海外の取引先の与信管理 貿易でのリスクを低減する3つの方策

書いてあること

  • 主な読者:商社などを通さず独自に貿易をしている、またはしようとしている企業の経営者
  • 課題:海外の取引先は訪問するのが容易でないので与信管理が難しい
  • 解決策:民間調査機関を活用する、信用状を発行してもらう、荷為替手形による決済を行う、ファクタリングや貿易保険を活用するなどしてリスクを減らす

1 日本の“当たり前”が通用しない海外の取引先の与信管理

与信管理で基本的かつ有効な方法といえるのは、実際に取引先を訪問することです。これにより、「動いていない生産ラインがある」「社内に活気がない」「来客がまばら」など取引先の様子が分かり、倒産などトラブルの兆候を見つけられる可能性が高くなるからです。コロナ禍において取引先を訪問するハードルは上がっているとはいえ、こちらが希望すれば実現できます。

しかし、クロスボーダー取引、つまり海外企業との取引ではそうはいきません。訪問しようにも、今は新型コロナウイルス感染症の拡大でそれが許されにくいからです。さらに、交通費や移動時間がかかるという根本的な問題もあります。

この他にも、クロスボーダー取引では、

  • 全般的な海外情報の不足
  • 言語やコミュニケーションの壁
  • 商習慣や文化の違い
  • カントリーリスク

といった課題があります。この記事では、これらの点を踏まえ、海外に所在する取引先と、商社などを通さず独自に貿易する際の与信管理について、リスクを低減する3つの方策を紹介します。

2 方策その1:幅広い情報収集、リスクを契約条件に織り込む

1)信用できる相手か?

信用できる相手であるかどうかの確認は、与信管理の基本です。一般的には、決算書を提出してもらったり、調査機関に企業調査を依頼したりして情報収集を行い、信用できるかどうか判断する材料にします。

情報収集の対象は貿易相手だけではありません。独自に貿易を行う場合、売り手(輸出者)・買い手(輸入者)だけでなく、運送業者、金融機関はもちろん、船積みや貿易関連の事務などを担当するフォワーダー、輸出入国の税関といったさまざまな主体が取引に関わります。このため、関係する幅広い取引先の情報収集が必要になります。

リスクを見極める際には、東京商工リサーチ「D&Bレポート(海外企業情報レポート)」、帝国データバンク「海外企業信用調査」、コファス・サービス・ジャパン「海外企業調査レポート」など、有力な調査機関による情報を活用することが考えられます。

■東京商工リサーチ■
https://www.tsr-net.co.jp/
■帝国データバンク■
https://www.tdb.co.jp/
■コファス・サービス・ジャパン■
https://www.coface.jp/

2)リスクの許容範囲を決め、契約書に反映させる

取引先から提出された書類の精査や、調査機関による企業調査の結果などを総合的に評価して、信用できる企業であると判断した場合であっても、リスクマネジメントが必要です。具体的には、取引で許容できるリスクの程度を決めておき、それを基にした支払い条件などを契約書で定めます。例えば、事前に取引金額の30%の代金支払いを確保したいのであれば、そうした条件で取引をします。

3 方策その2:特有の決済方法などを活用する

1)前提となる認識

貿易取引は国内取引に比べて代金の流れ・商品の流れ・書類(船積書類など)の流れが複雑で、手続きも煩雑になります。そのため、手続きの内容や必要な書類について熟知し、適切な貿易決済手段を選択することが大切になります。

貿易取引特有の決済方法は、以降で紹介するものも含めて、取引金融機関や売り手(輸出者)・買い手(輸入者)によって、利用が制限される場合があります。例えば、後述する「信用状が付く荷為替手形」は、信用状を発行する金融機関自体の信用度に問題がある場合、荷為替手形の買い取りを拒否されることがあります。

まずは、取引金融機関や専門家に相談した上で、自社に合った方法を選びましょう。なお、以降で紹介する内容は概要となるため、詳細については、別途確認をするようにしてください。

2)代金を前払いしてもらう

代金を前払いしてもらうことは、有効なリスク低減策です。買い手(輸入者)が代金を前払いする場合の貿易取引の主な流れは次の通りです。

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ただし、信頼関係が構築されていない取引当初は、買い手(輸入者)に代金の全額前払いを受け入れてもらうことは困難でしょう。そのため、代金の一部の前払いなど、買い手(輸入者)に受け入れてもらえる提案が欠かせません。

3)信用状(L/C)を買い手(輸入者)の取引金融機関に発行してもらう

信用状(L/C)とは、

買い手(輸入者)の取引金融機関(以下「信用状発行銀行」)が発行する書面で、信用状発行銀行が信用状で定めた書類の提示を条件に支払いを確約するもの

です。通常は取引ごとに「発行」されますが、同一種類の物品の継続的な取引に利用できるもの(回転信用状)など、さまざまな種類があります。なお、買い手(輸入者)が信用状発行銀行に信用状を発行してもらうことを「開設」ということがありますが、この記事では便宜上「発行」で統一します。

買い手(輸入者)の信用リスクが高い、初めての取引で信頼関係が構築されていないなど、貿易取引に不安がある場合は、信用状を発行してもらい、確実に支払いを受けられるようにして、与信管理を万全に行えるようにするとよいでしょう。

4)貿易取引特有の「荷為替手形による決済」

荷為替手形による決済とは、

売り手(輸出者)が振り出す為替手形に、船積書類を添付して「荷為替手形」を作成し、金融機関経由で買い手(輸入者)に提示して、代金支払い、または手形引き受けと引き換えに船積書類を引き渡す決済方法

です。売り手(輸出者)の取引金融機関に手形を買い取ってもらう場合と、買い手(輸入者)への取り立てのみを依頼する場合の2通りがあります。荷為替手形の買い取りを行う金融機関を「買取銀行」といいます。

荷為替手形による決済には、信用状が付く場合と付かない場合の2種類があります。

1.信用状が付く荷為替手形による決済

信用状が付いた荷為替手形を、売り手(輸出者)の取引金融機関に買い取ってもらうまでの手続きの流れは次の通りです。

まず、売り手(輸出者)は、信用状発行銀行を名宛人とする為替手形を振り出し、輸出地の買取銀行に買い取りを依頼します。買取銀行は書類点検後、買い取り代金を売り手(輸出者)に払います。

その後、買取銀行は荷為替手形などを信用状発行銀行に送付します。信用状発行銀行は書類点検後、買取銀行に代金を支払います。

信用状発行銀行は買い手(輸入者)に対して、代金の支払いと引き換えに船積書類を渡します。これにより、買い手(輸入者)は商品を受け取れます。「信用状に記載されている条件を満たす荷為替手形の提示に対して代金を支払う」という信用状発行銀行の確約があるため、商品だけが買い手(輸入者)に渡って代金が売り手(輸出者)に支払われない恐れがなく、リスクを低減できます。

信用状が付く荷為替手形の買い取りは、提示された為替手形と船積書類が信用状条件に合致しているかを確認し、不一致な点がない場合に実行されます。そのため、売り手(輸出者)は信用状に記載されている条件に合致する書類を作成する必要があります。

信用状が付く荷為替手形による決済の主な流れは次の通りです。

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2.信用状が付かない荷為替手形による決済

信用状が付かない荷為替手形による決済には、「手形支払書類渡(D/P)決済(以下「D/P決済」)」と「手形引受書類渡(D/A)決済(以下「D/A決済」)」の2つがあります。

D/P決済とは、

買い手(輸入者)が代金を支払うことにより、添付されている船積書類を引き取ることができ、さらには商品を引き取ることができる取引方法

です。売り手(輸出者)へ代金の支払いをしてから商品を引き取ることになるため、代金決済がされない状態で商品が買い手(輸入者)に渡るリスクがありません。ただし、買い手(輸入者)が決済できない場合、引き取られなかった商品が現地に残留することになるため、割引価格による現地処分や、返送に伴う運賃の負担といった損失が生じます。

D/A決済とは、

買い手(輸入者)が手形を引き受けて支払いを確約することで、添付されている船積書類を引き取る取引方法

です。手形には支払猶予期間(ユーザンス)が設定されているので、買い手(輸入者)は引き受け後、支払期限まで支払いを延ばすことができます。そのため、手形の不渡りが生じた際は、商品だけ買い手(輸入者)に渡って、売り手(輸出者)に代金が支払われないというリスクがあります。

信用状が付かない荷為替手形による決済の主な流れは次の通りです。

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4 方策その3:支払いを保証するサービスを活用する

買い手の支払いを保証する「ファクタリング」、貿易取引の決済に関する事故を補償する「貿易保険」「取引信用保険」などの活用を考えてもよいでしょう。

ファクタリングとは、

ファクタリング事業者と呼ばれる企業が、売り手の持つ債権を買い取って債権回収を行ったり、債権の決済の保証などをしたりするサービス

で、一部の事業者は海外企業との貿易取引も対象としています。

貿易保険とは、主に日本貿易保険が提供する保険サービスで、貿易取引の代金が回収できなかったときの補償に加え、輸入制限や紛争といったカントリーリスクそのものに起因する損失(輸出不能になるなど)も補償対象となっています。国や地域によっては、カントリーリスクの一部を補償対象外としていたり、保険の引き受けそのものを行っていなかったりする場合などがあります。

取引信用保険は、民間の損害保険会社が提供する保険サービスで、代金が回収できなかったときの補償をしており、国内外問わず売買取引に際して利用できます。

■日本貿易保険■
https://www.nexi.go.jp/

5 その他:専門機関や専門家に相談するのも一策

取引先が海外に所在する場合、自社で取れる対応は限られがちであり、専門的な知識も求められます。そのため、次に挙げる日本貿易振興機構(ジェトロ)などの専門機関、弁護士や貿易アドバイザーといった専門家を活用して、万が一の事態を未然に防ぐ体制を整えておき、いざというときには相談するようにしましょう。

1)日本貿易振興機構(ジェトロ)

日本貿易振興機構(ジェトロ)は、独立行政法人日本貿易振興機構法に基づき設立された貿易・投資の支援機関です。同機構は、海外進出を検討している企業に対して、貿易投資相談(無料)、海外ミニ調査サービス(有料)などを提供しています。

