【規程・文例集】産業雇用安定助成金に対応した「出向者取扱規程」と「出向契約書」のひな型

書いてあること

  • 主な読者:「産業雇用安定助成金」を受給したい在籍出向を検討中の経営者
  • 課題:在籍出向をしたことがなく、何から着手すべきか分からない
  • 解決策:まずは「出向者取扱規程(就業規則)」と「出向契約書」を整備し、出向元、出向先、出向者の関係を明らかにする

1 コロナ禍の在籍出向を支援する「産業雇用安定助成金」

在籍出向とは、出向元(自社)と従業員の労働契約を維持したまま、従業員が出向元の指示で出向先(他社)とも労働契約を交わし、出向先の指揮命令で働くことです。大企業が子会社に従業員を出向させることが典型でしたが、足元では、コロナ禍の雇用維持のために取引先などと労働力をシェアする「従業員シェア」に、在籍出向の仕組みが利用されています。

そして、コロナ禍の在籍出向(従業員シェア)を支援すべく、2021年2月に「産業雇用安定助成金」が創設されました。

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産業雇用安定助成金は、親子関係など資本関係のない会社同士であれば、出向元も出向先も受給できることが特徴です(雇用調整助成金など他の助成金を受給している場合、受給できないこともあります)。受給要件はさまざまですが、まずは「出向者取扱規程(就業規則)」と「出向契約書」を整備することから始めましょう。これらは出向元、出向先、出向者の関係を法的に根拠付ける書類で、これらがないとそもそも在籍出向を実施できないからです。

以降では産業雇用安定助成金に対応した、出向者取扱規程と出向契約書のひな型を紹介します。

2 出向者取扱規程のひな型

以降で紹介するひな型は一般的な事項をまとめたものであり、個々の企業によって定めるべき内容が異なってきます。実際にこうした規程を作成する際は、必要に応じて専門家のアドバイスを受けることをお勧めします。

【出向者取扱規程のひな型】

第1条(目的)
本規程は、就業規則第○条の「出向」を命じられた従業員の取扱いなどについて定める。なお、本規程における出向は、出向先の経営力や技術力の強化、人材の育成、出向先との人事交流、雇用調整等を目的とする。

第2条(対象範囲)
本規程は、原則として無期契約の従業員にのみ適用する。

第3条(用語の定義)
本規程において各用語の定義は、次の各号に定めるところによる。

  • 出向
    会社に在籍したまま、会社の命令に従って、取引先など他の事業主との雇用契約関係に基づき当該事業主の業務に従事することをいう。
  • 出向者
    会社から出向する従業員をいう。
  • 出向先
    出向者を受け入れる取引先などをいう。

第4条(遵守事項)
1)会社は、出向の必要性を検討し、労働基準法などの関係法令を遵守し、出向者の選定方法その他の条件が適切なものとなるよう確認した上で従業員に出向を命じなければならない。
2)出向者は、出向目的に従って、出向先と会社との協力関係の維持発展に努めなければならない。

第5条(出向手続き)
1)会社が出向を命じるときは、事前に出向の対象となる従業員に出向の目的や出向先名、適用される就業条件を書面で明示する。
2)会社は、事業活動の縮小を理由として出向を命じるときは、事前に従業員の過半数を代表する者と、次の各号について定めた労使協定を締結する。

  • 出向先の事業所の名称、所在地、事業の種類および事業主の氏名(法人の場合は代表者の氏名)
  • 出向実施予定時期・期間
  • 出向期間中および出向終了後の処遇
  • 出向者の範囲および人数

3)会社は、事業活動の縮小を理由として出向を命じるときは、事前に出向の対象となる従業員から書面により同意を取得する。

第6条(出向期間)
1)出向期間は原則として1カ月以上2年以内の範囲で、目的に応じてその都度決定する。また、出向目的の達成状況などにより、出向期間を短縮または延長することがある。
2)出向者の出向期間は、会社の勤続年数に通算し、年次有給休暇、退職金、永年勤続表彰などに関し、通常の勤続期間と同様の取扱いとする。

第7条(出向期間中の会社における取扱い)
1)出向期間中、出向者は原則として会社の総務部に籍をおき、就業規則第○条の出向休職とする。
2)出向者の人事考課は、出向先からの報告に基づき会社が行う。また、出向期間中の会社における出向者の昇進および昇給については、会社に勤務した場合と同等に取り扱う。
3)出向者は、出向期間中に住所、連絡先、氏名、家族その他会社の人事管理上必要とする身上に変更が生じた場合は、都度会社に届け出なければならない。

第8条(出向者の労働条件等)
1)出向者の労働時間、休憩、休日、休暇、服務規律、安全衛生、法定外災害補償、福利厚生並びに出向先での配置転換および出張については、出向先の規程による。ただし、年次有給休暇は会社の勤続年数に基づき付与される(労働基準法第39条第7項の規定に基づく使用者の年次有給休暇の時季指定義務は出向先が履行する)。
2)出向先の労働時間、休日、休暇の労働条件が会社のものよりも不利益となる場合は、会社はその不利益を解消するよう必要な措置を講じる。
3)出向者は、出向期間中においても会社の福利厚生制度を利用することができる。
4)出向者の表彰および懲戒については、出向先の規程により出向先が行う。ただし、諭旨解雇および懲戒解雇については、会社の規程により会社が行う。
5)出向者の休職、退職および普通解雇については、会社の規程による。なお、出向者が出向期間中に休職(出向休職を除く。以下同じ)、退職または解雇(懲戒処分としての解雇の場合を含む。以下同じ)する場合は、会社に復職させた上で休職もしくは退職、または解雇する。
6)出向者の賃金については、会社が支払う。ただし、通勤費、交通費および出張費については、会社と出向先との合意により決定する。

第9条(社会保険等)
1)出向期間中、出向者の健康保険、厚生年金保険、介護保険および雇用保険の適用は、原則として会社において行う。ただし、法令により異なる取扱いがなされる場合は、この限りでない。
2)出向期間中、出向者の労働者災害補償保険の適用は、出向先において行う。

第10条(復職)
1)次の各号に定める事情が生じた場合、出向は終了し、出向者は会社に復職する。

  • 出向期間が終了したとき
  • 出向の目的を達成したとき、または出向の目的が消滅したとき
  • 心身の故障等出向先での労務提供が困難なとき
  • 会社の休職事由、普通解雇事由、懲戒事由に該当したとき
  • 出向期間中に会社を退職するとき
  • 前号に掲げる事由のほか、復職させるべき理由があるとき

2)復職後の所属および処遇は、業務上の都合もしくは出向者の能力、経験、技能、希望等を総合的に勘案の上決定する。

第11条(罰則)
従業員が故意または重大な過失により、本規程に違反した場合、就業規則に照らして処分を決定する。

第12条(特例)
出向先の事情その他特別な事情により本規程で処理し難い場合は、取締役会において方針を決定するものとする。

第13条(改廃)
本規程の改廃は、取締役会において行うものとする。

附則
本規程は、○年○月○日より実施する。

3 出向契約書のひな型

以降で紹介するひな型は一般的な事項をまとめたものであり、個々の企業によって定めるべき内容が異なってきます。実際にこうした契約書を作成する際は、必要に応じて専門家のアドバイスを受けることをお勧めします。

【出向契約書のひな型】

○○(以下、「甲」という)と□□(以下、「乙」という)は、甲の従業員を乙に出向させるに際し、その取扱いについて次の通り出向契約(以下、「本契約」という)を締結する。

第1条(定義)
1)本契約において、出向とは、甲の従業員を甲に在籍させたまま、乙の従業員として乙の業務に従事させることをいう。
2)本契約において、出向者とは、乙に出向する甲の従業員をいう。

第2条(出向元と出向先の名称および所在地)
出向元(甲)と出向先(乙)の名称および所在地は次の通りである。

  • [出向元(甲)]名称             所在地 
  • [出向先(乙)]名称             所在地

第3条(出向者および出向期間)
出向者および出向期間は次の通りとする。なお、出向期間の短縮または延長をしようとする場合は、甲乙協議の上、書面による合意により決定し、甲は決定内容を出向者に通知する。

  • [出向者] 氏名        生年月日   年   月   日生
  • [出向期間]   年   月   日から   年   月   日まで( 年間)

第4条(出向形態等)
1)出向者は、出向期間中、甲の従業員者として甲に在籍したまま、乙の指揮命令下において乙の業務に従事する。
2)出向者は、出向期間中、甲において休職扱いとする。ただし、出向者の出向期間は甲の勤続年数に通算する。

第5条(二重出向の禁止)
乙は、出向者を乙以外の会社へ出向させてはならない。

第6条(出向者の業務等)
1)乙における出向者の勤務地、所属、役職および業務内容は次の通りとする。なお、乙は、これらの事項を変更する場合は、甲の事前の書面または電子メールによる承諾を得るものとする。

  • [勤 務 地]
  • [所 属]
  • [役 職]
  • [業務内容]

