【入社1年目の教科書】損益計算書の利益はどこにいった?

書いてあること

  • 主な読者:損益計算書の構造や読む際のポイントが知りたい新入社員
  • 課題:他の財務諸表よりはとっつきやすいが、なぜ、利益が5つもあるのか分からない
  • 解決策:損益計算書は5つの利益の意味を知り、キャッシュとの不一致を意識する

いよいよ財務諸表を読むぞ! 先輩が「損益計算書は売上から費用を引いて利益を出す単純な構造だから簡単だよ」って言ってたな。確かに足し算と引き算の連続なので計算は分かるけど、なんで利益が5つもあるのかな。それに、利益の分だけお金があるなら、うちの会社はすごいお金持ちだけど、本当かな?

1 まずは損益計算書を見てみよう

損益計算書とは、

会社がもうかったか損をしたかを示す財務諸表

です。少し難しく説明すると、会計期間の売上、費用、利益の状況を示した財務諸表となります。英語では「Profit and Loss Statement」と表記されるので、「PL」「P/L」と略されたりします。

早速、損益計算書を確認してみましょう。

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注目していただきたいのは、損益計算書が、

収益-費用=利益

の繰り返しになっていることです。この計算を繰り返して、会社がどれくらいもうけたのか、あるいは損をしたのかを示しており、計算の過程で、

5つの利益

が登場します。項目の説明は後ほどしますが、まず、この5つの利益が何を意味するのかのイメージをつかんでください。

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一番上の売上高から費用を引いていき、利益を求める構造になっていることがよく分かりますね。

次章で、それぞれの項目の意味を説明していきます。説明ばかりで退屈かもしれませんが、全て大切な内容なので、できるだけ覚えてください。

2 損益計算書の項目

1)売上高

売上高は、商品・製品・サービスなどを販売することで得た売上の総額です。売上高は会社の収益力を確認する最も基本的な数値で、会社のおおよその規模を示します。

2)売上原価

売上原価は、小売業の仕入原価や製造業の材料費など、商品の調達や製品の製造に必要な費用です。また、社員がサービスの提供や製品の製造に直接関係する業務(工場のラインなど)に従事している場合、その人件費も一般的には売上原価になります。

3)売上総利益

売上総利益は、「売上高-売上原価」で求めるもので、「粗利(あらり)」とも呼ばれます。売上高に対する売上総利益の割合が高いほど、その会社ならではの付加価値の高い商品・サービスを販売しているといえます。

4)販売費・一般管理費

販売費・一般管理費(以下「販管費」)は、旅費・交通費、広告宣伝費、減価償却費などの諸経費です。また、社員が商品・サービスの販売を間接的にサポートする業務(経理・総務など)に従事している場合、その人件費も一般的には販管費になります。

5)営業利益

営業利益は、「売上総利益-販管費」で求めるもので、会社がメインとしている「本業」でどれだけもうかっているか、もしくは赤字になっているかが分かります。損益計算書を見る際は必ず確認したい利益です。

6)営業外収益・費用

営業外収益・費用は、本業以外の投資・財務活動によって生じた収益や費用です。営業外収益には預貯金の受取利息や受取配当金などが含まれます。また、営業外費用には支払利息などが含まれます。

7)経常利益

経常利益は、「営業利益+営業外収益-営業外費用」で求めるもので、本業以外の投資・財務活動までを勘案した利益です。今はあまりいませんが、「経常(けいつね)」と呼ぶ人もいます。営業利益が赤字なのに、経常利益で黒字になっている会社もあるので、なぜ、そのような状態になっているのかを分析してみましょう。

8)特別利益・損失

特別利益・損失は、会社の経常的な経営活動とは直接関係のない、臨時的、偶発的に生じた収益や費用です。特別利益には固定資産の売却益などが含まれます。また、特別損失には自然災害や訴訟による損失などが含まれます。

9)税引前当期純利益

税引前当期純利益は、「経常利益+特別利益-特別損失」で求めるもので、臨時的、偶発的に発生する収益と費用までを考慮した利益です。

10)法人税、住民税及び事業税

法人税、住民税及び事業税は、会社が支払う税金です。

11)税引後当期純利益

税引後当期純利益は、「税引前当期純利益-法人税、住民税及び事業税」で求めるもので、会社が処分可能な最終利益です。税引後当期純利益は、会社の財務体質強化のために内部留保に充てられたり、新たな設備投資に使われたりする原資となります。

3 損益計算書の利益はどこにいった?

損益計算書に関する最大のポイントは、

損益計算書の利益に相当するお金が、会社の金庫や銀行口座にあるわけではない

という驚愕(きょうがく)の事実です。「えっ?」と思うでしょうが、損益計算書の利益は帳簿上のものにすぎません。細かなことはさておき、ここでは、

  • ビジネスは「掛け」が多く、実際にお金をもらったり払ったりするのは数カ月先になる
  • 損益計算書では、請求書を発行した時に売上になり、請求書を受領した時に費用になる

ことを覚えてください。例えば、4月に100万円の請求書を発行し、支払期日を5月末にした場合、

4月に売上が100万円計上されますが、実際にお金をもらうのは5月末になり、1カ月のズレが生じる

ということです。そして、このズレにより「黒字倒産」という奇妙な現象が起こります。黒字なのに倒産してしまうのは、

損益計算書は黒字なのに、実際のお金はマイナスになっている状態

を指しているわけです。ここを押さえていれば、かなり上級です!

では、「掛け」の規模ってどれくらいなのとか、会社にはいくらのお金(キャッシュ)があるのとか、というのは、別の財務諸表である貸借対照表とキャッシュフロー計算書を読めば分かります。

4 【質問】売上と利益のどれを重視する?

最後に皆さんに質問です。

「売上高、売上総利益、営業利益、経常利益、税引前当期純利益、税引後当期純利益」の中で、最も重視するのは何ですか?

この質問に対する答えは、損益計算書を読む理由や立場によって違います。例えば、

その会社の本業の状態を知りたいのであれば、営業利益を重視する

ことになります。あるいは、銀行の立場だと、

借入金の返済原資となる税引後当期純利益を重視する

ことになるわけです。

「自分は何のために損益計算書を読むのか?」という目的を持つと、損益計算書の見え方が違ってきます。また、損益計算書に限らず、財務諸表は単年度のものだけでは良し悪しを判断することはできません。理想的には、当期、前期、前々期の3期分を比較してみると、状況がより分かりやすくなります。

以上(2024年12月更新)

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画像:Mariko Mitsuda

【値上げに成功する交渉術(5)】交渉前の最終確認と交渉中のバイアス排除

1 準備に勝るものはない

交渉で理不尽と思えるほど強引な相手と遭遇しても、それが相手のスタイルだと見抜ければ問題はないのですが、実際は交渉中に冷静であり続けることは難しく、腹を立てたり、恐れたりしてしまいます。

この問題は自身の性格(カッとなりやすい性格、ビビりな性格など)とも関係するため、完全に解決できません。できることは、

入念な準備をして、交渉中の自身の客観性を増すこと

です。準備をすれば交渉に対する自信も出てくるので、その場を俯瞰(ふかん)しやすくなります。では、どのような準備をすればよいのでしょうか。具体的な項目を確認していきましょう。

2 自社に関する交渉前のチェック項目

交渉に対する自社の方針、姿勢として、以下が明確になっているかをチェックしてみましょう。不明確なものがあれば、改めて検討します。

  • 交渉の目的は明確か
  • 交渉の方針は経営戦略に合致しているか
  • 交渉関係者は整理されているか
  • 交渉の論点は整理されているか
  • 自社の交渉依存度は高いか、低いか
  • BATNA(代替案)と留保価値は設定されているか
  • BATNAと留保価値は、交渉依存度とバランスが取れているか
  • 交渉する自分(たち)の権限はどこまでか
  • 相手と合意に至るための複数の選択肢を、交渉シーンに応じて柔軟に考えているか
  • 自社の案で合意できた場合、それを実行する際の難所は何か

3 相手に関する交渉前のチェック項目

同様に交渉に対する相手の方針、姿勢の「想定」をチェックしてください。これらの中で想定していないものがあれば、改めて分析してみてください。

  • 相手の業界動向などを分析しているか
  • 相手が重視している行動規範はどのようなものか。それは自社と相性が良いか
  • 交渉する相手の属性を調べたか(職種、出身校、実績など)
  • 相手の交渉関係者は整理されているか
  • 相手の交渉依存度は高そうか、低そうか
  • 相手のBATNAと留保価値は想定しているか
  • 相手の姿勢は強気か、弱気か
  • 相手の感情はどのような状態か(高揚、怒り、恐れなど)
  • 交渉する相手の権限はどこまでか
  • 相手の案で合意することになった場合、それを実行する際の難所は何か

