【朝礼】お客様だけが“神様”なのか

けさは、「お客様は神様です」という言葉について、皆さんに考えてみてもらいたいと思います。この言葉は、演歌歌手の三波春夫さんがよく口にしていた言葉だそうで、「演者にとってお客様を喜ばせることは絶対条件だから、神様だと思って完璧な芸を見せなければならない」という意味が込められています。ビジネスでも、お客様のことを第一に考えて、製品やサービスを提供しなければならない点には、議論の余地がありません。

ただ、皆さんに考えてみてもらいたいのは、私たちが大切にすべき存在である「神様」は、本当にお客様だけなのか、ということです。私たちは、お客様を第一に考える一方で、私たちを支えてくれているお客様以外の人たちの存在を、しっかりと認識できているでしょうか。

私がそのようなことを深く考えるようになったのは、コロナ禍で「医療崩壊」の淵にありながら、そして感染リスクにさらされながらも、患者を受け入れてくれている医療従事者の方々の姿を目にしたからです。私たちは医療従事者の方々に感謝こそすれ、「自分は診察料を払っているお客様だから、医療の提供を受けるのは当然だ」などとは考えもしないでしょう。

その考えを広げていくと、私たちが感謝をしないといけないのは、医療従事者の方々だけではないことに思い至ります。例えば、バスの運転手、スーパーマーケットの店員、宅配業者など、私たちの生活インフラを支えてくれている方々です。

彼らも感染リスクにさらされながら、サービスを提供し続けてくれています。医療サービスを受けられないことも困りますが、移動手段がなくなり、食品が入手できず、物流がストップしてしまえば、生活は成り立ちません。私たちはこうしたサービスを利用することが当たり前になっているため、いかにありがたいことなのかを見落としてしまいがちです。

そして、私が特に強調したいのは、もし皆さんの中に、単純にお金の流れだけを見て、「お客様だけが神様だ」と考える人がいるとしたら、それは大きな誤りだということです。

これは、我が社の取引先についても同じです。我が社の製品やサービスを購入していただいているお客様には感謝すべきですし、皆さんも感謝の気持ちを伝えていると思います。ですが、我が社が製品やサービスを提供できるのは、原材料や機器類などを納入してくれている取引先のおかげでもありますし、他にも、オフィスの清掃やごみ処理をされている方々など、大勢の人たちが私たちを支えてくれているのです。

私はコロナ禍によって、このことを改めて認識することができました。失った後に、初めて失ったものの大切さに気付き、喉元過ぎれば熱さを忘れる、というのはよくあることです。ですから、私は忘れないうちに、最初の言葉に次の言葉も付け加えたいと思います。「お客様は神様です。そして、お客様以外も神様です」と。

以上(2021年6月)

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画像:Mariko Mitsuda

初めて英文契約書を交わすときのポイント

書いてあること

  • 主な読者:海外企業との取引に慣れていない経営者、法務担当者
  • 課題:英文契約書に慣れておらず、注意すべき点なども分からない
  • 解決策:英米法準拠の契約には、相手方の故意・過失を問わず損害賠償を認める「厳格責任」があるため、履行責任を免責する「不可抗力」条項が必要。その他、詳細は必ず、現地の法律に詳しい弁護士にアドバイスを求める

1 海外取引で困る英文契約書

市場のグローバル化がますます進む中で、これまで海外企業と取引を行うことのなかった企業においても、海外代理店その他海外企業との提携を通じて、国外市場へ進出する機会が増えています。

海外企業との契約においては、英語圏以外の企業であっても、国際共通語である英文で書かれた契約が使用される場合が多いため、英文契約の基本を押さえておくことは、海外に進出する企業にとって非常に重要です。

英文契約は分量も多く、国内契約ではあまり見られないような規定も多いことから、英文契約を交わす際には十分な注意が必要です。本稿では、初めて英文契約に対応する場合に知っておくべき重要なポイントを紹介していきます。

2 英文契約を締結する際に知っておくべき基礎知識

1)準拠法は英米法とは限らないが……

一口に英文契約といっても、その準拠法が常に英米法であるとは限らず、例えばベトナム企業との間でベトナム法準拠の英文の契約を締結することもあります。その際にはベトナム法のルールが適用され、必ずしも英米法の原則的なルールが当てはまるとは限りません。

しかし、英文契約においては、(日本法準拠の英文契約であったとしても)英米法準拠で作成された英文契約のひな型を基にして作成される場合がほとんどです。結果としてその表現や用いられる条項などは、英米法由来の考え方に基づくものであることが多いことから、英米法の契約の基本的な知識を押さえておくことは、他国法準拠の英文契約を検討するに当たっても有用であるといえます。

英文契約は、一般的には、契約名や契約当事者名、締結日などを含む頭書から始まり、前文、契約本体、最終部(合意の確認)、署名欄が続くという構成となっていますので、以降で確認していきます。

2)前文

前文は通常、「WITNESSETH」または「RECITALS」という表題で、契約当事者や契約の背景などの説明が記載されます。前文では、「WITNESSETH」や「WHEREAS」などの、通常用いられない単語が使われることから、難解に見えるかもしれませんが、前文には通常、法的拘束力がないため、誤解を恐れずに言えば、この部分のレビュー・修正に必要以上に時間をかける必要はありません。

3)契約本体

契約本体部分について、契約の種類によって特有な条項は、スペースの関係上、本稿での説明を省きますが、表明保証(Representations and Warranties)、補償(Indemnification)、責任限定(Limitation of Liabilities)の条項については、契約の種類を問わずほとんどの契約に含まれています。これらの条項は、契約当事者の義務の内容・範囲に直接関わってくる重要な部分ですので、契約のレビューに際しては、特に注意して内容を検討する必要があります。

1.表明保証条項

表明保証条項は、一定の事実が真実であることについての当事者による表明です。契約後において、表明した事実が真実ではないことが判明した場合、それにより相手方に発生した損害を賠償する義務が生じます(賠償の具体的内容については、準拠法にもよりますが、補償条項の中で規定されることとなります)。

代表的な表明保証の内容としては、当事者が有効に設立され存続する法人であること、契約締結権限を有すること、必要な許認可を有していること、契約上の義務を履行するのに必要な技術・リソースを有していることなどが挙げられます。

表明保証違反の責任は、通常は故意・過失の有無を問わない無過失責任ですので、自社で確認・コントロールできないような内容が表明保証に含まれている場合には、そうした内容の削除を交渉するべきです。

