飛ばすためにゴルフのスイングは頻繁に見直す。では、朝令暮改も理解できますか?

書いてあること

  • 主な読者:入社3〜5年目でさらに成長したい中堅社員
  • 課題:一度、決まったことを変更するのが許せない。特に自分に関係する変更の場合
  • 解決策:本気だからこそ、日々、改善する。良い朝令暮改があることを理解する

1 前に言っていたことと違う!

レンタル会社に勤める中堅社員のAさんは、課長と今後の営業方針について話し合っています。しかし、どうも会話がかみ合いません。

Aさんは課長に詰め寄って言いました。「私の計画のどこがダメなんですか? 以前、課長は値下げをしてでも、まずは顧客数を増やすことが大切だと言っていましたよね!」。すると課長は、「確かに随分前にそう言った。しかし、今は値下げをするような局面ではない。そのことは、現場のAさんも肌で感じているでしょう。定価でも十分に顧客が取れるのに、わざわざ値下げをする必要はない!」と答えました。

それでもAさんは、「今更そんなことを言われても困ります。現場も混乱しますよ……」と食い下がります。課長は、「ふぅ~」とため息をついた後、抑えた口調で「いいかい。ビジネスの状況は常に変わっているんだ。昔の方針をいつまでも引きずらずに、今の状況を正しく捉えて行動してほしい。現場が混乱しないようにマネジメントするのも君の仕事の一環だろう!」と言いました。

Aさんは黙って聞いていましたが、内心では「でも、確かに課長は値下げをしてもいいと言ったんだ。皆に何て説明しよう……」と、納得できずにいました。

2 納得できるか否かの境目はどこにある?

企業では、一度決まった方針が頻繁に見直されます。毎年度策定される事業計画が良い例です。事業計画は中長期の経営計画を達成するために足元でやるべきことをまとめたものなので、その時々の環境に応じて内容が大きく変わることが珍しくありません。事業計画の変更について思うところがある社員もいるはずですが、“会社の方針”ということで、比較的すぐに納得します。また、中堅社員のレベルだと、事業計画と自分の仕事を十分にリンクさせて考えられないので、雲の上の出来事のようにぼんやりと捉えているところもあります。

しかし、冒頭のAさんが経験したような、身近な存在である課長の方針転換になると、そう簡単には納得したくないのかもしれません。なぜなら、「値引きをしてもよい」という方針は、以前に課長から直接聞いて納得したことなので、方針転換に従うためには自分自身の考え方も見直さなければならず、心理的な抵抗が生じるからです。さらに、そうした方針転換は自分の行動にダイレクトに影響を及ぼすことが多いものです。これまで積み重ねてきたものを見直すというのは、相当なエネルギーが求められるものであり、できれば避けたいのです。

3 朝令暮改は納得できるか?

朝に伝えられた方針が、夕方に改められる「朝令暮改」は、悪い意思決定の例としてやり玉に挙がります。社長が朝令暮改をしたとしても、そう簡単には受け入れられるものではないでしょう。多くの社員は、「すぐに覆すような方針をかかげるな」「どうせまた変わるから、しばらく様子をみよう」と考えるからです。

しかし、朝令暮改のような急なものを含め、方針転換をするには相応の理由があります。また、決めたことを覆すには勇気が必要です。中堅社員になったなら、朝令暮改を毛嫌いするのではなく、その理由を考えてみるようにしなければなりません。

4 ゴルフのスイングに朝令暮改はないか?

ここで全く視点を変え、ゴルフのスイングについて考えてみましょう。

ある朝、軽快にカッ飛ばす自分をイメージしながら練習場に行き、実際にその通りにスイングしてみたところ、まずまずの出来でした。数時間後、予約していたスクールの先生からスイングについてダメ出しを受け、「もっと遠くに真っすぐ飛ばしたければ、今のスイングを根本的に変えなければダメです」と厳しく指摘されたらどうでしょうか。

ゴルフが好きな人であれば、素直に先生の言葉を聞き入れて、スイングの改造に取り組むことでしょう。たとえ、これまで積み重ねてきたものを一から見直すことになったとしても、もっとうまくなりたいという一心で、やり直すことができるのです。

お分かりかと思いますが、

企業で行われている方針転換と、ゴルフのスイングの改造は、目的が「より良くするため」という点で共通

しています。また、ゴルフ好きの度合いを、経営に対する責任やビジネスに関する視野の広さに置き換えてみれば、社長はもちろん、管理職が頻繁に方針転換することも納得できるのではないでしょうか。方針転換は、会社をより良くするために必要だと判断されたからこそ、取り組まれるものです。

中堅社員が方針転換を受け入れられないのは、自分やその周辺だけしか見えていないからです。そのレベルのうちは、「せっかく決めたことを覆すのは大変だし、周囲にも説明できない」と考えてしまいます。しかし、視野を広げることができれば、いっときは苦労するかもしれないが、その先に新しい可能性が生まれたり、危険を回避できたりすることがイメージできるようになってきます。

5 受け入れ、動かし、自ら朝令暮改する

1)方針転換を受け入れる

中堅社員は、方針転換を受け入れる懐の深さを持ちましょう。たとえ、自分の行動にダイレクトに影響を及ぼす方針転換であったとしても、今よりも改善されるなら、過去のことは“サンクコスト”であると納得できるはずです。

ただし、全ての方針転換が正しいわけではありません。言われるがままになるのではなく、自分なりの基準を持ち、相手が上司であっても伝えるべきことは伝えなければなりません。

2)方針転換に沿って、周囲を動かす

中堅社員のうちから、方針転換の理由や内容を自分の部下などにきちんと説明し、そのように動いてもらえるように「伝え方」の訓練をしましょう。方針転換を決定事項として、一方的に伝えても周囲はついてこないので、中堅社員自身が方針転換について理解し、分かりやすい言葉に言い換えて伝えなければなりません。もちろん、不明な点は遠慮せずに上司に確認するようにしましょう。

また、中堅社員も自ら朝令暮改をする立場になり得ます。方針転換を受け入れ、周囲を動かすことは、そのときのための準備であることを忘れてはなりません。

以上(2021年8月)

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画像:tiquitaca-Adobe Stock

【朝礼】感謝に気付ける一日に

皆さん、おはようございます。けさは、とても大切なのに、なかなか気付くことができない「感謝の気持ち」についてお話しします。

早速ですが、皆さんは家族や知人から「あなたが働いている会社はどんなところですか。仕事は楽しいですか?」と聞かれたら、何と答えますか。分かりやすい例を出すと「同僚はすてきな人ばかり。仕事も楽しい!」「嫌な人ばかり。仕事も嫌い」という具合で回答するかもしれません。

