケースがあります。例えば、海外からの観光客が増えているからと、ホテルを建設中にコロナ禍に見舞われた会社は、すでに建設に要した初期投資を取り戻すことはできません。また、仮にホテルはなんとか開業できたとしても、人の動きが抑制され宿泊客が激減している状況では、建設にかかった初期投資を取り戻すことは不可能です。このように、すでに支払ってしまったものというのは、当たり前の話ではありますが、どうにもできないのです。

そのため、資金に余裕がある会社は別として、一般的な中小企業にとっては、初期投資に慎重になるのは必然なことです。これは、初期投資のために銀行から融資を受けるという場合も、考え方は同じです。なぜなら、自社から実際にお金が出ていくタイミングが融資によって後ろ倒しになるものの、結局、自社で負担せざるを得ないのは同じだからです。

これまでの経験から、中小企業の経営者は肌感覚が優れており、さらに資金に対する保守的な考え方故に、あまり無理な初期投資を行うことが少ないと感じています。しかし、もし初期投資が必要になった場合には、その案件が自社にとっての負担の大きさ、つまりリスクの大きさをファイナンス的に理解しておくと判断がしやすくなります。

3 リスクは回収期間でつかむ

ファイナンスでは、初期投資のリスクの大きさを測る指標として、「回収期間」を使います。ざっくり言えば、回収期間とは、「投資後、何年たったらトントンになるのか」を示します。例えば、新工場建設投資の回収期間が2年という場合には、新工場が予定通りに操業し売上につながれば、投資で出ていった金額と同じ金額が入ってきて元が取れるのが、2年後ということです。

「回収」という言葉の意味は、かけたお金が回収できる、つまり収支がトントンになることを表します。「損益分岐点売上高」という考え方がありますが、これは、損益計算書上の収支がトントン、つまり利益がゼロになる売上高のことです。回収期間というのは、投資版の損益分岐点売上高と考えると分かりやすいかもしれません。

4 回収期間は短いほうがいい理由

では、次は判断の仕方です。回収期間が2年と4年であればどちらがいいでしょうか。答えは2年です。

回収期間においては先のことは分からないので、あまり長くないほうが安全という考え方がベースにあります。

例えば、500万円の機械を生産拡大のために新たに購入するとします。これにより追加の売上が発生し、追加分の材料費などを差し引いても、手元にお金が1年当たり200万円残る見込みとしましょう。この場合、投資額500万円÷得られる年当たり資金200万円=2.5年と計算できます。つまり、この場合の機械の回収期間は2.5年となります。

5 短い方がいいとしても、回収期間は具体的に何年がベスト?

短い方がいいのは分かったと思いますが、実際に判断に用いるときには、具体的に何年ということが知りたくなることでしょう。実は、この点については、各社の資金状況や事業の種類によって大きく異なります。そのため、個別に判断するしかないのです。

仮に、同じ飲食業でも、扱うジャンルによっては、回収期間の目安は異なるべきです。飲食店で考えてみましょう。飲食業は、出店のために6カ月分の敷金や什器設備を必要とする、初期投資が重い業種の1つです。そのため、回収期間が指標として重視される傾向があります。

例えば、タピオカドリンク屋を出店するとしましょう。数年前に流行したのはまだ記憶に新しいですが、このような新しいメニューを主に扱う場合には、その流行が数年、数十年にわたって続くかどうかは分かりません。とすると、回収期間としては、できるだけ早く、例えば、数カ月から1年程度、長くても2年以内を目指したほうが安全です。

一方、出す店がラーメン屋だった場合は、話は変わります。ラーメンは人気が安定しているジャンルといえますので、タピオカドリンクに比べれば、長い期間需要が見込めるでしょう。もちろん、回収期間は短い方がいいものの、例えば、3〜5年程度の回収期間であれば、許容できることも多いといえます。

このように、同じ飲食業でも主力のメニューが違えば、顧客や市場の状況は全く異なります。その結果、回収期間の目安にも大きく影響を与えるのです。そこで、自社が取り組む事業の性質を十分理解したうえで、目安は各社で設定するしかありません。逆に、目安がイメージできないようであれば、その事業や業種に関する情報収集が十分ではない可能性がありますので、再考した方がいいかもしれません。

6 安全であることが中小企業では特に大事

これまでの説明の通り、回収期間を用いることで、どれだけ自社にとってその投資のリスクが小さいかを判断できます。この視点をファイナンスでは「安全性」と呼び、回収期間はそれを判断する代表的な指標の1つです。回収期間以外にも、ファイナンスの世界には安全性に関する多数の指標があります。

また、安全性以外に、ファイナンスが大事にする視点として収益性がありますが、中小企業においては、基本的には「収益性」よりも「安全性」を優先して確認する方がいいでしょう。なぜなら、資金面の制約が大きいこと、さらには、多角化されていないが故に、1つの失敗が全体に大きな影響を与えるためです。

特に、初期投資は多額かつその固定性故に、固定費以上に会社の業績に与える影響は大きいのです。回収期間は簡単に計算できますので、ぜひ勘を裏付けるための材料という形でも、使ってみていただければと思います。

以上(2021年8月)
(執筆 管理会計ラボ 代表取締役 公認会計士 梅澤真由美)

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突然、社員が訴えてきたらどうする?「労働審判手続」の概要

書いてあること

  • 主な読者:これから増えるかもしれない「労働審判手続」による社員とのトラブルに備えたい経営者
  • 課題:労働審判手続は聞き慣れない。それに、審理の内容が非公開のため情報が少なく、手続のイメージがつかみにくい
  • 解決策:社員から労働審判手続の申立てがあったら早期に弁護士に相談する。第1回期日での回答が特に重要

1 会社が不利? 準備が不十分な状態で争う

解雇や賃金の支払いなどをめぐって社員とトラブルになった場合、社員が「会社と話し合ってもらちが明かない」と判断すると法的手続に打って出ることがあります。訴訟手続、総合労働相談、紛争調整委員会によるあっせんなどの他に、「労働審判手続」があります。

労働審判手続は、「原則3回以内」という短い期日で集中的に審理を行うため、主張書面や証拠書類の一括提出主義が取られています。これにより、労働紛争の迅速な解決ができますが、裏を返すと、社員は十分な準備で労働審判手続に臨んでくるのに対して、会社は態勢が整わないうちに労働審判手続に突入することになりかねません。

労働審判手続の概要は後述しますが、経営者が心得ておくべきことは、社員から労働審判手続の申立てがあったら早期に弁護士に相談することです。労働審判手続では、最初の主張書面、証拠書類によって紛争解決の大きな道筋が確定します。従って、早期に弁護士に相談し、次の内容について打ち合わせておくことが極めて重要になるのです。

  • 予想される争点の整理
  • 会社の主張の方向性の検討
  • 証拠の収集(事情をよく知る関係者の日程の確保も含む)
  • 事案の見通しと調停となった場合の解決イメージ(いくらまで金銭の支払いが可能なのかなど)

それでは、労働審判手続の特徴や対応のポイントなどを確認していきましょう。

2 労働審判手続の特徴は?