2)乙は、甲指定の方法に基づき、出向者の勤務状況その他甲指定の事項を翌月○日までに甲に報告するものとする。

第7条(出向者の労働条件等)
1)出向者の労働時間、休憩、休日、休暇、服務規律、安全衛生、法定外災害補償、福利厚生並びに乙での配置転換および出張については、乙の定めるところによる。ただし、年次有給休暇は甲の勤続年数に基づき付与される(労働基準法第39条第7項の規定に基づく使用者の年次有給休暇の時季指定義務は乙が負うものとし、その取扱いについては乙の定めるところによる)。
2)出向者の表彰および懲戒については、乙の定めるところにより乙が行う。また、諭旨解雇および懲戒解雇については、甲の定めるところにより甲が行う。
3)出向者の休職、退職および普通解雇については、甲の定めるところによる。
4)出向者の賃金(時間外、休日および深夜労働に対する割増賃金を含む)については、甲の定めるところにより甲が出向者に直接支払う。ただし、通勤費、交通費および出張費については、乙の定めるところにより乙が出向者に直接支払う。
5)乙は、出向時に、出向者に対して労働条件を明示する。ただし、甲は、甲乙協議の上、乙に代わって出向者に対して労働条件の明示を行うことができる。

第8条(安全衛生の措置等)
出向者に対する安全衛生の措置等は、乙の負担により乙が実施する。

第9条(社会保険等)
1)出向期間中、出向者の健康保険、厚生年金保険、介護保険および雇用保険については、甲において被保険者資格を継続させ、その事業主負担分の保険料は甲が負担する。
2)労働者災害補償保険については、乙において加入し、その保険料は乙が負担する。

第10条(出向先の給与負担金等)
1)出向に伴う給与負担金として、甲が第7条の定めに基づき出向者に支払った賃金(時間外、休日および深夜労働に対する割増賃金を含む)に相当する額を乙が全額負担する。ただし、月の途中に出向が開始または終了した場合の当該月の給与負担金については日割り計算とする。
2)乙は、甲に対して、前項に定める給与負担金を当月末日までに甲の指定する口座に振り込むものとする。なお、振込手数料は乙の負担とする。

第11条(復職)
出向者が次の各号に該当した場合、甲は当該出向者に対して復職を命じるものとする。

  • 出向期間が終了したとき
  • 出向の目的を達成したとき、または出向の目的が消滅したと甲が判断したとき
  • 心身の故障等乙での労務提供が困難であると甲が判断したとき
  • 甲の休職事由、普通解雇事由、懲戒事由に該当したと甲が判断したとき
  • 出向期間中に甲を退職するとき
  • 前号に掲げる事由のほか、復職させるべき理由があると甲が判断したとき

第12条(機密保持)
1)甲および乙は、本契約期間中に知り得た相手方の業務上の情報その他の機密情報(次の各号に該当するものを除く。以下、「機密情報等」という)を、相手方の書面による事前の同意を得ることなく、第三者に提供、開示または漏洩してはならず、本契約を履行する以外の目的に使用してはならない。

  • 開示を受けた時点で既に保有している情報
  • 開示を受けた時点で既に公知であった情報
  • 開示の前後を問わずその責に帰すべき事由によらずに公知となった情報
  • 開示の前後を問わず正当な権利を有する第三者より適法に入手した情報
  • 開示された情報に基づかずに独自に開発した情報

2)前項の規定にかかわらず、甲および乙は、裁判所または行政機関の命令、要請等により要求される場合には、当該要求に対応するのに必要な範囲で機密情報等を開示することができる。ただし、甲または乙は、当該要求を受けた旨を相手方に遅滞なく通知するものとする。
3)甲および乙は、機密情報等の滅失、毀損または漏洩のないようその責任において万全に機密情報等を保管するものとし、本契約が終了した場合において、相手方から機密情報等について返却または破棄(電磁的記録の場合は削除)を指示されたときは、その指示に従い返却または破棄(電磁的記録の場合は削除)をするものとする。
4)本条の規定は、本契約終了後もなお有効とする。

第13条(個人情報)
甲および乙は、出向者の個人情報の取扱いに関しては、個人情報の保護に関する法律、関連法令およびガイドラインを遵守し、当該個人情報の保護に努めるとともに、当該個人情報を出向者の雇用管理および業務に必要な範囲についてのみ使用し、当該個人情報の滅失、毀損または漏洩のないよう必要かつ適切な措置を講じるものとする。

第14条(損害賠償)
甲および乙は、本契約に違反することにより、相手方に損害を与えた場合、相手方に対し、損害賠償をしなければならない。

第15条(有効期間)
本契約の有効期間は、第3条の規定による出向期間が終了するまでとする。

第16条(協議解決)
本契約に定めのない事項、または本契約の解釈について疑義が生じたときは、甲乙は誠意をもって協議の上解決する。

第17条(合意管轄)
甲および乙は、本契約に関し裁判上の紛争が生じたときには、訴額等に応じ、○○簡易裁判所、または○○地方裁判所を専属的合意管轄裁判所とすることに合意する。

以上(2021年4月)
(監修 社会保険労務士 志賀碧)

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画像:ESB Professional-shutterstock

弁護士が教える 「従業員シェア」の税務上の取り扱いQ&A

書いてあること

  • 主な読者:コロナ禍の助け合いとして「従業員シェア」を検討している経営者
  • 課題:従業員シェアには「在籍出向、副業、業務委託」の形態がある。税務上、在籍出向の場合は注意が必要
  • 解決策:在籍出向により従業員シェアをする場合、給与は出向先が支払うのが基本

1 従業員シェア。対象者への給料が寄附金になる?

コロナ禍だからこそ、経営者は何としてでも従業員の雇用を守ろうと考えます。実際にそうした思いが形になっているのが、企業の垣根を越えた助け合いといえる「従業員シェア」です。従業員シェアとは、複数の企業が業務の繁閑に応じて従業員を融通し合う取り組みです。業績好調な企業は採用コストをかけずに働き手が見つかりますし、業績不振な企業も従業員の雇用を守ることができます。

こうした従業員シェアは、次のいずれかの仕組みで実現します。

  • 在籍出向
    出向元(自社)と従業員の労働契約あり。従業員は出向元の指示で、出向先(他社)とも労働契約を交わし、出向先の指揮命令で働く
  • 副業
    本業先(自社)と従業員の労働契約あり。従業員は自身の意思で、副業先(他社)とも労働契約を交わし、副業先の指揮命令で働く
  • 業務委託
    勤め先(自社)と従業員の労働契約あり。従業員は自身の意思で、他社と業務委託契約を交わすが、他社の指揮命令は受けず、裁量権をもって業務委託契約を履行する

お伝えしたいのは、在籍出向で従業員シェアをした場合の給与の取り扱いです。税務上の基本は「出向者の給与は出向先が支払う」というものであり、これと異なる取り扱いをすると、給与のつもりで支払ったのに、寄附金として処理することになるなど、意図せぬ事態に陥ります。これがどういうことなのかを説明します。

なお、本稿では取り上げていませんが、一定の在籍出向を行うと「産業雇用安定助成金」を受給できることがあります。この助成金に対応した「出向者取扱規程」などのひな型は以下のコンテンツで紹介しています。

2 出向者の給与に関する税務上のポイント

1)出向先が出向者に給与を支払った場合

前述した通り、税務上では出向者の給与は出向先が支払うことを基本とします。出向先が給与(出向先の基準に基づく。以降、同様)を支払うことは税務上の考え方に沿うものであり、出向先は給与を損金算入できます。

2)出向元が給与を支払い、出向先から給与相当額を受け取っている場合

出向者に給与を支払っているのは出向元でも、出向先がその相当額である「給与負担金」(経営指導料など名称は問わない)を出向元に支払っている場合、実質的に給与を支払っているのは出向先と考えられます。そのため、出向先は給与負担金を損金算入できます。

一方、出向元が出向先から受け取る給与負担金は益金となります。ただし、出向元が出向者に支払う給与も損金算入できるので、プラスマイナス0となり課税関係は生じません。

3)出向元が給与を支払い、出向先から給与相当額を受け取っていない場合

税務上は、出向先が負担すべき出向者の給与を、出向元が立て替えていると考えます。立て替えているのに出向先から給与負担金の支払いがない場合、出向元が支払った給与は出向先への贈与となり、寄附金として取り扱われるのが原則です。

例外的に、「出向元の事情で出向させ、かつ出向先では出向を受け入れることで何らの利益もないような場合」には、出向元が従業員に支払った給与は損金算入できます。

一方、出向先では、帳簿上特段の処理を行わないことが通常です。そのため、税務上も課税関係は生じません。

4)出向先が給与を支払い、出向元から給与相当額を受け取っている場合

出向元が支払う給与負担金は、上記3)と同様に、基本的には寄附金となりますが、合理的な理由がある場合は例外として損金算入できます。

一方、出向先が出向元から受け取る給与負担金は益金となります。ただし、出向者に支払う給与は損金算入されるので、プラスマイナス0となり課税関係は生じません。

5)出向先の給与が出向元より低いので、出向元が出向者に補填した場合

出向元が出向者に支払う金銭は、合理的な理由がなければ出向先への寄附金となります。給与水準の調整のために出向元が出向者に支払う補填金については「合理的な理由」があると認められるため、出向元は損金算入できます。

以上(2021年4月)
(執筆 日比谷タックス&ロー弁護士法人 弁護士 堀田陽平)

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画像:Adobe Stock-fizkes

従業員が仕事を楽しみ始める、経営者の「対話術」(2)~従業員に「成長」を意識させて仕事を楽しくするには?~

書いてあること

  • 主な読者:自社の従業員がイキイキと働いていないと感じる経営者
  • 課題:従業員が、「自分は変われる」という「成長マインド」で仕事をしていない
  • 解決策:自分の理想像を目標に掲げるように導く。成長のきっかけやヒントにつながる具体的な指摘や、公平で納得感のある評価を伝えることで、成長マインドを刺激する

1 イキイキ働くための鍵「成長マインド」は入社3カ月で低下?

