変革を生み出す戦略の在り方/ローマ史から学ぶガバナンス(2)

書いてあること

  • 主な読者:現在・将来の自社のビジネスガバナンスを考えるためのヒントがほしい経営者
  • 課題:変化が激しい時代であり、既存のガバナンス論を学ぶだけでは、不十分
  • 解決策:古代ローマ史を時系列で追い、その長い歴史との対話を通じて、現代に生かせるヒントを学ぶ

1 軍事における戦略

ビジネスでは、軍事的な言葉が数多く使われます。「戦略」という言葉はその端的な例でしょう。ビジネスでは競争相手と戦うのですから、当たり前のようにも思えますが、「戦略」という言葉がビジネスの文脈で使用されるようになったのは1960年代からで、ここ50年程度の話です。今日まで発展してきた経営戦略論は、かつての戦争や軍事理論などから多くのヒントを得て構築されてきました。

その1つに19世紀前半のプロイセンの軍事学者クラウゼヴィッツが執筆した「戦争論」があります。この著書の中でクラウゼヴィッツは、戦略とは、精神的要素、物理的要素、数学的要素、地理的要素、統計的要素という5つの要素で構成されており、とりわけ精神的要素が重要だと説いています。これは決して精神論ではありません。戦争には不確実性が伴うため、戦略は憶測と仮定に基づき、指揮官の才覚、組織編成、兵器戦力等といった基礎的単位の新たな組み合わせで構築される。そのように構築された新たな戦略すらすぐに常識化してしまう。こういう状況の中では、強靭な精神を持って、常に新たな組み合わせを発見し、実行できなければならない、ということなのです。

2 近現代のイノベーション論

この考えは、近現代のイノベーション論に繋がっていきます。20世紀初め、経済学者シュンペーターは、基礎的単位を単に結合するのではなく、全く新しい組み合わせで結合し、その新結合によって創造的破壊を生み出す者こそが企業家であり、そこからイノベーションが生まれると説いています。

また、1990年代後半、大資本のリーダー企業が苦戦している状況について、リーダー企業が既存技術の延長線上の「持続的イノベーション」に留まっているのに対し、新規参入企業は全く新しい技術による「破壊的イノベーション」を起こしており、リーダー企業が追従できなくなっていると説かれました。ハーバードビジネススクールのクリステンセン教授の「イノベーションのジレンマ」です。

ここで指摘しておきたいのは、創造的破壊にせよ、破壊的イノベーションにせよ、それは早晩、戦略として常識化してしまうということです。時間の経過や環境の変化によって、先進性も革新性も失われます。いつまでも新しいものなどないのです。

もはや陳腐な例ですが、かつてソニーのウォークマンは、イノベーションの代表例でした。しかし、ご存じの通り、米Apple社がデジタル音楽配信サービスとしてビジネスモデルを変え、ウォークマンはiPodなどに代わられ、現在ではスマートフォンにウォークマンの機能が組み込まれています。破壊的イノベーションも持続的イノベーションになり、やがて次の破壊的イノベーションに駆逐されるのです。

3 無謀な冒険か、イノベーションか

紀元前2~3世紀、地中海の覇権を巡って争われたポエニ戦争に、軍事的戦略としてのイノベーションとその末路を見ることができます。

紀元前272年にイタリア半島を統一したローマは、シチリアの獲得、そして地中海への勢力拡大を目指し、北アフリカの大国カルタゴとの対決に臨みます。ローマは苦戦しながらも、新兵器を駆使し、紀元前241年、シチリアを手に入れました。これが第1次ポエニ戦争です。

そして、23年後の紀元前218年、カルタゴの名将ハンニバルによるローマへの反撃が始まります。第2次ポエニ戦争です。スペインに本拠地を置いていたハンニバルは、常識では考えられないルートでイタリアに進攻します。エブロ河を渡り、ピレネー山脈を越え、ローヌ河を渡り、アルプスを越え、という北からの進攻ルートでした。ハンニバル29歳。この若い司令官が5万の兵士、40頭の象を率いて、アルプスを越えてイタリアに攻め込むなどあり得ないことでした。しかし、ハンニバルにとっては現実的で合理的なルートでした。確かにリスクを伴う進攻でしたが、ハンニバルは、周辺民族がアルプスを越えて往来していることを知っており、その情報をもとに計画し、実行しました。決して無謀な冒険ではなかったのです。イノベーションは、無謀な冒険ではなく、冷徹な計算の上で成り立つのです。そして、若き司令官が機動力を引き出し牽引した新規参入企業のような組織だったからこそ、実行できたのです。

4 模倣されるイノベーション

イタリアに攻め込んだハンニバル率いるカルタゴ軍は、各地でローマ軍を打ち破り、第2次ポエニ戦争の最大の会戦「カンナエの戦い」を迎えます。ローマ軍8万超に対し、カルタゴ軍5万と数的には不利な状況でしたが、圧倒的な勝利を収め、ローマ軍に大きな打撃を与えました。この戦いでのカルタゴ軍の軍略は、今でも防衛大学校で取り上げられるほどで、当時としては軍事的なイノベーションだったことでしょう。具体的には、騎兵を多く備え、凸陣形にした歩兵の両脇に配置した上で、歩兵中心のローマ軍の攻撃を陣形の中央で受けながら後退し、凹陣形にしてローマ軍を引き込みます。そして、騎兵が後背に回り込み、完全包囲して殲滅(せんめつ)していったのです。

しかし、14年後の紀元前202年、カルタゴの本拠地での「ザマの戦い」では、攻守を変えて再現されることになりました。すなわち若き司令官スキピオ率いるローマ軍は、騎兵を十分に備え、ハンニバル率いるカルタゴ軍を包囲殲滅したのです。先進的、革新的であった戦略も模倣され、常識化します。いつまでも新しいものなどないのです。

5 戦略の本質とは

「カンナエの戦い」はローマ軍の大敗、「ザマの戦い」はカルタゴ軍の大敗という結果でしたが、国家レベルでの打撃には大きな差がありました。ローマ軍はカンナエで大敗したものの、周辺国が寝返らなかったため、カルタゴ軍がローマに攻め入ることができず、国家としての余力を残すことができました。一方、カルタゴは、スキピオの巧みな策略でスペイン支配を奪われた後、本拠地ザマで大敗しました。文字通り、国家的危機を招き、第3次ポエニ戦争で滅亡するのです。

これは、国家レベルにおける戦略の差と言えます。ローマは国家戦略として外交で周辺国を掌握していたため、カンナエでの大敗の影響を極小化することができ、最終的に勝利を収めることができたのです。企業においても、営業での競争や製品の比較など個別の戦いで敗れても、収益モデルやサービスモデルなどを含む経営戦略や事業戦略に先進性、革新性があり優位性を築ければ、より高いレベルでの成功を収めることができます。しかし、これもまた模倣され、常識化してしまえば駆逐されます。強靭な精神を持って、常に新たな組み合わせを発見し、実行できなければならない。これは、戦略の本質であり、企業家に課せられた使命なのです。

(2021年9月)
(執筆 辻大志)

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画像:unsplash

【与信管理】取引先の信用力を調査する

書いてあること

  • 主な読者:経営環境の変化が激しい現在、与信管理をこれまで以上に徹底したい経営者
  • 課題:与信管理として具体的に何をしたらよいのか分からない
  • 解決策:取引開始後も与信管理を継続し、必要に応じて外部機関の情報も参考にする

1 取引先との良好な関係を築くために信用力調査を行う

取引の始まった頃は、あんなにも良好な関係だったのに、時間の経過とともに、少しずつ関係が悪化してしまうことがあります。ビジネスの条件について折り合わないような場合は仕方ないですが、売掛金の回収ができないなどとなると話は別です。

「何となく大丈夫だろう」と思っていたのに、実際に取引を始めてみると、取引先の経営状況が思った以上に悪く、早々に弁済猶予を求められてしまったなどということも珍しくありません。また、新型コロナウイルス感染症の拡大によって、オンラインでしか話したことのない相手と取引することもあります。取引開始時に取引先の信用力調査を、これまで以上に十分に行っておかないと、後で痛い目を見るのは自社であることを肝に銘じて、取引先と良好な関係を築いていくために、信用力調査を怠らずに行っていきましょう。

この記事では、取引先の信用力調査としてどのようなことを行えばよいのかを説明します。

2 取引開始前に行っておきたい取引先調査について

取引を開始するに当たって、今後良好な関係で取引を行っていくために行っておきたい調査事項として、以下のようなことが挙げられるでしょう。

1)取引先の代表者と面談し、会社の経営方針・取引先などを確認する

特に中小企業においては、代表者に実権が集中し、資金繰りなどを含む会社の経営実態を正確に把握しているのは代表者だけであることも少なくありません。そのため、会社の代表者と実際に面談し、経営方針や沿革・理念などを確認しながら、自社が継続的に取引をしていく会社として適切かどうかを見極めるとよいでしょう。

また、その際に、取引先にどのような属性(業種、会社規模など)の会社が多いのかなどを確認してその信用力を調査するとともに、債権の焦げ付きの可能性や支払いサイトがどのようになっているかなどもそれとなく把握できるとより良いでしょう。

2)営業担当者間で連絡を取る方法を確認しておく

些細な違和感が大きな問題の氷山の一角であることも少なくありません。そのため、気になることをすぐに確認できるように、会社の外線や直通番号だけでなく、営業担当者の携帯電話番号やSNS、LINEのアカウントなども確認しておくとよいでしょう。なお、会社によっては、業務上のやり取りをSNSやLINEで行うことが禁止されている場合もあるため、事前に確認しておきましょう。

3)信用調査サービスやインターネット上の情報から企業情報を取得する

会社の代表者との面談や営業担当者とのやり取りを通じて、ある程度は取引先の情報を取得することはできますが、例えば、取引金額が大きく、債権が焦げ付いてしまうと自社への影響が大きいため、信用調査に万全を期したいといった場合には、信用調査サービスを利用して企業情報を取得してみるとよいでしょう。これにより、会社の代表者との面談や営業担当者とのやり取りでは分かりにくい第三者から見た会社の現況や健全度が分かることがあります。

また、インターネットで会社名や会社所在地、代表者の名前などをGoogleなどで検索したり、会社登記簿を取得することによっても、会社の代表者との面談や営業担当者とのやり取りからは知り得なかった事実が分かるかもしれません。様々調べてみて、再度気になることを会社に確認してみるとよいでしょう。

3 取引継続を検討するために確認しておきたい取引先の信用力

 

会社の経営状況は日々変わります。そして、その変化は、小さな変化の積み重ねによって、やがて大きな変化になるということも少なくありません。

そのため、日ごろの取引先の担当者とのやり取りなどを通じて、取引先にどのような変化が起きているかなどを感じ取って、取引継続に支障が生じていないかを確認する必要があります。参考までに、以下のような事情があるかどうかは取引先の変化を察知する一つのきっかけになると思いますので、参考にしてください。

  • 日ごろ、担当者とは円滑に連絡が取れているか
  • 担当者が突然変わったり、定期的に退職者が出ていたりすることはないか
  • 取引先を訪問した際に、会社の雰囲気が変わっていないか
  • 納品や支払いが理由なく遅れることがないか
  • 取引先の事業計画、経営方針が大きく変わったりしていないか