■日本貿易振興機構(ジェトロ)■
https://www.jetro.go.jp/

2)中小企業基盤整備機構 販路支援部 海外展開支援課

中小企業基盤整備機構では、中小企業国際化支援アドバイスを行っています。個別の相談ごとに、各分野で専門性の高いスキルを持つ「国際化支援アドバイザー」が、経営課題解決の観点に立ったアドバイスを行っています。アドバイスの費用は無料となっており、何度でも相談できます。

また、同機構では、ウェブサイト上での情報提供や、全国各地において貿易など海外展開に関するセミナーを実施しています。

■中小企業基盤整備機構「海外展開に関する相談」■
https://www.smrj.go.jp/sme/overseas/consulting/

3)日本商事仲裁協会

日本商事仲裁協会は、商事紛争の処理および未然防止などを図ることによる、円滑な国際取引の促進を目的とした団体です。同協会は、国内外の商事紛争を対象としていますが、元来は国際商事紛争の解決を主な業務としていたことから、貿易取引に関する支援などが充実しています。具体的には会員向けに国際契約・国際取引法律相談などを行っています。

■日本商事仲裁協会■
https://www.jcaa.or.jp/

4)貿易アドバイザー協会(AIBA)

貿易アドバイザー協会(AIBA)は、貿易に関するコンサルティングなどを行う貿易アドバイザーによって運営されている団体です。同協会では、貿易アドバイザーの認定の他、輸出入実務サポート、海外法規制・市場調査、貿易に関するセミナーの講師派遣、現地視察への同行などを行っています。

■貿易アドバイザー協会(AIBA)■
https://trade-advisers.com/

以上(2021年7月)
(監修 一般社団法人貿易アドバイザー協会(AIBA))

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画像:pixabay

【朝礼】イメージトレーニングを実践してみよう

いよいよ4年に1度のスポーツの「熱き祭典」が始まりました。新型コロナウィルス感染症などさまざまな課題はあるものの、世界のトップアスリートたちを、是非、応援したいものです。

さて、トップアスリートと呼ばれる人のほとんどが「イメージトレーニング」を取り入れているそうです。トップアスリートたちは、自分がこれからする競技を頭の中で思い浮かべて成功をイメージし、本番ではそのイメージを持って競技に挑むのだといいます。

例えば、マラソン競技ならばコースの風景や上り下りの傾斜をイメージしながら頭の中でレースを進め、スパートをかける勝負どころはどこなのかをあらかじめイメージしてレースに向かうのだそうです。また、「自分が先頭でゴールテープを切る姿」を思い浮かべて、成功をイメージすることも大切なイメージトレーニングだといいます。

イメージトレーニングが効果的なのはスポーツだけに限るものではありません。私たちが仕事に取り組む上でも、イメージトレーニングはとても大切です。仕事に取り組むときには、どのような手順で仕事を進めるのか、そのためには事前の準備として何をすればいいのか、そして最終的なゴールはいつ、どのようなものになるのかを事前にイメージしておきましょう。

例えば今日、お客様を訪問する予定があれば、お客様の顔を思い浮かべながら伝えなければいけないことや聞きたい話を整理し、お客様がどのような質問をしてくるか、どう説明すれば成功に結びつくかをイメージしておくとよいでしょう。

ひとは誰でもよい仕事をしたいし、よい結果を残したいと思っているはずです。けれども、ただ漠然と成功したいと考えているだけではそれはうまくいかないかもしれません。

自分がなすべきこととそこに至る道筋をあらかじめ頭の中でまとめて、なすべきことと成功へのイメージを作っておけば、目の前の仕事に追われてしまって右往左往してしまうことも少なくなります。

アスリートたちの勝負は、競技が始まるずいぶん前に、イメージの中で始まっています。同じように、私たちの仕事も本当は事前にイメージすることから始めてみてはどうでしょう。仕事に取り掛かる前には、自分のやるべきことをできるだけはっきりと具体的にイメージしておくのです。頭の中でのイメージを具現化するように仕事に取り組むことで、段取りよく無駄のない仕事ができるようになります。また、イメージした通りに仕事が進んだり、商談が成立すれば、成功体験を2回することができ、仕事に対する自信にもつながります。

以上(2021年7月)

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画像:Mariko Mitsuda

【朝礼】身近にあるワクワクや感謝に気付ける人になる

先日、取引を始めたばかりのクライアントから、Z世代向けのマーケティングについて相談を受けました。Z世代とは、1990年代後半から2012年ごろに生まれた世代で、当社がターゲットとする顧客層とは大きく異なります。この話を断ることもできましたが、「打席に立つ」のが私のモットーですし、こうした機会でもなければ接することのない分野だと思ったので、少し調べてみることにしました。

Z世代について書かれた書籍を読み、Z世代が好むとされる音楽を聴いてみました。知り合いにも相談してみました。すると、想定していなかった新しい発見がたくさんあったのです。

例えば、Z世代向けの書籍を読んだことで、軟らかい文章を書く際のヒントがつかめました。最新の音楽を聴き、新鮮な気持ちで「かっこいい!」と感じてリフレッシュできました。それに、この件で相談した知り合いと、ビジネス以外の「趣味の話」をすることができ、これまで以上に仲良くなれました。

とてもワクワクする楽しい経験をしたわけですが、ここで私はふと、気付いたのです。「この経験は、当社に所属していなければできなかったかもしれない」ということに。そして、この経験のきっかけとなったクライアントとの取引は、ここにいる皆さんが1年以上もかけて努力し続けてきた成果であることに。改めて、私は皆さんとクライアントに「ありがとう」と思ったのです。

このエピソードを通じて、私が皆さんに伝えたいのは、

私たちの周りにはワクワクすることや、感謝の気持ちを抱かせるようなことであふれている

ということです。しかし残念なことに、それに気付いていない人があまりにも多くいます。

最近、「好きな仕事だけをすればいい」「我慢する必要はない」といった風潮があります。そして、右へ左へと気軽に動くことを「流動化」として推奨しているようにさえ感じます。しかし、「この仕事はつまらない。私には合わない」と凝り固まった考え方をし、簡単に会社を辞めたり、諦めてしまったりしている人がいるとすれば、それは大きな間違いと言わざるを得ません。

そうした人が「青い鳥」を探しに行ったとしても、きっと見つからないと思うからです。今、自分がいる場所で、身近にあるワクワクや感謝にさえ気付けないのですから、よそに行っても見つかるはずがありません。

仕事が自分に向いているか否か、仕事が楽しいか否かを決めるのは、その仕事の内容だけではありません。皆さんがその仕事とどう向き合うのか、そしてワクワクや感謝に気付くことができるかが大切なのです。どうか、気付くための感性を養ってください。そして、ワクワクや感謝などの

「気付き」に気付ける人

になってください。それだけで皆さんのビジネスパーソンとしての世界が豊かになります。

以上(2021年7月)

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画像:Mariko Mitsuda

海外評価が急上昇! 酒類から学ぶ「ジャパンブランド」作りの極意

書いてあること

  • 主な読者:小売業、食品・飲料業の経営者
  • 課題:自社の存在感を高め、販路拡大をしたい
  • 解決策:輸出が堅調なお酒の販売戦略・商品開発を参考にする

1 輸出額は10年連続過去最高! 日本のお酒が世界進出

このところ、日本産のお酒の販売が海外で好調なのをご存じですか?

なんと、お酒の輸出金額が10年連続で過去最高を記録し、2011年の約190億円から、2020年には4倍近い約710億円に成長しているのです。国内のお酒市場が「若者のアルコール離れ」や新型コロナウィルス感染症による影響などで苦戦するのとは対照的に、海外市場は大いに注目されています。

この機会をいかそうと、日本酒では、「酒スタートアップ」が日本酒の高級ブランド化に取り組んだり、外国人の嗜好に合わせた新商品を製造・販売したりしています。ワインでは、日本で製造する「日本ワイン」の輸出拡大を目指し、ワイナリーを開設する企業も増えています。ウイスキーに目を向けると、2021年4月に定義が確定した「ジャパニーズウイスキー」が海外進出を本格化させようとしています。

世界進出する日本のお酒! この動向は異業種であっても、海外への販路拡大やブランド確立の際の参考になるはずです。

2 お酒事業者の取り組み

今回は、日本酒・ワイン・ウイスキーにスポットを当て、海外で売れる商品を追ってみます。縦軸を「新機軸を採用する/伝統を重んじる」、横軸を「既存の魅力を深掘りする/多様化・現地に最適化させる」で分類してみると次のようになります。

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1)高級日本酒を海外展開:Clear

Clearは日本酒の製造・販売事業に特化したスタートアップで、世界のラグジュアリーブランドに匹敵する日本酒を目指し、高級日本酒ブランド「SAKE HUNDRED」を展開しています。2018年に造り酒屋を買収し、オリジナルブランドの製造・販売を開始し、現在は、1万5400円~19万8000円の価格帯で販売しています。最高級ランクとされる大吟醸の商品の多くが数千円程度で流通している中、割高な印象を受けますが、厳選した米を200時間かけて精米するなど、質へのこだわりに妥協は見られません。同社の「百光」は、世界的権威のあるワイン品評会で金賞を受賞したり、東京都内の外資系高級ホテルでの提供が開始されたりと着実に評価を高めています。

また、同社は日本酒ウェブメディア「SAKE TIMES」も運営しており、日本語版、英語のグローバル版を通じ、「日本酒業界の今」を内外に発信しています。

2)フランス パリで酒蔵をオープン:WAKAZE

WAKAZEは、東京都の三軒茶屋とフランスのパリに醸造所を開設し、これまでにない酒造りに取り組んでいます。

日本国内で新たに日本酒(清酒)を製造する場合、酒税法の規制により年間6万リットル(一升瓶換算で約3万本以上)の最低製造量が課せられており、新規参入への高いハードルとなっていました。そこで、同社は2019年にフランスのパリに醸造所「KURA GRAND PARIS」をオープンしました。ここは、タンクや圧搾機などの、酒造りに必要な器具を備えたヨーロッパ最大規模の酒蔵です。フランス国内の米や水などを用い、食の都パリで、洋食にペアリングできる日本酒を発信しています。