従業員がイキイキと働くために、極めて重要な鍵となるものが「成長マインド」です。一人ひとりのエンゲージメントに気を配ることも必要ですが、その前に、まず成長マインドを持てる文化や制度を整えること。その前提があって、従業員のエンゲージメントは高まるのです

ところが、成長マインドを持って入社した従業員が、入社後わずか3カ月で成長マインドを低下させてしまうケースもあるようです。「2019マイナビ新入社員意識調査~3カ月後の現状~」では、「社会人生活にどのようなことに期待をもっていますか」という質問に対して、入社時は、1位が「自分が成長できる」(68.0%)で、2位以下は「収入が得られる」(47.7%)、「新しいことに挑戦できる」(43.0%)、「新しく人間関係を構築できる」(32.0%)、「社会や会社に貢献できる」(29.3%)と続いています。

収入が得られるという現実的な項目よりも、自己成長に対する期待感が強いのが分かります。自己成長だけでなく、新しいことへの挑戦や社会や会社への貢献などの項目も、それを通じて自分が成長しますから、成長に関する項目であるといえます。そして、いずれもエンゲージメントを高めるために重要な要素です。そのマインドが、3カ月という実に短い期間のうちに変化してしまうというのです。

入社から3カ月後の7月に行った意識調査では、「自分が成長できる」は10.8ポイント下がって57.2%、「新しいことに挑戦できる」は10.3ポイント下がって32.7%、「社会や会社に貢献できる」は3.0ポイント下がって26.3%と、エンゲージメントを高める要素が軒並み低下しています。

それに対して「収入が得られる」が11.7ポイントも上昇して59.4%で、「自分が成長できる」を逆転して1位になっています。このマインドの違いは仕事のあらゆる場面で関わってきて、その人の成長を左右します。

2 「成長マインド」の有無で上司への反応が真逆に

1)「成長マインド」を刺激してエンゲージメントを高める

成長マインドは、キャロル・S・ドゥエックが自身の著書『マインドセット「やればできる!」の研究』で提唱した考え方で、エンゲージメントを高めるうえで極めて重要な鍵となるものです。

成長マインドは「自分は変わる」「自分は変われる」という前提で臨む姿勢のことです。上司はさまざまな場面で、部下を評価する言葉を語りますし、時に叱責することもあるでしょう。日ごろの仕事においても、「キミはここをもっと直したほうがいい」「こういうところにもっと力を入れたほうがいい」など、上司から見たフィードバックを与えてくれることもあります。

成長マインドで受け取るならば、「上司の指摘を次の成長の糧にしよう」「ヒントとして活かせる部分を見つけよう」と、その先の成長につながる要素をいくらでも見つけ出すことができるのです。

これを上司の立場から見るなら、上司としては部下の成長マインドにしっかりと訴え、成長のきっかけやヒントとなるような指摘を、なるべく具体的に提示するよう心掛けるべきだといえます。そうした部下の成長マインドを刺激することで、エンゲージメントをさらに高めることができるようになるのです。

2)「固定マインド」の従業員は、自分を評価する上司しか認めない

給料の面での「成功」を得るために必要なものは、上司の評価です。ある程度真面目に仕事をして、上司に気に入られ、それなりの成果も出していれば、上司は評価をしてくれるはずです。その結果、給料は多少なりとも上がることでしょう。

しかしこの場合、部下が上司に対して抱くのは「この上司は自分を評価してくれる。良い上司だ」という、あくまでも自分の都合に合わせて上司の存在意義を規定したものにすぎません。これを「成長マインド」とは逆の意味の「固定マインド」といいます。

固定マインドは、簡単にいうなら「自分は変わらない」「自分は変われない」という考えを前提に置いた姿勢です。

ここで大切なのは、部下の側がそうした言葉を固定・成長のどちらのマインドで受け取るか、つまり部下側の受け取り方です。

「固定マインド」で受け取ると、上司が良い評価をしてくれたときは「良い上司だ」と思う半面、上司に怒られたときは「この上司とは合わない」「悪いところしか見てくれない」と考えてしまいがちです。これでは、その先の成長につながる要素を何一つつかむことができません。

3 従業員の「成長マインド」の育て方

1)自分の理想像を描き、心から納得できる「目標」を掲げる

成長マインドのトリガーになるのは「目標」です。人は自分がそうなりたいと願う理想像を描き、それを目標として掲げると、現状とのギャップがおのずと浮かび上がり、「そのギャップを埋めよう」というマインドになっていきます。このように目標を掲げることで成長意欲を引き出す手法は、コーチングでもごく一般的なものです。

目標に向かって努力しているのに成長マインドになり切れていない人は、目標と自分のなりたい姿にズレがあるのかもしれません。エンゲージメントを高めるには、自分が心から納得できる目標を掲げることが大切です。

2)「報われない感覚」が成長意欲をそぎ、バーンアウト(燃え尽き症候群)を引き起こす

ストレスなくイキイキと働くためには、労働時間の長さよりエンゲージできているかどうかが大切です。いくら短時間でも仕事がつまらないと感じればストレスがたまり、逆に仕事が楽しければ、多少は長く働いても精神的な疲れが蓄積していくことはありません。ただ、がむしゃらに働いていたのに、ある日突然、風船がしぼむようにして気持ちが萎えてしまうことがあります。いわゆるバーンアウトです。

バーンアウト研究の第一人者であるオランダの心理学者シャウフェリは、バーンアウトの特徴として、「疲労感」「皮肉感(仕事や会社に対する嫌悪感や、それを自覚しつつも働き続ける自分に抱く自嘲的な感覚)」を挙げています。

疲労感や皮肉感を左右する重要なものに、対価・報酬と公平感があります。自分は会社に貢献しているつもりなのに、それに対して正しい対価や報酬が支払われない。この報われない感覚が疲労感や皮肉感のもとになり、成長意欲をそいで、燃え尽き症候群を引き起こすのです。

3)公平で納得感のある評価を行い、フィードバックする

従業員の成長意欲が活発でエンゲージメントが高く、疲弊退場型の退職が少ない会社の多くは、褒める仕組みや納得感のある評価制度が整えられています。

納得感の高い評価制度を導入している会社の一つがグーグルです。どれだけパフォーマンスを出したのかというKPI(重要業績評価指標)も評価対象になっていますが、根底にあるのは、「Googly(グーグルらしさという意味の造語)」の評価だそうです。グーグルらしさに明確な定義はありませんが、話を聞いていると、従業員は個人プレーではなくチームワークを重視して働くことをグーグルらしいと捉えているようです。興味深いのは、それを360度、つまり上司だけでなく、同僚や部下も評価するという点です。例えばチームワークをうまく促せず、メンバーの能力を発揮させられないマネジャーは部下から悪い評価を下されます。上からだけでは一面的になりかねない評価も、360度で見ることでより公平なものになる、という考え方のようです。

そうした評価が全員にフィードバックされることも特徴の一つといわれています。最終的な評価だけが伝えられるのではなく、何がどう評価されたのかを確認できるので、次の年度に改善すべき点がはっきりと分かります。成長マインドを持つ人は、上司から足りない点を指摘されたとき、それを受け止めて理想の自分に近づく努力をすることができるといいました。従業員全員に評価をフィードバックしてくれるグーグルは、成長マインドの人にとって理想の環境といえるでしょう。

従業員が組織に貢献することで、周りから褒められたり正しく評価されたりする仕組みによって、働く人がきちんと報われる感覚を持てれば、バーンアウトするのではなくエンゲージメントの高い状態を保つことができ、さらに組織に貢献してくれます。

褒められたり正しく評価されたりする環境があることは、働く人の成長マインドも促します。一人ひとりが成長マインドで仕事に取り組めば、組織としても成長しやすくなります。マネジメント側の責任は重大です。

【参考文献】

「楽しくない仕事は、なぜ楽しくないのか?」(土屋裕介、小屋一雄、2020年2月)

