佐川急便G、月8400時間の作業自動化 物流改革、AIが主役 川上から需要予測も(日経ビジネス電子版, 2024/06/21)

「2024年問題」で人手不足が加速する物流業界も、AI活用が死活問題だ。佐川急便グループは伝票処理や配送などあらゆる業務の見直しを進める。メーカーや卸大手はAIで需要予測の精度を高め、物流網全体の効率化を図る。

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「あれもこれも」ではもう稼げない トイレ空間に社運を賭す 埼玉発、プロの空間プロデューサー集団(日経ビジネス電子版, 2024/06/06)

「水回りトラブルあれもこれも解決」では目立てない。”プロのトイレ空間プロデューサー集団”として飛躍を狙ったのが、埼玉県所沢市の水道工事会社、石和設備工業だ。深刻な人手不足解消のため、人が集まる会社を目指す。

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新人作成のマニュアルで離職減 働き手本位で業界の慣習も覆す(日経トップリーダー, 2024/07号)

苦労して採用した社員に、定着し、活躍してもらうにはどうすればよいのか──。
「大量離職」を克服した町工場、人手不足の象徴ともいえる運送業で進む働き方改革に学ぶ。
「当たり前」になっている業務を「新人の目線」で点検し、作り直す覚悟が必要だ。

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独自分析 知財で見る生成AI各社の実力 中国が出願数で圧倒 日本は韓・欧に及ばず(日経コンピュータ, 2024/06/13号)

生成AI関連特許の出願数で中国が米国や日本を圧倒──。独自分析で国・地域の特許力が明らかになった。韓国も米欧の向こうを張って躍進、日本は5位に沈んだ。

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【財務分析】会社の良し悪しを判断する基本の指標20選

書いてあること

  • 主な読者:会社の状況について立てた仮説を検証したい社員
  • 課題:財務分析の指標は種類が多く、どれを使えばよいのか迷う
  • 解決策:「収益性」「安全性」「生産性」に着目して、仮説検証に必要な指標を使う

1 財務分析は「仮説→検証」の繰り返し

財務分析は、会社の状況について「仮説」を立て、それを検証するために行うものです。例えば、次のようなイメージです。

  • 「老朽化した設備があり、有形固定資産の効率性が落ちている?」と仮説を立てたら、有形固定資産回転率が低くないかを確認してみる
  • 「借入金が増加し、短期安全性が低下している?」と仮説を立てたら、流動比率や当座比率を比較してみる

この記事では、財務分析に使う代表的な20の分析指標を紹介します。ただし、上から順番に計算していく必要はありません。会社の状況で「収益性」「安全性」「生産性」のうち、どの要素を判断したいかによって、必要な指標を使いわけてみてください。

2 収益性に関する指標10選

1)総資本経常利益率

総資本経常利益率の計算式は次の通りです。この比率が高いほど収益性は高くなります。

総資本経常利益率=経常利益÷総資本

また、総資本経常利益率の計算式は次のように分解することができ、収益性に影響を与える要因をより詳細に分析できます。

総資本経常利益率

=(経常利益÷売上高)×(売上高÷総資本)

=売上高経常利益率×総資本回転率

2)売上高総利益率

売上高総利益率の計算式は次の通りです。この比率が高いほど収益性は高くなります。

売上高総利益率=売上総利益÷売上高

売上総利益は次の式で計算できます。

売上総利益=売上高-売上原価

売上原価とは、販売した商品の仕入れや製造にかかった費用です。例えば、小売業であれば販売した商品の仕入代金、製造業であれば製品の製造費用などが該当します。

3)売上高営業利益率

売上高営業利益率の計算式は次の通りです。この比率が高いほど収益性は高くなります。

売上高営業利益率=営業利益÷売上高

営業利益は次の式で計算できます。

営業利益=売上総利益-販売費及び一般管理費

販売費及び一般管理費とは、販売部門や総務・経理といった管理部門などで発生する費用です。人件費・事務用品費・旅費交通費・広告宣伝費・支払家賃・減価償却費などが該当します。

4)売上高経常利益率

売上高経常利益率の計算式は次の通りです。この比率が高いほど収益性は高くなります。

売上高経常利益率=経常利益÷売上高

経常利益は次の式で計算できます。

経常利益=営業利益+営業外収益-営業外費用

営業外収益とは、財務活動や投資活動など、本業以外で得た収益です。受取利息・受取配当金・有価証券売却益などが該当します。また、営業外費用とは、本業以外で発生した費用のことです。支払利息・手形売却損・有価証券売却損・社債利息などが該当します。

5)ROE(Return On Equity、自己資本利益率)

ROEの計算式は次の通りです。この比率が高いほど収益性は高くなります。

ROE=税引後当期純利益÷自己資本

6)ROA(Return On Assets、総資本利益率)

ROAの計算式は次の通りです。この比率が高いほど効率性は高くなります。

ROA=税引後当期純利益÷総資本

7)総資本回転率

総資本回転率の計算式は次の通りです。この比率が高いほど効率性は高くなります。

総資本回転率(回)=売上高÷総資本

なお、総資本回転率が悪化する例として、保養所などの売上獲得に直接貢献しない資産を多く所有していることなどが挙げられます。

8)売上債権回転率

売上債権回転率の計算式は次の通りです。この比率が高いほど効率性は高くなります。

売上債権回転率(回)=売上高÷売上債権

売上債権は次の式で計算できます。

売上債権=受取手形+売掛金など

9)棚卸資産回転率

棚卸資産回転率の計算式は次の通りです。この比率が高いほど効率性は高くなります。

棚卸資産回転率(回)=売上高÷棚卸資産

棚卸資産とは、販売されずに在庫として会社に残っている資産です。商品・製品の他に原材料・仕掛品なども含みます。棚卸資産回転率が低い場合、在庫過多や不良在庫の恐れがあります。

