「ぶら下がり人材」を減らし、意欲的な社員を増やすためのターゲティング戦略(前編)

書いてあること

  • 主な読者:社内の雰囲気をもっと良くしたい、社員のやる気をもっと高めたい経営者
  • 課題:リモートワークやフレックスタイム制などの施策をいろいろ講じているが、効果を実感できない。それどころか、逆に離職する社員までいる
  • 解決策:自社の社員を5つの層に分類し、会社に居続けてほしい社員の優先順位を立てて、それに基づいて施策を打っていく

1 「働きやすさ」重視の風潮が逆に社員の離職につながる?

働き方改革にコロナ対応の影響があり、リモートワークやフレックスタイム制、長時間労働の規制など、「働きやすさ」を高める施策は日本社会に一気に浸透しました。ただ、これは手放しで歓迎できるかというと、必ずしもそうではありません。

働きやすさを改善する施策は、導入当初は喜ばれますが、時間がたつにつれて「当たり前」となり、その状況に甘んじる社員が増えていきます。そして、

業務への責任感ややる気が感じられない、いわゆる「ぶら下がり人材」

を生み出してしまうのです。ぶら下がり人材が増え、仕事は「ほどほどにやればいい」という空気感が出来上がると、

意欲的に働いている社員のやる気がそがれ、最悪の場合、離職してしまう

という、施策の本来の目的と逆の結果を生み出すことがあります。

では、これを防ぐにはどうすればいいのでしょうか? 対策を端的に言うと、

働きやすさと働きがいの片方ではなく両方を満たすことを意識しつつ、意欲のある社員が評価され離職しなくなるシステムをつくることです。そのためには、会社として大事にしたい人材像を定義し、その社員が活躍しやすい職場環境を実現する施策を打つことが必要

です。

前編では、組織の成長を妨げるぶら下がり人材を減らし、意欲的に働く社員が増えていく好循環を創り出す施策として、ターゲティング戦略の一部を紹介します。この方法は、筆者がこれまで累計3万件以上の産業医面談や年間1000件以上の組織への従業員サーベイを実施してきた経験と、MBA、経営コンサルタント、産業医としての知見から効果が得られると実感している手法です。組織活性の低さに課題を抱える経営者の方は、ぜひご活用ください。

2 ぶら下がり人材ってどんな社員?

前述の通り、会社が働きやすさ重視の施策を導入しても、社員は時間がたつとそのありがたみを忘れてしまい、「当然の権利だ」と思うようになります。あなたの周囲でこんな声を聞いたことはありませんか?

  • 会社は好きじゃない。でも転職してまでも環境を変えたいわけじゃない
  • 会社も仕事もどうでもいいけど、人間関係や給与には不満がない
  • お金のために毎日8時間を犠牲にしていると思えば我慢、我慢

こんな声を発している人は「ぶら下がり人材」である可能性があります。仕事をしないわけではありませんが、モチベーションが低く本来の能力を発揮しようとせず、ローエネルギーで働いていることが多いです。

ぶら下がり人材が増えると、仕事はほどほどにやればいいという「ぬるま湯」のような文化が出来上がり、意欲的に働きたい社員は不満を抱えます。こうした社員が、

  • この会社では自分の能力を活かせない
  • このままでは自分が駄目になる

と思い詰めてしまえば離職につながり、会社は優秀な人材を手放すことになります。

3 会社に居続けてほしい社員は誰?

1)まずは社員を5つの層に分ける

ぶら下がり人材を減らし、意欲的に働く社員が増えていく好循環を創り出すためには、まず「会社として大事にしたい人材像を定義する」ことが必要です。具体的にはどんな人でしょうか? ここでは、ターゲティング戦略を用いた分析のやり方を説明します。

ターゲティング戦略とは端的に言うと、

社員全体を幾つかの層に分け、どの層に焦点を当てるかを明確にしていく手法

です。グラフを使って考えると分かりやすいです。縦軸にパフォーマンス、横軸に社歴を取り、次の5つの層に分けて社員を当てはめます。

  • 優秀人材:すでに会社のけん引役となっている優秀な社員(全体の10%で設定)
  • ハイポテンシャル人材:3~5年後に優秀人材になりそうな社員(全体の10%で設定)
  • 立ち上がり人材:新卒・中途を問わず入社から1年以内の社員(全体の10~20%で設定)
  • 普通人材:やるべきことを真面目にこなす社員(全体の50~60%で設定)
  • ぶら下がり人材:やる気はないが消極的な理由で会社に定着している社員(全体の0~10%で設定)

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2)次に会社として優先的に対策すべき層を決める

5つの層に社員を当てはめたら、どの層の社員を優先的に対策すべきか決めます。会社として大事にしたい人材像は、経営方針や業界状況によって異なりますので一概には言えませんが、筆者の経験からお勧めする順番は、こちらです。

ハイポテンシャル人材→立ち上がり人材→優秀人材

「あれ? 優秀人材が最優先ではないの?」と思った方、これには3つ理由があります。

  • 優秀人材は、働く理由や仕事をする上で大切にしたいこと(労働価値)が明確な分、ばらつきも大きいので対策がしにくい
  • 優秀なので外部から魅力的なオファーを受けやすいため、転職のハードルが低く、引き止めるのが困難
  • 優秀人材を手放すことで、それまで優秀人材が独占していた仕事や役職が他の社員に引き継がれ、他の社員の成長が促進される場合がある

では、ハイポテンシャル人材が最優先となる理由は何でしょう? これにも3つ理由があります。

  • 優秀人材とは逆に労働価値のばらつきが小さく、「成長機会」や「強みを活かせること」を重視する傾向があり、対策がしやすい
  • ハイポテンシャル人材が豊富にいれば、優秀人材が抜けてもその穴を埋めることができ、会社が安定する
  • 修練を積んで優秀人材へとレベルアップしていくハイポテンシャル人材の姿は、他の社員(特に立ち上がり人材)が自身の成長を考える上でのロールモデルになる

続いて優先すべきは、立ち上がり人材です。理由は2つです。

  • 立ち上がり人材は、入社して日が浅く会社に染まりきっていない分、これからハイポテンシャル人材に成長する可能性がある
  • フレッシュな立ち上がり人材がいきいきと働いていると、採用活動で求職者にプラスのイメージを与えやすい(逆に立ち上がり人材が離職すると、「入ってもすぐ辞めてしまう会社」というレッテルを貼られやすく、採用活動に影響する)

まずは、会社として大事にすべき人材は誰か、その優先順位をイメージしていただくことが重要です。

以上(2021年7月)
(執筆 エリクシア代表取締役 医師 産業医 経営学修士(MBA) 上村紀夫)

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画像:MOMOTAROU-Adobe Stock

片手で殴り合いながら、片手で握手をする

書いてあること

  • 主な読者:入社3〜5年目でさらに成長したい中堅社員と、それを見守る経営者
  • 課題:ビジネスの状況を一面的にしか見ることできない
  • 解決策:自分の立ち位置や感情にこだわりすぎず、高所から目的を確認する

1 競合他社と業務提携。その理由は?

