「できて当然」の業務に大苦戦 大人の発達障害との向き合い方

書いてあること

  • 主な読者:いつまでたっても仕事が上達しない社員を持つ上司・経営者
  • 課題:仕事が上達しない要因として発達障害の可能性がある
  • 解決策:発達障害の特徴や実際の対処例を参考にし、それに応じた取り組みを検討する

1 “大人の発達障害” 10人に1人が当てはまるとも

「単純なミスを何度も繰り返す」「毎回時間を守れずにクライアントとトラブルになる」。皆さんの会社に、このような社員はいませんか。社員をマネジメントする立場から見ると、頭の痛い存在かもしれませんが、頭ごなしに叱る前に知っておきたいことがあります。

それは、「発達障害」のことです。発達障害とは、

脳機能障害の一種です。症状には個人差があり、「忘れっぽい人」や「おっちょこちょいな人」などをどこまで含めるかにもよりますが、一説には総人口の10%程度が何らかの発達障害に当てはまる

ともいわれます。

このことを知らずに、接し方や指導方法を誤れば、パワハラやうつ病などを引き起こす恐れもあります。この記事では、発達障害の種類と特徴を確認し、業務上で見られがちな傾向やコミュニケーションのポイントなどを紹介します。

2 発達障害の種類は大きく3タイプ。複合タイプもある

1)ASD、ADHD、LDの3つのタイプ

発達障害のある人の脳は、そうではない人の脳と比べて、機能に障害があり、発達にバラツキがあります。「できること」と「できないこと」のギャップが大きく、コミュニケーションや社会生活に支障が出る場合があります。

発達障害になる原因は完全には解明されていません。先天的な遺伝、両親の出産時の年齢や健康状態、化学物質による環境汚染などが影響しているともいわれています。

発達障害として「ASD(自閉スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害)」「ADHD(注意欠如・多動症/注意欠如・多動性障害)」「LD(学習障害)」がよく知られています。これらの症状に明確な境界はなく、それぞれの特徴を複数持ち合わせている人もいます。

画像1

2)発達障害の種類その1:ASD

ASD(自閉スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害)には、自閉症やアスペルガー症候群などが含まれます。以前は、広汎性発達障害と呼ばれることもありました。

一般的に、ASDの人は相手の気持ちや場の空気を読んだり、意思疎通を円滑に図ったりすることが不得意とされています。また、臨機応変に対応することが苦手なため、自分が慣れ親しんだ手順や環境のほうが安心する傾向があります。

その上で、自閉症の人は、言葉の発達の遅れ、コミュニケーションにおける困難さなどの特徴を持っていることが多くあります。

アスペルガー症候群の人も自閉症と同様の特徴がありますが、言語の発達の遅れはあまり見られず、知能の発達にも明確な遅れはありません。

ASDの傾向がある社員への接し方として、以下のようなものが想定されます。

  • ASDのケース:曖昧な指示や表現の理解に苦労する場合

上司から「最近(仕事の)調子どう?」や「あの商談どうなっている?」と聞かれた際に、的外れなことを答えたり、どの商談のことかが分からなかったりする

上司は、ASDの社員には、具体的に短く指示を出すことを心掛けます。例えば、実際に上司が指示の一部をやってみせたり、「PDF作成、セキュリティーは◯◯」などの指示をまとめたデータを当人に渡したりするのがよいでしょう。

3)発達障害の種類その2:ADHD

ADHD(注意欠如・多動症/注意欠如・多動性障害)の人は、色々なことに気が散ってケアレスミスを繰り返したり、締め切りや納期を守れなかったりします。また、1つの作業や仕事に何時間も休みなく集中し過ぎて、他のことに全く手が着かなくなることもあります。これを「過集中」と呼びます。

ADHDの人は、不注意優勢型、多動性―衝動性優勢型、その両方の特徴を持つ混合型の3種類に分けられます。

不注意優勢型の人は、必要なことに注意を向け、集中することが苦手です。身の回りの整理整頓も苦手で、忘れ物が多かったり、約束の時間に遅れたりします。

多動性―衝動性優勢型の人は、じっとしていることが苦手で、衝動的に行動を起こすことがあります。会話を遮って一方的に話したり、列の順番を待てなかったりもします。

ADHDの傾向がある社員への接し方として、以下のようなものが想定されます。

  • ADHDのケース:複数の作業を同時にできない場合

上司から指示を聞く際や、電話応対の際に、話を聞きながらメモを取ることができない。話を聞く(理解する)ことばかりに集中してメモを取り忘れたり、メモを取ることばかりに集中して、話の内容が理解できなくなったりしてしまう

上司は、1つずつ指示を出すことを心掛けます。また、一度に複数の作業の指示を出す際は、作業を1つずつ書き出し、取り組むべき順に番号をつけて渡すとよいでしょう。この他、ADHDの社員が電話応対する際は、「1.日時」「2.相手の氏名」「3.電話の宛先」「4.件名」「5.依頼事項」など、メモを取るべき項目についてフォーマットを作成しておくと効果的です。

ADHDの社員と接する際は、ミスがあることを前提とし、リカバリーできる方法や工夫を考えていくことが大切になります。

4)発達障害の種類その3:LD

LD(学習障害)は、全般的な知能の遅れは見られないものの、読む、書く、聞く、話す、計算するなどのうちいずれかの能力の習得と使用に著しい困難が見られます。

例えば、読む能力に困難が生じている障害は、読字障害・難読症・ディスレクシアなどと呼ばれており、似たような形の文字を識別できなかったり、文章を理解できなかったりします。また、マニュアルの内容を理解できなかったり、メールの文面を見落としたりすることもあります。

文字を書く能力に困難が生じている障害は、書字障害やディスグラフィアと呼ばれており、左右反転の文字である鏡文字を普段から書いてしまったり、誤字脱字の多い文章や文字の大きさのバランスが悪い文字を書いてしまったりします。また、メモを素早く取ることができなかったり、文書の作成に時間がかかったりします。

