社長が語る 私はM&Aによる事業承継をこうして決断した

書いてあること

  • 主な読者:自社の事業譲渡や、他社の譲り受けによる業容拡大を考えている社長
  • 課題:M&Aの経験がないので、実際に経験している他社の社長の考えを聞きたい
  • 解決策:売り手も買い手も、譲渡対象の会社の中で、残したいものは何かを明確にしておく

1 「こんなはずではなかった」では済まされないM&A

事業承継の方法の1つにM&Aがあります。社内で後継者を見つけられない、自社だけでは存続が難しいといったケースはますます増えており、M&Aは事業承継の重要な選択肢となっています。現状では「うちには必要ない」という会社であっても、あらゆるリスクを想定すべき立場にある社長なら、M&Aの可能性は常に意識しておくべきでしょう。

M&Aは、会社と社員の将来を左右し、しかも一度踏み出すと簡単には後戻りできない、重大な決断です。売り手であっても買い手であっても、契約してから「こんなはずではなかった」では済まされません。その一方で、異なる会社が1つになるわけですから、リスクがつきものです。社長にとって、最も難しい経営判断の1つです。

この記事では、事業を譲渡した会社の元社長と、事業を譲り受けた会社の社長へのインタビューを紹介します。いつか同じ立場になることをイメージしながら、参考にしてみてください。

2 事業譲渡の事例:エネルギー業界の将来の激変を確信し決断

前身から数えて約100年続く家業はしっかりと利益を出しており、跡取り息子も経験を積んできている。そんなタイミングで他社に事業譲渡し、息子は譲渡先の会社の平社員に。それを決断したのは、婿養子である3代目社長――。それでも「後悔したことは全くない」と胸を張れるのは、業界の先行きを誰よりも徹底して調べ、家族、社員、顧客にとって最善の選択をした、という自負があるからです。

1)婿養子の3代目社長

吉原祐司さんが埼玉県入間市のプロパンガス販売会社「吉原燃料店」に入社したのは1982年のことでした。結婚を機にそれまでの勤め先を辞め、妻の実家・吉原家の婿養子となったタイミングでした。それから約30年、吉原さんは、創業社長である義父と、その弟で2代目社長となる義理の叔父の下、事業の拡大に貢献。2011年、54歳で満を持して3代目社長に就任しました。

社長就任の際、吉原さんは自身に2つの役割を課しました。1つは会社の業績を伸ばすこと。そしてもう1つは、次の社長を育てることです。もちろん事業譲渡は頭の片隅にもなく、3年前に入社した長男にバトンタッチするまでには5~10年ほどかかるだろう、と考えていたそうです。

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2)政府の電力自由化宣言が転機に

ところが、社長就任の直前に発生した東日本大震災が、エネルギー業界、そして吉原燃料店に大きな影響を及ぼします。発端は2013年、政府が震災を受けてスタートさせた電力システムの改革によって、3年後に電力小売事業への参入を全面自由化すると公表したことでした。「自社が関わる業界が変わろうとしているのに何もしないのは、経営トップとして間違っている」。吉原さんは、電力自由化に伴うエネルギー業界への影響を、独自に調べ始めます。

吉原さんの調査は徹底していました。調査対象は国内のみならず、電力自由化の先進地域である欧州にまで及びました。文献だけでなく、あらゆる「つて」を駆使し、積極的に人と会って情報収集しました。エネルギー政策に詳しい国会議員、プロパンガスの納入先だった横田基地の米軍関係者、SNSで知り合ったフランス滞在歴の長いフランス語通訳……。地元の入間市に頼み込んで、市内の祭事のために来日していたドイツの姉妹都市の市議らの時間を割いてもらい、現地のエネルギー事情についてのヒアリングも敢行しました。

3)エネルギー業界で生き残るために事業譲渡を選択

こうして集めた情報から吉原さんは、「電力が自由化されれば、電力、都市ガス、プロパンガスはすみ分けができなくなる」と分析。そこで生じた最大の懸念は、「エネルギー業界が統合されても、吉原燃料店は商流の川上にいられるかどうか」でした。

「下流にいるだけでは価格も決められず、商売として面白くないし、先細りになってしまう」と考える吉原さんは、自社が電力を供給できる方法がないか調べることにしました。大手電力会社に電力を融通してもらえないか相談したところ、「埼玉県全域をカバーできるくらいの規模がないと、卸先として認めてもらえない」ことを実感。それなら、自社の営業領域でない埼玉県東部をカバーしている同業者を買収できないだろうか。こうして吉原さんは、M&Aのセミナーなどに参加するようになりました。

そうこうしているうちに、2016年4月の電力自由化まで残り1年半を切り、吉原さんは決断を迫られます。「電力自由化まで5年から10年あれば、他社を買収して自力で生きていけるかもしれない。でも、もう時間がない。吉原燃料店を存続させて先細りになっていくよりも、次の扉に手をかけるべきだ。電力を供給できる会社に事業譲渡すれば、社員はその大きな会社で営業所長にも役員にもなるための道が開ける」。そして、2015年末、吉原さんは自社の事業譲渡先を探すため、M&A仲介会社に相談します。

4)譲渡先の決め手は、小回りが利き社員と顧客を大切にする社風

M&A仲介会社からは、同業の全国40社の候補が紹介されました。吉原さんはそこから8社に絞り、担当者と面談を行いました。

譲渡先を選ぶ第一の基準は、社員と顧客を守ってくれることでした。譲渡後3年間は社員の待遇や会社の定款などを変えないこと。そして従来の地元の顧客を不安にさせないだけの知名度と営業力を持ち、プロパンガスの安定供給ができることなども条件に加えました。

吉原さんが譲渡先に選んだのは、県内のプロパンガス販売大手で既に電力事業も手掛けているサイサン(さいたま市)。決め手は「波長が合う会社だった」ことでした。他の有力候補の会社に相談すると返答までに2カ月半かかる課題を、オーナー経営であるサイサンは、副社長が「それでいきましょう。取締役会はなんとかなるでしょう」と即答できる会社でした。規模は大きくても小回りが利き、“小売り商人”の考え方が残っている。また、経営理念に大家族主義、お客様第一主義を掲げ、社員と顧客を大切にする。これが、サイサンの社風が「合う」と感じた理由でした。

5)家族や社員への説明

婿養子である吉原さんが吉原燃料店の事業譲渡に当たり、どうしても理解を得ておきたかったのが、妻と義母(義父は既に他界)、2代目社長である義理の叔父、長男の4人です。

まず相談したのは、次期社長候補だった長男でした。後継ぎとして会社に引き入れた手前、猛反対されることも想定していたそうですが、意外にも「朝礼でも月に1、2回は話していたので、親父が電力自由化後の会社の在り方について研究していることは知っていた。それで自分でも調べてみたけど、親父に賛成だよ」と、すんなり承諾してくれたそうです。「うれしいという部分もあったけれど、自分がうまく育てたなと思った」と笑う吉原さん。現在、吉原さんの長男はサイサンの一社員として、埼玉県内の別の支店で働いているといいます。吉原さんは、「父親に遠慮して、サイサンに残り続ける必要はないと彼に話している。それでも積極的に勤めているのだから、自分なりの考えを持って働いているのだろう」と長男を気遣います。妻や義母も吉原さんの考えに理解を示してくれました。

最も説得に苦戦したのは、義理の叔父でした。既に会社の株は保有していませんでしたが、「叔父には理解してもらいたい」との思いが強かった半面、「15回くらい話をして、それでもなんとか容認してもらえる程度だろうと覚悟していた」といいます。電力自由化に関して自分で調べたことを説明し、「家族、社員、社員の家族のため、そして社員がつないでくれているお客様にとって、一番いい選択」「吉原燃料店よりも、吉原の家を守りたい。会社の名前を残さなくても、皆が幸せならいいはず」と力説する吉原さん。最初は「言いたいことは分かった。考えてみる」、ときには「ちょっと間をおこうや」と難色を示していた義理の叔父ですが、2カ月半ほどたった6回目の話し合いで、「電力自由化のことを自分でも調べたけど、あんたの言っていることもあながち間違ってねーな」と言ってもらえました。それを受けて吉原さんは2016年6月、譲渡契約に調印します。