中堅社員のAさんは、上司であるB部長の営業方針が理解できません。最近、Aさんの会社は競合C社の参入で浮足立っているのですが、B部長はそのC社と業務提携しようと画策しているのです。

確かにC社と業務提携をすれば、正面から争うことはなくなるかもしれません。しかし、先日、Aさんは自身が担当する顧客をC社に奪われたばかりで、心情的にC社を受け入れられません。たまりかねたAさんは、B部長に直談判しました。「B部長、C社の件ですが、本当に業務提携が最善策なのでしょうか? 正面から戦いましょう!」。するとB部長は次のように返しました。

「Aさんの気持ちは分かる。誤解しないでもらいたいのは、私を含め、当社が戦う姿勢を失ったわけではないよ。より大きな市場をつくり、当社がさらに成長するためにC社と提携するほうがよいと判断したんだよ」

2 一見矛盾する相手との付き合い方

上司も部下に限らず、当事者には意見があり、衝突することもあるでしょう。人と人が密接に関わるシーンにおいて一方の主張が100%通ることはほぼなく、分かり合える領域、分かり合えない領域、その中間にある調整が可能な領域が混在しています。

競合先であっても、100%利害が不一致であるとは限りません。実際、ビジネスでは「先行企業がいたほうが、新規参入が楽である」「後続企業がいたほうが、市場が広がりやすい」といったことがあります。戦うことで一緒に市場を広げるイメージです。

こうした状況を、「片手で殴り合いながら、片手で握手をするようなもの」と表現することがあります。自分の立ち位置や感情にこだわりすぎず、高所から目的を再確認できれば、一見矛盾する相手との付き合い方が見えてきます。

3 交渉や議論からは結果が得られない

競合先と業務提携を判断する一つの基準は、競争領域と協調領域が明確に線引きでき、なおかつその業務提携によって自社に利益がもたらされるか否かです。このイメージがないと、交渉や議論を重ねても活路が見いだせないことがよくあります。かといって、力押しをすれば関係は破綻するでしょう。

この状況を突破するには、ある程度こちらが折れて、相手が求めるものを差し出すことです。ただし、そうすることで自社が大きな損害を被るだけでは意味がありません。今は厳しくても、将来の可能性が広がるかを分析し、したたかに進める必要があります。

また、業務提携が成立した後も大変です。双方が勝手な解釈をして動き始めると、そもそもの協調領域が崩壊してしまいます。慎重に相手との距離感を測りながら、粛々と目的を達成するための活動を続ける忍耐力が求められます。

4 使えるものは何でも使う

ビジネスは関係者に動いてもらうことで成立します。管理職など、組織の中での立場が上になればなおさらで、社内外の多くの人を巻き込んでいく必要があります。相手が競合先であっても例外ではありません。

仕事に対する情熱があり、理想があるからこそ競合であっても業務提携を進めることができます。そして、相手に合わせつつも、一つ一つの言動を数字に裏付けられたものとして行います。これは、なかなか高度なテクニックだといえるでしょう。

立場が上になれば、難しい局面を乗り越えなければならないことも増えます。“使えるものは何でも使う”という感覚を持ち、自分が動かすことのできる関係者を増やしていくことが、ビジネスの可能性を広げることにつながります。

以上(2021年8月)

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画像:rodjulian-Adobe Stock

「デジタル」でシニアの生活を変革 “高齢者テック”最新事情

書いてあること

  • 主な読者:高齢者向けの新サービスを展開したい経営者
  • 課題:高齢者の悩みに応えるサービスを知りたい
  • 解決策:国内外の事例を参考にし、他社にないサービス展開の参考とする

1 高齢社会の課題をテクノロジーで解決

スマートフォン(スマホ)、テレビを使って高齢者向けのサービスが続々と登場しています。国内では、離れた土地に住む子供や孫とリアルタイムに会話ができるサービスや、長年の仕事の経験を活かせる仕事のマッチングサービスなどが注目されています。

また、海外のスタートアップからは、クレジットカードの詐欺を防止するデビットカードを提供するサービスや、子供の独り立ち後の空き部屋をレンタルできるサービスなどが登場し、「高齢大国ニッポン」が直面する課題を解決できそうなものもあります。

この記事では、続々登場している高齢者向けのデジタル技術「高齢者テック」の動向を追います。

2 国内外で登場した最新の高齢者テック

今回紹介する「高齢者テック」の特徴を、「人や社会との関わりをもつ」「健康や安全な生活を送る」「仕事や資産形成に役立てる」「余暇や趣味を楽しむ」で分類してみると次のようになります。

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1)孫の様子をスマホで確認「まごチャンネル」

動画配信サービスを手掛けるスタートアップのチカクは、スマホのアプリで撮影した孫の動画を、祖父母のいる実家のテレビに送信し、テレビで孫の様子を楽しめる「まごチャンネル」を提供しています。

核家族化が進み、子供を連れて実家に帰省する回数も限られる現代、親世代は手軽にスマホで子供の動画を記録・視聴できるようになった一方、スマホに不慣れな祖父母世代は引き続きテレビが主な視聴デバイスとなっています。同社はこの世代間のギャップを「まごチャンネル」で埋めることに成功しました。

実家のテレビに専用の受信ボックスを接続し、テレビリモコンで「まごチャンネル」に合わせるだけで、送られてきた動画を視聴できることから、スマホやアプリに不慣れな高齢者でも簡単に操作できます。送信されてきた動画を視聴すること自体はスマホでも可能ですが、老眼で小さいものが見づらい高齢者も多く、大きな画面のテレビで見る臨場感が好評なようです。

2)孤独解消にご近所さんをマッチング「Buddy Hub(バディーハブ)」

Buddy Hubは、英国で高齢者向けの多世代間コミュニティーサービスを提供しています。Buddy Hubに登録すると、家の近隣に暮らす、共通の関心事や経験を持つ異なる世代の3人のユーザーとマッチングしてもらえます。ユーザーには、高齢者と3週間に1度は会うことが推奨され、スケジュールが合わない場合は他のユーザーが穴埋めをすることになります。

英国では、65歳以上の高齢者のうち約150万人が日ごろから孤独を感じており、慢性的な孤独が早死にするリスクを高めるともいわれています。こうした中で、同社のサービスにより、高齢者とその他の世代間のコミュニティーづくりを活性化させ、より良い社会の実現につながると期待されています。

なお、マッチングには性格やコミュニケーションスキル、好みなどに加え、犯罪歴の有無なども審査されます。これには、サービス内容には買い物や料金の支払いの援助なども含まれ、高齢者の中には介護などの支援が必要とされる場合もあるといった理由があります。

3)デジタルスキルを学び直し「MENTER(メンター)」&「複業留学」

エクセルやデータ分析、情報セキュリティー知識などのデジタルスキルの学習サービスを提供するWHITEは、ベンチャー企業での副業を支援するエンファクトリーとともに、シニア人材のデジタルスキル学習支援「MENTER」と、企業への人材マッチング「複業留学」を複合させたサービスを開始しました。

両社の共同事業の背景として、新型コロナの影響を受けてリモートワークの広まり・デジタル人材の需要が高まったこと、シニア人材にもデジタルスキルの学習を支援することで、新たなキャリア構築の支援を行うためとしています。

70歳までの就業機会の確保が企業に求められていく中で、これまでの社会人経験を活かしつつ、時代に合ったスキルを身に付けたシニア人材をベンチャー企業に供給していく仕組みです。スキルアップのためのオンラインでの学習プログラムをMENTERが、本業に影響が出ない範囲での実際の就業機会を複業留学がそれぞれ提供します。就業の際は、報酬型の「複業タイプ」、研修形式の「研修タイプ」のどちらかを選択できます。

4)ベテラン社員のノウハウを企業とマッチング「inow(イノウ)」

転職サイトなどを運営するアトラエは、ベテラン人材と、彼らの豊富な経験を業務に活かしたい企業をマッチングさせるプラットフォーム「inow」を、2021年5月から提供しています。

inowでは、ユーザー(ベテラン人材)の経験や人脈、自身の興味のある分野などを登録し、関連する求人を掲載している企業とマッチングすることができます。企業側が掲載する求人は、ベテラン社員のノウハウや顧問としての意見を求めるようなものを想定しています。inowの特徴として挙げられるのは、単なる求人マッチングだけでなく、週1日の業務委託や長期の顧問契約なども柔軟に決められることです。

マッチングの肝となる人材と案件の検索は機械学習を用いて、ユーザーの経験と企業の人材ニーズのマッチングの精度を高めています。さらに、ユーザーの興味や関心を機械学習することで、ユーザーが想定していないマッチング候補の提案も行えるようです。