以上(2021年4月)
(執筆 日本エンゲージメント協会 佐々木拓哉、小屋一雄)

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画像:Gutesa-shutterstock

「会計・財務」の用語集 よく使う略称などを紹介

書いてあること

  • 主な読者:会計・財務でよく使う用語の意味を知りたい人
  • 課題:似ている用語、独特の用語が多くて混乱する
  • 解決策:先に損益計算書や貸借対照表が示すものを理解し、その上で関連する用語を覚える

本稿で紹介する用語は次の通りです。

損益計算書、売上高、売上原価、売上総利益、販売費及び一般管理費、営業利益、営業外収益・費用、経常利益、特別利益・損失、税引前当期純利益、法人税、住民税及び事業税、税引後当期純利益、貸借対照表、流動資産、固定資産、有形固定資産、無形固定資産、投資その他の資産、繰延資産、流動負債、固定負債、純資産、キャッシュ・フロー計算書、営業活動によるキャッシュ・フロー、投資活動によるキャッシュ・フロー、財務活動によるキャッシュ・フロー、売上高営業利益率、総資本経常利益率、自己資本利益率、自己資本比率、流動比率、固定比率、労働生産性、設備生産性、労働分配率

1 損益計算書に関連する用語・略称・定義

1.損益計算書(Profit and Loss Statement・PL・P/L)

損益計算書とは、一定期間(通常1年間)の会社の経営成績である利益(Profit)、または損失(Loss)を示すものです。利益は、売上高などの「収益」から、売上原価などの収益を得るために支出した「費用」を差し引いて算出されます。

2.売上高(Sales)

商品・製品・サービスの売上によって得られた収益の総額です。会社の収益力を見る上で、最も基本的な数値の1つです。損益計算書上の最上段に表示するため「Top Line(トップライン)」とも呼ばれ、カタカナ英語としても定着しています。

3.売上原価(Cost of Goods Sold、Cost of Sales)

小売業の仕入原価や製造業の材料費・労務費・製造経費など、商品の調達や製品の製造に必要な原価です。売上に直接紐づけられる費用を計上することから、業種によって原価の範囲は異なります。

4.売上総利益(Gross Profit)

「粗利(あらり)」とも呼ばれ、その事業年度中のもうけの源泉を表しています。

売上総利益=売上高-売上原価

5.販売費及び一般管理費(Selling and General Administrative Expenses)

売上に直接紐づけられない人件費や諸経費(水道光熱費、広告宣伝費、減価償却費など)です。

6.営業利益(Operating Profit、Operating Income)

本業による利益です。会計・財務の世界では、営業(Operating)とは本業のことを表します。

営業利益=売上総利益-販売費及び一般管理費

7.営業外収益・費用(Non-Operating Income・Non-Operating Expenses)

本業以外の投資・財務活動によって生じた収益や費用です。営業外収益には預貯金の受取利息などが含まれます。また、営業外費用には支払利息などが含まれます。

8.経常利益(Ordinary Profit)

本業以外の投資・財務活動までを勘案した利益です。経常とは常に一定という意味であり、通常などと訳される「Ordinary」という英語が使われています。

ある年度の経常利益を見ることで、毎年度どれくらいの利益を出しているのかが把握できます。なお、欧米諸国の損益計算書には経常利益の概念はなく、日本固有の考え方とされます。

経常利益=営業利益+営業外収益-営業外費用

9.特別利益・損失(Extraordinary Gains・Extraordinary Losses)

会社の経常的な経営活動とは直接関係のない、臨時的、偶発的(Extraordinary)に生じた収益や費用です。特別利益には、固定資産売却益などが含まれます。また、特別損失には自然災害や訴訟による損失などが含まれます。

10.税引前当期純利益(Pretax Profit)

臨時的、偶発的に発生する収益と費用までを考慮した利益です。

税引前当期純利益=経常利益+特別利益-特別損失

11.法人税、住民税及び事業税(Income Taxes)

法人税、住民税及び事業税は、当期のもうけに課せられる税金です。

12.税引後当期純利益(Net Profit)

会社が処分可能な最終利益です。税引後当期純利益は、会社の財務体質強化のために内部留保や、新たな設備投資の原資となります。損益計算書上の最下段に表示するため「Bottom Line(ボトムライン)」とも呼ばれ、トップラインと同様にカタカナ英語として定着しています。

税引後当期純利益=税引前当期純利益-法人税、住民税及び事業税

2 貸借対照表に関連する用語・略称・定義

1.貸借対照表(Balance Sheet・BS・B/S)

貸借対照表とは、ある時点(通常は決算日時点)の会社の財政状態を示すものです。貸借対照表には、決算日時点での会社がどのようにお金を調達し、そのお金を何に投資しているのかといった資金の状態が表示されています。英語表記の通り、左右の勘定科目が必ずBalance、一致することが特徴です。

2.流動資産(Current Assets)

現金・預金、受取手形、売掛金、棚卸資産など、原則として1年以内に回収される資産です。

3.固定資産(Fixed Assets)

建物・付属設備・構築物、特許権など、原則として1年超にわたって保有される資産です。

a.有形固定資産(Tangible Fixed Assets)

固定資産のうち、建物・付属設備・構築物、土地など有形の財産として会社が保有する資産です。

b.無形固定資産(Intangible Fixed Assets)

固定資産のうち、特許権、ソフトウエアなど無形の財産として会社が保有する資産です。

c.投資その他の資産(Investments and Other Assets)

固定資産のうち、関係会社株式、出資金、長期貸付金など、主に本業以外の投資活動のために保有する資産です。

4.繰延資産(Deferred Assets)

創立費、開業費、株式交付費など既に発生した費用のうち、現在から将来にわたって効果が見込まれるために、経過的に貸借対照表に記載される資産です。延期したなどの意味を持つ、Deferredという言葉が使われています。

5.流動負債(Current Liabilities)

支払手形、買掛金など、原則として支払期限が1年以内の負債です。

6.固定負債(Fixed Liabilities)

社債、長期借入金など、原則として支払期限が1年超になる負債です。

7.純資産(Net Assets)

資本金、資本剰余金、利益剰余金など返済する必要がない資金です。純資産は大きく株主資本(=資本金+資本剰余金+利益剰余金-自己株式)と株主資本以外に区分され、株主資本以外としてはその他有価証券評価差額金、新株予約権などがあります。株主資本とその他有価証券評価差額金等を合わせて自己資本、自己資本に新株予約権等を合わせて純資産と言いますが、厳密に区別せず純資産を自己資本と呼ぶこともあります。

3 キャッシュ・フロー計算書に関連する用語・略称・定義

1.キャッシュ・フロー計算書(Cash Flow Statement・CS・C/S)

キャッシュ・フロー計算書とは、一定期間(通常1年間)の会社の現金の流れ(キャッシュ・フロー)を、会社の活動ごとに示すものです。キャッシュ・フロー計算書では、営業活動、投資活動、財務活動によって、どのようにキャッシュが動いたかを示しています。

2.営業活動によるキャッシュ・フロー(Cash Flows-Operating Activities)

商品の販売による収入や商品の仕入れによる支出など、営業損益計算の対象となった取引の他、投資活動および財務活動以外の取引に関するキャッシュの動きを示す項目が記載されます。

3.投資活動によるキャッシュ・フロー(Cash Flows-Investing Activities)

有形固定資産、有価証券および投資有価証券の取得による支出および売却による収入に関するキャッシュの動きの他、貸し付けやその回収、定期預金の預け入れやその払い戻しなどに関するキャッシュの動きを示す項目が記載されます。

4.財務活動によるキャッシュ・フロー(Cash Flows-Financing Activities)

短期・長期の借入とその返済、自己株式の取得、配当金の支払いなどに関するキャッシュの動きを示す項目が記載されます。

4 財務分析に関連する用語・略称・定義

前章までは、財務3表に記載されている勘定科目の用語や定義などを見てきました。こうした内容を押さえた後は、そこに記載されている数字を読み解く財務分析の力も必要になります。財務分析は、次のような視点から行います(他の視点もありますがここでは割愛します)。

  • 収益性分析:十分な利益を獲得しているか、会社の稼ぐ力がどの程度あるかについて、次のような指標を使って分析します。
  • 安全性分析:安全に経営を継続していけるか、会社の債務支払い能力がどの程度あるかについて、次のような指標を使って分析します。
  • 生産性分析:会社が経営資源を効率的に利用して生産できているかについて、次のような指標を使って分析します。

収益性分析

1.売上高営業利益率(Operating Margin)

売上高に対して、営業利益(本業で稼いだ利益)がどれだけ得られたかを示す指標であり、数値が高いほど収益性が高いといえます。

売上高営業利益率=営業利益÷売上高×100

2.総資本経常利益率(Return On Assets・ROA)

総資本(負債+純資産)に対して、経常利益がどれだけ得られたかを示す指標であり、数値が高いほど効率的に資本運用できているといえます。

総資本経常利益率=経常利益÷総資本×100

3.自己資本利益率(Return On Equity・ROE)