1)「労働審判委員会」が審理を行う

労働審判手続では、「労働審判委員会」という会議体が審理を行います。労働審判委員会は、裁判官である労働審判“官”1名、裁判官ではないですが、労働関係に関する専門的知識、経験を有する労働審判“員”2名で構成されています。通常、労働審判“員”は使用者側・労働者側の団体が推薦した弁護士となります(使用者側と労働者側が1名ずつ)。

審理は法廷ではなく裁判所の一室において、各出席者が室内の円テーブルを囲む形式で行われます。なお、審理の内容は非公開です。

2)原則3回以内で終了する

労働審判法により、労働審判手続は原則として3回の期日で手続を終了させなければなりません。「特別の事情がある場合」は3回を超えることも認められていますが、この特別の事情は極めて狭く解釈されており、3回を超える例はほとんど見られません。実務上、2回で終了することが多いです。

なお、このように期日の回数に制限があることから、裁判所からは、事情をよく知る担当者や、調停を成立させるか否かの決定権を持つ担当者の出席が求められます。そのため、これらの担当者にも出席してもらうようにしておきましょう。

3)主張書面や証拠書類は一括で提出する(一括提出主義)

労働審判手続では、労働紛争の迅速な解決を図るため、主張書面や証拠書類の一括提出主義が取られています。そのため、使用者側・労働者側共に、主張立証責任に関係なく、想定される争点や事前の交渉経緯などに関する主張証拠を、第1回期日の前に一括で提出しなければなりません。これ以降の提出が認められないわけではありませんが、あくまで例外的です。

4)労使間の個別的な労働紛争を扱う

労働審判手続の対象は、「労使間の個別的な労働紛争」です。次の3つが社員からの申立てが多い内容で、特に多いのは、解雇に関する紛争(地位確認)と賃金未払いに関する紛争です。

  • 解雇、配置転換、降格の効力を争う紛争
  • 賃金、退職金、解雇予告手当の支払いを求める紛争
  • セクハラ・パワハラによる損害賠償を求める紛争

ただし、セクハラ・パワハラの加害者本人に対する請求(労使間の紛争でない)や不当労働行為などの集団的な紛争(個別的な紛争でない)は、労働審判手続の対象になりません。

5)比較的争点が単純な紛争、調停による解決の可能性がある紛争の解決に適している

労働審判手続は、原則3回以内で終了し、主張書面や証拠書類の一括提出主義が取られている都合上、比較的争点が単純な紛争の解決に適しています。一般的に、能力不足解雇や単純な残業代未払いに関する紛争は申立てがされやすくなっています。

一方、内容が複雑、請求金額が大きい、膨大な証拠を要するといった紛争の解決には適していません。例えば、整理解雇、差別的取扱い、就業規則の不利益変更、労災に関する事件などは申立てがされにくいといえます。もっとも、新型コロナウイルス感染症の拡大による経営不振から、今後は整理解雇、雇止めに関する労働審判の申立てが増加することが懸念されます。

また、実務的にはほとんどが調停で解決されているため、次のように交渉の経緯などから見て調停による解決が見込める事案については、申立てがされることが多いといえます。

  • 主要な事実関係の認識に大きな相違がない
  • 想定される解決金の認識に大きな相違がない
  • 感情的な対立がない

労働組合が絡む事案でなく専ら個別的な事案である場合にも、労働審判の申立てがされやすいといえます。

3 労働審判手続の流れと終了のパターンは?

1)労働審判手続の流れ

労働審判手続は、次の流れで進行します。

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まず、申立てがなされると、第1回期日は申立てから40日以内の日程で指定されます。会社には裁判所から申立ての内容が記載された「申立書」の副本が送付されます。会社は、申立書の内容を確認の上、第1回期日の1週間前までに、反論をまとめた「答弁書」を提出します。

第1回期日までには労使双方の主張書面や証拠書類が出そろうため、労働審判委員会は第1回期日前に、それらを確認して争点を検討します。第1回期日当日は、労働審判委員会が争点に基づき、当事者や関係者に対して質問を行います。これを「審尋」といいます。

審尋を終えると、いったん当事者は退席し、労働審判委員会で評議がされ、当該事案に対する心証が形成されます。労働審判委員会は、その心証に基づいて、解決案(調停案)を示し、その後は、調停の成立に向けた手続が進むことになります。労働審判委員会からの解決案の提示は、第1回期日中に行われることが多く、第1回期日は、審尋を含めて2時間程度を要する場合が多いです。

2)労働審判手続の終了のパターン

労働審判手続の終了のパターンとしては、次の3つがあります。

  • 調停の成立
  • 労働審判
  • 労働審判を行わず終了

実務では約7割が調停の成立で終了しています。例えば、解雇事案の場合、次のような調停案が考えられます。

  • 申立人と相手方は、申立人が相手方を令和○年○月○日付で合意退職したことを相互に確認する
  • 相手方は、申立人に対して、本件解決金として○○万円の支払義務があることを認める

なお、労働審判手続は非公開であるため、調停が成立した場合は、「申立人および相手方は、本件紛争の経緯および本調停の内容を、正当な理由なく第三者に口外しないことを相互に約束する」などの守秘義務条項を加えることもあります。

3回の期日で調停が成立しない場合、労働審判委員会が労働審判を下します。審判については、基本的に調停案として示される内容と類似することとなります。例えば、解雇事案では、次のような審判が下されます。

  • 相手方は、申立人に対し、令和○年○月○日付で行った解雇の意思表示を撤回し、申立人が相手方を令和○年○月○日付で会社都合により合意退職したことを確認する
  • 相手方は、申立人に対し、本件解決金として〇〇万円の支払義務があることを認め、これを直ちに支払う

ただし、この審判は、2週間以内にどちらかが異議を申し出ると失効し、通常の訴訟手続に移行します。異議の理由は問われないため、労働審判の効力は不安定なものといえます。

また、件数としてはあまり多くはないですが、当該紛争が労働審判による解決に適していないと労働審判委員会が判断した場合、労働審判を下すことなく終了することもあります。この場合も訴訟手続に移行することとなります。

4 労働審判手続の対応ポイント

1)第1回期日が勝負

第1回期日「前」の準備だけでなく、第1回期日「当日」の対応も重要です。第1回期日では、労働審判委員会から審尋が行われますが、審尋での回答内容や回答態度は労働審判委員会の心証に大きく影響します。

次のようなケースは、労働審判委員会の心証を悪くしたり、調停成立が難しいと判断されたりする恐れがあるため、注意が必要です。弁護士とともに事前に想定問答を作成し、リハーサルを行い、会社にとって弱い点の補強や回答の練習をしておきましょう。

  • 主張・証拠書面で記載したストーリーと、回答内容が適合しない
  • 会社担当者であれば当然ながら知り得る事項について、しどろもどろな回答をする
  • 感情的な回答をする

2)訴訟手続への移行を想定しておく

最終的に訴訟手続へ移行する可能性があることを想定しておくことも重要です。必ずというわけではありませんが、通常は労働審判手続での主張や証拠が、そのまま訴訟手続でも使われます。そのため、「どうせ調停で終わるだろう」と高をくくらず、訴訟手続へ移行して判決となった場合を十分に視野に入れ、主張立証の構成を組み立てておく必要があります。

また、労働審判“官”は裁判官ですので、労働審判委員会から提示される調停案の内容や、場合によって直接的に行われることがある心証開示の内容は、訴訟手続に移行した際の裁判所の判断を予測する重要なファクターとなります。

会社としては、これらの調停案や心証開示の内容から、訴訟手続へ移行した場合のリスクと早期解決のメリットを慎重に検討しながら、調停案を承諾するか否か判断することが重要です。

以上(2021年8月)
(執筆 日比谷タックス&ロー弁護士法人 弁護士 堀田陽平)

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画像:pixabay

飛ばすためにゴルフのスイングは頻繁に見直す。では、朝令暮改も理解できますか?

