【規程・文例集】「リコール対応に関する規程」のひな型

書いてあること

  • 主な読者:最新法令に対応し、運営上で無理のない会社規程のひな型が欲しい経営者、実務担当者
  • 課題:法令改正へのキャッチアップが難しい。また、内規として運用してきたが法的に適切か判断が難しい
  • 解決策:弁護士や社会保険労務士、公認会計士などの専門家が監修したひな型を利用する

1 求められるリコールへの備え

安全な製品を供給することは企業の責務ですが、製品事故の発生を完全になくすことは難しいと言わざるを得ません。例えば、サプライチェーンが複雑化する中、完成品メーカーが気付かないうちに、サプライヤーが部品の材料や仕様を勝手に変えてしまう、いわゆる「サイレントチェンジ」が発生しており、経済産業省などが注意を促しています。また、足元では、一部の素材メーカーによる製品の品質データ改ざんが相次いで発覚し、問題となっています。

企業は日ごろから製品事故の発生を想定してリコール対応のための準備を行い、製品事故の発生またはその兆候を発見した段階で、迅速かつ的確なリコールを自主的に実施できるようにしておく必要があります。

準備を怠ると、リコール対応に長い時間がかかる上、結果的に「製品事故の発生を隠そうとした」と受け止められかねません。

消費者への人的危害が発生・拡大する可能性があることに気付きながらリコールなどの対応を行わず、死亡事故や火災など重大な被害を引き起こしてしまった場合、行政処分の対象となるばかりか、損害賠償責任や刑事責任を問われることになります。

訴訟に備える意味でも、企業には、迅速かつ的確なリコールを実施できる体制の整備が求められます。

リコールに備えるためには、あらかじめルールを定め、「消費者の安全確保」を重視する企業としての姿勢を従業員などが全員で共有することが不可欠です。その根拠となるのがリコール対応に関する規程です。以降では、経済産業省「消費生活用製品のリコールハンドブック2016」を基に、リコール対応に関する規程のひな型について紹介します。

2 リコール対応に関する規程のひな型

以降で紹介するひな型は一般的な事項をまとめたものであり、個々の企業によって定めるべき内容が異なってきます。実際にこうした規程を作成する際は、必要に応じて専門家のアドバイスを受けることをお勧めします。

【リコール対応に関する規程のひな型】

第1条(目的)
本規程は、製品の使用者の生命または身体への危害の拡大防止の観点から、事故発生に伴う使用者への危険や損害発生防止の際に、当該製品の点検・修理・回収等の事故対策を迅速、適切かつ効果的に行うための社内基準として定めるものである。

第2条(対象製品)
本規程の対象とする製品は、当社が取り扱う国内向けの製品とする。ただし、その他の製品についても、本規程に準じて適用するものとする。

第3条(用語の定義)
本規程において各用語の定義は、次に定めるところによる。
 1.事故
  製品の使用に伴い、人的危害を生じた事故および人的危害を生じる蓋然性の高い物的事故をいう。また、これらの製品事故(人的事故や火災等)の発生に結びつく恐れがある製品欠陥や不具合を事故等という。
 2.拡大
  同様の事象が複数発生することをいう。
 3.リコール
  製品の使用による事故発生の拡大可能性を最小限にするための対応であって、具体的には流通および販売段階からの回収並びに顧客の保有する製品の交換、改修(部品の交換、修理、適切な者による直接訪問での修理または点検を含む)または引き取りを実施することをいう。
 4.事故の発生を予見させる欠陥等の兆候に関する情報
  事故を発生させる蓋然性が高い欠陥に関する情報および欠陥か否かは明確に判別できないものの、同様の事故の発生を予見させる情報をいう。
 5.従業員等
  当社の役員および従業員をいう。

第4条(製品安全基本方針)
当社が製造・販売した全ての製品の安全性に対する消費者の信頼を確保することが当社の経営上の重要課題であるとの認識の下、次の通り、製品安全に関する基本方針を定め、誠実に製品安全の確保に努める。
 1.消費生活用製品安全法その他の製品安全に関する関係法令・各種基準等に定められた事項を遵守する。
 2.製品安全基本方針に基づき、品質保証体制をはじめとした組織構築を行い、継続的な改善を実施して「顧客視点」に基づいた「安全」「安心」の確保と維持に努める。
 3.製品安全管理について各事業部を横断的に統括する製品安全管理室を設置する。併せて各事業部内での品質保証体制および安全管理体制を構築する。製品の設計・製造・出荷の全ての段階において、常に適正な品質管理および安全管理を行い、その向上に努める。
 4.当社製品に係る事故について、その情報を顧客や販売会社、業界団体等から積極的に収集するとともに、製品の使用に伴うリスクの洗い出しを常に行い、そのリスクを評価し、その結果を製品の設計、部品、警告ラベル、取扱説明書にフィードバックするなど、継続的な製品安全の向上に努める。
 5.当社製品に関する不測の事故が発生した場合、直ちに原因究明を行い、安全上の問題があることが判明したときは、速やかに製品の回収、その他の危害の発生・拡大の防止措置を講じ、適切な情報提供方法を用いて迅速に消費者に告知する。
 6.製品安全に関する関係法令、各種基準等に関する社内研修を行い、製品安全に関する全社的な取り組みを継続的に行うとともに、関係法令遵守と製品安全の確保について周知徹底を図る。また、定期的な内部監査を実施し、製品安全管理に関する各種規程・手順等の遵守の状況の確認や適正な体制整備を行う。

第5条(製品安全責任者)
1)各部門長を、各部門における製品安全責任者とする。
2)各部門の製品安全責任者は、各担当部門における製品の安全性を確保するよう、従業員を指導・監督し、製品安全管理室と常に連絡を取るものとする。

第6条(原因究明)
1)当社製品に事故の発生または事故の発生を予見させる欠陥等の兆候を発見した場合、可能な限り速やかに問題の製品を入手し、事実関係を確実に把握する。
2)必要に応じて再現実験等の調査を実施し、原因の究明を行う。
3)当社内での原因の究明が困難な場合、製品の種類や事故の状況に応じ、公共または民間の適切な原因究明機関を利用し、原因の究明に努める。

第7条(被害想定)
事実関係に基づき人的危害の発生および拡大の可能性を検討し、被害を想定する。

第8条(リコール実施の判断)
1)消費者の安全確保の観点から、全ての事故および事故の発生を予見させる欠陥等の兆候に関する情報について、リコール実施の要否を検討する。
2)リコール実施の要否および方法は、製品安全管理室が原因究明や被害想定の結果を基に判定し、取締役会においてリコールを実施するか否かの判断と決定を行う。
3)リコール実施の判断は、消費者の利益を第一に考え、事故の拡大防止のため迅速かつ的確に対応するものとする。ただし、具体的な対応はリコールの他、使用方法等に関する注意喚起、原因が究明されるまでの製造、流通または販売の停止等の暫定的な対応の選択肢も考慮し、製品や事故状況に応じた最適な対応方法を決定する。
4)リコール実施を不要と判断した場合においては、事故が拡大する可能性がないか継続監視を行う。
5)継続監視の結果、リコール実施について再び審議が必要と判断した場合は、製品安全責任者による会合を招集し、事故情報の内容および分析結果を審議し、その内容および結果を取締役会に報告する。

第9条(リコール体制の確立)
1)リコール実施を決定した場合、直ちに製品安全管理室にリコール対策本部を設置する。
2)各関係部門の製品安全責任者をリコール対策本部のメンバーとして招集し、具体的なリコール計画の策定、実施を行う。
3)製品使用者等からの問い合わせに確実に対応するため、リコール対策本部の指揮下にリコール対応窓口を設置し、要員を配置する。

第10条(リコール計画の策定)
リコール実施を決定した場合、迅速かつ的確に事故の拡大を防止するため、リコール計画を策定する。リコール計画には次の事項を定める。
 1.目的
 2.リコールの種類
  ・製品の交換
  ・部品の交換
  ・修理
  ・点検
  ・引き取り(返金)
 3.具体的な目標
  ・リコール対象数
  ・リコール実施期間
 4.責任母体
  ・責任者
  ・対応組織と役割分担
 5.対象製品
  ・品名、型番、ロット番号、シリアル番号等
  ・稼働状況(販売台数、市場稼働台数、在庫台数等)
 6.情報提供方法
  ・記者発表実施の有無
  ・社告等の情報提供方法(媒体、時期、内容)
  ・社内外に対するリコール進捗状況の情報提供に関する透明性確保の方法
 7.製品使用者への対応
  ・既に被害が発生している場合、当該被害者の救済方法を含めた対応方針
  ・まだ被害が発生していない場合、被害を予測した被害者への対応方針
 8.官公庁・公的機関への報告
 9.社内への情報伝達
  ・関係部門への連絡と主旨の徹底方法
  ・従業員等への伝達方法
 10.原因究明
  ・原因究明の結果
  ・実施状況(実施機関、時間的目標等)
  ・原因が部品供給会社等の関連会社製品にある場合の原因追究の範囲および方法等
 11.関係者からの意見聴取
  ・法的な責任の有無の確認
  ・将来的な信用や風評への対応方法等
 12.対策および再発防止策
  ・リコール実施状況のモニタリング・評価および見直し方法

第11条(販売会社等への事故対策協力要請)
リコール実施に先立ち、対象製品を供給した販売会社、委託等により対象製品の設置・修理を行っている設置・修理業者等に対し、事故対策の実施に関する連絡を行うとともに、対策の実施について協力を依頼するものとする。

第12条(関係機関等へのリコールの報告)
リコール実施を決定した場合、次の関係機関等に情報提供を行う。
 1.無用な混乱、誤った情報の流出を避けるため、従業員等に対し必要な情報提供を行う。
 2.製品使用者への対応を適切に行うため、販売会社等に対し必要な情報提供を行い、協力を要請する。
 3.関係行政機関等に対し、リコール実施前にリコール計画等を報告する。その際、報告先、書式は関係行政機関等の通達に基づく。
 4.第3号の報告は、業界団体および、関連会社が加盟している関連団体等に対し、必要に応じ速やかに行う。
 5.対象製品について、使用者団体や、常日ごろ情報提供等を行っている関連団体がある場合、これらの団体に対し情報提供を行い、協力を要請する。
 6.法的責任判断のため、弁護士に速やかに事実関係を報告する。
 7.迅速な被害者救済のため、保険会社に速やかに事実関係を報告する。
 8.必要に応じ新聞・テレビ等に情報提供を行い、協力を要請する。

第13条(リコール実施の製品使用者への通知方法・手段)
製品使用者への通知方法は次の通りとする。
 1.保守点検契約等により顧客名簿が作成され、対象製品の所在が特定される場合、ダイレクトメール、電話、FAX、Eメール、直接訪問等により、速やかに製品使用者に対し直接連絡し、通知を図る。
 2.製品使用者を確実に特定できない場合、ウェブサイト、新聞社告、記者発表等、最適な情報提供媒体を決定し、事故の重大性や緊急性によって複数の通知方法から効果的な方法を選択し、または組み合わせて、適宜に通知を図る。
 3.製品使用者に対し通知を図る際には、次の点を考慮する。
  ・高齢者を考慮した文字の大きさや分かりやすい表現方法を用いる。
  ・広告、宣伝と誤解されない体裁とする。
  ・リコール目標の達成まで継続的に実施する。
  ・通知方法、手段は最適な方法を模索し続ける。
  ・情報提供に際して、必要に応じ関係行政機関等と相談をして対応する。