4 業界動向の分析で使えるフレームワーク

1)フレームワークの関係性

相手の業界動向を分析する際は、フレームワークを使うと便利です。相手の業界動向の分析は値上げ交渉に行うものですが、交渉の直前に復習することをお勧めします。

いろいろなパターンがありますが、フレームワークの関係性をまとめたイメージは次の通りです。

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この他、相手先の経営者や交渉の担当者のSNSをチェックしておくと、相手が大事にしている行動規範が想像できたり、共通の知り合いが見つかったりすることがあります。共通の知り合いがいたら、相手の状況をやんわり探ってみることもできます。

2)フレームワークの解説

上の図にあるフレームワークの解説は次の通りです。

・PEST

「Politics(政治)」「Economics(経済)」「Society(社会)」「Technology(技術)」の視点から、事業環境を分析するフレームワークです。ここでご紹介する中では最も視野が広いフレームワークです。政策や景気動向も分析するため、足元だけではなく、将来についても想定することになります。

・5Forces(5つの力)

「売り手の交渉力」「買い手の交渉力」「新規参入の脅威」「代替サービスの脅威」「業界内の競争状態」の視点から、その業界の競争状態の激しさを分析するフレームワークです。結果は「大・中・小」で示したりします。売り手の交渉力が強いときは「大」といった感じです。

なお、ここでは「外注先」を含めて6つの力としています。相手と自社のBATNAを考える際、他の外注先を常に意識することは大切です。

・3C

「Customer(顧客)」「Competitor(競合)」「Company(自社)」の視点から、経営資源や戦略、ニーズなどを分析するフレームワークです。分析は「顧客→競合→自社」の順番で行うことで、自分本位な結果を導かないようにします。相手の立場で検討する場合、自社を、相手にとっての顧客などとして想定します。

・Value Chain(バリューチェーン)

事業活動を「主活動(購買や製造、販売、アフターサービスなど)」と「支援活動(人事や労務など)」に分けて、生み出されている付加価値を分析するフレームワークです。相手の付加価値に大きな影響を及ぼす提案は受け入れてもらいにくいので、この辺りも意識しながら交渉の内容を検討しましょう。

・PPM

「花形(スター)」「金のなる木」「問題児」「負け犬」の視点から、市場の成長性や占有率を分析するフレームワークです。金のなる木で得た収益を問題児に投資して、花形に導くというのが1つの考え方です。

・SWOT

「Opportunities(機会)」「Threats(脅威)」「Strengths(強み)」「Weaknesses(弱み)」の視点から、外部、内部の環境を分析するフレームワークです。これまでの分析を、

  • 外部(Opportunities、Threats):PEST、5Forces、3C
  • 内部(Strengths、Weaknesses):Value Chain、3C、PPM

といったように組み込むこともできます。

5 交渉環境を整える

「いつ、どこで交渉するのか」という、交渉環境を整えることも重要です。サッカーでホームとアウェーがあるように、値上げ交渉も相手のオフィスより自社のほうがリラックスできます。今どきは、オンラインで交渉することもあるでしょうが、オンラインだと「相手の圧力」を感じずに済むので、交渉に慣れていない人は、オンラインを申し入れるのも悪くありません。

また、一般的ではありませんが、

相手が嫌がらせをしてきたり、高圧的な態度(ハード型というよりも脅し)を取ってきたりすること

もあるので注意しましょう。

この他、相手が難しい専門用語を使ってまくしたててくることが想定されるなら、専門的な知識を持った第三者に同席してもらうのもよいです。

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6 バイアスを排除する

交渉中はバイアスの排除を心掛けましょう。バイアスとは先入観や偏りのことで、私たちは無意識のうちにたくさんのバイアスの影響を受けています。例えば、

  • 相手が高学歴だったら、「論理的に違いない」と感じる
  • 相手が体の大きなこわもてだったら、「交渉も強そう」と感じる

といったことです。そして、相手がたまたま理路整然と話をしてきたら、「やはり、この人は頭が良い!」などと思ってしまいます。

「グロービスMBAで教えている交渉術の基本」(*)などを参考にすると、交渉中に気を付けたいバイアスには次のようなものがあります。

  • 確証バイアス:自分の考えと同じ意見やデータだけを熱心に支持する
  • 反射的な拒絶:客観的な検証などはなく、とにかく反射的に相手の提案を低くみる
  • 役職への固執:その場で一番偉いのは自分なので、自分の意見が正しい
  • 立場固定:交渉の局面が変化して合理性を失った主張でも、それを変えない
  • 勝利への固執:勝つことに固執して相手を否定し、ゼロサムゲームを展開する
  • 嫉妬・妬み・憧れ:自分より優れた人を避ける、あるいは無条件に近い状態で従う
  • 印象管理:意見や態度の一貫性を取り繕うために、非合理的な判断をする
  • サンクコスト:既に発生したコストを、将来の判断をする際に考慮する
  • グループシンク:集団浅慮。「合意しなければ」と強迫観念に支配される

値上げ交渉の目的は「値上げ」ですが、バイアスにとらわれると、

  • 相手を恐れてしまい、主張できない
  • 相手を「すごい」と思い、相手の主張を必要以上に受け入れてしまう
  • 相手を「嫌い」と思い、相手の主張が合理的でも一切受け入れたくなくなる

といった状況に陥りかねません。そこで、次のことを心得てバイアスを排除しましょう。

  • 相手と自分とでは行動規範が異なる。そもそも重要視する価値観や使う言葉さえ違うのだから、こちらの言葉が届きにくいのは当然
  • 人と問題を切り離す。値上げを受け入れないのは目の前の相手ではなく、相手の企業の方針である
  • 交渉の目的を再確認。必ず合意しなければならない交渉なのか、決裂してもよいのか

自分が「冷静さを失ってきたかも」と感じたら、トイレ休憩などを申し出て、席を立つとよいでしょう。ただし、相手の目の前でため息などはつかないようにします。「こちらが冷静になろうとしている」ことを見透かされ、逆手に取られてしまうことがあるからです。

いかがでしょうか。今回の記事で交渉前にチェックしておくべき項目と、交渉中に、バイアスにとらわれないようにするための心構えがお分かりいただけたと思います。

【参考文献】

(*)「グロービスMBAで教えている交渉術の基本」(グロービス(著)、ダイヤモンド社、2016年6月)

以上(2025年2月更新)

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画像:Mariko Mitsuda

【値上げに成功する交渉術(4)】強引な交渉相手と当たってしまったらどうする?

1 交渉はセオリー通りに進まない

交渉にはさまざまなセオリーがありますが、実際のビジネスでは、全く理屈が通じない強引な交渉相手と対峙するケースがよくあります。一方的で強引な交渉はセオリーと反するはずなのに、なぜ、このようなことをするのでしょうか。

交渉に対する知識や経験の違いもありますが、それ以上に、

その交渉に対する価値基準や、交渉依存度が違う

ことに起因しています。こちらがプラスサム型の交渉(Win-Winになる交渉)を目指しても、相手が「値上げなんてけしからん!」と、ゼロサム型の交渉(Win-Loseになる交渉)を展開してくると、全く話がかみ合いません。加えて相手が強引だと、いいようにやられてしまうことがあります。

このようなとき、どうしたらよいのでしょうか。詳しく見ていきましょう。

2 「ハード型」と「ソフト型」の交渉スタイル

1)ハード型とソフト型とが対峙したらどうなる?

交渉にはハード型とソフト型とがあります。文字通りの交渉スタイルで、

  • ハード型:自分の条件に固執して敵対的に接し、自分の勝利のために相手に譲歩を迫る
  • ソフト型:状況に応じて自身の条件を見直して友好的に接し、双方の利益を目指す

といった具合です。ハード型とソフト型とが対峙した場合、ソフト型はハード型の攻撃を受け続けて圧力に屈してしまうか、交渉そのものが決裂しまうことが多いです。ハード型の交渉担当者は、ただ自分の条件を実現したいだけなので、交渉の局面も作れません。

次の文章を読んでください。

1つのオレンジを取り合っている姉妹がいます。姉も妹も、「自分がオレンジを丸ごともらう!」と言って一歩も譲りません。姉妹がけんかせずにオレンジを分け合うには、どうしたらよいでしょうか?