書いてあること

  • 主な読者:入社3〜5年目でさらに成長したい中堅社員
  • 課題:一度、決まったことを変更するのが許せない。特に自分に関係する変更の場合
  • 解決策:本気だからこそ、日々、改善する。良い朝令暮改があることを理解する

1 前に言っていたことと違う!

レンタル会社に勤める中堅社員のAさんは、課長と今後の営業方針について話し合っています。しかし、どうも会話がかみ合いません。

Aさんは課長に詰め寄って言いました。「私の計画のどこがダメなんですか? 以前、課長は値下げをしてでも、まずは顧客数を増やすことが大切だと言っていましたよね!」。すると課長は、「確かに随分前にそう言った。しかし、今は値下げをするような局面ではない。そのことは、現場のAさんも肌で感じているでしょう。定価でも十分に顧客が取れるのに、わざわざ値下げをする必要はない!」と答えました。

それでもAさんは、「今更そんなことを言われても困ります。現場も混乱しますよ……」と食い下がります。課長は、「ふぅ~」とため息をついた後、抑えた口調で「いいかい。ビジネスの状況は常に変わっているんだ。昔の方針をいつまでも引きずらずに、今の状況を正しく捉えて行動してほしい。現場が混乱しないようにマネジメントするのも君の仕事の一環だろう!」と言いました。

Aさんは黙って聞いていましたが、内心では「でも、確かに課長は値下げをしてもいいと言ったんだ。皆に何て説明しよう……」と、納得できずにいました。

2 納得できるか否かの境目はどこにある?

企業では、一度決まった方針が頻繁に見直されます。毎年度策定される事業計画が良い例です。事業計画は中長期の経営計画を達成するために足元でやるべきことをまとめたものなので、その時々の環境に応じて内容が大きく変わることが珍しくありません。事業計画の変更について思うところがある社員もいるはずですが、“会社の方針”ということで、比較的すぐに納得します。また、中堅社員のレベルだと、事業計画と自分の仕事を十分にリンクさせて考えられないので、雲の上の出来事のようにぼんやりと捉えているところもあります。

しかし、冒頭のAさんが経験したような、身近な存在である課長の方針転換になると、そう簡単には納得したくないのかもしれません。なぜなら、「値引きをしてもよい」という方針は、以前に課長から直接聞いて納得したことなので、方針転換に従うためには自分自身の考え方も見直さなければならず、心理的な抵抗が生じるからです。さらに、そうした方針転換は自分の行動にダイレクトに影響を及ぼすことが多いものです。これまで積み重ねてきたものを見直すというのは、相当なエネルギーが求められるものであり、できれば避けたいのです。

3 朝令暮改は納得できるか?

朝に伝えられた方針が、夕方に改められる「朝令暮改」は、悪い意思決定の例としてやり玉に挙がります。社長が朝令暮改をしたとしても、そう簡単には受け入れられるものではないでしょう。多くの社員は、「すぐに覆すような方針をかかげるな」「どうせまた変わるから、しばらく様子をみよう」と考えるからです。

しかし、朝令暮改のような急なものを含め、方針転換をするには相応の理由があります。また、決めたことを覆すには勇気が必要です。中堅社員になったなら、朝令暮改を毛嫌いするのではなく、その理由を考えてみるようにしなければなりません。

4 ゴルフのスイングに朝令暮改はないか?

ここで全く視点を変え、ゴルフのスイングについて考えてみましょう。

ある朝、軽快にカッ飛ばす自分をイメージしながら練習場に行き、実際にその通りにスイングしてみたところ、まずまずの出来でした。数時間後、予約していたスクールの先生からスイングについてダメ出しを受け、「もっと遠くに真っすぐ飛ばしたければ、今のスイングを根本的に変えなければダメです」と厳しく指摘されたらどうでしょうか。

ゴルフが好きな人であれば、素直に先生の言葉を聞き入れて、スイングの改造に取り組むことでしょう。たとえ、これまで積み重ねてきたものを一から見直すことになったとしても、もっとうまくなりたいという一心で、やり直すことができるのです。

お分かりかと思いますが、

企業で行われている方針転換と、ゴルフのスイングの改造は、目的が「より良くするため」という点で共通

しています。また、ゴルフ好きの度合いを、経営に対する責任やビジネスに関する視野の広さに置き換えてみれば、社長はもちろん、管理職が頻繁に方針転換することも納得できるのではないでしょうか。方針転換は、会社をより良くするために必要だと判断されたからこそ、取り組まれるものです。

中堅社員が方針転換を受け入れられないのは、自分やその周辺だけしか見えていないからです。そのレベルのうちは、「せっかく決めたことを覆すのは大変だし、周囲にも説明できない」と考えてしまいます。しかし、視野を広げることができれば、いっときは苦労するかもしれないが、その先に新しい可能性が生まれたり、危険を回避できたりすることがイメージできるようになってきます。

5 受け入れ、動かし、自ら朝令暮改する

1)方針転換を受け入れる

中堅社員は、方針転換を受け入れる懐の深さを持ちましょう。たとえ、自分の行動にダイレクトに影響を及ぼす方針転換であったとしても、今よりも改善されるなら、過去のことは“サンクコスト”であると納得できるはずです。

ただし、全ての方針転換が正しいわけではありません。言われるがままになるのではなく、自分なりの基準を持ち、相手が上司であっても伝えるべきことは伝えなければなりません。

2)方針転換に沿って、周囲を動かす

中堅社員のうちから、方針転換の理由や内容を自分の部下などにきちんと説明し、そのように動いてもらえるように「伝え方」の訓練をしましょう。方針転換を決定事項として、一方的に伝えても周囲はついてこないので、中堅社員自身が方針転換について理解し、分かりやすい言葉に言い換えて伝えなければなりません。もちろん、不明な点は遠慮せずに上司に確認するようにしましょう。

また、中堅社員も自ら朝令暮改をする立場になり得ます。方針転換を受け入れ、周囲を動かすことは、そのときのための準備であることを忘れてはなりません。

以上(2021年8月)

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画像:tiquitaca-Adobe Stock

【朝礼】感謝に気付ける一日に

皆さん、おはようございます。けさは、とても大切なのに、なかなか気付くことができない「感謝の気持ち」についてお話しします。

早速ですが、皆さんは家族や知人から「あなたが働いている会社はどんなところですか。仕事は楽しいですか?」と聞かれたら、何と答えますか。分かりやすい例を出すと「同僚はすてきな人ばかり。仕事も楽しい!」「嫌な人ばかり。仕事も嫌い」という具合で回答するかもしれません。