10)有形固定資産回転率

有形固定資産回転率の計算式は次の通りです。この比率が高いほど効率性は高くなります。

有形固定資産回転率(回)=売上高÷有形固定資産

3 安全性に関する指標7選

1)流動比率

流動比率の計算式は次の通りです。この比率が高いほど安全性は高くなります。

流動比率=流動資産÷流動負債

流動資産とは、現金預金・受取手形・売掛金・棚卸資産など1年以内に回収が見込める資産です。また、流動負債とは、支払手形や買掛金など1年以内に支払う必要のある負債です。

流動比率は、短期的な支出を短期的な収入でどの程度補うことができるかが把握できる指標です。1年以内という基準で資産と負債の比率を見るわけですが、「1年以内に回収できるか、また、支払いが可能かどうか」までは考慮されていません。そのため、資産と負債が同一の状態である100%では安全とは言い切れず、200%以上が望まれます。

2)当座比率

当座比率の計算式は次の通りです。この比率が高いほど安全性は高くなります。

当座比率=当座資産÷流動負債

当座資産は、流動資産から棚卸資産を除いた換金性の高い資産です。

当座資産=現金預金+受取手形+売掛金+有価証券など

受取手形・売掛金は、貸倒引当金を控除した後の値を用います。貸倒引当金とは、取引先の倒産などにより回収ができなくなる可能性がある金額を見積もった値です。

当座比率は流動比率よりも資産の回収可能性を考慮した指標であり、100%以上が望まれます。もし当座比率が低い場合、支払原資に対する短期借入金などの比率が大きいことが分かります。また、当座比率についても回収や支払いのタイミングは考慮されていません。流動比率が高いのに当座比率が低い場合、棚卸資産(在庫)が過剰となっている恐れがあります。

3)手元流動性比率

手元流動性比率の計算式は次の通りです。この比率が高いほど安全性は高くなります。

手元流動性比率(カ月)=(現金預金+有価証券)÷月商

手元流動性比率は、短期的な安全性を見る際に信頼できる指標です。なぜなら、手元流動性は、現金預金とすぐに現金化できる有価証券だけで安全性を評価するからです。一概にはいえませんが、中小企業の場合は1.7カ月以上が望まれます。

4)固定比率

固定比率の計算式は次の通りです。この比率が低いほど安全性は高くなります。

固定比率=固定資産÷自己資本

固定資産とは、建物や土地など1年超にわたって使用される資産です。固定比率は、短期では回収の難しい固定資産が返済期限の定めのない自己資本によってどれくらい賄われているか、企業の長期的な安全性を見るための指標で、100%以下となることが望まれます。

5)固定長期適合率

固定長期適合率の計算式は次の通りです。この比率が低いほど安全性は高くなります。

固定長期適合率=固定資産÷(自己資本+固定負債)

固定負債とは、社債や長期借入金など1年以内に支払う必要がない負債です。固定長期適合率は、長期的な安全性を見るための指標ですが、自己資本に加えて固定負債も考慮していることが特徴です。固定長期適合率は、100%以下となることが望まれます。

6)自己資本比率

自己資本比率の計算式は次の通りです。この比率が高いほど安全性は高くなります。

自己資本比率=自己資本÷総資本

自己資本比率は、総資本のうち、返済する必要がない自己資本が占める割合です。安全性の観点から見ると、自己資本比率は高ければ高いほど好ましくなります。ただし、負債で事業投資をして負債コスト以上の利益を上げている場合、自己資本比率が低くても問題はありません。 そのため、収益性の観点から見ると、自己資本比率が高ければ良いというわけでもありません。

7)負債比率

負債比率の計算式は次の通りです。この比率が低いほど安全性は高くなります。

負債比率=負債÷自己資本

負債比率は、負債と自己資本を比較する指標です。負債比率は、自己資本比率を補完するものですが、安全性分析としては、自己資本比率もしくは負債比率のどちらか一方を分析すれば良いといえます。

4 生産性に関する指標3選

1)労働生産性

労働生産性の計算式は次の通りです。この比率が高いほど従業員1人当たりの生産性は高くなります。

労働生産性(円)=付加価値÷従業員数

労働生産性の計算式を次のように分解すると、生産性に影響を与える要因の詳細が見えてきます。

労働生産性(円)

=(売上高÷従業員数)×(付加価値÷売上高)

=1人当たり売上高×付加価値率

2)設備生産性

設備生産性の計算式は次の通りです。この比率が高いほど資産当たりの生産性は高くなります。

設備生産性=付加価値÷有形固定資産

設備生産性の計算式を次のように分解すると、生産性に影響を与える要因の詳細が見えてきます。

設備生産性

=(売上高÷有形固定資産)×(付加価値÷売上高)