これは「オレンジの交渉」と呼ばれる有名なケースですが、仮にこの姉妹がハード型とソフト型の交渉を行ったらどのようになるでしょうか。一例を示すと、次のようになります。

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妹のハード型は強烈で、これをやられると姉としては譲歩せざるを得ません。言い争っている最中に母親を呼ばれたら、「お姉ちゃんなのだから我慢しなさい!」と一蹴されるか、「けんかするならおやつはなし!」と、オレンジを取り上げられてしまうことが明らかだからです。

2)ハード型への対策

リアルのビジネスで、相手がハード型の交渉を展開してくることは珍しくありません。実際は、言動は穏やかでも、取引関係の優位性を押し出すなどして、一向に条件を変えない「隠れハード型」が多いでしょう。相手がハード型の交渉を展開できるのは、例えば、

  • 自社:相手は大切なクライアントであり、何とか良い結果を導きたい
  • 相手:相手は単なる業者であり、交渉が決裂しても他に依頼すればよい

といった具合に、根本的な違いがあるからです。こうなってしまうと対策は難しいですが、方法としては、

  • 双方の上司の同席を求めて、交渉当事者をけん制する
  • 力のある第三者に仲裁を依頼する
  • 客観的な基準を提示して交渉の論点を広げる
  • アンオフィシャルな場も利用して、相手とコミュニケーションを取る
  • 交渉を長引かせて、相手の交渉担当者の態度が変わるのを待つ

などがあります。いずれにしても、

交渉依存度が低く、しかもハード型で臨んできそうな相手とは交渉しない

というのが正解かもしれません。

3 なぜ、ソフト型が存在するのか

ここまで読んで「そのような状況ならばハード型で交渉すればよい」と思った人もいるでしょう。しかし実際は、ソフト型の交渉を展開する人も数多くいます。理由としては、

  • 交渉で勝ち過ぎると(自分の条件を通し過ぎると)、後に悪影響が出る
  • 交渉に至る前から良好な関係が築かれている

が挙げられます。

1)勝ち過ぎると恨まれる?

企業間取引は継続が前提です。いかに交渉とはいえ、取引相手を完膚なきまでにたたきのめしてしまったら、やられた側は嫌な気分になり、その後の関係に支障が出ます。もちろん「コレはコレ、アレはアレ」と区別するのが大人ですが、人の感情はそう簡単ではないのです。

そして、やられた側は、そのことを同業他社などに話すでしょう。「こちらは誠意を見せたのに、全く聞いてもらえず、高圧的に打ち切られた」といった具合にですが、こうした話は尾ひれが付いて広まります。ハード型とは、ある意味で相手にけんかを売るようなものですが、

交渉が終わってもけんかは終わらない

ということです。

ですから、賢い交渉担当者がハード型の交渉を展開することは少なく、むしろ相手に花を持たせながら、こちらの条件を上手に通していきます。これはつまり、

  • 相手にとって悪くなく、自分にとって願ってもないほどの交渉結果を引き出す(*)
  • 交渉では、相手に「勝った」気分になってもらうことが大切だ(**)

ということを実践しているというわけです。

2)日ごろの関係性は交渉を超える?

長年の取引があって相手のことをよく知っており、互いに成果を上げてきているような場合、

交渉以前の問題で、相手のために何とかしてあげたい

という気持ちが働くものです。これは、

交渉が始まる前から、良い結果が出ることがほぼ決まっているケース

です。もちろん、ビジネスですから、相手に値上げを受け入れてもらったら、次にこちらが何かを返さなければなりませんが、ここで分かるのは、

日ごろの関係づくりが自社のピンチを救う

ということです。効率化ばかりを考えていると、コミュニケーションの手数を減らすことを目指したくなりますが、一定の「ムダ」は必要ということです。

【参考文献】

(*)「ハーバード×MIT流 世界最強の交渉術―信頼関係を壊さずに最大の成果を得る6原則」(ローレンス・サスキンド(著)、 有賀裕子(翻訳)、ダイヤモンド社、2015年1月)

(**)「負けない交渉術―アメリカで百戦錬磨の日本人弁護士が教える」(大橋弘昌(著) 、ダイヤモンド社、2007年1月)

以上(2025年2月更新)

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画像:Mariko Mitsuda

プレゼンテーションを成功させるための3つの事前準備

1 「プレゼン」には万全の体制で挑もう

ビジネスシーンでは、プレゼンテーション(以下「プレゼン」)が頻繁に行われます。しかし、「上手に話せなかったらどうしよう」「自分の提案が的を外していたらどうしよう」など、不安な気持ちが膨らみ、プレゼンに対して苦手意識を持つ人も少なくありません。こうした不安をなくすには、「何が起こっても大丈夫」と思えるよう万全の準備をするしかありません。

この記事では、プレゼンを成功させるための準備のポイントとして、次の3つを紹介します。

  1. 目的の理解:何のためにプレゼンを行うのかを明確に理解する
  2. 内容の精査:何を、どんな方法で伝えるのかを熟考する
  3. 練習の徹底:プレゼン内容をマスターし、本番で成果を出せるようにする

プレゼンは何度練習しても緊張するものですが、本気で準備していれば、「自分はこれだけの準備をしてきたのだ」という自信が出てきて、「失敗したらどうしよう」という不安は軽くなっていきます。結果的に、提案が聞き手に受け入れてもらえるかは分かりませんが、準備した分だけプレゼンの質は向上しますから、まずは上の3つのポイントを順に押さえていきましょう。

2 (ポイント1)目的の理解~何のためにプレゼンを行うのか

プレゼンの準備をするに当たって、最初に押さえておきたいのが「目的の理解」です。

プレゼンのシーンや段階によって、そのプレゼンの目的(ゴール)が変わってくる

ので、ここがブレると後が大変です。

プレゼンを担当する当人は「わざわざ分析しなくても目的なんて明確だ!」と思いがちですが、チーム内で認識の違いが生じていることなどもありますので、

目的の明確化と認識のすり合わせのためにも、プレゼン準備を始める前に状況を整理

しましょう。

1)シーンによる目的の違い

プレゼンが行われるビジネスシーンには、例えば次のようなものがあります。

  • 新規見込み顧客である窓口担当者に対する商品・サービス(以下「商品」)の提案
  • 既存顧客の部門長などに対する新しい商品企画の提案
  • 商品を実際に利用している既存顧客先の従業員に対する商品の利用方法の説明
  • 自社役員に対する新しい商品企画の提案
  • 自社の部門長に対する生産性向上のための業務改善の提案
  • プロジェクトチームのメンバーに対する新商品の営業方針の提示

シーンによって、プレゼンの目的は異なります。例えば、

  • (シーン1)新規見込み顧客に対する商品の提案 → 自社商品の購入を決定してもらうことが目的
  • (シーン2)プロジェクトチームのメンバーに対する新商品の営業方針の提示 → メンバーに営業方針を正しく理解してもらうことが目的

といった具合です。

2)プレゼンの段階による目的の違い

「初めて行うプレゼンなのか」「何度目かのプレゼンなのか」という、プレゼンの段階によっても目的は変わります。例えば、

  • (段階1)新規見込み顧客の窓口担当者に対しての初プレゼン → 自社と自社商品について理解を深めてもらうことが目的
  • (段階2)何度かプレゼンを行っている顧客に対しての最終プレゼン → 意思決定権者に購入を決定してもらうことが目的

といった具合です。

3)プレゼンの目的を理解するためのチェックシート

プレゼン相手や目的などをまとめたチェックシートを活用すると、

メンバーとの認識の不一致を防いだり、次章で説明する「内容の精査」の際にプレゼンの軸がずれるのを防いだりするのに役立つ

でしょう。プレゼンの目的を理解するためのチェックシート(例)を次に示します。

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3 (ポイント2)内容の精査~何を、どんな方法で伝えるのか

次に、プレゼンの内容を精査していきます。最初に整理した目的から軸がずれないよう、「聞き手に効果的に伝える」内容を目指しましょう。

1)伝える内容を検討するための情報収集

1.聞き手の状況

まず、プレゼンの場でこちらの意図がきちんと伝わるように、必要な情報を収集します。

例えば、新規見込み顧客である窓口担当者に対する商品の提案のプレゼンでは、聞き手に、自社商品と同じタイプの他社商品を利用したことがあるか、また利用したことがある場合はその印象について、事前に確認しておけるとベターです。

通常、このようなパターンのプレゼンでは自社商品について説明することが中心のプレゼンになります。しかし、仮に聞き手が他社商品を利用したことがあり、しかも何らかの不満を感じていることが分かっていれば、