LDの傾向がある社員への接し方として、以下のようなものが想定されます。

  • LDのケース:文字の識別や文章の理解に苦労する場合

議事録や報告書、メールの文面を読んだり、その内容を把握したりするのに苦労する

上司は、文章読み上げソフトやレコーダーなどのツールの活用を検討してみましょう。その他、文字の大きさやフォントを変えて文字を読みやすくしたり、パソコンの作業用画面の背景色を明るい色から落ち着いた色に変更したりすることで、症状が改善したケースもあります。

LDは他の発達障害を併発している場合が多く、ASDやADHDの人に有効な対応方法も含めて、症状に応じた対策が必要です。

3 困ったときは周囲の「自己診断」よりも専門家に相談を

これまで、発達障害のある人の特徴と接し方の例を挙げてきました。前述の通り、こうした症状や程度は千差万別です。重要なのは、個別の社員が抱える特徴ごとに、接し方や指導方法を工夫することです。

障害者の就労支援事業を行っているLITALICOパートナーズによると、職場での少しの配慮や工夫だけで働きやすい環境となり、課題が解決される場合があるそうです。

例えば、「周囲の同僚の動きなどが気になって集中できず、同じミスを繰り返していた社員がいたケースでは、壁に向いて座るように座席を変えただけで、その社員が集中力を保つことができるようになり、ミスが減った」といいます。

他にも、「適材適所に配置することも有効で、当人の苦手な業務が極力少なく、発達障害の特徴が有効に発揮できる業務を任せる、という考え方もある」としています。例えば、1つのことに集中することが得意な人には、会話の中で臨機応変な対応が求められる電話応対業務よりも、大量の販売データから、顧客の隠されたニーズをつかむような分析が向いているといえるかもしれません。

注意しなければならないのが、発達障害の症状があるからといって、専門家でない人が安易に発達障害だと判断しないことです。発達障害の症状の中には、うつ病などのメンタルヘルス疾患などと似たものもあります。誤った判断をすれば、事態を悪化させたり、当人を傷つけてしまったりする可能性もあります。

そのため、発達障害の症状が顕著な社員がいた場合には、本人の悩みや課題に理解を示した上で、専門家に相談したり、医療機関の受診を促してみたりするのがよいでしょう。

例えば、発達障害情報・支援センターでは、発達障害のある人やその関係者からの相談などを受け付けている他、必要に応じて関係機関の紹介も行っています。

以上(2021年8月)
(監修 株式会社LITALICOパートナーズ)

pj00215
画像:pexels

社会課題と政策への感度を高める/経済性と社会性を両立させる中小企業のSDGs(1)

書いてあること

  • 主な読者:SDGsに本格的に取り組みたいけれど、企業としての損得勘定も気になる経営者
  • 課題:経済性と社会性を両立させるSDGsの取り組み方を知る
  • 解決策:自社の強みを、解決すべき社会課題と政策にマッチさせる。または政策感度を上げて政府や行政が注力するテーマを把握し、自社の事業にマッチさせる

1 コロナ禍で分かった、企業の危機管理と社会課題の解決が直結していること

1)コロナ後の中小企業が向かうべき針路は「SDGs」

2020年の実質GDP成長率が前年比4.8%減と落ち込み、東京五輪・パラリンピックでは多くの試合が無観客で、期待していたほどの経済効果が得られなくなった今、「コロナさえなければ……」と思っている方は少なくないでしょう。しかしながら、社会はコロナ前に戻ることはできません。中小企業の経営者の皆さんも、コロナ禍を機に、今までのビジネスモデルが全く通用しない時代に突入していると実感されているのではないでしょうか。このような中で私たちはどこに向かえばいいのでしょうか? 私は、その答えは、「SDGs」にあると思っています。

国際連合が掲げたSDGs(Sustainable Development Goals=持続可能な開発目標)とは、個人や企業が地球の社会課題に向き合い、変化に対応していくことで、持続可能な社会を作るための17の目標です。SDGsが採択された2015年以前にも、マラリアやSARS(重症急性呼吸器症候群)、MERS(中東呼吸器症候群)といった感染症は世界で大きな問題になっていましたが、日本では運良く感染が広がることはありませんでした。今回、

コロナによって初めてパンデミックを経験した日本は、国民と企業と政府が一丸となって感染症の抑止、つまり持続可能な社会づくりに取り組むことの必要性を悟った

のではないでしょうか。

2)経済性に取り組むプロ集団と、社会性に取り組むプロ集団との融合を

私は、これまで日本の企業は、社会課題への感度、また政策への感度が低かったのではないかと考えています。それがコロナ禍を機に、企業の危機管理が社会課題の解決に直結しているということを認識したのではないでしょうか。新しいビジネスモデルへの転換が求められている中で、中小企業はもっと社会課題、そして政府や地方自治体が作る政策に目を向けなければなりません。これは、企業が経済性と社会性の両立を目指すということでもあります。

私が共同代表を務める一般社団法人SDGsマネジメント(以下「SDM」)は、企業が経済性と社会性の両立を実現させるために、SDGsの導入支援をしています。私たち中小企業は、「ビジネス=経済性」に取り組むプロ集団であります。それに対して、政府や地方自治体の職員は、「社会課題=社会性」に取り組むプロ集団であります。企業にとっても社会にとっても、この2つのプロ集団の融合が求められているのです。このシリーズでは、中小企業が経済性と社会性の両立を実現させるためのSDGsの取り組み方について、3回に分けてご説明します。

2 「どんな社会課題を解決する会社なのか?」を打ち出す

SDMでは、SDGsを導入しようとする企業に必ず質問することがあります。

「あなたの会社は、どこの、どんな社会課題を、誰と解決をするのですか?」

この質問をされたときに、まず企業が当たる壁は、社会課題が分からないということです。経営者の感覚的に回答をいただくことはできますが、数値的な根拠=エビデンスをもって回答いただける方はほとんどいません。その理由は、自社の商圏内での政策を見ていないからです。