社員へは、契約に調印した当日、新社長を伴って開いた夕礼の場で説明しました。吉原さんは、社員が安心し、さらに希望が持てるように、当面は給料やボーナスなどは変わらないことと、頑張れば支店長にもなれると話したといいます。

6)気遣いが重要な譲渡後の統合作業

譲渡後も吉原さんは既存の顧客が混乱しないよう、顧問として3年間会社に残りました。譲渡後間もない時期、何かあるたびに話しに来る社員たちに対して、吉原さんは「違うだろ」と目で合図をし、新社長のところに行くように促したといいます。それを繰り返すうちに、社員の足は徐々に新社長に向かうようになりました。

新社長も、吉原さんや社員を気遣ってくれました。吉原さんにはしばしば、「社員に話をするには、このような表現でよいでしょうか」などと相談してくれたといいます。これに対する吉原さんの答えは、常に「いいんじゃないでしょうか、そうしましょう」。吉原さんは、「私も新社長も、お互いに会社のために、取るべき立場を守った。(自分が)いい会社にしようと本気になれば、譲渡先もいい人を派遣してくれるものだと思った」と振り返ります。

吉原燃料店は2018年9月にサイサンに吸収合併され、サイサンの入間営業所となりました。それを見届けた吉原さんは、その後間もなく身を引くことを決意します。

7)「調べ尽くし、考え抜いて計画を立てる。あとは計画の操り人形になる」

吉原さんは、「事業を譲渡したことの後悔は一度もない。なぜなら、後になって『こんなはずじゃなかった』とならないように、『自分の計画の操り人形になった』から」といいます。

自分自身のマインドマップを作って、会社の今後に関する計画を立てる。そのために、事前にあらゆる手を尽くして情報を収集し、思い込みを排除する。揺るがぬ計画さえ立てられれば、後はぶれないし、後悔することもない。

吉原さんの決断に対して、「プライドがないのか」と中傷する人もいたそうです。しかし吉原さんには、全く気にする素振りはありません。「自分のプライドより、社員や社員の家族、お客様の幸せのほうが大事。お客様がいいなら、会社の名前も残さなくていい。そういう道筋を作れたことは、恥ずかしいことではないし、今でも誇れることです」

(取材協力 株式会社日本M&Aセンター)

3 事業譲り受けの事例:先代社長との10年間の交流で譲渡会社の「心」を承継

後継者不在で身売りを考えていた同業の本家を、分家が72年ぶりに統合。本家は江戸末期から続く老舗ですが、分家の義理の息子は本家の屋号の承継を断り、自社(分家)の利益拡大路線にまい進します。ところがその10年後、本家の屋号の存続を断った分家の義理の息子は、本家の8代目襲名を決意。その理由は、統合後に10年続けてきた本家の先代社長との対話を通じて、本家に受け継がれてきた循環型社会を基とする「江戸時代の哲学」の価値に気付き、自社で“承継”したいと考えたからでした。

1)事業モデルの転換で妻の実家の豆腐屋を立て直す

8代目染野屋半次郎こと小野篤人さんが、妻の実家が家族で経営する豆腐屋「染野豆腐店」で手伝いを始めたのは、1999年1月のことでした。当時25歳だった小野さんは、米国の雑貨の輸入販売代理店業を営む“若き実業家”でした。

ところが、染野豆腐店で製造を一手に担っていた義父が、結婚後わずか2カ月で急逝。義母からの頼みと、親戚からの「豆腐屋は年間で1000万円ぐらいもうかるらしいよ」という甘い言葉に誘われ、本業の空き時間を使って豆腐の製造を手伝うことにしました。当時は豆腐に関する知識は全くなく、「お金を稼げるならいいや」という感覚だったといいます。

しかし、蓋を開けてみると、実際の染野豆腐店は年商300万円程度。主要な販売先は学校給食向けでしたが、少子化の影響で「完全に落ち目」の状態でした。そこで小野さんは、それまでの事業モデルの転換を決意し、個人客に狙いを定めました。原料の大豆を外国産から国産に切り替えるとともに、味や安全・安心にこだわった独自の製法を研究し、一丁110円だった売価を200円に引き上げました。そして妻とともに、自家用車を使った移動販売を始めました。倉庫から引っ張り出してきた豆腐屋のラッパを吹き、自作のチラシを配るという昔ながらの集客方法でした。顧客の反応も良く、小野さんは「本業と違って製造直販なので、商品を開発すれば売り上げは上がる。やりようによってはもうかるのでは」と手応えを感じたといいます。

そこで小野さんは、豆腐屋に専念することを決意し、雑貨の輸入販売代理店業を廃業するとともに、新たな手に打って出ます。2004年2月に地元の取手駅(茨城県取手市)の駅ビルに店舗を出店し、同年4月に有限会社染野屋を設立して自らが社長に就きます。新店舗も予想通りに大成功し、月間の売り上げが400万円程度にまで急拡大しました。

2)「渡りに船」で本家を統合

売り上げを伸ばす染野屋が突き当たった課題が、生産能力でした。それまでは住居と隣接した工場で、家族だけで製造していました。これ以上の生産量拡大には、工場のスペースも人員も足りません。工場を新設したくても、法人化したばかりの零細企業が融資を得られる見込みもなく、「これ以上前に進めない状況」でした。

そんな折、同じ取手市内にある染野屋の本家筋に当たる豆腐屋「半次郎商店」が、身売りを考えているという話を耳にします。半次郎商店は1862(文久2)年創業の老舗ですが、後継者が不在で、主要な販売先であるスーパーマーケットからの売り上げも減少。経営者である7代目染野屋半次郎こと染野青市(せいいち)さんは、既に80歳を超えていました。本家と分家とは資本関係はありませんが、経営者同士は遠縁に当たり、分家で豆腐が足りないときは本家に融通してもらうなどの協力関係が続いていました。このため本家としても譲渡には乗り気で、話はトントン拍子に進みます。小野さんは染野屋を法人化して2カ月後の2004年6月、半次郎商店を引き継ぎました。染野豆腐店が分家となって72年ぶりとなる本家と分家の統合でした。

統合の内容としては、小野さんが半次郎商店の工場の機械設備を買い取り、工場自体は賃貸の形で借り受け、10人弱の従業員と顧客を引き継ぎました。遠縁ということもあり、外部の仲介者も入らず、当初は賃貸借契約書も作成しなかったといいます。

3)売り手を落胆させた、売り手と買い手の思惑の違い

「良縁」に見えた両家の統合ですが、7代目の青市さんと小野さんとの思惑は全く異なっていました。実は青市さんはかつて、一度息子に会社を引き継いだのですが、息子に若くして先立たれてしまい、不本意ながら再び染野屋半次郎を襲名した経緯があります。新たな後継者候補も見当たらず、「歴代の半次郎に顔向けできない」が口癖だったという青市さん。当時31歳だった小野さんからの統合話を、「ご先祖様の取り計らいでつなげてくれた」と喜んだそうです。

一方の小野さんにとっての半次郎商店は、自社より10倍ほどの生産能力のある工場と、10人弱の従業員を持っているという存在でしかありませんでした。自分で立てた売り上げ計画を達成させるために、半次郎商店は「使うしかない。これでまた、ガンガン攻められる」という感覚だったそうです。

統合の内容を話し合っていた際、小野さんは青市さんから、半次郎商店の屋号を残し、8代目染野屋半次郎を襲名するよう何度も頼まれましたが、「それはできません」と断り続けたそうです。小野さんは、「当時は自分のことしか考えていなかったので、自社のお客様が混乱することだけを懸念していた」と振り返ります。そんなときの青市さんは、もう1つの口癖である「長生きはするもんじゃないな」と漏らしていたそうです。