=有形固定資産回転率×付加価値率

3)労働分配率

労働分配率の計算式は次の通りです。この比率が低いほど生産性は高くなります。

労働分配率=人件費÷付加価値

労働分配率が高ければ、労働生産性が低いか、余剰人員を抱えている可能性があります。

以上(2024年7月更新)
(監修 税理士 谷澤佳彦)

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画像:pexels

【朝礼】モノレールには200年の歴史がある

おはようございます。今日は乗り物の「モノレール」について話をします。皆さんは、モノレールというと、その空中を走る姿から、2本のレールを走る普通の電車に比べ「新しい」「未来的」といったイメージを抱くかもしれません。ですが、その歴史は意外と古いのです。

辞書でモノレールの定義を調べると、「1本のレールで列車を走らせる鉄道」とあります。そんなモノレールが世界で最初に作られたのは、今から200年前、1824年の英国。ヘンリー・パルマという人物がロンドン埠頭(ふとう)内に敷設したのが最初です。ちなみに世界で初めて蒸気機関車が製作されたのが1825年、実はモノレールは汽車よりも歴史が古いのです。といっても、当時のモノレールは、今のような形ではなく、貨物を運搬するために、木材のレールに車両をまたがらせ、馬で牽引するというものでした。

次にモノレールが歴史の表舞台に出てくるのは、そこから60年以上後、1888年のアイルランド。蒸気機関車で貨物を牽引輸送するモノレールが整備され、約40年運送されたそうです。

モノレールが都市交通機関として使われるようになったのは、1901年のドイツ。ここに来てようやく、人を乗せるモノレールが登場します。

ちなみに、日本でモノレールが本格始動するのは1964年。東京五輪が開催された年で、主に選手の輸送を目的として作られたそうです。その後、自動車の普及によって道路の渋滞問題が発生し、その問題解決の手段としてモノレールの需要が高まり、今の形へとつながっていくわけです。

以上、モノレールの歴史をざっくりお伝えしましたが、私が注目してほしいのは、1824年に初めてモノレールを作ったヘンリー・パルマです。皆さん、彼の気持ちになってみてください。当時のモノレールは、あくまで貨物運搬が目的。それも、建築現場という限られた場所で使われ、人が乗るような代物ではありませんでした。パルマ自身、まさか自分の考案したモノレールが、200年後に今のような形で使われるなんて、想像もしなかったでしょう。

モノレールが次に姿を現すのが、60年以上後というのも面白いです。水面下で実用化のための研究が進められていたのか、何十年もたってからパルマのモノレールに着目する人がいたのかは分かりませんが、いずれにせよ、昔のテクノロジーが時代を経て呼び起こされるのはロマンがありますよね。

私たちは、今自分たちの周りにあるものから、ビジネスの可能性を模索しようとしがちですが、新しいビジネスのアイデアは、意外と昔のテクノロジーの中に眠っているのかもしれません。たまには歴史をひもといて、昔に目を向けてみてはどうでしょうか。私たちが今当たり前に使っているテクノロジーも、何百年か後には全く違う形で使われているかもしれない、そんなことを想像するのも面白いですね。

以上(2024年8月作成)

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画像:Mariko Mitsuda

【財務分析】仕入れや販売をしたときに財務諸表の数値はどう変化する?

書いてあること

  • 主な読者:財務諸表の構造や読むときのポイントを知りたい人
  • 課題:財務諸表は数字や似通った専門用語が多く、どこを見ると良いのかがわからない
  • 解決策:商品の仕入れや販売などの身近な活動に落とし込んで、それらが財務諸表にどのような影響を与えるのかを考えてみる

1 日々の企業活動は財務諸表にどう影響する?

財務諸表(損益計算書、貸借対照表)を慣れるには、

商品の仕入れや販売などの活動が、財務諸表のどのような箇所に影響するか

を実際に確認してみることが大切です。

財務諸表にはさまざまな数字が出てきますし、似通った専門用語も多いため、最初はどこを見ると良いのかがわからないかもしれません。しかし、慣れてくると、ポイントを押さえて読めるようになり、それほど時間をかけずに会社の財務状況を大まかにつかめるようになります。

この記事では、財務諸表の概要を説明した上で、仕入れや販売などの身近な活動が財務諸表の数値にどのように影響するかを見ていきます。

2 損益計算書の概要

損益計算書は、

会社が一定期間の営業活動によってどれだけの利益を上げられたかを示すもの

です。利益は次の5段階となっており、商品・サービスの売り上げから、売上原価や人件費などを差し引いて計算します。

  1. 売上総利益:自社の商品やサービスに係る売上から売上原価を差し引いた利益
  2. 営業利益:売上総利益から人件費など販管費を差し引いた本業にかかる利益
  3. 経常利益:営業利益から受取・支払利息などの本業以外の収益・費用を反映した利益
  4. 税引前当期純利益:経常利益から臨時的に生じた特別利益・損失を反映した利益
  5. 当期純利益:税引前当期純利益から法人税等の金額を差し引いた最終の利益

どの利益を重視するかは、損益計算書を読む理由や読み手の立場によって異なります。例えば、投資家などは会社の配当原資がどの程度あるのかを見るために、当期純利益に注目します。また、類似商品を扱う競合他社の損益計算書を見る際は、売上原価を差し引いた売上総利益などに注目します。

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3 貸借対照表の概要

貸借対照表は、

決算期末時点における会社の資金調達・運用の状況を示すもの

です。会社は借り入れや株式発行などにより資金調達を行い、調達した資金で商品を仕入れたり、機械装置を購入したりしますが、その資金の状態を示すのが貸借対照表です。貸借対照表を読む際は、次の5つの項目に注目します。

  1. 流動資産:現金預金や売掛金など短期間(1年以内)で現金化できる資産
  2. 固定資産:1年を超えて現金化されず、長期間保有・使用される資産
  3. 流動負債:買掛金や短期借入金など返済期限が短期間(1年以内)の負債
  4. 固定負債:返済期限が1年を超える負債
  5. 純資産:株主からの出資金や事業活動から得た利益の蓄積額など

業種や企業の事業戦略などによって、どの項目が高めなのか、または低めなのかといった特徴が異なります。

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4 仕入れや販売で貸借対照表と損益計算書はどう変化する?