第14条(リコール実施の製品使用者への通知内容)
製品使用者への通知内容は次の通りとし、簡潔かつ正確に記載する。
 1.会社名、製品名、機種名、モデル名
 2.事故の内容(現象、原因、過去の事故の件数および概要)
 3.危険性の有無と発生が予想される危害等の内容
 4.リコールの内容
  ・リコールの種類
 製品の交換、部品の交換、修理、点検、引き取り(返金)
  ・使用の中止
  ・製品使用者への依頼内容(連絡要請や着払いでの返送依頼)
  ・簡潔な謝辞
 5.製品の識別方法:名称、型番、シリアル番号、製造場所等
 6.対象製品の情報
  ・製品の製造(輸入)期間、販売期間、該当商品の販売台数、対象台数
  ・製品の型番、シリアル番号(表示箇所の写真やイラストによる説明)
  ・その他、製品を限定する情報(販売地域、販路経路等)
 7.対策の開始時期と未対策品の注意事項
 8.連絡先
  ・連絡先名(返送を依頼する場合は送付先名、住所)
  ・電話番号(フリーダイヤル)
  ・連絡可能曜日および時間帯
  ・FAX番号
  ・Eメールアドレス
  ・自社ホームページのアドレス
  ・連絡可能な問い合わせ事項の明示等
 9.日付(社告公表日)
 10.住所(本社所在地または顧客対応窓口)
 11.会社名(クレーム送付先または顧客対応窓口)

第15条(事故対策の公表)
1)製品使用者を確実に特定できない場合、適切かつ効果的な事故対応を行うために、事故対策内容を原則として記者発表等により公表する。
2)公表の時期は、切迫した危害等の恐れがある場合は、直ちに公表を行うものとする。切迫した危害等の恐れが少ない場合には、対策措置の諸準備を速やかに実施し、準備が整い次第直ちに行うものとする。
3)公表内容は第14条と同等の内容とする。

第16条(進捗状況の評価および修正)
1)策定したリコール計画通りにリコールが履行されているか否か、リコール対策本部において進捗状況を評価する。
2)リコールの進捗状況によって、逐次最適な対応方法の検討および修正を行う。リコール計画通りにリコールが進まない場合、製品使用者への通知方法・手段を再度検討する等、対応策を講じる。

第17条(対策状況の報告)
1)対策状況について、リコール計画の報告を行った関係機関等に対し報告を行う。
2)対策状況の報告は、リコール計画の報告後1カ月経過するごとに行うことを基本とし、報告先が報告頻度について特別の指示を行った場合には、それに従う。

第18条(教育等)
1)日ごろより、従業員等に対し、必要な教育・研修を実施し、消費者の安全確保の観点から企業の社会的責任の重要性を認識させるよう努める。
2)リコール完了後、リコール対策本部は、一連のリコール対応について記録をまとめ、関係機関等に報告を行う。また、一連のリコール対応で明らかになった問題点や課題を整理し、従業員等に周知する。
3)リコール対策本部は、前項の終了をもって解散できるものとする。

第19条(罰則)
従業員等が故意または重大な過失により、本規程に違反した場合、就業規則に照らして処分を決定する。

第20条(改廃)
本規程の改廃は、取締役会において行うものとする。

附則
本規程は、○年○月○日より実施する。

以上(2018年11月)

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ヒューマンエラー対策の基本

書いてあること

  • 主な読者:「個人情報の漏洩」など、ヒューマンエラーによる事故の防止を図りたい経営者
  • 課題:ヒューマンエラー防止策を講じても、事故が発生することもある
  • 解決策:防止策を着実に実行させるために、社内にチェック機関を設け、定期的に内部監査をすることが効果的

1 ヒューマンエラーの脅威

十分な対策を講じていても、事故発生のリスクは常にあります。その原因はさまざまで、「ヒューマンエラー(人間の誤認識や誤動作によって引き起こされるミス)」もその1つです。

「個人情報の漏洩」など、ヒューマンエラーによる事故はさまざまな分野で起こり得ます。これらの事故は、「信頼の失墜」「多額の賠償責任の発生」「顧客の安全性の損失」など、取り返しのつかない大きな損害を顧客や企業に与える恐れがあります。

IT化の進展でヒューマンエラーは起こりやすくなり、また想定される被害も大きなものになっています。企業は、日ごろからヒューマンエラーに対する適切な対応をしなければなりません。

2 ヒューマンエラーの類型と対策

1)情報処理のプロセスは3つ

人間による情報処理のプロセスは、「1.入力のプロセス(情報を自身の中に取り込むプロセス)」「2.媒介のプロセス(取り込んだ情報を判断するプロセス)」「3.出力のプロセス(判断に基づいて行動を決定、実行するプロセス)」の3つです。

ヒューマンエラーは、この全てのプロセスで発生する可能性があります。また、各プロセスで生じた個々のエラーは軽微でも、一連の情報処理のプロセスの中でそれらが連鎖することにより、より大きな事故を発生させる恐れがあります。

2)入力エラー

情報を入力するプロセスで発生するエラーです。集中力の欠如、見落とし、見間違い、聞き間違いなどにより、情報を正しく知覚・認知できないことをいいます。例としては、「数字の入力ミス」などがあります。

入力エラーを防止するために、指さし確認を行う、複数の担当者が読み合わせを行うなどの対策が効果的です。また、作業と作業の間に休憩時間を設けたり、集中力の高い朝に間違いやすい業務を行ったりします。

3)媒介エラー

情報を媒介するプロセスで発生するエラーです。油断、誤った知識、経験への依存などにより、情報を正しく判断・決定できないことをいいます。例としては、「正しいはずだという思い込みにより、誤った数字のまま次工程に進める」ことなどがあります。

媒介エラーを防止するために、上司が定期的にチェックして間違いを修正したり、勉強会を行って正しい知識を習得できる機会を設けます。また、マニュアルを作成し、業務や確認事項の統一化を図るなどします。

4)出力エラー

行動を出力するプロセスで発生するエラーです。やり忘れ、やり間違い、勘違いなどにより、作業を計画通りに正しく実行できないことをいいます。例としては、「数字の最終チェックを忘れてしまう」ことなどがあります。

出力エラーを防止するには、「ToDoリスト」(やるべき事柄をまとめたリスト)を作成する、余裕のあるスケジュールを組んで抜け漏れをなくすなどします。また、1つの業務を複数の社員が担当できるようにして、互いに確認し合うのもよいでしょう。

5)ヒューマンエラーの検知

以上のような対策を講じてもヒューマンエラーは発生します。そうしたヒューマンエラーがどのような状況で起こったのか、対策に問題がなかったのかを確認し、改善していくことが大切です。

また、ヒューマンエラーが発生した場合を想定し、損害の拡大を防ぐための対応も検討しなければなりません。具体的には、報告経路を定めて周知したり、クレーム対応の訓練をしたりします。マニュアル化するのもよいでしょう。

3 防止対策の運用上の留意点

過去に発生したヒューマンエラーによる事故を検証してみると、「決められた通りに防止対策を実行しなかったためヒューマンエラーが発生し、しかもその検知が遅れたために損害が拡大してしまった」というケースが多く見られます。

決められた通りに防止対策が実行されないのは、次のような担当者の主観的な判断や、油断によります。「エラーが出ていたが、経験から問題ないと判断した」「自分が確認したので大丈夫と油断し、ダブルチェックをしなかった」。

この他、防止対策が実行されているものの形骸化していて、動作としての指さし確認はしているが、無意識に指を指しているだけで全く確認をしていないということもあります。

こうした問題を改善するために、社内にチェック機関を設け、定期的に内部監査をすることが効果的です。加えて、ヒューマンエラーが起きたときの被害をイメージが湧きやすいように数字などを交えて共有するとよいでしょう。

以上(2018年10月)

pj60022
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【規程・文例集】苦情対応力を上げるマニュアル作成のポイント

書いてあること

  • 主な読者:自社の苦情対応力を上げたい経営者
  • 課題:苦情対応マニュアルなどを整備しておらず、自社として統一された対応ができていない
  • 解決策:マニュアルを作成することをゴールにしないように注意する。また、苦情対応責任者を明確化するなどして、マニュアルを整備する

1 苦情対応力を高めることの重要性

苦情というと、どうしても「悪いもの」「避けたいもの」というイメージがあり、苦情に対して、消極的な姿勢をとってしまいがちです。しかし、苦情対応をおろそかにすると、企業イメージの低下、顧客喪失など企業経営に大きな影響を及ぼす事態になりかねません。

また、苦情の背景には、企業経営を脅かすような重大な問題が潜んでいる可能性もあります。こうした類の苦情を、初期の段階で察知・分析することなく見過ごしてしまうと、取り返しのつかない事態に陥るケースもあります。

このように考えると、苦情対応は企業にとって重要な経営課題であり、組織全体で取り組むべきものと認識し、適切に対応していくことが重要です。

苦情対応に組織全体で取り組むためには、従業員教育など、行うべきことは多々ありますが、本稿では、従業員が苦情対応を行う際の指針となる苦情対応マニュアル(以下「マニュアル」)作成に焦点を当てて見ていきます。

マニュアルを作成することで、期待できる効果は次の通りです。

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ただし、マニュアルは、それを作成するだけで適切な苦情対応に結び付くものではありません。マニュアルを従業員全員に周知させ、必要に応じて内容を見直しながら運用していくという一連の流れが企業の苦情対応力を高めていくのです。

そのため、「マニュアルを作成する際には、マニュアルを作成することそのものを目的としないこと」「マニュアルに頼りすぎた苦情対応をしないこと」に注意する必要があります。

こうした点も考慮しながら、以降では中堅・中小企業におけるマニュアルの基本的な作成手順とその留意点について見ていきます。

2 責任の明確化

1)苦情対応責任者の明確化

まずは、苦情対応の責任者は誰かということを明確にします。

責任者を明確にし、苦情が発生した場合には情報が全て苦情対応責任者の下へ集まるようにしておくことで、苦情対応の効率的な管理が行えるようになります。

なお、苦情対応責任者は、経営トップもしくはそれに近い階層の者が就くほうが望ましいでしょう。苦情対応への取り組みは、企業イメージを大きく左右することがあります。経営トップ自らが苦情対応責任者として率先して苦情対応に取り組むことで、苦情対応を「企業活動における重要な取り組みの1つ」と捉え、高い意識を持って苦情対応に取り組む姿勢を内外に示すことができます。

また、経営トップ自らが苦情対応責任者を務めることは、苦情処理の迅速化という点でも意味を持ちます。対応者が自身で判断できない苦情に対して、経営トップに直接指示を仰ぐことができる仕組みをつくっておくことで、社内手続きを簡素化し、迅速な対応が可能になるのです。仮に一般の従業員が苦情対応責任者を務める場合、苦情受領の報告を受けた苦情対応責任者がその上司に、上司がさらに経営トップに指示を仰ぐ、といった社内手続きが生じる可能性があります。その場合、苦情への対応に時間がかかり、顧客の気分を害してしまう恐れがあります。経営トップが自ら苦情対応責任者となり、苦情への対応方針を決定・指示することで迅速な対応が可能となります。

2)苦情対応責任部門の設置

苦情対応責任部門の主な役割はマニュアルの作成や運用、修正や見直しなど、苦情対応に関するプロセス全体の統括を行うことです。マニュアル作成に関しては、実際に苦情対応を行っている現場の従業員の意見をマニュアルに取り入れることで、現実に即した「生きたマニュアル」を作成することができます。苦情対応責任部門には、顧客からの苦情を受けることが多い従業員(営業、お客様センターなど)をメンバーとして組み入れるとよいでしょう。

3 マニュアル作成・運用の手順

苦情対応責任者および苦情対応責任部門が中心となってマニュアルの作成を進めます。マニュアルに盛り込む項目は業種によって多少の違いはありますが、基本的には次のような項目を盛り込みます。

1)マニュアルの目的

まず、苦情に対する組織の考え方を記載します。冒頭にこうした考え方を盛り込むことで、従業員の苦情対応に対する意識の統一を図ります。ここで記載する内容としては、例えば「苦情を受領した際には、お客様第一の立場で迅速かつ丁寧な対応を心掛ける」「お客様からの苦情には誠意をもって対応し、当社の商品・サービスをより適切にご利用いただけることを目指す」などとします。