同社のオンラインストアでは、外国人など、お酒になじみの薄い人たちへの「SAKEの世界」の入り口となる、果実感を感じる味とワインボトルのようなデザインの「THE CLASSIC」や、洋食とマッチし、ワイングラスで香りを楽しむことを想定した「ORBIA」、国産のかんきつ類やスパイスを配合したボタニカル酒「FONIA」などを製造・販売しています。

同社は、2021年6月、ジャフコ グループ、ニッセイ・キャピタルなどから総額3.3億円の資金調達を実施しました。今後は、この資金を元にヨーロッパ全土、アメリカへの浸透を図る狙いです。

3)「ワインツーリズム」で日本ワインをPR:メルシャン

キリンホールディングス傘下のメルシャンは、国内でワイナリーの開業を進めています。同社の日本ワイン(国産のぶどうを100%使用して国内で製造されたワイン)のブランド「シャトー・メルシャン」は、海外で普及している「ワインツーリズム」の確立も視野に入れ、日本ワインの輸出拠点として長野県に「シャトー・メルシャン 椀子(まりこ)ワイナリー」を2019年にオープンしました。

このワイナリーは、浅間山や北アルプスの絶景を望む丘にあり、30ヘクタールの敷地を有しています。2020年には世界の優れたワイナリーを選ぶ「ワールド・ベスト・ヴィンヤード 2020」で日本初のランクインとアジア第1位を獲得しました。同ワイナリーでは、ワイナリーツアーも実施していますが、今後は周辺のワイナリーや軽井沢などの観光資源を巻き込みながら、国内外に向けてワインツーリズムを推進していく計画です。

メルシャンは2021年に、日本を代表するぶどう「甲州」を用いた「シャトー・メルシャン 岩出甲州 オルトゥム 2020」を発売し、日本ワインのさらなる価値向上を目指していく予定です。

4)気候変動で注目される北海道のワイナリー:北海道ワイン

北海道ワインは、いわゆる「国産ワイン(原料のぶどう果汁や外国産のワインを輸入し、ブレンドしたもの)」の製造は行わず、栽培から販売までをすべて国内で行う日本ワインの製造・販売に特化しています。同社の「余市ハーベスト ツヴァイゲルト スペシャルキュヴェ2017」は、アジア最大級の国際酒類コンペティションで北海道産のワインとして初の金賞を受賞し、国内外での評価を高めています。

2020年には、北海道ワイン後志ヴィンヤードを設立し、2024年の収穫を目指しています。同所では、ケルナーやシャルドネ、ピノ・ノワールを各2200本栽培する計画です。また、「北海道」という商品の名称(地理的表示)を知的財産として登録し保護する地理的表示(GI)保護制度に登録することも目指しています。

近年の地球温暖化の影響を受け、北海道は、ワイン生産地として海外からも注目されるようになってきました。これまで北海道は、ワイン用のぶどうが栽培できる北限とも言われており、寒冷地でも栽培可能なドイツ原産のケルナーなどが代表品種でした。近年では、これまで栽培されていなかった、フランス原産のピノ・ノワールなどの栽培が増えています。

フランスのワインの名産地であるブルゴーニュ地方やシャンパーニュ地方などの緯度が北緯47度~48度、北海道がおよそ42~45度となり、北海道の厳しい冬の影響もあり、ヨーロッパ品種のぶどうの栽培に適しているとされています。

これを裏付けるように、フランスのブルゴーニュ地方の老舗のドメーヌ・ド・モンティーユが、北海道にワイナリーを開設し、日本ワイン「de Montille & Hokkaido」のブランド名で事業を開始しています。

5)ジャパニーズウイスキーの雄:サントリー&ニッカウヰスキー

日本のウイスキーは、サントリーとアサヒビール傘下のニッカウヰスキーが販売の大部分を占めています。海外で日本のウイスキーの評価が高まった要因として、2000年代に入り、両社のウイスキーをはじめとする「Japanese Whisky」が海外のコンテストで軒並み上位にランクインするようになったことが挙げられます。

こうして世界に日本産のウイスキーの品質が認められると、旅行先としての日本の認知度が高まってきたことも手伝い、山崎や余市などの両社の蒸留所へのツアーの人気も高まりました。

サントリーの「響」、ニッカウヰスキーの「竹鶴」などは、毎年のように世界の賞を受賞しており、欧米圏などを中心に高い人気を誇っています。

一方、ウイスキーの製造には、商品によっては熟成に十数年以上掛かることもあり、国内の大手メーカーが実質的に2社に限定されていることもあり、急激な需要の変化に対応しにくいことが課題と言えます。

上記の海外での評価の上昇と並行し、国内ではハイボールブームや、ウイスキーがテーマの朝の連続ドラマが放映されるなどした結果、ウイスキーの原酒が不足し、一部の銘柄の終売や、流通価格の高騰などの弊害も起きています。

6)地ウイスキーも続々登場:本坊酒造&三郎丸蒸留所

日本のウイスキーの評価が高まる中で、小規模ながらこだわりのウイスキー「地ウイスキー」も登場しています。世界5大ウイスキーのスコットランド、アイルランド、アメリカ、カナダ、日本のさまざまな原酒をブレンドしたオリジナルの地ウイスキーも、海外で世界最高賞を受賞するなど、高く評価されています。

本坊酒造(鹿児島県)は、自社ブランド「マルスウイスキー」を展開しています。1985年に長野県に蒸留所をオープンし、地ウイスキーブランドとしての地位を確保しています。同社の「こだわりモルトの地ウイスキー」は、モルト原酒にグレーン(穀類)などをブレンドし、日本酒のように一升瓶に瓶詰めされています。

三郎丸蒸留所(富山県)は、北陸唯一のウイスキー蒸留所とされています。同所は、2017年に設備をリニューアルし、世界初の技術を取り入れたポットスチル(蒸留機)を使用してこだわりのウイスキーを生産しています。現在では、国内初の国内の他の蒸留所との原酒の交換を実現し、ジャパニーズウイスキーの安定的な製造・販売を確立すべく、ボトラーズ事業のためのクラウドファンディングをモルトウイスキーの販売専門店のモルトヤマと共同で実施しています。

ウイスキーに関しては、2021年4月にジャパニーズウイスキーの定義が確定・公表されました。この定義では、日本国内の水を用いて日本国内で製造・貯蔵・瓶詰めされたものがジャパニーズウイスキーとして定義されます。

これまでは、海外産の原酒を日本で瓶詰めやブレンドしたものなどでも、ジャパニーズウイスキーとして国内外で流通することができましたが、定義の公表が「世界5大ウイスキー」の一つであるジャパニーズウイスキーの保護・販売拡大の追い風となるでしょう。

3 お酒関連の動向

冒頭で触れたように、お酒の輸出金額は増加しています。輸出金額やお酒市場の置かれている現状を見てみましょう。

1)日本からの輸出額:国税庁「酒類の輸出動向」

国税庁の資料「酒類の輸出動向」によると、近年の日本のお酒の輸出金額は次の通りです。

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お酒の輸出金額は、ここ10年で順調に右肩上がりを維持しています。この図表にはありませんが、2020年に輸出金額が大きかったお酒は、1位がウイスキー(271億円)、2位が清酒(241億円)、3位がリキュール及びコーディアル(86億円)となっています。

2011年から2019年までは、清酒が金額トップを維持していましたが、2020年には清酒が前年比3.1%増にとどまった一方、ウイスキーは同39.4%に成長し、金額トップの座に着きました。

2)お酒市場の現状

お酒市場の現状として、次のようなものが想定されます。海外向けの動きとしては、近年の日本(食)ブームと政府による貿易振興支援が奏効していますが、国内に目を向けると、お酒市場の縮小や後継者不足など、課題が山積していると言えます。また、地球温暖化を受けた産地の変化は今後要注意と言えます。実際に、寒冷な気候の北海道に岐阜県の酒蔵やフランスのワイナリーが移転したり、ぶどうの栽培を始めたりしています。

そうした中で、「酒スタートアップ」の登場や、テクノロジーを用いて新商品の開発や販売に取り組む企業が現れるなど、明るい動きも出てきています。

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3)輸出支援の参考資料

政府もお酒の輸出に対して支援を行っています。JETRO(ジェトロ、日本貿易振興機構)は、国税庁と共同で、日本酒の輸出を検討する事業者向けに「日本酒輸出ハンドブック」を公開しています。

このハンドブックは、現在「香港編」「中国編」「台湾編」「韓国編」「米国編」「カナダ編」が公開されています。

日本酒の輸出を想定しているものの、ハンドブックの内容は、日本からの輸出品などのデータや現地の消費トレンド、輸出に際しての手続きや留意点などが数十ページでまとめられており、日本酒の輸出にとどまらず、他のお酒の輸出を検討する際のヒントに活用できそうです。

■JETRO 日本酒輸出ハンドブック■
https://www.jetro.go.jp/industry/foods/notice/e677cd2ac372fb1e.html

以上(2021年7月)

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画像:unsplash

ストップ!「ながら運転」(2021/07号)【交通安全ニュース】

活用する機会の例

  • 月次や週次などの定例ミーティング時の事故防止勉強会
  • 毎日の朝礼や点呼の際の安全運転意識向上のためのスピーチ
  • マイカー通勤者、新入社員、事故発生者への安全運転指導 など

運転中の携帯・スマホの使用やカーナビの画面注視など携帯電話使用等(いわゆる「ながら運転」)に起因する交通事故件数(令和2年)は、道路交通法の改正(厳罰化)等の効果もあり、前年より大幅に減少しました。
その一方で、ながら運転による交通事故は、ながら運転以外の場合と比べ、死亡事故の比率が約1.9倍であり、重大事故となる可能性が高い傾向があります。
ながら運転を絶対にしないように心がけ、常に運転に集中しましょう。

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※ 警察庁Webサイト 「やめよう!運転中のスマートフォン・携帯電話等使用」https://www.npa.go.jp/bureau/traffic/keitai/info.html(2021.6.17閲覧)

1.ながら運転の罰則等

ながら運転とは、運転中の携帯・スマホによる通話、操作および画面注視、ならびにカーナビの画面注視などの行為を言います。携帯電話使用等によるながら運転は、その危険性から厳しい罰則等(下表)が課せられます。交通事故の発生や重大な事故につながる危険な運転により交通の危険を生じさせた場合は、罰則等が重くなります。