私は、皆さんに「この会社は素晴らしい」と言わせるためにこの質問をしたわけではありません。そうではなく、「感謝に気付けるか否かで世界は大きく変わる」という事実に気付いてほしいのです。ぜひ、今、自分が出した答えを意識しながら、2人の旅人の逸話を聞いてください。

ある旅人が街にやって来ました。そして、街の入り口にいた老人に「この街はどんな街ですか?」と尋ねました。老人は聞き返します。「あなたが今までいた街はどんな街でしたか?」と。すると旅人は、

「ひどい街でした。嫌な人ばかりでした」

と答えます。それを聞いた老人は、「この街もあなたがいた街と同じですよ」と言いました。

またある日、別の旅人が街にやって来ました。そして、同じように街の入り口にいた老人に「この街はどんな街ですか?」と尋ねました。老人はまた聞き返します。「あなたが今までいた街はどんな街でしたか?」と。すると旅人は、

「とてもすてきな街でした。みんな良い人!」

と答えます。それを聞いた老人は、「この街もあなたがいた街と同じですよ」と言いました。

実は、2人の旅人が住んでいたのは同じ街でした。ただ、2人の感じ方が違うことで、街の印象も全く異なるものになっていたのです。どう捉えるかは自分次第であり、その結果として世界は大きく変わることが分かります。

最近、働き方の「自由」がフォーカスされています。これは素晴らしいことです。一方で、少しでも意に沿わないことがあると、「自由がなくてダメだ」と簡単に結論付けてしまうこともあるようで、とても残念です。もちろん、つらいことや改善すべきことはあります。それを我慢してほしいのではありません。ただ、少し視点を変えれば違う面が見えるのも事実です。

視力検査で使う1カ所が欠けた環を「ランドルト環」と呼ぶそうです。このランドルト環のように、欠けた部分は目立ちます。そして、なぜか私たちは欠けた部分をマイナスと捉えます。しかし、ほんの少し見方を変えてみれば、欠けた部分は感謝したいすてきなことに見えてきます。

この1カ月、皆さんは何回「ありがとう」と言われ、どれだけの感謝を周囲からもらいましたか。逆に、皆さんは何回「ありがとう」と言い、どれだけの感謝を周囲に伝えられましたか。ほんの少し視点を変えれば、感謝したいすてきなことに簡単に気付けるはずです。

以上(2021年8月)

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画像:Mariko Mitsuda

【朝礼】一回り大きな自分になれ

私には、アイデアに煮詰まったときや新しいことに挑戦するときなどに、意見を聞いてみたくなる友人が3人います。1人はとても幅広い知識の持ち主で、人工知能から三国志、果ては民法まで、さまざまな分野に造詣が深い人です。もう1人は会計学や統計学など数字にまつわる分野が大好きで、オセロや囲碁、将棋、麻雀などのゲームにもめっぽう強い人です。そして3人目は、人付き合いと交渉術に定評があり、数々のトップセールスの記録を持つ営業のスペシャリストです。

得意分野も違えば、年齢、取り組んでいる仕事、立場などもまるで違う3人です。しかし、3人とも、いつ話をしても前回より知識や経験が増えており、意見や考え方も変化しています。彼らと話をすると、毎回新しい発見があるのです。私がアイデアに煮詰まったときなどに相談したくなるのはそのためです。

彼らが多くの本を読み、セミナーや交流会に積極的に参加するなど勉強熱心なのは言うまでもありませんが、もう一つ、3人に共通しているのは、「新しいことを受け入れる態勢ができていること」です。仕事でもプライベートでも、常に、「今よりももっと面白いことはないか」「もっと前進できる方法はないか」ということを考え、追い求めています。そのため彼らは、新しいことや自分の知らないこと、異なる意見に対して決して否定的な見方はしません。彼らはまず、いったん受け入れ、何事も「やってみる」のです。

3人とも、「自分の知らないことや違った考えを知ることが楽しくて仕方ない」という気持ちが強いのでしょう。私はそうした彼らの姿勢を尊敬し、自分もそうありたいと思っています。

しかし、これがなかなか簡単ではありません。私には、どうしても頭が固いところがあるからです。皆さんも、これまでの知識や経験に固執してしまうことがあるのではないでしょうか。新しいことをお願いしたり、これまでと違った視点を持つよう指示を出したりすると、皆さんは「難しい」「面倒だ」と言うことがあります。それでは、いつまでたっても皆さんの世界は広がりませんし、これからの成長も期待できないでしょう。

新しいことや、これまでにない考えを受け入れられるようになるには、そうした意識をもって行動しなければなりません。勇気も必要です。

そこで、まずは「新しいことに慣れる」ことから始めてください。例えば、月に1冊、知らない分野の本を読み、学んだことを発表し合うのもよいでしょう。もちろん私も参加します。私は最近、初めてラグビーの教本を読みました。ボールを前にパスせずに、敵陣に攻める多くの戦術があることを知り、ラグビーの面白さがよく分かりました。自分の世界がまた少し、広がった気がします。

新しいことを追い求める好奇心と、自分にはない考えを受け入れる柔軟性は、皆さんを今よりも豊かにするはずです。皆さん、今日から、私と一緒に一回り大きな自分を目指しましょう。

以上(2021年8月)

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画像:Mariko Mitsuda

【規程・文例集】「セクシュアルハラスメントおよびマタニティーハラスメント防止規程」のひな型

書いてあること

  • 主な読者:最新法令に対応し、運営上で無理のない会社規程のひな型が欲しい経営者、実務担当者
  • 課題:法令改正へのキャッチアップが難しい。また、内規として運用してきたが法的に適切か判断が難しい
  • 解決策:弁護士や社会保険労務士、公認会計士などの専門家が監修したひな型を利用する

1 セクシュアルハラスメントおよびマタニティーハラスメントの概要

1)セクシュアルハラスメントとは

セクシュアルハラスメント(以下「セクハラ」)は、男女雇用機会均等法によって、その防止対策が企業に義務付けられているもので、次の2つに大別されます。

1.対価型セクハラ

職場において行われる労働者の意に反する性的な言動への対応(拒否や抵抗)により、解雇、降格、減給などの不利益を受けることです。

例)経営者から要求された性的な関係を拒否したために解雇されること

2.環境型セクハラ

職場において行われる労働者の意に反する性的な言動によって就業環境が不快になり、能力の発揮に重大な悪影響が生じることです。

例)職場に掲示されたヌードポスターのせいで業務に集中できないこと

なお、異性だけでなく同性に対するセクハラも、防止対策の対象となります。また、セクハラは被害者の性的指向や性自認を問わないため、いわゆるLGBT(性的マイノリティー)に対するセクハラについても、防止対策が必要となります。