他社商品と比較し自社商品の優位性を強調するなど、より効果的なプレゼン内容を用意できる

場合もあります。

2.プレゼンの条件

また、次のような内容についても、事前に先方に確認しておきましょう。

聞き手の人数、プレゼン時間、対面かオンラインか、対面の場合は会場の広さ(聞き手との距離や自分の立ち位置など)、設備(プロジェクター・ホワイトボード・マイクなど)

プレゼン時間が短い場合は伝えたいポイントを絞る、プロジェクターがない場合はフリップを用意するなど、条件に合わせた対応が必要になります。

2)構成の決定

一般的なプレゼンの構成は、「序論・本論・結論」です。詳細は次の通りです。

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また、プレゼンは「『つかみ』が肝心」と言われます。序論の段階で聞き手を引きつけるために、業界の動向などを絡めて「~のような問題があるのをご存じでしょうか?」などの形で疑問を投げかけたり、最初に「今回の提案によって、貴社の抱える問題がスムーズに解決できます」と結論を先に述べたりする方法なども考えられます。

3)資料・スライドの内容の決定、作成

プレゼンの構成が決まったら、次に資料・スライドを作成します。資料は、パワーポイントなどを使って作成するのが一般的です。例えば、

  • 拡大している様子を示したいときは右上がりの矢印を大きく見せる
  • アニメーションをうまく使用し動きのある資料にする

など、伝えたいことを図やイラストを使ってイメージさせるように作ると分かりやすいでしょう。

また、資料を作成する際は「情報量」に注意しましょう。例えば、

  • 重要なポイントが一目で分かるレイアウト
  • 1ページに盛り込む内容は1つだけ

などを心掛けて作成します。

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図表3の右側のように、細かい文字や詳しい説明などを資料・スライドに記載すると要点が分かりにくいほか、オンライン会議などで資料を共有する場合、聞き手の環境によっては文字が読みにくいことも考えられます。

重要な点のみ資料・スライドに記載し、それ以外は口頭で説明する準備をしておくと、とっさの質問などにも臨機応変に対応することができます。

4 (ポイント3)練習の徹底~プレゼン内容をマスターする

プレゼン本番で頭が真っ白になってしまったり、焦って大切なことを伝え忘れてしまったりするのでは……という心配を薄めるためには、泥臭いやり方ですが、やはり

本番を想定して、何度も練習を重ねること

が効果的です。

何も見ないでもスラスラと言葉が出てくるようになるまで練習するのが理想ですが、他の業務との兼ね合いで、まとまった練習時間を取りにくい場合もあります。そういうときは通勤電車の中や入浴中など、スキマ時間をうまく使ってプレゼンの練習に充てるとよいでしょう。

練習するときのポイントは、

  • 必ず時間を計ること
  • 話す速度や間の取り方を覚えること

です。限られた時間で話すとなると、誰でも焦りがちになりますが、あくまで「聞き手に伝える」ことを大切にして、ゆっくり・はっきりと話すことを心掛けましょう。

「聞き手に伝わる」プレゼンを行うには、

自分の話し方・立ち方・視線の配り方の癖を客観的に把握し、必要に応じて直していく

ことも大切です。スマートフォンなどを活用して自分の話している姿を録画し、チェックすると、自分の癖を客観的に見ることができます。

また、上司や同僚などの前でプレゼンを行い、印象や直したほうがいい点を教えてもらうのもよいでしょう。その際、質疑応答の時間も設ければ、質問への回答も練習することができます。

以上(2025年2月更新)

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画像:metamorworks-Adobe Stock

【値上げに成功する交渉術(3)】交渉の構造を知って冷静に対処する

1 ふっかけられても冷静でいるには?

交渉では、皆さんも相手も最初に「ふっかける」ことが多いです。例えば、

  • 自社:100万円の値上げで十分なのに、150万円の値上げを提示する
  • 相手:50万円なら値上げを受け入れられるのに、一切値上げには応じないと突っぱねる

という感じです。相手の機先を制し、有利に交渉を進めるためのテクニックですが、それを分かっていても、いざ交渉の場に立つと精神的に追い込まれることがあります。ここでおじけづくと、相手がふっかけてきた金額を基準に交渉が進むので、それは避けなければなりません。

もちろん、最初から双方の落としどころが分かっていれば、100万~50万円を交渉余地とできますが、なかなかそうはいかないのがビジネスです。そこで皆さんは、

交渉の構造を正しく理解し、飛び交う数字に惑わされず、基準を守って冷静に交渉する

ようにしなければなりません。早速、交渉の構造を確認していきましょう。

2 交渉の構造を知る

1)初手は「アンカー(アンカリング)」

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多くの場合、アンカーは交渉初期に相手に示す水準です。その後の交渉を有利に進めるために、本来の要求よりも高い(低い)水準を示します。この図では、オレンジ色が自社、紫色が相手となっています(以降、同様)。右側のオレンジ色のアンカーは150万円、左側の紫色のアンカーは0円で、それぞれがふっかけている状態です。

アンカーは経験などに基づいて設定されることが多く、双方が相手をどう見ているのかも教えてくれます。下手をすれば(ふっかけすぎれば)、その場で交渉決裂もあり得るわけですから、交渉依存度が高い場合は、アンカーも慎重になるのが通常です。

2)本音は「留保価値」

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相手のアンカーに惑わされないためにも重要なのが留保価値です。留保価値とは、それを下回ったら交渉を打ち切る基準であり、いうなれば「本音」です。言葉を変えると、

アンカーとして150万円を示したが、実際は100万円の値上げを達成したい

という状況を表しています。

相手のアンカーに付き合う必要はありません。また、相手の留保価値が分かれば交渉を有利に進められるので、アンカーを逆手に取って相手の留保価値を探ってみましょう。具体的には、

「値上げの余地が全くないというのは厳しいです。それは御社の最終決定ですか?」

などと言って、相手に揺さぶりをかけてみましょう。相手に交渉決裂の覚悟がなければ、何らかの情報を与えてくれることが多いです。

なお、いくら相手の本音が知りたいからといって、こちらのほうから、

「150万円の値上げを提示していますが、実は100万円でもよいのです。そちらはどうですか。本当に値上げを一切受け入れられませんか?」

などと歩み寄るのは早計です。交渉のスタイルには

  • ハード型:自分の条件に固執して敵対的に接し、自分の勝利のために相手に譲歩を迫る
  • ソフト型:状況に応じて自身の条件を見直して友好的に接し、双方の利益を目指す

があって、相手がハード型の場合、

こちらの歩み寄りなどお構いなしに力押ししてくる

からです。詳しくはこちらのコンテンツをご確認ください。

3)双方の留保価値の間が「ZOPA(ゾーパ)」

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明確ではないにしても、相手の留保価値を探りながら交渉をしていきます。そして、こうして分かってくる双方の留保価値の間を「ZOPA(ゾーパ。Zone Of Possible Agreementの略)」と呼びます。この例では、100万~50万円の間がZOPAとなります。

ただ、ZOPAが分かったとしても、

  • 自社:100万円の値上げでないと困る!
  • 相手:50万円までしか受け入れられない!

と主張するだけでは、一向に前に進みません。そこで、他の論点も交えるなどしながら交渉していきます。他の論点とは、

  • 取引規模:取引規模を拡大、あるいは縮小する
  • 取引期間:契約期間をこちらが有利に設定する、あるいは契約継続の条件を提示する
  • 納期:納期を延ばす
  • 品質:品質を落とす
  • プロモーション:取引拡大のため、共同でプロモーションをする

といったものです。多様な論点を探るには緻密な情報収集が必要ですが、その過程は後述するBATNA(バトナ)の検討にもつながります。

4)交渉決裂時の最も優れた代替案「BATNA(バトナ)」

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「BATNA(バトナ。Best Alternative To Negotiated Agreementの略)」とは、交渉決裂時の最も優れた代替案のことです。実際は留保価値とBATNAが同じであるケースが多く、その場合、留保価値が唯一の防衛線となります。しかし、これではこちらの交渉依存度が高くなり、「どうしても成立させなければならない」と心理的に追い込まれてしまいます。

ですから、事前にBATNAを見つけることが理想です。分かりやすいBATNAは、

A社で値上げ交渉に失敗しても、B社で値上げ交渉ができる

といったものになるわけですが、改めて確認したいのは、

BATNAは【交渉が決裂した場合】に発動するもの

ということです。ですから、BATNAを意識する際は、こちらにも相当の覚悟が必要であることを忘れないでください。

いずれにしても、BATNAを見つけるには、緻密な情報収集が必要です。そのためには、同業他社などとも良い関係を築いておきましょう。最近は人材の流動化が進んでいますが、名刺管理のアプリケーションなどに登録しておけば、転職先なども分かります。

3 同じ景色でも見え方が違う

いかがでしょうか。今回の記事で交渉の構造が明らかになったと思います。この構造を意識しながら交渉を進めるわけですが、もし相手にも同じだけの知識があれば、自然とプラスサム型の交渉ができそうなものです。

しかし、実際はなかなかそうなりません。その理由は、

自分と相手とでは前提としている常識が違う

からです。同じ景色を見ていても見え方が違い、さらに交渉のスタイルも違うので、なかなかかみ合わないということです。

以上(2025年2月更新)

pj80172
画像:Mariko Mitsuda

【値上げに成功する交渉術(2)】誰と、いくらの値上げ交渉をするか?