自己資本(純資産)に対して、最終的な利益(税引後当期純利益)がどれだけ得られたのかを示す指標であり、数値が高いほど株主の投資額に対して効率的に利益を生み出しているといえます。

自己資本利益率=税引後当期純利益÷自己資本×100

安全性分析

4.自己資本比率(Equity Ratio)

総資本に対して、自己資本の占める割合を示す指標であり、数値が高いほど倒産しにくい会社、つまり負債(返済が必要な他人資本)に左右されないため、経営が安定しているといえます。

自己資本比率=自己資本÷総資本×100

5.流動比率(Current Ratio)

1年以内に現金化できる資産が、1年以内に返済すべき負債をどれだけ上回っているかを示す指標であり、数値が高いほど安全性は高いといえ、業種にもよりますが一般的には200%以上ある場合に安心とされています。

流動比率=流動資産÷流動負債×100

6.固定比率(Fixed Ratio)

1年超にわたって使用される資産が、自己資本によってどれくらい賄われているかを示す指標であり、数値が低いほど安全性は高いといえ、業種にもよりますが一般的には100%以下となることが望ましいとされます。

固定比率=固定資産÷自己資本×100

生産性分析

7.労働生産性(Labor Productivity)

従業員1人当たりが、どれだけの付加価値を生み出しているのかを示す指標であり、数値が高いほど従業員1人当たりの生産性は高いといえます。付加価値とは、売上高から外部購入分の価値(材料費、材料部品費、運送費、外注加工費など)を差し引いたものです。

労働生産性=付加価値÷従業員数

8.設備生産性(Equipment Productivity)

設備(有形固定資産)を用いて、どれだけ付加価値を生み出しているのかを示す指標であり、数値が高いほど資産当たりの生産性は高いといえます。

設備生産性=付加価値÷有形固定資産×100

9.労働分配率(Labor Share)

付加価値の中で、人件費として配分された部分が、どの程度あるかを示す指標であり、(適切な給与水準を確保することが前提ですが)数値が低いほど生産性は高いといえます。

労働分配率=人件費÷付加価値×100

以上(2021年4月)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 公認会計士 仁田順哉)

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画像:pixabay

激変! 令和時代のサウナビジネス最前線

書いてあること

  • 主な読者:新規事業を考えている経営者、レジャー事業者など
  • 課題:サウナ愛好家を取り込みつつ、新たなユーザー層も獲得したい
  • 解決策:従来のサウナと、「令和のサウナ」の違いを把握し、他社の取り組みを参考にする

1 最近のサウナは「ととのう」体験を重視

サウナがブームです。それも経営者に人気です。特にサウナで「高温→冷水風呂→外気に当たる」サイクルを経て得られる、多幸感といえる「ととのう」がSNSを盛り上げています。サウナ好きな人たちからは、高温下で黙々とサウナに入ることで自身の内面に向き合えるとされ、座禅や瞑想(めいそう)にも通じるマインドフルネスを体験することができるとの声も聞かれます。

インターネット上の特定の言葉の検索トレンドを分析するツール「Googleトレンド」で「サウナ」を調べてみると、2019年ごろから頻繁に検索されるようになっているようです。また、「ととのう」も昨今のサウナブームを象徴するバズワードになっています。

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サウナ好きな経営者からは、

「サウナで考え、水風呂で決断する」

という名言まで登場しています。サウナをテーマにしたテレビドラマが放映されたり、近くのサウナ関連の情報を集めたポータルサイトがオープンしたりと、何かと話題の令和のサウナの動向を追ってみました。

2 バリエーション豊富な令和のサウナ

令和のサウナの特徴として、種類の多様化が挙げられます。従来のイメージを覆すように内装やサービスが多様化し、新しいユーザー層の獲得につながっています。

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1)おうちサウナ:サウナ傘

新型コロナウイルス感染症の拡大を受けて始まった外出自粛により、自宅で消費できるもの・サービスへの消費(巣ごもり消費)が増えています。サウナ関連商品では、各社から自宅のお風呂をサウナに変身させるようなサウナ傘が登場しました。

見た目はビニール傘を裏返しにしたようなサウナ傘は、先端をバスタブにかぶせることで、お湯の蒸気を傘の内部に閉じ込め、「スチームサウナ」のように使用できます。高温の本格的なサウナには及びませんが、傘の内部では温度、湿度ともに上昇し、リラックス効果も期待できそうです。

数千円前後と比較的安価なため、「サウナに興味あるけど、いきなりサウナデビューはちょっと…」というビギナー層や、健康や美容に関心の高い人が「ワンランク上のバスタイム」を手軽に実現できるアイテムとして支持が広がっています。

2)コワーキングサウナ:KOOWORK(クーワーク)

昨今、働き方が多様化する流れに乗り、さまざまな人がオフィスをシェアするコワーキングスペースが増えています。仕事のリフレッシュや、重要な決断を前にしてメンタルを「ととのえる」ことを狙い、コワーキングスペースにサウナを取り入れる施設が登場しました。

KOOWORK(神奈川県横浜市)は、全席にコンセントを備えたワークスペースに加え、ディスプレーとホワイトボードを取り付けたミーティング用サウナルームや宴会場もあります。

ひと仕事を終えてサウナでととのえ、ミーティングではクリアな思考でアイデアを生み出す。ミーティングを乗り切った後はサウナでリフレッシュして宴会に突入。

サウナ×コワーキングスペースは、サウナ好きハードワーカーにはうってつけの仕事環境といえそうです。

3)空きスペース活用サウナ:三田高野山弘法寺

サウナに必要な機材を準備し、空いたスペースを有効活用することで予想外の場所でもサウナを楽しむことができます。

弘法大師を本尊とする三田高野山弘法寺(東京都港区)では、期間限定の寺サウナを開催しました。これは、お寺の建物の屋上に設置したアウトドア用のまきテントでのサウナと、お寺での瞑想が体験できるイベントです。屋上にはまきテントの他にも冷水のビニールプールや、外気浴もできる椅子も備え付けました。

サウナの後には、瞑想を体験することで、参加者は「ととのいの境地」に達することができたようです。さらに、協賛するお店や企業によるサウナ関連グッズやオリジナルカクテル、フードの販売もあり、サウナ好きには文字通り極楽浄土かもしれません。

他のお寺からも開催依頼が来ているようで、「寺離れ」など檀家の減少に直面する一方で、古くから地域とのつながりを持っているお寺を活性化させる可能性があります。

機材をそろえれば野外でも比較的簡単に始められるサウナの特徴を活かし、今後も予想外のロケーションでのサウナの出現が期待されます。

4)イベント型サウナ:チームラボ、TikTok

サウナブームの波は、アートの領域にまで押し寄せています。プロジェクションマッピングで有名なチームラボは、若者に人気の映像アプリTikTokと共同で、アートとサウナが融合したイベント「チームラボリコネクト」(東京都港区)を2021年3~8月まで期間限定で開催しています。

これは、サウナでととのい、感性をクリアにさせた状態でチームラボが誇る映像作品を体験できるものです。7室あるサウナルームや冷水シャワーでは、さまざまな音楽や映像作品が楽しめ、その後に「アート浴エリア」でリラックスして作品を鑑賞することができます。

アート浴エリアは、インスタレーションが浮かぶ部屋や、暗闇の中で壁一面に鮮やかな無数の花の映像が映し出される部屋などがあり、自身が作品と一体化するかのような没入感に浸れることができるようです。

インスタグラムや、協賛するTikTokには関連動画が続々とアップされており、「映え」を意識した若者や、トレンドに敏感な世代へサウナの魅力をアピールすることができそうです。

5)本格セルフ式サウナ:ソロサウナtune(チューン)

アクティビティ化するサウナを歓迎しつつも、ここぞというときにはじっくりととのいたいと思うサウナ好きもいます。そんなサウナ好きのために、「本格おひとりさま」サウナがオープンしました。

ソロサウナtune(東京都新宿区)は、「日本初の完全個室の本格的なフィンランド式サウナ」を特色としたサウナです。同施設は、着替え~サウナ利用~冷水シャワー~ベンチでの休憩までを個室で楽しむことができます。他の人に気にせず、ロウリュ(サウナの石に水をかけて室内に水蒸気を発生させる、フィンランド式サウナの入浴法)を好き放題でき、サウナやシャワーの利用を順番待ちすることもありません。完全個室なので「裸の他人と室内で過ごすのはちょっと…」というサウナ初心者にもハードルが低めです。

さらに、新型コロナウイルス感染症の影響を考慮し、人との接触や「密」を避けることもできます。おひとりさまサウナは「新しいサウナ様式」のカタチの一つといえるでしょう。