2)マタニティーハラスメントとは

マタニティーハラスメント(以下「マタハラ」)とは、職場における妊娠等に関するハラスメントや、育児休業等に関するハラスメントのことです。前者は男女雇用機会均等法によって、後者は育児・介護休業法によって、その防止対策が企業に義務付けられています。マタハラの内容は、次の2つに大別されます。

1.制度等の利用への嫌がらせ

妊娠、出産等をした労働者が、産前産後休業や育児休業といった制度等を利用することを妨害したり、制度等の利用について不利益な取り扱い(示唆を含む)や嫌がらせをしたりすることによって、就業環境が害されることです。

例)産前産後休業や育児休業を請求しようとする女性労働者に請求の取り下げを迫ったり、解雇や雇い止めといった不利益な取り扱いをしたりする(そうした示唆を含む)

2.状態への嫌がらせ

労働者が妊娠、出産等をしたことについて、上司や同僚などの言動によって、就業環境が害されることです。

例)妊娠、出産等をした労働者に心ない言葉を浴びせるなど、繰り返しまたは継続的に嫌がらせをしたり、解雇や雇い止めといった不利益な取り扱いをしたりすること(そうした示唆を含む)

2 企業が講ずべきハラスメント防止措置の内容は?

企業には、セクハラおよびマタハラを防止するため、一定の防止措置を講ずる義務が課されています(男女雇用機会均等法第11条、第11条の2、育児・介護休業法第25条)。

企業が講ずべきハラスメント防止措置の内容は次の通りです。

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セクハラとマタハラを防止する上での基本は「セクシュアルハラスメントおよびマタニティーハラスメント防止規程」の策定と徹底です。規程には、図表の内容などを踏まえつつ、企業の就業の実態に応じた具体的な防止対策を定めます。

3 「セクシュアルハラスメントおよびマタニティーハラスメント防止規程」のひな型

以降で紹介するひな型は一般的な事項をまとめたものであり、個々の企業によって定めるべき内容が異なってきます。実際にこうした規程を作成する際は、必要に応じて専門家のアドバイスを受けることをお勧めします。

【セクシュアルハラスメントおよびマタニティーハラスメント防止規程のひな型】

第1条(目的)
本規程は、「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律」(以下「男女雇用機会均等法」)および関連法令に基づき、セクシュアルハラスメントおよびマタニティーハラスメントの防止、並びにそれらのハラスメントが発生した後の雇用管理上の対応について定めるものである。本規程は、役員および従業員(以下「従業員等」)に適用されるものとする。

第2条(セクシュアルハラスメントの定義)
1)セクシュアルハラスメントとは、職場における性的な言動に対する従業員等の対応などにより当該従業員の労働条件に関して不利益を与えること、または性的な言動により他の従業員等の就業環境を害することをいう。セクシュアルハラスメントに該当する具体的な行為は以下の通りである。なお、セクシュアルハラスメントの被害を受ける従業員等の性的指向や性自認は問わない。

  • 不必要な身体への接触。
  • 性的および身体上の事柄に関する不必要な質問・発言。
  • プライバシーの侵害。
  • 性的な内容に関する噂を社内外に流布すること。
  • 交際・性的関係の強要。
  • わいせつ図画の閲覧、配布、掲示。
  • 性的な言動への抗議または拒否などを行った当該従業員に対して、解雇、不当な人事考課、配置転換などの不利益を与える行為。
  • 性的な言動により、他の従業員等の就業意欲を低下せしめ、能力の発揮を阻害する行為。
  • その他、相手および他の従業員等に不快感を与える性的な言動。

2)「職場」とは、会社内に限らず、取引先、出張先など全ての業務遂行場所をいい、また、就業時間内に限らず、実質的に職場の延長とみなされる就業時間外の時間を含むものとする(以降、本規程において同様)。
3)第2条第1項第9号の「相手および他の従業員等」とは、直接的に性的な言動の相手となった被害者に限らず、性的な言動によって就業環境を害された全ての従業員等を含むものとする。

第3条(マタニティーハラスメントの定義)
従業員等の妊娠または出産、産前産後休業および育児休業の請求、その他の妊娠または出産の事由に関する言動により、当該従業員の就業環境が害されることをいう。

第4条(セクシュアルハラスメントおよびマタニティーハラスメントの防止)
1)全ての従業員等は、国籍、信条、性別、性的指向、性自認、職務上の地位・権限・職権、雇用形態に関係なく、職場において相手の人格や尊厳を尊重し、セクシュアルハラスメントおよびマタニティーハラスメント、あるいはそれらと疑われる行為をしてはならない。
2)管理者は、他の従業員等がセクシュアルハラスメントおよびマタニティーハラスメント(それらの疑い例を含む。以降、本規程において同様)を受けていることを知ったときは、それを黙認してはならず、速やかに第5条の「ハラスメント相談窓口」に通知しなければならない。
3)従業員等は、他の従業員等がセクシュアルハラスメントおよびマタニティーハラスメントを受けていることを知ったときは、速やかに第5条の「ハラスメント相談窓口」に通知しなければならない。

第5条(「ハラスメント相談窓口」の設置)
1)会社は「ハラスメント相談窓口」を設置する。「ハラスメント相談窓口」は、次の各号に定める業務を行うものとする。

  • セクシュアルハラスメントおよびマタニティーハラスメントに関する従業員等やその親族からの相談の受け付け。
  • 教育指導によるセクシュアルハラスメントおよびマタニティーハラスメントの未然防止。
  • セクシュアルハラスメントおよびマタニティーハラスメントの事実関係の確認など早期解決、再発防止。
  • その他、セクシュアルハラスメントおよびマタニティーハラスメントの未然防止、早期解決に資する業務。

2)「ハラスメント相談窓口」の責任者(以下「窓口責任者」)は総務部長とし、「ハラスメント相談窓口」の担当者(以下「窓口担当者」)は会社が個別に指名した従業員等とする。
3)会社は、窓口責任者および窓口担当者に別途定める「ハラスメント相談対応マニュアル」(省略)を配布する。窓口責任者および窓口担当者は当該マニュアルに基づき、セクシュアルハラスメントおよびマタニティーハラスメントの防止および対応に当たらなければならない。また、窓口責任者および窓口担当者は、会社が指定するセクシュアルハラスメントおよびマタニティーハラスメント防止教育を受講しなければならない。
4)会社は、窓口担当者の名前を人事異動などの変更の都度、従業員等に周知する。