4 取引先の信用力は定期的に調査しなければ意味がない

上述の通り、会社の経営状況は、社会情勢などにより日々大きく変わり得るものですので、取引先の信用力も、現在と6カ月前、6カ月後で大きく変わっている可能性があります。

そのため、取引開始時にきちんと調査をしたから当面大丈夫だろうと思っていても、例えば、大口の取引先の債権が焦げ付いて、一気に財務状況が悪化することもあります。こういったことをいち早くキャッチして、今後も取引先への支援という意味合いも込めて、取引を継続するのか、それとも取引を抑えたり、停止したりするのかを検討する必要があるでしょう。

このように、取引先の信用力の調査は一度行うだけでは意味がなく、取引を継続している間は定期的に行う必要があります。売り上げや取引が増加しても、その代金をきちんと支払ってもらわなければ、意味がありませんので、取引先の信用力を開始前から継続的に調査をしながら取引を行うことを心掛けるようにしましょう。

以上(2021年9月)
(執筆 竹村総合法律事務所 弁護士 松下翔)

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画像:Mariko Mitsuda

早期帰宅や避難の判断材料となる防災気象情報とは?/中小企業のためのBCP

1 適切な行動を取るために把握すべき災害情報

洪水、高潮、崖崩れ、地すべりなど、気象や防災に関して収集すべき情報はさまざまあります。「注意報」や「警報」などの警戒レベルに応じて、取るべき行動も異なります。経営者は、こうした情報や警戒レベルを正しく理解し、早期帰宅や避難、自宅待機などの指示を迅速かつ的確に出さなければなりません。

オフィスや工場、営業拠点などが、被災しやすい地域にあるのかを事前に把握しておくことも欠かせません。オフィスの近くに河川や海がある場合は洪水や高潮が起きやすいのか、オフィスが山間部にある場合は崖崩れや地すべりが起きやすいのかなどを把握します。被害が起きそうな地域を地図で可視化した「ハザードマップ」を使い、想定される被害状況を踏まえておくのが望ましいでしょう。

2 防災気象情報と警戒レベルとの対応

「避難情報に関するガイドライン」(内閣府(防災担当))では、「自らの命は自らが守る」意識を持ち、自らの判断で避難行動をとるとの方針が示され、この方針に沿って自治体や気象庁等から発表される防災情報を用いて、取るべき行動を直感的に理解しやすくなるよう、5段階の警戒レベルを明記して防災情報が提供されることとなっています。政府では、警戒レベル5の状況は安全に避難できない状態であり、警戒レベル5の発令を待つのではなく、警戒レベル4までに必ず避難することとしています。

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3 主要な防災向けウェブサイト

災害が起きやすい地域などを確認できる防災向けウェブサイトを紹介しています。BCPを策定するときの参考にしてください。

1)国土交通省「ハザードマップポータルサイト」

洪水・土砂災害・高潮・津波のリスク情報、道路防災情報、土地の特徴・成り立ちなどを地図や写真に自由に重ねて表示できる「重ねるハザードマップ」、各市町村が作成したハザードマップを検索できる「わがまちハザードマップ」が掲載されています。

■国土交通省「ハザードマップポータルサイト」■
https://disaportal.gsi.go.jp/

2)気象庁「キキクル(危険度分布)」

大雨による災害発生の危険度が地図上で確認できます。危険度は、「極めて危険」(濃い紫色)、「非常に危険」(うす紫色)、「警戒」(赤色)、「注意」(黄色)、「今後の情報等に留意」(無色)の5段階で色分けされ、10分ごとに情報が更新されます。「土砂災害」「浸水害」「洪水害」の危険度を切り替えて確認できます。

■気象庁「キキクル」■
https://www.jma.go.jp/bosai/risk/

以上(2021年9月)

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画像:Maslakhatul Khasanah-Shutterstock

これからはチャット上手の上司がもてる?

書いてあること

  • 主な読者:テレワークなどでチャットを使っているが、部下とうまくコミュニケーションがとれない上司
  • 課題:すぐに返信がこないことにイラつくし、意図が正確に伝わらない
  • 解決策:これからはチャットが中心になると心得え、自身のコミュニケーションをバージョンアップする

1 チャットが苦手で……

「何で誰もリアクションをしないのだ!」。中堅社員のAさんはいら立ちを隠せません。グループチャットを使って複数の部下に一斉に指示を出したのに、“数分”待っても、誰からも何の返信もないのです。しばらくして、Aさんの上司であるB本部長が、同じようにグループチャットで部下に指示を出しました。すると間髪入れずに部下が反応し、コミュニケーションが成立したのです。この違いの理由は、役職の違いだけなのでしょうか。

あるとき、AさんはB本部長に愚痴をこぼしました。「私がチャットで指示を出しても、皆のリアクションが悪くて本当に困ります。B本部長のときとは大きな違いですよ。私は軽く見られているのでしょうか……」。するとB本部長は、次のように返しました。

「Aさんが軽く見られているわけではないよ。ただ、チャットには対面はもちろん、メールとも違う独特の雰囲気があるから、それを理解しないといけないね。それからチャット以外の、日ごろのコミュニケーションが大事なんだよ」

2 広がるチャットツール

最近はチャットツールがビジネスの連絡手段として定着しています。リモートワークなど、離れた場所にいる複数の人がコミュニケーションを取る手段として、チャットは便利です。しかし一方で、チャットのコミュニケーションの問題が出ている企業も少なくありません。

例えば、チャットツールはテキストのやり取りが中心で、相手の表情が分かりません。電話やメールも同じですが、電話なら声が聞けます。また、メールは誤解が生じないように丁寧過ぎるくらい、固い表現で書く人が少なくありません。対してチャットは「手軽さ」を重視します。相手の表情が分からず、また声も聞けない状態ですが、いきなり要件に入ります。メールのように、「いつもお世話になっております」などの前置きもありません。

この雰囲気に慣れていないと、チャットなのに堅苦しくなったり、逆にはしょり過ぎて意味が通じなくなったりします。受け手も同様です。手軽だからこそすぐに返すのが礼儀ですが、「チャットだからいいか」と、ついつい返事を先送りにしてしまいがちです。

3 日ごろからイライラしない

いろいろと難しい面のあるチャットですが、だからこそ上司にとってはコミュニケーションの訓練になります。例えば、対面や電話だとつい余計なことまで話して時間を浪費しがちですが、チャットならば必要最低限の言葉で正確に伝えようと努めます。

これは“アバウトに伝える”ことに慣れている上司にとっては、意外と難しいことです。チャットでは、「あれ、これ、それ」などの指示語の多い文はとても分かりにくいので、具体的かつ簡潔に示さなければなりません。

また、日ごろからイライラしないことも重要です。なぜなら、いつもイライラしている上司からのチャットに返信する勇気のある部下は少ないからです。関わったら最後、矢継ぎ早にチャットが入り、少しでも返信が遅いと叱られそうだと思うはずです。

自分のチャットに返信がないのは、自分自身の日ごろのコミュニケーションに問題があるケースも考えられます。また、チャットを送った側は即座の対応を求めますが、受け取った側にも事情がありますので、返信をせかしたいところを少し我慢しましょう。

また、チャットは手軽なので、つい休日にも送りがちです。送る側の上司の意図は、「忘れないうちに伝えておきたい」というものですが、今どきは休日に仕事の連絡を取るのもはばかられます。就業時間後や休日のチャットを禁止している企業も少なくありません。

4 「あれ、どうなった?」は通用しなくなる

「(上司)あれ、どうなった?」「(部下)あれって何ですか?」「(上司)何で分からないんだ。あれだよ、あれ!」。このような上司と部下のやり取りは、今後ますます減っていくのでしょう。

これから組織を率いる人は、その場に居合わせなくても、適時、適切なコミュニケーションが取れる組織を作らなければなりません。そうした意味では、“チャット上手”が上司の絶対条件になっていくかもしれません。

以上(2021年9月)

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画像:George Rudy-shutterstock

【事業承継】本気の事業承継で大切な後継者育成の考え方

書いてあること

  • 主な読者:自らの子供に事業承継をしたい経営者
  • 課題:自身の子息・子女に何を教育すべきか迷っている。そもそも、経営者の器なのかも見極めたい
  • 解決策:自身の子息・子女といってひいきせずに、長い時間をかけて見極める

1 経営者が押さえておくべきこと

自身の高齢化が進み、事業承継が差し迫った課題になっている経営者は少なくないはずです。事業承継では、自社株式の承継など「資産の承継」と、後継者育成など「経営の承継」が車の両輪となりますが、より重要なのは経営の承継といえます。従来に比べて減ってきてはいますが、中小企業では依然として経営者の子息・子女を後継者とするケースが多いです。

「後継者育成には時間がかかるものだ」と漠然と考えるのではなく、期間や内容を明確に決めなければなりません。この記事では、自身の子息・子女を後継者とすることを想定し、後継者に求められる資質などを紹介しています。

2 子息・子女でも例外ではない後継者に必要な3つの資質

1)マインド

後継者には、いかなる困難に直面しても必ず乗り越えてみせるという強いマインドが必要です。経営者の責任や果たすべき役割は、その質や重要性という点で他の従業員とは一線を画します。経営者の意思決定は、企業の業績や存続は言うまでもなく、従業員や取引先などとの関係にも多大な影響を及ぼすからです。

また、経営者として過ごす日々は決して順風満帆ではなく、困難の連続です。重責に耐えながら困難に立ち向かい、企業を維持・発展させていくためには、強いハートが求められます。これは、経営者としての前提条件といえます。

2)実務能力

経営者に常に求められるのは成果です。どれほど素晴らしい目標を掲げ、熱意を持って取り組んでも、収益の向上、新規事業の立ち上げなど具体的な成果を残していかなければ、経営者としては失格です。

また、後継者は周囲の信頼を獲得しなければ経営者として活動することができません。従業員や取引先をはじめとした利害関係者から認めてもらうためには、「この人が経営のかじ取りを行うのであれば企業の行く末は安心」と評価してもらえる成果が必要です。

3)知識

後継者には、経営戦略・マーケティング・財務など経営に関する広範な知識が求められます。中小企業の経営者は、実務を通じて習得した独自のノウハウや経営感覚を重視して経営しています。そのためか、経営に関する知識を机上の空論としてそれほど重視しない傾向があるようです。

しかし、経済環境が変化する中で、従来の考え方や手法だけでは通用しなくなってきていることを経営者が最も痛感しているはずです。この点を素直に受け止め、積極的に学ぶ姿勢がなくてはなりません。

3 後継者育成における経営者の役割

1)企業の根幹を成す「企業の理想・価値観」を伝える

経営者には、「どのような企業にしたいか」という理想や、大切にしたい価値観があります。こうした理想・価値観は、経営上の意思決定において最も基本的かつ重要な指針であり、短期的に見直すものではありません。

企業の理想・価値観は、経営理念のように明文化されているものばかりではなく、暗黙のうちに組織内で共有されているものもあります。こうした企業の理想・価値観を、後継者にしっかりと伝えることも経営者の大切な役割です。

2)「アドバイス」「サポート」を通じて後継者を側面から支援する

後継者が経営者として成長していく過程で経験する不安や悩みは数え切れません。「今回の意思決定やプロジェクトの進め方は正しかったのか」という業務上の問題はもちろん、「自分は経営者としてふさわしいのか」という根本的な点でも悩みます。

経営者は「経営者」という立場としてはもちろん、後継者の性格や心情を理解できる「肉親」という立場からも、後継者の相談に乗ってあげましょう。ただし、適度な距離感は保ちます。後継者を常に見守りつつも、基本的にはアドバイスやサポートは後継者から相談を受けたときのみ行うといった姿勢がちょうどいいかもしれません。

3)企業を支える「人的ネットワークの承継」を行う

経営を進める上では、従業員・取引先・金融機関をはじめとした社内外の利害関係者との良好な関係が欠かせません。とはいえ、経営者が長年にわたって培ってきた信頼関係は、後継者という立場だけで自動的に引き継がれるわけではありません。それなりの時間をかけ、自分の力で利害関係者と信頼関係を構築しなければなりません。

経営者は、後継者と利害関係者とのコミュニケーションを深める場をセッティングするようにしましょう。例えば、社内については、経営者が頼りにしている幹部と一緒に仕事をさせます。また、社外については、金融機関や他社の経営者などとの会談・会合に後継者を同席させるとよいでしょう。

4 本当に後継者としてふさわしいのか?