4)「今日からここは僕の工場なんですよ!」

統合後の小野さんは、旧「半次郎商店」に対して、染野豆腐店を成功させたのと同じ手法で「破壊的に変えていく」作業を進めます。原料は国産に、製法も自分で開発した方法を導入します。

工場を引き継いだ初日のことです。小野さんは、効率を高めるために当時も当たり前のように使っていたという「消泡剤」としての添加物を、投入しないように指示します。また、味を良くするために、一般的な豆腐よりも濃度の高い豆乳を作るように指導しました。

こうした見慣れない製法に、70年近い豆腐製造の実績を持つ青市さんは、「こんな濃い豆乳は炊けない」と異を唱えます。これに対して、血気盛んな小野さんは、吐き捨てるように言い返しました。「今日からここは僕の工場なんですよ!」。寂しそうな顔をして、黙って立ち去っていった青市さん。それ以来、小野さんのやり方に口を出すことはなくなったといいます。

「今思い出しても心が痛む」と振り返る小野さんですが、後になって、青市さんが周囲の人に、このように語っていたことを知らされたといいます。「あれ(小野さんのこと)は頑固だな。ただ、ああいうのじゃないと、任せられないな」

5)先代社長への月1回の「表敬訪問」を10年続けて“半次郎の心”を承継

一度は衝突したとはいえ、同じ取手市内の親戚筋であり、工場は青市さんの家と隣接もしています。そこで小野さんは、従業員からの勧めもあり、月に1回、青市さんを表敬訪問することにしました。とはいっても、相手は50年の年長者。当初は「表敬訪問するのはもっともな話だが、面倒臭い。話は1時間も続かないのでは」と思っていたそうです。

ところが、表敬訪問を重ねるたびに、小野さんは青市さんの話に魅了されていきます。第二次世界大戦中に、志願兵として参加した東南アジアの戦地での話、豆腐工場の燃料をまきからボイラー式に変えたときの話……。何より、経営者として30年以上の実績があり、同じ経営者という立場で、染野屋を盛り上げたいという思いを共有している相手と話ができることに、小野さんは喜びを感じました。いつしか2人は、世代を超えた「親友」の仲になりました。旧「半次郎商店」の従業員と小野さんとの間にトラブルらしいトラブルがなかったのは、2人の関係が親密になったことも影響していると、小野さんは思っています。

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青市さんとの会話を重ねることで生じた最も大きな変化は、「お金中心で物事を判断するキャピタリストそのものだった」という小野さんの考え方でした。「お金を稼ぐのは1つの正義だが、地球環境というお金に換算されていない資産を食い潰していては、地球という閉鎖された世界全体で見ると稼いだことにならない」。小野さんが感じていたキャピタリズムの矛盾点の解決策が、青市さんを通して感じた江戸時代にあると知ったのです。

「江戸時代の香りがする」。これが、小野さんが青市さんに抱いた印象でした。ご先祖様を常に意識し、伝統を重んじ、自分の欲得やお金で物事を判断しない。皆が助け合って生きていく「和合精神」の持ち主で、愛や思いやりに満ちあふれている。そんな青市さんの価値観は、環境破壊や廃棄物が限りなくゼロに近い“超循環型社会”を実現させた江戸時代の哲学そのものであり、それこそ「心が温かくなる“本物”のキャピタリズム」だと、小野さんは感じるようになりました。そして自然と、「染野屋半次郎という名を継ぎたくなった」といいます。

小野さんが8代目染野屋半次郎を襲名した2014年の暮れに、青市さんは96歳で息を引き取りました。最後に会った病室で、青市さんが笑顔で小野さんに語った最期の言葉は、青市さんのかつての口癖と真逆のものでした。「長生きはするもんだな。もう悔いはないよ。あとは任せたよ」

6)社風となって生き続ける“半次郎の心”

小野さんが青市さんとの会話を重ねた10年間は、染野屋が急成長を遂げた10年間でもありました。売り上げは、小野さんが豆腐屋に入った頃の約400倍の年間12億円程度まで増えました。小野さんは、「もし半次郎の哲学を承継していなければ、急成長はできたかもしれないが、成熟する前に弾けてしまったと思う」と話します。

今の成熟した染野屋には、「目指したのは江戸時代のとうふづくり」というスローガンがあり、「持続可能な社会の確立」が企業理念になっています。そして小野さんは、自身を「環境実業家」と形容して経営判断を行っています。

例えば、染野屋が開発した大豆由来の「SoMeat(ソミート)」は、森林破壊や二酸化炭素排出につながる肉の生産の代替とするために考案したものです。また、取引の可否を判断する際は、自社の損得だけでなく、取引先にとっても利益になるかを考えるよう、幹部にも徹底させているといいます。

小野さんは、「7代目はきっと、『やっと分かったか、若造』と思いながら見ていると思います。染野屋半次郎は僕が承継したのでなくて、彼が僕に承継させたのでしょうね」と、親友との思い出を懐かしみながら笑顔を見せました。

4 残したいものは何なのか

吉原さんは、会社を他人に譲渡してでも、従業員に将来の希望を残したいと考えました。小野さんは、工場と従業員を得るために本家を統合しましたが、後になって本当に受け継ぐべきものは先代が残した江戸時代の哲学だと気付きました。事業譲渡の際の評価額は大事な要素ですが、契約後に「こんなはずではなかった」と後悔しないためには、譲渡する側も譲り受ける側も、「残したいものは何なのか」を明確にしておくことが重要なのかもしれません。

以上(2021年6月)

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画像:インタビュー先から提供

【朝礼】あなたの努力に心から感謝しています

この数週間のうちに、仕事で立て続けにミスをした社員がいます。それは、我が社にとって重要なお客様の仕事でした。その社員は余計に落ち込んでいました。しかし、私はその社員のミスをとがめる気は全くありません。むしろ、そのミスは未来に花開くための価値ある失敗であり、これにへこむことなくチャレンジしてほしいと応援しているのです。

私がこう思うのは、その社員の努力を知っているからです。我が社がデジタル化を進めていることは、皆さんもご存じのはずです。その社員はこの方針を理解しているだけではなく、具体的な行動として勉強し、資格を取得し、実務に活かそうともがいています。

かつて私も同じことをしたので分かりますが、一定の立場になった社会人が働きながら勉強するのは本当に大変です。平日は残業があるなど、夜遅くでないと勉強ができません。休日も、プライベートの時間を削って勉強することになります。そうした努力を積み重ね、この社員は資格を取得したのです。素晴らしいです!

一方、資格の勉強と実践とは全く違います。勉強をして知識を得れば、いろいろと試してみたくなりますが、慣れないことをすればミスもします。真剣に取り組んだ結果のミスなら、それは「良いミス」です。人は良いミスを繰り返しながら成長し、プロフェッショナルになっていきます。その社員はそうした道を歩み始めています。

人が成長期に入るとオーラを発します。日ごろ、人の成長と本気で向き合っている人なら、すぐに分かります。実際、私と親交の深い経営者仲間は、私やその社員と30分ほどオンラインで話しただけで見抜きました。その経営者は私に聞いてきたのです。「あの社員、すごく成長した気がするけど、何かきっかけがあったの?」と。経営者仲間は、知り合いの成長を喜ぶと同時に、自分の会社でも取り入れられることがないかと思い、質問してきたはずです。それほどまでに、経営者にとって社員の成長はうれしいものなのです。

さて、人が成長期に入ると、【活動エンジン】のパワーが格段に上がります。その根本的な動力はどこから生まれてくると思いますか?