第6条(セクシュアルハラスメントおよびマタニティーハラスメントへの対応)
1)セクシュアルハラスメントおよびマタニティーハラスメントの相談や報告があった場合、窓口担当者は、相談者からの事実確認の後、窓口責任者へ報告する。
2)窓口担当者は、相談者および行為者の名誉や人権等を不当に侵害しないよう配慮した上で、必要に応じて相談者、行為者および他の従業員等から事実関係を聴取する。
3)前項の聴取を求められた者は、正当な理由なくこれを拒むことはできない。
4)窓口担当者は、窓口責任者に事実関係を報告する。
5)セクシュアルハラスメントおよびマタニティーハラスメントの早期解決に困難な状況が生じた場合、窓口責任者は、男女雇用機会均等法に基づく紛争解決援助および調停など、中立的第三者機関を利用することができる。
6)セクシュアルハラスメントおよびマタニティーハラスメントの事実関係の確認が終了するまでの間、関係者に自宅待機を命じることがある。この期間中、会社は労働基準法第26条の「休業手当」を支払うものとする。
7)セクシュアルハラスメントおよびマタニティーハラスメントの事実が確定した場合、会社は行為者については就業規則に照らして処分を決定する。また、セクシュアルハラスメントおよびマタニティーハラスメントの被害者および行為者の配置転換など、被害者の労働条件上の不利益の回復等のために必要な措置を講じるものとする。

第7条(不利益な取り扱いの禁止)
会社はセクシュアルハラスメントおよびマタニティーハラスメントに関する相談や報告を行ったこと、または事実関係の確認に協力したことなどを理由として不利益な取り扱いを行ってはならない。

第8条(プライバシーの保護)
1)何人も、セクシュアルハラスメントおよびマタニティーハラスメントに関する相談および聴取などで知り得た情報を、みだりに第三者に漏洩してはならない。
2)窓口責任者および窓口担当者は、セクシュアルハラスメントおよびマタニティーハラスメントへの対応に当たって、被害者および行為者など関係する従業員等のプライバシーの保護に十分に留意しなければならない。

第9条(再発防止の義務)
窓口責任者は、セクシュアルハラスメントおよびマタニティーハラスメントの事案が生じたときは、周知の再徹底および研修の実施、事案発生の原因と再発防止等、適切な再発防止策を講じなければならない。

第10条(改廃)
本規程の改廃は、取締役会において行うものとする。

附則
本規程は、○年○月○日より実施する。

以上(2021年8月)
(監修 みらい総合法律事務所 弁護士 田畠宏一)

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画像:ESB Professional-shutterstock

【規程・文例集】「パワーハラスメント防止規程」のひな型

書いてあること

  • 主な読者:法改正に対応した会社規程のひな型が欲しい経営者、人事労務担当者
  • 課題:どの情報が正しいか分からない。シンプルで分かりやすい情報が欲しい
  • 解決策:弁護士や社会保険労務士など、専門家が監修したひな型を利用する

1 2022年4月1日より中小企業でもパワハラに対する防止措置が義務化

パワハラ(パワーハラスメント)は、「優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、就業環境が害されること」です。

2020年6月1日に改正労働施策総合推進法が施行され、パワハラに対する防止措置を講じる義務が企業に課されました(中小企業への適用開始は2022年4月1日)。違反すると都道府県労働局の助言、指導、勧告の対象となり、勧告に従わない場合は企業名公表もあり得ます。

パワハラに対する防止措置の内容は、次の通りです。

  • パワハラ防止の方針(パワハラがあってはならない旨など)の明確化、周知・啓発
  • パワハラ相談窓口の設置・運用(他のハラスメントの相談窓口と一体的に運用)
  • パワハラに関する相談があった場合の事実確認、行為者の処分と再発防止策の検討
  • その他の措置(プライバシーの保護、相談者などに対する不利益な取扱いの禁止など)

これらの措置を円滑に行うためには、その根拠となる規程を「パワーハラスメント防止規程」などの形で定めることが必要です。

パワーハラスメント防止規程を定め、従業員に周知することで、従業員はそれを遵守する義務を負い、違反した場合は懲戒の対象とすることもできます。

また、パワハラが生じた場合、被害者が企業に損害賠償請求をしてくることがあります。そうしたケースの多くでは、「企業の労務管理」が問題になりますが、パワーハラスメント防止規程を定め、適切に運用されているという事実は、企業が自社の実情に合わせて誠実にパワーハラスメント対策を進めていることの一つの証しとなり、損害賠償責任を免れることができます。

2 パワーハラスメント防止規程のひな型

以降で紹介するひな型は一般的な事項をまとめたものであり、個々の企業によって定めるべき内容が異なってきます。実際にこうした規程を作成する際は、必要に応じて専門家のアドバイスを受けることをお勧めします。

【パワーハラスメント防止規程のひな型】

第1条(目的)
本規程は、パワーハラスメントの防止およびそれが発生した後の雇用管理上の対応について定めるものであり、役員および従業員(以下「従業員等」)に適用されるものとする。

第2条(パワーハラスメントの定義)
1)パワーハラスメントとは、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超え、相手の就業環境を害することをいう。パワーハラスメントに該当する具体的な行為は以下の通りである。

  • 不殴打、足蹴りするなどの身体的暴力行為。
  • 相手やその親族、友人などの人格や尊厳を傷つける行為。
  • 業務遂行に関係のない要求を相手にしたり、自らの固定観念を相手に押し付けるような行為。
  • 業務遂行に関係のない事項について、執拗に相手から説明を求めること。
  • 違法行為を強要すること。
  • 相手を無視することや誹謗中傷すること、その他相手の名誉を傷つける噂を社内外に流布すること。
  • 業務遂行上の指導であっても、相手の人格や尊厳を侵害する言動を繰り返しとること。また、必要以上に叱責を繰り返すこと。
  • 業務遂行上の指導であっても、客観的に実現が不可能な内容を相手に求めて過度の精神的な苦痛を与えること。
  • 故意に情報を与えない、連絡事項を伝えない等の行為を繰り返し、職務遂行を妨害すること。
  • 解雇や降格など相手に雇用不安を与えるような言動をとること。
  • その他、相手の人格や尊厳を侵害する言動をとること。

2)前項の「職場」とは、会社内に限らず、取引先、出張先など全ての業務遂行場所をいい、また、就業時間内に限らず、実質的に職場の延長と見なされる就業時間外の時間を含むものとする。
3)第1項の「相手」とは、会社の従業員等に限らず、取引先、顧客など全ての業務遂行上の関係者を指す。