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2.“ちょっと”が危険を招く

スマホをちょっと確認するだけでも、また運転に集中するまでに2秒程度を要します。
一方、スマホやカーナビを2秒以上注視するとドライバーが危険を感じる状態になると言われます。
車は2秒間で思った以上に移動します。その間、周囲の交通情報が遮断されると、対向車、停止車両、歩行者等に気づくのが遅れ、ブレーキ操作等が間に合わず、衝突、追突もしくは歩行者等をはねるリスクが高まります。

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<ながら運転の事故発生場所の特徴>
ながら運転による交通事故は、比較的見晴らしがよい直線道路で多いという特徴があります。
これは、安全と思われる場所が、“ちょっと”の油断を招くからだと推察されます。

※ 公益財団法人 交通事故総合分析センター「携帯電話等の使用が要因となる事故の分析」
https://www.itarda.or.jp/presentation/18/show_lecture_file.pdf?lecture_id=95&type=file_jp
(2021.6.17閲覧)

3.ながら運転対策

厳罰化から1年半が経過しましたが、ちょっとの油断も生じさせないためには、“ながら運転は絶対にしない”という強い意識を持ち続けることが大切です。
ながら運転の危険性をいまいちど認識し、安全運転を心がけましょう。

1.ながらスマホ対策

  • 着信で注意を奪われないよう、運転前に電源を切ったりドライブモードに設定したりする。
  • スマホを操作するときは、安全な場所に停車してから行う。
  • ハンズフリー通話は、会話に気を取られて安全不確認や漫然運転といった安全運転義務違反につながる可能性があることを十分に意識する。
  • <職場での取り組み>
  • ながら運転の撲滅に向け、油断が生じないよう、定期的に安全運転教育を行う。

2.カーナビ注視対策

  • 時間に余裕を持った行動(目的地への道程の事前確認、早めの出発)をする。
    道に迷ってもあわてず、車を安全な場所に駐車して地図を確認しましょう。

以上(2021年7月)

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画像:amanaimages

情報過多な今こそ求められる ビジネスでの情報活動スキル向上策

書いてあること

  • 主な読者:情報活動(情報の収集、分析、活用)のスキルを向上させたい人
  • 課題:欲しい情報を迅速かつ的確に集める方法や、その情報がビジネスで使える情報なのかの見分け方が分からない
  • 解決策:インターネット以外での情報収集も行う。出所ごとの情報の質の違いを理解する

1 ネットで拾ったその情報、ビジネスで使って大丈夫ですか?

参入を検討している介護用品は、きっと売れるという報告をしたら、課長から「調査が不十分」と大目玉をくってしまった。ちゃんとインターネットで検索して、介護関連市場が拡大しているという経済評論家の話や、国が高齢者対策は重要だと言っていること、それにライバル会社の類似商品を評価する書き込みがブログやSNSに載っていることを報告したのに……。

ちょっと待ってください。確かにインターネット上には情報があふれており、商品の売れ行きを見通すための材料も見つかるかもしれません。ですが、先ほどの調査は、次の3つの点で不十分と言われても仕方ありません。

  • 情報の出所:インターネットのみで情報を収集している
  • 情報の質:情報そのものの信ぴょう性に疑念がある
  • 目的と合致した情報:売れるかどうかを判断するのに役立たない情報を収集している

この記事では、上記の3点に焦点を当てて、自社のビジネスにとって必要な情報を、どうすれば迅速かつ的確に収集、分析、活用できるのかについて考察します。

2 情報の出所:ネット以外での収集も検討しよう

1)インターネットで見つからない情報に価値があることも

情報収集の最初の手段としてインターネットで検索することは、最も容易に、かつ的確な情報を得られる可能性が高いといえるでしょう。一般的に新鮮な情報が多い傾向もあります。ただし、情報を発信することも容易であるため、情報の質は玉石混交です。また、誰もが容易に入手できる情報なので、情報の“重さ”や貴重さという面では劣るといえるでしょう。

インターネットの対極にあるアナログな情報として、書籍や文献、専門家の話や実地調査などがあります。収集するのは難しいですし、書籍などの中には古い情報が含まれていることもあります。その一方で、実体験に裏打ちされた情報や、現場の生の声など、「リアル」な情報が入手できるメリットがあります。こうした情報には、情報源に近いという情報の“重さ”と、オリジナリティーのある貴重さという点で、インターネットで収集した情報とは一線を画した強みになることがあります。

2)場合によってはお金をかけることも必要

インターネットニュースの広がりにより、情報が水や空気と同じように無料で収集しやすくなっているのは確かです。ただし、全ての情報が無料で収集できるわけではありません。情報は、より選別化されているといえます。

有料情報は、有料で販売できるだけの強みを持っています。有料情報が強みとしている無料情報との主な違いとしては、次のような点が挙げられます。

  • 通常では入手するのに時間や手間がかかる(蓄積された経年のデータも含める)
  • 網羅性がある(調査の対象が広く全体を俯瞰(ふかん)できる)
  • 専門性が高い(情報を持っている人が限られている)
  • 正確性が担保されている(情報の精度が高い)
  • 信頼性が高い(情報発信者として権威があることも含む)

対価を支払うだけのメリットが得られるのであれば、お金をかけて情報を収集することも検討しましょう。

3)「上下前後左右」の出所をフル活用しよう

インターネットが広まる以前、メディアに携わる人の間では、情報収集は「上下左右」からといわれていました。ネット時代となった現在は、情報の出所はさらに広範になっており、「上下左右前後」に例えることができそうです。

  • 上:政府などの統計情報
  • 下:消費者などの口コミ情報(インターネット掲示板やSNSなども含む)
  • 前:研究者や専門家のコメントや文献、調査会社のリサーチ
  • 後:書籍、専門機関のデータベース
  • 左:ネット系新興企業(検索エンジン運営会社、マーケティング・リサーチ会社など)
  • 右:従来のメディア(新聞、雑誌、テレビ、ラジオなど)

一部の出所には、インターネットからでは収集できない情報もあります。また、情報を分析・活用する際にも、それぞれの情報の出所ごとの特徴を踏まえておくことが重要です。情報の出所ごとの特徴は、次の通りです。

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3 情報の質:真実に近いかを見分けることが第一歩

極端な話ですが、単なる噂話で会社の経営判断が振り回されるわけにはいきません。情報を分析するための第一歩は、情報の質、つまり真実に近い情報かどうかを見分けることです。近年は「フェイクニュース」という言葉をよく耳にしますが、誤情報は発信者の悪意からだけでなく、意図せずに事実と異なる情報を発信してしまっている可能性もあります。質の低い情報を基にいくら的確に分析しても、正しい分析結果は出せません。

ここでは、情報の質を見分けるための基本的なポイントを紹介します。

1)出所を確認する

情報の出所を確認することで、情報の質をある程度推定することができます。政府などの公的機関および研究機関、新聞、上場企業などが出所となっている情報は、一般的に質が高いといえるでしょう。

逆に匿名で発信された情報は、正確性が担保できない上に、真偽の確認手段も限られてしまいます。特にインターネット掲示板やブログ、SNSなどは匿名性が高く、質の低い情報が混ざっている可能性が高いと考えておくべきでしょう。

2)一次情報か二次情報か

一般的に情報は、媒介者が増えるほど正確性を損なっていく傾向があります。情報源(当事者)から直接入手した情報(一次情報)や、新聞など出所の確かな組織が一次情報を基に発信した情報(仮に「準一次情報」と呼びます)は、ほぼ真実とみなしてよいでしょう。それと対照的に、人づてに聞いた話や、インターネットで検索したブログでの書き込みなどの、いわゆる二次、三次情報は、質の低い情報といえます。

ビジネスで活用するのであれば、基本は一次情報および準一次情報を中心に収集するべきです。もし二次情報、三次情報を活用したいのであれば、可能な限り情報源を探しましょう。もし情報源を見つけられなかった場合は、その情報には裏付けがなく、間違えている可能性があることを前提にして分析を行うようにしましょう。

3)客観的情報か主観的情報か

情報の質を見分ける中で最も難しいのが、その情報がデータなどに基づいた客観的情報なのか、情報発信者の考えが混ざっている主観的情報なのかの判別です。

基本的には、何らかのデータにひも付けられた情報かどうかで判別できます。例えば、「A商品が人気になっている」という情報だけでは、客観的情報とはいえません。「直近の月間売上額がいくらで、ライバル企業の類似商品の1.5倍」といったデータに裏付けられて、初めて客観的情報になります。

では、ある消費者がSNSに書き込んだ「B商品は使いやすくて便利」という感想は、主観的情報なのでしょうか。これは、その消費者が感じたことを正直に書き込んだ感想であるので、客観的情報だといえます。ただし、その感想を書き込んだ消費者が、例えばB商品を無償で提供されているなど、B商品を褒めることにメリットがある場合、その感想は主観的情報と判別しなければなりません。ですから同じ情報であっても、発信者の立場にまで注意しておく必要があります。これは、研究機関や新聞などの発表でも当てはまることです。

4)情報の「クセ」にも注意を

どんなに公平・中立を目指した調査であっても、何らかの偏りが出てしまうものです。

例えば、世論調査をはじめとするアンケート調査の結果は、世の中の平均的な考えを集約した真実に近い情報だと思われがちです。しかし、例えば日本人の1日のインターネットの平均利用時間を知るために、インターネットを使って回答者を募集しても、正しい情報は得られません。インターネットを全く使わない人もいるからです。

また、日本人の場合は、「とても良い」「良い」「普通」「悪い」「とても悪い」という5つの選択肢がある場合、「とても良い」と「とても悪い」という回答を選びにくいともいわれています。

こうしたことから生じる情報の「クセ」の大きさを把握するためには、調査方法、調査時期(時間)、調査人数、調査対象の選び方、質問内容(聞き方)や回答方法といった調査の前提を確認しておくことが大事です。

4 目的と合致した情報:「何を判断するのか」を明確に

せっかく収集した質の高い情報でも、十分に活用できなければ、その情報は「インフォメーション」にとどまり、「インテリジェンス」にはなりません。収集、分析して得られた情報が、判断する材料に適した情報でなければ、意味がありません。逆にいうと、数ある情報の中から、目的に合った情報を選別して収集し、活用することが求められるのです。また、情報の使用目的によっては、著作権やプライバシーなどに配慮する必要が生じます。