2.補償条項

補償条項は、当事者による契約義務の違反があった場合などにおける損害の補償義務を定める条項です。日本法における損害賠償義務と大きく異なることは、補償の対象者が契約相手方に限られない(関連会社や従業員、社外の下請け業者や代理人まで含むと規定されていることも多いです)点、また、補償条項には、補償請求権者に対する第三者からの請求があった場合(例えば、提供した製品が他社の特許を侵害しており、買い主が特許権者より訴訟を提起された場合など)の責任を定める規定が置かれ、その際の義務内容が具体的に記載されていることもあります。

準拠法や裁判所の解釈にもよりますが、補償義務の記載に、indemnify、hold harmlessといった表現に加えてdefendという表現が入っている場合には、訴訟に敗訴するなどして補償請求権者の損害が実際に発生するよりも前の段階から、訴訟(文言によっては訴訟より前のクレームを受けた段階から)の防御費用の補償なども求められることとなります。「補償」という訳語が示す通り、原則として補償条項も無過失責任ですので、責任を故意・過失が存在する場合に限定したいときには、その旨を契約上明確に記載する必要があります。

また、英米法では、通常、弁護士費用は損害賠償の対象に含まれませんので、これを含めたい場合には契約上明記して合意する必要があります。補償条項については、細かい文言の違いによって責任の範囲が大きく変わり得るので、特に注意して検討する必要性が高い条項です。

3.責任限定条項

責任限定条項では、前述した表明保証違反の場合や、その他補償条項に基づき補償が必要となる場合における当事者の責任を限定する規定です。責任の範囲を直接損害に限定し、逸失利益などを補償の対象から外す、責任の額に上限を設ける、責任限定条項の対象から一定の規定(例えば秘密保持義務違反)を除外する、また上述のように、責任を故意・過失がある場合に限定するといった交渉が行われます。

4)準拠法と裁判管轄

その他、国際当事者間の英文契約では、通常、準拠法と裁判管轄(または仲裁合意)の規定が置かれます。準拠法については、自国である日本法もしくは相手国の法とする場合、または間を取って第三国法(米国ニューヨーク州法や英国法が使われることが多いです)とする場合もあります。

米国法・英国法を採用するメリットの一つとしては、文献や裁判例が豊富にあること、言語が英語であることによる情報収集の容易性の他、契約ドラフト・交渉や、将来紛争が発生した場合で外部弁護士の起用が必要となったときに、選べる弁護士のオプションが多い点もあります。例えば途上国の法律を準拠法とした場合、日本語対応が可能な現地弁護士を見つけることは困難なのが一般的だからです。

裁判管轄においても、日本企業としては当然、日本の裁判所を専属管轄裁判所としたいところですが、国によっては、日本の裁判所の判決をもって相手国の財産の差し押さえなどを執行できない場合もあり得る(例えば中国)という点には注意が必要です。

5)仲裁

仲裁には、裁判と異なり手続きが公開されない、裁判の判決が執行できない国でも、仲裁判断については執行が可能な国がある、上訴がなく一審で結論が出る、仲裁言語を英語にすることで合意を取れるというメリットがある一方、手続費用は訴訟に比べ高額になり得るというデメリットがあります。また、仲裁地の選択においても、準拠法の選択と同様、当事者のいずれの国でもない第三国が選択されることがよくあります。

3 日本国内の契約書と異なり、特に注意が必要な点

1)厳格責任

英米法準拠の契約法の原則として、厳格責任の考え方があります。日本法においては、契約上の債務不履行に基づく損害賠償が認められるためには当事者の故意・過失が必要ですが、英米法では、例外的な場合を除き、損害賠償を認めるに当たって相手方の故意・過失が問われません(厳格責任)。

従って、英米法の契約では、不可抗力(Force Majeure)条項と呼ばれる、当事者の責によらずに(例えば災害など)債務の履行が不可能となった場合に当事者の履行責任を免責する規定が置かれます。

もし相手方から送られてきた英文契約のドラフト中に不可抗力条項が入っていない場合には、必ずこれを挿入するとともに、何をもって「不可抗力」に当たるかについても、各取引の個別の実情に応じて具体的な不可抗力の状況が想定できる場合には、それを不可抗力条項内の例示の中に追加しておくことが望ましいといえます。この点、世界中のビジネスがコロナ禍という未曽有の事態の影響を受けた2020年は、各国の裁判所で不可抗力条項の適用の有無が争われました。過去に締結された契約では、「pandemic」「epidemic」といった事項が不可抗力事由として列挙されていない契約が多く、代わりに「government order」等に該当するものとして(緊急事態宣言や渡航制限等がこれに該当するとして)不可抗力が主張されることが多かったように思いますが、2020年以降に締結された契約では、不可抗力事由としてpandemic等を明記することが一般的となりました。

また、前述した厳格責任との関係から、契約中で当事者の義務を定める規定(例:Seller shall~のようにshallやwillで始まる規定)において、例えば義務の内容について第三者の行為が介在する場合など(例えば、第三者の承諾が必要な場合)、自社が完全にコントロールできない内容の義務が定められているときは、「~しなければならない(shall~)」という表現から、「~する合理的な努力をする(shall make reasonable efforts to~)」といった表現に修正することも検討すべきです。

自社の責任を制限するという立場からは、前述した、不可抗力条項や努力義務への修正といった対応が考えられますが、商品を買う立場・業務を委託する立場からすれば、将来不可抗力事由が発生した場合にどう自社を守るか、という視点も重要となります。この観点から、相手方が加入すべき保険について、保険の種類や最低補償限度額などを詳細に設定し、自社を受取人として設定することを求めている条項もよく見られます。

なお、英文契約において、仮にその準拠法を日本法やその他実際の取引国ではない第三国法と定めた場合であっても、実際に取引が行われる国の強行法規が適用されることがあります。

例えば、中南米や中東には、代理店保護法によって、現地代理店との契約の解除や更新拒絶が制限される国があります。貿易業を営むA社では、中南米での代理店契約において解除条件の規定の仕方が十分でなかったことから、契約違反を理由とする解除を行うことができず、結果として、契約を終了させるために多額の補償金を支払わなければならなくなったという事例もあります。

従って、海外での契約の締結に当たっては、自分が知見のある法律を準拠法とした場合であっても、できるだけ現地の法律について弁護士のアドバイスを受けることをお勧めします。仮に現地弁護士のアドバイスを受けることが難しい場合であっても、例えばジェトロなどのウェブサイトで、海外の規制について一定の情報が得られることもありますので、最低限そうした情報はチェックしておくべきといえます。

2)ウィーン売買条約

また、仮に英文契約の準拠法を日本法とした場合であっても、国をまたいだ物品の販売に関するウィーン売買条約(United Nations Convention on Contracts for the International Sale of Goods、通称CISG)が適用される可能性があります。