私は、その社員の夢と会社の方針の一部がリンクし、明確な目的となったことだと思います。人は目的があると、進むべき道、やるべきことに迷わず努力を続けることができます。実際、その社員は、格上の人にも臆せず教えを請うています。それに、必要な勉強会などの費用を遠慮せずに会社に申請しています。今、その社員は「大変だけど、すごく楽しい」と感じているはずです。

皆さん、1週間に30分でもいいので、自分磨きの時間を持ってください。そして、考えてほしいのです。仕事でもプライベートでもよいので、「自分が成し遂げたいことは何なのか」と。皆さんが成長期に入るきっかけは、こうした問いにあるのです。

以上(2021年5月)

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画像:Mariko Mitsuda

令和2年の交通事故死者数等の特徴と対策(2021/05号)【交通安全ニュース】

活用する機会の例

  • 月次や週次などの定例ミーティング時の事故防止勉強会
  • 毎日の朝礼や点呼の際の安全運転意識向上のためのスピーチ
  • マイカー通勤者、新入社員、事故発生者への安全運転指導 など

警察庁から公表されている「令和2年における交通事故の発生状況等について」によると、全体の死者数は減少傾向にあるものの、高齢者が占める割合が増加したことや歩行者・自転車乗用者の事故類型・法令違反の状況が示されています。
また、この状況を受けて令和3年の「本年の主な取組」もあわせて公表されていますので、この機会に確認いただき、日頃の安全運転に役立ててください。

1.交通事故死者数の推移と高齢者の割合

令和2年の交通事故死者数は、2,839人で昨年より376人減少し、警察庁が発表を始めた昭和23年以降の統計で最少人数となりました。

そのうち、65歳以上の高齢死者数は、1,596人で昨年より186人減少していますが、その割合をみると、0.8%増加し56.2%となりました。

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※警察庁「令和2年における交通事故の発生状況等について」
https://www.npa.go.jp/publications/statistics/koutsuu/jiko/R02bunseki.pdf
(2021.4.19.閲覧)

令和2年の交通事故死者数を事故状態別でみると、「歩行中」が1,002人で最も多くなっています。
そのうち、65歳以上の高齢者は、743人でその割合は74.2%と高い状況です。

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2.交通事故の発生状況における主な特徴

(1)「歩行中」の交通事故死者数の特徴

道路横断中の死者数が約7割を占めます。(69.3%)
※65歳以上の高齢者では、その割合は75.6%と高まります。

・道路横断中の事故において、横断者側に横断違反や信号無視があった割合は過半を占めます。(51.8%)

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(2)「自転車乗用中」の交通事故死者・重傷者数の特徴

・自動車との事故を類型別にみると、出会い頭の事故が過半を占めます。(54.7%)

・自動車との出会い頭事故において、自転車側に法令違反があった割合は約8割を占めます。(78.0%)

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※警察庁「令和2年における交通事故の発生状況等について」
https://www.npa.go.jp/publications/statistics/koutsuu/jiko/R02bunseki.pdf(2021.4.19.閲覧)

3.本年の主な取組

警察庁は「本年の主な取組」として以下の3点を掲げています。

  • ○ 歩行者の安全確保に向けた交通安全教育や運転者に対する指導取締り
  • ○ 自転車の遵法意識の向上に向けた交通安全教育・指導取締りの推進
  • ○ 生活道路における安全確保
※警察庁「令和2年における交通事故の発生状況等について」
https://www.npa.go.jp/publications/statistics/koutsuu/jiko/R02bunseki.pdf(2021.4.19.閲覧)

≪ドライバーの皆さんへ≫

  • ◎予測運転の実践
    歩行者やランナーの急な道路横断や出会い頭での自転車の飛び出しにも対応できるよう常に周囲の状況を確認し、慎重に運転しましょう。
  • ◎思いやり・ゆずり合い運転の実践
    歩行者や自転車は、優先意識があったり、交通ルールを詳しく知らず法令違反をしてしまうことがあることを念頭に、常に冷静に、思いやりやゆとりをもって運転しましょう。

以上(2021年5月)

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画像:amanaimages

【朝礼】これからが、これまでを決める

「今の行動が未来を決める」
例えば、何かに本気で取り組めば成功の確率は高まりますし、失敗したとしても、その経験は非常に貴重です。逆に、今、何も本気で取り組んでいなければ未来は開けません。このことをもう一歩踏み込んで考えてみましょう。そうすると、今の行動が未来を変えるのなら、「今の行動は過去も変える力を持っている」ことに気付きます。

「これからが、これまでを決める」
これが、とても大事なポイントです。

何事もそうですが、新しいことに挑戦すると、リスクが高まります。会社経営でいえば、私の知り合いの経営者もたくさん失敗しています。ただ、この失敗とは、より良い未来を目指すために挑んだチャレンジの結果であり、称賛されるべきことです。にもかかわらず、失敗をした後の人々の言動には大きな違いが出てくるもので、そこが大きな分かれ道です。

失敗をすると周囲に迷惑をかけてしまいますが、迷惑をかけてしまった相手に真摯に謝罪する人がいます。こうした人は、過去の頑張りが前向きに評価され、未来に向けた新たなチャレンジの応援もしてもらえます。

一方、失敗を他人のせいにして言い訳ばかりする人もいます。こうした人は、「言い訳ばかりだ。どうせ思いも軽く、適当にやっていたのでは?」などと過去の努力が否定されます。次のチャレンジの応援もしてもらえないでしょう。

これは、今の行動で過去が肯定されることも否定されることもある例ですが、皆さんに伝えたい大切なポイントは、「今を真摯に生きていれば、過去の行動も評価され、応援が得られ、未来に向けた強力な推進力になる」ということです。

「失敗したくないから」という理由でチャレンジができない人を私はたくさん知っています。しかし考えてみてください。失敗した後も真摯に生きていれば、必ず次のチャレンジができるのです。私たちは、目先の成功や失敗にとらわれがちですが、むしろ大切なのは成功や失敗をした後といえるでしょう。

少し楽観的に、「たった今も人生の一瞬」と考えてみるとよいでしょう。人生は短く、できるだけ無駄な時間は過ごしたくありません。一方、人生は100年といわれるほど長く、今の失敗はほんの一瞬のことでもあります。要は「都合よく考えていい」ということです。今、当社は大きなチャレンジをしていますが、うまくいっている部分も、そうでない部分もあります。偶然の発見や出会いが想定外の出来事を引き起こしている面もあります。私は、こうした偶然や想定外を前向きに受け入れる懐の深さが重要であると考えています。

偶然や想定外はビジネスに限らず、皆さんが生きている間、起こり続けます。失敗を恐れず、それらとうまく付き合うことで、皆さんは過去を前向きに捉えることができ、未来に向けた強力な推進力を身に付けられるのです。

以上(2021年4月)

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画像:Mariko Mitsuda

「人」と「コスト」のファイナンス的考え方/経営者のためのファイナンス講座(3)

書いてあること

  • 主な読者:将来の意思決定に役立つファイナンス思考を身に付けたい経営者
  • 課題:会社の中で最も大きな割合を占める人にかかるコスト。人件費=給与と考えている人も多く、ファイナンスで必要な正確なコスト計算ができていない。
  • 解決策:社員の人件費(福利厚生費なども含める)を時給換算し、外部サービスの単価と比較することが大切

1 外部サービスを使いますか? 社員に頼みますか?

例えば、本日中に取引先から資料をオフィスまで届けてもらわなければならないときに、あなたならバイク便を使いますか? 社員に直接届けるよう頼みますか?