1)「何を判断するのか」を明確にし、優先順位をつける

当たり前の話ですが、なぜその情報を活用するのか、その目的を明確にしておくことが基本です。

情報を活用する目的としては、6W2H(「Whether or not to:やるか、やらないか」「When:いつまでにやるのか」「Where:どこでやるのか」「Who:誰がやるのか」「What:何をやるのか」「Why:どのような理由でやるのか」「How:どのような方法でやるのか」「How much:いくらでやるのか」)といったものがあります。

これらの目的に合わせて判断するには、単独でなく複合的に判断する必要があります。例えば、「いくらでやるのか」が決まらなければ、「やるか、やらないか」も決められません。優先順位をつけながら、判断をしていくことになります。

2)多次元の情報を活用する

情報を基に判断するには、なるべく多くの側面から、つまり多次元の情報を基に判断することが大事です。

例えば、A店舗にB商品を追加投入するかどうかを判断するとします。「A店舗でのB商品の今月の売上高」という点の情報だけでは、判断できません。ここに、「A店舗でのB商品の過去3年間の月ごとの売上高」という縦の線の情報、「A店舗を含むC地域の各店舗でのB商品の売上高」という横の線の情報を加えて面の情報にすると、適切な判断がしやすくなります。

さらに、「B商品と類似したD商品の売上高」「B商品やD商品を含むカテゴリー全体の売上高」などの立体的な情報を加えることで、判断の精度が高まります。

3)反対の情報も探してみる

ある程度の情報が集まると、「この商品は売れそうだ」といった仮説を立てることができるようになります。仮説を基に、それを補強する情報を集めることによって、情報収集の効率がよくなります。

ただし、仮説はあくまでも仮説です。仮説を補強する情報だけでなく、仮説に反するような情報がないかどうかも調べてみることが大事です。

4)他者を説得する材料に活用する場合は、より客観性に配慮を

情報は自社の経営判断のためだけでなく、他者を説得するための材料としても活用します。

例えば、ある商品を売り込みたい場合、「販売量が類似商品の中で1番」「使った人の満足度は○%」といった情報を付けると、買い手の購入意欲を高める材料になるでしょう。

こうした際は、基本的に説得したい内容を補強する情報を使うと効果的です。ただし、説得したい内容との関連性が薄い情報や、根拠に乏しい情報を付けると、逆に不信感を与えかねません。また、客観性を担保するために、「当社アンケートに基づく」「当社の旧商品との対比」といった自社で作成した情報よりも、一次情報や準一次情報などを活用するほうが、説得力が増すでしょう。こうした場合は、出所を明確にすることも大事です。

5)社外へ公表する情報は、著作権やプライバシーに要注意

収集した情報を社内での検討資料として使用するだけであれば問題ありませんが、情報を外部に公表する場合などは、著作権やプライバシーに関しての取り扱いに注意が必要になります。ただし、社内のみで使用する情報であっても、取得した情報をPDFなどに電子化して共有する場合は、著作権に抵触する可能性があります。また、たとえ有料で取得した情報であっても、使用条件が限定されることが少なくありません。事前に使用条件を確認しましょう。

収集した情報を外部に公表する場合は、情報発信者の了解を取るべきでしょう。また、個人名などが判別されてしまうような情報に関しては、当人に確認したり、一部の情報を伏せて公表したりするなどの対応が必要になります。

以上(2021年7月)

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画像:unsplash

悪魔にも天使にもなる!? 固定費とうまく付き合おう/経営者のためのファイナンス講座(5)

書いてあること

  • 主な読者:将来の意思決定に役立つファイナンス思考を身に付けたい経営者
  • 課題:売上が減少傾向にある場合などにおいて、コスト削減の考え方を知りたい
  • 解決策:固定費の特性を正しく理解し、できる範囲で固定費を増やさないように工夫することで、業績への影響をコントロールしやすくなる

1 コロナ禍だけではない、オフィス移転の理由

街を歩いていると、空き店舗を見かけることが多くなった気がします。度重なる緊急事態宣言により、東京では飲食業を中心に厳しい状況が続いています。

会社のオフィスについても、一部スペースを返したり、面積が小さな場所に移転したり、なかにはオフィスを閉鎖する会社もあったりするなど、不動産にも大きな影響を与えています。確かに、リモートワークが進んだことから、以前のように出社して執務するスペースが要らないという理由もよく分かります。

加えて、オフィス移転などをする会社が多いのは、コロナ禍だからではなく、実はオフィスを借りるための費用が固定費だからという理由があるのです。

2 固定費は売上ダウン時の負担が大きい

固定費という言葉は聞いたことがある方も多いでしょう。固定費とは、売上が変動しても金額が変わらない費用のことです。ちなみに、これとは反対に、売上に比例して増減する費用を変動費と呼びます。

コロナ禍においては、売上が激減する一方で、固定費が重くのしかかって、経営不振に苦しんでいる会社が数多くあります。まさに定義の通り、固定費は売上が減ったとしても、かかり続けます。経営悪化時の業績への影響はとても大きいのです。

3 削減努力の効果が高いのは、固定費

その一方で、固定費には削減効果が続きやすいという性質があります。例えば、先ほどの狭いオフィス移転の例で考えてみると、引っ越しなど移転の際、一時の手間やコストはかかりますが、いったん移転してしまえば家賃の削減効果は半永久的に続きます

変動費ではこうはいきません。会社は業績が厳しくなると、交際費や交通費などの変動費を抑えることがしばしばです。しかし、その努力を継続するのはなかなか大変です。つまり、固定費に比べて変動費の削減効果を継続するのは大変ということです。

雑誌などでファイナンシャルプランナーが、家計の改善のための助言を行う記事を見かけますが、よく取り上げられているのは、家賃と保険料と携帯電話などの通信料、子どものお稽古の月謝です。これらに共通するのは、固定費ということです。この家計の例から見ても、せっかく努力するのであれば、固定費に着手した方が「コスパがいい」というのがお分かりいただけると思います。

4 人件費も、固定費

このように、足元の業績を改善し、将来の利益を稼ぎやすくするためにも、固定費の削減は役に立ちます。

家賃に加えて、代表的な固定費として、人件費が挙げられます。シリーズ第3回(「人」と「コスト」のファイナンス的考え方/中小企業経営者のためのファイナンス講座(3))で、「人件費はコスパを考えるべき」という話をしましたが、その理由の1つに、人件費も固定費だからといえます。

業績が悪くなると、以前からリストラをする会社が見られましたが、これはまさに、足元と将来の業績という2つの目的のために行われるのです。

5 固定費=悪者ということではない

ここまでの話を聞いて、固定費は悪者だと感じた方もいるかもしれません。しかし、そうではなく、固定費の性質を正しく理解することが大事です。

固定費がいいか変動費がいいかという議論は、飲食店で食べ放題がいいかアラカルトがいいかということに似ています。たくさん食べる方には食べ放題がお得ですし、小食ならアラカルトの方が実際に食べた分だけの請求なので無駄がありません。つまり、どちらが合っているかは、人それぞれで、万人に共通する答えはありません。同様に、固定費がいいか変動費がいいかを判断するには、自社の業種を踏まえる必要があるのです。

というのも、業種によっては、比較的大きな固定費の負担が不可避という場合も多いのです。例えば、飲食業や小売業など個人のお客さん相手の事業は、やはり立地が大事です。従って高額な家賃が必要です。

しかし、最近はその中でも、デリバリーやオンライン販売など新たな形態に注力する動きも見られます。もちろん、厳しい環境下で生き延びるために考え出される取り組みですが、結果的には固定費が減って、利益が出やすい体質になる効果もあるのです。

6 固定費が減ると、業績好転時の影響も大きい

また、売上が伸びるなど、業績が好転した際には、固定費はうれしい効果があります。

例えば、業績好調のWeb関係の会社では、営業利益率70%といった数字を見かけることがあります。流通業など利益率が低いことが多い業種からすると、驚きです。まさにこれも、固定費のなせる業なのです。

自社でソフトウエアを開発し、その利用料を得る事業では、開発時には人件費が膨大にかかりますが、一度開発に成功してしまえば、後は保守運用するための人件費や、サーバー費用くらいしかかからない場合もあります。

そのため、売上が成長すると、これらの固定費の金額が相対的には小さくなるため、驚くような利益率につながります。

このような固定費の存在により、売上伸長時に利益が大きく増える現象は、固定費のレバレッジ(「てこ」のこと)効果と呼ばれます。

7 最近は固定費を変動費化できることも多い

とはいえ、事業の形態を追加したり変えたりするには、時間も手間もかかります。そこで、固定費を減らすもう少し取り組みやすい方法として、固定費の変動費化があります。

例えば、いきなりオフィスをなくす代わりに、従量制のシェアオフィスを利用するのも1つです。また、営業車をリースする代わりに、カーシェアを利用することもできるかもしれません。

シリーズ第2回(ファイナンス特有の「見えないコスト」の考え方/中小企業経営者のためのファイナンス講座(2))の中で管理コストがかからないよう、これらのサービスを使って中小企業は「持たざる経営」をという話をしました。その理由は、固定費による業績圧迫を避けるためでもあるのです。

以上(2021年7月)

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画像:pixta

“渋谷駅半径2キロ圏内だけに留まらない”エクイティを活用した伴走支援。ガッツリ内部に入り込み事業を成長させる分厚いサポートには、「日本の未来を変えたい」スペシャリストたちの思いが込められていた!/岡目八目リポート

年間1000人以上の経営者と会い、人と人とのご縁をつなぐ代表世話人杉浦佳浩氏。ベンチャーやユニークな中小企業の目利きである杉浦氏が今回紹介するのは、山田 一慶さんと小野 敬明さん(ともにBlueCircleの共同代表パートナー)です。