CISGには、日本の他、米国、中国、韓国、オーストラリア、ドイツ、フランス、ロシアなど(なお英国、インドは未加盟)、94カ国が加盟しています(2021年6月現在)。CISGが適用されるのは、異なる加盟国間に営業所が所在する当事者間における物品(例外があり、不動産や船舶・航空機などは含まれません)の売買契約で、いずれかの加盟国の法律が準拠法として定められている場合となります。

この場合、契約上で明示的にCISGの適用が排除されていない限り、CISGのルールが適用されることとなります。日本法とCISGでは、例えば無過失責任(この点は英米法と類似)や、履行期限を過ぎた場合であっても、売り主が一定の場合に義務を追完する権利を有するなどの様々な違いがあります。CISGの規定のほとんどは、日本の民法上の規定と同様、契約にてCISGの原則ルールと異なる規定を設けることで、適用を回避することができますが、日本法準拠として、日本の民法上の規定を前提とした内容のシンプルな英文ひな型を使用して、契約を作成・締結したような場合には、予期しない形でCISGのルールが適用されてしまう可能性があります。

3)法的拘束力のない意向確認書や基本合意書

その他、海外企業との取引を始めるに当たっては、いきなり正式な契約を交わすのではなく、まずは法的拘束力のない意向確認書や基本合意書(契約名は様々ですが、Letter of Intent(LOI)やMemorandum of Understanding(MOU)などの表題が一般的)を締結し、その時点での合意事項や、契約締結までのスケジュールについて合意し、その後の交渉のベースとすることがあります。一般的には、LOIやMOUは法的拘束力がない形で作成されることが多く、仮に交渉中止などによりLOIやMOUに記載通りの行動が取られなかったとしても、それにより契約違反として損害賠償などを求められることはないのが原則です。

しかし、LOIやMOUという表題のみをもって当然に法的拘束力がないNon-bindingの契約となるわけではないため、必ずNon-bindingであることを契約中で明記しておくとともに、契約中で安易に「合意」(agree)、承諾(accept)のような表現を使うことは控えるべきです。他方で、LOIやMOU中の特定の条項(例えば秘密保持義務・独占交渉権など)にのみ法的拘束力を持たせる場合には、それらの条項が法的拘束力を有する(Binding)ことを明記する必要があります。

以上(2021年7月)
(執筆 のぞみ総合法律事務所ロサンゼルスオフィス所長 若松大介)

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営業マネジャーが部下を指導するコツ/課題と改善策例

書いてあること

  • 主な読者:新人や若手の部下がいる営業マネジャー、初めて部下を持つ営業マネジャー
  • 課題:営業業務が多岐にわたる上に体制が整っておらず、何を指導するべきか整理できない
  • ポイント:「成果と直接結びつきやすい業務」の「あるある」な課題の指導から始める

1 「営業」は、何をどう指導するところから始めるか?

営業の業務内容は多岐にわたります。会社の規模にもよりますが、新人や若手を教育する体制やプログラムが整っていないと、管理職である営業マネジャーは、営業の何をどう指導するところから始めていいやら途方に暮れるかもしれません。

部下指導に正解はないのですが、この記事では指導方法の一つとして、

営業の主な業務を整理し、そのうちの「特に成果と直接結びつきやすい業務」で営業担当者が抱えがちな課題を改善できるよう指導する

ことをご提案します。

一般的に営業業務の中で「成果と直接結びつきやすい」業務は、訪問・オンライン会議をして実際に商談を行うことです。この業務に関して、営業担当者はまず、次のような課題を抱えがちです。営業マネジャーの皆さんにとっては、どれも「あるある」ではないでしょうか。

  • 訪問・オンライン会議に無駄がある
  • 成果につながる訪問・オンライン会議の件数が増えない
  • 訪問・オンライン会議をする先に偏りがある
  • 新規開拓をしない
  • そもそも時間がない
  • 日頃の情報収集や関係構築の重要性を理解していない

実はこれらの課題は、新人や若手に限らず多くの営業担当者がぶつかりがちなものです。以降では営業の主な業務を一覧表で整理した後、上記の課題を抱えた部下に、営業マネジャーが何をどう指導するのがよいかをまとめます。早速今日から部下指導にご活用ください。

2 営業の主な業務は大きく3つに分けられる

営業の主な業務は、大別すると、例えば「インサイドセールス」「フィールドセールス」「カスタマーサポート」の3つに分けられます。このうち、この記事で主に対象とするのは、「成果と直接結びつきやすい」フィールドセールスの「商談提案業務」です。

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以降では、「商談提案業務」で抱えがちな課題と、その改善策の指導方法をまとめます。

3 営業担当者が抱えがちな課題についてどう指導するか

1)訪問・オンライン会議に無駄がある

積極的に訪問・オンライン会議をしている営業担当者は頑張っているように見えますし、本人も「営業をしている(仕事をしている)」と実感しています。ただし、訪問であれば移動時間・コストがかかりますし、オンライン会議でも一定時間拘束されます。また、オンライン会議の場合は画面を通じて図示するため、訪問よりも資料の準備に時間がかかることもあります。

そこで、営業マネジャーは、訪問・オンライン会議の無駄を営業担当者に理解させ、改善するよう指導します。その際は、訪問・オンライン会議の件数、実際かかっている時間、移動コストと成果などをエクセルにまとめ、客観的な数字として示します。なぜなら、営業担当者は訪問・オンライン会議が多いと「自分は毎日、頑張って仕事をしている」と錯覚するからです。

数字を示した後は、それを踏まえた上で営業担当者に行動計画の立案をさせるとよいでしょう。訪問・オンライン活動の効率化を、KPIとして設定するのも「あり」です。初めのうちは、営業マネジャーが行動計画を作成し、効率的な訪問・オンライン会議を営業担当者に体感させるようにします。

2)成果につながる訪問・オンライン件数が増えない

訪問・オンライン活動の無駄をなくせば、成果につながる訪問・オンライン件数は増えるはずです。しかし、実際は従前と件数が変わらない営業担当者が少なくありません。営業担当者は、無意識のうちに与えられた時間を目いっぱい使って業務を遂行しようとするため、全体的にペースダウンして帳尻を合わせてしまうのです。業務量が減っても、残業が減らないのと同じ現象です。

こうした状況を改善するためには、営業マネジャーがペースメーカーとなって、全体のスピードをコントロールするしかありません。

また、営業マネジャーが日頃から営業担当者にヒアリングをして、日々の業務遂行状況を確認することも効果的です。営業担当者は、営業マネジャーに良い報告をするために、少しずつペースを上げてくることが期待できます。