私は、皆さんに「この会社は素晴らしい」と言わせるためにこの質問をしたわけではありません。そうではなく、「感謝に気付けるか否かで世界は大きく変わる」という事実に気付いてほしいのです。ぜひ、今、自分が出した答えを意識しながら、2人の旅人の逸話を聞いてください。

ある旅人が街にやって来ました。そして、街の入り口にいた老人に「この街はどんな街ですか?」と尋ねました。老人は聞き返します。「あなたが今までいた街はどんな街でしたか?」と。すると旅人は、

「ひどい街でした。嫌な人ばかりでした」

と答えます。それを聞いた老人は、「この街もあなたがいた街と同じですよ」と言いました。

またある日、別の旅人が街にやって来ました。そして、同じように街の入り口にいた老人に「この街はどんな街ですか?」と尋ねました。老人はまた聞き返します。「あなたが今までいた街はどんな街でしたか?」と。すると旅人は、

「とてもすてきな街でした。みんな良い人!」

と答えます。それを聞いた老人は、「この街もあなたがいた街と同じですよ」と言いました。

実は、2人の旅人が住んでいたのは同じ街でした。ただ、2人の感じ方が違うことで、街の印象も全く異なるものになっていたのです。どう捉えるかは自分次第であり、その結果として世界は大きく変わることが分かります。

最近、働き方の「自由」がフォーカスされています。これは素晴らしいことです。一方で、少しでも意に沿わないことがあると、「自由がなくてダメだ」と簡単に結論付けてしまうこともあるようで、とても残念です。もちろん、つらいことや改善すべきことはあります。それを我慢してほしいのではありません。ただ、少し視点を変えれば違う面が見えるのも事実です。

視力検査で使う1カ所が欠けた環を「ランドルト環」と呼ぶそうです。このランドルト環のように、欠けた部分は目立ちます。そして、なぜか私たちは欠けた部分をマイナスと捉えます。しかし、ほんの少し見方を変えてみれば、欠けた部分は感謝したいすてきなことに見えてきます。

この1カ月、皆さんは何回「ありがとう」と言われ、どれだけの感謝を周囲からもらいましたか。逆に、皆さんは何回「ありがとう」と言い、どれだけの感謝を周囲に伝えられましたか。ほんの少し視点を変えれば、感謝したいすてきなことに簡単に気付けるはずです。

以上(2021年8月)

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画像:Mariko Mitsuda

【朝礼】一回り大きな自分になれ

私には、アイデアに煮詰まったときや新しいことに挑戦するときなどに、意見を聞いてみたくなる友人が3人います。1人はとても幅広い知識の持ち主で、人工知能から三国志、果ては民法まで、さまざまな分野に造詣が深い人です。もう1人は会計学や統計学など数字にまつわる分野が大好きで、オセロや囲碁、将棋、麻雀などのゲームにもめっぽう強い人です。そして3人目は、人付き合いと交渉術に定評があり、数々のトップセールスの記録を持つ営業のスペシャリストです。

得意分野も違えば、年齢、取り組んでいる仕事、立場などもまるで違う3人です。しかし、3人とも、いつ話をしても前回より知識や経験が増えており、意見や考え方も変化しています。彼らと話をすると、毎回新しい発見があるのです。私がアイデアに煮詰まったときなどに相談したくなるのはそのためです。

彼らが多くの本を読み、セミナーや交流会に積極的に参加するなど勉強熱心なのは言うまでもありませんが、もう一つ、3人に共通しているのは、「新しいことを受け入れる態勢ができていること」です。仕事でもプライベートでも、常に、「今よりももっと面白いことはないか」「もっと前進できる方法はないか」ということを考え、追い求めています。そのため彼らは、新しいことや自分の知らないこと、異なる意見に対して決して否定的な見方はしません。彼らはまず、いったん受け入れ、何事も「やってみる」のです。

3人とも、「自分の知らないことや違った考えを知ることが楽しくて仕方ない」という気持ちが強いのでしょう。私はそうした彼らの姿勢を尊敬し、自分もそうありたいと思っています。

しかし、これがなかなか簡単ではありません。私には、どうしても頭が固いところがあるからです。皆さんも、これまでの知識や経験に固執してしまうことがあるのではないでしょうか。新しいことをお願いしたり、これまでと違った視点を持つよう指示を出したりすると、皆さんは「難しい」「面倒だ」と言うことがあります。それでは、いつまでたっても皆さんの世界は広がりませんし、これからの成長も期待できないでしょう。

新しいことや、これまでにない考えを受け入れられるようになるには、そうした意識をもって行動しなければなりません。勇気も必要です。

そこで、まずは「新しいことに慣れる」ことから始めてください。例えば、月に1冊、知らない分野の本を読み、学んだことを発表し合うのもよいでしょう。もちろん私も参加します。私は最近、初めてラグビーの教本を読みました。ボールを前にパスせずに、敵陣に攻める多くの戦術があることを知り、ラグビーの面白さがよく分かりました。自分の世界がまた少し、広がった気がします。

新しいことを追い求める好奇心と、自分にはない考えを受け入れる柔軟性は、皆さんを今よりも豊かにするはずです。皆さん、今日から、私と一緒に一回り大きな自分を目指しましょう。

以上(2021年8月)

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画像:Mariko Mitsuda

【規程・文例集】「セクシュアルハラスメントおよびマタニティーハラスメント防止規程」のひな型

書いてあること

  • 主な読者:最新法令に対応し、運営上で無理のない会社規程のひな型が欲しい経営者、実務担当者
  • 課題:法令改正へのキャッチアップが難しい。また、内規として運用してきたが法的に適切か判断が難しい
  • 解決策:弁護士や社会保険労務士、公認会計士などの専門家が監修したひな型を利用する

1 セクシュアルハラスメントおよびマタニティーハラスメントの概要

1)セクシュアルハラスメントとは

セクシュアルハラスメント(以下「セクハラ」)は、男女雇用機会均等法によって、その防止対策が企業に義務付けられているもので、次の2つに大別されます。

1.対価型セクハラ

職場において行われる労働者の意に反する性的な言動への対応(拒否や抵抗)により、解雇、降格、減給などの不利益を受けることです。

例)経営者から要求された性的な関係を拒否したために解雇されること

2.環境型セクハラ

職場において行われる労働者の意に反する性的な言動によって就業環境が不快になり、能力の発揮に重大な悪影響が生じることです。

例)職場に掲示されたヌードポスターのせいで業務に集中できないこと

なお、異性だけでなく同性に対するセクハラも、防止対策の対象となります。また、セクハラは被害者の性的指向や性自認を問わないため、いわゆるLGBT(性的マイノリティー)に対するセクハラについても、防止対策が必要となります。

2)マタニティーハラスメントとは

マタニティーハラスメント(以下「マタハラ」)とは、職場における妊娠等に関するハラスメントや、育児休業等に関するハラスメントのことです。前者は男女雇用機会均等法によって、後者は育児・介護休業法によって、その防止対策が企業に義務付けられています。マタハラの内容は、次の2つに大別されます。

1.制度等の利用への嫌がらせ

妊娠、出産等をした労働者が、産前産後休業や育児休業といった制度等を利用することを妨害したり、制度等の利用について不利益な取り扱い(示唆を含む)や嫌がらせをしたりすることによって、就業環境が害されることです。

例)産前産後休業や育児休業を請求しようとする女性労働者に請求の取り下げを迫ったり、解雇や雇い止めといった不利益な取り扱いをしたりする(そうした示唆を含む)

2.状態への嫌がらせ

労働者が妊娠、出産等をしたことについて、上司や同僚などの言動によって、就業環境が害されることです。

例)妊娠、出産等をした労働者に心ない言葉を浴びせるなど、繰り返しまたは継続的に嫌がらせをしたり、解雇や雇い止めといった不利益な取り扱いをしたりすること(そうした示唆を含む)

2 企業が講ずべきハラスメント防止措置の内容は?