私たちSDMは、政策の調査研究をします。最初に見るのは、政府がおおむね毎年7月に発表する「骨太の方針」(経済財政運営と改革の基本方針)です。日本の中でもトップクラスの国家公務員の皆様が、自分の省庁の担当政策を、この骨太の方針に1行書き入れてもらうために、粉骨砕身して作り上げられます。日本の課題や方向性が端的に表現されている資料であり、これを読み込まずして日本を知ることはできません。

次に見るのは、商圏の地方自治体の総合計画や「まち・ひと・しごと創生総合戦略」などです。これは、骨太の方針と違い複数年度にわたる計画ですが、商圏の人口動態やそれに伴う社会課題、産業政策などが記載されています。資料はインターネットの検索エンジンを通じて簡単に調べることができます。これらを調査し、読み込み、自分の事業と関わりそうな文面をマークすることで、ようやく自社の事業と社会課題の付き合わせができるようになります。

3 中小企業のSDGsは「事業と政策とのマッチング」で実現

では、具体的にどうやって「自社がどんな社会課題を解決する会社か」を決めるのか、実例を基にご説明します。

SDMの共同代表である西岡徹人さんが代表を務めるSUNSHOW GROUP(以下「SG」)は、第2回ジャパンSDGsアワードを受賞されました。SGでは、毎年SDGsへの取り組みを「SDGs REPORT」としてまとめ、発信をしています。この報告書から我々が学ぶべきポイントは、中小企業のSDGsは「事業と政策とのマッチング」であるということです。

SGは、全社ではなく事業部ごとに政策とマッチングさせています。例えば、SUNSHOW夢ハウスというブランドで低価格住宅の販売を手がける事業部は、主にSDGsの中のゴール1:「貧困をなくそう」に貢献することを掲げています。従来、低価格の商品を売るのは、競合他社に価格競争で勝つことを目的にしてしまいがちですが、SGでは社会課題解決を目的としています。

画像1

では、どのように社会課題を設定しているかを、SGを例に説明します。

画像2

1)事業の目指すべき姿を設定する

まず、SUNSHOW夢ハウスという事業の強み=ローコスト・価格優位性が、経済的価値だけでなく、社会的価値にどのように貢献するのか? を仮説として設定します。この場合は、「相対的貧困の解消」という仮説を設定しました。

2)エビデンスデータを収集する

次に、仮説を立証するためのエビデンスデータの収集をします。先に述べたように、このエビデンスに最も適しているのが、国や地方自治体が出すさまざまな計画です。SGの場合は、国レベルでは「子供の貧困対策に関する大綱」を、県レベルでは「岐阜県子どもの貧困対策アクションプラン」を参照しています。

3)事業指標=ビジネスインディケーターを設定する

その上で、単に低価格住宅を造り、販売するという目標だけでなく、SDGsのターゲットに準じた指標を設定し、事業内容との整合性をとります。この指標設定に役立つのも政策であります。社会性に取り組むプロ集団が作成する政策には、必ずKPI=Key Performance Indicator(重要業績評価指標)が設定されています。

これは、社会課題に対して重点改善項目を設定し、政策を実行することで、いつまでに、どれくらい改善が見込まれるかを指標化したものです。行政の指標なので、視点が大きいものもありますが、その中でも自社の事業に置き換えた場合に、どの指標において貢献できるかを解釈することが可能です。

4 注目のテーマに“便乗”して、新たな自社の強みを作る

これから解決する社会課題を設定しようと考えていらっしゃる中小企業の経営者の皆さんの中には、「うちには社会課題にマッチングできそうな強みがない」という方もいらっしゃるでしょう。そのような方のために、今、最も熱いテーマをご紹介します。これらのテーマに、いわば“便乗”して事業を進めることで、新たな自社の強みを作ることもできます。

そのために注目すべきは、最新の政策です。2021年6月18日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2021」(骨太の方針2021)は、タイトルに「日本の未来を拓く4つの原動力〜グリーン、デジタル、活力ある地方創り、少子化対策〜」と記載されています。要するに、この4つの政策については、「政府としては企業が積極的に取り組んでいただければ、お金=予算もつけますよ! 社会的評価も上がりますよ!」と言ってくれているわけです。従って、わざわざこれを無視して、事業をやる必要はあるのでしょうか?

図表3で、4つの政府の施策と、それに対応するSDGs、社会課題、そしてそれらに対応する自社の事業の例を紹介しています。ぜひ参考にしてください。

画像3

いかがでしょうか。「社会課題を自社の事業にマッチングさせる=社会性と経済性の両立」でポイントになるのは、国や県・市町村が言っている話を、自社の事業に置き換えて解釈することです。SDMではそれをローカライズといっています。社会課題を遠い国の話として人ごとのように聞くのではなく、いかに自分事としてローカライズできるかが、コロナ禍を乗り切る鍵であると考えます。

次回は、自社の事業を社会課題の解決に対応させることで、会社がどのように経済的メリットを享受できるかについてご説明します。

以上(2021年8月)

pj80130
画像:Sakosshu Taro-Adobe Stock

部下が追いたくなる上司の背中とは?