1)事業活動の概要(前提条件)

ここでは、小売業A社の仕入れ、販売などの事業活動が貸借対照表と損益計算書にどのような影響を与えるかを解説します。

小売業A社は、この1年間で次の事業活動を行いました。以降は第1事業年度とします。

a.営業用資金として、金融機関から長期で1000万円を借り入れる。また、自己資金の注入により、株主資本が500万円となる

b.営業店舗として土地を250万円、建物250万円を現金500万円で取得する(建物の減価償却期間は25年、減価償却費は年間10万円とします)

c.商品を1個当たり3000円で2000個、現金で仕入れる

d.仕入れた商品を1個当たり5000円で1000個、現金で販売する

e.減価償却費10万円を販管費に計上し、第1事業年度の税金(税引前当期純利益の30%の57万円)を翌事業年度(第2事業年度)に支払うことになるため未払計上する

上記の事業活動を仕訳(取引を借方と貸方に分けたうえで、取引内容に応じて適切な勘定科目に振り分けること)した結果は次の通りです。

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2)財務諸表の変化

1.小売業A社の貸借対照表

仕訳結果に基づいて、第1事業年度の小売業A社の貸借対照表の変化を見てみましょう。

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2.小売業A社の損益計算書

次に、第1事業年度の小売業A社の損益計算書を見てみましょう。

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損益計算書の一番下にある当期純利益は、会社の最終的なもうけを表す項目です。来期の初めの貸借対照表では、当期純利益は純資産に利益剰余金として計上され、会社が更なる成長を遂げるための投資や、自己資本の充実により財務基盤を強化するための原資に充てられます。第2事業年度期首の小売業A社の貸借対照表は次の通りです。

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以上(2024年7月更新)
(監修 税理士 谷澤佳彦)

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画像:Rawpixel.com-shutterstock

【高齢者雇用】定年退職した社員にフリーランスで手伝ってもらう場合の注意点

書いてあること

  • 主な読者:定年退職した社員と業務委託契約を交わしたい経営者、人事労務担当者
  • 課題:業務委託契約に不慣れで、実務のポイントが分からない
  • 解決策:フリーランスは社員ではなく外部の人間であることを前提に検討する

1 継続雇用と業務委託のハイブリッド

2021年4月1日以降、いわゆる「70歳までの就業機会確保」により、会社は社員が70歳まで働ける機会を確保する「努力義務」を負っています(改正高年齢者雇用安定法)。

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具体的な方法は、

  • 継続雇用制度などによる「雇用確保措置」
  • 業務委託契約などによる「創業支援等措置」

となりますが、現在、多くの会社は65歳までの継続雇用制度を導入しているので、これを70歳まで延長するのが最も簡単です。ただし、高年齢者の中には、セカンドライフの充実などのために、自由度が高い業務委託契約を希望する人もいるかもしれません。

人材を確保しつつ、こうした高年齢者の希望に沿うためには、

継続雇用制度をベースに、希望者は業務委託契約に切り替える

という設計も検討できます。そこで、この記事では、新たに創設された創業支援等措置の導入のステップや業務委託契約の注意点などを紹介していきます。

2 「創業支援等措置の計画」がカギ

高年齢者と業務委託契約を締結する流れは次の通りです。

  1. 創業支援等措置の計画を策定する
  2. 過半数労働組合等の同意を得る
  3. 創業支援等措置の計画を社内に周知する
  4. 個々の高年齢者と業務委託契約を締結する

「創業支援等措置の計画」(以下「計画」)では、次の12の事項を定めます。

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この計画を過半数労働組合等の同意を得て社内に周知すれば、業務委託契約を締結できるようになります(労働基準監督署などに届け出は不要)。計画を作るのは面倒ですが、高年齢者との業務委託契約の内容は計画をベースに決定されるので、

契約内容への誤解などから、会社と高年齢者がトラブルになるリスクを低減

することができます。

3 創業支援等措置の計画を作成・運用する際のポイント

業務委託契約を交わす高年齢者は社員ではなく外部の人間なので、

  1. 独占禁止法、下請法、フリーランス保護新法(2024年11月1日施行)に違反しないこと
  2. 実質的に「労働者」となるような指示等を行わないこと

に注意しましょう。なお、1.のフリーランス保護新法については、まだなじみが薄いという人もいるでしょうが、簡単に言うと

「下請法に関係なく、会社はフリーランスを保護しなさい」という趣旨の法律

です。フリーランスは、契約する会社が一定の資本金要件を満たす場合、下請法による保護を受けられますが、中小企業はその資本金要件を満たさないケースが多く、フリーランスが保護されにくいという問題があり、これを解決するためにフリーランス保護新法がされました。