企業には、セクハラおよびマタハラを防止するため、一定の防止措置を講ずる義務が課されています(男女雇用機会均等法第11条、第11条の2、育児・介護休業法第25条)。

企業が講ずべきハラスメント防止措置の内容は次の通りです。

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セクハラとマタハラを防止する上での基本は「セクシュアルハラスメントおよびマタニティーハラスメント防止規程」の策定と徹底です。規程には、図表の内容などを踏まえつつ、企業の就業の実態に応じた具体的な防止対策を定めます。

3 「セクシュアルハラスメントおよびマタニティーハラスメント防止規程」のひな型

以降で紹介するひな型は一般的な事項をまとめたものであり、個々の企業によって定めるべき内容が異なってきます。実際にこうした規程を作成する際は、必要に応じて専門家のアドバイスを受けることをお勧めします。

【セクシュアルハラスメントおよびマタニティーハラスメント防止規程のひな型】

第1条(目的)
本規程は、「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律」(以下「男女雇用機会均等法」)および関連法令に基づき、セクシュアルハラスメントおよびマタニティーハラスメントの防止、並びにそれらのハラスメントが発生した後の雇用管理上の対応について定めるものである。本規程は、役員および従業員(以下「従業員等」)に適用されるものとする。

第2条(セクシュアルハラスメントの定義)
1)セクシュアルハラスメントとは、職場における性的な言動に対する従業員等の対応などにより当該従業員の労働条件に関して不利益を与えること、または性的な言動により他の従業員等の就業環境を害することをいう。セクシュアルハラスメントに該当する具体的な行為は以下の通りである。なお、セクシュアルハラスメントの被害を受ける従業員等の性的指向や性自認は問わない。

  • 不必要な身体への接触。
  • 性的および身体上の事柄に関する不必要な質問・発言。
  • プライバシーの侵害。
  • 性的な内容に関する噂を社内外に流布すること。
  • 交際・性的関係の強要。
  • わいせつ図画の閲覧、配布、掲示。
  • 性的な言動への抗議または拒否などを行った当該従業員に対して、解雇、不当な人事考課、配置転換などの不利益を与える行為。
  • 性的な言動により、他の従業員等の就業意欲を低下せしめ、能力の発揮を阻害する行為。
  • その他、相手および他の従業員等に不快感を与える性的な言動。

2)「職場」とは、会社内に限らず、取引先、出張先など全ての業務遂行場所をいい、また、就業時間内に限らず、実質的に職場の延長とみなされる就業時間外の時間を含むものとする(以降、本規程において同様)。
3)第2条第1項第9号の「相手および他の従業員等」とは、直接的に性的な言動の相手となった被害者に限らず、性的な言動によって就業環境を害された全ての従業員等を含むものとする。

第3条(マタニティーハラスメントの定義)
従業員等の妊娠または出産、産前産後休業および育児休業の請求、その他の妊娠または出産の事由に関する言動により、当該従業員の就業環境が害されることをいう。

第4条(セクシュアルハラスメントおよびマタニティーハラスメントの防止)
1)全ての従業員等は、国籍、信条、性別、性的指向、性自認、職務上の地位・権限・職権、雇用形態に関係なく、職場において相手の人格や尊厳を尊重し、セクシュアルハラスメントおよびマタニティーハラスメント、あるいはそれらと疑われる行為をしてはならない。
2)管理者は、他の従業員等がセクシュアルハラスメントおよびマタニティーハラスメント(それらの疑い例を含む。以降、本規程において同様)を受けていることを知ったときは、それを黙認してはならず、速やかに第5条の「ハラスメント相談窓口」に通知しなければならない。
3)従業員等は、他の従業員等がセクシュアルハラスメントおよびマタニティーハラスメントを受けていることを知ったときは、速やかに第5条の「ハラスメント相談窓口」に通知しなければならない。

第5条(「ハラスメント相談窓口」の設置)
1)会社は「ハラスメント相談窓口」を設置する。「ハラスメント相談窓口」は、次の各号に定める業務を行うものとする。

  • セクシュアルハラスメントおよびマタニティーハラスメントに関する従業員等やその親族からの相談の受け付け。
  • 教育指導によるセクシュアルハラスメントおよびマタニティーハラスメントの未然防止。
  • セクシュアルハラスメントおよびマタニティーハラスメントの事実関係の確認など早期解決、再発防止。
  • その他、セクシュアルハラスメントおよびマタニティーハラスメントの未然防止、早期解決に資する業務。

2)「ハラスメント相談窓口」の責任者(以下「窓口責任者」)は総務部長とし、「ハラスメント相談窓口」の担当者(以下「窓口担当者」)は会社が個別に指名した従業員等とする。
3)会社は、窓口責任者および窓口担当者に別途定める「ハラスメント相談対応マニュアル」(省略)を配布する。窓口責任者および窓口担当者は当該マニュアルに基づき、セクシュアルハラスメントおよびマタニティーハラスメントの防止および対応に当たらなければならない。また、窓口責任者および窓口担当者は、会社が指定するセクシュアルハラスメントおよびマタニティーハラスメント防止教育を受講しなければならない。
4)会社は、窓口担当者の名前を人事異動などの変更の都度、従業員等に周知する。

第6条(セクシュアルハラスメントおよびマタニティーハラスメントへの対応)
1)セクシュアルハラスメントおよびマタニティーハラスメントの相談や報告があった場合、窓口担当者は、相談者からの事実確認の後、窓口責任者へ報告する。
2)窓口担当者は、相談者および行為者の名誉や人権等を不当に侵害しないよう配慮した上で、必要に応じて相談者、行為者および他の従業員等から事実関係を聴取する。
3)前項の聴取を求められた者は、正当な理由なくこれを拒むことはできない。
4)窓口担当者は、窓口責任者に事実関係を報告する。
5)セクシュアルハラスメントおよびマタニティーハラスメントの早期解決に困難な状況が生じた場合、窓口責任者は、男女雇用機会均等法に基づく紛争解決援助および調停など、中立的第三者機関を利用することができる。
6)セクシュアルハラスメントおよびマタニティーハラスメントの事実関係の確認が終了するまでの間、関係者に自宅待機を命じることがある。この期間中、会社は労働基準法第26条の「休業手当」を支払うものとする。
7)セクシュアルハラスメントおよびマタニティーハラスメントの事実が確定した場合、会社は行為者については就業規則に照らして処分を決定する。また、セクシュアルハラスメントおよびマタニティーハラスメントの被害者および行為者の配置転換など、被害者の労働条件上の不利益の回復等のために必要な措置を講じるものとする。