書いてあること

  • 主な読者:入社3〜5年目でさらに成長したい中堅社員と、それを見守る経営者
  • 課題:「すごい」と思える上司がいるが、日々、何をしているのか分からない
  • 解決策:固定観念を取っ払って上司の行動を観察してみる。そして、具体的に行動する

1 営業スタイルが明確に異なる2人の上司

営業部に所属する中堅社員のAさん。Aさんには2人の上司がいます。1人はB部長で、“いかにも営業”というタイプ。昔ながらの足で稼ぐ営業を徹底し、部下には「俺の背中を見て仕事を覚えろ!」と檄(げき)を飛ばします。

もう1人のC部長は、B部長とは全く違うタイプ。日ごろ、何をしているのか分からない謎の存在ですが、社内外の多くの人から頼られていますし、営業成績も抜群です。「C部長は一体どのような営業をしているのか?」と、Aさんの関心は高まっています。

C部長の行動の謎を解いて自分の営業に生かしたいAさんは、直接尋ねみることにしました。「C部長が日ごろ、何をしているのか分かりません。でも、営業の数字は上げています。一体、何をしているのですか?」。するとC部長は次のように返しました。

「ははは。私は営業部の部長だからね、文字通り“営業”をしているだけだよ。だけど、“売り方”が他の人と少し違うかな。私の場合、先にサービスをして恩を売り、それから商品を売っているんだよ」

2 上司のミステリアス。今と昔

「社長や専務はもちろん、事業本部長が何をしているのか分からない」。こう思っている人は少なくないでしょう。立場や責任が違いすぎて、どこで何をしているのか全くイメージできないということです。ある意味でベールに包まれた上司のミステリアスな感じは、かつては部下から見ると憧れにつながる面もあったようです。

しかし今どき、こうした行動の隠し方ははやりませんし、スケジューラーなどで見える化されているため、隠すこともできません。上司は、“報酬以上に働いている”ことを示すために、行動をオープンにすることが求められる時代です。

それでも、冒頭のC部長のような存在は「何者?」ということで、注目を集めます。C部長のような人が注目されるのは、幅広い活動を通じて人脈が広がったり、多様性が確保されたりして、それがビジネスの可能性を広げているからでしょう。

これからの上司に求められるのは、会社にこもる上司でも、昔ながらのやり方だけを踏襲する上司でもありません。これまでの組織の常識では測れない新しい価値観を、分かりやすく部下に示すことができる上司です。

3 上司が背中で見せるもの

C部長のような型にはまらない営業スタイルは、マニュアルなどを作ってコピーすることができません。よく上司は仕事ぶりを「背中で見せる」といいますが、昔とは見せる内容が違います。見せる内容は、複数業務への関わりを示す分単位のスケジュールや、成功や失敗の事例だけではありません。ましてや、滅私奉公的に組織に貢献する根性論でもありません。

これから上に立つ者が示すべきなのは、「新しいやり方をしてもいいのだ。そのために、社内外でこのように承認を取ればよいのだ」という、道の切り開き方です。そして、楽しそうに新しい道を切り開く背中に部下は魅力を感じます。

この行動は非常に大きなものを組織に残します。上に立つ者が、自分の達成したい目的を掲げ、苦手な人間ともうまくコミュニケーションを取りながらビジネスを進める姿は、そのまま部下自身や組織の可能性となり、将来に花開くことでしょう。

以上(2021年8月)

op20320
画像:peshkov-Adobe Stock

脳・心臓疾患に関する労災認定基準の見直し

1 脳・心臓疾患に関する事案の労災補償状況

『令和2年度「過労死等の労災補償状況」』によると、直近5年間の脳・心臓疾患の労災請求件数、支給決定件数などは次のとおりです。

画像1

令和2年度について、請求件数は前年度比152件の減となり、支給決定件数は前年度比22件の減、うち死亡件数は前年度比19件減の67件でした。

過労死の認定基準は、平成13年の改定により「長期にわたる疲労の蓄積が脳・心疾患の発症原因になる」との考え方が盛り込まれ、残業が「直近1カ月で100時間超」か「2~6カ月間平均で月80時間超」の場合は、業務との関連性が高く労災認定が妥当とする「過労死ライン」が示されました。それをもとにした、今回の時間外労働時間別(1か月または2~6か月における1か月平均)支給決定件数は、「評価期間1か月」では「100時間以上~120時間未満」の27件が最も多く、また、「評価期間2~6か月における1か月平均」では「80時間以上~100時間未満」の75件が最も多い結果となっています。

2 認定基準の見直し

今回の検討会報告書では、過労による脳・心臓疾患の労災認定基準については、勤務の不規則性や身体的負荷など他の要素も踏まえ、柔軟に判断するよう現行の認定基準を見直すべきと示しています。

そのなかで「業務の過重性の評価」に関する検討結果の概要は次のとおり記載されています。

検討結果の概要

  • 脳・心臓疾患の発症に近接した時期における負荷のほか、長期間にわたる業務による疲労の蓄積が脳・心臓疾患の発症に影響を及ぼすとする考え方は、現在の医学的知見に照らし是認できるものであり、この考え方に沿って策定された現行認定基準は、妥当性を持つ。
  • 「短期間の過重業務」及び「長期間の過重業務」において、業務による負荷要因としては、労働時間のほか、勤務時間の不規則性(拘束時間の長い勤務、休日のない連続勤務、勤務間インターバルが短い勤務、不規則な勤務・交替制勤務・深夜勤務)、事業場外における移動を伴う業務(出張の多い業務、その他の事業場外における移動を伴う業務)、心理的負荷を伴う業務、身体的負荷を伴う業務及び作業環境(温度環境、騒音)の各要因について検討し、総合的に評価することが適切である。
  • 長期間の過重業務の判断において、疲労の蓄積の最も重要な要因である労働時間に着目すると、①発症前1か月間に特に著しいと認められる長時間労働(おおむね100時間を超える時間外労働)に継続して従事した場合、②発症前2か月間ないし6か月間にわたって、著しいと認められる長時間労働(1か月当たりおおむね80時間を超える時間外労働)に継続して従事した場合には、業務と発症との関連性が強いと判断される。
  • 労働時間のみで業務と発症との関連性が強いと認められる水準には至らないが、これに近い時間外労働が認められ、これに加えて一定の労働時間以外の負荷が認められるときには、業務と発症との関連性が強いと評価できる。

3 さいごに

本報告書を受けた労災認定基準の改正により、過労死等として労災の支給決定件数の増加が見込まれます。一定の時間外労働を行っている企業としては、労働時間の削減や労働者の負荷軽減を実施するなど、安全配慮義務の履行について、しっかりと考えていくことが大切となるでしょう。