この項目は単文でも構いませんし、複数行に分けても構いません。ただし、苦情対応に対する組織の考え方を示すものとなるため、「できるだけ分かりやすく、従業員全員が共有できる内容にすること」が大切です。

2)苦情対応の具体的な手順

次に、苦情が発生した場合の対応手順について記載します。この項目はマニュアルの中核となる部分なので、慎重に検討しましょう。具体的な項目としては「受領」「内容の調査」「対応の検討」「苦情対応の実施」などがあります。手順については、従業員が苦情対応の流れを理解しやすくなるような工夫が必要です。例えば、「苦情の受領から終了まで時系列に並べる」「実際の苦情対応例を併せて記載しておく」「『お客様への対応』と『社内の対応』に分けて手順を記載する」などがあります。

3)苦情対応報告書の作成手順

次に、苦情が発生した場合の対応手順について記載します。苦情対応報告書は、苦情対応に関する情報を管理するために必要となる重要な書類です。ただし、担当者によって報告書の記載内容・項目に大きな差があるようでは、情報を適切に管理することはできません。あらかじめ「苦情発生状況」「苦情内容」「苦情原因」「お客様のご要望」「対応」「対応結果」「備考」などの記載項目を盛り込んだ苦情対応報告書フォーマットを作成しておき、苦情が発生したら、直接苦情対応に当たった担当者に記載・報告をさせるようにします。

4)苦情情報のデータベース化の手順

最後に、苦情情報をデータベース化する際の手順を記載します。

データベース化の目的は、「苦情内容やその対応方法を全社で共有し、苦情の再発防止に役立てること」が挙げられます。そこで、苦情対応者から提出された苦情対応報告書を基に苦情内容と対応方法などを蓄積し、従業員が誰でもアクセスできるようにしておくことが必要です。そうすることで、従業員が以前の苦情対応情報を参考に、よりスムーズな苦情対応を行うことが期待できます。

5)マニュアルの周知・実施

マニュアルを作成したら、苦情対応の勉強会などを開催し、従業員全員にマニュアルの浸透を図ります。従業員の苦情対応のレベルアップを図るためには、こうした勉強会を定期的に開くことが理想的ですが、まとまった時間をとることが難しいという場合もあるでしょう。そうした場合には、朝礼などの時間を利用して通知するだけでも効果が期待できます。1回当たりの時間は少しずつでも、継続して取り組むことが重要です。

4 マニュアル作成・運用上の留意点

1)マニュアルは精密に作りすぎない

マニュアルは、精密に作りすぎないようにしましょう。マニュアルで多くを規定しようとすると、マニュアル作成に時間や手間がかかる上、従業員が覚えにくく、浸透しづらいなどの問題点が出る恐れがあります。

しかも、精密なマニュアルがあると、従業員は全てマニュアルに従って苦情対応を行うことになります。マニュアル通りの対応は、顧客に「機械的な対応」という印象を与えかねません。企業に対して苦情を申し出る顧客は、「自分の話を聞いてほしい」「自分が怒っている理由を理解してほしい」と考えています。そうした顧客に対して「機械的な対応」をしてしまうと、「本当に悪いと思っているのか」と、余計に顧客を興奮させてしまう可能性もあります。

また、従業員がマニュアル通りの対応に慣れてしまうと、マニュアルにない(想定していない)苦情に対して、対応できなくなる恐れもあります。

こうした問題を防ぐために、マニュアルには、「苦情に対する基本的な考え方」「苦情が発生したときにどういう手順で対応するのか」「苦情対応を終了した後の社内処理はどうするのか」など基本的な事項についてのみ記載するのがよいでしょう。

なお、実際の苦情対応に際しては、従業員にある程度の裁量を与え、柔軟に対応させ、もし、運用していて不足などがあれば、その都度見直していけばいいのです。もともと簡潔に作ってあるマニュアルであれば、見直しも簡単に行えます。

2)マニュアルは定期的に見直しをする

マニュアルは一度作成したら終わりというものではなく、苦情対応を常に質の高いものとするためにも、定期的に見直しを行うことが重要です。企業を取り巻く環境は、刻一刻と変化しています。作成時点では非の打ちどころのないマニュアルだったとしても、環境が変化すれば、不都合が出てくる可能性があります。作成したマニュアルを見直すことなく使い続けていては、顧客の要求に応え切れなくなる可能性があります。

そのため、データベース化された苦情対応の情報や、実際に苦情を受ける従業員の意見を定期的に集約して内容を見直すなど、常に鮮度の高いマニュアルにすることが大切です。また、「同業他社の苦情対応事例」などの身近な事例は、適切な苦情対応をするために大変参考となります。日ごろから苦情対応に対するアンテナを張っておきましょう。

3)従業員を評価する仕組みが必要

どんなに素晴らしいマニュアルを作ったとしても、実際の現場で顧客に対応する従業員が高い意識を持っていなければ意味がありません。経営トップは、朝礼や研修などあらゆる機会を使って、従業員に苦情対応の重要性や苦情対応に当たっての心構えなどを伝えていくことが大切です。

また、苦情対応に対する従業員の高い意識を保つためには、「苦情対応を行った従業員をしっかりと評価する」ことも忘れてはなりません。苦情対応は、対応する従業員にとって大きな負担となりますが、苦情対応を行った従業員を評価する仕組みが整っている企業は多くはありません。

確かに、苦情対応は利益に直結するものではないため、評価の対象となりにくい面はあるのですが、これでは、従業員に「苦情対応は割に合わない」という意識が生まれても仕方ありません。従業員がそうした意識を持つと、苦情対応に対する意識が低下してしまう恐れがあります。

こうした事態を防ぐために、苦情対応を行った従業員を評価する仕組みづくりが必要です。こうした仕組みとしては「半年間の苦情対応件数が最も多かった従業員を表彰する」「データベースに蓄積された苦情対応情報から、『参考となる対応』を従業員に選択させ、最も選択された数が多かった従業員に特別手当を支給する」などが考えられます。

4)JIS規格も参考に

苦情対応については、JIS規格「JIS Q 10002:2005 品質マネジメント-顧客満足-組織における苦情対応のための指針」が制定されています。この規格は、組織内部における製品やサービスに関する苦情対応プロセスの指針について標準化を行い、生産および使用の合理化、品質の向上を図ることを目的として制定されたものです。

同規格には、苦情対応の「基本原則」「苦情対応の枠組み」「計画および設計」「苦情対応プロセスの実施」「維持および改善」などの規定事項の他に、苦情対応プロセスの構築や維持に大きく経営資源を投資することが難しい小規模企業のための指針、苦情の受け付けおよび苦情のフォローアップをする際のフォーマットなども添付されています。マニュアルの作成に当たっては、こうした規格を参考にするのもよいでしょう。

なお、同規格は日本工業標準調査会のウェブサイトで閲覧することができます。

■日本工業標準調査会■
http://www.jisc.go.jp/

5 マニュアル項目例

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6 苦情対応報告書例

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以上(2018年4月)

pj60007
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金融機関担当者も注目 「事業性評価」で自社の強みと課題を分析する

書いてあること

  • 主な読者:金融機関との関係を強化し、成長につなげたい経営者
  • 課題:金融機関が自社をどう評価しているか知りたい。自社のさらなる成長につなげたい
  • 解決策:金融機関の営業担当者と一緒に、ローカルベンチマーク(ロカベン)を元に自社の強みと課題を把握するところからスタートする

1 金融機関による「事業性評価」とは

1)金融機関は“本気で”取引先企業のことを知ろうとしている

現在、金融機関は、金融庁の号令のもと、企業の事業内容や成長性などを分析・評価する「事業性評価」に基づく融資に取り組んでいます。その目的は、「金融機関が、財務データや担保・保証のみに依存する融資体制を見直し、本業支援を通じて企業の成長に貢献していく」ことにあります。

つまり、事業性評価とは、金融機関が企業のことをよく知り、“本当にその企業にとって必要なこと(課題)は何か”を本気で考え、それを解決し成長を支援するということに他なりません。こうした金融機関の姿勢は、経営者にとっても大きな意味があります。

2)経営者にとっての「事業性評価」の意味

事業性評価では、金融機関担当者はまず、事業内容をよく知るために経営者にヒアリングなどを行います。そのとき、金融機関担当者が特に重視するのは、企業の「強み」と「課題」です。これらを知ることが企業の今後の成長を促す第一歩だからです。

経営者にとっても、自社の強みと課題の把握・分析が欠かせないのは言うまでもありません。多くの金融機関では、企業の現状や事業内容などを整理する項目を立てています。経営者もそうした項目を活用して自社の現状を“見える化”すると、強みと課題を整理しやすくなるでしょう。

また、資金ニーズに対応する金融機関担当者と一緒に強みと課題を把握・分析することで、実効性のある具体策が実施できる可能性が高まります。

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この他、事業性評価に基づく支援として、企業の人材不足に対応する施策を打ち出している金融機関が増えています。これは、金融機関による人材紹介業務への参入が可能になったためです。今後も人材紹介業務を行う金融機関は増えるものと考えられます。

2 強みと課題を把握・分析するきっかけになる“ロカベン”

1)“ロカベン”で着目されている4つの視点

自社の強みと課題を把握・分析するには、まず現状をつかむことが必要です。その際、定量面(財務面)と定性面(非財務面)の両方からアプローチすることになりますが、特に難しいのは定性面の把握・分析です。

定量面は財務情報から明らかにしやすいといえますが、技術力や人材力、営業ノウハウ、ネットワークなど財務情報には表れない「知的資産」などは、改めて自社の現状をひもといてみなければ明らかにできないからです。

こうした定性面の把握に参考となるのが、経済産業省が提示している「ローカルベンチマーク(ロカベン)」という経営状態を把握するためのツールです。経営者と金融機関担当者の双方がロカベンを使って現状把握すれば、同じ目線に立って課題を話し合うことができるため、ロカベンは“事業性評価の入り口”になるといえるでしょう。

ロカベンでは、企業の定性面をチェックする項目として、「経営者」「事業」「企業を取り巻く環境・関係者」「内部管理体制」という4つの視点を挙げています。

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企業には、「創業期→成長期→成熟期→転換期(事業承継期、衰退期)」といったライフサイクルがあり、それぞれのライフステージによって課題は変わってきます。例えば創業期には資金調達が大きな課題になり、成長期には販路や経営規模の拡大、安定した仕入れ先の確保などが主な課題になるでしょう。その他、業種や規模によっても課題は異なります。そこで、図表2で紹介した項目のうち、自社に当てはまるものを中心に現状把握してみるのが現実的かもしれません。

また、強みと課題を把握・分析する際には「ヒト・モノ・カネ」といった経営資源について明らかにすることになりますが、それらは「事業」「企業を取り巻く環境・関係者」にある項目を中心に明らかにすると整理しやすくなります。

自社の強みと課題を考える際に、特に重要なのは、「事業」に挙げられている「顧客から選んでもらっている理由は把握できているか」という点です。次項ではこの点を掘り下げる方法を見てみましょう。

2)バリューチェーンで自社の強みと課題を明らかに

強みと課題の把握・分析というと、多くの場合、企業の外部環境と内部環境から事業機会や課題を見つける「SWOT分析」を連想するかもしれません。しかしここでは、より自社の事業内容を掘り下げるために、事業を分解して分析する「バリューチェーン」を取り上げてみます。ロカベンでも、強みと課題を知るためにバリューチェーンの考え方を取り入れ、「業務フロー」や「商流」などを整理し、優位性を分析する方法を提示しています。