経営者が後継者育成で悩むのは、

後継者は、経営者としてふさわしい人材なのか?

という根本的な問題です。

できるなら、自分の子息・子女に継がせたいと考えるのは、経営者の当たり前の心情です。しかし、経営者という役割は誰にでもこなせるものではありません。自分の子息・子女が経営者としてふさわしい人材か否かということを、経営者は客観的に考えなければなりません。

近年は、M&Aやビジネスマッチングの一環で親族外承継をサポートするサービスもあります。経営者は企業の行く末を考え、私情に流されることなく、冷静な選択をすることが求められます。

以上(2021年9月)

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画像:Mariko Mitsuda

中小企業も出来る! 改正地球温暖化対策推進法とCO2削減のヒント

書いてあること

  • 主な読者:企業として温暖化対策を本格化させたい経営者
  • 課題:中小企業の取り組み、改正地球温暖化対策推進法の概要を知りたい
  • 解決策:他社の取り組みを参考にし、「できること」から始めてみる

1 大手取引先からCO2削減要請! 目標達成で有利な融資も

IPCC(気候変動に関する政府間パネル)が、2021年8月9日に公表した「第6次評価報告書(AR6第1作業部会の報告『気候変動-自然科学的根拠』)」によると、

2021〜2040年のうちに、産業革命前から気温が1.5度上昇する可能性が高いというシナリオ

などが示されています。その影響で、海面の上昇や熱波の発生などの切実な問題が起こるとされています。このIPCCの報告によらずとも、地球温暖化は切実な問題であり、世界規模で意識が高まっています。経営者仲間との会話でも、地球温暖化の話題が出るケースが増えているのではないでしょうか。

日本でも二酸化炭素(以下「CO2」)などの温室効果ガスの排出量を2030年度に2013年度比46%に削減する方針が示されました。「ウチは中小企業だから、まだ関係ないよ」と思った皆さん、それでは済まされなくなってきています。CO2の削減問題は、次のような形で皆さんの足元まで要請が迫っているのです。

  • 2021年6月に改正地球温暖化対策推進法が公布され、自治体や企業の取り組みを開示したり、事業所ごとの温室効果ガスの削減量を公開したりする方針
  • 「脱炭素経営」に取り組む大手企業の中には、サプライチェーンを構成する取引先などにも、CO2の削減を要請する動きが出てきている
  • 各地の金融機関も、中小企業などの脱炭素経営の支援や、削減目標を達成することで、金利が下がる融資「サステナビリティ・リンク・ローン」の取り扱いを開始するケースが増えてきている
  • 各地の自治体では、CO2削減や、環境問題に積極的に取り組む企業を表彰・認証する取り組みが始まった

ところが、中小企業の経営者に行ったアンケートによると、

約70%がCO2削減を経営課題として認識しているものの、実際に取り組んでいるのは12%にとどまる

という結果になっています。

CO2の削減に取り組むことで、コスト削減や、企業のイメージ向上による顧客の開拓・維持も期待できます。また、ここ1~2年で、新卒者の採用活動の場面で、環境問題に対してどんな取り組みをしているのか質問する学生が急増していると話す企業もあります。

この記事では、温室効果ガス削減に取り組む中小企業の事例や、取り組む中で直面した課題について紹介します。また、前述のアンケート結果、改正された地球温暖化対策推進法のポイントも記載しています。これらを参考に、自社の「脱炭素経営プラン」を検討してみましょう。

2 CO2削減取り組み事例

今回紹介する取り組み事例の中には、CO2の削減に加え、電気料金のコストダウンにつながったり、温室効果ガス削減の取り組みを顧客獲得のきっかけとして成長させたりしている企業もあります。

1)初期費用ほぼゼロで工場の屋根に太陽光発電:カイハラ産業(広島県)

デニム生産で高いシェアを誇るカイハラ産業は、オリックス(東京都)と共同で、国内最大級の太陽光発電システムの第三者所有モデル(「PPAモデル」)(注1)を開始しました。

この太陽光発電システムは、同社の三和工場の屋根に設置され、稼働を開始しています。これにより、同工場の電力によって排出されるCO2を約12%削減し、電力料金を従来比約25%削減できるとしています。

PPAモデルの場合、初期費用となる太陽光発電システムの設置費用や保守管理費用は第三者が負担してくれます。一方、太陽光発電システム自体は設置した第三者のものであるため、中途解約の難しい長期契約となり、設置場所などの条件も厳しくなります。

2)燃料転換と熱回収でCO2削減:河田フェザー(三重県)

羽毛専業メーカーの河田フェザーは、羽毛を洗浄する際に用いる温水のボイラー燃料を変更したり、製造時に発生するくずを焼却する際に発生する熱を温水用に回収したりすることで、CO2を削減しています。

水鳥から取れた羽毛は、製造時に大量の温水で洗浄し、高温で乾燥させることでふんわりとした触感になります。同社は、大量の水を温めるボイラーを、重油を使うものから、重油に比べ発熱量当たりのCO2排出量が少ないLPガスを使うものに交換しました。

ボイラーの切り替えにより、同社では、2015年から2019年の間で従来比190トンのCO2を削減できました。さらに、ボイラー使用時に発生する熱を回収し、温水用に再利用することで、年間310トンのCO2の削減も行っています。

3)取引先からの要請に事前に準備:協発工業(愛知県)

自動車部品メーカーの協発工業は、大手自動車メーカーなどの主要な顧客から、CO2削減の要請が強まることを見越し、科学的根拠に基づいた削減目標を設定し、国内の自動車産業の関連企業で初となる「SBTイニシアチブ」(注2)の認証を受けました。

同社より一足先に認証された、太陽光発電システムの施工などを行うジェネックス(愛知県)とともに取り組み、工場で使用する電力に再生可能エネルギーを利用することで、2030年のCO2排出量を、2018年比の50%に削減する計画です。

大手企業からの「上から目線」の要請に対し、下請け企業1社だけで対応するのは難しいかもしれません。同社のように、専門分野のパートナーと協業することも中小企業には効果的です。

4)30年以上も前からカーボンニュートラルを実現:艶金(岐阜県)

衣類などの染色事業を営む艶金(つやきん)は、高温で水や化学薬品を大量に使用する業態の責任として、早くから環境を意識した経営を行っています。同社は、1987年にバイオマスボイラーを導入しました。このボイラーでは、燃料として地元の建設廃材である木材のチップを用い、カーボンニュートラル(注3)を実現しました。

同社が自社のCO2の排出量を測定したところ、バイオマスボイラーを導入しなかった場合に比べて、約75%削減する効果があったと推計しています。

同社は、こうした取り組みを他社に先駆けて行うことで、新たな顧客獲得のきっかけや、コストや納期以外で企業としての強みになると考えています。

政府は2020年10月に、2050年のカーボンニュートラルを実現することを宣言しており、同社の取り組みは今後の脱炭素経営を考える中で参考となりそうです。

5)さまざまな取り組みでゼロカーボンを目指す:丸信(福岡県)

印刷加工などを行う丸信は、使用する電力の全てを再生可能エネルギーに転換するための枠組み「再エネ100宣言 RE Action」(注4)に参加しました。

同社は、自社の印刷工場で印刷を乾燥させるランプをLEDに切り替えを行っています。全てのランプを切り替えることで、消費電力が従来に比べて約30~50%削減できるそうです。一般ごみの再利用にも注力しており、これまでは廃棄していた一般ごみを固形燃料として再利用しています。固形燃料化することで、CO2を約33%削減できると見込んでいます。

また、同社は排出権取引にも取り組んでいます。2021年4月には、J-クレジット制度(注5)を活用し、久留米市の特別地方公共団体となっている財産区が所有する森林のCO2排出権「かっぱの森J-クレジット」を100トン分購入しました。今回は、購入量が公表されていることもあり、自社のCO2を相殺しながら環境への取り組みをアピールできるメリットもあります。

これまで見てきたように、一部の企業は将来を見据えて「できること」からCO2の削減に取り組んでいます。また、環境省では、中小企業が、CO2削減などの脱炭素経営を促進するための資料「中小規模事業者のための脱炭素経営ハンドブック」を公開しています。

この資料には、脱炭素経営のメリットや進め方の他に、中小企業の取り組み事例も紹介されています。

■環境省「中小規模事業者のための脱炭素経営ハンドブック」■
http://www.env.go.jp/earth/SMEs_handbook.pdf
  • (注1)第三者が電力需要家の土地や屋根などを借り、パネルなどの太陽光発電システムを設置し、そこで発電される電力を貸し手である電力需要家が購入する仕組み
  • (注2)パリ協定が求める水準の「世界の気温上昇を産業革命以前に比べて2℃を十分に下回る水準に抑え、1.5℃に抑えることを目指す」ことと整合した、5~15年先を目標年として、企業が設定する科学的根拠に基づいた目標
  • (注3)森林の成長過程でCO2を吸収し、燃焼時にそれを排出するため、実質的なCO2の増減はゼロとする考え
  • (注4)消費電力が比較的小規模の企業、自治体、教育機関、医療機関などの団体が、使用電力を100%再生可能エネルギーに転換する意思と行動を示し、再エネ100%利用を促進する枠組み
  • (注5)省エネルギー機器の導入や森林経営などの取り組みによる、CO2などの温室効果ガスの排出削減量や吸収量を「クレジット」として国が認証する制度

3 脱炭素経営企業の声 「できること」から始めてみる

脱炭素経営を進める上で、どのような課題があるのでしょうか。多額の初期投資や、効果がすぐに表れない場合もあります。また、社内に脱炭素の意識が浸透しておらず、一致団結していないこともあります。脱炭素経営を進めている企業からは次のような話が聞けました。