実際に、取引先の社員の方が私のオフィスに直接資料を届けに来たことがありました。往復1時間半かかるわけですが、事情を聞くと「バイク便だと3000円もして高いから」と返事が。確かに、郵便や宅配便の料金と比べれば、バイク便の3000円は高いです。しかし、今回のような郵便などでは間に合わないケースでは、ファイナンス上どう考えたらいいのでしょうか。

2 社員が直接届けるほうがコスト高になる

結論からいうと、社員が直接届けるほうがコスト高になることが多いのです。

まず、社員に支払っている給料を時給換算して考えてみましょう。中小企業の社員の1時間の働きには、約2000円程度のコストがかかります。中小企業の社員の平均年収(賞与含む)は411万円(厚生労働省「令和2年賃金構造基本統計調査」、男女計を基に算定)ですので、これを基に、1日の労働時間が8時間、月の労働日数を20日として計算します。すると、

411万円÷(8時間×20日×12カ月)=2141円/時間

となります。しかも、会社がこの人を雇うために必要なコストはこれだけではありません。会社は給料だけではなく、社会保険料(会社負担分)や福利厚生費、制服の支給代など社員に対する支払いがいろいろあります。社会保険料の会社負担分だけ考えても、給料の15%程度かかりますので、この分を考慮しましょう。実質的な時給は、2141円×115%=2462円となります。

もし、届けるのに往復1時間半かかるのであれば、バイク便の3000円と比較すると、社員が届けるほうがコスト高なのが分かります。社内には社員にしかできない業務があることを考えれば、バイク便を頼んでしまったほうがいいともいえます。

3 それでも社員に届けさせる理由

しかし、このような場合に、実際にはバイク便を使う会社は少ないのです。社員自身が「自分でもできることをわざわざお金を払って外に頼むなんてもったいない」と考えているからです。このように考えてしまうのは、お金が出ていくことに目が行き過ぎているためです。社員に届けてもらえば支払いは発生しないのに、バイク便を頼んだら支払いが発生する。確かに、バイク便ではお金を支払うことにはなりますが、社員は他の業務に当たることができます。

近年は、働き方改革や新型コロナウイルス感染症関連の対応を経て、以前よりも従業員の労働時間が限られてきています。その貴重な労働時間でどのような業務に当たってもらったらいいかを考えるのが、ファイナンス的にも重要なのです。その証拠に、棚卸専門会社の利用が以前より増えているのを感じます。小売業であれば必須の在庫棚卸のカウント作業を、外部に頼みます。もちろん、自社で行うこともできますが、社員の貴重な時間を最も有効な業務に充てたいと考える会社が増えたことの表れだと感じます。

このように、時代の変化を受けて、「自社でできるからやる」のではなく、「自社でやるべきことだけをやる」経営に変わりつつあります。この発想の転換には、実は先ほど説明したファイナンス的な考え方が存在します。

自社の場合の平均時給を一度計算してみるといいでしょう。そうすれば、時給換算でいくら以下のコストなら外部に依頼するといったように、経営者や管理職が判断しやすくなると思います。

4 レターパックの普及も、自社でやるべき業務に注目したから

ペーパーレス化が進んでいるとはいうものの、まだまだ紙でのやり取りが多く存在しています。最近は郵便物の送付に、切手が必要な紙封筒ではなく、レターパックという大型封筒をよく見かけるようになりました。赤や青で印刷されたボール紙製の大型封筒です。

これを使うことで、総務担当者の郵便・宅配便などの発送の手数を減らすことができます。分厚い資料を送る場合には、通常は計測や計量をして切手を貼る必要があります。従来は総務担当者の業務の1つでしたが、レターパックを使えば、レターパックの購入代金に郵送費が含まれていますので作業が楽になります。

5 お金を払って、社員の業務時間の価値を上げる

バイク便もレターパックも、自社の手数をかけない、または最小限にするという点で共通しています。これらサービスが近年普及したことは、偶然ではありません。先ほど述べたように労働時間が限られてきた結果、社員一人ひとりの生産性を上げざるを得なくなったことと整合するのです。

日本では最低賃金が定められていることや、一度決めた給料を下げるのが難しいことを考えると、社員の労働価値を最大化させる判断は必須です。できる限り貴重な自社の人材の時間は、必要性が高いことに充てるべきなのです。

6 人件費を圧倒的に下げた新たなビジネスも多い

このことは、自社のコスト削減につながるだけではなく、新たな事業を考えるヒントにもなります。

例えば、オフィスグリコという置き菓子は、お菓子の購入時に、商品の近くにある貯金箱に利用者自身がお金を入れる形式です。いわば、無人販売のお菓子版といえます。もちろん、中には料金を支払わずに商品を持っていく心ない人もいるようで、盗難によるコストも生じます。しかし、このコストを考慮しても、わざわざ人を配置して、管理やお金の受け取りをしないほうがファイナンス的には得なのだといいます。これなら、商品の補充や貯金箱からの集金だけしか、人件費がかかりません。つまり、人件費を最小限に抑えることこそが、この事業の鍵なのです。

都心部などで普及しているシェアサイクルやカーシェアも同じです。従来のレンタカーやレンタサイクルの貸出・返却時には人が対応していました。しかし、それを省くことで、拠点を増やして利便性を上げ、かつ低単価を可能にしています。

つまり、高い人件費に注目し、なるべくこれを下げるような事業を設計することで、従来にない事業のアイデアにつながります。

以上(2021年5月)
(執筆 管理会計ラボ 代表取締役 公認会計士 梅澤真由美)

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画像:pixta

【朝礼】浦島太郎の結末は本当に「バッドエンド」なのか

今朝は、皆さんもご存じの浦島太郎の昔話について話をしたいと思います。

私は子供の頃から、浦島太郎の結末に違和感を覚えていました。亀を助けるという善い行いをしたはずの浦島太郎が、最後にひどい仕打ちを受けるからです。竜宮城にいた間に何百年もタイムスリップしてしまい、家があった場所は荒れ果てていました。両親が心配で帰ってきたのに、会うこともできません。揚げ句の果てに、土産にもらった玉手箱を開けると老人になってしまい、踏んだり蹴ったりです。子供ながらに「なんて理不尽な結末なんだ」と思いましたし、「この昔話から、何の教訓が得られるのだろうか」と疑問にも感じました。ですが、「もし今の時代に浦島太郎のような人がいたら」と考えると、教訓を得られるばかりか、必ずしもこの昔話はバッドエンドではないのではないか、とも思えてきます。

私が浦島太郎の昔話で教訓にしたいのは、「心の若さ」についてです。自分の家が荒れ果て、両親を含めて知人が全くいなくなってしまったことを悟った浦島太郎は、絶望し、自暴自棄になって、乙姫から「絶対に開けないで」と言われていた玉手箱を開けてしまいます。確かに、今まで自分が築いてきた人間関係や生活の場を失ってしまうのは、本当にショッキングなことです。

しかし私は、もし彼に「心の若さ」があったのなら、たとえ一度は絶望したとしても、新たな人生を踏み出せたのではないかと思っています。

なぜなら、浦島太郎ほどではないにせよ、現代の私たちも、世界の大きな変化を味わっているという点で、似通った部分があると思うからです。

皆さんご存じのように、今、世界の大きな変化は、仕事のやり方や仕事で使うツールだけでなく、生活様式にまで及んでいます。私たちは、日々の変化に関心を持ち、変化に合わせて自分も変わろうとしていかなければ、あっという間に変化に取り残されてしまう状況にあります。今ほど新しいものを受け入れる「心の若さ」が必要な時代は、あまりないと思います。

確かに、これまでの生き方を変えるという行為には必ず苦痛が伴います。ですが、見方を変えれば、新たな世界を知ることができるチャンスでもあるわけです。そう思えるかどうかが、「心の若さ」と「老い」の分かれ目ではないでしょうか。

浦島太郎は残念ながら、「自分の知らない世界=絶望」と考えたまま、新たな時代で生きる決心ができませんでした。老人の姿になってしまったのは本来悲しいことですが、私には、「老いた心」を持った若者でいるより、心と同程度の年齢の肉体になったほうが、むしろ幸せだったかもしれない、とすら思います。

一方、今を生きる私たちは、心も肉体も若い、玉手箱を開ける前の浦島太郎です。心持ち次第でどんな世界にも行くことができます。常に自分自身の「心の若さ」をチェックし、変化を受け入れられる心を持ち続けるようにしましょう。

以上(2021年4月)

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画像:Mariko Mitsuda

【オーナー企業必読】利益ではなく内部留保に法人税が課される「留保金課税制度」とは

書いてあること

  • 主な読者:オーナー一族で経営を行っている資本金等1億円超の会社経営者など
  • 課題:一定のオーナー企業には内部留保に対して法人税が課される
  • 解決策:資本金等が1億円以下ならば適用外であることや、設備投資を行うなどして過度な内部留保を減らすといった対策がある