厚生労働省によると、

創業支援等措置を新たに設ける場合も、労働基準法の「退職に関する事項」として、業務委託契約を締結する旨や対象者の範囲等を、就業規則等に記載する必要がある

とされていますので、1.と2.を踏まえつつ、計画に記載する12項目の中から厚生労働省のパンフレットで、特に注意が必要とされる6項目のポイントを紹介します。

1)高年齢者が従事する業務の内容

フリーランス(高年齢者)が従事する業務の内容は、本人の知識・経験・能力等を考慮した上で定めます。「元社員だから」ということで会社が一方的に業務を決めてしまいがちですが、契約内容の一方的な決定や不当な契約条件の押し付けは独占禁止法、下請法違反になります。

フリーランス(高年齢者)と社員の業務内容が同じでもよいのですが、労働時間、休日、責任の重さなどまで同じになると、「労働者」として労働基準法などの適用を受けます。この場合、稼働時間に応じた割増賃金の支払いなどが必要になることがあります。

なお、2024年11月1日からはフリーランス保護新法により、

社員と同じように、業務内容を書面やメールで明示すること

が義務付けられます。また、

フリーランス(高年齢者)に落ち度がないのに「納品物などの受領を拒絶する、返品する」「業務内容を変更させる、やり直させる」といった行為も同法違反

となります。

2)高年齢者に支払う金銭

フリーランス(高年齢者)に支払う金銭は、「1回の契約(または1活動など)当たり△△円以上」といった具合に定めます。高年齢者が社員だった頃の基準とは切り離し、業務の内容や当該業務の遂行に必要な知識・経験・能力、業務量などを考慮して金額を設定しましょう。

フリーランス(高年齢者)に支払う金銭を理由なく減額したり、支払いを遅らせたりすることは、独占禁止法、下請法違反になります。

なお、2024年11月1日からはフリーランス保護新法により、

  • 報酬の額、支払い期日等を書面やメールで明示すること
  • 報酬の支払い期日について、原則として納品などの日から起算して60日以内で、かつできる限り短い期間内に設定すること

が義務付けられます。また、

フリーランス(高年齢者)に落ち度がないのに「報酬を減額する」行為なども同法違反

となります。

3)契約を締結する頻度

契約を締結する頻度は、「○○に関する業務を1年当たり○回から△回まで」といった具合に定めます。適切な頻度は個々のフリーランス(高年齢者)のスキルや健康状態などによっても変わるので、65歳時点での業務量なども考慮して決めましょう。

4)契約に係る納品の方法

契約に係る納品は、「履行期限は発注後○日から△日とし、個別契約で定める期限までに○○により納品する」といった具合に定めます。成果物が契約で定められた目的を達成していないときは、やり直しを求めることができますが、フリーランス(高年齢者)は自己の責任と判断で委託業務を行うことになり、業務上の指揮命令関係があるわけではないため、社員と同じように指示できるわけではないことに注意が必要です。

また、納品された成果物の「検収(発注内容に沿っているかを検査すること)」も重要な問題です。会社側はちゃんと成果物をチェックしたつもりでも、受託者にそれが伝わらないとトラブルになるので、検収のルールは明確に決めておきましょう。

5)契約の変更

契約の変更は、「委託業務の内容、実施方法など契約条件の変更を行う必要があると判断した場合は、甲乙協議の上、変更することができる」といった具合に定めます。例えば、業務の内容の場合、外部に発注する業務がなくなったときや、フリーランス(高年齢者)の健康状態が悪化したときなどに変更が必要になります。ただし、一方的に契約内容を変更することはできませんので、フリーランス(高年齢者)と合意した上で変更しましょう。

6)安全・衛生

安全・衛生は、「機械器具・原材料による危害を防止するために必要な措置を講じる」など、会社が行う取り組みの内容を定めます。

フリーランス(高年齢者)には労働安全衛生法や労働契約法が適用されないので、会社は安全衛生管理をしなくてもよいと思うかもしれませんが、例えば、納期が極めて短期であり過重労働とならないように、適切な納期を設定することなどが必要になります。

なお、2024年11月1日からはフリーランス保護新法により、

社員と同じように、ハラスメントの防止や出産・育児・介護への配慮といった「就業環境の整備」を行うこと

が義務付けられます。

7)その他(成果物の権利)

1)から6)までの内容の他、「納品された成果物の権利」も重要です。例えば、フリーランス(高年齢者)の成果物が、本人の思想や感情を創作的に表現する「著作物」に該当する場合、

  • 著作権(著作財産権):著作物を勝手に複製されたり、配信されたりしない権利
  • 著作者人格権:著作物を勝手に公表されたり、内容を変更されたりしない権利

が認められます。著作権(著作財産権)については著作者以外への譲渡もできますが、著作者人格権については譲渡不可なので、納品後にその内容を公表したり、変更したりするにはフリーランス(高年齢者)の同意が必要になります。

フリーランス(高年齢者)による制作物を、編集したり修正したりすることが想定される場合には、フリーランス(高年齢者)から、制作物に関する「著作権(著作権を含む知的財産権)を譲渡する」ことに加え、「著作者人格権を行使しない」ことについても同意を得た上で、契約書に記載することなどを検討するとよいかもしれません。