1 誰と、いくらの値上げ交渉をするか?

実際の値上げ交渉では、

その値上げ交渉に失敗したら、大きな損失が出る

といったケースがあり、誰でも緊張します。

どのような交渉も軽んじてはいけませんが、難しさはそれぞれ違います。また、企業間の取引では、交渉相手によって提示する条件も変わります。こうした、ある意味でレベル感がバラバラの値上げ交渉について、組織としての勝率を高めるために経営者がすべきことは、

「誰と、いくらの値上げ交渉をするか?」を明確にすること

です。この絶対的な基準によって交渉担当者は安心と自信を得て、不要な譲歩をすることもなくなるのです。

2 誰と交渉をするか?

1)交渉する相手を決める

早速ですが、交渉相手となり得る先をリストアップしてみましょう。この記事は、値上げ交渉について紹介していますが、仕入れ先との「値下げ交渉」も視野に入れてください。

仮に100件がリストアップされたとします。ここで、「よし! 上から順番に値上げ交渉をしよう」という経営者がいたら、ちょっとお待ちください。このリストで最初に行うべきことは、

交渉しない相手を決めること

だからです。例えば、

  • 交渉決裂の際のリスクがかなり大きい相手
  • 収支は厳しいが、取引することで業界に影響を与えられる相手

などとは、あえて交渉しなくても問題ありません。一斉値上げなどをせず、他との取引条件を知られることなく、しかるべき相手と値上げ交渉をすればよいのです。

2)交渉する順番を決める

値上げ交渉をする相手を決めた後は、交渉する順番を決めます。値上げ交渉に限らず、交渉は情報が多く経験が豊富なほど有利になりますから、

簡単な先から交渉をして相手の出方や感触を確かめ、そこで学んだことを次の交渉に活かしていくことの繰り返し

が基本になります。

値上げ交渉の難易度を整理する参考として、縦軸を「交渉への依存度」、横軸を「交渉の論点(価格以外の納期や品質などの交渉余地)」とするポジションマップを紹介します。交渉への依存度とは、「その交渉に必ず勝たなければならない」といったように、文字通り、依存度が高い交渉を指します。

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上段は依存度が高く、難しい交渉になりそうですから、最初は下段にある決裂しても仕方がないと判断した相手から、値上げ交渉を始めるとよいでしょう。

左右の「論点が多いか少ないか」は状況次第で有利、不利が変わりますが、交渉担当者には、それぞれ次のような性質が求められます。

  • 論点が多い:相手のことをよく知っており、的確な状況判断ができる
  • 論点が少ない:タフな場面でも感情的にならず、突破することができる

3 いくらの値上げ交渉をするか?

1)相手によって条件を変える

値上げ交渉をする相手を決めたら、相手ごとに、

  • 値上げ額
  • 留保価値(それを下回ったら交渉を打ち切る水準)

を設定します。値上げ額と留保価値は同じ場合もありますし、次のように違う場合もあります。

できれば100万円の値上げをしたいが(値上げ額)、80万円までなら譲歩できる。ただし、80万円を下回るのはあり得ない(留保価値)

最もシンプルな考え方は、

値上げ額=仕入れ額の増加分以上

とすることです。仕入れ額が80万円増加したら、販売価格も80万円上げればよいですし、これまで無理してきた分も取り返したければ、100万円の値上げをするということです。現実には、

  • 取引の規模(自社の収益に与えるインパクト)
  • その相手と取引に至った背景や取引年数
  • その相手と取引することによる宣伝効果

といった事情も考慮することになりますから、

  • 販売先であるA社とは、100万円の値上げ交渉
  • 販売先であるB社とは、60万円の値上げ交渉
  • 販売先であるC社とは、値上げをしない代わりに、取引量の増加交渉

といったように対応が分かれていくでしょう。もちろん、

仕入先であるD社とは、10%の値下げ交渉

といったように、仕入れ額の減額交渉も行います。結果として、自社の取引全体から適正な収益が生まれればよいわけです。

2)変動損益分岐点を用いた値上げ額の設定

具体的な値上げ額を決める際に使うのが「損益分岐点」です。詳細は割愛しますが、損益分岐点は固定費と限界利益が同じになる水準です。限界利益は「売上高-変動費」で求められ、売上高に占める限界利益の割合を限界利益率と呼びます。

損益分岐点は、

固定費÷限界利益率(売上高に占める限界利益の割合)

で出します。目標利益がある場合は、固定費に目標利益を足して計算します。例えば、固定費が400万円、営業利益が100万円の取引で、限界利益率が50%から40%に下がった場合、損益分岐点売上高は次のように変化します。

  • 限界利益率が50%の場合:(400万円+100万円)÷0.5=1000万円
  • 限界利益率が40%の場合:(400万円+100万円)÷0.4=1250万円

今の仕入れ額を受け入れつつ、同じ営業利益を確保したければ25%の値上げが必要になります。こうした計算をするには、自社の収益構造を正しく把握する必要があるので、「変動損益計算書」を作成してみるとよいでしょう。変動損益計算書とは、

費用を変動費と固定費に分けて作成する損益計算書

であり、財務会計上の損益計算書とは次のように違います。

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変動損益計算書を見ると、企業全体と取引先ごとの収益構造が把握しやすくなります。もとの状態からの変化を、

  • 変動費(仕入れ)の上昇で赤字転落
  • 値上げによって利益を確保
  • 変動費(仕入れ)削減で赤字を回避
  • 固定費の削減で赤字を回避

の例を示すと、次のようになります。

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仮に、企業全体で10%の値上げを目標とするなら、

  • 大手取引先と交渉して、1社で10%分を値上げする
  • 小口取引先と交渉して、10社で10%分を値上げする

といった方法があります。変動損益計算書で収益構造を把握しつつ、交渉条件の方針を決めましょう。

4 現場に情報を伝える

方針が決まったら、現場の社員に伝えます。値上げをする企業が増える中で、現場の社員が、取引先の担当者から、

「御社との取引価格は今のままで大丈夫ですよね? 上司から確認するように指示されていまして……」

などと確認を受けることもあるでしょう。そうしたときに、

  • 申し訳ありませんが、変更したいと考えています。上司より改めて取引条件についてご相談させていただく予定です
  • はい、大丈夫です。御社との取引条件は当面、今のままで変わりません

などと明確に答えられるようにしてあげることで、現場の社員と取引先とのコミュニケーションが図れるようになります。

以上(2025年2月更新)

pj80171
画像:Mariko Mitsuda

【入社1年目の教科書】 「源泉徴収票」は年収の証明書。家や車を買うときなどに使います

書いてあること

  • 主な読者:「源泉徴収票」に書かれている内容が知りたい新入社員
  • 課題:年末年始に配られる源泉徴収票が、何のために存在するのか分からない
  • 解決策:源泉徴収票は年収の証明書で、家や車のローンを組む際などに必要になる

クシャクシャ、ポイッ! 「源泉徴収票」という書類をもらったけど、よく分からないから捨てちゃった。年収が書かれていたけど、毎月の給料明細があるから問題ないでしょ。それに、私は過去の年収よりも、未来の年収に興味があるの! でも、先輩が「源泉徴収票は大事に保管するように」と言っていたな。捨てちゃいけなかったかしら……。

1 皆さんは「年収いくらの人」ですか?