1 社内に残ったお金に課税する「留保金課税制度」とは

留保金課税は、オーナ一やその親族などが支配している一定の会社(以下「特定同族会社」。詳細は後述)のみに追加で課税される法人税の仕組みで、利益そのものにではなく、社内に留保されたお金(以下「内部留保」)に対して課税されます。

一般の会社では、利益が出た場合に株主に対して配当を行いますが、特定同族会社では、利益の配当を受け取る株主はオーナーやその親族自身です。配当所得には所得税が課税されますが、配当の時期を遅らせたり、全く配当を行わずに内部留保したりすることで所得税を納めずに、自身が経営する会社でお金を使うことができるようになります。このように、一般の会社と特定同族会社とで、課税の公平がとれないという観点から設けられた特例です。

この特例は、通常の税金対策とは違った視点が必要です。オーナー企業の経営者はまず、この特例が自身の会社に適用されるかどうか確認するようにしましょう。

2 内部留保が課税される特定同族会社とは

特定同族会社とは、次の要件の全てに当てはまる会社です。

  • 資本金の額等が1億円を超えていること。ただし、資本金の額等が1億円以下であっても、資本金の額等が5億円以上の会社に100%支配されている(完全支配関係にある)など、大会社と一定の支配関係にある会社を含む
  • 被支配会社であること
  • 上記2.の判定の基礎となる株主グループの中に被支配会社に該当しない会社が含まれているときは、その会社を除いて判定しても被支配会社に該当すること

被支配会社とは、会社の株主の1人と同族関係者(株主の親族である個人だけでなく、その株主が50%超の持株割合などを有する他の会社も含まれます)が、その会社の発行済株式総数の50%超を保有している会社をいいます。

少々分かりにくいのですが、簡単に言うと、オーナーとその親族や、オーナーの支配力の強い会社だけで過半数超の持株割合を占めている場合には、おおよそ特定同族会社に該当することになります。なお、持株割合の判断には複雑なケースも含まれることから、税理士などの専門家に確認するようにしましょう。

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3 そもそも内部留保とは

内部留保とは、利益から税金・配当金などを支払った後に会社に蓄積されたものです。実際の計算で使う内部留保と完全に一致はしませんが、貸借対照表「純資産の部」の「利益剰余金」をイメージするとよいでしょう。

内部留保という言葉から、会社に現金預金をため込んでいるような印象を受けるかもしれませんが、現金預金とは全く別物です。例えば、製造機械などの固定資産を購入した際(全額現金払いとします)には、現金預金は購入金額の全額が差し引かれますが、利益の計算では購入金額の全額は差し引かれず、減価償却費として毎年購入金額の一部が差し引かれます。そのため、購入金額と未償却部分の差額が、現金預金と利益では一致しません。

4 留保金課税制度への税務対策

資本金の額等が5億円以上である会社による完全支配関係がある場合などを除けば、留保金課税制度に対する最も有効な対策は、資本金の額等を1億円以下にすることです。これにより、中小企業者等の法人税率の特例(年800万円以下の所得について、軽減税率が適用されます)などの優遇措置を受けられるといった副次的な効果も見込まれます(これらの中小企業向け各租税特別措置の適用を受けることができるかどうかについては、別途検討が必要です)。ただし、資本金は税務面だけでなく、経営上さまざまなシーン(資金調達や取引前の与信調査など)で重要になる項目です。資本金の減額については、税務以外の専門家も交えて慎重に検討するようにしましょう。

また、設備投資を行うことにより内部留保金を減少させることも対策の1つです。ただし、設備投資は耐用年数にわたって減価償却費として費用化されるものなので、支出金額の全額が支出年度の内部留保金額からマイナスされるわけではない点に注意しましょう。

5 参考:留保金課税の計算

留保金課税の計算は非常に複雑であるため、ここでは参考として紹介します。

留保金課税に対する法人税は次の算式により計算されます。

留保金課税に対する法人税=(当期留保金額-留保控除額)×特別税率

1)当期留保金額

留保金課税の課税標準のベースとなるのは、当期の所得等の金額のうち留保された金額です。この留保金額は次の算式により計算されます。

留保金額=(所得等の金額のうち留保した金額)-{(当期の所得に係る法人税額)+(地方法人税額)+(その法人税額に係る道府県民税・市町村民税の額)}

1.所得等の金額のうち留保した金額

法人税申告書別表四の48「所得金額又は欠損金額」欄の、「留保」欄の金額です。

具体的には、まず、その事業年度の所得の金額に、受取配当等の益金不算入額、繰越欠損金の損金算入額等を加算して「所得等の金額」を求めます。

この「所得等の金額」から、その事業年度中に行った利益の配当により支出した金額、及び役員給与の損金不算入額、寄附金の損金不算入額、交際費等の損金不算入額、法人税額から控除される所得税額等の社外流出項目を減算して、「所得等の金額のうち留保した金額」を算出します。

2.当期の所得に係る法人税額

その事業年度の所得の金額に、税率(本則23.2%)を乗じて算出した法人税額(法人税申告書別表一(一)の2欄「法人税額」)から、所得税額の控除額・外国税額の控除額(法人税申告書別表一(一)の13欄「控除税額」)等を減算して、「当期の所得に係る法人税額」を算出します。

3.地方法人税額

上記2.で求めた法人税額に税率(10.3%)を乗じて、「地方法人税額」を算出します。

4.その法人税額に係る道府県民税・市町村民税の額

上記2.で求めた法人税額に税率(10.4%)を乗じて、「その法人税額に係る道府県民税・市町村民税の額」を算出します。

2)留保控除額

留保金額から差し引く留保控除額は、次の金額のうち最も多い金額となります。

  • 積立金基準額=期末資本金額×25%-期首利益積立金額
  • 所得基準額=所得等の金額×40%
  • 定額基準額=20,000,000円×当期の月数/12

3)課税留保金額

課税留保金額=当期留保金額-留保控除額

4)留保金課税に係る税額

留保金課税に係る税額=課税留保金額×10%

以上(2021年5月)
(執筆 南青山税理士法人 税理士 山嵜浩平)

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画像:Nishihama-Adobe Stock

従業員が仕事を楽しみ始める、経営者の「対話術」(3)~人間関係がエンゲージメントを築く~

書いてあること

  • 主な読者:自社の従業員がイキイキと働いていないと感じる経営者
  • 課題:社内のコミュニケーションが良好でなく、職場に活力がない
  • 解決策:活発な議論などにより社内の人間関係を良好にすることで、従業員は会社に貢献する喜びを感じるとともに、会社が「人生設計ができる場」となり活力が生まれる

1 人間関係が良好な職場には活力がある

1)社内コミュニケーションを重視したグーグルのオフィス

従業員のやりがいや成長の度合いを測るスケールとして、エンゲージメントが注目されるようになった今、再びコミュニケーションの重要性が見直されています。

グーグルは、なぜオフィスをユニークな造りにしているのでしょうか。それは、人間関係を中心としたエンゲージメントを重視し、従業員間のコミュニケーションが自然に生まれるような空間づくりをしているからだといいます。

複数あるマイクロキッチンには、それぞれに異なるドリンクが置いてあるといいます。あえてどこでも同じドリンクにしていないのは、従業員に自分の飲みたいドリンク目当てに、遠くのマイクロキッチンまで足を運ばせるためということです。いつもと違う場所に行って、普段は顔を合わせない従業員との交流が生まれることを狙っているようです。

こうした試みは「外資系だから……」と捉えられるかもしれませんが、全社を挙げて社内コミュニケーションの改善に取り組んでいる日本企業もあります。

2)自由で活発な議論が職場に活力を生み出す

日本のある会社の経営者と話していて、会社組織としてのエンゲージメントとはどのようなことかという話題になったことがあります。そこで一致したのが、「エンゲージメントが高い会社は、マネジャーがしっかりしているだけでなく、会社の雰囲気が良くて、従業員に活力がある」ということです。従業員の表情がニコニコしているとか、仲が良さそうだという意味ではありません。会話が少なく緊張感が漂う雰囲気だとしても、空気がよどんでおらず、一体感のようなものが感じられる。それが「活力」です。