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業務フローや商流などを明らかにする際に重要なのは、「他社にない製造工程」「短納期なデリバリー」などのように、分解した業務のどの部分で付加価値を生み出しているかを挙げることです。それが「顧客提供価値=なぜ自社が選ばれているか」という自社の強みだからです。同時に「コスト負担が大きい」「ミスが発生しやすい」など、それぞれの業務の課題も明らかにしていきます。挙げられた課題については、その理由を掘り下げ、本質的な問題点を探し出す用にします。

また、課題の洗い出しには「比較」が必要です。自社の現状と、自社の理想型や業界上位企業のバリューチェーンなどを比較すれば、現状の課題が見えてくるでしょう。

3 強みと課題を把握・分析するために、経営者が忘れてはならない3つのポイント

1)全社的に実践する

自社の強みと課題を把握・分析するためには、経営者1人の視点では限界があります。経営者は、顧客からのリピートやクレームの状況について、リピート率やクレーム件数などの数字やおおよその内容は分かっているでしょう。

しかし、日々現場でやり取りされている顧客と社員の生の声までは把握できていないかもしれません。また、市場環境や顧客、競合についても、経営者は俯瞰(ふかん)的に捉えることはできているかもしれませんが、現場の状況を肌で感じている営業担当者は、経営者とは違った視点で捉えている場合もあるでしょう。そのため、自社の強みと課題の把握・分析は、全社員を巻き込んで現場の声も取り入れて行う必要があります。

企業規模にもよりますが、経営者が各部門長と各部門の社員数名にヒアリングを行ったり、各部門ごとに社員同士で話し合ってバリューチェーンや3C分析などを実践させてもよいでしょう。こうして全社員に自社の強みと課題を分析させれば、社員がどのように現状を認識しているかを知ることもできます。

また、社員に自社の強みと課題などについて考えさせることは、社員自身にとっても大きな意味があります。例えば、ある企業では、自社の強みと課題を明らかにしようと、経営者が経営幹部や社員と協力して知的資産報告書(目に見えない資産を明らかにする報告書)を作成したところ、社員一人一人が経営の視点を持って業務に取り組むようになったといいます。全社員を巻き込む強みと課題の分析は、社員教育にもつながり、それが企業の強みになっていくのかもしれません。

2)外部の視点を取り入れる

自社の強みと課題は、外部の視点を取り入れ客観的に捉えることも大切です。外部の視点は、経営者や社員が気付いていなかった強みや課題を提示してくれる可能性があるからです。そうした意味では、さまざまな業種、規模の企業について知っている金融機関担当者は、外部の頼れる情報源ともいえるでしょう。同業種、同規模、同じライフステージの企業がどのような強みと課題を持っているのか、どのようにして改善したかなどを金融機関担当者に聞いてみるとよいでしょう。

また、各都道府県にあり、無料で相談できる「よろず支援拠点」などの外部機関を活用するのも一策です。例えば、東京都よろず支援拠点では、相談しに来た経営者が思いもよらなかったアドバイスによって売り上げが向上した例があるといいます。ある居酒屋の経営者は自店舗の強みを「地酒と料理」と考えていましたが、東京都よろず支援拠点の専門家が強みとして注目したのは、「高齢者が多い高層マンションの1階にある」という立地でした。そこで、居酒屋の事業を継続しながら、店内のメニューを高層マンションに住む世帯向けにそのまま届ける宅配事業にチャレンジすることにしました。「出来立ての良さをそのままに……」というチラシ訴求のせいか、多くのマンション住民からの宅配注文が入り、結果的に宅配ユーザーが居酒屋利用客へ進化する好循環が生まれました。このように、外部の視点を取り入れれば、社内では見えない“新しい強み”が発見できるかもしれません。

3)財務面も必ずチェックする

本稿では、多くの金融機関担当者が注目している定性面からの強みと課題を明らかにする方法を紹介してきましたが、先にも述べた通り、定量面(財務面)からのアプローチも欠かせません。

特に、課題は、財務情報について他社比較や時系列比較をすることで明らかになる場合があります。分かりやすい例を挙げると、売り上げは右肩上がりにもかかわらず、利益が横ばいもしくは減少しているなどのケースです。この場合、仕入れ原価が年々膨れ上がっているなどの課題があるのかもしれません。

このように財務情報から明らかになった課題について、バリューチェーンなどで定性面から分析し、その要因を見つけるという流れで進めると、「顧客の要望に対して仕入れ先を変えることだけで対応していた。しかし、工夫すれば自社で対応できそうなので、まずそれを考えるべきだ」など、改善すべき本当の課題が発見しやすくなるでしょう。

4 企業の未来をつくろう!

ここまで、金融機関が行っている「事業性評価」を基に、自社の強みと課題を分析する方法について見てきました。繰り返しになりますが、事業性評価は金融機関が企業の将来のために、本気で、伸ばすべき強みと改善すべき課題を見つけ支援するというものです。これは、過去(財務情報による実績)だけではなく、企業の未来を見据えて行う取り組みといえます。

金融機関担当者は、これまで以上に企業のことをよく知ろうと、経営者に何度も会い、ヒアリングし、工場見学にも来るでしょう。経営者も企業の未来をつくるために、こうした事業性評価の取り組みを活用し、自社の強みと課題の分析に本気で取り組んでいくことが求められているのです。

以上(2019年4月)

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企業を困らせる悪質クレーム(カスタマーハラスメント)を退ける!

書いてあること

  • 主な読者:利用客からのクレームに悩む経営者
  • 課題:威圧的なクレームにどう対処すればいいのか分からない
  • 解決策:不用意に謝らない、即答しないなど、対応時のルールを徹底することが大事

1 強要や暴言といった脅威が企業のリスクに

「おいっ! どうなってんだ? 責任者を呼べっ!」。威圧的な態度で理不尽な要求を突き付ける利用客。ひたすら頭を下げる店員。店内には怒号が鳴り響き、周囲にいた他の利用客はその場を離れ始める……。

誰もが遭遇したことがあるかもしれないシーンです。第三者であれば「あぁ~、やだやだ」で終わりますが、もし皆さんの会社が当事者になったら、そして従業員が店員だったら、どのような指示を出しますか?

「クレームはありがたい」とは言うものの、強要や暴言などの悪質クレーム、いわゆる「カスタマーハラスメント」は脅威です。対応を誤ればイメージ低下や顧客離れを招きかねません。企業はカスタマーハラスメント対策を真剣に講じる必要があります。

2 カスタマーハラスメントが生まれる要因

1)増加するも抜本的な解決策を見いだせず

社会問題化しつつあるカスタマーハラスメントは、自社の商品開発や業務改善に役立つクレームとは異なり、「店員への土下座の強要」などのように、常識的に許される範囲を超えているのが特徴です。

カスタマーハラスメントを受けたことのある人は少なくありません。流通業などの労働組合であるUAゼンセンが2017年に実施したアンケート調査によると、「ある」と答えた人の割合は73.9%を占めます。「増えている」と答えた人の割合は49.9%で、「減っている」(3.3%)を大きく上回っています。

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中でも「暴言」「何回も同じ内容を繰り返すクレーム」「権威的(説教)態度」の割合が高くなっています。「辞めろ」「死ね」と怒鳴られたり、同じ問い合わせを何回もされたり、「お前は私の会社なら首だ」と叱られたりするなどの例があるようです。

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こうしたカスタマーハラスメントへの対応は、「謝り続けた」と答えた人の割合が37.8%で最も高く、抜本的な解決策を見いだせずにいる企業は少なくないようです。

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2)利用客が企業や店員より強い立場に

「お客様は神様」といった考えが接客業を中心に根強く残っていることが、カスタマーハラスメントを生む要因の1つと考えられます。「利用客の要望に応えるのがサービス」という考えが根底にあるため、店員は多少理不尽でも要望を聞き入れたり、利用客の発言を否定しなくなったりします。その結果、「多少の無理を聞いて当たり前」「客の要望を満たすのが店員の仕事」と解釈した利用客を増長させてしまうのです。

SNSやブログサイトの影響力が拡大したことも要因です。「食べ物に異物が混入していた」「店員が失礼な態度を取った」などの失態は、SNSなどを介して容易に拡散される時代です。たった一度の失態も、企業の信用を大きく失墜しかねません。そのため企業は、拡散による信用低下を恐れるあまり、利用客の要望に常に応えようとします。こうした取り組みが利用客をかえって増長させ、さらなる悪質クレームを誘発させるのです。

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その他、UAゼンセンへのヒアリングによると、格差社会による歪みが一部の人のストレスを増加させ、反抗できない店員に強い態度を取らせてしまうことも要因になり得るそうです。消費者庁に代表される消費者偏重の保護体制も要因といえます。

消費者の立場が企業や店員より強い一方、企業や店員は消費者に言い返せず恐れているという構図が、カスタマーハラスメントを生む素地になっていると考えられます。

3 カスタマーハラスメントがもたらす弊害

1)企業のイメージ低下

言いがかりをつける利用客が店舗に頻出したり、SNSやブログサイトで自社商品やサービスの評価を下げられたりすると、自社や自社ブランドのイメージが損なわれかねません。イメージ低下は売り上げに影響し、企業の業績低迷にも直結します。一度低下したイメージを回復するのは難しいことから、長期的なダメージを被ります。

社会的な責任を負う可能性もあります。もし経営者による謝罪要求を受け入れれば、企業としての信頼が大きく失墜します。顧客離れはもとより、取引先や商談先と築き上げてきた関係も崩れかねません。

2)従業員の心的負担増加

暴言や暴力、威嚇などの行為は、対応する店員などにとって大きなストレスです。悪質な嫌がらせなどが続けば、心の病を患って長期離脱する店員も現れるでしょう。ストレスを強く受ける職場で働きたくないと考える店員が、離職する恐れもあります。

利用客による過度な要求は店員を疲弊させる他、働くモチベーションを低下させます。こうした職場環境を抱える企業は、従業員の離職率増加と定着率減少に悩まされる他、人材獲得が難しくなるといった課題に直面することになります。

3)利用客への影響拡大

自社商品やサービスのファンだった優良な利用客が、一部の言いがかりを発端とした風評被害で離れてしまう可能性があります。中でもSNSやブログサイトに投稿された口コミの影響力は甚大で、たとえ誤った情報でも真実と受け止められかねません。誤った情報を信じる利用客の中には、少なからず不信感を芽生えさせてしまう人もいるでしょう。

悪質なクレーム対応に時間を割かれると、他の利用客の満足度も低下します。店舗を訪れる利用客に商品などを十分に説明できなくなるため、利用客の商品知識やブランドへの理解が定着しにくくなることが懸念されます。

4 カスタマーハラスメントの傾向

1)クレームの悪質性の有無を見極める

利用客のクレームが悪質かどうか判別しにくいことが、店員や企業の対応を難しくしています。利用客が一方的に謝罪を要求したとしても、店員や企業に落ち度があれば一概に悪質とは言えません。10分で済む接客に1時間以上かかっても、利用客の主張に正当性があれば、それは必要な時間といえるでしょう。

「このクレームは悪質である」と断言しにくいことに加え、クレームは状況に応じた個別性が高いため、多くの企業が具体的な対策を講じるのに苦慮しています。

とはいえ、カスタマーハラスメントの対応を場当たり的にしのぐのは好ましくありません。そこで次の言動が見られる場合、カスタマーハラスメントを疑い、注意深く対応することが望まれます。

  • 大声で怒鳴る、威嚇する
  • 一般的には無理な要求を突き付ける
  • 店員の人格を否定する、名誉を毀損する
  • 責任者や経営者による対応を執拗に迫る
  • 危害を加える、器物を破損する

その他、店員や企業側の落ち度を理由に高額な賠償を請求したり、理不尽な要求を何回も何時間もし続けたりするケースも、状況によっては悪質性が疑われます。悪質性の有無を早期に見極め、不当な強要や暴言が続くようなら、毅然とした態度で拒否することが大切です。