副業や人材の流動化が進み、高齢者雇用安定法により高齢者の雇用がこれまで以上に求められる中で、ベテラン人材のノウハウの活用は、ユーザーと企業の双方にとって今後も要注目といえそうです。

5)使わなくなった空き部屋を貸し出す「Homesharing(ホームシェアリング)」

米国のSilvernestは、高齢者の住む家や空き部屋を若者とシェアする「Homesharing」を提供しています。これは、自宅をシェアするルームメイトをマッチングさせる高齢者のためのプラットフォームです。一般的な賃貸と異なり、自身は家に住みながら、使わなくなった空き部屋を貸し出し、リビングなどを共有します。こうすることで、貸し手である高齢者は、使わない部屋を収益化でき、同時に審査を通過した同居人と時間をシェアすることが可能です。同居人となるユーザーとしても、通常の部屋を借りるよりも安価に住まいを確保できるメリットがあります。

同居人の候補とのマッチングには、貸し手のプロフィールや質問事項への回答内容、部屋の詳細などを基に候補者とのマッチング度がランク付けされます。また、家賃を安定的に確保するために、同社ではリース契約や家賃の自動引き落としなどにも対応しています。

6)単身高齢者向け見守りサービス「ドシテル」

日立グループの日立グローバルライフソリューションズは、高齢の親の生活をセンサーで検知し、スマホで様子を見守るサービス「ドシテル」を提供しています。

これは、高齢の親のリビングなどにセンサーを設置し、日々の動きを「活動量」として検知し、活動量の程度に応じてユーザーのスマホにアニメーションとして表示されます。こうすることで、親の在宅・不在や、活動量の増減が把握できます。日々のデータも蓄積されることから、「起床時間になっても冷蔵庫を開けていない」「夜になっても外出から戻っていない」などの、いつもと異なる行動もプッシュ通知で設定できることから、万が一のときの備えにもなります。

活動量を計測するセンサーには、監視するカメラなどはついていないため、親のプライバシーを守ることもできます。親の様子はアニメーションで表示されるので、ユーザー側も「監視している」感覚を最低限に抑えることができます。

7)認知症を事前に検知し、脳トレで予防「Neurotrack(ニューロトラック)」

米国のシリコンバレー発のスタートアップNeurotrackは、スマホで認知機能のテストを行い、アルツハイマーなどの認知症の早期発見と脳機能の維持・改善を行うアプリを提供しています。

記憶や脳機能が徐々に失われるアルツハイマーなどの進行を止めたり、予防したりする薬は開発段階です。また、認知症は実際に目に見える症状が現れる10年以上も前から徐々に進行しており、症状が現れたときにはもう手遅れともいわれます。

Neurotrackは、こうした予兆をアプリで把握し、症状が現れる前に脳のトレーニングを行うことで、予防・改善を目指しています。臨床的に実証されている同社の認知機能のテストでは、スマホやパソコンのカメラで、ユーザーの視線を解析し、処理速度や注意力などの異常を検知します。そして、認知機能の改善に効果的とされる生活習慣の改善プログラムを提案し、テストを繰り返すことで認知機能の改善・向上を図ります。

同社は既に日本企業とも業務提携を始めており、第一生命ホールディングスやSOMPOホールディングスに認知機能に関するアプリの提供を行っています。

8)クレジットカードや銀行口座を管理する「True Link(トゥルーリンク)」

米国のTrue Linkは、高齢者や障害者など、自身でクレジットカードや銀行口座の管理が難しい人を対象とした、利用制限付きのプリペイドカードを提供しています。同社の「The True Link Visa Prepaid Card」は、カードが使える商品や店舗、金額などを本人以外がコントロールすることができます。

そうすることで、例えば、オンラインショッピングで高額商品を買うのを家族がブロックしたり、健康を損なう恐れのあるお酒やタバコの購入を制限したりできます。また、物忘れのために「頼んでもいないのに注文してしまった」というようなアクシデントも防げます。利用履歴はオンライン上で見られ、不正利用や使いすぎなども確認できます。

日本では、高齢者を狙った架空請求詐欺や振り込め詐欺が後を絶たない状況で、こうしたサービスへの期待が今後高まってくる可能性があります。一方で、高齢者のお金の使い道を制限することにもなり、導入するには丁寧な説明が必要になりそうです。

3 高齢者テック関連データ

前述の通り、高齢者向けのさまざまなサービスが世の中に登場しています。こうしたサービスのユーザーである高齢者の、インターネットの利用や日常生活の動向を見てみましょう。

1)総務省「令和2年通信利用動向調査」:年齢層別のインターネット利用機器

総務省「令和2年通信利用動向調査」によると、年齢層別のインターネット利用機器の状況は次の通りです。

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この調査結果から、60歳未満の層ではスマホの利用が高く(おおむね80%以上)、パソコンの利用率も20~59歳では60%を超えています。一方、60~80歳以上の層を見ると、年齢層とともにスマホやパソコンなどの利用率は減少するものの、「スマホとパソコンの利用率の差(緑の丸枠)」が縮小しています。高齢者向けのデジタルサービスを提案するには、画面が大きく、現役時代に操作することのあったパソコンでの利用を考慮した仕様にする必要があるかもしれません。

2)東京都「令和2年度東京都福祉保健基礎調査」:日常生活に必要なサービス

東京都では、65歳以上を対象とした高齢者の生活実態に関する調査を実施しています。それによると、回答者の57.2%が、身の回りの世話などの「日常生活支援サービス」の利用意向があると回答しています。

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同調査では、「生きがいを感じるとき」についても調査しており、回答者の40%以上が、「趣味やスポーツに熱中しているとき」「夫婦や孫など家族との団らんのとき」「友人や知人と交流しているとき」「テレビを見たり、ラジオを聴いたりしているとき」と回答しています。

同調査から、「ちょっとした家のお手伝い」や「気軽な話し相手」など、「人とのつながりを得るためのサービス」へのニーズがあることが伺えます。

前述の「まごチャンネル」や「Buddy Hub」のようなサービスは、今後のさらなる成長が期待できそうです。

以上(2021年8月)

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画像:deagreez-Adobe Stock

経営者100人アンケートで分析 ITを活用した業務効率化はこの項目から始めよう

書いてあること

  • 主な読者:ITを活用した業務効率化に取り組みたいと考えている経営者
  • 課題:他社と比べて自社がどの程度遅れているのか、何から着手すればよいのか知りたい
  • 解決策:多くの企業が導入している項目や業務効率化に成功しやすい項目などを参考に、優先順位を付けて取り組む

1 ITを活用した効率化、他社はどうなの? 何からすべき?

「ITを活用して業務効率化を!」――。最近よく耳にする言葉ですが、一口にITを活用した業務効率化といっても、導入すべき分野や項目はさまざまです。項目によっては、既に中小企業にも定着しているものや経営者の関心の高いものがある一方で、頑張って取り組んでみても業務効率化につながる可能性が低いものもあります。実際にITを活用して業務効率化に結びつけるには、項目ごとに優先順位を付けるべきです。

そこで、この記事では、経営者を対象に実施した、ITを活用した業務効率化の取り組み状況についてのアンケート結果を、ランキング形式で紹介します。アンケートは2021年5月にインターネットで行い、経営者111人から回答を得ました。ITを活用した業務効率化に取り組んでいる企業、これから取り組もうと考えている企業の皆さんが、今、何に優先して取り組めばよいのかの判断材料にご活用ください。

なお、質問した取り組みは30項目に上り、分野は「社内の連絡」「社内の機器」「経理関連」「営業関連」「人事・総務関連」と多岐にわたります。詳しくは巻末をご参照ください。

2 ライバルに後れを取るな!:既に導入して成功している企業が多い項目

30項目のうち、「既に導入し、業務効率化に成功している」との回答率の高かった上位5項目は、次の通りです。

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インターネットによるアンケートということもあり、さすがにフロッピーディスクの廃止やインターネット回線の導入は、既に終えている企業が少なくないようです。