●取り組みを始めたきっかけ

  • 設備に使用していた燃料が、原油価格の乱高下を受けてコスト管理に苦労していたため、調達リスクが低く、急激な価格変動が少ない再生可能エネルギーや、廃材などの調達にかじを切った。
  • SDGsの取り組みの一環として始めた活動(企業内保育所の設置、環境保全に関する国際認証の取得)を公表したところ、取引先から環境を意識した製品の引き合いが急増した。これを受け、地球環境保護を意識した活動をさらに進めるため、温室効果ガスの削減などの取り組みを加速させている。

●直面した課題

  • 化石燃料を用いる設備に比べ、再生可能エネルギーの利用を想定した設備は、現時点で初期費用は割高な印象がある。また、廃材などをエネルギーとして使う場合は、液体や気体である化石燃料に比べて、燃えカスの掃除などの定期的なメンテナンスが負担になる。
  • 従来よりも消費電力の少ない設備を導入したものの、既存の設備に比べて仕上げ加工に時間がかかるため、仕上げ工程のみ既存の設備を利用するなどの試行錯誤が続いている。

●脱炭素経営を継続させるコツ

  • 環境に影響を与える事業を行っている場合や、取引先からの要請を受けた場合などは、いや応なしにやらざるを得ないが、急激な方針転換は社内にも影響を与えることになる。スムーズに脱炭素経営を始め、継続させるには、まずは社内の整理整頓・掃除などの「みんなでできること」から取り組み、環境保護に対する意識を徐々に浸透させていくことが望ましいと考える。
  • 自社の取り組みを外部へ発信することが重要と考えており、まずは外部との接触が多い営業担当者の教育を優先している。営業担当者が仕入れてきた環境問題に関するトピックを社内の全体会議で共有しており、製造現場への情報共有、取り組みとその効果の浸透を図っている。

4 他社のリーダーの動向 経営者アンケート結果

1)経営者アンケート結果:取り組みを行っているのは12%

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冒頭で触れた通り、回答者の過半数以上がCO2の削減に関して無関心、または具体的な行動を取っていないようです。一方、「実際に取り組んでいる」層や、「経営課題として認識している」層は合わせて71%いるともいえます。次に、どのようなことが取り組みの妨げになっているのか質問しています。

2)経営者アンケート結果:取り組みの障害は「自社へのメリットが不透明」

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CO2排出量の削減に取り組む際の障害として、「自社へのメリットが不透明」「コスト面」「業務への負荷」が大きな割合を占めています。「どんなメリットがあるか見えないものに、お金や手間をかけたくない」との心理が見えます。

特に、これまで社内でCO2排出量の削減などが課題として挙げられず、環境問題との接点が少ない業種や業態の場合は、取り組むイメージが湧きづらいかもしれません。

3)経営者アンケート結果:約半数が「利益が減るなら協力できない」

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CO2排出量の削減を進める際に、利益が減少する事態になった場合、どの程度なら許容できるか聞いた結果が図表3です。

回答者の19%が利益の減少を許容できるとしていますが、49%が利益を下げてまでCO2排出量の削減には応じないとの考えです。また、30%の回答者が「わからない」と答えています。この背景には、CO2排出量の削減に対する認識不足や、まだ判断材料が不足していることなども推測されます。

4)経営者アンケート結果:CO2排出量の削減で「妥当な利益」は10%以上

画像4

最後の質問は、CO2排出量の削減で生まれる利益について聞きました。

回答者の30%が、妥当と考える利益を10%以上としています。また、回答者の14%が、妥当な利益として、現状の30%以上と回答しています。30%以上の利益をもたらすとなると、ハードルはかなり高くなると感じますが、「従来のCO2排出量の削減」や「電気料金の大幅ダウン」の切り口であれば、今回紹介した事例の企業のように、再生可能エネルギーの導入などで実現できる可能性もあります。

5 改正地球温暖化対策推進法のポイント

最後に、冒頭でも触れた、改正地球温暖化対策推進法についても簡単に紹介します。改正の背景として、2020年以降の気候変動問題の国際的な枠組みであるパリ協定、2050年のカーボンニュートラル宣言(2050年までに脱炭素社会を実現し、温室効果ガスの排出を実質ゼロにすることを目標とするもの)を基本理念に、法律として位置付けたものです。

今回の改正をまとめると、次のようになります。

画像5

企業として注目しておきたいのが、2つ目と3つ目のポイントです。

2つ目の「地域の再エネを活用した脱炭素化を促進する事業を推進するための計画・認証制度の創設」は、地方公共団体や関係省庁の定めに沿う、再生可能エネルギーを利用した地域の脱炭素化を進める事業(「地域脱炭素化促進事業」)の手続きが簡素化され、これまで以上に迅速に事業を行うことが期待できます。

3つ目の「脱炭素経営の促進に向けた企業の排出量情報のデジタル化・オープンデータ化の推進など」は、一定量の温室効果ガスを排出している企業に課せられている報告(「温室効果ガス排出量 算定・報告・公表制度」)をデジタル化・オープンデータ化し、報告者とデータ利用者の利便性を向上させます。企業の排出量が公表されることで、脱炭素経営の見える化やESG投資を促進させる効果も期待されています。

これまで見てきたように、CO2の削減などの地球環境保護に対する意識が高まり、企業の取り組み、その支援は着々と整備されています。設備投資の初期費用や人材の育成など、乗り越える壁は幾つもありますが、他社を参考に、「できること」から検討してみましょう。

以上(2021年9月)

pj80109
画像:unsplash

従業員の皆さんへ 粉飾決算・資産流用など、社内不正を見つけた場合の対処法

書いてあること

  • 主な読者:社内不正を疑っている従業員、あるいは社内不正を発見した従業員
  • 課題:誰に相談したらよいのか分からない。裏切り行為のようで気が引ける面もある
  • 解決策:まずは自分でできる範囲で調査し、証拠を集める。次に、自分に及ぶリスクを理解し、通報先を選択する

1 社内不正を見つけてしまったら……

粉飾決算、資産流用、利益相反取引、品質偽装、情報漏洩、ハラスメント……。残念ながら企業内の不祥事は後を絶ちません。皆さんの会社ではどうですか? もしかすると「あれ、これって不正かも?」と感じることがあるかもしれません。

しかし、確証が得られないうちに話を表に出すことははばかられますし、内部不正を暴くことは、お世話になった会社や同僚への「裏切り行為」のように感じられるかもしれません。実際、こうした事態に直面した人たちの中には、自分で問題を抱え込み、たった一人で思い悩んでしまうこともあります。

ただ、

忘れてならないのは、不正は不正である

ということであり、皆さんはしかるべき対応をしなければなりません。この記事では、

社内不正を発見した場合に、具体的に何をすればよいのか

について弁護士が解説します。また、この記事は従業員向けですが、経営者は社内不正を防ぎ、万一の場合はすぐに正しい対応を取りたいと考えているはずです。ですから、この記事を、従業員の皆さんも読んでいただくことをお勧めいたします。

2 初動対応を間違えると自分が不利益を被ることも

社内不正を発見した皆さんは、不正に対する怒りから「今すぐに監督官庁などに通報してやろう!」と思うかもしれません。しかし、ここは慎重になってください。なぜなら、

従業員は、会社に対して誠実に業務を行う義務や秘密を保持しなければならない義務

を負っています。むやみに通報するとこの義務に違反してしまい、会社から解雇、降格、配置転換などの処分を受けるかもしれません。場合によっては会社の信用を低下させたとして、損害賠償請求を受けたりすることだってあり得ます。

一方で、

公益通報者保護法(以下「法律」)では、一定の要件を満たした場合に限り、内部告発を理由に従業員に対する不利益な扱いをすることを禁止

しています。保護の対象となるのは、法律に違反する犯罪行為や最終的に刑罰につながる行為に限られます。さらに、

  • 社内への通報(内部通報)
  • 行政機関への通報(行政通報)
  • その他外部への通報

といった順で保護要件が厳しくなります。

保護されるための要件の1つは、

社内不正について「信ずるに足りる相当な理由(客観的に不正が行われていると認められる証拠などがそろっていること)」

です。これを真実相当性というのですが、この要件を満たすためにも、

まずは、事実関係の調査と証拠の収集

をしなければいけません。

証拠の収集方法は不正のタイプによってさまざまですが、

  • 電子ファイル、メール、スクーリンショットなどでPCにデータ保存する方法
  • 画面や書類などをスマホで撮影する方法
  • 不正行為をしている当事者の会話を録音する方法

などがあります。ただし、ドラマに出てくるような自分の閲覧権限を超えたデータにアクセスするなどの行為は絶対にしてはいけません。悪いことを追及するのだからルールを破っても許されるだろうと考えるかもしれませんが、その行為も同様に不正なのです。

とはいえ、自分の権限が及ぶ範囲内の事実調査、証拠収集には限界があります。立ちゆかなくなったら、「内部通報」と「外部への通報」のいずれかを検討しましょう。

3 通報することを決めたときに取るべき方法

1)内部通報

優先的に考えるべきは内部通報でしょう。最も身近な相手は直属の上司です。上司が取り仕切る部署内での社内不正であれば、適切で素早い解決が期待できます。問題は、その上司が不正に関与しているケースがあるということです。また、当事者でなくても、上司が自分の部署の不正が明るみになることを恐れて隠蔽するケースもあるでしょう。

このような場合、まず自社に内部通報制度が整備されているか確認してください。整備されていれば、内部通報窓口として、社内の人事部や法務部、外部の法律事務所などが設置されていますので、そこに相談をします。

内部通報制度が整備されていない場合は、人事や総務部門の担当役員、責任者への通報が考えられます。会社の規模によっては直接代表者に通報してもよいでしょう。ここでは、

誰であれば自分を守ってくれるか

という観点から、通報先を選択しなければなりません。

皆さんが注意しなければならないのは、

通報者の特定により不利益を被るリスクがある

ことです。内部通報を受けた会社は、通報された不正行為が事実なのかについて内部調査をしますが、その過程で誰が通報したかが推測されます。小さな会社ならすぐに分かるでしょう。その結果、あってはならないことですが、内部通報者が「裏切り者」として、不利益を被ることが想定されます。

これを防ぐためには、通報は匿名で行い、内部調査の際は、通報者を推測できるような情報を調査対象者に明らかにしないように依頼することが考えられます。ただし、こうして情報を絞ると、内部調査が進みにくくなることも事実であり、この点に対する一定の留意は必要です。

2)外部への通報

内部通報によって会社から不利益な扱いを受ける恐れがあったり、社内不正が組織的に行われていて、自浄作用が期待できなかったりする場合は、行政(中央省庁など)への通報や、その他外部(マスコミなど)への通報を検討することになります。

注意すべきなのは、

自分一人の判断で外部への通報を決断しないこと

です。なぜなら、前述した通り、外部への通報で法律の保護対象となるのは、その社内不正を「信ずるに足りる相当な理由(客観的に不正が行われていると認められる証拠などがそろっていること)」がある場合に限られるからです。また、通報先がマスコミなどの場合、より厳しい要件を満たさなければ保護の対象となりません。

法律上の保護対象となるか否かの基準はケース・バイ・ケースなので、事前に弁護士などの専門家に相談するようにしましょう。弁護士会によっては、内部告発の相談窓口を設けているところもあり、これを利用することも考えられます。

以上(2021年8月)
(執筆 日比谷タックス&ロー弁護士法人 弁護士 浜地保晴)

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画像:beeboys-Adobe Stock

第23回 福岡県商工部新事業支援課 山岸 勇太氏/森若幸次郎(John Kojiro Moriwaka)氏によるイノベーションフィロソフィー

かつてナポレオン・ヒルは、偉大な多くの成功者たちにインタビューすることで、成功哲学を築き、世の中に広められました。私Johnも、経営者やイノベーター支援者などとの対談を通じて、ビジョンや戦略、成功だけではなく、失敗から再チャレンジに挑んだマインドを聞き出し、「イノベーション哲学」を体系化し、皆さまのお役に立ちたいと思います。

第23回に登場していただきましたのは、世界へ羽ばたくスタートアップ企業の創出を目指し、福岡県商工部新事業支援課・事務主査を務めながら、一般社団法人ベンチャー型事業承継のエヴァンジェリストを兼任されている、山岸 勇太氏(以下インタビューでは「山岸」)です。

1 「1社で勤め上げることはもちろんすばらしいのですが、自分は会社に頼らない道を探してみようと思ったのです」(山岸)

John

勇太さん、本日はお忙しい中、お時間をいただき本当に愛りがとう(愛+ありがとう)ございます!