2)カスタマーハラスメントの主な例

カスタマーハラスメントに該当する行為を分類すると、「暴言」「説教」「威嚇・脅迫」「拘束」「セクハラ行為」「暴力」などがあります。次の具体的な悪質クレーム例を参考に、自社でどのような対策を講じるのかを分類ごとに検討してみましょう。

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5 カスタマーハラスメントを退ける具体策

1)不用意に謝らない

「申し訳ございません」「すみません」などの発言に注意します。言いがかりをつける利用客の中には、「謝罪=非を認めた」と受け止める人がいるからです。不用意な謝罪は利用客をさらに増長させ、経営者の謝罪や高額な賠償などを要求する事態につながりかねません。

とはいえ、店員や企業に落ち度があれば謝罪は必要です。全ての言いがかりに対して「謝罪しない」という姿勢ではなく、利用客の気持ちをくみ取った配慮を示すことが大切です。謝罪する場合、漠然ではなく何について謝るのかを明確に示すことも必要です。

2)即答しない

利用客からの要求に対し、「分かりました」「そのようにします」などの即答は避けるべきです。事態を早急に収拾しようと、要求を安易に受け入れるのは禁物です。利用客の主張を正しく認識し、店員個人としての判断ではなく、事実確認や原因を踏まえた上で、企業として判断するのが望ましいでしょう。

曖昧な返事にも注意します。「結構です」「検討します」といった発言は肯定と受け取られます。拒否する場合、「即答できません」「約束しかねます」などときっぱり否定します。

3)トップを出さない

「店長を出せ」「社長を呼んでこい」などの要求は原則、のむべきではありません。意思決定者が対応すると即答を迫られるからです。再び言いがかりをつけに現れたとき、「前回は店長が対応した。今回も店員ではなく店長に代われ」などと、責任者の対応が常態化する懸念もあります。

もっとも、判断の難しい要求は店長やエリア統括マネジャーなどに代わるケースがあります。責任者としての見解を求められたり、解決まで長期化しそうだったりする場合、責任者に対応を引き継ぐことも必要です。

4)対応時間を短くする

言いがかりをつける利用客の中には店員を何時間も拘束し、理不尽な要求をし続けるケースがあります。店舗の営業時間終了後も店員を拘束し続けることは珍しくありません。長時間の拘束によって業務が停滞しないよう、できるだけ短い時間で対応を打ち切ります。

「○時○分までお話をうかがいます」などと、対応可能な時間を事前に伝えても構いません。対応時間を過ぎても帰らない場合、警察に通報するなどの措置を検討します。対応時間は長くても30分程度を目安にするとよいでしょう。

6 企業としての対策を講じる

1)全社で情報を共有する

過去に対応したカスタマーハラスメントの事案は、全社で共有することが大切です。利用客の具体的な要求、態度、行為などを記録し、どんなケースが多いのかを把握できるようにします。加えて、過去の事案に応じた対策も周知します。

店員が「クレームは接客対応した自身のミス」と受け止めて、報告をためらうことがないようにします。具体的には、クレームに関する相談窓口を用意するとよいでしょう。どう対処すべきかアドバイスを受けられるようにするとともに、店員の心をケアするために有効です。女性店員が相談しやすいよう女性の窓口担当者を配置するのも一案です。

2)マニュアルを作成する

接客や電話応対に不慣れな若手社員の場合、カスタマーハラスメントに対して誤った対応をする恐れがあります。企業としてどう臨むのかをマニュアルで標準化し、経験の浅い社員でも適切に対応できるようにします。

特に、利用客の要求に応えるか否かを明確に定めることが必要です。企業によっては「お客様の要求には徹底的に応える」といった方針を打ち出すケースが見られるものの、悪質で理不尽と思われる要求は断る方針も示すべきです。

店員の中には「たとえ悪質であっても要求に応えないと会社に迷惑をかける」と思う人がいます。カスタマーハラスメントには毅然とした態度で臨むという企業方針を打ち出すことが、従業員を保護するためには必要です。

3)2人以上で対応する

言いがかりをつける利用客の対応は、担当者1人を孤立させず2人以上を配置できるようにします。できるだけ多人数で対応し、利用客が威圧的な態度や恫喝(どうかつ)しにくい雰囲気をつくります。

状況に応じて利用客の要求をメモします。利用客の要求を正しく把握するとともに、訴訟になったときの証拠とします。会話の録音やカメラによる録画も有効です。「録音/録画する」という行為自体が、暴言や威嚇の抑止力にもなります。

4)外部と連携する

利用客の暴力やセクハラ行為などを想定し、警察との支援体制を確立します。近隣の警察署の担当部署や問い合わせ窓口などを事前に確認し、非常時にはすぐ通報できるようにします。

弁護士への相談体制も検討します。顧客や消費者とのクレーム対応や、カスタマーハラスメントを含むハラスメント全般に精通する法律事務所は少なくありません。こうした専門家のアドバイスを受けられる体制づくりも視野に入れましょう。悪質クレームを続ける利用客に対し、法的措置に踏み切るなどの強い姿勢を示せるようにします。

なお、カスタマーハラスメントに関する弁護士への電話相談が無料になる保険も登場しています。体制や対策を自社で講じられない場合、こうしたサービスの活用を検討してもよいでしょう。

以上(2018年12月)

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反社会的勢力の活動への対策ポイント

書いてあること

  • 主な読者:反社会勢力からの被害の防止に備えたい経営者
  • 課題:具体的にどのような対策をしておけばよいのか分からない
  • 解決策:ケースごとの具体的な対応要領を押さえておく。相談窓口も確認しておく

1 反社会的勢力の活動の状況

暴力団やその関連企業など(以下「反社会的勢力」)は、組織の実態を隠し、企業活動を装ったり、共生者(注)を利用したりするなどして、活動を不透明化させています。反社会的勢力は、企業などに対してさまざまな手段で不当な要求を行い、活動の資金源としており、証券取引や不動産取引などを通じて資金獲得活動を巧妙化させています。

暴力団関係相談受理件数の推移は次の通りです。ただし、これはあくまで警察と暴追センターに寄せられた相談受理件数であり、実際には、警察や暴追センターに相談していないケースもあると考えられます。

(注)暴力団に利益を供与することにより、暴力団の威力、情報力、資金力などを利用し自らの利益拡大を図る者。

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2 反社会的勢力の活動への対策のポイント

1)反社会的勢力による被害を防止するための基本原則

政府は、2007年6月に「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」(犯罪対策閣僚会議幹事会申合せ。以下「指針」)を公表し、反社会的勢力による被害を防止するための基本原則として、次の5項目を示しています。

  • 組織としての対応
  • 外部専門機関との連携
  • 取引を含めた一切の関係遮断
  • 有事における民事と刑事の法的対応
  • 裏取引や資金提供の禁止

2)経営トップのコミットメント

企業が組織として対策を進める上で重要なのは、「反社会的勢力とは一切の関係を持たない」という基本方針と、経営トップによるコミットメントです。多くの企業が、倫理規程として定める企業行動指針や、就業規則など従業員が順守しなければならない義務を定めた規程の中で、反社会的勢力との関係遮断について明文化しています。

反社会的勢力の活動をリスクとして認識し、一切の関係を遮断することは、反社会的勢力の活動資金源を絶つことにつながります。

3)取引先の状況を確認する

新規取引先や既存取引先が反社会的勢力と関係していないか、調べ直すことも大切です。すぐに実行できる方法として新聞記事や雑誌記事を検索し、取引先の企業情報を収集・分析することが挙げられます。

また、専門会社のデータベースを利用するのもよいでしょう。例えば、企業の危機管理を総合的に支援するエス・ピー・ネットワークでは、反社会的勢力に係る独自のデータベースを使った情報分析サービスを提供しています。

この他、所轄の警察署や都道府県警察本部の暴力団対策主管課に照会する方法も考えられます。警察では、取引などの相手方が反社会的勢力でないことを確認するなど、暴力団排除条例に定められた事業者の義務を履行するために必要と認められる場合には、可能な限り情報提供を行っています。

4)契約書や取引約款に「暴力団排除条項」を盛り込む

暴力団排除条項は、取引先が反社会的勢力と認められる場合には一方的に契約を解除できることを定めるもので、反社会的勢力との関係遮断のために有効です。ただし、現行の契約書や取引約款に暴力団排除条項を盛り込む場合、「コンプライアンスを重視する企業の姿勢を示す一環として、暴力団排除条項を盛り込むことになりました」と説明するなど、取引先に失礼のないようにしなければなりません。

5)日ごろからの対策

反社会的勢力の活動への対策を進めることは、企業の社会的責任の観点からも重要です。基本方針に基づいて、反社会的勢力への応対の方法を検討します。また、責任体制を明確にし、経営トップ以外で直接応対に当たる責任者を選任し、日ごろの心構え、具体的な応対要領を従業員に徹底します。

3 具体的な応対要領

1)相手を確認する

初対面の段階で、名刺をもらうか面会カードに記載を求めるなどの方法で相手の氏名、勤務先などを確認します。相手がこれに応じなければ、「お引き取りください」などと面談を断ります。

2)相手より有利な人数や場所で短時間で応対する

反社会的勢力の常とう手段は、大声や脅し文句で不安・恐怖を与え、懐柔するそぶりで困惑させ、要求に応じざるを得ないようにするものです。面談の際には、相手より多い人数で社内で応対することで心理的に優位な状態を保ちます。

反社会的勢力が指定する場所(暴力団の組事務所など)に出向いてはいけません。また、応対時間は、あらかじめ15分などと決め、それ以上に長引くようならば「お引き取りください」と言って面談を打ち切ります。なお、茶菓を出す必要はありません。

3)用件を確認する

初期段階で、相手の用件や要求内容を確認することが重要です。反社会的勢力は、恐喝や威力業務妨害などの罪に問われることを恐れて、「誠意を見せろ」などと要求内容を明示しない場合が多いので、「具体的にどうすればよいのですか」などと聞き返し、要求内容と根拠を相手自身から明確に引き出します。

なお、「お前では話にならない。社長(最高責任者)を出せ」と言われても、応対の責任者が「当社では、私がその担当者ですので、まず私が話を伺い、報告することになっています」と言って最高責任者には取り次がないようにします。

4)言動に注意する

反社会的勢力は巧みに論争に持ち込んで、相手の失言を誘い、言葉尻を捕らえて因縁をつけてきます。不用意な発言をしないように慎重に言葉を選び、発言は必要最小限にとどめます。また、相手の不当な要求に対しては、曖昧な返答をしないで明確に断ります。その場を逃れようとして「検討します」「善処します」などと言うのは禁物です。

5)応対内容を記録する

反社会的勢力との電話や面会の際には、応対内容を録音したり、メモを取ったりして正確に記録に残すことが重要です。また、事前に「正確を期すため、会話の内容を録音させていただきます」と告げることは、相手をけん制する上で効果的です。

6)わび状などの書類作成は拒否する

反社会的勢力は、「一筆書けば許してやる」などとわび状や念書を書かせようとします。わび状や念書は、相手の不当な要求に対して、非を認めた証拠となります。相手に有利な交渉材料を与えるだけなので、わび状や念書の作成には絶対に応じてはいけません。

7)警察に通報する

反社会的勢力が暴行や器物損壊など不法行為に及んだときは、直ちに警察に通報します。受傷事故などを防止するために、気付かれないように通報するとよいでしょう。通報することを相手にとがめられたら、「警察にそうするように指導を受けている」と答えます。

4 ケースを想定した対応策

1)見知らぬ団体などから機関紙・図書などが送り付けられ、料金を請求される

売買契約を結んでいない機関紙・図書が送り付けられてきた場合、相手に返送するのが基本です。

開封前であれば、メモ用紙に「受取拒否」と記載し、受取人の名前を記載して押印した上、郵便物などの宛名面に貼り付け、郵便局などを通じて返送します。

開封後であっても、購読拒否の意思を相手に明確に伝える文書を同封し、簡易書留や宅配便で送付します。なお、後日、言い掛かりをつけられる可能性もあるため、書留郵便物受領書や宅配便の送付依頼書、同封した文書の控えを保管しておくとよいでしょう。