以上(2024年8月更新)
(監修 みらい総合法律事務所 弁護士 田畠宏一)

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画像:Jacob Lund-Adobe Stock

IPA「情報セキュリティ10大脅威」と 必ず押さえておきたい5つの基本対策

書いてあること

  • 主な読者:自社の情報セキュリティについて、しっかり対策を講じたい経営者
  • 課題:そもそもどのような脅威があるのか、どこから着手するべきかを知りたい
  • 解決策:IPAの「情報セキュリティ10大脅威」を確認しつつ、ウイルス対策ソフトの導入などの基本対策を講じる

1 対策の第一歩は、どのような脅威があるのか知ることから

サイバー攻撃によって通常業務ができなくなってしまう。そんな恐ろしい事態が突然やってくるかもしれません。もはや誰もが無関係ではいられないのです。

足下では、出版大手KADOKAWAで、グループ会社のデータセンターのサーバーがランサムウェアによるサイバー攻撃を受けるなどしてシステム障害が発生し、「ニコニコ動画」や書籍の出版といったグループ全体の事業に影響が出ています。

大企業などと比べて情報セキュリティが弱いとされる中小企業こそ、サイバー攻撃の格好の餌食にならないよう、適切な対策を講じなければなりません。

その第一歩は、自社を取り巻く環境にどのような脅威があるのかを知ることです。

IPA(情報処理推進機構)が毎年公表する「情報セキュリティ10大脅威」で、社会的に影響の大きい情報セキュリティの脅威を確認してみましょう。

■IPA「情報セキュリティ10大脅威2024」■
https://www.ipa.go.jp/security/10threats/10threats2024.html

(図表)【情報セキュリティ10大脅威2024】

「個人」向け脅威(五十音順)
初選出年
10大脅威での取り扱い
(2016年以降)
インターネット上のサービスからの個人情報の窃取
2016年
5年連続8回目
インターネット上のサービスへの不正ログイン
2016年
9年連続9回目
クレジットカード情報の不正利用
2016年
9年連続9回目
スマホ決済の不正利用
2020年
5年連続5回目
偽警告によるインターネット詐欺
2020年
5年連続5回目
ネット上の誹謗・中傷・デマ
2016年
9年連続9回目
フィッシングによる個人情報等の詐取
2019年
6年連続6回目
不正アプリによるスマートフォン利用者への被害
2016年
9年連続9回目
メールやSMS等を使った脅迫・詐欺の手口による金銭要求
2019年
6年連続6回目
ワンクリック請求等の不当請求による金銭被害
2016年
2年連続4回目

順位
「組織」向け脅威
初選出年
10大脅威での取り扱い
(2016年以降)
1
ランサムウェアによる被害
2016年
9年連続9回目
2
サプライチェーンの弱点を悪用した攻撃
2019年
6年連続6回目
3
内部不正による情報漏えい等の被害
2016年
9年連続9回目
4
標的型攻撃による機密情報の窃取
2016年
9年連続9回目
5
修正プログラムの公開前を狙う攻撃(ゼロデイ攻撃)
2022年
3年連続3回目
6
不注意による情報漏えい等の被害
2016年
6年連続7回目
7
脆弱性対策情報の公開に伴う悪用増加
2016年
4年連続7回目
8
ビジネスメール詐欺による金銭被害
2018年
7年連続7回目
9
テレワーク等のニューノーマルな働き方を狙った攻撃
2021年
4年連続4回目
10
犯罪のビジネス化(アンダーグラウンドサービス)
2017年
2年連続4回目

(出所:IPA「情報セキュリティ10大脅威2024」)

特に注目すべきは、「組織」に対する10大脅威です。これを見ると、1位は前年と同じく「ランサムウェアによる被害」です。ランサムウェアとは、

PCやスマートフォンに保存されているファイルの暗号化や画面のロックなどを行い、「金銭を支払えば復旧させる」と脅迫する手口に使われるコンピューターウイルスの一種

です。脅迫の際に「暗号化や画面のロックの解除」に加え、

暗号化前に窃取したデータの暴露の取りやめを条件に、身代金を要求する

など、複数の脅迫を組み合わせる手口が増加しています。

また、「犯罪のビジネス化(アンダーグラウンドサービス)」の脅威も増しています。ダークウェブなどと呼ばれる闇市場でサイバー犯罪に使用するためのサービスやツール、IDやパスワードの情報などが取引されています。専門知識が無くとも、これらのサービスやツールを使ってサイバー犯罪に手を染める輩が現れています。また、特殊な加工を施したリクエスト(プロンプト)を生成AIのチャットボットに与えることで、ポリシー違反に相当する要求を受け入れさせる「脱獄」をサービスとして提供する動きも出てきており、被害の拡大が懸念されます。

2 必ず押さえておきたい5つの基本対策

1)ソフトウェアの脆弱性への対策:ソフトウェアの更新

ソフトウェアに脆弱性が見つかった場合、通常、ソフトウェア開発業者は脆弱性の情報とともに、脆弱性をカバーするためのプログラムである「セキュリティパッチ」を一般公開します。速やかにセキュリティパッチを適用するためには、

  • 自社で利用しているソフトウェアやネットワーク対応機器について、製品名とバージョン情報を把握する
  • 製品開発者のウェブサイトで公開されている脆弱性対策情報を随時収集する