以上(2021年8月)
(監修 社会保険労務士法人 中企団総研)
※本内容は2021年7月16日時点での内容です。

sj09002
画像:pexels

【朝礼】本物の“ポジティブ”に必要な“ネガティブ”視点

「何か新しいことにチャレンジする場合、皆さんはどのように考えるでしょうか?」

「ポジティブに取り組む!」という人がいれば、「ネガティブになってしまう……」という人もいるでしょう。少し意地悪な問い方でしたが、この質問だけでは、皆さんは考えを決めることはできないはずです。なぜなら、この段階では、何にチャレンジするのかが全く分からないからです。

そして、ここで気付いてほしい大事なポイントがあります。

まず「ポジティブに取り組む!」と考えた人は、本当にそう思っていますか。周囲から「ポジティブに考えなさい」と言われ続けて、そうしなければならないと無理をしていませんか。

ポジティブに考えることで前向きになり、活気が出るのはよいことです。しかし、ビジネスにおいては実現可能性も考えなければなりません。もしかすると、これからチャレンジしようとしていることは、ほとんど成功の見込みがないものかもしれません。そうしたビジネスを、単純にポジティブに力強く進めるのは危険です。

次に、「ネガティブになってしまう……」と考えた人は、自分を褒めてください。こう考えた人は、周囲から「後ろ向きだ」と言われ続けて、自分が嫌になっているかもしれません。しかしビジネスでは、何にチャレンジするのか分からない状況で、気持ちだけを無理やりポジティブにする、いわば“えせポジティブ”よりもよいのです。

ポジティブとネガティブは二項対立のようにいわれますが、ビジネスではそのようなことはありません。局面によってポジティブな考え方とネガティブな考え方を使い分けることが大事です。そして、勝機を見つけ、ここぞというときに前向きに明るく進めることが、“本物のポジティブ”なのです。

京セラの創業者である稲盛和夫氏の言葉に「楽観的に構想し、悲観的に計画し、楽観的に実行する」というものがあります。人はできない理由を探すことが得意です。しかし、それだけを考えていたら、何も新しいことにチャレンジできません。そのため、アイデアを出すときは楽観的、つまり「やればできる。何とかなるさ」とポジティブに考えるようにするのです。

ただし、このままでは成功確率の低い見切り発車になってしまうので、計画段階では悲観的、つまりネガティブな考えに立ち、難所の見極めと回避策の立案が必要になるのです。こうして計画ができたら、あとは楽しみながらポジティブに仕事をすればよいということになります。

我が社には、ポジティブな一部の人と、ネガティブな多くの人がいます。どちらがよいということではなく、大切なのは局面に応じたポジティブとネガティブのバランスなのです。今、我が社は次の事業を模索しています。今の時点でリスクは何らありません。ぜひ、ポジティブに考え、楽しみながら次のビジネスを見つけましょう。

以上(2021年8月)

op16857
画像:Mariko Mitsuda

社員がコロナを理由に出社拒否。出社命令や懲戒処分は可能?

書いてあること

  • 主な読者:コロナ禍において、オフィスや店舗でしかできない業務を担当する社員が、出社を拒否してきた場合の対応を知りたい経営者
  • 課題:出社を拒否したい気持ちは分かるが、出社してもらわないと業務が進まない
  • 解決策:安全配慮義務を果たせば出社命令は原則可能。社員が出社命令を拒否する場合、就業規則に定めがあれば懲戒処分の対象とできるが、慎重な判断が必要

1 安全配慮義務を果たせば、出社命令は原則可能

経営者は社員の感染リスクを低減することに尽力していますが、オフィスや店舗でしかできない業務もあります。もし、そうした業務を担当する社員が、

「感染するのが怖いので出社したくない」

と申し出てきたら、経営者の皆さんはどうしますか?

出社を拒否してきた社員には、家庭の事情などさまざまな背景があるはずです。それでも出社を命じるか否か、その判断は難しいところであり、出社を拒んでいない別の社員に担当替えができないかなどについても検討するべきです。

それでも、出社を拒否する社員に出社してもらわなければならない場合、結論から言うと、

オフィスや店舗でしかできない業務を担当している社員については、会社が安全配慮義務を果たすことによって、出社命令は原則可能

になると考えられます。安全配慮義務とは、

社員が安全で健康に働けるよう配慮する義務

のことです。実務上、会社が安全配慮義務を果たしているかどうかは事案ごとに判断されますが、最低限、同業他社などが講じている感染防止対策は実施する必要があります。

この記事では、出社を拒否する社員に出社してもらうために会社がすべきことをまとめます。

2 感染防止対策を実施し、社員に出社を促す

1)感染防止対策を実施する

1.通勤関連の対策

人が密集する電車通勤を避けたい社員向けに、時差出勤(所定労働時間を変更せず、始業・終業時刻のみを変更する労働時間制度)や自転車通勤を導入します。

2.オフィス・店舗関連の対策

社員にマスク着用や手指の消毒を徹底させるのはもちろん、作業スペースを仕切るパーテーションや、手で直接触らずにドアを開け閉めできるドアオープナーを設置するなど、設備にも配慮します。接客業などの場合は、セルフオーダー用のタッチパネルなど、顧客等との接触機会を減らすためのITツールの導入等を検討します。

3.その他の対策

クラスター防止のため社員に日々の検温を義務付けることや、出社頻度が高い社員がいる場合、他の社員に業務の一部を引き継ぎ、交代で出社させて出社頻度を下げることなどが考えられます。

2)社員に出社を促す

出社を拒否する社員に、自社で実施している感染防止対策の内容を伝えて出社を促します。それでも社員が出社を拒否する場合、理由を聞きます。

その理由が妥当であれば感染防止対策の改善を検討します。例えば、「マスク着用が義務付けられているが、デスクの間隔が狭い」といった理由であれば、アクリル板の設置や、オフィスレイアウトの見直しなどを行います。