2)見知らぬ団体などから電話があり、機関紙・図書などの購入を要求される

電話による機関紙・図書の購入要求に対しては「必要ありません」と明確に拒否することが基本です。

相手が「同業他社の多くが協賛している」「今回限りで構わない」などと強引に購入を要求してきても、その場しのぎに要求に応じてはいけません。また、「結構です」などといった、どちらとも取れる返答をするのは禁物です。なお、機関紙・図書などを購入するかしないかは、各企業の自由意思であり、購入を拒否する理由を告げる必要はありません。

今まで機関紙・図書の購読をしている場合でも、購入に至った経緯や現状での必要性を改めて確認し、必要のないものであれば購入を断るべきです。

5 主な相談先

各都道府県に設置されている暴力追放運動推進センターでは、反社会的勢力の活動に対する企業の対応について、弁護士や警察出身者など専門知識や経験を有する暴力追放相談委員による相談を受け付けています。

また、暴力追放運動推進センターや警察署では、暴力団対策法に基づき、事業所ごとに選任された不当要求防止責任者に対して、暴力団の情勢や暴力団からの不当な要求の対処方法などに関する講習を実施しています。

反社会的勢力の活動に関しては、所轄の警察や暴力追放運動推進センターの担当者との連携を密にし、ささいなことでも早期に相談するとよいでしょう。各都道府県の暴力追放運動推進センターは次のウェブサイトで確認することができます。

■全国暴力追放運動推進センター「都道府県暴追センター連絡先一覧表」■
http://fc00081020171709.web3.blks.jp/center/index.html

日本弁護士連合会や各地の弁護士会でも、反社会的勢力の活動に関する相談を受け付けています。

■日本弁護士連合会■
https://www.nichibenren.or.jp/

以上(2018年10月)

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法人税法における繰延資産の概要

書いてあること

  • 主な読者:適正な税務処理を徹底したい経営者・税務担当者
  • 課題:そもそも、税務上繰延資産とは、どういうものなのか分からない経営者は多い
  • 解決策:開業直後の費用や新規開発に要した費用など、税務上繰延資産として取り扱われる費用は決まっており、一定額以下のものは一括損金算入できる

1 繰延資産の範囲

法人税法上の繰延資産の範囲は次の通りです(法人税法施行令第14条)。なお、支出金額が20万円未満であるものについては、支出した事業年度の損金に算入することができます(法人税法施行令第134条)。

1)創立費

発起人に支払う報酬、設立登記のために支出する登録免許税その他法人の設立のために支出する費用で、当該法人の負担に帰すべきものをいいます。

2)開業費

法人の設立後事業を開始するまでの間に開業準備のために特別に支出する費用をいいます。

3)開発費

新たな技術もしくは新たな経営組織の採用、資源の開発、または市場の開拓のために特別に支出する費用をいいます。

4)株式交付費

株券等の印刷費、資本金の増加の登記についての登録免許税その他自己の株式(出資を含む)の交付のために支出する費用をいいます。

5)社債等発行費

社債券等の印刷費その他債券(新株予約権を含む)の発行のために支出する費用をいいます。

6)次に掲げる費用で支出の効果がその支出の日以後1年以上に及ぶもの

  • 自己が便益を受ける公共的施設または共同的施設の設置または改良のために支出する費用
  • 資産を賃借または使用するために支出する権利金、立退料その他の費用
  • 役務の提供を受けるために支出する権利金その他の費用
  • 製品等の広告宣伝の用に供する資産を贈与したことにより生ずる費用
  • その他、自己が便益を受けるために支出する費用

上記繰延資産1)~5)の償却の時期と償却の額については、税法上は法人の任意となっており、全額を一括して償却することもできますし、分割して随時償却することもできます(法人税法施行令第64条第1項第1号)。

繰延資産6)の償却限度額算出式は次の通りです。なお、償却期間については後掲表を参照してください。

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2 繰延資産の例示

1)創立費(定款記載を欠く設立費用)

法人がその設立のために通常必要と認められる費用を支出した場合において、その法人の負担とすべきことがその定款などで定められていないときであっても、創立費に該当します(法人税基本通達8-1-1)。

2)開発費(資源の開発のために特別に支出する費用)

開発費には、新鉱床の探鉱のための地質調査、ボーリングまたは坑道の掘さくなどに要する費用などの資源の開発に直接要した費用のほか、その開発に要する資金に充てるために特別に借り入れた借入金の利子が含まれます(法人税基本通達8-1-2)。

3)自己が便益を受ける公共的施設の設置または改良のために支出する費用

「自己が便益を受ける公共的施設の設置または改良のために支出する費用(公共的施設などの負担金)」とは次に掲げる費用をいいます(法人税基本通達8-1-3)。

  • 法人が自己の必要に基づいて行う道路、堤防、護岸、その他の施設または工作物などの公共的施設の設置または改良のために要する費用、または法人が自己の有する道路その他の施設または工作物を国などに提供した場合における当該施設または工作物の価額に相当する金額
  • 法人が国などの行う公共的施設の設置などにより著しく利益を受ける場合におけるその設置または改良に要する費用の一部の負担金
  • 法人が、鉄道業を営む法人の行う鉄道の建設に当たり支出するその施設に連絡する地下道などの建設に要する費用の一部の負担金

また、「自己が便益を受ける共同的施設の設置または改良のために支出する費用」には、法人がその所属する協会、組合、商店街などの行う共同的施設の建設または改良に要する費用の負担金も含みます。しかし、共同的施設の相当部分が貸室に供されるなど協会などの本来の用以外の用に供されているときは、その部分に係る負担金は、協会などに対する寄附金となります(法人税基本通達8-1-4)。

4)資産を賃借するための権利金等

次のような費用は「資産を賃借するための権利金等」として繰延資産に該当します。

  • 建物を賃借するために支出する権利金、立退料その他の費用
  • 電子計算機その他の機器の賃借に伴って支出する引取運賃、関税、据付費その他の費用

なお、建物の賃借に際して支払った仲介手数料の額は、その支払った日の属する事業年度の損金の額に算入することができます(法人税基本通達8-1-5)。

5)役務の提供を受けるための権利金等(ノウハウの頭金等)

ノウハウの設定契約に際して支出する一時金または頭金の費用は、「役務の提供を受けるための権利金等」として繰延資産に該当します。ただし、ノウハウの設定契約において、頭金の全部または一部を使用料に充当する旨の定めがある場合または頭金の支払いにより一定期間は使用料を支払わない旨の定めがある場合には、当該頭金の額のうちその使用料に充当される部分の金額またはその支払わないこととなる使用料の額に相当する部分の金額は、これを繰延資産としないで前払費用として処理することができます。

なお、前払費用として処理した頭金の額についてその使用料に充当すべき期間または使用料を支払わない期間を経過してなお残額があるときは、その残額は当該期間を経過した日の属する事業年度の損金の額に算入することができます(法人税基本通達8-1-6)。

6)製品などの広告宣伝の用に供する資産を贈与したことにより生ずる費用

「製品などの広告宣伝の用に供する資産を贈与したことにより生ずる費用」とは、法人がその特約店等に対し自己の製品等の広告宣伝等のため、広告宣伝用の看板、ネオンサイン、どん帳、陳列棚、自動車のような資産(展示用モデルハウスのように見本としての性格を併せ有するものを含みます)を贈与した場合、または著しく低い対価で譲渡した場合における当該資産の取得価額または当該資産の取得価額からその譲渡価額を控除した金額に相当する費用です(法人税基本通達8-1-8)。

7)その他自己が便益を受けるための費用

1.スキー場のゲレンデ整備費用

積雪地帯におけるスキー場(その土地が主として他の者の所有に係るものに限ります)においてリフト、ロープウェイなどの索道事業を営む法人が当該スキー場に係る土地をゲレンデとして整備するために立木の除去、地ならし、沢の埋立て、芝付け等の工事を行った場合には、その工事に要した費用の額は、「その他、自己が便益を受けるために支出する費用」として繰延資産に該当します。

当該スキー場において旅館、食堂、土産物店などを経営する法人が当該費用の額の全部または一部を負担した場合のその負担した額についても、同様とします。

ただし、既存のゲレンデについて支出する次のような費用の額は、その支出をした日の属する事業年度の損金の額に算入することができます。

  • イ.おおむねシーズンごとに行う傾斜角度の変更その他これに類する工事費用
  • ロ.崩落地の修復、補強などの工事費用
  • ハ.シーズンごとに行うブッシュの除去、芝の補植その他これらに類する作業費用

なお、自己の土地をスキー場として整備するための土工工事(他の者の所有に係る土地を有料のスキー場として整備するための土工工事を含む)に要する費用の額は、構築物の取得価額に算入します(法人税基本通達8-1-9)。

2.出版権の設定の対価

著作権法第79条第1項に規定する出版権の設定の対価として支出した金額は、「その他、自己が便益を受けるために支出する費用」として繰延資産に該当します。

なお、漫画の主人公を商品のマークなどとして使用するなど他人の著作物を利用することについて著作権者の許諾を得るために支出する一時金の費用は、出版権の設定の対価に準じて取り扱います(法人税基本通達8-1-10)。

3.同業者団体などの加入金

法人が同業者団体など(社交団体を除く)に対して支出した加入金は、「その他、自己が便益を受けるために支出する費用」として繰延資産に該当します。

なお、構成員としての地位を他に譲渡することができることとなっている場合における加入金および出資の性質を有する加入金については、その地位を他に譲渡し、または当該同業者団体等を脱退するまで損金の額に算入しないものとします(法人税基本通達8-1-11)。

4.職業運動選手などの契約金

法人が職業運動選手などとの専属契約をするために支出する契約金は、「その他、自己が便益を受けるために支出する費用」として繰延資産に該当します。

なお、セールスマン、ホステスなどの引抜料、仕度金などの額は、その支出をした日の属する事業年度の損金の額に算入することができます(法人税基本通達8-1-12)。

5.簡易な施設の負担金の損金算入

国、地方公共団体、商店街等の行う街路の簡易舗装、街灯、がんぎなどの簡易な施設で主として一般公衆の便益に供されるもののために充てられる負担金は、これを繰延資産としないでその負担金を支出する日の属する事業年度の損金の額に算入することができます(法人税基本通達8-1-13)。

3 繰延資産の種類と償却期間

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以上(2019年4月)
(監修 辻・本郷税理士法人 税理士 安積健)

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寄附金の範囲と損金算入限度額

書いてあること

  • 主な読者:適正な税務処理を徹底したい経営者
  • 課題: 税務上の寄附金は、一般的に使われているものよりも広い意味で使われる上、取り扱いも明確に規定されている
  • 解決策:税務上、損金に算入できる寄附金の金額は計算や、子会社の損失負担や債務免除など税務特有の寄附金の事例を紹介

1 法人税法上の寄附金の6つの分類

1)一般の寄附金(法人税法第37条第7項、第8項)

寄附金とは、事業に直接関係ない者に対する金銭などの資産を贈与または経済的な利益を贈与または無償で供与した場合の資産または経済的利益をいいます。なお、交際費、接待費、福利厚生費などは除きます。資産の譲渡または経済的な利益の供与をした場合に、その対価の額が時価に比べて低いときにはその差額は寄附金の額に含まれます。

2)国または地方公共団体に対する寄附金(法人税法第37条第3項第1号)

その名の通り、国または地方公共団体に対する寄附金です。ただし、寄附した者がその寄附によって設けられた設備を専属的に利用するなど、特別の利益が寄附をした者に及ぶと認められる場合を除きます。