ただし、毎回、芳しくない報告しかできない営業担当者は、ヒアリングのたびに自信を失い、精神的な負荷を感じます。こうした営業担当者のケアも、営業マネジャーの大切な仕事です。苦手に感じていることや困っていることがないか、また、商談で営業先とどのような会話をしているかなどを、営業担当者に聞いてみるのも一策です。

3)訪問・オンライン会議をする先に偏りがある

営業担当者が訪問・オンライン会議をする相手には、実は偏りがあります。営業担当者の気質にもよりますが、一般的な営業担当者は自分が苦手な先には積極的に接しないものです。また、営業担当者が「あそことは話をしても無駄だろう」と勝手に判断していることもあります。

しかし、営業担当者が訪問・オンライン会議をしない先が、実は有力な見込み客であったというケースは珍しくありません。そこで、営業マネジャーは月に数回は訪問・オンライン会議に参加し、見込み客の状況を適切に判断するようにしましょう。

また、一緒に参加する都度、営業マネジャーは、自分が見込み客をどのように評価しているのかを営業担当者に伝えます。営業マネジャーが「有力な見込み客」と判断した先とその理由を知ることで、営業担当者は営業マネジャーと自分とのギャップを認識できるでしょう。

4)新規開拓をしない

営業活動は、「新規開拓」と「既存顧客との取引深耕やアップセル」に大別されます。人によりますが多くの営業担当者は新規開拓を好まないようです。これまでの関係性のない先を、紹介または飛び込みで営業するのは気が引けるものですし、成果も上がりにくいからです。

しかし、新規開拓をしなければ、既存顧客の売り上げにのみ頼ることになります。既存顧客との取引がいつまでも続くとは限らず、万一の際に、その代わりとなる顧客の見込みもなくなってしまいます。営業マネジャーは営業担当者に新規開拓を指示しなければなりません。

最も重要なのは、小さな商いでもいいので、営業担当者に新規開拓の成功体験をさせることです。そのためには、営業担当者の行動計画に新規獲得の件数を盛り込み、それについては必ず営業マネジャーが一緒に訪問・オンライン会議をするとよいでしょう。

同時に、営業担当者が持つ飛び込み営業の苦手意識を払拭するために、「既存顧客を失うことは大きな損失だが、新規開拓では失うものは何もないので、たとえ門前払いをされても落ち込む必要はない。好きにやっていいのだ」と伝えましょう。

5)そもそも時間がない

事務的な業務や営業以外の業務が多くて、訪問・オンライン会議や提案書の作成といった業務の時間が取りにくい、というのは中小企業で起こりがちな問題です。営業に携われる時間が細切れになると、なかなか集中することができず、活動効率の低下は否めません。

そこで、営業マネジャーは各営業担当者の業務を把握した上で再分配し、営業に費やせる「まとまった時間」を確保します。しかし、これには限界があるため、状況が改善されなければ上長に業務遂行体制の見直しを相談しなければなりません。また、事務的な業務の場合、DX化を推進し、業務の所要時間が短くなるよう工夫するのも大切です。

6)日頃の情報収集や関係構築の重要性を理解していない

訪問・オンライン会議ではありませんが、電話やチャットなどのコミュニケーションに代表される日頃の情報収集や関係構築は営業に不可欠です。しかし、このことを本当に理解し、実践している営業担当者は多くありません。

忘れてならないのは、情報収集や関係構築を行い、それに基づいて適切な手段を講じてきたからこそ、商品やサービスを販売できるということです。営業マネジャーは、この点を営業担当者に何度も言いましょう。できるだけ分かりやすく伝えるのがポイントなので、営業マネジャー自身が日頃どういう活動をしているか、営業担当者に見せるのがおすすめです。

以上(2021年7月)

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【熱中症予防】水分・塩分補給や定期的な休憩など一律な対策だけでは防げない熱中症。その本質的な課題と対策は…。

書いてあること

  • 主な読者:会社経営者および役員、管理職、人事・労務担当の皆さん
  • 課題:完全に防ぐことが難しい熱中症。作業者の中には「熱中症にかかりやすい人/かかりにくい人」が混在しており、人によって熱中症発症リスクが異なるため、一律な管理対策だけでは、熱中症にかかりやすい人(弱者)を救うことはできません。
  • 解決策:まずは「熱中症にかかりやすい人」を把握して、早期に異変に気づくように日頃から目配りしておくことが重要です。また、人による管理の限界を補うための方策として、IoTデバイス活用による解決策のヒントをご紹介します。

1 一律な管理対策だけでは熱中症は防げない!

毎年、7月下旬の梅雨明けの時期から急増する熱中症。

その基本的な対策は、「定期的に水分を補給する」、「塩アメを各自の判断で舐める(塩分摂取)」、「定期的に休憩を促す」、「WBGT値(湿球黒球温度:熱ストレスを評価する指標)による温湿度確認」などと言われています。

しかし、このような一律な管理対策だけでは、熱中症を完全に防ぐことは難しいとされています。その理由としては、次のような点が挙げられます。

  • 管理者として、多くの作業者の一人ひとりの体調変化を常に監視して把握することは難しい
  • 作業者の体型や年齢、持病等によって熱中症へのなりやすさに個人差がある
  • 同じ作業者でも、その日の体調によって熱中症へのなりやすさが大きく変わる
  • 作業者本人が「少し、おかしいな」と思っても「まだまだ大丈夫!」と頑張りすぎてしまい、周りの人からみて明らかに「調子が悪そう」と気づいたときには手遅れとなっていることがある

作業者自身が早めに体調の変化に気づき、自発的に休憩して、水分・塩分を補給すれば、熱中症は防げるはずですが、本人が頑張りすぎてしまうと、管理者や同僚が気付かない限り、熱中症は防げないのです。また、定期的に休憩時間を設けても、人によって熱中症リスクに差があるため、熱中症になりやすい人にとっては十分な休憩とはならないことがあります。

このような課題を解決するためには、まずは、「熱中症になりやすい人」を知ることが必要です。

そこで、今回は、「熱中症になりやすい人」をご紹介するとともに、個人差のある作業者の体調変化を「早期に把握し、本人や管理者に伝える」ことができる管理ツールをご紹介します。

2 「熱中症になりやすい人」とは…

一般的に熱中症は暑くて湿度の高い日に起こりやすいのですが、誰もがそれほど暑いと思われないような気温の日にも実際には熱中症になる人がいます。その違いは、どこにあるのでしょう。

1)体型、年齢、持病による「熱中症へのなりやすさ」

1.体型

  • 肥満者

皮下脂肪が厚いため、体内の熱が外に逃れにくいため、体温が上昇しやすい。また、体内の熱を放散するために汗をかきやすく、脱水にもなりやすい。

  • 筋量の少ない人

筋量が少ない人は、循環血液量が少なく、大量に汗をかいたときに脱水になりやすい。

2.年齢

  • 高齢者

加齢に伴い、体内の水分の割合や感覚機能が低下して、喉の渇きを感じにくくなるため、水分不足になりやすい。また、汗をかきにくいので、体内の熱を逃す機能が不十分となり、体温が高くなりやすい。