早速ですが、自己紹介をお願いしてもよろしいでしょうか?

山岸

福岡県商工部新事業支援課の山岸といいます。

石川県の小松市で生まれ、大学入学と共に上京しました。卒業後はNTT西日本へ就職し、8年勤めて退職。今から9年前に福岡へ移住しました。

県庁で今のポジションになってからは今年6年目になります。福岡県内のスタートアップやベンチャーの支援をするのが僕のミッションです。

県内のベンチャーの皆さまが主となりますが、福岡への参入を目指されているベンチャーの皆さまのご支援も行っています。

公務員なので副業はできないのですが、自分のライフワークとして、一般社団法人ベンチャー型事業承継というところで、エヴァンジェリストという肩書きをいただいて活動しています。

これは全国で家業を継ごうとされている若手の皆さまがイノベーションを起こすのを支援する社団法人でして、僕は全国の後継ぎの皆さまの壁打ち相手となったりして、日々お手伝いをさせていただいています。

John

ご出身は石川県なのですね!
公私ともにイノベーション創出のためにご尽力されている勇太さんですが、まずは現在のお立場になるまでのご経歴について、ぜひ詳しくお聞かせください。

山岸

父は建築関係の会社を営む経営者で、曽祖父や祖父、叔父まで一族全員大工の家系に生まれました。

昔から「自分もいつか父の会社を継ぐのだろうな」と漠然と考えていましたが、都会へ出たいという想いから、東京の大学へ進学しました。

そこでさまざまな価値観の人と出会い、「ファーストキャリアは世の中にインパクトを与えられるような会社がいい」と考えるようになりました。就職活動の末、縁あって入社したのがNTT西日本でした。

NTT西日本へ入社したのは2005年。インターネットが日本のインフラになってきた時期だったため、「インターネットを通じて何かおもしろいことをしたい」と思ったのが、入社の決め手でした。

NTT西日本には8年間在籍していましたが、2年に1回異動する文化の会社でしたので、静岡・熊本・東京・大阪と、各地へ赴任して経験を積みました。

前半の4年間は官公庁系の実証実験のお手伝いをしており、熊本ではIoTの実証実験に県庁と共同で取り組んでいました。今ではIoTと言われますが、当時はユビキタスなどと言われていましたね。

後半4年間は自社商品開発のプロジェクトに携わっていました。
昨今、Apple TVなどTVに接続して使用するセットトップボックスと呼ばれるものが浸透していますが、その頃、NTTも和製セットトップボックスの開発に取り組んでいて、僕もプロジェクトの一員だったのです。

当時はアナログから地デジへの転換が終わった頃で、全国でTVの買い替えが起こっていました。そんな中でマーケティング調査を行ったところ、「日本にあるTVのうち6000万台には、インターネット接続の機能がない」ということがわかりました。

そこで僕らは「その6000万台をターゲットとし、インターネット接続を可能にする装置を開発できれば、NTTは次のステージにいけるのではないか」と考え、海外のスタートアップなどと組んで、商品開発にあたりました。2年ほどで開発を終えて販売を開始し、今も「光BOX」という商品名で世に出ています。

家庭のTVで動画サービスを楽しめる環境をつくるということを目標とし、日本に上陸したばかりのHuluや、ニコニコ動画を運営しているドワンゴとも提携していました。

仕事は非常に楽しく充実した日々でしたが、2年に1度の異動というのが決まっている会社だったので、自分の人生にモヤがかかっているような感覚があって…。

プライベートで子どもが生まれたタイミングも重なり、30歳で退職を決意しました。

John

まず、様々な人々との出会いを通して「世の中にインパクトを与えたい」という思いが湧いてきたというのが素晴らしいです。ずっと地元にいたら気がつかないことってありますよね。私も、海外留学したことで視野が広がり、自分のこと、日本のこと、世界のことへと関心が広がっていきました。なので、勇太さんが「世の中」を意識するようになられた気持ちがよくわかります。

そして、仕事内容自体は充実していたものの、人生にモヤがかかっていたと。
具体的にどのような感覚だったのでしょうか?

山岸

うーん。自分の人生のはずなのに、自分で決められないというもどかしさを感じました。

1社で勤め上げることはもちろんすばらしいのですが、自分は会社に頼らない道を探してみようと思ったのです。

2 「新事業支援課での僕の最も大切なミッションは、福岡・九州のベンチャーエコシステムを盛り上げること。」(山岸)

John

自分らしい生き方のために、NTT西日本を退職された勇太さん。そこでなぜ福岡移住を選ばれたのでしょうか?

今でこそ福岡は海外からも注目され、日本各地にあるエコシステムの中でも最も成功している都市の1つとなっていますが、9年前移住された当時は、まだ盛り上がりはじめたころですよね。

山岸

そうですね。当時はスタートアップブームが始まろうとしている時期でした。

NTT西日本を退職し、東京で別のキャリアを探すという道もあったのですが、福岡出身の妻が「福岡が今、日本のシリコンバレーをつくろうとしているらしいよ」と教えてくれたのです。

実際、当時の福岡ではゲームやコンテンツ産業を振興していて、知事もそうしたスタートアップの支援に力を入れており、現在僕がいる新事業支援課を立ち上げようとしている時でした。

妻がそんな話を聞きつけ、「前職でもスタートアップの方々と楽しそうに仕事をしていたし、福岡に行けば楽しく仕事ができそうじゃない?」と声をかけてくれたのが、僕の中では大きなきっかけとなりました。

John

奥さまは、勇太さんが一番楽しそうに働かれている瞬間をご理解されていたんですね!

しかし、新しく魅力的なプロジェクトですから、倍率もかなり高かったのではないですか?

山岸

公表されている数値では、倍率は100倍だったそうです。

と言っても、僕が受けたのは社会人採用枠でしたので、これまでの経歴を問われるような試験内容が多かったですね。
小論文や面談が中心で、グループディスカッションなどもありました。

福岡県の社会人採用は、「多様な人材を採用する」というのがコンセプトのようで、さまざまなキャリアの方がいらっしゃいますよ。

もともと日経新聞で記者をされていた方、トヨタのエンジニア、BEAMSのディレクター……本当に多様なメンバーが集まっています。

John

ダイバーシティ溢れるチームなのですね。
それぞれ、どのような業務を担当されるのですか?

山岸

まずはそれまでの経歴を生かせるようなプロジェクトにアサインされることが多いですね。

例えばBEAMS出身のメンバーは、ファッションイベントの「福岡アジアコレクション」の責任者をしていました。

とはいえ、県庁職員として3~5年のスパンでジョブローテーションというものもあります。異動によって、前職での経験とはあまり関係のないところにアサインされることもありますね。

もともと多様な考え方を持つ方々の集まりですから、どこへ異動となっても事業の中心となって活躍されていますよ。

John

勇太さんの、入庁後のキャリアについても教えて頂けますか。
やはり、スタートアップ支援に関わられたのは、ご自身のご希望ですか?

山岸

はじめは、NTT出身ということで情報システム部門の配属となり、県庁のサーバーの保守などに3年ほど従事していました。

しかし、やはりスタートアップ支援がやりたいと思っていましたので、自ら希望して新事業支援課へ移り、今に至ります。

新事業支援課での僕の最も大切なミッションは、福岡・九州のベンチャーエコシステムを盛り上げること。

上長にあたる新事業支援課の課長からも、チームに入ってすぐに「福岡・九州のベンチャーエコシステムを盛り上げることであれば、何でも好きにやっていい」と言ってもらっていました。

「もっと外に出て、いろんな人と会って話してきてほしいし、そこに君の価値がある」と、僕のことを認めてくれていたので、やりにくさはなかったですね。

現在、チームのメンバーは15名。中小企業支援の中でもいわゆる前のめりで企業を支援するチームですので、それを支援する我々も、「デザイン経営をやってみよう」「海外展開を支援しよう」など、日々チャレンジしています。

John

すばらしい環境ですね!福岡県庁が、ここまで多様なメンバーの個性を輝かせるチーム作りを進めていると知ることができて勉強になりました。

勇太さんが、スタートアップ市場を盛り上げるためにされている取り組みについて、教えて頂けますか。

山岸

僕が日々行っているのは、福岡でビジネスをしたいと考えている県内外のスタートアップや、地元の大手企業など、さまざまな経営者の皆さんと対話して情報収集をし、適切なビジネスマッチングを行うことです。

まず、福岡でビジネスをしたいと考えている県内外のスタートアップの方々に対しては、「FVM(フクオカベンチャーマーケット)」というイベントを毎月開催し、ビジネスマッチングを行っています。

地元の大手企業の方々や、おもしろい事業をされている地元中小企業の方々とも日々対話をし、彼らの事業や課題の把握に努めています。

僕の強みは、とにかくそうした地元企業の経営者の方々と関係性を築けていることです。そして、それをスタートアップの方々に還元するというのを得意としています。

今の形をつくるために、1年目には毎日のように新しい方と会っていましたし、数珠つなぎに他の企業の方をご紹介いただいて、また人と会って…という動きを2〜3年続けていましたね。

John

さすが、勇太さん、すごい営業力、行動力ですね。「スタートアップ業界を盛り上げるために、多くの人と話して来てほしい」と期待をかけてくれた課長さんも喜ばれているのではないでしょうか。

ちなみに、企業のどんなポジションの方とお会いして、どのように企業の経営課題を聞き出されているのですか?