3 サウナ関連動向

このように、さまざまなタイプが登場し、ユーザーの裾野が広がっているサウナ市場。「サウナー」と呼ばれるユーザーの推計人口や、令和のサウナの特徴を見てみましょう。

1)サウナ人口「サウナー」の動き:日本のサウナ実態調査2021

日本サウナ・温冷浴総合研究所(日本サウナ総研)の調査「日本のサウナ実態調査2021」によると、「サウナー(年1回以上サウナを利用するサウナ愛好家)」の推計人口は次の通りです。

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同調査によると、サウナーの人口は2500万~2900万人程度と推計されています。2021年(※調査は2020年12月に実施)に関しては、新型コロナウイルス感染症の影響で前年までよりも数値が落ち込んだことを考慮する必要があります。

また、同調査では「温冷浴(熱い温度のサウナに入り、その後で冷水のお風呂に入り外気に当たることを繰り返す入浴方法)」の認知度も調査しています。それによると、「知っていて、実践している」が増加する一方で、「知らない」が継続的に減少しています。

温冷浴は令和のサウナの醍醐味である「ととのう」感覚を体験するために不可欠な入浴方法であり、実践割合が増えていくことで、新しいユーザーの獲得に期待できそうです。

2)多様化するサウナ:令和のサウナと昭和のサウナの比較

さまざまなタイプが出現し、認知度も上昇中の令和のサウナは、従来の昭和のサウナとどういった点で異なるのでしょうか。各種のタイプからは、次のような違いが見えてきました。

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冒頭の通り、「ととのう」体験は、健康意識の高まりや、ストレスを軽減しメンタルを調整するマインドフルネスにも通じるものがあります。

また、従来の「暑い」「単調」のイメージを一変させる、趣向を凝らしたさまざまなタイプのサウナが登場していることや、温冷浴や熱波(ロウリュで発生した水蒸気をあおいで循環させること)などの認知の高まりは、近年の消費トレンドの一つの「コト消費」とも相性が良いといえます。

以上(2021年4月)

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画像:Adobe Stock-kichigin19

【朝礼】新年度に改めて身に付けたい「素直さ」

先日、私は2人のとても素晴らしい起業家に出会いました。1人はSNSマーケティングの会社を、もう1人はフィンテック系の会社を立ち上げています。2人とも年齢は25~26歳で、事業に対する熱量がすごい、勉強家・努力家である、緻密にビジネスを積み重ねている、具体的な実績を上げているなど、この場では語り尽くせないほど多くの魅力がありました。なかでも私が一番感心したのは、2人の「素直さ」です。

例えば、SNSマーケティングの会社を立ち上げた起業家は、周囲から言われた「足元を重視するあまり、未来視点で考えることが苦手」という点を自身の課題として受け止め、現在、長期事業計画の見直しを進めています。

フィンテック系の会社を立ち上げた起業家も、もともとの原動力は「単にお金持ちになりたい」だったそうですが、「先輩起業家やメンター陣から自分の足りない【思い】の部分や精神的に未熟な点を厳しく指摘していただいた」ことを受け止め、「本当に実現したいことは何か」から改めて考え直したといいます。結局、根幹となる会社のビジョンも大きく軌道修正したそうです。

事業計画の見直しやビジョンの軌道修正の大変さは、並大抵のものではないでしょう。しかし、2人とも、「指摘してもらえたから今がある。心から感謝している」と言っていました。皆さんは、この2人の「素直さ」がいかにすごいか、分かるでしょうか。

この2人は、「受け止める」ことと「行動する」ことがセットになっています。ただ周りの話を受け止めるのは、ただ「聞いただけ」であり、「素直」とはいえません。私自身、これまでの自分の行動を振り返ってみると、人の意見に素直に耳を傾けているつもりでも、「分かっているが」「良いと思うけど」と言いつつ、行動に移さないことがたくさんありました。考え方の違いから、あえて行動に移さなかったこともありますが、多くの場合、私はただ「素直」を装っていただけなのかもしれません。

受け止めた上で「実際に行動に移す」ができて初めて、本当に「素直」といえます。行動に移せば、何かが変わりますし、新しいものも生まれます。よく「素直な人が伸びる、成長する」といわれるのは、「行動に移す」ことで、前に進めるからなのでしょう。

人生でもビジネスでも、「素直さ」がいかに大切かを説いたことで有名なのが、松下幸之助氏です。松下氏は、「素直な心になることを心掛け、自分なりに工夫をこらしていくならば、誰でも素直になれる」という趣旨の教えを残しています。私はこの「自分なりの工夫」とは、「行動に移し、いったんやってみること」と捉えています。

年齢も役職も社歴も関係ありません。皆さんも、新年度に、もう一度「素直に受け止め行動に移す」ことを実践してみませんか。きっと今より前に進めます。

以上(2021年3月)

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画像:Mariko Mitsuda

ファイナンス特有の「見えないコスト」の考え方/経営者のためのファイナンス講座(2)

書いてあること

  • 主な読者:将来の意思決定に役立つファイナンス思考を身に付けたい経営者
  • 課題:将来の意思決定にはコストの見積もりが必須。会計では出てこないファイナンス特有の見えないコストの考え方を知りたい
  • 解決策:現金や車両などの現物を持つことで、手間や設備など見えないコストが発生する。「持たない」という選択肢を常に持っておくことが大切

1 キャッシュレス決済導入店が増えたファイナンス的理由とは

政府のキャッシュレス推進に新型コロナウイルス感染症の拡大が拍車をかける格好で、電子マネーなどのキャッシュレス決済に対応する店舗が急増しています。デジタル化の流れは不可逆といえますが、ここでは別の視点でキャッシュレスを捉えてみましょう。

キャッシュレス決済を検討する場合、店舗側の手数料負担がしばしば議論されますが、「現金を持つコスト」については、あまり触れられない気がします。例えば、現金は電子マネーよりも会計時間が長く、レジ締めも大変なので店員に負担がかかり、人件費がかさみます。また、現金の横領や盗難に備えるために防犯カメラなどを設置するなど、セキュリティーのためのコストがかかります。集まった現金を銀行に運ぶために現金回収業者と契約するのであれば、そのコストもかかります。キャッシュレス決済の手数料と現金を持つコストを比べると、前者のほうが店舗に有利な場合もあるのです。まさにこの点を考慮して、キャッシュレス決済を導入した店舗も数多くあります。

2 「現金」「現物」を持つことで多重にコストがかかる

さて、現金を持つコストは一般的な会社でも同じです。現金が置いてあると、いろいろな物品や手間がかかります。現金を保管するための金庫や監視用の防犯カメラも要るでしょうし、日計表の作成、小口現金の管理などの事務作業は典型例です。

こうした問題も、デジタルトランスフォーメーション(DX)推進の流れの中で見直されています。近ごろは手形(2026年に廃止されるという報道が最近ありました)や小切手はあまり見かけなくなりましたし、インターネットバンキングも普及しています。今や、金庫には金目のものは入っていない、もしくは金庫がない会社も珍しくないのです。

持つことでコストがかかるのは、現金だけではありません。現金以外でも、形ある「現物」を持つと、必ずといっていいほど関連するコストが何重にも発生します。例えば、カーシェアリングです。法人でカーシェアリングを利用する会社が増え、社有車を持たなくてよくなりました。そうなると、総務担当者は車両を管理しなくて済みますし、保守費用もかかりません。何よりも、本体を購入したりリースしたりという多額の出金がなくなります。

また、中小企業でも会計システムが一般に使われていますが、これも自社で買わなくても済むようになりました。以前は自社所有のパソコンにインストールしても、そのパソコンでしか会計ソフトが使えませんでした。近年、何度かあった消費税率の変更のたびに更新費用がかかるということもありました。これも、自社で会計システムを持つことで発生したコストといえます。しかし、会計ソフトのクラウド化が進んだ今では、保守費用や出張費用(支社間など)などは不要になり、どのパソコンからもアクセスできるようになりました。

このように、現金、現物を持つ場合には、その購入費用だけではなく、一見見落としがちな関連コストも漏れなく把握することが、ファイナンス的には大事なのです。

3 中小企業こそ、現物コストから解放される

現金や現物を「持たないこと」をファイナンスの側面から考えると、その恩恵を最も受けるのは、実は中小企業です。規模が小さくても事業上必要なので、自前で持たざるを得ないと無理していた中小企業が、利用度合いに応じたコスト負担で済むようになるからです。

多くの中小企業は人手不足の中で何とか事業を回しており、特に人件費が高い高度人材を雇うことは難しいものです。これを外部に管理を任せれば、これらの人材を雇用しなくて済むのです。都度利用する場合の単価も、大手企業と比較してそれほど変わりないことも多いようです。これまで自社で所有するときには、多額の設備投資のための資金の捻出に苦労したことを考えると、資金的なメリットは小さくありません。

4 「シェアリングエコノミー」を、両面から活用する

「シェアリングエコノミー」というと、民泊仲介サイトやシェアサイクルなど個人向けのイメージがあるかもしれません。しかし、会社こそ活用したときのメリットは大きいのです。