第3条(パワーハラスメントの防止)
1)全ての従業員等は、国籍、信条、性別、職務上の地位・権限・職権、雇用形態に関係なく、相手の人格や尊厳を尊重し、パワーハラスメントあるいはそれと疑われる行為をしてはならない。
2)所属長等は、従業員等がパワーハラスメント(疑い例を含む)を受けていることを知ったときは、それを黙認してはならず、速やかに「パワーハラスメント相談窓口」(第4条にて定義。以降同様)に通知しなければならない。
3)従業員等は、他の従業員等がパワーハラスメント(疑い例を含む)を受けていることを知ったときは、それを黙認してはならず、速やかに上司および「パワーハラスメント相談窓口」に通知しなければならない。

第4条(「パワーハラスメント相談窓口」の設置)
1)会社は、「パワーハラスメント相談窓口」を設置する。「パワーハラスメント相談窓口」は次の各号に定める業務を行うものとする。

  • パワーハラスメントに関する従業員等やその親族からの相談および苦情の受け付け。
  • 教育指導によるパワーハラスメントの未然防止。
  • パワーハラスメントの事実関係の確認など早期解決、再発防止。
  • その他、パワーハラスメントの未然防止、早期解決に資する業務。

2)「パワーハラスメント相談窓口」の責任者(以下「窓口責任者」)は総務部長とし、「パワーハラスメント相談窓口」の担当者(以下「窓口担当者」)は会社が個別に指名した従業員等とする。
3)会社は、窓口責任者および窓口担当者に別途定める「パワーハラスメント相談対応マニュアル」(省略)を配布する。窓口責任者および窓口担当者は当該マニュアルに基づき、パワーハラスメントの防止および対応に当たらなければならない。また、窓口責任者および窓口担当者は会社が指定するパワーハラスメント防止教育を受講しなければならない。
4)会社は、窓口責任者および窓口担当者の名前を、人事異動などの変更の都度、周知させる。

第5条(パワーハラスメントへの対応)
1)パワーハラスメント(疑い例を含む)の報告があった場合、窓口担当者は、相談者からの事実確認の後、窓口責任者へ報告する。
2)窓口担当者は、相談者の人権に配慮した上で、必要に応じて相談者、パワーハラスメントの疑いのある言動をした者(以下「行為者」)、被害者、上司並びに他の従業員等から事実関係を聴取し、関係する資料の提出を求める。
3)前項の聴取や関係する資料の提出を求められた従業員等は、正当な理由がない限り、調査に協力すべき義務を負い、事実を隠ぺいせず、真実を述べなければならない。また、聴取の対象となる事実関係や聴取を受けていることについて社内外で口外する等、会社の調査を妨害する行為をしてはならない。
4)窓口担当者は、窓口責任者に事実関係を報告する。
5)会社によるパワーハラスメント調査を適正に進めるため、又は被害拡大のおそれを避けるために必要と会社が判断する場合には、問題解決のための措置を講ずるまでの間、暫定的に行為者、被害者、上司並びに他の従業員等に対し、相談者等に対する接触の禁止、勤務場所の変更、自宅待機等の緊急措置を命じることがある。自宅待機の期間中、会社は労働基準法第26条の「休業手当」を支払うものとする。
6)パワーハラスメントの事実が確定した場合、会社は行為者については就業規則に照らして懲戒処分を決定する。また、パワーハラスメントの被害者および行為者の配置転換など、被害者の労働条件および就業環境を改善するために必要な措置を講じる。

第6条(不利益な取扱いの禁止)
会社はパワーハラスメントに関する相談や苦情を申し出たこと、または事実関係の確認に協力したこと等を理由として不利益な取扱いを行ってはならない。

第7条(プライバシーの保護)
1)何人も、パワーハラスメントに関する相談および聴取などで知り得た情報を、みだりに第三者に漏洩してはならない。
2)窓口責任者および窓口担当者は、パワーハラスメントへの対応に当たって、被害者および行為者など関係する従業員等のプライバシーの保護に十分に留意しなければならない。

第8条(再発防止の義務)
窓口責任者は、パワーハラスメント(疑い例を含む)の事案が生じたときは、改めてパワーハラスメント防止を周知徹底すると同時に、研修を実施するなど、適切な再発防止策を講じなければならない。

第9条(改廃)
本規程の改廃は、取締役会において行うものとする。

附則
本規程は、○年○月○日より実施する。

以上(2021年8月)
(監修 弁護士 田島直明)

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「べき論者」が変革を妨げる

書いてあること

  • 主な読者:入社3〜5年目でさらに成長したい中堅社員
  • 課題:率先して行動したいのだが、知らず知らずのうちに変革をストッパーになってしまう
  • 解決策:まずは自身の言動が、変革を妨げる要因になっていないか見直してみる

1 場を白けさせる発言

中堅社員のAさんは、全社をあげて業務効率を進める「業務改善委員会」のメンバーとして、会議に出席しています。この委員会は社長の肝煎りで、各部門の実務を担うエース級の人材が集まり、「会社を良くするために何をすべきか」という観点から議論をしています。

今日のテーマは、古くて新しいテーマである「5S(整理・整頓・清掃・清潔・しつけ)」です。現在、会社はリモートワークの影響などもあり5Sが徹底されておらず、多くの問題が起こっています。例えば、決算時に実地棚卸しをしたら、管理がずさんで所定の場所とは違うところから商品が出てきました。他にも、営業部では本来金庫にしまうべき顧客情報が記載された書類がデスクに放置され、行方が分からなくなってしまう事態が起きました。具体的な問題にはならず「ヒヤリ・ハット」で済んだものの、紛失していてもおかしくない状況です。

そこで、委員会では5S活動を徹底させようと、早期に取り組むべき重点項目の洗い出しと、大まかなスケジュールなどについて活発な議論をしていました。そんな中、中堅社員のAさんが、ふと

リモートワークによる混乱は分かりますが、そもそも5Sの徹底はそれとは関係なく、当然のことですよね。重点項目の洗い出しよりも、全ての部門で「5S」を徹底させるべきじゃないですかね

と発言しました。その発言で、それまで活発に議論されていた場が、一気に“白けた”空気に変わってしまいました……。

2 変革の先頭に立とう

業務の仕組みや組織の文化を変えるといった組織変革は、全ての会社にとって大切なテーマです。このとき、中堅社員は変革を先導して、成功に導いていかなければならない立場です。

にもかかわらず、次に紹介するような言動で、変革の足を引っ張ってしまう人もいます。

1)「べき論」で語る人

代表的な例が、Aさんのように実現性の低い理想論を持ち出して、「こう変えていくべきだ」と語る「べき論者」です。

べき論者となる理由は、その課題について具体的に掘り下げて考えていないためです。だからこそ、実情にそぐわない理想論しか語ることができません。しかし、本人はその事実に気が付いていません。実のある議論を壊しているのにもかかわらず、本人は「5S推進についてしっかり考え、意見している」と思い込んでいます。