  • 子ども

思春期前の子どもは、汗腺をはじめとした体温調節能力が十分に発達していないため、高齢者と同様に熱中症リスクが高くなる。

3.持病(基礎疾患)

  • 糖尿病

血糖値が高いほど末梢の血管拡張が障害されやすいため、体表面からの熱の放散が不十分になりやすく、汗もかきにくくなることから、体温が高くなりやすい。

  • 高血圧症、心臓病

水分・ナトリウム(塩分)を体外に強制的に排泄する利尿剤を内服している場合、脱水になりやすい。

  • 腎臓病

塩分摂取を制限されている場合、塩分不足になりやすい。

  • その他(皮膚疾患、精神・神経疾患)

広範囲の皮膚疾患があると、発汗が不十分となり、体温調節に支障を来すことがある。

自律神経に影響がある薬(パーキンソン病治療薬、抗てんかん薬、抗うつ薬、抗不安薬、睡眠薬等)を内服している場合、発汗や体温調整が阻害されやすい。

2)その日の体調による「熱中症へのなりやすさ」

  • 風邪、下痢、嘔吐

風邪で発熱があると汗を余計にかくことで脱水になりやすい。下痢や嘔吐があると水分とともにナトリウム(塩分)も失われ、さらに脱水になりやすい。

  • 二日酔い

アルコールはその分解に水分を使うことに加え、尿を多く出す作用があるため、脱水となりやすい。

  • 朝食を抜く

起床時にはすでに脱水状態になっているので、水分を摂ることが大切。朝食を抜くと、水分・塩分が不足になりがちで熱中症リスクを高める。

  • 寝不足

寝不足により注意力や集中力が低下するとともに、暑熱にさらされた身体の体温調節が難しくなり、熱中症に罹りやすくなる。

管理者の方は、作業員の中で「熱中症になりやすい人」を予め把握しておき、その作業者の動きをよく観察し、少しでも、ふらつきなどの異変が現れた場合は、すぐに休憩を促し、水分・塩分を摂取してもらうことが大切です。

3 個人の体調を考慮して熱中症リスク(アラート)を管理者に通知するツール

熱中症は、自覚症状が生じてから重症化するとは限らず、作業に没頭していて、いつのまにか体温が上昇して、脳が正常な判断ができなくなって、突然、倒れるというケースがしばしば報告されています。

そのため、朝礼などで「今日は暑くなるので、体調が優れない時は無理をしないで休憩するように…」と伝えて、本人の自発的な予防を促しても、一緒に働く同僚への配慮などもあり、ついつい無理をしてしまいがちなため、十分な対策とは言えません。

そこで、今回は、このような課題を解決する熱中症管理対策に適した、低廉な管理ツールとして、「みまもりふくろう」をご紹介します。

【労務/熱中症管理サービス】みまもりふくろう

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リストバンド型デバイスにより作業者の脈拍と位置情報をリアルタイムに計測し、企業の労務管理と熱中症対策をサポートするウェアラブルIoTサービスです。

1)個人差のある作業者の体調変化をAIが判断してアラート基準を自動設定

このサービスは、リストバンド型デバイスを着用した作業者の脈拍を、4秒に1回の高頻度で計測し、予め定められた心拍の上限・下限や熱ストレス度(熱中症リスク)、作業強度(肉体負荷の大きさ)の初期値を超えた場合にアラートを所定の携帯電話やパソコンにメール通知するものです。

前述のとおり、熱中症のかかりやすさは人によって異なるため、このサービスでは、厚生労働省の熱中症対策への考え方を基本として、作業者個人に最適なアラート基準に自動修正するアラートロジックを備えています。

リストバンド型デバイスによる熱中症管理サービス商品は、世の中に数多く販売されていますが、個人差を考慮してアラート基準(初期値)をAIで自動修正する仕組みを備えたサービスは他には見当たりません。

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2)アラート通知は本人だけでなく、管理者にも通知

リストバンド型デバイスによる熱中症管理サービスに関して、企業の皆さんから「本人に危険を通知することができるか?」といった問い合わせが多く寄せられます。もちろん、このサービスでは、本人が携帯電話等を所持していれば、メールでアラートを通知することができます。しかし、先にお伝えしたとおり、本人に通知しても、「異変は感じていないので、まだ、大丈夫だよ。」として、このアラート通知を無視してしまうことがよくあることが大きな問題なのです。このサービスのアラート通知機能は複数の人にメール通知することができるため、現場の管理者や一緒に働いている同僚にも通知することができます。熱中症予防で大事なことは、周囲の人から休憩を促すことや場合によっては、管理者から強制的な指示として休憩や水分・塩分補給を促すことだと考えられます。

また、このサービスのアラートは正常(緑色)、注意(黄色)、危険(赤色:この段階でアラート通知)の3段階のレベルで身体状態を捉えることができるので、休憩中に危険(赤色)から正常(緑色)に変わった段階で管理者の方から本人に「仕事に復帰してもよい」との指示を与えることもできます。

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3)その他、GPSによる位置情報の把握や多彩なダッシュボード機能を備えているうえ、導入しやすい安価なサービス料金

GPS機能により位置情報を把握することが可能なため、夜間や一人作業中の異変時においても遠隔地から早期に異状を発見し、救急車の要請を連絡することや現場に近ければ、即座に応援に駆け付けることもできます。

また、取得したデータを見える化したダッシュボード機能を備えているため、作業者の1日のルートを振り返って確認することや過去の心拍データ履歴の確認や分析等ができます。

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また、このサービスは、初期費用が不要なため、低価格でのサービス提供を実現しているほか、夏場の3か月間だけの期間利用も可能なため、導入しやすいサービスとなっています。

作業者の個人差を踏まえて熱中症管理ができる他にない機能を有した管理ツールですので、是非、ご検討してみてはいかがでしょうか。

詳細なサービス内容や料金等は上記に記載のWebサイトにアクセスして、ご確認ください。

【参考文献】

  • 厚生労働省「職場における熱中症予防対策マニュアル」
  • 環境省「熱中症環境保健マニュアル」(2018年3月)
  • 中央労働災害防止協会「製造業向け熱中症予防対策のためのリスクアセスメントマニュアル」(平成27年3月)
  • 研究代表者 堀江正知「熱中症予防等に資する一般健康診断を通じた効果的な健康管理に関する研究」(平成29年3月)

以上(2021年7月)