一方、妥当でないと思われる理由であれば、後述する懲戒処分を検討することになります。

3 懲戒処分を検討する

1)業務命令として出社を命じる

一般的に、会社には業務について社員に必要な指示・命令を行う権限(業務命令権)があり、社員は労働契約の範囲内で会社のそれに従う義務があります。社員がこの義務を果たさない場合、就業規則に定めがあれば、懲戒処分の対象にできます。

会社が必要な感染防止対策を実施しているにもかかわらず、社員が出社を拒否する場合、業務命令として出社を命じます。その際、社員と訴訟などのトラブルになるケースも想定し、文書やメールなど記録に残る形で提出します。決まった書式はありませんが、

  • 出社を命じる日(○月○日○時)
  • 出社を命じる理由(○○の業務の遂行のため など)
  • 出社命令を拒否する場合の対応(就業規則第○条に基づき懲戒処分とする など)

については記載しておいたほうがよいでしょう。

2)慎重に懲戒処分を検討する

就業規則の懲戒処分事由に「正当な理由なく業務上の指示・命令に従わなかったとき」などの定めがあれば、懲戒処分の対象とすることができます。懲戒処分を重い順に並べると次のようになります。

  • 懲戒解雇:即時に解雇する。懲戒処分の中では最も重い処分となる
  • 諭旨解雇:退職願の提出を勧告した上で、解雇とする
  • 出勤停止:数日間、出勤することを禁じ、その間は無給とする
  • 降格:役職の罷免・引き下げ、または資格等級の引き下げを行う
  • 減給:一定期間、賃金支給額を減額する
  • けん責:始末書を提出させ、将来を戒める

懲戒処分は、客観的な合理性や社会的相当性を欠く場合は認められません。出社命令に従わない社員の場合、一般的には「けん責」「減給」程度が妥当と考えられますが、再三出社命令を出しても応じないときは、より重い処分を検討します。

なお、外出自粛が求められるコロナ禍では、平時の出社命令拒否よりも懲戒処分は認められにくくなります。緊急事態宣言の発出中などはなおさらです。

3)出社拒否中の賃金の支払いにも注意

社員が出社を拒否している間、年次有給休暇の取得などがなければ、ノーワークノーペイの原則に基づき、基本的に欠勤中の非稼働分についての賃金の支払いは不要です(完全月給制の場合などを除く)。ただし、会社の感染防止対策が十分でないなど、会社の安全配慮義務違反が原因で、出社による労務提供が現実的にできなくなったといえるような場合には、欠勤中の賃金の支払いを求められることがあります。

4 今後のために労働条件通知書も見直しておこう

労働契約の締結時、会社が社員に必ず明示しなければならない労働条件があり、「就業場所」もその1つです。オフィスや店舗でしかできない業務を命じる可能性がある社員を雇用する場合は、その旨をあらかじめ労働条件通知書に記載しておきましょう。

なお、多くの日本企業では、雇用後の社員の成長に応じて業務の内容やレベルが変わっていく「メンバーシップ型雇用」を採用しています。これはある意味、業務の内容が不明確なため、この記事で触れたような問題が起こります。

そこで、「ジョブ型雇用」への移行を検討するのも1つの方法です。ジョブ型雇用とは、「職務記述書(ジョブ・ディスクリプション)」によって社員に求める役割や業務内容を定義し、それをこなせる社員を雇用するものです。担当する業務内容や範囲、難易度、必要なスキルなどが明確であれば、労働条件について会社と社員の認識違いが起きにくくなります。

以上(2021年8月)
(監修 弁護士 田島直明)

pj00602
画像:Wayhome Studio -Adobe Stock

【事業承継】後継者育成における経営者の役回り

書いてあること

  • 主な読者:事業承継を検討していて、後継者をどのように育成するか悩んでいる経営者
  • 課題:後継者の任命、育成に当たって必要なことを整理したい
  • 解決策:経営手法と経営ノウハウの具体化。後継者の意見の尊重

1 経営者の役回り

1)後継者の経営能力を社員に示す

企業は経営者と社員の集合体といえ、両者が認め合い、有機的に結合することで大きな力を発揮します。社員は、事業承継によって新たな経営者となった後継者の経営能力や人格を推し量っています。

そのため、後継者候補(以下「後継者」)となっている人は、事業承継前から社員の信用を得る必要があり、そのためには現経営者の長所と短所を踏まえた上で、自身のスタイルを確立していく必要があります。

2)経営手法と経営ノウハウを徹底的に落とし込む

経営者は最終的な意思決定権者です。そのため、後継者が現経営者に対して「自分のやり方でやらせてくれ」と意見することは悪いことではありません。

ただ、長きにわたる経験によって培われてきた現経営者の経営手法と経営ノウハウは、これから経営を行う後継者が知っておかなければならないことです。時流や経営環境が変化したとしても変わらない普遍的なものがあります。現経営者は、後継者の意思を尊重しつつ、これまでのやり方を押し付けるのではなく、後継者に自身の経営手法と経営ノウハウを教えていきましょう。その際、経営ビジョンなどの全体像だけではなく、事業拡大期など過去の重要な局面で行ってきた判断や結果、そして、なぜその時期にどのような経緯で決断したかといったことまで、後継者に教えることが重要です。

現経営者が持つこうした経営手法と経営ノウハウは、現経営者の頭の中だけにあることが多いので、現経営者は、これらをできるだけ体系化し、文書化することが求められます。場合によっては、社内の適任者か社外のコンサルタントの活用を検討するとよいでしょう。

3)自らの経営手法を確立するには長い期間が必要

現経営者の経営手法や経営ノウハウを後継者が理解する過程で、両者の考え方の違いが明確になり、衝突することもあります。このような場合、現経営者が後継者の意見を引き出して議論することで、後継者に広い視野で論理的に考えるきっかけを与えます。