年末年始に配られる「源泉徴収票」。毎月もらう給料明細と違い、内容を確認せずに捨てているかもしれません。しかし、この源泉徴収票は1年間(1月1日~12月31日)の皆さんの頑張りの証しとなる大切な書類ですから、しっかり確認するようにしましょう。

源泉徴収票には、

その年(前年)の給料の合計額や、差し引かれた税金・社会保険料の情報

が書かれています。「自分は年収いくらなの?」、こんなことを気にするときもあるでしょうが、それを確認できるのが源泉徴収票です。

なお、源泉徴収票には、

  • 給与所得の源泉徴収票:会社から支払われる給料に関する書類
  • 退職所得の源泉徴収票:会社から支払われる退職金に関する書類
  • 公的年金等の源泉徴収票:法律に基づき支払われる公的年金に関する書類

の3種類がありますが、ここでは皆さんと関係の深い「1.給与所得の源泉徴収票」の内容を説明します。源泉徴収票の情報を読むことは、社会人としての自分のポジションを意識するきっかけにもなりますし、皆さんが目指す年収をアップさせていくためのスタートです!

2 さっそく源泉徴収票を読んでみよう!

さっそく源泉徴収票を確認していきましょう。以下は源泉徴収票のフォーマットです。①から⑳までに書かれている内容を紹介します。ちょっと小難しい言葉が続きますが、例えば、自分とは関係ないと思う項目は読み飛ばしてもらっても大丈夫です。

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1)支払を受ける者

「支払を受ける者」の欄には、皆さんの住所・役職・氏名が書かれています。

2)種別

「種別」の欄には、支払われた金額の性質が書かれています。会社員であれば、一般的には「給料・賞与」と書かれています。

3)支払金額

「支払金額」の欄には、1年間に支払われた給与、賞与などの合計金額が書かれています。これが年収ですね!

4)給与所得控除後の金額

「給与所得控除後の金額」の欄には、支払金額から給与所得控除を差し引いた金額が書かれています。給与所得控除とは、給料をもらった人が受けられる控除額で、収入金額ごとに決められています。

5)所得控除の額の合計額

「所得控除の額の合計額」の欄には、年末調整で皆さんが申告した各種の所得控除の合計額が書かれています。例えば、皆さんは生命保険に入っていると思いますが、その場合、「生命保険料控除」が受けられます。

6)源泉徴収税額

「源泉徴収税額」の欄には、その1年間で源泉徴収されている税額が書かれています。皆さんが毎月受け取る給与は、会社が一定の所得税を源泉徴収した後の金額です。ただ、源泉徴収される金額は仮のもので、その時点では正しいとは限りません。そこで年末に正しい金額に調整するのが「年末調整」であり、「源泉徴収税額」の欄には年末調整後に確定した金額が書かれています。

7)(源泉)控除対象配偶者の有無等~非居住者である親族の数

それぞれの欄に該当する場合に◯印が付されたり、人数が書かれたりします。

  • (源泉)控除対象配偶者の有無等:配偶者控除の対象となる配偶者がいる場合、◯印
  • 配偶者(特別)控除の額:配偶者に一定以上の収入があるなど、配偶者特別控除の対象となる配偶者がいる場合、◯印
  • 控除対象扶養親族の数:扶養控除の対象となる親族がいる場合、その人数
  • 16歳未満扶養親族の数:16歳未満の扶養親族がいる場合、その人数
  • 障害者の数:扶養親族の中に障害者がいる場合、その人数
  • 非居住者である親族の数:外国などに居住する扶養親族がいる場合、その人数

8)社会保険料等の金額

「社会保険料等の金額」の欄には、給与から天引きされている健康保険料や厚生年金保険料などの合計金額が書かれています。

9)生命保険料の控除額

「生命保険料の控除額」の欄には、年末調整で申告した内容に基づいた控除額が書かれています。

10)地震保険料の控除額

「地震保険料の控除額」の欄には、年末調整で申告した内容に基づいた控除額が書かれています。

11)住宅借入金等特別控除の額

「住宅借入金等特別控除の額」の欄には、年末調整で申告した内容に基づいた控除額が書かれています。なお、住宅ローン初年度は自身で確定申告をする必要があります。年末調整で申告できるのは2年目以降です。

12)生命保険料の金額の内訳

「生命保険料の金額の内訳」の欄には、年末調整で申告した各区分の生命保険料の支払金額が書かれています。

13)住宅借入金等特別控除の額の内訳

「住宅借入金等特別控除の額の内訳」の欄には、年末調整で申告した自身の住宅ローンの詳細(居住開始年月日)や適用を受ける控除の区分などについて書かれています。

なお、住宅借入金等特別控除の額は居住後2年目以降の分について記載されます。

14)(源泉・特別)控除対象配偶者

「(源泉・特別)控除対象配偶者」の欄には、配偶者控除の対象となる配偶者の氏名と区分が書かれています。

15)配偶者の合計所得~所得金額調整控除額

「配偶者の合計所得」の欄には、年末調整で申告した配偶者控除の対象となった配偶者の合計所得が書かれています。

「国民年金保険料等の金額」「基礎控除の額」「旧長期損害保険料の金額」の欄には、自身が支払った国民年金保険料・旧長期損害保険料、自身に適用される基礎控除の額(48万円の場合は空欄で可)が書かれています。

「所得金額調整控除額」の欄には、年末調整で申告した内容に基づいた所得金額調整控除額が書かれています。

16)控除対象扶養親族

「控除対象扶養親族」の欄には、扶養控除の対象となる親族の氏名と区分が書かれています。

17)16歳未満の扶養親族

「16歳未満の扶養親族」の欄には、16歳未満の扶養親族の氏名と区分が書かれています。

18)未成年者~勤労学生

それぞれの欄に該当する場合に◯印が付されます。

  • 未成年者:その年の12月31日において18歳未満の者
  • 外国人:日本の国籍を有していない者
  • 死亡退職:退職事由が死亡に該当する者
  • 災害者:災害の被害を受け、給与に係る源泉徴収税等の徴収の猶予を受けている者
  • 乙欄:2カ所以上の事業者から給与を受けており、かつその会社で年末調整を行っていない(正確には扶養控除等移動申告書を提出していない)者
  • 本人が障害者:障害者に該当する者
  • 寡婦:夫と死別(生死が明らかでない場合を含む)、もしくは離婚後に婚姻していない女性で、一定の要件を満たしている者
  • ひとり親:夫や妻と死別(生死が明らかでない場合を含む)、もしくは離婚後に婚姻していない人で、一定の要件を満たしている者
  • 勤労学生:働いている学生である者

19)中途就・退職、受給者生年月日

「中途就・退職」の欄には、年の中途で就職した場合には就職日が、退職した場合には退職日が書かれています。「受給者生年月日」の欄には、自身の生年月日が書かれています。

20)支払者

「支払者」の欄には、会社の住所や社名などが書かれています。

3 源泉徴収票っていつ必要?

年収を確認する以外にも、副業で収入があった場合などに源泉徴収票が必要になります。

1)副業で20万円超稼いだときなど(確定申告をするとき)

副業による20万円超の所得や、不動産所得などがある場合、所得税の確定申告をしなければなりません。その際は、副業など給与所得以外の所得とあわせて源泉徴収票の情報が必要になります。

2)家や車を買うとき(住宅ローンやマイカーローンを申請する時)

家や車を買って、そのローンを申請する際、銀行などから源泉徴収票が求められるのが通常です。銀行などは、源泉徴収票から、皆さんの信用評価や借入限度額を判断しているのです。

3)転職したとき

転職した場合、新しい勤め先に源泉徴収票を提出しなければなりません。そうしないと、新しい勤め先で年末調整を受けることができず、自分で確定申告をしなければならなくなります。

いかがでしょうか。源泉徴収票の大切さをお分かりいただけたと思います。「あっ、源泉聴取票を捨てちゃった!!」という人も安心してください。会社にお願いすれば源泉徴収票は再発行してもらえます。ただ、次からはきちんと保管してくださいね!