ことが求められます。

IPAのウェブサイトでも、主な製品の脆弱性対策情報が「重要なセキュリティ情報」として公開されています。自社で利用している製品があったら、緊急度・重要度に応じて関係先(組織内や顧客など)への周知、ソフトウェアの更新などの対応を行います。

2)ウイルス感染への対策:ウイルス対策ソフトの導入

既知のウイルスの感染を未然に防止するためには、

ウイルス対策ソフトの導入が不可欠

です。ウイルス対策ソフトの導入によって膨大な種類のウイルスを検知できますが、一方で、ウイルスを作成する者も新しい手口を模索しているので、検知できないウイルスも多くなっています。つまり、ウイルス対策ソフトを導入すれば完璧というわけではないので、

万が一感染してしまった場合に備えて、重要情報のバックアップを取るなど、多段階の対策が必要

となります。

3)パスワード窃取への対策:パスワードの適切な管理と認証の強化

パスワードは、他人が分からないように作成し、他人に使われないように管理しなければなりません。

作成については、8桁以上など一定の桁数以上で、英数の大文字・小文字と記号を組み合わせるといった対策が有効です。

短いパスワードだと総当たり(ブルート・フォース・アタック)でログインを試行され、不正にログインされてしまいます。また、誕生日や名前、「123456」「password」「qwerty」といった、推測されやすい文字列をパスワードにするのもやめましょう。

管理ついては、使い回しをしないのが鉄則です。そうしないと、いかに強度の高いパスワードを設定しても、どこか1つのサービスから漏れた場合に「パスワードリスト攻撃」を受け、不正ログインを防げないからです。

以前はパスワードの定期的な変更が推奨されていましたが、今では、

定期的な変更でパスワードの作成方法がパターン化することのほうが問題である

と考えられています。内閣サイバーセキュリティセンター(NISC)からも、パスワードを定期変更する必要はなく、流出時に速やかに変更する旨が示されています。

サービスによっては、「多要素認証」(MFA:Multi-Factor Authentication)が使えるので、積極的に取り入れましょう。多要素認証とは、

ログインなどの際、パスワードの他に、あらかじめ登録しておいたスマートフォンやハードウェアトークンに表示される認証コードの入力を求めるもの

です。

4)設定不備への対策:設定の見直し

ソフトウェアをインストールした直後や、サーバーやネットワーク対応機器などの購入時点では、不要な機能が有効になっていたり、機能へのアクセス制限が設定されていなかったりする場合があります。情報漏洩や乗っ取りなどの被害を防止するために、

設定の確認と定期的な見直しが必要

です。特にブロードバンドルーター、複合機、ウェブカメラなどのネットワーク対応機器の設定は見落としがちです。実際、ネットワークに接続された複合機の設定に不備があり、機器内に保存されたデータが外部から閲覧できてしまう問題も指摘されています。必要なければ、オフィス機器を外部ネットワーク(インターネット)に接続しないようにしましょう。

この他、社員の退職時には速やかにユーザーアカウントを抹消する、異動時にはアカウントに付与したアクセス権限を見直すといった対策も必要です。

5)わなにはめる誘導への対策:脅威や手口を知る

メールやウェブサイトを使って言葉巧みに誘導する手口は年々巧妙化しています。ただし、

どのような手口があるのか知っていれば、攻撃者が仕掛けたわなに気付き、被害を未然に防げる可能性が高まる

ことになります。IPAでは情報セキュリティに関する脅威や対策などを学ぶことができる映像コンテンツを、YouTubeの「IPA Channel (ipajp)」で公開しているので、参考にしてみてください。

■IPA Channel(ipajp)■
https://www.youtube.com/user/ipajp

以上(2024年7月更新)

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画像:Song_about_summer-Adobe Stock

【管理会計】戦略ごとに見る損益分岐点の活かし方

書いてあること

  • 主な読者:感覚だけではなく、定量的な基準や根拠を持ってビジネスの判断をしたい人
  • 課題:もうけるためには、どのような観点に着目すればよいのかが分からない
  • 解決策:もうけるとは限界利益(売上高-変動費)が固定費を上回ること

1 質問:ラーメン店はいくらの売り上げが必要か?

突然ですが、友人のAさんが独立して念願の夢であるラーメン店を開業することになりました。自己資金1000万円と銀行借入350万円で開業するとのこと。その他の条件は次の通りです(ここでは借入金の使途は考慮しません)。

  • 年間固定費:600万円(借入金の支払利息を含む)
  • 年間の元本返済額:70万円
  • 限界利益率:30%

Aさんからの質問は、

いくらの売上を上げれば利益がでるか?