第7条(不利益な取り扱いの禁止)
会社はセクシュアルハラスメントおよびマタニティーハラスメントに関する相談や報告を行ったこと、または事実関係の確認に協力したことなどを理由として不利益な取り扱いを行ってはならない。

第8条(プライバシーの保護)
1)何人も、セクシュアルハラスメントおよびマタニティーハラスメントに関する相談および聴取などで知り得た情報を、みだりに第三者に漏洩してはならない。
2)窓口責任者および窓口担当者は、セクシュアルハラスメントおよびマタニティーハラスメントへの対応に当たって、被害者および行為者など関係する従業員等のプライバシーの保護に十分に留意しなければならない。

第9条(再発防止の義務)
窓口責任者は、セクシュアルハラスメントおよびマタニティーハラスメントの事案が生じたときは、周知の再徹底および研修の実施、事案発生の原因と再発防止等、適切な再発防止策を講じなければならない。

第10条(改廃)
本規程の改廃は、取締役会において行うものとする。

附則
本規程は、○年○月○日より実施する。

以上(2021年8月)
(監修 みらい総合法律事務所 弁護士 田畠宏一)

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【規程・文例集】「パワーハラスメント防止規程」のひな型

書いてあること

  • 主な読者:法改正に対応した会社規程のひな型が欲しい経営者、人事労務担当者
  • 課題:どの情報が正しいか分からない。シンプルで分かりやすい情報が欲しい
  • 解決策:弁護士や社会保険労務士など、専門家が監修したひな型を利用する

1 2022年4月1日より中小企業でもパワハラに対する防止措置が義務化

パワハラ(パワーハラスメント)は、「優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、就業環境が害されること」です。

2020年6月1日に改正労働施策総合推進法が施行され、パワハラに対する防止措置を講じる義務が企業に課されました(中小企業への適用開始は2022年4月1日)。違反すると都道府県労働局の助言、指導、勧告の対象となり、勧告に従わない場合は企業名公表もあり得ます。

パワハラに対する防止措置の内容は、次の通りです。

  • パワハラ防止の方針(パワハラがあってはならない旨など)の明確化、周知・啓発
  • パワハラ相談窓口の設置・運用(他のハラスメントの相談窓口と一体的に運用)
  • パワハラに関する相談があった場合の事実確認、行為者の処分と再発防止策の検討
  • その他の措置(プライバシーの保護、相談者などに対する不利益な取扱いの禁止など)

これらの措置を円滑に行うためには、その根拠となる規程を「パワーハラスメント防止規程」などの形で定めることが必要です。

パワーハラスメント防止規程を定め、従業員に周知することで、従業員はそれを遵守する義務を負い、違反した場合は懲戒の対象とすることもできます。

また、パワハラが生じた場合、被害者が企業に損害賠償請求をしてくることがあります。そうしたケースの多くでは、「企業の労務管理」が問題になりますが、パワーハラスメント防止規程を定め、適切に運用されているという事実は、企業が自社の実情に合わせて誠実にパワーハラスメント対策を進めていることの一つの証しとなり、損害賠償責任を免れることができます。

2 パワーハラスメント防止規程のひな型

以降で紹介するひな型は一般的な事項をまとめたものであり、個々の企業によって定めるべき内容が異なってきます。実際にこうした規程を作成する際は、必要に応じて専門家のアドバイスを受けることをお勧めします。

【パワーハラスメント防止規程のひな型】

第1条(目的)
本規程は、パワーハラスメントの防止およびそれが発生した後の雇用管理上の対応について定めるものであり、役員および従業員(以下「従業員等」)に適用されるものとする。

第2条(パワーハラスメントの定義)
1)パワーハラスメントとは、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超え、相手の就業環境を害することをいう。パワーハラスメントに該当する具体的な行為は以下の通りである。

  • 不殴打、足蹴りするなどの身体的暴力行為。
  • 相手やその親族、友人などの人格や尊厳を傷つける行為。
  • 業務遂行に関係のない要求を相手にしたり、自らの固定観念を相手に押し付けるような行為。
  • 業務遂行に関係のない事項について、執拗に相手から説明を求めること。
  • 違法行為を強要すること。
  • 相手を無視することや誹謗中傷すること、その他相手の名誉を傷つける噂を社内外に流布すること。
  • 業務遂行上の指導であっても、相手の人格や尊厳を侵害する言動を繰り返しとること。また、必要以上に叱責を繰り返すこと。
  • 業務遂行上の指導であっても、客観的に実現が不可能な内容を相手に求めて過度の精神的な苦痛を与えること。
  • 故意に情報を与えない、連絡事項を伝えない等の行為を繰り返し、職務遂行を妨害すること。
  • 解雇や降格など相手に雇用不安を与えるような言動をとること。
  • その他、相手の人格や尊厳を侵害する言動をとること。

2)前項の「職場」とは、会社内に限らず、取引先、出張先など全ての業務遂行場所をいい、また、就業時間内に限らず、実質的に職場の延長と見なされる就業時間外の時間を含むものとする。
3)第1項の「相手」とは、会社の従業員等に限らず、取引先、顧客など全ての業務遂行上の関係者を指す。

第3条(パワーハラスメントの防止)
1)全ての従業員等は、国籍、信条、性別、職務上の地位・権限・職権、雇用形態に関係なく、相手の人格や尊厳を尊重し、パワーハラスメントあるいはそれと疑われる行為をしてはならない。
2)所属長等は、従業員等がパワーハラスメント(疑い例を含む)を受けていることを知ったときは、それを黙認してはならず、速やかに「パワーハラスメント相談窓口」(第4条にて定義。以降同様)に通知しなければならない。
3)従業員等は、他の従業員等がパワーハラスメント(疑い例を含む)を受けていることを知ったときは、それを黙認してはならず、速やかに上司および「パワーハラスメント相談窓口」に通知しなければならない。

第4条(「パワーハラスメント相談窓口」の設置)
1)会社は、「パワーハラスメント相談窓口」を設置する。「パワーハラスメント相談窓口」は次の各号に定める業務を行うものとする。

  • パワーハラスメントに関する従業員等やその親族からの相談および苦情の受け付け。
  • 教育指導によるパワーハラスメントの未然防止。
  • パワーハラスメントの事実関係の確認など早期解決、再発防止。
  • その他、パワーハラスメントの未然防止、早期解決に資する業務。

2)「パワーハラスメント相談窓口」の責任者(以下「窓口責任者」)は総務部長とし、「パワーハラスメント相談窓口」の担当者(以下「窓口担当者」)は会社が個別に指名した従業員等とする。
3)会社は、窓口責任者および窓口担当者に別途定める「パワーハラスメント相談対応マニュアル」(省略)を配布する。窓口責任者および窓口担当者は当該マニュアルに基づき、パワーハラスメントの防止および対応に当たらなければならない。また、窓口責任者および窓口担当者は会社が指定するパワーハラスメント防止教育を受講しなければならない。
4)会社は、窓口責任者および窓口担当者の名前を、人事異動などの変更の都度、周知させる。