注目すべきは、インターネットバンキングの活用です。まだ経理担当者が銀行回りをしている企業は、早めに見直しを検討したほうがよさそうです。また、チャットやSNSに詳しい社員も増えているので、こうしたツールの活用や、ノートPC・タブレット端末の支給が、業務効率化につながる可能性は高まっているといえるでしょう。

3 今、最もホットなのはこれ!:多くの企業が取り組みたいと思っている項目

30項目のうち、「早急に取り組みたいと思っている」との回答率の高かった上位7項目(同率第2位まで)は、次の通りです。

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上位7項目のうち、4項目がペーパーレス化に関する項目でした。ペーパーレス化はITの活用を広げていくために、避けては通れない入り口です。今のうちに、ペーパーレス化できる項目がないか、検討しておくとよいでしょう。

4 ライバルは尻込みしている!:取り組みたいけど難しいと思われている項目

30項目のうち、「取り組みたいが、実際に導入するのは難しいと思う」との回答率の高かった上位5項目は、次の通りです。

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見積書・請求書・発注書といった取引関連の書類のペーパーレス化については、図表2のように早急に取り組みたいという企業が多い一方で、導入は難しそうとの見方も多くなっています。経営者にとっては最も「頭の痛い課題」といえそうですが、既に導入したと回答した28人のうち、6割弱に当たる16人が「業務効率化に成功している」と回答しています。同業他社を引き離すために、導入を検討してみてはいかがでしょうか。

「日本ならでは」の課題ともいえるのが、FAXやハンコの廃止です。この2項目がボトルネックとなってITの活用が滞る可能性もありますので、この際、思い切って検討してみるのも一策です。

5 導入した場合の成功率と失敗率に注目

せっかく導入しても、業務効率化につながらなければ、経費の無駄遣いとなるだけでなく、社員の間に混乱を来すという弊害も生じてしまいます。導入した場合の成功率と失敗率を参考に、取り組むべきかどうかを検討してみてはいかがでしょうか。

1)導入して業務効率化に成功した割合が高い項目

30項目のうち、「既に導入し、業務効率化に成功している」「導入したが、あまり成果が上がっていない」と回答した人の中で、「既に導入し、業務効率化に成功している」人の割合が高かった上位5項目は、次の通りです。

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チャット・SNSツールの活用やフロッピーディスクの廃止に関しては、既にプライベートでも定着していることが、社員にはなじみがあり技術的にも対応が容易という、ソフト・ハードの両面で成功率を高める要因になっているとみられます。

一方、稟議書のペーパーレス化、インターネットバンキングの活用、電子納税・電子申告については、社員全員が関わるものではなく、一部の担当者だけが対応すれば導入可能という点が、成功率の高さにつながっているとみられます。経理関連の項目は、多くの社員の対応が必要な「経費申請や領収書、会計処理などの書類のペーパーレス化」を除くと、比較的成功率が高くなっています。

2)導入しても成果が上がっていない割合が高い項目

30項目のうち、「既に導入し、業務効率化に成功している」「導入したが、あまり成果が上がっていない」と回答した人の中で、「導入したが、あまり成果が上がっていない」人の割合が高かった上位5項目は、次の通りです。

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上位5項目のうち、営業関連が上位3項目を占めています。顧客分析に基づくターゲットマーケティングやWebサイトを使ったマーケティングなど、今までの営業の手法と大きく異なる上に、専門性の高さが難易度を高めている背景にありそうです。

また、非対面での研修や、図表にはありませんが第6位に入っている「テレビ会議システムを活用した営業や接客(オンライン商談)」(45.0%)など、対面の強みを持っている項目は、ITを活用しても強みを維持できるかどうか慎重に検討する必要があるかもしれません。

3)成功率を分ける要因

一概には言えませんが、大きな傾向として、導入して成功する可能性が高い項目は、

  • 少ない人数が対応すれば導入できる
  • 既に社員にとってなじみがある
  • 技術的に導入が容易

といった要素が影響している側面もあるとみられます。

一方、導入をしても失敗する可能性の高い項目は、

  • 従来と手法が大きく異なる
  • 専門性が高い
  • IT化すると強みを発揮させにくい

といった要素が影響しているといえるかもしれません。

6 参考:アンケートで質問した項目のリスト

今回のアンケートでの質問項目は、次の30項目です。

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以上(2021年8月)

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知的財産権侵害のリスクと知的財産権活用のメリット/意外と知らない「知的財産権」シリーズ1

書いてあること

  • 主な読者:知的財産権を侵害してしまうリスクと活用するメリットについて知りたい経営者
  • 課題:何をすると他社の知的財産権を侵害してしまうのか? また、どうすれば自社の知的財産が保護されるのか?
  • 解決策:商標権の侵害はよくあるリスクなので、事前調査をしっかり行い、自社の商品名などについて商標権を取得する

1 中小企業こそ知的財産権を活用しよう

知的財産権と聞くと、一般的には、最先端の科学技術である発明や、世界的に有名となった一流ブランド、あるいは大ヒットした映画や音楽などがイメージされるかもしれません。特に中小企業にとっては、「あまり関係のない話だ」と考えられる方も少なくないでしょう。

しかし、実際には、

中小企業こそ、知的財産権を活用することで大きな競争優位性を確保できることもあれば、事業の存続が危ぶまれるリスクにもなり得るという点で、重要な経営上のリソース

の一つと言えます。そこでこの記事では、経営者の皆さま向けに知的財産権の基礎として主に次の点をご紹介していきます。「知的財産権を知っておくと何の役に立つか」のご参考にしていただければと思います。

  • 知的財産権とは
  • 事例:知的財産権を侵害するとどういうトラブルになるか
  • 事例:中小企業が活用するとどういうチャンスにつながるか

2 知的財産権とは

では、そもそも「知的財産権」とは何かについて、ご説明します。知的財産権には次のようなものが挙げられます。

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覚えておいて欲しいのは以下のポイントです。

  • 物の構造や作り方、方法などといった「アイデア」を保護するものとして代表的なのは、特許権や実用新案権
  • 商品の名前やロゴ、ブランドなどを保護するものとして代表的なのは、商標権や商品等表示(不正競争防止法)
  • 物品や店舗のデザインなどを保護するのは意匠権
  • 楽曲や文章、写真、プログラムなどの創作的な表現を保護するのは著作権
  • 営業秘密などを保護するのは不正競争防止法

これらの各種権利等によって守られている対象を無断で複製したり使用したりした場合は、

差止め、損害賠償、信用回復措置などの民事上の責任に加え、刑事上の責任も追及される

ことがあります。

このため、商品を製造・販売する企業であれば、その商品に具体化されたアイデアは「発明」として、デザインは「意匠」として、商品名は「商標」として、ノウハウは「営業秘密」としていくつもの知的財産に関連性を有しています。その企業が特許権(発明)や商標権などの知的財産権を取得していれば、模倣品を製造・販売する者に対してその中止や損害の賠償などを請求できます。

反面、その商品の製造・販売が他人の知的財産権を侵害するものである場合は、差止め、損害賠償等の責任を負わされる恐れがあります。

3 他人の知的財産権を侵害すると大きなビジネスリスクに

他社の知的財産権を侵害してしまうことがないように、あらかじめ商品・サービスに関する特許権や商標権の事前調査を行うべきことは、読者の皆さんもご存知だと思います。

特に、商品・サービスの名前、場合によっては会社の名前などについて、必要な商標権が取得できていないために、多額の損害賠償を支払わされたり、急に名称が使えなくなってしまったりということで、重大なトラブルになることは、頻繁にあります。

商品・サービスの名前を決める際には、必ず商標調査をしなければなりませんし、可能であれば、商標登録もしっかり済ませておく必要があります。以下で紹介するのは、商標調査が不十分なためにトラブルになった事例です。