誤解してほしくないのですが、自社で持つことがファイナンス的には悪いということではありません。従来通り自動的に自社所有を選ぶのではなく、関連するサービスなどの情報を得て、どちらが得かを検討することが大事です。その際に購入費用以外の見えないコストの存在がポイントになります。加えて、サービス提供側としてこの考え方を活用できないか検討することも有効です。例えば、比較的高価なサービスや物を、法人向けに販売している会社は、売るのではなく利用に応じて課金する形態にできないか考えてみるのです。利用側と提供側の両面から、「持つことが本当に自社にとってベストなのか」を改めて考えてみてください。

以上(2021年4月)
(執筆 管理会計ラボ 代表取締役 公認会計士 梅澤真由美)

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画像:pixta

新入社員も知っておきたい 財務会計の考え方

書いてあること

  • 主な読者:財務を勉強中の新任経理担当者、若手社員
  • 課題:財務の知識を身に付けたいが、読書や簿記の勉強だけではなかなか頭に入らない
  • 解決策:商品の仕入れや取引先との商談など、日々の活動が財務諸表にどのように反映されるのかを考えてみる

1 財務の知識は、日々の自分の業務と照らし合わせて学ぼう

財務の知識を身に付けようと思ったときにお勧めの方法は、日々の自分の業務と照らし合わせて考えることです。例えば、「会社から貸与されたパソコンは、財務上、どのように処理されるのか?」が分かると、そのパソコンを使って、どれだけの成果を上げたら元が取れるのかを考えられるようになるはずです。

以降では、日々の仕事を例に挙げて、それぞれの活動が財務諸表にどのように反映されるのかを見ていきます。なお、入社してあまり年数のたっていない人にとって、財務諸表上の数字だけを見て、取引をイメージするのは難しいものです。財務諸表の数字は、取引ごとに簿記のルールに従って同じ項目(勘定)ごとに集計したものです。数字をより身近に感じてもらうため、例ごとにどの項目(勘定)に影響するのかを確認しながら見ていきましょう。

なお、事例に入る前に財務3表の基本を確認したいときは、次の記事をご参照ください。

また、簿記の基本ルールについて確認したいときは、次の記事をご参照ください。

2 個人の業務は財務諸表にどう表れる?

ここで紹介するAさんは、海外からアパレル商品を仕入れて、国内の小売店に販売しているX社に務めています。Aさんの5月の業務や周辺の動きが財務諸表にどのように反映されるのかを、PLの項目順に沿って見ていきます。

なお、先月末(4月30日)時点のX社のBSは次の通りです。

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1)売上高

5月、前年度から営業してきたZ社に400足のシューズが売れました。1足当たり5000円なので、売上高は200万円です。6月中旬に入金される予定です。

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2)売上原価

1.在庫

Aさんが担当しているシューズの在庫は、5月1日時点で100足です。1足1300円なので、在庫は13万円分です。

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2.仕入れ

Aさんは、5月に取引先から500足のシューズを仕入れました。1足当たり1500円なので、仕入れ費は75万円です。6月に支払う予定です(出金は6月に行いました)。

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3.売上原価の算定

5月中に売れたシューズは400足です。売上原価は、5月1日時点の100足と新たに仕入れて販売した300足分となります。5月1日時点の100足は1足当たり1300円、新たに仕入れた300足は1足当たり1500円なので、合計58万円になります。

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4.5月末商品棚卸高

Aさんが担当しているシューズの在庫は、5月31日時点で200足です。5月1日時点で100足だったところに500足を仕入れて600足。そこから400足が売れたので、残りは200足ということです。

なお、棚卸資産の評価方法は、先入先出法(先に仕入れた商品から先に出していく方法)を採用しています。

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3)先月(4月)の売り上げの入金

Aさんが4月に掛けで販売したシューズの代金が5月に現金で入金されました。販売は300足、1足当たり5000円なので、売上高は150万円となります。

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4)先月(4月)の仕入れの支払い

Aさんは、4月上旬に仕入れたシューズの代金を仕入先に現金で支払いました。仕入れは400足、1足当たり2500円なので、仕入れ費は100万円となります。

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5)販売費及び一般管理費

1.給与手当

Aさんが勤めるX社の給料日は毎月25日。Aさんの基本給は20万円で、この他に地域手当の2万円、家族手当の1万5000円、通勤手当の1万5000円が支給されるので、合計は25万円です。

なお、ここでは社会保険料や源泉所得税は省略しています。

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2.旅費交通費

Aさんは、Y社の担当者と商談をするために、日帰りで大阪に出張しました。往復の新幹線代が3万円掛かりました。また、最寄り駅からY社までの往復のタクシー代が2000円掛かりました。

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3.交際接待費

Aさんは、Y社への手土産として3000円のお菓子を購入しました。

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4.福利厚生費

Aさんが勤めるX社に新入社員が入ってきたので、ウェブ会議システムを使ってオンライン歓迎会をしました。歓迎会は10人が参加し、1人5000円の予算でおのおのが好きな飲み物や出前を注文して楽しみました。

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5.会議費

Aさんは社内会議に出席しました。全員で10人参加しています。そこで出された仕出し弁当は、1食当たり1000円です。

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6.消耗品費

Aさんは、営業に使う資料や取引先からもらった名刺を整理するため、事務用品の通信販売会社から書類ケースとカードケースを2000円で購入しました。

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7.荷造運搬費

先日の商談で、Y社に商品を売ることが決まりました。AさんはY社へ商品を送るため、荷造り用の段ボールと緩衝材を3000円で購入しました。運送業者の配送費は5000円が掛かりました。

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8.固定資産の購入と、決算時の減価償却費

会社で新しいパソコンを1台購入し、Aさんに貸与しました。購入代金の20万円は6月に支払います。また、購入したパソコンは工具・器具備品(資産)としてBSに反映されます。

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X社では、5月に自社のECサイトを開設し、ネット販売を開始しました。ECサイトの作成は専門業者に外注しており、作成代金の200万円は6月に支払う予定です。また、作成したECサイトはソフトウエア(資産)としてBSに反映されます。

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5月末に、既存の固定資産(建物附属設備 取得価額550万円 帳簿価額500万円)に関する減価償却費を計上します。耐用年数の22年間で減価償却を行っています。

併せて、新しく購入したパソコン(工具・器具備品)と、外注作成したECサイト(ソフトウエア)の減価償却費(5月分)を計上します。

なお、パソコンは4年間、ECサイトは5年間の耐用年数でそれぞれ減価償却を行います。全て定額法を採用しています。

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6)営業外費用

X社は前年度に銀行から500万円を借り入れています。支払利息で月額8330円を支払いました(金利は年2%です)。

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7)5月のAさんのPL、BSはこのようになる

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このように、まずは、自分自身の活動でPLとBSを作ってみましょう。自分が会社の利益にどれだけ貢献しているのか、業務に掛かった経費一つひとつが会社の財務状況にどのような影響を与えるのかを日々考えることで、社会人に求められる「数字で考える視点」が養われていきます。

以上(2021年4月)
(監修 税理士 石田和也)

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水卜麻美アナ~心理的安全性のベースとなる自己開示の達人~/2021年、最も学ぶべきマネジメントの三賢人

書いてあること

  • 主な読者:部下のヤル気を引き出したい経営者
  • 課題:部下との信頼関係をしっかりと築きたいが、飲みにケーションなどもできず困る……
  • 解決策:水卜アナの言動から、“ありのままに正直な”自分をさらけ出すコミュニケーションを学び、部下との信頼関係を強固にする

本連載では、最も旬といえる3人のリーダーを「マネジメントの三賢人」として取り上げます。なにゆえ彼らのチームビルディングやメンバーコミュニケーションが素晴らしいのかについて、組織開発の理論を用いて解説していきます。事例を理論とともに学ぶことが、実践につなげていく近道だと考えるからです。学んで真似て体得する、です。

最終回の本稿では、女性リーダーとして日本テレビの水卜アナを取り上げます。彼女が「理想の上司」に選ばれ続ける理由を紐解くと、そこには、今最も必要とされる組織づくりのヒントが詰まっていました。ぜひ組織変革の一助としてください。

  • 第三の賢人
    日本テレビ水卜麻美アナ
    「理想の上司」女性部門で5年連続1位に輝く。この4月には日本テレビの看板である朝の情報番組の総合司会に抜擢された、いまや日テレを代表する女性アナウンサー

学んで真似るポイント

  • 組織に心理的安全性をもたらすための土台となる自己開示の重要性とその方法
  • 上司からの自己開示は、部下との信頼関係を築く上で、極めて重要なコミュニケーション
  • 自己開示の返報性が機能することで、組織に心理的安全性がもたらされるようになる
  • 上司は自分を自慢する自己提示に陥りがち。だからこそ水卜アナの自己開示力をお手本に

1 『ZIP!』の総合司会

日本テレビの水卜麻美アナウンサー(33)が、また「理想の上司」の女性部門で第1位に輝きました。このランキングは、某保険会社が“今春入社を控えた新社会人”を対象に“理想の上司として思い浮かぶ有名人”を聞いて発表しているもので、いまでは年頭の恒例行事となってきた感があります。冒頭で「また」と言ったのは、このランキングにおいて水卜アナが5連覇しているからです。