だからこそ、その課題について具体的に掘り下げて考えている人にとっては、べき論者の意見は場違いでしかなく、周囲は“白けた”空気になってしまうのです。

理想を模索することは大切です。しかし、変革を先導していく立場にある中堅社員は、「夢見る現実者」でなければなりません。べき論者にならないようにするためには、その課題を現実的な話として、しっかりと考えることです。

Aさんであれば、「自分が先頭に立って5Sを浸透させるために、何をどのように進めていくか」ということを現実的にイメージすることです。手順・スケジュール・必要となる予算や人員など、5W2Hで考えてみるのです。そうすれば、自分の意見が妥当なものか、それとも単なる理想論なのかは判断できるはずです。

2)「検討します」という人

「検討します」という人も、変革を妨げることがあります。新しいことに取り組む際は、さまざまな不安があります。そのため、例えば、上司から「このように変えることはできないか」と変革に関する相談を受けても、すぐには判断できないことがあります。

そのとき、つい口にしてしまうのが、「検討します」という言葉です。

しかし、単に「検討します」というだけでは、結論が出ずに終わることがほとんどです。他意はなくても、日々の仕事に忙殺される中で検討は後回しになり、うやむやになってしまいがちです。

変革が成功するか否かは、事前に判断できるものではありません。であれば「検討します」と立ち止まるのではなく、早急に行動に移す方法を考えるようにしましょう。とにかくやってみて、もし、問題があれば改善していくというスタンスで進めるのです。

なお、本当に時間をかけて検討したい事項があるのであれば、課題と期限を明確にしなければなりません。

3)失敗の原因を他のせいにする人

「5S活動の推進」のような社員の行動を変えなければ実現できない変革は、組織に定着させるのには時間がかかります。

そのため、「取り組んではみたものの、組織に定着しない」「定着したと思ったものの、時間がたつと、元に戻ってしまった」という失敗はよくあります。このようなとき、「皆、忙しくて十分な時間がなかった」「皆が言うことを聞いてくれなかった」と、失敗の原因を他のせいにする人がいます。

もちろん、こうした点も失敗した原因の1つであることは間違いないでしょう。しかし、見落としがちなのが、中堅社員などの変革を先導する人自身の「諦め」です。

重要なことであれば、忙しくても時間を確保して続けなければいけませんし、取り組みに消極的な人がいれば、繰り返し指導しなければいけません。また、問題があれば、それを解消しながら進めることが求められます。これらを実現するために何より大切なことは、中堅社員自身が改革を率先垂範していくことです。中堅社員が根負けしてしまっては、変革は成功しません。

3 変えるためには、変わること

変革というと、「会社の仕組みや社員の行動を変えなければならない」と、自分以外に視点が向きがちです。しかし、変革は一人一人の行動から始まります。まずは自身の言動が、変革を妨げる要因になっていないか見直すことから始めましょう。

以上(2021年8月)

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画像:JackF-Adobe Stock

上司の皆さん、ピンチのときに頼れる部下を育てられていますか?

書いてあること

  • 主な読者:いざというときに自分の代行ができる「頼れる部下」を持ちたい人
  • 課題:部下に関心を持てないし、自分の分身になるような教育をしてしまう
  • 解決策:衝突をいとわずに、思いやビジョンを共有する。進むべき道が共有できたら、部下を信じて任せる

1 頼れる部下の育て方?

「本当に助かったよ。ありがとう!」。そう言って中堅社員のAさんに「肘タッチ」を求めたのは、Aさんの上司であるB部長です。あまり人を褒めないB部長ですが、今回ばかりはAさんに感謝しています。

B部長の家族が病気になり、B部長は看病のために2週間も休まなければならなかったのですが、その間、中堅社員のAさんがB部長の代行を立派に務めたのです。Aさん自身も多忙でしたが、ここが正念場と踏ん張ってB部長を助けたのでした。

そんなAさんの活躍はすぐに社内に知れ渡り、頼れる部下を持つことを羨む他の部長たちがB部長のところに話を聞きに来ました。「どうやったら、Aさんみたいな部下が育つの?」。するとB部長は、次のように返しました。

「根本的な思いを共有する努力が必要だね。『今、私たちはなぜこの仕事をしていて、将来、どこを目指すのか?』。みんなのビジョンは明確になっているか? そして、それを部下に繰り返し伝えているか?」

2 関心を持てないことは“罪”である?

上司に求められる根本的な要件は、「人(相手)に関心を持つこと」です。企業規模や業種によって異なりますが、課長クラスになれば一定数の部下がいるでしょう。しかし、人(相手)に関心を持たないまま役職が上がると、「部下の様子や業務の進捗状況をきちんと把握できない」という、いわゆる問題上司になってしまいます。顧客などに対しても同様で、相手の立場で考えて、行動することができません。

周囲に関心を持つことは上司の最低限の条件ですが、さらに求められるのは、部下と思いやビジョンを積極的に共有することです。考え方は人それぞれで、部下と衝突することもあるでしょうが、それでも問題ありません。むしろ、衝突できるくらいの関係になったほうがよいのです。

思いやビジョンが共有できれば、途中で意見の食い違うところがあっても、向かうべき先が同じなので安心して部下に任せることができますし、“箸の上げ下ろし”のような細かな話をしなくても済みます。

3 型にはめずに“共育”する

自分の分身のようになることを部下に求める上司が少なくありません。しかしこれは、「上司のやり方」に部下をはめ込んでいるだけであり、その部下は、上司の以上に育つことはないでしょう。また、考え方も似てくるので多様性もありません。

ピンチのときに頼れる部下とは、

基本は押さえながらも、自分で判断し、行動できる存在

です。事あるごとに行動パターンを詰め込んでいく上司のもとでは、こうした部下は育ちません。全ての部下がそうであるとは言えませんが、上司の目には、「この部下は他とは違う」という輝く存在がいるはずです。そうした部下とは、ディスカッションを繰り返しながら、共に学び合う“共育”の関係を築くことが大事です。こうすることで互いのことを深く理解することができ、理解しているからこそ、ピンチのときに「任せた!」と言うことができます。

「この部下は他とは違う」と気づくには、繰り返しになりますが、まず人(相手)に関心を持てなければなりません。

以上(2021年8月)

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画像:Friends Stock-Adobe Stock