現経営者と議論を重ねて後継者が導き出した経営方針やプロジェクトなどを、事業承継前に試せる場が必要です。後継者が実際に自らの考えを試してみることで、現経営者もその実施過程と結果を見てアドバイスができます。この際、必要な権限は後継者に委譲し、同時に責任も課します。後継者が自由に動ける環境で自らの考えを実行できて初めて後継者は自らの能力を自覚し、結果に対して素直に向き合うことができます。

また、経営者とは常に重責を担う立場であり、事業承継前とはいえ後継者が失敗した場合は、役員報酬をカットするなどして経営者としての結果責任の重要性を認識させる必要があります。このように、現経営者が後継者に徐々に権限を委譲し、実力を試せる場を広げていくことが、後継者の経営者としての自覚の養成と自らに適した経営手法の確立につながっていきます。

2 社内の体制づくり

1)非協力的な幹部社員の扱い

現経営者と会社を支えてきた幹部社員の中には、自身より年齢の若い後継者を下に見たり、自身が後継者に選ばれなかったことを妬ましく思ったりする者がいるかもしれません。このような幹部社員は、新たな経営者に不満を持つことがあります。

こうした場合、まずは現経営者が幹部社員に説得してみます。それでもその幹部社員の姿勢が改まらなければ処遇を考えざるを得ません。その際、幹部社員はそれまで企業を支えてきた功労者であることも考慮することを忘れてはなりません。

一方、幹部社員としてイエスマンだけを残せばいいわけではありません。企業の発展のために後継者への諌言をいとわない幹部社員や、これまでの豊富な経験に基づいて適切なアドバイスができる幹部社員が必要です。

ただし、こうした良い面を持つ幹部社員も、後継者から見れば自分より社内事情に通じている年配者であり、ある意味扱いにくい存在です。現経営者は、後継者とよく話し合い、こうした幹部社員の有用性を伝えた上で、後継者がこうした幹部社員と信頼関係を築いていけそうかを判断しましょう。

2)新たな幹部社員の任命

新たに経営者という立場になる後継者にとって、同時期にパートナーとなる幹部社員がいることはとても頼もしいものです。自身に似通った境遇に置かれた幹部社員の存在は自身を客観的に見るきっかけとなります。同時に、抜てきされた幹部社員の気持ちも高揚させることができるでしょう。人選については当然のことながら後継者に一任し、現経営者は後継者が気兼ねすることなく、自分の意思で決定できるように配慮しましょう。

3)事業承継のいち早い告知

後継者の経営能力の向上や幹部の刷新には、5年程度の時間がかかることが予想されます。現経営者は、自分が健康で気力が充実しているうちに、前もって後継者の育成と体制づくりに着手すべきです。そして、現経営者は後継者の育成にめどが立ったら、後継者と事業承継の時期をいち早く社内に告知しましょう。告知後、退職する幹部社員が出てくる可能性なども考慮し、告知の時期は事業承継の2年ほど前に行ったほうがよいと考えられます。

また、早期の告知は、後継者による事業承継をよしとしない社員に対して、退職を促すことにもつながり、事業承継時の一斉退職による混乱を避ける効果が期待できます。

4)社員への印象づくり

どのような経営者にも良い面と悪い面があります。現経営者は、社員が良く思っていなかった自身の姿勢や社風・制度、改善しようと思っていたができなかったことを後継者に伝えましょう。事業承継後に、その一部を後継者が改善することで、重要な経営のスタート時に、社員に良い印象を与えることができます。

改善する内容は、経営者と社員がコミュニケーションを取れる仕組みを設ける、人事評価制度を変えるなど、さまざまなことが考えられます。ただし、賃金の一律引き上げなど明白な機嫌取りは、恒久的に実施できるものではなく、社員に過大な期待とその後の落胆を招きかねないため、注意が必要です。

以上(2021年8月)

op10007
画像:Mariko Mitsuda

【朝礼】貴重な「斜め上」の先輩

皆さんの中にはご存じの方がいるかもしれませんが、私はこの会社の先輩である○○さんに、よくお世話になっています。けさは、この場を借りて○○さんに感謝の気持ちを伝えるとともに、上司の方々には、日ごろは目に見えないかもしれませんが、○○さんは後輩の面倒見が良いという部分でも会社に貢献していることを知っていただきたいと思います。また、若手の皆さんには、私にとって○○さんのような先輩を持つことが、いかに自分にとってプラスになるか、参考にしていただければと思います。

○○さんと私は、業務が違いますので、一緒に仕事をさせていただく機会はほとんどありません。話をするようになったきっかけは、廊下で擦れ違ったときに、○○さんに「ちょっと元気ないんじゃないの?」と声を掛けていただいたことでした。そのときの私は、仕事で行き詰まっていて、難しい顔をしていたのだと思います。それ以来、事あるごとに話しかけていただくようになり、次第に打ち解けてくると、飲みにも誘っていただくようになりました。

○○さんとは業務での上下関係がないので、評価を気にすることもなく、気兼ねなく相談事を聞いてもらえます。また、直属の先輩や上司に相談すると、「こうしたほうがいいよ」というアドバイスをいただけるのはありがたいのですが、私の場合、具体的なアドバイスよりも、共感や励ましをもらいたいときが少なからずあります。

そんなときこそ、○○さんに相談します。すると、○○さんは、まずはじっくりと話を聞いて、「分かるよ。僕も昔、同じようなことで悩んだことがあったから」と共感してくれます。その上で、「僕の場合は、こう考えるようにしたら、うまくいくようになったよ」と、あくまでも参考程度といった形でヒントを与えてくれるのです。

たまに○○さんは、私の直属の先輩や上司のエピソードも話してくれます。その話を聞いて、「あの先輩も、昔はそんなことで苦労していたんだな」と、少しホッとしたりもします。

今だから言えますが、会社を辞めたいと思ったときに相談したのも○○さんでした。○○さんに励ましてもらわなかったら、今の私はありません。○○さんには、本当に感謝しています。

今では○○さんとは、互いにプライベートの相談もしていますし、○○さんから「君と同年代の人たちは、この新企画についてどう思っているの?」といったことを聞かれたりもしています。

最近知ったのですが、私と○○さんのような、直接の上下関係ではない先輩との関係を、「斜め上」の関係というそうです。私にとって、「斜め上」の○○さんは、非常に貴重な存在です。そして、私は○○さんにしていただいていることのお返しができるよう、なるべく「斜め下」の後輩に声を掛けるようにしています。直属の先輩や上司には言いにくい悩みを抱えている人がいたら、ぜひ私を聞き役として使ってください。

以上(2021年7月)

pj17062
画像:Mariko Mitsuda

ノリの悪い上司の下で仕事は楽しいか?