1)「どん兵衛」vs日清食品

山口県萩市を中心に、中国地方などでうどんやそばなどを提供する外食チェーン店を20店舗程度経営していた「どん兵衛」が、カップうどん「どん兵衛」の製造元である日清食品から、商標権侵害を理由に、1億1000万円の損害賠償と「どん兵衛」の名称の使用中止を求める訴訟を提起された

このようなケースでは、一地方の中小企業である「どん兵衛」が、日清食品の大ヒットカップ麺である「どん兵衛」と関係がある、と思う消費者はほとんどいなかったのではないかと思います。しかし、そのような「消費者が間違うことはない」や「一地方の小規模な店舗だから」という理由で商標権侵害が正当化されることはなく、結果的に他人の商標権を侵害してしまえば、大きな法的責任を負うリスクがあると言えます。

なお、この「どん兵衛」は、日清食品との間で、2010年11月に、店舗名称の変更等を内容とする和解をしましたが、2011年には経営破綻しました。

2)「ゆうメール」vs日本郵政

札幌市でダイレクトメールの発送等を行っていた企業が、「ゆうメール」の商標権を保有していたところ、日本郵政の「ゆうメール」がその商標権を侵害するということで日本郵政を訴えた

この訴訟は、日本郵政側が不利となり、2012年9月、日本郵政が札幌の企業から、この商標権を買い取る形で、和解により終結しています。

企業規模にかかわらず、商標権の調査や検討がいかに重要かということを、この例は、私たちにわかりやすく教えてくれます。新しい商品やサービスの名前を決める際には、必ず商標調査を行うことが必要です。

また、近年増加しているのが、Webサイトや販促物などのデザインや表現が他人の著作権を侵害してしまうケースです。多くの企業では、Webサイトや販促物のデザインや表現は、自社では作成せず、デザイン会社や広告代理店などに外注されていると思います。しかし、その外注先のデザイン会社や広告代理店が著作権侵害をしていないかをきちんと確認している企業は少ないでしょう。もし、外注先のデザイン会社や広告代理店が著作権侵害をすると、発注元の企業が責任を負うケースがあります。

3)「パンダイラスト事件」(東京地判平成31年3月13日)

菓子等を製造するA社は、新しい菓子のパッケージデザインを制作するにあたり、デザインの外注先であるB社から提案されたパンダのイラストを採用し、これを菓子の外箱に印刷して販売した。

実はこのパンダのイラストは、全く別のX社が、自社の手ぬぐいを製造するにあたってデザインした柄であったものを、B社の社員が無断で転用していた。そこでX社は、デザインを盗用したデザイン会社であるB社ではなく、その菓子の製造販売元であるA社を、著作権侵害として訴えた

裁判所の判断を簡単に紹介すると、A社(発注元)がB社(外注先)より納品を受けたデザインを、何ら著作権処理が適正かの検証を行わなかったことに対して、注意義務違反を認めています。発注元に注意義務違反が認められた場合、著作権侵害の責任を負わされる可能性があります。つまり、発注元は外注先によるデザイン作成の過程についても、きちんと管理しておかなければならないということです。

とはいえ、外注先のデザイン創作の過程をすべて把握することは実際上困難です。万が一、著作権侵害が含まれていた場合に備えて、損害賠償の範囲、額、さらに著作権侵害行為がないことの表明・保証についてあらかじめ契約で定めておくことが重要となってきます。

4 知的財産権は中小企業のビジネスチャンスを広げる

知的財産権をうまく活用することで、ビジネス上の付加価値を増大させ、企業経営上の大きなメリットが得られるケースもあります。

1)アスタリスク社

ファーストリテイリング社(以下「ファストリ社」)の経営するユニクロ、ジーユーの店舗に2019年頃から導入され始めた買い物かごを置くだけで中身の合計額が自動的に計算されるセルフレジについて、アスタリスク社が自社の特許権を侵害されたとして、東京地裁に差止めの仮処分命令の申立てを行った。

ファストリ社は、当該特許の有効性を争い、両社が現在も係争中

この特許の有効性については、特許庁の審判段階において一部無効との判断がなされたものの、知財高裁は特許庁の判断を破棄して全部有効であるとの判断を示しました。まだ、訴訟の最終的な帰趨(きすう。ゆきつくところ)は不明ですが、ファストリ社は、アスタリスク社との間で適切なビジネス上の関係を構築できない限り、このセルフレジの使用ができなくなった上で、多額の賠償金を支払うことになる可能性があります。

報道などによると、ファストリ社は新しいセルフレジを導入するにあたって、もともと取引関係にあったアスタリスク社と交渉をしていたようです。ただし、アスタリスク社に対して、同社の製品を導入するとか、適切な特許のライセンスを受けるということは検討せず、一方的にアスタリスク社の特許の使用をファストリ社に許諾するようにということで、「ゼロ円ライセンス」を要求したと言われています。

今回の知財高裁の判決により、従業員100人程度の小さな会社でも、強い知的財産権を持っていれば、時価総額日本第7位という巨大な企業とも対等に渡り合えるということが、明確に周知されることになりました。

昨今の、経営資源における知的財産権重視の傾向からも、今後ますます、有効な知的財産権を保有していれば、中小企業にとってもビジネスチャンスを広げたり、大企業とも対等な交渉ができる結果、単なる「下請」を脱却して、対等なビジネスパートナーとしての関係を築けたりするでしょう。

2)ユニバーサルビュー

眼科医療機器開発ベンチャーであるユニバーサルビュー社は、いわゆるピンホール原理をコンタクトレンズに応用し、レンズに微細な穴を穿設することで、度を入れなくとも近視、遠視、老眼のすべてに対応できるようにしたコンタクトレンズに関するアイデアで世界各国において特許権や意匠権を取得。

一部上場企業である東レから出資を受けて共同でビジネス展開、さらにベンチャーキャピタルからの出資獲得などに成功

ユニバーサルビュー社は、2001年に設立された「社員数9名」(2021年6月15日時点の同社Webサイトより)の決して大きいとは言えない企業ですが、同社は知的財産権の有効活用によって資金調達や信用獲得を成功させています。

創業当初は多方面に事業範囲を向けていたようですが、コアとなるピンホールコンタクトレンズなどのごく限られた範囲に事業活動に絞り込むことで資本を集中させ、大企業を含む競合他社に対して高い参入障壁を形成・維持する目的で、特許権や意匠権などの知的財産権の拡充に取り組むことに方針転換しました。

また、ユニバーサルビュー社は、韓国のコンタクトレンズメーカーとの間における知財紛争を約2年間にわたり徹底的に戦って勝訴し、国内外の業界内における同社の知財の存在感を顕在化させることにも成功しています。

さらにこのピンホールコンタクトレンズに対してウェアラブルデバイスとしての要素を付加したスマートコンタクトレンズの開発を行っており、これらの技術についても知財を拡充させながら発展を続けています。

5 中小企業にとって、経営陣の知財リテラシーが、事業の成否を決める時代が来ている

知的財産権は、きちんと向き合わなければ事業を破綻させるリスクにもなり得る半面、しっかりとした戦略を作り、それに基づいて知的財産権を活用することができれば、飛躍的に事業を拡大させるきっかけともなると言えます。

「知的財産権は、一部の技術系企業だけが考えるもの」という考えは、もう通用しません。どんな業種、規模の企業であっても、経営陣の知財リテラシー(知的財産権に関するリテラシー)と知財戦略が事業の成否を分ける、という時代が、もう既に到来しているのです。

以上(2021年7月)
(執筆 明倫国際法律事務所 弁護士 田中雅敏)

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座学だけでなく実践を! 「70:20:10」の法則で部下を育てる