以上(2025年1月更新)

pj00691
画像:Mariko Mitsuda

慣れていない人も「プレゼンの達人」に近づける4つのポイント

1 「プレゼンの達人」は「ビジネスの達人」

プレゼンテーション(以下「プレゼン」)はビジネスシーンに欠かせないものです。また、正式な「プレゼン」の場でなくとも、オンライン会議やあいさつの際に、ちょっとした説明でプレゼン能力が求められることもあります。

どんな良い商品・サービスも、それが相手に伝わらなければビジネスにはなりませんから、そうした意味では、「プレゼンの達人」は「ビジネスの達人」ともいえるでしょう。

この記事では、慣れていない人もプレゼンの達人に近づける「プレゼンのコツ」として、次の4つのポイントを紹介します。

  1. ストーリー:プレゼン全体の流れを整理する
  2. 話す順番(構成):3つの構成(SDS、PREP、提核背補)をマスターする
  3. 振る舞い方:聞き手に好印象を与える
  4. 場作り:聞き手を巻き込む

2 (ポイント1)ストーリー~プレゼン全体の流れを整理する

ストーリーとは、いわばプレゼン全体の「流れ」のことです。「伝えたいこと」を明確にし、それを軸にして流れを整理しておくことで、限られた時間内でも効果的に自社商品・サービスの魅力を伝えることができます。

次の順番で少しずつストーリーをブラッシュアップしていくと、整理がしやすくなります。

  1. 頭の中でストーリーを整理
  2. 紙に簡単に流れを書いてみる
  3. 声に出して説明してみる
  4. 支離滅裂なところや、強引な展開のところを修正する
  5. 「1~4」を繰り返す

ストーリーを整理するときのポイントは、次の通りです。

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このようなポイントを押さえてストーリーを作ると、伝えたいことを効果的かつ自然な流れで伝えられるプレゼンになります。

また、パワーポイントなどでスライドを作成してからプレゼンに臨む人も多いでしょう。慣れていない人はスライドに余白があることを恐れ、たくさんの情報を盛り込もうとしますが、これは間違いです。余白を恐れず、

「1枚のスライドに、伝えたいことは1つ」

を意識しましょう。スライドの中央にメッセージが1つだけだと、作り手としては「情報量が少ないかも……」と不安になってしまいそうですが、聞き手はむしろ「大切なポイントなのだな」と認識します。

3 (ポイント2)話す順番(構成)~3つの構成をマスターする

ここでは、プレゼンをするにあたり、聞き手に「効果的に伝える」ことができる3つの構成(SDS、PREP、提核背補)について紹介します。

1)SDS

SDSは、

1.Summary(全体要約)→ 2.Details(詳細説明)→ 3.Summary(全体要約)

の流れでプレゼンを進める構成です。比較的短い時間内でのプレゼンに向いており、

要約をプレゼンの始めと終わりに置くことで、効果的に要点を伝える

ことができます。

また、「キラーフレーズ(相手に決断を促す決まり文句)」を用意しておくと、プレゼンを終える際、強い印象を与えることができます。

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2)PREP

PREPは、

1.Point(要点) → 2.Reason(理由) → 3.Example(具体例) → 4.Point(要点)

の流れでプレゼンを進める構成です。要点(最も伝えたいこと)をプレゼンの始めと終わりに伝えるのはSDSと似ていますが、加えて

「3.Example(具体例)」を織り込むことで、聞き手の共感を得て、プレゼン内容を「自分ごと」として捉えてもらいやすくなる

という特徴があります。

とにかく簡潔にまとめるSDSとは対照的に、話の内容で共感を得ることがPREPの狙いの1つ。時間を比較的長く使えるときなどに使用すると、聞き手を引き付けやすくなります。

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3)提核背補(てい・かく・はい・ほ)とは

提核背補は、

1.提案 → 2.核心 → 3.背景 → 4.補足

の流れでプレゼンを進める構成です。商談中に突然、「軽くサービスを説明してもらえますか?」と求められた際に、この「提核背補」を頭に入れてから臨むと、限られた時間の中でも相手を飽きさせずにプレゼンを行うことができます。具体的には、次のように内容を組み立てます。

  1. 提案:なぜ、相手があなたのプレゼンを聞いたほうがいいのかを明確に提案
  2. 核心:提案の核心として、最も大きいメリットやデメリットを説明
  3. 背景:提案をした社会的な背景を説明
  4. 補足:補足があれば説明。ないようであれば、「3.背景」で終わりでよい

提核背補は、話すときはもちろんですが、資料を作る際の構成としても活用できます。

4 (ポイント3)振る舞い方~聞き手に好印象を与える

ここでは、構成以外にプレゼンを成功させるためのコツをいくつか紹介します。

1)身ぶり手ぶりはオーバー気味に

話し手が聞き手に与える印象も、プレゼンの結果に大きく影響します。印象は、態度・身ぶり・手ぶり・姿勢・外見・表情・視線・声・服装などから判断されるため、特に次の点に注意しましょう。

  • 熱意ある態度で接する
  • ジェスチャーを効果的に使う
  • 背筋を真っすぐに伸ばす
  • 話の内容に表情を合わせる
  • 話し掛けるほうへ顔を向ける
  • 全員に目配りをし、特定の人ばかりに集中しない
  • 大きな声でゆっくりと話す

2)聞き手に好印象を与える「Z法」

数人相手のプレゼンであれば、日常的にこなしている方も多いでしょうが、例えばセミナーなどを開く場合、数十人単位の前でプレゼンする機会が設けられることもあります。

そんなとき、聞き手に好印象を与えることができるとされているのが「Z法」です。米国の大統領など、何千・何万人単位の前で話す人が取ることもある手法で、

視線と体の向きを会場の後方左側から、アルファベットのZを描くようにゆっくりと動かす

ことです。こうすると、聞き手は話し手のことを「全体を見ている人」「余裕がある人」と見てくれます。

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ただし、やりすぎは厳禁。意識をしすぎると、かえって「落ち着きのない人」という印象を与えかねないので、注意してください。

3)自分の言葉で自然に話すのが吉

原稿を準備するのは大切ですが、それを読むだけでは「魅力的なプレゼン」とは言えません。重要なポイントをしっかりと覚え、それ以外はアドリブでも話せるように、内容をかみ砕き、頭の中に落とし込んでおきましょう。

わざとらしくない自然体のプレゼンは好印象を与えますし、プレゼン中の不測の事態にも焦らず対応できる

ようになります。

また、「専門用語を多用せず、分かりやすい言葉を選ぶ」「自分自身が経験していることを話す」といった点を押さえて話すことで、話す内容により「手触り感」が出て、関心を持ってもらいやすくなります。

5 (ポイント4)場作り~聞き手を巻き込む

プレゼンでは、「場作り」も重要です。「場作り」とは、聞き手をプレゼンに引き込み、発言しやすい和やかな雰囲気を作ること。コツはいくつかありますが、代表的な方法は、

聞き手に質問するなどして、プレゼンに巻き込むこと

です。聞き手を「聞くだけの存在」にしてしまうと、ほとんどリアクションがなくなってしまいます。そこで、聞き手を「聞くだけではなく、答える存在」にします。プレゼンを真剣に聞いてもらうには、聞き手に当事者意識を持たせ、話し手と聞き手が相互参加できるプレゼンにすることが重要です。

また、聞き手を引き込むために、プレゼンの際、

話し手と聞き手で共通のフレーズがあると便利

です。例えば、話し手が冒頭で「りんごを包丁1本で、どうやって均等に切り分けるか?」という話をしたとしましょう。冒頭だけで終わりではなく、プレゼンの途中に「りんご」に関するネタをいくつか仕込んでおきます。「りんご」というキーワードが出てきたら、自然と聞き手の意識がプレゼンへ向き、聞きやすく、自分の頭で理解しやすいプレゼンになるでしょう。

6 (おまけ)リモートでプレゼンをする際の注意点

リモートでのプレゼンは、相手が目の前にいないため相手の反応が分かりにくいのが、対面のプレゼンとの大きな違いです。相手の反応をつかめないままプレゼンを進めると、聞き手が置いてきぼりになってしまう恐れがあります。

こうしたリスクを避けるためには、聞き手に対してこまめに質問の有無を確認し、プレゼン中にも気軽に質問できるようにチャットでの質疑応答に対応することなどが効果的です。

また、プレゼン資料も、リモートの利点を活かし、イラストや図表、場合によっては説明動画などを追加し、聞き手の注意を引きつけることも重要になるでしょう。

以上(2025年2月更新)

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画像:LadadikArt-Adobe Stock

【業務効率化】PERT図を作成してプロジェクトの状況を「見える化」しよう

1 PERTを使えばプロジェクトの滞留を予防できます!

突然ですが、皆さんの会社のプロジェクトで次のような状態になった経験はありませんか?