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画像:anypix-shutterstock

【朝礼】漫画と映画とお客様

今日は、私の好きなものをテーマに話をしたいと思います。私は漫画が大好きで、少年時代は、「ジャンプ」や「マガジン」などを読みあさっていました。ジャンルも、SF、ファンタジー、ミステリー、スポーツ、ラブコメディーなどさまざまです。社会人になってからは忙しくなり、漫画を読む機会が減りましたが、そんな今でも漫画好きの少年の心が燃え上がるタイミングがあります。

それは、昔好きだった漫画が「実写化」されるときです。最近だと、例えば幕末の剣豪が明治時代の人々を守るために戦う漫画「るろうに剣心」の実写映画などが注目を集めました。実写化のニュースを聞くと、「どの俳優さんがどの登場人物を演じるのだろう」「原作の名シーンをどう表現するのだろう」と気になり、自然と映画館に足を運んでしまうのです。

私が特に「映画を見てよかった!」と感じるのは、原作の良さを残しつつ、原作にない映画だけの“オリジナル要素”がブレンドされた作品に出合えたときです。例えば、SFやファンタジーの作品の場合、原作では早めに死んでしまう登場人物が映画では生き残って活躍するなど、“いい意味”で期待を裏切られると心が躍ります。ただ、この“オリジナル要素”というのはくせもので、例えば、登場人物の特徴のある見た目や性格など、ストーリーの根幹に関わる部分にまで修正を加えてしまうと、映画の内容が原作からかけ離れたものになり、面白さが半減してしまいます。

製作スタッフは、観客が原作を知っていても映画を楽しめるよう、“オリジナル要素”に工夫を凝らします。しかし、私たちが映画館に足を運ぶのは、「好きな登場人物やシーンが実写でどう描かれるかを見たいから」であり、スタッフが工夫を凝らし過ぎてそのニーズが満たされなくなると、映画を心から楽しめなくなります。

私が今日この話をした理由は、お客様に商品やサービスを案内するときの自分自身の行動について、最近反省することがあったからです。これまで、私は新しい商品やサービスが出るたびに迷わずお客様に案内をしてきました。

しかし、先日お客様の1人から、「いつも新商品とかを案内してくれるのはうれしいのだけど、別に新しいものが欲しいわけじゃないんだよね」と言われてハッとしました。私は新しい商品やサービスを案内することばかりに気を取られ、お客様が本当は何を求めているのかを真剣に考えていなかったのです。

だから、今日ここで宣言します。私はお客様のニーズを誰よりも考える社員になります。どのような課題を抱えているのかお客様からよく話を聞き、当社の商品やサービスでどのような解決策を提示できるのか、真剣に考えます。次に朝礼の場に立つときは、お客様の課題をどうやって解決したか、そのストーリーを皆さんにお伝えします。1本の“映画”をご覧いただくつもりで、楽しみにしていてください。

以上(2021年6月)

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画像:Mariko Mitsuda

【朝礼】新チャレンジするあなたに送る3つの秘訣

今年度の第1四半期がもうすぐ終わります。「4月から新しいチャレンジをスタートさせたが、なかなかうまくいかない。それどころか、ミスやトラブルを引き起こしてしまった」。そう落ち込む人も出てきている時期です。そこで今日は皆さんに、新チャレンジの際に押さえておくとよい3つの秘訣をお伝えします。内容の大小にかかわらず大事なことなので、ぜひ実践してください。

まず1つ目は「丁寧にやる」です。新しいこととは、「今までやった経験がない」「慣れていない」ことでもあります。特に、仕事の進め方をガラッと変えたり、全く新しいツールを導入したりする場合は、ミスが出やすいものです。そう思っていつも以上に丁寧に進めてください。新しいことにチャレンジしてミスが出るのは仕方がなく、むしろそれを恐れて何もしないほうがよくありません。ただし、ビジネスですから、「リスクを考慮して丁寧に進めたかどうか」が問われるのも事実です。

2つ目は「声を大にする」です。新しいことにチャレンジすることを、周りにしっかり宣言してください。そうすることで、まず周りが応援してくれます。これは大いに力になります。さらに言うと、「あの人はそこに労力を割くのだな」ということが周りに分かるので、仕事の振り方、回し方なども変わってくるでしょう。むしろ、周りにいる管理職には、それを考慮した仕事の振り方、回し方を心掛けてもらいたいところです。

また、周りに宣言するに当たっては、「なぜチャレンジするか」「どのような効果が期待できるか」を明確に伝えることが大切です。これは応援や協力をしてくれる周りへの最低限の礼儀でもあります。理由や効果を明確に伝えるのは、1つ目の「丁寧にやる」にも通じます。周りに対して、「丁寧に伝える」ことに他ならないからです。

そして最後の3つ目は「やり切る」です。あえて強く言いますが、ミスやトラブルに決してめげてはいけません。新しいチャレンジは「こうしたい」「こうなりたい」という「あるべき姿」に向けてスタートしたはずです。ならば、そのチャレンジは、ぜひ成し遂げてください。やり切るのです。ただし、ミスやトラブルが起きたなら、その原因を突き止めて改善すべき点は改善することも必要です。「やり切る」とは、とにかく方法を曲げずに進めることではなく、臨機応変に軌道修正しつつ、「あるべき姿」を達成することだと私は思います。

皆さん、いかがでしょうか。新しいチャレンジがうまくいかないと落ち込んでいた人は、何を改善すべきかイメージできますか? また、次の第2四半期に新しいことをやろうとしている人は、今日私がお話しした3つのことが理解できたでしょうか。私はいつも、皆さんの新チャレンジを心から応援し、そしてチャレンジに感謝しています。一つひとつの新チャレンジが、当社の明日をつくっていくことになるのですから。

以上(2021年6月)

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画像:Mariko Mitsuda

意思決定時に欠かせない「機会コスト」と「埋没コスト」/経営者のためのファイナンス講座(4)

書いてあること

  • 主な読者:将来の意思決定に役立つファイナンス思考を身に付けたい経営者
  • 課題:機会コストや埋没コストは、コストとは付くものの、新たな支出を伴うものではないため、とっつきにくい
  • 解決策:意思決定に迷った際、機会コストが何かを明確にすること、埋没コストがあれば無視をすることが大切

1 機会コストで確認。「できるけど、やらない方がいいこと」

今回は、ファイナンスで必ず押さえておきたい「機会コスト」と「埋没コスト」について解説します。

まず、機会コストとは、

2つの案がある場合に、一方の案を選んだことで失ってしまった、もう一方の案から得られた収益

のことです。オポチュニティコスト、機会費用とも言います。ここから学ぶべきことは、

自社の社員でできることであっても、外部に頼んだ方がいい場合もある

ことです。シリーズ第3回(「人」と「コスト」のファイナンス的考え方/中小企業経営者のためのファイナンス講座(3))で、主に人件費コストの割高さに注目して、そうお話ししました。