「エクイティ活用によるスタートアップ支援」というと、「東京、都心部、ITの会社」といったキーワードを連想するかもしれません。しかし、BlueCircle(ブルーサークル)さんが考えているのは、日本全国、むしろ地方で、そしてソーシャル領域などIT関係ではない会社にもスタートアップ的な経営ノウハウを伝え、経営を変えていくことです。
以降では、山田さんと小野さんがなぜそう考えているのか、そして具体的にどのようにスタートアップ支援をされているのかをご紹介していきます。お二人のお話を聞いているだけで、なにか自分自身の考え方がバージョンアップされていくのを感じます。経営者の皆さまにとって今後の事業成長のヒントになることも多いと思いますので、ぜひご一読ください。

1 ポイントは「経営の伴走支援」

まず、BlueCircleさんがやっておられることをご紹介します。同社ウェブサイトトップページには、BlueCircleさんを表す言葉として次のように記載されています。

BlueCircleのビジョンを示す言葉の画像です

(出所:BlueCircleウェブサイト公開資料)

BlueCircleさんはスタートアップのエクイティ活用支援が得意ではありますが、ポイントは「伴走支援」のところです。BlueCircleさんは、スタートアップの経営者と毎週のように顔を突き合わせ、どんなプロダクトを作るか、どうやってマーケティングや資金調達を進めるか、といったスタートアップ経営の根幹を継続的に議論し、意思決定を支援しており、1社1社にかなり深く入り込んで、まさに「経営の伴走支援」を行っておられます。

よくある一般論に終始するコンサルティングや、「お金が必要なら調達してきましょう」というブローカー的なものでは全くなく、資金調達も含めて、

会社の成長の鳥瞰図を経営者と一緒に作っている

イメージです。

スタートアップやベンチャー、創業間もない会社の場合、「経営のことを考えるのが経営者一人しかいない」状況が多いかと思いますが、そうすると、経営者一人では解決できない、先に進めないことも出てきます。そうしたときにレイターステージのスタートアップで経営層を経験した、実際にスタートアップの資金調達などの経験もありスタートアップが成長した後の経営についても分かっている、そして「経営者と同じ目線に立ってくれる」スペシャリストに相談できるのは、経営者としてかなり心強いのではないでしょうか。BlueCircleさんは、まさに、「経営者の頼れる伴走者」で、こうした伴走者はなかなか探しても見つからない、言われてみれば絶対に必要なのに、今まで無かった新しい存在です。

2 これまでのご経歴も信頼のベース

BlueCircleさんはご支援する会社から見れば外部の人ということになりますが、やっておられることは

「外部だけど内部」

と言えるほど深く入り込んでいます。こうしたことができるのは、BlueCircleの方々のご経験もあって、お客さま(会社さん)から信頼されているからだと感じます。

山田さんと小野さんのご経歴をいくつかご紹介しますと、ソフトバンクでロボット事業(Pepper)立ち上げの財務責任者としてフランスの会社を買収、スタートアップで30億円の資金調達を実現(山田さん)。経済産業省・防衛省・東京都などの政策を立案、外資系IT大手のマーケティングを経験した後、複数のスタートアップでCMO・事業責任者を歴任(小野さん)。お二人のご経歴は同社ウェブサイトで公開されていますので、お読みいただくと、第一線でご活躍されてきたスペシャリストだということがよく分かると思います!

https://www.bluecircle.co.jp/team

BlueCircle山田一慶氏、小野敬明氏の経歴を示す画像画像です

(出所:BlueCircleウェブサイト公開資料)

山田さんはBlueCircleを立ち上げる前、ライフエンディングのマーケットを中心としたスタートアップ「よりそう」のCFOをやっておられました。そこで30億円の資金調達を実現されたわけですが、CFO在籍4年間で月商を3000万円から数億円にまで成長させたそうです。山田さんがこうした成長を実現できた背景には、ある先輩スタートアップのCFOと出会いがあるそうです。その方から、経営戦略から資金調達まで具体的なノウハウを手取り足取り教えて頂けたことで、ひよっこCFOからプロCFOへと成長することが出来た。だから、同じように困っているスタートアップ経営者を支援する事ができないか、という発想が今のBlueCircleにつながっていると山田さん。

また、小野さんはマーケティングや事業コンサルティングなど山田さんとは違った分野のスペシャリストです。小野さんいわく、山田さんとお二人がそろうと「財務からマーケティングまで幅広いビジネス戦略の全部含めてご支援できる」という思いでBlueCircleを立ち上げたそうです。本当に心強いお二人ですね!

その他にも、SaaSプロダクト開発企業のCOOをやっていた方やさまざまなスタートアップ でCMO、マーケティングの責任者をやっていた方、反対にVCサイド(外資系のベンチャーキャピタル)にいた方もいらっしゃるとのこと。こうしたメンバーで「レイターステージの経験を持っている人が、ゴールから逆算していかにゴールでたどり着くかを支援している」のだそうです。まさに、スタートアップを成長させる&成長させた後の出口までの支援を実現するスペシャリストの軍団です。「スタートアップ的な経営」ノウハウも、かなりお持ちなのだと思います。

3 BlueCircleさんの「外部だけど内部」なご支援事例

1)他に聞かない「モックレベル」のご支援

BlueCircleさんのスタートアップ支援は「外部だけど内部」という言葉でも分かる通り、ご支援先の会社さんのかなり現場のところも一緒に考え、動きます。例えば、2021年6月30日に第三者割当を通じて、約2億円の資金調達が完了したヴァルトジャパン株式会社をご支援した場合もそうです。

●ヴァルトジャパンさんの資金調達に関するプレスリリースはこちら
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000014.000013618.html

ヴァルトジャパンさんは、障がい者就労施設の支援をされているソーシャル領域の会社です。これまで障がい者就労施設に提供されていた仕事は、箱詰めなど、単純作業が中心でした。そこを、ヴァルトジャパンさんは、IT系の作業など「今まで障がい者就労には無かったような仕事」を獲得してきて作業として分解したり、取り組みやすい形に加工・分配して、障がい者の方々がやり遂げられるような体制を作られています。これにより、課題とされている障がい者の方々の低賃金を改善し、障がい者の方々が高単価な仕事に就けるようにしています。ヴァルトジャパンさんも、素晴らしいことを実現されている会社さんですね。

BlueCircleさんは、このヴァルトジャパンさんを2020年3月ごろからご支援されておられます。今後さらに事業を拡大していきたいという気持ちだったヴァルトジャパンさんに対して、BlueCircleさんが行ったご支援は、「じゃあすぐに資金調達しましょう」というものでは全くありませんでした。

「ビジネスの基本を建て付けていくこと」からスタートしていった

のです。資金調達をするためには投資対象として魅力的であることが重要なので、ビジネスが強くなるように「一緒に作り上げていった」のだそうです。BlueCircleさんがヴァルトジャパンさんへのご支援でやっておられることの例は次の通りです。資金調達に入る前に、経営を整えるところから入っておられるのが分かります。

  • 資金繰りのマネジメント
  • 注力する事業分野の決定
  • 戦略的な商品化と営業体制づくり(営業戦略の策定)
  • 上記をベースに資金調達に向けた成長ストーリー立案、戦略の立案
  • 成長ストーリー、戦略の立案に基づく数字や計画への落とし込み
  • 資金調達準備の際の売上拡大に向けた営業サポート
  • 資金調達後のITプロダクトの企画、設計
    (“モックレベル”までご支援!)

まさに「外部だけど内部」です! まるで中の人のように一緒にプロジェクトを進めている感覚です。特に注目したいのは「資金調達後」もしっかりと事業のお手伝いをされているところです。「資金調達後のITプロダクトの企画」をお手伝いする際は、なんと「あとはエンジニアがコードを書けばいい」というモックレベルまで(!)お手伝いされるそう。他ではあまり聞いたことがないレベル感のご支援で、驚きました。

こうしたご支援について山田さん、小野さんにお伺いしたところ、次のように語ってくださいました。ご支援するヴァルトジャパンさんの「思い」「志」に共感しているというところが、深い深いご支援につながっているのだと思います。胸が熱くなるお話です。

    ●山田さんと小野さんに伺った深いレベルのご支援について

    ヴァルトジャパンさんの思い、BPOの事業自体は僕たちも共感するところが多くて、社会的な価値に貢献できるような投資が日本に増えたらいいなと思っています。
    民間の、さらにベンチャーキャピタルのようなところが社会性の高い事業に出資して、支援するのが当たり前の世の中になったらいいなと思って支援しています。

    ただ、そういったスタートアップとか、VCファンダブルな事業を作っていく経験は、やはりみんなが持っているわけではないですよね。僕たちはこれまでの経験を生かして(ITプロダクトについて)、ユーザーのペインなども定義した上で投資価値のある事業戦略を描き、プロダクトの企画の詳細を落とし込んでエンジニアがコードを書くだけというモックのレベルまで昇華させていくところまで一気通貫で支援をしています。資金調達の支援というよりは経営のリソースや手段、施策みたいなところのレベルで我々はいつも伴走しているのです。

2)すでにある程度の規模で事業されている会社さんへのご支援も

また、起業直後のスタートアップに限らず、すでに年商10億円規模の本業をやっておられる中小企業のご支援などもされているそうです。
その会社さんは新たにスタートアップを作ろうとしており、「業界を変えるようなITプロダクトを作りたい」というご要望だったそうです。もともとIT系ではないためノウハウも知見もなし。そこで、BlueCircleさんは、最近のスタートアップやITビジネスの手法に関する情報をシェアしながら、事業計画・事業戦略を一緒に組み立てているとのことです。本業をすでにやっておられる会社さんがスタートアップを立ち上げる前の「かなり初期の段階」からご支援されているということなので、BlueCircleさんは、会社の第二創業や、中小企業が事業承継をした後、後継者が新しく事業をされる際のご支援なども得意なのではないかと思います。

4 BlueCircleさんとして実現したい世界

突っ込み度合いが、一般的なコンサルティングなどとは明らかに全く異なるBlueCircleさん。山田さんや小野さんがこうした伴走支援を実践されているのはなぜなのか、その思いをお伺いしてみました。すると、「日本の未来」を見据え、その未来を変えたいからという思いから、非常に深く考えられていらっしゃることが分かりました。

高度経済成長時代の経済成長が止まり、国の経済の基礎である人口も今後急速に減っていくことが予想されている今の日本。「間接金融で設備投資をして、人を大量に採用して、大量に売る。これで成長できていた」のが、叶わなくなったことで、今までの経済成長モデルが機能しなくなっています。こうした日本の状況を捉え、