第5条(パワーハラスメントへの対応)
1)パワーハラスメント(疑い例を含む)の報告があった場合、窓口担当者は、相談者からの事実確認の後、窓口責任者へ報告する。
2)窓口担当者は、相談者の人権に配慮した上で、必要に応じて相談者、パワーハラスメントの疑いのある言動をした者(以下「行為者」)、被害者、上司並びに他の従業員等から事実関係を聴取し、関係する資料の提出を求める。
3)前項の聴取や関係する資料の提出を求められた従業員等は、正当な理由がない限り、調査に協力すべき義務を負い、事実を隠ぺいせず、真実を述べなければならない。また、聴取の対象となる事実関係や聴取を受けていることについて社内外で口外する等、会社の調査を妨害する行為をしてはならない。
4)窓口担当者は、窓口責任者に事実関係を報告する。
5)会社によるパワーハラスメント調査を適正に進めるため、又は被害拡大のおそれを避けるために必要と会社が判断する場合には、問題解決のための措置を講ずるまでの間、暫定的に行為者、被害者、上司並びに他の従業員等に対し、相談者等に対する接触の禁止、勤務場所の変更、自宅待機等の緊急措置を命じることがある。自宅待機の期間中、会社は労働基準法第26条の「休業手当」を支払うものとする。
6)パワーハラスメントの事実が確定した場合、会社は行為者については就業規則に照らして懲戒処分を決定する。また、パワーハラスメントの被害者および行為者の配置転換など、被害者の労働条件および就業環境を改善するために必要な措置を講じる。

第6条(不利益な取扱いの禁止)
会社はパワーハラスメントに関する相談や苦情を申し出たこと、または事実関係の確認に協力したこと等を理由として不利益な取扱いを行ってはならない。

第7条(プライバシーの保護)
1)何人も、パワーハラスメントに関する相談および聴取などで知り得た情報を、みだりに第三者に漏洩してはならない。
2)窓口責任者および窓口担当者は、パワーハラスメントへの対応に当たって、被害者および行為者など関係する従業員等のプライバシーの保護に十分に留意しなければならない。

第8条(再発防止の義務)
窓口責任者は、パワーハラスメント(疑い例を含む)の事案が生じたときは、改めてパワーハラスメント防止を周知徹底すると同時に、研修を実施するなど、適切な再発防止策を講じなければならない。

第9条(改廃)
本規程の改廃は、取締役会において行うものとする。

附則
本規程は、○年○月○日より実施する。

以上(2021年8月)
(監修 弁護士 田島直明)

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「べき論者」が変革を妨げる

書いてあること

  • 主な読者:入社3〜5年目でさらに成長したい中堅社員
  • 課題:率先して行動したいのだが、知らず知らずのうちに変革をストッパーになってしまう
  • 解決策:まずは自身の言動が、変革を妨げる要因になっていないか見直してみる

1 場を白けさせる発言

中堅社員のAさんは、全社をあげて業務効率を進める「業務改善委員会」のメンバーとして、会議に出席しています。この委員会は社長の肝煎りで、各部門の実務を担うエース級の人材が集まり、「会社を良くするために何をすべきか」という観点から議論をしています。

今日のテーマは、古くて新しいテーマである「5S(整理・整頓・清掃・清潔・しつけ)」です。現在、会社はリモートワークの影響などもあり5Sが徹底されておらず、多くの問題が起こっています。例えば、決算時に実地棚卸しをしたら、管理がずさんで所定の場所とは違うところから商品が出てきました。他にも、営業部では本来金庫にしまうべき顧客情報が記載された書類がデスクに放置され、行方が分からなくなってしまう事態が起きました。具体的な問題にはならず「ヒヤリ・ハット」で済んだものの、紛失していてもおかしくない状況です。

そこで、委員会では5S活動を徹底させようと、早期に取り組むべき重点項目の洗い出しと、大まかなスケジュールなどについて活発な議論をしていました。そんな中、中堅社員のAさんが、ふと

リモートワークによる混乱は分かりますが、そもそも5Sの徹底はそれとは関係なく、当然のことですよね。重点項目の洗い出しよりも、全ての部門で「5S」を徹底させるべきじゃないですかね

と発言しました。その発言で、それまで活発に議論されていた場が、一気に“白けた”空気に変わってしまいました……。

2 変革の先頭に立とう

業務の仕組みや組織の文化を変えるといった組織変革は、全ての会社にとって大切なテーマです。このとき、中堅社員は変革を先導して、成功に導いていかなければならない立場です。

にもかかわらず、次に紹介するような言動で、変革の足を引っ張ってしまう人もいます。

1)「べき論」で語る人

代表的な例が、Aさんのように実現性の低い理想論を持ち出して、「こう変えていくべきだ」と語る「べき論者」です。

べき論者となる理由は、その課題について具体的に掘り下げて考えていないためです。だからこそ、実情にそぐわない理想論しか語ることができません。しかし、本人はその事実に気が付いていません。実のある議論を壊しているのにもかかわらず、本人は「5S推進についてしっかり考え、意見している」と思い込んでいます。

だからこそ、その課題について具体的に掘り下げて考えている人にとっては、べき論者の意見は場違いでしかなく、周囲は“白けた”空気になってしまうのです。

理想を模索することは大切です。しかし、変革を先導していく立場にある中堅社員は、「夢見る現実者」でなければなりません。べき論者にならないようにするためには、その課題を現実的な話として、しっかりと考えることです。

Aさんであれば、「自分が先頭に立って5Sを浸透させるために、何をどのように進めていくか」ということを現実的にイメージすることです。手順・スケジュール・必要となる予算や人員など、5W2Hで考えてみるのです。そうすれば、自分の意見が妥当なものか、それとも単なる理想論なのかは判断できるはずです。

2)「検討します」という人

「検討します」という人も、変革を妨げることがあります。新しいことに取り組む際は、さまざまな不安があります。そのため、例えば、上司から「このように変えることはできないか」と変革に関する相談を受けても、すぐには判断できないことがあります。

そのとき、つい口にしてしまうのが、「検討します」という言葉です。

しかし、単に「検討します」というだけでは、結論が出ずに終わることがほとんどです。他意はなくても、日々の仕事に忙殺される中で検討は後回しになり、うやむやになってしまいがちです。

変革が成功するか否かは、事前に判断できるものではありません。であれば「検討します」と立ち止まるのではなく、早急に行動に移す方法を考えるようにしましょう。とにかくやってみて、もし、問題があれば改善していくというスタンスで進めるのです。

なお、本当に時間をかけて検討したい事項があるのであれば、課題と期限を明確にしなければなりません。

3)失敗の原因を他のせいにする人

「5S活動の推進」のような社員の行動を変えなければ実現できない変革は、組織に定着させるのには時間がかかります。

そのため、「取り組んではみたものの、組織に定着しない」「定着したと思ったものの、時間がたつと、元に戻ってしまった」という失敗はよくあります。このようなとき、「皆、忙しくて十分な時間がなかった」「皆が言うことを聞いてくれなかった」と、失敗の原因を他のせいにする人がいます。