【朝礼】お客様に感謝される秘訣

先日、営業部のAさんがお客様のハートをつかむ素晴らしい働きをしてくれたので紹介します。ぜひ、皆さんもお手本にしてください。

Aさんの上司であるB課長から私が受けた報告によると、今回の件は、次のようなAさんの進言から始まりました。

「C社に提出した報告書で引用しているデータの最新版が公表されました。トレンドが少し変わったようです。C社の担当者は、その資料を使って3日後に会議をするはずなので、すぐに更新版を送ったほうがよいと思います。このままだと、担当者は他の出席者からデータが古いことを指摘され、立場が悪くなる恐れがあります」。

この進言をB課長は受け入れ、すぐに報告書の更新と再提供をAさんに指示しました。この対応はC社の担当者から深く感謝され、信頼関係が強まったそうです。

このようないきさつを、B課長は誇らしげに私に報告してくれたわけです。

「先んずれば人を制す」と言います。Aさんが先手を打って対応してくれたからこそ、わが社はC社とより良い関係を築くことができました。逆に、Aさんの進言がなければ、C社の担当者は「データが古い!」と会議で指摘されてしまったかもしれません。その場合、担当者の怒りの矛先は当社に向かい、「データが更新されたのなら教えてほしい。お金を払っているのだから」とクレームを言ってきたでしょう。

このように、ビジネスの局面はたった1つの行動によってがらりと変わります。皆さんがビジネスを有利に進めるためには、Aさんのように、こちらのほうから先に行動を起こして、自分たちのペースをつくることも必要です。そのために、皆さんは次の2つのことを実践してください。

1つ目は、お客様や取引先に少なくとも月に一度は連絡をして、相手の状況をできるだけ把握することです。今、相手が何をしようとしているのか、どのようなことを懸案事項と認識しているのか、いつ私や上司に質問されても答えられるくらいにしておいてほしいのです。

2つ目は、声に出すことです。少しでも「おかしい」「こうしたほうがいい」と思ったら、そのことを上司や周りに必ず伝えましょう。そうすれば、その件は検討事項となり、何らかの行動を起こすことにつながります。

以上、Aさんのことを中心にお話ししましたが、最後に、B課長にもお礼を言いたいと思います。AさんがC社を含めお客様や取引先に月に一回以上の連絡をしていたのは、B課長がそうしているのを見てきたからです。また、Aさんが臆することなく進言できたのは、B課長が部下の言葉に耳を傾ける姿勢を示してきたからです。そしてB課長は、C社のことを自分ではなくAさんの手柄として私に報告してきました。簡単なようでなかなかできることではありません。管理職の方は、ぜひ、チームづくりの参考にしてください。

以上(2021年8月)

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画像:Mariko Mitsuda

【朝礼】茶道の精神「一期一会」で“マンネリ”を打破しよう

そろそろ今年度の上期末を迎える時期です。皆さんの中には、「忙しいけれど充実した日々を過ごしている」という人が多いでしょうが、一方で、「毎日同じことの繰り返しでつまらない」と、仕事に“マンネリ”を感じている人もいるかもしれません。そこで皆さんに問いかけたいのですが、そもそも「仕事は毎日同じことの繰り返しだ」という認識、これは本当に正しいのでしょうか。今日は、自分の仕事への姿勢を考え直すためのヒントになる話をします。

私には、趣味で長年茶道を続け、数年前自分の家に茶室を造った友人がいます。先日、初めてその茶室を訪れる機会があり、お茶をごちそうになりました。訪れた茶室は数畳の小さな部屋で、茶室を飾るのも茶道具、掛け軸、花といった最低限のものだけ。意地悪な言い方をすれば簡素な部屋なのですが、私はその茶室を非常に奇麗だと感じました。

それもそのはず。友人は、人が来るたびに茶道具を必ず磨き、掛け軸や花も毎回変えているそうです。その理由について、友人はこう話しました。「お茶はいつでも飲めるけど、『同じそのお茶』が飲める機会は二度とない。だから1回のお茶を意味のあるものにしたい。『一期一会(いちごいちえ)』の精神だよ」。私はその言葉になるほどと思うと同時に、皆さんの仕事にもこの一期一会の精神を当てはめることができるのではないかと考えました。

まず、日々の仕事にマンネリを感じている人の仕事は、本当に同じことの繰り返しでしょうか。営業、総務、経理、企画、どの仕事にも必ず“相手”がいます。お客様や取引先だけではありません、一緒に仕事をする会社の仲間だってそうです。そして、茶道と同様、その相手とその時間を共有できるのは1回限りです。「相手との時間を意味のあるものにするにはどうすればいいか」を突き詰めて考えれば、おのずと仕事の中に工夫が生まれます。「同じことの繰り返し」ではないはずです。とはいえ、人間のエネルギーには限界があり、この工夫を続けるのは、なかなか大変でしょう。

そこでもう1つ考えたいのが、仕事量のコントロールです。諸説あるようですが、茶室が一般的に小さく簡素な造りになっているのは、一期一会の精神を実現しやすくするためだそうです。つまり、人が来るたび、茶道具や掛け軸、花などを無理せず奇麗に整えられるようにするため、茶室はあえて小さくし、道具も最低限のものだけにとどめているわけです。皆さんが抱えている仕事についても同じです。お客様や取引先、会社の仲間にとって必要のない“ムダ”な仕事があるのなら、思い切ってそれをやめてみましょう。そして、空いた時間を、「仕事の相手との時間をより良いものにするための工夫」に充ててください。

「工夫をやめない、ただし無理をしない」。これが皆さんに求める仕事の姿勢です。実践すれば、マンネリを感じる暇もないはずです。

以上(2021年7月)

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画像:Mariko Mitsuda

意匠権/知的財産権をビジネスで活用する(2)

デザインにはトレンドがあります。話題の飲食店の内装からアプリのUIに至るまで、あるデザインがはやると、それをまねたものが出てきます。せっかく試行錯誤したデザインを守りたい。そんなときに活用できるのが、「意匠権」です。

1 意匠権とは

意匠権は、意匠について特許庁に意匠出願して、審査をクリアした後に登録することで取得できます。
意匠とは、いわゆるデザインのことであり、意匠権の対象となるのは、

1.物品・建築物・画像の、2.形状・模様(+色)という2つの要素からなるデザイン

です。デザインの権利といえば、著作権をイメージするかもしれませんが、著作権は純粋美術が対象であるのに対して、意匠権は工業上利用できるデザインが対象です。どのようなものが意匠に該当するのか? など意匠の詳細は、後述する「3 意匠権の対象となる意匠が満たす4つのこと」で紹介しています。