山岸

僕がこの仕事を始めた頃は、ちょうど福岡でオープンイノベーションの波が来ていた時期。
大手企業の中でも、新規事業部門の方などとお話をすることが多かったです。

どのような領域の事業を立ち上げようとされていて、自社の課題は何だと思われているのか。解決のために、どのようなスタートアップと出会いたいのか。そんな話をしていました。

企業の課題に合わせて、そのお悩みを解決できそうなスタートアップを紹介するのです。

自分自身のトレーニングの意味も兼ねて、お会いしたら必ず誰かをご紹介するというのを習慣にしていました。

もちろん、ただご紹介するだけでは何も起こりませんので、可能な限り同席させていただきました。
大企業とスタートアップでは話の仕方から違います。私は大企業出身ですが、スタートアップについても理解しているという自負があるので、双方のトランスレーターとなれるよう努めています。

スタートアップの言葉が足りなければ補足して、大企業が一方的な言い方になってしまっていたら和らげて伝えるとか、そんなことをしていました。

企業の方々にもとても喜んでいただけましたし、それをずっと繰り返して今に至っています。

John

ここで、大手企業で働かれていた経験が活かされているのですね。勇太さんのように、大企業とスタートアップ間のギャップを埋められる人材は、今の日本のスタートアップ業界に必要不可欠ですよね。

私には、イノベーション創出を影から支える勇太さんのような名コーディネーターの存在をもっと世の中の人たちに知って頂きたいという思いがありますので、今回インタビューさせて頂けて、本当に嬉しいです。

スタートアップだけでなく、面白い事業をされている地元中小企業との交流も大切にされているということですが、これまで進められたプロジェクトの中で、特に印象深い事例はどのようなものでしょうか?

山岸

ユニバーサルサウンド・デザインというスピーカーをつくる会社さんの福岡参入をご支援したケースは、印象に残っています。

同社は、難聴の方・ご高齢の方など、聴こえにくいといったトラブルを持つ方々に、より聴き取りやすい音域で音声を届けるためのソリューションを提供されている会社でした。

もともとは医療施設や介護施設への導入がメインだったのですが、より広く社会に知ってもらうため、西日本鉄道などと提携して、バスの中や駅構内で使用してもらいたいという想いを持っていたのです。

そこで、ユニバーサル・サウンドデザインの経営者の方と僕が一緒になって鉄道会社と話をし、駅構内での実証実験を行うことが決まりました。

駅の雑踏の中でも音声が聴こえやすいということで、駅を利用する高齢者の方々などからも喜んでいただけました。

John

地元の大手企業と関係性を築けているからこそできたご支援ですね。

スタートアップを育てるというよりも、エコシステムをつくることで、大企業のご支援もされているのですね。

山岸

ありがとうございます。まさに、おっしゃる通りです。
スタートアップと仕事をすることで、大企業の成長も促せたらと考えています。

僕は大企業出身ですし、スタートアップの気持ちもわかるので、これが自分の強みであり活躍できる場なのです。

John

本当に、それは勇太さんの強みだと思います。勇太さんは、経営者の視線に立って真剣にお話しを聴いてくださるので、私自身もすごく話しやすいですし、皆様もそう思われてると思います。また、最高の笑顔をしてくださるし、人生についても語り合えます。私も友人としても感謝しております。

3 「地方の布団屋さんや呉服屋さんが、そんな変革を起こせるのかというのを見せつけられて、『ああ、これが僕のやるべき地方でのベンチャー支援だ』と思いました。」(山岸)

John

ここまでお聞きしたように、精力的にスタートアップの支援をされている勇太さんですが、良い意味で県庁っぽくない雰囲気がありますし、経営者の心を開かせる力があります。

勇太さんの今の姿は、やはり代々経営者の家系で育ったことも関係しているのではと個人的に思うのですが、いかがですか。
我が家も祖父の代から経営者で、親戚一同、経営者や政治家、アーティスト……など好き勝手な人たちで。僕もそうですが(笑)。

ご実家を継がなかったことも、もしかしたら経営者を支援したい想いにつながっているのではと想像しています。

山岸

ありがとうございます。
今引き出していただいて気がつきましたが、僕がスタートアップや後継ぎの経営者たちを支援するのは、「自分が実家を継いでいない」という負い目を感じている、というのは大いにあります。

大学時代、父からは「大した商売じゃないから継がなくていい」と常々言われていて、僕も若かったので「そうなのか」と素直に受け止めてしまっていて。

卒業後はNTTに就職して、福岡県庁への転職も父へ特に相談せずにしてしまいましたけど、3年ほど前に、実家で父とお酒を飲んでいた時に「いつかは戻ってきて継いでくれると思っていた」と言われたのです。その時に、「ああ、そうだったのか」と思いました。

父の会社は今すごく業績も伸びていて、まだまだ働こうと考えてはいるようですが、継ぐ人間がいないというのが悩みだったようです。

John

なるほど。それが後継ぎ経営者を支援する、県庁とは別のご活動につながってらっしゃるのですね。

山岸

そうですね。
また、後継ぎ支援に関しては、地方におけるスタートアップ支援のあり方に悩んでいたことも、きっかけの1つです。

スタートアップというのは、ユニコーンに例えられるように、市場の大きなところでどんどん成長していく生き物のようなもの。そんな彼らを地方に留めておくということに、矛盾を感じていました。

世界に羽ばたいてほしいと思いつつ、福岡に根付いてもらう活動をすることへの葛藤ですね。
そして、行政のやるべきベンチャー支援とは何かを考えるようになりました。

そんな中、たまたまイベントに参加して出会ったのが、一般社団法人ベンチャー型事業承継だったのです。

当時「ベンチャー」と名がつくイベントなら何でも参加していたので、ベンチャー型事業承継のイベントにも興味本位で参加してみました。

すると、想像していた話とは全く違う話を聞くことができたのです。
岐阜の布団屋さんが世界的アパレルメーカーに変革した事例、京都の西陣織のメーカーさんが企業価値200億円のウェアラブルデバイスメーカーに成長した事例……。

地方の布団屋さんや呉服屋さんが、そんな変革を起こせるのかというのを見せつけられて、「ああ、これが僕のやるべき地方でのスタートアップ支援、ベンチャー支援だ」と思いました。

実家を継がなかったというモヤモヤ、地方でのスタートアップ支援に感じていた矛盾や葛藤、それを解決するのはこれだ、と。

そのイベントには一般社団法人ベンチャー型事業承継の代表の方もいらしていたので、「僕が求めていたスタートアップ支援はここにありました。何でもいいから関わらせてほしい」と直談判し、今のエヴァンジェリストという肩書きをいただきました。

John

市場の大きさというのは、地方でスタートアップ支援をする際にぶつかる大きな壁ですよね。そこに、一般社団法人ベンチャー型事業承継と出会って光が差したわけですね。

もう少し、活動内容について詳しく教えていただけますか?とても興味があります。

山岸

これは、いわゆるファミリービジネスをされている皆さまを支援するための事業です。

その中でもベンチャー型事業承継では「U34」というキーワードを掲げていて、34歳未満の家業を承継予定の皆さまを応援しています。

今現在、家業には入っているけれども代表権は持っておらず、何となくくすぶっている人たち、というのをターゲットに定めています。

なぜ34歳なのかと言いますと、日本の事業承継の平均値として、40歳前後くらいになりますと代表権を持つ方が増えてくるのです。

40歳となり会社を継ぐ段階となってくると、新しい事業を始めようとしてもリソースが足りないことが多いし、既存の家業に全力で向き合わなくてはいけない状況になってしまう。

34歳という少し早い段階で、かつ家業に対しても少し距離のある状態で、新規事業を考えてほしいと考えています。

もちろん各地域の商工会議所なども後継ぎ育成に力を入れているところはありますが、イノベーションを起こすためのコミュニティではないケースが多いので、僕らはそこを支援したいのです。

John

大企業の下請けをしていても先細りしてしまうのは目に見えていますので、中小企業が生き残るためには、スタートアップ型で自ら事業を立ち上げていく必要があると思います。

まさに勇太さんが言われたように、地方の中小企業こそイノベーションが必要な時代ですよね。

山岸

ありがとうございます。

まさにこれまで下請け中心にやってきた地方企業は、この先50年を考えると生き残っていけないのが目に見えていて、本当に厳しい時代に入っていると思います。

僕たちベンチャー型事業承継は、これからの時代に生き残る中小企業を増やすため、スタートアップ的なアプローチを大切にしていますし、新たな時代をつくる34歳未満の方々が憧れるような存在をより多くつくっていくことを目指しています。

34歳未満のコミュニティをつくり、40~50代くらいの家業からの変革を成し遂げた方々に、彼らのメンターかつ憧れの存在となってもらう。これを両軸でやっているところです。

具体的な活動としては、34歳未満の方々に、新たな時代に向けて家業をどうスイッチしていくかを考えてもらい、僕らが壁打ち相手になります。
そして考えた事業を披露する場としてのイベントを全国で開催しています。

まずは「家業を継ぐことでもイノベーティブなことはできるのだ」というカルチャーをつくりたいのです。

John

「事業継承」のイメージが変わる、すばらしい取り組みですね。

家業を継ぐ上で、「人」の悩みというのも尽きないのではと感じています。イノベーティブなことをしようとすればするほど、現行の経営者からの理解が得られるか、優秀な人材の採用、既存社員間の人間関係などの課題も出てきます。
また、スタートアップとは違った、家族だからこその悩みもあるのではないかと思いますが、その辺りの相談に乗られることはあるのですか?

山岸

そうですね。月に1度後継ぎの方々を集めて会議をしているのですが、人に関する悩みというのは本当によく聞きます。

「現行の経営者である父が新規事業に慎重すぎて進まない」といったものから、「彼女を紹介したら、後継ぎの嫁に相応しくないと否定された」というような生々しい話まで、いろいろ出てきますよ(笑)。

でも、後継ぎというのはスタートアップのように教科書があるものではないですよね。ご家庭の事情、会社の状況など本当に千差万別なのです。

僕らにできることは、それに寄り添うためにできるだけたくさんのケースを蓄積し、共有していくこと。

「そういうケース、他でもあったよ。その会社はこうしていたよ」というのをできるだけ話せるようにしています。

John

近いケースの話をしていただけるのは、嬉しいですね。私も家業と起業、両方に携わっているのでわかりますが、継承者は創業者とは違った心理的プレッシャーを抱えていたりしますし、それを他者に理解してもらうことが難しかったりもします。
そんな中で、「寄り添う」勇太さんたちの存在はとても心強いと思います。

山岸さんのイノベーションの哲学を示した画像です

4 「スタートアップと聞くとどこか遠い世界のように感じられる方もいるかもしれませんが、ハーバード出身だからとか、東京でスタートアップをやっていたからできるというのではなく、誰もがトライできるのです。」(山岸)

John

勇太さんが見てきた中で、家業からの変革を見事に成し遂げた事例があれば教えてください。

山岸

アニマルフリーのダウンジャケットをつくっている大阪の婦人服メーカーさんの事例は非常におもしろいですよ。

プロジェクトを進めているのは、現在30歳の深井喜翔さんという家業を継ぐ予定の方。彼は大学卒業後、大手の繊維商社に入り、その後スタートアップを経て、家業へ入ったというキャリアです。

そして今、家業からのスピンオフでカポックジャパンというスタートアップを立ち上げています。

カポックとは、東南アジア原産のふわふわの繊維が詰まった木の実のこと。
群生力が非常に強いのですが、繊維としては活用しにくいということで、現地では食料の緩衝材などに使われている程度だったそうです。

深井さんはその木の実に目をつけ、ファーストキャリアの旭化成と共同で、カポックの繊維をダウンジャケットにできないかと研究開発を行いました。

結果的に、カポックは繊維として機能性も大変優れていることがわかり、保温性・吸湿性なども通常のフェザーのダウンと遜色なく、その上圧倒的に軽い素材ができあがりました。