3月まで司会を務めた朝の情報番組『スッキリ』で、水卜アナは「本当に、真面目に言って、後輩のおかげだなって思っていて」と慕ってくれる後輩に感謝のコメント。メインMCの加藤浩次さんに、そういう言葉が理想の上司に選ばれる理由であるとツッコまれ、水卜アナ本人は「いいこと言っちゃったみたいになっちゃった!」と照れました。こうしたトークにも彼女の人柄がにじみ出ています。

一方で、仕事ぶりも高く評価されています。存在感はあるけれど出しゃばらない。番組では自らの役割はきっちりとこなす。アナウンサーとしての技術も確か。この4月の改編で3年半務めた『スッキリ』を卒業し、『ZIP!』の総合司会に就任することになったのも、こうした評価の賜物でしょう。

実は、日テレの朝の情報番組で女性がメイン司会になるのは史上初です。日テレの朝番組といえば、あの『ズームイン!! 朝!』。初代の徳光和夫さんはじめ、福留功男さん、福澤朗さん、羽鳥慎一さんと日テレを代表するアナウンサーが代々司会を務めてきました。局の看板番組の系譜を継ぐ「朝の顔」に抜擢されたわけです。

2 ぶっちゃけキャラの好感度

そのキャラを確立したのは、入社1年目で抜擢された『ヒルナンデス!』での食リポでした。その食べっぷりが話題になり、食いしん坊キャラが定着しました。また日テレの入社面接で、変顔を披露して内定を勝ち取ったという武勇伝もあってか、ミスコンあがりの美人系女子アナたちとは、明らかに一線を画す「親しみやすさ」が、彼女の好感度をぐんぐん上げていきました。

しかし水卜アナが支持される本質は、「変顔」や「食いしん坊」といったキャラによるものだけではないと思うのです。自分が「食いしん坊」であることを素直に認めていること、もっというと、全面的に「食いしん坊」な自分を受け入れているわけではない、ということさえ包み隠さずにいること。これが水卜アナの“ぶっちゃけ力”の半端ないところです。

アナウンサーという職業柄、もっと自己管理すべきかもしれないと思っているのに、“食欲に負けてしまっている”という本音を、水卜アナはものすごく正直に話します。誰でも感じたことのあるような“身近な悩み”を、テレビに出ている有名人が“女子会ノリ”で話してくるわけです。親近感を持たないはずがありません。

これが「自己開示」の持つパワーです。自己開示とは、自分に関するプライベートな情報を相手に話すこと。特に少し恥ずかしいと感じるくらいのことを正直に打ち明けると、「そんなことまで話してくれるなんて、自分に心を開いてくれているんだ」と相手は認識し、心の距離が縮まりやすくなります。

3 転んだアザまで自己開示

水卜アナの自己開示エピソードを、もうひとつ紹介しましょう。

女性芸人の頂点を決める『THE W』の記者会見でのこと。MCでタッグを組むチュートリアルの徳井義実さんと2人で出席することになっていたのが、徳井さんが開始予定時刻に間に合わないというハプニングが発生。相方の到着まで時間を埋めるべく、水卜アナが急きょ“前説”を行うことになったのです。

経験のない水卜アナは、そこで「本邦初公開です」というネタを披露しました。それは「マンホールで滑りまして、ここにえげつないアザを作ってしまったんです」というもので、右ひざにできた痛々しいアザを披露。「転んだ時はあんまり痛くないじゃないですか。“転んだことの恥ずかしさ”でその場を逃げ出したいということだけで頭いっぱいで、『私、全然今転んでないですからね』みたいな顔をしてバーっと立ち去って、次の日に普通に『スッキリ』に出ようとしてスカートをはいたら『何これ!?』って……」と、 “アザあるあるネタ”を明かしたのです。

さらに水卜アナは続けます。「どうしようと思って『スッキリ』にずっとロングスカートで出ていたんですけど、今日はさすがにちょっとドレッシーに決めようと、結婚式でいつも着ている一張羅の黒いワンピースを着たら、ひざが意外に出るスカートで、皆さまに『あいつは一体どうしたんだ?』って思われる前に、先に発表しておこうかなと思いました」。

こうして流れるようなトークで場を盛り上げ、「本当に私の超絶しょうもない前説にお付き合いいただいて、ありがとうございました! 」と謙虚にあいさつ。会見のピンチを救った水卜アナに、報道陣からは大きな拍手が沸き起こりました。(「水卜アナ、初公開の自虐ネタで会見ピンチ救う『えげつないアザが……』」、マイナビニュース、2019年6月19日配信より)

4 自己開示の返報性

自己開示は、信頼関係を築くのに欠かせないコミュニケーションといわれています。特に上司と部下といった上下関係の場合、上司側の自己開示は重要となります。水卜アナが理想の上司に選ばれる理由は、(意図して行っているのではないにせよ)このものすごい自己開示力のおかげです。

企業でも政治の世界でも、ディスクローズ(情報を明らかにすること、発表すること)の重要性が高まっているのはご存じのとおり。情報が開示されないと透明性がなくなり、信頼・信用が得られないからです。これはリーダーシップにも当てはまります。部下から信頼を得たかったら、リーダー自身が、自分がどういう人間なのかを真っ先に明らかにする必要があります。この第一歩が信頼関係を築く礎となるのです。

自分の情報をさらけ出してくれると、“心の壁” が取り除かれ、安心感が生まれます。積極的に自己開示をすることで、好感や信頼感を与えられるのです。

そして相手から自己開示されると「こんなにさらけ出してくれたんだから、私も自分の話をしなきゃ」と感じ、自己開示をお返ししたくなる心理が働きます。自己開示は相手を信じて渡すプレゼントですが、もらうとお返しもしたくなるのです。これを「自己開示の返報性」といいます。

つまり上司が自己開示をすることは、部下の自己開示を促すことになるのです。例えば日々の職場でのコミュニケーションで「いや~困ったな~」とか「わあ、嬉しい!」とか、上司が自分の気持ちを素直に話すと、部下も「困った」「助けて」が言いやすくなります。小さな自己開示の連続が信頼関係を育んでいくのです。

こうした職場は、まさに「心理的安全性」が担保されている環境に他なりません。心理的安全性(Psychological Safety)は、この連載を通してのキーワードです。心理学用語で、 “他人の反応におびえたり、羞恥心を感じたりすることなく、自然体の自分をさらけ出すことのできる環境を提供すること”を意味します。あのグーグルが、最もパフォーマンスを発揮するチームの条件として発表したことで、一気に注目を集めるようになりました。

リーダーの自己開示は、組織に心理的安全性をもたらす一丁目一番地なのです。

5 自己開示と自己提示

おそらく自己開示の重要性について異を唱える人はいないでしょう。最近、組織マネジメントにおいて注目を集める「1on1」といった1対1の面談でも、上司の自己開示がスムーズな対話につながるとされています。読者の中には「日々、自分から率先して自己開示している」という人も少なくないかもしれません。

しかしながら、実は、リーダーがきちんと自己開示できているかというと、やや疑問符が付きます。本人は自己開示しているつもりでも、自分を良く見せることを目的とした “自分語り”になってしまっていることがしばしば見受けられるからです。例えば、ある人が「東大に入ったものの、周りが優秀すぎて友達ができなかった」というエピソードを披露したとしましょう。「大学になじめなかった」という失敗談を打ち明けているようで、実はこれ、「東京大学出身である」というアピールにも聞こえますよね。

このように“相手からの褒め言葉や承認欲求の充足を主な目的”としたコミュニケーションは、自己開示ではなく、「自己提示」と呼ばれる行為です。上位管理者であるという立場から、部下から尊敬を勝ち取りたいとか評価されたいといった心理が働くのも理解はできますが、それだと「自慢している」「虚勢を張っている」と解釈されてしまうことも多々あります。

自己開示の達人として、水卜アナを取り上げたのはココです。彼女からは、良く見られたいという邪心がまったく感じられませんよね。彼女が組織マネジメントの観点から戦略的に自己開示しているかどうかはさておき、見習ってほしいのは、彼女の“ありのままに正直な”自分をさらけ出すコミュニケーションスタイルです。

“ありのままに正直に”話す自己開示のポイントは、1.仕事と無関係の話を仕掛ける、2.返答にプライベートな要素を交ぜる、3.ときには部下に弱みを見せる、の3つと言われています。もっと砕けた表現だと、「趣味」であるとか「笑える失敗談」とか「自信のないところ」とか。そういったちょっとした自己開示から始めていけばよいとされています。しかし職場という名の戦場で、日々「鎧」を着て戦ってきたビジネスパーソンには、そのちょっとしたことが、意外と難しいのかもしれません。そんな時には、ぜひ水卜アナを思い出してみてください。

以上(2021年4月)
(執筆 平賀充記)

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