3)指定寄附金(法人税法第37条第3項第2号)

指定寄附金とは、公益社団法人、公益財団法人その他公益を目的とする事業を行う法人または団体に対する寄附金のうち、広く一般に募集されること、教育または科学の振興、文化の向上、社会福祉への貢献その他公益の増進に寄与するための支出で、緊急を要するものに充てられることが確実であるものとして、財務大臣が指定した寄附金のことです。

4)特定公益増進法人に対する寄附金(法人税法第37条第4項)

特定公益増進法人とは、公共法人、公益法人等、その他特別の法律により設立された法人のうち、教育または科学の振興、文化の向上、社会福祉への貢献その他公益の増進に著しく寄与するものとして、政令で定めるものに対する当該法人の主たる目的である業務に関連する寄附金のことです。

5)特定公益信託に対する寄附金(法人税法第37条第6項)

特定公益信託とは、「公益信託ニ関スル法律第1条(公益信託)」に規定する公益信託で、信託終了のときにおける信託財産がその信託財産に係る信託の委託者に帰属しないことおよびその信託事務の実施につき政令で定める要件を満たすものであることについて証明がされたものをいいます。特定公益信託の信託財産とするために支出した金額は寄附金の額とみなし、原則として一般の寄附金として、損金算入限度額の範囲内で損金算入を認めます。

6)認定NPO法人に対する寄附金(租税特別措置法第66条の11の2)

認定NPO法人(認定特定非営利活動法人)とは、特定非営利活動促進法第2条第3項に規定する特定非営利活動法人のうち、その運営組織および事業活動が適正であり、公益の増進に資するものとして所轄庁の認定を受けたものをいいます。

2 寄附金の損金算入限度額

1)寄附金の損金算入限度額の算出方法

国または地方公共団体への寄附金、指定寄附金は全額が損金となりますが、一般の寄附金や特定公益増進法人に対する寄附金などは、それぞれ限度額を超える金額を損金に算入することができません(法人税法施行令第73条第1項、第77条の2第1項)。

一般の寄附金の損金算入限度額(特定公益信託を含む)と特定公益増進法人に対する寄附金の特別損金算入限度額の算出式は次の通りです。

1.一般の寄附金の損金算入限度額(特定公益信託を含む)

一般の寄附金の損金算入限度額(特定公益信託を含む)の算出式は次の通りです。

  • 損金算入限度額=(A+B)×1/4
  • A=(事業年度の所得金額+損金経理の寄附金)×2.5/100
  • B=(資本金の額+資本積立金額)×当期の月数/12×2.5/1000

2.特定公益増進法人に対する寄附金の特別損金算入限度額

特定公益増進法人に対する寄附金の特別損金算入限度額の算出式は次の通りです。

  • 損金算入限度額=(A+B)×1/2
  • A=(事業年度の所得金額+損金経理の寄附金)×6.25/100
  • B=(資本金の額+資本積立金額)×当期の月数/12×3.75/1000

2)寄附金の損金算入限度額の算出例

次の前提条件を基に寄附金の損金算入限度額を算出してみます。

  • 当期利益金額:5000万円
  • 資本金:7000万円
  • 一般寄附金:120万円
  • 特定公益増進法人への寄附金:60万円
  • 指定寄附金:150万円
  • 寄附金支払額計:330万円(120万円+60万円+150万円)

損金算入限度額は次のように算出することができます。

1.一般寄附金の損金算入限度額

  • 一般寄附金の損金算入限度額
  • ={(5000万円+330万円)×0.025+7000万円×12/12×0.0025}×1/4
  • =37万6875円

2.特定公益増進法人への損金算入限度額

  • 実際の特定公益増進法人への寄附金支出額=60万円
  • 特定公益増進法人への損金算入限度額
  • ={(5000万円+330万円)×0.0625+7000万円×12/12×0.00375}×1/2
  • =179万6875円
  • 寄附金支出額60万円<損金算入限度額179万6875円
  • ∴特定公益増進法人への損金算入限度額=60万円

3.指定寄附金の損金算入限度額

  • 指定寄附金の損金算入限度額=指定寄附金の全額=150万円

4.寄附金の損金算入限度額

1.2.3.より、寄附金の損金算入限度額は、次のようになります。

  • 損金算入限度額=37万6875円+60万円+150万円=247万6875円

従って、損金算入限度超過額は、次のようになります。

  • 330万円-247万6875円=82万3125円

(注)100%出資グループ法人(法人による完全支配に限ります)間の寄附金は全額損金不算入です。

3 法人税基本通達に見る寄附金規定

1)子会社などを整理する場合の損失負担など

法人がその子会社などの解散、経営権の譲渡などに伴い、当該子会社などのために債務の引き受けその他の損失負担または債権放棄などをした場合、その損失負担などをしなければ今後より大きな損失を被ることが社会通念上明らかであると認められるため、やむを得ずその損失負担などをするに至ったことについて相当な理由があると認められるときは、その損失負担などにより供与する経済的利益の額は、寄附金の額に該当しません。

子会社などには、当該法人と資本関係を有するものの他、取引関係、人的関係、資金関係などにおいて事業関連性を有するものが含まれます(法人税基本通達9-4-1)。

2)子会社などを再建する場合の無利息貸付など

法人がその子会社などに対して金銭の無償もしくは通常の利率よりも低い利率での貸し付けまたは債権放棄などをした場合において、その無利息貸付などは寄附金の額に該当します。

しかし、業績不振の子会社などの倒産を防止するためにやむを得ず行われるもので合理的な再建計画に基づくものであるなど、その無利息貸付などをしたことについて相当な理由があると認められるときは、その無利息貸付などにより供与する経済的利益の額は、寄附金の額に該当しないものとします。

合理的な再建計画かどうかについては、支援額の合理性、支援者による再建管理の有無、支援者の範囲の相当性および支援割合の合理性などについて、個々の事例に応じ、総合的に判断します。例えば、利害の対立する複数の支援者の合意により策定されたものと認められる再建計画は、原則として、合理的なものとして取り扱います(法人税基本通達9-4-2)。

3)個人の負担すべき寄附金

法人が損金として支出した寄附金で、その法人の役員などが個人として負担すべきものと認められるものは、その負担すべき者に対する給与とします(法人税基本通達9-4-2の2)。

4)仮払い経理した寄附金

法人が各事業年度において支払った寄附金の額を仮払金などとして経理した場合には、当該寄附金はその支払った事業年度において支出したものとします(法人税基本通達9-4-2の3)。

5)未払いの寄附金、手形で支払った寄附金

未払いの寄附金については、各事業年度の所得金額の計算上、その支払いがされるまでの間、寄附金の支出は無かったものとします(法人税法施行令第78条)。

同様に当該寄附金の支払いのための手形の振り出し(裏書譲渡を含む)も、現実の支払いには該当しません(法人税基本通達9-4-2の4)。

6)国または地方公共団体に対する寄附金

国または地方公共団体に対する寄附金とは、国または地方公共団体において採納されるものをいいます。国立または公立の学校などの施設の建設または拡張などの目的を持って設立された後援会などに対する寄附金であっても、その目的である施設が完成後遅滞なく国または地方公共団体に帰属することが明らかなものは、これに該当します(法人税基本通達9-4-3)。

7)最終的に国または地方公共団体に帰属しない寄附金

国または地方公共団体に対して採納の手続きを経て支出した寄附金であっても、その寄附金が特定の団体に交付されることが明らかであるなど、最終的に国または地方公共団体に帰属しないと認められるものは、国または地方公共団体に対する寄附金には該当しません(法人税基本通達9-4-4)。

8)公共企業体などに対する寄附金

日本中央競馬会などのように全額政府出資により設立された法人、または日本下水道事業団などのように地方公共団体の全額出資により設立された法人に対する寄附金は、国または地方公共団体に対する寄附金には該当しません(法人税基本通達9-4-5)。

9)災害救助法の規定の適用を受ける地域の被災者のための義援金など

法人が災害救助法第2条の規定により知事が指定した区域の被災者のための義援金などの募金を行う募金団体(日本赤十字社、新聞・放送などの報道機関等)に対して拠出した義援金などについては、その義援金などが義援金配分委員会等に拠出されることが募金要綱、募金趣意書などにおいて明らかにされているものであるときは、地方公共団体に対する寄附金に該当するものとします(法人税基本通達9-4-6)。

10)災害の場合の取引先に対する売掛債権の免除など

法人が、災害を受けた得意先などの取引先に対して、その復旧を支援することを目的として災害発生後相当の期間内に売掛金、未収請負金、貸付金その他これらに準ずる債権の全部または一部を免除した場合には、その免除したことによる損失の額は、寄附金の額に該当しないものとします。

既に契約で定められたリース料、貸付利息、割賦販売に関わる賦払金などで、災害発生後に授受するものの全部または一部の免除を行うなど契約で定められた従前の取引条件を変更する場合、および災害発生後に新たに行う取引につき従前の取引条件を変更する場合も、同様とします。

得意先などの取引先には、得意先、仕入先、下請工場、特約店、代理店等の他、商社などを通じた取引であっても価格交渉等を直接行っている場合の商品納入先など、実質的な取引関係にあると認められるものが含まれます(法人税基本通達9-4-6の2)。

11)災害の場合の取引先に対する低利または無利息による融資

法人が、災害を受けた取引先に対して低利または無利息による融資をした場合、当該融資が取引先の復旧を支援することを目的として災害発生後相当の期間内に行われたものであるときは、当該融資は正常な取引条件に従って行われたものとします(法人税基本通達9-4-6の3)。

12)自社製品などの被災者に対する提供

法人が不特定または多数の被災者を救援するために緊急に行う自社製品等の提供に要する費用の額は、寄附金の額に該当しないものとします(法人税基本通達9-4-6の4)。

以上(2019年4月)
(監修 税理士法人コレド会計 税理士 石田和也)

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「役職名」の基礎知識

書いてあること

  • 主な読者:役職名の変更などを検討している企業の経営者、取引先などの役職で、どのような役割や責任があるのかを知りたいビジネスパーソン
  • 課題:他社がどのような考えの下、役職名を決めているのか参考にしたい
  • 解決策:役職名はビジネスの潮流や各社の価値観が表れるものであり、その役職名にどのような役割があるのかを考えたり、知ったりすることが重要

1 ビジネスの潮流などを反映する役職名

企業規模、業種、企業風土、経営戦略などさまざまな要素を考慮して、各企業は組織形態とそれに応じた役職名を採用しています。

従来、日本企業の多くは、「社長」「本部長」「部長」「次長」「課長」「係長」「主任」など、上位から下位に向けて命令が伝達される部課制(ライン組織)を採用してきました。しかし、最近では迅速な意思決定や対応を行うことを目的に、役職の階層を減らして組織のフラット化を進める企業もあります。

また、「CEO」といった役職名を目にする機会が増えています。こうした役職名はもともと経営の意思決定・監督機関としての取締役会と、意思決定に基づく業務執行機能を分離した制度(以下「執行役員制」)を採用する外資系企業などで使用されていました。現在では日本企業でも一般的になってきています。執行役員制を導入する企業などで使用されている代表的な役職名は次の通りです。

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これらの役職名は社内規定に基づく呼称ですが、会長兼CEOなどといったように使われるケースが増えてきています。また、自社のブランドや価値観などを創造し、社内外に発信・浸透させていくCCO(Chief Culture Officer、最高文化責任者)や、健康経営を推進する企業などがCHO(Chief Health Officer、最高健康責任者)を設けるなど、自社が重視する価値観を表したユニークな役職を設けている企業もあります。

このように企業における組織とそれに応じた役職名の在り方は、その時々のビジネスの潮流を反映していたり、自社の重視する価値観を反映したりするものでもあります。

以降では、企業でよく使用されている役職名について紹介します。役職名の新設や変更を考える際、あるいは自社と異なる役職名を目にしたときに、どのような役割や権限があるのかを確認する際の参考としてください。