婦人服メーカーが、新素材を使ったアニマルフリーのダウンジャケットを全世界に向けて販売するスタートアップへと大変革した事例です。

John

大企業→スタートアップ→家業という深井さんのキャリアもユニークですし、その強みを最大限に活かした集大成とも言えるスピンオフですね。

現行の経営者は、家業の発展のためにも、承継者にあえて別の場所でキャリアを積ませるようにしてもいいですね。日本もすごい時代になってきましたね。

山岸

非常におもしろいですよね。
あとは、南福岡自動車学校という自動車教習所を運営している会社さんの事例。

同社の経営者は、もともとスタートアップの経営などを経験され、30歳でご実家に帰ってこられました。家業に戻って今年で10年目、まだ40歳くらいの若い後継ぎの方です。

その方は、初めから「自動車教習所はこれから廃れていく産業だ」と考えていました。免許の取得率の低下、高齢者の免許返納、自動運転の普及……30年後を考えた時に、国内市場は確実に縮小していきます。
その前提で、新たな事業を組み立てたのです。

新たな事業を考える上で、彼がまず目をつけたのが、自動車教習所という既存事業の特異性と強みでした。

自動車免許自体が衰退していくのは避けられませんが、そうは言っても、自動車教習所は日本国民の多くが1つのライセンスを取得しに行く、特殊な場所です。

であれば、自動車に限らず免許に特化した、「免許の専門組織」を目指そうと考えました。

わかりやすいところで言いますと、ドローンの免許取得などには既に取り組んでいます。

また、地方の大手企業が大きくなる手法としてM&Aは一般的になっていますが、彼の場合はそこからもう1段上の発想で、CVC(コーポレートベンチャーキャピタル)を立ち上げました。

これは自動車免許がなくなることを見越し、次の業態の柱を探すためのものです。

John

地方で城取り合戦をして自分たちの利益を守るのではなく、世界や東京の良いスタートアップに投資をして情報収集することで、新規事業の種を探しつつ、上場してくれたら自社にもキャッシュが還ってくる方法を選んだわけですか。

大企業が先を見てやっているようなことを、中小企業でもできるのですね。

山岸

まさに、そういうことです。

今はAIの会社に投資をされていて、AIを使った自動車教習所をつくろうとしています。隣に教官を乗せて運転しなくても、AIにガイドしてもらって免許が取得できるそうですよ。

他にも、街のお醤油屋さんがイノベーティブな事業をつくった事例などもありますし、後継ぎベンチャーの世界は非常におもしろいのです。

スタートアップと聞くとどこか遠い世界のように感じられる方もいるかもしれませんが、誰もがトライできるのです。

「自分たちでもできるかも」と思ってもらえるよう、良い事例を増やしていきたいです。

John

すばらしい事例をお聞かせいただきました。日本の中小企業の未来を見たようです。

家業を継いで、スタートアップ的なアプローチで新たな事業を立ち上げる人が増えてほしいと心から思います。

5 「挑戦するプレーヤーを増やしたいし、挑戦し続けられる環境をつくりたいというのが今の僕の原動力になっています。」(山岸)

John

たくさんの事例を日々目の当たりにされている勇太さんから見て、成功する起業の共通点はありますか。

山岸

まず後継ぎの新規事業のところでお話しますと、初めから世界を目指して逆算している事業でないと、成功しないと感じています。
初めから世界を目指している人たちはやはりとても未来志向ですよね。

地域を盛り上げたいという目線でやっている方も増えてきていますが、正直、それはもう当たり前という段階に入ってきている。

僕たちベンチャー型事業承継としても、地方創生というよりは世界から逆算して大きな成長を目指す後継ぎを応援したいと考えています。

僕やジョンさんのように、1980年代前後に生まれた世代は、ここから30~40年先の日本をつくっていかないといけない世代ですよね。

この世代が世界から逆算して、未来を見ながら事業をつくっていかないと、勝てる産業はできないし、ひいては日本の未来をつくっていくことができないと考えています。

John

地方の中小企業では、地方創生という方に意識がいきがちですが、世界から一目置かれるために何をすべきかを考えていけるかどうかが40年後の成功を左右する要因な訳ですね。

世界を相手に事業をして、本社は地元においてもいいわけですからね。中小企業も、スタートアップのように世界を見て、未来を作っていこうと。

山岸

僕たちの後継ぎ向けのプログラムでも、スタートアップ的な思考で事業を考える習慣を身につけてもらうことを重視しているのです。

それさえ身につけてくれたら、僕らのプログラムを卒業した後もそういう思考習慣が残り、自立して事業を立ち上げられるようになるはずですから。

John

世の中に新しい価値を生み出すスタートアップの思考習慣は、この先行き不透明なVUCA時代を乗り切るすべての人たちにぜひ身につけて欲しいものですね。

Volatility(変動性)Uncertainty(不確実性)Complexity(複雑性)Ambiguity(曖昧性)の頭文字をとったVUCA時代は、1987年にWatten Bennis氏とBurt nanus氏のリーダーシップ理論に登場した言葉ですが、確かに日本経済が失われた30年となっていく間に、世界に存在感を示してきたのはシリコンバレーの企業です。

このコロナ渦でも成長を続けているところを見ても、時代の変化を味方につけるためには「自ら新しい価値を生み出す力」を身に着ける必要があり、スタートアップの思考習慣はその力を養うのに役に立ちますね。

山岸

おっしゃる通りですね。スタートアップも事業承継もそうですが、挑戦できる人を増やす必要性を感じています。
挑戦するプレーヤーを増やしたいし、挑戦し続けられる環境をつくりたいというのが今の僕の原動力になっています。

僕は今、県庁職員ではありますが、「福岡から日本を盛り上げるのだ」という想いを持って活動しています。

なので、まずは九州全体と周辺都市を巻き込んで、福岡市150万人ではなく九州・山口1500万人を見て、挑戦できる人を増やすための活動をしていきたい。

福岡では、挑戦できる環境・文化ができてきていると思いますが、僕の役割は今後5年、10年先にも挑戦し続けられるようにする仕組みづくりだと思っています。

そのためにアクセラレーションプログラムをつくったり、いろいろな方を招致したりということに注力しています。

僕が県庁内の人事異動などで現在のポジションでなくなったとしても、うまく回っていく仕組みをつくっていくつもりです。

John

どんなに良いプロジェクトも、良い仕組みがなければ、キープレイヤーがいなくなった時点で途絶えてしまいますからね。「継承」のプロ、勇太さんなら、最高の仕組みを作られることと思います。

そして、勇太さんのビジョンやパッションも継承されるといいですね。
そのためには、カルチャーづくりができたらいいと思います。

シリコンバレー発の世界600都市、125カ国で開催し、350万人を繋ぐ起業家コミュニティStartup Grindの福岡チャプター Startup Grind Fukuokaを立ち上げたのも、シリコンバレーのカルチャーを根付かせたいと考えたからです。

現地のStartup Grind のカンファレンスに参加して感動したのが、「破壊的イノベーション」で有名なハーバードビジネススクールのクリステンセン教授、元Appleのエバンジェリストのガイカワサキ氏、Linkedin創業者のリードホフマン氏などの話を直接聞けたことです。彼らとStartup GrindのファウンダーであるDerek Andersen氏が対談するのですが、Startup Grindでは対談のことを「Fireside Chat(暖炉の前のおしゃべり)」と呼んでいます。

尖った話題をしながらも、堅苦しくないラフな雰囲気で、偶然性も大切にしながら会話を進めていくスタイルになんとも言えないかっこよさがあります。

私たちのバリューは、自分より人を助けること、得ることではなく与えること、人脈ではなく友達を作ることなんですが、このようなマインドが参加者の方々にも伝染していったら嬉しいと感じています。そのためにはノウハウを伝えるだけでは足りなくて、カルチャーを作る必要があると考えています。
その土台づくりとして、現在はオンラインですが、毎月イベントを開催しています。

山岸

すばらしい取り組みですね。
僕も、カルチャーづくりは非常に重要だと思います。

John

スタートアップを応援するカルチャーがあれば、エンジェル投資家が増えていくし、CVCやVCが自然とできていく。やり続けることに意味がありますよね。

後継ぎに関しても、これまでの地方中小企業における事業承継のイメージを変革することがまずは重要で、勇太さんたちが変えてくれるのではと感じています。

山岸

ありがとうございます。
福岡のようにスタートアップが生まれる土壌ができているところに、アトツギベンチャーという新しいムーブメントが入ることによって、さらに刺激を与え、スタートアップとの相乗効果が生まれると思うのです。

後継ぎのイメージ変革のためにできることはどんどんやっていきたいですね。

John

県庁の職員というのは一側面であって、全国・海外を視野に入れていらっしゃるところが、勇太さんのすばらしいところですね。
勇太さんのような働き方・考え方の人がこれから各県庁、学校、会社などさまざまな場面で必要とされてくると思います。

今日はいろいろ勉強になるお話を、愛りがとうございました!
最後の質問となりますが、なぜそんなに人や企業を応援したいと思えるのか、源泉となっている勇太さんの「イノベーションの哲学」を教えてください。

山岸

僕のイノベーションの哲学は「プルス・ウルトラ」です。
ラテン語で、「一歩先へ」とか「その先の未来へ」という意味を持つ言葉です。

スタートアップは1歩先の未来を感じさせてくれる存在だし、アトツギの支援もこの先50年100年で日本が変わっていくのを予感させてくれる。

僕はそこに関わることがとてもおもしろいし、そんな世界のプレーヤーでいたいのです。

John

WOW、プルス・ウルトラ! すごくかっこいいですね。
本日は勇太さん、貴重なお話を本当に愛りがとうございました!