意匠権の取得には、次のようなメリットがあります。

  • 意匠権の存続期間中は、意匠権者(意匠権を持つ権利者)だけが、そのデザインを独占排他的に実施することができる
  • 意匠権の侵害があった場合、特許権者は侵害者に対して差止請求権、損害賠償請求権などの権利を行使することができる
  • 自社のデザインを使用したいという他者とライセンス契約を結び、ライセンス料を得ることができる
  • 意匠権=自社にしかないデザインであることを広くアピールでき、ブランディングに役立つ

意匠権の保護期間は、出願から25年(2020年3月31日以前の出願は登録から20年)をもって満了します。

2 意匠出願で注意すべきこと

1)一意匠につき一出願

原則として、意匠ごとに出願をすることになります。例えば、自動車とそのおもちゃのように、デザインが同じようなものでも物品が異なる場合、それぞれの出願が必要です。
ただし、例外もあり、次のような場合は1つの意匠として出願できます。

  • 組物意匠:フォークとナイフのように同時に使用される2以上の物品
  • 内装の意匠:複数の物品や建築物、画像から構成される内装の意匠

また、1つの意匠ではないものの、「関連意匠」という制度があります。この制度は、出願人が同じであることを条件として、類似する複数の意匠を関連意匠として出願することができ、それぞれの意匠について意匠登録を受けることができます。

関連意匠のイメージ画像です

ヒット製品のデザインなどは、製品の一部分だけを変更して、デザインがまねされる場合があります。関連意匠を登録しておくことで、より広い範囲で権利侵害に対抗できます。

2)戦略的な意匠出願が重要になる

前述した通り、関連意匠を活用することで、広い範囲で権利侵害に対抗できます。ただし、出願時や更新時のコストや手続きに手間がかかるため、どの意匠について関連意匠で権利を取得するのかは、しっかり検討する必要があります。
また、意匠には、最長3年を限度として意匠の内容を公表せず秘密にできる「秘密意匠制度」があります。この制度は、意匠の創作後、すぐに製品化しない場合も利用できるので、製品化と並行しながら出願をしておき、製品販売時には既に意匠が保護されるようにしておくなどの準備もしておきましょう。

3 意匠権の対象となる意匠が満たす4つのこと

意匠法が定義する「意匠」とは、次の4つを満たしているものになります。

1)物品、建築物または画像と認められるものであること

意匠法上の物品、建築物または画像とは次の通りです。

  • 物品:有体物であり、市場で流通する動産
  • 建築物:
    1.土地の定着物であること、
    2.人工構造物であること(土木構造物を含む)
  • 画像:
    1.物品または建築物の一部でないこと、
    2.操作画像または表示画像に該当すること

2)物品、建築物または画像自体の形状等であること

物品などそのものが有する特徴または性質から生じる形状等でなければいけません。従って、ナプキンをたたんで作った花の形態やネクタイの結び目などは該当しません。

3)視覚に訴えるもの

意匠は、視覚(肉眼)で認識されるものでなければなりません。顕微鏡で拡大しないと認識できないような物品、例えば、粉状物の粒一つ一つといった微細なものは該当しません。

4)視覚を通じて美感を起こさせるもの

意匠は、見た者に美感を起こさせるものでなければなりません。従って、機能、作用効果を主目的としたもので、美感をほとんど起こさせないものや、意匠としてまとまりがなく、煩雑な感じを与えるだけで美感を起こさせないものは該当しません。美感は、芸術作品のように高度な美を要求するものではなく、何らかの美感を起こさせるものであれば十分とされています。

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4 意匠権を取得することができる意匠の要件

前述した、意匠の定義を満たすだけでなく、次の4つに該当しなければ、意匠権は取得できません。

1)工業上の利用可能性を有していること

意匠権を取得するためには、その意匠が工業上利用できるものでなければなりません。なお、ここでいう「工業上利用できる意匠」とは、工業的(機械的・手工業的)な生産過程を経て、反復して量産できる製品の意匠をいいます。
例えば、絵画などの美術品、盆栽など自然物を意匠の主体にしたもので、量産できないものは工業上利用できる意匠には該当しません。

2)新規性を有していること

意匠登録出願前に、出願の意匠と同一または類似の意匠が公に知られていないことが求められます。「紙面で公表した」など、自ら広く世間に知らしめた場合も、原則として公表後に出願した意匠は新規性のないものとして取り扱われます。
ただし、自ら公知した日から6カ月以内に出願するとともに、所定の手続きを行うことで、意匠登録を受けられる場合もあります。

3)創作性を有していること

新規性を有する意匠であっても、当業者(意匠の属する技術分野において通常の知識を有する者)が容易に創作できると判断された意匠は、意匠登録を受けることができません。例えば、「エッフェル塔を模しただけの置物」などが該当します。

4)先願であること

同一または類似の意匠について2つ以上の出願があった場合、先願の意匠登録出願人の出願のみが意匠登録されます。もし、同日に2つ以上の出願があった場合は、意匠登録出願人同士の協議によって、一方の意匠登録出願人のみがその意匠について意匠登録を受けることができます。協議が成立せず、または協議をすることができないときは、いずれも、その意匠について意匠登録が受けられません。
出願前には、同様に同一または類似の意匠がないかについて、特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)を利用して、先行調査をしておきます。

この他、各国元首の像や国旗、皇室の菊花紋章や外国の王室の紋章などを用いたもののように、公序良俗に反するものおよび他人の業務に係る物品、建築物または画像と混同を生ずる恐れのあるものは、公益的な見地から意匠登録を受けることができません。

5 意匠権を取得する際の手続き

意匠について意匠権を取得するためには、特許庁長官に対して意匠出願を行わなければなりません。意匠出願から意匠権取得までの流れは次の通りです。

意匠権を取得する際の流れを示した画像です

出願後、一次審査通知までの期間は平均6.3カ月であり、出願から権利化までの期間は平均7.1カ月の期間を要します(2020年度)。
しかし、特許庁では「早期審査」という制度を設けており、通常よりも短期間で審査の通知が届く制度があります。審査の通知が届くまでの期間は、早期審査の場合は平均2.5カ月です。早期審査の対象は、権利化について緊急性を要するものなどの要件があります。詳細については、特許庁のウェブサイトで紹介されています。

また、意匠登録出願の際には、所定の書類を特許庁に提出しなければなりません。意匠登録出願時に必要となる書類は次の通りです。

意匠登録出願時に必要となる書類を示した画像です

意匠出願の際には、1万6000円(定額)を特許庁に納付します。
また、審査をクリアした後、意匠登録料の納付が必要です。意匠登録料は、登録第1年から第3年までは毎年8500円、登録第4年から第25年までは毎年1万6900円です。
取得のための手続きや出願費用などの詳細は、特許庁のウェブサイトで紹介されています。

以上

(監修 有村総合法律事務所 弁護士 栗原功佑)

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2021年8月16日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

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