書いてあること

  • 主な読者:入社3〜5年目でさらに成長したい中堅社員と、それを見守る経営者
  • 課題:一生懸命に勉強しているのに、なかなか実際のビジネスに活かせない
  • 解決策:座学だけではなく、実際に「経験」できる機会をどんどん与える

1 部下が育たない……

「あぁ~、もう! 何度言ったら分かるの!! ビジネスは相手の立場も考慮しながら進めないとトラブルになるよ。社内も社外も同じ。『次工程はお客様』って言うでしょ」。こう語気を強めているのは、営業を担当する中堅社員のAさん。

Aさんは、日々、部下に営業の姿勢を指導していますが、なかなか成果があがりません。そこでAさんは、上司であるB本部長に相談しました。「部下がなかなか育ちません。本を読ませたり、セミナーに行かせたりしているのに……。今のままではとても現場に出すことは難しいです」。するとB本部長は、次のように返しました。

「Aさんが教育熱心なのは分かっているよ。部下もそれを分かっているから、Aさんが厳しくてもついてくるんだよ。でもね、Aさん。人は受け身の座学だけでは成長できないんだよ」

2 「70:20:10」の法則

社員教育の現場でしばしば話題に上る、「70:20:10」の法則というものがあります。これは、

人の成長に影響を与えるのは、70%の経験、20%の教え(上司などからの)、10%の座学(研修など)である

ことを示しています。

教えや座学も大事だけれど、実際に自分で経験してみなければ身に付かないことが多いというのは感覚で分かります。特に、失敗は貴重な経験で、次の挑戦に生かすことができます。ところが、部下の教育に熱心な上司ほど“30%の壁”にぶつかります。「まずは基礎固めから」「失敗しないように慎重に」などの思いから、20%の教えと10%の座学という、足して30%の教育(教えと座学に偏った教育)ばかりを実行してしまうのです。

その理由は、

実は教えと座学に偏った教育は、上司にとっては達成感がある

からです。そもそも座学の機会を与えているのは自分(上司)です。同様に、自分の指示に従っている部下を見ることで、自分の教えが浸透していると誤解します。しかし実際は、上司の言葉の字面しか理解していない部下は少なくないものです。

足して30%の教育で成長できるのは、自ら率先して行動できる人だけです。そうでなければ、「頭ではある程度理解しているが、経験が浅いため現場に出ると何をしてよいのか分からずに動けない」ことにあります。冒頭のAさんが直面しているのは、まさに“30%の壁”です。自分(上司)としては十二分に教えているのに、いつまでたっても部下が現場で通用するほどには育たない。そんな困った状況にあるわけです。

3 もう少し問題を掘り下げる

足して30%の教育がもたらす問題をもう少し掘り下げてみましょう。部下は上司の下で成長できないばかりか、将来に向かって「勇気(ゆうき)」「当事者意識(とうじしゃいしき)」「やる気(やるき)」という、ビジネスで大切な3つの“き”を失います。

まず、経験がなければ、現場で一歩を踏み出す勇気が湧いてきません。そうしたときに、上司が常にフォローしていれば当事者意識をなくします。そして最後は、「どうせ自分は仕事ができない」とやる気を失うのです。

こうした状況が長く続くほど、事態は深刻になります。そして、上司は簡単な仕事さえ任せることができなくなり、本来は上司がやるべきではない仕事をいつまでも引き受けることになります。上司が上司としての仕事をしなければ、組織は停滞します。

4 経験しながら学ぶ機会が大事

「70:20:10」の法則を考慮すれば、部下の成長を促すためには経験が大切です。そこで、部下には小さな経験からしてもらい、上司は少しずつ難しい局面を設定するようにします。例えば、最初は上司が同行している商談の場でサービスの提案をさせ、その後に価格交渉など利害が衝突しやすい局面を経験させます。

難しいのは、冒頭のAさんが遭遇したような、「相手のことを考えて行動する」といった類いのつかみどころのない内容です。これは個人によって考え方が異なるもので、世代によっても“常識”が違います。個人の考え方を教えるのは難しく、それが良いともいえません。また、仮に上司の考えを隅々まで教えられたとしても、同じような考え方をするメンバーが多い組織に多様性はありません。

そこで、上司のほうが部下の多様な考え方を受け入れるという発想の転換が必要かもしれません。もちろん、守らなければならない接客の基準などがあって、その部分については議論の余地はないわけですから、徹底的に教え、経験させましょう。

以上(2021年8月)

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【朝礼】残念な「時間の感覚」を改善する2つのコツ

つい先日、社外の人とオンライン会議の日程調整をしているときに、「マナーがなっていない」と感じることがありました。初めてお会いする相手だったので、私も気を使い、候補日を3つ提示しました。各日それぞれ3時間の範囲から選んでもらう想定でしたので、合計9時間です。相手の日程調整がなかなか進まず、結局、1週間もかかりました。しかも決まったのは、最初の候補日の前日ギリギリです。その間、私は仮予定として9時間をブロックされたままです。こういう時間の感覚は本当に良くないと改めて思った次第です。

今挙げた例は極端ですが、「自分のところで仕事を止めてしまい次工程が遅れる」「リアクションが遅く相手を待たせてしまう」なども同様に良くない時間の感覚です。これでは物事が停滞し、前に進められないからです。

どうですか。皆さんもやりがちなことではないですか?

特に、リモートワークをしている当社では時間の感覚がとても重要です。この感覚が適切でないと大きなミスにつながりますし、全体的に緩い雰囲気となれば、組織の成長の妨げにもなります。これまでも繰り返してきましたが、改めて言います。皆さん、時間の感覚をバージョンアップさせてください。そのためのコツが2つあります。

1つ目は「早く返す」ことです。メールの他、チャットやSNSツールなど、リモートワークではさまざまな形でメッセージが届きます。

いずれの場合も、まずは早くリアクションしてください。特別な理由がなければ、長くても、待って1日です。すぐに答えられなくても、「確認が必要なので明日の17時までに回答します」と返すことはできるでしょう。特にチャットの場合、半日過ぎたら遅いくらいです。立て込んでいる場合は、「本日は16時ごろまで他案件で立て込んでおりリアクションできません。それ以降に確認します」と返しておけばいいのです。相手を「どうなっているか分からない状態のまま待たせる」のは、相手の時間を奪っているものと認識してください。

2つ目は「早く放出する」ことです。これは、60%でいいのでとにかく早く相手に出す、見せることです。「自分の中でメドがついてから」「完璧にしてから」と考えてため込んでいると物事は停滞します。相手も状況が分かりません。リモートワークにある意味慣れてきた皆さんの中には、「まだメドがついていないし、催促されていないから黙っていよう」という人が出てきています。これは大きな間違いです。催促されないことほど怖いことはありません。社内外問わず、「この人のところで仕事が止まる」というレッテルを貼られている可能性のあることを自覚してください。

時間の感覚のバージョンアップは、組織のバージョンアップにつながります。むしろ、そうしていかなければ、皆さん自身も、当社も生き残れません。ぜひ、今日から実践してください。

以上(2021年7月)

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画像:Mariko Mitsuda

【朝礼】人を動かすために知っておくべき、たった1つのこと

今朝は管理職の方に集まってもらいました。日ごろ皆さんと話をしていると、思うように部下とコミュニケーションが取れないという相談をよく受けるので、その点をテーマに取り上げたいと思います。

皆さんが部下を褒めたり叱ったりするのは、部下に何かを伝えるためです。こうした行為を一般的にコミュニケーションと呼びますが、コミュニケーションと伝えることは同じではありません。ビジネスにおけるコミュニケーションの目的は、相手に動いてもらうことであり、伝えることの一歩先になります。部下とのコミュニケーションを良くするための方法として、伝える言葉を吟味して、伝える回数を増やし、伝えるシーンにもこだわることを推奨する書籍があります。これらは大切なことですが、表面上のテクニックとして実践するだけでは、部下は動いてくれないでしょう。