「そうした中で日本の経済水準を維持していくには、急激に減る人口を上回る非線形の成長が必要です。この、今後求められる「非線形の成長」を唯一実現している経済モデルが、シリコンバレーが発明したITとエクイティを活用したスタートアップ経済なのです。」

と山田さん。

経営モデルを全体的に見直していかなくてはいけない中で、スタートアップやベンチャー的な経営の手法論は日本でも徐々に体系化されてきたそうですが、実践しているのは東京のIT系ベンチャーを中心とした一部のスタートアップやベンチャーだけ。

「日本の電機企業の多くが大阪発祥だったように、日本には新しい発想を持った起業家が全国各地に居る。しかし、エクイティは東京に集まっている。この偏在性は解決しなくてはいけない。スタートアップという新しい経営手法を、触れる機会のない経営者に伝えることで、日本はもっと成長できるはず。」

というのが、BlueCircleさんが伴走支援をされている大きな理由です。

    ●山田さんと小野さんのお話

    (スタートアップ、ベンチャー的な経営は)東京の渋谷区、新宿区、品川区、港区だけではなくて、当然地方にもあってしかるべきだし、IT業界出身者だけではなくてソーシャルの会社や飲食店、いろいろな業界の出身者が居ていいと思っています。

    ただ、そこにはエクイティとか、そういった成長を実現するためのモデルが、どう実現できるのかというノウハウがないだけ。実は体系化されている成功体験や手法があるのに、ノウハウと人材が最適にアロケーションされていないというのが現状だと思います。

    それを解決したいというのが大前提にあって、BlueCircleをやっています。

こうしたお話をお伺いしていると、自分自身も考え方が非常にバージョンアップしていく感じがします。
また、小野さんがお話ししてくださった次の例も、とても大事なことだと感じました。「スタートアップ」「エクイティ」「IT」といった言葉や概念の難しさがハードルになって、新しい経営手法が広まる壁になっている状況が伝わってきます。

    ●小野さんに伺った「エクイティという言葉を知らなかった起業家の話」

    先日新しい発想の事業を立ち上げて軌道に乗せようとされている起業家の方とお会いしたのですが、「エクイティ」という言葉自体を知らず、ベンチャーキャピタルからの資金調達という選択肢がある事自体を知らなかった、と言われていました。

    言葉として知らないということは、その言葉を使った経営術も当然知らないわけで、とてもポテンシャルがある方でもその方向性を知らない、考えてもいなかったという事実があります。
    エクイティを活用した経営が広まっていない事が、日本経済の成長性のボトルネックになっている現場に触れた思いがしました。

今まで知らなかったスタートアップ的な経営を「知る」ことで、今後の事業の可能性や選択肢は大きく広がっていくのではないでしょうか。

最後に、山田さん小野さんは、米国の投資家ピーター・ティール氏の言葉

「空飛ぶ車が欲しかったのに、僕らが手に入れたのは140字だけだった」

を例に、BlueCircledさんとしてどのような世界を実現したいかをお話しくださいました。

    ●山田さん小野さんによる「BlueCircleが実現したい世界」

    ピーター・ティール氏の言葉で、「空飛ぶ車が欲しかったのに、僕らが手に入れたのは140字だけだった」というものがあるのです。
    要は、21世紀には車が空を飛ぶ、ドラえもんや鉄腕アトムができているのだと誰もが思っていて、スタートアップの期待される役割もそこなのだと誰もが思っていた。
    IT技術は予想以上に発展しているし、コミュニケーションは140字以内でできるようになっていて、いずれも素晴らしいことなのだけど、「それだけでよかったのだろうか」と問題提起をするような時代に入ってきている。

    そういう意味では、日本にはもっといろんなスタートアップがあって良い。
    今は比較的ITやエンタメにかたよっていて、もっと他のジャンルが増えても良かったのではないかと思っているのです。

    僕ら(BlueCircle)が特にご支援しようとしているのは、地方やソーシャルなど中小企業の現場の方で、そういう方々がもっとスタートアップ的な方法論を使って、成長戦略を作って、世の中に価値を生み出していくようなことがもっともっとたくさん起きて良いはずで、そこの差分が埋められたらいいなと考えています。

確かに、一般的に多くの経営者は、無意識に「スタートアップやベンチャーは東京の一部のこと」と考えがちかもしれません。しかし、未来に向けて成長するためには、「今まで聞いたことのない言葉、手法」も学び、実践していくことが必要です。そういう「今までにないこと」「やったことのない方法」を、日本全国の志ある会社さんに伝え、ご支援されたいと語る山田さんと小野さん。BlueCircleさんの語ってくださった「実現したい世界、未来」に大きく心を揺さぶられ、深く考えさせられました。そして、未来に向けて行動しなければならない!とも思いました。BlueCircleさんの「伴走支援」が広まっていくよう心から応援しています!

以上(2021年7月作成)

【朝礼】お客様だけが“神様”なのか

けさは、「お客様は神様です」という言葉について、皆さんに考えてみてもらいたいと思います。この言葉は、演歌歌手の三波春夫さんがよく口にしていた言葉だそうで、「演者にとってお客様を喜ばせることは絶対条件だから、神様だと思って完璧な芸を見せなければならない」という意味が込められています。ビジネスでも、お客様のことを第一に考えて、製品やサービスを提供しなければならない点には、議論の余地がありません。

ただ、皆さんに考えてみてもらいたいのは、私たちが大切にすべき存在である「神様」は、本当にお客様だけなのか、ということです。私たちは、お客様を第一に考える一方で、私たちを支えてくれているお客様以外の人たちの存在を、しっかりと認識できているでしょうか。

私がそのようなことを深く考えるようになったのは、コロナ禍で「医療崩壊」の淵にありながら、そして感染リスクにさらされながらも、患者を受け入れてくれている医療従事者の方々の姿を目にしたからです。私たちは医療従事者の方々に感謝こそすれ、「自分は診察料を払っているお客様だから、医療の提供を受けるのは当然だ」などとは考えもしないでしょう。

その考えを広げていくと、私たちが感謝をしないといけないのは、医療従事者の方々だけではないことに思い至ります。例えば、バスの運転手、スーパーマーケットの店員、宅配業者など、私たちの生活インフラを支えてくれている方々です。

彼らも感染リスクにさらされながら、サービスを提供し続けてくれています。医療サービスを受けられないことも困りますが、移動手段がなくなり、食品が入手できず、物流がストップしてしまえば、生活は成り立ちません。私たちはこうしたサービスを利用することが当たり前になっているため、いかにありがたいことなのかを見落としてしまいがちです。

そして、私が特に強調したいのは、もし皆さんの中に、単純にお金の流れだけを見て、「お客様だけが神様だ」と考える人がいるとしたら、それは大きな誤りだということです。

これは、我が社の取引先についても同じです。我が社の製品やサービスを購入していただいているお客様には感謝すべきですし、皆さんも感謝の気持ちを伝えていると思います。ですが、我が社が製品やサービスを提供できるのは、原材料や機器類などを納入してくれている取引先のおかげでもありますし、他にも、オフィスの清掃やごみ処理をされている方々など、大勢の人たちが私たちを支えてくれているのです。

私はコロナ禍によって、このことを改めて認識することができました。失った後に、初めて失ったものの大切さに気付き、喉元過ぎれば熱さを忘れる、というのはよくあることです。ですから、私は忘れないうちに、最初の言葉に次の言葉も付け加えたいと思います。「お客様は神様です。そして、お客様以外も神様です」と。

以上(2021年6月)

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画像:Mariko Mitsuda

初めて英文契約書を交わすときのポイント

書いてあること

  • 主な読者:海外企業との取引に慣れていない経営者、法務担当者
  • 課題:英文契約書に慣れておらず、注意すべき点なども分からない
  • 解決策:英米法準拠の契約には、相手方の故意・過失を問わず損害賠償を認める「厳格責任」があるため、履行責任を免責する「不可抗力」条項が必要。その他、詳細は必ず、現地の法律に詳しい弁護士にアドバイスを求める

1 海外取引で困る英文契約書

市場のグローバル化がますます進む中で、これまで海外企業と取引を行うことのなかった企業においても、海外代理店その他海外企業との提携を通じて、国外市場へ進出する機会が増えています。

海外企業との契約においては、英語圏以外の企業であっても、国際共通語である英文で書かれた契約が使用される場合が多いため、英文契約の基本を押さえておくことは、海外に進出する企業にとって非常に重要です。

英文契約は分量も多く、国内契約ではあまり見られないような規定も多いことから、英文契約を交わす際には十分な注意が必要です。本稿では、初めて英文契約に対応する場合に知っておくべき重要なポイントを紹介していきます。

2 英文契約を締結する際に知っておくべき基礎知識

1)準拠法は英米法とは限らないが……

一口に英文契約といっても、その準拠法が常に英米法であるとは限らず、例えばベトナム企業との間でベトナム法準拠の英文の契約を締結することもあります。その際にはベトナム法のルールが適用され、必ずしも英米法の原則的なルールが当てはまるとは限りません。

しかし、英文契約においては、(日本法準拠の英文契約であったとしても)英米法準拠で作成された英文契約のひな型を基にして作成される場合がほとんどです。結果としてその表現や用いられる条項などは、英米法由来の考え方に基づくものであることが多いことから、英米法の契約の基本的な知識を押さえておくことは、他国法準拠の英文契約を検討するに当たっても有用であるといえます。

英文契約は、一般的には、契約名や契約当事者名、締結日などを含む頭書から始まり、前文、契約本体、最終部(合意の確認)、署名欄が続くという構成となっていますので、以降で確認していきます。

2)前文

前文は通常、「WITNESSETH」または「RECITALS」という表題で、契約当事者や契約の背景などの説明が記載されます。前文では、「WITNESSETH」や「WHEREAS」などの、通常用いられない単語が使われることから、難解に見えるかもしれませんが、前文には通常、法的拘束力がないため、誤解を恐れずに言えば、この部分のレビュー・修正に必要以上に時間をかける必要はありません。