2 部課制における役職名

1)中間的な役職名

部課制(ライン組織)は、日本企業の多くで採用されている組織形態です。役職としては、「社長」「本部長」「部長」「課長」「係長」などがあり、そこに中間的な役職が加わって組織が形成されています。

中間的な管理職の代表的な役職名としては、「副本部長」「副部長(部長代理・部長補佐)」「次長・副次長(次長代理・次長補佐)」「副課長(課長代理・課長補佐)」「副係長(係長代理・係長補佐)」などがあります。

2)その他の役職名

中間的な管理職の他にも、「顧問」「相談役」「非常勤取締役」「参事」などという役職があります。また、支社(支店)・営業所・工場においては、部長クラスに代わる役職として「支社長(支店長)」「所長」「工場長」などを置いている場合があります。

本社・営業所を問わず「係長の代わりに主任」としている企業や、その下に「班長」がいる場合もあります。一方、事業部制を採用している企業では、「事業部長」という役職があり、社内的には取締役と同等の立場である場合もあります。

3)執行役員について

経営と業務の執行の分離が重要視されるようになり、さまざまな企業で社内体制として執行役員制が設立されたことから、多くの「執行役員」が選出されました。執行役員制は会社法の規定によるものではありません。そのため、社内体制や権限などについては各企業によって異なります。また、執行役員は現場のトップということもあって、本部長や営業部長を兼ねている場合が多いようです。

3 グループ制における役職名

グループ制とは、従来のピラミッド型の組織から、課や中間的な役職を除いた体制です。組織のフラット化を図り、意思決定や判断の迅速化を進めることを目的としています。

具体的には、「部を部門に変更し、部門の下にグループまたは室を置く」という体制です。役職は、次長クラス、係長クラスを廃止して、部長クラスは「部門長」「グループマネジャー」「主席」などに、課長クラスは「グループリーダー」「室長」「主査」などとなります。また、企業によっては室長や部長クラスがグループリーダーになっているケースもあります。

部課制・部門室制・グループ制の組織(例)は次の通りです。

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4 マトリックス組織の概要

部門室制やグループ制などと並行して、業務遂行のためにプロジェクトチーム制を設けている企業もあります。プロジェクトチーム制では、各部門やグループから担当者が集まってチームを構成することによって、何らかの目的を果たすために業務を遂行していきます。スポーツメーカーを例に取ると、ユニフォームチーム、シューズチームなどとなり、各チームは企画・開発・販売・宣伝など各部門やグループから数名ずつ担当者が任命されて構成されています。

その際、各チームにチームリーダーが配置されます。この組織形態は、各スタッフがグループとチームの双方に所属するため、マトリックス組織とも呼ばれます。

例えば、資生堂では、世界の地域ごとに強いブランドを育成するため、5つのブランドカテゴリーと6つの地域を掛け合わせたマトリックス組織を発足させています。

マトリックス組織(例)は次の通りです。

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5 専門職について

従来の人事制度では、管理職に就くことで高い賃金やキャリアを得ることが一般的でした。しかし、中には管理職に就くよりも、現場で高い専門性を発揮するほうが、企業にとって高い付加価値を生む人材もいます。また、消極的な理由として、管理職ポストが不足している場合に、専門職ポストを設ける場合もあるようです。

専門職は、部課制(ライン組織)上の役職とは異なり、部下を持たずに(持つ場合も少数)業務を遂行します。

専門職の仕事は、技術や営業・販売に関しては各企業の扱う製品やサービスによって異なるため一概にはいえません。ただし一般的には、研究開発に携わる研究者や技術者、法務・税務などの分野に関連した資格を持つ者、営業・システムエンジニアやコンサルタントなど、高度な専門性が求められる職種が挙げられます。

また、専門職は部課制(ライン組織)やグループ制において新しく課やグループをつくるに至らない(規模が小さい)場合にも有効な手段として導入されています。

この他、最近は高年齢社員の技能を活用するための専門職を設ける企業も増えています。こうした高年齢社員には、「シニアアドバイザー」「シニアマネジャー」などの役職が設けられ、一般の従業員とは別の基準で処遇されています。

以上(2019年4月)

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出向社員を受け入れる側の留意点

書いてあること

  • 主な読者:親会社から出向社員を受け入れる予定のある企業の経営者
  • 課題:出向について親会社に確認すべきことや出向社員への対応のポイントが分からない
  • 解決策:親会社には出向期間・賃金・賞与・労働条件などを確認する。出向社員とトラブルにならないよう出向者を受け入れる際の覚書を用意する(本稿でひな型を紹介)

1 人事権の基本的な考え方

使用者には、出向など労働者の地位の変更に関する事項について、その裁量で決定できる権利、すなわち「人事権」が認められています。ただし、人事権は使用者が自由に行使できるわけではありません。個々のケースで解釈が異なる場合があるものの、基本的な考え方を確認していきましょう。

使用者と労働者が締結している労働契約の条件は、就業規則などで定められています。人事権は労働契約に基づく指揮命令の一つであると解釈されていることから、「就業規則などで定められた範囲で行使することができる権利である」と考えることができます。そのため、出向などについて、就業規則で定められた範囲を逸脱した決定を下すと、使用者の人事権の濫用と判断されてしまうことがあります。

加えて、就業規則などの定めだけを根拠とする人事権が問題となることがあります。就業規則などに、出向などに関する定めがあったとしても、それが「業務上の必要性があること」「不当な目的によるものでないこと」などの要件を満たしていない場合、使用者の人事権の濫用と判断されてしまうことがあります。

この点については、労働契約法でも定められており、使用者が出向を命じることができる場合であっても、その必要性や対象となる労働者の選定の方法などを考慮し、それが使用者の権利濫用であると認められるときは出向命令を無効にするとしています。

2 出向の種類と主な目的

1)在籍出向と転籍出向

1.在籍出向

在籍出向とは、労働者が出向元(出向を命じる会社)との労働契約を維持したまま、出向先(出向する労働者を受け入れる会社)と労働契約を交わして労働する形態です。労働者の立場から見ると、就業場所が変わるイメージです。

2.転籍出向

転籍出向とは、労働者が出向元との労働契約を終了した後、新たに出向先と労働契約を交わして労働する形態です。労働者の立場から見ると、勤め先の会社が変わるイメージです。

通常、人事権の範囲に含まれると解釈されるのは在籍出向までです。労働者との労働契約が消滅する転籍出向は人事権の範囲には含まれず、これを命じる場合は労働者の同意が必要となります。

以降では、在籍出向に注目し、その特徴などを紹介していきます。

2)会社が労働者に出向を命じる主な目的

1.新会社の経営の早期安定

新分野に進出する際に新会社を設立することがあります。新会社の経営を早期に軌道に乗せるために、優秀な労働者を出向させることがあります。

2.人材開発

人材の育成を目的として、若手や幹部候補の労働者をグループ会社などに出向させることがあります。

3.雇用の維持

親会社での雇用が困難になった場合、子会社に出向させることで雇用を維持するケースがあります。

3 出向者を受け入れる際の留意点

出向先が、出向者を受け入れる際の主な留意点を紹介します。

1)出向期間

出向者を受け入れる際の条件はさまざまですが、まずは出向期間を明確にしなければなりません。例えば、優秀な出向者が短期間で出向元に呼び戻されてしまったら、出向先は業務の引き継ぎなどに苦労します。逆に、優秀ではない者の出向が長期にわたる場合は雇用負担が重くなります。また、出向先は出向期間に応じて、出向者の教育ペースや配置を考えるものです。仮に、「3年間」といったように出向期間を明確にすることが難しい場合は、出向期間を1年単位とした上で、更新の3カ月~6カ月前までに、次期の出向の有無を決定するようにします。

2)賃金・賞与などの支払い

出向期間中の出向者に対する賃金・賞与などの支払い方法は次に大別されます。

  • 出向元か出向先のどちらかが全額を負担するケース
  • 出向元と出向先が負担割合を決めて負担するケース

特に、出向元と出向先が負担割合を決めて負担する場合は、負担割合を明確にしておくことが大切です。

3)出向者の労働条件

出向元よりも、出向先の労働条件のほうが低いことがあります。このような場合、出向者のためにも出向元の労働条件を適用することが理想的です。これが難しい場合、あらかじめ出向者に、出向元と出向先の労働条件の違いを伝え、同意を得ることが不可欠です。

4)親会社が出向者の受け入れを要請してきた場合の対応

親会社が子会社に出向者の受け入れを要請してきたケースを考えてみましょう。

出向元(親会社)が出向者の受け入れを要請してきた場合、基本的に出向先(子会社)はこれを受け入れることになるでしょう。出向者の受け入れによる人的交流を図ることで出向元との関係強化が期待できるからです。

とはいえ、労働者を一人雇用する際の負担はとても大きなものです。そのため、出向先は、前述した出向期間・賃金・賞与・労働条件を十分に確認しなければなりません。これに加え、出向の目的についても確認しておきます。出向元が出向者の受け入れを要請する目的は、ポスト不足・技術支援・雇用調整の布石などさまざまで、これによって出向先の対応も異なります。仮に、出向元が出向者を高く評価しており、幹部候補として送り込んでくるのであれば、出向先もそれなりの処遇をしなければなりません。

また、こうした出向元との条件確認に加え、出向先は自社の労働者に対する説明もしなければなりません。「親会社からの出向者を受け入れる」ことについて、出向先の労働者は高い関心を持っています。出向者を受け入れた後の円滑なコミュニケーションを実現するためにも、出向先は労働者に対して「出向者を受け入れる理由と活用の方針」を説明しておく必要があるかもしれません。

一方、雇用負担やポスト不足などを理由に、出向元からの出向要請を断らざるを得ない場合は、出向元との円満な関係を維持するために、十分に話し合います。その際は、「出向者を受け入れることができない理由」を明確に伝えることが重要です。

4 出向者受け入れに関する覚書のひな型

出向者を受け入れる際の覚書のひな型を紹介します。なお、次のひな型は一般的な定めを紹介したものであるため、実際にこうした覚書を作成する際は弁護士や社会保険労務士などの専門家に相談することをお勧めします。

【出向社員受け入れに関する覚書のひな型】

○○株式会社(以下「甲」)と△△株式会社(以下「乙」)とは、甲から乙へ出向の取り扱いを受ける甲の従業員◇◇◇◇(以下「丙」)の労働条件その他について、以下の事項を確認し、その証として本書を交換する。

第1条
この出向により、甲と丙の労働契約が終了することはなく、出向期間中も丙は引き続き甲の従業員としての地位を維持する。

第2条
出向期間は○年○月○日より○年○月○日までとする。ただし、甲乙の協議により出向期間が変更されることがある。この場合、甲は丙の同意を得た上で出向期間を変更する。

第3条
出向期間中、丙は乙の指揮命令に従って労働する。

第4条
出向期間中の丙の労働条件は乙の就業規則に基づくものとする。

第5条
出向期間中、甲は丙に所定の給与、賞与、通勤費実費を支給する。

第6条
丙の健康保険、介護保険、厚生年金保険および雇用保険などの社会・労働保険については、甲において引き続き加入する。

第7条
丙の安全衛生および災害補償義務は乙が負い、丙の労災保険料は乙が負担する。

第8条
丙が乙の指揮命令による業務の従事中、過失などにより乙または第三者に損害を及ぼしたときは、乙はその責任においてこれを処理し、甲に対して何ら請求をしない。

第9条
出向により、丙が何らかの不利益を被ることがある場合は、甲乙並びに丙が協議してその解決を図るものとする。

第10条
本書の解釈などに疑義のあるときは、その都度、甲乙協議のうえで決定する。

本書締結の証として、2通を作成し甲乙各々その1通を保有する。

○年○月○日

以上(2019年4月)

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