その経営者の会社では、チームのマネジメントのためにマネジャーだけがエンゲージメントを学び、それを活用するように指示していました。しかし、あるときから方向転換しました。エンゲージメントの概念を書いたカードを作成し、それを従業員にも渡して、「エンゲージメントを高めるために、こうしたほうがいいと思うことがあれば、誰でも自由に発言していい」というやり方に変えたのです。その結果、明らかに職場の雰囲気が変わりました。活発な議論が生まれ、意見の対立があっても人間関係が壊れなくなった。つまり、職場に活力があふれるようになったというのです。

経営トップ自らが「誰もが発言していい」と明言したことにより、みんなが職場の問題を自分事として捉えるようになり、ミーティングでも発言数が増えたそうです。もちろん、発言が活発になったからといって、すぐに仕事の効率や業績アップにつながるとは言えないかもしれません。恐らく定量的な効果は後から出てくるのでしょう。それより前に職場の雰囲気が良くなるなど、質的な変化が表れたのです。

これは、エンゲージメントというキーワードを入り口に、職場での対話が広がった好例であると言えます。逆に言えば、活力のない、停滞している職場には「対話」がありません。

2 良好な人間関係は会社のパフォーマンスを高める

1)笑いはビジネスにメリットをもたらす

社内の良好な人間関係とエンゲージメントには、密接な関係があることを分かっていただいたと思います。また、人間関係が良ければ職場に自然と笑みが生まれるものですが、クスクス笑いや大笑いはビジネスにおいてもメリットがあるそうです。

「笑うことは、ストレスや退屈さを軽減して、エンゲージメントや幸福感を向上させる。創造性を高め、協力を促すうえ、分析の精密さや生産性の向上をもたらすのである」
(アリソン・ビアードがハーバードビジネスレビューに寄せた論文「Leading with Humor」)

2)貢献することへの喜びが能力を引き出す

ラグビーファンの方であれば「One for All, All for One」という言葉をよくご存じでしょう。ラグビーにおけるチームプレーの大切さを説いた言葉です。この言葉が持つ重みは、ビジネスでも同じです。お互いが率先して協力し合う職場は、一人ひとりのエンゲージメントが高く、個人やチームのパフォーマンスが向上し、イノベーションも起こりやすくなります。

そして、「One for All」を意識することで、発揮できる能力そのものも引き上げられるのです。他者への貢献を自分の喜びとすることで、人は自分の限界値を上げてポテンシャルを発揮できるようになります。自分の能力以上のばか力が発揮できるのです。

ここで考えたいのは、「One for All」のAllは誰かという問題です。真っ先に思い浮かぶのは、普段一緒に働いている仲間や、いつも支えてくれる家族や友人の顔でしょう。ただ、身近な個人にとどまらず、彼ら彼女らを含むチーム、組織へとAllの射程を広げてみるのもいいと思います。自分が会社に貢献したいと思い、会社のほうもあなたの貢献を望み、その貢献に正当な評価で応える。これはまさしくエンゲージしている状態であり、パフォーマンスのさらなる向上が見込めるでしょう。

3)社会と相思相愛の会社は強い

可能なら、さらにその向こうまでAllの対象を広げたいところです。具体的には、会社の事業を通してつながっている顧客や取引先、業界、市場、地域、国、そして地球……。ここではそれらを総称して「社会」と呼ぶことにしますが、自分が社会の役に立ちたいと思い、社会からもそれを求められ、実際に貢献できている実感を得られれば、これほど強いエンゲージメントはありません。

自分が社会に貢献することを望み、社会からもそれを求められて、相思相愛でつながっている実感を、私たちは「ソーシャル・エンゲージメント」と呼んでいます。自分の仕事を通じて直接的に社会貢献できれば、ソーシャル・エンゲージメントと同時に、ワーク・エンゲージメントを高めることができるので一挙両得です。

3 自分を高める「人生設計ができる場」は活力を生む

バイタリティーを感じさせる中小企業の組織を観察してみると、共通した傾向があります。それは、会社が働く場であると同時に、「人生設計ができる場」になっているということです。

そのような中小企業の特徴とは、どのようなものでしょうか? 共通している特徴は、従業員に仕事を提供するだけでなく、個人のプライベートの時間、そして思考力を高めることを大切にしているのです。給料では大企業に及ばないかもしれません。しかし、小さい家族的な組織の中でお互いの個性を尊重し、会社の成功と自分の幸せという人生の本質をしっかり議論し、お互いを高め合って人として成長できる職場であれば、それは、従業員にとってかけがえのないものになるのです。従業員は職場で常に自分を高め、「人生設計」をすることができているからです。

こうした中小企業では、従業員の強みを伸ばすワークショップ、勉強会、相互コーチングなど、従業員を成長させる仕組みを業務以外で用意しています。さらに、次世代のリーダーを育成し、そのまた次の世代の可能性にも投資しているので、将来にも期待が持てます。すると従業員はますます会社の将来にワクワクします。こうした中小企業はまさにエンゲージメントのあるべき姿を体現しています。

4 終わりに:中小企業でもエンゲージメントは高められる

エンゲージメントの向上というと、大企業の人事部主導の活動という印象を受けるかもしれませんが、実はエンゲージメントの波は中小企業にも及んでいます。

中小企業には、企業規模が小さいからこそエンゲージメントを築くための施策を取り入れやすい環境があり、実際に取り入れてうまくいっている会社も数多くあります。

経営トップの決断が組織全体に大きく影響する中小企業では、経営トップが施策を素早く推し進めることができます。しかも、ある程度エンゲージメントが定着すると、早いタイミングで組織として自走し始めるケースが非常に多い印象です。ぜひ取り組んでみてください。

【参考文献】

「楽しくない仕事は、なぜ楽しくないのか?」(土屋 裕介、小屋 一雄 2020年2月)

以上(2021年5月)
(執筆 日本エンゲージメント協会 佐々木拓哉、小屋一雄)

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画像:Gutesa-shutterstock

2021年6月に義務化 事例で見る「HACCP」対応

書いてあること

  • 主な読者:義務化されたHACCPに対応したい経営者
  • 課題:中小企業がHACCPに対応する際の進め方、課題を知りたい
  • 解決策:実例を基に、自社での対応の参考にする

1 2021年6月、ついにHACCP義務化!

HACCP(ハサップ:Hazard Analysis and Critical Control Point)とは、食品事業者が自ら原材料の受け入れから製造、製品の出荷までの全ての工程において、食中毒などの健康被害を引き起こす可能性のある危害要因(ハザード)を科学的根拠に基づいて管理する方法です。このHACCPが、2021年6月についに義務化されます。

HACCP義務化の対象範囲は、食品製造・加工業者や、飲食店・小売店など、一部を除き、食品関連のほぼ全てとなります。対象外となるのは、缶詰やインスタントラーメンだけを販売する店舗など、食品衛生上のリスクが低い事業者に限られます。コロナ禍で一気に普及したフードデリバリー事業者の一部でも、加盟する飲食店に対してHACCPに基づいた衛生管理を推進する動きが出てきています。

「知っているけど、対応はまだ」ではもう済まされないHACCP。本稿では、HACCP対応の実例やポイントなどを紹介します。

2 HACCP対応のポイント

HACCP対応を支援するコンサルタントによると、中小企業がHACCP対応の際に直面する課題としては、以下のようなものがあるそうです。

1)課題

  • 小規模の食品等事業者の工場の場合、大手の食品等事業者の工場に比べ、各工程の動線が整理されていなかったり、作業する従業員が同一で、同じ器具を別工程で使い回したりすることがあるため、衛生管理の実施が難しいことがある。
  • こうした小規模の食品等事業者は、各工程の動線以外にも、顧客と従業員のトイレの分離や、危害を及ぼす恐れのある微生物や異物の空気を介した食品への付着を防ぐための陽圧室の導入の有無など、ゾーニングに関する課題を抱えている場合が多い。