書いてあること

  • 主な読者:チーム力を高めて結果を出したい管理職
  • 課題:結果ばかりが気になってしまい、チーム全体の雰囲気づくりが疎かになっている
  • 解決策:管理職が率先して動き、良いノリをつくってチームを勢いづける

1 雰囲気を悪くしているのは誰だ?

季節外れの人事異動を命じられた中堅社員のAさん。営業部から企画開発部への異動です。企画開発部でAさんが担当するのは新規事業の開拓です。とても楽しそうな仕事に、Aさんはワクワク感を抑え切れません。

しかし、企画開発部に配属されて数日勤務してみると、異動前に抱いていたイメージと現実が全く違うことを知ります。一言で言うと、企画開発部は“ノリ”が悪いのです。そして、その原因は企画開発部のB部長にあります。

B部長は後ろ向きの性格なうえ、機嫌が悪くなるとすぐに態度に出します。また、オンライン飲み会などのイベントにもほとんど参加しません。こうしたB部長が発する良くない雰囲気がメンバーにも波及し、企画開発部全体をどんより暗いものにしています。

企画開発部は、今年度末に新規事業の計画を社長にプレゼンテーションします。今のタイミングは、新年に向けてメンバーを勢いづける大事な時期です。本来ならばB部長がスピーチし、力強い言葉でメンバーを鼓舞するべきです。しかし、B部長にそうした考えはないようで、いつもどおり振舞っています。「こんな環境で仕事をしても楽しくない……」。Aさんは、ビジネスにおけるノリの大切さを実感し始めていました。

2 ビジネスにおけるノリの効果

一般的にノリというのは、そのときの雰囲気や流れに乗って勢いをつけることを意味します。調子づいて羽目を外すなど、「悪ノリ」の意味でも用いられます。

悪ノリは、ビジネスでも発生します。調子に乗って、言わなくてもいいことを言ってしまったという経験は誰にもあるでしょう。また、相手のペースにまんまと乗せられて、不利な条件を受け入れてしまうことがあるかもしれません。こうしたことは、特に権限のある管理職は、避けなければなりません。

逆に、管理職は、「良いノリ」を率先してつくるべきです。例えるなら、波に乗って組織に勢いを与えるイメージです。例えば、新しいチャレンジなど会社やチームの状況、新年度、年末年始などの時期などを踏まえつつ、「ここだ!」というときに自らの言葉で波を起こし、チームを乗せるのです。

うまく波に乗ることができれば、チームは明るい雰囲気で満たされ、活力も生まれます。メンバーは仕事を楽しむことができるので、パフォーマンスも高まります。マネジメントに優れた管理職は、こうしたビジネスにおけるノリの大切さを理解しており、良いノリをつくる努力を惜しみません。

3 率先垂範で明るい組織をつくる

ノリの悪い管理職が自分を変えようとする際に確認したいのは、「管理職はチームを任された『公人』であり、常に周囲から見られている」という認識です。

一つの例を挙げてみます。近年は社員満足度を高めるための仕掛けをする会社が増えています。まだリアルで集まれたころの例ですが、ある会社がこうしたイベントを開催し、余興でダンスをすることになりました。ここで役員や管理職のノリが分かれました。「よし、やろう!」と積極的に参加するグループと、「こういうの苦手で……」とダンスの輪から遠ざかるグループが出てきたのです。

イベントの参加者は、役員や管理職がどのように行動するかを観察しています。ダンスが下手でも関係ありません。社長以下、管理職は全員参加で、楽しくダンスをするのが好ましい姿です。そうした姿を見たイベントの参加者は、「明るくて一体感のある会社」だと感じるからです。これは会社全体のイベントの例でしたが、部門単位でも本質は同じです。

4 会議のノリを悪くする管理職

管理職が積極的なのは好ましいですが、注意しないと意図せず周囲を畏縮させてしまうことがあります。ありがちなのは会議です。会議で管理職が発言するのは良いことですが、誰も発言を制しないのをよいことに “独演会”になっていないでしょうか。また、管理職は“少しだけ”厳しく言ったつもりが、周囲が過剰に反応してしまい、恫喝(どうかつ)と受け取られてはいないでしょうか。

周囲がどう受け取るかは、普段の管理職のノリで違ってきます。日ごろから明るく前向きな姿勢を保ち、部下に意見を出させ、真剣に議論することが大切です。このような管理職の言葉なら部下も耳を傾けるでしょうし、少々厳しくされたくらいで、恫喝されているとは感じないでしょう。

5 ノリが仕事を楽しくする

「孫子」の中に「激水のはやくして石を漂わすに至るは、勢なり(兵勢篇)」という一節があります。管理職なら、大きな岩をも押し流すほどの勢いを自分のチームに取り入れたいと考えるはずです。特に、既存のビジネスが絶好調なとき、新規事業など新しいことにチャレンジするとき、逆境を克服するときなどの「勝負どころ」ではそうでしょう。

そして、勝負どころでチームが“戦う態勢”になれるか否かを決める要素に、管理職のノリがあります。そのため、管理職は良いノリをつくらなければならないのです。とはいえ、良いノリが突然生まれ、チームに定着するわけではありません。管理職が日ごろから努力を重ねる必要があるのです。

以上(2021年8月)

op20306
画像:milanmarkovic78-Adobe Stock