もちろん、こうした点も失敗した原因の1つであることは間違いないでしょう。しかし、見落としがちなのが、中堅社員などの変革を先導する人自身の「諦め」です。

重要なことであれば、忙しくても時間を確保して続けなければいけませんし、取り組みに消極的な人がいれば、繰り返し指導しなければいけません。また、問題があれば、それを解消しながら進めることが求められます。これらを実現するために何より大切なことは、中堅社員自身が改革を率先垂範していくことです。中堅社員が根負けしてしまっては、変革は成功しません。

3 変えるためには、変わること

変革というと、「会社の仕組みや社員の行動を変えなければならない」と、自分以外に視点が向きがちです。しかし、変革は一人一人の行動から始まります。まずは自身の言動が、変革を妨げる要因になっていないか見直すことから始めましょう。

以上(2021年8月)

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画像:JackF-Adobe Stock

上司の皆さん、ピンチのときに頼れる部下を育てられていますか?

書いてあること

  • 主な読者:いざというときに自分の代行ができる「頼れる部下」を持ちたい人
  • 課題:部下に関心を持てないし、自分の分身になるような教育をしてしまう
  • 解決策:衝突をいとわずに、思いやビジョンを共有する。進むべき道が共有できたら、部下を信じて任せる

1 頼れる部下の育て方?

「本当に助かったよ。ありがとう!」。そう言って中堅社員のAさんに「肘タッチ」を求めたのは、Aさんの上司であるB部長です。あまり人を褒めないB部長ですが、今回ばかりはAさんに感謝しています。

B部長の家族が病気になり、B部長は看病のために2週間も休まなければならなかったのですが、その間、中堅社員のAさんがB部長の代行を立派に務めたのです。Aさん自身も多忙でしたが、ここが正念場と踏ん張ってB部長を助けたのでした。

そんなAさんの活躍はすぐに社内に知れ渡り、頼れる部下を持つことを羨む他の部長たちがB部長のところに話を聞きに来ました。「どうやったら、Aさんみたいな部下が育つの?」。するとB部長は、次のように返しました。

「根本的な思いを共有する努力が必要だね。『今、私たちはなぜこの仕事をしていて、将来、どこを目指すのか?』。みんなのビジョンは明確になっているか? そして、それを部下に繰り返し伝えているか?」

2 関心を持てないことは“罪”である?

上司に求められる根本的な要件は、「人(相手)に関心を持つこと」です。企業規模や業種によって異なりますが、課長クラスになれば一定数の部下がいるでしょう。しかし、人(相手)に関心を持たないまま役職が上がると、「部下の様子や業務の進捗状況をきちんと把握できない」という、いわゆる問題上司になってしまいます。顧客などに対しても同様で、相手の立場で考えて、行動することができません。

周囲に関心を持つことは上司の最低限の条件ですが、さらに求められるのは、部下と思いやビジョンを積極的に共有することです。考え方は人それぞれで、部下と衝突することもあるでしょうが、それでも問題ありません。むしろ、衝突できるくらいの関係になったほうがよいのです。

思いやビジョンが共有できれば、途中で意見の食い違うところがあっても、向かうべき先が同じなので安心して部下に任せることができますし、“箸の上げ下ろし”のような細かな話をしなくても済みます。

3 型にはめずに“共育”する

自分の分身のようになることを部下に求める上司が少なくありません。しかしこれは、「上司のやり方」に部下をはめ込んでいるだけであり、その部下は、上司の以上に育つことはないでしょう。また、考え方も似てくるので多様性もありません。

ピンチのときに頼れる部下とは、

基本は押さえながらも、自分で判断し、行動できる存在

です。事あるごとに行動パターンを詰め込んでいく上司のもとでは、こうした部下は育ちません。全ての部下がそうであるとは言えませんが、上司の目には、「この部下は他とは違う」という輝く存在がいるはずです。そうした部下とは、ディスカッションを繰り返しながら、共に学び合う“共育”の関係を築くことが大事です。こうすることで互いのことを深く理解することができ、理解しているからこそ、ピンチのときに「任せた!」と言うことができます。

「この部下は他とは違う」と気づくには、繰り返しになりますが、まず人(相手)に関心を持てなければなりません。

以上(2021年8月)

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【朝礼】お客様に感謝される秘訣

先日、営業部のAさんがお客様のハートをつかむ素晴らしい働きをしてくれたので紹介します。ぜひ、皆さんもお手本にしてください。

Aさんの上司であるB課長から私が受けた報告によると、今回の件は、次のようなAさんの進言から始まりました。

「C社に提出した報告書で引用しているデータの最新版が公表されました。トレンドが少し変わったようです。C社の担当者は、その資料を使って3日後に会議をするはずなので、すぐに更新版を送ったほうがよいと思います。このままだと、担当者は他の出席者からデータが古いことを指摘され、立場が悪くなる恐れがあります」。

この進言をB課長は受け入れ、すぐに報告書の更新と再提供をAさんに指示しました。この対応はC社の担当者から深く感謝され、信頼関係が強まったそうです。

このようないきさつを、B課長は誇らしげに私に報告してくれたわけです。

「先んずれば人を制す」と言います。Aさんが先手を打って対応してくれたからこそ、わが社はC社とより良い関係を築くことができました。逆に、Aさんの進言がなければ、C社の担当者は「データが古い!」と会議で指摘されてしまったかもしれません。その場合、担当者の怒りの矛先は当社に向かい、「データが更新されたのなら教えてほしい。お金を払っているのだから」とクレームを言ってきたでしょう。

このように、ビジネスの局面はたった1つの行動によってがらりと変わります。皆さんがビジネスを有利に進めるためには、Aさんのように、こちらのほうから先に行動を起こして、自分たちのペースをつくることも必要です。そのために、皆さんは次の2つのことを実践してください。

1つ目は、お客様や取引先に少なくとも月に一度は連絡をして、相手の状況をできるだけ把握することです。今、相手が何をしようとしているのか、どのようなことを懸案事項と認識しているのか、いつ私や上司に質問されても答えられるくらいにしておいてほしいのです。

2つ目は、声に出すことです。少しでも「おかしい」「こうしたほうがいい」と思ったら、そのことを上司や周りに必ず伝えましょう。そうすれば、その件は検討事項となり、何らかの行動を起こすことにつながります。

以上、Aさんのことを中心にお話ししましたが、最後に、B課長にもお礼を言いたいと思います。AさんがC社を含めお客様や取引先に月に一回以上の連絡をしていたのは、B課長がそうしているのを見てきたからです。また、Aさんが臆することなく進言できたのは、B課長が部下の言葉に耳を傾ける姿勢を示してきたからです。そしてB課長は、C社のことを自分ではなくAさんの手柄として私に報告してきました。簡単なようでなかなかできることではありません。管理職の方は、ぜひ、チームづくりの参考にしてください。

以上(2021年8月)

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画像:Mariko Mitsuda