これがまさに「機会コスト」です。社員に訓練期間が必要のない単純作業をお願いした場合、他の大事な仕事ができなくなってしまいます。このケースにおける機会コストは、その社員だからこそできる高度な業務が当たります。

2 残業削減がうまくいかないのは、機会コストも一因

残業削減は経営の重要テーマですが、経営者や人事部門がいくら訴えても、なかなか減らない会社がほとんどです。これは、社員個人の機会コストの面から考えても、当然といえます。なぜなら、残業しない場合、これまで残業することで得られていた収入(残業手当)が得られなくなってしまいます。つまり、この場合の残業手当分の収入は、残業しない場合の機会コストとみなされたのです。

このように、多くの人はすでに意思決定時における機会コストの使い方を、無意識に習得しています。

残業が掛け声だけではなかなか減らなかったのは、多くの人が機会コストを意思決定時において正しく使えたからといえます(もちろん、機会コストによる意思決定だけでなく、業務上どうしても残業が必要だという人もいると思いますが、ここではあくまでファイナンスの視点で述べています)。

では、残業削減に成功した会社はどのようにしたのでしょうか。一部の会社では減った残業時間に対して、残業削減手当を支給しました。残業削減手当を支給すれば、損する金額が減りますので、残業しなくてもいいかという判断につながったのです。

3 ギャンブルや投資には、埋没コストのワナが潜んでいる

もう1つ紹介したいのは、「埋没コスト」です。埋没コストとは、

2つの案がある場合に、どちらの案を選んでも共通してかかるコスト

のことです。サンクコスト、埋没費用とも言います。

埋没コストの例には、ギャンブルの埋没コストがあります。パチンコや宝くじなど、負け続けると「次は勝つ気がする」「これまでの損を取り返さなくては」と、泥沼にはまるケースが多いようです。

これまでに使ったお金が、まさに埋没コストです。冷静に考えれば、ここでギャンブルをやめても続けても、返ってこないコストです。よって、続けるかどうかを決めるのに本当は考慮してはいけません。しかし、理性ではそう分かっても、私たちの感情は別です。「そろそろ当たるはず」「このままでは悔しい」という感情に左右されてしまいます。

ファイナンスの観点から、

埋没コストの正しい使い方は無視すること

です。こちらは機会コストと逆に、「感覚に従ってはいけない」と、しっかり覚えておいてください。これは一般に、「埋没コストのワナ」と呼ばれています。株などの投資も、損切りが最も難しいといわれるのは、同じ話ですね。

4 多額な投資ほど、誤った意思決定をしやすい

会社に当てはめて考えると、設備投資や研究開発にすでに要した費用が埋没コストの代表例です。

かつて超音速旅客機として期待されたコンコルドですが、短命に終わったのは、

燃費が悪いなど採算が合わないことに開発途中で分かっていたのに、巨額の開発費をすでにかけていたことから、後戻りできなかったから

という話を聞いたことがあります。

液晶パネルの生産工場も同じです。工場の建設途中で市場の状況が変わってきたものの、そのまま建設を続行したという話があります。工場は完成したものの、予定していたほどの稼働ができずに、稼働するほど赤字が出る状況が続いてしまいました。

巨額な費用をかけていればもったいないと思うのは当然です。しかし、大きな案件であるほど、投資を続けてしまうことで、さらに大きな損失が発生するものです。冷静に開発費用は埋没コストと割り切って、意思決定をするのが重要です。

大手企業の役員でも、感情に引っ張られて、正しく意思決定ができないケースがあるのが、この埋没コストの恐ろしさです。お金だけではありませんが、過去は変えることができません。変えられるのは将来だけということに注目して、埋没コストは無視すべきということを押さえてください。

5 悪役ではなく、ビジネスチャンスを生むことも

埋没コストを悪役のように思われた方もいるかもしれませんが、実はビジネスチャンスとして活かすこともできます。埋没コストは、2つある場合に、どちらの案を選んでも共通してかかるコストなので、追加で費用が発生しないと捉えることもできます。

例えば、朝と夜で異なるオーナーやメニューの飲食店がそうです。家賃を埋没コストと捉えて、定休日や空き時間に別の人に貸せば、その分時間貸しの家賃が得られます。つまり、

すでに支払いを済ませた、一部空いているものを活用する

というふうに考えると、色々なアイデアが考えられます。

在宅勤務が増えた最近では、カラオケ店が個室をテレワーク用に提供したり、ホテルがデイユースプランを用意したりしています。個人の空間という特性に注目し、従来と用途を変更することで活路を見いだそうとしています。すでにある設備は埋没コストに当たりますので、ファイナンス的にとてもいいアイデアといえます。

今回ご紹介した機会コストや埋没コストは、コストとは付くものの、新たな支出を伴うものではないので、とっつきにくいと思う方もいるかもしれません。しかし、どちらも意思決定のときには必ず押さえなくてはいけない大事な考え方です。

ぜひ、ご紹介した例とともに意味を理解し、意思決定に正しく使えるようにしてください。

以上(2021年6月)
(執筆 管理会計ラボ 代表取締役 公認会計士 梅澤真由美)

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けがや病気で、経営者が働けなくなるリスクに備える。経営者327人のアンケートから見える実態と具体策

書いてあること

  • 主な読者:けがや病気で働けなくなるリスクに備えたい経営者
  • 課題:どのような備えをしておけばよいか分からない
  • 解決策:労災保険への特別加入、民間保険への加入、経営陣の補強と後継者育成を検討する

1 企業の存続にも関わる経営者の就業不能リスク

皆さんは「就業不能」リスクについて考えたことがありますか? 就業不能リスクとは働けなくなるリスクであり、

けがや病気によって入院が長期化したり、障害が残ったりして、長い間働けなくなってしまうこと

です。全ての人に関係することですが、特に経営者の場合、会社経営に重要な影響を及ぼすことになります。

【経営者個人の生活に関する影響】

  • 治療などにかかる負担(入院費・治療費・介護費、家族の介護負担)
  • 収入減少による負担(住宅ローンの返済、生活費)
  • 自身・家族の人生設計の見直し(子どもの進学) など

【企業経営に関する影響】

  • 経営業務の停滞(各種決済、経営者がけん引するプロジェクトなどの停滞)
  • 経営計画の見直し(取引先との関係、金融機関からの融資などへの影響)
  • モチベーションが低下した従業員の離職、追加人員の補充のための人件費増加 など