ということです。単純に固定費の600万円と返済額の70万円だけに注目し、「670万円(600万円+70万円)を超えれば大丈夫」とアドバイスしたら大問題で、限界利益率(限界利益/売上高)に注目する必要があります。

まず、元本返済額は、キャッシュ・フローとして捉えます。例えば、税引前利益が100万円で法人税等の税率を30%とした場合、税引後利益は70万円(100万円-100万円×30%)となり、元本はこの70万円を含む手元にある資金から返済します。

従って、Aさんが銀行に返済する70万円を確保するには、税引後利益として70万円以上が必要です。そこでAさんに必要な売上高は次の通りです。

Aさんに必要な売上高

={固定費600万円+税引後利益70万円/(1-0.3)}/限界利益率30%

=2334万円

ラーメン店の年間売上高が2334万円以上になれば、Aさんは借入金の元本返済に充てる資金を事業から得ることができます。

この利益を上げるのに必要な売上高を「損益分岐点売上高」といいます。損益分岐点売上高は、損益がトントンの売上高であり、これにとどまっているのでは不十分です。企業としては利益アップを図っていかなければなりません。以降で、基本的な利益アップ戦略や、応用的な事例を用いて管理会計的にどのように考えていけばよいのかを紹介します。

2 利益アップ戦略の管理会計的考え方

1)利益の仕組みから考えられる利益アップ戦略とは

早速ですが、利益(もうけ)とは、

限界利益(売上高-変動費)が固定費を上回ること

です。変動費と固定費とは、

  • 変動費:販売数量などに応じて増える材料費など
  • 固定費:販売数量に関係なく生じる人件費など

といったものです。

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利益アップのためには、限界利益アップ、固定費ダウンの2つの戦略が考えられます。限界利益アップ戦略は、さらに売上単価アップ戦略、売上数量アップ戦略、限界利益率アップ戦略の3つに分けられます。

2)限界利益アップ戦略

1.売上単価アップ戦略

Aさんの例で、売上単価アップ戦略について考えます。初年度の売上高は次の通りで、目標売上高には達しませんでした。

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そこで、平均単価を1割アップする売上単価アップ戦略を採用したとします。変動費率(70%)、売上数量(1万9500杯)に変化なしとして、売上高は次の通りとなります。売上単価1割アップにより、利益はマイナス15万円から43万5000円に増えます。

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2.売上数量アップ戦略

次に売上数量アップ戦略を採用して、売上数量が約15%アップの2万2425杯になった場合の売上高は次の通りとなり、借入金の元本が返済可能な利益72万7000円が確保できます。なお、ここでは法人税等を考慮しません。

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3.限界利益率アップ戦略

限界利益率アップ戦略を採用したら、売上高はどのようになるでしょうか。限界利益率アップは変動単価ダウン(低価格の原材料へ変更など)に他なりません。変動単価1割ダウンの場合は次の通りとなり、利益はマイナス15万円から121万5000円にアップします。

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3)固定費ダウン戦略

固定費ダウン戦略(人件費や減価償却費、賃借料などの削減)を採用して、固定費が1割ダウンした場合、売上高は次の通りとなり、利益はマイナス15万円から45万円にアップします。

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3 応用事例1:どの商品がもうかるか

B社では、X、Y、Zの3種類の商品を販売しており、前年度の実績は次の通りです。どの商品が最ももうかり、重点を置いて販売したらよいかを考えてみましょう。

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多品種の商品を仕入れ、あるいは製造している会社では、どれが最ももうかる商品であり、重点を置いて販売すべきであるかを決定する場合、それぞれの商品に固定費を何らかの基準で配賦した後の、利益の大きさを基準にしていることが多いようです。

図表を見てみると、利益はX商品が60万円、Y商品がマイナス10万円、Z商品が30万円となり、これらの商品のうち最も利益がある商品はX商品ということになります。

しかし、固定費は期間に対応して発生するもので、商品をどれだけ販売しても変わらないものです。従って、売上高から変動費を差し引いた限界利益の大きいY商品がもうかるということになります。

次に限界利益率に注目して、限界利益が同じならば限界利益率の大きい商品に力を入れます。B社では、X商品にまず重点を置き、次にY商品に力を入れて販売することになります。

4 応用事例2:赤字商品は中止すべきか

C社では、Y、Zの2種類の商品を製造販売しています。Y商品は常に赤字で、今後も現状のように推移すると予想されています。そこでC社の社長は、Y商品の製造を中止すべきか検討中です。中止すべきか否かを考えてみましょう。

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Y商品の製造を中止した場合の採算は次の通りで、利益がマイナス160万円と悪化しています。

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これはY商品が負担していた固定費320万円が、Y商品の製造を中止しても発生するからです。Y商品の製造を中止しても固定費は変わらないのに、Y商品の限界利益300万円がなくなったため、300万円の利益減になります。従って、限界利益がプラスならば、製造を中止すべきではありません。

5 応用事例3:赤字受注をするかどうか

D社は、次の原価資料にある通り、すでにY、Z商品を1台ずつ販売しているとき、新たにZ商品について1台190万円で注文がありました。

Z商品の原価は210万円(変動費175万円+固定費35万円)なので、追加のZ商品のみ精算する場合、赤字となります。しかし、自社の人員・設備に余力があります。これを受注しても値崩れの心配がない場合、受注すべきか否かを考えてみましょう。

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Z商品を1個追加受注しても会社全体の固定費の合計は85万円で同じです。Z商品1個を190万円で追加受注しても、増加する費用は変動費の175万円だけです。そのため、会社全体では利益が15万円増加します。従って、受注したほうが有利となります。

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赤字受注に対する考え方は一様ではありません。赤字受注はその商品単体で製造の継続か中止かを判断するのではなく、会社全体の損益を考慮して決定すべきでしょう。

また、赤字商品でも生産量が増加すれば黒字転換できるものもあります。ただし、見込み通りに受注が伸びない場合には、生産を継続すれば赤字を生むだけなので、生産を中止しなければなりません。大切なのは生産を中止する時期の見極めです。

以上(2024年7月更新)
(監修 税理士 石田和也)

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