まず、部下を動かすためには、教えることと促すことが必要だと理解してください。教えることとは、AがAであることを部下のレベルや成長度合いに応じて効率的に教え、理解してもらうことです。一方、促すこととは、Aをしなければならない理由、あるいはAをしてはいけない理由を伝え、実際にそう動いてもらうことです。

正しい知識を教え、そこから派生する問題を部下の“自分事”として伝えて行動を促せば、部下は動いてくれるでしょう。これが上司と部下の理想的なコミュニケーションです。

こうしたコミュニケーションができるか否かで大きな差がつきます。

今、我が社は「自己啓発」を重視しています。部下に自己啓発の大切さを教え、実際に取り組むように促すのは上司の役割ですが、上司によって部下の行動に大きな違いが生じています。ある上司の部下は積極的に自己啓発に励み、別の上司の部下は全く自己啓発に取り組もうとしません。

個々の部下の姿勢による違いはあります。しかし、それを凌駕するようなコミュニケーションを上司が取れていないということでもあります。

大切なのは、促す力です。なぜなら、ここで教えるのは「どうして、会社が自己啓発を求めているのか」「会社の方針に合った自己啓発はなにか」といったことであり、誰が説明をしてもそれほど大きな違いはないからです。

上司は部下と真正面から向き合い、本気で自己啓発に取り組んだ場合に、部下の活動フィールドがどのように広がっていくのかを伝えなければなりません。部下の行動を促すには、部下が理想とする具体的なキャリアと、その実現に自己啓発が不可欠であることを伝える必要があります。これは、日ごろから部下のことを真剣に考えている上司でなければ分からないことです。

部下とのコミュニケーションは、時間をかけて良くなっていくものです。日ごろから良い関係づくりを心掛けつつ、教え、促してください。

以上(2021年8月)

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画像:Mariko Mitsuda

従業員を海外赴任させるときの源泉税・住民税の取り扱いは?

書いてあること

  • 主な読者:従業員の海外赴任を検討している中小企業の税務担当者
  • 課題:海外進出を検討する際の税務上の問題点を把握したい
  • 解決策:従業員の源泉所得税・住民税の取り扱いに注意が必要

1 海外赴任と税金

コロナ禍により、一時的に海外往来はストップしているものの、近年は大企業だけでなく中小企業においても、海外進出が増えており、海外赴任をする従業員も珍しくない時代です。本記事では、従業員を海外に赴任させる際におけるその従業員に関する税金の取り扱いを解説していきます。

なお、本稿における海外赴任とは、企業等に属する個人が辞令等により日本国外の関係会社もしくは支店等に1年以上の長期にわたり勤務する行為をいい、短期の出張等に関しては海外赴任に含めないものとします。

2 海外赴任に関連する国内の主な税金

1)所得税

所得税法では、1年以上日本国内に住所等(住民票の有無にかかわらず、居所や生活の本拠地等実情に基づいて総合的に判断)を有しない者を「非居住者」といい、居住者(永住者、日本国内に住所等を有する者)と比べて、所得税の課税範囲が異なります。

居住者に対する所得税の課税範囲が、全世界所得(国内源泉所得+国外源泉所得)であるのに対して、非居住者に対する課税範囲は、国内源泉所得に限定されます。

なお、国内源泉所得とは、国内で生じた所得(収入)をいい、具体的には国内勤務の対価として支払われる給与や国内に所在する不動産から生じた賃貸料収入、国内の銀行から受ける利息や国内の企業から受ける配当などがあります。

2)住民税

住民税はその年の1月1日時点で日本国内に住所等を有する場合に課税されます。そのため、12月31日に海外赴任により出国した場合には翌年の住民税について課税は生じませんが、1月1日に出国した場合は課税関係が生じることになります。なお、普通徴収の未納分(あるいは特別徴収未済分)については、海外赴任をしても納税が免除されるわけではないので、出国前に全て納付するなどの留意が必要です。

3)国外転出時課税制度

海外赴任者が、出国時に多額の金融資産(株式などで時価が1億円以上)を所有している場合は、「国外転出時課税制度」が適用されることがあります。そのため、多額の金融資産を有する同族会社のオーナー一族の人などが海外赴任をする際には留意が必要です。なお、国外転出時課税の申告が必要な海外赴任者が、国外転出のときまでに一定の手続きを行った場合には、国外転出の日から5年間(延長の届出により最長10年間)納税が猶予されます。

(注)「国外転出時課税制度」とは、1億円以上の金融資産を保有している者が国外に転出する場合に、その金融資産の未実現利益(含み益)に対して課税を行う制度です。

3 赴任先における税金負担(所得税)

送り出し企業が海外赴任者に対して留守宅手当等の名目で支給する給与については、原則的には国外源泉所得として日本での課税が生じない代わりに、通常は赴任先の国等において課税が生じることになります。ただし、赴任者が従業員でなく「役員」である場合には、留守宅手当等の名目で送り出し企業が支給しているものであっても、国内源泉所得として源泉徴収が必要になるので注意が必要です。なお、国外支店等において役員としてではなく「使用人」として赴任する場合は、通常の従業員と同様にその給与は国外源泉所得として日本では課税されません。

また、赴任先における課税範囲や課税方法は各国等の税法等により異なるため、どのような税負担や申告、納税方法を採用しているか確認し、赴任後に思いがけない課税等が生じることのないよう、事前の対応が必要です。

各国等における代表的な課税範囲の取り扱いを例示すると、赴任先での業務に係る給与の全て(現地払い分+現地以外(日本)払い分+経済的利益)を対象としていることが多く、この場合、現地払い給与のみを申告している際などは特に留意しなければなりません。実際、適切な申告をせずペナルティーが科せられる事例や、国等によっては未納等がある場合には出国(帰任)できないなどの事例もあるようです。

このように税金の取り扱いについては、国等によってさまざまであるため、実際の対応については、海外進出支援を行っている税理士などの専門家に相談するようにしましょう。

4 海外赴任者に係る税務手続きに関する留意点

1)海外赴任前の国内の給与所得等に関する留意点(所得税の精算)

海外赴任者が1カ所の給与所得のみで、その収入総額が2000万円以下の場合は、送り出し企業はその者の出国時までに、年末調整により所得税を精算する必要があります。なお、出国前までの期間(国内勤務期間)に相当する賞与を「出国後に支給」した場合は、国内勤務期間に相当する部分の金額は、非居住者に対する国内源泉所得として通常の給与(居住者時代の給与)とは異なる税率で源泉徴収が必要になります。このような複雑な実務を回避する方法として、出国までに賞与を支給し、出国時に年末調整を実施することなどが考えられます。

また、2カ所以上からの給与や不動産所得など、給与所得以外の国内源泉所得を有する海外赴任者は、出国時までに納税管理人を選定し、所轄の税務署および住所のある市町村に届け出ます。納税管理人は法人・個人いずれでも届け出ることができ、海外赴任者の代理人として確定申告をすることになります。なお、納税管理人を選定しない場合は、出国時までに自分自身で確定申告をしなければなりません。

その他、参考として、海外赴任者がNISA口座を保有している場合の留意点を紹介します。以前は、非居住者(国内に恒久的施設を有しないもの)はNISA口座を保有できないこととなっていたため、赴任前に証券会社にて出国に係る諸手続きを経てNISA口座を廃止し、お金を払いだす必要がありました。しかし、2019年度税制改正に伴い、NISA口座については、証券会社にて一定の手続きを取ることにより、継続保有が可能となっています。ただし、非居住者については証券口座自体の保有を認めていない証券会社もあり、これらの取扱いは各証券会社で異なるため、各自で事前に確認する等の留意が必要となります。

2)非居住者に係る源泉所得税の納付書に関する留意点

非居住者に対して支給する役員報酬や、出国後に支給される出国前の国内勤務期間に係る賞与等は国内源泉所得に該当するため、20.42%の源泉所得税の徴収が必要です。また、この際の納付書は通常の給与に係る納付書と様式が異なります。