2)HACCP対応の秘訣

  • まずは経営者が旗振り役となり、HACCP対応チームのリーダーを指名し、ともに対応計画を策定する。策定した対応計画を現場に落とし込むため、現場の従業員からリーダーを指名し、実際の業務の中で回していけるのかを確認・調整することが重要。
  • 従業員にHACCP対応を定着させるためには、HACCPの基本や各業界団体が作成した手引書を理解する必要があるが、実際に業務中に学ぶ時間を取ることは難しい。そのため、シフトを調整して一部の従業員ごとに研修の時間を設けたり、手引書を見ながら実際の業務を行って、改善点をその場で洗い出したりするなどの工夫が必要。

3)実際の例

コンサルタントによると、対応を進める流れとして、次のような実例がありました。

【おこわ・団子製造業者(従業員約10名)】

  • HACCPチームの編成(社長、正社員1名、パートのリーダー1名の計3名)
  • 業界団体が作成する手引書を参考に、実際の作業の洗い出し
  • 作業手順のマニュアル化(手順を口頭でしか説明、確認できなかったため)
  • 作業の流れに沿って、実際にどんな異物混入リスク・微生物汚染リスクがあるのかを確認
  • 明らかになった異物混入リスク・微生物汚染リスクに対して、科学的な観点から対処法を検討する(熱処理、設備の増設など)
  • 上記の対処法が効果があるのかを、食品検査センターなどで科学的な観点から検証する
  • 上記の対処法の効果を確認できた場合、全工程の作業手順および処理方法の記録、モニタリング体制の整備を行う
  • 全工程の作業手順および処理方法の記録、モニタリング体制の整備が実際の業務の中で無理なく進めていくことが可能であれば、HACCP認証機関に申請するための書類を作成する

3 小規模事業者はHACCP対応を簡略化できる

実際のHACCP対応に取り組む際には、大規模事業者や、と畜場などは、「HACCPに基づく衛生管理」に沿った衛生管理を行います。また、以下のような中小規模の事業者(小規模事業者)は、各業界団体が作成する手引書を参考に、簡略化された手法「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」に沿って衛生管理を行います。

  • 食品を製造し、または加工する事業者で、店舗に併設した設備で食品を製造・加工した食品を小売販売する場合
    (例:菓子の製造販売、豆腐の製造販売、魚介類の販売など)
  • 飲食店や喫茶店などの運営を行う事業者、その他の食品を調理する事業者
    (例:そうざい製造業、パン製造業(消費期限がおおむね5日程度のもの)、学校・病院向け以外の集団給食施設など)
  • 容器包装に包装された食品のみを保存、運搬、販売する事業者
  • 分割して包装された食品を小売販売する営業者
    (例:八百屋、米屋、コーヒーの量り売りなど)
  • 食品を製造、加工、保存、販売、処理する事業者で、食品などを取り扱う従業員数が50人未満の事業場(食品の取り扱いに直接従事しない者はカウントしない)

厚生労働省では、業態ごとの手引書を公開しています。

■厚生労働省 HACCPの考え方を取り入れた衛生管理のための手引書(五十音順)■
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000179028_00005.html

4 大企業も支援に乗り出す

農林水産省が2020年6月に公表した調査(「食品製造業におけるHACCPの導入状況実態調査結果」)によると、2019年10月時点でHACCP対応済みと回答したのは、全体の22.5%にとどまっています。その一方で、「導入については未定」が18.9%、「HACCPに沿った衛生管理をよく知らない」は19.7%に上っています。義務化が間近に迫っているにもかかわらず、対応がスムーズに進まない状況を受けて、大企業が導入支援に乗り出しています。

1)中部電力ミライズ:HACCP対応支援コンサルティング

中部電力グループの電力・ガス小売事業者の中部電力ミライズは、愛知県名古屋市内の食をテーマにした複合施設「BAUM HAUS(バウムハウス)」内でHACCP対応を支援するコンサルティングサービスを行っています。

ここでは、食品事業者の困り事をサポートする「Food DX Salon」を設け、HACCPに関する情報提供やセミナーの開催、コンサルティングサービスの提供を行っています。

2)パナソニック産機システムズ:HACCP対応の作業省略化サービス

パナソニックグループで業務用機器などの販売・メンテナンスを行うパナソニック産機システムズは、HACCP対応に必要な文書・帳票の作成や、従業員の健康状態、機器の温度計測などの記録を支援するクラウドサービス「エスクーボフーズ」を提供しています。

エスクーボフーズは、HACCP対応で必須となる日々の温度管理・データの保存などの煩雑な作業を自動化し、クラウド上で保存することができ、データの見える化や作業効率化が期待できそうです。

以上(2021年5月)

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画像:stocksnap

【朝礼】昼食後の歯磨きで、自分自身も磨こう

私は最近、自分の業務遂行能力を高めようと、あることを始めました。それは「昼食後の歯磨き」です。「何で歯磨き?」と思うかもしれませんが、これを習慣として取り入れてみると、仕事に役立つさまざまな恩恵が得られるのです。私が考える恩恵は3つあります。

1つ目は、「健康管理」です。普通、虫歯や歯周病予防といった口内の健康管理は、歯が痛まない限り後回しにされがちです。しかし、例えば歯周病にかかると、糖尿病をはじめとするさまざまな疾患を発症する恐れがあるといわれます。逆に健康な歯をたくさん持っていると、よくかんで食べる癖がつくため、肥満予防やバランスの良い栄養摂取につながるそうです。つまり、昼食後の歯磨きを習慣的に行うことで、仕事をする上で必須となる、健康な肉体を保てます。

2つ目は、「時間管理」です。昼食は「ながら」作業ができても、歯磨きはそうはいきません。日中は仕事が立て込むことが多い中で、毎日5分程度の時間を捻出する必要が生じるため、逆算してテンポ良く作業をこなすようになります。また、特にリモートワークの場合、公私の時間の区別が不明確でダラダラと作業をしてしまいがちですが、歯磨きを作業の区切りに挟むことで、メリハリをつけることができます。さらに、「日々の健康管理」という、緊急ではないけれど重要な要素を1日のスケジュールに組み込むことは、仕事の優先順位を考え直すきっかけにもなり得ます。

3つ目は、「整理整頓」です。これは会社で歯磨きをする人が対象になりますが、多くの人が使用する社内の共有スペースの中に、歯ブラシなどを置く場所を確保するというのは、簡単なようで意外と難しいことです。歯ブラシを乾かすためには、清潔でそれなりに広い空間が必要ですし、会社に訪問されるお客様に歯ブラシを見せるわけにはいきません。自宅だとあまり整理整頓を意識しないという人も、人目がある会社では逆に整理整頓を意識するようになるのではないでしょうか。

健康管理、時間管理、整理整頓はどれも社会人にとって初歩的なことですが、それだけにおろそかになりがちです。また、歯磨きがこれら3つの改善につながるといっても、地味で効果がすぐには見えにくいため、「やってみよう」という気は起きにくいかもしれません。ですが歯磨きには、すぐに、簡単に始められるというメリットもあります。今年度、さらなる成長を目指し、「ささいなことでもよいから、自分自身を磨いていきたい」という人には、ぜひお勧めします。

先ほど紹介した通り、歯磨きは虫歯や歯周病の予防になりますし、口中がさわやかになって気分転換にもなるなど、仕事以外の部分でもメリットがあります。歯磨きのために鏡で自分の姿を見ることで、身だしなみの乱れも正せます。

歯磨きのようなささいなことでも、自分を磨くために少しでも有益だと思えることであれば、皆さんも積極的に取り入れていきましょう。

以上(2021年4月)

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画像:Mariko Mitsuda