山岸さんのイノベーションの哲学を示した画像です

以上

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インターンシップの最新動向が中小企業にもたらすプラス面とマイナス面/超現実的インターンシップ主義〜手間をかけずに成功させる導入のノウハウ(2)

現在の新卒採用市場において、企業にとっても学生にとってもインターンシップが「活動の起点」になってきました。しかし、実施するのに手間のかかるインターンシップは人事担当を専任で置くことさえままならない中小企業においては、ハードルの高い取り組みでもあります。本連載では、はじめてインターンシップに着手しようという中小企業の視点に立って、「超現実的なインターンシップの導入ノウハウ」について解説していきます。

第2回の本稿では、過去数年間の傾向と2022年卒学生の動きから「インターンシップの最新動向」について解説いたします。いくつかのデータに基づいて、インターンシップがいかに採用に直結しているかという事実、その流れが中小企業の新卒採用にもたらすプラス面とマイナス面、についてきちんと直視していただきます。やや焦る気持ちになるかもしれませんが、それがいまの新卒採用をとりまく現実です。そんな環境の中でも勝機はあります。自社のインターンシップを設計していくうえでの予習だと位置づけてご一読ください。

1 2016年卒採用から大きく変わった

学生にとって、もともと自己分析・業界研究・企業研究といった「就職活動の準備を行う」ための一つの手段だったインターンシップ。それが年々、就職先を発見し採用選考を受ける「就職活動に直結した」手段としての存在感を増してきています。

人材サービス大手マイナビは、就職活動とインターンシップについて多岐に渡る調査を行っていますが、まず「内定先を発見する手段」に関する調査結果について見てみます。内定先を発見する手段は、「就職サイト」「合同説明会」「企業ホームページ」「インターンシップ」といった就活時に利用するツールに大別されます。その各々のツールの活用度合いが2016年卒から2021年卒までどう推移しているのか、について調べたものです。ざっくりまとめると、「合同説明会」は低減傾向、「就職サイト」「企業ホームページ」が横ばいで、この6年間において唯一伸び続けているのが「インターンシップ」です。
これは、就職活動のスケジュールが変化したことが大きく影響しています。前回もお伝えしたように、2016年卒を境に、それまで12月だった企業の「広報活動解禁」=実質的就活解禁日が、3月へと後ろ倒しになりました。この就活解禁の後ろ倒しによって、インターンシップの役割が大きく変化したのです。

2 インターンシップから採用選考受験という図式

同じくマイナビの調査から、学生のインターンシップ参加率を見ると、2015年卒では32.7%だったのが、3月に後ろ倒しになった2016年卒では58.2%と1.8倍増加しています。2016年卒採用のルール変更によって、インターンシップに参加する学生は過半数を超え、その後も右肩上がりとなり、2021年卒の学生では85.3%まで増加しました。
学生のインターンシップ参加率が増加する一方で、採用広報解禁以降にナビサイトにエントリーする数は右肩下がりで減り続けています。就活ルール変更で当然ナビサイトのオープンも3月となりました。ナビサイトがオープンしていない以上、その前から企業と接触し始めるには、インターンシップに頼るのが手っ取り早いわけです。
そもそも3月への後ろ倒ししたのは、“学業への影響を配慮してほしい”という国からの要請を受けてのことでした。しかし学生はルールに従っていたのでは遅いと感じているわけです。結果的に就活ルールの変更がもたらしたのは、「学生の就活時期の変化」ではなく「学生の就活手段の変化」だったということになります。

そしてインターンシップ参加企業への採用選考受験率も増加していきました。多くの学生は、インターンシップに参加した企業の採用選考を受けるようになり、2021年卒の学生に至っては、その率はおよそ9割に上ります。「インターンシップ参加→採用選考受験」という図式は、もはや就職活動における鉄板の流れといってもいいでしょう。

3 明らかに採用充足に寄与

企業のインターンシップ実施率も年々上昇し続けています。マイナビの調査によると2021年卒時点では6割弱の企業がなんらかの形でインターンシップを実施。従業員規模別でみると、1000人以上の規模で81.3%、300~999人規模で73.8%、300人未満規模で46.7%と、やはり大きい企業ほど、実施率が高くなっています。実施率の伸びでは300~999人規模が高く、この層のインターンシップの実施率は今後も増加し、いずれは大手企業並みとなるでしょう。

企業からみて、インターンシップが新卒採用にポジティブな効果をもたらしていることを示すデータもいくつもあります。まずは採用活動の出来不出来とインターンシップの関連性について。2021年卒の採用活動を振返り、採用活動の自己採点が高い企業と低い企業で比較した時、自己採点の高い企業は自己採点の低い企業より、インターンシップの実施率が1.5倍となっています。つまりインターンシップの実施が採用活動の満足度にプラスの影響を与えているのです。
またインターンシップの実施有無による採用充足率を比較したデータもあります。インターンシップを実施している企業のうち、「予定していた採用予定数をクリアできた(=100%充足できた)」と回答したのは17.1%。一方でインターンシップを実施していない企業では8.0%。またインターンシップを実施している企業で「全く採用できていない」のが23.7%なのに対し、インターンシップを実施していない企業では55.4%に上ります。いずれのスコアもおよそ2倍の差があり、インターンシップを実施している企業の方が採用充足している割合が明らかに高いことがわかります。

まとめ①

  • 2016年卒の就活ルール変更が契機となりインターンシップが就活の起点となった
  • 学生も企業も、インターンシップ→採用直結という流れを確立していった

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4 サマーインターンから内定に

インターンシップの時期についてもデータで見てみましょう。採用選考を受けた企業のインターンシップに参加した時期を月ごとに並べてみると、次のようになっています。

採用選考を受けた企業のインターンシップの参加時期の画像です

8~9月の「サマー期間」と12~2月の「直前期」に2つの山があって、この2つの時期に参加したインターンシップから採用選考に進むという傾向が見てとれます。
スコアはやや「直前期」のほうが高いのですが、まさに就活本番直前の時期だと考えると、むしろ「サマー期間」のスコアの高さに注目すべきでしょう。従来は、サマーインターン=企業研究、秋冬インターン=採用の前哨戦という位置づけだったのが、昨今では、サマーインターンから採用に直結するという流れが鮮明になっています。それほど、サマーインターンシップの実施が重要になっていることがわかります。

では2022年卒学生の動きはどうなっているのでしょうか。まず挙げられるのは、就職活動を開始する時期のさらなる早期化。なんと大学3年生の4月~8月の期間に就職活動を開始したと回答している学生が70%を超えており、例年にも増して学生の動きが早まっていることがわかります。

インターンシップに応募する目的も「インターンシップ参加企業の選考を有利にするため」「選考試験の練習・経験のため」という声が多く、インターンシップの先に”選考を見据えている”のが、ここでもはっきり見てとれます。
その結果、2022年卒学生の内定率は過去最高のペースで推移しており、就活解禁の3月1日時点ですでに20%を超える学生が内定を保有していました。内定を得た企業の内訳は7割以上がインターン参加企業となっており、インターンシップが内定に直結していることがわかります。

まとめ②

  • サマーインターンシップ→採用選考→内定という流れがより鮮明になってきた
  • サマーインターンを実施するマンパワーが足りない中小企業にとってこの流れはマイナス

5 インターンシップの参加社数は頭打ち傾向

一方で、インターンシップの参加者と一人あたり参加社数は頭打ち傾向にあります。ここ数年間のインターンシップ応募経験と参加経験の推移をみると、次のような傾向にあります。

  • 応募率は2021年卒92.4%→2022年卒92.5%
  • 参加率は2021年卒85.3%→2022年卒84.5%と横ばい
  • 学生一人当たりの応募社数は2021年卒7.7社→2022年卒9.4社
  • 参加社数は2021年卒4.9社→2022年卒5.1社

注視すべきは、1人当たりの応募社数が2割増加しているのに、参加社数がほぼ増えていない点。応募しても参加できない。つまりインターンシップの選考が厳しくなってきているのです。

実は「大手企業のインターンシップに応募したが落ちた」と嘆く学生の声がかなり増えてきています。これまで述べてきたように、インターンシップがここまで採用に直結するようになると、より合理的にインターンシップを活用したいという力学が働くのは、ある意味当然でしょう。
“参加者の中からいい学生に目をつける”から“参加時点からいい学生を振るいにかける”へ、インターンシップは、採用直結モードのギアをさらに一段あげたことになります。
中小企業の新卒採用という視点に立つと、この傾向はウエルカムです。大手企業のインターンシップが狭き門になったことで、優秀な学生であっても選考に漏れるケースが増えてきているわけです。インターンシップの選考に落ちた学生の失意感はそれなりです。自社の秋冬~直前期のインターンシップは、そうした学生を呼び込むチャンスなのです。そこで学生に、なんらかのインパクトを残すことができれば、採用に至る可能性も高まります。

ここまでのまとめ

  • 大手企業のインターン選考厳選化で一人あたり参加社数は頭打ち傾向
  • 選考に漏れた学生を自社のインターンに呼び込める。中小企業にとってこの流れはプラス

インターンシップ起点の新卒採用が一般化する中、サマーインターンも採用直結型へと変わってきている。この流れによって採用活動の早期化に拍車がかかっている。本稿を読んでいただいているこの時期、世は大学3年生を対象にしたサマーインターンシップ真っ盛りです。冒頭でも言いましたが、この現実だけはご理解しておいてください。
だからといって、焦る必要はありません。ここから自社にふさわしいインターンシップを設計し、秋冬から直前期に実施できれば、勝機はあります。ではどんなインターンシップを実施すればよいのか。次回から一緒に考えていきましょう。


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こびない上司が部下に伝えたいこと

書いてあること

  • 主な読者:次世代のリーダーとして、過去にとらわれずに組織を率いる中堅リーダー
  • 課題:本人の意図とは別に、周囲に悪影響を与えてしまうことがある
  • 解決策:自分の志を周囲に示し、賛同する仲間を募る

1 とがった人は格好いい?

中堅社員のAさんは、他部署の上司であるBさんに憧れています。たまにしか会うことがなく、一緒に仕事をしたこともないBさんに憧れを抱くのには幾つかの理由があります。Aさんは、上の者にも臆せず“かみつく”Bさんを格好いいと思っています。また、他の上司とは明らかに雰囲気の違い、服装もオシャレだと感じています。そうしたBさんのとがった姿に、Aさんは旧態依然とした組織への反抗のシンボルを重ねているのです。

あるとき、AさんはBさんに言いました。「Bさんは本当に頼りになりますね。上の人にも平然と“かみつく”のですから。格好いいです。それに引き換え、今の自分の上司は“腰巾着”みたいで情けないです」。するとBさんは、次のように返しました。

「Aさんには私が“かみついている”ように見えるのか。だったら私を反面教師にしたほうがいい。私は目指すべき理想を実現するために、上とディスカッションをしているだけだ!」

2 本人と周囲とのギャップ

組織では、Bさんのような存在に対する評価が大きく分かれます。ある評価は「上との衝突もいとわない『勇気ある変革者』」、別の評価は「これまでの秩序を乱す『礼儀知らずの無法者』」といったものです。大切なのは、表面的な言動だけで判断しないことです。大人がとがるのには、それなりの理由があるからです。

実際、周囲からはとがっているように見えても、当の本人は自分が信じる理想に向かって進んでいるだけです。上に意見できない風潮を変えるために、自ら率先して意見しているだけであり、単に反抗しているわけではないのです。

これは、服装でも同じです。真面目といわれる職業でさえネクタイを外す時代。Bさんは、自由な雰囲気を醸し出すための手っ取り早い方法として、カジュアルな服装を選択しているだけで、自分の趣味を押し通すためではありません。

また、とがっている人は一生懸命に仕事をしますし、勉強もします。上に意見を言い、時には理想を掲げるわけですから、日々努力をして実力をつけないと、「口だけの存在」として無視されてしまうからです。この結果、とがっている人の多くは会社の上層部の理解を得ます。上層部から見て、「言うだけのことはある。何かやってくれそうだ!」と期待するに足る存在に見えるからです。

3 とがる人の義務

繰り返しになりますが、とがっている本人の意識と周囲の見方には大きなギャップがあります。組織に対してある程度の影響力を持つようになったら、そのギャップを解消していかないと、Aさんのように誤解する人が出てきます。

自分が周囲とは違う言動をとる理由を理解してもらう努力は、組織でとがる人の義務だといえます。そして、この行動はまさに中堅社員がこれから学ぶべきリーダーシップの本質であるともいえるでしょう。目指すべき理想が明確であれば、それを正しく理解して賛同してくれる人が出てきます。そうした人たちは、これから中堅社員が組織を率いていく際のかけがえのない仲間になることでしょう。

以上(2021年8月)

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画像:Damir Khabirov-shutterstock