3)非居住者の確定申告(納税管理人の届出有り)に関する留意点

前述した一定の国内源泉所得を有する非居住者で、納税管理人の届出書を提出した場合は、申告期限(原則3月15日)までに、納税管理人を通じて確定申告書を提出し納税します。当該確定申告に係る課税範囲は国内源泉所得に限られ、また適用される所得控除は、基礎控除、寄附金控除及び雑損控除(国内資産から生じたもの)に限られます。

4)帰任時の留意点

赴任者が帰任(一時的なものを除く)した場合には、帰国した日の翌日から居住者となり、通常の従業員と同様の方法で、給与に対する源泉徴収が必要になります。また、帰任後に現地勤務に起因する給与や賞与が支給された場合においても、日本の課税対象となりますので、現地勤務に起因する給与等は帰国前にすべて支給し、現地で納税を済ませることで二重課税を避けるといった工夫が必要です。なお、二重課税が生じた場合も、確定申告で外国税額控除(詳細な説明は省略)を適用することにより、一定の額について二重課税を排除することが可能となる場合があります。

その他、納税管理人を選定している場合は、納税管理人の解任手続きが必要です。また、国外転出時課税制度の納税猶予を届け出ている場合には、課税の取り消しや更正の請求手続き等に留意が必要です。

なお、2019年度税制改正により、5年以内の海外転勤であればNISA口座の継続利用が可能になったため、出国の段階で証券会社に「継続適用届出書」を提出していた場合には、帰国後に「帰国届出書」を提出する必要があります。

5 【参考】短期滞在者免税(租税条約)

海外赴任ではなく、自社の業務等で海外に出張したときにも、その出張先の国等によっては、現地で課税が生じることがあります。この場合、同じ所得に対して、日本と出張先の国等の双方で課税関係が生じることになります(二重課税)。この二重課税の排除を目的として租税条約において「短期滞在者免税」という規定があります。この短期滞在者免税の要件を満たす場合は、現地での課税が免除されます。そのため、日本と出張先の国等との間に租税条約が締結されているかどうかや、その免除条件を確認することも重要です。

以上(2021年7月)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 税理士 森 浩之)

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消費生活用製品安全法の概要

書いてあること

  • 主な読者:消費生活用製品の製造・輸入、または販売を行う事業者
  • 課題:消費生活用製品安全法について押さえておきたい
  • 解決策:「PSCマーク制度」「製品事故情報報告・公表制度」「長期使用製品安全点検・表示制度」について把握し、製品事故や危害拡大の防止を図る

1 消費生活用製品安全法(消安法)とは

消費生活用製品安全法(消安法)は、消費生活用製品により起こり得るけが、やけど、死亡などの事故の発生を未然に防ぎ、消費者の安全と利益を保護することを目的として制定された法律です。

消費生活用製品とは、家庭用電気製品をはじめ、一般消費者の生活の用に供される目的で、市場で一般消費者に販売されている製品のほとんどを指すものとされます(船舶、消火器具など、食品、毒物・劇物、自動車・原動機付自転車などの道路運送車両、高圧ガス容器、医薬品・医薬部外品・化粧品・医療器具など、他の法令で個別に安全規制が図られている製品については除外)。

この記事では、消費生活用製品の製造・輸入、または販売を行う事業者の方向けに、消安法の柱である「PSCマーク制度」「製品事故情報報告・公表制度」「長期使用製品安全点検・表示制度」の3つの制度について紹介します。

2 PSCマーク制度

消費生活用製品の中でも、消費者の生命・身体に対して特に危害を及ぼす恐れがある「特定製品」について、国が定めた技術基準に適合していることを示すPSCマークの表示を義務付け、PSCマークのない製品の販売や販売目的の陳列を規制する制度です。

規制対象となる「特定製品」は、家庭用の圧力鍋および圧力釜、乗車用ヘルメット、乳幼児用ベッド、登山用ロープ、携帯用レーザー応用装置、浴槽用温水循環器、石油給湯機、石油風呂釜、石油ストーブ、ライターの10製品です。

特定製品の製造または輸入を行う事業者は、事業の届け出、自主検査による技術基準への適合の確認、検査記録の作成・保存などの義務を履行したとき、製品に○囲みのPSCマークを付すことができます。

また、特定製品のうち、乳幼児用ベッド、携帯用レーザー応用装置、浴槽用温水循環器、ライターの4製品は、特別特定製品として、自主検査に加え、登録検査機関による適合性検査が義務付けられています。特別特定製品の製造または輸入を行う事業者は、自主検査記録の作成・保存、登録検査機関による適合性検査への合格など義務を履行したとき、製品に◇囲みのPSCマークを付すことができます。

PSCマークのない危険な製品が市中に出回ったときは、消費者庁は製造・輸入または販売を行う事業者に回収などの措置を命ずることがあります。

3 製品事故情報報告・公表制度

消費生活用製品の製造または輸入を行う事業者に対して、重大製品事故が生じたことを知ったとき、10日以内に事故の発生日、概要などについて消費者庁に報告することを義務付ける制度です。

重大製品事故とは、消費生活用製品の使用に伴い発生した事故で、死亡事故、一酸化炭素中毒事故、30日以上の治療を要した事故、火災、後遺障害事故が該当します。

消費者庁は、重大製品事故による危害の発生および拡大を防止するため必要と認めるときには、製品の名称・型式、事故の内容などを迅速に公表します。

4 長期使用製品安全点検・表示制度

1)長期使用製品安全点検制度

経年劣化によって火災や死亡事故などを起こす恐れがある「特定保守製品」の製造または輸入を行う事業者に対して、設計上の標準使用期間、点検期間、点検の要請を容易にするための問い合わせ連絡先などの表示を義務付ける制度です。「特定保守製品」の製造または輸入を行う事業者が、製品の所有者に登録してもらい、設計標準使用期間が終わるころに点検の通知をして、所有者の依頼を受けて点検を実施し、事故の防止を図る仕組みです。

規制対象となる「特定保守製品」は、屋内式ガス瞬間湯沸器(都市ガス用・LPガス用)、屋内式ガスバーナー付風呂釜(都市ガス用・LPガス用)、石油給湯機、密閉燃焼式石油温風暖房機、ビルトイン式電気食器洗機、石油風呂釜、浴室用電気乾燥機の9品目です。

2)長期使用製品安全表示制度

「特定保守製品」ではないものの、長期にわたって使用され経年劣化による事故が多い製品の製造または輸入を行う事業者に対して、製品に設計上の標準使用期間と経年劣化に関する注意喚起などの表示を義務付ける制度です。

規制対象となる製品は、扇風機、エアコン、換気扇、洗濯機(洗濯乾燥機を除く)、ブラウン管テレビの5品目です。

5 参考

1)関係法令、制度全般について知りたい方に

■経済産業省「消費生活用製品安全法」■
https://www.meti.go.jp/policy/consumer/seian/shouan/

実務レベルのガイドブック「消費生活用製品安全法 法令業務実施ガイド」の他、問い合わせ窓口となる経済産業局の情報も掲載されています。

2)製品事故情報報告・公表制度について詳しく知りたい方に

■消費者庁「消費者安全」■
https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_safety/

事故情報の集約等 > 消費生活用製品安全法のページに、制度の解説書「消費生活用製品安全法に基づく製品事故情報報告・公表制度の解説」の他、重大製品事故発生時の報告方法などが掲載されています。

3)具体的な製品事故情報・リコール情報について知りたい方に

■製品評価技術基盤機構(NITE)「製品事故情報・リコール情報」■
https://www.nite.go.jp/jiko/jikojohou/

NITEは、消費生活用製品等に関する事故情報の収集を行い、事故原因を調査・究明し、その結果を公表することによって、製品事故の再発・未然防止を図っています。

以上(2021年7月)

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