就業不能リスクは、

50歳を超えるとその傾向が顕著だといわれ、けがや病気によって1年以上の長期入院となった人のうち、50歳以上が約89%を占める

というデータもあります(厚生労働省「患者調査」(2017年))。特に高齢の経営者にとって就業不能リスクは他人事ではないわけですが、「自分は大丈夫!」と考えている経営者もいるでしょう。では、世の経営者が就業不能リスクについてどう考えているのでしょうか。全国の経営者327人に対して行った独自アンケート(2021年5月実施)の結果を紹介します。

2 経営者327人に聞いた就業不能リスクへの不安と備え

1)就業不能リスクへの不安

就業不能リスクについては、経営者の約79%が「不安を感じている」と答えています。

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2)就業不能リスクへの備えの状況

就業不能リスクへの備えの状況については、経営者の約37%が既に備えを進めており、約45%は今後備える予定と答えています。

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3)就業不能リスクへの具体的な備え

図表2で、「既に備えていることがある。もしくは、備え始めている」と答えた経営者の具体的な備えは次の通りです。

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回答のうち、「その他」は、貯金・貯蓄や不動産活用、そもそも就業不能にならないための健康管理など、経営者によってさまざまです。以降では、労災保険の特別加入や就業不能保険といった民間保険など、主な備えについて解説していきます。

3 労災保険への特別加入(中小事業主等の場合)

原則として、経営者は労災保険には加入できません。しかし、所定の要件を満たす場合は「労災保険への特別加入」が認められます。中小企業の経営者のケースで紹介します(一人親方の場合などがありますが、ここでは割愛します)。

1.中小企業の範囲

  • 金融業・保険業・不動産業・小売業:50人以下
  • 卸売業・サービス業:100人以下
  • 上記以外の業種:300人以下

2.特別加入者の範囲

  • 経営者やその他の役員
  • 経営者の事業に従事する役員や、労働者と見なされていない経営者の家族従事者

3.加入の一般的要件

次の2つの要件を満たし、所轄都道府県労働局長の承認を受ける(労働保険事務組合を通じて所轄労働基準監督署経由で所定の申請書を提出)

  • 雇用する労働者について保険関係が成立していること
  • 労働保険の事務処理を労働保険事務組合に委託していること

特別加入者した経営者は、所定の給付を受けることができます。ただし、補償の対象となる範囲(労災保険給付を受けられるケース)や、労災保険給付(一部)の算定基礎となる「給付基礎日額」などについては独自のルールがあるため、詳細は厚生労働省「特別加入制度のしおり(中小事業主等用)」をご確認ください。

4 就業不能保険などの民間保険への加入

就業不能リスクへの備えとして、

最も多くの経営者が実施しているのが「民間保険への加入」

です。具体的には、就業不能状態となった際に一定期間、所得の一部を補償する就業不能保険や、企業の運転資金の一部を補うことができる法人向け医療保険などが該当します。

労災保険の給付は手厚く、労災保険に特別加入すれば安心ですが、これだけで全ての生活費などを補うには難しいケースもあります。私傷病の場合に支給される傷病手当金(健康保険)なども同様です。

こうした理由から就業不能保険などの民間保険に加入する経営者が多いのでしょうが、保険会社によって、給付の対象となる傷病の種類や要件、給付期間などが異なるので注意が必要です。

5 経営陣の補強や後継者の育成

その他の備えとして、経営陣の補強や後継者の育成などがあります。経営者が経営を続けられなくなった場合に、自分の代わりとなる人材を育て、スムーズとはいえなくても、引き継ぎができるような準備は必要かもしれません。

これは、就業不能リスクへの対策であると同時に、事業承継対策でもあります。事業承継対策をいつから始めればよいのか分からないという経営者は少なくありませんが、就業不能リスクへの対策という別の切り口から検討してみることも重要です。

以上(2021年6月)

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【朝礼】登る山を決める。そして、いつか山になる

ソフトバンクの孫正義さんは、社員と接するとき、よく「登る山を決める」というフレーズを使うそうです。私なりの解釈は、ものすごく努力をしなければ登れないほどの高い山を目指すのか、楽をして登れる低い山を目指すのか、その心持ちによって既に勝敗は決しているということです。

会社に入ることを、同じ船やバスに乗ると表現することがあります。しかし、私はこのニュアンスには同意できません。なぜなら、船もバスも運転するのは経営陣であり、社員は乗っているだけの印象があるからです。今の時代は、まさに一緒に登る山を決めて、互いに高め合うことが求められると思うのです。そうした意味からも、孫さんのフレーズは、私にとって共感できるものです。

そもそも私たちは、常に登る山を決めています。仕事とは関係ありませんが、私は50歳手前でピアノを始めました。この年齢から楽器を始めることは結構難しいことのようで、周囲は「すごいな」「勇気あるね」などと言ってきました。しかし、私は全く気にしていませんでした。むしろ私の関心は、ベートーヴェンの『エリーゼのために』を弾きたいということだけでした。YouTubeを見て練習しましたし、ピアノ教室の先生にもそのことを伝え、いきなり両手で練習を始めました。教本は使わず、私が弾きたいと思う曲を課題曲として先生に教えてもらうようにしました。先生が私のレベルに合わせて、曲をアレンジしてくれることもあります。

セオリーで考えたとき、この方法が正しいかどうかは分かりません。ただ、「何を弾きたいか」は私の自由ですし、「練習方法がむちゃくちゃで上達が遅い」ことに気付いたのなら、そこで軌道修正すればよいだけです。登山でいえば、今の体力や装備では無理だと思うのなら、一度下山して、体を鍛え、装備も整えた上で再チャレンジすればよいのです。山はなくならないわけですから。

そして、今の私の目標はショパンの『ノクターン』の1曲に変わりました。今は『ノクターン』のほうに、より強く引かれるようになったためですが、いずれも押しも押されもせぬ名曲であり、「良いものは良い。名曲を弾けるようになりたい」ということに関して、「私が登る山」は変わっていません。

さて、話を仕事のことに戻します。仕事の上で私が皆さんと一緒に登りたい山は、「山になること」という山です。あの山に登ってみたいと目標にしてもらえる会社、「あの人を追い越したい」と目標にしてもらえる人。高い山だと分かっていますが、私たちはそんな集団でありたいのです。

その山に登るには、皆さんの力が欠かせません。それに、私たちは同じ会社で働くチームですから、チームで登ったほうが楽しいと思います。しかも、疲れて動けなくなったとき、仲間はそっと皆さんの荷物を持ってくれます。「頑張ろう。あと少しだ!」と応援もしてくれるでしょう。皆で一歩一歩、力強く登っていきましょう。

以上(2021年6月)

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画像:Mariko Mitsuda