  • 多くの工程は順調なのに、特定の工程がネックになって滞ってしまった
  • 作業を均等に分担したはずなのに、ある担当者だけはいつも暇そうだ
  • プロジェクトが進んでいないが、どこで止まっているのか分からない

こうした経験のある方にご紹介したいのが、

PERT(Program Evaluation and Review Technique)

です。PERTとは、

1つ1つの作業工程を「前の工程が終わらないと次の工程が始められない」という依存関係に従って矢印でつないでいき、それぞれの工程に所要時間を記入していく手法

です。PERTを進めるための「PERT図」を作成することで、

  • 各工程にどのくらいの時間が必要なのか
  • 各工程がどのような関係にあるのか
  • どのような順序で進めればよいのか

といったことが「見える化」できます。この記事では、PERT図の作成方法と具体的な使い方を解説します。

2 PERT図の作成方法

1)必要な作業を洗い出し、所要時間を算出する

例えば、あるプロジェクトで必要な作業がA~Gに分けられるとします。各作業の前後関係を明らかにし、それぞれの所要時間を「日」単位で算出してみると、次のようにまとめられます。

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まず、次の3種類の時間を見積もります。

  • 楽観的推定時間(a):作業が何の問題もなく順調に進んだ場合の時間
  • 推定所要時間(b):同様の作業の実績などから妥当だと見積もられる時間
  • 悲観的推定時間(c):問題が発生したため想定以上にかかる時間

推定所要時間で作業が完了する確率が最も高いという前提で、それぞれに重み付けをして平均値を算出します。重みは、推定所要時間が4、楽観的推定時間と悲観的推定時間はそれぞれ1とし、以下の式で所要時間を算出します。

  • 所要時間=(a+4×b+c)/6

2)各作業の関係を矢印で結ぶ

PERTでは各作業の関係を「○」と「→」で示します。これをアローダイヤグラムといいます。

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「○」は「ノード」と呼ばれ、各作業の始まりと終わりを表します。「→」は、それぞれの「作業」を表します。PERTでは「作業」のことを「アクティビティ」といいますが、この記事では説明を分かりやすくするために「作業」と表記します。また、「作業A」などの作業名の下には、各作業にかかる所要時間(ここでは「日」単位)を記載します。なお、ノードに振られた番号は以降の説明のために付与したもので、それ自体に意味はありません。

アローダイヤグラムは、プロジェクトの全体像と各作業間の関係を表しています。例えば、「作業C」を始めるためには、その前工程である「作業A」を終了させなければなりません。また、「作業A→C→E」と「作業B→D→F」は、独立した一連の作業なので並行して進められますが、両方が終わらないと「作業G」は始められません。

3 PERTを機能させる3つのポイント

1)最早結合点時刻:全作業の所要時間を把握する

最早結合点時刻とは、当該ノードの次の作業を開始するために最低限必要となる時間です。例えば、ノード4の最早結合点時刻は6日です(作業Aの3日と作業Cの3日の合計)。また、ノード6の最早結合点時刻は9日です。ノード6にたどり着くには、「作業A→C→E」の9日と、「作業B→D→F」の7日が必要ですが、時間の多くかかる9日が最早結合点時刻となります。この考え方に基づき、最早結合点時刻を網かけで示すと次のようになります。

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なお、下段には最遅結合点時刻が入ります。まだ算出していないので、便宜上「x」としていますが、始点(ノード1)と終点(ノード7)は、最早結合点時刻と同じになります。

2)最遅結合点時刻:各作業のデッドラインを把握する

最遅結合点時刻とは、以降の作業が遅れないようにするために当該ノードに到達しなければならない最も遅い時刻です。いわゆる「デッドライン」です。最遅結合点時刻は、次のノードの最遅結合点時刻から、それらのノードをつなぐ作業の所要時間を差し引いて算出します。

ノード6の場合、次のノード7の最遅結合点時刻は13日なので、作業Gの所要時間4日を差し引いた9日(13日-4日)が最遅結合点時刻です。この考え方に基づき、最遅結合点時刻を網かけで示すと次のようになります。

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なお、通常は、始点と終点の最遅結合点時刻は最早結合点時刻と同じにしますが、プロジェクトの締め切りを終点の最遅結合点時刻として設定し、そこから各ノードの最遅結合点時刻を算出していくこともできます。

3)クリティカルパス:要注意の作業を把握する

図表4の「最遅結合点時刻の算出」を見ると、「作業A→C→E→G」の最早結合点時刻と最遅結合点時刻が同じです。つまり、スケジュールに余裕がないということです。このように、プロジェクト全体のスケジュールに影響を及ぼす経路を「クリティカルパス」といい、スケジュール管理に当たって最も注意しなければなりません。クリティカルパスは、太い矢印で分かりやすく示します。

なお、「作業B→D→F→G」については、最早結合点時刻と最遅結合点時刻に2日の差があります。これは、2日の余裕があることを意味します。つまり、クリティカルパスではありません。

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4 とにかく「クリティカルパス」をケアする

ここでは前章までに例として挙げたプロジェクトを題材に、PERTを利用して、プロジェクト全体の効率化を図るための考え方を紹介します。プロジェクトで発生する作業および作業のアローダイヤグラムは次の通りです。

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作業Dの所要時間が5日と最も長いので、ここに資源を集中して短縮しようと考えるかもしれません。しかし、「作業B→D→F」が早く完了しても、クリティカルパスである「作業A→C→E」が完了しなければ作業Gには進めません。むしろ、作業Dを短縮したことで待ち時間が延びます。そうではなく、クリティカルパス上の作業の短縮が必要です。

その際、クリティカルパスの変化に注意しましょう。資源を集中し、「作業A→C」を計3日で完了できるようにした場合、作業Eの3日を加えても「作業A→C→E」の所要時間は6日となり、「作業B→D→F」の所要時間である7日を下回ります。この時点で、クリティカルパスは「作業B→D→F→G」に変わりました。しかし、これに気付かずに、作業Eにさらに資源を投入して所要時間の短縮を図っても、プロジェクト全体の効率化にはつながりません。

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5 小規模なプロジェクトでは逆に非効率

PERTではアローダイヤグラムを作成しますが、そのためには作業の細分化、作業順序の特定、所要時間の見積もりなどの準備が必要です。これらの準備は大変ですが、手を抜くと「想定とクリティカルパスが違う」などの問題が生じます。作業数が少ない小規模なプロジェクトならアローダイヤグラムは簡単に作成できますが、そもそもPERTを利用するまでもなく進められるので、無理にPERTを利用するのは非効率です。

以上(2025年1月更新)

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画像:ribkhan-Adobe Stock

【中堅社員のスピーチ例】自分の立場を忘れてみよう

【ポイント】

  • お客さま対応では、「自分の立場を一旦忘れてみること」が大切
  • こちらの都合を通すことばかり考えると、相手の話を真摯に聞くことができなくなる
  • 常識の違いが当然だと思えれば、お客さま対応の際にも心の余裕が生まれる

おはようございます。突然ですが、皆さんにはお客さまと接する際、何か心掛けていることはありますか? ちなみに私が心掛けているのは、「相手の立場に立つこと」です。もっと言うと、相手の立場に立つ際に、「自分の立場を一旦忘れてみること」を意識しています。

これは、私の前職での経験談です。通販サイトに商品を出品するお客さまから、電話でクレームをいただいたことがありました。内容は「通販サイトには、自分が出品したい商品に合致するカテゴリーがない。カテゴリーの種類を見直してほしい」というものでした。

私は、「カテゴリーの種類は、他のお客さまの使い勝手も考慮して設定したもので、簡単には変えられない」と説明しました。しかし、相手はなかなか納得せず、私は次第に「たかがカテゴリーぐらいで……」と腹が立ってきました。私のイライラが態度にも出ていたのでしょう。見かねた当時の上司が、途中から電話を代わってくれましたが、対応が一段落した後で、私は上司に叱られました。

上司は私にこう言いました。「電話のとき、『たかがカテゴリーぐらいで……』と思っていただろう。君にとってはそうでも、お客さまは違う。自分のことばかり考えているから、あんなふうにイライラするんだよ」と。上司はさらに、お客さまが今回出品しようとしていた商品は、かなり長い時間をかけて作られたもので、お客さまは商品に強い誇りを持っていたということも話してくれました。

私は反省しました。電話を取ったタイミングでは「お客さまの話を真摯に聞こう」と思っていたのに、「カテゴリーは簡単に変えられない」というこちらの都合を分かってもらえないだけで、相手を「面倒くさい客」と決めつけ、話を聞こうとしていなかったのです。だから、この件以降、私は相手の話を聞く際、自分の立場のことは一旦忘れ、全て聞いてから結論を出すようにしているのです。

お客さまはこの業界のプロではありません。こちらの常識が通用しなくて当たり前です。こちらにとっては「つまらないこと」も、相手にとっては「重要なこと」なのです。それが当然だと思えれば、「まずは相手の思いを受け止めよう。対応するのはその後でも遅くはない」という、心の余裕が生まれます。私個人の経験則ですが、皆さんの参考になれば幸いです。

以上(2025年2月作成)

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画像:Mariko Mitsuda