3)契約本体

契約本体部分について、契約の種類によって特有な条項は、スペースの関係上、本稿での説明を省きますが、表明保証(Representations and Warranties)、補償(Indemnification)、責任限定(Limitation of Liabilities)の条項については、契約の種類を問わずほとんどの契約に含まれています。これらの条項は、契約当事者の義務の内容・範囲に直接関わってくる重要な部分ですので、契約のレビューに際しては、特に注意して内容を検討する必要があります。

1.表明保証条項

表明保証条項は、一定の事実が真実であることについての当事者による表明です。契約後において、表明した事実が真実ではないことが判明した場合、それにより相手方に発生した損害を賠償する義務が生じます(賠償の具体的内容については、準拠法にもよりますが、補償条項の中で規定されることとなります)。

代表的な表明保証の内容としては、当事者が有効に設立され存続する法人であること、契約締結権限を有すること、必要な許認可を有していること、契約上の義務を履行するのに必要な技術・リソースを有していることなどが挙げられます。

表明保証違反の責任は、通常は故意・過失の有無を問わない無過失責任ですので、自社で確認・コントロールできないような内容が表明保証に含まれている場合には、そうした内容の削除を交渉するべきです。

2.補償条項

補償条項は、当事者による契約義務の違反があった場合などにおける損害の補償義務を定める条項です。日本法における損害賠償義務と大きく異なることは、補償の対象者が契約相手方に限られない(関連会社や従業員、社外の下請け業者や代理人まで含むと規定されていることも多いです)点、また、補償条項には、補償請求権者に対する第三者からの請求があった場合(例えば、提供した製品が他社の特許を侵害しており、買い主が特許権者より訴訟を提起された場合など)の責任を定める規定が置かれ、その際の義務内容が具体的に記載されていることもあります。

準拠法や裁判所の解釈にもよりますが、補償義務の記載に、indemnify、hold harmlessといった表現に加えてdefendという表現が入っている場合には、訴訟に敗訴するなどして補償請求権者の損害が実際に発生するよりも前の段階から、訴訟(文言によっては訴訟より前のクレームを受けた段階から)の防御費用の補償なども求められることとなります。「補償」という訳語が示す通り、原則として補償条項も無過失責任ですので、責任を故意・過失が存在する場合に限定したいときには、その旨を契約上明確に記載する必要があります。

また、英米法では、通常、弁護士費用は損害賠償の対象に含まれませんので、これを含めたい場合には契約上明記して合意する必要があります。補償条項については、細かい文言の違いによって責任の範囲が大きく変わり得るので、特に注意して検討する必要性が高い条項です。

3.責任限定条項

責任限定条項では、前述した表明保証違反の場合や、その他補償条項に基づき補償が必要となる場合における当事者の責任を限定する規定です。責任の範囲を直接損害に限定し、逸失利益などを補償の対象から外す、責任の額に上限を設ける、責任限定条項の対象から一定の規定(例えば秘密保持義務違反)を除外する、また上述のように、責任を故意・過失がある場合に限定するといった交渉が行われます。

4)準拠法と裁判管轄

その他、国際当事者間の英文契約では、通常、準拠法と裁判管轄(または仲裁合意)の規定が置かれます。準拠法については、自国である日本法もしくは相手国の法とする場合、または間を取って第三国法(米国ニューヨーク州法や英国法が使われることが多いです)とする場合もあります。

米国法・英国法を採用するメリットの一つとしては、文献や裁判例が豊富にあること、言語が英語であることによる情報収集の容易性の他、契約ドラフト・交渉や、将来紛争が発生した場合で外部弁護士の起用が必要となったときに、選べる弁護士のオプションが多い点もあります。例えば途上国の法律を準拠法とした場合、日本語対応が可能な現地弁護士を見つけることは困難なのが一般的だからです。

裁判管轄においても、日本企業としては当然、日本の裁判所を専属管轄裁判所としたいところですが、国によっては、日本の裁判所の判決をもって相手国の財産の差し押さえなどを執行できない場合もあり得る(例えば中国)という点には注意が必要です。

5)仲裁

仲裁には、裁判と異なり手続きが公開されない、裁判の判決が執行できない国でも、仲裁判断については執行が可能な国がある、上訴がなく一審で結論が出る、仲裁言語を英語にすることで合意を取れるというメリットがある一方、手続費用は訴訟に比べ高額になり得るというデメリットがあります。また、仲裁地の選択においても、準拠法の選択と同様、当事者のいずれの国でもない第三国が選択されることがよくあります。

3 日本国内の契約書と異なり、特に注意が必要な点

1)厳格責任

英米法準拠の契約法の原則として、厳格責任の考え方があります。日本法においては、契約上の債務不履行に基づく損害賠償が認められるためには当事者の故意・過失が必要ですが、英米法では、例外的な場合を除き、損害賠償を認めるに当たって相手方の故意・過失が問われません(厳格責任)。

従って、英米法の契約では、不可抗力(Force Majeure)条項と呼ばれる、当事者の責によらずに(例えば災害など)債務の履行が不可能となった場合に当事者の履行責任を免責する規定が置かれます。

もし相手方から送られてきた英文契約のドラフト中に不可抗力条項が入っていない場合には、必ずこれを挿入するとともに、何をもって「不可抗力」に当たるかについても、各取引の個別の実情に応じて具体的な不可抗力の状況が想定できる場合には、それを不可抗力条項内の例示の中に追加しておくことが望ましいといえます。この点、世界中のビジネスがコロナ禍という未曽有の事態の影響を受けた2020年は、各国の裁判所で不可抗力条項の適用の有無が争われました。過去に締結された契約では、「pandemic」「epidemic」といった事項が不可抗力事由として列挙されていない契約が多く、代わりに「government order」等に該当するものとして(緊急事態宣言や渡航制限等がこれに該当するとして)不可抗力が主張されることが多かったように思いますが、2020年以降に締結された契約では、不可抗力事由としてpandemic等を明記することが一般的となりました。

また、前述した厳格責任との関係から、契約中で当事者の義務を定める規定(例:Seller shall~のようにshallやwillで始まる規定)において、例えば義務の内容について第三者の行為が介在する場合など(例えば、第三者の承諾が必要な場合)、自社が完全にコントロールできない内容の義務が定められているときは、「~しなければならない(shall~)」という表現から、「~する合理的な努力をする(shall make reasonable efforts to~)」といった表現に修正することも検討すべきです。

自社の責任を制限するという立場からは、前述した、不可抗力条項や努力義務への修正といった対応が考えられますが、商品を買う立場・業務を委託する立場からすれば、将来不可抗力事由が発生した場合にどう自社を守るか、という視点も重要となります。この観点から、相手方が加入すべき保険について、保険の種類や最低補償限度額などを詳細に設定し、自社を受取人として設定することを求めている条項もよく見られます。

なお、英文契約において、仮にその準拠法を日本法やその他実際の取引国ではない第三国法と定めた場合であっても、実際に取引が行われる国の強行法規が適用されることがあります。

例えば、中南米や中東には、代理店保護法によって、現地代理店との契約の解除や更新拒絶が制限される国があります。貿易業を営むA社では、中南米での代理店契約において解除条件の規定の仕方が十分でなかったことから、契約違反を理由とする解除を行うことができず、結果として、契約を終了させるために多額の補償金を支払わなければならなくなったという事例もあります。

従って、海外での契約の締結に当たっては、自分が知見のある法律を準拠法とした場合であっても、できるだけ現地の法律について弁護士のアドバイスを受けることをお勧めします。仮に現地弁護士のアドバイスを受けることが難しい場合であっても、例えばジェトロなどのウェブサイトで、海外の規制について一定の情報が得られることもありますので、最低限そうした情報はチェックしておくべきといえます。

2)ウィーン売買条約

また、仮に英文契約の準拠法を日本法とした場合であっても、国をまたいだ物品の販売に関するウィーン売買条約(United Nations Convention on Contracts for the International Sale of Goods、通称CISG)が適用される可能性があります。

CISGには、日本の他、米国、中国、韓国、オーストラリア、ドイツ、フランス、ロシアなど(なお英国、インドは未加盟)、94カ国が加盟しています(2021年6月現在)。CISGが適用されるのは、異なる加盟国間に営業所が所在する当事者間における物品(例外があり、不動産や船舶・航空機などは含まれません)の売買契約で、いずれかの加盟国の法律が準拠法として定められている場合となります。

この場合、契約上で明示的にCISGの適用が排除されていない限り、CISGのルールが適用されることとなります。日本法とCISGでは、例えば無過失責任(この点は英米法と類似)や、履行期限を過ぎた場合であっても、売り主が一定の場合に義務を追完する権利を有するなどの様々な違いがあります。CISGの規定のほとんどは、日本の民法上の規定と同様、契約にてCISGの原則ルールと異なる規定を設けることで、適用を回避することができますが、日本法準拠として、日本の民法上の規定を前提とした内容のシンプルな英文ひな型を使用して、契約を作成・締結したような場合には、予期しない形でCISGのルールが適用されてしまう可能性があります。

3)法的拘束力のない意向確認書や基本合意書

その他、海外企業との取引を始めるに当たっては、いきなり正式な契約を交わすのではなく、まずは法的拘束力のない意向確認書や基本合意書(契約名は様々ですが、Letter of Intent(LOI)やMemorandum of Understanding(MOU)などの表題が一般的)を締結し、その時点での合意事項や、契約締結までのスケジュールについて合意し、その後の交渉のベースとすることがあります。一般的には、LOIやMOUは法的拘束力がない形で作成されることが多く、仮に交渉中止などによりLOIやMOUに記載通りの行動が取られなかったとしても、それにより契約違反として損害賠償などを求められることはないのが原則です。

しかし、LOIやMOUという表題のみをもって当然に法的拘束力がないNon-bindingの契約となるわけではないため、必ずNon-bindingであることを契約中で明記しておくとともに、契約中で安易に「合意」(agree)、承諾(accept)のような表現を使うことは控えるべきです。他方で、LOIやMOU中の特定の条項(例えば秘密保持義務・独占交渉権など)にのみ法的拘束力を持たせる場合には、それらの条項が法的拘束力を有する(Binding)ことを明記する必要があります。

以上(2021年7月)
(執筆 のぞみ総合法律事務所ロサンゼルスオフィス所長 若松大介)

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